2012年12月31日月曜日

年金の周知度―利点を知らせる工夫を


 障害年金をご存じだろうか。
 重い障害を負った場合、月約6万5千~8万2千円が一生受け取れる制度だ。若者でも実感できる国民年金加入の大きなメリットである。
 ところが、厚生労働省の最新の実態調査によると、「知っている」のは54.1%で、6年前より5ポイントほど減った。
 そもそも国民年金の半分は税でまかなわれる。民間保険ではありえない「お得な制度」だが、こちらは33.4%しか知らず、6年前から7ポイント低下した。
 再来年からの消費増税のうち約1%分は年金に投じられる。もし、無年金になれば、税の払い損になってしまう。
 一方、国民年金の未納者(保険料を2年間、全く納めていない人)のうち、民間の個人年金に入っている人が8.6%もいて、月平均で1万4千円の保険料を払っている。国民年金の1万5千円と、ほぼ同じだ。
 こうした不合理な行動が起きるのは、制度を周知させる努力が足りなかったからだ。
 国民年金の被保険者のうち、未納者(455万人)の割合が過去最高の26.2%に達した背景にも、年金への認識不足があろう。仕組みについて、広報や教育など地道な仕事を軽視してきたツケである。
 民主党政権は、事業仕分けで年金の広報・教育の予算(09年度で約3億4千万円)を廃止した。削りっぱなしではなく、内容の改善を促すべきだった。
 二つのルートで取り組みを強化してはどうか。
 まずは、市町村との連携強化である。年金事務所よりも住民にとって身近であり、所得情報を活用して所得の低い人には保険料の免除を勧めるなど、効果的な対策がとれる。むろん、個人情報の保護には細心の注意が必要だ。
 市町村にとってもプラス効果がある。無年金や低年金の住民が減れば、生活保護の財政負担も減るからだ。
 3年後には、年金受給に必要な加入期間が25年から10年に短縮される。この周知や相談態勢の整備にも、市町村の力を借りる必要があろう。
 もう一つのルートは、学校教育だ。若者の間では非正規雇用が増えている。企業が様々な社会保障の手続きをしてくれる正社員よりも、自分の身を守る意識と知識が必要になる。
 学校現場は忙しいが、教え子を無防備のまま社会に送り出すことは避けたいはずだ。
 年金制度を維持していくために、政府全体で取り組むべき課題である。

農業政策―もうバラマキはやめよ


 限られた予算を有効に使い、経営規模を大きくし、競争力を高めていく――。日本の農業の課題ははっきりしている。
 焦点は、民主党政権が導入した戸別所得補償の見直しだ。
 とくに、米作について一定の条件を満たせば、零細・兼業を含むすべての農家を支払い対象とする仕組みである。田を貸したり譲ったりする動きにブレーキをかけ、規模拡大への妨げになっている。
 自民党は「バラマキだ」と厳しく批判してきたが、どうも雲行きが怪しい。
 総選挙での公約と政策集には次のような文言が並ぶ。
 政権交代後、大幅に削減された予算を復活させる▼農地を農地として維持することに対価を支払う日本型直接支払いの仕組みを法制化する▼コメに加えて麦、大豆、畜産、野菜、果樹など、多様な担い手の経営全体を支える……
 民主党政権が切り込んだ農業関係の公共事業費を元に戻し、農家への支払いはさらに手厚くする、ということか。
 自公政権は07年、すべての農家へ品目別に支払ってきた補助金を改め、1戸あたり4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)の農家に絞って所得補償する制度を導入した。農業の大規模化をめざし、「戦後農政の大転換」と言われた改革だ。
 しかし、農業関係者の反発にあい、同年の参院選で敗北する一因となった。その後、制度は骨抜きになっていく。
 09年には当時の石破農水相が生産調整(減反)の義務づけをゆるめる「減反選択制」に意欲を見せたが、党内や農協の反対で断念した。この年の総選挙で惨敗し、政権を明け渡した。
 今回の公約は、農業票を強く意識した結果だろう。しかし、わが国の財政に大盤振る舞いする余裕はない。バラマキが農業の体質を一層弱めかねない危うさは、自民党が最もよくわかっているはずだ。
 民主党政権は、コメ農家などの経営規模を20~30ヘクタールと現状の10倍程度に広げる目標を打ち出した。農林漁業に加工と販売を組み合わせる「6次産業化」推進のためのファンドや、新規就農者に年150万円を出す給付金制度も立ち上げた。
 大規模化への障害は何か。ファンドや給付金は一時的なバラマキに終わらないか。これらの点検も必要だ。
 選挙のたびのバラマキ合戦に終止符を打ち、農業の再生に必要な政策を練り直す。「責任政党」を自覚するなら、まっとうな姿勢を見せてほしい。

社会保障政策 全世代で応分の負担が必要だ


 ◆活力回復へ少子化に歯止めを◆

 急速な少子高齢化で、年金、医療、介護など社会保障制度の維持に黄信号がともっている。

 将来への不安から、消費を控えて貯蓄に回そうとする心理が、景気低迷にもつながっている。安倍内閣は、社会保障制度に対する信頼の回復を急がねばならない。

 最優先すべきは、消費税率の引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革を着実に進めることだ。消費増税分は、基礎年金や医療などの財源に充てられる。制度を維持していくための大きな一歩になるだろう。

 ◆改革は長期的な視点で◆

 無論、これだけでは不十分だ。将来を見据えた長期的な改革として、少子化対策が重要である。

 これまでの日本の社会保障は、年金額などで高齢者に手厚い反面、少子化対策が貧弱だった。

 社会保障と税の一体改革によって、消費増税分13兆5000億円のうち、7000億円が子育て支援策の財源となる。それでも、フランスやスウェーデンなど、少子化の克服に成功した国々に比べると相当見劣りする。

 日本は、1人の女性が産む子供の数を示す合計特殊出生率が1・39で、先進国では最低のレベルだ。出生率の低下で、人口は今後50年間に3割以上も減り、100年後には3分の1の規模に縮むと予測されている。

 少子化に歯止めがかからなければ、労働力人口が減少し、現役世代の社会保障費負担は重くなる。経済成長にもマイナスで、社会の活力をそぐことにもなる。

 出産を機に退職を余儀なくされる女性が多い現状を改善したい。失職への不安が、出産をためらう一因だ。保育サービスの拡充や育児休業中の所得保障の強化など、安心して働き続けられる環境を整えることが急務だろう。

 安倍首相は記者会見で、女性が活躍し、子供を産み育てやすい国を作っていくことが政権の責務だと強調した。3年3か月で少子化相が計10人も入れ替わった民主党政権を反面教師とし、強力に少子化対策を進めてもらいたい。

 少子化と並び、非正規雇用の増大も社会保障を危うくしている。パート、契約社員などの非正規労働者は1800万人を超え、被用者の35%に達した。

 ◆非正規雇用対策が課題◆

 非正規労働者については、年金、医療、雇用など社会保険を適用していない企業が多い。社会保険料の徴収対象でない労働者の増加は、保険料収入で成り立つ社会保障制度の根幹を揺るがす。

 失業や病気が生活困窮に直結し、将来は無年金・低年金になる恐れも強い。

 非正規労働者は、リストラの対象にもなりやすい。経済的な理由で結婚が難しく、30歳代男性の既婚者の割合は正社員の半分ほどにとどまる。それが少子化を加速させる悪循環を招いている。

 非正規労働者に対する厚生年金など社会保険の適用拡大や、正社員との賃金格差の是正は大きな課題である。

 田村厚生労働相が記者会見で、経済再生のため「雇用についてもしっかり対応したい」と述べたのは妥当だ。非正規労働者の処遇改善にも積極的に取り組んでもらいたい。

 社会保障制度を持続可能にするには、若者から高齢者まで、世代を問わず、能力に応じて負担することも求められる。特に見直しが必要なのは、年金税制である。

 公的年金は税額控除が大きく、年金生活者の納税額は、同じ収入の勤労所得者に比べて大幅に少ない。年金課税を強化し、現役世代との格差を是正すべきだ。

 問題はそれだけではない。70~74歳の医療費の窓口負担は、法定では2割のところ、1割に抑えられている。その結果、前後の年代に比べ、収入に占める負担額の割合が小さい。本来の2割負担に引き上げることが求められる。

 ◆給付の抑制も不可避◆

 介護サービスは現在、比較的症状が軽い要支援者でも、自己負担率は重度の要介護者と同じ1割だ。今後は負担率の引き上げも検討課題になる。

 給付の抑制も避けられない。

 公的年金には、賃金や物価の変動率より年金の伸び率を低く抑える仕組みが2004年に導入されたが、一度も発動されていない。早期に実施する必要がある。

 ただ、年金生活者の所得格差も大きく、生活費を基礎年金だけに頼る低年金の高齢者も少なくない。消費増税の際、生活必需品の軽減税率を導入するなど、低所得者対策が欠かせない。

2012年12月30日日曜日

災害支援―人材バンクをつくろう


 のべ116万人。
 東日本大震災でボランティアに赴いた人の数である。これは各地の窓口をへた人だけで、実際にはもっといる。
 がれきを運ぶような力仕事だけではない。産業復興や情報発信。ノウハウのいる分野で活躍する長期ボランティアも多い。
 いつどこを襲うとも知れない大災害に備え、そうした人たちの人材バンクをつくれないか。
 この11月、宮城県南三陸町の漁協と県内の居酒屋チェーンが海産物の取引を始めた。
 両者をつないだのは、震災直後から活動を続ける沖縄からの支援者。ボランティア仲間のつてをたどり、販路を見つけた。
 町の災害ボランティアセンターでも、長期の支援者がホームページやセンターの運営に携わる。社会福祉協議会は、本来の業務を抱えながらセンターを営んでいる。外の力は大きい。
 仮設住まいの人たちの心のケアなど、知識や経験をもつ人が長いこと支援してこそ効果が出る分野はほかにもある。
 南三陸の猪又隆弘・災害ボランティアセンター長(54)は、こんな提案をしている。
 センターを営んだ各地の社協から、力を発揮したボランティアを推薦してもらい、人材バンクをつくるべきだ。そうすれば、次に災害があったときすぐ派遣できる――。
 被災地支援の経験者らをセンターに派遣して支える制度は、震災前からある。阪神大震災や中越地震をうけて、中央共同募金会が中心になってつくった。ただ、震災が大きすぎて十分な人材は送れなかった。
 NPOや社協の人だけでなく今回活躍した個人ボランティアを含む幅広いネットワークを、新たにつくってはどうか。社会の共有財産になるだろう。
 被災地で長く活躍するには、生活や仕事の心配をしなくてすむ環境が欠かせない。
 現地で重宝され、本人も活動を続けたいが、会社の理解が得られない。生活費がもたない。そんな理由でやむなく帰ったボランティアもいる。
 経団連によると、短期のボランティア休暇の制度は会員企業の半分以上がもっているが、月や年単位のボランティア休業制度があるのはまだ2割だ。
 一方で、業務の扱いで社員を送り出した企業や、復興支援のNPOに社員を派遣した企業もある。被災地での経験は本業でも力になろう。意欲のある社員を制度で後押ししてほしい。
 南海トラフや首都直下の巨大地震もいつか来る。東北の経験を共有すべきだ。

警察不祥事―外部の力かりて再生を


 金をもらって暴力団関係者に捜査情報をもらす。署長が部下の窃盗をかくす。強盗強姦(ごうかん)事件の証拠をでっちあげる……。
 いまや警察官の犯罪は珍しくない。残念なことに、そう思わせるこの1年だった。
 際だつのは富山県警の54歳の警部補が逮捕された事件だ。2年前、知り合いの夫婦を殺し、証拠隠しに放火したという。
 警部補は消費者金融に200万円ほどの借金があり、捜査情報を知人にもらした疑いももたれている。
 平素は信頼が厚く、何度も幹部から表彰されていた。そんな警察官がなぜ凶行に走ったのか。上司らがこれまでの勤務の中で見落としていた予兆はなかったのか。徹底的に調べなくてはいけない。
 6月までの半年間で懲戒免職になった警察官は31人にのぼる。警察改革の始まった2000年以降では最悪のペースだ。
 警察改革は、警察を監督する国家公安委員会の指示で始まった。ストーカー殺人事件での埼玉県警の失態などを受けたものだ。「国民のための警察の確立」「警察行政の透明性の確保と自浄機能強化」を柱に再生に取り組んできたはずだった。
 だが、不祥事は後を絶たない。免職以外の懲戒も含めると警察官の処分は、年間300人前後と高止まりの状態が続いている。自浄機能が強まったとはとても言えない。改革が不十分なのは明らかだ。
 警察内部の力だけでは、再生はおぼつかない。この12年の足跡を見る限り、そう言わざるをえない。これを教訓に、今度は国家公安委に第三者機関を新たに設け、実効性のある改革をめざして知恵をしぼってもらったらどうだろう。
 公安委員会の監察機能の強化も検討すべきだ。ここでも弁護士ら外部の識者を加えた監察制度の導入を考えてもらいたい。
 もちろん、使命感にあふれ、仕事を地道に続ける警察官は多い。一線の警察官のモラルや使命感を高めるためにも、意欲のある者が報われる制度づくりが欠かせない。
 警察組織では、いわゆるキャリア組と都道府県での採用組の間で、昇進の早さや条件などで大きな差がある。これが警察組織の士気にマイナスとなっていないか。組織の根っこから洗い直す必要がある。
 社会の治安は、警察に頼るところが大きい。市民がそう期待しているからこそ、警察改革も真剣勝負でなくてはならない。来年こそ、立て直しの節目の年とすべきである。

