2017年12月16日土曜日

人手不足への対応は急務だ

 日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業、中堅、中小企業をあわせた全規模全産業の業況判断指数(DI)が26年ぶりの高水準になった。景気回復は6年目に入り、中小企業にも裾野が広がってきたが、先行きに懸念材料もある。深刻な人手不足だ。

 従業員などの過剰感を示す雇用人員DIは全産業で25年ぶりの人員不足を示す水準になった。人員不足は特に中小企業で深刻で、中小企業全産業の指数はバブル崩壊直後の1991年11月以来26年ぶりの不足水準となった。

 運輸、建設、小売り、宿泊、飲食業など非製造業の人手不足が特に深刻になっている。

 人手不足は一部産業の景況感にも影を落としている。不足が深刻な「宿泊・飲食サービス」「対個人サービス」などで業況判断DIが前回調査よりも低下した。

 人手不足は、東京五輪に向けた建設需要の拡大など一時的要因もあるが、少子・高齢化に伴う労働力人口の減少が主因だ。景気回復をさらに力強いものにするには、政府・企業の対応が急務である。

 まず女性や高齢者などの労働参加率を高め、働く人を増やすことが重要だ。外国人労働力の一段の活用も考えるべきだ。

 人手不足の企業が、人材確保のために賃金を引き上げ、それに応じて販売・サービス価格を上げることができれば、デフレ脱却にも貢献するだろう。

 同時に、IT(情報技術)などを活用した一段の省力化・効率化も進める必要がある。少ない人数で効率的に仕事ができるようになれば、労働生産性の引き上げにつながる。

 人材が余剰気味の産業から、不足する産業に円滑に人材が移れるようにする柔軟な労働市場をつくる改革も必要だ。外国人労働者の活用についても、政府は真正面から制度の見直しに取り組むときだ。労働力不足という危機を、日本経済の構造改革につなげる好機としたい。

日中韓首脳会談の早期開催につなげよ

 国賓訪問なのに、共同声明も共同記者会見も見送られた。それでも韓国にとって優先せざるを得ぬ外交だったのだろう。韓国の文在寅大統領が就任後初めて訪中し、習近平国家主席と会談した。

 焦点となったのは、在韓米軍への地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備問題だ。米韓は北朝鮮のミサイル迎撃が目的とするが、中国は自国の安全保障を損ねると猛反発。中韓関係は大きく悪化していた。

 中国は団体客の韓国観光を事実上禁じたほか、韓国企業を標的にした「経済報復」も展開。全輸出額の約25%を中国向けで占める韓国経済に大きな打撃となっていた。韓国政府はTHAADの追加配備はしないといった原則を中国に約束し、ようやく文大統領の訪中実現につなげた経緯がある。

 それだけに会談では、韓国側の過剰ともいえる対中配慮姿勢も目立った。13日に南京で行われた「南京大虐殺80年」追悼式典には駐中国大使を送り、文大統領は首脳会談で哀悼の意を示した。

 北朝鮮の核・ミサイル問題をめぐっても「朝鮮半島で戦争を認めない」「対話で解決する」といった原則で合意し、軍事行動も辞さないとする米トランプ政権の対応を暗にけん制した。

 ただ、THAADを巡る中韓の溝はなお埋まらず、中国側の大統領への接遇のレベルも低かった。「関係改善の重要な機会」(習主席)と位置づけた今回の首脳会談を機に中韓が関係修復に向かうかどうかはなお予断を許さないが、中国は「経済報復」を使った対韓圧力を即刻やめるべきだ。

 結果はともあれ、韓国政府は日本が主催する日中韓首脳会談前の訪中にこだわっていた。これで3カ国会談への障害が取り除かれたことになる。中国も南京での式典で習主席が演説を控えた経緯もあり、李克強首相が参加する日中韓首脳会談を日本で開くことに異論はないとみられる。

 日本にとっても中国、韓国との関係改善は喫緊の課題だ。日本政府は日中韓首脳会談の来年早々の開催を呼びかけていきたい。

 来年は日中平和友好条約締結から40年の節目の年だ。韓国大統領の訪日も長らく途絶えている。まずは日中韓首脳会談を早期に実現し、中韓との関係改善への布石としたい。日中韓の緊密な意思疎通は北朝鮮の核・ミサイル問題に対処する上でも欠かせない。

与党の税制改正大綱 再分配のさらなる強化を

 与党が来年度の税制改正大綱を決めた。所得税の負担を軽くしている控除の見直しなどが柱である。

 本来問われるべきは、再来年の消費増税を控え、税体系をどう改革するか、ということだった。

 増大する社会保障費の安定財源として消費税の重要性は増している。ただ低所得者ほど負担が重い逆進性の問題を抱える。非正規雇用が増え、所得格差も広がっている。

 逆進性と格差の緩和には所得再分配の強化が必要だ。収入に応じて負担を求める所得税の役割は大きい。だが、大綱は踏み込み不足だ。

 誰もが受けられる基礎控除は増やす。一方、会社員の給与所得控除は高所得者を中心に減らす。

 この結果、フリーランスの低所得者などは減税、年収850万円超の会社員は増税となる。

 与党は再分配を強める狙いと説明する。しかし、高所得者に有利な所得控除という枠組みは温存し、増税になる年収水準をどうするかという線引きの話に終始した。

 増税の対象は230万人に上る。国民に新たな負担を求めるなら、再分配を強化する税制のあるべき全体像を示し、理解を得るのが筋だ。

 矛盾も抱える。基礎控除は高所得者の控除を減らす仕組みも入れるが、対象は年収2400万円超と限定的だ。年収2000万円の自営業者は減税になり再分配に逆行する。

 再分配効果をより発揮するのは税額控除である。所得にかかわらず同じ額の税を軽減し、相対的に低所得者にメリットがある。大がかりな改革になるが、検討すべきだ。

 金融所得への課税強化も必要だ。給与の最高税率は55%だが、株式の配当・売却益などの税率は20%にとどまる。今回増税となる会社員より裕福な層ほど金融所得は多い。

 大綱は出国者から徴収する国際観光旅客税や、住民税に上乗せして森林保全の財源に充てる森林環境税の創設も盛り込んだ。どういう社会や制度を目指すかという理念が十分議論されないまま、反発の少ない層に負担を求めるのは所得税と同じだ。

