2013年6月30日日曜日

消費者事故調―安全追求の芽を育もう

 「誰が悪かったか」でなく、「どうすれば防げたか」を解き明かす。消費者安全調査委員会(消費者事故調)の初仕事は、その意義を十分物語った。

 調査の対象は、東京でおきたエスカレーターからの転落死亡事故だ。下りエスカレーターを背にしていた男性の体がベルトに接触し、体を持ち上げられて階下に落ちた。エスカレーターは吹き抜けに面しており、両脇が素通しになっていた。

 国土交通省の調査や民事裁判の一審判決では、「ふつうの使い方をしていれば起きなかった事故で、製品そのものに問題はなかった」と判断された。

 事故調が今回まとめた中間報告はこれとまったく違う視点を示した。乗り口の手前にベルトへの接触を防ぐ設備があれば、そして両脇に転落防止柵があれば、事故の発生や大きな被害は防げたかもしれない、と。

 これは製品じたいに問題があるかどうか、つまりメーカーの責任の有無にかかわらず、再発を防ぐのに役立つ視点だ。

 ユーザーには幼児らもいる。ふつうの使い方だけ想定して、ものを作り、動かしていては事故は完全には防げない。安全な社会を築く上で、こうした注意喚起のはたす役割は大きい。

 発足から8カ月たち、事故調の課題も見えてきた。

 事故調はこれからこの事故の最終報告に向け、再現実験をするなどの本格調査に入る。

 報告書は裁判の証拠に使われることがありうる。裁判が同時進行するなか、いかにメーカーや管理者の協力を得るか。裁判と並行している案件はほかにもあり、同じ問題をはらむ。

 責任追及と再発防止はどちらが優先か、あるいはどうすれば両立できるかは、議論の割れている難題だ。走りながらよりよい着地点を探るしかない。

 また、事故調は年間100件の調査を目標に始動したが、着手できたのはまだ5件だ。

 調査を求めた人たちの中には「経過説明がなく、今どうなっているのかわからない」「話を聞いてもらえず、紙1枚で断られた」と不満をもつ人もいる。

 風評被害を避けるため、言えないことも多いのだろう。しかし「被害者の納得」を看板に掲げる組織なのだから、もう少していねいに説明すべきだ。

 遅さや説明不足は、人手の少なさも一因だ。航空や鉄道、船の事故を調べる運輸安全委と比べると半分以下。適正な規模を見きわめるのも課題だろう。

 被害者のためにも社会のためにも、新たに生まれた安全追求の発想を大きく育てたい。

株主と経営者―応酬を成長への糧に

 株価が大きく上下するなかで迎えた今年の3月期決算企業の株主総会では、株主の関心が例年になく企業の成長戦略に集まった。

 米国ではファンドなどの「もの言う株主」が復活している。日本企業にも、リストラで業績と株価を高めるよう突きつける動きが目についた。経営側との応酬もあった。

 人件費などのコスト削減頼みではなく、再編を含む事業変革や技術・人材への投資をどう進めるか。膨らんだ内部留保をどう生かすか。株主が投げかけた問いかけを、新たな成長モデルへの脱皮につなげたい。

 ソニーでは、筆頭株主の米ファンドが映画・音楽部門を分離して上場し、得られた資金でテレビなどエレクトロニクス部門をリストラするよう求めた。約1万人が出席した総会でも議論になり、今後、経営陣が本腰を入れて検討する。

 ファンドが投げたウォール街ならではの際どいボールに、経営側が応じるにせよ、説得力ある対案を示すにせよ、株主との緊張関係が日本企業に変革を促すなら歓迎したい。

 かたや対立がこじれたのは、株式上場を目指す西武ホールディングスだ。

 大株主の米ファンドがライオンズ球団の売却や赤字路線の廃止に言及。株式買い増しで優位に立とうとしたが失敗し、総会に取締役を入れ替える提案を出しても否決された。

 公共交通機関、ファンが支えるプロ野球ビジネスを擁する西武は利害関係者の幅が広い。ウォール街の流儀はなじみにくいだろう。ただ、それで経営側が大株主の譲歩を引き出す成長シナリオを示す責任から逃れられるわけではない。

 多様な利害関係者に目を配って、それぞれのパワーを結集するのが日本的経営の本来の強みだった。しかし、伝統ある大企業では利害を調整しきれず、変革が滞る懸念がある。

 これが極端な形で表れたのが川崎重工業の社長解任劇だろう。総会でも事情説明が不十分で、株主の不満が募った。

 濃淡はあれ、複雑な利害の調整は、多角化で成功してきた大企業の多くが抱える問題だ。

 克服の近道は、単なる株主の代弁者ではなく、会社の内外で絡み合う利害を仲裁できる独立性の高い社外取締役を増やすことではないか。

 今年はトヨタ自動車も初めて社外取締役を起用した。適格な人材を増やし、新たな日本的経営への脱皮を加速する切り札としていくべきだ。

幹事長討論会 安易な「原発ゼロ」は無責任だ

 参院選は、7月4日の公示を前に本格的な論戦がスタートした。

 大阪では29日、関西プレスクラブの主催で、9政党の幹事長クラスによる政治討論会が開かれた。

 目を引いたのは、原子力発電所政策の違いだ。「原発ゼロを目指すか」との質問に対し、自民党以外はすべて賛成した。

 原発をゼロにするには、代替の火力発電や太陽光など再生可能エネルギーの割合を大幅に増やす必要がある。火力発電の燃料輸入が増大し、生産コスト上昇による産業空洞化も避けられまい。

 火力発電による二酸化炭素(CO2)排出量の増大も懸念される。核不拡散など、世界的な課題をどう克服するかも問われよう。

 自民党の石破幹事長は、こうした課題に言及し、「バランスを考えたうえで、原発依存度を減らすことを考えなければ、責任ある政治とは言えない」と指摘した。妥当な見解である。

 自民党の公約は、「安全と判断された原発の再稼働については、国が責任を持って地元自治体の理解が得られるよう努力する」としている。この点は評価できるが、中長期的な原発政策についても見通しを明らかにすべきだ。

 核燃料サイクルや核廃棄物処理への取り組みに対して、具体的な方策を詰める必要がある。

 「原発ゼロ」を掲げるどの党からも、その道筋について具体的かつ説得力のある説明はなかった。資源の乏しい日本で「原発ゼロ」をどう実現するのか。疑問にきちんと答えてもらいたい。

 民主党の細野幹事長は首相が率先して原発輸出を推進することに「違和感がある」と批判した。

 だが、原発などインフラ輸出は成長戦略の柱であり、官民の連携が重要だ。国際的にも日本の技術に対する期待が高いことを民主党はどう考えるのか。

 参院選をテーマに28日、東京では党首討論会が開かれた。

 安倍首相が、尖閣諸島を巡って対立が続く中国との関係について、「中国側は、ある一定の条件をのまなければ首脳会談をしないと言ってきている」と明らかにしたことが、注目された。

 国益を損なってまでも首脳会談を実現する必要がないのは当然である。ただ、関係改善できないことは、日中ともにマイナスだ。

 外交・安全保障戦略や領土問題の対処についても、各党の建設的な議論を望みたい。

中韓首脳会談 日本に問われる東アジア戦略

 10年前には予想もできなかったような東アジアの構図の大きな変化だ。中国と韓国の関係緊密化が加速する中で、日本の戦略が問われている。

 韓国の朴槿恵大統領が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。韓国大統領が就任後、日本より先に中国を訪れたのは初めてだ。国賓として歓待するなど中国の手厚いもてなしぶりが目立つ。

 1992年に国交樹立した両国は経済関係を急速に深め、韓国の対中貿易総額は今や、対米、対日の合計額を凌りょう駕がする。朴氏の訪中には、多数の韓国財界人が同行した。人とモノの往来はさらに活発化する勢いだ。

 共同声明で、両首脳は、中韓自由貿易協定(FTA)推進など経済強化にとどまらず、政治・安全保障対話の拡大を打ち出した。

 朴氏の訪中は、中韓関係をさらに発展させていく重要な契機になったと言える。

 最大の焦点だった北朝鮮の核問題に関して、共同声明は「朝鮮半島の非核化実現のため共に努力する」とうたった。

 だが、中韓の認識が完全に一致したわけではない。

 韓国は「北朝鮮の核保有は容認できない」と明言したが、中国は核兵器の脅威を強調しただけで北朝鮮を名指しすることは避けた。米中首脳会談で言及した北朝鮮への圧力強化にも触れなかった。

 6か国協議再開に重点を置く中国が北朝鮮を刺激したくなかったのだろう。これでは北朝鮮が非核化に動くはずもあるまい。

 北朝鮮の核問題を巡って、朴氏は米中韓3か国による対話の枠組み作りを重視する姿勢だ。既存の日米韓の連携を脆弱ぜいじゃく化させることにつながってはならない。

 中韓首脳は共同声明で、「歴史とそれによる問題で域内国家間の対立と不信が深まっている不安定な状況に憂慮を表明」した。

 名指しはされていないが、日本は歴史認識で中韓が共闘するような事態を警戒せねばならない。

 日本政府にとって、歴史問題に関する誤解が国際社会に浸透しないよう、日本の正当な主張を積極的に発信することが重要だ。

 歴史や領土を巡る対立で、日中韓が対話もしないのは問題だ。この点で、共同声明が「日中韓首脳会談の年内開催に共に努力する」と明記したのは評価できる。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議に合わせ、安倍政権下で初となる日韓外相会談が7月1日にも行われる。日韓仕切り直しの第一歩としたい。

2013年6月29日土曜日

原発と政治―未来にツケを回すのか

 あの日。地震と津波の脅威にがく然としていた私たちに追いうちをかけたのが、「福島第一原発で全電源を喪失」「原子炉の冷却不能」というニュースだった。

 爆発で原子炉建屋が吹き飛ばされる映像を目にして、背筋が凍った。

 そのことを、よもや忘れたわけではあるまい。

 安倍政権の原発政策である。

 自民党は参院選の公約で、原発の再稼働について地元の理解を得ることが「国の責任」と明記した。

 「安全性が確認された原発は動かす」が、安倍政権の基本方針だ。首相は国会閉会後の記者会見で「原子力規制委員会の基準を満たさない限り再稼働しない」と言い回しを変えたが、規制委さえクリアすれば、原発というシステムには問題ないという認識のようだ。

 折しも7月8日に、新しい規制基準が施行され、既存の原発が新基準に適合しているかどうかの審査が始まる。

 確かに、新基準はさまざまな点で改善はされている。

 旧来は規制当局が電力会社に取り込まれ、電力側が基準づくりや審査を都合よく誘導していた面があった。

 新基準は、活断層を厳しく吟味するほか、地震・津波対策やケーブルの不燃化、電源・冷却手段の多重化、中央制御室のバックアップ施設などを求める。

 今後も新たな基準を設けた場合、既存原発に例外なく適用することになったのは前進だ。過酷事故が起きることを前提に対策を求めた点も評価する。

 しかし、新しい基準への適合は「安全宣言」ではない。規制委が、「安全基準」から「規制基準」へ名称を変えたのも、そのためだ。安倍政権はそこから目をそらしている。

 なにより、福島の事故があぶり出したのは、安全対策の不備だけではない。

 たとえば、原発から出る危険なゴミの問題である。

 使用済み核燃料や廃炉で生じる高レベルの放射性廃棄物をどこにどうやって処分するか、まったく手つかずのままだ。当座の保管場所さえ確保できていないのが現状である。

 安倍政権は発足当初から、使用済み核燃料を再処理して利用する核燃料サイクル事業の継続を表明した。6月の日仏首脳会談でも、両国が協力して推進していく姿勢を強調した。

 しかし、計画の主役だった高速増殖炉は失敗続きで見通しがつかない。使用済み燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を商業炉で使うプルサーマル発電に頼るしかないが、これまでに取り出したプルトニウムを消化しきるのも難しい。

 ましてや、青森県六ケ所村の再処理工場を動かせば、プルトニウムをさらに増やすことになり、核不拡散を定めた国際公約に違反する。

 こうした負の側面に目をつぶり、課題を先送りするような原発回帰は「政治の無責任」としかいいようがない。

 原発というシステム全体の見直しを怠るなかでの再稼働は、矛盾を拡大させるだけだ。

 規制委の審査も、リスクの高い原発をふるい落とす仕分け作業と位置づけるべきである。「NO」とされた原発は、政府がすみやかに廃炉措置へと導く手立てを講ずる。

 基準への適応が認められた原発も、再稼働するには「本当に必要か」という需給と経済面からの検討が欠かせない。

 事故当時に比べると、節電意識や省エネ投資が進み、少なくとも需給面では乗り切れる情勢になった。

 あとは、原発が動かないことによる電気料金の値上げがどの程度、生活や経済活動の重荷になっているかという問題だ。

 負担感は人や立場によって異なるだろう。議論には根拠のあるデータが欠かせない。

 民主党政権時代に試行したコスト等検証委員会や需給検証委員会のような枠組みをつくり、国民に公開された場で合意を形成しなければならない。

 その際、火力発電の燃料代の増加といった目先の負担や損失だけでなく、放射性廃棄物の処理費用や事故が起きた場合の賠償など中長期に生じうるコストも総合して考える必要がある。 未来世代に確実にツケが回る問題に手を打つことこそ、政治の仕事である。

■「地元」をとらえ直そう

 原発が事故を起こせば、極めて広範囲に打撃を与える。

 この最低限の教訓さえ、まだきちんと生かされていない。

 国は福島の事故後、防災対策を準備する「重点区域」を、原発の8~10キロ圏から30キロ圏に広げた。対象の自治体は45市町村から135市町村に増えた。

 原発を再稼働するなら、これら「地元自治体」から同意を得るのが不可欠だろう。

 実際、関係する自治体は電力会社に、再稼働時は同意を条件とする立地自治体並みの協定を結ぶよう求め始めている。

 だが、交渉は難航している。関西電力が早期の再稼働をめざす福井県の高浜原発では、30キロ圏内に入る京都府や滋賀県の自治体が関電と交渉中だが、関電は認めようとしない。

 立地自治体の側にも、被害地域を広く想定する国の方針に反発する動きがある。

 福井県は全国最多の14基の原発が集中立地し、大きな災害が起きれば原発が相次いで事故を起こす心配がある。

 ところが、県は「国の避難基準があいまい」などとして、隣接する他府県の自治体との交渉を後回しにし、避難先を県内に限る計画をつくった。

 その結果、美浜原発の過酷事故を想定した6月の避難訓練では、美浜町民は原発から遠ざかる滋賀県ではなく、県の計画に従い、大飯原発のある県内のおおい町へ逃げた。これが、住民の安全を第一に考えた対応だと言えるだろうか。

 背景には、原発事業者と立地自治体との特別な関係がある。事業者は自治体に寄付金や雇用の場を提供し、自治体は危険な原発を受け入れる。

 「地元」が広がれば、事業者にとっては再稼働のハードルが上がり、立地自治体もこれまで通りの見返りが得られる保証はない。事故の現実を目の当たりにしてもなお、双方に、そんな思惑が見え隠れする。

 こんないびつな関係を続けることは、もう許されない。

 事業者は30キロ圏内の自治体と協定を結び、監視の目を二重三重にする。自治体は広域で協力し、発言力を強める。そして万一の際の避難計画をつくる。

 もたれあいでなく、住民の安全を第一に、緊張感のある関係を築かねばならない。

 しかも、これからは新しい規制基準のもと、再稼働できない原発も出てくる。

 国策に協力してきた自治体にとっては厳しい事態ではある。原発への依存から方向転換するのは容易ではない。

 ただ、福井県も「エネルギー供給源の多角化」を掲げ、液化天然ガス(LNG)の受け入れ基地の誘致に動き出すなど、脱原発依存に向けた試みが垣間見える。

 安倍政権は、再稼働への理解に努力するのではなく、新たな自立への支援にこそ、力を入れていくべきだ。

参院選へ 「ねじれ」に終止符打てるか

 ◆デフレ脱却へ具体策を競え◆

 安倍政権半年の実績を有権者は、どう審判するだろうか。

 政府は、参院選の日程について7月4日公示、21日投開票とすることを正式に決定した。

 参院の選挙区は「1票の格差」の是正措置により、1人区が従来より2増の31となった。その勝敗が全体の趨勢すうせいを決めるだろう。インターネットを利用した選挙運動が初めて導入されることでも、注目される国政選挙となる。

 ◆安倍政権の実績に審判◆

 最大の焦点は自民、公明の両党が参院で過半数を制し、衆参のねじれを解消できるかどうかだ。

 解消できれば安倍首相の政権基盤は強まり、政治が安定する。次の国政選挙まで最大3年あるため、選挙を意識せず、課題にじっくり取り組む環境が生まれる。

 安倍首相は、6年前の参院選で敗北して衆参のねじれが生じた時も首相だった。ねじれによる政治の迷走で国力が大きく失われたとし、「衆参のねじれに終止符を打たねばならない」と主張している。

 この間、与野党は対立を繰り返した。自民党の野党時代も含め、とくに参院では法案審議が滞った。

 通常国会閉会日の26日、参院の野党が首相問責決議を可決し、その影響で電気事業法改正案など政府提出の重要4法案が廃案になったことは象徴的だ。

 参院選では「政局の府」と化した参院の在りようも問われる。

 民主党は党の存亡をかけた戦いになる。海江田執行部による党再建の現状や、野党第1党としての国会対応を有権者が判断する。

 ◆民・維の巻き返しは◆

 日本維新の会は、衆院選後、国会で一定の存在感を示したが、橋下共同代表のいわゆる従軍慰安婦問題を巡る発言などで失速気味だ。石原共同代表との二枚看板で、参院に地歩を築けるかどうか。

 東京都議選で議席を大幅に伸ばしたみんなの党、共産党は、全国でも支持拡大を狙っている。

 政策で争点になるのは、まず安倍政権が推進している経済政策「アベノミクス」の評価だ。

 首相は、デフレから脱却し、日本経済を成長させるには、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」を進める道しかないと強調している。

 首相が言うように、国民が景気回復を実感するまでには至っていない。アベノミクスによる経済再生の狙いと効果を国民に丁寧に説明し、理解を得る必要がある。

 一方、民主党は、賃金が上がらない中での物価上昇、住宅ローン金利の上昇など「強い副作用」が起きていると批判している。

 では、民主党ならどのように経済を立て直すのか。具体策を示さねば説得力はない。「働く人を大切にし、所得を増やし、中間層を厚く豊かにする」といった抽象論では、説明不足である。

 民主党の公約は「値上げラッシュ」として電気やガス料金の値上げを強調しているが、民主党政権でほとんどの原子力発電所が止まり、代替の火力発電用燃料の輸入が急増した影響が大きい。

 脱原発政策との整合性も問われよう。

 参院選では、自民党、日本維新の会、みんなの党など憲法改正に積極的な政党が参院で3分の2以上を確保するかも見所だ。改正の発議が可能となる政治環境が現行憲法下で初めて整うことになるからである。

 ◆憲法は具体案の論議を◆

 憲法改正の手続きを規定した96条の改正問題については、自民、維新、みんなの3党が発議要件の緩和を訴えている。民主、公明、生活の党は、96条堅持、あるいは先行改正に反対の立場だ。

 憲法を巡る論点は幅広い。

 自民党は憲法改正草案で、9条について、平和主義を継承した上で国防軍の設置、領土の保全義務などを規定すると提案した。

 9条は最も現実と乖離かいりしている。自衛隊の存在を明確にすべきである。公明党が、現行憲法に新しい条項を加える「加憲」の立場ながら、自衛隊の位置づけを検討課題としたのは評価したい。

 維新の会は、衆参合併による一院制や首相公選制を掲げた。みんなの党も非常事態条項を盛り込むことを明記した。共産党、社民党は護憲を強調している。

 参院選で、憲法改正の具体的な内容が争点になるのは初めてだ。憲法を論じるのは、安全保障環境や統治機構、人権の現状を考えることでもある。選挙戦の中で大いに議論を深めてもらいたい。

2013年6月28日金曜日

iPS臨床―過剰な思惑は禁物だ

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)による治療を人で試す臨床研究が、世界に先駆けて日本で承認された。

 これまでの医療で十分な治療法がなかった難病の患者らは、再生医療による新たな治療法の開発に期待を寄せている。

 気になるのは、国の成長戦略の柱の一つにしたい安倍政権の思惑が過熱気味なことだ。この技術はまだ、有効性どころか、安全性さえ未確認である。

 成果を急がせたり、逆に小さな挫折で冷淡になったりということは百害あって一利なしだ。ひいきの引きたおしで「大型新人」をつぶしてはならない。

 iPS細胞は、京都大学の山中伸弥教授が開発し、ノーベル賞受賞につながった。皮膚や血液などの細胞に特定の遺伝子を導入して作ることができ、臓器や神経などさまざまな細胞に変化させることができる。

 厚生労働省の審査委員会が認めた臨床研究は、目の難病、加齢黄斑変性が対象だ。理化学研究所が、患者の皮膚の組織からiPS細胞を作り、網膜にある細胞のシートに変えて、手術で患者に移植する。

 主な目的は、移植した細胞ががんになるといった安全上の問題がないか調べることだ。動物実験を重ねても、最後は人で試さないと危険も効果もわからない。その最初の試行である。

 患者にきちんと説明を尽くした上で進め、結果をできるだけ公開することが望まれる。

 一方、安倍政権は今月閣議決定したイノベーション戦略の中で、「身体・臓器機能の代替・補完」を柱の一つに掲げた。

 再生医療を使った薬などの承認を増やす▽臨床研究や治験に進める病気の対象を広げる▽再生医療用機器の実用化などを20年ごろまでに達成するという。

 確かに、先行する米国に続いて、日本が再生医療ビジネスをリードする好機ではある。だが成長戦略の柱とするには、今の到達点に比べて前のめりすぎる印象がぬぐえない。過剰な期待に研究者からは「反動が怖い」といった声も聞かれる。

 再生医療関連だからといって薬の承認が甘くなっては困る。iPS細胞を使った創薬が加速しても、貧弱な治験・審査体制では対応できない。研究が進めば、「iPS細胞から受精卵を作り、育ててもいいか」など、倫理上の問題の検討も必要となる。iPS研究周辺には放置されてきた課題が多いのだ。

 経済の思惑に引きずられず、安全性と効果を確かめながら、地道に環境を整えていくことが政府の役割である。

国会の改革―選挙制度にとどめるな

 衆院議長のもとに有識者らによる諮問機関を設け、定数削減と選挙制度改革の検討を進める。安倍首相が、自民党の石破幹事長にこう指示した。

 昨年11月、自公民3党が選挙制度の抜本的な見直しで合意したのに、先の国会ではわずかに0増5減の新区割り法が成立しただけだ。

 首相が会期末に動いたのは、国会のふがいなさに批判が高まり、参院選にも影響しかねないと考えてのことだろう。

 もっとも、これだけで首相の姿勢を評価するわけにはいかない。何よりも自民党総裁として腰を上げるのが遅すぎたし、参院をどうするのかがはっきりしない。

 司法から抜本的な改革を求められているのは、参院も同じだ。また、衆院と同様、選挙区と比例区を組み合わせた選挙制度が参院の独自性を失わせ、一方で「衆参ねじれ」となれば政争の主戦場になることの弊害が指摘されてきた。

 衆院と参院の役割分担は何か、その特性を生かすためにそれぞれどういう選挙制度にしたらいいのか。制度改革にあたっては、こうした視点からの衆参一体の検討が不可欠だ。

 有識者の知恵を借りるなら、選挙に限らず国会のあり方全体の改革にも踏み込むべきだ。

 自公民3党は昨年、15年度まで赤字国債の自動発行を認めることで合意した。国債発行法案がねじれ国会での政争の具にされてきたことの弊害が、あまりに大きかったからだ。

 このような仕組みを予算関連法案や国会同意人事などにも応用できないかは検討に値する。議決が異なった際の両院協議会の運用の見直しも必要だ。

 先の国会では一度しか実施されなかった党首討論は定例化する。その代わり、予算委員会などの審議に首相らをいたずらに縛り付けるのをやめるのだ。

 首相の国会出席が与野党駆け引きの材料となるのを避け、政府との質疑から議員同士の討論中心の国会へと脱皮させることにもつながる。

 「政治とカネ」の問題も忘れてはならない。議員歳費や手当、年320億円の政党交付金は適正なのか再点検すべきだ。

 肝心なのは、諮問機関が出した結論には各党が従うという決まりを事前につくっておくことだ。案がまとまったものから、順次実行に移すスピード感も求められる。

 会期末の醜態で評判が地に落ちた国会である。せめてこのぐらいは有識者に委ねるのが、与野党の責任の取り方だろう。

iPS臨床研究 再生医療の実用化に近付くか

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った再生医療の実施に向けて、大きな一歩を踏み出すことになった。

