2012年9月30日日曜日

公正取引委―もっとほえる番犬に

 公正取引委員会の竹島一彦委員長が、2期10年2カ月の任期を終えて退任した。
 経済の停滞が続く中、公平な競争を監視する公取委の役割はますます重要になっている。
 その意味で、野田内閣が政治的な混乱を恐れ、竹島氏の後任の人事案を先の国会で示さなかった責任は大きい。早く正常化すべきだ。
 竹島氏は、歴代最長の在任期間もさることながら、存在感でも異例のトップだった。
 05年には独占禁止法の改正にこぎつけ、刑事告発に向けた強制的な調査権を手にした。さらに、課徴金を引き上げつつ、違反を自主申告した企業は減免する制度も導入し、アメとムチで執行力の強化をはかった。
 「ほえない番犬」から「闘う公取」へ。その強い姿勢は、罰則強化を嫌う産業界やその意を受けた国会議員らから、「竹島委員会」と煙たがられた。
 こうした変化は、竹島氏個人の力以上に、時代の要請だったといえよう。
 官庁主導の産業政策や裁量行政はとうに行き詰まり、新たな活力の担い手を育てるうえで公正性や機会の平等が一段と問われているからだ。
 とはいえ、まだ公取委の機能が十分に生かされているとはいえない。
 好例は、先日発表された「電力市場における競争の在り方について」とする報告書だ。
 発送電分離や小売り部門の自由化が必要と指摘している。政府内でも議論されているが、独立性の高い公取委が提言した意味は小さくない。
 ただ、同様の指摘は06年の報告書にも盛り込まれていた。「自由化の取り組みが効果を上げていない」と断じ、電力業界や経済産業省は強く反発した。
 まさに「闘う公取」の面目躍如だったが、その後、有効な手を打てず、結果的に原発事故が起きるまで電力改革の論議にはつながらなかった。
 健全な市場の育成を阻害する要因を徹底的に洗い出し、改善が見られなければ、しつこく追及する。「ほえる番犬」としての機能をさらに高めてほしい。
 現在、公取委は委員長を含め2人の欠員が生じており、当面は3人による運営を余儀なくされる。野田政権は次の国会で人事案とその選考理由をきちんと示す必要がある。
 竹島氏は退任会見で「車を押しながら坂をのぼってきたようなもの。手を離したらずるずると後退する可能性がある」と懸念を示した。野田政権は肝に銘じるべきだ。

対ロ外交―重層的に関係広げよ

 12月に予定される野田首相のロシア公式訪問に向け、この秋、日ロ間で重要な政治対話が続く。両国関係の深化と、領土問題に揺れる北東アジア情勢の安定に生かしていきたい。
 先ごろ、日ロの両外相が会談し、首相の訪ロ時に、経済協力や北方領土問題で成果文書をまとめることで合意した。10月には外務次官級協議があり、領土問題交渉を仕切り直す。
 さらに11月にはシベリア・極東開発を担当する実力者、シュワロフ第1副首相が来日する。
 ロシアは今月上旬、極東のウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議を主催したばかりだ。
 欧州にかたよっていた天然ガスや石油の輸出先を、アジア・太平洋にもふり向ける。この地域の旺盛な経済活力を、人口も産業も希薄なシベリア・極東に呼び込み、開発を進めるのがねらいだ。
 日本への一連の外交攻勢も、プーチン大統領が描く「ユーラシア国家」としての発展を考えたとき、日本からの投資や技術が欠かせないことがある。
 「脱原発」に動く日本にとっても、ロシアの豊富なエネルギー資源は魅力的だ。
 ただ、ロシアが計画する東シベリアなどでのエネルギー開発は、産地が内陸の奥に位置し、開発や輸送のコストが高い。資源産業への過剰な国家介入というロシア独自の問題もある。
 採算性やビジネス環境の整備に十分に納得のいく説明をロシア側から受けつつ、投資や技術協力を進めるべきだろう。
 安全保障面の分野でも、双方の利害の一致点は少なくない。
 領土問題で日本が中国、韓国と対立する現状は、この地域との関係強化をめざすロシアにとっても懸念材料だ。竹島、尖閣の問題で中立を唱え、平和的解決を望む立場をとるのも、そのためだ。
 中国の経済的・軍事的な台頭は、かつて中国から広大な領土を獲得し、シベリア・極東で長い国境を接するロシアにとっても潜在的な脅威だ。
 日ロは海上安全の確保などで協力を深めている。北東アジアの安定に向け、北朝鮮の核開発問題などでも連携を強めたい。
 首相の公式訪ロは、小泉元首相いらい10年ぶりだ。
 成果文書は経済、安保、地域政策など、あらゆる分野で協力を重層的に発展させる具体的な内容のものとしたい。
 その着実な実行が、プーチン氏のいう北方領土問題での「相互に受け入れ可能な解決」に近づく道となる。

シャープ再建策 「液晶の雄」挫折は重い教訓だ

 最先端技術やブランド力があっても、事業の選択と集中を誤ると行き詰まる。「液晶の雄」の挫折は、日本の産業界に警鐘を鳴らしている。
 経営危機に陥ったシャープが、1万人超の人員削減や海外のテレビ工場売却などを柱にした再建策をまとめた。これを評価した主力取引銀行が総額3600億円の巨額融資を決めた。
 懸念されたシャープの資金繰りにひとまずメドがつき、危機克服に前進したと言える。
 シャープは、三重県の亀山工場で製造する液晶テレビが「亀山モデル」と呼ばれて人気を集め、数年前まで業績は絶好調だった。
 ところが、超円高やウォン安が続く中、競争力をつけた韓国企業などに主力の液晶パネルやテレビで市場を奪われ、パネルなどの価格急落も打撃となった。
 約3年前、大型液晶パネルを製造する最新鋭の大阪・堺工場を巨費で建設したが、販売が伸びずに業績悪化に拍車をかけた。
 2012年3月期連結決算で過去最大の赤字を計上し、今期も大幅赤字が見込まれる。
 亀山での成功が過信につながり、戦略を誤ったのだろう。
 創業100年を迎えた老舗企業ですら、抜本的な事業再構築を迫られる厳しい現実だ。
 まず、成長が期待できるスマートフォン(高機能携帯電話)向けの中小型液晶や、白物家電、複写機といった得意分野の強化を急がねばならない。新興国市場の攻略も収益確保のカギを握る。
 先行きは楽観できない。経営刷新のスピードが問われる。
 焦点は、台湾の受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業との提携交渉の行方だ。鴻海は3月、シャープに10%弱出資することでいったん合意したが、シャープ株価の急落に伴う再交渉が難航している。
 シャープにとっては、鴻海との提携で財務基盤をさらに強化し、中小型液晶などの世界販売を増やす方策が不可欠だ。早期合意を目指してもらいたい。ただ、最先端技術の流出には要警戒である。
 電機業界など日本の製造業は、超円高と激しい国際競争に直面している。シャープを教訓とし、市場の変化を先取りした戦略商品の開発や、成長市場の開拓で競争力を強化せねばならない。
 産業を支える政府の役割も重要だ。超円高を阻止し、原子力発電所の再稼働で電力の安定供給を図るとともに、環太平洋経済連携協定(TPP)への早期参加など積極的な通商政策が求められる。

国語世論調査 漢字書く力の低下が気になる

 文化庁の「国語に関する世論調査」の結果、国民の漢字を書く力が衰えていることが浮き彫りになった。
 全国の16歳以上の男女を対象とするこの調査で、パソコンや携帯メールが日常生活に与える影響について質問したところ、「漢字を正確に書く力が衰えた」と回答した人が67%に上った。
 10年前と比べると、実に25ポイントも増えている。
 日常生活において、肉筆で手紙や文書を書く機会が減っていることは間違いない。それがこの数字に表れていると言える。「手で字を書くことが面倒臭く感じるようになった」という人が、大幅に増えたのは、その証左である。
 今後、日本語の能力が十分身に着いていない子どもたちが、パソコンや携帯電話を使ってコミュニケーションを図る機会は増えていくだろう。漢字を書く能力が、ますます衰えていくのではないかと、懸念せざるを得ない。
 一方で、高校までに学習する漢字は大幅に増えた。
 今やキーを押すだけで難しい漢字を簡単に表示出来る。こうした時代の変化に対応するため、政府が2年前に常用漢字表の改定を行ったからだ。
 その際、改定に主導的な役割を果たした文化審議会が、「手書きは漢字を習得し、その運用能力を形成していく上で不可欠」と、書き取りの重要性を強調したことに改めて留意したい。
 繰り返し漢字を手書きすることによって視覚、触覚、運動感覚が鍛えられ、脳も活性化するといった効用があるという。
 家庭や教育現場で、子どもたちに手書きの重要性をしっかり教えていく必要がある。
 同時に、文学作品などの読書を通じて、普段から漢字に触れることも大事だ。それが、日本語の正しい用法や豊かな言葉の表現を身につけることにもなる。
 今回の調査では「相手や場面に応じて敬語を使う」という人や、電車の降車時に「すみません」と声をかける人が際立って増えていることも明らかになった。
 「自分自身の言葉の使い方に気を使っている」と回答した人は約8割を占めている。とりわけ若い世代に顕著に見られる。
 他人との摩擦を恐れ、気を使わざるを得ない状況が進んでいるということなのだろうか。電子メディアの利用が拡大していることと無縁ではあるまい。言葉の使い方の変化から、日本社会の今日の有り様もうかがえる。

2012年9月29日土曜日

日中国交40年―交流広げ、信頼立て直せ

 祝賀の雰囲気はない。
 日中国交正常化から40周年を迎えた。だが、日本政府が尖閣諸島を所有者から買ったことに対し、領有権を主張する中国が激しい批判を続けている。
 中国共産党序列4位の賈慶林(チアチンリン)・全国政治協商会議主席は、訪中した日中友好団体代表らに、両国の関係を「これまでになく厳しい局面」と評した。
 日本でも愛読される中国の古典、論語に「四十にして惑わず」とある。
 ところが、同じ年月がたった日中関係は全面停滞の様相だ。日本企業は操業停止などの大きな影響を受け、さまざまな交流事業が中断した。
 ここまでこじれた背景には、互いの体制や文化への無知や無理解がある。
 野田首相は、ウラジオストクで中国の胡錦濤(フーチンタオ)国家主席と話しあった直後に尖閣諸島の購入に踏み切った。体面を重んじる中国には受け入れがたかった。
 中国に挑発的な石原慎太郎・東京都知事の購入計画を防ぎ、火種を取り除こうという日本政府の思惑を、「中央政府は地方政府を抑えられる」と考える中国は理解しようとしなかった。
 この40年の積み重ねは何だったのかと、嘆かざるを得ないような行き違いである。
■大国の自信と不安
 「中国が他人に虐げられた時代は去り、二度と戻らない」
 中国のメディアではこんな論調が繰り返された。列強に踏みにじられた苦い歴史の記憶にあえて触れ、愛国意識を高めた。
 1972年の正常化後、最初の20年は、戦争から急速に復興した日本が、途上国・中国の成長に手を貸す構図だった。
 関係が大きく変わり始めたのが、90年代初めだ。
 日本ではバブルがはじけて経済が滞り、中国は改革開放路線をひた走って急成長期に入った。2008年の世界金融危機で景気を下支えした中国は、大国としての自信を固め、10年には国内総生産(GDP)で日本を抜いた。
 自信は外交の強硬姿勢となった。古代ローマや大英帝国のように、新しい大国の登場は時代の地殻変動となって、周辺や先行する大国との摩擦を生んだ。
 だが足元の中国社会では、貧富の格差や汚職といったさまざまな矛盾が噴き出している。
 コネがなければ機会さえ与えられず、年間600万人近くにもなる大学卒業生の就職難は深刻だ。成長の原動力だった人口増は急速な高齢化に転じ、社会保障の不備が目立っている。
 先々週末、中国各地で起きた反日デモでは、毛沢東の肖像を掲げる参加者がいた。貧しくても平等だった日を懐かしむのだろう。それは現政権への批判でもある。
 その共産党は11月、指導部が入れ替わる党大会を開く。だが激しい人事や路線の駆け引きが繰り広げられたとされ、大会日程の発表は大幅にずれこんだ。異常な事態だ。
■「反日」利用はやめよ
 日本が向きあっているのは、不安定さを抱えこんだまま大国になった中国だ。
 つきあい方は難しさを増しているのに、双方で関係を進める力が弱まっている。
 中国では市場経済で共産主義の理念が薄れた。共産党はかわりに経済成長と愛国主義で国内の団結を図った。党の原点は抗日戦争の勝利であり、愛国は反日の感情を強めた。
 折に触れて繰り返された反日デモの過激さは、日本の対中観を冷えこませた。中国指導者と個人的な信頼関係でつながる政治家の姿も見えない。
 だが、両国が重要な隣国同士だと言うことに変わりはない。グローバル化で日中の経済は相互依存を深め、切り離すことはできない関係だ。
 このまま対立が続けば、中国に進出した日本企業の損害は巨額となり、現地で働く中国人の雇用不安にもつながる。世界第2、第3位の経済大国の争いに世界も気をもんでいる。
 負の関係から抜け出すためには、中国での対日感情の改善が必要だ。中国にとっても、反日は反共産党に変わりかねない。外に敵を作り、中をまとめようとする手法は必ず行きづまる。中国は反日の政治利用をやめるべきだ。
 日本も、相手に実像を伝える努力が必要だ。総額3兆円超にのぼる対中円借款で、中国の成長の基盤づくりに尽くしたという事実も、中国ではほとんど知られていない。官民を問わず、人の交流をこれまで以上に厚くするしかない。
■歴史と、今を見る
 そして日本は、歴史にしっかり向きあう必要がある。日中戦争は、日本が中国の国土でおこした。大勢の中国の人たちが犠牲になったのは、逃れようのない事実だ。
 浮ついた「愛国」は人々を豊かにしない。それは中国も日本も同じだ。歴史と今を冷徹に見つめ、立て直しを始めよう。

民・自の新体制 「停滞国会」をもう繰り返すな

 民主、自民両党の新執行部が動き出した。
 両党内には党首選に伴うしこりが残っている。野田首相と安倍総裁は、まず足場固めに全力を挙げなければなるまい。
 その上で、両党には、不毛な与野党対立を排し、「決める国会」を主導してもらいたい。
 民主党は両院議員総会で、輿石幹事長再任と、政調会長に細野環境相、国会対策委員長に山井和則国対副委員長を充てるなどの役員人事を正式に了承した。
 政権公約をまとめる細野氏は、次期衆院選で「選挙の顔」としても期待されている。苦戦が予想される選挙を控え、なお新党参加を視野に離党を模索する議員が少なくない。新布陣の眼目は、そんな動きを抑え込むことにある。
 だが、党内融和を優先するだけの「内向き」な党運営であってはならない。政治の停滞を打破するには、与野党が信頼関係を築くことが不可欠である。
 先の通常国会で民主党は、焦点の衆院選挙制度改革を巡り、独自の法案を強引に衆院通過させるなど稚拙な対応が目立った。新体制の発足を機に、国会運営のあり方を見直すべきだ。
 一方、自民党では、幹事長に石破茂前政調会長、政調会長に甘利明元経済産業相、国対委員長に浜田靖一国対委員長代理がそれぞれ起用された。
 総裁選の党員票で圧勝した石破氏が、国会議員の決選投票で敗れたことに地方の幹部から不満が噴出していた。石破氏の登用は、地方への配慮でもある。
 日中関係が厳しい。安全保障に詳しい幹事長なら、選挙戦でもプラスに働くとの判断もあろう。
 5氏による総裁選で、党内には亀裂や怨念が生まれている。安倍氏は、挙党体制作りに腐心せざるを得まい。それなのに、総裁選の論功行賞や盟友、側近の要職起用が多いのは気になる。
 民自両党の執行部は、公明党を含む党首会談で連携を確認し、臨時国会の準備に入るべきだ。赤字国債を発行するための特例公債法案への対応が試金石となる。
 石破氏は総裁選中に、衆院解散を法案成立の条件としない考えを示した。参院問責決議による審議拒否も否定している。そのまま党の方針となるなら評価できる。
 ただ、安倍氏は年内解散を主張し、石破氏は早期解散にこだわらない意向を示すなど、戦略には相違点が少なくない。両氏がどう調整するかは、今後の政治の行方を左右するだろう。

日韓外相会談 対話継続で未来志向の関係を

 領土問題は平行線だったが、2国間関係を改善する方針を確認した意義は小さくない。
 玄葉外相と韓国の金星煥外交通商相が国連本部で会談し、「安定的で未来志向」の日韓関係の構築に向けて努力することで一致した。経済、人的・文化交流、安全保障などの分野で協力することでも合意した。
 8月10日の李明博大統領の竹島訪問後、韓国側の一連の対応はあまりに感情的で、日韓両国は一時、非難合戦に陥った。ようやく大局的な観点から、関係の立て直しに動き始めたことを歓迎したい。
 日韓の足並みが乱れては、核や拉致の問題で北朝鮮を利するだけだ。日韓の対立については、同盟国の米国も懸念を隠さず、関係改善を働きかけていた。
 日本にとっては、尖閣諸島の国有化をめぐり対中関係が悪化している時だけに、対韓関係を安定化させる意味は大きい。
 李大統領の在任中の関係改善は限定的なものとなろうが、来年2月の韓国新政権発足後も視野に入れ、当面は、外相級などで対話を重ねることが重要である。
 竹島問題では、双方が従来の主張を繰り返すにとどまった。
 金外相は国連演説で、「どの国も政治的目的のために国際法の手続きを利用すべきでない」などと語ったが、国際ルールに基づいて自国の主張を展開・実現することに何も問題はあるまい。
 韓国が国際司法裁判所(ICJ)への共同提訴を拒否した以上、日本は、単独提訴に向けて、準備を粛々と進める必要がある。
 野田首相は国連演説で、「法の支配」を重視し、領土紛争を「国際法に従い、平和的に解決する原則を堅持する」と宣言した。ICJに訴えられた際の応訴を義務づける「義務的管轄権」を各国が受諾することも呼びかけた。
 日本は1958年から義務的管轄権を受諾しているが、中韓両国などは受諾していない。
 韓国も、竹島の領有権の正当性を主張するなら、本来、ICJで堂々と争えば良いはずだ。
 日本が国際法に基づき領土紛争を解決する姿勢をアピールすることは、尖閣問題で一方的で高圧的な外交を展開する中国との違いを鮮明にする効果もあろう。
 いわゆる従軍慰安婦問題については、金外相が提起し、「国家的次元の措置」を求めたという。
 日韓間の請求権問題は、65年の国交正常化時に「完全かつ最終的に解決」している。日本は、安易な妥協は厳に慎むべきだ。

2012年9月28日金曜日

首相国連演説―国際法を外交ツールに

 野田首相がニューヨークの国連総会での演説で、領土や海域をめぐる紛争は「国際法に従い平和的に解決するとの原則を、どのような場合でも堅持する」と表明した。
 尖閣諸島や竹島の領有権を主張する中国や韓国を念頭に置いた発言だ。これらの問題に、歴史問題とからめて攻勢をかけてくる中韓への反論でもある。
 国民感情がもつれて妥協が難しい問題でも、日本としては、国際法に基づいた公正な裁きに委ねる用意があるとの覚悟を示したものだ。
 尖閣諸島をめぐっては、日本政府は「領土問題はない」としてきた。だが、首相がここまで言ったのだから、中国が国際司法裁判所(ICJ)に提訴する場合は拒む理由はない。
 中国は首相発言に対し、「国際法を表に出して、欺こうとしている」(外務省報道官)と批判している。
 演説に先立って行われた日中外相会談では、楊潔チー(ヤンチエチー、チーは竹かんむりに褫のつくり)・中国外相は尖閣購入を「中国の領土主権に対する重大な侵害」と位置づけ、「適切な措置で誤りをただせ」と迫った。
 中国は「二国間での話し合いで解決すべきだ」との立場で、提訴には消極的だ。だが、幾度となく、領有の「歴史の裏付けと法的根拠がある」とも主張している。
 対立を解消する外交ツールの一つとして、互いにICJ活用を真剣に検討してはどうか。
 ただ、仮にICJに提訴しても判決まで何年もかかる。判決ですべてが解決される保証もない。提訴も選択肢にしつつ、打開点をさぐる幅広な外交努力を続けなければならない。
 尖閣購入後、中国は矢継ぎ早に対抗策を打ってきた。
 付近の海域に監視船が多数展開、日本領海に侵入し、日本の実効支配を崩そうと試みている。暴力的な反日デモが起き、交流事業は中断。税関での日本製品の検査強化など、経済制裁まがいの措置もとっている。
 中国からの日本向け旅行はキャンセルが相次ぎ、日系の自動車メーカーに中国での生産を減らす動きが広がるなど、実体面での影響がすでに出ている。
 首相は中国を名指しはしなかったが、「自らの主義主張を一方的な力や威嚇を用いて実現しようという試みは、国連憲章の基本的精神に合致しない」とも訴えた。
 中国の動きには、国際社会も違和感を強めている。国連安全保障理事会の常任理事国でもある中国は、国際ルールを守る責任がある。

社保国民会議―せめて政治家で協議を

 民主、自民両党の「顔」選びが終わったいま、社会保障の改革を前に進めることは両党の責務である。
 法律で設置が決まった社会保障制度改革国民会議が、いまだ開催のメドも立たないのは異常だ。せめて社会保障に詳しい各党の議員たちで話し合いを再起動させてはどうか。
 国民会議は、先の国会で自民党が提案し、民主党と公明党が同調した。首相が任命する20人以内の有識者で構成し、来年8月までに結論を出す。
 民主党や公明党は、早期の設置に前向きだが、自民党の安倍新総裁は「基本的には衆院選後でないと立ち上げに同意できない」と消極的だ。
 自民党は、政権与党が入れ替われば有識者も選び直しになるし、国民会議を始めるのと結論を実行する政権は同じであるべきだ、と主張する。
 しかし、国民会議は政権交代とは関係なく安定した制度をつくるのが狙いだから、この理屈に説得力はない。むしろ、早期の解散・総選挙に持ち込む道具として国民会議を利用したい意図が透けてみえる。
 政局的な思惑を捨て、会議の設置を急ぐべきだ。
 それでも「総選挙が先」と言うのなら、純粋に政策的な議論を政治家同士で始めるのが、最低限の務めだろう。
 もともと6月の3党合意では年金や高齢者医療の改革について「あらかじめ3党間で合意に向けて協議する」という確認書が交わされている。
 各党の責任者として協議を担ったのは、大臣・副大臣経験者など社会保障に通じた国会議員だ。与党の責任の重さ、制度改革の難しさも知っている。
 総選挙後も、改革を具体化していく中心メンバーになるだろう。ここで課題と各党の政策を整理しておけば、国民会議もスムーズに滑り出せる。
 それぐらいの姿勢を見せないと、総選挙になったとき、「増税だけで、社会保障の改革はやる気がない」という批判が浴びせられるだろう。
 年金や医療、子育ての制度をしっかりとしたものにしてほしい。そんな有権者の期待に応えなければならない。
 90年代初め、スウェーデンでは超党派の議員による作業グループが3年かけて年金改革案をまとめあげた。最初は勉強会を重ねて、メンバー同士の信頼感を高めたという。
 その政治プロセスは世界的に称賛された。高齢化のトップランナーで、「課題先進国」の日本でこそ、必要なことだ。

日中国交40年 「互恵」再構築へ長期戦略を

 ◆外交力の発揮で事態悪化防げ◆
 日中両国が国交を樹立した時、これほどまで関係が険悪になると誰が予想しただろうか。
 訪中した田中角栄首相が周恩来首相と共同声明に調印してから、29日で40年になる。節目の年なのに、記念行事が次々打ち切られている。
 中国では日本製品の不買運動も広がっている。かつてない深刻な事態だ。尖閣諸島国有化への中国の反発は収束する気配がない。
 しかし、世界第2、3位の経済大国の不正常な関係は周辺地域や世界経済にも悪影響を与える。日本は今後、中国とどう向き合っていくか。関係の正常化へ長期的な戦略が欠かせない。
 ◆「政冷経冷」の対日意識◆
 中国各地で起きた反日デモの中で、パナソニックの工場が暴徒に襲われた事件ほど、日中の寒々しい現状を象徴するものはない。
 パナソニックは中国進出の先駆的企業である。1978年、来日したトウ小平副首相が創業者の松下幸之助氏と会い、中国発展のために技術、経営面での支援を求めたことがきっかけとなった。
 その後、多くの企業が中国で事業を拡大し、雇用も生んできた。日本は2007年度まで円借款を供与し続けた。
 それが中国の経済基盤を強化し、国内総生産(GDP)が日本を上回るほどに成長する一助となったことは間違いない。
 だが、日本の協力姿勢は中国国内でほとんど認識されていない。それどころか、90年代に反日の愛国教育が強まり、経済発展に伴って日本軽視の風潮が広がった。
 中国では、対日関係は政治も経済も低調な「政冷経冷」で構わないとの意識が強まっている。
 しかし、日中両国は経済的に不即不離の関係にある。日本から輸入した部品を中国で最終製品に組み立て、中国国内で販売したり、欧米などに輸出したりする国際分業体制が築かれている。そのことを忘れてはなるまい。
 ◆尖閣で必要な海保強化◆
 尖閣諸島問題の根源は、周辺海域に石油があることを知った中国が70年代、根拠もない領有権を一方的に主張したことにある。
 トウ小平氏は78年、日中平和友好条約発効の際の記者会見で、尖閣問題について「一時棚上げにしても構わない」と語り、解決を次世代に委ねる意向を表明した。
 だが、中国は、92年には尖閣領有を明記した領海法を制定し、近年は、監視船を尖閣諸島近海に再三派遣するなど事あるごとに日本との摩擦を引き起こしてきた。
 尖閣諸島の国有化は、所有権が民間人から政府に移転するだけのことである。ロシア・ウラジオストクで野田首相と胡錦濤国家主席が会った直後に、国有化したことが中国を刺激した面はあるが、中国の反発は予想を超えていた。
 日中外相会談で中国側が国有化を「反ファシズム戦争勝利の成果を否定するものだ」と指摘し、無関係な歴史問題と絡めたのは、あまりに牽強(けんきょう)付会(ふかい)だ。
 ありもしない日本の「非」を世界に言い募る中国の「世論戦」に日本は手をこまねいてはいられない。野田首相が国連演説で、中国を念頭に「一方的な力や威嚇を用いる試みは受け入れられない」と主張したのは、当然である。
 中国初の空母も就役した。軍拡路線は、近く発足する新指導部へ引き継がれ、より強力に進められよう。
 尖閣諸島で実効支配をいったん失ってしまえば、取り戻すのは非常に困難となる。主権を侵害する行為を排除できるよう海上保安庁の体制強化に国を挙げて取り組むことが最優先である。
 無論、軍事的対立は何としても避けなければならない。米海兵隊が新型輸送機オスプレイを沖縄に配備することも、対中抑止力を強める意味で重要である。
 ◆経済・環境で共栄を◆
 安倍内閣以降、日中両国はウィンウィン(共存共栄)を意味する「戦略的互恵関係」を基軸に東シナ海のガス田共同開発協議などを進めた。だが、10年の尖閣諸島沖の漁船衝突事件後、暗礁に乗り上げている。
 互恵関係を立て直すには周到な準備が欠かせない。日中双方が産業・観光振興、農業の生産性向上の分野だけではなく、省エネや環境対策などの分野でも協力し合えることを、様々なパイプを駆使して、中国に伝えるべきだ。
 米国との緊密な連携も日中関係の改善を図るには不可欠だ。同時に東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、ロシアなど、周辺国との関係を強化し、戦略的に対中外交を展開する必要がある。

