2013年11月30日土曜日

外部の目意識した経営へ会社法生かせ

 企業統治の強化策を盛った会社法の改正案が29日に閣議決定された。焦点だった社外取締役の義務付けは見送られた。そのかわりとして、社外取締役を選任しない企業は株主総会で理由を説明するという項目が入った。

 外部の目で経営を見る社外取締役の制度は、企業の規律を高め、不祥事などを抑える効果があるとされる。経営を良い方向に変えたいと考える企業にとって検討に値する選択肢だ。

 会社法改正をきっかけに、経営者は自社の企業統治に改善の余地がないかを、いま一度考えるべきだ。結果として社外取締役を起用するより、従来の監査役会の陣容を強化する方が適していると判断する企業もあるだろう。

 市場で存在感を増す欧米の投資家は、自国で一般的な社外取締役の選任を日本企業に求める傾向が強まっている。社外取締役がいないことへの説明責任は、これまで以上に重い。

 企業統治の実態に目を向ければ、大企業を中心として社外取締役を自主的に選任する企業は着実に増えている。

 東京証券取引所の時価総額上位500社の中で社外取締役を選任している企業の割合は、2013年に約80%と12年より10ポイント近く上昇した。トヨタ自動車は「より開かれた会社としてグローバルに発展する」(豊田章男社長)ために、今年初めて社外の人材を取締役会に迎えた。

 東証は上場規則を見直し、独立性の高い社外取締役の選任を企業の努力義務とする方針だ。法律だけでなく、こうした市場の規範も外部の目を意識した経営改革を促す力となる。

 多様な経験や考えを持つ人材を取締役にする意義は、不祥事防止といった経営の守りの面にとどまらない。新製品の開発や海外市場の開拓など成長戦略を進めるうえで、経営者の背中を押す社外の力が必要なときもある。

 もちろん、欧米をまねて形だけ整えても企業統治の実効性はあがらない。社外取締役がいても不祥事や業績不振に苦しむ企業は海外にもある。

 経営を仲間内で固めたままで事業の競争力を保てるのか。株主は不安を抱かず長期的に経営を評価してくれるか。そうした現実的な視点で企業が知恵を絞り、自社に最善と考える企業統治の姿を市場に示すときだ。

地震に強い街にするために

 古い大規模な建物に耐震診断を義務付ける改正耐震改修促進法が施行された。地震に強い街をつくるためには、建物の安全性を高めることは避けられない。国や自治体は法改正に併せて民間事業者を積極的に支援してほしい。

 今回、耐震診断を義務付けられたのは、現在の耐震基準になった1981年以前の古い建物だ。一定規模以上のホテルや病院、商業施設などが対象になり、2015年末までに建物の強度を調べて、結果を公表することになった。

 自治体の判断で幹線道路沿いのビルなどを対象に追加することもできる。地震が発生した際に、倒壊した建物が消防車などの通行を妨げないようにするためだ。

 同法が制定されたのは阪神大震災を受けた1995年だ。その後、小中学校の多くは耐震診断や改修に踏み切ったが、民間の旅館や商業施設などは遅れている。今のままでは耐震化率を15年までに90%に高めるという政府の目標は達成できそうにない。

 耐震診断に消極的な事業者が多いのは強度不足が明らかになれば客足に響くとみているためだろう。巨額な改修費用を手当てする見通しが立たないために、診断を先送りしている事業者もいる。

 しかし、利用者からみれば安全な建物かどうかは是非知りたい情報だ。国は税財政面で事業者への支援策を拡充しているが、自治体のなかには及び腰なところも多い。事業者の背中を押すためにも助成策を強化すべきだろう。

 改正法ではマンションなどの住宅にも耐震診断を求めている。あくまでも努力義務だが、住まいの安全性は早期に確認すべきだ。

 マンションでは診断結果を受けて改修しようとしても、費用負担を巡って住人間の意見がまとまらない場合が多い。今回、改修に必要な決議の要件を緩和した。適切な措置だろう。

 巨大地震がいつか再び、日本列島を襲う日がくるかもしれない。建物の強度を確保することは減災に向けた不可欠な一歩である。

学力調査公表―序列化解禁ではない

 副作用の強い薬を使うなら、使用上の注意を徹底すべきだ。

 全国学力調査の学校成績を公表するかどうかは、各校の判断に任されてきた。これを来年度から、市区町村の教育委員会の判断で公表できるようにする。文部科学省がそう決めた。

 これは「学校ランキング」の解禁ではない。文科省はそう強調する。自ら決めた以上は自治体任せにせず、運用に目を光らせる責任がある。

 これまでも、フライングをする自治体はあった。たとえば今年、静岡県は上位校の校長名を一覧にして公表した。

 新ルールは、そうしたやり方にお墨付きを与えるものではない。むしろクギを刺す内容だ。

 《学校の序列化や過度な競争を防ぐため、各校の平均点の一覧表や、順位をつけた公表はしない。点数だけでなく、結果の分析と改善策も示すこと》

 公表するときは、学校と事前に相談することも求めている。学校の意向を無視した強引な公表は許されまい。

 文科省の事前アンケートで、ルール改正に賛成が多数を占めたのは都道府県の知事だけだ。市町村の長や教委、学校は反対が圧倒的。保護者も賛否が割れ、反対がやや上回った。

 学校や家庭の心配が根強いのに、なぜ「来年から」と急ぐのか、疑問が残る。各教委は、学校だけでなく保護者の意向も確かめて慎重に判断すべきだ。

 公教育には、どの街のどの学校に通っても力がつくようにする使命がある。親や納税者への説明責任がある。だから情報公開が必要だと文科省はいう。

 ならば、大切なのは情報を格差是正に役立てることだ。自治体は下位校の先生や予算を手厚くするなど改善の手を打ち、次からのテストで効果を確かめて市民に説明してほしい。

 調査結果には日々の生活と学力の関係の分析データも含まれている。図書館に通う、ニュースに関心を持つなど、お金をかけずに学力を伸ばせることを説明すれば保護者の役に立つ。

 成績が伸びた学校の授業実践例など、校名の必要な情報もあろう。だが、校名なしでも出せる情報は多いはずだ。まずそこから公開に取り組むべきだ。

 昭和30年代の全国学力テストでは、成績のいい学校への越境入学が問題になった。今は、学区を越えて小中学校を選べる市区町村が15%もある。学校格差を広げるリスクは高い。

 大学入試では「1点刻みの競争を改める」方向が打ち出されている。まして義務教育はなおさらだろう。

橋下市長2年―空費できる時間はない

 大阪維新の会を率いる橋下徹氏が大阪市長の座を奪ったダブル選から27日で2年たった。

 折り返し点を前に、朝日新聞の世論調査では支持率が過去最低の49%に下がった。「まだ半分も支持してくれている」と橋下氏は言ったが、勢いの衰えは明らかだ。

 大阪府市を分割・再編する大阪都構想も、反対が賛成を初めて上回った。橋下氏が目標としてきた15年春の実現は困難との見方が強まってきている。

 橋下氏は市長就任当初、「(1期で)賞味期限切れ」と語っていた。予想より早いと評するのは簡単だが、大阪の現況はあまりに厳しく、だからなお多くの人が橋下氏に期待をつないでいる。残る任期を、停滞や混乱で終わらせてはならない。

 08年に大阪府知事になって以降、橋下氏が大阪が抱える諸課題に向き合い、問題のありかを明らかにしてきたのは確かだ。

 ただ、橋下氏が問題に対して出してきた「答え」はあまりに単純で強引に過ぎた。

 多くの問題を二項対立の構図でとらえ、択一を迫るのが橋下流だった。大阪低迷の要因を府市の二重行政とみなし、再編で根こそぎ変えようとする大阪都構想がその典型と言える。

 公務員や教員の世界に風穴を開けるとして、民間公募で多くの幹部職員や校長を採用したが、不祥事続き。府内を一つの水道に統合する構想も、利点を十分示せないまま頓挫した。

 政策がまったく違う石原慎太郎氏らと合流し、維新の国政進出を急いだことも、地元の不信を招いたと言えよう。

 世論調査では6割超の府民が、橋下氏は「大阪の課題に重点を置くべきだ」と望む。日本維新の会共同代表も辞し、大阪での本務に専念してはどうか。

 市内の多くの区で少子高齢化がハイペースで進み、生活保護受給者も全国一多い。そういう最重要課題は橋下改革の下でも、ほぼ積み残されたままだ。

 都構想が実現しても大阪の立て直しに必要な財源が生み出せるわけではない。「15年春の都移行」といった目標ありきの政治手法に走るのではなく、大阪の未来像とそれを実現する工程表をていねいにつくりあげていく必要がある。

 橋下人気の退潮で、市議会では政争激化の兆しがある。だが各党も党利党略で足を引っ張るだけでは市民に見放される。

 大阪の未来を案じた橋下氏の問題提起も踏まえて、課題解決に向けた具体的な方策を、総力で練っていくべきだ。大阪に、時間を空費する余裕はない。

防空識別圏 中国は孤立を深めるだけだ

 沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海上空に、防空識別圏を一方的に設定した中国に、世界各国から非難が集中している。

 中国の国際ルールを無視した振る舞いに、とりわけ反発したのは米国である。中国にとっては誤算だったのではないか。

 米国は26日、日本の防空識別圏と重なる中国識別圏内で、事前通報なしに核兵器も搭載可能なB52戦略爆撃機2機を飛行させた。

 日本の防空識別圏は、第2次大戦後に米軍が設定したものを、1969年に継承した。米国は、中国がアジアの戦後秩序に挑戦していると見て、現状変更を許さないという決意を示したのだろう。

 これに対し、中国は緊急発進(スクランブル)は行わず、「監視していた」と後で発表した。

 日本、韓国、台湾の識別圏は重複しないよう、境界を接して定められているが、中国は、事前協議なしに、日韓台の識別圏に重なる形で設定した。どの国も、中国の識別圏を認めないのは当然だ。

 その後、自衛隊機や韓国軍機も識別圏の重なる空域で飛行した。日本の航空各社は、国交省からの要請を受け、中国に飛行計画を提出せずに、運航を続けている。

 中国の外交的孤立は、今や決定的になりつつある。日米韓以外の、フィリピンやオーストラリア、欧州連合(EU)も「不安定化を招く」などと中国を批判した。

 中国空軍は、識別圏内で戦闘機などによるパトロールを「常態化」させたとしている。だが、本土から遠く離れた識別圏で、全ての航空機の動静を把握する能力を中国が有しているのか疑問だ。

 偶発的な軍事衝突が起きかねず、危険な状態といえる。日米は連携して、周辺空域での警戒監視活動を強化する必要がある。

 一方で、中国は、識別圏が重なった空域について「共同で飛行の安全を維持すべきだ」と述べ、日本などに協議を提案した。

 協議を通じて、尖閣諸島の領有権問題の存在を日本に認めさせようとの意図があるのだろう。日本政府が、「中国の識別圏を前提とした協議は受け入れられない」と一蹴したのは妥当だ。

 日本は、米国などと、中国に識別圏の撤回を粘り強く働きかけていくことが求められよう。

 バイデン米副大統領は2日から日中韓3か国を訪問する。日本政府と調整の上、中国指導部に対して、識別圏に関する懸念を直接伝えるとみられる。

 中国の国際常識を逸脱した行動をこれ以上認めてはならない。

猪瀬氏の5000万 「借用証」でも疑念は消えない

 巨額の借入金の趣旨は何だったのか。最初の釈明記者会見から1週間が過ぎても、疑念は一向に消えない。

 強制捜査を受けた医療グループ「徳洲会」側から5000万円を受け取っていた東京都の猪瀬直樹知事が、都議会の所信表明で改めて「個人の借り入れだった」と強調した。

 これまでの釈明の域を出ない内容に、議場から激しいヤジが飛んだ。各会派が「説明不足だ」と反発したのはもっともだ。

 猪瀬氏は26日の記者会見で、現金授受の際に記入したとする「借用証」を公開した。貸金庫に保管していたという。

 貸し手の徳田毅衆院議員の名前と日付が印字されているほかは、金額と知事の署名があるだけだ。返済時期や利子の記載もない。

 これが本物であるとしても、借用証だけでは、「選挙運動のためではない」という猪瀬氏の主張が証明されたとは言えまい。

 猪瀬氏は現金受領の6日前に徳田議員と会食し、その際、選挙には金がかかることが話題に上ったという。徳田議員が「お金がないなら、いつでも貸します」と語ったことも、猪瀬氏は記者会見で明らかにしている。

 このやり取りを踏まえれば、選挙のために現金が提供されたと考えるのが自然だろう。

 公職選挙法は、選挙運動に関する収入と支出を選挙運動費用収支報告書に記載するよう、候補者の出納責任者に義務づけている。出納責任者に虚偽記載の認識がなければ、違法行為にはならない。

 猪瀬氏の報告書に5000万円の記載はなかった。猪瀬氏が出納責任者に現金受領を伝えていなかったと強調するのは、公選法の規定を意識してのことだろう。

 疑念は払拭されていない。猪瀬氏は説明を尽くす必要がある。

 知事は現金受領の際、徳洲会グループの病院と介護老人保健施設が都内にあることを「知らなかった」とも述べている。

 グループには、過去5年間に都から約8億5000万円の補助金などが出ている。2007年から副知事の要職にあった人物として無責任のそしりは免れまい。

 都の一般職員が、職務上の利害関係がある業者から借金をすれば、懲戒処分の対象になる。都政全般に職務権限が及ぶ知事や副知事が、一般職員以上に襟を正さねばならないのは当然である。

 都議会では来週、代表質問と一般質問が予定される。真相究明に向け、各会派の役割も重い。

2013年11月29日金曜日

収益力を高めなければ賃金は上がらない

 政府と経済界、労働組合の代表らによる政労使会議で、経団連は会員企業に来春の労使交渉での賃金引き上げを働きかけていく方針を表明した。賃金増への政府の強い要請を受け、経団連としても前向きに取り組む姿勢を示した。

 1人あたりの現金給与総額はピークの1997年から2012年にかけて1割以上減っている。デフレ脱却へ賃金をいかに上げるかが課題なことは間違いない。

 しかし、経団連から賃金を増やすよう働きかけられても、判断するのは個々の企業だ。政府と経団連がいくら話し合っても賃金が増える保証はない。

 肝心なのは賃金を上げられるだけの収益力を企業がつけることだ。消費を伸ばし雇用増にもつながる好循環を生むには、働く人の所得が一過性でなく継続的に伸びていく必要がある。それには企業の持続的成長が欠かせないという認識を政労使は共有すべきだ。

 14年3月期が過去最高益の見通しの企業が相次いでいるが、円安に支えられる面は大きい。資本をどれだけ有効に使っているかを示す自己資本利益率(ROE)は米欧企業が総じて2桁なのに、日本の上場企業は1桁にとどまる。

 企業は競争力強化へ積極的に手を打つことが求められる。大企業だけでなく雇用者の7割が働く中小企業も収益力をつけることが、賃金上昇が広がるために必要だ。

 非上場を含む企業の抱える現預金は6月末で220兆円と、1年前から6.9%増えている。新しい事業への進出や海外事業展開、M&A(合併・買収)など、成長への投資に踏み出してほしい。

 企業が利益を増やすことがパート、契約社員など非正規労働者の賃金増にもつながる。90年に2割だった非正規労働者の比率は4割に迫っている。企業の収益力向上が広く働く人の賃金増につながる循環をつくりたい。

 政府の役割は企業が活動しやすい環境を整えることだ。農業やエネルギー、医療分野などは大胆な規制緩和が要る。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も、日本企業の海外投資などを活発にする協定を結べるかが問われる。

 政策の成果を出そうと急ぐあまり、政府・与党が各企業の労使による自主的な賃金決定に介入するのでは困る。復興特別法人税の前倒し廃止などの見返りに、過度の賃金引き上げ圧力をかけるようなことは厳に慎むべきだ。

クールジャパンを促すには

 経済産業省が主導する海外需要開拓支援機構、通称クールジャパン推進機構が発足した。官民共同ファンドで日本の生活産業や現代文化の海外展開を支援する。ただし大がかりな投資も、現地の消費者に歓迎されなければ日本ブランドの魅力向上にはつながらない。

 従来のクールジャパン政策は現地でのイベントやファンの日本招待など発信に力を入れてきた。新ファンドは現地で稼ぐ仕組みをつくるための投資を手がける。政府出資300億円、民間出資75億円でスタートし、2013年度末には600億円に増やす。

 まず日本の衣食住の店を集めた商業施設や商店街を開設したり、日本作品をテレビで放映するための放送枠を確保したりする事業に出資する構想だ。流通チェーンの買収も検討する。こうして商品の販路を用意することで中小企業、特に地方企業の海外進出を後押しするとしている。

 しかし通常、小売店や飲食店は客層や価格帯によって適する立地が変わる。若者向けの店なら学生街、家族客向けの店なら住宅街という具合だ。ノウハウを積んだ専門企業でも、実際の出店では失敗や試行錯誤を繰り返す。店舗経営にはきめ細かい戦略が要る。「日本」という共通項で店を集める発想には、やや危うさを感じる。

 テレビ放送や流通チェーン買収も同じだ。放映すべき時間帯は番組内容によって変わる。店の一角に「出資者の要望」というだけで日本の商品を並べても売り上げは期待できない。それぞれの国や地域で消費者の価値観や文化、街に詳しい人や企業と協力し、それぞれの店や商品が確実に人々に好かれる道を丁寧に探ってほしい。

 日本の生活産業や現代文化の海外展開は急務だ。そのためのファンドが不人気な施設を作り、売れない商品を並べたら、イメージ戦略で逆にマイナスとなる。赤字補てんに税金が使われたり、天下りに利用されたりという事態も避けたい。責任が重い分、監視や検証も厳しくすべきだ。

選挙無効判決―当然の責務を果たせ

 政治の怠慢に重い警告が突きつけられた。

 ことし7月の参院選での一票の格差をめぐる最初の高裁判決である。格差は「違憲」、選挙は「無効」と断じた。

 法の下の平等という立憲民主主義の根幹が問われているというのに、選挙制度の改革に向けた国会の動きは極めて鈍い。

 そのため判決は、次の3年後の参院選に向けた是正の可能性についても「はなはだ不透明」と、厳しい見方を示した。

 もっともな判決である。国会は、来年の最高裁の判断を待つことなく、当然の責務である格差の是正に腰を上げねばならない。

 この夏の参院選の一票の格差は、衆院よりも大きい最大4・77倍。2010年の時の5倍からほとんど改善していない。

 最高裁は昨年、その10年時点の参院選について「違憲状態」とし、抜本改革を促した。だが国会は定数の「4増4減」の数合わせでやり過ごした。

 焦点は、都道府県単位の選挙区だ。各都道府県に最低二つの偶数議席を割り当てる現行制度では、格差をただすハードルはかなり高い。

 最高裁はすでに09年時点の判決で、安直な選挙区間の定数ふりかえではなく、抜本的な制度改革を促していた。

 きのうの判決は、それから今夏まで3年9カ月たっても改正法案の提出さえできなかった現実を重くみて、違憲とした。

 そもそも当の参院がつくった改革協議会の委員会も8年前、現行制度を続ける限り、格差を1対4以内に抑えるのは難しい旨を報告していた。

 制度の変更には時間がかかるという言い訳は通じない。

 国会議員の選挙制度は、衆参それぞれの役割や権限と合わせて議論すべき問題である。

 都道府県ごとの選挙区と比例代表の組み合わせという、衆参とも似通った制度でいいのか。都道府県より大きなブロック制や、比例区だけではどうか。改革するには、参院の存在理由を定義し、それを踏まえた選挙方法を設計する必要がある。

 衆院の格差については、最高裁が先週、違憲や無効の高裁判決よりも甘く、「違憲状態」とする判決を出した。

 それで国会内には安堵(あんど)が広がり、緊張感がうすれている。違憲状態とされて危機意識をもてない国会に自らをただす能力はあるのだろうか。

 参院の格差をめぐっては、今後さらに年内に13の高裁・支部で判決が続く。司法には厳格な姿勢を貫いてもらいたい。

減反「廃止」―これで改革が進むのか

 政府は「画期的な政策転換」と胸を張る。

 しかし、中身を見ると、抜本改革とは言いがたい。競争力はつかず、補助金ばかりが膨らむ恐れすらある。

 コメの生産調整(減反)の見直しのことだ。

 現在は、主食用のコメの年間消費見通しを政府がまとめ、都道府県を通じて各農家に生産量を割り当てている。減反に加わらなくても罰則はないが、参加すれば10アールあたり1・5万円のコメ交付金がもらえるため、多くの農家が参加している。

 政府は「5年後をめどに生産数量の配分に頼らずにやっていく」とし、1970年に始まった減反を廃止する方向性は打ち出した。コメ交付金も、来年度は半額に減らし、5年後に廃止するという。

 減反と高い関税で米価を下支えしてきたことが、消費者のコメ離れに拍車をかけた。じり貧に歯止めをかけるには、減反廃止、関税引き下げへとかじを切り、中核的な農家に絞って所得補償をする仕組みに改めていくしかない。私たちは社説でそう主張してきた。

 その第一歩は、「消費見通しに合わせて生産を抑える」という従来の発想から抜け出すことだろう。では、農林水産省は路線を転換したのか。答えは「ノー」である。

 農水省は、引き続き需給見通しをまとめ、都道府県ごとの販売・在庫状況や価格情報も加えて農家に提供する。同時に、主食用米からの転作支援を手厚くする。具体的には、飼料用米への補助金を現在の10アールあたり8万円から最大で10・5万円に引き上げる。

 転作で、伸び悩みが目立つ麦や大豆より飼料用米に力を入れるのはわかる。水田にもっとも適しているのはコメ作りだし、需要も見込めるからだ。

 ただ、手厚い補助金に誘われて飼料用米を作る農家が相次げば、減反廃止で目指す「農家自らの判断による作付け」は骨抜きになる。零細農家が残り続けて、経営規模の拡大も滞りかねない。肝心の主食用米にみがきをかける取り組みがおろそかになることも心配だ。

 農水省はコメ交付金の削減で浮いた財源を使いつつ、新たな補助金も設けることで、「これまでより農家の所得は増える」とPRするのに忙しい。

 農家の平均年齢は66歳を超え、耕作放棄地は増える一方。日本農業の中核であるコメ作りは崩壊しかねない――。農水省はそう訴えてきたはずだ。

 危機感はどこへ行ったのか。

参院1票の格差 選挙無効判決は乱暴に過ぎる

 国会の裁量権に踏み込んだ独りよがりの判決と言わざるを得ない。

 「1票の格差」が最大4・77倍だった7月の参院選について、広島高裁岡山支部は「違憲」と判断し、岡山選挙区の結果を「無効」とする判決を言い渡した。

 参院選を無効とした司法判断は初めてである。

 岡山支部は、3月にも衆院選の「1票の格差」訴訟で「無効」判決を出している。同じ裁判長による今回の判決にも、政治や国会への理解不足が目立つ。

 判決は、投票価値の平等を憲法上の「最も基本的な要請」と断じ、格差是正を最優先すべきだとの見解を示した。

 しかし、昨年12月の衆院小選挙区選を「違憲状態」とした20日の最高裁判決は、「投票価値の平等は選挙制度を決める絶対の基準ではない」と指摘した。

 選挙区選は行政区画を基にしており、地理的状況や交通事情にも配慮する必要性を認めたものだ。これは参院選にも当てはまる。

 参院では、3年ごとに半数が改選されるため、各選挙区に最低2人を割り振らねばならない。参院特有の事情をどこまで考慮したのか、甚だ疑問だ。

 さらに問題なのは「無効」判断である。再選挙のルールも明確でないのに選挙のやり直しを命じるのは、無責任ではないか。

 判決は、47選挙区の全てが無効になり、議員が失職しても、比例代表の議員と非改選の議員がいるため、参院の活動には問題がない、という独自の認識も示した。

 比例選が民意の反映を重視しているのに対し、選挙区選には、民意を集約して政治の安定を図るという重要な機能がある。選挙区選の機能を軽んじる今回の判決は、参院の民意をゆがめる極論だ。

 国会は昨年11月、選挙区定数を「4増4減」する改正公職選挙法を成立させ、最大格差は3年前の5・00倍から縮小した。

 今年9月に発足した参院の各派実務者による協議会は、2016年の次回参院選までの制度改革を目指し、検討を重ねている。

 岡山支部は、こうした対応を一顧だにしなかった。国会の裁量権をあまりに軽視している。

 ただ、国会の取り組みも十分ではない。抜本改革に向けた議論を加速せねばならない。

 今回は、参院選後に提起された訴訟の最初の判決だった。被告の岡山県選挙管理委員会は上告する見通しだ。最高裁には現実的な判断が求められる。

自民県連転換 辺野古移設へ環境整備を急げ

 長年の懸案である米軍普天間飛行場の移設問題を解決するうえで、重要な一歩と言える。

 自民党の沖縄県議団が従来の「県外移設」の方針を転換し、名護市辺野古への移設を容認することを決めた。沖縄県連所属の国会議員5人も辺野古移設を容認しており、県連は近くこの方針を正式決定する。

 沖縄県の仲井真弘多知事は12月中にも、政府が申請した辺野古移設に伴う公有水面埋め立てについて、可否を判断する予定だ。

 仮に辺野古移設が頓挫すれば、住宅地にある普天間飛行場の危険な現状が長期間、固定化する公算が大きい。県連の方針転換の背景には、この最悪の状況は避けたいという現実的な判断がある。

 知事与党の自民党県連が辺野古移設容認に転じたことは、知事の前向きな決断を後押ししよう。

 政府・与党は、「県外移設」を唱える公明党県本部の翻意を促すなど、地元関係者の理解を広げる努力を続けねばなるまい。

 移設先である名護市の稲嶺進市長は、環境保全策が不十分などとして、埋め立てに反対する意見書を沖縄県に提出した。

 来年1月の名護市長選には、稲嶺市長と、辺野古移設を容認する2氏が出馬表明している。過去4回の市長選と同様、移設の是非が最大の争点となる見通しだ。

 日本の安全保障が一地方選の結果に左右される事態は本来、あってはならない。地元の民意は十分勘案すべき要素であっても、安保政策は、政府が総合判断し、責任を持つべきものだからだ。

