2013年7月31日水曜日

「減反」を見直し市場重視のコメ政策に

 コメの消費減少に歯止めがかからない。高い関税率で輸入を制限し、生産調整(減反)で国内価格を維持する政策が消費者や企業のコメ離れにつながった。環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加した今こそ、全国横並びの減反を抜本的に見直し、市場を重視したコメ政策に転換すべきだ。

 農林水産省が公表した2012年7月~13年6月のコメの需要実績は、778万5千トンと前年に比べて4%強減少した。実績は昨年時点の需要見通しを20万トンも下回る。主因は価格の高止まりだ。

 国民1人あたりの年間コメ消費は、1962年度の118キログラムから11年度の58キログラムへと半減した。パンやめん類など食生活が多彩になり、少子高齢化で食料の総需要も縮小している。

 消費者の間に低価格志向は根強い。加工食品や外食を担う企業はなおさらだ。価格が高止まれば、消費の減少幅は大きくなる。農水省はコメ消費の回復は見込めず、来年6月末の民間在庫量が過去15年で最高の230万トン台まで積み上がると予想している。

 構造的な消費の減少に高価格政策が拍車をかけ、生産調整の拡大を迫られる悪い循環を絶つ必要がある。市場の変化に対応できていないコメ政策を見直すときだ。

 95年に食糧管理法が廃止され、コメの流通は自由になった。生産調整への参加も制度上は自由だ。しかし、現実には多くのコメ生産者が減反に参加している。政府が目標生産量を決め、都道府県に生産枠を割り振る仕組みも残る。

 これでは消費の変化に追いつかない。政府は農地を集約し、生産コストを下げる政策を進めているのだから、安さを強みにできる大規模な農家が能力いっぱい生産できる自由な環境に変えるべきだ。

 価格が下がった場合は、農家への直接支払いで経営を支える。その制度も単純な横並びではなく、競争力の強化に意欲のある農家を後押しする設計が求められる。

 市場競争を避ける政策は、農家が創意工夫をこらす意欲を奪う。店頭では新品種が増えたように見えても、コシヒカリの作付け比率は37%台と集中したままだ。

 減反を強化しながら足りない加工原料米などを補助金で増やそうとする、びほう策を繰り返すだけではだめだ。コメの生産もできるだけ自由にし、農家が市場の動きを探りながらそれぞれの強みを競える環境が大切だ。

韓国の元徴用工判決を憂う

 韓国の司法は国家間で締結した条約や協定の重みを、どうとらえているのだろうか。

 釜山高裁が三菱重工業に対し、戦時中に日本に強制徴用された韓国人への損害賠償の支払いを命じた。元徴用工が新日鉄住金を相手取って起こした訴訟でも、ソウル高裁が同様の判決を言い渡している。それに続くものだ。

 原告側は日本で起こした裁判では敗訴が確定し、韓国でも一、二審でいったんは敗訴していた。

 今回はいずれも差し戻し控訴審だ。判決が覆ったのは、韓国の最高裁が昨年、日本企業に対する個人の賠償請求権は「消滅していない」との判断を示したためだ。

 しかし、そもそも日韓両国は1965年の国交正常化の際に請求権・経済協力協定を結んでいる。日本政府は無償3億ドル、有償2億ドルの経済協力を実施し、それによって請求権問題は「完全かつ最終的」に解決されたはずである。

 韓国政府も元徴用工の賠償について、対日請求権は認められないとの認識を共有してきた。韓国の司法の判断は極めて遺憾で、不当な判決としか言いようがない。

 国家間で解決済みの問題について、日本の個別企業の責任が問われるようでは、「安心して韓国とビジネスができない」という声が上がりかねない。

 新日鉄住金は上告し、三菱重工も上告する構えだが、仮に最高裁で賠償命令が確定した場合、一企業として取り得る対抗措置は限られる。判決を機に新たな提訴が相次ぐ恐れもある。日本政府は個別企業に対応を任せきりにせず、前面に立って韓国政府に善処を求めることも必要ではないか。

 韓国では日韓の政府や関係企業が資金を出して財団をつくり、元徴用工を支援する構想も浮上しているという。だが、元徴用工らへの賠償については本来、韓国政府が対処するのが筋である。

 日韓はただでさえ、歴史認識などをめぐって冷え込んでいる。一連の判決は関係をさらにこじらせかねず、憂慮せざるを得ない。

もう一つの参院選―参加と対話の政治を育む

 先の参院選は、自民党1強体制を生んだだけではない。底流では、着目すべき変化の兆しがあった。

 ミュージシャンの三宅洋平さん(35)は、緑の党から比例区に立候補した。

 有名ではないし、組織の後ろ盾もない。でも17万6970票は、落選した比例区候補の中で最も多く、最少得票で当選した人の7倍近い。

 選挙戦最終日。東京・渋谷での「選挙フェス」は、演説と音楽を融合させた手法もさることながら、訴えの内容もまた、他の候補にはないものだった。

■「パワハラ民主主義」

 「民主主義は、多数決じゃあだめなんだ。すべての人が大声を出せるシステムじゃなきゃだめだと思うんだ」

 「議会をパワハラじゃなく、おれたちの話し合いの場に戻そうよ」

 考えてみれば、多数決で勝てない人たちの利益は、あれもこれも侵害されている。非正社員の待遇。将来世代への負担のつけ回し。沖縄への安保のしわ寄せ。たしかに多数派によるパワハラかもしれない。

 「だけどね、国会議員を孤独にさせて闇を生んだのはおれたちだぜ。注目し続け、意見し続け、政治を孤独にしないこと」

 「一票入れてくれなんて、おこがましくていえない。好きに選んだらいい。自分が『こいつとなら6年、付き添える』っていう人間に、意見し続け、情報長者にするんだよ」

 問題の根っこは、有権者の政治へのかかわり方にもある。演説は、私たちの民主主義の問題点を言い当てている。

 三宅さんは、単純に敵・味方で分けることもしない。原発の廃炉を唱えたが、「原発をつくったやつにも事情があったんだよ」。中国でライブやったよ、いいやついっぱいいるぜ。韓国にも、マッコリ飲むたび尊敬の念しかわかないね……。

 異なる意見をたたきつぶそうとする物言いが、世にあふれている。その連鎖をとめたい。

 三宅さんはそう話す。

■「敵」をつくる政治

 そんな訴えが新鮮に聞こえるのは、現実の政治が対極にあるからだろう。

 郵政事業が、抵抗勢力が、官僚が悪い。生活保護は問題だ。既得権益に切り込めば日本は立ち直る――。近頃の政治は、「敵」や「悪者」を仕立てあげ、たたいてばかりだ。

 経済成長が止まり、利益の分配で支持者をひきつけるのは難しくなった。それを穴埋めするために、敵との戦いを演出する「劇場型」の政治が広まった。

 だが、それで少子高齢化やグローバル化といった問題が解決するわけではない。それどころか、支持をつなぎとめるため、さらに敵意をあおる悪循環に陥りかねない。

 「敵」への不信感を接着剤にして、有権者とつながろうとする政治は危うい。信頼でつながる方法を探らねばならない。

 かぎは、政治への市民の「参加」と「対話」にある。

 三宅さんへの支援の核となったのは、音楽仲間やファンたち若い世代だ。

 三宅さんは、ネットを活用する一方、ネットから飛びだそうと呼びかけていた。それに応えた若者たちが、一晩かけて親を説得したりして、支持が広がったという。

■流されない民意を

 この選挙では、有名無名の個人が、特定候補を推薦する動きも目についた。

 「年越し派遣村」村長だった湯浅誠さん(44)は5人の候補を推した。民主党政権で内閣府参与を務めたとき、どの政治家が何に、どんな思いで取り組んでいるか間近に見たからだ。

 業界団体や労組のような組織は細った。代わりに個人が、人と人、人と政治をつなぐ役割を買って出ている。ネットの普及やネット選挙運動解禁で、働きかけやすくもなっている。

 そんな環境を生かしながら、政治的立場を明かして対話することを当たり前にしたい。大切なのは、世代や立場の異なる人と話すことだ。そうすれば「敵」と思っていた人の抱える事情もわかってくる。その繰り返しが、敵をたたく論法に流されない「民意」をつくり出す。

 参加と対話をどう促すか。そのための環境整備も必要だ。

 壁となる制度は取り払わなければならない。たとえば選挙の際の戸別訪問だ。1925年に禁止され、同時に治安維持法が制定された。庶民が政治運動に加わるのを抑えるねらいがあったとされる。こんな時代遅れの規制は撤廃すべきだろう。

 仕事でくたくたになり、対話どころではないという人が大勢いる。湯浅さんは「長時間労働を規制し、『市民としての時間』を取り戻さなければならない」という。

 気の遠くなるような道のりだ。だが、そんなところから積み上げなければ、政治は育たないのかもしれない。

原子力委員会 司令塔の役割強化する改革を

 東日本大震災以降、混迷が続いてきた原子力政策を立て直すには、政府内に確固たる総合司令塔が必要である。

 組織や権能の在り方が問われている内閣府の原子力委員会を、どう改革するか。政府の有識者会議が検討に乗り出した。

 原子力委は、原子力政策大綱の立案や平和利用の確認作業を担ってきた。原子力利用を推進、維持する行政組織だ。

 原子力発電所の安全確保を担うため、昨年発足した原子力規制委員会とは車の両輪と言える。

 ところが、「脱原発」政策を掲げる民主党政権は、原子力委から政策立案の権限を奪った。その上で、法的根拠がないまま、関係閣僚らで組織するエネルギー・環境会議に権限を移した。

 野田内閣は昨年10月、原子力委の廃止も視野に見直し会議を設けたが、結論は出なかった。

 脱原発とは一線を画す安倍内閣が、新たに有識者会議を設け、原子力委の立て直しに乗り出したことは適切な判断である。

 政府内で、原子力委にどのような責任を持たせるのか。行政組織としての役割を、有識者会議でしっかりと議論してもらいたい。

 原子力委は1956年に発足した。初期には委員長を閣僚である科学技術庁長官が務め、原発立地から安全規制まで、原子力政策全般を一手に担った。

 その後、原発の増加やトラブル対応強化のため、安全規制部門が分離された。省庁再編の後には、有識者が委員長職に就き、権限も大幅に縮小した。

 だが、専門的な知識を要する原子力政策の立案、推進における役割は今こそ大きい。

 30日の初会合でも、メンバーから原子力委の機能を再活性化させる必要性を説く声が相次いだ。

 日本の原発輸出の取り組みを踏まえ、「国際協力が重要」との指摘があった。「プルトニウム利用について、国内外への説明責任を担う」「廃炉も重要な仕事だ」といった見解が示された。

 日本が世界有数の原発保有国であることを考えれば、もっともな意見である。

 原子力委の意見を政府内で反映させるためには、委員長を閣僚に戻し、責任を明確にした組織にすることも十分考えられよう。

 政府は年内をめどにエネルギー基本計画を策定する方針だ。

 その中で原発をどう位置づけるべきか。現実的な戦略を作るためには、原子力委の専門的な検討が不可欠である。

郵政保険提携 企業価値の向上占う試金石だ

 郵政事業の収益を向上させ、日本の保険市場の公正な競争を阻害しない提携が求められる。

 日本郵政と米保険大手のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)が、がん保険の提携強化で合意した。

 アフラックは日本のがん保険市場の7割を占める最大手で、日本政府が出資する日本郵政のがん保険参入に強く反対していた。

 それが一転して、がん保険を本格的に共同販売するという異例の提携劇である。

 具体的には、アフラックのがん保険を販売する郵便局を、現在の1000局から2万局へ拡大し、かんぽ生命保険の直営店でも取り扱うようにする。

 アフラックは、日本郵政が販売するがん保険の専用商品を開発するという。

 6月に就任した西室泰三・日本郵政社長は記者会見で、「顧客の利便性を高め、グループの企業価値を高められる」と述べ、提携拡大の意義を強調した。

 重要なのは日本郵政の保険ビジネスの成長につなげることだ。販売手数料を得るだけではメリットは乏しい。アフラックと提携内容をさらに詰める必要がある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る日米交渉で、米国は日本郵政の保険事業拡大に難色を示していた。両社の提携で支障の一つがなくなる。これから本格化するTPP交渉には追い風となろう。

 一方、日本の生保業界には、国の後ろ盾がある日本郵政とアフラックの“巨大提携”が、新たな民業圧迫につながるのではないかとの懸念がくすぶっている。

 保険市場の活性化を図るには、公正な競争が確保されていることが不可欠だ。政府はしっかり監視してもらいたい。

 日本郵政は、政府が持つ日本郵政株を2015年度に上場することを目指している。上場に伴う政府保有株の売却益は、東日本大震災の復興財源に活用される。着実な上場の実現が望まれる。

 気がかりなのは、日本郵政の事業が縮小傾向にあることだ。上場の障害となりかねない。

 かんぽ生命の保有契約件数は減少が続き、郵便の取扱数や、ゆうちょ銀行の残高も民営化前より大きく目減りした。

 日本郵政は、住宅ローンなどへの参入で収益向上を図りたい考えだが、融資審査や内部管理などの体制は依然として心もとない。

 長引く低迷から脱却し、目に見える成果を出せるか。西室体制の経営手腕が問われよう。

2013年7月30日火曜日

訪日客1000万人時代に求められるもの

 観光などで日本を訪れる外国人が増えている。今年上半期の訪日客は前年比23%増の495万人に達し、政府が目標とする年間1000万人が視野に入ってきた。これをさらに伸ばすためには、企業や自治体の一層の努力がいる。

 政府は訪日外国人を2016年に1800万人、20年に2500万人に増やす目標を掲げている。旅行者の増加は宿泊、食、交通など幅広い産業にプラスだ。ただし現在の伸びは震災による落ち込みの反動や円安による「お得感」など、特殊な条件が重なった面もある。楽観はできない。

 一度だけでなく繰り返し日本に来たくなる。長く滞在し、さまざまな消費をしたくなる。そうした日本ファンを育てるには、キャンペーンよりも滞在中の満足度の向上が大事だ。現場でサービスを担う企業や自治体の役割は大きい。

 戦後、日本の観光業は宿泊業も旅行会社も観光施設も、主に国内の団体客で成長してきた。近年、女性グループなど個人客が増える中で、サービスや施設面で対応した企業や観光地と、そうでない所で集客力の差が広がりつつある。こうした努力不足が国内の旅行市場を縮小させた面もある。

 外国人も伸びるのは個人客だ。今度こそ発想を転換し、経営革新に取り組みたい。「おもてなし」の伝統を大事にしつつ、使い勝手のいいようサービスを刷新する。画一的なメニューや催しをやめ、土地の文化をじっくり楽しんでもらう。そんな工夫を重ねたい。

 時間と懐具合に余裕がある層に向けたリゾートホテルや都市型ホテルも不足している。優雅さやぜいたく感の演出では、欧米だけでなくインドネシアやシンガポールなど東南アジア諸国の一部施設に先行されている。

 また、訪日客を国内で案内する業者に関して、質のばらつきが指摘されている。日本に悪い印象を持てば再訪につながらない。日本の旅行会社がこれまで力を入れてこなかった分野だ。安心できる案内サービスを提供すれば、観光客にも会社にもプラスだ。

 地方は、地元が見落としている魅力を発掘するため、外国人自身の目をもっと生かしたい。外国人が中心となり、川を使ったアウトドアスポーツや古い街並みの活用で観光振興に成功した事例がある。当たり前と思っている自然や景観も資源になる。思い切った人材登用にも挑戦したい。

気象庁は特別警報の周知を

 山口、島根両県で猛烈な雨が降り、土砂崩れや河川の氾濫で被害が出た。気象庁は今回の豪雨を「特別警報」のレベルに相当するとして最大級の警戒を呼びかけた。

 特別警報は気象庁が8月30日から発表を始める新しい警報だ。数十年に一度の大きな災害をもたらす大雨や暴風、地震などを対象にする。従来の大雨警報などの上に位置付けられる。

 今回は本番を先取りする形で、気象庁の担当者が特別警報に言及した。ただどこまで国民に周知されているか心もとない。

 気象庁は運用を前に特別警報がもつ意味と、従来の警報との違いをきちんと説明する必要がある。一段上の新しい警報ができたからといって、これまでの「警報」が軽視されるようでは困る。

 特別警報は5月に改正気象業務法が成立し、導入が決まった。2011年に深刻な被害をもたらした紀伊半島の豪雨など早い段階で警報などが出ていながら、迅速な住民避難につなげられなかった反省から生まれた。地球温暖化の影響もあり、異常気象が増えると予測されることも背景にある。

 防災の要は情報だ。行政が正確でわかりやすい情報を適時に流し、それを住民がしっかり受け止め行動につなげてこそ、情報が生き、人命を救う。新しい警報の導入を、防災情報の伝達の仕組みを点検、強化する機会にすべきだ。

 特別警報に関し地元自治体は住民に伝える義務を負う。従来の警報の伝達は「努力義務」だった。

 防災無線や広報車などを活用して情報を伝えるルートを多重にし、高齢者や山間部に離れて住む人たちにも確実に届くよう徹底しなければならない。

 また「逃げなさい」とただ指示するだけではいけない。自宅を離れない方が安全な場合もある。

 防災は地域ごとだ。きめ細かい気象予報とともに、防災の知識や経験を積んだ自治体職員を育てる努力も要る。日ごろから危険な場所や避難経路を地域ぐるみで確認し共有しておくようにしたい。

朝鮮休戦60年―対話の好機を逃すな

 交戦はやんでいても、平和ははるか遠い。朝鮮半島では60年間、そんな状態が続く。

 1953年に休戦協定が結ばれた27日、北朝鮮は閲兵式を含む式典を平壌で盛大に開いた。

 だが、金正恩(キムジョンウン)・第1書記が直接には演説せず、新型兵器も登場しなかったとされる。

 北朝鮮はこの春、挑発行為を続け、最大限に危機をあおったが、最近は一転して対話攻勢をしかけている。

 同じ国とは思えない変わりようだが、すべては米国を本格対話に引き出すための戦術だったとみれば、わかりやすい。

 休戦協定を平和協定にかえる方向で米国と話しあう。対話基調になれば、やがて国際的な支援も得られる――。

 正恩体制がそんな明るい未来を切り開くことを、休戦60年の節目に合わせ、国内にアピールするねらいだったのだろう。

 一時は「もはや存在しない」とまで言い切っていた6者協議への復帰を最近は示唆し、米国との高官協議も呼びかけた。

 核の保有は米国の敵視政策に対抗するためだと訴える一方、朝鮮半島の非核化は祖父や父の「遺訓」とも強調した。

 だが、もくろみは外れた。いずれの対話も開かれていない。それは、秘密裏に核開発を続けてきた北朝鮮の真意に関係各国が疑念を抱いているからだ。単なる口約束だけで見返りを与えてはならないという認識は、日米韓に共通している。

 米国が6者協議再開の条件として、非核化に向けた具体的な行動を求めているのもそのためで、北朝鮮は対話を望むなら決断するしかない。時間をかせいでも窮状は変わらない。

 ただ一方で、休戦という不安定で中途半端な状態が60年も続いてきたという事実は、南北のみならず、関係国も見過ごすことはできない。

 朝鮮半島の将来的な平和体制をめぐる問題は、韓国の李明博(イミョンバク)・前政権が消極的だったため、実質的な進展がなかった。

 もちろん非核化協議のめどがたつ前に、平和協定は話し合えない。だが、平和体制問題は北朝鮮が強い関心を示すだけに、いずれは話し合う姿勢をみせ、その入り口に核問題をおくアプローチも一考に値する。

 肝心なのは、正恩体制下で初めて生まれた対話の機運を、日米韓でどう生かすかだ。

 6者協議が中断して約5年。本格的な対話の再開には、積もった不信感を一つずつ取り払う以外に方法はない。いびつな60年を経た朝鮮半島の未来を描くには辛抱強い思考が必要だ。

エジプト流血―人命軽視に未来はない

 国際社会が恐れていた事態が現実のものになってしまった。市民の痛ましい流血をこれ以上拡大させてはならない。

 エジプトの首都カイロ郊外で先週、ムルシ前大統領派のデモ隊に向け治安部隊が発砲した。少なくとも75人が死亡し、1千人が負傷した。

 ムバラク独裁政権の打倒に民衆が立ち上がった民主革命から2年あまり。一度にこれほどの死傷者が出たのは、革命以降では初めてだ。

 今月初めのクーデターで政権を奪った暫定政府の統治責任は重い。いかなる状況でも、市民への武力の行使を禁じる措置を徹底しなくてはならない。

 治安を担う内務省は、前政権の母体「ムスリム同胞団」の抗議活動を「テロ」と呼んで取り締まろうとしている。だが、民主選挙で選ばれた政権を力ずくですげ替えたのだから、反発を生むのは自然だった。

 テロ対策と称して反対勢力を弾圧しようとするのは、シリアなどでも繰り返された独裁政権の手法である。エジプト革命がめざしたはずの民主化に逆行しており、国民和解の道を遠ざける愚行というべきだ。

 もともと同胞団は20世紀前半の創設時から、体制側に抑圧された歴史をもつ。その組織が初めて政権を担ったことは、現代民主主義とイスラム主義の両立をめざす実験でもあった。

 それが武力で倒されただけでなく、その後の抗議も銃弾で鎮圧されたとなれば、イスラム主義派は今後長らく民主主義に背を向けかねない。それは、アラブ世界全体に広がった民主化の希望の芽を摘むことになる。

 いま何より必要なのは、冷静な対話にほかならない。暫定政府は一方的に定めた政権移行の行程表を唱え、同胞団は前政権の復帰を叫ぶが、互いに受けいれられず出口は見えない。

 そんな中で、知識層や前政権関係者らが調停案を探り始めたのは、せめてもの光といえる。まずはムルシ前大統領らの安否確認などから始まる信頼醸成の提言に、軍は真剣に耳を傾けなければならない。

 国際社会も、もはや静観できる事態ではなくなった。とくに軍に影響力をもつ米政府は、暫定政府に自制を求めるべきだ。各主要国は、国民に銃を向ける政府には正統性を認めないことを明示する必要がある。

 エジプトの命運を決めるのは国民自身だが、人命が失われる惨状は看過できない。本来は中東の安定役を担うべき大国である。国際社会は、この国を長い内乱に陥らせてはならない。

「多弱」の野党 再編は政策論議から始めよ

 「1強」の自民党と、「多弱」の野党と言われる。巨大与党に対抗し得る野党像を模索すべきなのに、展望は厳しい。

 参院選後、執行部の責任問題が取り沙汰された民主党、日本維新の会は、ともにトップが続投することになった。

 みんなの党を加えた3党間で野党再編も浮上しているが、参院選で共闘できなかった党首の下、結束や再編は容易ではあるまい。

 民主党は、参院選で無所属候補を応援した菅元代表の処分を「党員資格3か月停止」とした。当初案の「除籍」に比べて後退した。海江田代表の続投に不満が根強く、党再建の道筋は不透明だ。

 民主党では結党以来、基本政策を巡って隔たりが大きい。最大の弱点とされる党の一体感の欠如を招いている。海江田氏が、路線対立を乗り越える指導力を発揮できるのか、はなはだ疑問である。

 幹事長には、大畠章宏代表代行が就いた。大畠氏は旧社会党出身で労働組合色が濃く、民主党の労組依存体質は強まるだろう。

 参院選の比例選でも、当選者7人のうち連合の組織内候補が6人を占めている。

 海江田氏は、野党再編に関し、「大切なのは民主党が中心になることだ」と述べたが、民主党の置かれた状況を理解していない。

 維新の会の橋下共同代表らは、まさに民主党の労組依存を問題視しており、結束を呼びかける相手は、みんなの党と民主党の保守・非労組系議員だからだ。

 その維新の会では、橋下氏が辞意を表明したものの、石原共同代表らに慰留された。本拠地の大阪と、東京の国会議員団との対立という問題は今後もくすぶろう。

 みんなの党には、渡辺代表と江田幹事長の確執がある。江田氏はみんなの党が再編を主導すべきだと前のめりだが、渡辺氏は「拙速な再編は野合に終わり、失敗する」と慎重な構えだ。

