2013年1月31日木曜日

代表質問―なめられるぞ、野党


 安倍首相の所信表明演説に対する代表質問が始まった。
 政権交代後、与野党が論戦を交わす最初の舞台だ。自民、公明合わせて320議席を超える巨大与党に、野党がどう挑むかも注目された。
 だが、きのうの衆院本会議での民主党と日本維新の会の質問を聞く限り、迫力を欠いたと言わざるをえない。
 民主党の海江田万里代表は、経済の専門家らしく安倍政権の経済・財政政策の追及に多くの時間を割いた。
 アベノミクスは、財政出動と公共事業に偏重している。2%の物価上昇は、国民生活に副作用を及ぼす――。
 こうした懸念は、私たちも共有する。
 では、民主党は政権時代の反省もふまえ、どうしたら経済再生が実現できると考えているのか。海江田氏は「グリーン、ライフ、農林漁業の3分野に予算を重点配分する」と従来の主張を繰り返すにとどまり、物足りなかった。
 中国や韓国との関係改善をどう図るのか。普天間問題をどう打開するのか。これらについても海江田氏は首相の考えをただすだけで、具体的な対案を示すことはなかった。
 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加については、質問すらなかった。民主党内で賛否が割れているからだろうが、これでは政権に足元を見られてしまう。
 実際、答弁に立った首相は「大変困難な状況の中で民主党代表に就任された海江田氏に敬意を表し、エールを送りたい」と余裕さえ見せた。野党として情けないではないか。
 一方、維新の平沼赳夫・国会議員団代表は、首相が持論とする憲法改正や集団的自衛権の行使容認などにエールを送る場面が目立った。
 自民党との保守連携をにらんでいる、と勘ぐられても仕方あるまい。
 地方からの改革を訴えて野党第2党に躍り出た維新にとって、この日が国政のデビュー戦だった。平沼氏の保守色の強い主張や、安倍政権への親和的な姿勢に、違和感を覚えた支持者もいるだろう。
 政権交代時代の野党の役割は、政権の暴走をチェックするとともに、説得力のある対案を示してその実現を迫ることにある。両党とも、その自覚が足りない。
 国会は6月26日までの長丁場だ。これからの論戦で、ぜひとも野党としての気概を見せてほしい。

女子柔道暴力―JOCが乗り出せ


 柔道女子のトップ選手が、監督やコーチから暴力を含むパワーハラスメントを受けたと日本オリンピック委員会(JOC)に告発していた。
 ロンドン五輪のメダリストを含む15人による異例の訴えだ。
 園田隆二監督は事実だと認めているのに、全日本柔道連盟は戒告処分にとどめ、留任させる意向だ。戒告とは、要するに文書と口頭での注意だろう。
 誤った判断だ。
 選手は、指導陣が留任したことへの不満を訴えている。信頼を失った監督が続けても、まともなチームに戻れない。
 日本のお家芸だった柔道は、五輪でつねに金メダルを期待されてきた。監督にかかる期待は大きい。だからといって、熱血指導の名を借りた暴力やパワハラは許されない。
 この世界の上下関係は、ただでさえ厳しい。五輪での活躍を夢見る選手たちは、代表を選ぶ権限が監督にあるから、嫌な思いをしても、泣き寝入りしがちな弱い立場にある。
 園田監督が率いたロンドン五輪で、日本女子のメダルは3個だった。北京の5個、アテネの6個を下回った。
 かつてスポーツ漫画で描かれた根性主義や精神論などで勝てるほど、スポーツの世界は甘くない。選手の意識も時代とともに変わっている。
 大阪市立桜宮高のバスケットボール部で顧問から暴力を受けた主将が自殺した事件をきっかけに、スポーツ界と暴力の関係が噴出している。そうした体質は一掃すべきだ。
 JOCの対応も鈍かった。選手たちは全柔連に窮状を訴えても状況が改善しなかったから、JOCに望みを託した。
 JOCは選手に話を詳しく聴き、その内容を全柔連にただすべきだった。
 しかし、積極的でなかった。強化合宿、海外遠征をひかえ、選手たちは事態が変わらないことに業を煮やし、JOCに自ら出向いて訴えたという。
 それなのにJOCは今も、全柔連が主体になって問題を解決するよう求めている。
 不祥事がおきた場合は、利害のない第三者委員会に調査をゆだねるのが筋だ。最近は企業や学校でもそうしている。
 スポーツ基本法は「スポーツを行う者の権利利益の保護」をうたう。アスリートの多くは五輪を最高の目標に掲げる。東京がめざす2020年五輪招致も9月に開催都市が決まる。
 世界の信頼を失わないためにも、JOCは解決へのリーダーシップを示す責任がある。

代表質問 経済再生へ建設的論戦深めよ


 現下の最重要課題である日本経済の再生へ、与野党は建設的な論戦を展開してもらいたい。

 安倍首相の所信表明演説に対する各党代表質問が始まり、首相と民主党の海江田代表が初めて対決した。

 海江田氏は、政府と日銀による2%の物価目標について、実質賃金の低下や長期金利の上昇など、「国民生活への副作用も無視できない」と懸念を示した。

 政府の景気対策についても「公共事業に偏重した旧来型経済政策は効果に乏しい」と批判した。

 首相は、金融緩和の副作用について「機動的なマクロ経済運営などで対応する」と反論した。景気対策では、財政規律にも配慮するとして、「財政健全化と経済再生の双方を実現する」と語った。

 海江田氏の指摘には一理ある。だが、金融・財政政策と成長戦略の「3本の矢」を連動させる安倍政権の方針が好感され、円安・株高が続いているのは事実だ。

 長年の課題であるデフレ脱却を実現するには、従来以上に強力な手段が求められている。政府と日銀がより緊密に連携し、景気にテコ入れすることが重要だ。

 エネルギー政策では、海江田氏が「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指す民主党政権の戦略を維持するかどうか質問したのに対し、首相は見直すと明言した。

 電力の安定供給に必要な代替エネルギー確保の見通しがない中、見直しは当然だ。政府は、原発立地自治体や関係国と十分協議し、安全な原発は活用する方向で新戦略を策定する必要がある。

 海江田氏は、民主党の役割について「自公政権のチェック機能を果たす」一方で、「政権運営の経験を持つ野党として『決める政治』を前進させる」とも語った。

 妥当な認識だ。衆参ねじれ国会の下、参院第1党の民主党は、政治を動かす責任の一翼を担っていることを忘れてはなるまい。

 以前の野党・民主党のように、国会同意人事などで政府を揺さぶることを優先するような「抵抗野党」の国会戦術は国民に評価されず、党の再生にも逆行しよう。

 日本維新の会の平沼赳夫国会議員団代表は、政府・与党に「是々非々」で臨む考えを示した。経済政策などでは「首相の姿勢に共感を覚える」とエールも送った。

 予算案や関連法案の早期成立には野党の協力が欠かせない。

 安倍首相は「与野党の叡智の結集」を呼びかけた以上、野党の主張にも耳を傾け、適切に施策に反映させる柔軟性が求められる。

春闘スタート 景気回復へ問われる労使協調


 安倍政権が日本経済の再生とデフレ脱却を目指す中、今年の春闘がスタートした。賃上げを巡る労使の攻防は一段と白熱するだろう。

 連合は「個人消費の拡大には賃上げが必要だ。それがデフレ脱却につながる」として、定期昇給とは別に、給与総額の1%引き上げを要求した。

 賃金水準は10年以上も低落が続いている。これが消費意欲を冷え込ませ、景気低迷とデフレをもたらす要因と主張している。

 これに対し、経団連は「雇用確保が最優先。ベースアップを実施する余地はない」と反論する。労使の主張の隔たりは大きい。

 今後、注目されるのは、デフレ脱却を最重視する安倍首相の方針が交渉にどう反映されるかだ。

 首相は緊急経済対策を発表した今月の記者会見で「企業の収益を向上させ、雇用や賃金の拡大につなげたい。企業の経営者にも協力をいただきたい」と述べた。

 賃上げした企業には、法人税を軽減する措置も打ち出した。

 政府と日銀は2%のインフレ目標を決めただけに、賃金が上がらずに物価だけが上昇する「悪い物価上昇」を避けたいと首相は考えているのだろう。

 首相の“援軍”は労働側には追い風だが、賃上げが実現するかどうかは不透明である。

 何よりも重要なのは、企業の生産性を向上させ、賃上げできるよう経営体力を強化することだ。

 長引く不況や海外メーカーとの競争など、産業界には逆風が吹く。依然として余剰人員を抱える企業は少なくない。

 政権交代後、超円高の是正が進み、株価が上昇するなど明るい材料も見え始めた。ただ、同じ業種でも企業によって業績は異なる。体力のある企業から賃上げを実施するのも一つの方策だろう。

 65歳までの再雇用も、今年の春闘の大きなテーマだ。

 4月から希望者全員の再雇用が企業に義務付けられる。経団連は「人件費の増大が企業の大きな負担になる」との見方を示している。労使双方に望ましい制度とするため、議論を深めてもらいたい。

 働き手の35%を占める非正規労働者の待遇改善も重要課題だ。

 正社員に比べて低賃金で雇用が不安定な非正規労働者の増大は、消費低迷の要因でもある。

 連合は非正規労働者について、正社員への転換制度の導入や昇給ルールの明確化を求めている。正社員との格差是正は、労働者全体の消費拡大にもつながろう。

2013年1月30日水曜日

13年度予算案 デフレ脱却へ問われる積極策


 ◆中長期の財政健全化を怠るな◆

 積極財政で景気テコ入れを狙った予算である。安倍政権が最重視する経済再生とデフレ脱却への実行力が問われる。

 政府が2013年度予算案を閣議決定した。一般会計の総額は92・6兆円で、7年ぶりの減額予算となった。

 歳入では、税収が4年ぶりに新規国債発行額を上回った。歳出も各省庁の政策的経費を70・4兆円に抑えたのがポイントである。

 麻生副総理・財務相は記者会見で「財政政策の枠組みを頭に置いて編成した。引き締まった予算になった」と述べた。

 ◆消費増税へ景気回復を◆

 ただし、4・4兆円に大幅増額した別枠の復興予算と合わせると、過去最大規模である。

 安倍政権は、12年度補正予算案と13年度予算案を「15か月予算」と位置付け、切れ目のない財政出動を目指している。

 来年4月の消費税率引き上げを今秋に最終判断する上で、確実に景気回復を成し遂げたい考えだ。超大型予算の編成で、環境整備を図ることはやむを得ない。

 だが、来年度の国債依存度は46・3%となり、国の歳入のほぼ半分が借金だ。国と地方の長期債務残高も来年度末に977兆円に達する。国内総生産(GDP)の2倍に相当し、財政危機のギリシャをしのぐ債務大国だ。

 先進国で最悪の財政状況を深刻に受け止めねばならない。

 問題なのは、民主党政権が編成した12年度当初予算より規模を抑え込むため、様々な手法でやり繰りしたことだ。

 歳出規模の圧縮は、1兆円近い経済危機対応の予備費の全廃や、各省庁が今年度補正予算案に支出を前倒しした影響が大きい。

 政府は来年度経済見通しについて、民間予想よりかなり高い実質2・5%成長とし、税収を多めに見込んだが、安定成長の実現は不透明である。

 基礎年金の国庫負担分を賄う国債を別扱いにしたのも、国債発行額を抑える弥縫
びほう
策ではないか。

 歳出面の切り込みも不十分だ。公共事業費は前年度比で約7000億円多い5・3兆円を計上した。老朽化した道路や橋などの改修は必要としても、「国土強靱
きょうじん
化」の名の下に、非効率な事業を増やすことがあってはならない。

 ◆公共事業は精査が必要◆

 景気への一時的なカンフル剤である公共事業に頼るだけでなく、政府は企業の競争力を高める成長戦略を強化し、経済を成長軌道に乗せることが重要である。

 民主党政権が削減した土地改良事業費を積み増し、農家の戸別所得補償制度も名称を変え、前年度並みの予算を計上した。これではバラマキに他ならない。一層の市場開放に備えた農業の体質強化につながるのかは疑問だ。

 その他の支出項目でも、財政の硬直化が一段と鮮明になった。

 自然増などで社会保障費は約29兆円に膨らみ、生活保護費を小幅削減する程度にとどまった。年金や医療費の給付抑制など、さらなる圧縮が必要である。

 安全保障分野では、首相の意向を反映した予算が目立った。

 防衛費を11年ぶりに増額した。沖縄・尖閣諸島をはじめ、日本の領土と領海を守る意志を明確にしたことを評価したい。

 南西防衛を重視し、警戒監視活動や離島防衛の対処能力を強化するもので、妥当な内容だ。

 ◆評価できる防衛費増◆

 政府は年内に新たな防衛大綱を策定する。来年度予算限りとせず、中長期的に自衛隊の体制を改革・拡充することが必要だ。

 海上保安庁予算も6年ぶりに増えた。このうち、巡視船艇と航空機の整備費などは前年度比4割増となり、人員も増やす。

 尖閣諸島を巡り、中国の挑発行為が続いている。海保の巡視船艇はこれまで「スクラップ・アンド・ビルド」が原則だったが、増加に舵
かじ
を切ったことは適切だ。

 今後の重要課題は、中長期的な財政再建の道筋を早急に付けることにある。財政規律が緩んだままでは、日本国債に対する国際的な信認を失いかねない。

 地方公務員の給与引き下げを念頭に、地方自治体に配分する地方交付税を6年ぶりに削減したのは一歩前進と言える。

 安倍首相は、民主党政権が掲げた「20年度に基礎的な財政収支を黒字化する」との政府目標を踏襲したが、このハードルは高い。

 消費増税を柱とする税制改革で財源確保を図るとともに、歳出合理化が不可欠である。成長と財政規律の両立という重い課題を克服しなければならない。

新年度予算―「正常」にはほど遠い


 公共事業費は12年度当初予算並みを確保し、先の補正予算と一体で「国土強靱(きょうじん)化」に走る。防衛費を11年ぶりに増額する一方、生活保護費は抑え込む。
 安倍政権による13年度予算案が決まった。
 一般会計の総額は約92兆6千億円。12年度当初予算から実質的に約3千億円減らした。
 財源不足を補う新規国債の発行額は43兆円弱で、民主党政権の「44兆円枠」を下回る。税収(43兆円強)が国債発行額を上回るのも、民主党政権をはさんで4年ぶりだ。
 安倍首相は「やっと正常な状況を回復できた。財政規律にも配慮した」と語った。
 いやいや、とんでもない。正常にはほど遠い。
 国債発行額は、小泉政権が掲げていた「30兆円枠」の1・4倍だ。過去の借金を乗り換える「借り換え債」を含む国債の総発行額は170兆円を超え、過去最高の水準が続く。
 税収見込みの根拠となる名目経済成長率は2・7%、総合的な物価指数は16年ぶりにプラスと予想した。アベノミクスの効果が出るという見立てだが、民間の調査機関は「高すぎる」と懐疑的だ。
 「15カ月予算」のからくりもある。民主党政権が大幅に削った農業関連の公共事業で、年間予算の8割を補正予算に前倒し計上するなどして、13年度予算のスリム化を演出した。
 補正と合わせると、施設費を含む公共事業費の総額が10兆円を超すことに注意すべきだ。
 多額の国債発行を続けつつ、日銀に金融緩和の強化を求め、その日銀が国債の購入に努める――。「中央銀行が政府の資金繰りを助けている」との疑念を招きかねない構図は、確実に強まっている。
 国会の役割は大きい。首相のいう「機動的な財政政策」のもとでバラマキがないか、徹底的にチェックしてほしい。まずは補正予算案だ。公共事業費が焦点になろう。
 政府は、財政再建の工程表づくりを急ぐ必要がある。
 国債関係の収入と支出を除く「基礎的財政収支」について、安倍政権も「15年度に赤字を半減、20年度までに黒字化」という歴代政権の目標を受け継ぐ。
 消費増税の決定で赤字半減への道筋は見えつつあるが、黒字化のメドは立っていない。
 「目標は守る」と繰り返していれば許される状況ではない。経済成長による税収増と歳出削減、さらなる増税をどう組み合わせるのか、具体策が問われている。