 厚生労働省の審査委員会は、目の難病である「加齢黄斑変性」をiPS細胞で治療する理化学研究所(神戸市)などの臨床研究を承認した。

 来年夏にも始まる世界初の臨床研究では、有効性と安全性をしっかりと見極めてもらいたい。

 加齢黄斑変性は、老化に伴って発病する。目の奥にある網膜細胞の一部に障害が生じて、視界がゆがみ、失明の原因にもなる。

 臨床研究では、患者の皮膚からiPS細胞を作り、シート状に培養して網膜に貼り付ける。既存の薬物治療などでは効果がない6人の患者が対象だ。

 約70万人とされる国内の患者にとっては期待が高まるだろう。

 ただ、臨床研究から治験を経て一般の患者が治療を受けられるまでには、5年以上を要する。

 特に問題となるのは、iPS細胞が、がん化する可能性があることだ。細胞を作製する際に、がんを引き起こす恐れのある遺伝子を使うのが原因とされる。

 その遺伝子が移植時には残らないようにすることを条件に、審査委員会が臨床研究を承認したのは適切な判断だろう。

 目はがんになりにくいとされるが、実際に細胞シートを患者に移植した後、どのような変化が起きるか完全には予測できない。がん化のほか、未知のリスクにも細心の注意を払う必要がある。

 再生医療への信頼を得るためには安全性の確立が欠かせない。

 iPS細胞は、重い心臓病や交通事故による脊髄損傷などへの応用が計画されている。各国が研究開発にしのぎを削っている。

 日本は基礎研究分野で世界のトップクラスにいるが、実用化でも先陣を切ってもらいたい。産学官が協力し、着実に研究開発を進めることが大切だ。

 研究開発を支援するための環境整備も重要である。

 政府は、iPS細胞による再生医療を成長戦略の一つに位置付け、今後10年間で1100億円を助成する方針だ。実用化を促すための再生医療推進法が4月に成立したのも後押しとなる。

 一方で、再生医療製品の審査手続きを簡素化し、早期承認を目指す薬事法の改正法案や、問題のある治療を規制する再生医療安全性確保法案は継続審議となった。

 秋の臨時国会で議論を尽くし、成立を図りたい。

物言う株主 企業価値向上へ対話の道探れ

 企業経営に圧力をかける海外ファンドら「物言う株主」が、久しぶりに存在感を示した。

 経営改革によって、企業価値をいかに向上させるか。経営陣は重い課題を突きつけられたと指摘できる。

 今年3月期決算企業の株主総会がピークを越えた。焦点は「物言う株主」の動向だった。

 西武ホールディングスでは、筆頭株主である米ファンドのサーベラスが経営方針に異を唱え、独自の取締役候補を提案した。しかし、多数の賛成を得られず、会社提案の取締役が選任された。

 サーベラスは、株主総会前に株式公開買い付け(TOB)も仕掛けるなど経営改革を迫った。西武は反論し、対立が深まったが、攻勢をひとまず退けたといえる。

 ただし、再上場を目指す西武の改革は途上である。筆頭株主との関係が修復できないまま、難題に取り組まざるをえない。

 ソニーは、大株主の米ファンドから映画・音楽事業の分離と上場を求められたものの、テレビ事業などとの相乗効果が見込めるとして分離に慎重だった。

 株主総会では、他の株主からも分離問題を追及され、この要求を検討していく方針を表明した。テレビなどの主力事業を立て直し、収益力を向上させることが重要な経営課題となった。

 日本の企業では、銀行や取引先など安定株主が多数を占め、株主の声に耳を傾ける意識に乏しい経営陣が多い。収益力や株主への利益還元が物足りない面もある。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」によって日本経済が注目された効果で、外国人株主の日本株保有比率が3月末に過去最高の約3割に達した。

 今後、外国人だけでなく、利益拡大など企業価値の向上に一段と厳しく注文を付ける株主は増えるに違いない。経営陣は株主の声を真摯しんしに聞く姿勢が必要である。

 今年の総会で、トヨタ自動車など多くの企業が社外取締役の起用を決め、株主の要望に応えた点は評価できよう。

 無論、短期的な株価上昇や配当増額を求める株主の主張が、必ずしも正しいとは言えない。人材育成や研究開発など、中長期的に競争力を高める投資も重要だ。

 経営陣が株主の主張を退けるにしても、対話を重ね、合理的な方針を示す「説明責任」が要る。

 企業価値の向上は、企業と株主の共通目標である。互いに緊張関係を保ちながら、経営改革を加速することが求められよう。

2013年6月27日木曜日

国会の惨状―こんな参院はいらない

 これは参議院の自殺だ。

 そうとしかいいようのない、「ねじれ国会」会期末の惨状である。

 参院はきのう、安倍首相への問責決議を、民主党はじめ野党の賛成多数で可決した。

 これによって野党は参院での審議を拒否。採決が予定されていた政府提出の電気事業法改正案や生活保護法改正案などの重要法案は廃案になった。

 問責の理由は、民主党の予算委員長が職権で開会を決めた審議に、首相が出席しなかったことである。これは首相らの国会出席義務を定めた憲法63条に違反していると主張した。

 一方、これに先立ち自民、公明両党は、衆院小選挙区の「0増5減」に伴う新区割り法案を採決しなかったとして、平田健二参院議長への不信任決議案を提出していた。

 両党は、首相が予算委に出席しなかったのは、こんな不正常な状態での委員会審議はあり得ないからだと反論した。

 どちらに理があるというよりも、要は議会運営をめぐるいざこざだ。これに各党のメンツや参院選をめぐる思惑が複雑にからみあったあげくの泥仕合に過ぎない。

 廃案になった電気事業法改正案は、「発送電分離」に向け電力システム改革を段階的に進める内容だ。風力や太陽光などの自然エネルギーの新規参入を促す狙いがあり、「脱原発」を進めるうえで不可欠の法律だ。

 電力システム改革は、民主党政権時代から検討されてきた政策だ。だからこそ民主党は、問責決議案の提出には加わらず、法案の採決を優先させる姿勢をとっていた。

 それが、土壇場になっての決議賛成である。

 問責決議は可決されても、首相の地位を揺るがす法的根拠はない。会期末の決議は、野党として政権への対決姿勢を示す以上の実質的な意味はもたない。

 一方で、電事法改正案の廃案は、今後に与える影響が大きい。既得権益を守りたい電力各社が激しく抵抗する中で出ばなをくじかれ、改革そのものが遅れるおそれが出てきた。

 脱原発へむけた環境整備と形ばかりの問責決議のどちらが大切なのか。民主党をはじめとする野党は、判断を誤ったとしかいいようがない。

 国会は、国の唯一の立法機関と憲法にある。それなのに、国民の生活や未来にかかわる法律づくりよりも、政争にうつつを抜かす。

 そんな参院ならば、もういらない。

原発と経営―実は気づいてませんか

 原発を持つ電力会社の経営陣のみなさん。今年の株主総会も「脱原発」を求める株主の声を一蹴しましたね。むしろ、「一日も早い再稼働」への執着を鮮明にされました。

 9社のうち8社が、火力発電の燃料費の増大などで赤字。7社が過去の利益を蓄えた「別途積立金」の取り崩しに追い込まれ、3社は積立金が底をつきました。ゆゆしき事態です。

 原発活用を打ち出す安倍政権のもとで、一気に「元どおり」を狙いたい。遠い将来より、まずは目先の利益、というところでしょうか。

 思えば、みなさんはずっとそうでした。地震・津波対策も、放射性廃棄物の処分も、核燃料サイクル事業の吟味も、みんな後回し。原発は「国策」なんだから、いざとなれば国が考える、いや、考えるべきだ――。

 3・11後も一向に経営姿勢が変わらないのを見るにつけ、そんな思考がしみついているのでは、と邪推したくなります。

 でも、本当は気づいているのではないですか。もう昔には戻れない。原発を抱え続けるのはしんどい、という事実にです。気づいていないとしたら、それこそ驚きです。

 東京電力の崩壊は、いざという時に政府は守ってくれないことを証明しました。みなさんがせっせと献金してきた政治家も、事故直後はだんまりを決めこみました。

 一方、事故を経て規制は格段に厳しくなりました。今後は基準が改定されるたび、すべての原発への適用が求められます。寿命間近で出力の小さい原発にまで、です。存続にこだわると費用はどんどんかさみます。

 廃棄物問題の先送りも、もはや限界です。使用済み核燃料棒の保管場所からして足りない。それゆえに原発を動かせなくなる事態が迫っています。

 しかも、安倍首相は電力システム改革を断行すると明言しています。きのうまでの国会で法案は成立しませんでしたが、方向性は変わりません。発電部門と送電部門が切り離され、競争が激しくなれば金食い虫の原発を維持するリスクはもっと大きくなるでしょう。

 釈迦(しゃか)に説法ながら、先を読み、自らを柔軟に変えてこその企業経営です。どうも、過去の経緯にがんじがらめになっている気がしてなりません。

 もう少し時間が必要でしょうか。みなさんの中から早く、真の意味での経営合理性を掲げ、「いち抜けた!」と方針転換されるところが出てくるのを期待しているのですが。

通常国会閉幕 首相問責で野党は何を得たか

 あまりにお粗末な通常国会の幕切れである。

 参院が安倍首相の問責決議を民主党、みんなの党など野党の賛成多数で可決した。

 参院で野党は、当然のように法案審議を拒み、電気事業法改正案、生活保護法改正案や、水源地を守るための水循環基本法案など議員提出法案が廃案になった。

 問責決議は、生活の党、みどりの風、社民党の3党が提出したもので、参院予算委員会の審議に首相が出席しなかったことを「憲法違反」だと主張していた。

 参院選を前に、自民党批判の材料にしたいのが見え見えだ。こうした姿勢が国民に評価されると考えるのなら勘違いも甚だしい。

 そもそも首相を問責するほどの事態だったのか。参院予算委は民主党の石井一委員長が職権で開会を決め、与党は参院議長不信任案の処理が先だとして欠席した。

 菅官房長官が、首相が出席しないことに「正当な理由がある」と抗弁したのも一理ある。

 理解できないのは、問責決議に賛成した参院民主党である。

 民主党は25日、重要法案の処理を優先し、問責決議案は採決しない方針を与党と確認していた。

 ところが、26日午前になると、みんなの党など他党に同調し、対応が一変した。民主党が採決反対を貫いていれば何の問題もなく、重要法案は成立しただろう。

 民主党は与党を経験し、法的な効力のない問責決議の理不尽さを十分痛感したはずだ。細野幹事長は「自民党に法案を仕上げる熱意が全くない」と自民党を非難したが、責任転嫁にほかならない。

 今国会での最大の政治課題だった衆院選挙制度改革に関しては、与野党が、定数削減を含む抜本的な見直しについて「参院選後、速やかに各党間の協議を再開し、結論を得る」と文書で確認した。

 だが、各党が定数削減にこだわり、党利党略の主張を繰り返すだけであれば、こんな約束を何度交わしても意味がない。

 膠着こうちゃく状態を打破するために、首相は国会閉会後の記者会見で、「民間の有識者による第三者機関を国会に設けることを提案する」と言明した。妥当な判断だ。

 各党が有識者の出した結論を尊重するよう、拘束力をもつ機関とすべきである。

 今国会では、衆参の憲法審査会が、具体的な憲法改正内容にも踏み込んで論議を重ねた。参院選では憲法改正が大きな争点となる。有権者が判断しやすいよう、具体的な論戦を望みたい。

教科書検定 近隣諸国条項の見直し慎重に

 教科書検定の見直しを検討してきた自民党の特別部会が、中間報告を安倍首相に提出した。

 歴史教科書で「自虐史観」にとらわれた記述が存在するとして、検定基準の改善を要望した。近現代史で学説が定まっていない事項について確定的な記述をしないよう、検定基準に規定すべきだとも求めている。

 自分の国に誇りを持てるような教育を行うことは必要だ。

 安倍首相は4月に国会で「愛国心、郷土愛を書いた改正教育基本法の精神が生かされていなかった」と述べ、教科書検定制度の見直しに意欲を示した。中間報告も同じ問題意識に基づいている。

 昨年度の教科書検定では、南京事件で「少なくとも10数万人が殺害された」との記述が、「約20万人や10数万人、またそれ以下など諸説がある」と修正された。

 こうした検定をさらに徹底し、教科書の記述の客観性を担保しようという狙いは理解できる。

 中間報告は、今後の課題の一つとして、近現代史の記述で近隣国への配慮を求めた近隣諸国条項の見直しも挙げた。

 自民党は昨年の衆院選に続き、来月の参院選の公約にも近隣諸国条項の見直しを掲げている。安倍政権の教育政策の象徴的なテーマと言えよう。

 この条項が設けられたのは、1981年度の教科書検定の後だ。旧日本軍の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたとの誤った報道が発端だった。中国と韓国の反発を沈静化させる措置だった。

 実際、条項が直接適用されたのは、日本が戦争でアジア諸国に「迷惑をかけた」という記述が、「たえがたい苦しみをもたらした」と改められた91年度検定など、わずかなケースに限られる。2000年度以降は1件もない。

 一部の識者は、近隣諸国条項によって中国や韓国に配慮するあまり、偏った教科書の記述が是正されにくいと指摘する。

 だが、現行の検定基準でも、一面的な見解をそのまま取り上げることのないよう求めている。

 現在、大きな問題が生じていないことを考えれば、近隣諸国条項の見直しを図る必要があるのだろうか。歴史教科書の扱いは、外交問題に発展しかねない。

 中間報告は、教科書の検定、採択などを一括して扱う「教科書法」(仮称)の制定も検討するよう要望している。

 政府は、多様な教科書を尊重する現在の教科書検定制度の趣旨に留意し、議論を進めるべきだ。

2013年6月26日水曜日

民主党の公約―挑戦者が逃げるな

 来月の参院選は、民主党にとって後のない戦いになる。

 ところが、民主がきのう発表した参院選マニフェスト(政権公約)を読む限り、そうした危機感が伝わってこない。

 総選挙、都議選と、たてつづけに惨敗を喫した。参院選で踏みとどまり、党再生の足がかりを得ることができるか。まさに正念場である。

 マニフェストに工夫をこらしたあとは見える。

 漫画を使って、わかりやすくしたのは、そのひとつだ。給料も年金も上がらないのに物価が上がる国民の苦労を描き、「今の政府の経済政策には強い副作用がある」と指摘した。

 では、アベノミクスに代わる経済再生の道筋とは何か。それがはっきりしない。財政再建にしても成長戦略にしても、説得力ある対案を示さなければ、政権に批判的な有権者の受け皿となることはできまい。

 原発政策では「30年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」とした。昨年の衆院選公約と同じ表現だ。

 だが、自民党は公約に休止中の原発の再稼働推進を明記するなど、民主党政権が決めた脱原発路線からのあからさまな転換を図っている。なぜ正面から「待った」をかけないのか。

 環太平洋経済連携協定(TPP)についても「推進」をうたいながら、「国益を確保するために、脱退も辞さない厳しい姿勢で臨む」と、どっちつかずである。

 政権与党時代、民主党は消費税率引き上げなどをめぐって内紛を繰り返し、国民の信頼を損なった。原発やTPPで踏み込めないのは、主要政策でいまだに党内をまとめきれない現状を物語っている。

 憲法改正への対応にしてもそうだ。改正の発議要件をゆるめる96条の先行改正にこそ、明確に反対する方針を掲げた。

 しかし、改正そのものについては「未来志向の憲法を国民とともに構想」とするなど、ここでも党内の護憲、改憲両派に配慮したためか、抽象的でわかりにくい表現になった。

 海江田代表は、マニフェストの冒頭、手書きで「生活者、働く者の立場という原点に立ち返る」と書いた。

 それを有権者に納得してもらうためには、これからの論戦を通じてマニフェストに肉付けし、政策の方向性を明確にしていくしかない。

 野党に転じ、挑戦者として臨む参院選だ。民主党は逃げてはならない。

南北朝鮮―韓国は対話の戦略描け

 血を分けた民族がいのちを奪いあった朝鮮戦争は、63年前のきのう、北朝鮮の侵攻によって始まった。

 400万人以上が犠牲となって3年後に休戦したが、公式にはいまなお戦争が続いている。軍事境界線をはさんで南と北は日々にらみあったままだ。

 その南北の間で今月、久しぶりに高官級会談を開くことが合意されたが、あっけなくご破算となってしまった。

 北朝鮮のかたくなな態度はあいかわらずだ。しかし、今回ばかりは韓国にも、もっと柔軟性を発揮して、対話にのぞんでもらいたかった。

 韓国側は、会談に統一相を派遣する代わりに、北朝鮮の金養建(キムヤンゴン)・朝鮮労働党統一戦線部長の出席を求めたが、決裂した。

 金氏は、金正恩(キムジョンウン)第1書記にも近いとされる対南政策の責任者だ。北朝鮮の独特の体制を考えると、最初から出席を求めるのは難しいと指摘されていた。

 弾道ミサイル発射の動きなど挑発を続けてきた北朝鮮はこのところ態度を一変させ、朝鮮半島の非核化をめぐる6者協議への復帰も示唆しはじめた。

 その真のねらいは、最大の交渉相手である米国を直接対話に引き出すことだ。そのため韓国の朴槿恵(パククネ)政権は、形だけの対話を避けようと、あえて実力者の出席を求めた。

 だが、どんなレベルであれ、対話自体は北朝鮮を利することにはならない。重要なのは、その中身であり、意思疎通の芽を育てることだ。朴大統領はかねて、南北間に信頼を積み上げ、難題を一つずつ解きほぐしたいと訴えてきたはずだ。

 確かにこの60年間、韓国は常に脅威にさらされ、市民を巻き込むテロや攻撃も受けた。それでも、歴代政権はなんとか話し合いで緊張をほぐしてきた。本格的な南北の対話ができずに終わった李明博(イミョンバク)・前政権の二の舞いになってはいけない。

 南北の対話は、日朝、米朝の2国間協議や、6者協議のいわば土台でもある。日米は韓国を完全に置き去りにして北朝鮮と取引することはできない。

 分断された民族同士の歩み寄りと共存を模索するプロセスが、北東アジアの長期的な安定をもたらすからだ。

 国際社会は、金正恩体制に核とミサイルを放棄させ、平和がもたらす経済的利益を理解させねばならない。そのためにも韓国は現実的な対北戦略を描き、対話を率先して進めるべきだ。

 20世紀の冷戦構造がそのまま残った朝鮮半島のパズルを解く主役は、韓国自身なのだ。

いじめ防止法 着実な取り組みで子供を守れ

 法制化により、いじめ対策が一歩前進したと言えよう。子供たちを苦しめている悪質ないじめの抑止につなげたい。

 いじめ防止対策推進法が国会で成立した。今秋にも施行される。与野党がそれぞれ提出していた法案を一本化し、成立させたのは、対策強化が必要だという認識で一致したためだ。

 新法は、自治体や学校に、いじめに関する相談窓口の設置や定期調査の実施などを求めた。学校ごとに複数の教師やスクールカウンセラーらで構成するいじめ対策組織も常設することで、継続的な取り組みを促した。

 以前から指摘されてきた内容が多いとはいえ、法律に明記された意味は大きい。「いじめは絶対に許されない」という認識を社会全体で共有する契機とすべきだ。

 無論、こうした対策だけで、問題が解決できるわけではない。

 大津市のいじめ自殺事件で息子を失った父親は「教師がいじめを発見できなければ、法律の効果は発揮されない」と訴えている。

 すべての教師が、子供一人ひとりに目を配り、いじめの兆候を見逃さないことが大切だ。

 新法は、インターネット上の中傷もいじめと定義づけた。掲示板への書き込みやなりすましメールによる嫌がらせは陰湿で、子供に与える心理的なダメージが大きいのに、実態が見えにくい。

 国や自治体に対し、ネット上のいじめを監視する民間団体への支援といった体制整備を求めたのは適切だろう。

 実名を挙げて誹謗中傷するのは名誉毀損などの違法行為にあたる。そのことも日頃から学校でしっかりと教えてもらいたい。

 いじめ問題では、被害者である子供を守り抜くという視点が欠かせない。新法には、加害生徒に対する出席停止措置の活用が盛り込まれた。指導しても加害生徒に改善が見られない場合、学校は毅然きぜんとした姿勢を示すべきである。

 家庭でのしつけを重視し、子供の規範意識を育むことを親の努力義務としたのも理解できる。

 子供の生命にかかわる深刻ないじめが起きた時、教育委員会や学校がどう対応すべきかを示した点も注目される。原因究明の調査を行い、判明事実を被害生徒の保護者に伝えることを義務づけた。

 度々、批判されてきた教育現場の閉鎖体質を変えねばならない。付帯決議にあるように、調査の際には学校側と利害関係のない第三者を参加させ、公平性を確保することが肝要である。

民主参院選公約 この政策では説得力に欠ける

 非現実的な数値目標の失敗に懲りて、臆病になりすぎたのか、政策が抽象的で、「攻め」の姿勢があまりに乏しい。

 民主党が参院選公約を発表した。「暮らしを守る力になる」をキャッチフレーズに掲げ、くらし(経済)、いのち(社会保障)、みらい(女性・子育て・教育)など、7項目の重点政策を示している。

 経済政策について、公約は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に関し、物価上昇、金利乱高下などの副作用に懸念を示すにとどめた。草案段階では、副作用への批判をより強く打ち出していたが、争点があいまいになった。

 最も肝心な税財政・金融政策と成長戦略に関する民主党の対案もほとんど盛り込まれていない。これでは経済論争が深まらない。

 原発について、2012年衆院選の政権公約と同様、「30年代の稼働ゼロ」を明記したが、代替エネルギーの確保策など、目標を実現する道筋は示せていない。

 社会保障も、全額公費による最低保障年金の創設、年金一元化など従来案の再掲にとどまった。

 09年政権公約は最低保障年金を「月額7万円」としたが、財源不足で実現不可能なことが露呈したため、12年政権公約では金額を削り、今回も踏襲した。

 不可能な数値目標を除外するのは当然としても、具体性を欠く政策を並べるだけでは、有権者の信頼を取り戻せるはずがない。

 過去の公約の失敗を反省し、財源面も含め、説得力を持つ政策に練り直すべきだ。そのハードルを克服し、与党に論争を挑まなければ、参院選を反転攻勢の機会にすることは難しいだろう。

 外交・防衛では、日米同盟を基軸とし、領土・領海を断固守る姿勢を強調している。総論に問題はないが、自民党と比べると、同盟深化や領土防衛の各論の記述が少なく、踏み込み不足が目立つ。

 憲法では、改正の発議要件を衆参各院の3分の2以上とする96条は合理性があるとして、96条の先行改正に反対した。国民と「憲法対話」を進め、「未来志向の憲法を構想する」とも主張した。

 党内の改正推進派と慎重・反対派の双方に配慮した結果、玉虫色の表現に落ち着く、という相変わらずのパターンだ。既に具体的な改正内容を示している他党よりも2、3周遅れの状況にある。

 参院選後には、憲法改正問題が大きな焦点となる。民主党も、独自の改正案をまとめる方向で意見集約を急ぐべきだ。

2013年6月25日火曜日

区割り再可決―国会丸ごと不信任だ

 こんな泥仕合を見せられては、与野党に丸ごと不信任を突きつけたくなる。

 衆院はきのう、小選挙区の「0増5減」に伴う新区割り法を与党の3分の2の賛成で再可決し、成立させた。参院は4月に法案を受け取ったにもかかわらず、60日間審議をせず、否決したものと見なされた。

 衆院小選挙区の「一票の格差」が最高裁で「違憲状態」と断じられたのは、一昨年春のことだ。それから総選挙をはさんで2年あまり。国会が出したたったひとつの答えが、この「0増5減」の新しい区割りだ。

 私たちは社説で「0増5減」について、投票価値の平等に向けた抜本改正に進むまでの「緊急避難的な措置」と位置づけ、一刻も早い実現を求めてきた。

 たとえ最低限の帳尻あわせであっても、「違憲状態」にひとまず区切りをつけないことには、腰を据えた検討作業に進むのは難しいと考えたからだ。

 だが、各党には、そんな真摯(しんし)な議論をするつもりは、さらさらなかったようだ。

 参院で与野党は、この法案の審議や採決をする、しないでもめ続けた。「0増5減だけでは抜本的な解決にはならない」という野党側の言い分もわかるが、ならば堂々と審議の場で主張すればいい。