教育政策 高校無償化の見直しは妥当だ


 安倍首相が改革に意欲を見せる教育分野で、早くも独自のカラーを出したということだろう。

 民主党政権が結論を先送りしてきた朝鮮学校に対する高校授業料の無償化適用について、安倍政権が適用を見送る方針を決定した。

 その理由として、下村文部科学相は、日本人の拉致問題に進展がないことに加え、朝鮮学校の財務や教育内容が、北朝鮮と結びつきの強い在日本朝鮮人総連合会の影響下にある点を挙げている。

 民主党政権下で策定された判断基準に沿って、文科省が審査を続けてきたが、これとは別に、安倍政権として判断したという。

 無償化が適用されると、日本の高校にあたる「朝鮮高級学校」10校に、授業料分として年約2億円の就学支援金が支給される。

 確かに、就学支援金が授業料以外に流用される恐れや、事実と異なる内容の教育が行われる懸念が払拭できない限り、国費投入に国民の理解は得られまい。

 高校無償化に関しては、下村文科相が、2014年度以降、制度を見直し、対象に所得制限を設ける方針を明らかにしている。

 高校無償化は「社会全体で子供を育てる」という理念を掲げた民主党政権の目玉政策の一つだった。だが、家計に余裕のある層まで一律に対象としたため、「ばらまき」との批判が根強かった。

 高校生は授業料以外にも学用品購入費などの負担が多い。所得制限によって無償化の対象を絞り込むことで財源を捻出し、低所得者層の支援に活用するという安倍政権の考え方は理解できる。

 教育分野で早急な対策が求められるのは、いじめ問題だ。

 今夏以降、各地で深刻ないじめが表面化した。大津市でいじめを受けた男子中学生が自殺した事件では、元同級生3人が、暴行などの容疑や非行事実で書類送検や児童相談所送致となった。

 相手を思いやる気持ちの欠如が、いじめを生んでいる。安倍政権が道徳教育の強化を打ち出したのは当然だ。学校の授業や地域での職場体験などを通じ、規範意識や公共性を育む必要がある。

 「いじめ防止対策基本法」の制定も検討されている。法制化を通じて、「絶対にいじめを許さない」という意識を社会全体で共有する意義は大きい。自治体や学校に具体的な取り組みを促す効果も期待できるのではないか。

 大津の事件で機能不全が露呈した教育委員会の在り方についても政府内で議論を進めてほしい。

2012回顧・世界 国際舞台の役者が出そろった


 2012年は、主要国で大統領選や指導部交代が相次いだ。

 読売新聞の読者が選んだ「海外10大ニュース」にも、国際政治の大きな変化が読みとれる。

 1位は、「米大統領選でオバマ氏が再選」だった。

 多極化が進む世界とはいえ、経済力、軍事力で群を抜く米国は、依然として最も影響力がある超大国だ。民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補の論戦は、世界中が注目した。

 オバマ政権の最優先課題は、景気対策と財政再建の両立である。1期目で打ち出したアジア重視の外交戦略は、今後の日米関係を方向づけるだろう。

 2位は、中国共産党のトップ交代だ。総書記に習近平氏が選出された。中国指導部への関心がかつてなく強いのは、尖閣諸島をめぐり、中国が日本に露骨な圧力を加えているからにほかならない。

 日本の尖閣諸島国有化に抗議するデモが暴徒化し、日本企業に大きな損害を与えるなど、国交樹立40周年の日中関係に明るいニュースは乏しかった。

 ロシアではプーチン首相が大統領の座に返り咲いた(6位)。アジアとの経済関係を強化し、国力向上を図ろうとしている。

 年末の韓国大統領選(20位)で、朴槿恵氏が当選した。初の女性大統領と安倍首相が、日韓関係をどう改善するかを注視したい。

 「指導者選び」の重圧を経た各国首脳には来年、内向きな発想を脱して諸課題に取り組み、国際協調を深めてもらいたい。

 北朝鮮では、昨年死去した金正日総書記の後継として三男正恩氏が、朝鮮労働党第1書記に就任した(3位)。3代世襲の新体制を固めるように、4月と12月にミサイル発射を強行した。

 北朝鮮が、国際的孤立を深めているのは大きな懸念材料だ。

 ミャンマーは対照的に、テイン・セイン大統領が民主化を進め、国際社会との関係を修復した。野党指導者アウン・サン・スー・チー氏が議会補選で当選した(5位)のは象徴的だ。

 欧州では、英エリザベス女王の即位60年の祝賀行事(4位)という明るい話題の一方で、財政・金融危機が長期化し、スペインがユーロ圏に金融支援を要請した(10位)。欧州経済の動向は来年も目が離せない。

 シリアでは、アサド政権と反体制派の間の内戦が泥沼化した(8位)。「アラブの春」のうねりはなおも中東を揺るがしている。

2012年12月29日土曜日

原発新増設―「反省ゼロ」ですか?


 茂木経済産業相が就任早々、「未着工の原発の新増設は認めない」という民主党政権の方針を白紙にすると表明した。
 新増設の中止は、脱原発への幅広い民意を受けての決定だった。自民党も公明党との連立合意で「可能な限り原発依存度を減らす」としている。
 新増設を認めて、どうやって原発を減らしていくのか。あまりに思慮に欠ける発言だ。
 福島第一原発は、政府による「冷温停止状態」宣言から1年たつが、爆発が起きない程度に落ち着いただけである。詳細な事故メカニズムも不明だ。廃炉作業にも入れていない。
 周辺市町村の除染作業も遅々としており、避難した16万人の帰還や生活再建はめどが立っていない。二度と事故を起こさないために何が必要か。原発の新たな安全基準や「起きてしまった場合」の防護策すら整備できていない段階だ。
 安全神話のもとで事故への備えを怠ってきた原子力行政は、長期にわたる自民党政権が築いたものだ。
 だからこそ、総選挙で自民党も「原発に依存しなくてよい社会」をうたい、「自分たちは変わった」と主張してきたのではなかったか。
 脱原発への航路や速度に議論の余地があるにしても、乗客が船に乗り込んだとたん、逆方向へかじを切るようなやり方は、政治の信頼性に関わる。これでは「反省ゼロ」政策だ。
 茂木氏は核燃料サイクル政策についても「完全放棄の選択肢はない」と明言した。だが、長年にわたって巨額の投資をしながら実現していない事業だ。そもそも原発を減らすなら、サイクルの必要性は薄れる。
 こちらこそ白紙に戻し、放射性廃棄物の現実的な処理策を真剣に議論すべきときだ。
 安全対策や後処理にかかるコストを勘案すると、原発の新設は他の電源に比べて決して安くない。それは、すでに検証済みだ。事故のリスクを考えれば、地震が多く、狭い日本での経済合理性はさらに怪しくなる。
 むしろ電源構成の思い切った組み替えや電力システム改革を進めたほうが、新しいビジネスや雇用を生む芽になる。
 原発の新増設に含みをもたせて、旧来の地域独占に守られた電力体制を維持していては、新規の民間投資も、健全な競争も進まない。原発依存から地域が脱する手立ても失う。
 茂木さん、「経済再生」と「新産業育成」が安倍政権の最優先課題ですよね。どっちが得か。よく考えてみてください。

防衛産業不正―奢りと甘えにメスを


 防衛・宇宙産業が抱える病巣の根深さに愕然(がくぜん)とする。
 この分野ではトップクラスの三菱電機による過大請求問題である。
 このほど発表された調査結果によると、防衛省や宇宙航空研究開発機構などに対する過大請求の総額は、記録をたどれるだけで子会社もふくめ374億円にのぼる。違約金や利息も合わせた返納金は773億円と過去最大になる見込みだ。
 不正の目的は、赤字部門へカネを回し、事業全体で利益と人員を確保することだったという。防衛省などが発注した情報収集衛星や防空システムなどの開発費、つまり税金が穴埋めに使われたのだ。
 不正は、防衛分野では遅くとも70年代から、宇宙分野でも92年には始まっていた。「工数」と呼ばれる作業量を水増しするやり方だ。幹部も承知のうえだったという。
 組織的、かつ長期にわたる不正には驚くしかない。
 同社は、経営管理や組織のあり方を見直し、再発防止を図るという。政府も監査や罰則を強化する。
 それらは当然だが、防衛産業での過大請求は今回でなんと20社目だ。過去には刑事事件として摘発されたケースもある。
 不正の温床となりがちな、業界特有の体質にメスを入れねば再発は防げまい。
 まず、技術が高度で特殊な面があり、代替できる企業が少ないことがある。そこからくる企業の奢(おご)り、官によるチェックの甘さはなかったか。
 実際、同社は指名停止中だった今年前半、1千億円を超える契約を防衛省と結んだ。防衛省は、代わりに調達できる企業がないためだというが、これでは全く罰になっていないと会計検査院が指摘したほどだ。
 宇宙分野でも、現在、国内で大型の実用衛星をつくれるのは事実上同社のみだ。
 赤字体質の背景には、安価な海外の衛星と競うために大幅な値引きが必要だったことがある、との指摘もある。
 防衛装備品では、開発経費は十分に支払われないのが慣例、との企業側の不満もある。適正価格の見極めも必要だろう。
 競争が少ない中で、どのようにして質の高さと低コストを実現し、健全な産業として成り立たせるのか。契約制度などもふくめて根本からの検証が欠かせない。
 そのためにも、今回の不正請求問題の全容を、官側の対応もあわせて解明することだ。これで打ち止めとしてはならない。

次官連絡会議 真の「政治主導」を確立したい


 安倍政権が目指す「政治主導」の仕組みとルールが固まりつつある。

 政治家と官僚が連携して、迅速に政策を決定、実行する体制を築かなければならない。そのためには、民主党政権で損なわれた政と官の関係修復が不可欠である。

 安倍首相は、各府省の事務方トップを集めた「次官連絡会議」の初会合で「政官相互の信頼関係に基づく真の政治主導を推進する必要がある」と強調した。

 連絡会議は毎週金曜日の閣議後に開かれる。閣議が決めた方針に沿って、各府省が情報を共有し、具体策を検討する場となる。

 民主党政権は次官会議を廃止するなど、官僚を政策決定から排除した。その結果、官僚が萎縮して「指示待ち」の状態に陥り、政府の機能は著しく低下した。

 安倍首相が次官を通じて政府内の連携を図ろうとする姿勢は理解できる。野党的感覚で官僚を信頼しなかった民主党の誤った政治主導を是正するのは当然である。

 政府が閣僚懇談会で申し合わせた「政・官の在り方」とする文書は、官僚が基礎データや政策の選択肢を複数提示し、政治家は政策決定に責任を持つとしている。

 政治家と官僚が役割を分担し、協力し合わなければ、危機管理や災害対応などで政府が総力を挙げることはできない。

 民主党政権が廃止した次官の記者会見を復活させるのも妥当だ。本来、官僚が記者会見での実務の説明を通じて閣僚を補佐することは何の問題もなかった。

 一方、自民党は、政府提出法案などに関し、政務調査会の各担当部会と、総務会が事前に審査・了承する手続きを再開する。税制も党税制調査会がリードする。

 こうした党主導の意思決定は、関連する業界や地元の意見を反映しやすい反面、その意向に政策がゆがめられる恐れもある。各部会の利害が対立する場合は、迅速な政策決定が難しい。

 その一つが環太平洋経済連携協定(TPP)への態度決定だ。

 農協などが強く反対し、外務、経済産業両省と農林水産省も対立している。関係議員間の利害調整ができなければ、政府はTPP参加を決められまい。

 国益にかかわる重要政策は、経済財政諮問会議などの場で大所高所から議論して、首相官邸主導で決断すべきである。

 政府・与党の協議機関として、「政府・与党連絡会議」も設置される。自民、公明両党は緊密な意思疎通を心掛けてもらいたい。

2012回顧・日本 再生への希望が芽生えた年


 明るい話題に、希望や勇気をもらった人が多かったのだろう。

 読売新聞の読者が選ぶ今年の「日本10大ニュース」の1位は、「ノーベル生理学・医学賞に山中教授」だった。

 「東京スカイツリーの開業」が2位、「ロンドン五輪、史上最多のメダル」が3位に入った。

 山中伸弥京都大教授が開発したiPS細胞(人工多能性幹細胞)は、傷んだ臓器などの再生医療を実現へ大きく動かした。「まだ一人の患者も救っていませんから」。受賞が決まった後の山中氏の謙虚で誠実な姿勢も好感を呼んだ。

 東京スカイツリーは5月の開業から半年で約2800万人の入場者を集めた。634メートルは自立式電波塔では世界一の高さだ。東京タワーが高度成長の象徴ならば、スカイツリーはどんなシンボルとして親しまれていくのだろうか。

 ロンドン五輪で日本選手団は、金7個を含む38個のメダルを獲得した。レスリングの吉田沙保里選手、伊調馨選手が五輪3連覇を達成した。なでしこジャパンのサッカー、バレーボール、卓球など女子選手が見事な活躍を見せた。

 プロ野球の「巨人3年ぶり22度目の日本一」は8位に入った。

 その巨人の主砲を長く務めた松井秀喜選手が27日、引退を表明した。巨人や米大リーグ・ヤンキースなどで507本塁打を放ち、ワールドシリーズの最優秀選手にも選ばれた。豪快な打撃はファンの心に深く刻まれよう。

 安倍内閣の発足につながる「師走の衆院選挙」は4位だった。民主党は、野田前首相が社会保障と税の一体改革(16位)と引き換えに、「近いうち解散」に打って出た末の惨敗だった。3年3か月に及んだ民主党政権が終わった。

