2013年9月30日月曜日

規制改革の再起動で既得権打ち破れ

 安倍政権が規制改革会議の活動を再開させた。6月に改革会議が出した初の答申は雇用改革などに前進があったが、医療と農業の岩盤規制には踏みこまなかった。

 アベノミクスの3本の矢のなかで、日本経済を安定成長に導くのに最も効果があるのが第3の矢の成長戦略、とりわけ規制改革だ。

医療・農業に踏みこめ
 改革は既得権益を守りたい勢力とそれを後押しする官庁や族議員との闘いだ。硬い岩盤を砕く力を蓄えられるよう改革会議を支えるのは、首相官邸の責任である。

 改革会議は2014年6月の第2次答申に向けて優先して取り組む案件を決めた。(1)医療分野で保険診療と自由診療の併用を認める混合診療を原則解禁する(2)保育・介護分野で社会福祉法人と株式会社などとの競争条件を対等にする(3)農業分野で農地の所有規制を見直す――の3つだ。

 混合診療は、厚生労働省が今も一部の自由診療にかぎって併用を認めている。先端医療技術は日進月歩の革新を遂げており、健康保険が利かなくとも安全で有効ならその恩恵に浴したいという患者は少なくない。混合診療を原則解禁に導くのが改革会議の責務だ。

 保育・介護分野は、たとえば用地難に悩む都市部で株式会社が運営する保育所や介護施設に国公有地の利用を認めるなどの改革を求めたい。規制面だけでなく、税制を対等にすることも必要だ。

 農業分野は、農地を集約して生産規模を広げる法案を次期国会に出すべく農水省が準備している。県単位で設ける中間管理機構が耕作放棄地などをまとめて整備し、希望者にリースするやり方だ。

 それは一歩前進だが、本丸は企業の農地所有に道を開く農業生産法人の要件緩和だ。農協の組織改革にもぜひ踏みこんでほしい。

 これら3分野はともに岩盤規制の典型だ。ほかの政権より改革に熱心だった小泉政権のときから取り組んできた案件だが、今なお顕著な実績をあげていない。

 改革会議は3分野について、分野別の作業グループに解決を委ねるのではなく、改革会議の委員全員で早く結論を出す方針だ。議長がいかんなく指導力を発揮し、各委員が知恵と工夫を結集させ、既得権益団体や規制官庁の岩盤を打ち破れるよう稲田朋美担当相らがもっと前へ出るべきだろう。

 気になるのは、この3分野以外に新たに規制をつくったり、いったん緩めた規制を再強化したりする動きがしだいに強まってきたことだ。参院選後に巨大与党が誕生し、既得権益団体などの支援を受けた族議員が復活しつつあるのが背景ではないか。

 そうした動きに官邸が歯止めをかけようとしないのは問題だ。

 市販薬のインターネット販売を制限していた厚労省の裁量行政は違法だと最高裁判決が1月に断じた後、首相はネット販売の全面解禁を宣言した。だが同省は今になって解熱鎮痛剤「ロキソニンS」など28品目を数年間、ネット販売から外す規制を画策している。

 改革会議はネット販売と店頭販売に不合理な差を設けないことが消費者利便を高めるという内容の意見書を出した。正論だ。それでも厚労省が規制復活にこだわる場合は、首相が厚労相に指示してやめさせなければならない。

復活・再強化の阻止を
 自公両与党は民主党と組みタクシー規制を再強化する法案を次の国会に出す。タクシーの台数が多いと認めた地域は新規参入と台数増を一定の期間、禁ずる内容だ。

 タクシー規制は緩和のたびに業界団体が再規制をもくろみ、国土交通省や運輸族議員に働きかける繰り返しだ。そこでは往々にして参入規制や台数制限を強めて競争を排除しようという供給側の論理が優先する。運転手として新たに職を得ようとする人や利用者の利便を高める視点を置き去りにしてよいはずがない。

 法曹人口の拡大に対して日弁連は強く反対している。しかし質の高い法務サービスを企業や個人に提供する弁護士はもっと増やす必要がある。弁護士同士が切磋琢磨(せっさたくま)し、利用者のニーズに応えられない弁護士が淘汰されるのは、やむを得まい。

 ほかにも日本郵政が事実上、独占する手紙・はがき事業を宅配便業者などに開放するのが積年の課題だ。信書の秘密を守りつつ、より安く確実に届ける力を備えた企業には参入を認めてよい。

 改革会議の役割は事ほどさように多い。かつて首相は規制改革こそがアベノミクスの一丁目一番地だと語った。いま一度それを明確にすべきときだ。

首都への投資―量より質を目指そう

 「さあ、東京に投資だ」。そんな機運が不動産・建設業界を中心に盛り上がっている。

 安倍政権は成長戦略の目玉として、国家戦略特区を設ける考えだ。首都東京にヒト、モノ、カネをもっと集め、世界的な都市間競争を勝ち抜こうと、容積率の大胆な緩和などを検討している。

 そこへ、2020年の東京五輪の開催決定が拍車をかける。競技施設や選手村の建設にとどまらず、道路をはじめとする公共インフラ、ホテルやオフィスビル、マンションといった民間施設とも、拡充を急ぐ動きが活発になりそうだ。

 しかし、立ち止まって考えたい。首都圏でも急速に高齢化が進む。首都直下型地震など大規模な災害も予想される。必要なのは、「量」を追い求める投資だろうか。

 公共インフラでは、老朽化対策が大きな課題だ。64年の東京五輪に合わせて造られた首都高速道路は、取り換えや大規模な修繕を迫られている。他の多くの社会基盤も、高度成長期に集中的に建設された。税金や利用料金を通じた国民負担を抑えようとすれば、新たな施設をどんどん造る余裕はない。

 民間分野でも、耐震化が不十分なビルやマンションはごまんとある。建物の省エネ化で温暖化対策を進めることなど、課題は山積している。

 こうした大都市の弱点を改め、「質」を高めるための投資こそが重要だ。

 2回目の東京五輪は、意識を改める機会としたい。パラリンピックの開催にあわせて障害者にやさしい街に変えていけば、高齢者や妊婦、子どもらも暮らしやすくなり、少子高齢化への対策になろう。

 街づくりの妨げとなる空き家・空き室問題では、五輪もにらんだ観光客の受け入れ策として一般の賃貸住宅を宿泊施設に転用するアイデアが出ている。すぐに新設・増設へと走るのではなく、既存の施設を有効に使う姿勢が欠かせない。

 都道府県地価調査(7月1日時点)によると、東京圏の商業地の地価は大阪、名古屋圏とともに5年ぶりに上昇に転じた。資産デフレから脱する好機を迎えたのは確かだろう。

 しかし、容積率の緩和で投資マネーを呼び込み、地価上昇を後押ししようとの発想では、バブルとその崩壊という愚を繰り返しかねない。

 安全・安心に暮らし、働ける街を目指す。その取り組みが地価に反映される。

 都市開発の基本である。

君が代義務化―本当に大切なことは

 特定の歌を歌えと命じられる。口を動かしているかチェックされ、歌っていないと罰を受ける――まるで時計の針を戻すような動きだ。

 卒業式などで教職員が君が代を起立斉唱するよう、全国で初めて条例で義務づけた大阪府の教育委員会が、実際に歌っているかどうか、口元を確認、報告するよう府立の全学校長に通知した。

 国の学習指導要領は、式典で国歌斉唱を義務づけており、他の教委でも指導を強める動きがある。だが実際にはチェックの対象は起立で、口元の点検まで指示したのは異例だ。

 大阪府での義務づけは、橋下徹・大阪市長の考えにもとづく。公務員はルールを守るべきだとの判断から、指導の徹底をはかってきた。

 府教委の中原徹教育長は、条例づくりを主導した橋下市長の友人で、府立高校長だった昨年、卒業式で教員の口元をチェックして議論を呼んだ。今回も、「起立斉唱」を義務づけた条例のもとで当然のことを書いたまでだと説明する。

 スポーツの国際試合では、選手を鼓舞したり勝利をたたえたりする観客が君が代を歌う風景が当たり前になった。ただ、かつて君が代は、軍国主義教育のなかで戦意高揚に使われた。その反省の思いから、式典での起立を拒否する先生がいるのも重い事実である。

 世間の反応は鈍い。学力低下やいじめなど様々な問題を抱える公教育への不信も、「ルールを守らない」先生への厳しい視線につながっている。今回の動きも、そんな空気を読んでのことかもしれない。

 不起立教員そのものも激減している。いずれ、君が代に反対した先生がいたことも知らない子ばかりになるだろう。これはよいことなのだろうか。

 時の流れとともに、戦争を知る世代が減っていくが、戦後の日本の歩みを方向付けたあの戦争は、決して遠い過去の遺物ではない。

 日本が無謀な戦争への道を進んだとき、先生たちはなぜ止められなかったのか。痛恨の体験が、君が代を歌わない先生の思いをかき消していく末に、忘れ去られてよいはずがない。

 中原氏は昨年、口元チェックが問題になった後のブログで、この問題では「君が代賛否の人々の意見を、根拠のある史実と合わせて若者に紹介し、人材育成に生かすことが肝要」と述べた。そのとおりだと思う。

 教育長として、そのことにこそもっと力を注いでほしい。

米イラン会談 核問題の外交解決につなげよ

 対話で終わらせてはなるまい。具体的な実績を粘り強く積み上げていくことが肝要である。

 オバマ米大統領が、国連総会出席のため滞米中だったロハニ・イラン大統領と電話で会談し、イラン核問題の早期解決を目指すことで合意した。

 米国とイランの首脳が言葉を直接交わすのは、1979年のイラン革命以来初めてだ。

 革命でイスラム政権が誕生してから、米国とイランは断交し、敵対的な関係を続けてきた。首脳会談が行われたこと自体、外交上、大きな意味があるといえよう。

 イランの核兵器開発疑惑が深刻化して以降、米国は国際社会を主導してイランに経済制裁を科し、疑惑の払拭を迫ってきた。

 だが、疑惑解明は進まず、米国内では政権のイラン政策に対する不満が募っていた。オバマ氏は行き詰まった事態の突破口として、直接対話を選んだのだろう。

 ロハニ師にとっては、会談で対米関係を打開し、制裁緩和を引き出す狙いがある。制裁でイラン経済は原油輸出が半減するなど悪化の一途をたどっているからだ。

 ただ、ロハニ師は国連演説で核兵器を保有する意図はないと強調しつつも、ウラン濃縮は「譲れない権利」と訴えた。これでは従来のイランの主張と変わらない。

 「核の平和利用」を隠れみのにして核兵器を開発するのではないかという疑いは晴れまい。

 オバマ氏が記者会見で、イランが核兵器を開発しないことを示す「有意義、透明かつ検証可能な行動」を取らぬ限り制裁は解除できないと述べたのは当然である。

 来月中旬には、イランと国連安全保障理事会常任理事国及びドイツによる、核問題を巡る協議が開かれる。イランは、核爆弾製造につながる濃縮度20%ウランの生産停止や国外搬出など、具体的な措置を提案するべきだ。

 気がかりなのは、イラン国内に少なからず存在する対米強硬派の動向だ。最高指導者ハメネイ師の意向も今後の事態を左右する。ロハニ師は粘り強く国内対応を続ける必要がある。

 イランの核開発は中東全体の不安定要因だ。イスラエルとの軍事緊張も高まっている。イランはまた、テロ活動を支援しているとの非難も受けている。

 イラン核問題が収拾に向かえば、中東全体の緊張関係に好影響がもたらされるのではないか。オバマ氏にも、中東戦略を意識して、イランとの関係改善に取り組む姿勢が求められよう。

JR西事故無罪 惨事忘れず不断の安全対策を

 元社長の刑事責任は問われなくとも、公共輸送機関としての社会的責任は免れない。JR西日本は、安全対策を徹底せねばならない。

 乗客106人が犠牲になった2005年4月のJR福知山線脱線事故で、神戸地裁は、業務上過失致死傷罪に問われた井手正敬氏らJR西日本の3人の元社長に無罪を言い渡した。

 検察官役の指定弁護士は、控訴する意向を示した。

 歴代3社長は、市民により構成される検察審査会の議決で強制起訴された。現場のカーブに自動列車停止装置(ATS)を整備する指示を怠ったとの理由からだ。

 しかし、判決は「部下からの説明がなかったため、経営幹部はカーブの危険性を認識できる機会がなかった」と判断し、「3人が事故を具体的に予見することはできなかった」と結論づけた。

 業務上過失致死傷罪の成立要件である予見可能性が認められない以上、無罪しか選択肢はなかったということだろう。

 昨年1月には、検察がこの事故で唯一、起訴した山崎正夫元社長の無罪も確定している。山崎氏は、現場を急カーブに造り替えた当時、安全対策の責任者である鉄道本部長を務めていた。

 山崎氏の立場でも、危険認識がなかったと認定された。さらに上の地位にいた3人に刑事責任を問うのは困難だったと言えよう。

 刑法上、刑事責任の対象は個人であり、企業の責任を問える制度にはなっていない。企業を代表する社長であっても、例外ではないことを考えれば、無罪の結論は、やむを得ない面がある。

 だが、遺族が割り切れぬ思いを抱くのは無理もない。裁判長も判決後、「誰一人、刑事責任を問われないのはおかしいと思うのは、もっともだ」と述べた。

 ATS整備の遅れが事故を招いたのは、動かぬ事実だ。事故を教訓に、JR西日本には、万全の安全対策を講じる責務がある。

 今回の無罪判決は、強制起訴制度のあり方を議論する契機となろう。これまでに8件が強制起訴され、有罪判決は1件だ。

 刑事司法に市民の感覚を反映させる意義がある一方で、問題点も浮かび上がってきている。

 限られた証拠で立証を強いられる指定弁護士の負担は重い。強制起訴された被告が、公判対策に膨大な時間を割かれることも無視できない。法務省が中心になり、これまでの事例を検証し、制度の改善に努めてもらいたい。

2013年9月29日日曜日

日本の安保戦略にどう理解を広げるか

 日本の安全保障政策は大きな転機を迎えようとしている。なかでもいちばん大きいのは、集団的自衛権の行使に向け、安倍政権が議論を加速していることだ。

 北朝鮮による核開発や中国の軍備増強が進み、アジアの安全保障の環境は厳しくなっている。テロやサイバー攻撃など、国境を越えた脅威も広がっている。自分の国が攻撃されなければ安全という一国平和主義の発想では、日本を守りきれない。

 こうした現実を踏まえれば、日本が集団的自衛権の憲法解釈を見直し、行使に道を開くのは理にかなっている。

 だからといって、日本の意図が誤解され、国際社会の疑心暗鬼を招いたら元も子もない。米政府は日本による集団的自衛権行使の解禁を歓迎する意向を示しているが、アジアの国々からも十分、理解を得ていく必要がある。

 安倍晋三首相は先週訪れたニューヨークでの講演で、日本が集団的自衛権の行使を可能にしようとしていることについて、積極的平和主義の担い手になるためであると説明した。アジアや世界の平和や安定のため、日本としても積極的に貢献していくという意味だ。

 ただ、中国内などには日本の安保戦略について、右傾化や軍国主義復活の兆しではないかと指摘する向きもある。中国は日米同盟の強化を警戒しており、あえてそうした論調を広めようとしているふしもうかがえる。

 安倍首相は講演で、名指しを避けつつ中国の軍拡ぶりにふれ、日本の防衛予算の伸びが比較にならないほど低い事実を説明した。具体的な数字を示し、反論したのはよかった。

 そのうえで、安倍首相は「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたければ、どうぞそうお呼びいただきたい」とも語った。全体の文脈でみれば真意は分かるが、中国はさっそくこの発言を切り取り、日本批判に利用している。冷静な反論に徹するほうが効果的だろう。

 中国の宣伝戦に対抗し、日本の安保戦略への理解を広めるには、歴史認識問題をめぐる各国の疑念を取りのぞく努力も欠かせない。

 安倍首相は国連総会の演説で、女性の人権保護などに取り組む姿勢をみせた。旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐり、日本への批判がくすぶっている現実を意識した発言だろう。安保戦略の見直しと併せ、日本の発信力も問われる。

「安全優先」の組織に立て直せ

 タガのゆるみは深刻だ。北海道旅客鉄道(JR北海道)でレールの点検や保守のずさんさが次々に明らかになった。交通機関として何より優先される運行の安全確保が、なぜおろそかになったのか。背景を究明し、再発防止へ早急に手を打たなければならない。

 JR北海道では列車の出火や脱線事故が絶えなかった。19日に函館線で起きた貨物列車脱線事故の調査を機に、レールの幅などの異常を放置してきた箇所がこれまでに267にのぼることがわかった。特急列車が最高時速130キロで走る区間も含まれていた。

 レールの異常の多くは30年近く、そのままにしてきた可能性があることも判明している。旧国鉄時代に設置した古いレールの点検に、誤って新しい整備基準を使っていたという。乗客の命を預かる鉄道会社として、あまりにもお粗末な管理体制ではないか。

 JR北海道は営業範囲の広さや積雪対策で列車運行のコストが重く、営業損益は赤字が続いている。このため安全対策の設備投資が不十分になったとの指摘がある。人員の確保も手薄になり、保守点検の技術が若手に受け継がれていないともいわれる。

 だが問題は、そうした資金難などの点だけではあるまい。同社ではレールの問題に先立ち、運転士が操作ミスを隠すため自動列車停止装置(ATS)をハンマーで壊していたことも明らかになっている。問われるのは一人ひとりが安全への意識をしっかり持つ組織をつくれていたかどうかだ。

 幹部の発言から本社が保守点検の進め方や検査結果を掌握できていない実態が浮かび上がっている。情報共有のあり方など組織を一から見直す必要がある。

 JR北海道は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が株主で政府は監督責任がある。再発防止へ外部の人材を積極的に活用すべきだ。2015年度末には同社が運行する北海道新幹線の新青森―新函館(仮称)間が開業する。安全管理の立て直しに時間の余裕はない。

米国とイラン―対話の機運を逃すな

 世界の和平と安定に影響力をもつ大国同士でありながら、35年近く絶縁状態を続けている。米国と中東のイランは、そんないびつな関係にある。

 欧米の自由主義と厳格なイスラム教シーア派。両国が背負う文明の衝突は冷戦期から世界に数々のひずみを生んできた。

 その首脳同士が、電話で直接会話を交わした。1979年のイラン革命での断交以来、初めてのトップ対話である。

 わずか15分とはいえ、かつて「大悪魔」「悪の枢軸」と憎しみ合った宿敵の間柄だ。友好の意思を確かめた意義は大きい。

 だが、むろん、この一歩は外交儀礼に過ぎない。実質的な関係の進展はまだ何もない。国際社会全体で、対話の芽を育てる辛抱強い構えが必要だ。

 両国の対立は、諸悪の根源といっていい。イランが反米に転じた革命後、抗争は激化し、80年代のイラン・イラク戦争で米国はイラクに肩入れした。

 それがのちにフセイン政権を強大化させ、米自身が打倒したのが03年のイラク戦争だった。世界に残した傷は深かった。

 反イラン政策が自らの首を絞める。その構図は原油市場にも通じている。大産油国イランへの禁輸制裁は、米欧の石油大手の市場開拓にも足かせとなり、日本も油田権益を手放した。

 一方のイランの疲弊も深い。テロの輸出ともいわれた極端なイスラム主義と反米政策のため孤立し、経済は細った。国民生活の困窮がこの夏、対話重視型の大統領を選んだ主因だ。

 不毛な争いをやめるのが理にかなうことは明らかだ。双方の国内では今後も保守派が歩み寄りに抵抗するだろう。それでも今の不安定な世界には、この対話の機運を逃す余裕はない。

 最大の争点は核問題である。イランの疑惑は、周りのサウジアラビアなどに連鎖する核開発のドミノ現象を起こしている。

 イスラエルが軍事行動を起こせば、地球規模のテロ戦争にもなりかねない。そんな悪夢を防ぐ責務が、両首脳にはある。

 イランがもし米国と歴史的な和解を果たすことがあれば、それは北朝鮮にも核放棄を迫る強力なメッセージとなろう。

 まずは、核をめぐる国際交渉の前進を図ることが大切だ。濃縮ウランの国外処理などでは、ロシアが果たす役割が大きい。

 折しも、シリア問題をめぐる国連安保理決議が米ロの粘り強い交渉と合意で実現した。

 イランは、シリアのアサド政権の最大の後ろ盾でもある。米ロは引き続き、暗雲を吹き払う外交力を発揮してもらいたい。

JR事故判決―経営陣に罪はないのか

 企業トップの罪を問う難しさが、またも示された。

 107人が死亡した05年のJR宝塚線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に対し、神戸地裁は無罪を言い渡した。

 利益を追求し安全をおろそかにした経営陣の姿勢が事故につながったのではないか。そうした遺族の思いを受け、検察審査会は強制起訴にもちこんだ。

 だが公判では、現場カーブに安全装置を付けなかったことだけが争点になった。裁判所は、元社長らは個人として事故を予見できなかった、と判断した。

 この3人とは別の元社長は検察に起訴されたが、昨年、無罪が確定した。過失犯では個人の責任しか追及できない現行刑法の限界といえる。

 遺族らは判決後、法人を処罰できるよう、法改正を訴えた。

 英国は07年、注意を怠って死亡事故を起こした法人に刑事責任を問い、上限なく罰金を科せる法律を制定した。

 80~90年代に船舶や鉄道で多くの人が亡くなる事故が続いた。だが、大きい企業ほど経営陣は有罪とならず、世論の批判が強まったためだった。

 日本でも、高度成長期に起きた公害や85年の日航ジャンボ機墜落事故で、法人処罰の導入を求める声が上がったが、刑法改正には結びつかなかった。

 鉄道や航空、船舶事故は、運輸安全委員会が調査し、原因を究明する。日本では捜査との線引きが厳格ではない。このうえ法人の刑事責任も問えることにすれば、関係者が事故調査に真相を語らなくなる、という慎重論も専門家の間で根強い。

 だが、JR西という巨大企業のトップが、市民代表の検察審査会の判断で裁判にかけられた意義を考えてみたい。

 現在の鉄道のように安全システムが高度化するほど関係者は多くなる。その裏返しで、事故が起きても頂点の経営責任があいまいになる事態が繰り返されてきた。福島第一原発事故を防げなかった東京電力や、トラブルが続くJR北海道もそうだ。

 宝塚線事故の遺族は、JR西を長く率いた井手正敬元社長に公判で質問を重ねた。井手氏は「担当者に任せていた」と繰り返し、遺族をあきれさせた。

 企業が対策を怠って事故を起こせば、トップの刑事責任も問えとの民意は今後強まろう。経営者は常日頃からしっかりと向き合うしかない。

 安全管理責任をより確かなものにするため、法人処罰の導入の是非も、国レベルで議論を深めていってもらいたい。

日韓外相会談 関係改善への道筋が見えない

 2月の朴槿恵韓国大統領の就任以来、一度も首脳会談が開かれず、見通しさえ立たない。この異常事態をどう打開するのか。日韓両国首脳と外交当局の姿勢と力量が問われる。

 岸田外相と韓国の尹炳世外交相がニューヨークで会談し、今後も「様々なレベルの意思疎通を続ける」ことで一致した。

 尹外相は「過去の傷を治癒する勇気ある指導力を期待する」と強調した。岸田外相は「安倍内閣は歴史認識に関する歴代内閣の立場を引き継いでいる。しっかり受け止めてほしい」と応じた。

 ただ、肝心の首脳会談の実現に向けた具体的な進展はなかった。残念な結果である。

 個別案件でも、両国の主張が平行線をたどる場面が目立った。

 韓国による福島県などの水産物輸入禁止について、岸田外相は「(原発の)汚染水対策に万全を期し、情報提供を行う」として禁輸の撤廃を要請した。尹外相は禁輸の経緯を説明するにとどめた。

 日本は、国際基準より厳しい放射性物質の規制を食品全般に課している。韓国産水産物の売り上げに影響が出た事情があるにせよ、韓国の措置は、科学的根拠に乏しい過剰反応だ。禁輸撤廃へ、冷静な対応を取ってもらいたい。

 韓国の高裁で元徴用工への日本企業の賠償を命じる判決が出たことに関して、岸田外相は、日韓請求権協定に基づく「適切な対応」を求めた。尹外相は「裁判が進行中だ」と語るだけだった。

 韓国人の個人賠償については、1965年の国交正常化時の請求権協定が「完全かつ最終的に解決された」と定めている。このまま放置すれば、同様の判決が相次ぎ、事態をより悪化させよう。

 法治国家としての信用にも関わる問題だ。韓国政府には、前向きな対応が求められる。

 尹外相は、いわゆる元従軍慰安婦問題について、日本が解決に努力するよう改めて促した。

 だが、この問題も本来、請求権協定で解決済みであり、日本は安易な譲歩をすべきでない。

 気がかりなのは、日韓両政府内で、関係改善への機運や意欲が減退しつつあることだ。

 黒鉛減速炉の再稼働の動きが顕在化している北朝鮮の核問題や、日韓・日中韓の自由貿易協定交渉など、日韓両国が今、連携して取り組むべき重要課題は多い。

 簡単には解決できない懸案を抱えていても、日韓双方が大局的見地から粘り強く対話を重ね、真剣に接点を探る努力が重要だ。

原発汚染水処理 モグラ叩きから脱する戦略を

 次から次へと起きるトラブルを解決するための戦略が要る。そう感じさせる質疑だった。

 衆院経済産業委員会が東京電力福島第一原子力発電所の汚染水漏れ問題に関する閉会中審査を行った。

 参考人として出席した広瀬直己東電社長は「モグラ叩たたきのような状態が相変わらず続いている」と述べ、対応の遅れを陳謝した。

 貯蔵タンクからの汚染水漏えい対策を進める考えを強調し、地下水の流入を食い止めるための「凍土壁」のように新たな技術が必要な問題には、国内外の専門家の協力を得て対処したいと述べた。

 広瀬氏は、安倍首相が国際オリンピック委員会総会で「状況はコントロールされている」と述べたことについては、湾外に影響が及ぶことはないという意味で「同じ考え」だと断言した。

 ただし、大量の汚染水を抱える現状は、予断を許さない。

 政府は、東電任せにはできないとようやく腰を上げ、総額約470億円を投入してテコ入れする方針を示している。国民の理解を得るためにも、政府と東電は連携を一層強め、汚染水対策に全力を挙げるべきである。