2012年9月27日木曜日

安倍新総裁の自民党―不安ぬぐう外交論を

 自民党総裁選は、40年ぶりの決選投票をへて、安倍晋三元首相が当選を決めた。
 5年前の参院選で惨敗後、首相だった安倍氏は突然、政権を投げ出した。
 その引き金となった腸の難病は新薬で克服したというが、政権放り出しに対する批判は安倍氏の重い足かせだった。それが一転、結党以来の総裁再登板を果たしたのはなぜなのか。
■「強い日本」を前面に
 もともと安倍氏は本命視されていなかった。
 ところが、谷垣禎一前総裁を立候補断念に追いやる形になった石原伸晃幹事長がまず失速。決選投票では派閥会長や古参議員に嫌われている石破茂前政調会長に競り勝った。いわば消去法的な選択といっていい。
 さらに領土問題で中韓との関係がきしんでいなければ、再登板はなかったかもしれない。
 「強い日本」を唱える安倍氏の姿勢が、中韓の行き過ぎたふるまいにいらだつ空気と響きあったのは確かだ。
 「尖閣諸島は国家意思として断固守る」として、避難港を造るなど管理の強化を訴える。
 慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めた河野官房長官談話や、「植民地支配と侵略への反省とおわび」を表明した村山首相談話を見直すと主張している。
 首相になった場合の靖国神社参拝にも意欲を示す。
 ナショナリズムにアクセルを踏み込むような主張は、一部の保守層に根強い考え方だ。
 だが、総選挙後にもし安倍政権ができて、これらを実行に移すとなればどうなるか。
 大きな不安を禁じえない。
 隣国との緊張がより高まるのはもちろんだが、それだけではない。
 前回の首相在任中を思い出してほしい。5年前、慰安婦に対する強制性を否定した安倍氏の発言は、米下院や欧州議会による日本政府への謝罪要求決議につながった。
 靖国参拝をふくめ、「歴史」に真正面から向き合わず、戦前の反省がない。政治指導者の言動が国際社会からそう見られれば、日本の信用を傷つける。
 だからこそ安倍首相は河野談話の踏襲を表明し、靖国参拝を控えたのではなかったか。
 首相就任直後に中韓両国を訪問し、小泉政権で冷え切った中韓との関係を改善したのは安倍政権の功績だった。その経験を生かすべきだ。
 それにしても、あまりにも内向きな総裁選だった。
■人材も活力も乏しく
 安倍氏をはじめ5候補は、民主党政権の3年間を「国難」と断じ、自民党が政権に復帰しさえすれば震災復興も、領土外交も、日米同盟も、景気も、雇用もうまくいくと胸を張った。
 そんな甘い夢を信じる人がどれほどいようか。
 国民の政治不信は民主党だけでなく、自民党にも向けられている。その自覚と反省がまったく感じられない。
 それどころか、3年前、国民に拒絶されるように下野した自民党のやせ細った姿をくっきりと映し出した。
 その象徴は、5候補の政策がほとんど同じだったことだ。
 党是の憲法改正を実現し、集団的自衛権の行使をめざす。
 原発・エネルギー政策では全員が「原発ゼロ」に反対。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加には慎重。代わりに熱を入れるのは「国土強靱(きょうじん)化」という名の公共事業拡充だ。
 財界や電力業界、農協、土木・建設業界など支持団体の歓心を買いたい。そんな思惑がみえみえではないか。
 かつての自民党にはタカからハト、改憲から護憲、保守からリベラルまで抱える懐の深さがあった。
 それが、今回は5候補がそろってタカ派色と支持団体への配慮を競い合った。しかも5人とも世襲議員である。
■3党で国会ルールを
 二大政党時代の野党の最大の仕事は、人材を鍛え、次に政権に就いたときに実行すべき政策を練ることだ。その作業を、自民党は怠っていたと言われても仕方がない。
 遠からず行われる解散・総選挙に向けて、安倍氏に三つのことを求めたい。
 第一に、社会保障と税の一体改革の実行を野田首相と再確認する。早期解散を求めて対決するだけではなく、社会保障をめぐる国民会議の設置など、譲るべきは譲ることも必要だ。
 第二に、外交・安全保障をはじめ、公約を現実味のあるものに練り直すことだ。
 総選挙で投票権をもつのは自民党員だけではない。前回の首相在任中に靖国参拝を控えたように、君子豹変(ひょうへん)の勇気をもつことが肝要である。
 第三に、民主、公明との3党で、衆参の多数派がねじれても国会を動かせるルールづくりで合意することだ。政権奪還をめざす自民党にとっても、そのメリットは大きいはずだ。

安倍自民新総裁 政権奪還への政策力を高めよ

 ◆保守志向が再登板の追い風に◆
 政権奪還という重い課題を担っての「再チャレンジ」である。
 自民党総裁選は、安倍晋三元首相が、石破茂前政調会長ら4氏を破り、新総裁に選出された。
 第1回投票では、石破氏が地方票の過半数を獲得して1位となったが、国会議員による決選投票で安倍氏が逆転した。
 安倍氏は、次期衆院選の結果次第では首相に就任する可能性が大きい。当選後のあいさつでは「政権奪還に向けて全力を尽くす。強い日本をつくる」と、決意を表明した。今から日本再生への戦略と政策を練る必要がある。
 ◆「尖閣」で地方票に変化◆
 派閥の代表ではない安倍、石破両氏が決選投票を争ったことは、派閥の合従連衡による総裁選からの変化をうかがわせる。
 当初は石原伸晃幹事長が有力視されたが、安倍、石破両氏が地方の党員に支持を広げた。これは総裁選のさなか、中国が尖閣諸島を巡って日本に高圧的な外交を展開したことと無縁ではない。
 両氏とも総裁選では、日本の領土・領海を「断固として守る」と訴え、外交・安全保障政策の重要性を強調した。
 しかし、中国に強硬一辺倒の姿勢では関係改善は望めない。
 安倍氏は首相時代に、小泉内閣で悪化した対中関係を立て直し、中国と「戦略的互恵関係」を目指すことで合意した。尖閣諸島国有化で中国の反日機運が高まる中、日中関係を再構築する具体策が改めて求められている。
 安倍氏は、集団的自衛権の行使を可能にすることによる日米同盟の強化や、憲法改正に取り組む考えを示している。いわゆる従軍慰安婦問題に関する「河野談話」の見直しにも前向きだ。
 いずれも妥当な考え方である。実現に向けて、具体的な道筋を示してもらいたい。
 総裁選で残念だったのは、日本の直面する課題について、踏み込んだ議論が乏しかったことだ。
 ◆TPP・原発政策示せ◆
 環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題で、安倍氏は「交渉力を強めた上で、国益を守れるかどうか考えないといけない」と慎重な発言に終始した。
 党内に根強いTPP参加反対論に配慮したのだろうが、政権奪還を目指すなら、農業の競争力強化策をまとめ、交渉参加への環境を整えなければならない。
 エネルギー問題でも、政府・民主党の「原発ゼロ」方針に否定的な見解を示したのは適切だったにせよ、それだけでは不十分だ。
 安全な原発は活用し、電力を安定供給できるエネルギー政策について党内で議論を深め、責任ある対案を打ち出すべきである。
 安倍氏は6年前、戦後生まれで初の首相となった。「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、教育基本法を改正し、防衛庁を省に格上げした。憲法改正手続きを定めた国民投票法も成立させるなど実績を上げている。
 しかし、2007年7月の参院選に惨敗し、衆参ねじれ国会を生んだ。その後の突然の辞任は、潰瘍性大腸炎という持病が一因とされるが、政権を無責任に投げ出した印象が強く残っている。
 安倍氏には、「健康不安」やひ弱なイメージを払拭できるかどうかが、問われよう。
 新総裁として最初に取り組むのは党役員人事である。
 安倍氏は、総裁就任後の記者会見で、石破氏が党員票の過半数を獲得したことについて「重く受け止めなければならない」と述べた。石破氏には地方に圧倒的な支持のあることが裏付けられた。要職に起用するのは理解できる。
 安倍氏は首相時代に内閣の要職を盟友や側近で固め、批判を浴びた。今回、党役員にどういう人材を登用するかも注目したい。
 ◆解散で「紳士協定」を◆
 重要なのは、次期臨時国会での対応である。
 先の通常国会は、参院で野田首相の問責決議を可決したまま閉会した。これまで自民党は問責の効力が次の国会にも及ぶとしてきたが、安倍氏は記者会見で、一切審議を拒否するわけではないと柔軟な姿勢を示した。
 赤字国債発行のための特例公債法案の成立などに協力する代わりに、野田首相が約束した「近いうち」の衆院解散を「紳士協定」として確認したい考えのようだ。建設的な提案だと評価できる。
 安倍氏自身、首相時代にねじれ国会に悩まされた。参院の問責決議を理由にした審議拒否など不毛な与野党対立や政治の停滞には、もう終止符を打つ時である。

2012年9月26日水曜日

宗教と暴動―扇動者を喜ばせない

 イスラム預言者ムハンマドを侮辱する映像や風刺画への反発がアジアでも高まっている。抗議デモの暴徒化は経済的に貧しい地域で激しいが、暴力は決して豊かな社会を育てない。
 パキスタンでは、鉄道相が米国のビデオ映像の作者を殺害した者に10万ドル(約800万円)の賞金を出すと発言した。政府は「あくまで個人的な意見」と説明するが、現職の大臣が殺人をけしかけるとは、許されないことだ。この国のカラチやペシャワルでは、デモ隊の一部が暴徒となって警官隊と衝突し、20人以上が亡くなっている。
 イランでは、宗教財団がムハンマドの風刺小説の作者にかけていた殺害懸賞金を増額した。平和と安心をめざす人々がすることだろうか。
 フランスの雑誌が載せた風刺画やビデオ映像がイスラム教徒を怒らせたのは当然だろう。言論の自由があるといっても、特定の宗教に悪意をこめ、はやして喜ぶ商業主義は、品のいいものではない。
 しかし、だからといって手段を選ばぬ暴力に訴えては、その宗教が理解できぬものだとの非難を集め、敵意の応酬になる。
 すでにエジプトやリビア、イエメンで米大使館が襲撃され、犠牲者が出ている。過激な宗教集団や政党が組織的に人を集めたようだ。
 キリスト教や仏教をふくめ、世界各地で宗教や信仰への関心があらためて高まったのは、経済のグローバル化と軌を一にするように見える。都市化が進む一方で経済格差は広がり、多くの若者が職に就けずに苦しんでいる。不安と不満が、宗教や信仰をよりどころにさせた。
 ただ、それで平和や安心が世界に広がったわけではない。他者による批判を自らの尊厳への攻撃と受けとめ、宗教をたてに暴力に訴える。狭量な信徒が陥りがちな短絡が、今回の暴徒たちにもうかがえる。
 ムハンマドを侮辱するビデオ映像や風刺画を実際に目にした人の数は限られているだろう。ところが、他国のイスラム教徒の抗議活動の情報が伝わるだけで自分も見た気分になり、欧米への憎悪を燃え上がらせて街頭に押し出す。
 残念だが、心ない映像や風刺画を作ろうとする不心得者はこれからも現れるだろう。宗教に限らず政治の世界でも、挑発や扇動で権力や影響力を得ようとする野心家が後を絶たない。
 そんな扇動者を喜ばせるままでは、社会がどれほど困った問題を抱えることになるか。それは宗教だけの問題ではない。

首都と高速道―都心から撤去しては

 老朽化する首都高速道路の都心環状線(約15キロ)について、国土交通省の有識者会議が「高架橋を撤去し、地下化を含めた再生を目指すべきだ」とする提言をまとめた。
 1964年の東京五輪にあわせて整備された首都高は、補修だけでは間に合わなくなりつつある。高架橋が損ねている景観を取り戻し、首都直下型地震などの災害に備えるためにも地下化による全面更新が有効、との主張である。
 ただ、それには膨大な資金が必要だ。都心環状線の外側に3本もの環状道路が建設されていることを考えると、都心環状線の完全な撤去で首都の改造を目指すべきではないか。
 中心部を通過するだけの車を迂回(うかい)させる。それが環状道路の役割であり、世界の主要都市の多くにある。
 ところが都心環状線は平均半径が2キロ余にすぎず、北京やパリの5キロ台、ワシントンの16キロ余、ロンドンの30キロ近くと比べて圧倒的に小さい。
 国交省は「都心に車を引き入れている」として、中央環状線(都心から8キロ圏)、外環道(15キロ圏)、圏央道(40~60キロ圏)の「3環状」を建設中だ。
 開通区間が計画の半分に満たない外環道と圏央道をめぐっては巨額の投資に賛否が分かれるが、さらに都心環状線を造り替えるのは二重投資である。
 都心環状線の地下化は小泉政権時代にも話題になった。一部区間が国の重要文化財である日本橋の景観を台無しにしているとして約2キロの地下化が提案されたが、4千億~5千億円という財源のメドが立たず、議論は深まらなかった。
 今回は、地下化に熱心なロータリークラブが「全長50キロの地下環状線」を提案した。事業費を約3.8兆円と見積もり、財政難を踏まえて「通行料金の恒久有料化」を求めている。
 05年の道路公団民営化では、旧4公団の債務を50年までに返済し、その後は通行料を無料にすると決まった。首都高の更新論議にまぎれたなし崩しの変更は許されない。
 都心環状線内で乗ったり降りたりする車は通行車両の4割。完全撤去すると、一般道の渋滞対策が不可欠だが、世界では都心への流入を規制している例が珍しくない。
 首都・東京の防災対策は、一極集中をやわらげることが出発点だ。都心環状線の撤去をテコに集中を緩和し、空いた用地を防災や景観を重視した街づくりに生かす。そんな発想で検討を深めていきたい。

中台の領海侵入 示威行動に動ぜず冷静対処を

 尖閣諸島を巡って中国と台湾が対日圧力を高めている。政府は、これに動じることなく、冷静な外交によって事態の沈静化を急ぐべきである。
 中国が尖閣諸島近くに10隻前後の監視船を送り込んでから1週間が経過した。監視活動を常態化させ、日本の領海への侵入を繰り返している。
 25日には、台湾の漁船約40隻と巡視船12隻が領海に入った。海上保安庁の巡視船による漁船への放水などで、台湾側は退去した。
 尖閣諸島に関しては、台湾、中国が1970年代に相次いで領有権を主張し始めた。その中台が領海に侵入するような事態を放置すれば、日本の実効支配体制が揺らぐことになりかねない。
 政府は警戒と対策が必要だ。海洋秩序を維持するため、海保の巡視船などによる監視体制を最大限強化しなければならない。
 改正外国船舶航行法の施行によって、海保は領海内を動き回る外国漁船に対し、立ち入り検査なしに退去を命令できるようになった。より迅速かつ効果的に違法行為を排除し、主権を守る姿勢を示すことが重要である。
 日本が尖閣諸島を国有化して以降、度を越した中国の反発が続いている。
 日本との経済や文化、スポーツ交流は続々と停止された。27日に予定されていた国交正常化40周年記念式典は中止され、日本の経済団体の訪中も取りやめとなった。異常な事態である。
 こうした一方的な措置は、中国自身の国際的評価を(おとし)めよう。日中関係のこれ以上の悪化は両国に拭いがたい傷を残し、修復を一層困難とするだけだ。
 日本が尖閣諸島を実効支配してきた事実は、中国の報道規制で国民にきちんと伝わっていない。中国国民は「国有化」の意味を理解していないのではないか。
 中国は外交攻勢も強めている。自らの尖閣諸島領有の主張を正当化する「白書」を発表した。世界にアピールするのが狙いだ。
 日本も、尖閣問題の経緯と日本側の冷静な対応を各国にきちんと理解してもらう必要がある。
 河相周夫外務次官が北京で中国外務省の張志軍筆頭次官と会談した。中国側は日本に対し、「幻想を捨てて深く反省し、行動で誤りを正す」よう求めたという。
 相変わらずの高圧的な態度だ。ただ、両国が協議の継続で一致したことは評価できる。外相や首脳同士の対話も重ね、事態打開の道筋を模索すべきである。

最高人民会議 不透明な「北」の経済立て直し

 将来を見越して布石を打っているのだろう。どれだけ成果を上げられるかは依然、不透明だ。
 北朝鮮で、国会にあたる最高人民会議が開かれた。4月に正式に発足した金正恩体制下で2回目の開催である。
 今回の会議では、現在11年の義務教育を12年に延長する決定が行われた。基礎的知識に加えてコンピューター技術や外国語の教育を強化するという。
 初等中等教育の年数を日本や韓国並みに充実させることで、激しい国際競争に負けない人材を育てる狙いがある。核兵器や弾道ミサイル開発など軍事近代化への対応も当然、計算に入れていよう。
 教育の重視は、発足から約半年たった金正恩体制が、長期執権をにらんだ基礎固めの施策の一つととらえることができる。
 もとより体制にとって最優先の課題は、経済の立て直しだ。
 北朝鮮は、核実験や弾道ミサイル発射を強行したことによって、国際社会の経済制裁下にある。政策の失敗に加え、自ら招いた制裁の下で、苦境は深まる一方だ。
 国民が不自由なく食べられるよう食糧問題を解決し、暮らしがよくなったと実感できる成果を上げなければ、体制は内部から崩壊せざるを得まい。
 金正恩体制が、最大の支援国で伝統的友邦の中国と、関係強化に腐心するのは不思議ではない。
 金正恩朝鮮労働党第1書記は8月、訪朝した中国共産党の王家瑞・対外連絡部長と会談し、外交デビューを果たした。
 同じ8月、第1書記の義理の叔父、張成沢・国防委員会副委員長が訪中し、中朝国境地帯にある経済特区の共同開発推進で中国側と合意した。中国の投資をテコに外貨を稼ごうという計画だ。
 近く実現するとみられる第1書記の訪中の際に、中国の指導部が一層の援助を約束するのではないか、との観測が強い。
 北朝鮮自身、農業や工業の生産性向上のため、生産割り当て分を達成しさえすれば、余剰分については私有などを認める新制度を導入するとも伝えられている。
 経済再建へ、取り組みを本格化しているように見える。
 だが、北朝鮮は過去にも経済改革を試みては失敗し、混乱を招いた経緯がある。まして、軍事最優先の「先軍政治」を転換したかどうかも定かでない。新たな政策を展開するにせよ、成果が上がらねば深刻な反動や副作用が出る。
 金正恩体制の行方は、なお慎重に見極める必要がある。

2012年9月25日火曜日

日中40年―交流の窓は閉ざすな

 日中の国交正常化40周年を記念する式典が、事実上中止になった。尖閣諸島をめぐる関係悪化を受けた中国側の決定だ。
 事態打開のきっかけになればという期待もあっただけに、非常に残念だ。
 式典は1972年9月29日の正常化を記念し、節目の年に開かれてきた。中止は初めてだ。日本政府が尖閣購入で「記念の雰囲気を壊した」のが理由という。中国は激しい対日批判を続けており、国家指導者が日本との友好をうたう局面ではない、という判断だ。
 中国の強硬姿勢は、経済、文化、スポーツといったさまざまな分野にまで及んでいる。
 日中経済協会(会長=張富士夫・トヨタ自動車会長)は、25日に出発予定だった訪中団の派遣を、前日になって延期した。要人との会見や、政府機関への表敬訪問を断られたためだ。
 例年は首相や副首相らが会見しており、日中の経済的なつながりの太さを象徴する意義深い訪中団だった。
 また、国交正常化記念事業の日本側事務局によると、中国で近く予定されていた行事は軒並み中止になっている。
 自治体や民間などが企画した事業を記念行事として認定しているが、認定の申請は初めは低調だった。日中関係を揺るがす出来事が相次いだためだ。
 河村たかし名古屋市長による南京虐殺の否定や、新疆ウイグル自治区からの亡命者組織による「世界ウイグル会議」の東京開催には中国が強く反発した。一方、中国の海洋監視船が尖閣付近の日本領海に侵入し、日本の国民感情を刺激した。
 関係者は気をもんだが、春以降に申請が増え、計600件以上になっていた。それだけに、中止にはやり切れぬ思いだ。
 日中は、歴史問題など政治的に難しい要素も抱えている。そんな両国の関係を支えたのは、今や年間貿易総額が約3450億ドル(約27兆円)に上る経済関係であり、人的交流だった。中国は、先人が積み重ねてきた努力を無にしてはならない。
 朝日新聞が8~9月に行った日中世論調査では、関係がうまくいっていると思わない人が日本で90%、中国で83%だった。相手国が嫌いという回答は日本で38%、中国で63%あった。深刻に受け止めるべきだ。
 中国は、式典にあわせて用意していた日本の友好団体代表と中国要人の会見はそのまま行う構えだ。国連総会での外相会談も模索されている。かろうじて残ったパイプを生かし、本来の交流の再開につなげたい。

民主党人事―これで政治が動くのか

 民主党代表に再選された野田首相が、新しい党役員人事を決めた。
 党の要の幹事長には輿石東氏を再任する。政調会長に細野豪志環境相、幹事長代行に安住淳財務相をあてる。
 原発事故の処理に取り組んできた細野氏は、マニフェストをまとめ、国民向けにアピールするねらいだ。厳しい国会運営を強いられるなか、国会対策に通じた安住氏の起用もわかる。
 首をかしげるのは輿石氏を再任させたことだ。
 首相は、社会保障と税の一体改革をめぐる民主、自民、公明の3党合意を「着実に進める態勢をつくった」と説明する。
 だが、額面通り受け取ることはとてもできない。
 輿石氏は、一体改革関連法の成立の際に3党首間で合意した「近いうち」の衆院解散について「こだわる必要はない」と発言して野党の不信を買った。
 先の国会に、複雑な衆院の選挙制度改革法案を提案したのも、最高裁から違憲状態を指摘されている「一票の格差」の是正を遅らせ、解散を先送りするためと疑われている。
 輿石氏の再任について、自民党などからは、さっそく反発が出ている。
 これで3党の協力関係を維持し、社会保障制度改革を具体化できるのか。はなはだ疑問だ。
 支持率が低迷する民主党では早期解散反対論が大勢だ。離党を表明する議員が相次いでおり、衆院はあと6人で過半数を割り込む。
 首相としては、これ以上、離党者が出ぬよう、解散に慎重な輿石氏をとどめた。そうみられてもしかたあるまい。
 いま国会が最優先で取り組むべきは、赤字国債法案や一票の格差是正といった懸案を速やかに処理することだ。
 だが、解散から逃げるばかりでは野党の協力を得られず、秋に臨時国会を開いても空転しかねない。
 社会保障の国民会議の立ち上げなど、一体改革の肉付けも進まないだろう。
 政権維持と解散先送りのために政治を停滞させるとしたら、本末転倒もはなはだしい。
 今週の自民党総裁選後、首相は自民、公明両党に党首会談を呼びかけるという。
 首相に求めたい。
 その際、3党合意を堅持することを再確認するとともに、輿石氏ら執行部にもその方針を徹底することを約束するのだ。
 首相の指導力で3党の信頼関係を築き直す以外、政治を前に進める道はない。

液化天然ガス 官民連携で高値買い是正せよ

 火力発電所の燃料となる液化天然ガス(LNG)の輸入が急増し、価格も急騰している。官民連携を強め、安価での調達を目指さねばならない。
 日本、韓国などの消費国と、カタールなど生産国による初めてのLNG会議が東京で開かれた。
 日本のLNG輸入量は世界1位で、全生産量の3割を輸入する。東京電力福島第一原子力発電所事故後、原発の代替電源として火力発電の依存度が一層高まった。
 事故前のLNG輸入額は年3兆円程度だったのに、今年は約6兆円に倍増する見通しだ。
 電力会社の発電コストが上昇し、料金に転嫁されると、産業や国民生活に打撃を与えよう。
 懸念されるのは、その輸入価格が北米での天然ガス価格の約6倍にも急騰していることだ。
 アジアのLNG価格は、原油価格に連動する仕組みで、原油高につられているのが一因だ。日本は今回の会議で現行方式の見直しを訴えたが、持ち越された。
 日本に次ぐLNGの輸入国・地域は、韓国、台湾、中国、インドで、アジア勢の総輸入量は世界生産量の6割を超える。
 韓国などと結束して生産国に迫り、新価格決定方式と価格引き下げを実現することが重要だ。
 生産国側との価格交渉も、1社単位ではなく、電力会社やガス会社など多数の企業が連携して行う方法を併せて検討してほしい。
 日本が原発を再稼働できず、政府が原発ゼロ方針を打ち出したことで、生産国から足元を見られ、「ジャパンプレミアム」という高値買いを強いられている。
 この状況を改めるためにも、政府は安全性が確認できた原発の再稼働を急ぐ必要がある。電源バランスを考慮しないと、LNGの価格交渉でさらに不利になろう。
 米国などでは、地中深い岩盤に含まれる天然ガスのシェールガスが新技術で採取されている。埋蔵量は膨大で、将来、市場の需給緩和につながる可能性が高い。シェールガス革命と言われる。
 日本の大手商社などが米国でのシェールガスの開発権益獲得に動き出したのは期待できる。巨額な開発資金を政府も支援し、安定調達できる体制を整えるべきだ。
 ただし、米国政府はLNG輸出先について自由貿易協定(FTA)の締結国を条件としている。
 FTAの拡大版である環太平洋経済連携協定(TPP)での米国の方針は不明だが、日本は将来に備え、TPP参加を早期に表明して有利に交渉する必要がある。