 このままでは「取りやすいところから取る」安易な手法と受けとられても仕方がない。所得税の見直しはこれで終わらせず、抜本的な改革に踏み込むべきだ。

習近平・文在寅会談 韓国のジレンマが目立つ

 中国に足元を見られる韓国の現状が透けるような会談だった。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が訪中し、中国の習近平国家主席と会談した。

 両首脳は北朝鮮情勢に関する「4原則」に合意した。戦争を容認しない、対話で解決するなどの内容だ。平和的解決は重要だが、トランプ米大統領の強硬路線に対するけん制だと受け取られる余地がある。

 文氏はトランプ氏との会談では圧力強化で合意していた。にもかかわらず、国連安全保障理事会の制裁決議にも触れない「原則」では一貫性を欠いていないか。

 文氏は、来年2月の平昌冬季五輪への習氏の出席を望んでいる。今回の訪中は、そのための地ならしと位置づけられていた。北朝鮮に選手団を派遣するよう働き掛けてほしいという中国への期待もある。

 だが、文氏を迎えた中国の姿勢は冷めたものだった。

 文氏は国賓として招待されたものの、両首脳の共同記者会見はなく、共同声明も作成されなかった。五輪に合わせた習氏への訪韓要請にも明確な回答はなかった。

 中国の強硬姿勢は、朴槿恵(パククネ)前政権末期に決まった在韓米軍への終末高高度防衛(THAAD)ミサイル配備への反発に起因するものだ。中国は今年初めごろから韓国に事実上の経済制裁を加えてきた。

 韓国経済の貿易依存度は日本の倍以上となる60%超で、対中貿易は全体の4分の1に達する。化粧品など特定の韓国商品が狙い撃ちされ、中国に進出した韓国企業は不買運動で大きな損害を受けた。韓国内でも、昨年800万人だった中国人観光客の激減に業界が悲鳴を上げた。

 文政権は結局、THAADの追加配備を行わないことや日米韓の安全保障協力を同盟に格上げしないと表明して事態収拾を図ろうとした。ところが中国側は矛を収めていない。習氏は今回も、同様の事態が再び起きないよう求めた。

 韓国は安保で米国、経済で中国に依存するというジレンマを抱える。外交のかじ取りは難しかろうが、直面する最大の危機である北朝鮮情勢では日米韓の連携が必要不可欠だ。対中関係を重視するあまり、日米韓の離間を狙う北朝鮮を利することがあってはならない。

(社説)生活保護費 引き下げ方針、再考を

 厚生労働省が生活保護費の引き下げを検討している。一般の低所得世帯の生活費と比べて、都市部などで保護世帯の受給額の方が多いという検証結果が出たためだ。子どものいる世帯や高齢者世帯が影響を受ける。

 しかし、いまの支給額でも生活は苦しいという声が少なくない。保護費の水準を決める仕組みに問題があるとの指摘もある。引き下げは再考し、制度の点検と見直しを急ぐべきだ。

 生活保護費のうち、生活費にあたる「生活扶助費」の改定では、30年ほど前から一般世帯の消費実態とのバランスをみる方式になった。5年ごとの全国消費実態調査を用いて一般低所得世帯と比べる今のやり方になったのは07年の検証からだ。

 だが、検証結果はあくまで政策判断の材料で、そのまま反映してきたわけではない。生活保護予算を減らしたのは03年度と04年度、13~15年度だけだ。このうち大幅減額は3年かけて6・5%減とした13~15年度のみで、自民党が生活保護費の削減を選挙公約に掲げたことによるものだった。

 生活保護の基準は、経済的に苦しい家庭の子どもへの就学援助や、介護保険料の減免、税制、最低賃金の水準など国民生活に広く関わる。安倍政権は、家庭が貧しくても大学に進学できるよう授業料の減免や給付型奨学金の拡充を打ち出したばかりだ。最低賃金引き上げなど暮らしの底上げも掲げてきた。保護費の引き下げはこれらの政策と矛盾する。

 そもそも、今回の検証結果の詳細なデータが厚労省の審議会に示されたのは今月上旬だ。来年度予算案の決定が迫っており、委員からは「十分な検討ができない」と不満が漏れた。審議会の報告書には「検証結果を機械的に当てはめないよう、強く求める」と明記された。

 いまの検証の方法に対しても、「一般低所得世帯との均衡のみで捉えていると、絶対的な水準を割ってしまいかねない」「子どもの健全育成のための費用が確保されない恐れがある」などの懸念が出された。報告書には「検証方法には一定の限界がある」「これ以上、下回ってはならないという水準の設定についても考える必要がある」などの留意事項が盛り込まれた。

 仕組み自体に限界があるという指摘は、4年前の前回の報告書にもあった。最低生活保障のあり方をきちんと議論してこなかったのは政府の怠慢だ。

 堅持すべきラインはどこなのか。時代にあった生活保護の姿を早急に議論するべきだ。

(社説)BPO意見書 放送の倫理が問われた

 何でもあり、の情報たれ流しがまかり通ってはならない。一テレビ局の問題にとどめず、放送界全体が改めて足元を見つめ直す機会とするべきだ。

 東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が1月に放送した番組「ニュース女子」について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の委員会が「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を出した。

 化粧品会社DHC系列の制作会社がつくり、MXは関与していない「持ち込み番組」で、沖縄の米軍ヘリパッド建設への抗議活動を批判的に取りあげた。

 事実関係の誤り、裏づけ取材の欠如、不適切な映像使用、侮蔑的な表現など、指摘された問題点は数多い。驚くのは、MXが適正なチェック(考査)をしないまま放送したことだ。

