2012年10月31日水曜日

電力値上げ―当座しのぎではダメだ

 原発への依存度が高い関西電力をはじめ、電力各社が値上げを検討している。
 原発の代わりに動かしている火力発電の燃料費がかさんでいるためだ。
 火力への依存が高まることによる当面のコスト増は、ある程度、利用者全体で広く薄く負担するのもやむをえまい。
 しかし、それも電力会社が先々の電力供給や経営のあり方を真剣に見直したうえでの話である。それなくして、値上げには説得力がない。
 原発への新しい安全基準は、来年7月をめどに原子力規制委員会がまとめる。追加的な対策をとるのが難しく、稼働が認められない原発も出るだろう。
 運転寿命を40年とする規制を厳格に適用する方針は、すでに示されている。大飯原発など、活断層の存在が懸念される原発もいくつかある。
 こうした危ない原発、古い原発から閉めていくことになる。
 廃炉には多額の費用がかかるが、まだ十分に引当金を積めていないところが少なくない。
 そうした状況を考えれば、経営戦略を早急に切り替えなければならない。
 事業を見直し、経営の無駄をとりのぞく。安全対策費がかさみ、維持だけでお金がかかりすぎるなら、自ら原発を閉める選択肢もある。
 世界一高いとされる液化天然ガス(LNG)の購入費も、政府の支援などを得ながら調達先を広げるなどして下げていく必要がある。
 効率のいい新型火力や自然エネルギーなど、新たな電源を確保する。利用者に省エネ・節電を促す新しいビジネスを活用していく。やるべきことは、山ほどある。
 ところが、各社の発言を聞いていると、まだ全ての原発の存続を前提に、当座をしのぐ策ばかり練っているようだ。
 政府・与野党も、エネルギー産業の構造改革に向けて早く議論を深め、電力会社が自ら脱原発へと動くような枠組みを講じていくべきだ。
 実際に値上げ申請となれば、少なくとも家庭向けの料金については、公認会計士など専門家による査定を受ける。
 消費者庁も別途、検証の場を設けるだろう。どちらも広く公開される見込みだ。
 原発依存からの脱却へ経営を切り替えているか――。コスト負担を引き受けるうえで、注意深く点検する必要がある。
 「燃料代が上がったので」という説明だけなら、とうてい納得できない。

追加金融緩和―政治不況を起こすな

 景気の急速な冷え込みを防ぐため、日本銀行が2カ月連続で追加の金融緩和を決めた。
 政府と日銀が一体でデフレ脱却に取り組むという異例の共同声明も出した。
 だが、一連の動きを見ると、政治が自らの機能停止のツケを日銀に押し付けているとしか思えない。特例公債法案の成立など、政治が責任を果たすことが先決だ。
 今回の緩和では、国債や上場投信など計11兆円を買い増す。単に資金を積み上げても景気への効果が見通せないため、銀行が企業への新規融資を行う資金を超低利で供給する仕組みも新たに設けた。
 ただ、企業に資金をいくら押し込もうとしても、実体経済の側に資金需要を生むような事業の盛り上がりが生まれなければ効き目がない。
 政府による規制や制度の改革が不可欠だ。むろん民間の努力は重要だが、経営環境の展望が開けなければ、民間が動こうにも動けない分野も多い。
 金融緩和だけでは、「何もせず景気回復を待つ」という現状維持の心理を助長し、民間経済を沈滞させかねない。
 政府・日銀の共同声明は、こんな懸念を意識してのことかも知れない。政府はデフレを生みやすい経済構造の改革に政策を動員するという。
 決意表明は大いに結構だ。しかし、現下の政治はこれを素直に受け取れるような状態ではない。機能停止にとどまらず、むしろ自ら不況をつくりだしつつあるといっていい。
 臨時国会は始まったものの、特例公債法案は成立のめどが立っておらず、歳出抑制の動きが広がる。米国で不安視される「財政の崖」の日本版を自らつくり、解散するか否かのチキンレースに励んでいる。
 さすがに機関投資家の間では不安が広がっている。12月に国債発行が停止になった場合、たとえ後から法案が通って発行が再開されたとしても、「だんご発行」になる恐れがある。
 となると、市場で消化しきれず、歴史的な高値相場が変調をきたし、金利が急騰しかねない――。もっともな懸念だ。
 そんな危機を覆い隠そうとばかりに、政府、与野党はこぞって日銀に緩和圧力をかけた。
 予算の資金繰りすら始末をつけられない政治が、中央銀行に物申すことで何か一仕事しているかように振る舞うのは、まことに見苦しい光景だ。
 政治不況は起こさない。政府と与野党はまずこの一点から良識を取り戻してほしい。

追加金融緩和 政府・日銀は効果的な連携を

 デフレ脱却を目指し、政府・日銀が連携を強化する姿勢を明確にした。肝心なのは効果的な政策の実行である。
 日銀が国債などを買い入れる基金を11兆円上積みし、91兆円とする追加金融緩和策を決めた。貸し出しを増やした銀行に、日銀が低利で資金供給する新制度も打ち出した。総額に上限を設けず、手厚く供給するという。
 海外経済の減速や日中関係の悪化の影響で、景気は冷え込み始めた。腰折れを防ぐため、日銀が2か月連続で追加策に踏み切ったのは妥当な判断と言えよう。
 基金を積み増す従来の手法では企業などに資金が十分に行き渡らない。新制度によって貸し出しが増加することに期待したい。
 政府・日銀がデフレ脱却に向けて「一体となって最大限の努力を行う」という、初めての共同文書も発表した。
 金融政策決定会合に出席した前原経済財政相は記者会見で、「重要な一歩になる」と強調した。政府・日銀の協調を「かけ声倒れ」に終わらせないことが大切だ。
 日銀が新制度を含む追加策に動いた背景には、「2014年度以降、遠からず」としていたデフレ脱却の時期が遅れることへの危機感があるのだろう。
 日銀が追加策とあわせて発表した14年度の物価上昇率の見込みは「0・8%」で、デフレ脱却のメドとなる「1%」を下回った。
 14年4月には消費税率が8%に引き上げられる予定である。社会保障・税一体改革に支障の出ないよう、政策を総動員し、デフレ脱却を急がねばならない。
 政府や与野党には、円高是正を目指した外債購入や、インフレ目標の導入などを日銀に求める声もある。政府と日銀がさらに論議を深めることが求められる。
 人口減少や潜在成長率の低下、産業空洞化など、構造問題への対応は主として政府の役割である。先週に閣議決定された小規模な緊急経済対策では全く不十分だ。
 介護・医療や環境などの成長分野で新産業を育成し、雇用の創出も加速させてもらいたい。
 安全を確認できた原子力発電所を再稼働して電力の安定供給を図り、経済再生を後押しする態勢を整える必要もある。
 何より、今年度当初予算の財源を確保する特例公債法案の成立を急ぐべきだ。国庫が底をつき、行政機能が停止すれば、急激なデフレ圧力で日本経済は致命的な打撃を受ける。こうした混乱は回避しなければならない。

高齢者の医療費 「世代間格差」の改善が必要だ

 高齢化で膨らむ医療費の負担を世代間で公平にすることが急務だ。
 政府の財政制度等審議会が、70~74歳の医療費の窓口負担を1割に抑える特例措置を廃止し、法律の規定通り2割負担にすべきだとの見解で一致した。財務相に近く措置の見直しを提言する。
 医療費の大半を賄う現役世代の負担が過重になるのを防ぐため、高齢者に応分の負担を求めることはやむを得ない。
 後期高齢者医療制度が始まった2008年、医療機関で払う窓口負担は70~74歳がそれまでの1割から2割に、75歳以上は従来通り1割とすると法律で決まった。
 だが、当時の自公政権は国民の反発を恐れ、70~74歳の負担を1割に抑える特例措置を決めた。
 民主党政権も継続している。
 この結果、1人当たりの平均収入に占める患者負担割合は、65~69歳の3・8%、75歳以上の4・6%に対し、70~74歳は2・4%と、格段に低い。(ひず)みが広がっていると言えよう。
 三井厚生労働相は、この問題について、記者会見で、特例措置の見直しに慎重な姿勢を示した。次期衆院選を控えて、高齢者に新たに負担を求めることは避けたいからだろう。
 だが、特例措置を維持するため、毎年約2000億円の国費が投入されている。財政赤字を拡大させる要因になっており、そのツケは将来世代へ回ることになる。
 高齢世代は、若い世代に比べて、税や保険料の負担を上回る年金や医療サービスを受けることができる。窓口負担の特例措置は、世代間の格差も助長するものだ。
 やはり、特例措置を見直し、負担の引き上げを決断すべきだ。政府は、負担を引き上げる場合は、今後70歳になる人から順次行い、既に70歳を超えた人は対象にしないことを検討している。
 日本人の外来受診回数は、英米を大きく上回り、医療費の増加や医師不足につながっている。窓口負担の引き上げで、不要不急の受診を防ぐ効果も期待できよう。
 無論、症状が重く、通院を減らせない人もいる。その場合には、75歳未満であっても、75歳以上が対象の後期高齢者医療制度に移行し、負担を抑える仕組みを活用してはどうか。
 一方、公的年金も、本来より高い給付水準に据え置く特例措置により、過払いになっているという問題もある。医療、年金財源の負担を将来世代に先送りし続けることは、もうやめるべきである。

2012年10月30日火曜日

臨時国会開幕―報復の連鎖を断ち切れ

 異常な幕開けである。
 きのう、臨時国会が召集され、衆院本会議で野田首相の所信表明演説があった。
 ところが、参院はこれを拒否し、各党の代表質問も行わないという。憲政史上、例のない事態である。
 参院は先の通常国会で首相の問責決議を可決した。だから首相の発言は聞くに値しない。自民党など野党側が、そう唱えたためだ。
 政権にどんな問題があろうとも、あくまで審議を通じてただしていく。それが国会の役割ではないのか。怠慢というほかはない。
 自民党としては、野党が多数を握る参院で野田政権を揺さぶり、衆院の早期解散を迫るのがねらいだろう。
 だが、予算執行に不可欠な赤字国債発行法案や、衆院の一票の格差是正の「0増5減」法案などの処理は喫緊の課題だ。
 参院自民党には、ただちに審議に応じるよう強く求める。でなければ、参院不要論に火をつけ、結局は自分たちの首をしめることになる。
 そもそも「ねじれ国会」が続くなか、参院が政権の命運を左右するほどの力をふるうことが、今回の異常事態を招いたともいえる。
 問責決議を理由に審議を拒んだり、重要法案を人質にとったりするのでは、政治の混迷は深まるばかりだ。
 首相は、所信表明演説で赤字国債法案を駆け引きに使う悪弊を「ここで断ち切ろう」と訴えた。私たちも同感だ。
 赤字国債発行法案は予算と一体で成立させる。問責を決議しても審議には応じる。
 そんな慣例やルールをつくり、政治を前に進める。臨時国会では、そのことに与野党あげて取り組むべきだ。
 一方、首相も野党に求めるだけでなく、譲るべきは譲らねばならない。
 足元の民主党の惨状は目を覆うばかりだ。
 28日の衆院鹿児島3区補選では、民主党推薦の候補が自民党前職に敗れた。離党者も止まらず、きのう新たに2人の衆院議員が離党届を提出し、単独過半数割れまで3議席となる。
 政権に、難局を打開する力が残っていないことは明らかだ。
 自民、公明に再度の党首会談を呼びかけ、解散時期についてより踏み込むなどして、協力を求める。そして互いに報復し合う連鎖を断ち切り、政治を動かす道筋をつける。
 それこそが、野田政権の仕事ではないか。

再審無罪へ―15年の検証が必要だ

 事件が突きつけた課題にどう向きあい、信頼回復につなげるか。刑事司法にかかわるすべての人の姿勢が問われている。
 東京電力の女性社員が15年前に殺された事件のやり直し裁判は、検察側が「被告を有罪とは認められない」との意見を述べて、ただちに結審した。
 現場に落ちていた体毛、被害者の体内に残された体液、そして爪の付着物。この三つから、被告ではない人物のDNA型が検出された。いったん無期懲役が確定した被告に、来月7日、無罪が言い渡される。
 6月の再審開始の判断は、最初の二つの鑑定結果が大きな根拠になった。逆転をねらった検察は8月に爪の鑑定を嘱託。これが、当の検察に誤りを認めさせる決定打となった。
 だれもがおかしいと思うだろう。弁護側は5年以上前から、「爪に犯人の皮膚片などがついている可能性がある」として、鑑定を求めていたのだ。
 このほかにも検察には、証拠隠しと批判されて当然の振る舞いがあった。こうした背信行為をゆるさない仕組みを、急ぎ整えなくてはならない。
 ところが検察は、捜査や公判を検証する考えはないという。とんでもない話だ。少なくともこの間の証拠開示に関する姿勢は、国民の理解を得られるものではない。「公益の代表者」として恥じる点はないと、本気で思っているのか。
 郵便不正事件など一連の不祥事で検察の信頼は地に落ちた。組織をあげての改革を口にするが、実態はこのありさまだ。体面を重んじ、批判をきらう独善的な体質は改まっていない。
 裁判所も問われる。東京高裁は、一審の無罪判決が指摘した重大な疑問点の解明をおきざりにしたまま、逆転有罪を言い渡した。この高裁判決は、多くの刑事裁判官に「緻密(ちみつ)に事実を認定している」と受けとめられ、最高裁も支持した。
 なぜ誤判に至ったのかを解明し、教訓を共有しなければならない。もちろん、その方法は慎重な検討が必要だ。政治的な思惑が紛れこんだりすると、「裁判官の独立」が脅かされ、将来に禍根を残しかねない。
 だがそうした懸念を口実に、この問題から逃げてしまっては不信は深まるばかりだ。
 いまは、ふつうの人が裁判員として有罪無罪の判断にかかわる。つまり、間違えれば市民が冤罪(えんざい)の加害者になる時代だ。
 無実の人を罪に落とさない。それは、これまでにも増して、重大で切実な社会の課題であることを忘れてはならない。

首相所信表明 戦略見えない「明日への責任」

 「明日への責任」を掲げる以上、その言葉に見合う政策と実現への戦略を示す必要がある。
 臨時国会が召集され、野田首相は衆院本会議で所信表明演説を行った。
 だが、社会保障・税一体改革に続く政治課題として何を最優先に取り組むのかが見えてこない。
 首相は、「決断する政治」の実現を強調し、デフレ脱却と超円高を克服する経済再生を「現下最大の課題」と位置づけた。
 そうであれば、自由貿易の拡大でアジアの成長を取り込む環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が、手段として欠かせない。今回の演説でも「推進する」と言うだけで、交渉参加を正式に表明していないのはなぜなのか。
 民主党から離党者が出ることや農業団体の反発を懸念しているのだろうが、内向きの守りの姿勢では、日本の活路は開けまい。
 来月6日の米大統領選後、米豪など11か国による交渉が本格化する。来年にかけて、日本抜きで貿易と投資のルールが決まることになりかねない。日本が交渉に参加を表明することは急務である。
 次期衆院選の政権公約(マニフェスト)作成に向けて、TPPに慎重な自民党との違いを打ち出すことにもなるはずだ。
 エネルギー政策について首相は、2030年代に原子力発電所の「稼働ゼロ」を目指す「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえて遂行すると主張した。
 しかし、「原発ゼロ」への具体的な道筋は不透明だ。電力の安定供給が揺らぐだけでなく、電気料金値上げや産業空洞化など国民生活への深刻な打撃が予想される。原子力の分野で優秀な人材を確保することも困難となろう。
 政府は「原発ゼロ」方針を撤回し、現実的な原発・エネルギー政策を策定し直すべきである。
 主権・領土の問題に関しては、「国家として当然の責務を不退転の決意で果たす」と述べただけだ。対中・韓・露外交をどう立て直すのか、具体策を聞きたい。
 問題なのは、首相が自民、公明両党の党首から協力を得られず、状況打開への戦略を欠いたまま、国会が始まったことである。
 赤字国債の発行を可能にする特例公債法案や衆院選挙制度改革の関連法案の成立には、何ら見通しが立っていない。
 「政局第一の不毛な党派対立の政治」と野党を批判するだけでは、政治は前に動かない。政府・与党が責任ある提案を行い、野党との接点を探るのが筋だろう。

演説拒否の参院 不要論を加速させる愚行だ

 戦後初の事態である。
 憲政史上に汚点を残す愚行と言うほかない。
 野田首相の所信表明演説が衆院本会議だけで行われた。参院では、多数を占める野党が、本会議開会に応じなかったためだ。
 所信表明演説は、首相が外交、内政にわたって基本方針を示す重要な機会だ。これを受けて与野党の代表質問で論戦が本格化するのが国会の慣例となっている。
 参院の自民、公明両党などは、先の通常国会で野田首相問責決議を可決した以上、首相を本会議場に迎えられないと主張する。「参院の意思で所信表明を求めなかった。審議拒否ではない」と釈明するが、こんな詭弁(きべん)は通らない。
 過去に問責された福田、麻生両首相は結果的に次の国会審議前に退陣した。問責された首相が次の国会に臨むのは初めてとなる。
 野党は、問責決議に伴う審議拒否戦術という悪弊を断ち、不毛な応酬に終止符を打つべきだ。
 そもそも、参院の問責決議は、衆院の内閣不信任決議と違って、法的な拘束力はない。首相は参院に対し、衆院解散のような対抗手段がなく、衆院の優越を定めた憲法の理念にも反するからだ。
 6年間の安定した任期がある参院に首相を辞任させる手立てが認められないのは当然である。
 理解し難いのは自民党だ。
 この問責決議は、消費増税法が「国民の声に背く」ことを理由に挙げたが、自民党は民自公3党合意に基づいて法案に賛成し、成立させた当事者である。自己否定する決議を今国会でも振りかざす理不尽さには唖然(あぜん)とさせられる。
 衆参ねじれ国会では、野党の制する参院が再三、権限を乱用し、国会を混乱させてきた。与党として参院に苦しめられた自民、公明両党が野党転落後、意趣返しを繰り返しているのは嘆かわしい。
 一方で、参院は予算委員会を開催する方向だ。閣僚の不祥事を追及するとともに、首相の出席を求めて田中慶秋前法相を起用した任命責任をただすためだという。
 それが事実ならば、本会議での首相演説を拒否したこととの整合性をどう説明するのか。
 しかも、参院は、他の委員会での政府提出法案審議は原則、拒否するとしている。政権復帰を目指す自民党までが、このようなご都合主義で、ちぐはぐな国会対応を採用するつもりなのか。
 参院が「政争の府」に堕するようでは、ねじれ国会の下でくすぶる「不要論」が加速するのは避けられないだろう。

2012年10月29日月曜日

地震と科学―限界を知り、備えよう

 これからどんな地震が起きるのか、あるいは起きないのか。科学的な予測といっても、不確実さがつきまとう。それを前提に、地震の情報の伝え方から備えまで点検すべきだ。
 そんな教訓を、私たちにも突きつけたと受けとめたい。
 イタリア中部の都市ラクイラで死者300人以上になった、2009年の大地震をめぐる裁判の判決である。
 政府が出した「安全宣言」が被害を広げたとする遺族の訴えを認め、地震学者や行政当局者7人に過失致死罪で禁錮6年の有罪判決を言い渡した。
 判決の詳細はまだ明らかでないが、検察側は、情報提供のあり方を重くみたようだ。
 群発地震が続いて不安が高まるなか、政府の検討会に呼ばれた高名な地震学者の見解は、大地震が来ないともいえないし、群発地震が大地震の予兆であるともいえない、というものだった。だが、行政の責任者が「家にいていい」と事実上の安全宣言をし、住民は逃げるのをやめた、というわけだ。
 確かに、「安全宣言」はいきすぎだったかもしれない。しかし、科学者が刑事罰を恐れて自由に発言できなくなっては社会にマイナスだと、実刑判決への懸念も広がっている。
 日本にとっても、ひとごとではない。
 大切なことは、科学的な情報をその限界とともにきちんと伝え、命を守る行動につなげていくことだ。科学者と、最終的な責任を担う行政との分担も明確にしておく必要がある。
 日本地震学会は今月、東日本大震災を予測できなかった反省に立ち、改革に向けての行動計画を発表した。
 その中で、地震の「時間、場所、大きさ」の三つの要素を特定して事前に判断する、いわゆる「地震予知」はきわめて困難であることを改めて認め、誤解を招かないよう、予知という言葉を厳密に使うとした。地震学の現状を、限界も含めて一般市民の目線に立ってわかりやすく伝えていく、とも決めた。
 地震学は進歩したが、社会が求めるレベルとは、なお大きな隔たりがある。限界を認めつつ、最新の研究成果を防災にどう役立てていくのか、地震学者の責任は重い。
 地震の最初の波をとらえて対応するリアルタイムシステムをさらに進めるなど、被害軽減のための研究ももっと必要だ。
 政府と国会は、東海地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法の改廃を急がなければならない。

スコットランド―EUで芽吹く独立論

 英国からスコットランド地方が独立する是非を問う住民投票が2014年秋にある。国境の壁を新たに築くというよりは、地域の分権改革をさらに進める取り組みととらえたい。
 連合王国を形作るイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四つの地域の人々は、サッカーやラグビーの試合だけではなく、対抗心を燃やしてきた。
 なかでもグレートブリテン島北部、スコットランドの人々の自立心は強い。人口は全体の1割弱の520万人。北海道に近い広さだ。産業革命を起こし、経済学者アダム・スミスらが輩出した。明治日本が招いたお雇い外国人の多くがこの地域出身だった。
 なぜここで、独立への動きが本格化したのだろうか。
 もともと独自の教育や司法制度を認められていたが、70年代から中央政府が分権改革を進めたことを受け、99年に独自の議会をおこし、高齢者ケアの無料化や公共空間の禁煙を決めた。
 5年前には独立を唱えるスコットランド民族党が議会第1党となった。脱原発のための自然エネルギー普及のほか、独立後の欧州連合(EU)への加盟、核基地の撤去など独自の政策を公約している。
 独立論には、欧州統合の進展が影響を与えている。
 過去半世紀、欧州の国々は経済政策を中心に国からEUへと権限の移譲を進めた。経済危機から抜け出すため、銀行監督もEUに移しつつある。EUは多くの地域や都市のインフラ整備を支援している。
 独立に反対するキャメロン英首相は、スコットランドの慎重派が勢いを強めることに期待している。しかし投票結果がどうなろうとも、EUによる安定の枠組みに支えられて自治権の強化はさらに進みそうだ。
 折しも、ベルギー北部のフランドル地方、スペインの東部カタルーニャ地方や北部バスク地域で分離独立を求める声が強まっている。独自の文化や伝統に加え、中央政府の経済政策への不満の表れがある。
 命をかけて争う途上国型の独立運動とは違い、欧州では国という存在が以前ほどの重みを持たない。人々の帰属意識も地域や国、欧州と重層的になりつつある。
 中央の国政に関わる政治家や官僚は、独立論を認めないだろう。だが、地域の特性を生かす発展を求める住民が「独立? 面白いかも」という気持ちになっても不思議でない時代に、欧州はなっている。

鹿児島3区補選 自民を後押しした政権不信

 早期の政権交代を目指す安倍自民党に追い風となろう。だが、自民党はこれにおごることなく、臨時国会で建設的な役割 を果たすべきである。
 松下忠洋前金融相の死去に伴う衆院鹿児島3区補欠選挙は、自民党元議員の宮路和明氏が民主党の推薦する国民新党新人の野間健氏らを破って当選した。
 野田政権初の国政選挙だ。次期衆院選の前哨戦ともなった補選は宮路、野間両氏による事実上の一騎打ちだった。
 自民党は公明党の推薦を取り付け、安倍総裁、石破幹事長ら幹部を投入する総力戦を展開した。
 鹿児島3区では地元に進出した工場の撤退が明らかになるなど、経済・雇用が深刻な問題だ。自民党はこれを踏まえ、経済再生に取り組む姿勢を強調した。
 民主党政権の3年間を問う選挙と位置付け、「政権奪還」への第一歩になるとも訴えた。今回の勝利は、安倍新体制にとって幸先の良いスタートである。
 一方、野間氏は、「松下氏の後継」を前面に掲げ、世代交代を訴えた。民主党も与党議席を一つでも失いたくないとして、「公認候補並み」の支援態勢を敷いた。閣僚や党幹部は「政権与党として改革に取り組む」などと訴えた。
 支持が広がらなかったのは、政権への不信感があったからだろう。外国人献金問題や過去の暴力団関係者との交際で田中慶秋前法相が辞任したことも、野間氏への逆風となったようだ。
 鹿児島3区には、九州電力川内原子力発電所がある。
 ただ、宮路、野間両氏とも「国による安全性の担保」を前提に、再稼働を容認する姿勢を示した。共産党候補は「即時原発ゼロ」を訴えたが、有権者には浸透しなかったと言える。
 補選敗北を受け、与党内では、「衆院選を行えば惨敗必至だ」として、衆院解散の先送りを求める声が一層強まるだろう。
 しかし、いたずらに政権の延命を図って、政治をこれ以上停滞させてはなるまい。
 自民党は、年内の衆院解散を求め、政府・与党との対決姿勢を一層強める方針だ。
 自民党など野党は、29日に召集される臨時国会で野田首相の所信表明演説のための参院本会議開会さえ認めないという。これは明らかに行き過ぎである。
 有権者は、与野党の不毛な対決ではなく、「決められる政治」の実現を望んでいる。自民党は勘違いをしてはならない。

電気自動車 不毛な規格争いは混乱を招く

 電気自動車(EV)の充電規格を巡り、日本と欧米メーカーの対立が決定的になった。
 日本方式の国際標準化を狙った日本勢には痛手だ。EVの本格的な普及を目指し、戦略の見直しを迫られよう。
 EVは走行中に二酸化炭素(CO2)を出さない究極のエコカーとして期待される。ただ、1回のフル充電で走行できる距離が約200キロ・メートルと短いのが難点だ。
 搭載するリチウムイオン電池の性能と、急速に充電できる技術を各社が競っている。
 「チャデモ方式」と言われるEVの急速充電器を実用化したのはEVを量産している日産自動車や三菱自動車など日本の業界だ。欧米にも採用を呼びかけた。
 しかし、米国の業界団体は、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)などが推進する「コンボ方式」という別の規格の採用を決めた。
 双方で使われる充電コネクタは異なり、互換性がない。
 コンボはまだ机上プランに過ぎず、実用化は2013年以降とされる。にもかかわらず、米業界が日本の提案を退けたのは、EV市場で日本に主導権を握られることを警戒したからだろう。
 将来、欧米市場などでコンボが標準化されると、先行していた日本勢が逆に孤立化する。
 自動車業界が最優先すべきは、ユーザーの利便性向上である。二つの規格が併存すれば、混乱を招き、EVの販売にもブレーキがかかりかねない。
 エコカー競争では、ガソリンと電気モーターで走るハイブリッド車が人気を集め、EVの普及は遅れている。それだけに世界の業界が基盤技術の規格で対立することは好ましくない。
 日本メーカーは、チャデモの利用拡大を狙うとともに、二つの規格に互換性をもたせる技術開発も主導すべきではないか。
 独自規格を作ろうとする動きが出ている世界最大の市場である中国を取り込むことも重要だ。
 EV普及に弾みをつけるためには、急速充電できるスタンドなどを国内外で急増させるべきだ。
 これまでも日本は、アナログハイビジョン放送や携帯電話などの技術開発で先行したのに、世界標準化できなかった。こうした失敗を繰り返してはなるまい。
 政府が知的財産推進計画で国際標準化を重視する方針を掲げているのは妥当だ。産業競争力を強化するには、標準化を獲得する方策を官民で検討する必要がある。

