2012年11月30日金曜日

維新の公約―これでは分からない


 日本維新の会が、衆院選での公約となる「骨太2013~2016」を発表した。A4判で4ページ。民主、自民両党と比べ、簡略ぶりが際だつ。
 石原代表と橋下代表代行は「政治家は方向性を示せばいい。具体的な工程表はあとで官僚に作らせる」と強調する。
 確かに、メッセージだけである程度わかる項目もある。「公共工事拡大路線とは異なる経済成長」「国の役割を絞り込み、究極は道州制へ」などは、そうだろう。
 しかし、あまりに漠然としている項目が少なくない。代表例が社会保障だ。
 高齢化で社会保障の給付は毎年3兆円ずつ膨らみ、連動して国の一般会計からの支出が1兆円前後増えていく。
 民主、自民、公明の3党は消費税率を10%に引き上げ、社会保障にあてることを決めた。私たちも社説で、「国民全体で支える社会保障には、幅広い世代が負担する消費税が望ましい」と主張してきた。
 これに対し、維新は「消費税の地方税化」を掲げる。消費税は地方の財源とし、国が地方に配っている地方交付税を廃止する。税率のメドは11%という。
 地方の自立は大切な課題だが、では、社会保障の財源をどう確保するのか。
 公約には、平均余命を勘案し、年金制度を再構築▼税金の投入は低所得層の負担軽減、最低生活保障目的に限る▼社会保険料、所得税を公平公正に徴収▼広く薄い年金目的の特別相続税を創設、などが並ぶ。
 年金を支給し始める年齢を引き上げたりして給付を減らし、所得や資産のある人を中心に保険料や税金を上げて財源にする考えのようだ。
 橋下氏が言うとおり、消費税率を10%に上げても財源不足は解消しない。相続税の強化にも賛同する。給付の削減も避けては通れない。
 だが社会保障で肝心なのは、どこでどれぐらい給付を削り、負担を増やすのかという具体策であり、それで帳尻が合うかどうかである。
 想定される政策を箇条書きにしただけで、大まかな数字も示さず、具体的な設計は政権を取ってからというのでは、白紙委任を求めているのに等しい。
 社会保障と税への有権者の関心は高い。維新の公約は今の税体系を根本からひっくり返す提案でもある。
 このままでは有権者は是非を判断できない。政権を狙うからには、選挙戦を通じて肉付けし、国民に示すことが責務だ。

教育の課題―未来の大人に投資を


 「危機的状況に陥ったわが国の『教育』を立て直します」
 自民党が政権公約に掲げた。そして、「自虐史観偏向教育は行わせない」「教職員組合の政治的中立を確保する」と訴えている。
 だれかを敵に仕立てるより、訴えるべき「危機的な状況」がほかにあるのではないか。
 切実で解決の難しい問題を、現場は抱えている。
 3年前の国際学力調査で、日本の子どもたちの成績は改善した。しかし、成績の高い層がふえた一方で、低い層も多いことが問題点として指摘された。
 全国学力調査では、家庭の年収が高い子どもほど成績が良いという傾向がみられる。
 問題は、学力格差が大きく、しかも家庭の経済力の格差と結びついていることだ。
 先進国の中で日本は教育への公的な支出の割合が低く、家計の負担が重い。そのことが格差を生む要因になっている。
 子どもの学力がばらつき、家庭環境も多様になった。いじめにも目を光らせなくてはならない。一人ひとりに目の届くきめ細かい教え方が必要になる。
 日本の先生は、他の先進国に比べて一人でたくさんの子をみる。他の専門スタッフが少ないため事務作業や親への対応に追われ、勉強を教えることに専念しにくい。
 先生の定数や仕事のしかたを見直さなくてはならない。
 民主党政権は、格差を是正しようと、高校の授業料を無償化し、大学生らの奨学金の充実に取り組んだ。少人数学級化も、実現したのはまだ小1、小2までだが、進めた。
 自民党も教育投資の充実を訴えている。教員の定数の見直しや、格差の縮小に効く就学援助などの政策を掲げている。
 教育に金と人を投資すべきだという方向性は一致している。総選挙で追求すべきは、古めかしい右左の違いより、こちらではないか。
 高齢者の社会保障費が膨らむ一方、教育は受益者たる子どもが減っている。それに、投資しても効果はすぐには見えない。
 だから、教育への投資は理解を得にくい。けれども、放っておけば、さきざき私たちみんなにツケが回る。
 いま、企業は国際競争力の低下に悩んでいる。他方、この春卒業した大学生の2割は進路が決まらないか非正規で働いている。少子化によって、社会保障の担い手も細っていく。
 人を育てることに投資しなければ、社会の活力が失われる。それこそが教育の危機だ。

維新の会公約 二枚看板だけの戦いにするな


 政策が生煮えで、急ごしらえであることは否めない。これで国政を担えるのだろうか。
 日本維新の会が衆院選政権公約を発表した。
 石原慎太郎代表は、記者会見で「硬直した中央官僚の支配を壊す」と述べ、国のあり方を抜本的に見直すことを唱えた。
 かつて民主党も「霞が関の既得権益を一掃する」と大言壮語したものの、多くの公約を実現できなかった。維新の会にも、似たような危うさを感じざるを得ない。
 石原、橋下徹両氏の個性だけでは有権者は判断できない。やはり、説得力のある実行可能な政策に練り上げていく必要がある。
 公約は、借金依存の財政について「維持不可能」と断定した。
 しかし、財政再建を実現する道筋は不透明である。年に1兆円ずつ増える社会保障費についても新たな財源は、年金目的の特別相続税の新設などとあるだけだ。しかも、社会保障を支えてきた消費税は地方税化するという。
 公約を読む限りでは、財政危機への対応や、持続可能な年金、医療制度の構築について、有効な処方箋を示したとは言えない。
 原発政策は揺れているように見える。「脱原発依存」を掲げ、既存の原発は「結果として、2030年代までにフェードアウトする」と言及したが、曖昧だ。
 原発の再稼働問題への対応を明記していないことも問題である。当面、原発を活用するのなら、公約にそう書き込むべきだ。
 憲法改正を打ち出したのは結構だが、人気投票に陥りがちな「首相公選制」や、極めて難しい「参院廃止」などを具体例として挙げたのは理解に苦しむ。
 全体として、公約が分かりにくいのは、すぐに着手する政策と、中長期の課題を一律に並べているからだ。実現の優先順位を明確にしてもらいたい。
 一方、アジアの発展を取り込むための環太平洋経済連携協定(TPP)について「交渉参加」を掲げたのは評価できる。これに備えて農業にメスを入れ、競争力を高めようとする姿勢も妥当である。
 例えば、民主党政権が創設した戸別所得補償を専業農家に限定することや、農協組織の大幅見直しを目指すという。
 外交・安保政策では、集団的自衛権の行使を盛り込んだ。これは外交の基軸である日米同盟の深化に欠かせない。ぜひ実現を図ってもらいたい。

都知事選告示 東京の将来像示す政策論議を

 東京都知事選が告示された。4期13年半に及んだ「石原都政」の継承か転換かを問う選挙だ。
 衆院選と同じ12月16日に投開票される。異例の同日選となり、投票率アップが見込まれる。無党派層の投票動向が焦点となるだろう。有権者は各候補の主張を見極め、首都の将来へ1票を投じてほしい。
 9人が立候補を届け出た。有力4候補のうち、突然辞職した石原慎太郎前知事から後継指名を受けたのが、前副知事の猪瀬直樹氏だ。自民党が支援し、公明党、日本維新の会が支持している。
 日弁連前会長の宇都宮健児氏は日本未来、共産、社民の各党から支持を受けている。前神奈川県知事の松沢成文氏、元自民党総務会長の笹川尭氏は、特定の政党の支援を受けていない。
 政権党であり、都議会でも最大会派の民主党は独自候補を擁立できず、自主投票を決めている。
 石原都政の継承を訴える猪瀬氏に対し、他の3氏は刷新を主張する。最も対立しているテーマが、石原都政の「負の遺産」である新銀行東京をどう再建するかだ。
 中小企業の資金繰り支援のため石原前知事の肝煎りで設立されたが、ずさんな融資や業績低迷で経営難に陥った。すでに1400億円の都税をつぎ込んでいる。
 経営再建を掲げる猪瀬氏に対し、他の3氏は銀行の売却や清算を公約している。これ以上、都民の負担を増やすわけにはいくまい。4氏には、より具体的で迅速な対応策を示してもらいたい。
 原子力発電については、宇都宮氏と笹川氏が「脱原発」を打ち出している。
 東京は電力の大消費地であり、電力の安定供給が崩れれば、都市機能はマヒする。知事には都民生活を守る責務がある。原発の代替エネルギーを確保する見通しがない現状での脱原発は、無責任な主張ではないか。
 2020年の夏季五輪招致に関しては、宇都宮氏以外の3氏が積極的な姿勢を示している。宇都宮氏は「都民の意見を聞いた上で判断したい」と慎重な構えだ。
 五輪は日本全体を元気づける起爆剤ともなろう。新知事は招致活動の先頭に立ってもらいたい。
 首都直下型地震への備えを急がねばならない。帰宅困難者対策をより充実させる必要がある。
 独り暮らしのお年寄りの増加など、急速に進む高齢化対策は待ったなしだ。
 東京が抱える様々な問題について、活発な論戦を期待したい。

2012年11月29日木曜日

国防軍構想―自衛隊でなぜ悪い

自民党が政権公約で、憲法を改正して自衛隊を「国防軍」に位置づけると明記した。
 安倍総裁は「外に向かって軍隊、内に向かって自衛隊。こんな詭弁(きべん)はやめようというのが自民党だ」という。

 日本の安全保障政策の根幹に関わる問題であり、強い危惧を感じざるを得ない。

 国防軍構想は自民党の4月の憲法改正案に盛り込まれた。

 自民党作成のQ&Aによると、改正案では、(1)集団的自衛権行使に関する憲法上の制約をはずす(2)国際平和活動における武力行使を可能にする(3)軍法会議である「軍事審判所」も置く、などとしている。

 単なる名称の変更にとどまらず、「普通の軍隊」に近づけたいということだろう。

 だが、自衛隊は憲法9条の平和主義に基づき、専守防衛に徹し、海外での武力行使を禁じるなど、制約された実力組織として内外に広く認知されている。

 この制約を取り払えば、国際社会、とりわけ周辺諸国に「軍の復活」と受けとめられ、不信感を抱かせかねない。

 さらに、現在の自衛隊のままで、なぜ期待される役割が果たせないのかも疑問だ。

 有事対応や抑止力としての機能はもとより、災害救助などを通じて自衛隊は国民の信頼を得ている。東日本大震災での献身的な活動は記憶に新しい。

 国連の平和維持活動(PKO)にも積極的に参加し、その仕事ぶりは各国から高く評価されている。

 それを、なぜ変える必要があるのか。

 折しも、尖閣諸島や竹島をめぐり、中国や韓国との関係が悪化した。

 国防軍をめぐる論争は、タカ派でならす日本維新の会の石原代表らと強い姿勢を競い、「右」の支持層を奪い合っているようにも見える。しかし、内向きの安保論議は、中韓との関係改善には逆行する。

 ここで議論を喚起して、安倍氏主導で憲法改正に道を開きたい思惑もあるのだろう。

 もっとも、憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要だ。

 国防軍構想には、民主党のみならず、総選挙後に自民党と連立を組む可能性のある公明党も強く反発している。

 それらを考えると、果たして現実味のある話といえるのか。

 領土をめぐる対立にしろ、沖縄の基地問題にしろ、地に足をつけ、着実に取り組むべきだ。これこそ政治の第一の責任ではないか。

未来の党―脱原発の工程を示せ

 「卒原発」をかかげる滋賀県の嘉田(かだ)由紀子知事が、新党「日本未来の党」を結成した。

 国民の生活が第一や減税日本・反TPP・脱原発を実現する党の議員ら70人以上が合流し、日本維新の会とはまた別の勢力として名乗りをあげた。

 3・11以後、初の国政選挙なのに脱原発が選択肢として見えない。琵琶湖の自然保護に取り組む知事としてじっとしていられなかった――。結党に踏み切った嘉田氏の思いはわかる。

 嘉田氏は、隣りあう福井県にある関西電力大飯原発の再稼働の反対を呼びかけてきた。脱原発世論をすくい上げ、国会に反映する意味がある。

 各政党の原発政策にはあいまいな言いまわしが多く、違いが見えにくい。原発ゼロへの具体的な政策を打ち出すことで、議論が深まることを期待したい。

 嘉田氏はまた、地域や女性、子どもを党の理念の柱にしたいという。身のまわりのことを大切にする姿勢に、共感する人も少なくないだろう。

 ただ、気になる点もある。

 一つは小沢一郎氏の存在だ。自らの党の埋没に危機感を抱いていた小沢氏は選挙の顔として嘉田氏をかつぎ、生き残りのために結党をおぜんだてした。そうした見方があるのは事実だ。

 新党を作っては壊し、力を保ってきた小沢氏の政治スタイルが復活するようなら、脱原発も選挙むけの口実に終わる。

 知事にとどまる嘉田氏が党をどう取り仕切るか。東京で活動する党を、大津から指揮するやり方を示してほしい。

 もう一つは、新党内で他の政策の考え方に違いはあっても、脱原発では同じ方向を貫くことを確約できるかどうかだ。

 嘉田氏は「小異を生かしながら大同を作る仕組みをつくりたい」と語る。ならば、各党から集まった議員が選挙後も原発ゼロをめざす政策で一致し、有権者を裏切らない姿勢を示すことが必要だ。段階的に原発をなくす卒原発の言葉だけでは、他党と大差ない。ゼロへの工程表の提案が不可欠だ。

 原発が立地する地域の雇用問題の解決や、使用済み核燃料の再処理の即時廃止、高速増殖原型炉もんじゅの廃炉を経て、2022年をめどにすべての原発を段階的に廃炉にしてゆくという。それを、実現可能な公約にする必要がある。

 結党の背景には、ともに脱原発を訴えてきた橋下徹大阪市長が、石原慎太郎氏との合流で後退したことがある。嘉田氏は現場をもつ首長として、脱原発の論戦を引っ張ってほしい。

日本未来の党 「卒原発」には国政を託せない

 国力を衰退させる「脱原発」を政治目標に掲げる政党に、日本の未来を託せるだろうか。
 日本未来の党が、正式に発足した。代表に就任した嘉田由紀子滋賀県知事は「卒原発プログラム」を作成し、徐々に原発を減らして10年後をめどに原発ゼロにする意向を示した。
 「脱増税」「脱官僚」「品格ある外交」など抽象的な言葉ばかりを掲げている。経済や社会保障、安全保障といった重要なテーマでさえまだ政策がない政党だ。
 嘉田氏が「この指止まれ」と呼びかけたように見えるが、実態は国民の生活が第一の小沢一郎代表や、民主党を離党して新党を結成した山田正彦元農相らが根回しをして、合流を決めたものだ。
 空疎なスローガンと、生き残りのために右往左往する前衆院議員たちの姿には、政治家の劣化を痛感せざるを得ない。
 嘉田氏が掲げる「卒原発」は脱原発と大差はない。それだけでは願望に過ぎず、無責任である。
 電力の安定供給や代替エネルギー確保、経済・雇用対策、原子力の人材育成などについて現実的な計画を明確に示すべきだ。
 結党に際して発表した「びわこ宣言」には「原発事故の潜在的リスクが最も高いのは老朽化した多数の原発が集中立地する若狭湾に近い滋賀県」とある。電力供給の恩恵を受けておきながら、原発立地自治体への配慮が不十分だ。
 滋賀県の利害のために国政に進出するとの発想も改める必要がある。嘉田氏は知事と党首との兼務が可能かどうか悩んだという。政党運営の経験がないだけに、両立には困難が伴うに違いない。
 小沢氏が名称にもこだわった政党をあっさり捨てても、驚くには当たるまい。党首として前面に出たくなかったのだろう。その分、未来の党の公約原案には小沢氏の従来の主張が反映されている。
 日本維新の会と連携できず、民主党離党組の党だけでは選挙戦で埋没する。クリーンイメージの嘉田氏を「表の顔」に担ぎ出して巻き返そうと考えたようだ。相変わらずの小沢流である。
 「決められない政治」で既存政党に対する国民の不信感が高まる中、急ごしらえの新党の離合集散が目立っている。だが、新党は、国政を担う能力に疑問符が付き、政策も大衆迎合色が濃厚だ。
 有権者はそのことを十分理解した上で、新党の真価を見極めることが重要である。

就職内定率 新卒者へ一層の支援が必要だ

 「超氷河期」と言われた新卒者の就職事情は、最悪の時期を脱したが、状況は依然厳しい。
 来春卒業予定の大学生の就職内定率は10月1日現在、63・1%だった。東日本大震災の復興需要などで、2年連続で上向いたものの、2008年のリーマン・ショック以前の水準には回復していない。
 今年7~9月期の実質国内総生産(GDP)がマイナス成長になり、来年にかけての景気の先行きは不透明だ。今後、企業が採用を抑制する可能性もある。来春の卒業時までに、内定率がどこまで伸びるか、楽観はできない。
 それだけに、政府や各大学は、学生の就職支援に一層力を入れることが大切だ。
 新卒者の大企業志向は根強い一方、魅力的な事業を展開している中小企業に就職し、活路を見いだす若者も少なくない。未内定の学生も、広い視野を持って就職活動に取り組んでほしい。
 厚生労働省は、新卒者らの就職を手助けする「ジョブサポーター」事業を行っている。ハローワークの専門職員が大学に出張し、学生を個別企業に紹介するなど、きめ細かく指導する。この結果、昨年度は16万人余が就職した。
 衆院選の政権公約でも、民主、自民両党は、新卒者の就職率向上を掲げている。
 未就職者を試行的に短期雇用した企業への補助金支給や、ハローワークでの職業相談など、両党が唱える政策の一部は既に実施され、成果を上げ始めている。さらに充実させることが重要だ。
 今春の大卒者のうち、非正規雇用またはアルバイトで職に就いた人と、進学も就職もしていない人は計23%に上った。未就職者がいずれ仕事を見つけても、非正規雇用となる例が多いという。
 非正規労働者は、正社員に比べ賃金水準が低いうえにリストラの対象になりやすい。生活が安定しないため、結婚しない割合も高い。厚生年金が適用されない場合が多く、高齢期に低年金・無年金に陥る恐れもある。
 非正規雇用は企業にとって安価な労働力であり、非正規労働者が正社員になるのは容易ではないのが実情だ。非正規雇用の待遇改善は大きな政策課題である。
 雇用環境を改善するには、人手が必要とされている分野への就職を促すことが求められる。例えば高齢化で需要が伸びている医療・介護分野だ。人材不足の背景には低賃金などの事情がある。介護職員らの待遇改善策も必要だ。

2012年11月28日水曜日

民主党マニフェスト―政権党が逃げてどうする


 野田首相が民主党のマニフェスト(政権公約)を発表した。
 政権交代を実現した3年前の総選挙で、民主党が掲げたマニフェストの評判はさんざんだ。
 ムダ排除などで「16.8兆円の財源を確保する」構想は絵に描いた餅に終わり、多くの政策が実行不能に追い込まれた。
 一方、消費増税に道を開いた野田政権の決断は評価するが、逆にマニフェストに書いていなかったことで、やはり「公約違反」のそしりは免れない。
■自民との対立軸意識
 「バラ色の夢」を描いて破綻(はたん)した反省と、政権運営から得た教訓をふまえ、どんな内容に鍛え直したのか。有権者の厳しい評価にさらされることを覚悟せねばなるまい。
 まず目につくのが、政権を争う自民党との理念、政策の違いを強調している点である。
 憲法改正による「国防軍」の保持や、領土外交での強腰な姿勢、在日外国人に対する地方参政権付与への反対……。
 自民党は政権公約に、安倍総裁の持論でもある、右派色の濃い主張を盛り込んだ。
 民主党はマニフェストの冒頭で、これを「強い言葉だけが躍る強硬姿勢や排外主義は、国民と国を危うい道に迷い込ませる」と批判する。
 リベラルから中道、穏健な保守層まで、幅広い有権者を意識した現実的な主張といえよう。
 政策面では、「2030年代の原発ゼロ」を自民党との対立軸に掲げた。公共事業に軸足をおかず、自然エネルギーの普及などで経済再生をめざす方向性にも説得力がある。
 ただ、公約の具体的な中身を見ると、はなはだ物足りないと言わざるを得ない。
■姿消した「工程表」
 たとえば、目玉の「原発ゼロ」にしても、どのように原発を減らしていくのか、肝心の工程表を示していない。
 野田政権は年末までに工程表をつくる予定だったが、衆院解散で宙に浮いてしまった。政権を引き続き担い、本気で脱原発を実現するつもりなら、なぜそれを盛り込まなかったのか。
 さらに、核燃料サイクル事業について「あり方を見直す」、電力改革についても発電・送電・小売りの「あり方を抜本的に見直す」とあるだけだ。
 原発ゼロへの過程で、電気料金の値上げや立地地域の経済構造の転換、使用済み核燃料の管理・処理などさまざまな課題や痛みが伴う。それらに対する姿勢をぼやかしたままでは責任ある政策とは言えない。
 そのほかの政策も、所要額や実行年度をほとんど明らかにしておらず、自民党の公約と同様、項目の羅列が目立つ。
 これでは、財源や期限を明示して政権の実績を評価する、マニフェスト本来の意味がない。
 社会保障と税の一体改革は緒についた。それでも年金・医療・介護などの財源不足は解消せず、赤字国債を発行して将来世代にツケを回す構造が続く。
 国民のくらしを持続可能にするには負担増、給付の抑制の議論は避けられない。
■痛みの分配は盛らず
 なのに、マニフェストに盛られた国民に負担を求める政策といえば、一体改革で積み残された所得税・相続税の見直しと、生活保護の不正受給の防止ぐらいだ。
 選挙前に有権者の耳に痛い課題を避けたというのでは、責任ある態度ではない。
 野田首相が、原発政策と並ぶ自民党との争点と位置づける環太平洋経済連携協定(TPP)でも逃げ腰の姿勢が目立つ。
 首相が意欲を見せるTPP交渉参加を明記せず、「TPP、日中韓FTA(自由貿易協定)、東アジア地域包括的経済連携を同時並行的にすすめ、政府が判断する」と政府にゲタを預けてしまった。
 党内に多い反対論に配慮してのことだが、これでは自民党のTPPへの姿勢が不明確だと批判はできまい。
 前回のマニフェストから後退した記述もある。
 日米地位協定をめぐり、前回は「改定を提起」すると明記していたのに、今回は「運用改善をさらにすすめる努力を行う」。米軍再編や在日米軍基地のあり方についても「見直しの方向で臨む」が、「日米合意を着実に実施する」に後退した。
 政権を担って、問題の難しさを痛感したということだろう。
 だが、普天間移設問題や相次ぐ米兵の事件で、沖縄県民の負担感がかつてなく高まっている折である。本来なら逆にもっと踏み込むべきところだ。
 これが民主党がめざす「現実的な外交防衛」だとしたら情けない限りだ。現実主義と敗北主義は違う。
 3年前の公約をめぐる手痛い「失敗」が、民主党の重い足かせになっているのは確かだ。
 だが、困難から逃げず、現実的で説得力ある道筋を描くことこそ政治の責任である。今後の論戦でそれを示してほしい。

「国防軍」 本質的な憲法論議に踏み込め

 自民党が政権公約で、「国防軍」を保持するとした憲法改正を掲げたことが衆院選の争点の一つに浮上してきた。
 各党は、これを機に、より本質的な憲法改正論議に踏み込むべきである。
 自民党の公約に対し、野田首相は「あえて国防軍と名前を変え、憲法を改正して位置づける意義が分からない」と発言した。これが論戦に火を付けた。
 自民党の安倍総裁は、自衛隊は国際法上、軍隊と見なされているのに、政府の憲法解釈では軍隊ではないとされていることこそが問題だと反論した。軍隊でなければ、万一の場合、自衛隊員は捕虜として扱われないとも言及した。
 もっともな見解である。
 憲法9条は、第1項で戦争を放棄し、第2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と戦力不保持を定めている。
 自民党の公約は、谷垣総裁当時の4月に発表した憲法改正草案に沿ったものだ。草案は9条1項を継承する一方で、2項は削除した。その上で「自衛権の発動」を妨げるものではない、として「国防軍」の保持を明記している。
 憲法に、自衛のための組織を明確に記すことは当然だ。自衛隊の法的な位置づけを巡る混乱に終止符を打つべきである。
 読売新聞も2004年の憲法改正試案で、「自衛のための軍隊」保持を盛り込んでいる。
 首相自身、野党時代の自著で、自衛隊を「外国から見たら、日本軍だ」とし、「きっちり憲法の中で位置づけなければいけない」と主張しているではないか。
 自らの持論を否定するような発言をするのは理解に苦しむ。
 首相が自民党の公約について、「自衛隊を大陸間弾道弾を飛ばすような組織にするのか」などと発言しているのも問題である。安倍自民党に「タカ派」のレッテルを貼り、殊更に有権者の不安を(あお)ろうとする選挙戦術そのものだ。
 一方、民主党の新たな政権公約(マニフェスト)からは憲法改正に関する記載が姿を消した。「自由闊達(かったつ)な憲法論議を」とした3年前よりも後退した感が強い。
 「国防軍」を巡る論戦を仕掛けた以上、民主党は憲法で自衛隊や自衛権をどう位置づけるのか、方針をまとめるべきだ。
 衆院選では、憲法とも関連する、集団的自衛権行使の是非や、自衛隊の国際活動のあり方についても活発な論戦を期待したい。