中国大気汚染―改善は日中の利益だ


 中国の大気汚染が深刻だ。北京などの広い範囲が、有害物質を含んだ濃霧にたびたび覆われている。
 ひとごとではない。中国の汚染が風に流されて日本に影響する「越境汚染」も起きている。両国経済は緊密で、中国で暮らす日本人は14万人に上る。
 中国政府は、改善を急ぐべきだ。日本が優れた環境技術で協力すれば、双方の利益になる。
 尖閣諸島の問題で関係はぎくしゃくしたままだが、こうした面での協力はどんどん進めるべきだ。両国の関係を前に進める力にもなり得る。
 ひどい大気汚染は、今年始まった話ではない。
 問題になっている汚染物質は直径が千分の2・5ミリ以下の微小粒子状物質、PM2・5だ。
 粒が小さいため、呼吸器の奥深くまで入り込み、ぜんそくや肺がんなどの病気にもつながるとされる。
 自動車や工場の排ガス、暖房用ボイラー、火力発電所などが主な発生源だ。暖房が多く使われ、空気が滞る気象条件が重なる冬場に悪化しやすい。
 汚染がひどいときは学校が屋外での活動をやめるなど、日常生活にも支障が出ている。
 経済成長に突き進んだ中国では日本の高度成長期のように、環境対策は置き去りにされてきた。もうけを優先し、規制を守らない企業も多い。
 だが、環境に対する市民の意識は大きく変わりつつある。
 中国政府はもともと、PM2・5の数値を明かしていなかった。ところが、北京の米大使館が独自に公表していた数値に市民の関心が高まり、政府も発表せざるを得なくなった。
 環境への影響を心配して、工場建設に反対する運動も、各地で相次いでいる。
 中国政府は、成長一辺倒から生活の質を重視する方針を掲げるようになり、省エネや環境分野での外資導入も奨励する。昨年11月の共産党大会では「エコ文明建設」が強調された。
 公害に取り組んできた日本の経験は、中国にとって大いに参考になるはずだ。中国への政府の途上国援助(ODA)はほとんど打ち切られたが、民間で出来ることも多い。
 日本の自治体が呼びかけ、中国との環境ビジネス拡大を目指す動きも出ている。先端技術を守る工夫は必要だが、日本企業にとってビジネスチャンスでもある。大学など研究機関の連携も有益だ。
 日本政府はODAで培った経験も生かし、積極的に橋渡しや後押しをするべきだ。

2013年1月29日火曜日

所信表明演説―危なっかしい安全運転


 通常国会が開幕し、安倍首相が再登板して初めての所信表明演説にのぞんだ。
 メッセージはシンプルだ。
 日本の最大かつ喫緊の課題は経済の再生だ。断固たる決意をもって、「強い経済」を取り戻そうではないか――。
 多くの国民が経済再生を望んでいるのは確かだ。首相が力点をおく思いはわかる。
 一方で、アベノミクスには放漫財政の不安もつきまとう。首相は「中長期の財政健全化に向けてプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化をめざす」と語ったが、これだけでは物足りない。財政規律をどう守るのか、もっと具体的な考えが聞きたかった。
 前回、7年前の首相就任時の演説では「美しい国、日本」を掲げ、憲法改正への意欲を語った。今回はそうしたくだりはない。地に足のついた演説をめざしたというなら理解できる。
 拍子抜けしたのは、今の日本にとって重要な課題の多くがすっぽり抜け落ちていたことだ。
 たとえば原発・エネルギー政策や環太平洋経済連携協定(TPP)、社会保障制度のあり方について、まったく言及しなかったのはどうしたことか。
 ふれなかったテーマは、1カ月後にある施政方針演説に譲るつもりなのかもしれない。
 だとしても、肩すかしの感は否めない。安倍政権がめざすところは何なのか。首相みずから国民に明らかにする最初の舞台だからである。
 抜け落ちたテーマには、国民の意見や業界・団体の利害がぶつかるものが目立つ。
 夏には参院選がある。非改選議席をあわせて自民、公明両党で参院の過半数を得てやっと安倍政権は安定軌道に乗る。それまでは経済再生を前面に、「安全運転」で行こう。それが首相の思いのように見える。
 だが、それはいったいだれのための安全運転なのか。
 脱原発依存への道筋をどう描くかは、国民生活はもちろん企業の投資や新規参入に密接な関係をもつ。グローバル経済のもと、成長戦略を論じるならTPPをはじめ経済連携の議論から逃げることはできない。
 それらを棚上げにしておくことは、当面は政権にとっての安全運転になるのかもしれない。
 半面、日本にとって、国民にとっては、危うい道につながりかねない。
 ここは野党の出番である。
 首相が語らなかった部分にこそ、重要な論点がある。あすからの国会質疑で、しっかりとただしてもらいたい。

沖縄@東京―基地問う声が重く響く


 「オスプレイいらない」「基地ノー」と怒る沖縄県民の叫びが東京で響いた。本土に住む私たちと政府は、この声を誠実に聴かなくてはいけない。
 主催者発表で4千人が、霞が関の官庁街に近い日比谷公園に集い、銀座を歩いた。
 そのなかに沖縄県内の41市町村すべてからの首長、議長や県議ら約140人がいた。党派の異なる首長、議員らがこれほどまとまって上京するのは他県もふくめ異例だろう。
 首長らは、新型輸送機オスプレイの配備撤回と米軍普天間飛行場の県内移設断念を求める建白書を、安倍首相に渡した。
 首相は「基地負担軽減に向けて頑張っていきたい」と述べたという。この答え方は民主党政権時代の政府と同じだ。
 沖縄県民が求めているのは普天間の閉鎖・撤去そのものだ。経済的な手当てではない。根本的な解決がない限り、沖縄の怒りは消えず、日米同盟を不安定にする要素がいつまでも続く。
 どれほど訴えても負担が減らず、逆に安全性に疑問があるオスプレイが新たに配備され、沖縄の人たちは民意が踏みにじられたと受けとめている。
 森本敏・前防衛相は退任前の昨年末、普天間移設先について「軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的に考えると、沖縄が最適の地域」と話した。
 本土に新たな基地を造るのは住民が受け入れないが、すでに米軍基地が多い沖縄ならできるということなのか。沖縄の「戦略的な地理的優位性」を掲げる防衛省とは別の本音を、大臣が明かしたことになる。
 日本各地で基地反対の闘争が激化した半世紀前、岐阜と山梨にいた海兵隊が沖縄に移った。
 それ以来いまも続く海兵隊の沖縄駐留は、軍事上の必要というより、国内の負担分かちあいをできない日本政府の都合によるものではないか。そう、沖縄県民はみている。
 在日米軍の再編見直し計画では、沖縄の海兵隊をオーストラリア、ハワイにも移転し、巡回展開する。地上部隊の主力である歩兵の第4海兵連隊はグアムに。沖縄に残る砲兵の第12海兵連隊は日本本土でも訓練し、およそ半年間は沖縄にいない。
 常駐基地が沖縄でないといけない根拠は、ますます薄くなっている。
 地域の安定のために、日米同盟を必要だと考える人は多い。だが海兵隊をはじめ、国内の米軍専用施設の74%を沖縄に集中させたままの必要はどこにあるか。安倍政権は説得力のある答えを沖縄に返す必要がある。

所信表明演説 危機突破へ成長戦略を語れ


 日本が直面する「危機」を突破していくには、強い意志と具体的な政策が重要である。

 安倍首相が衆参両院本会議で、政権復帰後初めての所信表明演説を行った。

 首相に再登板した決意の源は「深き憂国の念」だとし、経済と震災復興、外交・安全保障、教育の四つの「危機」に内閣を挙げて取り組む姿勢を明確にした。

 最大かつ喫緊の課題と強調したのは経済再生だ。「強い経済」が国民の所得を増やし、社会保障制度の基盤強化にもつながるとする首相の認識は妥当である。

 政府は、2%の物価目標を明記した日本銀行との共同声明をまとめた。10兆円規模の経済対策を盛り込んだ補正予算案を近く国会に提出する。首相の掲げる「3本の矢」のうち金融緩和と財政政策が動き出したことは評価できる。

 残るのは成長戦略だ。全閣僚参加の日本経済再生本部や、有識者を交えた産業競争力会議で、民間投資を喚起する効果的な政策を打ち出し、金融・財政政策との相乗効果を高めねばならない。

 首相は演説で危機突破のために「与野党の叡智
えいち
を結集させ、国力を最大限発揮させよう」と野党に協力を求めた。衆参ねじれ国会であることからも、丁寧な国会運営が欠かせない。

 国会の焦点は、4月に任期が切れる白川方明日銀総裁の後任人事の国会同意取り付けと、予算案と予算関連法案の早期成立だ。

 参院第1党の民主党に加え、金融・経済政策で共通点が多い日本維新の会やみんなの党とも協議することが重要だ。政策ごとの連携も視野に入れる必要があろう。

 今回の演説は、首相がメリハリをつけようと項目を絞り込んだため、シンプルで分かりやすいメッセージになった。反面、多くの重要課題に言及がなかったことは物足りない。国会論戦を通じて見解を明らかにしてもらいたい。

 例えば、最大の懸案の一つである中国政策だ。尖閣諸島を「断固として守り抜く」とする一方で、日中関係をどう立て直すのか。

 エネルギー政策にも触れていない。電力不足への不安感が経済再生の足を引っ張らないよう、首相が原発再稼働の必要性を丁寧に説明すべきだったのではないか。

 首相は演説で、日本がアジア太平洋地域で経済や安保の「先導役」となることを明言した。

 それならば、アジアの成長を取り込むため、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決断すべきである。

駆け込み退職 教育現場に混乱生じぬ対応を


 定年退職を3月末に控えた公立学校の教職員の退職が相次いでいる。退職手当を減額する条例の施行前に辞める「駆け込み退職」だ。

 学年末に担任の教師が不在になれば、生徒や保護者は困惑するだろう。教育現場に混乱が生じないよう、自治体は臨時採用で後任を手当てするなど、適切な措置を講じる必要がある。

 今回の減額条例は、退職金の官民格差を解消するのが目的だ。国家公務員の退職手当を民間並みに引き下げるのに伴い、総務省が自治体にも職員の退職手当引き下げを要請した経緯がある。

 文部科学省によると、条例施行に絡み、既に退職したか、退職予定の教職員は、徳島、埼玉など4県で計約170人に上る。学級担任や教頭も含まれている。

 例えば埼玉県では、条例が2月1日に施行されると、退職手当が平均約150万円減額される。施行前の1月末に退職すれば、3月末まで勤め上げるより、2か月分の給料が減っても、総額で約70万円多く受け取れるという。

 駆け込み退職は警察官にも見られる。愛知、兵庫両県警では約230人が早期退職の意向を示している。治安の維持に悪影響が出ないか心配だ。

 民間企業では、定年に達した誕生日か誕生月をもって退職とするケースが多い。

 一方、退職時期が年度末の公務員は、誕生日後も勤務を続け、給料をもらえる。年度ごとに人件費予算を執行するためだが、民間よりも恵まれていると言える。

 住宅ローンなどの経済的な事情はあるにせよ、重要な公務を担う教師や警察官が駆け込み退職することについて、「無責任」との批判が出るのは無理もない。

 しかし、同様に問題なのは、駆け込み退職を想定せず、対応が後手に回った自治体の見通しの甘さである。最後まで職責を全うした教師らが損をするような仕組み自体に欠陥がある。

 実際、1月1日に条例を施行した東京都では、年度末まで勤めないと規定の退職手当をもらえない制度にしているため、駆け込み退職の動きは見られなかった。

 厳しい財政状況の下、自治体が人件費の圧縮に努めるのは当然のことである。それにもかかわらず、退職手当を減額するよう条例を改正したのは、47都道府県のうち3分の1にとどまっている。