 米軍普天間飛行場移設の問題などで迷走し、民主党の政権公約(マニフェスト)も破綻した。政権担当能力に欠けると多くの有権者は判断したのだろう。

 安倍首相には、現実的な政策の立案・実行と安定した政権運営が求められる。

 尖閣諸島の国有化による日中関係の悪化も、5位と関心が高かった。中国では反日デモが暴徒化し、日本企業が襲われた。関係の改善は安倍内閣の重要課題である。

 12月には中央道の笹子トンネル(山梨県)の天井板が崩落し、9人が死亡する大惨事が起きた(7位)。老朽化したインフラ(社会基盤)の改修も急ぎたい。

 日本が確実に再生の道へ歩み出す。来年をその節目にしたい。

2012年12月28日金曜日

暴力団排除―福岡での無法を許すな


 暴力団による発砲や住民への襲撃が続く福岡県で、とくに凶悪な三つの「特定暴力団」が指定された。全国で初めてだ。
 これを暴力団を封ずる新しい手立てにし、警察は住民や企業を守らなくてはならない。
 特定暴力団の制度は、暴力団対策法の改正で定められた。以前からある「指定暴力団」のなかから、市民や企業を襲った前歴のある団体などを指定する。
 全国には22の指定暴力団がある。福岡県には全国で最も多い5団体が本部をおく。そのなかの工藤会を福岡、山口両県の公安委員会が「特定危険」の暴力団に指定した。道仁会と九州誠道会は福岡、佐賀、長崎、熊本4県の公安委が「特定抗争」の暴力団に指定した。
 新しい制度では、縄張りを中心とする区域を警戒区域と定める。その区域で、組員が飲食店に用心棒代などを要求したようなとき、それだけで犯罪とみなされる。指定区域で組事務所の新設や抗争相手へのつきまといなども禁止できる。どちらの場合も、違反した場合には直ちに逮捕できる。
 これまでの暴対法では、いったん中止を命令し、それに違反した場合にようやく摘発ができた。今後は、犯罪を早く止められるようになる。
 新しい仕組みが地域の安全に役立つためには、通報する住民の協力が欠かせない。
 住民は暴力団から報復される恐れを知りながら捜査に協力することになる。警察が守り抜かなくてはならない。
 福岡県内では昨年以降、22件の発砲事件が起きた。しかし、容疑者が逮捕されたのは3件だけだ。
 福岡県では今年、飲食店に組員の立ち入りを禁ずるステッカー(標章)を掲げる制度が始まった。その後、北九州市などで標章を使った飲食店主らが顔を切りつけられる事件や、店への不審火が相次いでおきた。このような住民への加害事件も未解決が多い。
 県警は、標章がなくても店に立ち入った組員を取り締まれるようにする暴力団排除条例の一部を改める検討をしている。その改正も急ぐけれど、不安な思いの飲食店主らを保護することは、さらに大切だ。
 20年前に指定暴力団の制度ができたときも注目されたが、決め手にならなかった。制度も大切だが、警察が確実に守ってくれるという信頼を保てなくては暴力団を抑えられない。
 凶暴な犯罪が続く福岡で、警察はまず、安全を取り戻す実績を示さなくてはならない。

エジプト新憲法―国造りに国民の参加を


 エジプトの新憲法が国民投票で承認された。強権体制の崩壊を受けて始まった政治プロセスの重要な一歩である。新しい国造りにつなげて欲しい。
 しかし、イスラム派の与党と世俗・リベラル派の野党との間では、新憲法をめぐって対立が激化した。ムルシ大統領が、国民投票前に大統領権限の強化を発表したことで、混乱はさらに深まった。
 こうした政治の分裂には、不安を抱かざるをえない。
 新憲法はイスラム勢力が多数を占める委員会によって起草された。イスラムの理念に基づく家族の尊重や孤児・貧困者などの弱者救済、社会連帯を国造りに組み込んでいる。警察権限の制限や、大統領任期を最長2期8年にするなど、旧政権の独裁の反省も盛り込まれた。
 一方で、「預言者への中傷を禁じる」という宗教的な条項もある。言論の自由や少数派キリスト教徒の権利の抑圧につながりかねない懸念もある。
 なにより気になるのは、投票率が33%と低かったことだ。3分の2が賛成したが、全有権者の2割にすぎない。
 これではイスラム派が支持する新憲法が、広く国民に受け入れられたとは言えない。同時に、反対派の主張も有権者に広がらなかった。
 国民の関心の薄さは、新憲法案の起草から国民投票までの期間が短かったことも原因だ。与党も反対派も、新憲法について国民の間に議論を広げるような働きかけは不十分だった。
 旧ムバラク政権時代から続く問題でもある。大統領と与党の取り巻きだけで政治を行い、野党を弾圧した。一般の国民は政治の外に置かれていた。
 2年前に革命で強権体制が倒れた後も、各政党や政治勢力は、それぞれの支持者をデモや集会に動員して、力を誇示する手法が続く。
 テレビが連日、双方の激しいデモの様子を伝えても、国民の多くは政治の動きを自分たちとは遠いものと考え、投票にも参加しない。
 今後、新憲法に従って、上下両院の選挙が実施される。国民が政治に参加する重要な機会だ。イスラム派と世俗・リベラル派の対立が深まるだけでは不毛である。
 各政治勢力は、新憲法に基づく国のあり方について、国民的な議論を広げて欲しい。国民に選挙への参加を促し、政治の主役としての自覚を育てる。そうすることではじめて、言論の自由を守る意識も含め、民主主義は国民のものとなる。

安倍外交 日米「基軸」で隣国関係改善を


 ◆同盟強化へ防衛指針を改定せよ◆

 3年余の民主党政権下で大きく後退した日本外交をどう立て直すのか。

 安倍内閣が全力で取り組むべき重要課題だ。

 安倍首相は来月中にも米国を訪問し、オバマ大統領と会談する。日米同盟の強化が、中国、韓国など近隣国との関係を再構築する第一歩と考えるからだ。

 鳩山元首相が米軍普天間飛行場の移設問題を迷走させ、日米同盟を混乱させた。その間隙
かんげき
を突くように、中国、韓国、ロシアが領土問題で日本を揺さぶった――。多くの外交関係者の共通理解だ。

 ◆安保課題の工程表作れ◆

 問題は、日米同盟を強化する具体策である。自民党は衆院選の政権公約に、集団的自衛権の行使容認や防衛協力指針(ガイドライン)再改定などを盛り込んだ。

 いずれも実現すべき安全保障の課題である。一つひとつに優先順位をつけ、着実に取り組むことが同盟関係をより強固にしよう。

 10年連続で減少している防衛費の拡充は急務だ。来年度予算編成で考慮する必要がある。

 自衛隊と米軍の防衛協力を強化するガイドライン再改定についても、日米協議を早期に開始し、具体的な検討に入りたい。

 衆参ねじれ国会の下、首相が創設に意欲を見せる国家安全保障会議(日本版NSC)の関連法案の成立は簡単ではない。だが、民主党も同様の構想を持つ。与野党協議を呼びかけてはどうか。

 集団的自衛権の問題は、公明党や内閣法制局との調整が難関となる。来夏の参院選後の実現を目指し、まずは与党内でしっかりと議論を深めるのが現実的だろう。

 安倍首相の訪米時には、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題が重要議題となろう。日本の国益を確保するため、極力早期に交渉参加を決断すべきだ。

 長年の懸案である普天間問題も正念場を迎えている。

 普天間飛行場の代替施設の建設には、沖縄県の仲井真弘多知事の埋め立て許可が不可欠だ。地元関係者の理解を広げ、「県外移設」を主張する知事が翻意しやすい環境を整えることが大切である。

 日中両国は、今年9月の尖閣諸島の国有化以降、険しい対立関係にある。中国政府船が連日、尖閣諸島周辺で示威活動を繰り返す異常な状況が続いている。

 ◆中国と「互恵」を再構築◆

 無論、日本は、尖閣諸島の領有権に関しては一切の譲歩をすべきではない。ただ、この問題だけで日中関係全体が停滞することは、双方にとって大きな損失だ。

 安倍首相は6年前の訪中で、靖国神社参拝問題に明確な結論を出さずに、「戦略的互恵関係」を目指すことで中国と一致した。解決が困難な外交問題も、より大きな交渉の一部に包含することで、打開できる道はあるはずだ。

 今回も、例えば、尖閣問題は継続協議にしておく一方、戦略的互恵関係を追求することで習近平指導部と包括的な合意を図るなど、知恵を絞らねばならない。

 そのため、自民党が政策集の検討項目に掲げた尖閣諸島での「公務員の常駐」などの強硬策は当面、棚上げにするのが現実的だ。

 安倍首相が領土問題などで掲げる「主張する外交」は、「主張しない外交」と比べれば、はるかに良いが、主張すること自体が目的化しては意味がない。

 目指すべきは、時には静かに解決策を模索するなど、硬軟両様で「結果を出す外交」である。

 韓国との関係の改善も、急がなければならない。

 竹島訪問を強行した李明博大統領から朴槿恵氏への交代は、その好機である。安倍首相が特使の派遣を検討しているのは妥当だ。

 核開発を進める北朝鮮や、軍事大国化する中国に効果的に向き合うには、米国に加え、韓国との緊密な連携が欠かせない。

 ◆新政権で「拉致」進展を◆

 日朝関係は、今月の北朝鮮の弾道ミサイル発射で、予定されていた局長級協議が延期された。

 膠着
こうちゃく
状態にある日本人拉致問題の前進には、日本が交渉に値する相手だと北朝鮮の金正恩第1書記に確信させることが不可欠だ。

 混乱が続いた民主党政権から安倍政権への移行を契機に、「対話と圧力」路線に沿って北朝鮮への働きかけを強めねばならない。

 ロシアについて政府は、来年2月ごろにプーチン大統領と親しい森元首相を派遣し、その後の安倍首相の訪露につなげる考えだ。

 大統領は対日関係を重視し、北方領土問題の解決にも意欲を持っている。様々なレベルで対話を重ね、領土問題やエネルギー協力を進展させることが重要だ。

2012年12月27日木曜日

安倍内閣発足―再登板への期待と不安


 2度目の安倍晋三内閣が船出した。
 混迷続きだった民主党政権の3年余をへて、日本の政治に安定を取り戻せるか。
 突然の政権投げ出しから5年。挫折のなかから首相に再登板した安倍氏は、自民党への「政権再交代」を支持した民意に今度こそ応えられるのか。
 この間、日本を取り巻く環境はいっそう複雑さを増した。
 東日本大震災と原発事故。出口の見えないデフレ不況。1千兆円にも及ぶ国の借金。中国や韓国との領土対立、宙に浮く米軍普天間基地の移設……。
 だれが政権を担っても、簡単に答えは出ない。
■バラマキの排除を
 求められるのは、派手なパフォーマンスや掛け声ではない。
 地に足をつけ、一歩ずつ問題を解きほぐす。そんな現実的な政策判断にほかならない。
 たとえば経済政策である。
 副総理に麻生太郎元首相をあて、財務相と金融相を兼務させる。新設の経済再生相の甘利明・前政調会長とともに、景気対策の司令塔にする狙いだ。
 「デフレ脱却」への国民の期待は強い。政権が最優先課題に掲げるのは当然の判断だろう。
 一方で、中央銀行を財布代わりにお金をばらまき、公共事業を積み増していけば、国債金利の急騰から財政破綻(はたん)を招く危険な道につながりかねない。
 10兆円規模の大型補正予算。10年で200兆円の公共投資。
 自公両党からは威勢の良い呼び声が先行するが、そんな大盤振る舞いをする余裕が、いまの日本にあるはずがない。
 将来の原発・エネルギー政策をどう描くかも、最重要課題のひとつである。
 自公両党は、連立合意で「可能な限り原発依存度を減らす」ことを確認した。
 「原発ゼロ」の公明党と「原発ゼロは無責任」と批判する自民党。最終目標の違いは棚上げにしたということだろうが、両党が「脱原発依存」で足並みをそろえた意義は大きい。
■外交立て直す好機だ
 ただ、安倍氏は新増設に含みをもたせるなど真意が不明な部分もある。公明党は、安倍氏を引っ張ってでも脱原発を着実に進める責任を自覚すべきだ。
 領土問題できしむ近隣外交の立て直しも、民主党政権から引き継いだ懸案である。
 日中韓の指導者がそろって交代するいまこそ、むしろ関係改善のチャンスだ。
 安倍氏自身、そのことは十分意識しているようだ。
 来年2月22日の「竹島の日」を政府主催の式典に格上げすることはとりやめた。靖国参拝や尖閣諸島への公務員の常駐についても明言を避けている。
 外交の試金石は、年明けの訪米である。民主党政権下で揺らいだ日米同盟の再構築を急がねばならない。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加の是非についても、結論を出す時期が迫っている。
 期待の半面、心配もある。
 安倍総裁直属の教育再生実行本部の本部長として、党の教育分野の公約をまとめた下村博文氏が文部科学相に就いた。
 公約は、歴史教科書の検定で近隣国に配慮するとした「近隣諸国条項」の見直しをうたっている。
 近隣国との信頼を築くうえでこの条項の存在意義は重い。これを引き継がないとなれば、中韓との関係はさらに悪化する。
■孤立招く歴史見直し
 新政権の要職には、下村氏をはじめ、安倍氏がかつて事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」のメンバーが並ぶ。この会は、歴史教科書の慰安婦をめぐる記述を「自虐史観」と批判し、慰安婦への謝罪と反省を表明した河野談話の見直しを求めてきた。
 また、行政改革相に就いた稲田朋美氏は「南京大虐殺」を否定し、東京裁判を「不法無効な裁判」と批判してきた。
 河野談話や村山談話の見直しは「戦後レジームからの脱却」を唱える安倍氏の持論だ。
 だが、そうした歴史の見直しは戦前の軍国主義の正当化につながる。戦後日本が国際社会に復帰する際の基本的な合意に背く行為と受け取られかねない。実行すれば、中韓のみならず欧米からも厳しい批判は避けられない。
 前回の安倍政権は、愛国心を盛り込んだ改正教育基本法など「安倍カラー」の法律の成立を急いだ。その強引な手法が世論の反発を招き、参院選の大敗と退陣につながった面もある。
 その教訓と「ねじれ国会」の現実をふまえてのことだろう。今回は、来夏の参院選までは憲法改正をはじめ「安倍カラー」は封印し、経済政策などに集中する。それが新政権の基本方針のようだ。
 現実的な選択である。
 そのうえで、新政権に改めて指摘しておきたい。
 世界の中で孤立しては、日本の経済も外交も立ちゆかない。

