2013年2月28日木曜日

ハーグ条約 子供の利益守る制度を築け


 子供の利益が損なわれないよう、政府は適切な法制度と支援体制の整備に努める必要がある。

 安倍首相は、国際結婚の破綻に伴う子供の連れ去りに対応する「ハーグ条約」への早期加盟を、日米首脳会談でオバマ大統領に約束した。

 この条約には、欧米を中心に89か国が参加しており、国際ルールとして定着しつつある。主要8か国(G8)で唯一未加盟の日本も締結を急がねばならない。

 自民、公明両党は、条約の承認案と関連する国内法案の国会提出を了承した。民主党も与党時代、加盟を推進する立場だった。与野党は今国会中の承認・成立に努力してもらいたい。

 条約は、16歳未満の子供が片方の親に連れ去られた場合、もう一方の親が返還を求めれば元の国に戻すことを原則としている。

 関連法案は、子供の返還を命令するための国内の裁判手続きや、条約を所管する外務省の役割などについて定めるものだ。

 国会審議の焦点は、子供の返還を拒否できる条件である。

 法案は、返還の申立人が子供や元配偶者らに暴力を振るう恐れがある場合などと明記する。元の国に戻った親や子供が家庭内暴力(DV)にさらされるとして加盟慎重論があることに配慮した。

 だが、元の国でのDV被害を立証するのは容易ではない。この条件で十分なのかどうか、審議を尽くしてもらいたい。

 欧米では、子供を連れ去った親を「誘拐犯」として訴追する場合がある。子供を連れて戻れば逮捕されかねない。こうした事情をどう判断するかも重要である。

 法案は、担当裁判所を東京と大阪の両家庭裁判所に限定する。返還の申し立ては年数十件程度と見られており、裁判所を絞ることで審理のノウハウが集積しやすくなると判断したのだろう。

 東京、大阪でなくても近くの裁判所から電話やテレビ会議での審理参加も認めるという。遠隔地に住む人の負担を抑えようという方針は評価したい。

 日本が条約に加盟すれば、返還命令を受けた日本人の親子が、元の国に戻って親権を巡る裁判に臨むケースも出てくる。在外公館は邦人支援の一環として、現地の弁護士や支援団体を紹介するなどの措置を取ることが望ましい。

 一方、日本から海外に連れ去られる子供についても、条約は適用される。外務省は、子供の返還を求める日本人に対する支援体制を整えるべきだ。

原発政策提言 規制委の独善に注文がついた


 民間の有識者らで作るエネルギー・原子力政策懇談会(会長・有馬朗人元文相)が安倍首相に緊急提言書を提出した。

 政府に対し、安全が確認された原子力発電所を再稼働させ、責任ある原子力政策の再構築を求めた。「原子力から逃げず、正面から向き合う」よう注文もしている。妥当な内容である。

 原子力発電所の長期停止で、代替の火力発電用燃料の輸入が急増している。コスト高で電気料金値上げの動きが広がり、産業や国民生活への影響は甚大だ。

 首相は「原発ゼロ政策」の全面見直しを表明している。提言を踏まえ、新たなエネルギー政策の議論を急いでもらいたい。

 提言は、福島の再生と国際標準の安全規制、適切なエネルギー政策の確立の3点を求めた。

 東京電力福島第一原発事故で約16万人が避難を余儀なくされている。提言が福島再生を「エネルギー・原子力政策の出発点」と最重視したのはもっともである。

 廃炉の技術開発と国際協力の拠点として、「国際研究開発センター」を福島県に設立することも提案した。具体化を急ぐべきだ。

 注目すべきは、提言が、原発の安全を担う原子力規制委員会について「さまざまな懸念がある」と苦言を呈したことだ。

 「リスクゼロという不可能な命題を目指している」「わが国最高水準の叡智えいちと現在得られる最大限の情報を活用した検討が実現していない」と批判している。確かに規制委の運営には問題が多い。

 規制委は今、新安全基準作りや敷地内の活断層調査に取り組んでいるが、過去の原子力規制にかかわった専門家は排除している。

 日本原子力発電敦賀原発の活断層調査でも、偏った人選の専門家会合で、活断層と認定する結論をまとめた。日本原電側に反論さえ許さなかった。提言が「事業者とオープンに意見交換すべきだ」と指摘したのは当然である。

 島崎邦彦委員長代理は、活断層認定について、関係学会推薦の専門家にも検証させる方針だが、意見の異なる専門家を排除したままで検証を行うのは問題だ。

 さらに、提言は、規制委に「原発再稼働のルールとスケジュールを明確にすべきだ」と求めた。

 田中俊一委員長は「(再稼働の遅れによる)電力会社のコスト増は考慮しない」と繰り返している。だが、効率性、経済性を無視した原子力規制はあり得ない。

 規制委は政治的に独立しているが、独善に陥ってはならない。

2013年2月27日水曜日

日銀総裁候補―国債を引き受けますか


 安倍政権が日銀の正副総裁3人の後任人事案を決め、近く国会に提示する。

 「金融政策の転換を実現できる人」と首相がこだわった総裁候補には、元財務官でアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏が選ばれた。インフレ目標の設定が持論で、従来の日銀の政策を批判してきた。

 副総裁には、強硬な緩和論者で首相ブレーンでもある学習院大教授の岩田規久男氏、日銀理事の中曽宏氏をあてる。

 中央銀行の首脳はあくまで実務家だ。専門的な知見のほか、危機対応や組織運営の能力、市場や国際金融界との対話力も問われる。

 与野党は国会で3人の考え方を問いただし、資質を見極めて可否を判断してほしい。

 黒田氏に白羽の矢が立った背景として、国際金融での豊富な人脈が評価されたのは間違いない。諸外国がアベノミクスに伴う円安に警戒感を抱いているなかでは、なおさらだ。

 ただ、いくら歴戦の「通貨マフィア」でも、日銀の独立性が疑われるような金融緩和を続ければ、海外からの批判をかわすことはできない。

 そこで、黒田氏には以下のことを約束してもらいたい。まず国債の直接引き受けには断固として応じないこと。さらに、引き受けほど露骨ではなくても、日銀が政府の借金の尻ぬぐいに手を染めていると疑われる政策を避けることである。2人の副総裁候補も同様だ。

 岩田氏は「2%のインフレは2年で達成できる」という。だが、金融政策だけで短期間にインフレを進めようとすると、副作用は大きい。国民も2%のインフレで経済が好転すると言われてもピンとこないだろう。

 過去には、食料品や燃料などの生活必需品が高騰する一方、不要不急の製品は下落が続き、平均値であるインフレ率は横ばいのまま、生活弱者が圧迫される経験をした。

 今回はどう違うのか。賃金の上昇との好循環にどのように結びつくのか。具体的な姿を説明してほしい。

 岩田氏は学者として長く自説を貫いてきたが、実務家になる以上、むしろ自説がはらむリスクを幅広く捉え、予想外の事態にも対応できることを示す必要がある。

 中曽氏は危機対応の経験が豊富で、国際金融界からの信頼も厚い。日銀の組織と業務を知り尽くす人材を首脳陣の一角に置くことは妥当である。過去の日銀の政策を批判する人たちも、現実的に判断すべきだ。

イタリア選挙―借金と民主主義の相克


 イタリア政治が袋小路に入り込んでしまったかのようだ。下手をすれば、欧州発の金融危機が再燃しかねない。

 5年ぶりの総選挙で、民主党中心の政党連合が下院で勝利した。モンティ首相が進める財政緊縮と改革を引き継ぐという。

 しかし改革に反対する反緊縮派の諸政党が、上院で大きく議席を伸ばした。それにより、上院ではどの勢力も過半数を得ることができなかった。

 この国の問題は借金まみれの財政だ。市場は政治が再び混迷するとの見方から、動揺している。ここで財政再建が滞れば、不安は世界に広がりかねない。各政党は、最大限の努力で打開しなくてはならない。

 一昨年、ベルルスコーニ前首相と交代したモンティ氏は、政治家を含まない実務型内閣で立て直しを進め、国際金融市場から評価を受けた。だが国民に改革の意義を十分に示すことができず、批判にさらされた。

 今回、下院で勝利した民主党のベルサーニ書記長は新政権への意欲を見せている。しかし、この国では首相選びに上下両院の承認が必要だ。

 その上院では、反緊縮を訴えたベルルスコーニ氏の「自由の国民」と第1党を争っている。

 新首相を選ぶ見通しは立っていない。政党は根気よく話しあい、政権作りへの必要な妥協をまとめなければならない。

 第三の勢力として出現したのは、元コメディアンのグリッロ氏が率いる市民政党「五つ星運動」だ。国内を広く遊説して、左右の既成政党の特権と堕落ぶりを痛烈に批判した。

 ベルルスコーニ氏が減税による金のばらまきで国民の歓心を買おうとするのとは違い、五つ星運動は、インターネットを利用した政治参加やユーロの是非をめぐる国民投票を訴え、市民の共感を集めた。

 既成政党への市民の不信と怒りが、この新しい政党を後押ししたのだろう。しかし、新党が勢力を伸ばせば、政治が安定を取り戻すわけではない。

 市場の要求と選挙で示される民意が食い違いを見せることは少なくない。ギリシャやフランス、スペインでも緊縮を求める政党が批判にさらされた。

 国民に負担増を求めなければならない時代には、民主主義のあり方も常に刷新されなければならない。

 そのために政治家に求められるのは、政界の腐敗を正すことはむろん、失業や年金削減への国民の怒りの声から逃げず、財政の緊縮がなぜ必要なのかを誠実に説明することだ。

補正予算成立 意義ある参院での1票差可決


 衆参ねじれ国会の下でも、政府提出の案件が参院で可決できるという実績が現れた。

 安倍首相が言うように「決められる政治への大きな第一歩」となるだろうか。

 事業規模20兆円超に上る緊急経済対策を実施するための2012年度補正予算が、参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立した。

 採決で野党の対応が分かれた。維新の会の他、国民新党、新党改革などが賛成し、民主、みんな、生活、共産、社民各党などの反対票をわずか1票差で上回った。

 与党にとっては、個別の政策ごとに連携を図る部分連合が奏功したということだろう。

 維新の会の存在が大きい。従来のような「何でも反対の野党」ではなく、是々非々で対応すると主張してきたが、補正予算の対応はその具体化の一つだと言える。

 民主、みんな、生活、社民の4党は、補正予算案の修正案を共同提出し、否決された。今国会での初の野党共闘だった。

 これに維新の会が同調しなかったことは、今後の国会攻防や民主党が呼び掛ける参院選への野党協力にも影響するかもしれない。

 今回の補正予算で、デフレからの脱却に向けた安倍政権の経済政策「アベノミクス」の財政政策が動き出すことになる。

 政府は、補正予算を13年度当初予算案とともに「15か月予算」と位置づけ、日本経済の本格回復を目指している。補正予算を早期に執行し、緊急経済対策の成果を上げねばならない。

 補正予算による景気浮揚は、来年4月に予定される消費税率の8%への引き上げにも欠かせない。経済状況の好転が増税の条件であり、政府は今秋をメドに消費増税の可否を判断するからだ。

 復興事業が本格化している東日本大震災の被災地では、生コンクリートなどの建設資材や建設作業員の不足で、公共事業の遅れが指摘されている。政府は、補正予算の執行状況にも十分目を光らせる必要がある。

 民主党は、補正予算に反対する理由として「旧来型の公共事業の大盤振る舞いで、被災地の復興や真の経済再生につながるのか疑念が強い」と主張している。

 無論、政府は事業内容を精査して、効率的な公共事業を実現しなければならない。

 機動的な財政出動によって当面景気刺激策を優先すべきであるにせよ、財政健全化への取り組みも忘れてはなるまい。

イタリア総選挙 欧州危機の再燃を招かないか


 財政再建路線に対するイタリア国民の強い不満が表れた結果だ。政局混乱で、欧州危機が再燃する恐れが出てきた。

 モンティ政権の改革路線の是非を問う総選挙で、反緊縮派のベルルスコーニ前首相の中道右派連合が、事前の予想を上回る議席を獲得した。

 下院では、改革路線を大枠で支持する中道左派連合が議席の過半数を辛うじて制したが、上院では、いずれの政党連合も過半数獲得には至らなかった。

 選挙結果を受け、日米の為替市場ではユーロが急落し、円高・ユーロ安が進んだ。世界各地の株式市場も軒並み株安となった。ユーロ圏3位の経済大国の財政再建後退に警戒感を示したものだ。

 2011年秋に発足した経済学者モンティ氏を首相とする実務者内閣は、増税や年金改革などで財政赤字の削減を図った。労働市場に柔軟性を持たせる法改正など構造改革にも乗り出した。

 市場の評価は高かったが、モンティ首相が進めようとした改革は、中道右派各党の支持を得られず、中途半端に終わった。

 選挙で、中道右派連合は、増税見直しなど反緊縮の大衆迎合的な政策を掲げ、支持を広げた。

 景気後退に陥り、失業率が増加したことに批判的な国民の受け皿になったと言える。

 一方で、既成政党の腐敗体質を批判した新党が第3党に食い込んだのは、国民の間に根強い政治不信を反映している。

 今後の焦点は、連立交渉を試みると見られる中道左派連合の政権作りだ。しかし、中道右派との大連立は、政策の隔たりが大きく、先行きは不透明だ。

 再選挙で打開を図る可能性もある。いずれにしてもイタリア政治の混迷は長期化しかねない。

 イタリアが、はたして政局を安定させられるかが問われよう。

 ギリシャに端を発した欧州の財政・金融危機は、昨秋以降、欧州中央銀行(ECB)による大胆な国債買い取り方針などで、ようやく沈静化の兆しが見えていた。

 ただ、マイナス成長に陥ったユーロ圏では実体経済の低迷は深刻で、今後の展開も波乱含みだ。

 スペインでは金融不安がくすぶり、与党への不正献金疑惑も浮上している。9月にはドイツで、メルケル首相の欧州危機対応が争点となる総選挙が控えている。

 ユーロ圏全体はもちろん、世界経済に悪影響を与えないよう、イタリアの改革が頓挫する事態は避けなければならない。

2013年2月26日火曜日

韓国新大統領―静けさからの出発


 テレビで就任式を見て新鮮に感じた人も多かっただろう。
 韓国の新しい大統領になった朴槿恵(パククネ)氏のことである。男社会のイメージが強い韓国に、日本や中国、米国より早く女性リーダーが登場すると予想した人が何人いただろうか。
 だがいま、ソウルの街に浮かれた気分は感じられない。静かな空気が漂っている。
 大統領は5年で交代する。韓国の世論調査会社によれば、ここ数代の大統領は就任前後の支持率がほぼ50~80%台。それが今回は50%に満たない。
 前任の李明博(イミョンバク)氏は、財閥系の経営者出身。経済に詳しい大統領なら、生活を良くしてくれるのでは。そんな期待は落胆に変わり、支持率が急落した。
 韓国経済で大企業は元気に見えるが、所得格差が広がり、非正規労働者らの不満は大きい。日本をしのぐ少子高齢化が進むのに、福祉対策は遅れている。 誰がかじ取りをしても難しい。そう思うから、新政権への期待もふくらまないのだろう。
 加えて朴氏は、人事でつまずいた。首相候補は息子の兵役免除などの疑惑が浮上して指名を辞退。側近も発表まで知らないような人事のやり方は「密室人事」と批判を浴びている。
 一方で、新たな可能性への期待も決して小さくない。
 1960~70年代の大統領として経済発展をとげた半面、民主化運動を弾圧した朴正熙(パクチョンヒ)氏の娘。いわば生まれながらの保守なのに、選挙戦で「経済民主化」「民生」「福祉」など野党のような政策を打ち出した。
 父親が産業化を担ったとすれば、娘は民主化後の「国民の幸福」をめざす。就任演説からはそんな決意が読み取れた。
 「もどかしいほど慎重で、突発的行動をしない」(崔章集〈チェジャンジプ〉・高麗大名誉教授)といった人物評もある。前任の李氏は、大統領では初めて竹島に上陸、日韓関係を悪化させた。そんな恐れが少ないという意味だ。
 外交では、朴氏は北朝鮮を訪問し、生前の金正日(キムジョンイル)氏と2人で話をした経験もある。その手応えを自叙伝にこう書いている。
 「真心に基づいて相互の信頼を積み重ねて初めて発展的な交渉と約束を期待できる」
 これは日本との関係にも通じる。だが、期待しすぎてはなるまい。朴氏は大統領選で父親への「親日派」攻撃の矢面に立った。日本に甘いと言われぬよう警戒しているはずだ。
 互いに刺激の応酬に陥らないように努める。それが「相互の信頼を積み重ねる」第一歩なのは間違いない。