 市長に移設を拒否する権限はないが、移設を円滑に進めるには無論、市長が容認している方が望ましい。自民党は、容認派の2人の一本化を急ぐべきだろう。

 政府も、仲井真知事が市長選前に埋め立てを承認できる環境整備に全力を挙げる必要がある。

 重要なのは、沖縄県の米軍基地負担の軽減を加速することだ。

 日米両政府は近く、米軍の訓練海域における漁船操業の一部を解禁する。新型輸送機オスプレイの訓練の県外移転も、着実に拡大することが大切である。

 普天間飛行場の移設が動き出せば、在沖縄海兵隊のグアム移転や米軍施設返還にも弾みがつく。

 沖縄振興にも力を入れたい。

 内閣府は来年度予算で、今年度より13%も多い3408億円を要求している。国家戦略特区の創設や基地跡地の有効活用など、より効果的な地域活性化策となるよう大いに知恵を絞るべきだ。

2013年11月28日木曜日

補助金頼みから脱してこそ農業改革だ

 政府はコメの生産調整(減反)を2018年度に廃止する方針を決めた。減反は都道府県ごとに新設する管理機構を利用して農地の集約・大規模化を進める政策と矛盾する。廃止して当然だ。

 しかし、減反廃止にともなう補助金の見直しは幅広く農家を守るこれまでの発想から抜け出していない。いくつも課題が残る。

 政府は減反に参加する農家に一律支給する現行の補助金を段階的になくしても、農家の所得は全国平均で13%増えるという試算を示した。からくりは増産する家畜飼料米への補助拡充や、農地維持の名目で支給する補助金にある。

 農業改革の目標は農家が補助金に頼らず、自立できる競争力を身につけることにあるはずだ。本来の趣旨に沿うよう、政府案は再度の見直しが求められる。

 補助金で生産を管理する考え方もやめる必要がある。家畜飼料に使うコメの生産補助を現行の10アールあたり年間8万円から最大10万5千円まで引き上げることには、主食米からの生産の移転を誘導する狙いがある。これでは従来の転作奨励と同じで、減反が実質的に強化されるおそれがある。

 安倍晋三首相は「農家が自らの経営判断で作れる農業を実現する」という。その言葉を具体化してほしい。

 国内でまかなえる飼料原料を増やせば畜産業の経営安定に役立つだろう。ただ、現在の主原料である輸入トウモロコシは流通経費を含めても1キロ30円ほどで、国内で作るコメに置き換えるには価格差を埋める多額の税金が要る。

 安倍首相は減反の廃止方針について「過去の農政の流れを抜本的に見直すものだ」と強調した。だが、経営支援を市町村が認めた「プロ農家」に絞る案は「大規模優遇策だ」という与党内の反対に遭い、実現できなかった。横並びの農家保護を維持しようとする声に屈せず、意欲的な農家を後押ししてもらいたい。

 農業人口の高齢化は急速に進んでいる。これからの農業を誰が担うかは大きな問題だ。農業を魅力ある成長産業に変え、若者がこの仕事をしたいと思う環境をつくらなければならない。それには農協改革や、企業が農業に参入しやすくなる規制緩和も欠かせない。

 安倍政権は規制改革会議や産業競争力会議の意見をもっとくみ取って、看板倒れにならない農業改革の戦略を打ち出してほしい。

洋上風力発電を育てるには

 福島県楢葉町や長崎県五島列島の沖合で洋上風力発電の実証試験が始まった。いずれも発電用の大型風車を海に浮かべ、チェーンで海底につなぐ「浮体式」と呼ぶ新技術を使っている。事業化を見据えた産官学連携の取り組みだ。

 純国産の資源である再生可能エネルギーはできるだけ伸ばしたい。なかでも洋上風力は海に囲まれた日本には有望な分野だ。上手に育てていきたい。

 風力発電に適した場所は、陸上では約7割が北海道と東北に集中している。十分な風が吹いても、住宅密集地や資機材を運び込めない険しい場所では建設が難しい。

 これに対し日本の領海と排他的経済水域を合わせた面積は国土の12倍だ。遮るものがない海上では風を安定して得られる。日本風力発電協会の試算では、洋上風力の潜在的な発電能力は6億キロワット超と、日本にある発電設備全体の能力の2倍を超える。

 課題は発電コストが陸上に比べ、まだ割高なことだ。コストを下げるには普及を後押しする仕組みが要る。風力は再生エネルギーでつくった電気を全量買い取る制度の対象だが、陸上での発電を想定している。経済産業省の研究会は洋上風力の買い取り価格について検討を始めた。早急に制度化してもらいたい。

 洋上での設置には漁業関係者の理解が欠かせない。船舶航行や港湾などの規制も複雑で、関係する省庁は複数にまたがる。福島沖のプロジェクトは経産省、五島沖は環境省が主導するなど、ばらばらになっている。省庁の垣根を越えた戦略と体制が必要だ。

 欧州では日本を上回る数の洋上設備が稼働しているが、ほとんどが風車を海底に直接固定する「着床式」だ。浅い海でしか使えない。日本周辺の広大な海域を生かすには、深い場所にも設置できる浮体式の技術が不可欠だ。

 福島沖や五島沖での実証を通じて日本が浮体式で先行できれば、風力発電設備の世界市場で優位に立つこともできよう。

秘密保護法案―欠陥法案は返品を

 特定秘密保護法案の参院での審議がきのう始まった。なんども指摘してきたとおり、これが「欠陥品」のたぐいであることは明らかだ。

 まちがって欠陥品が届いたら返品するのが常識だろう。とりあえず使い始めて、事故が起きたら直そうか、というあまい話は通らない。

 参院は返品、つまり廃案をためらうべきではない。

 衆院で修正案を審議した時間はわずか2時間だった。まさに日程優先で、放り投げるように参院に送りつけた。

 与党側は、実質8日間しか残っていない会期末までの成立をめざす。この修正案のまま数の力で成立させれば、参院はそれこそ衆院のコピーでしかない。

 いま、与党を含めすべての参院議員に問いたい。本当にそれでいいのか。

 参院は、まがりなりにも「良識の府」「再考の府」と言われてきた。

 特に参院自民党は、ことあるごとに参院の独自性を強調し、衆院への対抗意識を燃やしてきた。絶大な力を誇った小泉政権の郵政民営化法案を、いったんは葬ったこともある。

 参院が指摘すべき難点は、いくらでもある。

 ▼「第三者機関」はいつつくり、どんなメンバーで、どのような権限を持たせるのか。付則や首相答弁だけでは、実現性がまったく不透明だ。はっきりした担保がない。

 ▼「原則30年」だった秘密の指定期間が修正により、実質的に「原則60年」に延びてしまったのではないか。

 ▼秘密指定の権限をもつ行政機関が多すぎる。「5年経過後に特定秘密を保有したことがない行政機関は秘密指定機関から除く」と修正されたが、むしろ官僚は無理に秘密をつくろうとするのではないか。

 ▼知る権利を保障するため、情報公開法や公文書管理法をどう改正していくのか。

 疑問は尽きない。米国などとの情報交換のために秘密保護法制が必要と言われるが、いまでも重要情報は日本に伝えられている。この法案の成立を急ぐ理由はまったくない。

 日本版NSCと呼ばれる国家安全保障会議の設置法がきのう成立した。外交・安全保障政策の司令塔として米国などとの連携にあたる。

 NSC発足にあわせて秘密保護法制の整備を急ぐとすれば、本末転倒ではないか。

 特定秘密保護法案は民主主義の根幹にかかわる。参院で一から考え直すべきだ。

遺族年金判決―性別格差を正すときだ

 地方公務員が業務上の災害で亡くなると、夫は55歳以上でないと遺族年金を受ける権利がない。妻にはそんな制限はない。

 その法律の規定について、大阪地裁が憲法違反で無効だとする判決を出した。

 「夫が外で働き、妻は専業主婦」。それがふつうだった昔の考え方に基づいており、もはや合理性がないと判断した。

 時代の流れに沿った当然の判断といえる。国は、もっと早く対処しておくべきだった。

 地方公務員だけでなく、民間労働者の労災保険や国家公務員の災害補償制度にも同様の規定がある。国は判決を受け入れ、法の改正を急ぐべきだ。

 判決は、90年代のバブル崩壊後に加速した社会の変化を分析している。

 夫婦が共稼ぎしている世帯の数は、90年代に専業主婦世帯を逆転した。現在は1千万世帯を超え、多数派になっている。

 正社員として定年まで勤める日本型の雇用モデルも崩れた。いまは働いている男性の2割弱が非正規雇用となっている。

 完全失業率も98年以降、女性より男性のほうが高い。

 一方、高度成長期に整えられてきた日本の社会保障制度は、急激な変化に十分対応できているとはいいがたい。

 例えば国民年金には、夫を亡くした妻のみが受給できる「寡婦(かふ)年金」がある。

 会社員が加入する厚生年金や、公務員の共済年金にも、遺族の夫については60歳以上でないと年金が受け取れないという制限が設けられている。

 憲法14条は性による差別を禁じ、最高裁は「合理的な根拠があるときだけ法的格差は許される」との基準を示している。

 かつて夫婦の間で稼ぐ力に明らかな差があった時代は、妻を優遇することで平等をもたらす合理性はあったかもしれない。

 だが、家庭のありようや夫婦の役割も変わったいま、性別のみを根拠とした格差は逆に不平等をもたらしている。

 時代の感覚に照らし、見直していくべきだ。

 改善の動きもないではない。母子家庭のみが支給対象だった国民年金の遺族基礎年金は来春から父子家庭にも広げられる。児童扶養手当は3年前から父子家庭にも支給されている。

 もちろん、今でも女性の平均経済力の方が低いのも確かで、保育サービスの充実など女性の就労を支える施策は必要だ。

 だが、年金など社会保障について「男か女か」で一様に差をつけることはもはや時代遅れの発想というほかない。

NSC法成立 意義深い与野党の幅広い合意

 日本の平和と安全を確保し、国益を守るため、政府の外交・安全保障政策の司令塔が誕生することを歓迎したい。

 国家安全保障会議(日本版NSC)設置法が成立した。12月初めに日本版NSCが創設され、まず初の国家安保戦略と、新しい防衛大綱を策定する。年明けには、事務局の国家安全保障局が発足する見通しだ。

 設置法には、自民、公明の与党のほか、民主、日本維新の会、みんなの党も賛成した。安保政策は超党派の合意を基に進めるのが望ましい。衆参両院議員の9割超が足並みをそろえた意味は重い。

 NSCの中核は、首相、官房長官、外相、防衛相による「4大臣会合」で、副総理も交えて、原則、2週間に1回開かれる。

 中国・北朝鮮情勢や在日米軍再編、領土に関する問題などの重要案件について、首相と関係閣僚が定期的に議論し、共通認識を持つ体制を構築する意義は大きい。

 多くの内政課題を抱えている時も、首相官邸が外交・安保案件に一定の時間と精力を充てる。自衛隊の制服組を含め、専門的知見を持つ事務局がこれを支える。外交・安保政策の優先度を高め、充実させることにつなげたい。

 重要なのは、関係省庁の縦割り行政を排し、首相官邸が政策の方向性を主導することだ。

 例えば、当面の課題である中国の防空識別圏や、米軍普天間飛行場の移設の問題などは、複数の省庁の連携が欠かせない。NSCの総合調整力が試される。

 安全保障問題で的確な判断をするには、政府全体の情報収集・分析力の向上が前提となる。

 設置法は、関係省庁のNSCへの情報提供義務を明記した。NSCは特定秘密も扱う。円滑な情報提供が実現するよう、関係閣僚は官僚に指示せねばならない。

 関係国との情報交換を進めるため、情報漏洩を防ぐ特定秘密保護法案も成立させる必要がある。

 今回は見送られた内閣情報調査室(内調)の改革も進めるべきだ。NSCと内調は、海外情勢や国際テロ情報の分析などの業務が重複する可能性がある。効果的な連携体制が求められる。

 国会では、与野党協議の結果、NSCの議事録の作成を検討するとの付帯決議が採択された。

 重要政策の決定過程の記録を残し、後世の検証を受ける仕組みは大切である。ただ、議事録や情報公開は、閣議や関係閣僚会議なども含めた政府の会議全体について総合的に検討するのが筋だ。

冬の節電 「原発ゼロ」に早く終止符打て

 酷寒の季節に大停電が起きれば、人命にかかわる恐れもある。政府と電力各社は、冬の電力安定供給に万全を期さなければならない。

 12月2日から、冬の節電期間がスタートする。沖縄電力を除く電力9社は、無理のない範囲で節電を行うよう呼びかける。

 全国の原発50基がすべて停止したまま、暖房などで電力消費の増える冬を迎え、再稼働の見通しも立たないための措置である。

 停電を防ぐには、電力需要に対して3%以上の供給余力が必要とされる。火力発電所のフル稼働などで、全電力会社が最低限の供給力を確保できる見込みだが、3・0%の関西電力や3・1%の九州電力はギリギリの余力だ。

 家庭やオフィスで、照明のこまめな消灯やエアコンの設定温度引き下げといった省電力に努め、寒い冬を無事に乗り切りたい。

 発電所の故障で突然、電力不足に陥った地域に、余裕のある電力会社が電力を融通する体制を強化するなど、業界をあげて不測の事態に備える必要がある。

 なかでも綱渡りの電力供給を強いられるのが北海道だ。北海道電力は全国共通の節電要請に加えて、12月9日から来年3月7日の平日午後4~9時、管内の企業や家庭に2010年度比で6%以上の節電を要請する。

 数値目標を設けた冬の節電は2年連続だ。その背景には、厳しい電力事情がある。

 北海道電力の火力発電所12基のうち8基が運転開始から30年を超え、故障による停止が増えている。今年6月には120万キロ・ワット近い大規模な電源喪失が起きた。

 北海道の今冬の余力は40万キロ・ワットしかない。北海道と本州を結ぶ送電線の容量は限られており、他電力から融通を受けられる電力も最大60万キロ・ワットにとどまる。大規模なトラブルが起きれば、供給力不足による停電が懸念される。

 北海道は氷点下30度に冷え込む地域もある。停電で暖房機器が使えなくなれば、凍死の危険に直面する人も少なくないだろう。

 道路の融雪や水道管の凍結防止ができなくなり、社会インフラがマヒする事態も心配だ。「原発がなくても電気は足りる」などと考えるのは楽観的すぎる。

 北海道電力は泊原発3基の再稼働をめざし、原子力規制委員会に安全審査を申請している。

 泊原発に限らず、安全性を確認できた原発から着実に再稼働し、原発ゼロの状況に終止符を打つことが求められる。

2013年11月27日水曜日

秘密保護法案の採決強行は許されない

 なんとも残念な光景というほかない。政府・与党が衆院特別委員会で特定秘密保護法案の採決を強行した。法案はその後の衆院本会議で自民、公明両党とみんなの党などの賛成多数で可決された。

 この法案には、国民の「知る権利」を損なう危うさがある。日本維新の会、みんなの党との間で修正がなされたものの根本的な問題は解決されていない。徹底した見直しに向けて議論を続けるべきだ。私たちはそう主張してきた。

 それが、短期間でまとめた修正案を十分な審議時間を確保することなく採決する拙速ぶりである。

 政府・与党は「慎重に審議してきた」という。だがともに修正案を作った維新の会は「審議が尽くされていない」として、採決を欠席した。このことが実態をよく表している。

 審議の場は参院に移る。「良識の府」の理念に恥じない議論と法案の抜本的な見直しを求めたい。

 法案では防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、特に秘匿する必要があるものを、各省の大臣が特定秘密に指定する。秘密を漏らした公務員には最長で懲役10年の刑が科せられる。

 指定の範囲が広く曖昧なため、何が秘密かよく分からないまま情報を受け取った側も罪を問われかねない。条文上はスパイと市民の別なく罰則が設けられている。自由にものを言えない、重苦しい社会になってしまう恐れがある。

 本紙の世論調査でも、秘密保護法案については「反対」が50%で、「賛成」の26%を上回った。「懸念はない」と答えたのはわずか6%にすぎない。このような状態で、法案をそのまま通してしまって本当にいいのか。

 知る権利の侵害を抑えるためには、最低限、指定する秘密の範囲を厳しく絞り込み、明確に規定する必要がある。そのうえで指定の適否を直接チェックできる第三者機関を設け、秘密を解除した後には公開するルールを作ることが不可欠だ。

 採決に先立ち25日に開かれた福島県での公聴会では、意見を述べた参加者7人全員が、法案に反対するか、慎重な対応を求めた。自民党が推薦した浪江町長を含め、誰一人正面から賛成しなかった。

 異例の事態といっていい。国民の抱く疑念や不信感はまったく解消されていない。政府・与党もここは立ち止まって、もう一度考え直してみるべきだ。

3Dが変える製造業の未来

 デジタル革命がものづくりの世界にも波及してきた。デジタルデータをもとに、樹脂などを重ね塗りして立体物をつくる3次元(3D)プリンターなどが急速に進化し、用途も広がっている。

 新しい波をうまく取り込めば、一部で陰りの見える国内製造業の基盤強化にもつながるだろう。

 これまでも大企業の設計・製造現場では、デジタル技術の活用が一定程度進んでいたが、最近の特徴は利用者の裾野が大きく広がってきたことだ。

 その1つが熟練工の不足などに直面する中小企業だ。鋳造品などを手掛けるコイワイ(神奈川県小田原市)は自動車部品の試作品づくりに3Dを導入し、コストダウンや納期短縮に成果をあげた。

 「従来の工法ではとても作れない複雑な形でも、難なく造形できる」と小岩井豊己社長はデジタル技術の進歩に舌を巻く。

 2つ目は医療などの非営利セクターである。東京大学は骨と同じ成分の素材を使って患部にピタリと適合する人工骨を「印刷」することで、患者の負担軽減をめざしている。

 一つ一つ形の違う「多品種少量生産」はデジタル技術の得意技であり、義歯などを含めて医療分野での期待は高い。

 そして3番目が個人だ。ビックカメラやヤマダ電機は一部店舗で3Dプリンターの販売を始めた。安いものなら、価格が10万円台まで低下し、個人でも手の届くところまできた。

 世界に目を転じれば、この分野で先行するのは米国だ。3Dプリンターの有力メーカーを擁し、さらに多数のベンチャー企業を輩出しつつある。技術を利用する側も積極的で、ゼネラル・エレクトリックはジェットエンジンや画像診断装置の部品を3Dで「印刷」する目標を掲げている。

 日本の製造業としても、手をこまぬいているわけにはいかない。デジタル技術と従来型のものづくりの強みを融合して、競争力に磨きをかけるときである。

特定秘密保護法案―民意おそれぬ力の採決

 数の力におごった権力の暴走としかいいようがない。

 民主主義や基本的人権に対する安倍政権の姿勢に、重大な疑問符がつく事態である。

 特定秘密保護法案が、きのうの衆院本会議で可決された。

 報道機関に限らず、法律家、憲法や歴史の研究者、多くの市民団体がその危うさを指摘している。法案の内容が広く知られるにつれ反対の世論が強まるなかでのことだ。

 ましてや、おとといの福島市での公聴会で意見を述べた7人全員から、反対の訴えを聞いたばかりではないか。

 そんな民意をあっさりと踏みにじり、慎重審議を求める野党の声もかえりみない驚くべき採決強行である。

 繰り返し指摘してきたように、この法案の問題の本質は、何が秘密に指定されているのかがわからないという「秘密についての秘密」にある。これによって秘密の範囲が知らぬ間に広がっていく。

■温存される情報の闇

 大量の秘密の指定は、実質的に官僚の裁量に委ねられる。それが妥当であるのか、いつまで秘密にしておくべきなのかを、中立の立場から絶え間なく監視し、是正を求める権限をもった機関はつくられそうにない。

 いま秘密にするのなら、なおのこと将来の公開を約束するのが主権者である国民への当然の義務だ。それなのに、60年たっても秘密のままにしておいたり、秘密のまま廃棄できたりする抜け穴ばかりが目立つ。

 こうして「情報の闇」が官僚機構の奥深くに温存される。

 「これはおかしい」と思う公務員の告発や、闇に迫ろうとする記者や市民の前には、厳罰の壁が立ちはだかる。

 本来、政府が情報をコントロールする権力と国民の知る権利には、適正なバランスが保たれている必要がある。

 ただでさえ情報公開制度が未成熟なまま、この法案だけを成立させることは、政府の力を一方的に強めることになる。

■まずは国家ありき

 「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」という文書がある。

 この6月、南アフリカのツワネでまとめられた。国連や米州機構、欧州安全保障協力機構を含む約70カ国の安全保障や人権の専門家500人以上が、2年にわたって討議した成果だ。

 テロ対策などを理由に秘密保護法制をととのえる国が増えるなか、情報制限の指針を示す狙いがある。

 国家は安全保障に関する情報の公開を制限できると認めたうえで、秘密指定には期限を明記する▽監視機関はすべての情報にアクセスする権利を持つ▽公務員でない者の罪は問わないなど、50項目にのぼる。

 法案は、この「ツワネ原則」にことごとく反している。

 安倍首相は国会で、欧米並みの秘密保護法の必要性を強調したが、この原則については「私的機関が発表したもので、国際原則としてオーソライズされていない」と片づけた。

 これだけではない。国会での政府・与党側の発言を聞くと、「国家ありき」の思想がいたるところに顔を出す。

 町村信孝元外相はこう言った。「知る権利は担保したが、個人の生存や国家の存立が担保できないというのは、全く逆転した議論ではないか」

 この発言は、国民に対する恫喝(どうかつ)に等しい。国の安全が重要なのは間違いないが、知る権利の基盤があってこそ民主主義が成り立つことへの理解が、全く欠けている。

■世界の潮流に逆行

 一連の審議は、法案が定める仕組みが、実務的にも無理があることを浮き彫りにした。

 いま、政府の内規で指定されている外交・安全保障上の「特別管理秘密」は42万件ある。特定秘密はこれより限られるというが、数十万単位になるのは間違いない。

 これだけの数を首相や閣僚がチェックするというのか。

 与党と日本維新の会、みんなの党の修正案には、秘密指定の基準を検証、監察する機関を置く検討が付則に盛り込まれた。

 首相はきのうの国会答弁で第三者機関に触れはしたが、実現する保証は全くない。

 有識者会議の形で指定の基準を検証するだけでは、恣意(しい)的な指定への歯止めにはならない。役所が都合の悪い情報を隠そうとする「便乗指定」の懸念は残ったままだ。

 独立した機関をつくるならば、膨大な秘密をチェックするのに十分な人員と、指定解除を要求できる権限は不可欠だ。

 この法案で政府がやろうとしていることは、秘密の保全と公開についての国際的潮流や、憲法に保障された権利の尊重など、本来あるべき姿とは正反対の方を向いている。

 論戦の舞台は、参院に移る。決して成立させてはならない法案である。

秘密保護法案 指定対象絞り「原則公開」確実に

 ◆参院で文書管理の論議を深めよ

 日本にも他の先進国と同様の機密保全法制が必要だとの意思が、明確に示されたと言えよう。

 安全保障に関する機密情報を漏えいした公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案が、衆院本会議に緊急上程され、自民、公明の与党とみんなの党など議席の7割もの賛成多数で可決、参院に送付された。

 法案修正で合意していた日本維新の会は採決に反発し、退席した。維新の会が賛成票を投じなかったのは残念だが、与野党の枠を超えた多くの支持によって、衆院を通過したことは評価できる。

 ◆日本版NSCと両輪だ

 ただ、与党とみんな、維新がまとめた修正案に対する審議は十分ではない。「知る権利」が制限されることなどへの国民の懸念が払拭されたとも言い難い。

 政府・与党は参院審議で、幅広い支持を目指し、制度の運用のあり方も丁寧に説明すべきだ。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍備拡大など日本の安全保障環境は厳しさを増している。

 衆院国家安全保障特別委員会で、安倍首相が「国民の安全を守るため情報収集が極めて重要だ」と述べたのはもっともだ。

 安倍政権は、外交・安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を創設する方針だ。同盟国や友好国と重要情報の交換・共有を進めるには、機密が漏えいしない法制を整えることが必要である。

 日本版NSCと機密保全法制は、政府の戦略的な意思決定に欠かせない車の両輪と言える。

 法案を巡る最大の論点は、政府が恣意的に秘密指定を拡大し、都合の悪い情報を秘匿し続けるという懸念が拭えないことだった。

 首相は、それを誤解だとし、指定範囲が法案の別表に限定され、かつ指定基準も有識者の意見に基づくなど恣意性を排除する「重層的な仕組み」だと主張した。

 特定秘密は原則30年で解除される。内閣の承認を得て指定が継続されたとしても、暗号や情報源など7項目の例外を除いて「60年は超えられない」と修正された。

 首相は、30年を超えて指定を継続する情報は「7項目に限ることを基本とする」とも表明した。

 審議を通じて、政府の考え方が明確になり、指定期間もより限定的になったのは確かだろう。

 ◆恣意的判断の排除を

 それでも官僚機構は、「事なかれ主義」の発想で秘密指定の対象を拡大し、解除にも慎重になることが予想される。

 現在、政府が保有する特別管理秘密文書は42万件に上っている。その9割は日本の情報収集衛星に関する情報だというが、特定秘密に移行する際は、さらに対象範囲を絞る努力をすべきである。

 特定秘密が大量になれば、政権交代や内閣改造によって「行政機関の長」が代わっても、秘密指定をいちいちチェックし、解除することは、物理的に難しい。官僚が特定秘密を抱え込まない仕組みを工夫することも肝要だ。

 秘密指定の妥当性を検証する「第三者機関」設置について、首相は、米国の国立公文書館にある情報保全監督局などを参考に、「設置すべきだと考えている」と踏み込んだ答弁をした。

 部外者が特定秘密をチェックするのは無理がある。情報漏れのリスクも生じる。第三者機関を設けるならば、米国にならって、行政の内部組織の方が適切だ。

 修正案で、秘密が解除された情報は一定期間後に「原則公開」とされ、後世の検証が可能になるように改善されたと見ていい。

 文書の公開や保存、廃棄のあり方は大きな課題となる。民主党が主張するように情報公開のルールを整備し、機密を巡る訴訟で裁判所が対象文書を見ることを可能にするのも一案ではないか。