民主党政権公約 「現実化」と具体策を聞きたい

 厳しい批判を招いた政権公約(マニフェスト)の見直しだけに、時間と労力をかけたのは確かだが、この内容で国民に評価されるだろうか。
 民主党が衆院選マニフェストを発表した。社会保障、経済、エネルギー、外交・安全保障、政治改革の5項目を重点政策として掲げている。
 年16・8兆円の財源捻出など、非現実的な目標を満載した2009年マニフェストの破綻の反省を踏まえて、数値目標や達成期限の明示を最小限に抑えたのは当然である。しかし、まだ現実化路線が不十分な点も少なくない。
 社会保障では、前回同様、最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止を明記した。最低保障年金では「月7万円」との記載は見送ったものの、それには最大6・2%もの消費税の追加増税が必要と民主党が試算している。
 「社会保障制度改革国民会議の議論を経た上」としているが、少子高齢化に伴い、社会保障費全体の給付抑制が課題となる中、実現性が乏しいのは明らかだ。
 野田政権の政策を踏襲した「2030年代の原発稼働ゼロ」方針も、責任ある対応ではない。
 核燃料サイクルの見直し、人材・技術の維持、国際連携、再生可能エネルギーの飛躍的普及など、様々な課題を列挙しただけで、どう実現するのか、肝心の具体策と道筋を提示していない。
 これでは、財源の裏付けがない事業の公約と同じだ。有権者に対して説得力を欠いている。
 一方で、踏み込み不足になったのが、環太平洋経済連携協定(TPP)の参加問題である。
 公約は、TPPや日中韓自由貿易協定(FTA)、東アジア包括的経済連携(RCEP)を「同時並行的にすすめ、政府が判断する」という表現にとどめた。
 党内のTPP慎重・反対派に配慮して、政府方針がまだ最終決定されていないことを強調したものだ。TPPの「推進」を明記した10月の野田首相の所信表明演説と比べても、後退している。
 前回のように小沢一郎元代表ら一部の意思で公約が決まるのも問題だが、今回、幅広い党内論議の結果、首相が望む方向でTPPの結論を出せなかったことには、政権党として不安を禁じ得ない。
 外交・安保も、「日米同盟の深化」といった抽象論に終始した。自民党公約にある集団的自衛権の行使容認、日米防衛協力指針の改定などの具体論がないままでは、同盟深化は画餅にすぎない。

2012年11月27日火曜日

東京都知事選―くらしの安心を語れ

 東京都知事選の告示が、29日に迫ってきた。
 石原慎太郎前知事は13年余り都政のかじ取りを続けた。初めはディーゼル車排ガス規制といった生活に密着する課題にも取り組んだ。しかし、終盤は尖閣諸島の問題のような国レベルの「大きな政治」を語ることに終始した観が強い。
 今回、立候補する人たちに語ってほしいのは、1300万人が住む東京のトップとして、住民のくらしの安心をどう築くかだ。10年後、20年後を見すえた大きな行政の見取り図を示してもらいたい。
 とりわけ、急速な少子高齢化への対応と、首都直下型地震をはじめ災害への備えである。
 都の予測によると、これから10年前後で(1)都民の4人に1人が高齢者(2)お年寄りの4人に1人が一人ぐらし(3)お年寄りの6割が75歳以上の後期高齢者――という時代がくる。
 土地が狭く地価が高い東京では十分な施設を造れない。「すでに東京から周辺県の介護施設へお年寄りの流出がおきている」と、社会保障に詳しい池田省三・龍谷大名誉教授は語る。
 比較的元気なお年寄りが、介護や見守りのサービスを受けながら自宅や地元でくらしてゆける仕組みをどう作るか。
 年金だけには頼れない時代である。くらしと生きがいを支えるために、定年後も働ける場が要る。歩道橋の多い車中心の街から、徒歩で動きやすい街に変える。そんな視点も必要だ、と都政に詳しい佐々木信夫・中央大教授は語る。
 一極集中の影響でしばらく子どもが増えてきた東京も、昨年度から出生数が減少に転じた。
 近年、都心部など通勤が便利な地域は子どもが増え、郊外は減る傾向が強い。子育てしやすい環境を都内全域にどう整えるか。ヒントは足元にもある。
 例えば、港区はNPOと手を結び、家庭に出向いて子どもの世話をする「派遣型一時保育」に取り組む。選挙戦を、こうした少子化に向き合う知恵を語り合う機会にしたい。
 防災では、およそ517万人と見込まれる首都直下型地震の帰宅困難者対策が難題だ。
 都と国は各企業に、外からの避難者の分を含め「従業員数プラス1割」の食料などを3日分蓄えるよう求めている。が、避難者の安全確保の責任などから企業側には戸惑いもある。
 少子高齢化も防災も都庁だけで解決できるテーマではない。民間との協働が欠かせない。粘り強く対話を重ねられるリーダーを選びたい。

候補者名簿―「半分は女性」めざせ

 日本に新しい政治をもたらす一つの大きなかぎは、女性の力を生かすことにある。
 来月の総選挙で、各政党は、女性議員をふやす手立てを思い切って講じるべきだ。
 たとえば自民党の政権公約は「女性力の発揮によるいい国づくり」をうたう。
 ならば、自ら始めるべきだ。
 指導的地位にある女性を2020年までに30%、という目標をまず実現してはどうか。女性候補を積極的に立て、比例区の名簿でも優遇するのだ。
 政治に多様な民意を反映させるのは民主主義の基本である。今の日本には、さまざまな個性や能力が必要だ。
 ところが、日本の女性議員の割合は際だって低い。衆議院議員の女性比率は、3年前にやっと1割を超したものの、10.8%にとどまる。
 世界経済フォーラムは先月、各分野での男女差を指標化した「ジェンダー・ギャップ報告」を発表した。日本は2年連続で順位を下げ、135カ国のなかで101位だった。健康状態や教育の程度はまずまずなのに、経済分野での参加にくわえ、とりわけ政治への参加が110位と低い。
 世界では、議員やその候補者の一定割合を女性にするよう決めることで、女性議員の割合を増やしている国が多い。クオータ(割り当て)制と呼ばれる。
 たとえば、韓国の女性議員の比率は05年に1割を超し、今では14.7%だ。
 原動力となったのは、政党法や公職選挙法の改正だ。比例代表については、名簿に載せる候補者の50%、そして奇数順位を女性にすると定めた。小選挙区でも30%を女性とする努力義務を政党に課したが、こちらは利害の調整が難しく、数字の伸びを低くしているそうだ。
 ドイツは、各政党が独自に規則を定めた。比例代表の女性の比率を一定以上にしたり、名簿では奇数順位を女性にしたり、というもので、女性議員の割合は32.9%にまで増えた。
 日本でも、各政党がこうした目標を定めることから始めるべきだ。将来にむけて、必要なら法律で定めることも含めて議論を始める必要がある。国会も男女半々になるのが自然だろう。原発や領土の議論でも多様な意見が増すに違いない。
 国際通貨基金のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は来日した際、「日本の活性化には、女性の力がいる」と述べた。
 外から言われるまでもない。女性の力を生かさないでいる余裕は日本にはない。

電気料金値上げ 再稼働と合理化で負担抑えよ

 電力を安定供給するため、電力会社が一定の値上げに踏み切るのはやむを得まい。
 関西電力が26日、家庭向け電気料金について、約12%の値上げを経済産業省に申請した。認可が不要な企業向けも平均19%値上げする方針で、来年4月の実施を目指す。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、関電管内では福井県の大飯原発2基しか再稼働していない。代替電源である火力発電所の燃料費が増大し、赤字拡大に歯止めがかからない状況だ。
 関電は「このままでは最大の使命である電力の安定供給に支障をきたしかねない」と説明した。
 値上げ申請に合わせ、人件費など年1500億円の経費節減を打ち出したのは妥当である。さらなる合理化に努めてほしい。
 値上げに理解を得るには、政府が認可審査にあたって、料金原価が適正かどうか厳しく調べることも重要と言える。
 関電に続いて、九州電力が27日に値上げを申請する。北海道、東北、四国の3電力も、状況次第で追随する可能性がある。
 東電が今年4月から値上げを始めた後も、各電力は内部留保を取り崩して値上げを控えてきたが、もはや限界のようだ。
 電力会社が徹底した合理化で値上げ幅を圧縮するのは当然だが、リストラだけで値上げは抑えられない。安全性を確認できた原発を活用することが不可欠である。
 関電の値上げ幅は、高浜原発2基の再稼働が前提だ。九電も3~4基の再稼働を見込んでいる。
 政府の原子力規制委員会が新たな安全基準を策定するのは、早くても来夏となる。政府は時間を空費せず、安全を確認後、円滑に再稼働できる手順を用意しておくべきだ。地元の理解を得るための信頼醸成も求められる。
 再稼働が実現しないと想定を超える燃料費がかかり、追加値上げを迫られる可能性がある。
 電気料金が急騰すれば、家庭への影響は大きい。経営体力の弱い中小企業も倒産・廃業の危機に直面しよう。工場が海外移転する産業空洞化の加速で、国内雇用が急速に失われる懸念は拭えない。
 料金高騰の防止に向け、液化天然ガス(LNG)などの燃料を安く調達する戦略も推進したい。資源国との交渉や資源開発で、政府の果たすべき役割は大きい。
 日本が「原発ゼロ」を掲げたままでは資源国に足もとを見られ、交渉は不利になる。現実的なエネルギー政策への転換が急務だ。

韓国大統領選 対日・「北」政策を注視したい

 韓国大統領選が告示され、12月19日投開票へ向け、選挙戦に入った。
 李明博政権で冷え込んだ北朝鮮や日本との関係は変わるのか。我が国にも影響を及ぼす重要な選挙だ。
 5年ぶりの今回選挙は、与党セヌリ党の朴槿恵候補と、最大野党・民主統合党の文在寅候補による事実上の保革一騎打ちだ。有力候補とみられた無所属の安哲秀氏が告示直前に出馬を辞退したためで、接戦が予想されている。
 保守勢力を代表する朴氏は、初の女性大統領を狙う。父親は、日本との国交正常化に踏み切って韓国を高度経済成長路線に導いた故朴正煕大統領である。
 一方、文氏は金大中政権以来の左派の流れをくむ。かつて朴大統領の長期独裁に反対し、投獄された経験を持つ。人権派弁護士として活動し、盧武鉉前大統領の秘書室長を務めた。
 同世代ながら対照的な経歴の2人は、政策の違いも鮮明だ。激しい論戦を注視したい。
 最大の争点は、経済政策だ。
 李大統領は、米欧などとの自由貿易協定(FTA)推進を軸に輸出を大きく伸ばしたが、富裕層と低所得者層の格差が広がった。若者の雇用難が続き、大企業だけを優遇したとの批判が強い。
 両候補が共に「経済民主化」で格差是正を掲げるのは、そのためだ。文氏は財閥改革や労働者重視に力点を置く。成長をどう確保するのか、具体策が問われよう。
 第二の争点は、対北朝鮮だ。
 文氏は、金、盧両政権の対「北」融和政策の継承をうたい、食料や肥料の大規模支援を復活させる意向だ。来年に南北首脳会談を行うと宣言した。核放棄をどう迫るのか、明らかにしてもらいたい。
 朴氏も「関係発展のためなら」首脳会談を辞さぬ構えだが、北朝鮮の挑発を抑止しつつ、信頼醸成に基づき関係を築く“漸進”主義だ。まだしも現実的と言える。
 重要なのは対日政策である。
 李大統領の竹島訪問と「天皇の謝罪」要求発言で、日韓関係は悪化した。両候補は「未来志向」を口にし、修復に前向きではある。朴氏は、日韓のFTA交渉の再開にも言及している。
 だが、竹島など特定の問題では厳しい立場のままだ。とくに文氏は、竹島問題で「これ以上、静かな外交はしない」と述べる一方、慰安婦問題でも日本政府の法的責任を追及する態度を見せる。
 強硬一辺倒で日韓関係を停滞させた盧武鉉外交の再現になりかねない、との懸念は拭えない。

2012年11月26日月曜日

総選挙・政治とカネ―どの政党が正せるか

 政党交付金の制度ができたとき、腐敗の元凶の企業・団体献金をなくし、清潔な政治を実現するステップだと説明された。

 だが20年近くが過ぎた今も、あて先が個人から政党支部に看板がえしただけで、献金が続いていることに変わりはない。

 骨抜き、とはこのことだ。

 あろうことか、旧来の政治との決別をとなえ、企業・団体献金の禁止を党規約に盛った日本維新の会も、この方針をあっさり撤回してしまった。

 橋下徹代表代行は「ちょっと修正をかけた」という。何のことはない。合流した太陽の党にならった、つまり、企業・団体にすがる古い勢力と同じ道をゆくという話ではないか。

 政治とカネ。今回の総選挙でも忘れてはならない課題だ。

 民主党政権はこの醜聞でつまずき、輝きを失った。

 鳩山由紀夫氏は、母親から毎月1500万円もの金を受けとりながら「秘書に任せていて私は知らない」と述べ、その元秘書は政治資金収支報告書にうそを書いたとして有罪になった。「裁判が終われば使い道を明らかにする」という氏の約束もほごにされ、不信を残した。

 小沢一郎氏をめぐる政治資金事件も同様である。

 本人の無罪は確定したが、元秘書3人は一審で有罪判決をうけた。「収支報告書など見たことがないし、見る必要もない」と法廷で言いきった小沢氏に、国民はあぜんとした。

 民主党には、労組からの違法献金で辞職した議員もいた。にもかかわらず、政治の浄化をうたった3年前の政権公約の実現にむけて、党が一生懸命汗をかいた跡は認められない。

 自民党も相変わらずだ。今回の公約集にも、「政治資金のより一層の透明性を確保する」との抽象的な一文が、言い訳のように書かれているだけだ。

 企業・団体献金の禁止をはじめとして、とるべき手立てははっきりしている。

 政治家が資金管理団体や政党支部など多くの「財布」をもつ現状をただし、金の流れを一本化して見えやすくする。

 会計責任者の「選任」と「監督」の両方に落ち度がなければ政治家本人の責任は問えない。そう定めている現行法を改め、言いのがれを封じる――。

 政党が乱立し、どこも独自の色をみせようと懸命だ。

 今こそ政治とカネについて明確な主張と具体的な改革案を示し、自分たちの姿勢をアピールしてはどうか。政党のやる気、そして国民感覚との距離を測るうえで、格好のテーマである。

米アジア外交―繁栄にいざなう力を

再選を果たしたオバマ米大統領は、「アジア重視」をさらに進める構えだ。なかでも東南アジア重視の姿勢を強めている。
 先日、プノンペンで開かれた東アジアサミット出席にあわせてまわりの国も訪ねた。

 台頭する中国の存在が念頭にあるのは間違いない。

 自由や民主主義といった価値観を共有する国々のネットワークを築き、国際社会の決まりを守りながら成長を続けるように中国をいざなうべきだ。

 オバマ氏は訪問で、アジア重視路線の持つ可能性と、米国の存在感を示した。とりわけそれが表れたのが、米大統領として初めて訪れたミャンマーだ。

 この国は長らく軍政のもとで自由が抑圧されていたが、11年の民政移管で大統領に就いたテインセイン氏が改革を進め、情勢が一変した。

 自宅軟禁されていた民主化運動指導者、アウンサンスーチー氏は自由になった。米政府は制裁の大幅解除を決め、安価な労働力を見込んだ外国企業の進出意欲も高まっている。

 真の改革かどうか、懐疑的な声もある。北朝鮮との軍事的なつながりも見つかった。それでも訪問に踏み切ったのは、取り組みを後押しし、確かなものにする狙いがある。

 オバマ氏は4年前の就任演説で、抑圧国家に「握りこぶしを開くなら、我々は手を差し伸べよう」と呼びかけた。

 ミャンマーの動きはその考えにあい、ほかの独裁国の手本にしたい期待も強い。

 ミャンマー側も政治犯を釈放するなど、米国への配慮を見せた。国民も熱烈に迎えた。国際社会への扉が開かれ、将来への期待感が生まれている。

 それを可能にする力が、米国の強みなのだ。

 一方、米国の影響力を警戒する中国は、東南アジア諸国の囲い込みに動いている。南シナ海領有権問題を国際化しないように働きかけもした。

 だが、アジアには両国が共存できる大きさと深さがある。二者択一を迫るのは無益だ。米国とアジアの関係を鏡に、中国は自らのあり方を見直すべきだ。

 米国は、一国で世界を引っ張るのではなく、各国との協調で影響力を保とうとしている。豪州やインドとの関係も強化している。

 日本もその輪の中で、存在感を発揮しうる。

 オバマ氏がアジアを重視する大きな狙いの一つは「貿易と投資の拡大」だ。共に豊かになるためには、この地域の安定が何よりも大事だ。

社会保障 持続可能な制度へ論戦深めよ

 ◇年金などの給付抑制が不可欠だ
 持続可能な社会保障制度をどう築くか、各党は現実的な政策を競い合うべきだ。
 少子高齢化が急速に進む。1人の高齢者を2・4人の現役世代で支える今の「騎馬戦型」社会は、30年後には1人を1・3人で支える「肩車型」社会になる。このままでは社会保障制度は早晩行き詰まるだろう。
 ◆一体改革の意義説明を◆
 増え続ける社会保障支出を賄い、財政を再建するため、民主、自民、公明の3党は消費税率の引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革関連法を成立させた。
 だが、国民の生活が第一などは消費増税の撤回を掲げている。日本維新の会は「消費税で社会保障を賄うのは不可」としているが、疑問だ。民自公3党は、衆院選で改革の意義を丁寧に訴える必要がある。
 懸念されるのは、各政党が選挙戦で有権者の歓心を買おうと、社会保障給付の拡充や負担軽減ばかりを唱えがちになることだ。
 漫然と給付を拡大するなら、際限なく消費増税を続けなければならない。
 社会保障給付の抑制策を提示することは、政治の責任である。
 年金給付を抑制するため、臨時国会で、改正国民年金法が成立したことは評価できる。2・5%の過払いとなっている給付が、ようやく本来の水準に戻される。
 年金財政の安定には、人口や賃金の変動に合わせて、年金水準をさらに引き下げる必要がある。
 労働力人口の減少や、不況に伴う賃金水準の低下で、年金保険料を納める現役世代の負担は重くなる一方だ。保険料や税の負担に比べ、給付が若い世代ほど少なくなる「世代間格差」が拡大し、制度の維持は難しくなる。
 急増する非正規労働者に対する厚生年金の適用拡大や、低年金・無年金者対策についても論じてもらいたい。
 民主党は年金制度を抜本的に見直そうと「最低保障年金」の創設を提唱している。だが、民主党が従来「月7万円」としてきた給付額を税財源で賄うと、消費税をさらに最大6・2%引き上げる必要があり、実現性に乏しい。
 今回の衆院選の政権公約(マニフェスト)原案に給付額の記載がないのは、こうした批判を意識したためだろう。
 ◆危機的な健康保険財政◆
 一方、自民、公明両党は現行制度の維持を主張しているが、そのための具体策は十分ではない。
 各党は、年金の将来像と制度の改善策を示すべきだ。
 団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、医療や介護の需要は増大する。在宅医療・介護サービスの拡充や、介護施設の整備は急務と言える。
 民主党は、後期高齢者医療制度を廃止し、75歳以上の高齢者は国民健康保険に移行することを主張している。
 だが、この制度は既に定着しており、廃止の必要性は希薄だ。
 自民党は「現行制度が基本」としているが、改めるべき点はあろう。高齢者医療への巨額の拠出金で、協会けんぽなどの健康保険財政が危機に陥っている。
 各党は制度の見直しに、もっと知恵を絞る必要がある。
 70~74歳の医療費の窓口負担を1割に抑える特例措置をやめ、法律の規定通り2割負担に引き上げることも懸案だ。
 複数の医療機関の受診や検査、投薬の重複、急増する調剤費など医療費の適正化も求められる。
 介護サービスは、現在は要介護状態ほど重くない要支援者も対象になっているが、今後は自己負担の引き上げや重度の要介護者への重点給付が検討課題になろう。
 少子化対策にも力を入れなければならない。1人の女性が産む子供の数を示す合計特殊出生率は、11年に1・39と低水準だ。
 社会保障と税の一体改革で、消費増税分のうち7000億円を子育て支援に充てることになっている。それでも欧州諸国に比べ依然少ない少子化対策費をどう確保するか、という観点も重要だ。
 ◆国民会議の役割は重い◆
 近く設置される社会保障制度改革国民会議が果たす役割は小さくない。信頼できる社会保障体制の構築を議論し、給付の抑制策をまとめる必要がある。
 社会保障制度は安定したものでなければ、国民の不安は解消しない。どの政党が政権についても、制度を維持しながら、状況の変化に応じて修正を加えていくべきである。それを念頭に、建設的な論戦を展開してもらいたい。

2012年11月25日日曜日

社会保障の改革―負担に口をつぐむな

 どの党が政権を握ろうと、団塊の世代を核とする人口高齢化の大波は、確実にくる。
 この総選挙では、二つの評価軸が必要だ。
 ひとつは「将来世代に恥ずかしくないか」である。今の世代への給付ばかりを語り、それに見合った負担を求めないのは無責任だ。
 もうひとつは「高齢世代が、安心して最期を迎えられるか」である。
■特効薬は存在しない
 前回の総選挙では、民主党が年金と高齢者医療の改革を掲げて勝利した。
 しかし、どちらも法案の国会提出すらできなかった。
 年金で民主党が掲げたのは、最低保障年金だった。新たな負担なしに、だれでも、すぐに月額7万円以上受け取れるかのような幻想を振りまいた。
 今年、ようやく簡単な財政試算が出た。多くの人の年金額が減り、今の無年金・低年金は解消せず、追加の消費増税が必要なことが明らかになった。
 「うば捨て山」と批判された後期高齢者医療制度の改革はどうか。08年4月の制度スタート時に起きた混乱をふまえ、民主党は廃止を約束した。
 こちらは2年前、厚生労働省を動かして制度案をつくった。看板の掛け替えに過ぎなかったが、それでも実現しなかった。
 運営を担うとされた都道府県が負担増を恐れ、ノーを突きつけたのに対し、民主党政権は説得や調整ができなかった。
 魔法の特効薬は存在しない――。それが、この3年間の教訓である。
 年金や医療で目新しい政策を掲げ、「抜本改革」を約束する政党は今後も出てくるだろう。私たち有権者は、同じ過ちを繰り返してはならない。
■将来世代のために
 特効薬がなければ、地道に体質改善を進めるしかない。
 いま、私たちが使う社会保障費のうち、赤字国債でまかなう約12兆円分は将来世代へのツケ回しになる。
 このままでは恥ずかしい。消費増税で、この部分を穴埋めするのは当然である。社説でも、民主、自民、公明3党が今の世代に痛みを伴う政策で合意したことを評価してきた。
 だが、足元の動きをみると、不安がつのる。
 物価が下がっているのに据え置かれた年金額を、本来の水準に戻す措置は公明党の反対もあり、まる1年先送りされた。
 さらに、現役世代の減少などを反映して年金額を抑える仕組みも、物価の下落によって発動できず、ここでも年金額は高止まりしている。
 年金制度は、世代から世代へお金を受け渡すための「財布」だ。今の受給者が使いすぎた分は、将来世代が受け取る額の減少につながる。
 「100年安心」とうたって今の制度にしたのは、自公政権だ。ところが、両党の公約には制度が予定通りに機能していない現状への対応策がない。
 あるのは「持続可能な年金制度にする」(自民)というあいまいな表現や、「最低保障機能の強化」(公明)というアメだけである。
 高齢者の医療も同様だ。自公政権の08年度から、70~74歳の窓口負担は、現役並みの収入がある人を除いて2割になった。だが、特例で1割に据え置いており、年間2千億円の税金がかかっている。
 これを法律通りに引き上げるのかどうか。両党とも口をつぐんでいる。もし、その理由が「社会保障制度改革国民会議で議論する」というのなら、単なる不人気政策の先送りだろう。
■安心できる最期へ
 もうひとつの評価軸である「安心して、地域で最期を迎えられる展望が示せるか」は、団塊世代の有権者にとっても切実なテーマのはずだ。
 2025年に、この世代は全員が後期高齢者(75歳以上)の仲間入りをする。
 認知症高齢者は現在の1.5倍に増え、470万人になる。自分がそうなった場合、適切なケアを受けながら、住みなれた地域で暮らせるだろうか。
 単純に推計すると、75歳以上が使う医療費は、10年度の12.5兆円から30年度は20.6兆円に増える。終末期を医療機関に依存するのは限界があり、また望ましくもない。
 治療に集中する病院と、在宅での生活を支える診療所や介護事業者との役割分担と連携を進め、効率化する必要がある。看護師や介護職員の大幅な増員が不可欠だろう。
 その具体的なイメージを示して、実現に向けて規制緩和や制度改革を進める。必要な費用についても、ごまかさず説明することを各党に求めたい。
 各政党は選挙の度に、サービスや給付の充実を競う一方、負担には口をつぐんできた。
 今回も、すでにその色合いが濃い。厳しくチェックしていかなければならない。

