2013年3月31日日曜日

法律家の養成―「利用者のため」を貫け


 法律家のため、ではない。あくまでも市民、利用者の視点から考える。その姿勢を見失うことなく、いまの厳しい局面を乗りこえたい。

 政府の法曹養成制度検討会議が中間提言案を公表した。

 法科大学院を出たのに司法試験に受からない。合格して弁護士になっても仕事がない。法律家をめざす若者は年々減る。

 こんな悪循環を何とかしようと議論してきた。提言案には、教育体制が十分でない法科大学院の統廃合を進める、司法試験の合格者数を「年3千人程度」としている政府の目標を取りさげる、などが盛りこまれた。

 「3千人」は一連の司法改革の旗印だが、私たちは社説で、こだわる必要はないと書いてきた。合格者数はこのところ約2千人で推移していて、事実上、意味を失っている。

 ただし、今回の提言が改革の理念の放棄や後退につながるようなことがあってはならない。

 身近で頼りがいのある司法を築くには、質量ともに豊かな法律家が必要だ。そして、そんな人材を世に送りだすために、一発勝負の司法試験という「点」による選抜ではなく、教育の過程を大切にする。この考えはいまも色あせていない。

 法律家が力をふるう場は法廷だけでない。国際ビジネス、福祉、地方自治、犯罪者の社会復帰支援といった新しい分野で、能力とやる気のある弁護士が活躍する例が増えている。

 問題は、こうした潜在的な需要をすくいあげ、うまく目に見える形にできていないことだ。

 費用が心配で弁護士を頼めない人が出ないよう、政府は十分な予算をつける。条例づくりや政策の立案、コンプライアンス体制の確立などに法律家をもっと活用する。弁護士もまた、意識と仕事のやり方を見直し、さまざまな現場に積極的に飛び込んでいく必要がある。

 法律家という仕事の魅力を人びとに再認識してもらうためにも、活動領域の拡大は全力でとり組まねばならない課題だ。

 一方で、能力に欠け、あるいは倫理にもとる行いをした者に退場を迫ることも必要だ。

 最近、大幅にふえた若手弁護士の質が問題にされる。だが問われるべきは若手だけか。

 弁護士に関する詳しい情報を開示したり、第三者による評価制度をとり入れたりして、市民が弁護士を適切に選べるようにする。かねて提案されながら、話が進まないのはなぜか。

 互いに競い合い、多くのたくましい法曹を育てる。その土壌の上に、司法改革は実を結ぶ。

日本維新の会―一体どこへ向かうのか


 日本維新の会がきのう、結党以来初の党大会を大阪市内で開いた。

 夏の参院選で、自民党などと合わせ憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を確保する。

 石原慎太郎氏とともに共同代表を務める橋下徹大阪市長は、そんな目標を打ち出した。

 改憲論議自体、否定すべきものではない。ただ、あまりにも前のめりな維新の姿勢には、危うさを感じざるを得ない。

 見過ごせないのは、大会で採択された綱領に「日本を孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正する」という一文が盛られたことだ。

 「国民の意志と時代の要請に適したものに改正する」という原案だったが、石原氏が持論をもとに書き換えたのだという。

 これでは平和主義を含む憲法の全面否定であり、とうてい容認できない。

 安倍政権との向き合い方も気がかりだ。

 橋下氏は「自民党に既得権打破はできない」「参院選で自公の過半数絶対阻止」と対抗姿勢を示す一方、環太平洋経済連携協定(TPP)などで安倍首相の政権運営を高く評価した。

 もちろん、野党は何でも政権に反対すればいいというものではない。それにしても、わかりにくい対応である。

 首相に親近感を抱く維新幹部は少なくない。いずれ改憲を軸に自民党と手を組むのではないか、という見方も消えない。

 もしそんな思惑があるとすれば、巨大与党を利するだけだ。

 もともと大阪都構想など「地方発」の改革や、既得権益の打破が、この党の原点だった。昨年暮れの総選挙で躍進したのも、そうした期待からだろう。

 きわめて右派色の濃い改憲論といい、政権への熱いエールといい、維新の「変身」に戸惑う支持者も多いのではないか。

 党の置かれた状況は、決して楽観できるものではない。

 朝日新聞の3月の世論調査では、今夏の参院選の比例区投票先として維新は12%。自民の47%には遠く及ばず、かつてほどの勢いは感じられない。

 理由は明らかである。この党がどこへ向かおうとしているのか、有権者に見えにくくなっているからだ。

 党大会で改憲を前面に押し出したのも、存在感が薄らぐことへの焦りの表れかもしれない。

 だが、それが支持者が本当に期待していることなのか。維新の原点を踏まえ、もう一度、考えた方がいい。

安倍外交 モンゴルと戦略関係の強化を


 親日友好国モンゴルと日本が戦略的な連携を強化する一歩になった。

 安倍首相がモンゴルを訪問し、アルタンホヤグ首相、エルベグドルジ大統領と相次いで会談した。

 両国首脳は、外交・安全保障分野での外務次官級の対話を開始することで一致した。さらに、米国も加えた3か国の政策対話を行うことでも合意した。

 安倍首相は、アジア外交の原則として民主主義など普遍的価値の尊重や自由でオープンな市場経済を掲げている。

 中国とロシアに挟まれたモンゴルが、民主化と市場経済を発展させることは、日本の外交戦略にもプラスである。威圧的な外交で周辺国の主権を脅かす中国へのけん制にもなるだろう。

 安倍首相は北朝鮮問題、とくに日本人拉致問題での協力を求めた。モンゴル側も日本の立場への理解と支持を表明した。

 モンゴルは、冷戦時代には北朝鮮とは盟友関係にあり、今も高いレベルで交流を続けている。

 2012年11月に日朝協議がウランバートルで開かれたのも、モンゴルの協力があったからだ。

 政府は膠着状態にある拉致問題解決に向けて、モンゴルとのパイプを大いに生かす必要がある。

 資源に乏しい日本にとって、モンゴルとの関係は、エネルギー安全保障の観点からも貴重だ。

 モンゴルは、石炭やレアメタルなど良質で豊富な天然資源に恵まれている。鉱山開発などをテコに11年は年率17%を超える高度経済成長を達成した。

 首脳会談では、モンゴル南部のゴビ砂漠にある世界最大級のタバントルゴイ炭田の共同開発についても意見を交換した。モンゴル側は、「長期にわたり安定的に日本に石炭を供給できるようにしたい」との意向を示したという。

 モンゴルには、日本や韓国に石炭を輸出するため、中国やロシアの海港へ運ぶ構想がある。それには資源を輸送するための鉄道を建設することが欠かせない。

 ただ、日本企業が開発やインフラ整備で進出するにはモンゴル側の投資環境の整備が必要だ。日本とモンゴルの当局間で協議を重ねる必要がある。

 会談で、安倍首相は横綱白鵬らの活躍ぶりにも言及した。日本では、大相撲を通じてモンゴルへの関心が高まっている。モンゴルにとっても日本は中露に次ぐ「第3の隣国」だという。

 政治、経済とともに文化・スポーツでも交流を深めたい。

維新党大会 自民の対抗勢力になり得るか


 憲法改正への強い意欲はうかがえた。自民党に対抗し得る保守政党に成長できるだろうか。

 日本維新の会が、昨年9月の結党後初めての党大会を大阪市で開き、党綱領や2013年活動方針を決定した。

 綱領は現行憲法について「日本を孤立と軽蔑の対象に貶おとしめ、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた占領憲法」と指摘した。憲法を大幅に改正して、「国家を蘇生させる」とうたっている。

 共同代表の橋下大阪市長は「自分たちの手で憲法を作ることが日本にとって絶対に重要だ」と改正の意義を強調した。参院選では、自民党、みんなの党などと合わせて憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を目指すとも語った。

 参院選の結果次第で、初めて憲法改正が可能な政治環境が整う。その場合、維新の会は自民党と連携する方針を明示したと言える。憲法改正は、参院選の最も大きな争点の一つになる。

 維新の会は、衆院選で当初の期待ほど議席を伸ばせなかった反省を踏まえ、憲法改正でも一致できるみんなの党との選挙協力を進めている。実質的な協力に踏み込めるかが獲得議席を左右しよう。

 党大会で橋下氏は、米軍普天間飛行場移設問題や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に取り組む安倍首相を応援すると述べた。

 その一方で、参院選では「自民、公明両党の過半数阻止を実現しよう」と訴え、既得権打破や統治機構の変革は、維新の会にしかできないと強調した。

 「維新は自民党の補完勢力」との批判もある中、自民党と違いを出し、改革の党としての存在感をどう発揮するのだろうか。

 読売新聞の世論調査では、安倍政権の発足直後、民主党と並んで8%あった維新の会の支持率は2%にまで低下している。

 維新の会の課題には、橋下氏と、東京の国会議員団との間で、選挙制度や日銀同意人事など軋轢が表面化していることもある。

 大阪市の党本部と東京の国会議員団本部をテレビ会議システムでつなぐなど、連携強化の模索が始まっている。両者の溝を埋めていくことは、維新の会が一体感をもった政党になるために必要だ。

 一方、石原共同代表は「軽い脳梗塞」のため、党大会を欠席した。ネット中継の形で参加し、橋下氏に参院選への出馬を促したが、橋下氏は応えなかった。

 橋下氏が参院選に出馬するか否かは、今後の党勢もにらんでの判断になるに違いない。

2013年3月30日土曜日

BRICS―新興国が担う重い責任


新たな開発銀行は、世界に貢献するものになるだろうか。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ5カ国(BRICS)の第5回首脳会議が開かれ、各国が出資、運営する開発銀行の設立で合意した。

 アフリカを中心に道路や橋などのインフラ建設を進め、陰りの見える成長に再び弾みをつける狙いなのだろう。

 主要新興国がつくる開発銀行によって貧困撲滅が進むのなら歓迎だ。しかし、先進国グループへの対抗姿勢ばかりでは、懸念を抱かざるをえない。

 これまで途上国への開発援助は、主に世界銀行や国際通貨基金(IMF)をはじめとする国際金融機関や先進国が担ってきた。成功談だけではないが、途上国の発展を助け、民間投資の呼び水にもなってきた。

 そうした開発援助では、住民の人権侵害や環境破壊、汚職が起きないよう注意を払うことが原則だ。そのことが途上国政府との対立を招くことも少なくなかった。

 最近では、バングラデシュを流れる大河パドマ川にかかる巨大橋の建設計画をめぐる汚職疑惑で、世銀と現地政府が対立。結局、政府は融資を辞退し、日本の円借款も棚上げになった。汚職への認識で、先進国と途上国との間には違いが残る。

 一方、アフリカでの資源確保に躍起になっている中国は、原油を有するスーダンなど非民主的な国や、コンゴ(旧ザイール)のように紛争がくすぶる国にも援助を続けている。

 開発銀行構想が、こうした支援を正当化するようであってはなるまい。

 「南の台頭」をテーマにした国連の人間開発報告書でも、経済のグローバル化を追い風にした途上国の発展を持続させるためには、貧富の格差の是正、国民が幅広く参加する政治の実現、女性の教育拡充といった取り組みが必要だとしている。

 BRICS内を見ると、各国は地球温暖化交渉などで独自の姿勢を打ち出しており、さまざまな分野で一致した行動がとれるのか疑問もある。

 中国やインドは世銀やアジア開発銀行の融資を受ける身でもある。今後、援助する側としての存在感を強めるなら、先進国との緊密な対話や政策調整が欠かせない。

 合わせれば世界経済の2割、総人口の4割を占める国々だ。G20のメンバーとして、世界経済の運営や国際政治上でも重要な役割を担う。

 その責任の重さを忘れないでもらいたい。

外国人看護師―結果が出る養成策を


 高齢化社会を迎え、看護現場に多くの手が必要だ。外国からの人材にも、大いに力になってもらいたい。

 ところが政府間の協力事業であるインドネシア、フィリピンからの看護師受け入れがうまく進んでいない。育成の仕方の大幅な見直しが要る。

 両国との経済連携協定(EPA)によって5年前から候補者の受け入れが始まった。しかし日本の国家試験のハードルは高く、今年度の合格者はわずか30人、合格率9・6%といずれも前年を下回った。

 試験時間の延長などの優遇策も効果が出なかった。制度の存続が問われる事態だ。

 実は、民間ルートでの人材供給は着実に増えている。母国で看護師の免許を持ち、日本語能力も高くて厚生労働省から受験資格を認められた人々だ。大半は中国からで、今年の合格者は100人を上回ると見られる。

 政府主導のEPAは、いわば「働きながら学ぶ」というモデルだ。来日後、看護師候補者として病人の世話をしながら日本語や看護学を勉強する。医療行為や患者宅への訪問は許されない。本来は3年以内に国家試験を通らなければ帰国してもらうが、最近は1年の滞在延長を認めてきた。

 民間主導の中国人看護師は、いわば「学んだ後に働く」というモデルだ。

 母国の専門学校で看護学と日本語を学び、来日後も日本語学校で1、2年さらに勉強してもらう。中国人は漢字での苦労が少ないため、国家試験の合格率は高いようだ。

 EPAの仕組みは複雑で、わかりにくくなっている。国家試験に通る前に准看護師免許をとって就労の道を探ったり、滞在延長を断って帰国したりする候補者が出ている。

 こうした混乱を避けるためにも研修と就労の時期を切り離して、養成モデルの転換を図らなければならない。

 柱は事前研修の充実だ。現地の看護大学に日本語科を設けてもらい、奨学金を支給する。国内で集中的に日本語を勉強して国家試験に挑んでもらう。

 労働市場の需給が反映するよう、民間の役割が徐々に高まっていくような工夫も大切だ。

 将来は、相手国の看護資格やコミュニケーション能力を総合的に勘案して、就労を幅広く認める道も開いてはどうだろう。

 看護師不足が一層深刻化してから手を打っても遅すぎる。ケア人材についての移民政策をうち立て、「人の開国」に弾みをつけるべき時だ。

「0増5減」案 民主の一転反対は解せない


 度重なる司法の厳しい警告に対して、鈍感すぎるのではないか。

 自民、公明、民主3党幹事長会談が開かれた。自公両党は、衆院小選挙区定数の「0増5減」を実現する区割り法案を早期に成立させるよう求めたが、民主党は反対し、会談は平行線に終わった。

 衆院選の「1票の格差」を巡る16件の行政訴訟で、各高裁は14件の「違憲」判決を出している。

 中には「選挙無効」という行き過ぎた判断もあったが、与野党は「違憲」を重く受け止めねばならない。衆院選挙区画定審議会の勧告に基づいて格差を是正する区割り法案を先行処理すべきだ。

 民主党は、「0増5減では不十分」として、小選挙区定数を30減の270、比例定数を50減の130とする抜本改革案をまとめた。定数削減で「国会議員の身を切る」姿勢をアピールしたいようだが、ピントがずれていないか。

 しかも、抜本改革案に関する各党の主張の隔たりは大きく、早期の合意は困難な状況にある。

 比例定数を30減の150とし、うち60を中小政党の優遇枠とする自公両党案は、分かりづらいうえ、憲法違反の疑いもあり、野党が反対している。

 小選挙区定数も減らす民主党案も、区割り作業をやり直す必要があり、現実的とは言えない。

 そもそも昨年の衆院選前に1票の格差を是正できなかった主たる責任は、当時の与党・民主党にある。衆院解散を先送りする「党略」の思惑から、格差是正と抜本改革の同時決着に固執したためだ。

 民主党は昨年秋、ようやく「0増5減」の先行処理に同意したのに、今になって反対に転じ、抜本改革との同時決着に回帰するのは筋が通らない。緊急性を要する格差是正が次期衆院選に間に合わない恐れさえ生じよう。

 非現実的な「理想」を掲げ、結局、何も実現できない――。2009年衆院選政権公約(マニフェスト)に象徴される民主党の未熟な政治文化の特徴だ。その失敗の反省がうかがえない。

 無論、「0増5減」は暫定的な改革にすぎない。1票の格差は最大1・998倍で、いずれ2倍を超すのは避けられまい。

 現行の小選挙区比例代表並立制は、小選挙区で敗れた候補の復活当選制度など、様々な問題が指摘されている。衆参両院の役割分担も含めた抜本改革は不可欠だ。

 政党間の協議が進展しないようなら、有識者会議の活用を真剣に考える必要がある。

再生エネ発電 太陽光の購入価格はまだ高い


 再生可能エネルギーでつくった電気を電力会社が購入する制度で、政府は太陽光発電の買い取り価格を4月から約1割下げることを決めた。

 買い取り費用は電気料金に上乗せされ、利用者が負担する。太陽光パネルの価格下落などを踏まえて、買い取り価格を下げるのは当然の措置といえる。

 だが、今回の下げ幅では不十分だ。太陽光の買い取り価格は当初の1キロ・ワット時あたり42円から38円になるが、風力の23円や地熱の27円に比べてまだ高すぎる。

 原則年1回の価格見直しも、必要なら半年で行える。政府は発電資材の価格動向などをにらみ、機動的に改定すべきである。

 買い取り制度は再生エネ普及が目的だ。太陽光や風力などの電気を10~20年間にわたり一定価格で買い取ることで発電事業の収益安定を図る。その狙いはわかる。

 ただし、買い取り費用が利用者の負担でまかなわれることを忘れてはならない。価格を安易に高く設定すると、新規参入が過剰に促進され、買い取りコストが急上昇する恐れがある。

 実際に、買い取り制度で先行したドイツでは「太陽光バブル」といわれる参入ラッシュで電気料金が急騰し、問題になっている。

 ドイツの一般家庭で電気料金に上乗せされる金額は毎月2000円近い。買い取り単価を4年で6割も下げたのに、中国製パネルの廉売などで太陽光発電の採算ラインが下がったため、参入に歯止めがかからないという。

 日本の買い取り価格は、ドイツより2~3倍も高い。制度全体の買い取り規模が小さいため、家庭の負担はまだ月100円ほどだが、油断は禁物である。

 買い取り単価が下がらないうちに政府の認定を受けようと、駆け込み的な太陽光発電所(メガソーラー)の申請も相次いでいる。

 買い取り対象となる発電所が急増する前に、価格を妥当な水準に下げておかないと、日本もドイツの二の舞いとなりかねない。

 書類の認定だけで価格を確定する仕組みも疑問だ。価格が高い間に認定を受け、太陽光パネルが値下がりしてから設備を作る動きが懸念される。運転開始時の価格を適用するよう改めてはどうか。

 中国のパネルメーカーが倒産するほど価格競争は激しいのに、日本の太陽光発電コスト低減への動きは鈍い。業者が高値での買い取り制度に甘え、安価な資材調達などのコスト削減努力をおろそかにしているのなら本末転倒だ。

2013年3月29日金曜日

地域人口推計―わが町の未来を考える


 2040年までに、自分たちの町がどんな姿になるのか。人口構成が変化していくなかで、福祉や教育をどう整備していくべきか。有権者として考えるきっかけとしたい。

 「地域別将来推計人口」がほぼ5年ぶりに発表された。国立社会保障・人口問題研究所のサイトに詳細なデータがある。

 ぜひ見て欲しいのが、あなたの住む町の詳細情報だ。

 原発事故の影響で予測が難しい福島県内を除く1799の市区町村について、男女別・5歳刻みの人口が5年ごとに推計されている。

 都道府県ごとに自治体を比較するなら「結果の概要」が把握しやすい。年少(15歳未満)、生産年齢(15~64歳)、高齢者(65歳以上)、後期高齢者(75歳以上)の人口変動などが整理されている。

 高齢化のインパクトを見てみよう。

 40年の時点で75歳以上の人口が占める割合だけをみれば、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、福岡といった大都市圏は約17~21%だ。秋田の28%、青森の26%などと比べると低い部類に属する。

 問題は、増え方が急激なことだ。大都市圏では75歳以上人口が10年の1・6倍以上になる。都市部に移り住んだ団塊の世代が高齢化するからだ。

 全国で増加率が最も大きい埼玉県では、60万人弱から120万人弱にまで増える。県庁所在地のさいたま市だけでも11万人以上の増加だ。

 埼玉県は人口当たりの医師数が全国で最も少ない。介護サービスは施設・在宅とも不足が深刻化するおそれがある。

 医療や介護を考える場合、重要なのは高齢者の絶対数だ。一人ひとりのニーズをくみ上げ、それに見合ったサービスを提供できるかが問われる。

 一方、地方は十数年で高齢化率は頭打ちになるものの、人口減少は続く。

 そんな中でも、踏ん張る自治体はある。長野県南部にある人口4200人の下條村は、行革などで捻出した独自財源で、若い世代が定住しやすいよう、家賃が格安の住宅を整備したり、高校生までの医療を無料化したりしてきた。

 その効果で、40年にかけての人口の減少幅は1割弱にとどまる。東京都板橋区とほぼ同じ傾向である。

 推計はあくまで過去のトレンドを参考にしたものだ。人口減少や高齢化そのものは止められなくても、影響は緩和できる。そのための手を打とう。

後見裁判控訴―権利を奪い続けるのか


 判決が説くもっとも大切なところを見ず、国民に正面から向きあっていない。そう言わざるを得ない、誤った対応である。

 成年後見制度をめぐる裁判で敗訴した国(政府)が、控訴の手続きをとった。

 公職選挙法は、十分な判断能力がなく後見人がついたお年寄りや知的障害者には、選挙権を与えないとさだめている。

 東京地裁は今月14日、「主権者としての地位を事実上奪うものであり、参政権を保障した憲法に違反する」と述べた。控訴とは、この奪い、奪われた状態を変えないことを意味する。

 国の言い分はこうだ。

 後見をうけている人にも選挙権を認めると、不正投票に利用されるおそれがある。判断能力に応じてどんな線引きができるかを検討し、法律を改めるにしても、時間が必要だ。控訴せずに判決を確定させた場合、法改正までの間、全国の選挙事務に混乱が生じる――。

 東京地裁が判決理由の中で、「相応の能力を備えていない人には選挙権を与えないという考え自体には、合理性がある」と述べたことが、ひとつの支えになっているとみられる。

 だが、実際にそのような「線引き」ができるだろうか。

 そもそも裁判で国側は「選挙権の適切な行使が可能か否かを個別に審査する制度はつくれない」と主張してきた。そこで、おもに財産を管理する能力の有無を判定する成年後見制度を、性格の異なる選挙に「借用」したのではなかったか。

 そんな借用は認められないと裁判所に指摘されたので、別のものさしを探す。そしてそのものさしが見つかるまで、主権者から権利を取りあげ続ける。

 こんな手前勝手なふるまいが許されるはずがない。

 公選法の問題の規定を、まず削除する。そのうえで、どうしても「線引き」や不正投票を防ぐ措置が必要だというのなら、しかるべき手当てをする。

 それが本来の道だ。控訴は、政府と国会の考え違いのつけを国民に回すことに他ならない。

 おりしも一票の格差をめぐって厳しい判決があいついだ。成年後見訴訟とあわせ見えてくるのは、民主政治とそれを支える選挙の重要性を、正しく理解しようとしない政治の姿だ。

 連立与党をくむ公明党の北側一雄副代表は、官邸から「役所(総務省、法務省)が控訴するよう強く言っている」と説明をうけた、と話した。

 何とも情けない。民主主義の根幹にかかわる話である。政治が決断しなくてどうするのか。

65歳まで雇用 若者の仕事を奪わぬように


 65歳までの希望者全員を雇用するよう企業に義務付けた改正高年齢者雇用安定法が4月1日に施行される。

 改正法は、厚生年金の支給開始年齢が4月以降、現在の60歳から段階的に65歳に引き上げられることに伴うもので、昨年8月に成立した。

 定年後に年金を受け取れない期間が生じるのを防ぐという狙いは理解できる。企業に対し、希望者全員の雇用継続を義務付けるのは、時代の要請と言えよう。

 現行法も、60歳で定年を迎えた社員が、定年の廃止か引き上げ、または継続雇用により、65歳まで働けるよう企業に求めている。継続雇用を選択した場合、健康状態や働く意欲など、一定の基準を設けて選別できる仕組みだ。

 今回の制度改正は、この基準規定を廃止し、選別を認められなくするのが眼目だ。政府は、違反した企業に勧告を行い、従わない場合は企業名を公表するという。

 確かに、平均寿命が伸び、60歳代の健康状態は格段に向上している。年金に支えられてきた60~64歳の人たちが、働いて税や保険料を納め、社会保障の支え手となる意義は大きい。

 この年代の所得や消費が向上し、経済成長を後押しする効果も期待できるだろう。

 だが、60歳代では、能力と意欲の個人差が広がる。経済界が65歳までの継続雇用の義務化に「人件費が増え、経営を圧迫する」と反対していたのも、無理はない。

 重要なのは、高年齢者の雇用維持を理由に若者の仕事を奪ったり、非正規雇用を増やしたりしてはならないということだ。

 改正法施行で、「若年層の雇用を抑える」とした企業は約4割に上る、との調査もある。

 社会全体の活力を低下させないようにするためにも、若者から高齢者まで、働く場の確保に各企業は知恵を絞ってもらいたい。40~50歳代の賃金上昇を抑えるなど、人件費の配分を工夫していくことになるだろう。

