2013年4月30日火曜日

地域医療の将来像―都道府県の責任は重大だ


 救急車が、患者を搬送する病院をなかなか見つけられない。地域の病院から小児科や産科が消える。病院から治療が終わったからと、退院を迫られているが、行き場所がない……。

 日本の医療や介護が抱える問題に、どう対応するか。

 首相の下に置かれた社会保障国民会議で、大きな改革の方向性が見えてきた。

 地域の実情にあった「ご当地医療」をつくる。そのために、都道府県の権限と責任を大きくし、消費増税の財源をあてる。そんな内容である。

 基本的に賛成だ。

■地域ごとのビジョン

 これまで都道府県は、複雑で費用もかさむ医療分野への関与には及び腰だったが、財源に一定のメドがつくことで積極姿勢に転じる兆しが見えてきた。これを機に、政府全体で本腰を入れて進めるべきだ。

 改革の柱はふたつある。

 ひとつは、地域ごとの医療・介護のデザインを、都道府県が中心になって担うことだ。

 欧米に比べ、日本の病院はベッド数は多いが、各病院の役割分担がはっきりしない。地域によっては、リハビリや緩和ケアが得意な病院や介護施設、自宅を訪問して診療する医師や看護師が足りない。

 このため、高度な医療を提供する医師や看護師のいる病院に、治療の済んだ患者が滞留する「社会的入院」も起きる。

 高齢化のピークに向けて、住民の医療・介護のニーズを予測して病院や介護施設を整備し、スムーズに連携させる。そうした将来ビジョンが必要だ。

 都市部と地方では、医療機関の数、高齢者の数や人口密度など事情が異なる。ビジョン策定で都道府県がより大きな責任を持つのは自然な流れだ。

 厚生労働省のこれまでの医療政策は全国一律の手法に依存してきた。

 個々の診療行為の公定価格である診療報酬を上げ下げし、病院を望ましい方向に誘導するのが軸だが、間接的な手法ゆえの限界が見えている。

 集中的に治療を行うために「手厚い看護」に高い価格をつけたら、都市部の大病院が看護師を一気に集めて、中小病院が人手不足に陥るなど混乱したのは、わかりやすい失敗例だ。

 国民会議では、地域医療や介護のための基金を設け、消費税収の受け皿にし、病院機能の集約や転換に必要な費用を補助する案が委員から示された。

 こうした投資的経費は、診療報酬で賄うのは難しい。補助金という直接的な手法をどう有効に使うか検討を進めたい。

 病院機能の集約化は、地方の医師不足緩和にも貢献しうる。ある分野の医師を一つの病院に集めれば、勤務に余裕ができ、人材を採用しやすいからだ。同じ病院に手術を集中させ、医師が腕を磨ける環境もつくれる。

■国保の財布を大きく

 改革のもうひとつの柱は、苦境に陥っている国民健康保険の運営を、市町村から都道府県に移すことだ。

 国保は、収入の安定したサラリーマン以外の人を対象にしている。いまや自営業者は少数派で、低収入の非正規労働者、無職の高齢者が大半を占める。

 このため医療費が増えても、保険料の引き上げには限界がある。見えやすい負担増は住民に不人気で、首長も腰が引ける。

 その結果、市町村は国保に3500億円の税金を投じ、さらに翌年度の保険料を先食いする形で1500億円を借りて、赤字を穴埋めしている。きわめて不健全だ。

 1700余ある国保のうち4分の1は加入者が3千人に満たない。運営を都道府県ごとにして、「お財布」を一つにすれば財政が安定化し、同じ県内でも国保間で最大3倍近い格差があった保険料も平準化されよう。

■国は人材の支援を

 国民会議が打ち出した方向性にはむろん、懸念もある。

 改革を実現するだけの力がすべての都道府県に備わっているとは思えないからだ。

 これまではベッド数の規制が主な仕事で、県立病院はつくっても、医療の中身は、医師を派遣する地元大学の医学部にお任せするのが一般的だった。

 それが、専門性の高い医療の中身に立ち入り、企画・調整する仕事を担えるのか。

 政治力のある地元医師会と対等に渡り合えるか。医師たちの言うがままに、補助金をつけるようにならないか。

 市町村と違って住民と直接の接点が少ない都道府県が、地域の複雑な事情をふまえた調整ができるか。

 心配の種は無数にあるが、国が特に人材面で支援し、克服していくしかない。

 地域の医療・介護は、国任せでは成り立たない。都道府県が将来像を描き、その費用の一部をまかなう国保にも責任を持つ意味は大きい。

 高齢ニッポンにおける「地方分権」の成否がかかっている。

核燃料サイクル プルトニウムの確実な利用を


 福井県の関西電力高浜原子力発電所3号機で使うウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料がフランスから海路、日本に向かっている。6月にも到着する。

 東京電力福島第一原発の事故後、初めての輸送だ。

 日本は、エネルギー政策の一環として、核燃料サイクル計画を進めてきた。原発の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムやウランを再利用するものだ。その柱がMOX燃料の利用である。

 核燃料サイクルは、ウラン資源の有効活用や放射性廃棄物量の軽減といった利点がある。

 プルトニウムは核兵器の材料にもなる。利用されないままでは、国内外で無用な疑念を引き起こしかねない。

 関電は、輸送されたMOX燃料を確実に利用する必要がある。

 日本には大規模な再処理施設がないため、使用済み核燃料の再処理をフランスや英国に委託してきた。すでに取り出されたプルトニウム量は20トンを超える。

 仏英とも預かったままにできない。引き取りは国際的な信義にかかわる問題だ。プルトニウム利用は、日本の責務と言えよう。

 福島第一原発の事故後、民主党政権はほとんどの原発を停止させ、展望がないまま「脱原発」の方針を打ち出すなど混乱を拡大させた。核燃料サイクル計画も抜本的な見直しの対象とした。

 安倍政権でも議論は進んでいない。このままではプルトニウム利用の見通しが立たない。

 青森県六ヶ所村では日本原燃の再処理工場が完成間近だが、その利用計画も定まっていない。政府は早急に検討すべきだ。

 核兵器を保有せずに、高度な再処理技術を確立する国は、日本以外にない。これまで積み上げてきた技術を簡単に捨てられまい。

 まずは、何基の原発が安全に再稼働できるのか、割り出す必要がある。原子力規制委員会は、安全確認を急がねばならない。

 再処理工場に対する規制委の姿勢にも問題がある。

 この工場で安全確認が済んでいないのは、放射能が高い廃液をガラスに固める工程だけだ。

 試験過程で発生し、タンクに保管中の廃液は固めた方が格段に安全だが、規制委は、工場そのものを当面動かす必要がないとして確認作業を後回しにしている。

 規制委は自らの役割や責任を十分認識していないのではないか。安全性の向上を着実に進めることが規制委の職務である。

ハーグ条約 子供のために体制作り急げ


 国際結婚が破綻し、配偶者が一方的に子供を国外に連れ去ったら、どう対処するか。そのルールを定めた条約にようやく日本も参加する。国内の体制整備を急ぎたい。

 ハーグ条約の承認案が衆院で全会一致で可決された。参院でも可決が確実で、事実上、条約加盟が決まった。国内の関連法案も、近く成立する見通しだ。

 条約は原則として、16歳未満の子供が無断で片方の親に連れ去られた場合、1年以内にもう一方の親から申し立てがあれば、子供を元の国に返すとしている。

 主要8か国(G8)で、条約に未加盟なのは日本だけだった。

 日本人の国際結婚が増加する中で、米国では、別れた日本人が子供を日本に連れ去る事例が約100件に上っている。外交問題にも発展し、米欧から日本に早期加盟を求める声が高まっていた。

 条約加盟は、遅すぎたとも言えるだろう。

 加盟により、日本人の子供が外国に連れ去られた場合も、返還を要求する道が開ける。条約未締結のために子供を連れての日本への帰国が制限される例もあったが、そうしたトラブルもなくなる。

 日本の加盟が遅れたのは、外国人の夫の家庭内暴力(DV)から逃れようと同意なく子供を連れ帰る日本人の女性が多く、こうした日本人の人権を守れるかどうか懸念する声があったからだ。

 国会審議でも、夫などの申立人に対し、例外的に認められる「子供の返還拒否」の条件をどう規定するかが焦点になった。条約は「子の心身に害を及ぼす重大な危険がある場合」としている。

 国内の関連法案は、申立人が「子供に暴力を振るう恐れがある場合」に加え、「子に悪影響を与えるような暴力」を母親に対しても加えかねない場合を含めた。

 あえて「子に悪影響を与える」と条件をつけたのは、条約があくまで「子供の幸せ」を中心に考えているからである。ただ、DVが子に悪影響を与えているかどうかの立証は難しいだろう。

 申し立てを受ける東京と大阪の両家庭裁判所には、子の心情に十分配慮した判断が求められる。

 条約に従い、親権を巡って日本人が現地での裁判に臨む場合に備えて、外務省は、海外での支援体制を整える必要がある。

 日本の在外公館の一部では、すでに相談窓口を設けているという。弁護士や通訳の提供、現地のDV問題支援団体との連携など、きめ細かな対応が必要である。

2013年4月29日月曜日

主権回復の日―過ちを総括してこそ


 政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」がきのう、東京であった。

 61年前の4月28日、連合国による占領が終わり、日本は独立を果たした。

 安倍首相の肝いりで、初めて政府主催で開かれた。

 首相は式辞で「未来へ向かって、希望と決意を新たにする日にしたい」と語った。そのこと自体に異論はない。ただ、気がかりなことがある。

 じつは、この式典には伏線がある。自民党などの有志議員らが1年前に開いた「国民集会」である。そこへ、一国会議員だった安倍氏はこんなビデオメッセージを寄せた。

 独立したのに、占領軍が行ったことに区切りをつけず、禍根を残した。占領軍によって作られた憲法や教育基本法、そのうえに培われた精神を見直し、真の独立の精神を取り戻す。次は憲法だ――。

 再登板後も首相は、憲法を改正し、日本も米国を守るために戦う集団的自衛権の行使を認めるべきだと唱えている。

 ただ、4・28を語る際、忘れてはならない視点がある。なぜ日本が占領されるに至ったのかということだ。

 言うまでもなく、日本が侵略戦争や植民地支配の過ちを犯し、その末に敗戦を迎えたという歴史である。

 占領下の7年間、日本は平和憲法を定め、軍国主義と決別して民主主義国として再出発することを内外に誓った。

 だからこそ、国際社会への復帰が認められたのではないか。

 そのことを忘れ、占領期を「屈辱の歴史」のようにとらえるとしたら、見当違いもはなはだしい。

 最近の政治家の言動には、懸念を抱かざるを得ない。

 168人の国会議員が大挙して靖国神社を参拝する。首相が国会で「侵略という定義は定まっていない」と侵略戦争を否定するかのような答弁をする。

 これでは国際社会の疑念を招くばかりだろう。

 とはいえ、式典開催を求めてきた人々の思いも決して一様ではない。

 そのひとり、自民党の野田毅氏はこう説く。

 同じ敗戦国のドイツは、全国民的に過去の総括にとりくみ、国際社会での立ち位置を定めた。その経験にならい、日本人も占領が終わった4・28と、戦争が終わった8月15日を通じて、左右の立場の違いを超えて総括しよう。

 そんな節目の日とするというのなら、意味がある。

主権回復の日―47分の1の重い「ノー」


 政府式典と同じ時刻、沖縄県宜野湾市ではこれに抗議する集会があった。

 集会の最後、1万人の参加者が「がってぃんならん」(合点がいかない=許せない)と、5度スローガンの声を合わせた。

 地元紙などの事前の世論調査では、約7割の県民が政府式典を「評価しない」と答えている。県民感情に配慮して仲井真弘多知事は式典を欠席し、副知事が代理出席した。

 61年前のこの日、沖縄、奄美、小笠原は日本から切り離され、米国の施政下に入ったからだ。沖縄で「屈辱の日」といわれるゆえんである。

 もっとも、沖縄の人々が「4・28」に寄せるまなざしは、はじめからこうだったわけではない。当時の地元紙を読むと、本土から切り離されたことを嘆くより、祖国の独立を素直に喜ぶ論調があふれている。

 それがなぜ、かくも隔たってしまったか。その後の沖縄の歴史抜きには語れない。

 本土では主権回復後、米軍基地が減る一方、沖縄では過酷な土地接収で基地が造られた。

 72年の本土復帰後も基地返還は進まず、いまも米軍基地の74%が集中する。米兵による犯罪や事故も絶えない。

 それだけではない。県民の反対にもかかわらず、政府はあくまで普天間飛行場の辺野古移設にこだわっている。

 一方で、在日米軍に特権を与えた日米地位協定の改正には触れようとせず、オスプレイの配備も強行した。

 「がってぃんならん」ことが現在進行形で続いているのだ。

 「沖縄には主権がない」「本土による差別だ」。そんな声さえ聞かれる。

 沖縄の人々が、主権回復を祝う式典に強い違和感を抱くのは無理もあるまい。

 政府だけの話ではない。知事が求める普天間の県外移設にしても、オスプレイの配備分散にしても、引き受けようという県外の自治体はほとんどない。

 沖縄の異議申し立ては、そんな本土の人々にも向けられていることを忘れてはならない。

 安倍首相は、政府式典で「沖縄が経てきた辛苦に思いを寄せる努力を」と語った。

 その言葉が本当なら、政府はまず、辺野古案にこだわるべきではない。地位協定の改正も急がなくてはならない。

 やはり4・28に発効した日米安保条約の下、沖縄の犠牲の上に日本の平和は保たれてきた。

 47分の1の「ノー」が持つ意味の重さを、私たち一人ひとりがかみしめなければならない。

主権回復の日 国際社会復帰の重み忘れまい


 日本が、サンフランシスコ講和条約の発効によって戦後の占領支配から解放されたのは、1952年4月28日だ。国際社会の責任ある一員になると誓った意義深い日である。

 政府は61年後のこの日、主権回復と国際社会復帰を記念する式典を憲政記念館で開いた。

 「これまでの足跡に思いを致しながら、未来へ向かって希望と決意を新たにする日にしたい」

 そう語った安倍首相は、占領期を、「わが国の長い歴史で初めての、そして最も深い断絶であり、試練だった」と振り返った。

 占領下では、閣僚人事も国の予算や法律も、連合国軍総司令部(GHQ)の意に反しては決められなかった。言論統制もあった。

 こうした歴史が、国民の間で忘れ去られようとしている。主権を失う事態に至った経緯も含め、冷静に見つめ直すことが肝要だ。

 内外に惨禍をもたらした昭和の戦争は、国際感覚を失った日本の指導者たちの手で始められた。敗戦と占領は、その結末である。

 日本は主権回復後、国連に加盟し、高度成長を成し遂げて、今日の豊かで平和な社会を築いた。

 だが、沖縄県・尖閣諸島沖での中国監視船の領海侵入や、韓国の竹島不法占拠、北方領土で進行する「ロシア」化など、領土・領海を巡る問題は今もなお、日本の主権を揺さぶっている。

 今年の政府式典は、そんな主権の現状を考える節目となった。

 一方、沖縄県宜野湾市では、政府式典に抗議する「屈辱の日」沖縄大会が県議会野党会派などの主催で開催された。

 沖縄は、奄美、小笠原と共に講和条約発効と同時に日本から切り離され、米軍施政下に置かれた。かつて戦場となり、主権回復からも取り残され、米軍基地建設が進んだ。このため沖縄では4月28日は「屈辱の日」と呼ばれる。

 しかし、日本が主権を回復したからこそ、米国と交渉し、沖縄返還を実現できたことも事実だ。

 沖縄を軽視した式典でないことは言うまでもない。首相は式辞で「沖縄の人々が耐え忍ばざるを得なかった、戦中戦後のご苦労に対し、通り一遍の言葉は意味をなさない」と沖縄にも言及した。

 仲井真弘多沖縄県知事の代理で式典に出席した高良倉吉副知事は「首相は比較的、沖縄の問題に向き合って発言された」と語り、式典に一定の理解を示した。

 沖縄の歴史も踏まえて、米軍基地問題の解決への道筋を考える機会にもしたい。

参院山口補選 安倍政権の勢い映した前哨戦


 発足から4か月を経た安倍政権の勢いを、そのまま反映したかのような結果である。

 第2次安倍内閣の発足後、初の国政選挙となった参院山口選挙区補欠選挙は、自民党公認の新人、江島潔氏が民主党などの推薦で元法相の新人、平岡秀夫氏らを大差で破った。

 山口県は、安倍首相の地元で、衆院全選挙区を自民党が独占する「保守王国」だ。江島氏は公明党の推薦も取り付けて、選挙戦を終始優位に展開した。

 首相もお国入りし、「今進んでいる道以外にデフレからの脱却はできない。長州から日本を取り戻そう」と、県民の景気回復への期待感に訴えた。

 北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まり、中国が領海侵入などを繰り返す中、安倍政権の日米同盟の立て直しを急ぐ姿勢も、江島氏への追い風になったといえよう。

 一方、平岡氏は「自民党に対抗する政治勢力の結集」を掲げ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」や、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加、憲法改正の方針をことごとく批判した。だが、支持は広がらずに終わった。

 民主党を中心に「無所属・党推薦」候補を擁立し、野党各党が結束して自民党と戦う、という構図も作り切れなかった。

 平岡氏は、民主党の菅元首相らの支援を受け、山口県内で中国電力が進める上関原発の建設計画を争点に据えようと、「脱原発」を主張した。社民党やみどりの風との共闘を図ったものの、主要な争点にならなかったといえる。

 代替エネルギー確保の見通しもなく、原発を否定するだけでは説得力を持たなかったのだろう。

 民主党の海江田代表は、山口補選を都議選や参院選への前哨戦と位置づけ、「山口の地から『安倍政治ノー』という声をあげたい」と訴えたが、浸透しなかった。

 民主党は、参院選戦略の練り直しが迫られよう。

 今回の補選の結果、参院の自民党会派は1議席増える。民主党で離党者が相次いでいることもあって、参院では近く、最大会派の民主党と自民党の議席がそれぞれ84で並ぶ見通しだ。

 国会運営でも、民主党の発言力低下は避けられない。

 参院選に向け、もはや民主党の看板では戦えないと考える議員がさらに出てくる可能性もある。

 民主党は衆院選惨敗から立ち直るどころか、むしろ混迷を深めるばかりだ。なぜ支持を回復できないのか、現状を直視すべきだ。

2013年4月28日日曜日

日本と韓国―向き合い、信頼きずけ


 大岩を頂に担ぎ上げたと思えば、そのたびに歴史認識問題で一気に転げ落ちる。日本と韓国の関係はギリシャの「シジフォスの神話」を思いおこさせる。

 昨年春、中国で開かれた日韓外相会談で、韓国側はこの神話をたとえに取りあげ、「日本が歴史を直視しなければ、根本的な問題の解決は難しい」と語りかけた。

 それから1年。韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外交相は、26日に予定していた日本訪問を直前に取りやめた。

 韓国側が事前に再考を促したにもかかわらず、麻生副総理・財務相らが靖国神社へ参拝したための判断だという。

 日韓でともに新政権ができ、初めてむかえる外相会談だっただけに極めて残念だ。

 今回の会談には、とりわけ大きな意味があった。

 挑発的な言動をやめない北朝鮮問題の協議にくわえ、冷えこんだ両国関係を改善する契機にしたいとの期待が、双方に出ていたからだ。

 日本と韓国は、民主主義や市場経済という価値観を共有する隣国として、ともに歩みを進めてきた。

 2年後に、1965年の国交正常化から半世紀を迎える。大きな節目に向け、何ができて何ができないのか。それを話し始める時期がきている。

 そういう外相会談を目前に控えるとき、麻生氏らに続き、168人の国会議員が大挙して靖国神社に参拝した。

 韓国側の反発は当然予想された。戦略性や外交感覚に欠けた行動と言わざるを得ない。

 韓国にも注文したい。

 日韓の国交は、いまの朴槿恵(パククネ)大統領の父、故朴正熙(パクチョンヒ)大統領が、国内の強い反対の声を押し切って実現させた。

 朴正熙氏は「売国奴」のレッテルを貼られることもあり、朴槿恵氏は対日外交を慎重に進める方針だといわれる。

 だが朴槿恵氏が外交や南北関係の中心に据えるのは「信頼」だ。核・ミサイル開発を進める北朝鮮にもこれまで「戦争中でも対話は必要」と、向かい合うことの大切さを語ってきた。

 尹外相は今回、日本を訪れて直接、歴史認識問題をふくむ両国関係の重要性を説く選択もあったのではないか。

 日韓間には、北朝鮮への対応にも大きく関係する軍事情報の秘密保護協定(GSOMIA)の締結や、経済連携協定(EPA)の交渉再開など、懸案が積み残しになったままだ。

 むなしい神話を終わらせるためにも、日韓は信頼の再構築を急がねばならない。

東北電×東電―賠償は内容の精査を


 東北電力が、福島第一原発の事故をめぐって東京電力に損害賠償を求める方針という。

 一枚岩でならした電力業界のこれまでを思えば、異例のことではある。

 原発事故で被害を受けた企業として、賠償を求めること自体は理解できる。ただ、東北電力を一般の被災企業と同列には論じられない。本当に横並び意識から脱却する決意なのか、疑問も残る。

 なにより、東電の賠償資金はいずれ国民負担となる公算が大きい。賠償額が不要に膨れることは許されない。請求の中身をきちんと公開し、国民の納得がいくプロセスを経るべきだ。

 東北電力の3月期決算は3年連続の最終赤字となり、配当も見送られた。電気料金の値上げも申請している。利用者負担をできるだけ下げ、株主への責任を果たすうえでも、東電への請求は自然な成り行きだろう。

 しかし、賠償の中身は精査が必要だ。

 例えば、福島県内での販売電力量の減少である。住民の長期避難で影響を受けたのは確かだが、津波による被害や節電の取り組みも減少の要因には含まれる。どのような基準で原発事故分を算出するのか。

 浪江・小高原発の計画撤回に伴う損失185億円の請求検討に至っては、とても本気とは思えない。震災前から計画が順調とは言えなかったことを考えれば、事故との因果関係は薄い。

 実際の賠償手続きは、有識者による原子力損害賠償紛争審査会が民法上の「相当因果関係」に基づきつつ被災者への配慮も加味して基準を決め、それに沿って東電が賠償したり被災者と交渉したりするのが原則だ。

 東北電力の賠償請求は一見、結束してきた業界の「ほころび」と映る。だが、東電と東北電力があうんの呼吸で合意してしまえば、賠償額が膨れる可能性も否定できない。

 今回のケースは一般の賠償と切り離し、透明化をはかるべきだ。賠償基準を原賠審が別に定め、実際の査定にも第三者を入れてはどうか。

 東電の賠償資金は、いずれ返済させることを前提に政府が全面支援しているが、東電をとりまく環境は厳しく、返済のめどは立っていない。

 東北電力に福島の事故に対する直接の責任はないとはいえ、業界の一員として原発を推進してきた立場に変わりはない。

 そのうえでの賠償請求には、ほかの被災企業とは異なる国民の厳しい視線が注がれることを忘れないでもらいたい。

中国の尖閣発言 「核心的利益」とはお門違いだ


 沖縄県・尖閣諸島周辺の緊張を高める危険な言動を、中国の習近平政権は厳に慎むべきだ。

 中国外務省報道官が記者会見で、尖閣諸島について「中国の領土主権に関わる問題で、当然、中国の核心的利益だ」と述べた。尖閣諸島が「核心的利益」の対象だと当局者が明言したのは初めてである。

 核心的利益とは、国家主権や領土保全など、中国にとって絶対に譲歩できない国益を指す言葉だ。これまで主として台湾やチベット、ウイグルに用いてきたが、近年は南シナ海にも使っている。

 尖閣諸島については、昨年1月、共産党機関紙「人民日報」が使ったが、政府が公式に認めたことはなかった。今回の報道官発言は、「海洋強国化」を図る習政権が尖閣諸島を国家の最優先課題に位置づけたことの証左だろう。

 核心的利益の対象を一方的に広げて、領土や海洋権益の拡大に固執する中国の姿勢は、独善的な膨張主義にほかならない。

 断じて容認できない。日本政府は国際社会に対し、中国の不当性を粘り強く訴えねばならない。

 今後、中国が国家海洋局の監視船を大挙、尖閣諸島周辺の領海に侵入させることもあるだろう。日本はあらゆる事態を想定して、対応策を練る必要がある。

 政府は、南西諸島周辺での防衛態勢を強化し、警戒監視活動に万全を期すことを明記した海洋基本計画を閣議決定した。海上保安庁と自衛隊との連携などを強化していくことが肝要である。

 看過できないのは、中国軍の関与が着々と強まっていることだ。1月には尖閣諸島の北方海域で、海軍艦艇による海上自衛隊艦艇へのレーダー照射事件も起きた。

 この海域では、今も中国海軍艦艇と海自艦艇がにらみ合う緊迫した状況が続いている。

 中国には、強大な軍事力を背景に武力行使も辞さない方針をちらつかせ、日本を揺さぶったり、実効支配を切り崩したりする狙いがあるのだろう。

 中国は言葉では「決して覇権を唱えない」と強調するが、その行動は周辺国への脅威を高めるばかりだ。安倍首相も「この2年で日本と中国の軍事バランスが完全に壊れる」と懸念を示している。