 国会の特定秘密への関与については、与野党が秘密会の運営など議員立法で規定すべきだ。

 ◆「知る権利」どう担保

 法案には、取材・報道の自由への配慮が明記された。報道関係者の取材行為は違法または著しく不当でない限り、罪に問われないとした点は前向きに評価できる。

 一部の野党がこの法案を「国民の目と耳、口をふさぐ」「国家の情報を統制し、日米同盟への批判を封じ込める」と声高に非難しているが、これは的外れである。

 だが、公務員が萎縮して取材に応じず、報道機関が必要な情報を伝えられなくなる恐れは残る。

 安全保障のための機密保全と、「知る権利」のバランスをどうとっていくか。この問題も参院で掘り下げるべきテーマだろう。

2013年11月26日火曜日

中国防空識別圏は極めて危うい挑発だ

 東シナ海で高まっている緊張について、中国は尖閣諸島を国有化した日本に原因があると主張してきた。だが、もはや、挑発しているのが中国側であることはだれの目にも明らかだろう。

 中国は23日、尖閣諸島を含めた東シナ海の上空に、防空識別圏(ADIZ)を設定した。日本の主権を脅かし、東シナ海の安定を揺さぶりかねない危険な決定だ。ただちに撤回すべきだ。

 防空識別圏とは領空を守るため、各国が独自に定めている空域のことだ。不審な航空機が近づいてきたら、戦闘機が緊急発進(スクランブル)し、領空に入らないよう対処する。

 国際法上の規定はなく、日本も東シナ海を含めた日本周辺に定めている。中国が設定に踏み切ったのは、こうした事実を踏まえてのことだろう。しかし、この決定は緊張をあおり、偶発的な衝突を招きかねないものであり、受け入れるわけにはいかない。

 いちばんの問題は、日本の領土である尖閣諸島を含んでいることだ。中国は23日、さっそく情報収集機を圏内に飛ばし、尖閣の領空に近づいた。中国はすでに監視船を尖閣領海に送るなど、海上での挑発を続けている。こんどは空の揺さぶりも強める狙いだろう。政府が撤回を求めるのは当然だ。

 中国が識別圏の運用を本格化すれば、東シナ海における軍事的な緊張が大きく増すことになりかねない。同国国防省の公告は、圏内を飛ぶ航空機が指示に従うよう求め、拒んだら「防御的な緊急措置」をとると警告している。

 中国が設定した空域は日本、そして韓国の識別圏とも重なっており、それぞれ自衛隊と韓国軍が日常的に警戒に当たっている。さらに、東シナ海では米軍も情報収集や偵察のため、軍用機を飛ばしている。

 中国側の運用によっては、中国と日米韓の航空機が接近することも考えられる。そんな危険を顧みない中国の行動は到底、責任ある大国とはいえない。日本は米国はもちろん、韓国や他のアジア諸国とも連携し、中国に撤回を求めつづけることが肝心だ。

 中国が今回、識別圏を設定したのは東シナ海の上空にだけとどまっている。だが、中国メディアによると、中国軍幹部は南シナ海や黄海の上空にもいずれ設ける可能性を示している。だとすれば、アジア域内全体への挑発である。

半歩進んだ国連温暖化交渉

 ポーランドで開かれた国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)は、2020年以降の温暖化ガスの排出削減について、米中を含むすべての国が自主的な目標を掲げる方向で合意した。会期を1日延長して合意文書を採択し、ぎりぎりの決着だった。

 会議の目的は2つあった。まず20年以降の国際協力の枠組みづくりである。15年にパリで開く会議(COP21)で最終合意をめざし、今回は各国の意見をどこまで集約できるかが焦点だった。

 この点では、米中を含むすべての国が自主目標を掲げる方向で一致し、前進したといえる。

 ただ先進国と同様の削減目標を嫌う中国やインドなどの主張で、合意文書の表現は義務的な意味合いが強い「約束(コミットメント)」から「貢献(コントリビューション)」に弱まった。今後の交渉に波乱要因を残したといえ、前進は半歩にとどまる。

 会議のもうひとつの目的は、20年までの先進国の削減目標の上積みだったが、こちらは進展がなかった。日本は1990年比で3.1%増えることになる新たな目標を示した。これが各国から対策の後退との批判を招いた。

 先進国はどこも景気や財政などの事情から温暖化対策を加速できずにいる。しかし温暖化が原因とみられる異常気象は世界で頻発傾向にある。地球の平均気温の上昇を一定の限度内に抑え込むため、対策を早く強める必要がある。

 ここでも米中の責任は重い。いまの京都議定書の枠組みでは削減義務を負わないが、世界全体の温暖化ガス排出の約4割を米中が占める。米中の努力なしでは地球温暖化を防ぐのは困難で、責任の重さを自覚してほしい。

 日本も同じだ。排出量は世界の約4%だが、国・地域別では第5位だ。日本が示した20年までの目標は原発の稼働ゼロを前提とした暫定的な数字とはいえ、世界の努力に逆行する形になった。政府は中長期のエネルギー戦略を早く決め、目標を上積みすべきだ。

中国防空圏―無分別な線引きやめよ

 いまの日本と中国との関係に必要なのは、互いに信頼を取りもどすための賢明な方策だ。

 逆に不信を増幅させる行動に走るようでは、問題解決の意思があるのか疑わざるをえない。

 中国国防省が東シナ海に防空識別圏を設けた。不審な航空機の領空接近を警戒するため領空の外側に設ける空域である。

 長らく維持されてきた日本の識別圏と大きく重なり、しかも日本の領土である尖閣諸島を含む形で線引きしている。

 隣国の識別圏に重ねる一方的なやり方が受け入れられるはずがない。中国はこの措置をみずから見直し、撤回すべきだ。

 昨年9月の日本政府による尖閣国有化以来、中国側は主に船によって日本領海を侵犯する行為を繰り返してきた。

 海上行動での領有権の主張に加え、次は空でも、というのでは無分別にすぎる。

 中国側には、大陸と日本列島の近さから、「船や飛行機がちょっと出ただけで文句を言われる」との不満があるようだ。

 だが今回は、単に日本付近を通過するという話ではない。尖閣上空で実力行使も辞さないと宣言しているようなものだ。

 空のトラブルは船よりずっと危ない。南シナ海では01年、米中の軍用機が接触し、中国の操縦士が死亡する事件が起きた。

 米政府は今回の識別圏の設定について「東シナ海の現状を一方的に変えようとする行為だ」と中国を非難している。当然の対応である。

 米国防長官は、尖閣問題に日米安保条約が適用されることも明示した。中国への牽制(けんせい)には強い危機感が表れている。

 中国側は「現状変更したのは日本だ」と主張しているが、日本政府による国有化は、識別圏のような軍事的に重い意味のある現状変更には当たらない。

 これまでも中国軍機はしばしば日本の識別圏に入っており、自衛隊機の緊急発進は昨年度だけで306回にのぼる。

 今回の識別圏の設定は、これを制度的に既成事実化しようとしているようにもみえる。中国は、日米安保体制を試すかのような危険な行動を慎まねばならない。

 一方、日本側も、挑発に乗ってはなるまい。国際的に空の識別圏をめぐっては、とくに隣国同士の場合、防衛当局間の対話でトラブルを避ける運用を取り決めることが珍しくない。

 日本政府は中国に識別圏の撤回を求めるだけでなく、不測の事態を避けるためにも、政府間の意思疎通を修復する道筋をねばり強く探るべきだろう。

秘密保護法案―福島の声は「誤解」か

 特定秘密保護法案を審議する衆院の特別委員会がきのう福島市で地方公聴会を開いた。

 福島第一原発の事故は日本にとって近年最大の危機だった。その恐ろしさを肌身で知る福島の人たちは公聴会で、口々に法案への懸念を語った。

 秘密より情報公開が重要ではないか――。そんな意見が相次ぎ、自民党の推薦者を含む全員が法案に反対した。

 与党である自民、公明両党は、この事実を重く受けとめるべきだ。

 「情報公開がすぐに行われていれば低線量の被曝(ひばく)を避けることができた」

 浪江町の馬場有(たもつ)町長は、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報が適切に公開されず、町民が放射線量の高い地域に避難した問題を取り上げた。

 自民、公明両党の委員は「誤解がある」「今回の法案の対象ではない」と反論したが、そう単純な話ではない。

 危急の時にあっても行政機関は情報を公開せず、住民の被曝につながった。その実例を目の当たりにしたからこそ、秘密が際限なく広がりかねない法案のあり方に疑問を投げかけているのではないか。

 法曹関係者は公聴会で「(秘密の範囲について)拡張解釈の余地をきちんと狭めるべきだ」と指摘した。

 特別委員会の審議で明らかになった、こんな事実もある。

 福島第一原発の事故直後、現場の状況を撮影した情報収集衛星の画像を、政府が秘密保全を理由に東京電力に提供しなかったというのだ。

 東電には秘密保全措置がないから、画像は関係省庁だけで利用した。代わりに商業衛星の画像55枚を4800万円で購入して東電に提供したという。

 情報収集衛星は災害目的にも使われるはずだった。それが肝心のときに「秘密」にされた。

 公聴会の出席者に自民党議員は「どうぞ信頼していただきたい」と述べた。どう信頼すればいいのか。反対意見を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 地方公聴会を、みんなの党、日本維新の会を含めた4党による衆院通過に向けたアリバイづくりにしてはならない。

 福島県議会は10月、法案への慎重対応を求める意見書を出した。「もし制定されれば、民主主義を根底から覆す瑕疵(かし)ある議決となることは明白である」と訴えている。

 与党はもう一度、考えたほうがいい。福島の人々の懸念は、ほんとうに「誤解」なのか。

法人税減税 競争力強化へ具体策を詰めよ

 企業の競争力を高め、日本経済の成長基盤を強化するには、法人税率の引き下げが有効だ。

 安倍首相の指示を受けて、一層の税率引き下げを巡る政府と自民、公明両党の税制協議が本格化している。どこまで具体的な方向性を示せるか。成長戦略への姿勢が問われよう。

 法人税の実効税率は、東京都の場合、国税と地方税合わせて約38%だ。一時的に上乗せされている復興特別法人税を除いても約36%となり、20%台が多い欧州やアジアの国々と比べて高い。

 高税率のままでは企業の活力を奪うばかりか、海外移転などで国内空洞化を加速させかねない。雇用や賃金にも悪影響が及ぶ。海外から投資を呼び込むためにも、一層の引き下げが急がれる。

 企業の競争環境を改善し、日本の成長に弾みをつけようとする首相の狙いは適切だ。

 与党内には、来春の消費税率の引き上げで家計に負担を強いる一方、企業課税を軽くすることに慎重な意見も少なくない。

 だが、企業活性化が賃上げなどを通じて、家計にも波及する好循環を目指すことが有益だろう。

 ハードルとなるのが、1%の引き下げで約4000億円とされる法人税減税の財源確保策だ。

 財政事情が厳しいだけに、より幅広い企業から税収を得る課税ベースの拡大が避けられまい。

 政策目的のために特定業種の法人税などを軽減する租税特別措置(租特)は約7兆円に上る。一部企業や業界の既得権益となり、不公平だとの批判が多い。政策効果が不透明だという指摘もある。

 租特のうち、役割を終えた制度の廃止や、効果が薄れた制度の縮減などを検討すべきだろう。

 国内企業の7割超が法人税を払っていない点も問題である。

 長期間にわたって、過去の損失を利益から差し引ける繰越欠損金制度を見直し、多くの企業に相応の税負担を求めるのは一案だ。

 政府が打ち出した復興特別法人税の1年前倒し廃止案も、与党の重要な協議テーマである。前倒し廃止により、9000億円規模の税負担軽減が見込まれる。

 ただ、そのために、復興財源が不足する事態は避けるべきだ。復興に支障をきたさぬよう、政府・与党は代替財源を明示し、国民の理解を得なければならない。

 内部留保を手元に積み上げてきた企業の自助努力も求められる。余剰資金を投資に有効活用し、日本経済再生に寄与する戦略を強化してもらいたい。

中国防空識別権 容認できぬ一方的な現状変更

 中国が、沖縄県の尖閣諸島上空を含む空域に防空識別圏を設定した。

 東シナ海の現状を一方的に変更する措置であり到底容認できない。

 防空識別圏は、領空侵犯を防ぐため、日本など各国が独自に定めている。領空の外側に設定され、不明機に緊急発進(スクランブル)を行うこともある。

 問題なのは、中国の設定した空域が、尖閣諸島周辺の日本の領空を含み、日本の防空識別圏と重なっていることだ。

 日本政府が、中国大使を呼んで、厳重に抗議し、設定の撤回を求めたのは当然である。安倍首相は、中国の発表した防空識別圏を認めないとの考えを表明した。

 中国は、防空識別圏内で指示に従わない航空機には武力による緊急措置を取ると威嚇している。

 互いに緊急発進した自衛隊機と中国軍機が接近した場合、偶発的な軍事衝突が発生する恐れすらあり、危険きわまりない。

 中国は、防空識別圏の設定を「国家主権と領土・領空の安全を守る」ためと述べ、日本の抗議をはねつけている。尖閣諸島を巡り新たな既成事実を作り、対日圧力を増す狙いがあるとみられる。

 習近平政権は内政面で、経済格差などへの国民の反発に直面し、苦境に立たされている。威圧外交により、国民のナショナリズムを刺激して、政権の求心力を高めようとしているのではないか。

 中国の今回の行動は、東シナ海などを勢力圏として囲いこみ、米軍の接近を拒否する軍事戦略を具現化したものとも言える。日米同盟に対する重大な挑戦である。

 ヘーゲル米国防長官は「地域の現状を変えて不安定化させる企てだ」と批判する声明を出し、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを改めて強調した。

 米国が、中国に対して、同盟国である日本の領土を守る強い意思を示したと言える。

 尖閣諸島周辺の空域では、中国機が昨年12月、初めて日本領空を侵犯した。中国機に対する航空自衛隊機の緊急発進の回数も大幅に増えている。今年9月には、中国の無人機が確認された。

 日本は、米国と連携し、尖閣諸島周辺の空域で警戒を強化する必要がある。那覇基地のF15戦闘機飛行隊も増強すべきだろう。

 尖閣沖では、中国公船の乗組員が今月、中国漁船に乗り込み、自国の排他的経済水域内であるかのようなアピールをした。海上の監視態勢も緩めてはなるまい。

2013年11月25日月曜日

イラン核合意を中東の安定につなげよ

 米欧など6カ国とイランが、同国の核開発問題をめぐる協議で合意した。イランは兵器開発への転用が疑われる高濃縮ウランの生産を停止し、米欧はイランに対する経済制裁を緩和する。

 イランの核開発問題は2002年の発覚以降、中東の緊張を高める火種になってきた。その拡大に初めて歯止めがかかる歴史的な合意である。6カ国とイランの外相が粘り強く交渉を続け、外交解決で歩み寄ったことを歓迎したい。合意を核問題の全面解決につなげ、地域に安定をもたらすきっかけとしなければならない。

 イランは濃度5%超のウラン濃縮を停止し、プルトニウムの製造につながる重水炉の建設を凍結する。米欧は見返りに制裁を緩和し、原油代金の一部受け取りをイランに認める。6カ月間は新たな制裁を科さない。

 一連の措置は核問題の包括的な解決に向けた「第1段階」と位置付け、進展を見ながら交渉を続ける。米国のオバマ大統領は合意をイランによる核兵器保有の阻止への「重要な一歩だ」と述べた。

 イランは内戦が続くシリアや、パレスチナ、レバノンのイスラム勢力に影響力を持つ。核開発の疑念を解消し、米欧との関係改善を通じて、ひいては中東の安定につなげていきたい。

 ただし、今回の合意は全面解決への入り口に立ったにすぎない。重要なのは双方がまず、第1段階の措置を確実に履行することだ。イランは平和利用のためのウラン濃縮の権利を強く主張する。認めてもらうには、国際社会の信頼を得る具体的な行動が先決だ。

 核協議で歩み寄りが実現したのは、イランで8月に米欧との対話を掲げるロウハニ大統領が就任したことが大きい。イランでは米欧と敵対する保守強硬派が依然、力を持つ。国際社会は合意の履行をイランに厳しく迫ると同時に、ロウハニ大統領の融和路線が頓挫しないよう支えることも大切だ。

 イランの核技術の兵器転用を警戒するイスラエルは合意に強く反発している。核施設への軍事攻撃も辞さない構えを崩しておらず、米国によるイスラエルへの説得が今後の交渉進展には欠かせない。

 日本はイランと独自の関係を維持している。原油の輸入先であるイランの国際社会復帰で日本が受ける恩恵も大きい。核問題の最終解決へ、欧米にはないパイプを生かして役割を果たす必要がある。

猪瀬知事は説明責任果たせ

 これでは有権者は到底納得できないだろう。東京都の猪瀬直樹知事が医療法人徳洲会グループから5千万円を受け取っていた問題についてだ。

 猪瀬知事は「個人的な借り入れだった」と釈明しているが、本当にそうだったのか。同グループの創設者、徳田虎雄氏に知事選への出馬であいさつし、そのすぐ後に虎雄氏の次男、徳田毅衆院議員から直接受け取ったお金である。

 しかも、無利子で無担保という一般の常識では考えられない資金だ。選挙費用に充てるつもりだったとみられても仕方あるまい。

 金銭を受け取った経緯ももっと知りたい。猪瀬知事は否定しているが、徳洲会側の関係者によると猪瀬氏側から資金提供の要求があった、という話もある。

 「一時的に借用して預かっただけ」という説明も苦しい。猪瀬知事が特別秘書を通じて全額を返済したのは今年9月だ。東京地検特捜部が同会系列の病院などを家宅捜索した後の話である。

 都の条例に基づいて作成する資産報告書にもこの借り入れの記載はなかった。問題の発覚に併せて報告書を訂正したのだから、あまりにもお粗末だ。

 たとえ猪瀬知事の主張通りだとしても、自ら疑惑を招く不適切な行為と言わざるを得ない。都には病院の開設を許可する権限があり、立ち入り検査などを通じて指導監督する立場にあるからだ。

 猪瀬氏は昨年12月に史上最高の約430万票を得て都知事に当選した。政府などのお金の無駄遣いを徹底的に追及してきた猪瀬氏の姿勢が、都民の幅広い支持を集めた一因だろう。

 2020年の東京五輪の開催が決まり、これから準備が本格化する矢先の出来事である。猪瀬知事はそれを先頭で引っ張る立場にいる。このままでは都政の混乱は避けられない。

 様々な疑問が解消されなければ有権者の信頼を回復することはできない。猪瀬知事はこの問題で説明責任を果たすべきだ。

日欧経済連携―TPPと両にらみで

 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)について、双方の首脳が協議を加速させることで合意した。

 今春に交渉を始めて以来、すでに会合を3回開いたが、はかばかしくないようだ。EUは来春時点で日本の姿勢を判断し、非関税障壁の撤廃への取り組みが不十分な場合は、交渉を中止するという。

 経済連携では、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)に関心が集まるが、5億人の市場と日本の3倍の域内総生産(GDP)を持つEUとの関係強化も欠かせない。

 米国とEUは環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉を進めている。両者だけで事実上の世界ルールが決まる事態を避けるためにも、米欧の双方としっかり向き合う必要がある。

 EUが照準を定める非関税障壁の見直しでは、自動車の安全・環境基準、食品添加物や酒類の販売免許のあり方、医療機器・医薬品分野での基準や規制緩和が議題になっている。

 TPPや、TPPと並行した日米協議とも重なるテーマが少なくない。欧州は米国と比べて「安全・安心」への意識が高いとされる。EUとのルールづくりは、TPPにも好ましい影響を期待できるのではないか。

 一方、日本側が求めるのは、EUが工業製品などに課している関税の撤廃だ。10%の乗用車をはじめ、トラックやテレビなど、税率がなお2けたの品目が目につく。

 EUは2年前に韓国との間で自由貿易協定(FTA)を発効させ、自動車などの関税をおおむね2016年までに撤廃する。韓国と比べて日本のメーカーが不利になる状況を放置してはいられない。

 先進国から新興国までを含むTPPでは、テーマごとに利害が複雑にからみあう。それを生かし、さまざまに合従連衡することで、米国にも妥協を迫る道が開ける。

 これに対し、EUとの交渉は一対一だ。厳しい判断を迫られる場面が増えよう。

 EUが最近合意したカナダとのFTAでは、関税をゼロとする割合(自由化率)が全品目では100%近く、農産品に限っても90%を優に超えた。日本がこれまで結んできた協定では、農産品を中心に多くの例外品目を設けており、全品目での自由化率は90%に及ばない。

 EUも、TPPに劣らない「高い水準」の自由化をめざす姿勢が鮮明だ。政府はTPPとの両にらみで、粘り強く交渉してほしい。

過疎と観光―セトゲイの成功に学ぶ

 過疎、高齢化、産業の衰退――。先行きが見えない離島に、これほど人を引き寄せる日が来ると誰が想像しただろう。

 瀬戸内海をのぞむ高松港。島々へ向かう大小のフェリーは、若い女性や家族連れ、外国人らで朝から満員。離島を舞台に開かれ4日に閉幕した「瀬戸内国際芸術祭」の光景だ。セトゲイの愛称も定着した。

 12の島々を中心にちらばった作品を見るには、苦行のような不便さが待っている。車は入れず、坂を徒歩や貸自転車で移動するしかない島も多い。

 それでも人々は古びた空き家や棚田にある作品をみて回る。主催者によると、3年前の初回は予想の3倍を超える93万人、今年も107万人が来た。

 都会から観光客を呼ぼうと苦闘を続けた地方の歴史は、失敗の連続といっていい。なぜセトゲイは成功したのだろう。

 一つは「あるものを生かす」発想に立ったことだ。

 バブル期には全国にゴルフ場やスキー場ができた。東京ディズニーランド(TDL)の成功後はテーマパークが流行。いずれも「ないものをつくる」ことで集客を試みた。だが、追加投資で新しさを演出し続けないと飽きられ、次々倒れた。

 セトゲイの主役は島々を主題にしたアートだ。だが、作品鑑賞だけでなく、「島へ渡るだけで楽しかった」との声を聞く。

 離島は、効率化、均質化された現代社会とは対極の場所だ。場所によって産業も町並みも食べ物も違う。ハンセン病の隔離政策に使われたり、ゴミが大量に不法投棄されたり、近代化の負の歴史を背負わされた島もある。それでも人々は自然の恵みを受けながら、助け合い、たくましく生きている。

 それは、かつての日本の風景だ。我々が求めた過度な豊かさや情報は、本当に人を幸せにするのか。島は、そんなことを振り返る時をくれる。宝は足元にあったのだ。

 芸術祭を動かしたエンジンにも注目したい。

 アートは道路のように利便性を生む存在ではない。それどころか手がかかる。展示場を借りる交渉から空き家の掃除、作品制作まで、都会のボランティアも島のお年寄りも損得ぬきで力を合わせないと完成しない。

 こうしたかかわりが島の活気を生んでいる。補助金をもらうのでなく、あてにされ、人とつながることが笑顔を育て、祭りを盛り上げる力となった。

 事業費は10億円あまり。TDL総事業費の180分の1で、これだけのことができる。

イラン核協議 外交解決への歴史的一歩だ

 イラン核問題の外交的解決に向けて大きな前進である。合意を着実に履行し、中東の緊張緩和につなげねばならない。

 イランの核兵器開発疑惑を巡り、イランと、国連安全保障理事会常任理事国(米英仏露中)にドイツを加えた6か国は、問題解決に向けた「第1段階」の措置で合意した。

 履行期間は6か月で、その間に最終的な解決策を探る。

 2008年に開始した協議で、初の合意である。イランは安保理で制裁決議を受けても、ウラン濃縮をやめず、中東の不安定要因となってきた。具体的措置を受け入れた意義は大きい。

 今回合意した「第1段階」では、イランは、核爆弾製造につながる濃縮度20%ウランの生産を止める。核兵器の原料であるプルトニウムを生み出すことができる重水炉の建設も中断する。

 措置の履行確認には、国際原子力機関(IAEA)の査察官が監視にあたる。

 米欧側は経済制裁を一部緩和し、イランに対して、海外の金融機関で凍結されている、石油輸出代金42億ドル(約4200億円)などを受領できるようにする。

 イランは、IAEAに協力し、合意を誠実に実行しなければならない。第1段階で、米欧との間で、信頼を醸成することが、国際的な制裁で疲弊した経済の立て直しへと続く唯一の道である。

 今回の合意は、イランと33年前に断交し、敵対してきた米国には、中東外交の転換をもたらす歴史的な節目になる可能性があろう。

 オバマ大統領は声明で、「(イラン核問題の)包括的解決に向けた重要な第一歩」と歓迎した。

 イランは原子力の平和利用のためにウラン濃縮の権利があると主張しているが、今回の合意では結論が出なかった。イスラエルや、米議会強硬派からは、合意そのものへの強い反発が出ている。

 これらの課題を一つずつ乗り越え、全面的な外交解決を目指す努力が、国際社会に今後求められよう。イランの核問題が解決に向かえば、北朝鮮に核放棄を迫る国際的な圧力を強める契機ともなるのではないか。

 岸田外相は今月、イランを訪問し、ザリフ外相との会談で、日本向けタンカーの大半が通過する、ホルムズ海峡における航行の自由確保で合意した。

 イラン情勢は、日本のエネルギー安全保障に直結する。核問題の外交的解決を目指し、日本も積極的に役割を果たすべきである。

COP19閉幕 国際協調で温暖化対策を前へ

 先進国と、新興国を含む途上国の利害がぶつかり、議論が進まない。地球温暖化対策の現状が如実に示された。

 ワルシャワで開かれていた国連気候変動枠組み条約の第19回締約国会議(COP19)が閉幕した。会期を1日延長し、決裂だけは回避した。

 京都議定書に代わる新たな枠組みは、2020年に発効予定だ。各国は温室効果ガスの20年以降の自主的な削減目標をいつまでに提出するか。最大の焦点について、「15年に提出することを奨励する」との最終案が合意に達した。