 議会としてあたりまえの審議をせぬままに、会期末を目前に控えた与野党は、有権者にはまったく理解できない駆け引きを繰り広げた。

 民主党の予算委員長が、首相の出席が見込めないまま予算委員会を開くことを決める。与党はこれに対抗するかのように、民主党の参院議長の不信任決議案を提出する。

 ともにその狙いは、参院選を控えて相手の非をアピールすることだ。だが、そのあげくに衆院に再可決を許してしまったのでは、参院の自殺行為と言われても仕方ない。

 肝心の選挙制度改革については、衆参両院ともに議論を参院選後に先送りだ。

 来月の参院選は、昨年の臨時国会で成立した「4増4減」の新しい定数配分で行われる。一票の格差は5倍近くのままで、選挙後に無効を求める訴訟が起こされる見通しだ。

 一方、昨年の衆院選をめぐる無効訴訟の最高裁判決は、この秋に見込まれている。

 国会はつまるところ、最高裁から「違憲、選挙無効」の最終通告を突きつけられない限り、何もできないのか。

 「国権の最高機関」の、あまりにもむなしい姿である。

柔道連盟―執行部の刷新が不可欠

 これは居座りどころか、居直りといわれても仕方ない。

 不祥事が相次ぐ全日本柔道連盟の上村春樹会長が、続投する意向を明らかにした。

 きのうの臨時理事会で将来の辞意を口にしたが、期限は区切らなかった。「改革改善のめどが立ったら辞める」というあいまいな条件つきである。

 女子選手への暴力問題、助成金の不正受給、さらに理事によるセクハラ問題。その発覚のたびに繰り返してきた自己弁護との違いは見あたらない。

 いまの執行部体制が刷新されないままでは、改革が本当に進むとはとても信じられない。

 臨時理事会は、助成金問題の調査を委ねた第三者委員会からの最終報告を受けて開かれた。

 「受給に問題あり」とされた計6055万円を日本スポーツ振興センターに全額返し、2人の外部理事と3人の女性理事を迎えるなど、部分的な改革案が一応示された。

 また、年3回の理事会とは別に、毎月開く「常務理事会」の新設も決めた。だが、そのメンバーは、会長ら執行部を中心に11人が務めるという。まるで屋上屋を架すように映る。

 上村会長は第三者委の報告を尊重するとしていたが、実際の態度は裏腹だ。不正の認定について、「必要な修正をしてほしい」と報告書の書きかえを促す要望書を会長名などで3回出していたことがわかった。

 これを受けて、第三者委が「現場の意向を聞かずに物事を決める上層部の体質は改善していない」と指摘したことについては、「上層部だけでなく、いろいろな意見をまとめたもの」と記者会見で語り、反省の言葉もなかった。

 これまでも、暴力の事実を確認しながら、その監督を厳重注意で留任させたほか、助成金の流用も当初は調査にすら乗り出さなかった。現体制に自浄能力があるとは到底思えない。

 こうした事態を認識していながら傍観してきた理事会や評議員会の責任も重い。学閥や年功序列がはびこり、いまだに組織として正常なガバナンスが機能しているとはいえない。

 日本水泳連盟や日本バレーボール協会では相次いで40代の会長が誕生し、改革の努力をみせたのとは対照的だ。上村会長は会長職を辞めた後も理事として残る可能性まで示している。

 世間の常識からかけ離れた全柔連のモラル感覚は、日本の柔道界そのもののイメージを損ねかねない。きょう開かれる評議員会は、全柔連の抜本的な再出発の道筋を話しあうべきだ。

「0増5減」成立 参院の存在意義はどこにある

 参院は、立法府としての責任を放棄しているに等しい。存在意義が厳しく問われている。

 衆院小選挙区定数「0増5減」を実現する区割り法が、衆院本会議で自民、公明両党などの3分の2以上の賛成で再可決、成立した。

 法案は衆院通過後、参院で採決されないまま60日経過したため、憲法59条の規定で、否決とみなされた。「みなし否決」による再可決は2008年以来である。

 区割り法は、最高裁が「違憲状態」と判断した衆院小選挙区の「1票の格差」を是正する。

 山梨など5県の小選挙区数を減らし、17都県42選挙区の区割りを改定することで、10年国勢調査に基づく選挙区間の人口格差は、2倍未満に縮小される。

 最高裁が廃止すべきだとした「1人別枠方式」は、区割り法に残っている。是正には不十分との指摘もあるが、「違憲状態」とされた以上、緊急的な措置を講じないわけにいかない。

 参院では法案の審議入りすらできなかった。野党側は再可決という手段で法案がいずれ成立するという「与党のおごり」が根本にあると批判している。与党の対応にも問題はあるだろう。

 だが、再可決は、憲法の定める民主的なルールであり、与党がためらう必要はない。

 筋が通らないのは、野党第1党の民主党の対応である。

 民主党は昨年11月、0増5減の先行実施に同意し、衆院選挙制度改革法に賛成した。ところが、政権交代後、その法律を実施するための区割り法には反対した。

 参院民主党は、法案の採決も拒んだ。衆院での再可決に持ち込めば、参院選を前に、「与党の強引な国会運営」をアピールできるといった思惑も働いたとされる。

 こんな“ご都合主義”に国民から共感を得られるはずがない。東京都議選の惨敗も、独りよがりな国会対応と無縁ではあるまい。

 「0増5減」の先にある衆院選挙制度の抜本改革で、与野党が合意できなかったことは残念だ。

 参院選後に協議を再開するための各党間の文書ですら、まとまっていない。民主党が「定数削減の期限の明示」を要求し、妥協しようとしないからである。

 選挙制度改革で合意形成を図るには、与野党の見解の隔たりが大きい定数削減問題を切り離すべきだ。国会議員を減らせば国民に歓迎されるといった大衆迎合的な発想は捨て去り、制度改革の議論をリセットしなければならない。

離島防衛訓練 自衛隊に海兵隊機能が必要だ

 尖閣諸島を含めた離島防衛を強化するには、海からの着上陸や緊急展開の能力などの「海兵隊的機能」を自衛隊に持たせることが急務だ。

 自衛隊と米軍が10~26日に米カリフォルニア州で、離島防衛の共同訓練を実施している。陸海空3自衛隊と米軍による海外での統合訓練は初めてである。

 訓練では、米軍の新型輸送機MV22オスプレイが海上自衛隊の護衛艦に着艦した。離島防衛を主任務とする陸上自衛隊の西方普通科連隊は、海兵隊とともに、敵に占領された離島の奪還も行った。

 離島防衛の重要性が増す中、時宜にかなう実戦的な訓練だ。

 訓練は中国軍を対象に想定している。米中首脳会談の時期と重なったため、中国は中止を求めた。日米が拒否したのは当然だ。

 中国は「海洋強国化」の名の下、海空軍や国家海洋局の装備を増強し、公然と東・南シナ海での領土・権益拡大を目指している。

 海洋監視船による尖閣諸島周辺の領海侵入には海上保安庁が対応するにせよ、中国の特殊部隊による島の占拠などを抑止するには、共同訓練を通じた自衛隊と米軍の即応力の向上が欠かせない。

 冷戦終結後、日本の軍事的脅威は大きく変化した。離島侵攻は、ミサイル、テロ、サイバー攻撃とともに、「新たな脅威」と位置づけられる。脅威の変化に応じて、自衛隊の部隊編成や装備、訓練を見直さなければならない。

 今年末に策定する新防衛大綱では離島防衛が一つの柱となる。

 南西諸島防衛の中核を担う陸自西方普通科連隊を拡充し、水陸両用車など装備を増強すべきだ。制海・制空権の確保へ、海自の護衛艦や航空自衛隊の戦闘機、早期警戒管制機なども増やし、警戒監視活動を強化する必要がある。

 無人偵察機グローバルホークの取得を急ぐとともに、オスプレイの導入も真剣に検討したい。

 水陸両用車やオスプレイは、地震など大規模災害時の人命救助や被災地支援にも効果があろう。

 安倍政権は今年度、削減が続いていた防衛予算を11年ぶりに増加させた。日本の安全保障環境が悪化する中、来年度以降も増加すべきだが、厳しい財政事情を踏まえれば、大幅な伸びは望めない。

 離島防衛を含む、部隊の機動力を重視する「動的防衛力」の強化など重点分野は大胆に増やす。一方で、陸自の定員削減や基地の統廃合、装備調達の効率化などで一部の歳出は減らす。防衛予算にメリハリをつけることが大切だ。

2013年6月24日月曜日

都議選終えて―野党は対立軸を鮮明に

 きのうの東京都議選で、自民党と公明党は、候補者全員を当選させる完勝をおさめた。

 身近な都政の課題より、安倍政権の経済運営の是非に焦点が当たった選挙戦だった。このところ足踏み気味の株価だが、それでも首都の有権者は、アベノミクスに一定の期待を示したといえるだろう。

 ただ、自民党が野党の不振に乗じた面が強いことは否定できない。民主党は議席を激減させ、第1党から第4党に転落した。都議選初挑戦で候補者を大量に立てた日本維新の会も、まったく振るわなかった。

 橋下徹大阪市長の慰安婦発言が批判を招いただけでなく、石原慎太郎氏との「謝れ」「謝らない」の茶番が有権者をしらけさせた。

 一方、共産党が議席を倍以上に増やしたことは注目に値する。反アベノミクス、原発ゼロ、憲法改正反対を明確に打ち出し、政権批判票の受け皿になったことは間違いない。

 来月21日とされる参院選まであと1カ月。過去には、都議選が直後の国政選挙の結果を先取りするようなこともあった。

 だが、近年の国政選挙は風向き次第で結果が大きく左右される。特に今回は、アベノミクスが最大の争点だけに、市場の動きからも目が離せない。

 安倍首相は衆院選の直後、「自民党に百%信頼が戻ってきたわけではない」と話していた。得票率でみれば、惨敗した09年から大きく伸ばしたわけではなかったからだ。

 ところが、そうした謙虚さや緊張感は、このところ急速に失われつつある。

 典型的なのは、休止中の原発の再稼働や海外への原発輸出に前のめりの姿勢をあらわにしていることだ。高市早苗・党政調会長が「原発事故によって死亡者が出ている状況ではない」と語り、猛反発を受けた。

 そんな横暴や、なし崩しの方向転換を許さないためにも、いつでも政権を取って代われる力強い野党の存在は不可欠だ。

 とりわけ、つい半年前まで政権を担っていた民主党の責任は重い。

 いまの国会で民主党は精彩を欠いた。予算委員会では、株高を誇る安倍首相に切り込めなかった。民主党政権が掲げた「原発ゼロ」の目標をほごにされたのに、世論を盛り上げて対抗することができなかった。

 政権に対峙(たいじ)する迫力が必要なのは、都議選での共産党の戦いぶりを見ても明らかだ。参院選に向け各野党は、説得力のある対立軸を示さねばならない。

沖縄慰霊の日―戦争の教訓共有しよう

 本土の目に映る沖縄は、沖縄の人々が真に見てほしい姿だろうか。それとも、本土が自分の都合で描く沖縄だろうか。

 きのう「慰霊の日」を迎えた沖縄と本土との間に最近、ひときわ意識のずれが目立つ。

 たとえば普天間飛行場問題。県外移設を訴える沖縄の声に、本土はもはや聞く耳をもたぬかのようだ。参院選の公約で自民党本部は、県連の反対を押し切り、辺野古移設を明記した。

 4月に政府が催した「主権回復の日」式典をめぐっては、沖縄は米施政下に置き去りにされた「屈辱の日」と抗議した。一方、オスプレイ配備の本土分散は遅々として進んでいない。

 沖縄から見る本土への心の距離は開くばかりだ。ところが皮肉にも、人々が国家主権を語るとき、沖縄はがぜん、本土の意識の中で重い存在感を担う。

 中国共産党の機関紙が、沖縄における日本の主権は未解決とする論文を掲載すると、日本政府はただちに抗議した。中国への国民の憤りは当然だ。

 だが、「領土」「安保」の文脈では日本人の自尊心を映す国土であるのに、沖縄県民の目線に立つ「地元」の声は本土に届かない。そんな本土と沖縄を分かつ溝の原点を、わたしたちは常に熟考する必要がある。

 最大の悲劇は太平洋戦争末期の沖縄戦だった。68年前、本土防衛を前に、戦略上の捨て石とされた沖縄は、地上戦の修羅場と化した。

 「鉄の暴風」といわれた米軍の砲撃や空襲。日本兵に殺されたり、集団死を強いられたりした地元民もいた。死者20万。県民の4人に1人が落命した。

 あの戦場をくぐった高齢者の4割が今も、心にストレス障害を患っている可能性が高いとの調査結果を、沖縄の研究者たちが今春まとめた。不発弾や遺骨は今も日常的に見つかり、米兵の犯罪もあとを絶たない。

 「戦争」は沖縄の人々の中では、今も終わっていないのだ。なのに、本土はその思いを共有しないどころか、軍事基地の重荷を沖縄に過剰に背負わせたまま、憲法改正による「国防軍」創設まで語り始めている。

 きのうの追悼式で、沖縄県の仲井真弘多知事は、癒えることのない痛みにふれつつ、「私たちは沖縄戦の教訓を継承する」と誓った。日本の戦後の安定と繁栄は何を犠牲にして築かれたのか。その教訓を沖縄だけのものにしてはならない。

 「慰霊の日」を機に、いま一度、沖縄戦の記憶を直視しよう。沖縄と本土の意識のずれを少しでも修正するために。

都議選自公完勝 アベノミクスへの期待票だ

 安倍政権にとっては大きな追い風だ。

 有権者の政権に対する支持が本物かどうかは、来月の参院選で試されることになろう。

 東京都議選で自民党は候補者全員が当選し、都議会第1党を奪還した。公明党も手堅く全勝し、第2党の座を占めた。猪瀬直樹知事の与党である自公両党の議席が過半数を大幅に超え、都政が安定するのは間違いない。

 第2次安倍内閣の発足後、初の大型選挙となった都議選では、都政に関する大きな争点が不在だったこともあって、もっぱら安倍政権の経済政策「アベノミクス」に対する評価が焦点となった。

 自公両党の完勝によって、安倍政権の政策と政権運営は、前向きの評価を得たと言える。

 ただ、静岡県知事選など最近の地方選では、自民党系の候補が現職に敗れるケースが目立つ。安倍首相は選挙後、「今求められているのは、一層謙虚に身を引き締めていくことだ」と語った。

 前回都議選で第1党に進出した民主党は、地滑り的な大敗を喫し、第4党に転落した。国政で失政を重ねたことに対する有権者の不信感が、いまだに根強いことの証左である。退潮傾向に歯止めはかからなかったと言えよう。

 民主党は、株価や為替相場が乱高下していることなどから、アベノミクスのマイナス面を訴えた。だが、批判一辺倒で説得力に欠けたのではないか。

 参院選では、具体的な対案を示し、自民党との政策論争を深めてもらいたい。

 日本維新の会は大量の候補を擁立したにもかかわらず、全く振るわなかった。橋下共同代表のいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる発言が響いたのだろう。

 石原共同代表が選挙期間中に橋下氏に苦言を呈し、橋下氏も都議選の結果次第では辞任もあり得ると発言する事態にまで至った。

 ただ、東京は石原氏の地元だ。今回の惨敗は石原氏の影響力低下に負う面も小さくない。

 みんなの党は、橋下発言を機に維新との選挙協力を解消して選挙に臨んだが、躍進した。自民、民主両党に批判的な無党派層の一定の受け皿になったと見られる。

 共産党も議席を倍増し、民主党を抜いて第3党に進出した。投票率が前回を大きく下回ったことなどが、組織力のある政党を押し上げたと言えよう。

 今回の都議選で表れた各党の得票動向が、参院選にどう連動するか注目される。

首相沖縄訪問 政府一丸で基地負担を減らせ

 沖縄の過重な米軍基地負担を軽減するため、政府は一丸となって努力する必要がある。

 太平洋戦争の沖縄戦で組織的戦闘が終結したとされる「慰霊の日」の23日、安倍首相が沖縄県を訪問し、沖縄全戦没者追悼式に出席した。

 式典には、岸田外相、小野寺防衛相、山本沖縄相も同席した。外相、防衛相の出席は初めてだ。沖縄問題に取り組むには、関係府省の緊密な連携と、地元との重層的な調整が欠かせない。

 首相は式典後、基地負担軽減について「目に見える形で実施したい」と語った。米軍普天間飛行場に関しては、「固定化はあってはならない。一日も早い移設に努力を重ねたい」と強調した。

 日米両政府は4月上旬、県南部の米軍6施設について10~16年間程度で計1000ヘクタール以上の広大な土地を返還する計画を発表した。この計画の着実な実行こそが沖縄の負担を減らす最大の近道だ。

 特に普天間飛行場の辺野古移設を実現することが重要である。

 日米両政府は今月13日、来年度に予定していたキャンプ瑞慶覧の西普天間住宅地区の返還を年内にも前倒しすることで合意した。

 普天間飛行場の辺野古移設に伴う公有水面埋め立てを、仲井真弘多知事が承認しやすくするための環境整備の一環と評価できる。

 大切なのは、基地返還後の跡地について、政府と地元自治体などが協議し、より効率的な利用策を検討することだ。様々な沖縄振興策とも連動させたい。それが基地返還の価値を高めよう。

 首相は式典後、沖縄振興策について知事と意見交換した。信頼関係を醸成しつつ、辺野古移設への知事の理解を広げるべきだ。

 一方で、基地負担の軽減はあくまで、在沖縄米軍の抑止力の維持と両立させなければならない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や、中国の急速な軍備増強と示威活動の拡大を踏まえれば、自衛隊と米軍の即応・機動力の重要性が今、一段と増しているからだ。

 沖縄県与那国町議会は20日、与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備に伴う町有地の国への賃貸を承認した。防衛省と町は一時、陸自配備に関する町への協力費支払いをめぐって対立したが、週内にも賃貸契約を結ぶ運びだ。

 自衛隊や米軍が効果的な活動を行うには、地元関係者と安定的で良好な関係を築くことが前提となる。防衛省は引き続き、様々な機会をとらえ、沖縄との関係を深めることが求められる。

2013年6月23日日曜日

節電の夏から未来へ―省エネこそ日本の資源だ

 せっかく根づいた節電を、ここで止めてはいけない。
 この夏、「節電が定着し電力不足に陥らない」として、東日本大震災のあと初めて、全国で数値目標つきの節電要請が見送られる。だがあくまで、関西電力大飯原発3、4号機が動いていることを前提とした話だ。
 この2基は昨夏、「原発ゼロでは大幅な電力不足が生じる」として、暫定的な安全審査で動かしたことを忘れてはならない。福島の事故をふまえた厳しい規制基準には「おおむね適合している」として9月まで稼働が認められる予定だが、専門家の調査では、直下に活断層がある可能性も指摘されている。
 「安全な原発だけを動かす」という最低限の体制さえ、まだまだ徹底されていないのが現状である。
 去年の夏、皆が協力し、大飯の再稼働がなくても大丈夫だった節電を成し遂げたことを思い出そう。厳しい夏を「原発ゼロ」で乗り切れる実績を積み上げれば、多くの人が望む脱原発の道筋が見えてくる。
■数時間だけでOK
 それでも、暑い夏に冷房をがまんするのはつらい。高齢者や病人を抱えた家庭ではなおさらだ。いつまで耐えればいいのかと思う人も多いだろう。
 節電とは何か、改めて考えてみよう。
 電力不足が怖いのは、需要が供給を上回ると大規模な停電を引き起こすからだ。心配なのは、最も需要が高まる真夏の数日間の昼間。電力各社は、この数時間のピーク需要を満たそうと発電所を建て続けてきた。
 つまり、このピーク需要さえ下げれば余裕が生まれる。ずっと冷房をがまんしなくてもいいのだ。年に数日間、数時間だけなら、電気製品を消したり、外出先で涼を取ったり、協力できる人は少なくないだろう。
 この協力を促すのに有効なのが、ピーク時を避けて使えば電気代が下がる仕組みだ。
 だが、家庭向けに昨年こうした料金プランをつくった関西電力の場合、契約に至ったのは全体の0・07%。全く有効な対策になっていない。節電にみあうメリットが感じられる料金設定の工夫はまだまだ足りない。
 電力会社は、電力の安定供給のため「原発の再稼働に全力で取り組む」と繰り返すが、他にも全力で取り組むことはいくらでもあるではないか。
 そして「節電=がまん」と決めつけるのはやめよう。
■がまんしない方法も
 日本の製造業で大規模な省エネ設備投資が行われたのは、1970年代の2度の石油危機の時だ。だが90年代に入って石油価格が下落すると、バブル崩壊で体力が弱った企業の多くが足踏みに転じてしまった。
 オフィスや住宅も、旧型の断熱器具や照明、空調設備が多い。最新型の省エネ設備に投資するだけで「がまんしない」節電ができる余地は大きい。
 脱原発への道筋を探った大阪府市エネルギー戦略会議は、日本中の工場や会社、家庭などで更新時期を迎えた設備を最新省エネ設備に置き換えるだけで、2030年までに消費電力の3割削減が可能と試算した。
 一度投資するだけで節電効果が続く。日々の電気代が下がるので資金も確実に回収できる。電気代が上がっても、使う量が少なければ影響は小さい。
 専門知識や当座の資金がない中小企業には、自治体などの公的機関が無料で経費削減につながる省エネ診断をしたり、省エネ投資向けの低利融資を行ったりしている。もっと活用しよう。
■底力発揮は今が好機
 投資が広がれば省エネ機器の開発が活発になり、より優れた安価な省エネ製品が生まれ、節電効果はさらに高まる。生産拡大で雇用も生まれる。
 経済界には、節電は企業活動に負担だと否定的な人が多いが、思考停止ではないか。発想を転換すればこれほど大きなビジネスチャンスはない。
 エネルギー問題に直面しているのは日本だけではない。ウランも石油も限りある資源だ。いま世界中で、ITを駆使し、街全体で再生可能エネの有効活用をはかるスマートシティーの社会実験が始まっている。
 悲惨な原発事故を経験した日本だからこそ、得意の先端技術を生かして省エネ製品やシステム開発に力を結集し、世界が求める技術を育てられるはずだ。
 石油危機のとき、日本人はピンチを逆手にとり、世界有数の省エネ社会をつくりあげた。節電は、資源のない日本の最大のエネルギー源は「人」であることを思い出す好機だ。
 朝日新聞の世論調査では、原発を経済成長に利用しようとする政権の方針に、59%が「反対」と答えた。原発に頼る安倍政権の路線は、省エネ社会へのチャンスをつぶしかねない。
 一人一人が賢い節電を前へすすめ、チャンスをつかまえる。そんな熱い夏にしたい。

税制改正前倒し 企業減税で経済の再生を図れ

 日本経済の本格的な成長には、企業の設備投資拡大が欠かせない。

 政府は投資を促す減税策の検討を急ぎ、早期実現を目指すべきだろう。

 安倍首相は、政府・自民党に対し、例年は年末に行っている税制改正論議の前倒しを指示した。今秋に打ち出す成長戦略第2弾の柱にしたい考えだ。

 1~3月期の実質成長率は4・1%と高く、景気に明るさが見え始めたが、民間主導の自律的な回復はまだ実現していない。

 政府が6月半ばに決めた成長戦略第1弾については、「踏み込み不足」との批判がくすぶる。「3年で年間設備投資70兆円」などの目標が盛り込まれたが、具体策に乏しいためだ。

 首相は企業の投資意欲を高め、景気を牽引させることが急務と判断したのだろう。

 浮上しているのが、設備投資にかかった費用を初年度に全額まとめて損金として計上する「即時償却」の拡充策である。

 初年度に支払う税金が減るため手元の余裕資金が増え、新たな投資に踏み切る戦略を打ち出しやすくなる効果が期待できる。

 現在は、太陽光発電や風力発電など環境関連設備を購入する場合に認めている。

 即時償却できる対象の拡大が必要だ。企業が積極的に老朽設備を更新したり、新規投資を決断したりする呼び水になる。そうした企業の生産性が向上し、競争力強化にもつながろう。

 研究開発や人材育成などの投資を促す減税策も課題だ。

 経済界の要望が強い法人税率の引き下げを巡る論議は、紆余うよ曲折が予想される。

 自民党は昨年の衆院選で法人税減税を公約したのに、政府の成長戦略は「法人税率」に言及しなかった。自民党は参院選公約に再び「法人税の大胆な引き下げ」を明記したが、政府・自民党の姿勢は一枚岩ではない。

 法人税の実効税率は約38%で、20%台が多い欧州やアジアに比べて高い。日本の国際競争力を低下させ、空洞化の一因とされる。

 外国からの投資を呼び込むためにも、政府・自民党は、具体的な検討を進めてもらいたい。

 問題は、厳しい財政事情の中で財源をどう確保するかだ。企業向けの税制優遇措置で役割を終えたものを精査する必要がある。

 国内企業の7割超が法人税を払っていない。赤字を翌年以降の黒字と相殺できる繰越欠損金制度の見直しも重要なテーマだ。

中国海洋強国化 地域の緊張どこまで高めるか

 「平和発展」を標榜するなら、中国は率先して緊張緩和をすべきだ。

 今年を「海洋強国化」の元年と位置づけた習近平政権が、東シナ海と南シナ海を力で囲い込む動きを着実に加速させている。

 ベトナムと領有権を争う南シナ海の西沙諸島では、4月末にクルーズ船ツアーを開始し、ベトナムの強い反発を招いた。

 ツアーは200人規模で、観光や海水浴を通じて乗客に実効支配を体感させる内容だ。今後、規模を拡大するとみられる。

 昨年6月に、西沙、南沙、中沙の3諸島を管轄する「三沙市」を設置したのに続く措置だ。

 海洋博物館建設と並ぶ、海洋権益確保への支持を広げる「海洋版・愛国教育」の一環である。

 習国家主席は19日、訪中したベトナム国家主席と会談した。その後の共同声明では、「争いを複雑化、拡大させる行動はとらない」としている。

 対立する両国が紛争悪化に歯止めをかける点で一致したことは歓迎できる。言葉だけに終わらせず、順守することが肝要だ。

 中国はフィリピンが実効支配している南沙の一部海域で、5月に監視船の巡回を実施した。昨年来、中沙のスカボロー礁で監視船の巡回を常態化させている措置を想起させる動きである。