 バラエティー・情報番組であっても事実を扱う以上、報道と同じように真実に迫る最善の努力が求められる。持ち込み番組であればなおさら、慎重かつ厳格に考査しなければならない。視聴者に届けるものをチェックするのは、放送に責任を持つ者の最低限の義務である――。

 BPOの見解は、今さら確認するまでもない当然の内容だ。MXは、公共の電波の使用を認められた放送局としての自覚を欠いていたというほかない。

 当初、放送法を順守した内容だと主張したMXだが、自社の番組審議会からも批判され、考査体制を見直すなどした。今回改めて「改善に着手している」とのコメントを出したが、なぜこうした事態を招いたのか、自ら検証し、番組を通じて説明することが、視聴者への誠実な向き合い方ではないか。

 この20年、NHKや民放各局は考査に力を入れてきた。社会の目が厳しさを増し、コンプライアンスが重視されるようになったことが背景にある。企画が持ち込まれたときには、早い段階から点検し、収録にも立ち会う。最後は字幕スーパー入りの完全版を、他部局やスポンサーと見ることも多いという。

 地方の民放局では、ネットの動画配信会社などからの番組の売り込みが増える傾向にある。視聴者から、より刺激的なコンテンツを求められる場面もあるだろう。だが、やすきに流れてしまっては、存立基盤を掘り崩すことになる。

 意見書は、放送局の考査は、放送内容に対する外部の干渉を防ぐとともに、あいまいな情報も入り乱れるネット空間と一線を画し、誇りを守る「とりで」だと記す。放送に携わる人たちは、胸に刻んでもらいたい。

診療・介護報酬 同時改定で効率化を加速せよ

 医療と介護の連携を強化し、効率的かつ効果的なサービス提供体制を確立する。超高齢社会にふさわしい制度作りを加速させることが重要だ。

 政府は、2018年度の診療報酬改定で、全体として1・19%引き下げることを決めた。6年ぶりの同時改定となる介護報酬は、0・54%引き上げる。

 診療報酬は医療の公定価格で、2年ごとに見直される。前回は0・84%の引き下げだった。実質的に3回連続のマイナス改定だ。

 医療職の人件費などに充てる「本体」部分については、0・55%引き上げる。医薬品価格の「薬価」部分は実勢価格に合わせて1・74%引き下げる。

 財務省は、財政健全化の観点から大幅なマイナス改定を主張し、本体にも切り込む姿勢だった。日本医師会は、政府が産業界に賃上げを要請していることを理由に、プラス改定を強く求めていた。

 近年、病院経営は悪化傾向にある。地方の医師不足や病院勤務医の過重労働も大きな問題となっている。全体の下げ幅を拡大しつつ、本体の微増を確保したのは、財政健全化と医療体制の安定の双方に配慮した妥当な判断だろう。

 診療行為ごとの個別の報酬設定は、年明けに議論される。

 全国的に過剰な重症者向け病床は、要件を厳格化して絞り込む。退院支援を担う回復期向け病床や在宅医療の報酬を手厚くする。超高齢社会に適した提供体制への転換を促す工夫が求められる。

 介護報酬は3年ごとに見直される。前回は2・27%引き下げられた。プラス改定は6年ぶりだ。

 前回改定以降、介護事業者の倒産が相次いでいる。人手不足が深刻な現状を考えれば、大幅な処遇改善が欠かせない。

 政府が掲げる「介護離職ゼロ」を実現するためにも、プラス改定は必要な措置だと言えよう。

 個別の報酬設定では、軽度者向けサービスの見直しが課題だ。限られた財源と人材を有効活用するには、重度者向けに給付を重点化することが避けられない。

 訪問介護で調理や掃除をする「生活援助サービス」は、軽度者の利用制限や報酬引き下げを検討すべきだ。自立支援・重度化防止の取り組みも進めたい。

 医療・介護費の膨張抑制は、社会保障を持続可能にするカギだが、必要なサービスの提供が危うくなっては、国民の安心は得られまい。病院依存から在宅ケアへの方向性に沿ったメリハリのある報酬設定にすることが肝要だ。

FRB利上げ 物価の行方をどう判断するか

 景気の過熱を心配するほど雇用や株価が好調なのに、物価の伸び率は目標に届いていない。

 金融引き締めを強めるのか、慎重になるのか。米当局のかじ取りは、来年の世界経済の行方をも左右しよう。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が半年ぶりの利上げを決めた。2015年までの事実上のゼロ金利から転じて、政策金利は1・25~1・5%まで上昇する。

 15、16年の利上げは1回ずつだったが、17年は3回に加速した。FRBは、来年も3回のペースの維持を想定している。

 大規模緩和からの金融正常化を着々と進めているのは、堅調な米経済への自信の表れと言える。

 11月の米失業率は4・1%と、17年ぶりの低水準にある。株価は最高値を度々更新している。FRBは今回、18年10~12月期の成長率予想を2・5%とし、9月時点の2・1%から引き上げた。

 一連の利上げがバブルの芽を摘み、米経済の安定成長に貢献するのであれば歓迎できる。

 9年目となった米景気の拡大は、早々に調整局面を迎えても不思議ではない。FRBが利上げを進め、不況期に下げる余地を確保しておくことも理にかなう。

 悩ましいのは、物価上昇率の低さだ。2%の目標に対して1%台半ばにとどまる。利上げによる金融引き締めが行き過ぎれば、デフレ懸念が再燃しかねない。

 イエレンFRB議長は米国の物価停滞について、携帯電話サービスの料金低下など「一時的な要因」を強調する。ただ、雇用の改善が賃金や物価の上昇に直結しないのは、日欧にもみられる現象だ。

 労働市場のグローバル化や、人工知能(AI)など情報技術の進展といった、大きな構造変化が要因だという指摘がある。

 米国の物価見通しは、従来以上に慎重な検討が求められる。

 FRBは、量的緩和で膨張した米国債などの保有資産の縮小も10月に開始した。利上げとともに、金融引き締めの方向に働く。

 世界にあふれた緩和マネーが米国への還流を強めるとみられる。資金引き揚げが新興国などに深刻な影響を及ぼさぬよう、FRBは細心の注意を払う必要がある。

 日銀は、米欧と同じ物価上昇2%を目標に掲げる。現状が下回っているのは日米欧に共通する。目標に未達でも、米国は利上げを進め、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和の縮小を決定した。