 長年、政界再編の中心だった生活の党の小沢代表は、政治力の低下が著しい。社民党を10年間率いてきた福島党首も退く。

 政党は本来、内外の課題を把握し、処方箋たる政策を実行していくためにある。政治家の都合で離合集散すべきものではないし、国民の支持なしに生き残れない。

 新しい野党には、ガバナンスを確立できるリーダーの下、憲法など政策での一致が欠かせない。

 次の国政選まで最大3年ある。野党各党は、浮ついた再編論議ではなく、現実的で地道な政策論から始めるべきである。

公的研究費 不正使用の徹底防止を図れ

 科学技術の向上を支える公的研究費の在り方が問われている。

 東京大学政策ビジョン研究センターの教授が、架空業務を業者に発注し東大などから2180万円をだまし取ったとして、詐欺容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

 引き出された資金には、IT技術を医療分野に活用する研究支援として、厚生労働省が支給した補助金が含まれていた。特捜部は私的流用があったと見ている。

 教授は容疑を否認しているが、事実であれば、大学の研究事業に対する期待と信頼を裏切る行為と言わざるを得ない。

 特捜部は、事実関係の解明に全力を挙げてもらいたい。

 公的研究費を巡っては、かねて不正使用が問題視されてきた。

 文部科学省が4月に発表した調査結果によると、46の大学と研究機関で不正使用が確認され、その額は3億6100万円に上る。

 中でも目立つのが、「預け金」と呼ばれる手口だ。

 研究者が物品を購入したように装って、代金を業者に渡し、プールさせておく。自由に使える資金を確保したり、年度内に消化できなかった予算を次年度以降に繰り越したりする目的で行われる。

 大学との取引が有利になると期待して、業者が研究者に協力するため、癒着につながりやすい。

 研究者側には、年度ごとに消化することが求められる公的研究費について、弾力性に欠けるといった不満が根強くあるようだ。

 ただ、研究費の原資は、言うまでもなく国民の税金であり、都合の良い流用は許されない。

 政府の成長戦略の柱として、科学技術振興が盛り込まれた。今後、予算増額の可能性もあるだけに、なおさら、研究費は適正に利用されなければならない。

 各府省が今年度から、不正使用を行った研究者に対する罰則を強化したのは当然である。

 研究費の応募資格を停止する期間を、私的流用の場合には5年から10年に延長した。新たに、研究を管理する上司についても、必要な注意義務を怠れば、応募資格を最長2年停止することにした。

 大学側のチェックの甘さも問題だ。文科省は2007年にガイドラインを策定し、発注通りに物品が納品されたか、監査の徹底を求めた。だが、取り組みが依然、不十分な大学が少なくない。

 各大学は管理体制を再点検すべきだ。文科省もガイドラインの履行状況を検証し、不正の根絶につなげていく必要がある。

2013年7月29日月曜日

世界の企業は2つの試練を越えられるか

 成長力を持続できるかどうか、世界の企業が問われている。中国など新興国の景気が変調をきたしているうえ、従来のビジネスモデルが急速に競争力を失う例も増えているからだ。

 米企業は主要500社の2013年4~6月期が前年同期比4%程度の増益を保ったようだ。金融危機の後遺症から脱した銀行が好決算を発表したためだが、他の産業をみると世界の企業が直面する問題が浮かび上がる。

 第1は、新興国に傾斜する戦略のリスクが顕在化したことだ。

 早くからアジアや中南米の資源国に展開してきたキャタピラーは、資源需要の低迷を受けた鉱山機械の不振などにより40%超の大幅減益となった。

 「ケンタッキー・フライド・チキン」を手がけるヤム・ブランズは、中国の鳥インフルエンザの影響を受け15%減益だった。同国の売上高が全体の約半分を占めるほど中国事業を広げたことが、裏目に出た格好だ。

 第2に、技術革新が速くなった影響で、IT(情報技術)分野で収益力が急低下する製品がみられることが挙げられる。

 スマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)に押されパソコン需要が低迷したため、マイクロソフトやインテルは決算で苦戦を強いられた。成長力を取り戻すために非公開化を計画するデルのような例も、今後は増えるに違いない。

 世界戦略を機動的に見直し、ビジネスモデルも変えていく。そんな2つの課題に、アジアや欧州の企業も向きあっている。

 4~6月期の営業利益が過去最高となった韓国のサムスン電子は、市場占有率で世界首位のスマホが大きな収益源だ。現在は他の国や地域に比べて自社製品の浸透が遅れている日本での営業を強化している。

 オランダのフィリップスの純利益は前年同期の3倍に増えた。同社はかつて世界的な家電メーカーだったが、アジア勢との競争が激しいAV(音響・映像)機器事業からほぼ撤退し、需要の底堅い医療機器事業などに経営資源を集中してきた。事業組み替えの効果が好決算に反映している。

 世界の市場に目を配り成功に安住しない企業だけが、環境が変化するなかでも成長を続けることができる。もちろん日本企業にも当てはまる鉄則だ。

中東和平で日本の存在感示せ

 イスラエルとパレスチナが米国の仲介を受けて、和平交渉を再開する機運が高まっている。双方の代表が近く訪米し、直接協議の再開を話し合うという。

 中東和平の実現は地域の安定に不可欠である。国際社会が一致して交渉再開を支えなければならない。日本も支援の輪に積極的に加わる必要がある。

 岸田文雄外相がこの時期にイスラエルとパレスチナを訪れ、パレスチナの経済開発について会合を開いたのは、日本の存在感を示す取り組みと評価したい。

 1948年のイスラエル建国にさかのぼる同国とアラブの対立は、不安定な中東の根幹にある問題だ。パレスチナ国家の独立と、イスラエルの共存は中東の安定に欠かせない。しかし、直接交渉は2010年以降中断している。

 オバマ米大統領は任期2期目の最初の外遊先としてイスラエルを選び、中東和平の推進に意欲を見せた。ケリー国務長官は2月以降、6回現地入りし、交渉の再開を働きかけてきた。米国の努力を評価したい。国際社会はこの機会を逃してはならない。

 歴史的な経緯をめぐり、中東諸国と複雑な関係を抱える欧米諸国と異なり、日本はイスラエル、パレスチナ双方と良好な関係にある。この強みを生かし、独自の役割を果たせるはずだ。

 日本はパレスチナ自治区に、イスラエルやパレスチナ、隣国ヨルダンと協力し、自治区の農産物を使って加工食品などを生産する工業団地を建設中だ。すでに24社が進出の意向を示しているという。

 岸田外相の訪問にあわせて自治区で開いた会合にはイスラエルとパレスチナの閣僚がともに出席した。和平交渉の前途には将来の国境画定やイスラエルによる入植地の扱いなど難しい問題が控える。

 イスラエルとパレスチナが経済開発への協力を通して信頼を築く意味は大きい。岸田外相は農産加工団地に続き観光分野での協力を提唱した。こうした取り組みを広げていくことが重要だ。

汚染水流出―規制委が陣頭で対応を

 いったい、この2年4カ月あまり、何を学んできたのか。

 福島第一原発で放射性物質に汚染された水が、海にも流出している問題である。東京電力の対応のお粗末ぶりには驚くばかりだ。監督責任がある経済産業省資源エネルギー庁や原子力規制委員会などの当事者意識も、あまりに薄い。

 福島第一原発では原子炉を冷やすため、今も注水が続く。放射性物質と触れて汚染した水の一部が地中に漏れ出ており、海にも達していた。3号機では高線量の正体不明の「湯気」も観測されている。

 放射性物質が大地や海、大気に放出されている現状は、紛れもなく事故の継続である。原子力災害は終わっていない。関係者は事態を深刻に受け止め、緊急時のように対応すべきだ。

 事故・災害対応で最も重要なのは、できるだけ早く正確に状況をつかんで公表すること、事態の全容がわからなくても先を読んで被害の拡大防止を図ることである。

 東電の対応はどうだったか。5月下旬に建屋海側の地中で放射性物質が検出されても、海への流出の可能性を長く認めようとしなかった。海と地下水の関係が焦点になっているのに、井戸の水位が潮位と連動していたという重要な情報が社内で共有されなかった。

 今月18日に海への漏出を東電として確認し、社長も19日に漁協関係者らへの連絡を指示したのに、公表は22日夕の定例記者会見まで遅れた。

 原発事故発生後から指摘された不手際を、なぜこうも繰り返すのだろうか。

 まったく反省してこなかったのか、反省がいかされなかったのか。東電は否定するが、公表が参院選後になったことは、選挙への影響を避けるためだったのではないかと勘ぐられても仕方あるまい。

 東電は柏崎刈羽原発の再稼働をめざしているが、原子力をゆだねられる信頼感はまったくない。論外と言うべきだろう。全社をあげて、環境への放射性物質の漏れを防ぐことに集中する必要がある。

 国の関係機関の事故対応能力も問われている。規制委はこの際、受理した他の電力会社の再稼働の審査を後回しにしてでも、福島の原子力災害対策の陣頭指揮に当たるべきだろう。

 重大事故の際に起きうる汚染水の海への漏出防止策は、施行されたばかりの規制基準で十分なのか。規制委には今回の海の汚染を教訓に、改めてきちんと検討してもらいたい。

コミッショナー―この退場勧告は重い

 選手たちによる前代未聞の退場勧告である。

 労組日本プロ野球選手会が、加藤良三コミッショナーに「不信任決議」を突きつけた。

 決議に拘束力はないが、コミッショナー、そして日本野球機構(NPB)は、重く受け止めるべきだ。

 「飛ばないボール」と不評だった統一球を、今季から飛びやすいように、こっそり仕様を変えていたことが明るみに出たのは、6月だった。

 加藤氏は、ボールを製造するメーカーへの変更の指示を「知らなかった」と言い、当初は「不祥事ではない」と開き直った。その責任感のなさに、選手と野球ファンはあきれた。

 「プロ野球選手にとっての命であるボールが変わったという重大なことを、知らなかっただけで済ませようということが信用できない」。嶋基宏会長(楽天)の言葉に、加藤氏はどう答えるのか。

 大リーグなどの国際規格にあわせようと統一球導入を進めたのは、ほかならぬ加藤氏だ。その当人が知らないまま、事務局が勝手にメーカー側に指示していたとしたら、お飾りに過ぎないということになる。

 責任の所在はあいまいで、ガバナンスもいい加減。これが民間企業だったら、とっくに潰れているだろう。

 そもそも、プロ野球コミッショナーとは何か。

 野球協約を読むと、プロ野球に関する「議決機関」はオーナー会議と実行委員会で、コミッショナーはそこで決まったことの「執行機関」とある。

 事実上、最高実力者ではない。意地悪く解釈すれば、非常勤で年間2400万円の給与を受け取る名誉職とも読める。

 統一球問題が明るみに出た後のオーナー会議で、加藤氏の責任を追及する声は高まらなかった。自分たちが選んだコミッショナーへの配慮なのか。それとも、実行力のあるトップにかき回されてはかえって迷惑ということか。

 それでも、一部のオーナーからは事実上の非常勤を常勤にして職務に専念してもらうべきだという改革案が出ている。密室性が高かったコミッショナーの選び方も、選考委員会で絞り込むべきだとの声がある。

 今回の問題を、閉鎖性を指摘される球界が生まれ変わるきっかけとしたい。

 加藤氏は「地位に恋々とはしない」という。だったら、来年6月の任期を待たずに退き、みずからNPBの刷新に道を開いてはどうか。

パレスチナ和平 米国の仲介努力は奏功するか

 イスラエルとパレスチナの約3年ぶりの直接交渉の実現へ、つなげることが肝要だ。

 イスラエルとパレスチナ自治政府に和平交渉再開を働きかけてきたケリー米国務長官が、「交渉再開のための基本的な部分で合意に達した」と発表した。

 近く、双方の閣僚級の担当者が詰めの協議を行うという。

 自治政府側は、パレスチナ国家樹立を目標に掲げており、日米欧やアラブ諸国は支持している。ただ、イスラエルの同意が不可欠だ。イスラエルと自治政府の直接交渉が再開され、平和共存への歩みが始まることを、期待したい。

 今回の基本合意は、2月に就任したケリー国務長官が何度も中東に足を運び、仲介した成果だ。

 「アラブの春」の激動が続く中東で、米国の存在感が問われている。シリア内戦は泥沼化し、地域の大国エジプトは政情不安定から抜け出せないでいる。

 米国は、イスラエルとパレスチナの和平仲介を中東外交立て直しの契機とし、中東の安定に役割を果たしたいのだろう。

 基本合意の成立は、強硬一辺倒のパレスチナ政策で国際的に孤立したイスラエルが、軌道修正を図ったことにもよる。

 昨年の国連総会では、米国、イスラエルの反対にもかかわらず、パレスチナに「オブザーバー国家」の地位を与える決議案が、圧倒的多数で可決された。

 ヨルダン川西岸への入植活動強行に対し、国際社会、とりわけ最大の貿易相手の欧州が批判を強めていることに、イスラエルは危機感を強めている。

 イスラエルが入植活動を中止することで、自治政府との対話再開への道も開くのではないか。

 自治政府の側も、交渉当事者の能力を示すには、統治が及ぶのはヨルダン川西岸だけでガザ地区はイスラム主義組織ハマスの支配下のまま、という現状を解消する必要がある。

 岸田外相は先週、中東を歴訪し、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長とそれぞれ会談し、和平交渉の再開を促した。

 また、日本の支援でヨルダン川西岸エリコに建設中の農産加工団地の活用を巡って、イスラエル、自治政府、ヨルダンの関係閣僚と4者協議を行った。

 岸田外相らが協力緊密化で合意したのは、評価できる。

 和平を側面支援するこうした外交努力を、今後も継続したい。

ビッグデータ 宝の情報を適切に活用したい

 インターネット上や企業のシステムに膨大な電子情報、「ビッグデータ」が蓄積されている。

 情報を上手に活用できれば“宝の山”になる。一方で、個人情報保護のルールを明確にし、企業や消費者が安心して利用できる環境作りを進めることが必要だ。

 ビッグデータは、通販の購入履歴やSNS(交流サイト)上の書き込み、スマートフォンの位置情報など、様々なデータの総称である。IT(情報技術)の進歩で、膨大な量のデータの収集や蓄積が容易にできるようになった。

 通販業界では、購入履歴を分析し、消費者の好みに合う「お薦め商品」を売り込む販売手法が広がっている。製薬業界には風邪に関するネット上の書き込みと天気予報を合わせて分析し、流行の目安を提供している例などもある。

 NTTドコモは、携帯電話の位置情報をもとに地域や時間帯ごとの人口分布を推計し、街づくりや災害対策に役立てている。多くの企業がビッグデータの利用価値に注目し始めたと言える。

 総務省の今年の情報通信白書は、ビッグデータを最大限活用すれば、商品開発や経費削減などで年間7兆円超の経済効果が生まれる、という試算を示している。

 様々な分野に活用が広がる可能性に期待したい。官民連携で、IT化が遅れている分野での利用を拡大することも求められよう。

 豊作時の土壌や農薬の情報を分析し、農業の生産性向上に生かす事業なども有望だろう。

 ただ、データの活用は、個人情報の保護が前提となる。

 JR東日本は、ICカード乗車券の乗降履歴を、市場調査などに使いたい企業に売却していた。事前に説明を受けていなかった一部の利用者が反発した。

 名前や住所を削除して本人を特定できなくした匿名情報は原則、個人情報保護法の対象にならず、第三者に提供する際も本人の同意は要らないと考えられてきた。

 だが、最近の分析技術の向上に伴い、匿名情報でも、位置情報など他のデータと突き合わせると本人を特定できる可能性がある。

 匿名化した情報を活用する場合でも、情報提供側への事前説明の徹底などの配慮が欠かせない。

 JR東は要望があった人のデータは販売しないことにした。データ活用を計画する企業はJR東のケースを教訓とすべきだ。

 企業が情報を適切に扱うことも大事である。監視のあり方も将来的な課題となろう。

2013年7月28日日曜日

米保険大手と提携しても郵政問題は残る

 日本郵政と米保険大手のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)が、がん保険事業で提携を深めることで合意した。潜在的な敵対関係にあった両社が手を結んだことで、米国が問題提起した国営企業のあり方をめぐる懸案が解消されるとの見方があるが、問題の本質は別のところにある。

 米政府は日本の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に際して、日本市場への懸念として保険分野を挙げていた。国営企業である日本郵政が新たな保険事業に参入すれば、公平な競争条件が確保できないという主張である。

 今回の提携では、全国の郵便局でアフラックのがん保険の取り扱いを増やすほか、日本郵政の子会社であるかんぽ生命保険の直営店でも販売を始める。また郵政グループ専用に、アフラックが保険商品を開発するという。

 競争力がある他社の商品を窓口で販売することで、郵便ネットワークの価値を高める判断は、株式上場を目指す日本郵政の経営戦略として合理的である。将来的に確実に減る郵便事業に頼らず、販売代行の手数料を稼げるからだ。

 国営か民営かにかかわらず、郵便が生き残る事業モデルは他に見当たらない。経営の観点からの提携判断は評価できる。だが今回の措置で米国を満足させたり、TPP交渉を後押ししたりする効果を期待するのは見当違いだ。

 TPPで各国が取り組んでいる課題は、市場競争と国営企業のあり方である。中国やブラジルなど新興国では、国の信用や資金力を背景に巨大な国営企業が幅をきかせ、競争条件のひずみが目立っている。こうした「国家資本主義」に対抗するルールづくりが、TPPの重要な目標のひとつだ。

 日本の保険分野での米国の懸念は、国営企業を規制する枠組みづくりから派生した局所的な問題にすぎない。アフラックはこの流れに乗って、日本郵政を批判してきたともいえる。提携を深めて個別企業としての不満は解消するかもしれないが、TPPで共有する問題意識と日本郵政の民営化問題の本質は変わらない。

 目指すべきは公正な競争条件の確保である。郵便窓口でアフラック商品を優遇し、他の保険会社を排除するようなら、新たな問題となる。日本郵政が自前で保険の新規事業に進出したいなら、かんぽ生命を最終的に完全民営化する道筋を示すことが前提である。

野党は内輪もめに終止符を

 参院選で不振だった野党のごたごたが目立つ。互いの足の引っ張り合いが自民、公明両党の大勝を許した一因だったのに、内輪もめによって小所帯がさらに細分化されかねない。巨大与党に立ち向かう態勢づくりを急いでほしい。

 民主党は両院議員総会で海江田万里代表の続投を了承した。とはいえ、一致結束して支える雰囲気はない。ここで党首になっても党勢回復への展望がみえないまま貧乏くじを引くはめになると、誰も動かなかったにすぎない。

 参院選で公認候補を差し置いて無所属候補を応援した菅直人元首相の除籍処分は見送った。党を傾かせた責任の一端を負う輿石東参院議員会長は無役で謹慎かと思いきや、副議長に推すそうだ。

 執行部はそれぞれの責任を厳しく追及すると自身の責任問題に飛び火しかねないと、早めに手じまいした。難題から目を背け、責任があいまいな党の体質は半年の野党暮らしを経ても改まらない。

 辞任した細野豪志幹事長の後任には労働組合出身の大畠章宏氏を起用した。初当選は社会党だった。労組依存から脱却できずに、国民の支持を失って先細りになった社会党と同じ運命をたどりたいのだろうか。

 日本維新の会は石原慎太郎、橋下徹の両共同代表が続投する。しかし、東京と大阪の意思疎通のなさ、元自民党組と元民主党組の溝などの課題は放置したままだ。

 みんなの党は渡辺喜美代表と江田憲司幹事長が党運営のあり方を巡り公の場で互いを非難し合う泥仕合を続けている。それぞれ言い分はあろうが、外からみると子どものケンカにしかみえない。

 民主党政権は党のまとまりのなさが理由で国民に見捨てられた。主義主張の異なる議員がただ寄り集まっていても政党力は高まらない。政策は共有している議員同士がメンツにこだわり、いがみ合うのはもっと不毛だ。

 明確な目標を掲げ、挙党一致で突き進む。政党の原点に立ち返れば、すべきことがみえるはずだ。

野党の惨状―与党をよろこばせるな

 自分たちの立場をわかっているのだろうか。参院選に敗れた野党各党のごたごたを見ると、そんな疑問がぬぐえない。

 民主党では、海江田代表の続投に異論が出る一方、東京選挙区の公認をめぐる菅元首相への処分問題で、執行部の中で意見が割れた。おとといの両院議員総会で海江田氏の続投と処分問題にひとまず決着はついたが、党内に不満はくすぶる。

 みんなの党では、党運営や野党再編への考えの違いから、渡辺代表と江田幹事長がお互いを批判している。江田氏と民主党の細野前幹事長は、日本維新の会も交えた再編に前向きだ。これに渡辺氏がブレーキをかける構図になっている。

 一方、参院選で1議席しか取れなかった社民党は、福島党首が辞任し、まさに存亡の淵(ふち)に追い込まれた。

 自民、公明の巨大与党に対抗するどころではない。野党がこんな体たらくでは、議会制民主主義そのものが機能不全に陥りかねない。

 幹部間の確執や、上滑り気味の再編話にうつつを抜かしている時ではない。野党各党は敗因を虚心に分析し、党再生に向けた道筋を探らねばならない。

 参院選では、民主党が惨敗した。みんなの党や日本維新の会も含め、比較的新しい勢力に不振が目立った。

 振り返れば、93年に自民党が分裂して以来、政党の離合集散が繰り返されてきた。国会に議席を持った政党は、じつに30を超える。

 確固たる基盤を持たない新党が生きながらえるのが、いかに難しいか。この20年、政界に影響力を誇った小沢一郎氏の生活の党が、今回は議席を獲得できなかったのは象徴的だ。

 とはいえ、長い歴史を持つ政党も、もはや旧来の支持基盤にあぐらをかいていられる時代ではない。

 実際、旧態依然とした自民党への有権者の失望が民主党の躍進を支え、一時は政権にまで押し上げたのではなかったか。

 民主党政権の自壊から、ここ2回の選挙では一転して自民1強体制を生み出した。だからといって、変革を求める民意の流れは変わらないはずだ。

 「多弱」となってしまった野党が、それにどうこたえるか。理念や政策が異なる中、答えをすぐに見つけるのは難しい。だからこそ、まずはそれぞれの党の立て直しが大切になる。

 それ抜きに党内の主導権争いを演じていては、民意は離れる一方だ。与党ばかりをよろこばせてはならない。

原発被災者―支援の棚上げ許されぬ

 もう先送りは許されない。

 原発事故の被災者の健康不安や生活再建への支援のことだ。

 象徴的なのが、子ども・被災者支援法への政府の対応だ。

 この法律が超党派の議員立法でできて、1年1カ月になる。被災地に住む人。政府の指示や自らの判断で避難した人。避難先から地元へ帰る人。それぞれに必要な支援策を作る。対立しがちな三者を、被曝(ひばく)を避ける権利を共有する人々ととらえて包み込む。そんな発想の法律だ。

 法じたいは理念法で、具体的な支援策は「基本方針」で定めることになっている。

 ところが、基本方針はいまだにできていない。作る前に被災者の意見を聴く定めになっているが、復興庁自らがその場を設けたことはまだ一度もない。

 今の国や自治体の制度では、被災者の抱える不安や問題にはこたえきれない。たとえば、福島県内でも避難区域の外に住んでいた大人には、放射線の影響の詳しい健診がない。

 借り上げ住宅に暮らす避難世帯は15年春までは住めるが、その後のことは決まっていない。住みかえもままならず、生活設計ができない。ストレスを背景に児童虐待も増えている。

 被災者の声を集約し、支援策全体をみなおす必要がある。

 ネックになっているのは、支援対象とする地域を放射線量で線引きして決めなくてはいけないことだ。被災者の間でも健康不安の強さや避難の必要性をめぐる考え方は違う。だれもが納得する線引きは難しい。

 だからといって、これ以上、たなあげを続けられない。支援法に期待した被災者らは見捨てられたと感じ始めている。

 低線量被曝の影響はだれにも正解がわからない問題だ。復興庁は、線引き基準の検討を原子力規制委員会に頼んでいる。だが、公の討論がないままでは、多くの人が受け入れられる基準や支援策はつくれまい。

 まず、復興庁は支援のニーズを把握するためにも、被災者どうしの対立を乗りこえるためにも、住民や避難者から話を聴く場を早く設けるべきだ。

 線引きがいったん決められたとしても、それが適切かを不断に見直し続けることを想定せねばなるまい。日本学術会議は、幅広い意見をもつ科学者たちを集め、被曝の影響を公の場で検討するよう提案している。そうした場を活用してもいい。