いじめ問題 悪質な行為には厳しい処置を

 深刻ないじめが相次いで表面化している。
 教師は、いじめの早期発見のため、子供が発するサインを見逃さないことが大切だ。
 埼玉県川越市で今年1月、市立中学2年の男子生徒が同級生から暴行され、意識不明の重体となった。この生徒は入学時から常習的ないじめを受けていた。
 兵庫県川西市では今月、県立高校2年の男子生徒が自殺した。やはり同級生からのいじめがあったことが明らかになっている。
 いずれも学校はいじめを見抜けなかった。子供たちの命が脅かされるまで適切な対応がとられなかったことが残念でならない。
 文部科学省の調査によると、昨年度に全国の小中高校などで認知されたいじめは7万231件だった。前年度より7399件減少し、現在の調査方法になった2006年度以降では最も少ない。
 しかし、この結果を額面通りに受け取る訳にはいかない。川越市や川西市のケースのように、学校側の実態把握に甘さがあるからだ。滋賀県大津市の市立中学2年生が自殺した事件は、その典型と言えるだろう。
 いじめ問題の対応では、加害生徒らを粘り強く指導し、解決に導いていくことが求められる。
 それでも、いじめがやまず、指導の限界を超えるような場合には、学校側が厳しい処置をとることが必要だ。
 その一つが、加害生徒への出席停止措置の活用である。
 公立小中学校の場合、児童・生徒の出席停止は、学校教育法に規定されている。これまでも、教育再生会議がいじめ対策として、積極活用を提言している。
 しかし、過去5年間にいじめを理由にした出席停止は11件にとどまり、昨年度はゼロだった。
 一方で、昨年度にいじめを受けて転校した小中学生は353人にのぼる。加害者が被害者を学校から追い出す結果になっているのは問題である。
 警察への通報もためらうべきではない。文科省も、今月まとめた「いじめ総合対策」に、警察との連携強化を盛り込んだ。
 学校現場には、加害生徒に対する教育的な配慮から、警察との連携に消極的な傾向が残る。
 だが、いじめは相手の尊厳を無視した違法行為である。殴ったり、金品をたかったりするのは、暴行罪や恐喝罪に該当する。
 授業の中で社会のルールを教え、「なぜいじめが許されないか」を理解させることが肝要だ。

2012年9月24日月曜日

教育委員会―動ける組織に作り直せ

 教育委員会は、本当に要るのか。大津市のいじめ自殺事件を機に、批判が高まっている。

 遺族の訴えを十分聞かず、調査を中途半端に打ち切った。市民の感覚からかけ離れている。何の役に立っているのか――。

 制度が形骸化していることは否めない。しかし、性急になくせば失うものは大きい。議論を尽くし、きちんと機能する組織に仕立て直すべきだ。

 教委は、委員会と事務局からなる。住民代表たる教育委員が合議で方針を決め、職員らの事務局が実務を行う。委員会は首長から独立した権限を持つ。

 教育が政治の言いなりになった戦前の反省から、そんな「素人統制」の仕組みが作られた。

 しかし、現実は設計図通りではない。委員は非常勤で、5人前後。会議は月1~2回。そこへ学校教育、スポーツ、文化財と、あまたの議題が押し寄せる。委員たちは事務局案を追認するのが関の山だ。

 事務局は教員出身者が多く、住民より学校の声を優先しがちだ。市町村の半分は議事録すら公開していない。住民軽視と見られて当然だ。大津の事件はこうした欠陥をあらわにした。

 もともと各地の知事や市長の間には制度の見直し論がある。

 今年に入ると、教育目標は首長が決めるという大阪府と市の基本条例が成立。愛知県や静岡県も有識者の検討会を作った。

 事件後はさらに同調する首長が増えた。日本維新の会は政策集で「廃止」と踏み込んだ。

 少し立ち止まって考えたい。

 委員会をなくせば事件や不祥事がなくなるわけではない。むしろ首長や事務局が道を誤った時の歯止めを失う。

 肝心なのは、きちんと機能する委員会に改めることだ。

 保護者や子どもの意見やSOSを聞く。住民目線で事務局の仕事を点検し、おかしければもの申す。学校選択制を取り入れるかどうかといった意見の分かれる大きなテーマを議論する。

 住民が委員会に期待するのはこの三つの役割だろう。

 これに専念してじっくり議論できるよう、まずは仕事の仕分けをしてはどうか。スポーツや文化財、公民館などは他の部局に任せ、委員会は学校教育に専念する。事務的な案件は委員会にかけない。それでも時間が足りないなら、委員長くらいは常勤化を考えるべきだ。

 不信の根にあるのは「誰のために働いているか」ということだ。委員会は学校ではなく、住民の代弁者だ。委員の公募や住民推薦を増やすなど、この原点に返る工夫が求められる。

労働契約法―非正規の改善へ活用を

 パート労働などの非正規雇用は、いまや働く人の35%にのぼる。正社員との格差を縮小し、賃金や待遇を底上げするため、新しい労働契約法を有効に活用すべきだ。
 大手スーパーのイトーヨーカ堂が今後3年で、正社員約8600人を半減させ、パートを約6800人増やす方針を打ち出した。安売り競争で低迷する業績を立て直すためという。
 社員に占めるパートの割合は8割弱から9割に高まる。パートは時給制で、半年契約を更新しながら働く。
 それだけ見ると、低い賃金で不安定な雇用が、またじわりと広がった印象を与える。
 ただ、先の国会で成立した改正労働契約法は、この風景を変える可能性がある。
 有期から無期への雇用転換を促すこの法律は、かえって「雇い止め」を誘発する懸念も指摘されている。だが、注目すべき点もある。「有期であることを理由に、無期雇用の社員との間で不合理な格差があってはならない」と決めたことだ。
 正社員との待遇の差について「仕事内容が、このぐらい違うから」と説明する責任を会社側が負うと解すべきだろう。単に「パートだから我慢して当然」との姿勢は通用しなくなる。
 ヨーカ堂の場合、パートを増やすのは、高齢化する顧客にきめ細かい接客サービスをするのが狙いという。安値だけでない価値を実現し、収益力を上げる責任を、これまで以上にパートに担ってもらうわけだ。
 であれば、それに見合った処遇や、意欲と能力を引き出す昇進などの仕組みが必要になる。
 法律の施行は来春になる見通しだ。それまでに各企業の労使は、不合理な格差の有無をチェックし、是正に向けた話し合いが求められる。
 この動きは、正社員の働き方にも影響する。パートなど非正社員との間で、身分の違いではなく、仕事の違いで処遇を決める流れを後押しするからだ。
 ただ、単に正社員の待遇を引き下げ、雇用保障を弱めるだけでは、社会が不安定化する。
 正社員の年功序列型賃金は、年齢とともに増える生活費をまかなうためのものだった。その代わり政府は、子育てや住宅などの分野で、公的サービスを拡充せずにすんだ。欧州の福祉国家との違いである。
 仕事に応じた賃金になれば、家族を含めた生活に十分な額となるとは限らない。基礎的なサービスは社会で面倒をみる仕組みを、同時並行でつくりあげていくことが不可欠だ。

輿石幹事長再任 「近いうち」の真意が問われる

 あまりに「内向き」な人事ではないか。
 民主党代表に再選された野田首相が、輿石東幹事長に再任を要請し、輿石氏も受け入れた。
 幹事長人事は、首相の政権運営の新たな方向性を示すメッセージだ。
 輿石氏には、党分裂を招いた責任が問われ、交代説が出ていた。幹事長は国政選や国会運営を仕切る要職なのに、首相との路線の違いが目立ったこともある。
 だが、代表選で「反野田」票を投じた国会議員の中に離党の動きがあることから、昨秋、「党内融和」の象徴として幹事長に起用した輿石氏の再任が望ましい、と首相は判断したのだろう。
 衆院で10人前後が離党すれば、民主、国民新両党は「少数与党」に転落し、政権運営が立ち行かなくなるからだ。
 しかし、これでは、代表選でも指摘された「責任を取る文化」とは程遠い。
 さらに見過ごせないのは、輿石氏が先の通常国会で、党の分裂回避を優先するあまり、社会保障と税の一体改革や衆院選の「1票の格差」是正に一貫して後ろ向きだったことだ。
 輿石氏は、民自公3党首が合意した「近いうち」の衆院解散・総選挙についても、「『近いうち』にこだわる必要はない」などと公然と軽視する発言を行い、自公両党の強い批判を招いた。
 輿石氏は、衆院選の時期について、来年夏の衆参同日選を持論としている。民主党内では、苦戦が予想される衆院選の先送り論が大勢の中、「近いうち」が、ないがしろにされないか。
 輿石氏の再任について、自民党幹部は「怒りを通り越してあきれた」などと反発を強めている。公明党の山口代表も、「解散回避が目に余るようなら、かえって墓穴を掘る」と指摘している。
 衆参ねじれ国会とはいえ、民主党は、政権党として、政治を前に動かす一義的な責任を負っていることを自覚すべきだ。
 「党内融和」の名の下に、3党の協調路線を軽んじるようでは、野党の協力が得られず、「決められない」政治が今後も続く。
 秋の臨時国会では、赤字国債発行を可能にする特例公債法案の成立や「違憲状態」を解消する衆院選挙制度改革が待ったなしだ。
 野田首相は、26日に選出される自民党の新総裁との党首会談で、一体改革をめぐる3党合意の再確認に加え、重要政策の基本的な方向づけを行う必要がある。

基準地価 加速する被災地の「二極化」

 地価底入れの兆しはあるものの、東日本大震災の爪痕が残っており、先行きは不透明だ。
 国土交通省が7月1日時点の基準地価を発表した。住宅地が21年連続、商業地も5年連続で下落したが、下落率はともに前年より縮まった。
 東京など3大都市圏の下落率は住宅地、商業地いずれも0%台へ縮小し、横ばい状態となった。
 超低金利や住宅ローン減税などの政策効果で、住宅需要が高まったことが要因だ。今春開業した東京スカイツリー周辺のように、大型商業施設や再開発が地価上昇の追い風になった地域もある。
 ただし、全国2万か所の調査地点のうち、地価が上昇したのは658地点で、全体の3%に過ぎない。都市部に比べて、地方の回復は遅れている。
 地価が本格的な上昇局面を迎えるまで、なお時間がかかるのではないか。政府は今後の動向を注視する必要があろう。
 気になるのは、大震災や原発事故の被災地で、地価の二極化が強まっていることだ。
 津波によって被害を受けた沿岸部と、原発事故の影響が深刻な福島県などは特に下落が目立つ。一方、被災者の移転需要で高台は軒並み大幅に上昇した。
 住宅地で上昇率が全国一だったのは、岩手県陸前高田市内にある高台だ。上昇率の全国上位10地点を岩手、宮城両県が独占した。
 地価の急上昇は、被災者の住宅再建に悪影響を及ぼしかねない。近隣の限られた宅地に需要が集中し、値上がりに拍車がかかれば、自治体は復興計画に必要な用地買収を迅速に実施できなくなる。
 自治体が手間取っている間に、民間事業者が先行し、用地を取得するケースもあるという。
 政府と自治体は連携し、復興事業を急がねばならない。投機的な売買を招かないよう、土地取引の監視を強めることも必要だ。
 今回の基準地価には、災害に対する住民の警戒感が反映している点も見逃せない。
 大震災の被災地にとどまらず、和歌山県や高知県などの沿岸部でも下落が目立つ。南海トラフ巨大地震などの津波被害が懸念されているためだろう。
 大震災の教訓は都市部にも浸透している。耐震性に優れたオフィスビルが集まる地域は、地価が持ち直し傾向にある。
 「安全性」は全国で不動産の新たな評価基準になっている。地域の防災機能を強化することが、地価の本格回復にもつながろう。

2012年9月23日日曜日

政治家と選挙―いいのか政党乗り換え

 政党とはなんだろう。そう考えさせられるようなことが、また起きている。
 民主、自民の2大政党の党首選のさなか、両党の比例区選出の衆院議員2人がそれぞれ離党し、新党「日本維新の会」に合流する意向を示した。
 これで、維新の会に参加する見通しの国会議員は民主、自民、みんなの3党の9人になった。このうち、6人が衆院と参院の比例区選出だ。
 参院比例区では候補者名の投票もできるが、基本的に政党への投票だ。そこで当選した国会議員が、ほかの党に移ることが許されるのか。
 そう思う人も多いだろう。この疑問には、維新の会を率いる橋下徹大阪市長が、ネット上でこう答えている。
 「日本維新の会は新党なので、政党間移動にはあたりません。比例議員が新党をつくるのは許されています」
 その通りである。00年の国会法改正で、比例区選出の議員が別の党に移ることが禁じられた。一方、その議員が当選した選挙の時にはなかった新党への移動は許されている。
 ただ、いくらルール違反ではないといっても、みずから一票を入れた政党を踏みにじるような国会議員のふるまいに、釈然としない有権者も多いのではないか。
 新たに維新に合流するという民主党議員は、野田首相の社会保障と税の一体改革の進め方を「評価できない」と語る。
 維新の会が掲げる「八策」には共感できる、23日に予定されている維新の会の公開討論会で意見をぶつけてみたいという。
 だが、どう言葉を連ねても、結局は近づく選挙を前に、人気の高い維新の会という看板に飛びつこうとしている。そう見られてもしかたあるまい。
 それは、選挙区選出の議員にしても、同じことだ。
 維新の会に対し、既成政党からは「選挙互助会だ」という批判が出ている。
 もっとも、民主党をふくめ離合集散を繰り返してきた日本の政党史を振り返ると、多くの新党にそうした側面があったことは否めない。
 党員を集め、綱領や政策を練り、政治家を育てていく。政党がこうした地道な努力を怠ってきたから、議員は党首に「選挙の顔」の役割ばかりを求めたがる。所属する政党が劣勢と見るや、さっさと新しい政党に乗り換えていく。
 こんなことでは、政党はますます弱り、政治が細っていくばかりだ。

住宅政策―「中古重視」に本腰を

 住宅の購入は「人生最大の買い物」と言われる。2014年4月からの消費増税が決まり、それまでに決めようと検討し始めた人も多いだろう。
 ただ、経済の低迷で多額の住宅ローンを抱えるのは不安だ。となれば、価格が手ごろな中古住宅への関心も高まる。
 「新築から中古へ」という課題に本格的に取り組む好機ではないか。中古住宅に関する情報を充実させ、税制でも中古に重点を置いた優遇措置で後押ししてはどうだろう。
 わが国の住宅政策は長年、新築の促進が中心で、景気対策の柱にも位置づけられてきた。「造っては壊し」を繰り返してきた結果、住宅の寿命は30年弱と英米の半分にも満たず、計画的な街づくりを妨げている。
 人口が減り始め、深刻になってきたのが空き家問題だ。国土交通省によると、住宅の総戸数は5700万戸を超え、世帯総数を700万余も上回る。
 核家族化や単身世帯の増加で伸び続けてきた世帯数も近く減少に転じる見通しで、「家余り」に拍車がかかる。放置された空き家が景観や治安、防災を損ねる問題は、都市部を中心に待ったなしの課題だ。
 国交省は今春、「中古住宅・リフォームトータルプラン」をまとめた。「新築中心からリフォームによるストック(資産)の活用へ」と、政策の転換をはっきり打ち出している。
 中古住宅への消費者の不安をどう和らげるか。それが最大の課題だ。「欠陥があるのでは」「相場より高くないか」という声は、新築より強い。
 住宅ごとに設計・施工記録を残す仕組みや性能表示、売買価格情報の提供、売買やリフォームに伴う保険など、中古住宅に関する制度はひと通りそろってはいる。
 ただ、登録物件数をはじめ情報が乏しく、制度自体が知られていない。国交省のプランも改善の必要性を強調するが、どこをどうテコ入れするべきか、具体的に詰めてほしい。
 税制上の工夫の余地は大きい。住宅ローン残高の一定割合を減税する制度で、新築より中古を優遇してはどうか。耐震やバリアフリー、省エネのリフォームを促す税制を手厚くすれば、優良な中古物件も増える。
 65歳以上の夫婦や一人暮らし世帯の持ち家の6割近くが100平方メートル以上あるなど、「住宅のミスマッチ」は手つかずのままだ。既存の住宅を手直しし、世代ごとにふさわしい住宅を引き継いでいく。それが成熟社会の賢い暮らし方だろう。

中国威圧外交 リスク増大で日本の投資減も

 日本の尖閣諸島国有化に反発する中国各地の反日デモは、ほぼ沈静化した。
 だが、中国の威圧外交が強まっていることは問題である。
 中国当局は、満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となる18日を最後に、北京でのデモを禁止した。
 一部が暴徒化したデモを容認し続けると、社会の安定が揺らぐと警戒したようだ。
 懸念すべきは、胡錦濤国家主席ら首脳の強硬発言が相次いでいることだ。温家宝首相は、欧州連合(EU)との首脳会談が開かれたブリュッセルで、尖閣諸島国有化に言及し、「有力な措置を講じなければならない」と述べた。
 近く開かれる共産党大会で胡氏のポストを引き継ぐ習近平国家副主席も、「日本の一部勢力は過ちを繰り返し、島購入という茶番を演じた」と発言した。
 日本には絶対に譲歩しない、という決意を示したのだろう。
 しかし、中国での事業リスクを日本企業に痛感させたことは、中国側にもマイナスではないか。
 反日デモで襲撃された企業の一部の工場再開は遅れている。中国側が損害賠償する姿勢は見えず、日本の損保業界は被害企業への保険金が約100億円にも上ると試算した。いずれ各社の保険料も値上がりしかねない。
 広東省などの日系工場で、賃上げを要求するストライキが頻発していることも憂慮される。
 経済界で「対中投資は慎重にならざるを得ない」と警戒する声が続出しているのは当然である。
 日本企業は中国を「世界の工場」と重視し、投資を増やしてきた。昨年の投資額は前年比50%増の63億ドルに達し、26%減の30億ドルにとどまった米国と対照的だ。
 こうした積極的な投資が、中国の雇用と景気を支えている。日系企業による中国での雇用者は数百万人に達するとも推計される。
 過激な反日デモは、長年培ってきた日本との協調関係も踏みにじったことになる。
 日本企業の対中投資には急ブレーキがかかり、代わって、ベトナムやタイなどアジア他国への投資が増える可能性が大きい。
 中国経済は輸出減などで景気減速が止まらず、今年の実質経済成長率は8%を割りそうだ。日本企業の投資戦略によっては、一段の景気の下押し圧力となり、雇用にも悪影響を与えるに違いない。
 中国政府は、対日強硬姿勢を改めないと、自国にも不利になって跳ね返る恐れがあることを自覚すべきだろう。

人権委設置法案 理解に苦しむ唐突な閣議決定

 問題点が多い法案の閣議決定を、国会閉会中になぜ急ぐ必要があったのか、理解に苦しむ。
 政府が、新たな人権救済機関を設けるための人権委員会設置法案を閣議決定した。
 藤村官房長官は「次期国会への提出を前提に法案内容を確認するものだ」と説明する。
 不当な差別や虐待を受けた被害者の救済は重要だ。だが、この法案については、人権侵害を理由として、通常の言論や表現活動まで調査対象になるのではないか、との懸念から、反対論が根強い。
 民主党は人権救済機関の創設を政権公約に掲げてきた。唐突な閣議決定は、次期衆院選を意識し、公約違反との批判をかわす思惑があるのだろう。
 人権救済機関を巡る法案は、小泉内閣時代の2002年にも人権擁護法案として国会提出された。その際は、調査拒否に罰則を科す点や報道機関への取材停止勧告を可能にする内容などが批判を浴び、最終的に廃案となった。
 今回の人権委設置法案は人権委の調査に強制力を持たせず、メディア規制条項も設けていない。
 それでも、なお、法案への疑問は消えない。
 最大の問題は、人権侵害行為の定義があいまいなことだ。
 法務省は「特定の人の人権を侵害する、民法や刑法に照らして違法となる行為」との見解を示している。だが、他人に対する批判的な言動が名誉毀損に当たるかどうかは、司法判断が分かれる微妙なケースも少なくない。
 人権委が恣意的に拡大解釈する余地を残せば、表現の自由の制約につながりかねない。
 人権委は、国家行政組織法上の「3条委員会」と位置づけられている。独立性が強いため、国会によるチェックが及びにくい点を問題視する声もある。
 政府は人権委を法務省の外局とする方針だ。人権委の地方組織として、全国の法務局や地方法務局の活用を想定しているからだ。
 しかし、刑務所や入管施設など、同じ法務省傘下の施設で起きる入所者への人権侵害に厳しく対処できるだろうか。
 児童や高齢者の虐待対策には、個別の法律が整備されている。また、現在でも法務省の人権擁護部門は、人権侵害を受けた人からの申告に基づき、毎年約2万件の任意調査を実施し、ほとんど救済措置がとられている。
 まずは、現行制度の改善を重ね、人権侵害救済の実効性を高めることが大切である。

2012年9月22日土曜日

野田首相が代表再選―早期解散へ、環境整えよ

 民主党代表選は、野田首相が大差で再選を決めた。

 政権交代から3年。民主党政権の歩みは曲折を重ねた。

 予算の組み替えで16.8兆円の新規財源を生み出すとしたマニフェストは破綻(はたん)した。消費増税を決めたことは評価できるが、3年前の総選挙では「やらない」と国民に約束していたことも事実だ。

 原発事故を受けて「2030年代の原発ゼロ」を掲げたことはよかった。一方で、財界などに批判されるや、閣議決定を断念したのは情けないかぎりだ。

 ■3党の枠組み維持を

 代表選で、首相が「最大の成果」と胸を張ったのが、民主、自民、公明の3党合意による社会保障と税の一体改革だ。

 政権が交代しても、安定的に維持できる社会保障制度をつくる。そのパートナーのはずの谷垣自民党総裁が総裁選に立候補できなかったことは、首相にとって誤算だったに違いない。

 それでも、総裁選に立った5候補は、それぞれ「3党合意は守る」と表明している。

 一体改革だけではない。政治を前に進めていくには、3党の協調態勢が欠かせない。

 先月、首相は谷垣氏、公明党の山口代表と「近いうちに信を問う」ことで合意した。党首どうしの約束は重い。

 もし首相が衆院解散をさらに先送りすれば、3党の信頼関係は完全に崩れるだろう。

 先の国会会期末、民主党の強引な国会運営や、自民党などによる首相への問責決議可決によって、赤字国債発行法案や衆院定数の是正法案などが廃案に追い込まれた。

 このままでは、次の国会でも同じことの繰り返しになりかねない。肝心の一体改革も空中分解する恐れさえある。

 ■消費増税に審判仰げ

 本来なら、衆院議員は4年の任期いっぱい仕事をするのが筋だ。とはいえ「動かない政治」を続けることが、国民にとって望ましいとは言えまい。

 早い時期に解散・総選挙に踏み切り、政治を動かす環境をつくる。政権の最高責任者として、首相はそのことを決断すべきときである。

 民主党内は解散反対論が大勢だ。代表選の前に、首相が解散時期を明示したら、みずからの再選も危うくなりかねない。その揚げ句、一体改革も頓挫したかもしれない。

 だが、そんな言い訳はもはや通用しない。

 何よりも、政権交代時のマニフェストを裏切る形で消費増税を決めた事実は重い。できるだけ早く国民の審判を仰ぐべきなのは当然のことだ。

 もちろん、総選挙をしても、それだけで政治が動くという保証はない。与野党が足を引っ張り合う政治がふたたび繰り返されるなら、迷惑を受けるのは国民だ。

 ■政治の悪循環を断つ

 次の総選挙を、そんな悪循環を断ち切る契機とする。そのために、首相に提案がある。

 自民党の新総裁が決まったら速やかに3党首会談を呼びかけ、次の3点を解散前に実行することで合意するのだ。

 (1)総選挙後も、一体改革の3党合意を堅持することを再確認する。社会保障をめぐる国民会議はただちに設置する。

 (2)秋の臨時国会で、赤字国債発行法案と、最高裁に違憲状態と断じられた衆院の一票の格差をただす「0増5減」の自民党案を成立させる。定数削減をふくむ選挙制度改革は、首相の諮問機関を設置して参院とあわせて検討をゆだねる。

 (3)衆参の多数派がねじれても合意形成ができる国会のルールづくりを、与野党で精力的に詰め、結論を出す。

 国民から不信の目を向けられているのは、民主党だけではない。既成政党全体の姿勢が厳しく問われていることを、自民党など野党も自覚すべきだ。

 注目されるのは、自民党総裁選に立候補している石破茂・前政調会長が、赤字国債発行法案を「政争の具に使うべきではない」と語っていることだ。

 まず自民党が、次いで民主党が「ねじれ国会」に苦しんだ。そんな政治にはさすがに懲りたということだろう。

 赤字国債発行法案は、予算と一体で成立させる。国会同意人事は衆院の議決を優先させる。衆参の議決が異なる際に設ける両院協議会に、結論を出せる仕組みを導入する。

 与野党がこうしたルールで合意できれば、国会は動き出す。首相が1年ごとに交代する惨状も改善するに違いない。

 震災復興や原発事故への対応を進め、新しいエネルギー政策の計画をつくる。こじれた近隣外交の立て直しも急務だ。自由貿易の枠組みをどう築くかも結論を急ぐ必要がある。

 政治が答えを迫られている課題は目白押しだ。総選挙に向けて、各党は現実的で説得力ある公約を国民に問うべく、作業を急いでほしい。

野田代表再選 民自公党首会談で連携確認を

 ◆「離党」恐れて政策は定まらず◆
 数字上は大差だが、多難な前途を考えれば、ほろ苦い勝利でもある。
 民主党代表選で、野田佳彦首相が再選を果たした。原口一博元総務相ら他の3候補の獲得票は合計で全体の3分の1程度にとどまった。
 首相は、党分裂という犠牲も辞さずに、日本再生に不可欠な社会保障・税一体改革関連法を成立させた。今回の再選は、その民主、自民、公明の3党の協調路線が信任されたことを意味する。
 ◆信任された首相の路線◆
 野田首相は再選後、「笑顔が広がる国を、皆さんと一緒に造りたい」と、党の結束を呼びかけた。代表選の結果が出た以上、民主党は首相の下で団結すべきだ。
 残念なのは、肝心の政策論争が低調だったことだ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題で、野田首相は本来、「推進」の立場なのに、「関係国との協議が継続中」などと慎重な発言に終始した。「反対・慎重」の原口氏ら3人に、正面から論争を挑む場面はなかった。
 TPP参加に踏み込めば、さらなる離党者が出かねないと、首相は懸念したのだろう。しかし、政府としては参加の判断を先送りせず、早期にTPP交渉に加わるべきである。
 原子力政策では、首相は「2030年代の原発ゼロ」を掲げて、「ぶれない姿勢で、この基本方針の下、様々な政策を推進したい」と語った。原口氏らは「原発ゼロ」達成時期の前倒しを唱えた。
 4氏とも、「原発ゼロ」が経済や外交関係に与える悪影響や、核燃料サイクルとの整合性など、深刻な課題への対策をほとんど論じなかったのは問題だ。
 「脱原発」の旗を掲げれば、選挙に有利だろうという思惑ばかりが先行している。政権党として、極めて無責任な対応である。
 消費税率引き上げの低所得者対策でも、赤松広隆元農相と鹿野道彦前農相が軽減税率導入に言及したが、議論は深まらなかった。
 代表選を通じて重要政策を方向づける機会を逸したと言える。
 ◆政権運営は一層厳しく◆
 野田首相の今後の政権運営は、一段と困難になろう。
 「反野田」の国会議員票は計114票に達した。論戦では、鹿野氏に「民主党に責任を取る文化を」と提起され、原口氏にも「分裂を重ねた責任」を問われた。
 次期衆院選を少しでも有利に戦おうと、新党「日本維新の会」などへの合流を目指し、離党する動きが続く。衆院でも、10人程度が離党すれば、国民新党と合わせても過半数を割り、内閣不信任決議案を否決できない恐れがある。
 首相は、党内融和に配慮しながら困難な政策課題に取り組む、という綱渡りの対応を迫られる。
 重要なのは、民自公3党の協調路線を堅持することだ。衆参ねじれ国会である以上、3党の協力なしでは、法案は成立せず、政治は前に進まない。
 首相は、国連総会出席のため訪米する24日までに党役員人事の骨格を固める意向を表明した。最も注目されるのは、輿石幹事長が留任するかどうかだ。
 昨秋、輿石氏を幹事長に起用したのは、党内融和を重視する狙いだった。
 だが、輿石氏は一体改革法案審議など国会運営で再三、野党と衝突し、首相との路線の違いも表面化した。
 今回は、衆院解散戦略だけでなく、与野党協調をより重視した布陣が求められる。
 野田首相は、26日の自民党総裁選後、新総裁と党首会談を行い、一体改革をめぐる3党合意を再確認したい考えを示している。3党首間で、当面の重要課題について腹合わせをすることは大切だ。
 衆院選の「1票の格差」是正や赤字国債の発行を可能にする特例公債法案、補正予算の扱いについて率直に話し合ってほしい。
 ◆「0増5減」を先行せよ◆
 衆院選挙制度改革で、民主党は野党の反対を押し切って、連用制の一部導入を含む法案を提出し、混乱を招いた。こんないいかげんな対応は、もう許されない。
 野田首相は記者会見で、衆院定数の削減に意欲を示した。だが、衆院を解散するには、「違憲状態」を解消する小選挙区の「0増5減」の先行実施が現実的だ。
 3党首会談では、首相が約束した「近いうち」の衆院解散・総選挙も議題となる可能性が高い。
 首相は「問責(決議)という状況の変化がある」と解散先送りの可能性も示唆しているが、自公両党は早期解散を求める立場を変えていない。首相が一方的に約束を反故(ほご)にするのは難しいだろう。