 その柔軟さは、大規模緩和を堅持する日銀にも参考となろう。

2017年12月15日金曜日

米の利上げはどこまで進むか

 米国が今年3度目となる政策金利の引き上げに動いた。来年2月に退任するイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の下では最後の利上げになりそうだ。

 議長は4年の任期中に、超金融緩和から利上げ開始への難しい局面転換を円滑に進めてきたといえるが、最終的な評価は今後の米国経済や金融市場の動向を見ないとわからない面もある。後任となるパウエルFRB理事には様々な宿題が残されることになる。

 イエレン体制下のFRBは2014年10月に量的緩和を終了し、そこから1年あまりたった15年12月にゼロ金利政策の解除に踏み切った。その後2年かけて政策金利を今回決めた1.25~1.50%まで引き上げたことになる。基本的には極めて慎重な姿勢で利上げを進めてきたといえる。

 その結果、金融市場に大きな混乱は起こらず、失業率が4%近くまで下がるなど経済の順調な回復につながった。その一方で、商業用不動産価格や株価の大幅な値上がりなど、バブル的な状況を招きつつあるとの見方もある。

 長期金利は利上げ開始以降、ほとんど上がっておらず、緩和的な金融環境が続いているのは確かだ。グリーンスパン元FRB議長が05年に、利上げをしても長期金利がなかなか上がらないのをさして「謎」と呼んだのと似た状況が再来しているようにもみえる。

 後を継ぐパウエル氏は資産価格の動向に目を配りつつ、戦後最長に近づく景気拡大局面の持続を支えるという重い使命を背負う。過去と比べて上がりにくくなっている物価の動向や、税制改革がもたらす経済への影響をどう見るかも政策判断にとって重要になる。

 米国の利上げがどこまで、どんな形で進むかは、好調な世界経済の行方にも大きな影響を与える。来年は欧州中央銀行(ECB)も量的緩和の縮小を始める予定で、金融面からの追い風は徐々に消える。世界経済が中央銀行の支えなしでも拡大できる基礎体力を備えているかが試されることになる。

構造問題に踏み込みが足りない税制改革

 小粒な改革に終始し、日本経済の抱える構造問題に正面から向き合っていない。14日に与党がまとめた2018年度税制改正大綱の印象だ。少子・高齢化が進むなかで、財政・社会保障の構造改革は急務である。税制も一体で骨太な議論に取り組む時だ。

 安倍晋三政権は消費税率の引き上げを2度延期した。特に2度目の延期がなければ、消費税率は今年4月に10%に上がっていたはずだった。その代わりに、安倍政権は10月の衆院選前に、次の消費増税による税収増加分の一部を教育無償化に充て、財政健全化目標を先送りすることを決めた。

 消費税率が10%になっても日本が抱える財政と社会保障の持続性をめぐる問題は解決しない。本来なら今ごろは、次の段階の改革に取り組む時期だったはずだ。

 しかし、10%への消費税率引き上げは19年10月に延期したので、政府・与党の税制調査会は、その先の議論に進めない。消費税を含む財政・社会保障の抜本改革の議論を封印するなかで、来年度税制の改正も手をつけやすい見直しに終始した。

 所得税改革では、高所得のサラリーマンの給与所得控除を縮小し、誰もが適用になる基礎控除を拡充した。働き方の変化にあわせた見直しは必要だが、所得の高い層の負担を、際限なく増やしていけば経済の活力をそぐ恐れもある。また、サラリーマンに比べて遅れている自営業者の所得把握などの努力も必要だ。

 法人税では、賃上げ、設備投資をする企業への税の優遇措置を拡充した。本来、賃上げや投資は企業が率先して取り組む問題だが、利益をあげているのに賃上げに慎重な企業の背中を押す意味では今回の措置は理解できる。

 このほか、個人住民税に上乗せする森林環境税や、海外への出国者から徴収する国際観光旅客税など新税の創設も盛り込んだ。新税の税収が新たな無駄遣いを呼ばないか心配だ。増税分は、喫緊の課題である社会保障制度の安定確保と財政健全化に充て、新政策は既存の歳出の削減などで賄うことを原則にすべきだ。

 10%への消費税率上げの次をにらんだ社会保障と税・財政の一体改革は、経済財政諮問会議などが司令塔になり指導力を発揮すべきだ。税制は政府・与党税調でという政策決定の仕組み自体が制度疲労を起こしているのではないか。

新幹線で重大インシデント 危機感があまりに乏しい

 新幹線の安全性に対する国民の信頼を大きく損なった。

 11日、博多発東京行きの「のぞみ号」の車両の台車に亀裂や油漏れが見つかり、名古屋駅で運転を取りやめた。国の運輸安全委員会は、深刻な事故につながりかねない重大インシデントと認定した。認定は新幹線では初めてのことである。

 疑問なのは、異常が見つかってから列車を止めるまでに約3時間もかかったことだ。

 博多駅出発の約20分後に、乗務員が焦げたにおいに気づいている。岡山駅手前では乗客が「もやがかかっている」と乗務員に告げた。岡山駅で保守担当者が乗り込み、うなるような異常音を確認したが、走行に支障はないと判断した。その後京都駅付近でも異臭がしたにもかかわらず、名古屋駅まで運行を続けた。