 教職員組合などに配慮し、減額時期を遅らせているとしたら、無責任のそしりを免れまい。

2013年1月28日月曜日

防衛力見直し―首相の説明が足りない


 安倍政権による防衛態勢の見直し作業が始まった。
 先週末の閣議で、民主党政権下の10年にできた防衛計画の大綱の見直しと中期防衛力整備計画の廃止を決めた。新たな大綱と中期防は年内につくる。
 13年度予算では防衛費も11年ぶりに増やす方向だ。
 日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定をめぐる日米協議もスタートした。
 まさに矢継ぎ早である。
 ここ数年、東アジアの安全保障環境は大きく変わった。とりわけ中国の軍備拡張、海洋進出は著しく、日本との間でも尖閣諸島問題で緊張が続く。ミサイル発射や核実験を繰り返す北朝鮮の脅威も増した。
 国際情勢の変化をふまえ、防衛のあり方を不断に点検するのは当然のことだ。米国が「アジア太平洋重視」を打ち出すなか、日米の同盟関係を深化させることも必要だろう。
 一方で、防衛政策をやみくもに変えていると受け止められれば、かえって地域の緊張を高めかねない。安倍政権の前のめりの姿勢を見ると、そんな懸念がぬぐえない。
 言うまでもなく、戦後の日本は憲法9条の平和原則のもと、自衛権の行使にみずから厳しい制約を課してきた。自衛隊による海外での武力行使は禁じる、集団的自衛権の行使は認めない、などである。
 ところが、安倍首相は集団的自衛権の行使容認に意欲を示している。一連の見直し作業もそれを前提にしたものだろう。
 では、どのような事態のもとで、どんな形の日米協力を想定しているのか。自衛隊の活動を際限なく広げるようなことにならないか。首相は明確に説明する責任がある。
 そうでないと、周辺国の警戒感を高め、激しい軍拡競争に陥りかねない。
 防衛費の野放図な拡大も許されない。
 現大綱は「動的防衛力」という考え方を打ち出した。防衛予算が削減されるなか、自衛隊を効率的に運用する狙いだ。
 厳しい財政事情のもと、今後も装備や人員、活動を精査することは欠かせない。尖閣をふくむ南西海域の警備強化には、海上保安庁に予算を重点配分する方が効果的な面もある。
 中国との向き合い方は一筋縄ではいかない。外交や経済をふくむ総合的な戦略を描く必要がある。防衛力強化だけを突出させるべきではあるまい。
 説明を怠らず、無用の緊張をあおらない。これが安全保障政策の要諦(ようてい)である。

困窮者の支援―貧困の固定化を防ごう


 貧困の固定化を防ぐため、生活保護に陥る手前での自立支援を充実させていきたい。
 厚生労働省の審議会が、生活困窮者の支援について報告書をまとめた。通常国会に関連法案の提出をめざす。
 生活保護は受給者が増え続け214万人に及ぶ。世帯でみると、8割以上が高齢や傷病、母子家庭だが、それ以外の働ける年齢層を含む世帯が増え、11年度では17%に達している。
 背景には、低賃金で不安定な非正規雇用の広がりがある。勤労者の2割超は年収が200万円以下。雇用保険の給付が不十分で単身の人も多く、失業が生活保護に直結しがちだ。
 生活保護を受ける前や、受け始めてすぐ支援した方が、当事者の意欲などの面で就労・自立に戻りやすい。長期的には財政負担も抑えられるはずだ。
 報告書は、制度の縦割りでなく、困窮者が自立するまで継続的に「寄り添う」支援の実現をめざす。
 自治体に総合的な相談支援センターを設け、就労や住まい、健康、子どもの教育など包括的な支援につなげる姿を描く。
 ケースワーカーなど専門職の不足に対応するため、これまで手弁当で自発的に困窮者支援をしてきた民間団体を公的制度の中で本格的に位置づける。
 もちろん、簡単ではない。個別のニーズに即した支援が必要だが、行政が制度化すると、NPOなどの活動から自由が失われるおそれがある。
 熱意やノウハウを持つ人材をどう確保するか。地域によって格差が出よう。制度化され予算がつけば、「貧困ビジネス」が入り込むリスクも高まる。
 必要な資金はどのくらいか。その工面に、国、自治体、民間団体がどう責任を分担するかは詰まっていない。
 しかし、難しいからと、手をこまぬいている時間はない。
 審議会の議論が行われたのは、人気芸人の母親による受給が発覚し、生活保護への批判が高まった時期と重なる。
 報告書には、生活保護の不正防止に加え、本人の就労努力、親族による扶養の強化などの引き締め策も盛られた。
 生活保護で「だれを救うか」「どのくらいの生活を保障するか」という基準をめぐって、自民党はことのほか厳しい。
 ただ、引き締めだけでは、必要な支援も受けられない人ばかりが増え、餓死者を出すような事態も招きかねない。自立の支援は貧困層が固定化し、生活保護が肥大化するのを防ぐ長期的な投資と考えるべきだ。

オバマ氏2期目 米国再生へ真価が問われる


 米国再生へ成果が問われる重要な4年間だ。

 再選を果たしたオバマ米大統領が、2期目のスタートを切った。

 オバマ氏は新たな任期に臨む就任式で「10年に及ぶ戦争は今、終わりつつある。経済の回復も始まった」と述べ、1期目の成果を誇示した。

 アフガニスタン駐留米軍は戦闘任務をまもなく終え、来年末には撤収する。リーマン・ショックで急落した株価も危機前の水準を超えて大幅に上昇し、シェールガス革命でエネルギーブームだ。

 オバマ氏には、ブッシュ前政権の「負の遺産」を克服したという自負心があるのだろう。

 ただし、本格的な再生へ、前途はいばらの道である。

 最重要課題は財政再建だ。

 財政赤字は4年連続で1兆ドル(約90兆円)を超え、政府債務残高も16兆ドル超に膨れ上がった。

 大型減税の失効と歳出の強制削減が重なる「財政の崖」からの転落は、ひとまず回避した。連邦政府の借り入れ枠である米国債発行枠(債務上限)を暫定的に引き上げ、デフォルト(債務不履行)も約3か月避けられる方向だ。

 だが、抜本的な財政再建策は先送りされている。

 オバマ氏は、議会で必要な法案が成立するよう、強い指導力を発揮しなければならない。

 下院を野党・共和党、上院を民主党が制する“ねじれ議会”で、党派対立はむしろ深まっている。議会対策は容易ではあるまい。

 オバマ氏が、財務、国務、国防各長官ら主要閣僚を交代し、議会に顔が利くベテランを指名したのも、そのための布陣と言える。

 小学生20人が犠牲となった銃乱射事件を受けた銃規制の法整備、不法移民の子供に条件付きで市民権を付与する移民制度改革など、内政の難題は山積している。

 外交・安全保障面では、進む一方の北朝鮮やイランの核開発に取り組まねばならない。停滞したままの中東和平や「アラブの春」後の混乱に対処する上でも、米国の積極的な関与は欠かせない。

 とりわけ、アジア重視戦略の真価が問われている。

 軍事的にも経済的にも膨張著しい中国を牽制
けんせい
しつつ、習近平政権とどういう関係を築くのか。自由で開かれた平和なアジア太平洋地域の構築へ、日本など同盟国との関係強化は不可欠である。

 安倍首相は来月、訪米し、オバマ氏と首脳会談に臨む。中国をにらんだ戦略的な日米同盟の強化策を論じ合ってもらいたい。

難病対策 患者を支える体制が必要だ


 難病と闘う患者を支える仕組みを整えることが重要である。

 厚生労働省の厚生科学審議会は、難病の診療体制や患者への支援策の提言をまとめた。厚労省は具体化のための法整備を目指す。

 難病は、患者数が少なく、原因不明で治療法が確立していない病気を指す。長期にわたり生活への支障が生じる。全体で5000~7000種類に上るとされる。

 このうち、診断基準が明確で、医療費負担が重い筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病など56疾患が医療費の助成対象になっている。

 提言の柱は、医療費の助成を見直し、対象の病気を300程度に拡大することだ。

 56疾患以外にも、重い医療費の負担を強いられる難病患者が少なくないことを考慮した。助成を受けていない病気の患者との不公平の解消を図ることは、妥当と言えるだろう。

 さらに提言は、医療費が無料となっている重症患者からも、所得に応じて自己負担を求めた。助成対象者が増え、財政負担が年1200億円を超えた事情がある。

 財源確保に知恵を絞る必要があるが、より多くの患者を援助するには、医療費助成の給付水準を引き下げることはやむを得まい。

 提言では、多様な分野の専門医がいる大学病院などを、難病医療の拠点病院として新たに指定することも求めている。難病治療には神経内科、循環器科など多くの診療科の連携が必要なためだ。

 重要なのは、難病患者が確実に専門医の診断を受けられる体制を構築することである。拠点病院に専門医を適切に配置することが欠かせない。

 難病は患者数が少ないために、診療経験の豊富な専門医も限られる。正しい診断を受けるまで、何年も様々な医療機関を訪ね歩く患者は少なくない。

 専門医がいる医療機関の情報をデータベース化し、患者が検索できるようにしてはどうか。

 最初に診療する医師は、自身が専門医でなくても、的確に専門医を紹介することが求められる。一般の医師が難病への知識と理解を深めることが大切だ。

 提言は、難病研究の強化も打ち出した。病気のメカニズムを解明するための遺伝子解析や、再生医療技術を活用した新しい治療法の研究を推進する。

 多くの患者が待ち望んでいる病気の原因究明や新薬開発に、官民で力を入れてもらいたい。

2013年1月27日日曜日

国会開幕へ―野党は早く目を覚ませ


 通常国会が週明けに始まる。
 自民、公明両党の圧勝で終わった総選挙をへて、与野党の論戦がいよいよ再開する。
 夏には参院選がある。参院で自公が過半数を占めれば衆参のねじれは解消し、巨大与党の政策実行力が一気に強まる。逆に野党はさらに弱体化し、政治の緊張感は薄まりかねない。
 この国会での論戦は、今後の政治を左右する参院選の前哨戦でもある。
 安倍政権は経済政策を中心に着々と歩を進めている。なのに民主党、日本維新の会など野党の動きは鈍すぎないか。
 安倍政権の政策を厳しくチェックし、批判すべきは批判し、協力すべきは協力する。一刻も早く態勢を立て直し、政権交代の時代にふさわしい、建設的な野党の姿を示さねばならない。
 論点には事欠かない。
 「アベノミクス」が放漫財政を招き、日本の信用を失わせないか。アルジェリア人質事件の教訓をどう生かすか。近隣外交を打開する手立ては。脱原発依存をいかに進めるか。
 政権が参院選に勝ってからの課題と想定する憲法改正や、村山・河野談話の見直しなどについても、今からしっかり議論すべきだ。
 もちろん、野党が政権の足を引っ張るばかりでは困る。
 日本銀行総裁をはじめ、100人以上の国会同意人事の処理が迫られる。与野党で十分な議論ができる環境を整える必要がある。事前に報道された人事案を受け付けない悪(あ)しきルールが廃止されるのは歓迎したい。
 違憲状態にある衆参の選挙制度の改革に結果を出すことも、与野党共通の責務である。
 夏の参院選から改選数1の選挙区が31に増える。野党がばらばらのままでは圧倒的に不利になる。そのことは総選挙で痛いほど学んだはずだ。
 国会運営をめぐっても、政権の動きは素早い。首相みずから維新など野党党首らと個別に会い、協力を求めている。
 これに対し、野党共闘に向けた動きは進んでいない。こんな状態で政権チェックの役割が果たせるのか。
 野党各党は早く目を覚ますべきである。
 政権への対案を示しつつ、論戦を通じて、それぞれがめざす国の姿や社会像を、説得力あるかたちで示す作業を急いでもらいたい。
 そうした積み上げのなかで、各党の連携・協力が可能かどうかが見えてくるはずだ。参院選に向けて有権者に判断材料を示すことにもなる。

駆け込み退職―子への影響防ぐ知恵を


 卒業の季節を前に、公立校の教職員の退職が相次いでいる。
 公務員の人件費削減で退職金が下がるよりも先に辞め、損をしないようにしようという「駆け込み退職」である。
 いつ辞めるかは先生や職員の判断しだいだが、児童生徒が割を食うのは理不尽だ。自治体は子どもたちに悪影響を生じさせない対策をとる必要がある。
 退職金を引き下げるのは、民間企業(従業員50人以上)の水準にあわせるためだ。
 2010年度に退職した人の退職金と年金の上乗せ部分の合計額について、人事院が調べたところ、民間の支給額は不況で激減しており、国家公務員より平均で403万円少ない2548万円だった。
 そこで、政府はこの1月以降に退職する職員について、段階的に退職金を引き下げ、民間水準にあわせるよう法律を改正。自治体にもこれに準ずるかたちで下げるよう要請した。3段階にわけるため、今回は百数十万円の減額になる。
 公務員の給与や退職金は、民間水準を考えて決めるのがルールであり、引き下げは当然だ。
 一方で、働き続けると給料を計算に入れても損をする仕組みにすれば、辞める人が出るのは予想できた。「生徒を置き去りにして辞めるなんて」と保護者が驚くのはわかるが、損しても働けと強いることはできない。制度設計の問題が大きい。
 進路選びなどの大事な時期である。担当教師が代わるのは、子どもたちにとって望ましくない。教室に大きな影響が出ないようにすることを優先して考えたい。
 下村博文文部科学相は「退職者を慰留、説得してほしい」と各教委に求めている。
 佐賀県教委は、早期退職した人の大半を臨時任用の制度を使って残した。代わりの先生を雇っても、コストは同じ。短期間で人を探すのも難しい。同じ人を再任したほうが、教育活動に支障が出ないと判断した。
 鹿児島県教委は引き下げ開始の時期を4月1日からにした。周知の期間のほか、人事管理や県民サービスへの影響を考えたという。駆け込み退職による混乱を避ける配慮である。
 引き下げの時期をこれから議会で決める県も多い。教室が混乱しないよう、制度を工夫してほしい。
 この騒ぎで教師不信を募らせる人もいるが、たとえば埼玉や佐賀では早期退職しなかった教職員の方がはるかに多い。
 辞めた人にも、どんな事情があったかはわからない。

巨額貿易赤字 輸出力の強化と原発再稼動を


 「貿易立国」としての日本の土台が揺らいでいる。官民で巻き返しを図らねばならない。

 輸出額から輸入額を差し引いた2012年の貿易収支は、過去最大の6・9兆円の赤字だった。第2次石油危機直後の1980年に記録した2・6兆円を大きく上回った。

 東日本大震災の影響で31年ぶりに貿易赤字に転落した一昨年と比べても2・7倍に増えた。極めて深刻な事態である。

 要因は、欧州危機や中国経済減速に伴い、輸出が減少する一方、輸入が急増したことによる。

 東京電力福島第一原子力発電所事故後、原発が全国で停止し、再稼働したのは2基にとどまる。

 電力各社が代替電源として火力発電をフル稼働した結果、燃料となる液化天然ガス(LNG)の輸入額が年間で約6兆円にも達する異常事態になっている。

 海外への投資による配当や利子の受け取りを含めた経常黒字は続いている。だが、巨額の貿易赤字が慢性化すると、いずれ経常収支も赤字転落が懸念されよう。

 「貿易立国」の立て直しにまず必要なのは、輸出拡大につながる製造業の競争力強化である。

 電機業界は、薄型テレビや携帯電話市場などで韓国メーカーなどに出遅れた。成長市場である医薬・医療機器分野でも、年約3兆円の輸入超過になっている。

 製造業各社が、付加価値の高い魅力的な商品を開発し、アジアなど新興国の成長市場を積極的に取り込む工夫が要る。

 貿易赤字の背景には、コスト高を回避するため、製造業が拠点を海外に移転し、国内空洞化が加速している事情がある。

 国内立地の利点を享受できるよう、政府は法人税減税や投資減税などを拡充し、企業を支援すべきだ。新設された産業競争力会議は「メード・イン・ジャパン」のテコ入れ策を示してもらいたい。