 新たな枠組みへの具体的な道筋を着けようとする先進国に対し、途上国は時期の明示に反発した。ぎりぎりの線での合意だったと言えよう。新たな枠組みを巡る交渉の前途は多難である。

 巨大台風の頻発など、このところの気候異変は、地球温暖化に起因しているとも言われる。台風30号による甚大な被害を受けたフィリピンの交渉団が「すぐに行動を」と温暖化対策の前進を訴えると、各国の共感を呼んだ。

 温暖化の危機感は共有しつつ、途上国側は、先進国が資金力に乏しい途上国を積極的に支援すべきだと主張し続けた。温暖化を招いた責任は、生産活動で温室効果ガスを大量に排出してきた先進国にあるとの理由からだ。

 環境対策に手が回らない途上国に、一定の支援は必要だろう。

 一方で、途上国全体の排出量が今や、先進国を上回っていることを忘れてはならない。途上国にも主体的に排出量を減らす姿勢が求められる、とする日本など先進国側の主張はもっともだ。

 特に、世界一の排出国である中国など新興国は、排出削減に応分の責任を負う必要がある。

 石原環境相はCOP19で、新たな枠組みについて、「公平で実効性があり、すべての国に適用される内容でなければならない」と強調した。この方向性を堅持していくことが肝要である。

 日本政府は「20年度までに05年度比3・8%削減」という目標を表明したが、各国から「削減率が低すぎる」との批判を浴びた。

 しかし、「3・8%減」は、発電時に二酸化炭素を排出しない原子力発電所が一つも稼働していない現状での数値だ。

 政府は、原発の将来的な比率を明示したエネルギー基本計画の策定を急ぐべきだ。その上で、20年までの削減目標の上積みと、20年以降の現実的な目標の設定を着実に進めることが重要である。

2013年11月24日日曜日

快走する日本車に死角はないのか

 東京モーターショーが始まった。2年前の前回は東日本大震災による混乱の余波が残り、円高などの逆風が吹きつける中での開催だった。今回は打って変わって日本車を取り巻く環境は良好だ。

 会場にはトヨタ自動車の燃料電池車など世界初公開の車両が76車種登場し、前回より4割増えた。これまで減少続きだった海外メーカーの参加も、今回は米電気自動車ベンチャーのテスラ・モーターズが初めて出展し、ショーの盛り上げに一役買っている。

 日本車各社の業績も好調だ。大手7社の4~9月期決算ではスズキや富士重工業など4社が過去最高の営業利益を計上した。最大手のトヨタも通期予想を上方修正し、リーマン・ショック前の最高益に迫る勢いだ。

 雇用や取引のすそ野が広い自動車産業の好調は、日本経済にとっても心強いニュースである。

 足元の業績改善は円安によるところが大きい。各社は1ドル=80円の超円高でも利益を出せるよう懸命のコストダウンを進めていた。そこに今の円安局面が訪れ、輸出採算が一気によくなった。

 トヨタの営業利益率が10%を突破し、世界的にみて最大のライバルである独フォルクスワーゲンを大きく引き離すなど、収益面で日本勢の強さが目立ってきた。

 だが、技術力やブランド力を含めた自動車会社としての総合力で見ると、日本車の競争優位は盤石とはいえない。

 環境技術では日本勢がハイブリッド車などの電動技術でリードする一方で、ドイツ勢は通常エンジンを小型化して燃費を抑える「ダウンサイジング」で先行する。

 中国など新興市場の開拓には、コストの安い後者がより有望視される。世界戦略を進めるうえで日本勢にもライバルを追いかける余地がまだまだ残っている。

 最近話題の自動運転技術でも、開発の世界的な中心地は米シリコンバレーだ。異業種の米グーグルなどが存在感を発揮する。一握りの巨大メーカーが覇を競ってきた自動車の競争ルールが一変するかもしれない。

 ブランド力については欧州車に一日の長があり、日本車が追いつくには相当の時間が必要だろう。

 過去数年の難局を克服したことで、日本の自動車産業の底力は実証済みだ。先行きを悲観するには及ばないが、一時の好業績に慢心している場合でもない。

外国人旅行者に優しい国に

 観光などで日本を訪れた外国人の数が今年、過去最高となることが確定した。10月末までの累計が過去最高だった2010年の年間訪日者数を上回ったからだ。

 経済成長するアジアで、距離の近い日本観光の需要はもともと大きい。そこへ円安や査証(ビザ)の発給要件の緩和が追い風になった。タイからの観光客が急増したのは7月から実施したビザ免除の効果も大きい。

 中国からの旅行者も回復してきた。落ち込みの少なかった個人客に加え団体客も戻り、商業施設が潤っている。この勢いを加速するよう、一層の努力を重ねたい。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)へのビザ緩和では韓国が先行している。例えばミャンマーから韓国へは昨年7万人が訪れた。便利な数次ビザを発給している効果が大きい。毎回取得が要る一次ビザしか発給しない日本への旅行者は5000人にとどまる。こうした不便はなるべく解消したい。

 最近の旅行者は、外国の街でも自分の携帯端末でインターネット情報を閲覧することが多い。無料で使いやすいネット接続サービスも早く整えたい。海外に比べ日本はこの種のサービスで遅れており、旅行者へのアンケートでも不満な点の上位に顔を出す。道路などの外国語表記も、もっと充実させるべきだろう。

 買い物で消費税を免税する範囲も広げてはどうか。土産に菓子などの食品や化粧品を百貨店など街なかの店で買う観光客は多いが、いまは免税対象外だ。こうした商品が海外で消費されれば日本への関心を広げ、ファンを増やす。売り場での手続き書類も、もっと簡素化できそうだ。

 大がかりな投資は要らず、いま旅行者が感じている不便を解消できるアイデアはいろいろある。来年は羽田の国際線発着枠が5割拡大し、外国人の訪日も増える。2020年には東京オリンピックも控える。直前になってから慌てることなく、外国人に優しい国にしていきたい。

猪瀬氏の弁明―これでは納得できぬ

 道路公団民営化のときに見せた、あの理詰めの姿勢はどこへ行ってしまったのか。

 東京都の猪瀬直樹知事が、1年前の知事選のとき、医療法人「徳洲会」グループから5千万円の提供を受けていた。

 知事の釈明を聞いて納得できた人はどれだけいるだろう。奇妙な説明のオンパレードは多くの疑問を残した。

 まず、「選挙資金ではない。個人の借り入れだ」という。

 徳洲会の徳田虎雄前理事長の病室を訪れて出馬のあいさつをした後、資金提供があった。

 選挙はお金がかかるかもしれない。運動費用に自分の預金をつぎ込むので、自己資産として持っていた方がいいと考えた。実際は手持ちのお金で賄えたから、手をつけなかった――。知事はそんなふうに説明した。

 仮にそうだとしても、安心して有り金をはたけたのは借りた大金があればこそだろう。

 《選挙を応援してくれる人から金の提供を受けたが、選挙に使わなかったから選挙資金は借りていない》。そんな理屈がまかり通るなら、選挙資金のルールは意味をなさなくなる。

 資金提供は「向こうから持ちかけたでもなく、こちらからお願いしたでもなく」。どうして初対面の相手と、そんなあうんの呼吸が成立するのだろう。

 選挙のあいさつに行った相手から金を借りながら、選挙運動や会計の責任者にさえ伝えなかったというのも釈然としない。

 お金を返したのは、徳洲会が東京地検特捜部の強制捜査を受けた後のことし9月だった。あわてて返しに行ったように見えるが、これも「偶然が重なった」のだという。

 1月か2月に「返したい」と伝えたが、先方の事情で返済できなかった。妻の病気や五輪招致も重なった、との釈明はいかにも苦しい。

 紙袋のお金を受け渡す。その数分の時間を7カ月も8カ月も取れなかったのか。知事は多忙だったとしても、実際に返しに行ったのは秘書である。

 知事は道路公団や東京電力に対し、お金の使い方を鋭い弁舌で追及してきた。約434万という都知事選で史上最多の得票で当選したのは、多くの都民がその不合理を許さない姿勢に期待したからだろう。

 それなのに自身のお金の問題では不可解な説明に終始するようでは都民の支持は離れよう。今後、五輪の顔としてもイメージダウンが避けられない。

 近く都議会の定例会がある。知事は徹底的に説明を尽くす責任がある。

秘密保護法案―自己規制の歴史に学ぶ

 帝国議会会議録を開き、戦前の秘密保護法制の審議を読む。

 時代背景も法の中身も、いまとは違う。けれど、審議の様子はこの国会とよく似ている。

 1937年の軍機保護法改正ではやはり、秘密が際限なく広がらないか、が焦点だった。

 軍機保護法では、何を秘密とするか、陸軍、海軍大臣が定める。これでは国民が、そうと知らないまま秘密に触れ、罰せられないか。

 追及を受けた政府側は「秘密とか、機密とかは、普通の人の手に渡らないのが通常」「機密と知らずにやった者は犯罪を構成しない」と説明した。

 議員らは、付帯決議でくぎを刺す。不法な手段でなければ知り得ない高度な秘密を守る。秘密と知って侵害する者のみに適用する。政府は、決議を尊重すると約束した。

 だが、歯止めにはならなかった。軍港で写真を撮った、飛行場をみたと知人に話したといった理由から、摘発者は3年間で377人にのぼった。

 98歳のジャーナリスト、むのたけじさんは、直接の取り締まりよりも国民の自己規制が大きかったと指摘する。

 「怖そうな法律ができた、ひどいめにあうかもしれないと思うだけで効果は十分なのです」

 朝日新聞記者だったむのさんは当時の様子をこう振り返る。

 朝日新聞も自ら二重、三重に検閲をした。互いに警戒して、友達がいなくなる。話の中身がばれたとき、だれがばらしたのか疑わなければならないのがつらい。だから2人きりなら話せても、3人目がくると話が止まる。隣近所も家族も、周りの全員に監視される恐怖感。「一億一心」のかけ声をよそに国民はバラバラになった――。

 いまの法案はどうか。

 秘密がどこまで広がるかわからない不安は、かつての法に通じる。

 矛先が市民に向かないか。政府答弁は戦前をなぞるようだ。

 安倍首相「一般国民の方が特定秘密を知ることはまずありえない」、森担当相「秘密と知らずに内容を知ろうとしても、処罰の対象にならない」。

 確かに、軍機保護法より、一般市民を罪に問う可能性を狭めてはいる。刑罰の重さも違う。それでも、秘密を漏らすよう公務員をそそのかしたなどと適用されるおそれはある。

 公務員が、メディアが、市民が自己規制を始めれば、民主主義や国民主権は空洞化する。

 そのおそれは修正協議をへてなお消えない。

 歴史をみても廃案しかない。

猪瀬氏に5000万 「個人の借り入れ」は通らない

 極めて不自然な現金の授受である。

 昨年12月の東京都知事選で初当選した猪瀬直樹知事が、強制捜査を受けた医療グループ「徳洲会」側から選挙前に5000万円を受け取っていた。

 猪瀬知事は昨年11月、グループ創業者の徳田虎雄・元衆院議員を訪ね、知事選への支援を要請した。その後、徳洲会側から資金提供に応じるとの申し出があり、次男の徳田毅衆院議員から議員会館で5000万円を渡されたという。

 現金の趣旨は何だったのか。

 選挙運動のためであれば、公職選挙法に基づき、選挙運動費用収支報告書に記載しなければならない。知事の収支報告書に5000万円の記載はない。

 知事は記者会見で「選挙活動で預金が底をつくかも分からず、個人として借りた」と述べた。選挙資金ではないから、公選法に抵触しないとの主張だろう。

 だが、選挙運動に充てる可能性もあったと解釈するのが自然ではないか。支援を要請したのは告示が間近に迫った時期だった。

 借用書を渡したと語ったものの、記載内容は明確でない。5000万円は無利子、無担保だったという。常識からかけ離れた現金のやり取りだったと言えよう。

 猪瀬知事が主張するように、個人の借り入れだったとしても問題はある。都条例は、借入金などを資産報告書に記載するよう義務付けているが、知事は記載していなかった。問題が発覚した22日になって、資産報告書を訂正した。

 返済時期も不自然である。知事は、東京地検特捜部が公選法違反容疑で徳洲会東京本部などの強制捜査に乗り出した直後の今年9月下旬、全額を返していた。

 知事は「今年1~2月に返すと伝えたが、チャンスがなかった」と説明している。捜査の進展を受け、慌てて返済したのではないかとの疑念はぬぐえない。

 都道府県知事は病院などの開設を許可する権限を持つ。開設後も指導監督する立場にある。

 都内には徳洲会グループの病院と介護老人保健施設が存在する。猪瀬知事は、徳洲会側への便宜供与を否定したが、そもそも資金の受領自体、規範意識に欠ける。

 都知事は、2020年東京五輪・パラリンピックの開催準備で、中心的役割を担う。今回の問題が、せっかくの五輪ムードに水を差したのは残念である。

 問題が長引けば、都政にも支障を来しかねない。知事は早急に説明を尽くすべきである。

邦人陸上輸送 法改正後に残る「武器」の課題

 海外で緊急事態に巻き込まれた日本人を安全な場所に運ぶため、自衛隊を活用する選択肢を増やす意義は小さくない。

 在留邦人の陸上輸送を可能にする改正自衛隊法が成立した。現行法では、自衛隊の輸送手段は、航空機と艦船に限定されているが、新たに車両の使用を認めるものだ。

 1月のアルジェリアでの人質事件では、同国政府が邦人被害者を事件現場から50キロ離れたイナメナス空港まで輸送した。だが、国によっては、そうした対応が期待できず、日本が独力で運ばねばならないケースも想定されよう。

 日本企業が世界各地に進出する中、在留邦人の安全を守るためには、幅広い対策を講じておく必要がある。無論、他国の領土に入る以上、その国の同意が前提になるが、自衛隊に新たな任務を与えることは重要な意味を持つ。

 一方で、陸上輸送は、現地の治安情勢次第で、海上・航空輸送と比べて格段に危険が伴うことを覚悟せねばなるまい。

 そうした任務をこなせる陸上自衛隊の部隊を編成し、平時から訓練を重ねておくことが大切だ。

 自衛隊が携行する武器も、拳銃や小銃、機関銃だけでなく、必要に応じて、無反動砲などの小型重火器も検討すべきだろう。

 輸送の安全を期すには、自衛官の武器使用権限を拡大することが欠かせない。武器使用は現在、自衛官と、その保護下にある邦人らの正当防衛などに限られる。

 反政府勢力にバリケードで輸送を妨害されても、警告射撃ができず、迂回うかいするしかない。他国部隊からの救援要請に基づく「駆け付け警護」も行えない。憲法が禁じる「海外での武力行使」に当たる恐れがあるとされるためだ。

 政府の有識者会議は現在、集団的自衛権の憲法解釈の見直しを検討している。同時に、海外で活動する自衛官の武器使用権限の拡大にも取り組んでもらいたい。

 改正自衛隊法には、与党に加え、民主党や日本維新の会、みんなの党も賛成した。与野党が幅広く協力する形で安全保障政策を進めるのは適切な対応と言える。

 在留邦人の安全確保には、政府の海外情報収集・分析力を高めることも重要である。

 国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が近く成立するのを機に、関係国とテロ関連情報の交換・共有を進め、中長期的にこの分野の専門家を育成すべきだ。在外公館の防衛駐在官を増員し、情報収集体制も拡充したい。

2013年11月23日土曜日

日・EU交渉妥結へ規制改革の加速を

 安倍晋三首相は、来日した欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領、バローゾ欧州委員長との首脳協議で、日・EU間の経済連携協定(EPA)を早期に締結することで合意した。日本政府は省庁間の連携を高めて交渉に当たり、決着を急がなければならない。

 経済の成長力を高める貿易・投資の自由化は、日米欧の三角形でバランスよく進める必要がある。米国を軸とする環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は大詰め段階だが、もう一つの柱であるEUとの交渉が遅れているのが心配だ。

 安倍首相は自民党内や国内世論の関心が高いTPPだけでなく、EUとの交渉でも指導力を発揮すべきだ。交渉の焦点は多省庁の管轄にまたがる規制改革であり、規制を守る側の霞が関の官僚任せではスピードが上がらない。

 TPP交渉では、甘利明経済財政・再生相をTPP担当に据え、各省庁から集めた混成部隊が交渉に当たっている。一方、EUとの交渉を統括する閣僚はおらず、外務省が取りまとめ役になって、対象項目ごとに各省庁の担当者が関与する体制を採っている。

 通商交渉には、組織の結束力や戦術が勝敗を左右する戦いの側面がある。組織体制は工夫の余地があるだろう。安倍政権の成長戦略の核となる規制改革を進めるためにも、官僚機構の尻をたたく仕組みが要るのではないか。

 交渉の焦点は、TPP交渉での「聖域」に重なる農産品の関税撤廃のほか、鉄道、自動車など運輸部門の規制緩和や政府調達制度の見直しなどだ。精査は必要だが、やる気さえあれば実行できる改革が多い。規制緩和で競争を促せば、長期的に日本経済の生産性を高める効果もある。

 半面、EU側には自らの市場開放に消極的な姿勢が目立つ。日本市場の開放を迫る一方で、10%と高い自動車関税は温存している。日本が10年近くかけて粘り強く求めた末、今年4月にようやく交渉が始まった。だが、これまでのところEU側の熱意は、いまひとつ高まっていない。

 首脳どうしが早期締結で合意した以上、双方の努力で交渉を加速したい。安倍政権は大胆な規制改革案を示し、EUに関税撤廃を鋭く迫るべきだ。EU首脳らは来日後に訪中し、中国との投資協定交渉の開始で合意した。日本がもたつく間に、EUが中国との連携優先に動く事態は避けたい。

危うさはらむ教科書検定強化

 これを額面どおり受け止められるだろうか。文部科学省がまとめた教科書検定基準見直し案は、いくつも危うさをはらんでいる。

 改革案は、(1)歴史問題や領土に関して、政府の統一見解がある場合はそれに基づいた記述をする(2)戦時中の事象などで確定的見解や学説がない場合はバランスよく取り上げる(3)教育基本法の目標に照らし、重大な欠陥がある場合は不合格とする――などだ。

 一見、もっともな対応にみえる。政府見解とは異なる見解の併記も否定しないという。しかし教科書検定というものは、ただでさえ文科省の調査官が記述をしゃくし定規にチェックしたり、逆に恣意的に修正を求めたりしがちだ。

 そこに新しい基準ができればどうなるだろう。政府見解以外の記述は退けられたり、記述の「バランス」を意識するあまり修正意見が乱発されたりする恐れがある。そもそも近現代史には確定的学説が定まっていない事象も多い。

 さらに心配なのは「教基法の目標に照らし、重大な欠陥があれば不合格とする」とした点だ。

 教基法でいう目標とは「伝統と文化を尊重し、我が国と郷土を愛する」といった抽象的なものだ。それに反する「重大な欠陥」とは何を指すのか。基準というにはあまりにも曖昧ではないか。

 日本の若者は歴史や領土について疎いといわれる。尖閣諸島や竹島などについて自国の公式見解を教えるのも大切なことだ。見方の分かれる歴史事象をめぐっては多様な指摘を学ぶ必要もある。

 しかし、それを教科書検定という強制性の強い枠組みにあてはめて改善しようとしても、かえって教育は硬直するだろう。

 今回の見直し案の背景には、教科書の歴史記述を「自虐的」と批判する保守派の声がある。しかしかつては自民党にも、高校では教科書検定は廃止すべきだという意見があった。海外では検定制度は必ずしも一般的ではない。

 そうした流れを考えれば異質さの際立つ検定強化路線である。

秘密保護法案―これで採決などできぬ

 特定秘密保護法案は、表現の自由という基本的人権にかかわる法案だ。たった2週間あまりの審議ですませるなど、とうてい認められない。

 自民、公明両党と修正案で合意した日本維新の会も含め、野党側は、与党が求める26日の衆院通過に反対している。当然である。

 仮に、採決を1日や2日延ばしたところですむ話ではない。さらに時間をかけた徹底審議が必要だ。

 与党と維新、みんなの党の4党修正案には、あまりに不可解な点が多い。

 特定秘密の指定期間について、与党は「原則30年」といっていたのが、いつの間にか実質的に60年に延びてしまった。しかも、60年を超えられる幅広い例外が認められている。

 また、法施行から5年の間に秘密指定をしなかった役所には指定権限をなくすという。秘密指定ができる役所を絞るためだというが、これでは逆に多くの役所に秘密づくりを奨励するようなものではないか。

 こんな矛盾や疑問を4党はどう説明し、政府はどう運用しようとしているのか。一つひとつ明らかにしていくだけでも、相当の時間がかかる。

 加えて、民主党が独自の対案を5本も出しているのだ。時間をかけるのは当たり前だ。

 審議入りから約10日後の民主の対案提出に、与党は「遅すぎる」と批判する。だが、審議にたえる法案をつくるには時間がかかる。この批判こそ、与党の性急さをかえって浮き彫りにしているのではないか。

 与党が各党と修正協議をしている間、特別委員会での審議は、たるみ切っていた。

 与党側には空席が目立ち、野党の質問に森雅子担当相は「修正協議の内容にかかわるので控える」と繰り返す。議場での質疑より密室での取引のほうが大事だと言わんばかりである。

 こんな茶番が続く一方、国会の外ではこの法案に反対する声が強まっている。

 東京・日比谷でおととい開かれた集会には、主催者発表で約1万人が集まり、法案への反対を訴えた。同様の集会は、大阪、名古屋でもあった。

 この法案が単に取材をめぐる政府と報道機関の関係にとどまらず、市民社会にも大きく影響する問題をはらんでいるとの認識が広まっている表れだ。

 衆院特別委は来週、福島市で公聴会を予定している。これだけに終わらせず、中央公聴会も開いて一人でも多くの国民の声を聴くべきだ。

過労死防止―死ぬまで働かないで

 危険な現場で働く人にはヘルメットや命綱の装着が義務づけられている。

 長時間労働の歯止めも同じではないか。

 月80時間の残業が「過労死」の危険ラインとされる。昨年度の労災認定の状況をみると、脳や心臓の病気で亡くなった123人のうち9割、うつ病など精神疾患による自殺や自殺未遂の93人のうち6割が、このライン以上、働いていた。

 こうした悲劇を防ごうと、「基本法」を制定する動きが国会で大詰めを迎えている。

 今年6月に発足した超党派の議員連盟には120人余りが参加する。遺族らが集めた約52万の署名を追い風に、ぜひ今国会で成立させて欲しい。

 この法案は「過労死はあってはならない」という理念のもと、国や自治体、使用者の責任の明確化を求める。

 強制力はないが、より正確な実態把握などをテコに、労働基準法の労働時間規制に「魂を入れ直す」出発点となろう。

 言うまでもなく、労働基準法では1日8時間、週40時間の労働が原則だ。

 ところが、30歳代の男性は2割近くが週に20時間以上、残業する。危険ラインである。

 こうなるのは、労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になるからだ。割り増しの残業代の支払いが義務づけられることが、歯止めになっているに過ぎない。

 一方、安倍政権では、規制改革や競争力強化のため、この歯止めを緩め、時間に関係なく賃金を払う裁量労働制などを広げる検討が進む。

 であればなおさら、残業代の問題とは別に、命と健康を守るため、労働時間に物理的な上限を設けるべきだろう。

 欧州連合(EU)では、勤務の終了から翌日の勤務開始まで最低連続11時間の休息を義務づけている。参考になる。

 日本での大きな課題は、働く側にも「片付けるべき仕事があるのだから、労働時間に規制をかけて欲しくない」という意識が強いことである。

 仕事の目標が実労働時間とは無関係に決まることが多く、その達成度で評価されるからだ。責任感が強く、能力のある人ほど仕事が集中しやすい。

 労働時間を含めた仕事の量を労使が調整する。そんな現場の工夫が必要だ。

 労働者をひたすら長時間働かせるブラック企業は、社会を沈没させる。それを許さない仕組みを考えたい。

 きょうは、勤労感謝の日。

秘密保護法案 与野党の修正案は評価できる

 自民、公明両党が、安全保障の機密情報を漏らした国家公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案について、日本維新の会、みんなの党とそれぞれ法案の修正で一致した。

 安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)が機能するために欠かせない法制である。与党が数で押し切るのではなく、野党と協議を重ね、合意したことは評価したい。

 維新の会やみんなの党も、政権を担えば、秘密の指定や解除に携わる。安全保障に関する分野で、与野党が協力し合って制度を構築することの意義は大きい。

 修正内容は、首相が特定秘密の指定を監督し、有識者会議に報告して意見を聴くなど、内閣による情報管理を強めた。法施行から5年経たっても特定秘密がない府省は、指定の権限を失う。

 上限5年で更新可能という特定秘密の「有効期間」は、30年を超えても内閣が承認すれば延長できるとなっていたが、「60年は超えられない」と書き加えた。例外は、暗号や防衛装備、人的情報源など7項目に限られる。

 30年超の延長が認められなかった文書は、すべて国立公文書館に移管することも条文化された。

 首相の関与強化が実効性を伴うものになるかどうか、疑問もある。だが、「原則公開」とその例外項目、重要文書の保存を明確にしたのは適切な判断だ。

 政府が、特定秘密の対象を恣意的に拡大したり、都合の悪い情報を永久に秘匿したりしかねないといった懸念は、一定程度払拭されるのではないか。

 秘密指定の妥当性をチェックする「第三者機関」については、検討することを付則に明記した。

 第三者によって、政府を牽制けんせいしようという趣旨はわかる。だが、安全保障の機微に触れる、専門性の高い大量の情報を部外者が的確に判断できるのか。特定秘密に関与する人が多くなれば、情報漏えいのリスクは増すだろう。

 起用する人材や仕組みをよほど慎重に考えないと、形骸化した組織になる恐れがある。

 民主党は、独自の対案が受け入れられなければ、特定秘密保護法案に反対する方針を決めた。

 民主党の対案は、秘密の範囲をより限定し、指定期間は原則30年、罰則を懲役5年以下などと規定している。国会への秘密提供については、国会法の改正で対応するとした。検討に値しよう。