2012年10月28日日曜日

米医療改革―対岸の火事ではない

 米国の大統領選で大きな争点になっているのが、オバマ氏の医療保険改革である。
 日米で制度は大きく違うが、医療費の膨張にどう対応するかという課題は共通する。米国を「対岸の火事」とせず、日本でも議論を深めるべきだ。
 米国の現役世代はふつう会社の負担で民間の保険に入り、診療や薬の価格などは各保険会社と医療機関が交渉する。
 日本には国民全体をカバーする公的保険があり、政府が統一的に価格を決める。それに比べると、米国の保険会社の交渉力は弱い。診察や薬の値段がまちまちになるので、事務コストもかさむ。
 その結果、米国民1人あたりの医療費は先進国平均の2.5倍に及ぶ。
 保険料も上がり、負担に耐えかねて提供をやめる企業が増えている。個人で入る保険はもっと高く、中小企業の従業員や失業者は払えない人が多い。
 国民の6人に1人、約5千万人が無保険になっているのはこのためだ。法外な医療費負担による家計破綻(はたん)も後を絶たない。その恐怖が、転職や独立・起業をためらわせる。
 高齢者や低所得者向けの公的保険はあるが、日本を上回る規模の公費を投じても、国民の3割しかカバーしていない。
 あまりに非効率だ。病気やケガで「アメリカン・ドリーム」が断たれるのもおかしい――。そんな思いから、オバマ大統領は、国の支援で低所得者も民間保険に加入させ、医療費の抑制に乗り出す法律を通した。
 保険会社や医師会、製薬会社の強固な既得権がある分野に、政府が介入する覚悟だ。
 これに、「小さな政府」を信奉する共和党のロムニー候補は激しく反発し、改革法を撤廃するという。米国の社会保障は重大な岐路に立っている。
 日本の医療費も毎年1兆円以上、増えている。保険制度も米国ほどの大穴ではないが、ほころびが目立ち始めている。
 職場で事業主に保険料を負担してもらえない非正社員や失業者は、市町村の国民健康保険に流れ込む。保険料が払えず、無保険状態になる人もいる。
 幸い、診療報酬や薬価は政府が決められる。
 その権限を、医療費の制御や医師不足の解消などに生かさなければ、宝の持ち腐れだ。制度のほころびを繕うには、税による負担増もいる。いずれも政治の覚悟が必要だ。
 医療保険が米国並みの重症にならないよう、手を打たなければならない。

老朽化施設―荒瀬ダムの撤去に学ぶ

 熊本県八代市にある県営荒瀬(あらせ)ダムで、全国で初めて本格的にダムを取り壊す工事が始まっている。
 この「廃ダム」の経験は、これから不要になる全国の老朽ダムでも役立つ。すべての過程を記録し、公表すべきだ。
 荒瀬ダムは1955年、球磨川中流に発電専用として建設された。歳月の経過とともに、ダム湖にたまる砂が増え、地元住民らが水質悪化や、放水時の振動、漁業への悪影響を訴えた。
 02年に当時の潮谷(しおたに)義子知事が撤去を決めた。
 だが、08年に就任した蒲島郁夫(かばしま・いくお)知事は、費用が当初見通しより膨らむことから存続へと方針を変えた。
 その後、ダムに必要な水利権延長の見通しが立たなくなり、10年に改めて撤去を表明するという曲折をたどった。
 このダムは8基ある水門と門柱、堤体などからなる。
 川にすむアユに影響を与えないよう、河川内の工事を11月から2月末までに限り、18年3月まで6年かけて、徐々に取り除いてゆく。
 国土交通省の調査(02年)で、全国の1級河川に発電用ダムは1551基ある。半数を超す800余基が建設から60年以上たつ。大量の砂がたまり、同じ悩みを抱える。
 老朽化したダムは、底の砂をさらいながら維持する、水門を開いて砂を排出する、ダム自体を撤去する――のいずれかを迫られる。だが、砂はどんどんたまり、費用は膨らむ。
 撤去は有力な選択肢だ。米国では、川を分断する環境への悪影響などを考え、すでに数百のダムが撤去されている。
 だが国内で荒瀬ダムのほかに撤去の具体的な計画はない。環境回復への動きは遅い。
 「廃ダム」の最大のハードルは費用だ。荒瀬ダムでは、約88億円のうち約19億円を国が負担する。ここでは環境省の「生物多様性保全回復整備事業」などを援用できたが、ほかのダムでもそのまま使えるとは、かぎらない。
 これから、高度成長期に造られた高速道路や橋、上下水道などの老朽化も進む。財政を考えれば、そのなかで老朽ダムをすべて撤去してゆくのは難しい。ダムの今後の扱いの仕分けに取り組むときだ。
 2年前の調査で、新規のダム建設計画は全国に80余ある。
 ムダな公共工事をやめるのは当然だ。それでも必要なものがあれば、事業の費用対効果の計算に将来の撤去費用も盛り込んで、是非を議論すべきだ。

公取委員長不在 「市場の番人」務めが果たせぬ

 公正取引委員会の委員長ポストの空席が、1か月以上に及んでいる。
 政府は臨時国会で人事案を示し、衆参両院の同意を得て、異常事態を解消せねばならない。
 竹島一彦前委員長は9月26日、2期10年の任期を満了し、退任した。だが、政府は通常国会で後任の人事案を提示しなかった。
 急逝した別の委員と合わせて2人の欠員が生じ、5人で構成する公取委は初の3人体制を余儀なくされている。委員が1人欠けても委員会は開くことができず、このままでは、公取委の業務に支障をきたしかねない。
 公取委は、企業のカルテルや談合、行政組織の不正などにメスを入れ、企業合併にお墨付きを与える競争政策の司令塔である。
 委員長の責任は特に重い。そのポストを長期間、不在のまま放置するのは問題だ。
 衆参ねじれ国会を言い訳に重要な政策や人事の決定を安易に先送りするのは、民主党政権の悪癖である。早急に改めるべきだ。
 公取委はこのところ、「市場の番人」としての機能強化を着々と進めている。
 独占禁止法の抜本改正で、強制調査権を手にした。違反企業への課徴金を引き上げる一方、談合を自己申告した企業の課徴金を減免する制度も取り入れた。
 こうした「アメとムチ」を駆使する執行体制の下で、大型事件を相次いで摘発した。2010年度の課徴金総額は、過去最高の720億円に達した。
 それでも、不正取引は後を絶たない。最近は、国土交通省や防衛省の官製談合が表面化した。
 親会社が優先的地位を乱用し、代金の値下げや支払いを遅らせるといった「下請けいじめ」も目立つ。不正に目を光らせる公取委への期待は大きい。
 グローバル経済の進展で世界的な企業統合が相次ぎ、合併審査も重要度を増している。
 最近では、世界の市場占有率を重視し、時間がかかると不評だった手続きを迅速化するなど、新たな手法を取り入れた。
 新日本製鉄と住友金属工業の合併、東京証券取引所と大阪証券取引所の経営統合といった大型案件で、従来よりスピード審査ができたのもこのためだ。
 やはり、公取委の体制を早急に整えるべきである。
 原子力規制委員やNHK経営委員などの国会同意も遅れている。政局が招く国会同意人事の混乱を長引かせてはならない。

読書週間 本との出会いを大切にしたい

 27日から読書週間が始まった。
 今年の標語は「ホントノキズナ」だ。巡り合った本との絆を大切にしたい。秋の休日、書棚に手を伸ばし、かつての愛読書をひもといてみてはどうだろうか。
 全国出版協会が主催する今年の「文字・活字文化推進大賞」には、長年にわたり読書の町づくりに取り組んできた福島県大熊町の教育委員会が選ばれた。
 この町では、小中学生が東京電力福島第一原発事故後に避難した会津若松市の仮校舎で、朝の10分間読書などを続けている。全国から届いた1万冊以上の書籍が活動の支えだ。子供たちにとって読書は心の糧となるにちがいない。
 小説「ナミヤ雑貨店の奇蹟(きせき)」で中央公論文芸賞を先日受賞した作家の東野圭吾さんは、高校時代に読書の楽しさを知ったという。
 それまでは大の読書嫌いで母親や先生を困らせたが、姉が持っていた松本清張の推理小説を読み始めたところ、面白くてやめられなくなったそうだ。今や最も人気の高いミステリー作家の原点には、こんな本との出会いがある。
 一冊の本が人生に大きな影響を与えることがある。子供たちが読書に親しめる環境を整えたい。
 例えば、学校図書館の標準蔵書数を満たす小中学校は、まだ全体の約半数に過ぎない。本が古かったり、傾向が偏っていたりすることも少なくない。学校司書もまだまだ不足している。
 自治体は、子供たち一人ひとりがその個性に見合った本と巡り合えるよう魅力ある図書館作りを進めて行く必要があるだろう。
 本と出会う場は、多様化しつつある。東京都心に千代田区が開設した日比谷図書文化館は、「復興の歴史」など時々のテーマに応じて博物館さながらの展示を行い、関連する書籍を紹介している。
 都内のある大型書店では、店内にカフェを設け、本を自由に読める読書空間を提供している。作家や編集者らを招いてセミナーを毎晩のように開き、文化サロンの役割を果たす小さな書店もある。
 一方、電子書籍は一段と普及しそうだ。米国のインターネット通販大手が電子書籍端末を日本でも近く発売するなど、読書スタイルの選択肢も広がっている。読売新聞の世論調査では、3割の人が電子書籍の利用に積極的だった。
 電子書籍端末を買った人は、紙の本も買っている、という指摘もある。電子書籍を一つの刺激として受け止め、豊かな活字文化を築いていくべきだろう。

2012年10月27日土曜日

秋入学―東大よ、初志を貫け

 春入学・春卒業の枠は変えぬまま、始業を秋にずらす。東京大学が、構想中の「秋入学」のプランを修正した。
 始業の季節を諸外国にあわせるだけでも、東大生の留学や、海外からの留学生受け入れがしやすくなる。グローバル化への一歩として評価できる。
 しかしながら、東大が1月に発表した当初の構想は、東大だけが変わればいいというような狭い了見ではなかった。
 東大だけではやらない。他大学と手を組み、産業界にも春の新卒一括採用の慣行を改めるよう働きかける。国内だけ考えて事足れりとする社会の内向き志向を変えよう。スケールの大きな提案だから注目されたのだ。
 修正案は社会の仕組みをいじらずに東大単独でやれる。現実的な分、大学も社会も変わろうとのメッセージは弱まった。
 あくまでこれは一里塚。海外で主流の秋入学への全面移行をめざす方針はそのままだと東大はいう。ここで足を止めず、粘り強く初志を貫いてほしい。
 軌道修正の事情はこうだ。
 東大は秋入学を5年後をめどに始めたい。産業界は通年採用や秋採用に前向きで、そこに支障はない。むしろ「5年後でも遅い」とせっついている。
 ネックは医師などの国家試験や公務員試験の時期を動かす見通しが立たないことだという。政府は検討事項としているが、肝心の大学界が「秋入学」で足並みがそろわぬ現状では、省庁もすぐには動きにくい。
 要は、間に合わないから出来ることからやるということだ。しかし、まだ構想を出して1年に満たない。改革の地ならしには時間がかかって当然だ。なにも焦ることはなかった。
 残念なことがもう一つある。
 初めの構想は、合格から入学までの「空白の半年」を使い、ふつうの勉強を離れて海外生活やボランティアなどを原則、全員に経験させるとしていた。そこには「タフな人材を育てる」という理念があった。
 修正案では、これが希望者の選択制に後退した。代わりに、大学で学ぶ意味を考える導入的なプログラムを、大学側が用意するという。やらないよりはいいが、お仕着せのメニューでタフな人材が育つだろうか。
 それに、春卒業のまま秋始業にすれば、4年分のカリキュラムを3年半で学ぶことになる。そもそも学生の質を高めるのが大きな目標のはずだ。詰め込みに陥っては元も子もない。
 あちこち壁は高いだろうが、じっくりタフな交渉をして突破してもらいたい。

技術流出―「守る」態勢を立て直せ

 秘中の秘だった特殊な鋼板の製造技術を盗んだとして、新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手、ポスコを相手に損害賠償を求めた裁判が東京地裁で始まった。
 日本企業が海外への技術流出をめぐって、真っ向から訴訟に踏み切るのは珍しい。不正の立証が難しく、費用や手間を考えると割に合わないと考えられてきたからだ。
 今回は、ポスコ社員が問題の技術を中国の鉄鋼大手に売り渡したとして韓国の裁判で有罪となり、新日鉄からの流出だったことが表面化した。
 新日鉄側が調査を重ね、4人の社員OB経由で漏れた経緯を突き止めた。
 たとえ訴訟に勝っても、いったん流出した技術を再び秘密にすることはできない。
 ただ、法廷で不正の実態がつまびらかになれば、今後、同じような行為を取らせないよう強く牽制(けんせい)する効果を生む。
 秘密を守る緊張感に乏しいともいわれる日本企業の管理態勢を改める契機にもしたい。
 経済産業省の最近の調査で、回答した2900社のうち7%が「明らかに漏洩(ろうえい)と思われる出来事があった」としている。定年や中途で退職した技術者を通じて漏れるケースが多い。
 技術流出を警戒する企業はふつう、退職後も秘密を守るように社員と契約を結ぶが、破っても違反の事実を特定するのが難しい。
 さらに、会社の中で何が本当に守るべき秘密なのかあいまいだったため、訴訟を起こしても被害を立証できない例もある。
 韓国企業などは日本企業が不況でリストラした人材の再雇用に力を注いできた。高額報酬で誘うのも事実だが、誘われる方には不本意な形で退職し、新天地で古巣を見返したいと思う人も少なくないという。
 業界横並びでさまざまな技術を開発しながら、それを十分に製品化・事業化できず、技術者ともども抱えきれなくなるとリストラで切り捨てる――。そんな経営にも、流出を生む責任の一端があるのではないか。
 今や韓国企業の方が優れている技術も増えている。旧来のタコツボ的な開発と技術の囲い込みを卒業し、グローバルに流動化する人材を上手に活用しながら、大切な技術を守る態勢を築くべき時に来ている。
 核心的な技術は断固として守る。一方、自力で生かせない技術は、開発者の独立起業を支援するなど人材を処遇して、世の中に生かす。
 こうしたメリハリこそ企業を立て直す一歩になるはずだ。

緊急経済対策 「急場しのぎ」では力不足だ

 申し訳程度の経済対策では、景気の腰折れを防ぐことはできまい。政府は危機感を強め、景気浮揚策に全力であたるべきである。
 政府が、事業規模7500億円の緊急経済対策を閣議決定した。海外経済の減速を受け、輸出や国内生産が低迷しているためだ。日中関係悪化の影響で、対中輸出にも陰りが出てきた。
 政府は景気判断を3か月連続で下方修正した。景気後退の瀬戸際にあると言えよう。日本経済の悪化を食い止めるため、機動的に対応した点は評価できる。
 ただし対策は、環境や医療など政府が「日本再生戦略」で掲げた重点分野の前倒しが中心だ。
 東日本大震災の被災地への補助金追加や学校施設の老朽化対策、尖閣諸島問題などを受けた海上保安庁の装備増強も盛り込んだが、内容は新味に欠ける。
 さらに問題なのが、十分な財源もなく、今年度予算の予備費で急場をしのいだため、事業規模が小粒にとどまったことだ。国内総生産(GDP)の押し上げ効果は、わずか0・1%という。
 政府は11月中に対策の第2弾をまとめる方針というが、財源確保のために編成すべき補正予算のメドさえ立っていない。
 まずは来週からの臨時国会で、今年度当初予算の財源を確保するための特例公債法案を、早急に成立させることが不可欠だ。
 国の資金不足で地方交付税や補助金支給が厳しく抑制されている中で、本格的な経済対策を実施することは難しい。
 自民、公明など野党が、解散時期の明示に拘泥して法案成立への協力を拒み続ければ、いずれ国庫は底をつき、行政サービスがストップしてしまう。国民生活と経済には深刻な打撃となろう。
 選挙をにらんだ政局的な駆け引きに終始して、国民生活に犠牲を強いるなら、「政治不況」の責任を負うのは政府・民主党だけではない。野党も同罪である。
 復興予算が、被災地に関係のない事業に“転用”された問題もある。厳しい財政事情のもとで、復興に便乗した予算のムダ遣いは許されない。
 補正予算編成にあたっては、新規事業の追加ばかり考えるのではなく、効果の乏しい施策を取り下げ、必要な事業に予算を配分し直すことが重要だ。
 民主党の政権公約(マニフェスト)に沿ったバラマキ政策についても、さらに厳しく「仕分け」するよう求めたい。

プロ野球改革 選手の希望かなうドラフトに

 プロ野球ドラフト(新人選手選択)会議は、今年も様々なドラマを生んだ。12球団に指名された選手たちが、プロ野球を背負って立つ存在に成長することを願いたい。
 巨人入りを望んでいた東海大の菅野智之投手は、念願がかなった。昨年、日本ハムの1位指名を拒否し、浪人生活を送った。「心が折れそうな時もあったが、すべて報われた気がします」。喜びの言葉には実感がこもっていた。
 伸び盛りの時期に実戦から遠ざかった影響は、決して小さくないだろう。そのハンデを乗り越え、ファンの期待に応える投球を見せてもらいたい。
 菅野投手のケースは希望球団に入りたくても入れないドラフト制度の問題点を浮き彫りにした。
 ドラフトの目玉と言われた花巻東高(岩手)の大谷翔平投手は、日本ハムの1位指名を受けた。米大リーグへの挑戦を事前に表明したが、日本ハムは「その年の一番いい選手を」という方針の下、指名に踏み切った。
 才能豊かな若者が海外でチャレンジするのは、素晴らしいことだ。大谷投手の世代は、イチロー選手らが大リーグで活躍する姿を少年期に見て育った。「自分もあの舞台で」との思いを抱くのは、自然なことなのかもしれない。
 大リーグで日本選手の評価が高まり、米球団も日本を有望な新人の発掘先として重視している。
 だが、優れた選手の海外流出が続けば、日本のプロ野球の地盤沈下は避けられまい。
 ドラフト候補選手の獲得に関し、日米球界間には互いに獲得を自粛する紳士協定しかなく、明文化されたルールは存在しない。
 米球団は獲得したい日本選手と自由に交渉が可能だ。ドラフトで交渉権を獲得しない限り選手と折衝できない国内球団よりも、有利な立場にある。日米の球団が対等な条件で獲得を競えるルールが必要な時代になったと言える。
 大谷投手は今後、日本ハムに指名されたことに拘束されず、複数の米球団との交渉を進められる。自分の意思で球団を選ぶことができるわけだ。
 これに対し、国内のドラフト制度は、選手が球団を選択できる仕組みにはなっていない。
 有望選手が国内でプレーしたいと思うように、プロ野球をより魅力的なものにしなければならない。それと並行して、選手の希望が、ある程度は反映される制度へと改善していくことが求められているのではないだろうか。

2012年10月26日金曜日

原発と活断層―疑わしきは「黒」だ

 原子力規制委員会は来月初めから、全国六つの原発で活断層の現地調査を始める。
 国の指針では活断層の上に重要施設を建ててはならないことになっている。しかし経済産業省の旧原子力安全・保安院による審査の甘さが指摘され、新体制で調べ直すことになった。
 調査は再稼働する原発を選ぶための作業ではない。不十分だった過去の調査を反省し、専門家が予断ぬきで危険性を判断する作業の一環だ。
 手始めは、現在、唯一稼働している関西電力大飯原発(福井県おおい町)だ。調査団の5人の専門家の中には、敷地内の断層が活断層である可能性を指摘している研究者も含まれる。
 過去の審査にとらわれず、徹底的に調べて、説得力のある判断を示してほしい。
 活断層とは、過去に活動し将来もずれを起こす可能性がある断層だ。ここで地震があれば、直上はもちろん、周辺にも大きな揺れをもたらす恐れがある。
 大飯の場合、焦点はF―6と呼ばれる断層だ。2号機と3号機の間にあり、重要施設である非常用取水路の直下を走る。
 別の断層と連動して動く可能性も指摘され、活断層なら原発の運転には致命的となる。
 規制委の田中俊一委員長は活断層の可能性が高ければ3、4号機の停止を求める方針だ。
 現地調査は北陸電力志賀原発などでも順次おこなわれる。調査の結果、活断層なら無論だが、断定にいたらなくても疑いがあれば、安全優先の立場から「黒」とみなすべきだ。
 東京電力福島第一原発では、津波の危険性が指摘されながら東電が軽視し、対策を怠ったことで事故に結びついた。同じ轍(てつ)を二度と踏んではならない。
 原子力規制委は現地調査と並行し、活断層の審査指針なども来年夏までに改める。
 島崎邦彦委員長代理は、12万~13万年前以降に動いた断層を活断層とする現行の指針を、40万年前より後に動いたものとする考えを示した。
 活断層を、過去40万年の間に繰り返し動いているものと規定する政府の地震調査研究推進本部の見解に合わせる形だ。見落としをなくすため、安全審査の幅を広げるのは当然だ。
 現在の安全審査は原発直下の活断層が主眼だが、それで十分か。東日本大地震で地下の構造が変化した地域もある。原発周辺の活断層についてもさらに調査し、リスクをきちんと見定めるべきではないか。
 疑わしきは危険性あり。それを大原則として貫いてほしい。

石原新党―国政復帰を言うのなら

 東京都の石原慎太郎知事が、知事の辞職届を出した。
 たちあがれ日本を母体に、近く新党を結成し、次の総選挙で国政復帰をめざすという。
 石原氏は、日本維新の会を率いる橋下徹・大阪市長ともたびたび会い、連携を模索してきた。両党を軸に、民主、自民両党に対抗する第三極の結集をめざすということだろう。
 混迷する政治に風穴をあけたい。そんな石原氏の思いは多としたいところだが、これまでの言動から、危うさを感じないわけにはいかない。
 新党の代表に就く石原氏に、あらためて三つの疑問をただしておきたい。
 第一に、石原氏の持論が、そのまま新党の政策になるのかどうかだ。
 たとえば尖閣諸島の問題だ。
 石原氏はこの春、「東京が尖閣を守る」として購入費の寄付を募った。島は混乱を恐れた政府が買い上げたが、結果として日中関係は悪化し、経済などに深刻な支障が出ている。
 石原氏が、その責任を感じているふうはない。
 きのうの記者会見でも、中国を挑発するように「シナ」と呼び、国政に復帰すれば島に漁船が避難する船だまりや灯台をつくると主張した。
 こうした姿勢は、問題をいっそうこじらせるものだ。新党も同じ方針を掲げるのか。それでどんな日中関係を描くのか。石原氏は明確に語るべきだ。
 さらに石原氏は、核兵器保有や徴兵制導入を主張したこともある。これも新党の政策になるというのか。
 第二に、連携相手とたのむ維新の会との間で、重要政策が大きく食い違うことだ。
 たとえば原発政策である。
 石原氏は会見で、原発維持を強調した。一方、維新の会は「2030年代までに既存の原発全廃をめざす」という総選挙の公約素案をまとめた。
 消費税をめぐっては、たちあがれ日本が増税に積極的なのに対し、維新の会は「消費税の地方税化」を争点に掲げる。
 基本政策がこれだけ違うのに、どう連携できるのか。野合と言われないよう、きちんと説明してもらいたい。
 第三に、知事の任期を2年半残して辞することの意味だ。
 肝いりの2020年のオリンピック招致などを、道半ばで放り出すことになる。無責任ではないか。
 都知事として高い支持率を誇った石原氏だが、政党の党首にふさわしいかどうか、こんどは全国民が見ている。

再生エネ発電 電気利用者に重いツケ回すな

 太陽光や風力など再生可能エネルギーの普及は大切だが、家計や企業に過大なコストを押しつけるようでは困る。
 再生エネで発電した電気の買い取りを電力会社に義務づける「固定価格買い取り制度」が7月にスタートし、太陽光発電などの参入が急増している。9月末までの3か月で、今年度目標の7割に達するハイペースだ。
 買い取り制は、再生エネで発電した電気を最長20年間、通常より高い価格で電力会社が買う。温室効果ガスを出さず、国内自給できる再生エネの普及を、政策で後押しする狙いはいい。
 問題なのは、買い取り費用が電気料金に上乗せされ、電気利用者が負担する仕組みである。
 現行の買い取り価格は、太陽光が1キロ・ワット時あたり42円、風力は23円で、先行して導入されたドイツより約2倍も高い。
 参入する会社にとって利幅の大きさは魅力だが、電気利用者の払うツケは重くなる。再生エネの普及が進んだなどと手放しで喜んではいられない。長期間に及ぶ利用者負担とのバランスを、どう取るかが課題だ。
 教訓とすべきは、海外の失敗例である。ドイツでは、再生エネの買い取りにあてる電気料金の上乗せ額が、標準家庭で月1000円を超えている。
 さらに、中国製の安い太陽光パネルを使った太陽光発電の参入が相次いでいるため、買い取り費用の増大が止まらない。来年からは電気料金への上乗せ率を高める予定で、家庭の電気料金負担は、年1万円も増える見込みという。
 ドイツの消費者らは猛反発し、「太陽光発電は、環境政策の歴史で最も高くついた誤りだ」などという批判も出ている。
 日本の買い取り制による今年度の電気料金上乗せ額は、標準家庭で月87円だ。ドイツほど高くないが、買い取り単価が高いまま再生エネ発電が増えれば、「ドイツの来た道」をたどりかねない。
 政府は利益目当ての「再生エネラッシュ」が起きないよう目を光らせ、買い取り価格を機動的に見直してもらいたい。
 日本では再生エネ普及に伴う産業振興など、経済効果への期待も大きい。だが、ドイツの例を見ると楽観は禁物だろう。今年4月には、太陽光パネルで世界トップだった独企業が、中国企業との競争に敗れて倒産したからだ。
 こうした海外の事例を冷静に分析し、同じ(てつ)を踏まぬよう早めに手を打つことが肝要だ。