 与野党が力を合わせて作った法律である。参院選も終わってノーサイドとなった今、国会議員たちはもういちど超党派で政府に実行を迫ってほしい。

新防衛大綱 自衛隊の機動力強化が急務だ

 離島・ミサイル防衛の強化、サイバー攻撃や大規模災害への対処――。日本の平和と安全を確保するため、こうした様々な課題に確かな解と道筋を示さなければならない。

 防衛省が、年末に策定する新防衛大綱の中間報告を発表した。離島防衛について、航空・海上優勢の維持と、陸上自衛隊の機動展開能力や水陸両用機能(海兵隊的機能)の整備が重要と指摘した。

 冷戦終結後、「量から質へ」の発想と防衛費削減の流れの中、海上自衛隊の護衛艦や哨戒機、航空自衛隊の戦闘機などが減らされてきたが、もう限界と言える。

 中国軍艦船の日本一周や、沖縄本島と宮古島の第1列島線を越えた中国軍機の飛行が初めて確認された。最近の中国軍の装備増強と活動の活発化を踏まえれば、海空自の護衛艦や戦闘機の減少を増加に転じさせる必要がある。

 警戒監視能力向上のため、無人偵察機グローバルホークを前倒しで導入することが重要だ。

 陸自も、離島防衛の専門部隊の拡充や米海兵隊との共同訓練の強化によって抑止力を高めたい。

 自民党が先に「検討」を提言した敵基地攻撃能力の保有について中間報告は言及せず、ミサイル攻撃への「総合的な対応能力を充実させる」との表現にとどめた。

 自衛隊が巡航ミサイルなどを導入することには、日米両政府内に賛否両論があるためだ。

 米軍の打撃力を補完し、日本の抑止力を高めるとの積極論と、そうした予算は他の優先分野に回した方が良いとの慎重論である。

 肝心なのは、日米同盟を強化する方向で自衛隊と米軍の役割分担を見直すことだ。どの攻撃手段をどんな形で保有するのが目的に適かなうのか、検討を進めるべきだ。

 中間報告は、サイバー攻撃対策として、米国や民間企業との連携強化や専門家の育成を挙げた。

 1月のアルジェリアでの邦人人質事件を踏まえて、在外大使館の防衛駐在官の増員など人的情報収集機能も強化するとしている。

 いずれも重要な課題であり、着実に実施することが大切だ。

 懸念されるのは、報告が言及した防衛省改革の行方である。

 部隊運用を担当する内局の運用企画局を廃止し、自衛隊の統合幕僚監部に一元化するなどの急進的な案が検討されている。自衛官が主体の組織が国会対応や他省庁との調整まで行うのは非合理的で、混乱や士気の低下を招こう。

 組織改革は今の優先課題ではない。慎重な対応が求められる。

朝鮮休戦60年 平和妨げる北朝鮮の核武装化

 北朝鮮が核武装化を進める中で、朝鮮戦争の休戦協定調印から60年の節目を迎えた。

 1950年、北朝鮮の韓国侵攻で始まった朝鮮戦争は、死者300万人以上の惨禍をもたらし、3年後、休戦協定の調印でひとまず収まった。

 米軍主導の国連軍が韓国を支援し、北朝鮮の崩壊を恐れる中国が人民志願軍を送り込んだ激戦の後始末は、南北分断を固定化しただけで、平和を保障していない。南北朝鮮が対峙たいじする状況は、依然、爆発しやすい危険性をはらむ。

 休戦を「勝利」とごまかす北朝鮮は調印60年の27日、平壌で大規模な軍事パレードを行った。

 若い金正恩第1書記の権威を誇示し、経済の破綻で高まる国民の不満をかわす狙いがあろう。

 日本など国際社会の最大の懸念材料は、第1書記が進める核戦力強化だ。パレードにも、核・ミサイル戦力の向上を印象づけたいかのような兵器部隊が登場した。

 無論、その代償は大きい。国連安全保障理事会は、長距離弾道ミサイル発射と核実験を繰り返す北朝鮮に経済制裁を科した。

 中国が、北朝鮮擁護の姿勢を転換したことも、北朝鮮包囲網を狭める効果を生んだ。

 軍事パレードの観閲席で金第1書記の横に立った中国の李源潮国家副主席は、「朝鮮半島の非核化実現、平和と安全の維持、対話と協議による解決を堅持する」と第1書記に伝えたという。

 北朝鮮の核保有や武力挑発を許さず、6か国協議への復帰を求めるメッセージだ。中国は、最大の支援国、貿易相手国として北朝鮮の生殺与奪の権を握る。今後、非核化への本気度が問われよう。

 米国は、北朝鮮が求める対話には、まず北朝鮮が非核化への具体的な行動を取るよう条件を付けている。北朝鮮の核廃棄が対話目的であるべきで、当然の前提だ。

 北朝鮮は、核放棄を促す日米韓の声を真摯に聞く必要がある。

 朝鮮半島を取り巻く環境は、休戦当時とは大きく変わった。

 韓国は、中国と国交を樹立し、対中貿易額は、対米、対日の貿易総額を凌駕するまでに至った。

 一方の北朝鮮は、核武装化への道を選択し、米国や日本との国交正常化の展望を開けずにいる。行き詰まった末に、朝鮮休戦協定の「白紙化」まで宣言した。

 日米中韓など関係国は、さらなる核実験や弾道ミサイル発射、武力挑発への警戒を怠らず、強力な制裁を堅持して、北朝鮮に核放棄を迫っていかねばならない。

2013年7月27日土曜日

デフレ克服にやるべきことはまだ多い

 6月の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く)が、前年同月比で1年2カ月ぶりの上昇に転じた。0.4%の上昇率は4年7カ月ぶりの大きさである。

 安倍政権はデフレが緩和しつつあるというが、楽観するのは早すぎる。CPIの動きに一喜一憂せず、日本経済の再生に必要な改革を着実に進めてほしい。

 アベノミクスを追い風に景気が持ち直し、物価の上昇圧力が全般的に強まっているのは確かだ。個人や企業が予想する物価上昇率の高まりも、現実の物価に影響を与えつつあるといわれる。

 だが6月のCPIの上昇は電気やガソリンの値上がりによるところが大きい。円安が輸入物価を押し上げ、エネルギー価格に跳ね返っているのは否めない。

 これをデフレ脱却の一歩と過大評価するわけにはいかない。企業収益の拡大が雇用や所得の増加をもたらし、景気回復の恩恵が家計にも波及する。そんな好循環を生み出せぬままの物価上昇は、国民の生活を圧迫しかねない。

 日銀は前年比2%のCPI上昇率を目標に掲げ、資金の供給量を2年間で2倍に増やそうとしている。2015年度にはこの目標をほぼ達成できるとみている。

 大胆な金融緩和の効果を引き出し、実体経済や個人・企業の心理の改善につなげる努力は欠かせない。だが2%の物価目標はハードルが高いとの見方が多い。

 消費者の低価格志向が根強いため、景気が多少持ち直しても商品の値上げに二の足を踏む企業は少なくない。それでもCPIを無理に押し上げようとすれば、投機マネーの膨張といった弊害が大きくなる恐れがある。こうした副作用にも細心の注意を払い、柔軟な政策運営を心がけるべきだ。

 安倍晋三首相は参院選後の記者会見で「15年にわたるデフレから脱却する。まずそのことに集中していく」と語った。その約束を果たすため、政府も成長基盤の強化に本腰を入れる必要がある。

 6月にまとめた日本再興戦略は踏み込みが足りない。混合診療の全面解禁や企業による農地の直接所有を含む大胆な規制緩和と、国際的に高い法人実効税率の引き下げを急がなければならない。

 衆参両院の多数派が異なる「ねじれ」を解消し、安定政権を手にした首相に、国民は本物の経済再生を求めている。それはCPIの数字だけでは測れないはずだ。

日米の連携強める防衛大綱を

 いくら自衛隊の能力を高めても、その内容が安全保障情勢の変化に合っていなければ、宝の持ち腐れになりかねない。その意味で、政府が年内にまとめる新たな防衛計画の大綱(防衛大綱)はとても重要だ。

 この大綱は中長期にわたり、防衛体制をどう整えていくかを定める指針だ。防衛省はそのたたき台となる中間報告を発表した。

 中間報告では、海洋進出を加速する中国軍などをにらみ、南西諸島をはじめとする離島の防衛を重点の一つにすえた。同時に、サイバー攻撃への対応を急ぐ方針も掲げている。いずれも、現実に見合った路線といえよう。

 離島防衛の実現には米海兵隊のような水陸両用の機能を、自衛隊が持たなければならない。離島の警戒を強めるには、無人偵察機などの装備も必要かもしれない。

 このために必要な予算の手当ては惜しむべきではない。ただ、日本の財政事情は厳しい。自衛隊は部隊の再編を進めるなど、合理化の努力も一層、払うべきだ。

 そのうえで、忘れてはならないのは米国との入念な擦り合わせだ。日本の防衛体制は、米軍との協力を大前提にしている。離島やサイバー、ミサイルの防衛にしても、日本だけでは完結できない。

 新たな大綱に基づき、自衛隊の体制が変わることになれば、日米の作戦計画や役割分担も改めていかなければならない。大綱の策定と並行し、米側との調整も進める必要がある。

 今後、大綱の詳細を詰めるに当たり、とりわけ議論を呼びそうなのが、敵基地攻撃能力の保有問題だ。北朝鮮の核兵器とミサイルの脅威が増していることを踏まえ、中間報告では間接的な表現で保有を検討する意向をにじませた。

 自衛隊が攻撃能力を持てば、防衛力の向上につながる一方で、専守防衛の原則から慎重論もある。安倍政権が検討している集団的自衛権の行使と合わせ、日本の安全保障政策の根幹にかかわる問題だけに、議論を尽くしてほしい。

防衛大綱―「専守」の原則忘れるな

 政府が年末に打ち出す新たな「防衛大綱」づくりの中間報告を、防衛省が発表した。

 焦点のひとつである離島の守りについて、水陸両用の「海兵隊的機能」を確保することが重要と明示した。

 海兵隊と言えば、世界を飛び回り、上陸作戦にあたる米軍を思い起こさせる。

 その表現ぶりには懸念がぬぐえない。高い攻撃力をもつ海兵隊と自衛隊は根本的に違う。日本には、戦後一貫して維持してきた専守防衛という原則があるからだ。

 中国は尖閣諸島周辺の領海への侵入を繰り返している。不測の事態に対応するため、防衛力の足りない部分を補う努力は、確かに必要だろう。

 だとしても、あたかも日本が戦後の原則からはずれ、米軍に類した活動に踏み出すかのような誤った対外メッセージを発してはならない。

 離島の守りは陸上自衛隊の西部方面普通科連隊が担ってきた。その機能の向上が主眼ではあろうが、誤解を避けながら進めるのが前提となる。むしろ、海兵隊とは違うことを再確認すべきではないか。

 中間報告に明記はされなかったが、政府内では、敵のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を備えることも検討されている。

 政府見解では、「相手がミサイル発射に着手した後」の攻撃は「先制攻撃」とは区別され、憲法上許されるとしている。だが、そんな能力の保持に周辺国が疑念の目を向けることは避けられない。

 軍備増強が他国の警戒と軍拡競争を招けば、結果的に増強の意味がなくなる。それが「安全保障のジレンマ」と呼ばれる現象だ。配慮を欠けば、逆に安保環境を悪くしかねない。

 また、日本が安保問題を考える際には、軍事や外交にとどまらず、財政の深刻な窮迫もきわめて重い要素になる。

 4機で数百億円ともいわれる高額な無人偵察機の導入を検討する必然性は何か。説得力のある説明はない。

 その一方で、各国が共通して頭を悩ませ、力を入れるサイバー攻撃への対策の力点があまり見えないのはなぜか。旧来型の上陸作戦や攻撃能力などに前のめりになっているのとは対照的で、時代遅れといえないか。

 財政再建や近隣関係に目配りしながら、視野の広い日本の安保政策を考えねばならない。変わる国際環境に、外交との両輪で効率よく対応する国家戦略が求められている。

元警官不起訴―ずさん捜査なぜ断てぬ

 富山市で10年4月に会社役員夫妻が殺害された事件で、容疑者とされた富山県警の元警部補が不起訴処分になった。

 元警部補は昨年12月の逮捕時点では容疑を認める供述をしていたというが、証拠や犯行現場の状況と合わない点が多く見つかった。検察は起訴しても裁判員裁判で有罪判決を得るのは難しいと判断した。

 日本の刑事司法では自白偏重の傾向が長く続いてきたが、裁判員裁判の導入後、客観的な証拠をより重視する流れが強まっている。証拠での裏付けが不十分なまま起訴に踏み切らなかった検察の判断は妥当といえる。

 問題は、富山県警のずさんな捜査である。

 逮捕の決め手としたのは、事件2カ月後の10年6月に出版社に届き、県警が昨年8月になって押収した「犯行声明文」入りのCD―Rだった。県警はデータに元警部補に結びつく情報があったとして、本人が送ったと判断した。

 しかしその後の捜査で、文書作成ソフトのバージョンが元警部補のパソコンのものと異なるなどの疑問点が浮かんだ。県警幹部は「捜査は適正だった」と言うが、逮捕前の証拠固めが不十分だったことは明らかだ。

 富山県警は02年にも強姦(ごうかん)事件で無実の男性を逮捕し、服役させるという深刻な冤罪(えんざい)事件を起こした。警察庁は、その検証報告書で「証拠の検討や供述の裏付け捜査が不十分だった」と指摘している。

 今回、その反省はまったく生かされなかった。

 殺害された夫妻の遺族は「なぜ自供しているのに不起訴なのか」「捜査に時間がかかりすぎている」と憤る。遺族側は近く、検察審査会に不服を申し立てるという。その心情は察するにあまりある。

 一連の捜査の検証はもちろん必要だ。ただ、警察が信頼を取り戻すには真相を解明する以外にない。県警と検察は態勢を一から立て直して再捜査に臨むべきだ。捜査状況について、遺族側に適切な説明をしていくことも求めたい。

 元警部補は別件の情報漏洩(ろうえい)事件で執行猶予付きの有罪判決を受け、釈放された。夫妻殺害事件について「疑いをもたれたことは反省しないといけない」と報道陣に述べている。

 懲戒免職されたとはいえ、かつては警察官だった。容疑を一時認めたことや、被害者夫妻とのかかわりについては不明な点が残る。真相解明に向け、知っていることはできる限り語ってもらいたい。

首相アジア演説 ASEAN重視戦略の表明だ

 経済・安全保障の重要なパートナーである東南アジア諸国連合(ASEAN)に対する強いメッセージだ。

 東南アジア歴訪中の安倍首相が、シンガポールで日本とASEANの関係をテーマに政策演説を行った。

 急成長している東南アジア地域の経済圏を飛行機に例え、「日本とASEANは、左右両翼のツイン・エンジンだ」と述べた。

 首相は、日本とASEANの輸出入額がこの10年間でそれぞれ倍増したとし、経済政策「アベノミクス」の効果はASEANにも及ぶと語った。さらに関係を強化する決意と言える。

 今回訪れたマレーシア、シンガポール両国は、日本が参加した環太平洋経済連携協定(TPP)交渉のメンバーでもある。今後の大詰め交渉で、連携を模索することも課題となろう。

 一方、首相は、今年で「友好協力40周年」を迎えたASEANとの関係は今や、経済にとどまらず、「地域の安全保障、とりわけ航海の自由に責任を持つ間柄」であることも強調した。

 東・南シナ海への強引な海洋進出を図る中国を念頭に置いたものだ。中国、韓国との関係が不安定だけにASEANとの連携を深めるのは戦略的に有意義である。

 首相がアジア歴訪中のバイデン米副大統領と会談したことも、この地域の平和と繁栄に寄与する日米同盟の存在をアピールするうえで効果的だったといえよう。

 首相は、27日にはマニラで、フィリピンのアキノ大統領と会談する。政府開発援助(ODA)を活用し、巡視船を供与する考えを表明する見通しだ。

 フィリピンは、南シナ海のスカボロー礁などの領有権をめぐって中国と対立している。その海上保安能力の向上を日本が後押しすることは、ASEAN全体に対する日本の意思表示にもなる。

 首相の東南アジア訪問は、就任以来早くも3回目だ。訪ねた国は加盟10か国のうち七つに上る。

 ASEANの中には、カンボジアやラオスのように中国寄りとされる国もある。首相はこうした国も訪問し、各国の事情に配慮して、きめ細かに日本への理解を拡大していくべきだ。

 中国側にも、安倍外交を意識して、ASEAN各国を分断しようとする動きが見える。

 日本は、軍事的緊張を高めないよう、米国などと連携し、国際法と法の支配にのっとった地域の安定を目指すことが肝要だ。

原発汚染水対策 東電だけに任せておけない

 東京電力福島第一原子力発電所の敷地から、汚染水が海に漏れ出していることがわかった。

 漏れた放射能の量はわずかで、検出濃度は、高くても国の基準値の30分の1ほどだ。汚染水も、原発の港湾施設内にとどまるという。

 それでも海洋汚染による風評被害を懸念する声が、福島県の漁業関係者を中心に広がっている。

 漏出を食い止めるため、東電は全力を挙げてもらいたい。

 対策として、東電は、岸壁周辺の地盤を薬液で固めるという。漏出源と疑われる岸壁近くの溝内の汚染水もくみ出す方針だ。作業を急がねばならない。

 心もとないのは、今回の問題を巡る東電の一連の対応である。最初に漏出が疑われたのは5月末だった。ところが、確認作業に手間取り、関係機関への報告や公表までに1か月余りを要した。

 東電が設けた有識者らの監視委員会が26日、リスク管理の甘さを指摘し、技術力の向上を求めたのはもっともと言えよう。

 福島第一原発の汚染水問題の深刻さを考えると、今の体制で着実に進むのか、疑問を拭えない。

 東電は、原子炉に冷却水を注ぎ続けている。建屋の地下には、破損部などから地下水も流入し、その結果、1日に400トンもの汚染水が増え続けている。

 原発敷地内のタンクに貯まった汚染水は、すでに40万トン近い。タンクは最大80万トンまで増設可能というが、いずれ満杯になる。

 地下水流入を減らし、汚染水を増やさないことが大切だ。

 東電は、地下水を原子炉への流入前にくみ上げ、海に流す方針を決めている。だが、地元の漁業関係者らの了解が得られない。

 政府も、東電に協力し、説得にあたるべきだ。

 地下水流入を防ぐ抜本策として東電は、水を遮る壁を地下に設けることも計画している。有力な手段となるだろう。

 課題は、大量に貯まった汚染水の処理である。浄化すれば貯水時のリスクが減る。開発中の浄水装置の本格稼働が欠かせない。

 原子力規制委員会は、浄化した水も、いずれ海に流さざるを得ないとの見解を示している。その安全性について理解を得るため、規制委には、専門的立場から説明することが求められる。

 汚染水対策を疎かにしては、福島第一原発の廃炉は進まない。政府は、東電との連携を強化し、資金や技術などで必要な支援策を講じてもらいたい。

2013年7月26日金曜日

論文改ざん―社会への背信行為だ

 東京大学で、長年にわたって研究論文のデータ改ざんなどの不正が続いていた。

 科学研究の信頼性を根幹から揺るがす不祥事である。真相を明らかにし、早急に再発防止策を講じるべきだ。

 東京大の調査委員会が、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループが発表した論文を、過去16年さかのぼって調べた結果、不正が分かった。

 165本の論文のうち43本に、実験結果を示す画像などの改ざんや捏造(ねつぞう)、その疑いのあるものが見つかり、論文撤回が妥当と判断された。

 多くの研究者がかかわった共同研究で、なぜ不正が繰り返され、見逃されてきたのか。解明が求められる。

 近年、日本の研究者による論文の不正が相次いでいる。つい先日も、京都府立医大などで実施された高血圧治療薬の臨床研究で、論文データの改ざんが発覚したばかりだ。

 こうした不正は、治療や後続の研究を誤らせかねない。研究によっては多額の税金が投入されている。社会全体に対する背信として、厳しく対処しなければならない。

 背景には、不正を犯す誘惑が強まっているなか、それを防ぐ仕組みが伴っていないという事情がある。

 例えば、若手研究者はまず期限のある研究職に就き、任期中にあげた業績によって次の職場を探すことが一般的だ。

 一流誌に論文を発表することは、安定した職と多額の研究費を得ることにつながる。

 成果を求める教授や研究リーダーのプレッシャーも大きい。

 一方、論文は通常、身内の研究グループ内部と学術誌側でチェックされるだけだ。「研究者は不正はしない」という前提から、日本は欧米と違って研究倫理に関する教育も貧弱だ。

 こうした性善説ではもはや立ち行かないことは明らかだ。

 米国では90年代に政府に研究公正局をつくり、不正行為を調査、公表している。日本でもこうした機関の設置や、不正を告発できる仕組みの導入を検討すべきではないか。

 不正にかかわった本人だけでなく、研究の中核となった教授や所属研究機関の責任も厳しく問わねばなるまい。

 とりわけ医療研究における不正行為は、被験者や患者の生命を脅かしかねない。不正をした医師の免許停止など、より厳しい制裁も考えるべきだ。

 文部科学省が中心になり、再発防止に本気で取り組まねばならない。

原発の規制―安全側に立つ科学で

 参院選で、原発の再稼働に前のめりな自民党が圧勝した。

 福島の原発事故は今も収束のめどがない。それなのに、なし崩しに再稼働が進むのかと心配する人も多いだろう。

 だが自民党公約には、こんな一文がある。「原発の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます」。自ら一定の歯止めをかけている。

 問題は、本当に規制委に委ねることができるか否かだ。

 規制委が「原子炉建屋直下に活断層がある」と判断した福井県の敦賀原発2号機では、事業者の日本原電が「科学的な判断になっていない」と、独自調査を基に再考を求めている。

 気になるのは、原発に依存する立地自治体や、脱原発を批判する一部メディア、国会議員らがスクラムを組んだように、規制委に「非科学的」「公正でない」などとレッテルを貼って批判を強めていることだ。

 福島での大事故を受けて、原発の規制をどう考えるべきなのか。いま一度、原理原則をはっきりさせておく必要がある。

 肝心なのは、「疑わしきはクロ」の基本姿勢だ。

 活断層にはわからないことが多い。専門家の意見が完全一致しない事例があっても、科学として何も不自然ではない。

 もともと、原発が急増した80年代まで一部の活断層しか知られていなかった。研究が進んで危険評価が変わり、3年前、活断層の真上に重要施設を作ってはいけないと明文化された。

 この間にも、事業者が「活断層でない」と主張してきたものが、実は活断層であることがわかってきた。その一つが、敦賀原発の浦底断層である。

 90年代から存在を指摘されたが、日本原電は否定を続け、08年にようやく認めた。そして今回、規制委は、原子炉建屋直下の断層が浦底断層と連動すると判断した。現在入手できる科学的知見を基に、「疑わしきはクロ」の原則に立ったのだ。

 規制委は、「想定外」を防げなかった福島の教訓からできた。信頼性を高めるため、安全性を判断する専門家を関係学会の推薦に基づいて選び、審議の過程も公開している。

 それでも事業者は、自らの主張を裏付ける専門家の存在をたてに、規制委判断に異議を唱える。とにかく再稼働と言わんばかりの、安全側に立たない姿勢が何をもたらすか。

 「ワッハッハこれで減らせる活断層」(参院選後の朝日川柳)。まさかとは思うが、そんな非科学的なことがまかり通ることがあってはならない。

TPP交渉で目指す国益とは何か

 マレーシアで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)の会合で、日本はようやく交渉参加を果たした。協議は既に18回を数え、年末までの決着を目指して大詰めの段階を迎えている。遅れを挽回しなければならない。

 安倍晋三首相は3月に交渉参加を決めた際に「守るべきものは守り、攻めるべきものは攻める」と語った。自民党は参院選の選挙公約に「国益にかなう最善の道を追求する」と記している。

日本経済の全体最適を
 では、その「国益」とはいったい何か。耳に響きはよいが、意味が曖昧な言葉を掲げるだけでは交渉の指針にはならない。日本が実質的に交渉に加わる8月下旬のブルネイ会合まで、あと1カ月もない。安倍政権は早急に国益の定義を詰めて交渉戦略を立て、国内で説明する必要がある。

 現時点の国内と貿易相手国の経済を見比べて、守る、攻めるの判断を下すべきではない。交渉を通して目指すべきは、関税をめぐる攻防だけでなく、日本経済を全体として最適な構造に変え、成長の底力を高めることである。