 専門家は、台車が破断していれば脱線していた可能性があったと指摘する。一歩間違えれば人命に直結する事故につながったかもしれない。

 高速で多数の乗客を運ぶ鉄道事業者としては、まず列車を止めることが最優先のはずだ。ダイヤを守る営業優先の意識が強過ぎて、安全確保が後回しになってはいないか。

 JR西日本の姿勢そのものが問われている。社員らへの教育や研修を通し、改めて安全運行への意識を高める必要がある。

 鋼鉄製の台車になぜ亀裂が入ったのか。材質の問題なのか、設計など構造上の欠陥が原因なのか。モノ作り企業の不正が相次ぐ中、徹底的な原因の解明も必要だ。

 整備や点検に落ち度がなかったのかも検証しなければならない。車両は2007年に製造された。今年2月に車両を解体しての全般検査を受け、当日の未明に目視点検も実施されたが異常はなかった。

 たとえ優れた機械やシステムでも、万全はあり得ない。安全性向上のためには、人の目による二重三重のチェックが必要だ。点検の仕組みに不備があれば見直すべきだ。

 新幹線の運行は地域によりJR各社に分かれる。東海道・山陽新幹線は、JR西日本と東海が乗り入れる路線だ。車体の異常や故障など、必要な情報が密にやりとりできる態勢は確立しているのか。JR全体で危機感を共有しなければならない。

羽生・井山氏に国民栄誉賞 伝統文化の新時代開いた

 将棋の羽生善治氏(47)と、囲碁の井山裕太氏(28)に、国民栄誉賞が同時に授与される見通しになった。

 羽生氏は今月、7タイトル戦すべてで永世資格を持つ永世7冠を達成したことが、井山氏は今年10月に、2度目の全7大タイトルを同時制覇したことが評価された。

 国民栄誉賞を棋士が受賞するのは初めてとなる。ともに史上初の偉業を成し遂げた2人をたたえたい。

 2人の活躍は将棋、囲碁界を超えて社会に明るい希望と勇気を与え、人々に感動を与えるものである。

 羽生氏の永世7冠は、頂点に長く立ち続けなければ到達できない記録だ。永世資格は棋戦ごとに条件が異なるが、例えば名人戦は通算5期、王将戦は通算10期が必要となる。

 勝負に徹するだけでなく、羽生氏の魅力は、あくなき探究心にある。永世7冠になってからも「将棋の根本的なところは分かっていない面がある」と語る姿は印象的だ。

 井山氏は昨年4月に7冠に輝き、その後失冠しながら、約1年ぶりに7冠に復帰を果たした。7冠復帰は囲碁、将棋界で初の快挙である。井山氏の強さは、劣勢になっても追いつき、流れを呼び込む粘りにある。

 「タイトルの価値を上げるためにも、世界でいい戦いができるよう努力したい」と、国際棋戦に意欲をみせ、さらなる高みを目指している。

 近年の将棋と囲碁界は、コンピューターソフトに揺さぶられてきた。進化するAI(人工知能)は人間をはるかにしのぐ強さを見せている。

 江戸幕府の保護を受け、発展してきた将棋と囲碁の世界は、AI時代にどう伝統を守るのか。人間にしか指せない将棋、囲碁とは何か。

 この難問にも、羽生氏は「コンピューターの発想を吸収したい」と述べ、井山氏は「碁の真理を追究するプラスになる」と前向きに語る。

 人間の新たな可能性に挑む2人の姿勢は、将棋、囲碁界を活性化するだけでなく、AIと共存する現代人も励ますのではないだろうか。

 国民栄誉賞についても2人は「名誉なこと」「信じられない気持ち」と謙虚に語っている。

 「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与える」文化の担い手はほかにもいるだろう。政府は対象を広げることも考えてもらいたい。

(社説)税制改革 将来像なきつぎはぎだ

 政府・与党が来年度の税制改正大綱をまとめた。

 中長期的に目指すべき姿を念頭に置きつつ、足元の政策課題に対応する。そうした取り組みが求められたのに、今回の大綱からは税制全体の将来像が読み取れない。

 再来年秋の消費増税にあわせた軽減税率導入による目減り分を補いたい財務省。デフレからの完全脱却と経済活性化が最優先の首相官邸。両者の間で右往左往する与党幹部。その結果、個人にはあちこちに負担増が、企業向けには優遇策が並び、つぎはぎ改革案ができあがった。

 国民への影響が大きいのは所得税の見直しだ。会社員向けの減税措置である給与所得控除を縮小し、すべての人が受けられる基礎控除を拡大する。

 その結果、年収850万円を超える230万人、給与所得者の4%で負担が増し、合計で約900億円の増税になる。一方、フリーランスや個人請負で働く人は減税となる。

 給与所得控除が適用されるかどうかで生じる不公平を小さくし、所得税による再分配を強めるというなら、方向性は理解できる。政府・与党は引き続き給与所得控除の一部を基礎控除に振り替えていく方針のようだが、ならば最終的な姿を示した上で、納税者に丁寧に説明していくべきだ。

 所得税は他にもさまざまな課題を抱えており、抜本的に作りかえることが急務だ。富裕層の優遇につながっている金融所得への課税の手直しをはじめ、「ひずみ」を正す作業も忘れてはならない。

 8年ぶりのたばこ増税のほか、日本からの出国者に千円を課す国際観光旅客税、住民税に一律千円を上乗せする森林環境税も、個人への負担増だ。

 「旅客税」は、国税としては92年の地価税以来の新税になる。訪日観光促進策に熱心な官邸の意向を背景に、夏に浮上すると異例の速さでまとまった。歳出削減で財源を捻出すべきではないか、無駄遣いを招くおそれはないかといった疑問や懸念は、森林環境税にも共通する。

 わずか2カ月前の衆院選で、首相はこうした負担増には触れなかった。一方、法人税では、賃上げと設備投資を促す「アメ」が目玉だ。利益が増えたのに賃上げなどに消極的な大企業には、既存の減税措置の一部を受けられなくする「ムチ」も設けるが、負担増が並ぶ個人とは対照的である。

 税制についてどんな見取り図を描くべきなのか。年明けの国会で徹底審議が必要だ。

(社説)伊方差し止め 火山国への根源的問い

 火山列島の日本で原発を稼働することへの重い問いかけだ。

 愛媛県の四国電力伊方原発3号機の運転を差し止める仮処分決定を、広島高裁が出した。熊本県の阿蘇山が巨大噴火を起こせば、火砕流が伊方原発に達する可能性が否定できない、との理由だ。