農業の強化策―規制改革を、忘れるな


 高い関税で守ってきたのに、高齢化と後継ぎ不足、耕作放棄地の増加が深刻な農業を、どう立て直すか。
 日本も、環太平洋経済連携協定(TPP)に加わる方向となり、対策をいよいよ急がなくてはならない。
 「経営所得安定対策」と名前を変えて自民党政権が温存した戸別所得補償制度の見直しや、農地をめぐる優遇税制のあり方などに関心が集まりそうだ。
 忘れてもらっては困る課題がある。
 規制・制度改革だ。
 安倍首相は、民間人らが中心となる政府の規制改革会議に対し「健康・医療」「エネルギー・環境」「雇用」の三つを重点分野とするよう指示し、歴代政権で焦点となってきた「農業」をはずした。
 一方、同じく民間人が主体の産業競争力会議では「農業を成長分野と位置づけ、構造改革を加速させる」と強調した。
 ならば、規制改革でも農業を重点分野とするべきだ。
 おいしく、安全な作物をより安く提供できるように競争力を高め、国内の市場を広げて、輸出も伸ばす。若い人たちを農業に呼びこみ、過疎化が進む農村の活性化につなげる。
 政権が強調する「攻めの農業政策」を展開するには、農地の集約化を進めるとともに、ビジネスの発想をもっと取り入れることが必要だ。
 たとえば、農地や法人をめぐる規制・制度である。
 農地の売買や賃貸借、転用で大きな権限や影響力を持つ各地の農業委員会は、地元の農業関係者が中心で、運営が不透明だと指摘されてきた。
 維持すべき農地の転用を防ぎつつ、集約化を進めるには、農業委員会のあり方から見直すことが不可欠だ。
 法人については、農地の所有が認められる「農業生産法人」が急増している。4年前の法改正で、農業者以外からの出資に関する規制が緩和されたことがきっかけだ。
 残る規制をさらに緩和し、弾みをつけるべきだ。現在は農地を借りることしかできない一般企業に農地の所有を解禁することも検討課題だ。
 TPP交渉への参加方針に対し、農協などがさっそく反発を強めている。規制改革に及び腰な政府の姿勢には、夏の参院選もにらみ、農業者の反発を避けたいとの思惑もあるのだろう。
 日本経済を立て直すには、金融、財政政策に続く「3本目の矢」である経済連携と規制・制度改革は、避けて通れない。

日銀総裁人事案 官僚出身を理由に排除するな


 デフレ克服の成否を左右する重要な人事だ。与野党は、日銀の次期総裁と副総裁を選ぶ国会同意人事の手続きを円滑に進めるべきである。

 安倍首相は公明党の山口代表との党首会談で、3月19日付で退任する日銀の正副総裁3人の後任人事案を説明した。

 白川方明総裁の後任に元財務官の黒田東彦・アジア開発銀行総裁を充て、副総裁には岩田規久男・学習院大教授と中曽宏・日銀理事を起用するという。

 会談後、山口代表は「要件を基本的に備えている」と述べ、前向きに検討する考えを示した。

 政府は近く、正式にこの人事案を国会に提示する。

 黒田氏は国際金融政策を担う財務官を3年半務めた際、円高阻止のための大規模な為替介入の指揮をとった。2005年にはアジア開銀の総裁に就任した。

 これまで、インフレ目標の導入など大胆な金融緩和の必要性を主張し、デフレの原因は金融政策の失敗にあるとして日銀の対応を批判してきた。

 「アベノミクス」でデフレ克服をめざす首相は、「金融政策に関する私の考えを理解し、確固たる決意と能力で課題に取り組む人」を日銀総裁の条件に挙げている。それに沿った人選と言える。

 黒田氏の総裁就任が国会で同意を得られるかどうかは、野党が多数を占める参院にかかっている。中でも最大野党である民主党の対応がカギを握る。

 黒田氏であれば、金融実務に精通し、国際的な人脈の広さや情報の発信力、組織運営の能力など、民主党が重視する総裁の資質にも合致している。

 衆参両院で行う所信聴取で、2%のインフレ目標達成や政府との連携に積極的に取り組む姿勢を確認できれば、民主党が真っ向から反対する理由はあるまい。

 民主党は5年前、官僚OBの排除にこだわり、日銀総裁空席の事態を招いた。今回は、みんなの党が官僚出身者の起用に反対している。人物本位で判断せず、経歴を問題にするのは不見識である。

 民主党内には、国会への正式提示前に人事案が報道されたことを問題視する声も出ている。事前報道された場合は受け付けないとした悪

しきルールは撤廃された。これを蒸し返し、ご破算を画策するようでは困る。

 政府が最重要課題とする日銀人事案に、野党各党がどんな判断を示すかは、政権との距離感や連携の行方にも影響を与えよう。

朴大統領就任 日韓関係の改善を期待したい


 韓国新政権発足を機に日韓関係が改善に向かうことを期待したい。

 課題山積の中で、韓国の朴槿恵氏が大統領に就任した。初の女性大統領であり、朴正煕元大統領との初の親子2代にわたる大統領だ。

 朴氏は、就任式に出席した麻生副総理と会談した。日韓両国が未来志向で緊密に協力していく必要性で一致したのは評価できる。

 ただ、現状は厳しい。李明博前大統領の竹島訪問と「天皇の謝罪」要求発言で日韓関係は悪化したからだ。島根県主催の「竹島の日」式典への内閣府政務官出席に韓国政府は抗議したばかりである。

 歴代の韓国政権は、未来志向をうたいながら、歴史認識や領土問題で結局は対日外交を暗礁に乗り上げさせた。その轍を踏まないのか、朴氏の指導力が問われる。

 好調を維持してきた韓国経済にはかげりも見える。経済成長率は昨年、2%台にまで落ち込んだ。輸出主導モデルにウォン高の逆風が吹いている。グローバル化の潮流に乗って財閥は発展したが、国内の雇用創出につながらない。

 少子高齢化時代が到来し、老後不安の解消へ年金や医療保険制度の充実を図らねばならない。

 こうした課題の解決に向け、朴氏は就任演説で、経済発展を成し遂げた父・正煕氏の「漢江の奇跡」に言及し、「第2の奇跡」を起こすと強調した。

 中小企業の競争力強化や、ベンチャー企業の育成によって、雇用と内需の拡大につなげる構想を、具体化することが必要だろう。

 外交・安全保障を巡っては、朴氏は北朝鮮に「一日も早い核放棄」を求めた。「確実な抑止力を土台に、南北の信頼関係を積み重ねる」と、対話へ意欲も示した。

 増大する北朝鮮の脅威に対し、韓国では弾道ミサイルの射程延長など国防力を強化する動きが顕著だ。世論調査では、韓国の核武装を支持する声も60%を超える。

 緊張が高まる朝鮮半島情勢に対処するには、周辺国の連携強化が欠かせない。朴氏が、アジア地域の緊張・対立の緩和と平和・協力の推進へ、「米国、中国、日本、ロシア」などと信頼を築き上げると述べたのは当然だろう。

 韓国で、中国の存在感は圧倒的だ。対中貿易は、対米、対日を合計した額を凌駕
りょうが
しており、中韓の人的往来は日韓のそれを年間100万人以上も上回っている。

 韓国が、朝鮮半島で存在感を増す中国への傾斜を深めるかどうかは、日本の安全にも影響する問題だけに、目を離せない。

2013年2月25日月曜日

公判前手続き―「始まらない裁判」の罪


 えっ、まだ始まってもいなかったの? 驚き、あきれる声が聞こえてくるようだ。
 東京都内の高校生が死亡したエレベーター事故で、業務上過失致死罪に問われたシンドラーエレベータ社元幹部2人の初公判が、来月11日に開かれる。
 事故から7年、起訴からでも4年。検察、弁護の双方が、法廷でする予定の主張を裁判所に示し、証拠調べの順番や審理の日程を決める「公判前整理手続き」に時間がかかった。
 この遅れは、刑事司法に対する信頼を大きく傷つけた。
 とりわけ、いったん提出した事故原因の鑑定書を途中で取りさげ、やり直した検察の責任は重い。起訴の正当性にもかかわる不手際ではないか。
 今回のケースほどではないにしても、公判前整理手続きの長期化が問題になっている。
 争点をしぼり集中的に審理する裁判員裁判では、この事前整理を必ずおこなう決まりだが、2011年の場合、被告が犯行を認めている事件でも平均5・0カ月、争う事件では8・3カ月を要した。「裁判員元年」の09年に比べ、2~3倍の時間がかかった計算だ。
 むろん早ければいいという話ではない。被告の防御権を侵したり、見切り発車して公判になってから迷走したりするようなことはあってはならない。
 だが、裁判本番までの期間が長びくとどんな事態を招くか。
 まず、証人の記憶があいまいになる。捜査段階の供述ではなく、公の法廷のやり取りで黒白をつけようというのに、その土台がゆらいでしまう。
 被告の多くは身柄を拘束される期間が延びる。被害者もまた不安定な立場におかれ続ける。
 検察側が集めた証拠がはばひろく開示されるようになり、その検討や整理に一定の時間が必要なのは理解できる。
 であるならば、それを前提に運用の工夫をこらし短縮に努める。それが法律家の役目だ。
 意識のあり方も問われる。
 有罪・無罪の判断や、刑の重さに影響をおよぼすとは思えない部分についても徹底して争おうとすれば、公判前か開始後かを問わず、時間はいくらあっても足りないだろう。
 事件の内容を見きわめ、真に争うべき点を争う。国民が参加する裁判員制度の導入を機に、目標にかかげられた「メリハリある裁判」の実現を、常に念頭におかなければならない。
 施行からまもなく4年。順調に歩を進めてきた裁判員裁判だが、落とし穴はあちこちにひそむ。気を抜いてはいられない。

日本原電―原発の後始末に着手を


 原発を専業とする日本原子力発電(日本原電)の行き詰まりが表面化した。
 敦賀原発(福井県)など、保有している原発を動かすめどが立たないなかで、4月に返済期日を迎える借入金の借り換えがむずかしくなった。
 とりあえず、原電の株主で電気も買っている大手電力4社を中心に、債務保証や資金支援でしのぐ方向だという。
 だが、当事者たちも認めるとおり、「一時的な救済策」にすぎない。
 日本原電がもつ休止中の原発3基は、敷地内で活断層の存在が指摘されたり、運転期間の寿命とされる40年をすぎていたり、地元自治体が再稼働に反対していたりする。今後も稼働は困難だと考えるべきだろう。
 事実上の清算処理を視野に入れざるをえない。
 やっかいなのは、ふつうの企業のように債権債務を整理して終わり、とはいかない点だ。
 使用済み核燃料の保管という問題がある。廃炉では、放射性物質に汚染された施設を、長い年月をかけて安全に処理しなければならない。すでに廃炉作業に入っている原発も1基ある。
 原電を整理する際、こうした負の資産を、責任をもって引き受ける受け皿が必要だ。
 貸手である金融機関の責任を問うにしても、新たな資金が必要になる。
 本来は事業者が廃炉に必要な費用を積み立てておくのがルールだが、予定より早く止まることもあり、原電は十分な積立金を確保できていない。
 電力業界全体も原発に代わる火力発電の燃料費増大などから経営環境が厳しくなっている。
 地域独占に安住し、もたれ合いのなかで原発依存を進めてきたツケがまわった形だが、一つのほころびが連鎖反応を呼びかねない。
 原発推進は国策でもあった。電力の安定供給に支障が出るようなシステム危機を避けるためにも、政治がきちんと関与していくべきだ。
 むろん、電力会社の経営への波及を恐れて、原発維持に動くのは本末転倒である。
 民主党政権下では、国内の原発を特定の事業体に集約し、安全管理や廃炉作業を担うといった考えも浮上していた。
 今後の原発政策全体をにらんで、原電の抜本処理を進めることが不可欠だ。
 だれが、どのように負担していくべきか。廃炉の技術や人材の確保を含めて、「原発の後始末」に早く着手しなければならない。

原発風評被害 放射能の基準から考え直せ


 放射能の安全基準について政府は根底から考え直すべきだ。政権交代はその好機と言えよう。

 消費者庁が、東京電力福島第一原子力発電所事故による風評被害の対策を強化する。森消費者相は、「民主党政権は消費者の不安を募らせた」と述べ、具体策の検討を指示した。

 福島県産の農産物は、検査で安全を確認し出荷されているが、価格を安くしなければ売れない。流通量もなかなか増えない。

 森氏が、「安全基準への疑問や不安があると思う」と指摘したのは、もっともである。

 野田政権は、食品中の放射能基準を海外より厳格化した。政府の放射線審議会は、弊害が出ると警告したが、小宮山厚生労働相(当時)が政治的に押し切った。

 その結果、基準超過が増え、食品の信頼回復は進まない。過去の核実験の影響としか考えられない放射性物質が検出され、出荷停止となった野生キノコもある。

 問題なのは、野田政権が年1ミリ・シーベルトの被曝線量を安全と危険の境界線としたことだ。年1ミリ・シーベルトは法的に放射性物質を扱う施設の管理基準に過ぎないのに、この線引きを食品基準にも適用した。