 年金の支給開始年齢について、米国やイギリス、ドイツは既に67~68歳に引き上げることを決めている。これらの国より早く高齢化が進む日本で、さらなる引き上げを避けるのは難しい。

 一段と少子高齢化が進み、働く期間も一層長くなる。企業も労働者も「生涯現役社会」の到来を見据えねばならない。

 政府にも、成長産業にテコ入れし、雇用を拡充していくような戦略的な政策が求められよう。

プロ野球開幕 今季も劇的な戦いを見たい


 プロ野球がきょう、開幕する。今季はどのチームが頂点に立つのか。秋まで興味は尽きない。

 セ・リーグでは、巨人が、V9を達成した1973年以来となる連続日本一に挑む。補強で戦力アップを図った阪神など、他のチームがどう巻き返すかがポイントとなる。

 パ・リーグでは、日本ハムが連覇を目指す。それに立ちはだかるのは、どのチームか。新たに就任したロッテの伊東勤監督、オリックスの森脇浩司監督の采配も見所の一つだろう。

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した「侍ジャパン」のメンバーが、各チームの核となり、しのぎを削る。大舞台で戦った経験を生かし、野球界を牽引してもらいたい。

 今季も各チームには、有望な新人が多数、入団した。

 中でも、注目されるのが、日本ハムの大谷翔平選手だ。投手と野手の“二刀流”を目指すという。大成すれば、極めて珍しいケースだ。オープン戦では、投球、打撃とも非凡な才能を見せた。

 即戦力として期待される巨人の菅野智之投手、阪神の藤浪晋太郎投手らからも目が離せない。

 プロ野球を取り巻く状況は、依然として厳しい。

 セ・リーグの昨季の入場者数は1試合平均2万7293人で、前年より0・02%の微減、パ・リーグは2万2175人で2・0%減少した。12球団のうち7球団で実績が前年より落ち込んだ。

 各チームは、多くの人が「球場で観戦したい」と思うような白熱した試合を展開し、ペナントレースを盛り上げてほしい。

 両リーグとも、今季は「3時間半ルール」を撤廃する。

 「試合時間が3時間半を超えた場合、新しい延長回に入らない」とする特別ルールは、2011年の東日本大震災で電力事情が悪化したことに伴い、節電対策として実施されてきた。

 これにより、10年には16試合だった引き分けが、11年に56試合、12年には74試合に急増した。

 引き分けに持ち込むため、投手が再三、走者にけん制球を投げるなど、露骨な時間稼ぎが目立ち、ファンをがっかりさせた。撤廃は妥当な判断と言える。

 今季は時間無制限の延長十二回制に戻るとは言え、節電への配慮は必要だ。だらだらと長引く試合では、観客も飽きてしまう。投手交代の時間を短縮するなど、各チームは引き続き、試合のスピードアップに努めてほしい。

2013年3月28日木曜日

一票の格差―異様な政治が裁かれた


 あらためて、この国の政治の異様をおもう。

 違憲の選挙で議席をえた国会議員が法律や予算をつくり、違憲の議会が選んだ内閣とともに国のあゆむ方向を決める。これを異様といわず何といおう。

 一票の格差をめぐる高裁判決がそろった。最高裁から「いまの議員定数配分は法の下の平等に反する状態にある」と指摘されながら、1年9カ月後に同じ配分のまま行われた昨年の衆院選に関する一連の裁判だ。

 この期間では国会が対応できなかったのもやむを得ないとして、なお「違憲状態」にとどまるとした判決が2件あった。

 いかにも手ぬるい。立法府の明らかなサボタージュを、司法が追認してどうするのか。

 残る14件は、是正のための時間はあったと述べ、一歩進んで「違憲」の結論を導いた。うち2件は、論理の積み上げがやや乱暴なのは気になるが、はじめて「違憲・無効」に踏みこみ、選挙のやり直しを求めた。

 決着は今秋にも予想される最高裁判決を待つことになる。

 憲法がかかげる「正当に選挙された国会における代表者」とは何か。国民主権とは、民主主義とは、法の支配とは。

 裁判をとおして根源的な問いが突きつけられているというのに、政治の側の認識の浅さ、危機感の薄さは驚くばかりだ。

 あいもかわらず、どんな仕組みにすれば自党に有利か、政局の主導権をにぎれるかといった観点からの発言がなされ、「裁判所はやりすぎだ」と見当違いの批判をくり出す。

 「国権の最高機関」であるためには、民意をただしく反映した選挙が実施されなければならない。この当たり前のことが、なぜわからないのか。

 0増5減に基づく新区割り法を、まず成立させる。そのうえで、これは緊急避難策でしかないとの認識にたち、最高裁が違憲の源とした「1人別枠制」を完全に排する抜本改正をする。

 それが政治の当然の務めなのに、自分らに都合のいい制度を続けるために、憲法を変えてしまおうという動きがある。

 自民党の憲法改正草案には、「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定める」とある。

 考慮する要素を増やすことで国会の裁量の幅をひろげ、司法によるチェックが働きにくいようにしよう――。そんな思惑がすけて見える条文だ。

 政治は、選挙制度は、だれのためにあるか。もちろん国民・有権者のためにある。この原点をとり違えてはならない。

原発防災計画―福島の経験をくみ取れ


 原発の事故に備え、立地地域や周辺自治体がつくる防災計画が遅れている。

 大きな地震や津波がまたいつ起こるかわからない。備えは大切だ。ただ、拙速では意味がない。福島の経験を十分にくみ取り、実効性のある対策を講じる必要がある。

 防災計画を備えておくべき重点区域は、国の指針改定で従来の半径8~10キロ圏から30キロ圏へ広がった。対象の自治体は21道府県136市町村に及ぶ。

 このうち、当初の期限だった3月18日までに計画をまとめたのは13県57市町村。3割は4月以降にずれ込みそうだ。

 策定が進まない原因のひとつは、計画のもとになる原子力規制委員会の作業の遅れだ。

 大まかな指針は昨年10月に決めたが、避難の基準となる放射線量の数値などの決定は今年2月までずれこんだ。

 いまも、緊急時の放射線量の計測方法、甲状腺への被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤の服用手順など詳細は決まっていない。

 ヨウ素剤は薬事法上、内部被曝を防ぐ薬として明確に位置づける手続きも要る。この春にも認められる方針だが、政府全体で、こうした指針の詰めと必要な法整備を急ぐべきだ。

 むろん防災計画は、いざ重大な事故が起きてしまった際に、きちんと実行できなければ意味がない。

 たとえば、放射線量が高い地域から住民を避難させるバスをどう手配するのか。県外から支援してもらう場合、運転手の確保や被曝回避に誰が責任をもつのかといった細部が大切だ。

 自治体側は、実践的な訓練を重ねたりして、問題点を洗い出しながら改定を重ねていくことが求められる。

 とはいえ、新しく対象地域に指定された自治体をはじめ、ノウハウがない地域も多い。福島県の被災自治体の経験を共有する場を設けてはどうだろう。

 事前の計画と実際の避難とでどんな違いが生じたのか。県外避難や広域連携にはどのような課題があるのか。

 福島県内の市町村は、避難先での行政機能やコミュニティーの維持、除染問題など、いまなお困難な課題に直面し続けている。そうした生の体験に直接触れることで、学べるものは多いはずだ。

 そのうえで、周辺人口が多かったりして、避難が実質的に不可能な原発については閉鎖・廃炉の対象にすべきだ。

 最大の防災対策が、できるだけ原発を減らしていくことであるのは、言うまでもない。

経済連携交渉 日本主導で自由貿易圏加速を


 日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明したことを契機に、広大な自由貿易圏の構想が次々と具体的に動き出した。

 日本、中国、韓国3か国の自由貿易協定(FTA)の第1回交渉がソウルで始まった。

 日本は、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉を4月に開始する方針でも合意した。日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する東アジア包括的経済連携(RCEP)の交渉も5月にスタートする。

 各国・地域が自らに有利な自由貿易圏を競う潮流が、さらに鮮明になってきたと言えよう。

 複数の交渉に加わる日本にとって、貿易ルール作りに積極的に関与できるチャンスである。各交渉の早期合意を実現し、成長に弾みをつけなければならない。

 韓国が米国やEUとのFTAを発効させたのに比べて、日本は出遅れが目立つ。打診していた中韓両国や欧州との交渉を開始することすらできずにいた。

 ところが、日本のTPP交渉参加の動きを受けて、EUと中韓が対日交渉開始へ軟化に転じた。

 EUには、日本との協定をTPPへの対抗軸にする思惑がうかがえる。米国ともFTA交渉開始で合意し、近く交渉を始める。世界の動きからEUが取り残される事態を警戒したのは明らかだ。

 日中間では尖閣諸島の問題がくすぶるが、中国も日中韓交渉の開始により、アジアへ関与を深める米国を牽制する狙いがあろう。

 日本の課題は、貿易ルール作りを主導できるかどうかだ。

 EUとの交渉では、EUによる自動車などの高関税の撤廃とともに、日本の自動車、医療機器市場などの規制緩和が焦点になる。早期合意へのハードルは高い。

 日中韓交渉も、知的財産権や競争政策などが交渉分野になるだけに、先行きは不透明だ。

 TPPでは、コメなど農産品を関税撤廃の例外扱いにするかを巡って駆け引きが予想される。

 日本にとって、市場開放度を高める自由貿易の新たな枠組みを目指すことが大前提である。

 一方、交渉を同時並行で行うことで米欧や中国を揺さぶる道も開けよう。国益を反映させる交渉力を発揮すべきだ。中国を国際ルールに取り込む必要もある。

 貿易赤字に転落した「輸出大国」の立て直しは急務と言える。TPP参加表明が世界に及ぼした相乗効果を生かし、政府にはしたたかな戦略が求められよう。

法曹養成提言 行き詰まりの打開策を示せ


 法科大学院を修了しても、司法試験に受からない。弁護士になっても就職先が見つからない。

 こうした現状を変えるには、法曹養成の在り方を再検討する必要がある。

 政府の法曹養成制度検討会議が中間提言案を公表した。司法試験の年間合格者数を3000人程度とした政府目標について、「現実性を欠く」として撤回を求めた。法曹養成計画が行き詰まっていることを踏まえたものだ。

 司法試験の合格者数は、ここ数年、2000~2100人で推移している。法曹の質を維持する観点から、合格レベルを下げてまで人数を増やすことはできまい。

 合格者数が伸びない最大の要因は、法科大学院の多くが法曹養成の機能を果たしていないことにある。合格率も、当初の想定は7~8割を見込んでいたが、昨年は約25%に低迷している。74もの大学院が乱立した結果だ。

 入学志願者も減少している。このままでは有能な人材が法科大学院に集まらなくなるだろう。

 提言案は、合格率の低い法科大学院に対する措置として、補助金のカットや、教員として国から派遣される裁判官や検察官の引き揚げを盛り込んだ。

 こうした対策により、統廃合を進めることが求められる。

 司法試験合格者の受け皿が不足している現状にも問題がある。

 2001年にスタートした司法制度改革は、社会全体を、行政による事前規制型から司法による事後救済型に変えるという理念に基づく。担い手となる弁護士の大幅増が改革の柱とされてきた。

 だが、社会の変革は必ずしも当時の構想通りには進んでいない。訴訟件数はそれほど増えておらず、企業や自治体による弁護士の採用も多くはない。経済状況の悪化も影響している。

 日常生活や企業活動などのトラブルに弁護士を活用していくという意識が、社会全体にまだ浸透していないからだろう。

 労働紛争や学校でのいじめ問題などで、法律的な助言が必要とされるケースは少なくない。海外に進出した企業が、現地で法的問題に直面する事例もある。

 都市部以外では、弁護士不足が深刻な地域が多い。

 提言案は、潜在的なニーズを掘り起こし、弁護士の活動領域を広げることが重要だと指摘した。だが、具体的な手立てを示していないのは物足りない。検討会議は今夏までに最終報告をまとめる。より充実した提言を求めたい。

2013年3月27日水曜日

解雇規制緩和―「いいとこどり」は困る


 雇用ルールの見直しは、働く側が一方的に不利にならないよう十分な目配りが必要だ。

 正社員でも、きちんとお金を払うことで解雇しやすくする。そのかわり、再就職もしやすい社会にする――。安倍政権のもと、規制改革や産業競争力をテーマにした会議で、こんな提案が出ている。

 競争力を失った業種から、将来性のある産業へと労働力を移し、経済を活性化する。正社員と非正規雇用との格差を是正する。そんな狙いを掲げる。

 背景には、日本では正社員の解雇規制が厳しいという経営者側の認識がある。

 欧米では特定の仕事を前提に雇われることが多い。その仕事がなくなれば整理解雇はやむをえない、と認識されている。

 だが、日本では大企業を中心に、どんな仕事をさせるか決めずに新卒を一括採用する。その後は会社の都合で仕事を与え、転勤させる。社員側も今の仕事がなくなったら、別の仕事に回ることを期待する。

 こうした実態を踏まえ、日本の裁判所は解雇にあたって、会社側が配転や出向など雇用を続ける努力をどこまで講じたかを問うてきた。

 それは半面、正社員は「何でも屋」として、長時間労働もいとわないのが当たり前という風土をつちかってきた。

 一方、正社員の雇用を安定させる調整弁にされてきたのが非正規の社員だ。正社員が守られてきたのは大企業だけで、中小・零細企業では理不尽な解雇が横行してきた実態もある。

 解雇規制を緩めるなら、二極化した雇用の間で、もっと多様な働き方が必要だ。

 たとえば勤務地や職種が限定された新しい形の正社員を活用する。それなら「雇用に期限はないが、仕事がなくなったら解雇」というルールにも納得がえやすく、会社側が正社員雇用に前向きになるかもしれない。

 さらに、非正規から正規へとステップアップできるルールを整備する。新しい仕事へと移るための職業訓練や、その間の生活保障を充実させる。

 解雇規制の緩和は、そんな仕組みづくりが大前提だ。

 日経連(現・経団連)が95年にまとめた「新時代の日本的経営」では、幹部候補の正社員、雇用柔軟型の非正社員の間に、高度な能力を活用する専門職を位置づけた。

 ところが、能力を生かした働き方は増えず、雇用の不安定化ばかりが進んだ。会社側の「いいとこどり」だけの改革なら、日本再生は望めない。

水俣病の救済―解決に近づくためには


 水俣病の歴史において、政府が「最終解決」の枠組みを打ち出すたびに、新たな紛争が持ち上がってきた。同じことがまた繰り返されようとしている。

 有機水銀のために、けいれんに苦しんだり、手足がしびれたりする公害病が水俣病だ。

 救済を求める訴えが今なお続いている現実から、政府は目をそむけてはならない。

 最大の被害者団体である水俣病不知火(しらぬい)患者会は、水俣病被害者救済法に基づく救済策で対象外にされた会員らによる裁判を、5月にもおこす方針を決めた。今回の救済策をめぐる訴訟の動きは初めてだ。

 救済法による受け付けは3年前の5月に始まった。被害者と認められると、210万円の一時金や療養手当などが支給される。申請は昨年7月に締め切られ、熊本、鹿児島、新潟の3県で6万5千人を超えた。

 申請した人について各県による検診や判定が続いている。そして、救済の対象外とされる人たちが相次いだ。

 大きな要因は居住歴などで対象者を限る「線引き」だ。

 対象地域外の人たちは、汚染された魚介類の多食を立証して救済を受けようとした。それが認められず、県指定の医療機関での検診もないまま「非該当」とされた人が多いという。民間医師の検診では典型症状があると診断された人たちだ。

 患者会から200人以上が熊本、鹿児島両県に異議を申し立てた。だが「判定は行政不服審査法上の行政処分に当たらず、異議申し立てはできない」とするわかりにくい環境省見解を根拠に、両県は却下した。

 これに対し、新潟県は「行政処分にあたる」と判断し、申し立てを審理する方針を示した。 県によって対応が違う。

 判定に納得できない申請者が現にいて、その疑問をぶつけるすべがないとすれば、それは制度の不備ではないか。

 そもそも救済法は「あたう限りすべて」の被害者を救済すると明記している。立法の精神に立ち返れば、見落としがないかきちんと検診したうえで判断する慎重さが必要だ。

 水俣病の基準を、行政は狭く限定してきた。半世紀で認定患者は約3千人にとどまる。95年の「政治決着」で救済対象となった未認定患者は約1万1千人。そして、今回の「第2の政治決着」である。

 これほど複雑な経緯をたどった根っこには、政府が被害の全容をつかむのを棚上げにしてきたことがある。誠実な判定のほかに解決に近づく道はない。

衆院選違憲判決 国会は司法の警告に即応せよ


 ◆「無効」判断は無責任ではないか◆

 立法府が、司法からこれほどまで怠慢を指摘されたのは、かつてなかったことだ。

 昨年12月の衆院選を巡り、全国の高裁・支部で審理された16件の「1票の格差」訴訟のうち、15件で判決が言い渡された。

 13件は「違憲」と断じた。残る2件も「違憲状態」と指摘し、合憲判断は一つもなかった。

 約50人もの高裁判事が審理した結果である。国会は判決を重く受け止め、早期に具体的な是正措置を講じなければならない。

 ◆進まない格差の是正◆

 最大2・43倍だった1票の格差が、法の下での平等を保障した憲法に違反するか。違反であれば、国会が格差を放置した期間は許容できる範囲内か。いずれの訴訟もこの2点が主な争点だ。

 「違憲」判決は、格差が憲法違反である上、格差是正の合理的期間も過ぎたと判断した。「違憲状態」判決は、憲法違反だが、格差の放置は許される期間内だとの見解である。

 最大格差が2・30倍だった2009年の衆院選について、最高裁は11年3月、「違憲状態」とする判決を出した。昨年末の衆院選時には、それよりも格差が拡大していた。

 高裁の一連の厳しい判断は、予想できたと言えよう。

 ただ、1票の格差は、何倍までならば合憲なのか、各高裁の判決からは必ずしも判然としない。

 さらに、問題なのは、広島高裁と広島高裁岡山支部が、選挙の無効まで宣告したことである。

 裁判所はこれまで「事情判決」の法理を適用し、選挙そのものは有効としてきた。無効とした場合の混乱を考慮してのことだ。

 これに対し、広島高裁は「最高裁の違憲審査権が軽視されている」として、事情判決を適用しなかった。「最高裁判決から1年半が経過した昨年9月」を、格差是正の期限とする見解も示した。

 だが、この線引きの具体的根拠は示されていない。

 ◆「将来効」判決は疑問◆

 無効の効力は、今年11月26日を経過して発生するとも判示した。衆院の「選挙区画定審議会」が、昨年11月26日から改定作業を始めたことを重視したのだという。

 一定期間を経た後に効力が生じるという「将来効」の考え方だが、1年という区切りの必然性は明確でない。立法府の裁量権に司法が踏み込んだとも言える。

 岡山支部は、選挙を「即時無効」と判断した。「政治的混乱より投票価値の平等」を重視したというが、あまりに乱暴過ぎる。

 現行の公職選挙法には、選挙無効が確定した場合の詳細なやり直し規定がない。例えば、失職した議員の選挙区のみ再選挙をするのか、解散・総選挙になるのか、法的手続きは整理されていない。

 無効判決が確定すれば、政治は混乱するばかりだ。

 すべての訴訟は上告される見通しだ。最高裁には現実的な判断を示してもらいたい。

 ◆与野党合意できぬなら◆

 一方、政府・与党は、1票の格差を2倍未満に収める「0増5減」の区割りを決める公選法改正案を早期に成立させた上で抜本改革に取り組まねばならない。

 ただ、0増5減は、最高裁が1票の格差を生む主因として廃止を求めた「1人別枠方式」による定数配分を基礎としている。

 岡山支部判決が指摘するように「投票価値の格差是正への立法措置とは言い難い」だろう。

 抜本改革となると、与野党それぞれの思惑が絡んで、進展の見通しは全く立っていない。

 自民党がまとめた案は、比例選の定数を30減の150議席とし、そのうち60は得票数が2位以下の政党に配分する優遇枠とした。優遇枠については、「1票の価値の平等」という観点から憲法違反の恐れが指摘されている。

 司法が「違憲」と判断した制度を見直すのに、またもや違憲の恐れがある制度をもって代えてよいはずがあるまい。

 衆院選と同様に参院選も「違憲状態」と判断されている。国会は参院選の1票の格差を是正するために昨年11月、公選法を改正し、選挙区定数を「4増4減」したが、応急的な措置に過ぎない。

 選挙制度は、ただ民意を反映するだけのものではなく、政治が物事を円滑に決めるための基盤でもある。国会は衆院、参院の役割分担を検討したうえで、抜本的な制度改革を進めるべきだ。

 各党の党利党略によって、選挙制度改革が困難というのなら、有識者による選挙制度審議会を設けてでも改革を図るしかない。

2013年3月26日火曜日

マイナンバー―活用拡大への目配りも


 国民一人ひとりに番号をふり、社会保障分野などに活用する共通番号(マイナンバー)の導入をめぐって、国会での審議が始まった。

 法案は1年余り前、民主党政権下で一度出されたが、与野党の対立から廃案になった。その仕切り直しである。

 共通番号は年金や雇用、医療・福祉関連の給付や納税事務、災害時の支援金の支給などに限って活用する。民間業者の利用は認めない。独立性の高い第三者委員会を置き、個人情報の取り扱いを監視する。

 少子高齢化に対応するため、消費税の増税が決まった。負担と給付をしっかり管理し、社会保障や税の制度をより公平に、効率的にしていくことはますます重要になっている。共通番号はその大きな柱となる。

 しかし、国民の間で認知度は低い。住民基本台帳(住基)ネットに対して、強い反対が起きたことも記憶に新しい。

 共通番号を円滑に導入し、定着させるうえで、まず重要なのは個人情報保護の徹底だ。

 政府は年金や税など既存のシステム改修を含め、システム構築に2千億円以上を投じる。むだな投資を防ぐのは当然だが、安全性が十分なのか、専門的な見地からも点検が必要だ。

 同時に、共通番号によって得られる利点や行政の効率化、さらに活用分野の拡大についても認識と議論を深めたい。

 社会保障の給付申請や税務署への申告の際、あちこちの役所を回って必要な書類をそろえる手間が省け、受給や納税に関する自分の情報をパソコンで確認できる。重複支給や過少申告もチェックしやすくなる――現時点では、こんなメリットが強調されている。

 活用の拡大が考えられるのは、たとえば納税分野だ。共通番号を使って納税者ごとに所得や資産の全体像をつかみやすくすれば、負担力に応じた課税に役立つのではないか。

 健康状態や診療・投薬情報をさまざまな医療・介護機関が番号を介して共有することも、検討課題のひとつだ。

 ただ、よりよい医療サービスを効率的に提供できる可能性が高まる半面、情報が漏出する恐れも増す。厚生労働省の有識者会合が昨年、検討を重ねたが、論点整理にとどまった。

 法案では、法施行から3年をめどに活用範囲の拡大を検討するとされた。安倍首相も預金口座への拡大を念頭に金融犯罪対策を強める可能性に言及した。

 国民の理解を広げるため、精力的に議論してほしい。

キプロス危機―ユーロの矛盾ふたたび


 小康状態だった欧州の金融システムが、地中海の小国キプロスから不意打ちを受けた。

 発端は主要銀行の経営悪化である。その救済が財政危機に連鎖しないよう、欧州連合(EU)のユーロ圏諸国が100億ユーロ(約1兆2300億円)の支援を表明し、キプロスにも58億ユーロ(約7100億円)の負担を求めた。

 しかし、その資金を銀行預金への臨時課税でひねり出すことにキプロス国民が猛反発し、混迷が深まった。

 曲折の末、キプロス2位の銀行を分割・再編する形で破綻(はたん)処理し、10万ユーロ(1230万円)以上の高額預金を大幅にカットすることで、辛うじてユーロ圏とキプロスが合意した。

 ユーロ圏が拡大している時期には、特に経済小国でバブルが発生した。キプロスでも安い税金や緩い規制を目当てに、外国から多くの預金が集まり、金融資産は国内総生産(GDP)の7倍にも及ぶという。

 ところが、預金を膨らませた主要銀行がギリシャ危機をきっかけに運用に行き詰まり、金融不安が高まった。

 通貨は共通なのに、財政・税制や金融監督は国単位というユーロの根本的矛盾がここでも露呈したといえる。

 さらに問題を複雑にしたのはロシアからアングラマネーを含む多額の預金が流入していて、ユーロ圏とロシアとの利害対立を招いたことだ。ロシアは11年末に金融支援をし、一度は安定を取り戻した経緯があったが、今回は支援を断った。