エネルギー政策 「脱原発」の大衆迎合を排せ

 ◆電力安定確保の観点で選択を◆
 国民生活と経済成長に不可欠な電力をどのように安定的に確保するか。衆院選でエネルギー政策は大きな争点となる。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、各党の原発政策が注目される。
 「脱原発」か、否か、という単純な二項対立では、資源小国・日本の諸課題を解決できない。各党は景気や雇用、地球環境、核不拡散など多角的な視点から、地に足の着いた論戦を展開すべきだ。
 ◆無責任な民主党の公約◆
 福島の事故で原発の安全に対する国民の不安は高まった。原発の安全性を向上させ、再発防止に万全を期さなければならない。
 エネルギー自給率が4%の日本が、全電源の約3割を占める原発をただちに放棄するのは非現実的だ。
 ムードに流されて安易に脱原発に走れば、「経済の血液」である電力供給が弱体化する。日本経済の将来に禍根を残しかねない。
 各党と有権者は、重大な選択の岐路に立っていることを自覚して選挙に臨む必要がある。
 懸念されるのは脱原発を掲げる政党が目立つことだ。国民の不安に乗じて支持拡大を狙う大衆迎合ではないか。
 民主党は政府が「革新的エネルギー・環境戦略」で打ち出した2030年代の「原発ゼロ」を、政権公約(マニフェスト)に盛り込むという。経済への打撃を軽視した、欠陥だらけの「戦略」をそのまま公約するのは問題だ。
 民主党政権の「脱原発路線」の影響で、ほとんどの原発が再稼働できていない。老朽化した火力発電所をフル稼働する綱渡りの中、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入が急増し、年3兆円もの国富が流出し続けている。
 工場が海外移転する産業空洞化も加速し、国内雇用は危機に直面している。民主党は自らの“電力失政”への反省が足りない。
 自民党の安倍総裁は、民主党の「原発ゼロ」方針を「極めて無責任だ」と批判した。科学的に安全性が確認できた原発は政府が責任を持って再稼働させると明言したのは、政権復帰を目指す責任政党として妥当な姿勢である。
 自民党の公約が、中長期的なエネルギー構成を10年かけて決めるとしているのはスピード感に欠ける。原発を有効活用する明確な方針を打ち出すべきだ。あわせて核廃棄物の処理について検討を進めることが欠かせない。
 民主、自民の両党に次ぐ「第3極」を目指す日本維新の会が、石原慎太郎前東京都知事の率いる太陽の党と合流した際、「30年代に原発全廃」の従来方針を取り下げたのは結構な判断だった。
 だが、新たな政策が「新しいエネルギー需給体制の構築」というだけでは、あいまい過ぎる。
 一方、即時あるいは早期の原発ゼロを主張するのが、国民の生活が第一や共産党などである。
 ◆再生エネ過信は禁物だ◆
 反原発派は夏のピーク時に停電しなかったため「原発なしで電気は足りる」と主張するが、生産停滞や電力料金の上昇などの悪影響を無視した的外れな見解だ。
 脱原発のマイナス面も率直に有権者に示して選択を求める誠実な姿勢が求められる。
 ほとんどの党は、原発の代替電源として太陽光や風力など再生可能エネルギーを挙げる。再生エネの普及に期待したいが、水力を除けば全発電量の1%強にすぎない。すぐに原発に代わる主要電源に育つと見るのは甘すぎる。
 当面は石炭やLNGなど火力発電の増強で対応せざるを得まい。火力発電の増加による温室効果ガス排出や大気汚染など、環境問題に触れずに、「脱原発」を唱えるのはご都合主義である。
 発電燃料を原油に頼り、停電の危機に陥った石油ショックの教訓は重い。原発を含む多様な電源の選択肢を持つことが大切だ。
 ◆外交・安保にも影響が◆
 政府・民主党の「原発ゼロ」方針には、核燃料サイクルを同時に進める矛盾について欧米から疑問が呈された。米国は原子力の平和利用や核不拡散に支障が出かねないとして、強い懸念を示した。
 再処理した核燃料を発電に使わないと、核兵器に転用できるプルトニウムの保有量が、再処理で増え続けることになるからだ。
 日米原子力協定で認められているプルトニウム保有という特別な権利も、アジアにおける米核政策のパートナーの地位も、日本は同時に失う恐れがある。外交・安全保障の観点からも、安易な「脱原発」は避けるべきである。

2012年11月24日土曜日

維新の変節―白紙委任はしない


 原発はゼロにするかもしれないし、しないかもしれない。環太平洋経済連携協定(TPP)には参加するかもしれないし、しないかもしれない――。
 太陽の党と合流して日本維新の会の主張が、がぜんあいまいになった。代表代行になった橋下徹大阪市長は街頭演説でこう言い切る。
 「政治に必要なのは政策を語ることではない。組織を動かし、実行できるかどうかだ」
 自分や太陽の党を立ち上げた石原慎太郎代表は大阪と東京で行政トップを経験し、組織を動かす力がある。どう動かすかは任せてほしいといわんばかり。だとすれば、有権者に求められているのは政策の選択ではない。白紙委任である。
 維新は、党規約に明記していた企業・団体からの政治献金の禁止を、撤回した。「選挙を戦えない」という太陽側の意向を受け、上限を設けて受け取ることにしたという。
 「脱原発」は看板政策だったはずだが、揺らいだ。
 安全基準のルールをつくれば「自然に」2030年代までにゼロになると橋下氏はいう。だが、確固とした政治的な意志のないまま、そんなルールをつくり運用できるだろうか。
 TPPについては、主要政策集「維新八策」で「参加」としていた。太陽との合意文書では「交渉に参加し、国益に沿わないなら反対」と後退した。
 維新八策への「100%賛同」は候補者の条件だったが、骨抜きになったようだ。当初はオープンな議論で政策を一致させるといっていたのに、協議の中身や経緯も明らかでない。
 主要政策がここまであやふやになっては、維新はもはや維新ではなくなったともいえる。
 党の特徴を放棄してでも石原氏との合流を優先したのは、「まずは議席数」という選挙戦略からだろう。
 内政から外交まで閉塞(へいそく)感がぬぐえない今日、とにかく何かをしてくれる政治家に頼りたい、理念よりも力強さや行動力にかけてみたいという誘惑は強い。しかし、その「何か」がわからないままでいいだろうか。
 維新だけではない。ほかの政党もすっきりとした解決策を示しにくい問題について地道に政策を語るより、何かしそうなイメージやスローガンを前面に出すことに熱心だ。
 そんな選挙戦に引きずられると結局、「お任せ民主主義」につながる。
 それは今の政治をさらに迷走させることにしかならないだろう。有権者も問われている。

世界遺産40年―日本も観光より保護を


 世界遺産は、観光地への「国際的お墨付き」ではない。
 世界遺産条約が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)で採択されて40年になる。関心は高まる一方だが、条約の目的は話題にならない。
 本来の目的は、国際協力を通じて遺産を保護することだ。
 条約ができたきっかけの一つは、ナイル川のアスワンハイダム建設で破壊の恐れがあったエジプトのヌビア遺跡を、ユネスコが国際協力を通じて保護したことだった。
 観光の楽しみや経済効果を期待するばかりでなく、遺産の保護に思いを致すべきだ。
 世界遺産とは「顕著な普遍的価値」をもつ建造物や遺跡、自然地域などを、ユネスコの政府間委員会である世界遺産委員会が登録する。現在、962件あり、日本に16件ある。
 その美しさ、珍しさから、世界遺産はテレビなどで盛んに紹介されてきた。
 登録されれば、数多くの観光客が集まり、抜群の経済効果をもたらす。人口減少や高齢化に悩む地方自治体には魅力的なシンボルとなった。
 知床や石見銀山が登録され、文化庁が候補を公募した2006~07年ごろから、自治体や観光業界の活動は熱を帯びた。私たち新聞も、世界遺産委員会での国内候補の当落を大きく報道した。
 それぞれの地方の事情は理解できるし、世界遺産への登録活動によって、住民が地域の価値を確認することもできる。一般的な関心と経済効果が、寄付などの形で遺産保護につながる面は否定できない。
 だが、発展途上国に目を転じれば、いまも破壊に直面する文化財がある。60カ国の世界遺産関係者が、今月初め京都市に集まった「40周年記念最終会合」で繰り返し強調したのは、国際協力を通じた遺産の保護という条約の原点だった。
 日本にも世界の遺産保護にあたる専門家がいるし、文化遺産国際協力コンソーシアムという連絡組織もある。
 40周年記念最終会合で、興味深い報告があった。
 九州大法学研究院の河野俊行教授は、ブータンで文化遺産保護法づくりを手伝っている。
 ブータンに世界遺産は存在しない。前提となる国内の法制度もなかった。近年、世界遺産登録への機運が生まれ、国内法を整備することになった。
 だが、観光のためではない。ブータンも開発圧力が強くなった。世界遺産をめざす目的は、文化財の保護だという。 

アジア経済連携 TPPテコに日本が主導せよ


 アジアで新たに二つの巨大な自由貿易圏作りが動きだした。日本の成長促進へ、同時に推進する戦略が問われよう。
 日中韓と、東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国、インド、豪州、ニュージーランドの計16か国がプノンペンで、包括的経済連携(RCEP)の交渉開始を宣言した。
 16か国は2013年初めに交渉をスタートさせ、域内関税の引き下げや投資障壁の削減などについて15年末までの妥結を目指す。
 RCEPは、国内総生産(GDP)の合計が20兆ドルに達し、世界の3割を占める経済圏だ。日本が提唱してきた構想がベースになっている。経済大国に成長した中国とインドを含む自由貿易圏を構築するメリットは大きい。
 交渉次第で日本企業の輸出拡大が期待できる。国内と域内の生産拠点をつないだ国際的なサプライチェーン(供給網)も整えやすくなる。アジアの活力を取り込むビジネス展開の道が広がろう。
 日中韓3か国は併せて、自由貿易協定(FTA)の交渉を来年開始することでも合意した。
 日中は尖閣諸島、日韓は竹島を巡って対立しているが、領土問題を切り離し、経済優先で交渉に踏み出したのは妥当だ。早期合意を目指してもらいたい。
 二つの枠組みで交渉開始が決まった背景には、中国の思惑がうかがえる。中国は、米オバマ政権が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を推進し、アジアでの影響力増大を図っていることを警戒しているからだ。
 中国抜きのTPPに対抗するためにも、米国が非メンバー国のRCEPや日中韓FTAを重視する方針を鮮明にしたと言える。
 これとは別に、日中や米国など21か国・地域は、地域全体をカバーするアジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)を将来的に実現する方針でも合意済みだ。
 FTAAPへの道筋は不透明だが、TPPを軸にする米国と、RCEPを中心に据えたい中国との綱引きが活発化するだろう。
 問われるのは日本の通商政策だ。野田首相は「TPP、日中韓FTA、RCEPを同時並行的に推進する」と繰り返している。
 日本はまず、TPPへの早期参加を急ぐべきだ。それを弾みにRCEPや日中韓の交渉を有利に進め、TPP交渉でも自らの主張を反映できるようにしたい。
 米中のせめぎ合いの中、日本の国益を守りつつ、アジア経済連携を主体的に作る必要がある。

郵政新規事業 管理体制の立て直しが急務だ


 日本郵政グループが、新規事業の参入に向けて一歩前進した。
 政府の郵政民営化委員会は、日本郵政グループのかんぽ生命保険が申請していた学資保険の新商品について、認可すべきだとする意見を取りまとめた。
 改正郵政民営化法を受け、今年10月に日本郵政が組織再編してから、民営化委が新規事業にゴーサインを出したのは初めてだ。
 日本郵政は2015年秋の上場など、民営化推進の道筋を示している。このため民営化委は、段階的に商品やサービスを拡大することが妥当と判断したのだろう。
 かんぽ生命は長年、学資保険を看板商品としてきた。死亡保障を抑えて保険料を安くしたタイプを投入し、民間に押され気味の販売で巻き返したい考えだ。
 民営化を円滑に進めるには、利用者の利便性向上と安定した収益が欠かせない。民間への影響を見極めるうえでも、民営化委が商品性向上という小幅な案件から新規事業を認めたのは理解できる。
 民営化委の意見を受け、認可権限を持つ総務省と金融庁が認可の是非を判断する。ところが、金融庁は新商品の認可に慎重だ。
 金融庁の検査で、かんぽ生命が過去5年に大規模な保険金不払いを起こしていた可能性が浮上しているためである。契約者に対する不払いは、計10万件、100億円にのぼる見込みという。
 かんぽ生命では、07年以前の旧日本郵政公社時代も350億円の保険金不払いがあった。民営化後も改善が図られなかったのは、法令順守(コンプライアンス)を欠いていたのではないか。
 金融庁は、かんぽ生命の顧客管理体制に疑問を持ち、報告を求めている。認可を得るためにも、日本郵政は同様の失敗を繰り返したことを猛省し、組織のタガを締め直してもらいたい。
 一方、日本郵政グループのゆうちょ銀行は、個人向け住宅ローンやカードローン、企業向け貸し出しなど融資業務への参入を申請中で、民営化委が審査する。
 ゆうちょ銀は自ら融資審査し、リスク管理や資金回収を行う管理体制を整備する必要がある。本社機能の充実に加えて、郵便局窓口の教育研修など万全の準備が求められよう。
 民間の銀行や保険会社には民業圧迫を警戒する声が強い。懸念を和らげるため、政府は、保有する日本郵政株の売却を急ぎ、ゆうちょ銀、かんぽ生命の株式処分を着実に進めるべきだ。

2012年11月23日金曜日

世襲と人材―政治は家業じゃない


 国会議員は家業ではない。親の七光りでどうにかなるような仕事でもない。
 総選挙に立候補を検討していた、羽田孜元首相の長男、雄一郎国土交通相が参院議員からのくら替えを断念した。
 民主党は、09年総選挙のマニフェストで「国会議員の世襲禁止」をうたい、今回も踏襲する方針だ。
 羽田氏は、これを厳格に適用することをめざす野田首相の方針に従うという。
 世襲を禁止したり、制限したりすることがなぜ必要か。
 新たに政治の舞台に上がろうという人からみれば、「地盤、看板、かばん」のゲタをあらかじめ履いた世襲候補との勝負はフェアとはいえない。
 それだけではない。この種の議員があまりに増えれば人材の多様性が乏しくなり、政治が社会の変化に対応できなくなる。先代の後援会を引き継げば、既得権益の温存にもつながる。
 じつは、自民党も3年前の政権公約で、世襲候補は「次回の総選挙から公認・推薦しない」と明記した。なのに今度も福田元首相の長男ら、引退議員の子弟を続々公認している。
 政権公約について安倍総裁は「できることしか書かない」と胸を張った。なるほど、今回の公約では世襲禁止のくだりは消えてしまった。
 自民党は小泉首相以来、6代の総裁がいずれも世襲議員。いまの安倍執行部もずらり二世が並ぶ。所属衆院議員の実に4割超が世襲というのでは、民主主義国の政党と言えるか。
 そんな自民党に有権者の思いは分からない。そう印象づけるのが民主党の狙いだろうが、その民主党も威張れたものではない。支援を受ける労働組合の出身候補が多く、人材の偏りという点では同じ問題を抱える。
 大事なのは、優れた人材を幅広く国会に集めることだ。
 自民党が一部で導入している候補者公募や党員投票は有力な手法だ。いっそ、投票権を一般の有権者に広げてはどうか。
 比例区の候補選びも男女半々にしたり、世代や職業別に割合を決めたりしてもいい。
 会社員が職を捨てないで立候補できる。あるいは議員を一定期間務めたあと、また職場に戻れる仕組みができないか。
 公務員や地方議員、首長にも現職のまま立候補を認める制度も検討に値する。
 こうした制度は、実際に欧州などで実施されている。
 民意に近い国会をつくる。それが、有権者の政治刷新への期待に応える第一歩ではないか。

官房機密費―公開を先送りするな


 3年前の総選挙で、民主党への政権交代が決まった直後、自民党の河村官房長官が2億5千万円の内閣官房報償費(官房機密費)を引き出した。
 政権与党として政策遂行の力はなかったのに、民主党に政権を引き継ぐ10日ほどの間に、全額を使い切っていた。
 多額の税金をどんな目的に使ったのか。納税者ならば知りたいと思って当然だが、情報公開請求をしても、使い道に関する資料は何ら明かされなかった。
 その官房機密費の情報開示を求めた裁判で、大阪地裁は市民団体の主張を一部認め、支出額などの情報を開示するよう命じる判決を言い渡した。
 原告は2件の訴訟を起こし、小泉政権下に支出された機密費の一部開示を認めた今年3月の判決に続く司法判断となった。
 二つの判決が公開を命じたのは、出納を記載した書類や会計検査院に提出する明細書など、いずれも情報提供者ら支払い相手先が特定されない文書類だ。
 自民党政権は、「国の機密保持上、使途を明らかにすることが適当でない性格の経費」として公開を拒んできた。
 判決は、開示で「国の安全が害されるおそれなどがあるとは考え難い」と指摘した。ただ、公開を命じたのは支払い相手先が特定されない文書類に限られ、原告の知りたかった使い道は明かされないままだ。
 判決後に会見した原告は「本来は司法に頼るべきではないが、政治家は頼りにならない」と失望を口にした。
 とはいえ、本来、政治が自ら公開制度を整備するのが筋であることに変わりはない。政治が目をそらしてはいけない。
 野田政権の藤村官房長官は昨秋、1年間で機密費の公開基準を示すと表明した。
 情報公開法の改正案も昨年4月に閣議決定され、国民の「知る権利」を明記した。不開示のときは、「理由をできる限り具体的に記載しなければならない」との条文も盛り込んだ。だがその後、動きがとまった。
 藤村長官は今年9月になって、「機密費の機能維持と透明性の確保の両立は大変難しい」と公開基準づくりの先送りを決めた。改正法案は一度も審議されないまま、衆議院解散で廃案となってしまった。
 不明朗さがつきまとう機密費は公開を原則にすべきだ。機密性の高い支出については、一定期間すぎた後に相手先や使途を公開するのが妥当だろう。
 総選挙後どの政党が中心の政権になろうと、機密費の公開制度を早急に整えてほしい。 

自民党政権公約 国論二分の政策でも方向示せ


 安倍政権時代に得た教訓と、3年余りの野党暮らしの経験は、どう生かされているのか。
 「日本を、取り戻す。」と題した自民党の政権公約は、保守志向の「安倍カラー」が強い政策が目立つ。
 その一つが、安倍政権が取り組み、挫折した「国家安全保障会議」(日本版NSC)の設置だ。
 中国の急速な軍備増強や北朝鮮の核開発など、日本を取り巻く安保環境は厳しさを増している。
 首相官邸を中心に、総合戦略を立案し、緊急事態に即応できる体制を整える必要がある。そのために外交・安保政策の司令塔を創設することは理解できる。
 集団的自衛権の行使容認を掲げて、「国家安全保障基本法」制定を明記したことは評価したい。長年の懸案だけに、実現すれば、鳩山政権以降、傷ついた日米同盟を修復し、強化する一助になる。
 教育政策も安倍氏らしさを前面に打ち出した。
 「日教組の影響を受けている民主党には、真の教育再生はできない」と主張し、「我が国と郷土を愛する」とした教育基本法に沿った教科書検定や、教育委員会制度の見直しなどを挙げた。選挙の主要な争点となろう。
 景気刺激策の一つとして、「国土強靱(きょうじん)化基本法」を定め、集中的に防災対策を進めるという。
 この点について、民主党は「古いバラマキ型の公共事業だ」と批判する。財政規律との兼ね合いをどう図るのか、自民党は論戦の中で明らかにしてもらいたい。
 原発の再稼働については、可否を順次判断し、3年以内に決着させるとしている。電気料金の高騰を抑え、電力を安定供給するためには再稼働が不可欠なことを国民に丁寧に説明する必要がある。
 将来については「10年以内には『電源構成のベストミックス』を確立する」とあるだけで、結論を先送りした。原発をどう利用していくのか、道筋を示すべきだ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)への言及は、物足りない。
 安倍氏は「国益が守られれば、交渉は当然だ」と明言したのに、公約は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と従来の見解通りにとどめた。
 いつまで野党気分でいるつもりなのか。TPP推進の方向にカジを切るべきである。
 自民党は、国論を二分する政策についても明確な方針を打ち出さねばならない。

いじめ緊急調査 子供をしっかりと見守りたい


 一過性の対応で終わらせず、現場の教師が子供をしっかりと見守り続けることが大切である。
 文部科学省がいじめに関する緊急調査結果を公表した。大津市で中学生の男子生徒が自殺した事件を受けて、今夏に実施したものだ。
 全国の小中高校などで今年4月からの約半年間に認知されたいじめは約14万4000件だった。昨年度1年間の2倍を超える。
 文科省は「教師の意識が高まり、実態把握が進んだ」と急増の理由を説明する。裏を返せば、いじめに対する教師の感度が、これまでは鈍かったということだ。
 学校や教育委員会は、今回の調査結果を踏まえて、指導の問題点を洗い出し、いじめ対策に生かさなければならない。
 懸念されるのは、小学校の状況だ。いじめ件数が、昨年度に比べ約5万件も増えた。「冷やかしやからかい」「仲間はずれや無視」といった形態が目立ち、「金品をたかる」「激しくたたく」など悪質ないじめも増加している。
 最初は悪ふざけのようでも、放置しておくと、どんどんエスカレートしてしまうことが多い。早期の対応が重要だ。
 犯罪行為にあたる深刻なケースでは、学校は警察への通報をためらうべきではない。
 子供の命にかかわる可能性があると学校が判断したいじめも計278件報告された。子供たちが受けた心の傷は深い。継続的な心のケアと指導が求められる。
 子供たちと接する教師の役割は極めて大きい。
 だが、残念ながら、いじめに関する認識と指導力が欠けていると批判されても仕方のない事例が後を絶たない。
 その典型が、東京都品川区の区立中学1年の男子生徒が9月に自殺したケースだ。「キモイ」などと言われ、文房具を壊されている状況に教師は気づいていながら、深刻に受け止めず、適切な手立てを講じなかった。
 このような過ちを二度と繰り返してはなるまい。
 日々の授業や課外活動を通じて、いじめが起こりにくい学校作りを進めることも欠かせない。
 いじめを巡る裁判の判決文を読んで、どんな行為がいじめと認定されるのかを学ぶ。運動会などの行事で上級生に下級生の世話係を担当させる。授業でクラスメートの「長所」を褒め合う。各地で様々な実践が始まっている。
 こうした取り組みを重ね、いじめの未然防止につなげたい。