 海外市場の攻略には、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加決断も待ったなしだ。

 一方、輸入を減らすために最も重要なのは、安全性を確認できた原発の再稼働を急ぐことだ。火力発電に依存する状況が長期化するほど、LNGの輸入額が増えて国富が資源国に流出する。

 LNG調達コスト上昇で電気料金値上げに拍車をかけよう。

 為替市場で超円高が是正され、円安が定着してきた。輸出企業にはプラスだが、円安が行き過ぎるとLNGなどの輸入額を一段と急増させる。これにも要警戒だ。

高校野球監督 元プロの「恩返し」に期待する


 プロ野球OBが高校野球の監督になるための条件が、大幅に緩和されることになった。

 プロとアマチュア野球の指導者交流を拡大し、球界全体の発展につなげたい。

 新設する研修を受講すれば、プロOBに学生野球の指導者資格を与える――。これが、高校、大学野球を統括する日本学生野球協会とプロ側による合同協議会で基本合意した内容だ。早ければ年内にも新制度が導入される。

 一足先に大学野球では、特別規定によりプロ出身監督が増えている。一方、高校野球の監督にプロ出身者は極めて少ない。部活動は教育の一環との意識が強く、「教諭として2年以上勤務」という条件を課しているためだ。

 だが、プロの高度な技術を吸収したいと願う高校球児は多い。プロ関係者にも「高校野球に恩返ししたい」という思いが強い。

 日本学生野球協会に属する日本高校野球連盟が今回、交流拡大を求めるプロ側に歩み寄ったことを歓迎したい。プロの世界で活躍できずに引退した選手にとっても、高校野球の監督という新たな道が大きく開けるだろう。

 日本の野球界では、プロとアマの断絶が長く続いた。1946年制定の日本学生野球憲章は、プロとの試合や練習を禁じていた。学生野球の商業化を防ぐことなどが目的だったとされる。

 高校球児を対象としたプロ選手のシンポジウム開催などで、雪解けの機運が高まったのは10年ほど前からだ。2010年に学生野球憲章は全面改正され、プロ・アマ交流が原則として解禁された。

 今回、残された課題だった高校野球の監督就任問題に道筋がついたことで、プロとアマの関係は新たな時代に入ったと言える。

 研修で元プロ選手は、断絶の歴史や関係修復の経緯を学ぶ。過去の不幸な関係に戻らないためには必要なことだ。教育的見地から、健全な部活動の在り方や、選手の安全対策などの講義を充実させる必要もある。

 高校野球には、現在も多数の優れた監督がいる。元プロの監督としのぎを削ることで、指導者全体のレベル向上を期待したい。

 ヤクルト、ロッテの元投手で、埼玉・川越東高の監督だった阿井英二郎氏が今季、日本ハムのヘッドコーチに就任した。高校野球で培った指導力をプロでどのように発揮するのか、注目される。

 アマからプロへの人材交流も広がれば、野球界の一体感がより強まるに違いない。

2013年1月26日土曜日

税制改革―公平と活力の両立を


 自民、公明両党が税制改革案を決めた。
 所得税の最高税率を40%から45%に上げる。相続税でも最高税率を50%から55%へ引き上げつつ、課税時に差し引ける基礎控除を現行の6割に縮めて課税対象を広げる。
 14年度からの消費増税では、所得が低い人の負担が重くなる「逆進性」が指摘されている。所得税と相続税の改革は、収入や資産が多い人への課税強化で「公平」を期すのが狙いだ。ここは評価できる。
 一方、デフレ克服と経済の活性化を狙った案も目白押しだ。
 祖父母から子や孫への生前贈与では、教育資金に充てることを条件に、子・孫1人あたり1500万円まで贈与税を非課税にする。
 企業向けでは、従業員への給与などを増やした会社の法人税を減らす制度を設け、生産設備や研究開発への投資を促す減税策も強化する。
 裕福なお年寄りや企業の手元に眠る資金を動かし、何かと物入りな現役層の消費を後押ししたり、企業の投資を増やしたりするのが狙いだ。「活力」を強く意識した案である。
 公平か活力か。これまでの税制改革でもたびたび議論されてきた論点だ。
 短期の活力重視が社会の公平さを損ない、結局は社会全体の活力を失わせる恐れがないか。うまくバランスをとり、国民の納得を得ていくには、改革の効用と弊害に目を配ることが欠かせない。
 たとえば生前贈与である。
 子どもの学力と家庭の経済力には相関関係が見られる。贈与税の優遇策の恩恵を受ける裕福な家庭の子どもと、そうでない子どもとの間で教育格差が生まれ、それが経済力の差につながるようでは、負の影響が大きくなりかねない。
 「従業員への給与増で法人減税」は、従来の「雇用を増やせば減税」と比べ、企業の使い勝手はよさそうだ。
 ただ、失業者を減らす取り組みがおろそかになっては、本末転倒である。今回は「雇用増で減税」の方も制度を充実させるが、労働格差の固定化を避ける視点が重要だ。
 新制度がどのように使われ、どんな効果が見られるか。制度を設けた時には想定していなかった弊害が生じていないか。
 一度導入されると、それが既得権となり、長期間そのままになりがちなのが税制である。既存の仕組みを含めて、検証と見直しを常に続けていかなければならない。

習氏との会談―これを雪解けの一歩に


 中国を訪問していた公明党の山口那津男代表がきのう、習近平総書記と会談した。
 日本政府による尖閣諸島の国有化で関係が悪化して以来、中国共産党トップが日本の政党党首と会うのは初めてだ。小さな一歩にすぎないが、パイプがつながったことを歓迎する。
 山口氏は安倍首相の親書を手渡し、日中の首脳会談を呼びかけた。習氏も「ハイレベルの交流を真剣に検討したい」と応じた。習氏はそのための環境整備も求めており、にわかに実現するかどうかはわからない。
 とはいえ、習氏みずから意欲を示したのは前向きのサインと受けとめたい。ぜひ実現につなげてほしい。
 もちろん、首脳同士が会ったからといって、尖閣問題で溝を埋めることは望めまい。大切なのは、この問題を経済や文化など両国間の様々な交流に波及させないことだ。
 この点でも、習氏は「中日関係は特殊な時期に入っているが、国交正常化の歴史をさらに発展させなければならない」と語った。ならば、尖閣を理由に関係を停滞させないよう、言葉通りの対応を求める。
 山口氏は出発前、「将来の世代に解決を委ねることが、当面の不測の事態を避ける方法だ」と発言。中国側の主張に沿った、領有権の「棚上げ」論ではないかとの疑念を招いた。
 尖閣が日本の領土であることは間違いない。ただ、「領土問題は存在しない」という、日本政府の棒をのんだような対応ばかりでは、話し合いの糸口さえつかめなかったことも事実だ。
 両国のナショナリズムが沸き立つのを避けつつ、互いに知恵を出し合い、粘り強い対話を続けるしかあるまい。
 尖閣周辺には、連日のように中国の船舶や航空機が姿を見せている。私たちはこうした挑発行為をやめるよう再三求めてきたが、やむ気配はない。
 こんな状態が続けば、いつ偶発的な武力衝突が起きても不思議ではない。
 山口氏はやはり出発前、「この島に両国の軍用機が近づきあうことは不測の事態を招きかねない。お互い空に入らないとの合意に至ることも重要だ」と提起した。両政府間で衝突回避の具体策を早急に協議すべきだ。
 今回の訪中は、議員外交の意義を再認識させた。
 関係改善に向けて、あらゆるパイプを総動員する。そこでつかんだきっかけを逃さず、政府間の話し合いにつなげる。
 その積み重ねの中から、雪解けを図るしかあるまい。

習・山口会談 首脳対話に必要な中国の自制


 途絶えている日中首脳会談が再開できる環境を整えるには、日中双方の外交努力が必要だ。

 公明党の山口代表が訪中し、中国共産党の習近平総書記と会談した。習総書記が昨年秋の就任後、日本の政治家と会うのは初めてだ。

 山口氏は「難局の打開には政治家同士の対話が大事だ」として、安倍首相の親書を手渡した。

 習総書記は「ハイレベル対話は重要だ。真剣に検討したい」と明言した。首脳会談の環境を整える必要があるとの認識も示した。

 中国は尖閣諸島の領有権問題での日本の譲歩を求めているのだろうが、それは認められない。むしろ中国にこそ自制を求めたい。

 昨年9月に日本が尖閣諸島を国有化した後、中国政府による日本の領海侵入は恒常化し、領空への侵犯も起きている。

 不測の事態を防ぎ、日中関係を改善するには、まず中国が威圧的な行動を控えるべきだ。

 公明党は、1972年の日中国交正常化の際、議員外交で大きな役割を果たした。今回も、溝が広がった政府間の橋渡しをしようとする意図は理解できる。

 尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。日本政府の立場を堅持することが肝要なのに、気がかりな点がある。

 山口氏が訪中前、香港のテレビ局に対し「将来の知恵に任せることは一つの賢明な判断だ」と述べ、「棚上げ論」に言及したことだ。日中双方が自衛隊機や軍用機の尖閣諸島上空の飛行を自制することも提案した。

 山口氏は習氏らとの会談では触れなかったが、看過できない発言だ。棚上げ論は、中国の長年の主張である。ところが、中国は1992年に尖閣諸島領有を明記した領海法を制定するなど一方的に現状を変更しようとしている。

 安倍首相が「自衛隊機が入る、入らないは、私たちが決める」と山口氏の発言に不快感を示したのは当然である。

 村山元首相も、近く中国を訪れる。村山氏は、過去の侵略などへの「深い反省」を表明した村山首相談話をまとめた。村山氏から中国寄りの発言を引き出したい中国の意図が見え隠れする。

 先に訪中した鳩山元首相は、尖閣諸島を「係争地だ」と述べた。領有権問題の存在を認めたことなどから、中国の主要紙が大きく取り上げた。中国に利用されていることが分からないのだろうか。

 国益を忘れた言動は百害あって一利なしである。

途上国リスク 日本企業が抱える課題は重い


 アルジェリアで起きたイスラム武装勢力による人質事件は、海外展開する日本企業に危機管理体制の見直しを迫った。

 ビジネスチャンスを拡大しながら、テロなどのリスクにどう備えるか。難しい課題の両立策を模索しなければならない。

 犠牲になった大手プラントメーカー日揮と関連会社の社員10人のうち9人の遺体と、無事だった7人が、政府専用機で帰国した。

 日揮は1960年代からアルジェリアの資源開発に取り組み、アフリカだけでなく、中東、アジアなど世界に展開してきた。

 売上高に占める海外比率は7割超に達し、海外で稼ぐパイオニア企業である。途上国ビジネスに精通していた日揮ですら、テロに巻き込まれたのは深刻だ。

 川名浩一社長は記者会見で「安全を確保しながらビジネスを進めていく課題を突き付けられた」と述べた。海外展開する日本企業に共通の課題と言えよう。

 アルジェリアには日本企業約15社の拠点がある。資源が豊富で成長が期待されるアフリカ各地で、商社、ゼネコン、自動車など様々な業界が競っている。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、アフリカに進出した日本企業の7割が「アフリカの重要性が増す」と答える一方、9割が「治安など政治的・社会的な安定性」を問題点に挙げた。各社のジレンマがうかがえる。

 今回の事件後、各社は治安悪化が懸念される国への出張を禁止したり、事務所やプラントなどの警備を強化するなどの自衛策を打ち出した。当然の対応だろう。

 だが、一企業による自衛策には限界もある。政府や地元政府などとの連携を強化し、安全対策を総点検してもらいたい。

 政府は、事件対応を検証するとともに、有識者懇談会を設置し、邦人保護のあり方を検討する。幅広い観点からの議論が重要だ。

 テロ関連の情報収集・分析体制を強化するため、国家安全保障会議(日本版NSC)の早期設置へ与野党協議を始めてはどうか。

 自民、公明両党は自衛隊法改正を検討する。現行法で可能な自衛艦・航空機による邦人輸送に加え外国での邦人救出や陸上輸送を可能にすることを想定している。

 しかし、新たな任務の実施は当事国の同意が前提となる。正当防衛などに限定されている武器使用基準の緩和のほか、陸上自衛隊には警護任務の特殊な訓練が求められる。これらの課題について、しっかり論議することが大切だ。

2013年1月25日金曜日

道路特定財源―復活など許されぬ


 自動車税制の見直しに絡み、重量税を道路の維持管理や更新などの財源と位置づけ、自動車ユーザーに還元する。
 自民党が、与党税制改正大綱にこんな一文を盛り込んだ。
 重量税の廃止を求める声が強いため、税を存続させる根拠を示しただけ。あくまで一般財源であり、かつてのように道路特定財源に戻すわけではない――。自民党はそう強調する。
 しかし、これは道路特定財源の説明そのものではないか。
 制度の弊害を踏まえて廃止したのは、ほかならぬ自民党政権だった。
 1950年代に始まった道路特定財源の制度は、遅れていた道路整備を支える役割を果たした。だが次第に既得権化して、「むだな道路を造る温床」との批判が高まった。
 小泉政権が見直しに着手し、安倍、福田、麻生各政権で検討を重ね、09年度に制度の廃止と一般財源化にこぎつけた。
 「古い自民党」が頭をもたげたかのような動きのきっかけは、業界や中央省庁、自治体、その応援団を自認する政治家が入り乱れての要求合戦だ。
 自動車業界と経済産業省は自動車取得税と重量税の2税とも廃止するよう強く求めた。「一般財源化で課税の根拠を失った」という主張に加え、14年度からの消費増税を控え、「日本経済を引っ張る自動車業界がおかしくなる」と訴えた。
 これに対し、税収減を避けたい財務省は反対。取得税の全額と重量税の4割は自治体に回っており、地方側と総務省も「代わりの財源がない限り反対」と歩調をあわせた。
 結果は妥協の産物だ。
 2税のうち、年間税収が約2千億円と少ない取得税は段階的に廃止する。税収が約7千億円の重量税は、軽減措置をとりつつ「道路財源」に位置づける。
 これなら、負担軽減を求める自動車業界にも、道路整備を求める声が強い自治体にも顔向けできる。夏の参院選をにらみ、業界や自治体を味方につけておきたいとの思惑がちらつく。
 限られた財源の使途を突きつめ、配分の効果を検証し、次の予算編成につなげる。財政再建には地道な作業しかない。特定財源化はこの基本と矛盾する。
 重量税では、温室効果ガスの排出が少ない車を優遇するエコカー減税を続けるが、税収を道路整備に充てるのでは環境対策面からも疑問だ。
 「国土強靱(きょうじん)化」のかけ声にそってなし崩しに財源を確保するような動きは、許されない。肝に銘じてもらいたい。