 モグラ叩きの状態から脱するには、今後起きうるトラブルの可能性を予測し、先手を打って対処することが肝要だ。

 政府の汚染水処理対策委員会は27日、考えられるリスクの総点検作業に着手した。

 予想される課題は山積している。たとえば、原子炉建屋などに張り巡らされた長大な配管から汚染水が漏えいするリスクだ。東電は、建屋周辺の地盤を固めて漏えいしにくくし、配管を多重化する案を対策として挙げている。

 汚染水が漏れた時、地下への浸透を防ぐため、原発敷地内の舗装を進めることも急務である。大地震や津波が再び起きる可能性も否定できない。備えが必要だ。

 最も急ぐべきなのは、汚染水貯蔵のリスクを大幅に低減できる放射性物質除去装置「ALPS(アルプス)」の本格稼働だろう。原子力規制委員会の審査だけで1年近くを要した。汚染水問題が深刻化した一因でもある。

 安定して大量処理できるよう作業を加速させたい。

 質疑の中で広瀬氏は、今後、賠償や除染、廃炉作業に携わる東電社員の使命感が低下することが「一番心配だ」とも語った。人材確保と技術力の維持・向上は、ますます重要になるだろう。そうした視点も忘れてはなるまい。

2013年9月28日土曜日

柏崎刈羽再稼働へ地元との信頼確立を

 東京電力は新潟県の柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の再稼働に向けた安全審査を原子力規制委員会に申請した。難色を示していた泉田裕彦知事が条件付きで申請を容認した。東電は規制委の審査をへて来春にも再稼働をめざす。

 東電の厳しい経営状況を考えれば、今回の申請自体は理解できる。同社は実質的に国有化された後も経常赤字が続いている。経営計画に盛った柏崎刈羽の再稼働が実現しないと、金融機関からの資金調達に支障をきたしかねない。電気料金の再値上げも避けられず、消費者への影響も大きい。

 だが地元自治体の理解を得るのに時間がかかり、規制委への申請手続きが遅れたことを、東電は教訓とすべきだ。東電は同原発の改修工事を地元への説明が不十分なまま着手した。これが地元の不信を募らせ、事態をこじらせた。

 同原発の再稼働には、地元の理解と協力が大前提になる。東電は安全対策を粘り強く説明するとともに、事故が起きたときの自治体との連携体制や住民を安全に避難させる計画づくりなどで全面的に協力し、信頼確立を急ぐべきだ。

 泉田知事が東電に求めた申請の条件には、疑問が残る点がある。重大事故が起きたとき、放射性物質を外部に放出するフィルター付き排気(ベント)の実施に、県の事前了解が必要としたことだ。

 重大事故への対応は一刻を争うだけに、それで迅速かつ適切な初動ができるのか。電力会社と自治体が結ぶ安全協定には、何を対象とするかや法的な拘束力をめぐり議論がある。国も関与して安全協定のルールづくりが必要だ。

 規制委も同原発の審査を厳格に進めるべきだ。周辺は中越沖地震など地震が多い場所だ。直下に活断層はないか、近くの断層が動いても耐震性は十分かなど、科学的な根拠を踏まえて慎重に審査し、包み隠さず公表してほしい。

 国による東電支援のあり方も見直しが避けられない。今回の申請でも東電の当面の資金繰りはなお綱渡り状態が続く。福島原発で深刻な汚染水漏れがおき、廃炉の費用は巨額にのぼる。周辺での除染の費用も東電の負担になる。

 廃炉や除染をめぐり、国と東電の役割を改めて明確にすべきだ。原子力損害賠償支援機構を通じたいまの東電支援は限界にきている。柏崎刈羽原発の安全審査に併せて、国はこの問題に真剣に向き合うときだ。

強制起訴は見直しが必要だ

 検察が独占してきた起訴権限に民意を反映させる。それが強制起訴制度の狙いである。検察が起訴しなかった人について、くじで選ばれた市民でつくる検察審査会が「起訴すべきだ」と2度議決すれば被告となり、裁判が開かれる。

 だが起訴されなかった理由にかかわらず、すべての事件・事故が強制起訴の対象になりうるいまの仕組みでは、問題が大きすぎないだろうか。そんな危惧をあらためて抱かせる判決があった。

 2005年にJR福知山線で起きた脱線事故をめぐり、神戸地裁が井手正敬元相談役らJR西日本の歴代社長3人に無罪を言い渡した。事故は予測できなかった、との判断である。3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴されていた。

 裁判長は「誰ひとり刑事責任を負わないのはおかしいとの考えがあるかもしれないが、個人の責任は厳格に考えなければいけない」と遺族に言い添えた。この言葉に制度の問題が凝縮されている。

 刑法は個人の刑事責任しか問えない。だが多くの部署、社員、システムがからんで起きる事故で、個々人の過失や責任の範囲を立証するのは難しい。市民感覚としては納得しにくいが、だからといって検察審による起訴だけ有罪の基準を下げるわけにはいかない。

 会社の体質を指弾し、再発防止につなげる。こうしたことを刑事裁判に大きく期待することもできない。行政や民事訴訟の仕組みの改革を含め、有効な対策を考えていくべきではないだろうか。

 過去の強制起訴の例をみても、同じように現在の刑事裁判のあり方となじまない例がある。検察の段階で不起訴になった後、長い間裁判を強いられる負担は大きく、このまま放置すべきでない。

 同じく司法改革の一環として新たに導入された裁判員裁判や法曹養成制度は、踏み込みが足りないもののすでに見直し作業が始まっている。強制起訴についても、審査する対象や議決に至った経緯の開示など、制度の全般にわたる見直しに取りかかるべきである。

首相国連演説―平和主義と言うのなら

 安倍首相がニューヨークでの国連総会の一般討論演説で「新たに積極的平和主義の旗をかかげる」と表明した。国連平和維持活動(PKO)に積極的に参加を図るという。

 首相の掲げた「積極的平和主義」とは何を指すのか。

 念頭にあるのが、国連の「集団安全保障」的な措置ならば、方向性は理解できる。

 その代表的なものがPKOであり、日本も90年代以降、実績を積み重ねてきた。

 国連が十分にその機能を発揮していないという現実はあるにせよ、国際貢献をさらに進める道はあるだろう。

 自衛隊が任務の幅を広げ、より積極的にPKOに参加することはあり得る。戦闘に参加しない方針を明確にしつつ、国連の承認のもと、自衛隊が中立、公平な立場で平和構築にかかわるのは意義深いことだ。

 だが首相の言う積極的平和主義は、そこにとどまるのか。

 気がかりなのは、首相が前日に米国の保守系シンクタンクで講演した際、「集団安全保障」だけでなく「集団的自衛権」にも触れながら、積極的平和主義を唱えていたことだ。

 日本にとって集団的自衛権は、主に日米同盟にかかわる概念である。国際社会が一致して取り組む集団安全保障とは性格が異なる。

 講演で首相が強調したのは、米国主導の安全保障の枠組みの中で、日本が同盟国らしい役割を果たす決意だった。

 安倍政権が集団的自衛権をめぐる憲法解釈の見直しをめざすのは、中国の軍事大国化に対応し、日米同盟の抑止力を強化する狙いがある。世界に展開する米軍と一体化した自衛隊の支援にも道を開く。さらには多国籍軍への参加も視野に入るかもしれない。

 しかし、米国主導の軍事介入に深入りすることが、はたして平和主義と呼べるのか。

 憲法9条のもと、日本は紛争への直接介入とは距離をおく平和主義を掲げてきた。その条件下で自衛隊はPKOに参加し、高い評価を得てきた。

 こうした平和主義と、集団的自衛権の行使を含めた積極的平和主義は、全く別物である。

 いま首相が平和主義という言葉を使うのは、集団的自衛権への理解を求め、憲法解釈の変更を実現するための方便のようにみえる。

 集団的自衛権の行使を容認すれば安全保障政策の大転換になる。その議論を、積極的平和主義という言葉をあいまいに使って進めるべきではない。

柏崎稼働申請―やるべきことが違う

 いったい、自分が置かれている立場をわかっているのか。それが、多くの国民の受け止め方だろう。

 東京電力が、柏崎刈羽原発の6、7号機(新潟県)について原子力規制委員会に新規制基準への適合審査を申請した。広瀬直己社長は6、7号機以外の原発も順次、再稼働への準備を進める考えを示した。

 論外だ。

 東電は原発事故の当事者である。福島第一原発では、事故の収束どころか汚染水漏れなど新たな難題がのしかかる。いまは福島にすべてを集中すべきときだ。他の原発に人手を回す余裕などあるはずもない。

 にもかかわらず、東電が再稼働にこだわるのは、このままだと再建計画が破綻(はたん)するからだ。

 原発が動かず、火力発電の燃料費負担がかさんで3期連続の赤字になれば、「銀行からの融資が受けられなくなる恐れがある」という。

 仮に時間がかかっても、再建計画に盛られた柏崎刈羽の再稼働に向けた手続きを踏んでいれば、資金手当ては何とかなる。そんな思惑ではないか。

 しかし、事故に伴う損害賠償や除染、廃炉などすべての費用を東電に負担させることを前提とした再建計画がもたないことは、すでに明らかだ。

 であれば、見直すべきは再建計画である。再稼働を急ぐことではない。

 問題は、安倍政権の姿勢だ。

 国は東電の大株主でもある。汚染水問題では、政府が前面に出る態勢へと改めたものの、東電の経営問題をめぐる議論はほとんど進んでいない。

 再建計画の見直しは、東電では背負いきれない費用を、国費の投入や料金値上げでまかなうことにつながる。不満の声もあがるだろう。

 目先には、消費税の増税も待ち構える。アベノミクスにみそをつけることにもなりかねない不人気な政策に手をつけるのは、後回しにしたい。そんな思惑が首相周辺にあることは想像に難くない。

 だが、それでは汚染水問題でのリーダーシップ宣言も瞬く間に色あせるというものだ。

 短期的な経済合理性や過去のしがらみから、必要な情報の共有や対策を怠り、原発を推進すること自体が目的化したことが福島事故を招いた。

 今また、実体のともなわない再建計画にこだわっていれば、事態は悪化するだけだ。

 原発をとりまく、そんな体質を改める。それこそ、事故の重い教訓であるはずだ。

首相スピーチ 「日本は買い」を確かなものに

 海外で「日本」を売り込み、経済再生に弾みを付けようとする安倍首相の決意が鮮明になった。問われるのは政策の実行力である。

 米国訪問中の安倍首相がニューヨーク証券取引所で講演し、経済政策「アベノミクス」を説明した。「Buy my Abenomics(アベノミクスは買いだ)」――。この言葉に、首相の狙いが象徴的に表れている。

 具体的には、投資しやすい環境作りに努める方針を強調した。

 成長戦略の一環として、企業の積極的な投資を促すため、「大胆な減税」に踏み切る意向だ。経済活性化を目的に、規制改革を断行することも表明した。

 法人税減税と規制緩和は、海外からの対日投資を呼び込む効果も期待できよう。

 “国際公約”となった成長戦略の実施や規制の見直しで、首相のリーダーシップが求められる。

 首相は日本の優れた技術のアピールにも努めた。

 原子力発電所に関連する日本の安全技術の高さを強調し、その技術で「世界に貢献していく」と語った。原発技術を「放棄することはない」とも明言した。

 原発を活用していく路線を明確にしたもので、資源の乏しい日本にとって、妥当な判断である。

 日本の超電導リニア技術による高速鉄道を導入すれば、ニューヨークとワシントンは1時間以内で結ばれると説明した。

 原発や鉄道などのインフラ(社会基盤)輸出は、日本の成長戦略の柱と言える。官民連携を強化して取り組まねばならない。

 首相は国連総会の一般討論演説で、経済力の回復を背景に、「積極的平和主義」の立場から、国際社会の平和と安定に積極的に貢献していく考えも示した。

 国際社会で発言力と影響力を高めることは、日本経済にも良い効果をもたらすだろう。そうした好循環を生み出すことが肝要だ。

 注目されるのは、女性への支援を国際貢献の重要課題の一つに位置づけ、3年間で30億ドル超の拠出を表明したことである。

 首相は「女性が輝く社会をつくる」と明言した。

 政府開発援助(ODA)を通じ、世界の女性の社会進出に対する支援や、女性の保健医療の充実、紛争下にある女性の安全確保に取り組むと述べた。

 女性(ウイメン)の潜在力を活用することは経済成長にもつながる。首相の言う「ウイメノミクス」を具体化させたい。

柏崎刈羽原発 再稼働への険しい道は続く

 首都圏の電力安定供給に欠かせない東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働へ、ハードルを一つ越えた。とはいえ、今後の道のりは険しい。

 東電が、柏崎刈羽原発6、7号機について、再稼働の前提となる安全審査を、原子力規制委員会に申請した。

 申請に反対していた地元・新潟県の泉田裕彦知事が、住民の安全対策で協議を続けることなどを条件に容認したためだ。

 世界で最も厳しいとされる新規制基準で、原発の安全性を確認するのは有益だろう。遅ればせながら泉田氏が申請を承認したのは、当然の判断と言える。

 しかし、新潟県が一方的に承認を取り消せる点は問題だ。

 事故時に原子炉の気体を外部に放出して破壊を防ぐ「フィルター付き排気設備」の設置に関し、安全協定に基づく新潟県と東電の協議が不調だった場合、承認を無効とする条件も付けられた。

 法的拘束力のない安全協定をタテに、規制委の審査に待ったをかけるのは行き過ぎだろう。

 原発の立地自治体が住民の安全を心配し、政府などに対応を求める姿勢は理解できる。

 ただ、排気設備を含めて原発内の施設の安全性は、規制委が専門的に確認するルールになっている。法的権限のない自治体が、審査へ過度に介入すれば、無用の混乱を招くばかりである。

 柏崎刈羽原発を再稼働できない東電は、燃料費の高い火力発電への依存度が高まり、経営が悪化している。今年度に経常利益を黒字化するという経営目標の達成は極めて困難な状況だ。

 このままでは、福島第一原発の事故収束や電力安定供給にも支障が出かねない。

 東電が再び大幅な料金値上げで収支改善を図る方法もあるが、管内の家庭や企業は大打撃を受けよう。日本再生のためにも、安全性をしっかり確認し、柏崎刈羽原発を再稼働するのが最善策だ。

 規制委の安全審査をパスした後は、新潟県、柏崎市、刈羽村の3立地自治体が、再稼働を了承するかどうかが焦点となる。

 泉田氏は政府や国会の事故調査委員会が行った福島第一原発事故の検証が不十分だとして、柏崎刈羽原発の再稼働前に、徹底して検証・総括するよう求めている。

 事故の全容解明には、相当の年数を要しよう。それまで再稼働を一切、認めないつもりなのか。泉田氏は、真意を分かりやすく説明する必要がある。

2013年9月27日金曜日

首都圏空港の拡充で空の競争促進を

 国土交通省の審議会で首都圏の空港拡充をめぐる議論が始まった。首都圏の空はここ数年で一定の能力増強が進み、発着枠不足は一時より緩和されたが、まだ十分ではない。羽田と成田の両空港は観光振興や貿易を含めて日本経済を活性化するための基幹インフラであり、着実な整備が必要だ。

 羽田の第4滑走路の開設と成田の設備増強によって、両者合わせた発着枠は4割ほど拡大し、近く年間75万回まで増える。現時点ではこれで打ち止めで、それ以上の計画はない。

 だが、両空港の実態を見れば、それでも能力が不足気味なのは明らかだろう。羽田の新規国際線の発着枠の配分をめぐって、全日本空輸と日本航空が論争を続けているが、これも枠が希少だからこそ起こる対立である。

 成田でも就航・増便を希望しながら、目当ての時間帯に枠がなく、あきらめる外国航空会社が後を絶たない。

 米欧アジアに比べて、日本で格安航空会社(LCC)の登場が大幅に遅れたのも、空港の容量不足で、新規参入の余地が乏しかったのが大きな原因だ。

 十分な空港容量の確保は、航空会社の競争を促し、乗客利便を向上するための前提である。韓国の仁川空港は急速な整備を進め、国際線の就航都市数で成田を上回った。手をこまぬけば、港湾に続いて空でも北東アジアのハブ(拠点)競争に完敗する恐れもある。

 外に開かれた空港は道路などの国内に閉じたネットワークと異なり、人口減少時代でも利用が増える可能性が高い。2020年の東京五輪も見据え、戦略インフラとして一層の整備が必要である。

 具体策としては、羽田沖にもう1本滑走路をつくるといった設備面の拡充と、東京上空の飛行を解禁するなど運用の改善によって、現有設備を大きくいじらず発着枠を増やす手法がある。

 前者は財源の工面が課題であり、民間マネーの導入も一案だろう。投資額が膨れ上がれば、着陸料に跳ね返り、空港の競争力を逆に損なうことに留意する必要がある。後者については新たな騒音問題が浮上しかねず、近隣自治体などとの合意形成が不可欠だ。

 いずれも低いハードルではなく、実現には時間もかかる。国交省は空港の使い手である航空会社などの声にも耳を傾けながら、具体案づくりを急いでほしい。

安い天然ガス調達に向けて

 カナダで開かれた安倍晋三首相とハーパー首相との会談の結果、新型天然ガス「シェールガス」の対日輸出が2018年末にも実現する見通しになった。17年に始まる米国産の輸出と合わせ、20年前後には最大で日本の総需要の約3割を両国の新型ガスでまかなえるようになる。

 シェールガスは地中の硬い岩盤層から採掘する。米国では生産量の増加によって取引価格が大幅に下がった。カナダ産はパナマ運河を通らず、太平洋岸から液化天然ガス(LNG)として出荷するため日本までの輸送距離も近い。

 現在の主力調達先である中東カタール産より4割ほど安い価格で輸入できる可能性もあるという。

 北米からの輸入を増やしても日本の総需要をすべて満たせるわけではない。中国などの需要も増えるため、北米産の天然ガス価格が安いままとは限らない。それでも調達先を増やす意義は大きい。

 エネルギー安全保障の面に加え、中東などの既存供給国に対し交渉力が強まるからだ。

 日本は世界最大のLNG輸入国だ。原子力発電所の稼働が止まり、発電燃料として天然ガスの需要は一段と増した。その多くは、円建ての原油輸入平均価格に連動する長期契約のため、原油の国際価格の高止まりと円高修正も調達額を押し上げる。

 12年のLNG輸入額は6兆円と、東日本大震災前の10年に比べ2兆5千億円も膨らんだ。燃料費の増大は国富の流出につながり、企業や家計の負担を増す。

 自然エネルギーや省エネの推進も急務だが、当面はエネルギー源の多くを天然ガスに頼らざるをえない。輸入額を減らすためには調達先を増やし、日本向け価格の引き下げにつなげる必要がある。

 政府は他の消費国と連携し、供給国に値下げを促すほか、国内先物市場にLNGを上場し、日本発の国際指標に育てる方針だ。こうした対策も供給国の間で競争意識が高まり、売り手優位の市場が変わってこそ効果が期待できる。

解雇特例特区―あまりに乱暴な提案だ

 いくら「特区」だからといって、雇い主の権利の乱用は認められない。

 政府の産業競争力会議で、解雇や労働時間などの規制を緩和した特区をつくる提案があり、安倍首相が厚生労働省に検討を指示した。

 特区内にある開業5年以内の事業所や、外国人社員が3割以上いる事業所への適用を想定しているという。

 特に問題なのは、解雇規制の緩和だ。

 現行ルールでも、企業には従業員を解雇する権利がある。ただし労働契約法16条で、その解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は権利の乱用になり無効としている。

 今回の提案は、ここに特例を設け、「特区内で定めるガイドラインに適合する契約に基づいていれば、解雇は有効」と規定するという。

 解雇へのハードルが下がり、トラブルも防げるので、企業が多くの人を雇ったり、高い給料を払ったりできるようになる。そんな主張である。

 雇用契約に、解雇の要件を明確に記すこと自体は、推進すべきことだ。

 だが、実際に解雇が正当かどうかでもめた場合、契約の文言だけでなく、働かせ方の実態をみて判断するしかない。

 社員の成果の測り方ひとつとっても、業務に必要な資源や環境を与えられていたかどうかに左右されるはずだ。

 競争力会議側は、仮に裁判になった場合、契約を優先させるよう求めているが、あまりに乱暴な議論だろう。今回の提案は企業側が一方的にリスクを減らすだけではないか。

 日本で正社員の解雇が難しいといわれるのは、ある仕事がなくなっても、従事していた人をすぐに解雇せず、他にできる仕事がないか探す義務が企業側にあるとされるからだ。

 ただ、それは「辞令一本で、どこででも、なんでも、いつまでも」という無限定な働かせ方と表裏一体の関係にある。

 そこで、仕事の内容を具体的に決め、さらに解雇が有効になる判断基準について労使と司法のコンセンサスをつくろう。最終的には、立法や通達で明確にしよう――。

 政府の規制改革会議の雇用ワーキンググループは今年5月末にこんな提案をした。ただし、それが実現しても権利の乱用は認められないことを確認することも忘れなかった。

 こちらの方がはるかに建設的な提言ではないだろうか。

暴力指導有罪―再発の温床なくさねば

 大阪市立桜宮高校2年の男子生徒が自殺した問題で、生徒に暴力をふるった元顧問教諭に有罪判決が言い渡された。

 裁判官は「効果的で許される指導方法」と妄信し、暴力的指導を続けてきたと非難した。

 学校での教員の暴力が公判廷で裁かれたのは異例で、判決の意味は重い。暴力による指導効果を信奉する人たちは、自らへの警鐘と受け止めるべきだ。

 大阪市教委は事件後、元顧問の行為は「体罰」ではなく、「暴力」と定義した。ささいな理由で繰り返しており、落ち度を戒めるための「罰」ですらなく、まったく正当化できないとの考えだ。

 文部科学省の全国調査では、昨年度だけで6721人の教員が体罰をし、被害を受けた子は計1万4208人にのぼった。

 学校教育法は体罰を禁止しているが、罰則規定はない。だが、そもそも心身を傷つける暴力は許されない行為で、教育現場ではなおさらのことだ。「体罰」は暴力との基本認識をもっと明確にしてこそ、暴力追放の徹底をはかれるのではないか。

 元顧問は暴力をふるった理由について、「目の前の生徒に成長してもらいたいとの思いがあった」と裁判で語った。最近も、天理大や浜松日体高などで暴力が発覚した。「気合を入れたかった」「うまくなってほしかった」。指導者や先輩の言い分は、元顧問のそれと重なる。

 暴力をふるう側は、受ける側の心身の痛みを忘れがちだ。傷つけてからでは遅すぎる。今回の判決を教訓に、そのことを心に刻む必要がある。

 桜宮事件でもう一つ浮かんだのは、世代を超えた暴力の「連鎖」と、部活のチームが強くなるためにと暴力を「容認」する構図だった。

 元顧問は桜宮高校に赴任した94年から暴力をふるい続けた。元顧問は「自分もたたかれて育った」と振り返っている。一部の教え子は同校の同僚教員になり、黙認した。暴力を目撃した保護者もいたが、指導者として定評があった元顧問を誰一人、本気で止めなかった。

 学校での暴力は過去に何度も問題になってきたが、こうした連鎖、容認が根絶を阻んできた。今なお、「若い世代も耐えてこそ育つ」と思い込んでいる人は少なくないようだ。

 亡くなった生徒の父親は判決後、「教育現場に認識が浸透していない」と無念を吐露した。

 体罰と言われてきたものは、犯罪と隣り合わせである。社会全体で意識を変えていかなければならない。

集団的自衛権 「積極的平和主義」を追求せよ

 アジアや世界の平和と安定へ、日本が従来よりも積極的に貢献する。

 安倍首相が掲げる「積極的平和主義」という新たな理念の具体化には、集団的自衛権に関する政府の憲法解釈の見直しが欠かせない。

 首相がニューヨークで講演し、集団的自衛権について、「行使できない」とする現行の憲法解釈の変更に強い意欲を表明した。

 問題となる具体例として、自衛隊による国連平和維持活動(PKO)中の他国部隊への「駆け付け警護」と、公海上における米軍艦船の防護の二つに言及した。

 「いまや脅威がボーダーレスとなった」との首相の指摘は適切だ。弾道ミサイルや大量破壊兵器の拡散、国際テロ、サイバー攻撃などの脅威は確実に増している。

 日本の防衛能力の向上に加え、日米同盟を強化し、米国以外の関係国との連携も拡充する必要がある。それには集団的自衛権の行使を可能にすることが急務だ。

 戦後間もない時代には、憲法を極力厳格に解釈し、自衛隊の役割を限定することに一定の意味があった。だが、今は、硬直した憲法解釈が日本の安全の足かせとなっている現実を直視すべきだ。

 この間、日本の安全保障環境や、国民の自衛隊に対する評価は劇的に変化した。憲法解釈の見直しは時代の要請にほかならない。

 安倍首相は記者団との懇談で、解釈変更に伴う自衛隊の活動に関し、「地理的な概念で『地球の裏側』(は除外する)との考え方はしない」と語った。「国民の生命と財産、国益に密着するか、という観点はある」とも述べた。

 解釈変更について「自衛隊が地球の裏側まで行き、米軍と一緒に戦うのか」といった懸念があるのを意識した発言だ。自衛隊の活動に地理的制約は設けず、事態の態様に応じて判断すべきだ、との考え方は理にかなっている。

 例えば、日本の海上交通路(シーレーン)の安全確保のため、自衛隊がペルシャ湾で機雷を除去することが想定される。アフリカで再び邦人が人質になれば、自衛隊を派遣する可能性もあろう。

 無論、自衛隊の活動に歯止めは必要だが、どんな重大事態が発生するかを予測するのは困難だ。様々な事態に対処できるように、法律上の選択肢は幅広く確保することが安全保障の要諦である。

 実際に自衛隊が参加するか、どんな活動をするかは、時の政府が総合的に判断し、国会の承認を得るなどの方法で歯止めをかけるのが現実的な対応だろう。

桜宮高体罰事件 有罪判決を教師暴力の抑止に

 指導の名を借りた暴力を糾弾した有罪判決である。教育現場での体罰を根絶する契機としなければならない。

 大阪市立桜宮高校の体罰自殺問題で、大阪地裁は、暴行と傷害罪に問われたバスケットボール部の元顧問教諭(懲戒免職)に懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。