2012年11月22日木曜日

自民党の公約―3年間、何をしていた

 自民党の安倍総裁が、総選挙の政権公約を発表した。
 3年前、自民党は有権者に見放され、政権を失った。
 野党になってからの3年間、こんどは民主党の政権運営に厳しい批判を浴びせてきた。
 この間、自民党は何を学び、野党としてみずからをどう鍛えてきたのか。政権に復帰したら、日本の経済や外交、社会をどう立て直すつもりなのか。
 この政権公約は、その出発点になるはずのものだった。
 だが残念ながら、失望した、と言わざるをえない。
 まず、年金や医療、介護、雇用といった国民のくらしにかかわる公約の多くが、省庁や支持団体の要望を並べたような内容になったことだ。
 少子高齢化のなかで、社会保障にかかる国の支出は毎年1兆円規模で膨らむ。どの政党が政権を担っても、国民に負担の分かち合いを求めざるを得ない。
 ところが、公約にはそうした痛みを伴う政策はほとんど見あたらない。目に付くのは「生活保護の給付水準の10%引き下げ」ぐらいだ。
 「自助・自立を第一に」というのが自民党の社会保障政策の基本だ。ただ、削りやすい生活保護をやり玉にあげるだけでは社会の分断を広げ、かえって活力をそぐことにならないか。
■にじむ業界への配慮
 喫緊の課題である原発・エネルギー政策、環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる記述も、あいまいに過ぎる。
 原発の扱いについては「3年以内に再稼働の結論を出す」「10年以内に電源構成のベストミックスを確立する」と結論を先送りした。
 一定の原発を維持するつもりなら、増え続ける放射性廃棄物をどう管理・処理するのか、具体的な方策とセットで打ち出す責任がある。
 発送電の分離や小売りの自由化などの電力システム改革を進めるのか、「国策民営」という従来の原子力政策を維持するのかも聞きたい。
 TPPについては「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対する」と、どっちつかずの書き方である。
 総選挙を前に、原発維持を求める電力業界や、TPPに反対する農業団体の支持を失いたくない。そんな思惑が見え見えではないか。
 一転、歯切れがよくなるのが「経済再生」である。
 公約は「明確な物価目標(2%)を設定、その達成に向け、政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行う」と宣言した。
■危険な金融緩和論
 安倍氏は「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と主張する。それを元手に、10年間で大規模な「国土強靱(きょうじん)化」を進めるのだという。
 しかし、そのために国債発行を膨らませれば、財政悪化のみならず、金利の急騰を招く危険がある。世界経済にも、無用の混乱を広げかねない。
 経済のグローバル化が進むなか、一国の視野で解決できるほど問題は単純ではない。日銀の白川総裁が「現実的ではない」と反論するのも当然だろう。
 憲法改正、集団的自衛権の行使容認など、5年前までの安倍政権で手をつけられなかったテーマでも主張は鮮明だ。
 教科書検定基準の抜本改革をうたい、とりわけ歴史教科書の検定をめぐって近隣国に配慮するとした「近隣諸国条項」の見直しを盛り込んだ。
 さらに「戦後補償裁判や慰安婦問題の言説に的確な反論・反証を行う」ことも掲げた。
■目立つ右派的主張
 慰安婦問題で安倍氏は、当局が人さらいのように慰安婦を連行する「狭義の強制性はなかった」と主張してきた。旧日本軍の関与を認め、日本政府としての「おわびと反省」を述べた、93年の河野官房長官談話の見直しもかねての持論だ。
 だが、近隣諸国条項も、河野談話も、近隣国との信頼を築くうえで重要な役割を果たしてきた。次の政権がこれらを引き継がないとなれば、近隣国との関係がいっそう悪化しかねない。慰安婦問題には米国や欧州も厳しい目を注いでいることも忘れてはなるまい。
 公約はさらに、尖閣諸島への「公務員の常駐や周辺漁業環境の整備」も盛り込んだ。問題をいっそうこじらせかねない主張である。
 そうした強腰の外交で、どのように近隣国との関係を立て直すつもりなのか、きちんと説明してもらいたい。
 複雑な問題を直視せず、勇ましい言葉で国民受けを狙う。金融緩和論にしても、右派的な主張にしても、自民党の公約には、そんな危うさを感じざるをえない。
 総選挙で各党に望みたいのは、互いの違いを声高に言い募るのではなく、現実的で、問題の解決につながるような建設的な論戦である。

金融政策 デフレ脱却の具体策で競え

 衆院選では、各党のデフレ克服策が重要な争点となる。本格的な論戦の前に、自民党の安倍総裁が投じた“一石”が波紋を広げている。
 安倍氏は、17日の熊本市内での講演で、無制限の金融緩和を日銀に求めるとともに、公共事業のために発行する建設国債については「いずれは日銀に全部買ってもらう」などと述べた。
 これには野田首相が「日銀に国債を直接引き受けさせるやり方は禁じ手だ」と指摘するなど、政府などから批判が相次いだ。
 確かに、いくらでも紙幣を発行できる日銀に、国債の直接買い取りを求めたのなら問題だ。戦時中のように国債増発に歯止めがかからなくなり、財政規律が崩壊して超インフレが起きる恐れが強い。
 だが、安倍氏は同時に、通常の金融調節手法である「買いオペ」で購入するとも述べていた。21日の記者会見では「直接買い取りとは言っていない」と否定した。
 それでも、自民党が政権に復帰したら日銀に財政赤字の穴埋めを求めようとするのではないか、との疑念は拭いきれない。安倍氏はさらに丁寧に説明してほしい。
 問題は、デフレ退治も超円高の是正も進んでいないことだ。従来の金融・財政政策の発想を超える思い切った政策が求められる。
 物価上昇率はほぼゼロで、名目国内総生産(GDP)は5年前より30兆円以上も減った。日銀は1%の物価上昇を目指し金融緩和を続けているが、効果は乏しい。
 安倍氏の提唱に好感し、株高・円安が進んだことは、金融政策に対する市場の期待が大きいことを示している。
 各党もデフレ脱却への具体的な処方箋を示し、衆院選で論議を活発化させる必要がある。
 自民党は21日に発表した政権公約に、2%の「インフレ目標」設定など、現在より踏み込んだ政策を盛り込んだ。政府・日銀がインフレ目標を掲げ、達成に責任を共有する狙いは理解できる。
 政府・日銀が連携を強化する仕組みを作り、大胆な金融緩和を行うとしたのも妥当である。
 ただ、「日銀法の改正」に触れた点は懸念される。自民党の一部には、政府に日銀総裁の解任権を持たせる構想もある。
 解任権を振りかざして、政府が日銀に政策を無理強いすれば、中央銀行の独立性が損なわれる。政治の過剰介入で、経済と市場を混乱させる愚は避けるべきだ。

鳩山氏不出馬 政権迷走の「第一走者」が退場

 リーダーとしての資質が厳しく問われ続けた末の退場である。
 鳩山元首相が衆院選への不出馬を表明した。
 鳩山氏は、政権交代の立役者の一人だったが、米軍普天間飛行場の移設問題などで無責任かつ場当たり的な言動を繰り返し、国民の政治不信を増幅させた張本人だ。
 衆院選が民主党政権への審判という性格を有する以上、“敵前逃亡”すべきではなかった。
 鳩山氏は出馬断念の理由について、民主党執行部が公認の条件として党の方針に従う「誓約書」提出を求めていたことを挙げた。自分の主張を貫けば「党から公認をもらって戦うことはできない」と考え、引退を決断したという。
 だが、実際は、地元の衆院北海道9区で苦戦が予想されており、落選の憂き目を回避するための引退表明にほかならない。
 党執行部が、反党的な姿勢を改めなければ公認候補にできないと考えたのは当然である。
 鳩山氏は、野田首相が政治生命を懸けた社会保障と税の一体改革に反対した。小沢一郎元代表らが離党した後も党にとどまり、首相の足を引っ張り続けた。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加にも反対している。
 鳩山氏のような主張を認めてしまえば、選挙後に党の意思決定が混乱する。自民、公明両党と連携する上でも妨げになろう。
 民主党は重要政策を巡る意見対立から内紛を繰り返してきた。候補予定者に党の方針を徹底させることは、体質改善にも有効だ。
 鳩山氏の失政は、枚挙にいとまがない。
 政権をとるや否や、自らの知識・経験不足を省みることなく、誤った「政治主導」を振りかざした。次官会議を廃止するなど、行政の停滞や官僚の萎縮を招いた。
 普天間移設問題では、確かな見通しがないのに「最低でも県外」と主張し、外交の基軸である日米同盟を揺るがした。県内移設に回帰したことに沖縄県民は激しく反発し、今なお尾を引いている。
 母親からの巨額の「お小遣い」提供という「政治とカネ」にまつわる疑惑も、うやむやにしたままだ。首相官邸前の反原発デモに加わるなど、首相経験者らしからぬ軽挙妄動も目立った。
 首相退陣時にも鳩山氏は衆院選不出馬をいったん口にしたが、翻した。今回、鳩山氏は「第3の人生を歩む」と言う。再び混乱を引き起こさぬよう、政治とは無縁の世界で活躍してもらいたい。

2012年11月21日水曜日

日中韓FTA―政経分離のきっかけに

 日本と中国、韓国が自由貿易協定(FTA)の交渉に入ることを決めた。
 3カ国の首脳が「年内の交渉開始」に向けて努力すると合意したのが今年5月。尖閣諸島や竹島の問題で一時は正式決定が危ぶまれたが、カンボジアでの国際会議の場を利用して、3カ国の経済・貿易担当相が一堂に会した。
 中国からは、事前に「中日間の産業はとりわけ密接につながっている」(陳徳銘商務相)との声が出ていた。韓国も「FTA交渉自体を拒む必要はない」との判断に至ったという。
 領土に関する主張は譲らないが、経済への影響は避ける。そんな「政経分離」の姿勢であれば、歓迎する。
 世界の国内総生産(GDP)合計の2割、東アジアでは7割を占める3カ国は、貿易や投資を通じて深く結びついている。
 とりわけ、世界第2位と第3位の経済大国である中国と日本は、切っても切れない関係にある。
 中国の日本からの輸入は、景気減速に暴動の影響も加わって急速に落ち込んだ。日系自動車会社が使う部品なども減っており、生産の停滞が中国の景気の足を引っ張るのは確実だ。日本からの投資も冷え込んでおり、中国の中長期的な成長に影を落としつつある。
 2年前の尖閣沖での漁船衝突事件で、中国はレアアース(希土類)の対日輸出を制限した。その後、日本側が中国以外での資源確保やレアアースを使わない技術開発に努め、中国の関連企業は経営難に陥った。
 こうしたことが「政経分離」への教訓になったのだろう。
 もっとも、尖閣、竹島問題での対立は根深く、一朝一夕には解決しない。
 今回の国際会議でも、3カ国の首脳会談が見送られる一方、中韓両国のトップ会談では日本の過去の「軍国主義」や最近の「右傾化」が話題となり、対日批判で一致したという。
 政治と経済の問題は本来、分かちがたい。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる駆け引きは好例だ。米国主導のTPPに日本が関心を示した後、中国は日中韓FTAに前向きになった。アジア重視を掲げる米国への対抗意識は明らかだ。
 だからといって、政治的な対立を経済に持ち込んでも問題は解決しないし、お互いに困るだけだ。
 経済関係の深まりを「重し」として、突発的な衝突を避けつつ、冷静に議論を重ねていかねばならない。

ガザ空爆―流血をすぐに止めよ

 またもや、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの激しい空爆が始まった。
 6日間でパレスチナ人の死者は100人を超えた。多くは民間人であり、いたいけな子たちも含まれる。イスラエル側でも3人が死亡した。
 ガザを実効支配するイスラム組織ハマスはロケット弾で報復し、初めてテルアビブやエルサレムに着弾させた。イスラエル軍は、地上部隊による侵攻も準備していると脅しをかける。過剰な軍事力の行使である。
 直ちに停戦すべきだ。ここには4年前、1400人以上のパレスチナ人が死んだイスラエル軍によるガザ侵攻の悲劇と愚行の前例がある。地上戦になれば危機は中東全体に広まる。
 イスラエルは、攻撃はハマスのテロを制圧するためと主張する。しかし、今回の流血はイスラエルによるハマスの軍事部門司令官の暗殺から始まった。
 イスラエルの新聞には、殺害されたハマス幹部は、昨秋のイスラエル兵士の釈放交渉で中心的な役割を果たし、さらにエジプトが仲介しているイスラエルとハマスの停戦協議でも要にあったというイスラエル関係者の証言が出ている。
 事実であれば「ハマスの軍事司令官=テロリスト」というイスラエルの主張は崩れる。
 イスラエルは来年1月に総選挙を控えている。4年前の攻撃も総選挙の前だった。軍事危機をつくりだし、国民の不安をあおって支持を取りつけようとする政治的な意図があるならば、とんでもない話である。
 今回、アラブ諸国の対応が早い。エジプトが即座に首相をガザに派遣し、アラブ連盟は緊急外相会議を開いた。ハマスに影響力を持つエジプト、トルコ、カタールの首脳もカイロで協議した。アラブの外交団のガザ入りも予定されている。
 「アラブの春」によって強権体制が倒れた国々の風通しの良さを感じさせる。一方で、イスラエルに影響力を持つ米国や、国連の対応が遅い。
 必要なのは、米国や安保理、アラブ諸国、欧州などがかかわり、イスラエルとガザのハマスの関係を正常化することだ。
 イスラエルによるガザの封鎖は07年以来、続く。産業は荒廃し、失業が広まり、医療は崩壊している。密輸トンネルを通じた武器の持ち込みも盛んだ。
 封鎖を解除しないまま、ガザの人々に将来を見すえた建設的な対応を求めることには無理がある。双方が危機を繰り返す悪循環から抜け出すために、国際社会の関与が必要だ。

日米首脳会談 TPP参加へ環境整備を急げ

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の参加に向けて、環境整備を急ぐことが重要である。
 野田首相がプノンペンでオバマ米大統領と会談し、日本の交渉参加に関する日米協議を加速することで一致した。首相は「関係国との協議を決定した当時(1年前)と決意は変わらない」と参加へ意欲を示した。
 日米協議は今年2月に始まったが、停滞している。日本政府が民主党内の反対・慎重論を踏まえ、交渉参加の正式決定を先送りしているうえ、米側も大統領選中、日本参加を警戒する自動車業界などに配慮していたためだ。
 日本がアジア太平洋地域の活力を取り込み、経済成長につなげるには、自由貿易の新たなルール作りに関与し、自らの主張を的確に反映させる必要がある。
 より強固な日米関係を構築し、将来的に中国に国際貿易ルールの順守を迫る基盤を作るうえでも、TPPの優先度は高い。
 衆院選で、首相は「TPP推進」を民主党候補の公認基準とする意向だ。安倍自民党総裁も交渉参加に前向きの考えを示した。
 だが、両党とも、交渉参加に反対する勢力を抱えている。
 衆院選後にどんな政権ができても、早期にTPP交渉に参加できるよう、各党は参加論議を深めるべきだ。政府が自動車などの日米協議を加速しつつ、農業の国内対策を進めることも欠かせない。
 野田首相は会談で、南シナ海の領有権をめぐる中国とベトナム、フィリピンの紛争に言及し、「アジアの平和と安定に直結する国際社会共通の関心事だ。国際法の順守が重要だ」と強調した。
 南シナ海の問題は、日本にとって人ごとではない。尖閣諸島の国有化後、中国は連日、多くの政府船を派遣し、日本の実効支配を実力で突き崩そうとしている。
 中国の手法は、日本だけでなく、アジア共通の懸念材料だとの認識を国際社会に広げることが肝要である。日米が連携し、中国に自制を求めることも大切だ。
 首脳会談では、野田首相が、沖縄で米兵の事件が相次いでいることを指摘し、米軍の綱紀粛正の徹底を大統領に要請した。
 10月の強姦(ごうかん)事件後、米軍が夜間外出禁止令を出したが、これを破った米兵の住居侵入事件が2件発生した。看過できない問題だ。
 米軍は、より実効性のある再発防止策を講じるべきだ。日米同盟の根幹である米軍の駐留を安定したものにするには、事件・事故防止へ真剣な努力が求められる。

米・ミャンマー 関係強化は中国へのけん制だ

 再選を果たしたオバマ米大統領が、現職大統領として初めてミャンマーを訪れた。
 米国の「アジア重視」戦略に沿った歴史的な訪問である。
 オバマ大統領はテイン・セイン大統領との会談後、「民主化と経済改革は驚くべき発展をもたらすだろう」と述べ、改革支援の立場を強調した。最大野党党首のアウン・サン・スー・チー氏とも会い、民主化努力をねぎらった。
 ミャンマーは軍政時代の人権弾圧などを理由に、欧米から長年にわたり経済制裁を受けてきた。
 しかし、昨春の民政移管以来、テイン・セイン政権が民主化を着実に進めたことから、オバマ政権は今年に入り、制裁を段階的に緩和した。ミャンマーとの関係改善は急速に進んでいる。
 米国が大統領の訪問で新生ミャンマーとの関係強化へ一段と踏み込んだのは、中国をけん制する狙いもあろう。軍事、経済両面で膨張する中国は、軍政時代のミャンマーと関係を強め、その影響力を増大させてきた。
 オバマ大統領が再選後初の歴訪先として、ミャンマーをはじめカンボジア、タイを選んだ意義は小さくない。
 政権2期目も、経済、安保ともに東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との連携を深めていくという強力なメッセージだ。
 米国の動きに中国も内心穏やかではないはずだ。ミャンマーを巡る米中両国の綱引きが激化するのは避けられないだろう。
 米国はミャンマーの教育や民主化の支援に、今後2年間で約137億円を提供する方針だという。これを弾みに、テイン・セイン政権には、多方面で改革を一層進めてもらいたい。
 ミャンマーは2014年にASEAN議長国を務める。域内最貧国脱却への経済再建はこれからが正念場だ。一層の民主化には曲折も予想される。対立が続く少数民族との和解も容易ではない。
 日本や米国は協調してミャンマーの民主化や経済改革を支えていく必要がある。10月には日本が主導して、先進国と世界銀行などによる支援国会合が東京で開かれ、国際社会の支援体制も整った。
 今回、野田首相はプノンペンでテイン・セイン大統領と会談し、500億円規模の円借款を来年実施する方針を伝えた。
 ミャンマーは、日系企業の新たな生産拠点となり得る。日本政府としても、経済基盤の整備への支援を急ぐべきである。

2012年11月20日火曜日

金融緩和―安倍発言の危うさ

 総選挙に向け、自民党の安倍総裁が「大胆な金融緩和」発言をエスカレートさせている。先週末には「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう」と踏み込んだ。
 財政の健全性を守るという基本原則への配慮が希薄で、強い不安を抱く。
 安倍氏の主張は、日銀が国債などの金融商品を無制限に買って、本気でインフレを目指していると市場が受けとめれば、「今のうちにモノを買ったり、つくったりしたほうが得だ」という心理が広がり、経済が活性化するというものだ。
 インフレ期待が高まれば、為替も円安に動き、輸出企業の業績が回復して株価が上がり、景気が良くなるという。
 さらに、政策が軌道に乗るまでは、建設国債を日銀に買わせて公共事業を拡大し、「国土を強靱(きょうじん)化する」と訴える。
 しかし、いいことずくめの話には必ずリスクがある。
 インフレへの予想が本当に強まれば、今の超低金利の国債は価値が下がる。そこで、国債を大量に保有する銀行が一斉に売り抜けようとすると、金利が急騰する。国債発行による政府の資金調達に支障が出る。
 国内のすべての債券の金利が2%上がれば、銀行全体で12.8兆円の損失が出ると推計されており、欧州のような財政と金融が絡み合った複合的な危機になる恐れがある。銀行の貸出金利も上がる。
 こうした危うさのなかで、さらに公共投資で財政を拡大し、その財源となる国債を日銀に引き受けさせていこうという感覚は、理解できない。
 公共事業もある程度は必要だが、財政の持続性や費用対効果を精査すれば、どれだけのものが正当化されるだろうか。資金調達で最初から日銀を当てにしているのなら、なおさら疑ってかかられよう。
 私たちは社説で、金融緩和が国の財政の尻ぬぐいと見なされないよう求めてきた。
 中央銀行の信用を傷つけることでもたらすインフレは、健全とはいえない。不況のままインフレだけが進むスタグフレーションという現象もある。
 消費や投資の拡大に伴って物価が上がることが本来の姿だ。それには新産業の育成などを通じて、雇用が増え、賃金が上がるという期待を国民が持てるようにする必要がある。
 日銀への要求の前に、「賃金デフレ」を強いる企業の行動に変化をもたらす環境をどう整えるのか。その道筋を示していくことが政治のつとめだろう。

非核三原則―橋下氏は認識不足だ

 日本維新の会の橋下徹大阪市長が今月10日、遊説先の広島で、核を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則について発言した。
 おおむね次のような内容だ。
 非核三原則は堅持すべきだ。しかし日本に寄港する米海軍第7艦隊が核兵器を持っていないなんてあり得ない。安全保障のために米国が持ち込む必要がある場合、国民に問うて理解を求めていきたい――。
 非核三原則は歴代の内閣が堅持を表明してきた。日本の非核外交の基盤ともなってきた。
 一方で、持ち込みを認めるような「密約」があったことも民主党政権になってからの調査で明らかになった。しかも米国は核の配置場所を明らかにしないのが原則であり、持ち込ませずの検証は容易ではない。
 今回の発言は、「持ち込ませず」の不透明感について問題提起したものだ。核廃絶をめざす方針と米国の「核の傘」に頼る現実のはざまにいる日本の悩ましさを指摘したものでもある。
 だが、だからと言って、非核三原則の堅持から後退する必要はないと考える。
 橋下市長はその後、第7艦隊については確認の必要があると追加説明したが、そもそも何を根拠にした発言だったのか。
 米国は1991年、水上艦船と攻撃型潜水艦を含む米海軍の艦船、航空機から戦術核兵器を撤去すると表明した。
 米国は自主的にこうした措置をとり、ロシアに同調を求めた。その結果、ロシアの戦術核も自国内に撤収された。ロシア戦術核がテロ集団や第三国に密売、強奪されるのを防ぐのが、米国の大きなねらいだ。
 「核なき世界」を提唱するオバマ大統領のもとでは、核兵器の役割を下げる努力も進んでいる。しかも通常戦力の能力向上によって、戦術核の代替が利くようになりつつある。
 「核の傘」は、米国に配備された大陸間弾道ミサイルなどの戦略核が柱で、非核三原則に合致しているのが現状だ。
 今後の米ロ核軍縮交渉では、戦術核の削減も進める方針だ。その後、中国などを含めた多国間の交渉も視野に入れている。核政策が91年以前に逆戻りして、核持ち込みのリスクが再び生じる可能性は極めて低い。
 被爆国・日本に求められるのは、核の役割低減をめざすオバマ政権を後押しし、東アジアでの核軍拡競争を防ぐ外交を強めることである。
 その役割を日本が果たすうえで、非核三原則が重要な足場であることに変わりはない。

衆院選主要な争点 日本の国家像を具体的に語れ

 ◆現実的な経済再生策が問われる◆
 日本は今、「一流国」であり続けることができるかどうかの重大な岐路に立っている。
 「決められない政治」が続き、経済も低迷する中、国民の閉塞感は強まるばかりだ。どう乗り越えていくか。
 衆院選で各党は、日本の針路と新たな「国家像」を提示すべきだ。それを踏まえて有権者に具体的な政策を訴える必要がある。
 ◆デフレ脱却への方策は◆
 枝野経済産業相は著書で、「成長幻想」という夢から覚めて、現実と向き合うべきだと指摘する。成熟社会となった日本ではもはや成長は望めず、経済の活力維持さえ容易ではないという見解だ。
 民主党政権で有効な成長戦略や経済対策が打ち出せなかった背景には、枝野氏のような“悲観論”が根強いこともあるのではないか。
 だが、マイナス成長に陥るような景気低迷とデフレが続けば、産業が空洞化し、社会保障や安全保障の基盤が揺らぎかねない。
 だからこそ、安定成長を追求し、国際競争力を高めることが、日本の国力の維持には不可欠である。
 いかにデフレから脱却し、経済再生や格差是正を図るかは、国民の関心が最も高い争点だろう。
 自民党の安倍総裁は、日銀との政策協調で大胆な金融緩和に取り組むとともに、「未来への投資となるインフラ整備」で地域を活性化させていくと語った。
 野田首相は、「公共事業をばらまく政策で日本が再生するとは思えない」と自民党をけん制する一方、環境や医療などを中心に新たな市場と雇用の創出を目指す再生戦略を強調している。
 ただ、これまで戦略の成果は乏しかった。民主党は説得力のある経済対策を打ち出すべきだ。
 急成長を遂げるアジアの活力を取り込むため、環太平洋経済連携協定(TPP)に参加するかどうかは、日本の将来を左右しよう。民主党、日本維新の会などは積極的に推進する構えだ。
 ◆TPPと原発がカギ◆
 自民党は「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」と慎重な姿勢をとってきたが、安倍氏は自民党の「交渉力」を強調し、交渉参加へカジを切ろうとしている。政権復帰を目指す以上、当然の軌道修正である。
 一層の市場開放に備え、農業の国際競争力を強化する方策についても議論を深めねばならない。
 原発・エネルギー政策も日本の将来像と直結する重要政策だ。
 民主党は2030年代に「原発ゼロ」を目指す方針を掲げた。
 だが、太陽光、風力など再生可能エネルギーの普及に過大な期待は禁物だ。原発を代替する火力発電の燃料費増で日本の貿易赤字は過去最悪の水準に膨らんだ。電気料金の値上げは避けられまい。
 温室効果ガスの排出増による環境への悪影響も懸念される。
 「原発ゼロ」への具体的な道筋を示さなければ無責任だ。経済界や日本と原子力協定を結ぶ米国なども強い懸念を示している。
 自民党が、原発の再稼働を「政府が責任を持って」進めるとしている点は評価できる。中長期的な政策も明らかにすべきだ。
 社会保障と税の一体改革も、消費税率引き上げの凍結や撤回を主張する政党が少なくない以上、大きな争点である。
 民主、自民、公明の3党を中心に成立させた一体改革法は現行5%の消費税を14年4月に8%、15年10月には10%に引き上げる。
 単なる増税反対なら、大衆迎合にほかならない。毎年1兆円前後も増え続ける社会保障費を賄い、財政を再建する手立ても明らかにすることが求められる。
 公明党は政権公約(マニフェスト)に消費増税に伴う低所得者対策として軽減税率導入を掲げた。有力な論点になろう。
 ◆主権・領土で論戦を◆
 政権交代しても、日米同盟を基軸とする外交・安全保障政策の基本は堅持しなければならない。
 尖閣諸島、竹島で悪化した日中、日韓関係をどう立て直すか。集団的自衛権の行使や米軍普天間飛行場移設問題も議論すべきだ。
 衆院選挙制度改革では現行の小選挙区比例代表並立制に様々な問題が指摘されている。中選挙区制の復活も含めて論じてほしい。
 その際、衆院と参院にどんな役割を持たせるか、二院制の問題に踏み込まざるを得ない。「強すぎる参院」の在り方を改め、政治の機能を回復することは急務だ。
 憲法改正が、重要な争点であることも忘れてはなるまい。