 与野党間で、さらに議論を深める努力をすべきである。

モーターショー 「エコ」と「若者」で未来を競え

 業績好調な日本車メーカーが、最先端の環境技術や、若者向けの次世代カーなどをアピールしている。日本経済復活を印象づける好機である。

 第43回東京モーターショーが開幕した。「世界にまだない未来を競え。」がテーマで、国内外32社が出展した。

 リーマン・ショックの後遺症が残っていた前々回の2009年や、東日本大震災後だった前回11年は盛り上がりを欠いた。

 今回は対照的に、安倍政権の経済政策「アベノミクス」による景気回復と円安の追い風を受け、日本車メーカーの業績がV字回復している中での開催となった。

 スウェーデンのボルボが6年ぶりに出展し、米電気自動車(EV)ベンチャーのテスラ・モーターズが初参加した。米大手3社は不参加だが、初公開車は計76台と多く、久し振りに活気にあふれていることを歓迎したい。

 注目されるのは日本勢の積極的な姿勢だ。環境性能だけでなく、走る楽しさ、斬新なデザインといった魅力を売り込んでいる。

 トヨタ自動車は、15年発売予定の燃料電池車のひな型になる「FCVコンセプト」を発表した。体重移動で直感的に運転できる1人乗り自動車も公開した。

 日産自動車は三角翼をイメージしたEVの「ブレイドグライダー」、ホンダは「枠にはまらないモノ作りを続ける」として、軽自動車のオープンスポーツカー「S660」を出展した。

 ドアなどを着せ替える軽自動車を披露したのはダイハツ工業だ。スズキは小型スポーツ用多目的車(SUV)の注目度が高い。

 若者のクルマ離れで国内市場の縮小が続く中、新機軸の未来カーを投入して市場を活性化させようという狙いなのだろう。

 無線やレーダーなどを使い、前方の車に合わせて減速したり、障害物を感知して停止したりする自動運転技術も紹介されている。

 トヨタ、日産などに加え、海外では米IT(情報技術)企業のグーグルや、米独自動車メーカーも技術開発を競う。安全対策などの課題は多いが、車の新時代を予感させる革新技術と言える。

 東京モーターショーと同時に、巨大市場を抱える米国ロサンゼルスと中国広州でもショーが開催中だ。このところ地盤沈下していた東京がどこまで巻き返せるか。

 自動車産業は裾野が広い。日本各社は、攻めの戦略で車作りを主導するとともに、日本の成長を牽引してもらいたい。

2013年11月22日金曜日

秘密保護法のこの修正は評価に値しない

 特定秘密保護法案の修正をめぐり、自民、公明の両党と日本維新の会、みんなの党が合意した。これを受け政府・与党は26日にも衆院での採決に踏み切る考えだ。

 法案は2週間前に審議入りしたばかりである。肝心の国会の場では、法案を担当する森雅子少子化相の不明確な答弁ばかりが目立ち、議論は深まっていない。一方、水面下で与党による野党の切り崩しが行われてきた。

 国民の基本的人権にかかわる法律だから議論を通してよりよい形にしようというのではなく、とにかく「成立ありき」としか見えないやり方に不信感を抱く。

 しかもこの修正がなされても、国の秘密が恣意的に指定され「知る権利」が侵害されかねない法案の構造的な問題がなくなるわけではない。この修正案には賛成できない。さらなる見直しが必要だ。

 法案では防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、秘匿すべきものを各省の大臣が特定秘密に指定する。私たちはこの範囲が曖昧で広すぎると指摘してきた。

 みんなの党との協議では、秘密の指定に対する首相の指揮監督権を明記することになった。

 行政の長による恣意的な指定を防ぐため、「行政の長の中の長」である首相がチェックするという考え方自体、理解できない。作業量などを考えても、実効性のある現実的な策とは思えない。

 維新の会とは、第三者機関の設置を検討することで折り合った。だがどんな機関が何を検証するのか定かでない。「設置の検討」を法案の付則に記すだけなので、実現性も怪しい。指定の中身に立ち入って適否を判断する機関を置くよう法案に明記すべきだ。

 秘密の範囲を限定するため指定できる省庁を絞り込むというが、これも実効性は分からない。

 指定期間を最長60年とした修正は逆効果ではないか。「原則30年」としながら内閣の承認があればいつまでも延長できる規定に歯止めをかけることを狙ったものの、本来30年で解除すべきものまで60年とされるおそれがある。

 法案への賛成を決めた維新の会とみんなの党の判断は不可解だ。修正提案を突きつけ政府・与党に受け入れさせたというが、形ばかりの手直しの印象は拭えない。

 両党ともこのところ内紛が相次ぐ。執行部が求心力を取り戻す思惑含みで与党にすり寄ったと勘繰られてもしかたあるまい。

日商は中小企業の自立支援を

 日本商工会議所の会頭に、1日に東京商工会議所会頭に選出された三村明夫・新日鉄住金相談役が就任した。新日本製鉄の社長、会長としてグローバル競争を戦ってきた経験を、中小企業の活性化につなげてもらいたい。

 中小企業は1次産業を除いた企業数の99%、雇用者数でも約7割を占める。日本経済の活力を高めるには中小企業の競争力や収益力の向上が欠かせない。

 気になるのは自助努力の姿勢がみえない企業もあることだ。中小企業の資金繰りを助ける金融円滑化法が2度延長されて3月末に終了したが、各地の企業から再度の延長を求める声も出ていた。手助けされるのに慣れてしまっては競争力強化など望めない。

 新会頭の三村氏は新日鉄の海外提携戦略をけん引し、鉄鋼世界最大手アルセロール・ミタルに対抗する基盤を固めた。企業の成長戦略を自ら考え実行することは、中小企業にいま最も求められている。三村氏は自分の色を積極的に出して、中小経営者の意識改革を後押ししてほしい。

 中小企業には課題が多い。まずグローバル化への対応だ。国内は人口減で市場が縮小傾向にあり、海外展開を加速する必要がある。

 伸びる分野への進出も急がなければならない。2000年から10年までの間に新しい事業を始めた中小製造業の事業所は2割に満たない。IT(情報技術)を活用した生産性向上も十分ではない。

 経営相談などの活動に直接あたるのは日商の会員である514の商工会議所だが、日商も後方支援を強化すべきだ。世界各地の日本人商工会議所との連携を深めれば中小企業が海外進出のための情報を得やすくなる。生産性向上などの事例紹介による啓発にも力を入れたい。意欲のある企業が成長できる機会を増やすことが重要だ。

 国の助成金などの資金面の支援は手厚すぎると企業の成長力をそぐ。日商の活動の柱である政策提言は中小企業の自立につながる施策を第一にすることも求めたい。

秘密保護法案―「翼賛野党」の情けなさ

 巨大与党の前に、あまりにも情けない野党の姿である。

 このままでは自民党の「補完勢力」どころか「翼賛野党」と言われても仕方あるまい。

 日本維新の会が、自民、公明の与党と、特定秘密保護法案の修正に合意した。

 みんなの党に続く妥協だ。

 いずれの修正も実質的な意味は乏しく、問題の根幹はまったく変わっていない。

 与党は、4党で修正案を共同提案し、26日の衆院通過をめざすという。野党はこれを許してしまうのか。

 愕然(がくぜん)とするのは、維新との修正合意で、特定秘密の指定期間が後退したことだ。

 維新は当初、「30年以上延長できない」と主張していた。ところが、合意では「60年たったら原則として解除」と期間が2倍に延びてしまった。

 しかも60年を超えても延長できる7項目の例外まで、できてしまった。

 まるで与党側の焼け太りだ。これでは、維新もみんなの党も利用されるだけではないか。

 維新は秘密指定できる行政機関を絞り込む案も主張したが、与党にはねつけられた。「首相が有識者の意見を聴いて政令で限定できる」との合意では、およそ実効性に乏しい。

 秘密指定のチェックについても、大きな疑問符がつく。

 法案の付則に「第三者機関の設置検討」を盛り込むことで合意したが、付則に書いても実現の保証はない。どんな機関になるかも不明確で、期限も区切っていない。

 与党とみんなの党との合意では、首相が「第三者機関的観点」からかかわることで客観性が担保されるとした。最大の当事者を「第三者」とする意味不明。与党が真剣に問題を受けとめているとは思えない。

 維新の内部からも「後退している」などの批判が噴出している。当然だ。今からでも対応を見直すべきだ。

 野党ではほかに、民主党が対案を出している。

 秘密の範囲は外交や国際テロに限る▽国会が委員を指名する第三者機関「情報適正管理委員会」を設置し、個々の秘密指定が適当かどうかも調べる▽罰則は政府案が最長懲役10年だったのを懲役5年以下とする――などの内容である。

 政府案との隔たりは大きい。そこを埋める努力もせず、4党の修正案で突き進むのでは、巨大与党にすり寄っているとしか映らない。

 与党に都合のいい修正をするのが野党の役割ではない。

マララさん受賞―教育は世界平等の権利

 女性にも教育を受ける権利が当然ある。パキスタンでそう訴えて闘ってきた16歳の少女、マララ・ユスフザイさんに、価値のある賞が贈られた。

 人権と思想の自由のための活動をたたえる「サハロフ賞」である。欧州議会が1988年に創設し、毎年選考している。

 新興国の経済発展が著しい21世紀といえども、女性を男性の下に置こうとする古い因習が残る国や地域はまだ多い。

 また、戦乱や貧困のため、初等教育を受けられない子どもたちが世界に約6千万人いるといわれる。

 今回の授賞を機に、男女の平等と、子どもの教育の権利は、現代世界において侵すことのできない普遍的な原則であることを再確認したい。

 マララさんは、パキスタンで父親が設けた学校にかよっていた。女子教育を阻む反政府勢力パキスタン・タリバーン運動(TTP)の脅しに屈することなく、ブログを通して教育の権利を主張し続けた。

 昨秋、下校途中にTTPに狙われ、銃で頭を撃たれた。幸い英国の病院に移されて回復し、今は英バーミンガムの学校に通い、講演活動を続けている。

 サハロフ賞の初代受賞者は、南アフリカで人種差別と闘ったネルソン・マンデラ氏だった。その後も、ミャンマーのアウンサンスーチー氏や中国の民主化運動家・胡佳氏など、独裁や弾圧の下でも平和・非暴力と寛容の精神を貫いた人びとを選び、称賛の光をあててきた。

 マララさんも、その系譜に連なっている。この夏の国連本部での演説では、タリバーンの兵士を憎まず、彼らの子どもたちにこそ教育が必要と訴えた。

 今回の授賞式の演説でも、世界の子どもたちの思いを代弁した。「空腹と渇きに苦しみ、教育に飢えている」「欲しいものは、iPhone(アイフォーン)でもチョコでもない。1冊の本と1本のペンだけです」

 パキスタンでは、小学校学齢期の女子の3分の1が未就学で、識字率も女性の方が低い。

 宗教や文化にかかわらず、女性と子どもが虐げられる現実は世界各地に広く残っている。貧困から生まれる戦乱の最初の犠牲は女性と子どもであり、未来の希望を断つ悪循環となる。

 「すべての子どもたちに教育を」。そんな目標を胸に、アジアやアフリカなど各地で地道に汗を流し続ける人々は数多い。

 今回の賞は、そんな人々全員に贈られたに等しい。教育こそが世界の可能性を広げていく。その信念を共有したい。

放射性廃棄物 政府は最終処分に責任を持て

 原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の用地確保へ向け、政府の取り組みを強化する必要がある。

 経済産業省の有識者会議が、候補地の確保に関し、政府が前面に出て進展を目指すという新たな方針を打ち出した。

 現在は市町村からの応募を前提としている。地域の意思を重視するという理由からだ。政府も「待ち」の姿勢に終始してきたが、2002年の公募開始から、これまで候補地は見つかっていない。

 現状を打開するため、有識者会議が「安全に処分できる地域を国の責任で示す」とする方針を示したのは適切な判断と言えよう。

 新たな方針は、最終処分場の選定に成功したスウェーデンと同じ手法だ。日本でも、候補地探しの前進を期待したい。

 高レベル放射性廃棄物は、火山などのない安定した地盤の地域を選び、地下300メートルより深い地層に埋設する計画だ。

 海外も同様の方法を採用している。適した場所を選べば、10万年以上、安定して廃棄物を処分できるためだ。放射能は時間とともに減少し、約1000年後には99%以上が消滅する。

 最終処分場の技術や安全性に対する理解が、ほとんど広まっていないことが、候補地探しの障害になってきたと言えよう。政府が、正しい知識を積極的に周知していくことが欠かせない。

 公募方式では、手を挙げた市町村長が過大な政治的リスクを抱えることも問題だ。07年に高知県東洋町が応募した際は、反対運動が激化し、町長は辞任に追い込まれた。応募も取り下げられた。

 候補地には、政府の幅広い支援が欠かせない。有識者会議は、地域振興策の強化を挙げた。政府が地域住民と密接に意見交換する場を設けることも提案している。いずれも重要な指摘である。

 処分場探しは、2000年制定の最終処分法に基づき、電力会社などが設立した「原子力発電環境整備機構(NUMO)」が担当してきた。成果を上げられないNUMOの改革も急務だ。

 小泉元首相は、最終処分場の確保について、「めどを付けられると思う方が楽観的で無責任だ」とし、非現実的な「原発ゼロ」をなお主張している。だが、仮に「ゼロ」でも廃棄物は残る。次世代にツケを回すわけにはいかない。

 自民党も、最終処分場の確保策の検討に乗り出した。国会には超党派議連を設ける動きもある。責任ある議論が求められる。

日欧EPA交渉 TPPと併せた戦略が必要だ

 米国、豪州などとの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉と並行し、欧州連合(EU)との経済連携交渉の妥結も急がねばならない。

 日本には複数の自由貿易圏作りに取り組み、成長に弾みを付ける戦略が求められよう。

 安倍首相はファンロンパイ欧州理事会常任議長(EU大統領)と会談し、共同声明を発表した。

 4月にスタートした日本とEUの経済連携協定(EPA)交渉を「可能な限り早期に締結させる」と強調したのがポイントだ。

 韓国とEUは2011年7月に自由貿易協定(FTA)を発効済みで、日本は大きく出遅れていた。日本のTPP交渉参加を契機に、EUの姿勢が軟化し、交渉開始にこぎつけた経緯がある。

 しかし、これまで3回行われたEUとの交渉は難航している。両首脳が交渉加速で一致したのは危機感の表れだろう。アジアの巨大な自由貿易圏から取り残されることにEUの警戒感も強い。

 焦点は、日本から輸出する自動車にEUが10%、テレビに14%かけている関税の撤廃問題だ。

 EU向けに輸出する韓国製品の関税は、FTAで段階的に引き下げられて16年に撤廃される。不利な競争を強いられる日本が、対等な条件を求めるのは当然だ。

 EUはこれに抵抗し、逆に日本にワイン、チーズなどの関税引き下げのほか、鉄道車両など公共交通分野の市場開放といった非関税障壁の見直しを要求している。

 交渉開始から1年後に日本の改善姿勢が不十分と判断した場合、EUは交渉を打ち切る方針を示していることも問題と言える。

 TPP交渉は年内妥結に向け、大詰めを迎えている。日本はTPP進展に焦るEUを揺さぶって、理不尽な要求の是正を求め、早期に妥協点を探る必要がある。

 一方、今回の日EU首脳会談では、安全保障分野や地球規模の課題も論議になった。

 尖閣諸島をめぐる日中対立を踏まえ、共同声明が「東アジア海域を含む緊張状態への懸念」を共有するとし、「法の支配」の原則に基づく解決を求めるべきだとの見解を明記した点は評価できる。

 サイバーテロ防止と宇宙の平和利用に関する協議開始で合意したのも前進である。EUは国際規範作りを主導する狙いのようだ。

 こうした地球規模の課題を巡って、協力の幅を広げることが重要だ。信頼関係の一層の強化が、EPA交渉を打開するムードを醸成する効果に期待したい。

2013年11月21日木曜日

さらなる1票の格差是正は待ったなしだ

 1票の格差が最大2.43倍あった昨年12月の衆院選について、最高裁の大法廷が「違憲とまではいえず、違憲状態にとどまる」とする判決を言い渡した。

 投票の価値は平等の原則に著しく反している。しかし是正するためには一定程度の期間が必要であり、今回は時間が足りなかった。そういう判断である。

 1票の格差を厳しくとらえる近年の司法の流れからすると、後退した印象が拭えない。ただでさえ進んでいない選挙制度の抜本改革の動きが、さらに滞ることのないよう国会に強く求めたい。

 昨年の衆院選は、最高裁が2011年の判決で「違憲状態」とした09年の選挙と同じ区割りで行われた。この間に格差は拡大した。

 最高裁に上告される前の、各地の高裁での裁判では、16件中14件で「違憲」の判断が示された。うち2件では選挙の無効まで宣言している。司法全体でみれば、1票の格差に対する判断の振れ幅が大きすぎるように思える。

 裁判では、衆院の解散直前に成立した小選挙区の定数を「0増5減」とする改正をどうとらえるかが注目された。最高裁はこの取り組みに一定の評価を与えた。国会の側にはこれで問題は解決したという見方も出ている。

 だが選挙で民意が正しく反映されていない事実は変わらない。判決も「1人別枠方式の構造的な問題は解決されていない」として、さらなる格差の是正を求めた。

 1人別枠は各都道府県にまず1議席を割り振る方法で、前回の最高裁判決で格差を生む主因と指摘された。国会は法律の条文からこれを削ったが、0増5減の是正後も実質的に維持されたままだ。

 判決にかかわった14人の裁判官のうち3人は「違憲」だとする反対意見を述べている。改革が放置されれば、最高裁としていつでも「違憲」に踏み込む。そんな警告と受け止めるべきであろう。

 危惧するのは、国会議員のなかに司法の判断に異議を唱える動きが強まっていることだ。「国権の最高機関である国会が最高裁の判決に従わなければならないのはおかしい」との論法も叫ばれる。

 立法、行政、司法が独立し、互いにチェック機能を働かせる三権分立の考え方をいま一度肝に銘じるべきだ。司法の判断を謙虚に受け止め、自ら進んで改革に取り組む。それこそが「国権の最高機関」に求められる姿勢である。

中国の近代化占う司法改革

 12日に閉幕した中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で採択された文書の全文が、明らかにされた。

 「改革を全面的に深める若干の重大問題に関する決定」という文書で、経済、政治、社会、文化の面で改革の具体策を広く盛り込んだ。目標の2020年までにどこまで実行できるか、習近平国家主席ひきいる指導部の力量を占うリトマス試験紙といえよう。

 なかでも注目したいのは司法改革だ。法の下の平等や人権の擁護など、近代国家では当たり前の原則を中国で実現する一歩となる可能性がある。習政権が目指す経済の高度化へ市場の役割を高めるためにも、信頼できる透明性の高いルールの確立は欠かせない。

 「決定」が打ち出した司法改革の柱の一つは「司法の地方化」と呼ばれる問題の打開だ。

 現在、地方の裁判所や検察機関はその地の共産党組織の指導を受けている。人事権や財源も党組織の手の内にあり、捜査や判決は地方の党幹部の意向に左右されがちだ。これが「司法の地方化」で、国民の強い反発を招いている。

 公正な司法に必要な環境整備も進める。中国特有の行政処罰制度で人権侵害の温床となってきた労働教養(労教)制度の廃止や、共産党員の腐敗などを追及する党規律検査委員会の強化などだ。

 共産党政権としては踏み込んだ改革だ。習主席も認めるように、深まる一方の司法不信への危機感が背景にある。ただ、地方の党幹部の権限を揺るがすだけに抵抗も強いようだ。たとえば労教が本当に廃止されるのかどうか、目を凝らしていく必要がある。

 いわゆる一人っ子政策の緩和も「決定」は明記した。堕胎の強制など人権侵害をもたらしているだけに、抜本改革を期待したい。

 一方で、思想・情報統制の強化や安全保障体制の整備を打ち出している。一党独裁を保つ決意も改めて鮮明にした。経済や司法の近代化に期待すると同時に、政治改革の行方には懸念を覚える。

一票の格差―司法の役割はどこへ

 国会は、国民の意思を正しく反映して選ばれた機関でなければならない。

 有権者一人ひとりの票の重みに開きがあれば、国会はまっとうな代表とはいえない。

 それが「一票の格差」の問題だ。憲法が定める法の下の平等が問われる重大事である。

 国会は長らく、その問題を放置してきた。その怠慢をただせるのはもはや司法しかない。

 だが、最高裁はきのうの判決で、その役割を避けた。2年前に出した「違憲状態」にとどめる判断を繰り返した。

 前回の判決から1年9カ月後の昨年12月、同じ区割りのまま衆院選を迎えた国会の責任は重い。最高裁は一歩踏み出して、「違憲」と断じるべきだった。

 高裁では、16の判決のうち14が違憲と判断し、うち二つは選挙の無効にも踏み込んでいた。

 国会の動きの鈍さと、最高裁の違憲審査権に対する軽視を次々に指摘した高裁の判決は、的外れとは到底いえない。それが最高裁で大きく逆行した。

 問題になったのは、議席をまず都道府県に一つずつ割り振る「1人別枠方式」だ。最高裁は前回の判決で、これが格差の主因だとして廃止を求めた。

 だが、その後に国会が決めた定数の「0増5減」には、1人別枠が残ったままだ。

 不可解なのは、最高裁が今回の判決で、1人別枠の問題は解決されていないとしつつ、そんな国会を許容したことだ。寛容すぎると言わざるをえない。

 「0増5減」後でも、実際の格差は2倍を超えているとされる。最高裁が、国会の合意づくりの難しさなどに理解を示したことは、「お墨付き」を与えたものとも受けとられかねない。

 判決は司法の限界にも言及している。選挙制度の問題を指摘しても最高裁は代替案を考える立場になく、是正には国会が広い裁量権をもつ、とした。

 立法府をチェックする役割をみずから限定するかのような判断であり、それを言い出せば、最高裁に違憲審査権が与えられている意味がない。

 そもそも問われているのは、国民の正しい代表といえるかどうかだ。その国会に広い裁量権を当然に認めるべきだろうか。

 まして選挙制度は、自分たちが当選したシステムを大きく変えたくない国会議員と、公平な制度を求める国民との利益が、直接対立する問題だ。

 このような局面では、司法がふだんより前に出て、ものを言う必要がある。でなければ、三権分立がうまく機能せず、司法への信頼は揺らいでしまう。

一票の格差―「違憲の府」の異様さ

 最高裁の判断が「違憲状態」にとどまったからといって、一票の格差是正への取り組みを緩めていいとはならない。

 衆院の存立基盤に、最高裁から疑義が突きつけられたことに変わりはないからだ。

 一票の格差について、自民党内にはこんな声がある。「有権者には、一票の格差によって権利をないがしろにされているという議論はほとんどない」

 だが少し想像力を働かせてみよう。仮に衆院の480人の議員のなかに1票を持つ議員と0・5票しか持たない議員がいたらどうか。その不平等や理不尽さはだれの目にも明らかだ。

 選挙区割りには行政区画などさまざまな条件を勘案しなければならないとしても、国会が1人1票の原則に限りなく近づける努力をするのは当然だ。

 野田前首相が「身を切る改革」として定数削減の確約と引き換えに衆院解散を表明してから、すでに1年が過ぎた。

 安倍首相のもとで消費税率の引き上げは決まったが、6月に終わった通常国会までにと自ら期限を切った定数削減と選挙制度の抜本見直しについての検討は、進んでいない。

 首相と野党第1党の党首が国民注視のなか交わした約束が反故(ほご)にされている。これでどうして政治を信頼せよというのか。

 新区割りでも、最新の住民基本台帳に基づけば、すでに格差が2倍を超える選挙区がある。

 最高裁が廃止を求めた「1人別枠方式」を実質的に温存したまま、定数の微調整でお茶を濁すのはもはや限界だ。

 最高裁は、構造的な問題が解決されているとはいえないと指摘した。国会は抜本改革から逃れられないところに来ている。

 「違憲の府」とされた以上、本来は衆院を解散するのが筋だ。が、いま選挙をしても、違憲訴訟の繰り返しになるだけだ。改革を急がねばならない。自らできないのなら潔く第三者の手に委ねるべきだ。

 7月の参院選でねじれが解消し、自民党の1強状態となった国会は暴走気味だ。

 婚外子の相続差別に対する最高裁の違憲判断に、自民党からは異論が噴出。表現の自由を侵しかねない特定秘密保護法案の審議が進み、首相は集団的自衛権の行使を解釈改憲によって認めようとしている。

 違憲状態の選挙によって選ばれた議員が、憲法をないがしろにする議論を公然と繰り広げる。異様な事態だ。

 このうえ格差是正を放置するというなら、法の支配の根幹が崩れる。

衆院選違憲状態 国会の裁量に配慮した最高裁

 ◆与野党は選挙制度改革を急げ◆

 選挙制度を巡る国会の裁量権を最大限に尊重した司法判断である。

 「1票の格差」が最大2・43倍だった昨年12月の衆院選について、最高裁は「違憲状態」にあったとの判決を言い渡した。国会は判決を重く受け止め、選挙制度改革に取り組まねばならない。

 最高裁は「投票価値の平等は選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではない」と指摘した。

 小選挙区の区割りを決める際には、「住民構成、交通事情、地理的状況なども考慮し、投票価値の平等との調和を図ることが求められる」との見解も示した。

 ◆「0増5減」評価される◆

 「1票の格差」の是正を絶対視せず、地域事情に配慮する必要性を認めたのは、現実的かつ極めて妥当な判断である。

 最高裁は、最大2・30倍だった2009年の衆院選を「違憲状態」と判断していた。昨年の衆院選は格差が拡大していたことから、さらに踏み込み、「違憲」判断を示すとの見方もあった。

 見過ごせないほど長期にわたり格差が放置されていると見るのかどうか。

 それが、「違憲」か「違憲状態」かの司法判断を分けるポイントだった。

 最高裁は今回、期間の長短だけでなく、是正措置の内容や、必要な手続きなどの事情を総合的に考慮すべきだとの判断も示した。今後の重要な指標となろう。

 判決は、国会が今年6月に成立させた改正公職選挙法による「0増5減」の是正策について、「一定の前進」と評価した。これにより、格差が2倍未満に縮小されたからである。

 区割りを変更するには、衆院選挙区画定審議会(区割り審)による改定案の首相への勧告と、それに基づく公選法改正などの手順を踏む必要があった。

 最高裁が、格差是正に一定の時間を要すると理解を示したのもうなずける。

 ◆地方の声反映が必要◆

 判決には、疑問点もある。小選挙区の定数配分で、まず各都道府県に1議席を割り振るとした「1人別枠方式」が事実上残っていることについて、「構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない」と言及した。