第2次安倍内閣 危機突破へ政権の総力挙げよ


 ◆「強い経済」取り戻す知恵が要る◆

 デフレからの脱却、震災復興、原発政策の再構築、外交立て直し――。日本が直面する難問を解決しようという意欲のうかがえる布陣だ。

 第2次安倍内閣が発足した。戦後、首相の再登板は吉田茂以来2人目である。

 安倍首相は就任後の記者会見で「一日も早く結果を出すことで信頼を得たい」と強調した。短命政権に終わった5年前の苦い経験を教訓に政策実現能力が問われる。「危機突破内閣」の看板通り、閉塞状況を打開してもらいたい。

 ◆「霞が関」を使いこなせ◆

 閣僚には、自民党の麻生元首相や谷垣禎一前総裁、公明党の太田昭宏前代表ら重鎮が並んだ。根本匠復興相ら首相に近い中堅・若手の登用も目立つ。

 内閣の要となる官房長官に腹心の菅義偉前幹事長代行、官房副長官には世耕弘成前参院政審会長ら側近を据えた。内閣官房参与に小泉元首相の政務秘書官を務めた飯島勲氏を起用している。

 首相官邸を中心にしたチーム力と大災害時などの危機管理能力を高めるのが狙いだろう。

 民主党政権の誤った「政治主導」とは一線を画し、官僚機構を十二分に使いこなして、霞が関の機能を引き出すことが大切だ。

 安倍内閣の最重要課題は、日本経済の再生である。麻生太郎副総理・財務・金融相、甘利明経済再生相、茂木敏充経済産業相の3閣僚が、その中核を担う。

 いずれも政調会長を経験した政策通である。実効性のある政策を迅速に打ち出してほしい。

 ◆司令塔を機能させたい◆

 社会保障財源を確保するため、消費税率を着実に引き上げていく必要がある。それには、後退色を強める景気を下支えする大規模な補正予算の編成が急務だ。

 経済再生に向けて、首相は経済財政諮問会議を復活させ、新たに日本経済再生本部を置く。二つの組織を経済の司令塔として、しっかり機能させねばならない。

 野田政権の「2030年代に原発稼働ゼロ」の方針では電力の安定供給が揺らぎ、産業空洞化も加速する。これを早急に撤回し、現実的な原発・エネルギー政策を再構築すべきである。

 少子高齢化と人口減で中期的には国内需要の縮小が避けられない。日本の成長に弾みをつけるには環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を決断するしかない。

 林芳正農相は、一層の市場開放に備え、農業の国際競争力を強化する重要な役割を担う。

 老朽化したインフラ(社会基盤)の整備と防災対策も欠かせない。古屋圭司防災相が目玉政策の「国土強靱
きょうじん
化」を担当する。

 無論、日本が深刻な借金財政に陥っていることも忘れてはなるまい。将来世代にこれ以上重いツケを回さないよう、効率的な公共投資を工夫することが肝要だ。

 社会保障制度を持続可能にするには給付の削減は避けられない。社会保障の専門家である田村憲久厚生労働相の手腕が問われる。

 外相には、岸田文雄元沖縄相が就任した。鳩山政権が著しく損なった沖縄県との信頼関係を回復しなければ、米軍普天間飛行場の移設問題は前進しない。

 沖縄県の事情に通じ、仲井真弘多知事とも一定の信頼関係があると言われる岸田氏の起用は妥当だと言えよう。

 防衛相には小野寺五典元外務副大臣が起用された。

 尖閣諸島を巡って中国は、領海だけでなく、領空まで侵犯した。経済、軍事両面で膨張路線をとる中国とどう向き合うかは外交・安全保障の最重要課題だ。

 首相は岸田、小野寺両氏と十分連携し、柔軟で、したたかな戦略を打ち立てる必要がある。

 一方、自民党の新執行部体制では、高市早苗政調会長、野田聖子総務会長という女性2人の党三役への登用が注目される。

 ◆自公民路線は堅持を◆

 地方で人気のある石破幹事長とともに来夏の参院選で「党の顔」とすることを狙った人事だ。自民党の変化を示すものだという。

 だが、イメージだけでは党に対する国民の信頼は回復しない。政治を前に動かすために、一層の努力と謙虚な姿勢が求められる。首相が言う通り、「伝統にあぐらをかけば、あっという間に陳腐な古い自民党と化す」だろう。

 参院選までは衆参のねじれが続く。社会保障と税の一体改革の実現に向けて、自公民3党の協力路線を堅持していくべきである。

 「決められない政治」はもううんざりだ。これまでとは次元の違う政権運営を期待したい。

2012年12月26日水曜日

民主党新代表―党再生の覚悟を示せ


 きのうの民主党代表選で、海江田万里元経済産業相が新代表に選ばれた。
 幹事長には、来夏の参院選の「顔」に期待されている細野豪志政調会長を起用する。
 総選挙で民主党は、議席の4分の3を失う歴史的な惨敗を喫した。海江田―細野体制に、文字どおり存亡の危機にある党再生をかける。
 それにしても、ふがいない代表選びだった。細野氏ら「本命」とみられた有力者はあえて火中の栗を拾おうとせず、消去法的に海江田氏が選ばれたといっていいだろう。
 海江田氏は昨年、菅内閣で経産相をつとめた。原発再稼働をめぐって首相と対立し、国会で涙をみせた記憶は新しい。昨夏の代表選に小沢一郎元代表に推されて立候補したが、「小沢傀儡(かいらい)」批判を浴びて敗れた。
 そんなひ弱なイメージを跳ね返し、困難な党の立て直しに指導力を発揮することを望む。
 海江田氏が取り組むべき課題は二つある。
 第一に、「寄り合い所帯」といわれる党の体質を根本から改めることだ。
 この3年の民主党は、政権与党というのに消費増税などをめぐって内紛と分裂を繰り返してきた。
 党内で徹底的に議論し、決まったらこれに従う。こんな政党政治のイロハをまず確立することである。
 総選挙では地力の弱さもあらわになった。「風」頼みでなく、地域や市民団体に根を張って民意をくみ取る組織づくりも急がねばならない。
 第二に、党の理念を明確に打ち立てることだ。
 国会では、自民党や日本維新の会をはじめ、憲法改正などを掲げる保守色の強い政党が勢力を増した。「中道」や「リベラル」を掲げる議員が多い民主党は、それへの対抗軸として欠かせない存在である。そのことを自覚すべきだ。
 同時に参院選に向け、政策を練り直すことである。
 今回の総選挙マニフェストで「将来世代の声なき声に耳を傾ける」とうたった。必要なら現役世代に厳しい選択もする決意と受けとめたい。早急に肉付けを急ぐべきだろう。
 海江田執行部の試金石は、来年の通常国会だ。経済や原発、近隣外交などをめぐって、自公政権に是々非々で対応し、その理由を国民にわかりやすく説明する。
 こうした地道な活動で再生の姿を見せることが出来なければ、今度こそ存在意義を失う。

三菱リコール―積極公開が信頼高める


 三菱自動車が、リコールに消極的だとして国土交通省に厳重注意と立ち入り検査を受けた。
 近年、業界全体ではリコールの届け出が増えている。進んで不具合を公表し、修理した方が信頼が高まり、むしろ企業のダメージは小さい。三菱の過去2回のリコール隠しに学んだ結果とされるが、当の三菱には浸透しなかったのだろうか。
 目先の不名誉や損失よりも、乗る人の安全を優先する姿勢を徹底しないと、今度こそユーザーに見放されかねない。
 社内の組織改革は様々に掲げているが、それで十分なのか。外からの目を増やすことも検討すべきだ。
 今回問題になったのは、エンジンにはめ込まれたゴム部品が抜けてオイルが漏れるトラブルだ。三菱はこの件で、今月を含めて3年間に4回、計176万台のリコールを届け出た。
 最初に不具合情報をつかんだのは7年も前だ。初回のリコールまで5年かかった。国交省の指導や内部通報をうけては調べ直し、対象を広げた。
 国交省もリコールの範囲が狭すぎることを見抜けず、対応に時間がかかった。リコールまでの間も車に乗り続ける人のリスクを思えば、両者とももっと速やかに対応すべきだった。
 三菱は途中までリコールは不要とみなしていた。事故や火災は起きていない。オイルが漏れれば運転者はエンジンの異音や警告灯でわかる。安全に問題なしと社内の検討会で判定した。
 その時点で、高速道路で突然エンジンが止まった例が報告されていた。オイルが漏れても警告灯がつかない場合があることも実験でわかっていた。誠実な判断とは言いがたい。
 三菱は過去の反省に立ち、検討会でリコール不要と判断した案件も、取締役会まで報告を上げる仕組みをつくっていた。有識者による企業倫理委員会もあり、リコールに関する監査の結果も報告されているという。
 それでも問題は起きた。
 判断が適切か否かを、二重三重に点検する態勢をとるほかない。事後チェックだけでなく、判断の際にも外の意見を聞ける仕組みがあってもいい。
 安全を最優先に考える企業風土をいかにつくるか。たとえば航空界は、故意や重い過失でなければ責任を問わないことで、自発的なトラブル報告を促す取り組みを進めている。
 社員が欠陥を認めたり、過ちを正す判断をしたりしやすい環境を作る。そうすれば、リコール隠しや先送りのようなことは起きにくくなるはずだ。

自公連立合意 TPP先送りなら国益損ねる


 国益を本当に重視するなら、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する決断を先送りしてはなるまい。

 自民党の安倍総裁と公明党の山口代表が会談し、景気・経済対策、外交安保など8項目の連立政権合意書に署名した。

 合意書は、「自由貿易をこれまで以上に推進する」としたうえ、TPPについて「国益にかなう最善の道を求める」と明記した。

 先の衆院選政権公約は、自民党が「聖域なき関税撤廃が前提なら反対」、公明党も「(国会で)十分審議できる環境をつくる」と、いずれも慎重だった。連立合意は、TPP交渉参加に含みを持たせたのであれば、前向きな動きだ。

 米豪など11か国は、来年中のTPP交渉の妥結を目指している。日本は参加に踏み切れず、カナダ、メキシコにも後れをとった。

 自由貿易を通じた経済成長にも日米同盟の強化にも、TPP参加は有力な手段となるはずだ。

 自民党内では、来年初めの首相訪米時の参加表明を求める積極論がある一方で、農業票の離反を恐れて来夏の参院選後に決断を先送りする慎重論も根強い。

 参院選前は「安全運転」に徹したい事情は理解できるが、交渉参加を遅らせる不作為は、日本の主張を貿易・投資ルールに盛り込む余地を狭め、結果的に国益を損ねることを忘れてはならない。

 通商協定では、国益に反すると判断すれば、交渉過程で離脱することも、最終的に国会で承認しない選択もあり得る。交渉前から、悪いシナリオばかりを想定するのは建設的ではない。まずは早期に交渉参加を表明すべきだ。

 連立合意は、消費税率引き上げ時の低所得者対策として、食料品などの軽減税率の導入を検討することを盛り込んだ。自民党が公明党に歩み寄ったものだ。

 軽減税率は、民主党政権が主張する給付付き税額控除よりも簡明で、分かりやすい。新聞や書籍を対象とすれば、知的文化を守ることにつながる。対象品目の線引きなどの課題は、自公両党が十分協議し、克服してもらいたい。

 原発政策は、公明党が公約に掲げた「原発ゼロ」を採用せず、「原発依存度を減らす」との表現で当面の活用をうたった。安全が確認された原発の再稼働も容認し、現実的な内容と評価できる。

 安倍氏は、原発新設を認めない民主党政権の方針を見直す考えも示している。経済・雇用への悪影響を最小限に抑えることと、原発の安全確保との両立が大切だ。

海江田民主代表 抵抗だけの野党には戻るな


 民主党代表選で、海江田万里元経済産業相が馬淵澄夫元国土交通相との一騎打ちを制した。

 新代表として、衆院選で惨敗した党を立て直す重責を担う。

 反対するだけの野党に戻ってはなるまい。政権を担当した経験を踏まえ、国益に資する政策については、自民、公明両党に協力する姿勢が求められる。

 海江田氏は、代表選で党所属議員の6割超の票を獲得した。輿石幹事長や細野政調会長の支援を受け、支持が広がった。

 日本経済の再生を最重要課題に掲げる自民党の安倍総裁に対抗する上で、経済政策通の海江田氏の手腕が期待されたのだろう。

 民主党内の主流派だった野田首相や前原国家戦略相のグループへの反発も、海江田氏には有利に働いた。昨夏の代表選で海江田氏は、野田氏に対抗し、小沢一郎元代表らの支援を受けたからだ。