2012年11月19日月曜日

原発・エネルギー政策―後戻りなき変化を土台に

 原発ゼロを目指すのか。それとも、あくまで一定割合の原発を使い続けるのか。
 原子力・エネルギー政策は、将来の「国のかたち」を左右する。今度の総選挙で最大の争点のひとつだ。
■政治への新たな接点
 福島第一原発事故によって、多くの国民は原子力の負の側面とそれを覆い隠そうとしてきた政治・行政の罪を、自分たちの生活に直結する問題として認識した。
 首相官邸前の反原発デモに、大勢の市民が自らの意思で集まったのは、その表れだろう。
 将来のエネルギー政策をめぐって、この夏行われた「国民的議論」も、不十分ながら、政治と国民との関係に新しい接点をもたらした。
 ある大手企業トップは言う。
 「審議会などで電力会社のやり方に少しでも疑義を唱えたら翌日から次々に圧力がかかる。それが当たり前だったエネルギー議論で、ようやく民主化が進み出した。これはもう止められない変化だ」
 まずは、この「後戻りのできない変化」を共通の土台として確認しておきたい。
 そのうえで今後の原子力政策を考えれば、明らかなことがある。原発はこれ以上増やしようがないという事実だ。
 「地域振興」の名目で過疎地にお金をつぎ込み、原発を集中立地する手法は、事故でその矛盾と限界をさらけ出した。
 安全基準は厳しくなり、原発への投資は一層、巨額になる。
 しかも、電力需給の面だけなら、ほとんどの原発が必要ないことが明白になった。
 これらを踏まえれば、脱原発依存という方向性はおのずと定まる。
■工程表を示せ
 そこで、各政党に明確にしてもらいたいのは、
 (1)原発をどんな手順とスピードで減らし、放射性廃棄物の問題をどう解決するのか。
 (2)東京電力の処理をどのように進め、賠償や除染、廃炉といった原発事故に伴う費用負担に国がどう関わっていくか。
 (3)発電と送電の分離をはじめとする電力システム改革に、どのように臨むか。
 この3点である。いずれも工程表を示すべきだ。
 民主党はマニフェストに「2030年代の原発稼働ゼロ」を盛り込む方針という。
 だが、政権の座にありながらその中身を詰め、実現への段取りを示すことができなかった。「口約束にすぎないのでは」。有権者は疑っている。
 燃料費の増加など脱原発に伴う当面のコスト増をどのように分担するか。日本の脱原発に懸念を示す米国や、立地自治体への対応についても、もっと踏み込んだ説明が必要だ。
 脱原発を公約に掲げる公明党や小政党も、課題は共通する。
 自民党は民主党のゼロ政策を「無責任」と批判するものの、自らの方針は明確ではない。
 一定の原発を維持する方針であれば、増え続ける放射性廃棄物の問題にどう臨むのか、具体的に示す責任がある。原発を推進してきた過去をきちんと総括もせず、「10年かけて考える」は論外である。
 東電処理の見直しも待ったなしだ。除染などの費用もすべて東電に負わせる今の枠組みは行き詰まりつつあり、福島県の復旧・復興や電力供給に支障を来しかねない。
 東電のリストラだけでは到底まかない切れない事故費用は、電気料金か税金で負担するしかない。どう分担するのか。
 その議論を、「国策民営」という原発政策のあり方や原子力賠償制度の再検討にも結びつけなければならない。
■「選択肢なし」に不満
 もちろん、新たな負担について国民を説得するのは、容易ではないだろう。
 節電には協力した消費者が、東電の値上げに強く反発した背景には、「電力の選択肢がない」ことへの不満があった。
 地域独占に守られた電力会社が支配する今の体制では、新規参入や新たな技術の導入はなかなか進まない。
 野田政権は、送電網の運営を発電事業と切り離し、多様な電源や新しいサービスを促す方向へ、かじを切った。自然エネルギーや自家発電などをできるだけ取り込むことで、脱原発を進めつつ、電力を確保していこうという考えだ。
 自民党政権は過去、地域独占による安定供給を重視し、大手電力の既得権を擁護してきた。今後、方針を転換するのか。早く将来図を示してほしい。
 首をかしげるのは、日本維新の会の橋下徹代表代行である。電力消費地の立場から、脱原発や電力改革に意欲を見せてきたが、「反・反原発」の石原慎太郎氏率いる太陽の党の合流で、「脱原発」の看板は消えた。
 いったい原発政策をどうするつもりなのか。有権者へのきちんとした説明が不可欠だ。

「第3極」 政策のあいまいさ放置するな

 民主、自民の2大政党に続く「第3極」を目指すなら、日本が直面する課題について明確な政策を掲げる必要がある。
 石原慎太郎前東京都知事が率いる太陽の党は、橋下徹大阪市長を代表とする日本維新の会への合流を決めた。
 石原氏が代表、橋下氏が代表代行に就く。
 知名度の高い石原、橋下両氏が組む相乗効果で、衆院比例選だけでなく、大政党に有利な小選挙区でも議席確保を見込んでいる。
 ただ、石原氏は、いったん発表した減税日本との合流を白紙に戻すなど、動きが慌ただしい。「結集ありき」のような選挙互助会的政党には疑問を禁じ得ない。
 維新の会と太陽の党がまとめた合意文書にも問題が多い。
 焦点の原発政策に関しては、安全基準の「ルール構築」などにとどめた。「2030年代の原発全廃」を目指す維新の会と、脱原発には批判的な太陽の党の溝が埋まらなかったためだろう。
 石原氏が言うように、原発政策は、経済・産業への影響など、複合的な観点から議論する必要がある。今から「原発ゼロ」を掲げるのは非現実的だ。
 合意には、維新の会の看板政策とも言える「消費税の地方税化」が盛り込まれた。石原氏は地方税化に慎重だったはずなのに、政策をがらりと変えるのであれば、きちんとした説明が必要だ。
 尖閣諸島問題では、中国に国際司法裁判所(ICJ)への提訴を促す、とした。これでは、日本が領有権問題の存在を認めることにならないか疑問だ。
 環太平洋経済連携協定(TPP)については「交渉に参加するが、協議の結果、国益に沿わなければ反対」とした。維新の会の推進論と、太陽の党の反対論を併記しただけのように見える。
 橋下氏は、「政策抜きの野合」との他党の批判に対し、「既存政党に比べれば、はるかに一致している」と反論している。
 そうは言っても、民主党のように路線対立で混乱を繰り返すのではないか、懸念は消えない。
 「第3極」を目指して、みんなの党が維新の会との選挙協力を進めている。国民の生活が第一も、反消費増税、脱原発を掲げ、他党との連携を模索している。
 民主党政権下で政治不信が高まり、無党派層が増えたことを意識した動きだ。国民の歓心を買うような政策ばかりでは困る。政策の十分な吟味が必要である。

ストーカー殺人 被害者守れぬ警察は猛省せよ

 ストーカー行為におびえ、身の危険を訴えた被害者を、警察は守ることができなかった。
 猛省し、再発防止を徹底せねばならない。
 神奈川県逗子市で、デザイナーの女性が元交際相手の男に殺害された事件である。逗子署は昨年6月、「殺す」といったメールを女性に送りつけた男を脅迫容疑で逮捕した。
 その際、警察官は逮捕状に記載された女性の結婚後の姓、住所を読み上げた。女性は、新たな居住地などを男に知らせないよう警察に頼んでいたが、警察官が読み上げたことで、男に伝わってしまった可能性が大きいという。
 男は執行猶予中の今月6日、女性のアパートに押し入って殺害に及び、自殺した。
 令状の読み上げは、容疑者に逮捕理由を認識させるのが目的だ。記載事項をすべて告げる必要はない。逗子署の警察官の行為は、被害者への配慮を欠き、あまりに軽率だったというほかはない。
 警察庁の片桐裕長官は、令状の記載方法の見直しを表明した。それも必要だが、まずは今回の警察の対応を厳正に検証すべきだ。
 男は凶行の半年前、約20日間に1000通以上のメールを女性に送りつけていた。婚約を解消したことを一方的に責める内容だったが、逗子署はストーカー規制法での立件を見送った。
 規制法は、違法となる付きまとい行為について、「名誉を害する事項を告げること」「著しく粗野または乱暴な言動をすること」などと規定している。
 男の行為は、これらに当てはまるのではないか。逗子署の対応には疑問が拭えない。
 規制法の見直しも急務である。電話やファクス送信を執拗(しつよう)に繰り返すことを禁じているが、メールは対象外だ。インターネットの普及とともに、通信手段が多様化していることを考えれば、現状にかなった条文に改正すべきだ。
 全国の警察が規制法に基づいて出した警告は、今年1~8月だけで1511件に上った。年間件数で過去最高だった2007年の1384件を既に上回っている。
 急増するストーカー事件で被害者を守るためには、新たな対策を講じることも必要だろう。
 配偶者の暴力から被害者を守るDV防止法では、裁判所の保護命令で、加害者が被害者に接するのを禁じる制度がある。警察は違反した加害者を逮捕できる。
 ストーカー事件でも、同様の制度を検討すべきではないか。

2012年11月18日日曜日

維新と太陽―腑に落ちない合流だ

 石原慎太郎氏が率いる太陽の党が解党し、橋下徹大阪市長の日本維新の会に合流した。
 合流後の維新の代表には石原氏が就き、橋下氏は代表代行になるという。
 太陽の党は、結党わずか5日で姿を消した。あっけにとられた人も多いのではないか。
 この「大同団結」は、腑(ふ)に落ちないことがあまりに多い。
 まず、基本政策である。
 太陽は、維新が掲げる「2030年代までの原発ゼロ」や環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、消費税の地方税化などに否定的だった。
 だからこそ、太陽の議員たちも、橋下氏も、党の合体はもともと想定外だったはずだ。
 それが一転、原発政策やTPPなど8項目について合意文書を交わし、合流を決めたのだ。
 「第三極」がばらばらでは選挙に勝てない。そう唱え、東奔西走して合流をまとめた石原氏の思いは分からないではない。
 だが、今回の合意文書はあいまいな部分が目立つ。
 たとえば原発政策では「30年代までの原発ゼロ」はおろか、「脱原発」の文言すらない。
 TPPに関しては交渉には参加するが、「国益に沿わなければ反対」と両論併記のような書き方だ。外交は尖閣問題に触れている以外は何もない。
 これでは政策の違いを棚上げしての、選挙目当ての帳尻合わせとしか思えない。
 石原氏はきのうの記者会見で「いろいろな意見の違いはあるが、天下をとってから議論すればいい」と語った。
 だが、ことは国の根幹に関わる政策である。そのような認識で選挙に臨むとすれば、有権者を軽く見ていると言われても仕方がない。
 次に、理念である。
 橋下氏はもともと、太陽とは「カラーが違う」と連携に否定的だった。太陽の保守色の強さへの違和感からだろう。
 大阪の地域政党が母体の維新は地域主権をめざし、地方から国を変えることに主眼を置く。
 一方の石原氏は、戦後体制を否定し、現行憲法の破棄が持論だ。維新と太陽はそもそもの立脚点が異なっている。
 石原氏は、減税日本やみんなの党との協力を引き続き呼びかけていくという。両党とも、やはり基本政策で違いがある。
 石原氏は太陽と減税日本との合流をいったん発表したのに、橋下氏が反発すると一夜で白紙に戻した経緯がある。
 維新の勢いに乗りたい思いからなのだろうが、あまりに信義を欠いたふるまいではないか。

除染特別手当―不払い許さぬ仕組みを

 原発事故に伴う除染作業で、現場の作業員が受け取るべき特別の手当がきちんと支払われていないことがわかった。

 不払いが許されないのはもちろんだが、単にお金の問題にとどまらない。根本に作業員の健康と安全をおろそかにする姿勢がないだろうか。

 手当の不払いを防ぐ仕組みづくりを急ぐとともに、作業員の被曝(ひばく)線量の測定など健康のチェックが徹底されているか、態勢を総点検すべきだ。

 この手当は特殊勤務手当という。もともとは特殊な業務を担う国家公務員向けの制度で、東日本大震災を受けて原発の敷地内や周辺地域での業務も対象になった。被曝の危険性や精神的な苦痛を考えての判断だ。

 環境省はこの制度を参考に、民間業者に除染作業を発注するにあたって、作業員への支払いを賃金と特殊勤務手当の2本立てとした。

 たとえば、警戒区域で除染作業を1日に4時間以上行えば、手当として1万円が支給される。

 除染の作業は国からゼネコン、下請け業者、そのまた下請けへと発注されていく。通常の建設工事にはない手当でもあり、趣旨が徹底せず、手当分が作業員に渡らない「中抜き」を招いたようだ。

 環境省は発注先のゼネコンなどを集め、支払いの徹底を要請した。業務終了後に賃金台帳などを提出するよう以前から求めており、作業員ごとに手当の支給状況を点検している。

 ただ、これだけでは限界がある。実際には賃金しか支払わなかったのに書類は手当を出したように記入し、手当相当分を賃金から減らしてつじつまを合わせた業者もいるという。

 厚生労働省と連携し、ハローワークでの求人の際に手当が出ることを周知したり、労働基準監督署で不払いに目を光らせたりすることが欠かせない。作業員向けの相談窓口を積極的にPRし、問題のある業者をあぶり出すことも必要だ。

 それでも不払いが後を絶たないなら、手当は賃金とは切り離し、ゼネコンや国が直接支払う方法を検討するしかない。

 東京電力が発注する福島第一原発での作業でも、作業員の健診費の違法な天引きがあった。線量計を持たせなかったり、線量計を鉛カバーで覆って数値が低く出るようにしたりする「被曝隠し」も表面化した。

 作業員の健康と安全をおろそかにしての復興などありえない。このことを改めて肝に銘じたい。

民主党政権総括 政治の劣化を招いた「脱官僚」

 ◆一体改革法成立は歴史的成果だ◆
 衆院選前にまず行うべきは、3年2か月に及ぶ民主党政権の総括だ。数々の失政を真剣に反省して、その教訓を新たな主張に反映できるのかが民主党に問われている。
 読売新聞世論調査では、鳩山内閣発足時の支持率が75%だったのに対し、現在の野田内閣は24%。政権交代に対する国民の期待の大きさと失望の広がりを物語る。
 民主党政権で政治の混乱と停滞が続いたのは、衆参ねじれ国会だけでなく、政権担当能力の未熟さに起因する部分が大きい。
 ◆数々の失政を反省せよ◆
 その象徴が、政権公約(マニフェスト)の破綻だ。民主党自身の検証でも、170件の政策のうち実現できたのは、高校無償化など53件、約3割にとどまる。
 予算組み替えで「年16・8兆円の財源確保が可能」とした甘い見通し、関係者との事前調整なしに掲げた「八ッ場ダムの建設中止」の挫折など、反省点は多い。
 誤った「政治主導」は、政府の機能を大幅に低下させた。
 事業仕分けは、官僚たたきのパフォーマンスに過ぎず、捻出できた財源は限定的だった。
 野党的体質から官僚を敵視し、「脱官僚」を進めた結果、官僚は指示待ちになる一方、政治家には重要情報が入らず、政官双方の劣化を招いた。菅内閣での東日本大震災の被災者支援や原発事故対応の遅れと混乱が典型例だ。
 政治家は本来、官僚を使いこなし、その能力を最大限引き出すことにこそ、腐心すべきだ。
 当初は、安全性を確認した原発は活用するとしていたのに、場当たり的に非現実的な「原発ゼロ」方針を掲げ、米国や関係自治体との調整不足から迷走を重ねた。
 経済再生を掲げながら実効性ある成長戦略を打ち出せず、経済界との足並みもそろわなかった。
 「コンクリートから人」のスローガンの下、政府の公共事業費は当初予算ベースで2009年度の7・1兆円から12年度の4・6兆円に減り、地方は疲弊した。
 一方で、それ以外のバラマキ政策などによって、一般会計当初予算は、09年度の88・5兆円から12年度は実質96・7兆円(復興費などを含む)に膨張している。
 毎年30兆円超の赤字国債発行により財政は一層悪化し、国債発行残高は594兆円から今年度末に709兆円に増える見通しだ。
 小沢一郎元代表は、元秘書3人が政治資金規正法違反で有罪になっても責任を取らず、民主党のクリーンなイメージを傷つけた。
 ◆党内対立が常に続いた◆
 党内では「親小沢対反小沢」の路線対立が続いた。03年の自由党との合併時に非自民勢力の結集を優先し、理念や政策をすり合わせなかったことのツケと言える。
 野党なら党内の政策の違いを糊塗(こと)できるが、政策を実行する与党はそうはいかない。消費税率引き上げをめぐる党の分裂は、内部矛盾が臨界点に達したものだ。しかし、輿石幹事長ら執行部は、誰も責任を取ろうとしなかった。
 党政策調査会が廃止、復活を経て強化されるなど、政策決定システムも安定しなかった。
 活発に議論はするが、期限に結論が出ない。決定事項に従わず、過去の経緯を踏まえず議論を蒸し返す。議事録がないため議論が蓄積されず、深まらない。党内の政策論議のたびに民主党の未熟な政治文化が露呈した。
 外交の迷走は国益を損ねた。
 鳩山元首相による米軍普天間飛行場移設問題の混乱が日米同盟を弱体化させ、沖縄に不信感を残した。その傷は今も癒えない。
 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件、メドベージェフ露首相の北方領土訪問、李明博韓国大統領の竹島訪問など、領土問題で近隣国につけ込まれる一因ともなった。
 ◆野田首相は他にも実績◆
 民主党政権の歴史に残る成果は社会保障・税一体改革関連法を成立させたことだ。自民党も重要な役割を果たしたが、野田首相が政治生命をかけて退路を断ち、党分裂という重い代償も辞さずに突き進んだことが原動力だった。
 首相は関西電力大飯原発の再稼働で指導力を発揮し、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題でも積極姿勢を示した。鳩山、菅政権の「負の遺産」を抱えつつ一定の実績を残したと評価できる。
 外交・安全保障分野では、核持ち込みなどに関する日米密約を解明し、武器輸出3原則を緩和した。いずれも自民・公明連立政権では実現できなかった長年の課題であり、政権交代の効用と言える。

2012年11月17日土曜日

衆院解散 問われる各党の公約と実行力

 ◆「第3極」の真価を見極めたい◆
 民主党を中心とする政権の継続か、自民、公明両党の政権奪還か。日本維新の会など新党がどれだけ勢力を伸ばすか。
 日本の将来を左右する極めて重要な衆院選となろう。
 衆院が16日、解散された。衆院選は、12月4日公示、16日投開票の日程で行われる。事実上の選挙戦が始まった。
 今回の衆院選では、まず鳩山内閣以来3代、3年にわたった民主党政権の実績が問われる。
 ◆民主党に不利でも決断◆
 2009年衆院選では「政権交代」ムードが先行し、民主党が大勝した。その結果もたらされた国政の混乱と停滞を多くの有権者が痛感したのではないか。
 誤った政治主導を振りかざした鳩山内閣の外交迷走、菅内閣の原子力発電所事故対応の不手際など、失政の具体例には事欠かない。
 野田首相は記者会見で、衆院解散の目的について「社会保障と税の一体改革を実現した暁には、近いうちに信を問うと言った。その約束を果たすためだ」と説明した。
 首相が、消費税率引き上げを柱とする一体改革関連法の成立を衆参ねじれ国会で実現したことは、確かに歴史に残る功績である。それに協力した自公両党との合意を大切にする姿勢は理解できる。
 極めて選挙に不利な状況にありながら、首相が輿石幹事長ら党内の反対を押し切り、解散を断行したことも評価に値しよう。
 野田内閣の支持率は低迷し、読売新聞の世論調査では昨年9月の内閣発足以来、最低の19%と危機的水準にある。民主党からの離党に歯止めがかからない。
 一方で首相は、「決められない政治が続いてきた。その悪弊を解散で断ちたい」とも述べた。
 衆院選の結果がどうであれ、参院で過半数の議席を有する政党はなく、少なくとも来夏の参院選までは衆参のねじれは解消しない。政治を前に動かすには、政党間の連携や連立が不可欠だ。
 ◆民自公の協調は必要だ◆
 民主、自民、公明の3党合意に基づく消費増税は道半ばである。改革を成し遂げるためにも、選挙後、民自公協調路線を維持することが求められよう。
 日本の再生にとって最も必要なのは、2大政党のいずれかを軸とする安定した政権である。合意形成に手間取るような多党化は、好ましくない。
 しかし、民主、自民両党に次ぐ第3極を目指そうと日本維新の会、太陽の党など新党が続々と誕生した。10を超える党の乱立という異例の展開で、勢力結集へ模索が続く。既成政党への不満の受け皿になることを狙っている。
 前議員が新党に走る動きは、生き残りのためではないか。第3極の真価を見極める必要がある。
 各党は、日本のあるべき「国家像」を明確にし、政策の優先度を示してもらいたい。
 09年衆院選での民主党政権公約(マニフェスト)に対する信頼は失墜した。月2万6000円の子ども手当や高速道路無料化など実現しなかったバラマキ政策は財源の裏付けを欠いていた。政治不信を増幅する原因になった。
 国民の歓心を買うため、実現性のない、大衆迎合の政策を競う愚を繰り返してはなるまい。
 新たな公約の作成に際しては、ねじれ国会で、他党の協力なしに法案が成立しないことを考えるべきだ。政策の達成期限や数値目標だけを示しても、意味はない。
 野田首相は、30年代に「原発稼働ゼロ」を目指す方針を改めて強調した。「脱原発依存の方向感を持つ政党が勝つのか、従来のエネルギー政策を進める政党が勝つのかが問われる」と位置づけた。
 ◆大衆迎合の政策避けよ◆
 国民の生活が第一、みんなの党、日本維新の会なども「脱原発」を唱えている。
 だが、代替エネルギーの確保や電気料金の値上げ問題、経済・雇用への悪影響など多くの懸案があり、脱原発が果たして現実的な政策と言えるのか、疑問である。
 自民党は「政府が責任を持って再稼働する」として安全性を確認した原発は活用する考えだ。中長期のエネルギー政策についても具体的に提示してほしい。
 争点は、このほか、日本経済再生のための成長戦略、環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題、社会保障、領土・主権問題、安全保障など数多い。
 各政党、各候補の政策とその実行能力を厳しく吟味し、後悔しない「選択」を目指したい。