 国際放射線防護委員会(ICRP)も、年1ミリ・シーベルト以下が望ましいとしている。ただ、野田政権との違いは、これを超えても直ちに危険とは見なさないことだ。

 ICRPは総量で100ミリ・シーベルトまでなら明確な健康影響は検出できないとの立場だ。ICRPが考える1ミリ・シーベルトは、安全性に余裕を見込んだ数値で、合理的に達成できるなら、との条件も付く。

 世界には、大地などから年10ミリ・シーベルトの放射線を浴びる地域がある。病院の放射線診断で1回に約7ミリ・シーベルト被曝することもある。

 1ミリ・シーベルトでの線引きは、16万人近くの避難者の帰還を遅らせる要因にもなっている。

 ICRPは、被災地の復旧過程では、年20ミリ・シーベルトまで許容し、可能な範囲で年1ミリ・シーベルト以下にするとの考え方を示している。

 だが、細野環境相(当時)は、1ミリ・シーベルト以下への除染を強調した。ICRPの考え方は、住民の生活確保と除染の両立だが、除染が偏重される結果となった。

 政治の誤ったメッセージと言えば、泉田裕彦新潟県知事も同様だ。柏崎市、三条市が岩手県のがれきを一般ごみとして処理したことを「犯罪行為」と非難した。

 しかし、がれきの放射能は県内のごみと変わらない。首長が風評被害を増長させては困る。

民主党大会 新綱領で一致団結できるか


 文字通り、崖っぷちからの再出発である。

 民主党が定期党大会を開き、党の基本理念・目標を定める綱領や、政権運営・衆院選惨敗を総括する第1次報告を採択した。

 海江田代表はあいさつで、「新しい綱領の下に一致団結しよう」と党の結束を呼びかけた。

 綱領は、民主党が生活者、納税者、消費者、働く者の立場に立ち、「既得権や癒着の構造と闘う改革政党」だと明記している。

 1998年の結党時に「私たちの基本理念」という文書を作成してはいるが、今回、遅ればせながら、正式な「綱領」を制定した。「民主中道」「リベラル」といったイデオロギーを掲げなかったのは、保守系が反対したためだ。

 自民党から社会党まで、様々な出身母体を持つ議員が「反自民」で結集した「寄り合い所帯」「選挙互助会」的な体質が今なお残っていることは、否定できない。

 綱領は、「共生社会」「新しい公共」といった抽象的なキーワードが目立つが、自民党との対立軸が明確とは言い難い。

 特に憲法では、「憲法の基本精神を具現化する」「未来志向の憲法を構想していく」と、護憲派、改正派の双方に配慮した両論併記となり、目指す方向が不明確だ。従来同様、当面の党内融和を優先した問題の先送りに過ぎない。

 2013年度活動方針は、今夏の東京都議選と参院選を「党の存亡を賭けた重大な政治決戦」と位置づけた。当然の認識だ。2大政党の一翼を担い続けられるかどうかの正念場となろう。

 民主党を取り巻く現在の環境はかつてなく厳しい。

 22日には、夏に改選を迎える参院議員2人が離党届を提出した。有権者が不信を募らせる民主党では戦えない、という判断もあるのだろう。1月末の北九州市議選で民主党は、自民、公明、共産に次ぐ第4党に転落した。

 国会対応でも、民主党が12年度補正予算案に反対したのに対し、日本維新の会は賛成するなど、野党共闘の足並みは乱れている。

 民主党大会では、いずれも民主党を離党した維新、みんなの党の幹部が来賓挨拶を行い、民主党の労組依存体質などを批判した。

 参院選に向けては、維新、みんな両党などとの選挙協力が重要課題となるが、政策面の違いが障害となり、進んでいない。

 民主党が両党との連携を追求するなら、憲法や外交・安全保障など政策面で、より現実的な路線をとることが求められよう。

2013年2月24日日曜日

日米首脳会談―懐の深い同盟関係を


 日米同盟強化に完全に一致できた。強い絆は完全に復活したと宣言したい――。
 安倍首相は日米首脳会談のあと、高らかに成果をうたった。
 日米同盟が大切であることには、私たちも同意する。
 だからといって、中国との対立を深めては、日本の利益を損なう。敵味方を分ける冷戦型ではなく、懐の深い戦略を描くよう首相に求める。
 首相は、軍事面の同盟強化に前のめりだった。
 首脳会談では、防衛費の増額や、集団的自衛権行使の検討を始めたことを紹介し、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの検討を進めると述べた。
 一方で、中国を牽制(けんせい)した。
 会談後の演説で、日中関係は最も重要な間柄の一つとしつつ、尖閣問題について「どの国も判断ミスをすべきではない。日米同盟の堅牢ぶりについて、だれも疑いを抱くべきではない」と述べた。
 そういう首相と、米国側の姿勢には温度差があった。
 オバマ大統領は記者団の前で「日米同盟はアジア太平洋地域の礎だ」と語ったが、子細には踏み込まず、「両国にとって一番重要な分野は経済成長だ」と力点の違いものぞかせた。
 ケリー国務長官は外相会談で、尖閣に日米安保条約が適用されることを確認する一方、日本の自制的な対応を評価すると述べたという。
 背景にあるのは、日米同盟を取り巻く状況の変化だ。
 東西冷戦期には、米国とソ連が敵対していた。米国には、日本を引きよせておく必要があったから、同盟は強固だった。
 だがいまは、経済の相互依存が進み、米国は中国と敵対したくない。米中よりも日中のあつれきのほうが大きく、米国には日中の争いに巻き込まれることを懸念する声が強い。
 だから米国が日本に求めるのは、いたずらにことを荒立てない慎重さだ。そこを見誤れば、日米の信頼も崩れてしまう。
 そもそも、グローバル化が進むこの時代、世界を二つの陣営に分けるような対立は起こりにくい。アジアの国々も、どちらにつくかと踏み絵を迫られる事態は望まない。
 日米同盟を大切にしつつ、いろんな国とヒト、モノ、カネの結びを深め、相手を傷つけたら自身が立ちゆかぬ深い関係を築く。日中や日米中だけで力みあわぬよう、多様な地域連携の枠組みを作るのが得策だ。
 対立より結びつきで安全を図る戦略を構想しないと、日本は世界に取り残される。

日米首脳会談―TPPは消費者視点で


 安倍首相がオバマ米大統領との会談後、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わる考えを事実上、表明した。
 10年秋に当時の菅首相が交渉参加に意欲を見せてから2年半近く。農業団体をはじめとする国内の根強い反対を受けて迷走が続いた末、ようやく軸足が定まった。
 首相の姿勢を評価する。
 安倍政権は、デフレと低成長からの脱却を最優先課題に掲げる。そのためには海外との経済連携を強め、その成長を取り込むことが欠かせない。
 ただ、すぐに交渉に入れるわけではない。TPPを主導する米国では、政府が通商交渉に入る場合、議会の承認を得るのに90日間かかる。一方で、オバマ政権は今年中に交渉を終えるとしている。日本に残された時間は多くない。
 これから米国との事前協議が本格化する。米政府は議会の声を受けて、自動車と保険、牛肉の3分野で日本市場に関心があると表明済みだ。
 米国との事前協議、その後の本交渉を通じて、政府が守らねばならない原則がある。
 まず、情報をできるだけ開示することだ。通商交渉では手の内を全てさらすわけにはいかないが、TPPに不安を感じる国民は少なくない。丁寧な説明を心がけて欲しい。
 米国との事前協議で、交渉に早く加わりたいからと理不尽な要求を秘密裏に受け入れるようでは、TPPへの反発を強めるだけである。
 なにより大切なのは、特定の業界の利害にとらわれず、「消費者」の視点に基づいて総合的に判断していくことだ。
 TPPのテーマは物品の関税引き下げ・撤廃にとどまらず、投資や知的財産、電子商取引、環境など20を超える。さまざまな分野で規制・制度改革が求められるのは必至だ。
 当然、恩恵を受ける業界があれば、打撃が予想される分野もある。いかにプラスを増やし、マイナスを抑えるか。
 高関税で守ってきたコメなどの農産物について、激変を避けるよう交渉するのは当然だ。
 それと並行して、高齢化や耕作放棄地の増加など山積する課題への対策を急ぎ、体質強化をはかる必要がある。
 むろん、TPP交渉の見返りに予算をばらまくのは許されない。コメの「聖域化」ばかりに目が向いて、他の分野が二の次になるのも論外だ。
 TPP交渉で、安倍政権は外交、内政両面での総合力が問われる。

日米首脳会談 アジア安定へ同盟を強化せよ


 ◆TPP参加の国内調整が急務だ◆

 安倍首相に対する米政府の期待の大きさが鮮明になった。首相は政治、経済両面で「強い日本」を復活させ、その信頼に応えるべきだ。

 安倍首相とオバマ米大統領がホワイトハウスで初会談し、日米同盟を強化することで合意した。

 大統領は「日米同盟はアジア太平洋地域の安全保障にとって中心的な礎だ」と述べた。首相は「日米同盟の強い絆は完全に復活したと宣言したい」と応じた。

 ◆エネルギー協力も重要◆

 アジアは、北朝鮮、中国など多くの不安定要因を抱える。地域の平和と繁栄を維持するには、強固で安定した日米同盟という「公共財」を基盤に、両国がそれぞれの役割を果たすことが肝要だ。

 日本の民主党政権の3年余、日米関係は迷走し、連動するように日中・日韓関係も悪化した。

 オバマ米政権も、安倍政権との間で日米関係を再構築することがアジア全体の安定につながり、自らのアジア重視戦略にも資する、と判断しているのだろう。

 焦点だった日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加について、日米両首脳は共同声明を発表した。全品目を交渉対象にするとの原則を堅持しながら、全ての関税撤廃を事前に約束する必要はないことを確認した。

 首相は訪米前、「聖域なき関税撤廃を前提とする交渉参加には反対する」との自民党政権公約を順守する方針を強調していた。

 公約と交渉参加を両立させる今回の日米合意の意義は大きい。

 成長著しいアジアの活力を取り込むTPP参加は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の重要な柱となり、経済再生を促進する効果が期待されよう。

 自民党内の一部や農業団体には反対論が根強い。だが、首相は、経済連携の狙いを丁寧に説明して指導力を発揮し、TPP参加へ国内調整を急がねばならない。

 米国にとっても、世界3位の経済大国の日本がTPPに参加するメリットがある。日米が連携した自由貿易圏作りは、台頭する中国への牽制
けんせい
効果を持つからだ。

 安倍首相が米国産シェールガスの対日輸出の早期承認を求めたのに対し、大統領は「同盟国の日本の重要性は常に念頭に置いている」と応じた。3月にも輸出が解禁され、割安なガスを調達する道が開けるとの見方がある。

 首相は、「2030年代の原発稼働ゼロ」という民主党政権の方針を見直す考えを強調した。

 エネルギー・原発政策を含め、経済面での日米協力を幅広く進展させることが大切だ。

 ◆対「北」圧力を強めよ◆

 安全保障分野で安倍首相は、防衛大綱の改定や、集団的自衛権の行使問題、日米防衛協力指針(ガイドライン)見直しなどに積極的に取り組む方針を説明した。

 いずれも日米同盟を実質的に強化する重要課題だ。優先順位をつけて、着実に実績を上げたい。

 米軍普天間飛行場の移設問題では、日米合意に基づき辺野古移設を進める方針で一致した。

 沖縄県は「県外移設」を求める立場を崩していないが、地元の基地負担の軽減には辺野古移設が最も近道だ。粘り強く関係者を説得することが求められる。

 北朝鮮の核実験について、日米両首脳は「挑発行為を容認すべきではないし、報奨を与えるべきでもない」と確認した。

 国連安全保障理事会での追加制裁決議の採択を目指すとともに、日米などによる独自の制裁を検討することでも合意した。

 2006年の北朝鮮の第1回核実験後、ブッシュ米政権は、核施設廃棄と「テロ支援国家」指定解除との取引に応じた。今年の第3回核実験によって、北朝鮮が利益を得ることは避けるべきだ。

 ◆尖閣問題で国際連携を◆

 本来は、実効性ある安保理の制裁決議を採択することが望ましいが、中国は慎重姿勢を示している。日米韓3か国を中心に、安保理決議以外の「圧力」を具体的に検討することが重要である。

 首脳会談後に行われた日米外相会談では、ケリー国務長官が日中関係に関連し、尖閣諸島には日米安全保障条約が適用され、米国の対日防衛義務の対象に含まれるとの見解を表明した。

 クリントン前長官の見解を踏襲したことを歓迎したい。

 日本は、中国軍の火器管制レーダー照射などの挑発に動じず、冷静な対応を続ける一方、自衛隊と海上保安庁による警戒監視活動を強化すべきだ。中国に示威活動の自制を促すため、米国など関係国との連携も深めねばならない。

2013年2月23日土曜日

日ロ関係―領土と協力の両輪回せ


安倍首相が、春の大型連休中にもロシアを公式訪問する見通しになった。
 日ロ間では首脳の公式訪問が絶えて久しい。これを機に首脳対話を活性化させ、北方領土問題の解決と両国関係の進展へとつなげたい。
 森元首相がモスクワでプーチン大統領と会談し、日程調整を進めることで合意した。プーチン氏は「両国間に平和条約がないことは異常な事態だ」と語り、北方領土問題の解決にも意欲を示した。
 日本の首相のロシア公式訪問は、日ロ関係全体を包括的に発展させる「行動計画」をつくった03年の小泉元首相以来、10年ぶりとなる。
 行動計画のうち、経済分野は貿易額がその後、4倍以上になるなどの成果をあげた。
 一方、領土問題は「相互に受け入れ可能な解決を模索する」としながら前進はなかった。05年のプーチン氏訪日から続く首脳による公式訪問の不在は、その反映ともいえる。
 いまプーチン氏があらためて日本との関係改善を望む背景には、現在のロシアの抱える経済や安全保障上の事情がある。
 極東やシベリアの開発で、日本の資金や技術の引き入れは欠かせない。米国のシェールガス革命のあおりでロシアの天然ガスは欧州市場で供給が減り、日本はじめアジア市場への売り込みも必要になっている。
 日本にとっても、福島第一原発事故を受けてエネルギーの供給先の多角化は急務である。
 軍事面で強大化する中国や、核開発を続ける北朝鮮は、日本と同様、ロシアの脅威になりつつある。それへの牽制(けんせい)という意味でも、協力の拡大は両国の利害が一致する。
 とはいえ、領土問題でのプーチン氏の姿勢は慎重だ。
 歯舞、色丹の二島返還から踏み出す姿勢は見せていない。国後、択捉を含む四島の帰属問題解決をめざす日本側との隔たりは、なお大きい。
 だが、行動計画がそうだったように、領土問題で具体的な進展が伴わなければ、プーチン氏のいう両国間の「異常な事態」は解消されず、幅広い協力は立ちゆかない。そのことを、プーチン氏は理解すべきだ。
 森氏との会談で、プーチン氏は「もっと頻繁に両国の首脳は会うべきだ」と述べた。この提案を歓迎する。
 定期的な首脳協議を重ねるなかで、領土問題をとことん話し合い、その解決と両国の協力を両輪で進める道筋を見いだしていってほしい。