 軍事力を前面に出す中国の強硬姿勢は不測の衝突を招きかねず、危険極まりない。

 日中の防衛当局は、艦艇や航空機の偶発的事故を防止する「海上連絡メカニズム」の協議を再開した。早期合意を目指すべきだ。

再生医療推進法 産学官の連携強化を図りたい


 病気やけがで傷ついた臓器を復元する再生医療の研究成果は、いち早く治療に役立てたい。新法は、そうした体制を整備する第一歩だ。

 再生医療推進法が参院本会議で全会一致により可決、成立した。iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使った治療を実用化するため、推進法は「再生医療を世界に先駆けて利用する機会を国民に提供する」と明記した。

 研究開発に関する基本方針策定や、大学などでの先進的な研究への助成を国の責務とした。

 政府は成長戦略の柱の一つに再生医療を掲げている。その実用化促進のための法的基盤が議員立法で整ったことを評価したい。

 再生医療は本来、患者本人の細胞や組織を使うため、臓器移植と違って拒絶反応の恐れがない。目の難病である加齢黄斑変性については、既に理化学研究所がiPS細胞で治療する臨床研究を厚生労働省に申請している。

 これ以外にも、交通事故による脊髄損傷や心臓病の治療など幅広い分野への応用が見込まれる。

 iPS細胞を作製した山中伸弥・京都大教授のノーベル賞受賞に象徴されるように、日本は基礎研究では世界のトップ水準だ。

 問題は、その成果を実際の治療に活用したくても、障害が多いことである。例えば、治療効果を調べる治験に費用や時間がかかり過ぎる。これでは、ベンチャー企業などが参入しようとしても開発意欲がそがれてしまうだろう。

 このため、推進法は、再生医療製品の早期承認や審査体制の整備をうたっている。事業への新規参入を促すため、「必要な税制上の措置を講じる」とも定めた。

 現行法での審査は、人体にとって異物である医薬品を主な対象にしている。人体の細胞を基にした再生医療製品には、新たな審査基準を設ける必要もあろう。

 再生医療を巡る海外の研究機関や企業との競争は激しい。実用化で後れを取らぬよう、具体策の検討を急ぐべきだ。

 推進法成立を機に、産学官の連携が進むことを期待したい。

 一方で、推進法が「国は安全性を確保し、生命倫理に対して配慮する」とクギを刺したのも当然である。国民が安心して再生医療の治療を受けられるようにしなければならない。

 厚労省は再生医療を規制する法案を今国会に提出する方針だ。アクセルである推進法と、ブレーキとなる規制法を適切に使い分ける法の運用が求められる。

2013年4月27日土曜日

物価見通し―暮らしへの影響を示せ


 大規模な金融緩和に乗り出した日銀が、15年度のインフレ見通しを1・9%(消費増税分を除く)と示した。

 「2年で2%のインフレ目標を達成するため、できることはすべてやった」という黒田東彦(はるひこ)総裁の宣言に沿うもので、日銀としては政策への自信を示したということだろう。

 しかし、ハードルは相当に高い。市場の失望を避けようとするあまり、客観的であるべき見通しと宣言の実現という願望の「つじつま合わせ」の色彩が強まれば、中央銀行としての信用を損なう。気がかりだ。

 緩和によってモノの値段や賃金がすんなり上昇軌道に乗るのかどうか、経済のプロでも半信半疑である。一般の国民なら、なおさらだ。

 日銀は数字を掲げるだけでなく、そのプロセスや暮らしへの影響を具体的に示してほしい。

 緩和によるインフレで最も作用しそうなのは、円安ドル高に伴う輸入関連品の高騰で、すでに起きている。

 とは言っても、話は単純ではない。円安で真っ先に高騰したガソリンは消費者の節約で需要が減り、徐々に値下がりしている。経済全体でも似たような消費の収縮が起こりうる。

 日銀がインフレの目安にするのは「生鮮品を除く消費者物価指数(CPI)」。家計が消費するさまざまな商品・サービスの価格の加重平均だ。

 生鮮品が除外されるのは、景気よりも天候などに左右されるためだが、例えば燃料高に反発する漁船のストで生鮮魚介類が値上がりしても、日銀の政策には反映しない。

 平均だから、一方で値上がりしても他方で値下がりすれば、相殺される。パソコンなどは統計上、同じ値段でも性能が良くなれば値下がりしたと見なされる。家賃や教育、医療、通信・交通費など景気で変化しにくいものも多い。

 結局、輸入への依存度が高い燃料、食品、衣料品などの生活必需品が大幅に上がらないと、日銀の目標は達成しにくいのが実情だ。消費増税も予定されている。「物価高」の実感が募っても、統計上はインフレとならず、経済的な弱者が圧迫される恐れがある。

 日銀や政府には、こうした不安をぬぐい去るような丁寧な説明が求められる。

 輸入インフレ頼みは、円安誘導を警戒する諸外国の反発を招く懸念もある。目的は物価を上げることではなく、経済を活性化することだ。それを忘れないでもらいたい。

シリア内戦―分裂国家に陥らせるな


中東のシリアにこれ以上の内戦と分裂を招いてはならない。ついに、化学兵器が使われた疑いも強まっている。米欧とアラブ諸国は新しい政治体制づくりに、本腰を入れるべきだ。

 崩壊が近いといわれたアサド政権がもちこたえているのは、長く友好関係にあるロシアやイランが独裁政権を支えているからだけではない。

 変革を担うはずの反体制派がまとまらず、「アサド後」の枠組みが見えないことが新国家を築く機運をそいでいる。

 国際的に反体制派を代表するシリア国民連合は3月に暫定首相を選んだが、指名されたのは在米生活の長い無名のビジネスマン。武装闘争をしている国内組からの反目もあり、政治主導の態勢はできていない。

 政権の元幹部らが反体制派を率いたリビアと違い、シリアの武装組織には統一した指揮がない。一部の地域では、アルカイダ系のイスラム過激派と共闘しているところもある。

 内戦が長引くほど、武装組織が独り歩きし、過激派が浸透する恐れが高まる。それに対抗しようとサウジアラビアやカタールなどが自国の思惑でばらばらに支援していることも、国内の分裂ぶりを複雑にしている。

 米欧はむずかしい選択を迫られている。英国とフランスは反体制派へ武器を渡すことを考えているが、過激派の手に落ちる恐れもあり、踏み切れない。

 米政府は本格支援を何度も検討したが、長い戦争に疲れた世論を背景に、ホワイトハウスがブレーキをかけてきた。おもに食糧や薬などの人道支援にとどめている。

 だが、いまや隣のレバノン、トルコ、イスラエルにまで戦闘の余波が広がる。難民はすでに100万を超えた。

 これほど問題が広がっても腰を上げないようでは、米国は中東和平の仲介役としての信頼性にも疑問符がつきかねない。

 米欧は現場の情報を集め、穏健な勢力を選んで支援を強めることで、民族や宗教、宗派をつつみこむ国へと政治プロセスづくりを急がねばならない。

 周辺国とシリア国内各派の利害が複雑にからむパズルを解くには、地元のアラブ連盟とトルコの協力も欠かせない。

 米欧・アラブ・トルコが結束を示せば、やがては、渋るロシアを「アサド後」構想に引きよせることにもなるだろう。

 遠い国の荒廃が、やがては地球をめぐって自国の安全に影を落とす。9・11テロ以来、世界が学んだ教訓がいま、シリアで問われている。

節電目標見送り それでも電力不足は深刻だ


 政府は今夏、企業や家庭に対し、数値目標を掲げた節電要請を見送る方針を決めた。

 8月が猛暑でも、電力需要ピーク時に、供給余力が全国平均で約6%、最も厳しい関西電力管内も3%を確保できる見通しのためだ。

 昨夏は7電力管内で5~15%の節電目標を定め、企業や家庭に負担を強いた。電力供給の上積みや節電効果で、数値目標を回避できたことは評価できる。無理のない節電で夏を乗り切りたい。

 とはいえ、稼働する原子力発電所は関電の大飯原発2基だけで、電力供給は綱渡りである。政府と電力各社は、大規模な停電などを起こさないよう、安定供給に万全を期さなければならない。

 大半の原発が止まっていても電力供給に問題はない、などと考えるのは楽観的すぎる。

 老朽化で運転を長期休止していた火力発電所も動員し、原発停止で不足した電力をかろうじて補っているのが実情だからだ。

 必要な発電量を維持しようと、火力発電所の検査を減らすなどの無理を重ね、故障やトラブルのリスクは一段と高まっている。

 発電所の緊急停止が相次ぐ事態ともなれば、電力需給は一気に逼迫する恐れがある。

 特に懸念されるのが関電管内である。頼みの綱の大飯原発が停止すると、「余力3%」から一転して約12%の電力不足に陥る。他電力から電気の融通を受けても、余力0・6%しか確保できない。大停電の危機と紙一重といえる。

 電力不足が日本経済に与えている打撃も極めて大きい。

 原発停止を補うために必要な火力発電の追加燃料費は、12年度の3・1兆円から13年度は3・8兆円に増えるという。液化天然ガス(LNG)などの輸入価格が、円安で高騰したのが主因だ。

 火力発電への依存が長引けば、資源国へ巨額の国富流出が続き、貿易赤字の拡大に歯止めがかからなくなる。電力料金の追加値上げも避けられず、企業の生産コストは上昇する。工場が海外移転する産業空洞化も加速しよう。

 電力不足は、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の障害ともなる。安全を確認した原発を着実に再稼働し、経済成長に必要な電力を確保することが大切である。

 原子力規制委員会は、7月に策定する新たな規制基準で遅滞なく原発の安全性を審査すべきだ。

 政府も、再稼働へ立地自治体の理解を得られるよう、説明に全力を挙げてもらいたい。

体罰緊急調査 再発防止へ問題意識高めよ


 体罰が教育現場に根強く存在する実態が裏付けられたと言えよう。

 文部科学省が、大阪市立桜宮高校の体罰自殺問題を受け、全国の公立小中高校などを対象に実施した緊急調査の結果を公表した。

 調査結果によると、昨年4月から今年1月にかけて、体罰があったと報告した学校は752校だった。計840人の教師から、1890人の児童・生徒が体罰の被害に遭っていた。

 教師はどのような状況で体罰に及んだのか。教育委員会はその経緯と原因を丁寧に検証し、再発防止につなげねばならない。

 体罰が目立ったのは、授業中(31%)と部活動中(28%)だった。素手で殴るケースが多いが、棒などの道具を用いた体罰もある。骨折や鼓膜損傷、打撲など、子供にけがを負わせた事例も、実に全体の3割近くに上る。

 学校教育法は体罰を明確に禁じている。児童・生徒を負傷させる体罰は、傷害罪や暴行罪に問われてもおかしくない悪質な行為である。教育委員会は、教師の厳正な処分はもちろん、学校名の公表も検討すべきだろう。

 体罰が確認された公立校の教師数は、これまで年400人前後で推移してきた。今回、報告件数が大幅に膨らんだのは、桜宮高校の事件をきっかけに、体罰に関する各学校の問題意識が高まり、事例の掘り起こしが進んだためだ。

 一方で、体罰と厳しい指導の違いを十分理解していない教師もいる。文科省は先月、両者の区別を明確にするための具体例を通知した。教室内に立たせるのは指導の範囲内だが、反抗的な生徒の頬を平手打ちするのは体罰になる。

 どのような事情があれ、教え子に暴力をふるうことは決して許されない。すべての教師は肝に銘じるべきである。

 体罰事例を題材に、教師がとるべき対処方法をまとめた研修資料を作成した教育委員会もある。こうした取り組みを進めたい。

 何よりも大切なのは、教師一人ひとりが、暴力に頼らない指導をするという自覚を持つことだ。

 自分の感情をコントロールし、言葉で叱って、上手に導く教え方を身に着ける必要がある。

 保護者の中には、生徒との信頼関係が築かれていれば、教師の体罰を認めても構わないという考え方がある。

 だが、体罰は子供の人格を傷つけ、屈辱感を与えかねない。教育効果どころか、害を及ぼすということを保護者も認識したい。

2013年4月26日金曜日

靖国と政治―静かな参拝のためには


 靖国神社は、遺族や国民が静かに参拝する場である。

 今回、参拝して近隣国の反発を招いた麻生副総理・財務相は06年、こんな一文を朝日新聞に寄せている。

 〈靖国をめぐる論争が過熱し、英霊と遺族から魂の平安を奪って久しい。鎮魂の場という本旨へ復すべきだ。そのためには靖国を、政治から無限に遠ざけねばならない〉

 その通りだと思う。であればこそ、その方策を考えるのが政治家の務めではないのか。

 閣僚や国会議員が大挙して参拝し、中国や韓国と激しい応酬を繰り広げるのは、遺族らにとっても本意ではあるまい。

 安倍首相は国会答弁で「国のために尊い命を落とした英霊に尊崇の念を表するのは当たり前。どんな脅かしにも屈しない」と強調した。

 首相自身は参拝しなかった。そのことの意味が中国や韓国に理解されていない、との思いかもしれない。

 だが、遺族や国民が自然な感情で戦没者を悼むのと、閣僚らの参拝を同列に論じることはできない。

 それは、この神社が持つ特殊な性格による。

 靖国神社には戦没者だけでなく、先の戦争を指導し、東京裁判で厳しく責任を問われたA級戦犯が78年に合祀(ごうし)された。それ以降、昭和天皇は靖国を参拝しなかった。

 戦前の靖国神社は、亡くなった軍人や軍属を「神」としてまつる国家神道の中心だった。境内にある施設「遊就館」は、いまも戦前の歴史を正当化した展示をしている。

 私たちは社説で、首相や閣僚の靖国参拝に反対してきた。日本が過去の過ちを忘れ、こうした歴史観を後押ししていると国際社会から受け止められかねないからである。

 さらに首相や閣僚による公式参拝は、憲法の政教分離の規定からみても疑義がある。

 菅官房長官は、今回の閣僚たちは「私人としての参拝」と説明するが、政府の要職にある立場で公私は分かちがたい。

 首相は23日の参院予算委員会で、植民地支配や侵略への反省とおわびを表明した村山談話について「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらから見るかで違う」と語った。

 侵略を否定するかのような発言を繰り返せば、近隣国のみならず、欧米諸国の不信も強まることになる。

 歴史を踏まえぬ政治家の言動が、静かな参拝を妨げる。

豪雨避難勧告―命守りぬく判断能力を


 災害の危険が迫るとき、自治体は住民にいつ、どのように避難を呼びかけるべきなのか。

 4年前に兵庫県の佐用町を襲った豪雨をめぐる裁判は、この課題を改めて浮き彫りにした。

 台風に伴う猛烈な雨で、佐用町を流れる川の水位が避難勧告の判断基準に達した。町長が勧告を出したのは、その1時間22分後。家から避難先の学校へ向かう途中、濁流にのまれて亡くなった住民の遺族が町に損害賠償を求めていた。

 神戸地裁姫路支部はおととい、「災害の発生を予見するのは非常に難しかった」と訴えを退けた。ただ「仮に早く勧告を出していれば、死亡が防げた可能性は否定できない」とし、町の対応に疑問を投げかけた。

 災害対策基本法に基づく避難勧告・指示は、市町村長が出す。だが、判断は難しく、しばしば遅れが問題になってきた。

 遺族は判決後、「住民が冷静に行動できる早い時期に勧告を出すのが一番いいはずだ」と訴えた。至極もっともで、時を置かずに改善をはかるべきだ。

 まずは、自治体の判断能力の向上を急ぎたい。

 的確な判断には、気象予報や川の水位といったさまざまな情報を分析する専門知識と経験が欠かせない。ただ実際には、多くの市町村で防災に精通した職員が不足している。

 近年の合併で、多くの市町村の面積が広がった。一方で職員は減り、きめ細かな準備を進めにくくなったとの指摘もある。

 市町村による自前での職員育成には限界があり、国や都道府県がもっと支援すべきだ。各地の避難勧告の基準が適切かどうか、専門的視点から点検する仕組みもあっていい。

 佐用豪雨では、避難のあり方についても教訓を残した。住民らが屋外に出ず、建物の上階に逃れていれば助かった可能性が高かったためだ。

 1961年制定の災害対策基本法に基づき、自治体は屋外避難を前提に判断してきた。他方、国の専門調査会は昨年3月、自宅内での「待避」や、高い階に逃げる「垂直移動」も選択肢にすべきだと提言した。

 内閣府はこれも参考に、避難に関する自治体向けのガイドラインを見直す方針だ。作業を急ぎ、自治体の機敏な対応を促す必要がある。

 住民の意識も大切だ。避難勧告が出ても「自分は大丈夫」と、住民が重んじないケースが過去に多くあった。リスクのある場所を示す地図をつくって配るなど、心の準備を高める工夫もこらしていきたい。

B787再開へ 安全最優先で世界の空を飛べ


 出火トラブルで運航を停止されていた最新鋭の米ボーイング787型機が再び、世界の空を飛ぶ見通しになった。

 なにより最優先すべきは安全運航だ。揺らいだ信頼を取り戻す必要がある。

 米航空当局は運航停止命令を解除し、国土交通省も同様に解除する。これを受けて、全日本空輸と日本航空は6月にも国内線と国際線の営業運航を始める。

 787は今年1月、米ボストンの空港で日航機のバッテリーから出火した。全日空機でも同月、バッテリーから煙が出て、高松空港に緊急着陸した。

 相次ぐトラブルを重視した米連邦航空局(FAA)は、34年ぶりに停止命令に踏み切った。世界の航空会社8社が合わせて約50機の787の運航を一斉に見合わせたのは、異例の事態である。

 航空当局が約3か月半ぶりに運航再開を認めるのは、ボーイングが、問題となったバッテリーの設計を変更する改善策を講じたことを評価したからだ。

 バッテリー内に8個ある電池の耐熱性を高め、発熱しても隣の電池に熱が伝わらないよう隔壁を補強した。その上で、バッテリー全体を無酸素状態の容器に入れて発煙を防いだという。

 二重三重の出火防止策により、試験飛行でも安全性が確認されたことから、航空当局は、運航再開にひとまず支障はなくなったと判断したのだろう。

 だが、原因究明を進めていた米国家運輸安全委員会(NTSB)などの調査では、依然として技術的な問題は特定されていない。

 NTSB内には、かつてFAAが電池を十分に審査しなかったことが一因とする見方があるが、この真相も不明である。

 国交省と全日空、日航は、飛行中の電池の電圧データを地上に送って異常を監視するといった日本独自の対策も含め、安全確保に万全を期してもらいたい。

 そうした地道な努力が、利用者の不安解消につながるだろう。

 最新技術を取り入れた787は燃費性能に優れた省エネ中型機だ。米欧メーカーだけでなく、日本企業が機体の35%を製造した「準国産機」でもある。

 技術の粋を集めたハイテク機だけに、今後も従来機では想定されないような不具合が発生する可能性は否定できない。

 今回のトラブルを教訓とし、日米欧のメーカーや航空会社、航空当局が密接に連携し、速やかに対応する体制を求められよう。

非核化拒む「北」 警戒も制裁も緩めてはならぬ


 「核保有国」の既成事実化を図ろうとする北朝鮮の姿勢が、ますます鮮明になってきた。国際社会は、警戒も制裁も緩めるべきではない。

 朝鮮人民軍創建81周年の大会で、玄永哲総参謀長が「精密化、小型化された核兵器と運搬手段」を量産すると表明した。

 3月の朝鮮労働党中央委員会総会で、金正恩第1書記が指示した核戦力増強路線を受けたものだ。今後、核弾頭の開発に拍車をかけるつもりだろう。

 さらなる核実験や弾道ミサイル発射に警戒が怠れない。

 国際社会は結束して、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を厳格に履行する必要がある。核・ミサイル関連物資など禁輸品の疑いがある貨物の検査や金融取引の監視を徹底すべきだ。

 中国人民解放軍の房峰輝総参謀長は、北朝鮮が4回目の核実験を強行する可能性を指摘し、「断固として反対する」と述べた。

 中国は、北朝鮮にとって最大の援助国・貿易相手国で、安保理常任理事国だ。その責任を自覚して厳しく対処してもらいたい。

 北朝鮮は、弾道ミサイル発射の構えを崩していない。戦略ロケット軍部隊などは最高度の戦闘勤務態勢を維持したままだ。

 日本は米国と連携し、ミサイル発射に備えた警戒監視態勢を堅持しなければならない。

 4月末には米韓合同軍事演習が終わる。北朝鮮が先週、米国の対話の呼びかけに反応し、対話再開へ条件を提示したのは、対米交渉へ動く布石とも受け取れる。

 北朝鮮の国防委員会の声明は、対話再開には、安保理の制裁決議の撤回や、米韓合同軍事演習の恒久中止、戦略爆撃機など「核戦争手段」の撤収が必要だとした。

 制裁撤回要求は虫がよすぎる。決して容認できないのは、「核保有国」としてなら対話に臨むという北朝鮮の姿勢である。

 日本や米国、韓国などが「対話再開はあくまでも非核化に向けたもの」として、北朝鮮がつけた条件を一蹴したのは当然である。

 米国は、ケリー国務長官やデンプシー統合参謀本部議長が日中韓を歴訪した。韓国は尹炳世外相が訪中し、朴槿恵大統領も来月訪米してオバマ大統領と会談する。

 関係国による外交の活発化は、北朝鮮に対する共通の戦略を探る上で重要な機会となろう。

 北朝鮮の核武装は、日本の安全への重大な脅威だ。日本の安全保障を強化するため、外交にも全力を挙げなければならない。

2013年4月25日木曜日

育休3年─当然、男性もですよね


 安倍晋三さま。先日の記者会見で、成長戦略の柱の一つに「女性の活用」をあげられたことに感銘を受けました。

 5年後の「保育所・待機児童ゼロ」を目指すとのこと。「保活」の心配がなくなれば、若い世代も安心して働きながら子どもを産み育てられるでしょう。

 自民党が、ついに「男は外で仕事、女は家で子育てすべし」という考え方と決別したと理解していいでしょうか。

 驚いたのは、「3年育休」です。3年休めるうえ、仕事に本格復帰する前に大学や専門学校などで「学び直し」ができるよう支援すると。

 1年未満で契約を更新し、いつ雇い止めになるか不安な有期雇用の非正規社員も多いなか、「どこの国のことか」とも思いましたが、恵まれた正社員でなくても育休3年を可能にする秘策があると見ました。

 共働きで何とか生活を成り立たせている家庭が少なくないなか、一人が休んでいる間の金銭的な保障も、確固たる財源の裏付けとともにいずれ打ち出されることを期待します。

 ただ、心配もあります。「育休推進」が、まさか「休んで子育てするのは女性」という前提ではないですよね。

 首相自ら「3歳になるまでは男女が共に子育てに専念」とおっしゃる通り、男性を子育てに巻き込まないと、本当の女性活用にはならないし、経済の活性化もおぼつかないでしょう。

 そこで提案があります。男性の育休取得をもっと強力に推進するのです。

 女性の育休取得率は、すでに9割に迫ります。一方、男性の方は、ようやく2・6%。そのうち6割強は「2週間未満」しか休みません。

 育児休業は子どもが少なくとも1歳になるまで取れますが、父母ともに取得する場合、1歳2カ月までの延長を雇用主に義務づける「パパ・ママ育休プラス」が実施されています。

 ここを大きく進めて、スウェーデンのように、男性しかとれない育休期間を60日設ける「パパ・クオータ制」の導入も検討してはいかがでしょうか。

 女性が2人目の子どもを産むかどうかは、夫の姿勢がカギを握ります。厚生労働省の調査によれば、第2子以降が生まれる割合は、夫が休日にまったく家事・育児に参加しない家庭で約1割ですが、6時間以上だと7割近くになります。

 男女ともに能力を最大限に活用しながら「抱っこし放題」の時間も持てる。そんな社会を目指すなら大歓迎です。

水産業特区─改革への起爆剤に


 宮城県が国に申請していた「水産業復興特区」が認められた。石巻市桃浦地区の漁師と県内の水産卸会社がつくる会社が、今秋から漁業権を直接持ち、カキ養殖を本格化させる。

 沿岸部での養殖にかかわる漁業権は、漁業法で県が漁協に最優先で与える仕組みだ。

 東日本大震災を受けて成立した復興特区法は被災地に限ってこのしばりをなくし、桃浦地区では地元漁師らによる法人も漁業権を持てるようになった。

 桃浦地区の漁師は、津波で船や養殖施設、自宅を失い、漁協の組合員として自力で漁を再開するのが不可能になった。このうちの十数人が卸会社に資金や経営ノウハウを提供してもらい、養殖業の再建をめざす。

 後継者不足、不安定で少ない収益など、震災前から課題は山積していた。

 会社の社員となって給料を受け取る形に改め、収入を安定させる。若い担い手を呼び込む。漁協頼みの販売からスーパーなどに直接売り込んで、加工や流通までにらんだ6次産業化や産地のブランド化を進め、利益を確保する――。

 こうした新たな取り組みには、会社が漁業権を持ち、安定した基盤を築くことが欠かせない。被災地の漁師の挑戦に期待したい。

 残念なのは、宮城県漁業協同組合や全国漁業協同組合連合会が、この特区に反対し続けていることだ。

 漁業権を漁協と会社がそれぞれ持つと、漁場でのトラブルにつながりかねない。漁師らの会社自体が今は漁協の組合員になっており、このままで十分ではないか。こんな主張である。

 会社が目指す6次化やブランド化は、本来、漁協こそが取り組むべき課題だろう。

 宮城県漁協は今後、漁協による共同販売事業のあり方を見直していくという。これまでの努力が十分だったか、共販制度がもたらす手数料頼みに陥っていないか、よく検討して改革案をまとめてほしい。