 農業は国民にとって重要な分野だが、競争力が弱い。だからこれまで通り高い関税で守るという声が自民党内に強い。逆に工業製品の輸出産業は競争力が強いから、相手国を攻め、一層の市場開放を迫るのだという。こうした敵と味方の存在を前提とした攻守の発想は短絡的にすぎる。

 マレーシアの会合では、日本政府の交渉団が「コメや麦など農産品5品目の関税を維持したい」と安倍政権の方針を各国に説明したという。「守る」を前面に出した初舞台とは情けない。

 ここは自由貿易の原点に返って考えるべきではないか。市場開放によって、長期的に競争力がある分野にヒト、モノ、カネなどの生産要素が移るからこそ、国の成長力が高まるはずだ。国内の構造改革を伴って、初めて通商政策は力強い成長戦略として役立つ。

 視野を広げ、現実の経済の姿を見据えて「国益」を考えたい。国境で貿易を妨げる関税の撤廃が大事な課題であることは間違いない。だが、日々の世界経済の営みの中で、貿易と投資を制約している要因は関税だけではない。

 たとえば電源プラグの形ひとつとっても、いまは基準が各国でばらばらだ。各国が製品技術や安全性の規格を統一すれば、メーカーは国ごとに違う製品をつくらずにすみ、消費者も同じ製品を持ち歩けるので便利になる。

 国ごとに違うインターネット上の取引の手順を共通化すれば、顔が見えない相手とも安心して売買ができ、外国との電子商取引が活発になるだろう。公共事業で内外の企業を対等に扱う体制や、ブランド模倣品や海賊版が出回らなくする法整備も大切だ。

 これらはTPPが対象とする21世紀型の通商ルールの例である。しっかりした協定をつくれば、日本企業の事業リスクは減り、日本人の活動の舞台も広がる。

 1995年に世界貿易機関(WTO)協定ができた当時は、インターネットは普及しておらず、中国の国内総生産(GDP)は世界8位だった。それから18年余りで世界経済の姿は大きく変貌し、企業のビジネスモデルも飛躍的に進化した。モノの関税削減に重点を置くWTO協定だけでは、もう経済の現実に合った形で国際秩序を維持できなくなっている。

待ったなしの農業改革
 新しいルールを築く作業こそ、安倍政権がまず追求すべき「国益」に他ならない。残された交渉期間は短い。各省庁と経済界は、知恵の絞りどころである。日本にとって公平で、地域全体の成長にも貢献する建設的なルールを提案していきたい。

 一方、交渉が難航している関税分野は、相手国との攻防というより、むしろ日本国内の調整が焦点となる。自民党が農産品の重要5品目を挙げ、安倍首相が守ると約束した「聖域」の扱いである。

 聖域の定義は何か。現在の高率関税を少しも下げずに維持するという意味なのか。それとも将来的には関税を下げても、担い手となる農家と農業生産を、関税と別の手法で保護する手があるのか。政府の方針は定まっていない。

 TPPは全品目の関税撤廃が大前提だ。かたくなに現状維持を主張するだけでは、それが弱点となり日本の交渉力は落ちてしまう。法外な関税に頼らず農業を支える改革の筋書きがなければ、徒手空拳で戦いに臨むようなものだ。安定政権を確立したいまこそ、歴史的な農業改革に挑む時である。

TPP交渉参加 攻守両にらみ戦略で挽回せよ

 日本がようやく、米国など11か国が進める環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加した。

 安倍首相は、「交渉力を駆使し、守るべきものは守り、攻めるべきものは攻め、国益にかなう最善の道を追求する」と強調している。

 政府は、出遅れ挽回へ、攻守両にらみの戦略を強化すべきだ。

 TPP交渉会合がマレーシアで開かれ、日本は12番目のメンバーとして2日半だけ合流した。

 関税撤廃、知的財産権、投資など29章に及ぶTPP交渉をまとめた文書が、初めて日本に開示された。全体像を把握できるようになった意味は大きい。

 次回会合は8月末にブルネイで開かれ、日米協議も8月以降、並行して行われる。政府は各国の主張を分析し、加速する交渉への対応を急がねばならない。

 米国などは、10月の基本合意と年内妥結を目標に掲げている。マレーシアの代表も25日の記者会見で、「妥結期限に間に合うよう精力的に議論する」と強調した。

 ただし、最大の焦点の関税撤廃を巡っては各国が対立し、交渉が停滞している模様だ。

 今のペースでは年内決着は難しく、交渉が越年する可能性がある。日本の立場は依然厳しいが、出遅れを取り戻す余地は広がろう。

 自民党は参院選で、コメ、麦など「農産物5品目の聖域を最優先する」と主張した。

 全国農業協同組合中央会(JA全中)出身の山田俊男参院議員が比例選の上位で再選され、国益を守り抜くよう求めている。TPP反対を掲げた鹿児島選挙区の尾辻秀久参院議員も5選された。

 党内にはなおTPP反対論がくすぶるものの、政府・自民党が急ぐべきは、一層の市場開放に備えて、農業の競争力を強化する具体策を推進することである。

 TPPは高水準の自由化が目標で、コメなど全てを関税撤廃の例外扱いとして守ることが日本の国益に資するとは限らない。バランスの取れた戦略が必要だ。

 自動車、電機などの関税撤廃による輸出拡大や、外資規制撤廃といったビジネス環境整備での「攻め」がむしろ重要と言える。

 TPPは世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大な自由貿易圏である。日本はTPPでアジアの活力を取り込み、成長に弾みを付けねばならない。

 日本がアジアの貿易・投資ルール作りをどう主導するのか。安倍政権が重視する成長戦略の行方をも左右する正念場になる。

「美白」トラブル 相談情報を軽視していないか

 カネボウ化粧品が製造販売する美白化粧品の使用者の間で、肌がまだらに白くなる「白斑」の被害が相次いでいる。

 これまでに6800人以上から被害の訴えがあった。このうち、2250人は3か所以上に白斑が表れるなど、比較的症状が重いという。

 被害を拡大させたカネボウの責任は重い。原因解明を急ぎ、被害補償にも万全を尽くすべきだ。

 問題が明るみに出たきっかけは、今年5月、皮膚科医からカネボウに「製品を使用した患者3人に白斑の症状が表れた」という連絡があったことだった。

 カネボウは実態把握に乗り出したが、問題の製品を自主回収するまでに2か月近くを要した。その間、消費者には被害情報を何ら明らかにしなかった。

 阿南消費者庁長官が「もっと早く公表すべきだった」と批判したのは当然である。

 使用者からの過去の相談対応にも問題があった。カネボウが相談例を調べ直した結果、同様の被害の訴えが2011年以降、39件に上っていたことが判明した。

 相談を受けた担当者は「使用者の体質による病気」と判断し、登録システムに被害として入力しなかった。化粧品による白斑は、過去になかったためだという。

 使用者の訴えに対する判断ミスが、被害拡大につながったと言えるだろう。消費者からの情報を迅速に吸い上げ、対応に生かすはずのシステムも機能しなかった。

 問題の美白化粧品には、シミ、そばかすを防ぐ働きがあるとして、カネボウが独自に開発した成分が含まれている。これを医薬部外品の有効成分として厚生労働省に承認申請した際の試験では、白斑は発生しなかった。

 だが、市販後に多くの人が使えば、未知のトラブルが判明する場合もあるだろう。化粧品メーカーとして、安全性に対する認識が甘いと言わざるを得ない。

 化粧水、乳液、美容液など、同じ成分が入った複数の製品を一日に何回も使っていた消費者も少なくない。医薬品と異なり、適切な使用量があいまいな点も、被害が拡大した一因ではないか。

 美白ブームを背景に、化粧品各社の売り上げ2兆円余のうち、美白製品は約2000億円を占める。より効果の高い製品を、という消費者のニーズに応えようと、開発競争は激しい。

 今回の問題を教訓に、各社は安全性の確保と被害が生じた際の対応を再点検してもらいたい。

2013年7月25日木曜日

日本の注射が世界を救う!

日本の注射が世界を救う!って書いたけど今度は「ビタミンC」を注射すれば全ての病気が治ると思うんだ(^-^)/

徴用工の補償―混乱回避へ知恵しぼれ

 戦後補償問題をめぐり、日韓関係を揺るがしかねない判決が韓国で出た。

 戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工4人の訴えについて、ソウル高裁が個人の請求権を認めた。被告の新日鉄住金に1人あたり1億ウォン(約900万円)の支払いを命じた。

 韓国の裁判所が戦後補償問題で日本企業に賠償を命じたのは初めてだ。これまでの韓国政府の見解からも逸脱する判断であり、歴史問題がいっそう複雑になりかねない。

 個人の請求権が認められるかどうかについては様々な解釈が存在しているが、日本政府は、1965年の日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決された」と主張している。

 韓国政府は、従軍慰安婦、サハリン抑留、原爆被爆の三つについては協定の対象外と訴えてきたが、徴用工については、協定に沿った日本からの無償経済協力で解決済みとしてきた。

 盧武鉉(ノムヒョン)政権下では、韓国政府が被徴用者の救済を怠ったと認め、慰労金や医療支援金の支給を始めた。李明博(イミョンバク)政権も基本的に同様の見解を踏襲した。

 だが今回の判決は、そうした経緯は踏まえておらず、納得するのはむずかしい。

 新日鉄住金は上告する方針だが、そもそも韓国の大法院(最高裁)が昨年春、個人の請求権を認めたうえで審理を高裁に差し戻したことが発端になったため、判断が覆る可能性は小さいとみられている。

 今月末には、三菱重工業を相手取った別の判決も出る。大法院の判決後、日本企業への集団訴訟も相次いで起こされた。

 このままでは日本企業の韓国内の資産差し押さえ命令といった事態にもなりかねない。そうなれば韓国政府の信用問題になるだけでなく、両国関係に計り知れない打撃となろう。

 そんな事態を避けるためにも、韓国の朴槿恵(パククネ)政権は元徴用工らに向きあい、受け入れられる解決策を探るべきだ。日本政府も知恵を絞らねばなるまい。両政府は冷え込んだ関係を脱し、対話を急ぐ必要がある。

 韓国の関係者の間では、被害者支援のための基金を日韓でつくろうとの声が出ている。案としては、日本からの経済協力で発展した韓国企業ポスコ(旧浦項総合製鉄)が出資した財団を土台にする構想もある。

 いま必要なのは、長い目で見た関係を損ねない柔軟な対応を紡ぎ出す双方の努力だ。両政府は、韓国の司法判断を待つのではなく、混乱を未然に防ぐ行動を早急に始めねばならない。

柔道連盟改革―自浄能力はあるのか

 柔道そのものが崖っぷちまで追い込まれた。そのくらいの危機感を持つべきだろう。

 不祥事つづきの全日本柔道連盟が、ついに国から公益法人としてダメだしを食らった。

 調査にあたった内閣府が8月末を実施期限に示した勧告の中身は、極めて厳しいものだ。

 抜本的な出直しへ人事の刷新を求めたほか、問題のある助成金6055万円を速やかに返還し、その損害について理事ら個人の責任を明確にして賠償請求を検討することも求めた。

 2008年に現在の法人制度へ移行してから、公益認定法による勧告は初めてという不名誉である。スポーツ界全体で事態の深刻さを認識すべきだ。

 全柔連は、暴力的指導や助成金の不正受給、理事によるわいせつ行為が明るみに出るたびに責任をあいまいにしてきた。内部告発などがあっても、問題を繰り返し放置してきたと内閣府は認定している。

 全国を束ねるスポーツ団体として健全な組織の体をなしていない。執行部、理事会、監事、評議員会のすべてが機能せず、責任と役割を果たしていない、と断じている。

 上村春樹会長ら執行部は「改革改善のめどが立てば辞める」と10月まではとどまる考えを示しているが、もはや待ったなしだ。8月末までに具体的な改革計画を示して進めなければ、勧告は命令に変わり、追い込まれるばかりである。

 上村会長は「柔道を守るためにやっている」と話すが、説得力を欠く。このまま改革が遅れるのでは、公益法人の認定取り消しという最悪の事態にもなりかねない。

 そうなれば、将来の普及、強化にも大きな支障がでる。伝統あるお家芸も五輪のメダル争いどころではなくなる。

 勧告の実施期限まで約1カ月しかない。現実的には現執行部で改革への道筋をつくり、すぐに着手する。同時に新執行部選びを進め、速やかにバトンタッチする必要がある。

 全柔連にそれだけの人材がいないというなら、外から人を迎えて推し進めるべきだ。

 勧告を示した内閣府の公益認定等委員会は「自浄能力を見せて、信頼回復に努めてほしい」と突きつけた。

 普段はスポーツ界の方が掲げる自主性や独立性の尊重を、国の側から持ち出したのは何とも皮肉だが、それほどに全柔連が危機的な状況にあるということだろう。

 柔らの道を進む若者たちのために、決断するほかない。

投機買いで高値続く原油相場に警戒を

 原油の高値が続いている。中東情勢の不安や米景気の回復を材料に、先物市場でヘッジファンドなどが投機的な買いを膨らませているためだ。海外からの投資資金の流出で通貨が下落している新興国や、円高修正が進んだ日本経済への影響が懸念される。

 米国の商品先物取引委員会が発表した16日時点の売買動向は、ファンドの米原油先物の買越残高が2週連続で史上最高を更新した。

 残高は米国が量的な金融緩和策の第2弾(QE2)を打ち出し、北アフリカ情勢の緊迫で投機買いが膨らんだ2011年3月より2割多い。原油が史上最高値を記録した08年で最も多かった時期に比べ、3倍の規模だ。

 最大需要国である中国の景気減速とドルの信認回復を背景に、投機資金は主要な商品市場から流出しつつある。ただ、原油だけは最大消費地が米国であり、その景気回復とともにガソリンや軽油の需要が増えている。

 市場はシリアやエジプトの情勢が悪化し、中東地域からの原油供給に支障が出る事態も不安視している。そのためファンドは買い材料の目立つ原油に運用資産を集中したとみられる。

 原油の高値が続けば、新興国の景気が悪化するおそれがある。最近の通貨安で燃料価格の上昇が増幅されるからだ。インドネシアでは燃料価格を抑えるために支出している補助金を政府が財政難から削減し、ガソリン価格を6月下旬に44%引き上げている。

 燃料高は、高い伸びが続く新興国の自動車販売にも波及する。米国を中心とする主要国は、新興国からの資本流出とともに、原油市場での投機過熱にも警戒を強めるべきだ。

 日本経済への影響も無視できない。22日時点のレギュラーガソリン平均販売価格は、円安と原油高を受けて1年3カ月ぶりに1リットル157円台に乗せ、7月としては08年以来の高さに上昇している。

 日本では原油の輸入価格が上がると、それを基準に決まる液化天然ガス(LNG)の調達価格も上昇する。電力各社と都市ガス大手はコスト高を受けて8月の料金を一斉に引き上げ、標準家庭向けは料金の算出方法が変わった09年以降の最高を更新する。

 政府は原油高が消費や企業活動にどう影響するかを注視しつつ、成長を促す政策によって所得や企業収益の悪化を防いでほしい。

誤発注判決を市場運営の糧に

 みずほ証券が株の誤発注に伴う損害賠償を東京証券取引所に求めた訴訟の控訴審で、判決があった。東京高裁は一審と同じく、東証には誤発注にもとづく売買を止めなかった過失があると認め、みずほ側に107億円を支払うよう改めて東証に命じた。

 東証に株式市場を公正、円滑に運営する責務があることを再び明確にしたもので、妥当な判断といえる。東証は判決を真摯に受け止め、信頼性の高い市場の確立に向けて努力を続けるべきだ。

 みずほは2005年に新規上場した携帯電話営業の支援会社、ジェイコム(現ジェイコムホールディングス)の売り注文を出す際、「61万円で1株」を「1円で61万株」と間違えた。発注後に取り消そうとしたが、東証のシステム不備で受け付けられず、みずほに400億円超の損失が出た。

 これについて今回の判決は、システムの不備があった点に関しては東証の過失責任を認めなかった。だが「東証は異常を認識し、公益や投資者保護のため売買を停止する義務を負う」と指摘し、みずほの損失の一部について賠償するよう命じた。

 誤発注が起きたことがきっかけの1つとなり、東証はシステムを刷新した。みずほをはじめとする証券各社も、値段や数量の面で不自然な注文を出せないように社内のチェックを強化した。単純な間違いによる誤発注は、現在は起こりにくいとの指摘が多い。

 しかし、IT(情報技術)を駆使した高速自動売買が広がるなど、株式取引は複雑になる一方だ。予期せぬミスで多額の損失が発生する事態を、東証も証券会社もリスク管理の一環として常に想定しておくべきだ。そのうえで、不測の事態が起きた時の手続きをきちんと定め、定期的に見直すことが欠かせない。

 景気との関連で株式相場への一般的な関心は強まっている。東証と証券会社はともに、市場を安全に運営することの重要性を再認識すべきである。

憲法改正 実現への布石を周到に打て

 参院選を機に具体化した憲法論議をさらに発展させたい。

 安倍政権は、周到に布石を打ち、改正への機運を高めていくべきだ。

 参院選では、憲法改正の手続きを定めた96条の改正発議要件の緩和が大きな焦点になった。

 憲法改正に積極的な自民党、日本維新の会、みんなの党の議席は合計しても、参院では改正の発議に必要な「3分の2以上」とならなかった。ハードルは高い。

 ただ、憲法の内容を変えずに新たな理念・条文を加える「加憲」の立場の公明党の議席を合わせると3分の2に届く。公明党の対応が極めて重要である。

 公明党は、参院選公約に「加憲」論議の対象として環境権や地方自治拡充、自衛隊の存在の明記、国際貢献の在り方を挙げている。

 党内で検討を重ね、具体的な条文を作成してはどうか。自民党などとの共通点、相違点が明確になり、議論が深まろう。

 みんなの党は「憲法改正の前にやるべきことがある」として公務員制度改革を掲げた。具体的には「国家公務員の10万人削減」「スト権を付与する代わりに民間並みのリストラを可能にする」といった急進的な案を唱えている。

 これを憲法改正の前提条件にすることは、甚だ疑問である。同時並行で検討すればよい。

 安倍首相は、「腰を落ち着けてじっくり進めていく」と述べ、第1次安倍内閣で成立した国民投票法の“宿題”から始める考えを強調している。改正への環境を整えるうえで、妥当な判断である。

 憲法改正のための国民投票法は投票権を18歳以上に与えた。

 その付則で公職選挙法の選挙権年齢「20歳以上」や民法の成年年齢を、同じく18歳に引き下げることの検討を求めている。公務員の政治的行為を制限した国家公務員法などの見直しも盛り込んだ。

 いずれも、2010年5月の国民投票法施行までに結論を出しておかねばならない課題だった。

 与野党は、早急に協議を始めてもらいたい。

 たとえ国会が憲法改正を発議できたとしても、最終的に決めるのは国民投票だ。過半数の賛成を得るのは、容易ではなかろう。

 自民党の石破幹事長は、憲法改正についての「対話集会」を各地で開き、国民にその必要性を丁寧に説明する考えを示している。

 憲法改正が必要だという国民意識を高める努力は欠かせない。次期国政選まで最大3年という時間を戦略的に使うべきである。

企業の税金逃れ 実効性ある国際課税ルールを

 多国籍企業の過度な税金逃れをどう防ぐか。各国が適正に課税できるよう、実効性ある国際ルールが求められる。

 日米欧など先進34か国で構成する経済協力開発機構(OECD)が、企業による課税回避を防止するための行動計画をまとめた。15項目の課題について、1年~2年半で具体策を決め、各国に勧告する。

 この方針は、モスクワで先週開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に報告され、支持された。

 先進国だけでなく、OECD非加盟の中国、インドなど新興国も協力し、共通のルール作りを目指すことになったのは前進だ。

 多国籍企業の税金逃れは、米アップルやコーヒーチェーンの米スターバックスなどの行き過ぎた節税策が発覚したことが契機となり、国際的な問題になった。

 いくら合法的だとしても、課税ルールを巧みに利用した節税策が批判されたのは当然だろう。

 行動計画は、最近の実例を踏まえて検討課題を示した。

 例えば、A国に本社がある企業が、特許やブランドなどの「無形資産」を法人税率が低いB国の子会社に移転するケースだ。

 子会社はさらに、C国にある孫会社に無形資産の使用を認め、その見返りに特許料などを吸い上げて利益を得ている。

 この構図だと、A国もC国もこれらの企業に十分な課税を行えない。B国の税率は低いため、企業全体で大幅に節税できる。

 課税権が及ばない国にとっては税源が浸食されている状況と言える。各国がきちんと徴税できるよう、ルールを整備すべきだ。

 もう一つの焦点が、国境を越えた電子商取引の扱いだ。急成長しているネット販売にルールが立ち遅れていることが背景にある。

 日本の顧客が外国企業からインターネット上で音楽や映画の配信を受けても、税関を通らないために消費税がかからない。国内に支店などの施設を持たない外国企業の利益も法人税の対象外だ。

 電子商取引の売上高に応じて外国企業に法人税を課税したり、ネット配信に消費税をかけたりするOECD案は検討に値する。

 税逃れ防止案を巡っては、企業誘致で不利になることを恐れて、各国の利害は対立しがちだ。

 その結果、取り組みが緩くなると、節税策を工夫する企業とのイタチごっこが懸念される。先進国と新興国が連携し、厳格なルールの設定を目指すべきである。

2013年7月24日水曜日

自治体は第三セクターの抜本処理急げ

 米国のデトロイト市が米連邦破産法第9条の適用を申請した。市内に本社を置くゼネラル・モーターズ(GM)は復活したものの、人口の流出が止まらず、税収が落ち込んだためだ。治安も悪化し、中心街の荒廃は著しい。

 日本では北海道夕張市を除くとデトロイトのように破綻状態の自治体はない。自治体が行政サービスを提供するために必要な財源は地方交付税制度で保障しているうえ、夕張の破綻を契機に、財政が悪い自治体に国が早い段階で改善を求める仕組みを整えたためだ。

 ただし、これは自治体本体の話である。観光開発や産業振興などのために都道府県や市町村が設立した第三セクターや地方公社などは経営が厳しい。全国約7000団体の4割は赤字なうえ、債務超過の団体も350以上ある。

 三セクや公社のなかには自治体に債務保証や損失補償をしてもらったうえで金融機関から融資を受けているところが多い。経営状態が悪い三セクや公社を抱え込んでいることは自治体にとって財政面のリスクになっている。

 総務省は2009年度から5年間に限って、三セクや公社などを整理・廃止する際に必要な資金を調達できる特別な地方債の発行を認めた。その地方債の利払いの一部を国が肩代わりすることで集中的に処理を促し、地方財政の健全化を進めるためだ。

 しかし、その後の4年間にこの地方債を発行して整理した件数は104件にとどまる。経営実態からみると、氷山の一角に手を付けたにすぎないだろう。

 自治体が及び腰な背景には幾つかの理由が考えられる。ひとつは首長の責任が問われかねない点だ。三セクや公社には自治体そのものも融資しており、最終処理すると自治体の融資分も債権放棄を迫られるのが一般的だ。

 自治体の職員の天下り先になっていることも一因だろう。三セクや公社などには現在、自治体の退職者が3万人、出向者が4万人も勤務している。

 デトロイトのように急激ではないものの、日本の地方都市も人口の減少が続いている。中心市街地の空洞化も激しく、工場の海外への移転なども続いている。今後、地方財政がさらに厳しくなるのは間違いないだろう。

 残された時間は半年あまりだ。自治体は少しでも余裕がある今こそ、三セクの処理を急ぐべきだ。

汚染水対策は破綻寸前だ

 福島第1原子力発電所の敷地内から高濃度の汚染水が海に流出していることが明らかになった。

 流出がわずかだとしても海の汚染が今なお続く事実は重い。東京電力が状況把握に手間取り、海洋流出を否定し続けたため、漁業者らは東電への不信を一段と強めた。極めて憂慮すべき事態だ。

 東電はタンクにたまり続ける汚染水の処置に苦慮し、放射性物質をほとんど除去した処理済みの水を海に流そうと福島県や関連漁協などに理解を求めようとしていた。実現すれば汚染水を減らす切り札になり得たが、今回の事態で見通しがつかなくなった。