 その際、民主党の政権公約(マニフェスト)見直しに関する自公両党との合意を巡り、海江田氏は安易に立場を変えるなど、政策のブレが目立ち、リーダーとしての資質に疑問を持たれた。

 菅内閣の経産相当時には、野党の国会質問に対して答えに窮し、涙を見せたこともある。

 こうした負のイメージを払拭するため、強い指導力を発揮できるかどうかが問われる。

 当面の国会対応では、民主党政権が自公両党と合意した社会保障と税の一体改革を着実に実行に移していくことが肝要だ。

 懸念されるのは、代表選で海江田氏の推薦人に、消費増税反対派の原口一博元総務相らが名を連ねたことだ。衆院議員が激減したことで労組系議員が多い参院議員の発言力が増し、「党の労組依存体質が強まる」との見方もある。

 来年夏の参院選に向けて、海江田氏は記者会見で、他の野党との選挙協力が必要だと語った。

 新幹事長には「選挙の顔」となる細野氏を起用するほか、挙党態勢を築くため、幅広い人材を執行部入りさせる意向だ。党の結束を重視することは理解できるが、これまでのように政策や意思の決定が遅くなる可能性がある。

 衆院選と3年3か月に及んだ民主党政権を徹底的に総括することが欠かせない。

 自公新政権への対案を積極的に提示するとともに、憲法や安全保障などの基本政策で党内論議を深めるべきだ。党執行部が決めた方針に議員が従う政党文化を育てる必要もあろう。

2012年12月25日火曜日

アベノミクス―「危ないミックス」は困る


 今週発足する安倍新政権は、「デフレ脱却」を最大の政策課題に掲げる。
 財政・金融のマクロ経済政策では、前の自公政権下で司令塔となった経済財政諮問会議を復活させる。
 同時に「日本経済再生本部」を新設し、国際競争力の強化やエネルギー政策など、産業や企業により近いミクロ政策を担わせる。双方の連携をとる経済再生担当の大臣も置く。
 意気込みが伝わってくる陣立てではある。
■プラスの循環つくれ
 大事なのは、財政と金融の刺激策を、企業や家計に浸透させるという政府の責任をきちんと果たすことだ。
 次代を開く新しい市場と産業を創出し、若い勤労者層を中心に収入と消費を増やし、実体経済の活性化を通じて、物価が上がっていく。そんなプラスの循環をつくる必要がある。
 金融・証券市場では、公共事業を中心とした財政拡大と金融の大幅な緩和を柱とする安倍氏の経済政策を「アベノミクス」とはやし、円安、株高が進んでいる。
 一方、人口減少とグローバル化が進み、国の借金が国内総生産の2倍に達する日本で、財政と金融のバラマキはリスクが大きいとの見方も強い。
 財政支出と金融緩和という手法それぞれは、景気対策として目新しいものではない。
 それが、ある人には希望に見え、別の人には危うく映るのは、峻別(しゅんべつ)すべき財政政策と金融政策を、ごちゃまぜにしているからだろう。
 中央銀行を財布代わりに財政を拡大するのは、財政と金融の「危ないミックス」と言わざるをえない。国債金利の急騰から財政破綻(はたん)を招きかねず、歴史の経験から慎重に避けられてきた道だ。
 すでに日銀は大量の国債を買い込み、資産規模は来年末に200兆円を突破する。
 財政政策と金融政策の分担を明確にし、それぞれの規律を守って、国民や世界からの信用を失わないことが大切だ。
■潜在需要を引き出す
 それには、マクロ経済対策が波及効果をうみ、投資が増え、産業の変革が着実に進んでいることを内外に示さなければならない。
 問われるのは、公共事業の選別であり、規制や制度の見直しを通した構造改革である。
 第1次安倍内閣では、羽田空港の国際化を軸とした「アジア・ゲートウェイ構想」を打ち出した。格安航空会社の参入を促し、航空業界の競争地図を塗り替えた。公共投資と規制緩和が実を結んだ好例だろう。
 こうした潜在的な需要を掘り起こすとともに、グローバルに活躍する企業の本拠地としてもふさわしい市場を構築していく必要がある。
 期待されるのは、電力や省エネ・環境、農業、医療・福祉、観光などの分野だ。いずれも国民のニーズは高く、収益の見通しがつけば資金需要が生まれる余地は大きい。
 旧来型のお金のバラマキで古い経済構造を温存しないためにも、政府が新分野のビジョンを描き、規制や制度の改革を進めて、民間の創意と競争に委ねていくべきだ。
 心配なのは、自民党がこれらの分野で既得権益を持つ層の支持を得て衆院選で大勝したことである。選挙中も目ぼしい政策を語っていない。
 こうした展望のなさが、安易な公共事業と金融緩和頼みとの危惧を高めている。
■雇用への目配りを
 日本経済の再生には、お金の流れ方を大きく変えていかなければならない。
 これまでの金融緩和が効かないのは、金利を下げても借金で事業を広げる企業が少ないからだ。内部留保をため込んで無借金を誇る傾向も強い。
 企業は利益確保のために賃金を抑え、収入が伸びない家計は節約する。このため、企業の売り上げが伸びない。「合成の誤謬(ごびゅう)」である。
 前回、安倍氏が首相を務めていた06~07年は、02年から始まった戦後最長景気のピークに当たり、円安で輸出が伸び、日経平均株価が1万8000円を超す局面もあった。
 だが、株価が上がっても内需は低迷したままだった。その根底には、働く人の所得が増えない構図があった。
 高齢化で現役人口が減っているうえ、非正規雇用の拡大で低賃金労働が増えている。資産をもつ高齢者も、将来不安があれば貯蓄を消費に回さない。
 アベノミクスの狙い通り、インフレになっても、国民の収入が増え、将来不安が薄まらなければ、消費は一段と手控えられるだけだ。
 非正規雇用の待遇改善や、女性の就労を増やす子育て支援、富裕層の貯蓄を動かす税制改革など、幅広い目配りが求められている。

健保財政悪化 医療費負担の世代格差是正を


 サラリーマンが加入する健康保険の財政が悪化し、保険料の上昇を招いている。高齢者医療への巨額の支出が原因だ。これ以上重い負担を現役世代に求めるのは避けるべきだ。

 65歳以上の高齢者の医療費は、高齢者自身の保険料や窓口負担のほか、公費と健保組合などからの拠出金で賄われている。その拠出金が、2008年にスタートした高齢者医療制度で急増したため、多くの健保は赤字に転落した。

 財政難から、健保は労使で負担する保険料を上げざるを得ない。中小企業の従業員が加入する協会けんぽでは従来の8・2%から10%に、大企業の健保組合も7%台から平均8・3%に上昇した。

 団塊世代が今年から65歳にさしかかり、高齢者の医療費は今後さらに増えるだろう。保険料率は際限なく上昇する恐れがある。

 企業経営の重荷になる上に、賃金の手取りが減り、景気や消費に悪影響を与えかねない。

 それを防ぐには、高齢者にも応分の負担を求めざるを得まい。

 70~74歳の医療費の窓口負担は法定では2割なのに、1割に抑えられている。75歳以上を対象にした後期高齢者医療制度の導入に際し、当時の民主党の鳩山幹事長らが「うば捨て山」と酷評し、政争に利用したことの反動である。

 費用の多くを現役世代が賄う制度であり、的外れの批判だったが、福田内閣は高齢者の反発を恐れ、70~74歳の負担を75歳以上並みに抑える特例措置をとった。

 この特例を廃し、本来の2割負担に引き上げるべきだ。1割となっている75歳以上の窓口負担の引き上げも検討課題になろう。

 重要なのは、増え続ける医療費の伸びを抑えることだ。

 複数の病気を抱える高齢者は、多くの専門医にかかり、受診や検査、投薬の重複が目立つ。

 各医療機関の患者情報を一元的に管理し、無駄をなくすべきだ。共通番号制度(マイナンバー)の導入を急いでもらいたい。様々な病気を診る「総合医」育成も、重複受診の解消に欠かせない。

 価格の安いジェネリック医薬品(後発薬)の使用を原則とし、薬剤費の抑制を図る必要もある。

 政権に復帰する自民、公明両党の公約には「小児医療費の無料化を検討」など医療費増大につながる内容が目についた。これでは制度の維持が困難にならないか。

 高齢者人口の増加で、高齢者医療に公費投入を増やすのは不可避だろう。財源確保のため、消費増税を着実に進めねばならない。

格安航空会社 安全と信頼が飛躍につながる


 今年相次いで運航を開始した国内の格安航空会社(LCC)が、存在感を増しつつある。

 飛行機に乗ったことのない客層も掘り起こし、「LCC」は2012年の流行語大賞の一つに選ばれた。

 LCCの進展は、高コスト体質の航空業界に効率化を促し、旅行需要が旺盛なアジアの観光客を取り込み、経済活性化につながる。さらなる飛躍を期待したい。

 関西空港を拠点に3月から就航した全日本空輸系のピーチ・アビエーションは、利用客が100万人を突破した。夏には、成田空港が拠点の全日空系のエアアジア・ジャパン、日本航空系のジェットスター・ジャパンが参入した。

 お盆シーズンの搭乗率は軒並み90%前後と、70%台の大手2社を上回った。年末年始の予約状況もほぼ満席という。

 運賃を大手の半分以下に抑え、学生や高齢者、女性などの顧客層を開拓したことが功を奏したのだろう。安全と手頃な価格を両立させれば、需要創出が可能なことを実証した意味は大きい。

 とはいえ、日本の旅客輸送量に占めるLCCの比率は3%程度に過ぎず、30%前後と高い欧米と比べると普及が遅れている。

 LCC各社には一層の経営努力が求められるが、国内線だけでは成長が限られる以上、海外への路線拡大が重要だ。ピーチとエアアジアが今秋、アジアに路線を延ばしたのは妥当な戦略と言える。

 運航の質を高めることも不可欠だ。引き続き安全運航を徹底するとともに、定時運航率の改善を急がなければならない。パイロット確保も重要な課題だろう。

 LCC人気を一時のブームに終わらせないよう、各社は信頼向上を図ることが求められる。

 国土交通省などの空港運営の見直しもLCC普及に大切だ。

 関西と那覇で低廉なLCC専用ターミナルが稼働したが、成田が14年度に新設する施設は巨額な事業費を投じ、必要以上に豪華との声が根強い。使用料や着陸料など海外より割高な空港コストの削減を検討すべきだ。

 成田の使用時間は、騒音対策で午前6時から午後11時に制限されている。少ない航空機を何度も往復させるLCCは、一度の遅れが玉突きで広がる。地方発で成田到着が「門限」に間に合わず、欠航する便が相次いだ。

 国交省は、時間制限を深夜と早朝各1時間ずつ緩和する案を提示した。自治体や住民と調整し、早期に実現してもらいたい。

2012年12月24日月曜日

原発・エネルギー政策―「変わった」自民を見せよ


 「原発ゼロは無責任」と主張する自民党の安倍総裁が、まもなく首相に就任する。
 自民党は連立に向けた政策協議で、「可能な限り速やかにゼロ」とする公明党に配慮し、原発依存度を下げることで合意した。しかし、安倍氏が新増設に含みをもたせるなど、真意は不透明だ。
■先送りは許されぬ
 福島は、今も苦しみの中にある。どこかで再び事故が起きれば日本は立ちゆかない。だから朝日新聞は、将来的に原発をゼロにすべきだと主張してきた。
 すでに、安全性を重視した新たな枠組みとして原子力規制委員会が発足し、複数の原発で活断層の存在を確認しつつある。
 「原発推進ありき」で規制を甘くし、電力業界の利益保護を優先させてきた、かつての自民党政治にはもはや戻れない。
 衆院選の大勝を受け、石破幹事長は「(原発政策を時間をかけて検討するという公約が)支持された」という。
 だが、朝日新聞の選挙後の世論調査では、自民党が10年以内に判断するとしていることについて「評価する」は37%、「評価しない」が46%だった。
 原発政策の決定を先送りしていては、代替エネルギーに必要な投資も新規参入も進まない。地域独占に守られた電力システムの改革も待ったなしだ。
 政策決定のあり方では、民主党政権が新たな境地を開いた面がある。生かすべきところは継承すべきだ。
 新政権は、民主党政権が設けたエネルギー・環境会議や国家戦略室を廃し、新たな経済財政政策の司令塔として「日本経済再生本部」を置く。原発政策は経済産業相の諮問機関である総合エネルギー調査会に委ねる雲行きだ。
 しかし、原発事故後、エネルギー政策は単なる経済政策ではなくなった。被害にあった住民や地域の救済、温暖化防止などの環境問題、核不拡散をめぐる安全保障外交との兼ね合いが問われる。
 原発の推進と規制を兼ねてきた経産省と資源エネルギー庁への国民の不信は根強い。環境省や文部科学省、外務省なども束ね、縦割りを防いで指示や相互調整ができる担当大臣と事務局を設ける必要がある。
■第三者の検証も
 政策の決定過程を透明化し、議論が偏ったり二項対立に陥ったりすることがないよう、随所で専門家や第三者による検証を重ねることも重要だ。
 民主党政権では、電源ごとの発電コストや電力需給の見通しについて、専門家による検証委員会を設け、議論の土台となる客観的なデータを整えた。
 今後は代替エネルギーへの投資や廃炉にかかる費用、立地自治体への支援など「脱原発コスト」の比較検証も必要になってくる。圧倒的に多くのデータをもっている電力会社が情報を恣意(しい)的に操作しないよう、監視する役割も必要だ。
 「討論型世論調査」のように国民が政策決定に具体的に関わる手立てもぜひ継続してもらいたい。複雑な問題を「お任せ」にせず、自ら学び、意見をかわす場をつくることが、最終的には政策への理解や政治への信頼回復へとつながるからだ。
 エネルギーに関するさまざまな議論の場を公開とし、ネット中継などで広く国民に開放することは言うまでもない。
■国の責任の明確化を
 こうした基盤を整えたうえで急ぐべきは民主党が積み残した課題である。
 賠償や除染に対する国の責任の明確化であり、使用済み核燃料の再処理をめぐる問題だ。
 巨額の賠償費用に加え、10兆円以上ともいわれる除染費用を東京電力だけに負わせる今の仕組みは早晩、破綻(はたん)する。
 国有化でようやく緒についた改革機運を維持しつつ、東電処理を根本からやり直すことが急務だ。国策民営で原発を推進してきた責任を明らかにし、どう費用を負担するか、再検討しなければならない。
 東電支援のための原子力損害賠償支援機構法が昨年8月に成立した際、付帯決議が盛り込まれた。同法を1年後、原発事故の賠償を原則的に事業者に負わせる原子力損害賠償法は2年後をめどに見直すとする内容だった。主導したのは、野党だった自公である。
 破綻(はたん)しているのは、核燃料サイクル政策も同様だ。国内で技術を確立できないまま、膨大な国費がつぎこまれている。
 原発を減らしていけば、使用済み核燃料を再利用する必要性も薄れる。早期廃止を決め、限りある財源を別の政策や立地自治体の立て直しに振り替えるのが、現実的な政策だ。
 使用済み燃料を保管する場所の確保や、放射性廃棄物の最終処分地の選定も、国が主体となって仕切り直すしかない。
 3年あまりの野党時代を経て「変わった」自民党を、ぜひ見せてほしい。