オバマ2期目―戦争をしない大統領に


 米国のバラク・オバマ大統領が政権2期目に入った。
 オバマ氏が体現する変革や連帯のメッセージは、今も内外の多くの人を引きつけている。再選のくびきから解かれた強みを生かし、理想とする社会づくりに取り組んでほしい。
 公民権運動の黒人指導者、キング牧師の生誕記念の祝日でもあった21日、首都ワシントンで就任式典が開かれた。
 初のアフリカ系大統領となった4年前のような高揚感はなかった。党派対立で、思うように政権運営ができなかった1期目の現実が重くのしかかる。
 それでも、壇上のオバマ氏は力強さを取り戻していた。
 演説で、気候変動、同性愛者の権利、移民政策といったリベラル色の強い問題を多く取り上げた。
 2期目は、信念をより前面に出すという決意の表れだ。「ともに」「われら合衆国人民」といった言葉をちりばめ、国民の支持を背景に、物事を推し進めようとする姿勢がにじむ。
 オバマ氏は再選を決めた後、野党・共和党との対決路線に重心を移した。
 「財政の崖」をめぐる交渉では、一定の譲歩をしつつ、高所得者層への増税を勝ち取った。小学校での悲惨な銃乱射事件を受け、根強い抵抗がある銃規制の強化にかじを切った。
 こうした姿勢が好感され、支持率は上がってきた。「力強い指導者」としての評価も多い。経済の回復基調も追い風だ。
 逆に、下院で多数を占める共和党は、財政問題での頑迷な対応に風当たりが強まった。
 政府の借り入れ上限額引き上げや歳出削減など、春にかけて難題が控える。オバマ氏としては、上向きの支持をうまく生かし、共和党の穏健派を引き寄せる必要がある。
 演説で「安全と平和のために戦争を繰り返す必要はない」と語った。
 1期目はテロ集団への無人機攻撃やリビア空爆など、軍事力も使ってきた。だが、攻撃だけではテロは根絶できない。アルジェリアの人質事件は、北アフリカでのイスラム過激派の伸長ぶりを見せつけた。
 内戦状態のシリアなど、「アラブの春」後の中東にどう向き合うのか。アジアでは中国の台頭で変動が起きている。
 意見の異なる国々と「関わっていくことで、疑いや恐れを取り除くことができる」という言葉は、ノーベル平和賞を受けたオバマ氏の考えをよく表している。「戦争をしない大統領」として功績を残してほしい。

税制改正大綱 難題先送りでは責任果たせぬ


 その場しのぎの対応では、日本経済は活性化しない。税制の抜本的な改革が急務である。

 自民、公明両党が2013年度の与党税制改正大綱を決定した。

 14年4月に予定される消費税率の8%への引き上げを控え、安倍政権の姿勢が問われていた。

 焦点となった食料品などの消費税率を抑える軽減税率は、消費税が8%から10%に上がる15年10月導入を目指すことで合意した。

 軽減税率導入に伴う煩雑な手続きに不満を抱く中小企業などに配慮したと言える。

 だが、消費増税への国民の理解を得るには、税率を8%にする時から導入する方が望ましい。実施時期の先送りは問題である。

 自公両党は、専門委員会で税率や対象品目などを協議し、今年末に決める14年度税制改正で結論を出すという。速やかに検討を始め、10%段階での導入を確実にしなければならない。

 その際、軽減する消費税率は5%とし、対象には食料品のほか、民主主義を支える公共財である新聞・雑誌も含めるべきだ。

 最後まで調整が難航した自動車取得税と自動車重量税の扱いも、妥協の末に決着した。

 取得税を消費税8%時に引き下げ、10%時に廃止する一方、重量税はエコカー減税を恒久化し、道路整備に充てる方針だ。

 取得税の廃止により、地方税収が年間約2000億円減る。大綱は「地方財政に影響を及ぼさない」と明記したが、代替財源の見通しは立っていない。

 自動車業界は「消費増税で販売不振を招く」として取得税と重量税の廃止を求め、税収減を懸念する自治体が反対した。今夏の参院選をにらみ、業界と地方双方の顔を立てる玉虫色の決着である。

 重量税の使途も疑問だ。無駄な公共事業の温床になるとして、自民党政権が09年に廃止した道路特定財源の復活にならないか。

 複雑な仕組みの自動車課税を、ガソリン税を含めて総合的に見直し、簡素化することが重要だ。

 来年度改正では、富裕層を対象に所得税と相続税の課税強化を打ち出した。財源確保の効果は限定的で、労働意欲や経済活力をそぐことになりかねない。

 住宅ローン減税の拡充や企業向け減税も盛り込まれたが、どこまで経済をテコ入れできるかは未知数だ。成長戦略と連動した法人税減税などが求められよう。

 所得・資産・消費で均衡のとれた負担のあり方を探るべきだ。

教育再生会議 実効性伴う踏み込んだ提言を


 安倍政権の教育政策を方向づける教育再生実行会議が始動した。

 深刻ないじめや体罰など、教育現場に山積する課題へ有効な処方箋を示してもらいたい。

 安倍首相は初会合で「教育再生は経済再生と並ぶ最重要課題」と述べ、世界トップレベルの学力と規範意識を身につける機会を保障することを目標に掲げた。

 会議は首相直属で、知事や企業経営者、学者など15人の有識者で構成される。

 従来の文教行政の枠にとらわれず、実効性を伴う踏み込んだ提言を期待したい。

 第1次安倍内閣当時の2006年に設置された教育再生会議は、「脱ゆとり教育」を打ち出すなど一定の成果を上げたが、提言が総花的で、実現に至らなかったものも少なくない。

 文部科学相の諮問機関である中央教育審議会との役割分担が不明確だったことも前回の反省点だ。今回、教育再生実行会議の議論を基に、中教審が制度設計を行う形にしたのは評価できる。

 会議ではテーマごとに集中審議を行い、順次提言をまとめていくという。当面の論点はいじめ対策と教育委員会の見直しである。

 安倍政権は、通常国会で成立を目指している「いじめ防止対策基本法」に、会議の検討結果を反映させたい意向だ。

 いじめの防止には、教師の適切な指導に加え、家庭でのしつけや自治体などによる相談窓口の整備が欠かせない。社会総がかりでの取り組みを促すような方向性を示してほしい。

 いじめ自殺の対応などを巡り、各地の教委の閉鎖的な体質や形骸化が次々に露呈している。

 首長から政治的に独立した教委の仕組みが、教育行政の責任の所在をあいまいにしていることは否めない。大阪市立桜宮高校の体罰問題では、橋下徹市長と市教委が対応を巡り対立した。

 首長と教委の関係について、議論を尽くす必要がある。

 今夏の参院選後に審議する、中長期的な課題が「6・3・3・4制」の見直しだ。自民党は先の衆院選で政権公約に掲げていた。

 カリキュラムを工夫し、小中一貫や中高一貫の教育を実践する学校は増えている。小学校から中学、高校、大学へと至る現在の学制のままでいいのかという議論は、以前からある。

 子供たちの学力向上につながる柔軟な教育制度を検討する時期に来ているのではないだろうか。

2013年1月24日木曜日

北朝鮮決議―核実験は許されない


 北朝鮮による「人工衛星打ち上げ」に対し、国連安全保障理事会が制裁を強化する決議を採択した。
 「打ち上げ」を受けた決議は初めてだ。事実上の長距離弾道ミサイル発射実験に対する、国際社会の強い危機感の表れだ。
 追加制裁に慎重だった中国も賛成に回ったことを、北朝鮮は重く受け止めるべきだ。
 決議は、北朝鮮がまた弾道ミサイル技術を使った発射や核実験をすれば、「重大な行動を取る」との決意を表明した。
 異例の強い表現だ。強制措置を認める「国連憲章第7章」に基づいた、さらに強い制裁などが念頭にある。
 にもかかわらず、北朝鮮外務省はすぐに批判の声明を出し、核実験を行うことを示唆した。これ以上、愚挙を重ねることは許されない。緊張を一方的に高めてきたのは北朝鮮だ。強く自制を求める。
 北朝鮮は従来のプルトニウムだけでなく、ウラン濃縮による核開発を進めている。
 既存の施設でのプルトニウムの抽出活動は止まっており、保有状況を推測できる。だが、秘密裏に進むウラン濃縮は実態をつかみにくい。長く稼働すれば、それだけ兵器用核分裂物質も増える可能性がある。
 北朝鮮の核開発は以前と異なる段階に入ったのが現実だ。核実験で、ミサイル搭載可能な核弾頭を手にするような事態を阻止しなければならない。
 中国が決議に慎重だったのは、北朝鮮が反発、暴走するのを心配したからだった。だが、本土がミサイルの射程に入りつつある米国が強い対応を求め、最後は受け入れた。
 中国は、北朝鮮に食料やエネルギー支援を続けている。北朝鮮の存在が自らの安全保障にプラスになるとの計算からだ。
 だが、北朝鮮が核実験、ミサイル実験を続けるようでは、北東アジアの安定は脅かされるばかりだ。甘い対応が地域のさらなる不安定化を招くことは、中国の利益にもならない。
 今回の決議は、外交圧力を強めるねらいだが、北朝鮮を追い詰めるばかりが目的ではない。対話による平和的解決への期待も込めている。
 本気で非核化へ歩むならば、国際社会の側には平和や経済発展で協力する用意がある。米中、そして日本などは、そうしたシグナルも送りながら、北朝鮮を外交決着へと引き寄せる必要がある。
 国際社会の総意に背いて国の未来など開けない。北朝鮮はそれをしっかり自覚する時だ。

桜宮入試中止―わかりにくい折衷案だ


 体罰が明らかになった大阪市立桜宮高校の入試について、市教委は橋下徹市長の求めに応じ、体育科とスポーツ健康科学科の入試をとりやめる。
 ただし普通科として入試をする。体育系2科と同じ試験科目で受験できる。市教委が市長の顔を立て、同時に入試方式を変えないで受験生に配慮した折衷案での決着だ。
 桜宮高校はスポーツを中心にした教育で全国に知られる。体育系2科を志願してきた中学3年生にとっては、入試中止の事態は避けられた。
 とはいえ、わかりづらい点も少なくない。市教委はスポーツに特色のあるカリキュラムにする方針だ。「勝利至上主義ではなく他者を慈しむ心を育てる」というが、具体的に何を教えるのか。体育系2科と比べて履修教科に変更はないのか。出願まで1カ月を切っており、早急に示す必要がある。
 来年度、市教委は改革の進み具合をみて学科のあり方を再検討するともいう。体育系2科が復活するのか、普通科で入学した生徒は編入できるのか。不安を抱えたままの受験となる。
 体罰容認の実態が改まっていない現状では新入生を迎えられない。今回の中止は、橋下氏がそう発言したのがきっかけだ。
 高校受験は人生の大事な節目である。本来、受験生にしわ寄せがいくのは好ましくない。
 学校教育は生身の人間が主役であり、改革も現場主導が、あるべき姿だ。だが今回、橋下氏が前面に乗り出した。
 もとのまま入試が実施された場合の予算執行停止にまで言及して、市教委を追い詰めたことには強い違和感が残る。
 入試の中止に加え、教員の全員入れ替えなどのかけ声が先行し、学校やクラブ活動をどう良くするかという本質論が先延ばしになったのは残念だ。
 入試の中止が決まった日、桜宮高校3年の運動部元キャプテン8人が市役所で記者会見し、「勝利至上主義ではなかった」「市長には生徒の声をもっと聞いてほしい」と訴えた。
 市長が直接、方針を示す「荒療治」を是とする意見もある。社会には、教育現場への不信感があるのも事実である。
 だが、橋下氏は生徒の声にもっと耳を傾けるべきだったし、一方的な発言で対立を深めるのでは、根本的な問題解決の糸口はつかみにくい。
 体罰をめぐる意識改革などを、教育現場の自発的な発案、責任ある行動で進めていく。その過程があってこそ、学校は変わっていける。

対「北」制裁強化 安保理決議の実効性を高めよ


 北朝鮮への圧力の手を緩めず、実効性を高めることが重要だ。

 国連の安全保障理事会が、北朝鮮への制裁を強化する決議2087を全会一致で採択した。

 決議は、北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」と称して昨年12月、安保理決議に違反する長距離弾道ミサイル発射を強行したことを非難した。新たなミサイル発射や核実験を行う場合、安保理が「重大な行動を取る」とも警告している。

 制裁内容の調整に時間を要したが、新たな決議採択は、国際社会が結束して北朝鮮の挑発に厳しく対応したものと評価できる。

 決議は、常任理事国である米国と中国の妥協の結果でもある。

 米国は、日本や韓国と連携しながら、制裁の枠組みを広げ、強化することを目指した。これに対し中国は当初、新たな制裁には否定的で、法的拘束力のない議長声明とするよう主張したという。

 最終的に決議採択に落ち着く代わりに、中身は、資産凍結や海外渡航禁止措置の対象追加など、既存の決議に基づく制裁強化にとどまった。貨物検査の義務づけなど新規制裁に踏み込まなかった点で物足りなさは残る。

 それでも、昨年4月に北朝鮮がミサイルを発射した際、中国の反対で安保理が北朝鮮を非難する議長声明しか出せなかったのに比べると前進だ。当時の甘い対応が北朝鮮を増長させ、再度の発射を許す一因となったのは明らかだ。

 北朝鮮は、安保理決議に強く反発し、「核抑止力を含む自衛的な軍事力」を強化する「対応措置」を講じると宣言した。核実験の予告とも受け取れる。

 北朝鮮は、安保理にミサイル発射を非難されたのに対抗して、2回の核実験を強行した。3回目を許せば、核ミサイルの脅威が高まり、地域は一層緊張しよう。

 中国は、安保理常任理事国として、隣国の北朝鮮に挑発をやめるよう厳しく迫るべきだ。

 中国が制裁強化決議に同意した背景には、南シナ海の領有権問題や尖閣諸島を巡って米国とのあつれきを深める中、北朝鮮問題でも対立する事態は重荷となるため、避けたいとの判断もあろう。