石原都知事辞任 国政復帰に何が期待できるか

 東京都の石原慎太郎知事が急きょ記者会見し、辞任を表明した。
 新党を結成し、次期衆院選に出馬するという。新党には、たちあがれ日本に所属する衆参両院議員の5人らが参加する。
 石原氏は、国民の生活が第一の小沢一郎代表との連携は否定し、橋下徹大阪市長の率いる日本維新の会などと連携していく考えを示した。自民、民主両党とは一線を画し、保守勢力の結集による「第3極」を狙っている。
 「最後のご奉公」という石原氏の行動が、与野党の不毛な対立で閉塞感の漂う国政に一石を投じることになるだろうか。
 今回の新党構想について、石原氏は4月、「白紙に戻す」と語っていた。一転して新党結成へ動いたのは、執念を見せていた尖閣諸島の購入問題が国有化で決着したからだと見られている。
 自民党総裁選で長男の石原伸晃前幹事長が敗北したため、自民党と対抗する新党の結成に支障がなくなったとの判断もあろう。
 80歳の石原氏が健康面も気遣いながら、国政で何を実現したいのかは、必ずしも明確ではない。
 石原氏は記者会見で、「硬直した中央官僚の支配する制度を変えなければ駄目だ」と官僚制度の在り方を激しく批判した。持論の憲法改正や沖縄県・尖閣諸島の実効支配の強化策なども力説した。
 国政の現状に対する問題意識には、うなずける点もある。
 ただ、かつて25年余も国会議員を務めた石原氏が、昨年4選を果たした知事を途中で辞め、国政復帰を目指すと言う以上、もっと具体的な政策と、それを実現する戦略を語ってもらいたい。
 たちあがれ日本の平沼代表は「西は橋下、東は石原」の“二枚看板”で風を起こしたいようだが、そう簡単な話ではない。
 橋下氏は、石原氏と一致する政策が多いとしながらも原発・エネルギー政策などで「軸がずれている」との見解を示した。やはり、政策のすりあわせが不可欠だ。
 石原、橋下両氏ら人気の高い首長をトップに据える新党が、国民から一定の期待を集めている。
 これは、「決められない政治」に陥っている既成政党に対する不信や不満が強いことの裏返しでもあろう。民主党内には、石原新党がさらに離党を誘発することに警戒感がある。自民党にも、保守票の分散への懸念があるという。
 石原新党が今後仕掛ける「政界再編」が、果たしてどんな波紋を広げるか見定めたい。

2012年10月25日木曜日

放射能予測―防災が無理なら廃炉に

 原子力規制委員会が全国の原発16カ所について、福島第一原発のような事故が起きた場合を想定した放射性物質の拡散予測を公表した。
 防災の重点区域を定めるために策定した。規制当局がこうした情報を初めて公開したことは評価する。
 ただ、本来なら原発の計画段階で踏まえておくべきことだ。原発建設にあたって、いかに防災対策をおざなりにしてきたかを物語っている。
 公表された予測図を見ると、1週間あたりの積算被曝(ひばく)線量が100ミリシーベルトに達する地域はどのあたりかが一目でわかる。これは国際原子力機関(IAEA)が定めた避難基準にあたる。
 もちろん予測はあくまで現地の標準的な気象条件などをもとに試算したひとつの目安にすぎず、地形も考慮していない。
 現実に事故が起きると、爆発の具合や風向き次第で、今回の予測と異なる状況が生じる可能性は十分にある。
 福島以上の事故が起きる恐れも否定できない。日本の原発は1カ所にいくつもの炉を設ける「集中立地」が特徴だ。
 福島の場合、なんとか作業を続けられたが、1基でも撤退せざるをえない事態になれば他の炉も連鎖的に制御不能となり、被害が飛躍的に大きくなる。
 今回の予測の狙いを正しく読み取り、防災計画づくりに生かす必要がある。
 防災の重点区域は福島事故の後、原発から30キロ圏に拡大された。予測では、30キロの外でも避難線量に達する原発が4カ所あり、重点区域がさらに広がる可能性がある。
 規制委は防災計画の整備を原発再稼働の「最低条件」としており、重点区域の自治体は来年3月までに計画をつくる。
 しかし、東海第二(茨城県)のように周辺人口が多すぎて短期間での避難が困難な原発や、地形上、十分な避難路が確保できない原発もある。浜岡原発(静岡県)は30キロ圏内に、日本の大動脈である東海道新幹線や東名高速道路が走る。
 野田政権は相変わらず、再稼働の判断を規制委に丸投げする姿勢を変えていないが、自治体の計画策定を支援するのは政府の仕事だ。
 新たに設置した全閣僚による「原子力防災会議」のもとで策定の進み具合を把握し、中身を精査する。
 そのうえで、周辺自治体が実効性のある対策を取れない原発は、政治主導で廃炉にしていく枠組みを講じるべきだ。

臨時国会―自民党は度量を見せよ

 与野党激突ムードのなか、臨時国会が召集される。
 参院の自民党は野田首相の所信表明演説にも、法案の審議にも、応じない構えだ。先の通常国会で首相に対する問責決議が可決されたためという。
 こんな子どものけんかのような足の引っ張り合いを、いつまで続けるのか。ほとほとうんざりする。
 自民党の安倍総裁には、よくよく考えてもらいたい。
 審議に応じ、政治を前に進める。かつて長く政権を担った責任政党の度量を、いまこそ見せる時ではないか。
 「近いうち」の衆院解散の時期を明らかにしない首相へのいらだちは分からなくはない。野党の不信を招いた首相の責任はたしかに大きい。
 だが、解散権を握っているのはあくまで首相である。野党が審議を拒めば、赤字国債発行法案や衆院の「一票の格差」を正す法案の成立が遅れ、かえって解散・総選挙を先送りする口実を与えることになる。
 しかも審議拒否が長引けば長引くほど、予算執行の抑制は続き、国民に深刻な影響を及ぼすことになる。いずれ世論の批判が自民党に向かうことは目に見えている。
 民主党はもう、単独で政治を前に進める力を失っている。
 言い換えれば、自民党が主導権をもって政治を動かすことができるということだ。そんなチャンスに、国民のくらしを人質にとって審議拒否をする愚は犯すべきではあるまい。
 臨時国会で自民党がなすべきことは明らかだ。
 首相が求める赤字国債発行法案と、衆院の「0増5減」法案を成立させる。社会保障をめぐる国民会議の人選を急ぐ。
 赤字国債発行法案を予算案と一体で成立させるルールを作っておくことも、無用の政治の混乱を防ぐうえで意義がある。
 ほかにも国会同意人事で衆院の優越を定めることなど、国会を動かすルールを与野党で合意しておきたい。いずれ自民党が政権に復帰した場合、役立つことは間違いない。
 そうして早期解散ができる環境を整えたのに、首相が解散をためらうようなら、その時は大いに批判すればいい。自民、公明との3党首会談で「だらだらと政権の延命を図るつもりはない」と語った首相の言葉が食言ということになるからだ。
 野田首相にも言っておきたい。逃げてばかりいてはだめだ。自公両党が求める再度の党首会談に応じ、事態打開に積極的に動くべきだ。

防衛予算 将来見据えて削減に歯止めを

 防衛力の整備は一朝一夕にはできない。5年後、10年後の日本の安全保障環境を見据えて、防衛関係費の削減に歯止めをかけ、自衛隊の態勢強化に本格的に着手する時である。
 2013年度予算の防衛費の概算要求は前年度比1・3%減の4兆5851億円となった。このまま来年度予算が11年連続のマイナスになっても良いのだろうか。
 東日本大震災の復興特別会計の分を含めれば、前年度比プラスだが、それには被災した施設や装備の復旧分も含まれている。
 防衛費は今年度当初予算で、ピークの02年度から約3000億円減少し、10年間の減少額は累積約1兆8000億円にも上る。
 防衛費削減は数々の弊害を生んでいる。艦船や航空機の寿命を延ばすため、装備の整備維持費が新規調達費を上回る事態となり、調達の遅延や、防衛産業の衰退を招いている。築50年以上の老朽施設も全施設の2割を占める。
 見過ごせないのは、この10年間、ロシアが国防費を5・3倍、中国が3・4倍に伸ばしたことだ。米国、韓国、豪州などもこぞって大幅に増やす中、日本だけが財政難などを理由に減らしてきた。
 特に、中国軍の装備増強と活動範囲の拡大は警戒を要する。
 海軍は9月、空母を就役させた。艦船7隻が今月16日、与那国島近くの接続水域を通過した。19日には東シナ海で、尖閣諸島周辺でのトラブルを想定した国家海洋局などとの合同演習を実施した。
 尖閣諸島をめぐる中国の最近の高圧的な姿勢を見れば、中国軍の示威活動は中長期的に拡大していくと覚悟せざるを得ない。
 海上・航空自衛隊は中国軍への警戒監視活動を強化しているが、沖縄駐在の哨戒機では足りず、全国からの応援で対応している。
 中国の国防費は現在、日本の1・5倍強だ。今の増額ペースが続けば、10年後にはその差が5倍に広がる。極めて深刻な事態だ。
 防衛予算を効率的に使い、自衛隊の態勢を見直すことが大切だ。海自や空自など、南西方面の「動的防衛力」の強化を優先するには、北海道を中心に、陸上自衛隊の定数や駐屯地、戦車・火砲の削減を一層進める必要がある。
 日本は冷戦終結後、量より質を重視した防衛力整備を続け、日米の防衛協力を強化してきた。今後は、量にも配慮した自衛隊の拡充を真剣に考えねばなるまい。
 野田首相は「不退転の覚悟で」領土・領海を守ると言う以上、その覚悟を予算に反映すべきだ。

放射能拡散予測 原発で最悪の事故防ぐ一助に

 全国16の原子力発電所で重大事故が起きた場合に、放射性物質がどう拡散するか。政府の原子力規制委員会が、その予測地図を公表した。
 政府はこれまで、住民の不安を(あお)ることを恐れ、こうした予測を実施していなかった。だが、防災対策で最悪事態を想定するのは必要なことだろう。
 原発の周辺自治体は、来年3月までに防災計画を策定することになっている。関係自治体は、予測結果を参考に、作業を着実に進めねばならない。
 規制委は、今回の予測が現実の地形を考慮しておらず、複雑な風向変化を反映していないため、あくまで目安と位置づけている。
 予測結果が無用な不安を広げぬよう、規制委は関係自治体に丁寧に説明し、防災計画作りを後押ししてもらいたい。
 気がかりなのは、東京電力柏崎刈羽原発と関西電力大飯原発など4原発に関する予測結果だ。
 規制委は、策定作業中の新防災指針案で、事前の対策を求める重点区域を、原発から半径30キロ圏とする方針を示している。
 だが、事故後1週間の積算被曝(ひばく)線量が避難の国際基準とされる計100ミリ・シーベルトに達する地域を見ると、4原発では30キロ圏の外側にも広がっている。柏崎刈羽では、約40キロ離れた新潟県魚沼市にまで影響が及ぶ、と予測された。
 田中俊一規制委員長は、「重点区域は30キロ圏で足りる。それ以上は事故時に(放射線量を)実測して対応すればいい」との見解を示している。混乱を避ける意味で、妥当な考え方と言えよう。
 とはいえ、防災対策は自治体が主体的に決めるものだ。県などが区域を広げれば、県境をまたぐ避難や物資輸送、避難地確保も問題となる。政府も関係自治体間の調整を支援する必要があろう。
 拡散の予測技術自体についても、規制委は今後、さらに性能の向上を目指すべきだ。
 高度な予測が可能になれば、防災対策の一層の充実につながるうえ、事故時の避難対策にも役立つのではないか。
 もとより、こうした事故を起こさないことが大切だ。
 すでに各地の原発で、津波対策や非常用電源の強化など緊急安全対策が施されており、東電福島第一原発事故の発生前に比べ、当面の安全性は向上している。活断層の確認なども始まっている。
 規制委は、再稼働の判断材料とするためにも、検討中の新たな安全基準を早急に整備すべきだ。

2012年10月24日水曜日

米大統領選挙―問われる激動期の針路

 11月6日投開票の米大統領選に向け、民主党のバラク・オバマ大統領と、共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が激しく競り合っている。
 両氏は3度の討論会に臨み、各回1時間半にわたって議論を交わした。大々的に中継され、有権者が候補者の政策や人柄に触れる貴重な機会だった。
 米国はイラク、アフガニスタンと二つの戦争で大きく傷ついた。「アラブの春」のあとの中東では地殻変動が起き、対応に苦慮している。
 2008年秋のリーマン・ショックで経済はつまずき、中国との産業競争も厳しさを増すばかりだ。世界唯一の超大国という立場は揺らぎ、国家財政の悪化で、これ以上、世界の問題を抱えきれないのが実情だ。
 針路をどうとるか。外交をテーマにした最後の討論会では、米国の指導力をめぐる考え方の違いが出た。
 オバマ氏は、核開発を進めるイランの制裁で中国やロシアの協力を取り付けたことを挙げ、「我々がどのようにして米国の威信と強さを世界で取り戻したかを示している」と述べた。
 一方、ロムニー氏は「4年前と比べ、世界のどこを見ても米国の影響力は強まっていない」と批判。自由や人権、民主主義を守るため、強い米国でなくてはならない、と訴えた。
 ただ、単独での軍事行動を辞さなかった共和党のブッシュ前政権とは一線を画した。内戦状態のシリアへの軍事介入の可能性は否定し、イランをめぐっても外交的手段で核開発を断念させることが重要だと訴えた。
 オバマ、ロムニー両氏がともに強調したのは、米国の力の回復には、国内経済の立て直しが必要との基本方針だ。それだけに選挙戦では、雇用の拡大や財政赤字の削減など、経済政策が最大の争点となっている。
 討論会で毎回とり上げられたのが、対中政策だ。
 両候補とも、中国への雇用流出や、貿易の不公正さを問題にした。ロムニー氏は「執務初日に中国を為替操作国に指定する」と訴えており、当選すれば、中国との貿易摩擦が悪化しかねないとの懸念も出ている。
 有権者受けを狙って対中強硬路線を打ち出している面もあるが、それだけ米国にとって中国の存在感が増していることの裏返しに他ならない。
 言うまでもなく、外交・安全保障でも、経済でも、米国の進む道は日本の針路とも深いつながりをもつ。内向きになりがちな米国の有権者だが、世界の動きにも視野を広げてほしい。

日韓文書判決―裁かれた外務省の体質

 1965年の日韓国交正常化までの外交文書の多くを公開するよう命じる判決が、先ごろ東京地裁で言いわたされた。審理を通じて見えたのは、外務省の度を超した隠蔽(いんぺい)体質だ。
 当時の記録が表にでると、今後の韓国、北朝鮮との交渉に悪影響が及ぶ。外務省はそう主張し、控訴する考えだ。一方で、開示しても差し支えのない文書があるか調べるという。いい加減な扱いをしてきたことを、事実上認めたようなものだ。
 外交文書は原則30年で公開すると外務省自らが定めている。それだけの時間が過ぎ、社会情勢が変化してもなおオープンにできないというのなら、理由を説明しなければならない。
 判決はそう指摘したうえで、次のような文書まで公開を拒むのは違法だと述べた。
 日本政府がすでに開示している別の文書に書かれている内容と同じもの▽韓国政府が開示したもの▽両国がかわした見解や発言のうち、非公開とする約束をしていないもの▽朝鮮半島から日本にわたった文化財のリストなど、客観的事実を記録したもの――などである。
 もっともな見解だ。外務省はなぜ、こうした文書まで隠したのか。韓国民は知っているのに日本国民に知らせてはならない「機密情報」とは何なのか。主権者である国民を愚弄(ぐろう)する振る舞いと言わざるをえない。
 判決は、外務省が非開示とした382カ所のうち、268カ所の公開を命じた。一方で、たとえば竹島問題に関する政府内部の検討案など、外に出ると現在の交渉が不利になるおそれがある記録は対象としていない。手堅い判断といえよう。
 もどかしいのは、これらが文書そのものを精査したうえでの結論ではないことだ。
 情報公開法は、裁判官が文書を直接見て開示か非開示かを決める「インカメラ審理」を認めておらず、表題や前後の文章から内容を推認するほかない。
 判決は「この制約がなければ開示の範囲はさらに広がる可能性がある」と述べている。抑制的に検討した結果が「268カ所」だといっているわけで、外務省の認識との溝は深い。
 インカメラ審理を導入するための情報公開法改正案は、昨年4月に閣議決定されたものの、たなざらしになっている。知る権利の旗を高くかかげた民主党は、どこにいったのか。
 情報がしっかり開示され、国民が行政を適切にチェックすることで、民主主義は発展する。「よらしむべし、知らしむべからず」の国に、未来はない。

臨時国会召集へ 年内解散へ「懸案」を処理せよ

 党首会談が物別れに終わったままで臨時国会を開いても、空転するだけではないのか。
 野田首相は国会で懸案を処理できるよう自民、公明両党党首との協議に再度臨むべきである。
 民主党は与野党国会対策委員長会談で29日に召集する予定の臨時国会について、会期を11月末までの33日間とする考えを伝えた。
 臨時国会の最大の目的は、赤字国債発行を認める特例公債法案の成立と、衆院選「1票の格差」の是正、社会保障制度改革国民会議の設置という三つの懸案を処理することである。
 衆参ねじれ国会の下、与野党が協力しなければ、1か月余の会期内では実現できないだろう。
 まず首相は、野党の要求する年内の衆院解散・総選挙に真剣に向き合わねばならない。
 首相は、先の自公両党との党首会談で「だらだら政権の延命を図るつもりはない」と明言した。それが本意ならば、改めて3党首会談を開いて、速やかに衆院解散に踏み切ることを確約し、自公両党から協力を取り付けるべきだ。
 首相の言う三つの懸案について前原国家戦略相は「解散の条件」と述べ、これを満たせば年内解散はありうるとの考えを示した。民主党幹部からは否定されたが、もっともな考え方ではないか。
 野党側にも懸案の処理に応じる責任がある。
 参院の野党は、通常国会での首相問責決議の可決を理由に、臨時国会では政府提出法案の審議にも、首相の所信表明演説にも応じない構えを見せている。
 だが、審議拒否では何も得られない。政治不信を高めるだけとなることを肝に銘じるべきだ。
 民主党も、自公両党も、参院の議席は半数に届かない。民自公3党の信頼関係を損ねれば、衆院選後も政治は前には進まない。
 一方、外国人からの献金問題や暴力団関係者との過去の交際が発覚した田中法相が、ようやく辞任した。田中氏は「公務」や「体調不良」を理由に国会の委員会も欠席した。法務行政の責任者として不適格であるのは明らかだ。
 ところが、首相官邸は当初、問題を深刻に捉えず、事態収拾で後手に回った。体調不良を口実に辞任させたのはおかしい。
 首相が「任命した閣僚が職務を全うできなかった」として、自らの任命責任を認めたのは当然だ。首相はこれまでも閣僚人事でつまずいてきた。野党の厳しい責任追及を覚悟しなければなるまい。

米大統領選 対中圧力で一致した外交討論

 接戦の米大統領選を制するのはどちらか。
 再選に挑む民主党のオバマ大統領と、政権奪還を目指す共和党候補のロムニー前マサチューセッツ州知事が、最後のテレビ討論会で熱の入った論戦を展開した。
 終了直後の世論調査ではオバマ勝利と見る結果が出た。失業率が7・8%に改善されたのと合わせオバマ氏に追い風となろう。
 だが、支持率は拮抗(きっこう)している。11月6日の投開票まで、激しい競り合いが続くのは間違いない。
 討論会のテーマは、外交・安全保障問題だった。
 「アラブの春」やシリア内戦で混沌(こんとん)とする中東情勢、北朝鮮の核武装問題、東シナ海や南シナ海における中国の軍事的膨張などに、超大国・米国の次期大統領はどう対処していくのか。日本はじめ世界中が注目した。
 ロムニー氏は「この4年間に米国の影響力は世界で弱体化した」と“弱腰”外交を攻撃した。
 オバマ氏は、経済をテーマとした討論会では精彩を欠いたが、外交問題では雄弁だった。
 イラクでの戦争を終わらせ、アフガニスタンでも米軍撤収に道筋をつけた。イラン核開発の阻止へ制裁強化が効果をあげている。こうした実績を示しながら、「米国は強くなった」と反論した。
 だが、中国など新興国の台頭によって相対的に米国の影響力が弱まっているという意味では、ロムニー氏の指摘は正しい。
 その中国を巡り、オバマ氏は、「敵であると同時に、ルールに従うなら国際社会でのパートナーになり得る」と述べた。
 米国にとって中国は、主要な貿易相手国であり最大の貿易赤字相手国である。米国債の保有残高では日本を抜き世界最大の債権国となった。警戒すべき相手であると同時に相互依存の関係にある。
 オバマ氏は、経済では国際基準に従うよう圧力をかけ、安全保障政策では同盟国などと連携を強化する路線を強調したと言える。
 ロムニー氏も、中国のルール違反には厳しく対処し、「就任当日に為替操作国に指定する」と明言した。オバマ政権より強硬な対中姿勢を示したものだ。
 オバマ氏は、米国が太平洋国家としてアジアを重視することを再確認した。ロムニー氏も基本的な認識は一致している。日本としては、歓迎できる。
 日本は、米国と共に、中国に国際ルールを順守するよう求め、領土の保全や、航海、貿易の自由の確保に万全を期す必要がある。

2012年10月23日火曜日

田中法相問題―政権の体なしていない

 野田政権の体たらくは目を覆うばかりだ。
 外国人企業からの献金や、過去の暴力団関係者との交際を認めた田中慶秋法相が、ようやく辞任する見通しだ。
 田中氏に法務行政の責任者が務まらないことは、いくつもの理由から明らかだった。
 辞任は当然のことだが、それで済む話ではない。
 まず、外国人献金問題だ。この問題は昨年、当時の前原外相や菅首相らにも発覚し、前原氏は外相を辞任している。
 つまり、政治資金規正法違反に当たることは、当時から分かっていたはずである。なのに今回、本紙に指摘されるまで是正を怠ってきた田中氏の脇の甘さは度し難い。
 次に、過去に暴力団組長の宴席に出たり、暴力団幹部の仲人をしたりしたとの週刊誌報道の事実関係を認めたことだ。
 暴力団と付き合いのある法相が、暴力団の摘発にあたる検察を指揮・監督する。たちの悪い冗談だとしか思えない。
 こうした問題を野党に追及されるのを恐れたのだろう、田中氏は先週、参院決算委員会の閉会中審査を欠席した。まさに前代未聞の国会軽視である。
 閣僚は、国会に答弁や説明を求められれば出席しなければならない。これは憲法63条に定められた義務である。
 法相就任以来の田中氏の記者会見では、しどろもどろの答えが続いたり、質問と答えがかみ合わなかったりする場面が目立った。
 こんな「素人法相」に、検察改革など喫緊の課題を任せるわけにはそもそもいかなかった。
 野田首相はなぜ、田中氏を法相に任命したのか。
 結局は、9月の党代表選で旧民社党グループの支援を受けた見返りに、グループ会長の田中氏を初入閣させた。つまり、能力や経験より論功行賞、党内融和を優先させた安易な組閣の帰結というほかない。
 首相の任命責任は極めて重いと言わざるをえない。
 もうひとつ、あいた口がふさがらないのは、民主党の側から田中氏に決算委員会の欠席を求めた経緯があったことだ。
 「国会を欠席せよ」と言われて唯々諾々と従う田中氏も田中氏だが、「答弁されるよりまし」と欠席を求めた民主党の姿勢にもあきれるほかはない。
 法相の問題も響き、朝日新聞の世論調査では内閣支持率が18%に下がり、初めて2割を切った。野田内閣の政権担当能力そのものに、重大な疑問符がつきつけられている。

高校生の挑戦―日米球界の垣根は低く

 華やかな未来は約束されていない。それを覚悟でメジャー挑戦をえらんだ超高校級右腕の決心を見守りたい。
 岩手・花巻東高の大谷翔平投手が、大リーグに挑むと宣言した。ドラフト1位候補の高校生が、日本球界を経ずに米国をめざす初のケースだ。
 高校生最速の時速160キロをマークした逸材には、ドジャースなど米国の10球団近くが熱い視線を送る。
 下積みのマイナーリーグで勝てなければ、メジャーの扉は開かない。
 日本でプロになり、実績を作って大リーグを狙うほうが現実的だし、収入も安定する。
 そんな損得計算も両親の反対も、18歳は押し切った。
 イチロー選手がさっそうと大リーグに登場した年に小学1年生だった世代にとっては、現実味がある目標なのだろう。
 25日のドラフト会議で、日本の球団が指名しても、米国行きを阻む法的効力はない。
 4年前、社会人の田沢純一投手がレッドソックスと契約した。1位指名の確実な選手が日本球界を経由せずにメジャー契約を結んだ初のケースだった。
 危機を感じた日本球界は防衛策を考えた。
 ドラフトを拒んで外国の球団に入ったら、退団しても高卒は3年間、大卒・社会人出身は2年間、日本の球団と契約できない申し合わせだ。
 しかし今回、高校生の夢が揺らぐことはなかった。一部の球団には「契約できない期間を延長すべきだ」という意見もあるようだが、若者の可能性を邪魔する内規はやめるべきだ。
 サッカー界でも近年、高校生がJリーグを経由しないで欧州のプロクラブと契約する例があるが、日本に戻ればすぐにJリーグで活躍できる。野球界も有能な人材を締め出す手はない。
 大谷投手はいう。
 「ずっとメジャーでやりたい気持ちが強かった。若いうちから行きたいというのもあった」
 今のルールでは高校生が日本の球団に入ると、自由に契約する球団を選べるフリーエージェント(FA)権は、国内移籍で8年、海外移籍は9年かかる。国内外を問わず、FA権の取得年数を縮めてはどうか。
 日本でキャリアを始めても、全盛期で米国に渡れば、峠を越す前に復帰し、再び花を咲かすケースも増えるだろう。グローバル化に逆らい、日本に閉じ込めておく発想は、捨てよう。
 嫌がらせのような規制では、若者の挑戦を止められない。それを日本球界は教えられた。

冬の電力需給 北海道の停電は命にかかわる

 厳寒の北海道で大規模な停電が起きれば、住民の命にかかわる。
 政府と北海道電力は地域とも連携して需給対策に万全を期し、電力危機を回避しなければならない。
 電力各社は今冬、供給力が需要を上回ると予想している。火力発電などの供給増強に努めたほか、節電が定着したからだろう。
 だが、電力が足りているから原子力発電所を止めたままでも構わない、と考えるのは早計だ。
 実態は、老朽化した火力発電所も総動員して、電力不足を補っているのである。
 北海道電力では、泊原発の停止を受け、酷使した火力発電所のトラブルが増えている。60万キロ・ワット前後の出力喪失も、たびたび発生している。
 ところが、冬のピーク需要に対する供給力の余裕は、約30万キロ・ワットしか見込めていない。まさに綱渡りの需給といえよう。
 冬は配管凍結などのリスクも高まる。実際に今年2月、九州電力の火力発電所が配管の凍結で止まり、他電力からの緊急融通で切り抜けたケースがあった。
 北海道は本州との間の送電容量が小さく、九州ほど大量の融通を受けられない。トラブルが重なれば停電の危機に直面する。
 停電時はエアコンだけでなく灯油やガスのファンヒーターも止まる。北海道は最低気温が氷点下30度を下回る地域がある。暖房の停止による室温の急降下で、凍死する危険は否定できまい。
 工場生産に加え、観光業や酪農も、電力の安定供給なしには成り立たない。道路の融雪や水道管の凍結防止が機能せず、交通マヒや断水を起こすという、北国に特有の課題もある。
 深刻な事態を回避するため、節電の数値目標を定め、着実に達成することが求められる。
 泊原発を再稼働すれば電力不足を解消できるのに、原子力規制委員会の設立が遅れ、再稼働の判断に必要な安全基準の策定さえ、今冬には間に合わなくなった。
 全国で膨大な火力発電燃料を消費している弊害も大きい。
 液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入が急増し、今年度上期の貿易赤字は初めて3兆円を突破した。安全を確認できた原発を順次、再稼働していかないと、国富の流出に歯止めがかからない。
 ところが、原発・エネルギー政策で迷走する野田内閣は、肝心な再稼働の判断を避ける姿勢を示している。その「罪深さ」をどこまで意識しているのだろうか。