 元教諭は練習試合の際、主将だった男子生徒の態度が気に入らないとの理由から、顔や頭を何度も殴り、けがをさせたとして起訴された。体罰を加えた教諭の刑事責任が問われたのは異例だ。

 暴力は多数の部員や観衆が見ている中で行われた。法廷で流された映像では、殴打の音が体育館内に響くほど、激しい暴行が執拗しつように繰り返された。

 判決が「理不尽というほかない」と断じたのは、当然である。

 生徒は体罰を受けた翌日に自殺した。判決は「肉体的苦痛に加え、相当な精神的苦痛を被ったのは、自殺したことからも明らかだ」と指摘した。体罰が自殺の引き金になったとの判断だろう。

 生徒の母親は判決後、「実刑を期待していた」と落胆した。その心情は十分に理解できる。

 判決は、元教諭について、「暴力が効果的な指導方法だと妄信していた」と批判した。勝利至上主義に陥り、同様の考えにとらわれた部活動の指導者は、少なくないのではないか。

 桜宮高の事件が社会問題化した後も、部活動での暴力はなくなっていない。今回の判決が抑止力になるのか、懸念は残る。

 浜松市の浜松日体高バレーボール部では今月、監督の教諭が部員の頬を十数回たたく暴力が投稿映像で発覚した。教諭は「気合を入れるためだった」と釈明した。

 文部科学省は、5月にまとめた部活動の指導指針の中で、「生徒との信頼関係があれば(暴力が)許されるとの認識は誤りだ」と、暴力行為を明確に否定している。指針の周知徹底が必要である。

 技量向上のためには、体罰もやむを得ないという誤った風潮も正したい。桜宮高の保護者の中にも体罰に寛容な人がいたという。こうした意識をなくし、保護者が指導者に厳しい目を注ぐことが、体罰根絶のためには求められる。

 指導者から体罰を受けた生徒が、やがて指導者となり、同様の行為を繰り返す。暴力の連鎖を断つことも大切だ。

 教育現場だけでなく、スポーツ界全体で、指導者の資質向上に取り組まなければならない。

2013年9月26日木曜日

「限定正社員」を意義ある制度にするには

 勤務地や職務が限られたり、労働時間が短かったりする「限定正社員」を普及させようという動きがある。規制改革会議の答申を受けて今月、厚生労働省が有識者懇談会を設けて議論が始まった。

 限定正社員という雇用形態は、これまでも勤務地を特定の事業所に限った社員などの例がある。

 一般の正社員は会社に命じられた勤務地や職務で働き、残業もある。これに対して限定正社員は勤務地、職務などのどれかが「限定」されるため、正社員と同じ賃金は見込みにくい。しかし、契約期間が制限される非正規社員と比べ、処遇や雇用は安定的になる。

 正社員ほどの待遇ではなくても限定正社員という器は非正規社員の処遇改善に役立つ。単身赴任や長時間労働を強いられる正社員のあり方を見直す契機にもなる。働き方が多様化するなか、限定正社員は選択肢を広げる意義がある。

 ただし、普及のために留意しなければならないことがある。雇用保障をめぐる点だ。

 一般の正社員は解雇に厳しい制限があるが、限定正社員は雇用保障が緩いとされている。事業所の閉鎖などで勤務地が消滅したり、その職種がなくなったりした場合、解雇がやむを得ない場合もあるとされる。経団連はその点を法律に明記するよう求めている。

 これに対し連合は、限定正社員が、解雇されやすい仕組みを広げるとして強く反発している。

 解雇に道を開く規定を法で定めれば、働く人の不安が増すのは当然だ。労働組合側は一般の正社員が限定正社員に切り替えられ、雇用が不安定になると警戒する。

 このため限定正社員を普及させるには、解雇ルールを法律で定めるのではなく、各企業がそれぞれこの雇用形態の制度をつくっていくことが現実的だ。賃金をはじめとする労働条件や職務の決め方などを、労使でよく話し合ってもらいたい。労組側も限定正社員を、非正規社員の処遇改善の手段として前向きにとらえるべきだ。

 限定正社員になる人は契約を結ぶ前に、賃金や雇用保障などの説明を十分に受けられるようにしなければならない。有識者懇談会はその手立てを検討してほしい。

 限定正社員が雇用契約を打ち切られる場合に備え、再就職支援も重要だ。職業訓練や職業紹介を民間開放で充実させるなど、ほかの仕事に移りやすい労働市場づくりに並行して取り組む必要がある。

企業の国際再編も一手だ

 半導体製造装置市場で世界3位の東京エレクトロンと、同1位の米アプライドマテリアルズが経営統合すると発表した。国境をこえた業界再編の先駆け的な事例である。これが競争力の強化や世界シェアの拡大につながるか、統合新会社の先行きに注目したい。

 スマートフォンなどに搭載される半導体は年々高度化しており、必要とされる半導体製造装置も一段と精巧になっている。膨らみ続ける製造装置の開発コストを両社で分かち合い、技術開発を加速するのが、統合の狙いである。

 巨額の研究開発投資をまかなうための世界再編は、製薬産業ですでに活発化している。その波がIT(情報技術)や半導体市場にも押し寄せてきた格好だ。

 今回の再編で注目されるのは、規模で上回るアプライドの買収という形をとらず、持ち株会社にぶら下がる形で、両社が「対等の関係」(アプライドのゲイリー・ディッカーソン社長)での統合を選択したことだ。同社長は「東京に住み、相乗効果に責任を持つ」と述べ、統合にかける並々ならぬ決意を表明した。

 大型の合併再編がつまずくことが多いのは、異なる企業文化がぶつかり合い、十分な統合メリットを引き出せないからだ。国籍の異なる企業の統合作業は一段と骨が折れるだろう。両社経営陣の手腕の見せどころである。

 ほかの日本企業も、この再編に込められたメッセージに耳をすませてほしい。事業の持続的な発展のために必要と判断すれば、相手が外国企業であっても再編統合をためらわない姿勢は、多くの経営者が見習うべきものだ。

 日本の企業は最後の最後まで独立路線にしがみつき、他に手段が尽きてから合併や再編を選ぶことが多い。その時点では既に人材の流出などが進み、成果の上がらないケースがよくある。

 同一市場に多数の企業がひしめく過剰プレーヤー問題を解消するためにも、各企業はもっと前向きに再編統合に取り組むときだ。

校長名公表―上位校でも疑問だ

 こんなリストを発表しても、学校教育に無用な混乱を起こすだけではないか。

 静岡県の川勝平太知事が、全国学力調査で上位だった一部の小学校の校長名を公表した。

 知事は、小学校の国語A(知識を問う問題)で静岡が全国最下位だったことを問題にし、「責任の所在を明らかにする」としてきた。当初は国語Aの下位100校の校長名を公表する考えだった。これを「上位の公表」にきりかえた。

 「懲罰的なことがどれだけプラスに働くか」と指摘した下村文部科学相をはじめ、県内外の懸念に配慮したのだろう。

 下位の公表よりは副作用は小さいだろうが、上位の公表でも良いこととは思えない。

 この調査は、学校の序列化を招かぬよう、学校別の成績公表を原則禁じている。「校長名と校名は違う」と知事はいうが、校長名で学校はすぐわかる。

 公表されたのは全国平均以上だった86校だ。裏返せば、リストにない学校は平均未満とわかる。結果として学校へのレッテル貼りを招きかねない。

 子どもの学力は教師の指導力に依存している。だから、その責任者である校長の名を公表する――。知事はそんなふうに説明している。

 それは、あるべき論と現実を混同した議論ではないか。

 子どもの成績を左右する要素としては、確かに教師の教え方も含まれるが、実際には、ほかの要因も強く影響する。

 調査研究によると、学力は、家庭の経済力や塾通いと強く関係している。また、教育環境には地域差があるのも事実だ。複数の学年が一つの教室で学ぶ過疎地の学校、日本語がよくわからない外国人の子どもが多い地域の学校もある。

 そうした条件の違いを考えずに比べても得るものは少ない。

 今回の公表方法では、前年の1位が次の年に86位になっても上位、最下位から100番上がっても下位になる。努力が成績につながったかどうかをうかがう手がかりにはなりにくい。

 教師の努力を測りたいというなら、数年間の成績の伸びや、どんな指導法が効いたのかなどの分析をしないとわからない。

 文科省は首長らの要望をうけて、学校別の成績公表を認めるべきかを検討している。

 テスト結果をうけ、学校や教師、児童生徒が弱点を知り、克服するのは大切だが、それは当事者がわかっていればよいことだ。保護者が結果を知りたいのはわかるとしても、授業の改善につながるかは疑問が残る。

地方議員の質―私たちの目で育てよう

 地方分権が叫ばれて久しい。自治体が独自の施策を競う時代とも言われる。だが、議員のレベルは向上しているだろうか。

 各地で相次ぐ不祥事に、市民はあきれている。とくに、政務調査費と呼ばれる支給金をめぐる問題は、地方自治のあり方の根幹を考えさせる。

 都道府県議や政令指定市の市議は調査活動の費用として、月50万~60万円をもらっている。だが、飲食や遊興などへの流用があとを絶たず、「第二報酬」とも揶揄(やゆ)されている。

 名古屋市では、議員の高額報酬を批判し、議会リコールを実現させた地域政党、減税日本の議員たちも不正が発覚した。

 政調費が制度化されたのは01年。全国的に住民訴訟が相次いでおり、これまで50件超の返還判決が出ている。

 第三者チェックなどを強めるべきなのは言うまでもない。だが、もっと重要なのは、どうしたら地方議員の質を高められるか考えることだろう。

 この問題を長年追及してきた仙台市や名古屋市、京都市などの市民オンブズマンは最近、議員通信簿の活動を始めた。

 議事録から質問を項目ごとに分析し、点数化する。現場を調べたか、他都市と比較したか、改善策を提案したか――。

 道徳論を延々述べて「教育長いかがですか」と聞く京都市議の質問は0点。民間資金を活用する手法を実地研究し、学校への空調設置の知恵を出した仙台市議は高得点という具合だ。

 福岡市議会では、一般質問94件のうち48件は事前調査がなかった。名古屋市議会では、1年間、本会議で一度も質問しない議員が75人中19人もいた。

 成績の悪い議員からは「議会外の要望活動も仕事だ」と反論もでたが、そんな論争が生まれること自体が前進だろう。市民が議員活動への関心を高めることが何よりの薬になる。

 もっとも、壁になるのが議会の情報公開度だ。早稲田大の調査などによると、75%の地方議会が本会議の議事録をネット公開しているが、常任委員会については25%にとどまる。

 大阪市議会は議案ごとの会派別の賛否を公開している。だが市民研究者らの「議会改革白書」(11年)によると、全国の議会の65%はそんな情報を出していない。これでどうやって市民の信頼を得るのだろう。

 みなさんも一度、自分の街の議会をのぞいてみてはいかがでしょうか。議員は自分たちの代表です。私たちメディアとともに、もっと間近に注視し、議員を育てていきましょう。

軽減税率 消費税8%時に導入を目指せ

 消費増税する際に国民の負担感を和らげるには生活必需品の税率を低く抑える軽減税率の導入が欠かせない。

 政府・与党は8%への増税と同時期の導入を目指し、具体的な作業に入るべきである。

 安倍首相は、来年4月に消費税率を5%から8%に引き上げる方針を固めた。増税後の景気腰折れを防ぐため、5兆円規模の経済対策をまとめようとしている。

 景気は上向いてきたものの、本格回復にはほど遠い。デフレ脱却への道も不透明である。本来は、8%への引き上げを見送るべきだが、次善の策として経済対策を打ち出す狙いは理解できる。

 ただ、増税で消費が落ち込みかねないことに対し、検討されている対策は不十分ではないか。

 消費税には、低所得層の負担が相対的に重くなる逆進性がある。このため政府は、住民税の非課税世帯などを対象に1人当たり1万~1万5000円を支払う「簡素な給付措置」を検討している。

 だが、現金を一時的に支給する方法では、増税後の家計を支える効果は長続きしない。低所得層を含む幅広い消費者に恩恵が期待できる軽減税率の導入が適切だ。

 政府・与党は経済対策で、東日本大震災の復興財源のために上乗せした復興特別法人税の1年前倒しでの廃止を検討中である。

 経済対策の柱となる投資減税は企業収益の拡大を促して賃上げにつなげる好循環も狙っている。

 消費者には「企業優遇だ」といった批判が根強い。企業のてこ入れ策が家計に波及するまで時間がかかることも懸念される。

 これに対し、軽減税率には、負担軽減を日常の買い物で消費者が実感しやすい利点がある。

 政府・与党は、8%段階ではなく、10%に引き上げる際に軽減税率の導入を目指すとしてきた。

 しかし、3%も一気に増税されると、家計への影響は大きい。8%への引き上げ時から軽減税率を導入し、現在の5%に維持することが肝要だろう。

 軽減税率の対象は、コメ、みそなど生活に欠かせない食料品や、民主主義と活字文化を支える新聞などに絞り込むべきである。

 軽減税率は欧州各国で導入されている。日本の消費税にあたる付加価値税は20%前後の国が多い。軽減税率の定着が、国民に高い税率を受け入れやすくしている。

 「知識に課税せず」という共通認識があり、新聞を軽減対象とする国が大半を占める。日本も先例を参考にしなくてはならない。

全国学力テスト 静岡の校長名公表は不可解だ

 校長の氏名だけを公表することに、どんな効果があるのか。知事の意図がわかりにくい。

 静岡県の川勝平太知事が、今年の全国学力テストで成績が上位だった学校の校長名を県のホームページに掲載した。小学6年生の基礎学力を測る国語Aの平均正答率が全国平均以上の86校の校長名だ。

 静岡県は、国語Aの成績が47都道府県の中で最下位だった。川勝知事は教育現場を厳しく批判し、今回の措置について、「学校教育の責任の所在を明確にするためだ」と述べている。

 上位校の健闘をたたえるよりも、下位校の校長に反省を求める意味合いがあるのだろうか。

 川勝知事は当初、「成績下位校の校長名を公表する」と表明していた。ところが、文部科学省や県教育委員会が否定的な見解を示すと、一転して上位校の校長名を公表した。校長側の事前了解もとっていなかった。

 場当たり的な対応と批判されても仕方あるまい。

 それ以上に問題なのは、テスト結果の詳細な分析が行われていない段階で、校長名を50音順で公表した知事の手法である。これによって、教育現場と危機感を共有できるのだろうか。

 全国学力テストはそもそも、子供の弱点を把握し、指導方法の改善に生かすのが目的だ。

 県内の学力の現状を危惧しているのであれば、テストで浮かび上がった課題をしっかり検証するのが先決だろう。

 知事に求められているのは、都道府県別の順位に一喜一憂するのではなく、教育施策に検証結果を着実に反映させることだ。

 全国学力テストの結果をどこまで公表するかについては、かねて論議がある。文科省は過度な競争を防ぐ観点から、都道府県教委が市町村別や学校別の結果を、市町村教委が学校別の結果を公表することを実施要領で禁じている。

 一方、子供が通う学校や地域の学力水準を正確に知りたいと希望する保護者は少なくない。住民への説明責任を果たすため、結果の公表を望む自治体もある。

 テストの実施に55億円の国費が使われていることも考慮すれば、教育施策の成果に関する情報はできる限り、住民に公表していく姿勢が自治体には求められよう。

 文科省は年内にも、来年以降のテスト結果の公表方法を決める。静岡のケースは公表のあり方に一石を投じたが、文科省は適切な方法を検討してもらいたい。

2013年9月25日水曜日

再選メルケル首相にユーロ結束の重責

 ドイツ連邦議会(下院)選挙で与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が勝利した。3選を果たしたメルケル首相はドイツ国内だけでなく、ユーロ圏全体の安定に重い責任を負う。

 CDU陣営の議席は単独では過半数に達しなかった。これまで連立相手だった自由民主党(FDP)が議席を獲得できず、最大野党である社会民主党(SPD)に大連立を呼びかけている。

 ドイツ政界に、大局観を持った迅速な判断を期待したい。ユーロ圏で同国が果たすべき役割と責任をめぐり、CDU陣営とSPDの理念には溝がある。だが政権発足が遅れれば、ギリシャ支援など懸案の解決が遅れる心配がある。

 今回の選挙で問われたのは、ドイツ国内の政治の姿だけではない。同国はユーロ圏で圧倒的な経済力を握り、その政策次第でユーロ圏の未来像が決まるともいえる。17カ国から成る人口3億3千万人のユーロ圏の将来が、ドイツ一国の8千万人の国民の選択に委ねられた特異な選挙だった。

 独国民の多くは、ギリシャやスペインなど南欧諸国への支援に懐疑的だ。厳しい構造改革に耐え、自分たちの努力で競争力を高めた我々が、なぜ放漫財政の結果として債務を負った国々を助けなければならないのか――。そんな感情的な反発も根強い。

 このためメルケル氏は選挙戦を通して、南欧支援に関しては踏み込んだ言及をせず、選挙の争点にすることを慎重に避けた。また議席を失ったFDPの敗因として、「反ユーロ」を掲げた新党に票が流れたとの分析もある。

 だが、1999年に欧州単一通貨ユーロが誕生したからこそドイツの隆盛があり、ユーロ安による輸出増で最も大きな恩恵を得ているのがドイツ経済だ。ドイツの命運はユーロ圏と共にある。

 長期政権の座に就くメルケル氏は、ユーロ圏が結束する意義を国内で粘り強く説き続けてほしい。南欧諸国に緊縮財政と改革を強要するだけでは域内の結束は緩むばかりだろう。ドイツが独善に陥ることなく、柔軟に他国との協調を進めることを期待する。

 アジアでは、これまでメルケル首相は中国重視の姿勢が目立ち、2008年以来一度も来日していない。日本にとって欧州は米国と並ぶ重要な経済連携の相手である。欧州で一段と発言力を高めるドイツとの外交関係を深めたい。

政争と絡み合う中国「反腐敗」

 収賄などの罪に問われた中国・重慶市の元トップ、薄熙来被告(元重慶市共産党委員会書記)に対して、山東省済南市中級人民法院(地裁)は無期懲役の判決を言い渡した。薄元書記は控訴したが、判決が覆る可能性は小さい。

 中国では司法も共産党の指導を受けている。元書記に対する審判は、習近平国家主席(党総書記)をはじめとする指導部の政治的な意思の表れといえる。

 収賄の規模などから「懲役15年から無期懲役」の範囲内の判決になるとの見方が有力だった。その中で最も重い量刑となったのは、「反腐敗」運動を進める指導部の意欲を内外に印象づける狙いからだとみることができる。

 ライバル視されていた元書記の政治生命を断つことで権力基盤を強める思惑も、習主席にはあるようだ。ただ、元書記を支持する声は国内でなお根強く、政争の火種は尽きていない。

 習主席はじめ指導部は「反腐敗」運動を強める可能性がある。すでに「石油閥」と呼ばれる人脈にメスを入れつつある。最終的に、昨年秋に引退するまで最高指導部の一角を占めていた周永康・前共産党政治局常務委員まで追及が及ぶかどうかが、焦点だ。

 周氏は石油閥の頂点に立っていた実力者で、薄元書記の後ろ盾ともみられてきた。その処遇は習主席の権力基盤の強さを占うバロメーターといえるかもしれない。

 汚職の広がりに対する国民の反発は高まる一方で、「反腐敗」運動は共産党政権の求心力を立て直す効果が期待できる。半面、不透明な側面も目立ってきた。

 たとえば、共産党の高官を追及するのに通常の司法手続きと異なる党内手続きが先行することだ。その進め方が粗暴に過ぎるとの批判も出始めている。

 習主席は「公正な司法」の実現を訴えたことがある。だが「反腐敗」運動は、公正とはいいがたい手続きに頼らざるを得ないのが実情だ。共産党政権の直面する課題の難しさが、うかがえる。

メルケル氏勝利―ユーロ強化へ指導力を

 ドイツの総選挙で、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)が大勝した。

 単独過半数には届かなかったが、メルケル政権は17年まで3期12年に及ぶ見通しだ。これまで連立を組んできた自由民主党が議席を失い、第2党の社会民主党と大連立を組む公算が大きくなっている。

 メルケル氏は国民からの信任をテコに、連立協議を早くまとめ、ギリシャ支援やユーロ再建に指導力を発揮してほしい。

 沈滞する欧州で一頭地を抜く経済力を誇るドイツは、ユーロ問題のカギを握る。

 欧州諸国はむろん、世界がこの選挙に注目したのは、ユーロ再建や南欧支援に、首相がどのような姿勢を示し、ドイツの有権者がどんな判断を下すのか、見定めたかったからだ。

 ところが選挙戦では、堅調な国内経済を追い風に現状維持を望む空気が強く、ユーロ問題は後景に退いた。国民負担もありうる南欧支援などユーロの厳しい現実は封印され、選挙後に先送りされた。

 危機対応で慎重さを崩さず、世界をやきもきさせたメルケル氏の姿勢が変わるかどうか、微妙なままだ。

 ただ、新たな連立対象となる社会民主党も、緑の党も、同盟よりユーロ再建には前向きだ。自民党が南欧支援に否定的だったのに比べれば、ドイツ政治の軸足がユーロ重視の方へ動く可能性がある。

 一方、反ユーロを掲げた新党「ドイツのための選択肢」は議席こそ逃したものの、それなりの存在感を示した。政権は反ユーロの火種にも引き続き目配りを強いられそうだ。

 ユーロ危機は1年前に欧州中央銀行が国債買い入れ方針を表明して以来、落ち着いている。しかし、火元のギリシャでは緊縮財政が行き詰まり、3度目の支援が避けられない情勢だ。

 今後、欧州連合(EU)、国際通貨基金(IMF)、欧州中銀による協議が本格化する。ギリシャの疲弊ぶりを考えると、EU諸国の政府が持つ対ギリシャ債権の減免など納税者負担に結びつく対策を迫られる可能性もある。

 戦後ドイツでは、長期政権で政治的求心力を高めた首相が歴史的な改革に取り組んできた。西ドイツのアデナウアー初代首相は在任14年。東西ドイツ統一を成し遂げたコール元首相は16年。メルケル氏が任期を全うすれば2人に次ぐ。

 欧州の新時代を築く礎にメルケルの時代を刻めるか、真価が問われる。

反差別デモ―ふつうの感覚を大切に

 3連休の中日の東京・新宿周辺。在日韓国・朝鮮人らを罵倒する街頭行動が繰り広げられてきた新大久保などで、差別撤廃を求めるデモ行進があった。

 特定の人種や民族への憎悪をあおりたてる差別的表現は「ヘイトスピーチ」と呼ばれる。

 これらの動きに反対する人々が「東京大行進」と題して集まり、「一緒に生きよう」と呼びかけながら練り歩いた。沿道からの飛び入りも加わり、参加者は約1200人にのぼった。

 反ヘイトスピーチだけではなく、障害者や同性愛者への差別撤廃なども訴えた。大阪で7月、「仲良くしようぜ」と呼びかける動きがあり、これが東京大行進につながった。

 「殺せ」「レイプしろ」と叫ぶヘイトスピーチは醜い。

 日本は人種差別撤廃条約に加盟しており、条約はヘイトスピーチを禁じる法整備を求める。そのため、日本でも立法を急ぐべきだとの指摘が出る一方で、表現の自由が脅かされることを懸念して慎重論も根強い。

 処罰法のあるなしにかかわらず、市民の側から自主的に、外国人排斥の主張に反対する動きが出てきた。それは健全なことであり、支持する。

 ヘイトスピーチの現場では、差別する側と反対派による乱闘騒ぎがたびたび起きている。暴力を肯定する声は、差別行為を阻止したい側にもある。だが、法を守ってこそ行動の説得力は増すのである。

 韓国では、ヘイトスピーチは日本社会の右傾化の象徴と受け止められている。しかし多くの日本人は、隣国とむやみにことを構えたいとは思っていないはずだ。在日コリアンを排除しようなどという考えは、一般の市民感覚からはかけ離れている。

 ただ、気になる動きが続く。先週末、「日韓交流おまつり」の開会式に安倍首相の妻の昭恵さんが出席し、フェイスブックに投稿したところ、首相夫人としての行動を疑問視するような批判が相次いだ。

 開会式ではビビンバが混ぜ合わされ、鏡割りが披露されただけ。市民中心の交流会だった。

 昭恵さんは「色々なご意見がおありだと思いますが、お隣の国ですので、仲良くしていきたい」とだけ書き加えた。もちろん好意的な意見や「いいね!」も多く寄せられている。

 冷え切った政治の関係が、市民同士の感情に影響し始め、ふつうだったことが、ふつうでなくなりつつある。隣人とのいがみ合いが絶えないほど居心地の悪いものはない。ふつうの感覚を大切にしたい。

薄被告無期判決 共産党政権の危機感の表れだ

 共産党統治の安定を最優先した政治的な判決だったと言えよう。だが、国民の不満はくすぶり、先行きは不透明だ。

 収賄、横領、職権乱用罪に問われた中国重慶市党委員会の元トップ、薄煕来・元政治局員に、無期懲役の判決が言い渡された。党指導経験者への異例の厳刑である。

 一党独裁体制の中国は、法治主義の建前をとっているものの、重要な裁判の判決は、基本的に党が決定する。2審制だが、薄被告が上訴しても判決は覆るまい。

 習近平政権が無期懲役判決に踏み切ったのは、党要人であっても腐敗は許さないとの決意を国民に示すためだろう。併せて、党の支配を破綻させかねない薄被告の大衆扇動的な手法を断罪する狙いもあったに違いない。

 薄被告は重慶在任中、党が本来掲げていたはずの平等の理想を強調し、貧困層向けに安価な住宅を建設するなど格差是正を主眼とする政策を展開した。

 人々に毛沢東時代の革命歌を歌わせ、大衆の支持を誇示して、党の最高指導部入りを目指した。

 政権には、薄被告のやり方が現状への大衆の不満に火を付け、党批判の暴発を誘いかねないとの危機感があったのではないか。

 ただ、重慶時代については職権乱用罪のみが審理され、被告の政治手法そのものが判決で問題視されることはなかった。

 薄被告には、今も貧困層を中心に根強い支持がある。習政権は、判決がその手法に言及すれば、国民をいたずらに刺激しかねないと警戒したのだろう。

 インターネット上で、薄被告に同情して判決に反発する書き込みが削除されたことにも、当局の警戒ぶりがうかがえる。

 薄被告は、起訴事実を全面否認し、対決姿勢を示した。無期刑には、被告の口を封じるとともに、大衆を扇動する「第二の薄煕来」の出現を阻むという意図が込められていると言える。