 「ユーロ離脱」という事態は避けられたとはいえ、経済規模でユーロ圏の0・2%しかない小国が欧州を振り回すほど、ユーロの足元はもろい。

 政局不安のイタリア、経済が停滞するフランス、秋の総選挙を控えて内向きなドイツ――。危機に対応するユーロ圏内の結束には遠心力が働いている。

 混迷のさなか、キプロスに譲歩を迫るため欧州中央銀行(ECB)が資金供給を止めると圧力をかけたことが、金融システムの安定性に影を落とす恐れもある。

 「最後の貸手」としてのECBの信頼性に疑問符がつけば、キプロスだけでなく、ギリシャやスペイン、イタリアなど他の問題国からの資金流出も誘発しかねない。

 危機の拡散を防ぐため、ユーロ圏はキプロス支援をしっかり実行するとともに、金融監督を統一する銀行同盟などの枠組みを早く軌道に乗せていかなければならない。

円滑化法終了へ 中小企業支援に万全を期せ


 経営の悪化した中小企業に借金の返済猶予を認めている中小企業金融円滑化法が、3月末で期切れとなる。

 これを引き金に、中小企業の倒産が急増することのないよう、政府は支援策に万全を期さねばならない。

 円滑化法は、リーマン・ショック後の不況への時限対策として、2009年に施行された。

 期限は2回にわたり延長され、返済の繰り延べなどで支援された中小企業は、30万~40万社にのぼると見られている。厳しい景気情勢の下、中小企業の倒産防止に一定の効果を上げたのは確かだ。

 一方、再建の見込みのない会社を、いたずらに延命させた弊害があるのも事実である。

 円滑化法の終了に伴い抜本的な事業再生や廃業・転業を余儀なくされる企業は、5万~6万社にのぼると推計される。産業の新陳代謝を促し、「強い日本経済」の基礎を作るためにも、ある程度の痛みは覚悟する必要があろう。

 ただし、金融機関による強引な「貸し渋り」や「貸しはがし」によって、再建の意欲と能力のある中小企業まで倒産に追い込むような事態は避けるべきだ。

 金融庁は金融機関に対し、期限切れ後もできるだけ返済猶予や利払い軽減などに応じるよう要請した。妥当な措置である。関係府省は、貸し渋りなどへの監視体制を強化してもらいたい。

 円滑化法の終了をにらみ、中小企業の事業再生を支援する制度が拡充されたことも注目される。

 政府は、日本航空の再建などにあたった企業再生支援機構を、中小企業に注力する地域経済活性化支援機構に改組した。機構が活用できる公的資金枠は、3000億円から1兆円に拡大された。

 このほか、各地方の再生支援組織で今後、弁護士や税理士のスタッフを増員し、零細企業の再建策作りを加速させるなど、多様な施策を打ち出した。国と地方で総合的な体制をとったのは心強い。

 重要なのは、取引先の財務内容や経営能力をよく知る金融機関の役割だ。公的機関と緊密に連携して、効果的な支援を実現することが求められる。

 むろん中小企業の自助努力が大前提である。人口減による国内市場の縮小や新興国の台頭で、経営環境は不透明感を増している。

 じり貧の現状を打開するため、市場開拓を目指した海外進出や、思い切った業態の転換などを迫られる会社もあろう。支援策を生かし、活路を開いてほしい。

国連人権調査委 北朝鮮に拉致解決迫るテコだ


 国連人権理事会で、北朝鮮の人権侵害に関する調査委員会の設立をうたう決議が、全会一致で採択された。

 これをテコに、北朝鮮の人権状況の改善を求める国際社会の連携を強化し、日本人拉致問題の早期解決につなげることが重要である。

 決議案は日本と欧州連合(EU)が共同提出した。北朝鮮の「組織的で広範かつ重大な人権侵害」を非難し、強制収容所や拷問、「外国国籍者の拉致を含む強制失踪」などを調べるため、3人の専門家による調査委設立を明記した。

 国連は毎年、北朝鮮の人権状況を調査する特別報告者を任命してきたが、調査委発足によって、より充実した調査が可能となる。

 日本政府は、総力を挙げて協力し、拉致という北朝鮮の国家犯罪の全容解明と、被害者全員の帰国実現を図っていくべきだ。

 北朝鮮の人権状況を非難する国連決議案の採決では、北朝鮮擁護派の反対票が年々減少する一方、賛成票は増え続け、昨年から全会一致での採択が通例となった。

 核・ミサイル問題でも、国際社会の非難を無視する北朝鮮に、国連安全保障理事会は全会一致で制裁を強化した。中国も、制裁実施に積極的な姿勢を見せている。

 北朝鮮の金正恩政権は、こうした国際的な圧力の高まりを重く受け止めなければならない。

 北朝鮮は、これまでと同様、国連への協力を拒み、調査委関係者の入国を一切認めないだろう。

 それでも調査委は、北朝鮮以外の国で、被害者や脱北者、家族、政府、諸機関から詳細な証言を集めることができる。それを基に組織的な人権侵害の実態や具体的な対策をまとめ、1年後に国連報告書として公表する予定だ。

 北朝鮮指導部に「人道に対する罪」の責任を厳しく問うこともできよう。人権状況の改善を迫るために、国際社会は北朝鮮に圧力をかけ続ける必要がある。

 今回の決議は、日本政府の拉致問題に関する積極的な取り組みの一つの成果と、評価できる。

 安倍首相は施政方針演説で、拉致被害者の帰国まで「私の使命は終わらない」と述べた。被害者家族の高齢化を考えれば時間は貴重だ。ぜひ結果を出してほしい。

 北朝鮮との政府間協議の再開も含めて、戦略的で積極的な外交の展開が求められる。

 拉致、核、ミサイル問題の包括的な解決なくして、日朝国交正常化はあり得ない。政府はこの立場を堅持することが肝要だ。

2013年3月25日月曜日

国の借金―新たな安全神話に陥るな


 海の水を矛で混ぜて、そのしずくから生じた島が日本の始まりと古事記は記す。

 神話ならぬ、日本の近代は借金の海から船出した。時に荒れ狂う恐ろしい海に人が糧を求めるように、為政者は借金に恐れを抱きつつ、依存した。

 いま、物価を2%上げるというアベノミクスの号令のもと、財政、金融の総動員を見込んで株式市場は沸き立つ。

 そんな時だからこそ、思い起こしたいことがある。

■存亡をかける一大事

 140年前の1873年3月、発足間もない明治政府は公債条例を発布、翌4月から公債を交付した。諸藩が大阪商人らからした借金を肩代わりするためで、国内初の国債とされる。

 海外での起債はもう少し早くその3年前。鉄道建設のため100万ポンドの日本国債がロンドンで発行されている。

 歴代政府は借金に苦しみ続けた。国家を二分した征韓論の時も借金への恐怖感があった。

 大蔵卿・大久保利通は「巨額の戦費の財源は重税か外債に依存しなければならぬが、返済のめどが立たない。外債償還が不能になれば英国に国内干渉をされる口実を与え属領とならざるを得ない」と反対の意見書を出した。借金は国の存亡をかける一大事だった。

 日露戦争の際も戦費に事欠いた。欧米で起債を計画するが、勝利を疑う投資家はなかなか買わない。発行をまかされた高橋是清は「日本は一厘たりとも元利払いを停止したことはない」と必死に説得した。

 金欠病でも返済は真面目だった。信用を失えば調達できなくなり、国が滅びるからだ。

 その姿勢は、第2次大戦を挟む時期も引き継がれた。外国人保有者への元利払いは難しくなったが、1952年に独立を回復すると、数年後に再開、85年に払い終えた。

 半面、戦前戦中に軍事費調達のため大量に発行された内国債は戦後の超インフレでほぼ無価値になった。外面はいいが、身内に煮え湯をのませても平気な伝統ができた。

■金利上昇のリスク

 今の政治家に、借金を恐れ、まじめに償還を考えた明治の為政者の覚悟はあるだろうか。

 来年3月末に国債残高は750兆円になる。国内総生産の1・5倍、一般会計の税収17年分に当たる。

 日本には黄信号がともりつつある。積み上がった借金は、金利の上昇によって、財政や国家運営を破壊しかねない。

 アベノミクスは、物価を引き上げることで、企業収益も上がり給与も消費も増えるという図式を描く。ただ、上昇圧力は金利にもかかる。

 財務省の試算では、安倍政権の思惑通り物価が2%上昇し、同じ幅だけ14年度から長期金利が上がり、その水準が続くと、初年度2兆円、2年目4・9兆円、3年目で8・2兆円と、国債の元利払い費は増えていく。

 消費税は1%あたり税収が約2・7兆円とされる。金利の負担増は3年目で消費税3%の増税分を上回る。

 アベノミクスの光の部分を強調する議論は、金利上昇のリスクを甘く見ているか、忘れている。低金利が続き、国債の暴落(金利の急騰)を肌身で知る人が少なくなったからか。

 株式のように多様な銘柄のない国債は相場環境が変わると値動きが一方通行になりやすい。

 80年代初頭の「ロクイチ国債暴落」は、78~79年に発行された利率6・1%の国債が第2次石油危機後の物価上昇や日銀の金融引き締めで売り浴びせられて起きた。長期金利は80年4月には11%近くまで上がった。

 その後も87年、98年などに国債は急落している。今、同じようなことが起きれば、昔とは比較にならないほど大量の国債を保有する銀行や年金基金などは苦境に立つ。

 日銀が国債を買い支えれば金利上昇を抑え込めるとの意見もあるだろう。一時的には可能かも知れないが、値打ちの下がった国債を大量に購入する日銀の信用は傷つき、制御不能のインフレを招きかねない。

 国債の海外保有比率は現在9%ほどだが、値動きにさとい海外投資家が一気に売りに出て、金利上昇を増幅させる可能性も指摘される。

■2本目の矢が危うい

 日本にとって、長期金利の上昇はほぼ確実に予想される事態だ。国家的危機に陥らないようにするには、財政規律に目を配り、国債の新規発行を絞り込んでいくしかない。

 金融緩和、財政出動、競争力強化という「3本の矢」で短期的に景気がよくなっても、長続きさせるには、財政再建への布石を打ち、金利上昇を抑えなければならない。2本目の矢の根本的な転換が必要なのだ。

 暴落はないと高をくくるのは原発の事故リスクを無視してきたことと同じ、新たな神話の国への道である。

公示地価 不動産デフレ脱却へもう一息


 地価の底入れの兆しが一段と強まってきた。不動産価格を正常化させ、デフレから脱却できるよう、政府は経済活性化を急がねばならない。

 国土交通省が発表した2013年1月1日時点の公示地価は、全国の住宅地で前年比1・6%、商業地で2・1%下落した。08年秋のリーマン・ショック以降、ともに5年連続のマイナスだった。

 下落幅が3年連続で縮小したのは明るい材料だ。中でも3大都市圏の下落幅は0%台で、下げ止まりが視野に入ったと言える。

 都道府県別の平均値も、ほぼすべてで下落幅が縮まった。都市圏から地方圏へ、改善傾向が広がっていることをうかがわせる。

 安倍首相が就任前から掲げた経済再生に対する期待が先行し、不動産市場に資金が流入している。こうした動きが続けば、地価の回復に弾みがつくだろう。

 住宅地で改善が目立つのは、低金利や住宅ローン減税などの政策効果が下支えしたのが要因だ。

 東京では前年ゼロだった上昇地点が現れた。マンション販売が堅調なことが背景にある。

 住宅地に比べて遅れ気味だった商業地が、都市部を手始めに持ち直してきたのも注目できる。

 東京スカイツリーなど大規模な商業施設を中核とした再開発地域や、耐震性に優れた新築物件への移転需要が根強い地域などで上昇地点が増えている。

 空室率の低下、賃料の下げ止まりといった傾向が見え始めた。

 アジアを中心とする海外からの投資マネーも増大しているようだ。金融緩和に伴う円安の進行などで日本の不動産に割安感が出ているのだろう。

 一方、人口減や地域経済の疲弊など構造的な要因を抱える地方の商業地は改善テンポが鈍い。

 東日本大震災の被災地では、津波被害に見舞われた沿岸部と浸水を免れた高台で地価が二極化する現象は薄まっている。

 しかし、復興事業が進展し、住宅移転への需要が拡大するのに伴い、地価の急上昇する地点が増えている点は気がかりだ。

 地価上昇率トップの住宅地は2年連続で宮城県石巻市だった。宮城、岩手両県の沿岸市町村は軒並み上昇に転じ、県別でも宮城県が全国一の上昇率を記録した。

 急激な地価上昇が住宅再建に悪影響を及ぼさないように政府と自治体は監視を強めるべきだ。来年4月の消費税増税をにらんだ駆け込み需要が地価に与える影響にも注意する必要がある。

都市の鉄道網 相互乗り入れで沿線活気づく


 首都圏に新たな鉄道ネットワークが誕生した。従来にない人の流れを取り込めば、観光振興や商機拡大など経済の活性化につながろう。

 東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転が始まった。

 東武、西武、メトロ、東急、横浜高速の鉄道5社が接続し、埼玉県西部から横浜市まで最長88・6キロを乗り換えなしで結ぶ異例の取り組みである。

 埼玉県内と横浜市内では、商店街の営業時間延長や観光施設との連携など、遠方からの客を呼び込むPR合戦が熱を帯びている。

 途中の渋谷、新宿、池袋各駅の百貨店なども集客を競う。沿線が活気づく直通効果と言えよう。

 日本の大都市は広範囲に鉄道網が整備され、膨大な通勤、通学輸送を担っている。年間の利用客数は東京圏130億人、大阪圏45億人、名古屋圏10億人に上る。

 東京では通勤する人の鉄道利用率は7割超で、約4~5割のニューヨークやロンドンを上回る。

 都市鉄道の発展に貢献してきたのが、都心の地下鉄と郊外電車が乗り入れる直通運転である。

 1970年に155キロだった東京圏の直通運転区間は、今回を含めると900キロを超え、総延長の4割に達する。

 少子高齢化で乗客数の拡大が見込めず、新規路線への投資は難しい鉄道各社が、直通運転に活路を求めたという事情があろう。

 既存路線を活用する直通運転なら、乗り換えの不便を解消した時間短縮が可能なうえ、新規乗客の流入が見込めるからだ。

 ターミナル駅の混雑緩和や鉄道運行の効率化、沿線価値の向上というメリットも期待できる。

 首都圏だけでなく、大阪圏など他地域にも参考となるだろう。

 ただし、懸念材料もある。

 最近の直通運転は、車両の異なる複数の鉄道会社が乗り入れ、走行距離が長い。いったん事故や車両故障が起きれば、乗り入れ他社の路線まで電車の遅延が玉突きで広がりかねない。

 国土交通省によると、首都圏の鉄道で発生した30分未満の遅れのうち、約4割が乗り入れ先でのトラブルが原因だった。

 事故や故障の際、ダイヤの乱れは最小限に抑えてもらいたい。

 折り返し運転が可能な区間の拡大が求められよう。利用客への迅速な情報提供も必要だ。

 乗客の転落を防止するホームドア設置も検討課題だ。鉄道各社は扉の数や幅が違う車両に対応できる技術開発を急いでほしい。

2013年3月24日日曜日

中ロ首脳会談―太平洋望んだ同床異夢


 協力のかけ声と裏腹に、太平洋を望んだ中国とロシアの「同床異夢」は広がる。実情を冷静に見すえ、国益と地域安定につなげる対応が日本に必要だ。

 中国の習近平(シーチンピン)国家主席が就任後初の外遊でロシアを訪れてプーチン大統領と会談し、両国間の「戦略的協力」関係の発展に関する共同声明を出した。

 声明は、これまで通り主権や領土保全などの「核心的利益」で互いの国を支持することをうたっている。会談に際し、ロシアから中国への年間の石油供給量を倍増するなど、多くの経済協力案件も合意された。

 だが、習氏が尖閣諸島問題でロシアの支持を会談の課題としたのに、プーチン氏は共同会見で領土問題に触れなかった。

 中国漁船衝突事件の直後に胡錦濤(フーチンタオ)前主席とメドベージェフ前大統領が出した2年半前の共同声明には、尖閣での中国寄りを意味する「第2次大戦の成果と国際秩序を守る」との表現があった。これも、プーチン氏が大統領に復帰した後の昨年同様、声明に含まれていない。

 習氏が率いる中国は尖閣のほか、台湾問題、南シナ海での領土・領海争い、米国の「アジア回帰」への対抗など、太平洋方面での課題が目白押しだ。

 他方でプーチン氏は、極東とシベリアの開発で、日本などのアジア・太平洋諸国からの投資や技術の引き入れを重視する。米国のシェールガス革命で輸出が減少した天然ガスを、この方面に売り込む必要もある。

 さらに、中国の国内総生産がロシアの約4倍、軍事費が約2倍と、国力差が一段と目立ってきている。一本調子で協力を続け、中国が抱える係争案件へ過度に関与することは、明らかにロシアの利益にならない。

 プーチン氏が日本との北方領土問題の解決に前向きで、エネルギー協力を呼びかける背景にはこうした事情がある。

 ただし、中ロは米国への対抗などで、なお協力を必要としている。米国が同盟国と進めるミサイル防衛には、両国は引き続き反対を表明している。

 それでも日本は、中ロ関係の変わらぬ部分に目を奪われ、変化を軽んじたりしては、外交上の好機を見逃しかねない。

 領土問題の議論と並行して、まずロシアとの協力をさぐる。日ロ接近をテコに、東アジアでのエネルギー事情の改善や北東アジアの安定へと、中国を誘い入れていく。

 安倍首相は大型連休中に予定されるロシア公式訪問で、プーチン氏と新たな協力のあり方を率直に語り合ってほしい。

無投票知事―選挙って何だろう


秋田県知事選で、現職の無投票当選が決まった。

 1月には山形の知事も無投票で再選された。平成に入ってからそれまで、無投票の知事選は2例のみ。まさに異例である。

 対立候補が出なければ有権者は選択の機会を奪われ、民主主義が機能しなくなる。ふつうの社説なら、こう警鐘を鳴らすところだろう。

 だが、ここでは別の観点から選挙とは何かを考えたい。

 秋田での無投票の直接の理由は、自民、公明、社民の各党が支持する佐竹敬久知事に対し、民主党が対立候補の擁立に失敗し、共産党も見送ったためだ。

 ただ佐竹氏は、有権者にも対立を望まない空気があったとみる。再選後、こう語っている。

 政治家は、選挙で無理やり対立の構図をつくり、現実味の乏しい公約を掲げがちだ。それでは政治や行政は停滞し、世の中は変わらないと、有権者は気がついてきた――。

 実際、秋田では、非自民勢力が推す前知事の後半、県議会自民党は知事の提案を次々に拒否。子育て教育税の導入も地域振興局再編も実現せず、県政の停滞が続いた。

 その末に、敵をつくらないのが持ち味の佐竹知事が誕生。1期目に住宅リフォームの助成など共産党の提案も採り入れ、同党の擁立見送りにつながった。

 再び知事の発言に戻る。

 高度成長期には、年々増える予算で「何かをやる」ために選挙で激しく争った。いまは「何かをやめる」選択にならざるをえない――。

 少子高齢化と財政難の時代、選挙は意義を問われている。

 できることは限られているのに、選挙で争うために、相手との違いを際立たせる。何かをやめるという難しい合意形成はさらに困難になり、「動かない政治」に有権者の不信が募る。

 国政でも、そんな悪循環が繰り返されてきた。

 選挙は大切だが、それだけで民主主義が機能するとは限らない。選挙の限界をどう補うか。問われているのはそこである。

 その点で、無投票当選の知事たちの動向に注目したい。

 有権者から信任を得る機会を逃したのだから、民意をくむ工夫を凝らさなければなるまい。情報公開を進め、公約の実施状況を明らかにし、対話の場を設けることが不可欠だ。責任転嫁する相手はおらず、議会を説得する努力や技量も問われる。

 本来、すべての政治家が心すべきことが再認識されるとすれば、無投票当選もあながち捨てたものではない。

福島原発停電 管理体制を強化して再発防げ


 東京電力福島第一原子力発電所で大規模な停電が起き、全面復旧に約30時間もかかった。

 原発事故後、最大規模の停電を招いた東電の対応には、見過ごせない問題があったと言える。

 停電発生から丸1日以上、状況把握に難航し、復旧作業の遅れにつながった。今後の課題だ。

 東電は当初、関係する配電盤を個別に調べた。だが、故障箇所は特定できず、非常用電源などに配線し直すしかなかった。

 原子炉の冷却系は、短時間の停電でも事態が悪化する恐れがあることから、バックアップ電源を備えており、停電は免れた。

 だが、それ以外の系統は、こうした対策が十分ではなかった。

 その後の調査で、2年前の事故直後から屋外に設置されていた配電盤が、内部に入り込んだネズミのような小動物の接触でショートした可能性が浮上した。

 東電は、屋外の臨時配電盤の弱点を認識し、屋内の配電系統に切り替えることを予定していたというが、管理体制に甘さがあったことは否定できまい。

 停電の発生により、使用済み核燃料の冷却が大切であることも改めて注目された。

 福島第一原発では、水を張ったプールに1万体以上が貯蔵されている。このうち9000体近くの冷却機能が一時停止した。

 使用済み核燃料は発熱を続けている。プールの冷却水を循環させないと、水が蒸発し、燃料が損傷しかねない。事故の際にも危惧されたことだ。

 今回は、複数あるプールの水温は最高で32度だった。東電が定めている警戒温度の65度までには、十分に余裕があった。原子力規制委員会の田中俊一委員長も、「そんなに切羽詰まったものではない」と指摘した。

 ただ、停電が長時間続いたことに不安の声は少なくなかった。丁寧な状況説明が求められる。

 停電の公表までに約3時間を要したことも含め、規制委の事務局が「情報提供のあり方を再検討する」と改善の意向を示したのは、当然のことだ。

 福島第一原発は事故で大きく損傷している。毎日3000人の作業員が、原子炉の安定化や廃炉を目指し、働いている。現場の放射線量は依然高い。厳しい環境での作業は容易でないだろう。

 廃炉は最長で40年かかる長丁場の事業だ。作業への信頼を損なわないためにも、今回のような不手際を繰り返してはならない。

全柔連改革 人心一新しか再生の道はない


 女子選手への暴力問題などで、全日本柔道連盟に対する信頼は地に落ちた。組織を立て直すには人心を一新し、改革を断行するしかあるまい。

 全柔連は、上村春樹会長ら執行部の体制を見直さず、全員の留任を決めた。

 責任を取る文化はないのか。社会通念に反する全柔連の決定に、呆れるばかりである。

 これに先立ち、暴力問題を検証した第三者委員会が、全柔連に答申を提出した。「柔道界の常識ではなく、世間一般の常識を体現できる人材が不足している」などと、全柔連の組織としての問題点を厳しく指摘する内容だった。

 執行部の留任に、第三者委のメンバーだった精神科医の香山リカさんが「(答申では)組織として機能していない、とまとめた。会長も含めて処分を検討すべきだ」と批判したのも当然だ。

 全柔連は、辞任した全日本女子前監督の暴力行為を把握しながら、いったんは前監督の続投を決めた。不信感を強めた15人の女子選手は、日本オリンピック委員会(JOC)への告発に至った。

 問題の重大性を認識できず、適切な対策も講じられない。全柔連に危機管理能力が欠如しているのは明らかである。

 バルセロナ五輪の52キロ級銀メダリスト溝口紀子さんは、全柔連について「一握りの幹部に権力が集中しがちで、『違う』ともの申すことができにくい」と語る。

 この「一握りの幹部」が交代しない限り、組織の変革は望めないだろう。上村会長は「一丸となって取り組む」と語るが、執行部の一新こそ改革への第一歩だ。

 第三者委は、執行部に外部のメンバーを入れることや、女性理事、女性監督の起用も求めた。閉鎖体質から脱却し、風通しのよい組織に変わるには、ぜひとも実現する必要があるだろう。

 全柔連では新たな問題も明るみに出た。日本スポーツ振興センターから強化委員に支払われた助成金の一部を強化委員会に上納させ、飲食や接待に使っていた。

 帳簿や領収書は残されておらず、プール金の残高は約2000万円にも上るという。

 さらに、強化委員を務める理事は、指導実態が全くないのに助成金を不正受給し、その一部を上納していたことを認めている。

 全柔連は税制上の優遇措置を受ける公益財団法人だ。不透明な金銭管理は許されない。

 信頼回復には、これらの問題の徹底解明も重要だ。

2013年3月23日土曜日

企業課税判決―自治を問い直す契機に


 地方分権の考えにたち、税金の徴収についても、自治体の判断をできるかぎり尊重するか。それとも、「課税こそ政治のおおもと」ととらえ、国が法律としてさだめた枠をしっかり守ることを求めるか――。

 専門家の間で意見がわれ、裁判所も地裁と高裁で結論が異なった問題に、決着がついた。

 神奈川県が独自にもうけた臨時の企業課税条例を、最高裁は「地方税法に違反し無効」と判断した。ふたつの考え方の後者をとったと言っていい。

 地方税法は、利益がでている企業でも、過去に赤字があったら相殺して税を安くすると決めている。いっぽう県条例は、この相殺を事実上やめ、単年度で利益があがれば、それに見あう課税をすることを図った。