 しかし、この方式の考え方を完全に排除すると、人口減が進む地方の有権者の声は反映されにくくなるのではないだろうか。

 最高裁判決を踏まえ、問われるのは国会の一層の取り組みだ。

 違憲ではなく、違憲状態と判断されたことを理由に、選挙制度改革論議を鈍らせてはならない。違憲状態でも抜本的改革が必要な状況に変わりはない。

 与野党は、精力的に議論を進めるべきである。その際、民意を集約し、安定した政治を実現する視点が欠かせない。

 自民、公明の与党と民主党は今月上旬、衆院選挙制度改革について、現行の小選挙区比例代表並立制を当面維持しつつ、定数を削減することで合意した。

 ◆定数削減を絡めるな◆

 だが、与党が、小選挙区の定数は維持して比例定数を30削減する方針を掲げているのに対して、民主党は小選挙区、比例定数の両方の削減を主張している。折り合いはついていない。

 自公民3党は近く他の政党と協議を開始する方針だというが、日本維新の会は全体で144もの大幅な定数減を唱えている。

 これでは合意は困難だ。そもそも日本の国会の定数は他国と比べても多すぎることはない。定数削減にこだわる必要はない。

 定数削減は切り離して、制度のあり方を考え直すべきだ。

 各党の利害がぶつかる選挙制度について、政党間で合意することは難しい。与野党は抜本改革の大きな方向性を早急にまとめた上で、安倍首相が提案するような、有識者による第三者機関に具体案づくりを委ねるべきだろう。

 衆院議員の残り任期が3年余りとなる中、法改正作業や新制度の周知期間を考慮すると、残された時間は十分と言えない。

 自公民3党が主張しているように、現行制度を基本的に維持しながら、1票の格差の是正を図るのも一案だろう。

 参院も2016年の次期参院選から新制度に移行することを目指している。今年7月の参院選でも1票の格差を巡る訴訟が全国で提起され、各高裁・支部が今月末から順次判断を示す。それが改革論議にも影響を与えよう。

 与野党は、衆参の役割分担を考慮し、同時に選挙制度改革を図るのが望ましい。

2013年11月20日水曜日

原発政策にはリアリズムが必要だ

 小泉純一郎元首相の脱原発発言が反響を呼んでいる。発信力はなお衰えておらず、今後の原発政策に影響を与えかねない。ちょっと立ち止まって考えてみたい。

 自民党の石破茂幹事長は背広の内ポケットに、いつも一本の赤鉛筆を入れている。本や資料に目を通す際、大事な箇所に赤線を引きながら読むためだ。あることを理解しようとするとき、繰り返し赤線を引いて読み込む。

経済はじめ多くの変数
 今、赤線をいっぱい引いているという本がある。石川和男著『原発の正しい「やめさせ方」』(PHP新書)だ。きっかけはもちろん小泉発言である。いきなり場外から投げ込まれた変化球を、うまく打ち返すためのヒントをつかもうとの思いからだ。

 この本のポイントは原発を動かしながら廃炉のための資金を稼がせて、少しずつ脱原発に向けて進んでいくというものだ。「原発は無理に殺すな利用しろ葬式代は自前で出させろ」と説く。

 石破氏が小泉氏と方向性は同じと語っていたのは、この“安楽死”のすすめが念頭にあってのことのようだ。しかし小泉氏は日本記者クラブでの講演で「原発即ゼロ」と“即死”に踏みこんだ。

 理想論としての脱原発はともかくとして、改めて考えなければならないのは即時原発ゼロがはたして現実に成り立つのかどうかの政策のリアリズムの問題である。

 第1の変数は当面の経済だ。原発を停止したことで、火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や原油の輸入代金が2013年度は、東日本大震災発生前より3兆6000億円増える見込みだ。

 国富がそれだけ海外に流出しているわけだ。貿易収支の赤字はすっかり定着し、このままいけば国の稼ぐ力をあらわす経常収支がそう遠くない将来、赤字に転落するケースも想定される。その先、国債暴落、財政破綻という最悪の事態も招きかねない。

 第2の変数は産業と日米関係である。日本と米国の間では原子力共同体といえるかたちができあがっている。東芝とウエスチングハウス、日立製作所とゼネラル・エレクトリック(GE)の企業連合がそうだ。日本は世界の原子力産業の中核を占めているという現実がある。

 それは日米に響く。アジアや中東で原発計画が相次ぐ中、日本が即時脱原発に向かえば日米連合による原発の受注は不可能になる。核拡散の懸念も出てくる。中国の台頭もある。米国は安全保障の観点からこの問題をとらえる。

 昨年9月、民主党政権下でエネルギー政策を決める際、米側から脱原発に待ったがかかり、決定の最終局面でドタバタ劇を演じたことを思い出せばすぐ分かる。

 第3の変数は技術だ。再生可能エネルギーやもう一段の省エネは開発途上で、原発の肩代わりが可能かどうかなお未知数だ。

 同時に、東京電力福島第1原発をはじめとして今後、廃炉を進めていかなければならない。そのためにも原子力技術を維持していく必要がある。技術の基盤が失われるのは何としても避けたい。

 核廃棄物の最終処分にメドが立たないのはその通りだが、原発即ゼロに動いたとしても使用済み核燃料が減るわけではない。

求められる政治の責任
 原発政策の変数はこれにとどまらない。変数が少ない政策なら、それこそ「首相が決断すればできる」かもしれない。だが問題が複雑にからみ合っているテーマは、現実を冷徹に見つめながら、実現可能な答えを導き出すしかない。

 客観的な事実を無視して行動に移すと身動きがとれなくなるのは、歴史が教える通りだ。しばしば話題になるのが猪瀬直樹著『昭和16年夏の敗戦』(中公文庫)である。次のような内容だ。

 政府は日米開戦を前に、各省などから優秀な若手人材を集めた総力戦研究所を設け、日米が戦ったら何がおこるかの机上演習(シミュレーション)を重ねた。開戦直前の16年夏に出した結論は、緒戦は勝つが国力の差から劣勢になり敗戦に至るというものだった。東条英機陸相は机上演習は「机上の空論」とこれを退けた――。

 ここから読み取れる教訓のひとつは政治には現実を直視するリアリズムが必要だという点である。

 小泉氏の脱原発論が突きつけたのは、現実を超え「日本をぶっ壊す」ことにより国家再生をめざす創造的破壊への切っ先なのかもしれない。ただ実際の政治は日常性の中にある。現実を踏まえながら目標への橋を架ける作業に向き合ってこそ責任ある政治といえる。

特定秘密保護法案―この修正はまやかしだ

 自民、公明の与党とみんなの党が、特定秘密保護法案の修正に合意した。与党は、日本維新の会とも修正協議を続けている。安倍政権はこれらの党の賛成を得て、週内にも衆院を通過させたい考えだ。

 この法案は重大な問題を抱えている。何が秘密に指定されているのか分からないという「秘密についての秘密」が、知らぬ間に広がりかねない点だ。

 いち早く合意したみんなの党との修正は、法案のこんな危険な本質を改めるものではない。これをもって「秘密の際限ない広がりに歯止めがかかった」というみんなの党の言い分は、理解できない。

 修正の柱は、特定秘密を指定する外相や防衛相らに対する首相の指揮監督権を明記することだという。

 首相は、秘密の指定と解除などの統一的な基準をつくる。運用について必要があれば閣僚らに説明を求め、改善を指示する。こうした状況を有識者会議に報告し、意見を聞く。これで「第三者機関的観点からの客観性」を担保するそうだ。

 首相と閣僚という身内同士に形式的規定を設けたところで、一体どんな「客観性」が担保されるというのだろう。

 また、特定秘密に該当する情報として法案別表に列挙された23項目のうち、幅広い解釈を許す余地がある「その他の重要な情報」との表現を一部削る。

 代わりに「国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報」といった、やはり広く解釈できる文言を入れるという。

 これでは、賛成の理由をつくるための、まやかしの修正だと言われても反論できまい。

 日本維新の会は、独立したチェック機関の設置と指定期間の上限を30年とすることを要求している。一方、民主党は秘密の範囲を限定したり、第三者機関を設けたりするための複数の対案を国会に出した。

 野党は、「法案に問題あり」との一点で共闘するにはいたらなかった。そもそも個別に与党と協議するやり方で、抜本的な修正をのませることは難しい。結局、「議論は尽くした」という口実を与党に与えているだけではないか。

 日弁連や日本新聞協会、外国特派員協会、歴史や憲法の研究者、そして多くの市民団体が反対や懸念を表明するなか、安倍政権はたった2週間の審議で衆院を通過させ、成立を図ろうとしている。あまりに性急だ。

 それが「1強時代」の与党の流儀なのか。とても受け入れることはできない。

特定秘密保護法案―外交の闇を広げる恐れ

 特定秘密保護法案が成立すれば、過去の重要な外交文書はどう扱われるのか。

 それを暗示するような裁判がある。

 韓国と1965年に国交正常化するまでの記録をめぐる訴訟だ。14年にわたる韓国との交渉の内容を開示するよう市民団体が外務省に求めている。

 裁判の経緯を振り返ると、いまでもひどい外務省の隠蔽(いんぺい)体質は、秘密保護法の下で、さらに強まると危惧せざるを得ない。

 韓国側の交渉記録は韓国政府が8年前に公開している。国交正常化のときに結んだ請求権協定をめぐる解釈が日韓で異なるため、市民団体は交渉過程で日本側ではどんな議論があったのかを見たいと求めている。

 外務省は表向きは、30年たった外交文書は公開することを原則としている。だが、実際には消極的な対応に終始してきた。

 「韓国や北朝鮮との今後の交渉で不利になる」というのが開示を拒む理由である。

 そもそも関連文書は全体でどれぐらいあるのか。国交がない北朝鮮はともかく、韓国との今後の交渉で不利になるとはどういった記録なのか。

 わからないことだらけだ。

 そんななか、東京地裁は昨年10月、非開示とするならその理由を説明せよと指摘し、請求があったうち約3分の2の開示を義務づける判決を言い渡した。

 政府は判決を不服として控訴したが、その一方で、それまで非開示としてきたものから大量の文書を自主的に開示した。

 外務省がかたくなに守り続けた秘密の一端が明るみに出た。市民団体の人たちはその中身を見て仰天した。黒塗りの下からは、思いもかけない「機密」が次々に出てきたからだ。

 たとえば竹島に関する文書で黒塗りされていたのは「アシカの数が減少した現在、経済的にはあまり大きな意義を有しないとみられる」だったという。

 そんな秘密の実態がわかったのは、政府の外からの圧力で、文書が公開されたためだ。

 もちろん外交には、一定の秘密がやむを得ないときはある。だが、この秘密保護法案が成立すれば、何が秘密にされているのかさえわからなくなる。

 秘密の範囲も秘匿の期間も、際限がなくなり、政府の閉鎖性にお墨付きを与えてしまう。

 外交の記録はすべて、のちの国民の目にさらす。それは当然の前提とすべきだ。

 政府は、後世の検証に耐えるような対外交渉を常に意識せねばならない。それで初めて外交力が鍛えられるのである。

核燃料取り出し 政府が前面に出て廃炉目指せ

 今後、30~40年間にわたって続く廃炉作業の入り口に、ようやく立ったということだろう。

 東京電力福島第一原子力発電所の4号機で、核燃料の取り出しが始まった。政府、東電が策定した廃炉工程表の新たな段階である。

 未知の領域が多く、強い放射線の中での困難な作業が続く。東電は安全確保を最優先に、緊張感を持って取り組まねばならない。

 4号機は事故当時、定期検査中だった。核燃料は建屋内のプールに未使用の核燃料とともに保管されていたため、1~3号機のような炉心溶融は起きなかった。

 だが、隣の3号機から排気系統を伝って流れ込んだとみられる水素が爆発し、建屋が壊れた。

 プール内に残った使用済み核燃料は1331体、未使用燃料は202体に上る。東電は来年末までに、それらをすべて取り出す。

 4号機には補強工事を施したとはいえ、損傷が大きい建屋に核燃料を置いておけば、放射能漏れのリスクを伴う。燃料取り出しは廃炉に向けた不可欠な作業だ。核燃料を1体ずつつり上げて輸送容器に入れ、共用プールに移す。

 取り出し作業で細心の注意が求められるのは、4号機のプール内に残るがれきだ。核燃料をつり上げる際に接触するなどして、傷つけないようにする必要がある。

 原子力規制委員会は特別体制で作業を監督する。スケジュールに無理はないか。トラブルの種が見過ごされていないか。しっかりとチェックすることが大切だ。

 1~3号機については損傷部が特定されておらず、溶けた燃料の状況も分からない。損傷部から漏れる汚染水は増え続けている。

 4号機の核燃料取り出し作業で得られるノウハウを、1~3号機での溶融した燃料などの取り出しにも役立ててもらいたい。

 炉内の状況把握に役立つ高度なロボットや、損傷部分の補修技術の開発も進めねばならない。

 大きな課題は、廃炉作業を担う要員の持続的な確保である。

 全面マスクと防護服を着けて進める作業は過酷だ。2000~3000人が必要とされる要員の手配は、現在でも容易でない。

 廃炉工程が進めば、放射線の被曝量がさらに増え、現場への立ち入りを制限せざるを得ないベテラン技術者も出るだろう。

 廃炉・汚染水対策には2兆円以上が必要とされる。政府が前面に出て技術開発や要員確保、資金支援に取り組み、長丁場の廃炉作業を確実に進めることが肝要だ。

シリア化学兵器 廃棄完遂へ米露の責任は重い

 シリアの化学兵器廃棄の道筋は依然不透明だ。カギを握る米国とロシアの責任は重い。

 国連と協力してシリアの化学兵器廃棄に取り組む化学兵器禁止機関(OPCW)は、化学兵器の大部分を国外に搬出し、来年6月までに処理を終える計画を定めた。

 内戦下のシリア国内で処理すれば、戦闘に巻き込まれたり、反体制派の武装勢力に化学兵器が奪われたりする恐れがあるからだ。

 問題は、搬出先がいまだに決まっていないことだ。打診を受けたアルバニアやノルウェーは、環境汚染を心配する国内の反対などで、相次いで断った。

 シリアのアサド政権を支えてきたロシアも、廃棄作業を受け入れようとしていない。自国の化学兵器の廃棄が進行中で、処理能力に余裕がないと説明している。

 このままでは、廃棄計画が宙に浮いてしまう。シリアの化学兵器廃棄は、ロシアの提案に米国が同意し、国連安全保障理事会決議で承認されたものだ。米露が主導して、受け入れ国を早期に決め、廃棄を前進させるべきである。

 アサド政権は、査察の受け入れや生産設備の破壊など、化学兵器廃棄で課せられた義務をひとまず果たしてはいる。

 だが、OPCWに対し、化学兵器の陸上移送用と称して装甲車の提供を望んだと報じられるなど、過剰な要求も目立つ。

 国際社会が協力して化学兵器廃棄に取り組んでいるのは、アサド政権が自国民に化学兵器を使用したとして、国際的な非難を浴びたことに起因している。

 政権は、廃棄を受け入れたことで、非難をかわせたと、勘違いしているのではないか。

 現在も続いている内戦の終息実現が急務である。米露は、和平に向けた国際会議を今月中にも開くことで合意していたが、開催のめどは立っていない。

 米国が支援する反体制派組織「国民連合」が、会議参加の条件にアサド大統領退陣を挙げ、政権側が反発しているからだ。

 会議が開けなければ、内戦収拾の糸口すらつかめない。混乱に乗じて勢力を拡大するイスラム過激派の思うつぼである。

 米露は、反体制派と政権をそれぞれ説得し、内戦終結へ全力を尽くすべきだ。

 日本政府は、OPCWに、自衛官3人を査察官として派遣する方針を発表した。日本は、廃棄支援にとどまらず、和平実現に向けても役割を果たしていきたい。

2013年11月19日火曜日

ASEANとの絆を強める「二の矢」を

 安倍晋三首相がカンボジアとラオスを訪れた。これにより就任1年足らずで、東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国をすべて訪問したことになる。その意義は大きい。

 中国が台頭し、米国が圧倒的な優位にあったアジア太平洋の力関係が変わりつつある。こうしたなか、海洋の要所に位置し、高成長を続けるASEANとの絆を深めることは日本の優先課題だ。

 なかでも重視すべき協力のひとつが海洋の安全保障だ。日本は尖閣諸島、フィリピンやベトナムは南沙諸島をめぐり、中国と対立している。中国に責任ある行動を促すうえで、日本とASEANが組み、航行の自由や国際法の順守を求めていくことが大切だ。

 安倍政権は目に見える協力をさらに広げるため、早急に「二の矢」を準備してほしい。たとえば、各国が海洋の警備能力を高められるよう、日本が支援を強めることも有効な対策だ。

 安倍政権は政府開発援助(ODA)を使い、巡視船10隻をフィリピンに供与することを決めた。こうした支援を、他のASEANの国々にも広げてはどうか。各国の海洋警備当局の人材育成を後押しすることも一案だろう。

 ただ、ASEANとの連携は、海洋安全保障の一枚看板だけでは限界がある。ASEAN側は日本との安保協力には前向きでも、中国と対立することは望んでいない。互いの関係を深めるには、経済というもう一つの協力の幹を太くしなければならない。

 ASEANは2015年に域内の市場を統合し経済共同体を発足させようとしている。日本にとってASEANの一体化が進むことは、成長戦略のうえでも、大国化する中国とのバランスをとるうえでも、大きな意味がある。

 日本は12月に東京で、日ASEAN特別首脳会議を主催する。向こう10年、20年先を見すえた関係の将来像を示し、安保、経済の協力を軌道に乗せる好機である。

 特に経済面で求められる貢献は、ASEAN各国の経済格差の縮小だ。カンボジア、ラオス、ミャンマーといった後発諸国の経済発展を、日本としてはこれまで以上に強力に支援していくべきだ。

 日本の財政上、ODAの大幅増額は容易ではない。だとすれば、ASEANでも経済水準が高いシンガポールやマレーシア、タイなどとの協力にも知恵を絞りたい。

福島廃炉への第一歩を確実に

 東京電力・福島第1原子力発電所4号機の原子炉建屋から核燃料を取り出す作業が始まった。30~40年間かかる廃炉に向け、第一歩を踏み出した。東電は安全の確保を最優先し、国も支援に全力を挙げるべきだ。

 2年8カ月前に東日本大震災が起きたとき、4号機は定期検査中で、原子炉内に核燃料はなかった。だが隣の3号機から流れ込んだとみられる水素により爆発が起き、建屋の上部が吹き飛んだ。

 建屋内のプールには使用済み核燃料1331体と未使用の202体が保管されていた。今回の作業はそれらを一体ずつ、つり上げて専用容器に収め、約100メートル離れた地上プールに移す。来年末までにすべてを移すという。

 容易な作業ではない。プールには爆発で大量のがれきが落ちた。大きなものは撤去したというが、破片が残っている。核燃料をつり上げる際にそれらが引っかかり、燃料が傷んだり落下したりすれば、放射性物質が漏れて作業に重大な支障が生じかねない。事故直後に海水を注入した影響で燃料がもろくなっている恐れもある。

 東電は安全確保に加え、作業員の被曝(ひばく)管理も徹底する必要がある。高い放射線のなか、目視でクレーンを操るという負担の重い作業である。これが1年以上続くだけに、作業員の負担を軽減しながら人員を確保できるよう、入念な工程管理が要る。

 1~3号機の核燃料取り出しは2015年度から、廃炉で最難関とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しも20年度以降に控えている。今回の作業で課題を洗い出し、国内外から知恵を集めて技術を蓄積することも大事だ。

 国が廃炉を支援する体制も明確にすべきだ。数兆円規模にのぼる廃炉費用を東電だけが負担するのは限界がある。与党は汚染水対策だけでなく、廃炉でも国が関与を強めるよう提言した。東電は廃炉を担う部門の分社化を検討している。それにあわせて国と東電の役割分担を見直すときだ。

教科書検定―「重大な欠陥」の欠陥

 執筆者と教科書会社を萎縮させる「改革」はやめるべきだ。

 文部科学省が教科書検定の基準改定を打ち出した。

 一番の問題は、「改正教育基本法の教育目標などに照らし、重大な欠陥がある場合」は不合格にできるという点だ。

 その教育目標には、愛国心や郷土愛、国際協調の態度を養うといった項目がある。具体的には歴史や公民の教科書検定にかかわってくる。

 「目標に照らして重大な欠陥があれば、個々の記述の適否を吟味するまでもなく不合格とする」と下村文科相は説明する。

 個々の記述を吟味しないで、全体として重大な欠陥があるなどと判断できるのか。

 一つ一つ記述を積み上げ、あれもこれも一つの史観に偏っているから不合格だと言われるならまだしも反論はできる。が、「全体に自虐的だ」とか「自国中心主義に過ぎる」とか切り捨てられてしまうならば、抗弁も検証もしようがない。恣意(しい)的な検定になる危険がある。

 歴史学者の家永三郎氏との30年を超える教科書裁判で、国が史実の解釈に介入する是非が問われた。この経験から文科省は価値観への立ち入りを控え、学説に基づく客観的な指摘中心の検定姿勢にシフトした。日本の歴史教科書は他国より冷静で客観的だという評価が、海外の学者から出るようになった。

 書き手や出版社が、指導要領の枠内で特色ある教科書を自由に作り、採択を競い合う。そのことが教科書の質を高め、記述の妥当さを支えてきた。

 今回の改定方針は、その大転換になりかねない。抽象的な基準で不合格にされるかもしれないとなれば、執筆者や出版社は萎縮する。検定制度の根幹である多様さと客観主義が損なわれる。撤回すべきだ。

 文科省は、政府見解がある場合はそれをふまえた記述にすることも求めている。

 賛否にかかわらず自国の公式見解を知っておく必要はある。ただ、今でも、政府見解がある領土問題や、諸説ある南京大虐殺の犠牲者数の記述には、しばしば検定意見がつく。複数の説に目配りする定めがすでに検定基準にある。政府見解を強調する意図には首をかしげる。

 「もちろん、政府見解と違う見解を併記することまで否定しない」と文科相は語る。

 検定はこの一線を越えてはならないし、書く側も異論の併記をためらうべきではない。それが文科省のいう「バランスよく教えられる教科書」を作るために最も大切なことだからだ。

核燃料の搬出―区切りにはほど遠い

 福島第一原発の4号機で、核燃料の取り出しが始まった。危険性を下げるうえで重要な措置である。

 ただ、作業には1年以上かかる。福島第一全体の状況が飛躍的に改善するわけでもない。原子炉本体が破損した1~3号機に地下水が流入し、放射能汚染水となっている状況は何も変わっていない。

 電力業界や政府は、局所的な前進をことさらに強調して、国民をごまかしてはならない。常に全体状況を誇張なしに伝えていくべきである。

 大震災当時、4号機は定期検査のため停止中で、1~3号機のような炉心溶融は起きなかった。だが、3号機から漏れたとみられる水素が爆発し、建屋は大きく壊れた。

 4号機の建屋上部にある燃料プールには1533体もの燃料集合体が入っている。1~3号機の炉内にあった燃料集合体の合計1496体よりも多い。

 燃料集合体は、核燃料が自然に熱を出すので冷やし続けなければならない。燃料プールの水が抜けると、燃料集合体は過熱し火災を起こす恐れがある。万一、こうした事態になるとプルトニウムを含む大量の放射性物質が大気中にまき散らされ、手がつけられなくなる。

 余震が続き、不安定な4号機からの燃料取り出しは急務だった。だが、搬出装置やクレーンなどを一から造らねばならず、事故発生から2年8カ月たってようやく実現にこぎつけた。

 今後は燃料集合体22体が入る輸送容器をプールに沈め、燃料を1体ずつ慎重に入れていく。容器は100メートル離れた共用プールにピストン輸送し、来年中に移送を終える計画だ。

 作業自体、「潜在的には非常に大きなリスクを持っている。汚染水以上に心配なところがある」(田中俊一・原子力規制委員長)とされる。被曝(ひばく)リスクも高く、熟練作業員を確保するために、線量・労務管理がいっそう重要になる。

 スケジュール優先ではなく、安全第一で進めるべきだ。

 1~3号機は燃料プールにある燃料取り出しさえ、開始時期が見極められずにいる。炉心で溶けてしまった燃料の取り出しには、技術開発も必要だ。

 さまざまな作業が複雑に入り組む福島第一原発で、気の抜けない作業がまた一つ始まったというのが実態である。

 燃料も共用プールに移せば終わりではない。最終的には水抜けの心配がない乾式保管容器へ移し替えるなど、より安全な道を考えるべきだろう。

ASEAN外交 安保・経済で戦略的な連携に

 安倍首相が東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化に力を入れている。

 軍事、経済の両面で台頭する中国を牽制けんせいし、地域の安定を図る上で戦略的重要性を持つと評価できる。

 首相がカンボジアとラオスを訪問した。就任から1年足らずでASEAN加盟の10か国すべてを回り終えたことになる。

 首相は今回の訪問で、日本の外交方針について「国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場で貢献していく」と説明した。

 カンボジアとラオスの首脳は、平和国家・日本の戦後の歩みを評価し、首相を支持した。安保対話の促進でも合意しており、相互理解を深めていく意義は大きい。

 国連平和維持活動(PKO)に参加するカンボジアの要員育成に日本が協力することも決まった。カンボジアでのPKOに日本は初めて自衛隊を派遣した。自衛隊の道路整備技術などを伝えることは安保協力の深化につながろう。

 一連の会談では、中国とフィリピン、ベトナムなどとの領有権争いが続く南シナ海情勢についても協議した。ASEANと中国が交渉中の「行動規範」を早期に策定する必要性で一致した。

 法的拘束力を持つ行動規範は、国際ルールによって、中国の力による進出を抑え込む狙いがある。日米は規範策定を支持するが、中国は消極的だ。親中的なカンボジアやラオスなどを懐柔し、ASEAN内の分断も図っている。