 2月には、山東省青島を中国初の空母「遼寧」の母港とした。年内にも遠洋航海させる構えだ。海軍力増強の誇示は、日本や米国に圧力をかける狙いがあろう。

 沖縄県・尖閣諸島周辺では、監視船の領海侵入が続いている。

 オバマ米大統領は先の米中首脳会談で、「同盟国である日本が中国に脅迫されるのを見過ごすことはできない」と述べたという。監視船による挑発を念頭に中国を牽制けんせいしたものだろう。日米同盟強化につながる重要な発言である。

 看過できないのは、尖閣について、習政権の要人が度々「棚上げ」論を持ち出し、現状変更を図ろうとしていることだ。

 そもそも「棚上げ」すべき領土問題は存在しない。1992年に初めて領海法で尖閣の「領有」を明記し、「棚上げ」を破棄したのは他ならぬ中国ではないか。

 今月末から来月初めにかけて開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会議では、南シナ海での「法の支配」などを巡る議論が行われる。

 政府は歴史的経緯とルール厳守の緊要性を積極発信し、日本の立場を訴えていかねばならない。

2013年6月22日土曜日

自民党の公約―有権者を甘くみるな

 自民党が発表した参院選の公約の冒頭に、安倍首相はこうつづっている。

 日本を覆っていた暗く重い空気は一変しました――。

 本当にそうだろうか。

 出足こそ好調だったアベノミクスだが、このところの市場乱調で先行きには不安が漂う。首相の認識は楽観的すぎる。

 個別の政策目標でも、政府の成長戦略そのままの威勢のいい数字が並ぶ。

 ▽今後3年間で設備投資を年間70兆円に回復

 ▽17年度末までに約40万人の保育の受け皿を新たに確保

 ▽20年に農林水産物・食品の輸出額を1兆円に

 しかし、これまでにも指摘してきたようにいずれもハードルは高く、実現の道筋は描けていない。

 一方で、来年4月の消費税率引き上げに一切触れていないのはどうしたことか。社会保障改革も「国民会議の結果を踏まえて必要な見直しをする」とするにとどめた。

 ともに国民に負担を強いるテーマだ。選挙に不利になるから盛り込まなかったとすれば、これほど有権者をばかにした話はない。

 09年の総選挙で、民主党は実現不能なバラ色のマニフェストを掲げ、破綻(はたん)につながった。野党としてそれを批判してきた自民党が、いままた同じ轍(てつ)を踏もうというのか。

 看過できないのが、原発をめぐる政策転換だ。

 先の総選挙で自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立をめざす」と公約していた。たった半年前のことである。

 それが今回は「地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をする」と、休止中の原発の再稼働推進に踏み込んだ。

 3・11から2年が過ぎ、安全より経済優先で理解が得られると思っているのか。首相は衆院選公約との整合性をきちんと説明する責任がある。

 この参院選を機に、与党は衆参両院で過半数を得て「政治の安定」を実現しようとしている。そうなれば、今後の政策を進めるうえで与党の力は格段に強まる。

 私たちが、自民党の公約に注目するのはそのためだ。

 公約では、憲法改正や集団的自衛権行使など、いわゆる「安倍カラー」を強く打ち出してはいない。だが、参院選が終わったら「白紙委任」を得たとばかり走り出すようでは困る。

 この公約には、そんな危うさがつきまとう。

大飯原発―関電は規制委に従え

 国内でいま運転している原発は、関西電力の大飯原発3、4号機だけである。その暫定的な稼働について、原子力規制委員会は、9月の定期検査まで続行を認める方向を固めた。

 原発の新規制基準が7月8日に施行されると決まったばかりだ。本来はその前に止めるのが筋ともいえるが、規制委は「新基準におおむね適合している」との評価を下す見通しだ。

 夏の電力ピークを前に、「あえて止めるほどの問題があるかどうか」を吟味した現実的な対応であろうし、新基準との整合性をチェックした努力のあとも認められる。

 それでも、「重要施設の真下に活断層があるのではないか」という専門家からの指摘について、結論を先送りしたままの継続容認は納得できない。

 もし活断層であるとの結論になるなど重大な問題が出れば、たとえ定検直前であっても直ちに運転を止めねばならない。

 それは規制委の田中俊一委員長自身がかねて明言してきたことでもある。もちろん、大飯だけでなく、どの原発でも、新基準による正式審査ではこうした先送りは許されない。

 規制委以上に問題なのは、関電の不誠実な対応だ。

 規制委の評価書案では「対策を小出しに提案して新基準を満たす最低線を探ろうとするかのような姿勢」と批判された。

 活断層かどうかを判断しようにも、関電による地質調査が遅々として進まず、データが出てこなかった。

 耐震性を評価する上で周辺の三つの活断層が一緒に動く場合を考えるようにと規制委が求めても、関電は強く難色を示し、1カ月以上応じなかった。

 「しょせん規制委に大飯を止めることはできないだろう」とたかをくくっているようにも見えた。安全を最優先に考えている企業とは思えない。こんな対応しかできないのならば、関電に原発を動かす資格はない。

 これまで原子力の安全については、技術面で詳しい電力会社が規制当局を都合よく操った面があった。福島原発に関する国会事故調査委の黒川清委員長が「規制のとりこ」と呼んだ現象で、日本では原発の監督機能が崩壊していたと指摘した。

 規制委は曲がりなりにも、そうした反省を生かそうとしている。電力会社は古い考えを捨てて、規制委に完全協力し、できる限り高度な安全を確保する姿勢に転じねばならない。

 国民が電力会社を見る目は今も厳しい。その現実をよく考え、猛省すべきだ。

米核軍縮提案 中国の核増強にも目を向けよ

 核軍縮の機運の高まりを生かし、アジアの安全保障環境の改善へつなげることが重要である。

 オバマ米大統領がドイツの首都ベルリンで演説し、ロシアに新たな核軍縮交渉を提案した。

 戦略核弾頭の配備数の上限を、現在の米露の新戦略兵器削減条約(新START)が規定する1550個から3分の1減らして、1000個程度にしたいという。

 比較的威力が小さい戦術核兵器も、削減対象に加える方針だ。

 オバマ氏は、任期1期目で達成した新STARTに続く核軍縮の成果を、2期目でも引き続き追求する意欲を表明したと言える。

 ロシア側は、ロゴジン副首相が「真剣に受け止めることはできない」と述べるなど、提案の受け入れには否定的だ。米国が欧州で進めるミサイル防衛(MD)計画によって自らの核抑止力が弱まることを強く警戒しているためだ。

 軍縮交渉の行方は不透明だ。それでも核大国の米露両国には、世界の安定に特別の責任がある。

 世界には1万を超す核兵器がある。その95%を保有する両国が、自らの核を削減せずに、いくら他国に核を持つな、核を減らせ、と言っても、説得力は持つまい。その点を自覚して、核軍縮に真摯に取り組んでもらいたい。

 今回の核軍縮提案に際し、オバマ氏は、戦術核の削減へ向け、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国とも協力すると述べた。

 「核兵器のない世界」の理念を掲げてノーベル平和賞を受賞したオバマ氏の真価が問われているのは、核を巡る環境が悪化しているアジアでの取り組みだ。

 中国の核弾頭は250個に達している。その中国やインド、パキスタンは核兵器を増強し、北朝鮮は核実験を3度強行して核ミサイル武装化にひた走っている。

 米国の“核の傘”に抑止力を頼っている日本としては、こうした状況で米国が核軍縮を進めれば、かえって地域の安定が損われはしまいか、とも懸念される。

 オバマ氏が、今回提案の核削減を実行しても、「米国と同盟国の安全は確保でき、抑止力を維持できる」と述べたことは心強い。

 中国には、米露に協調して核削減を進めるよう、強く求めたい。中国の習近平国家主席はオバマ氏と、北朝鮮の非核化で一致した。北朝鮮に核放棄を迫るためにも自らの核軍縮が求められよう。

 核実験全面禁止条約(CTBT)の早期発効へ、条約批准を急ぐ点でも米中は協調すべきである。

子宮頸がん ワクチンの情報提供を丁寧に

 子宮頸がんワクチンの接種対象者に混乱が広がっている。

 接種を推進してきた厚生労働省が、副作用を理由に、積極的に勧めるのを見合わせたためだ。厚労省はワクチンの効果と副作用の情報を分かりやすく伝える必要がある。

 子宮頸がんは、子宮の入り口にできるがんで、若い女性に増えている。年に約9000人が発症し、2700人が死亡する。性交渉に伴うウイルス感染が原因だ。

 ワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因となっているウイルスに効果がある。数年から数十年かかって進行するがんを防ぐ効果は、現時点では証明されていないが、発がん前の組織の変異を予防することは確認されている。

 ワクチン接種により、子宮頸がんは大幅に減ると期待される。

 世界保健機関(WHO)が接種を推奨し、100か国以上で接種が行われている。

 日本でも今年4月、小学6年から高校1年までの女子を対象に、原則公費で行う定期接種となった。希望者は、医療機関に出向けば無料で接種を受けられる。

 副作用も、他のワクチンに比べて特に多いわけではない。接種を受けた推計328万人のうち、重い副作用の症状が出たのは357人だ。副作用の危険性に比べ、社会全体ではメリットの方が大きいと言えるのではないか。

 問題なのは、43人が接種後、体の広い範囲で慢性的な痛みを訴えていることだ。原因は分かっていない。症状が表れた女子生徒の家族らが、速やかな接種中止を求めたのは理解できる。

 副作用を不安視する声が少なくない以上、定期接種は継続しつつ、勧奨は中止するという今回の措置はやむを得ないと言えよう。

 厚労省に求められるのは、副作用の原因解明はもとより、副作用がどのような人に起きやすいかという詳しい分析である。

 爆発的に感染が拡大する恐れがあるインフルエンザなどの予防接種は、「社会防衛」の意味合いを持つ。これに対し、子宮頸がんワクチンは接種を受ける人の「個人防衛」の側面が強い。

 接種を受けるかどうかは個人の判断に委ねられているだけに、効果と副作用を理解し、納得して接種を受けることが大切だ。

 定期接種の導入で今後、希望者が増えるだろう。専門知識を持たない希望者に、医療機関は丁寧な説明を徹底してもらいたい。

 それは、他の疾病のワクチン接種にも共通したことだ。

2013年6月21日金曜日

オバマ核削減―真の軍縮へ向かうには

 「核のない世界」をめざすオバマ大統領が新軍縮構想を打ち出した。ノーベル平和賞を受けた大統領が2期目に入ってようやく、核世界の転換へ本格的に動き出したと受けとめたい。

 大統領は、戦略核の配備数を現行条約から3分の1減らして1千発程度に落とす交渉をロシアと始める意向を表明した。

 米国防総省は、長期目標として核の役割を「核攻撃を抑止する」ことに限定する考えなどを盛り込んだ指針を公表した。

 核廃絶をめざしつつも、核の存在する間は抑止を維持する。それが、オバマ政権の基本方針だ。今回の方針もその枠内ではあるが、核の保有量、役割を減らすことに踏み出したのは重要な前進である。

 ただ、「核のない世界」をめざすと熱弁をふるった、あのプラハ演説から4年余りたつのに、核廃絶への歩みはあまりにゆっくりでしかない。

 大幅な核軍縮をもっと早く進めるには、核の均衡で世界は安定するといった冷戦型の思考から脱却することが大切だ。

 米ロの安全保障環境は異なる。なのに両国が同時に同程度まで減らす核軍縮は、冷戦思考そのものである。ともに核システムが老朽化してきているのだから、せめて、それぞれが最低限必要と思う程度の数にまで、すすんで減らしていくべきだ。

 米ロとも常時、核ミサイルを発射できる警戒態勢を今なお続けている。先制攻撃も可能なこの態勢維持には多くの核ミサイルが必要で、軍縮を阻んでいる。誤発射による世界破滅の危険もあり、この冷戦型配備を一刻も早くやめることだ。

 核ミサイルとミサイル防衛(MD)は矛と盾の関係にある。ロシアが戦略核削減交渉に慎重なのも、米国のMDで自分の抑止力が弱まらないかと懸念しているからだ。

 MDが軍縮の邪魔をしてはならない。米国や同盟国のMDの対象は北朝鮮やイランに限定し、戦略核を迎撃する機能は抑制する。そうした形で、米ロ、さらには中国も含めた大国間の矛と盾の軍拡競争を避ける工夫が不可欠である。

 大統領は、戦略核より射程が短く、欧州に配備された戦術核の削減も提案した。だが、通常戦力で劣るロシアの方が大量に戦術核を保有する。通常戦力も含む包括的な軍備管理抜きに、交渉は進まないだろう。

 ハードルは多いし、時間もかかる。だが、ここは、「核兵器がある限り、真に安全とは言えない」と強調した大統領の信念と指導力に期待したい。

米金融政策―緩和依存からの出口に

 景気や雇用の回復が順調なら、来年半ばごろに量的緩和を終わらせることができる――。

 米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、「QE3」と呼ばれる金融緩和策の「出口」について、踏み込んだ見通しを示した。

 事前には、市場の失望を恐れてうやむやに済ませるのではないかとの臆測も強かった。このため直後のニューヨーク市場では株式も米国債も売られた。

 だが、議長はむしろ具体的に語ることで、行き過ぎた市場の思惑を鎮めようとした。妥当な判断だ。

 最近の米国市場は異常だった。先月、議会証言で議長がQE3終了の可能性にさらりと触れただけで世界の市場に動揺が走り、東京の株価も急落した。以後、景気の良しあしより、QE3が終了する時期をめぐる推測で株価が騰落する「あべこべ相場」が続いた。

 異様な市場の動きは、超金融緩和の矛盾が来るところまで来たことを示している。問題を先送りしても、後々の反動が大きくなるだけだ。市場が中央銀行に際限なく緩和をねだる「依存症」を徐々に矯正するのは必要なことでもある。

 この1年ほど、日米欧の先進国で経済運営での中央銀行頼みが急速に深まった。これは何より政治の機能不全の裏返しだ。議会のねじれや選挙、ユーロ圏では加盟国の足並みの乱れと、事情は様々である。

 しかし、根底にあるのは、経済を強化するには不可欠ながら有権者には不人気な構造改革などの政策に、時の政権が尻込みする民主主義の弱点だ。

 勢い、本来は時間稼ぎでしかない金融緩和を万能薬のように過大評価し、中央銀行に圧力をかける。緩和で一服すると必要な改革を怠る。

 こうした緩和依存症が広がれば、企業間の健全な競争も阻害し、活力を弱める。議長が景気回復を強調しつつ出口を明確に語った背景には、産業界に奮起を促す狙いもあるはずだ。

 日本も学ぶべきことは多いだろう。

 アベノミクスでは、大胆な成長戦略を打ち出す条件つきで極端な金融緩和を先行させた。

 だが、財政出動を含む「3本の矢」のバランスが崩れれば、緩和のおねだりが強まる危険は常にある。

 日銀は量的緩和の副作用や限界、そして出口についても率直に語り、政治にも市場や企業にも自立を促す努力を怠ってはならない。

FRB出口戦略 市場の混乱防ぐ舵取りが要る

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、米国景気を下支えしてきた異例の規模の量的緩和策第3弾(QE3)を、年内に縮小し始める見通しだ。

 バーナンキFRB議長は19日、連邦公開市場委員会(FOMC)後に記者会見し、金融政策を正常に戻す「出口戦略」を初めて明らかにした。

 景気回復が順調に進めば、米国債などを毎月850億ドル(約8・2兆円)買い入れているQE3について、「年後半にペースを縮小し、来年半ばに購入を終了するのが適切」と述べた。

 条件付きながら、焦点だったQE3の縮小と終了時期を表明した影響は大きい。

 2008年のリーマン・ショック後、FRBは、金融危機を収束させるとともに、景気テコ入れのため、量的緩和策を3回にわたって実施してきた。いよいよ出口戦略に動き出すことは、非常時に対応した政策の転換を意味する。

 議長の踏み込んだ発言には、最近の米国の景気回復基調に自信を深めていることがうかがえる。金融政策の先行き不透明感を払拭したい狙いもあるのだろう。

 しかし、19日のニューヨーク株式市場の株価は、前日比200ドル以上も値下がりし、20日の東京市場の株価も大幅に下落した。

 株式市場への資金流入が減少するとの懸念から、日米とも売りが膨らんだのが主因だ。

 今後も、世界の株価や為替相場の乱高下を招く恐れがある。市場の混乱防止へ、FRBは難しい舵かじ取りを迫られる。

 FRBは昨年末、異例策の一環として08年12月から続けるゼロ金利政策の解除については、インフレ率を見ながら、「失業率が6・5%に下がるまで続ける」という方針を示している。

 ただし、現在7・6%の失業率が6・5%に低下するのは早くても14年とみられる。雇用情勢の改善は緩慢で、本格的な景気回復は不透明だ。オバマ政権の財政引き締めの悪影響も軽視できない。

 混乱なくQE3を終了させ、それに続いて、ゼロ金利政策解除にいつ踏み切るか。FRBは、「市場との対話」をさらに工夫することが求められよう。

 異次元の量的緩和策を続ける日本銀行にとっても、FRBの課題は「他山の石」と言える。

 当面は、デフレ脱却や日本経済再生を最優先し、緩和効果の最大化を図るべきだが、将来の出口戦略に向け、いずれ本格的に検討を進める必要がある。

自民参院選公約 政権党としては物足りない

 政権復帰から半年を経た安倍政権は、山積する内外の課題にどう立ち向かうのか。

 自民党が参院選公約を発表した。経済政策「アベノミクス」の実現を前面に押し出し、投資減税や法人税の大胆な引き下げを言明した。積極的な姿勢はうかがえるが、踏み込み不足も目立つ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉については、「守るべきは守り、攻めるべきは攻めることで、国益にかなう最善の道を追求する」とうたった。

 日本は7月末から交渉に加わる予定だ。本格交渉はこれからにせよ、農業分野での競争力強化策など、自由化に備えた具体策を明確にしていないのは物足りない。

 TPP交渉参加への反発が農産地で根強いからだろう。北海道ではJAグループの政治団体が自主投票を決めるなど、参院選に向けた牽制けんせいの動きが表れている。

 党執行部は結局、公約を補足する総合政策集「J―ファイル2013」にTPP反対派の主張を反映させた。コメや麦といった農産品重要5項目などの「聖域」が確保できなければ、交渉からの「脱退も辞さない」と明記した。

 J―ファイルは中長期的な政策目標を示すものだ。苦肉の対応といえよう。

 エネルギー政策では、「地元自治体の理解を得られるよう最大限の努力をする」として、政府の原子力規制委員会が安全性を確認した原発の再稼働を推進する方針を盛り込んでいる。

 経済成長の実現に欠かせない原発再稼働の方針を明記したのは妥当だ。ただ、中長期的なエネルギー戦略として原発や核燃サイクルをどう位置づけるのか、あいまいな点が多く、わかりにくい。

 憲法について、「時代の要請と新たな課題に対応できる」よう改正を訴えたのは当然である。

 改正手続きを定めた96条については、「主権者である国民が『国民投票』を通じて、憲法判断に参加する機会を得やすくする」と、発議要件を緩和する必要性を強調した。国民の理解を得るため、より丁寧に説明していくべきだ。

 「96条の先行改正」は、公明党が慎重姿勢を示したこともあって、見送られた。

 憲法改正を巡る立場の違いなどから、自民党は今回、公明党との共通公約の策定を見送らざるを得なかった。公明党は参院選後、憲法改正問題のカギを握る可能性がある。自公両党は、粘り強く協議を続けることが肝要だ。

2013年6月20日木曜日

G8と世界―課題を並べるだけでは

 世界の難題をショーケースに並べてみせた。でも、その処方箋(せん)は示せなかった。

 英国・北アイルランドであった主要国首脳会議(G8サミット)である。今年も指導者らの頭を悩ませたのは、グローバル化とどう向きあうかだった。

 議長国である英国は、多国籍企業による「税逃れ」を提起した。その具体策は、銀行口座の情報交換をめぐるルールづくりの促進などにとどまった。

 貿易や投資の自由化では、日本が7月に加わる環太平洋経済連携協定(TPP)を含め、米欧日の3極間などの自由化交渉を進めることをうたった。

 これまで旗振り役だった世界貿易機関(WTO)が先進国と新興国の対立などで行き詰まっているため、地域間協定に力を入れるしかない。そんな現状を追認したにすぎない。

 政治面の焦点だったシリア問題では、米欧は化学兵器を使ったとしてアサド政権の退陣を求め、ロシアは抵抗した。

 その対立軸は、主要国が人権を盾に他国に干渉することを認めるかどうかの是非であり、論争の出口は見えない。

 G8の存在意義が問われて久しい。とりわけ08年のリーマン・ショック以降、その傾向に拍車がかかった。経済でも政治でも、新興国の比重が増し、旧来の先進国だけで世界の潮流を決められる時代ではなくなった。

 だとしても、単に課題を毎年大々的に提示することだけが、G8の役回りと割り切っていいはずはない。

 グローバル経済が生みだすひずみ、勃興する中国と周辺国とのあつれきやトルコの混乱、アフリカの不安定さ……。世界を見渡せば、力は陰ったとしても、G8以外に世界共通の議題設定や指針の提案ができる存在は少ない。

 国際NGOや財界会合など、国の枠組みを超えたフォーラムは近年多く育った。金融危機後は新たに20カ国・地域に広げた首脳会合の枠組みもできた。

 だが、参加国が多様すぎるとかえって論議が進まない限界も浮かぶ。地球規模の安定をめぐる構想力と実行力を兼ね備えているのは、主要国の対話の場としてのG8と、国連であることは間違いない。

 今回、ささやかな試みもあった。税逃れの論議では、多国籍企業が活動しながら大した税収が得られないアフリカの首脳も招かれた。先進国の財政問題と南北問題を融合させる新たな取りくみとして注目される。

 先進国クラブ自体も、変化を迫られている。

原爆症認定―被爆者案軸に決着急げ

 広島、長崎で被爆して病気になったのに、国はなぜ原爆症と認めないのか。全国の被爆者が制度改正を求め、集団訴訟に踏み切ったのは10年前だった。

 行政訴訟としては異例なことに、国は連敗を続けた。政府は08年に認定基準を大幅に緩め、09年には日本原水爆被害者団体協議会(被団協)との間で集団訴訟の終結に合意した。

 だが問題は今も解決していない。10年度から昨年末までに7536人の申請が却下された。ほぼ3人に1人しか認定されない状況だ。原爆投下後に被爆地を歩いた「入市被爆者」らへの壁が特に厚い。

 入市被爆は浴びた放射線量がごく少ないというのが学界の通説だ。審査する国の専門家会議が、病気との関係性は低いと判断しているとみられる。

 抜本解決に向け、被団協は昨年1月、制度改正案をまとめた。線量にこだわらず、約21万人の被爆者全員に月3万円程度の手当を支給▽原爆症になった場合は病気の重さに応じて手当を加算、との内容だ。

 専門家会議での審査はやめ、どう加算するかは医師の診断書と意見書によって判断できるようにする、としている。

 線量が多いほど病気の危険性は高まるとの疫学データにこだわる国の姿勢が、入市被爆者らの認定の壁を厚くしてきた。一連の訴訟では、こうした姿勢が「救済を目的とした被爆者援護法の趣旨に沿わない」と裁判所に再三批判されてきた。

 被団協案は法の趣旨からも合理的といえる。国はこの案を軸に早期決着を図るべきだ。

 厚生労働省が制度見直しのため、3年前に設置した有識者検討会では、被団協案に難色を示す空気が強い。

 原爆症と認める病気の種類を増やしたり、可能性が否定できない人には一定の手当を支給したりする代案が出ているが、抜本解決にはなるまい。

 厚労省内には、被団協案を採用すれば、年1400億円程度の被爆者関連予算が膨らむのでは、という懸念もある。

 財源では工夫できる余地はある。原爆症と認定されると、重いがんでも軽い白内障でも、月13万円超が一律に支給される。この制度には、被爆者の間でも疑問の声がある。

 被爆者全員を対象とすることを前提に、病気の重さや回復後のケアの必要性に応じた加算額を適切に決めれば、予算が極端に増えることはないだろう。

 被爆者の高齢化が進み、今や平均年齢は78歳だ。今決断しないでいつ決断するのか。

G8首脳宣言 日本経済が久々に示す存在感

 久しぶりに日本の首相が存在感を示した。公約となった日本経済の再生に向け、政策の着実な実行が求められよう。

 英国の北アイルランドで行われた日米独など主要8か国首脳会議(G8サミット)は、首脳宣言を採択し、閉幕した。

 宣言は「世界経済の成長見通しは弱い」との認識を示した上で、「持続可能な回復へ断固たる行動が必要」と強調した。

 ユーロ圏はマイナス成長が続き、牽引けんいん役だった中国など新興国の景気減速も目立つ。G8が結束を再確認したのは適切である。

 今回、焦点の一つになったのが安倍政権の経済政策「アベノミクス」だ。安倍首相は会議で、「日本経済の発展が世界経済の発展に貢献する」と説明した。

 宣言が大胆な金融緩和、財政刺激策、成長戦略という「3本の矢」に言及し、「日本の成長を支える」と評価した意味は重い。

 日本は期待に応え、世界の成長に寄与できるよう、デフレ脱却と経済再生を急がねばならない。

 先進国最悪の財政状況にある日本には、厳しい注文も付いた。宣言が「信頼できる中期的な財政計画」を求めたことだ。

 政府は、今夏策定する中期財政計画で、成長と財政再建の両立への具体的な道筋を示し、その実現を図ることが肝要である。

 世界が成長するための原動力は自由貿易推進だとして、宣言は、日本が参加する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉などについて「可能な限り速やかな完結を目指す」と明記した。日本は、農業自由化への対応を急ぐべきだ。