危ない自転車 運転マナー欠如が事故を招く

 歩行者の間を猛スピードですり抜ける。前を歩く人に向かって、ベルを激しく鳴らす。自転車の危険で無謀な運転が後を絶たない。
 自転車の利用者が交通ルールをきちんと守るよう、有効な対策を講じることが急務だ。
 自転車がかかわった事故は昨年1年間で約14万件に上った。全交通事故に占める割合は増加傾向にあり、昨年は2割に達した。
 自転車と自動車、自転車と歩行者、自転車同士という事故パターンがあるが、増加が著しいのは、自転車が歩行者に衝突する事故だ。昨年は2800件に上り、この10年で1・5倍に増えた。
 警察庁によると、歩道での暴走、信号無視、飲酒運転、2人乗り、携帯電話で話をしながらの運転など、自転車側に落ち度のある事故が目立っている。
 運転マナーの欠如が事故を誘発していると言えよう。
 自転車は手軽な乗り物だが、法令上は軽車両とされ、利用者は道路交通法を守る義務がある。道交法上、自転車は車道走行が原則だ。ただ、幹線道路などで車道走行が危険な場合には、例外として歩道走行が認められている。
 歩道では、スピードの出し過ぎはご法度だ。歩行者優先の運転を徹底したい。
 全国の警察では昨年10月から、危険運転の摘発強化に乗り出した。間もなく1年になるが、事故は思うように減っていない。
 自転車の交通違反には、自動車のように反則金を科す制度が存在せず、摘発されても、注意にとどまるケースがほとんどだ。このため、取り締まりの強化だけでは、危険運転の抑止にはつながりにくいのではないか。
 警察庁は今月、有識者会議を設置し、違反者に安全講習を課す制度の検討を始めた。
 講習では、自転車が歩行者の脅威となる乗り物であることを教える方針だ。自転車で人をはねて死亡させ、多額の賠償金を請求された事例なども紹介する。自転車の危険性を学ぶ機会になれば、安全運転の意識も高まるだろう。
 東京の三鷹市と武蔵野市では、自転車利用者の講習会に参加すれば、駐輪場の利用権を優先的に割り当てる制度を導入した。定員を上回るほどの参加者が集まり、両市内では自転車事故数が実施後に3割減少したという。
 講習に参加したいと思わせる、こうした取り組みを参考に、警察と自治体が連携し、危険運転の抑止策を検討してもらいたい。

2012年10月22日月曜日

生活保護から就労へ―まず「自尊感情」の回復を


 生活保護を受ける人が210万人を超えた。かかる費用は年間3兆7千億円にもなる。
 高齢化の影響が大きいが、問題はまだ働ける年齢層で受給者が増えていることだ。
 社会の大きな変化が根本にある。経済のグローバル化が進んで、製造業の安定した仕事が少なくなる一方、低賃金の非正規雇用が増える。「黙々と勤めれば普通に生活できる」という前提自体が崩れている。
■北の街での試み
 北海道釧路市を訪ねた。やはり経済の疲弊に苦しむ地方都市の一つである。
 80年余りの歴史を持つ炭鉱が02年に閉山、製紙業は低迷し、漁業の水揚げはピーク時の10分の1に縮小……。地域経済の衰退と比例するように、生活保護を受ける人が増え続けた。
 求人件数は、求職者のほぼ半分。季節労働の水産加工を除けば、受給者がすぐに就けそうな仕事はほとんどない。働くよう指導するだけのやり方は壁に当たっていた。
 切羽詰まった状況で、市は生活保護のあり方を転換する。国のモデル事業として04年度、母子家庭の就労支援に取り組んだことがきっかけだった。
 当事者が気持ちを動かさないと何も始まらない。そんな認識から、受給者が自分の存在を肯定できる「自尊感情の回復」をまず支援の中心に据えた。
 NPOや企業に頼み込んで、就労体験的なボランティア活動をいくつも用意し、「中間的就労」と位置づけた。
 動物園のエサづくりや公園の清掃、病院や介護施設での話し相手など、とにかく家の外に出て、人と関わる。貧困で断ち切られた社会とのつながりを回復するのが最初の目的だ。
 参加を呼びかける時も、「これぐらいならできるだろう」ではなく、「市民の一人としてまちづくりに力を貸して欲しい」と訴えた。
 地域経済が回復しないなか、釧路市の受給者はなお増えてはいる。今年は約1万人。市民18人に1人という割合は、全国平均の3倍を超す。
 だが、生活保護を受けつつ働く人の割合は増え、受給者の医療費も減った。釧路市の平均の保護費は月約12万円で、道内の同じ規模の市に比べ1.5万~2万円ほど低い。
 厚生労働省は、生活が苦しい人たちの自立を支える「生活支援戦略」を検討している。
 そこには二つの顔がある。
 一つは早めに、幅広く、より手厚く支援する取り組みだ。いわば太陽の光で暖めて、やる気を取り戻してもらう。
 もう一つは「北風」の引き締めだ。不正や無駄遣いを監視する権限を強化し、高齢でも病気でもない「働けるはずの人」には自ら健康を管理し、早く仕事につくよう指導を強める。
■引き締め策への懸念
 釧路市のような中間的就労は「太陽政策」のひとつだろう。他の自治体でも様々な取り組みが進む。いずれも地域のNPOや企業との連携なしには成り立たない。
 生活保護行政は、プライバシー保護を名目に、受給者を一般市民から見えにくい存在にしてきた。その殻を破って支援のプロセスを見えやすくし、外部とも連携して就労先を確保できるか。行政の決断と、市民活動の厚みが問われる。
 心配なのは、引き締めだ。
 制度への国民の信頼を保つためには、不正をチェックし、自立へ向けた本人の努力を促すことは必要なことだ。
 ただ、運用次第では、むしろ自立を損ねる懸念がある。
 たとえば、受給者にかわって行政が家賃を払ったり、保護費の支出の状況を細かく調べたりする権限の強化である。
 家賃滞納の心配をなくして、保護費がパチンコや酒に使われるのを防ぐのが目的だ。自民党は、食費や洋服代の現物支給も検討している。
 そうした権限が必要な場面はあるだろう。だが、受給者の状況とは関係なく、一律に監視や指導を強めれば、自立には逆効果になりかねない。
 こうした引き締め策が議論される背景には「生活保護にただ乗りしている人間が大勢いる」という疑念の広がりがある。社会が余裕を失い、私たち自身が自尊感情を持ちにくい時代になったからかもしれない。
■自立への階段つくれ
 このような視線にさらされる当事者は、かえって社会とのつながりを失い、引きこもり、ますます生活保護への依存度を強める恐れがある。
 「やる気さえあれば、できるはずだ」とか、いきなり「仕事をしなさい」といっても、届かないロープに向かって飛べと言うようなものだ――。そんな現場の声に耳を傾けよう。
 就労による経済的自立までに階段を用意し、それを一歩ずつ上れるよう社会全体で手助けする。それが生活保護の肥大化を防ぐ近道ではないか。

新潟県知事選 柏崎再稼動に向き合う契機に

 東京電力柏崎刈羽原子力発電所を抱える新潟県で、泉田裕彦知事が3選を果たした。
 これを機に、いかに柏崎刈羽原発の再稼働の環境を整えるかが、政府と県、東電に問われている。日本全体のエネルギー政策や経済問題にも大きく影響を及ぼす問題だからだ。
 知事選では民主、自民など与野党5党相乗りの現職・泉田氏が、「廃炉」「原発ゼロ」を掲げる共産党候補ら2人を破った。
 泉田氏は、柏崎刈羽原発の即時廃炉に反対し、「見切り発車的な運転再開議論は行わない」と公約した。選挙戦では、再稼働議論の前に福島原発事故の徹底的な検証が必要だ、と主張した。
 泉田氏は、新潟県独自の事故検証作業を始めている。県民の安全に責任を負う知事として、事故の再発防止に万全を尽くそうとする姿勢は理解できる。
 だが、原発の安全性を判断する権限と専門的知見を持つのは、政府の原子力規制委員会である。規制委が再稼働に問題はないと判断すれば、地元自治体もそれを尊重せざるを得ないだろう。
 柏崎刈羽原発は、東電全体の発電能力の12%を占める基幹施設である。今年3月までに7基すべての運転が停止し、再稼働への手続きのメドも立っていない。
 東電は既に、柏崎刈羽原発を来春以降は順次動かすことを前提にして、近い将来の決算黒字化や電力料金値下げを計画している。
 このまま再稼働できないと、首都圏への安定的な電力供給体制が揺らぎ、企業の生産活動や市民生活に悪影響を与えよう。
 火力発電用の燃料費が増え、料金の再値上げに追い込まれる可能性がある。電力供給に不可欠な投資計画にも支障が出かねない。
 泉田氏には、地元の事情だけでなく、こうした点にも、引き続き配慮してもらいたい。
 東電は安全性への懸念払拭に努めるとともに、再稼働の必要性を丁寧に説明する必要がある。
 政府も、東電に責任を押しつけて傍観することは許されない。東電と連携し、安全性が確認された原発は活用する方向で、地元の説得に全力を挙げるべきだ。
 新潟県では、再稼働の是非に関する住民投票の条例制定を求める動きが進んでいる。署名活動を行っている住民団体は、年内にも知事に直接請求する見通しだ。
 だが、一部地方の住民の判断だけで再稼働が左右されるのは極めて問題だ。やはり、原発再稼働問題は住民投票になじまない。

EU首脳会議 危機克服へ統合を深化せよ

 財政・金融危機の克服に向け、欧州が結束を強めて統合を深化する方針を打ち出した。一歩前進だが、問われるのは、迅速な行動である。
 欧州連合(EU)の首脳会議は、各国に委ねていた銀行監督を来年から段階的に欧州中央銀行(ECB)に一元化することで合意した。金融行政を統合する「銀行同盟」構想に沿った措置と言える。
 欧州は通貨ユーロで統一されたが、金融行政や財政はバラバラという弱点がある。銀行監督が甘く、財政赤字を拡大させた要因となった。その反省から欧州が統合深化に踏み出したのは妥当だ。
 恒久的な金融安定網として、欧州安定メカニズム(ESM)が8日に発足した。ESMが経営悪化の銀行に直接資本注入して支援するには、銀行の経営状況を正確に把握することが前提になる。
 銀行監督の一元化によって、ESMを銀行支援に活用する道が開かれる。各国が銀行を公的資金で救済して財政が悪化し、市場が混乱するという「負の連鎖」を断ち切る効果が期待されよう。
 ただ、銀行監督がいつ一元化されるか曖昧な点も残る。銀行同盟を完成させるには、欧州全体の預金保険制度や、銀行が破綻した場合の処理策も必要となる。負担増を警戒するドイツは慎重だが、早急に妥協点を探るべきだ。
 首脳会議は、財政危機国を支える「ユーロ圏共通予算」の導入など、財政統合の方策も協議し、12月の次回会議まで議論を重ねることになった。具体的な行程表作りを急いでもらいたい。
 懸念されるのは、当面の焦点であるスペインへの支援策が見送られたことだ。深刻な財政危機に陥ったスペインがまだ欧州当局に支援要請していないためだ。
 スペイン国債の利回りが最近、比較的落ち着いているからと言って、油断してはなるまい。速やかに支援策をまとめ、財政再建に取り組むことが肝要である。
 危機の震源地ギリシャの財政再建の先行きも懸念される。首脳会議は、ギリシャが求めた財政再建目標の先送りに応じるかどうかについて決着を持ち越した。
 EUは今年のノーベル平和賞の栄誉に輝いた。授賞理由は「欧州の平和と和解、民主主義と人権の促進への貢献」である。
 長びく欧州危機が、世界経済の減速を招いている。平和賞は危機克服に向け、統合を深化させようと苦闘するEUへのエールの意味合いがあろう。欧州各国が責任を果たすことが求められている。

2012年10月21日日曜日

両院違憲状態―恥を後世にさらすのか

 衆参両院あわせて719人の国会議員は、あらためて憲法を読んでもらいたい。
 第41条 国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。
 ところがいま、その足元が大きくゆらいでいる。言うまでもない。一票の格差の問題だ。
 最高裁は昨年3月、衆院の議員定数の配分は、投票価値の平等をもとめた憲法に違反する状態にあると判断した。そして今月17日には、参院についても同様の見解が示された。
 司法の判断が確定した以上、すみやかに従い、是正する。それが、憲法が定める権力分立であり、民主主義のいろはだ。だが、「国権の最高機関」はサボタージュを続けてきた。
 党首会談が物別れに終わり、衆院の「0増5減案」は成立の機運が遠のいた。このさき合意がなっても、区割り作業などの時間を考えると、次の総選挙は現行定数のまま実施することになるという声もある。
 見直しのための期間を確保するため、判決を急いだ裁判所の配慮など、どこ吹く風だ。どの党が選挙を制するにせよ、ゆがめられた民意のうえに立つ「違憲の政権」が指導力を発揮できるのか。政治は崖っぷちに立っている。与野党とも、その認識を共有しなければならない。
 参院は事情が違うとの言いわけも通用しない。最高裁はすでに3年前の判決で、「格差を縮めるには選挙制度自体の見直しが必要だ」と述べている。検討の時間は十分あった。
 驚くのは、「継続審議になっている4増4減案が通れば、違憲状態は解消される」などと話す有力議員がいることだ。17日の判決はあえてこの案に触れ、「改正されたとしても、最大格差は1対4.75である」「単に4増4減するにとどまる」と指摘している。そこに込められた意味を考えるべきだ。
 「人口の多い都市部に議員がかたより、地方の切り捨てになる」という、旧態依然の判決批判にもあきれる。「選出された地元のことしか考えられない」と告白するに等しい。自分は全国民の代表だという自覚をもてない議員は、さっさと胸のバッジをはずしたらどうか。
 衆参そろって違憲状態という前代未聞の状況は、国会が目をさます最後の機会だ。国民の意思を正しく反映する議会をつくり、未来に道を開くのか。最後まで党利党略に走り、混迷を抜けだせなかった「選良」として、後世に恥をさらすのか。
 議員一人ひとりの見識と覚悟が問われている。

汚染廃棄物―国と自治体が一体で

 福島第一原発の事故で放射能に汚染された廃棄物について、東日本の各地で最終埋め立て処分が滞っている。
 家庭ゴミを燃やした灰や下水汚泥、稲わらなどだ。埋め立てると地下水の汚染や地元農産物の「風評被害」を招きかねないと反対の声が上がり、焼却場や下水処理場などに仮置きされている例が少なくない。
 一部の施設では業務に支障が出ている。なにより安全上、仮置きは問題だ。コンクリートでまわりから遮断した処分場への埋め立てを急ぐ必要がある。
 事故後に作られた特別措置法に基づき、放射性セシウムが1キロあたり8千ベクレルを超える廃棄物は「指定廃棄物」とされ、国が処分に責任を持つ。
 指定廃棄物があるのは9都県。環境省はこのうち栃木県では矢板市、茨城県では高萩市の国有林を最終処分場の候補地に選んだが、両市とも激しく反発し、宙に浮いている。
 処分は国の責任とはいえ、埋め立ての「現場」は各地の自治体だ。国が場所を選び、自治体側が受け入れを判断するという構図ではうまくいくまい。国と県、市町村が一体となって、住民とともにひとつずつ検討していくしかない。
 指定廃棄物は発生した県ごとに処理し、既存の処分場の活用を優先しつつ必要なら各県に1カ所ずつ最終処分場を造る。それが基本方針だ。福島県については、既にある民間の処分場と政府が検討中の中間貯蔵施設を連携させる案が示された。
 福島以外の8都県のうち、今のところ5県で最終処分場の建設が予定されている。環境省は候補地を選ぶ際、自然公園や地滑り危険区域を除いたうえで、地形や地質、水源・集落などへの影響を総合的に判断する。
 こうした考え方は事前に自治体側に説明したが、複数の候補地から1カ所に絞り込む作業は秘密に進めたため、矢板、高萩両市とその住民が「なぜうちなのか」という反発や疑問を強めることになった。
 どんなやり方がよいか、難しい。ただ、「あらゆる情報を公開する」ことが原発事故の教訓だ。その方が、長い目でみれば理解を得やすいだろう。
 群馬県は、最終的にまとまらなかったが、指定廃棄物を保管する六つの市と村ごとに処分場を造ることを模索した。宮城県は近く、県とすべての市町村が集まって協議を始める。
 自治体は、問題を国任せにせず、自ら動いてほしい。そこに環境省が加わり、共同作業で知恵を絞っていきたい。

PC誤認逮捕 取り調べの徹底検証が必要だ

 なぜ警察は誤認逮捕に至ったか。徹底的な検証が必要である。
 遠隔操作されたパソコン(PC)からネット上の掲示板などに犯行予告が書き込まれた一連の事件で、大阪地検は19日、偽計業務妨害罪で公判請求した男性の起訴を取り消した。府警は男性に謝罪する。
 神奈川、三重両県警は誤認逮捕を認めて謝罪した。警視庁も誤認逮捕を認めた。
 PCを遠隔操作した真犯人に翻弄され、捜査がずさんで、相次いで冤罪(えんざい)を引き起こした。警察・検察の信頼は大きく失墜した。
 警察は、TBSなどに届いた「私が真犯人」とするメールの送り主が遠隔操作を行ったとみている。犯人しか知り得ない内容を含んでいるからだ。
 このメールにより、警察は誤認逮捕を認めざるを得ない状況に追い込まれたと言えよう。
 逮捕された4人は当初、いずれも容疑を否認したが、警察は耳を貸さなかった。
 小学校の襲撃を予告したとして神奈川県警が逮捕した大学生のケースでは、「楽しそうな小学生を見て困らせてやろうと思った」とする動機など、具体性のある自白調書まで作成された。
 「鬼殺銃蔵」との名前について、「鬼殺は日本酒の商品名。13が不吉な数字だからジュウゾウにした」との“供述”もあった。
 脅すような尋問によって、警察・検察が描いた構図通りの供述を強要する取り調べがあったとしか思えない。厚生労働省の村木厚子さんを冤罪に巻き込んだ郵便不正事件の教訓は、全く生かされていないのではないか。
 適正な取り調べの徹底が、何より大切である。
 全国の警察では現在、取り調べを録音・録画する「可視化」の是非を見極めるため、試行が続いている。今回の問題で、導入を求める声が強まるのは必至だろう。
 犯人を割り出すため、警視庁、大阪府警、神奈川、三重両県警は合同捜査を行うことを決めた。
 サイバー犯罪に対処する官民の専門家のノウハウを結集して、真犯人の特定を急いでもらいたい。真犯人にたどり着けなければ、警察は今後も、コンピューターに違法侵入するハッカーに甘く見られるだけである。
 一連の事件は、PCの「住所」であるIPアドレスを根拠に、PCの持ち主を犯人視することの危険性を明白にした。過去の同種事件の捜査に誤りはなかったのか。その検証も忘れてはならない。

中国GDP 景気減速をどう食い止める

 欧州危機の影響や、日中関係の冷え込みなどから、中国経済の減速に歯止めがかからない。中国政府の景気テコ入れ策が焦点になってきた。
 中国の2012年7~9月期の国内総生産(GDP)の速報値は実質で前年同期比7・4%増となり、7四半期連続で減速した。政府が掲げてきた今年の成長目標7・5%を下回った。
 中国にとって、8%成長は経済や雇用を維持する「最低ライン」とされる。だが、景気底入れの見通しは立たず、12年通年の成長率も13年ぶりに8%を割る公算が大きくなったと言えよう。
 成長センターとして世界経済を牽引(けんいん)してきた中国経済のもたつきで、日本などに悪影響が広がることを警戒しなければならない。
 中国の景気減速は、最大の輸出相手である欧州の信用不安が拡大し、欧州向け輸出が不振だったことが主因だ。このため、輸出企業などの生産が停滞している。
 沖縄県・尖閣諸島を巡って日中関係が悪化している影響もある。中国で自動車などの日本製品の不買運動が広がって販売が落ち込んだ。エンジン役である個人消費の勢いも鈍っている。
 中国リスクの高まりで、多くの日本企業が中国での減産を決めた。日本から部品を輸出し、中国で完成品に組み立てるという分業体制にも支障が出始めている。
 こうした動きが広がれば、生産低迷に加え、日系工場などで働く中国人の雇用や所得環境が悪化し、景気は一段と冷え込もう。
 中国政府は4年前のリーマン・ショック後、大型景気対策でV字回復をいったん達成した。反面、不動産バブルなどの副作用を招いたため、当局は今回、同じような大型対策には慎重とされる。
 ただ、中国は来月、習近平国家副主席が最高指導部を率いる新体制に移行する不安定な時期にある。景気減速を食い止めないと、政府の基盤が揺らぎかねない。
 都市と農村の経済格差や、若者の失業増大なども社会問題化している。安定成長を維持することが何よりも求められよう。
 具体的には、すでに進めている高速道路などインフラ整備の前倒しを加速するとともに、個人消費の活性化策が欠かせない。追加の金融緩和策も選択肢となる。成長とバブル再燃阻止を両にらみし、迅速に対応してもらいたい。
 日中貿易を拡大し、日本からの投資を呼び込むことが必要だ。中国当局は対日強硬姿勢を改め、関係正常化を急ぐべきである。

2012年10月20日土曜日

党首会談決裂―首相の責任感が見えぬ

 野田首相は、政権の延命がそんなに大事なのか。さらなる離党者が出ることが、それほど怖いのか。
 社会保障と税の一体改革をめぐって、首相が「近いうちに国民に信を問う」と自民、公明両党に約束してから2カ月あまり。ようやく、民自公3党の党首会談が実現した。
 だが、会談の内容は寒々しいものだった。
 首相は、赤字国債発行法案や衆院の「一票の格差」是正などへの協力を要請した。一方で、自公両党が求める「近いうち」の衆院解散の時期については具体的な答えを避けた。
 要求するばかりで、相手の求めにはゼロ回答では、話し合いは成り立たない。会談が物別れに終わったのは無理もない。
 首相には、政治を前に進める責任感がないのか。そんな疑いを禁じ得ない。
 一体改革関連法が成立した後の、野田政権の惨状は目を覆うばかりだ。
 たとえば、衆院に続き参院でも最高裁に違憲状態と断じられた、一票の格差の問題だ。国会の正統性そのものが否定されたに等しい異常事態なのに、政権の危機感はあまりに乏しい。
 とりあえず衆院の違憲状態を解消するための「0増5減」法案を自民党が提案しているのに、あれこれ理由をつけて審議を拒んできたのは、ほかならぬ民主党ではないか。
 赤字国債発行法案が先の国会で廃案になり、5兆円の予算の執行が抑制されている。これもまた非常事態である。
 入閣したばかりの田中慶秋法相が早くも辞任する見通しだ。外国人企業からの献金や暴力団関係者との交際も問題だが、理由にもならない理由で国会審議を拒否するとは前代未聞、驚くばかりの無責任さだ。
 こんな閣僚をなぜ起用したのか。能力や資質より離党者防止を優先した「内向き」人事のツケが早くも回った形だ。首相の責任は極めて大きい。
 いまの野田政権は、政権の体をなしていない。そう批判されても仕方あるまい。
 もはや民主党だけで政治を動かす力があるとは思えない。ならば、首相が最優先すべきことは明らかである。
 29日に召集予定の臨時国会に向けて、3党の関係を修復する。そして、自公両党をはじめ野党の協力を得て、赤字国債発行法案や一票の格差是正など懸案の処理を急ぐ。
 そのために必要なら、自公両党が求める早期の解散も逃げてはならない。

誤認逮捕―捜査が甘すぎる

 なりすましウイルスによる犯行予告事件で、警察庁が男性4人の誤認逮捕を認めた。
 「警察や検察をはめる」ために、他人のパソコンを乗っ取って遠隔操作する。これまでになかったタイプの犯罪だ。
 警察の捜査技術や人員が、日々進歩するインターネット技術に追いつかない。一見すると問題はそこにあるように見える。
 そうした側面もあるのは確かだろう。
 しかし、捜査のいきさつが明らかになるにつれ、別の疑念がわいてくる。そもそも捜査の基本を尽くしていなかったのではないかということだ。
 東京の幼稚園などを襲うという予告メールが送られた事件では、警視庁は「発信元」のパソコンをウイルスチェックしないまま、持ち主の逮捕に踏み切っていた。
 送信された時間帯のアリバイも調べていなかったという。
 何より深刻なのは、警察がこのうち二つの事件で、逮捕した人から容疑を認める供述を引き出していたことだ。
 たとえば、横浜市のサイトに「小学校を襲う」と書き込まれた事件では、犯行予告に「鬼殺銃蔵」というハンドルネームが記されていた。
 「銃蔵」は不吉な数字である「13」をもじった。神奈川県警に捕まった学生は、警察への上申書でそう「説明」したとされる。しかも予告の詳しい中身は公表されていないのに、上申書には同じ文言が使われていた。
 どんな取り調べ方をすると、やってもいない人がこんなことを書けるのか。
 予告の文面を見せて誘導するようなことはなかったか。検証して公表すべきだ。
 警察や検察は、過去の冤罪(えんざい)の教訓から、供述だけに頼ることなく、客観的な証拠を重くみる方針を示してきた。
 今回はネット上の住所にあたる「IPアドレス」という一見堅い物証があったゆえ、落とし穴にはまった面はある。
 しかし、「この人は犯人でないかもしれない」という目で証拠を捜す姿勢に欠けていた点で、結局は過去の過ちと変わりがない。
 自分もいつ犯人に仕立てあげられるか。事件は人々にそんな不安を植えつけた。捜査への信頼を取り戻すには、警察の取り調べの可視化も必要だろう。
 犯行予告は結局、実行されていない。証拠のパソコンも押さえた。そんなケースでも、勾留を続ける必要があったのか。
 そうした捜査のあり方も見直すべきだ。