 制裁を強化しても、効果が上がらなければ意味はない。北朝鮮の貿易額の7割を占める中国には、大量破壊兵器関連物資や贅沢
ぜいたく
品の禁輸などの制裁を順守、徹底し、強化する重い責任がある。

 菅官房長官は、日本も独自の制裁を強化する考えを示した。効果的な策を検討してもらいたい。

原発住民投票案 新潟県議会の否決は当然だ


 安全性が確認された原子力発電所の再稼働は、政府の判断で決めるべきである。住民投票に委ねるのは筋違いだ。

 新潟県にある東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問うための住民投票条例案を、新潟県議会が否決した。過半数を占める自民党や民主党は「再稼働問題は県民投票になじまない」と条例案に反対した。

 妥当な判断である。

 条例案は、住民団体が先月、約6万8000人の署名を添えて泉田裕彦知事に直接請求した。

 不可解なのは知事の対応だ。

 知事は今月16日、条例案への意見書を公表し、「二者択一では民意を適切に反映できない」「国に係る問題を一立地地域の住民に問うことになる」と懸念を表明した。この指摘はもっともだ。

 その一方で知事は、県議会が条例案を修正・可決する必要があるとの認識も示した。住民投票は行うべきだ、とも発言している。

 条例案に対しブレーキとアクセルを同時に踏むような知事の姿勢に「理解しがたい」との批判が県議会から出たのは無理もない。

 県議会では、知事の意見書を踏まえた修正案も否決された。

 知事は県議会の対応について、「国策だから住民投票になじまないということで否決されたと受け止める。大変残念だ」と語った。住民投票を求める反原発派の住民への配慮なのだろうか。

 住民投票は本来、市町村合併など地域で完結するテーマで実施すべきだ。国の安全保障と密接に関わる米軍基地問題やエネルギー政策ではふさわしくない。

 原発の再稼働を住民投票で決めようという条例案は、東京都、大阪市、静岡県の各議会でも否決されている。この問題は、住民投票にそぐわないとの理解が定着しつつあると言えよう。

 安倍政権は、原子力規制委員会が安全性を確認した原発を、政府の責任で再稼働させる方針だ。

 柏崎刈羽原発は世界最大級の規模で、発電能力は東電全体の1割を超える。運転開始は1985年以降で設備は比較的新しい。

 停止中の7基がこのまま稼働しなければ、首都圏への安定的な電力供給は揺らぎかねない。火力発電のための燃料費がかさみ、料金再値上げの可能性もある。新潟県は東電の管内ではないが、雇用などで悪影響が及ぶだろう。

 柏崎刈羽原発の安全性が確認された場合、知事は政府と連携し、再稼働の円滑な実現に努力しなければなるまい。

2013年1月23日水曜日

政府と日銀―政策連携と言うのなら


 政府と日銀が、デフレ脱却を目指した「政策連携」について共同声明を発表した。
 日銀は2%のインフレ目標を掲げて金融緩和を強化し、政府は構造改革などの成長戦略に努めるのが柱だ。
 あわせて日銀は来年から毎月13兆円の金融資産を、期限を設けず買い入れる新たな緩和策を始めることも決めた。
 安倍政権が狙うのは、国民の間に「インフレ予想」が広がって、早めの消費や投資を促し、経済を活性化させることだ。
 目的は経済の成長であり、インフレ目標はその手段である。共同声明は目標を「できるだけ早期に実現する」としたが、賃金が上がらない中で物価を引き上げるのは容易ではない。
 物価上昇が自己目的化すればバブルや行き過ぎた円安、金利上昇を招く危険がある。日銀はリスクを点検しつつ進めるという。政府は拙速な目標達成の強要は厳に慎むべきだ。
 政府と日銀それぞれの政策の相乗効果を生み出そうという共同声明の狙いは理解できる。
 気をつけなければいけないのは、政府がすでに国内総生産の2倍に及ぶ借金を抱えていることだ。
 国債発行による安易な財政拡大に走り、日銀が尻ぬぐいをする「もたれ合い」に陥れば、国債の信用が揺らぐ。金融政策も効かなくなる。
 一連の過程で、日銀に対する政府の影響力の強さが鮮明になったが、日銀が政府に従属していると見られるほど、日本そのものへの信用が失墜する。
 財政規律への信認が一段と重要になってきたといえる。その点で、政府は中央銀行の独立性が、政策の効果や信用を保つ安全網として機能することをわきまえる必要がある。
 日銀は四半期ごとに経済財政諮問会議で、金融政策の状況を説明する。日銀に圧力をかける機会にするのではなく、政府による構造改革への取り組みも点検する場として充実させてほしい。政策への信認を支えるのは両者の協力と補完のバランスだからだ。
 インフレ政策を進めていけば、いずれ金利上昇の局面を迎えるだろう。これはデフレ脱却を急ぐ代償だ。
 このとき、超低金利を維持するために、日銀が国債相場を買い支えることを強いられては元も子もない。
 「政策連携」を掲げるからには、金利上昇が始まった際の日銀の対応についても、事前に一定の原則を定め、透明性を高めておくべきだ。

人質死亡―テロの温床断つ努力を


 改めて、卑劣なテロに怒りを禁じえない。
 アルジェリアの天然ガス関連施設で起きた人質事件で、プラント建設会社、日揮などの日本人社員7人の遺体が確認された。被害者の無念、無事を祈り続けていた遺族や日揮関係者の悲嘆はいかばかりだろう。
 現地からの報道によると、イスラム武装勢力は襲撃後、バスから逃げようとしたり、居住区にいたりした日揮社員らをいきなり射殺したという。理不尽で非道な行為である。
 武装集団には、アラブやアフリカ諸国のほかカナダ国籍の者も加わっていたらしい。被害者の国籍は10カ国を超える。
 国際テロ組織アルカイダが01年に起こした米国の同時多発テロを思い出す。攻撃の規模や手法が違うとはいえ、イスラム過激派によるテロ活動の脅威と広がりを痛感する。
 米国や欧州でのテロ事件は、警備体制の強化によって減っているようだ。しかし、欧米を非難し、「聖戦」を叫ぶイスラム過激派による自爆テロや欧米人の誘拐事件は、中東アラブ、アフガニスタンなどからアフリカへと広がっている。
 背景には、資源の利権や政治経済上の利害を巡る欧米とイスラム圏との複雑な構図がある。
 アルジェリアの南隣、マリに軍事介入したフランス軍と武装勢力との間でも、戦闘が続いている。今回のテロの引き金になったが、周辺諸国の治安はさらに悪化する恐れがある。
 国境を越えたテロ活動の拡大に合わせた対応が必要だ。
 日本人も自分がイスラム過激派の標的になると考える人は少なかっただろう。だが、もはやひとごとだと座視できない。
 資源開発や貿易といった分野でグローバルに活動する日本企業は、社員の安全や情報収集の態勢を再点検してほしい。
 長期的な取り組みも欠かせない。政府は、地域情勢の調査を深めつつ、旧宗主国である欧州諸国やアフリカ各国との情報交換を密にする必要がある。企業とも情報を共有すべきだ。
 イスラム過激派が勢力を広げる根本には、若者の失業率の高さや貧富の格差がある。社会的不公平を正すには、貧困の撲滅や雇用の創出が欠かせない。
 折しも、日本で5年に1度のアフリカ開発会議(TICAD)が6月に開かれる。
 テロの温床を断つための貢献は長い目で見れば、日本の安全を高めることにつながろう。
 痛ましい犠牲を乗り越えて、狂信的なテロ活動を世界から根絶しなければならない。

物価目標2% 政府と日銀が挑む「高い壁」


 デフレ脱却に向け、政府と日銀が2%の物価目標を盛り込んだ共同声明をまとめた。達成のハードルは高く、連携強化の実効性が問われよう。

 日銀の金融政策決定会合で共同声明を決めた後、白川総裁、麻生副総理・財務相、甘利経済財政相が安倍首相に報告した。

 声明は、日銀が消費者物価の前年比上昇率2%の目標を設けて金融緩和を推進するとし、「できるだけ早期の実現を目指す」と明記したのがポイントだ。

 日銀は従来、中長期的に望ましい物価上昇率を「当面1%が目途
めど
」としてきたが、首相の強い要請を受け入れた。日銀が具体的な物価目標を設定するのは初めてで、歴史的な転換である。

 首相は「金融政策の大胆な見直しだ」と評価した。声明をテコに、政権が最重視する経済再生を加速したい決意の表れだ。

 日銀は声明に併せ、2014年から、期限を定めず、国債などの金融資産を大量に買い入れる新たな金融緩和策を決めた。

 日銀にとって「無期限緩和」は未踏の領域だ。より積極的に金融緩和を行うという、市場へのメッセージになるだろう。

 ただ、日本では1990年代後半から、消費者物価上昇率はほぼ0%台かマイナスだ。2%まで上昇させる道筋は描けていない。

 物価がうまく上昇しても、実体経済が浮揚せず、雇用拡大や賃金上昇が伴わない「悪い物価上昇」では、国民生活がかえって脅かされる事態すら懸念される。

 日銀が政府の経済財政諮問会議に定期報告し、緩和策の効果が点検されることも決まった。国民生活などへの副作用にも目配りし、どうデフレから脱却するか。日銀に説明責任が求められる。

 同時に重要なのは、日銀の独立性を堅持することだ。金融政策の手法などに対し、政府は過度な政治介入を慎む必要がある。

 デフレ脱却には、政府も政策を総動員しなければならない。

 金融緩和で資金を大量供給しても、新たな投資を生み出す資金需要が乏しければ、有効に活用されず、消費も伸びないからだ。

 声明が政府に「大胆な規制・制度改革」「税制の活用」などの構造改革や、「競争力と成長力の強化」を促したのは妥当だ。政府は成長戦略を急いでもらいたい。

 日銀による国債の大量買い入れが「財政赤字の穴埋め」と捉えられると、日本の信認が揺らぐ。声明が指摘したように、政府は財政健全化策も強化すべきである。

邦人死亡確認 人命軽視はやむを得ないか


 痛ましい結末だ。

 アルジェリアの天然ガス関連施設がイスラム武装勢力に襲われた事件でプラントメーカー「日揮」社員ら日本人7人の死亡が確認された。

 過酷な環境の異国で仕事に励む“企業戦士”を標的にした犯罪者集団を強く非難する。

 安倍首相が「痛恨の極みだ。テロを絶対に許さない」と言明したのは、当然である。

 30人を超す重武装のテロ集団が日米英など多国籍の外国人多数を拘束する特異な事件だった。

 事件の全容解明と検証が急がれる。施設内に内通者がいて武装勢力を手引きした疑いがある。

 アルジェリアのセラル首相は記者会見で、外国人37人が死亡、犯人29人を殺害したと述べた。

 アルジェリア軍の早期制圧作戦には、人質の人命軽視との批判があった。セラル首相が「テロに屈しない」と強調した背景には、長年の内戦で15万人もの犠牲者を出した国内事情もあるだろう。

 武装勢力が人質を連れて国外逃亡を図ったほか、ガス田施設を破壊しようと爆弾を仕掛けており、それを阻止するには早期制圧が不可欠だった、とも説明した。

 今回の武装勢力の犯行を許せば、第2、第3のテロを誘発しかねない。アルジェリア政府としては、武力行使以外に選択肢がなかったということなのだろう。

 文明社会で営まれる経済活動に一方的に攻撃を仕掛けられたら、応戦せざるを得ない。

 キャメロン英首相は、武力行使の事前通告がなかったことに不満を表明していたが、事件終結後は「どの国の治安部隊にも非常に難しい任務」だったと指摘し、早期制圧に一定の理解を示した。

 安倍政権は政府専用機をアルジェリアに派遣し、生存者の帰国や遺体の搬送を進める。なお安否が不明な3人の確認も急ぎたい。

 どういう状況で軍事作戦が行われ、日本人が死亡したのかについて、アルジェリア政府に詳細な説明を求めることが大切だ。

 一方で、日本政府の危機管理体制上の課題も浮かび上がった。

 アルジェリア軍が軍事作戦を主導する中、欧米諸国と同様、事件情報がほとんど取れなかった。

 自衛隊制服組の防衛駐在官は現在、世界全体で49人いるが、アフリカはエジプトとスーダンの2人だけだ。着実な増員が必要だ。

 紛争地域に進出した日本企業を守るには、各地域やテロ対策の専門家を育成し、情報収集・分析能力を高めることが急務である。

2013年1月22日火曜日

刑事司法改革―考え違いを元から正せ


 捜査当局の、捜査当局による、捜査当局のための文書。
 そう言わざるをえない。こんなことで国民の理解が得られると思っているのだろうか。
 新しい刑事司法のあり方を検討している法制審議会の特別部会が、今後の制度づくりのたたき台となる「基本構想案(部会長試案)」を公表した。
 これが目を疑う内容だ。
 部会は、検察の証拠改ざん事件などをうけて設けられた。取り調べ段階での容疑者らの供述を過度に重視してきた捜査・公判を見直し、時代にあった制度をつくるのが目的だ。
 私たちも社説でこの方向性を支持し、諸外国のしくみも参考にしながら、幅広に議論するよう求めてきた。
 構想案に盛られた内容は多岐にわたるが、肝心なのは前提となる現状認識である。これを誤っては、まともな結論が導きだされるはずがない。
 まず、これまでの捜査をどう見ているのか。
 冒頭にこうある。「取り調べによる徹底的な事案の解明と綿密な証拠収集は、国民に支持され、信頼を得て、治安を保つことに大きく貢献してきた」
 そこには、死刑や無期懲役刑の事件が、再審でいくつも無罪になったことをはじめ、過去への反省はひとかけらもない。徹底、綿密といった美辞麗句で、真実を隠すことはできない。
 最近も、パソコンを使ったなりすまし事件など、捜査員が自分たちの都合のいいように供述を押しつけたとしか考えられない例が、相次いで発覚した。
 ところが構想案によると、こうした不当な調べも、取調官が「職務熱心のあまり」おこなったものとされている。甘い評価に驚く。職務熱心でぬれぎぬを着せられてはたまらない。
 一方で、「捜査段階の弁護活動が活発化し、供述の収集が困難化している」と、まるで法律が認める弁護活動が悪の源であるかのような記述がある。
 構想案がとっているスタンスのゆがみは明らかだ。
 こんな具合だから、たとえば取り調べの録音・録画をめぐっても、「対象範囲は取調官の裁量にゆだねる」などという案がしれっと書かれるのだ。
 実際にあった多くの事件をもとに、「当局任せではいいとこ取りを許し、かえって弊害が多い」と、くり返し指摘されているにもかかわらず、である。
 新たな捜査手法はほしいが、手足を縛られるのは困る――。そんな捜査側の思惑ばかり目につく構想案は、根本から書き直されなければならない。