 習政権は、公判に合わせるように、薄被告の後ろ盾と言われた周永康・前政治局常務委員の人脈に連なる石油業界の幹部らを汚職で摘発している。薄被告とつながる勢力に打撃を加え、権力基盤を固めようとする動きの一つだ。

 習氏は、11月に開かれる党中央委員会総会で、経済構造改革方針を打ち出そうとしている。

 薄被告を排除しても、腐敗や格差の問題は残る。習氏が国民の不満をどう解消するかが、党の将来を左右することになろう。

JR北海道 安全軽視の企業風土を改めよ

 公共輸送機関としての信頼は完全に失墜した。規律の緩みを猛省し、安全最優先の体制構築を急がなければならない。

 JR北海道の路線で、レールの幅などが基準を超えているのに放置されているケースが、200か所以上も確認された。

 国土交通省は、期間を延長して鉄道事業法に基づく特別保安監査を実施している。原因の徹底究明と再発防止を求めたい。

 今回の問題の発端は、函館線で19日に起きた貨物列車の脱線事故だった。JR北海道が管内の路線について緊急点検を実施したところ、次々と異常が見つかった。客を乗せた列車が走行する本線のレールの不具合も多かった。

 JR北海道は、基準を超えた場合、15日以内の補修を内規で定めている。にもかかわらず、1年近く放置されていた地点もある。

 異常を把握しながら措置を講じない。安全に輸送するという使命感はどこに行ったのか。菅官房長官が「極めて悪質性がある」と批判したのは、もっともだ。

 保線管理の責任者である工務部長は当初、本線について、現場と本社の二重のチェックが働いているため異常の放置は起きえない、との認識を示した。責任者すら社内の安全管理の状況を正しく把握していない実態を露呈させた。

 鉄道会社にあるまじき怠慢を見過ごしてきた経営陣の責任も厳しく問われるべきだろう。

 JR北海道は、2011年の特急列車脱線炎上事故を受け、「安全性向上のための行動計画」を策定した。安全を軽視する企業風土の改革などが柱だった。

 しかし、その後も、列車からの出火など、深刻な事例が後を絶たない。24日にも根室線の車両で発煙トラブルが起きた。

 自動列車停止装置(ATS)を誤作動させた運転士が、ミスを隠すためにATSのスイッチを壊すという問題も発覚している。唖然あぜんとするばかりだ。

 緩みきった組織の改革が、JR北海道が取り組まねばならない喫緊の課題である。

 社員教育や採用のあり方を根本から見直し、安全重視の意識を隅々まで浸透させなければならない。JR他社など外部からの人材登用も検討に値しよう。

 安全への不安から、観光客の減少と、それに伴う地元経済への影響も懸念される。

 15年度に新青森―新函館間が開業予定の北海道新幹線では、高水準の安全確保が求められる。JR北海道の現状では心もとない。

2013年9月24日火曜日

企業は資本増強を成長につなげよ

 日本企業が株式を発行して資金を調達する動きが加速してきた。堅調な株式相場を背景として、思い切った投資をするための資本を手当てしようと考える企業が増えているようだ。

 産業資本の供給は、株式市場が経済のなかで果たす重要な役割の1つである。そうした市場の機能をうまく活用し、企業は成長を加速させる時だ。

 調査会社トムソン・ロイターの集計では、2013年1月から9月半ばまでの増資などの累計額は約3兆6000億円と、すでに12年通年の1.7倍に達した。

 過去にも増資が高水準だったことはある。09~10年はリーマン・ショック後の自己資本比率規制に対応する必要があった金融機関などが資本調達を急いだ。

 当時と比べて今回の特徴は、金融以外の企業が成長資金を得るために実施する増資が多いことだ。

 サントリー食品インターナショナルは7月の新規上場に伴い、企業買収のために公募増資で約2800億円を調達した。9月には実際に英製薬会社の飲料事業の買収を発表し、調達資金を有効に活用する姿勢を示した。

 明快な戦略を掲げてすばやく動く企業は、増資後も株式市場の高い評価を保つことができる。そうした企業が増えれば株式市場が全体として活性化し、大企業だけでなくベンチャー企業にも資金が回りやすくなるはずだ。

 しかし、一部には成長の道筋をはっきりと描き切れない企業が増資に踏みきる例も見られる。

 1700億円弱の増資を発表したシャープは、主力の液晶パネルの収益回復が遅れている。早く再建を軌道に乗せないと、株主の失望を招きかねない。増資を実行する企業は重い責務を負うことも忘れてはならない。

 日本の株式市場は、業績不振の企業や資金需要に乏しい企業の増資が増え、その後に相場が低迷したり、不正取引の温床になったりした苦い経験を持つ。

 そんな過去を踏まえて、日本証券業協会が公募増資の制度改革に関する提言を、このほどまとめた。提言には法改正が必要と思われるものもあるが、増資の資金使途に関する詳細な情報開示を求めるなど、すぐに実行できそうな内容も含まれている。

 市場からの資金調達は重い説明責任を伴うという大原則を、企業は改めて確認すべきだ。

保育拡充はこれからが本番だ

 国の基準を満たす認可保育所に入れない「待機児童」の数が、3年連続で減り、約2万3千人になった。だが減少幅は小さく、都市部の保育所不足はなお深刻だ。

 保育サービスの拡充は、むしろこれからが本番だ。国や自治体は取り組みを加速してほしい。

 厚生労働省の4月1日時点のまとめによると、保育所の定員は過去最高の約4万9千人分、増えた。だが利用希望も増え、待機児童数の減少は約2100人にとどまった。最初から入所を諦めて申し込まない場合などは待機児童の数に含まれない。潜在的な利用希望はなお多い。

 大事なのは、安倍晋三首相が4月に打ち出した保育サービスの拡充方針を着実に進めることだ。その際は規制緩和も活用すべきだ。

 政府は2017年度までに40万人分の保育の受け皿を確保し、待機児童数をゼロにするという。このうち14年度までの2年で20万人分を集中的に増やす計画だ。国が自治体向けに用意した支援プランには、すでに351自治体の参加が決まった。

 さらなる拡充のカギを握るのは、新たに制度化される定員19人以下の「小規模保育」だ。保育所に比べ機動的に整備できる。国は早急に財源を確保し、自治体の取り組みを後押しすべきだ。

 待機児童を減らす上では、保育を担う人材の確保も重要だ。17年度末には保育士が約7万人不足するとの試算もある。資格を持っているのに保育士として働いていない人は約68万人いる。人材を掘り起こすために、就労支援などの対策をさらに充実させてほしい。

 企業の力も十分に活用すべきだ。企業による保育所は00年に解禁されたが、参入を認めない自治体もあり、保育所全体の2%に満たない。一定の水準を満たしていれば、認めるべきだ。

 安心して子どもを預けられる保育サービスの拡充は、女性の就労促進による経済活性化に寄与し、少子化対策ともなる。もはや一刻の猶予もない。

政労使会議―賃金デフレの根を絶て

 安倍首相の音頭取りで、政府と経営者団体、労働団体の代表からなる政労使会議がスタートした。

 来年4月の消費税増税までに賃上げ機運を盛り上げ、経済全体の好循環を促すのが安倍政権の狙いだ。来年1月ごろまで数回、開催するという。

 首相は今年の春闘で財界に賃上げを要請し、一部の企業が反応した。今度は春闘の仕込みの段階から働きかける。賃上げがアベノミクスの正否を左右すると思い定めているようだ。

 長く続く賃金デフレは労使双方、とりわけ経営側の心理的な惰性にとらわれた結果という面が否定できない。

 業績は改善しているが、賃金は上がらず、企業は内部留保をため込む。ここに政府が割り込み、空気を変えられれば意味があろう。

 好業績企業からは賃上げ容認論も出始めた。ただ、賃金デフレは根深い構造を持っている。しっかり斬り込まなければ、働く人々は将来に明るい展望は持てない。

 春闘の流れに乗るのはひとつの便法だが、その限界に縛られることでもある。今の春闘に非正規労働者や中小企業に賃上げが波及するメカニズムが欠けているなか、どう広がりを確保するのか。雇用の安定をどう実現するのか。そんな課題に政府は向き合ってほしい。

 賃金デフレ構造の根底には、内外市場で商品やサービスが競争力に劣るという経営面での弱みがある。ここから目を背け、人件費などのコスト削減にいそしむことが、要求度の高い株主たちに対する無難な対応とされてきた。

 経団連は人件費削減の「横並び」に余念がないが、そこに安住する危うさを自覚しなければならない。

 労働側も賃金デフレの構造強化に対して非力だった。もともと大企業の正社員が中心の構成で、バブル崩壊後に進んだ非正規雇用の激増に対応できなかった。とくに労働現場の賃金・処遇の実態をつかむ「情報力」を失った。

 これが労組の交渉力、すなわち問題の提起や解決の能力を衰えさせてきたといえる。

 連合は、中小企業や非正規企業への賃上げ波及を図るため、その処遇の実態把握にも努力し始めた。日暮れて道遠しだが、この道を進むほかない。

 労使双方とも政府の「介入」への警戒感がある。だが、労使自治をいうなら、これを機に自らの問題にまずは自らメスを入れることだ。

遠隔地特養―本人の意思が大切だ

 どこで老後を過ごしたいか。本人の意思を第一に考え、選択肢を広げたい。

 都市部の高齢化をめぐって、厚生労働省の検討会が報告書をまとめた。地方から都会へ流れ込み、生活を形成した団塊の世代が一気に年老いるからだ。

 議論が白熱したのは、都市部で一人暮らしが難しくなった高齢者などを、地方の特別養護老人ホーム(特養)に送り出すことの是非だ。

 都市部における特養の入居待ちを解消するため、地方の施設で受け入れやすくするよう規制緩和すべきだ――。

 今年3月、官邸の産業競争力会議の民間議員がそんな提案をし、それを受けて厚労省が検討会を設けた経緯がある。

 過疎に悩む山形県舟形町は、福祉産業の誘致が雇用の拡大に効果があり、都市部とお互いメリットのある関係が築けると、検討会で訴えた。

 大事なのは、高齢者本人の意思がどこにあるかだ。

 元気なうちにUターンやIターンで地方に移住を決めるのなら、むしろ後押ししたい。老後の過ごし方に多様な選択肢を用意するのは、大賛成だ。

 しかし、要介護度が上がり、認知症もある高齢者の受け皿として、遠隔地の特養を「産業振興」として推進すべきか。

 「本人の意思に反して入所を強いるおそれ」があるとして、報告書は慎重な姿勢を示した。妥当な判断だろう。

 一方、東京都杉並区が静岡県南伊豆町に計画中の特養については「区民の保養所や臨海学校があり、つながりが深い」と容認した。自治体同士の「つながり」と、本人の意思とは直接には関係ない。こちらも慎重な運用が必要だ。

 要介護の高齢者が激増するなか、「住みなれた町で最後まで暮らせるように、という政策は本当に可能なのか」という疑念もあろう。

 都市部で介護施設が不足し、やむをえず遠いところに入らざるをえない現実がある。特に、身よりのない生活困窮者をどう支えるかは重い課題だ。

 報告書では、都市部に数十万戸単位で存在する空き家に着目する。そこに、介護や医療に加え、NPOやボランティアの力を生かした生活支援を提供し、「ケア付きコミュニティー」を実現すれば、施設同様の安心感を確保できるとみる。

 むろん施設を建て、人を雇えば済む話ではなく、住民同士の互助が必要となる。ここは元気なお年寄りの力の見せ場になるのではないか。

メルケル氏続投 強い経済へ期待示す独総選挙

 ドイツの総選挙で、メルケル首相の保守政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が大勝し、首相の3選が確実になった。

 任期を全うすれば在任12年に達し、女性宰相の先輩、サッチャー元英首相を抜く。独歴代政権の中でも長期政権となる。

 同盟の勝利は、欧州の財政・金融危機で各国指導者の交代が相次ぐ中、ドイツの堅調な経済を守り抜いたメルケル首相の実績が国民に評価されたためだろう。続投は、安定的な景気回復を望む国際社会からも歓迎されよう。

 メルケル氏はこれまで、欧州一の経済大国ドイツを、強い指導力で牽引けんいんしてきた。

 メルケル政権下で、10%を超えていた失業率は半減した。輸出も昨年、過去最高額を更新した。前政権からの構造改革と規制緩和を推進し、法人税率の引き下げなどに踏み切ったことが、企業の国際競争力を高めたと言える。

 危機に瀕ひんしたギリシャなど南欧諸国に対し、欧州連合(EU)が支援を行った際、中心的役割を担ったドイツの負担が膨らんだことに、有権者の一部には強い不満があった。だが、選挙戦で同盟の優位は揺るがなかった。

 ユーロを守るため他国を救済することは、欧州経済の発展に不可欠で、ドイツの国益にかなうという首相の粘り強い説得が、国民に浸透してきたのではないか。

 3期目も、危機の収拾が最大懸案であることには変わりない。

 南欧諸国からは、ドイツが支援の条件として過度の緊縮財政を強いて、景気回復を遅らせたと反発する声が出ている。

 「通貨は一つで財政はバラバラ」というユーロ圏の構造的な問題も未解決だ。フランスなど欧州主要国との連携が一層問われる。

 当面の焦点は、安定的政権を目指す連立交渉の行方だ。

 連立を組んでいた自由民主党が議席を失い、過半数議席にわずかに届かない同盟は、第2党の社会民主党(SPD)との大連立を軸に多数派工作に乗り出す。

 左派のSPDは、南欧支援やユーロ圏の財政統合に同盟より積極的であり、連立には政策のすり合わせが必要になろう。

 日本にとって気がかりなのは、メルケル首相が中国との経済関係強化に熱心な一方で、2008年以来、訪日していないことだ。

 3期目では、首脳の往来を活発化してほしい。日EUの経済連携協定(EPA)や環境問題など協議事項は少なくないはずだ。

農地管理機構 生産性向上をどう実現するか

 新たなバラマキ政策となっては、農業の競争力強化につながらない。規制や補助金の見直しにも踏み込み、実効性ある改革を目指すべきだ。

 政府が小規模な農地や耕作放棄地を借り上げ、大規模農家や企業に貸し出す「農地中間管理機構」(仮称)を各都道府県に創設しようとしている。秋の臨時国会に関連法案を提出する方針だ。

 借り手が活用しやすい農地とするため、機構は区画整理や用水路の整備なども行う。

 農林水産省は2014年度予算の概算要求で機構関連として1000億円超を要望しており、このうち6割を農地の賃料や基盤整備などに充てる考えである。

 農家1戸あたりの農地面積は平均約2ヘクタールと狭い。後継者難などを背景に、全国の耕作放棄地が20年前のほぼ2倍の約40万ヘクタールに増えたのも深刻な事態と言えよう。

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で一層の貿易自由化を求められると、農業大国との競争で日本の苦戦は必至だ。意欲的な大規模農家などに農地を集約し、生産性を高める狙いは理解できる。

 だが、農地の借り手が現れず、機構に滞留するような事態に陥れば、機構は貸し手に賃料を無駄に払い続けるだけになる。区画整理などを名目とした公共事業の大盤振る舞いも懸念される。

 政府の規制改革会議は、これまで担い手農家への農地集約が進まなかった原因として各地の農業委員会などの意向で農地の借り入れが難しかった問題を指摘した。

 借り手の拡大には、農業委員会が認めないと農地を貸借できないという現行規制の見直しが欠かせない。借り手の公募制を導入し、農地の貸し借りに公平性を担保することも必要だろう。

 予算の無駄遣いを防ぐため、賃貸借料や整備事業にかかった費用も公表させて、機構の透明性を高める工夫も求められる。

 民主党政権で始まった戸別所得補償制度の見直しが進んでいないのも問題だ。コメ農家などに一律で補助金を払う仕組みである。

 自民党は野党時代、これをバラマキだと批判していたが、安倍政権発足後もほぼ同じ制度を維持している。14年度概算要求でも前年度と同規模の予算を要望した。

 制度を温存すれば、機構で農地を集めようとしても、零細農家などが補助金を目当てに農地を手放さないことが懸念される。

 機構の目的に沿って一律支給を廃止し、担い手農家を重点的に支援する制度に改めてほしい。

2013年9月23日月曜日

車の自動運転を普及させるためには

 クルマの自動運転技術の開発競争が一段と激しくなってきた。きっかけになったのは異業種から名乗りを上げた米グーグルで、同社は3年前に開発に着手し、去年から公道での走行実験を始めた。

 自動車大手もこれに刺激され、独ダイムラーは最近のモーターショーで自動運転車を披露した。人がハンドルに指一本触れないまま、クルマ自身が道路のカーブや信号を知覚し、加減速やハンドル操作をこなして、街中の細い道でもすいすい走り抜ける。

 日本勢でも日産自動車が2020年までに自動運転技術を実用化すると発表した。10月には高度道路交通システム(ITS)世界会議が東京で開かれ、11月の東京モーターショーとあわせ、各社から試作車や新技術が次々に登場する。

 自動運転の最大の意義は、安全性の向上である。暗いところでも見通せる知覚技術や、危険を認知すれば人より早い反応速度でブレーキを踏む自動機構の実用化はそれほど難しいことではない。

 人がハンドルを握らないなら、飲酒運転は根絶できる。運転中に発作を起こしてクルマが暴走するといった惨事も防げる。

 人の運転につきまとうむだな加減速を抑えることで、省エネや渋滞解消につながる利点もある。

 むろん普及には課題も多い。個々の要素技術は出そろってきたが、それらを束ねてクルマとして自然な動きをするには実際の走行を重ねなければならない。

 米国に比べて、日本は公道での走行試験が難しく、規制の見直しが急務だ。自動運転中に万一事故が起きた場合、その責めをだれが負うのか、法律面で考え方を整理しておく必要もある。

 日本企業はいわゆる「技術のガラパゴス化」にも注意しないといけない。国内の関係者だけでいくら高度な技術標準を決めても、それが世界の流れに反したのでは、むしろ競争上マイナスに働く。

 アンテナを高く張り、グーグルのような異分野のプレーヤーとも手を結ぶ柔軟さが欠かせない。

 安全は環境と並ぶクルマの二大技術の一つであり、自動走行をめぐる開発競争は、21世紀の自動車産業の勢力図を左右するほどの戦略性を持つ。さらに、運転に自信をなくしたお年寄りにとって自動運転は心強い味方であり、高齢化の進む日本にこそ必要な技術でもある。国内自動車産業の頑張りに期待したい。

帰還促す現実的な除染計画に

 福島第1原子力発電所の周辺で除染が進んでいない。原発に近い11市町村の除染は国が直轄で実施し、来年3月末までに終える予定だった。だが7市町村でそのメドが立たず、環境省は今年末までに計画を見直すとした。

 除染が遅れているのは、汚染土を運ぶ仮置き場や中間貯蔵施設を確保できず、住民の合意を得るのに手間取っているためだ。長期的に被曝(ひばく)線量を年1ミリシーベルト以下にするとした目標も、自治体などから「目標が高すぎて非現実的だ」と批判が出ている。

 住民の帰還や復興には除染が欠かせず、国が責任をもって加速しなければならない。一方で、森林や原野を含めて徹底的に除染するとなると、費用が巨額に膨らむ。線量がある程度下がった地域では、住民の健康管理や被曝を減らす対策に力点を移し、現実的な計画に練り直すべきだ。

 まず住宅地や農地の除染を急ぎたい。福島県飯舘村では宅地の3%、農地の1%しか除染がすんでおらず、住民の帰還や生活再建の足かせになっている。

 中間貯蔵施設を早く造る必要もある。環境省は大熊町などを候補地に挙げた。地元に安全性や必要性を丁寧に説明し、計画通り2015年の稼働をめざすべきだ。

 住民の帰還の目安となる年間被曝線量を20ミリシーベルト以下、長期的に1ミリシーベルト以下とした目標も、それで妥当なのか改めて議論が要る。

 年20ミリシーベルトは国際機関が「健康影響を回避する出発点」と定めた数字であり、それを満たすだけでは住民の不安を拭えない。日々の被曝線量をチェックし、放射線が高い場所に近づかないようにするなど、被曝管理が重要になる。

 除染一辺倒の対策ではなく、住民に線量計を配ってデータを集め、相談窓口や健康診断の体制を拡充する支援策が欠かせない。

 原子力規制委員会は専門家チームを設け、住民の健康管理に関する支援策づくりを始めた。環境省はそれも踏まえ、住民が安心して帰還できる計画を作ってほしい。

薄熙来事件―中国の弱さが見える

 中国を揺るがせた一大政治事件にひとまず区切りがついた。内陸の中心都市、重慶市のトップだった薄熙来被告がきのう、無期懲役の判決を受けた。

 問われた罪は収賄などで、一見、汚職事件ではあるが、その本質は荒々しい権力闘争にほかならなかった。

 市の共産党委員会書記だった薄被告がめざしたのは、党中央最高指導部への昇進だった。

 貧困層のための住宅建設や、毛沢東時代のような革命歌の運動。そうした異色の施策は、党幹部の腐敗に怒る多くの庶民を味方につけるためだった。

 そのうえで、経済成長を優先して格差拡大を放置した党中央に挑戦する手法をとった。

 そこで党中央は追い落としに奔走した。元書記自らも腐敗し蓄財していたのだから、刑事訴追の理由はこと欠かない。

 だが、立件した収賄額や横領額はごく一部に絞り込まれた。すべて掘り起こせば他の指導者に累が及び、党の権威が失われかねないからだ。

 党中央は裁判の正しさを演出するため、中国版ツイッターの中継で公開した。ところが元書記はそれを逆手にとり、裁判の政治性を公に訴えかけた。

 元書記のしたたかさがあぶり出したものは、中国政治の仕組みが抱える弱さではないか。

 毛沢東時代からトウ小平が1997年に死去するまで、国の中枢には建国神話にからむ人物がいた。前総書記の胡錦濤氏まではトウ小平の息がかかっていた。

 だが、そんな鶴のひと声は、もはや存在しない。新体制づくりの昨年の党大会に向けて、一介の地方指導者が中央昇進の野心に燃え挑んだことは、旧来の密室政治のほころびを露呈したといえる。

 中国共産党は、これまでのように水面下で権力の継承を決めようとしても、複雑に絡む争いや妥協を闇にとどめておくことは難しくなるかもしれない。

 ましてや、民衆の目は厳しさを増している。

 今も元書記を支持する人々は、重慶からはるか遠い山東省の裁判所周辺にまで現れた。89年の天安門事件以降、指導者に共鳴して民衆が声を上げることは久しくなかった。

 外から見る中国は富国強兵の道をひた走る大国と映るが、内なる中国はカリスマ不在の国家統治をめぐる底知れぬ難問に悩んでいる。権力の多極化と経済格差がもたらす不安は、これからもずっとぬぐえない。

 そんな中国の脆弱(ぜいじゃく)さをのぞかせる第二の薄熙来事件が、またいつ、起きるとも知れない。

スポーツ庁―メダルを目的とせずに

 スポーツを、すべての人が楽しむ社会に。メダルの獲得数より、こんな目標を掲げたい。

 東京に五輪が来ることになって、政府が「スポーツ庁」を新設する検討を始めた。

 スポーツ界は、国をあげた選手強化と予算の拡充のため、その創設を求めてきた。

 メダルを取った選手にあこがれてスポーツをする子どもが増える。体力は上向くし、プレーヤーのすそ野も広がる。その効果はあなどれない。

 ただ、閉幕後のことも考えれば、五輪で好成績をあげるためだけに新しい官庁をつくるべきではない。

 昭和の東京五輪は、メダルが重い意味を持った。敗戦から19年。国民が自信を取り戻すために、その証しが必要とされた。選手にはとてつもない重圧がかかったはずだ。

 けれども、いまや日本は成熟社会になった。「メダル増も求められるが、一人ひとりの国民がスポーツを通じて人生をさらに豊かにできるような環境整備も必要だ」。下村文部科学相の言葉にはうなずける。

 五輪をきっかけに、総合的なスポーツ政策を描くことを考えてはどうか。

 課題はいろいろある。不況や少子化の影響で企業スポーツや運動部の活動が停滞しているぶん、地域のスポーツ活動を盛り上げる。長寿社会だから、シニアも気軽に楽しめるスポーツも工夫したい。

 だれもが健康のため、人生を楽しむためにスポーツに親しむ。その中から優れた選手が生まれ、結果としてメダルも増えれば言うことはない。

 スポーツ庁をつくるかどうかを考える原点もそこにある。

 日本のスポーツ行政は縦割りが著しい。体力づくりに関係する省が少なくとも五つある。

 例えば、スポーツ一般と障害者スポーツが文科省と厚生労働省にわかれている。五輪とパラリンピックの支援策も従来バラバラだった。諸外国では、ひとつの省が担うのが普通だ。

 これをスポーツ庁に一元化すれば、たしかに全体のスポーツ予算を効率よく使えるようになるかもしれない。

 一方で、障害者福祉全般から障害者スポーツが切り離されるなど、新たな縦割りの壁ができることによる弊害はないか。

 スポーツ庁でないと本当にだめなのか。利点と欠点を慎重に吟味して判断すべきだ。

 国の威信など気にせず、選手も観客もプレーそのものを楽しむ。そんな大会にして世界から集まる人々をもてなしたい。

新金融検査方針 成長重視で新規融資に弾みを

 金融庁が銀行に不良債権処理を厳しく迫るばかりでは、成長分野への新規融資は進まない。

 金融検査の手法も、時代の要請によって変えていく必要がある。

 金融庁が、金融検査・監督方針を大きく転換した。

 不良債権がないか、しらみつぶしに調べる手法を改め、中小企業向けなど小口融資の査定を各銀行の判断に委ねるという。

 バブルが崩壊し、金融不安が高まった時期の検査は、不良債権処理を優先する「危機対応型」だった。こわもての検査官が、銀行幹部を容赦なくやりこめる。そんなテレビドラマのような場面も、実際に少なくなかった。