民自公党首会談 首相が守り一辺倒では困る

 ようやく開催された民主、自民、公明3党の党首会談は、あっさりと物別れに終わった。山積する課題を解決するため、3党は、もっと積極的に妥協点を探るべきだ。
 野田首相が自民党の安倍総裁、公明党の山口代表と会談し、赤字国債発行を可能にする特例公債法案の成立などへ協力要請した。
 首相は焦点の衆院解散・総選挙について、8月の3党首会談での「近いうち」との自らの発言を「重たい確認事項」と述べるにとどめた。安倍氏らは政権への協力の前提として解散時期の明示を求めたが、首相は応じなかった。
 首相が明言した「近いうち」の解散は「国民との約束」だとする安倍氏らの主張は理解できる。
 ただ、衆院解散の確約なしでは法案成立に協力しないとか、参院の首相問責決議を理由に国会審議を拒否する、といった姿勢では、国民の理解は得られまい。
 臨時国会は29日に召集される方向だ。むしろ論戦を通じて、震災復興予算の「転用」など、政府の問題点を追及する方が、自公両党にとっても得策のはずである。
 より問題なのが、野田首相側の対応だ。民主、自民両党の党首選から党首会談の開催まで3週間以上が無為に経過した。苦戦が予想される衆院選の先送りを優先し、“時間稼ぎ”を続けた結果だ。
 11月中の緊急経済対策の策定も中途半端で、解散先送り策の一環だろう。景気減速に本格的に歯止めをかけるのなら、予備費の活用でなく、臨時国会の会期を十分確保し、実効性のある補正予算を編成・成立させるのが筋だ。
 野田首相は会談で、衆院解散に向けた「環境整備」として、特例公債法案と予算案の一体処理のルール作り、衆院選の「1票の格差」是正、社会保障制度改革国民会議の設置の3点を挙げた。
 特例公債法案に関するルール作りは、衆参ねじれ国会の下、赤字国債が発行できない事態を回避する建設的な提案と評価できる。
 だが、「1票の格差」是正では、定数削減問題も含めて幹事長協議に再び委ねるという提案にとどまった。これで野党と合意できるのか。自民党などの主張する小選挙区の「0増5減」の先行処理に同意すべきである。
 安倍氏は会談後、衆院解散の時期に関する「新提案」がなかったことについて「失望した」と語った。首相も、守りの姿勢一辺倒では今の局面を打開できまい。
 「解散先送りが第一」では、政府・与党の責任を果たせない。

田中法相問題 これ以上「醜態」を見たくない

 野田首相は手をこまねいている場合ではあるまい。田中法相の更迭に踏み切るべきである。
 外国人からの献金や暴力団関係者との過去の交際が発覚した田中法相が19日、体調不良を理由に閣議を欠席し、入院した。官房長官には「辞任しない」意向を伝えたという。
 体調不良が事実なら入院はやむを得ないが、法相は実のところ、自らの進退問題から逃げ回っているだけではないのか。
 田中氏は、前日も野党から出席要求の出ていた参院決算委員会を「公務」を理由に欠席した。
 閣僚が国会の要求に応じて審議に出席するのは、憲法63条に規定された義務である。法相の姿勢に野党側が一斉に反発して、罷免要求を強めているのは当然だ。
 臨時国会を控える野田政権にとって、このままでは政権運営の支障になる。民主党の一層のイメージダウンも避けられない。
 田中氏を巡っては、法相就任直後、自身が代表を務める民主党支部が、在日台湾人の経営する会社から献金を受けていたことが、明らかになった。
 政治資金規正法は、外国人や外国人が主な構成員の団体から寄付を受けることを禁じている。田中氏は今月4日、事実関係を調査して説明すると述べながら、いまだに説明責任を果たしていない。
 約30年前、暴力団幹部の宴席に出席し、別の暴力団関係者の仲人を務めたことも判明した。田中氏は記者会見でこれを認め、「大変申し訳ない」と謝罪している。
 法務行政のトップとして不適格なのは、もはや明らかだろう。
 内閣改造後、わずか半月あまりで、法相の進退問題が浮上したことは、民主党代表選での論功行賞や党内融和色の人事が目立つ布陣の(もろ)さを露呈している。
 野田首相は「内閣の機能強化」を改造の目的とした以上、能力や適性を見極める必要があった。
 田中氏については、国会での答弁能力すら、疑われている。このような人物を法相に据えた首相の任命責任は、厳しく問われてしかるべきである。
 これまで野田内閣では、防衛相を更迭された一川保夫、田中直紀の両氏をはじめ、野党がその資質を問題にした閣僚が少なくなかった。首相の人事管理能力には疑問符をつけざるを得ない。
 日本は今、外交・安全保障や財政再建、景気対策など様々な重要案件を抱えている。首相は、田中法相の進退問題をこれ以上、引きずってはならない。

2012年10月19日金曜日

経済対策指示―このちぐはぐさは何だ

 野田首相が経済対策のとりまとめを指示した。月例経済報告で景気判断が3カ月続けて下方修正されたことを受け、デフレ脱却と経済活性化へテコ入れを急ぐという。
 ところが、景気対策につきものの補正予算の編成には触れなかった。
 今年度当初予算の財源の4割をまかなう赤字国債の発行法案が野党の反対で成立しておらず、歳出を積み増す補正予算案にはなおさら協力を期待できないからだ。
 このため、財源は当初予算に積んだ予備費に限られ、一般会計では1兆円程度。しかも赤字国債法案のたなざらしで、支出を抑制しているのが現状だ。予備費だけどんどん使うわけにもいかない。
 ブレーキをかけつつ、少しアクセルを踏むような、何ともちぐはぐなかじ取りである。
 まず赤字国債法案を成立させることが筋だ。
 国からのさまざまな支払いが集中する12月になると、やりくりも限界という。事態を放置すれば、景気どころか日々の暮らしまでが混乱しかねない。
 与野党は、衆院の解散・総選挙をめぐる不毛な駆け引きをやめ、法案の早期成立で協力しなければならない。
 政府が危機感を募らせる通り、景気は変調ぶりが目立つ。
 欧州の経済危機が長引き、その余波で新興国、とりわけ中国経済が減速してきた。さらに、尖閣諸島の問題をきっかけとした日本製品の不買運動や日本への旅行取りやめの影響も広がっている。
 大震災の復興需要が国内景気を下支えするうちに輸出が回復する――政府のこんなもくろみは崩れてしまった。
 財政難の深刻さを考えると、景気を押し上げるために予算をばらまく余裕はない。埋もれた需要を掘り起こす規制緩和策などと組み合わせつつ、限られた財源を有効に使い、成長率を底上げできるかが問われる。
 東日本大震災の復興関連予算では、被災地の再建と関係の薄いものが少なくないことが批判されている。
 疑問が強い項目は削除し、復興特別会計と一般会計の全体を見渡して、メリハリのある予算に組み替える必要がある。
 与野党の対立で延び延びになっていた国会での復興予算の検証がようやく始まった。効果的な予算の検討と円滑な執行は、国民の代表としての務めだ。
 審議を通じ、与野党ともにこのことを改めて自覚してもらいたい。

少女への銃撃―貧しい国の女性に力を

 女子の学ぶ権利を訴えていたパキスタンの14歳の少女、マララさんが撃たれ、重体だ。貧しい国の女性が教育を受け、自分の意思で生き方を選べるように支援する必要がある。
 反政府武装勢力のパキスタン・タリバーン運動が犯行を認めた。この勢力は女子が学校に通うことを禁じ、それに従わないマララさんを狙ったという。
 許しがたい蛮行だ。
 マララさんは3年前から、学校に通う日々の思いをブログにつづり、政府が開いた講演会で女子にも教育が要ると唱えた。
 彼女が住んでいた地方をはじめ、世界にまだ、女性に教育は要らず、家が決めた相手と結婚すればいいという地域がある。
 脅されていながら、発言を続けたマララさんの勇気をたたえたい。彼女と同じ考えの少女は大勢いるに違いない。
 折しも、今月11日は国連が設けた第1回の「国際ガールズデー」だった。
 途上国でも貧困が緩和された地域はあるものの、女性、とくに若い少女たちを取り巻く状況はなお深刻だ。
 女子教育を否定する考えは、特定の宗教というより、アジアやアフリカの社会に残る因習によるものだろう。
 パキスタンの隣国アフガニスタンでも、小中学校に通っていない女子は100万人に達し、女性の成人識字率は男性の半分ほどしかないという。
 国際社会はさまざまな手立てで貧困撲滅に取り組んできた。
 それなのになぜ、女性への教育の遅れが残り、差別や暴力が減らないのか。
 とくに目を向けたいのが、古い因習が残る農村や、都市のなかでも最貧層の住む地域だ。
 少女たちは10代で結婚させられ、多くの子を産み、育児や水くみといった仕事に追われて、教育の機会を奪われる。
 ユニセフの推計では、15歳以前に結婚させられる女子は世界で2300万人に達する。若すぎる結婚は、生まれる子どもの健康も害することが多い。
 南アジアでは、若い女性に仕事があるとだまして売春させる人身売買や児童労働が横行している。さらには、望まない結婚から逃れようとする女性を一族が自らの手で殺害する、といった悪習も残っている。
 途上国の教育や地域保健への支援で、日本は経験を重ねてきた。女子学校の建設や、女性教師の育成で貢献できる。
 マララさんは治療のために英国に運ばれた。回復を祈り、犯行に抗議する声は、今後も国境を超えて広がっていくだろう。

原発と活断層 公明正大な調査が求められる

 政府の原子力規制委員会が11月から、原子力発電所の真下に活断層がないかどうかを確認する現地調査に乗り出す。
 原発が地震に直撃されることのないよう、安全性を厳格に調べる必要がある。
 調査対象の第1号は、東日本大震災後、初めて再稼働した福井県の関西電力大飯原発だ。
 地震に詳しい島崎邦彦委員長代理と、活断層の専門家4人が現地入りする。石川県の北陸電力志賀原発など5か所でも、順次、同様の調査を予定している。
 これら6原発については、設計・建設時には、直下に活断層がないとされていた。ところが、東日本大震災後に、旧原子力安全・保安院が当時の資料を改めて検討したところ、活断層の存在を疑わせるデータが出てきた。
 電力会社の過去の調査で、別々の断層を一つの断層としたとみられる不備も見つかっている。
 原発の真下で活断層が激しく動くと、原子炉本体が傾き、重要設備が損傷するなど、想定外の事態に陥りかねない。
 東日本大震災の後、日本列島の地層状況が変化して、活断層も動きやすくなったとも言われる。規制委の調査により、そうした可能性を詳しくチェックし、懸念を払拭することが求められよう。
 規制委は、原発の真下で活断層の存在が確認されれば、電力会社に、原発の運転停止や廃炉を求める方針を表明している。
 調査結果を踏まえ、安全性が疑われる原発を厳しく「仕分け」することは妥当と言える。
 問題は、専門家の間でも、しばしば活断層の判定が食い違うことだ。地層や岩盤中には通常、多くの亀裂や割れ目がある。これが将来、どのくらい激しく大きく動くか、見極めは容易でない。
 田中俊一規制委員長は、「科学技術的にグレーというのは非常に難しい」と述べている。
 だが、根拠のあいまいな評価で廃炉を求めることはできまい。
 規制委は、活断層と判定する明確な統一基準を早急に設けるべきだ。基準がないのに廃炉を要求すれば、電力会社が訴訟に持ち込むケースも出てくるのでないか。
 もちろん、電力会社は、規制委の評価を待つだけではなく、安全性の確認を怠ってはならない。
 電力会社が過去の地盤調査の資料をきちんと保管していないというずさんな例も指摘された。
 地震で原発災害が起きれば、電力会社は責任を免れないことを肝に銘じてもらいたい。

沖縄米兵事件 再発防止へ実効性ある対策を

 卑劣で悪質な犯罪で、日米同盟にも悪影響を及ぼしている。
 米軍は、実効性ある再発防止策を早急に講じるべきだ。
 沖縄県中部で、未明に帰宅中の成人女性が米海軍兵2人に暴行された。
 沖縄県警は2人を集団強姦(ごうかん)致傷容疑で逮捕した。厳正な捜査を求めたい。
 2人は米テキサス州の基地所属で、今月上旬に来日し、犯行当日中に離日する予定だった。
 8月には、那覇市で在沖縄米兵による強制わいせつ事件が発生したばかりだ。こうした不祥事が繰り返されるようでは、日本の安全保障に欠かせない米軍の沖縄駐留が不安定になろう。
 沖縄県の仲井真弘多知事が「正気の沙汰ではない」と憤るのも無理はない。米軍による具体的な犯罪抑止策の徹底が急務である。
 現在も、在沖縄米兵には、米軍基地外での飲酒制限や、沖縄の文化・歴史に関する講習などが義務づけられているが、今回のような短期滞在者は対象外だ。
 森本防衛相らは、日米合同委員会で米側に綱紀粛正の徹底を強く求める考えを示している。
 若い米兵を対象にした中長期的な教育の拡充、外出制限など、より包括的で効果的な対策をまとめることが重要だ。
 今回の事件は、米軍の新型輸送機MV22オスプレイが沖縄に配備された直後だったため、県民の反発が一段と高まっている。
 ただ、暴行事件への対応とオスプレイの安全確保は基本的に別問題であり、それぞれ解決策を追求するのが筋だろう。
 同時に、米軍による事故の防止や騒音の軽減など、周辺住民の負担全体を軽減する努力を日米双方が不断に続ける必要がある。
 政府内には、1995年の女児暴行事件時のように、沖縄の反米軍世論が沸騰する事態になることを懸念する向きもある。
 しかし、当時は、県警が逮捕状を取った米兵の身柄引き渡しを米側が一時拒否したのに対し、今回は県警が容疑者の身柄を確保している点が大きく異なる。容疑者2人は日本の司法手続きに基づき、処罰される見通しだ。
 仲井真知事は日米地位協定の改定を改めて主張している。だが、今回の事件捜査では、起訴前の米兵引き渡しなどを制限する地位協定が障害とはなっていない。
 日米両政府は従来、地位協定の運用の改善を重ね、具体的問題を解決してきた。それが最も現実的な選択であり、同盟関係をより強靱(きょうじん)にすることにもつながろう。

2012年10月18日木曜日

定数判決―参院のあり方論ずる時

 一票の格差が最大5倍あった2年前の参院選について、最高裁が「法の下の平等に反する状態だった」と判断した。
 以前から是正を求められながら、手をこまぬいてきた国会の責任は重い。同じく違憲状態と指摘されて久しい衆院とともに改革を急がねばならない。
 判決は「都道府県を単位として定数を配分する現行の方式をしかるべき形で改めるなど」と具体的なやり方まで挙げ、制度を見直す必要を指摘した。
 権力分立の観点から、立法のありようについて司法は慎重なもの言いをしてきた歴史がある。それだけに、憲法の番人たちのいら立ちが伝わってくる。
 半数ずつ改選する参院では、各選挙区に最低2議席を割りふる必要があり、一票の格差を縮めるのは簡単でない。このため最高裁も長い間、寛容な姿勢をとってきた。判断を正当化したのが、参院選挙区の議員には都道府県の代表のような性格があるという考えだった。
 だからといって、民主政治の基盤である投票権の不平等に目をつぶるのは、本末転倒といわざるを得ない。
 最高裁も少しずつスタンスを変え、3年前の判決で初めて、選挙の仕組み自体の見直しに言及して注目を集めた。
 国会はどう応じたか。
 複数の県で選挙区をつくる合区案や、全国をブロックに分けて大選挙区制とする案も検討はされた。しかし大きな変化をきらう民主、自民両党などは、一時しのぎの4増4減案で合意。先の国会で参院を通過し、衆院で継続審議となっている。
 現定数のまま来年の参院選を迎えるよりは、ましかもしれない。だが、憲法上の要請よりも自分たちの都合を重んじるこうしたふるまいが、政治不信を深めてきた一因ではないか。
 朝日新聞は、政党が身を律せないなら、有識者による首相の諮問機関を設けて改革案を詰めよと唱えてきた。判決を受け、その感はいよいよ深い。
 そこでは、参院の役割は何かという根本から議論を重ねることが必要だ。ねじれ国会の下、首相の解散権が及ばない参院が政権の死命を決するような現状は、明らかにおかしい。
 憲法の規定を踏まえつつ、衆参両院の関係をどう位置づけ、参院にはいかなる権能を担わせるか。そこをはっきりさせることが、どんな選挙の仕組みをとるべきか、一票の格差はどこまで許容し得るか、という問いへの答えにつながる。
 司法の警告を重く受けとめ、速やかに議論を始めるべきだ。

米兵の犯罪―沖縄の怒りに向きあう

 沖縄で、米海軍兵2人が女性への集団強姦(ごうかん)致傷の疑いで逮捕された。
 「正気の沙汰ではない」と、仲井真弘多(ひろかず)知事が述べたのは、当然だ。
 容疑者2人は米国本土から出張で来ていた。事件がおきたのは未明。その日の午前中に沖縄を出てグアムへ行く予定だったという。「沖縄を出てしまえばわかるまい」とでも考えたのだろうか。
 沖縄では、1995年に米海兵隊員3人による少女暴行事件がおき、県民の怒りが燃え上がった。基地の再編や、事件をおこした米兵の扱いをめぐって日米間の交渉が行われた。
 だがその後も、米兵による犯罪はなくならない。性犯罪に限っても、この10年余りで中学生への強姦や強制わいせつ、ほかにも強姦致傷、今年8月にも強制わいせつ致傷の事件がおきた。被害者が泣き寝入りし、表に出ない事件もあるとみられている。
 沖縄では、米軍によって女性や子どもの身の安全を脅かされていると受けとめる人がふえている。
 仲井真知事は「日米地位協定を改定しない限り問題は出てくる」と述べた。
 今回の事件は容疑者を基地外で見つけて警察が逮捕したが、もし基地内に入っていれば、米兵や軍属を手厚く守る協定によって、引き渡しに時間がかかっただろう。ほかの事件では、地位協定があることで米兵や軍属が「軍の公務中だった」といった言い分で、日本側が捜査できなかったことがある。
 重大な事件がおきるたびに少しずつ運用で見直されているとはいえ、沖縄をはじめ米軍基地を抱える自治体は、協定そのものを変えなければ犯罪は減らないという強い思いがある。
 そして沖縄には、安全への心配がぬぐえぬ新型輸送機オスプレイが配備されたばかりだ。不信が募っているときの、この卑劣な事件である。
 日本と米国の協調は大切だ。そのことを多くの人が感じている。だが、今回の事件が火種となって、再び沖縄で反基地の思いが爆発することは十分に考えられる。
 日米両政府は真剣に対策を講じる必要がある。
 沖縄で米兵による事件が多いのは、国土の面積の0.6%にすぎないこの島に、在日米軍基地の面積の約74%が集中している現実が根底にある。
 沖縄の負担をどう分かつか。沖縄の外に住む一人ひとりが考えなくてはならない。

参院1票の格差 抜本改革へ最高裁の強い警告

 「1票の格差」の抜本的な是正に取り組まない国会に対する最高裁の強い警告である。
 1票の格差が最大5・00倍となった2010年の参院選について、最高裁大法廷は「違憲状態にあった」との判決を言い渡した。
 15人の裁判官のうち12人の意見で、残る3人は、より厳しい「違憲」判断を示した。
 最高裁は、都市部への人口集中が進む中で、47都道府県を単位とする選挙区制度のままでは、「投票価値の平等という要求に応えるのは、もはや著しく困難」と改めて指摘した。
 現行制度では、人口が最も少ない鳥取県にも定数2を割り振らざるを得ないからだ。
 民主、自民両党が先の通常国会に提出した公職選挙法改正案は、この制度に手を付けず、選挙区定数を「4増4減」するものだ。
 判決は、一部の選挙区の定数を増減させるだけでは解決にならない、との見解も示した。仮に「4増4減」案が成立しても、違憲状態は解消されないとの疑義が示されたとも言える。
 こんな弥縫(びほう)策だけで来夏の参院選を迎えれば、選挙後、定数訴訟が相次いで起こされるのは間違いないだろう。裁判所が違憲と判断し、一部選挙を無効とする判決を出す可能性すら排除できない。
 与野党は、「4増4減」よりも踏み込んだ定数是正案をまずは検討すべきではないか。
 最高裁が求める抜本的な制度改革も急ぐべきである。
 10年からの与野党の参院選制度改革論議では、選挙区を、都道府県単位からブロック制に改める案なども()(じょう)に載せた。格差を縮小しやすい利点があるからだ。
 旗振り役の西岡武夫前参院議長の死去で立ち消えになったが、検討し直すべきではないか。
 国会の対応はこれまで、常に後手に回ってきた。これでは、国会議員には当事者能力がない、ということになり、国民の政治不信を高めるだけである。
 最高裁は09年衆院選でも、「違憲状態」との判断を示している。両院ともに、法の下の平等を定めた憲法に違反した状態にあると司法が断じる異例の事態だ。
 参院選の制度は比例代表と選挙区の2本立てで、衆院選と類似している。衆参の役割分担も視野に入れた論議が不可欠である。
 与野党は、次回の選挙に間に合うよう、早急に臨時国会を開き、違憲状態から脱するための措置を講じなければならない。

消費税と新聞 軽減税率の議論を再開したい

 新聞は民主主義と活字文化を支える重要な基盤だ。消費税率引き上げでは、新聞に対する税率を低く抑える軽減税率を導入すべきである。
 日本新聞協会が青森市で開いた今年の新聞大会は、「新聞を含む知識への課税強化は民主主義の維持・発展を損なう。新聞には軽減税率を適用するよう強く求める」とする決議を採択した。
 消費増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法が8月に成立したことを受け、新聞業界として強いメッセージを打ち出した。
 討論会では、全国紙から「民主主義、文化の最低のライフラインを守るためには、軽減税率の導入が必要だ」との訴えがあった。
 地方紙からも「新聞の教育効果は高い」、「日本の高い新聞普及率は社会の財産だ」などといった意見が相次いだ。
 新聞は、全国で誰もが安く手に入れて活用できる特色があり、公共財的な社会インフラだ。コメなどの食料品と同じような必需品として、新聞の重要性を認める読者は少なくないのではないか。
 消費増税で経営が悪化した新聞社が発行をやめる事態になれば、言論の多様性は失われていく。行政への監視機能は弱まり、住民の政治への関心も薄まって、地域社会の活力低下が懸念される。
 新聞の公益性や活字文化を守る役割を重視し、軽減税率を採用している欧州を参考にしたい。
 欧州各国では、日本の消費税に当たる付加価値税の税率は20%前後だが、新聞に適用される税率は、フランス2・1%、スペイン4%、ドイツ7%と軒並み低い。イギリス、ベルギー、ノルウェーのように0%の国もある。
 一体改革法は、2014年4月に消費税率を現行の5%から8%、15年10月に10%に上げるとともに、軽減税率については、「様々な角度から総合的に検討する」と明記している。
 にもかかわらず、法律の成立から2か月以上が経過しても、政府が議論を本格化させていないのは問題と言える。
 公明党の井上幹事長が、軽減税率導入を求める約600万人の署名を城島財務相に提出し、税率8%時からの実施を要請した。これを機に議論を再開すべきだ。
 自民党も安倍総裁、石破幹事長が総裁選公約で、ともに軽減税率導入を訴えていた。
 軽減税率の導入には、対象品目を絞り込む作業などが不可欠だ。政府は時間を浪費せず、自公両党との調整を急ぐ必要がある。

2012年10月17日水曜日

尖閣と外交―もっと発信の努力を

 玄葉光一郎外相が仏英独3カ国の訪問を始めた。防衛協力や欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)について話し合うほか、尖閣諸島をめぐる日本の立場を説明し、理解を求める方針だ。
 尖閣諸島について「領土問題は存在しない」とする日本政府は、これまで対外的な説明をあまりしてこなかった。
 しかし、日本政府による尖閣購入後、中国が領有権の主張を強めているため、対応を変えた。駐米大使が米ニュースサイトに投稿するなど発信を強めており、3カ国との外相会談で取り上げるのもその一環だ。
 尖閣周辺の領海に中国の監視船がたびたび侵入しているほか、きのうは中国の駆逐艦など7隻が沖縄・与那国島近くの接続水域を通った。
 日本政府としては中国との打開を探りつつ、挑発に乗らず、冷静に対処していることを国際社会に示していくべきだ。
 ただ、これほど大きな問題になっているというのに、「領土問題は存在しない」という日本政府の立場は、第三国から見ると分かりにくいかもしれない。
 日本政府がこだわるのは、領土問題の存在を認めた場合、島がどちらに帰属するのかという交渉に入らなければならなくなるためだ。その結果、日本が主権の一部を失うことになるかもしれない。日本の立場が後退したとみなされ、国際法上、不利に働く恐れもある。
 だが、日本が守るべきは「尖閣が日本の領土であることは間違いない」という一線だ。
 であるなら、「領土問題はない」と強調するあまり外交の幅を狭めるのではなく、日本の正当性を史実や国際法に基づいて丁寧に説明すべきだ。
 同時に、世界第2、第3の経済大国の争いを、各国が困惑の目で見ていることも事実だ。
 中国国内の反日デモや、経済・文化面の対抗措置に対し、国際社会にも「中国リスク」への懸念が広がっている。
 日本の頑迷さが問題をこじらせている、と受け止められてはなるまい。中国との宣伝合戦に陥らないよう、注意も必要だ。
 日本は、国際社会にみずからの意思を伝えることが不得手だった。ここは、尖閣問題にとどまらず、日本がアジアの平和と安定にどう寄与しようとしているのか、中国とどう向き合おうとしているのか、さまざまな機会を捉えて発信すべきだ。
 玄葉外相は現地メディアのインタビューにも応じるという。各国の国民に、日本の姿を正しく伝えることも大切だ。

金融取引税―欧州の新たな挑戦

 欧州連合(EU)のうち、ドイツ、フランス、イタリアなどユーロ圏の11カ国が金融取引税を2014年にも導入する。
 参加国の金融機関が株式や債券、デリバティブを取引する際に、薄く広く課税する。日本の金融機関も、導入国の金融機関と取引したら課税される。
 EUや参加国の財源を増やして、経済危機への対応を円滑に進めるのが狙いだ。
 背景には、金融危機の際に銀行が税金で救済され、納税者の怒りを招いたことがある。続く不況対策でも出費が膨らむ。EUの取り組みは「危機を起こした張本人の金融界に相応の負担をさせる」という原則の確立に向けた挑戦といえよう。
 行き過ぎた投機を課税や規制でどう抑えるか。金融界があげる巨利をどうすれば危機対応の元手にあてられるか。一連のバブルと危機を受けて、世界各国が模索している。
 やっかいなのは、この種の税には、取引や金融機関が域外へ逃げ出し、課税の効果も上がらないリスクがあることだ。
 金融には、世界中どこでやっても変わらない取引があり、マネーは税金の重いところから軽いところへ移動する。
 売りと買いの双方で十分な量が確保されないと、取引は円滑さを欠く。厚みのない市場は敬遠され、売買量の多い市場にますます取引が集中する。
 これを避けるには、より多くの国が課税を共通化する必要がある。だが、同調しない方が取引や金融機関を呼び込むには有利だと考える国もある。
 こんなにらみ合いが金融取引税の普及を妨げてきた。世界では無論のこと、欧州にもその縮図がある。11カ国の変則スタートになったのもこのためだ。
 EUは当初、加盟全27カ国で導入を目指した。しかし、非ユーロの英国など金融に依存する国々が強く反対。ユーロ圏の中でも、金融に力を入れるオランダやルクセンブルクなどが拒み、有志国による部分的な税制として始めるしかなかった。
 焦点は、今回の課税が世界的な展望を示せるかどうかだ。世界に広がれば、金融競争の条件も対等になる。これは英国も認めている。
 まずは先行11カ国できちんと機能する仕組みを構築するとともに、EUが域内の反対国を説得してほしい。
 EUはG20参加国にも同調を求めている。金融界の影響力が強い米国は一貫して反対しており、日本も消極的だが、ここは欧州の挑戦を重く受け止め、再考の契機とすべきだろう。