政党の責任―「熱狂の政治」はいらない

 野田首相が衆院を解散した。
 来月4日公示、16日投開票の総選挙がスタートする。
 振り返れば、このところ異様な総選挙が続いた。
 05年の「郵政選挙」。
 小泉首相が、民営化反対派に放った刺客候補に注目が集まり、自民党が圧勝した。
 09年は「政権選択選挙」。
 民主党が地滑り的な勝利を収め、政権交代を果たした。
 郵政民営化に賛成か反対か。政権交代は是か非か。シンプルな争点を政党が掲げ、多くの有権者の熱い期待を集めた。
■未来への選択肢を
 だが、そんな「熱狂の政治」は、果たして人々の期待に応えることができただろうか。
 答えが否であることは、1年限りの首相交代を5度も繰り返してきた現状が、何よりも雄弁に物語っている。
 右肩上がりの経済成長は終わり、少子高齢化が進む。国の借金は1千兆円に達し、景気の低迷に出口は見えない。産業の空洞化も進み、多くの若者が正社員になれない……。
 国民の不安は切実だ。それだけではない。社会保障や公共事業のツケを回す形で、子や孫の世代にも負担を強いている。
 いまの政治の使命は、経済成長を前提につくられた仕組みを仕立て直し、この国の未来を切り開くことにほかならない。
 野田政権は、社会保障と税の一体改革という実績を残した。だが、その代償として民主党は分裂し、政権は弱体化した。
 政党にとって苦難の時代だ。
 経済のグローバル化は進み、国の財政は厳しい。どの政党が政権を担っても選択肢は少なく、国民に痛みを強いることを避けて通れない。
■基本政策を明確に
 そんな時代、一気に問題を解決できるかのような甘い夢をふりまき、勇ましいスローガンで国民受けをねらう誘惑に、政治家はかられがちだ。
 前者の典型例が、3年前の民主党のマニフェスト(政権公約)だった。
 中国や韓国との間で領土問題をめぐる対立が続くなか、強腰の近隣外交を唱えるのは後者のケースだろう。
 だがそれは、逆に政治に混乱をもたらすことになる。
 困難な問題から逃げず、現状を一歩ずつ改善する選択肢を示す。このことを、改めて各党に求めておきたい。
 各党のマニフェストづくりが本格化する。
 経済再生や財政再建、震災復興はもちろん、国の根幹にかかわる次の三つの基本政策について、ぜひ明確な方針を盛り込んでほしい。
 第一に、原発・エネルギー政策である。
 民主党は「30年代原発ゼロ」を打ち出した。ならば、もう一歩踏み込み、そこに至る工程表もあわせて示してはどうか。
 これに対し、自民党の安倍総裁は「原発ゼロは無責任」と批判する。では、安全性をどう確保し、使用済み核燃料の管理・処理をどうするのか。納得のいく説明がほしい。
 第二に、環太平洋経済連携協定(TPP)への対応だ。
 首相はTPPの交渉参加に意欲を示すが、党内には反対論も根強い。まずは党内を一本化すべく、指導力を求めたい。
 一方、この問題で安倍氏の発言は二転三転している。支持団体への配慮からだろうが、ことは国際交渉である。推進、反対いずれにせよ、こんなあいまいな態度では困る。
 第三に、外交・安全保障だ。
 とりわけ、揺らいだ日米関係をどう立て直し、中韓との関係修復をどう進めるのか。各党の具体的な構想を聞きたい。
 政権交代の時代、どの政党も政権を担う可能性がある。少なくともこれらの政策では、党内論議を尽くし、明確な方針をうち立てる。これもまた、未来への責任である。
■2大政党か多党化か
 民主党からの離党者が相次ぐ一方、「第三極」の合従連衡の動きも広がる。今回の総選挙は異例の「多党選挙」となる。
 2大政党が軸か、多党化の道をたどるのか。今後の政治の基調を占う選挙でもある。結果によっては、政界再編の動きが加速するかもしれない。
 選挙の前後を問わず、連携する政党どうしは基本政策の一致が欠かせない。共通のマニフェストも考えるべきだろう。
 見過ごせないのは、所属する政党の旗色が悪いとみるや、離党して新党へと走る議員たちが相次いでいることだ。
 消費増税やTPPなど基本政策で、党の方針に納得できない議員がたもとを分かつことはあるかもしれない。
 一方で、政策はそっちのけ、風やブームを求めて右往左往する政治家がいかに多いことか。
 公示まで残された時間は限られている。それでも、各党は可能な限り、有権者に開かれた議論のなかで、未来に責任をもてるマニフェストを示すべきだ。

2012年11月16日金曜日

中国新体制―成熟の国への重い課題

 高層ビルがそびえ、高級車が行き交う通りのすぐ裏手に、みすぼらしい家が立ち並ぶ。
 世界第2の経済大国になった中国だが、貧富の格差は絶望的なまでに広がっている。抗議活動は日常的に起きている。
 中国共産党のトップになった習近平(シーチンピン)総書記がかじを取るのはそんな危うさをはらむ大国だ。
 経済成長に突き進めばよかった時代はおわった。政治腐敗、経済の停滞、社会の不安。随所にひずみがたまり、中国は大きな転換点を迎えている。
 この大国を改革する処方を示し、大胆に実行する。それが習氏の使命だ。
 就任演説では「より良い生活へのあこがれを満たすことが、我々の目標だ」と語った。
 まず、なすべきは、民の声をしっかりと聞くことだ。
 習氏は父が元副首相という毛並みの良さで知られる。だが、文化大革命の混乱期に農村で6年間過ごした経験をもつ。父も一時失脚していた。権力が暴走する恐ろしさを、身をもって知っている。
 その体験を、この難しい時期を率いる指導者として生かせるかが問われる。
 党大会のあいだ、著名な人権活動家らが北京を離れさせられた。締めつけは依然厳しい。だが、インターネットの普及もあって、自由を求める知識層から主張する農民まで、さまざまな価値観が育っている。
 中国は、多様性を反映できる政治に向かうべきだ。一党独裁の殻に閉じこもったままでは、未来は開けない。
 総書記を退いた胡錦濤(フーチンタオ)・国家主席は今回の党大会で、20年までに国内総生産(GDP)と、個人の所得を倍増させる目標を掲げた。課題は、既得権層に集まる富を農民や労働者にもゆきわたらせる経済への改革ができるかどうかだ。
 中国はグローバル経済に深く組みこまれている。動向は国際社会に大きな影響を与える。混乱をだれも望まない。世界の期待にこたえる責任がある。
 日本とは尖閣問題で緊張が続く。習氏も前指導部で政策決定に参加しており、急に姿勢を変えることは期待できない。
 だが、国内の不満を外に向けて発散させる中国の手法は、商店や工場への乱暴で自国の経済や信用も傷つけた。内からの声に向きあう成熟を求める。
 日本では総選挙がある。双方の体制が落ち着けば、関係改善を図るべきだ。首脳が国際会議で顔をあわせても言葉を交わせない状態を、続けるわけにはいかない。

赤字国債―予算改革の覚悟を示せ

 国の予算編成で、税収などではまかなえない不足分を補う赤字国債の発行法案が、きょう成立する見通しだ。
 あわせて、年度ごとに法案を成立させる原則を改め、15年度までは赤字国債が自動的に発行できるようになる。
 「ねじれ国会」のもと、参院で多数を占める野党が、赤字国債法案に反対して与党をゆさぶる事態が続き、今年度は予算の一部支出停止に追い込まれた。混乱を防ぐため、民自公3党がルール変更で合意した。
 私たちも社説で、赤字国債法案を政争の具にしない工夫が必要だと主張してきた。新ルールはひとつの知恵である。
 ただ、新たな仕組みで財政規律が失われてしまっては本末転倒だ。
 そもそも、なぜ赤字国債の発行に年度ごとの法律が必要とされたのか。
 赤字国債を戦後初めて本格的に発行したのは、石油ショック後の75年度。ときの大平正芳蔵相が「毎年、苦労して法案を成立させることで、赤字国債を抑制していこうという思いを致す」ために決断したという。
 そうした緊張感が、3党にあるだろうか。今回のルール変更の前提として「赤字国債発行の抑制に取り組む」とうたうが、はなはだこころもとない。
 たとえば、東日本大震災の復興予算である。
 被災地の再建に直接結びつかない項目が次々と明らかになった。復興基本法を巡る協議を通じて、幅広い事業を盛り込めるような予算編成に道を開いたのは3党である。国会のチェックもきかなかった。
 政府の予算案を国会がしっかり審議する。成立した予算の使い道に目を凝らし、決算を厳しく点検して、次の予算案に反映させていく。そんな循環を作っていく必要がある。
 新たな動きもある。
 復興予算の問題ではさまざまな党派の若手議員が動き、決算や行政監視を担う衆参の委員会で審議が実現した。超党派のグループは近く提言をまとめる。
 会計検査院の検査や行政刷新会議の検討も総動員し、効率的な予算と決算の徹底チェックを実現しなければならない。
 消費税が導入された後の91年度から3年間、赤字国債の発行はゼロになった。ところが、その後は発行が当たり前になり、今年度の予定額は38兆円を超える。5%の消費増税で新たに手にする税収の3倍近い。
 この財政の惨状にどう向き合うのか、各党とも総選挙で覚悟を示してほしい。

きょう衆院解散 民自公協調が「条件」を整えた

 衆院はきょう16日、解散される。野田首相が掲げた解散の三つの「条件」がほぼ整ったためだ。
 焦点だった衆院選挙制度改革では、「1票の格差」を是正する小選挙区の「0増5減」案が民主、自民、公明各党などの賛成多数で衆院を通過した。16日の参院本会議で成立する。
 首相が自公両党に提案した比例定数削減に関しては、民自公3党が来年の通常国会での成立を目指すことで一致した。
 与野党は、議員歳費を2割削減する法案も16日に成立させる。議員定数削減が実現するまでの間、国会議員が自ら「身を切る」姿勢を示そうというのだろう。
 首相が党首討論で言及した「最悪のケース」で合意が実現することになる。
 とはいえ、小選挙区の区割り見直し作業や周知期間を含めると数か月必要で、来月の衆院選は、最高裁に昨年3月指摘された「違憲状態」のまま実施される。
 いずれ選挙無効を求める訴訟が起こされ、厳しい司法判断が下される公算が大きい。
 もう一つの条件だった、赤字国債発行を認める特例公債法案も成立する見通しだ。財政規律に配慮することを前提に、2015年度までは、赤字国債を自動的に発行できるようになる。
 民自公3党は、社会保障制度改革国民会議の月内設置でも合意した。持続可能な年金制度のあり方など論点は多いはずだ。
 解散の条件ではなかったが、年金支給額を物価下落と見合う適正水準に減額する国民年金法改正案も、民自公3党の協力により、成立することになった。
 自公政権時から放置されてきた年金の「払い過ぎ」がようやく是正される意義は小さくない。
 衆参ねじれ国会であっても、与野党が真剣に接点を模索すれば、成立させることは十分可能だ。
 社会保障・税一体改革の効率的な運用に不可欠な共通番号制度関連法案(マイナンバー法案)や、国際結婚破綻時の子の扱いを定めるハーグ条約実施法案などが今国会では廃案となるが、来年の通常国会で成立を図るべきだ。
 衆院選後も、参院の会派構成が基本的に変わらない以上、政治を前に動かすには、民自公協力の枠組みの維持が重要となる。
 各党の消長がかかる衆院選は、激しい“非難合戦”に陥りがちだが、民自公3党は、そのことを十分念頭に置いて、選挙戦に臨まねばならない。

習近平体制発足 膨張中国と向き合う戦略築け

 中国共産党の中央委員会総会が開かれ、指導部が大幅に交代した。今後10年、中国のかじを取る習近平体制の始動だ。
 総書記に選ばれた習近平国家副主席は記者会見で、「我々の責任は引き続き中華民族の偉大な復興のために努力奮闘し、中華民族を世界の民族の中でさらに力強く自立させることである」と語った。
 その言葉通り、習政権は一党独裁を堅持しながら改革・開放を進め、米国と並ぶ超大国を目指して経済力と軍事力の一層の強大化を図るのだろう。軍事・経済の「膨張路線」は当面変わるまい。
 元副首相を父に持つ習氏は、高級幹部の子女グループ「太子党」の代表だが、党長老の影響力が残る中、どこまで指導力を発揮できるかは不透明と言える。
 今回の人事で注目されるのは、これまで2期10年、政権を率いてきた胡錦濤氏が総書記だけでなく軍を握る中央軍事委員会主席も退任して、習氏に譲ったことだ。
 総書記退任後も2年近く軍事委主席にとどまった江沢民元総書記と異なる道を選ぶことで、胡氏には、最高指導部の意思決定を複雑化させてきた二元支配を終わらせる狙いがあるのだろう。
 ただ、胡氏は自らに近い軍幹部2人を党大会前に軍事委副主席に昇格させたほか、政治局にも自派閥の人材を配置した。退任後も自らの影響力を党指導部に残すために打った布石に違いない。
 調和のとれた持続可能な発展を目指す胡氏の「科学的発展観」が党大会で行動指針に格上げされ、党規約に盛り込まれたのもその証左である。
 政治局常務委員は従来の9人から7人に削減された。顔ぶれを見ると、習氏の意向より江氏と胡氏の派閥闘争を反映した人事だ。
 習氏は来春、国家主席に就任し、党、国家、軍の3権を掌握する。習政権にとって最優先課題は、深刻化している社会のひずみの克服である。急成長に伴う格差の拡大や幹部の腐敗、環境破壊に、真摯(しんし)に対策を講じる必要がある。
 中国が尖閣諸島の国有化に反発して始めた日本製品不買運動は日本経済だけでなく、中国経済にも打撃を与えた。習政権は威圧外交を速やかに自制すべきだ。
 日本政府は膨張中国と、どう向き合うのか。腰を据えて対中戦略を固めることが肝要である。
 東アジア首脳会議などの枠組みを重層的に利用し、中国が国力に見合った国際的責任を果たすよう働きかけを強めねばならない。

2012年11月15日木曜日

衆院、16日解散へ―「異常な選挙」の自覚もて

 あす16日に衆院を解散する。
 野田首相が、自民党の安倍総裁、公明党の山口代表との党首討論で表明した。
 総選挙は来月4日公示、16日投開票の日程で行われる。
 私たちは首相の決断はやむを得ないものと考える。
 社会保障と税の一体改革関連法をめぐり、自民、公明両党の党首と「近いうち」の解散の約束を交わしてから3カ月。首相がその約束をなかなか果たさないことで野党の不信を招き、政治の動きはほとんど止まったままだった。
 ぎりぎりまで追い込まれる前に、解散に打って出る。そのことで政治を前に進める契機をつくりたい。そんな首相の思いは理解できる。
 首相は党首討論で、「16日解散」の条件として、赤字国債発行法案と衆院の選挙制度改革法案を、今週中に成立させることを求めた。
■違憲状態下の選択
 民主党がきのう国会に提出した選挙制度の法案は、最高裁に違憲状態と指摘された「一票の格差」是正のための小選挙区の「0増5減」と、国会議員が身を切る姿勢を示す比例定数の40削減が盛られている。
 「0増5減」については自公両党も異存がない。
 一方で、比例区の削減には野党各党の足並みがそろう見通しはない。
 ならば、定数削減は来年の通常国会で実現する。それまでの間は議員歳費をカットして身を切る覚悟を示す。そのふたつを確約してほしい――。首相は安倍氏と山口氏にそう迫った。
 自公両党は、この提案を受け入れた。赤字国債発行法案とあわせ、今国会では最低限、「0増5減」法案を成立させる必要がある。
 そのうえで、各党にしっかりと自覚しておいてもらわねばならないことがある。
 違憲状態下のきわめて異常な選挙を、有権者に強いるということである。
 解散までに「0増5減」法案が成立したとしても、次の総選挙はいまの定数配分のまま行われることになる。具体的な選挙区割りと周知期間に、少なくとも数カ月はかかるからだ。
 このまま次の総選挙が行われる結果、裁判になれば「違憲判断」が下る可能性がある。選挙の一部無効が宣言され、やり直し選挙が迫られるという見方も出ている。
 つまり、新たに選ばれる議員は、民意を正しく反映しない選挙で選ばれるのだ。さらにいえば、次の政権はそうした議員たちによってつくられるということでもある。
 そんな政権は正統性を欠く。そう批判されても仕方がないのである。「違憲状態の選挙に投票はできない」と投票をボイコットする有権者が出ても、不思議はない。
 この事態の深刻さを、各党はかみしめるべきだ。
■公約に抜本改革盛れ
 野田政権がすでに政治を前に進める力を失って久しい。
 今の政権に、格差を是正した新制度での選挙が可能になるまでの数カ月間、仕事をせよというのは現実的ではない。事実上の「政治空白」を続けることになるからだ。
 違憲状態の選挙は、今回で最後にする。次からはきちんと正統性の担保された選挙をする。
 悩ましいが、今回はそうした次善の選択もやむを得まい。
 各党に求めたいのは、マニフェスト(政権公約)に、選挙の正常化に向けた具体策を盛り込むことだ。
 まずは人口に比例して議席を割り振る小選挙区の選挙権の平等を、どう確保するか。
 衆参両院の役割分担を踏まえた抜本的な制度改革は、首相の諮問機関の選挙制度審議会に議論をゆだね、その結論に従うことも明記すべきだ。
■次の政権の使命問え
 総選挙が一気に間近に迫ったことで、各党はマニフェストづくりを急ぐことになる。
 項目の羅列だけでは困る。次の政権の使命は何か、メリハリのついた争点を示すことだ。
 首相は党首討論で、自民党政権時代の原子力政策や膨れあがった財政赤字を「負の遺産」と批判した。
 「2030年代の原発ゼロ」を掲げた脱原発や、公共事業のあり方の改革を争点に訴えていくということだろう。
 ならば民主党はこの3年の反省をふまえ、財源をふくめ現実的で説得力のある工程表を今度こそ示さねばならない。
 その責任は野党も同じだ。
 たとえば「民間投資をふくめ10年間で200兆円」の国土強靱(きょうじん)化を公約の柱に掲げる自民党も、財源を具体的に示してもらわねばならない。
 衆参の「ねじれ」をどう克服し、政治を前に動かすかの具体策もぜひ聞きたい。
 「第三極」を名乗る各党もふくめ、活発な政策の競い合いに期待する。

衆院解散表明 首相の重い決断を支持する

 ◆「1票の格差」是正を先行せよ
 突然の衆院解散の表明だった。民主党内で早期解散への反対論が噴出する中、乾坤一擲(けんこんいってき)、中央突破を図ったのだろう。
 野田首相が党首討論で自民党の安倍総裁に対し、衆院の定数削減を来年の通常国会で実現すると確約すれば、「16日に衆院を解散する」と言明した。
 安倍氏は明言を避けたが、党首討論後、「通常国会で結論を得るべく全力を尽くす」と述べ、16日の衆院解散が固まった。
 衆院選は、12月4日公示―16日投票の日程で行われる予定だ。
 ◆政治不信の増幅を回避
 内閣支持率が低迷しており、次期衆院選では、民主党の大敗も予想される。首相があえて解散・総選挙を断行することは、見識ある、重い決断と評価できる。
 8月に「近いうち」の解散を表明しながら、何もせずに年を越すようでは、首相発言の信頼性に疑問符が付き、国民の政治不信が一段と高まりかねない。
 首相は、追い込まれる形でなく、主導権を持って解散を断行したい考えだった。日本維新の会など第3極の体制が整う前に、衆院選に臨む狙いもあろう。
 民主党内の大勢を占める解散反対論者は、「解散は政治空白を招く」などと主張する。
 しかし、野田政権の基盤が弱体化した中で、重要な政策課題を先送りし、いたずらに延命を図る方が、内政、外交両面で、より深刻な政治空白をもたらす。
 野田首相の解散方針に反発する民主党議員は公然と離党の動きを見せている。解散は首相の専権事項であり、首相の決断に従えない以上、離党はやむを得まい。
 年内解散を前提にすれば、解散日程が遅れるほど、来年度予算の編成や成立もずれ込むことが懸念されていた。景気への悪影響を抑える意味でも、最も早い「16日解散」は悪くない選択と言える。
 年内に発足する新政権が、来年度予算を編成し、景気対策や外交の立て直しなどの重要課題に取り組むことが望ましいからだ。
 党首討論の場で、野党に「踏み絵」を踏ませるかのように、解散条件の受け入れを迫る手法の是非はともかく、野田首相が党内の反対論にひるまず、解散権を行使することは支持したい。
 ◆民自公の信頼が大切だ
 衆院選後も、衆参のねじれ状況が続く可能性が高い以上、民主、自民、公明3党が一定の信頼関係を維持し、協力できる体制を構築しておく意義は小さくない。
 解散までの時間は限られているが、与野党は協力して、喫緊の課題を処理すべきだ。
 赤字国債の発行を可能にする特例公債法案は、民自公3党が16日の成立で合意した。国庫が底をつかないよう、解散前に確実に成立させねばならない。
 衆院選の「1票の格差」を是正し、「違憲状態」の解消を図ることも不可欠である。
 解散を先送りする思惑から、この問題に真剣に取り組んでこなかった民主党の責任放棄の罪は大きい。民主党は今なお、小選挙区の「0増5減」と比例定数削減の一体処理に固執している。
 「消費税率引き上げ前に国会議員が自ら身を切る」ため、有権者受けのする定数削減に積極的な姿勢を示すポーズだろうが、解散前に結論を出すのは明らかに時間的に無理がある。
 「違憲状態」の解消には本来、「0増5減」の法案成立後、小選挙区の区割り作業を経て、新しい選挙区で衆院選を行う必要があるが、それには数か月を要する。
 解散前に、まず「0増5減」の法案を成立させる。定数削減やその他の制度改革は来年の通常国会で実現する。これが現実的であり、衆院の最低限の責務だろう。
 「0増5減」さえ見送ったまま衆院選を行った場合、「違憲」として、選挙無効とする司法判断が出かねない。そうした事態は回避しなければならない。
 ◆TPPや原発で論争を
 衆院選では、3年余の民主党政権の評価が問われる。衆参ねじれ国会の下、「決められない政治」が続いたが、民主、自民の2大政党が引き続き主導するのか、あるいは、第3極が勢力を大きく伸ばすのかも焦点となろう。
 政策面では、野田首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を掲げ、争点化する意向だ。自民党など他党も、あいまいな態度では済まされない。
 社会保障と税の一体改革や、原発・エネルギー、外交・安全保障政策についても、各政党は政権公約(マニフェスト)を通じて、立場を明確にしてもらいたい。

2012年11月14日水曜日

マニフェスト―バラ色に染めるな

 衆院の年内解散が取りざたされるなか、各党がマニフェスト(政権公約)づくりを加速させている。
 民主党は次の公約素案をまとめ、各地で政策進捗(しんちょく)報告会をスタートさせた。各党とも、現実的で説得力のある政策を競いあってほしい。
 もっとも、昨今、マニフェストの評判は芳しくない。その責任の多くは民主党にある。
 09年総選挙で、民主党は予算の見直しなどで16.8兆円の財源を確保するバラ色の公約を掲げ、破綻(はたん)した。
 消費増税法を成立させたことは野田政権の功績だが、公約にはなく、結果的に有権者を裏切ることになったことも事実だ。
 守れない約束をし、痛みを分かち合う必要性には目をつぶる。そのことが、深刻な政治不信を招いた。首相が「過ちは心から率直におわびする」と国会で陳謝したのは当然である。
 それでも、マニフェストの意義は損なわれていない。
 政策を裏づける財源や達成時期をマニフェストに明記し、実行し、検証して改善する。それを有権者が政治を評価する際のモノサシとして使う。
 もちろん、限界はある。
 国の財政に限りがあり、経済のグローバル化が進むなか、政治のとりうる選択肢は、じつは多くない。政党がマニフェストで国民受けを狙ったり、無理に対立軸をつくったりすると、逆に政治に混乱をもたらす。
 民主党の「甘い公約」に懲りた有権者は、その点にも厳しい目を向けている。各党ともそのことを忘れてはなるまい。
 首相は、民主党のマニフェストに環太平洋経済連携協定(TPP)推進の方針を盛り込むという。自民党との違いを際立たせるねらいだが、民主党内にも異論は多い。議論を尽くし、まずは党内をまとめてほしい。
 「脱原発」を掲げるにしても、スローガンだけでは説得力に欠ける。工程表をつくり、本気度を示してはどうか。
 一方、自民党の安倍総裁は領土外交に強い姿勢で臨むとしつつも「中国、韓国との関係改善をはかる」という。では、具体的にどんな戦略を描くのか。政権復帰をめざすというなら、責任ある構想を示してほしい。
 「第三極」を名乗る各党にも求めたい。原発や消費増税、TPPなど基本政策で主張に違いがある。連携する場合は、それぞれがマニフェストを作成したうえで、整合性ある統一マニフェストを掲げるべきだ。
 こんどこそ、実りある政策論議を聞きたい。

週刊朝日問題―報道の自覚に欠けた

 橋下徹大阪市長をめぐる週刊朝日の記事について、外部識者でつくる朝日新聞社の「報道と人権委員会」が見解を出した。
 記事は、出自を根拠に人格を否定するという誤った考えを基調としており、人間の主体的尊厳性を見うしなっている――ときびしい批判が並んだ。
 小紙社説の執筆を担当する論説委員室も、指摘はもっともだと考える。すぐちかくで働く仲間がおこした過ちであり、痛恨の極みというほかない。
 橋下氏は国民が関心をよせる公人のひとりだ。生い立ちや親族を取材・報道すること自体は否定されるものではない。
 だが、委員会の見解を引くまでもなく、生まれで人格が決まるような考えは明らかな間違いだ。また、一般にふれてほしくない事実を取りあげる場合は、必要性が伝わり、そこに踏み込むだけの説得力が求められる。ところが、記事からそれを読み取ることはできない。
 具体的な地名をあげ、被差別部落があると書いたのも配慮を欠く。差別事件が題材のときなど、必然性があって明示する場合もある。しかし今回、言及した理由はどこにあったのか。
 タブーを恐れず本音で切り込むことこそ、メディアの使命であり、雑誌の役割も大きい。だからといって記事の精度が低かったり、人権をないがしろにしたりする行いが許されるわけではない。当然の理だ。
 私たちはこれまで社説で、表現・言論の自由の大切さを繰りかえし唱えてきた。
 知識や意見、それに対する反論を伝えあい、共有することによって、ものごとを考え、議論を深める土台が形づくられる。民主主義を、強く、たしかなものにするために最も大切なものが、表現の自由である。
 マスメディアだけの権利でないのはもちろんで、社会全体で守り、育てていくものだ。
 一方で表現の自由は、名誉やプライバシーなど他の重要な価値としばしば衝突する。
 その調和をどこに求めるか。表現にたずさわる者が悩んできたテーマであり、これからも悩み続ける課題だ。そこにしっかりと向きあわず、今回のようなひとりよがりの表現行為に走れば、人びとの批判を呼び、やがては公権力による介入など、深刻な事態を招く。
 読者から「新聞と週刊誌で会社が別だといって他人事の顔をするな」との声も数多く届く。
 この過ちをわが問題と受けとめ、社会の期待に応える報道とは何か、足元をかためて、その実現に取り組んでゆきたい。