 汚染水流出を止めるため、東電は岸壁近くの地盤に薬液を注入し水を通しにくくする。また流出源である疑いが濃い、原子炉建屋周辺のトレンチ(坑道)から汚染水を抜く計画だ。いずれも流出抑制に一定の効果が期待できるが、とりあえずの対症療法にすぎない。

 汚染水の発生を減らす抜本策を講じないと、増え続ける汚染水のせいで福島原発の収束作業が滞る事態が予想される。このことは今年4月に地下貯水槽からの低濃度汚染水の漏れが判明した時から指摘されてきた。

 東電の汚染水対策は破綻にひんしていると政府は認識すべきだ。もはや東電だけでは手に負えなくなりつつある。政府が一歩前へ出て世界の知恵を集め、長期的な展望にたった対策を考えて実行に移していく必要がある。

 汚染水流出で水産物の風評被害の再燃が懸念される。福島県の漁業者は昨年6月、タコ類など放射能の影響がきわめて少ないものから試験操業を始めた。現在は対象魚種を広げ、本格的な操業再開に向けて努力を続けている。

 福島県外の市場でも、水揚げした水産物の放射能を調べて消費者の信頼回復に取り組んできた。新たな汚染水流出は水産業の復興をめざす関係者の努力を台無しにしかねない。海の汚染状況の把握に政府と東電はもっと力を入れ、風評の払拭にも努めるべきだ。

TPP交渉参加―情報公開を推進力に

 日本が環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に加わった。

 米国の主導で協議が本格化してから3年余り。日本の出遅れは否めない。

 まずは入手した情報の分析を急ぎ、20を超える交渉分野ごとに主張を固め、全体の戦略を描く必要がある。

 世界貿易機関(WTO)の多国間交渉が滞るなか、TPPが世界の通商ルールに大きな影響を与えるのは必至だ。

 交渉参加国の中で、日本は米国とともに飛び抜けた大国である。自国の利益を訴えるだけでなく、世界の貿易・投資の自由化をにらみ、先進国と途上国の対立を調整する役回りも意識しなければならない。

 交渉に際し、政府は次の二つのことに努めてほしい。

 できるだけ情報を公開すること、そして交渉への懸念や批判をしっかりと聞くことだ。

 TPPが日々の生活にどんな影響を与えるのか、食の安全や医療分野などを中心に、国民には根強い不安がある。

 一方、日本は通商国家として発展してきただけに、成長著しいアジア・太平洋地域での自由化に乗り遅れては困るという理解も一般的だろう。

 これまでは交渉の実態がよくわからず、さまざまな臆測が飛び交い、不安に拍車をかけてきた。参加国として得た正確な情報をもとに、わが国の利害得失を国民全体で考えてもらう。そうした姿勢が交渉の足元を固めることにつながり、推進力も生むのではないか。

 政府内からは「TPPは秘密保持が厳しく、情報公開は難しい」という声が出ている。

 むろん手の内をすべてさらすわけにはいかないが、工夫はできるはずだ。米国の議会調査局が最近まとめたTPPの報告書では、個別の国との意見対立にも触れている。秘密保持を理由に口をつぐむだけでは、国民の理解も進まない。

 TPPへの懸念や批判に関しては、内外のNGO(非政府組織)との情報交換も重視してほしい。

 国際交渉でNGOが重要なプレーヤーとなって久しい。性急な経済自由化に反対したり、先進国主導になりがちな交渉に途上国の立場から目を光らせたりするのが基本だが、自らの主張を反映させるために各国政府と連携し、独自情報を提供するNGOも少なくない。

 こうしたNGOを敬遠するばかりでは情報網は広がらない。状況に応じて各国のNGOを味方につけるぐらいの構えで交渉に臨んでもらいたい。

一票の格差―もう言い訳は通らない

 終わるやいなや、正統性に疑義がもたれるような選挙は、これで最後にしてほしい。

 今回の参院選では、選挙区によって最大4・77倍の「一票の格差」があった。法の下の平等を定める憲法に違反しており無効だとする訴訟が、全47選挙区について起こされた。

 鳥取で自民党の候補者が約16万票得て当選し、かたや東京では約55万票とった民主党の候補が次点に甘んじる。こんな現象が実際に起きた。

 最大格差が5・00倍だった3年前の参院選について、最高裁大法廷は昨年10月、「違憲状態」だと判断した。

 都道府県を単位とする参院選選挙区は、半数ずつ改選できるように偶数の議席を割り振る仕組みのため、衆院小選挙区より一票の差が広がりやすい。

 最高裁判決は、この都道府県単位の選挙区を見直すべきだと踏み込み、改善を求めた。場当たり的な定数の振り替えだけでは解決しないという指摘は、それ以前からしてきた。

 なのに、国会は「4増4減」の数合わせだけでやり過ごした。6年間の議員任期が保障され、複雑で利害対立のある課題にじっくり取り組めるはずの参院が、改革をいっこうに進めようとしないのだ。

 参院の存在意義が、改めて問われている。衆参がそれぞれの特色を生かしてこそ、二院が存在する意味がある。

 ところが、選挙制度は両院とも選挙区と比例代表の組み合わせで、よく似ている。これでは「参院ならでは」という人を選ぶことは期待しにくい。

 改革の方法はいろいろ考えられる。複数の都道府県からなるブロックを選挙区とする。議席に直結しない票が多く出る衆院小選挙区制に対し、参院は比例区のみとする。

 政党に属さない人が選ばれたり、国会に代表者を出しにくい少数者の意見が反映されるような制度も、検討に値するのではないか。

 衆院とどのように役割分担するかを検討した上で、抜本改革に踏み切るべきだ。

 昨年12月の衆院選の一票の格差についても、各高裁で「違憲」とする厳しい判断が相次いだ。最高裁が年内に最終判断する見通しだ。

 衆参いずれも、選挙があるたびに、憲法にかなっていたのか司法判断が仰がれるという、異常な状態が続いている。

 両院で第1党になった自民党の責任は大きい。矛盾を抱えた選挙制度を放置しておく言い訳は、もうできない。

海江田民主党 政策と体質を改革して出直せ

 党再生の道は極めて厳しい。政策を磨き、党の体質を抜本的に改革して出直すしかない。

 参院選で惨敗した民主党の細野幹事長が引責辞任を表明し、了承された。再建への道筋をつけ、8月末に退く。

 海江田代表は続投を表明し、執行部内で異論は出ていない。

 党の現状に対する危機感があまりに薄すぎないか。トップが失敗の責任を取らない党の体質を改めて露呈している。指導力や発信力に乏しい海江田氏の下で、党再建が可能なのか、疑問である。

 民主党は今回、改選44議席に対し、過去最低だった2001年の26議席を下回る17議席しか獲得できなかった。1人区は全敗し、複数区も東京、大阪、埼玉などで議席を失うなど、凋落(ちょうらく)が激しい。

 読売新聞の出口調査によると、無党派層の比例選の投票先として、民主党は、自民、みんな、日本維新の会、共産の各党に次ぐ5番目に甘んじた。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の副作用を批判するだけで、党独自の成長戦略や経済政策を示せなかった。地方組織の強化が進まず、野党間の選挙協力が実現しなかったことも響いた。

 鳩山元首相は尖閣諸島について日本が「盗んだと思われても仕方がない」と発言した。菅元首相は公認が取り消された無所属候補を応援し、公認候補が落選した。菅氏の行動は、決定事項を守れない党の政治文化を象徴している。

 下野してもなお、党の創始者たちが足を引っ張った。23日の役員会で、両元首相の処分を求める声が上がったのももっともだ。

 厳しい処分に踏み切れないようでは、党改革も進むまい。

 民主党は2月、政権運営と衆院選惨敗の総括文書を決定した。政党の統治能力が未熟で、議員個人の能力がチームとして生かされないなどと指摘したが、その反省が党運営に反映されていない。

 政策の見直しも急務である。

 参院選公約は具体性が欠け、抽象的な内容が目立った。

 財源の裏付けもないまま、全額公費による「最低保障年金の創設」を掲げたが、説得力を持つ実現可能な案に変更すべきだ。

 憲法改正問題でも、党内の推進派と慎重・反対派の双方に配慮し、玉虫色の表現にとどめた。徹底した党内論議を経て、独自の改正案をまとめる必要がある。

 巨大与党を厳しく監視し、建設的な対案を示すことで、国政に緊張感を持たせる。それが民主党の野党第1党としての役割だ。

夏休みの安全 子どもを犯罪から守りたい

 学校が夏休みに入り、子どもたちが外出する機会が多くなる。犯罪に巻き込まれることのないよう、改めて安全対策を徹底したい。

 東京都練馬区の区立小学校の校門前で6月末、下校する小学1年生の男児3人が男にナイフで切り付けられ、けがを負った。今月中旬には、茨城県龍ヶ崎市の路上で、小学5年生の女児が男に殴られ、重体となった。

 警察庁の統計では、13歳未満の子どもが被害者となる事例では、強制わいせつや暴行、傷害など、悪質な犯罪が目立っている。

 子どもが不審者に声をかけられたり、つきまとわれたりしたら、保護者はすぐに警察へ通報してもらいたい。警察は捜査に手を尽くすとともに、不審者情報を学校や地域の町内会などに周知し、警戒を呼びかけることが大切だ。

 学校の安全対策は、2001年に大阪教育大付属池田小学校で起きた児童殺傷事件を契機に、強化が図られてきた。

 池田小では「安全科」の授業を設け、道で見知らぬ人から声をかけられた場面などを想定し、自分がとるべき行動を児童に議論させている。こうした安全教育を取り入れる学校は増えつつある。

 不審者の侵入を察知するため、多くの小中学校で防犯カメラなどが設置された。

 登下校時に、保護者が子どもに付き添う。町内会の防犯ボランティアが通学路を巡回する。地域の様々な取り組みが進んでいる。

 ただ、夏休み中はどうしても、子どもたちを守る活動は手薄になりがちだ。外遊びのほか、塾や水泳教室の行き帰りといった、大人の目が届きにくい時間帯は特に注意が必要となる。外出の際には必ず防犯ブザーを持たせたい。

 危険を回避する上で何より重要なのは、日頃から子どもたちの防犯意識を高めておくことだ。

 例えば、自宅周辺に、子どもが連れ込まれかねない空き家や、街灯のない通りなどがないか、親子で確認し、近づかないようにさせてはどうだろう。

 各地域には、「子ども110番の家」がある。危険な目に遭った子を一時的に保護し、警察に通報する役目を担っている。子どもに所在地を教えておけば、いざという時の駆け込み場所になる。

 夜間でも営業しているコンビニエンスストアは、防犯拠点として活用できる。

 子どもたちが夏休みを安全に過ごすには、家庭や地域が連携して支えていくことが欠かせない。

2013年7月23日火曜日

1強下の野党―与党の2倍働こう

 茫然(ぼうぜん)自失の体である。参院選に敗れ、自民党1強体制下に甘んじた野党の姿だ。

 当選者が改選議席の半分を大きく割り込んだ民主党だが、海江田代表は「改革は道半ばだ」として続投する意向だ。意地悪い言い方をすれば、代表を交代させるエネルギーすら党内に残っていないということだろう。

 それでも、野党がいつまでも「多弱」のままでいいはずはない。自民党にとって代わり得る手ごわい野党がなければ、議会制民主主義は健全に機能しないからだ。

 ここは振り出しに戻ったつもりでやり直すしかない。

 自民党が圧勝した去年の衆院選の投票率は59・32%、おとといの参院選は52・61%だった。前者は戦後最低、後者は戦後3番目に低い。

 つまり、1強体制をつくり上げた選択の機会に、4割から5割近い有権者は参加していないのだ。棄権した人たちの考えは一様でないにせよ、1強ではすくいきれない民意があることは間違いない。

 96年の結党以来、民主党は自民党政治に飽き足りない有権者の支持を集め、政権奪取を果たした。ところが、今回の参院選での出口調査を見ると、無党派層がそっぽを向いてしまったことが分かる。

 政権担当時の失策にノーを突きつけられての下野。その後も参院での首相問責決議をめぐる迷走や、東京選挙区での公認問題をめぐる細野幹事長と菅元首相との確執など不手際を繰り返した。支持が離れるのも無理はない。

 党再生の即効薬はないが、民主党には教訓とすべき3年あまりの政権党の経験がある。

 かつて政権で活躍した落選議員の力も借り、「1強」がすくえない民意を受け止め、政策として練り上げることに全力を挙げるべきだ。

 日本維新の会の橋下徹・大阪市長は「次の衆院選までに野党がまとまらないと、国のためにならない」と語っている。

 野党がバラバラでは与党を利するだけだ。一致できる分野で共同で自民党への対案を打ち出す。政権が暴走したらスクラムを組んで阻止する。その積み上げの中で、有権者の支持を地道に取り戻していくほかはない。

 政権が直面する難題と、政権交代が起きやすい衆院の選挙制度を考えれば、1強体制は永久に続くわけではない。野党議員には、惨敗に沈んでいる暇はないはずだ。

 与党議員の2倍は働く気概で安倍政権に挑んでほしい。

新興国の経済―転機のリスクを抑えよ

 緩やかに回復してきた世界経済が正念場を迎えている。

 米国が金融政策で量的緩和を縮小するとの観測が強まり、これまで新興国に流れ込んでいた先進国マネーが、逆に引き揚げられる動きが加速してきた。

 それでなくとも最近の新興国の景気は減速していた。急激な金融の変化は、その変調に拍車をかけかねない。

 モスクワで開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、先進国の金融政策について慎重な調整と意思疎通をするよう申しあわせた。

 そもそも新興国が成長力を取り戻すには国内改革が欠かせない。先進国はその実現を促すためにも何をすべきか。G20は新たな難題に直面している。

 ここ近年、新興国の成長率は明らかに鈍化した。ブラジルは昨年1%を割り、インドもピークの半分に落ちた。中国は「影の銀行」など金融不安も浮上。対中輸出が減った東南アジアの景気にも影をおとしている。

 そうした変調は、不況にある欧州向け輸出の減少など外的要因もあるが、各国に長期にわたる高成長のひずみや矛盾がたまった結果という面が大きい。

 中国では輸出と投資頼みが限界に達し、インドでは交通や電力網などの整備の遅れがインフレを悪化させている。ブラジルでは中間層の消費は旺盛だが、投資が足りない。

 相互貿易の拡大など、これまで新興諸国を台頭させてきた相乗効果のメカニズムが、縮小方向に逆転すると、対応はさらにむずかしくなる。

 その事態を一層こじらせかねないのが米国の緩和マネーの逆流だ。お金の流出と通貨の下落の悪循環を防ぐために市場介入する新興国も増えている。

 米国の金融政策が自国の景気を最優先するのは当然だが、中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、投機筋などの思惑が先走らないよう市場にクギを刺し続けねばならない。

 新興国は改革待ったなしだ。中国は銀行貸し出しの金利規制を一部やめる。国有企業を優遇し、成長できる民間企業にお金が回らない矛盾を和らげる一歩だ。インドは通信や保険などへの外資規制を緩めるという。

 改革は手つかずだった難題が多く、景気に逆行する可能性もある。だが、改革の進展に応じて先進国からの直接投資が広がる好循環が生まれれば、世界経済の安定につながる。

 地球全体を見すえ、先進国と新興国の新たな相互依存関係をどう描くか。その道筋を探ることにG20の役割がある。

首相は逃げずに経済改革断行を

 明るさを取り戻した日本経済を安定軌道に乗せ、実感を伴う成長を長期的に実現してほしい。参院選の圧勝で政治基盤を固めた安倍晋三首相に国民が期待するのはそうしたことだろう。

 経済を本当に再生させるにはまだ多くの壁を突破しなければならない。首相は国民の信頼を裏切らないよう、逃げずに経済改革を断行すべきだ。

規制改革が試金石
 安倍首相は22日の記者会見で、「国民が求めているのは全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻すこと。成長戦略などの実行なくして成長なしだ」と述べた。その認識は正しい。

 アベノミクスの3つの矢のうち、大胆な金融緩和という第1の矢と、財政刺激という第2の矢が円安・株高や内需の拡大につながったのは確かだ。だが、これを一過性の景気浮揚に終わらせないためには、経済の潜在的な成長力を高める政策、つまり第3の矢が欠かせない。

 しかし、反対が少なく、効果がわかりやすい金融緩和や財政刺激策に比べて、構造的に成長力を高める政策の実行には様々な抵抗がある。これにひるんでおざなりな施策にとどめれば、経済活性化の効果は出ず、成長機運もしぼんでしまうだろう。

 安倍政権が6月に打ち出した日本再興戦略は力不足という見方が多い。首相が一丁目一番地と位置付けた規制改革が腰砕けになっているからだ。医療、教育、農業など潜在的なニーズや成長力が大きい分野で、本格的な規制緩和には踏み込まなかった。

 参院選では規制改革に反対する団体の支援を受けた自民党候補が多く当選した。既得権を持つ勢力に配慮して改革を先送りし、新しい需要を生み出す企業のビジネスの芽をつめば成長はおぼつかない。このハードルを越えられるかが政権にとって試金石になる。

 環太平洋経済連携協定(TPP)にどう向き合うかも重要だ。投資や知的財産権などについて質の高いルールを実現し、工業関税の撤廃をめざすことはアジア・太平洋諸国の活力を取りこむうえで欠かせない。TPPは同時に日本への投資や農業改革を促すきっかけにもなりうる。

 安倍政権は、関税の聖域確保といった守りに徹するのでなく、日本経済や国民全体の生活向上にどう結びつけるかという大きな視点で交渉に臨むことが求められる。

 今後の日本経済にとって大きな懸念材料は政府が抱える債務の膨張である。長期政権を視野に入れる安倍政権は、この問題から目をそらすわけにはいかない。

 最初の試金石は消費税増税だ。首相は会見で消費税率を来年4月に5%から8%に引き上げるかどうかについて「デフレ脱却と財政再建の両方の観点から、秋にしっかり判断する」と表明した。

 日銀が異次元の金融緩和の一環として長期国債の大量購入に踏み切る中で、「政府は日銀に財政の穴埋めをさせるのでは」という疑念も市場の一部に出ている。必要以上に長期金利が上昇しないようにするには政府が財政規律を堅持する姿勢を示す必要がある。

 消費税増税は財政健全化の一里塚と言える。経済が大幅に落ち込む見通しがない限り、延期すべきではない。

社会保障費抑えよ
 ただし、消費税増税だけで財政を立て直すのは不可能だ。財政悪化の主因は高齢化に伴う社会保障費の膨張である。この伸びを抑えるためには、収入や資産のある高齢者にはより大きな負担を求める改革が欠かせない。民間の活力を引き出す成長戦略で成長力を持続的に高め、税収を増やしていくことも財政再建にとっては大事だ。

 長期政権を展望するならば、国と地方の関係を見直し、地方の活性化につなげるための包括策や、法人税率の引き下げを含む活力重視の税制改革に取り組んでいくことも重要だろう。

 産業界にはアベノミクスに期待する半面、中国や韓国との関係悪化を懸念する声も少なくない。領土や歴史認識を巡って冷たい関係が続けば、双方の経済にとってマイナスになる。日中韓自由貿易協定(FTA)交渉などを通じ局面打開に取り組むことが望まれる。

 痛みの伴う政策や抵抗の大きい政策は首相への支持率や信任が高いときでないと実現しにくい。経済再生へ向けて改革を進めるには、今がまさにチャンスである。目先の人気取りに走らず、必要な改革実現のために思い切って指導力を発揮する。それが安倍政権に課せられた歴史的な使命である。

安倍政権の課題 国力の向上へ経済に集中せよ

 ◆真価が問われるのはこれからだ

 日本経済の再生に全力を挙げ、国力を高めることに集中して取り組まねばならない。

 参院選での自民、公明両党の圧勝を受け、安倍政権が再始動した。

 安倍首相は、連立を組む公明党の山口代表と会談し、連携を強化する方針を確認した。両党は参院選では共通公約を掲げられなかったが、今後は様々な政策調整を着実に進める必要がある。

 ◆消費増税の判断が焦点

 首相は22日の記者会見で、「15年間にわたるデフレからの脱却は歴史的事業だ」と述べ、経済政策を最優先する意向を表明した。

 「強い経済」を回復し、国力を取り戻さなければ、社会保障や外交・安全保障の基盤を強化できない。日本経済を再生することが、参院選で示された多くの国民の支持に応える道でもある。

 当面の最大の焦点は、来年4月に予定通り消費税率を5%から8%に引き上げるかどうかだ。

 首相は、8月12日に発表される4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率などを踏まえて、秋までに慎重に判断するとしている。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果で、経済は着実に上向いてきた。だが、本格的な回復前に消費増税を行うと、景気を腰折れさせかねない。首相の経済ブレーンの間には、消費増税の先送り論も出ている。

 一方、日本の財政状況は、先進国で最悪であり、中期的な財政再建は国際公約になっている。消費増税を先送りした場合に国債市場に及ぼす悪影響も心配だ。

 麻生財務相は、モスクワでの主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、予定通り増税する方針を示した。経済成長と財政再建の両立をどう図るか。首相は厳しい決断を迫られる。

 社会保障制度改革を進める上でも、消費増税の議論は避けられない。政府は、国民会議が8月にまとめる結論を踏まえ、高齢化で増え続ける医療費と年金給付の抑制策や、少子化対応の具体策を打ち出す必要がある。

 アベノミクスでは、大胆な金融緩和、財政出動に続く「第3の矢」となる成長戦略をどう具体化するかが問われている。

 首相は、秋の臨時国会を「成長戦略実現国会」と位置づけ、企業に設備投資を促す投資減税などを盛り込んだ産業競争力強化法案の早期成立を目指している。

 企業活力をさらに引き出し、賃金上昇や雇用拡大などの好循環を実現したい。

 成長戦略を推進する上で不可欠なのは、電力の安定供給だ。

 ◆TPP交渉も本番に

 原子力規制委員会は、原発の再稼働に向けて、新規制基準に基づく原発の安全審査を始めた。多岐にわたる審査を効率的に進めるには、規制委の審査体制を強化・改善すべきではないか。

 原発再稼働に地元の理解を得るため、首相の指導力も必要だ。

 経済や雇用、地球環境への影響なども考慮し、政府は現実的なエネルギー政策を推進すべきだ。

 23日から日本が初参加する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も重要である。自由貿易推進によりアジアの活力を取り込む好機としたい。

 自由化に備えた農業の競争力強化も急がねばならない。

 外交では、対中関係の改善が最大の課題だ。首相は「お互いが胸襟を開いて話すことが大切」と、対話の必要性を強調している。日中双方の粘り強い外交努力が求められる。

 中国は依然として沖縄・尖閣諸島周辺に海洋監視船を送り込み、挑発的な行動をとっている。中国による東シナ海でのガス田開発問題も新たに発覚しており、日中間の摩擦は高まる一方だ。

 一連の中国の示威活動や軍備増強、さらに北朝鮮の核・ミサイルの脅威など、日本の安全保障環境は悪化している。

 ◆集団的自衛権を見直せ

 政府が、長年の懸案である集団的自衛権行使に関する憲法解釈の変更に取り組むのは当然だ。日米同盟の強化にもつながろう。

 政府の有識者会議は、10月前半にも新たな報告書をまとめ、集団的自衛権の行使を可能にするよう提言する。政府はこれを受け、解釈変更を進めるべきだ。

 国家安全保障会議(日本版NSC)創設や、米軍普天間飛行場の辺野古移設の推進、新たな防衛大綱の策定と合わせ、安全保障体制を強化しなければならない。

 次の国政選までは、最大3年ある。首相は、経済政策とともに外交・安保の課題も段階を踏んで進めていくことが肝要だ。

2013年7月22日月曜日

経済復活に政治力を集中すべきだ

 第23回の参院通常選挙は21日、投開票の結果、自公両党で過半数を確保、衆参のねじれが解消した。昨年12月の衆院選につづく自民党の大勝により安倍晋三内閣は安定政権へのきっかけをつかんだ。

 1989年の参院選で自民党が惨敗して衆参ねじれ状態となり、93年の衆院選での敗北で長期単独政権の55年体制が崩れてから、ちょうど20年。連立政権の時代となって政権交代も経験した日本政治は、また新しい段階に入った。