原発住民投票 再稼働の判断にはなじまない

 原子力政策は経済成長や雇用、安全保障などにかかわる問題だ。
 住民投票によって是非を決めるべきではない。
 安全性を確認できた原子力発電所の再稼働は、地元の意向に配慮しつつ、政府が責任を持って決断する必要がある。
 静岡県にある中部電力浜岡原子力発電所を再稼働すべきかどうかを問う住民投票条例案が、静岡県議会で否決された。
 条例案は、市民団体が16万人を超える県民の署名を添えて、静岡県に請求していた。
 住民投票をしても、その結果に法的拘束力はないが、政府や自治体、電力会社の判断に影響を与えよう。県議会が条例案を退け無用の混乱を防いだのは、良識ある判断だと評価したい。
 問題は、静岡県の川勝平太知事が、条例案の提出を求める署名が多数だったことを理由に挙げ、住民投票の実施に賛成の意向を示したことである。
 浜岡原発は静岡県内だけでなく中部電力管内を中心に広域の電力供給を担ってきた。
 しかし、菅前首相が昨年5月、法的根拠もなく運転停止を強要して、その後も再稼働できない状況になっている。
 原発立地自治体の首長は、安全性や電力需給、地元経済への影響などを多角的に考慮し、再稼働への賛否を判断する責務がある。
 川勝知事が、こうした重い決断を住民投票に“丸投げ”しようとしたことは、民意の尊重というより、責任逃れだと言われても仕方あるまい。
 住民投票は、賛否について二者択一を求める。「条件つき賛成」といった多様な意見に分かれる原発再稼働問題などには、そもそも適さない手法だ。
 市町村合併など、投票結果の影響が外部に波及しないテーマに限定するのが筋だろう。
 東京電力柏崎刈羽原発のある新潟県でも、住民投票条例案の提出に向けた手続きが進んでいる。静岡のような動きが多くの立地自治体に広がる懸念は拭えない。
 政府は当面、原発を重要な電源と位置づけ、活用する方針を決めている。着実に再稼働を実現することが何より重要だ。政府は電力会社とともに、真摯(しんし)に地元の説得にあたる必要がある。
 だが、枝野経済産業相ら担当閣僚は、個々の原発再稼働の判断を原子力規制委員会に委ね、地元の説得も電力会社任せにする構えを見せている。こんな「責任を果たさない政治」は許されない。

ソフトバンク 吉と出るか米携帯会社の買収

 強気の拡大路線を続けるソフトバンクの孫正義社長が、再び大きな賭けに出た。
 巨額買収の成否が注目されよう。
 国内携帯電話3位のソフトバンクが、米3位のスプリント・ネクステルを買収すると発表した。スプリント株の約70%を201億ドル(約1兆5700億円)で買い取って子会社化する。
 契約数は、日米合わせて9000万件を超え、国内最大手NTTドコモをはるかに上回る。売上高では世界3位に浮上する。
 国内の携帯電話契約数は飽和状態で、伸びは見込めない。スプリント買収を契機に、北米などで事業を拡大する狙いだろう。
 通信業界は次世代高速通信「LTE」や、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及で激変している。世界標準のサービスや商品を提供する国際的な競争時代が本格化し、国境を超えた業界再編に踏み込んだと言える。
 ソフトバンクとスプリントはともに、米アップルのiPhone(アイフォーン)を主力商品としている。規模拡大によって、アップルとの価格交渉を有利に進めることも見込んでいるようだ。
 今回の買収は、超低金利と歴史的な超円高も追い風となった。国際的な合併・買収(M&A)を仕掛けるソフトバンクの戦略は、他企業の参考になろう。
 ソフトバンクは、買収攻勢による事業拡張を成長の源泉としてきた。日本テレコム、英ボーダフォン日本法人などを買収し、今月には国内4位のイー・アクセス買収でも合意したばかりだ。
 ただし、今回の買収には、懸念材料が少なくない。
 スプリントは契約数でライバルの米2強に離され、5期連続の赤字だ。ソフトバンクがスプリントの経営を再建し、相乗効果を発揮できるかどうかは未知数だ。
 ソフトバンクの財務体質も大幅に悪化する。買収資金は銀行融資などで賄うとしているが、有利子負債は約4兆円に膨らみ、経営の重荷になりかねない。株価が乱高下しているのも、市場が不安視していることをうかがわせる。
 国内の携帯電話市場では、スマートフォン普及で増大した通信量をさばけず、通信障害が後を絶たない。複雑で世界一高いとされる料金体系への批判も多い。
 とくにソフトバンクは「つながりにくい」との声が根強い。電波環境の改善に向けた通信インフラの整備や、料金引き下げなど、国内利用者のサービス向上にしっかり取り組んでもらいたい。

2012年10月16日火曜日

上関原発―まだつくる気ですか

 中国電力による上関(かみのせき)原発(山口県)の建設計画がストップした。山口県知事が、埋め立てに必要な免許の更新をしなかったためだ。
 枝野経済産業相も、上関を含め未着工の全国9基の原子炉について、設置を認めない方針を打ち出した。
 当然だ。脱原発の具体的な手順を詰め、新しい電源の開発や自由化を進めるうえでも、早く制度改正に着手すべきである。
 ところが、中国電力は「安定供給のために原発は必要」と、あくまで建設をあきらめない構えだ。電力業界も推進姿勢を変えていない。
 まるで原発事故がなかったかのように、原発をつくり続けようとする電力業界の姿勢に驚いてしまう。
 原発を減らすべきだという世論の根っこには、原子力そのものへの警戒感だけでなく、リスクを無視して備えを怠ってきた事業者や原子力行政に対する強い不信がある。
 事故を経て何を反省し、どう自らを変えていくのか。地域独占に守られてきた電力業界は、事故から1年7カ月が過ぎたというのに、なんの総括も実践も示していない。
 むしろ、必要な情報公開を渋ったり、労使で原発維持を政治に働きかけたりと、従来どおりの姿ばかりが目立つ。
 どうやら電力業界には「政権交代で自民党が与党になれば、脱原発は白紙になる」との思惑があるようだ。
 だが、自民党も「原発ゼロ」でこそ民主党と意見を異にするが、以前のような原発拡大路線に復帰できるはずがない。
 そもそも、上関原発は30年前に計画が浮上したにもかかわらず、住民の反対で進めることができずにいた「不良債権」だ。
 原発立地はますます難しくなる。政府の支援は細り、調整すべき「地元」の範囲は広がる。一方、規制は厳しくなり、安全対策の強化や新しい技術の反映にかかる費用が増す。
 何より、廃炉のための引当金すら業界全体として十分に積めていない。今後、原子力は確実に重荷になる。電力システム改革をにらみ、他の電力会社との競争激化にも備えなければならない。
 幸い、中国電力は関西電力などに比べると原子力依存度が低く、財務状況も悪くない。
 着工の見通しすらつかない原発にこだわるより、今ある炉の対策や代替電源の確保、営業力の強化などを急ぐほうがずっと「スマート」な電力会社ではないだろうか。

119番―SOS逃さぬ仕組みを

 「救急車じゃなくて、タクシーとかで行きますか?」「あー、はぁ……えー、番号がわかれば自分で行けると思います」
 119番しても、救急車は来なかった。通報した山形市の大学生は一人暮らし。9日後に自室から遺体で見つかった。病死とみられる。
 公開された音声記録の声は、とぎれとぎれで痛々しい。
 遺族が起こした裁判で、市は「本人が搬送を辞退した」と責任を否定している。
 当否は司法の判断を待つとして、その前に社会として取り組むべき課題がある。助けるべき人を見逃さず、はやく救うための仕組みをつくることだ。
 通報を受けたときや、救急隊が現場に着いたときに緊急度を判断する基準は、自治体によってまちまちだ。明確な基準のない自治体もある。
 総務省消防庁が、全国標準の判定システムを作るという。先行する自治体の取り組みを見ると、効果は期待できそうだ。
 たとえば横浜市消防局は4年前から、119番を受ける職員のパソコン画面に80項目のチェックリストを載せている。聞くべき項目が網羅され、危険な兆しをとらえやすい。緊急度が高いと判断すれば、派遣人員も手厚くする。
 導入前に比べ、通報者の症状が重い時ほど速く現場に着くようになったという。こうした試みを参考に、国としても精度の高い仕組みを作ってほしい。
 一方で、全国の消防は「増え続ける救急出動をいかにさばくか」という課題を抱えている。
 この10年で全国の救急出動の件数は24%増えた。一方、救急隊の数は8%増にとどまり、需要増に追いつかない。しかも搬送した人の半分は結果的に軽症だった。「必要な人に、はやく確実に」は簡単ではない。
 それでも、症状が軽そうだからと、通報段階でふるい落とす方法はとるべきではない。
 近年増えているのは高齢者の通報だ。横浜の統計では、高齢者は実際に症状が重かった人の率が他の世代より高い。高齢化という社会構造の問題は、ふるい落としでは解決しない。
 消防庁も「要請があれば原則出動」の方針を変えていない。
 数年前には、救急車をタクシー代わりに呼ぶような通報の多さが問題になった。一部自治体は、消防のサイトに家庭で症状を診断できるリストを載せたり、119番の前に電話相談できる窓口を設けたりしている。
 不要不急の通報減らしは、こうした地道な試みを広げることで図るしかない。

3党幹事長会談 いつまで条件闘争をするのか

 臨時国会を巡る民主、自民、公明3党の話し合いが難航している。
 一体いつまで党利党略の駆け引きに明け暮れるつもりなのか。
 民主党の輿石幹事長は自民党・石破、公明党・井上の両幹事長との会談で、臨時国会を月末にも開く考えを示した。18日に再度会談した上で、週内にも3党首会談を行うという。
 スローテンポにはあきれるばかりだ。特に、これまで臨時国会の召集を先送りしてきた民主党の責任は重い。野田首相は、臨時国会で、改造内閣の所信を表明しなければならない。
 尖閣諸島を巡る日中対立やエネルギー問題など課題は山積している。与野党議員は国会論戦もせず、職責を果たしていない。
 田中法相の資質をただす必要もある。外国人献金問題を抱える法相には、暴力団との過去の交際も発覚した。法相として不適切であるのは、間違いない。
 民自公3党間で直ちに解決すべき課題の一つは、衆院選の「1票の格差」是正である。
 輿石氏は14日のNHK番組で、小選挙区の「0増5減」先行実施に応じる可能性を示唆した。だが、記者団には「全野党の一致」を条件とする意向も示している。
 民主党が「0増5減」と定数削減の同時実施に固執してきたことで問題がこじれ、是正が遅れている。ここに及んで民主党が新たな条件をつけるようでは、格差是正に本気で取り組む考えがあるのか、疑わざるを得ない。
 赤字国債発行を認める特例公債法案の成立も喫緊の課題だ。
 自公両党は会談で、年内の衆院解散・総選挙を首相が明示するよう求めた。石破氏は、首相が「あまりに不誠実なら党首会談が開かれることはない」とも述べた。
 このまま膠着(こうちゃく)状態が続けば、法案の成立がずれ込み、今年度予算の財源が底をつく。民自公3党は、国民生活に悪影響を及ぼすことのないよう妥協を急ぐべきだ。
 3党がすでに合意している社会保障制度改革国民会議の設置について、自民党は衆院選後への先送りを唱えている。この点でも折り合いをつけてもらいたい。
 参院は先の通常国会で首相問責決議を可決した。これを理由に国会を空転させるのなら、臨時国会を開く意味がない。既成政党への国民の不信感が高まるだけだ。
 与野党は、衆参ねじれ国会の新たなルールとして、問責決議を次の国会にまで引きずらないことで合意すべきである。

PC乗っ取り 官民連携で摘発体制の強化を

 何者かが他人のパソコン(PC)を乗っ取り、遠隔操作で犯行予告を送信したとされる事件が相次いで発覚した。
 PCの持ち主が身に覚えのない罪を着せられかねない事態だ。新たなサイバー犯罪に、警察は捜査能力を向上させ、摘発に全力を挙げねばならない。
 大阪府警、三重県警、警視庁は、無差別殺人や爆破の犯行予告をPCで送信したとして威力業務妨害容疑などで逮捕した男性3人について、それぞれ釈放した。
 神奈川県警でも、小学校襲撃の予告を巡り、逮捕した大学生とは別の真犯人がいる可能性が浮上している。一連の事件では、「私が真犯人だ」とする内容のメールがTBSに届いたという。
 釈放された3人のPCは、外部から遠隔操作できるウイルスに感染し、3人の知らぬ間に、犯行予告がネット上の掲示板などに書き込まれた可能性が高い。
 警察は、ネット上の「住所」にあたるIPアドレスから3人のPCを特定した。だが、遠隔操作ウイルスの侵入を見抜けず、気付いたのは、3人の逮捕後だった。
 PCが遠隔操作されてしまうと、IPアドレスを割り出すだけでは犯人にたどり着けない。一連の事件は、従来のサイバー捜査の限界を示したと言える。
 犯行予告が、米国、ドイツなど海外の複数のサーバーを経由し、男性らのPCを使って書き込まれたことから、犯人の特定には困難が伴うだろう。だが、冤罪(えんざい)を招く恐れのあるハッキング行為を野放しにしておくことはできない。
 警察庁は、民間会社でサイバー攻撃などへの対策を研究してきた技術者を採用し、都道府県警に出向させている。専門スタッフのさらなる増強が必要だろう。
 民間との連携を強化し、サイバー防御の技術に優れた企業のノウハウを積極的に取り入れたい。官民をあげたサイバー犯罪への体制作りを急がねばならない。
 PCのユーザーも、自衛を心がけることが大切だ。男性らのPCのウイルスは、ネット上の掲示板に公開されていた無料ソフトから感染した。知らないうちにPCのカメラが起動し、部屋をのぞかれた外国の事例もある。
 不審なメールは開かない。怪しいサイトの閲覧は避け、不用意なダウンロードは控える。対策ソフトのこまめな更新も欠かせない。使用しない時には、PCの電源を切ることも有効とされる。
 基本対策を徹底し、自分のPCは自分で守ることが重要だ。

2012年10月15日月曜日

世界人口の3分の1がネット利用、携帯普及で急増

【10月12日 AFP=時事】インターネット利用者数が世界人口の3分の1に達したことが、国連(UN)の専門機関「国際電気通信連合(International Telecommunications Union、ITU)」が11日発表した報告書で明らかになった。

 ITUの情報通信技術(ICT)に関する報告書(2012年版)によると、世界的なブロードバンドサービスの拡大を背景にインターネット利用者数は過去1年間で11%増加し、23億人に達した。

 ただしサービス料金は国によって大きく異なり、特に最貧国で高額になる傾向があるという。調査対象の161か国・地域のうちネット料金が最も安かったのはマカオで、ノルウェー、シンガポールが続いた。一方、アフリカ諸国におけるネット料金は、2011年時点で米国の約7倍、欧州の約20倍に上った。

 また、2010~11年のICT分野ではモバイルブロードバンド利用が最大の伸びを見せており、11年末までの契約数は約11億件に達した。11年の携帯電話の契約件数は世界で6億件以上増え、約60億件に達したという。(c)AFP=時事/AFPBB News

米携帯3位買収を検討=総額1兆円以上―ソフトバンク

 国内携帯電話3位のソフトバンクが米国3位の携帯電話会社スプリント・ネクステルを買収する方向で検討に入ったことが11日、分かった。過半数以上の株式取得を目指しており、買収総額は1兆円を超えるとみられる。ソフトバンクは、歴史的な円高で投資コストが低下していることも踏まえ、世界最大の米国市場で通信事業に乗り出し、規模のメリットを生かした競争力強化を図る。

 スプリントは同日、「ソフトバンクによる投資に関して、現在交渉中」と発表した。同社は契約件数が約5600万件で、1位の「AT&T」、2位のベライゾン・ワイヤレスに次いで3位。だが、1億件前後の顧客を持つ上位2社との差は大きく、顧客獲得競争では厳しい立場にあるといわれる。

 ソフトバンクは携帯電話の契約件数では3434万件と国内3位だが、PHS専業のウィルコムを含めると3911万件を持つ。今回の買収が実現すれば、両社合計の契約件数は9500万超となり、世界的な通信事業会社が誕生する。

 スマートフォン(多機能携帯電話)の普及を受け、携帯電話市場は世界的に拡大している。ソフトバンクは、成熟しつつある日本市場に比べ依然成長が続く米市場に進出することで、通信事業の規模を拡大し、米アップルの人気スマホ「iPhone(アイフォーン)」などの携帯端末の調達や、高速通信化に伴い増加する電波基地局のコスト負担低減などを図りたい考えだ。

2012年10月14日日曜日

静岡原発条例の教訓 民意発信、多様な回路を

 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働の是非を県民に問う条例案が先週、静岡県議会で否決された。
 県民投票実現のため市民団体が集めた署名は16万5千と、必要数の3倍に近い。多くの人々の思いが日の目を見ずに終わるのは、なんとも残念だ。
 浜岡は、福島の原発事故のあと、当時の菅首相が政治判断で停止させた唯一の原発である。
 東海地震の想定震源域にあって、危険性が大きい。近くを東海道新幹線や東名高速が走り、事故が起きれば日本社会全体に甚大な影響がでる。そうした判断からだった。
 その再稼働に、立地県である静岡県民の関心が高いことは署名の多さからもうかがえた。
 ところが、県議会は、市民団体がまとめた原案を全会一致で否決。超党派議員による修正案にも、自民党をはじめ7割以上の議員が反対した。
 投票結果に法的な拘束力はないが、知事や議会はそれを尊重しなければならない。手足を縛られるのを県議らが嫌い、大差の否決になったのだろう。
 同様の署名活動は新潟県でも進んでいる。静岡の挑戦と挫折から教訓をくみとり、次の機会に生かしたい。
■強まる市民の発信力
 静岡県議会で、自民党県議は県民投票の問題点を次のように指摘した。
 国の原子力行政が、静岡県民だけの意思に左右されていいのか。再稼働は賛成か反対かの二者択一にそぐわない――。
 原発政策は、全国の経済活動や国の安全保障とも密接にかかわる。地域の人々が、すべてを考慮して判断をするのは、たしかに容易ではない。
 ○か×かの選択に限界があるのも事実だ。安全対策の進みぐあいや電力需給など条件つきで判断する人は少なくあるまい。
 とはいえ「選挙で選んだ代表に任せろ」という政治のあり方は、もう通用しない。
 署名は、政府が6月に関西電力大飯原発の再稼働を決めたころから急増した。政治不信が広がり、市民が意見を容易に発信できる時代である。政治が「聞きたくない」といっても、人々が黙っているはずはない。
 問われるのは、発信力を強める民意との向き合い方なのだ。
 首長や議員は市民の声に耳を傾ける。そのうえで、二者択一では割り切れない現実への対応をさぐる。どんな判断であれ説明を尽くし、次の選挙で審判を受ける。
 その際、住民投票は民意をくみとる重要な手段となろう。
■いつ、だれに問うか
 静岡では、実際に投票をする際の課題も浮かんだ。
 条例案の原案は、条例の施行から6カ月以内に投票すると定めていた。
 だが、それでは浜岡原発の安全対策が整う前に県民の判断を問うことになる。そこで、修正案では「安全対策が完了し、国が再稼働の検討を開始したと知事が認めるとき」とされた。
 民意は、その時々の状況次第で変わりうる。一方、いったん決まった政策は、長年にわたって人々の生活を縛る。人々が冷静に、的確に判断できる時期を見極める工夫が欠かせない。
 どの範囲で投票するのがふさわしいのかという問題もある。
 原発をめぐり、市町村単位で住民投票をした例はあるが、県単位はない。
 原発事故の被害がおよぶ範囲を考えれば、広域で民意を問うことには意味がある。ただ、原発からの距離など、地域の状況によって住民感情は異なる。
 実際、静岡の条例案採決では、自民は反対を決めながら党議拘束をかけず、民主は自主投票とした。議員の選挙区や支持基盤によって事情が違い、一律に縛るのは難しいからだ。
 市町村単位がいいのか。広域で問う場合も、県境で区切る合理性はあるか。全国民に問う必要はないか。テーマや切迫度で使い分ける方法もあるだろう。
 地方分権の結果、思わぬ問題も生じている。県の条例で市町村に投票事務を義務づけることができなくなったのだ。分権は当然だが、一市町村が拒めば県民投票ができない仕組みでよいのか検討すべきだろう。
■試行錯誤を重ねて
 有権者が選挙で選ぶ代表が、国政や地方自治を担う。その間接民主主義が基本であることは今後も変わらない。
 だが、代表の判断と民意はしばしば乖離(かいり)する。溝を埋めるために、直接民主主義の手法は大いに有効だ。
 日本では特定の政策について民意を問うた経験が乏しい。
 それでも変化の兆しはある。
 政府はこの夏、将来のエネルギー政策を考える「討論型世論調査」を実施した。毎週金曜の首相官邸前での抗議活動も、半年続いている。
 住民投票もふくめ、人々の声を伝える回路はもっと多様であっていい。試行錯誤を重ねながら、様々な手法を磨きたい。

IMF世銀総会 世界経済の減速に懸念高まる

 欧州危機の長期化で、世界経済の減速が鮮明になってきた。各国が協調して「負の連鎖」を食い止めねばならない。
 188か国が参加した国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会が、東京で48年ぶりに開かれた。日本にとっては、東日本大震災からの復興をアピールする機会となったと言える。
 総会の主要議題は、世界経済の試練をどう乗り切るかだった。
 IMFが発表した世界経済見通しは、2012年の実質国内総生産(GDP)の伸び率を3・3%増と予測し、7月時点から0・2ポイント下方修正した。
 財政・金融危機でユーロ圏はマイナス成長から抜け出せず、世界に悪影響を広げている。世界経済を牽引(けんいん)してきた中国、インド、ブラジルなど新興国の景気減速も目立ち始めた。
 IMFのラガルド専務理事が、「不確実性が高まっている」と危機感を示したのは当然だろう。
 世界経済の悪循環を断ち切るのは容易ではない。財政再建と成長を両立させる方策が問われる。
 まず、震源地の欧州危機をいかに収束させるかが焦点だ。
 欧州中央銀行が財政危機国の国債購入策を決め、ユーロ圏が恒久的な金融安全網である欧州安定メカニズム(ESM)を8日に発足させたことは評価できる。
 しかし、焦点のスペインは支援要請を躊躇(ちゅうちょ)しており、国債格付けが2段階引き下げられた。ギリシャが財政再建達成の2年先延ばしを求めている問題は、ドイツの反対などで未決着だ。
 またしても対応が遅れれば、事態は一段と深刻化する。東京で相次いだ指摘を踏まえ、欧州各国は迅速に行動し、信用不安の拡大を封じ込めるべきだ。財政統合も急ぐ必要がある。
 米国では来年初めに、「財政の崖」と呼ばれる急激な財政引き締めが起きることが懸念される。与野党は大統領選後、速やかに事態打開を目指してもらいたい。
 海外経済の減速や超円高で景気後退局面入りの瀬戸際にある日本も、景気テコ入れとデフレ脱却を図る追加策が求められよう。
 尖閣諸島を巡る日本との対立を背景に財務相らのIMF・世銀総会出席を見合わせた中国を、ラガルド専務理事が批判した。日中関係の早期正常化の必要性を強調した発言は重要である。
 関係悪化が長期化すれば世界経済に打撃を与える。そうした混乱が中国景気を冷やすことは、中国にも得策ではないはずだ。

新聞週間 期待に応える紙面を届けたい

 「負けないで 背中を押して くれた記事」。あすから始まる「新聞週間」で、日本新聞協会が選んだ代表標語だ。
 東日本大震災から1年7か月。読売新聞は、被災地での復興の取り組みや全国各地から寄せられている様々な支援を取り上げ続けている。
 塩害の農地に綿花栽培を根付かせようと、大阪から指導に通う紡績会社役員、13年ぶりに故郷に戻り、医療再生に挑む医師――。こうした人々の姿を描いてきた。
 被災地の現況を伝え、復興を後押しする報道を、これまで以上に充実させていきたい。
 岩手県の地方紙「岩手日報」は震災1年後から、犠牲になった人たちの人生の一端を顔写真とともに紹介する企画を始めた。「犠牲者を忘れない」というメッセージの発信は、一人ひとりの命の重みを問いかけている。
 記録性に優れた活字メディアの特徴を生かした試みだろう。
 インターネット上に情報があふれる時代になったが、新聞週間を前に読売新聞が実施した世論調査では、「情報や知識を得るために新聞はこれからも必要だ」と答えた人が89%に達した。
 震災復興や原発事故対策など、内政の課題は山積している。対外的にも、尖閣諸島や竹島を巡る中国・韓国との関係悪化など、日本は多くの難問を抱えている。
 新聞が果たすべき役割は大きい。読者の期待に応えて、正確な報道と責任ある論説を提供できているのか。日々、自問しながら、最善の紙面をお届けしたい。
 事実を丹念に掘り起こし、真相に迫っていくことも、新聞に課せられた大切な使命である。
 今年度の新聞協会賞(編集部門)を受賞したのは、読売新聞の「東電女性社員殺害事件の再審を巡る一連の特報」だった。
 無期懲役が確定していたネパール人元被告が冤罪(えんざい)である可能性を示すDNA鑑定結果を報じた。元被告に有利な証拠を検察側が弁護側に開示せず、捜査を尽くしていなかったことも明らかにした。
 見立てに合わない物証を軽視する、ずさんな捜査を浮き彫りにしたと言えよう。
 ただ、元被告は1997年に逮捕されて以来、一貫して無実を訴えていた。なぜ、もっと早く、捜査の問題点に切り込めなかったのか。過去の報道を振り返る時、忸怩(じくじ)たる思いが残る。
 公権力が適正に行使されているか、厳しくチェックする。改めて報道の原点を確認したい。