2012年9月21日金曜日

追加金融緩和―成長につなげる回路を

 世界経済の減速に対応するため、日本銀行が追加の金融緩和に踏み切った。
 資産を買い入れる基金を10兆円拡大して80兆円とし、国債をその分、買い増す。市中に出回るお金を増やし、金利を押し下げて設備投資などの経済活動を刺激するのが狙いだ。
 日銀はこれまで景気を強気に見てきたが、欧州経済の悪化に加え、中国の景気減速もはっきりしてきた。このため、「日本経済が成長軌道を外れないように」(白川方明総裁)、手を打ったという。
 今月に入って、欧州中央銀行(ECB)と米連邦準備制度理事会(FRB)が相次いで緩和策を打ち出した。日銀が追随しないと、為替市場で円高が進むことを警戒した面もある。
 しかし、世界的な金融緩和も実体経済の成長につながる回路がなければ、投機筋を喜ばせるだけだ。余ったマネーが石油や穀物などの価格を高騰させ、かえって景気回復の足を引っ張りかねない。
 日本の優良企業は手持ち資金が潤沢で、金利が下がっても金融機関の貸し出しは伸び悩む。利ざやの縮小で、お金のない企業にリスクを取って融資するより、国債を買うほうが得という意識が広がっている。
 そもそも金利の低下で経済が刺激されるには、下がった金利でなら借金しても採算がとれると企業が判断できるようなビジネス環境が必要だ。新しい商品やサービスを、金融政策が生み出すことはできない。
 企業の投資意欲を高めるうえで、政治の役割は大きい。
 テレビや自動車に代表される既存の商品は需要が飽和しつつあり、医療や福祉など成長余力のある分野で規制や制度の改革を進めなければならない。
 なにより今の日本には、「新しい社会をつくる」ビジョンと政策が不可欠だ。
 その点で、脱原発と電力改革は格好のテーマである。思い切った政策転換で、電力市場への新規参入を促し、省エネ投資を活発化させ、スマートメーターのような次世代機器を普及させる。その経済効果はきわめて大きいはずだ。
 日米欧とも政治が有効な手を打てず、しわ寄せがすべて中央銀行に向かう構図は異様だ。
 ことに国の借金が突出して多い日本では、日銀が国債を買っても効果が出ないままだと、いずれ「財政赤字の尻ぬぐい」との疑念が深まり、国債相場が急落するリスクも高まる。
 成長に向けて政治が果たすべき役割を忘れてはならない。

原子力規制委 安全確認の基準作りを急げ

 東京電力福島第一原子力発電所の事故で失われた原子力安全行政への信頼回復が急務だ。
 19日に発足した原子力規制委員会と、事務局の原子力規制庁の責務は重い。
 複数省庁に分散していた規制部門を統合し、原発を推進する経済産業省などから分離させた。国家行政組織法第3条に基づく組織で、政治からの独立性も高い。
 まず求められるのは、個々の原発が十分に安全かどうか、技術的な知見に基づき、客観的かつ厳正に判断することである。
 田中俊一委員長と4人の委員で構成する規制委は、安全確認の判断基準作りや、検査体制の整備を早急に進めねばならない。
 国内の原発は、7月に再稼働した関西電力大飯原発3、4号機を除く48基が停止している。
 政府が設けた再稼働の暫定基準が原因だ。原発事故の教訓に基づき、政府は非常電源の強化など緊急安全対策を各原発に求めた。
 それに加え、「脱原発」派の菅前首相が持ち込んだ法的根拠のないストレステスト(耐性検査)まで実施させていた。
 30基の原発からテスト結果が提出されたものの、大半の審査は手付かずで、妥当性が判断されないまま規制委に引き継がれた。
 こうした中途半端な状況を解消する必要がある。
 田中委員長は記者会見で、「ストレステストは政治的なもの。それにとらわれない」と述べた。欧米でもストレステストは再稼働の条件になっていないことを考えれば、妥当な見解だろう。
 再稼働に向けて、防災体制を整え、これまでの安全対策に漏れがないか検証する姿勢を示したことも理解できる。
 問題は、基準作りと安全判断にいつまで時間をかけるかだ。
 北海道電力は、原発再稼働なしには冬の需給が厳しいと危機感を示すが、田中委員長は「年内は難しいのではないか」「電力需給は考慮しない」と述べている。
 無論、安全対策で見切り発車は許されない。だが、浅はかな「脱原発」の声に過度に配慮して判断を先送りし、停電により産業や市民生活に悪影響を与えれば、規制委の存在意義が問われよう。
 規制委は、福島第一原発の廃炉までの安全確保策や、原発の「原則40年廃炉」の検討など多くの課題を抱えている。
 規制委人事が国会同意を得ていないことに批判はあるが、着実に職責を果たし、実績を上げることが何より大切だ。

静岡原発条例―県民投票で再稼働問え

 浜岡原発再稼働の是非を問う県民投票を実現する条例案が、静岡県議会に提案された。

 市民団体が必要数の3倍近い16万余の署名を集め、川勝平太知事に条例制定を求めた。知事は県議会で「意思を表明し、県政に直接反映させたいという思いの表れであり、重く受け止める」と賛意を表明した。

 知事の判断を支持する。県議会は、再稼働をめぐる初の県民投票を実現させるべきだ。

 原子力のゆくえを地域の人々の意思で左右することには、反対意見も根強い。実際、東京都と大阪市で再稼働をめぐる投票の請求があったが、いずれも議会で否決された。

 原発が止まれば電気代が上がる。経済や雇用、安全保障など幅広い分野に影響が及ぶ。地域の人々がそこまで見越して判断ができるのか? 一時のムードに流されないか?

 住民投票にそうした限界がつきまとうという指摘は、必ずしも的外れとはいえまい。

 それでも意義は大きい。静岡県議会で、署名を集めた市民団体の5人の代表は、次のように説いた。

 「専門家や政治家に任せろといっても、彼らが危険性を軽視して事故になった。原発は先々の世代の生命や生活をも左右する。いま権力を握る人には背負いきれない重い問題だ」

 「事故が起きたら、結果は住民が受け入れざるをえない。真剣に考え、責任も引き受けることが、事故を経験した私たちの使命だ」

 選挙で代表を選ぶ間接民主主義を否定するわけではない。だが、代表に任せたらうまくいくとは限らない。生活に深くかかわるテーマで直接、民意を問うことは、その限界を補うことになる。投票する市民が当事者として悩み、判断することじたいに意味がある。

 条例案は投票結果の尊重を求めているが、法的な拘束力はない。川勝知事は「安全性が最優先だ。仮に9割の方が『原発を動かす』と言ったら、私は『いまは動かせない』という判断なので9割の方にご説明する。説明義務が大きくなる」という。

 現実は複雑だ。是か非かの二者択一で示される投票結果のとおりにならないことも起こりうる。それでも民意と向き合い、その末に下した結論について、次の選挙で審判を受ける。

 そんな政治と有権者の緊張関係が生まれてこそ民主主義は機能する。

 もし民意に縛られるのを嫌って聴かないなら、それは間接民主主義の奢(おご)りではないか。

日航再上場 課題も残したスピード再建

 経営破綻した日本航空が、2年7か月で東京証券取引所に再上場した。過去に例がない「スピード再建」だが、これからが本当の勝負である。
 日航は2010年1月に会社更生法の適用を申請し、翌月に上場廃止となっていた。取引初日の19日の終値は、売り出し価格を上回る3830円を付け、その後も順調な売買が続いている。
 予想以上のV字回復で、日航は世界屈指の収益を上げる航空会社に生まれ変わった。投資家はその企業価値を評価したのだろう。
 日航株のほとんどを保有する企業再生支援機構は、全株売却して6500億円を手にした。日航に出資した公的資金3500億円を全額回収した上、売却益も得た。2次破綻に陥らず、国民負担を回避できた点は歓迎できる。
 日航が短期間で再生した要因は、更生法適用で懸案だった高コスト体質を改善できたことだ。
 人員削減や不採算路線からの撤退など大規模なリストラを進め、12年3月期の営業利益は過去最高の2049億円に膨らんだ。法的整理による強制的な経営改革の効果は大きかったと言える。
 公的資金や銀行の債権放棄、法人税減免という官民の支援を受けた。それが巨額の利益を実現したことも忘れてはなるまい。
 今後求められるのは経営の自立である。格安航空会社の台頭などで競争が一段と激しくなる中、戦略が問われよう。
 日航は、アジアなどでの国際線の輸送能力を25%拡大するなど、国際線を成長の柱に据える。
 合理化戦略から積極攻勢に転じるのはいい。だが、破綻の一因となった無理な路線拡大や航空機材購入に走れば、「いつか来た道」に戻りかねない。
 現在の高収益に慢心せず、経営体力をいかに維持・強化できるかが成長のカギを握る。
 日航再建は、破綻企業への政府支援のあり方にも課題を残した。手厚い支援で復活した日航と、自力経営を続ける全日本空輸との間に格差が生じたためだ。
 12年3月期の税引き後利益は、日航が全日空の6倍に達し、13年3月期でも3倍以上の開きが見込まれる。日航の法人税減免はしばらく続く見通しだ。
 竹島一彦公正取引委員長が国会答弁で、「明らかに競争条件に大きな影響が出ている」との見解を示した意味は大きい。
 羽田空港の発着枠配分などを通じて、公正な競争環境の確保を検討することが求められよう。

2012年9月20日木曜日

脱原発政策―うやむやにするのか

 野田政権が、原発ゼロを目指す新しいエネルギー戦略の閣議決定を見送った。
 まことに情けない。
 新戦略は「原発ゼロ」を掲げながら核燃料サイクル事業を容認するなど、矛盾に満ちてはいたが、これでは肝心の脱原発までがうやむやになりかねない。
 閣議決定の見送りは、米国や経済界、立地自治体が原発ゼロに強く反対しているためだ。
 脱原発はきわめて大きな政策転換である。あつれきが生じないほうがおかしい。
 大事なのは、原発に依存しない社会に向けて、政治が原発維持派との折衝を含め、きちんと取り組んでいるか、私たち国民が監視していくことだ。
 折しも、きのう原子力規制委員会が発足した。
 原子力の推進と一体だった業界監視から、国民の命と安全の確保を第一義とする仕組みへ、規制のあり方を根幹から立て直す重い任務を担う。
 さっそく焦点となるのが、原発の再稼働問題である。
 ストレステストの実施や旧原子力安全・保安院が定めた30項目の安全基準、関係閣僚による政治決定といった暫定的な枠組みは、ご破算になる。
 いくつもの原発で、大地震や敷地内外の活断層が及ぼす影響が懸念されている。対象範囲を拡大した周辺自治体の本格的な防災対策もこれからだ。
 規制委は、純粋な科学的見地から、妥協を許さない基準づくりと審査を貫いてほしい。
 気になるのは、野田内閣が原発再開の可否をすべて規制委に委ねるような姿勢を示していることだ。
 たとえ規制委がお墨付きを与えたとしても、「絶対安全」は存在しない。原発のリスクがゼロにならない以上、再稼働は最小限に抑えるべきだ。
 どの原発を動かし、どの原発を止めるか。その判断は、安全性に加えて、電力需給などの観点からも検討すべきものだ。これは規制委ではなく、まさに政治の仕事になる。
 政府は具体的な指標づくりの場を設け、作業に入るべきだ。電力需給の検証のほか、地域を越えた融通の可能性、電気料金への影響などが検討の対象になる。国会議員有志が発表した「原発危険度ランキング」のような仕組みも参考になろう。
 野田政権は、新戦略を踏まえたエネルギー基本計画を閣議決定するという。
 ここで原発ゼロの目標を盛り込めないなら、民主党政権は国民から完全に見限られることを覚悟すべきだ。

オスプレイ配備―危うい「安全宣言」

 政府は、米軍の新型輸送機オスプレイの沖縄・普天間飛行場への配備にあたって、「安全性は確認された」と宣言した。
 これを受けて、米軍は、山口県・岩国基地での試験飛行をへて、10月中に普天間での本格運用を始める方針だ。
 だが、このままでは日米同盟はかえって危うくなる。沖縄県民の強い反発を考えると、そう危惧せざるを得ない。
 日米両政府で合意した安全対策は、たとえばこんな内容だ。
 低空飛行訓練は高度約150メートル以上、原子力施設、史跡、人口密集地を避ける。米軍施設・区域周辺では人口密集地を避け、海上を飛行する。回転翼から固定翼への「転換モード」での飛行は、時間を短くする。
 「可能な限り」とか「運用上必要となる場合を除き」といった留保が、たくさんついている。10月配備ありきで日米両政府が合意を急いだ、ととられても仕方ない。
 両政府はまた、今年起きた2件の墜落事故について、機体に不備はなく、人為ミスが原因だと強調する。それはわずかなミスでも墜落するということではないのか。不安は拭えない。
 政府は今後も、オスプレイの運用について米側と話し合っていくという。
 その際、忘れてならないのは、この問題の根っこにあるのは、普天間返還への道筋が一向に示されないということだ。
 これが解決されない限り、オスプレイ配備は、逆に日米安保体制のリスクとなりかねない。
 市街地のど真ん中にある普天間飛行場の周辺では、緊急着陸できる余地も少ない。小さなミスやトラブルでも、大きな被害につながりやすい。
 万一の事態など想定したくないが、仲井真弘多(ひろかず)沖縄県知事は事故が起きれば、全米軍基地の「即時閉鎖撤去」を求めると言っていた。そうなれば安保体制の致命傷になる。
 政府は一貫して、日米安保条約上、配備は拒否できないと説明してきた。問題がこじれると同盟がゆらぐといい、対日攻勢を強める中国を利することになるとの声も聞かれた。
 もちろん、日米安保体制は日本の安全に欠かせないし、日米同盟にヒビが入るのは望ましいことではない。
 だが、すでに沖縄では、問題はオスプレイの安全性という次元を超え、日米両政府への強烈な不信となって広がっている。
 これをくいとめるには、普天間返還の実現でこたえるしかない。日米両政府は、原点に戻って検討を急ぐべきだ。

原発ゼロ方針 「戦略」の練り直しが不可欠だ

 こんな決着では、「原子力発電ゼロ」を見直すのか、それとも強行するのか、あいまいだ。
 政府は、日本経済や雇用に多大な打撃を与えかねない「原発ゼロ」を明確に撤回し、現実的なエネルギー戦略を練り直すべきである。
 政府が、2030年代の「原発稼働ゼロ」を目指すとした「革新的エネルギー・環境戦略」の閣議決定を見送った。
 代わりに「戦略を踏まえて、関係自治体や国際社会と責任ある議論を行い、不断の検証と見直しを行いながら遂行する」という対応方針のみを閣議決定した。
 今回のエネルギー戦略には、経済界や原発立地自治体が反発し、原子力協定を結んでいる米国も強い懸念を示している。
 閣議前日の18日には、経団連、日本商工会議所、経済同友会の財界トップ3人が共同で緊急記者会見を開き、「原発ゼロ」の撤回を政府に求めた。
 経済3団体の長がそろって政府に注文をつける異例の対応をとったのは、「原発ゼロ」では電気料金が2倍に跳ね上がり、産業空洞化や大量の雇用喪失が避けられないという危機感からだ。
 太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及をはじめ、原発の代替電源を確保するメドは立っておらず、電力の安定供給が揺らぐ恐れもある。
 こうした懸念に配慮し、政府がエネルギー戦略をそのまま閣議決定しなかったのは当然である。
 ただ、古川国家戦略相は記者会見で「戦略の決定内容を変えたものではない」と説明した。「原発ゼロ」の方針を堅持しているともとれる発言は問題だ。
 経済界が猛反発したままでは、エネルギー戦略を円滑に推進できるはずがない。政府は、経済界の意見に真摯(しんし)に耳を傾け、関係修復を急ぐべきである。
 エネルギー政策は、目先の選挙目当てではなく、日本の将来を見据えた対応が求められる。
 自民党総裁選の全候補が、「原発ゼロ」の方針を打ち出すことに慎重な見解を示しているのは、妥当と言えよう。
 一方、民主党代表選の論戦で野田首相は、「(原発ゼロは)国民の覚悟だ。それを踏まえて政府も覚悟を決めた」と述べた。
 だが、「原発ゼロ」に伴う失業や貧困のリスクを理解し、苦難を受け入れる覚悟を固めている国民がどれほどいるだろうか。
 国策選択の責任を、国民の「覚悟」に丸投げするのは誤りだ。

オスプレイ配備 抑止力と安全性の両立を図れ

 在日米軍の抑止力の強化と訓練の安全性を両立させることが肝要だ。
 政府は、米軍の新型輸送機MV22オスプレイについて、「安全性は十分に確認された」と結論づける安全宣言を発表し、国内飛行を容認した。
 米軍岩国基地に一時駐機中のオスプレイ12機は、週内にも試験飛行を行った後、沖縄県の普天間飛行場に配備される。10月中旬に本格運用を開始する予定だ。
 安全宣言は、4月のモロッコと6月の米フロリダ州の墜落事故に関する日本独自の原因分析に加えて、日米合同委員会で具体的な安全確保策に合意したことを踏まえたものだ。日本側として安全策を追求した成果と評価できる。
 日米合意は、低空飛行を地上150メートル以上に限るほか、事故が起きた、垂直飛行から水平飛行に移行する「転換モード」を最小限にすることなどを盛り込んだ。
 米軍は当初、部隊運用の制限に反対し、日米協議は難航した。だが、日本の国内事情に配慮して譲歩し、政治決着したものだ。米軍が今回の合意を順守し、安全性の確保に努めるよう求めたい。
 沖縄、山口両県の関係自治体は政府の安全宣言にもかかわらず、配備反対の姿勢を変えていない。配備に地元の同意は不要とはいえ、安定した運用に向けて、政府には、地元への説明を尽くし、理解を広げる努力が欠かせない。
 そもそもオスプレイが極めて危険な航空機であるかのような見方は、誤解に基づく部分が多い。
 無論、航空機である以上、事故や故障は起こり得るが、最新の安全対策を講じており、老朽化したCH46輸送ヘリなど米軍の他の航空機より危ない、といった議論は合理的ではない。
 見過ごしてならないのは、オスプレイの優れた機能による在日米軍の抑止力の強化である。
 CH46より最大速力は2倍、搭載能力は3倍、行動半径は4倍となり、緊急時の海兵隊の機動展開・即応力が大幅に向上する。
 尖閣諸島をめぐる中国との軋轢(あつれき)が高まり、今後も中長期的に続く恐れがある中、日米の防衛協力を通じて、南西諸島の離島防衛や北東アジアの安定に貢献しよう。
 オスプレイの訓練は、沖縄だけでなく、本土の米軍・自衛隊施設でも行われる予定だ。航続距離が長く、空中給油もできるため、訓練の本土移転が可能になる。
 沖縄の基地負担の一部を本土が受け入れるとともに、日米連携を強める観点から推進すべきだ。

2012年9月19日水曜日

中国の姿勢―話しあえる環境を作れ

 日本政府の尖閣諸島購入への反発が強まるなか、満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となったきのう、中国各地で再び反日デモがあった。
 中国にとっては日本の侵略が始まった「国恥の日」で、混乱の拡大が心配されていた。
 一部で投石などがあったが、中国当局は厳しい警備を敷き、日系の店舗や工場が襲われた先週末のような大規模な暴徒化には至らなかった。
 当局は週末のデモで暴れた者を各地で拘束し、メディアを通じて暴力行為を戒めるなど、引き締めに乗り出した。
 これを機に、沈静化にかじを切るべきだ。
 「愛国無罪」との言葉が中国にはある。「愛国」であれば何をしても許される、という言い分だ。だが、先週末に起きたことは、暴力による破壊や略奪、放火だ。到底、正当化されるものではない。
 中国政府は、ある程度デモが荒れるのを容認していた節がある。しかし、暴徒化は中国のイメージを大きく傷つけたし、貧富の格差など、中国自身の矛盾に不満が向く可能性もあった。
 一方で、中国の海洋監視船や漁業監視船が尖閣付近の海域に現れ、一部が日本の領海への侵犯を繰り返している。漁船が大挙して目ざしているという情報もある。
 海洋監視部隊の高官は「中央の統一的精神に基づき、入念な準備、周到な配置によって」行動した、と新華社通信に話している。実力で尖閣の現状を変えようと、中国が一丸となって仕掛けている。
 日本の海上保安庁が警戒しているが、偶発もふくめて衝突がおきかねず、とても危険だ。
 これ以上、挑発的な行動に出ないよう、中国に強く求める。
 中国政府は日本に対し、「過ちを改め、交渉によって争いを解決する道に戻れ」と呼びかけている。だが、最近の中国の姿勢は、国会議員団の訪中のとりやめを求めるなど、対話の糸口さえ与えないものだ。
 日中を歴訪しているパネッタ米国防長官は、東京での会見で「日本と中国が良好な関係を保ち、事態の悪化を避ける道を見つけることが、みんなの利益になる」と強調した。
 その通りである。
 日本政府は「領土問題は存在しない」との立場だが、不毛な対立を和らげるために、互いにできることがあるはずだ。
 両国にはともに利益を図れる分野がたくさんある。まずは、腹を割って話し合える環境を、中国が作る必要がある。

原発と自治体―30キロ圏を基本に協定を

原発が立地する自治体に近接した市町村が、どこまで原発の稼働に関与できるか。
 原発周辺に位置する福井県内の四つの市町が、関西電力など3事業者に求めていた「立地自治体並みの原子力安全協定」が拒否された。

 原発事故が起きた場合の被害の広がりを考えれば、住民の安全にとって「立地」か「隣接」かの区別は、意味がない。

 原発の事業者は、近隣の自治体にも立地自治体並みの権限を認めていくべきだ。

 新たな協定を求めている4市町は、小浜市と若狭、越前、南越前の各町。関電や日本原子力発電、日本原子力研究開発機構の原発から30キロ圏内にある。

 だが、「立地」ではないため、今の協定は冷却水の排水状況や放射線の測定結果といった情報の共有程度にとどまる。

 4市町の要求に対し、事業者側は発電所内で状況を確認する権利や事故時の損害賠償を新たに明記する方針は示した。

 しかし、立地市町がもつ立ち入り調査権のほか、施設の変更や再稼働の際の事前了解についての権限は認めなかった。

 事業者にとって、締結する自治体が増えれば、再稼働のハードルがあがる。それを警戒してのことだろう。

 しかし、監視の目が二重三重になることは、もはや事業者が受け入れるべき責務と考えなければならない。

 「立地並み」の協定を求める動きは福井にかぎらない。

 北陸電力志賀原発(石川県)から30キロ圏内にある富山県氷見市は、志賀町並みの立ち入り調査権を認めるよう要請した。

 北海道電力泊原発では、周辺の16市町村が新たに安全協定を結ぶ方向だが、立地自治体と比べて不十分だとして一部の自治体から不満の声が上がる。

 電力会社によって安全協定の対象となる自治体や権限が一律ではないことも問題だ。

 国の中央防災会議は、地震と原発事故の複合災害を想定して防災基本計画を見直した。原発から8~10キロだった対策重点区域を30キロに拡大して、自治体や電力会社に対策を求める。