衆院小選挙区制 得票と議席の差が開き過ぎる


 国民の代表をどう選ぶべきか。

 今回の衆院選の結果を踏まえて、選挙制度を根本から見直す必要があろう。

 自民、公明両党は連立政権協議で衆院選挙制度に関し、定数削減を含む抜本改革を検討することで一致した。両党と民主党による合意に基づくもので、通常国会で協議に入る。

 まずは、現行の小選挙区比例代表並立制の問題点を幅広く洗い出してもらいたい。

 2005年と09年の衆院選に続き、今回も、第1党が300議席程度に達し、第2党以下に圧倒的な差をつけた。

 小選挙区では、自民党の総得票数は民主党の1・9倍だが、獲得議席はこれを大きく上回る8・8倍にも達した。小選挙区制の特徴とはいえ、得票数と獲得議席数の隔たりの大きさに多くの有権者が違和感を覚えたのではないか。

 小選挙区制の長所は、民意を集約することで安定した政権ができやすい点にあるはずだった。

 だが、議席の振れ幅が大きかった過去3回の衆院選を通じて、政権党には、一部の有権者の支持を失えば、次の衆院選で敗北し、下野するリスクが高まっている。

 政権党が有権者や業界団体の反発を恐れ、国論を二分する政策に及び腰になるというマイナス面も顕在化した。環太平洋経済連携協定(TPP)への参加について自民、民主両党が態度を明確にしなかったのは、その一つだろう。

 選挙のたびに「チルドレン」や「ガールズ」とやゆされるような新人が大量当選し、その多くが次回選挙で国会から消えていく。

 激戦区でなくても議員が地元に縛り付けられ、国政をおろそかにする傾向があると言われる。

 比例選出や支持基盤の弱い議員たちは、選挙で生き残ることを優先し、大衆迎合主義(ポピュリズム)的な行動に走りがちで、政治の混乱の一因になっている。

 当選を重ね、専門知識を深めることで、官僚を使いこなせる質の高い政治家が育つ。だが、現行制度は、真の政治主導を実現する妨げになっているのではないか。

 菅前首相のように、小選挙区で敗れたのに、重複立候補した比例選で復活当選する仕組みが今なお続くのも納得しがたい。

 与野党からは、こうした問題点を踏まえ、中選挙区制の復活を求める声も出ている。それも排除すべきではないだろう。

 選挙制度改革には党利党略が絡む。政党同士よりも、有識者による客観的な議論が望ましい。

「普天間」評価書 政権交代を機に移設を進めよ


 自民、公明両党は政権交代を機に、停滞している米軍普天間飛行場の移設問題の前進に全力を挙げるべきである。

 防衛省が、普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古沿岸部への移設に向けた環境影響評価書の補正作業を完了し、沖縄県に提出した。

 評価書の補正は仲井真弘多知事が示した計579件の意見に対応したものだ。海洋生物の最新調査に基づく評価などを追加し、「可能な範囲で最大限の環境保全措置を取る」としている。

 知事の膨大な注文に、丁寧に回答した内容と言えよう。

 今後、評価書の公告を経て、防衛省が、普天間飛行場の代替施設建設に伴う埋め立てを沖縄県に申請することが可能になる。

 自民党の安倍総裁は、辺野古移設について「地元の理解を得る努力をしたい」と述べたが、仲井真知事は「地元の理解が得られない移設は事実上不可能」と語っている。埋め立ての許可を得られる見通しは立っていない。

 ただ、知事は一昨年秋の知事選まで辺野古移設を容認していた。その後、「県外移設」要求に転じたが、今も反対は明言していない。

 自公政権は、民主党政権の失政で破壊された沖縄県との信頼関係を修復し、移設を容認するよう知事を説得しなければならない。

 人口密集地から過疎地に飛行場を移すことは、県全体として基地負担を大幅に軽減する。名護市長は反対だが、辺野古周辺の自治区が容認している事実は重い。

 辺野古移設が実現すれば、普天間飛行場の跡地を有効利用し、様々な地域振興が可能となる。逆に断念すれば、危険な現状が長期間、固定化されることは確実だ。

 普天間飛行場に配備された新型輸送機オスプレイは安全性が確認されたが、万一、事故が起きた際、市街地よりも辺野古沿岸部の方が被害が小さいのは明らかだ。

 1996年の日米合意以来の懸案を解決することは、中国の軍備増強などで重要性を増す日米同盟の強化にも大いに役立つ。

 仲井真知事は、こうした要素を総合的に勘案してもらいたい。

 重要なのは、新政権が、埋め立てを知事が許可しやすい環境を整えることだ。まず、「県外移設」を唱える自公両党の県組織や地元選出国会議員を説得し、辺野古移設への理解を広げることだ。

 反対・容認に割れる名護市議などの地元対策や、沖縄振興策の拡充を含めた沖縄県との協調関係の再構築も欠かせない。

2012年12月23日日曜日

安倍外交―中韓との修復の転機に


 自民党の安倍総裁が、韓国との関係修復に動き出した。
 額賀福志郎元財務相を特使として派遣し、次期大統領に決まった朴槿恵(パククネ)氏への親書を託す意向を表明した。
 さらに、自民党の衆院選政策集では、2月22日を「竹島の日」として祝う政府主催の式典を催すと記していたが、来年は見送る方針だ。
 北朝鮮のミサイル発射や、尖閣諸島をめぐる中国との対立を抱えるなか、竹島問題で悪化した日韓関係の改善は日本外交にとって急務である。
 首相就任を前に、安倍氏が打開に向けて行動を起こしたことは評価したい。
 とりわけ竹島の日の3日後には、韓国の大統領就任式を控えている。政府式典を強行すれば、緊張がさらに高まるところだった。見送りは妥当な判断といえよう。
 早期に首脳会談を実現できるよう環境整備を図るべきだ。
 安倍氏はさらに、中国との関係についても「戦略的互恵関係の原点に戻れるように努力していきたい」と語り、改善に意欲を示している。
 総裁選、衆院選を通じ、安倍氏は靖国神社への参拝や、尖閣への公務員常駐に言及するなど、近隣外交に絡んで強硬な発言が目立った。
 それが、最近は靖国参拝について明言を避け、尖閣への公務員常駐も「中国と交渉していくうえでの選択肢」とするなど姿勢を軟化させている。この点に注目したい。
 6年前の首相就任の直後、安倍氏は中韓両国を訪問し、小泉政権下で冷え切っていた両国との関係改善に努めた。意欲を示していた靖国参拝も在任中は見送った。
 今回も、そうした現実的な対応を望む。
 もちろん、竹島も尖閣も日本の領土である。
 だが、いたずらに対立を深めるような選択は事態をこじらせるだけだ。粘り強い外交努力を積み重ねてこそ国際社会に理解が広がり、日本の立場を強めることにつながる。
 安倍氏はかねて、河野談話や村山談話の見直しを主張している。しかし、そんなことをすれば中韓のみならず、欧米からの視線も厳しくなるだろう。改めて再考を求めたい。
 前回の安倍政権当時と比べ、東アジア情勢は複雑さを増した。日中韓が友好を保つことの意味も重くなった。
 3国の指導者が交代するいまこそ、もつれた糸を解きほぐす転機とすべきである。

米乱射事件―銃の危険を直視せよ


 米国でようやく、銃規制をめぐる議論が動き出した。米コネティカット州の小学校で起きた乱射事件がきっかけだ。
 6~7歳の子ども20人をふくむ26人が命を失った。銃社会の米国に大きな衝撃を広げた。
 7月にもコロラド州で、70人が死傷する乱射事件があった。米国はいつまでこんな悲劇を繰り返すのか。
 オバマ大統領は、バイデン副大統領に銃規制を含めた再発防止策の取りまとめを指示した。国民を守る指導者として当然だ。むしろ手をつけるのが遅すぎた。
 3億丁の銃が出回っているという米国では、銃規制は権利や思想にからむ複雑な問題だ。
 規制に反対する全米ライフル協会(NRA)は約400万人の会員を抱え、強い政治力を持つ。多くの議員は選挙への影響を恐れ、銃規制に触れることに消極的だ。
 開拓時代からの伝統で、米国では個人が銃を持つ権利を憲法で認めている。銃に反対する人を弱腰とみる雰囲気すらある。いきなり全廃は難しい。
 一方、今回の事件のような乱射事件では、殺傷力の高い半自動小銃が使われることが多い。軍隊で使われるような銃だ。一般の市民が必要とする理由は見いだせない。手始めにこうした銃を規制すべきだ。
 かつては半自動小銃の一部や大型の弾倉の所有、売買を禁じる法律があった。クリントン政権時代の94年に成立したが、反対も強く、04年に失効した。
 今回の事件を受けて、民主党の上院議員が同様の法案を提出する考えを示している。議会は真剣に検討する必要がある。
 ライフル協会を支持してきた議員からも規制強化を求める声が出始めた。子や隣人の命を重視する方向に転ずるときだ。
 「意味のある貢献」を予告したライフル協会は21日に記者会見した。だがその主張は、すべての学校に武装警官の配備を求めるもので、規制強化に真っ向から反対するものだった。「銃を持った悪者を止められるのは、銃を持った善人しかいない」との理屈だ。
 自衛のために銃が必要という意見が米国では根強い。
 本当に、それでいいのか。
 だれも銃を持っていなければ身を守るのに銃は必要ない。
 日本がいい手本だ。米国では銃で殺された人は人口10万人当たり3.2人だが、日本では0.006人だ。
 銃なしで安心できる社会を米国はつくるべきだ。問題の本質はそこにある。

米財政の崖 大統領と議会は回避へ合意を


 急激な財政緊縮で米国経済が失速する「財政の崖」を回避できるか。オバマ大統領と議会は互いに譲歩し、早期合意を図ってもらいたい。

 大詰めの協議は、交渉期限としていたクリスマス休暇前の決着を断念した。26日以降に協議を再開する予定だ。

 再協議は年末ギリギリまで行われる見通しだが、年内妥結は微妙で、来年に先送りされるという悲観的な観測も出ている。憂慮すべき展開になってきた。

 「財政の崖」は、ブッシュ前大統領が導入した所得税などの大型減税の失効と歳出の強制削減が来年にかけて重なる事態を言う。

 財政緊縮額は最大で年間5030億ドル(約42兆円)に達し、米国の実質国内総生産(GDP)の伸び率を約3%も押し下げる。

 そうなれば、米国の景気後退入りが避けられず、日本など世界経済にも深刻な打撃を与えよう。ニューヨーク株式市場などが警戒を強めているのは当然だ。

 協議の最大の焦点は、富裕層向け減税の扱いである。

 大統領は大統領選中から一貫して「ブッシュ減税」のうち、年収25万ドル(約2100万円)超の富裕層向け減税の打ち切りを主張してきた。減税を中間層などに絞り、財政赤字縮小を図る狙いだ。

 これに対し、富裕層増税に反対する共和党は、全所得層の減税延長を求めて対立してきた。

 大統領が最近になってようやく、増税対象とする富裕層を40万ドル超に引き上げる妥協案を示したのは良いサインだ。協議打開を目指す姿勢と評価できる。

 共和党も軟化し、100万ドル超の富裕層については増税を容認する案を提示したが、それでも党内には依然、富裕層増税に反対する強硬派がいる。

 主張の隔たりはまだあるが、歩み寄りを期待したい。

 大統領と共和党の協議は、社会保障などの歳出削減規模を巡っても対立している。昨夏、連邦債務上限の引き上げが実現したが、年明けにも再び債務上限に達する問題への対応策も論点である。