 最高裁は「税負担を均等化し公平な課税をするという法律のねらいや効果を、下位のルールである条例で阻むことになる」と、無効の理由を述べた。

 分権の流れに反する判決と見る人も少なくないだろう。地方が自分の足でたち、政策を展開するには、財政の自己決定権をもつことが大切だ。

 だが、税をおさめる側からすれば、相手が国であれ自治体であれ、「法の支配」に反する行いをされてはかなわない。

 古来、「代表なければ課税なし」という。憲法が、税金を課すには、国会が制定した法律によらねばならないという租税法律主義をとるのはなぜか。

 それが、民主主義の原点ともいうべき考えだからだ。

 この点をゆるがせにして地方自治の拡大・発展を唱えても、説得力に欠ける。判決は、そのことをあらためて確認させるものとなった。

 最高裁も自治体の課税自主権を否定したわけではない。今回の司法判断を踏まえ、どんな道をさぐるべきか。関係者は議論を深めてもらいたい。

 気になるのは、首長や議員の多くが、自治体の判断でできる住民税率の引き上げなどには及び腰なことだ。選挙への影響を考えるためで、かわりに、企業をふくめ「取りやすいところ」から取ろうという傾向が強い。

 それでいいのだろうか。

 地域の実情にあわせ、どんなサービスを提供し、いかなる負担を求めるか。対話をかさね、答えを見いだす。それが地方自治の本来のあり方だ。

 あわせて、国と地方の税源配分の見なおしという課題に、引き続きとり組む必要がある。

 住民、首長・議会、国。三者が同じ方向をめざして歩んだ先に、地方自治の発展がある。

埋め立て申請―沖縄の声、なぜ聞かぬ


 何の成算もないままの見切り発車と言うほかはない。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に向け、防衛省がきのう、移設先とする名護市辺野古沖の埋め立てを沖縄県に申請した。

 これを受けて、仲井真弘多(ひろかず)知事が8カ月前後をめどに、承認の可否を判断する。

 県民の圧倒的多数が辺野古への移設に反対しているなかでの埋め立て申請は、かえって問題をこじらせる――。私たちは社説でこう指摘してきた。

 残念ながら、それが現実となってしまった。

 仲井真知事はきのう、「全41市町村が『反対』と言っているなかでどうやってやるのか。理解できない」と語った。名護市の稲嶺進市長も「不意打ち、抜き打ち的」と政府の対応に不快感を示した。

 沖縄の人々が不信感を募らせるのは当然だろう。

 こんな事態を招いておきながら、知事に承認を迫るのはあまりにも無責任だ。

 安倍政権が埋め立て申請を急いだのは、何よりも「日米同盟強化」の証しとして日米間で約束した早期移設への「実績」を示す狙いがある。

 年明けの名護市長選で反対派が勝てば移設が一層困難になることから、その前に知事が承認できる環境を整えたいという判断もあったのだろう。

 だが、申請が沖縄の態度を硬化させたことは否めない。

 安倍首相はこれまで「沖縄の人々の声に耳を傾け、信頼関係を構築しながら移設を進めたい」と語ってきた。

 だが、やっていることはまったく逆ではないか。

 普天間問題だけではない。

 安倍政権は、1952年のサンフランシスコ講和条約発効と日本の独立を記念して、4月28日に政府主催の「主権回復の日」の式典を開く。

 連合国による日本占領が終わった日だが、米軍の施政権下におかれた沖縄では「屈辱の日」と呼ばれている。

 本土から基地を次々と移して、過重負担をもたらした。当然ながら、沖縄からは反発の声があがっている。

 安倍政権は米国への配慮を重ねながら、沖縄の人々の心情を軽視しているとしか思えない。

 政府は今後、沖縄の負担軽減策も進め、県民世論の軟化を促す構えだ。だが、そんな小手先の対応で県民が容認に転じるとは考えにくい。

 知事が「ノー」と言ったとき、その責任を、首相は自ら取る覚悟はあるのか。

「普天間」申請 移設実現へ最大の努力尽くせ


 長年の日米間の懸案を解決するため、政府は沖縄県の説得に最大限の努力を尽くすべきだ。

 防衛省が、米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古移設に伴う公有水面埋め立てを沖縄県に申請した。

 沖縄県は今後、埋め立ての許可の是非を慎重に判断する。仲井真弘多知事は「県外移設」を主張しており、許可が得られる見通しは現時点で立っていない。

 しかし、辺野古移設に、地元の名護漁協は今月11日に同意する方針を決定した。移設先の周辺住民も一定の理解を示している。

 辺野古移設が、沖縄全体の基地負担の軽減と米軍の抑止力の維持を両立させるための「最善策」であるのは間違いない。

 政府は、年内に知事の許可を得ることを目指している。辺野古移設が争点となる来年1月の名護市長選の結果が日本の安全保障にかかわる重要問題を左右する事態を避けるためで、妥当な判断だ。

 安倍首相は2月のオバマ米大統領との首脳会談で、辺野古移設を推進する方針を表明した。日米同盟をより強固なものにするうえでも、辺野古移設の実現が重大な試金石となる。

 政府・与党は総力を挙げて、仲井真知事が埋め立てを許可する決断をしやすい環境を整備しなければなるまい。

 非現実的な「県外・国外移設」を安易に唱えた鳩山民主党政権の失政で、今の県内世論の大勢は辺野古移設に反対だが、もともと仲井真知事は容認していた。

 仮に埋め立てを不許可にすれば、普天間飛行場の危険な現状を長期間固定化することにつながる可能性が高い。それが沖縄にとって本当に望ましい選択なのか。

 政府の今後の努力次第では、仲井真知事が許可を最終決断する余地は十分あるはずだ。

 まず自民、公明両党の地方組織や県選出国会議員に辺野古移設への理解を広げる必要がある。

 移設先の名護市関係者の説得も欠かせない。市長は移設に反対だが、市議会は反対派が容認派をわずかに上回っているだけだ。市議会の賛否の勢力を逆転させることができれば、知事の判断にも大きな影響を与えよう。

 普天間飛行場や他の米軍施設の返還後の跡地利用策を含め、沖縄の将来像や地域振興策について、政府は、沖縄県と本格的な協議を重ねていくことが求められる。

 騒音対策など米軍基地負担の軽減策についても、従来以上に真剣に取り組まねばならない。

キプロス混迷 欧州危機の再燃回避が急務だ


 地中海の小国キプロスの金融危機が、世界を揺るがし始めた。

 欧州連合(EU)の主導で混乱を収拾させ、欧州全体や日本経済などへの波及を食い止めるべきだ。

 キプロス政府は、経営危機に陥った国内第2位の大手銀行を整理・再編する方針を決めた。無秩序な破綻をひとまず回避し、EUからの金融支援を取り付けるための窮余の策と言えよう。

 EU加盟国で通貨ユーロを導入しているキプロスの危機の発端はギリシャ財政破綻だった。

 ギリシャ国債を大量保有するキプロスの銀行が不良債権を抱えて経営が悪化したが、政府には公的支援を行う財政力がない。ロシアなど国外の預金者から巨額資金を集めていた「金融立国」モデルが行き詰まったことを示す。

 キプロスからの要請を受け、EUは国際通貨基金(IMF)とともに最大100億ユーロ(約1兆2000億円)の支援を決めた。

 その条件としてEUが求めた銀行預金への課税案が、事態を混乱させる直接の要因になった。

 課税を嫌がる国民がEUの提案に反発し、預金引き出しに走るなど、騒ぎが拡大した。

 少額預金については課税対象外とし、国民の理解を得ようとした政府の法案も、世論を意識した議会で否決された。

 このままではEUの条件をクリアできず、支援策は宙に浮く。債務不履行(デフォルト)を警戒する見方すらくすぶる。

 キプロス政府が大手銀行を整理する方針を示したのは、預金課税の代替案を迫られた結果だ。問題銀行を存続させて救済するよりも公的資金が少なくて済むメリットに着目したのだろう。

 だが、支援が速やかに実現するかどうか、先行きは不透明だ。最大のカギは、厳しい財政規律を求めるドイツが握る。キプロスはドイツなどを納得させる銀行安定策をさらに詰めねばなるまい。

 キプロスとの関係が深いロシアの役割も重要だ。EUと連携を図ってもらいたい。

 最も懸念されるのは、キプロス危機がスペインやイタリアなどに飛び火し、沈静化しつつあった欧州危機を再燃させる事態だ。

 外国為替市場では、ユーロが弱含みで推移し、円が買われやすい展開が続く。世界各地で株価の乱高下も目立っている。

 キプロス混迷が回り回って、経済再生を目指す安倍政権の経済政策「アベノミクス」に冷や水を浴びせないか。要警戒である。

2013年3月22日金曜日

障害者雇用―皆が働きやすい職場に


 障害者だけでなく、すべての働く人にとって良い職場環境をつくるきっかけにしたい。

 雇用義務の対象となる障害者を、これまでの身体障害と知的障害から、うつ病や統合失調症などの精神障害にも広げる法案が、今国会に提出される。5年後の施行を目指す。

 法定雇用率は、働いているか働く意思のある障害者が全労働者に占める割合を算出し、それと同じ水準になるよう5年に1度、見直している。

 現在は1・8%で、4月には15年ぶりに改定され、2%へ引き上げられる。

 これに対し、民間企業の実雇用率は昨年で1・69%。半数以上の会社は1・8%をクリアしていない。

 対象は、障害者手帳を持つ人だ。すでに雇われている人も手帳を取得すれば算入される。

 精神障害も対象になると、法定雇用率はさらに引き上げられる。企業にとって、精神障害者の雇用にも目を配らなければ、法定雇用率を達成するのは難しくなろう。

 ただ、精神障害の場合、見た目には障害がわからず、本人も偏見を恐れて、周囲に障害を知られたくない気持ちが強い。このため、厚生労働省の審議会も「本人の意に反し、障害者手帳の取得が強要されることがないように」とくぎをさす。

 精神障害を抱える人は、職場でのコミュニケーションに難しさを抱え、もともと緊張やストレスに弱く心身がつかれやすいため、いちど調子を崩すと休みがちになる。

 それが精神障害者の雇用の壁になっているといわれる。

 新たな雇用でも、発病した後の継続雇用でも、周囲のきめ細かい支援がカギを握る。

 例えば、60人の精神障害者を雇用するスーパー「いなげや」グループでは、「勤務時間や休日の曜日はできるだけ一定に」「所属長の交代時に体調を崩しやすいことに注意を」などのノウハウを社内で共有する。

 障害者が健常者をサポートする例もある。67人の精神障害者が働く富士ソフト企画では、名刺印刷やウェブサイト制作などのほか、親会社であるIT関連企業で精神的にダウンした社員の復帰プログラムも担う。

 つらい経験をくぐり抜けてきた障害者と一緒に2週間ほど働くと、症状が改善することが多いという。

 障害者が働きやすい配慮のある会社は、健常者も働きやすいはずだ。短所で排除されず、長所を生かして働ける社会に近づけたい。

福島原発停電―まだ事故は続いている


 東京電力福島第一原発で停電がおき、使用済み燃料を冷やす水の循環が長時間とまった。

 日単位で続くと、使用済み燃料が出し続ける熱で冷却用プールの水が蒸発し、燃料溶融や水素爆発を招きかねない。

 さいわい余裕のあるうちに復旧し、水温の上昇は最大で6度ほどにとどまった。

 だが、ひやりとした人が多かったのではないか。

 発生から2年たっても、原発事故が終わっていない現実を見せつけた。この不安は、すべての燃料を取り出すまで続く。それが原発事故の宿命だ。

 国と東電にはあらためて、不安定な要因を一つずつ取り除く努力が求められる。

 原子炉本体は、短時間の冷却停止で2年前に逆戻りしかねないからバックアップ電源が用意されている。燃料プールにはバックアップ電源がなかった。

 停電の原因はまだ特定できないが、ネズミのような小動物が配電盤をショートさせた可能性が浮かび上がっている。

 ビルの電気系統管理には専用の網をはるなどのネズミ対策が常識だが、停電を招いた仮設配電盤は2年前の5月に置いたままでその対策はなかった。

 敷地内はいまも放射線量が高い。現場付近では毎時300マイクロシーベルトほどで、作業員は専用の防護服と全面マスクを着けなければならない。作業時間も制約される。

 原子炉注水用配管の強化など緊急度の高い作業を優先し、それほど急がない作業が後回しになることはやむを得ない。

 だからこそ「こうした事態はこれからも起きうる」(田中俊一・原子力規制委員長)。その戒めを忘れず、緊急事態にもあわてず対処する手立てや組織を整える必要がある。

 やっかいなのは、さまざまな工事によって現場の状況が日々変わることだ。今回も、津波対策工事のために通常は2系統にわかれている電源を共用していて、停電の範囲が広がった。

 複数の工事が同時並行で進むときには事故のリスクも大きくなる。常に原発全体の状況を把握する態勢が欠かせない。

 それにしても、東電による報道機関への発表が停電発生から3時間もたってからだった、というのはどうしたことか。国や自治体には速報していたが、夜間に広く知らせるには報道機関を通じた広報が欠かせまい。

 南相馬市長が東電に対して迅速な情報伝達を申し入れた。

 原発事故は今も続いている。多くの人が見つめていることを忘れてもらっては困る。

臨時企業税違法 「公平な徴収」重視した最高裁


 神奈川県が導入した臨時特例企業税は合法かどうか――。最高裁は「違法で無効」との判決を言い渡した。県の逆転敗訴が確定した。

 徴収の公平性という課税の原則を重視した妥当な判断と言えるだろう。

 神奈川県内に工場を持つ、いすゞ自動車が、徴収された約19億円の返還を県に求めていた。

 地方税法は、企業が単年度決算で黒字になっても、過去の赤字分を繰り越して利益から控除することで、地方税の一つである法人事業税の減免を認めている。

 これに対し、神奈川県の臨時特例企業税は、繰り越し控除を考慮せず、単年度の黒字額に課税するものだ。いすゞ側は、地方税法が規定したルールに反した課税だと主張していた。

 最高裁は、地方税法の規定について、「事業年度ごとの所得金額の変動にかかわらず、法人の税負担をできるだけ均等化して、公平な課税を行うためにある」との見解を示した。

 業績が各年で変化する企業の実態に沿った適切な判断である。

 その上で、判決は、神奈川県の課税手法は「地方税法の趣旨を阻害するものだ」と結論付けた。従前のルールを度外視した課税は認められない、という最高裁の姿勢を明確に示したと言えよう。

 いすゞ自動車は当時、債務超過に陥り、外国企業や銀行などの支援で単年度黒字を確保したばかりだった。判決は、そうした事情も勘案したのだろう。

 新税導入のきっかけは、2000年施行の地方分権一括法だった。自治体が独自の法定外税を考案し、総務相が同意して施行する制度だ。自治体の間では課税自主権拡大への期待が高まった。

 財政難だった神奈川県は、新税に関する条例を01年に制定し、いすゞを含む約1700社を課税対象とした。09年まで施行した。

 自治体が、行政サービスを提供する対価として、企業に負担を求め、財源を確保しようという狙いは理解できる。

 判決を受け、神奈川県の黒岩祐治知事は「地方分権という大きな流れの中で県がやってきたことに逆行する」と批判した。

 県は徴収した各企業に計約635億円を返還する方針という。

 政府の地方分権改革推進委員会は09年、「自治体は課税自主権の積極的な活用に努めるべきだ」と提言している。今回の判決を機に、国と自治体は地方独自の課税のあり方を改めて検討すべきだ。

イスラエル政権 イラン核問題で米と連携を


 米国とイスラエルが首脳会談で協調態勢をアピールした。イラン核問題や対パレスチナ和平を巡ってぎくしゃくしていた関係の修復を、印象づけたと言える。

 これを中東地域の安定につなげていくことが重要だ。

 1月の総選挙を受け、ようやく連立政権発足にこぎつけたネタニヤフ首相は、オバマ米大統領を最初の外国首脳として迎えた。

 焦点のイラン核問題では、首脳会談後の共同記者会見で、首相は、イランが核兵器製造を決断しても完成まで約1年かかるという認識を示し、大統領も「外交的解決の時間はまだある」と強調した。

 両国は、イランの核保有阻止を目指し、外交的手段を尽くすことで一致したと言える。

 首相は昨年9月、イランが今年春にも、核兵器を作るのに十分な量の高濃縮ウランを保有する恐れがあると警告した。国際社会が阻止できねば、単独でのイラン攻撃も辞さない構えを見せていた。

 今回、米国に歩み寄ったことで、イスラエルが軍事行動に出る事態は当面、遠のいた。

 イスラエルがイランを攻撃すれば、戦火は拡大し、原油価格の高騰で世界経済も揺らぎかねない。武力行使は自制すべきだ。

 大統領は、米国が安全保障面でイスラエルを支えると確約した。米国が支援した対空防衛システム「アイアン・ドーム」を視察したのも、示威効果が狙いだろう。

 イスラエルの安保環境は厳しさを増している。隣国シリア内戦の泥沼化や、イスラム主義勢力が権力を握ったエジプトの政治・経済の混迷など、地域情勢は不透明感を強めている。イスラエルには、対米関係修復が必要だった。

 首相は、共同記者会見でイスラエルとパレスチナの「2国家共存」構想への支持も確認した。

 しかし、イスラエルの占領地ヨルダン川西岸での入植拡大や、パレスチナ指導部の分裂によって、パレスチナとの和平交渉が再開するめどは立たず、パレスチナ国家樹立への道筋は見えない。

 ネタニヤフ首相の政権基盤は、総選挙前より弱まった。対イラン強硬姿勢で支持を広げようという試みは失敗に終わった。

 選挙後、首相は幅広い連立を試みたが、従来の連立相手だった宗教政党は離反し、中道勢力と強硬右派を取り込むにとどまり、政権の安定度には不安が残る。

 米国との緊密な協力は、政権維持に不可欠だ。イラン核問題での連携維持は、重要な柱である。

2013年3月21日木曜日

主権回復の日―歴史の光と影に学ぶ


 一人ひとりに忘れられない日があるように、国や社会にも記憶に刻む日がある。

 たとえば、東日本大震災がおきた3月11日、阪神・淡路大震災の1月17日――。国内外に多大な犠牲をもたらした先の大戦にまつわる日も同様だ。

 安倍内閣は4月28日を「主権回復の日」と位置づけ、政府主催の式典を開くと決めた。1952年のこの日、サンフランシスコ講和条約が発効し、連合国による日本占領は終わった。

 「経験と教訓をいかし、わが国の未来を切りひらく決意を確固なものとしたい」という首相のことば自体に異論はない。

 自分たちの考えで、自分たちの国があゆむ方向を決める。その尊さに、思いをいたすことは大切である。

 だが、外国の支配を脱した輝きの日という視点からのみ4・28をとらえるのは疑問だ。

 独立国として再出発した日本に、奄美、小笠原、沖縄はふくまれていなかった。最後に沖縄が復帰したのは72年5月15日。それまでの間、米軍の施政権下におかれ、いまに続く基地の過重負担をもたらした。

 4・28とは、沖縄を切りすてその犠牲の上に本土の繁栄が築かれた日でもある。沖縄で「屈辱の日」と呼ばれるゆえんだ。

 屈辱を味わった人はほかにもいる。朝鮮・台湾の人々だ。

 政府は条約発効を機に、一片の法務府(いまの法務省)民事局長通達で、旧植民地の出身者はすべて日本国籍を失うと定めた。日本でくらしていた人たちも、以後、一律に「外国人」として扱われることになった。

 領土の変更や植民地の独立にあたっては、国籍を選ぶ権利を本人にあたえるのが国際原則とされる。それをないがしろにした一方的な仕打ちだった。

 この措置は在日の人々に対する、法律上、社会生活上の差別の源となった。あわせて、国際社会における日本の評価と信用をおとしめる結果も招いた。

 こうした話を「自虐史観だ」ときらう人がいる。だが、日本が占領されるに至った歴史をふくめ、ものごとを多面的、重層的に理解しなければ、再び道を誤ることになりかねない。

 日本人の忍耐づよさや絆をたたえるだけでは、3・11を語ったことにならない。同じように4・28についても、美しい物語をつむぎ、戦後の繁栄をことほぐだけでは、首相のいう「わが国の未来を切りひらく」ことにはつながらないだろう。

 影の部分にこそ目をむけ、先人の過ちや悩みに学ぶ。その営みの先に、国の未来がある。

発送電分離―「骨抜き自民」の返上を


 政府が示した電力システム改革案を、自民党の合同部会が了承した。

 電力会社が強く抵抗する発電と送電の分離については、実施時期をあいまいにしたと取られかねない表現へ修正された。

 部会長らは「大きな改革の方向性に変更はない」と強調するが、疑念はぬぐえない。

 電力システム改革は、福島の原発事故を教訓にした新しいエネルギー政策の基盤であり、安倍政権が掲げる経済再生のカギでもある。

 「結局、骨抜きにした」と言われないよう、残る党内手続きから今後の法案審議や改革の着実な実施まで、与党として責任ある行動を求める。

 文言修正は語尾を変えた程度で、中身は政府案を踏襲した。発送電分離に反対を唱えていた一部議員に矛を収めてもらい、全体をまとめるための方便と見ることもできる。

 ただ、これまでも言葉をあいまいにし、後から解釈を広げられるようにして、さまざまな構造改革をなし崩しに形骸化してきたのが自民党だ。

 「参院選が終わるまでの我慢ではないか」との見方もあり、予断を許さない。

 発送電分離への反対論の中には「原発の再稼働も、原発や火力などの将来的な電源配分も決まっていないのに、なぜこの改革だけ進めるのか」との声があったという。

 だが、電源に余裕がないからこそ、電力システム改革が大きな意味をもつ。

 多様な電源を分散して設けたり、消費者が賢く節電したりしやすい環境を、急いで整える必要があるからだ。送電網を発電部門から切り離し、中立的な存在にすることは、そのための大きな柱である。

 改革によって、新しいビジネスや地域の活性化につながるような工夫を引き出したい。

 情報開示が進んで、消費者が自由に電源を選べるようになれば、どんな電源配分が望ましいかについても、おのずと合理的な結論が導かれるはずだ。

 もちろん、電力の安定供給に支障があってはいけない。技術的な課題があればきちんと克服し、法整備を順序立てて進める必要がある。

 息の長い改革になる。そのためにも全体像を示し、工程表をあらかじめ設けておくのは当然のことだ。

 「骨抜き」「既得権保護」の汚名を返上し、新しいエネルギー社会の構築に力を注ぐ。

 自民党にとっても、またとない機会ではないか。

クール・ジャパン 官民が連携して魅力の発信を


 クール・ジャパン(かっこいい日本)として、日本の音楽、アニメ、ファッション、食文化などは海外で人気が高い。

 日本経済の成長に弾みをつけるため、さらにテコ入れすべきだ。

 安倍首相は、稲田行政改革相に初のクール・ジャパン戦略相を兼務させ、有識者による推進会議も発足させた。成長戦略の一つに位置付けようとしている。

 政府の「クール・ジャパンを世界に誇るビジネスに」という方針は妥当と言える。

 核となる映画やアニメ、ゲームなどコンテンツ産業の国内市場規模は12兆円に上る。

 だが、人口減社会の到来で、国内だけでは先細りとなるだろう。さらなる成長を図るなら、海外へ積極的に展開し、ビジネスチャンスを獲得していく必要がある。

 コンテンツ産業の世界全体の市場規模は約130兆円だ。今後も年平均6%程度の成長を続けていくという。

 例えば、日本映画をもっと輸出できないか。昨年の邦画の輸出実績は約50億円で、国内興行収入の5%にも満たなかった。

 テレビ番組の輸出額も63億円(2010年)で、政府が後押しする韓国よりも大幅に少ない。

 日本の漫画やアニメは世界的にも高い評価を受けている。その潜在力を生かす戦略が必要だ。

 その点で、インドで昨年末に始まったアニメ「巨人の星」のリメーク版のテレビ放送は、新たな試みとして注目に値する。

 日印共同制作で、ヒーローが打ち込むスポーツを野球からインドの国民的球技クリケットに置き換えて描いている。

 作品の随所で、自動車や文房具など協賛の日本企業の製品もアピールしている。原作の背景となった高度成長期の日本への理解も深まることだろう。

 政府の推進会議のメンバーの一人、AKB48のプロデューサーの秋元康氏が「クール・ジャパンを“絵に描いた餅”としないためにも、成功例を作ることが大切だ」と語るのはもっともだ。

 民間の様々なアイデアを生かし、魅力ある日本文化を積極的に発信していくべきだ。

 政府は来年度予算案に、クール・ジャパン推進のための基金創設として500億円を計上した。効率的な資金支援、情報発信に知恵を絞る必要がある。

 クール・ジャパンの振興に、官民連携して取り組む戦略をうまく軌道に乗せたい。

WBC閉幕 世界一決定戦として育てたい


 野球の第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、ドミニカ共和国の優勝で幕を閉じた。

 決勝の相手となったプエルトリコとともに、高い身体能力を生かした「カリブ勢」の強さを印象付けた大会だった。

 3連覇を目指した日本代表は、残念ながら準決勝で敗退した。好機での重盗失敗が痛かったが、積極策を責めることはできまい。決勝ラウンドまで進出した選手たちの奮闘をねぎらいたい。

 今回の「侍ジャパン」は、米大リーグ所属の選手が出場を辞退し、国内でプレーする選手だけの布陣で臨んだ。打線をつなぎ、投手力でしのぐという持ち味は、ある程度、発揮できたと言える。