民主党大会―反省を糧に、前へ


 逆風の中の再出発である。
 民主党があす、東京都内で党大会を開き、新たな党の綱領と改革案を示す。
 壊滅的な大敗を喫した総選挙から2カ月あまり。文字どおり党の再生をかける。
 民主党への国民の不信感は根強い。夏の参院選では苦戦が予想され、きのうも2人の参院議員が離党届を出した。
 国会では存在感を示せず、他の野党との選挙協力でも蚊帳(かや)の外に置かれている。
 八方ふさがりである。
 それでも、政権与党の経験を持ち、全国に根を張る野党は民主党以外にない。
 再び内紛と分裂を繰り返していては、日本の政治に進歩はない。
 党の理念を再確認し、組織や運営方法のどこに問題があったかを見つめ直す。それが出発点となる。
 新しい綱領は「生活者、納税者、消費者、働く者の立場に立つ」「個人として尊重され、多様性を認める共生社会」をめざす、などとしている。
 政権復帰を果たし、支持基盤とのパイプを再び強めている自民党との対立軸を意識したものだろう。
 目を引くのは、党運営の反省点や総選挙敗北の総括を盛り込んだ報告書である。
 ▽09年総選挙のマニフェストは、財源の裏付けが不十分で実現性を欠いた。
 ▽政治家と官僚の仕事の仕分けができず、官僚との意思疎通を欠いた。
 ▽適材適所の人材配置ができず、閣僚の交代も頻繁だった。
 そのうえで「民主党が政権担当能力を身につけ再生するのは容易ではない」と、自らの統治能力のなさを、あけすけに認めている。
 嘆息せざるをえないが、これが民主党の実情だろう。
 だが、言葉だけではもはや有権者の心に響かない。
 こうした反省を、党運営や政策づくりにどう生かすのか。要はその実行力である。
 たとえば、生活者の中にも利害の対立があり、働く者の立場も様々だ。それをいかに調整するかが統治能力であり、民主党が問われたものである。
 一方、民主党政権下では、外交密約をふくむ情報公開や、将来のエネルギー政策をめぐる「国民的議論」など、国民の視点に立った取り組みもあった。
 いずれも自民党政権下では考えられなかったものだ。
 「民主党らしさ」を全否定することはない。そこにも党再生の手がかりがあるはずだ。

北方領土交渉 「仕切り直し」へ戦略練り直せ


 日露首脳会談への地ならしという狙いは達成された。具体的に交渉をどう進めるか、安倍外交の戦略が問われよう。

 森喜朗元首相が、ロシアのプーチン大統領とモスクワのクレムリンで会談した。

 プーチン氏は、北方領土問題が障害となり、日露両国が平和条約をいまだ締結していないことを「異常な事態」と表現した。

 柔道の試合場をメモ用紙に描いて、「両国は試合場の端にいてプレーが出来ない。真ん中に引っ張ってきてそこから始めるということだ」とも語り、交渉を仕切り直す意向を明らかにした。

 メドベージェフ前大統領は自ら国後島を訪問し、「我々の古来の土地だ。一寸たりとも渡さない」と強硬な姿勢を見せつけた。

 安倍首相は、領土問題に前向きなプーチン氏のシグナルをきちんと受け止めなければなるまい。その真意を見極めつつ、粘り強く交渉に当たってもらいたい。

 森氏はプーチン氏との会談で、北方領土問題について昨年3月「引き分け」を目指すと発言したことの意味を質した。プーチン氏は「勝ち負けなしの解決だ」と述べるにとどめたという。

 歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言が、領土交渉におけるプーチン氏の立場の原点だ。ロシアは近年、国後、択捉両島などの基盤整備に予算を投入し、北方領土の「ロシア化」を着々と進めている。

 森氏が先月、テレビ番組で択捉島以外の3島の先行返還に言及したのは、現実的な解決を急ぐべきだと考えるからだろう。

 麻生副総理も外相時代に4島全体の面積を2等分する「面積等分論」に言及したことがある。

 だが、安倍、プーチン両政権による交渉はこれからである。交渉前から譲歩姿勢を示せば一層つけこまれかねない。従来通り4島返還を掲げて交渉に臨むべきだ。

 プーチン氏は、石油や天然ガスなど、エネルギー分野での日露協力の拡大に強い期待感を示した。広大な極東で日本の農業技術を生かしたいとも語った。

 日本の経済力や技術力は、極東・シベリア開発に力を入れるロシアにとって魅力だろう。領土問題が解決すれば、日露両国がともに利益を享受できる分野は一段と広がるはずだ。経済・軍事面で膨張する中国への牽制
けんせい
ともなる。

 日露協力の戦略的重要性について共通認識を深めていくことが大切だ。それが、北方領土問題解決への環境整備につながろう。

竹島の日 政務官の式典出席は妥当だ


 領土問題に真剣に取り組む姿勢を示しつつ、韓国にも外交的に配慮した点で、バランスの取れた対応と言えよう。

 政府が、島根県の主催する「竹島の日」記念式典に島尻安伊子内閣府政務官を派遣した。式典は8回目だが、政府代表の出席は初めてだ。その他、国会議員も過去最多の19人が出席した。

 島根県は、1905年に竹島を県に編入した2月22日を「竹島の日」と定める条例を制定し、2006年以降、毎年、式典を開いている。竹島の領有権の早期確立を目指し、国民世論の啓発を図ることが目的である。

 日本の主権にかかわる領土問題への国民の関心を高め、理解を広げるのは政府の仕事である。本来は政府が式典を開催すべきだ。

 昨夏、韓国の李明博大統領は竹島訪問を強行し、天皇陛下への謝罪要求発言と合わせて、外交常識の一線を越える言動を行った。これを踏まえて、自民党は衆院選政策集で、「竹島の日」の政府式典の開催を打ち出している。

 しかし、安倍政権は今年の式典主催を見送った。国際司法裁判所(ICJ)への竹島問題の単独提訴も先送りしている。朴槿恵次期大統領との間で、未来志向の日韓関係の構築を目指すためだ。

 1月には額賀福志郎元財務相が首相特使として韓国を訪問した。今月25日の朴氏の大統領就任式には麻生副総理が出席する。

 島根県が首相や閣僚の式典出席を要請しているのに対し、出席者を政務官にとどめたのも、韓国への配慮の一環にほかならない。

 だが、韓国外交通商省報道官は政務官出席について「非常に遺憾で、強力に抗議する」との声明を発表した。これはおかしい。

 そもそも島根県の式典は国内行事だ。いくら領土問題で対立しようと、他国が地方行事の出席者にまで口出しするのは、明らかな内政干渉で、行き過ぎである。

 一方で、北朝鮮が核実験や長距離ミサイル発射を行い、中国が東シナ海で強圧的な示威活動を続ける中、東アジアの平和と安定のために日韓両国が連携する必要性はかつてないほど高い。

 自由貿易協定(FTA)など経済面でも、日韓協力が双方の利益となる分野は少なくない。

 大統領の交代は、悪化した日韓関係を改善する好機だ。領土問題の解決には相当な時間を要するとしても、この問題が両国関係全体を停滞させないように、日韓双方が注意深く対話を重ね、知恵を出すことが肝要である。

2013年2月22日金曜日

いじめ対策―学校支える人を増やせ


 「しっかりしろ」と学校や先生の尻をたたくだけでは、いじめは減らない。学校を外から支える仕組みを築くべきだ。
 教師らは、いじめを知りながら対策をとらなかった。大津のいじめ自殺事件の第三者委員会は、報告書でそう指摘した。
 そして、教師の負担を軽くする改革を提言している。
 「忙しい教員は、無意識のうちに問題を小さく見積もろうとする心理になる」のだ、と。
 日本の学校は英米に比べ、教師以外のスタッフが少ない。中教審でもそんな議論があった。
 教師が生徒指導や部活動、校務までを背負い、生徒にじっくり向きあう余裕に欠ける。
 では、どうするか。
 教員増もさることながら、外から学校を支えるサポーターを増やす政策を進めてほしい。
 先生とは違う目で子どもを見守る大人を入れる。視点を多様にすることで、問題を見過ごすリスクを小さくできる。
 たとえば、大津の報告書や教育再生実行会議の議論では、スクールソーシャルワーカーが取り上げられている。
 学校と家庭を橋渡しし、問題の解決に取りくむ。ケースによっては児童相談所など、校外の機関ともつなぐ。
 今はおもに不登校や虐待などの分野で活動しているが、いじめ問題では十分活用されていないし、全国でまだ千人ほどしかいない。増員が必要だ。
 ワーカーの有志らは「修復的対話」という手法を学校に広めるべく、今年、そのためのNPOを立ち上げようとしている。
 加害と被害の双方の生徒とその親、担任や校長らの話し合いを取りもち、早いうちに人間関係を改善する試みだ。
 東京都世田谷区は7月、いじめなどの通報と相談を受ける第三者機関をつくる。ここでも、調査員が当事者の間に入って双方の代弁者となり、話し合いを橋渡しする役割がうたわれているのは注目される。
 山口県下関市の「ガイダンスアドバイザー」も、外から学校を支える試みだ。数人の元教員や元警察官が学校を回り、目についたことを管理職や生徒指導の主任に伝えている。
 大津の報告書は、事件のあった中学校は道徳教育のモデル校だったとして、「道徳教育の限界も認識すべきだ」と記した。
 心の教育は大切だが、いま現場が求めているのは精神論より具体策だろう。
 いじめに気づき、早めに手を打てる確率を高める。そのために必要なマンパワーを手当てする。そこに力を注ぐべきだ。

歩道橋判決―混雑警備に残した教訓


 兵庫県明石市で2001年7月、大勢の花火見物客が、混雑した歩道橋で折り重なるように倒れ込み、11人が亡くなった。
 検察審査会の議決によって、当時の明石署副署長が強制起訴された。だが、神戸地裁は「免訴」を言いわたした。
 この事件で神戸地検は、現場で警備を指揮していた明石署の地域官や明石市部長ら5人を起訴したが、署長(07年死亡)と副署長は不起訴にした。
 地域官の裁判では事故当日の過失だけが問われ、地検は警備計画をつくった段階の責任は不問にした。
 検察の不起訴の判断に誤りがないかを、市民がチェックするのが検察審査会だ。「起訴相当」を2度議決すれば強制的に起訴する制度ができて、この事件が最初のケースとなった。
 10年春の強制起訴で始まったこの裁判の特徴は、警備計画段階にさかのぼって責任を追及したことだ。法廷で初めて明らかになった事実も少なくない。
 だれが歩道橋の通行規制の必要性を判断するのか。主催者の市側と警察の連絡態勢は心もとないものだった。現場での警察官の具体的な行動計画も定められていなかった。
 判決は副署長の刑事責任に言及してこう指摘した。
 署内で監視カメラの映像をモニターで見ていたが、透明な歩道橋の側壁が熱気で曇ってよく見えず、規制の必要があるという現場からの報告はなかった。警備計画も不十分だったが、それは署長が適正に権限を行使しなかったからだ――。
 副署長には「過失なし」の結論ではあるが、モニターが見づらければ、現場と連絡して実態を把握できたはずだ。警備計画が不十分なら、署長に進言できる立場でもあった。
 強制起訴の結果、警察の責任を幅広く見つめ直すことができ、事故から10年以上をへてようやく問題の背景を浮き彫りにできたのが、この裁判だった。
 安全と命を優先するには何をすべきなのか。警察の使命を考えると、混雑時の警備について多くの教訓を残したといえる。
 見逃せないのは検察の対応である。地検は当初、署長の刑事責任も追及するはずだったが、高検などとの協議をへて起訴を見送った。
 だが、地域官の刑事裁判や遺族が起こした民事裁判では、不十分な警備態勢にふれて、その責任のかなりの部分が署長にあると言及する判決が続いた。
 署長の存命中に司法の場に持ち込まれていれば、事件の全容がもっとはっきりしただろう。

混合診療 適用拡大が患者の利益になる


 先進的で効果のある治療であるなら、誰でも受けたい。患者の立場で、保険医療制度を改善していくべきだろう。

 政府の規制改革会議が「混合診療」の適用範囲の拡大を検討課題に掲げた。

 混合診療とは、公的医療保険で認められた検査や投薬とともに、保険が適用されていない治療法を併用することだ。現在は例外的にしか認められていない。

 その対象は、高度がん放射線療法の重粒子線治療や、家族性アルツハイマー病の遺伝子診断など、厚生労働省が指定した約100種類にとどまる。

 指定外で未承認の新しい治療を受けると、本来は保険が適用される検査や入院費用も含め全額が自己負担となってしまう。

 がんや難病の患者が最先端治療に希望を託したくても、経済的理由であきらめざるを得ないケースもあるのが現状だ。

 規制改革会議が混合診療の見直しを検討課題に挙げたのは、医療分野の規制緩和を成長戦略の一環と位置付けているからだ。

 再生医療を含む先進的な医療技術全般に混合診療の適用範囲を拡大するのは妥当と言えよう。

 自民党は昨年の衆院選の公約で、患者の利益にかなう最先端の薬や医療機器、治療法の迅速な導入を掲げた。混合診療の見直しは公約を具体化する一歩となる。

 政府が先進的な医療を後押しする姿勢を明確に打ち出すことで、医師が新しい医療技術に積極的に取り組む効果が期待できる。

 ただし、混合診療を野放図に拡大するわけにはいかない。

 厚労省は一貫して混合診療を原則禁止としてきた。科学的根拠のない治療を助長する恐れがあるという理由からだ。

 最高裁も2011年、この政策を追認した。未承認の新治療を受けていたがん患者が国を相手取った訴訟の判決で、「医療の質の確保や財源面の制約を考えると適法」との判断を示した。

 「安全性や有効性を脅かす医療行為を抑止する意味がある」とも指摘している。

 確かに、混合診療を無制限に認めると、高額なうえに効果が実証されていない危険な薬や治療が横行することが懸念される。

 最高裁判決の趣旨からも、何らかの歯止めは必要である。

 混合診療の対象は、海外で効果が確認された薬や治療法のほか、国内の医学会などが認めた医療技術に限定するのも有効な方法ではないだろうか。

3人死刑執行 凶悪犯罪の抑止につなげたい


 3人の死刑囚に対する刑が21日、執行された。昨年12月に発足した安倍政権の下で、初めての執行である。

 就任2か月で執行を命じた谷垣法相は、執行後の記者会見で「法の精神を無視するわけにはいかない」と述べた。死刑確定から6か月以内に刑を執行しなければならないと定めた刑事訴訟法を重視した発言だ。

 法相に課せられた重い職責を、粛々と遂行していく姿勢を示したと言える。

 民主党政権では、死刑の執行が少なく、約1年8か月にわたり途絶えた時期もあった。死刑制度に批判的な法相の就任が続いたためだ。その結果、確定死刑囚は今回の執行前で、戦後最多の137人に上っていた。