■「古い自民」に歯止めを

 ただ投票率が前回2010年(57.92%)より大幅に低下した。ネット選挙の解禁による投票率の押し上げ効果も弱かったようだ。

 投票率が低調だったのは、与党が設定した争点の前で野党は埋没してしまい、選挙戦の行方が早くから見えてしまったためだ。

 衆参ねじれの解消を目標にかかげた自民党の選挙戦略は、安倍内閣の半年余について、その経済政策であるアベノミクスへの評価に絞り込むことだった。

 資産がある有権者にとっては、内閣発足時からだけでも日経平均株価が4割も上昇し、プラスの「業績評価投票」となった。資産のない有権者は、アベノミクスで景気回復への期待が高まり、所得増への「将来期待投票」となった。

 憲法改正や外交、エネルギーなど、イデオロギー色の強い争点は後ろに引っ込めて、経済の一点に集中させたことが功を奏した。

 対する野党は、戦略・戦術で失敗した。昨年末の衆院選で民意が離れた民主党は、失った有権者の信頼を取り戻すことができないまま、安倍政権への政策的な対立軸も示せなかった。日本維新の会、みんなの党も含めた野党各党がバラバラで、非自民の受け皿を作れなかったのも響いた。

 民主党はとりわけ深刻だ。議席数が半分以下に激減しただけでなく、98年の結党以来、最低の獲得議席となった。自民党に対峙していこうとすれば、政党としての立ち位置をしっかり定めなければならない。

 安全保障や経済政策での維新やみんなの立地状況も考えると、保守で競争志向には位置できず、中道リベラルで再分配志向の政党としての路線をはっきりさせるしかないだろう。今後、党を割って出直すぐらいの覚悟で臨まないと、もはや民主党に明日はない。

 自民党は選挙大勝によって浮かれることのないよう求めたい。懸念されるのが古い体質の復活である。既得権益の保護・分配への志向・偏狭なナショナリズムの3つのバネが働く可能性があるためだ。とくに規制改革にブレーキをかけ、公共事業の増額にアクセルを踏み込む動きには要注意だ。

 昨年末の衆院選と今回の参院選で誕生した新人議員が多数派を占め、派閥のタガがゆるんでいる中で、派閥単位の党のガバナンス(統治)に代わる新たな型はできていない。政策決定では右肩上がりを前提に利益の分配を進めてきた自民党だが、今や必要なのは「負担の分配」のための調整システムである。

 第2次安倍内閣は、参院選をへて安定政権への道筋を切りひらく環境が整った。首相の党総裁任期は15年9月までで、もし3年後の16年夏の次の参院選まで国政選挙がないとすれば、この3年が日本政治にとっては課題処理の絶好のチャンスだ。

■カギ握る成長戦略実行

 まず求められるのは経済再生をやりとげることだ。農業や医療などの岩盤規制を打ち破り、環太平洋経済連携協定(TPP)反対派も説得して、効果的な成長戦略を実行していくのは今しかない。第4の矢ともいわれる財政規律のために社会保障を中心とする歳出カットも進めていかねばならない。

 将来期待で票を投じた有権者は、かりに所得が増えないとなれば、失望という名の電車に乗りかえて、あっという間に安倍内閣から去っていくだろう。そうならないようにするためにも、アベノミクスの成功に、すべての政治資源を集中させるべきだ。

 現行憲法に問題があり、改憲の必要性があるのはその通りだ。ただ国力の回復が何よりも求められる現在、優先させるべきテーマは経済再生である。改憲論議は同時並行で進め、急ぐものは立法改革で対応すればいい。

 経済力を高め国の安全保障を確かなものにするためにも、中国、韓国との関係修復は差しせまった課題だ。選挙が終わったのを機に局面打開への動きを促したい。

 今回の選挙が、政治と経済の失われた20年と決別し新生日本づくりの転機となることを望みたい。

両院制した自公政権―民意とのねじれ恐れよ

 「1強体制」の本格到来を思わせる、安倍自民党の勝ちっぷりである。

 自民、公明両党は、非改選とあわせて参院の半数を大きく上回る議席を得た。

 昨年の衆院選に続き参院も自公が制したことで、07年の参院選以来、政権の国会運営を左右してきた衆参両院の「ねじれ」は当面、解消する。

 同時に、安倍首相はかつての自民一党支配時代をほうふつさせる安定した権力基盤を手にしたことになる。向こう3年は国政選挙はないというのが、政界のもっぱらの見方だ。

 この間、ジェットコースターのような変転きわまりない政治が続いた。首相交代は年中行事のようになり、「決められない」が政治の枕詞(まくらことば)になった。

 安定した政治のもと、景気回復など山積みになった内政・外交の懸案に腰を据えて取り組んでほしい――。

 今回の選挙結果は、そんな切羽詰まった民意の表れといえるだろう。

 とはいえ、有権者は日本の針路を丸ごと安倍政権に委ねたわけではない。首相は経済のほかは十分に語らなかったし、投票率も振るわなかった。

■アベノミクスを評価

 小泉首相による05年の「郵政解散」以降、衆院選で大勝した政権党が、その次の参院選で過半数を割る逆転劇が繰り返されてきた。

 その始まりとなったのが、安倍氏が首相として初めて臨んだ07年参院選での自民党の歴史的大敗だった。

 この6年の「負の連鎖」を、今回、安倍政権がみずから断ちきることができたのは、その経済政策「アベノミクス」が、一定の信認を得たからにほかならない。

 民主党政権の末期に比べ、株価は5千円ほど高くなった。円安も進み、首相は選挙戦で国内総生産(GDP)がマイナスからプラスに転じた、12年度の公的年金の運用益が過去最高となったと胸を張った。

 野党は、賃金が増えていないのに食品の値段が上がっているなどと、アベノミクスの副作用を訴えた。それでも、ひとまずは数字を残した安倍政権に寄せる本格的な景気回復への期待が、声高な批判を打ち消した。

■期待は「両刃の剣」

 ただし、この期待は両刃の剣であることを、首相は忘れてはならない。

 景気が腰折れしたり副作用が高じたりすれば、失望の矛先はまっすぐに首相へと向かう。

 政権の実力が本当に試されるのは、これからなのだ。

 中小企業や地方で働く人たちの賃金は上がるのか。消費税率を予定通りに引き上げられるのか。それで医療や介護を安定させられるのか。

 いずれも、くらしに直結する課題である。安定政権の強みは、こうした分野でこそ大いに生かしてもらいたい。

 一方で、有権者は決して政権にフリーハンドを与えたのではない。与党も含め政治に注ぐ視線は依然厳しい。そのことを首相は肝に銘じるべきだ。

 首相は締めくくりの街頭演説で「誇りある国をつくっていくためにも憲法を変えていこう」と改めて持論を強調した。

 日本維新の会やみんなの党をあわせて機運が高まれば、やがて改憲も視野に入るという思いなのかもしれない。

 だが、朝日新聞の最近の世論調査では、改憲手続きを定めた憲法96条の改正には48%が反対で、賛成の31%を上回った。

 連立を組む公明党の山口代表が「憲法改正を争点にするほど(議論が)成熟しなかった」と語ったが、その通りだろう。

 首相が意欲を見せる、停止中の原子力発電所の再稼働にも56%の人が反対している。

 首相が民意をかえりみず、数を頼みに突き進もうとするなら、破綻(はたん)は目に見えている。衆参のねじれがなくなっても、民意と政権がねじれては元も子もあるまい。誤りなきかじ取りを望みたい。

■野党の再生はあるか

 それにしても、つい7カ月前まで政権を担っていた民主党の退潮は目を覆うばかりだ。改選議席は半分を割りこみ、2大政党の一翼の面影はない。

 96年の結党以来、「政権交代可能な二大政党制」を意図した制度のもとで野党結集の軸となった。もっとも、こうした党のなりたちが、「政権交代」のほかに党員をたばねる理念や目標を持つことのできない弱点にもつながっていた。下野から半年あまりたったいまも、この弱みは克服できないままだ。

 昨年の国政進出で民主党に迫る勢いをみせた日本維新の会もまた、橋下徹大阪市長の一枚看板に頼らざるを得ないもろさをあらわにした。

 野党の自壊といっていい。

 自公両党は、憲法改正をのぞけば「補完勢力」など必要としない状況にある。

 しばらくは続きそうな1強体制に、野党はただ埋没するだけなのか、それとも再生に歩み出すのか。

 野党だけの問題ではない。日本の民主主義が機能するかどうかが、そこにかかっている。

参院選自公圧勝 数に傲らず着実に政策実現を

 ◆日本経済再生への期待に応えよ

 昨年の衆院選に続く圧勝である。

 参院選で自民、公明両党が、非改選と合わせて過半数の議席を制した。国会の衆参ねじれが解消された意義は大きい。

 次の国政選まで最大3年ある。安倍政権は、経済再生と財政再建の両立、安全保障体制強化、憲法改正など様々な懸案に腰を据えて取り組める環境を獲得した。

 自公両党は、「巨大与党」の数に傲ることなく、丁寧な国会運営を心がけてもらいたい。

 ◆国民は安定を望んだ

 衆参ねじれは6年前、第1次安倍政権が参院選で敗北して生じさせたものであり、首相は今回、雪辱を果たしたことになる。

 安倍首相は、大勢判明後、「決める政治、安定的な政治で、経済政策を前に進めていけという大きな声をいただいた」と語った。

 ねじれは、政治の停滞と混乱を引き起こし、首相が毎年交代する異常事態の要因だった。首相の言うように、多くの有権者が政治の安定を望んだと言えよう。

 最大の争点となった安倍政権の経済政策「アベノミクス」はひとまず国民のお墨付きを得た。だが、まだ所得や雇用にまで顕著な効果は及んでいない。デフレ脱却も不透明だ。

 国民の経済再生への期待に応えるためにも、首相は、政府・与党の総力を結集して成果を上げていかねばなるまい。

 エネルギー政策を巡り、唯一「原発ゼロ」を掲げなかった自民党の圧勝は、現実的な姿勢を有権者が評価したからではないか。

 ◆野党再編への機運も

 自民党は、1人区で29勝2敗、複数区では全候補が当選するという強さを見せつけた。公明党も、手堅く議席を確保した。

 自民党の選挙区選での勝因は、衆院選と同様、野党が振るわなかったうえ、野党同士が議席を奪い合う構図になったことにある。

 投票率は、前回を大幅に下回った。反自民票の一部が棄権に回ったという側面もあるだろう。

 民主党は、結党以来の大惨敗を喫した。複数区でも、他の野党に競り負けるケースが目立った。失政を重ねた民主党政権への「懲罰」感情は根強く残っている。

 相変わらず、党としての一体感が乏しいことも印象づけた。菅元首相が東京選挙区で民主党公認を取り消された無所属候補を公然と応援したのは、その一例だ。

 国会での抵抗野党ぶりや憲法など重要政策のあいまいさを見れば民主党は、安倍政権への批判票の受け皿として物足りなかった。

 海江田代表は、続投する意向を表明した。執行部は、惨敗を徹底的に総括したうえで責任を明確にし、出直すしかない。そうしなければ、次期衆院選では2大政党の一角から転落しかねない。

 民主党からの離党組も全く振るわなかった。生活の党は、小沢代表の地元・岩手選挙区でも議席を得られなかった。小沢氏の政治力の衰えを象徴している。みどりの風も、参院で議席を失った。

 日本維新の会とみんなの党は、議席を伸ばしたものの、いずれも参院で「第3極」としての地歩を確かにしたとは言い難い。

 選挙中、維新の会の橋下共同代表は、公務員の労働組合の支援を受ける民主党を批判したうえで、業界団体とは無関係の「自民党に対抗する新しい野党」を結成する必要性を主張した。

 野党間では、自公両党に対抗する勢力の形成を模索する野党再編の動きが出て来るだろう。

 「自共対決」を唱えた共産党は東京都議選に続き、議席を大きく伸ばした。低投票率が組織政党への追い風になったに違いない。

 安倍政権は当面、成長戦略の具体化をはじめ、消費税率引き上げの判断、集団的自衛権を巡る政府の憲法解釈の見直しに取り組む。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉、国家安全保障会議(日本版NSC)設置も進める意向だ。

 ◆政策に優先順位が必要

 いずれも日本の将来を左右する重要課題だ。優先順位をつけ、戦略的に実現してほしい。首相は、「ねじれが解消した以上、野党のせいにできない」と語った。政府・与党の対応が問われよう。

 注目すべきは、連立を組む公明党の動向である。公明党は、自民党のブレーキ役になると訴えた。山口代表は、集団的自衛権の解釈見直しに関しては、「断固反対する」とさえ言明している。

 首相は、山口氏と連立政権の課題を改めて協議する必要がある。巨大与党をきちんと運営するためにも、十分な意思疎通を図って連携することが欠かせない。

2013年7月21日日曜日

選挙と若者―投票すれば圧力になる

 そこを行くリクルートスーツの君。きょうは参院選の投票日だって知ってた?

 まだ内定がとれないんで、投票に行く余裕がない?

 君が「なんとか、正社員に」って必死になるのは当然だ。就職したとたん、年収は正社員と非正社員との間で平均80万~160万円の差がつき、年齢が上がるにつれどんどん広がる。

 90年代以降、正社員への門は狭まるばかり。最近は大卒男子でも4人に1人は、初めて就く仕事が非正規だ。

 そうなると、職業人として鍛えられる機会が少なくなる。伸び盛りの若いころ、その経験をしたかどうかは大きい。

 「とにかく正社員に」という焦りにつけいるブラック企業もある。「正社員」をエサに大量採用し、長時間のハードな労働をさせ、「使えない」と見切ればパワハラで離職に追い込んでいく。

 「若い頃はヘトヘトになるまで働かされるもんだ。辛抱が足りない」なんて言う大人もいるけど、まったく的外れ。

 非正規もブラックも、若者を単なるコストとして扱う。会社の目先の利益のために。人を長期的に育てていこうという意識はない。

 おかしいよね、こんな人材の使いつぶしが横行する社会は。

 しかも団塊世代と違って君たちの世代は数が少ない。一人ひとりが目いっぱい能力を磨いて働き、望めば家庭をもち子どもを育てられる。そうしないと、日本の将来は危ういに決まってる。声をあげなきゃ。

 こんな試算がある。

 20~49歳の投票率が1%下がると、若い世代へのツケ回しである国の借金は1人あたり年約7万5千円増える。社会保障では、年金など高齢者向けと、子育て支援など現役世代向けとの給付の差が約6万円開く。東北大の吉田浩教授と学生が、45年にわたるデータを分析した。

 もちろん因果関係を証明するのは難しい。でも、熱心に投票する高齢者に政治家が目を向けがちなのは間違いない。

 どの党や候補がいいか分からないし、たった一票投じたって意味ないって?

 こう考えたらどうだろう。政治家は、有権者の「変化」に敏感だ。票が増えれば、そこを獲得しようと動くはず。

 前回の参院選の投票率は、60~70歳代が7割以上、20歳代は4割以下だった。でも低いからこそ上げやすい。上がれば政治家はプレッシャーを感じる。

 さて、投票に行ってみようって気になったかな。

公務員改革―懲らしめる、ではなく

 人々の暮らし向きが苦しくなると、官僚に注がれる視線は厳しくなりがちだ。

 けれども、そんな風潮に便乗して政治家が官僚をたたき、喝采を浴びようとしたらどうなるか。優れた人材が集まらず、政策立案能力も落ちる。結局、そのツケは国民に回ってくる。

 ここ数年、そんな官僚バッシングが横行していた。

 いかにして官僚の力を引き出し、国民のために役立てるか。与野党は知恵を絞ってほしい。

 この問題をめぐる政治の動きは、迷走続きだった。

 08年に自民、民主両党などが歩み寄って国家公務員制度改革基本法が成立。必要な法的措置などを盛った行程を定めた。

 これを受けて、3代の内閣が法案を国会に提出したが、いずれも与野党対立のあおりで廃案に。法律を一本も成立させられないまま、今月10日、期限とされる5年を迎えてしまった。

 その過程は、官僚にいかに厳しくあたるか、政治の意のままに操れるようにするかの競い合いの様相だった。

 例えば、内閣人事局をめぐる論議だ。人事局は、中央官庁の幹部人事を内閣が取り仕切るために設ける。省庁の垣根を越えた異動を容易にする。信賞必罰を明確にし、降格しやすくする。そんな狙いがあった。

 ところが、案をまとめるたびに、もっと格下の人事権限も内閣に集めよ、大幅に降格できるようにせよ、政治家に直接差配させよと、与党の中からも野党からも「もっと大胆に」の声がわく。

 こんな声に応えていたら、政治家の顔色ばかりうかがう官僚が量産されないかと心配になる。政権交代のたびに大勢の官僚が入れ替わり、業務に支障を来す事態も起きかねない。

 大切なのは、「官僚を懲らしめる」ではなく「よりよく生かす」へと発想を変えることだ。

 まず、政治家の好き嫌いで人事が決まらぬよう、透明な評価・選抜の仕組みをつくる。

 天下りは規制すべきだが、逆に官僚が霞が関にこもりっきりでも困る。若いうちに官民の人材交流をもっと積極的に行い、民間からの中途採用も広げよう。社会の実情をよく知らない人が政策をつくるより、よほど役立つに違いない。

 民主党政権は、「政治主導」をはき違え、官僚を使いこなせず短命に終わった。一方で、かつての自民党政権時代のような「政官もたれあい」に逆戻りすることも許されない。

 成熟した「政」と「官」の関係へ、歩を進めるときである。

G20の努力で世界経済の下振れ避けよ

 日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)が財務相・中央銀行総裁会議を開いた。米国の量的金融緩和第3弾(QE3)の縮小を念頭に置き、当面は成長の強化を優先することで一致した。

 中国の銀行外取引「影の銀行」の膨張もあって、世界経済の先行きに不安が広がっているのは確かだ。景気下振れのリスクを封じ込めるため、G20がそれぞれの責任を果たさなければならない。

 米連邦準備理事会(FRB)は米景気の回復を条件に、QE3の縮小を探る意向を表明した。これを機に新興国からマネーが流出し、金融市場の動揺や実体経済の減速を招く要因になっている。

 G20の共同声明も名指しするのは避けたものの、QE3の出口戦略とその影響を注視する姿勢をにじませた。金融政策の変更にあたっては「明確な意思疎通が図られるだろう」と指摘し、細心の注意を払うよう求めている。

 米国では金融危機の傷が徐々に癒え、住宅投資や個人消費が持ち直している。景気の回復に一定の役割を果たしたQE3の修正に動くという判断は理解できる。

 だがQE3の出口戦略が世界経済に与える影響は大きく、そのタイミングやペースにはやはり神経質にならざるを得ない。市場との対話に万全を期し、円滑な政策転換に努めるのは当然である。

 G20会議の主要議題にならなかったとはいえ、「影の銀行」への警戒も怠れない。中国がバブルの芽を摘むために投機資金の締めつけに動くのはいいが、市場を混乱させない柔軟な対応を求めたい。

 中国の中央銀行は銀行貸出金利の下限規制を撤廃した。硬直的な金利規制の見直しは問題解決の一歩にすぎない。これを機にさらなる改革を目指すべきだろう。

 問われているのは米中の経済運営だけではない。G20それぞれが財政の健全化にも配慮しつつ、成長基盤を強化する必要がある。

 日本も金融緩和と財政出動だけに頼らず、効果的な成長戦略を実行すべきだ。秋にまとめる成長戦略の追加策では、法人実効税率の引き下げに踏み込んでほしい。

 今回のG20会議では、多国籍企業の行き過ぎた節税を防止する経済協力開発機構(OECD)の行動計画も議題となった。電子商取引の課税強化などが柱だ。国や企業の活力をできるだけ損なわず、悪質な税逃れを減らせるようなルールを具体化する必要がある。

中国の民族問題が心配だ

 中国の少数民族の置かれている境遇がますます心配になる。そんな出来事が相次いでいる。

 チベットでは6日、ダライ・ラマ14世の誕生日を祝おうと僧院に集まった僧侶や尼僧に対して警官隊が発砲し、負傷者が出た。新疆ウイグル自治区では4月と6月、公式発表でそれぞれ21人と35人の死者を出す衝突が起きた。

 厳しい情報統制のため事件の実態や問題の背景などはよくわからない。共産党政権は抑圧的な宗教政策や強制移住政策、当局者による人権侵害の横行などを改める必要がある。そのためにも情報を積極的に公開していくべきだ。

 米国議会が出資して設立した放送局、ラジオ自由アジア(RFA)によると、ダライ・ラマの誕生日の発砲事件では死者が出たとの情報もある。ただ、中国メディアが報じていないこともあって詳細は不明だ。

 チベットでは2009年以降、僧侶や尼僧らの焼身自殺が絶えない。共産党政権が進める宗教政策や強制色の濃い移住政策、チベットの伝統文化を揺るがす大規模な開発などに対する、抗議の意思の表れとみられている。

 しかし当局は自らの政策を問い直す構えを見せていない。むしろ情報統制を強めダライ・ラマに対する批判の材料にしている。

 イスラム教を信奉するウイグル族がもともと多数を占めていた新疆の情勢も、チベットと似た面が多い。特に深刻とみられるのは、近年に漢族の流入や漢族主導のプロジェクトが急増し、経済的な面でウイグル族の感じる圧迫が増していることだ。

 両民族間の緊張は4年前、ウルムチで200人近い死者を出す激しい衝突に発展した。最近の衝突も民族的な緊張が背景にあるとみられるが、それさえ公式情報では伝わってこない。

 内モンゴル自治区の状況も心配だ。15年の刑期を満了して2010年に出獄した人権活動家のハダ氏とその家族が、出獄の直後から行方不明になっている。

13参院選 きょう投票 日本の「針路」見据えた選択を

 ◆政治と経済を再活性化させよう

 山積する内外の政策課題に取り組むための確かな処方箋と能力を持つ政党はどこか、候補者はだれか。各党・候補者の訴えや実績を吟味し、大切な1票を託す相手を選びたい。

 第23回参院選がきょう、投票日を迎えた。

 世界とアジアの情勢が激動する中で、日本の誤りなき針路を見つけなければならない。

 ◆ねじれの解消が焦点だ

 民間活力を引き出し、景気を安定した回復軌道に乗せる。人口減社会を乗り切れる社会保障制度を再設計する。国益を追求する外交戦略を練り、実行に移す。

 そのためには、日本政治を再活性化させることが欠かせない。

 参院選は、自民、公明両党が衆参ねじれ状況を解消できるかどうかが最大の焦点である。

 ねじれ国会では、野党の協力なしでは、重要法案を成立させることが難しい。与党がねじれ解消を最優先するのは理解できる。

 民主党は「ねじれの解消は与党の暴走につながる」と主張した。確かに、2010年参院選で衆参ねじれが生じたことは、当時の民主党政権の暴走に「歯止め」をかけることにつながった。

 今回、ねじれが解消されるとしたら、民主党など野党が参院でかけてきた安倍政権に対する「歯止め」が有権者に評価されなかったことが一因と言えよう。

 民主党は、衆院選、東京都議選と続けて大敗し、参院選は「党存亡をかけた戦い」となる。だが、依然として、政権担当時の失政による逆風を受けている。

 第3極の日本維新の会、みんなの党や、共産、社民両党などを含む、各党の参院選での消長は、国会での野党連携のあり方や、将来の政界再編にも影響しよう。

 投票の判断材料とすべきは、まず安倍政権の実績への評価だ。

 ◆責任ある原発政策は

 経済政策「アベノミクス」による金融緩和や財政出動の結果、円高是正、株価上昇に加え、企業の景況感も改善してきた。

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加も決断した。出遅れをどう挽回するかは、今後の政府の交渉力にかかっている。