 消費者の魚離れと漁師の高齢化が同時に進む苦境は、被災地に限らず全国に共通する。

 漁業権のあり方は、政府の規制改革論議でもたびたびテーマとなってきた。漁業権が既得権益化し、それが漁業の変革を妨げていないか、改めて検証が必要だろう。

 水産業特区の試みを、被災地での例外的なケースにとどめてはなるまい。

 漁業を取り巻く課題を見つめ直す機会ととらえ、改革への起爆剤としたい。

尖閣諸島 海も空も中国への警戒強めよ


 中国の危険な挑発に対し、海空両面での警戒監視活動を強化する必要性が一段と高まった。

 沖縄県・尖閣諸島沖の領海に23日、中国の海洋監視船8隻が相次いで侵入し、約12時間も航行を続けた。昨年9月の尖閣諸島国有化以来、中国公船の領海侵犯は40件、延べ約130隻に上る。8隻同時は最多だ。

 中国は、現場海域にいた日本漁船の「侵害行為」に対する「法執行だ」と領海侵犯の正当化を図ったが、到底容認できない。

 安倍首相は「絶対に上陸させないという強い決意で、物理的に対応していくことが正しい対応だ」と強く牽制した。領海侵犯が続く場合は公務員駐在などの対抗措置をとる可能性も示唆している。

 中国政府は3月、農業、公安両省など複数機関による海上取り締まり任務を国家海洋局の下に一元化した。今回、海洋監視船の領海侵犯に合わせて、周辺の接続水域内を漁業監視船2隻が航行したのも、一元管理の表れだろう。

 今後、大量の監視船の領海侵犯が再発し、侵犯時間も長くなることが予想される。海上保安庁は対処能力を拡充し、海上自衛隊とも緊密に連携する必要がある。

 緊迫の状況は海に限らない。

 2012年度の中国機に対する航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)は過去最多の306回に上った。前年度の約2倍で、初めてロシア機への発進を上回った。

 緊急発進の対象は、戦闘機など中国空軍機が大半を占め、尖閣諸島北方空域に集中している。

 中国政府が領土・海洋権益への強硬姿勢を公言する以上、日本政府は事態の中長期化を覚悟して、対策に本腰を入れるべきだ。

 政府は今年末に防衛大綱を見直す。その中で、部隊の機動性を重視する「動的防衛力」を強化し、沖縄方面の艦船・航空機や要員の増強に優先的に取り組まねばならない。無人偵察機グローバルホークの導入も前倒しが必要だ。

 一方で、日中間の緊張をいたずらに高めることは避けたい。今年1月の中国海軍艦艇によるレーダー照射事件のような不測の事態や事故を防ぐためのルール作りを進めることが大切だ。

 日中の防衛当局は昨年6月、海上連絡メカニズムの構築で基本合意した。部隊間のホットラインを開設し、艦艇・航空機が国際緊急周波数で無線連絡する仕組みだが、まだ実現していない。

 まずは、この合意を実行に移し、部隊間の信頼関係の醸成を図ることが重要である。

危険運転厳罰化 重大事故の撲滅につなげたい


 飲酒や無免許など悪質運転による重大事故が後を絶たない。厳罰化を事故抑止につなげたい。

 政府は無謀運転の罰則を強化する法案を国会に提出した。危険運転致死傷罪などを刑法から抜き出し、独立した法律にするものだ。

 法案の柱は、“準危険運転罪”と言える規定を新設した点だ。

 危険運転罪は「正常な運転が困難な状態」が適用要件だ。制御できないほどのスピードや飲酒・薬物の影響による酩酊状態で運転し、事故を起こした当事者が対象となる。最高刑は懲役20年だ。

 だが、事故当時の速度や酔いの程度を確定するのは難しい。このため、捜査当局は、自動車運転過失致死傷罪で立件せざるを得ないケースが少なくない。最高刑は懲役7年にとどまる。

 危険運転罪と自動車運転過失致死傷罪の刑罰の差は大きすぎると言えよう。厳罰を求める遺族感情に配慮し、最高刑が懲役15年の規定を設けるのは理解できる。

 問題なのは、新たな規定の適用要件があいまいなことだ。運転手が「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」であれば、罪に問えるが、「支障が生じる恐れ」の適用範囲が明確ではない。

 政府は国会審議で、適用基準を分かりやすく示す必要がある。

 法案は、病気の影響で起きた事故も危険運転の対象とした。てんかんなど意識障害を招く疾病を想定している。栃木県鹿沼市で一昨年、クレーン車の運転手がてんかんの発作を起こし、児童6人を死亡させた事故を受けたものだ。

 病気への差別を招くとして、患者団体は法案に強く反発している。政府は、事故抑止という趣旨を患者側に丁寧に説明することが大切だ。患者側にも、発作などの危険がある場合、運転を控える自律性が求められよう。

 法案には、無免許運転に対し、罰をより重くする加重罪も盛り込まれた。京都府亀岡市で1年前、無免許運転の車が小学生ら10人を死傷させた事故がきっかけだ。

 この事故では、逮捕された少年が無免許運転を繰り返していたことから、「運転技術は未熟でなかった」として、捜査当局は危険運転罪を適用しなかった。

 今回の法案でも、無免許運転を危険運転罪に組み込むことは見送られた。無免許だけでは、「正常な運転が困難」との適用要件を満たせないためだという。

 釈然としない思いを抱く人は多いだろう。無謀な無免許運転の扱いは、今後の検討課題である。

2013年4月24日水曜日

0増5減―食い逃げは許されぬ


 与党も野党も、政治の責任を放棄している。そう言わざるを得ない。

 衆院の小選挙区定数を「0増5減」する新区割り法案がきのう、自民、公明両党の賛成多数で衆院を通過し、今国会の成立が確実になった。

 法案は、参院送付から60日たてば憲法の規定で否決とみなされ、衆院の3分の2以上の賛成で再可決できるためだ。

 だが、これで終わりだと考える国会議員がいるとしたら、心得違いもはなはだしい。

 たしかに、私たちは社説で0増5減の先行処理を求めてきた。しかし、無条件で与党を後押ししたわけではない。

 0増5減は、あくまでも違憲状態を早急に解消するための緊急避難的な措置にすぎない。

 それを踏まえて、一票の格差を根本から是正する。定数削減などは、小選挙区と比例区のバランスや衆参のあり方も併せて検討に入る――。

 ところが、こうした抜本改革の見通しは、まったく立っていない。

 それどころか、与党内からは0増5減を実現すれば事足れり、という声さえ聞かれる。それでは食い逃げではないか。

 参院送付から60日が過ぎれば国会の会期末直前だ。東京都議選や参院選ムードが高まるなかで再可決しても、抜本改革の議論は進むまい。

 そんなことは、とうてい許されない。

 野党側の対応にも首をかしげざるを得ない。

 抜本改革をめぐり、各党の意見はバラバラだ。そんなことでは数の少ない野党の主張が通るはずがない。

 まずは野党同士が連携し、妥協してでも与党を議論の土俵に引き込む。そのうえで、期限を切って改革への道筋をつけるべきだ。

 安倍首相のリーダーシップも見えない。

 党利党略が絡む抜本改革の議論は、政党同士の話し合いで結論を導くのは難しい。

 ならば首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げ、根本から検討するほかはない。

 与野党に求めたい。

 残った国会会期をむだにしてはならない。いまからでも与野党協議の場を設け、打開策を探るべきである。

 現在の定数配分をめぐる訴訟でも、全国の高裁から違憲や無効判決が相次いだことを忘れてはならない。今秋にも最高裁で決着がつく。

 国会が自浄能力を発揮する機会は、いましかない。

靖国問題―政治家は大局観を持て


 日本はいったい、何を考えているのか。この国の為政者全体の国際感覚が、そう疑われても仕方がない。

 安倍政権の3閣僚に続いて、与野党の国会議員がきのう、大挙して靖国神社を参拝した。

 「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」によると、その数168人。人数の把握を始めた87年以降で最多という。

 政府や党の要職にある議員たちも多く加わった。国会議員の参拝数は、昨年の同じ時期と比べると、一気に倍増した。

 隣国の神経を逆なでする行動が流行のように政治家に広がることを憂慮せざるを得ない。

 参拝問題をめぐる日韓の摩擦の再燃について、米国務省の報道官も「対話で違いを乗り越えてほしい」と苦言を呈した。

 自民党の高市早苗政調会長は「外交問題になる方が絶対おかしい」と語ったが、それはあまりにも独りよがりの発想だ。

 外交とは、国同士の相互関係で紡ぐものであり、一方が問題ないと片づけることはできない機微にふれる問題なのである。

 歴史問題をめぐる政治家らの思慮を欠く対応は、私たち日本自身の国益を損ねている。

 北朝鮮に対する日米韓のスクラムでは、日韓のパイプが目づまりしてきた。さらに歴史問題がこじれれば、軍事情報の交換をめぐる懸案の協定も結べず、チームワークは進まない。

 日中韓をめぐっては、自由貿易協定論議が遠のくだけではない。日本を置いて、韓国は中国への傾斜を強めている。

 来月に外遊を始める朴槿恵(パククネ)大統領はまず米国を訪れ、その次は日本ではなく中国を考えている。歴代政権で異例のことだ。

 北東アジアの多国間外交において、日本の孤立を招きかねない事態を、安倍首相はじめ政治家はどう考えているのか。

 首相が立て直したと自負している米国との関係も誤解してはならない。オバマ政権は従軍慰安婦問題をめぐる「河野談話」の見直しや、尖閣諸島問題をめぐる不用意な言動を控えるよう安倍政権に警告してきた。

 国内の一部の感情を優先して近隣外交を揺らすような日本の姿は、米国にとっても信頼に足る同盟国とは言えない。

 だからこそ安倍首相は2月の訪米時に、アジアとの関係を重んじる決意を誓ったのではなかったか。「地域の栄えゆく国々と歩みをともにしてゆくため、より一層の責任を負う」と。

 何よりも肝要なのは、中国、韓国との信頼関係づくりに歩を進めることだ。国を思うなら真の大局観を失ってはならない。

閣僚の靖国参拝 外交問題化は避けるべきだ


 日本政府には予想外の反応だった、ということではないか。

 韓国の尹炳世外相が、26、27日に予定されていた日本訪問を中止した。麻生副総理ら閣僚3人の靖国神社参拝に対し、「侵略戦争の美化」と反発したためだ。

 尹外相の来日は、5月下旬の日中韓首脳会談が中国の消極的姿勢で見送られる見通しとなる中で、議長国として会談開催の環境整備を図ろうとしたものだった。

 緊張の高まる北朝鮮の核・ミサイル問題での日韓連携に加え、李明博前大統領の竹島訪問などで悪化した日韓関係を朴槿恵大統領の下で改善する機会でもあった。

 それだけに、尹外相の来日中止は残念である。

 韓国の外交姿勢には疑問が残る。従来、小泉首相の靖国参拝に反発して盧武鉉大統領が訪日を見合わせたことはあっても、閣僚の靖国参拝をここまで外交問題にしたことはなかった。

 日本政府が、歴史認識をめぐる問題について「それぞれの国にはそれぞれの立場があり、影響を外交に及ぼすべきではない」と主張するのは、その通りだ。

 戦没者をどう追悼するかは他国に指図される問題ではない。立場の相違を外交全体に極力影響させない努力が双方に求められる。

 一方、菅官房長官は「靖国参拝は心の問題だ」と語り、麻生氏ら閣僚の参拝をことさら問題視しない考えを示している。

 しかし、麻生氏らの靖国参拝が日韓関係に悪影響を与えたことは否定できない。政治も外交も重要なのは結果であり、「心の問題」では済まされない。麻生氏は副総理の要職にある以上、より慎重であるべきではなかったか。

 首相は、かつて第1次安倍内閣時代に靖国参拝できなかったことを「痛恨の極み」と述べたが、歴史問題が外交に悪影響を与えないよう細心の注意を払って政権運営してもらいたい。

 尖閣諸島の問題で日中関係が険悪になる中、まず日韓関係を改善することは、安倍外交にとって最優先の課題であるはずだ。

 靖国神社参拝をめぐる問題の根底には極東国際軍事裁判(東京裁判)で処刑された東条英機元首相ら「A級戦犯」が合祀されていることがある。韓国や中国だけでなく、日本国内にも戦争を招いた指導者への厳しい批判がある。

 誰もが、わだかまりなく戦没者を追悼できる国立施設の建立に向け、政府は議論を再開することも考えるべきだろう。

待機児童解消 「横浜方式」をどう生かすか


 「女性の活躍」を成長戦略の中核に位置づける安倍首相は、スピード感のある施策が必要と判断したのだろう。

 首相が、保育のニーズがピークを迎える2017年度までに「待機児童ゼロ」を目指す方針を明らかにした。従来の計画を2年前倒しして、40万人分の保育の受け皿を確保するという。

 「女性が働き続けられる社会」を実現するには、保育所に入りたくても入れない待機児童を減らすことが欠かせない。首相の方針に沿って、政府は対策に一層、力を注いでもらいたい。

 全国の待機児童数は約2万5000人に上る。保育所の増設が進められているが、それ以上に入所希望者が増え続けている。特に、大都市では、待機児童の急増が深刻な問題になっている。

 注目されるのは、林文子横浜市長の積極的な取り組みだ。10年度の待機児童は、全国最多の1552人に上ったが、2年後には179人に激減させた実績がある。首相も「横浜方式を全国に展開したい」との意向を表明した。

 横浜市はこの2年間に待機児童対策の予算を年10%ずつ増額した。認可保育所を71増設し、定員を約5000人増やした。保育所開設に意欲的な団体、企業と土地提供者の仲介も行っている。

 専門の相談員「保育コンシェルジュ」を置き、子供の預け先を探す父母を対象に、民間の小規模施設、幼稚園の預かり保育など、多様な保育サービスについてのアドバイスを行っている。

 他の自治体にとっても大いに参考になるだろう。

 独自の「横浜保育室」を約150か所に設置していることも特徴の一つだ。利用料は認可保育所とほぼ同額で、児童の貴重な受け皿となっている。

 横浜保育室は、厚生労働省令で定める認可保育所の基準を満たしていない。配置される保育士も認可保育所より少ない。

 認可保育所だけでは、保育の需要に応えきれない現状の中、横浜保育室のような無認可施設を、政府は待機児童対策の中でどう位置づけていくのか。今後の大きな課題と言えるだろう。

 昨年成立した子ども・子育て支援3法に従い、15年に消費税が10%に引き上げられる際、「子ども・子育て支援新制度」が発足する。これに消費税から7000億円を充てる予定だ。

 政府と自治体が連携し、この財源を待機児童対策に有効活用してもらいたい。

2013年4月23日火曜日

靖国問題―なぜ火種をまくのか


 近隣諸国との関係改善が必要なときに、安倍政権はいったい何をしているのか。

 麻生副総理・財務相ら3閣僚が、春季例大祭に合わせて靖国神社を参拝した。安倍首相は参拝を控えたが、神前に捧げる供え物「真榊(まさかき)」を奉納した。

 これに反発して、韓国は今週末に予定していた尹炳世(ユンビョンセ)外相の訪日を取りやめた。中国外務省も日本に「厳正な申し立て」をしたと発表した。

 菅官房長官は会見で「影響を外交に及ぼすべきではない」と語った。だが、靖国参拝は歴史認識に関わる問題であり、両国の反発は当然、予想されたはずである。

 日本外交にとって、いま最も優先すべき課題のひとつは、核・ミサイル問題で挑発を強める北朝鮮に日中韓が結束して当たることだろう。韓国外相の来日もその調整の一環だった。

 たしかに、日本と中韓両国とは尖閣や竹島問題をめぐって緊張が続いている。中国の監視船が尖閣周辺の日本領海を侵犯するなどの行為に対して、抗議するのは当然だ。

 同時に、首相自身が「大局的な観点から関係を進める」と語ったように、粘り強く関係修復をはかる。そうした微妙な時期である。

 それを、靖国問題でことを荒立てるのでは、方向が逆ではないか。

 これによって関係改善が遠のくようなことになれば、国益を損なうだけだ。

 首相はもともと靖国参拝が持論だ。だが、第1次安倍内閣のときは参拝を見送り、悪化していた両国との関係を打開した経緯がある。

 今回、首相は閣僚の参拝について「自由意思に基づいて行うことだ」と、それぞれの判断に任せたという。自身が参拝しなければ乗り切れると思っていたとすれば、甘すぎると言わざるを得ない。

 首相は再登板後も、歴史問題をあまり前面に出さず、経済再生を優先してきた。

 しかし、このところ気になる言動が目立ち始めている。

 2月の国会答弁では「(前回の)首相在任中に靖国参拝できなかったのは痛恨の極みだ」と語った。

 きのうの国会では、過去の植民地支配と侵略へのおわびと反省を表明した村山談話について「安倍内閣として、そのまま継承しているわけではない」と述べた。

 高い支持率で、緊張感が薄れているのではないか。閣僚の言動も含め、自制を求めたい。

財政再建―健全化法から始めては


 G20財務相・中央銀行総裁会議が日本の名をあげて「信頼にたる中期的な財政計画を作るべきだ」と注文をつけた。ひどい財政難のためだ。麻生財務相は今年なかばに計画をまとめると表明した。

 問われているのは、約束ではない。中身がある再建を実行することである。

 目標はすでにある。国と地方の基礎的な財政収支の赤字の解消だ。赤字額が30兆円を超え、国内総生産(GDP)に対する比率が6%台半ばだった10年度とくらべて15年度に赤字比率を半減させ、20年度までに黒字化する。政府が決め、国際的に公約している。

 来年度から2段階で予定する消費増税をおこなえば、15年度の半減は見えてきそうだ。

 しかし、20年度までの黒字化は、名目3%と高めの経済成長を続けてもおよばない。内閣府は、そう試算する。

 成長戦略の具体化でGDPと税収を増やそうと力を入れる安倍政権も、予算面での対策が避けて通れない。消費増税が1年後に控えることを考えれば、当面の焦点は歳出の抑制・削減策である。

 第一歩として、実現してもらいたいことがある。

 自民党が野党だった10~11年に法案を出した「財政健全化責任法」を成立させるのだ。

 国と自治体に財政を立て直す責任を課す。政府は基礎的財政収支を指標とする中期計画を作り、国会の承認を得る。新たに予算を伴う政策を始めるときは財源を事前に確保する――。そんな内容である。

 立法で再建を目ざした例としては、橋本内閣による97年の財政構造改革法がある。

 社会保障や公共事業など、分野ごとに歳出の上限を決め、具体的な数値をふくむ計画を法律に書いた。ところが銀行や証券の破綻(はたん)が続く金融危機のため、翌年に小渕内閣が凍結した。

 この経験から、予算を法律でしばる考え方に対し、政官界には抵抗が強い。

 しかしわが国の財政は、90年代後半とくらべても、はるかに深刻だ。再建への政府と国会の姿勢を、立法という形で示すことが必要ではないか。

 自民党の法案は、経済環境が急変したときは政府の判断で計画を変えることができ、後で国会に出し直す仕組みだ。財政構造改革法とくらべて、機動的である半面、拘束力は弱い。これぐらい決められずに再建などおよそ無理という内容である。

 政府・与党は、まず健全化法から一歩を踏み出すときだ。

社会保障会議 「節度ある医療」へ議論深めよ


 超高齢社会を迎える中で、急増する医療・介護費用の伸びを抑え、信頼される社会保障制度を築くことが急務である。

 その方策を議論している政府の社会保障制度改革国民会議が、医療・介護について改革の論点をまとめた。

 限りある医療の設備や人材について「国民の財産」と位置付け、適正利用の重要性を強調した。持続可能な医療・介護制度を構築する上で適切な指摘である。

 ポイントは、国民会議が「必要な時に適切な医療を適切な場所で、最小の費用で受ける」医療への転換を打ち出したことだ。

 日本の医療は、患者側が費用の心配をせずに、いつでも、どの医療機関にもかかれる「フリーアクセス」を特徴としている。

 その結果、軽い風邪でも大学病院にかかるなど、無秩序とも言える受診を招いた。これが医師の過重労働にもつながっている。

 こうした状況の改善策として、国民会議では、紹介状を持たずに大病院を受診する場合、診察料に加え、1万円程度の保険外の負担を求めるとの案が示された。自己負担を大幅に引き上げるものだ。検討に値するのではないか。

 国民会議が示した論点のうち、実現を急ぐべきなのは、価格の安いジェネリック医薬品(後発品)の普及である。

 米国、イギリス、ドイツでは、処方薬のうち後発品が占める割合が6~7割に上る。これに対し、日本は4割にとどまる。

 後発品の品質は向上しているが、医師の間では、その効能を疑問視する風潮が根強いことも背景にあるだろう。後発品の価格は先発品の2~7割で、普及が進めば医療費の削減につながる。

 現在は医療機関の裁量に任されている医薬品の処方について、厚生労働省は後発品の使用を原則とする仕組みを検討すべきだ。

 国民会議は、「病院で治す」医療から「地域全体で治し、支える」医療への転換をうたい、在宅医療・介護の充実も求めた。

 国民健康保険については、運営主体を現在の市町村から都道府県に広域化する方向で一致した。財政事情が悪化し、保険料が高騰している市町村もあることを踏まえた問題提起だ。

 ただ、こうした施策を実現するには様々な角度からの議論が必要だ。国民会議は、社会保障と税の一体改革関連法により、8月までに議論をまとめることになっている。優先順位を決め、実効性ある結論を得ることが肝要である。

観光立国推進 もっと高めたい日本ブランド


 外国からの来訪客を増やし、経済成長につなげる。観光立国ニッポンの実現へ、官民一体の取り組みが不可欠だ。

 政府が観光立国の推進に力を入れている。安倍首相を議長とする閣僚会議を発足させた。省庁横断で総合的な観光政策を検討し、夏までに行動計画を策定する方針を打ち出した。

 海外から観光やビジネスの客を呼び込めば、消費が活性化し、雇用も生まれて地域振興が期待できる。観光立国に異論はない。

 ただ、政府は2003年に開始した「ビジット・ジャパン・キャンペーン」など様々な施策を講じてきたが、十分な成果を上げているとは言い難い。

 経済成長著しいアジア中間層の海外旅行ブームに支えられ、12年の来日客は837万人で、東日本大震災前の水準にほぼ回復した。03年と比べると6割増えた。

 それでも、外国人客を16年に1800万人まで拡大するという政府目標には遠く及ばない。

 11年の国別外国人誘客数は、中国(3位)、マレーシア(9位)、タイ(15位)、韓国(25位)と比べ、日本は39位と低迷している。震災の影響があったとは言え、深刻に受け止めねばならない。

 ライバルのアジア主要国は、観光を自国のイメージアップ戦略に位置づけ旅行客誘致に懸命だ。

 観光は交通、宿泊、外食、流通など幅広い分野にまたがる。省庁の縄張り意識を改め、事業の内容や民間との連携を練り直す必要がある。観光庁は、もっと積極的に戦略づくりを主導すべきだ。

 おもてなし文化や四季折々の自然など「地域の宝」は多いのに、生かし切れていない。

 行政主導型の総花的で無難な観光キャンペーンより、民間の知恵を生かした地元ならではの価値を提供する方が効果的だろう。

 最近の外国人客は個人旅行が増え、パソコンや携帯電話を利用した情報収集が一般化している。

 旅行業界は、料金や施設、サービス内容の発信力を向上させ、無料でネット接続できる場所を増やすなど、外国人が気楽に旅行できる環境整備に努めてほしい。

 波及効果の大きい国際会議の誘致、健康診断や治療を目的とする医療観光の推進も有望だ。

 日本観光の底上げには、生産性の低い宿泊業を始めとする観光産業の育成も急務と言える。

 国や地域を超えた出会いを生む観光は、日本の国家ブランドを高め、日本社会のグローバル化を示す重要な指標である。

2013年4月22日月曜日

核燃サイクル―もはや机上の空論だ


 青森県六ケ所村で日本原燃が試験運転している核燃料再処理工場の操業に、原子力規制委員会が「待った」をかけた。

 この工場を対象とする新しい規制基準は、12月にできる予定だ。それまでは使用前検査をしない。原燃が見こむ年内の操業開始はむずかしくなった。

 原発関連施設の安全規制を徹底的に見直しているいま、当然の判断だ。ただし、新基準に適合するかどうかより、本質的な問題がある。直視すべきは、核燃料サイクル事業自体がすでに破綻(はたん)状態にあることだ。

 このまま工場を動かせば、使うあてのないプルトニウムが増える。国際社会から核拡散への疑念を持たれかねない。早く事業から撤退すべきだ。

 核燃サイクル事業は、使用済み燃料からプルトニウムを取り出し、何度も燃やすことで「資源を有効利用できる」ことが、うたい文句だった。

 だが、中核を占める高速増殖炉は原型炉「もんじゅ」で失敗が続き、実用化のめどすら立たない。現状では、ウランとプルトニウムとの混合(MOX)燃料を既存の原子炉で使う「プルサーマル」しか使い道がない。

 MOX燃料は再々利用がしにくく、高効率は期待できない。使用後の保管も、通常のウラン燃料よりやっかいだ。

 原燃は操業後、4~5年後には年間800トンの使用済み燃料を再処理する計画でいる。これは国内原発のうち16~18基でプルサーマルを導入することが前提になっている。

 だが、震災前でも地元の同意とりつけなどで難航し、4基しか実現しなかった。うち1基は福島第一の3号機だ。今月、関西電力がフランスに再処理を委託していた高浜原発3号機用のMOX燃料を日本へ輸送すると発表したが、従来のプランどおりの運転はできまい。目標達成はもはや机上の空論だ。