 死刑制度については、国際的には維持する国より、廃止か停止した国の方が多い。

 一方、日本では、内閣府の世論調査で死刑容認が85%を占めている。谷垣法相が「制度を現時点で見直す必要はない」と語ったのも国民感情を踏まえたものだ。

 国民が参加する裁判員裁判で死刑判決が出されるようになり、既に3人の死刑が確定している。そんな現状も考慮すれば、確定判決を精査した上で、厳正に制度を運用していくことが求められる。

 今回、刑が執行されたのは、2004年に奈良県で女児を誘拐し殺害した男や、08年に茨城県のJR常磐線荒川沖駅などで9人を殺傷した男らだ。

 いずれも、社会を震撼させた、卑劣かつ残虐な犯罪だ。被害者・遺族が受けた傷は大きく、処罰感情も厳しいものがある。

 奈良の誘拐殺人事件では、帰宅途中の小学1年の女児をわいせつ目的で連れ去り、遺体の写真を女児の母親にメール送信するなど、悪質性が際立っていた。

 殺害した被害者が1人であっても、凶悪な性犯罪では極刑を免れないという厳罰化の流れが明確に示されたケースだろう。

 奈良の事件は、死刑囚に性犯罪歴があったことから、再犯対策の検討を迫る契機となった。

 法務省は、子供に対する性犯罪の前歴者について、出所後の居住地情報を警察庁に提供するようになった。刑務所では性犯罪者に再犯防止プログラムを受講させ、感情をコントロールする方法を身に着けさせている。

 しかし、性犯罪の被害は後を絶たない。死刑執行は、凶悪犯罪の抑止が目的の一つであることを改めて考えたい。

2013年2月21日木曜日

日銀外債購入―「影の介入」と疑われる


 安倍首相が国会答弁で、金融緩和の一環として日銀の外債購入に言及した。円安誘導に効くとされる手法である。
 先週末に開かれた主要20カ国・地域(G20)会合をどう受けとめているのだろうか。
 G20では、円安の加速を諸外国が強く警戒している現実が浮き彫りになった。
 「円安誘導だ」と日本が名指しで批判される事態は避けられたが、それが自民党の選挙公約に掲げた「強力な通貨外交」の勝利だと映っているとしたら、認識が甘すぎる。
 さすがに翌日には麻生財務相が外債購入の意向を否定した。首相も金融緩和の手段についての発言は控えると述べ、外債購入には慎重な姿勢に転じた。当然だろう。
 首相の日ごろの発言は、目先の相場を意識しすぎている印象が拭えない。これでは日本の通貨政策の姿勢が疑われる。
 日銀の外債購入は財務省による為替介入と実質的に同じだ。
 介入では、財務省が短期証券で日銀から円を借り、外為市場でドルを買う。入手したドル資金は米国債などで保有する。
 日銀の外債購入では、日銀が自らの円資金をドルに替えて買う。日銀総裁の有力候補である岩田一政・元日銀副総裁らが提案してきた。
 日銀の資産規模が増えるので緩和といわれるが、国内経済への影響は不透明で、むしろ為替市場への影響が大きい。
 「通貨安競争を回避する」「金融政策は国内の物価安定や景気回復に向けられるべきだ」というG20声明への挑戦と見なされるのは必至だ。
 この際、日銀の外債購入や選挙公約にある官民協調の外債購入ファンドなど、円安誘導と疑われるものはきっぱり放棄すると表明してはどうか。「影の為替介入」と呼ばれるのが関の山だからだ。
 現行制度では、対外的な介入は財務省、物価安定など国内での通貨価値の維持は日銀、という役割分担になっている。
 この分担は絶対的なものではないが、今、わざわざ介入と紛らわしい手だてを打つ必要があるとも思えない。
 日本はリーマン危機や欧州危機で急激に円高が進んだ際には介入に踏み切った。それでも、介入で得たドル資金はユーロの安定や国際通貨基金(IMF)の安全網のために拠出し、国際通貨秩序の安定に貢献する姿勢を貫いてきた。
 このようにして培った信用を、首相自らが軽率な発言で無にしてはならない。

再生医療―治療への法規制が要る


 事故で切れた神経を再びつないだり、がんで失った臓器を取り戻したりできたら――。からだの組織を再生させて病気やけがを治そうという再生医療は、現在の医療では快復が望めない患者やその家族から、熱い期待を集めている。
 血液関係など一部を除き、まだ動物実験の段階だが、安倍政権の緊急経済対策も研究の加速をうたう。山中伸弥・京都大教授の開発したiPS細胞(人工多能性幹細胞)など、幹細胞と呼ばれる特殊な細胞を使うのが代表的な手法だ。
 その再生医療の安全さを確保して実用化を進めるには、一定の法規制が必要だ。
 現在、厚生労働省の専門委員会が議論している。一番の狙いは、街の病院や診療所など一般の医療機関が先行して始めている「細胞を使った医療行為」にも守るべきルールを定め、健全さを保つことだ。
 大学などの研究機関が幹細胞をヒトで試す場合(臨床研究)は厚労省の指針があり、国の承認なしには実施できない。
 ところが一般の医療機関が、治療の名の下に患者本人の幹細胞などを使う場合は、医師の裁量に任されて実態も不明だ。
 そこで、研究か治療かによる違いをなくし、どちらもリスクに応じた手続きを法で義務づける考えが話しあわれている。
 iPS細胞を使うなど安全性が確かめられていない高リスクのものは、事前にしっかりした施設外の倫理委員会と国の承認を求める。一方、ヒトで実績が積まれてリスクが低いものは、施設内倫理委員会の了承と国への届け出でよしとするなど、区分けしようという案だ。
 再生医療はまだ手探りの段階で、どんな幹細胞を患者のどこにどのくらい注入するか、単独か薬剤と一緒かなど、やり方が無数に考えられる。多くの試行錯誤から、有望な方向を早く見つけることが大切だ。一般医療機関もふくめ、年1回の結果報告を法で義務づけて情報を集めれば効率がいいだろう。
 患者や家族が医療機関を選ぶのを助けるため、どこがどんな再生医療を試み、成績はどうか公開する案もある。
 欧米や韓国はすでに何らかの法規制をかけている。
 日本では、あたかも確立した医療かのように宣伝して患者を集めるクリニックなどがある。自由診療なので何百万円も請求された例や、因果関係は不明だが患者が死亡した例もある。
 いい加減な医療行為を締め出し、安全な再生医療を実現する仕組みが要る。

民主衆院選総括 自己批判を再建に生かせるか


 まさに自己批判のオンパレードである。政党の公式文書としては異色だが、問題は、これを党再建にどう生かすかだ。

 民主党は全国幹事長会議で、衆院選の惨敗や3年3か月余の政権運営を総括する「党改革創生案」を了承した。24日の党大会で正式決定する。

 衆院選の敗因については、名指しを避けながら、鳩山元首相による米軍普天間飛行場移設問題の迷走、菅元首相の「消費税発言」、野田前首相の衆院解散時期の見定めを例に挙げて、「トップによる失敗の連鎖」を指摘した。

 小沢一郎元代表らの離党で「党内を治めることさえできない集団に国家の舵
かじ
取りを任せられない」と国民に見られたとも認めた。

 いずれも当然の指摘である。特に、鳩山、菅、小沢3氏のトロイカの罪は重い。民主党が歴史的大敗から立ち直り、自民党の対抗勢力として復活するには、過去の過ちを徹底的に検証し、真剣に反省する作業が欠かせない。

 執行部の責任に加え、党全体の統治能力の欠如も見逃せない。官僚との意思疎通不足、まとまりのない党運営、決定事項を守るルールの緩み、政権を支える意識の希薄さ……。改革創生案が列挙した課題は、どれも的を射ている。

 問題なのは、与党時代に、こうした批判を再三受けながら、何ら有効な対策を取らないまま、「親小沢対反小沢」といった党内抗争に明け暮れていたことだ。

 改革創生案は、衆院選総括を踏まえ、7項目の提言をしている。「改革政党の旗を掲げ、実行に向けまい進する」「広く国民の声を聞き、専門家の知見を活用しつつ発信を強化する」などだ。

 夏の参院選に向けて最も肝心な提言が抽象的な内容にとどまり、物足りないのは残念である。

 試行錯誤を続けた党の意思決定システムや政策調査会の位置づけなどの制度改革については、早急に結論を出す必要がある。

 「与党の政策に対する対案をまとめて、創造的野党の役割を果たす」と提言する以上、政権党の経験を踏まえて、「対案路線」を徹底することも重要だ。

 民主党は今、参院第1党として衆参ねじれ国会の下、政治を前に動かす責任の一端を担っている。健全な野党として、安倍政権の政策をしっかり点検し、適切な注文をつけることは、国政に緊張感を持たせる効果を持つ。

 一方で、国益に資する政策には協力を厭わないことが、有権者の信頼回復を図る一歩となろう。

明石歩道橋事故 強制起訴の課題示す免訴判決


 雑踏警備の監督責任者に刑罰を科すことを求めてきた遺族にとっては、厳しい結論だ。

 2001年7月、花火大会の見物客11人が死亡した兵庫県明石市の歩道橋事故で、神戸地裁は、強制起訴された明石署元副署長に「免訴」を言い渡した。

 裁判を打ち切り、元副署長を事実上、無罪とする判決である。

 元副署長は、警備の現場責任者だった明石署の元地域官(実刑確定)と共犯関係にあったとして、検察審査会の議決により、業務上過失致死傷罪で強制起訴された。09年導入の強制起訴制度が適用となった初めてのケースだった。

 判決は、強制起訴された10年4月の時点で、時効(5年)が成立していたと判断した。時効が成立していれば、免訴とするしか選択肢はなかったと言える。

 検察官役の指定弁護士は、「共犯関係にある元地域官は当時、公判中だったため、刑事訴訟法の規定により、元副署長の時効は成立していない」と主張していた。

 これに対し、判決はまず元副署長の過失を否定した。「現場から歩道橋への流入規制要請はなく、署内のモニターでも危険は察知できなかった」との理由からだ。

 その上で、過失がない以上、元地域官との共犯関係も存在しない、として時効成立を認めた。

 しかし、刑事責任は別としても、被害の甚大さから見て、警察の警備や安全対策に落ち度があったことは間違いない。判決も「署長の補佐役である副署長の権限行使は不十分だった」と批判し、警備計画の不備も指摘した。

 事故後、警察庁は、雑踏警備の指導責任者を新たに置くよう全国の警察に通達を出した。再発防止の徹底が何より重要である。

 強制起訴は全国で7件あり、1審判決は今回で4件目だった。これまでに有罪判決は、徳島県石井町の町長の1件のみだ。

 今回の裁判も含め、共通した問題点は、指定弁護士にかかる過度な負担だろう。検察が不起訴とした事件で、有罪を得る証拠を集めるのは容易でない。検察事務官に証拠分析などを補佐させる仕組みを検討すべきではないか。

 一般市民が務める検察審委員に対しては、法律的助言が大切だ。時効がポイントとなった今回のような場合は、なおさらである。助言するのが審査補助員の弁護士1人だけでは十分とは言えまい。

 強制起訴制度を根付かせるには、裁判例を検証し、課題を改善していくことが欠かせない。

2013年2月20日水曜日

原発推進派―規制委批判のピンぼけ


 自民党やメディアの一部から原子力規制委員会に対する批判が急速に高まっている。

 原発敷地内の活断層評価や安全基準づくりで「公正さに欠ける」という。批判の出どころは、もっぱら原発の再稼働を急ぐ人たちだ。

 やれやれ、である。規制委の創設にあたって「独立性を高めよ」と強く主張したのは自民党だ。脱原発に動く民主党政権の影響力を排除するためだった。

 ところが、実際に動き始めた規制委は、科学的な見地に判断基準を絞り込み、厳格な姿勢を貫いている。

 原発推進派からすれば、計算外だった。これでは再稼働がままならない。そんな危機感が、規制委攻撃につながっているとしか思えない。

 批判の中身が薄いことからもそれは読み取れる。

 例えば、「人選や評価に偏りがある」という批判だ。評価会合の専門委員は活断層学会など関連する学会の推薦を受けている。公開原則のもと、科学者同士が議論を続けている。

 学者によって判断には幅があるが、学会側から結果に対する異論が相次いでいるわけでもない。何をもって「偏り」というのだろう。

 「経済への影響を無視している」も、おかしい。福島の原発事故は、経済性を重んじるあまり安全規制の手を抜いてきた原発行政の延長線上で起きた。

 経済の問題それ自体は重要だが、別途、対策を講じるべきであり、規制委に「手を緩めろ」と求めるのはお門違いだ。

 むろん規制委に課題は少なくない。ことに事務局である原子力規制庁のあり方だ。

 職員の多くは旧原子力安全・保安院や文部科学省からの横滑り。前審議官が電力会社に事前に報告書案を見せるなど、従来の考え方や行政手法がしみついている面が多々ある。

 真に独立性・中立性を確保するには、職員の採用や人事、予算の面でも、より自由度をもたせるべきかもしれない。組織の改善に向けた議論は必要だ。

 そもそも、田中俊一委員長は脱原発派から「原子力ムラの住人」と指弾されてきた。原子力の役割を重視しているのも確かだ。「将来的に原発をゼロにすべきだ」とする朝日新聞の社説とは立場が違う。

 ただ、規制委は少なくとも事故の反省にたち、信頼回復の第一歩として厳格に原子力と向きあっている。そんな専門家たちの営みを、原発推進派がつぶそうとしている。

 なんとも不思議な光景だ。

竹島の日―政務官派遣は再考を


 安倍政権が、22日の「竹島の日」記念式典(島根県主催)に、島尻安伊子内閣府政務官の派遣を検討している。

 ここは、再考を求める。

 安倍首相は、日韓関係の大局にたって、派遣を見送る決断をすべきだ。

 式典の3日後には、韓国の朴槿恵(パククネ)次期大統領の就任式が予定されている。竹島問題などで冷え込んだ日韓関係の修復を考えれば、初めからつまずくのは得策ではない。

 首相に冷静な判断を望む。

 竹島の日は、1905年2月22日に島根県が竹島の編入を宣言したことから、同県が100年後の05年に条例で制定した。

 一方、1905年は日本が韓国併合への道筋を開いた年であり、韓国は竹島を日本の植民地支配の象徴ととらえている。

 県は式典に首相らの出席を求めていたが、政府は韓国側に配慮して首相や閣僚の出席を見送った。その一方で政務官を出すというのは、何ともちぐはぐな対応である。

 この問題で、首相はこれまで慎重な姿勢をとってきた。

 自民党の衆院選政策集は、竹島の日について政府主催の式典開催を明記していたが、今年は見送った。

 日中韓の指導者の交代期となっており、近隣外交を仕切り直すチャンスととらえての現実的な判断だろう。

 この路線を踏み外すべきではない。

 たまたま22日には初の日米首脳会談がワシントンで開かれるが、米政府も日韓関係の改善を期待している。

 北朝鮮が3度目の核実験を強行し、日米韓が連携を深める必要性が高まっている。ところが日米韓の「三角形」の一辺をなす日韓の安保協力が進まないのでは、相手に足元を見られるばかりだ。