 2次ラウンドの台湾戦での息詰まる攻防には、野球の醍醐だいご味が凝縮されていた。九回二死から同点打を放った井端弘和選手(中日)の勝負強さは見事だった。

 この試合のテレビの平均視聴率は、関東地区で30・3%を記録した。次の日本―オランダ戦では34・4%に達した。

 国民の声援は選手たちの大きな励みとなったに違いない。

 日本代表メンバーのうち、若手の前田健太(広島)、田中将大(楽天)両投手、中田翔(日本ハム)、坂本勇人(巨人)両選手らは、4年後に予定される次回WBCでも日本の中核となるだろう。

 一層の飛躍を期待したい。

 今大会では、これまで以上に各国のチーム力が拮抗し、強豪国も思うような結果を残せなかった。米国は決勝ラウンドに進出できず、前回、準優勝の韓国は1次ラウンドで姿を消した。

 一方で、欧州勢の活躍が目を引いた。中でも、オランダは準決勝まで進んだ。17世紀に入植した中米キュラソー島出身の選手が多かったが、チームの活躍は、オランダ本土での野球への関心を高めたのではないだろうか。

 五輪競技から野球が外れている現在、大リーグ機構と大リーグ選手会の共同出資会社が運営するWBCは、野球の魅力を世界に伝える貴重な国際大会だ。

 日本のプロ野球選手会は当初、運営方法への不満などから大会への不参加を表明した。だが、国民の盛り上がりをみれば、やはり出場してよかったと言える。日の丸を背負って戦った経験は、選手にとっても大きな財産となろう。

 WBCを世界一決定戦として発展させ、それを目標に日本の野球も一層、レベルアップしていくことが必要だ。

2013年3月20日水曜日

日銀新体制―バブルへの警戒怠るな


 2%のインフレ目標を2年で達成するために「できることは何でもやる」という黒田東彦(はるひこ)総裁の下、きょうから日銀の新体制がスタートする。

 金融政策の大転換を求める安倍首相の意を受け、就任早々から大型の追加緩和に踏み切り、デフレファイターぶりを市場に見せつける構えのようだ。

 「2年で2%」は、相当に高い目標である。黒田日銀は「とにかく緩和」という押しの一手で、株や不動産など新たな資産バブルが生じることも辞さないように見受けられる。

 だが、行き過ぎの反動が出れば、経済は深刻な打撃を受け、高齢化が進む中で再起が一段と難しくなる。

 インフレ目標政策には、中央銀行が物価の動きにとらわれ、バブルへの警戒を怠らせる欠点がある。リーマン危機が重大な教訓を残したことを、黒田総裁は百も承知のはずだ。

 市場との対話は重要だが、緩和の催促に応えるばかりでは、「市場の奴隷」にすぎない。必要な時には過剰な期待を突き放し、適切な距離を保つことこそ対話の眼目だ。

 賃金・雇用の改善と歩調を合わせた「良いインフレ」が実現される環境を見定め、財政の尻ぬぐいという疑念を招かない形で慎重に政策を進めるよう改めて求めたい。

 日本は、経済規模の2倍に及ぶ政府債務を抱える。すでにバブル状態にある国債相場が下落すると、銀行の経営を圧迫し、金融システムを動揺させる。

 そこで日銀が国債の買い支えを強いられれば、政府と日銀の信用がセットで悪化する恐れがある。

 白川方明・前総裁はこのリスクを意識して「君子危うきに近寄らず」の面があったかも知れない。黒田新総裁はこれを否定し、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」なのだろう。

 だが、それはより大きなリスクに国民経済をさらすことになるのだから、細心の注意と周到な備えが必要なはずだ。

 黒田日銀には、赤字財政の下支えはしないという明確な姿勢が求められる。緩和の終了や中止をどう考えるか、という「出口」戦略も不可欠だ。

 経済は有為転変する。自らを総裁に就かせた政治や市場の力学に、あえて抗すべき時も来るだろう。その時、黒田氏は逃げてはならない。

 思い通りの総裁を日銀に送り込んだ安倍政権にとっても、財政規律を守り、構造改革を進める責任が極めて重くなることはいうまでもない。

イラク戦10年―政治は検証と反省を


イラク戦争の開戦から、きょうで10年になる。

 「ついに戦争が始まった」

 そう書き出した当時の社説で、私たちは「この戦争を支持しない」と書いた。

 実際、米政府が開戦の「大義」とした大量破壊兵器は発見されなかった。武力行使を明確に容認する国連安保理決議はなく、国際法上の根拠を欠いていたことも明らかだ。

 「大義なき戦争」を、日本政府は支持し、自衛隊を後方支援や人道復興支援に派遣した。

 当時の小泉首相はどのような根拠で米国支持に踏み切ったのか。海外での武力行使を禁じた憲法に抵触するような自衛隊の活動がなかったか。当然、国民には知る権利がある。

 ところが、この10年、政府も国会も、ほとんど検証らしい検証をしてこなかった。その結果、誤った戦争に加担することになった経緯も責任の所在もあいまいなままだ。

 とても、まともな国のありようとはいえない。

 そのことの異様さは、各国の対応と比べても際だつ。

 米英やオランダでは、政府が独立調査委員会を設置し、徹底した検証をした。

 英国ではブレア元首相らが喚問され、オランダでも、イラク戦争は国際法違反だった、と断じた。

 米国ではブッシュ前大統領が批判にさらされた。オバマ大統領はイラクから米軍を撤退させたが、「負の遺産」である財政負担にいまも苦しむ。

 足かけ9年の戦闘で、死亡した米兵は4500人近く、イラク民間人の犠牲者は12万人以上にのぼるともいう。

 戦争とは、かくも重く、悲惨なものである。

 日本では、衆院特別委員会が07年に「政府はイラク戦争を支持した政府判断を検証する」という付帯決議を可決したが、放置されたままだ。

 開戦時、小泉首相は「米国による武力行使の開始を理解し、支持する」と言い切った。米国の情報をうのみにして、追従したというのが実情ではないのか。その真相は小泉氏に聞くしかない。

 政府や国会は、いまからでも第三者による独立の検証委員会を立ち上げ、小泉氏からの聴取もふくめ、調査に乗り出すべきではないか。

 安倍首相は、集団的自衛権の行使容認や、国防軍の創設に意欲を示す。

 イラク戦争の反省もないままに、である。あまりにも無責任ではないか。

原子力防災計画 政府の積極支援で整備を急げ


 原子力発電所の重大事故に備え、住民の避難方法や避難所を決めておく地域防災計画作りが、原発周辺の自治体で難航している。

 極めて問題である。

 原発が非常事態に陥った時、計画が整備されていないと適切な避難誘導ができず、住民の被曝を防げない恐れがあるためだ。

 対象自治体は21道府県と136市町村に及ぶが、原子力規制委員会によると、策定済みなのは、半数以下の70自治体にとどまる。

 計画は、規制委が示した原子力災害対策指針に基づき、規制委設置法施行から半年の18日までに定めることになっていた。

 原発再稼働の法的な条件とはされていないが、立地地域に再稼働の理解を得るためには、現実的な計画が求められる。

 規制委の田中俊一委員長は「再稼働までに計画を設けてほしい」と取り組みを促している。策定済みの計画についても、「本当に安全に資するかどうか規制委として点検したい」と述べ、自治体任せにしない考えを示した。

 計画の重要性を考えれば、もっともな見解である。

 規制委は、防災関係省庁とも連携して、対象自治体の計画策定を積極的に支援する必要がある。

 関係自治体が計画作りで依拠すべき規制委の指針は、東京電力福島第一原発事故の手痛い教訓を踏まえて改定されたものだ。

 事故前の古い指針は重大事故が起きることを前提としておらず、現実的なものではなかった。実際、避難で混乱が生じ、放射能の汚染地域に住民がとどまった。

 先月改定された新指針は、事前の対策を求める地域を従来の半径8~10キロ圏から約30キロ圏に拡大した。避難を開始する基準や、甲状腺被曝を防ぐ安定ヨウ素剤を事前配布することなども定めた。

 ただし、指針が改定されてから、まだ1か月足らずだ。計画の策定期限までに、自治体に許された作業時間はわずかだった。

 大幅改定だけに対応は容易でない。速やかに避難できる場所をどこに確保すべきか。30キロ圏に範囲が拡大したため、県境をまたぐ例も増えた。対象住民が100万人近くに達する地域もある。

 市町村側は「自治体間の調整の場が必要」と求めている。「緊急時の放射線測定は自治体でなく国が担うべきだ」との声もある。

 福島第一原発の事故で、政府と自治体は連携を欠いた。両者の役割分担について再検討することも今後の重要な課題である。

体罰の基準 指導との混同をなくす一助に


 文部科学省が体罰の基準を示した通知を全国の教育委員会に出した。学校教育法で禁じられた体罰と、生徒指導として認められる行為の具体例をそれぞれ挙げたものだ。

 体罰と厳しい指導の一線をどこで引けばいいのか。教師の間では理解が不十分で、混乱が生じている。両者の区別を周知徹底することは、教育現場で体罰根絶に取り組むための一助になるだろう。

 通知は、次のような行為が体罰にあたると例示している。

 反抗的な態度を見せた子の頬を平手打ちする。ふざけていた子にボールペンを投げつける。教室に居残りさせた上、子供がトイレに行きたいと訴えても室外に出ることを許さない――などだ。

 一方、教室内で立たせたり、宿題や清掃活動を課したりするのは、指導の範囲内で認められることを確認した。他の子供を殴った子の両肩をつかんで引き離すような行為も問題ないとしている。

 教師による力の行使が許されるのは、他の生徒に対する暴力行為をやめさせるような場合に限られる、との考え方だ。常識的な線引きと言えよう。

 ただ、教師は日々、生徒と接する中で様々な場面に遭遇する。通知がマニュアル化し、臨機応変な対応まで縛るようになっては本末転倒だ。毅然きぜんとした態度を示さねばならないケースもある。

 「子供の叱り方がわからない」という若い教師は少なくない。いかなる暴力も許されないという原則を押さえた上で、状況ごとに適切な指導を行う判断力を養うことが欠かせない。

 通知は、運動部活動の指導の在り方にも言及した。部活動は教育の一環でありながら、統一的なガイドラインがなく、顧問教諭の裁量に委ねられてきたためだ。

 大阪市立桜宮高校で、バスケットボール部の男子生徒が顧問教諭から暴力を受け、自殺した問題の教訓を踏まえている。

 勝利至上主義を戒めるとともに、特定の生徒に対し、執拗しつように肉体的・精神的な負担を強いる行為は「指導ではない」と断じた。

 運動部の場合、実績を上げた指導者に対しては、他の教師が異論を挟みにくく、暴力が黙認されがちだ。通知が校長ら管理職に、顧問教諭をしっかりと監督するよう求めたのは当然である。

 教師が「愛のムチ」などとして暴力をふるっても、生徒は反抗心や恐怖心を抱くだけだ。教師に服従するばかりで、生徒の自主性も育まれないだろう。

2013年3月19日火曜日

南海トラフ巨大地震―まず、3日間をしのぐ


 途方もない規模だが、数字にとらわれてもしかたがない。

 家庭や地域で、とりあえず最初の数日間をしのぐ蓄えから考え始めてはどうだろう。

 南海トラフの巨大地震がおきた場合の、経済被害の想定が出た。最悪は200兆円を超す。国の一般会計の倍以上だ。

 額だけでは実感がわかないがインフラや流通、交通網の復旧にかかる時間のシナリオも示された。これは対策に生かせる。

 たとえば、被害の大きな地域では、当日は電気も電話も水道も9割が使えない。1週間後には停電はほぼ解消するものの、固定電話は2割、水道は7割が使えないままだという。

 被害をうけるのは経済の中心であり、人口の半分が集中する太平洋側の地域だ。そのため、物資や人の支援が被災地に届くまで、東日本大震災と比べても時間がかかるかもしれない。

 家庭の自力の備蓄は、3日分が目安になるだろう。東京都が首都直下地震の帰宅困難者対策として企業に求めているのも、3日分だ。水は1人9リットル、食料はアルファ米やカップ麺など9食分と例を示している。連絡や情報集めができるよう、携帯電話を充電する電池も要る。

 一人ひとりが日ごろから備えていればその分、買い占めによる混乱も和らげられる。

 自治体は、蓄えを小分けにしておくことで倉庫が被災するリスクを軽くできる。避難ビルや地区ごとの備えもあれば、孤立したとき役に立つ。

 相互支援の網も要る。東日本大震災で岩手県の遠野市がはたした役割は記憶にあたらしい。

 「必ず津波は来る」と考え、市は07年から沿岸の市町と後方支援の協定を結んでいた。これが生き、全国からの人と物の結節点として機能した。NPOとも連携し、人口3万弱の市からおにぎり14万個、衣類や寝具12万枚などが被災地に送られた。

 ほとんどの自治体はすでにほかの自治体と協定を結んでいるが、県内の内陸と沿岸、隣県どうし、太平洋側と日本海側、と何重にも網を張ろう。

 自治体の備蓄だけでは間に合わない。今月、遠野市や東京都はそれぞれ、災害のとき物資を供給してもらう協定を流通業界などと結んだ。こうした流通在庫の備蓄協定をもつ自治体は昨春の段階で全国の3割になる。スピードアップが求められる。

 備蓄や地域の連携だけで乗り切れはしないが、できることから始めることに意味がある。

 これはあくまで「最悪」の想定だ。むやみに恐れず、しかし怠らずを心がけたい。

南海トラフ巨大地震―使える事業継続計画を


 南海トラフ巨大地震などの大きな災害がおきると、企業の力もきわめて重要になる。

 東日本大震災では、広い範囲で物資が不足した。被災地で生産や物流、通信がとまり、影響が各地に広がった。

 さらに大きな被害のときは、食料や燃料、薬といった人命にかかわる物資まで長く不足しかねない。日ごろ企業が担っている役割を何もかも国や自治体が代わることはできない。

 企業には、社会的な責任を果たすためにも重要な活動をとめない、あるいはできるだけ早く再開する強さが求められる。

 そこで、本社が被災した場合の代わりの拠点を決めるなど、事業継続計画(BCP)をつくる企業が増えている。

 もっと加速したい。

 NTTデータ経営研究所の調査では、東日本大震災前後を比べられる586社で、BCPがある企業は震災前の25%から今年1月は37%と約1・5倍にふえた。従業員500~5千人未満の企業で進み、5千人以上の企業の震災前水準に達した。

 ただ、課題も多い。

 東日本に比べ西日本で率が低い「東高西低」傾向は、震災後により顕著になった。

 BCPがあると答えた企業でも、事業を続ける復旧の手順や代替策まで決めている企業は半数に満たない。取引先など外部との連携まで対策をとっているのは3割を切っている。

 いざというときに使えるBCPになっているか。心配だ。

 実際、策定済み・策定中の企業の過半数が「内容が不十分」「策定が思うように進まない」と課題を認識している。

 BCP専門家が、電機メーカーの部品調達先1千社以上を対象に震災で同じ程度の被害を受けた企業を比べ、事業再開の時期を左右した要因を調べた。

 驚いたことに、BCPの有無による差はなかった。震災時に早く再開できた企業には「3カ月以内に訓練をしていた」「実際的な訓練だった」「3カ月以内に経営陣が事業継続の観点から現状を点検していた」などの特徴があった。

 「有効な訓練を通して、非常事態に対応できる能力を高めることこそが重要」だそうだ。

 グローバル化でテロや感染症の危険も軽視できない。いろいろな「防災」が破れたときにおきそうなことを調べ、備えておく。そのBCPの考え方は、役所や病院なども応用できる。

 取引先や地域といった互いに依存する相手先とも活動継続の目標を共有し、社会全体の復元力を高めておく必要がある。

南海トラフ地震 最大級の危機にどう備えるか


 東海、東南海、南海地震などが同時に起きるマグニチュード(M)9級の南海トラフ巨大地震について、政府の中央防災会議作業部会が被害予測の全体像をまとめた。

 経済的被害は最悪の場合、約220兆円に上る。このうち、地震や津波で建物などが壊れる直接の被害だけで、最大約170兆円に達する。東日本大震災の約10倍に相当する額だ。官民が連携し、備えを強化せねばならない。

 首都圏から中部、関西圏と四国、九州までの人口密集地や産業拠点を激しい揺れと最大30メートル超の津波が襲う、との想定である。

 作業部会は昨年夏、30都府県で最大約32万人が死亡するとの予測を公表した。それに今回は経済被害などを加えた。

 経済活動の核である生産・サービスの総額は、工場倒壊による生産休止などにより、被災後1年間で約45兆円も落ち込む。国内総生産(GDP)の1割近い。

 作業部会は「1000年に1度以下の頻度でしか起きない」と説明し、極めてまれな災害であることを強調している。過度に不安を抱く必要はないが、東日本大震災も1000年に1度の地震だった。油断は禁物である。

 大切なのは、「減災」へ向け可能な限り対策を講じることだ。今回の被害予測を踏まえ、政府や関係自治体は、防災対策を総点検する必要がある。

 作業部会の試算によると、建物の耐震化などで経済被害は半減できるという。津波による犠牲者も、早期避難で9割減る。

 いずれも、政府、自治体が、すでに取り組んできた対策だ。

 耐震性を欠く建物の改修を加速させる。津波に備えた避難ルートや避難ビルを整備する。まずは、こうした基本的対策が重要だ。

 迅速な救助・救援を可能にし、経済への影響を軽減するためには、幹線道路や港湾、空港など交通網の強化も欠かせない。

 自民、公明両党は野党時代の昨年、補助金で防災施設の耐震化を促進する南海トラフ巨大地震対策特別措置法案を国会に提出したが、衆院解散で廃案となった。

 現行の東南海・南海地震対策推進特措法を強化する内容で、両党は再提出を検討している。国会でしっかり議論してもらいたい。

 南海トラフ巨大地震とは別に、政府は、東海、東南海、南海の各地震が今後30年以内にそれぞれ、88%、70%、60%の高い確率で起きると予測している。

 対策は待ったなしである。

イラク戦争10年 「北」の脅威対処に教訓生かせ


 論議を呼んだイラク戦争の開戦から、20日で10年を迎える。今、改めてこの戦争が残した課題を冷静に分析することが、日本にとってはとりわけ重要である。

 米国のブッシュ前政権が始めたイラク戦争は、2011年12月、米軍の全面撤収で終結した。

 戦争は、苦い教訓を米国に残した。占領統治は混乱し、4500人近い米兵の命が失われ、巨額の戦費で財政赤字は膨れあがった。開戦の理由とした大量破壊兵器が見つからず、威信は揺らいだ。

 「コストに見合わない戦争だった」との批判は絶えない。

 国際社会の足並みも乱れた。米英の武力行使に、仏独露などが反対した。イラク戦争への評価は、今なお定まらない。

 留意すべきは、米国が開戦に至った本質的な問題が今も未解決だということである。

 核兵器など大量破壊兵器を開発する国が、国連安全保障理事会から廃棄を求める決議を突きつけられても無視する。そんな事態にどう対処すべきかという問題だ。

 安保理決議に従わず、核実験を3回も強行し、核武装化にひた走る北朝鮮がまさに実例だ。

 日本は、北朝鮮の増大する脅威に直面するだけでなく、軍事・経済の両面で膨張著しい中国とも向き合わなければならない。

 対イラク開戦を巡り、小泉首相が日米同盟重視の観点から、米国の武力行使を支持する一方で、民主党など野党は「大義なき戦争だ」と反対に回り、国論は割れた。

 だが、日本が、米国との同盟を堅持する必要性は10年前から少しも変わっていない。むしろ強まったと言える。

 イラクの大量破壊兵器計画を米英が過大に評価した反動で、国際社会が北朝鮮やイランの核開発能力を過小に見積もるようでは危険だ。米国が武力行使に慎重になり過ぎれば、北朝鮮の脅威に対処する選択肢を狭める恐れがある。

 日本に必要なのは、米国との関係に安住せず、集団的自衛権の行使を可能にするなど同盟強化へ具体的な手立てを講じることだ。

 イラクでは、選挙実施など民主化が進み、原油生産も回復して産油地の北部や南部は繁栄に沸いている。フセイン独裁政権の崩壊なしには難しかったろう。

 ただし、政情は不安で、首都バグダッドなどでは宗派間の抗争や過激派のテロがやまない。マリキ政権は曲がりなりに再建への歩みを続けているが、治安回復で復興への道筋を確かにしてほしい。

2013年3月18日月曜日

予防医療―多様な試みを生かそう


 病気の予防にもっと力を入れたい。医療費の抑制にもつながる。そのためには、新しい試みを採り入れていく柔軟な姿勢も大事だろう。

 糖尿病など生活習慣病を防ぐため、08年度から始まったメタボ健診(特定健診)が伸び悩んでいる。

 11年度の受診率は45%で、3千万人近くが受けていない。来年度までの目標値である70%には遠くおよばず、厚生労働省は5年先も同じ目標を掲げざるをえなかった。

 大企業のサラリーマンや公務員に比べ、中小企業の社員、自営業や無職、主婦層で受けない人が多い。「時間がとれない」「めんどう」という理由を挙げる人が2割ずつぐらいいる。

 こうした未受診層に手を差し伸べたい。例えば、看護師の川添高志さん(30)が5年前に起業した会社「ケアプロ」は、500円から手軽にできる「ワンコイン健診」を提供している。

 まず客自身が小さな針で血を指から採り、看護師が血糖値などを機械で測ってくれる。

 パチンコ店やスーパーなどへ年間千回前後、出張する。これまでのべ13万人にサービスを提供。3割で検査値が「要受診」や「要注意」だった。

 これをきっかけに医師の診察を受け、病気の早期発見につながればメリットは大きい。糖尿病が重度化し、人工透析が必要になれば、年間400万~500万円はかかる。

 住民の健康維持を旨とする地域の医師会とは、おおむね良好な関係という。

 だが、一部の自治体では「医療法や薬事法などに違反する疑いがある」としてサービスを封じられている。

 ケアプロ側は、本人が自己検査して数値を計測する場を提供しているだけで、診断も医療行為もしていない、との立場だ。

 同社は奈良県や栃木県足利市などからイベントに招かれた実績がある。そうした自治体は、違法ではないと判断している。

 ケアプロ以外でも薬局などで指先採血による健診を提供してきた例もある。厚労省は「自治体が個別具体的に判断する必要がある」という。

 だが、全く同じことが、場所によってできたり、できなかったりという状態は奇妙だ。確かに、衛生管理や個人情報保護などの課題があろう。きちっとルールづくりをしたらどうか。

 自民、公明、民主の3党が合意した社会保障改革で「疾病の予防及び早期発見」は重要な柱である。様々な主体が力を合わせていくことが必要だ。

中国新指導部―腰を落ち着けた外交を


 長かった中国の政治の季節がようやく終わる。

 国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が、習近平(シーチンピン)国家主席や李克強(リーコーチアン)首相、閣僚らの人事を承認し、閉幕した。

 習氏はこれで、党総書記、中央軍事委員会主席とあわせて、党、軍、国家すべてのトップに立ち、大きな力を握った。

 1年前の全人代以降、共産党の最高指導部に当たる政治局常務委員入りを狙っていた薄熙来(ポーシーライ)・重慶市党委員会書記が失脚するなど、激しい権力争いが表面化した。

 党や政府の高官は、失点が人事にひびくのを恐れて身動きできなくなって、外交にも影響が出ていた。

 権力構造が固まったいま、そういう不正常な状態を一刻も早く終わらせ、腰を落ち着けて外交に取り組むべきだ。

 内政の混乱は、特に日本との関係に大きな影響を与えた。歴史問題で根強い反日感情が残っているため、日本に対しては「強く出ておけば間違いない」という風潮があった。

 尖閣諸島をめぐる問題でも、こうした要素が強く働いたとみられる。

 全人代の期間中にあった東日本大震災の追悼式を、中国代表が欠席したのもその流れだ。

 式典には、約200億円の義援金を寄せた台湾の代表が参列し、献花した。これに、台湾を不可分の領土とする中国は「国扱いしている」と反発した。

 だが台湾の扱いは、外交団や国際機関の代表だけでなく海外の地方自治体や消防部門の長らとも同列で、批判は的外れだ。日本政府は説明を尽くしたが、中国は聞く耳を持たなかった。

 尖閣の現場で、中国は日本の実効支配を崩そうとしている。中国の監視船が日本の漁船を追いかけるという例も出始めた。中国がこの海域で法を執行していると示そうとの動きだ。引き続き警戒が必要だ。

 出口の見えぬ日中関係だが、王毅(ワンイー)・元駐日大使が外相に就任したのは好材料だ。

 知日派ゆえに、あえて日本に厳しい態度をとることも考えられるが、日本の本音や等身大の姿を指導部に伝える役割を期待したい。閣僚級の国務院台湾事務弁公室主任として実績も残し、党中央の評価は高い。