卵子提供―ルールの下で慎重に


 体外受精などの生殖補助医療とどう向き合うか。子を持つという根本にさかのぼって考えることも必要ではないか。
 病気で卵子のない女性のために、無償で卵子を提供してくれる人を見つけてあっせんする民間団体が設立された。
 生殖補助医療は、卵子と精子、そして胎児を育む子宮、それらのどこかに病気などで問題があるときに、ほかの人からもらったり、あるいは技術で補ったりして出産につなげる。
 不妊に悩むカップルにとって大きな希望だ。一方で、これまでになかった方法で新しい命を誕生させるだけに、医学面、倫理面での課題もまた大きい。
 一定のルールの下で慎重に行うことに加え、社会的な合意も不可欠だ。しかし、そのいずれも不十分なまま、子宮を借りる、つまり代理母による出産例もすでにある。現実ばかりが進んでいくのは望ましくない。
 厚生労働省が実態を調査し、今後の進め方を検討する。日本産科婦人科学会は法整備を政府に求めていくという。
 先にあげた三つのうち、精子は、匿名の第三者から提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)が広く行われている。
 卵子も同様に、というわけにはいかない。卵子は、排卵誘発剤で排卵させたうえで針を刺して採取する。提供者の身体に負担は大きい。他人の卵子を使うことによる未知のリスクがあるかもしれない。
 国内では姉妹の卵子を使った体外受精の例がある。学会は夫婦以外の体外受精を認めていないので、一部のクリニックが独自のルールでしている。一方で身近に提供者がおらず、海外で提供を受ける人もいる。そうした人が国内で提供を受ける道をひらくのが今回のねらいだ。
 2003年に厚労省の部会がまとめた報告書は、卵子は当面、姉妹ではなく、匿名の第三者からの無償提供に限って認めた。だが、この報告に基づく立法は、止まったままだ。
 一定のルール作りが必要だ。先の報告書は営利目的のあっせんを罰則つきの法律で禁じるよう求めていた。提供卵子による出産での親子関係を明確にする必要もある。
 養子という選択肢にも目を向けたい。実の親が育てられない「要保護児童」は年々増えて、今や5万人近い。日本ではその約9割、世界でも際だって高い割合の子どもたちが施設で暮らしている。
 遺伝子のつながりばかりが親子ではない。どの子にも温かい社会でありたい。

防衛指針見直し 同盟強化へ日本の役割拡充を


 日米同盟の実効性は、条約や文書だけでは担保されない。自衛隊の役割を拡大し、日本が応分の責任と負担を引き受けて両国の信頼関係を高めることが欠かせない。

 日米両政府が、日米防衛協力指針(ガイドライン)の見直し作業を開始した。中国軍の海洋進出などを踏まえ、自衛隊と米軍の連携を実質的に強化するものだ。

 1997年策定の現行指針は、日本周辺有事における自衛隊の対米軍後方支援を可能にし、99年の周辺事態法整備につながった。

 朝鮮半島有事という目の前の危機に備えて具体的な防衛協力を定め、冷戦後の新たな日米同盟の方向性を明示した意義は大きい。

 だが、その後、中国の大幅な軍備増強や尖閣諸島周辺での示威活動、北朝鮮の2回の核実験などによって、日本周辺の安全保障情勢は一段と厳しくなっている。

 16年ぶりに日米協力のあり方を抜本的に見直すことは、「アジア重視」を鮮明にした昨年1月の米国の新国防戦略や、年内にも日本の防衛大綱を改定する流れと合致しており、高く評価したい。

 指針見直しの焦点の一つは、平時における日米協力の強化だ。

 法制定後、周辺事態は一度も認定されていない。周辺事態には至らないものの、情勢が緊迫した段階で、自衛隊と米軍が緊密に情報交換して危機を抑止し、共同対処する態勢を築くことが大切だ。

 陸上自衛隊と米海兵隊による離島防衛の共同訓練や、航空自衛隊と米空軍の無人偵察機グローバルホークの共同運用による警戒監視活動の拡充を着実に進めたい。

 自衛隊による米軍への補給・輸送支援については、現在の有事限定から、平時も実施可能にすることを検討してはどうか。

 自衛隊と米軍の協力にとどまらず、海上保安庁、警察や韓国、豪州、インド各軍などとの連携に関する具体策もまとめるべきだ。

 もう一つの焦点は、集団的自衛権の行使に関する問題である。

 政府は近く、行使容認を提言した第1次安倍内閣の有識者会議から改めて意見聴取し、集団的自衛権の扱いの検討を始める。

 公海上で共同訓練中の米軍艦船が攻撃された際、自衛隊艦船が反撃する。米国に向かう弾道ミサイルを日本が迎撃する――。有識者会議が研究した、これら4類型については集団的自衛権の行使を可能にすることが急務である。

 その結果をガイドライン見直しに適切に反映させることが、日米同盟をより強固にしよう。

桜宮高体育入試 深刻な体罰が招いた中止決定


 試験日まで1か月を切る中で、極めて異例の対応である。

 大阪市教育委員会は、体罰を受けて男子生徒が自殺した市立桜宮高校で体育系学科の今年の入試を中止することを決めた。橋下徹市長の要請を受け入れた。

 入試を中止せざるを得ないほどに、桜宮高の体罰問題が深刻だという判断だろう。

 橋下市長は「体罰を容認する風潮が残っている状況で新入生を迎え入れることはできない」と主張した。入試を実施する場合には、市長の予算執行権を行使し、入試関連予算の支出を凍結する可能性にも言及していた。

 5人の教育委員のうち、教育委員長を除く4人が「入試を継続すれば、学校改革につながらない」などと市長に同意した。勝利至上主義の下、体罰を常態化させた学校の体質を根本から変えることを重視した結論と言えよう。

 入試の中止に対しては、「受験に向けて準備をしてきた中学生に重大な影響を与える」と懸念の声も少なくなかった。市教委は中止による混乱を最小限に抑える措置を講じることが大切だ。

 市教委は今回、体育系学科を志望する中学生を普通科に振り替えて受け入れる方針だ。

 普通科の定員に体育系学科計120人を上乗せする。普通科の受験科目は通常5科目だが、体育系学科の志望者には、3科目と実技での受験を認めるという。

 下村文部科学相が「受験生に影響がないような配慮であれば、よしとしたい」と理解を示したように、受験生の進路を確保する上で現実的な対応と言える。ただ、新入生は将来的に体育系学科に移れるのだろうか。

 橋下市長が入試中止を求めた背景には、桜宮高や市教委への不信感がある。

 体罰を加えた男性教師は男子バスケットボール部を強豪に育てた実績から、在籍10年以上で転任させるという市教委の要綱に反し、19年も在籍している。周囲も批判しにくい状況になっていた。

 学校が体罰情報を得ながら、おざなりな調査で体罰はなかったと結論付けたことも問題だ。

 今後、何より重要なのは、体罰の実態解明と再発の防止だ。

 橋下市長は市教委に、桜宮高の運動部顧問の教師を入れ替えることも求めている。

 少なくとも、体罰を行った教師については、厳しい処分と異動が必要だ。適切な人事配置で体罰の根絶を図らねばならない。

2013年1月21日月曜日

土曜授業―答えを急ぐことはない


 公立校に、土曜日の授業を復活させたい。下村博文文部科学相が意欲を示した。
 問題提起はわかる。
 一方で、学校週5日制は週末を家族とゆったり過ごすライフスタイルをもたらした。土曜も学校となれば、親子の会話が減る。そこをどう考えるか。
 結論を急がず、国民的な議論をしたうえで判断すべきだ。
 学校で土曜が完全に休みになったのは11年前。ゆとりの学習指導要領とともに始まった。
 教える内容を絞り、全員しっかりわかるようにする。その理想とは裏腹に、公立校の勉強だけでは足りないという不安が保護者に広がった。
 塾に通うお金がある家庭とそうでない家庭で学力に差がついた。都市部では土曜も授業をする私立に子どもが流れた。そんな批判をうけた文科省は教える内容を増やし、授業時間も小中で週1~2コマ増やした。
 ベネッセの調べでは、小学校の半分近くは国の標準より多い授業時間をとっている。増えた内容をこなすためだ。
 公開授業などは土曜にしてもよいという特例を使い、すでに月1、2回ほど土曜授業をしている自治体も少なくない。
 横浜市教委が一昨年とったアンケートでは、保護者の7割が土曜授業に賛成した。
 週休2日を変えずに授業を増やした結果、生徒も先生も平日の余裕がなくなった。そんな声もある。
 大臣が「世論の理解はあると思う」と言うのは、こうした現実をふまえたものだろう。
 ただ、やるとしても元のつめこみに戻るべきではない。
 日本の子に足りないのは、応用力と学ぶ意欲。知識よりも考える力だ。国内外の学力調査で毎度のようにそう指摘される。増える時間は、実験や観察、討論に振り向けるべきだ。
 教職員も交代で休めるよう増やす必要がある。でも、少人数学級だって財政難で先生を増やせなくて全学年に行きわたらないのに、容易なことではない。
 週末のくらしは様変わりするだろう。部活動や地域の子ども向けの催し、スポーツ教室や習いごと、塾は、土曜休みを前提に営まれている。家族の遠出も減るかもしれない。社会へのさまざまな影響がありうる。
 土曜を休みにするときも、中教審などで長い議論を重ねた。答えを急ぐことはない。
 やるべきか。やるとしても毎週必要か、隔週で足りるのか。
 役所や有識者だけでなく、各地の保護者からじかに意見を聴く場を作ってはどうだろう。

高速道路改修―財源論の前に規律を


 老朽化が進む首都高速道路について、首都高会社の有識者委員会が改修費用を試算した。
 全長約300キロのうち47キロで造り替えや大規模修繕が必要となり、費用は最大で9千億円を超えるという。
 問題はその財源だ。
 首都高会社をはじめ、2005年の道路公団民営化で生まれた高速6社は、全国の高速道路を保有する独立行政法人から道路を借り、賃料を支払っている。独法はそれをもとに旧公団時代の借金を返しており、約40兆円を2050年に完済して高速料金を無料にする計画だ。
 ところが計画には、どの高速道路の更新費用も盛り込まれていない。あきれた話である。では資金をどう捻出するか。税金か、料金値上げか――。
 国土交通省は、50年の完済期限の先送りを想定しているようだ。毎年の返済額を減らすことで財源を確保しようという考えである。
 先送り案には、他の理由も絡んでいるとみられる。景気対策で08年度に始めた高速料金の割引を続けるには14年度以降の資金手当てが必要▽一般の高速道路と比べて高い本四架橋の料金を下げるための財源も要る、という事情があるからだ。
 中央道のトンネルで天井板の落下事故が起きるなど、老朽化対策は待ったなしである。
 しかし、別の課題もごっちゃにした、どさくさ紛れの案づくりは許されない。
 財源論の前に確認しておくべき規律は、ほかにもある。高速道路の新規着工に手を広げないこと。そして、既存の道路についても一部は捨てる発想に立つことである。
 民主党政権は、着工が凍結されていた高速道路区間の工事再開や4車線化に踏み切った。政権に復帰した自民党は「国土強靱(きょうじん)化」を掲げ、今年度の補正予算案にさっそく新規着工の経費を計上した。「災害時に既存の道路が被害を受けそうな所に絞る」(国交省)というが、費用対効果をどこまで詰めたのか。
 「捨てる発想」は、例えば首都高の都心環状線だ。外側に東京外環道など3本もの環状線の整備が進んでおり、造り替えは二重投資になりかねない。
 社会インフラの老朽化問題は高速道路に限らない。国と地方を通じた全体像をつかみ、必要な費用を推計する作業を急ぐ必要がある。
 税金も利用料金も、負担するのは国民だ。新しく造れば、将来必要となる更新費は増える。このことを肝に銘じなければならない。

邦人人質事件 テロ封じに国際連携が肝要だ


 イスラム武装勢力によるテロが引き起こした惨劇である。

 事件の全容を解明し、再発防止策につなげたい。

 アルジェリア東部イナメナスの天然ガス関連施設で発生した人質事件は、アルジェリア軍が制圧作戦を強行し、発生から4日間で終わった。

 アルジェリア政府によると多数の武装勢力と人質の死亡が確認されている。プラントメーカー「日揮」の邦人関係者の死亡情報もある。事件に巻き込まれた犠牲者に哀悼の意を表したい。

 アルジェリア政府は、事件発生の翌日の17日、武装勢力への攻撃を開始した。早期に制圧しなければ、同種のテロを誘発しかねないという危機感からだろう。

 1990年代に政府とイスラム武装勢力との内戦で、約15万人もの死者を出したという事情もある。テロリストとは「いかなる交渉も拒否する」方針だった。

 武装勢力の人質事件は卑劣なテロ行為であり、断じて許すことはできないのは当然だ。ただ、アルジェリア政府の軍事行動は、人質救出の観点から周到に練られたものだったのだろうか。

 安倍首相は20日、アルジェリアのセラル首相との電話会談で「人命最優先と申し入れてきた。日本人の安否に関して厳しい情報に接することになったのは残念だ」と軍事行動に遺憾の意を示した。