 グローバル企業が税率の低い国の制度を利用して節税している問題に関し、G8首脳が、課税逃れ防止の国際ルール作りを急ぐことで合意したのは前進だろう。日本などが主導し、適正に徴税できる仕組みを整えてもらいたい。

 一方、1月のアルジェリア人質事件を受け、北アフリカ諸国でのテロ対策にG8が協調することで一致したのは評価できる。

 宣言は、北朝鮮に核・弾道ミサイル計画の放棄を要求し、挑発行為の自制を促した。懸案の拉致問題を巡っても、人権侵害に関する懸念の解消に取り組むことを北朝鮮に強く求めた。

 首相が日本の立場を主張し、理解を得た成果と言える。

 G8は中国とも連携し、北朝鮮に対し、国連安全保障理事会の決議や、核問題に関する6か国協議の共同声明にある義務を履行するよう、強く働きかけるべきだ。

原発新基準 効率的で柔軟な審査が必要だ

 原子力規制委員会が原子力発電所の新たな規制基準を決めた。長期間停止している原発の再稼働へ向け、安全性を効率的に確認すべきだ。

 新基準は、閣議決定を経て7月8日に施行される。関西電力など5社が、計14基の原発の審査を申請する意向を示している。

 東京電力福島第一原発事故では想定外の大津波が襲来し、原子炉の冷却ができなくなった。その結果、大量の放射能が漏出した。新基準は、これを教訓とした。

 津波や地震、火山噴火などの自然災害を従来より幅広く考慮するよう求めた。重大事故時に、原子炉の冷却に欠かせない注水・電源設備を強化することも定めた。

 事故で顕在化した安全対策の綻びを繕うことは必要だ。

 しかし、新基準には問題点もある。例えば、原発の敷地内外の活断層調査だ。最大で40万年前まで遡って有無を評価させる。旧基準では12万~13万年前だった。

 太古の断層であっても、原発の重要施設の真下にあり、活断層と判断されれば再稼働は困難だ。

 ただ、その判断は難しい。誤認も起き得る。ゼロリスクを求めるより、活断層による重大事故を防ぐため、工学的な対策を検討する方が現実的なのではないか。

 重大事故対策の設備を考えられる限り列挙したことにも、ハード偏重との指摘がある。

 電力会社から、原発を動かさないための過剰規制という声が出ているのも、うなずける。

 今後の審査で規制委に求められるのは、各原発の実情に応じ、対策の実効性を評価することだ。基準に挙げた設備と違っても、十分な性能が確保できるなら認めるなど、柔軟な対応が必要だろう。

 既に規制委は、一部の安全設備について、他の機器で当面の安全は確保できるとして、設置を5年間猶予する方針を決めている。

 国内で唯一稼働している関電大飯原発3、4号機では、現地調査などで新基準との適合性を確認する作業を進め、運転継続を認める可能性が高まっている。

 規制委には、こうした合理的な対応に徹してもらいたい。

 新基準への対応には巨費を要する。電力業界の試算では、1兆円を大きく上回る。特に建設から30年以上が過ぎた古い原子炉では、改修・補強してもコスト回収は容易でない。電力会社が廃炉を選択するケースも出るだろう。

 廃炉の費用負担や、廃棄物対策なども、電力会社と政府の今後の重要な検討課題である。

2013年6月19日水曜日

会社での発明―特許権は従業員に残せ

 会社の従業員が仕事で生み出した発明、「職務発明」はだれのものか。

 いまの法律では特許権は従業員にある。ところが、安倍政権はこれを会社に移す方向で見直すことを閣議決定した。

 そんな施策の見直しは、技術革新を阻み、頭脳流出を招きかねない。特許権はこれまで通り従業員に残すべきだ。

 米国のほかドイツや韓国では日本と同様に、考え出した従業員のものだ。英国やフランス、中国などでは、研究のための資金や環境を提供した会社のものとしている。

 日本で注目が高まったのは、10年ほど前に起きた青色発光ダイオード(LED)の特許をめぐる訴訟だった。

 日亜化学工業で青色LEDの開発にたずさわった中村修二氏が退職後、自らの特許権にもとづく「相当の対価」を求めて日亜を訴えた。

 東京地裁は判決で中村氏の請求通り、200億円の支払いを日亜に命じた。会社の利益に対する貢献度を5割と算定した。

 営業など中村氏以外の貢献をより重視した東京高裁で8億4千万円の支払いで和解したが、経団連は「将来、巨額の対価を求める訴訟が多発しかねない」として、特許権を会社に移すよう政府に求めてきた。

 今回の政権の方針はその要望に沿ったものだ。実現すれば、会社は従業員に報奨金などでむくいることになる。「権利にもとづく対価」が、会社裁量の「ごほうび」に変わる。

 だが、日本ではかねて、従業員の知的生産に対する評価が低かった。

 青色LEDをめぐっても、在職中の中村氏への特許の報奨は1件につき登録時と成立時に1万円ずつ。退職時の年収も約1500万円で、海外の研究者仲間は「奴隷か」とあきれた。

 そのほかの企業でも、「会社が正当に評価してくれない」との不満から訴訟が頻発した。しかし、04年の特許法改正で、会社側と従業員が対価について話し合い、契約で定めることが推奨されてからは、大きな訴訟は起きていない。

 いまの時点で訴訟リスクをおそれて従業員から特許権を奪おうというのは、あまりに近視眼的だ。従業員の夢をそこない、組織の消耗品パーツのように扱う国・企業と思われては、有能な人材の蓄積は望めない。

 独創性が問われるグローバル競争の時代、まず組織の利益ありき、では発想が古すぎる。発明の母は、組織ではなく、個々の人間の創造力なのである。

出生率微増―生んで安心の社会へ

 1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が昨年は1・41となった。

 人口を維持するのに必要な出生率は2・07とされ、遠く及ばない。出産期の女性の人口が減っているため、生まれる子どもの数は過去最低となった。

 それでも出生率そのものは、05年に1・26にまで落ち込んだ後、30歳代以降の出産が増えたことで、ゆるやかに回復している。昨年は前年より0・02の上昇で、1・4に届いたのは16年ぶりだ。

 子どもを持ちたければ、悩むことなく生めるようにする。そのために、「子育て重視」の雰囲気を社会全体で醸し出し、後押ししたい。

 まずは家庭、すなわち夫の協力である。

 「イクメン」という言葉が朝日新聞に初めて登場したのは08年1月だが、流行語大賞のトップテンに入った10年以降、すっかり定着した。今や男性が赤ちゃんを抱っこして、一人で外出している姿も珍しくない。男女の役割分担を強調する考え方が薄まったのなら、歓迎だ。

 ただ内閣府の調査によると、社会の中で満足していることを聞かれ、「家庭が子育てしやすい」をあげる人は8・2%と、5年前からあまり変わらない。

 カギを握るのは職場のあり方だ。子育て中の若い社員に、ムダな残業をさせていないか。上司や同僚が、意識するだけで雰囲気は変わろう。

 政治の世界でも子育て支援はずっと傍流だったが、民主党政権は「チルドレンファースト」を掲げ、安倍政権も保育所の待機児童対策を打ち上げた。

 国の調査では、夫婦が予定する子どもの数は平均2・07で、理想の2・42を大きく下回る。最大の理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」で、6割にのぼる。消費増税を財源とする子育て支援を、この意識の改善につなげるべきだ。

 なにより、結婚したくても経済的な理由であきらめる「非婚化」への対応が急務である。生涯結婚しない人の割合は男性で2割、女性で1割を超えた。35年には男性で3割、女性も2割近くまで上がる見通しだ。

 この傾向を食い止めるには、若者の雇用安定が欠かせない。30歳代の男性では、正規雇用だと7割弱が結婚しているのに、非正規の場合は24%にとどまっているのが現状だ。

 結婚して子どもを2~3人生んでも、安心して暮らせる。そんな雰囲気が社会に広がってこそ、「成長戦略」は成功したといえよう。

一部執行猶予 更生を促す体制整備が急務だ

 治安向上のため、新制度を再犯の抑止につなげることが大切である。

 受刑者を刑期の途中で釈放し、社会の中で更生させる「刑の一部執行猶予制度」を盛り込んだ改正刑法などの関連法が成立した。3年以内に施行される。

 刑罰には現在、被告が刑務所で服役する実刑と、服役しない執行猶予付きの刑がある。「懲役2年、執行猶予3年」の判決なら、被告は3年間、新たな罪を犯さなければ、刑務所に収容されない。

 一部執行猶予は、実刑と執行猶予の中間に位置付けられる。

 例えば「懲役3年、うち1年を2年間執行猶予」という判決の場合、被告はまず2年間、服役する。その上で釈放され、執行猶予の2年間、罪を犯さなければ、刑務所に戻ることはない。

 刑期を終えて出所しても、社会に順応できず、再犯に走るケースが多い。出所者の社会復帰を図る新制度の趣旨は理解できる。

 対象となるのは主に、比較的軽い罪で初めて刑務所に入る人や、覚醒剤などの薬物使用者だ。

 薬物使用者には猶予期間中、必ず保護観察が付く。保護観察所が薬物依存を断つプログラムを受講させたり、必要に応じて医療機関で治療を受けさせたりする。

 刑務所での服役より、誘惑の多い実社会で薬物を断つ訓練を重ねた方が、薬物使用者の立ち直りに効果的だと言われるためだ。

 新制度の導入に伴い、保護観察の対象者は年間で2000~3000人増えると試算される。問題は、社会での受け入れ体制が整っていないことである。

 指導にあたる保護観察官の増員と、更生の手助けをする民間の保護司の確保は不可欠だ。薬物依存症の専門医療機関も少なすぎる。法務省と厚生労働省が協力し、拠点病院を整備すべきだろう。

 民間には、共同生活を通じて薬物依存者の社会復帰を支援するリハビリ施設がある。官民の連携で出所者の受け皿を増やしたい。

 新制度で、裁判官は被告の更生の可能性をしっかりと見極める必要がある。刑務所内での立ち直り状況を考慮して決まる仮釈放とは異なり、判決言い渡しの時点で、一部執行猶予の適用について判断を迫られるからだ。

 検察も、更生の見通しに配慮した立証活動が求められよう。

 犯罪者の社会復帰を受け入れる国民の意識の在りようも問われている。社会の中で立ち直りを促す社会内処遇の考え方を浸透させていくことが欠かせない。

G8とシリア 依然見つからない内戦の出口

 シリアの内戦をいかに終結させるか。各国首脳は、今回の合意実現へ、最大限努力すべきだ。

 英国・北アイルランドで開かれた主要8か国首脳会議(G8サミット)で、安倍首相ら参加国首脳は、焦点のシリア情勢について、流血の惨事を終わらせるため国際会議の早期開催を目指すことで合意した。

 オバマ米大統領とプーチン露大統領が個別に会談し、一致したことを踏まえたものだ。

 国際会議が重要だという認識を改めて共有したとは言え、米露首脳の見解の差は依然、大きい。

 米露首脳会談では、「アサド大統領抜き」の「シリア移行政府」作りを会議の目的とするオバマ氏と、アサド氏排除に反対するプーチン氏の対立は解けなかった。

 内戦は泥沼化し、厳しさを増している。アサド退陣を求めるデモの発生から2年余りで死者数は9万人を超した。深刻な事態だ。

 国際社会はアサド政権の擁護派と反対派に割れている。

 アサド政権の人権弾圧を批判する欧州連合(EU)は、シリアへの武器禁輸を解除し、反体制派への武器供与に道を開いた。

 米国も、「アサド政権が化学兵器を使用したことを確認した」として、反体制派への軍事支援を決めた。近く弾薬などの供与に踏み切るのでは、と見られる。

 これに対して、シリア政府の後ろ盾となってきたロシアは、米側の主張には根拠がないと反発し、地対空ミサイルの供与でアサド政権を支える方針だ。

 政府軍には最近、レバノンに拠点を置きイランの支援を受ける武装組織ヒズボラも加勢した。戦火が収まる気配は見えない。

 米露の相互不信の一因になっている化学兵器問題では、事実関係を検証する必要がある。

 和平協議が軌道に乗らねば、内戦は長期化して、周辺諸国まで不安定化する事態が懸念される。

 国際テロ組織アル・カーイダとつながるイスラム過激派も、内戦に乗じて勢力を拡大している。大量に出回る武器が、テロ組織に拡散する恐れはないのか。

 一方、ヨルダンなど周辺諸国に逃れた難民は、150万人を超えた。受け入れ国の負担は重い。

 安倍首相はG8サミットで、国内避難民や難民を支援する1000万ドルの緊急無償資金協力や、ヨルダンに対する1億2000万ドル相当の円借款供与を表明した。

 政治的な解決を図るとともに、各国が可能な限りの人道支援を進めることも必要だ。

2013年6月18日火曜日

プルサーマル―なし崩しは許されない

 これでは、なし崩し的に物事を「3・11」以前に戻そうとしているとしか思えない。

 関西電力の八木誠社長が高浜原発(福井県)について、プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う「プルサーマル発電」を前提に再稼働を申請すると表明した。四国電力も、愛媛県の伊方原発でプルサーマルの再開をめざしている。

 そもそもプルサーマルは、思うようにいかない核燃料サイクル事業の矛盾を補うために始まった。

 当初は原発でウランを燃やした後、使用済み燃料からプルトニウムを取り出して高速増殖炉で再利用する計画だった。

 だが、原型炉「もんじゅ」は失敗続きで実用化のめどが立たず、使い道のないプルトニウムがたまり始めた。核兵器の材料になるプルトニウムをため込むわけにはいかない。

 そこで期待されたのがプルサーマル発電だ。確かに、いま国内外で日本が持つ45トンものプルトニウムを減らすには、選択肢のひとつではあろう。

 しかし、原発依存からの脱却が求められるなか、まずやらなければならないのは、行き詰まった核燃サイクル事業の抜本的な見直しである。その議論もせず、昔ながらのプルサーマルに戻るのは本末転倒だ。

 プルサーマル発電に対しては安全性を疑問視する専門家もいる。震災前ですら地元の同意を得るのが難しく、稼働していたのは4基と、目標の4分の1以下にすぎない。

 このままサイクル事業を続けて、青森県六ケ所村で試験運転中の核燃料再処理工場を動かすことになれば、プルトニウムは増えるばかりだ。

 高コストという欠点もある。MOX燃料をつくるには使用済み燃料をそのまま処理するよりコストがかかるうえ、再々利用がしにくい。

 電力会社は核燃サイクル事業の継続にこだわる。旗を降ろすと、再処理のため六ケ所村に送られている使用済み核燃料が廃棄物となって各原発に送り返される懸念があるからだ。保管プールが満杯になって、多くの原発が動かせなくなる。

 それでも、これ以上の先送りは許されない。

 なにより問題なのは、安倍政権の姿勢だ。首相は「脱原発依存」を掲げながら、フランスと核燃料サイクル事業の協力を打ち出した。見通しのない事業を強行し、行き場のないプルトニウムを増やしてどうするのか。

 原発事故後の国民の目で厳しく監視したい。

首相の反論―異論受けとめる度量を

 「彼に外交を語る資格はありません」

 安倍首相がフェイスブック(FB)に書き込んだ一言が波紋を広げている。

 「彼」とは、日本人拉致問題で北朝鮮との交渉経験をもつ田中均元外務審議官のことだ。

 元外交官とはいえ、いまは民間人である。一国の首相がネットで個人攻撃を繰り広げる光景は、尋常ではない。

 発端は毎日新聞に掲載された田中氏のインタビューだ。

 田中氏は、河野談話や村山談話をめぐる首相の発言や、閣僚の靖国参拝、橋下徹・大阪市長の慰安婦発言などを挙げ、「(日本は海外から)右傾化が進んでいると思われ出している」と懸念を示した。

 首相のFBは、これへの反論として書かれたものだ。ただし、右傾化問題には触れず、02年にあった田中氏との意見対立を紹介している。

 北朝鮮から一時帰国した拉致被害者5人を送り返すかどうかをめぐり、当時、外務省で交渉当事者だった田中氏は「返すべきだ」と主張した。一方、官房副長官だった安倍氏は「日本に残すべきだ」と判断。結局、小泉首相の決断で日本にとどまることになった――。

 安倍氏は「外交官として決定的判断ミス」と指摘し、田中氏に外交を語る資格はない、と決めつけた。

 だが、この批判は筋違いだ。

 田中氏は外交官として、政治家が決断するための選択肢を示したのであり、小泉首相が下した最終的な結論にはもちろん従っている。

 そもそも、この問題と田中氏が指摘した右傾化問題とどういう関係があるのか。

 安倍政権になってから日本を見る海外の目が厳しくなったという指摘は、首相にとって愉快ではなかろう。

 だが、首相がこんな態度をとれば、耳に痛い意見は届きにくくなる。それで正しい判断ができるだろうか。

 外交に限らず、政策論議は自由闊達(かったつ)に行う。民間の意見にも耳を傾ける。その上で最終決断は首相が下す。それこそ、民主主義国の強さだろう。

 首相は5月の国会答弁で、特定の集団をおとしめたり暴力や差別をあおったりするヘイトスピーチ(憎悪表現)が増えていることについて「どんなときも礼儀正しく、寛容で謙虚でなければならないと考えるのが日本人だ」と語った。

 異論も取り込んで政策の厚みを増していく。首相にはそんな度量がほしい。

イラン大統領選 対外強硬路線は修正されるか

 選挙に表れた民意にどう応えるのか。政権交代を機に、まずは対外関係の修復を期待したい。

 核開発で国際的孤立を深めているイランで大統領選挙が行われ、米欧との関係改善を掲げた保守穏健派のロハニ師が当選した。

 50%を超える得票率で、有力と目された保守強硬派の候補に大差をつけての勝利である。

 ロハニ師は「過激主義に対する知恵の勝利だ」と宣言した。現政権とは一線を画す立場だ。

 イスラエルを「地図から消し去るべきだ」など挑発的言動が目立ったアフマディネジャド大統領の強硬な外交路線を転換するなら、国際社会にとっても望ましい。

 ロハニ師大勝の背景には、イラン社会に広がる閉塞感がある。

 現大統領の2期8年の在任中、改革派の政治家や言論は封じ込められた。核開発継続を理由に米欧から科せられた制裁で、原油輸出が落ち込み、物価も高騰して、国民生活は困窮している。

 有権者は、事態打開をロハニ師に託したと言える。

 焦点は、核問題での対応だ。

 イランは、国連安全保障理事会の決議を無視してウラン濃縮活動を続けている。濃縮度も原子力発電所の核燃料に使われる3・5%を上回る20%にまで高めた。核兵器開発を狙っているのでは、と疑われても仕方あるまい。

 安保理常任理事国とドイツの6か国は、濃縮度20%ウランの生産停止を最優先で求めている。

 選挙後、米欧諸国が核問題の迅速な外交的解決を改めてイランに呼びかけたのは、当然だ。

 ロハニ師は、改革派のハタミ前政権下で英仏独との核交渉の責任者を務め、柔軟姿勢を示した経歴があるが、楽観はできない。

 イランでは、外交決定権を含め実権は最高指導者ハメネイ師にある。政教一致体制の下、ハメネイ師の同意抜きに核政策の変更はあり得ない。カギを握るハメネイ師が政策転換できるのかどうか。

 イスラエルは、イランの核兵器保有を阻止するために、攻撃も辞さない構えだ。イランの核開発が続けば、軍事的緊張は高まる。

 菅官房長官は、イランの大統領交代が、核問題の解決に向けて「具体的な進展」をもたらすことに期待感を表明した。日本としても、「伝統的な友好関係」をテコに働きかける考えだ。

 原油の輸入を中東地域に依存する日本にとって、地域の安定は死活的に重要だ。イラン情勢から目を離すわけにはいかない。

地方制度答申 自治体連携で活性化図りたい

 地方行政のムダを排して、地域を活性化するには、自治体間の連携を強化し、役割分担を進めることが肝要である。

 政府の第30次地方制度調査会が大都市制度の改革案などを答申した。道府県と政令市の二重行政の解消に向けて、両者の協議会を設置し、教職員の給与負担など35の事務を道府県から政令市に移譲するよう求めた。

 道府県と政令市が似通った公共施設を近接地に整備し、ともに稼働率の低下を招く二重行政の弊害は各地で指摘されている。

 こうした非効率な街づくりは避けるべきだ。首長が必要に応じて会談するだけでなく、正式な協議機関を設け、両自治体の幹部が重層的に政策を議論、調整する制度を構築する意義は大きい。

 大都市制度のうち「大阪都」構想について、答申は、地方交付税の増額などで国や他の自治体の財政に悪影響を与えないなど、都移行に伴う「留意点」を示すにとどめ、具体案は示さなかった。

 総人口200万人以上の都市に特別区の設置を認める法律が昨年8月に成立し、大阪都構想には一定の結論が出ているためだ。

 答申は、区長の特別職化や人事・予算権の強化など政令市の「都市内分権」の強化も提言した。

 横浜市などは、都道府県から独立した「特別市」への移行を希望している。だが、特別市には、特別区の設置や警察組織の分割などの課題が多い。当面は、都市内分権を進めるのが現実的だろう。

 一方で、答申は、人口減社会への対応策として、人口20万人以上で昼間人口が夜間人口を上回る61の「地方中枢拠点都市」を中心とする広域連携を提唱した。

 中枢拠点都市と周辺市町村が医療、交通、産業・雇用政策などで協定を締結し、行政機能を分担する。政府は交付税で支援する。2009年度に始まった、人口5万人以上の84の「中心市」による定住自立圏制度がモデルである。

 人口や税収が減る中、いかに行政サービスを維持するのか、多くの自治体は頭を痛めている。1自治体であらゆるサービスを提供するのが無理である以上、広域連携による役割分担は欠かせない。

 重要なのは、地域の実情に応じた創意工夫である。

 宮崎県北定住自立圏では、延岡市と周辺8市町村が県立延岡病院と他の病院の機能分担と連携を進めている。各病院が夜間・休日当番医体制を充実させ、延岡病院の医師の負担を4割以上も軽減させた。他の地域の参考となろう。

2013年6月17日月曜日

イラン大統領―孤立脱する改革の道を

 改革を求める息吹は脈々と生き続けていた。

 イランの大統領選挙は、最終候補の中で最も穏健な立場をとるロハニ師が当選した。

 自由化のうねりが流血の弾圧に終わった前回選挙から4年。抑え込まれた民意が改めて結集し、劇的な勝利を導いた。

 投票率は70%を超え、得票率も50%を上回る完勝である。国際通のロハニ師は自国の苦境を認識しているはずだ。イランを孤立から脱却させてほしい。

 この国では宗教の指導者たちが実権をにぎる。事前の審査で「改革派」候補は失格とされ、イスラム体制を厳守する「保守派」だけが立候補できた。

 それでも最終候補たちの主張は争点を描いた。アフマディネジャド現大統領の流れをくんで米欧との対決路線を続けるか、ハタミ前大統領らが唱えるように対外融和を探るか――。

 近年、米欧との対立がこじれた一因は現大統領の強硬姿勢だった。イスラエルを「地図から抹消すべきだ」「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)は神話」と挑発し、対話の機運をそいだ。

 ロハニ師は、ハタミ前政権下で核の交渉役だった。今回選挙の討論会で、「思慮に欠け、不勉強な言動」が国益を損ねてきたと現大統領を批判した。

 ただし核開発については、民生利用の権利を譲らない構えを崩していない。米国との国交正常化に前向きではあるが、その道筋を明示したことはない。

 世界4位の石油産出量を誇る国なのに経済難にあえぐ理由はひとえに核開発だ。4度の国連安保理決議で停止を求められてもウランの濃縮をやめない。

 イスラエルはイランの核兵器保有まであと1年程度とみて、空爆も辞さない構えだ。原油の動脈である近隣海域が戦場と化せば世界経済に打撃となる。

 その回避のため米欧は一気に制裁を強めてきた。イランの通貨リアルは暴落、原油輸出も減り、国民生活は困窮した。

 一方で、流動化する中東情勢に乗じてイランは地域の影響力を伸ばした。米軍撤退後のイラクや、反体制派を弾圧するシリアと関係を深めている。「アラブの春」後の影の勝者は、イランとも言われるゆえんだ。