 周辺に火山がある原発は多く、影響は大きい。国の原子力規制委員会や電力会社は決定を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 新規制基準の内規である「火山影響評価ガイド」は、原発から160キロ以内に火山がある場合、火砕流などが及ぶ可能性が「十分小さい」と評価できなければ、原発の立地に適さないと定めている。

 また、巨大噴火の時期や規模の予測はできないというのが多くの火山学者の見方だが、これについては、規制委は予兆があるはずだとの立場をとり、電力会社に「合格」を与えてきた。

 広島高裁は、巨大噴火が起きることは否定できないとする火山学者らの見解を踏まえ、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇山で9万年前と同規模の噴火が発生したら、原発が被災する可能性は「十分小さい」とはいえないと指摘。規制基準を満たしたとする規制委の判断を「不合理」だと結論づけた。

 火山ガイドに沿った厳正な審査が行われていない、という判断である。

 司法からの疑義は、今回が初めてではない。

 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)をめぐる昨年4月の福岡高裁宮崎支部の決定は、巨大噴火の発生頻度は低く「無視し得るものと容認するのが社会通念」として運転差し止めを認めなかった。だが、ガイドが噴火を予測可能としていることは「不合理」と断じていた。

 火山リスクの審査のあり方の不備が、繰り返し指摘されている事実は重い。規制委は、火山学者の意見に耳を傾け、根底から練り直すべきだ。

 数万年単位の火山現象のリスク評価が難しいのは事実だ。決定は、社会は自然災害とどう向き合うべきか、という根源的な問いを投げかけたといえる。

 巨大な災厄をもたらす破局的噴火が起これば、日本列島の広範囲に壊滅的な被害が及ぶ。原発だけ論議してどれほど意味があるか、という見方もあろう。

 しかし福島第一原発の事故の教訓は、めったにないとして対策をとらなければ、取り返しのつかない被害を招くというものだった。再稼働を進める政府は教訓に立ち返り、火山国で原発が成り立つかも検討すべきだ。

与党税制大綱 安易な税収確保策が目に余る

 国の最大税目である所得税を時代に合った姿に正す。その狙いとは程遠く、「取りやすいところから取る」安易な手法に終始した感が強い。

 自民、公明両党が、2018年度与党税制改正大綱を決めた。

 20年1月から、所得税の基礎控除を10万円引き上げる。

 一方で、会社員と公務員に限られる給与所得控除を10万円引き下げる。その控除額の上限は、年収850万円で頭打ちにする。

 給与所得控除の対象にならないフリーランスが増えている。基礎控除の引き上げで、こうした層の税負担を減らす狙いがある。

 その税収減を、給与所得控除の縮小で穴埋めする構図だ。

 働き方の多様化に資する意図は分かるが、手法に疑問が残る。

 給与所得控除の見直しで、年収850万円超の会社員などが増税となる。子育て・介護世帯を除く230万人の負担が増す。

 自民党税制調査会の当初案は、増税対象の線を800万円超で引いていた。一層の絞り込みを求める与党内の声に押され、一転して850万円超とするなど、制度設計の根拠の薄さを露呈した。

 働き盛りの中高年などが中心とみられる高所得層への増税は、勤労意欲を阻害しかねない。

 所得増を消費喚起につなげようというアベノミクスの狙いにも反するのではないか。

 ただ、所得控除には、累進課税の下で高所得層ほど恩恵が大きくなる難点がある。国際的には、所得に左右されない税額控除への移行が主流になりつつある。

 所得税は、収入がガラス張りの会社員と、自営業者などとの公平性の確保が問題視されてもいる。消費税など間接税に比重を移す方向性が考えられる。

 こうした抜本的な改革に着実に踏み出すことが重要だ。

 新たに設ける森林環境税は、24年度から、住民税に年1000円を上乗せして徴収する。

 同じく住民税に上乗せしている震災復興向け特別税が23年度に終了する。この同額を引き継ぐ形だ。いったん手にした税収を手放さない発想であれば許されまい。

 法人税は、賃上げや設備投資に積極的な企業の負担を軽減する。20年度まで3年間の措置であり、長期の固定費となる基本給引き上げを促す効果は限られよう。

 社会の激しい変化に対応するには、税制だけでは完結しない。政府は経済財政諮問会議などを活用し、社会保障制度などと一体で、幅広く議論する必要がある。

比に「慰安婦像」 日本の外交力が問われている

 日本とフィリピンが戦後に築いてきた良好な関係に影を落とす動きだ。極めて遺憾である。

 首都マニラに、慰安婦を象徴するフィリピン人女性の像が設置された。「日本軍占領下で虐待の被害者となった」と記されている。

 中国系住民と元慰安婦の団体が主導し、マニラ市が設置を許可した。歴史遺産の保護などに取り組むフィリピンの政府機関も事前に把握していたという。

 深刻な事態だ。慰安婦像の設置によって対日関係が悪化するという認識が、フィリピン側には欠けているのではないか。日本政府が撤去を求めたのは当然だろう。

 1942年から45年までの占領で、フィリピン各地に慰安所が設けられた。一般女性が一部の現地部隊によって暴力的に拉致されたケースも報告されている。

 日本政府が95年に設置した「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」は、元慰安婦らを対象に「償い」事業を実施した。フィリピンでは実施国・地域で最多の211人に償い金200万円などが支給された。

 こうした取り組みを通じて、日比関係は改善が進んだ。最近は、フィリピンで反日的な動きは目立たなかった。

 問題なのは、日本政府の対応が後手に回ったことだ。在マニラ日本大使館が設置を知ったのは、地元メディアなどが8日の除幕式を報じてからだった。

 設置されたのは、官公庁や高級ホテルが並ぶ大通り沿いの遊歩道だ。主導した団体は、日本に知られないよう、水面下で周到に準備を進めた可能性が大きいとはいえ、大使館の情報収集が不十分だったと言わざるを得ない。