 今も銀行は金融検査を恐れ、中小企業やベンチャー企業への融資を渋りがちだ。金融が目詰まりを起こした現状を改めようと、検査方針を「成長促進型」に切り替えるのは適切な対応と言える。

 融資判断の自由度が高まれば、銀行自身の責任は重くなる。中小企業への融資を断る際、「金融庁が認めないから」といった言い訳は通らなくなろう。

 事業の将来性や経営者の資質などを見極め、小さいながらキラリと光る成長企業を発掘する「目利き力」の強化が求められる。

 銀行が成長分野への融資を積極的に展開し、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を後押しすることが望まれる。

 金融庁は、三菱UFJフィナンシャル・グループなど3メガバンクへの検査では、融資リスクや企業統治など重要テーマ別に専門チームを設け、複数行を横断的に検査する新手法を導入する。

 日本のメガバンクに共通する課題を洗い出し、経営改善につなげるのが狙いだ。メガバンクは検査で受けた指摘を生かし、国際競争力を高めてもらいたい。

 従来の厳格な金融検査が、バブル崩壊で膨らんだ不良債権の処理を促し、金融システム安定に貢献したことも事実である。

 銀行の自己査定を尊重するにしても、金融庁が主要な融資にはしっかり目を光らせ、巨額の不良債権を見逃さないことが肝要だ。

 金融庁が地銀などに、5~10年後を見据えた中長期戦略の検討を求めた点も注目される。

 地銀が同じ都府県に3~4行も乱立し、過当競争で疲弊するケースが目立つ。安倍政権の目指す地域経済再生には、地銀などの金融機能強化が欠かせない。各地銀は他行との再編を含め、経営戦略の練り直しを急ぐべきだ。

選挙制度改革 衆参の役割踏まえて検討急げ

 参院の選挙制度改革は二院制における参院のあり方を踏まえて検討することが必要だ。

 参院各党は、参院選で中断していた選挙制度改革の協議を再開した。2016年の次期参院選から新たな制度に移行することを目指している。衆院の選挙制度改革と歩調を合わせて検討を進めてもらいたい。

 重視したいのは、参院で野党が多数を占めるねじれ国会では、野党が反対すれば法案は成立しないということである。近年、野党がねじれを悪用し、国政の停滞や混乱をもたらしてきた。

 衆院選は政権選択の選挙と位置付けられている。衆院選で勝利した与党が、参院で少数となるねじれの常態化は避けるべきだ。

 そのためには、民意を集約し、多党化を招かない参院の選挙制度が望ましい。

 最高裁は昨年10月、1票の格差が最大5・00倍だった10年の参院選挙区選について、「違憲状態」と判断した。各都道府県に最低2議席を割り振る現制度を維持したままでは、1票の格差を是正することは困難だとも指摘した。

 西岡武夫元参院議長はかつて、全国9ブロックの比例選を提案し、その後、9ブロックの大選挙区選に修正した。

 都道府県単位の選挙区よりブロック制の方が、1票の格差を小さくしやすい利点がある。広域行政を推進する目的にも合致する。

 公明党は11ブロック程度の大選挙区選を主張している。

 こうした案も踏まえて、自民、民主両党なども抜本改革案をまとめ、協議を加速させる必要がある。その際、各党が定数削減にこだわっていては合意形成が妨げられよう。定数削減は選挙制度改革と切り離して論じるべきだ。

 参院の選挙制度の選択肢をさらに広げるには、憲法改正が必要となる。憲法43条は、両院議員を「全国民を代表する選挙された議員」と定めている。

 この条文を見直せば、専門知識を有する見識の高い人材や地域代表を選挙を経ずに、推薦、任命する仕組みの導入も可能になる。

 一方、衆院の選挙制度改革も急がねばならない。自民、公明、民主3党の幹事長は、協議の継続を確認しているが、具体的な作業を進めないのはどうしたことか。

 各党の主張は大きく異なっており、政党間の話し合いで合意を見いだすのは難しい。各党は改革の論点を早急に整理した上で、有識者による第三者機関に制度作りをゆだねるべきである。

2013年9月22日日曜日

地方分権の成果を自治体は住民に示せ

 政府の有識者会議が地方分権に関する当面の方針をまとめた。国から地方へ移す事務や権限を列挙しており、年内をめどに最終案を決めるという。

 安倍晋三内閣が分権の改革案をまとめるために今年4月に設置したのが有識者会議だ。地方に移す権限として医療法人の設立認可や看護師の養成施設の指定権限など44項目をあげ、農地転用など50を超す項目について移譲が可能かどうか、引き続き検討する。

 今回の改革案の特徴は、希望する市町村を優先して移譲する方式を一部取り入れた点だろう。過疎地などで自家用車を使って高齢者を有料で送迎する事業者の登録事務などがそうだ。希望する市町村がない地域では、都道府県が代わりに引き受けることもできる。

 仕事がさらに増えることに対して不安に感じている市町村もあるので、現実的な案だろう。地方に事務や権限を移す時には財源もしっかりと手当てしてほしい。

 現在の分権改革は、第1次安倍内閣時代の2007年に発足した地方分権改革推進委員会の勧告を出発点に進められている。今回の権限移譲案がまとまっても、課題はまだ残されている。

 現状をみると、中央省庁の抵抗や自治体側の事情もあって分権改革は壁にぶつかっているといった方がよいだろう。かねて懸案だった国が管理する国道や河川の権限を都道府県に移す問題については今回も決着しなかった。

 自立した自治体をつくるためには国から地方に配る補助金を減らして、その代わりに地方に税源を移譲することが欠かせない。しかし、有識者会議は税財政の問題を検討課題にしていない。

 税源を移すと都市と地方の税収格差が開く懸念がある。このため地方側ですら税源移譲に消極的なことが影響しているのだろう。

 住民に身近な自治体の自由度を高めて、地域の発想を生かすことが分権の狙いだ。これまでの改革で首長の発言権は強まったが、住民からみれば何が変わったのかよくわからないのではないか。

 これでは今後、都道府県を再編・統合する道州制を打ち出しても、国民の支持は得られまい。

 今年は衆参両院が地方分権の推進を求める決議をして20年の節目の年になる。分権をさらに進めるためには、自治体がこれまでの成果を政策の形で、住民にはっきりと示すことがまず必要だ。

休眠特許で中小企業を元気に

 取得しながら活用していない「休眠特許」が大手企業などには多い。死蔵したままでは社会の損失だ。中小企業が使えるようにして製品開発を進めやすくすれば、経済の活力向上につながる。眠れる特許の橋渡しに力を入れたい。

 特許庁の調査では国内の大企業などが保有する約135万件の特許のうち、5割弱が休眠特許となっている。事業戦略の見直しで、取得した特許を生かした商品の開発を見送る例が少なくない。

 一方、中小企業は、大手企業の海外生産移転による受注減を補うため、新しい分野への進出をめざす動きがみられる。新製品開発に力を入れる企業も多い。休眠特許を活用しやすくすることで、こうした取り組みを後押しできる。

 大手企業の特許を中小が使う仲介役として期待したいのが自治体だ。地元企業の支援などを目的に「産業振興センター」などを置いている例も多く、こうした組織は地域の企業がどんな技術を求めているか、ニーズをつかみやすい。

 たとえば川崎市産業振興財団は「知的財産コーディネータ」の職員が大手企業と中小企業の双方を訪問する。大手から外部への開放を考えている特許を聞き、使用権の契約で中小企業に助言する。富士通の特許をもとに地元企業がプリント基板の検査装置を商品化するなど、これまでに15件のライセンス契約を成立させている。

 札幌市、堺市などでも中小企業と大手と結びつける事業が始まっており、こうした活動を広げたい。地域の企業の収益力が高まれば税収増にもつながる。

 自治体の産業振興組織には、どんな特許が収益を生むタネになるか、目利きの力も求められる。ライフスタイルの変化など市場動向を読む力を磨いてもらいたい。

 支援が手厚くなりすぎて中小企業が過保護にならないよう注意する必要もある。依存心が強まっては企業が成長力を失う。資金調達や販路開拓は企業が自力で進めるようにし、支援する側はあくまで助言役に徹してもらいたい。

米金融緩和―出口を阻む投機マネー

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融の量的緩和政策を終わらせる「出口戦略」へと踏み出す寸前で、立ち往生を強いられた。

 米国経済の復調に、なお不確実性が残るのが主な理由だ。それは、緩和の終了をにらんで長期金利を押し上げる投機マネーの動きに行きつく。金利の上昇が雇用や設備投資の拡大を通じた景気の本格回復の流れを阻みかねないのだ。

 景気テコ入れのために投機マネーを世界に解き放ったのが、ほかならぬ量的緩和である。これが政策目標である景気回復を妨げるジレンマは、異例の金融緩和に幕を引く難しさを改めて浮き彫りにする。

 FRBは17~18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、緩和の拡大ペースを落とすという市場の予想を裏切り、現状維持を決めた。「景気回復が本格的か、もう少し見極めたい」というのが直接の理由だ。

 確かに、雇用の増加ぶりは鈍く、住宅部門の回復も勢いがない。また、来月には連邦議会が政府債務の上限引き上げ問題などで紛糾する恐れもある。

 ただ、不安の諸要因を根底で結びつけているのは、住宅や自動車のローン金利の基礎となる長期金利の上昇である。

 住宅と自動車の2大産業は、金融緩和が実体経済に波及する最大のチャンネルだ。ローン金利が上がると、消費、設備や住宅への投資、そして雇用の回復が妨げられる。

 FRB議長が「出口」に言及した5月から長期金利はほぼ1%幅上がって3%近くに、住宅ローン金利も4%に達した。このまま不用意に出口戦略へ踏み込み、仮に財政を巡る議会の混迷でも重なれば、投機筋を勢いづかせる恐れもある。

 米国の金利上昇は新興国からのマネー流出も招く。新興国が通貨防衛でドルを売り自国通貨を買う介入をすれば、原資として手持ちの米国債が売られ、金利が上がりやすくもなる。

 FOMC後、長期金利はひとまず落ち着いた。議長は記者会見で「政策を市場の予想するがままに任せることはできない」と語ったが、市場との対話は一段と難しくなりそうだ。

 FRBは出口戦略について早くから展望を示し、細心の注意を払ってことを進めてきた。それでも予期せぬ事態に動きが取りにくくなっている。

 同じような量的緩和を進める日銀は出口戦略の議論すらも、「時期尚早」として封印している。将来の政策運営の難しさを考えれば、再考すべきだ。

日系人労働者―雇用の調整弁にするな

 後味の悪い別れ方だった。

 リーマン・ショックのあと、南米から出稼ぎにきていた多くの日系人が失業した。政府は09年、当分戻ってこないことを条件に、旅費相当の帰国支援金を渡して帰国を促した。

 この制度で、日系ブラジル人を中心に、約2万人が日本を去った。

 定住資格を認めない期間は3年をめどに、経済と雇用の情勢で判断する。こう政府は説明していたが、4年以上たった現在も解除されていない。

 帰国支援金は、本人30万円、家族1人につき20万円。

 帰ろうにも渡航費もなかった人の助けにはなった。だが、支援と引き換えに再入国を認めない方法は、日本の出入国管理として異例だ。合法的に働いていた人たちだ。「手切れ金」と批判が出たのも、当然だろう。

 対象者には、日本に残った家族や友人と離ればなれになった人、再び日本で働けるのを待っている人が少なくない。

 出稼ぎの親と10年間日本で暮らした日系ブラジル人女性が日本在住の日系人と結婚したが、親が帰国支援金を受け取っていたことを理由に在留を認められなかった。裁判になり、入管当局は個人の事情をふまえて在留を認めたが、原則は変えていないという。

 目安として示した3年を超えて入国制限を引き伸ばすのは、ゆきすぎではないか。

 日系人労働者の失業問題がことさら深刻になった背景には、社会の受け入れが十分でなかったこともある。

 政府は外国人の単純労働を認めない方針を続けてきたが、90年に日系人を例外として門戸を開いた。それ以降、南米からの出稼ぎ労働者が、経済の底辺を支えてきた。

 一方で、言葉や生活習慣の違いで地域社会にとけこめない、子どもたちが勉強についていけず学校をドロップアウトする、といった問題も出てきた。

 日系人家族を社会で受け入れるための政府の施策がこれといってないなか、日系人が集中する自治体や学校現場が、それぞれ問題に直面し、解決を迫られる。それが実情だった。

 09年には、帰国支援とともに、日本に残った日系人労働者向けに、失業中に日本語などの力をつける研修制度がようやく導入された。再入国を認めるとともに、こうした支援を広げていくべきだ。

 労働力としてではなく、人として受け入れる。その姿勢なしには雇用調整に利用している、との批判は免れないだろう。

FRB金融緩和 「出口戦略」への難しい舵取り

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融危機対策として続けてきた量的緩和策第3弾(QE3)の縮小を見送った。

 QE3の終了に向け、「出口戦略」の第一歩を踏み出すという観測が多かっただけに、サプライズと言える。

 出口への道は不透明である。市場では早くも「縮小は12月」との見方が浮上しているが、FRBは難しい舵かじ取りを迫られよう。

 FRBは、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、米国債などを毎月850億ドル(約8・4兆円)買い入れて資金を市場に供給する異例の対策を維持した。

 「景気や雇用情勢の改善を確実に見届けるまで判断を待ちたい」との声明を発表した。

 あえて出口へ急がず、景気の持続的な回復を最優先する安全策を選択したのだろう。

 米国経済は、4~6月期の国内総生産(GDP)の伸び率が前期比年率で2・5%増となり、景気回復基調が鮮明になってきた。

 しかし、気掛かりは雇用情勢である。8月の失業率は7・3%に低下したが、非農業部門の就業者数の増加ペースは緩慢だ。

 FRBは最近の長期金利の上昇による悪影響も警戒している。10月半ばに迫った連邦債務上限を巡る与野党協議の難航は、景気の先行きに影を落としかねない。

 QE3縮小の先送り直後、ニューヨーク株価が急騰したのは、安心感が広がったからだろう。

 FRBの出口戦略を先取りする形で投機マネーが流出していた新興国でも、現地通貨が買い戻され景気減速懸念が少し和らいだ。

 FRBが拙速に動けば、日本を含めて、世界景気や市場に多大な影響を与える。ひとまず混乱を回避できた点は歓迎したい。

 ただし、FRBはいつまでも大規模な量的緩和策を続けることはできない。過剰マネーが世界を駆け巡り、資産バブルを引き起こす副作用も懸念される。

 FRBは「年内にQE3縮小を開始し、来年半ばに終了する」との方針を示してきた。その通りに踏み出したとしても、出口までの道は長い。混乱を招かないよう、「市場との対話」が要る。

 来年1月末に任期が切れるバーナンキFRB議長の後任人事も焦点だ。オバマ大統領は、最有力候補とみられたサマーズ元財務長官の指名断念を発表した。

 イエレンFRB副議長を軸に最終調整される見通しだが、大統領は早期に後任を指名し、金融政策の安定を目指してもらいたい。

オスプレイ導入 自衛隊の機動力向上を進めよ

 自衛隊の機動力を向上させ、離島防衛にも威力を発揮するだろう。

 防衛省が2014年度予算の概算要求に、新型輸送機MV22オスプレイの調査費1億円を計上した。15年度予算にも取得費を盛り込み、数年かけて計20機前後を陸上自衛隊に導入する方向だ。

 オスプレイは、ヘリコプターの垂直離着陸機能と、固定翼機の高速飛行の長所を併せ持つ。

 最大速力は、時速520キロで輸送ヘリCH46の約2倍だ。機体内部の貨物搭載量は9・1トンで約4倍、航続距離も3900キロで5倍以上のうえ、空中給油が可能なので、より遠方まで飛べる。

 例えば、陸自隊員24人を乗せて、離島防衛の専門部隊のいる長崎県から尖閣諸島まで2時間程度で駆け付けられるため、南西諸島方面での抑止力は大きく高まる。

 陸自は、オスプレイのほか水陸両用車を導入し、水陸両用部隊を編成して、上陸作戦を行える海兵隊的機能を備える方針だ。離島防衛に加え、大規模災害時の被災者救助や物資輸送にも役立とう。

 沖縄県の米軍普天間飛行場に同型のオスプレイ23機を配備している米海兵隊との連携を強化し、相互補完関係を構築すべきだ。

 昨年9月の尖閣諸島国有化後、南西諸島では、中国海軍によるレーダー照射事件が発生し、中国公船の領海侵入も常態化している。この地域の警戒監視活動を強化する必要性は一段と高くなった。

 残念なのは、オスプレイの安全性に問題があるかのような誤解が依然、沖縄県などで根強いことだ。昨年前半、海外で墜落事故が相次いだことが原因である。

 だが、実際の事故率は、海兵隊の全航空機の中で必ずしも高くないうえ、最近は、米ホワイトハウスの要人輸送に利用されるほど、信頼性が向上している。

 自衛隊のオスプレイ導入は、その安全性をアピールする機会ともなり得る。防衛省は、関係自治体などに対する説明を粘り強く続けることが求められる。

 来月には、米軍のオスプレイを使った日米共同訓練が滋賀県と高知県沖で実施される。国内では初めての試みである。

 こうした共同訓練は、自衛隊にオスプレイを円滑に導入するための準備活動となる。

 さらに、沖縄県以外での訓練実施は、在日米軍基地が集中する沖縄県の過重な負担を日本全体で分かち合うという意義も持つ。

 今後も、訓練の分散を着実に進めることが重要である。

2013年9月21日土曜日

持続的に賃金を上げていく道を考えよう

 政府と経営者、労働界の代表が景気回復への課題を話し合う政労使協議が始まった。安倍晋三首相はデフレ脱却には企業収益が家計に及んで所得が増えることが欠かせないとして、経営側に賃金引き上げへの協力を求めた。

 デフレ脱却へ賃金上昇が必要との認識はその通りだろう。ただ大事なのは、それが一過性に終わらず、持続的に所得が増えていくことだ。それには企業が生産性や成長力を高めなくてはならない。規制改革など企業が活動しやすい環境整備こそ政府の役割だ。

 政労使協議は首相や経団連の米倉弘昌会長、連合の古賀伸明会長らが参加し、20日に初会合が開かれた。賃金増を伴う経済の好循環をつくっていくための意見交換の場とするという。

 2012年の1人あたりの現金給与総額はピークの1997年に比べ1割以上減っている。賃金をいかに増やしていくかが大きな課題であることは確かだ。

 押さえなければならないのは、賃金増は企業が競争力のある製品やサービスを生みだすことが前提になり、民間企業自身で実現するものという点だ。政府は賃金を増やす企業の法人減税拡充も考えているが、企業の付加価値を生む力が高まり収益が伸びなければ、安定的な賃金増は見込めない。

 肝心なのは企業の行動だ。新しいビジネスモデルの創造など競争力強化へ手を打ってもらいたい。思い切ったM&A(合併・買収)も求められる。3月期決算の上場企業の手元資金は3月末で過去最高の66兆円に積み上がった。成長への投資に踏み出すときだ。

 経営者が企業家精神を発揮しやすくなるよう政府はやるべきことが多い。エネルギーや医療、農業分野などは規制の大胆な見直しが必要だ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では企業の海外直接投資などを促す自由度の高い協定づくりをめざしてほしい。

 賃金引き上げはその原資が企業によって異なり、各企業が労使の話し合いで決めている。政労使協議で賃金水準をめぐる論議をするのは現実的でない。

 政労使協議に求めたいのは職業訓練の充実など、成長分野へ人材が移りやすくしたり、職のない若者の就業を促したりするための議論だ。人が力をつけ、発揮できる社会にするにはどうしたらいいか。それを考え実行することが賃金を持続的に増やす確かな道だ。

リニアの課題を克服できるか

 2027年開通予定の東京―名古屋間のリニア中央新幹線について、事業主体の東海旅客鉄道(JR東海)が駅の場所やルートを公表した。同社は国の認可を得て、来年度中にも着工する計画だ。

 南アルプスを貫通して東名間をほぼ直線状に結ぶ中央リニアは、日本という国に、もう一つ新たな背骨を埋め込むような、久々の大型プロジェクトである。

 まず期待したいのは経済効果だ。現在約1時間40分かかる東名間の移動が40分に縮まり、首都圏と中京圏が一体化した新たな経済圏が誕生する可能性がある。

 将来は大阪まで延ばし、東阪を1時間で結ぶ。日本の大動脈である東名阪の往来が増えれば、経済は活性化するだろう。

 地震や津波に強い国づくりにも寄与する。東海道新幹線と中央リニアを並行営業するので、どちらか一方が被災しても、バイパスを確保できる。世界に先駆けて長距離リニアを実用化することで、海外への展開も期待される。

 だが、課題も多い。東名ルートの86%がトンネルであり、南アルプスを貫く難工事も待ち受ける。

 都心部では、地下40メートル以下の「大深度地下」を活用する。地上の用地取得が要らず、建設費や工期を圧縮できる利点があるが、やはり工事はたいへんだ。

 事業の採算確保も、大きな課題である。そもそも中央リニアは、総工費9兆円の巨大インフラを一民間企業のJR東海が独力でつくる異例の計画だ。人口減の進む日本で、リニアと東海道新幹線の両路線を満たす需要をどう生むのか。沿線住民の理解を得つつ、円滑に工事を進め、建設コストや工期を想定の範囲に抑えられるのか。JR東海の底力が問われる。

 夢物語と思われた計画が現実に近づき、政財界などから「20年の東京五輪に間に合わせてほしい」「名阪ルートは奈良経由でなく、京都経由で」と様々な声が上がり始めた。だが、最後は投資リスクを取るJR東海の判断を優先すべきなのは言うまでもない。

首相と汚染水―正しい現状認識で臨め

 きのう未明、福島第一原発のある福島県浜通りを震源に、最大震度5強の地震があった。

 約1千基もある放射能汚染水の貯蔵タンクは無事だったが、ひやりとした人も多かったのではないか。

 前日、現地を視察した安倍首相は汚染水の影響について、一定範囲内で「完全にブロックされている」と繰り返した。

 だが、こうした認識は甘いと言わざるを得ない。重い危機感をもって、汚染水の大量流出といった不測の事態の防止に全力を挙げるべきである。

 象徴的なのは、「状況はコントロールされている」と言い切った安倍首相の言葉だ。

 五輪の招致演説で世界に発信されたが、直後に東京電力幹部の一人が、事態は制御されていないと否定した。

 今週開かれた国際原子力機関(IAEA)総会では、中国が現状に強い懸念を示すなど、疑問の声が相次いだ。出席した山本科学技術担当相も公式な演説では「コントロールされている」との表現は封印した。

 言葉じりにこだわっているのではない。

 「コントロールする」「完全にブロックする」という目標と、「コントロールされている」「完全にブロックされている」という現状認識との混同を危惧しているのである。

 どれほどの汚染水が地下のどこを通って海に出ているのか。推定しかできない現状は「コントロール」にはほど遠い。

 首相の言葉は重い。甘い現状認識が発信されると、対処の手がゆるみかねない。

 反省材料が野田民主党政権の時代にある。2年前の12月の「事故収束宣言」である。

 核燃料が溶けた炉心に連続的に水を注ぐ当面の応急措置ができたに過ぎないのに、仰々しく区切りを宣言してみせた。

 その結果、汚染水の問題は政治の論議や多くの一般市民の関心から遠くなった。メディアも問題の深刻さを十分伝えきれなかったことは反省点だ。

 IAEA総会では「汚染水がたまる問題は当初からあった。なぜ2年間も解決策が探られてこなかったのか」と、もっともな指摘があった。

 英科学誌ネイチャーは「日本政府の従来の行動や情報公開の姿勢からすると、東電に代わって前面に出ても変わりないかも知れない」と厳しい論調を示している。

 現状は楽観を許さない。安倍政権は、危機感と情報を内外で共有し、世界の知見と支援を結集する努力が求められている。

コミッショナー―お飾りならいらない

 なぜ、このタイミングなのか。理解も賛同も得られない辞任劇である。

 プロ野球シーズンが大詰めを迎えたなか、加藤良三コミッショナーが来年6月までの任期を残して退くことを表明した。

 統一球をめぐる問題が発覚したのは6月のことだ。昨年までのボールから、飛びやすいように仕様を変えながら、選手にもファンにも隠していた。

 加藤氏は「変更は知らなかった」「不祥事ではない」と責任逃れに終始。その後、選手会から異例の「不信任」を突きつけられたが、居座っていた。

 27日には、統一球の問題を調査している第三者委員会の結論が出る。コミッショナーの責任を追及する厳しい内容が予想され、引責辞任に追い込まれる前に逃げたと非難されてもしかたあるまい。

 遅きに失した上に、立つ鳥跡を濁すような引き際である。

 加藤氏をコミッショナーに迎え入れたオーナー会議も、この間の混乱の責任を問われるべきだろう。

 そのオーナー会議は早速、コミッショナーの選び方や決め方について話し合ったという。だが、その前にコミッショナーの位置づけや役割を見直すべきではないか。

 野球協約は、オーナー会議を「最高の合議・議決機関」と定めている。コミッショナーの「指令、裁定、採決及び制裁は最終決定」としながら、オーナー会議などでの決定を「執行する機関」と位置づけている。

 これまで12代のコミッショナーは、いずれも球界の外から招かれてきた。なかには志をもって球界の刷新に取り組もうとしたひともいたが、オーナーに煙たがられて成果を上げられないこともあった。

 名誉職のお飾りにすぎないなら、高額の報酬を払って置いておく意味はない。

 その選任についても、協約に「任免はオーナー会議が行う」とあるだけで、具体的な選考方法などの規定はなく、不透明さが指摘されてきた。

 13代目を選ぶにあたり、コミッショナーに求める資質や権限について話し合い、選び方を透明にし、そのために協約を改めることも必要だ。

 厳しい経済環境のもと、球界全体の利害などをめぐって12球団の間で意見が対立し、調整が必要な場面が増えた。

 そんなとき、公正な立場で指導力を発揮し、オーナー会議に遠慮なくもの申す。こういうコミッショナーがいれば、プロ野球はもっと活気づく。

政労使協議 成長の好循環へ議論深めたい

 デフレからの脱却は、政府、労働界、経済界に共通する目標である。

 政労使は、経済成長とともに賃金が上昇していく「好循環」の実現に向けた論議を深め、実効性のある戦略を練ってもらいたい。

 政府が6月の成長戦略で設置を打ち出した、「政労使協議」の初会合が開かれた。

 政府が労使と、賃金改善などの方策を話し合う異例の措置をとったのは、何としてもデフレ脱却を果たしたいという、安倍首相の強い決意の表れだろう。

 首相は会合で、「企業収益と賃金、雇用の拡大を伴う好循環につなげられるかが勝負だ」と述べ、経済界などとの連携を強化する考えを強調した。

 一方、経団連の米倉弘昌会長は「企業が力を発揮できる環境整備が行われれば、雇用も賃金も上がっていく」との見通しを示し、企業への政策支援を求めた。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果で、消費や生産は回復している。企業の好業績が家計を潤し、民間主導の自律的成長を達成できるかどうか、これからが正念場である。