 だが、国民の福祉を犠牲にして地域の覇権を争っても、持続的な勝者になれるはずもない。ロハニ師は、支持してくれた改革派の声に耳を澄ませ、国民の暮らしを優先し、対話に柔軟な指導者になってほしい。

 核開発のよろいを脱ぐことは、イランにも世界にも、大きな利益をもたらすのである。

刑事司法改革―可視化の原点忘れるな

 何のための話し合いか、忘れてしまったのではないか。

 捜査や公判のあり方を改革する法制審議会の特別部会で、法務省が素案を示した。

 主眼だったはずの取り調べの録音・録画(可視化)は、例外を広く認める余地を残した。

 「記録したら、弊害が生じるおそれがあるとき」などを例外とし、取調官に裁量の幅を大きく与える内容になっている。

 これでは録画するかどうかは捜査側の不透明な都合だけで決まり、骨抜きにされかねない。

 法務・検察当局が重い腰を上げたのは、3年前に発覚した大阪地検の不祥事がきっかけだ。

 厚生労働省局長の村木厚子さんが冤罪(えんざい)に巻き込まれた。供述の誘導、証拠の改ざん、長びく勾留。刑事司法が抱える問題をあぶり出す事件だった。

 冤罪を二度と起こさない。それが改革の使命だったはずだ。

 ところが可視化に抜け道を設ける一方で、電話などの通信傍受の対象を広げるという。また新たに、生の会話の傍受や司法取引などの導入も盛り込んだ。いずれも賛否両論あって導入が控えられてきた手法だ。

 可視化は捜査当局の足かせになりうるので、ある程度やる代わりに捜査の手段を広げさせろ、というのだ。部会の委員から批判が噴出したのも当然だ。

 法務省は来年の通常国会で法制化したい考えだが、これでは国民の広い支持は得られまい。原点から出直す必要がある。

 議論で発言力をもつのは、法務・検察、警察、日本弁護士連合会、最高裁である。それぞれの立場で考えや利益は違う。

 その中で多様な手法を一括して扱えば、各項目の賛否が取引材料にされかねない。しかも挙げられた項目は、どれも人権やプライバシーとぶつかり合い、市民生活への影響が大きい。

 通信の傍受が許されるケースは今は組織的殺人など限定的だが、窃盗や詐欺にも広げれば対象は一気に増える。他人の犯罪を明らかにすれば減刑される司法取引も、無実の人を巻き込むおそれがつきまとう。

 新たな捜査手法の導入は、そうした負の側面と、必要性や効果とを厳密に検討し、慎重に論じるべきものだ。捜査当局の信頼失墜から始まった議論で持ち出す筋の話ではない。

 部会が議論している間にも、パソコン遠隔操作事件の誤認逮捕があった。逮捕された4人のうち2人が、やっていない犯罪を自白させられた。

 可視化の原則をすみやかに実現していれば、自白を導くような取り調べは防げたはずだ。

知財ビジョン 国際競争に勝つための体制に

 最先端技術の特許や商標などの知的財産権は、日本の産業競争力の源泉だ。知財を有効活用する官民の体制を一層強化する必要がある。

 政府は、今後10年間を見据えた「知的財産政策ビジョン」と、その「基本方針」を決めた。

 2002年に日本が知的財産戦略大綱を策定してから、11年が過ぎた。最近では、韓国や中国などの製造業が台頭し、知財を重視する欧米企業を含めて、グローバル競争が激化している。

 政府が危機感を高め、時代の変化に合わせて知財政策を練り直したのは適切だ。成長戦略に弾みをつける効果も期待できよう。

 今回、注目されるのは、企業の研究者らが仕事上で発明した「職務発明」の特許権に関する新たな方針である。

 従業員に権利が帰属すると規定した現在の制度を見直し、会社に帰属させるか、あるいは、帰属先を企業と従業員の間の契約で決めるという2案を示した。

 職務発明の対価に不満を持つ従業員に訴えられ、企業が巨額の和解金を支払う例が多い。是正を求める産業界に配慮したものだ。

 企業にとっては、訴訟リスクが軽減され、特許権を活用した経営戦略を描きやすくなる。一方で、研究者の開発意欲を殺そぐことや、人材の海外流出も懸念される。

 政府は今後、2案を絞り込む。産業競争力を強化する観点から、さらに検討してもらいたい。

 知財戦略作りが遅れている中小企業向けに、弁理士など専門家による人材育成といった支援策の充実を求めた点も評価できる。

 基本方針は、日本から特許審査官をアジアなど新興国に派遣し、知財保護の基盤作りを支援することも盛り込んだ。

 日本企業の海外展開が目立つが、新興国では知財保護が不十分で、日本企業の事業拡大の足かせになっている。日本モデルを浸透させるメリットは大きい。

 課題は、日本の重要な技術情報が新興国などに不正流出することをどう防ぐかだ。基本方針は保護策の強化を指摘した。情報漏えいは日本の産業基盤を揺るがしかねない深刻な問題である。

 退職者などが日本の技術情報を持ち出さないよう手立てを講じたい。企業が従業員と秘密保持契約を結ぶことを促す指針を策定するなどの対策を急ぐべきだ。

 欧米に比べて、特許などを審査する特許庁の要員は少ない。特許を速やかに権利化し、活用するには審査官増員も欠かせない。

低公害トラック 天然ガス活用の幅広げたい

 温室効果ガスの排出量削減など環境対策を進めるうえで、物流を支えるトラックの低公害化が課題となっている。

 今後の有望株として注目されているのが、軽油より温室効果ガス排出量が3割も少ない天然ガス車である。

 軽油が燃料のディーゼル車より環境性能に優れ、窒素酸化物や黒煙といった排ガスの有害物質も大幅に削減できる。

 石油は輸入量の9割を中東地域に依存しているのに対して、天然ガスの調達先は世界中に分散している。エネルギー安全保障の観点からも普及は望ましい。

 シェールガス革命を受けて、世界的にガス供給量が増えていくと見られる。中長期的には、ガス燃料の価格は軽油の半値程度に下がる、との予測もある。輸送コストの削減が期待される。

 こうしたメリットが認識され、世界で天然ガス仕様のトラックやバスが急増している。2012年の世界販売台数は1700万台と、この6年で3倍になった。

 米国は、天然ガスを輸送用燃料に使用するよう促す政策を進めている。欧州やアジアでは、圧縮天然ガス(CNG)車が急速に普及している。

 ところが、日本はわずか4万台にとどまる。普及を阻む要因が少なくないためである。

 CNG車は満タンで走れる距離が短いことから、長距離輸送の多い大型トラックでの利用が広がらない。しかも、ガスを補給するためのスタンドは、全国に約300か所とわずかだ。

 アジアなどでCNG車を販売している日系トラックメーカーも、大半が国内向けの生産から撤退した。「売れないから作らない、作らないから普及しない」という悪循環に陥っている。

 燃料タンクにあたる高圧ガス容器の安全基準が、海外より厳しいという壁もある。

 欧州なみに基準が緩和されれば、容器の製造コストは大幅に下げられるという。ディーゼル車に比べて中型で1台あたり300万円、大型で1000万円ほど割高な車両価格も、ある程度は抑えられるのではないか。

 国土交通省は、東京―大阪間の長距離輸送でCNGトラックの利用拡大を図るため、車両購入費やスタンド整備費などの一部を13年度予算で補助する。

 政府は、スタンド増設を容易にする規制緩和も含め、CNGトラックの普及に向けた施策に、粘り強く取り組んでもらいたい。

2013年6月16日日曜日

エネルギー白書―しっかり色付きですね

 政府が閣議決定した12年度のエネルギー白書から、民主党政権が「原発ゼロ」目標を打ち出していた事実が省かれた。

 土台となった昨夏の「国民的議論」で、脱原発への支持が多かったことにも触れていない。環境白書でも、前年度版にはあった原発利用のリスクに関する記述が姿を消した。

 どれも原発回帰を狙う安倍政権には不都合なデータだ。客観性を旨とする行政報告が、露骨な政治色で彩られている。

 野田政権は昨年9月にまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」の中で、30年代に原発ゼロを目指すことを盛り込んだ。

 エネルギー白書でそこに言及しなかったことについて、経済産業省資源エネルギー庁は「『30年代ゼロ』は戦略の中の細かい事項。紙幅に限りがあり、政策の柱に絞って記述しているだけ」という。

 ところが、政権交代後に安倍首相がゼロ政策の見直しを指示したことは詳述している。編集の意図は明らかだろう。

 国民的議論についての記述も経過をなぞるだけだ。

 福島の事故は、国民の間に政治や行政への深刻な不信を招いた。どうしたら政策への理解をえられるか。模索の中から生まれたのが、審議会の全面公開や第三者委員会による検証、そして討論型世論調査などを含む国民的議論だった。

 簡単に答えが見つからない政策課題は少なくない。だからこそ国民が自ら確かめたり意見を言いあったりする場を、政策決定の過程に組み込んでいく。十分とは言えないまでも、国民的議論は政治や行政のあり方を問い直す一歩だったはずだ。

 「原発ゼロ」はこうして導かれた結果であり、エネルギー行政の軌跡を記録するうえで不可欠だ。ここに目を向けない白書には、失望するほかない。

 そもそも白書とは何か。

 英国で内閣が議会に出す文書の表紙が白だったことから、日本でも行政府が国民に政策を説明する年次報告を白書と呼ぶようになったようだ。

 法律に基づくものもあれば、省庁独自の白書もある。基礎的資料として活用されているが、近年は時の政権の意向を反映する傾向が強まっている。

 わが国初の白書は47年に発行された「経済実相報告書」である。当時、政府がまとめた文書には「国民に腹蔵なく事態を説明することは民主主義的政府の義務」とある。

 政治の顔色をうかがって中身の色も変えるなら、もはや「白書」ではあるまい。

警察不祥事―なぜ「順法」を通せない

 耳を疑うような警察の不祥事がまたも相次いで発覚した。市民の信頼がないと成り立たない警察なのに、いつになったら自らを正せるのだろうか。

 大阪府で昨年起きた公務執行妨害事件では、警察署の留置場で暴れた男を保護室に移す手続きに関し、警部補がまったく事実と異なる調書を作った。

 不正に気づいた刑事課員はこともあろうに、新たに虚偽調書を作って警部補がかかわった事実をもみ消した。留置場にいた2人の警察官も、裁判所で二つ目の虚偽調書に合わせて証言した。内部で発覚し、結審していた裁判はやり直しが決まった。

 同じ署では、拳銃や覚醒剤とともに見つかった証拠品の注射器を紛失したと思い込んだ警部補が別の注射器を調達してごまかしていた。大阪府警はどちらのケースについても違法行為の疑いで捜査に動いている。

 全国の警察が昨年1年間に懲戒処分にしたのは458人で、8年ぶりに400人を超えた。不祥事が日常化していることにはため息が出るが、より深刻なのはそこに見え隠れする警察官たちの順法意識の低さだ。

 虚偽調書作成を最初に指示した警部補は「全員が処分されるぞ」と言って、部下らの疑問を封じた。二つ目の虚偽調書を作った刑事課員は「府警本部や署の幹部と協議した」と、署員に署名を迫った。

 法を犯すことより内部の処分をより恐れる。上意下達の原則をたてに違法行為を強要する。こうした感覚が現場に蔓延(まんえん)しているとすれば、空恐ろしい。

 神奈川県警では、元夫に首を切られて重体になった女性への事前対応をめぐり、警察官がうその報告をしていた。鹿児島県警では複数の警察官が、事件の被害者の調書を事実と異なる形に改ざんしていた。

 いずれの事例でも警察は、背景に潜む組織風土の問題点をしっかり洗い出すべきだ。

 警察庁は昨年8月、12項目の不祥事対策をまとめた。「組織的隠蔽(いんぺい)の根絶」「証拠にかかる不祥事防止」「女性被害者への対応強化」も項目にあげられていたが、不祥事は通知後も絶える気配がない。現場に浸透していないのは明らかだ。

 私たちは、外部有識者の力を取り入れる形での警察改革を提案してきた。国民の代表として警察をチェックすべき国と都道府県の公安委員会がまず責任をまっとうすべきだろう。

 深刻な不祥事が起きれば、多くの警察官の地道な努力も台無しだ。警察組織の幹部たちは、そこをどう考えているのか。

川重社長解任 合併で混乱招いた社内抗争劇

 企業トップが突然、解任される異例の展開である。社内抗争による混乱に市場の目は厳しい。

 川崎重工業が13日の臨時取締役会で、三井造船との合併交渉を推進していた長谷川聡社長ら3人の取締役を解任した。交渉の打ち切りも決めた。

 常務から昇格した村山滋新社長は記者会見で、「合併ありきの姿勢に強い不信感を覚えた。苦渋の決断だ」と述べた。

 合併構想を阻止するために、村山氏らが結束した事実上の社内クーデターと言えよう。

 造船・重機業界2位の川崎重工と5位の三井造船の合併交渉は、4月末の報道で明るみに出た。実現すれば、連結売上高2兆円弱の大型再編になるはずだった。

 日本の造船業界はかつて世界を席巻したが、今では、中国や韓国メーカーに追い抜かれている。

 リーマン・ショック後の世界的な造船市況の低迷と、超円高の打撃を受けたうえ、コスト競争力で劣っているのが主因だ。

 川崎重工と三井造船の合併構想は、主力取引銀行のみずほコーポレート銀行が仲介役となった。激しい国際競争を生き残るための一つの選択肢だったのだろう。

 1月にはJFE系とIHI系の造船子会社が統合した。提携関係を深めている三菱重工業と今治造船の動きも、川崎重工と三井造船の背中を押したとみられる。

 しかし、川崎重工社内は合併の賛否で割れていた。経営実態への感度の差もあったのでないか。

 売上高のうち、造船部門はわずか1割に過ぎない。むしろ主力事業は、鉄道車両、航空宇宙、オートバイなどである。

 三井造船との合併で造船部門では相乗効果が期待できても、非造船部門はメリットが薄いとして、合併反対論も強かった。

 川崎重工が重要な経営情報を市場に適時開示していなかった点には反省を促したい。当初、合併交渉を否定しておきながら、13日に一転して認めたからだ。

 今後の焦点は、合併交渉の白紙を受け、両社がそれぞれ、どんな経営戦略を打ち出すかだ。

 「合併・買収(M&A)や連携は引き続き検討する」と述べた村山新社長の具体策が問われる。取引銀行との再調整も課題だ。

 一方、業績が低迷している三井造船の前途は多難である。

 政府は、競争力強化策として産業再編を支援する方針を示した。だが、川崎重工と三井造船の交渉破談は、再編が決して容易ではないことを浮き彫りにしている。

ストーカー殺人 理不尽な凶行に極刑が下った

 犯行の悪質さ、理不尽な動機に加え、更生の余地がないことを考慮すれば、極刑以外はあり得なかったのだろう。

 長崎県西海市で2011年12月に起きた「長崎ストーカー殺人事件」の裁判員裁判で、長崎地裁は、被告の男に求刑通り死刑を言い渡した。

 被告は、ストーカー行為を繰り返していた知人女性を奪い返そうと実家に侵入し、女性の母親と祖母を殺害したとして、殺人罪などに問われた。判決は、犯行の動機について「女性への独占欲、支配欲を満たすため」と認定した。

 多くのストーカー犯罪に共通するものだろう。判決が「利己的であまりに理不尽だ」と断じたのは、もっともである。

 判決が重視したのは、犯行前後の被告の態度だ。

 被告は過去にも、別の女性2人につきまとい行為を繰り返していた。今回の事件後、拘置所内で「邪魔する者は殺す」「人を使ってでも女性を取り戻す」などとノートに記していた。

 無罪を主張する被告は、公判で遺族の感情を逆なでするような供述をした。

 こうした行為から、判決が「更生改善の兆しは認められない」と判断したのはうなずける。

 女性は、公判で、「警察に守ってもらおうと思ったのに、捕まえてくれなかった」と涙ながらに証言した。事件は警察の対応に大きな教訓を残した。

 女性や家族らは、千葉、三重、長崎の3県警に被害を相談したにもかかわらず、県警の間で情報が共有されなかった。千葉県警は、被害届の受理を後回しにして、北海道に慰安旅行に出かけていた。警察は猛省が必要だ。

 ストーカー規制法の強化も必要だろう。自民、公明両党は改正法案を国会に提出する方針だ。

 現在、つきまとい行為の禁止命令や警告を出せるのは、被害者の居住地の警察、公安委員会に限られている。これを加害者の居住地や違法行為があった場所の県警、公安委も出せるようにする。

 事件に関連する各県警に迅速な対応を促すのが狙いと言える。県警同士が縦割りの弊害を廃し、連携して対処することが重要だ。

 警察が昨年把握したストーカー被害は、過去最悪の1万9920件だった。前年比で4割も増えた。ストーカー犯罪には再犯の可能性が高いという特徴もある。

 今回のような事件を未然に防ぐため、警察には、被害者の身になった対応が求められる。

2013年6月15日土曜日

都議選スタート―暮らしの不安どう拭う

 築地市場の移転や、新銀行東京の経営問題のあった前回とは違い、大きな争点がない。今回の東京都議選はそんなふうに語られがちだ。

 でも、そうだろうか。

 例えば、急速に進む少子高齢化である。

 都の人口予測では、2030年には高齢者が10年より3割近く増え、都民の4人に1人におよぶ。逆に、子どもは2割も減る。「世界が経験したことのない超高齢社会」を迎える、と都の報告書は記している。

 少子高齢化のスピードは都心より郊外のほうが速い。地方からニュータウンへ移り住んで経済成長を支えた世代は老い、その子どもは都心で暮らす。

 都心で今も子どもが増えているのは職住接近の環境ゆえだ。オールドタウンとなった郊外の立て直しには、地元で働ける場の確保と、育児を支えるサービスの充実が欠かせない。

 一方、区部ではこの春、保育所に入れない親たちの行政への異議申し立てが相次いだ。働きながら子育てしやすい街づくりは都内全域の課題である。

 大地震への備えという難題もある。古い木造の住宅がひしめく街を火災からどう守るか。オフィス街の帰宅難民をどこに避難させるか。

 いずれも、全国の大都市が直面する問題だ。課題先進都市である東京は、それにどう立ち向かうのか。候補者は大いに語ってほしい。

 株価や円相場が乱高下する中、安倍政権が進めるアベノミクスも争点になる。

 朝日新聞の世論調査では、政権の政策で経済成長が「期待できる」と答えた人が5割にのぼる一方、景気回復の実感が「ない」という人は8割に迫った。

 輸出関連企業が潤う半面、日用品が値上がりし、住宅ローンの金利も上昇している。期待をつなぐのか、失望に転じるのか。有権者の判断は、今後の政権の経済運営にもかかわる。

 都議選では、直後の国政選挙を先取りするような結果がしばしば出る。

 民主党が初めて第1党となった4年前は、衆院選で政権交代がおきた。自民党が大勝した12年前は、参院選でも小泉旋風が吹き荒れた。

 今回も、1カ月後に参院選を控える。

 自民党の強さは本物か。総選挙で惨敗した民主党に復調の兆しは見えるのか。初めて都議選に挑む日本維新の会やみんなの党はどう戦うか。

 各党の消長を占ううえでも目が離せない。

競争力強化―国の役割は環境整備だ

 安倍政権は、きのう閣議決定した成長戦略のうち、企業の体質を強化する具体策を秋にもまとめる考えだ。

 柱と位置づけるのが「産業競争力強化法」(仮称)である。今後5年間を「緊急構造改革期間」とし、減税や規制改革で投資と新事業への挑戦を促す。

 気がかりなのは、「過当競争の是正」を目標の一つに掲げていることだ。供給過剰に陥っている分野で国が指針を作り、抜本的な再編を促すという。

 複数の企業が事業を統合する際の税負担を軽くしたり、削減の対象となった社員の再出発を支援したりすることは必要だろう。再編に向けた地ならしは、確かに政府の役割だ。

 しかし、特定の業界を名指しして、再編を迫るようなやり方は行き過ぎではないか。個別の業界の将来を見通す力は、政府にはない。

 電機大手3社の半導体メモリー部門が集まったエルピーダメモリが好例だ。リーマン・ショック後に政府が公的資金を投入して支援したが、結局破綻(はたん)し、国民負担が生じた。

 折しも、川崎重工業の社長ら役員3人が三井造船との経営統合をめぐる社内の対立から解任された。ことほどさように、再編の判断は難しい。

 政府には、個々の業界や企業への口出しではなく、やるべきことが山ほどある。様々な規制を見直し、埋もれている需要を掘り起こす。海外との経済連携を急ぎ、企業が新たな市場を開拓しやすくする。そうした環境整備に全力をあげるべきだ。

 経営者にも注文がある。

 企業全体で見れば、収益は増加基調にあり、手元資金は潤沢だ。投資を控え、人件費を削るばかりでは、足元の財務体質は強くなっても、稼ぐ機会をみすみす逃すことになる。

 「経営者には、決断し、行動し、世界と戦う覚悟を持ってもらわねばならない」。成長戦略には、こんな異例の叱咤(しった)が盛り込まれた。

 雇用や賃金などをめぐって政労使で協議する場の設置、社外取締役を通じた「攻めの経営」への企業統治の強化など、経営のあり方を問い直そうという項目も並ぶ。

 企業の根幹にかかわる問題で国から口をはさまれるのは、あまりに恥ずかしくないか。

 企業が投資や雇用に資金を振り向け、それが経済全体を押し上げて、企業の収益にもはね返る。そんな好循環を導くためには、官と民、国と企業がそれぞれの役割を自覚し、実行していくしかない。

骨太方針 「再生の10年」への険しい道

 ◆成長と財政再建の両立目指せ

 「強い日本」の実現には、成長戦略と財政再建を両輪に経済を再生することが欠かせない。

 先進国最悪の財政赤字を抱える日本にとって険しい道だが、肝心なのは実行力である。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の真価が問われる。

 政府は14日、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)を閣議決定した。安倍首相が1月に復活させた経済財政諮問会議がまとめた。骨太方針の作成は、麻生内閣以来、4年ぶりだ。

 首相は、「日本経済を停滞の20年から再生の10年へと転換する」と強調している。

 堅持した黒字化の目標

 最大のポイントは、「国と地方の基礎的財政収支を2020年度までに黒字化する」という政府の財政再建目標の堅持を明記したことだ。現在、約34兆円に上る赤字を7年で解消するのは、極めて高いハードルである。

 さらに、21年度以降についても長期債務残高の「安定的な引き下げを目指す」という新たな目標を掲げた。

 日本銀行は、大胆な金融緩和策で巨額の国債を買い入れている。市場に財政赤字の穴埋めと受け止められて、財政への信認が揺らげば、国債価格が急落して長期金利が一段と上昇しかねない。

 骨太方針が「持続的成長と財政健全化の双方の実現に取り組む」と強調し、財政規律を重視する姿勢を明確にしたのは妥当だ。

 ただ、財政再建の具体的な道筋を描いておらず、踏み込みの甘さは否めない。7月の参院選を控えて、地方や業界団体などへの配慮を優先したためだろう。

 特に歳出削減は歯切れが悪い。最大の歳出項目である社会保障分野について「聖域なき見直しで歳出の効率化を進める」としたが、高齢者医療費の自己負担の見直しや後発医薬品の使用促進といった課題の列挙にとどまった。

 削減規模などに言及しなかったのは物足りない。

 一方で、道路や橋などインフラ(社会資本)の老朽化対策や、防災などの「国土強靱化」には積極的に取り組む考えを示した。

 目的は理解できるが、公共事業には巨額の支出が伴う。骨太方針では、財政規律をどう維持するかといった点は曖昧なままだ。

 消費税率の引き上げも、「経済状況を総合的に勘案して、判断を行う」としただけだった。

 政策の優先度見極めよ

 当面の焦点は、政府が今夏に策定する中期財政計画で、財政健全化を着実に進める姿勢を明確に打ち出せるかどうかだ。

 財政再建を成功させるには、国民に痛みを強いる歳出抑制や規制改革を避けてはなるまい。

 財政計画には、市場に評価される歳出削減の数値目標なども盛り込む必要があるだろう。

 夏には、14年度予算編成の概算要求基準(シーリング)も決定する。限られた予算にしっかり優先順位を付け、効率的に政策を実施する工夫が求められる。

 財政再建のためにも、景気を着実に回復させる必要がある。

 1~3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率4・1%と高い伸びとなった。政府は6月の月例経済報告で、景気の基調判断を「着実に持ち直している」へ上方修正した。

 足元の景気は明るさを増してきたが、油断は禁物である。

 首相の指示で、企業の設備投資減税など税制改正の議論を例年より前倒しで始めることにしたのは適切な判断だろう。

 首相は「秋の臨時国会を成長戦略国会と位置づけ、必要な法案を提出する」と意欲を見せた。

 成長戦略で民間主導の回復を図り、景気拡大をさらに確実なものにする。成長率を高めることで税収を増やし、財政が健全化する。将来不安が和らぎ、個人消費や投資の意欲も増大する――。そうした好循環を実現したい。