 カンボジアとラオスが行動規範に前向きな姿勢を示したことで、日本政府はASEANの結束に好影響を及ぼすと期待している。

 尖閣諸島を巡る中国の示威行動に直面する日本にとっても、この問題は他人事ではない。

 経済発展著しい東南アジアの活力を取り込むことは、安倍政権の成長戦略に欠かせない。首相がラオスでの記者会見で「ASEANの成長なくして、日本の成長もない」と語ったのはもっともだ。

 保健や医療分野の協力では、日本式医療の導入に向けた覚書を締結した。日本の医薬品や医療機器の輸出増も期待できる。

 ASEANの市場統合に日本が果たす役割は大きい。日本企業が投資しやすい環境作りへ、政府間協議を加速させるべきだ。

 日本とASEANの関係は深い。今年は、友好協力40周年の節目に当たる。12月中旬には、東京に各国の首脳を迎えて特別首脳会議を開く。協力をさらに強固にする機会としたい。

JR北海道 徹底監査で不正を洗い出せ

 鉄道会社にあるまじき安全軽視の意識がはびこっている。そう思うほかない深刻な事態だ。

 JR北海道で、レール幅の計測値などを基準内に見せかけるデータ改ざんが明るみに出た。

 国土交通省は無期限の特別保安監査を実施している。事態の重大性を考えれば当然の措置だ。規律の緩んだ組織の隅々にまでメスを入れてもらいたい。

 JR北海道では、9月の貨物列車脱線事故をきっかけに、レール幅などの異常が放置されていたことが発覚した。

 これを受けた社内調査の際、函館保線管理室は、複数の異常放置があったにもかかわらず、「異常なし」と本社に報告し、パソコンには虚偽のデータを入力していた。それが今回の問題である。

 異常の放置があったのは、これまで計270か所とされていた。だが、実際には、これより多くの異常が見つかっていたことになる。極めて悪質な欺まん行為と言わざるを得ない。

 改ざんは、国交省の監査に備えて行われたとみられる。鉄道事業法が禁じた検査妨害、虚偽報告に該当する可能性がある。国交省にはまず、改ざんに関わった社員を特定し、誰が主導したのか、指揮系統の解明が求められよう。

 北海道内の保線業務を担当しているのは、44部署に及ぶ。函館保線管理室以外にデータの改ざんはなかったのか。

 JR北海道では、自動列車停止装置(ATS)を誤作動させた運転士が、ミスを隠すため装置を壊すという不祥事も起きている。隠蔽体質が蔓延まんえんしているとみられても仕方がないだろう。

 国交省としても、脱線事故後の2度の監査で改ざんを見落としてきた責任を重く受け止め、調査を尽くす必要がある。

 JR北海道の経営陣は、不祥事が発覚する度に謝罪を繰り返し、企業風土を改善すると誓ってきた。だが、いまだに有効な再発防止策を打ち出していない。

 野島誠社長は今回、外部の専門家を含む改善検討委員会設置の方針を示したものの、遅きに失した感がある。社内改革の意識があるのか、はなはだ疑問だ。

 ガバナンス(企業統治)の欠如は明らかである。経営陣の刷新は避けられまい。

 労働組合が強い影響力を持ち、管理職が現場を掌握しきれていないという指摘もある。

 旧国鉄時代から引きずる悪弊の払拭を急がねばならない。

2013年11月18日月曜日

自動車税制は簡素化とグリーン化軸に

 自動車税制の見直しが来年度税制改正の焦点に浮上している。以前はぜいたく品と見られた自動車だが、今はとりわけ地方では生活に欠かせない日常の足になった。来春の消費税上げに連動して自動車税制を簡素化し、同時にエコカーの普及を促す税の仕組みを考える必要がある。

 自動車には現在、燃料課税を含めて取得、保有、走行の各段階で9種類7.7兆円に及ぶ税が課され、日本全体の税収のほぼ1割を占める。それだけにドライバーの重税感は強く、自動車業界などは長年負担軽減を訴えてきた。

 今の時期に見直し議論が本格化したのは、来春の消費税上げがきっかけだ。自家用車は購入時に消費税のほかに、税率5%の自動車取得税が別途課税され、「二重課税」という批判もあった。

 このため取得税は消費税の増税見合いで引き下げ、消費税が10%に上がった時点で撤廃するのが妥当だろう。新車購入時の実質的な税負担を据え置くことで、駆け込み需要をなくし、景気の波をなだらかにする効果も見込める。

 取得税は都道府県税で、その撤廃は約1900億円の税収減になる。総務省は穴を埋めるために、一般車に比べて保有課税が割安な軽自動車や営業用車両の増税を提唱しているが、反対論は強く、すぐさま実現する情勢ではない。

 財源の問題は確かに重要だが、財政当局は「自動車で下げた税は自動車で取り戻す」という考えに固執せず、幅広い可能性を探ってほしい。

 簡素化と並ぶもう一つの柱が、環境性能のいいクルマの普及を促すグリーン化である。2009年から始まったエコカー減税は相当な効果を上げ、ハイブリッド車などの環境対応車の普及を後押しした。

 今後もエコカーへの優遇は継続し、日本で走っている7600万台の自動車を燃費のいいクルマに置き換える税制を考えたい。

 一部で「優遇されすぎ」という批判のある軽自動車については、車両サイズなど軽規格を満たしていれば一律に税制などで優遇するのではなく、燃費性能などに応じて優遇の度合いにメリハリをつけるのも一案ではないか。

 自動車は基幹産業であり、雇用や取引の裾野も広い。税制を考える際も、日本車の競争力や環境技術に磨きをかけるという視点も必要だ。

資源国の輸出規制に警戒を

 資源国が金属などの輸出を規制する動きが続いている。非鉄金属では、すでに有力輸出国であるインドネシアの規制が国際相場を押し上げている。中国によるレアアース(希土類)規制の脅威は後退しても、政府や企業は警戒を怠らないでほしい。

 インドネシア政府は8月、はんだや鋼板に使うすず地金の輸出経路を絞り、9月以降の輸出量は大幅に減った。日本のすず地金輸入はインドネシアが全体の5割を占める。企業は規制強化で調達しにくくなった分を国際市場で確保しており、国際相場は今夏から2割も上昇した。

 インドネシアはステンレス鋼などに使うニッケルなどの鉱石輸出を来年1月から禁止する方針も示し、ニッケルの国際相場は10月から上昇が顕著になった。

 南アフリカ共和国は白金(プラチナ)の輸出価格や輸出量の統制を含む、国内産業の振興策を検討している。プラチナは南アが世界生産の7割を握る。日本企業にとっては自動車の排ガス処理触媒や燃料電池の原料として不可欠だ。

 発展段階にある資源国が限られた資源をなるだけ高く売り、産業の育成に結びつけたい動機は理解できる。しかし、世界経済は自由な貿易の恩恵を受けて成長していることを忘れてはならない。

 景気による浮き沈みはあっても新興国を中心とした資源の需要は増え続ける。政府は資源国に対し、自国の利益を優先する政策は他の国に波及して世界経済の成長を阻み、資源国にも悪影響を及ぼすことを訴えてほしい。

 中国のレアアース輸出規制について日米欧が世界貿易機関(WTO)に提訴した問題は、近く紛争処理小委員会が判断を下す見通しだ。資源国による行き過ぎた規制があれば、今後も各国と連携した対応が必要になる。

 企業は必要量の確保が難しくならないように調達する国を広げてもらいたい。調達先の分散が難しいプラチナなどは、再利用や省資源の技術を磨くことが重要だ。

公共放送―政治では変えられない

 これで公正・中立な公共放送が保たれるのだろうか。

 NHK経営委員に作家の百田尚樹氏ら5人(うち再任1人)を充てる人事が国会の同意をうけ、経営委員会の顔ぶれが変わった。新任の4人は百田氏をはじめ、哲学者の長谷川三千子氏ら、いずれも安倍首相と近い間柄だ。

 安倍色の濃い人事に、野党は「経営委の私物化だ」と反発した。NHK内部では「これほど首相に近い人物をそろえた露骨な人事は前例がない」と職員らが不安を募らせている。

 経営委はNHKの経営をチェックするとともに、現場のトップである会長の任命権をもつ。定数12の経営委員のうち9人以上の賛成がないと会長には就任できない。

 松本正之会長の任期は来年1月で切れる。政権内には、最近のNHK報道が原発やオスプレイの問題で反対の方に偏っているとの不満がくすぶる。そんな折の人事。公共放送への政治介入が疑われかねない。

 こんなことがあった。第1次安倍政権だった2007年、首相と親しい古森重隆・富士フイルムホールディングス社長(現会長)らが経営委員になった。委員長に就いた古森氏は経営委で「選挙中は歴史ものなどでいつも以上に注意を」と発言し、番組介入との批判を浴びた。

 当時、相次いだNHKの不祥事の対策として経営委の監督機能強化を柱に、放送法が改正された。同時に改正案には、経営委員が個別番組の編集に介入することを禁じる項目が盛り込まれ、08年から施行された。

 そして今回の人事である。番組編成や役員人事に大きな権限をもつ会長を通じ、NHKの番組内容や報道姿勢に影響力を行使しようという意図があるなら、放送法改正の趣旨に逆行すると言わざるを得ない。

 視聴者が期待するのは、政治に左右されない不偏不党の公共放送だろう。NHKトップには、受信料を納得して払ってもらえる番組づくりに専念できるよう、現場環境を整えるリーダーシップが求められる。

 一方、経営委員について、放送法は「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」を、衆参両院の同意を得て首相が任命すると定めている。

 首相と親しいからといって、よもやその意を体して会長を決めるようなことはあるまい。良識が発揮されると期待する。

 放送現場や視聴者の支持を抜きにして、公共放送を変えることはできない。

JR北海道―早く経営の刷新を

 泥沼の深さに言葉を失う。JR北海道の保線部署で、レール幅の検査値が改ざんされていたことがわかった。

 国の特別保安監査が入る直前で、異常を指摘されるのを避けるためだったとみられる。「会社のためと思ってやった」と語った社員もいたという。

 監査妨害は鉄道事業法に触れる可能性がある。いや、それ以前の問題として、レールの異常は放置し続ければ列車の脱線につながりかねないものだ。

 現場社員が、何をおいても守るべき安全より会社の体面を優先したのであれば、もはや公共輸送を担う資格はない。

 深刻なのは、JR北の経営陣が、事態に対処する能力を明らかに失っていることだ。

 野島誠社長は、保線業務の改善策を検討する外部専門家の委員会を設ける方針を示した。

 だが、レール異常の放置が発覚してからほぼ2カ月たつのに、まだ発足していない。対応の鈍さにあきれるが、経営陣が問題の根深さをいまだ理解していないように見えるのが、いっそう気にかかる。

 JR北では今年だけでも、列車の出火・発煙や運転士の覚醒剤使用など、深刻な不祥事が続いている。今回の改ざんも、病根はつながっていると考えるべきだ。保線業務だけの問題とみなしているなら、根治はとうていおぼつかない。

 05年にJR宝塚線脱線事故を起こしたJR西日本は、数々の批判を踏まえて、外部専門家がすべての安全策を見直す安全諮問委員会を設けた。

 今のJR北は、いつ重大事故が起きてもおかしくないリスクを抱えている。国の指導で、JR東日本から社員8人を期間限定で受け入れたが、その程度ではまったく不十分だ。

 経営の構造から社員のモラルまで、多くの分野に精通した外部専門家を集め、社内の問題点を徹底的に洗い直すべきだ。

 野島社長は「安全な鉄道をつくりあげるのが私の使命」と述べ、辞任を否定した。10年ぶりの技術系出身トップとして6月に就任し、改革は緒についたばかりとの思いがあるのだろう。

 ただ、毎日35万人以上が使う道民の足の立て直しは待ったなしだ。社内の人心一新は避けて通れまい。

 経営基盤が弱いJR北は今も事実上の国有企業で、毎年の事業計画や役員選任は国が認可している。事故が起きれば、間違いなく国も責任を問われる。

 禍根を残さないよう、国がもっと前に出て、一刻も早く経営陣を刷新すべきだ。

温室ガス目標 やっと「25%減」が撤回された

 発電の際、二酸化炭素(CO2)を出さない原子力発電所が一つも稼働していない現状では、温室効果ガスの排出量を減らすのは困難である。

 政府が発表した温室効果ガスの新たな削減目標は、控えめながら現実的な数値と言えよう。

 2020年度までに05年度比で3・8%削減する――。それが新たな目標だ。原発の再稼働が見通せない中、発電量における原発の比率をゼロとして算出した。

 日本のこれまでの目標は、鳩山元首相が09年に打ち出した「1990年比25%削減」だった。国内の合意を得ないまま、唐突に掲げた非現実的な目標が、ようやく改められたことを評価したい。

 ワルシャワで開かれている国連の気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)で、石原環境相が「3・8%削減」を国際公約として表明する。

 不十分な目標という各国の批判は避けられないだろう。05年度比3・8%減は、90年度比にすると約3%増となる。米国の05年比17%減と比べても見劣りする。

 安倍首相は、3・8%減について、「あくまで現時点での目標」だと位置付けた。今後、原発の再稼働とともに、より高い削減率へと修正していく方針だ。原発比率が5%上がれば、温室効果ガスは3%ほど削減できる。

 各国の理解を得るため、政府は暫定的な目標であることを丁寧に説明せねばならない。

 政府は今回、「攻めの地球温暖化外交戦略」もまとめた。

 13年からの3年間で、途上国への支援として、官民合わせて160億ドル(約1兆6000億円)を拠出するのが柱だ。COPで途上国側が求めている支援額の3分の1に相当する。

 中国などアジア諸国の温室効果ガス排出量を観測できる人工衛星の打ち上げなども盛り込んだ。

 現時点では、高い削減目標は掲げられないものの、得意の技術力で世界全体の温室効果ガス削減に貢献する。この姿勢を積極的にアピールすることも大切だ。

 削減目標で、より重要なのは、2020年以降の数値である。京都議定書に代わる新たな枠組みが20年に発効する予定だからだ。

 COP19では、各国が新たな枠組みでの削減目標をいつまでに提出するかが焦点となっている。

 日本政府が20年以降を見据えた温暖化対策を推進するためには、エネルギー基本計画などで原発の将来的な比率を明確にすることが求められる。

就職内定率上昇 若者の雇用安定につなげたい

 景気回復により、就職戦線にやや明るさが出てきた。内定率を一層高め、若者の雇用安定につなげることが重要だ。

 来春卒業する予定の大学生の就職内定率は10月1日現在、64・3%となり、3年連続で上昇した。

 実質国内総生産(GDP)は、今年7~9月期まで4四半期連続で拡大した。安倍政権の経済政策「アベノミクス」効果により、上場企業の9月中間決算でも増収増益が相次いだ。

 景気回復と業績好転を受け、多くの企業が採用を増やし始めたことがうかがえる。

 就職を希望する大学4年生の割合も増えた。ここ数年、「就職氷河期」が続き、就職活動をあきらめる者もいたが、学生側も求人拡大に期待しているのだろう。

 来春卒業予定の高校生の就職内定率は45・6%で、前年より4・6ポイント上昇している。求人倍率が大幅に改善したためだ。

 ただ、新卒者の雇用環境が本格的に回復したとは言えない。

 大学生の内定率の上昇幅は前年同期比で1・2ポイントにとどまり、1年前の上昇幅より小さい。2008年のリーマン・ショック以前の水準には依然届かない。

 中長期的な戦略を伴う新卒者の採用増加に、まだ慎重な傾向が見えるのも気がかりだ。

 求人数の増加が目立ったのは建設業だが、東日本大震災の復興需要や公共投資の増加によるものとみられる。今後も求人水準が保たれるか不透明である。

 一方で、基幹産業である製造業の求人の伸びはわずかだった。円安を追い風に輸出企業の業績は回復してきたが、先行きは楽観できないと見ているためだろう。

 来春は消費税率が引き上げられ、景気が冷え込む恐れもある。政府は成長戦略を一層推進して、企業が採用意欲を維持できる環境作りに取り組んでもらいたい。

 大企業の採用は峠を越え、来年4月の就職率の動向の鍵を握るのは、中小企業である。大学は中小企業との仲介に努めて、一人でも多くの学生が職に就けるよう支援するべきだ。

 残念なのは、せっかく就職しても、約3割の新卒者が3年以内に離職してしまうことだ。

 厚生労働省や経団連は、採用選考の際、卒業後3年以内は新卒扱いとするよう企業に求めている。だが、技能が身に着かない内に辞めると、再就職は難しい。

 学生は、それを肝に銘じて、就職先を選ぶことが大切だ。

2013年11月17日日曜日

電力とガスは市場改革で歩調をそろえよ

 電力市場を段階的に改革する改正電気事業法が成立した。順調に進めば、消費者は電力会社を自由に選べるようになる。都市ガス市場の改革を議論する経済産業省の委員会も始まった。

 共通するのは電力やガス会社の地域独占を崩し、多様な企業の参入を促す狙いだ。そのためにはエネルギー産業全体で改革の歩調をそろえる必要がある。電力やガス会社が垣根を越えて互いに参入し、料金やサービスを競う環境を整えなければならない。

 今回の法改正は3段階で進める改革の第1弾となる。まず2015年に電力の需給を全国規模で調整する組織をつくる。改めて電気事業法を改正したうえで、16年にも電力小売りを全面自由化する。18~20年には電力会社の発電と送電部門を分離し別会社にする。

 今は家庭や小規模店舗は地域の電力会社からしか電気を買えない。全面自由化になれば、買い手が電力会社を選ぶ。売り手はより安い料金や魅力あるサービスを提供する必要に迫られる。

 太陽光や風力発電だけでつくった電気だけを販売したり、電力事業に参入したガス会社がガスと電気を一緒に売ったりすることも考えられる。消費者の生活様式や好みにあわせた工夫に期待したい。

 電力改革に遅れずに、ガス市場も改革に踏み出すべきだ。家庭向けのガスは地域のガス会社からしか買えない。小売りの全面自由化が必要だ。都市ガス原料の液化天然ガス(LNG)は電力や石油会社も輸入している。これを使ったガス販売への参入余地は大きい。

 電力改革では新規参入する事業者が送電線を公平で安価に使える仕組みを整える。ガス事業での送電線にあたるパイプラインやLNGの貯蔵施設を新規事業者が平等に使えるようにする必要がある。

 ただし、電力やガス市場を自由化しても、安定供給が損なわれては意味がない。多様な事業者が参入しても混乱が生じないようにする事前の制度設計が大切だ。

 市場改革は電力やガス会社が変わる好機である。競争を通して経営効率化に取り組まねばならない。電力会社は電力だけ、ガス会社はガスだけ売るのではなく、幅広くエネルギーを扱う「総合エネルギー会社」に脱皮すべきだ。消費者の要望に応える多様なサービスが可能になり、LNGの取扱量が増えれば資源国との調達交渉を有利に運ぶ材料にもなるはずだ。

仕上げに入った「平成の皇室」

 天皇、皇后両陛下の意向にもとづき、お二人の葬儀、埋葬のあり方を検討してきた宮内庁が概要を発表した。内容がどの程度両陛下の考えに沿ったものかには疑問もあるが、天皇の存命中にこうした発表があるのは異例である。

 両陛下が望む「国民とともにある皇室」にふさわしい動きと受けとめ、評価したい。今後は葬儀の場所や具体的な次第、さらには国事行為として内閣が行う「大喪の礼」について、情報を広く公開しながら、検討を進めてほしい。

 発表された概要によれば、両陛下は火葬され、大正、昭和両時代の天皇、皇后と同じ武蔵陵墓地に埋葬される。お二人の陵(墓)は寄り添うように並んでつくられ、広さは昭和天皇、香淳皇后の陵の8割ほどになるという。また、火葬施設はその都度武蔵陵墓地につくることにした。

 こうしたことが両陛下の考えにどれほど合致しているのかは、はっきりしない。両陛下の意向は要約すれば「簡素化」である。伝統との兼ね合いは大切だとしても、十分に簡素化が図られたのかどうか、疑問が残るからである。

 ただ、天皇が死後の意向を公にし、存命中に葬儀や埋葬のあり方が発表されることは、昭和の時代までは考えられなかった。平成に入って25年、新憲法下で即位した陛下と皇后さまが目指してきた「新しい皇室像」づくりが仕上げの段階に入った証しともいえる。

 両陛下によって、国民と皇室との間は明らかに近づいた。それは両陛下が実践を通じて強く望まれてきたことでもある。

 天皇や皇后の葬儀のように大規模な儀式は、ともすれば過去の例を踏襲しただけの形になりがちである。不十分であったにせよ、国民に変化が見える形で両陛下の意向が反映した意味は大きい。

 式場をどこにするか。一般の告別式にあたる国の行事「大喪の礼」はどう運営するのか。葬儀をめぐる今後の課題について、宮内庁や政府は国民に分かりやすく議論を進めることが大切だろう。

天皇の葬送―「お気持ち」を尊ぶ形に

 できるだけ国民生活への影響の少ないものとすることが望ましい――。

 天皇、皇后両陛下が、ご自身の葬儀や、お墓にあたる陵について「お気持ち」を公表した。

 宮内庁は、その意向を受けた形の方針をまとめた。陵の規模を小さくし、土葬を火葬に改めるという。

 「お気持ち」には象徴天皇としての深い信念が込められていよう。それを尊重しつつ粛々と準備を進めるべきだ。

 宮内庁によると、陵の敷地は天皇と皇后を別々にせず、同じ敷地内にお二人の陵を並べる。全体の面積は、昭和天皇と香淳皇后の陵と比べると8割ほどになるという。

 近世から昭和天皇まで土葬は皇室の伝統だった。江戸期以前は火葬もあった。今回の方針では、いまの国民に一般的な形に近づく。

 一方で、火葬の施設は葬儀ごとに新設するという。やや縮小したとはいえ、陵の形式や葬儀の手続きなどは、戦前のルールを踏襲している。

 火葬施設について、ご夫妻は「節度をもって必要な規模にとどめてほしい」と述べている。全体に、宮内庁方針よりさらに簡素なかたちが心にあるのではないか、と考えさせられる。

 葬儀の場所や儀式の詳細はまだ決まっていない。宮内庁は安易な前例踏襲とならないよう、創意工夫を尽くすべきだ。

 象徴天皇制での葬送のあり方は本来、1989年の昭和天皇逝去の際に論議すべきだった。だが結局、大正天皇と大きく変わらない形で行われた。

 今回の方針は将来の天皇の葬送の基準となりうる。健在なうちにみずから問題提起したご夫妻の真摯(しんし)な姿勢に、共感を感じる人は多いことだろう。

 課題は、神事を伴う皇室行事としての葬儀と、政府主催である「大喪の礼」の切り分けだ。

 昭和天皇のときには東京・新宿御苑で二つが連続して行われ、政教分離の観点から批判が向けられた。政府はその区別を明確にし、大喪の礼から宗教色をなくさねばならない。

 天皇逝去の際について考えることがタブーでないことはご夫妻が自ら示している。とくに国内外から多くの人が集まる大喪の礼のあり方については、オープンに論議すべきだろう。

 昭和天皇逝去のときは、さまざまな行事が長らく中止され、結婚式を延期するなど国民生活に「自粛」の空気が広がった。

 ご夫妻が、そんな行き過ぎた制約を望んでいないのは「お気持ち」から明らかだろう。

日展の疑惑―抜本改革を進めるとき

 談合で作品の評価が決まる。選ばれれば金銭で謝礼を払う。そんな公募展ならば、まっとうな芸術の追究とは言えまい。

 美術の世界で106年の歴史をもつ公募団体展・日展に疑惑が浮上している。

 「書」の一部門で09年、書道界の重鎮が、有力8会派に入選者数を割り振るよう審査主任に指示していた疑いがでている。

 文化庁は日展に対し調査を求めた。日展は「書」など全5科の関係者を含む調査委員会と、元最高裁判事らによる第三者委員会を立ち上げ、今月中に結果をまとめる予定だ。

 日展は昨年4月、内閣府から公益社団法人に認定され、税制面で優遇されている。1万円で誰でも応募でき、1万3千もの作品が集まる公募展である。

 09年にとどまらず、今年まで各年の選考がどう進められてきたのか、徹底調査が必要だ。

 疑惑の焦点に立つ書道界の人物は本紙の取材に対し、09年度の指示は否定したが、その後は審査前に日展理事らで合議し、入選者数を有力会派に割り当ててきたと認めている。

 別の取材では、洋画でも、団体の規模に応じ、審査員を割り振ったと幹部が認めている。特選10人を決める時には「うちの団体から3人入ってしかるべきだ」などと主張するという。

 それが本当なら、作品の質ではなく、組織の利益配分を優先した談合というほかない。

 とりわけ「書」は師匠の「お手本」を写すので、有力会派の師匠の作品に似ていると一目でわかる作品が入選しやすいと指摘されてきた。

 抜本改革に乗り出すしかないだろう。審査に有識者など外部の目を入れるほか、審査員が属する団体の作品については選考に関与しないといった改善策が最低限必要ではないか。

 談合のほかに、金銭授受の疑惑も出ている。入選や特選になれば、会派代表の作品を買ったり、謝礼を支払ったりすることが慣例化しているという。

 とくに「書」はその傾向が強いとされる。かつて専門誌が読者に「書を学んで不満に思うこと」を調べたら、「お金がかかる」がトップだった。

 日展は特選2回で審査員・会員となり、出世の階段をのぼるシステムだ。それは美術の国際潮流から外れ、日本の美術界でも存在感が薄れている。

 それでも、文化勲章受章者を輩出した歴史のある公募展である。その存在価値を守るうえでも、身内の論理だけで現状を続けるべきではない。組織のあり方から見直してはどうか。

秘密保護法案 将来の「原則公開」軸に修正を

 安全保障戦略の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)の機能を充実させる上で、欠かせない法整備だ。

 国民から疑念を抱かれぬよう、与野党は議論を尽くし、合意点を探ってもらいたい。

 自民、公明両党は、機密情報を漏らした公務員らの罰則を強化する特定秘密保護法案について、日本維新の会、みんなの党とそれぞれ修正協議に入った。与党時代に同様の法制を検討した民主党も、修正協議に参加すべきだろう。