 日本はすでに約45トンのプルトニウムを保有している。この処分にめどをつけないまま再処理工場を稼働すれば「利用目的のないプルトニウム」が増え、国際公約を破ることになる。

 それでも政府や電力業界が事業の継続にこだわるのは、再処理の旗をおろせば使用済み燃料が「廃棄物」となり、施設を受け入れてきた青森県との約束に反するからだ。

 地元とのていねいな話し合いが必要になるが、現実性を失った計画を進めてはいけない。

 使用済み燃料の中間貯蔵や、直接処分への道筋を早く描くべきだ。「つくったから動かす」は無責任である。

新型インフル―反省を生かして備える


 新型インフルエンザなどの対策に関する特別措置法が施行された。肉づけする政府の行動計画案も先週まとまり、広く意見を募っている。

 万一に備えた対策や準備の大切さは、震災や原発事故で身にしみた。法律に基づき、国や自治体、病院などが具体的に動き出す意味は大きい。

 この法律の対象は、新型インフルなど、全国で急速に流行して国民の生命や健康、経済活動に重大な影響を及ぼす恐れがある未知の感染症だ。

 中国で感染報告が相次ぐ鳥インフル(H7N9)は人から人への持続的な感染が確認されておらず、今のところ対象外だ。

 あてはまる病気が海外で発生したら、国と自治体、病院などが連携して動く。医療に携わる人などに優先的に予防接種し、国内の発生を監視する。

 国内に入ってきたら、ピークを遅らせる策をとる。感染が一気に広がると医療がパンクして治るはずの人が重症になったり死んだりするし、「半年で全国民分」を目標とするワクチン量産への時間かせぎでもある。

 とくに悪質な感染症とみられる場合は、首相が緊急事態を宣言する。一般の人への予防接種を進めるほか、知事は不急の外出の自粛や、休校、集会・興行の制限などを要請できる。

 なかば強制的に業者に緊急物資を運ばせる、薬や食料品の売り渡しを求める、生活関連物資の値上げを許さないといった強い手立ても可能になる。

 国民の自由を一部制限してでも、対策を優先できるのだ。

 所管する内閣官房は「特措法や行動計画はあくまで対策のメニュー集。病気の特徴に応じて適切な対策を選ぶ」という。

 ワクチンの生産・接種態勢の確立、せきエチケットなど一般的な感染予防策の普及、情報提供の仕組み整備など、平時に進めるべきことは多い。

 さらに、課題がある。

 09年に豚由来のインフルが流行した際は、効果は限られるのに、空港で大規模な検疫を長く続けた。商店街の臨時休業など横並びの「念のための措置」も広がった。

 通常のインフルと同程度の脅威らしいとわかってからも、過剰な対策の修正は遅れた。

 当時は専門家の意見が軽視された反省が残る。特措法では医学から経済まで27人からなる有識者会議をつくり、意見を対策に反映する仕組みができた。

 社会への副作用も大きい特措法や行動計画を正しく使うためには、この有識者会議をうまく生かすことが大切になる。

中国国防白書 危険過ぎる習政権の強軍路線


 中国の習近平政権が、「強軍路線」を推進していく姿勢を改めて強調した。核となるのは「海洋強国化」である。

 中国は2年ぶりの国防白書で、「海洋強国の建設は国家の重要な発展戦略であり、断固として海洋権益を守ることが軍の重要な職責だ」と明記した。海軍が国家海洋局の監視船などと連携を強めていく方針も打ち出した。

 昨年、初の空母を就役させたことについて、「強大な海軍の建設と海上安全保障にとって深遠な意義がある」と指摘した。新たな空母建造など海軍力の増強を加速させるのは間違いない。

 日本として、中国の海洋への膨張は警戒すべき動きだ。

 看過できないのは、沖縄県・尖閣諸島を巡って、白書が「日本が問題を作り出した」と名指しで非難したことだ。南シナ海で中国と対立するベトナムやフィリピンは国名を挙げていない。

 日本を際立たせたのは、軍事面で圧力を強め、尖閣の実効支配を切り崩す狙いがあるのだろう。

 日本政府が「中国独自の主張に基づく言動は一切受け入れられない」と抗議したのは当然だ。

 尖閣周辺海域では中国海軍艦艇の示威行動がすでに活発化している。白書発表翌日の17日も、駆逐艦とフリゲート艦が航行した。

 海軍艦艇と監視船が一体となった挑発行動の活発化が懸念される事態だ。日本は米国と協調し、海上保安庁と自衛隊の連携も深め、警戒に当たらねばならない。

 習近平・中国共産党総書記は「中華民族の偉大な復興の夢とは強軍の夢だ」と語っている。

 1月には海自艦艇へのレーダー照射事件が起きた。習氏の強硬な姿勢は、中国軍のさらなる過激な行動を招きかねない。

 習氏は今月9日、海南島の海軍基地で最新鋭の揚陸艦などを視察し、「強軍の目標を心に刻み、その実践に身をささげよ」と命じた。危惧すべき発言である。

 中国は今回の白書について、陸海空軍など兵員数の内訳を公開したと自賛している。だが、核戦力を担う戦略ミサイル部隊や、武装警察部隊の規模などは一切明らかにしなかった。

 2年前の前回の白書に比べ、分量も大幅に減った。兵員生活費や装備費など国防費の内訳に関する記述もなくなった。

 国防費の膨張が国際社会に脅威を与えているのに、その自覚が感じられないではないか。

 隠蔽ではなく、透明性の向上こそが大国としての責任である。

コンビニの隆盛 地域と共存目指す成長戦略を


 安倍政権が掲げる経済政策「アベノミクス」を追い風に、景気回復への期待が高まっている。

 コンビニエンスストア業界も新たな消費を掘り起こし、日本経済の活性化につなげてもらいたい。

 セブン―イレブン・ジャパン、ローソン、ファミリーマートの大手3社は2013年2月期にそろって売上高を伸ばし、最高の営業利益をあげた。

 1974年に都内に初登場したコンビニは現在、全国約5万店に達する。業界全体の売上高は9兆円を超え、百貨店の6兆円を大きく上回る。年間来客数は約150億人で、日本人1人あたり年100回以上利用する計算だ。

 長期低迷が続く百貨店やスーパーを尻目に、生活に深く根付いたコンビニが小売業界を引っ張っていることを示す。

 その強さの秘訣ひけつは、消費の移り変わりをいち早く察知し、事業を広げてきた柔軟さにある。

 「売れ筋」を重視した商品構成と在庫管理、少量多頻度の配送システムなどが急成長を支えた。

 おにぎりや弁当が中心だった品揃ぞろえは、生鮮食品、総菜、いれたてコーヒー、医薬品などに広げ、他業種の分野に踏み込んでいる。低価格の自主開発商品を相次いで投入し、なじみの薄かった主婦や高齢者の利用も増えた。

 公共料金の納付、宅配便、ATM、チケット販売など物販以外のサービスも伸びている。

 ただ、国内店舗数が飽和状態に達したとの見方は強い。巻き返しを狙う百貨店、スーパーやネット通販も含めた競争が激化し、経営環境は厳しさを増すだろう。

 これからが正念場である。

 積極的な出店は都市部が優先されがちだった。地方圏での事業展開が課題の一つではないか。

 ご当地メニューなどで独自色を打ち出している店は多いが、必要とされる商品やサービスをさらに見極めて提供し、地域と共存できるかどうかが問われよう。

 身近な商店が消え、遠出したくても交通手段のない「買い物弱者」は多い。採算一本やりではない地域貢献も求められる。

 東日本大震災では、被災地の生活復旧に大きな役割を果たし、コンビニの公共性が注目された。

 効率性と合理性を重視する姿勢が、仮設店舗や移動販売車などの素早い展開に生かせた。

 災害時の物資調達や帰宅困難者支援など、いつでも頼れる社会のインフラとしての機能をさらに高めることが欠かせない。

2013年4月21日日曜日

G20会議―世界の認識は甘くない


 日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が打ち出した「異次元」の金融緩和とこれに絡む円安ドル高の加速が焦点となったワシントンでのG20財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で黒田緩和について「脱デフレと内需支援のため」と一定の理解を示した。

 「通貨安競争は避ける」とも言及したが、露骨な日本批判はなく、「G20が円安容認」と受け止めた市場で円が売られ、一時1ドル=100円に迫った。

 元財務官の黒田氏は、国際舞台での対話力も買われて総裁に起用された。突っ込みどころに先回りして追及を封じる周到な弁舌で、まずは順当にデビュー戦を飾ったようだ。「アベノミクスは日本復活のため」という日本の公式見解に対する各国の「期待」もつないだ。

 ただ、これはあくまで当面の話だ。金融緩和が実体経済の地力回復までの「時間稼ぎ」であるのと同じように、それがアベノミクスの他の政策、とりわけ財政規律の回復と構造改革による成長回復までの時間稼ぎにすぎないことも、浮き彫りになったといえる。

 米国景気の回復や新興国経済の変調により、「通貨安競争」の懸念は一時より和らいだ。それでも日本の円安や財政悪化に対する各国の警戒感は根深い。

 2月のモスクワ声明と同様とはいえ、国際常識ともいえる「金融政策の対象は国内経済」「国際競争のため為替相場を使わない」などの文言が日本を念頭にあえて繰り返されたこと自体が異例だ。くわえて今回は、財政規律の問題で「日本は信頼できる中期的な計画を定めるべきだ」と名指しされた。

 もともとG20は9月にロシアで開く首脳会合(サミット)に向け先進国の財政健全化で新合意を目指す予定だが、「突出した政府債務を抱える日本の異次元緩和が、財政規律を緩ませないか」という、ごく自然な疑問がG20の財政論議を強く促したのは間違いない。

 日本は3年前のトロントG20サミットで、あまりに借金が多い半面、増税による歳入拡大の余地も大きいことを理由に、1国だけ例外的な緩い健全化目標を認められた。消費税率を10%に上げることになっているが、それでも国際通貨基金(IMF)は「財政再建には不十分」と警告している。

 より確かな財政再建の裏づけを求める世界の圧力は、今後さらに強まろう。財政規律と構造改革に先手先手を打つ覚悟が日本になければ、黒田緩和は単なる「円安誘導への方便」と世界が見なす日がいずれ来よう。

離婚後の面会―子が望めば会えるよう


 離婚しても、子どもとのきずなはつないでいてほしい。

 離婚後に子と同居する親がもう一方の親に子を会わせず、もめる例が増えている。子との面会交流を求める調停・審判の申し立ては一昨年で約1万件あった。10年前の3倍以上だ。

 そのようなケースで、同居の親に「制裁金」を科すことができる場合があるとの判断を、最高裁が3月に示した。

 父母があらかじめ、面会の日時や子どもの引き渡し方法などを具体的に決めていたときが、対象になる。お金の支払いを命じることで、面会の実現を促すねらいがある。

 とはいえ、制裁金を払って面会を拒み続けることはできる。法的な強制力は、問題の本質的な解決になりそうにない。

 日本も加わる子どもの権利条約は、別居する親との交流を子の権利として認めている。

 いずれの親からも愛され、関係を保っていくことで、子どもの人生は豊かさを増すはずだ。親の暴力、虐待がある場合などは別として、父母とも子育てにかかわる責任がある。

 離婚後も父母が共同で子育てを担う欧米の国ぐにと異なり、日本はいずれかが親権者になる単独親権制度をとっている。

 別居する親と子の面会のルールは、慰謝料や養育費などとあわせて、親の視点で決められがちだ。ときに駆け引きの条件にもなり、子どもがどう考えているかは見過ごされやすい。

 11年の民法改正で、離婚にあたっては子の利益を最も優先して、面会交流などについて決めることが明記された。これに伴い、昨年4月から離婚届に、親子の面会交流や養育費について取り決めたかどうか、しるしをつける欄が設けられている。

 ただし、未記入でも離婚届は受理される。昨年12月までの9カ月で、しるしが入った届け出は54%にとどまった。父母の話し合いが十分尽くされていないのではないか。そう感じさせる数字である。

 一昨年の1年間に約23万人の子どもが親の離婚を経験した。離婚はときに避けられない選択肢だろうが、子にそのつけは負わせられない。

 家裁の審判では、子どもの意思を把握するよう努めることが今年から義務づけられた。裁判所は子どもが親との面会をどのように考えるのか、ていねいに聞き取ってほしい。

 父母の合意づくり、子どもの行き来を仲立ちする専門家の活動も少しずつ広がっている。離れることになった親子の交流を現実のものにしたい。

G20共同声明 円安だけに頼れぬデフレ脱却


 日本の大規模な金融緩和策は円安誘導ではないとして、先進国と新興国の理解を得られたことは前進である。

 デフレ克服と着実な日本経済再生へ、政府と日銀は一段と重い責任を負った。

 日米欧と中国、ロシアなど主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がワシントンで開かれ、共同声明を採択した。

 声明はまず、焦点だった日本に言及した。就任したばかりの黒田東彦日銀総裁が打ち出した量的・質的金融緩和策について、「デフレを止め、内需を支えることを意図したものだ」と明記した。

 「異次元」の金融緩和策を受けて急激に円安が進み、韓国などが日本を牽制していた。

 しかし、金融緩和策はあくまで脱デフレが目的で、輸出拡大を意図した円安誘導ではない。こうした日本の主張が、一定の理解を得られたと評価できよう。

 声明は、マイナス成長が続く欧州の信用不安再燃などを踏まえ、「世界経済の成長は引き続き弱すぎる」と厳しい認識を示した。

 各国・地域が危機感を共有し、日本の成長強化が世界経済にも有益だと一致したことも、日本への理解につながったようだ。

 ただし、前回2月のG20声明に盛り込んだ「通貨安競争の回避」を再確認した点は重要だ。

 ひとまず新興国などからの円安批判は避けられたものの、日本が金融緩和策や円安進行に頼るだけでは批判が再燃しかねない。

 日本は今後も経済再生策への理解を求め、速やかに脱デフレの成果を出すことが問われよう。

 金融緩和、財政政策に続く「3本目の矢」である成長戦略として、安倍首相が若者の能力向上、女性活用、医療産業育成を第1弾とする方針を示した。これを機にさらなる戦略をまとめてほしい。

 日米欧の金融緩和策に関連し、声明が「意図せざる負の副作用に留意する」と強調した点も重く受け止めたい。

 新興国では、先進国の金融緩和であふれた投機資金が新興国の金融市場などの過熱を招いているという不満がくすぶる。日本は米欧などと連携し、副作用の拡大を警戒する必要がある。

 日本の課題として、声明が「信頼に足る中期財政計画を策定すべきだ」と注文したのは当然だ。

 日本の財政は先進国最悪の状況である。当面は財政刺激策による経済再生を優先するにしても、中期的な財政再建を怠って信認が揺らぐ事態を避けねばならない。

尼崎事件検証 「民事不介入」の意識を改めよ


 警察による「不作為の連鎖」がなければ、最悪の事態を防ぐことができた。そう思うほかない、ずさんな対応である。

 兵庫県尼崎市の連続変死事件で、香川県警は、親族4人が死亡した高松市の一家への対応が不適切だったとする検証結果をまとめた。

 事件の主犯で、自殺した角田美代子元被告(当時64歳)らは、2003年から一家宅に居座った。それ以降、一家の男性や親族、知人ら計17人から、香川県警本部と警察5署に、合わせて36回もの通報や相談が寄せられていた。

 ところが、それらの情報は警察内部で共有されなかった。それどころか、別個の家族間トラブルと認識されていた。角田元被告らの事情聴取も行わなかった。

 一連の不手際について、県警が遺族らに謝罪したのは当然だ。

 男性が被害届を提出しようとしたのに、県警が受理しなかったのも問題である。「暴行や傷害の日時や場所が不明なので、立件できない」との理由からだった。

 怠慢以外の何ものでもない。警察は、住民の生命、身体に危害が及ぶ恐れを常に考慮し、対応に当たらねばならない。

 兵庫県警の対応も看過できない。一家の男性の長女が明石市内から尼崎市内に連れ去られた際、目撃した友人が警察に相談したが、警察は「家族のもめ事」として放置した。長女はその後、角田元被告らに殺害されたという。

 両県警の対応の根底にあるのは「民事不介入」の意識だろう。警察には、「私人間の紛争は、当事者同士か裁判所で決着すべきだ」という考えが根強くある。

 確かに、民事上のささいな事案に警察が乗り出すのは、人員面などから無理がある。いたずらに警察権力を行使すれば、かえって紛争をこじらせることもあろう。

 だが、過去の教訓を忘れてはならない。1999年の埼玉県桶川市のストーカー殺人事件は、警察が「民事不介入」を口実にして、捜査を怠ったために起きた。

 この事件を契機に、国家公安委員会が設置した警察刷新会議は、「民事不介入についての誤った認識を払拭する」という緊急提言をまとめたが、最も肝心な警察官の意識改革が進んでいない。

 ストーカーだけでなく、家庭内暴力や近隣トラブルなどを巡る事件が増えている。警察への相談件数も、増加傾向にある。

 警察全体が民事不介入に対する認識を改め、事件の芽を摘んでいくことが重要だ。

2013年4月20日土曜日

米国のテロ―市民の連帯で備える


 米国では大リーグの観戦に、かばんは持ちこめない。化粧ポーチなどを除き、球場は手ぶらが原則だ。場外の預かり所は試合後ごったがえすが、野球ファンは神妙にルールを守る。

 多くのテロ事件をくぐった米国は長い年月をかけ、公共の場での保安対策を強めてきた。空港や政府機関の検査場の長い列も、日常の見なれた光景だ。

 自由を何より尊ぶ国でありながら、生活の利便を少しずつ削ってでも安全の向上をめざす。そんな国民意識は、9・11同時多発テロ以降、いっそう強く米国社会に根づいてきた。

 あれから12年。それでもなお惨劇を防げなかった衝撃は大きい。3人が死亡し、170人以上が負傷したボストン・マラソンの爆弾テロは、警戒の網の目をくぐる無差別暴力の脅威を改めて世界に知らしめた。

 この事件は重苦しい難題を突きつけている。圧力鍋を使った簡素なつくりの爆弾は、インターネットで得られる知識でだれにでも作れる。

 しかもマラソンのような広い市街地で行われる行事では、沿道すべてで持ち物の検査をすることはむずかしい。

 自由に立ち入れる場所を限ったり、多くの人々が楽しむ催しを縮小したりすれば、それだけ社会が安全と引きかえに払う代償を高めることを意味する。テロリストの思惑通りだろう。

 米国も世界も、市民の自由をできるだけ狭めずに、少数の人間が犯す暴力を防ぐ工夫を尽くさねばならない。

 これまでインターネットはテロ組織のネットワーク強化に利用されたとの指摘もあったが、今回はその逆を印象づけた。

 事件後、多くの現場映像が捜査当局にもたらされ、有力な情報になっている。だれもが記録の目と情報発信能力を持つ携帯ネット社会の効能だ。

 米国のような多文化社会であれ、日本のような比較的均質な社会であれ、無差別暴力を防ぐためのカギは、市民一人一人の意識にある。

 日々の暮らしの中で不審な物や異常に気づけば声を上げる。いったん混乱がおきれば助けあう。自然災害への取りくみと同じように、テロ対策を高めるうえでも、市民と市民の連帯感が果たす役割は大きい。

 オバマ大統領は追悼集会で、「来年もボストン・マラソンのために、世界はこのすばらしい都市に戻り、より強く走り、より大きな声援を送るだろう」と語り、不屈を誓った。

 街の安全をめざす米国市民の模索を日本もともにしたい。

教育委員会―独断防ぐ仕組みがいる


 政治に振り回されない理念を守りつつ、市民の声を聞く「働く教育委員会」をどう作るか。そんな視点で考えたい。

 政府の教育再生実行会議が改革案を示した。近く中央教育審議会で議論が本格化する。

 教育行政の責任者を、今の合議制の委員会から、首長が任免する教育長に変える。それが提言の柱だ。委員会は大まかな方針を話しあい、教育長をチェックする役割に変わる。

 今より判断が速くなり、責任のありかが明確になる利点がある。一方で、首長がかわるたび方針が大きく変わる、首長や教育長が暴走したら止めにくい、といった心配がある。

 今の制度は戦前への反省から生まれた。住民を代表する委員らが、首長の顔色をうかがわずに独立して教育をつかさどる。

 理念は間違っていない。

 一方、制度疲労があるのも事実だ。「判断が遅い」「市民の声からかけ離れている」。相次ぐいじめ事件への対応で浴びた批判が、それを物語る。

 非常勤で原則5人の委員が、月1、2回の会合ですべてを決めるのは無理がある。

 多くの委員会は、事務方が出す案を追認するのが精いっぱいだ。実態としては、今も教育長が全体を仕切っている。委員の公選制はとっくになくなり、住民代表の性格もうすれた。

 理念と現実への対応を両立できる制度が求められる。

 教育長を責任者にするとしても、歯止めを置く。たとえば、教科書採択や学校統廃合など、大切なことは委員会の同意をえる。委員全員が一致すれば、教育長に異議を申し立てられる。そんな制度はどうだろう。

 さらに大切なのは、首長への歯止めだ。いいように教育長をかえられては困る。任免の基準を明確にすべきだ。チェックする議会の責任も重い。

 民意の反映のため、首長の関与を強める。提言をはじめ多くの改革論の考え方だ。たしかに首長は民意を代表する。ただ、選挙は教育だけが争点ではない。首長がかかわるだけで住民の声が常に届くわけでもない。

 民意の回路は複数ほしい。委員に住民からの公募や推薦を増やし、住民代表の性格を強めるのも一つの手だ。どんな制度も住民の関心と参加がなくては、魂が入らない。

 提言には、国から教委への指示をしやすくする提案もある。

 しかし、現行法でも、子どもの命や体を守る必要があるときなどは指示ができる。地方の自主性を尊重し、これ以上口出しを強めるべきではない。

邦人陸送法案 自衛隊の活動拡充を着実に


 様々な緊急事態を想定し、その対応に必要な自衛隊の活動の法的枠組みを整えておくことは危機管理の要諦である。

 政府が、在留邦人らの陸上輸送を可能にする自衛隊法改正案を国会に提出した。

 現行法は、自衛隊による海外での邦人輸送の手段として、航空機や艦船の使用を認めているが、車両は認めていない。

 今年1月のアルジェリアの人質事件では、事件現場と国際空港が約50キロ離れていた。アルジェリア政府は邦人を空港に移送したが、国によっては現地政府の対応が期待できないケースもあろう。

 政府の検証委員会報告書が、自衛隊による陸上輸送を検討するよう提言した。与党の作業部会も、自衛隊法改正を求めている。

 改正案は、車両による在留邦人輸送を自衛隊の任務に追加した。防護対象も、在留邦人だけでなく、早期面会を希望する家族や、同行する企業関係者、外務省職員らにまで拡大した。心強い内容だ。

 在留邦人の安全確保を支援することは政府の責務である。改正案の早期成立を図るべきだ。

 2004年4月には、イラクで外国人拘束事件が相次いだため、イラク南部サマワの陸上自衛隊宿営地を取材した報道関係者を陸自が近郊の空港まで輸送した。輸送の法的根拠がないため、「広報活動の一環」と説明した。

 こうした理屈を無理にひねり出さなければ、自衛隊が任務を果たせない仕組みは是正する必要がある。陸上輸送を正式任務に位置づけることで、陸自が必要な訓練・研究を行える意義も大きい。

 一方で、課題も残っている。

 自衛隊員の武器使用権限は従来通り、正当防衛などに制限されたままだ。自分の身に危険が及ばない限り武器を使えないため、輸送が妨害されても警告射撃ができないなど、活動は制約される。

 無論、外国での活動である以上、自衛隊の活動は相手国の了解が前提となる。武器使用権限を野放図に拡大することはできない。

 だが、近くの住民らに救助を求められても、「駆けつけ警護」ができない現状は問題が多い。

 02年12月には、東ティモールの国連平和維持活動(PKO)に参加中の陸自部隊が、暴動が発生したディリ市内の邦人飲食店経営者に救助を要請され、「休暇中の隊員の安全確保」を名目に邦人17人を宿営地に輸送した例もある。

 今回見送った武器使用権限の拡大についても、政府・与党は本格的に実現を検討すべきだ。

就活期間短縮 「抜け駆け」で骨抜きにするな


 大学生が学業に専念する環境作りが、優秀な人材の育成につながる。就職活動の期間短縮は妥当な措置と言えよう。

 大学生の就活を解禁する時期が、「3年生の12月」から「3年生の3月」へ繰り下げられる。面接などの選考開始も、4か月遅い4年生の8月になる。

 安倍首相が、米倉弘昌経団連会長ら経済3団体の首脳に要請し、経済界も受け入れを表明した。現在の大学2年生の新卒採用から適用される見通しだ。

 就職活動のルールは、経団連が紳士協定の「倫理憲章」で定めている。就活解禁の12月以降、3年生は志望書作成や会社説明会に追われ、欠席も増える。授業に支障を及ぼす現状に、大学などの不満が強いのは当然だろう。

 4年生の春からは面接など選考活動も始まる。海外では4年生の夏まで授業のある大学が多い。就活の出遅れを恐れ、海外留学を見送る学生も少なくない。

 選考開始が8月になれば、大学生は学業に長く集中でき、留学もしやすくなる。国際的な人材を求める企業にもプラスになろう。

 問題は倫理憲章に拘束力も罰則もないことだ。憲章に賛同する企業は、経団連に加盟する約1300社のうち830社にとどまる。外資系をはじめ、憲章に縛られない企業が、解禁前から人材の囲い込みに走る懸念は拭えない。