 5月には、日中韓首脳会議が韓国で開かれる予定だ。安倍首相と中国の新首脳が初めて顔を合わせる機会になる。

 日本としても、こうした外交日程をにらんでさまざまなパイプをつなぎ直し、日中関係を前に進める努力が必要だ。

自民党大会 慢心せず「決められる」政治を


 政権復帰と高支持率による高揚感に包まれていた。だが、真価が問われるのは夏の参院選だ。

 自民党が都内で定期党大会を開いた。

 安倍首相は参院選について「勝ち抜いて、誇りある国、日本を取り戻す」と決意を示した。

 安倍政権が着実に実績を上げていることは、率直に評価したい。超円高が是正され、株価も上昇している。事業規模20兆円もの補正予算を成立させ、日銀の正副総裁の国会同意をとりつけた。

 首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加も決断した。党大会では、「必ず日本の農業を、食を守っていく。私を信じてほしい」と理解を求めた。

 党内では、党を二分する激しい議論が戦わされたが、最後は慎重派が“大人の対応”で矛を収めた。内紛続きで政策が迷走し、国民から見放された民主党との意思決定過程の違いを見せつけた。

 自民党は政権党として、業界の利害ではなく、国益を最優先する姿勢を忘れないでもらいたい。

 目下のところ、安倍政権は順風満帆だ。読売新聞の世論調査によると内閣支持率は72%で発足時から3回続けて上昇した。自民党の支持率も45%で、2位の民主党5%に大きく水をあけている。

 だが、首相の言う通り「決して慢心してはならない」だろう。

 先の衆院選での圧勝は、民主党政権への懲罰感情が有権者に働いたからだった。

 自民党が国民の信頼を取り戻すには経済政策「アベノミクス」で着実に成果を出し、野党との合意形成に努力して行くしかない。

 仮に、自民、公明両党が参院選で勝利し、参院の過半数の議席を獲得すれば国会のねじれは解消する。次の国政選挙まで最大3年あるため、政権運営も安定する。

 その一方で、留意しなければならないのは公明党との関係だ。

 たとえば、憲法改正について自民党と、日本維新の会、みんなの党は積極的だが、公明党は慎重姿勢を崩していない。

 党大会に来賓として出席した公明党の山口代表は「ことを焦ってはいけない。謙虚に、丁寧に幅広い合意形成に努めていく姿勢こそが国民の信頼を得る正攻法だ」と語り、自民党にクギを刺した。

 公明党内に、右寄りの「安倍カラー」に対する抵抗感が根強いことをうかがわせる。

 自民党は、選挙で依存を深める公明党・創価学会とどう向き合っていくのか。厳しく問われる局面も出てこよう。

国家公務員給与 55歳超の昇給抑制が必要だ


 民主党政権が先送りしてきた課題の解決へ、また一歩進んだ。

 安倍内閣が55歳を超える国家公務員の昇給を大幅に抑制する給与法改正案を国会に提出した。

 成立すれば、来年1月から施行され、3万3000人が対象となる。年間約6億円の人件費を削減する効果があるという。

 給与法改正案は昨年8月の人事院勧告を尊重したものである。

 国家公務員は、定年の60歳まで毎年昇給が続く仕組みだ。この勧告は、55歳を超える職員に対し、標準の勤務成績であれば昇給を停止し、成績良好であっても昇給幅の抑制を求めた。

 民間のサラリーマンは、50歳代後半になると、賃金が減るケースさえ少なくない。関連会社への転籍や役職定年などを実施しているからだ。公務員給与を民間の動向に近づけるのは、妥当である。

 65歳の年金支給開始年齢までの雇用継続も考える必要がある。政府は、希望する定年退職者の「再任用」を義務化する方針だが、財政は厳しい。総人件費を極力抑えるためにも、50歳代の給与水準を下げておかねばならない。

 与野党は、改正案を速やかに成立させるべきだ。

 法案提出まで時間を浪費した責任は民主党にある。野田内閣は人事院勧告を3か月も放置し、11月16日の衆院解散当日になって昇給抑制の先送りを閣議決定した。

 その際、復興財源を捻出する目的で給与を平均7・8%引き下げる「厳しい減額措置」を講じているため、と説明していた。だが、実際は国家公務員制度改革関連法案を国会に提出していたことが、足かせとなったのではないか。

 この法案は、労働基本権の一部である「協約締結権」を国家公務員に付与することが柱だった。人事院を廃止し、労使交渉で賃金などを決定できるようにする内容であるだけに、勧告には従えないと考えたのだろう。

 今後、民主党は給与法改正案にどう対応するのか。国家公務員の総人件費削減という点では民主党の政権公約とも一致するが、地方公務員にも波及するため、自治労など労働組合の支援を受ける議員は容易に受け入れまい。

 民主党の支持団体である連合は、安倍内閣が2013年度の地方公務員給与を国家公務員と同様に引き下げるよう地方自治体に要請したことにも反発している。

 給与法改正案への賛否によって、民主党の“労組依存度”が改めて試されることになろう。

2013年3月17日日曜日

核燃料の再処理―韓国も一緒にやめよう


 韓国の朴槿恵(パククネ)・新大統領が5月に訪米し、オバマ大統領と会談する。核開発を進める北朝鮮への対応とともに、韓国での核燃料の再処理をめぐる問題を話し合うとみられる。

 核不拡散体制の強化に向け、韓国にもぜひ、再処理路線を放棄してもらいたい。

 韓国には現在、23基の原発がある。11年後までに34基に増やす計画だ。新政権は、2025年以降の適正規模を再検討し、年内に結論を出すとしている。

 ただ、使用済み核燃料問題は韓国でもすでに深刻だ。

 政府の試算によると、このままだと、16年には使用済み核燃料で敷地内の貯蔵プールが満杯になる原発も出てくるが、最終的な処理方法、場所は定まっていない。

 政府は使用済み核燃料を日本と異なる方式で再処理したうえで、最終処分する路線にこだわる。高レベル放射性廃棄物の容積を減らせるとの理由からだ。

 だが韓国は、米国と結んだ原子力協定で、再処理は事実上禁じられている。14年に期限を迎える協定改定の協議が続いているが、核拡散リスクを抑えたい米国は強く反対している。

 韓国での再処理問題は、北朝鮮の核問題にも影響が及ぶ。

 1992年発効の南北非核化共同宣言は、再処理施設、ウラン濃縮施設を保有しないとうたった。北朝鮮はこれを破って核実験を強行し、1月には宣言の無効化を表明した。

 韓国政府は、北朝鮮に核放棄を迫るために「宣言は今も有効」とする一方で、平和利用のための自国での再処理は宣言に反しないと主張する。だが、北朝鮮もウラン濃縮は平和利用と正当化しているのが現実だ。

 そんな中で韓国が再処理にこだわると、北朝鮮に宣言は有効だと非核化を求めても、説得力が弱まるばかりだ。

 福島での事故後、韓国でも徐々にではあるが、脱原発を望む声が出てきた。朴元淳(パクウォンスン)ソウル市長は原発1基分を再生エネルギーで補う計画を進め、将来的には脱原発依存をと提唱する。

 資源小国という共通点を持つ日韓両政府は、似たもの同士で知恵を出し合い、脱原発依存に歩んではどうか。

 韓国には、米国が非核国で日本にだけ再処理を認めているのは二重基準だとの不満もある。

 ならばなおのこと、日韓が共に再処理を放棄して、北朝鮮の非核化を強く求めるのがいい。

 日韓、さらには米国を加えた形での、不拡散への強固な協調があってこそ、北東アジアの安全を確かなものにできる。

核燃料の再処理―核拡散の懸念は根強い


 使用済み燃料の再処理で取り出したプルトニウムを燃料に再利用する「核燃サイクル」を、日本は長年、国策として追い求めてきた。だが、国内でのサイクルは実現していない。

 そもそも、プルトニウム利用はウランだけの原発より割高である。しかも、プルトニウム消費の柱だった高速増殖炉は原型炉もんじゅの事故で挫折している。プルトニウムとウランの混合燃料での発電も、福島での原発事故後、先が見通せない。

 すでに、海外での再処理委託分を含めて約45トンのプルトニウムがたまっている。うち日本国内にある約10トンだけでも、計算上は1千発以上の核兵器をつくれる量に当たる。

 安倍首相は「できる限り原発依存度を低減させていく」と表明している。それなのに首相は、核燃サイクル事業を継続させる考えも示している。

 青森県六ケ所村の再処理工場はトラブル続きで完成が何度も延期され、今年10月の本格稼働をめざしている。このまま動かせば、プルトニウムはさらに増える公算が大きい。矛盾と言わざるをえない政策だ。

 国際政治の現実からも、プルトニウム利用はマイナスが大きい。北朝鮮やイランが核開発し、核の拡散問題が世界の安全保障に深刻な影を落とす。

 非核国で大規模な再処理が容認されているのは日本だけだ。被爆体験を持ち、非核三原則を国是としてきた日本への信頼の裏返しでもある。だが、使い道が明確でないプルトニウムをためこめば、その信頼にも傷がつく。他国が日本をまねてプルトニウム利用を求めた時に、待ったをかけにくい面もある。

 米国内でも懸念が根強い。最近までホワイトハウスの科学技術政策局次長をつとめたメリーランド大学のスティーブ・フェッター教授は、局次長在任中から再処理に反対だった。今は、「再処理工場を本格稼働させてプルトニウムがさらに増えれば、国際的な理解を得ることは難しくなる」と危惧する。

 原子力規制委員会は今年中に再処理工場の新安全基準をまとめる。それを待たずに本格稼働を急ぐ必要もない。

 現在考えられる最良の選択は、使用済み核燃料を再処理せずに、空冷式の貯蔵容器(乾式貯蔵容器)で数十年の間、保管することだ。乾式貯蔵は今後も改善が必要だが、欧米で実績があり、最終処分法は未来の技術力で判断すればいい。

 次世代がさらなる核拡散リスクを背負わなくてすむよう、再処理撤退を決断すべき時だ。

黒田日銀発足へ 野党分断が奏功した同意人事


 大胆な金融緩和策を打ち出し、デフレ脱却に前進できるか。日銀の新体制の責務は重大だ。

 衆参両院は日銀の白川方明総裁の後任に元財務官の黒田東彦・アジア開発銀行総裁を、副総裁に岩田規久男・学習院大教授と中曽宏・日銀理事を充てる人事に同意した。20日付で就任する。

 安倍内閣は、今国会で最大の課題をクリアした。衆参ねじれ国会の下、政府案通りに日銀の同意人事を実現させた意義は大きい。

 参院で最大勢力の民主党は、岩田氏の副総裁起用に反対したが、他の野党の賛成で同意を得た。

 安倍首相が民主党だけでなく、日本維新の会やみんなの党などの主張にも配慮し、戦略的に人選を進めたことが奏功した。こうした野党の「分断」策は、今後の政権運営にも応用できるだろう。

 アベノミクス遂行の体制は整った。政府・日銀は連携を強め、経済再生を急がねばならない。

 黒田氏は、積極的な金融緩和論者として知られる。衆参両院で行われた所信聴取では、「デフレ脱却に向けてやれることは何でもやる」と、強い決意を表明した。

 長期国債の大量購入や日銀が2014年から実施する「無期限緩和」の前倒しなど、具体的な政策に踏み込んだ持論も展開した。

 就任後、早急に新たな緩和策を打ち出す構えも見せた。機動的な対応に期待したい。

 最も重要なのは、迅速に政策を実現させることである。

 金融政策は総裁と副総裁、審議委員6人の多数決で決まる。総裁が新政策を提案しても、採決で反対多数になれば実現しない。

 黒田氏は物価上昇率2%のインフレ目標達成は2年をメドとしたが、中曽氏は「必ず2年とは言いがたい」と述べた。日銀法改正問題では、慎重な黒田氏と、積極論の岩田氏のズレは大きい。

 まとまりを欠いた“決められない日銀”になっては困る。黒田氏が総裁として、強力なリーダーシップを発揮することが大切だ。

 日銀の独立性も重要である。政府の言いなりになって国債を引き受け、財政赤字の尻ぬぐいをしていると見られれば、金融政策の信認は失墜しよう。

 日銀は徹底した財政規律を求めるなど、政府と適度な緊張関係を維持すべきである。

 デフレ脱却のための金融緩和について、海外の一部から円安誘導だとの批判が出ている。黒田氏は豊富な海外人脈を生かし、各国の理解を得るよう努めてほしい。

後見と選挙権 違憲判決が制度の甘さ突いた


 成年後見人が付いた人から選挙権を奪う公職選挙法の規定について、東京地裁が「違憲」とする判決を言い渡した。

 障害者の権利を尊重した司法判断である。

 原告は知的障害のある女性だ。2007年、家庭裁判所が女性の成年後見人として父親を選任した途端、選挙権を失った。

 判断能力が欠如した人の財産管理や契約などを代行するのが、成年後見制度だ。公選法は、この制度が適用された人については、選挙権を認めていない。

 判決は、憲法が保障する選挙権を奪うのは「極めて例外的な場合に限られる」として、女性に選挙権があることを認めた。

 さらに、「家裁が判断したのは財産を管理する能力であって、選挙権を行使する能力ではない。財産管理はできなくとも、選挙権を行使できる人は少なからずいるはずだ」とも指摘した。

 判決が、趣旨の異なる制度を使って、一律に選挙権を制限している公選法の規定を無効としたことは妥当である。同じ障害者でも、後見人が付いた人だけが選挙権を失うのは、公平性の観点からも問題があるだろう。

 選挙権を失うまで、女性はほぼ毎回、投票所に足を運んでいた。簡単な漢字の読み書きもできる。東京地裁は、そうした事情も重視したのではないか。

 判決は選挙権制限の必要性を全面的に否定したわけではない。権利を行使する能力がない人への制限について、「合理性を欠くとは言えない」との見解も示した。

 だが、後見人が付くと一律に選挙権を失う日本のような制度は、欧米ではなくなりつつある。

 そもそも、2000年に導入された成年後見制度は、判断能力に欠ける障害者や高齢者の権利保護が目的だ。従前の禁治産制度は浪費を繰り返す人も対象だったが、成年後見制度では除外した。

 選挙権を奪う公選法の規定は、制度の趣旨にそぐわない。

 後見制度の利用者は全国で13万人以上に上る。高齢化が進む中、申し立ては年間2万件以上に達している。判決は今後の制度運用に様々な影響を及ぼすだろう。

 制度導入の際、旧自治省は「不正投票の防止」を理由に、選挙権を奪う規定の存続を強く主張した経緯がある。民主主義の根幹に位置付けられる選挙権の行使に関し、不正投票の可能性を過大に見積もってはいないか。

 判決は、制度設計の甘さに対する警告である。

2013年3月16日土曜日

TPP交渉―ルール作りを担うには


 安倍首相が、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加すると表明した。

 TPPでヒト、モノ、カネ、技術、情報の流れを活発にし、アジア太平洋地域のさらなる発展を促す。その活力をわが国も取り込んで、デフレと低成長からの脱却につなげる。

 それが基本戦略だ。

 世界貿易機関(WTO)が機能不全に陥り、通商交渉の中心は、国同士や地域ごとの経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)に移っている。

 世界経済を引っ張るアジア太平洋地域で、どんなルールを設定し、世界に広げていくか。

 それは、世界第2の経済大国となった中国との主導権争いの色彩も帯びる。

 中国は、日本がTPPに関心を示した後、日中韓FTAに前向きな姿勢に転じるなど、TPPに神経をとがらせる。

 自由貿易の原則と相いれない面がまだまだ残る中国に改革を促し、公正な貿易・投資体制に巻き込んでいくうえでも、TPPは大きな武器になる。

 中国を含むFTA、EPA構想とTPPの結節点にある経済大国として、日本はTPP交渉をまとめあげる責任を負う。

 ところが、現状ははなはだこころもとない。

 首相は日米首脳会談で「日米両国とも貿易で一定の配慮が必要なものがある」との共同声明をまとめた。「聖域なき関税撤廃ではない」ことを示し、TPPに猛反対する農業関係者の理解を得る狙いだったが、米国は日本からの輸出の柱である自動車への関税を存続させる意向を示し、逆手に取った。

 自民党内は「聖域」論議一色だ。党の対策委員会による決議づくりでは、農林水産業をはじめ、守るべき分野の議論ばかりが目立った。

 TPP交渉の対象分野は20を超える。当然、日本にとってメリットばかりではなく、特定の産業への打撃が心配なテーマも少なくない。

 全体としての利害得失を分析し、影響が避けられない分野については必要な対策を見極めて実行していく。そうした姿勢こそが必要だ。

 安倍氏は「受け身でなく、ルールをつくる国でありたい」と強調する。

 「聖域ありき」では受け身でしかない。足元を見られて他の分野で不利益を招きかねない。

 TPPを着実に進めるとともに、国内産業の足腰を強くする規制・制度改革を連動させて、日本経済を再生させなければならない。

選挙制度改革―自民党案は本末転倒だ


 自公連立与党のご都合主義が目にあまる。とても有権者を第一に考えたとは思えない。自公党首会談で大筋一致した衆院選挙制度改革案のことである。

 自民党がまとめた案によると、比例区の定数を30削減する。そのうえで、少数政党向けに60の優遇枠を設ける。そこでは、得票数が2位以下の党にだけ議席を配分する。

 確かに少数意見を国政に反映させる工夫は必要である。だが、少数政党の賛同をとりつけようとして制度をゆがめてしまうのでは、本末転倒だ。

 連立を組む公明党への配慮は、あからさまである。

 昨年の衆院選の得票を自民党案にあてはめた朝日新聞の試算によると、公明党は現有議席を維持する。優遇枠は同党の要求で、もとの自民案の30から60に倍増された。

 与党の足並みだけを重視し、制度全体への目配りや有権者の理解を二の次にしたとの印象はぬぐえない。

 そもそも、何のための選挙制度改革なのか。

 根本には、小選挙区の「一票の格差」をただす定数是正の問題があったはずだ。国会は「0増5減」を決めたが、それは小手先の改革でしかない。

 もうひとつ、昨年の衆院解散時の自公民3党の定数削減の合意がある。小選挙区には手を付けず、比例区だけで定数を減らそうとしているため、つじつま合わせの矛盾が深まる結果になっている。

 優遇枠によって、得票数の少ない政党の議席が、得票数の多い政党を上回る「逆転現象」も生じうる。自民党案はそれを防ぐ措置をとるとしているが、制度が複雑になるばかりだ。これでは結局、比例区の一票の価値までゆがめかねない。憲法違反の恐れもあるのではないか。

 民主党の案も、ほめられたものではない。比例区の一部を連用制にする複雑な内容だが、ひずみを生じる点では自民党案と同類である。

 選挙制度改革は、理念が明確で筋の通ったものでなければならない。

 この期に及んで、こうした案しか出ないのであれば、もはや政党間協議では結論が出せないと思わざるをえない。

 繰り返し主張してきたことだが、ここは第三者機関に議論をゆだねるべきではないか。

 参院の「一票の格差」も、依然として大きいままである。首相の諮問機関である選挙制度審議会をただちに立ち上げ、衆参両院の選挙制度をセットで見直すべきだ。

TPP参加表明 自由貿易推進で成長に弾みを


 ◆国家百年の計へ交渉力発揮せよ◆

 自由貿易と投資を拡大し、アジアの活力を取り込むことが、日本の経済成長に欠かせない。そのための大きな一歩となるだろう。

 安倍首相は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を正式表明した。

 菅政権で検討を開始して以来、約3年間、意見集約が難航した。首相の政治決断を評価したい。

 首相は記者会見で、「TPP交渉参加は国家百年の計だ。今を逃すと日本は世界のルール作りから取り残される」と指摘した。

 ◆日米同盟の強化に寄与◆

 TPPは米国、豪州、カナダなど11か国が関税、サービス、知的財産など29分野で交渉中だ。

 首相が「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻められるものは攻める。国益にかなう最善の道を追求する」と強調したのはもっともである。遅れて参加する日本は不利な立場だが、「交渉力」を発揮してもらいたい。

 政府は、TPP参加による経済効果の試算を公表した。

 農林水産業の生産額は3兆円減るものの、消費拡大や輸出増加により、全体で国内総生産(GDP)を実質で3・2兆円押し上げるという。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」では中長期の成長戦略が問われる。そのエンジンとしてTPPを位置づけるのは妥当だ。

 首相は、TPP参加が「安全保障やアジア太平洋地域の安定に寄与する」と語った。日米を軸にした自由貿易圏作りは、日米同盟を強化する効果も期待される。

 民主党政権の稚拙な外交により日米安保体制は揺らいだ。その間隙を突くように、富国強兵路線を鮮明にする中国が日本の尖閣諸島国有化に反発し、監視船による領海侵犯を繰り返すなど、東アジア情勢を不安定化させている。

 台頭する中国に国際ルールの順守を求めるには、緊密な日米連携が不可欠である。

 そもそも、首相がTPP交渉参加を決断できたのは、2月のオバマ米大統領との首脳会談で「聖域なき関税撤廃が前提ではない」と確認したことが大きかった。

 TPPは関税撤廃が原則だが、交渉次第で例外品目を獲得できることが明確になったからだ。

 ◆国益として何を守るか◆

 「聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対」としていた自民党の昨年の衆院選政権公約と矛盾しないように調整を進めた首相の戦略は巧みだった。

 賛否両論が出る中、自民党がTPP交渉参加を容認する決議をまとめたことで、首相が最終的に決断を下す環境が整った。

 自民党の決議は、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産品の5項目の例外扱いと、国民皆保険制度の維持を最優先で求めたのがポイントだ。

 首相は、17日の自民党大会で党内の結束を確認し、交渉に臨む考えだろう。

 オバマ大統領は「交渉の年内妥結」を表明している。日本が実際に交渉に加わるのは7月ごろと見られ、残された時間は少ない。

 首相は甘利経済再生相をTPP相に任命した。甘利氏が政府の司令塔となり、国益を反映した貿易・投資ルール作りに全力で取り組まなければならない。

 攻防が予想されるのが、関税撤廃の例外品目の絞り込みだ。

 日本はこれまでの通商交渉で、関税分類上、コメ、麦など農産品を中心に、全体の約1割に相当する約940品目の関税を一度も撤廃していない。

 日本がどれだけ関税撤廃の例外を獲得できるかは不透明だ。カナダは乳製品、メキシコは繊維や靴など、各国とも例外扱いを望む品目がある。

 日本は米国との事前協議で譲歩し、米国が乗用車とトラックにかけている輸入関税の撤廃を当面猶予する方向で大筋合意した。日本はその見返りに、米国から農産品で譲歩を引き出すべきだ。

 ◆農業強化策が急務だ◆

 一層の市場開放に備えた農業の競争力強化が急務である。TPP交渉参加とは関係なく、高齢化が進む日本農業の現状は厳しい。

 首相が「ピンチではなく、むしろ大きなチャンス」と指摘したように、政府は担い手農家育成などの政策に注力し「攻めの農業」を推進することが求められる。

 日本は近く、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉開始に合意し、日中韓の交渉もスタートさせる予定だ。TPPで反転攻勢をかけるとともに、他の交渉も加速し、通商政策を巻き返さなければならない。

2013年3月15日金曜日

若者の自殺―三下り半は書かせない


 日本は若者が生きづらい社会になっていないか。

 昨年の自殺者は15年ぶりに3万人を切った。20代も前年より減ったが、人口あたりの自殺率を98年と比べると2割も高い。若い世代の死因の1位が自殺なのは先進7カ国で日本だけだ。

 いちど落ちたらはい上がれそうもない社会への、若者からの三下り半(離縁状)。自殺を防ぐNPO「ライフリンク」の清水康之代表はそう見る。

 若者から見限られる社会なんて悔しいではないか。つらい時にも支えてくれる人はいるし、何度でもやり直しは利く。そう実感できる手立てを講じ、三下り半を引っ込めてもらおう。

 自殺には世代や職業などによって特徴がある。ライフリンクが遺族523人から聞き取った調査はそう教えてくれる。

 10~20代の女性は未遂歴のある人が3人に2人と多い。また大半は医療機関へ相談に訪れていた。若い男性は未遂は少ないが相談には半数が訪れていた。

 裏返せば、支援につなげる糸口はあるともいえる。ただ、医師と話せる時間は短く、通院も間があきがちだ。医師は守秘義務から、外との連携が難しい。

 秋田市のNPOが営む「ユックリン」はヒントになる。心を病む患者どうしが話し合える場だ。医者以外の話し相手と居場所ができて、悩んでいるのは自分だけではないと思える効果は大きい。本人に病院や担当医の名を書いてもらっており、何かあれば医師と連絡を取れる。

 医療機関のほかにも官民の相談機関はたくさんある。が、聞き取り調査では若い世代で自殺前に訪れた人は少なかった。相談窓口を検索できるサイトもある。一人でも多くの危険をつかむため、周知を進めたい。

 就職失敗による自殺も気になる。政府統計では、10~20代は5年前の2・6倍だ。

 幼い頃からいじめられないようにキャラを作り、就活の前には履歴書に書けるボランティアを探し回る。そうやって周りの目を気にして生きてきたあげく何十社も断られ、自分を丸ごと否定されたと思ってしまう。多くの若者と接してきた清水さんはそんな心理を見て取る。