 民主党は、物価上昇などアベノミクスの「副作用」批判を強めた。維新の会やみんなの党は、アベノミクスを支持しつつ、より大胆な規制緩和の必要性を強調した。

 野党の主張にも一理あるが、具体策に関する経済論戦が深まらなかったのは残念である。

 それは経済政策に限らない。

 民主党の非現実的な09年政権公約(マニフェスト)の失敗を踏まえ、各党が公約に数値目標や財源の明示を避けたことが論争を物足りなくした面がある。

 公約自体が重視されなくなっている。自公両党が連立政権の共通公約を見送ったのは象徴的だ。

 エネルギー政策でも、空疎な脱原発論が横行した。

 自民党だけは、安全が確認された原発の再稼働について、関係自治体の理解を得るよう政府が「最大限努力する」と踏み込んだ。

 民主党と維新の会は「2030年代」の原発稼働ゼロを掲げた。共産、生活、社民の各党は再稼働を一切認めないという。

 脱原発を唱えるなら、代替エネルギーの確保策や火力発電の燃料コスト大幅増の問題と合わせて論じなければ、無責任だろう。

 外交面で安倍政権は、米軍普天間飛行場の辺野古移設の手続きを進め、日米関係を立て直した。一方、中国、韓国と首脳会談が開けず、野党の批判を受けている。

 日本の安全保障環境が厳しくなる中で、どの党の主張が適切なのか、しっかりと見極めたい。

 ◆憲法改正も判断材料に

 憲法改正も論点となった。改正の発議要件の緩和や、自衛隊の存在の明記、環境権など新たな権利の追加、道州制の導入といった統治機構の見直しなどである。

 集団的自衛権の憲法解釈の見直しと合わせて、参院選後に重要な政治課題となるのは確実だ。

 各党がどんな「新しい国のかたち」を描いているかを比較することも、投票の参考になろう。

 今回、インターネットを利用した選挙運動が解禁された。政党・候補者の情報発信手段が増え、若者などの関心を高めるうえで一定の効果があったのではないか。

 過去5回の参院選の投票率は、50%台後半にとどまっている。

 政党や政治家を批判するだけでは政治は変わらない。投票所に足を運び、自らの選挙権を行使する。それが有権者の責任である。

2013年7月20日土曜日

世界ランキングが映す日本企業の現実

 景気が上向き、株価も堅調だが、企業経営者は浮かれている場合ではない。世界における日本企業の存在感は今もじわじわと低下している。

 それを端的に示したのが、最近発表された、売上高順に世界の企業を番付する米フォーチュン誌のグローバル500社ランキングである。2000年には100社を超える日本企業が名を連ねたが、年を追うごとに数が減り、去年の68社から今年は62社になった。

 神戸製鋼所や三菱自動車、日本郵船などが圏外に去ったのだ。

 一方で中国企業は89社が番付入りし、日本との差を広げた。米国は昨年と同じ132社が入り、国別の首位を堅持した。

 企業番付の変遷が映し出すのは、成長速度で世界のライバルに見劣りし、規模の優位性を徐々に失いつつある日本企業の残念な現状である。

 売上高が大きければ優良企業とは限らないが、企業のサイズが大きければ、研究開発やグローバル展開などにも多くのカネや人を投入する余地が広がる。市場シェアの高い企業が、製品の売り込みや原材料の値決めに強い交渉力を発揮するのも当然だ。多くの業種において、「規模の経済」はなお競争優位の源泉である。

 日本企業がいま打つべき手の1つは、産業の再編集約の加速だろう。自動車から電機、食品や化学まで「日本は競合するプレーヤー数が多すぎる」と言われて久しいが、再編は停滞気味だった。

 川崎重工業と三井造船の統合交渉が頓挫したように、景気が上向くと、再編機運が後退することも多い。だが、経営者はグローバル競争の厳しい現実を見据えて、勇気ある決断をすべきである。

 参考にすべきは、新日本製鉄と住友金属工業の合併で昨年秋に発足した新日鉄住金ではないか。同社の株式時価総額は韓国ポスコなどを上回り、鉄鋼業界の世界首位を奪還した。

 統合を機に、生産や物流の効率化が進み、コスト競争力が高まった。今後は海外の成長市場への拠点展開を急ぐという。

 再編の成功のコツは、互いの企業が余裕のあるうちに統合することだ。以前の半導体再編のように、各社が単独では立ちゆかなくなる直前まで追い詰められ、ようやく重い腰を上げるようでは手遅れになりかねない。景気が回復しつつある今が再編の好機である。

投票できる喜びをかみしめて

 あすは参院選の投票日だ。衆参両院で多数派が異なるねじれ国会に終止符が打たれるのか。それを決めるのは有権者の判断だ。日本のかじ取りを担う責任をよく自覚して1票を投じたい。

 今回の選挙戦は盛り上がったとは言い難い。昨年暮れの衆院選で政権が交代したばかり。安倍政権の業績評価をするにはやや時期尚早だし、どうしても選挙に行きたいと思わせる材料に乏しかったのは否めない。

 その衆院選の投票率は前回比9.96ポイント下がって過去最低の59.32%だった。今年6月の都議選も前回比10.99ポイント下がって史上2番目に低い43.50%にとどまった。

 参院選の投票率も前回選(57.92%)より大きく下がるとの見方が多い。過去最低だった1995年の44.52%を下回ると懸念する向きもある。

 ここ数年の国政の混乱をみて、政治への期待を失った。少子高齢化が進み、声が反映されにくい若年層は無力感に陥りがちだ。いろいろな理由が指摘される。

 だからといって、傍観していて政治がよくなるはずはない。最善の選択がなければ、すこしでも良い方を選ぶのだって立派な選択だ。ネット選挙の解禁で、候補者や政党の比較はしやすくなった。

 参院選が終わると、向こう3年間は国政選挙がない可能性が高い。流動的な国際情勢を含め、先々をよく見通して1票を投じておかなければ、のちのち「こんなはずではなかった」とほぞをかむことになりかねない。

 今年の通常国会で法改正がなされ、成年後見人がいる知的障害者も投票ができるようになった。選挙権を巡る一連の訴訟は投票日を前に相次ぎ和解に至った。19年ぶりに選挙権を回復した京都の男性は「参院選には胸を張って投票に行きたい」と喜びを語った。

 憲法で全成人に参政権が認められて66年がたった。選挙に行けることのありがたみを忘れがちだ。1票を取り戻して涙する姿に背中を押される気がする。

参院選あす投票―迷っている人たちへ

 参院選の投票日があすに迫った。それなのに、まだだれに投票するか決まらない。そんな人は少なくないだろう。

 朝日新聞社が16、17日に実施した参院選の情勢調査によると、まだ投票態度を明らかにしない人が選挙区で5割、比例区で4割にのぼった。

 投票所へ行くかどうかを迷っている人もいる。

 朝日新聞デジタルの特集「♯投票する?」には、数百件の声が寄せられている。

 「投票しない」という人たちの、こんな書き込みがある。

 「政治には非常に関心があるが、この人、この政党に託して良かったと思ったことはない」

 「少数派(若者)である自分が投票したところで、何も変わらないから」

 「投票を拒否して新しい民主主義の仕組みを模索しよう」

 たしかに、最近の政治の体たらくは目に余る。幻滅する気持ちは分からないではない。

 投票を棄権することで、政治に「ノー」の意思表示をするという考え方もあるだろう。

 だが、そんな人たちはもう一度、考えてみてほしい。

 消費税率の引き上げや社会保障の充実をどう進めるか。この選挙で当選した議員たちが、深く関わることになる。生活と将来に直結する問題を、丸投げしていいのだろうか。

 幸い、この参院選からネット選挙が解禁になり、候補者の情報はふんだんにある。街頭演説を動画で見ることもできる。判断材料には事欠かない。

 選挙は取っつきにくいという人には、新聞社などがインターネット上に開設している「ボートマッチ」がお薦めだ。

 憲法改正、アベノミクス、原発再稼働など政策ごとに簡単な質問に答えるだけで、自分の考えがどの政党や候補者の主張に近いかが分かる。

 重要なのは結果ではない。質問に答える過程で、自分の考えが整理できることだ。興味が出てきたら、改めてそれぞれの主張を読み比べ、候補者を絞り込んでいけばいい。

 選挙期間中、身を入れて論戦を聞いてこなかったという人も慌てる必要はない。

 新聞は、投票日が近づくと各政党や候補者の主張をまとめて掲載する。それに目を通すだけでも判断の助けになる。

 ある政党や候補者の政策が自分の考えと百%一致することはまずない。そんなときは、最も関心のあるテーマに絞って投票してもいい。

 まだ1日ある。ここはじっくり考えたい。

参院選あす投票―自由を守る不断の努力

 ここまでの参院選の様子を振り返り、思いをはせることがある。自由について、である。

 公示日に、安倍首相が第一声を上げた福島駅前の街頭で、こんなことが起きた。

 「総理、質問です。原発廃炉に賛成? 反対?」

 そう記したボードを抱えた40歳の女性が、「警察の者です」と名乗る男性や、自民党国会議員の秘書ら4人に囲まれた。

 「警察」は、ここは質問の場ではない、ボードを渡してほしいと求め、秘書が受け取った。「警察」は名前や住所、連絡先を問いただした。怖くなった女性は泣き出し、第一声が始まる前にその場を去った。

 駅前という公共の場で、一人きりで騒ぎもせず、A3判の紙のボードを掲げようとする行為に問題があるとは、とうてい思えない。福島を第一声の場に選んだのに、県民の声を隠されるのは首相の望むことだろうか。

 経緯は動画に残り、「警察」の顔も映っている。なのに弁護士たちが警察庁や県警、自民党に抗議しても回答がない。

 原発事故がおきた福島に、再稼働に意欲をみせる首相が乗り込むのだ。警備担当者に、張り詰めた空気があったことは想像に難くない。

 ささくれだった気分が漂うこの時代、福島に限らず、街頭での活動は緊張感を増しているように思える。

 実際、東京・吉祥寺では、聴衆と握手しようとした民主党候補が、「うるさい」と叫ぶ女性に殴られる事件が起きた。

 公示前にはこんな光景もみかけた。東京・新橋での民主党の街頭演説で聴衆が大声を上げ、在日韓国・朝鮮人を取り締まれと警察官に迫った。警察官はこんなふうに諭した。

 「ご意見はあると思います。でも、民主主義で大切なのは、いろんな意見に耳を傾けることではないでしょうか。ここは静かに聞きましょう」

 政治家は、どんなに批判的な内容であっても、市民の声に耳を傾ける。市民も政治家の発言を聴く。その環境をなんとか保たないと、民主主義の健全さや活力は失われる。多様な意見が交わる空間をどうつくるか。

 憲法12条には、こうある。

 自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。

 政治も、警察も、市民も、いっそうの不断の努力を求められている。

 それを怠ったすえ、深刻な事件が起こり、自由への規制が強まるような事態は、絶対に避けなければならない。

13参院選 あす投票 参院の意義と役割も考えたい

 第23回参院選は、あす21日に投開票される。

 参院には本来「良識の府」として、衆院に対する抑制や補完の役割が期待されている。

 だが、近年、とくに衆参ねじれ国会の下で、与野党が激しく対立し、参院は政治を停滞、混乱させる「政局の府」と化してきた。

 選挙戦で、参院の在り方についての議論がほとんど聞かれないのはどうしたことか。仮に、自公両党が参院で過半数を制し、ねじれを解消できたとしても、衆院とほぼ対等の権限を持つ「強すぎる参院」の問題は残る。

 民主党の輿石参院議員会長はNHKの討論番組で、ねじれについて「決められない政治の元凶というが、(それにより)かろうじて政治に緊張感が保てているのも事実だ」と、“効用”を説いた。

 しかし、2008年の通常国会で輿石氏が主導して日銀総裁人事を葬ったような政争まで「緊張感」と言えるのだろうか。

 先の国会でも混乱が生じた。衆院の小選挙区を「0増5減」する区割り法は衆院通過後、参院で60日以上、審議されなかった。憲法の規定で否決とみなされ、衆院の再可決により成立した。

 参院の存在意義を自ら否定する「自殺行為」にほかならない。

 加えて、参院野党は首相問責決議を可決し、審議を拒否した。与野党で成立に合意していた法案さえ廃案になった。

 自民党も、野党時代は問責決議を乱発した。参院の権威を貶(おとし)めた点では、同罪である。

 参院の在り方を見直す必要がある。衆院と似通っている参院の選挙制度を抜本的に改革することが一つのきっかけになろう。

 「1票の格差」の緊急是正のために、選挙区定数を「4増4減」した改正公職選挙法は、16年の参院選までに抜本改革の結論を得ると明記している。

 衆院の選挙制度改革を進めようと、首相は有識者による第三者機関を設置することを提案した。参院でも、制度改革を検討すべきだ。ねじれが生まれにくい選挙制度にする視点が欠かせない。

 参院改革は古くて新しいテーマだ。政党の影響力を弱めるため党議拘束を外すといった処方箋は出そろっている。参院の首相指名権を廃止し、憲法の定める衆院の優越規定を拡大するなど、憲法改正に踏み込む議論も必要だろう。

 参院選後は、与野党が参院改革の協議につくことを求めたい。

エジプト情勢 民政復帰への道のりは険しい

 軍による事実上のクーデターによってモルシ前大統領が解任されたエジプトで、マンスール暫定大統領をトップとする暫定政府が発足した。

 実体は軍主導の政府だ。シシ国防相は留任し、第1副首相を兼任する。閣僚には、経済専門家が多数起用された。経済悪化への国民の不満に配慮し、経済重視をアピールする布陣である。

 エルバラダイ前国際原子力機関(IAEA)事務局長ら世俗派の代表も政府の中枢に入った。

 だが、モルシ氏の支持基盤のイスラム主義組織・ムスリム同胞団は暫定政府への参加を拒んだ。

 イスラム主義勢力が政府に参加していない以上、政情が安定することはとても望めない。

 軍は、選挙で選ばれたモルシ氏を拘束した。超法規的措置だ。ムスリム同胞団はモルシ氏復職を求め、街頭で抗議行動を続けている。治安部隊との衝突などで流血の惨事が今後も起きる恐れがある。

 暫定大統領が民政復帰への政治日程を発表したのも、民心の安定を図る狙いがあるのだろう。

 10月までに、法律専門家や各界代表から成る委員会が憲法改正案をまとめ、11月までに国民投票にかける。来年1月までに議会選を実施し、議会招集後に大統領選の手続きを開始する。

 想定通り進むか、どうか。前途は相当に険しい。

 イスラム主義勢力を排除すれば、こうしたプロセスも正当性を欠く。早期に暫定政府とムスリム同胞団は話し合いのテーブルにつくべきだ。モルシ氏の解放が、その前提であるのは当然だ。

 暫定政府は、治安回復や民政復帰だけでなく、経済危機の克服にも取り組まねばならない。とくに、観光客や外国からの投資を呼び戻すことが肝要だ。

 ムスリム同胞団の勢力が自国内で伸長することを警戒するサウジアラビアなど、ペルシャ湾岸の君主国は、暫定政府に巨額の経済支援を約束した。

 こうした支援をテコに、暫定政府は外貨準備不足の解消や経済の本格回復に努めねばならない。

 エジプトの混乱が長引けば、中東全体が不安定となるのは避けられない。原油価格の高騰などで世界経済にも悪影響が及ぼう。

 日本や米欧が、軍事クーデターが起きたにもかかわらず、経済援助を停止していないのも、エジプトの安定を優先するためだ。日米欧は連携して、国民和解と民政復帰の早期実現を、軍や暫定政府に働きかける必要がある。

2013年7月19日金曜日

抽象論だけでは外交力は強まらない

 日本を取りまく安全保障の環境は厳しさを増している。尖閣諸島では中国の揺さぶりが続き、北朝鮮の核開発も止まる兆しはない。

 日本は自国の安定をどう保ち、アジア太平洋の発展にどう貢献していくのか。参院選ではその具体策が問われるべきだが、各党の主張は抽象論にとどまっており、物足りない。

 自民党、民主党、日本維新の会、公明党、みんなの党などはいずれも、日米同盟を外交や安全保障政策の基軸にすえている。それはいいが、問題は具体策である。

 自民党は同盟を強める方策のひとつとして、集団的自衛権の行使に意欲をみせている。集団的自衛権とは、日本の同盟国などが攻撃されたとき、日本が直接攻撃されていなくても反撃できる権利だ。

 日本はその権利があるが、憲法解釈上、行使できないという立場をとっている。この解釈を見直そうというわけだ。維新も公約で同じ路線をかかげた。日米が緊密に協力し、周辺の危機に対応するうえで、理にかなった主張だ。

 一方で、公明党は自民党と一線を画している。公約ではふれていないが、山口那津男代表は、集団的自衛権行使に向けた憲法解釈の見直しに、反対を唱えている。

 自民、公明両党は与党として、隔たりをどう埋めるのか。日米同盟のかじ取りにかかわる重要政策にもかかわらず、放置されているとすれば問題だ。国政の根幹である憲法改正も同様だ。

 自民党は党憲法改正草案で9条改正を提起、「国防軍」の設置をうたった。憲法改正の発議要件を緩和するため、96条も見直す方針を打ち出した。これに対し、公明党は改憲ではなく、環境権などを憲法に盛り込む「加憲」を訴えている。このズレをどう調整するのか、ていねいな説明が必要だ。

 外交政策では、領土や歴史問題で対立が続いている中国や韓国との関係打開も大きな焦点だ。ところが、自民党の公約では「中国、韓国との関係の発展」と書かれているだけで、具体策はない。

 他の政党も似たり寄ったりだ。民主党は日中韓自由貿易協定(FTA)を公約に明記したが、交渉をどう加速させるのかにはふれていない。いちばん知りたいのはその点だ。抽象論を戦わせても、日本の外交力は強まらない。各党は具体策を競い合ってほしい。

新興市場でもっと存在感を

 大衆車として人気を博した日産自動車のブランド「ダットサン」が約30年ぶりに復活する。

 来年初頭にインドで発売する小型車は、日本円で66万円以下という低価格が特徴だ。インドに続いてロシアや南アフリカにも展開し、新興市場開拓のための戦略ブランドに育てる。車購入という夢の実現にもう少しで手が届く中間層のニーズに応えたいという。

 日産の試みが注目されるのは、先進国向けに設計・開発した商品の機能を落とし値段を下げて新興市場に持っていく、という日本企業によくある事業モデルとは明確に一線を画しているからだ。

 ダットサン車の開発はインドなどの現地スタッフが主導し、実際に乗る人の要望を最大限盛り込む。部材もほぼ全量を現地調達し、思い切った低価格を実現する。あえて別のブランドを名乗るのも、従来の日産車との違いを強調するためだ。

 総じていえば、日本企業や日本製品は米国などの先進国では比較的強いが、新興市場では浸透不足が目立つ。今年の通商白書は日本と韓国の輸出構成を比較し、韓国は輸出額の60%が新興国向けなのに対して、日本はその比率が49%にとどまると指摘した。

 今の世界経済を見渡すと、日米など先進国が堅調な一方で、中国やインド経済は停滞気味だ。だが、長期の成長という視点からすれば、アフリカや中南米を含めた新興市場の重要性は高まりこそすれ低下することはない。

 新たな市場で基盤を固めるには、現地の社会に飛び込み、どんなニーズがあるのか見極めるのが出発点だ。意思決定のスピード感も重要であり、日本からこまごまと口をはさむようでは、成功は望めない。現地の優秀な人材が活躍できる環境を整える必要もある。

 近年は小売りなどの第3次産業や中堅・中小企業でもアジアなどに進出する例が増えている。新興市場の開拓に乗り出す日本企業の顔ぶれや業種の幅が一段と広がることも期待したい。

TPP交渉―守りの国益論を超えて

 環太平洋経済連携協定(TPP)の18回目の交渉が、マレーシアで行われている。今回が初参加となる日本は、米国による承認手続きを待って、会合の終盤に加わる予定だ。

 TPPをめぐっては常に「国益」が叫ばれてきた。反対派は「国益を損なう」と主張し、賛成派も「国益はしっかり守る」と強調する。

 そうした国益論の大半は、高い関税で守ってきたコメをはじめとする農産品の保護問題に集中し、「守り」の議論ばかりが目立つ。

 だが、TPPの交渉分野は関税の削減・撤廃にとどまらず、金融や通信といったサービス取引、投資の促進と保護、競争政策、知的財産権など幅広い。

 「総合的に消費者の利益につながるか」という視点を基本に、ルールづくりにかかわる。分野ごとの利害得失を分析し、マイナスの影響が予想される場合は、必要な対策を検討していく。政府はこうした姿勢を貫かなければならない。

 心配なのは、政府を支え、監視する役回りの国会が、守りの国益論に縛られているように見えることだ。

 衆参両院の農林水産委員会は今春、TPP交渉について決議をした。コメ、麦、牛肉・豚肉など5品目を挙げ、「聖域の確保を最優先し」「10年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」などを政府に求めている。

 決議の中心となったのは、自民、公明、民主の3党だ。3党の参院選での公約も、基本姿勢は国会決議の線で共通する。

 通商交渉は、攻めと守り、押したり引いたりの積み重ねだ。利害が一致する国、対立する国がテーマごとに異なる展開も珍しくない。

 特定の分野で、業界保護を優先するかのような方針に固執すれば、交渉過程で孤立したり、他の分野で思わぬ譲歩を迫られたりしかねない。

 世界貿易機関(WTO)での多国間交渉が暗礁に乗り上げた後、世界の通商交渉は二国間・地域間に軸足を移した。米欧や日欧、東アジア全体、日中韓など多様な枠組みで交渉が進む。

 これらはTPPに触発された面が少なくない。中国も関心を強め、習近平(シーチンピン)国家主席がオバマ米大統領にTPPの継続的な情報提供を求めた。世界の変化はダイナミックだ。

 日本が「聖域」にばかりとらわれていては、さまざまな経済交渉で端役に追いやられてしまう。自ら交渉を引っ張るという主体性を忘れてはならない。

日本原電―廃炉の先に活路を探れ

 日本原子力発電が、保有している三つの原発すべての再稼働をめざす方針を表明した。

 敦賀1号機はとっくに老朽化している。2号機はその真下に活断層があると原子力規制委員会が断定した。東海第二も周辺人口が増え、避難が難しい。

 現実的に考えれば、どれも廃炉は必至というほかない。なのに日本原電は、その道に絶対に進むまいと踏んばっている。

 福島の事故で原発をめぐる社会のルールは一変した。日本原電がその現実を直視し、廃炉を選べるように、経済産業省と、日本原電に出資する電力業界は早急に道筋を描くべきだ。

 日本原電は、敦賀2号機をめぐり、そこに活断層はないとする独自の調査報告書を規制委に出した。活断層を前提にした安全性評価の命令も不服として、異議を申し立てている。

 なんとか延命をはかろうとする背景には苦しい事情がある。

 三つの原発は会計上、価値を生む資産として計上されている。会計基準の原則では、経営陣が廃炉を決めればすぐに減損処理をしなければならない。

 40年間で積み立てるはずの廃炉費用の不足分も、一括計上が必要になる。すべての廃炉を決めると損失は約2600億円。純資産の約1600億円を大きく超え、債務超過になる。

 4月に借金1千億円を借り換えたときは電力業界の保証で乗りきった。勝手に廃炉・債務超過になれば、各電力会社に迷惑をかけることになる。

 だが、だからといって、廃炉に抵抗して時間をかせいでも、社内の士気は保てまい。そうした企業に停止中とはいえ原発をまかせておくことは危うい。

 原発が動かなくても、日本原電から電力を買っていた電力5社は今年度1200億円の「基本料金」を払う。それは結局、電力料金に回る。このままでは消費者も困るのだ。

 ただ、突然のルール変更で、日本原電が自力では担えない重荷を負ったことも確かだ。原発の新規制基準の導入で、ほかにも廃炉を迫られる原発が出るのだから、国と電力業界は廃炉をスムーズに進める仕組みづくりを急がねばならない。

 経産省は、廃炉時の損失を長期に分割できる新しい決算処理の導入を検討している。それに加えて、原発推進は国策だった以上、廃炉にかかる損失処理には国費の投入も視野に入れざるをえないだろう。

 そうした議論と並行して、日本原電は廃炉事業の開拓などに活路を探るような方向転換を、電力業界と話しあうべきだ。

13参院選 対中国外交 歴史的事実を浸透させたい

 尖閣諸島を巡って威圧的行動を繰り返す隣国・中国に、どう向き合うかは、日本外交が直面する最大の難題だ。

 ほとんどの主要政党が参院選公約で、尖閣諸島を念頭に「領土主権を守る」と掲げた。ただ、各党とも、主権をどう守るか、という具体策には乏しい。

 中国政府は、日本が昨年9月に尖閣諸島を国有化したことが、長年「棚上げ」してきた問題の現状を変更したと非難している。

 だが、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土だ。「棚上げ」すべき領土問題ではない。そもそも、「棚上げ」と言いながら現状変更を図ったのは、1992年制定の領海法に尖閣諸島の領有を明記した中国の方だ。

 最近も、中国が東シナ海の日中中間線付近で、新たなガス田開発を多数進めようとしていることが判明した。東シナ海での一方的な独自開発を見合わせる、とした2008年の日中合意に明らかに反する動きである。