 かつての就職協定も、こうした「青田買い」で骨抜きになり、廃止された。同じ轍を踏まぬよう、経団連は憲章を周知し、賛同会社を増やす努力が要る。企業も学生の学力低下を嘆くばかりでなく、進んで憲章を守るべきだ。

 国家公務員総合職の試験は4~6月に実施されている。国が人材を先取りしないよう、日程を見直さなければならない。

 学生は短期決戦で内定を取りにくくならないか不安視している。中小企業は、大企業に人気が集中し、人材獲得が一段と難しくなることを心配している。

 好業績の中小企業が採用を増やそうとしても志望者は少ない。この「ミスマッチ」を解消するため、政府と企業、大学などが連携を強化する必要がある。

 学生にも意識改革を求めたい。インターネットで簡単に志望書を提出できるようになったためか、手当たり次第に大企業に挑むケースが目立つのが気がかりだ。

 有名企業への入社を目指す「就社活動」ではなく、働きたい仕事にこだわる本来の「就職活動」で適職を見つけてほしい。

2013年4月19日金曜日

日中韓会談―成熟した3国関係を


 5月下旬の開催に向けて調整されていた日中韓3国の首脳会談が、先送りの見通しとなった。中国側が日本との同席を渋ったためだという。

 日中、日韓間では昨年来、尖閣諸島や竹島の問題をめぐって緊張が続いている。関係を解きほぐす第一歩として期待されただけに、見送りは残念だ。

 3国の首脳会談は、毎年この時期に回り持ちで開催されている。今年は議長国の韓国が、ソウルで開催することを日中に打診。日本は応じたが、中国が日程に難色を示したという。

 尖閣問題の打開のめどがつかないまま、李克強(リーコーチアン)首相が安倍首相と会うわけにはいかないということらしい。大国らしいふるまいとは言えまい。

 韓国は今回の会談を、核実験やミサイル発射で挑発を繰り返す北朝鮮への対処を話し合う絶好の機会ととらえていた。

 会談の見送りを受け、韓国外相が急きょ、日本、中国への訪問を検討している。

 北朝鮮の挑発行為をやめさせるには、3国の結束が欠かせない。中国の姿勢には首をかしげざるをえない。

 ここは、領土をめぐる対立をひとまず脇に置き、緊急の課題について早期に話し合いのテーブルに着くべきだ。

 尖閣海域では、いまも中国の海洋監視船が領海侵犯を繰り返している。もちろん、日本が譲歩できるはずはなく、出口は見えない。

 一方で、今年に入って日本の政治家がたびたび訪中、中国の人民対外友好協会会長も来日するなど、打開の糸口を探る動きが出ている。

 今月、北京を訪れた河野洋平・元衆院議長に汪洋(ワンヤン)副首相は「どんなことがあっても経済関係を深める」と語った。関係改善に前向きと受け取れる発言である。

 日中韓の間には、このほかにも、協議中の自由貿易協定(FTA)や、中国で深刻化する大気汚染対策への協力など、首脳同士で意思疎通を図るべき課題が山積している。

 尖閣問題だけにとらわれて、こうした分野の話し合いさえ滞るとしたら、お互いに何の益ももたらさない。

 そもそも、隣り合う国の首脳がいずれも交代したにもかかわらず、いまだに対話がないのは異常と言わざるをえない。

 対立点は対立点として、利害の一致する部分で折り合う。そんな成熟した3国関係にしなければならない。

 そのためにも、中国には大人の対応を望む。

就活する君へ―力をためる時間が要る


 大学生活はどうかな。君の先輩たちは企業からの電話待ちでおちつかない毎日だろうか。

 就職活動の解禁を今より3カ月遅らせて、3年生の3月にしたい。安倍首相が経済団体に要請する。ニュースを聞いて君はどう思った?

 3年間は勉強や学生生活に打ち込めるようになるね。

 ただ、長い目でみると、もっと根本的に就活のありかたを見直したほうがいいと思う。

 これからは、与えられたものをこなすより、自力で問題を解決する変革の力が要る。そこは大学も経済界も一致している。新興国に追われる立場の日本は付加価値をつけた商品やサービスで勝負するしかない。

 ところが、学生は勉強時間が少なすぎて思考力が育たない。在学中は学びに集中できるよう就活に奪われる時間をへらしたい――。政府が解禁時期の後ろ倒しを企業側に働きかけてきたのは、そのためだ。

 高校では大学受験、大学では就活。君たちはいつも今やりたいことより、先の対策に追われてばかり。これで自分の考えや個性を持てとは酷だ。

 これからは、会社が社員の訓練や能力開発に責任をもってくれる保証はない。正社員にさえなれば、定年まで年功序列。そんな道筋は崩れている。

 正社員の解雇規制緩和を政府が論じているでしょ。人材のほしい業界へ、過剰になった業界から即戦力を移しやすくする。そうなれば、企業は一から自前で若手を育てなくていい。厳しいけれどそんな時代だ。

 だから君たちには必要な能力を自分でみがく時間が要る。

 小手先の就活対策より考える力をきたえないと。労働法制のような身を守る大切な知恵も。それは大学の責任でもある。

 企業はどうして新卒にこだわるのだろう。既卒者の採用が普通になれば、大学でたっぷり学んだうえ卒業後に留学やボランティアもできる。骨太な新戦力を雇えるのに。就職が遅くなれば親の負担は増すけれど。

 就活の意識調査をしたNPOライフリンクの人から、ある就活生の言葉を聞いたんだ。

 就活とは、ルールがわからないまま一人で参加するゲーム。

 「リクルーターはいない」と言われたのに、他大学の子には付いた。そんな大人たちの反則行為をみて、若者は社会に出る前から社会に不信を抱く――。やりきれない分析だった。

 就活で問われるのは学生の資質だけではない。私たち大人の公正さもみられている。そう心にきざみたい。

ネット選挙へ 「悪意」の発信をどう防ぐか


 日本でもようやくインターネットを利用した選挙運動が解禁される。若者に政治参加を促す効果が期待できよう。

 公職選挙法改正案が参院の特別委員会で全会一致で可決された。きょう成立し、夏の参院選から適用される。

 法案は、ホームページやブログのほか、ツイッター、フェイスブックなどによる公示・告示後の選挙運動を可能にする。

 多くの先進国がネット選挙を認めている。2008年米大統領選で、オバマ氏は情報発信や有権者との対話に駆使して若者に支持され、「選挙革命」と呼ばれた。

 日本は、周回遅れではあるが、有権者に適切な判断材料を提供し、投票率を向上させる手段として新制度を活用すべきである。

 政党や候補者は、従来のように選挙カーで名前を連呼し、ビラを配るだけでは済まされない。短時間の街頭演説では伝えにくい経済や安全保障政策についてもネットで丁寧に訴える必要がある。

 有権者のメリットは、政党や候補者の主張を詳しく知ることができる点だ。候補者とネット上で対話することや、候補への支持をツイッターなどで広く呼び掛けることも可能になる。

 ただし、電子メールを使った選挙運動は悪用されやすいため、政党と候補者に限定された。慎重を期して、全面的な解禁を避けたのは、妥当な判断である。

 与野党は具体的な運用指針を作成中だ。候補者と有権者双方に混乱が生じないよう、制度の周知徹底を図ってもらいたい。

 課題は、特定候補の落選を狙った誹謗中傷や、候補者本人を装ってウソの主張をする「なりすまし」をどう防ぐかである。

 悪質なケースは名誉毀損罪や公選法の虚偽表示罪に問われるとはいえ、ネット情報は急速に拡散し、完全に消去するのは難しい。

 法案は、ウェブサイトやメールによる選挙運動を行う際にメールアドレスなど連絡先の表示を義務づけた。表示がなければ、プロバイダー(接続業者)は削除することができる。悪質な情報の発信に一定の歯止めにはなる。

 ネットでの情報を監視し、反論、差し止めをする責任は政党と候補者が担う。公的な監視機関を置くかどうかは検討課題である。

 昨年の韓国大統領選では、中央選挙管理委員会の「サイバー選挙不正監視団」が7000件超の不適切なネット投稿を削除したという。日本でも、こうした機関が必要になるかもしれない。

スー・チー来日 官民連携で国造りを支えたい


 ミャンマーの最大野党である国民民主連盟(NLD)の党首アウン・サン・スー・チー氏が日本政府の招きで来日し、安倍首相や岸田外相らと相次いで会談した。

 スー・チー氏の来日は、民主化運動に身を投じる前の1980年代半ば、京大客員研究員として滞在して以来27年ぶりだ。

 スー・チー氏は軍政と対立し、約15年間も自宅軟禁を強いられていた。今回の来日実現は、2年前の民政移管後、テイン・セイン政権が推進しているミャンマーの民主化を象徴するものだ。

 日本政府はこれまで、テイン・セイン政権の改革を歓迎し、円借款など政府開発援助(ODA)の再開を欧米に先駆けて決めるなど積極的に支援してきた。

 NLDとの関係を強めるのは、議会内で健全な野党が育つことがミャンマーの一層の民主化と社会の安定につながるとの判断があるからだ。2015年の総選挙でNLDが勢力を拡大しそうだという背景もある。

 安倍首相は会談で、「改革が一層進展するよう支援していきたい」と述べ、ODAと民間投資の両面でミャンマーの国造りを支える日本政府の方針を説明した。

 スー・チー氏も「発展に協力してほしい」と語り、職業・農業教育などでの支援を求めた。

 スー・チー氏は昨春の下院議員当選以来、在野の民主化運動指導者から現実的な政治家への脱皮を図っている。支持者の期待に応えるには、生活水準の向上など具体的な成果を必要としていよう。

 ミャンマーの国造りの道のりは険しい。さらなる民主化には、スー・チー氏が訴える通り、軍の政治的影響力を保証するために定められた議会の軍人枠の撤廃など、憲法の改正が避けられまい。

 対立が続く少数民族との関係改善も難航し、国民和解の道筋はまだ見えない。治安悪化は日本企業の投資熱に水を差しかねない。

 日本は最大の経済支援国だ。少数民族の生活の底上げや、道路や電力の整備など社会の安定に寄与する開発支援に、官民が連携して取り組む意義は大きい。

 インド洋と南シナ海を結ぶ要衝に位置するミャンマーの戦略的価値は高まる一方だ。ミャンマーは軍政時代の中国一辺倒の外交から転換し、日本や米国、インドとの関係を強めつつある。

 軍事・経済両面で膨張し、影響力を増大する中国を牽制せいする上でも、ミャンマーとの関係を深めることが日本には重要である。

2013年4月18日木曜日

格差是正―堂々巡りはうんざりだ


 安倍政権が発足して初の党首討論が、きのう開かれた。

 目を引いたのは、安倍首相が衆院の小選挙区定数の「0増5減」に言及した一幕だ。

 0増5減の新区割り法案に対し、野党側は定数削減や制度改革を求めて反発。与野党は全面対決の様相である。

 安倍氏は、民主党の海江田代表に「海江田さん、この場で政治を動かそうじゃありませんか」と呼びかけた。

 これに対し、海江田氏は「定数削減が一番大きな約束だ。定数削減をやると、ここでおっしゃってください」と切り返したが、時間切れで安倍氏の回答はなかった。

 昨年11月にあった前回の党首討論で、民主党の野田首相は一票の格差是正と定数削減を安倍氏に提案し、引き換えに衆院解散の勝負に出た。

 それから5カ月。いまだに同じところで堂々巡りを続ける国会の能天気さにはあきれる。

 まずは0増5減の新区割り法案を成立させ、一票の格差是正に踏み出す。抜本改革は、首相の諮問機関である選挙制度審議会を立ち上げ、衆参のあり方も併せて根本から検討する。

 私たちは、そんな道筋が現実的だと主張してきた。

 ところが、与党側からは本気で抜本改革に取り組む姿勢が感じられない。

 自民党がまとめた選挙制度改革案は公明党への配慮があからさまで、とうてい野党の理解を得られる代物ではない。

 これでは、0増5減だけでお茶を濁そうとしていると見られても仕方がない。

 一方、野党側のかたくなな態度にも首をかしげる。しかも、抜本改革を求めながら、野党各党の案はバラバラなままだ。

 与党は、衆院の再可決も視野に26日までの衆院通過をめざしており、民主党の細野豪志幹事長は「横暴以外の何ものでもない」と攻撃している。

 不毛な争いと言うほかない。

 民主党は昨秋、0増5減の先行処理にいったんは同意している。このまま何もせず、違憲状態を放置するというのでは、あまりにも無責任だ。

 野党は、まず緊急避難的な措置として0増5減の実現に協力する。その代わり、抜本改革について期限を切って具体的な検討スケジュールを示すよう与党側に求めてはどうか。

 衆院議長にあっせんをゆだねる道もあるだろう。

 互いに言いっぱなしの党首討論では情けない。歩み寄りに向け、各党の党首は指導力を発揮すべきだ。

大飯原発―司法の変化が見えない


「基準を満たしているか」ではなく、「どれだけ安全か」を追究し、問題があれば遠慮なくストップをかける。国内で原発事故を経験し、裁判所は変わるべきではないか。大阪地裁であった裁判は、そこを考える課題を残した。

 全国でここだけ運転している関西電力大飯原発3、4号機の停止を、周辺府県の住民が求めた仮処分の申請だった。

 大阪地裁は、2基の原発が国の今の基準を満たし、想定を上回る地震が起きても安全は保たれると判断し、求めを退けた。

 住民側からは「時代に逆行している」との批判が相次いだ。

 仮処分の審理は急ぐので、裁判所が住民と関電の主張を十分に聞いているわけではない。

 それを考慮しても、原発事故後の初めての司法判断としては、期待はずれとの思いがぬぐえない。

 住民側は、政府が決めた暫定的な安全基準は不十分だとし、原発周辺の三つの活断層が同時に動くなど、想定外の地震が起きれば重大事故につながる恐れがあると訴えた。

 これに対し地裁は、暫定基準は「現在の科学技術水準に照らして合理的」と評価した。3連動地震が起きる恐れがあることは認めたが、関電側が主張した安全機能が働き、原子炉を問題なく止められると述べた。

 政府が決めた基準を判断の根拠とし、それを満たしていれば安全とするのは、愛媛県の伊方原発をめぐる92年の最高裁判決以来の司法の主流だ。

 専門家がつくった基準の是非を判断するのが難しいという考え方が根底にある。

 ただ東京電力福島第一原発の事故は、時として科学の想定を超える災害が原発を襲い、甚大な被害をもたらす実例を突きつけた。暫定基準だけで原発を動かし続けていいのか。地裁はその判断に踏み込まなかった。

 一方、原子力規制委員会が活断層かどうかを調べている敷地内の断層については「地滑り跡の可能性が高い」と述べた。

 周辺で起きる津波の最大高さについても、安全限界を超えることはない、と判断した。

 どちらもいま議論になっている問題だ。現時点で安全と断言するのは勇み足ではないか。

 関電は近く、規制委の新規制基準に大飯が適合していると報告し、運転の継続を求める方針だ。ただ、基準が「100%の安全」を保証するものではないことは規制委も認めている。

 3・11後の司法には、住民の安全の視点にたって、積極的な役割を果たしてほしい。

党首討論 手詰まり感漂う海江田民主党


 株価の急上昇と高い支持率で余裕すら感じられた安倍首相と対照的に、民主党の海江田代表の追及は迫力を欠いた。

 これでは国会論戦に緊張感は生まれまい。

 第2次安倍内閣で初めての党首討論が行われた。

 海江田氏は、経済政策「アベノミクス」による大規模な金融緩和が物価高を招き、年金生活者らが困窮するという副作用があると指摘した。政府が検討中の規制緩和に伴う企業のリストラ拡大についても懸念を示した。

 首相は、物価が上がれば、年金額も連動して上がり、いずれ労働者の賃上げにも及ぶと強調した。「この3か月で4万人の雇用を作った。民主党政権が出来なかったことだ」と切り返した。

 安倍政権発足以来、超円高が是正され、株高も続いている。

 懸念を言い募るだけでは建設的な討論にならない。自分ならデフレ脱却や経済成長に向けてどんな手を打つのか、海江田氏は具体的な対策を提示すべきだろう。

 安倍首相は、先手を打つように、衆院小選挙区定数の「0増5減」を実現する区割り法案に言及した。「国民の声は『1票の格差是正を進めよ』だ。立法府の一員として応える責任がある」と、先行処理への協力を求めた。

 海江田氏は「定数削減が一番大きな約束だ」と主張したが、これは筋違いと言わざるを得ない。

 民主党は昨年11月に成立した0増5減の選挙制度改革法に賛成した。それに従った区割り法案を差し置き、抜本改革を唱えても与野党が合意できる状況ではない。

 民主党は0増5減では格差是正が不十分として議員定数を小選挙区で30、比例選で50削減する法案を国会に出したが、他の野党は同調していないではないか。

 民主、日本維新の会、みんな、生活、社民の野党5党は与党が区割り法案を特別委員会に付託したことに反発して17日、審議拒否した。こうした態度は党利党略を優先し、1票の格差是正をなおざりにする姿を印象づけるだけだ。

 党首討論で、維新の石原共同代表は憲法改正の必要性を力説し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では食品の安全性確保で米国に譲歩しないよう注文した。

 みんなの渡辺代表は、TPP交渉参加の決断を高く評価したうえで、公務員制度改革を促した。

 対決姿勢の民主党とはスタンスの違いがうかがえる。党首討論は、与党に対する野党の距離感も浮き彫りにしたと言えよう。

ボストン・テロ 市街地イベント警備の点検を


 日本人にもなじみの深い伝統ある米国のボストンマラソンを狙った無差別テロだ。多数の人々を死傷させた卑劣な凶悪犯罪は断じて許せない。

 スタートから約4時間後、ランナーが続々到着するゴール近くの沿道で2発の爆弾が連続して炸裂さくれつした。8歳の少年ら少なくとも3人が死亡、170人以上が重軽傷を負う惨事となった。

 レースには、200人を超す日本人ランナーら約2万3000人が参加し、家族や友人、市民ら大勢の人々が応援していた。

 オバマ米大統領は、「罪のない市民を標的にしたテロ行為だ」と非難し、犯人の逮捕と全容解明に全力を挙げる決意を表明した。

 米国では、2001年9月11日の同時テロ事件後、初めての爆破テロの発生だ。

 米国は同時テロ後、テロ対策の強化を最優先し、多くの事件を未然に防いできた。同時テロの首謀者も潜伏先を突き止め、殺害した。それだけに衝撃は大きい。

 テロがなお、現実の脅威として身近に存在していることを痛感させられたからだ。

 テロ組織による犯行なのか、単独犯なのか、犯人像は明らかになっていない。米当局は、物証や情報を手がかりに徹底的な捜査を行ってもらいたい。

 連邦捜査局(FBI)は、圧力鍋の中に爆薬を詰めた仕掛け爆弾が使用され、黒いナイロン製バックパックに入れられていたとの見方を強めている。

 同種の爆弾は、アフガニスタンやインド、パキスタンなどでテロ攻撃によく使われている。製造方法は簡単でも、クギなどの金属を混入するため殺傷力は高い。

 ボストンマラソンでは警備に万全を期していたとされる。だが、屋外の市街地イベントでは、手荷物検査や金属探知機での取り締まりを徹底するのは難しい。その警備態勢の脆弱さが突かれた。

 今回のテロは、大規模市民マラソンが定着した日本にとっても人ごとではない。2月の東京マラソンは、3万7000人が走る巨大イベントだった。沿道には170万人が詰めかけた。

 日本でも、マラソンに限らず大型イベントの警備でテロに特化した対策を講じる必要があろう。

 安倍首相は、「警察が重要施設の警戒警備や、人が多数集まる場所の警備対策の徹底にあたっている」と、安全の確保に最善を尽くす方針を示した。

 保安検査が厳しくなっても、テロ防止への協力は欠かせない。

2013年4月17日水曜日

患者の認定 水俣病の原点に戻ろう


 救済の原点に、立ち返れ。そう叱っているように読める。

 水俣病とは、魚介類にたまったメチル水銀を口にして起きる神経の病気で、客観的な事実で認定できる。水俣病の患者と認定するよう求めた訴訟で、最高裁が広く定義づけた。

 考えてみれば、当たり前の判断である。だが、行政の強い裁量権を求めてきた政府にとっては完敗の内容となった。

 手足の先を針でつついても痛くない。血がしたたり落ちるけがでも気づかない。熱いグラタン鍋でも平気でつかめる。

 そもそも、こうした深刻な感覚障害が水俣病の基本的な特徴だということに、医学上の合意があったはずだ。

 ところが、政府は1977年に出された認定基準をもとに、感覚障害と運動失調、視野が狭くなるなど複数の症状の組みあわせにこだわった。その結果、感覚障害のみが出る患者を水俣病と認めなかった。

 切り捨てられた軽度や中度の患者は、あいついで司法に訴えた。政府は急ごしらえで対策を立てた。95年、09年と2度にわたる政治決着もそれにあたる。

 彼らを水俣病患者ではなく、「被害者」と名づけ、低額の一時金を払ってしのいできた。

 こうした一種の分断政策が、患者同士や地域内での差別、対立を生み、さらに問題をこじらせた。長い歴史の中で、行政から水俣病患者だと認められない人々を「ニセ患者」だとみなす風潮さえ生まれた。

 水俣病の公式確認からまもなく57年になる。だが今も、潜在患者が続々と見つかる。

 自らの症状を隠し、あるいはそれがメチル水銀によるものであることを知らない人も多いからだ。

 政府は最高裁の考えを行政に生かす責務がある。

 水俣病とは何かを今度こそ見すえ、感覚障害がある人たちを「患者」と認定することから始めるべきだ。

 初期にみられた劇症型から、比較的軽度の感覚障害に限られる患者まで、症状の軽重はあっても、水俣に面する不知火海や新潟県阿賀野川の魚を食べたすべてのメチル水銀中毒患者を、同じく水俣病患者だと認める原則に戻る必要がある。

 最高裁の判決を知り、これから認定を求める人も急増しそうだ。重症患者だけを考えた現行の認定と補償金を支払う仕組みや医療制度を、より広い範囲の患者にあわせて組み立て直す必要も出てくる。

 混乱があっても、行政がためらっている場合ではない。

淡路島地震 教訓から高まる防災力


 18年前の、あの日を思い出した人も多かったのではないか。 先週末、兵庫県・淡路島で起きた地震だ。阪神大震災とほぼ同時刻の早朝、近畿では震災以来の震度6弱を観測した。島で多くの建物が壊れ、5府県の27人が負傷した。大震災より揺れの規模が小さかったこともあり、命を失う人はいなかった。

 大震災を経験した住民からは「教訓が生きた」との声が聞かれた。倒れやすい家具を寝室に置かずにけがを免れたり、復興住宅のお年寄りらが声をかけあって一緒に避難したりした。島内の自治体でも職員がすみやかに出勤し、対応にあたった。

 ただ、過去の体験をどう生かすかで、防災力が左右されることを忘れてはならない。大惨事には至らなかった今回の地震でも、教訓がたくさんある。

 政府の地震調査委員会は、阪神大震災を起こした活断層の南西側に潜んでいた未知の活断層が動いたとの見解を示した。広い意味で余震だという。心配されている南海トラフ地震との関連は不明だが、西日本は阪神大震災以降、地震の活動期に入っているとの見方もある。

 地震はいつどこで起きてもおかしくないことが、改めて身にしみた。より揺れが大きく、津波をともなう地震でしっかり対応できるのか。身の回りの備えを確認しておきたい。

 阪神大震災後に導入された新技術も今回の揺れで活用された。兵庫県が独自開発したシステムは地震発生7分後に「死者10人、避難者1万6778人」と予測し、県は淡路島に救援物資を運び込んだ。結果的に過大な予測だったが、災害時に「大きめに構える」のは緊急対応としてはむしろ必要なことだ。他の自治体も参考とすべきだ。

 一方、10万人が登録している大阪府の防災情報メールは、地震発生後に配信されなかった。気象庁から届く電文の書式が変更されており、システムが読み取りエラーを起こした。

 情報技術を活用したシステムは専門度が高く、メーカー任せの自治体も多い。緊急時にシステムが効果を発揮できるよう、自治体は日頃から演習などを徹底しなければならない。

 関西では朝から電車が長時間止まり、130万人以上が影響を受けた。平日の夕方に地震が直撃していたら多くの帰宅困難者が生じた恐れがあった。

 企業に食糧備蓄などを求めた条例を今月施行した東京都に比べ、関西圏の帰宅困難者対策は緒についたばかりだ。他の多くの自治体でも同様であり、具体策を急いでほしい。

憲法96条改正 首相は参院選へ議論主導せよ


 現憲法は制定以来一度も改正されていない。

 安倍首相は憲法改正のハードルを下げることを有権者に問おうとしている。日本と国際社会の変化に対応できる憲法にするための積極的な姿勢は評価できる。

 首相は読売新聞のインタビューで、改正の発議要件を定めた96条について「参院選の中心的な公約として訴えたい」と語った。

 96条は、衆参各院の「3分の2以上」の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を得なければならないと規定している。