 日銀が目標とする消費者物価の2%上昇や、来年4月の消費税率の引き上げが実現すると、家計の負担は増える。賃金も上昇しないと消費が冷え込み、景気が腰折れする恐れがある。

 政労使協議は、個別の賃金水準を議題にしない方針だが、論議の行方によっては、今後の賃金交渉に影響が及びそうだ。

 近年の春闘で労働組合の多くが雇用確保を優先し、賃金改善を求めるベースアップ要求を控えてきた。賃上げに前向きな安倍政権の姿勢は、労組には頼もしい追い風となるのではないか。

 企業は業績が上向いた場合、ボーナスは増やしても、固定費の上昇につながる基本給をできるだけ据え置く傾向がある。

 個々の経営判断としては合理的とも言えるが、賃金低迷は消費者の購買意欲を低下させ、企業の売り上げは減る。物価下落に拍車をかけ、デフレ悪化の一因となってきたことは否めない。

 日本企業の保有する現金と預金は約220兆円もある。巨額の内部留保の存在は、日本企業が労働者への利益分配に消極的だとする批判の根拠とされている。

 政府は近く、投資減税など企業支援策を柱とした成長戦略第2弾を打ち出す。政策による後押しを生かし、ベースアップの動きが広がるかどうか、注目される。

コミッショナー 辞任機にNPBの組織改革を

 混乱を招き、野球ファンの信頼を失ったことを考えれば、辞任はやむを得ないだろう。

 プロ野球の加藤良三コミッショナーが任期途中での辞任を表明した。

 統一球の反発力が昨季より高まったにもかかわらず、公表が遅れ、「ファン、関係者にご迷惑をかけた」ことなどを理由に挙げた。日本シリーズ開幕前の10月後半に退任するという。

 ペナントレースは大詰めを迎えている。プロ野球が最も盛り上がるこの時期に、日本野球機構(NPB)のトップであるコミッショナーの辞任に世間の耳目が集まるのは、残念な事態である。

 駐米大使などを歴任した加藤氏は2008年7月、コミッショナーに就任した。外務官僚として培った国際感覚をプロ野球の発展に生かすことが期待された。

 加藤氏が強く推し進めたのが、統一球の導入だった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)など国際大会では、日本とは異なるボールが使用される。

 日本代表が海外の試合でも実力を存分に発揮できるよう、海外仕様に近いボールをプロ野球でも使うという意図自体は正しかったと言えるだろう。

 ただ、11年に統一球が導入されると、本塁打が激減した。本塁打は野球の華であり、興趣をそがれたファンもいたのではないか。

 対策として、NPBは今季から反発係数を上げたボールを使用したが、その事実を公表せず、メーカーにも口止めをしていた。

 なぜ、ボールの仕様変更を隠す必要があったのか、甚だ疑問である。ボールの変更は、選手の打撃や投球術に大きな影響を与える。6月に仕様変更が明らかになった際、多くの選手がNPBへの不信感を口にしたのも無理はない。

 加藤コミッショナーは、統一球の反発係数を変更した報告を受けていなかったという。

 そうであるなら、重要情報がトップに伝わらないNPBの組織としてのガバナンス(統治機能)には、重大な欠陥がある。コミッショナーを補佐すべき事務局長が、情報を知りながら報告しなかったことが、それを物語っている。

 NPBが設置した第三者委員会は、統一球問題の報告書を月内にまとめる予定だ。これを基に、NPBは再発防止と組織改革に取り組まねばならない。

 今後は後任人事が焦点となる。12球団が協力し、NPBの信頼回復と球界発展の重責を担えるコミッショナーを選出してほしい。

2013年9月20日金曜日

経済対策は効果と節度のある中身に

 5%の消費税率を2014年4月に8%まで引き上げるとともに、5兆円規模の経済対策を打ち出す方向になった。約8兆円に上る国民の負担増を和らげ、景気の腰折れを回避する狙いがある。

 財政再建の重要な一歩を踏み出す消費税増税を確実に実行しなければならない。その軟着陸を目指す一定の対策は要るだろう。

 だが不要不急の公共事業などをいたずらに膨らませるのでは、財政再建の実があがらなくなる恐れがある。必要性が高く経済効果が大きい施策を選別すべきだ。

 経済対策のひとつの柱は法人課税の軽減である。企業にも課している復興増税を1年早く廃止し、国税と地方税を含めた法人実効税率を14年度に38.01%から35.64%に下げる見通しになった。

 設備投資や賃上げなどを促す期限つきの政策減税も盛り込む。景気のてこ入れには一定の役割を果たしそうだが、持続的な効果は期待できない。特定の業種や企業に恩恵が偏るという問題も残る。

 幅広い国内企業の活力を引き出し、海外企業も呼び込むには、成長戦略としての実効税率引き下げが欠かせない。そこに踏み込む安倍政権の決断を評価したい。

 「被災地の復興と直接関係のない事業も復興増税で賄われている」との批判は根強い。本当に必要な復興事業を選別し、法人税だけでなく所得税の復興増税を早めに終える努力もしてほしい。

 実効税率を35%強まで下げたとしても、主要国の標準といわれる25~30%をなお上回る。安倍政権はさらなる引き下げを15年度以降の検討課題とする考えだ。

 主要国に比べて高いのは地方税の実効税率である。土地にかかる固定資産税などの負担を増やし、法人事業税や法人住民税を軽減すべきだという識者は多い。

 国税である法人税の租税特別措置を整理し、課税ベースを広げながら税率を下げる余地もあるのではないか。こうした抜本的な税制改革に着手するときだ。

 もうひとつの柱になりそうなのが防災・減災などの公共事業である。老朽化したインフラの更新や公共施設の耐震化にある程度の支出は必要だが、予算の無駄遣いは厳に慎まねばならない。

 消費税増税の影響を相対的に強く受ける低所得者や住宅取得者への現金給付は理解できる。ばらまきに終わらないようなやり方を慎重に検討してもらいたい。

大都市圏で底入れした地価

 大都市圏を中心に地価はほぼ底入れしたとみていいだろう。2008年のリーマン・ショックで冷え込んだ不動産市場は東日本大震災の影響も乗り越えて新たな局面に入りつつある。

 国土交通省が発表した基準地価をみると、全国平均では住宅地、商業地ともに依然として下落している。ただし、名古屋圏ではすでに上昇に転じたほか、東京圏や大阪圏でも下げ止まった。

 都道府県ごとの平均値をみてもほぼすべてで下落幅が縮小している。東京や神奈川、宮城などは住宅地、商業地ともに上がった。

 地価が底入れした主因は不動産市場への資金流入の増加だ。不動産証券化協会によると、上場している不動産投資信託(REIT)の今年前半の資産取得額は1兆3000億円と過去最高になった。

 実需も堅調だ。ファミリー層を中心に住宅の取得意欲は強く、首都圏や近畿圏の新築マンションの契約率をみると好不調の目安とされる70%を大幅に上回っている。住宅ローン金利や販売価格が上がるとみて購入を急いでいる。

 オフィス市場をみても東京や大阪の中心部に加えて、仙台や福岡などでもビルの空室率は低下している。企業がオフィスを拡張する動きが広がり始めている。

 地価の下落に歯止めがかかったことは経済全体にとって良いことだが、一方で心配なのは東京の都心部などで、地価が景気の実態以上に上昇する兆しがある点だ。20年の夏季五輪の東京開催が決まったことも地価に影響するだろう。

 現時点でみると、不動産市場への資金流入は値上がりへの期待が先行している面が強い。例えば、東京の都心部のビルをみると、空室率は確かに低下しているものの、賃料はまだ下落している。

 不動産価格が思惑で動きやすいことはリーマン・ショック前のミニバブル期を振り返ってもわかる。地価は消費者物価には直接には反映されないだけに、政府や日銀は不動産市場の動向についてこれまで以上に注意してほしい。

開城工団再開―融和ムードで終わるな

 絶え間なく刻まれるミシンの音。昼休みの笑い声――。韓国と北朝鮮の「協力の象徴」とされる開城(ケソン)工業団地に、ひとまず活気が戻ってきたようだ。

 南北の対立から一時閉鎖され存続があやぶまれたが、ねばり強い交渉の末、5カ月ぶりに再開にこぎつけた。

 北朝鮮に安易な妥協はしない姿勢を印象づけたい韓国の朴槿恵(パククネ)政権。事業再開で貴重な外貨収入源を確保したい北朝鮮。

 思惑の違いこそあれ、南北が対話によって懸案をひとつ乗り越えたことの意味は大きい。

 北朝鮮はこのところ、韓国との関係改善に積極的な姿勢を見せている。

 平壌発の報道によると、14日に開かれた重量挙げの国際大会で北朝鮮は韓国の国旗の掲揚と国歌の演奏を認めた。分断後初めてのできごとという。

 25日からは、南北で半世紀以上も生き別れになった離散家族の面会事業が3年ぶりに開かれる。韓国側が強く要望してきたにもかかわらず、発展した韓国の情報が流れこむのを嫌う北朝鮮がしぶってきた事業である。

 さらに北朝鮮は、金剛山観光事業も再開させたい意向だという。多額の外貨収入が見込める事業だが、北朝鮮兵による韓国民間人の射殺事件が起きたため、5年以上も中断したままになっている。

 北朝鮮が、その先にみつめているのが米国である。南北関係の改善も、米国を直接対話に引き出すための環境づくりの一環といえる。

 一方、米国は再三の呼びかけに応じていない。しびれを切らしたのか、北朝鮮は最近、原子炉の再稼働の動きを見せている。核開発を続ける構えを示すことで、米国の譲歩を引き出す狙いだろう。

 だが、北朝鮮が米国との直接対話を望むなら、そんな挑発はマイナスにしかならない。

 いま日米韓が求めているのは、非核化に向けて北朝鮮が誠実な態度を取ることであり、ウラン濃縮活動の停止といった具体的な行動にほかならない。

 18日に北京であったシンポジウムで北朝鮮の金桂寛(キムゲグァン)・第1外務次官は、朝鮮半島の非核化をめぐる6者協議など「前提のない対話」の再開を強く求めた。

 それでも対話が開かれないのは、北朝鮮がこれまでのように口約束だけして食糧支援などを得る算段ではないか、との不信感がぬぐえないからだ。

 核放棄の意思と行動を示し、対話を積み重ねるなかでしか活路は生まれない。北朝鮮は改めてそのことを悟るべきだ。

リニア新幹線―建設急がずエコ重視で

 JR東海が東京・品川―名古屋間で2027年の開業をめざすリニア中央新幹線について、時期の前倒しや一部開業を望む声が相次いでいる。20年の東京五輪開催が決まったためだ。

 経団連の米倉弘昌会長は、1964年の東京五輪に合わせて開業した東海道新幹線を引き合いに、20年に「リニアをせめて名古屋まで」と発言した。菅義偉官房長官も「五輪で海外から来る人たちに部分的に乗ってもらえれば」と語った。

 こうした意見に対し、JR東海の山田佳臣(よしおみ)社長は「工事は急げるものではない」と否定的な姿勢を示した。当然である。

 東海道新幹線は着工から5年で開業したが、時間がかかる高架橋をなるべく避けたため、雨による路盤崩壊に長く苦しめられた。山陽新幹線でも90年代以降、トンネルや高架橋のコンクリート崩落事故が続く。8年の突貫工事で粗悪な素材が使われた影響が指摘されている。

 リニアでは、こうした拙速の愚を繰り返してはならない。

 JRがおととい公表した環境アセス準備書を見ても、工事の難しさがよくわかる。

 品川と名古屋では駅の営業を続けたまま、地下30~40メートルまで掘ってリニアの駅を設ける。品川から相模原市までの42キロもトンネルだ。人口密集地の下で、5キロごとの非常口や工事拠点の用地確保はこれからになる。

 3千メートル級の山々が連なる南アルプスは、延長25キロのトンネルで貫くという。JR側は「日本の技術力は進歩している」というが、過信は禁物だ。

 過去の長大トンネル工事では、予想もしなかったトラブルが起き、作業員が亡くなったり、工期が大幅に延びたりした例が少なくない。JRは開業目標の27年にこだわることなく、安全最優先でことを進める姿勢を貫いてほしい。

 沿線住民の合意形成に力を注ぐことも欠かせない。磁界、騒音、振動、建設残土……。すでに懸念の声が多く上がっている。理解を得られないままでの「見切り発車」では、新時代の公共交通として歓迎されないだろう。

 福島第一原発事故の後、全国の原発が止まり、リニアの電力消費量の多さにも厳しい目が向けられている。JRの経営陣は原発再稼働に期待感を示すが、時代に逆行していないか。

 JRは新幹線で省エネ性を追求してきた。リニアでは、太陽光など再生可能エネルギーでの自家発電を大胆に導入し、原発、化石燃料に依存しないエコ鉄道を目指してもらいたい。

原発汚染水対策 政府は廃炉まで積極関与せよ

 東京電力福島第一原子力発電所の事故対応は、廃炉まで30~40年もの取り組みになる。政府が責任を持って関与する体制を整えるべきだ。

 安倍首相は福島第一原発を訪れ、汚染水漏れを起こした貯蔵タンクなどを視察し、現場の職員を激励した。東電に対しては、期限を決めて汚染水の浄化を進めることや、停止している5、6号機の廃炉を要請した。

 汚染水対策を強化する姿勢を自ら示したと言える。視察後、首相が「国が前面に出て責任を果たしていかなければならない」と改めて述べたのも当然だ。

 政府は、汚染水の対策費として約470億円の国費投入を決めている。着実な実施を求めたい。

 政府は、汚染水対策など事故処理を東電にゆだねてきた。政府が積極的に関与してこなかったことが、対応の遅れや混乱につながったのは間違いない。

 自民党は、汚染水対策で国と東電の責任分担を定め、指揮系統を明確にする特別措置法の検討を始めた。特措法が制定されれば、財政支援する根拠にもなろう。

 重要なのは、特措法を汚染水対策に限定せず、事故収束まで視野に入れた総合的な内容にすることだ。汚染水の封じ込めは、事故収束への「入り口」に過ぎない。

 廃炉や除染に巨額な費用がかかり、人材確保も必要になることを考えれば、東電にすべて任せるのは無理だ。支援体制を抜本的に見直す必要がある。

 首相は、ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会総会で、福島原発について「状況はコントロールされている」と語った。

 五輪招致にあたり、汚染水の影響は原発の港湾内にとどまっているとのメッセージだった。首相は原発視察後、「健康への被害はなく安心してもらいたいと世界に発信した」とも説明した。

 民主党は、コントロールされている状況とは程遠いなどと批判しているが、揚げ足取りと受け取られても仕方あるまい。

 そもそも、東電任せの事故処理の枠組みを作ったのは民主党政権だ。2年前、汚染水流出を防ぐ遮水壁の設置を先送りする東電の判断を、当時経済産業相だった海江田代表は容認していた。

 今優先すべきは、より良い対策となるよう与野党が知恵を絞ることである。国会の閉会中審査や、10月中旬に始まる臨時国会の審議では、原発対応のあり方や、政府と東電の役割分担についても議論を深めてもらいたい。

基準地価 経済再生で底入れを確実に

 景気回復への期待感から地価の底入れ傾向が鮮明になってきた。日本経済の再生を進め、地価の正常化を急ぎたい。

 国土交通省が発表した7月1日時点の基準地価は、全国の住宅地で22年連続、商業地も6年連続の下落となった。下落幅は前年より縮小した。

 東京、大阪、名古屋の3大都市圏では、住宅地が前年比0・1%の下落とほぼ横ばいで、商業地は0・6%上昇して5年ぶりのプラスに転じた。

 住宅地の地価が横ばいとなったのは、低金利や住宅ローン減税などの政策効果と言えよう。来春の消費増税を見越し、住宅を駆け込みで購入する動きが強まったことも影響している。

 商業地の上昇は、景気回復に伴い、耐震性の高い建物への移転需要が高まったことが要因だ。

 安倍政権の経済政策、「アベノミクス」による大胆な金融緩和で円安が進み、日本の不動産に割安感が出たことも背景にうかがえる。不動産市場に海外から投資資金も流れ込んだのだろう。

 都市部の地価については、首都圏のオフィスビルの供給過剰で2016年頃に低迷することが懸念される。一方で、20年東京五輪・パラリンピックの開催決定を受け、東京の臨海部などを中心に急上昇する可能性もある。

 地価の動向は資産効果によって個人消費や企業の設備投資に影響を与える。特に首都圏の動きは景気を左右するバロメーターだけに、警戒を怠ってはならない。

 地価を確実に底入れさせ、不動産市場を活性化するうえでも、成長戦略を着実に実行していくことが不可欠である。

 注意が必要なのは、地方の地価が依然、低迷していることだ。

 3大都市圏では調査地点の約37%で地価が上昇したが、地方圏では約6%の地点にとどまった。

 地方でも、商業施設の誘致や観光開発などで地価が上向いた例は多い。こうした取り組みを参考に自治体や地元企業は、魅力的な街づくりに知恵を絞ってほしい。

 東日本大震災の被災地では、地価が急上昇する地点が目立つ。

 全国の住宅地の上昇率上位10か所のうち9か所を岩手、宮城、福島の被災3県が占めた。最高の上昇率だった岩手県大槌町の調査地点は高台にあり、移転需要が高まって約30%も上昇した。

 高値での転売を狙った土地投機でさらに地価が高騰し、住宅再建に支障が出てはならない。政府や自治体は監視を強めるべきだ。

2013年9月19日木曜日

信頼醸成へ原子力規制委はもっと努力を

 原子力安全の確保という重い責任を肩に原子力規制委員会が発足して1年。少ない陣容で原発の新規制基準の制定など大きな仕事をこなした。しかし福島第1原発事故で損なわれた安全規制の信頼回復はまだ途上だ。改めるべき点がいくつかある。

 規制委をつくる際に最も重要視されたのは独立性だ。旧原子力安全・保安院は原子力推進の経済産業省の傘下にあり、安全最優先の判断ができていなかったとの強い反省があったからだ。

 規制委は権限の強い「三条委員会」として発足、独立性と中立性の確保では前進があった。会議の公開も評価したい。

 ただ独立性を強調するあまり、電力会社や原発立地自治体などとの対話を欠いたのは反省点だ。相手がだれであれ、立場の違いをこえて信頼を得るには、自らの判断をていねいに説き異論にも耳を傾ける姿勢が求められる。信頼こそ安全規制の原点であり、対話抜きでは信頼醸成は望めないだろう。

 活断層評価から過去の安全審査に関わった専門家を排除したのは適切だったろうか。過去との決別を印象付けはしたが、結果として科学的な議論を深めることにつながったとは思えない。作業の進め方も場当たり的だ。活断層評価の基準や手順を整理すべきだ。

 規制委は「高い見識を備えた常識人」の合議が本来の姿だろう。細かすぎる議論は事務方に任せ、委員たちが一段高い総合的な見地から判断を下すのが望ましい。

 ところが、現状は合議制の長所が生きていない。委員が手分けして様々な会議で陣頭指揮をとり、委員会はそれぞれの結論について了解を得る場になりがちだ。田中俊一委員長には委員のありようを再考してもらいたい。

 また、福島原発の汚染水への対処で後れを取ったのは否めない。もっと早い段階で東京電力に強く警告を発していれば、問題の広がりを防げた可能性はある。目配りが足りなかった。

 規制委の課題の多くは事務方である原子力規制庁の人手と能力不足に起因する。独立行政法人の原子力安全基盤機構と規制庁の効果的な統合を急ぎ、内部の人材育成にも力を注ぐ必要がある。

 規制委自身が常に自己改革を続ける努力も必要だが、責任感と専門能力を併せ持ち、国民の信頼に足る組織に育てていくのは政府全体、政治の責任である。

高齢者医療に消費税財源を

 野田政権のときに民主党が自公両党と合意した社会保障・税一体改革は、消費税増税で医療や年金のほころびをつくろい、制度の持続性を高めるのを目的にした。

 2014年4月の最初の税率上げまで半年あまりに迫ったが、安倍政権はこと医療制度について確たる方針を示していない。喫緊の課題は増大する高齢者医療の財源確保だ。増税分の一部をあて、企業の健康保険組合からの保険料召し上げに歯止めをかけるべきだ。

 08年に自公政権が導入した後期高齢者医療制度は、75歳以上への給付費の構成を(1)国の借金を含めた税財源5割(2)支援金名目で健保組合などに拠出させる保険料4割(3)高齢者本人が払う保険料1割――とするのを原則にした。

 問題は(2)だ。全1431健保組合の12年度決算によると、後期高齢者への支援金は計1兆5千億円に達した。65~74歳の前期高齢者が使う医療費への納付金などを含めると、じつに保険料収入の46%が召し上げられている。

 各健保組合は加入者と家族に病気予防を指南したり、安いジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用を促したりして医療費の節約につとめている。だが収入の半分近くを有無を言わさず拠出させられる現状では、努力を重ねても健保財政は苦しさを増すばかりだ。

 現役世代にくらべ罹患(りかん)率が高い後期高齢者の医療費を保険原理で賄うのには限界がある。単純にいえば、保険料を払う人は多く、保険金をもらう人が少ないのが保険原理が有効に機能する条件だからだ。だからこそ税財源の投入に意味がある。

 先月解散した政府の社会保障制度改革国民会議は、健保組合からの召し上げをさらに増やすよう政権に求めた。厚生労働省はそのための法案を15年に国会に出す。

 健保組合の存続が危うい。政権は消費税増税の目的を思い起こすべきだ。国民会議が打ち出した病床再編名目の基金を介して増税分を民間病院にばらまく案は、真っ先に見直すべき対象になろう。

秘密保護法案―知る権利はつけ足しか

 安倍政権が、秋の臨時国会に提出する特定秘密保護法案に、「知る権利」と「報道の自由」の明記を検討している。

 知る権利や報道の自由は国民の重要な権利であり、憲法で保障されたものと考えられている。だが、その理念を法案に加えるからといって、それが実際に担保されるわけではない。

 秘匿する情報の際限ない拡大を防ぐ具体的な仕組みがなければ、いくら「知る権利」を強調したところで、かけ声だけに終わるのは明白だ。

 そもそも法案は数々の問題を抱えている。

 秘匿対象は防衛、外交、スパイ、テロの4分野。行政機関の長が、国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがある情報を「特定秘密」に指定する。これを漏らした公務員らに対して、罰則として最長10年の懲役が科せられる。

 何が特定秘密になるのか。法案別表で示すとしているが、概要段階での別表の書きぶりは漠然としている。防衛は「自衛隊の運用」、外交は「安全保障に関する外国の政府との交渉」――といった具合だ。

 なんの制限もないに等しい。行政機関の長の判断次第でいくらでも、特定秘密に指定することができてしまう。

 指定が妥当かどうか、チェックする機能はあまりにも乏しい。仮に行政内部で、指定に疑問を持つ公務員がいても同僚らに相談することはできない。国会議員も法案の対象になるので、秘密を知り得た国会議員は党内で議論することもできないことになる。

 米国には秘密指定に関する「省庁間上訴委員会」という制度があり、情報保有者からの秘密指定に関する訴えの裁定にあたる。また、情報公開制度は、大統領の携帯メールの内容でさえ将来的には公開対象となるほど徹底している。

 こうした仕組みを検討することなく、政権は「秘密保護」にひた走っているようにみえる。

 「知る権利」を明記した情報公開法改正案が昨年、廃案になった。秘密漏洩(ろうえい)を阻止したいというのなら、情報公開も一対のものとして充実させなければならない。それでこそ、「知る権利」は担保される。

 法案の概要をめぐって一般から意見を求めるパブリックコメントは、わずか15日間で打ち切られた。これだけ問題のある法案なのに短すぎる。

 国民の懸念を押し切ってまで新たな法制化が本当に必要なのか。安倍政権は根本から考え直すべきだ。

子どもの避難―大人の行動が命綱だ

 災害の現場で、子どもたちの命を守ることができるのは、すぐ身近にいる大人しかいない。その教訓を忘れずにいたい。

 東日本大震災で、宮城県石巻市の幼稚園児5人が死亡した。地震直後は高台にある幼稚園にいて無事だったが、その後乗せられた園のバスは海側へと下り、津波に巻き込まれた。

 仙台地裁は、津波の情報に注意を払わず、バスを出発させた園側の過失を認めた。

 幼い子どもは危険を避ける力が発達しておらず、園長らを信頼して従うしか自分の身を守れない。判決はそう強調した。大人の行動が命綱なのだ。

 学校や幼稚園などの施設は、非常時に子どもを守る第1当事者として、どう行動すべきか。再確認してもらいたい。

 あれだけの津波は予想できなかった、と園側は反論した。

 だが裁判所は、3分間も続いた大地震を体感したのだから、防災無線やラジオなどで津波情報を集めていれば、バスを出すことはなかったと判断した。

 園側の抗弁で気づかされることもある。不安がる子どもたちの対応に追われ、警報に注意が向かなかった。停電でテレビやラジオは使えず、電池でラジオを聴こうともしなかった。

 パニック時に起きてしまうことかもしれない。だが、防災無線や電池のラジオで、次に迫ってくる危険情報を集めるのは、基本動作である。多くの子どもを預かる立場で、情報から取り残されることは許されない、との線が引かれた。