 そうであれば、安全協定も30キロ圏内の自治体を基本にして締結していくのが筋だ。

 きょう、原子力規制委員会が発足する。原発の安全審査のあり方は一から見直される。30キロ圏内の防災対策の進み具合も再稼働の条件となる見通しだ。

 規制委は原子力安全協定についても、事業者任せとせず、関係する自治体の権利に最大限配慮した指針を検討すべきだ。

反日デモ続く 対中感情の悪化を招くだけだ

 連日の過激な反日デモで、日本の対中感情は悪化するばかりだ。日中関係に大きな禍根を残すことを、中国政府はどこまで認識しているのか。
 満州事変の発端となった柳条湖事件から81年となる18日、中国各地で大規模な反日デモが行われた。日本政府の尖閣諸島の国有化に抗議するデモは、これで8日連続である。
 柳条湖事件のあった中国遼寧省瀋陽では、デモ隊の投石で日本総領事館のガラスが割られた。各地で日系企業への破壊行為が相次いだ週末に続く狼藉(ろうぜき)だ。
 中国政府は、過激な行動は抑えようとはしても、デモ容認の姿勢を変えようとはしていない。日系企業は工場の操業停止や店舗の休業に追い込まれた。日系企業や日本料理店で働く中国人も破壊行為の被害者だ。
 毛沢東の肖像画を掲げたデモ隊には、現政権下での所得格差拡大への強い不満もあるのだろう。単純な反日とも言い切れない。
 中国の対日圧力がさらにエスカレートすれば、日中間の緊張は一層高まろう。日本政府は不測の事態に備え、在留邦人や日系企業との連絡を密にするとともに、中国政府に対し、邦人と企業の安全確保を強く求めるべきだ。
 東シナ海に中国の漁船1万隻以上が出航し、尖閣諸島海域に約1000隻が到着すると報じられている。日本の実効支配を崩そうと、農業省の漁業監視船の護衛下で、日本領海内に入る恐れがある。
 中国の公船は、14日に続き18日も日本の領海に侵入した。海上保安庁の警戒監視は当分緩めるわけにはいかない。
 来日したパネッタ米国防長官は17日、玄葉外相と会談し、「日中関係が大きく損なわれないよう日米で協力する」との認識で一致した。日米両国がともに、中国側に冷静な対応と事態の早期収拾を粘り強く働きかける必要がある。
 日米両政府はまた、米海兵隊の新型輸送機オスプレイの沖縄県配備を進めることでも合意した。
 在日米軍の機能強化に取り組むことは、中国の抑制的な対応を引き出すことにつながるはずだ。
 中国政府は、国連に、尖閣諸島周辺海域を「領海」とする海図を提出した。さらに東シナ海で領海の基線から200カイリを超える大陸棚の延伸を求める申請案の提出も決定した。尖閣の領有権主張を強化しようとする動きだ。
 日本政府は、尖閣諸島が日本の領土であることを国際的にアピールしていかなければならない。

予算の執行抑制 国民生活への影響を回避せよ

 国家財政の資金繰りをあまりに安易に考えていないか。与野党は、一日も早く異常事態を解消しなければならない。
 政府が2012年度予算の執行抑制を始めた。赤字国債の発行に必要な特例公債法案が通常国会で廃案となり、歳入の4割に当たる38兆円の財源が確保できなかったためだ。本格的な執行抑制は戦後初である。
 特例公債法案は衆院解散を巡る与野党の駆け引き材料となり、成立のメドは立っていない。
 予算の執行先送りは、緊急措置としてやむを得まい。
 執行抑制策は、9月から3か月間、計5兆円の支出を見合わせる内容だ。道府県への地方交付税や独立行政法人向け補助金の支払いなどを延期する。
 地方交付税の支給延期で短期金利の上昇圧力が強まるなど、執行抑制は一時、金融市場にも影響を与えた。地方交付税を受ける自治体から見込んでいた預金が入らず、地域の金融機関が市場での資金確保に動いたからだ。
 今回の執行抑制策は、国庫が底を突く時期を1か月ほど先延ばしするだけである。
 法案が11月になっても成立しなければ、予算支出が集中する12月は乗り切れない恐れもある。さらなる執行抑制で、医療費や生活保護費などの支出が遅れると、国民生活への影響が広がろう。
 短期的な資金不足を補う財務省証券を発行する仕組みはあるが、財源不足を理由とする発行は財政法違反とされ、前例がない。
 財務省証券を発行すれば良いとして、与野党が法案成立を先送りするなら、責任放棄に等しい。
 自らの怠慢を棚に上げ、政党交付金は従来通り受け取り続ける、では国民は納得しないだろう。
 民主党内には、特例公債法案などが成立しないことを口実に、衆院解散先送りを画策する動きもある。次期衆院選で苦戦が予想されるからといって、「近いうち」の解散という、自民党との合意をないがしろにはできまい。
 特例公債法案は昨年も菅首相退陣の駆け引き材料に使われた。
 野田首相は、「法案を毎年人質に取られ、そのたびに内閣総辞職か解散を繰り返していたら、首相の寿命は全部1年だ」と述べた。衆参ねじれ国会で法案を扱う方策について、野党と「腹合わせ」したいとの意向を示した。
 首相の発言は理解できる。特例公債法案がこれ以上、「政争の具」とされないような制度や慣例を検討することが必要だ。

2012年9月18日火曜日

経済連携戦略―TPPが欠かせない

 東南アジア諸国連合(ASEAN)に日本など6カ国を加えたASEANプラス6が、貿易や投資の自由化を進める「東アジアの包括的経済連携協定」(RCEP)交渉に入る。
 野田首相はこれに加え、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)と、日中韓の自由貿易協定(FTA)の三つの交渉に並行して取り組むと強調している。
 だが、TPP交渉への参加表明は見送ったままだ。
 アジア太平洋地域の活力を取り込んで国内経済を立て直すには、経済連携のネットワークを広げることが欠かせない。
 経済連携交渉では、ある交渉での進展が別の交渉への刺激剤となる相乗効果が生じる。この点で、対象分野が広く、自由化のレベルが高いTPPがカギを握ることを忘れてはならない。
 この1年を振り返ろう。
 首相が「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と宣言したのは、昨年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議だった。
 それを受けて、日中韓3カ国でFTA交渉に向けた協議が始まった。対日貿易赤字を抱える韓国は消極的だっただけに、中国が積極姿勢に転じたことが大きかった。
 RCEPをめぐっては、ASEANに日中韓の「プラス3」を主張する中国に対し、中国の影響力を抑えたい日本は「プラス6」を唱えていたが、中国が譲歩した。
 いずれも、日本のTPPへの関心が中国に危機感を抱かせた結果とされる。
 むろんRCEPも日中韓FTAも、各国の利害がからみあって一筋縄ではいかない。日本と中国、韓国との関係が悪化している現状ではなおさらだ。
 しかし、だからこそ、TPPへの積極的な姿勢を示すことは経済的にも、外交的にも局面を打開する糸口になりうる。
 TPPには「実態がわからない」「農業や医療制度が崩壊する」など反対論が根強い。
 正確な情報を集めるためにも交渉に加わり、ルール作りに日本の主張を反映させる。そう粘り強く説得していくことが政治のつとめだ。

前科の扱い―改めて問う法曹の役割

 犯罪の前科がある人の周辺で同じような事件が起きた。本人は潔白を主張している。有罪か無罪かを判断するにあたり、前科をどう扱ったらいいのか。
 そんな問題が争われた裁判で最高裁は先ごろ、厳しい枠をはめる判決を言いわたした。
 前科にはっきりした特徴があり、かつ、新たな起訴内容と相当程度似ていて、それ自体で犯人が同じだと合理的に推認できる――。そうした条件がそろって初めて、前の事件に関する判決書などを証拠として用いることができると判断した。
 そして、盗みに入った家で灯油をまいて火をつけたとして起訴された男について、手口にそれほどの特殊性はないと述べ、昔の記録を裁判に持ちだすことは許されないと結論づけた。
 もっともな見解だ。
 前科を使った立証の危うさはかねて指摘されていた。この問題がいま、改めて注目される背景に裁判員制度がある。
 前科情報が普通の市民に与える影響は大きい。それによって事実の認定を誤ることがあってはならないと、慎重な配慮を求める声が高まったのだ。
 どんな証拠を、どういう形で裁判員に示すか。裁判官、検察官、弁護人の三者には、最高裁が示した枠組みを踏まえた十分な検討が求められる。
 判決はまた、これまでの裁判に反省を迫るものともなった。
 前科を知っても、訓練を積んだ裁判官は左右されない。そんな自信から、判断の物差しが緩くなってはいなかったか。今回の判決に対し、検察官や元裁判官の一部から「厳格すぎる」との声が出ているのは、問題ある立証活動が行われてきた証しと見ることができよう。
 たしかにプロには一日の長がある。だが「自信」が「過信」になっていたら怖い。前科を証拠に使うことを認め、被告が放火したとの心証を色濃くうちだした二審判決が、最高裁によって否定された事実は重い。
 予断や偏見から自由であることの難しさを自覚して、基本に忠実に裁判にとり組む。判決からくむべき最大の教訓は、そこにあるのではないか。
 前科の扱いだけではない。書面に頼らず、法廷でじかに見聞きしたやり取りを重視する。検察側の言い分に確信がもてない場合は、被告に有利に判断する。国民の司法参加によって、こうした刑事裁判の原則が再確認されつつある。
 証拠を適切に選び、平易なことばで説明し、間違いのない結論を導く。裁判員制度4年目。法律家の責務はいよいよ重い。

リーマン4年 世界経済の再生へ試練は続く

 リーマン・ショックから15日で4年過ぎたが、世界経済は低迷から抜け出せない。
 米欧の中央銀行が決めた追加策で活路を開けるだろうか。
 米連邦準備制度理事会(FRB)は、2008年と10年に続き、金融市場に資金を大量に供給する量的緩和策第3弾(QE3)を導入した。
 住宅ローンを担保にした証券を月額400億ドル(約3・1兆円)購入する内容だ。
 「2014年終盤まで」としていた事実上のゼロ金利政策についても、「15年半ばまで」に延長する方針を打ち出した。
 「切り札」とされる大胆な策に踏み込み、雇用増につながる景気浮揚を狙ったものだ。強い危機感に背中を押されたのだろう。
 このところ、米国の経済指標の悪化が目立つ。4~6月期の実質国内総生産(GDP)の伸び率は年率1・7%増に鈍化し、失業率は8%台に高止まりする。
 リーマン・ショック後、財政と金融政策が総動員された結果、米国経済はいったん持ち直した。だが、雇用悪化が止まらず、景気回復軌道に乗り切れない。
 政府が巨額の財政赤字を抱え、今は財政政策を発動しにくいことが4年前との違いだ。金融政策に頼るしかないが、雇用改善にどれだけ効果があるかは不透明だ。難しい(かじ)取りを迫られよう。
 米国以上に懸念されるのが、出口が見えない欧州債務危機だ。
 欧州中央銀行(ECB)は、財政悪化で信用不安に陥ったスペインなどの国債を無制限に購入する対策をようやく決めた。
 危機封じ込めへ、一歩前進だが、対応が後手に回ってきた欧州に求められるのはスピードだ。
 信用不安国の国債をECBと協調して買い取るユーロ圏の欧州安定メカニズム(ESM)の本格稼働を急いでもらいたい。スペインは速やかに支援を求め、独仏両国などが結束する必要がある。
 ただし、ECBやESMの支援は当面の猶予策に過ぎない。スペインや欧州危機の震源地であるギリシャなどは、抜本的な財政再建といった経済構造改革に取り組むことが不可欠である。
 リーマン・ショック後、世界経済を牽引(けんいん)した中国、ブラジルなど新興国の景気が急減速していることも不安材料だ。超円高は輸出産業に打撃を与え、日本の景気回復も足踏みしている。一段の円高を警戒しなければならない。
 世界経済の再生は道半ばだ。先進国と新興国が連携を強化する一層の努力が求められよう。

反米デモ 中東の不安定化を憂慮する

 イスラム教の預言者ムハンマドを侮辱した映像に抗議する反米デモが、中東やアジアの国々に広がっている。
 リビア東部ベンガジでは、米国領事館が襲撃され、米大使ら4人が死亡した。
 デモの混乱に乗じて、武装勢力がテロを実行したとの見方も強い。
 エジプトの首都カイロでは、デモ隊の一部が米大使館敷地内に乱入し、スーダンとチュニジアでも米大使館が襲われた。イエメンでは警察との衝突で死者が出た。
 反米デモの波は、インドネシア、マレーシアなどアジアのイスラム国にも及んでいる。
 問題の映像は、米国で作られた映画の要約版で、インターネットを通じて流れた。制作者やその意図は不明だが、宗教的対立をあおる行為だ。イスラム教徒が感情を害したのも無理はない。
 だが、そうであろうと、怒りにまかせた暴力的な破壊行為は許されるものではない。
 オバマ米大統領は、「われわれは他者の信仰を侮辱する行為を拒絶する」と述べた上で、「非常識な暴力は正当化できない」と米大使らへの襲撃を強く非難した。
 事態が早期に沈静化することを望みたい。
 懸念されるのは、過激派に限らず、中東の一般国民の間に反米感情が広がっている問題だ。
 根底には、米国の中東政策への不信、不満があるのだろう。
 オバマ大統領は就任後、イラク戦争によって対米感情が悪化したイスラム世界との関係改善に乗り出した。強権政治に立ち向かう「アラブの春」の改革を支持する立場を明確にしている。
 にもかかわらず、米政府とは無関係の映像を契機に反米デモが広がったことは、宗教上の問題に加えて反米感情の根深さを物語っている。オバマ政権の中東政策が機能していないとも言えよう。
 「アラブの春」で独裁体制が崩壊したエジプトなどの民主化は道半ばだ。それだけに、この反米デモが、中東の国々の内政にもたらす影響が気がかりだ。
 中東が混乱すれば、その影響は世界に及ぶ。
 米国が「太平洋国家」としていくら「アジア重視」を唱えても、相当数の兵力を中東に振り向ける事態になれば、日本の安全保障に制約が生じかねない。
 政府開発援助(ODA)などで中東諸国の経済発展を支え、政情の安定に寄与することは、原油輸入の8割強を中東に依存する日本にとっても重要である。

2012年9月17日月曜日

米金融緩和―「財政の崖」への対策を

 米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が、市場にお金を大量に出回らせる量的緩和(QE)の第3弾に踏み切った。
 8月の雇用増が農業以外の部門で目安の10万人を割ったことがFRBの背中を押した。
 住宅ローンを担保にした証券を、雇用が改善するまで期限を設けずに毎月400億ドル(約3兆円)のペースで買う。超低金利を続ける期間も延ばす。必要なら追加策を採る。
 長期金利を引き下げて、設備投資などを刺激し、雇用の底上げをはかる狙いがある。住宅ローン担保証券を買って金利を下げれば、米国経済の足を縛る住宅部門のテコ入れ効果も期待できると読んだようだ。
 バーナンキFRB議長は、金融政策の限界や過度な依存の弊害も語ってきた。リーマン・ショック後、これまで2度のQEでも、インフレ予想などでマネーが国債市場から株式市場に動き、株価は上がったものの、引き下げを狙った長期金利が逆に上がる局面があった。
 日本と同様、超低金利で利ざやが薄くなり、金融機関がリスクを負って企業に融資する意欲を失う問題も取りざたされる。FRBが国債や証券を抱えすぎると、景気回復期に資産が劣化する心配もある。
 今回のQE3もウォール街のはしゃぎぶりとは裏腹に、実体経済への効果には不透明感が漂う。政府と議会が担う財政分野で金融政策の効果を妨げる要因があるなら、なおさらだ。
 特に懸念されるのが「財政の崖」と呼ばれる問題だ。
 これは、年末年始に減税の期限切れや財政健全化のための自動的な歳出削減が重なるため、米国経済が失速しかねないことを指す。
 この衝撃を回避する見通しを早く示す必要がある。昨夏、連邦債務をめぐる大統領と議会の対立が米国債の格下げを招き、経済を混乱させた経緯を考えると、先行きがはっきりしないだけでも企業行動は萎縮する。すでに低い金利を無理してさらに下げようというQE3の効果も帳消しになりかねない。
 民主・共和両党は、景気と雇用を争点に大統領選で激突しており、政治的な妥協が難しいのは分かる。だが、そのために経済安定に最低限、必要な行動すらとれないのなら、本末転倒というほかない。
 両党は、減税の暫定的な延長などで猶予期間を確保し、選挙後の新体制下で円滑な解決を図ると早く約束すべきだ。大局に立った政治を見せてほしい。

日朝平壌宣言―この10年の轍を踏むな

小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問し、故金正日(キムジョンイル)総書記と日朝平壌宣言に署名してから、きょうでちょうど10年になる。
 拉致被害者5人とその家族は帰国した。とはいえ拉致事件の全容がわかったとはとてもいえず、核問題についての6者協議も中断したままだ。

 長い足踏みはもどかしいばかりだが、この間、大きく変わったことが一つだけある。金正恩(キムジョンウン)新指導部の発足である。

 日朝の政府間の本格的な協議が、近く4年ぶりに再開する見通しだ。これも新体制による変化の表れかもしれない。この機を逃さず、双方の努力で協議を軌道に乗せてほしい。

 10年前、北朝鮮が示した拉致被害者の「5人生存、8人死亡」という説明はあまりに痛ましかった。

 しかも、8人の多くが20代から30代で、死因にも不審な点があった。本当なのか、きわめて疑わしいものだった。

 それでも小泉首相が平壌宣言に署名し、国交正常化交渉を再開する決断をしたのは、北朝鮮との敵対関係を解消することが、日本の国益になると判断したからだ。

 宣言のポイントは3点だ。

 日本は植民地支配への謝罪を表明し、国交正常化後に経済協力を実施する。北朝鮮は日本人の生命にかかわる問題の再発を防ぐ。双方は核問題解決のため、関係国間の対話を促す。

 実現すれば、日本の戦後処理に大きな区切りがつく。なによりも、日本を敵視する隣国が核兵器やミサイルを開発しているという安全保障上の大きな懸念の解消につながる。

 だが、この10年、事態はほとんど動かなかった。

 拉致事件の衝撃は大きく、その後の真相解明の要求や核開発に対する北朝鮮の態度はあまりに不誠実だった。

 そのため、拉致問題以外のことを話し合う空気がなくなったことが、北朝鮮との交渉の幅をせばめてしまった面があるのは否めない。

 10年を区切りに、交渉のあり方をリセットしたい。

 平壌宣言の原点に立ち戻り、拉致問題、過去の清算、核・ミサイル開発などを包括的に話し合う。どれひとつでも脇に置いては、協議は進むまい。

 経済改革に取り組む正恩氏の新指導部に、対外開放を促すことも必要だ。北朝鮮も真摯(しんし)に対応すれば、やがて豊富な地下資源や労働力を生かし、経済を立て直す道も開けよう。

 この10年と同じ轍(てつ)を踏んではならない。

日朝宣言10年 原点に返って交渉を立て直せ

 日本の首相として初めて北朝鮮を訪れた小泉首相が、金正日総書記と日朝平壌宣言に署名してから17日で10年となる。
 この間、拉致問題は解決できず、北朝鮮の核・ミサイルの脅威は増大した。
 政府は、金正恩第1書記との間で原点の平壌宣言の有効性を確認し、政府間交渉を軌道に乗せる必要がある。
 日朝首脳会談で金総書記は、国家が関与した日本人拉致を初めて認め、謝罪した。宣言は、北朝鮮が「日本国民の生命と安全に関わる懸案問題」を再び起こさぬよう適切な措置をとると明記した。
 約1か月後、曽我ひとみさん、蓮池薫さんら拉致被害者5人が帰国、2004年5月の小泉首相再訪朝を機に、さらに被害者の家族が帰国するなど前進はあった。
 だが、全容解明にはほど遠い。北朝鮮は08年の協議で拉致問題の再調査を表明しながら、一方的に反古(ほご)にし、今日に至っている。
 誠実に対応しようとしない北朝鮮の態度は極めて遺憾である。
 金正恩体制下の先月末、4年ぶりの日朝政府間協議では、拉致問題を念頭に「双方が関心を持つ事項」について協議することで一致した。北朝鮮に変化の兆しが出てきたようにも見える。
 北朝鮮が死亡したと主張する横田めぐみさんらの消息に関して、松原拉致問題相は「多くの生存情報が様々な接触から寄せられていることは事実だ」と述べた。
 政府は被害者全員の早期帰国が実現するよう、戦略を立て直して交渉に臨んでもらいたい。
 平壌宣言は、日朝国交正常化に向けて、核問題解決のため「国際的合意の順守」を確認し、核・ミサイルなど安全保障でも関係国間の対話の促進を明記した。宣言を受けて、北朝鮮と日米中韓露による6か国協議が発足した。
 北朝鮮は、朝鮮半島の非核化を目指す6か国協議の開始後、国際社会の度重なる警告を無視して弾道ミサイル発射や核実験を強行した。今や「核保有国」を自称する。6か国協議も行き詰まった。
 北朝鮮が、国連の経済制裁下に置かれ、日本独自の制裁対象にもなったのは当然である。
 今後、北朝鮮が経済を再建するためには、中国の支援に依存するだけではなく、国際社会との関係を改善することが必要だろう。
 日本との国交正常化は、拉致や核・ミサイル問題の包括的な解決が前提だ。それを金第1書記に認識させていかねばならない。
 そのためにも、日本政治の安定が欠かせない。

反日過激デモ 中国政府はなぜ容認するのか

 中国の反日デモが拡大し、過激化している。
 憂慮すべき事態だ。
 日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことに抗議するデモは、中国の約100都市に広がった。
 北京では日本大使館が投石され、地方都市では日系企業が襲撃された。デモの現場ではないが、日本人が暴行された例もあった。
 野田首相が抗議したのは当然である。日本政府は引き続き、中国政府に対し、邦人と日系企業の安全、財産の保護を徹底するよう求めなければならない。
 中国政府は、破壊行為に関わった容疑者を法に基づいて厳正に処分すべきである。
 デモと並行して、尖閣諸島の実効支配を崩そうとする中国政府の示威行動も目立つ。尖閣諸島周辺の日本の領海内に14日、中国の海洋監視船6隻が侵入した。中国公船が同時に6隻も侵入してきたのは過去に例がない。
 1972年の日中国交正常化以来、これほど中国が日本との間で緊張を高めたのは初めてだ。尖閣諸島を巡って日本に譲歩した、と国内で受け止められれば、共産党政権の威信が揺らぐと危機感を強めているのだろう。
 中国は、外務省報道官が「日本の誤った行為が強い義憤を引き起こしている」と反日デモへの理解を示し、商務省幹部も日本製品の不買運動を容認するかのような発言をしている。
 これが愛国教育世代の若者を(あお)り、行動の過激化を招いた。
 中国政府には、尖閣諸島国有化に反発する国民の怒りを対日圧力に利用する政治的思惑がある。
 だが、愛国的行為は罪に問われないとする「愛国無罪」のスローガンの下、破壊行為を正当化するのは法治の否定だ。特定国の製品の不買は自由貿易に反する。中国のためにもならない。
 満州事変の発端となった柳条湖事件から81年に当たる18日、各地では再びデモが呼びかけられている。邦人の生活や日系企業の営業活動への影響が懸念される。
 間もなく尖閣諸島沖に向け、中国漁船が大挙出港し、農業省の漁業監視船の護衛で、日本領海への侵入を図る可能性が高い。
 日本政府は海上保安庁による領海警備に万全を期すべきだ。
 政府は、尖閣諸島は日本の領土であり、安定的に管理するための国有化であることを、国際社会に主張していかねばならない。
 国民感情の対立を深めぬよう、日中両国は首脳レベルで、事態の沈静化に努める必要がある。

2012年9月16日日曜日

反日デモ―中国の自制を求める

 沖縄県の尖閣諸島をめぐり、日中間の緊張がにわかに高まってきた。
 きのう、北京の日本大使館を多数の群衆が取り囲んだ。石やペットボトルなどを投げつけ、大使館内に押し入ろうとする者も出た。
 ほかの都市でも群衆が集まり、日本料理店や日本車のガラスが割られた。日本製品の不買運動も広まりつつある。
 不穏な動きは、民衆レベルだけではない。おとといは中国の海洋監視船6隻が、尖閣諸島周辺の日本の領海に相次いで侵入してきた。
 異常な事態である。
 中国政府は挑発的な行為をやめ、国民に対しても自制を求めるべきだ。
 日本政府が尖閣諸島を購入したことが、中国の反発を招いているのは残念だ。背景には、国有化をめぐる双方の認識ギャップがあるようだ。
 一連の騒動のきっかけは、中国への挑発的な言動を繰り返す石原慎太郎東京都知事による購入計画だ。
 政府が都に代わって購入に踏み切ったのは、その方が中国との無用な摩擦を避けられるとの判断があったからだ。
 だが、政府が外交ルートを通じて説明しているにもかかわらず、この意図が中国側に伝わっていない。あるいは無視されている。
 中国外務省の高官は、日本側の主張は口実であり、知事と政府が連携して「二重奏」を演奏したのだと断じている。
 一方、中国の国民から見れば、自国の領土を日本政府がカネで買ったと映るようだ。
 中国は指導部交代の共産党大会を控え、政治の季節の真っ最中だ。日本に対して弱腰ととられてはならないとの思いがあるのは間違いない。
 一方、日本でも民主党と自民党でそれぞれ党首選が行われている。自民党の安倍元首相や石破前政調会長らは、実効支配の強化を訴えている。
 中国側には、こうした主張への警戒感もあるのだろう。
 満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた18日に向け、さらに多くの都市でデモが予定されている。参加者の興奮が高まり、行動がいっそう過激にならないか心配だ。
 感情的な行動がお互いを刺激するような負の連鎖に陥ってはならない。
 日中関係の大局を見渡したとき、この問題で両国が衝突することにどれだけの意味があるのか。ここは頭を冷やして考えるべき時だ。

中東反米デモ―暴力は受け入れられぬ

 反米デモが中東・イスラム世界で広がっている。
 米国で作られたイスラム教の預言者ムハンマドを冒涜(ぼうとく)する映像作品に抗議するものだ。敬愛する預言者への中傷にイスラム教徒が怒るのはわかるが、米大使館襲撃などの暴力的な動きになるのは、受け入れられない。
 問題の映像作品は、批評にも値しない低級なものだ。だが、その映像がインターネットで流れたからと言って、大使館を襲うのは、「平和を求める宗教」と強調するイスラム教の教えに沿ったものとは思えない。
 デモが広がることが問題なのではない。平和的なデモや集会で、自分たちの怒りを表明するのは、言論や集会の自由として保障されるべきだ。
 サウジアラビアや湾岸諸国では目立った抗議デモは報じられていない。それはこの地域でデモが制限されているからだ。
 今回、反米デモが始まったエジプト、リビア、チュニジアは「アラブの春」で強権体制が倒れた国である。以前は警察の監視の下、言論も集会も規制されていた。デモが起こることは民主化の成果である。
 デモ隊が米大使館を襲撃したイエメンは、若者たちが非暴力のデモで強権の大統領を辞任させた国だ。運動を主導した女性活動家が昨年のノーベル平和賞を受けた。そのような平和の精神はなぜ、今回の反米デモで発揮されないのだろうか。
 リビアでベンガジの領事館が襲撃され米大使らが死亡した事件には、計画的なテロとの見方もある。背景には8カ月におよぶ内戦で武器が広がり、治安が安定しない国情がある。米国はリビア政府がこの事件の捜査やテロ対策を行うのに、協力する形で関与するべきだ。
 今回のデモは、形のうえで民衆が街頭で主張した「アラブの春」を思い出させる。しかし、自制がなければ、混乱を生むばかりだ。人々は強権の政府を倒し、民主化を始めた。だから、手にした言論や表現の自由を使い、考えを非イスラム教徒にも理解できる言葉で発信するべきだ。暴力をあおろうとする勢力の挑発に乗ってはいけない。
 イスラム世界の政治や宗教、社会運動で指導的な立場にある人々の役割は重要だ。冷静に行動するように民衆に説き、何が障害になっているかを国際社会に伝えてほしい。
 米欧はイスラム世界との間で議論や対話の動きを強化し、信頼と相互理解を深める必要がある。歴史的にも中立の立場にある日本は、双方の間で仲介役を果たすことができるはずだ。