 原発再稼働は不可欠だ

 安定成長の実現は、安価な電力の安定供給が前提となる。

 ほとんどの原子力発電所が運転を停止しているため、火力発電の燃料費がかさみ、電気料金の値上げも相次いでいる。骨太方針が原発について「原子力規制委員会の判断を尊重し、再稼働を進める」と明記したのは当然である。

 原子力規制委の新たな規制基準は7月に施行される。電力会社による再稼働申請について、遅滞なく審査することが求められる。

 規制委が安全を確認した原発の再稼働が円滑に進むよう、政府は率先して立地自治体の説得などにあたるべきだ。

2013年6月14日金曜日

トルコの混乱―中近東の民主政治示せ

 トルコはいまや、自他ともに認める中近東の大国である。西洋と東洋が出合う世界の要衝に位置する伝統国が、勢いを取り戻しつつある。

 だが、この2週間にわたる市民デモをめぐる混乱は、近年の安定した発展国のイメージとはかけ離れた姿を見せている。

 当局が警官隊の投入など強硬姿勢に出たことで事態はこじれた。トルコ政府は市民との冷静で実のある対話にのぞみ、収束の道筋を探ってほしい。

 トルコは政治と宗教を切り離した国だ。99%の国民がイスラム教徒だが、90年前に王制から共和制へ移った際に近代民主主義の原則を採り入れた。

 女性のスカーフの着用を公共の場で禁じるなど、長らく西欧型をめざす道をたどった。だが90年代から地方や労働層が支えるイスラム主義が台頭した。

 この10年間、首相の座にあるエルドアン氏はとりわけ宗教色の強い政治家として知られる。かねて軍など世俗派と摩擦を起こしたが、経済などの実績を強みに支持基盤を固めてきた。

 在任の間に国内総生産(GDP)は倍増以上に伸びた。北大西洋条約機構(NATO)の一員として米欧との関係も深め、先進国と新興国が集う「G20」にも名を連ねている。

 いまの混乱の発端は、イスタンブールにある公園の再開発計画だ。反対する若者や知識層などの集会に、催涙弾が撃たれて対立が悪化。各都市にデモが広がった。さらに、抗議した弁護士らも大勢拘束された。

 それ以前にも、政府が夜間の酒類の販売を禁じたり、スカーフの着用の規制を緩めたりした動きに、世俗派は不安を募らせていた。今回のデモには、強権的ともいわれる首相の政治全般への反発がこもっている。

 それでも首相を支える穏健イスラム主義の公正発展党の支持は厚い。首相が強気で振るまうのも、多数派は自身の側につくとの自信があるからだろう。

 だが、このままでは、ほかの中東各地で繰り返された少数派の排除にもなりかねない。それは、トルコ自身が育ててきた民主主義と宗教の共存の原則を否定することにもなる。

 民主化革命で親米独裁型の指導者が退場するなか、トルコは米欧とアラブを結ぶ希少な仲介役にもなっている。内戦状態のシリアや核問題を抱えるイランとも国境を接し、中東安定のカギを握っている。

 新たな秩序を模索する「アラブの春」後の中東全体にとって範となるべく、異論も包含する穏当な民主政治を望みたい。

株価下落―魔法の杖はない現実

 やはり「山高ければ谷深し」である。

 東京株式市場はきのう、日経平均株価が今年2番目の下げ幅を記録し、終値は日銀が「異次元緩和」に打って出る直前の水準にまで戻った。

 引き金は、急速な円高だ。株価上昇を引っ張ってきた外国人投資家が、それまでの「日本株買い、円売り」のポジションを逆転させている。

 金融緩和の株価への直接的な効果がはげ落ち、為替も円高に戻る一方、長期金利は高止まりしたまま。安倍政権には予想外の事態だろう。

 昨年来の上げ相場は、「大胆な金融緩和」を掲げた安倍政権への期待から始まった。

 緩和策に財政出動、成長戦略からなる「3本の矢」がセットになって真の威力を発揮するというのがアベノミクス相場のシナリオだった。

 であれば、成長戦略への失望が緩和効果のはげ落ちを増幅して、マイナスの相乗作用を生むのもいわば必然である。

 株安には、より思い切った成長政策を求める市場からの催促という側面もあろう。だが、付け焼き刃的な補強を施してみても、アベノミクス期待が再生するとは思えない。

 財政規律と相反する法人税の減税、賃金デフレのリスクをはらむ解雇規制の緩和など、市場が成長戦略で求める政策のなかには慎重に検討すべきものが少なくない。拙速なあつらえで済む話ではない。

 株高が続いていたころ、安倍首相は国会で「政治は結果だ」と胸を張り、投資家の期待は大いに高まった。

 ところが、成長政策といっても日本経済を一変させるような魔法の杖はない――。株価の下落は、そんな当たり前の現実を市場が消化している過程ともいえる。それは不可避なだけでなく、必要でもある。

 相場の乱高下の背景には、外国のヘッジファンドなど投機筋の動きがある。これまで上げ相場の立役者だったが、米国の金融緩和の行方が不透明になり、弱気に転じた。これまでも指摘してきたとおり、緩和マネーに依存した政策運営は危うい。

 与党内では参院選をにらみ、負担増につながる政策を先送りしつつ、公共事業の拡大を求める声が強い。

 だが、緩和策の効果が切れたからといって財政を緩めれば、長期金利が急騰しかねない。

 浮ついた対策に走らず、財政にも目配りした改革を進めるときだ。それがひいては株価にも反映していく。

株価急落 相場の変動に振り回されるな

 世界的な投資マネーの激しい動きを受け、株価と円相場の乱高下が止まらない。

 政府と日銀は浮足立たず、地に足の着いた経済政策を推進すべきである。

 東京市場は13日、平均株価が前日比843円安の1万2445円に急落した。円相場も一時、1ドル=93円台まで円高が進んだ。

 とはいえ、平均株価は第2次安倍内閣が発足した昨年12月下旬より2000円以上も高い。

 円高は輸出企業に打撃を与える水準ではなく、輸入物価の高騰を抑えるプラス面もある。

 政府が成長戦略を策定し、安倍政権の経済政策「アベノミクス」は3本の矢がそろったばかりだ。ここで市場の動きに過剰反応すれば、政府と日銀の政策に対する信認が揺らぎ、かえって混乱に拍車をかけかねない。

 この日は、安倍首相と黒田東彦日銀総裁が会談し、17日から英国で開かれる主要8か国首脳会議(G8サミット)を前に、経済情勢について意見交換した。

 黒田総裁が「日本経済は、回復の足取りが次第に力強くなっている」と説明したのに対し、首相は「成長戦略など政府の役割をしっかり果たす」と決意を示した。妥当な現状認識と言える。

 そもそも最近の株安は、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の発言が、超金融緩和策の縮小を示唆したと受け止められたことがきっかけだ。

 世界の投資資金が株式などのリスク資産から流出し始めた。日本株を大量に買った海外投資家が売りに転じ、売り崩しを狙う投機筋の動きや、コンピューターで瞬時に売買が成立する高速取引の普及などの要因も重なった。

 世界的な資金の流れを、日本国内の政策でコントロールしようとしても難しい。

 株安の原因を「成長戦略が踏み込み不足だから」などと決めつけるのは的外れだろう。

 ただ、誤解を生んだ責任は政権側にもある。5月までの株高を、首相や経済閣僚が「アベノミクスの成果」と強調する場面が目立った。その裏返しに、株安の原因が政策の失敗と見なされやすくなることを、肝に銘じるべきだ。

 今週は日銀が長期金利の安定化策を打ち出すとの観測が強まり、その実施が見送られるや、円高・株安に振れた。追加策を“催促”するような相場展開である。

 催促されるまま追加策を講じるのは得策ではない。今は市場動向を油断なく注視すべき局面だ。

東京都議選告示 参院選を占う先行指標となる

 有権者約1000万人の首都決戦は来月の参院選の先行指標となる。

 安倍政権の経済政策である「アベノミクス」をどう評価するかが大きな争点となろう。

 東京都議選が、きょう告示される。各党の党首、幹部クラスがすでに都内を走り回るなど、事実上の選挙戦が過熱している。

 都議選が注目されるのは、直後の国政選と連動することが多いからだ。前回2009年は、自民党が大敗し、民主党が躍進を遂げて都議会最大会派となった。翌月の衆院選での政権交代を告げるような結果だった。

 今回、自民党は都議会第1党の座を奪還し、公明党とともに、安定した与党勢力の確保を目指している。参院選で過半数の議席を自公で獲得し、衆参「ねじれ国会」を解消できるかどうかを占うことにつながろう。

 安倍首相は都内の遊説で、アベノミクスについて、「日本を覆っていた暗く厚い雲、空気が大きく変わった。この道を進めば、間違いなく経済成長させていくことができる」と訴えた。

 ただ、大胆な金融緩和、機動的な財政政策に続く「第3の矢」の成長戦略は発表した直後で、成果が出るのはこれからだ。自民党は、経済再生への道筋をどう描くのか、丁寧な説明が必要だ。

 民主党の海江田代表は街頭演説で、アベノミクスについて、「物価が上昇し、国民の負担が増え、生活を破壊する」と、そのリスクを強調した。

 だが、マイナス面を強調するだけでは説得力のある批判とはいえまい。具体的な対案を示して深みのある論戦を展開してほしい。

 日本維新の会は、橋下共同代表によるいわゆる従軍慰安婦問題の発言を巡り、失速気味だ。共闘体制を構築してきたみんなの党は、選挙協力を解消した。参院選も同じ構図だ。「第3極」に対する有権者の判断が注目される。

 都議会で、自公両党は猪瀬直樹知事の都政を支える与党だ。最大会派の民主党も与党的な立場を強めている。それだけに、都政に関しては大きな争点がない。都市部に多い無党派層がどう動くか。投票率の低下も懸念される。

 しかし、都の抱える課題は少なくない。帰宅困難者対策や木造住宅密集地の解消などの防災面をはじめ、待機児童対策、高齢者施設の整備などは急務だ。

 都議選を、国政の関連だけではなく、そうした首都の現状を考える機会ともすべきである。

2013年6月13日木曜日

米の情報監視―自由の原則を見失うな

 米国は自由を何よりも尊ぶ国だ。イラク戦争などの対テロ戦も、「自由を守る」との御旗の下で世界に結束を求めてきた。

 そんな大国のリーダーシップの正当性が傷つきかねない疑惑が浮上した。テロ対策の名で、米政府当局が日々、世界中を行き交う膨大な個人情報を集め、分析しているというのだ。

 01年の9・11事件後の米社会で人権が侵食されているとの批判にはオバマ大統領も同調していた。真相をできる限り、国内外に説明してもらいたい。

 英米メディアに内部告発したのは、米国家安全保障局(NSA)に、外部契約社員として勤めていた29歳の男性だ。電話、電子メール、インターネット上の情報など、どんな個人や組織のものも収集できたという。

 無制限に近い諜報(ちょうほう)を見過ごせば、個人のプライバシーや通信の秘密が日常的に侵される監視社会となる。彼は「良心が許さなかった」と語っている。

 男性の関与の程度やリークした内容の信頼性は、即断できない。だが、インターネットの技術とインフラをほぼ独占している米国が、どこまで情報通信をめぐる人権を尊重しているかは世界の重大な関心事だ。

 米政府による情報集めはブッシュ前政権下で本格化した。07年、大量の電子情報を瞬時に集め、振り分ける「PRISM」というプログラム技術が開発され、拍車をかけたとされる。

 PRISMには、アップルやグーグルなどIT大手9社も加わった。それを前政権から引き継いだオバマ政権下で協力企業は3倍に膨らんだという。

 オバマ氏は「何の不都合も生まずに、完全な安全と完全なプライバシーを両立させることはできない」と述べ、一定の範囲内での諜報活動はやむを得ないとの考えを示した。

 テロや犯罪組織が国境を超えてネットワーク化される今、個人情報の保護と、安全を守る方策の均衡をどう図るかは確かに悩むべき問題だ。だとしても、「米国の外に住む外国人が対象だ」との弁明には、世界の国々が不安を抱いても仕方ない。

 国際的なサイバー攻撃への対策が急務の時代に、その先頭に立つべき情報大国が利己的な行動に走れば、サイバースペースは国家エゴが横行する「不信の空間」となりかねない。

 米政府は、この告発男性の行方を追うスパイ作戦さながらの展開になっているが、そうした機密漏出事件としての内向きな対応だけで済ませるべき問題ではない。自由主義の原則が問われる疑惑がそこにある。

飛ぶボール―この隠し球はアウトだ

 今季、本塁打が急増し、「ボールがよく飛ぶ」と話題になっていたプロ野球の統一球。日本プロ野球機構(NPB)が、飛びやすくなるよう、秘密裏にメーカーに改善を求めていたことが明らかになった。

 各球団や選手会への説明は一切なく、メーカーに口止めまでしていたという。

 プロ野球ファンや選手たちを、あまりにもないがしろにした行為だ。

 開幕から2カ月半。NPBはなぜ公表せず、ウソを重ねたのか。加藤良三コミッショナーは「知らなかった」というが、それで済む話ではない。

 「飛ばないボール」と陰口をたたかれてきた統一球は、2シーズン前から導入された。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などで戸惑わないよう、国際基準にあわせるのが目的だった。

 使用球をミズノ社製に統一し、反発係数を基準の下限近くまで下げたところ、本塁打数が激減するという影響が出た。

 シーズン総本塁打数は、導入前年の2010年の1605本から11年は939本に減った。

 引き締まった投手戦は見応えがあるが、その実態が貧打戦ではつまらない。ホームランは野球の華でもある。

 ファンに不評なことをNPBも意識したのだろう。昨シーズンのボール検査で反発係数の平均が基準の下限値を下回るものが出たため、メーカーに改善を指示したという。

 基準を変えたのではない。正確さを求めただけだから、発表する必要はない。それがNPBの言い分かもしれない。

 だとすれば、鈍感すぎる。公正なルールと透明な制度であってこそ、ファンは心からゲームを楽しめる。新しいボールになると分かれば、選手もプレーの仕方を工夫できる。

 隠蔽(いんぺい)は、ファンと選手への裏切りと言われても仕方ない。

 12球団が年間に使う試合球は約2万4千ダース。昨年、それを変えると決めたとき、「来季から改善しますのでお楽しみに」と発表していれば、誰もが納得しただろう。

 統一球が加藤コミッショナーの肝煎りのアイデアだったことも、発表をためらわせた一因かもしれない。

 元駐米大使で野球好きの国際通。だが、昨年、選手会がWBCを巡り、米国優位の不公平な利益配分に異を唱えたときは、大リーグ側との交渉に乗り出さずに傍観した。

 加藤氏のリーダーシップにまた疑問符がついた。

薬のネット販売 安全性と利便性両立が必要だ

 移動手段が限られる障害者や高齢者、薬局のない離島・山間部の住民にとって朗報だろう。

 政府は14日に閣議決定する成長戦略に、市販薬のインターネット販売の原則解禁を明記する方針だ。

 一部の薬だけだったネット販売の規制が大幅に緩和される。市販薬約1万1400品目のほとんどがネットで買えるようになる。

 ネット解禁による経済波及効果は未知数だが、規制改革の象徴的な意味合いがある。

 今回の規制緩和の契機になったのが、今年1月の最高裁判決だ。副作用の恐れが低いとされる一部の薬を除き、ネット販売を禁止してきた厚生労働省の省令について「違法で無効」と判断した。

 薬事法からは、薬剤師らによる対面販売を義務付けることは読み取れないとの理由だった。

 成長戦略が、薬の安全性は「ネット販売か対面販売かを問わず合理的、客観的に検討すべきだ」と指摘するのは、こうした司法判断を踏まえた見解だろう。過剰な規制を取り払うのは当然だ。

 インターネットによる情報伝達が対面より劣るとは言えない、との研究報告もある。

 問題は、最高裁判決の後、市販薬のネット販売に多数の業者が参入し、実質的に全面解禁状態になっていることである。

 市販薬による重い副作用が起きる確率は極めて低いものの、2007年度から5年間で計24件の死亡例が報告されている。

 安易に大量販売が行われれば、事故の危険性も高まる。対面販売でも事情は同じだが、一定のルールは必要ではないか。

 政府がネット販売解禁にあたって、例外を設けたのは理解できる。安全性を確保するため、医師の処方薬から市販薬に転用されて間もない解熱鎮痛剤「ロキソニン」など25品目については、さらに専門家で扱いを検討するとした。

 「処方薬に準じた形での慎重な販売や使用を促すための仕組み」について、秋ごろまでに結論を出すという。消費者に混乱を招かないよう配慮してもらいたい。

 薬を海外から個人輸入するネット販売では、偽造薬も出回っている。こうした悪質業者をいかに監視・排除するかである。

 例えば、薬品のネット販売を解禁している英国は、業者が薬剤師の団体に登録し、認証マークを取得することを求めている。

 政府は消費者の安全性と利便性の両立を図るために、知恵を絞らねばならない。

全柔連会長続投 「退場勧告」への感度も鈍い

 自浄能力のない組織を再生させるには、人心の一新しかあるまい。

 この期に及んでの続投表明には、唖然とする。

 不祥事が相次ぐ全日本柔道連盟の上村春樹会長が、今後も会長職にとどまる意向を表明した。「きちんとした改革をやることが、私に課せられた使命」と続投の理由を語った。

 約3時間に及んだ11日の理事会で、会長の進退は議題に上らなかったという。組織運営の責任を取ろうとしない上村会長ら全柔連幹部の意識は、社会通念と大きくかけ離れている。

 全柔連では1月、全日本女子前監督の女子選手に対する暴力・暴言が明るみに出た。

 3月には、日本スポーツ振興センターから強化委員に支払われた助成金の一部を強化委員会に上納させている問題が発覚した。

 理事による元女子選手へのわいせつ行為も先月、判明した。

 これらの問題で、計3人の理事が辞任に追い込まれた。会長も組織のトップとしての監督責任を免れないのは明らかだ。

 プールされた助成金の残高は、3月時点で約2300万円にも上っている。主に飲食費として使われてきたとされる。

 税制上の優遇措置を受けている公益財団法人として、許されない実態である。第三者委員会も4月の中間報告で、助成金の組織的な目的外使用だと認定し、「順法精神に欠ける」と批判した。

 上村会長が強化委員長だった時代に、既に上納システムが存在していた事実は看過できない。

 全柔連が、内閣府の公益認定等委員会から報告書の再提出を要求されたことも大きな問題だ。

 公益法人の審査や監督をする公益認定等委員会が、一連の不祥事の報告を求めたところ、全柔連は第三者委の中間報告の内容に「違和感がある」などと反論した。

 理事会に諮らず、上村会長ら執行部の独断で提出したという。公益認定等委員会が「ガバナンスの在り方に疑念を抱かせる」と指摘したのは、もっともである。

 全柔連会長は、1949年の創設以来、柔道の創始者である嘉納治五郎の子息と孫が務めてきた。その孫がいまだに名誉会長として影響力を保持し、世襲ではない初の会長となった上村氏の後ろ盾となっている。

 全柔連は組織の体を成していない。改革すると言うなら、執行部の刷新はもちろん、外部理事や女性理事の登用などで、閉鎖的な体質を改めることが必要だ。

2013年6月12日水曜日

18歳成人―議論を棚上げするな

 18歳を成人とし、選挙権も認める。このための民法や公職選挙法などの改正に向けた政府内の検討が足踏みしている。

 少子高齢化が進む中、若い世代に政治や社会への参加を促すためにも、18歳に様々な権利を認めることには大きな意義がある。議論をこのまま棚上げにしてはいけない。

 こんな検討が行われていることを、忘れてしまった人も多いだろう。経緯はこうだ。

 07年に成立した国民投票法は、憲法改正の是非を判断する投票権を18歳以上に認めた。国の未来にかかわる憲法改正にあたっては、より若い世代の意見も反映させるべきだとの考えからだ。この法は付則で、成人年齢や選挙権も18歳でそろえるよう政府に検討を求めている。

 これを受けて法相の諮問機関の法制審議会は09年、民法が定める成年を18歳に引き下げるのが適当との答申を出した。一方で、直ちに引き下げると「消費者被害の拡大など様々な問題が生じる」として、実施時期については国会の判断に委ねた。

 「消費者被害」とは、18、19歳の若者が親の同意なく契約を結べるようになると、悪質商法に狙われやすくなるというものだ。法制審はほかに、自立に困難を抱える18、19歳が、親の保護を受けにくくなるといった問題点も指摘した。

 選挙権だけでも18歳にすべきだという意見もあるが、これには総務省が成人年齢や少年法の適用年齢とのずれがあるのは適当でないと消極的だ。

 政府の腰が重いのは、後押しする世論が弱いからだ。

 政府の調査では79%が反対し、当の18、19歳の人たちさえ賛成は21%にとどまる。「未熟な若者」を大人扱いすることへの抵抗や不安が根強いようだ。

 ただ、考えてもみよう。急速な高齢化に伴って、税や社会保障の負担はますます若い世代にのしかかる。

 その声を、幅広く国政に反映させることは、世代間の公平という観点からも欠かせない。

 選挙権の行使は、大人としての自覚を促す。若者を軽視しがちな政治家たちの姿勢も、変わるかもしれない。

 自民党などは、成人と選挙権を直ちに18歳にそろえることは断念し、国民投票の投票権のみを18歳とする方向だ。

 だが、ここで議論を切り離してしまえば、成人と選挙権年齢引き下げの機運が途絶えてしまうのは目に見えている。

 せめて選挙権だけでも18歳とする。せっかくの機会を逸すべきではない。

国際連帯税―国を超えた絆づくり

 国際社会との連帯という言葉はときおり耳にする。しかし、「国際連帯税」を知る人は少ないかもしれない。

 感染症や気候変動、貧困など地球規模の問題を解決するために、国境を超えた活動に薄く課税し、資金を得る。グローバル化時代ならではの「税」だ。

 その創設を求める提言を超党派の国会議員連盟がまとめる。中身は詰まっていないが、過去の税制大綱にも「検討」が盛り込まれており、政府は成案づくりに入ってほしい。

 選択肢はさまざまだ。世界を動き回る通貨取引や株、債券などの金融取引に課税する案もあれば、インターネットを使って外国との間で行う電子商取引を対象とする考えもある。

 国際的に、すでに実施されているのは航空券連帯税だ。

 06年に世界で初めて導入したフランスの場合、自国の空港から出発する乗客に国際線エコノミークラスでは4ユーロ(約520円)、ビジネスクラスで40ユーロの連帯税を上乗せしている。

 こうして集めた年間約200億円の大半を、医薬品購入の世界的な組織に拠出し、途上国のエイズや結核、マラリア防止に役立てる。

 連帯税は、寄付に比べて毎年安定した収入が見込める。このため、薬の大量購入によって価格の低下も実現させた。

 同じような枠組みは約10カ国が設けている。アフリカ諸国が多いが、韓国も07年に導入した。国際線の乗客は韓国出国の際、1人あたり千ウォン(約90円)を支払っている。

 観光でパリやソウルを訪れ、連帯税を払っていたことに驚く人もいるだろう。だが、国際的な課題を解決するには外国人や外国企業にも支払ってもらうのが連帯税の考え方だ。

 日本から航空機で出国する年間約2700万人のうち外国人は3割強を占める。もし日本で航空券連帯税が導入されれば、当然、外国人客も払う。

 一方、仏独など欧州11カ国は金融取引税の導入を決めた。フランスは一部を連帯税として異常気象対策などに使う計画だ。

 連帯税の導入では、国家間で税の奪い合いが起きないよう、各国が連携して共通の仕組みを設けるのが望ましい。市場の競争条件にゆがみが生じないような配慮も必要だろう。

 日本は、国連への拠出金や政府の途上国援助(ODA)に資金を出しているが、財政難から予算は伸び悩んでいる。

 新しい発想でお金を集め、世界との絆を強める取り組みを育てていきたい。

公務員制度改革 政治主導の人事ならいいのか

 国家の土台となる制度の見直しだ。

 将来に禍根を残さないよう、慎重な検討が求められる。

 政府は今月中にも、国家公務員制度改革の全体像をまとめる。参院選後の国会に関連法案を提出する方針だ。選挙戦に備え、制度改革へ積極的な姿勢をアピールしたいのだろうが、唐突の感は否めない。

 震災復興や、デフレ脱却、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉など、政府は様々な課題に直面している。国家公務員制度改革の優先度が高いとは言えまい。

 民主党政権の誤った「政治主導」が見直され、官僚が仕事に前向きになったとされる。現制度のどこに支障があり、何のための改革か、まず意義と効用を示すべきだ。

 稲田公務員改革相は、麻生内閣が2009年に国会に提出して廃案になった法案を精査し、出し直す考えを明らかにした。

 この法案は、「内閣人事局」を新設し、府省の幹部人事を一元化することが柱だった。

 内閣官房が幹部を府省横断的に掌握し、首相や官房長官の政治主導で任免できる。「国益より省益重視」と言われる、縦割り行政の弊害の改善を目指していた。

 だが、次官、局長など幹部職は約600に上り、その候補者や公募への応募者も含めれば、膨大な人事となる。個人の業績や能力を公正かつ的確に審査できるのか。政治家の恣意しい的な人事が行われないかとの懸念もある。