 なぜ、子どもたちをバスに乗せたのか。園側は「一刻も早く園児を保護者の元へ帰してあげたかった」と説明したが、標高23メートルにある園はよほど安全だ。

 皮肉にも園が宮城県から促されて作った地震対応のマニュアルでは、「園児は保護者の迎えを待って引き渡す」ことをルールにしていた。

 だが、ほとんどの職員がその存在さえ知らなかった。マニュアル作り自体が目的化していたとしたら本末転倒だ。

 すべての学校や施設に通じる問題でもある。宮城、岩手、福島の各県の幼稚園から高校までで、津波からの避難方法をマニュアルで決めていたのは半分にとどまるという。

 災害時の子どもの安全を確保するためには、平時の冷静な判断にもとづく行動計画が欠かせない。

 施設の立地と環境など、さまざまな条件を考慮してマニュアルを作ることを出発点に、不断に更新し、広く共有し続けていく責務がある。

南シナ海情勢 日米ASEANで対中連携を

 紛争を避けるルール作りで時間稼ぎをする間に南シナ海での支配力を強める。中国のそんな意図が見えてきた。

 中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、南シナ海で各国の行動を規制する「行動規範」の策定に向けた初の公式高官協議を行った。だが、中国は消極的態度に終始し、専門家会合設置を決めるにとどまった。

 南シナ海では、南沙諸島などの領有権を巡り、中国と、フィリピン、ベトナムなどASEAN加盟国が対立している。

 中国は、南沙諸島だけでなく、南シナ海ほぼ全域で独占的な権益を持つと主張しているが、国際的な理解は得られていない。

 ASEANは中国に対して、10年以上にわたり紛争防止のためのルール作りを働きかけてきた。しかし、軍事的にも経済的にも圧倒的な力を持つ中国は協議を受け入れてこなかった。

 ようやくテーブルに着いたものの、中国が別の議題を提示し、行動規範で突っ込んだ議論をしようとしなかったのは残念である。

 ルールなき南シナ海で、危機は深まる一方である。現在の焦点は、フィリピンと中国の対立だ。

 係争地スカボロー礁では、昨年、両国の艦船が2か月間にらみ合った。比政府によると、フィリピンが艦船を引き揚げた後、中国がコンクリートブロックを据え付けたという。

 フィリピンは今年に入り、国連海洋法条約に基づき、中国の領有権の主張は不当であるとして、仲裁裁判を申請した。今月、中国では、ASEAN首脳らを招いた博覧会が開かれたが、比大統領は招待されなかった。

 法的手段に訴えたフィリピンへの、中国の嫌がらせと取られても仕方がない。

 中国に物理的圧力をかけられたフィリピンが、米国や日本へ接近を強めているのは理解できる。

 米比共同軍事訓練を強化したほか、実質的な米軍再駐留につながる協議を進めている。かつての米戦略拠点だったスービック海軍基地が再び米軍の展開に使われる可能性もある。

 安倍首相は就任以来、ASEAN諸国を重点的に歴訪し、フィリピンには巡視船10隻を供与する方針を示した。

 東シナ海や西太平洋で中国の膨張に直面する日米両国にとって、歩調を合わせてASEAN諸国と連携する意味合いは、南シナ海にとどまらない。中国の海洋進出全体を牽制けんせいすることにもなろう。

医療・介護費 5兆円抑制を「画餅」とするな

 厚生労働省が、医療・介護費用の伸びを抑える新たな目標を掲げた。

 急速な高齢化で、国民の医療・介護費は、2025年度には現在の48兆円より約35兆円増える見通しだ。この伸びを5兆円程度圧縮することを目論もくろむ。

 社会保障制度を維持していくには、医療・介護費の抑制を絵に描いた餅にしてはなるまい。

 サラリーマンが加入する健康保険組合は、高齢者医療への巨額の負担金により、5年連続で赤字に陥っている。健保財政は破綻寸前まで追い込まれている。

 医療費の抑制は急務である。

 厚労省は目標達成に向け、「健康づくり推進本部」を発足させた。これまでも医療・介護費削減を打ち出しながら、十分な成果を上げられなかった経緯がある。その反省を踏まえ、今度こそ、実効性のある対策を進めてもらいたい。

 対策の柱として、厚労省はメタボ健診の受診率を向上させ、生活習慣病の予防を掲げる。2・4兆円の医療費削減効果を見込んでいるが、現時点では医療費の抑制効果は明らかになっていない。見込み通りの削減は可能なのか。

 現実的な対策として期待されるのが、肺炎の予防だ。高齢者の死因の中で、がん、心臓病に次ぎ多い。寝たきりの原因ともなる。

 ワクチンを接種すると、肺炎の発症率が約3分の1に減るとされ、厚労省は接種の普及によって、肺炎の医療費を6000億円程度削減できると試算している。

 現在は自己負担となっている接種を公費で受けられるようにすれば、予防効果は高まろう。

 急増する糖尿病についても、高額な医療費がかかる人工透析を減らす予防策の検討が必要だ。

 医療費の無駄遣いにも切り込まねばならない。

 日本人は、他の先進国と比べ、医師にかかる回数が多い。複数の病気を持つ高齢者が“はしご受診”をしがちだからだ。

 広島県呉市では、医療機関が診療報酬を請求する際の明細書であるレセプトを調べ、月に15回以上受診した高齢者に、保健師が訪問指導を実施した。この結果、重複した受診や投薬が減り、医療費を削減できたという。

 厚労省は、こうした取り組みを全国の自治体に周知すべきだ。

 レセプトの電子化など情報通信技術の活用も、医療の効率化の鍵になる。2016年に導入される共通番号制度を利用し、患者の診療情報を重複受診の抑制などにつなげることも重要である。

2013年9月18日水曜日

豊田英二氏の企業家精神に学びたい

 トヨタ自動車最高顧問の豊田英二氏が死去した。戦後すぐからトヨタの経営を担い、世界ではほぼ無名の存在だった同社が、名だたるグローバル企業に飛躍する礎を築いた功績は大きい。

 英二氏の足跡を端的に映すのは数字である。今のトヨタの前身であるトヨタ自動車工業の社長に就任した1967年に83万台だった年間生産台数が、会長になった82年には328万台、名誉会長に就任して経営の一線から退いた92年には470万台に達した。

 四半世紀に及ぶ社長、会長在任期間に、会社の規模を6倍に引き上げたのである。日本に乗用車が猛烈な勢いで普及したこの時期、ライバルの日産自動車を抑えて揺るぎない国内トップ企業の座を固め、同時にその後の国際展開のための基盤をつくった。

 だが、数字以上に注目すべきは、逆境をチャンスに変えるたくましさである。

 60年代以降に資本自由化が加速し、巨大外資の攻勢にだれもが身構えるなかで、英二氏は70年の年頭のあいさつで「総力を結集して自由化に対処し、国際競争に勝利を収める覚悟」と表明し、事実それを実現した。

 少し後には排ガス公害が深刻化し、英二氏も国会に呼ばれ、責め立てられた。当時を振り返って「まるで魔女狩りのよう」と率直な感想も漏らしているが、この時の批判が一つの契機になり、環境技術の開発に弾みがついた。

 多くの日本企業にとって、とりわけ示唆に富むのが米国生産をめぐる決断である。

 トヨタはもともと「三河モンロー主義」と呼ばれ、海外はおろか愛知県外での生産にも消極的だった。だが、80年代初めに日米自動車摩擦が火を噴き、米国現地生産が緊急の課題に浮上すると、英二氏の主導で最大の競争相手である米ゼネラル・モーターズとの合弁会社設立を決め、グローバル生産拡大への足場をつくった。

 人口の少子高齢化が進み、サービスや食品など内需型の企業も海外展開を迫られている。トップの強い意志は、海外戦略を支える欠かせない要素である。

 企業経営には次から次に対処すべき課題が浮上するものだが、それにひるむことなく、自らの強みを磨き続ける。今の経営者は、こうした企業家精神をどこまで保持しているのか、享年100歳の生涯はそう問いかけている。

津波避難に警鐘鳴らす判決

 大地震が起き、津波の発生が予想されるような時に、幼い子どもや高齢者をどのように避難誘導すればいいのか。この課題に警鐘を鳴らす司法判断が示された。

 2011年、東日本大震災の大津波で、宮城県石巻市の私立日和幼稚園の園児5人が死亡した。高台にあった幼稚園は被害を免れたが、園側が地震の直後に園児を自宅に帰すことを決め、送迎バスに乗せて低地の沿岸部へと向かったため津波に巻き込まれた。

 この事故について、4人の園児の遺族が「幼稚園側が安全配慮を怠った」として仙台地裁に損害賠償を求めていた裁判の判決があった。地裁は「千年に一度の巨大地震であることは分からなくても、巨大な津波の危険性は容易に予想される」と指摘して、園側に賠償を命じた。

 判決は被害にあった幼稚園児について「危険を予見、回避する能力が未発達」「自らの生命、身体を守る手立てがない」という点を重視している。それだけに施設側の責任はとりわけ重く、管理する側はできるかぎりの情報を集め、被害を避けるための最善の努力をすべきだという指摘である。

 これは幼稚園に限らず、まだ幼い子どもがいる小学校、高齢者や障害のある人のための施設、病院なども同じことだ。今回の判決は、こうした災害弱者のいる施設全体に対して、重い責任を自覚するよう求めたものととらえるべきであろう。

 判決が発した警告は、東日本大震災にとどまる話ではない。南海トラフで最大級の地震が起きると、太平洋側の6都県23市町村を20メートル以上の津波が襲うと推定される。いつ、どこで同じような状況になってもおかしくないとの危機意識を改めて持つ必要がある。

 裁判を通して、震災マニュアルが徹底されていなかったことや、それに沿った訓練が十分実施されていなかったことも明らかになった。各地の幼稚園や高齢者施設などを中心に、震災への平時からの備えに一段と力を入れたい。

消費増税対策―何でもありは許されぬ

 あまりに節度を欠いているのではないか。

 来春に予定される消費増税に合わせて、安倍政権が検討中の経済対策のことだ。

 「国費5兆円超」が当然視され、公共事業の大幅積み増しから法人税率の引き下げまで、何でもありの様相である。

 消費税率を1%上げると、税収は年に約2・7兆円増える。5%から8%への増税で負担増は8兆円に達する。デフレ脱却への流れが途切れないよう、一定の対策は必要だ。

 しかし、消費増税の目的を忘れてはならない。

 国債の発行、つまり借金に頼る社会保障分野に消費税収をあて、制度の安定・充実と財政再建を目指すのが狙いである。

 増税対策でも、必要性を吟味し、限られた財源を有効に使う姿勢が欠かせない。

 「国内総生産(GDP)の1%分の景気対策が必要」「消費税2%分の対策を打ち、負担増を実質1%に抑える」――。こんな「金額ありき」の発想は、もうやめにしたい。

 必要な対策は何か。

 民間主導の経済成長のカギを握るのは、GDPの6割を占める個人消費の動向だ。

 消費増税の負担が大きい低所得者を中心に一時金を給付し、消費の急激な落ち込みを防ぐ。景気への波及効果が大きい住宅の駆け込み需要とその反動を抑える工夫も必要だろう。

 あわせて、収益が好調な企業が雇用を増やし、賃金を引き上げるよう、仕組みを整える。雇用や賃金を増やした企業の法人税を軽くする制度があり、その適用基準をゆるめたり減税額を増やしたりするのは一案だ。

 企業自体の成長につながる設備投資や研究開発投資を促す税制の拡充も検討したい。

 法人税率そのものの引き下げはどうか。

 安倍政権は、「パンチ不足」と評判が芳しくない成長戦略の目玉にしたい考えのようだ。

 ただ、法人税を納める前提となる黒字の企業は全体の3割程度。なにより、政府の統計によると、法人全体で現金と預金だけで約150兆円をため込んでいると推計されている。

 なぜ企業はおカネを使わないのか。ここにメスを入れないまま法人税率を下げても、企業がますます資金を抱え込むだけになりかねない。

 既存業者を守っているだけの規制を見直し、新たな市場をつくる取り組みは尽くしたのか。財政への影響が大きい法人税率引き下げに飛びつく前に、やるべきことがある。

国会―いつまで休むつもりか

 先が見えない福島第一原発の汚染水漏れやシリア情勢。世の中の動きはめまぐるしいのに、そこだけ時間が止まったような場所がある。国会である。

 7月の参院選後、議長らを選ぶための臨時国会が6日間だけ開かれた。だが、実質審議は3カ月近く行われていない。

 安倍政権は、臨時国会の召集を10月15日に予定している。10月初めの消費税率引き上げの最終判断、7日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や環太平洋経済連携協定(TPP)会合など、政権の重要課題や外交に区切りをつけてから国会に臨む考えのようだ。

 汚染水問題はもちろん、国会が急いで取り組むべき課題は多い。そんな悠長なことを言っている場合ではない。

 まずは通常国会の会期末、首相問責決議をめぐる混乱で廃案になった電気事業法改正案などの審議のやり直しがある。安倍首相が明言した再生可能エネルギーの普及のためにも、成立を急ぐべきだ。

 シリア情勢にしても、化学兵器に関する米ロ合意をどう評価するか、日本としてどんな人道支援をしていくのか、質疑を通じて政府の考えを明らかにしていく必要がある。

 国会そのものにかかわる課題も山積だ。司法に抜本的な見直しを求められている選挙制度や国会審議の改革だ。

 首相が自民党の石破幹事長に、衆院議長のもと選挙制度改革の諮問機関の設置を検討するよう指示したのは6月だ。閉会中でも各党の代表者で話し合いができるのに、いまだに進展はない。

 野党は、汚染水問題での閉会中審査にとどまらず、臨時国会の召集要求も検討するという。憲法はいずれかの院の4分の1以上の要求があれば、内閣は国会の召集を決定しなければならないと定めている。野党が要求をためらう理由はない。

 もとより10月15日開会では年内の日程は窮屈だ。衆参のねじれが解消したのをいいことに、賛否が割れる特定秘密保護法案などの審議を駆け足ですまそうと政権が考えているなら本末転倒だ。

 確かに、今月下旬には国連総会もあり、外交日程は目白押しだ。国会審議を理由に、首相らの外遊がいたずらに制約されるのは避けねばならない。そこは、かつて民主党も提案した副大臣らの代理答弁や審議日程の工夫で乗り切れるはずだ。

 「いつまで休んでいるつもりか」という国民の視線は、厳しくなるばかりだ。

園児犠牲訴訟 津波への予見と情報があれば

 津波から園児の命を守れなかった責任は、幼稚園にある。幼い子供を預かる施設への警鐘と言える賠償命令だ。

 東日本大震災の直後、宮城県石巻市の私立幼稚園の送迎バスが津波に巻き込まれ、園児らが死亡した事故で、仙台地裁は幼稚園側に約1億7700万円の損害賠償を命じた。

 死亡した園児4人の両親が「園の対応の悪さが引き起こした人災だ」と訴えていた。判決は「津波に関する情報収集義務を怠った」と結論付け、訴えを認めた。

 幼い園児は、危険を回避する能力が大人ほど発達していない。津波襲来の際などには、自らの判断で避難することは困難だ。

 判決が「園長、教諭を信頼して指導に従うほかに生命身体を守る手立てがない」と指摘したのは、もっともである。

 手立てがない以上、幼稚園には、子供の安全を守る高度な義務が課される。判決も「危険性を予見し、回避する最善の措置を取る義務を負う」と判断した。

 その上で、最大震度6弱の揺れが約3分間も続いたことを考えれば、園側が津波襲来を予見するのは可能であり、「ラジオや防災無線を正確に聴く必要があった」と、園側の落ち度を認定した。

 園側は「予測不可能な異常な津波で引き起こされた不可抗力による事故」と主張してきた。

 だが、幼稚園は高台にあるのに、園児を自宅に送り届けようとバスは海側に向かった。園自体は津波被害を受けなかっただけに、園児の両親が「園の行為で犠牲が出た」と訴えたのは理解できる。

 大地震の際は園庭に避難し、保護者が迎えに来てから園児を引き渡すとの園のマニュアルがあるにもかかわらず、教職員の大半が存在を知らず、マニュアルに沿った訓練も実施しなかったという。

 大地震と津波への備えを欠いていたのは明らかだろう。

 園側が控訴すれば、訴訟は続くが、多額の賠償命令に対し、園側に支払い能力はあるのかという問題は残る。

 南海トラフ巨大地震では、東日本大震災を上回る規模の津波被害が想定されている。

 避難場所や経路を確保し、日ごろの訓練で教職員や子供に徹底させる。幼稚園だけでなく、保育所や小学校など、子供のいる施設が早急に取り組むべき課題だ。

 和歌山県串本町の町立幼稚園では、ほぼ毎日、園児と職員全員が高台への避難訓練を続けている。こうした取り組みを広げたい。

北朝鮮人権侵害 国連調査委が問う拉致の大罪

 拉致問題の解決に向けた進展につなげたい。

 北朝鮮の人権に関する国連調査委員会が、「外国人の拉致を含む強制失踪」などに関して、組織的な人権侵害を裏付けるような証言や情報が得られたとの中間報告を発表した。

 人権侵害は現在も進行中であり、国家による犯罪とみなすに等しい内容だ。北朝鮮指導部の責任を厳しく問うものと言えよう。

 調査委員会の設置は、今年3月、ジュネーブの国連人権理事会で全会一致で決まった。

 委員長のマイケル・カービー元オーストラリア最高裁判事はじめ3人の専門家が、北朝鮮の「組織的で広範かつ深刻な人権侵害」について調査している。

 調査委は、8月に韓国と日本を訪れ、拉致被害者関係者や脱北者、政府関係者らから、聞き取り調査を行った。東京で開いた公聴会では、36年前に13歳で拉致された横田めぐみさんの両親など被害者家族も証言した。

 公聴会を記録した映像は委員会のウェブ上に公開されている。横田さん夫妻の証言などを通じて、北朝鮮の非道ぶりへの認識が世界中で深まるに違いない。

 委員長は、数々の証言に応えるには、問題の解決に向けた「国際社会の行動」と北朝鮮の「説明責任」が必要だと強調した。

 調査委は来年3月に、勧告を盛り込んだ最終報告を公表する。

 北朝鮮は、調査委の訪問要請を認めず、協力を一切拒んでいる。証言内容に対しても誹謗中傷で応じてきた。指摘された事実に反証できず、筋違いの主張を繰り返すしかないのだろう。

 北朝鮮は最近、開城工業団地の操業再開や南北離散家族の再会に応じるなど韓国との融和演出の動きを見せている。それで人権侵害を帳消しにできるはずもない。

 北朝鮮の金正日総書記が、当時の小泉首相に拉致を認めて謝罪してから11年が経過した。北朝鮮の非協力的な姿勢により、日本政府が認定した被害者17人のうち12人は安否すら確認できていない。

 安倍首相は、拉致被害者全員の帰国なしには「私の使命は終わらない」と重ねて強調している。日本は、拉致、核、ミサイルの諸懸案の包括的な解決が日朝国交正常化の前提条件という立場だ。

 拉致でも核でも、北朝鮮に解決への行動を促すため、国際社会は圧力を強める必要がある。

 政府は、調査委に協力する一方、日朝交渉を再開し、拉致問題の解決に全力を挙げてもらいたい。

2013年9月17日火曜日

持続可能な介護保険へ応分の負担を

 介護保険は2000年度に始まった新しい制度だが、高齢化が進むなか、新たな対応を迫られている。介護費用は13年度予算で9.4兆円と、00年度の2.6倍に膨らんだ。制度の持続可能性を高めるには、利用者に応分の負担を求めるなど、着実な見直しが欠かせない。

 政府の審議会でこのほど、本格的な議論が始まった。8月にまとまった社会保障制度改革国民会議の報告書と、その実現への道筋を示したプログラム法案骨子を受けたものだ。

 国民会議の報告書は、低所得者に対する保険料の軽減の拡充などを打ち出す一方、「一定以上の所得のある利用者負担は引き上げるべきだ」などと負担増も求めた。

 利用者の自己負担割合は、00年の制度創設時から1割にとどめられている。一口に高齢者といっても収入などは様々だ。医療保険では3割負担の高齢者もいる。介護保険でも過去に2割負担が検討されたが、実現しなかった。

 生活に過度に影響しないよう、負担引き上げの対象範囲は慎重に決める必要があるが、もはや先送りはできない。政治にも一歩、前に踏み出す決断を求めたい。

 報告書は、利用者のなかでも比較的症状が軽い「要支援」の人へのサービスのあり方を抜本的に見直すことも提言している。厚生労働省はこのほど、15年度から段階的に市町村の事業に移す案を審議会に示した。

 財源が介護保険から出るのは同じだが、サービスの内容や料金などは自治体の裁量となる。介護事業者だけでなくボランティアなどにも担い手を広げ、地域の実情に合わせて効率的にサービスを提供できるようになれば、コストの増加を抑える効果が期待できる。

 だが地域間格差が生じたりサービスが低下したりすれば、かえって介護が必要な人が増えかねない。どのように地域の受け皿を増やし、高齢者の生活を支えるか。具体策を練ってほしい。「要支援」と認定されている人は約150万人いる。十分な説明と丁寧な移行措置が必要だ。

 介護が必要になりやすい75歳以上の高齢者は、現在の約1500万人から25年には約2200万人に増える。将来に備え、財源の確保や、より効率的にサービスを提供していくことが欠かせない。10年先を見越した議論が、今こそ求められる。

日米間の指紋「共有」は慎重に

 日米両政府が、それぞれの捜査当局などが持つ指紋のデータベースを相互に照会し、情報を提供し合う協定を結ぶことで合意した。テロの抑止や、重大な犯罪の捜査に活用するという。

 新しい制度はテロ対策を強化したい米国の強い要請に応じたものだ。日本にとっても犯罪捜査などで一定の効果が期待できる。

 ただし、指紋は極めて重要な個人情報である。過去に犯罪にかかわった人のデータであっても他国に安易に提供してよいものではない。照会できる対象の範囲を明確にし、運用の状況が確認できるような仕組みが必要だろう。

 計画では、入国審査で見つけた不審者や自国内で逮捕した人物の指紋に加え、事件現場に残された指紋などを相手国のデータベースに直接照会できる。該当する指紋があれば、理由を示したうえで氏名や性別、生年月日、過去の逮捕歴などの情報を受け取る。

 日本では容疑者を逮捕した際に指紋を採取し、警察庁がデータベース化している。これまでは他国との間で国際刑事警察機構(ICPO)を介して指紋情報のやり取りをしていた。

 これに対して新制度はデータベースの一部を米国と事実上共有する形といえる。米国家安全保障局(NSA)がインターネットを通じて膨大な個人情報を集めて分析していた問題が発覚したこともあり、個人情報の漏洩や悪用などを心配する人もいるだろう。

 提供する情報は懲役3年以上の刑罰にあたる犯罪の捜査で採取した指紋などに限る見通しだ。政府は新しい制度の意義とともに、こうした仕組みを丁寧に説明していく必要がある。

 米国は同様の協定の締結を査証の申請を免除している英、仏、オーストラリアなど37の国・地域に求め、日本以外とはすでに合意している。テロや組織犯罪の対策では、人権にかかわる制度の導入を国際標準として考えなければならないケースもある。国民が理解し、納得できるかがカギを握る。

集団的自衛権の行使―憲法の根幹にかかわる

 日本の安全保障政策が岐路を迎えている。

 安倍政権が、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の見直しに向けた議論を本格化させる。

 憲法9条のもと、自衛のための必要最小限の防衛力しか許されない。日本が直接攻撃されていないのに他国を守るのはこの一線を越えており、憲法に違反する――。

 歴代政権が一貫して示してきたこの解釈を変え、米軍などへの攻撃に対しても、自衛隊が反撃できるようにする。これが安倍首相の狙いである。

 戦後日本の基本方針の大転換であり、平和主義からの逸脱と言わざるをえない。

 憲法改正の厳格な手続きを省いたまま、一内閣による解釈の変更だけで、国の根幹を変えてはならない。

 首相の諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」がきょう議論を再開し、年内にも9条の解釈を改めるよう提言する。政権はそれを反映して新たな見解を出し、必要な法整備に着手する。

■9条が意味を失う

 実現すれば、自衛隊は「普通の軍隊」に限りなく近づく。法律で縛りをかけるとはいえ、政治の意思で活動範囲が際限なく広がり、海外での武力行使にもつながりかねない。

 平和主義は国民主権、基本的人権の尊重とともに、憲法の3大原則とされている。多くの日本人は、これを戦後日本の価値観として受け入れてきた。

 自衛隊は今日まで海外で一人の戦死者も出さず、他国民を殺すこともなかった。9条による制約があったからだ。

 それを変えれば、9条は歯止めとしての意味を失う。

 日米同盟の強化を進めた小泉元首相もここには踏み込まなかった。内閣法制局と調整し、(1)安易な解釈変更は憲法への信頼を失わせる(2)現状以上の解釈拡大は認められず、その場合は憲法改正を議論すべきだ――との立場を示していた。

 安倍政権は当初、憲法改正手続きを定めた96条改正をめざした。それが頓挫するや、今度は内閣法制局長官を交代させ、一部の有識者が議論を主導し、一片の政府見解で解釈改憲に踏み切ろうとしている。

 その根幹を政権が独断で変えることができるなら、規範としての憲法の信頼性は地におちる。権力に縛りをかける立憲主義の否定につながる。

 首相は何をしたいのか。しばしば引き合いに出すのが二つのケースだ。

 ▽公海で一緒に活動していた米軍の艦船が攻撃された時に自衛隊が反撃する

 ▽米国に向かうかもしれない弾道ミサイルが飛んできた時に自衛隊が撃ち落とす

■外交努力の継続こそ

 たしかに、中国の軍事力増強や、北朝鮮による核・ミサイル開発は日本に緊張を与え続けている。一方、かつての圧倒的パワーを失った米国内に、日本の役割増強を求める声があることも事実だろう。

 だが、一緒に活動中の米艦の防護は、自国を守る個別的自衛権の範囲で対応できるとの見方がある。ミサイル防衛の例にいたっては、いまの技術力では現実離れした想定だ。

 いずれも、憲法解釈を見直してでも対応するほどの緊急性があるとは思えない。

 9条には戦争と植民地支配の反省を込めた国際的な宣言の意味もある。安倍政権の歴史認識が問われるなか、性急に解釈変更を進めれば、近隣国との一層の関係悪化を招きかねない。

 そんなことは米国も望んでいまい。米国が何より重視するのは、中国を含む東アジアの安定だ。日本が中国との緊張をいたずらにあおるようなことをすれば、逆に日米同盟に亀裂を生む恐れすらある。