 慰安婦像の設置は、韓国や中国のほか、米国やカナダ、オーストラリアなどに、すでに広がっている。中国・韓国系の住民が多く、政治的な影響力を持つ地域で、地元の団体や議員らが、像の設置を主導するケースが目立つ。

 外務省は、今回の反省から、インドネシアやマレーシアなど東南アジア諸国での情報収集の強化に乗り出した。

 各国政府に歴史問題に関する日本の対応を説明し、理解を求める取り組みも加速させる。着実に実行してもらいたい。

 慰安婦問題に絡めて、日本の名誉を不当に貶(おとし)めたり、周辺国との関係を傷つけたりする動きは、到底看過できない。新たな像の設置を食い止めるための一層の外交努力が欠かせない。

2017年12月14日木曜日

原発の火山対策への警鐘だ

 四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)について、広島高裁は来年9月末までの運転差し止めを命じる仮処分を下した。

 同原発は原子力規制委員会の安全審査に合格し、昨年8月に再稼働していた。東京電力福島第1原発事故後にできた規制基準に適合した原発に対し、高裁が差し止めを命じたのは初めてだ。

 いまは定期検査のため停止中で、四国電は来年1月に運転再開を予定していた。だが仮処分は直ちに効力をもつため、当面の運転再開は見通せなくなった。

 原発の差し止めを求める申請は各地で起きているが、広島高裁の判断は時限措置がつく点を含め、変則的といえる。

 高裁は差し止めを命じた根拠として、火山の大規模噴火に対する四国電の想定が甘く、規制委の審査も不十分だと指摘した。

 伊方原発の約130キロ西には阿蘇山がある。ここで最大級の噴火が起きた場合、火砕流が原発の敷地に到達する恐れがあり、立地自体が不適切とした。

 ただ、この問題は広島地裁で審理中の訴訟で争点になっている。地裁での判断を待つために、高裁は運転差し止めに期限をつけた。

 四国電や規制委は、高裁が噴火対策に憂慮を示した点は重く受けとめるべきだ。差し止め期間を、噴火対策を改めて点検する猶予期間とみなし、広島地裁の訴訟などで説明を尽くす必要がある。

 一方で、広島高裁は規制基準や安全審査の妥当性をめぐっては、規制委が専門的・技術的知見から総合的に判断しており、「合理的と認められる」とした。

 原発の差し止め申請ではこれまでも国の安全審査の妥当性や、安全性を立証する責任は誰にあるか、住民の避難計画は適切かなどが争点になってきた。だが、裁判所が正反対の決定を下すこともあり、判断の根拠もまちまちだ。

 仮処分で原発が即座に止まれば電力供給に及ぼす影響は大きい。判例を重ねて、司法判断に一定の目安ができるのが望ましい。

産業革新機構の安易な延長に異議あり

 経済産業省は所管する産業革新機構の運営期間を2034年3月末まで9年間延長する方針だ。日本では新たな企業や技術を立ちあげるための民間リスクマネーが不足しており、政府系ファンドの役割は依然大きいという認識が背景にある。

 だが、過去の革新機構の実績を見るにつけ、安易な延長には賛成しがたい。時限的な組織として出発したはずが、延長を繰り返して恒久的な機関になってしまわないかという心配もある。

 革新機構は次世代を担う新産業をつくるという旗印で09年に発足した。だが現実には経営不振企業の救済色の強い投融資案件も一部あった。本来なら退出すべき企業を延命させ、いわゆる「官製ゾンビ企業」を生み出すようでは、産業の新陳代謝に逆行する。

 官業が民の補完に徹するのは当然の原則だが、この点でも疑問符がつく。昨年初めにシャープの再建スポンサーの座をめぐって、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と革新機構が争う事態になった。

 外資の支配を嫌う経産省の一部の意向も背景にあったとされるが、行政や政治の思惑に振り回されるようでは、ファンドとして投資規律が不十分と言うほかない。

 もともと日本は外資による直接投資が少なく、安全保障上の懸念がある場合を除き、外部の資本や人材を積極的に受け入れて経済の活力を高めないといけない。外資排除に官製ファンドが一役買うような事態があっては困る。

 革新機構以外の他の政府系ファンドにも共通する課題として、そもそも有望な投資先を発掘する目利き力や投資先を育てる経営支援力が十分か、という疑問もある。投資に失敗はつきものだが、全体の投資収益がマイナスになるようでは国民負担が生じかねない。

 現在、省庁ごとに政府系ファンドが乱立し、中にはバラマキ的な運営実態のものもあるとされる。官製ファンドのリストラこそ「待ったなし」の課題ではないか。

 日本でもベンチャー投資が盛り上がりつつあるが、リスクマネーの流れを一段と太くし、産業の構造転換を加速する必要がある。

 その主役はやはり「民」であるべきだ。余剰の資金を眠らせる金融機関や大企業が新たな技術や企業に積極的に投資し、次の成長につなげる。民間マネーが今の萎縮状態から脱却することが、日本経済が活性化する道である。

米軍ヘリの窓が校庭に落下 普天間の危険性あらわに

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校の校庭に米軍の大型輸送ヘリコプターCH53Eの窓が落下した。

 校庭では約60人の児童が体育の授業を受けており、一つ間違えれば大きな事故につながっていた。保護者や周辺住民に怒りが広がり、現場には翁長雄志知事も駆け付けた。

 米軍は部品落下を認め謝罪のコメントを発表した。米軍には徹底した原因究明と再発防止に向けた安全対策を強く要請する。

 今回の事故は普天間飛行場の危険性を改めて浮き彫りにした。

 飛行場の敷地は宜野湾市の面積のほぼ4分の1を占め、周辺には住宅や学校、病院など公共施設が密集している。現場の小学校も飛行場とフェンスを隔てた場所にある。「世界で最も危険な基地」と言われるゆえんである。