 自民党は改正を発議しやすくする目的で、「3分の2以上」を「過半数」とする方針だ。

 首相は既に日本維新の会の橋下共同代表と会談し、この点で一致した。他党も賛同する96条の見直しから憲法改正への道を開こうという考え方は現実的だ。

 首相にとって憲法改正の実現を図るうえでの懸案は、公明党との調整だ。公明党は96条改正について、「熟度が足りない」と依然慎重な構えを見せている。

 ただ、自公両党は党首会談を定期化し、協議を重ねるという。公明党内で、憲法改正への議論が深まることを期待したい。

 民主党は、96条よりも改正の具体的な中身の議論が必要との見解を示しているが、中身の議論が求められるのは、むしろ民主党の方ではないか。自民党は既に、9条に自衛隊の存在を書き込むなど憲法改正の草案をまとめている。

 96条の改正には反論もあろう。国民投票はないものの、米国やドイツは議会の「3分の2以上」の賛成などを改正の条件としているからだ。そうした国々が何度も憲法を改正してきたのに、日本はなぜそれができなかったのか。

 戦後、非武装・中立を掲げる社会党などが一定の勢力を占め、憲法を改正すれば軍国主義が復活すると喧伝した。自民党も経済優先路線を推し進めて、憲法改正に積極的に取り組まなくなった。

 選挙制度も足かせだった。中選挙区制時代から衆参そろって政権与党が「3分の2以上」を確保できた例はない。現行制度も、衆参いずれも小政党に配慮した比例代表選を一部導入しており、昨年末の衆院選までは難しかった。

 7月の参院選は、結果次第で初めて憲法改正が可能な状況が生まれよう。日本の針路にもかかわる、極めて重要な選挙となる。

 憲法の論点は96条をはじめ、前文、安全保障、二院制、地方自治、環境権など幅広い。各党は積極的に論戦を展開すべきである。

水俣病認定判決 争いの終結はなお見えない


 国の基準では水俣病と認められなかった被害者について、最高裁は「水俣病患者」と認める判断を示した。

 行政と司法で認定の尺度が異なる二重基準の状態が続くことになるだろう。被害者の高齢化が進む中、水俣病を巡る争いに収束の糸口が見えない深刻な事態である。

 認定業務を行っている熊本県から水俣病と認められなかった女性2人の遺族が、それぞれ患者認定を求めていた。

 うち1人について、最高裁は、水俣病だと認定した福岡高裁の判断を支持した。もう1人の原告については、水俣病と認めなかった大阪高裁判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。

 注目すべきは、最高裁が水俣病の認定に関し、「多角的、総合的な見地からの検討が求められる」と指摘した点だ。厳格過ぎると言われる国の認定基準を念頭に置いてのことだろう。

 1977年に設けられた国の基準は、水俣病と認定するには、感覚障害や運動失調、視野狭窄など、複数の症状の組み合わせを一つの条件としている。

 これに対し、最高裁は「組み合わせが認められない場合でも、個別具体的な判断により認定する余地を排除するものとはいえない」との見解を示した。

 司法として、各被害者の症状や居住歴などを検討し、行政よりも柔軟に水俣病と認定する姿勢を明確に示したと言えよう。

 ただ、判決は新たな混乱を招く可能性がある。より多額の補償を求め、司法に水俣病患者と認定してもらおうという訴訟が相次ぐことも予想されるからだ。

 水俣病の認定患者に対しては、原因企業のチッソから1600万~1800万円の補償金などが支払われるが、認定されたのは約3000人にとどまる。

 認定されなかった被害者を対象に95年、260万円の一時金などを支払う政治決着が図られた。

 2009年には、救済の枠から漏れていた被害者に210万円の一時金などを払う水俣病被害者救済法が成立した。

 これに基づき約6万5000人が救済を申請したが、内容に不満を抱く被害者は少なくない。判決を受け、被害者対策を進める環境省は難しい対応を迫られよう。

 これまでの救済策は、被害者の線引きを進め、不公平感を招いた。被害者を幅広く、迅速に救済することが、いかに大切だったか。水俣病問題の教訓である。

2013年4月16日火曜日

北朝鮮問題―米中は連携を深めよ


 米国のケリー国務長官が、きのうまで韓国、中国、日本を訪れた。2月の就任後初の東アジア歴訪は、出口の見えない北朝鮮情勢が主題になった。

 北朝鮮を核保有国とは決して認めず、朝鮮半島の非核化の目標をめざし続ける姿勢で各国と一致。韓国と日本には、北朝鮮から攻撃があれば防衛の義務を果たす意思を確認した。

 一方、北朝鮮に向けては、韓国とともに対話の用意も示した。金正恩(キムジョンウン)第1書記が振り上げた拳をおろしやすいよう、融和の誘い水を送った形だ。

 米国としては、同盟関係にある韓国と日本が過剰な反応に走らないよう自制を促す意味もあった。

 その点も含め、日米韓が足並みを整えたことは意義があったといえよう。

 今回、とりわけ注目されたのが北朝鮮に影響力を持つとされる中国で、習近平(シーチンピン)国家主席らと会談したことだ。

 「アジア重視」の対外政策を掲げるオバマ政権にとって、中国の動向は重大な関心事だ。北朝鮮問題は、習体制とどこまで協調できるかを占う試金石でもある。

 習主席らとの会談で、長官は中国が北朝鮮への説得を強めるよう求めたものとみられる。

 会談後、長官は「中国は北朝鮮と意思疎通していることが確認できた。中国が朝鮮半島の非核化に真剣なのは疑う余地がない」と語った。

 米中ともに朝鮮半島の不安定化を望まないにもかかわらず、これまで互いに疑心暗鬼という面があったことは否めない。

 中国から見れば、米国が北朝鮮問題を口実に、軍事演習やミサイル防衛網の強化で日韓などと「対中包囲網」づくりに動いていると映る。

 かたや米国にすれば、中国は本気で北朝鮮を制御していないという不信感があった。

 今回の会談で、こうしたわだかまりが一気に解けたとは思えない。とはいえ、中国以外に北朝鮮の暴走を止められる国はなく、その中国の背中を押せるのは米国しかない。朝鮮半島の安定のためには米中の協調が不可欠だ。

 北朝鮮がこれ以上、挑発行為を繰り返さないよう、この問題で米中が連携を強化することを期待したい。

 ケリー長官は1月の米上院で、米国のアジア政策は中国から包囲網とみられないような「思慮深さ」が必要と唱えた。

 北朝鮮をどう動かすか。新たな段階に入った米中の連携がカギを握る。

維新の敗北―大阪越え、いまだ遠し


 日本維新の会にとって、大阪府の外で支持を広げるには、乗り越えるべき壁はまだ厚い。その現実が、くっきりと見えた選挙結果となった。

 維新が、府外で初めて首長選にのぞんだ兵庫県伊丹・宝塚両市の市長選で、公認候補がいずれも現職に大敗した。

 大阪府市のダブル選を制し、昨年の衆院選でも府内の小選挙区で全議席の3分の2を獲得した。夏の参院選に向けて勢いをつける狙いが、裏目に出た。

 「大阪の改革を全国へ広げる」が維新の合言葉だが、ほど遠い状況だ。原因は何か。

 維新の幹部は「橋下徹代表の名前だけでは勝てないという課題が浮き彫りになった」と話した。橋下氏も「大阪で多くの議席を得たのは、大阪できちっと活動をしていたから」としたうえで、他府県ではそういう活動がないことにふれ、「基礎的な政治活動がなければ、簡単に有権者の皆さんは応援してくださらない」と述べている。

 その通りだと思う。自治体財政が危機に陥る中、既得権益とつながる行政のむだをなくし、国と地方の役割も根本から考え直す――こうした結党の原点や実績が、太陽の党と組んで国政進出したせいで、改憲論やタカ派的な主張にばかり注目が集まり、見えにくくなっている。

 足元の大阪での改革に立ち戻り、その成果と問題提起を全国に発信する。維新が地方主義の本懐をとげるには、そうした試みが最優先課題だろう。

 その際、維新が描く自治体の未来像の「負の部分」に対する丁寧な説明も求められる。

 伊丹市では、橋下氏が大阪府知事時代に打ち出した、地元の大阪空港廃止論を現職が争点化し、廃港による経済の停滞を懸念する住民の支持を集めた。宝塚市の現職は、維新の大阪都構想の結果、ふるさとが大阪に吸収されかねないと訴えた。「私たちの歴史や文化が壊される」との演説に拍手がわいた。

 改革のために強い広域自治体をつくり、都市の競争力を強める――この維新の主張を具体化すると、明日の暮らしや、積み上げてきた地元の文化が損なわれるのではないか。そんな不安を多くの人が抱いている。

 橋下氏はたびたび、強い言葉で仮想敵をつくり、人々の耳目を集めることで支持を広げてきた。だが、こうしたやり方は一時の喝采をもたらしても、広く深い共感を生み出せない。

 暮らしの未来を丁寧に語る努力が足りないままでは、維新の大阪越えの道はますます険しくなることだろう。

ケリー長官来日 対中朝で日米連携を強化せよ


 北朝鮮の瀬戸際戦術や中国の威圧的な外交に効果的に対応するには、日米両国が連携を一段と強化することが重要だ。

 ケリー米国務長官が来日し、安倍首相、岸田外相と個別に会談した。北朝鮮に弾道ミサイルの発射の自制を求めるとともに、北朝鮮の核保有を容認せず、非核化に向けた具体的な行動を促す方針で一致した。

 意図的に危機を高めたうえ、交渉を通じて経済支援を得ようとするのは北朝鮮の常套じょうとう手段だ。「北朝鮮が挑発行為を繰り返しても、何ら利益にならないことを理解させることが必要だ」との安倍首相の指摘は適切である。

 日米両国は、ミサイル防衛など軍事的な備えを怠らない一方、恫喝どうかつには過剰に反応せず、対北朝鮮制裁措置を着実に実施するなど、冷静かつ断固たる対応を継続しなければなるまい。

 北朝鮮に一定の影響力を持つ中国が前向きな責任を果たすよう、働きかけることも大切だ。

 ケリー長官は講演で、「米国は実現性のある真剣な非核化交渉の用意がある」と強調した。

 北朝鮮に核開発を断念させるのは簡単でないが、国際社会は追求し続けるべきだ。北朝鮮がいずれ6か国協議の再開などの対話路線に戻ることもあるだろう。

 その際、北朝鮮の具体的行動がないままでの経済支援は禁物だ。北朝鮮の威嚇外交を奏功させないよう、日米中韓4か国が慎重に政策をすり合わせる必要がある。

 ケリー長官は日米外相会談で、尖閣諸島について「一方的、強制的に現状を変えるような行動に反対する」と明言した。

 1月のクリントン前長官の発言と同様、日本の実効支配を中国が実力で変更することを明確に否定した意義は大きい。日本側の事前調整の成果と言える。

 強引な公船の派遣などで領有権や海洋権益の拡大を図る中国の手法を通用させてはならない。中国に国際法とルールを順守させることが国際社会にとって共通の課題であると、日本は粘り強く訴えていくことが重要である。

 ケリー長官の2月の就任以来3回目となった日米外相会談では、普天間飛行場の辺野古移設、在沖縄海兵隊のグアム移転など在日米軍再編や、日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加を着実に進めることも確認した。

 北朝鮮、中国政策での日米協調を高めるためにも、頻繁な対話を通じて、日米間の課題を前進させることが求められる。

教育委員会改革 機能の立て直しをどう図るか


 安倍首相直属の教育再生実行会議が、教育委員会制度の抜本的な改革を求める第2次提言をまとめ、首相に提出した。

 提言は、自治体の首長が議会の同意を得て任命する教育長を、教育行政の責任者として明確に位置づけた。首長には教育長の罷免権も付与した。

 首長から独立し、有識者など複数の教育委員の合議で意思決定を行ってきた現行の教委制度の転換を図る内容と言える。

 大津市のいじめ自殺事件などの対応を巡り、各地で教委の機能不全が露呈している。政府は提言内容について、中央教育審議会でさらに検討を重ねる方針だ。

 地方の教育行政の立て直しにつなげてもらいたい。

 現行制度では、教育委員会の中に、代表者である教育委員長と、実務を統括する教育長が併存しており、責任の所在があいまいだとの批判がある。

 教育長以外の委員は非常勤で、会議も月に数回程度しか開かれない。このため、審議が形骸化し、いじめや体罰など重大事案が起きた際、迅速な対応がとれないという弊害も顕在化していた。

 教育長に責任と権限を一元化することで、こうした問題点を是正し、教育行政の機動性を高めようとする狙いは理解できる。

 新たな教育長には、教職員人事や教科書採択などの権限が集中することが想定される。教育長が偏った方針の下で暴走しないよう、その業務をチェックする仕組みが不可欠だ。

 提言が、教育委員会を廃止せずに存続させたのは、まさにそのためである。教育長が基本方針などを決める際には、教委で審議することを求めている。

 新たな教育委員会が教育行政に対する監視機能を果たすには、委員の任命方法も重要となる。

 首長が教育長の任免権を持つことにより、教育行政の政治的中立性が十分に確保できるかという問題もある。従来に比べ、首長の意向がより強く反映されるようになるのは間違いない。

 首長が自らの政治的信条に合致しているというだけの理由で、教育行政の見識に欠ける人物を教育長に据えるといった事態は生じないだろうか。

 首長が選挙で代わるごとに、教育の目標や方針が大きく変更されるようになれば、学校現場の混乱は避けられまい。

 教育委員会の在り方は変わっても、教育行政の安定性や継続性を保つことが肝要である。

2013年4月15日月曜日

4・28記念式典 「主権」の大切さ考える日に


 ◆沖縄の苦難も分かち合いたい◆

 昭和の戦争に敗れた日本が独立国として国際社会に復帰したのは、サンフランシスコ講和条約が発効した1952年4月28日である。

 連合国による約6年8か月の占領から解放された。

 政府は先の閣議で、主権回復と国際社会復帰を記念する式典を今月28日に初めて主催することを決定した。憲政記念館に天皇、皇后両陛下をお迎えし、安倍首相はじめ各界の代表者が出席する。

 歴史を振り返りつつ、主権国家と平和の持つ意味を改めて考える機会としたい。

 ◆「言論の自由」にも制約◆

 講和条約第1条に明記されているように、日本と連合国の国際法上の戦争状態は、この日に終了した。真の意味での「終戦の日」と位置付けることが出来よう。

 戦後の民主化と言えば、47年5月3日の新憲法施行と同時に「国民主権」や「言論の自由」が確立されたと考えられがちだ。

 しかし、占領期の米国主体の連合国軍総司令部(GHQ)の指令は絶対的なものだった。

 憲法がGHQ主導で制定されたことへの批判は封じられた。施行直後も第1次吉田内閣の石橋湛山蔵相ら3閣僚がGHQの意に沿わず、公職追放されている。

 検閲の対象は、占領政策への批判から国際情勢への言及まで多岐にわたった。米兵が事件を起こしても「大男」などと婉曲えんきょくな表現で報道せざるを得なかった。

 原爆が投下された直後の広島、長崎の写真が国民に開示されたのは、占領終了後だった。

 政府主催の全国戦没者追悼式は独立回復直後の52年5月2日になって初めて実施された。

 主権を喪失していたあの時代の記憶は日本人の間で脳裏から次第に薄れてきている。

 日本がなぜ、主権、独立を失ったのか、戦前の歴史も含めて問い直すことが大切なのである。

 ◆分離された沖縄の20年◆

 政府主催の記念式典に、沖縄では批判の声が上がっている。

 61年前の4月28日、沖縄は奄美群島(鹿児島県)、小笠原諸島(東京都)と共に日本から分離され、米軍施政下に置かれたからだ。

 土地の強制収用が進められ、米軍基地が次々と建設された。60年代に入って祖国復帰運動が急速に盛り上がる中で、沖縄の人々は4月28日を「屈辱の日」とさえ呼ぶようになった。

 奄美群島は53年、小笠原諸島は68年にそれぞれ返還された。沖縄が祖国復帰を果たすのは、日本の独立から20年後の72年だった。

 昨年4月28日、自民党などが党本部で開いた主権回復記念日国民集会には、沖縄県元副知事の嘉数昇明氏が来賓として招かれた。

 嘉数氏は、戦場から被占領地になった沖縄の苦難の歴史を語り、「喜びも悲しみも共に分かち合う日本でありたい」「4・28はその覚悟を新たにする日であってほしい」と訴えていた。

 ◆「お祝いの日」ではなく◆

 自民党が先の衆院選公約に政府主催で「主権回復の日」を祝う式典を開くとしたことも物議を醸した。沖縄県の仲井真弘多知事は、式典をめぐって「お祝いであるとすれば、出席しにくい」と慎重な姿勢を示している。

 沖縄県民の複雑な思いへの理解なしに式典は成り立たない。

 安倍首相が政府主催の式典について、「奄美、小笠原、沖縄を含めた我が国の未来を切り開いていく決意を新たにしていく」と意義付けたのも、こうした沖縄の声を踏まえてのことだろう。

 日本を取り巻く環境は厳しい。統治権は日々脅かされている。

 沖縄県の尖閣諸島周辺では、尖閣の領有権を主張するようになった中国が、監視船を送り込んで領海侵犯を繰り返している。

 島根県・竹島は韓国の不法占拠下にある。サンフランシスコ講和条約では、日本が放棄すべき地域から除外されていたが、韓国が条約発効直前、一方的に李承晩ラインを設定し、領有を宣言した。

 北方領土は1956年の日ソ国交回復から56年を経た現在、ロシアの実効支配が強まっている。

 横田めぐみさんらが北朝鮮の工作員に拉致されて主権が侵害された問題も、今なお続いている。

 これらの懸案が解決されないのは、国全体で主権に対する意識が希薄だからではないだろうか。

 日本は今、世界で最も豊かな国の一つだ。責任ある主権国家として、平和と繁栄、自由を維持する努力を続けねばならない。

 日本人が主権に対する認識を深め、新たにもする。主権回復の記念式典をその契機としたい。

2013年4月14日日曜日

消費増税転嫁―対策の本質を見誤るな


 来春からの消費増税を控え、増税分をモノやサービスの価格に転嫁(上乗せ)していくための特別措置法案をめぐり、国会で審議が始まった。

 法案には、小売業者などによる消費者への宣伝で、増税分について「還元する」「当店が負担する」といったPRを禁止する規定が盛り込まれた。

 これに大手小売りが反発し、論議を呼んでいる。

 消費増税は、増え続ける社会保障費をまかなうため、国民全体で負担を分かち合うのが趣旨だ。増税分は適正に転嫁することが求められる。

 とはいえ、民間業者の宣伝文句まで法律でしばるのは行き過ぎだろう。突き詰めれば、表現の自由にも関わる。

 政府がこの規定を設けたのは主に二つの理由からという。

 一つは、消費者の誤解を招かないためという点だ。消費税を納めるのは取引にかかわる個々の業者だが、消費税分は業者間で次々と転嫁していく。実際に負担するのは「最後の買い手」である消費者だ。

 「還元」などの宣伝では、この仕組みの例外であるかのように受け止められると、政府は懸念する。

 もう一つは、業者間の取引、とりわけ大企業が中小事業者から商品を仕入れる際に、転嫁拒否や安値での買いたたきのきっかけになりやすい、との警戒感だ。消費税率が3%から5%にあがった際には、スーパーなどが「消費税還元セール」を展開し、転嫁が浸透しなかった、という問題意識がある。

 だが、政府がとる対策は、あくまで王道を行くべきだ。

 まず、消費税の仕組みや税収の使い道などを国民に繰り返し説明し、「皆で負担し、支え合う」という趣旨を理解してもらう必要がある。

 大手による買いたたきを防ぐには、公正取引委員会を中心に監視の目を徹底することだ。特措法案は、政府をあげて態勢を整えるとうたっている。省庁間でしっかり連携してほしい。

 大手小売りをはじめ、民間業者にも注文がある。

 企業努力によって本体価格を下げれば、増税分を転嫁しても税込み価格の据え置きや引き下げは可能だ。そうした競争は当然だろう。

 ただ、その原資を確保しようと、人件費を削ったり、取引先に安値での納入を強要したりするようでは、日本経済のデフレ体質を強めるだけだ。

 自らの体力をすり減らすのではなく、売り上げ増への創意工夫をこそ競ってほしい。

米軍と憲法―最高裁長官は何をした


 戦争の放棄を定める憲法9条のもとでも米軍が駐留できる。その解釈を与えた最高裁の判決の裏に、何があったのか。

 半世紀前の1957年。米軍旧立川基地の拡張に反対する学生ら7人が基地内に入り、日米安保条約にもとづく刑事特別法違反に問われた。「砂川事件」である。

 東京地裁は59年3月に、米軍駐留は憲法9条に違反するとして7人に無罪を言い渡した。

 判決が確定すれば、米軍を取り巻く状況は一変する。審理は高裁をとばして最高裁にまわった。交渉中の安保条約改定を前にこの裁判はいつ、どう決着するか。日米両政府は注視した。

 このときの駐日米大使マッカーサー2世から米政府にあてた公電を米公文書館が公開した。

 当時の田中耕太郎最高裁長官と大使ら米外交官との、非公式なやりとりを伝えている。

 公電によると長官は、米側に判決の時期と、世論を割りかねない少数意見を避け、15判事の全員一致で判決したいという考えなどを伝えたという。

 憲法上の争点を地裁判事が判断したのは不適切だった、との発言も引用されている。米大使は自らの印象として「長官は地裁判決は覆されるだろうと思っている」と記した。

 その言葉どおり、最高裁は12月に地裁判決を全員一致で覆した。翌日の公電は「全員一致の判決は、裁判長の手腕と政治力に負うところがすこぶる大きい」と長官をたたえた。

 忘れてはいけないのが、この最高裁判決の重みだ。

 日米安保条約のような高度に政治的な問題に司法判断を下さないという「統治行為論」を示し、その後の在日米軍がからむ訴訟で用いられ、いまも拘束力をもち続けている。

 外交公電がつねに正しいとは限らない。発した側の外交官に都合のよい記載になっていると疑われる場合もある。

 だが一国の司法の長が裁判の利害関係者と会い、判決の行方をほのめかしたという記録は、放っておけない。

 司法の独立は守られたか。

 評議は適切に行われたのか。

 田中長官は74年に亡くなっている。それでも、当時の行動や発言の記録の開示を、市民団体が最高裁に求めている。もっともな要請だ。

 すでに公開された公文書は、上訴や立証の方法に至るまで、外務省と米側が密接にやりとりしていたことも伝える。

 戦後史をつらぬく司法の正統性の問題だ。最高裁と政府は疑念にこたえなくてはならない。

衆院選挙制度 「格差」と定数削減は別問題だ


 与野党は、「違憲」状態の解消を最優先し、法案の速やかな成立を図るべきである。

 政府が、衆院小選挙区定数の「0増5減」を実現する区割り法案(公職選挙法改正案)を衆院に提出した。

 法案は、衆院選挙区画定審議会が3月に安倍首相に勧告した区割り改定案に基づき、17都県42選挙区を見直すものだ。2010年国勢調査に基づく「1票の格差」は、最高裁が「合理的」と判断する2倍未満に縮小される。

 先の衆院選での「1票の格差」を巡る行政訴訟17件のうち、各高裁は15件の「違憲」判断を示した。一連の訴訟について、最高裁は今秋にも判決を出すとみられる。

 国会の姿勢としても、違憲状態の是正を図るのが筋だろう。

 ところが、民主党など大半の野党は、法案に反対する構えだ。

 最高裁は、各都道府県にまず1議席を割り振る「1人別枠方式」が格差の主因だとし、廃止を求めたが、今回の法案には別枠方式が残っているからだという。

 民主党の細野幹事長は、「0増5減では、違憲状態の解消には不十分だ」と述べ、大幅な定数削減を含む抜本改革に向けた与野党協議を求めている。

 だが、民主党は昨年11月、0増5減の大枠を決めた選挙制度改革法には賛成したはずだ。ご都合主義ではないか。

 抜本改革に関する各党の主張の隔たりは大きい。合意形成が困難である以上、0増5減の区割り法案を早期に成立させることが立法府の最低限の責務だ。

 そもそも、多くの政党が定数削減と絡めた改革案を唱えていること自体がおかしい。民主党は消費増税で国民に負担を求めるため、国会議員の身を切る必要があると言うが、「1票の格差」是正とは次元の異なる問題である。

 定数の削減数を競うような議論は疑問だ。参院選を前に国民受けを狙ったポピュリズム(大衆迎合主義)そのものではないか。

 日本の国会議員の定数は、他の先進国と比較すると、人口比ではかなり少ない。様々な民意を幅広くすくい上げ、適切な行政監視機能を確保する必要もある。

 与党内では、野党との合意がまとまらずに参院で法案が否決、あるいは採決されない場合、憲法59条に基づいて衆院で再可決し、成立させる案が浮上している。

 6月の会期末まで、時間は限られている。これ以上、「違憲」は放置できない。緊急措置としての再可決もやむを得ないだろう。

インフル特措法 「新型」流行への備えを万全に


 従来にないタイプのウイルスが大流行を引き起こす新型インフルエンザの発生に備え、特別措置法が施行された。

 新法を踏まえ、政府や自治体は流行防止への体制整備に万全を期すべきだ。

 新型インフルエンザは、鳥や豚の体内にあるウイルスが突然変異し、人から人へ感染しやすくなったものだ。免疫を持つ人がいないため、爆発的に流行し、多くの死者が出る恐れもある。

 中国の上海周辺や北京で鳥インフルエンザウイルスの人への感染が問題となっているが、人同士の感染は確認されていない。現時点では、新法が規定している新型インフルエンザには該当しない。