 ひとまず妥協できる点で決着する「小さな合意」を求める声が一部にある。最悪の事態を避ける次善策として検討に値する。

 米国の財政赤字は4年連続で1兆ドル台に乗り、失業率が高止まりして景気回復は遅れている。

 来年1月にオバマ大統領の2期目がスタートし、新議会も始まる。抜本的な財政再建と経済成長の両立は重い課題となるだろう。

エレベーター 保守点検の徹底で事故を防げ


 ビルやマンションで、安心してエレベーターに乗れるよう、安全対策に万全を尽くすことが何より重要だ。

 死亡事故を起こしたシンドラーエレベータ社製の昇降機について、国土交通省が全国に設置された同一機種84台の緊急点検結果をまとめた。

 6台のブレーキに部品の調整ミスなどが見つかり、放置すれば、ブレーキが故障し、かごを急上昇させる恐れもあったという。

 このうち2台は、ブレーキの異常を感知するセンサーの回線が取り外された状態だった。保守点検のずさんな実態が浮かび上がったと言えよう。シンドラー社が保守点検を行う業者に的確な指導をしていたのか、疑わしい。

 緊急点検のきっかけとなったのは、金沢市のホテルで10月に起きた事故だ。清掃員の女性が乗り込もうとして昇降機に挟まれ、死亡した。かごが急上昇したのが原因だ。かごを定位置に止めるブレーキが故障していたと見られる。

 ブレーキがなぜ異常を起こしたのか、点検に問題はなかったのか。石川県警と国交省の専門家チームは徹底解明してもらいたい。

 2006年、東京都港区の集合住宅で、高校2年の男子が死亡した事故のエレベーターもシンドラー社製だった。機種も同じだ。

 問題の機種以外のシンドラー社製エレベーターは、全国に8000台ある。駅や商業ビルにも多数設置され、国交省は全機の点検を進める方針だ。ブレーキ故障が事故機固有の問題と断定できない以上、点検を急がねばならない。

 シンドラー社以外の製品でも、事故は後を絶たない。東京都新宿区のビルでは09年、エレベーターのかごが到着していないのに扉が開き、男性が転落死した。

 警察は、不具合を把握しながら有効な対策を取らなかったとして、保守点検担当者らを業務上過失致死容疑で書類送検した。

 国交省は港区の事故後、建築基準法施行令を改正し、補助ブレーキの設置を義務付けた。だが、改正以前のものは対象外のため、今も全国で約70万台が補助ブレーキがないまま稼働している。新宿のビルもこの一つだった。

 費用面の問題などから、エレベーターの更新を一気に進めるのは難しいだろう。旧式の機種については、徹底した保守点検で作動トラブルを防ぐことが大切だ。

 事故を教訓に、メーカーや点検業者、ビル管理者は、利用者の命を奪う恐れもあることを肝に銘じ、再発防止に努めてほしい。

2012年12月22日土曜日

原発と活断層―科学者の仕事つらぬけ


 青森県にある東北電力東通(ひがしどおり)原発の敷地内にある断層について原子力規制委員会は「活断層の可能性が高い」と判断した。
 全員一致の見方だという。
 同じ地層を見ながら、なぜ原発建設前やその後の調査で確認できなかったのだろうか。
 これまでの国の審査がいかにずさんで、検査が電力会社まかせだったか、改めて考えさせられる。
 活断層の調査は、関西電力大飯原発(福井県)、日本原子力発電の敦賀原発(同)に続く3例目だ。電力会社にはいずれも厳しい評価が続いている。なかには「委員や専門家が反原発派で占められている」との恨み節さえ聞こえる。
 だが、評価にあたった専門家たちは、日本活断層学会などが推薦する候補のなかから、電力会社との利害関係を調べたうえで選ばれた中立な人たちだ。
 現地での調査や評価会合もすべて公開し、透明な手続きを経ての判断である。政府も民間も重く受けとめるべきだ。
 電力会社や原発立地県の知事は「科学的根拠はどこにあるのか」と反発している。経営難に陥りかねないことや、地域の経済への心配が背景にある。
 それはそれで考えるべき重要な課題だが、安全への判断をまげる理由にはならない。
 経済的利害をおもんぱかって科学側が遠慮すれば、規制行政への信頼は崩壊する。3・11の大震災と原発事故を経験した私たちが、これから決して見失ってはいけない反省だ。
 今後、電力会社や地元からの反論が出れば、規制委は公開の場で立証を求めればよい。
 どちらの見方がより合理的なのか、科学的な議論を尽くすことが基本だ。
 問題は、規制委人事が政争や総選挙のあおりで、今なお国会の同意を得ていないことだ。
 自民党の一部には、規制委の人選を「正式承認を得ていない民主党人事」とみなして、政権交代を機にやり直すべきだとの声があるという。
 しかし、政党の思惑で委員を入れ替えていいはずもない。
 独立性の高い国家行政組織法3条に基づく委員会にするよう求めたのは自民党だ。不当な政治介入は許されない。
 規制委は、重大な事故がおきた場合の放射性物質の拡散予測で訂正をくり返した。そんな未熟さもある。とはいえ、交代を考えるほどではない。
 与野党が協力して、次の国会で規制委人事への同意手続きを速やかに済ませるべきだ。安全判断の仕事は山積している。

日本郵政―このまま上場は心配だ


 日本郵政のトップ人事が波紋を広げている。
 斎藤次郎社長が任期半ばで退任し、坂篤郎副社長が昇格した。旧大蔵省(現財務省)の元「大物次官」から、同じ役所の後輩への交代である。
 元民主党代表の小沢一郎氏に近い斎藤氏は、自民党との関係がよくない。第1次安倍内閣で官房副長官補を務めた坂氏にスイッチして、政権交代を無難に乗り切り、2015年秋に予定される株式上場の準備を急ぐ算段のようだ。
 しかし、新政権発足前の「政治の空白」を突いたかのような交代劇に、さっそく自民党幹部から批判があがっている。
 日本郵政は政府が100%の株式を持つ。しかも、上場という民営化の本番に向けた大切な人事であり、7兆円と見こまれている上場益は復興財源に回される。
 政権交代後に、政府とも協議し、民間人も含めた候補から人選するのが筋だ。元大蔵官僚によるたらい回しでは、民営化の趣旨にも沿わない。
 懸念される点は、ほかにもある。子会社のゆうちょ銀行とかんぽ生命の新規業務をどう認めていくかという問題だ。
 上場に向け収益性を高める必要はあるが、民間とくに中小金融機関との公正な競争をはかる必要がある。
 今年4月の郵政民営化法の改正で、お目付け役の民営化委員会も一新された結果、新規業務への参入が弾力的に認められるようになった。学資保険の新商品に続き、住宅ローンなど融資業務への条件付き参入も容認され、あとは金融庁が銀行法などに基づく認可を出すだけだ。
 だが、かんぽ生命への検査で10万件に及ぶ保険金不払いが見つかるなど、日本郵政の管理体制に問題が浮上している。
 管理レベルが低いまま新規業務を拡大し、株式上場へとなだれ込むことは、のちのち大きな問題を招きかねない。
 金融庁は、日本郵政の金融機関としての実力を厳正に見極めてほしい。
 株式上場による財源確保を優先して、収益力の強化に配慮しすぎれば、政府による業績テコ入れと疑われる。郵政がいくら「暗黙の政府保証」はないと否定しても、民間の懸念は深まるだろう。
 その点で、子会社2社の株式を完全売却する期限が、民営化法改正で消えたままなのも問題だ。政府の影響力が温存されることは不信を招く。2社の上場スケジュールも早く明らかにすべきだ。

原発と活断層 規制委は説明責任を果たせ


 東北電力東通原子力発電所(青森県東通村)敷地内の断層(破砕帯)について、原子力規制委員会の専門家会合が、「地震を起こす活断層」との見解をまとめた。

 東通原発を早期に再稼働させることは難しくなったと言える。

 東日本大震災で設備を多数損傷した東北電は、東通原発の再稼働を供給力回復の切り札と期待していただけに、深刻な事態だ。

 問題とされる断層は、原子炉の200メートルほど脇を通っている。東北電は、「地下水による地盤のずれ」と説明してきた。だが、規制委の島崎邦彦委員長代理を座長とする専門家会合の5人全員が、東北電の解釈を否定した。

 専門家会合の見解通りに、この断層が動けば、原子炉の安全設備への影響は避けられない。

 安全の確保は何より大切だ。今後、東北電は、断層の徹底的な調査と評価、原子炉など施設の耐震性の抜本的な見直しを迫られるだろう。結果次第で、補強工事を求められる可能性もある。

 国民生活や企業活動に支障を来さないよう、東北電は安定電源の確保に万全を期す必要がある。

 規制委の専門家会合は10日にも、日本原子力発電敦賀原発について「原子炉直下に活断層がある」と判定した。一方、東通原発では、廃炉の可能性がある原子炉直下の活断層は確認されていない。

 東北電は、専門家会合の見解を不満とし、反論する方針だ。

 専門家会合は、敷地内の断層に加え、東通原発の目前の海底にも全長80キロ・メートル以上の巨大活断層がある可能性を指摘した。

 これが動けば、東通原発がある下北半島全体に影響が及ぶ。日本原燃の使用済み核燃料再処理工場などの耐震性も議論になろう。

 地震学は未熟な学問であることを忘れてはならない。今後、規制委として調査すべきかどうか、慎重な検討が必要である。

 各原発の断層評価は、立地地域の経済や住民生活も左右する。不安の声は拡大している。

 調査、評価の内容について、規制委は丁寧に説明する責任があるが、その取り組みは不十分だ。

 規制委は、これまでの評価結果を文書にまとめていない。公開されているのは、専門用語による資料や議論の映像だけだ。

 しかも、当事者である電力会社との意見交換に十分な時間を割かず、一方的な議論に終始した。

 規制委は、組織の独立性が保証されている。しかし、独善的な運営では信頼を得られない。

ゴラン高原撤収 意義深かった17年間のPKO


 最近は、あまり注目されていなかったが、自衛隊最長の17年間にも及ぶ国連平和維持活動(PKO)が果たした役割は大きかったと言える。

 森本防衛相が、中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に派遣中の陸上自衛隊の輸送部隊に撤収を命令した。シリア内戦の激化で、隊員の安全確保と意義のある活動が両立しなくなったことが理由だ。

 治安情勢の悪化で、今年3月に在シリア日本大使館が閉鎖され、6月からは輸送業務の一部を民間業者に委託するなど、陸自の活動が制限されていた。最近は、UNDOF要員への襲撃もあった。

 撤収はやむを得ない判断だ。

 シリア・イスラエル国境付近への陸自の派遣が決まったのは、1995年12月である。

 シリアの首都ダマスカスと兵力引き離し地帯の間の生活物資輸送や、道路の補修、除雪などを担当した。半年ごとに部隊を入れ替えており、今は輸送部隊44人と司令部要員3人を派遣している。

 ゴラン高原での陸自の活動は、中東和平の停戦監視の一翼を担うとともに、国際平和協力活動に参加する陸自の人材を養成する「PKOの学校」の役割があった。

 PKOの知見を深め、他国の要員と交流することなどを通じて、より厳しい環境の国際協力活動にも対応できるようになる。17年間でゴラン高原に派遣された隊員は延べ約1500人に上る。

 今年は日本のPKO初参加から20年になる。この間、延べ約9200人がPKOに参加している。国際経験を持つ隊員が増えることは、他国の軍隊との連携・協力関係が強まるうえ、自衛隊の対処能力の向上にもつながろう。

 陸自のPKOでは、大震災のあったハイチで2010年から活動していた部隊も、来春までに撤収する。その際、使用した重機14両をハイチに譲与する予定だ。

 このうち銃座が付いた4両は従来、「武器」とみなされ、提供できなかったが、昨年末の野田内閣による武器輸出3原則の緩和で可能になった。今後も、こうした平和構築・人道目的の武器供与は積極的に実施したい。

 陸自のPKOは南スーダンで継続している。課題は自衛官の武器使用権限の拡大だ。正当防衛以外の武器使用を制限する現行法では効果的な活動はできない。「駆けつけ警護」を可能にすべきだ。