 日本を巡る安全保障環境が厳しさを増し、情報漏えいのリスクも高まっている。外国と重要情報を交換し、共有するには、機密漏えいを防止する仕組みが必要だ。

 修正協議は、そうした基本的な認識を踏まえてのものだ。この動きを注視したい。

 衆院国家安全保障特別委員会での審議や修正協議では、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野とした特定秘密の範囲が、大きな論点になっている。

 政府が特定秘密の対象を際限なく拡大し、都合の悪い情報を秘匿しかねないとの懸念は根強い。

 特定秘密の有効期間は上限5年で更新可能だが、内閣が承認すれば30年を超えても期間を延長できるため、半永久的に情報が秘匿されるといった批判もある。

 重要なのは、一定期間後に特定秘密情報を「原則公開」すると明示することではないか。後日あるいは遠い将来でも、公開するとなれば、政府の恣意しい的な指定に歯止めをかける効果が期待できる。

 相手国のある場合や、暗号など例外的に秘密指定を解除できない情報もあろう。一律解除を法案に盛り込むのは、無理がある。

 特定秘密の指定の妥当性をチェックするため、第三者機関の設置が論議されている。だが、大量の秘密情報を部外者が適切に判断できるのか疑問だ。行政機関の長が、国家戦略や国益を考慮し、自らの責任で判断するしかあるまい。

 安倍首相は、特定秘密を含む文書を指定解除後、国立公文書館に移管し、公開する意向を示した。後世の検証を可能とするようなルール作りが不可欠である。

 「知る権利」の保障も論議になった。特定秘密が流出した場合、報道機関が捜査対象になるかどうかに関し、谷垣法相は「一概に言うことは難しい」と答弁した。

 仮に、捜査当局の判断で報道機関に捜査が及ぶような事態になれば、取材・報道の自由に重大な影響が出ることは避けられない。ここは譲れない一線だ。

自動車課税 公平な負担へ議論を尽くせ

 消費増税に伴う自動車課税の見直しが、年末の税制改正論議で大きな争点となってきた。

 政府と自民、公明の与党は、財源の確保と景気への影響に目配りした現実的な解決策に知恵を絞るべきである。

 政府が2015年10月に消費税率を10%へ予定通り引き上げる場合、与党は車の購入時に課している「自動車取得税」を廃止する方針を掲げている。

 自動車販売が消費増税で落ち込めば、景気の足を引っ張りかねない。取得税は、消費税との「二重課税」との批判も受けてきた。取得税の廃止は適切だろう。

 地方税である取得税は13年度で1900億円の税収が見込まれ、地方財政の一端を担っている。

 問題は取得税の撤廃で不足が生じる財源をどう確保するかだ。

 総務省は、軽自動車の所有者が毎年納める「軽自動車税」の増税などで賄う案をまとめた。

 現在の軽自動車税(自家用)は年7200円で、排気量1000cc以下の小型の自家用車にかかる「自動車税」の年2万9500円と比べると、税負担は約4分の1に過ぎない。

 「バランスを欠いている」というのが総務省の主張だ。

 排気量660cc以下が軽自動車の基準だが、最近、軽自動車と小型車の価格や燃費などの差が縮まっている。新車販売の約4割を占めるなど人気が高い。

 税負担の違いの見直しを狙う総務省案は、検討に値する。

 自動車業界や経済産業省はこれに猛反発している。業界首脳らは記者会見し、「財源を軽自動車税にするなら取得税廃止が無意味になる」と述べ、車以外への課税で賄うべきだと訴えた。

 軽自動車が交通手段の乏しい地方を中心に「生活の足」として役立っている点も強調した。

 ただ、自動車の走行で道路や環境に負荷がかかり、維持や保全に費用が発生する。老朽化した道路の修繕や更新の財源の手当ては地方自治体の深刻な課題である。

 取得税廃止による税収の穴を車以外の課税で全て埋めるのは難しい。受益者負担として一定の課税を迫られるのはやむを得まい。

 自動車関係の税収は合計で8兆円近くに上り、消費者の負担が重すぎるとの批判も根強い。環境性能の高い車を優遇するエコカー減税の拡充を望む声もある。

 政府・与党は、取得税と軽自動車税の問題にとどまらず、自動車課税全体を見渡し、公平な課税の在り方を議論すべきだ。

2013年11月16日土曜日

疑念消えぬ秘密保護法案に賛成できない

 特定秘密保護法案の審議が国会で続いている。政府・与党は並行して野党側との修正協議を急ぎ、今国会中に成立させる構えだ。

 安全保障にかかわる機密の漏洩を防ぐ枠組みが必要なことは理解できる。だがこの法案は依然として、国民の知る権利を損ないかねない問題を抱えたままだ。

 これまでの国会審議では、疑念がむしろ深まった印象さえある。このままの形で法案を成立させることには賛成できない。徹底した見直しが必要である。

 法案では防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、特に秘匿すべきものについて各省の大臣が特定秘密に指定する。公務員がこれを外部に漏らした場合は、最長で懲役10年の刑罰を科す。

 法案が定めた秘密に指定できる範囲は、曖昧で広すぎる。政権や省庁が不都合な情報を隠すなど恣意的に利用するおそれがある。何が秘密なのか分からないまま、秘密が際限なく広がってしまう。

 指定できる対象は徹底して絞り込み、明確にしなければならない。そのうえで指定の適否を判断する第三者機関が必要となる。

 指定の期間は5年だが、何度でも延長できるので、永遠に秘密とされる可能性もある。最後は指定を解いて開示し、後世に検証できる仕組みが欠かせない。どうしても開示できない内容のものは、「護衛艦の性能」「自衛隊の暗号」などと理由を説明すべきだ。

 機密の漏洩でどのような場合が罪になるのかや、刑の重さについても、さらに見直しが必要ではないか。いまのままでは公務員が必要以上に萎縮してしまう。漏洩させた側にも広く刑罰を科す余地が残っているため、報道の自由を侵害し、意見が言いにくい息苦しい社会にしてしまう懸念がある。

 国会の審議では防衛相も務めた与党議員が、日々新聞が報じている首相の動静も秘密にあたるのではないかという指摘をした。懸念を裏付けるような発言である。

 法案を担当する森雅子少子化相は、成立後に秘密指定のあり方などを見直す可能性に触れた。不断の見直しといえば聞こえはいいが、懸念を解消しないまま成立を目指す姿勢は問題ではないか。

 法案が成立すると、国政調査権や国会議員の活動を制約するおそれもある。三権分立の根幹にかかわるこうした議論も深まっていない。このまま拙速に成立を急げば、将来に禍根を残すだろう。

日本だけを残した韓国外交

 ロシアのプーチン大統領が韓国を公式訪問し、朴槿恵(パク・クネ)大統領との会談で、極東開発を含めた経済協力の強化や対北朝鮮政策の連携などを確認した。

 2月に就任した朴大統領は、9月にロシアで開いた20カ国・地域(G20)首脳会議の場でプーチン大統領と個別に会っているが、本格的な2国間会談は初めてだ。

 韓国は従来、米国、日本、中国、ロシアの4カ国との外交をとくに重視してきた。朴大統領はすでに米国と中国を公式訪問している。ロシア大統領の訪韓により、米中ロとの公式協議を終えたことになる。残るは日本だけだ。

 朴大統領は歴史問題をめぐる安倍政権の言動に反発し、日韓の首脳会談には否定的だ。先の欧州歴訪の際も「日本の指導者が過去の歴史問題で後ろ向きな発言をしている」などと批判した。

 今回、韓ロの首脳会談後に発表した共同声明にも「歴史に逆行する言動がもたらす障害によって、北東アジアの強い協力が完全に実現できていない」と憂慮する一文が盛り込まれた。日本へのけん制だろうが、疑念があれば直接、日本の指導者にぶつけてほしい。

 日韓は朴大統領も認めるように「重要な隣国」だ。経済のつながりも深い。それなのに、歴史問題で成果が見込めそうにないから会わないというのでは前に進まない。歴史問題を含めて首脳同士が胸襟を開いて話し合い、打開の道を探っていくのが筋だろう。

 韓国では戦時中に日本に徴用された韓国人への賠償を日本企業に求める判決が相次いでいる。日韓の先行きを懸念し、日本の対韓投資は冷え込み始めた。福島第1原子力発電所の汚染水漏れを理由に、韓国政府が日本の水産物を禁輸した問題も抱える。ただでさえ日韓の懸案は山積している。

 最近は韓国メディアにも、朴政権のかたくなな対日強硬姿勢を疑問視する論調が出始めた。日本としては韓国世論の動向も注視しつつ、首脳会談の早期実現を粘り強く呼びかけていくべきだ。

特定秘密保護法案―成立ありきの粗雑審議

 特定秘密保護法案の審議が衆院の特別委員会で続いている。自民、公明の与党は、来週中に衆院を通過させる構えだ。

 審議を聞くにつけ、この問題だらけの法案を、こんな粗雑な審議ですませるつもりなのかという疑念が募るばかりだ。

 あぜんとするしかない答弁があった。

 法案担当閣僚の森雅子氏が与党議員の質問に、「さらなる改善を今後も、法案成立後も尽くしていく努力もしたい」と答えたのだ。これでは法案に欠陥があるのを自覚しながら、まずは成立ありきの本音を認めたのと同じではないか。

 菅官房長官は記者会見で、「法案成立後、運用の段階で不断の見直しを行っていくのは、ある意味で当然のこと」と森氏をかばった。

 だが、国民の権利を制限し、民主主義のありように大きな影響を与えかねない重要法案である。そんな一般論で片づけるのはあまりに強引だ。

 森氏の答弁には、ほかにもぶれが目立つ。

 秘密漏洩(ろうえい)で報道機関が強制捜査の対象になるかと問われ、森氏は「ガサ入れ(家宅捜索)が入るということはない」といったんは明言。ところが谷垣法相は「具体的事例に即して検察が判断すべきものだ」と答えた。

 また、この法案作成にからむ政府文書がほぼ全面墨塗りで開示されたことに対し、野党議員が全面開示を求めると、森氏は「開示できると思う」。これには内閣官房の官僚がすぐさま「検討する」と言い直す。

 どちらが政府の見解なのか、わからない。いずれにせよ、その場しのぎの答弁と言われてもしかたあるまい。

 来週中の採決をにらみ、与党は日本維新の会などとの間で修正協議に入っている。

 与党は、秘密指定の期間を「原則30年」とする程度の譲歩には応じる構えだ。とはいえ、外部からの検証メカニズムがないまま、実質的に官僚の裁量で幅広い情報を秘密に指定できるという法案の骨格を動かすつもりはなさそうだ。

 修正したとしても、残り数日間の審議で採決しようというのでは、乱暴きわまりない。

 与党は野党の要求を聞き入れた、野党は与党に法案の欠陥を認めさせた。こんなことを示す国会戦術のための微修正なら、まったく意味はない。

 それではすまない重たい問題をはらんだ法案だ。この短い臨時国会で議論が尽くせるわけがない。ここはやはり、廃案にするしかない。

特定秘密保護法案―身近な情報にも影

 国家秘密なんて大それたものに自分がかかわることはまずない。特定秘密保護法案は遠い世界の話だ。そう考えている人は多いのかもしれない。

 でも、本当にそうだろうか。この法案は、一歩間違えれば生活にかかわる情報が市民に明かされなくなる危険をはらむ。

 法案のいう「特定秘密」には「テロ防止のための措置」が含まれる。重要施設への警察の警備態勢などがこれに当たる。

 問題は、テロ防止の必要性をもちだせば、何でも秘密にされかねないことだ。

 今でもこんなことがある。

 電磁波による健康被害を心配した神奈川県鎌倉市の市民が、携帯電話の中継基地局の場所の公開を求めた。市は昨年、「破壊活動を誘発する恐れがある」として非開示を決めた。

 社会の基盤となる施設を守る必要はわかるが、外から見える施設である。これで法案が通ったら、全国でどれだけ多くのインフラ情報が伏せられるのか。

 国がテロを防げと情報秘匿を強めれば、自治体も住民への周知よりセキュリティー優先に傾く。法案は自治体の情報公開を後退させ、やみくもな情報隠しを招きかねない、と情報公開に詳しい弁護士らは懸念する。

 原発や基地に限らず、さまざまな生活インフラにも事故や健康被害のリスクはある。市民生活と無縁ではない。

 警察情報を除けば、自治体の持つ情報は「特定秘密」には当たらない。が、多くの自治体の情報公開条例には、法令の定めや国の指示があれば情報を非公開にできる規定がある。

 秘密保護法に対応するため、自治体が条例にテロ防止関連の規定を新設する可能性もある。

 国が秘密にするつもりのない情報まで自治体が伏せてしまう「過剰反応」も起こりうる。

 前例がある。個人情報保護法ができたときだ。災害時に自力で逃げられない要援護者の情報を、消防や自治会に提供しない自治体が問題になった。

 このときは国が過剰反応を防ぐよう自治体に通知したが、今回は国が自ら秘密のハードルを下げるとは期待できない。そもそも何が秘密にあたるか例示もろくにしていないのに「そんなことまで秘密にしなくていい」と啓発のしようもない。

 情報は本来、社会のみんなのためにある。大原則は公開であり、秘密が許されるのは安全上やむをえない場合に限られる。

 この法案はその原則と例外をひっくり返し、秘密の範囲を際限なく広げかねない。そこに根本的な欠陥がある。

教科書検定基準 領土と歴史の理解に役立つ

 子供たちが学ぶ教科書には、自国の領土や歴史についての正しい記述が不可欠である。

 下村文部科学相が、教科書検定基準を見直す方針を表明した。来年度の検定からの適用を目指す。

 見直しの柱として、政府の統一見解があれば、必ず記述するよう求めた点はうなずける。

 領土や歴史認識に関し、中国や韓国との対立が目立つ。日本の立場を教えることは、他国との関係を正しく理解する助けになる。国際社会で日本の正当性を発信する人材を育てる上でも重要だ。

 日本固有の領土である竹島については、韓国が不法占拠している。日本が有効支配している尖閣諸島を巡っては、日中間に解決すべき領有権問題は存在しない。

 韓国との間には、いわゆる従軍慰安婦問題や、戦時中に徴用された韓国人労働者の賠償請求権に絡むあつれきも生じている。

 1965年に日韓両国政府が締結した日韓請求権協定には、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。個人請求権の問題は解決済みだ。

 こうした日本政府の立場を教科書で伝えることは大切だ。

 検定基準の見直しでは、通説が定まっていない事項について、断定的な記述をしないことも盛り込まれる。教科書の客観性を担保する上で適切な措置だろう。

 例えば、1937年の南京事件の犠牲者数は確定していない。日本では数万人から20万人、中国では30万人以上など諸説がある。

 このような事例を扱う際には、特定の歴史観に偏らないバランスのとれた記述が欠かせない。

 教科書検定に関し、安倍首相は4月の国会答弁で、愛国心などの涵養(かんよう)をうたった改正教育基本法の精神が生きていないとの認識を示した。自民党の特別部会も「自虐史観の記述がある」として、検定基準の改善を要望していた。

 ただ、近隣アジア諸国への配慮を求める近隣諸国条項については今回、見直しが見送られた。

 1982年、教科書で旧日本軍の中国「侵略」が「進出」に書き換えられたとの誤報を機に、中国と韓国が反発し、それを沈静化させるために設けられた条項だ。

 だが、その後、教科書会社や執筆者が自己規制するなどの副作用も出てきた。

 グローバル化が進む現代社会では、近隣諸国に限らず、他国を尊重する姿勢が求められる。

 近隣諸国条項は歴史的役割を終えつつあると言える。

被曝の新基準 場の線量から個人の線量に

 東京電力福島第一原子力発電所事故からの復興を阻む要因と指摘される「1ミリ・シーベルトの神話」を脱する一歩になる。

 事故原発の周辺地域の住民帰還へ向け、原子力規制委員会が、「被曝ひばく対策の基本的な考え方」の報告書案をまとめた。

 注目されるのは、住民が不安を抱く被曝線量について、「個人線量計を用いて実測し、評価することが基本」という方針を明確に打ち出したことだ。

 長期的な除染目標である「年1ミリ・シーベルト」についても、規制委案は個人線量に基づくとした。

 「空間線量年1ミリ・シーベルト」が危険と安全の境界という誤解の軽減につなげたい。

 これまでは、複数地点に設置された測定装置や航空機で測った空間線量を、被曝線量評価の基本としてきた。だが、この評価は過大で、実態を正しく反映していないとの批判があった。

 実際、文部科学省や福島県などが、県内各地で住民に個人線量計を持ってもらい実施した調査によると、被曝線量は空間線量の4分の1から7分の1だった。

 空間線量は現実には一様ではない。建物の中にいる時間の長さなど、個人の行動パターンによって被曝線量は異なってくる。

 除染などの汚染対策を効率的かつ着実に進め、被曝の影響を最小限に抑えるには、客観的なデータに基づいた評価が欠かせない。規制委の新たな考え方は、合理的で妥当なものと言えよう。

 与党が政府に提言した「福島復興加速化案」でも、住民帰還に際して個人線量計の活用を挙げている。一時帰宅などの際に個人線量計で実測値を知れば、不安が軽減し、帰還を促せると期待しているのもうなずける。

 福島県内では、個人線量に基づいた評価を、すでに先行して実施している地域もある。

 政府が設けた「福島県民健康管理基金」は、市町村の線量計無償貸与事業を補助している。環境省も、来年度予算の概算要求に個人線量計の配布を盛り込んだ。

 線量計は一個2000~3000円、1時間ごとに線量を記録できるものは2~3万円だ。住民への配布が不可能な価格ではない。普及を急がねばならない。

 線量計の使い方や測定値の解釈などについて、政府や自治体がきちんと説明し、相談に応じる体制作りも重要だ。必要な相談員をどう育成し、確保するか。規制委も専門的な知見を生かして、積極的な支援を進めるべきだ。

2013年11月15日金曜日

民需主導の景気回復につなげる努力を

 2013年7~9月期の実質経済成長率が前期比年率で1.9%となった。輸出の減少や個人消費の伸び悩みなどが重なり、4~6月期の3.8%を下回った。

 2%近い成長率はまずまずで、景気回復の基調に変化はないとの見方が大勢だ。だが公共投資の寄与度が高く、政策の効果に多くを頼っているのは否めない。

 個人消費や設備投資などの民間需要がけん引する景気回復の基盤を固めたい。財政出動と金融緩和の効果を生かすだけでなく、成長戦略の具体化も急ぐべきだ。

 7~9月期の成長率を押し上げたのは公共投資である。安倍政権の発足後にまとめた経済対策の効果だ。14年4月の消費税増税を控えた駆け込み需要が盛り上がり、住宅投資の伸びも高まった。

 一方、新興国の景気減速などを背景に輸出は減少に転じ、設備投資の伸びも鈍化した。株高の一服や物価の上昇が響き、個人消費もわずかな増加にとどまった。

 アベノミクスは円安・株高の流れを引き寄せ、個人や企業の心理を上向かせた。その効果もあって景気が持ち直し、デフレが緩和しつつあるのは間違いない。

 しかし民需の回復力になお不安が残るのも確かだろう。「輸出や生産の拡大→企業収益の改善→設備投資や雇用の増加、賃金の上昇」という好循環が本格的に始まったとは言い切れない。

 民需主導の景気回復を持続させ、成長の恩恵を企業から家計に波及させる必要がある。財政再建の一歩を踏み出す消費税増税を乗り切るためにも、日本経済を活性化する一層の努力が欠かせない。

 安倍政権は消費税増税の影響を和らげるため、5兆円規模の経済対策を新たに打ち出す。防災関連の公共事業、低所得者や住宅取得者への現金給付などが柱になる。無駄やばらまきを徹底的に排除し、本当に必要で経済効果も高い支出を選別してもらいたい。

 成長戦略も確実に実行しなければならない。産業の新陳代謝を促す産業競争力強化法案と、国際的なビジネス環境を整備する国家戦略特区法案は今国会で成立する運びだ。規制緩和や法人税減税などで企業の活力を引き出し、日本経済の底上げにつなげたい。

 こうした政策に呼応する企業の努力も必要だ。競争力の強化に必要な投資を怠り、従業員や株主への利益配分もためらうのなら、真の景気回復はおぼつかない。

米新大使の発信力をいかそう

 米国の新しい駐日大使キャロライン・ケネディ氏が着任する。日米の絆が一段と深まることを望みたい。

 歴代大使は(1)米政界の大物(2)実務的な外交官(3)大統領の親しい友人――が務めることが多かった。政官界の公職経験がなく、外交と縁遠かったケネディ氏はいずれの類型にも当てはまらない。手腕を不安視する声があるのは事実だ。

 とはいえ、暗殺されたケネディ元大統領の長女として米国で知らぬ者はない著名人である。その言動は歴代大使の比でないほど頻繁に米国で報道されよう。

 ワシントンの日本大使公邸であったお披露目のレセプションには米メディアが十数社も取材に来た。暗殺事件から今月でちょうど50年目の節目だということもあったろうが、この発信力を上手にいかさない手はない。

 20年におよぶ経済停滞の結果、世界の舞台での日本の存在感はかなり低下した。不安定な東アジア情勢を考えれば、日本の立場をオバマ大統領のみならず、米世論に訴えかけることができるパイプは貴重だ。日本には願ったりかなったりの人選といえよう。

 強い発信力は両刃の剣になり得る。ケネディ氏は女性の社会的地位向上の運動に携わってきた。従軍慰安婦問題などで安倍政権がうかつな言動をすれば人権軽視だとして遠慮なく批判するだろう。

 歴史問題を解きほぐそうと日本がしてきたアジア女性基金の設立などの努力を理解してもらう働きかけが欠かせない。

 オバマ大統領は政権で最初の駐日大使ジョン・ルース氏を広島と長崎の慰霊式典に初めて参列させた。20歳のときに広島の平和記念資料館を訪れたことがあるケネディ氏の起用にも持論の核軍縮への思いを印象付ける狙いがあろう。

 70年前に南太平洋で日本軍と死闘を演じたケネディ元大統領の娘が橋渡し役となり、現職の米大統領が被爆地を訪問すれば、日米の歴史に新たなページを開くことになる。実現に期待したい。

原発避難者の支援―現地事情くんだ選択肢を

 原発事故による避難が長びくなか、政府が全住民の帰還を前提とした政策から転換する。除染や健康対策のもとになる放射線量の基準も見直す。

 「すべてを事故前に戻してほしい」。被災者の思いはいまも変わらない。

 だが、事故から2年8カ月。それがかなわない現実もかみしめてきた。新しい土地で生活を始めたいと考える人が出てくるのは当然だ。支援の選択肢を広げることに異論はない。

■公平性をどう保つか

 気をつけるべきは、住民の間に新たな分断を生まないようにすることだ。

 「被災者一人ひとりの生活再建」を基本に、「帰る」「帰らない」を問わず、ていねいに対応していくしかない。

 全町民2万人が避難の対象となった福島県浪江町。帰る見通しが立たない「帰還困難区域」と、数年かけて線量を下げていく「居住制限区域」、比較的短い期間で戻れる見込みの「避難指示解除準備区域」に3分割されている。

 面積的には8割が帰還困難区域に当たるが、人口分布でみると1対2対2に分かれる。

 町の職員は言う。「人口の9割が帰還困難に集中する大熊町や双葉町、逆にそうした区域がない楢葉町などは、町としての要望や復興計画も出しやすい。しかし浪江町では、住民の置かれた環境が違いすぎる」

 例えば、移住に伴う新たな住まいの取得費支援だ。

 与党提案では、帰還が難しい区域の住民を念頭に支援の上積みがうたわれた。だが、それ以外の区域でも雨漏りやネズミの被害がひどく、実際には住めない家が少なくない。支援の対象が絞られれば、こうした世帯には手が回らない。

 財源も気になる。東京電力による賠償の積み増しという形なら、津波で流された家の場合、建屋部分は賠償の対象外だ。家屋が残る世帯との格差が広がることにもなりかねない。

 どう公平性を保つか。それぞれの地域が抱える事情をくみ取る必要がある。

 予算の使途や年限を細かく限定しすぎて使い勝手が悪くなるのでは、「国が前面に出る」意味がない。基金や一括交付金をもとに、被災自治体が実情に即して裁量をきかせることができるよう、工夫したい。

■健康対策とセットで

 被曝(ひばく)基準の変更も、「被災地の切り捨て」にならない配慮が求められる。

 原子力規制委員会の検討会は、年間の追加被曝線量を1ミリシーベルトとする除染基準は長期目標に▼帰還は年間20ミリシーベルトを下回ることが条件▼測定は、空間線量でなく個々人の線量計に基づく実測値で――とする提言案をまとめた。

 除染を進めた地域の線量は事故当初に比べ確実に下がっている。ただ、これまでの事例からも、1ミリシーベルトまで下げるのは難しい場所が少なくないことが浮かび上がっている。

 避難指示区域には含まれないが、いち早く除染に取り組んだ伊達市の責任者、半沢隆宏さんは「効果のないアリバイ除染は中止すべきだ。自然破壊を起こし、必要な政策の財源枯渇も招きかねない」と指摘する。

 1ミリシーベルトに固執しすぎて生活再建が進まないのなら、住民合意のうえで基準を見直すのも選択肢の一つだろう。

 ただ、高線量地域では除染自体がこれからだ。基準緩和がそのまま被曝対策の縮小や帰還努力の放棄につながりかねないことへの警戒感は強い。

 空間線量から実測値への転換も、個々人が日常的に放射線を測り記録を続ける態勢が整わなければ、必要なデータの収集すらできなくなる。

 保健師や相談員のきめ細かい配置、許容値を超えた場合の対処など、長期的な健康被害対策をセットで示すべきだ。

■住民参加の工夫を

 原発被害の深刻さを考えれば、全員が満足するような解決策を準備するのは難しい。

 そうした状況では、住民が結論に納得できるプロセスをどう確保するかが重要になる。

 互いの顔が見え、発言しやすい車座方式の小規模集会を重ねて結論を導き出す。復興計画や除染作業が円滑に進んでいる事例に共通するのは、そんな地道な取り組みだ。

 「自治」の力を育む――それがベストなき局面を乗り越える道になる。

時事問題

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