 内閣人事局は、給与をランク付ける人事院の「級別定数」管理や、総務省の機構・定員管理の事務なども所管する。バラバラの人事行政を集約することは行政組織を効率化することにつながろう。

 ただ、人事院は09年当時、公務員の使用者側である内閣官房が級別定数を担うことに反対した。

 人事院は、国家公務員が労働基本権を制約されていることの代償措置として毎年、給与勧告を行っている。勤務条件の中で主要な要素である級別定数を管理できなくなれば、人事院の代償機能が損なわれるとの主張も一理ある。

 安倍内閣は論争の経緯を十分踏まえて対応する必要がある。

 参院選に向け、野党も改革案を準備中だ。「公務員たたき」は国民受けすると見るからだろう。みんなの党は国家公務員に労働基本権を付与して身分保障を撤廃し、リストラを可能にするという。

 制度改革が、公務員の士気を下げ、若者の“公務員離れ”を加速させるようでは本末転倒だ。大衆迎合的な改革にしてはならない。

トルコのデモ 首相の強権姿勢が反発招いた

 1か月前に安倍首相が訪れたトルコで、エルドアン首相の退陣を求めるデモが10日以上も続き、警察が催涙弾と放水で強制排除に乗り出した。

 デモの混乱で死者も出ており、深刻な事態が続いている。一日も早い収拾が望まれる。

 地域大国のトルコは、内戦が続くシリアや再建途上のイラクと国境を接する要衝だ。政情不安が長引けば、好調だった自国経済への打撃になるばかりか、中東地域の安定化にも影響が出かねない。

 デモのきっかけは、最大都市イスタンブールの公園の再開発計画に反対する集会を、警察が催涙弾で鎮圧しようとしたことだ。

 怒った若者らがインターネットで呼びかけ、数万人規模にふくれあがった。首都アンカラなど他の都市にも広がっている。

 ただ、エルドアン首相は経済再建で実績を上げている。就任以来の10年で、トルコの国内総生産(GDP)は2倍以上になり、主要20か国・地域(G20)の一員として、国際的地位も向上した。

 首相が率いる穏健イスラム政党の公正発展党が2007年と11年の総選挙で大勝したのも、高い評価の表れである。首相が政権維持に自信を持つのは理解できる。

 だが、イスラム色が強い政策と強権的な政治手法に、特に、世俗派の国民が不満を強めているのは明らかだ。

 トルコは、1920年代の建国以来、政治と宗教を分離する世俗主義を国是としてきた。

 最近、酒類販売を午後10時から午前6時まで禁じる法律が成立したことに、世俗派は、イスラム的な価値観に基づく立法だと、一層危機感を募らせている。

 政府に批判的なジャーナリストが逮捕されるなど、言論の自由にも疑問符がつく。デモ参加者は国内メディアを「政府のご用聞き」とも批判した。

 在任3期目の首相は、党規則によれば今期限りで退くことになるが、憲法改正で大統領権限を強化した上で、大統領に転身するのでは、との疑念がつきまとう。

 首相自身、デモ参加者を「ならず者」と非難し、反政府デモに対抗する集会をアンカラとイスタンブールで開くとして、与党支持者に参加を呼びかける強硬な姿勢を崩していない。

 世俗派と与党支持層の対決色が強まることが憂慮される。

 デモに表れた世俗派の不満に耳を傾け、社会の分裂を回避することはできるのか。首相の舵取りが問われよう。

2013年6月11日火曜日

米中と世界―大国の責任を果たせ

 米カリフォルニア州で7、8両日、計8時間にわたって行われた米中首脳会談は「新しい米中関係」を強調して終わった。

 既存の大国と、新たに勃興した大国の関係は往々にして不安定になり、周辺国を巻き込みかねない。歴史が教える愚かな道は歩まず、互いに尊重し合い、協力を重視する。

 そうした基調を、オバマ大統領と習近平(シーチンピン)国家主席が共有したことは大きな意味がある。アジア太平洋地域の平和と安定のため、米中が協力する第一歩となることを期待したい。

 一方で、両国を隔てる溝の深さもうかがえた。

 経済規模で米国に次ぎ、軍事大国ともなりつつある中国が世界に及ぼす影響は大きい。ところが共産党一党支配のもと、政策決定過程が不透明で、周辺国との摩擦も絶えない。

 日米を含む世界の国々が中国の動向に関心を払い、世界に扉を開くよう求めてきた理由がそこにある。

 その点、今回の会談は中国への国際社会の懸念を払拭(ふっしょく)するものとは言い難い。

 例えば、オバマ氏が問題提起したサイバー攻撃問題だ。

 米国の政府機関や企業の重要情報がネットで盗み取られる被害をめぐり、米側は中国の政府や軍がかかわっていると疑っている。

 習氏はこれまで通り中国の関与を否定し、「中国も被害者だ」との主張を繰り返した。

 サイバー問題のルール作りで合意したが、実効性を持つものになるか不安を残した。

 西太平洋に進出を図る中国海軍の動向も不気味だ。中国軍は何をめざしているのか。そもそも軍がどこまで統制されているのか。尖閣問題を抱える日本にとって、ひとごとではない。

 両首脳は軍事交流の強化で一致したものの、習氏は「主権と領土をしっかり守る」と妥協しない面も見せた。

 習氏は、中国経済の見通しについて「前途を楽観しているが、リスクと試練があることも認識している」と語った。

 全貌(ぜんぼう)が明らかになっていない地方政府債務の問題をはじめとして、先行きが海外から不安視されている。経済統計の信頼性にも疑問符がつき、経済大国と呼べる姿ではない。

 中国の指導者はこれまで「世界最大の発展途上国」を自称し、温暖化対策などで先進国並みに義務を負わされるのを避けてきた。今回は、その言い回しは前面に出ていない。

 大国にふさわしい、責任あるふるまいを望む。

成長戦略―「成熟国戦略」をこそ

 民間の設備投資を3年で10%増やし70兆円に回復▼インフラ輸出は20年に3倍の30兆円▼外国企業の対日投資残高は2倍の35兆円▼農林水産物・食品の輸出も2倍強の年1兆円に……。

 安倍政権は成長戦略で高い目標を掲げ、「日本はまだまだ成長できる」「再び世界の真ん中で活躍できる」と鼓舞する。

 たしかに、デフレの克服と成長の実現は、日本が直面する最大の課題だ。

 ただ、国と経済界がシナリオを描いて国民を引っ張るような訴えに、時代とのズレを感じる人が多いのではないか。

 首相が「国民総所得」という聞き慣れない指標を持ち出し、「10年後には1人あたりで現状から150万円、約4割増える」と言われても、それが年収とは直結しない指標だと知るにつけ、「まゆつば」と思うのがオチだろう。

 3回にわたる首相の成長戦略演説は、株式市場には「新味に乏しい」と評判が悪いが、初回の「女性の活躍」「保育施設の整備加速」は話題になった。

 ここに、少子高齢化と低成長に向きあう経済大国にとってのヒントがある。

 国民の間に大きなニーズがありながら満たされていない分野を分析し、国民全体の力をフルに生かしつつ、新たな雇用と所得を生んでいく。そのために規制と予算・税制の改革を集中する。そんな「成熟国戦略」をこそ打ち出すべきだろう。

 たとえば介護分野。ヘルパー不足を解消するため、低賃金・長時間労働をどう改善していくか。政府は予算確保へ少しずつ動き出したが、制度全体を見渡した検討が必要だ。

 電力分野は、規制緩和で新たなビジネスが生まれる余地が大きい。自治体によるメガソーラー(大規模太陽光発電)の誘致合戦が活発だが、地域での発電を雇用に結びつけるような取り組みを後押ししたい。

 起業を目指す人たち、とりわけ行政が解決できていない課題に取り組む「社会的起業」について、挑戦する若者への支援を徹底していけば、停滞感が漂うベンチャー支援策に新たな展望が開けるのではないか。

 元気な高齢者の知恵と技能を生かすため、雇用延長やシルバー人材センターへの登録にとどまらず、社会全体で「人材バンク」を作れないか。

 日々の生活の視点から戦略を立ててこそ、首相が言う「全員参加」「一人ひとりがそれぞれの持ち場で挑戦する」という機運が盛り上がり、成長にも寄与するだろう。

米中首脳会談 力に依存しては共存できない

 超大国の米国と世界第2位の軍事・経済大国である中国が信頼醸成を図ることは、アジア太平洋の安定に欠かせない。

 中国の習近平国家主席が米国を訪問し、オバマ大統領とカリフォルニア州の保養施設で会談した。中国の国家主席が就任後わずか3か月で訪米し、米大統領と会談したのは異例だ。

 2日間計約8時間にわたる会談を通じ、両首脳は米中両国の新たな協力関係を巡って協議した。北朝鮮の核問題での圧力強化や地球温暖化対策推進で一致したが、思惑の違いも目立った。

 習氏が目指す「新型の大国関係」とは、相互の社会制度や「核心的利益」を尊重する、米国と対等の関係である。会談で習氏が「広大な太平洋には両大国を受け入れる十分な空間がある」と語ったことには注意を払わねばならない。

 これに対し、オバマ氏は国際ルールの順守を前提にした「平和的な台頭」を中国に求めた。

 習氏は、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関する情報提供も要請した。対中包囲網への警戒感があるのだろう。

 焦点のサイバー攻撃による情報不正入手問題で、オバマ氏は、中国政府が関与しているとの米側の疑念を背景に、「この問題の解決は米中経済関係の将来のカギを握る」と懸念を示した。

 習氏が「中国は被害者だ」と強調する以上、不正入手阻止の対策を米国と進めてもらいたい。

 沖縄県・尖閣諸島を巡る日中対立について、オバマ氏は「東シナ海での行動ではなく、外交ルートを通じた対話」を求めた。海洋監視船などを尖閣周辺の日本領海に侵入させる示威行動をやめない中国に自制を迫ったものだ。

 だが、習氏が逆に日本などを念頭に、「挑発を停止し、対話を通じ適切に問題を解決する軌道へ早期に戻るよう望む」と語ったのは身勝手に過ぎる。中国こそ、過激な挑発行動を控えるべきだ。

 中国が「核心的利益」とみなして、東シナ海や南シナ海で一方的に海洋権益拡大を図っているのは、自らが標榜する「平和発展」に矛盾する行動ではないか。

 米国と対等の共存関係を主張するなら、それに見合った責任ある態度が求められる。国際ルールの順守は最低限の義務である。

 日米両政府は、主要8か国首脳会議(G8サミット)に合わせて首脳会談を開く方向だ。日本は、力に依存した大国意識を高める中国への警戒を緩めず、日米同盟の重要性を再確認する必要がある。

オスプレイ訓練 沖縄の負担を軽減する一石に

 沖縄県の過重な負担を日本全体で分かち合うことは大切だが、実現性には疑問符が付く。

 日本維新の会の橋下共同代表(大阪市長)と松井幹事長(大阪府知事)が安倍首相と会談し、沖縄県に配備中の米軍新型輸送機MV22オスプレイの一部訓練を大阪・八尾空港に移転することを提案した。

 首相は、移転の可否について小野寺防衛相に検討を指示した。

 オスプレイは昨秋、米軍普天間飛行場に12機が配備された。今夏に12機が追加配備される予定だ。事故の恐れが高いという誤解や偏見が多いためか、沖縄では今も、配備への反対論が強い。

 オスプレイは既に、山口県の米軍岩国基地を拠点に日本本土で5回、飛行訓練を実施している。航続距離が長いだけに、さらに訓練移転を増やすこともできよう。

 沖縄の負担軽減に本土が積極的に協力したいという橋下氏らの問題意識自体は、評価できる。

 一方で、今回の提案が、実現可能性や軍事的な合理性を十分検討したものでないのは明らかだ。

 沖合滑走路のある岩国基地と違って、八尾空港は内陸の住宅密集地に位置する。周辺住民の騒音・安全対策が課題となり、地元市長も反対している。格納庫や給油施設などの整備も必要とされ、費用対効果も芳しくない。

 キャンプ富士、三沢基地など、既存の米軍施設の方が、はるかに現実的な選択肢だろう。

 橋下氏の慰安婦発言で、参院比例選投票先で維新の会が落ち込む中、今回の提案は失地回復を目指す政治的パフォーマンスにすぎない、との見方が出るゆえんだ。

 橋下氏は大阪府知事時代、普天間飛行場の移設先として関西空港を挙げたことがあるが、これも軍事的合理性に疑いがあった。

 首相が橋下氏の提案を前向きに受け止めたのも、参院選後の維新の会との連携を視野に入れているため、と見られている。

 だが、だからと言って、今回の提案を一過性のもので終わらせてはならない。政府と全国の自治体は、沖縄の米軍基地負担の軽減にきちんと取り組む必要がある。

 北朝鮮の核ミサイル開発や中国の急速な軍備増強を踏まえれば、日本の平和と安全を確保するために米軍の駐留を安定的に継続する必要性は一段と増している。

 これまでも、在沖縄海兵隊の実弾砲撃訓練や嘉手納基地所属のF15の飛行訓練は全国に分散移転されてきた。オスプレイについても着実に分散移転を進めたい。

2013年6月9日日曜日

北朝鮮問題―対話の機運を生かせ

 一時は弾道ミサイル発射の構えをみせ、核兵器の先制使用にも言及していた北朝鮮が一転、対話攻勢を強め始めた。

 日中との対話に続き、韓国との当局者協議も自ら提案し、きょう実現する見通しだ。話し合いが進展すれば、南北間の経済交流の象徴である開城(ケソン)工業団地が再開できるかもしれない。

 遅すぎる方針転換だが、国際社会は今後、北朝鮮を対話のテーブルにつかせ続け、融和路線で得られる利益をねばり強く説いていく必要がある。

 最近の一連の挑発行動は、北朝鮮に何の利益ももたらさなかった。それどころか、友好国の中国も制裁による圧力を強め、いっそう孤立を深めた。

 ここで対話に転じたのは国際包囲網が効いただけでなく、金正恩(キムジョンウン)体制が重視する7月27日が近づいてきたからでもあろう。南北はこの日、朝鮮戦争の休戦協定締結から60年を迎える。

 北朝鮮は常に、休戦協定を平和協定に変えて戦争を正式に終えることを目標とし、米国との関係正常化を望んできた。

 金体制としては、強硬策で米韓などから譲歩を引き出せなかった以上、思い切ってかじをきり、対外融和を節目の日に国内にアピールしたいのだろう。

 外国との対話は経済支援を期待させ、暮らしの希望を抱かせる。同時にこの日の軍事パレードで、いつでも強硬回帰できる姿勢も示すとみられる。

 米国西海岸で8日まである米中首脳会談では、中国が米側に米朝協議を促す公算が大きい。米国が応じれば、さらに対話姿勢を強調するため金正恩氏の初訪中が現実味を帯びる。

 ただ、対話を米国が受け入れるのか、実現した場合、従来の6者協議の枠組みを活用するのかなどはまだ見通せない。

 6者協議が再開されても前途は多難だ。「核保有国」を自称する北朝鮮は、これまでの非核化に焦点を絞った交渉を拒み、朝鮮半島の平和体制を協議すべきだと訴える可能性がある。

 だが、すべては北朝鮮の核放棄が前提となるのは当然だ。その点で譲歩はありえないことを関係国は説得せねばならない。

 北朝鮮はいつも硬軟両構えを周期的に使い分けてきた。対話が続く間は挑発行為を控えることも多かった。だが結局は合意を守らず、核開発などに突き進んで事態をこじらせてきた。

 6者協議の国々には、もう同じ手には乗らないとの認識がかつてなく強い。北朝鮮は自国に注がれる視線が確実に厳しくなっている現実を認識し、真剣な対話にのぞまねばならない。

日本版NSC―器をまねるだけでは

 日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議をつくる法案が、国会に提出された。

 首相のもとに情報を一元化して、外交・安全保障政策の司令塔とする試みだ。

 北東アジアの安全保障環境は厳しい。NSCの新設によって内閣の機能強化をはかること自体に異存はない。

 これまでは、各省庁がバラバラに首相に情報を伝えていた。それぞれが矛盾したり、必要な情報があがらなかったりすることもあった。

 これでは重要な決断はできない、ということだろう。

 モデルとなった米国では、大統領のもとで、NSCが外交・安全保障の中心的な存在として機能してきた。

 日本版NSCは、首相、官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」を設置。日ごろから情報を共有して戦略を練り、政策に反映させる。担当の首相補佐官を置くほか、内閣官房に数十人のスタッフからなる「国家安全保障局」を新設し、各省庁に情報提供を求める。

 気がかりな点は多い。

 そもそも外務省や防衛省、警察庁などとNSCとの役割分担がはっきりしない。その結果、混乱するようなことになっては元も子もない。

 米国のNSCを仕切る大統領補佐官の交渉相手も定まらない。国家安全保障局長か首相補佐官か、あるいは官房長官なのか。軸を定めなければ混乱に拍車がかかるだろう。

 また、機密性の高い事柄を扱うため、国会などのチェックが働かない心配がある。

 米国には、秘密指定を一定期間後に解除し、公開する厳正な制度がある。国の針路にかかわる議論なのだから、きちんと議事録を残し、後年の検証に付すのは当然だ。

 どれほど情報を集めても正しい判断ができるとは限らない。なぜ間違えたのか。どのように結論を導いたのか。重要な決定についてはその都度、説明責任が求められる。

 見過ごせないのは、NSCにあわせて政府が準備している秘密保全法案の取り扱いだ。

 詳細は明らかでないが、テロ対策などで各国と情報を共有するため、秘密を漏らした国家公務員や「共犯者」への罰則を強めるという。

 秋の臨時国会に提出を検討している。国民の知る権利や取材の自由に抵触しないよう、徹底した議論が必要だ。

 どんな組織も国民の理解がなければ成り立たない。そのことを念頭に議論を深めてほしい。

中国・欧州摩擦 世界経済を損なう不公正貿易

 貿易を巡る国際紛争が頻発している。不公正な貿易慣行は是正し、世界経済を活性化させることが重要である。

 欧州連合(EU)は、中国企業が太陽光パネルを不当に安値で輸出しているとして、中国製パネルに2段階で反ダンピング(不当廉売)関税をかける仮決定を下した。

 8月初めまで約12%を課税し、中国側が是正措置を取らない場合は約48%に引き上げる。EUは年末に最終決定する方針だ。

 EUによると、中国企業は市場価格より9割も安値で販売していた。採算を度外視しても、最大の輸出先であるEU市場に販売を拡大する狙いだったようだ。

 安値攻勢にさらされて経営が悪化し、倒産に追い込まれた欧州企業も出ている。EUが世界貿易機関(WTO)の国際ルールに沿って、不公正貿易慣行の是正を目指す姿勢は理解できる。

 EUが第1段階として低率関税をかけるのは、対中強硬策に慎重なドイツなどメンバー国に配慮する一方、中国から穏便に譲歩を引き出したいとの判断がある。

 だが、中国は反発し、EU産ワインのダンピング調査を発表した。対抗措置とみられる。実害があるのか不透明なだけに、中国の強硬姿勢は、国際ルール逸脱と受け止められても仕方ない。

 中国とEUは、中国製の通信機器でも対立し、EUがダンピング調査に入った。制裁の応酬に発展しかねない事態である。

 欧州と中国は互いに主要な貿易相手になっている。対立がエスカレートすれば、世界経済にも悪影響が及ぼう。対話を通じ、早期収拾を目指してもらいたい。

 懸念されるのは、世界経済の本格回復が遅れ、新興国の成長が減速する中、自国産業の支援を意図した保護貿易主義的な動きが各地で強まっていることだ。

 カナダ・オンタリオ州が再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で地元企業を優遇した措置について、WTOは5月、不当だとする日本の主張を認め、カナダに是正を勧告した。

 日本は米国、EUとともに、中国のレアアース(希土類)の輸出制限措置や、自動車などを対象にしたアルゼンチンの輸入許可制度についても、不公正措置と問題視し、WTOに是正を訴えた。

 保護貿易主義の台頭は、世界経済の発展にマイナスだ。自由貿易推進へ、日本は今後もWTOルールを基本とし、米欧と連携する戦略を練らねばならない。

出生数過去最少 結婚・出産支援も強化したい

 少子化対策がいかに急務か。それを改めて実感させる数字である。

 厚生労働省が公表した2012年の人口動態統計によると、昨年、生まれた赤ちゃんは103万7000人で、統計を取り始めた1899年以降、最少だった。

 人口の自然減は最多の21万9000人に達した。

 1人の女性が生涯に産む子供の数の推計値である合計特殊出生率は、前年の1・39から1・41に上昇した。「団塊ジュニア」と呼ばれ、人口の多い40歳前後の出産が増えたのが要因だが、出生率のわずかな上昇だけでは喜べない。

 団塊ジュニアより若い世代の人口は少なく、出生数は今後さらに減少すると予想される。

 人口減少が続けば、高齢者を支える現役世代の負担は重くなるばかりだ。働き手の減少は経済成長の足かせともなる。

 少子化に歯止めをかける実効性のある施策が求められる。

 政府は7日、少子化に関する当面の対策を決定した。有識者会議が先月末に提言した「少子化危機突破のための緊急対策」を踏まえたものだ。

 緊急対策の特徴は、従来の「子育て支援」「働き方改革」に加え、「結婚・妊娠・出産支援」を対策の柱として打ち出したことだ。

 例えば、出産直後の母子の授乳支援や心身のケアを行う「産後ケアセンター」など地域の支援体制の強化を挙げた。産前・産後の不安を解消できるよう相談窓口の改善を求めている。

 「妊娠・出産に関する情報提供」の重要性も強調している。

 具体策として検討していた「生命と女性の手帳」の配布は見送られた。妊娠適齢期などについての情報の記載に対し、「国が出産時期を押しつけるのか」といった批判が相次いだためだ。

 だが、医学的に出産に適した時期を逸して悔やむ人は少なくない。出産するかしないか、いつ出産するかということは個人の自由ではあるが、出産に関する正しい知識の普及啓発は必要だろう。

 少子化対策では、横浜市が保育所の「待機児童ゼロ」を実現したように、地方では成果を上げた事例もある。男性向けの「父親教室」や、若い男女のための「婚活」の場を設ける自治体もある。

 政府の経済財政諮問会議が近くまとめる「骨太方針」にも、結婚・妊娠・出産支援が盛り込まれる見通しだ。少子化対策で打つべき手は出そろっている。肝心なのは着実に実行に移すことである。

2013年6月8日土曜日

日仏共同声明―これは原発推進政権だ

 フランスは世界屈指の原子力依存国家である。その国との協力の名のもと、安倍政権は、総選挙で公約した原発依存を減らす方向とは逆向きに突っ走る。

 これでは原発推進政権だ。そんな風にしか見えない。

 来日したオランド大統領と安倍首相が会談し、「原子力発電が重要である」との共同声明を出した。青森県六ケ所村の再処理工場の操業開始など核燃料サイクルへの支援や、高速炉の技術開発協力、第三国への原発輸出での連携を盛り込んだ。

 福島第一原発の事故から2年あまり。まだその収束もできておらず、除染や被災者の帰還も実現していない。

 福井県内の原発敷地で新たに活断層が見つかるなど、地震国ならではの危険性もあらわになった。安倍政権になってからも多くの国民は原発に依存する社会からの脱却を望んでいる。

 そんな中での日仏両国による「原発重視」宣言である。確かに、フランスから実績がある廃炉や廃棄物管理について知恵を借りる手はあるかもしれない。しかし、ほかは首をかしげることばかりだ。

 最大の問題は、行き詰まっている核燃料サイクル事業での協力を打ちだしたことだ。

 中核を占める高速増殖炉「もんじゅ」については、原子力規制委員会が先月、1万近い機器の点検を怠っていたことを理由に使用停止を命じた。技術的にも実現のめどが立っておらず、廃炉にするのが現実的だ。

 やはりトラブル続きだった六ケ所村の再処理工場は、仮に稼働の道が開けたとしても、使うあてのないプルトニウムが増えることになる。

 世界の非核国で唯一、大規模な再処理工場を持つ日本が、核保有国のフランスと協力してプルトニウムの増産に突き進むことは、核拡散を防ぐ国際体制に限りなくマイナスである。

 核保有国と被爆国とがこういう形で手を組むのでは、結局、核兵器もできる物質を持ったほうが得だとの考えが広まりかねない。日仏は、核燃料サイクルではなく、核拡散防止で力を合わせるべきだ。

 安倍政権は最近、原発推進に前のめりな姿勢を鮮明にしてきた。成長戦略の中に原発活用を位置づけ、中東、インド、フランスに続き、今月中旬に訪れるポーランドでも東欧との原子力協力をうたう。

 国民には綿密な説明を尽くさないまま、対外協力を利用して、なし崩しに原発推進へと政策のかじを切るのは不誠実というほかない。

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もんじゅ廃炉のコスト監視を

 廃炉が決まっている高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)について、運転主体の日本原子力研究開発機構が計画をまとめ、原子力規制委員会に申請した。  2018年度に核燃料の取り出しを始め、47年度まで30年かけて撤去する。費用は3750億円の見込みで、通常の原子力発電所の廃炉に比...

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