 安倍政権がまず取り組むべきは、中国や韓国との冷え込んだ関係を打開することである。

 そのために粘り強い外交努力を重ねる。同時に、現在の日米同盟の枠組みのもとで、連携強化を着実に進める。この両輪がかみあってこそ、地域の安定が図られる。

■安保政策が不安定に

 軍事力は必要だが、それだけでは現代の諸問題の解決にはならない。いま世界で広がる認識は、そういうことだろう。

 シリアへの軍事介入は、当面回避された。英国では、議会の反発で軍事介入の断念に追い込まれ、米国民の間にも、アフガニスタンやイラク戦争の教訓が染みこんでいる。

 安倍政権が軍事的な縛りを解こうとするのは方向が逆だ。

 国内外で理解が得られない安全保障政策はもろい。

 いま政権が解釈改憲に踏み切れば、全国で違憲訴訟が相次ぐ可能性がある。将来、政権交代があれば、再び解釈が変えられるかもしれない。

 日本の安全保障を、そんな不安定な状態に置くことは避けなければならない。

再び原発ゼロ 着実な再稼働で電力安定図れ

 国内の原子力発電所で1基だけ稼働していた関西電力の大飯原発4号機が、定期検査のため発電を停止した。

 全原発50基が止まるのは、約1年2か月ぶりである。

 北海道、関西、四国、九州の4電力が、計12基の原発再稼働を原子力規制委員会に申請中だが、審査の行方は不透明だ。

 原発稼働ゼロのまま、暖房などで電力需要の高まる厳冬期を迎えることが心配だ。規制委は審査を遅滞なく進めてもらいたい。

 安全性が確認された後、再稼働を円滑に進めるには、原発立地自治体の理解が要る。政府は原発の安全性と必要性について、地元に丁寧に説明すべきだ。

 今夏は記録的な猛暑にもかかわらず、大停電などを回避できた。企業や家庭の節電と電力各社の努力が功を奏したと言える。

 だが、実際には電力需給は綱渡りだった。8月22日は、関電管内で気温上昇による電力需要の急増と火力発電所のトラブルが重なり、他の電力会社から緊急に電力の融通を受ける事態を招いた。

 この日の供給余力は一時、停電危険ラインとされる3%寸前の4%まで下がった。

 今夏を乗り切ったからといって「原発ゼロでも電気は足りる」などと考えるのは甘すぎる。

 原発の代わりに火力発電を総動員した結果、全電力に占める火力発電の割合は、東日本大震災前の約60%から90%に上昇した。

 全電力のうち、輸入燃料で発電している割合は、石油ショック時の74%を上回る。エネルギー安全保障の面で気がかりである。

 経済への打撃も深刻だ。液化天然ガス(LNG)などの追加燃料費は今年度、約4兆円にのぼり、巨額な国富の流出が続く。

 割高な火力発電への依存度が高まったとして、東京電力など6社はそれぞれ、家庭向け料金を6~10%程度値上げした。

 さらに、燃料価格の上昇分が機械的に上乗せされ、実際の料金負担はもっと増えている。

 例えば、東電の値上げは約8・5%だったが、標準家庭の月額料金は、福島第一原発の事故当時より約30%も高くなった。

 企業向けの値上げは家庭より大幅だった。火力発電への依存度を下げないと、採算の厳しい中小工場などは経営に行き詰まり、産業空洞化が加速しかねない。

 安価な電力の安定供給体制確立が急務である。政府は、原発を今後も主要電源として活用する方針を、明確に打ち出すべきだ。

法科大学院 優秀な人材をどう集めるか

 このままでは、優秀な人材が法曹界に集まらなくなるのではないか。

 法曹養成の中核である法科大学院が、危機的な状況に陥っている。

 今年の司法試験で、法科大学院の修了生の合格者は1929人、合格率は約26%と低迷を続けている。当初想定された7~8割という合格率には遠く及ばない。

 こうした現状から、学生の法科大学院離れは進む一方だ。入学志願者は減少し、今春はピーク時の5分の1に落ち込んだ。

 大学の法学部人気も低下しており、国公立大学では法学部の志願者がこの2年で約1割減った。

 三権の一角を担う法曹界を目指す若者が減れば、法治国家の根幹が揺らぎかねない。

 法科大学院は、「質・量ともに豊かな法曹を育てる」という司法制度改革の理念の下、2004年に開校した。専門知識と法的分析力を備えた即戦力の実務家を育成することが期待された。

 ところが、文部科学省が広く参入を認めた結果、74校が乱立し、司法試験の合格者数が1けたにとどまるところが続出した。

 文科省は来年度、司法試験の合格率低迷など、実績を上げられない法科大学院18校の補助金を減額する方針だ。統廃合を促す狙いがある。養成機能を果たせない法科大学院の淘汰とうたはやむを得ない。

 一方、法科大学院を修了せずに司法試験の受験資格を得られる「予備試験」経由者の合格が急増している。今年は前年の約2倍の120人を数えた。

 予備試験は、経済的理由で法科大学院に通えない人にも司法試験に挑戦する道を開くために設けられた。にもかかわらず、今年の司法試験に合格した予備試験組には法科大学院在学生が目立つ。

 法科大学院で学ぶ過程を省く「近道」として予備試験を利用する人が増え続ければ、法科大学院の空洞化が進むだけだ。

 法科大学院制度を維持するなら、修了者に対し、司法試験の受験回数の制限を大幅に緩和するなど、学生が法科大学院に進みたいと思うような見直しが必要だ。

 無論、法科大学院にも教育の質向上の取り組みが求められる。

 司法試験に受かり、弁護士になっても、働き口が見つからない状況も深刻だ。将来の展望が開けないのでは、学生が法曹界を敬遠するのも無理はない。

 自治体や企業による雇用拡大など、弁護士の活動領域を広げる方策について、政府と法曹界は早急に検討すべきだ。

2013年9月16日月曜日

米ロ合意をシリアの内戦終結につなげよ

 米国のケリー国務長官と、ロシアのラブロフ外相が、シリアが保有する化学兵器を廃棄する枠組みで合意した。化学兵器を国際管理下に置き、2014年前半までにすべて廃棄する。

 米国による軍事介入はひとまず回避された。米ロが土壇場で歩み寄り、外交による打開策を見いだしたことは評価したい。国際社会が結束し、アサド政権に合意を確実に履行させることが重要だ。

 アサド政権は1000トン以上の化学兵器を、分散させて持っているとされる。廃棄は政権が正しく情報を申告し、査察に協力することが前提となる。そのためには、合意の履行を義務付ける国連安全保障理事会の決議が欠かせない。

 加えて、内戦下での作業は困難が伴う。関連施設は必ずしも安全な場所にあるとは限らない。査察要員をどう守るのか。化学兵器を安全な場所までどう運び出し、破壊するのか。検討しなければならないことは多い。

 今回の合意がアサド政権の延命を助ける結果になってはいけない。シリアの内戦では10万人以上が死亡し、200万人以上が国を逃れた。軍事介入が回避されたとしても、内戦が続く状況は変わらない。弾圧を続けるアサド政権が責任を免れるわけではない。

 急がなければならないのは、惨状に終止符を打つことである。シリア情勢がここまで混迷したのは、国際社会の足並みがそろわず、有効な手を打ててこなかったためだ。米ロは今回の歩み寄りを、内戦の終結へとつなげてほしい。

 米ロ合意は「世界の警察」を任じてきた米国の影響力の低下を、際立たせる結果にもなった。

 オバマ大統領がいったん軍事介入を決断したのは、アサド政権が化学兵器を使ったことが理由だったはずだ。ところが、いつの間にか争点は化学兵器廃棄にすり替わり、米ロ合意でも使用問題は事実上、不問に付されてる。

 新たな戦争が避けられたのは喜ばしい。ただ、優柔不断なオバマ政権の態度は、長い目で見れば世界の安定を脅かす危うさもはらんでいる。

 世界の安全保障は米国の影響力に頼るところが少なくない。アジア太平洋でも北朝鮮は核とミサイルの開発をやめず、中国は軍拡を加速している。シリア危機をめぐるオバマ政権の迷走によって、アジアなどでも混乱が増すことはあってはならない。

座して「違憲」判決を待つのか

 最高裁が違憲判決を出す日まで手をこまぬいたままでいるつもりなのだろうか。衆院の1票の格差の是正に向けた与野党の話し合いがさっぱり進まない。

 昨年12月の衆院選における1票の格差は2.428倍だった。16件の訴訟が起こされ、今年春に全国各地の高裁および高裁支部で相次ぎ判決が下された。14件が「違憲」、2件が「違憲状態」との判断で、「合憲」はゼロだった。

 うち2件は「選挙無効」にまで踏みこんだ。いくら司法が是正を勧告しても聞き流す立法へのいら立ちが読み取れる。

 16件を一括審理する最高裁は今月、原告と被告の言い分を聞く口頭弁論を10月に開くと通知した。判決は年内にも出る見込みだ。

 国会は選挙後の法改正で格差を1.998倍に縮めたが、その後の動きは鈍い。次の衆院選までに格差が再び2倍を超えるのは確実であり、さらなる見直しに一刻も早く取り組まなくてはならない。

 与党の自民、公明両党と野党の民主党はこのほど幹事長会談を開き、選挙制度改革の進め方を協議した。与野党の実務者協議を早期に再開させる方向で努力することで一致したが、中身の隔たりは全く埋まらなかった。

 選挙制度の見直しは政党の議席の増減に直結するだけに小田原評定になりがちだ。しかし集まって知恵を絞らなくては合意はあり得ない。与野党がそっぽを向いたまま「違憲」判決を迎えては、司法どころか国民に失礼だろう。

 今年7月の参院選の1票の格差をめぐる訴訟も相次いでおり、札幌高裁は今月、審理を始めた。こちらも最高裁で違憲判決が出る可能性が高く、そうなれば与野党は新たな難題を抱え、出口はますますみえにくくなる。

 まずは衆院に絞り、格差をできるだけ小さくすることだ。都道府県に1議席ずつ与えた残りを比例配分する「1人別枠」方式を最高裁は違憲と判断した。それに従って都道府県ごとの定数を見直せばかなり格差は縮まる。

危機から5年―マネー頼みの矛盾なお

 「100年に一度」の大不況を引き起こした米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)から15日で5年がたった。

 震源地の米国経済は徐々に回復してきたが、一方で新興国の経済は変調をきたしている。

 なによりマネー資本主義の矛盾があらわになり、低成長と雇用喪失が世界中に格差と貧困を拡散させた。この難題を克服する手立てはあるのか。世界は、なお手探りのままだ。

 振り返れば、リーマン危機にとどめを刺される形で住宅バブルがはじけた米国と、対米投資の多い欧州で金融危機と経済収縮の連鎖が起きた。さらに、欧州では銀行救済にギリシャの財政粉飾が重なり、財政と金融の複合危機に発展する。

 ここを支えたのが新興国の内需拡大、とくに4兆元(約60兆円)の景気対策を打った中国だった。

 ところが、それが不動産バブルや過剰な投資を加速させ、中国内の金融システムを揺さぶる懸念が生じている。米中間でバブルがリレーされていたと見ることもできる。

 中国の金融安定には銀行への資本注入なども必要になろう。バブルの調整が急激で深刻になれば世界が動揺する。国際社会との協力が求められる。

 先進国が頼った金融緩和の後始末も難しい。米国の量的緩和で新興国へあふれ出たマネーは逆流しつつある。米連邦準備制度理事会(FRB)は、緩和縮小でバブル防止に筋道をつけたいようだが、世界全体への目配りも欠かせない。

 世界経済はいびつさの度合いを深めている。とりわけ企業収益や株価の回復と、雇用の低迷とのギャップが際だつ。

 グローバル競争の激化が、人件費を減らして収益をあげる流れを加速させている。ことに先進国では、産業界が雇用を創出し、生活水準を底上げする機能は衰えるばかりだ。

 格差や貧困を是正するのは、所得の再分配を担う政府の仕事だが、どの国も財政に余裕はない。これで本当の経済再生は可能なのか。

 前向きな動きとして注目されるのは、ユーロ加盟の有志国が導入を決めた金融取引税だ。危機の処理コストを金融界に負担させ、同時に過剰な投機も抑える狙いがある。

 グローバル企業の国境をまたいだ税逃れ対策で、各国が結束する機運も生まれている。

 マネーの流れに網をかけ、地に足のついた経済構造をつくるために、世界は足並みをそろえなければならない。

マグロ漁規制―広い視野で資源保護を

 すしネタで人気の「太平洋クロマグロ」が減り続けている。

 このため、各国は来年の未成魚の漁獲量を02~04年平均に比べ15%以上減らすことにした。

 日本や韓国、米国などが加盟する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)の「北小委員会」が今月、合意した。年末の総会で正式に決める。

 日本海なども含む広義の中西部太平洋で、数値つきの漁獲規制が国際的に実施されるのは、初めてのことだ。

 乱獲による海洋資源の枯渇は深刻であり、科学的管理が一段と重要になっている。

 クロマグロは本マグロとも呼ばれる。水産庁によると、10年の太平洋クロマグロの資源量は約2万2千トンで、過去15年間で3分の1以下に減った。

 ここ3年間の平均漁獲量は02~04年平均を約17%下回っており、合意した15%減は追認に過ぎないともいえる。消費者への影響はほとんどなさそうだ。

 それでも、数値規制に踏み出したことには意義がある。

 WCPFCは従来、未成魚の漁獲を02~04年水準より減らすなどの規制をしてきたが、資源回復は思わしくなかった。

 北太平洋のマグロ資源を評価する国際科学機関は「親マグロが過去最低になりそうだ」として、特に未成魚の漁獲削減を強化するよう助言した。

 マグロ類の漁獲規制は、世界のほかの4海域では総漁獲量の割り当てなど先を行っている。

 大西洋クロマグロは99年に漁獲管理が始まった。一時は「絶滅の恐れがありワシントン条約で禁輸対象にしよう」と提案されたほどだったが、管理の強化で回復が確認され、今年は10年ぶりに漁獲枠が拡大された。

 漁業資源に関しては、資源量を注視しながら漁獲制限を適切に調整するのが妥当だ。

 遅まきながら、太平洋でも資源保護が本格化してきたことは喜ばしい。対象海域での漁獲量が日本に次ぐ2位なのに、まだ規制を受け入れていない韓国も足並みをそろえるべきである。

 天然の漁獲量が減ると注目される養殖も、万能ではない。養殖用に幼魚を取ると、それも天然資源を細らせる。マグロを1キロ太らせるには、15~16キロものエサの小魚が必要でもある。

 世界では、アフリカなどの人口増が依然著しい。将来、深刻な食糧難を予想する見方も根強い。公海の漁業資源は、内陸国を含む人類の共有財産だ。

 広い視野で長期を見通して、漁業資源の使い方を考えることは「海の幸」の恩恵を受けてきた海洋国の責任である。

米露外相合意 シリアに時間稼ぎを許すな

 軍事攻撃は当面回避され、内戦の政治解決に向けて一歩を踏み出した。だが、まだまだ不透明な点が少なくない。

 ジュネーブで3日間にわたって開かれた米露外相会談は、シリアの化学兵器全廃を目指す枠組みで合意した。

 アサド政権に、すべての化学兵器を1週間以内に申告させ、11月までに化学兵器禁止機関が査察を開始する。2014年前半までの完全廃棄を目標としている。

 ただ、化学兵器の存在すら認めてこなかった政権が正直に申告し、廃棄する保証があるのか。国内各地で戦闘の続く内戦下で、果たして実効性のある査察ができるのか。次々と疑問が浮かぶ。

 北朝鮮の核問題でも、北朝鮮はいったん核放棄を約束しながら、核計画の申告を遅らせ、査察を受け入れなかった。アサド政権が、合意の履行を意図的に遅らせて、政権延命への時間稼ぎをするような事態を許してはなるまい。

 今回の合意は、オバマ米大統領が、化学兵器使用への懲罰的軍事攻撃を表明したために、アサド政権の後見役のロシアが外交調停に乗り出し、実現したものだ。

 合意を受け、米国は軍事攻撃を当面先送りした。アサド政権が化学兵器を使用したかどうかは、棚上げされたままである。

 合意文書には、化学兵器の使用や無許可の移送など、アサド政権が合意不履行の場合は、国連安全保障理事会が、武力制裁に道を開く国連憲章第7章に基づく措置を取るべきだと明記されている。

 政権に合意を履行させるには、なお軍事行動を含む強力な圧力が必要ということだろう。

 オバマ大統領も、合意後の声明で、「外交が失敗すれば、米国は行動する用意がある」と述べ、米国として軍事攻撃の選択肢を維持する方針を強調した。

 安保理では、合意を受けた決議案を作成する。早期に採択し、国際社会全体でアサド政権に履行を促す努力が欠かせない。

 内戦では既に、10万人が犠牲となり、200万人が難民となった。一刻も早く戦闘を終わらせる方策を見つけなければならない。

 米露外相は近くニューヨークで再会談し、アサド政権と反体制派双方が参加する国際会議の開催に向け協議する。反体制側は、イスラム主義勢力や世俗派など様々な勢力が入り乱れている。外交交渉の前途は多難である。

 日本も手をこまねいてはいられない。難民対策など人道支援を一層充実させる必要があろう。

敬老の日 高齢世代の支え合いが大切だ

 きょうは敬老の日。

 100歳以上で迎えたお年寄りは、5万4000人を超える。過去20年間で11倍に増えた。

 日本が世界屈指の長寿国になったのは喜ばしい。高齢期をいかに実りあるものにするかを社会全体で考えねばならない。

 厚生労働省の研究会は、今年3月にまとめた報告書で、高齢者が住み慣れた地域で暮らすには、「共助、公助」と共に、「互助、自助」が必要だと指摘した。

 「共助」は介護保険などの社会保険制度に基づく相互扶助であり、「公助」は税財源による生活保護などを言う。これに対し、「互助」は近隣同士やボランティアによる助け合いを指す。公的な制度によらない支援の仕組みだ。

 高齢者同士の「互助」の取り組みが、各地で広がっていることに注目したい。

 例えば長崎県佐々町では、要介護状態になるのを防ぐ「介護予防ボランティア」が活躍する。

 ボランティアとなる住民は60歳代が中心で、まず町が開く養成講座を受講する。寝たきりや認知症の予防を目的に、集会所で開かれる教室で、高齢者に運動やレクリエーションの指導を行う。

 高齢者の自宅を訪問し、洗濯、掃除の手伝いもする。

 この結果、佐々町で要介護認定を受ける高齢者の割合が減り、介護費の削減にもつながった。

 住民のボランティアが優れているのは、地縁を通じて地域の人が気軽に参加できる点である。

 ボランティア活動をしている高齢者は、認知症や要介護状態になりにくいとの報告もある。自身の生きがいにもなる。こうした活動を広げてみてはどうだろうか。

 地域社会のつながりが薄れたと言われて久しい。「互助」を促進するには、自治体の役割が鍵になる。ボランティアが活動する場の確保など、住民の助け合いを後押しする工夫が求められよう。

 65歳以上の高齢者は、ほぼ4人に1人に上る。急速な少子高齢化で、社会保障制度を支える現役世代の負担は一層重くなる。高齢者の生活を公的サービスだけで支えることが困難なのは明らかだ。

 自立して生活する「自助」を実現することが望ましい。意欲と能力があれば、それに応じて社会の「支え手」になるという意識を持つことが大切である。

 高齢になっても一定の仕事を続けられるようにすることは、極めて重要な課題だ。長年培った能力を生かし、活力ある長寿社会を実現したい。

2013年9月15日日曜日

想定外に備えた総合策で汚染水にあたれ

 戦力の逐次投入に陥ってはいないか。東京電力と政府の汚染水対策をみていて、もどかしい。

 政府は国費を470億円投入すると決めたが、名目は研究開発費で、凍土壁など技術的に難しい対策にしか使えないという。急を要するのは汚染水を漏らさず管理できるタンクの増設だが、対象外だ。国の本気度も現時点ではそこまでということらしい。

 赤字経営の東電が対策を小出しにしたことが汚染水問題の傷口を広げた。政府が同じ轍(てつ)を踏むのは避けるべきだ。

 安倍晋三首相は国際オリンピック委員会(IOC)の総会で「汚染水問題は制御できている」と話した。この言葉が素直に胸に落ちた国民は少なかったのではないか。いま必要なのは外見を取り繕う言葉ではなく、具体的で多重性のある総合対策だ。

 まず地下トレンチなどから海への流出を止めるのが第一だ。次にできるだけ早く凍土壁で原子炉建屋などを囲い、炉心冷却法を見直すなどして、汚染水の発生を抑え込む必要がある。その間は汚染水は浄化したうえでタンクにため続けるしかない。

 ただ凍土壁などは技術的に実証されていない。技術的な失敗や地震や台風による想定外の事態にも備え、次の手も用意する必要がある。後手に回れば信頼をさらに損なうだけだ。不足の恐れがある人材の確保策も含め、対策の全体像を早く示すことが重要である。

 政府がこれまでより前に出たのはいい。しかし根回しなど役所の流儀が幅をきかせれば意思決定に時間がかかり情報公開も滞りかねない。非常事態であることを考えれば、指揮命令系統を短く明確にし、現場への権限移譲が要る。

 それにしては政府内に対策チームや会議が乱立気味だ。関係者が一堂に会する組織をつくり、情報をしっかり共有することが大事ではないか。

 政府の対策責任者(廃炉・汚染水対策チーム長)は茂木敏充経産相だが、経産相はほかにも多くの重要案件を抱え多忙だ。緊急時にも任せきれるのか。安倍首相にはよく考えてもらいたい。

 海外への情報公開も不足している。迅速な説明を怠れば、海外で風評の被害を広げるばかりだ。

 汚染水問題の解決は首相発言によって事実上の国際公約になった。世界が日本政府の決意と実行力のほどを注視している。

新型ロケットで世界市場開け

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新型ロケット「イプシロン」の打ち上げに成功した。点検の自動化など世界に先駆ける新技術を盛り込み、安上がりの打ち上げを目指した国産のロケットだ。まずは初飛行を喜びたい。

 JAXAを中心とする日本の宇宙開発はこれまで技術開発重視の風潮が強かったが、ここ数年で実用重視へかじを切った。新技術への挑戦は常に必要だが、実用に結びついてこそだ。打ち上げコストの節約を狙い新機軸を盛ったイプシロンは方向転換を象徴する。

 世界では小型の衛星に注目が集まっている。海や森林の環境調査や災害監視にこれまでは数百億円の大型衛星を使うのが普通だったが、技術の進歩で数億円の小さな衛星で足りるようになった。こうした小型衛星の需要が先進国だけでなく、経済発展が著しいアジアなどの途上国でも高まっている。

 イプシロンが狙うのはこの成長市場だ。既存技術の使い回しとコンピューターによる省力化などで徹底した低コスト化を目指した。打ち上げ費用は日本の主力ロケット「H2A」のおよそ3分の1の約38億円にとどめた。

 しかし世界にはもっと安価なライバルのロケットが存在する。イプシロンが人工衛星の打ち上げビジネスの国際競争を勝ち抜くにはもう一段の低コスト化が求められる。今回の成功は競争のスタートラインにたったにすぎない。

 競争力は価格だけではない。信頼性や顧客目線にたった柔軟なサービスも重要だ。相手国と日本の間で宇宙分野の長期的な協力関係を築く「技術外交」が決め手になることもあるだろう。

 「技術で勝って市場で負ける」ことがないよう、JAXAや関連企業、政府が協力し日本の総合力を発揮できる体制を築くべきだ。

 ロケットの商業的な成功は製造業を潤すだけではない。宇宙への道が安くなれば、衛星の観測データを使った新たな情報サービス産業が生まれ、意欲ある日本企業が宇宙進出する機会も広がる。

カネボウ―過信を防ぐシステムを

 顧客ばかりか、専門家である医師からの情報まで軽くみていたことは深刻だ。

 カネボウ化粧品の美白化粧品を使った1万人近い顧客に、肌がまだらに白くなる症状が出た問題で、外部調査の報告書が発表された。

 利用者の相談は2年前から寄せられていた。加えて昨秋以降、複数の医師から「化粧品が引き金になった可能性がある」と指摘されていた。なのに同社は今春まで動かなかった。

 「白斑は体質に由来する病気だ」という思い込みと、事なかれ主義が被害を広げた。報告書のこの指摘は重い。

 開発の段階で、自社のテストや厚生労働省の審査を通っている。日ごろ助言を受けている医師からも「化粧品で白斑はまず起きない」と聞いた。そんな過信が社内にあった。

 支社から問い合わせを受けても、「診察を受けてもらえば化粧品が原因でないと理解してもらえる」と繰り返し、軌道修正できなかった。

 開発時に白斑のテストもしていたのだから、リスクは認識していたはずだ。美白は業界の主戦場であり、カネボウの看板でもある。そこでつまずきたくない。そうした思いが目をくもらせはしなかったか。

 カネボウは親会社の花王とも連携し、トラブル情報を共有する仕組みを見直す。それは当然だが、聞きたくない情報に耳をふさぐ姿勢を正すには、身内だけの共有では心もとない。

 厚労省や学会、メーカーは来年1月をめどに、トラブル情報をウェブで集めて共有するシステムをつくる。再発をふせぐ良い手だてになるだろう。

 厚労省の審査のありかたも検証してほしい。

 美白成分が白斑を起こすメカニズムは未解明だが、発症は夏場が多く、強い日差しで成分が変化して毒性を持つ可能性が疑われている。審査の過程で懸念を口にした委員もいたが、深く検討されずに終わった。

 カネボウの申請書は、類似物質による白斑の症例を指摘した論文にふれていた。審議会で原典にあたっていれば突っ込んだ検討ができたかもしれない。

 薬用化粧品の安全性テストの方法はメーカーに委ねられている。今回、化粧水やクリームなど同じ成分を含む商品をいくつも使っていた人ほど発症率は高い。併用を想定した試験が不十分だった可能性がある。

 テスト方法に指針は要らないか。実際の使われ方に即したやり方を工夫できないか。検討すべきことは多い。

時事問題

注目の投稿

人手不足への対応は急務だ

 日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業、中堅、中小企業をあわせた全規模全産業の業況判断指数(DI)が26年ぶりの高水準になった。景気回復は6年目に入り、中小企業にも裾野が広がってきたが、先行きに懸念材料もある。深刻な人手不足だ。  従業員などの...

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