 しかし、警戒は怠れない。早期に体制を整えるため、政府が前倒しで特措法を施行したのは、適切な判断と言えよう。

 2009年に新型インフルエンザが流行した際、集客イベントの開催などを巡って県や市町村の対応が異なり、混乱が生じた。

 特措法は、こうした教訓から制定された。政府や自治体に行動計画の策定を義務付けた。新型インフルエンザの発生で大きな被害が予測される場合には、首相が緊急事態を宣言し、行動計画に基づく対策が講じられる。

 ポイントとなるのが、知事の権限で学校や幼稚園を休校・休園にすることだ。劇場や博物館、百貨店などに対しても、営業制限や一時休業を指示できる。従わない場合は、施設名を公表する。

 1か所に多くの人が集まると、感染が広がりやすい。経済活動が制約されることになるが、やむを得ない措置だろう。

 だが、長期化すれば企業経営や景気などに影響が出る。制限は必要最小限にとどめるべきだ。そのためには、ウイルスの毒性の強さなどを正確に把握し、危険性を見極めることが重要になる。

 医薬品や食品などの安定供給のため、国や自治体は、業者から物資を強制的に供出させることもできる。大地震などの災害時にも応用できる措置と言えよう。

 特措法は、効率的なワクチン接種も求めている。医療関係者や鉄道、電気、ガス事業などの従事者に優先接種する。社会活動を維持するためには、必要な対策だ。

 ただ、ワクチンは、発症や重症化の割合を減らすものの、感染自体を防ぐことはできない。

 手洗いを励行する。症状の兆しがあれば外出を控える。政府が感染防止の注意点を国民に周知することが、まずは大切である。

2013年4月13日土曜日

TPP交渉―意義と原則を見失うな


 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で、交渉を主導する米国との事前協議が終わり、米政府は日本の参加を支援すると表明した。

 日本政府は、豪州などからの同意取り付けを急ぐ。それを待って米政府は国内手続きを進める。日本が加わればTPPの交渉参加国は12カ国となり、国内総生産(GDP)の合計は世界の約4割を占める。

 日本にとって、なぜTPP交渉への参加が必要か。

 世界経済の先導役となっているのが、アジア太平洋地域だからだ。そこにしっかりとした自由貿易圏を築き、活力を取り込んでいくことは、日本経済の立て直しに欠かせない。

 将来の「アジア太平洋自由貿易圏」へのルートは、3月に交渉が始まった日中韓の自由貿易協定や、5月にもスタートする東アジア全体の枠組みもある。カギを握るのは、世界2位の経済大国になった中国だ。

 貿易や投資をめぐって不透明さが色濃く残る中国に、どう改革を促し、さらなる自由化へと巻き込んでいくか。

 中国が、日米がそろうTPPに神経をとがらせ、東アジアでの交渉に積極的になったことも考えれば、TPPを核に他の交渉を動かしていくことが有力な解になる。その意義と効果は経済面にとどまらず、政治・外交面にも及ぶ。

 米国とは、日本の交渉参加が決まった後、全体会合と並行して2国間で協議を重ねる。規制の透明性や基準、税制を中心とする自動車分野と、保険や知的財産権など9分野の非関税障壁のあり方がテーマだ。

 日本政府には、不透明で理不尽な合意をしないよう、クギをさしておきたい。

 米国とはすでに、米国が日本車にかける関税の撤廃を「最大限後ろ倒しする」ことなどで合意した。日本がコメなど高関税で守っている農産品への配慮を求めたことの裏返しだが、「聖域」にこだわるあまり、早くも米国ペースになっている。

 「高い水準の自由化」というTPPの旗印に背くような合意をしたり、国民の安全にかかわる規制をいたずらに緩和したりしては、TPPへの疑念を広げる。大事なのは、国民全体にとっての利益である。

 通商交渉の意義と原則を踏まえ、個々の問題で柔軟に対応する。そうして日本のメリットを大きくしつつ、影響を受ける国内の各分野では競争力を高める改革に取り組む。

 いよいよ、政府の力量が問われる局面を迎える。

スーチー氏来日―民主化を促す支援こそ


 ミャンマーの野党・国民民主連盟(NLD)の党首アウンサンスーチー氏がきょう、外務省の招待で27年ぶりに来日する。

 在日ミャンマー人や、民主化を支援してきた人たちと会うほか、皇太子さまや安倍首相との面談も予定されている。

 軍事政権に計15年間も自宅軟禁されながら、獄中の同志とともに民主化を訴え続けた。その不屈の闘いに敬意を表したい。

 軟禁解除から2年5カ月。外出や発言は自由になり、すでに欧米や韓国などを訪れた。民主化の象徴として、どこでも大きな注目を集めてきた。

 一方で、1年前に下院補選で当選して以降、政治家として困難な現実に直面し、批判も聞かれるようになった。

 野党議員としての限界はあるにせよ、少数民族問題への消極的な対応が当事者や人権団体の失望を招いている。

 政府と地元住民が対立する銅山開発では、議会の調査委員長として「事業継続」の報告書を出し、現地で怒号を浴びた。

 国軍幹部と並んで式典に出席したり、「軍が好きだ」と発言したりして、政府や軍に取り込まれたとの非難もある。

 最近は、改革をさらに進めるため、大統領就任への意欲をみせている。そのためには、大統領には軍の知識が必要などと規定する憲法の改正が不可欠だ。

 軍出身者が中枢を占める政府、議会に働きかけて改正するしか道はないのだから、ある程度の妥協はやむをえないと理解を示す人々はいる。

 とはいえ、ノーベル平和賞を受賞したスーチー氏には人権の守護神であってほしいとの内外の期待は強い。

 そのはざまで難しい立場にあることは確かだ。

 「民政移管」はしたが、イスラム教徒と多数派の仏教徒の騒乱が各地で勃発するなど、国造りの基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。

 国民融和にはスーチー氏のカリスマ性が欠かせない。幹部の高齢化が著しいNLDの組織を立て直し、国民への発信力も強めなければならない。

 2年前に現政権が発足して以来、日本はミャンマーを「アジア最後のフロンティア」として、工業団地の整備を進め、企業進出を競っている。

 忘れてならないのは、軍政時代、日本の政財官界は、欧米と比べて民主化勢力への支援に消極的だったことだ。

 自由と民主主義の「価値観外交」を掲げる安倍政権である。

 国民の生活レベルを高め、民主化を後押しする支援に知恵をしぼるべきだろう。

日米協議決着 TPP交渉の勝負はこれから


 出遅れによる不利な立場をいかに巻き返すか。政府は総力を挙げて交渉に臨まねばならない。

 日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に向け、最大のハードルだった米国との事前協議が決着した。

 米国政府は議会に日本の参加を通知し、90日間の手続きを経て今夏に承認が得られそうだ。

 11か国が進めているTPP交渉に日本が参加するには、すべての国の同意が必要である。

 態度を保留していたカナダ、豪州、ニュージーランドも近く、同意するとみられ、日本が参加できる条件がようやく整う。7月にも日本が交渉のテーブルに着くめどがついたことを歓迎したい。

 日米合意は、米国が日本から輸入する乗用車とトラックにかけている関税率の引き下げと撤廃時期を「最大限に後ろ倒しする」ことがポイントだ。輸入増を警戒する米自動車業界に配慮した。

 日本郵政グループ傘下のかんぽ生命保険による新規事業は凍結する。政府出資が残る日本郵政の業務拡大は「公正な競争を阻害する」という、米保険業界の主張に沿った決着と言える。

 米議会では、自動車や保険業界などと連携して日本参加を牽制する動きが出ていた。日本政府が早期参加の実現を最優先し、米側に譲歩したのはやむを得ない。

 11か国はTPP交渉の年内妥結を目指している。残された時間は少なく、日本の参加が遅れれば遅れるほど、通商ルール作りに関与できる余地が狭まるからだ。

 一方、事前協議で「日本には一定の農産品といった慎重に扱うべき事柄がある」とも確認した。

 自民党はコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の例外扱いとするよう政府に求めている。各国からの自由化圧力は強く、米国との合意をテコに日本の主張がどこまで認められるかが焦点となろう。

 自動車の関税引き下げ先送りを日本に求める動きが豪州などに広がり、輸出拡大にマイナスとなることにも要注意である。

 安倍首相は12日の関係閣僚会議で、「国益を実現する本当の勝負はこれからだ。一日も早く交渉に参加し、交渉を主導していきたい」との決意を明らかにした。

 政府は、したたかな戦略で交渉に当たってもらいたい。なにより大事なのは、自由貿易の拡大でアジアなどの活力を取り込み、日本の成長に弾みを付けることだ。

 交渉と並行して、一段の市場開放による国際競争に備え、農業強化策を急ぐ必要がある。

「北」瀬戸際外交 予測不能な言動に警戒強めよ


 核戦力強化を図る北朝鮮に、日本を含めた国際社会は足並みをそろえて厳しく対処せねばならない。弾道ミサイルを実際に発射すれば、制裁強化で応じる必要がある。

 主要8か国(G8)外相会議は北朝鮮に挑発行為の自制を求める声明を採択し、ミサイル発射なら制裁を強化することで一致した。北朝鮮を強く牽制したものだ。

 国際社会には、核武装化を阻止するため、実効性ある対策をどう講じるかが問われている。

 北朝鮮は、日本、米国、韓国を名指しして先制核攻撃の対象だと威嚇し、核施設の再稼働を宣言した。弾道ミサイルの発射準備と見られる動きも続いている。

 米グアム島や、日本、韓国を狙える複数のミサイルを、移動式発射台から撃つ可能性がある。

 日本への飛来、落下に備え、ミサイル防衛(MD)システムで迎撃するため、小野寺防衛相は自衛隊に破壊措置命令を出した。政府は、万全を期してもらいたい。

 北朝鮮は、威嚇的な言動を繰り返し、世界の平和と安全を脅かす核武装化を進めようとしている。到底看過できない。

 安倍首相が言う通り、「許し難いレベルと言ってもよい挑発的な言動」の連続だ。オバマ米大統領が、好戦的な姿勢を改めなければ「必要なあらゆる措置をとる」と強い態度を示したのは当然だ。

 ケリー米国務長官が開始した韓国、中国、日本の歴訪は、大きな意味を持つ。日米韓中の4か国が、北朝鮮への対応を、よくすりあわせることが肝要である。

 問題は、北朝鮮の最高指導者、金正恩氏が中国首脳とのパイプも乏しく、国際情勢をどこまで理解しているのか不透明なことだ。

 米国のクラッパー国家情報長官は、金正恩氏には「衝動的な面がある」との見方を示している。

 その予測不能な言動には、常に不安がつきまとう。

 金正恩氏の朝鮮労働党第1書記就任1周年の記念式典では、核実験と長距離弾道ミサイル発射が大きな業績とたたえられた。

 金正恩氏は、3月末の党中央委員会総会で、「精密化・小型化した核兵器とその運搬手段」の量産化と「より威力ある核兵器」の積極的な開発を指示している。

 北朝鮮がミサイルに搭載可能な核兵器を開発したとの分析を、米国防総省傘下の国防情報局(DIA)がまとめたともされる。

 国際社会は核・ミサイル開発の実態の把握に努め、警戒と対策を一層強化すべきだ。 

2013年4月12日金曜日

ネット選挙―双方向の回路を生かす


 インターネットを使った選挙運動が、7月の参院選からいよいよ解禁される。

 そのための公職選挙法改正案がきょう、衆院を通過する。参院の審議をへて、月内に成立する見通しだ。

 選挙期間中は禁じられていた政党や候補者のホームページとブログの更新ができるようになるほか、ツイッター、フェイスブックといった「ソーシャルメディア」を利用した選挙運動が可能になる。

 欧米や韓国では、政治と民意をつなぐ重要なチャンネルとして、ネットの選挙利用はすっかり定着している。

 遅きに失した感はあるが、後援会や支持団体に寄りかかった閉鎖的な日本の政治文化を変えるきっかけにしたい。

 ネット選挙の最大のメリットは、候補者と有権者の双方向性だろう。

 従来の選挙公報やテレビの政見放送、街頭演説は、候補者が一方的に意見を発信するだけだった。それに接触できる有権者も時間も限られていた。

 ツイッターやフェイスブックを使えば、有権者が候補者に直接質問をぶつけ、回答を聞くことができる。やり取りはネット上で公開され、他の有権者が議論に加わることも可能だ。

 支持者以外の幅広い意見を聞くことで、政党や候補者が政策を肉づけしたり見直したりする機会にもなる。

 有権者同士の議論や、ネットに慣れ親しんだ若い世代の政治参加を促す契機にもしたい。

 もちろん、いいことずくめではない。

 米国や韓国の大統領選を見ると、候補者への悪質な中傷がしばしばネット上に流れる。

 改正案では、電子メールによる選挙運動を政党と候補者に限った。メールは他の利用者からやり取りが見えず、他人の「なりすまし」や中傷の温床になりやすいという理由からだ。

 ただ、同じ内容を書いてもツイッターなら認められ、メールは駄目というのは、わかりにくい。改正案では、将来のメール解禁に含みを残す修正が施された。必要な対策を講じつつ、全面解禁をめざすべきだろう。

 海外の先例をみると、ネットは良かれあしかれ、選挙の風景を大きく変えてきた。

 ネット空間の大量の情報を政策に反映させる手法が広がる一方、候補者の一瞬の失言が動画で配信され、敗北を決定づけた例もある。

 有権者の生の声が届き、政治に緊張をもたらすなら、ネット解禁の意味は大きい。

英語教育―まず先生から始めよう


 大学の受験資格に国際テストTOEFL(トーフル)などの英語検定を。

 自民党の教育再生実行本部が提言した。各大学は、検定で一定の成績をとることを受験や卒業の要件にする。高校は卒業までに全員が120点満点のTOEFLで45点、英検なら2級を――。そんな内容だ。

 中高6年学んでも話せるようにならないような英語教育を、本気で変えよう。入試改革としてよりも、むしろそんな問題提起として注目したい。

 実現にはまず、先生の英語力を上げる必要がある。英語を使える先生に習わなくては、生徒も使えるようにならない。

 みんながみんな大学を受けるわけではない。将来、英語で仕事をするわけでもない。

 しかし、こうした受験資格をつくるなら、小中高で「使える英語」を身につけさせることが前提になる。そうできれば、大学を受けない人にも役に立つ。

 たとえば、旅先や近所の外国人と話すとき。生活のなかで英語を使えて損はない。

 英語の授業は中学で週4コマある。英会話教室なら、6年間これだけ通って上達しないようでは、きっとつぶれる。

 「読む」に偏っていた学校の授業も、話す、聞く、書くをふくむコミュニケーション力全体を養う方向に変わりつつある。高校では今春から英語は英語で教えるのが原則になった。

 だが、生徒の実力はどうだろう。国がかかげる「中学で英検3級、高校で2級か準2級」の目標に達している子は、3割しかいない。文部科学省の調査でそんな結果がでた。

 無理もない。英語の先生で、目標のTOEFL80点(英検準1級)以上とっているのは中学で3割、高校で5割だ。7年前の調査と大差はない。教育委員会がひらく数日の集中研修をうけた先生は、中高ともせいぜい1割かそれ以下だ。

 提言はこの「TOEFL80点相当」を英語教員の採用条件にし、現職の先生には全員研修を受けさせるよう求めている。

 教員を育てる大学で、学生に英語圏の人と話す機会を増やすことも必要だろう。外国人教師をもっと採用するのもいい。

 ほかにも課題は多い。

 資格になる英語検定に1回数千~2万円強かかる。家計の負担をどう支えるか。民間テストを公的に使ううえで公正さはどう保つか。入試の2次試験が文法重視のままでは受験生の負担が増すだけになる。

 それでも、6年かけて英語ぎらいを量産するより、話せる子をたくさん育むほうがいい。

BSE対策 自治体は全頭検査を打ち切れ


 国が自治体に求めている国産牛のBSE(牛海綿状脳症)検査の基準が7月にも緩和される。

 内閣府・食品安全委員会の専門調査会が、検査対象を現行の「月齢31か月以上」から「48か月超」へ引き上げる答申案を了承した。

 国内外で確認されたほとんどのBSE感染牛が48か月超だったデータなどから、検査基準を緩めても、「人の健康への影響は無視できる」と結論付けた。

 科学的知見と最近の状況を踏まえた妥当な判断である。

 BSEが猛威を振るった欧州では、日本の新基準より緩い72か月超だった検査対象を、さらに絞り込む方向になっている。

 国内で1年間に食肉処理される約120万頭の大半は20~30か月台だ。新基準の導入後、ほとんどが検査対象外になるだろう。

 2001年9月に国内で初めて発見されたBSEは、牛の餌に混ぜられた肉骨粉の使用を禁止する飼料規制によって世界的に激減した。日本では02年1月に生まれた牛を最後に見つかっていない。

 BSEの発生状況を監視する国際獣疫事務局も来月、日本をBSEのリスクが無視できる国として正式決定する見通しだ。

 これで国内のBSE問題は、ほぼ終息したと言えよう。

 気がかりなのは、自治体が実施している全頭検査である。

 国の基準が段階的に緩和された後も、食肉検査を受け持つ都道府県などは、安全性に問題のない若い牛も含めて検査対象にしてきた。厚生労働省も依然、年約5億円の補助金を出している。

 多くの自治体は「消費者の安心のため」と理由を説明する。だが、実際は、他自治体に先行して全頭検査を終了すれば、風評被害で地元産牛肉の販売不振につながることを恐れているのだろう。

 BSE対策で異例の全頭検査を実施しているのは日本だけだ。これを継続することは、かえって、日本の牛肉は安全ではない、といった誤解を与えかねない。

 大切な予算と人員をつぎ込んでまで、全頭検査にこだわる必要はもはやない。自治体は、全頭検査を早期に終了すべきである。

 厚労省は、全頭検査を終了しても安全性に問題がないことを消費者に十分説明することが求められる。自治体が独自に行う検査への補助金も打ち切るべきだ。

 政府が2月から見直した外国産牛の輸入規制についても、科学的なリスク評価に基づき、さらなる緩和を検討してもらいたい。

老いる大都市圏 介護の担い手をどう確保する


 大都市圏で急増していく医療・介護のニーズにどう対応するか。

 社会保障政策の重い課題だ。

 東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知――。2010年から30年間で、65歳以上の人口が増える比率の高い都県だ。国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「地域別将来推計人口」で明らかになった。

 中でも埼玉、神奈川両県では、医療や介護の必要性が高まる75歳以上の人口が倍増する。

 都市部の高齢化は、高度成長期に職を求めて地方から都会に出てきた世代が高齢期を迎えるためだ。過疎化の進む農村部で先行していた地域社会の高齢化の波が、大都市圏にも押し寄せる。

 特別養護老人ホームなど高齢者施設の拡充が欠かせない。限られた介護職員で多数の入所者をケアできるというメリットがある。

 ただ、地価が高い都市部で施設の新設は容易でない。施設不足は今後一段と深刻になるだろう。

 各自治体は、廃校になった校舎を活用するなど、施設整備に知恵を絞ってもらいたい。

 在宅で十分な医療・介護を受けられるようにすることも重要だ。政府が昨年始めた「24時間型訪問介護サービス」への期待は大きい。介護職員や看護師が高齢者宅を1日数回訪問し、緊急の呼び出しにも応じる仕組みだ。

 ところが、このサービスは普及していない。導入した自治体は全体の1割に満たない。夜間の呼び出しなどが負担で事業者が敬遠している。参入条件である看護師の確保が難しいのも一因という。

 厚生労働省は、参入条件の緩和などを検討すべきだ。

 介護職員の確保も重要である。介護のノウハウを持っていても、結婚や出産で辞める人は多い。保育所の待機児童の解消など、子育てをしながら働き続けられる環境を整えねばならない。

 他の産業に比べ低い賃金水準を改善する必要もある。

 都市部では今後、独り暮らしの高齢男性が女性以上に急増することが大きな問題となろう。収入が低い非正規雇用の増加などで、現在30~40歳代の男性の未婚率が上昇していることが要因だ。

 単身者は家族による介護が期待できない。近隣との結びつきが乏しく、孤立しがちだ。

 都市部の高齢化問題については雇用や賃金制度、さらに国民の負担のあり方も含めて検討することが欠かせない。政府の社会保障制度改革国民会議は、こうした視点からも議論を深めてほしい。

2013年4月11日木曜日

原発新基準―廃炉への枠組みを早く


 原子力規制委員会が、原発の新しい規制基準案を公表した。これで、安全上動かすべきではない原発の具体的な候補が見えてきた。

 だが、今のままでは廃炉は進まない。政府はリスクの高い原発から着実に閉めていくため、必要な制度の整備に早く着手しなければならない。

 新基準案は意見公募を経て、7月に施行される。活断層の疑いなどで基準を満たせない原発が出るのは確実だが、電力業界は全原発で再稼働を目指す構えを崩していない。

 問題は、事業者以外に廃炉を決定できないことにある。

 規制委は新基準を満たさない限り「稼働を認めない」が、廃炉判断はしない方針だ。一方、安倍政権は「規制委が安全と認めた原発は動かす」としつつ、基準を達成できない原発については言及を避けている。

 このままだと、閉めるべき原発が「休炉」にとどまる。追加対策の費用は電気料金で回収すればいいという発想のもと、本来は必要のない原発にまで巨額の投資を重ねる行為を止めるすべもない。

 電力会社が再稼働にこだわるのには理由がある。原発の代わりに動かす火力発電の燃料代がかさんでいるうえ、廃炉を決めた途端、「資産」に計上していた施設や核燃料が「負債」に変わり、廃炉費用とともに経営にのしかかるからだ。

 昨年6月に経産省がまとめた粗い試算では、すべての原発を即時廃炉にすると、業界全体で4・4兆円の損失が発生し、4社が債務超過に陥る。

 一方、原発は動かなくても全体で年間1兆円以上の経費がかかる。どっちつかずの状態が続けば、じりじりと企業体力を奪う。決算期ごとに電力業界の経営不安が取りざたされては、経済全体に影響する。

 電力への参入を狙う企業にとっても見通しを立てにくい。投資が進まなければ、電力供給にも支障が出かねない。

 政府は、事業者任せにせず、「だめな原発」を処理する枠組みづくりを急ぐべきだ。

 前倒し廃炉に伴う負担の軽減策を含め、早期の廃炉や他の電源整備を促す手立てを講じなければならない。必要な費用をだれがどう負担するか、廃炉で影響を受ける地元自治体をどう支援するかも、重要な課題だ。

 原発に頼らず、効率的で創意工夫が生きるエネルギー社会への転換は、経済再生を掲げる安倍政権にとっても不可欠な要素だろう。

 ためらっている余裕はない。

日台漁業協定―尖閣避けた大人の知恵


 日本と台湾がきのう、沖縄県・尖閣諸島周辺での漁業協定に署名した。

 台湾が求める周辺海域での漁船の操業を認める一方、尖閣を含む日本領海への立ち入りは認めない――。

 対立する尖閣問題を回避しつつ、双方の顔を立てた「大人の知恵」といえよう。

 協定は、八重山諸島や尖閣周辺の海域に台湾の漁船も入れることとし、乱獲対策などを話し合う漁業委員会をつくる。

 日本側は、尖閣から12カイリの領海に台湾漁船が入ることは認めないものの、協定ではこの点を必ずしも明確にせず、「領海」という言葉遣いを避けている。うまい工夫だ。

 これにより、日台のトラブルが解消され、尖閣周辺での不測の事態を避けることにつながることを期待する。

 日本は、ロシア、中国、韓国とはすでに漁業協定を結んでいる。一方、台湾との間では96年から16回も交渉したが、合意に至らなかった。

 72年に日本が台湾と断交して中国と国交を結んだ歴史的な経緯に加え、台湾に漁業権を認めるメリットを日本側が見いだせなかったという事情がある。

 それが、昨年9月に日本政府が尖閣を国有化したことで変わった。

 中国同様、かねて尖閣の領有権を主張していた台湾も国有化に猛反発したが、逆に、これをきっかけに中断していた漁業協定交渉が動き出した。

 尖閣問題で中台双方と対立することを避けたいという日本側の思惑だけではない。

 台湾にとっても、中国の動きは気がかりだった。

 中国は、「漁民の権益を守るのは両岸(中台)双方の責任」として、台湾側に連携を呼びかけている。

 もとより台湾には、中国と手を組む考えはない。だが、もし尖閣周辺の台湾漁船を中国の公船が守り、日本の巡視船と対抗したら苦しい対応を強いられる。実際、1月に台湾の活動家の船が尖閣周辺海域に出た際は、中国の海洋監視船も接近してきた。

 こうした事情も、双方の背中を押したようだ。

 もともと、日台は良好な関係にある。台湾の最大の輸入元は日本であり、全体の2割近くを占める。東日本大震災の際は、台湾からの義援金が約200億円に達した。

 今回の協定を機に、さらに交流が活発になることを望む。

 中国との関係改善も、こうした大人の知恵で乗り切りたい。

原発新規制基準 ゼロリスクにとらわれるな


 原子力規制委員会が、原子力発電所に適用する新たな規制(安全)基準の最終案を決めた。

 東京電力福島第一原発事故を踏まえ、従来の想定より大きな地震や津波への対策を求めた。原子炉が壊れる重大事故を防ぐため、電源や冷却機能の拡充も盛り込んだ。

 事故前の基準の欠陥を改めることは必要だろう。だが、新基準の検討過程で内外から相次いだ「ゼロリスクを求め過ぎだ」との批判はほとんど反映されなかった。

 問題をはらむ基準案である。

 その一つは、原発敷地内の活断層の扱いだ。これまでは12万~13万年前以降に動いたものを対象としていたが、最大40万年前まで遡って調査することを課した。

 規制委はすでに、これを先取りして原発敷地内の活断層を調査している。この際、島崎邦彦委員長代理は繰り返し、「活断層が100%ない」という証明を求めており、新基準にも同様の項目が設けられることになった。