赤字国債合意 ねじれ国会の暫定休戦協定だ

 ようやく与野党攻防の出口が見えてきた。
 民主、自民、公明の3党は今回の合意を踏まえて、衆院解散への環境を整えねばならない。
 民自公3党が、赤字国債の発行を可能にする特例公債法案の修正で正式に合意した。2015年度まで、予算案が成立すれば、自動的に赤字国債発行を認める仕組みを導入する。
 衆参ねじれ国会の下、参院で多数を占める野党は法案を人質に政府を揺さぶってきたが、今回の合意で不毛な政争は避けられる。そのために、与野党が、新たなルールを作ったことは評価できる。
 昨年は、法案の成立が菅首相退陣の取引材料になった。
 今年は野田首相に解散を迫る“武器”となり、成立がずれこんだ結果、政府の予算執行の抑制で地方交付税の配分が滞った。地方自治体が「国民生活に影響しかねない」と反発したのは当然だ。
 野田首相が言うように、今の財政状況では、どんな政権でも、赤字国債を発行せずに歳出に見合う財源を確保できない。
 自公両党は、仮に衆院選後、政権に復帰しても、参院で過半数の議席を持っていない。法案を政争の具にしないという合意は自公両党にとっても損ではなかろう。
 今回の合意には懸念も残る。
 赤字国債の発行は、財源不足を特例措置として補うもので、本来は“禁じ手”である。
 予算案とは別に特例公債法案を成立させねばならないとしてきたのは、財政規律を維持し、野放図に借金が膨らまないよう歯止めをかける狙いがあった。
 三木内閣当時、大平正芳蔵相は国会で毎年の法案審議について「緊張した財政運営に資する」と述べ、その意義を強調している。それでも、赤字国債は増え続け、深刻な財政悪化を招いた。
 今後、自動的に発行できるとなれば、財政規律が緩まないか。
 民自公3党の合意は「特例公債発行額の抑制に取り組むこと」を前提にしている。政権交代があっても、政府はこれを肝に銘じて予算編成に当たらねばならない。
 解散に向けて残る課題は衆院選挙制度改革である。民主党は「1票の格差」是正と定数削減を同時に行う法案を提出する方向だ。
 だが、何より「違憲状態」を解消することが求められている。
 首相も国会で「憲法と関係のある1票の格差が最優先だ」と答弁した。民自公3党は、小選挙区の「0増5減」先行処理でも、合意を急ぐべきである。

GDPマイナス 景気の失速回避に全力あげよ

 景気後退のサインとみるべきだ。日本経済の失速を回避できるかどうかの正念場である。
 今年7~9月期の実質国内総生産(GDP)は前期比0・9%減と、3四半期ぶりのマイナス成長となった。年率に換算すると3・5%減で、野田首相は「厳しい数字だ」と危機感を示した。
 海外経済の減速に伴う外需の落ち込みに加え、個人消費と設備投資という内需の二本柱がそろって減少したことが主因だ。復興需要による公共投資の増加では、マイナスを補いきれなかった。
 消費は、エコカー補助金の終了で自動車販売が苦戦し、薄型テレビなど家電の不振も続いている。企業業績の不透明感が強まり、設備投資が控えられた。
 政府・日銀は、復興需要で内需を支えながら海外経済の回復を待ち、本格的な成長につなげるシナリオを描いていたが、早すぎた内需減速で目算は外れつつある。警戒を強め、景気の下支えに万全を期さねばならない。
 懸念されるのは、海外経済の早期回復が望み薄なことだ。
 欧州はマイナス成長に陥っている。米国も年末から来年にかけて減税打ち切りなど「財政の崖」が控えており、世界経済に打撃を与える恐れがある。
 中国経済の減速と尖閣諸島問題を巡る日中関係の悪化を受け、中国向け輸出が急減していることも大きな不安材料といえよう。
 こうした逆風に対して、予備費を使った小粒の緊急経済対策では力不足が否めない。政府は補正予算を早期に編成し、本格的な景気対策を打ち出すべきだ。
 ただし財政事情は厳しい。効果の高い公共事業などに、予算を重点配分する必要がある。
 経済成長は、民間の創意で「売れる商品」を開発し、普及させていくことが最大の推進力となる。特に、環境関連や医療などの成長分野は今後、ビジネスチャンスの拡大が期待される。
 投資減税による研究開発への支援や、新事業の障害となる規制の緩和などで後押ししたい。民間の要望に耳を傾け、的確な施策を厳選することが重要となる。
 民間活力を最大限に引き出すためには、国内の事業環境を改善させることも急務だろう。
 具体的には、歴史的な超円高の是正や国際的に高い法人税率の引き下げ、原子力発電所の再稼働による電力不足の解消などだ。政治の安定を図り、日本の成長をテコ入れしなければならない。

2012年11月13日火曜日

年内解散浮上―その前になすべきこと

 野田首相が年内の衆院解散に踏み切る意向を固めた。
 「近いうち」の解散を首相が約束し、自民、公明両党の協力をえて一体改革関連法を成立させてから3カ月。民自公3党のにらみ合いが続き、政治はほとんど動きを止めたままだ。
 だからだろう、野田内閣の支持率は朝日新聞の調査で2カ月連続で18%にとどまっている。
 本来なら、衆院議員は4年間の任期いっぱい仕事をするのが筋である。解散・総選挙をしたからといって、政治が一気に前に進む保証もない。
 一方で、「ねじれ国会」のもと、3党の信頼関係が崩れたままでは、ゆきづまった政治を動かす展望が描けないことも、また現実である。
 次の解散・総選挙を、政治を動かす契機とするよう求めたい。そのために、解散の前に、与野党にぜひ実行してもらわねばならないことがある。
 私たちは、最高裁に違憲状態と指摘された衆参両院の一票の格差をただちに是正するよう、繰り返し主張してきた。
 首相はきのうの衆院予算委員会で、衆院の格差を正す小選挙区の「0増5減」だけでなく、比例定数の40削減も実現したいと改めて強調した。
 だが、比例区だけを大きく減らす民主党案には、野党各党に異論が根強い。今国会で合意を得られるとは思えない。
 首相に提案がある。どうしても定数を削減したいなら、あすの党首討論で、より現実的な具体案を示してはどうか。
 それが受け入れられない場合には、今国会では「0増5減」の先行処理にかじを切るべきである。
 「0増5減」すらできず解散など許されるはずがない。首相は覚悟を決めるべきだ。
 次に、衆参の「ねじれ」のもとでも国会審議が滞らないルールづくりである。
 赤字国債発行法案は今国会で成立する見通しだが、首相が求める通り、来年以降は予算案と一体で成立させるべきだ。
 予算執行に不可欠なこの法案を政争の具にすることは、国民生活を人質にとるに等しい。その愚かさは今回、どの党も肌身で知ったはずである。
 国会同意人事で衆院の議決を優先することなど、国会を動かすルールをできる限り確認しておくことも重要だ。
 さらに、社会保障をめぐる国民会議を設置し、本格的な議論を始めることも欠かせない。
 限られた日数でも、せめて以上の三つくらいは実行する。政治の最低限の責任である。

小沢氏無罪―政治とカネ、いつまで

 政治資金収支報告書にうその記載をしたとして強制起訴された小沢一郎衆院議員が、東京高裁であらためて無罪となった。
 追加の証拠調べがなく、結論は予想されていた。高裁は、実際に報告書をつくった元秘書らについても、わざとではなく、認識不足から一部誤って書いた可能性があると結論づけた。
 元秘書らは検察によって起訴され、一審で虚偽記載の故意が認められた。高裁の別の裁判長のもとで、あすから二審が始まる。そこではどう判断されるのか、行方を見守りたい。
 刑事責任の有無をはなれ、事件は「政治とカネ」をめぐる多くの疑問や不信を招いた。
 今回の判決も、問題となった土地の取引が本来報告すべき年に報告されなかったこと、元秘書が公表を先送りする方針を決め、不動産業者らと調整したこと――などを認めている。
 金や資産の流れをそのまま明らかにして、国民の不断の監視の下におく。それが法の精神ではないか。何億円もの動きについて、事実と異なる報告がされていた点に変わりはない。
 疑惑が指摘された当初、小沢氏は会見で身の潔白をあかす書類を示して追及をかわした。後にそれは、日付をさかのぼって急きょ作成したものであることがわかった。捜査や公判を理由に国会での説明から逃げ続け、一審の法廷では「関心は天下国家で、収支報告書は見たこともない」と述べた。
 こうした行いは国民と政治との距離を広げただけでなく、小沢氏への失望を呼び、活動の幅をせばめる原因にもなった。
 その自覚と反省を欠いたまま、新しい政党をつくって「第三極」の結集をうったえたとしても、広範な支持を得るのはむずかしいだろう。
 なげかわしいのは、他の政党や国会議員も同じだ。
 事件によって、「秘書に任せていた」「法律の知識がなかった」ですんでしまう制度の不備が、再び浮かび上がった。ところが、かねて課題の企業・団体献金の廃止をふくめ、見直しの動きは起きていない。
 抜け穴の多いしくみの方が楽だし、どうせ国民は忘れてしまうさ。そんな甘えがないか。
 氏が政治の中心にいるときは思惑ぶくみで事件を利用し、後景に退けば知らんふりを決め込む。政局優先のご都合主義が、既成の、とりわけ大政党への不信となって表れている。
 衆院の解散が近い。政治とカネというこの古くて新しい問題に、各政党はどう取り組むか。国民はしっかり見ている。

「TPP解散」 首相は交渉参加の旗を掲げよ

 自由貿易を推進し、日本の成長に弾みをつけることが重要だ。野田首相は環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を決断すべきである。
 首相が衆院予算委員会で、米国が主導しているTPPについて、民主党の次期衆院選政権公約(マニフェスト)に盛り込む考えを改めて示し、「党内で議論を進めていく」と述べた。
 首相が「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明してから1年が過ぎた。一段の市場開放に備えた農業の国際競争力強化策などの環境整備もしないまま、参加の決断を先送りしてきたのは問題である。
 ただ、ここに来て、TPP参加によってアジアの活力を取り込み、日本の成長加速を目指す姿勢を鮮明にする意味は大きい。
 年末から年始の可能性がある次期衆院選はTPPが争点となろう。活発な論議が求められる。
 民主党内には依然、反対論が強く、首相の「TPP解散」を阻止する動きも活発化している。
 だが、まずは交渉のテーブルに着かないと物事は始まらない。首相は腰砕けにならず、指導力を発揮してもらいたい。
 一方、自民党は「関税撤廃を前提としたTPP参加に反対」という慎重な構えを崩していない。
 しかし、自民党が政権奪還を目指すなら、通商国家・日本がいかに貿易を拡大し、経済を活性化させるか、具体的な道筋を示すことが不可欠である。
 自民党内には、TPP参加への賛成論も少なくない。党内論議を尽くし、説得力のある政策を打ち出さねばならない。
 懸念されるのは、日本が決断をもたついている間に、出遅れが決定的になる事態である。
 すでにカナダとメキシコの参加が決まり、TPPを推進してきたオバマ米大統領が再選された結果、来年にかけて、11か国の交渉は加速する可能性が大きい。
 このままでは関税撤廃・引き下げや貿易・投資ルール作りを巡り、日本抜きで交渉が進みかねない。日本がルール作りなどに関与し、意見を反映できるかどうかで、国益が左右されるだろう。
 TPP参加は安全保障上も重要だ。日米関係の強化につながり、尖閣諸島を巡って対立する中国への牽制(けんせい)効果も期待できる。
 TPPとともに、日中韓自由貿易協定(FTA)や東アジア包括的経済連携(RCEP)などにも並行的に取り組み、したたかな戦略を推進する必要がある。

小沢氏再び無罪 検察審制度の見直しは早計だ

 国民の生活が第一の小沢一郎代表が、再び無罪となった。
 小沢氏の資金管理団体「陸山会」の土地取引を巡る政治資金規正法違反事件で、東京高裁は1審の無罪判決を支持し、検察官役の指定弁護士の控訴を棄却した。
 判決は、土地購入原資として小沢氏が提供した4億円が簿外処理された事実を認めた。陸山会による政治資金のずさんな会計処理を指摘したものだ。
 その一方で、判決は、小沢氏が元秘書から取引の経緯について詳細な報告を受けていなかった、と認定し、「政治資金収支報告書の記載を適法と認識した可能性がある」と結論づけた。
 指定弁護士は上告の可否を検討するという。だが、上告は憲法違反や判例違反がなければ認められず、小沢氏の無罪が確定する見通しが強まったと言えよう。
 この裁判は、一般市民で構成される検察審査会の議決に基づき、政治家が強制起訴された初のケースだ。2度の無罪判決で、制度の見直し論議が再燃するだろう。
 しかし、公開の法廷で解明を求めた検察審の判断には、もっともな面があった。政治資金疑惑に対し、小沢氏が合理的な説明をしなかったためだ。
 政治資金規正法は、自由で公正な政治活動を実現するため、政治資金の公開制度を定めている。政党助成法の施行で、政治資金に国民の税金が投入されてからは、資金の流れの透明性を確保する要請が高まっている。
 陸山会が土地取引で億円単位の巨額の金を動かしながら、収支報告書に事実と異なる記載をしていたのは、規正法の趣旨に反する行為だったと言える。
 検察審制度には裁判員制度と同様、刑事司法に国民の視点を反映させる意義がある。強制起訴は6件にとどまる。まずは事例を積み重ねることが大切だろう。現時点で見直すのは早計である。
 ただ、限られた証拠での立証を強いられる指定弁護士の負担の重さなどを指摘する声がある。制度の改善に向けた検証は必要だ。
 今回の裁判で、批判されるべきは、検察審に虚偽の捜査報告書を提出し、起訴議決に疑念を抱かせた検察である。検察官による供述の誘導や強制も判明した。検察は猛省しなければならない。
 検察は虚偽報告書を作成した当時の検察官らを不起訴とした。この処分への不服申し立てが市民団体から検察審に出されている。検察審は厳正に審査すべきだ。

2012年11月12日月曜日

救世主は赤ちゃん…借金大国ニッポン、20年後に復活 日独の金融関係者が大胆“予言”

 政治、経済、外交でそれぞれ難題を抱える日本。世界最悪ともいえる財政状況もあり、その先行きに不透明感が漂う中、日独の金融関係者が「日本を救うのはベビーブーム」と述べ、話題をさらっている。無謀とも思われる、この発言の真意は…。
 「20年後の日本を救うのはベビーブームだ」
 こんな意外な意見が飛び出したのは、世界中の金融エグゼクティブが大阪に集まり、11月1日に閉幕した国際金融会議「サイボス」の最終日。発言の主はインターネット専業生保のライフネット生命保険の出口治明社長と、ドイツ銀行のマイケル・スペンサー・チーフエコノミストだ。
 両氏はサイボスのジャパンデーで「日本の将来」をテーマに対談。この中でスペンサー氏は、日本が解決しなければならない2つの問題を提起した。
財政赤字と細る労働力
 ひとつは先進国では最悪の財政赤字の解消。「消費増税をしても財政は持続可能とはいえない」との疑問を投げかけた。もうひとつは人口減少で、「減少する労働力を効率的に使い、生産性を向上させるイノベーションが必要」と冷静に分析した。
 厚生労働省によると、平成23年の日本の合計特殊出生率は1.39。米国の2.09(平成20年)、フランスの2.00(同)などと比べると独の1.38(同)と並び最低水準だ。
 人口の減少はスペンサー氏の指摘の通り、労働者の減少を意味している。同省によれば将来推計人口は、平成72年には8674万人となり現在の4分の3程度に減少する見込み。人口に占める生産年齢人口の割合は22年の63.8%から72年には50.9%、つまり人口の半分程度にまで下がることが見込まれている。そこに巨額の財政赤字、高齢者増加による社会保障費負担の増大など、将来世代に課題は重くのしかかっている。
「日本の政策費、今後3倍に」
 一方、ネット専業生保として初の保有契約高1兆円を達成したライフネット生命の出口社長は、「ネットで売ることで保険料を30代でほぼ半分にして、安心して赤ちゃんを産んでもらいたいと思い、会社を作った!」とアピールした。
スペンサー氏の分析について、出口社長は「異存はないが、中長期的には日本の将来を楽観している」との持論を披露。その理由として、「日本はフランスのように赤ちゃんを増やす政策にまだ真剣に取り組んでいない。子育て関連政策の支出は仏はGDP比3%、日本は1%未満だ」と指摘した。
 また、優秀な留学生を受け入れるとともに、女性や若者、外国人などダイバーシティ(多様化)を進めるなど、人口増加のための政策実現を訴えた。その上で「財政と少子高齢化は重い課題だが、潜在的な力をうまく引き出すことが国の発展につながる」と強い口調で訴えた。
カギは「多様化」にあり
 20年後の日本の姿について、スペンサー氏は「ベビーブームに期待する。そうすれば、未来は明るい」と述べ、出口社長は「女性、若者、外国人が日本浮沈のカギ」と話した。
 日本で初めて開催されたサイボス。アジア諸国の参加者が増え、「次の成長は自分たち」と自信を深めている様子が会場の端々から感じられる一方、「日本の将来」を語るディスカッションには空席も。はたしてベビーブームは到来し、日本は再び存在感を示すことができるのか…。

2012年11月11日日曜日

いじめ自殺―遺族の心に届く調査を

 調査でわかった事実を遺族にきちんと開示する仕組みを作ってほしい。大津の事件を始め、いじめによる自殺で我が子を失った遺族らが訴えている。
 背景にあるのは「学校や教育委員会は、都合の悪い情報を隠そうとする」という不信感だ。
 遺族は学校で何があったのかを知りたい。ところが、学校は「生徒が動揺する」「個人情報が含まれる」と、アンケートや聞き取りの内容を伏せる。
 他の保護者にも理解されず、遺族が孤立する。裁判に訴えるしかなくなる……。そんなことがしばしば起きる。
 本来、遺族と学校・教委は、対立関係にあってはならない。何があったのかを知りたいのは両者とも同じであるはずだ。
 なぜ子どもが死に追いやられたのかを遺族と一緒に考えて、再発防止に生かす。そんな調査のあり方を探りたい。
 2年前に川崎市教委が公表した調査報告書はその手がかりになる。14歳で亡くなった篠原真矢(まさや)さんの事件に関するものだ。
 報告書は先生どうしの連携の悪さなど、学校の問題点を明記した。いじめの事実関係だけでなく、彼が創作した物語などから内面の動きにも迫った。
 この調査には今後のヒントになることが三つある。
 まず、遺族と信頼関係を築いた。市教委は、週に一度は遺族を訪ね、その時点でわかっていることを伝えていた。
 次に、教訓を共有した。報告書はその学校の保護者会だけでなく、他の市立小中高にも研修資料として配られた。もちろん個人情報は書かれていない。
 さらに、再発を防ぐ取り組みを始めた。例えばいじめの兆候を探るチェックシートやアンケートを使い、子どもや保護者との面談に生かしている。
 真矢さんの父、宏明さんが言う。「事実を知りたい。二度と繰り返さないでほしい。遺族の願いはそれだけ。闘いたくなどない。うちは調査に納得できたから裁判は不要でした」
 遺族と情報を共有しようと言われても、不確かなことを話せば疑われた子を傷つける。そういうジレンマはあるだろう。簡単なことではない。
 ただ、どんな情報もいずれ遺族の耳に届く。確かなことと不確実なことを区別したうえで、可能な限り説明する。結局その方が信頼され、おちついて真偽を見極められるのではないか。
 大津の事件を受けて作られた第三者委員会は、遺族が信頼を寄せる人を委員に加えた。
 川崎や大津の試みを、例外にしてはなるまい。

大飯と安全―規制委の信が問われる

 関西電力大飯原発(福井県おおい町)の敷地内の断層が活断層かどうかを調べるため、原子力規制委員会の調査チームは新たに3カ所で調査をする。
 うち1カ所は東西に最大150メートルずつ掘る大規模なものだ。活断層の疑いが指摘される「F―6断層」の位置を確かめるためで、年内に調査を終えることは難しくなった。
 信頼できるリスク評価のために、科学的データを集めるのは妥当な判断だ。
 だが、新たに掘る南側の敷地は原子炉建屋に近い。調査のための車両や作業員が往来する。作業車や機材が事故時の避難路をさえぎる恐れもある。
 こうした懸念を考えると、追加調査はやはり、原発を止めてからにすべきだ。
 F―6断層は2号機と3号機の間を通っており、真上には重要施設の非常用取水路がある。
 規制委には、活断層という評価が出た場合、行政指導で原発事業者に停止を要請する権限がある。
 活断層の疑いを抱えたまま、原発を稼働させつつ、何カ月も大規模調査を続けることが、安全に配慮した判断と言えるだろうか。
 暫定的な安全判断で再稼働した大飯原発は、需要ピークが過ぎた秋に停止するのが筋でもある。停止要請の権限を予防的に行使すべきだ。
 そもそも今回の調査は、関電の提出データが不十分だったことが発端となった。だが、始動したばかりの規制委は、安全関連のデータの多くを電力会社に頼らざるを得ないのが現状である。今後の追加調査も関電の作業に頼るところが大きい。
 運転継続を望む関電のペースで調査が進むようでは、国民の信頼は得られない。
 規制委は先日来、原発で重大事故が起きた場合の放射性物質の拡散予測で、電力会社のデータにもとづく図に誤りがあり、訂正を繰り返した。再度、総点検するという。
 安全にかかわるところは、電力会社や「原子力ムラ」と明確に一線を画し、信頼感を高めていかなければならない。
 同時に、安全に関する情報を独自に検証できる体制を早急につくることが求められている。なれ合いとの批判を浴びるようでは、原子力安全・保安院の時代に逆戻りしかねない。
 事故の発生を常に想定し、専門的知見にもとづき中立公正な立場で独立して職権を行使する――。発足時の理念どおりの仕事を貫けるのか。大飯の断層調査がその試金石となる。

民主党政権公約 原発ゼロでは反省に値しない

民主党が、2009年衆院選の政権公約(マニフェスト)についてようやくこう反省した。
 「政権を取れば何でもできるという傲慢さ、政権運営の厳しさを知らない未熟さがありました」
 打って変わったような低姿勢ぶりである。次期衆院選を戦えないとの危機感があるからだろう。
 民主党は10日、大阪と福岡でマニフェストの検証結果を報告するための集会を開いた。野田首相は「反省しながら、より現実感のある、約束を守れるものを作り上げたい」と語った。18日まで全国計11か所で展開する方針だ。
 子ども手当やガソリン税の暫定税率廃止、高速道路無料化、16・8兆円の財源確保など、マニフェストのずさんさは、次々と明らかになった。だが、民主党は「マニフェストの着実な実現」を掲げ続け、見直そうとしなかった。
 それを衆院解散を目前にして反省し、出直すというのは遅きに失している。“おわび行脚”の名を借りた選挙運動と言えよう。
 問題は、民主党が与党の経験を新たなマニフェストの作成に生かせるかどうかである。
 野田首相は、視察先の福岡市内で記者団に環太平洋経済連携協定(TPP)への対応をマニフェストに書き込む意向を示した。
 日本が自由貿易の拡大によって将来の活路を開くためには、TPPへの参加は欠かせない。交渉参加を正式に表明し、マニフェストでも明確に説明すべきだ。
 前原国家戦略相がTPP参加に賛意を示し、「民主党の公約として掲げて争点化すべきだ」と言うように、TPPに慎重な自民党との対立軸の一つになろう。
 一方で、「野党のマニフェスト」から脱皮できていないのが、エネルギー政策である。
 30年代に「原発稼働ゼロ」を目指す方針を盛り込むというが、代替エネルギーを一体どう確保するのか。脱原発政策に伴う電気料金の値上げや産業空洞化の進行、原子力を担う人材の流出といった懸案にも解決の糸口が見えない。
 原発ゼロだけでは、前回と同様無責任である。原発を当面は活用する、とする自民党と比べて現実的ではないと言える。
 衆院選の結果がどうであれ、来夏までは衆参のねじれが続く。どの党も、他党の協力なしに政策は実現しない。他党との連携を考えずに政策の数値目標、期限を公約するのは、意味がないだろう。