 やるべきことは多い。

 大企業か非正規かの二者択一ではない、多様な働き方ができる社会に変えていくこと。

 たとえば、借金を抱えてもやり直せる債務整理という方法がある。そんな具体的な知識を学校で学べるようにすること。

 転んでもかまわない。もう一度立てばいい。そう思えるのは杖があってこそだ。

後見と選挙権―民主主義が問われた


 自分を守り、助けてくれる仕組みだと聞いていたのに、投票に行けなくなってしまった。選挙権を返してほしい――。

 成年後見制度を利用して後見人をつけたダウン症の女性がそう訴えていた裁判で、東京地裁は「後見を受けている人には選挙権を与えないと定めた公職選挙法は、参政権を保障した憲法に違反する」と述べた。

 得心のゆく判断である。

 このシステムは、法律上の権利を一律にとりあげる「禁治産制度」にかわって、2000年4月に施行された。

 病気や高齢で判断力の衰えた人について、残された能力に応じ、本人がやるもの、他人に委ねるものを柔軟に区分けする。そうやってハンディを負う人も自分のことはなるべく自分で決め、ふつうの生活を送れる社会にする。それが目的だった。

 なのに、実際に後見される立場になると、民主主義社会を築いていくうえでもっとも大切な権利である選挙権を、そっくり奪われる。政治に自分の声を届ける道をふさがれ、事実上、主権者の地位を追われる。明らかにおかしな話だ。

 選挙権の扱いは、法律をつくる段階でも議論になった。

 禁治産者は投票することはできなかったが、法務省は制度の切りかえを機に、この制限をなくすよう唱えた。だが旧自治省の反対で実現しなかった。

 今回の裁判でも、国側は「判断力に欠ける人が選挙権をもつと、不正な働きかけを受けたり第三者に悪用されたりするおそれがある」と主張した。

 そういうケースがないとはいわない。しかし局所的な不公正を気にして、より重要な「全体としての公正」を見ていないのが、いまの規定ではないか。

 判決が「不公正・不適正な投票が相当に高い頻度で行われ、国政選挙の結果に影響を及ぼすといえるだけの事情はない」と指摘し、国側の言い分を退けたのはもっともである。

 公選法にこのような問題があることを伝え、改善を強く訴えてこなかったメディアも反省しなければならない。似たようなかたちで、障害を理由に、資格の取得や公共施設の利用が制限される例はある。時代に即した不断の見直しが必要だろう。

 原告は制度の矛盾をつくと同時に、選挙権があるのを当たり前と受けとめている私たちに、投票を通じて政治に参加する大切さを改めて教えてくれた。

 民主主義とは何か。社会とつながるとはどういうことか。それらを考えるときに、必ず立ち返るべき裁判となった。

衆院選改革案 中小政党の優遇枠は疑問だ


 中小政党に配慮し、衆院選挙制度改革の早期合意を目指す姿勢は評価できる。だが、民主主義の基本にかかわる問題だけに、拙速は避けたい。

 自民党が、新しい衆院選挙制度の原案をまとめた。

 比例選定数を30減らし、150とする。このうち90は、従来通りドント式で各党に議席を配分し、残り60は、得票数が2位以下の党にだけ配分する。全国11ブロックは8ブロックに再編する。これが自民党案の柱である。

 自民党は当初、中小政党の優遇枠を30とする方針だったが、公明党が拡大を求めたため、60に増やした。比例ブロックの数を減らすのも、中小政党の死票を減らし、議席を増やす狙いがある。

 中小政党への配慮は、昨年の民主、自民、公明3党合意に基づき、今国会中に定数削減を含めた衆院選改革を実現するためには、やむを得ないと考えたのだろう。

 だが、優遇枠の新設は制度上、「1票の価値の平等」という観点から憲法違反の恐れが指摘されている。得票数が1位の党に投票した比例票が、2位以下に投票した票に比べて、優遇枠の分だけ軽く扱われることになるからだ。

 現行の小選挙区比例代表並立制よりも制度が複雑で、有権者に分かりにくいという弊害も看過できない。中小政党に配慮するあまり、制度の合理性にも疑問がある。

 自民党は、優遇枠によって、得票数が1位の党の獲得議席が2位の党と逆転しない仕組みにするというが、そうしようとすれば、制度がさらに複雑になろう。

 そもそも自民党は昨年、中小政党に有利になる「連用制」を一部導入する民主党の改革案について「違憲の恐れがあり、制度が分かりづらい」などと批判し、反対していた経緯がある。

 自民党案について、公明党は前向きな姿勢を示す一方、自民党出身の伊吹衆院議長は優遇枠の「憲法上の問題」を指摘した。

 民主党は、憲法上の疑義に加えて、比例定数の削減幅が不十分だとして、反対している。日本維新の会やみんなの党も、「国民に分かりにくい制度は駄目だ」と、否定的な立場だ。

 選挙制度改革は各党の獲得議席に直結する問題だけに、与野党がそろって賛成する案をまとめることが難しいのは理解できる。

 だが、2位以下の党の優遇枠については、より慎重に議論することが必要だ。中小政党に配慮するのであれば、優遇枠以外の方法を真剣に検討すべきだろう。

習・李体制へ 威圧外交で高まる中国異質論


 中国共産党の習近平総書記が全国人民代表大会(全人代=国会)で、引退する胡錦濤氏の後任の国家主席に選出された。これで、党、軍のトップと合わせて3権を掌握した。

 15日には、党内序列2位の李克強氏が温家宝氏から首相を引き継ぎ、「習・李体制」が始動する。昨秋以来の権力移行の完成だ。

 世界第2位の経済大国となった中国には、10年前の「胡・温体制」発足時より格段に大きな役割が国際社会で求められている。中国はそのことを自覚し、世界の安定に責任を果たしてもらいたい。

 「中華民族の偉大な復興」を政権目標に掲げる習主席は、2期10年間の任期中、米国と並ぶ超大国の座に迫ろうと、富国強兵路線を突き進む考えだ。

 強大な軍事力を背景に「海洋強国化」を推し進めている。東シナ海や南シナ海で、日本やベトナムなど周辺国に対し、強硬姿勢をとり続けるのは間違いない。

 全人代では、そのための政府の機構改革も決めた。

 国家海洋局の下に、これまで海洋局や農業省、公安省などが個別に所管してきた海上取り締まり活動を一本化した。海洋局の権限を大幅に強化するものだ。その上位機関に、海洋戦略を主導する「国家海洋委員会」を新設する。

 習政権は、尖閣諸島周辺の示威行動を継続・強化する目的で海軍と海洋局の協力を本格化させる見通しだ。尖閣諸島の正確な地図作製のため、測量隊の派遣や標識の設置も検討しているとされる。

 憂慮すべき事態である。日本の主権を侵害する行為を受け入れるわけにはいかない。

 日本は米国と連携して警戒を強め、エスカレートする挑発への備えを固めねばならない。

 機構改革では鉄道省の解体も決まった。独自の警察や裁判所も抱えた「独立王国」には、汚職が絶えない「腐敗の温床」との批判があった。利用者側に立ち、安全を最優先する組織に再生できるか。政権の指導力が問われよう。

 胡・温体制はこの10年、環境に配慮した持続的な経済成長や格差是正などを訴えてきたが、目に見える成果を出せなかった。さらに、チベットなど少数民族の人権抑圧への対応も迫られている。

 習主席は、中国を足元から揺さぶる難題に正面から取り組むべきだ。国民の不満をそらそうと、力ずくの威圧外交によって国内の民族主義を煽り続けるのなら、中国への「異質論」や「脅威論」が国際社会で高まるだけである。

2013年3月14日木曜日

陸山会判決―政治への不信は続く


 以前にくらべ、社会にあたえる衝撃はずっと小さくなった。しかし、民主党のつまずきの石となった事件である。しっかり見届けなければならない。

 小沢一郎衆院議員の元秘書3人に対し、東京高裁は一審に続いて有罪を言いわたした。

 資金管理団体「陸山会」の土地取引にからみ、政治資金収支報告書にうそを書くなどした罪だ。小沢事務所が建設会社から5千万円の裏金を受けとっていた事実も改めて認定された。

 注目すべきは、判決が「報告書には、実際に金や不動産の取引があったときに、その個々の事実にもとづいて収入や支出を書かなければならない」とはっきり指摘したことだ。

 しごく当然の判断である。

 元秘書側は「土地を本登記したのは翌年であり、前の年に金の動きがあっても記載の必要はない」などと主張していた。

 そんなことで、政治資金規正法がうたう「国民の不断の監視と批判」が果たせるのか。「政治活動の公明と公正」を確保できるのか。大切なのは健全な常識をはたらかすことだ。

 事件が残した跡は大きい。

 疑惑がうかんでも、小沢氏は国会での説明をこばみ続けた。強制起訴されたみずからの裁判は、元秘書らとの共謀をうらづける証拠がないとして無罪になったものの、新たにつくった政党は衆院選で大敗を喫した。民主党も有効な手を打てないまま分裂の末に政権を失った。

 多くの有権者が、長く続いた混乱に嫌気がさし、この政治家たちに国の将来を託すことはできないと判断した。その帰結と受けとめるべきだろう。

 問われているのは小沢氏と民主党だけではない。

 事件を機に、政治家本人に責任が及ばないようにできている規正法の欠陥が指摘された。

 だが、それを正そうという動きは鈍い。一連の経緯を単なる「小沢氏変転の軌跡」に押しこめてしまうようでは、政治不信はいつまでも解消されまい。

 検察も痛手を負った。公判を通して、強引な取り調べや事実と異なる捜査報告書の存在が、次々と明らかになった。

 仕事にむきあう心構えを説いた「検察の理念」を定め、改革にとり組むものの、個々の捜査や裁判を通して見える姿に首をかしげることが少なくない。

 「検察は間違いを犯さない」という独善的な体質は、どこまで改まったのだろうか。

 政治と検察。ともに傷ついた両者が、今回の事件から何をくみ取り、姿勢を改めていくか。国民の目が注がれている。

春闘―変化の兆しを本物に


 今年の春闘は大きな転換点になるだろうか。

 前半の山場である自動車や電機の集中回答では、円安・株高を追い風に、一時金要求に満額回答が相次いだ。定期昇給も維持される流れだ。

 ただ、海外市場への依存が高い自動車・電機産業が国内の賃金相場を牽引(けんいん)するのは限界、といわれて久しい。グローバル化した大企業ほど、円安傾向の中でも海外での生産拡大を続けるのは避けられない。

 流通などの内需産業や中小企業では、これからが賃金交渉の本番だ。ここで賃金の底上げを進め、消費の復調へつなげられるかがカギを握る。

 日本では、サービス産業が雇用拡大の中心になりながら、非正規の低賃金労働が多いため、全体の賃金水準が下がるという特異な状態が続いてきた。欧米との大きな違いだ。

 これを転換する道筋が見えないと「賃金デフレ」の克服は難しいが、その変化の兆しと受け取れる動きも出てきた。

 コンビニ大手のローソンが正社員の賞与に限っているとはいえ、年収3%増を早々と掲げ、流通大手のセブン&アイ・ホールディングスはベースアップを決めた。

 安倍政権の賃上げ要請に背中を押された面もあるようだが、人件費をコスト削減の対象とばかり捉えてきたことへの反省の機運も感じられる。この流れを非正規雇用の待遇改善に広げてほしい。

 1世紀ほど前、大量生産方式を編み出したヘンリー・フォードは大幅な賃上げをし、従業員を自社の「顧客」にして販売を伸ばし、自動車王になった。

 同様に、経営者が賃上げのプラス面に注目し、これまでの日本経済のあり方に持続性があるのか自問し始めたとすれば、今春闘の大きな成果だ。

 力のある中小企業の役割もますます重要になる。独自の技術やノウハウを武器に販路を海外に広げたり、外資の傘下に入ったりした結果、賃金交渉の自由度が増した例もある。

 こうした企業では、大企業との賃金格差を是正し、事業革新と人材強化の好循環を作っていくことが望ましい。

 成長途上の中小企業は雇用吸収力も大きい。待遇改善で大企業などからの人材の移動が促され、中小企業の自立や海外展開が加速すれば、世界に開かれたフラットな産業構造への転換も進むはずだ。

 格差是正と中小企業の成長をしっかりとかみ合わせる。そんな波を起こしていきたい。

春闘回答 賃上げを景気回復の糸口に


 デフレ脱却を目指す安倍内閣の経済政策「アベノミクス」への期待が、今年の春闘に好影響を与えたのだろう。

 日本では長年にわたり、賃金の下落傾向が続き、デフレが長期化する一因となってきた。賃上げを消費拡大と景気回復につなげることが重要である。

 春闘相場に影響を与える大手の自動車や電機各社は、定期昇給や年間一時金(ボーナス)を労働組合に一斉回答した。

 トヨタ自動車など大半の自動車大手は一時金で満額回答し、リーマン・ショック前の2008年以来の水準となった。定昇や、これに相当する「賃金制度維持分」でも組合の要求をのんだ。

 業績にばらつきがある電機では回答に差がついたが、定昇維持では足並みがそろった。一部企業が定昇凍結や賃下げした昨年春闘からは様変わりだ。

 経営側が当初、「企業によっては定昇の延期・凍結もありうる」と厳しい姿勢を見せていたのと比べると大きな転換と言えよう。

 その背景には、安倍政権誕生後に進んだ円安を追い風に、自動車や電機など輸出企業の採算が急速に改善している事情がある。

 加えて、安倍首相や閣僚が、春闘中、経営側に賃上げを要請したことも効果的だった。

 一部の経営側は首相らの要請を考慮したことを認めている。労働側が「一定の成果を確保した」と分析しているのはもっともだ。

 製造業に先立ち、ローソンなどコンビニエンスストア業界でも賃上げが相次いだ。個人消費のテコ入れに先鞭(せんべん)をつけようとしたコンビニ業界の決断も評価できる。

 ただし、アベノミクスは期待感が先行しており、必ずしも実体経済は本格的に回復していない。賃金を底上げするベースアップを行った企業はまだ少なく、中堅・中小企業に賃上げの動きが波及するかどうかは不透明だ。

 円安進行は、燃料や輸入原材料価格の値上がりによるコスト高を招き、外食産業などの企業に逆風となることにも要警戒である。

 大事なのは、ようやく出てきた賃上げの動きを着実な景気回復という好循環につなげていく政府・日銀の連携の強化だ。

 政府は6月、再生医療の実用化などを柱とする成長戦略をまとめる方針だ。企業の競争力強化や、成長産業の育成など具体的な成果を期待したい。

 大胆な金融緩和と機動的な財政出動と併せ、日本経済の活性化を加速しなければならない。

小沢氏元秘書 再度有罪が問う政治家の責任


 元秘書を再び有罪とした司法判断は重い。

 東京高裁は、小沢一郎生活の党代表の元秘書3人について、有罪とした1審の判断を支持する判決を言い渡した。

 3人は小沢氏の資金管理団体・陸山会の土地取引を巡り、政治資金規正法違反に問われていた。

 判決は、小沢氏から借りた土地購入原資4億円を隠蔽するため、政治資金収支報告書に虚偽記入や不記載を重ねたと認定した。

 虚偽記入や不記載は3か年分に及び、総額も18億円を超える点を挙げ、「かなり悪質だ」とも指摘した。形式的なミスなどではなく、意図的な犯罪行為だったと批判する判決である。

 毎年公開される政治資金収支報告書は、政治活動が公正に行われているかどうかを国民がチェックする拠より所になる。虚偽記入や不記載自体が重大な犯罪だ。判決の指摘は当然と言えよう。

 被告の一人である石川知裕衆院議員は昨年末の衆院選で、新党大地から立候補し、比例で復活当選した。判決を不服として上告したが、最高裁で有罪が確定すれば、議員の職を失うことになる。

 焦点だった4億円の隠蔽について、判決は1審と同様の判断を示した。「小沢氏の選挙地盤で行われる工事の受注に絡み、中堅ゼネコンから裏金を受け取っていた」と認め、発覚を免れようとしたことが動機の一つと結論づけた。

 小沢氏自身は無罪となり、元秘書による裏金の受領を一貫して否定してきた。今回の判決に対し、小沢氏は「極めて遺憾」とのコメントを出したが、裁判所が認定したゼネコンとの癒着をどう説明するつもりなのだろうか。

 裁判を通じて改めて浮き彫りになったのは、政治資金規正法の“不備”である。

 現行法では、収支報告書の虚偽記入の責任を負うのは、政治団体の会計責任者だ。このため、小沢氏のように、「秘書にすべて任せていた」「収支報告書は見たこともない」といった言い分もまかり通ってしまう。

 先の衆院選で、小沢氏は、日本未来の党を創設して戦ったが、惨敗した。現在は生活の党を率いているものの、政界での存在感は乏しい。同時に陸山会事件への世間の関心も薄れている。

 だからといって、事件を過去のものと片付けるべきではない。

 会計責任者に対する政治家の監督責任を強めるなど、政治資金の公開制度の改善について、与野党は検討を怠ってはならない。

2013年3月13日水曜日

憲法改正要件―「3分の2」の意味は重い


 憲法を改正しやすくするために、ハードルを低くする。

 そんな動きが強まっている。

 安倍首相は、憲法改正手続きを定めた96条を改めたいと意欲を示している。

 呼応する動きは野党にも広がる。民主党や日本維新の会、みんなの党の一部の議員らは一両日中にも、96条改正をめざす勉強会を発足させるという。

 96条は、衆参両院でそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成で改正を発議し、国民投票で過半数が賛成すれば承認される、と定めている。

 首相らは、この「両院の3分の2」の要件を、「2分の1」に改めようというのだ。

 この改正論には反対だ。

 憲法は「不磨の大典」だから一切手を触れるな、と言いたいのではない。

 改正に高いハードルを設けるのは、世界的にみても当たり前のことであり、それ自体に意義があるからだ。

■各国も高いハードル

 まず、各国の憲法の改正要件を見てみよう。

 ふつうの法律と同じ手続きで改正できるのは、まとまった成文憲法を持たない英国など、ごく一部にすぎない。

 大多数の国は表の通り、厳しい制約を課している。国会で可決する要件をより厳格にする、国民投票をする、それらを組み合わせるといった方法をとる。

 なぜか。最高法規である憲法は、簡単に変えてはならない原則を定めるものだからだ。国民主権や基本的人権に関する条項は、その典型である。

 そもそも憲法は、権力を握る者が乱用しないよう、たがをはめることに意義がある。時の権力者の意向で簡単に改正できるなら、歯止めの意味をなさなくなる。

■幅広い合意が前提

 それだけではない。

 両院の3分の2の壁を乗り越えるには、多くの他党派の議員をふくむ幅広い合意形成が不可欠だ。それには国会で議論を尽くし、国民の多くにも納得してもらうことが必要となる。

 これが2分の1でいいというなら、国の骨格にかかわる議論が尽くされないまま、改正案がつくられる懸念もある。

 むろん、憲法の特質からすれば、望ましいのは前者である。

 96条の改正を主張する人たちは、最後は国民投票で主権者自身が決めるのだから、国会による発議はしやすくした方がいいという。

 首相も「国民の60~70%が変えたいと思っても、国会議員の3分の1をちょっと超える人たちが反対すれば、指一本触れることができない。これはおかしい」と説く。

 もっともらしい意見だが、これには首をかしげる。

 憲法のどの条項をどう変えるかを提案するのは国会であり、国民が意思表示できるのは、それへの賛否だからである。

■96条批判は筋違い

 日本は戦後、いまの憲法を一度も改正したことがない。

 一方、海外に目を向ければ多くの国が改正を重ねている。

 その代表例は、機能不全に陥りがちな統治機構を手直しするための改正だ。

 欧州では、国家主権の一部を欧州連合(EU)に移し、EUや州、自治体との役割分担を見直す試みが続く。

 国のかたちを変える試みもしないまま、日本はグローバル時代に対応できるのか。そんな疑問を抱く人も、少なくはないだろう。

 だが、日本が憲法を改正してこなかったのは、本当に96条のせいなのか。

 同じように両院の3分の2という制約を持つ国が、それを乗り越えて改正している。米国は戦後6回、ドイツの場合は法律に記すような事項まで憲法に書くこともあって59回に及ぶ。

 国会や国民の納得を得るために、どれだけの政治的エネルギーを注いだか。その違いも大きいのではないか。

 問題点が浮き彫りになっている衆参両院の関係をどうするかなど、日本でも憲法に絡んで浮上している課題は多い。

 それを手直しする必要があるというなら、正面からその理由を訴え、3分の2を超える賛同を得る努力をすればいい。

 平和条項を盛った9条の改正で合意するのは難しい。だから、まずハードルを下げようというのだとしたら、邪道というほかはない。

エネルギー計画 現実的な原発政策に練り直せ


 政府の電力政策の指針となるエネルギー基本計画を現実的な内容に改める必要がある。民主党政権で迷走した議論の仕切り直しに期待したい。

 経済産業省の総合資源エネルギー調査会は今週、新たなメンバーで論議を再開する。年内をめどに計画の見直し案を取りまとめる方針という。

 今回の調査会は、脱原発派を外すなどして、委員を25人から15人に減らした。建設的に意見集約する環境作りのためだろう。原発の立地する福井県の西川一誠知事らを加え、当事者の声を反映させる狙いも妥当だ。

 安全の確保を前提に、原発をどのように活用するか。地に足の着いた議論が肝要である。

 現行のエネルギー基本計画は2010年に策定された。温室効果ガスの「25%削減」を視野に、原発を14基も増やす内容だ。

 翌11年の東京電力福島第一原発事故を受け、菅内閣が計画の見直しに着手した。約1年間に33回も開いた会議は、将来の原発比率を巡る委員の意見が大きく分かれたまま、議論が打ち切られた。

 野田内閣が唐突にまとめた「30年代に原発稼働ゼロ」の方針が基本計画に反映されなかったのは、政権交代の効用と言えよう。

 安倍内閣は安全性の確認できた原発を再稼働する方針だ。原発の中長期的な役割を、どう位置づけるかが問われる。

 原発の安全技術は、かつてより大きく進歩している。最新型への切り替えは安全向上に資するはずだ。原発の更新・新設を排除せずに議論することが欠かせない。

 核燃料サイクル政策や放射性廃棄物の最終処分についても、真剣に打開策を探ってもらいたい。

 大半の原発が稼働しておらず、当面は石炭や液化天然ガス(LNG)などの火力発電が頼りだ。

 LNGなど燃料輸入のコストが年3兆円も増え、巨額の貿易赤字で国富の流出が続いている。

 電力会社は安い燃料の調達に努めるべきだが、原発政策が不透明なため、価格交渉で資源国に足もとを見られている面もある。長期的な原発活用を、政府方針として明確に示す意義は大きい。

 太陽光や風力など再生可能エネルギーの拡大策も、エネルギー基本計画の大きな論点となろう。

 ただし、天候によって発電量が急変動するなど、短所も多い。乗り越えるべきハードルは高い。

 技術やコスト面での裏付けもなしに、期待先行で飛躍的な拡大を見積もることは避けるべきだ。

震災遺構の保存 記憶の伝承に生かせるのなら


 骨組みだけとなったビル、陸に乗り上げた大型漁船――。東日本大震災の被災地には今なお津波の痕跡が生々しい。

 震災の惨状を伝える遺構を保存するか、解体撤去するか、自治体にとっては極めて難しい問題である。

 宮城県南三陸町では、多くの町職員らが亡くなった防災対策庁舎の保存の賛否を巡り、調整がついていない。岩手県大槌町でも、町長らが濁流にのみ込まれて犠牲となった町役場旧庁舎の保存で住民の意見が割れている。

 現場で肉親を奪われた遺族からは「震災を思い出すので見るのもつらい」と強く撤去を求める声が上がっている。その痛切な思いは重く受け止めるべきだろう。

 無残な姿の建物が街の中に残っていたのでは、復興の妨げとなるとの声もある。

 一方で、被災の記憶を風化させないために、遺構を保存すべきだという意見も根強い。遺族の中には当初、解体を求めながら、時間が経過する中で「悲劇を繰り返さないためにも保存することが必要だ」と考え直した人もいる。

 遺構の保存の是非について、記憶の伝承、防災、慰霊、将来の街づくりなど、様々な角度から地域で議論を尽くすべきである。維持管理には、自治体に多大の財政負担がかかる点も、十分に考慮しなければならない。

 宮城県は震災遺構に対する県の基本的な考え方を取りまとめ、関係市町に通知した。自治体の財政規模に見合った保存のあり方を検討するよう求めている。

 さらに、防災教育の拠点とするなど活用方針が決まっていて、安全性確保のための補修が可能、しかも復興の妨げとならない、といった保存の目安を挙げている。妥当な内容と言えよう。

 遺構の一部を博物館などに移設する方法もある。解体する前に写真やデータに残し、保存する方策も考えていい。

 岩手県陸前高田市では、津波に耐えながらも枯死した「奇跡の一本松」の復元作業が近く完了する。幹の中をくりぬいてカーボン製の芯を入れるなど工夫し、復興のシンボルとしてよみがえった。