2012年10月13日土曜日

ノーベル平和賞―不戦誓った欧州の60年

 国家の壁を越えた共同体をつくろうという壮大な実験は、近代社会が自らを乗り越えようという取り組みでもある。
 地域統合に取り組んで約60年になる欧州連合(EU)が、ノーベル平和賞を受賞することになった。その歴史的意義が評価されたといえよう。
 ベルギーのブリュッセルに拠点を置くEUの加盟国は27カ国、総人口は5億人。その経済力と結束とによって国際社会で大きな存在感を示してきた。
 そのEUがいま、深刻な経済危機にあえいでいる。17カ国でつくるユーロ圏からのギリシャの脱退論がくすぶり、財政緊縮への不満が南欧諸国から噴出している。
 欧州統合の歩みをここで挫折させてはならない。
 苦悩の中にあるEUへのノーベル平和賞決定からも、同じ思いがくみ取れる。
 国家と民主主義。欧州は、近代社会を支える二つの理念を育んできた。同時に、古来、悲惨な戦争を繰り返してきた地でもある。
 第2次大戦後、不戦を誓った欧州は共同体づくりに乗り出す。1952年、フランスやドイツなど6カ国による欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の創設にこぎつけ、紛争の種だった仏独の和解を推し進めた。
 市場統合を先導役にしながら、共通政策の範囲を通商から農業、通貨、環境、外交防衛などへと広げていった。
 いまやEUは、憲法に似た基本条約を共有するまでに育った。冷戦時代に敵対した東欧諸国に次いで、旧ユーゴ諸国も仲間に加えつつある。域外国の紛争解決にも取り組んでいる。
 見落としてならないのは、統合を通じてEUが、国家と民主主義の限界とあるべき姿を深く問いかけていることである。
 政策執行機関である欧州委員会には大勢の官僚が働き、草の根の人々には、巨大な官僚機構に物事を決められているとの不満がある。その溝を埋めるため、直接投票で選ばれた欧州議会が市民の声を吸い上げようとしている。
 経済のグローバル化が進む時代に一国だけでは問題は解決できない。国境を越えた統治の仕組みをどう整え、民主主義の質をどう向上させるのか。
 EUという未完のプロジェクトに世界が注目するのは、そこに人類が直面する共通の課題を見るからだろう。
 EUはこれまで何度も危機を克服し、そのたびに統合を深化させてきた。その知恵と力をいまこそ見せてほしい。

大飯原発―稼働継続は無責任だ

 暫定的な安全基準で7月に再稼働した関西電力大飯原発3、4号機が、夏の節電期間を過ぎても稼働し続けている。
 電力の安定供給には原発が必要で、大規模停電が起きれば企業活動や国民生活への影響が大きい。そんな理由で、新たな安全基準の策定を待たず、周辺市町の防災対策も未整備なまま、政府と電力会社が押し切った。
 電力需要のピークがすぎた以上、原子力規制委員会は大飯を停止させ、ほかの原発と同様、新たな安全基準によって一から審査し直すべきである。
 大飯の安全性には、いくつもの問題点がある。
 まず敷地内の断層が、活断層である可能性が指摘されている。断層は2、3号機の間を走り、非常用取水路を横切っている。規制委は近く現地調査する予定で、田中俊一委員長は活断層であれば運転を止めるという。再稼働時には十分に調査されていなかったリスクだ。
 また、規制委はこれまで原発から8~10キロ圏内だった防災重点区域を、30キロ圏内に広げる指針案を示した。適用されれば大飯の場合、新たに京都市や滋賀県高島市など8市町が加わる。
 各市町は避難路の確保や避難施設の指定など、防災計画を暫定的に作っている段階だ。
 「原発を再稼働させるには、防災計画の策定が前提となる」といったのは田中委員長である。要件を満たしていない大飯の状況をこのまま放置するのは、矛盾した対応と言わざるを得ない。
 気になるのは、大飯の稼働に対する責任体制が不明確なことだ。政府は「規制委ができた以上、安全判断は規制委の仕事」という。規制委は「国が福井県やおおい町と相談して決めたこと」とし、ただちに停止を求めることはしないと主張する。
 大飯の再稼働は、6月に関係閣僚が会合を開き「政治決定」した。政治の手を離れ、規制委が引き継いでいるようでもない。押し付け合ってエアポケットに落ち、責任の所在が中ぶらりんでは困る。大切なのは停止すべきかどうかを、責任を持って判断できる体制だ。
 政府、規制委ともに、需給予測や安全性といったそれぞれの領域で責任を担うべきだ。
 大阪府と大阪市は、大飯を停止させ、新たな安全基準のもとで再審査するよう政府と規制委に申し入れた。2府5県と政令指定都市でつくる関西広域連合も、新しい安全基準の早急な提示と再審査を政府に求めた。
 近隣や消費地の声を、国と規制委は重く受けとめるべきだ。

ミャンマー支援 民主化と経済再建に弾みを

 民主化改革を進めるミャンマーに対し、国際社会が支援体制を整えたことを歓迎したい。改革と経済再建に弾みをつける必要がある。
 先進国と世界銀行、アジア開発銀行によるミャンマー支援国会合が東京で開かれた。
 ミャンマーが抱える延滞債務を来年1月に免除し、国際社会が20年以上も中止してきた金融支援を再開する方針で合意した。
 約5000億円という最大の貸し手である日本は、大半の債権を放棄したうえ、円借款を来年早い時期に26年ぶりに再開する。
 世銀とアジア開銀が新規融資を行えるよう、世銀などに対するミャンマーの借金を日本がいったん肩代わりする協力も決めた。
 ミャンマーとの関係修復に積極的な日本が主導し、国際的な支援策をまとめた意義は大きい。
 ミャンマーは軍事政権下の人権弾圧などを理由に、先進国側から長年にわたり経済制裁を受けてきた。そのため、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で取り残されてきた最貧国である。
 しかし、2010年に民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チー氏が軟禁を解かれ、昨春には民政移管を果たし、テイン・セイン政権が民主化を進めている。
 こうした大きな変化を国際社会が評価して、ようやく支援再開にこぎつけた。
 ミャンマーは人口が6000万人を超え、天然資源なども豊富だ。「アジア最後のフロンティア」として急成長が期待される。
 アジア開銀の黒田東彦総裁も、「国内改革が進めば、今後5~10年で他のASEAN諸国に追いつける」と予想している。
 先進国などの金融支援と投資拡大をテコに、経済発展を加速させることが肝要だ。
 課題は、電力、鉄道などのインフラや、医療、教育などの整備が遅れていることである。日本は円借款供与によって、インフラ輸出の拡大も目指したい。
 すでに大手商社などがミャンマーでの事業に乗り出している。経済特区の整備でも、政府と企業が全面的に協力する方向だ。
 日系企業にとって、ミャンマーは、アジアの新たな生産拠点となる可能性が高い。官民連携を一層強化すべきである。
 ミャンマーは中国と近接し、貿易量は多いが、中国の影響力に対する警戒感もうかがえる。
 日本の積極的なミャンマー支援は、地域での存在感を強めようとする中国への牽制(けんせい)にもなる。

受信料値下げ NHK改革を進める一歩に

 NHKが今月から受信料を引き下げた。これを契機にNHK改革をさらに進めるべきである。
 値下げは、現行の受信料体制になった1968年以来初めてだ。月額1345円の地上契約は、口座振替やクレジットカード支払いで120円、振り込みで70円安くなった。
 値下げ分は、受信料収入の7%に相当する。2012~14年度の3年間で1000億円を超える減収となる見通しだ。
 制作費の流用など不祥事が相次ぎ、受信料の不払いが増えた。今回の値下げは、失墜した信頼の回復を狙ったのだろう。
 経営への影響は決して小さくない。NHKは支払率改善と経費削減で対応する考えだが、想定通り行くのか、疑問は残る。
 先月、初公表した都道府県別の受信料支払率は、平均が72・5%だった。最低の沖縄は42・0%で、最高だった秋田の94・6%とは大きな差がある。東京、大阪も6割前後と低い。値下げをテコに支払率向上に取り組むべきだ。
 視聴者の信頼を取り戻すうえで重要なのは、改革の継続だ。
 NHKは今年度から新経営計画をスタートさせたが、1万人を超す職員数は、3年間で280人程度の削減にとどまる。肥大化した組織にメスを入れ、もう一段のスリム化を目指すべきだろう。
 経費削減努力も甘い。値下げしてもNHKは、なお年6000億円超の財源を確保できる。巨額の受信料収入が、コスト意識の欠如を招く恐れはないか。
 テレビ離れが進む中、NHKに期待されているのは、迅速な報道や質の高い番組づくりだ。
 震災報道やドキュメンタリー番組などで、NHKは一定の評価を得ている。それに安住せず、公共放送にふさわしい役割を再認識することだ。民放と同じような番組ばかりでは困る。
 携帯端末の普及を受け、放送と通信の融合が今後の事業展開で大きなテーマとなる。例えば、放送をインターネットで同時送信するサービスだ。実現すれば、スマートフォン(高機能携帯電話)で、どこでも番組を視聴できる。
 ただし、受信料で運営されるNHKに適した事業かどうか、その可否は慎重に議論すべきだ。
 改革推進には、強固な統治体制が欠かせない。ゴタゴタ続きの経営委員長職に、全日本空輸出身の浜田健一郎氏が就任した。記者会見で「執行部とは車の両輪として緊張関係を保つ」と語った。しっかりしたかじ取りを望みたい。

2012年10月12日金曜日

動かぬ国会―職場放棄はもうやめよ

 きのう、民主党と自民党の新執行部が会い、野田首相と安倍総裁が初めて顔をあわせた。
 首相が、党首会談を開いたうえで、「しかるべき時に臨時国会を開きたい」と安倍氏に求めたが、具体的な召集時期は示さなかった。
 両党の新執行部が出そろって2週間がすぎたというのに、国会の日程さえ決まらない。内外ともに課題が山積みのなか、危機感のなさにあきれる。
 きのうは、こんなこともあった。震災の復興予算が被災地以外で使われた問題の解明をめざす衆院の決算行政監視委員会の小委員会を、民主党が欠席して流会に追い込んだのだ。
 自民党の委員長が、国会閉会中の開催を一方的に決めたからだという。だが、そんな理屈は通らない。
 予算が適正に支出されているかどうかを検証し、誤りがあれば正す。それは立法府として当然の責務である。民主党のふるまいは、あまりに無責任だ。
 まして復興予算には復興増税が投入される。消費増税も決まったばかりだ。
 ことは国民の税への信頼にかかわる問題である。早く臨時国会を開いて、使途の本格的な検証をする必要がある。
 臨時国会で議論を深めるべきテーマはほかにもある。
 ひとつは、領土外交だ。
 尖閣諸島や竹島の問題で、自民党は野田政権の対応を批判している。では安倍政権ができればどうするのか、自民党の案をぜひ示してほしい。今週、麻生元首相が訪韓し、李明博(イミョンバク)大統領と会談した。その成果も聞いてみたい。
 一方、共産党の志位委員長は尖閣について、「政府として領土問題の存在を認め、外交交渉で解決を」と提案している。
 与野党が知恵を出し合い、打開策を探る。そんな建設的な国会論戦がいまこそ望まれる。
 原発・エネルギー政策も重要だ。野田政権が9月にまとめた「2030年代に原発ゼロ」の方針は、一度も国会で議論されていない。
 自民党や経団連は、原発維持の立場から反対している。逆に反原発の立場から、政権が「原発ゼロ」方針の閣議決定を見送ったことに対する批判もある。
 国会の場で与野党が意見をぶつけ合えば、総選挙の争点を明確化することにもつながる。
 これ以上、国会の職場放棄は許されない。
 首相は衆院解散を恐れることなく、民自公3党の党首会談に臨み、一日も早く臨時国会を召集する決断をすべきだ。

中国閣僚欠席―大国の責任はどこへ

 東京での国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会に、中国の謝旭人・財務相と周小川・人民銀行総裁の閣僚級2人が欠席する。
 中国政府は尖閣諸島をめぐる日中関係の悪化を理由に挙げ、「日本に責任がある」としている。中国の代表団は次官級が率いる。
 国境を越えた世界経済の減速にどう立ち向かうかを話し合う場に、国境問題を持ち出して背を向けるとは、何とも滑稽だ。国際的な協調を軽視していると受け取られても仕方がない。世界第2位の経済大国であればなおさらである。
 中国は急速な経済成長を背景に、新興国の先頭にたって国際通貨体制での発言力の拡大を求めてきた。IMFでは米、日に次ぐ第3位の出資国へ昇格することが決まっている。1人増員された副専務理事のポストも中国が獲得した。
 新興国の権利と責任をどう調整して、多極化の時代にふさわしい「新IMF」を築いていくか。まさにその話を本格化させる時に、中国がこのような姿勢をとることは、自らが求めるIMF改革にも逆行する。
 トップの欠席は、中国の特異さを世界に印象づけることにもなる。直接投資など対中ビジネスのリスクをめぐり、世界の慎重な見方を強めるだけだ。
 ここに来て、中国経済に世界が注ぐ視線も変化している。08年のリーマン・ショック後に4兆元(約50兆円)の景気対策で世界経済を支えて喝采を浴びたころとは異なり、いまは中国自身の景気減速が世界の懸念材料になっているからだ。
 もともと今年は主要国で選挙が相次ぐ「政治の年」で、景気悪化への政治の対応力が落ちると警戒されていた。その中で、共産党独裁の中国は10年に1度の政権移行に際して国内安定を最優先させ、財政金融政策を駆使するとみられていた。
 ところが、春以降、欧州不況のあおりであっさり減速してしまった。背景に共産党内の権力争いに伴う政治的な求心力の低下を指摘する声もある。
 中国が国内景気を腰折れさせないよう、どのような手を打つのか。従来型の産業やインフラへの投資に依存する景気対策を続けるのか。あるいは、内需主導への転換のカギを握る個人消費の振興やサービス産業化に取り組むのか――。
 世界の財政・金融政策のトップが集う会合で、こうした疑問に責任ある立場の人間が答え、不確実性を氷解させることこそ大国としての責務だろう。

党首会談打診 民主は臨時国会から逃げるな

 臨時国会の召集に向けた政府・民主党の動きがあまりに鈍い。
 丁寧に手順を踏むかのように見せつつ、臨時国会や衆院解散の先送りを図っているのではないのか。
 民主、自民両党の新執行部が、初めて顔を合わせた。野田首相は安倍自民党総裁に「しかるべき時に臨時国会を開きたい」と述べ、山口公明党代表も含む3党首会談を打診した。自民党も応じた。
 今後、幹事長レベルで会談の準備を進めるというが、そのための段取りは何も決まっていない。
 「しかるべき時」とは、一体いつになるのだろう。
 首相にとって3党首会談の狙いは、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案の成立へ確たる道筋をつけることにある。
 法案が成立しなければ、11月末にも国庫は底をつく。政府は既に地方交付税など予算執行の抑制に踏み切っており、道府県がしわ寄せを受けている。このままでは、社会保障や教育など国民生活にも影響が拡大しかねない。
 自民党は、首相が衆院解散を確約しなければ法案審議に協力しないと主張しているが、国民生活を「人質」にすべきではなかろう。戦術的にも、谷垣前執行部が手詰まりに陥った(てつ)を再び踏むことになるのではないか。
 民主党は、予算執行抑制を招いたのは法案を成立させられない政治の責任として10月分の政党交付金申請を見送った。だが、これだけでは何ら問題は解決しない。
 民主党の輿石幹事長は特例公債法案と衆院選の「1票の格差」是正について、「待ったなしに解決していかねばならない」と強調した。一方で、臨時国会には及び腰だ。言行不一致に見える。
 国会を開けば、さらに党が分裂し、衆院解散に追い込まれかねないと恐れているからだろう。
 野田首相は「内外の諸課題に対処する上で内閣の機能を強化する」ために内閣を改造したのではなかったか。直ちに臨時国会を開いて、首相と新閣僚が所信を表明し、質疑を行うのは当然だ。
 対中、対韓外交や環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題、社会保障制度改革国民会議設置など論戦のテーマには事欠かない。田中法相の外国人献金や復興予算の「転用」問題も(ただ)す必要がある。
 最大の問題は、内閣と党の布陣を一新した首相が、次に何をしたいかが見えないことである。
 首相は、新たな政治目標を掲げるとともに、目の前の懸案処理も着実に進めてもらいたい。

iPS細胞 医療応用へ支援体制を整えよ

 再生医療の切り札として、様々な種類の細胞に変化が可能なiPS細胞(新型万能細胞)の実用化に向けた競争がこれから本格化しそうだ。
 iPS細胞は、再生医療を始め多様な用途への利用が期待できるだけに、各国が研究開発にしのぎを削っている。
 日本としても、政府が主導し、臨床応用への支援体制を早急に充実させる必要がある。
 再生医療は、病気や事故で傷ついた臓器や組織を、新しい細胞で作り直す治療だ。
 iPS細胞の作製に成功した山中伸弥・京都大教授のノーベル生理学・医学賞受賞が示すように、日本は再生医療の基礎研究では世界のトップレベルにある。
 文部科学省は、山中教授のiPS細胞研究の支援に、10年程度で総額200億~300億円の助成を行うことを決めた。長期的な助成によって安定した研究環境を整えるのが目的だ。
 こうした戦略的な政策を継続していくことが必要である。
 問題なのは、iPS細胞に限らず、基礎では優れている日本の再生医療が、治療への応用で後れをとっていることだ。
 既に皮膚の細胞を培養して作った皮膚シートが、やけど治療に使われている。日本ではこのほか、軟骨組織1件が承認されているだけだが、海外では、約50件もの製品が承認されている。
 治療への応用が進まない背景には、臨床試験を巡る問題がある。実際に患者に使って有効性や安全性を確かめる試験だが、国内には小規模な病院が多く、参加する患者を集めにくい。
 臨床試験の中核となる病院を整備し、医療機関が協力して試験を進める体制が求められる。
 医師が行う臨床研究のレベルアップも必要である。
 例えば、欧米の一流医学誌に掲載される論文数を比較すると、日本の国別順位は、基礎研究で上位を占めている反面、臨床研究では25位に甘んじている。臨床研究の論文数は、首位の米国の40分の1程度しかない。
 研究体制が手薄で、成果も上がっていない現状を反映していると言えよう。
 再生医療に関する政府の承認審査をスピードアップさせることも欠かせないだろう。
 民主、自民、公明3党は今月、再生医療の臨床応用に向けた基本法を制定することで合意した。早期に成立させ、実用化を推進する指針作りを急ぐべきだ。

2012年10月11日木曜日

コメ政策―はやく発想を変えよう

 来年度予算の編成で、農林水産業が環境、健康とともに重点分野の一つに位置づけられた。
 国産品の価格競争力を高めて自給率を引き上げ、政府が掲げる「農林水産品の輸出倍増・年間1兆円」計画を絵に描いたモチに終わらせないために、発想の転換が必要だ。
 代表例が、日本人の主食であり、おいしさでは「世界一」と自負するコメだろう。
 国内では生産調整(減反)を続け、輸入米に高い関税をかけて、手厚く保護してきた。
 ところが、家庭の購入額で昨年、初めてパンに抜かれた。1人あたりの消費量は、ピークだった60年代から半減した。食生活の変化は大きいが、それだけではあるまい。
 スーパーの西友が売り出した中国産のコメが人気を集めた。輸入米の入札に外食産業が殺到する。ともに、高関税の代償として関税ゼロで輸入しているミニマムアクセス米の一部だ。やはり「安さ」は強い。
 一方、コメの輸出額は年7億円弱で農林水産物全体の0.2%弱にすぎない。価格の高さが伸び悩みの主因だろう。
 減反と高関税が価格を下支えし、それが需要を抑える。売れないので減反で対応する。この悪循環から抜け出すには、激変を和らげる対策をとりながら、「減反・高関税」政策を改めていくことが必要だ。
 国内の水田のうち約3分の1では主食用のコメではなく、麦や大豆、加工用米などを作っている。麦などの輸入を減らして自給率を高める狙いだが、投じる費用に見合った効果があるのか、疑問は根強い。
 減反を緩和し、意欲的なコメ農家の生産増を促して価格を下げる。それでコメの国内消費と輸出の両方を伸ばし、少々の不作にも耐える生産基盤を作る。そんな考え方ができないか。
 カギは「関税による消費者負担から、財政による納税者負担へ」をうたう戸別所得補償である。価格を抑えつつ、採算割れとなる作物では現金の直接支払いで農家を支える仕組みだ。制度は3年目に入った。
 ただ、減反への参加が支払いの条件のため、減反の維持につながっている。農家の経営規模にかかわらず、コメを生産・販売する全農家が対象とされたため、農地を他に貸していた農家も「貸しはがし」して生産に戻るなど、コスト削減に不可欠な規模拡大も妨げている。
 これではバラマキというしかない。まず戸別補償の見直しに取り組まないと、予算増額への理解は得られない。

ミンダナオ島―和平へ日本も力尽くせ

 フィリピン南部のミンダナオ島で、和平実現への希望の明かりがともった。
 島では反政府イスラム武装勢力と政府との紛争が40年以上続く。犠牲者10万人以上という。独立を求めるモロ・イスラム解放戦線(MILF)とアキノ政権が交渉し、和平の枠組みに関する合意にこぎつけた。
 東南アジアの近隣国で悲惨な紛争が続いている。日本は目をそらしてはなるまい。今こそ交渉の最終合意へ向けて、ひと汗もふた汗もかくべきだ。
 マレーシアや英国、国際NGOとともに日本は、紛争解決へさまざまな支援をしてきた。
 昨年8月には、極秘に来日したアキノ大統領とMILFのムラド議長とを、成田空港近くのホテルで初めて引きあわせた。
 その後、本格化した交渉の結果、フィリピン政府は新たな自治政府の樹立を認め、MILFは独立要求を取り下げた。
 初のトップ会談が生きたとすれば、日本の仲介外交が貢献できたと言えるだろう。
 ミンダナオの現地でも日本人が平和を築こうとしている。
 国際協力機構(JICA)は6年前から、イスラム諸国が中心となって作る国際監視団に専門家を送り、住民の教育や医療改善に取り組んでいる。いま駐在する落合直之さんは「住民の喜ぶ姿を見ると私もうれしい。地域の経済開発だけでなく、新しい自治政府の制度作りや人材育成に努めたい」と語る。
 和平の枠組み合意ができた背景には、地域でのイスラム過激派組織の退潮が響いているようだ。ミンダナオを訓練地の一つとしてきた隣国インドネシアの過激派の勢いは衰えた。反政府側の武器や資金の入手先と疑われていたリビアのカダフィ政権も昨年崩壊した。その影響があるのかもしれない。
 とはいえ、交渉の先行きは予断を許さない。
 政府とMILFはこれから、自治政府に帰属する土地の範囲や天然資源の配分、武装解除の手続きといった具体的な話に入っていく。どれも現地を巻き込んだ政治的な闘争や、経済の利権争い、住民の反発を招きかねない難題ばかりだ。
 しかしそこにこそ、第三の中立的な仲介者が役割を発揮できる余地がある。
 ミンダナオには第2次大戦前から日本人移住者が多く住み、今はバナナ農園や鉱山開発の日系企業が活動している。
 日本はカンボジアやパレスチナで平和構築の取り組みを重ねてきた。そこで得た貴重な経験をミンダナオで役立てよう。

尖閣国有1か月 長期化する対日圧力に備えよ

 尖閣諸島の国有化から1か月経過した。中国の対日圧力は弱まる気配がない。政府は対立の長期化を前提に、体制を整えるべきである。
 中国は、東京で12日に開幕する国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会への財務相と中国人民銀行総裁の出席を見送った。尖閣問題で日本への抗議の意思をアピールするのが狙いだろう。
 世界2位の経済大国が、グローバルな経済問題を協議する場を軽視するかのように振る舞う。国際社会の理解は得られまい。
 一時拡大した反日デモに続き、中国政府は日本製品の不買運動も容認した。トヨタ自動車など日系自動車メーカーの9月の販売台数は大幅に減った。日本企業のビジネスに悪影響が広がっている。
 観光客の訪日中止などで航空会社や観光業への打撃も大きい。
 中国による有形無形の圧力を受け、日本の経済界は、政府に事態の早期打開を求めている。玄葉外相も対中外交に関して、「譲れないものは譲れないが、何が可能か模索したい」と述べた。
 ただし、拙速は禁物だ。
 安易に妥協すれば、尖閣諸島に関する日本の主権そのものが危うくなりかねない。
 中国は長年、領土・海洋権益の拡大を国策としてきた。当面の目標は、日本が領有権問題を認め、領土を巡る交渉に応じることである。日本の譲歩を引き出すまで、執拗(しつよう)に、様々な圧力をかけてくるだろう。
 だが、中国が一方的な圧力外交を続けることで失う国際的な信用も大きいはずだ。
 政府は、赴任前に死去した西宮伸一中国大使の後任に木寺昌人官房副長官補を内定している。大使交代を契機に、日中双方の接点を慎重に探ってもらいたい。
 尖閣諸島近海で、中国は監視船による示威行動を続けている。
 ただ、緊張感をエスカレートさせる行為は控えている。米国が先月、西太平洋に二つの空母部隊を派遣したり、グアムでの米海兵隊と陸上自衛隊の上陸訓練を公開したりするなど、中国軍をけん制したことと無縁ではあるまい。
 日米同盟が中国の挑発を抑止していることは明らかである。
 海上保安庁は、全国の巡視船艇をやり繰りして尖閣周辺海域に派遣し、24時間態勢の警戒監視活動を余儀なくされている。
 こうした態勢を長期間堅持する必要がある以上、政府は、要員の確保などに万全の策を講じなければならない。

性犯罪条例 子供を守る手だてを考えたい

 性的暴力を受けた子供は、心に深い傷を負う。許し難い犯罪を防ぐ手だてを社会全体で考えていかねばならない。
 子供に対する性犯罪の摘発数は、全国で年間4000~5000件に上る。表面化しないケースも多いだろう。
 加害者は、同種の事件を繰り返す傾向が強い。警察庁の統計によると、2005~10年の出所者740人のうち、105人が再び摘発された。57人は出所後1年未満での犯行だった。
 再犯をどう抑止するかが、対策の重要な柱となる。
 その意味で、大阪府が今月施行した「子どもを性犯罪から守る条例」は、注目に値しよう。
 18歳未満の子供への性犯罪歴を持つ出所者が府内に住む際、刑期終了から5年間、住所や服役した罪名などを府に届け出ることを義務付けた。届け出を怠れば過料を科す。全国で初の試みという。
 届け出を促そうと、出所者の社会復帰支援策を盛り込んだのが、条例の特徴だ。ハローワークと連携し、就労の手助けをする。
 臨床心理士が、性的衝動の抑制に効果があるというカウンセリング療法も施す。刑務所では既に実施しているが、出所すると途絶えてしまうため、出所者に治療を継続させるのが目的だ。
 居住地を把握されているという意識から、出所者が再犯に及ぶのを思いとどまる効果も期待できるのではないか。
 ただ、出所者が前歴を隠して住めば、府に確認する(すべ)はない。他の自治体に引っ越してしまえば、届け出の義務もなくなる。条例による対策の限界と言える。
 やはり、政府主導の取り組みを充実させることが大切だ。
 04年の奈良・女児誘拐殺人事件を契機に、警察庁は法務省から出所者情報の提供を受けるようになった。その情報を基に、都道府県の警察官が家庭訪問などによる所在確認を実施している。
 警察庁が情報提供を受けているのは、13歳未満の子供に対する性犯罪で服役した出所者だ。大阪府のように「18歳未満」に対象を広げることも検討すべきだろう。自治体の有効な施策を政府の対策に取り入れることが必要だ。
 米国の一部の州では、出所者に居住地の登録を義務付け、地域住民にも出所情報を通知している。韓国では、所在把握のため、出所者に全地球測位システム(GPS)端末の携帯を義務付けた。
 こうした海外の取り組みも参考にしていきたい。