自民総裁選告示 日本の針路に責任ある論戦を

 ◆原発・TPPから逃げるな◆
 政権奪還を目指すという以上、日本が直面する重要課題への具体的な処方箋を明らかにしなければならない。
 自民党総裁選が14日、告示され、安倍晋三元首相、石破茂前政調会長、町村信孝元官房長官、石原伸晃幹事長、林芳正政調会長代理の5人が立候補した。26日の投開票日に向け、論戦も本格化している。
 次の衆院選で自民党が勝てば、新総裁は首相に就任する公算が大きい。総裁選を通じて候補の資質と政策を十分に吟味したい。
 ◆「集団的自衛権」は評価◆
 総裁選では自民党の政権担当能力の有無も問われる。信頼を取り戻すためには、国論を二分する政策について明確に方向性を示す必要があろう。
 5氏とも、憲法改正だけではなく、集団的自衛権の行使容認を公約に掲げている。これを可能とする「国家安全保障基本法」制定も目指す。鳩山、菅両政権で揺らいだ日米同盟の立て直しには欠かせない。
 この点は評価したい。
 ただ、集団的自衛権行使の容認は自公政権で手をつけられなかった課題である。実現に向けての具体的な手順を示す必要がある。
 政府が2030年代の「原発稼働ゼロ」を目標に掲げたことに対して、町村氏は「単なる願望であり、具体的な道筋がない」と批判した。この点でも、5氏の足並みはそろっている。
 代替エネルギーのあてもないまま、原発ゼロを打ち出した政府・民主党の短慮は認められない。
 では、原子力行政を長年推し進めてきた自民党は、今後のエネルギー政策について、どう考えているのか。現段階で結論を出せないと言うだけなら、議論から逃げていることになる。
 環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題については、各氏とも「聖域なき関税撤廃を前提とした交渉参加には反対だ」と主張する。それなら、参加するための条件や道筋を語るべきだろう。
 自民党はこれまで、自由貿易拡大による成長戦略を重視してきたはずだ。アジアの経済成長を取り込む上で欠かせないTPPに背を向けてはならない。
 農協など農業団体への配慮もあるのだろう。だが、農業はこのままでは地盤沈下が進むだけだ。貿易自由化に対応できるよう農業の再生策こそ議論すべきである。
 ◆対中外交をどうする◆
 外交では、対中・韓・露外交を再構築するためにも、主権・領土の問題への対応を聞きたい。
 尖閣諸島の実効支配を強化する方針では、各氏とも一致している。問題は具体策だ。
 石原氏は「主権を守るのは当然だが、クールダウンすべきだ」と指摘した。中国国内では反日デモが激しさを増している。中国に事態の沈静化を求めるために、政府や与野党が一丸となって冷静に対処すべきだろう。
 一方、衆院選後にどの党と連携するかも重要な問題である。自民党は、衆院選の結果にかかわりなく、参院で公明党と合わせても過半数に及ばない。来夏の参院選までこの状態が続く。
 5氏とも民主党との大連立に否定的で、政策ごとの合意を訴えた。安倍氏は橋下徹大阪市長が率いる「日本維新の会」との連携に含みを持たせている。
 維新の会の政策には、改憲など自民党と一致する点もあるが、衆院議員の定数半減など相いれない面も少なくない。政策本位で連携の是非を考えるべきだ。
 5氏とも、民主、自民、公明の3党で進めた社会保障・税一体改革について、合意を順守することを言明した。当然だろう。
 ◆国会のルールを見直せ◆
 民自公路線は今後も堅持し、消費増税に伴う低所得者対策や膨張する社会保障費の効率化といった課題に取り組む必要がある。
 ただ、安倍氏は消費税率引き上げに関し、「時期を間違えると経済の腰を折ってしまう」と述べ、2014年4月段階の増税先送りの可能性を示唆した。
 増税前に経済状況を考慮することは必要だが、長年の懸案である財政再建を軽視することがあってはならない。
 赤字国債発行を可能とする特例公債法案について、石破氏は「政争の具に使うべきではない」と提案した。もっともである。衆院解散・総選挙を求める駆け引きに使うべきではない。
 衆参ねじれ国会の下で、「決められる政治」をどう実現していくのか。新たな国会のルールづくりの論議も深めてもらいたい。

2012年9月15日土曜日

新エネルギー戦略―原発ゼロを確かなものに

 2030年代に「原発ゼロ」を目指す――野田政権は14日、脱原発に向けた新しいエネルギー戦略を決めた。
 茨城県の研究炉に初めて「原子の火」が灯(とも)ったのは、1957年8月。以来、拡大の一途だった日本の原子力政策は、大きな転換点を迎えた。
■再稼働は最小限に
 野田政権は当初、全廃には慎重だったが、最終的に「原発稼働ゼロを可能とする」社会の実現をうたった。原発が抱える問題の大きさを多くの人が深刻に受け止めていることを踏まえての決断を、評価したい。
 とはいえ、脱原発への道筋が明確になったとはいえない。
 新戦略では、新増設をしない▽運転期間40年の厳格適用▽原子力規制委員会が安全性を認めたものだけ再稼働、という3原則を掲げてはいる。
 だが、今ある原発に、単純に40年規制を適用しただけでは、30年1月時点で20基が、40年時点でも5基が残る。
 大地震が起きる可能性が極めて高い地域にある浜岡原発(静岡県)や活断層の影響が懸念される原子炉などへの対応も、あいまいなままだ。
 電力需給の面では、原発事故から2度の夏の経験を経て、最大でも数基の原発を動かせば、乗り切れる見通しが立った。
 再稼働を最小限に抑え、早期の原発ゼロをどう達成するのか。新戦略に盛り込まれた「あらゆる政策資源の投入」を早急に具体化する必要がある。
 そもそも巨額のコストがかかる原子力は、政府の支援や保護なしでは成り立たない。
 今後は、こうした保護・優遇策を停止し、廃炉支援やほかの電源の促進、あるいは立地自治体の経済を構造転換するための制度へと全面的に組み替えなければならない。
 ただ、40年を待たずに閉める炉については、電力会社の経営への影響を緩和する手立ても必要だろう。
 完全に設備を撤去するまでは専門技術や人材も欠かせない。新戦略では、国の責任で対策を講じるとした。たとえば、原発を特定の法人に集約して集中管理する「準国有化」についても議論の対象になろう。
■核燃サイクル凍結を
 問題は、脱原発にかかる経済的、政治的な「コスト」だ。
 火力発電が当面の代替電源となり、燃料費が膨らむ問題は軽視できない。一定の電気料金値上げはやむをえないが、節電の余地を生みにくい中小企業などのことを考えれば限界はある。
 新戦略が指摘するように、官民あげて天然ガスの輸入価格を下げる努力が欠かせない。価格が安い石炭火力についても、二酸化炭素の排出量を減らせる最新技術の実用化へ、支援態勢を充実させたい。地産地消型をはじめとする自然エネルギーの育成は言うまでもない。
 政治的に最大の課題は、核燃料サイクル政策の見直しだ。
 原発ゼロを目ざす以上、使用済み核燃料を再処理する必要はなくなるが、再処理施設を受け入れてきた青森県は廃棄物を押しつけられかねないと猛反発している。原子力協定を結ぶ米国も、安全保障上の問題などから懸念を示しているという。
 しかし、摩擦が大きいからと決断を先送りしていけば、かえって使い道のないプルトニウムや置き場のない放射性廃棄物を増やすことになる。
 まずは事業を凍結し、国が責任をもって後始末にあたるべきだ。青森県や関係各国と協議しながら、使用済み核燃料を保管する中間貯蔵施設の確保に全力をあげる。消費地も含めた国民的な検討の場が必要だ。
■市場の力も活用して
 政界はすでに政権交代で色めきたっている。だが、どの政党が政権につこうとも、原発を減らしたいという国民の意志を無視はできまい。
 では、どのような枠組みを設ければ、脱原発への長期の取り組みが可能になるだろうか。
 一つの案は、法制化だ。原子力基本法の見直しだけでなく、脱原発の理念を明確にした法律があれば、一定の拘束力が生じる。見直しには国会審議が必要となり、透明性も担保される。
 もう一つは、市場の力を活用することだ。
 電力改革を進め、地域独占制を廃止して、発電分野での自由競争を促す。原子力規制委員会は電力会社の懐事情に配慮することなく、安全性に特化した極めて厳格な基準を設ける。
 競争のなかで、安全性確保のための追加投資が経済的に見合わなければ、電力会社の原発依存は自然と減っていく。
 「原発ゼロは現実的でない」という批判がある。しかし、放射性廃棄物の処分先が見つからないこと、原発が巨大なリスクを抱えていること、電力会社が国民の信頼を完全に失ったこと、それこそが現実である。
 簡単ではないが、努力と工夫を重ね、脱原発の道筋を確かなものにしよう。

エネルギー選択 「原発ゼロ」は戦略に値しない

 ◆経済・雇用への打撃軽視するな◆
 電力を安定的に確保するための具体策も描かずに、「原子力発電ゼロ」を掲げたのは、極めて無責任である。
 政府は「原発ゼロ」の方針を撤回し、現実的なエネルギー政策を示すべきだ。
 政府のエネルギー・環境会議が、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめた。
 原発の新増設を認めず、運転開始から40年での廃炉を厳格に適用していくという。
 ◆肝心な部分は生煮え◆
 古川国家戦略相は記者会見で、「原子力に関する問題点を先送りせず、真摯(しんし)に取り組む姿勢を示した」などと意義を強調した。
 しかし、東京電力福島第一原発の事故を受けて抜本的に見直すとしていた将来の電源構成については、全体像を示せなかった。
 こんな生煮えの“粗案”では、国家のエネルギー戦略に値しないと言えよう。
 太陽光や風力など再生可能エネルギーの比率を、現在の約1割から3割に増やすとしているが、肝心の実現策は年末に先送りした。
 原発の代替電源を確保する方策の中身も詰めずに、約20年先の「原発ゼロ」だけを決めるのは乱暴だ。
 次期衆院選を前に「脱原発」の旗印を鮮明にした方が民主党に有利になる、と計算したに過ぎないのではないのか。初めに結論ありきと言われても仕方あるまい。
 有識者会議による検討結果や経済界からの指摘に対応していないのも問題である。
 各種の試算は、「原発ゼロ」にするには、再生エネ拡大に50兆円、省エネに100兆円を要するとしていた。国内総生産(GDP)は50兆円近く落ち込み、失業者も200万人増加する見通しだ。
 だが「戦略」には、「あらゆる政策資源を投入する」とあるだけで、課題の解決策がない。
 経団連の米倉弘昌会長は、「原発ゼロ」方針について、「雇用の維持に必死に頑張っている産業界としては、とても了承できない。まさに成長戦略に逆行している」などと、厳しく批判した。
 電力不足と生産コストの上昇で産業空洞化が加速し、国民生活が脅かされかねないためだ。
 ◆矛盾だらけの内容◆
 現在、全原発50基のうち48基が定期検査の終了後も再稼働できない状況が続いている。
 火力発電の燃料費が年3兆円も余計にかかっている。このままでは東電以外の電力会社も電力料金の値上げが避けられない。
 火力発電の比率が高まれば、政治的に不安定な中東に多くのエネルギーを依存する状況も続く。
 「戦略」が、安全性を確認できた原発を重要電源として活用する方針を示したのは妥当である。電力安定供給のため、政府は再稼働の実現に努めねばならない。
 それなのに政府は「原発ゼロ」をうたい、わざわざ再稼働に対する地元の理解取り付けを困難にした。ちぐはぐな対応だ。関西電力大飯原発の再稼働を容認した福井県の西川一誠知事も、政府の方針転換に不信感を表明している。
 核燃料サイクル政策を継続しながら「原発ゼロ」を目指すというのは、明らかな矛盾である。
 これでは、再処理で作った核燃料の使い道がなくなる。
 国策の核燃サイクルに協力してきた青森県からは、使用済み核燃料の受け入れ拒否を求める声も出ている。不誠実な政府方針に対する青森県の怒りはもっともだ。
 青森県が協力を拒否すれば、使用済み核燃料の保管場所がなくなり、各地の原発は早晩、運転を続けることはできなくなろう。
 さらに、原子力の技術者になる人材が激減し、原発の安全性向上や、今後の廃炉作業に支障をきたす恐れもある。
 ◆日米同盟に悪影響も◆
 日本が核燃料の再処理を委託している英仏両国も、日本企業が持つ原発技術に期待する米国も、強い懸念を示している。
 米国は日米原子力協定に基づく特別な権利として、日本に使用済み核燃料の再処理を認めている。「原発ゼロ」を理由に、日本は再処理の権利を失いかねない。
 米国が、アジアにおける核安全保障政策のパートナーと位置づける日本の地位低下も心配だ。
 日本が原発を完全に放棄すれば、引き続き原発増設を図る中国や韓国の存在感が東アジアで高まる。日米の同盟関係にも悪影響は避けられまい。
 国際社会との関係抜きに、日本のエネルギー政策は成り立たないことを、政府は自覚すべきだ。

2012年9月14日金曜日

自民党総裁選―国担う覚悟が聞きたい

 自民党総裁選がきょう、告示される。5氏が立候補を予定しており、混戦になりそうだ。
 民主党政権は苦境にあり、遠からず総選挙もある。いま総裁になれば首相に手が届く。そんな思いからの乱立だろう。
 であればなおさら、総裁選を浮ついた「選挙の顔」選びにしてはならない。
 野田政権のどこに問題があり、自分なら日本をどうするのか。聞きたいのは、一国をになう覚悟とビジョンである。
 これまでの各立候補予定者の記者会見や公約をみる限り、満足な答えは聞こえてこない。
 たとえば、社会保障と税の一体改革だ。
 いずれも、民主、自民、公明の3党合意を守ると語っているのはいい。だが、持続可能な年金や高齢者医療制度など、結論の出ていない課題にどんな答えを出すのか。
 それをなおざりにして、「国土強靱(きょうじん)化」に名を借りた公共事業拡充に熱を入れている場合ではない。
 原発・エネルギー政策もあいまいだ。
 5氏は、再生可能エネルギーを広げ、状況を見極めて原発の扱いを判断する、などと言っている。これでは「脱原発」の世論が静まるのを待って、原発の維持をねらっているのかと受け取られても仕方がない。逃げずに明確に考えを示すべきだ。
 気がかりなのは、安全保障政策だ。5氏とも集団的自衛権の行使を容認すべきだと主張している。党の方針に沿ったものだが、平和憲法に基づく安保政策の転換につながる問題だ。
 領土や歴史問題をめぐって思慮に欠けた発言も目につく。
 石破前政調会長や石原幹事長、安倍元首相は、国有化した尖閣諸島に灯台や避難港などの施設を造り、実効支配を強めるという。
 安倍氏は、慰安婦問題で「おわびと反省」を表明した河野官房長官談話を見直す考えも示している。
 尖閣や竹島問題で、日本と中国、韓国との緊張が高まっている。それをさらにあおって、近隣国との安定した関係をどう築くというのか。
 日本の社会と経済の立て直しは容易ではない。だからといって、ナショナリズムに訴えて国民の目をそらしたり、それで民主党との違いを際だたせたりしようというなら願い下げだ。
 いま日本の指導者に必要なのは、そんな勇ましいだけの発言ではない。山積する課題に真摯(しんし)に向き合い、粘り強く解決に取り組むことである。

原発のごみ―総量規制を急ぐべきだ

 この地震列島では、原発からの高レベル放射性廃棄物を地中に廃棄する現行案は、とても安全とは言えない。白紙撤回も覚悟すべきである。
 多分野の学者の代表による日本学術会議が、こんな提言をまとめた。
 原発は「トイレなきマンション」とも言われてきた。廃棄物処理の場所が確定しないままの運転を揶揄(やゆ)する言葉だ。
 実際、日本の処分場選びは手詰まりの状態になっている。政府は02年から、多額の補助金を用意して自治体が名乗り出るのを待っている。だが、これまでの立候補は1件だけ。それすらすぐに撤回されて、展望が開けないままだ。
 どう説明すれば廃棄場所がうまく決まるのか。原子力委員会は2年前、学術会議に提言を頼んだ。その回答が今回の提言で、火山国の日本では廃棄物を埋めても、何万年にもわたって「安全だ」と言えないのではと指摘した。
 場所が決まらないのは説得技術の問題ではなく、「原子力政策そのものに社会合意がないこと」に最大の原因があり、場所だけを決めようとしても無理だとの見方も示した。
 多くの人が感じていたことを、大所高所から明確に言い切った形で、強く共感する。政府は近くエネルギー・環境戦略を発表するが、この直言を真摯(しんし)に受け止めるべきである。
 学術会議は代替策も示した。まず廃棄物を地表か浅い地中に数十~数百年の間、暫定保管する。不測の事態に柔軟に対応できるうえ、その間に、最終処分法の研究も進められる。
 電力需給見通しから、必要な原発発電量をはじいてみても、ごみ処理が行き詰まったままでは、絵に描いた餅になる。学術会議の提案を足場に、廃棄物問題の現実から原子力政策を見つめ直すべきだろう。
 地表での暫定保管なら、地中での最終処分を前提にした現行の使用済み核燃料再処理計画は必要ない。青森県六ケ所村にある再処理施設で一時貯蔵中の使用済み核燃料は、再処理せずに暫定保管するのが得策だ。
 学術会議は、原発を運転して廃棄物が増加の一途をたどらないよう、廃棄物の総量に上限を決めることも提言している。
 暫定保管施設をつくるからと、どんどん廃棄物を増やすようでは、将来世代へのつけ回しが大きくなるばかりだ。
 廃棄物の貯蔵可能量が原発運転の上限。この当たり前の現実を、原子力政策にしっかりと組み入れなければならない。

尖閣国有化 中国の圧力外交は行き過ぎだ

 日本政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化したことに対し、領有権を主張する中国が反発をエスカレートさせている。
 温家宝首相は「主権、領土の問題で半歩たりとも譲ることは絶対にない」と強調した。
 国防省は「中国政府と軍は相応の措置をとる権利を留保する」とまで主張している。日本を震えあがらせて、国有化の撤回に追い込みたい狙いがあるのだろう。
 指導部が交代する共産党大会を間近に控え、対日弱腰姿勢を見せられない国内事情があるのは間違いない。
 中国は、2年前の中国漁船衝突事件後に実施したレアアース(希土類)の輸出規制強化のような、なりふり構わぬ対抗措置を繰り返すのだろうか。国際社会の責任ある大国だと自任するなら、度を越した圧力外交は自制すべきだ。
 尖閣諸島を巡る領土問題は存在しないというのが日本の立場だ。玄葉外相が「尖閣諸島は我が国固有の領土であり、国際法上も歴史的にも疑いのない事実だ」と毅然(きぜん)と反論したのは当然である。
 国有化について日本政府は「平穏かつ安定的な維持・管理を行うため」と説明してきたが、今後もこうした主張を粘り強く国際社会に訴えていくことが重要だ。
 日本政府は、尖閣諸島の実効支配を崩そうとする中国の動きには警戒を強めなければならない。中国国営メディアは、国家海洋局の巡視船2隻が周辺海域で巡視活動を開始したと報じている。
 今後、多数の巡視船や武装した漁船が領海侵犯などの示威行動を取る可能性も排除できない。
 日本政府は海上保安庁の体制を拡充・強化し、領海警備に万全を期す必要がある。
 中国国内の反日機運の高まりも懸念材料だ。満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた9月18日にかけ、各地でネットを通じて反日デモが呼びかけられている。
 日本人学校の運動会が延期になるなど、邦人社会に動揺も広がっている。中国当局には、事態の沈静化を急ぎ、邦人や日系企業の安全確保に努めてもらいたい。
 交流事業の停止が相次いでいるのも問題だ。日中国交正常化40周年の記念行事に出席するため超党派の国会議員ら約30人が予定していた北京訪問が中国側から延期を通告された。訪日観光客のキャンセルも広がりを見せている。
 日中両国は歴史的なつながりを持っている。両国関係の発展のために、一方的に交流や意思疎通のルートを閉ざしてはならない。

大震災1年半 復興の遅れ取り戻したい

 東日本大震災から1年半が過ぎたが、被災地の復興は思うように進んでいない。
 政府と自治体が連携し、被災者の生活再建と産業の再生を急がねばならない。
 被災地でいまだに目に付くのが、沿岸部に積み上げられた膨大な量のがれきだ。仮置きされたまま、行き場を失っている。処理率は25%に過ぎず、このままでは「2014年3月までに処理完了」という政府の目標達成は危うい。
 被災各地で、仮設焼却炉の整備が急務である。他県に運んで処分する広域処理も加速させたい。
 仮設住宅などの避難者を受け入れる災害公営住宅(復興住宅)の建設も遅れが目立つ。約3万戸を計画中だが、公有地などの適地がなかなか見つからず、用地が確保できたのは、わずか1割だ。
 今後、高台への集団移転事業も動き出す。岩手、宮城、福島の3県を中心に、200地区以上が移転対象になるとみられる。
 いずれも前例のない大事業となる。県や市町村からは、土木技術者などの人材が足りない、という声が上がっている。
 東京都は土木・建築系の技官を中心に約50人を被災自治体に派遣する。復興庁が調整役となり、人材を安定供給する協力体制作りを進めてもらいたい。
 福島県では、東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、16万人が県内外に避難した。その大部分が、放射能による環境汚染で、すぐには帰宅が困難な住民だ。
 政府は福島県の復興方針の中に、自治体ごと移転する「仮の町」構想を盛り込んでいる。県内のいわき市などが移転候補地に挙がっており、今月中に協議が始まる見通しだ。実現へ向け、政府や県が積極的に調整を図るべきだ。
 避難住民が自宅に戻るには、除染を着実に実施することが大切だ。汚染土を管理する中間貯蔵施設も欠かせない。施設の設置へ、政府は地元自治体の理解を得ることに全力を尽くす必要がある。
 被災地の経済再生策として期待されるのが復興特区制度だ。法施行後、8か月で20件の特区計画が認定された。
 岩手県釜石市は、建築基準法の緩和で工業専用地域に大規模商業施設を誘致する。仙台市では農産品事業の法人税優遇を利用し、生産者が食品加工、流通も担う会社の設立に乗り出す。制度の実効性が問われるのは、これからだ。
 政府の復興予算が有効に使われているのか、現地の実情を踏まえた総点検も実施すべきである。

2012年9月13日木曜日

いじめを防ぐ―加害生徒と向き合おう

 昨年度のいじめ調査結果が公表された。つかめただけで全国の小中高で7万件もあった。実際にはこの数倍はあるだろう。何とか食い止めねばならない。
 文部科学省は取り組み方針を示した。スクールカウンセラーを増やす。いじめ相談ダイヤルの番号をカードにして、すべての子に配る。そうした項目が目を引く。
 いじめられている子の話を聞き、寄り添うことは大切だ。
 しかし根本的には、被害そのものを止めなくてはならない。
 どうすればいいのか。当事者の声に耳を傾けたい。
 「先生は、いじめている子とこそ対話してほしい」。いじめ自殺で娘を失ったNPOジェントルハートプロジェクト理事の小森美登里さんが訴える。
 子どもが大人にいじめの被害を打ち明けるのは、ただ話を聞いてほしいのではなく、いじめを止めてほしいからだ。
 いじめは、加害者がやめなければ止まらない。
 だから、加害者と向き合わなければ被害者を守れない。
 いじめる子も親の暴力といった家庭の問題や、何らかの背景を抱えているかもしれない。なぜ、いじめてしまうのか。話を聞き、自分を振り返る作業をさせてあげてほしい――。
 それは、教師が問題を抱える子との接し方に長じていないと出来ることではない。教員研修や大学の教員養成課程で、学ぶ機会を充実させてほしい。
 多忙な教師が子どもと話す時間を十分にとれるよう、教員を増やす必要もある。
 不登校の子たちのフリースクール「東京シューレ」の生徒や卒業生は、平野博文文科相に面会し、「いじめがつらかったら学校を休んでもいいと言ってほしい」と要請した。
 今も緊急避難としての欠席は認められている。だが、実際に活用された例は、昨年度は全国で1100件しかなかった。
 とくに小中学生は、大人の責任である義務教育を「子どもは学校に行く義務がある」と誤解し、つらくても行かなくてはと考えてしまう子が多いという。
 深刻ないじめからは、逃げて身を守ることも必要だ。
 いざというとき「休む方法もある」と思い出せるよう、日ごろ命やいじめを扱う授業の中で教えておくべきでないか。
 いじめのさなかにあっても、「学校に行きたい」と言う子は多いと聞く。
 それは「いじめを止めて、学校に行けるようにしてほしい」という必死の訴えだと、大人は受けとめなければならない。

尖閣と中国―強硬姿勢は何も生まぬ

 日本政府が沖縄県・尖閣諸島を購入し、領有権を主張する中国が反発を強めている。
 影響を両国関係全体に及ぼさぬよう、中国側には自制的な対応を望みたい。
 中国側の反発は、日本政府の予想を上回るものだった。
 温家宝(ウェンチアパオ)首相が「半歩も譲らない」と異例の強い口調で反論したほか、外務省も「領土主権に対する侵害を座視しない」などとした声明を出した。
 国防省や、国会に当たる全国人民代表大会(全人代)外事委員会も、相次いで国有化を批判する談話や声明を出した。
 購入を閣議決定した当日には、中国の海洋監視船2隻が尖閣周辺の海域に現れた。
 日中の交流事業にも影響が出ており、中国政府が経済的な制裁に出る可能性も取りざたされている。
 中国側にも言い分はあろうが、経済や文化の領域にまで対抗措置を拡大しても、両国にとって益はない。
 日本政府が国有化を撤回することもあり得ず、何の解決にもならないことは明らかだ。
 もう一つ気がかりなことがある。日本は1895年、尖閣諸島がどの国にも属していないことを確認し、領土に編入した。
 これについて、中国外務省が声明で、日清戦争の混乱の中で「不法に盗み取った」などと、日本の中国侵略の歴史と結びつけて説明していることだ。
 反日デモの動きが出ている中、中国の国民感情をさらに刺激しかねない内容だ。
 中国は国際社会への訴えにも力を入れ始めた。日本としても、領有の根拠など自らの立場を発信することが必要だ。
 そもそも、国有化は、東京都の石原慎太郎知事が購入計画を打ち出したことが引き金になった。中国側では、石原氏の動きに乗じて日本政府が尖閣の支配を強めたとの受け止めが強い。
 だが、中国への挑発的な言動を繰り返す石原氏の管理下に置くよりも、国有化の方が無用な摩擦を抑えることができる。都の購入を止める方法は、国有化のほかになかった。そのことは日本政府も中国に繰り返し説明してきた。
 さらに国有化の前も後も、日本政府が尖閣を領土として統治する実態に何の変化もない。これまでも、賃借とはいえ、政府が有効に管理していたのだ。
 野田政権は、港湾施設の整備や灯台建設はせず、島の現状には手を加えない方針だ。中国への配慮からだ。
 中国はこうした点をしっかりと受け止めるべきだ。