 「奇跡の一本松」の周辺は復興祈念公園として整備を進め、将来の街づくりに生かす計画だ。公園への来訪者が増えれば、町の活性化にもつながるだろう。

 様々なアイデアを生かし、津波被害の記録を残してほしい。学術研究を経て得られた教訓を後世に伝えていく方法も考えたい。

2013年3月12日火曜日

3・11追悼式 被災の教訓を次世代につなげ


 東北地方の再生を急ぐとともに、被災の教訓を次世代に引き継いでいくことが大切だ。

 東日本大震災から2年を迎えた。

 東京では政府主催の追悼式が開かれ、天皇陛下ご臨席のもと、三権の長、遺族代表ら約1000人が、亡くなられた人たちの冥福を祈った。

 安倍首相は式辞で、「今般の教訓を踏まえ、我が国全土にわたって災害に強い強靱きょうじんな国づくりを進めていく」と決意を示した。

 伊吹衆院議長は、「ボランティアの減少など震災の風化が懸念されている。教訓を心に刻み、次の世代に引き継いでいくことこそが、我々の役割だ」と述べた。

 政府と国会は、震災からくみ取った教訓を日本全体の防災対策の向上に生かさねばならない。

 追悼式には、各国大使など外交関係者も約150人出席した。

 岩手県代表の高校生、山根りんさんは、「自然災害が発生した国々で、被災体験を生かした支援活動ができる人材となり、大震災がつらい記憶ではなく、未来につながる記憶となるよう私たち若い世代が行動する」と誓った。

 各国からの支援に応える意味でも、復興を急ぐべきだ。

 読売新聞が2月末に行った全国世論調査では、復興が進んでいないと思う人は69%に上り、昨年の72%と変わらない水準だった。

 自民党は野党時代、民主党政権が取り組む復興策の遅れや効率の悪さを厳しく批判してきた。

 安倍首相は、政権復帰を果たした以上、依然として強い国民の不満に対し、目に見える形で応えてもらいたい。

 特に、いまだ原発事故の処理が続く福島県は、宮城、岩手両県と比べても復興の遅れが目立つ。

 安倍政権は、福島市に福島復興再生総局を設置し、放射能の除染や町づくりに「現場主義」で取り組む体制を整えた。

 首相は記者会見で、原発事故で避難した周辺住民の帰還について、「夏頃をめどに、道路、水道、医療、福祉の復旧、いつ頃住めるようになるか、具体的な道筋を明らかにしていく」と語った。「すべては実行あるのみ」との姿勢は評価できる。

 被災3県については、住宅再建を急ぐため、政府が被災者向けの公営住宅である「復興住宅」建設の工程表を初めて提示した。適切な対応だろう。

 被災者は「先の見えない不安」を抱えている。一刻も早く将来に希望を持てるよう、手立てを講じることが肝要だ。

被災地の復興―スモールビジネスを力に


 東日本大震災の被災地で、復興に欠かせない「働く場」をどうつくっていくか。

 事業所の再開や新たな企業の誘致を、財政面や規制緩和で後押しすることは必要だ。

 ただ、被災地の多くはもともと過疎化と高齢化が深刻で、そこに震災が追い打ちをかけたという厳しい現実がある。

 小さくても長続きする事業を起こし、補助金などに頼らず、地域の中でおカネを回す。

 そんな「スモールビジネス」への挑戦が始まっている。

■助成金頼みでなく

 宮城県石巻市で活動する非営利団体「ぐるぐる応援団」は、仮設住宅の住民向けに買い物バスを運行する一方、定食やラーメンを出す小さな店「いしのま☆キッチン」を営む。

 主宰するのは、鹿島美織さん(36)。リクルート社に10年勤めた後、東京で独立した。大震災後、ボランティア活動がきっかけで、宮城と東京を往復する生活が始まった。

 「頼みの助成金がなくなると事業も終わり、ではダメ。あくまでビジネスとして定着させたい」。モットーは「小さなリスクで小さな挑戦」である。

 店員は10人あまり。子育て中の30歳代の主婦から、震災前は飲食店を経営していた60歳代の女性までさまざまだ。働ける時間帯が限られる人、体力が衰えてきた人たちの力も集めてやりくりする。

 今はお昼時の3時間の営業を延ばし、店員を3倍にすることが目標だ。

 「社会的起業」への関心が強い若者や、活動領域を広げるNPOの力も生かしたい。

 加藤裕介さん(25)は、東京の大手コンサルティング会社を1年で退職し、若者の起業を支援するNPO法人「ETIC」(東京)が手がける被災地への派遣事業に応募した。

 派遣先として選んだのは、福島県でNPOへの支援活動をする一般社団法人「ブリッジ・フォー・フクシマ」。ここで仕事をしながら起業を目指す。

■被災者と二人三脚

 手応えを感じたのが、被災地の事業者から話を聞く旅行ツアーだ。地元の旅行会社と組んで年明けに2回、首都圏から客を約30人ずつ集め、津波と原発事故に直撃された相馬市と南相馬市を1泊2日で案内した。

 水産加工の経営者やみそ・しょうゆ店の店主に「語り部」を依頼した。ツアーの参加者に、現状を知ったうえで飲食やおみやげ購入を通じて支援してもらうのが狙いだ。

 今月4日、東京証券取引所。被災地の起業家と企業を引き合わせる催しに、宮城県南三陸町の主婦、阿部民子さん(51)と同町の非営利団体「ラムズ」事務局長の白石旭(あきら)さん(31)の姿があった。

 阿部さんの夫は漁師で、小舟1隻を残してすべて津波に流された。昨年秋、主婦2人で地元海産物の通信販売を始めた。事業計画やインターネットのホームページ作り、スマートフォンによる情報発信などを指南したのがラムズだ。

 東京を拠点に、中小企業の経営指導で生計をたてる白石さんは、ボランティア活動が縁でラムズに加わった。「すべての作業を被災者自身にやってもらうことが、自立へのノウハウの蓄積につながる」と話す。

■多様な民間の参加を

 とはいえ、社会インフラの復旧に比べて産業復興が遅れているのが現実だ。

 「復興には、もっと多様な民間の力が欠かせない」。藤沢烈(れつ)さん(37)は各地での講演会やインターネットを通じて、そう訴え続けている。

 社会的事業の経営コンサルタントであり、被災地での街づくりなどにかかわる一般社団法人の代表。震災直後から政府のボランティア支援にかかわった縁で、国の復興庁の政策調査官の肩書も持つ。

 復興にかかわる調整役を務めながら、こう痛感している。

 政府や自治体といった「官」が「公(おおやけ)」の仕事を独占する時代はとうに終わっている。「民」がしっかりかかわり、官と連携することが大切――。

 既存の企業、とりわけ経営資源に恵まれた大企業の役割は大きいだろう。

 多くの会社が資金や物資の提供、社員のボランティア派遣などを続けてきたが、震災から2年がたち、限界も見え始めた。株主への配慮などと両立させながら、どう被災地にかかわり続けていくか。

 一部の企業が掲げ始めたのが「本業を生かして被災地の課題解決にあたり、新たなビジネスの芽も見つける」ことだ。少子高齢化や産業空洞化への対応、防災・減災対策の強化は日本全体が直面する問題でもある。

 起業家やNPO、企業など多彩な「民」が復興にかかわり、官と力を合わせて難題に挑んでいく。被災地を舞台にそんな姿が描ければ、日本の明日も見えてくる。

3・11追悼式 被災の教訓を次世代につなげ


 東北地方の再生を急ぐとともに、被災の教訓を次世代に引き継いでいくことが大切だ。

 東日本大震災から2年を迎えた。

 東京では政府主催の追悼式が開かれ、天皇陛下ご臨席のもと、三権の長、遺族代表ら約1000人が、亡くなられた人たちの冥福を祈った。

 安倍首相は式辞で、「今般の教訓を踏まえ、我が国全土にわたって災害に強い強靱(きょうじん)な国づくりを進めていく」と決意を示した。

 伊吹衆院議長は、「ボランティアの減少など震災の風化が懸念されている。教訓を心に刻み、次の世代に引き継いでいくことこそが、我々の役割だ」と述べた。

 政府と国会は、震災からくみ取った教訓を日本全体の防災対策の向上に生かさねばならない。

 追悼式には、各国大使など外交関係者も約150人出席した。

 岩手県代表の高校生、山根りんさんは、「自然災害が発生した国々で、被災体験を生かした支援活動ができる人材となり、大震災がつらい記憶ではなく、未来につながる記憶となるよう私たち若い世代が行動する」と誓った。

 各国からの支援に応える意味でも、復興を急ぐべきだ。

 読売新聞が2月末に行った全国世論調査では、復興が進んでいないと思う人は69%に上り、昨年の72%と変わらない水準だった。

 自民党は野党時代、民主党政権が取り組む復興策の遅れや効率の悪さを厳しく批判してきた。

 安倍首相は、政権復帰を果たした以上、依然として強い国民の不満に対し、目に見える形で応えてもらいたい。

 特に、いまだ原発事故の処理が続く福島県は、宮城、岩手両県と比べても復興の遅れが目立つ。

 安倍政権は、福島市に福島復興再生総局を設置し、放射能の除染や町づくりに「現場主義」で取り組む体制を整えた。

 首相は記者会見で、原発事故で避難した周辺住民の帰還について、「夏頃をめどに、道路、水道、医療、福祉の復旧、いつ頃住めるようになるか、具体的な道筋を明らかにしていく」と語った。「すべては実行あるのみ」との姿勢は評価できる。

 被災3県については、住宅再建を急ぐため、政府が被災者向けの公営住宅である「復興住宅」建設の工程表を初めて提示した。適切な対応だろう。

 被災者は「先の見えない不安」を抱えている。一刻も早く将来に希望を持てるよう、手立てを講じることが肝要だ。

新「津波警報」 犠牲を減らす一歩にしたい


 気象庁が、新たな津波警報の運用を始めた。

 東日本大震災の反省を踏まえたものだ。

 津波による犠牲を減らす一歩にしたい。

 新たな警報では、津波の規模を大まかに、「巨大」「高い」に分けた。マグニチュード(M)8を超える巨大地震が起きた時は、発生3分後の第1報で、「巨大」と警告を発する。

 「巨大」警報が出た場合、津波は最低で10メートル前後に達する恐れがあるという。その際、大切なのは即座に逃げることだ。新たな警報が迅速な避難につながるよう気象庁は周知に努めねばならない。

 従来の津波警報では、第1報の段階でも、地震の観測データから津波の高さを算出し、具体的な数値を発表していた。

 東日本大震災では、発生直後に岩手、福島両県で「3メートル」の津波を予測し発表した。ところが、実際は10メートル超の場所が多かった。

 津波の規模の過小予測で避難が遅れた、との指摘がある。

 一刻を争う場面では、的確な情報を分かりやすく伝えることを最優先にすべきだ。地震直後の観測データが乏しい段階で、無理に数値予測を出す必要はない。

 具体的な津波の高さの予測については、観測データに基づき、順次、発表される。その情報の発し方も工夫が求められる。

 津波は2波3波と襲来し、大震災では、後続の津波で甚大な被害が出た地域もあったからだ。

 津波警報が発令された際、NHKは、すでに避難を促す新たな呼びかけを始めている。三陸沖を震源とする昨年12月の地震の際に、「大震災を思い出してください」などと繰り返した。

 被災者からは、恐怖の記憶がよみがえり、「つらい」などの声が寄せられた。呼びかけ方には今後、配慮が必要だろう。

 沿岸地域では、警報の有無にかかわらず、大地震の時は自ら判断して逃げることも大切だ。停電や防災無線の故障などで情報が行き届かない場合もある。

 心配なのは、大震災で大津波に備える必要性を痛感したはずなのに、市町村の避難体制の整備が遅れていることだ。総務省消防庁の昨秋の調査では、大震災後に津波避難計画を見直した全国の沿岸部の市町村は、まだ1割前後だ。

 大震災では、避難先の施設が次々と波にのまれた。道路は車で渋滞し、避難が滞った。

 いかに警報を工夫しても、それだけでは命を守れない。政府や自治体は対応を急ぐべきだ。

2013年3月11日月曜日

原発、福島、日本─もう一度、共有しよう


 記者を乗せたバスが東京電力福島第一原発の構内へ入る。

 周辺のがれきは片付き、新たな設備や機器が並ぶ。一見、ふつうの工事現場だ。

 ところが、海沿いの原子炉建屋に近づくと状況は一変する。

 水素爆発の衝撃で折れ曲がった巨大な鉄骨、ひっくり返った車――。1~3号機の周辺で測った放射線量は、毎時1ミリシーベルトを超えた。まだ人が入っての作業はできない。

 炉内は冷却を保っている。だが、建屋には毎日400トンの地下水が流入し、その分、汚染水が増え続ける。貯水タンクの増設でしのいでいるが、2年後には限界がくる。「収束」とはほど遠い現実がそこにある。

 防護服と全面マスクに身を包んだ人たちが黙々と働く。多くは、東電以外の協力会社や下請け企業の作業員だ。

 事故直後、命がけで対応にあたった人たちは「フクシマ50(フィフティー)」と世界から称賛された。

 いま、線量計をつけて働く作業員は1日約3500人。6割以上が地元・福島県の人たちだという。「フクシマ3500」の努力があって、私たちは日常の生活を送っている。

■広がる孤立感

 原発周辺の町は先が見えず、苦しんでいる。

 浪江町復興推進課の玉川啓(あきら)さん(41)は、町の人と話す時、安易に「復興」という言葉を使わないようにしている。会話が進まなくなるからだ。

 「復興」には、災害そのものは終わったという語感がある。「しかし、避難している人たちにとって事故はまだ現在進行形なんです」。住民は今、約600の自治体に分散する。

 被災者には孤立感が広がる。

 福島市内の仮設住宅に移った双葉町の60代の男性。東京に住む娘に近い埼玉県に戸建てを買い、終(つい)の住み家にしたいと思うが、東電が提示する賠償金ではまったく足りない。

 福島県内とされる「仮の町」にも行くつもりはない。「放射能を気にして孫も来ないようなところでは意味がない」

 新しい町長にも、議会にも期待はしていない。「誰を選んでも何を訴えても、そこから先に届かないもの」

 原発が立地する他の自治体との距離も開くばかりだ。

 自民党本部で2月15日、原発のある道県の議会議長を招いた調査会が開かれた。相次ぐ「原発の早期再稼働を」の声に、福島県の斎藤健治議長は「これ以上、一緒に議論できない」と途中で席を立った。

 大震災の前までは、福島第一に原子炉の増設を求めるなどバリバリの原発推進派だった。

 「『原発は必要』という人ほど事故後の福島を見に来ない。会合の場でも言ったよ、自分で3号機の前に立ってみろって。そしたら再稼働なんて簡単に言えなくなる」

■世界に向けての発信

 事故直後は、「恐怖」という形で国民が思いを共有した。2年経ち、私たちは日常が戻ってきたように思っている。

 だが、実際には、まだ何も解決していない。私たちが「忘れられる」のは、今なお続く危機と痛みと不安を「フクシマ」に閉じ込めてしまったからにすぎない。

 福島との回路をもう一度取り戻そう。

 浪江町では、グーグルが協力し、「ストリートビュー」というサービスで町並みの画像を記録していく企画を始めた。

 町民からの「様子が知りたい」の声に応えるためだが、原発事故に見舞われた町のありのままの姿を、世界に向けて発信する狙いもあるという。

 原発付近一帯を保存し、「観光地化」計画を打ち上げることで福島を語り継ぐ場をつくろうという動きも出ている。

 いずれも、現実を「見える化」して、シェア(共有)の輪を広げようという試みだ。

 「電力会社が悪い、国が責任を果たせって言えるのは僕らが最後かもしれません」と、浪江町の玉川さんは言う。「何が起きたのか、今ちゃんと共有して賠償制度や避難計画を見直さないと、今度どこかで事故が起きたら『福島のことを知ってて(原発を)受け入れたんでしょ。自己責任です』と言われておしまいになりかねない」

■私たち皆が当事者

 その玉川さんが昨年4月、原発を訪れた際、ソーシャルメディア「フェイスブック」に書き込んだ投稿が、「シェア」という機能によって、人から人へと広がり続けている。すでに1万5千件を超えた。

 そこには、こんな言葉がつづられている。

 「今回の事故は最悪ではなかった/幸いなことに最悪を免れることができたという、恐ろしい事実をもっと皆で共有すべきと感じます」「福島を支援するということが誤解/福島の地で今を支えている/それによって日本が支えられている/皆がまさに当事者なのです」

震災2年・再建を誓う日 政府主導で復興を加速させよ


 ◆安心して生活できる地域再生を◆

 東日本大震災から2年を迎えた。

 亡くなった人は1万5881人、行方不明は2668人に上る。

 避難生活を送る被災者は31万5000人を下らない。うち約16万人が、東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた福島県の避難者である。

 国民みんなで改めて犠牲者の冥福を祈りたい。再起に向けた歩みは遅れている。政府が主導し、復興を加速しなければならない。

 ◆今も仮設住宅に11万人

 市町村の復興計画が進んでいない背景には、住民の合意形成が難しい事情がある。例えば、商工業を営む場所を高台にするか、沿岸部にするかという問題だ。壁のような防潮堤で海と陸を遮断していいのかという問題もある。

 津波で市街の一部が壊滅した宮城県名取市の住民たちは、内陸への集団移転ではなく、現地での再建を望んだ。市は防潮堤建設や区画整理を行って支援する方針だが、反対の声も残るという。

 計画を前に進めるには、住民の十分な合意がないまま、始動せざるを得ないのが実情だ。

 早期に沿岸部再開発を決めたのは、岩手県釜石市や宮城県気仙沼市、石巻市などの漁業都市だ。「漁業でしか再建できない以上、海辺の土地は捨てられない」(石巻市幹部)との理由からだ。

 被災者たちは津波の再来に不安を覚えながら、仮設住宅から水産加工場などに通う。

 「収入と安全安心をどう両立させればいいか」。石巻でよく聞かれる言葉は切実だ。

 復興策が議会や住民の反発を招き、辞職した町長もいる。それぞれの自治体と住民がジレンマに苦しみながら、「街の再生」を模索した2年だったと言えよう。

 被災地のプレハブの仮設住宅には、今も約11万人が暮らす。不自由な生活にストレスや不安を訴える住民が増えていることが懸念される。安定した生活が送れる新住居に早く移れるよう、自治体は復興住宅の建設を急ぐべきだ。

 ◆復興庁の責任は重大だ

 巨額の復興費の消化率が低い実態は看過できない。岩手、宮城、福島の3県と34市町村で、約1・4兆円が今年度中に予算執行できず、新年度に繰り越される。

 復興住宅などの事業用地買収が難航したり、利益の薄い工事を業者が敬遠して入札が不調だったりしているためだという。

 岩手、宮城両県の沿岸部では、がれきの撤去は進んだものの、津波で地盤沈下した土地のかさ上げや防潮堤建設などの工事に着手できていない地域が多い。

 この上、時間を浪費すれば、被災地の再生は遅れるばかりだ。

 司令塔機能を発揮すべき復興庁の責任は重い。各自治体との連携を一層強化し、被災地対策を主導する必要がある。

 復興庁が最近、復興交付金の使途を広げ、漁業集落の跡地のかさ上げなどにも使えるようにしたのは妥当だ。工事の停滞を解消し、復興予算執行のスピードを上げなければならない。

 被災地には、過疎の市町村が多く、その場所にすぐに活気を取り戻すのは容易ではない。

 かつて大地震と津波で被災した北海道奥尻島では、住民の高台移転などで多額の復興費が投じられた。しかし、その後は人口の減少に直面している。

 東北の被災地も、奥尻の教訓を生かす必要があろう。

 青森市、富山市などでは、住民を一つの地域に集め、病院や学校、郵便局も整備して利便性を高める事業を進めている。「コンパクトシティー」と呼ばれる。

 被災地の過疎対策への応用も検討に値するのではないか。

 安倍首相は、「復興は日本経済再生と並ぶ最重要課題だ。一日も早く結果を出すことで信頼を得たい」と強調している。復興なくして、首相が掲げる「強い経済」は実現できないだろう。

 ◆問われる具体的成果

 政府は今月6日、復興策を点検し、首相に改善を提言する有識者会議「復興推進委員会」のメンバーを大幅に入れ替えた。6月をめどに中間報告をまとめる。

 民主党政権が策定した現行の国の復興計画には、被災地の実情に照らすと、見直すべき点が多々あるだろう。復興の遅れは何が原因か。新たにどのような施策が必要か。東北の再生につながる提言をまとめてもらいたい。

 大震災から3年目に入り、求められているのは、具体的な行動と成果である。

 首相の決意通り、復興を加速させることが政府の使命だ。

2013年3月10日日曜日

被災地の住まい再建―ここにこそ、人と資源を


 東日本大震災によって、今も32万人が避難生活をし、被災地からの人口流出も続く。公共工事は盛んだが、そこに希望を見いだせないのだ。5年間で25兆円にのぼる復興予算は、人がまばらな防災都市を造ってはいないか。

 過去に何度も津波に襲われてきた岩手県宮古市。明治と昭和の津波で壊滅的な被害を受けた田老(たろう)町地区は「万里の長城」と呼ばれる大防潮堤で知られた。大津波でそれも倒れ、200人近い犠牲者を出した。

■住民が出てゆく

 ここは津波被害を繰り返しながら、そのたびに水産業を中心に町を復興させた。厳しい土地の宿命と三陸の人のたくましさを象徴する地区だった。

 宮古市は最近、田老で被災した840世帯に、将来希望する居住地を尋ねた。回答は「他の場所」が48%、「田老地区」は45%、「未定」7%だった。

 現地に立てば、被災者の心中の一部を察することができる。

 がれきを除いただけの荒野が広がる。漁港近くの小高い山林が高台移転の候補地に決まったが、用地交渉は始まったばかりだ。集落のあった低地のかさ上げは高台の山を削って出る土砂を使うから、さらに先だ。

 高台で住宅を着工できるまで最短であと2年かかる。

 それまで、狭い仮住まいで待てというのか。「娘が高校を卒業してしまう」。宮古市街地の借り上げアパートに住む54歳の父親は、思いあぐねる。自分は帰還にこだわるが、多感な10代の子にいつまでも避難生活を強いてよいのか。

 被災3県の沿岸42市町村のうち、40市町村で人口が減った。転出の半数は30代以下という。出てゆく人を止めることは難しいが、もとからの過疎高齢化が一気に進んでいく。

■住宅を即年着工に

 田老の山側では、仙台市から青森県八戸市までを結ぶ三陸沿岸自動車道の建設が始まった。1兆3千億円をかけ、10年かけて完成する。

 なかでも宮古中央―田老の21キロは、普通は4年かかる計画決定から測量、用地交渉、着工までを1年でこぎつけた。国土交通省が全国からの応援や民間への委託を使った。幹部は「即日配達にならい、即年着工と名づけた」と起工式で語った。

 そんな人的パワーを、暮らしに直結する支援にも使いたい。被災市町村に入って仕事を助けてくれたらどれほど助かるか。

 役場の職員は、復旧の仕事に忙殺されている。全国の自治体から応援をもらうが、被災者と接する部門の職員のストレスは激しい。1月、兵庫県宝塚市から岩手県大槌町に派遣されていた応援職員が、宿舎の宮古市の仮設住宅で自殺した。

 宮古市は震災後に都市計画課を作った。総勢30人。半分は応援の公務員だ。住宅を移転させる高台の土地をいくらで売ってもらえるか、地主と交渉する。相続が登記されておらず、地主が何人どこに住んでいるかわからぬ土地もたくさんある。気の遠くなる作業が待つ。

 被災者支援の生活課、漁港整備の水産課も、ともかく人が足りない。市は事務庁舎をプレハブで増築したいが、多くの工事による資材不足で遅れている。

 道路とならぶ大型工事が防潮堤だ。田老では、倒れた10メートルのものを、県が今度は14・7メートルまで高くする。かさあげして再生させる町を守るという。

■ソフトパワーを強く

 何らかの防潮堤は必要だ。高台の自動車道は、安全な避難道路になる。水産物の販路も広がる。だが、住宅工事がようやく本格化するこの時期、大型の公共工事が大量に発注されれば、不足している資材や労働力を奪い、一つひとつは小規模な生活直結の工事が遅れる。

 安らぎの家を取り戻してこその復興だ。順番を忘れまい。

 道路や防潮堤は担当の役所が前からあり、造り方もわかっている。住宅用地の交渉はそれぞれが難しい。いま被災地では、工事のハードパワーはあふれ、交渉のソフトパワーの担い手は圧倒的に足りない。

 田老再建にはほかの案もあった。大防潮堤に頼りすぎて被害を大きくした過去を考え、無事に残った家をふくめて集落ごと別の市有地の高台に引っ越したいという願いだった。無事な住宅には国費を出せないという行政の壁で実らなかった。

 もう待てないと、田老に近い既存の団地に、被災者数十戸が自力で家を建て始めた。「顔見知りが多いから安心」という。「第二田老村」と呼ばれるここの住民は故郷に愛着をもつ。

 住まいと暮らしの再建。その支援に、大規模工事に投ずるエネルギーをもってすれば、復興は早まる。移住を余儀なくされた人たちにも、故郷にかかわる機会を手厚く用意したい。

 かつてと同じ生活を再現するのは難しいかもしれない。しかし、それは人口減と高齢化が進む日本全体の手本になる。

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