 日韓関係がぎくしゃくしたままでは、対中国の外交戦略も描きにくい。

 韓国政府も、互いの政権交代を機に日韓関係を前進させたい思いは同じだろう。

 首相としては、記念式典に政府が関与することで、地元や支持者の期待に応えたい気持ちがあるのかもしれない。

 だが、それが日韓関係をこじらせる恐れがあるなら、その利害得失を冷徹に判断しなければならない。

 竹島問題については、日本の立場を韓国側に引き続き粘り強く説明していくしかない。

 こじれた日韓関係の打開に資するか否か。まずは、その観点から考えるべきである。

国会同意人事 事前報道ルール撤廃は当然だ


 様々な混乱を招いてきた国会同意人事のルールがようやく見直された。国会は、日本銀行総裁など重要ポストを選任するための手続きを着実に進めなければならない。

 政府の国会同意人事案が事前に報道された場合、原則として国会への提示を認めないとする「事前報道ルール」について、与野党が撤廃することで合意した。

 2007年の導入以来、野党が政府を揺さぶる手段としてきた無用で有害なルールを廃止したのは当然である。政府の人事案の可否は本来、候補の能力や識見で判断すべきであり、報道を理由とした門前払いは筋違いだ。

 民主党は与党当時、ルールの撤廃を主張していた。ところが、今回、公正取引委員長に杉本和行元財務次官を充てる人事案について事前報道を理由に提示を一時拒否した。政治不信を増幅する浅慮と言うほかない。

 与野党は新たな合意で、政府に人事案の「情報管理の徹底」を求めた。事前報道があれば、提示後、政府に情報漏えいの調査と、国会への報告を求めるとしている。

 だが、国民の関心が高い人事案の場合、報道機関が独自に取材し、事前に報じることは十分あり得る。それを規制する狙いがあるとすれば、大きな問題である。

 国会同意が必要なポストは、全部で36機関の253人に上る。

 衆参ねじれ国会の下、民主党政権が人選に手間取ったこともあって、多くの人事が停滞し、国政に支障を来している。

 例えば、公取委員長の空席は昨年9月から続いている。会計検査院の院長も不在で、総合科学技術会議は7人の有識者議員のうち4人が欠けている。

 与野党は、新たな合意に基づき、こうした人事案の円滑な処理に努めねばならない。

 国会同意人事については、事前報道ルール以外にも多くの問題点が指摘されている。

 参院の同意が得られない場合、政府は衆院の同意だけで人事を発令できるとする「衆院の優越」規定が、かつて一部のポストにあった。しかし、参院側の要請などで次々と廃止された。

 後任者が未定の場合、任期が満了しても職務を継続できる規定もあるが、一部に限られる。

 同意の議決に先立ち、所信を聴取する対象者を拡大するかどうかも検討課題となろう。

 与野党は、今回の合意にとどめず、同意人事のあり方について一層の改善を図るべきである。

石炭火力発電 技術開発テコに活用続けたい


 エネルギー資源を海外に依存している日本は、安価な電力を安定的に確保する必要がある。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、大半の原発が停止している。発電コストが安く、石油などより燃料の調達先が多様な石炭火力発電に改めて注目したい。

 東電は経営再建の一環として、他社が新設する石炭火力発電所から電力調達を目指している。

 経済産業省がこの計画を支持しているのに対し、石原環境相が難色を示すなど、政府内で評価が分かれている。これでは、民間事業者は安心して石炭火力発電所の新設に乗り出せまい。

 原発の新増設が難しい現状を踏まえ、政府は石炭火力の活用を続ける方針を打ち出すべきだ。

 石炭火力の最大の利点は、低コストにある。政府の有識者会議の試算では、石炭火力の発電コストは、1キロ・ワット時あたり9・5円で、LNG火力の10・7円や石油火力の22・1円より安い。

 一方、石炭火力は温室効果ガスの排出が多い欠点がある。二酸化炭素(CO2)の排出量はLNG火力の約2倍だ。

 石炭火力でCO2発生を抑制する技術は進歩している。弱点をいかにカバーするかが問われる。

 環境省はこれまで地球温暖化対策を理由に、環境影響評価(アセスメント)で石炭火力の新設にブレーキをかけてきた。

 2006年にオリックスと東芝が、10年には日本化成などが「CO2の排出量が多い」として計画の見直しを迫られ、発電所建設が断念に追い込まれた。この10年、新設が認められた例はない。

 許容されるCO2排出量に明確な基準がなく、環境省が恣意
しい
的にストップをかけるのは問題だと指摘する声もある。

 政府の規制改革会議が先週、石炭火力の新設要件の緩和・明確化を、検討テーマとする方針を示したのは妥当だ。発電所の開発を事実上、阻んできた規制の見直しを急いでもらいたい。

 日本は、電力の安定供給と温暖化対策の両立が課題だ。原発事故で、この目標のハードルは一段と高くなった。安全を確認できた原発を活用するとともに、石炭火力を含め、電源の多様性を維持することが重要である。

 中国やインドなど新興国には効率の悪い石炭火力発電所が多い。日本が新興国に、高性能の石炭火力発電設備を普及させることは、地球環境問題への有益な貢献のあり方の一つと言えよう。

2013年2月19日火曜日

原発政策―課題を先送りするな


 朝日新聞の世論調査で、原発の今後について尋ねたところ、「やめる」と答えた人が計7割にのぼった。
 「すぐにやめる」「2030年より前にやめる」「30年代にやめる」「30年代より後にやめる」「やめない」という五つの選択肢から選んでもらった。
 全体の6割は30年代までに国内で原子力による発電がなくなることを望んでおり、「やめない」は18%にとどまる。
 政権交代を経ても、原発への国民の意識は変わっていないことが確認されたといえよう。
 気になるのは、政治の場から原発に依存しない社会に向けて議論を深めようという機運が失せていることだ。
 安倍政権も「脱原発依存」を掲げている。実際には、民主党政権が決めた「原発ゼロ政策」の見直しを表明するなど、巻き戻しの意図が濃厚だが、何をどう見直すかについてはあいまいにしている。
 当面、新たな安全基準や活断層評価などを進める原子力規制委員会の動向を見守る姿勢を示すのは、「参院選まではじっとしている」戦略なのだろう。
 国会でも、原発政策をめぐる論戦は低調なままだ。
 原発政策の転換は、経済や社会に大きな影響を与える。
 だからこそ政策変更に伴って生じる負の側面をできるだけ軽減し、新たな成長や構造転換のきっかけとするよう、周到な準備と合意形成に向けた取り組みが不可欠だ。
 例えば、規制委による審査の厳格化で、廃炉になる可能性が高い原発や再稼働までに時間のかかる原発が増えることが確実視されている。
 廃炉までの段取りをどう進めるのか。地元経済や電力安定供給への影響をどう軽減するか。使用済み燃料や放射性廃棄物の保管をどうするか。
 どれも、待ったなしの課題である。政府が課題を洗い出したうえで、国会で議論を始めるべきだ。
 国会には先月末、原子力問題調査特別委員会が設置された。規制当局が「原子力ムラ」にとりこまれないよう、国民の目で監視するべきだとする国会事故調査委員会の提言でできた。
 その趣旨を踏まえたうえで、もっと広く脱原発依存に向けた政策全体を議論する場にしてはどうだろう。
 昨夏の「国民的議論」のように、市民自身による議論の場を設けるのも一案だ。
 政治が面倒なことから逃げ、課題を先送りすれば、後の混乱が大きくなるだけである。

干拓地の水門―「諫早会議」で解決を


 九州北部、諫早湾干拓地の排水門は、裁判で決まった開門の期限を12月に迎える。
 いさかいの海にしてはいけない。対立する漁業者と農業者は対話の円卓に着き、科学的データをもとに話しあってほしい。
 政府と長崎県は対話の環境作りに努めるべきである。
 ここにいたる大きな節目は、沿岸の漁業者らが有明海の水質悪化をとめるため、排水門を開けるよう求めた訴訟だった。
 福岡高裁は10年12月、水産物への被害を認め「3年間の猶予の後、5年間の常時開門」を命じた。当時の菅直人首相が政治決断をして国の上告をやめ、判決は確定した。
 しかし、干拓農地を所有する長崎県農業振興公社と農業者らは翌11年4月、国に開門差し止めを求める訴訟を長崎地裁におこして対抗した。
 干拓地で農業をしている人たちは、開門すれば堤防の内側にある淡水の調整池に海水が入って農業用水に使えなくなる、と反対してきた。
 農水省は海水淡水化の大規模な施設の建設を13年度予算案に入れた。だが今も、長崎県や営農者は開門に反対している。
 戦後の食糧難から計画を進めた長崎県はこだわりがある。農家も、県から勧められてここで耕作しているのに話が違うと、戸惑いが大きいだろう。
 それでも、福岡高裁判決で開門が確定していることは、動かしようがない。
 林芳正農水相は、昨年暮れの政権交代で就任した後、初めて長崎県の中村法道知事らと意見を交換した。
 開門に反対する知事らに、農水相は「国は判決によって開門義務を負っている」と話した。
 政府は法治国家として、確定判決を実行する義務がある。それを農水相も踏まえている。
 だが、気がかりな発言もあった。民主党政権の上告断念について「なんであんなことをしたのか」と疑問を口にした。政府に属する立場を考えれば、不要な言葉ではなかったか。
 このまま開門の期限を迎えれば、漁業者側は強制執行の申し立ても考えると言っている。ますます対立が激しくなる。
 海にくらす漁業者、農地を心配する営農者、県のこだわり、政権交代した政府……。事態はとても入り組んでいる。
 これを調整するのは政治の役割だ。政府は、関係者が自分の言葉で話しあい、有識者が助言できる場を設けるべきだ。信頼を育て、合意を形成できれば、その努力は「諫早会議」として民主主義の手本になるだろう。

東通原発 規制委の評価は公正さを欠く


 原子力発電所を再稼働させないことを前提とした評価ではないのか、と疑わざるを得ない。

 青森県の東北電力東通原発敷地内の断層を調査していた原子力規制委員会の専門家チームが、「過去11万年以内に動いた活断層の可能性が高い」との評価報告書案をまとめた。

 さらに、原子炉建屋真下の短い断層についても「更なる検討が必要」と、活動する可能性を否定しなかった。本当に活断層として重視すべきかどうか、議論が割れるところだろう。

 原発の安全基準では活断層の真上に重要施設は建てられない。東北電力は東通原発を2015年夏に再稼働させる目標を掲げてきたが、規制委が評価結果を変えない限り、再稼働は難しい。

 すでに東北電力は電気料金値上げを政府に申請している。再稼働できないと、追加値上げは避けられまい。東日本大震災からの復興に響くことが懸念される。

 難題は、専門家チームが敷地内だけでなく、東通原発がある下北半島を含め幅広い再調査を指示したことだ。広域に地盤が動いた結果、敷地内に縦横に走る活断層が生じたと判断したためだ。

 専門家チームとして「活断層である可能性を否定するデータが必要だ」と東北電力に求めている。事実上、「100%活断層なし」の証明を課したことになる。

 5人の専門家チームを統括する規制委の島崎邦彦委員の考えを反映している。他の4人も含め、人選に偏りがないのか。

 そもそも、今の地震学の水準では不可能な要求と言える。しかも専門家チームは活断層であったとしても活動度は低い、と評価している。原発の耐震性が十分かどうかを評価する方が現実的だ。

 実際、規制委が策定中の原発の新安全基準でも、活断層の完全な把握は困難であることが前提になっている。活断層が見つからなくても、活断層の存在を仮定し、必要な耐震強度を決める手順だ。

 専門家チームの評価作業も、公正さを欠いている。

 報告書案の内容は、これを決めた評価会合当日まで東北電力に知らされなかった。専門家チームから厳しい指摘があっても、東北電力が反論できるはずがない。

 手順を踏んで事前に報告書案を送付し、適切なデータに基づいて論議した方が、原発の安全性向上には有益なのではないか。

 規制委は今後、最大8か所の原発で断層評価を進める。評価手法の再考が必要である。

米航空大手合併 世界の空を競う新時代の到来


 10年以上にわたる米航空業界の合従連衡に、大きな区切りがついた。米3強が、アジアなど世界の空を主導する新たな競争時代の到来だ。

 航空世界4位のアメリカン航空と11位のUSエアウェイズが今秋に合併することで合意した。1位と2位だった米ユナイテッド航空と米デルタ航空を抜き、世界最大の航空会社になる。

 業務効率化や顧客基盤の拡大で国際競争を生き残ろうと、両社の思惑が一致した結果と言える。

 2001年の米同時テロ以降、米航空大手は、景気悪化や燃料費高騰、格安航空会社の攻勢などでドミノ倒しのように破綻した。

 その後はデルタとノースウエスト航空、ユナイテッドとコンチネンタル航空など、破綻を経た大手間の統合が繰り返された。

 今回の合併も「再生の方程式」に活路を見いだす動きだ。

 アメリカンは11年秋、コスト削減の遅れなどから、米連邦破産法の適用を申請し、経営破綻した。自力再建が軌道に乗らない苦境が今も続いている。

 一方、02年と04年に2度の経営破綻を経験したUSエアは、規模ではアメリカンに劣るものの、最近の経営は比較的順調だった。

 米国内偏重からの脱却を狙い、USエアは強固な国際線網を持つアメリカンとの補完関係に期待して合併を図ったのだろう。

 今後の焦点は、いかに迅速にコスト削減などの合併効果を発揮できるか、である。

 新会社は、成長著しいアジア市場などの攻略を目指す構えだ。米3強が軸になり、世界競争が一段と激化するに違いない。

 世界には、共同運航やマイレージ共有などで提携する三つの航空会社連合がある。所属が異なるアメリカンとUSエアの合併は、連合を超えた世界再編の引き金になる可能性も秘めている。