 あまりに非科学的な要求だ。むしろ、活断層が動いても大丈夫なよう安全設備の強度を増す工学的な対応を優先すべきである。

 専門家が「過剰」と指摘する項目もある。典型例が、重大事故時に原子炉内の圧力を逃す手段であるフィルター付きベントだ。

 新基準は全原発に設置を義務づけたが、米国は先月、専門家の議論を経て、米国の原発には当面、不要とした。米エネルギー省幹部が「日本の厳しい基準が海外にも影響しかねない」と懸念を示したのは、もっともである。

 規制委は意見公募を経て、7月までに新基準を施行する。これに基づいて、停止中の原発の安全性について審査する。

 重要なのは、審査の効率を上げることだろう。技術に詳しい職員が限られ、同時に審査できるのは3か所の原発だけという。人材確保など体制強化が必要である。

 原発ごとの柔軟な対応も不可欠だ。一律に消火設備などの数を決めるのは現実的ではない。

 審査では、各炉に最新技術の導入を義務づける「バックフィット制度」を適用する。安全向上は大切だが、費用がかさみ、廃炉を迫られる例も出るのではないか。

 原発の停止で電力供給は綱渡りだ。火力の燃料費高騰で電気料金も上がっている。安全を確認した原発の再稼働は急務である。

 規制委は、100%の安全を求める風潮にとらわれることなく、各原発の再稼働の可否を判断してもらいたい。

日台漁業協定 戦略的外交で「尖閣」を守れ


 沖縄県の尖閣諸島における日本の主権を守る上で大きな意味を持つ。

 中国の周辺国・地域との戦略的関係を強化し、中国を牽制けんせいする安倍外交の方向性を示したと言える。

 日本と台湾が、4年ぶりに尖閣諸島周辺の漁業を巡って本交渉を再開して「日台民間漁業取り決め」で合意し、調印した。

 日本の領海の外に設定された排他的経済水域(EEZ)の一部に「法令適用除外水域」などを設け、台湾漁船の操業を認めることが柱だ。日本領海への台湾漁船の立ち入りは、認めていない。

 尖閣諸島を巡っては、中国だけでなく台湾も領有権を主張している。昨年9月には、台湾の漁船が大挙して尖閣諸島周辺の日本領海に侵入した。中国は、台湾に共闘を呼びかけてもいた。

 今回の合意は、こうした中台の連携にくさびを打ち込む狙いがある。中国側がさっそく「重大な懸念」を表明したのは、日台連携への不快感にほかならない。

 日台間では1996年から漁業交渉が断続的に行われたが、操業水域やルールなどで主張が対立し、折り合えなかった。

 日本政府が台湾に交渉再開を持ちかけたのは昨年秋、尖閣諸島を国有化した直後のことである。

 日本の戦略が根底にある。首相官邸主導で、漁業権では譲歩し、尖閣諸島を守ることを優先した。台湾にとっても漁業水域が広がり、実利がとれる。双方にメリットのある内容だと言える。

 問題は、合意の内容が、漁業の現場で円滑に運用されるかどうかである。沖縄県の仲井真弘多知事は、「大幅な譲歩は極めて遺憾だ。漁業競合の激化や好漁場の縮小が余儀なくされる」と日本政府に抗議の意を表明している。

 春は漁業が活発化する。尖閣諸島周辺は、クロマグロやハマダイがとれる豊かな漁場だ。出漁する漁船数や漁獲量を調整し、乱獲を防がねばならない。

 日台双方は、漁業委員会を設けて詰めの交渉に入る。

 沿岸国の共通の財産である漁業資源を適切に管理することを前提に、双方ともに大局的見地に立って協議を進める必要がある。

 台湾はもともと親日的だ。東日本大震災の際には、巨額の義援金を提供した。安倍首相は先月11日の大震災2周年追悼式で、台湾代表の席を各国代表団と同じ場所にするなど、日台間の関係改善に配慮している。

 今回の漁業合意は、日台関係全体の強化にもつながろう。

2013年4月10日水曜日

電力値上げ―寂しすぎる経営判断


 原発事故が起きた東京電力管内だけでなく、国民が広く痛みを分かち合うことになる。

 昨年9月の東京電力に続き、5月から関西、九州も家庭向け電気料金を値上げする。四国、東北も申請中で、北海道も続く。原発停止で火力発電が増え、燃料費が拡大したのが主な理由だ。

 原発依存度が5割を超えた関電の場合、家庭の平均負担は年約5500円増える。いずれも現在停止している原発の再開が前提となっており、再値上げの可能性もある。

 厳しい夏も冬も、多くの人が節電に協力した。あの惨事が決して他人事ではなく、事故後の電力のあり方について、自分たちも分かち合う問題だと受けとめているからこそだろう。

 最低限の値上げはやむを得ないにしても、電力会社の経営陣には、電気を使う側の意識が大きく変わっていることを強く認識してもらいたい。

 事故後の新たな電力供給システムづくりに向け、電力会社がどこまで率先して自己改革していけるのか。そこを抜きにした値上げ論議はありえない。

 もちろん、やみくもに人件費を削ればいいというものではない。原子力の安全に関わる人材確保は重要だ。値上げをめぐる公聴会でも「現場で頑張る職員の賃金カットはすべきでない」という声が出た。

 だが、経営陣を見る目は異なる。たまたま東電の原発で事故があったものの、事故リスクがある点では、原発を進めてきた他の電力会社も共通している。国民の多くがそう感じ、不信感も募らせている。

 そこを考えると、役員報酬をめぐる動きには首をかしげる。

 役員報酬について関電と九電は、それぞれ平均で4100万円、3300万円を申請した。

 実質国有化された東電並みのリストラを求めた国は、これを退け、省庁幹部並みの1800万円とした。ところが関電は「経営判断」で300万円上乗せして2100万円とし、九電も200万円乗せて2000万円を支払う。

 この上乗せは、節電した人々にどこまで思いを寄せてのことだろう。

 福島での事故処理、他の原発での廃炉、放射性廃棄物の処理。発送電分離などによる電力自由化。これから電力会社は公益事業体として、どう責任を果たしていくのか。

 長く、痛みをともなう改革の先頭に立つべき経営陣が、他人事のような姿勢に見えるのは、あまりに寂しい。

「鉄の女」逝く―そして難題が残った


 国家は国民の大きな守護者となり、国民は愛国心をもって国を支える。その力で強く豊かな社会をつくり上げる――。

 近代に広まったそんな国家モデルが行き詰まったところで登場したのが、マーガレット・サッチャー氏だった。

 国家の肥大化による慢性的な経済停滞という「英国病」。それを治療するべく1979年から11年間、同国初の女性首相をつとめ、福祉国家としての英国の土台をつくりなおした。

 すでに、首相になる前の教育相時代、学校での無料のミルク配布をやめさせた。首相に就任後は「小さな政府」をかかげて国有企業を次々に民営化し、教育にも競争原理を持ちこみ、効率化を進めようとした。反対する労働組合の抗議運動は警察力で抑えこんだ。

 「支え合う」から、「競い合う」へ。その社会観、国家観の転換は決定的で、その後に登場した労働党出身のブレア元首相でさえも、その多くの部分は踏襲していたといえる。

 しかし、小さくなって守護者の役割から離れていく国家をだれが愛するだろうか。サッチャー氏が国民の心をつなぎとめられたのは、彼女の強烈なナショナリズムではなかったか。

 フランスやドイツを中心に進む欧州統合に対して、サッチャー氏は常に警戒の声を上げた。居並ぶ他国の首脳を前に「私たちのお金を返して」と拠出した農業補助金の還付を求めた。

 極めつきは、アルゼンチンと戦火を交えたフォークランド紛争だ。政府内の慎重論をはねのけて、はるか遠く南大西洋の島まで部隊を送り込み、戦った。熱狂した世論は保守党を選挙で大勝させた。

 サッチャー氏が先導し、当時の米レーガン政権も導入した民営化や規制緩和策とナショナリズム。小さくなることを余儀なくされている国家を大きく見せる、この組み合わせは、各地の政治指導者に多くの信奉者を生んだ。経済のグローバル化で国家が力をそがれつつある今日、多くの政治家たちがサッチャリズムにひかれている。

 だが、金融危機や環境破壊、感染症、テロなど深刻な問題ほどグローバル化している中で、ナショナリズムはしばしば、各国間の対立を際だたせ、かえって解決への妨げになる。

 冷戦終結が近づき、グローバル化が始まろうとするとき、国家が進むべき方向はどこか。サッチャー氏は一つの答えを実現してみせた。

 けれども、その答えは同時に難題もわれわれに残した。

福島原発汚染水 漏出対策に知恵を結集せよ


 東京電力福島第一原子力発電所で、放射能により汚染された水の漏出が相次いでいる。

 東電は早期収拾に全力を挙げねばならない。

 漏水が起きたのは敷地内の地下貯水槽だ。七つのうちの二つでまず漏水が見つかり、ここから汚染水を移そうとしていた貯水槽でも漏水が確認された。

 漏水量は、100トンを大幅に上回るとみられる。2011年12月に冷温停止状態を宣言して以来、最大規模の放射能漏れ事故だ。

 福島第一原発では毎日、約400トンの汚染水が発生している。原子炉の冷却水に、建屋の損壊部分から流れ込んだ大量の地下水が混じり、汚染されるためだ。

 何より、漏水の拡大を防ぐことが大切だ。漏れている貯水槽に代わる別の貯水槽やタンクの確保を急がねばならない。

 これと並行して漏水の原因究明も進める必要がある。

 貯水槽は、3層の止水シートで漏水対策を施している。使用前に水を張り、検査もしたという。その際、設計や工事、検査は適切に行われたのだろうか。早急な再点検が求められよう。

 地下水の量が大幅に増える梅雨も迫っている。汚染水漏れの対策強化は待ったなしである。

 福島第一原発では、最近、停電事故が続発するなど、緊張感の緩みも見られる。東電は気を引き締めてもらいたい。

 ただ、東電の資金、人材には限界がある。政府、産業界の知恵を結集し、汚染水の減量や漏水対策などで、東電を積極的に支援することも検討すべきだろう。

 問題があるのは、原子力規制委員会の姿勢だ。

 規制委は、汚染水の浄化装置の強度に疑問があるとして、安全審査に半年以上を費やした。東電は早期の結論を求めたが、聞き入れなかった。浄化装置は3月、ようやく試運転を始めた。

 貯水槽にはもともと、浄化した水を入れる方針だったが、審査の遅れで、汚染水のまま貯めざるを得なくなった経緯がある。

 汚染水が増え続けている状況を踏まえれば、浄化装置の稼働は急務だ。規制委は、審査の優先順位を見誤ってはならない。

 汚染水対策には長期的な視点も欠かせない。貯水タンクや貯水槽を設置する敷地は限られている。早晩、限界を迎える。

 浄化後、安全基準に沿って海に放出することの検討も求められよう。国民の理解を得るために、政府が果たす役割は大きい。

サッチャー死去 今なお生きる国家再生の教訓


 衰退しつつあった英国を蘇生させたばかりか、冷戦終結に重要な役割を演じ、世界を変えた女性政治家だった。

 1979年から11年間の長きにわたり、英首相を務めたマーガレット・サッチャー氏が8日、87歳で死去した。

 安倍首相は「意志の力を身をもって示した偉大なリーダーであり、国家国民のためにすべてをささげた尊敬すべき政治家であった」と、弔意を表した。

 今なお、日本がサッチャー氏から学ぶべきことは多い。最大の業績は、サッチャリズムと呼ばれる大胆な改革を推進したことだ。

 「小さな政府」によって、経済停滞と国家財政悪化という「英国病」の病根にメスをいれ、民営化や、金融市場の「ビッグバン」などの規制緩和を断行した。手厚すぎる福祉の抑制や炭鉱合理化など不人気な政策も果敢に進めた。

 金融に比重を置くあまり、製造業は弱体化し、貧富の格差が拡大したという負の側面もあったにせよ、改革は90年代からの経済成長の基礎を作ったと言える。

 中曽根政権の電電公社や国鉄の民営化、橋本政権の掲げた日本版ビッグバン(金融制度改革)もサッチャリズムの系譜に連なる。

 サッチャー氏が、レーガン米大統領のレーガノミクスとの連携で、世界経済の停滞を打開した功績は大きい。

 日本は今、アベノミクスで経済再生に取り組んでいる。安倍首相にも実行力が求められよう。

 サッチャー氏の教育改革は、安倍首相にも影響を与えた。首相は自著で、歴史教育の「自虐的」な偏向の是正と、教育水準の向上を図ったと評価している。

 サッチャー氏が、国際政治で果たした役割も忘れられない。

 米国による中距離核の欧州配備などを巡って米欧の足並みが乱れかけた時、ソ連に軍事面で対抗する必要を説いた。サッチャー氏は、西側陣営の団結、そして冷戦終結の立役者であった。

 世界が注目したのは82年4月、アルゼンチン軍が南大西洋の英領フォークランド諸島に侵攻した時のことだ。サッチャー氏は、直ちに英軍艦隊を派遣して諸島の奪還に成功した。

 「何よりも国際法が力の行使に勝たなくてはならないという原則を守ろうとしていた」というサッチャー氏の言葉を、安倍首相は施政方針演説で、引用している。

 国際法を順守しつつ、領土、主権を断固守る。その強い信念が、今の日本にも問われている。

2013年4月9日火曜日

汚染水漏れ―福島原発の態勢見直せ


 福島第一原発で、放射能汚染水が地下貯水槽から漏れていたことがわかった。

 同原発では、急造の設備で原子炉に水を注ぎ、冷やし続けている。汚染された水は海に流せず保管するしかない。その汚染水の一部が漏れた。

 先月起きた長時間の停電を含め、原発事故がなお継続していることを物語る。

 核燃料を取り出すまで、抜本的な解決策は見あたらない。電源確保や汚染水タンクの増設など、リスクに先手を打つしかないが、後手に回っている。

 今回も3月中旬から水漏れをうかがわせるデータがありながら、対応が遅れた。

 現状は、東京電力の管理能力を超えているのではないか。

 汚染水について、そもそもの誤算は冷却水をループ状に使い回して原子炉を冷やす「循環冷却」ができなかったことだ。

 地震や水素爆発で原子炉建屋にひび割れができたらしく、1~4号機の建屋内には1日400トンもの地下水が流れ込む。炉心を冷やした水は一部を再び冷却用に循環させるものの、流入分だけ汚染水が増える。

 福島第一は、いわば原子炉冷却を通じた「汚染水生産工場」と化している。

 地下水をくみ上げて流入量を減らしたり、放射性物質をできるだけ除去した汚染水を海に流したりする計画はあるが、実効性や早期の実現性は疑問だ。

 東電は当面、大量の漏れが見つかった2号地下貯水槽からだけ汚染水を移し、ほかは水位を少し下げて使い続ける。不足する分は、地上タンクの増設を前倒しし乗り切る考えだ。

 しかし、地上タンクも盤石ではない。接合部が経年劣化して水漏れを起こす危険が指摘されているうえ、原発敷地内にはタンクを設置する場所もなくなりつつある。

 遅まきながら東電は「福島第一信頼度向上緊急対策本部」を設けた。汚染水、機械設備、電気設備、土木・建築設備の四つの対策チームをつくり、リスクを洗い出す。外部に助言を求める方針も明記した。

 国はもっと積極的に関わる必要がある。海外を含め、様々な分野から知恵や人材を集めるため、原子力規制委員会とともに指導力を発揮すべきだ。

 茂木敏充経済産業相は東電の社長に「会社一丸となって取り組んでほしい」と求めたが、汚染水タンクの設置場所がなくなった場合の対応ひとつとっても、東電任せでは限界がある。政府と東電が一丸となった態勢をつくらなければならない。

北朝鮮―挑発で得るものはない


 愚かというほか、言葉が見つからない。北朝鮮は、失った信頼を考えればすでに遅いともいえるが、今からでも危険な挑発をやめ、国際社会と接する道を残すべきだ。

 この国は最近、一連の激しい言葉の攻撃に加え、不穏な動きをみせ始めている。その一つが射程3千キロ以上と推定される中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射準備だ。

 韓国政府などは、北朝鮮がミサイル2基を載せた発射用の車を日本海側の施設に隠したとみている。事前の予告なしに発射する可能性が出てきた。

 国連安全保障理事会は4年前に、北朝鮮が弾道ミサイル技術を使ったいかなる発射もせぬよう求める決議をしている。

 人工衛星打ち上げの技術は、基本的に弾道ミサイル発射と同じだ。だが北朝鮮は「主権国家の合法的権利で、宇宙の平和利用だ」と強弁し、昨年は2度も長距離弾道ミサイルの発射実験を繰り返した。

 不意打ちのミサイル発射となれば、そんな言いわけもできなくなる。

 北朝鮮はすでに、日本をほぼ射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」を100基以上、実戦配備しているとされる。

 ノドンよりさらに射程が長いムスダンを発射すれば、1998年に「テポドン」を撃った時のように、日本列島上空を飛び越えていく可能性がある。

 万一、ミサイルが日本に飛んできたときに備えるため、小野寺五典防衛相は、自衛隊に破壊措置命令を出した。北朝鮮の行動を考えればやむを得ない。

 韓国の柳吉在(リュギルジェ)・統一相はきのうの国会で、北朝鮮が新たな核実験を実施する「兆候があると言える」と語った。

 まだ30歳前後とされる指導者の金正恩(キムジョンウン)氏が、朝鮮労働党の最高ポストである第1書記に就いて、11日で1年。その4日後には祖父の金日成(キムイルソン)主席の生誕101周年が控える。

 正恩氏の新体制は、盤石といえない足場をしっかりと固めるためにも、かつてないほどに緊張感を高めようとしている。

 父の金正日(キムジョンイル)総書記も、危機を高めて相手を引き出す「瀬戸際戦術」はいつもの手だった。

 気になるのは、この激しい威嚇の先に、新体制は事態をどう収めるつもりか、まったく見えないことだ。

 挑発を続けても、米国が対話に応じるとは考えにくい。最大の後ろ盾である中国の世論も確実に悪化しつつある。

 失敗を認め、経済の向上に国際社会の力を請うべきである。

日メキシコ会談 TPP外交に本腰を入れよ


 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加に向けて外交を本格化しなければならない。

 安倍首相と来日中のメキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領が会談した。首相の交渉参加表明以降、参加国首脳との会談は初めてだ。

 大統領は、日本のTPP交渉参加を支持する意向を明らかにした。メキシコは昨年12月に交渉に参加している。両首脳が、アジア太平洋地域における自由貿易の推進で一致した意義は大きい。

 首相は、会談後の記者会見で、今回の会談を「安倍政権の環太平洋外交を本格的に展開する第一歩だ」と位置付けた。

 日本にとってメキシコは本格的な経済連携協定(EPA)という意味で締結第1号の国である。2005年の締結後、自動車を中心に日系企業が多数進出し、貿易量も約1・5倍になるなど「先駆的成功例」とされている。

 日メキシコ両首脳は、共同声明で「ビジネス環境の整備や貿易・投資機会の拡大に向けた対話を増進する」と、経済分野での一層の連携拡充をうたった。

 メキシコは、国内総生産(GDP)が世界14位で、中国、インドなど新興国に続く経済発展が期待されている。日本の自動車産業の戦略的生産拠点でもある。メキシコの活力を取り込むことは、日本の経済成長にも欠かせない。

 関係を深める両国が、TPP交渉でも“後発組”として協調していくことは、自国の主張を自由貿易のルールに反映させるうえでプラスに作用する。共通する利害関係で連携すれば、米国などとの駆け引きにも役立とう。

 日本の交渉参加については、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの4か国が態度を保留し、事務レベルによる事前協議を重ねている。

 岸田外相は今月末からの大型連休にペルーなどTPP参加国訪問を検討している。日豪2国間のEPA交渉も加速する必要がある。日本の国益に資するため、多角的な外交を展開してもらいたい。

 政府は先週、甘利TPP相を本部長とする政府対策本部を内閣官房に設置した。

 主要閣僚会議の下、対外交渉の責任者に鶴岡公二外務審議官、国内調整の総括に佐々木豊成前官房副長官補を充てた。近く100人体制の事務局を構えるという。

 共通の戦略を練り、関係府省間の縦割りを排して結束することが重要である。それが、日本の交渉力を強めることになる。

食物アレルギー 給食の事故防止を徹底したい


 学校での楽しい給食の時間に、子供の食物アレルギーによる事故をいかに防ぐか。

 新学期が始まったのを機に、教育現場は改めて給食の安全対策に万全を期してもらいたい。

 卵や牛乳、小麦、落花生、エビ、カニなど特定の食べ物を口にすると、湿疹、呼吸の乱れなどの症状が表れるのが食物アレルギーだ。血圧低下や意識障害を引き起こし、命を落とす危険もある。

 文部科学省の調査によると、全国の児童・生徒の2・6%に食物アレルギーがある。ほぼクラスに1人の割合である。

 給食でアレルギーの原因食材を誤って口に入れ、治療を受けるケースは増加傾向にある。2011年度には300件を超えた。対策の徹底が急務だ。

 東京都調布市の市立小学校では昨年12月、乳製品にアレルギーがある5年生の女児が死亡する事故が起きた。市教委の検証委員会が3月にまとめた報告書は、学校のミスの連鎖を指摘している。

 学校は女児に、アレルギーの原因のチーズを除いたおかずを出した。だが、女児がお代わりを求めると、担任教諭はチーズ入りのおかずを配ってしまった。その際、担任は、女児が食べられない食材の一覧表を確認すべきだった。

 さらに、女児が体調不良を訴えた時、担任教諭、養護教諭とも、アレルギーのショックを和らげる注射薬を打たなかった。

 この学校では、3か月前にも別の児童が給食でアレルギーを起こし、その後、教職員向けの研修を実施していた。教訓を生かせなかったことが何とも悔やまれる。

 悲劇を繰り返さないためには、学校が保護者や医師と連携して子供の症状を正確に把握し、きめ細かな対応をとることが大切だ。

 アレルギー対策を巡っては、文科省監修の指針が2008年に作られたが、学校ごとに、対応に差があるのが現状と言える。

 給食の食材リストをあらかじめ保護者に配布する。アレルギーのある子供用の献立を工夫する。各校がこうした基本的対策の総点検を行うことが重要である。

 保護者も日頃から子供に「何を食べてはいけないか」ということを繰り返し教える必要がある。

 子供がアレルギー反応を起こした場合、初期対応がカギを握る。教職員が注射薬を適切に投与できるよう訓練を重ねるべきだ。

 文科省は今後、全国の取り組み状況を調査する。問題点を洗い出し、事故防止につなげたい。

2013年4月8日月曜日

出生前診断―不安に応える仕組みを


 高齢出産の年齢になって待ちに待った妊娠、と思ったら悩ましい問いかけが迫ってきた。

 そんなふうに感じている人たちも多いかもしれない。

 今月から、一部の大学や病院で新しい出生前診断の検査法が研究として始まった。

 約20万円かかるが、お母さんの血液を少し採って調べれば、2週間ほどでおなかの中の胎児に染色体異常があるかどうか高い精度でわかるという。お母さんのおなかに針を刺し、胎児が浮かぶ羊水を採って調べる検査は、判定が確実だがわずかに流産のリスクがある。新しい検査法はずっと簡便で安全だ。

 といっても、無条件でお勧めはできない。事前に知っておいた方がいい事実が、少なくとも二つある。

 まず、新検査法で診る対象はダウン症など三つの先天異常に限られる。先天異常をもった赤ちゃんが生まれる頻度は4%ほどだ。対象の三つはあわせて0・7%程度。新検査法で異常が見つからなくても、ほかの先天異常をもって生まれてくるかもしれない。生物としてそういうものなのだ。

 もうひとつ、新検査法の精度はお母さんが35歳の場合で約80%と見込まれ、間違いがありうる。診断を確定させるには少し胎児が育ってから、羊水検査などを受ける必要がある。

 新検査法を受けるか。確定でない結果をどう受け止めるか。特に染色体異常の可能性がわかったらどうするか。分岐点が次々に現れる。それも胎児が日々育つ妊娠中のことである。精神的な負担は大変なものだろう。

 こうした点をふまえ、日本医師会と日本産科婦人科学会などは当面、専門医がいて遺伝相談の体制もある施設での実施を、ごく限定的に認めた。採血して米国の検査会社へ送ればほかでもできるが、しないよう呼びかけている。妥当な方針だ。

 日本ダウン症協会は「ダウン症の人の実際の姿を知らずに、不幸と決めつけることがないようにしてほしい」と、受診者への説明に参加させるよう学会に求めている。一般の人からの相談にも随時応じている。そうしたことも知っておきたい。

 遺伝子研究は急速に進んでいる。がんやアルツハイマー病など遺伝的な要因をもつさまざまな病気について、なりやすさを採血だけで診断する技術が開発されつつある。

 遺伝相談にあたれる臨床遺伝専門医は全国で約1千人、認定遺伝カウンセラーは140人と不足している。重い選択を支える仕組みを整える必要がある。

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