 キャメロン英首相も、事前通告がなかったことに不満を表明した。アルジェリアと関係国の意思疎通は円滑ではなく、安否に関する情報の提供も不十分だった。

 アルジェリア政府は、外国人が大勢働く重要な施設に武装勢力の侵入を許した原因や、救出作戦の詳細など、事件の全貌を国際社会に明らかにする必要がある。

 イスラム武装勢力はアルジェリアだけでなく、アフリカ北・西部一帯を股にかけて活動している。事件の解明により、その実態をつかむ手がかりが得られよう。

 今回の事件を、国際社会がテロに対して毅然(きぜん)として立ち向かい、有効な手立てを講じるための一歩としなくてはならない。

 一方、事件は、海外展開する日本企業にも課題を残した。危機への備えの再点検が急務である。

 日本政府は安倍首相が陣頭指揮に当たった。首相官邸を中心に精力的な対応を見せたと言える。

 ただ、政府の情報収集・分析が十分とは言えまい。在外公館の陣容の見直しなど必要な措置を検討すべきだ。危機管理体制を一層強化してもらいたい。

刑事司法改革 冤罪防止と捜査力向上を図れ


 検察や警察の信頼を取り戻すには、冤罪(えんざい)を防ぐとともに、捜査力を向上させる仕組みを確立する必要がある。

 一連の検察不祥事を契機に、刑事司法制度の見直しを検討してきた法制審議会の部会が、基本構想案をまとめた。これをたたき台に制度作りを進める。

 焦点となっていた取り調べの録音・録画(可視化)について、導入の方向性を明確に打ち出したのは妥当と言える。

 捜査官による供述の誘導を招きやすい密室での取り調べが、冤罪の要因になっている。無実の人が誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件では、身に覚えのない犯行を認めた供述調書まで作られた。

 可視化が制度化されれば、取り調べの様子を再生して検証できるようになる。強引な捜査を抑止する効果があるだろう。

 今後の論点は、取り調べのどこまでを録音・録画するかという可視化の範囲だ。チェック機能を高めるには、可能な限り広い範囲とすることが望ましい。

 一方で、録音・録画されていると、組織犯罪の容疑者が報復を恐れて供述を渋り、犯罪を解明できなくなる恐れもある。

 構想案が、「捜査に支障が生じるような場面を、可視化の対象から除外できる制度が必要」と指摘したのは理解できる。どのような場合に除外すべきか、検察や警察が取り組んでいる可視化の試行結果を分析することが大切だ。

 取り調べに偏らない証拠収集の方策も提示されている。

 その一つが、電話などの通信傍受の拡大だ。現行法では対象が薬物や銃器による犯罪などに限定され、実施件数が極めて少ない。

 構想案は、振り込め詐欺など急増する新種の組織犯罪に対象を広げることを提案した。国民生活の安全を確保する上で適切だ。

 欧米で広く行われている司法取引も検討課題と位置づけた。

 司法取引は、容疑者が共犯者の犯罪などを進んで明らかにした場合、検察が求刑を軽くしたり、訴追を見送ったりする仕組みだ。

 捜査協力を促す効果が期待される反面、罪に見合う刑罰が科されないとして被害者の理解が得られない可能性がある。

 導入の是非について、議論を尽くしてもらいたい。

 否認した被告を保釈しない「人質司法」の見直しは急務である。長期間、自由を奪うことが、自白を迫る圧力となり、冤罪を招く一因になっている。適正な身柄拘束のルール作りを検討すべきだ。

2013年1月20日日曜日

たまゆら判決―高齢者の住まいに目を


 被告を裁いて、それで落着という事件ではない。重い課題が突きつけられたままだ。
 今後、大都市圏で急増する低所得の高齢者たちは、どこで、どう暮らせばいいのか――。
 群馬県の「静養ホームたまゆら」から出火し、高齢の入居者10人が死亡した事件で、前橋地裁は施設を運営していた法人の元理事長に、執行猶予つきの禁錮刑を言いわたした。
 たまゆらは役所の要請で、生活保護を受けている認知症の患者らを安い料金で入居させていた。判決は、苦しい経営事情をくみつつ、実態は有料老人ホームであり、それに見合う防火管理の義務があったと述べた。
 具体的に警報器の設置や避難訓練、当直員の増員を挙げ、これらの費用をまかなうのは可能だったとした。他の同様の施設には教訓になるだろう。
 だが、対策が不十分なところを閉鎖すれば済むわけではない。お年寄りの行き場がなくなるからだ。
 厚生労働省は、高齢者が住みなれた地域で、医療や介護などのサービスを利用しながら暮らし続ける将来像を描く。
 厚生年金を受給できるような中間所得層向けには、「サービス付き高齢者向け住宅」などの基盤整備を進めている。
 ところが、低所得の高齢者の住まいは、政策的な空白地帯といえる。国や自治体は、本腰を入れて取り組むときだ。
 朝日新聞の調べでは、東京23区で生活保護を受けながら、都外の高齢者施設に入居している人は昨年10月で約1800人にのぼる。たまゆらの火災が起きた2009年の2・6倍だ。
 この流れはさらに強まる。
 高齢者住宅財団の推計によると、民間の借家に住み、生活支援や介護が必要な一人暮らしの高齢者は10年時点で全国に約17万8千人。25年には33万7千人まで増える。
 低年金で、貯金を使い果たせば生活保護に頼らざるをえない人たちが多い。
 住まいとケアが一体となった特別養護老人ホームは、建設費がかかることなどから大きく増やすのは難しい。公営住宅の数も限られ、特に高齢者向けの応募倍率はきわめて高い。
 ならば、増加傾向にある空き家を活用し、ゴミ出しなど日常生活を支援していくのも一案だ。低所得者が利用できる住宅手当が必要になろうが、生活保護に至る前に手助けすることで、かえって財政負担が抑えられる可能性がある。
 誰でも、住まいなしには人間的に生きられない。

787型機―日米で信頼を取り戻せ


 ボーイング787型機が、しばらく空を飛べなくなった。日米の航空当局が命じた。
 事態を重くみている表れだろう。通常、トラブル時の点検は運航に支障がないように数機ずつ順繰りに止めて調べる。全機一斉、というのはまれだ。
 命令の理由になったのは、バッテリーからの発煙や出火だ。燃料漏れも続いた。
 洋上を飛んでいるときだったら、火災や燃料不足で大事故につながりかねない。
 大ごとにならないうちに全機を止める。言われる前に自らふみきった全日空、日本航空もふくめ、妥当な判断だった。
 原因を調べ再発を防ぐには、製造国の米国との連携がこれまで以上に大切になる。
 787は新しい発想で設計された。燃費を抑えるため、従来はエンジンからの圧縮空気を使っていたものを電気で動かす。翼やブレーキの操作も油圧から電気に置きかえた。
 リチウムイオン電池式のバッテリーが採用されたのも、旅客機で初めてという。
 トラブルは同機の特徴である電気系統で起きた。新鋭機だけに国内の知識の蓄積は十分ではない。ボーイングと情報交換を密にする必要がある。
 いつになれば運航を再開できるか、見通しは立っていない。
 問題はバッテリーそのものにあるのか。配線や、配線につながる装置なのか。設計段階で想定していなかった負荷がバッテリーにかかったのか。まず、そこを運輸安全委の調査で見きわめるのに時間がかかる。
 仮にバッテリーの問題だとすれば、対策に数カ月かかることもあるとメーカーは言う。
 長期化すれば、航空会社の受ける影響は大きい。
 いま世界にある約50機の半分は全日空と日航が使っている。低燃費で小ぶりな787は遠い海外の中都市にも路線を張りやすく、使い勝手がよい。今後の主力機としても期待している。
 しかし、あまり停止が続くようなら、いずれは機種や路線の見直しが必要になりかねない。パイロットも操縦できる機種が決まっていて、簡単に他へ回せない。
 機体の35%は日本製だ。そのメーカーの株価が下がるなど、産業界も影響を受けている。
 ただ、ここは我慢のしどころだ。これ以上深手を負わないためにも、しっかり安全な飛行機になおす必要がある。
 運輸安全委だけでなく、航空会社やメーカーも積極的に米側と情報を共有し、787の出直しに力をあわせてほしい。

日米外相会談 中国「力ずく外交」に結束せよ


 尖閣諸島周辺に政府船・航空機を派遣し、日本の実効支配を実力で崩そうとする。そんな中国の「力ずくの外交」を否定した意義は大きい。

 クリントン米国務長官はワシントンで岸田外相と会談し、尖閣諸島について「日本の施政権を損なおうとするいかなる一方的な行為にも反対する」と明言した。

 日米安保条約に基づく米国の対日防衛義務の対象に尖閣諸島が含まれるとの見解も再確認した。

 岸田外相は、日本の領有権に関しては「譲歩しない」と強調する一方で、日本としては「冷静に対応する」と言明した。

 仮に、実力で尖閣諸島の現状変更を仕掛けている中国の強引な手法が通用するなら、他の東シナ海や南シナ海の領土・海洋権益の問題にも波及しかねない。多くのアジア諸国が悪影響を受けよう。

 そうした事態は、関係国が結束して、回避せねばなるまい。

 日本は、尖閣問題の重要性を米国や東南アジア各国に説明し、中国の手法を拒否する国際世論を醸成することが大切だ。同時に、中国との対話も閉ざさず、関係改善を模索することが求められる。

 環太平洋経済連携協定(TPP)について、外相会談では、日本の交渉参加の前提となる日米協議を継続することで一致した。

 岸田外相が「聖域なき関税撤廃が前提なら交渉に参加しない」との従来方針の説明にとどめたのは自民党内で依然、農業市場開放への慎重・反対論が強いためだ。

 だが、米国も砂糖などを関税撤廃の例外としたい意向とされる。実際にどの程度の品目を例外にできるのかは、交渉に参加してみないと分からないのが実情だ。

 米豪など11か国は年内の交渉妥結を目指している。日本が様子見を続け、交渉参加を遅らせることは、結果的に、自らの主張を新しい貿易ルールに反映させられず、国益を害する恐れがある。

 安倍首相は、自らの訪米が2月後半に決まったことを踏まえ、TPP参加の経済効果に関する政府の統一試算の策定など、参加決断への環境整備に努めるべきだ。

 アルジェリアでのイスラム武装勢力による人質事件について両外相は、情報収集・共有で日米が緊密に協力することで合意した。

 同国軍による軍事作戦では、外国人を含む多数の人質が死亡したとされる。今回の強硬策には国際社会から懸念の声が出ている。

 日米両国は、関係国と連携し、アルジェリア政府に人命優先の対応を促していくことが大切だ。

高齢者施設火災 ずさん管理を戒める判決だ


 管理がずさんな高齢者施設に対し、裁判所が警鐘を鳴らした。

 群馬県渋川市の高齢者施設「静養ホームたまゆら」で2009年に発生した火災により、入居者10人が死亡した。業務上過失致死罪に問われた運営法人の元理事長に対し、前橋地裁は禁錮2年の執行猶予付き判決を言い渡した。

 火災当時、当直者は1人だけだった。通路には燃えやすい灯油ポリタンクや段ボールが置かれ、煙感知器は未設置だった。避難訓練も実施していなかったという。

 判決が「施設運営の根幹である入居者の生命の安全に関わる注意義務を怠っていた」と非難したのは当然である。

 この施設は、いわゆる無届けホームで、東京都墨田区が、生活保護を受ける区内の単身高齢者に入所を斡旋
あっせん
した。

 区は施設の管理実態の調査をしないまま、住民を紹介していた。区の責任も免れない。

 墨田区のケースは、決して例外ではない。東京の多くの区でも、都外の施設に区民の入所を斡旋してきた経緯がある。

 生活保護を受けながら高齢者施設に入所している東京都区部の約2800人のうち、都外の施設で暮らす人は約7割を占める。

 施設の中には、たまゆらのように入所料金が安価な無届けホームも少なくない。厚生労働省の調査では、無届けホームは全国で約250か所に上る。

 背景にあるのが、都市部での介護施設の著しい不足だ。地価が高く、用地確保が困難な大都市での新設は容易でない。

 都市部で低所得者が入所できる「軽費老人ホーム」を増やすため、政府は補助制度を設けたが、建設は思うように進んでいない。

 地方の施設への入所が避けられない以上、住民の安全を確保するため、区は施設の運営状況をきちんと把握し、定期的にチェックすることが大切である。

 都市部の人が地元で暮らし続けられるよう知恵を絞ることも必要だ。中でも、高齢者が住みやすい住宅や在宅介護サービスの拡充は急務である。

 それには民間の力を活用することも欠かせない。NPO法人がアパートを借り上げ、介護サービス付きの高齢者向け住宅として運営している例がある。

 都市部の集合住宅の空室や空き家を高齢者向けに活用すれば、介護施設の新設より低コストで済むのではないだろうか。官民一体となった取り組みが求められる。

2013年1月19日土曜日

東南アジア歴訪―「価値観」を語るなら


 安倍首相が、就任後初の外遊となる東南アジア歴訪を終えて帰国した。
 アルジェリア人質事件の対応を理由に日程を短縮。東南アジア諸国連合(ASEAN)との友好協力40周年を記念するスピーチも中止になった。
 それでも、東・南シナ海で軍事的圧力を強める中国をめぐる協力関係を築き、成長著しいこの地域の経済活力を取り込むという目的に照らせば、一定の成果はあったといえるだろう。
 だが、首相が掲げる「価値観外交」にふさわしい第一歩になったとは、とてもいえない。
 首相はジャカルタでの記者会見で、ASEAN外交の原則として「自由、民主主義、基本的人権など普遍的価値の定着と拡大に努力していく」と語った。
 ところが、実際の言動はどうか。例えば、最初の訪問国ベトナムは、中国と同じ共産党一党独裁体制が続いている。最近も政府批判のブロガーが相次いで逮捕され、報道の自由も制限されている。
 国際NGOによる言論の自由度調査でも、他のASEAN各国同様、例年下位を低迷する。
 首相は、ベトナム首脳と「戦略的パートナーシップ」をうたい上げたものの、こうした点を改めるよう求めた形跡はない。
 一方、民主党政権を引き継ぐ形でベトナムへの原発輸出の推進を誓った。
 原発事故の検証は道半ばである。新たな原発政策も定まっていない。にもかかわらず、他国への輸出には前のめりだ。
 ベトナム南部で進む原発の導入可能性調査は、日本政府が費用を丸抱えする。日本原電と随意契約したベトナム政府は調査結果を発表しない方針だ。メディアの取材や研究者の現地調査もほとんど認めない。
 透明性からほど遠い原発輸出の推進は「普遍的価値に立脚した外交」といえるのか。
 首相の価値観外交は、中国や北朝鮮への牽制(けんせい)に主眼があるのかもしれない。
 ただ、相手国によって、それを主張したり、しなかったりでは普遍的とはいえない。
 歴訪と前後して、逆に首相自身の「価値観」を問題視する発言が、各国の政府関係者から相次いでいる。
 豪州のカー外相は、慰安婦問題で旧日本軍の強制性を認めた河野談話の見直しについて「近代史で最も暗い出来事の一つであり、見直しは望ましくない」と指摘。米オバマ政権の高官も同様の懸念を示した。
 共有すべき価値観とは何かもまた問われている。

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人手不足への対応は急務だ

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