 経営規模が小さい全日本空輸と日本航空の国内2社は、危機感を強めなければならない。一層のコスト削減やサービス充実で、競争力を高めてほしい。

 ただ、両社が次世代の主力機と位置付けるボーイング787がトラブルで運航停止に追い込まれている。その影響が懸念される。

 複雑な電子システムや日米欧にまたがる開発体制が支障となって原因究明は進まず、1か月が経過しても運航のめどが立たない。

 長期化すれば、787導入を前提とした両社の経営計画見直しは必至だ。日米当局は協力して原因究明を急いでもらいたい。

2013年2月18日月曜日

高齢者と火災―在宅化を進めるのなら


 長崎市の認知症高齢者向けグループホームの火災で、4人が亡くなった。原因を究明し、対策を講じることが不可欠だ。
 ただ、高齢ニッポンで火災の被害者を減らすには、お年寄りの施設にだけ注意を払っても効果は限られる。
 犠牲者で目立つのは、在宅のお年寄りだからだ。
 2011年の調査では、火災による死者(放火自殺を除く)のうち65歳以上は860人で、6割以上を占める。このうち711人が住宅で亡くなった。10年前から200人の増加だ。
 かつては、年をとり心身が衰えると病院や施設に入るのが普通だった。
 消防法も、病院や高齢者施設に、用途や面積によって様々な防火や消火の備えを義務づけてきた。
 一方、戸建て住宅の防火は、基本的に「自己責任」とされ、火災警報器の設置以外に規制はほとんどない。
 しかし、施設に入らず、自宅で一人か、夫婦2人で暮らす高齢者は今後、大幅に増える。
 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の一人暮らしと老夫婦だけの世帯をあわせた数は、10年の1038万から35年には1388万へと増加し、うち75歳以上が6割を占めるようになる。
 しかも、サービス付き高齢者向け住宅のように、施設と住宅の中間的な位置づけとなる形態も広がっている。
 どんな住まいに、どこまで厳しく防火を求めるのか、消防当局も対応に苦慮しているのが実情である。
 住みなれた自分の家で安全に暮らし続けるには何が必要か。まずは一人ひとりが備えを考えたい。
 スプリンクラーを設置できれば効果は大きい。個人で取り付けるのがコスト面などから難しいなら、安全装置のついた暖房・調理器具、燃えにくい衣類やカーテンなどに切り替えるところから始めてはどうか。
 火が出たときに逃げ出しやすいよう、屋内を整理しておく。住民同士の支え合いで、防火・消火や避難の手立てを講じるといったソフト面も大切だ。
 政府が当事者任せでは困る。国は、要介護状態になっても住みなれた地域で人生の最後まで暮らせる社会を目指している。「施設から在宅へ」の流れを推進する以上、防火にも目を配る必要がある。
 「国土強靱(きょうじん)化」のもと、公共事業にばかり目を向けるのではなく、火災に強い住宅づくりにもっと知恵を絞るべきだろう。

五輪レスリング―IOCは透明な議論を


 レスリングが五輪の実施競技から外される危機にある。
 国際オリンピック委員会(IOC)理事会は14人による無記名の投票で、2020年五輪の「中核競技」から外した。
 五輪の肥大化は限界にある。活性化を促すために、新しい競技に門戸を開き、新陳代謝をはかる姿勢には賛成だ。
 しかし多くのアスリートにとって五輪は究極の目標であり、夢だ。その判断には、客観性と透明性が不可欠だ。
 レスリングは吉田沙保里選手らロンドン五輪の日本の金メダル7個のなかで、四つを占める「お家芸」だけに、日本の関係者の失望は大きい。
 古代オリンピックに由来し、1896年の第1回近代五輪から実施された伝統競技だけに、衝撃は世界に広がる。
 IOCは2001年にロゲ会長が就任し、28競技という上限を決めた。活性化のために競技の入れ替えを積極的に進める。
 今回、外れたのがレスリングではなく、危ないとうわさされた近代5種だったら、日本でこれほど関心を呼んだだろうか。メディアは自国のメダル有望種目を中心に伝えるから、人気の濃淡に反映される。それは日本に限らない。
 IOCは欧州が発祥で、今も欧州色が濃い。101人の委員のうち43人が欧州出身で、15人の理事も過半数を占める。
 ロンドン五輪で外れた野球、ソフトボールもそうだが、西欧で不人気な競技は冷遇されやすい傾向がある。スポーツは世界を結ぶ。理事も広い地域から出て、責任を分かつべきだ。
 今回、理事の中にレスリング出身者はいなかった。逆に、最後の投票まで争った近代5種の国際競技連盟の副会長がいて、存続のためのロビー活動をしたことを認めている。
 IOC委員の3割弱は五輪出場経験者で、国際競技連盟の役員も多い。利害関係者を除いて何かを決めるのは非現実的だ。
 ならば、自分の競技だけでなく五輪全体の発展を考える倫理が求められる。そして、運営の透明さがより大切になる。
 今回、IOCは国際性、人気、普及・振興、伝統など39項目の評価基準を定めた。だが、「一部情報が足りない」として8月まで公表しない方針だ。
 これはおかしい。
 何かを決めるとき、その理由はすぐに示されるべきだ。そうでなければ改善も図れない。
 追加競技1枠は、5月の理事会を経て9月の総会で決まる。レスリングの採否もふくめ、透明で公平な選考が大切だ。

通貨安競争 対立の火種を残したG20声明


 自国通貨の為替レートを安く誘導する「通貨安競争」を避けることで、日米欧の先進国と中国など新興国が一致した。

 最近の円安に関し、日本が名指しの批判を回避できた点は評価できるが、対立が再燃する火種を残したと言えよう。

 主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が、モスクワで開かれた。

 安倍政権発足後、大胆な金融緩和と機動的な財政政策を組み合わせた経済政策「アベノミクス」が導入され、急速に円安が進んだことが焦点になった。新興国などから、「円安誘導策ではないか」という指摘が出ていたからだ。

 採択された共同声明は、「通貨の競争的な切り下げを回避する。為替レートを競争力を高める目標にしない」と明記した。懸念された日本への言及はなかった。

 麻生副総理・財務相が円安誘導策を否定し、「デフレからの早期脱却を目指す」という日本の政策目標を説明したことで、一定の理解が得られたようだ。

 ただし、声明は金融政策について、「国内の物価安定や経済回復に当てられるべきだ。負の波及効果を監視して最小化する」と強調した。為替市場などに悪影響を与え過ぎないよう、日本の政策にクギを刺したと解釈できる。

 ブラジル、メキシコなど新興国では、日米欧による金融緩和に伴う過剰な資本流入や、自国通貨高への警戒感が強い。円安がさらに進むと不満が高まりかねない。

 それだけに、政府・日銀はデフレ脱却に向け、アベノミクスの成果を着実に上げる必要がある。

 円安に頼るだけでなく、金融緩和と財政政策と並ぶ「3本の矢」である成長戦略についても、具体化を急がねばならない。

 産業界などでは、最近の円相場は、歴史的な超円高がやや是正されたに過ぎず、まだ相当の円高だという見方が出ている。

 政府・日銀はそうした状況への理解を他国に求めることが大事だが、併せて、閣僚や内閣官房参与らは具体的な為替水準に言及する口先介入を慎むべきだ。

 長期化した欧州危機が最悪期を脱し、米国の「財政の崖」もいったん回避されるなど、世界経済に明るい兆しが出てきた。

 だが、G20声明が「世界の成長はまだ弱すぎる」と指摘したのはもっともだ。成長と財政再建の両立も各国の重い課題である。

 日本はデフレ脱却と経済再生を急ぎ、世界経済の一層の安定に寄与することが期待される。

学校週6日制 学力向上へ土曜を活用したい


 子供たちの学力向上には、授業時間の確保が必要だ。土曜日の活用は有力な選択肢だろう。

 文部科学省が、公立学校で実施されている「学校週5日制」を見直し、土曜日に授業を行う「学校週6日制」の導入に向けた検討を始めた。自民党が先の衆院選で政権公約に掲げていた政策の一つである。

 「脱ゆとり」教育を目指した新学習指導要領が、小学校では2011年度から、中学校では12年度から完全実施され、学習内容や授業時間が大幅に増えた。

 その結果、小学校低学年でも1日に6コマの授業を行う日を設けなければならない。平日の授業の一部を土曜日に移すことで子供の負担を減らし、学習の理解度を高めようとの狙いは理解できる。

 学校週5日制は1980年代に臨時教育審議会が提唱し、日本教職員組合も強く要請して実現された。そもそも、貿易摩擦を背景とした、欧米からの労働時間の短縮要求に応えるため、公務員の週休2日制が先行した経緯がある。

 公立学校では、92年9月から月1回、95年度から月2回と段階的に導入され、2002年度から完全実施されてきた。

 導入の趣旨は、子供が家庭や地域で過ごす時間を増やし、ゆとりの中で社会体験や自然体験をさせる、ということだった。

 だが、そうした目的が達成されているとは言い難い。ゆとり教育による授業時間の減少が、学力低下を招いたとも批判された。

 私立の学校では、土曜日に授業を行うところが多い。週5日制が公私の学力格差の一因になっているとの指摘もある。保護者の間から土曜授業の復活を望む声が高まったのも無理はない。

 問題の一つは、教職員の休日をいかに確保するかである。土曜に出勤した分の休日を夏休みや冬休みにまとめて振り替える仕組みなどを整える必要が出てこよう。

 土曜授業については既に、週5日制の趣旨を踏まえながら、その特例として実施に踏み切る自治体が増えつつある。

 東京都では4割を超える公立の小中学校が、保護者や地域住民に公開する形で年間6日以上、土曜授業を行っている。中には、月に2回実施している学校もある。

 埼玉県や福岡県などでも同様の取り組みが始まっている。

 学校週6日制を全国に拡大するには、こうした実践例をしっかり検証し、土曜授業の実施頻度や方法について、多角的な検討を進めることが大切である。

2013年2月17日日曜日

中小企業金融―本来の役割に本腰を


 中小企業金融円滑化法が3月末で期限切れになる。
 リーマン・ショック後、中小企業の連鎖的な倒産を防ぐために、当時の鳩山内閣が亀井静香金融相の主導で成立させた法律である。
 借り手が返済繰り延べを要請したら、金融機関は応じる努力義務があると定められ、モラトリアム法とも呼ばれた。過去2度延長され、30万~40万社が対象になったとみられる。
 倒産件数が劇的に減るなど、危機の封じ込めに一定の効果はあった。半面、救済企業の経営が改善した例は少ない。もともと苦境にあった不採算企業を温存させ、産業構造の転換を遅らせたとの批判は根強い。
 金融庁は4月以降も返済猶予を続けるよう金融機関を指導する方針だ。たしかに急激な変化は望ましくない。
 しかし、政治が選挙を念頭に倒産の増加を抑え込もうとしているなら論外だ。実質的に不良債権を拡大させることになり、経済の活性化を妨げる。
 成長実現に産業の新陳代謝は避けられない。経済や金融システムへの影響を抑えつつ、展望のない企業は徐々に退出させ、企業の再生・再編や起業を促すことに本腰を入れるべきだ。
 きざしはある。期限切れを控え、金融機関は相次いで企業再生ファンドを設けている。中小企業と地域経済との結びつきを生かした再建のモデルを示せれば、金融機関の業務改革にもつながる。
 金融機関は不良債権処理に追われた時代に借り手企業との距離が広がり、経営支援の能力が落ちた。これを転換する足がかりにしたい。
 規模が小さな企業ほど、財務体質よりは経営者の意欲に業績が左右される。金融機関は新たなビジネスの契機となる情報を提供し、相談に乗って、経営者の再建意欲を支えるという使命を帯びている。
 1社では仕事が完結しない中小企業でも、近隣の企業と連携すれば、独自の製品開発や販路開拓が目指せる。
 たとえば東京都大田区では、行政の音頭取りで地元の病院と企業が医療機器を共同開発し、自動車部品の下請けからの自立を目指す。地元金融機関も参画し、支援や与信のノウハウ強化を図っている。
 大田区のような産業の集積がないのなら、金融機関の横のネットワークを生かすべきだ。
 金融とは単にお金を貸すだけではなく、知恵と情報を組み合わせた総合サービスであることを再認識してほしい。

日本版NSC―首相は教訓生かせるか


 日本の外交・安全保障の司令塔をつくるため、安倍内閣が、有識者による検討を始めた。
 司令塔とは「国家安全保障会議」のことだ。同名の米国の組織にならって「日本版NSC」とも呼ばれる。
 外交・安全保障をめぐる環境は厳しさを増す一方だ。対応できるよう、政府の態勢を整えたいという思いは理解できる。
 しかし、首相は6年前にもこれに取り組み、かなわずに終わっている。教訓を生かし、意味ある仕組みをつくれるか。問われるのはその点である。
 紛らわしいが、「安全保障会議」はいまもある。首相を含む9閣僚で、国防に関する重要事項などを審議している。
 この会議をNSCに改組しようと、第1次安倍内閣は2007年、国会に法案を提出した。9閣僚の会合とは別に、首相、外相、防衛相、官房長官の4人で頻繁に議論を重ね、外交と安全保障に一体的に取り組むことが主な眼目だった。
 この法案は、生煮えの失敗作だったと言わざるを得ない。
 閣僚が話し合う程度なら、わざわざ法律をつくり、新組織を設ける必要があるのか。後継の福田内閣は構想を白紙に戻し、法案は廃案になった。
 そのせいか、首相は今回、情報の重要性を強調している。
 「各部署がとった情報を集めて分析し、首相や官房長官に上げる機関がない。横串をかけた分析能力が劣っているのではないか」。外務省や防衛省、警察庁などが集めた情報を集約し、分析を加えるためにNSCを活用するというのである。
 確かに、北朝鮮の核問題やアルジェリアの人質事件にみられるように、情報力の強化はさし迫った課題だ。
 それは、組織を設ければかなうわけではない。肝心なのはプロ集団の育成である。
 海外での情報収集には、言葉を操り、現地に溶け込む専門家の配置が必要だ。NSCで分析するなら、その能力に秀でているうえ、省益にとらわれない人材をそろえる方法を工夫しなければならない。
 情報力を強めようとすれば、秘密保全が問題になる。簡単に漏れるのでは、他国も情報を教えてはくれない。だが、情報公開に真剣に取り組まず、秘密保全ばかり言うのでは、不都合な事実を隠したいだけだと国民に疑われる。
 情報は鋭利な刃物だ。
 それを扱う組織も、作り方次第で薬にも毒にもなる。首相はどれほどの構想を持っているのか。はっきり語ってほしい。

自賠責保険 合理化努力を値上げの前提に


 ドライバーに負担増を求めるのなら、問題点を洗い出し、透明で合理的な制度に見直す取り組みが欠かせない。

 自動車保有者に加入が義務付けられている自動車損害賠償責任(自賠責)保険の保険料が4月から平均13・5%引き上げられる。2011年度の11・7%アップに続く大幅値上げである。

 収支悪化が引き上げの理由だ。12年度末の累積赤字は5000億円超に達する。08年度に保険料を大幅に値下げして保険料収入が減る一方、交通事故の死傷者への保険金支払いが増加した。

 自賠責の目的は、事故被害者の救済にある。収支を改善しなければ制度を維持できず、保険料の値上げはやむを得まい。

 ただ、交通事故の発生件数と死傷者数が減少し続けているのに、保険金支払いが高止まりしていることが懸念される。

 事故統計に含まれない軽傷者の請求の増加や、損保会社の査定が任意保険に比べて甘くなりがちな事情が背景にあるのだろう。

 自賠責の運営は民間の損保会社が担っている。国土交通省や金融庁などが連携し、保険金支払いが適正に行われているかどうかを検証する体制を整えるべきだ。

 重度後遺障害者の救済事業などに充てるため、保険料の運用益をためた積立金の扱いも問題だ。

 積立金は、国交省が特別会計で管理している。財政難の穴埋めを狙って、積立金のうち約1兆円が1994~95年度に一般会計に繰り入れられた。返済期限は度々延期され、現在も約6000億円が戻されていない。