2012年10月10日水曜日

PC乗っ取り―ウイルス犯罪へ備えを

 知らないうちにパソコンが乗っ取られ、大量殺人や爆破予告のメールを送信して犯人に仕立てられる。
 犯罪ドラマのようなことが現実に起きて、大阪と三重の男性が逮捕された。
 2人のパソコンは同じウイルスに感染し、遠隔操作できる状況だった。何者かがウイルスを送り込み、本人になりすまして犯行に及んだ疑いが濃い。
 2人に面識はなく、捜査段階から容疑を否認していた。誤認逮捕としかいいようがない。警察はこの失態を深刻に受け止める必要がある。
 大阪の事件では7月末、大阪市のホームページに「来週の日曜に大量殺人する」などと書き込まれた。インターネット上の住所であるIPアドレスの捜査から、府警はアニメ演出家のパソコンが発信源と特定した。
 三重の無職男性は9月上旬、ネット掲示板に「伊勢神宮を爆破する」と書き込んだ容疑で県警に逮捕された。
 三重の男性のパソコンから遠隔操作のウイルスが見つかった。ウイルスが検出されなかった演出家のパソコンを府警が改めて調べたところ、ウイルス感染の痕跡が確認された。ウイルスの入ったファイルを消去する機能もあったという。
 2人とも9月21日に釈放されたが、演出家はすでに起訴されていた。まったく別人による犯行とみられ、検察はすみやかに起訴を取り下げるべきだ。
 今回の教訓はIPアドレスに頼る捜査手法の危うさだ。
 これでは市民がいつ犯罪者に仕立てられるかわからない。裁判所も逮捕状の審査を厳格にして、できる限り任意での捜査を進めるべきだ。
 一方で、なりすまし事件を続発させないためにも、真犯人を突き止めることが重要だ。
 遠隔操作型ウイルスは官公庁や企業を狙ったサイバー攻撃でも確認され、警察庁はセキュリティーを監視する企業にウイルス情報などを提供している。
 ただ、ウイルスの発信履歴が消されたり、海外のサーバーを経由したりして犯人追跡は容易ではない。ウイルス対策にたけた企業や専門家と協力し、新たな捜査手法を築いてはどうか。
 危険なウイルスの侵入を防ぐには、パソコンを使う側の注意も必要だ。基本ソフトを最新のものにして、ウイルス対策ソフトの更新を怠らない。なによりも不審なメールやホームページの閲覧を避けることだ。
 だれもが犯罪に利用されてしまうという新たな脅威に、本格的に備えなくてはいけない。

皇室のあり方―国民の支えあってこそ

 女性宮家をつくることの是非やそのあり方をめぐり、政府が有識者の意見をふまえ、当面とりうる方策をまとめた。
 各方面への気づかいが目につき、全体としてわかりにくい印象になったのは否めない。とはいえ、国民の間にさまざま意見がある問題だ。これを土台に慎重に議論を進めていきたい。
 女性皇族は一般男性と結婚したら皇族でなくなる。いま30歳以下の皇族9人のうち、男性は秋篠宮家の悠仁(ひさひと)さまだけだ。
 このままでは、天皇を身近で支える皇族がいなくなってしまう。そんな問題意識が、今回の検討の根底にある。
 示された案は、(1)女性も結婚後に宮家を構え、皇室にとどまる。夫や子も皇族とするが、子は結婚すると身分を離れる(2)宮家をつくるが、夫や子は皇族としない(3)皇族ではなく、特別な公務員として皇室活動を手伝う――の三つ。天皇の子や孫である内親王にしぼり、本人の意思を尊重するとしている。
 イメージしやすいのは(1)案だろう。(2)案は一家の中で身分や待遇がばらばらになり、違和感が残る。(3)案はまとめの段階でやや唐突に出てきた。なお詰めるべき点があるように思う。
 有識者への聞きとりでは、女系天皇への警戒感を口にする人も複数いた。女性宮家を認めると、その子孫が皇位につく可能性が生じ、これまで男系で継承してきた天皇の姿が変わってしまうという主張である。
 これを支持する人の多くは、第2次大戦後に皇籍を離れ、ふつうの市民として暮らしてきた旧宮家につながる男子を養子にするなどして、伝統と皇室の規模を維持せよと唱える。
 だが、多くの国民にすんなり受けいれられる考えとは思えない。旧宮家の誰を迎えいれるかなど難しい問題も多く、むしろ皇室と人々との距離をひろげることにならないか。天皇の地位は国民の総意にもとづくことを忘れてはならない。
 悠仁さまが生まれ、皇位継承へのさし迫った不安はない。いま考えるべきは、皇室活動の内容や規模はいかにあるべきで、それを皇族方にどう担ってもらうのが適切かという問題だ。政府案をふまえ、合意をさぐる努力を重ねる必要がある。
 将来、皇位継承の問題を真剣に検討しなければならない時がくる可能性はある。そうなった時は、その時点で考えられる選択肢のなかから、その時の国民が答えを出せばいい。
 今の世代は判断の幅を残しながら次代に引き継ぐ。この問題にはそんな姿勢でのぞみたい。

オスプレイ配備 より強固な日米同盟の象徴に

 米軍の新型輸送機MV22オスプレイが沖縄に配備された。
 政府は、その意義と安全性を地元関係者に粘り強く説明し続けなければならない。
 野田首相が沖縄県の仲井真弘多知事と会談し、オスプレイの米軍普天間飛行場配備について「安全性の確保や地域住民の生活に最大限配慮することが大前提だ」と述べ、理解を求めた。
 仲井真氏は「普天間基地は街の中にあり、安全と言えない面もある」と述べ、配備見直しを求めた。オスプレイ運用の安全確保に関する日米合意の徹底順守などを求める要請書も首相に手渡した。
 オスプレイの安全性を追求するため、政府は、日本独自の検証や日米合同委員会の協議・合意など様々な手段を尽くしてきた。
 沖縄では、「市街地上空で垂直離着陸(ヘリコプター)モードの飛行が目撃された。日米合意違反だ」といった指摘がある。
 だが、最も安全な飛行方法は気象条件などで変わる。米軍がわざわざ危険な飛行を選ぶはずもない。飛行モードだけで合意違反と速断するのは無理があろう。
 MV22の事故率は海兵隊の全航空機平均より低い。特に、導入当初10万飛行時間の事故率は海兵隊では最小だ。データ面から見ても、オスプレイが極めて危険であるかのような主張はおかしい。
 さらに重要なのは、オスプレイ配備が日米同盟を強化し、アジアの安定にも寄与することだ。
 中国が、沖縄県・尖閣諸島周辺を含む東シナ海で海空軍の活動を活発化させている。今後も、国防費の大幅な伸びを背景に、艦船や航空機の増強と近代化を中長期的に続けると見るべきだ。
 従来の米軍輸送ヘリCH46と比べて、オスプレイは巡航速度や航続距離が大幅に上回っている。海兵隊の即応力を高め、対中国戦略の一環だけでなく、在日米軍全体の抑止力の強化につながる。
 朝鮮半島有事や離島防衛にとどまらず、災害対応や人道支援など、平時に果たす役割も大きい。
 野田首相は、こうした観点からも、引き続き仲井真氏や地元自治体を説得すべきだ。
 オスプレイの能力を十分生かすには、米軍単独の訓練に加え自衛隊との共同演習が欠かせない。
 今月中旬には、沖縄での本格運用が始まるほか、日本本土でも、自衛隊基地を使用した訓練がいずれ行われる方向だ。
 沖縄の過重な基地負担の一部を日本全体で引き受ける趣旨からも着実に実施に移したい。

復興予算「転用」 被災地支援が後回しでは困る

 東日本大震災の復興予算が、被災地の再建とはかけ離れた事業に使われている。
 これでは、予算の「転用」であり、看過できない。
 自民党の追及を受け、財務省などが衆院決算行政監視委員会の関係議員に示した。その中には、「果たして復興関連なのか」と首をかしげたくなる事業が少なからず盛り込まれていた。
 農林水産省は、反捕鯨団体シー・シェパードへの対策費を計上した。抗議活動を阻止しなければ、鯨肉加工施設がある宮城県石巻市の再建に影響するとの理屈だ。
 埼玉県などの刑務所での職業訓練費について、法務省は「出所者が被災地で働くかもしれない」としているが、説得力を欠く。
 被災地から材料を調達しているから、として岐阜県のコンタクトレンズ工場などへの経済産業省の補助金もあった。
 岡田副総理は記者会見で、「短期間に大きな予算を組まなければならず、細部まで目が届かなかった」と釈明した。
 復興予算は、復興基本方針で、必要な費用を当初5年間で19兆円と見積もり、2011年度1~3次補正予算と12年度当初予算で計18兆円を計上した。
 原発事故に伴う除染作業や津波被害で生じた社会資本の復旧、がれき処理などに充てられる。主な財源は、10~25年間に及ぶ住民税や所得税などの復興増税だ。
 各府省は復興基本方針に「全国的に防災施策を行う」、「日本経済の再生なくして被災地の復興はない」といった文言があることから、予算の正当性を主張する。確かに、被災地以外でも防災や産業空洞化対策は必要だ。
 しかし、肝心の復興が大幅に遅れている中で、「何でもあり」のような予算は許されまい。
 厳しい上限が設定されていない復興予算に目を付け、本来なら通常予算で対応すべき事業まで計上したのでは、増税に協力する国民から反発が強まるだろう。
 自民党はこの問題について、閉会中審査を求めている。復興予算が適切に使われているかどうか、国会は十分に精査すべきだ。
 被災地では予算執行が遅れている。11年度分に計上した15兆円のうち、年度内の消化は6割にとどまった。予算メニューとニーズの食い違いも指摘されている。
 平野復興相は「来年度はできるだけ被災地に特化した予算を作りたい」との意向を表明した。政府は、被災地に必要な資金が行き渡るよう迅速に手当てすべきだ。

復興予算「転用」 被災地支援が後回しでは困る

 東日本大震災の復興予算が、被災地の再建とはかけ離れた事業に使われている。
 これでは、予算の「転用」であり、看過できない。
 自民党の追及を受け、財務省などが衆院決算行政監視委員会の関係議員に示した。その中には、「果たして復興関連なのか」と首をかしげたくなる事業が少なからず盛り込まれていた。
 農林水産省は、反捕鯨団体シー・シェパードへの対策費を計上した。抗議活動を阻止しなければ、鯨肉加工施設がある宮城県石巻市の再建に影響するとの理屈だ。
 埼玉県などの刑務所での職業訓練費について、法務省は「出所者が被災地で働くかもしれない」としているが、説得力を欠く。
 被災地から材料を調達しているから、として岐阜県のコンタクトレンズ工場などへの経済産業省の補助金もあった。
 岡田副総理は記者会見で、「短期間に大きな予算を組まなければならず、細部まで目が届かなかった」と釈明した。
 復興予算は、復興基本方針で、必要な費用を当初5年間で19兆円と見積もり、2011年度1~3次補正予算と12年度当初予算で計18兆円を計上した。
 原発事故に伴う除染作業や津波被害で生じた社会資本の復旧、がれき処理などに充てられる。主な財源は、10~25年間に及ぶ住民税や所得税などの復興増税だ。
 各府省は復興基本方針に「全国的に防災施策を行う」、「日本経済の再生なくして被災地の復興はない」といった文言があることから、予算の正当性を主張する。確かに、被災地以外でも防災や産業空洞化対策は必要だ。
 しかし、肝心の復興が大幅に遅れている中で、「何でもあり」のような予算は許されまい。
 厳しい上限が設定されていない復興予算に目を付け、本来なら通常予算で対応すべき事業まで計上したのでは、増税に協力する国民から反発が強まるだろう。
 自民党はこの問題について、閉会中審査を求めている。復興予算が適切に使われているかどうか、国会は十分に精査すべきだ。
 被災地では予算執行が遅れている。11年度分に計上した15兆円のうち、年度内の消化は6割にとどまった。予算メニューとニーズの食い違いも指摘されている。
 平野復興相は「来年度はできるだけ被災地に特化した予算を作りたい」との意向を表明した。政府は、被災地に必要な資金が行き渡るよう迅速に手当てすべきだ。

2012年10月9日火曜日

山中さん受賞―若い力の挑戦が実った

 世界に先駆けてiPS細胞を開発した山中伸弥・京都大教授に、ノーベル医学生理学賞が贈られることになった。
 山中さんが最初に発表したのは06年、それからわずか6年だが、業績の大きさから、受賞は時間の問題とされてきた。世界の人たちに貢献できる研究が評価されたことを喜びたい。
 ノーベル賞は何十年も前の発見に贈られることが多い。今回は今も続く最先端研究への授賞だ。同世代の研究者や後に続く人にも、大きな励みになる。
 山中さんの成果は、皮膚など普通の細胞に四つの遺伝子を入れるだけで、心臓でも筋肉でもどんな細胞にでもなれる万能細胞ができる、というものだ。まさに魔法のような方法で、発表後、世界中の研究者が半信半疑だったのも無理はない。
 だが、その結果が米国で確認されるや、あっという間に激しい研究競争が始まり、医療への応用に期待がかかる。
 従来、万能性を持った細胞を得るには受精卵を壊すしかなく、倫理的な問題があった。これならその心配はない。
 山中さんの研究者としての道のりは、決して平らではなかった。整形外科の臨床医だったが、米国留学で基礎研究に目覚めた。
 帰国後はポストがなく、ほとんど研究をやめる寸前だった。奈良先端科学技術大学院大学の公募で採用され、やっと独立した研究者になることができた。
 研究費の申請も、あまりにとっぴな提案だったために却下されかかった。しかし、審査に当たった岸本忠三・元大阪大総長が「若い研究者の迫力」に感心して予算をつけた。
 その結果、一人の若者のアイデアが世界を一変させた。まさに科学のだいご味だろう。
 さまざまな個性を生かす場所があり、常識はずれの提案でも見どころがあれば評価してチャンスを与える。そんな懐の深い人と場所があってこそ、独創的な発見も生まれる。
 いま若手研究者は海外に出たがらないと言われるが、ぜひ、夢をもって挑戦してほしい。
 そんな若い研究者が力を発揮できるよう支えたい。博士課程の学生への経済的支援を充実する。また、安定した研究職の枠が狭まるなか、見込みのある若者にポストを与えて、研究に専念できるようにする。
 再生医療を実現する態勢を整えることも重要だ。科学の成果を実際の医療につなげる点で日本の課題は大きい。それを果たして初めて、若い挑戦の成果が世界に生かされる。

IMF世銀総会―危機克服の流れ加速を

 世界の金融経済秩序を支える国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会が、きょうから日本で開かれる。
 関連の催しを含め、加盟188カ国の財政・金融政策のトップら、官民合わせて約2万人が集まると見込まれる。
 世界的に経済の減速感が強まるなか、総会は文字どおり世界の総意として、危機克服に向けた政治のリーダーシップを求める場になりそうだ。
 最大の課題である欧州問題では、欧州中央銀行(ECB)が先月、南欧諸国の国債買い入れを表明した。8日には新たな安全網である欧州安定メカニズム(ESM)も発足。IMFはこれとは別に4560億ドルの資金基盤を整えた。
 当面の焦点は、財政と金融の不安に揺れるスペインがいつ国内改革を決断して支援要請に踏み切るかだ。ギリシャも構造改革を続け、ユーロ圏がそれに応じて追加支援に踏み込む柔軟な構えが求められる。
 11日には主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)も開かれる。さまざまな議論を通じて事態解決への流れを加速させなければならない。
 政治の責任の重さでは、米国の「財政の崖」も同様だ。減税期限や歳出削減の予定が年末年始に集中し、経済が急降下する恐れがある問題である。
 大統領選挙が絡んだ民主、共和両党のにらみ合いという政治の分裂が、いたずらに経済を萎縮させている。両党が大局に立って、早く回避の道を示せるのか、世界が注視している。
 日本での総会開催は東京五輪があった1964年以来、48年ぶりだ。当初はエジプトの予定だったが、政情不安で変更になり、震災復興の支援の意味もあって東京開催が決まった。
 仙台市では防災に関する対話集会もある。新興国では富の蓄積が進み、途上国では都市化が止まらない。製品や部品の供給はグローバル化する一方だ。災害による経済的打撃は以前にも増して深刻になっており、影響は地球規模に広がる。
 世銀は今回の総会を機に各国の開発計画で防災を重視するよう促していく考えだ。
 世銀資金で新幹線などのインフラや生産の基盤を整えて高度成長を果たした日本は、戦後通貨体制の中の優等生だ。
 と同時に、地震や津波の常襲国でもある。成熟した社会が大震災で得たソフト・ハード両面の防災・減災の知見を、世界の財産にしてもらえれば、これも開発金融にとって歴史的な到達点といえよう。

ノーベル賞 山中氏への支援体制を手厚く

 山中伸弥・京都大教授に、今年のノーベル生理学・医学賞が贈られることになった。
 その栄誉を(たた)え、心から喜びたい。
 日本人が生理学・医学賞を受賞するのは、1987年の利根川進博士以来、25年ぶりである。
 山中教授の授賞理由は、皮膚などの体細胞を、生命の始まりである受精直後の真っさらな状態に戻す「体細胞初期化」技術を開発したことだ。同じ分野の先達である英国のジョン・ガードン博士との共同受賞となる。
 受精した細胞は、成長するにつれ、様々な組織や臓器の細胞に分化し、次第に老いてゆく。一方向にしか進まないこの過程を逆戻りさせたのが山中教授の研究だ。
 画期的な業績である。山中教授は、2006年に成果を発表した後、毎年、ノーベル賞受賞者予想で筆頭に挙げられてきた。
 6年でのスピード受賞となったのは、医療への応用に高い期待があるからだろう。
 山中教授の技術で初期化された細胞は「iPS細胞(新型万能細胞)」と呼ばれる。病気やケガで傷んだ臓器や組織を、iPS細胞で作った細胞で置き換える「再生医療」も、もはや夢ではない。
 例えば、脊髄が損傷し下半身マヒとなった患者の治療だ。本人の皮膚細胞から作製したiPS細胞由来の神経細胞を注入すれば、拒絶反応なしに神経を再生でき、歩行が可能になるかもしれない。
 まだ基礎研究ながら、将来的には医療を一新する可能性を秘めていると言えよう。
 山中教授の所属する京大は、iPS細胞の作製法で国際特許も取得し、研究開発でトップを維持しようと努めている。
 しかし、実用化を目指す研究は欧米の方が先行している。山中教授は、「欧米は研究資金も人材もはるかに潤沢」と、繰り返し警鐘を鳴らしている。
 欧米では、大手製薬企業が巨費を投じて研究を進めている。研究者の層も厚い。
 これに対し日本では、iPS細胞に限らず、新薬、新治療法の研究体制で後れを取っている。
 今回の受賞決定を契機に、国を挙げて、研究現場を活性化する取り組みを強化せねばならない。
 山中教授の技術は、新たな問題も生んでいる。精子や卵子を作って受精させる研究では、通常の生殖を経ない生命誕生になる、との懸念が指摘されている。
 生命倫理面での検討も、なおざりにはできない問題である。

環境税導入 企業と家計の負担が重すぎる

 地球温暖化対策税(環境税)が今月から導入された。エネルギー情勢の激変で、問題を抱えてのスタートである。
 環境税は、石油や天然ガスなど化石燃料にかかる石油石炭税に上乗せして課税される。
 導入時の税率は、2014年4月、16年4月に段階的に引き上げられ、2600億円の増税を見込む。税収は再生可能エネルギーの普及などに使い、温室効果ガスの排出を抑制する狙いという。
 もちろん、温暖化対策は必要だ。しかし、問題は、環境税が検討された時期が東日本大震災での福島第一原子力発電所事故が発生する前だったということである。
 政府は当初、11年度の税制改正法案で導入を目指したが、自民党の反対で実現せず、今年3月に12年度実施の法案が成立した。環境税を取り巻く状況が変わったにもかかわらず、原案通りに導入されたことには疑問が残る。
 原発の運転停止に伴い、電力各社は原発に代わる火力発電の燃料として化石燃料の輸入を急増させ、税負担は重くなっている。
 環境税は化石燃料を使う企業が納めるが、電力・ガス料金などに転嫁され、消費者など最終ユーザーが負担することになる。
 電力会社は、東京電力を除いて環境税に伴う値上げを当面見送る方針だ。だが、燃料コスト増大で収益が悪化すれば、いずれ値上げに踏み切らざるを得まい。
 価格競争が激しいガソリンスタンドの大半は、顧客に転嫁できずに価格を据え置いている。業界の負担額は、今年度だけで100億円を超えるとみられる。
 このままでは、石油、化学、鉄鋼などの業界の負担が膨らみ、国際競争力が低下しかねない。産業界から負担軽減を求める声が出ているのも当然である。
 家計の負担増も懸念される。
 環境省は、一般家庭の負担増は年1200円程度と試算するが、7月に再生可能エネルギー全量買い取り制度が始まり、電力料金がアップしたばかりだ。
 民主党政権の環境・エネルギー政策は迷走を続けている。政府が打ち出した脱原発依存の方針は温暖化対策と逆行し、「20年までに1990年比で25%減」という温室効果ガス削減目標の達成は絶望的な状況だ。
 そうした中で、環境税だけを先行させても説得力はない。
 税収の使途も、自治体の省エネ事業補助など緊急性や効果に乏しい例が多い。今後の引き上げの是非を含めて再考すべきだろう。

2012年10月8日月曜日

歴史教育―世界の中の日本を学ぶ

 もっと近現代史を学校で教えよう。尖閣諸島や竹島の領有権問題をきっかけに、政治家が相次いでそう発言している。
 田中真紀子文部科学相は就任会見でこう語った。教科書は現代史の記述が薄い。ファクトはファクトとして出す。自分なりの考えを持てる人間を育てる。そうでないと、国際社会で発信力のある日本人はできない。
 橋下徹大阪市長も「相手と論戦するには、相手の立場を知らなければ」と話した。
 領土や歴史認識についてどんな立場を取るにせよ、中韓を始め近くの国との関係について史実を知っておくことは大切だ。
 近現代と東アジアを中心に、世界の中の日本を学ぶ。そんな歴史教育に見直してはどうか。
 高校の授業は標準で週30コマ。総合学習や情報など科目が増え、理科離れも指摘される。歴史だけ大幅には増やせない。制約の中でどう充実させるか。
 日本学術会議が昨年、興味深い提言をしている。高校の世界史と日本史を統合し、「歴史基礎」という新しい必修の科目を作るというものだ。
 科目のつくりかえは簡単ではないが、真剣に耳を傾けるべき提案だ。現場で実験的な授業も始まっている。文科省は長い目で検討を深めてほしい。
 提言はこう訴える。
 日本史を世界史と切り離して一国史的に教える傾向がある。
 日本史で外国が描かれるのは戦争や交流があった時だけ。かたや、世界史のアジア史の項には日本がほとんど出てこない。
 日本が他国と関係なく歴史を刻んでいるかのようだ。
 グローバル化の時代を生きる若者に、異文化を理解し、共生する姿勢を育む。そのために、世界史の中に日本史を位置づけて教えるべきだと説く。
 とりわけ近隣の国民と健全な関係を築くために――と、近現代史と東アジアの重視を打ち出しているのも目を引く。
 日本史は中学と高校で同じような中身を繰り返す。世界史と日本史も大戦期などは重なりが多い。整理して無駄を省けば大事な時代に時間を割ける。
 世界史と日本史が分かれたのは、明治政府が「国史」と「万国史」を分けて以来という。近代国家として発展する中で「国史」が国の威信を高めるのに使われたと指摘される。
 もうそんな時代ではない。海の向こうの金融危機が国内の雇用に響く。経済ひとつとっても自国の中では完結しない。
 必要なのは、退屈な丸暗記ではない。「いま」を考えるのに役立つ勉強だ。

仏独の50年―不信を乗り越えた歩み

 「昨日の敵は今日の友」というが、フランスとドイツが築き上げた信頼と友情がこれほど長続きするとは、1世紀前の両国民はまったく想像できなかったのではなかろうか。
 仏独協力条約(エリゼ条約)ができてやがて半世紀になる。
 19世紀半ばからの100年近くの間に双方は3度も戦争をして、多くの犠牲者を出した。それが今では「欧州統合のエンジン」と呼ばれる関係だ。
 きっかけは、1962年9月にドイツを訪れたドゴール大統領の演説である。アデナウアー西独首相との会談を前に、彼はドイツ語でこう語った。
 「若者たちよ。偉大な国の子たちよ。両国民の連帯に息を吹き込むのは君たちの役割だ」
 当時、14歳だったフォルカー・シュタンツェル少年は自宅のラジオで演説を聞いた。まだナチスへの敵意と憎しみが周辺国に色濃く残っていた時代だ。
 「この国の人々と友人になることができるかな、と。その感激の気持ちは今でも忘れられない」。長じて外交官になり、いま駐日ドイツ大使として活躍するシュタンツェル氏は最近、自らのブログにそう記した。
 少年を感激させた言葉は大きな成果をもたらした。
 翌年1月に条約が調印されて以来、首脳や外相、国防相らの定期協議が続いてきた。隣国の家庭にホームステイし、言葉を学びあう。そんな交流事業を通じて若者たちが偏見を捨て、相互理解を進めたことも収穫だ。
 注目したいのは、両国における戦争の記憶の変わりようだ。
 コール西独首相とミッテラン仏大統領は1984年、両国の激戦地、フランスのベルダンで手をつなぎあって両大戦の犠牲者を追悼した。シュレーダー独首相とシラク仏大統領は2004年、連合軍のノルマンディー作戦の上陸地を訪れた。
 犠牲者の追悼を、国家の枠組みにとどめず、痛ましい過去をともに省み、共通の未来を築く場とする。共通の歴史教科書を作り、テレビ番組を共同で制作する。こうした積み重ねによって、両国民は互いの不信を克服していったのだろう。
 欧州統合の原点も仏独の不戦の誓いにある。資源の争奪が戦争の引き金にならないよう、両国は石炭や鉄鋼の共同管理を主導し、欧州の経済通貨統合も引っ張ってきた。
 シュタンツェル大使は「ブログに思い出を記した時、今の日本と中国のことが少し心に浮かんだ」と語る。半世紀にわたる仏独の歩みを、東アジアの現状を考える手本にしたい。

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