地方公務員給与 自治体はもっと削減努力を

 地方の人件費圧縮は、国の財政再建にも重要な課題だ。
 自治体の削減努力が求められる。
 2013年度予算の編成に向け、財務省が地方公務員の給与水準に関する試算を発表した。
 国家公務員を100としたときの地方公務員の給与水準を示すラスパイレス指数が、12年度は106・9となり、9年ぶりに国と地方の給与が逆転した。
 全国約1800自治体の8割以上が国より高水準だった。
 東日本大震災の復興予算を捻出するため、国家公務員の給与を12年度から2年間、引き下げた措置が影響しているのだろう。
 地方公務員の給与は労組との協議などを経て、自治体が条例で決める。国に決定権はない。
 ただ、その財源となるのは、地方税などに加え、国から配分される地方交付税交付金だ。地方の財源不足を補う17兆円超の交付税は国が借金しながら支えており、社会保障費と並んで国家財政を圧迫する要因となっている。
 地方全体の歳出80兆円超のうち給与が4分の1を占める。公務員給与の削減は、借金体質が続く地方財政の改革に不可欠だ。
 財務省の指摘に対し、全国知事会長の山田啓二京都府知事は「地方の努力を評価してもらわないと困る」と反発し、樽床総務相も「勝手に数字を出して世論をミスリードするのは甚だ不適切だ」と不快感を表明している。
 しかし、地方公務員給与の現状をみれば、首をかしげたくなるような面も少なくない。
 給与水準は国や他の自治体、民間の動向を踏まえて決定することになっている。だが、財務省によれば、全都道府県で民間の平均月額給与を上回る。青森、秋田、愛媛3県は10万円以上多い。
 一般職以外でも、清掃関係やバス運転手は民間の1・5倍、警備員は1・9倍、電話交換手が1・8倍などと厚遇ぶりが目立つ。
 国家公務員では廃止された持ち家手当を温存し、修学旅行の引率や高校入試の監督まで特殊勤務手当で支給する自治体もある。
 与野党とも衆院選を前に地方の反発を恐れ、地方公務員の給与問題には及び腰となりがちだ。
 地域の住民や議会が一層の行政改革を迫ることが重要だろう。
 15年10月に消費税率が10%に引き上げられた段階で、増税5%のうち1・54%分は自治体に回り、自主財源となる。地方は一段と歳出削減に取り組み、メリハリのある財政運営を行う責任がある。

2012年11月10日土曜日

解散の前に―一票の格差を忘れるな

 赤字国債発行法案が今国会で成立する見通しになり、野田首相が早期の衆院解散に踏み切る条件がひとつ、整う。
 ゆきづまった政治を動かすには、首相が「近いうち」の解散の約束を果たすことが欠かせない。与野党がようやくその環境整備に動き出したことは、一歩前進といえよう。
 だが、ここで改めて首相と民主党に強く求めておかねばならないことがある。
 最高裁に違憲状態と断じられた衆院の「一票の格差」を、すみやかに是正することだ。
 この問題で、民主党の姿勢は不誠実と言わざるをえない。
 民主党は来週、次のような法案を国会に再提出するという。
 ▼小選挙区の一票の格差を正す「0増5減」。
 ▼最高裁が合理性がないと判断した、都道府県にまず1議席を割り振る「1人別枠方式」の条文の削除。
 ▼国会が身を切る姿勢を示すための比例定数の40削減と、比例区の一部に少数政党に有利になる連用制の導入。
 比例定数の削減や連用制導入では各党の賛否が割れ、合意が得られる見通しはない。
 なのに、民主党は一括処理にこだわっている。なぜか。
 解散させないため、あえて野党に反対させ、法案成立を阻もうとしているのではないか。
 そのあげく、「0増5減」もできないまま解散になったらどうなるか。
 裁判になれば違憲判断が下るのは間違いない。選挙無効が宣言され、やり直し選挙が迫られる可能性も出てくる。
 立法府の権威が傷つくだけではない。主権者である国民をないがしろにする暴挙でもある。
 「違憲状態のまま唯々諾々と投票はできない」と、有権者のあいだで投票ボイコットが広がったとしても不思議はない。
 そうなれば、政治が大混乱することは避けられまい。
 ここは、首相みずから事態打開に動くしかない。
 「0増5減」は、とりあえず一票の格差を2倍未満におさえる意味がある。今国会では最低限の緊急避難措置として、「0増5減」を先行処理すべきだ。
 そのうえで、選挙権の平等をどう図るかや、定数削減と選挙制度のあり方については時間をかけて検討すればいい。
 首相の諮問機関である選挙制度審議会をただちに立ち上げ、衆参の役割分担をふまえた抜本的な議論をゆだねるのだ。
 最高裁は参院も違憲状態と指摘している。この際、両院を同時に改革する好機である。

デモと公園―都は集会の自由侵すな

 反原発デモを企画した市民に思わぬ壁が立ちはだかった。

 これまでと同じく、国会や官邸に近い日比谷公園にまず集まろうとしたら、管理する東京都が不許可にしたのだ。裁判所でも認められず、あす11日のデモは中止となった。国会周辺での抗議活動だけにするという。

 憲法が定める「集会の自由」はどこにいってしまったのか。

 裁判所が訴えを退けた理由はいくつかある。

 数万人の人出が予想される別の催しが、同じ日に公園で開かれる▽集合場所とされる広場では、市民団体が見こむ1万人は入りきらない▽現に7月に同様の集会があったときに、一部で混乱を招いた――などだ。

 別の公園利用者に迷惑がかからぬよう、不許可をふくめ、一定の調整がなされること自体を否定するつもりはない。

 見すごせないのは、都が最近になって、園内では有料の大音楽堂と公会堂以外での集会を禁止すると言い出したことだ。ずっと大目にみてきたが、本来の決まりどおりにするという。

 市民の集会やデモの抑えこみをねらった、運用方針の改悪であるのは明らかだ。

 裁判所は判例を踏まえ、「当日の公園の利用状況や収容能力を前提とする限り、不許可もやむを得ない」と述べているのであって、包括的な規制にお墨付きを与えたわけではない。

 過去に若干の混乱があったとしても、締めだしに走るのでなく、次はそうならぬように主催者とともに手立てを講じる。それが、市民を助け、支える自治体のとるべき道ではないか。

 他者とふれあい、情報を交換することによって、人びとは考えを深めることができる。集会やデモは意見を形づくる場であるとともに、その成果を表明する有効な手段だ。それはネット時代にあっても変わらない、大切な基本的人権である。

 憲法学者から最高裁判事になった故・伊藤正己氏は、似たような問題が争われた裁判で、こんな意見を述べている。

 道路、公園、広場などの「パブリック・フォーラム」が表現の場所として用いられるときには、所有権や管理権にもとづく制約を受けざるを得ない。しかし、そうだとしても、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要がある――と。

 30年近く前の見解だが、その価値は色あせない。

 いや、議員による間接民主主義が十分に働かず、国民の声を政治に反映させる回路を築き直さねばならない今だからこそ、かみしめるべき指摘である。

「年内解散」検討 環境整備へ与野党は歩み寄れ

 年内の衆院解散へ、与野党は懸案処理を急ぎ、野田首相が決断できる環境を整えるべきだ。
 首相が解散・総選挙の検討に入った。民主党内に離党予備軍を抱え、衆院での与党過半数割れも視野に入る。首相は、追い込まれるよりも主導権を握った形での解散を模索しているのだろう。
 前回衆院選から約3年2か月が経過し、国民に信を問う潮時を迎えつつあるのは確かだ。
 首相の背中を押したのは、自民党の安倍総裁が解散の確約にこだわらず、赤字国債発行を可能にする特例公債法案の成立などに協力する方針に転じたことだ。
 法案は15日に衆院を通過し、月内に成立する見通しだ。
 自民党が、国民生活を「人質」とする戦術は取るべきではないと判断したのは妥当である。
 衆参ねじれ国会の下、首相が重要法案成立と引き換えに解散時期の明示を迫られることは、解散権の制約につながろう。
 こうした駆け引きが繰り返されれば、政権は短命化し、政治の混迷が続く。安倍氏の譲歩は、政権復帰を目指す自民党にとっても損にならないはずだ。
 公明党も、解散の確約にこだわらず、自民党に同調した。部分的にせよ、民自公路線がこの局面で復活した意義は大きい。
 3党は、来週の党首討論と衆院予算委員会の開催でも合意した。尖閣諸島問題や、首相が参加に前向きな環太平洋経済連携協定(TPP)を巡り、活発な政策論議を繰り広げてもらいたい。
 解散へのもう一つの条件である衆院選挙制度改革に関し、民主党は、小選挙区の「0増5減」と比例定数削減の同時決着を求める姿勢を崩していない。だが、これでは野党の協力が得られず、法案成立のメドは立たない。
 「違憲状態」のままの衆院選を避けるには、自民党の求める「0増5減」の先行処理が不可欠だ。民主党の輿石執行部は腹をくくって、方針を転換する時である。
 一方、参院の野党は、首相問責決議を理由に、政権と全面的に対決する構えを示している。
 民自公3党は、年金支給額を物価下落に応じ、適正水準に是正する国民年金法改正案の衆院通過でも大筋合意した。参院でも、3党が協力し、必要な法案については成立させるべきである。
 参院民主党は、野党の反対で見送った参院本会議での首相の所信表明演説を求めている。要らざる挑発は控えた方がいいだろう。

東電支援要請 現実的な再建計画に改めよ

 東京電力再建の道筋が不透明になってきた。
 東電が政府に新たな支援策の検討を要請すると発表した。福島第一原子力発電所事故の賠償や廃炉の費用が膨らみ、自力では立ち行かないと判断したという。
 政府は5月、東電再建に向けた「総合特別事業計画」を認定し、東電を国有化した。国が賠償資金を5兆円まで立て替える支援策も講じられた。
 しかし、東電は賠償負担が10兆円規模に膨らみ、完済のメドが立たなくなるとしている。経営体力が低下し、人材も流出することが懸念される。電力の安定供給に支障が出て、経済や国民生活に打撃を与えかねない。
 早くも支援策のほころびが露呈したのは、そもそも計画自体がずさんだったからだ。
 政府が「東電救済」への批判を恐れ、賠償や廃炉の費用をすべて東電に押しつけた責任は重い。東電が負担する仕組みのためか、政府・民主党が相次いで賠償の積み増しや除染拡大を決め、コストを膨らませている面もある。
 東電を国有化した政府は、国も応分の負担をする現実的な支援策に改めるべきだ。
 東電の事業計画は、2013年度決算で利益を黒字にするとの目標を掲げている。来年度から新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働をスタートさせることが前提となる。
 ところが、野田政権が打ち出した「原発ゼロ」方針が、再稼働の足かせとなっている。事業計画を認定した枝野経済産業相は、再稼働の判断を原子力規制委員会に任せきりにする無責任な態度だ。
 こうした場当たり的なエネルギー政策が、諸悪の根源である。政府は「原発ゼロ」を撤回し、安全を確認できた原発の再稼働を推進するべきだ。
 東電の経営悪化を防がないと、4月から順次、値上げされた東電の電力料金が、さらなる値上げを迫られる恐れがある。失政のツケは、国民の負担に跳ね返る。
 もちろん、東電による一層の経営努力は欠かせない。
 東電は追加支援の要請にあわせて、経営改革の行動計画をまとめた。4000人規模の福島復興本社を新設し、損害賠償や除染の取り組みを強化するという。賠償の遅れなどに、被災者の不満は強い。早急な改善が必要である。
 年1000億円の経費削減を追加したのは妥当な措置と言える。独占企業の甘えを徹底的に排し、合理化をさらに加速させることが求められよう。

2012年11月9日金曜日

東電経営方針―けじめあっての支援だ

 東京電力が新たな経営方針を発表し、政府に追加支援の検討を求めた。
 福島第一原発の事故に伴う除染や廃炉の費用が「一企業の努力では到底対応できない」規模となる見通しだからだ。
 現在の計画は、国が必要な資金を出すが、あくまで東電に返済させる建前となっている。国民負担を避けたい政府と、企業存続を願う旧東電経営陣の妥協の産物だった。
 経営陣を入れ替え、社外取締役の目で再検討してみたら、やはり無理筋であることが明らかになった、というわけだ。
 このままでは、延々と債務の返済に追われるだけの企業となる。利益を確保するため、地域独占の解消や競争環境の整備にも後ろ向きになる。日本経済にとって大きなマイナスだ。賠償や除染も遅れかねない。
 そうした新経営陣の危惧は、私たちも共有する。
 原子力の推進は国策だった。東電に責任を押しつけて逃げるのではなく、除染や廃炉から放射性廃棄物の処理策まで、国が主導して枠組みを整えなければならない。
 費用について、どこまでを東電の責任範囲とするか、早急に議論をし直すべきだ。そのうえで足りない分は国民で広く負担するしかない。
 ただし、それはあくまで被害者の支援と電力の安定供給のためだ。
 東電経営陣は今後のあるべき姿として「世界とわたりあうダイナミックな電気事業者への変貌(へんぼう)」を掲げたが、国費による支援は「強い東電」を再生するためではない。
 むしろ、多様なエネルギー事業者が平等に競える環境づくりへと、東電のもつ機能を分散していく方向で改革を進める必要がある。
 東電は経営改革案に、発電部門と送配電部門の分社化を盛り込んだほか、火力発電でまかなう電力のうち3割分は他社からの購入や共同開発に切り替える方針を明らかにした。
 政府の電力改革を先取りする形であり、方向性としては評価する。
 だが、そこにとどまる限り、東電による東電のための改革にしか映らないだろう。
 本来なら、破綻(はたん)処理すべき企業である。その原点に立ち戻って、国と東電は発電部門と送配電部門の完全な分離といった解体的な将来像を示さなければならない。
 そうした「けじめ」があってこその国民負担であることを忘れないでほしい。

オバマと日本―東アジアで共同作業を

 オバマ大統領の再選で、国際協調路線の米外交が、さらに4年続くことになった。
 アジア・太平洋重視を打ち出し、「核なき世界」を訴えるオバマ外交の継続は、日本にとっても歓迎すべきことである。
 中国の台頭や北朝鮮の核・ミサイル問題で、東アジアは混迷を深めている。この地域に安定的な秩序をどう築くのか。
 次の4年間、日本からも主体的に米国に働きかけ、共同作業で取り組まねばならない。
 「米国は核兵器を使ったことがある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」
 3年半前、オバマ氏のプラハ演説は、被爆国日本の心を揺さぶった。大統領が広島訪問に強い関心を寄せていることも、共感を呼んだ。
 これを手がかりにして、新たな日米関係のあり方を考えてはどうか。
 残念ながら、大国間の力学に阻まれ、「核なき世界」への歩みはきわめて遅い。広島訪問も希望の域を出ていない。2期目はぜひ実現してほしい。
 大統領の広島訪問は、新しい安全保障環境づくりを進める力強いメッセージになる。朝鮮半島の非核化や、中国の核軍縮もにらんだ緊張緩和を進めるてこにもなるだろう。
 そのためには何が必要か。
 領土や歴史をめぐり、日本が中国などと対立する状況が続けば、大統領の広島訪問は逆に近隣国を刺激しかねない。また、日米関係がぎくしゃくしていても、米国の歴史の傷にさわる被爆地を訪れるのは難しい。
 となると、日本がなすべきことは明らかだ。
 ひとつは、中国や韓国との緊張関係をしずめ、改善の道筋をみつけることだ。
 国際社会に日本の主張を訴えることは大切だが、この種の問題はまずは二国間で取り組むのが筋だ。日米安保に頼れば解決するものでもない。いかに困難でも、中韓との直接対話をつないでいくほかはない。
 そして、日米関係の懸案である沖縄の基地問題について、首脳同士で仕切り直しをすることである。もはや不可能となった普天間基地の辺野古移設に固執することは、沖縄と本土との溝を深め、結局は日米間の信頼関係をも揺るがすだけだ。
 国内・国外をふくめ、新たな移転先を本腰を入れて探るときではないか。
 世界の現実も、東アジアの課題も厳しい。であればこそ、理想を掲げる大統領が米国を率いていることを、日本はチャンスとして生かすべきだ。

中国共産党大会 強硬路線の継承を懸念する

 経済力と軍事力を膨張させる富国強兵路線を、新指導部が継承することが明確になった。
 5年に1度の中国共産党大会が開幕した。
 今大会では習近平国家副主席が総書記に就任し、指導部が大幅に交代する。中国の今後10年の針路を決定づける重要な大会だ。
 総書記を退く胡錦濤国家主席は今後5年の党の活動方針となる政治報告で、領土を防衛するために軍の近代化を加速し、海洋権益を断固守る姿勢を強調した。
 尖閣諸島の国有化を巡る日本との激しい対立や南シナ海の領有権問題に関する摩擦、米国の「アジア重視」の新戦略を念頭に置いたものだろう。
 尖閣問題で中国の対日強硬姿勢が続くのは避けられまい。日本は日米同盟を基軸に東南アジア諸国とも連携し、中長期的な対中戦略を練らなければならない。
 胡氏はまた、2020年の国内総生産や1人当たりの所得を10年に比べて2倍にするとの目標も打ち出した。年率7%程度の成長を維持していく必要がある。だが、かつてのような高成長は望めず、目標達成は容易ではない。
 この10年、中国は北京五輪と上海万博を成功させ、日本を抜き世界第2位の経済大国となった。
 成長の陰で、貧富の格差が広がり、不公正な司法や地方官僚の腐敗などに対する国民の反発が暴動となって各地で噴出している。
 胡氏が「所得分配制度の改革を深化させる」として格差解消に全力を挙げる方針を訴えたのは、強い危機感の裏返しと言える。
 09年末に総人口の12・5%だった60歳以上の高齢者は20年に18%になる見込みだ。社会保障などの整備の遅れは、社会を一層不安定にさせる要因となろう。
 大会では党規約を改正し、調和のとれた持続可能な発展を目指す胡氏の戦略思想「科学的発展観」を毛沢東ら歴代指導者の思想と同列の指導思想に格上げする方針だ。引退後も自らの影響力を保ちたい胡氏の狙いがうかがえる。
 大会の日程発表は通常より1か月も遅れる異例の事態となった。巨額収賄などを理由に党籍を剥奪した元重慶市トップ薄煕来氏の処分を巡る調整が難航したためとみられる。党内の権力闘争が影を落とした形だが、真相は不明だ。
 言論統制の緩和など政治改革は手付かずだ。政治報告は「政治体制改革を積極的かつ穏当に推進する」とうたうが、どこまで改革を進められるのか。習近平体制に重い宿題が残されることになる。

田中文科相問題 一転認可に反省と謝罪がない

 「不認可」とされるべきは大学ではなく、閣僚ではなかったのか。
 田中文部科学相が、秋田公立美術大など3大学の新設を不認可とした自らの発言を全面撤回し、認可を決定した。
 混乱は収束し、3大学は予定通り、来春の開校が可能になった。
 政治主導をはき違えて、大学や入学希望者を困惑させ、教育行政に対する信頼を失墜させた。田中氏の責任は極めて重大である。
 だが、いまだに反省の色を見せていない。田中氏が「今回、逆に良い宣伝になった」とまで言い放つのは論外だ。3大学に対し、すみやかに謝罪すべきである。
 3大学については、文科相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」が、新設の認可を答申したにもかかわらず、田中氏がこれを覆し、文科官僚が追随した。
 「大学の乱立に歯止めをかけるため」と田中氏は主張したが、大学政策全般の見直しは、個別大学の新設認可とは切り離して検討すべきテーマである。
 田中氏は不認可への批判が高まると、「新基準で再審査する」と唐突にルール変更を唱えた。
 同時に、「現時点で不認可処分は行っていない」と言い逃れた。「事務方が真意をくみ取らなかった」と、官僚に責任を転嫁する発言をしたのも見苦しい。
 田中氏は小泉内閣の外相当時、常軌を逸した言動や外務官僚との確執で日本外交を大混乱させた人物である。
 問題は、その田中氏の「発信力」に期待して、閣僚に選んだ野田首相の任命責任にとどまらない。田中氏から事前に不認可の方針を聞きながら、それを止めなかった首相や藤村官房長官の管理能力の欠如も厳しく問われよう。
 田中氏によると、事前説明の際、首相は「そのまま推し進めてください」と答えたという。田中氏のスタンドプレーが世論の支持を得るとでも思ったのだろうか。
 藤村官房長官は8日の記者会見で「大臣として間違ったことをしたとは、たぶん誰も受け止めていない」と、田中氏を擁護した。どこかネジが緩んでいないか。
 文科省は今回の問題を機に、大学の設置認可制度の見直しに着手する。政府の規制緩和政策の下、大学数が急増し、教育の質の低下が懸念されているのは確かだ。
 制度の変更は大学政策の根幹にかかわる問題だけに、拙速を避け、議論を尽くす必要がある。
 これ以上、田中氏の思いつきに振り回されてはかなわない。

2012年11月8日木曜日

オバマ米大統領再選―理念を開花させる4年に

 米大統領選で民主党のバラク・オバマ氏が再選された。
 グローバル経済の荒波のなか、退場を迫られる現職の指導者は少なくない。オバマ氏に与えられた、さらに4年の任期は貴重だ。大胆に指導力を発揮してほしい。
 現職有利とされる2期目の選挙だが、共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事に激しく追い上げられた。
 社会保障を手厚くし、政府主導で景気回復を図る「大きな政府」のオバマ氏か、自由な経済競争を重視する「小さな政府」のロムニー氏か、という理念のぶつかり合いだった。
 米国の閉塞状況を打破するのはどちらか。米国民は迷いつつも、社会の連帯に重きを置くオバマ氏の路線の継続を支持したということだろう。
 この接戦が象徴する「分断」された米国社会を修復することこそが、オバマ氏にとって急務である。
■「分断」修復急げ
 選挙には両陣営がこれまでにない巨額の資金をつぎ込み、大量のテレビ広告で中傷合戦を繰り広げた。社会に残した傷痕は深いが、歩み寄るときだ。
 米国では来年初め、政府の支出が大きく減らされ、ほぼ同時に増税される「財政の崖」が待ち受ける。
 こうした事態に至れば、国内総生産(GDP)を5%近く押し下げるとされる。世界経済に与える影響も大きい。
 まずは共和党との間で回避策を探り、協調の足がかりを得る必要がある。
 オバマ氏は1期目、大型の景気対策や、国民皆保険に近い医療保険改革を導入して、財政負担の増加を嫌う保守層の猛反発を招いた。
 厳しい財政削減を求める保守運動「ティーパーティー(茶会)」が勢いづき、2年前の中間選挙では共和党が下院で大勝した。同党は徹底して政権に非妥協的な姿勢を貫き、政治が動かなくなっていた。
 大統領選と同時に行われた連邦議会選では、上院では民主党が過半数を確実にしたが、下院は共和党が多数を占めた。「ねじれ」は続くことになり、超党派での協力が不可欠だ。
 共和党も大統領選で示された民意を受けとめるべきだ。「茶会」のような急進的な主張は、国民的な支持を得ていないことがはっきりした。協調すべきは協調しなければならない。
 ロムニー氏は、オバマ氏の医療保険改革の撤廃を訴えた。だが、しっかりしたセーフティーネットの存在は、経済にも好影響をもたらす。共和党も改革を受け入れるべきだ。
■カギ握る中間層
 選挙戦終盤、オバマ、ロムニー両氏がともに強調したのは中間層への配慮だった。中間層が活気を取り戻してこそ、米国の再生につながる。
 また、それが分断修復のカギとなるのではないか。
 オバマ氏が苦戦した最大の原因は、経済の低迷だった。
 失業率は8%を超える高い水準で推移し、就任時に約10兆ドル(800兆円)だった財政赤字の累積は、約16兆ドルに増えた。
 希望の兆しもある。
 選挙の直前になって、失業率は2カ月続けて7%台に下がり、9月の住宅着工件数も4年2カ月ぶりの高い水準だった。回復の軌道に乗りつつある、との見方が強い。
 この流れが続けば、政権基盤が安定し、社会のぎすぎすした空気も和らぐだろう。
■対中関係どう築く
 財政的な制約もあり、世界に軍事力を振り向ける余力が少なくなるなか、米国が外交・安全保障でどういう役割を果たすのかも問われている。
 4年前、アフガニスタンとイラクの二つの戦争で、米国の威信は大きく傷ついていた。
 そこに、オバマ氏は全く違う米国の姿を示した。
 「核なき世界」を唱え、米国とイスラム世界の新たな関係を求める力強い言葉に、世界は喝采を送った。
 だが、いずれも道半ばだ。
 中東は「アラブの春」後の秩序作りで揺れている。内戦状態のシリアでは多数の死者が出て、暴力がやむ気配はない。イラン核問題も緊迫している。
 紛争の拡大を防ぎつつ、どう解決に導くのか。国際社会をまとめる指導力も試されている。
 アジア太平洋重視を打ち出しているオバマ政権にとって、習近平(シーチンピン)・新体制の中国とどう向き合うかは最大の2国間問題だ。
 経済面の相互依存が増すなか、実利的な関係を進めると見られるが、大国化した中国が周辺国と摩擦を起こす場面が増え、米国は警戒を強めている。
 尖閣諸島をめぐって中国との緊張が続く日本としても、オバマ政権の対中政策を見極め、連携を深める必要がある。
 外交、内政両面で、理念を開花させることができるか。オバマ政権の真価が問われる4年間になる。

時事問題

注目の投稿

人手不足への対応は急務だ

 日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業、中堅、中小企業をあわせた全規模全産業の業況判断指数(DI)が26年ぶりの高水準になった。景気回復は6年目に入り、中小企業にも裾野が広がってきたが、先行きに懸念材料もある。深刻な人手不足だ。  従業員などの...

このブログを検索

Google News - Top Stories

ブログ アーカイブ