 積立金の残高は2000億円程度まで減少し、最近は運用益だけでは費用をまかなえず、積立金を取り崩している。

 被害者支援の原資となる積立金の流用は、自賠責の趣旨に合わない。財務省と国交省は、18年度までに全額返済するという約束を確実に実行してもらいたい。

 国、損保会社、JA共済が積立金の運用益で実施している被害者支援や事故防止対策の事業もチェックする必要がある。

 被害者支援は重要だが、ドクターヘリ普及策など3者の重複が目立つ。国が一般会計で手当てすべき事業や損保が社会貢献として行うべき事業も多い。必要性と効率性を精査することが肝要だ。

 事故を回避する自動ブレーキを装備した安全性能の高い車両には保険料を優遇するなど、今後は時代に合わせて全体の制度設計を検討することも求められよう。

桜宮高教諭免職 暴力許す風潮の一掃を急げ


 教育現場から暴力を一掃する契機としたい。

 大阪市立桜宮高校の男子生徒が、所属するバスケットボール部の顧問教諭から暴力を振るわれ自殺した問題で、市教育委員会が教諭を懲戒免職とした。

 教諭が指導者としての適格性を著しく欠いているのは明らかだ。厳しい処分は当然である。

 市教委は、弁護士で構成される外部監察チームがまとめた、暴力と自殺との因果関係を認定する報告書を基に判断した。

 報告書によると、教諭は生徒が自殺する直前、練習試合のプレーを理由に、何度も平手で顔をたたいた。「人前での暴力が肉体的・精神的苦痛を与えた。正当化する余地はない」と指摘している。

 さらに、この教諭が複数の部員に対して恒常的に平手打ちや足蹴りなどの暴力を振るっていた事実も挙げた。報告書が、体罰ではなく暴力という言葉を使っているのは、指導を逸脱した行為だったことを物語っている。

 この教諭は、「生徒への暴力は指導の一環で効果がある」との考えを持っていたという。桜宮高の保護者の中には、この教諭を熱心な指導者と受け止める人もいた。寛大な処分を求める嘆願書も市教委に提出された。

 だが、そうした考え方が、執拗で理不尽な暴力を容認する背景にあることを、教育現場も保護者も重く受け止める必要がある。

 市教委は、2年前に体罰を理由に停職3か月の懲戒処分とされながら、昨年11月に体罰を繰り返した桜宮高男子バレーボール部顧問の教諭を停職6か月とした。

 校長も更迭した。バレーボール部での再度の体罰を把握していながら、市教委に報告しなかったことを重視した措置だ。

 学校の再生には、人事の刷新とともに、教諭が体罰を二度とせぬよう、再発防止の研修を充実させていくことが求められる。

 桜宮高以外にも、全国で部活動に伴う体罰が次々と発覚している。愛知県立高校の陸上部や京都府立高校のレスリング部のように、強豪校の名門部も目立つ。

 勝利を得るためなら少々の体罰は許されるとの誤った認識が、指導者の間に根強く残っていることの証左ではないか。これを放置しては、体罰を受けた生徒が指導者になった時、再び体罰を行う悪循環を断ち切ることはできまい。

 文部科学省の指示を受け、全国の教委は体罰の実態調査を進めている。徹底的に洗い出し、体罰の根絶を図らねばならない。

2013年2月16日土曜日

薬ネット販売―過剰な規制はやめよう


 処方箋(せん)のいらない医薬品を、インターネットや電話を使って通信販売することの当否や、そのあり方を検討する会議が、厚生労働省につくられた。
 何度も議論されながら、合意を見いだせずにきた難題だ。いきすぎた規制はやめ、市民の健康を守るために合理的で必要な範囲内にとどめる。その方向で調整をすすめてほしい。
 きっかけは先月の最高裁判決だ。ビタミン剤など第3類とよばれる医薬品を除いてネット販売を一律に禁じている省令は、違法で無効と判断された。
 判決は全面解禁せよと言っているわけではない。省令を根拠づける規定が薬事法にないことが、「無効」の理由とされた。どんな政策をとるか。ボールは行政・立法に返された。
 近くに薬局がない、障害のため出歩けないなど、様々な事情から通信販売を望む人がいる。
 一方で薬には副作用がつきものだ。薬剤師や資格をもつ販売員が対面で売る方式を続けよ、という声も強い。薬害の患者団体はそう訴えてきた。
 それぞれに一理あるが、少なくとも全面禁止は時代の要請にかなわないのではないか。
 いまの省令のもとになった8年前の厚労省検討部会の報告書や国会審議でも、かぜ薬や解熱鎮痛剤など第2類医薬品については、通信販売を禁止するとの考えは示されていない。
 健康被害についてネット業界は、「利用者に病歴を申告させたり、電子メールで薬剤師の助言をきける環境を整えたりすれば、対面販売にこだわる必要はない」と主張し、独自のガイドラインを設けている。
 これを踏まえ、足りない点や心配な点をただし、改善・充実させるのが現実的ではないか。
 外国の例を見ても、政府が許可した業者だけにネット販売をみとめる▽その際、薬剤師がどう関与するかをきびしくチェックする▽薬によって対応を分ける――などの方法で、道を開いているところが多い。
 議論すべきは販売方法にとどまらない。対面方式を現におこなっている薬局やドラッグストアで、適切な情報提供がなされているか。薬の説明書きは利用者にわかりやすい内容か。これらについても不断のチェックと見直しが求められよう。
 規制を唱える人々の中には、薬局の経営者や薬剤師団体などもある。そこに自らの権益を守りたいという思惑はないか。
 判断の基準は、あくまでも市民の安全であり、利便である。医薬品は誰のためにあるか。その原点を忘れてはならない。

カンボジア法廷―真相究明を止めるな


 カンボジアの旧ポル・ポト政権による虐殺を裁く特別法廷が、資金不足という壁にぶつかっている。このままでは真相を究明する取り組みが、途中で挫折しかねない。
 国連とカンボジア政府との連携によって設立された法廷だ。当初から積極的に支援してきた日本は、国際社会で資金集めを呼びかけるなど、正常化への先頭に立ってはどうか。
 1970年代後半、政権は強制労働や拷問で多くの生命を奪った。犠牲者は約170万人に達するとされる。
 この虐殺を誰が指示し、どのように実行したのか。
 歴史的な事実を明らかにし、責任を問うことは、国民が互いに和解するために必須だ。
 7年前にできた法廷では、イエン・サリ元副首相ら当時の政権幹部ら5人が起訴された。うち収容所長の終身刑が確定し、1人の公判は病気で停止された。残る3被告の審理は遅れがちだ。年内に結審できるかどうか危ぶまれている。
 3年以内の終結をめざした審理が大幅に遅れていることは残念だ。3人の被告は80歳を超える高齢のため体調不良をしばしば訴えている。
 裁判が長期化するに従って、カンボジア政府や国際社会からの資金は細っている。昨年末からは約300人の職員給与が未払いになり、職員の契約更新ができないでいるという。
 書記官の減員によって審理回数が減り、それがさらに裁判を長期化させるという悪循環を食い止めなければならない。
 審理が迅速に進むよう、運営を改善する必要がある。弁護側は被告の人権に配慮しつつ、真相解明に協力してもらいたい。
 これまでの法廷活動による成果は決して小さくない。
 被害者と加害者双方の証言によって、カンボジア国民は当時おきた悲劇の一端を知ることができた。国民の関心は大きく、多くの傍聴者が今なお法廷に詰めかけている。司法が機能している姿を実感できる貴重な場になっているといえる。
 カンボジアと日本とのつながりは強い。90年代に国連平和維持活動(PKO)に初めて自衛隊が参加し、復興支援に取り組んできた。官民の専門家が民法制定の支援に携わった。特別法廷の費用の半分近くを負担し、判事も送った。
 特別法廷が使命を遂げることは、カンボジアでの日本の貢献の仕上げになる。これまでの成果を無に帰することがないよう支援を続け、この国の民主主義を前に進ませよう。

日本版NSC 「外交安保」強化へ縦割り排せ


 日本の安全保障にかかわる様々な危機に対処するため、政府の司令塔を作る意義は大きい。

 国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を検討する政府の有識者会議が初会合を開いた。春にも報告書をまとめる。政府は、通常国会への関連法案の提出を目指す方針だ。

 日本版NSCの創設は、安倍首相の念願であり、再挑戦だ。2007年4月に第1次安倍内閣が関連法案を提出したが、同年7月の参院選敗北などで審議は進まず、廃案になった経緯がある。

 最近、北朝鮮の核実験、中国軍艦船のレーダー照射など、日本の安全を脅かす事態が相次いだ。

 だが、政府の安全保障会議は形骸化し、事実上、首相と関係閣僚が各省の官僚の報告を追認する場に過ぎない。首相、官房長官、外相、防衛相らが外交・安保の重要課題を実質的に協議し、決定する場を設けることが急務である。

 日本版NSCには、二つの重要な役割が期待される。

 一つは、現在進行中の緊急事態について、迅速かつ適切な政治判断を行い、具体的な対処を指揮することだ。もう一つは、中長期的な安全保障戦略を策定し、危機に備える政策の立案と訓練の方向性を示すことである。

 そのためには、外務、防衛、警察など関係省庁の縦割り対応を排し、政府全体で首相官邸を支える制度を構築することが肝要だ。

 現在も、政策を総合調整する内閣官房の事務局として、安全保障・危機管理担当や外交担当の官房副長官補が率いる組織がある。

 日本版NSCがあらゆる案件を担うのは現実的ではないし、既存組織の「屋上屋」になってはかえって非効率化する。日本版NSCの事務局は、基本的に少数精鋭とし、関係省庁を掌握できる仕組みにするべきだろう。

 政策決定の前提となる政府全体の情報収集・分析能力を高めることも重要である。

 アルジェリアの人質事件では、途上国におけるテロ・軍事情報を入手する困難さが浮き彫りになった。インテリジェンスの専門家を増員するとともに、中長期的に育成していくことが大切だ。

 政府全体の情報を統括する内閣情報調査室も改革が求められる。今は「警察庁の出先機関」と見られており、関係省庁が重要情報をきちんと共有し、有効活用する本来の体制には、ほど遠い。

 米国など関係国から提供された情報などの漏えいを防ぐための情報保全法制の整備も必要だ。

PC遠隔操作 サイバー捜査の強化が急務だ


 警察にとって、4人の誤認逮捕という消しがたい汚点を残した事件である。全容の徹底解明を求めたい。

 パソコン遠隔操作事件が大きな進展を見せた。インターネット掲示板に殺人予告を書き込み、漫画イベントを妨害したとして、警視庁などの合同捜査本部は東京都内のIT会社社員(30)を威力業務妨害容疑で逮捕した。

 だが、会社員は「真犯人は別にいる」と容疑を否認している。

 誤認逮捕された4人のうち2人は虚偽の自白をしていた。取り調べで不適切な誘導などがあったことがうかがえる。

 強引な捜査は許されない。客観的な証拠を積み重ね、事件の真相に迫ることが肝要だ。押収したパソコンなどを解析し、遠隔操作ウイルスを作成した痕跡などを見つけ出す必要がある。

 捜査本部は、この会社員が「真犯人」を名乗って、報道機関や弁護士などに犯行声明のメールを送りつけた人物とみている。

 神奈川県・江の島で、そのメールの内容通りに、猫の首輪から記録媒体が見つかり、事件で使われた遠隔操作ウイルスの設計情報が確認された。

 江の島の防犯カメラは、会社員らしい男が猫に近づく姿をとらえていた。これが会社員を特定する端緒になった。容疑者がサイバー空間から抜け出し、現実の世界に姿を現さなかったら、果たして捜査は進展しただろうか。

 犯罪者が常に一歩先を行くと言われるサイバー犯罪に対し、捜査能力をどう高めていくか。課題は依然、残ったままである。

 一連の遠隔操作事件では、海外の複数のサーバーを経由して発信元を分からなくする匿名化ソフト「Tor」が使われていた。渡米した捜査員が一部の記録を持ち帰ったものの、ネット上での追跡は進んでいないのが現状だ。

 サイバー空間に潜伏する犯人にたどり着けなければ、同様の事件の再発を防ぐことはできない。

 専門知識を持つ捜査員の養成は重要だが、時間もかかるだろう。警察庁は民間の情報セキュリティー会社との連携強化を打ち出した。ウイルスの監視・対策を手がけてきた企業のノウハウを捜査に取り込むのは有益だ。

 捜査情報の管理のあり方を検討した上で、民間との協力関係を築いていくべきだ。

 欧米の捜査機関では、Tor対策に乗り出す動きがある。ウイルス情報の共有など、各国の捜査官の連携も欠かせない。

2013年2月15日金曜日

景気復調―「円安頼み」を超えねば


 日銀がきのう、景気判断を上方修正した。昨年10~12月期の実質成長率は小幅なマイナスだったが、むしろ景気後退が「ミニ」だったことを裏付けた。
 世界経済の緩やかな復調に、アベノミクスへの期待が重なって円安・株高をもたらし、ムードを改善している。
 気がかりは、株高が円安に依存していることだ。
 円安は輸入産業や消費者を圧迫する面もある。閣僚がこの点に言及すると、円高→株安の逆回転が起き、慌てて口先介入や日銀への緩和圧力に走る光景が目につく。
 海外では日本の円安誘導への警戒感が募っている。
 主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁が通貨安競争の回避を確認したのに続き、週末にモスクワで開かれるG20会議の共同声明にも、同じ趣旨が盛り込まれる見通しだ。
 アベノミクスに理解を示す国々も、「3本目の矢」である構造改革で内実ある景気回復を図るという日本政府の言葉に期待しているにすぎない。
 設備や研究開発への投資、何より消費の底上げで内需を拡大し、世界経済に貢献する覚悟が日本に問われている。
 株高にわく民間企業は成長への行動に踏み出すときだ。
 上昇相場に後から加わった外国人投資家らは高い収益を求めてくる。賃金の抑制で利益を出す発想では、戦後最長の景気でもデフレから脱却できなかった失敗を繰り返すことになる。
 新たな成長の展望を開くのは個々の企業だが、消費の拡大には、成長の恩恵が国民にひろく行き渡るという期待感を高めることが欠かせない。
 デフレ圧力が働くのは、先進国で日本だけ賃金の減少が慢性化していることが大きい。賃金が減るまま円安ばかり進めば、「為替操作だ」といった海外からの批判にも抗弁しにくい。
 折しも春闘は、大手の組合が経営側に要求書を提出し、本番に入った。安倍首相はこれに合わせ、経済3団体に異例の賃上げ要請を行った。
 経済界は賞与の積み増しでは軟化しつつある。だが、賃金デフレの主因は賞与がもらえない非正規労働者の激増だという事実から目を背けるような姿勢はおかしい。
 むろん、グローバル競争のなかで、単純な横並び賃上げ方式には戻れない。正規と非正規の格差を是正しつつ、経済をどう活性化していくか。労使の工夫を政府が政策的に後押しして、成長と賃上げの好循環を生み出さなければならない。

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