 安倍首相が身勝手な行為を続ける中国を批判するのは当然だ。

 とは言え、日中関係がこのままでは、双方にとってマイナスが大きい。関係改善へ向けた粘り強い外交努力も欠かせない。

 政権党として尖閣諸島を国有化した民主党は公約で「東シナ海を平和、友好、協力の海に」とひとごとのようにうたうだけだ。

 公明党やみんなの党は、実務者による緊急時の「海上連絡メカニズム」の創設を唱えている。偶発的な衝突事故や紛争を回避するため、実現を急がねばならない。

 共産党や社民党は、尖閣諸島を日中双方の領土問題として扱うよう主張している。国益に反するのではないか。仮に日本が認めれば、中国は日中共同管理など、要求を一層強めてくるに違いない。

 尖閣諸島の問題で見過ごせないのは、中国が歴史認識を絡めてきていることだ。習近平政権は「戦後秩序に対する重大な挑戦だ」などと日本を批判している。

 秩序を乱すのはどちらか。国際法に基づく対処が必要だ。

 自民党は、領土や歴史問題に関する研究機関を新設し、歴史的事実に反する不当な主張に反論、反証すると強調している。日本維新の会も、こうした方法で日本の尊厳を守るべきだと訴えている。

 歴史的事実を国際社会に正しく浸透させるには、どんな方法が効果的なのか。与野党は知恵を出し合うべきである。

性犯罪の起訴状 被害者匿名が必要な時もある

 起訴状に被害者の実名を記載すべきかどうか。裁判所と検察が対立する異例の事態である。

 東京地検が強制わいせつ事件の起訴状に、被害児童の氏名を匿名で記載したことに対し、東京地裁は実名を記すよう求めた。検察側が応じない場合、公訴が棄却されて裁判が行われない恐れもある。

 児童が公園のトイレで、わいせつ行為をされた事件だ。地検は児童の両親の告訴を受け、20歳代の男を起訴した。両親は当初、「氏名を出すなら告訴を取り下げる」と地検に伝えた。逆恨みなどを恐れてのことだろう。

 強制わいせつ罪は親告罪で、告訴がなければ、起訴できない。被害者側の泣き寝入りを防ぐためにも、地検が起訴状の記載を匿名にしたのは、やむを得ない措置だったと言える。

 被告は行きずりで児童を対象にした。元々、児童の氏名を知らない。訴追手続きでわざわざ教えることになるのは、被害者保護の観点からも問題があろう。

 一方、地裁が疑義を呈したのは、刑事裁判の実名主義が揺らぐことへの懸念からだ。刑事訴訟法に明文規定はないものの、犯行日時などのほか、被害者の実名を起訴状に記すのが原則とされてきた。

 被害者の氏名は犯罪事実の確定に欠かせない要素であり、それが特定されていなければ、被告側が反論する際に支障をきたすという考え方が背景にある。

 実際、痴漢事件などでは、被告の弁護人が“被害者”の周辺調査などで反証を集め、被告の無罪を立証した例が複数ある。

 性犯罪を理由に、むやみに匿名記載を一般化すべきではない。

 今回の事件では、被告側も事実関係について争う姿勢を見せていない。児童の氏名が明記されていなくても、公判に問題は生じないのではないか。実名記載を求めた東京地裁の対応は、杓子(しゃくし)定規に過ぎると言えよう。

 司法手続きで被害者保護の必要性が指摘されたのは昨秋、神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件だ。警察が逮捕状に記された被害者の住所を読み上げたため、加害者に転居先を知られ、釈放後の惨劇につながったとされる。

 神戸地裁姫路支部の裁判では、起訴状の被害者名をカタカナで表記したケースがある。司法の現場で試行錯誤が続いている。

 最高裁の司法研修所は近く、匿名問題に関する事例を集め、検証を行う。その結果を各裁判官の判断に役立てることが肝要だ。

2013年7月18日木曜日

自由化に勝つ農業改革の意志と具体策を

 各党の農業政策を判断する上で欠かせない視点が2つある。一つは農業で自由な競争を縛ってきた規制を変える改革の意志があるかどうか。もう一つは強い農業をどう築くのか。説得力があり、希望がわくようなアイデアの有無である。

 自由貿易の潮流は、逃げることができない世界の現実だ。環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめ、どの通商交渉でも、いずれは農産物の市場開放が避けて通れない。高い関税に頼って国内を守るこれまでの農政は、既に限界に来ている。

 競争力がある農家の育成に全力をあげるべきだ。その上で力が足りなければ、関税以外の方法で生産者を支援する。こうした改革の具体案で各党は競ってほしい。

 自民党は農家所得を10年で倍増するという大胆な目標を掲げた。総裁の安倍晋三首相の発言は「農業を魅力ある産業に変える」と力強い。だが肝心の実現への道筋は曖昧だ。食品加工や流通を合わせて農業全体で付加価値を高め、輸出も増やすというが、具体論を欠けば絵に描いた餅にすぎない。

 同党は全国一律で実施するコメの生産調整(減反)の見直しには触れていない。コスト低減に必要な農地集約については賃借を基本とし、企業による農地所有に消極的だ。本気で改革にカジを切る意志は伝わってこない。

 自民・公明両党が強化を目指す農家への直接支払制度は、コメだけでなく野菜や果実を含めた農地全般を対象にする。関税で国内価格を高止まりさせるのではなく、農家の所得を財政で補う考え方は正しいが、横並び保護に陥る恐れもある。バラマキ色が強かった民主党の戸別所得補償制度よりも改革が後退するのでは困る。

 みんなの党と日本維新の会は、自公、民主より自由競争を重視する立場だ。TPPを推進しつつ企業の農業参入を促し、減反政策と農協制度を抜本的に見直すとしている。ただ、どちらも競争力の強化策を明確に示せてはいない。

 日本の農業は危機的な状況にある。高齢化が進み、後継者不足が深刻だ。自由化に耐える力をつけなければ、国内生産は崩壊してしまう。政治が考えるべきは目の前の農村票ではなく、明日の農業の姿であるはずだ。各党は農業問題の核心を避けず、正面から向き合って議論を深めてもらいたい。

情報通信産業の国際化急げ

 総務省は最新の情報通信白書で日本経済の成長を促すにはICT(情報通信技術)の活用と海外市場への積極的な事業展開が必要だと指摘した。日本の情報通信産業は外国勢に押されており、国際戦略を問い直す時に来ている。

 白書によると、情報通信産業の名目国内生産額は2011年で約83兆円。自動車産業を上回る規模だが、最近は米アップルなど外国企業が国内でもシェアを伸ばしている。日本企業は独自の国内仕様にこだわり、世界の技術革新に乗り遅れたと分析している。

 一方、インターネット経由で様々なソフトを使えるクラウド技術の普及で、通信機器や携帯端末、データセンターなどの需要が拡大している。こうした分野の日本企業の国内売上高は約23兆円だが、海外展開を進めれば、約3兆円の海外売上高を17.5兆円まで拡大できると白書は試算した。

 その意味ではソフトバンクによる米携帯電話大手の買収は時宜にかなった決断だ。NTTグループも南アフリカや欧米のシステム会社を買収しており、「海外事業を今後さらに強化する」(鵜浦博夫社長)戦略は評価できよう。

 問題は国内メーカーの海外戦略だ。日本では携帯電話会社がメーカーを囲い込んできたが、スマートフォンの登場により端末のグローバル化が進んだ。NTTドコモも結局、販売奨励金を一部の人気商品に集中し、下位メーカーの淘汰が始まりつつある。

 国内の情報通信市場は08年から減少傾向にあり、事業を拡大するには海外を狙うしかない。そこで外国企業との競争に勝つには、メーカー間の合従連衡を促す一方、成長市場の需要に見合った製品やサービスを開発すべきだ。

 日本企業の国際化が遅れた原因は総務省にもある。国内中心の通信行政に加え、携帯放送分野では日本独自の規格を推進し、海外展開の足かせにもなった。今回の白書の指摘を、日本の情報通信分野の製品、サービス、政策のすべてを見直すきっかけにしてほしい。

13参院選 規制改革 成長促す緩和策を見極めよう

 新しい産業を育て、経済を成長軌道に乗せるには、過剰な規制を取り払う必要がある。

 現実的で実効性ある規制改革を掲げる政党を、しっかりと見極めたい。

 安倍政権は、規制改革を成長戦略の「一丁目一番地」に位置付けて参院選に臨んだ。

 重要な論点の一つは、雇用に関する規制の見直しである。

 多くの企業が不採算部門に余剰人員を抱えている。それが企業業績を圧迫し、経済の停滞を招いている一因との指摘は多い。

 その対策として、政府は、職務や勤務地、労働時間を限定する代わりに、解雇の規制を緩める「限定正社員」を制度化することを検討中だ。首相もこの制度導入に意欲を示している。

 企業にとっては、役割を終えた事業所の閉鎖や職種廃止がしやすくなる。労働者側は、雇用不安はぬぐえないものの、非正規社員に比べると雇用は安定するというメリットもある。

 雇用については、自民党はじめ日本維新の会、みんなの党が、衰退産業から生産性の高い分野に労働力を移動させることを公約に掲げている。公明党は短時間正社員の拡充を打ち出した。雇用形態の多様化では共通する立場だ。

 民主党は、限定正社員など労働規制緩和に反対している。生活、共産、社民の各党も同様だ。

 賃金の低い非正規雇用が増えるばかりでは、所得は下がり、持続的な成長にもつながらない。

 雇用を守りつつ、いかにして円滑な労働力移動を実現するか。職業訓練などの再就職・転職支援のあり方についても、各党の主張を聞きたい。

 医療分野の規制緩和を巡っては、公的医療保険で認められた検査や投薬と、保険適用外の治療とを併用する「混合診療」が主要な論点となっている。現在は例外的にしか認められていない。

 自民党は、最先端の医薬品や医療機器が迅速に使えるよう、混合診療の適用範囲の拡大を掲げた。再生医療など保険適用外の先進的医療が混合診療に認められれば、患者の利益にかなうだろう。

 一方、みんな、維新は混合診療の全面解禁を主張し、生活や社民は適用拡大に反対している。

 規制改革には関係団体の利害が絡み合う。各党の主張の隔たりは大きく、論議は拡散気味だが、日本の将来にかかわる重要な問題が提示されている。

東大秋入学構想 問題提起は時期尚早だったか

 東京大学が、海外で主流となっている秋入学への移行を当面、見送ることになった。

 当初の構想から大幅に後退した。ただ、秋入学実現に向けた議論は、今後も続けるべきだろう。

 従来の春入学・春卒業を前提にした国家試験などの日程が変わる見通しが立たない。春に合格してから秋に入学するまでの期間(ギャップターム)の活用法や、保護者の負担などについても、議論が深まらなかった。

 東大の浜田純一学長は「社会の環境が整わない中で、入学時期だけを変えるのは無謀だと考えた」と、見送りの理由を語った。

 他大学に同調する動きが広がらなかった。東大内部にさえ時期尚早との慎重論が少なくない。こうしたことも影響したようだ。

 東大が秋入学構想を打ち出した背景には、現状のままでは、厳しさを増す国際的な大学間競争に取り残されてしまうという強い危機感があった。

 東大は欧米の主要大学に比べて、留学生や外国人教員の受け入れ比率が低い。入学時期を国際標準に合わせることで、海外から優秀な人材を呼び込み、大学の研究水準を高めるのが狙いだった。

 グローバル化の進展に伴って、豊かな語学力と交渉力を備え、国際舞台で活躍できる人材が様々な分野で求められている。

 日本人学生の海外留学を促す秋入学は、その要請に応える可能性を秘めていると言えよう。

 だからこそ、経済界からは支持する意見が相次ぎ、政府が公表した成長戦略には、秋入学に向けた環境整備が盛り込まれた。自民党は参院選の公約で、「大学の秋季入学の促進」を掲げている。

 せっかく生まれた機運を無にするべきではない。

 秋入学の代わりに東大は、2015年度末までに4学期制を導入する。授業の区切りを年4回に増やすことで、学期終了後の短期留学をしやすくするという。

 実現可能性の高い方策を選択したのだろう。だが、4学期制では入学前の学生に多様な経験を積ませるギャップタームの時間がとれないといった問題がある。

 産官学が連携し、秋入学の課題を探っていくことが大切だ。学生の留学経験を生かせるよう、官公庁や企業が、通年採用の導入を進める必要もある。

 大学もカリキュラムの改善や英語による授業の充実を図るなど、国際人の養成につながる教育を実践することが欠かせない。

2013年7月17日水曜日

参院の意義―「ねじれ」は問題か

 参議院とは、いったい何のためにあるのだろう?

 参院選の街頭演説を聞きながら、こんなことを考えた。

 というのも、最近の参院はマイナスイメージで語られることが多いからだ。

 安倍首相や自民党の候補者らは、衆参で多数派が異なる「ねじれ」が生じたことで日本の国力が失われたとして「ねじれに終止符を打たねばならない」と力を込めている。

 先の国会の最終日、民主党など野党が参院で首相問責決議を可決し、あおりで重要法案が廃案になった。これに限らず、07年以降、断続的に起きたねじれが、時の政権運営を不安定にしてきたのは事実だ。

 だが、衆院とは違う角度から政権の行き過ぎに歯止めをかけたり、再考を促したりするのが、そもそも参院の大きな役割のはずだ。その意味では、ねじれ自体が悪いわけではない。

 問題は、参院で多数を占める野党がもっぱら政権を揺さぶるためにねじれの力を乱用してきた点にこそある。野党時代の自民党もその愚を犯したことを、首相はよもや忘れてはいまい。

 では、参院を「政局の府」にしないためには、どうすればいいのか。参院自身がこんな案を出している。

 衆院と異なる機能を確保するため、脱政党化した選挙制度を確立する。政権から距離を置くため、参院から閣僚を出すのは自粛してはどうか。両院の議決が一致しない時の両院協議会の使い方を工夫する――。

 いずれも、もっともな内容である。早く実現させればよいと思うのだが、与野党が動く気配はない。

 これらの案は、8年も前に参院憲法調査会がまとめた報告にある。先の国会の参院憲法審査会でも、多くの党の議員が同じような意見を繰り返した。

 要は、処方箋(せん)は分かっているのに、だれも実行に移そうとしない。それが問題なのだ。

 選挙制度もそうだ。昨秋の最高裁の違憲状態の判断は改革の好機だったのに、「4増4減」でお茶を濁した。一事が万事と思わざるを得ない。

 解散のない参院議員には、6年の任期が保証されている。それが逆に改革への切迫感を欠く原因になっては本末転倒だ。

 仮に21日の参院選でねじれが解消されれば、首相の政権運営は楽になるだろう。一方で、衆院と同じことをするだけの存在なら「参院不要論」が再び頭をもたげてくるに違いない。

 ここでサボれば、参院議員は自らの首を絞めるだけである。

株式市場統合―優良企業を育てる力を

 大阪・北浜の証券取引所で134年続いてきた現物株の市場が、きのう東京証券取引所に編入された。

 東証の上場企業は3400社を超え、企業数と時価総額で世界3位になった。

 両取引所の経営を統合した日本取引所グループが誕生したのは今年1月。今回の現物株に続き、来春には大阪が力を入れてきた先物などデリバティブ部門を大阪に集約する。

 海外マネーを取り込むにも、海外の証券市場と提携を図るにも、日本の経済力をフルに代表する証券市場でなければ、優位に立てない。高速取引に対応するシステム投資を東阪バラバラでやる余裕もない。統合の背景にはそんな危機感がある。

 企業活動や取引所そのものがグローバル化するなか、日本の証券市場にとっての切り札は、1500兆円に及ぶ個人金融資産だろう。

 この潤沢な国内マネーと企業とをきちんと結びつけ、投機マネーに翻弄(ほんろう)されない土台をつくらなければならない。

 だが、証券業界は手数料を稼ぎやすい投資信託に力を入れ、個々の企業の魅力を発掘する力は低下している。証券会社のアナリストが分析対象としないため、機関投資家のマネーが向かわない企業も多い。

 折しも、年100万円までの投資を優遇する少額投資非課税制度が来年から始まる。じっくり投資したい人たちを呼び込めなければ、市場の持続的な成長にはつながらない。

 かつて国内の取引所が新興企業向け市場の開設を競った際、未熟なまま上場して行き詰まる企業が相次ぎ、投資家の信頼を裏切った苦い教訓もある。

 問題は、証券業界だけではない。銀行など間接金融を含めた産業金融全体が衰弱していないだろうか。

 本来、優良企業の揺りかごとなるべきは地域の銀行など間接金融機関だ。だが、不良債権問題に懲りてリスクを避け、取引先の実力も把握できない。超低金利で融資意欲はなえ、国債運用に流れる。産業インフラの責任を果たせていない。

 企業の育成といえば、新規起業の促進に目が行きがちだが、日本には下請けなどに甘んじながらも実力ある隠れた優良企業が多い。経営者の若返りなどで面目を一新することもある。

 ここを日々の資金繰りなどでつながりのある銀行が支援し、さらなる飛躍を目指す企業が株式上場する。そんな金融機能が再生してこそ、証券市場も活性化していくはずだ。

13参院選 日米同盟 関係強化の具体論を聞きたい

 中国や北朝鮮の軍事的挑発によって、我が国の安全保障環境が悪化する中、日米同盟の重要性は一段と増している。

 自民、民主、日本維新の会、公明、みんなの党など各党は参院選公約で、日米同盟を外交の基軸とし、同盟関係を強化・深化させる方針を打ち出した。

 日米安保条約の廃棄などを唱える共産、社民両党を除き、主要政党が国際社会の現状を見据えて、同盟重視で足並みをそろえた。

 肝心なのは、同盟強化の一般論ではなく、具体論である。

 自民党は公約に、日米防衛協力の指針の見直し、米軍普天間飛行場の辺野古移設、国家安全保障会議(日本版NSC)の設置を明記した。国家安全保障基本法や、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の整備も盛り込んだ。

 いずれも、日米同盟の根幹である自衛隊と米軍の抑止力を高めるうえで、大きな意義を持つ。

 民主党は公約で、NSC設置や在日米軍再編の日米合意の実施には一応言及したが、同盟強化の各論としては物足りない。普天間問題で同盟関係を迷走させたことへの真剣な反省もうかがえない。

 維新の会は、武器輸出3原則の見直しや国家安全保障法制の整備を主張する。現実的な対応だ。

 みんなの党は、「米国との対等な関係」を構築すると主張し、日米地位協定の改定や思いやり予算の見直しを求めている。

 「対等な日米」は大衆受けしやすい表現だが、民主党はかつて政権公約で掲げて、政権獲得後、外交の現実を前に挫折した。その轍を踏もうとするのだろうか。

 焦点の一つは、集団的自衛権の問題だ。自民、維新の会、みんなの各党は「保有するが、行使できない」とする政府の憲法解釈の変更に前向きだ。これに対し、公明党は解釈変更に反対している。

 同盟強化の観点からも集団的自衛権の行使は容認すべきだ。連立政権を組む自公両党が重要な安保政策で食い違うのは問題であり、早急な調整が求められる。

 民主党の細野幹事長は「神学論争はやめた方がいい」と行使を容認する考えを示したが、党の方針は定まっていない。外交・安保政策に関して党内に様々な意見を抱え、統一見解を示せない党の体質が今も続いている。

 安倍首相は、参院選後に有識者会議の提言を踏まえて解釈変更に取り組む考えを示している。各党はもっと議論を深めてほしい。

燃料電池車競争 低価格実現が普及のカギ握る

 二酸化炭素(CO2)を排出せず、次世代エコカーの本命とも言われる「燃料電池車」の開発競争が白熱してきた。

 日米欧の主要メーカーが、いつ量産化による低価格を実現できるか。世界のユーザーが注目する先陣争いだ。

 ホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)が燃料電池車を共同開発することで合意した。基幹システム開発などで技術協力し、2020年ごろの実用化をめざす。

 燃料電池車を独自開発してきた両社にとっては方針転換である。巨額の開発費負担を抑え、開発期間を短縮させる狙いと言える。

 両社に決断を促したのは、燃料電池車の開発を巡るライバル企業の合従連衡の動きだ。

 トヨタ自動車と独BMWが共同開発で合意した。日産自動車も仏ルノー、独ダイムラー、米フォード・モーターとの共同開発を決めた。トヨタ・BMWは20年、日産勢も17年の量産化が目標だ。

 日米欧3陣営以外の企業や、韓国、中国メーカーなども含めて、しのぎを削ることになる。

 燃料電池車は、水素と酸素を反応させて電気を起こし、モーターを回して走行する仕組みだ。電気自動車(EV)と同じく、走行中にCO2を出さない。

 しかも、1回の水素の充填で走れる距離が約500キロ・メートルとEVのほぼ2倍で、充填時間もわずか3分で済むという利点がある。

 約10年前に1台1億円だった価格は大幅に値下がりしたが、まだ約1000万円と高い。トヨタ、ホンダの目標は500万円程度だ。各社の技術革新による価格引き下げが課題になる。安全性の確保も求められよう。

 水素ステーションの整備も急がねばならない。石油など関係業界は、15年までに全国で100か所を整備する計画だが、普及に弾みをつけるには、これでは不十分ではないか。

 政府は、水素ステーション整備に関する規制の見直しを成長戦略に盛り込んだ。政府のさらなる後押しが必要である。

 エコカーを巡っては、トヨタとホンダが先行した、電気モーターとガソリンエンジンで走るハイブリッド車(HV)が普及している。一方、EVは走行距離の短さなどから伸び悩んでいる。

 日本各社は、HVとEVの性能向上を目指すとともに、燃料電池車の開発を急ぎ、エコカーの選択肢を増やしてもらいたい。開発を主導できれば、日本の産業競争力の強化にもつながるだろう。

2013年7月16日火曜日

中国経済―不透明な体質にメスを

 中国の4~6月期の経済統計が発表され、成長の鈍化傾向がはっきりしてきた。

 投資、消費動向、輸出、どれをとっても力が不足ぎみだ。国際通貨基金(IMF)は、中国の今年の経済成長率について8・0%としていた4月時点の見通しを、わずか3カ月で7・8%へと下方修正した。

 7%台という成長率自体、さほど悪いわけではない。世界が中国に注目するのは、金融システムに爆弾を抱えているのではないか、との懸念があるからにほかならない。

 話は08年、リーマン・ショック直後に中国が打った大型景気対策にさかのぼる。当時その規模と素早さを称賛する声が多かったが、内情はお粗末だった。

 中央政府の号令を受けた地方政府は、一斉に公共事業や不動産投資に走った。資金の大半は自力調達が求められたが、銀行の通常の融資には制限が多い。

 そこで、信託会社が高利の金融商品で個人から集めた資金や、国有企業の余裕資金が流れ込んだ。これがシャドーバンキング(影の銀行)と呼ばれる、不透明な融資の膨張である。

 全体像は分からない。政府は関係する金融商品の総額を8・2兆元(約130兆円)とみているが、それをはるかに上回るとする推計もある。それが、誰も入居しないアパートやオフィスビルの建設につぎ込まれた。早晩、不良債権が表面化する。

 景気が減速しているにもかかわらず、李克強(リーコーチアン)首相は新たな景気対策に慎重だ。むしろこの機をとらえて投資を絞り、改革を進める狙いだろう。一時的に混乱はあるにせよ、判断として筋はとおっている。

 ただ、問題の根は深い。非効率な投資が横行する一方、潜在力のある民間企業に資金が回らないという金融構造。成長志向から投資に走りがちな地方政府の体質。こうした病巣に、どこまでメスを入れることができるのか。現政権の力量をはかる試金石となろう。

 中国の現状について、米国を震源に世界を揺るがせたサブプライムローンになぞらえる論調がある。当時は日本を含む各国の金融機関がかかわり、多大な影響を受けた。

 シャドーバンキングは基本的に中国の国内問題であり、事情は異なる。とはいえ、貿易、投資を通じ各国と関係を深めた世界第2の経済大国が変調をきたせば、影響は大きい。

 中国政府には、問題の所在と改革の道筋、解決の見通しについて、世界に説明していく責任がある。

時事問題

注目の投稿

もんじゅ廃炉のコスト監視を

 廃炉が決まっている高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)について、運転主体の日本原子力研究開発機構が計画をまとめ、原子力規制委員会に申請した。  2018年度に核燃料の取り出しを始め、47年度まで30年かけて撤去する。費用は3750億円の見込みで、通常の原子力発電所の廃炉に比...

このブログを検索

Google News - Top Stories

ブログ アーカイブ