 来週発足する新政権は、これまで挫折続きのPKO協力法改正に改めて取り組んでもらいたい。

2012年12月21日金曜日

韓国新大統領―日韓関係、ともに前へ


 韓国に初めての女性大統領が誕生する。与党セヌリ党の朴槿恵(パククネ)氏だ。大統領選で民主統合党の文在寅(ムンジェイン)氏を下した。
 父親の朴正熙(パクチョンヒ)・元大統領は強権政治の一方で、朝鮮戦争で荒廃した国を立て直した。その娘という圧倒的な知名度がある。国会議員や党トップとしての手堅い政治実績も評価された。
 有権者が求めたのは「安定の中での変化」だった。
 サムスン電子の躍進などで元気に見える韓国だが、いま大きな岐路に立っている。
 現職の李明博(イミョンバク)大統領は、経済成長を重視し、サムスンや現代といった財閥に配慮した政策を取った。だが、成長の果実は国民に行き渡らなかった。
 強すぎる財閥のために中小企業は不公正な競争にさらされ、低賃金の非正規雇用が多い。大卒者も厳しい就職難だ。
 日本を上回る早さで少子高齢化が進むが、年金をはじめとする社会保障はぜいじゃくだ。格差感は強まる一方だった。
 朴氏は現政権と距離を置き、財閥偏重を正して生活の質の向上を図る「経済民主化」や福祉の拡充を訴え、選挙戦では中道路線を取った。
 就任後は、成長を保ちつつ、輸出に過度に依存するいびつな経済構造を改め、国内の底上げを図ることが急務となる。輸出のためのウォン安を正せば、輸入品が安くなり、国民は生活改善を実感できるようになる。
 北朝鮮との関係では、李氏の強硬路線は改善に結びつかなかったとの判断から、対話路線を掲げる。02年に平壌を訪れ、故金正日(キムジョンイル)総書記と会談した経験もある。北朝鮮が弾道ミサイル発射などで揺さぶりを強めているいま、日米と外交の歩調を合わせることが重要だ。
 日本との関係は今年、李氏の竹島上陸や天皇訪韓に関する発言で大きく冷え込んだ。日韓で新政権が誕生する今こそ、改善に踏み出すべきだ。
 むろん、楽観はできない。朴氏も領土や歴史の問題では日本に厳しい姿勢を示してきた。きのうの会見でも、「正しい歴史認識が土台」と語っている。
 韓国では、次の首相になる自民党の安倍晋三総裁の歴史認識などに懸念が出ている。
 だが、日韓が協力することが大切なことは、苦難の歴史を通して、両国の人々はわかっている。互いに刺激し合うような行動は控えるべきだ。
 安倍氏は、日米同盟の重視を前面に押し出している。同じく米国と同盟を結ぶ韓国もあわせ3カ国の連携は、東アジア安定の基本になる。

大飯原発判決―定期検査は何のためか


 関西電力の大飯原発3、4号機はこの夏、暫定的な安全基準で再稼働した。
 福島第一原発での事故の教訓を踏まえた安全基準ができない段階での運転再開はおかしいと、再稼働手続きの取り消しを大阪、京都、滋賀3府県の住民が訴えたが、大阪地裁は門前払いにした。
 野田政権が再稼働を認めたのを受け、大飯原発は定期検査を終えて、本格稼働した。
 そこで住民側は、政府が交付した定期検査終了証の取り消しを求める行政訴訟をおこした。
 だが、終了証がなくても原子炉を動かせる仕組みになっており、地裁は行政訴訟の対象ではないとの判断を示したのだ。
 定期検査は電気事業法に基づく技術基準に適合するかどうかを調べる。13カ月に一度の実施が義務づけられている。原子炉本体から発電機の部品にいたるまで、数万にわたる項目を点検する。再稼働の前、大飯原発は定期検査に入っていた。
 裁判で国側は、安全問題に深入りせず、こう主張した。
 定期検査では、機器などの点検を済ませたあと、原子炉を再起動して安全を確認する「調整運転」に入る。その後、終了証が交付され、出力をあげて「営業運転」に移る。
 「調整運転」でも、終了証交付後の「営業運転」と同じように電力供給できる。終了証が再稼働のゴーサインではない。
 そもそも定期検査には、原子炉の初運転前の検査のように安全性を確認して「合格」とする概念はなく、終了証は検査が終わったことの通知にすぎない。
 判決はこうした主張を認めた形だ。なんとも釈然としない判断だが、はからずもこの裁判で、安全神話に立脚した電力会社頼みの定期検査であることが浮きぼりになった。
 定期検査は電力会社が主体で、国は検査内容に不備がないかを点検する仕組みだ。
 機器類の点検が終われば原子炉を再起動でき、検査終了証は実は名ばかりだ。
 国はこんな再稼働手続きでも、福島第一原発事故を経験した私たち国民に、安全だと胸をはるのだろうか。
 原子力規制委員会は、新しい安全基準を来年7月ごろにまとめる。
 新基準に基づいて再稼働の審査に入る方針だが、定期検査での安全確認の仕組みの改革も不可欠だろう。
 安全点検がほとんど事業者まかせの態勢では、新基準ができても、とても安心できるものではない。

物価目標検討 政府・日銀はデフレ脱却急げ


 政権交代を機に、政府と日銀がデフレからの脱却に向けて連携を強める第一歩である。

 日銀が20日、「物価目標」の導入を検討する方針を打ち出した。

 日銀の白川方明総裁は記者会見で、「自民党の安倍総裁から物価目標について要請された。これを踏まえて検討することにした」と述べ、1月に結論を出す考えを明らかにした。

 日銀は当面1%の消費者物価上昇率を目指しているが、「目途
めど
」というあいまいな位置づけだ。

 安倍総裁は日銀に2%の物価目標の設定や大胆な金融緩和、政府と日銀の政策協定を求めていた。日銀が迅速に対応し、目標設定に踏み出すことは評価できる。

 日銀は今回、10兆円の追加金融緩和策も決めた。日銀が国債などを買い入れる「基金」の規模は100兆円を超える。

 海外経済の減速と、日中関係の悪化で輸出や生産が低迷し、景気は後退色を強めている。

 日銀が、9月と10月の金融緩和から間を置かず追加策を講じたのは妥当な判断と言えよう。

 景気対策に前向きな安倍新政権への期待から、東京市場の平均株価が1万円を回復している。

 もちろん、金融政策だけではデフレ脱却や景気回復は望めない。肝心なのは、政府と日銀が実効性のある政策協定を結ぶことだ。

 新政権の発足後、調整を急いでもらいたい。

 金融緩和で供給された資金が貸し出しを通じて設備投資に使われ、利益と雇用の拡大をもたらす流れを回復する必要がある。

 これは主に政府の役割だろう。まずはデフレの原因である「需要不足」の解消が急がれる。

 老朽化した社会インフラの改修や防災など、緊急性の高い公共事業は即効性がある。補正予算による大型経済対策が不可欠だ。

 財源確保のため一定の国債増発はやむを得ないが、財政悪化に拍車をかけてはならない。

 来年度予算の編成では、民主党のバラマキ政策の予算を、大胆に削ることが重要となる。

 成長分野の投資減税や法人税率引き下げ、新規事業を阻害する規制の見直しなど、企業活動を支援する政策の充実が求められる。

 自民党などには、日銀法改正や次期日銀総裁人事をちらつかせ、日銀を牽制
けんせい
する向きもある。

 中央銀行の独立性が揺らげば、日本の通貨制度や国債の信認が低下し、市場が混乱しかねない。過剰な政治圧力は避けるべきだ。

女性大統領誕生 未来見据えた日韓関係構築を


 韓国初の女性大統領の誕生である。経済の再生や、日韓関係の再構築などで指導力を発揮して、新しい時代を切り開いてもらいたい。

 韓国大統領選で、与党セヌリ党の朴槿恵氏が最大野党・民主統合党の文在寅氏との接戦を制し、当選した。

 選挙戦の最大の争点は、格差是正や雇用など経済問題だった。

 財閥への規制強化に力点を置く文氏に対し、朴氏は、経済成長の維持と、若者などの雇用確保を重視した。有権者は、輸出を担う大企業の締め付けより、成長と雇用拡大を望んだと言える。

 韓国は、米欧などとの自由貿易協定(FTA)推進を軸に貿易額で世界トップ10入りしたが、それが雇用増にはつながっていない。雇用の受け皿となる中小企業の強化や育成が重要な課題だ。

 対北朝鮮政策でも、両候補の違いは目立った。

 文氏は、北朝鮮への食料、肥料などの大規模支援を、無条件で再開し、金正恩・朝鮮労働党第1書記との首脳会談を来年中に行うと公約した。左派政権時代の太陽政策に回帰しようとするものだ。

 これに対し、保守派の朴氏は、南北対話再開に前向きな姿勢は見せたが、本格的な支援は信頼関係構築が前提、とした。北朝鮮に非核化への具体的な取り組みを求める現行路線を踏襲している。

 北朝鮮は、長距離弾道ミサイル発射を強行するなど、依然、核・ミサイル開発を進めている。北朝鮮に日米韓の連携強化で厳しく臨もうとする朴氏の当選は、日本にとっても歓迎できるものだ。

 朴氏は、1965年に国内の強い反対を押し切って日韓国交正常化を断行し、韓国を「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長路線に導いた朴正煕大統領の娘である。選挙戦では、経済連携協定(EPA)の推進など、日本との関係を重視していく立場を打ち出した。

 少子高齢化対策、北朝鮮や膨張する中国への対応など、日韓共通の課題は多い。

 自民党の安倍総裁は「緊密に意思疎通を行うことで、大局的な観点から日韓両国の関係をさらに深化させていきたい」と朴氏当選を祝うコメントを発表した。日本でも来週、安倍政権が発足する。

 日韓の両首脳にはまず、李明博大統領の竹島訪問と「天皇の謝罪」要求発言で最悪になった日韓関係の修復を図ってもらいたい。

 楽観は禁物だが、歴史問題がこれ以上、両国に否定的な影響を与えぬよう双方の努力が必要だ。

2012年12月20日木曜日

政府と日銀―金融緩和は魔法の杖か


次期政権を担う安倍自民党総裁が、日銀に大胆な金融緩和を迫っている。
 日銀の白川方明総裁との会談で、政府と協定を結び、2%のインフレ目標を設けるよう求めた。日銀も来月には協定を結べるよう検討に入ったという。
 実勢から外れた高すぎるインフレ目標は現実的でないとしてきた日銀にしては、何とも素早い身のこなしである。
 来年3~4月に白川総裁と2人の副総裁の任期が相次いで切れる。政界では早くも後任人事の話題が熱い。日銀法を改正して、言うことをきかせようとする動きもある。
 日銀には、政府や国会の機嫌を損ねるのは得策でない、という政治判断もあろう。臨機応変さも必要だ。しかし、変わり身の早さだけでは、中央銀行としての信用を失いかねない。
 選挙中から、もっと緩和さえすれば景気は良くなるかのような主張が飛び交った。
 だが、金融緩和は魔法の杖ではない。日銀も、高いインフレ目標を無理に達成しようとすると、さまざまなリスクや副作用を招くと指摘してきた。
 収入が増えない家計が物価高を警戒して節約に走れば、景気はさらに悪くなる。企業に設備投資などの資金需要がない中で大量にお金を流しても、効果は乏しい。緩和が空回りしたまま日銀が国債を買い続ければ、財政不安が高まる――。いずれももっともな目配りである。
 残り任期が少ない白川総裁にとって、金融政策の役割と限界を、政治家と国民に納得させることも大事な使命だ。
 逆に安倍氏には、金融緩和に伴うリスクをどう考えるのか、説明する義務がある。
 さらに、規制や制度の改革などで企業の資金需要を刺激し、金融政策の効果を引き出す責任は政府にあることを、明確にすべきだ。
 政府と日銀との協定も、デフレの複雑さを直視し、金融政策の効果と限界を踏まえ、政府と日銀の適切な役割分担を実現させるためなら意味をもつ。
 政府の怠慢を、緩和の「ノルマ」として日銀にツケをまわす内容は許されない。公共事業の拡大に向けて、日銀に事実上、国債を引き受けさせるような発想は問題外だ。
 一連の経緯からは、日銀法にうたわれた独立性が、実態としては決して高くないことが分かる。放漫財政に目をつける市場から金利急騰のしっぺ返しを受けないために、法改正より、むしろ日銀の政府への従属が強まらないよう注意が必要だ。

一票の格差―「解消済み」は考え違い


 国会議員が真剣にとり組まねばならない課題がある。
 一票の格差の解消だ。
 「それは前の国会で処理済みだ」。そう考える議員がいたら認識が甘いというほかない。
 たしかに「衆院小選挙区の議員定数の0増5減」と「参院選挙区の4増4減」が、衆院解散の前にかけ込み成立した。
 しかし小手先の修正にすぎない。引き続き「制度の抜本的な見直し」を検討するというものの、具体像はみえない。衆院を中選挙区制に戻す、比例代表の定数を減らす、それに伴い比例議席の配分方式を改める――など思惑含みの案が飛びかう。
 利害関係がある国会議員が、自らの選出方法を公正、中立に決めるのはむずかしい。
 学識者でつくる選挙制度審議会を首相の下に設け、両院の役割やそれに応じた選び方について英知を集める。現時点で考えうる最善のやり方だろう。
 成案を得るまで一定の時間がかかってもやむを得ない。
 それまでの間、いまの状態で手をこまぬいていていいのか。
 まず衆院である。
 私たちは社説で0増5減の早期成立を唱えた。解散にむけた緊急避難策と考えたからだ。
 だが、格差の元凶である都道府県に一律1議席を割りふる1人別枠をやめ、小選挙区の全議席を人口に比例して配分し直せば21増21減になるはずだった。
 影響をうける選挙区を減らそうと、議員がお手盛りでまとめたのが0増5減だ。それも区割り作業が間に合わず、総選挙はもとの定数で実施された。
 「抜本的な見直し」が成るまで次の選挙が行われない保証はない。審議会の議論は議論として、本来やるべきだった是正をやりきる。それが筋だ。今回のような「時間切れ・その場しのぎ」の再現は許されない。
 参院にも大きな問題がある。
 4増4減の後でも、格差はなお5倍近くある。法の下の平等にほど遠いこの状態で、来年の参院選にのぞむというのか。
 都道府県の枠をこえたブロック制の導入などが間に合わないなら、今回だけの措置として、総定数を増やして都市部にまわし、格差を縮める方法も考えられる。経費は政党交付金や歳費を削ってあてればいい。
 違憲判決から逃れるぎりぎりの線を模索するだけで、肝心な有権者の権利を守る姿勢を見せない。そんな政治とは決別しなければならない。
 正統性を欠く制度で選ばれた議員が国の針路を語っても説得力はない。一票の格差の解消は政治を進める大前提である。

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