 普天間飛行場近くの保育園の屋根の上で米軍ヘリの部品が見つかったばかりだ。父母らは上空の飛行回避を求めている。

 沖縄県によると、今回のような米軍機からの部品落下事案は1972年の本土復帰からの45年間で67件(12月1日現在)発生している。

 今年も米軍嘉手納基地の戦闘機F15や最新鋭ステルス機F35の部品落下とみられる事案があった。

 北朝鮮情勢が緊迫化する中、米軍は練度を高める厳しい訓練を繰り返しているという。

 募る疲労に整備や点検がおろそかになっていないか、改めて徹底してほしい。

 沖縄では米施政下の59年、米軍戦闘機がうるま市の小学校に墜落し児童ら17人が死亡した事故があった。児童が犠牲になった悲惨な事故は恐怖の記憶として今も残る。

 普天間飛行場の「危険の除去」は最優先の課題だが、日米両政府が移設先とする名護市辺野古をめぐっては沖縄と政府の対立が続く。

 事故が起こるたびに沖縄県民の反基地感情が高まり、辺野古移設問題は一段と厳しさを増す。そうなれば普天間の危険除去も遠のくだけだ。

 菅義偉官房長官は落下事故について「あってはならない」と批判したが、こう着した状態を打開し、普天間飛行場の一日も早い返還を実現する責任は、政府にある。

伊方原発差し止め命令 噴火リスクへの重い警告

 原発の安全性への疑問が、司法界に広がっていることの証しだ。国や電力会社は重く受け止めるべきだ。

 昨年再稼働した四国電力伊方原発3号機(愛媛県)について、広島高裁が運転差し止めを命じる仮処分決定を出した。高裁では初となる。

 伊方原発から約130キロ西に阿蘇がある。四電は噴火で約15センチの火山灰が積もると想定したが、決定はこの想定を過少だと判断した。

 そのうえで、伊方原発を安全審査で合格させた原子力規制委員会の判断は不合理だと結論付けた。

 世界有数の火山国である日本は、原発と共存することができるのか。そんな根本的な問いかけが、司法からなされたと言えよう。

 東京電力福島第1原発事故を受けて定められた新規制基準に基づき、電力会社は、原発から160キロ圏の火山の影響調査を義務づけられた。原発の運用期間中に噴火が起きて、火砕流や溶岩流が到達する恐れがあると評価されれば、立地不適格で原発は稼働できない。

 阿蘇は約9万年前に巨大噴火(破局的噴火)を起こし、世界最大級の陥没地形(カルデラ)ができた。

 四電は、より小規模の噴火を想定し、火砕流などが阿蘇から到達する可能性は十分に低いと評価した。規制委も認めた。

 一方、広島高裁は、現在の火山学には限界があり、過去最大規模の噴火を想定すべきだと指摘。原発の敷地に火砕流が到達する可能性は低いとは評価できない、と判断した。

 この決定に従えば、現在稼働中の九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)も停止の対象となるだろう。

 周辺には、阿蘇のほか鹿児島湾など、複数のカルデラがあり、巨大噴火の影響を受ける危険性が全国の原発の中で最も高いとされる。九電は四電と同様に、運用期間中にそうした噴火が起きる可能性は十分低いと評価し、規制委も了承していた。

 日本で巨大噴火が起きるのは1万年に1回程度とされている。だが、頻度が低いからといって対策を先送りすれば、大きなしっぺ返しを受けることを、私たちは福島第1原発事故で学んだはずだ。

 政府や電力会社は、原発の火山対策について、さらに議論を深めていく必要がある。

(社説)米軍ヘリ事故 警告されていた危険

 恐れていたことが起きた。

 沖縄の米軍普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校の校庭に、米軍の大型ヘリコプターCH53Eから鉄製の枠がついた窓が落ちてきた。重さは約8キロ。すぐ近くで児童約60人が体育の授業をうけており、惨事に至らなかったのは偶然でしかない。

 米本国ならば許されない運用がまかり通っているとして、地元の宜野湾市は、事故の危険性をかねて指摘してきた。

 本来、米軍基地の滑走路の延長線上には、住宅や学校などのない「クリアゾーン」を設けなければならない。だが普天間にはこの決まりが適用されていない。クリアゾーンにあたる地域には、約800棟の住宅と18の公共施設があり、普天間第二小学校はそのひとつだ。

 「できる限り学校、病院の上は飛ばない」という日米合同委員会の協定は空文化しており、同校は「米軍機が墜落して有毒ガスが発生した」との想定で避難訓練を行っていた。そんな日常を送る子どもたちが、どこにいるだろうか。

 事故を起こしたヘリは、10月に沖縄・高江に不時着し、炎上したのと同型機だ。米軍は原因を明らかにしないまま、1週間後に飛行を再開した。

 そして今回、再び住民が危険にさらされた。「整備の手順や運用に問題はなかった」とする2カ月前の説明は何だったのか。米軍は整備・点検体制を洗い直し、両方の事故の地元に再発防止策を直接説明するべきだ。形ばかりの飛行停止措置などでは済まされない。

 日本政府の姿勢にも憤りを禁じ得ない。名護市の海岸でオスプレイが大破したのがちょうど1年前。米軍への飛行自粛要請、ごく短期間の受け入れ、一方的な再開、政府の容認――という光景がくり返されてきた。およそ主権国家の体をなしていない、恥ずべき従属である。

 普天間の危険性の除去は最優先の課題であり、だから辺野古への移設を進めると安倍政権は唱える。だがそれは、辺野古の周辺に危険性を移し替えるだけで、沖縄県民に重荷を押しつけることに変わりはない。

 日米両政府が普天間返還に合意した96年当時のペリー国防長官は最近、米軍の抑止力にとって、必ずしも基地を沖縄に置かねばならないわけではない旨の発言をしている。

 こうした声に耳を傾け、沖縄の負担軽減に本気でとり組む必要がある。ひとたび大きな事故が起きれば、日米安保体制そのものが大きくゆらぐ。その現実を政府は直視すべきだ。

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