「日本維新の会」 国政改革への道筋が見えない

 侮れない政治勢力になりつつあるが、政策も運営体制も急ごしらえの感は否めない。
 地域政党・大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長が、大阪市で党の政治資金パーティーを開き、新党「日本維新の会」結成を宣言した。
 橋下氏は、「何かをやろうとするとぶつかる壁が国の制度と法律だ。本当の意味で大阪の改革をやろうと思えば、法改正しかない」と国政進出の意義を語った。
 日本維新は、次期衆院選で「過半数」獲得を目指すという。
 だが、「大阪都」構想を実現するためだけなら、何も国政に進出する必要はない。橋下氏は、“大風呂敷”とも言える意欲ばかりが先走っているように見える。国政で何をどう実現するのか、説得力のある見解を示す必要がある。
 維新側は、これまで次期衆院選の公約としてきた「維新八策」を「綱領」に変更した。党の価値観を示すものだからだという。
 維新八策には「自立する国家」「決定でき、責任を負う民主主義」といった言葉が並んでいるが、こうした抽象的な表現からは、日本維新がどんな国家を目指すのかが伝わってこない。理念はもっとわかりやすく説明すべきだ。
 維新八策には、憲法改正を伴う首相公選制導入や、衆院の議員定数半減などスローガンのような目標と、社会保障、教育、雇用などの政策が混在している。中長期と当面の政策課題を、きちんと仕分けしなければなるまい。
 橋下氏は「役人では解決できない問題、国論を二分する問題は、選挙で解決するしかない」と強調した。それでは、次期衆院選で具体的に何を公約するのか、明示してもらいたい。
 日本維新は、極めて特異な体制をとる。党本部を大阪に置く。松野頼久元官房副長官ら現職国会議員7人が新党に参加するため、政党要件は満たされる。国会議員団と大阪維新の会など地方議員団は、並列の関係にする方針だ。
 橋下氏は党代表と大阪市長を兼務し、衆院選には立候補しないという。府知事から市長に転身して1年足らずで、最大の政治課題である大阪都構想への取り組みも、これから区割りや財源調整など難しい局面に入るからだろう。
 日本維新は衆院選後、政党間の連携のカギを握る勢力に躍進する可能性もとりざたされている。
 橋下氏は、「自分の時間を削って国政に充てる」と言うが、政治経験のない新人議員らを大阪からコントロールできるだろうか。

民主代表選討論 「決める政治」の一歩とせよ

 活発に議論した後は、期限内に結論を出す。その決定は党全体で守る。民主党は今回の代表選を機に、そうした政治文化を根付かせるべきだ。
 民主党代表選の候補4人による公開討論会が、日本記者クラブの主催で行われた。
 社会保障と税の一体改革をめぐる民主党の分裂について、赤松広隆元農相や原口一博元総務相は、一体改革関連法の党の了承手続きなどに問題があったと主張し、野田首相の責任を追及した。
 首相は「責任は痛切に感じている」としつつ、「(一体改革の)判断に間違いがあったとは思わない。猛省しながら党を再生しなければいけない」と強調した。
 持続可能な社会保障制度を実現する一体改革は、待ったなしだ。党執行部は、党内論議にも十分な時間を費やしたし、大きな瑕疵(かし)はなかったと言える。
 むしろ問題は、困難な政策決定を安易に先送りしがちな民主党の体質にある。政権党がこれを放置していては、「決める政治」の実現はおぼつかない。
 地域政党・大阪維新の会の人気が高いことに関連し、野田首相は、反省を込めて、「既成政党が結論を出すべき時に出す」ことの必要性を指摘した。その通りだ。
 民主党は代表選を通じて、体質改善を図る必要がある。
 今後の試金石は、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加問題だ。首相は「推進」の立場だが、原口氏は「参加しない」、赤松氏と鹿野道彦前農相も「慎重」という対立の構図がある。
 首相も討論会では、「関係国との協議が熟さないと、(日本が対応を)決めることはできない」と語るにとどまった。
 しかし、交渉参加が遅れれば、新たな貿易・投資の国際ルールに日本の主張を反映できる余地が一層狭まるのは確実だ。
 国内農業に与える影響などを含め、代表選で、TPPの参加論議を深めることが重要だ。
 消費税率引き上げに伴う低所得者対策について、赤松氏は、「与野党合意を得やすい」として、食料品などの軽減税率の導入を主張した。鹿野氏も同調した。公明党が軽減税率を支持していることを踏まえたものだろう。
 野田首相は、従来通り、「給付付き税額控除」を対策の柱とすべきだとの考えを示した。
 軽減税率は、国民に分かりやすく、欧州各国も採用しており、有力な対策だ。代表選での、より踏み込んだ論争を期待したい。

2012年9月12日水曜日

原子力規制委―国民に自らの考え示せ

 新たに原発の安全規制を担う原子力規制委員会が、19日に発足することが決まった。
 福島の原発事故を反省し、脱原発に向けた厳しい安全基準をつくっていくうえで、新たな規制機関の発足は最も優先すべき課題だ。
 ところが、田中俊一委員長と委員4人は国会での同意を得られないまま、例外規定に基づいて首相が任命する。極めて変則的なスタートである。
 その背景には、先の通常国会で、民主党執行部が党内から人事案への反対が出て混乱するのを避けるため、採決を見送ったことがある。
 同意人事が規制委の独立性や透明性を高めるためのものであることを考えれば、国会の責任放棄に等しい行為だ。
 法律で定めた規制委の設置期限が今月26日なので、首相の任命はやむを得ないが、次の国会できちんと同意の手続きを踏まなければならない。
 そもそも人事案が民主党内外から批判を浴びているのは、田中氏がこれまで旧・日本原子力研究所の副理事長や原子力委員会の委員長代理を務め、「原子力ムラの住人」と見られているためだ。
 ただ、田中氏の過去の言動をたぐると、事故以前から電力業界や原発推進論者とは一線を画す発言が散見され、「原子力ムラには煙たい存在」と話す関係者もいる。
 国会での所信聴取では、原発の「40年寿命」の厳格な運用を強調し、大飯原発の再稼働の根拠となった暫定的な安全基準が「不十分だった可能性がある」とも指摘している。
 人事への不信は、脱原発に向けた野田政権の意志が一向に示されないことで増幅された面もあろう。
 田中氏ら5人の委員は、批判を受けていることを踏まえ、任命を受けた段階で改めて記者会見を開いて、自らの考えと今後の規制委の運営について、広く国民に説明すべきである。
 規制委にとって、課題は山積みだ。脱原発という大きな方向性に沿い、運転期間の40年厳守をはじめ、活断層の再調査、新しい安全技術を既存の原発にも反映させる「バックフィット」ルールなど、新しい安全基準の設計を急がなければならない。
 定期検査で止まった原発の再稼働条件も、白紙にして見直すべきだろう。各種の事故調査委員会による報告書の指摘も十分に反映させる必要がある。
 その一挙手一投足に、国民の厳しい目が注がれていることを忘れないでほしい。

日本維新の会―国政で何をするのか

 橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会が今日、新党「日本維新の会」の結党を宣言する。

 民主や自民、みんなの国会議員7人が離党し、新党に合流する運びだ。ただ、大阪都の実現を最終目標におく地域政党が国政で何をめざすのか。今なお具体的な政策はみえてこない。

 新党で価値観を共有するためとして開かれた9日の公開討論会は、維新の考えを有権者が直接知る好機だった。しかし参加した議員や首長経験者らは基本方針を並べた「維新八策」に沿った主張を述べ、個別政策の議論が深まることはなかった。

 維新の看板の一つである脱原発では、何年までにどうやって原発をゼロにするか、明確に語った議員は一人もいない。

 環太平洋経済連携協定(TPP)について、維新は参加を明言する。民主党でTPP慎重派だった松野頼久氏は討論会では、その見解を問われないまま終わった。国政政党の肝ともいえる外交や安全保障については、議論が先送りされた。

 橋下氏は「自由や競争、選択、自己責任で日本のあり方を見直すのが我々の価値観」という。こうした抽象的な言葉で、どれだけの有権者が既存政党との違いを実感し、信頼を寄せられるだろうか。

 考え方の違いや異論を民主的な議論を通じて乗り越え、そのうえで共通の目標をめざす集団が本来の政党のあり方だ。

 討論会は橋下氏のワンマンぶりと、政策論議も未成熟なまま政党化に突き進む印象を強める結果になったのではないか。

 維新が国政政党としての政党要件を満たすには、5人以上の現職議員が必要だ。このままでは討論会は合流が前提の儀式だったといわれても仕方ない。

 参加する議員も、所属政党でできなかったことがなぜ維新ならできると思うのか、きちんと説明する責任がある。それがなければ、橋下人気目当てに集まったとの批判は免れまい。

 約5時間の討論はネットで中継された。多くの有権者が関心を持って見たことだろう。

 新党への参加者たちが公開の場で論議するのは、透明性を重んじる橋下氏の実践として評価したい。討論会は今後も続けるという。維新がめざす国とはどんなものか。その姿が見えるまで何度でも開いてはどうか。

 価値観の一致を確かめるなら、参加する議員は合流ありきで討論にのぞむべきではない。橋下政治は本物か、議論を挑む議員がいてもいい。

 そこまで公開してこそ、既存政党との違いが出るだろう。

自民党総裁選 「野党ぼけ」の克服が急務だ

 政権を奪還した後に自民党は何をどう実現するのか。日本のかじ取りを目指す以上、見識や政策で競い合うべきだ。
 自民党総裁選に、石原幹事長が出馬を表明した。町村信孝元官房長官、石破茂前政調会長が既に表明し、安倍元首相、林芳正政調会長代理も意欲を示す。
 次期衆院選の結果次第では、首相になる可能性が高い総裁の選出だ。白熱するのも当然である。
 だが、派閥や国会議員間の数合わせの動きばかりが先行しているのはどうしたことか。
 谷垣総裁は鳩山、菅両首相を退陣に追い込み、先の参院選で勝利してねじれ国会をもたらした。
 野党第1党の党首として民主党に協力し、消費税率の引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法を成立させたことは画期的だった。最新の読売新聞の世論調査では、次期衆院選の比例選投票先で、自民党は21%でトップだ。
 それでも、「選挙の顔」に物足りないと評価され、総裁選出馬断念に追い込まれた。念願の政権復帰に手が届く状況にまで来て、さぞかし無念だっただろう。
 背景には、一体改革以外に自民党らしい政策を打ち出せず、支持に広がりを欠いたことがある。
 谷垣氏は、党運営を巡って、森元首相や古賀派の古賀誠会長らの不興を買い、外堀を埋められた。消費増税を実現した自民党をも批判する首相問責決議に対し、自民党が賛成することを主導して「自己否定」との批判も浴びた。
 総裁選では、自民党の政権構想や政策が改めて問われよう。谷垣氏が目指した「党再生」は、道半ばであることを自覚すべきだ。
 石原氏は、谷垣氏の下で進めてきた「政策、路線の実現が使命」と述べた。総裁が代わっても民自公路線による一体改革の実現を忘れてもらっては困る。
 自民党は長年、原子力行政を推進してきたのに、「原発ゼロ」の方向を提言した民主党を傍観していいのか。現実的なエネルギー政策を提案してもらいたい。
 自民党が、環太平洋経済連携協定(TPP)について「聖域なき関税撤廃を前提にする交渉参加は反対」とするのは無責任だ。自由貿易拡大による成長戦略の観点からも是非を論ずべきだろう。
 対中・韓・露外交の立て直しや米海兵隊の新型輸送機オスプレイ配備も差し迫った課題だ。
 政権に就いてから考えるのでは遅すぎる。総裁選を通じ、批判するだけで自らは判断しない“野党ぼけ”の克服が急務である。

原子力規制委 やむを得ぬ首相の委員長任命

 原子力安全行政を立て直すため、原子力規制委員会を速やかに設置する必要がある。
 政府は、規制委の19日発足を閣議決定した。
 委員長と委員4人の人事案に国会の同意が得られぬまま、規制委設置法に基づき、野田首相が自らの権限で任命することになる。
 国会同意なしの任命は望ましくないが、法律上の設置期限の26日が迫っている。政府が特例措置に踏み切るのはやむを得ない。
 先の通常国会で同意の議決ができなかったのは、民主党内の混乱が原因である。
 鳩山元首相や党代表選に出馬した原口一博元総務相らは、いわゆる「原子力ムラ」に属さない人物への差し替えを求めている。菅前首相も慎重姿勢を示した。政府が提案した人事に与党が同意しないのは異常な事態だ。
 民主党内の反対論が沈静化する可能性は低く、野党にも否決論が根強い。次の臨時国会での同意取り付けも容易ではなさそうだ。
 だが、規制委の任務は、専門的知見に基づき、原子力利用の安全性を確保することにある。原子力政策の決定の場ではないことに、鳩山氏らは留意すべきだ。
 平時は、原子力発電所の再稼働や廃炉の是非を判断し、緊急時には事故対応の司令塔となる。
 規制委は各府省からの独立性が強く、自律的な組織だけに、原子力の実務を知る人材を欠かすことはできない。専門家を排除すればその役割を果たせまい。
 規制委が機能するには、事務局となる原子力規制庁の陣容を固める必要がある。官民から幅広く人材を起用することが不可欠だ。
 政府が「原発ゼロ」を打ち出せば、将来への展望がなくなり、優秀な人材の確保は困難となることにも気を配る必要はないか。
 国会同意人事については、与野党でルールを見直すべきである。特に、事前報道された場合、原則その人事を認めないとしている点が問題だ。野党当時の民主党が主張し、衆参両院議院運営委員長の合意に明記された。
 不当な報道規制である。政府が情報漏えいを口実にして、与野党との人事案の事前調整を忌避することによる弊害も大きい。
 衆院側は合意撤廃を求めたが、参院側は一部修正にとどめるべきだとして折り合えなかった。
 参院自民党には、かつてこの合意を盾に野党民主党に苦しめられたことへの意趣返しという思いもあろう。だが、不合理な規則は早急に廃止するのが筋である。

2012年9月11日火曜日

9・11 同時多発テロの大きな疑問

同時多発テロから11年がすぎ、この一連の事件で何の罪もなく亡くなった方々のご冥福をお祈りいたしますとともに残された遺族のかたがたにお見舞いをもうしあげます。
さらに怪我や後遺症で苦しまれている多くの方々が一日でも早く回復されんことを願っております。
またその報復を受け訳もわからず亡くなっていった多数のアフガニスタンの人々のご冥福をお祈りいたしますとともに、残された遺族の方々にお見舞いをもうしあげます。
さらに破壊されつくした国土、ないないづくしの環境下で必死に怪我や後遺症と戦っている被災者の方々にお見舞い申し上げます。
きょうもアフガニスタンのどこかで、攻撃は続けられていて、テロとはまったく関係ない村が、名もない人々が無念にも亡くなっていく報道をみるとやりきれない気持ちでいっぱいです。

民主党代表選―自画像をさぐる場に

 民主党代表選が告示された。
 野田首相に、赤松広隆元農水相、原口一博元総務相、鹿野道彦前農水相の3氏が挑む。
 首相の優位は動かないとみられる。それでも候補者乱立となったのは、低迷する党の現状への危機感の表れだろう。
 この代表選を、「民主党とは何か」を問い直し、信頼を取り戻す第1歩とすべきだ。
 近年の代表選の対立軸は、小沢一郎元代表だった。もっぱら「親小沢か反小沢か」の不毛な対立が繰り返された。
 その小沢氏が離党した後の今回こそ、政策本位の論戦の場としなければならない。
 まず消費増税をふくむ、社会保障と税の一体改革だ。
 民主、自民、公明の3党合意で進めた一体改革に、異を唱えるのは原口氏だけ。赤松、鹿野両氏は党分裂を招いた首相の責任を追及しつつも、3党合意は継承する、という立場だ。
 小沢氏ら70人以上の離党者を出し、党内もようやく収斂(しゅうれん)してきたといえよう。
 「脱原発」の方向性では、4氏はおおむね一致している。論戦を通じ、具体化に向けて党内の意思統一をしてほしい。
 物足りないのは、4氏の口から明確な国家像、社会像が聞かれないことだ。
 民主党はいま深刻な「自己喪失」の状態にある。
 09年総選挙で高福祉路線にもとづく公約を掲げたが、政権に就くや財源の壁にぶつかって次々と取り下げた。
 一体改革法の成立は、野田政権の最大の成果だが、今度は逆に自民党との違いが見えなくなってしまった。党内から「自民党野田派だ」といった批判が起きるのも、「何をめざす党なのか」がわからなくなった悩みの表れといっていい。
 自画像を描き直すのは簡単ではあるまい。だが、一体改革と原発問題に、ひとつのヒントがあるのではないか。
 重すぎる借金も、原発による禍根も、将来に残してはならない。選挙権を持たない将来世代こそ弱者であり、そこに責任を持つ政治のありようである。
 この代表選を機に、そんな政策体系をつくりあげることはできないか。
 一方、自民党総裁選では谷垣禎一総裁が立候補を断念し、中堅、ベテラン議員が次々と名乗りをあげている。
 民主党の低迷で救われてはいるが、将来ビジョンを描けない点では自民党も同じだ。
 有権者が見ているのは、新しい両党首の「顔」だけではない。それを忘れてはならない。

沖縄県民大会―首相は声を受けとめよ

 日米両政府に対する沖縄の不信と怒りが、大きなうねりとなって広がった。
 米軍の新型輸送機オスプレイ配備に反対する県民大会が、沖縄県宜野湾市であった。主催者発表で約10万1千人が集まり、市内にある普天間飛行場への受け入れ拒否の声をあげた。
 1996年に日米で合意した普天間飛行場の返還は、基地があることによる負担と危険を減らすためだった。
 住宅や学校に囲まれた飛行場の危険さは、変わっていない。そこに安全性で論争が続くオスプレイを持ち込むことを、地元の人たちは受け入れられない。
 「沖縄の青い空は私たち県民のもの」という大会での声は、その思いを伝える。県民らは、米軍基地をめぐって構造的な差別があると感じている。
 たとえば、米国はすべての軍飛行場のまわりに、発着の安全確保のため、建築物を一切建ててはならない「クリアゾーン」をおくと義務づけている。
 ところが、普天間飛行場では危険なクリアゾーンが外にはみ出し、そこに普天間第二小学校など18施設があり、約800戸に3600人がくらす。
 本国では運用できない基地を沖縄では使い、新たにオスプレイ配備も進める米国の姿勢は、命を軽視する二重基準や差別であると、県民には映る。
 沖縄で、米軍機の墜落事故は数々のいまわしい記憶につながる。59年には沖縄本島中部、石川市(現うるま市)の宮森小学校に戦闘機が墜落した。パイロットは直前に脱出して助かったが、児童ら18人が死に、210人が負傷した。
 基地の負担は、県民の受け入れられる我慢の限界を超えている。また、現実の問題として、米軍は住民に嫌われて、基地を円滑に機能させられるのか。県民大会に集まった人たちは、普天間飛行場のフェンスに黒いリボンをくくりつけた。
 計画にこだわって配備し、その後に万一のことがあれば、日米関係を大きく傷つける。
 本土は、沖縄がどんなに苦しい状況にあるかを知らなくてはならない。野田首相はこの声を受けとめるべきだ。そして沖縄の人たちに対して「配備は米政府の方針」という言い方ではなく、自分の言葉で話すべきだ。米国との交渉も必要だ。
 一日も早く、普天間飛行場を返還させる日米合意の原点に戻ろう。そして、名護市辺野古への移設が無理なことも、県民大会の声を聞けば明らかだ。
 現実を認めることから始めなければ、解決策はない。

民主代表選告示 日本再生へ責任ある論争を

 ◆新たな政策課題の旗を掲げよ◆
 党の体制を立て直し、国民の信頼を回復するためには、民主党政権の3年間を総括し、責任ある政策論争を展開することが肝要である。
 民主党代表選が告示された。再選を目指す野田佳彦首相と、赤松広隆元農相、原口一博元総務相、鹿野道彦前農相の計4人が立候補し、舌戦が始まった。
 首相の優勢は揺るがず、事実上の信任投票の様相を見せている。他の3人がどこまで野田批判票を集めるかも焦点である。
 ◆急がれるデフレ脱却◆
 首相にとっても、できるだけ多く党内の支持を集めることが重要だ。小沢一郎元代表らの離党に伴う党分裂で低下した求心力を回復し、新たな政策課題に取り組む基盤を築くことが求められよう。
 野田首相は共同記者会見で、社会保障と税の一体改革に関する民主、自民、公明3党合意を堅持する考えを強調した。谷垣自民党総裁が総裁選不出馬を表明したが、その考えは変えないという。
 消費税率引き上げを柱とする一体改革関連法の成立は、野田政権の歴史的な業績だ。衆参ねじれ国会の下、「決められない政治」を脱却する一歩でもあり、首相が民自公路線を継続していく姿勢は評価できる。
 赤松、鹿野両氏も3党合意を基本的に守る考えを示したのに対し、原口氏は、参院での問責決議可決によって「3党合意は破棄された」との認識を示した。
 原口氏は、「大阪維新の会」との近さを売り物にしているが、自公両党と連携せずに政策課題を実現できるのか、大いに疑問だ。
 首相は、新しい政策目標として経済再生に向けて「1年以内のデフレ脱却と2年以内の競争力回復」を実現する緊急計画を策定・実行する方針も表明した。
 消費増税の環境を整えるうえでも、目標期限を明示してデフレ脱却に取り組む方針は理解できる。具体化を急いでもらいたい。
 ◆TPPの利点を語れ◆
 4候補の違いが明確になったのは、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題だ。野田首相が「推進」を掲げたのに対し、赤松、鹿野両氏は「慎重」で、原口氏は「不参加」を唱えた。
 日本はロシアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で参加表明を見送ったが、アジアの活力を取り込み、日本経済を成長させるには、TPP参加が欠かせない。首相は早期参加の利点を具体的に語るべきだ。
 エネルギー政策では、4候補が「原子力発電ゼロ」を目指す方針で足並みをそろえた。
 「原発ゼロ」には、コスト増大による経済への悪影響、原子力技術の衰退など、重大な懸念がある。反原発論に迎合せず、より現実的な政策策定へ再考を求めたい。
 鹿野氏ら3候補は共同記者会見で、党分裂を招いた首相の責任を追及し、民主党には「責任を取る政治文化」が必要と主張した。首相は、「党再生を図るため、中途半端に政権を投げ出すわけにはいかない」などと反論している。
 政権党が重要政策の違いを内在したまま、内紛を繰り返す方が、党分裂以上に問題は大きい。政策論争を経て、「決定したことはきちんと守る政治文化」こそが、民主党には必要だろう。
 今回の代表選を、民主党政権の様々な失政を教訓とし、出直しを図る機会とせねばならない。
 不発に終わった先週の細野環境相の擁立劇は、安易な人気取りに走ろうとする民主党の体質を露呈した。若く知名度のある党首を担げば、次期衆院選での苦戦が緩和されよう、という発想だ。
 民主党の政権公約(マニフェスト)素案が「児童手当の5割増」というバラマキ政策を掲げたのも同様の人気取りの発想である。
 ◆現実的な公約が必要だ◆
 民主党は、予算組み替えで年16兆円超の財源捻出が可能などとした非現実的な現在のマニフェストの欠陥を直視せねばならない。代表選の論戦を踏まえ、説得力のある公約を練り上げるべきだ。
 日米同盟の軽視による外交・安全保障政策の迷走、「脱官僚」路線がもたらした行政の停滞、大震災や原発事故への場当たり的な対応……。野田首相は、鳩山、菅両政権の「負の遺産」の清算に取り組んできたが、まだ道半ばだ。
 ねじれ国会で法案が成立しない原因は与党でなく野党、と言わんばかりの民主党の無責任な国会運営が、「決められない政治」の根本にあったことも否めない。
 代表選を通じて、民主党全体が政権党の自覚を持ち、生まれ変われるかどうかが問われている。

2012年9月10日月曜日

「070」携帯電話での利用検討 来年11月にも

 総務省は4日、今はPHS向けの「070」で始まる電話番号を、携帯電話にも使えるようにする省令改正案を情報通信行政・郵政行政審議会に諮問した。スマートフォン(多機能携帯電話)の普及などで「090」「080」は枯渇寸前。手続きが進めば、来年11月にも使えるようになる見通しだ。
 総務省が通信各社に割り当て可能な「090」「080」から始まる電話番号は、今年3月末には残りが910万あったが、7月末には350万まで減ったという。これ以外に通信各社の手持ち分があるものの、番号不足の懸念が出始めている。省令改正で、新たに7千万の「070」で始まる番号が確保できるという。通信各社は総務省に申請後、この番号を使えるようになる。

スマホ、2013年に従来携帯を上回るか 世界出荷予測

 米調査会社IHSアイサプライは、2013年には、全世界の携帯電話の出荷台数でスマートフォン(スマホ、多機能携帯電話)が従来型の携帯電話を上回るという市場予測を発表した。さらに16年には、出荷台数全体に占めるスマホの割合は67%まで高まるとしている。
 予測によると、13年のスマホ出荷台数は携帯電話全体の54%に達する見込み。12年は46%とみており、11年は35%だった。同社は当初、スマホが従来機種を逆転するのは15年としていたが、今回の予測で2年早まった。急速なスマホ普及の理由について、「価格が下落し、新興国でも広がりつつある。製品の種類も拡大している」と分析した。(ニューヨーク=畑中徹)

スマホ、グーグル急上昇 シェア争い、アップルに大差

 世界のスマートフォン(多機能携帯電話)で、米グーグルの「アンドロイド」を搭載する端末の勢いが増している。米調査会社IDCが8日発表した今年4~6月期のスマホ向け基本ソフト(OS)市場調査によると、アンドロイド端末のシェアが68.1%と前年同期の46.9%から急上昇。世界シェアの約3分の2を占めた。
 アンドロイド端末は出荷台数でも前年同期の約2倍の1億480万台。韓国サムスン電子などアンドロイドを搭載した端末が増えたほか、販売台数でも好調だった。
 一方、2位のアップル「iOS」は主力商品のiPhone(アイフォーン)の販売ペースが鈍り、前年同期の18.8%から16.9%に低下した。

日本の年金資金 新興国への投資始まる

 日本で国民年金と厚生年金の積立金を管理・運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)は今年度から新興国への株式投資を行う。MSCI新興国市場指数を指標としてBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)など21カ国に投資する。

 両年金を合計した運用資産額は約113兆円と、GPIFは世界最大級の機関投資家だ。資産に占める外国株の割合は11.46%だが、投資先は原則として先進国に限っていた。

 ただ、先進国の株価パフォーマンスはここ数年、米国株を除けば芳しいものではなかった。GPIFの2011年度の運用実績は収益率が2.32%。うち外国株の収益率は0.49%だった。

 一方、新興国はマレーシア、インドネシア、フィリピンの株価指数が今年に入って過去最高値を更新したように、高い経済成長を背景に株価も上昇を続ける。GPIFの新興国への投資額は数千億円規模のようだが、先進国株の先行きが見えにくいなかでの分散投資は当然の流れだ。

 アジアと周辺地域で、MSCI新興国市場指数の構成国・地域には右記3カ国のほかタイ、韓国、台湾、トルコが入っている。今後、当該国の株価動向には注目が集まるだろう。

 株価パフォーマンスの高い新興国だが、市場規模が小さい分、変動率も大きくなる。自分たちの年金資金がどう運用され、どのような結果になるのか、しっかり見守りたい。

スマートフォン 使い方にお国柄にじむ

 この数年で一気に普及してきたスマートフォン。米グーグルは、世界の主要国を対象にスマホの普及、利用状況を調査した。

 個人ユーザーへのアンケート結果から算出したアジア新興国の普及率(2011年時点)は、最も高いのがシンガポールの62%。以下、タイ28%、インド23%、インドネシア17%、マレーシア9%と続いた。

 シンガポールの普及率は世界でも圧倒的で、2位オーストラリアの37%を大きく引き離した。従来型携帯電話の普及率がもともと高く、スマホが普及しやすい土壌はあったようだ。

 シンガポール以外の国の普及率は一見、低く見える。しかし、先進国でも米国は31%、日本に至っては6%だった。アジアの新興国は、先進国に比べ劣っているどころか、実際は想像以上にスマホが浸透していると言ってよい。

 グーグルはスマホでインターネットを利用する際の理由についても調べているが、こちらもなかなか興味深い結果となっている。

 タイは「パソコンがないときの情報収集」がトップだったのに対して、マレーシアやシンガポールは「待ち時間の暇つぶし」との回答が最も多かった。また、インドは「暇つぶし」と並んで、IT大国らしく「質問に対する迅速な回答」「関連性の高い情報を提供」などスマホの機能に注目した回答が目立った。

 同じアジアの新興国でも、スマホの使い方に国民性の違いが出ているようだ。

2012年9月9日日曜日

防災基本計画―脱原発と歩調あわせて

 国の中央防災会議が、福島第一原発の事故を踏まえて防災基本計画を修正した。
 これを受けて、原発周辺の各自治体や電力会社は、それぞれの防災計画の見直し作業を本格化する。
 一方、野田政権は今週中にも将来の原発ゼロを目指すエネルギー戦略を正式決定する。今後は、危険度やコストを見計らいながら、閉める原発を選別していく作業となる。
 防災計画は、こうした脱原発への工程と整合性をとって進めていくことが必要だ。
 新たな防災基本計画は、国会などの事故調査委員会が指摘した問題点を反映させた。
 複合災害や過酷事故が起きることを前提に、広域避難に必要な手順の詰め▽役割分担の明確化▽訓練やチェックの徹底、などをさだめている。
 緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の分析結果についても、新しくできる原子力規制委員会が速やかに公表することが明記された。
 いずれも当然の措置であり、むしろ決定が遅かったほどだ。
 対策を準備しておくべき地域は、原発の8~10キロ圏内から30キロ圏内へと拡大される。
 問題は、現実的な防災計画が立てられるかだ。
 東海第二原発(茨城県)の周辺人口は約107万人、浜岡原発(静岡県)は約94万人に及ぶ。一斉避難は不可能だ。
 かたや過疎地も、幹線道路が1本しかなく、地震や津波による遮断や冬季の凍結が懸念される地域が少なくない。
 こうした地域についてはむしろ、廃炉を考えるべきだ。
 原発の運転期間は稼働から40年を厳守することも決まっており、ここ数年で寿命を迎える原発もある。
 ただでさえ、防災を名目にした公共事業予算の膨張が懸念されている。
 多大な負担を強いて防潮堤や道路をつくるより、原発依存から脱却した後の地域の立て直しや新しい産業の育成に力を注いだほうが効果的なケースも出てくるだろう。
 もちろん運転を止めても、当面、燃料棒や核汚染物質は残る。施設や設備が完全に撤去されるまで事故のリスクがある。油断は禁物だ。
 だが、危険の種類や度合いが変われば、対策の立て方も違ってくるはずだ。
 政府は脱原発政策の具体化として、古い原発や危険のある原発を仕分けする作業を急ぎ、防災計画を実効性のあるものにしなければならない。

スペイン支援―ギリシャ危機を教訓に

 政府債務とユーロの危機にまつわる難問の山をバカンス明けに先送りしてきた欧州に、「試練の9月」がやってきた。
 差し迫った課題は、国債金利が高止まりしているユーロ圏第4の大国スペインの危機が本格化するのを防ぐことだ。
 欧州中央銀行(ECB)はスペインなどの問題国を対象に、返済期間1~3年の国債を無制限で買い入れることを決めた。当事国が欧州金融安定化基金(EFSF)や、その後継組織の欧州安定メカニズム(EMS)に、財政再建を約束して支援を求めることが条件だ。
 ドイツは「中央銀行による加盟国の財政支援につながる」と反対した。しかし、欧州では信用力の高い北の国々で金利が低い一方、苦境にある南欧諸国の金利が高い。この乖離(かいり)が広がれば金融政策が効かなくなる、という理屈でドラギECB総裁が押し切った。
 これは、対象国債の利回りを一定限度内に抑えるよう買い支える含みを持つ。
 ギリシャ処理が失敗した最大の要因は、国債相場の暴落で政府の調達金利が高騰し、いくら緊縮財政に取り組んでも実体経済が収縮するばかりで、財政再建につながらない悪循環を許したことにあった。
 スペインはギリシャの5倍の経済規模を持つ。炎上すれば、スペインの1.5倍あるイタリアへの延焼も避けられない。ギリシャ支援のような行き当たりばったりの失敗を繰り返すわけにはいかない。
 これまでギリシャやアイルランドなどの小国は、政府の資金繰りがつかなくなって欧州連合(EU)に助けを求めたが、大国の場合は追いつかない。
 今回、ECBとEFSFなどが連携して、問題国の国債消化を助けながら財政再建につなげる選択肢を整えたことは評価できる。
 スペインは銀行救済でもEUから1千億ユーロ(約10兆円)規模の支援を取り付けている。支援する側の資力も限られる以上、問題を整理して迅速な対策を打ち、最大の効果を引き出すように工夫したい。
 国債市場が安定すると、問題国の改革努力が緩む危険性がある。今回の枠組みが、国内で不人気な緊縮財政や経済構造の改革を支援の条件にしているのはそのためだ。
 スペイン政府は、早急に国債買い入れ支援を要請すべきだ。足元の危機の広がりとギリシャのような悪循環に陥った場合の惨状を考え、先手を打つべく国民を説得してほしい。

日露首脳会談 領土交渉への土俵を固めよ

 まずは交渉の土俵をしっかりと固めていかなければならない。
 野田首相とプーチン露大統領がロシア極東のウラジオストクで会談し、北方領土交渉の継続を確認した。今秋に予定される日露次官級協議、12月をメドとする首相の訪露で議論を深めることになる。
 尖閣諸島や竹島の問題を契機に、日本の主権・領土に対する姿勢が厳しく問われている。北方領土問題でも、政府は歴史的な経緯と文書を踏まえ、粘り強く解決を模索しなければならない。
 野田、プーチン両首脳の会談は、領土交渉の「再活性化」で合意した6月のメキシコ・ロスカボスに続いて2度目だ。
 今回、野田首相は、交渉の前提として日本の国民感情への配慮が必要と指摘し、「静かで建設的な環境」での議論を求めた。
 メドベージェフ露首相が7月に国後島に上陸して日本を挑発したことを念頭に置いた発言だ。日露間で交渉しようというのに、北方領土開発の既成事実を積み重ね、一方的に「ロシア化」を進めることは、断じて許されない。
 プーチン大統領も「世論を刺激せず、静かな雰囲気の下で解決していきたい」と言明した。言葉通りの行動をとるべきである。
 経済分野では、野田首相がロシアの世界貿易機関(WTO)加盟を歓迎し、極東シベリア開発についても「相互信頼が進めば協力が現実のものとなる」と語った。
 大統領は日本の投資拡大に期待感を表明したが、ロシアには、貿易障壁の撤廃など投資環境を一層改善してもらいたい。
 会談後、両首脳は、液化天然ガス(LNG)工場建設に関する覚書の署名式に立ち会った。ウラジオストク近郊で、日本企業とロシア国営のガスプロムが進めているプロジェクトである。
 ロシアは極東の資源開発を進めている。日本では原発事故以来、LNGの需要が増え、火力発電用燃料の安定調達と輸入先の多様化が課題だ。エネルギーに関しては日露双方にメリットが大きい。
 両政府はまた、オホーツク海のカニなど水産物の密漁・密輸入対策に関する協定にも署名した。
 日露両国が連携し、ともに利益を享受できるのは、こうした分野にとどまらない。経済、軍事の両面で膨張し続ける中国と向き合っていくうえで、日露関係には戦略的な重要性がある。
 北方領土問題を解決する道筋をつけるためにも、日露の相互依存を深めていくべきだろう。

出生前診断 「命の選別」助長せぬルールを

 胎児がダウン症かどうか、高い精度で分かる新型の出生前診断が、近く国内の約10医療機関で試験的に始まる。
 最新の生殖医療技術が「命の選別」を助長するような事態は、避けなくてはならない。
 安易な実施に歯止めをかけるため、日本産科婦人科学会などは、検査する際の基準を規定する指針の作成を急ぐべきだ。
 妊婦の血液から胎児の染色体異常などを調べる出生前診断では、既に「母体血清マーカー」と呼ばれる検査法が普及している。
 厚生労働省は「医師は勧めるべきではない」との見解を出しているが、強制力はなく、年間2万件近く実施されている。異常の可能性を知って、妊婦がショックを受け、人工妊娠中絶を選択するケースが少なくないとされる。
 ダウン症の発症を確率でしか予測できない旧来の方法に比べ、今回、試験的に始まる新型の診断法では、ほぼ確実に判定できる。専門医などの間で、「安易な中絶を助長する恐れがある」との懸念があるのも当然と言えよう。
 新型診断を導入している海外では、「障害者の排除につながる」として、家族らの団体が反対声明を出し、国際刑事裁判所に提訴した例もある。
 出生前診断が広まっている背景には、晩婚化に伴い、先天疾患のリスクが高まる高齢出産が増えている現状がある。「赤ちゃんの障害の有無を知りたい」という妊婦の依頼を、医師はなかなか断れない実情もあるのだろう。
 医師は、検査を要望されたら、ダウン症の正しい知識を丁寧に説明することが大切だ。
 ダウン症は知的障害や心疾患を伴うことが多い反面、医療や教育体制が整備され、多くの人は健やかに日常生活を送っている。
 妊婦の不安に応えるカウンセリング態勢の充実が欠かせない。現在、全国で約270人の専門家を増やしていく必要がある。
 米国では今年6月、妊婦の血液と父親の唾液から、胎児のすべての遺伝情報を解読することに成功した。実用化されると、ほとんどの遺伝性疾患を胎児の段階で調べることが可能になる。
 そうなれば、医療現場には今後、さらに重い課題が突き付けられよう。今回の新型診断は、その入り口に過ぎないと言える。
 生殖医療の技術革新に、利用や規制のルールが追いついていないのが現状だ。指針の作成においては、将来の技術の進展も見据えた議論が求められる。

2012年9月8日土曜日

ダブル党首選―一体改革を忘れるな

 国会が事実上閉幕し、民主、自民の両党首選が本格的に動き出した。
 民主党では、細野環境相が立候補を見送り、野田首相と原口元総務相、赤松元農林水産相が名乗りを上げた。
 一方、自民党では谷垣総裁と町村元官房長官が立候補の意向を表明した。石原幹事長や石破前政調会長、安倍元首相、林元防衛相も意欲を示している。
 これまでの両党の動きをみると、遠からず行われる総選挙に向けた「選挙の顔」えらびの側面ばかりが目につく。
 だが、それでは困るのだ。
 今回選ばれる両党首のいずれかが、総選挙後の首相として日本のかじ取りを担う可能性が高い。各候補は理念と政策を明確に掲げ、指導者としての資質を競う機会としてもらいたい。
 まず求めたいのは、民主、自民、公明の3党で合意した、社会保障と税の一体改革を引き継ぐことを明確にすることだ。
 一体改革関連法の成立後、首相への問責決議の可決などで2大政党の関係は再びきしんでいる。1年以内に結論を出すとした、社会保障国民会議の設置もめどが立たない状態だ。
 一体改革の肉付けはこれからだ。高齢化のピークに向けて医療や年金制度をどう強化し、子育て支援策をどう充実するか。また、消費増税にともなう逆進性の緩和や、所得税や相続税の強化も積み残されている。
 政権が代わっても、少なくとも社会保障制度は政争の具にせず、安定的に運営できる態勢を民自公3党を中心につくる。それこそが一体改革の眼目だったはずである。
 政党間の正式な約束だ。それを反故(ほご)にするようなことになれば、消費増税で負担増となる国民への裏切りにも等しい。
 ところが、自民党では安倍元首相のように民主党ではなく、大阪維新の会との連携を模索する動きもある。
 その維新の会は「消費税の地方税化」を掲げる。もし自民党が維新の会との連携を優先するなら、民自公の一体改革は空中分解しかねない。
 その場合、安定的な社会保障制度をどんな政治の枠組みでつくっていくのか。説得力ある方針を示す責任がある。
 原発再稼働を含むエネルギー政策、貿易自由化、近隣外交のあり方など、課題は山積している。しかも、それぞれで両党とも党内の意見が割れている。
 この党首選を、総選挙に向けて政策の方向性を整理し、公約を固め直す絶好のチャンスととらえてはどうか。

米大統領選―異なる米国像の選択

 11月の米大統領選に向け、共和党と民主党の大会が相次いで開かれた。選挙戦はいよいよ終盤に入る。具体性のある政策論争を期待する。
 厳しい経済情勢が続くなか、最大の焦点は、雇用増などの経済政策だ。
 同時に、今回の選挙は、大きく異なる二つの米国像の選択でもある。
 民主党の現職バラク・オバマ大統領が描くのは、多様な人たちが支え合う米国の姿だ。
 オバマ氏は指名受諾演説で、「お互いに対し、将来の世代に対して一定の責務があると受け入れてこそ、国は機能する」と訴えた。1期目の最大の成果である、国民皆保険を実現するための医療保険改革や、富裕層増税の訴えにつながる考えだ。
 民主党大会には、アフリカ系(黒人)やヒスパニック(中南米系)が多く参加。党綱領で同性婚への支持を初めて明記するなど、多様性をアピールした。
 野党共和党の候補、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は、個人が自立した強い米国を指し示す。
 参加者のほとんどが白人だった共和党の大会を貫いたのは、成功は自らの努力で勝ち取るという自負心だ。
 ロムニー氏はビジネスマンとしての成功体験を語る一方、医療保険改革の即時撤廃を掲げ、富裕層増税に反対する。党綱領は税金を通じた富の再配分を否定し、相続税廃止もうたう。
 景気停滞で余裕がなくなり、個人主義は色濃さを増す。共和党支持者には、オバマ政権が続けば、これまでに築いたものが失われる、との危機感が強い。
 選挙戦は互角だ。4年前、変化と希望のメッセージをひっさげて登場したオバマ氏は景気回復を実現できず、支持者に以前の熱気は失せた。
 ロムニー氏は「オバマ政権で生活は良くなったか」と攻勢をかけるが、経済再建の具体的な道筋は示しておらず、決め手に欠ける。大金持ちで、庶民感覚とのずれも指摘される。
 中傷合戦に嫌気をさす有権者も多く、両候補とも支持に広がりが見られない。
 ただ、二つの大会には、共通点もあった。貧しさから身を起こし、議員や市長になった移民2世、3世が登場した。「アメリカンドリーム」を実現できる社会であり続けたい、という思いは一緒だ。
 選挙までに、2人の間で3度の討論会が行われる。副大統領候補の討論会もある。夢を見続けられる社会を築けるのは誰なのか。論戦で示して欲しい。

「原発ゼロ」提言 現実を直視できない民主党

 拙速な議論で「原子力発電ゼロ」の方針を打ち出すのは、政権党としてあまりに無責任だ。
 民主党が「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すエネルギー政策の提言をまとめた。
 原発の新増設は認めず、運転開始から40年での廃炉を厳格に適用するという。だが、高コストや失業増大など経済への悪影響を克服するための具体策は乏しい。問題だらけの内容だ。
 「原発ゼロ」を30年代に実現するという期限についても、党内の議論の終盤で強引に盛り込む乱暴な決め方だった。
 衆院選のマニフェスト(政権公約)を意識し、「原発ゼロ」を鮮明にした方が選挙に有利だと考えたのだろう。大衆迎合主義(ポピュリズム)そのものだ。
 太陽光など再生可能エネルギー拡大に50兆円、省エネ達成に100兆円――。政府のエネルギー・環境会議が示した「原発ゼロ」のコストは膨大である。
 電気代が上昇し、標準家庭の光熱費は、現在の月1万7000円が3万2000円に跳ね上がる。生産コスト増で産業空洞化が加速し、失業は急増するだろう。
 「原発ゼロ」がもたらす悪影響の重大さは、経済界だけでなく政府も認めている。
 しかし、民主党はこうした「不都合な真実」に目をつぶった。提言で明確な打開策を示さず、「政策的に強力な支援を行う必要がある」などとし、政府に対応を“丸投げ”しただけである。
 「原発ゼロ」の時期を明示した場合、原子力の技術者などを目指す若者が激減し、肝心の人材が育たなくなる恐れが強い。
 福島の事故を受けた原発の安全性向上や廃炉技術の確立など、重要な責務を果たせなくなり、日本の国際的な信用も失墜しよう。
 原発再稼働へ地元の理解も得られにくくなる。政府の核燃料サイクル政策を前提に、各地の原発から使用済み核燃料を受け入れてきた青森県が、協力を拒否する事態となれば、全国の原発を動かすことは一段と困難になる。
 現在、原発を代替する火力発電の燃料費は、年3兆円以上も余計にかかっている。再稼働できないと、東電以外の電力会社も大幅な料金値上げを回避できまい。
 政府は来週にも、新たなエネルギー戦略を決める予定だ。選挙目当ての民主党提言にとらわれず、政府は中長期的に原発の活用を続けていく現実的なエネルギー政策を示すべきである。

通常国会閉幕 停滞打破へ与野党は知恵絞れ

 7か月余に及んだ通常国会が8日閉幕する。
 長丁場の割には、非生産的だった。
 「決められない政治」から脱却するための国会改革に、与野党で取り組む必要がある。
 最大の成果は、社会保障・税一体改革関連法の成立である。民主党と自民、公明両党が連携し、長年の懸案であった消費税率引き上げを決めた意義は大きい。
 野田首相は記者会見で「政治家が使命感と覚悟を持ち、大局に立てば、政治の停滞を打破できる」と強調した。その通りだろう。
 だが、民自公の連携はごく一部に限られ、多くの懸案が残った。政府が新規提出した法案のうち成立は66%で、この20年間で2番目に低い水準だ。与野党とも大いに反省しなければならない。
 国会停滞の原因は、衆参のねじれだけではない。自民党の谷垣総裁は、民主党の混乱が国政の遂行を妨げた、と指摘した。
 確かに、民主党執行部の稚拙な対応が目立った。例えば、原子力規制委員会人事の国会同意が実現しなかったことである。
 政府が決めた委員長と委員の候補に対し、民主党内から異論が相次ぎ、造反を恐れた党執行部は、衆参両院本会議での議決を見送った。民主党には政府を支える自覚が足りないと言えよう。
 原子力安全行政の立て直しを担う規制委の発足がずれ込めば、原子力発電所の再稼働にも支障が出る。野田首相は規制委設置法に基づき、国会同意なしに委員長と委員を任命する考えを表明した。やむを得ない措置である。
 違憲状態とされている衆院選の「1票の格差」是正も先送りされた。民主党が、野党の合意を得ず一方的に独自法案の審議を進めたことが事態をこじらせた。
 一方、国会の混乱は野党にも大きな責任がある。
 参院で首相と2閣僚の問責決議を可決し、審議拒否によって国会を長期間空転させた。
 野党時代の民主党と同様の手法だ。こんな不毛な対立をいつまで繰り返すのか。法的拘束力のない問責決議を政争に使うことは慎まねばならない。
 赤字国債を発行するための特例公債法案は、野党の反対で廃案となった。予算の裏付けとなる財源を担保できず、政府は地方交付税交付金の配分など予算執行の一部抑制に踏み切る。国民生活に悪影響を及ぼしかねない事態だ。
 与野党が党利党略で駆け引きにうつつを抜かす。そんな政治に終止符を打ってもらいたい。

2012年9月7日金曜日

安倍元首相―思慮に欠ける歴史発言

 自民党総裁選に向け、安倍晋三元首相がみずからの歴史観について活発に発言している。
 たとえば月刊誌のインタビューで、こう語っている。
 「自民党は、歴代政府の答弁や法解釈を引きずってきたが、新生・自民党では、しがらみを捨てて再スタートを切れる」
 「新生・自民党として、河野談話と村山談話に代わる新たな談話を閣議決定すべきだ」
 そして、自分が首相に返り咲けば、靖国神社に「いずれかのタイミングで参拝したいと考えている」と述べている。
 自民党の一部で根強い主張である。それにしても、首相経験者、さらには首相再登板をねらう政治家として、思慮に欠ける発言といわざるをえない。
 河野談話は慰安婦問題で旧日本軍の関与について、村山談話は過去の植民地支配と侵略について、それぞれ日本政府としての謝罪を表明したものだ。
 6年前、首相になる前の安倍氏は「自虐史観」に反発する議員の会の中核として、村山談話や河野談話を批判してきた。
 だが、首相になるや姿勢を一変させ、両談話の「継承」を表明した。政権を担う身として、対外宣言ともいえる外交の基本路線を覆せなかったからだ。
 安倍氏自身が靖国参拝を差し控えたこともあり、小泉政権で冷え切った中韓との関係を改善したのは安倍氏の功績だった。
 私たちは当時の社説で、そんな安倍氏の豹変(ひょうへん)を歓迎した。
 それがにわかに先祖返りしたかのような主張には、驚くばかりだ。再び首相になればそれを実行するというなら、方針転換の理由を説明してもらいたい。
 ふたつの談話は、安倍政権をふくめ、その後のすべての政権も踏襲した。韓国をはじめ近隣国との信頼を築くうえで重要な役割を果たしてきた。
 かりに首相に再登板した安倍氏がこれを引き継がないということになれば、日本外交が苦労して積み上げてきた国際社会の信頼を失いかねない。
 自民党の一部に再び安倍氏への期待が出ている背景には、尖閣諸島や竹島をめぐる中韓の刺激的な行動があるのだろう。
 しかし、それに安倍氏流で対抗すれば、偏狭なナショナリズムの応酬がエスカレートする恐れさえある。
 政治家が信念を語ること自体を否定するつもりはない。
 ただし、それには自分なら近隣国との外交をこう前進させるという展望を、しっかり示す責任が伴う。その覚悟なしに持論にこだわるなら、一国の政治指導者として不適格だ。

自然エネルギー―普及への壁を取り払え

 風力や太陽光、地熱といった自然エネルギーによる電力を固定価格で電力会社に買い取らせる制度が7月に始まった。
 原発ゼロを実現させるうえでも、大事なステップだ。制度をきっかけに、太陽光発電への投資が急増している。
 しかし、風力や地熱、さらに廃棄物や木材を利用するバイオマスへの投資はまだ鈍い。
 風力では北海道、東北を中心に多くの建設構想があるが、送電線の不足や厳しい規制に実現を阻まれている。地熱でも、温泉への影響を懸念する声が関係者から上がる。
 こうした普及への壁を取り払うため、官民の知恵と力を結集しなければならない。
 発電量に占める自然エネルギーの割合は現在、約10%。水力を除けば1%強にすぎない。
 政府のエネルギー・環境会議が示した三つの選択肢では、どの原発比率を選ぶにしても、自然エネルギーの割合を2030年には25~35%に増やすことになっている。
 目標値はたしかに高いが、悲観的になることはない。脱原発に進むドイツの自然エネルギー比率は90年代、日本より低かったが、その後、急拡大させて現在は約20%。その比率を20年に35%に伸ばそうとしている。中国やインドなど新興国も急拡大させている。
 民間からの投資を引き出すには、政府が自然エネルギー拡充への道筋を明確にし、投資家が事業見通しを整えられるようにしなければならない。
 規制を大胆に見直し、土地利用の手続きや環境影響評価に時間がかかりすぎないようにする。発送電の分離を柱とする電力改革を進めつつ、送電線の増設を急ぐ。
 地元住民の参加も重要だ。ドイツや北欧では、風力発電所やバイオマス施設の建設を住民組織が出資、運営する例が少なくない。草の根から取り組む例を日本でも増やしたい。
 新しい技術開発へも挑戦してほしい。とくに注目したいのが浮体式の洋上風力発電だ。
 国の予算を使って、長崎県五島列島沖で実証実験が始まり、福島県沖でも大規模実験が行われる予定だ。国費の投入には限度があるが、洋上風力の発電能力は大きい。世界初となる浮体式の実用化に成功すれば、自然エネルギー普及に大きな弾みとなろう。
 企業や大学が持つ風力や地熱の発電技術はこれまで外国へ輸出されるか、そうでなければ国内で眠ったままだった。今こそ日本で花を咲かせてほしい。

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