2014年12月31日水曜日

法人税の改革をさらに前進させよ

 自民、公明両党が2015年度の税制改正大綱をまとめた。国税と地方税の合計で差し引き約1200億円の減税(平年度ベース)となる。

 15年10月に予定していた10%への消費増税は17年4月に延ばす。法人減税など成長戦略に目配りしたものもあるが、全体としては抜本改正とはいえず課題を残した。

世界標準となお隔たり
 柱のひとつが法人税の減税だ。日本の法人実効税率は東京都の場合で35%台と、先進国では米国に次いで高い。15年度はまず税率を2.51%引き下げ、16年度分を含めた2年間で計3%超の引き下げをめざす方針を示した。

 政府は6月に「数年で20%台まで下げる」との方針を打ち出していた。その実現に向けた一歩を踏み出した点は評価できる。

 減税の財源となるのは、赤字企業にも負担を求める外形標準課税の拡大、企業が黒字を過去の赤字と相殺して納税額を減らせる繰越欠損金控除の縮小、企業が受け取る配当への課税強化などだ。

 こうした財源より実際の減税額が大きく、減税が先行するかたちだ。財源が用意できた範囲でしか減税をしないといった硬直的な姿勢をとらなかったのは当然だ。

 課題はある。たとえば繰越欠損金は、企業の黒字の8割まで認めている控除割合を将来的に5割に下げ、赤字の繰越期間をいまの9年から10年に延ばすという。

 しかし、ドイツや英国などでは繰越期間が無制限だ。控除割合も無制限の国が多く、日本のやり方は世界標準とほど遠い。

 その一方で、資本金1億円以下の中小企業は、引き続き外形標準課税が適用されない。リーマン・ショック後の特例として設けた中小企業向けの軽減税率も残す。

 個別業界向けの政策減税もほぼ手をつけずじまいだ。既得権益への切り込みが不十分で「とりやすいところからとる」という発想ではかえって税体系をゆがめる。

 英国が法人実効税率を20%に引き下げる予定など、世界的に法人税下げの動きは続いている。日本の立地競争力を高めるには、法人実効税率を将来25%程度まで下げることを視野に入れるべきだ。

 それには企業向けの課税ベースをさらに広げつつ、固定資産税や住民税といった法人課税の範囲を超えた税体系全体の改革が欠かせない。成長戦略の要である法人税改革をさらに進めるべきだ。

 ふたつめの柱は、高齢者から若年層への資産移転を促す税制だ。少子化対策として、20歳以上の子や孫に結婚、出産、子育ての資金を贈与した場合の非課税制度をつくる。子や孫に教育資金を贈与した際の非課税措置も延長する。

 株式などの運用益が非課税になる少額投資非課税制度(NISA)では、親や祖父母が子や孫の代理で専用口座をつくって投資する場合の非課税制度もつくる。

 1600兆円超の個人金融資産のかなりの部分は高齢者が持っている。これを子や孫に移せば、現役世代や将来世代の負担をやや和らげる効果はあるだろう。

 父母らの贈与で住宅を取得した場合の贈与税の非課税枠を拡充するのも、低迷する住宅投資の下支え策として理解できる。

 地方創生では、企業が本社機能を地方に移したり、地方拠点の雇用を増やしたりした場合の優遇措置をつくる。自動車の購入時や車検の際に低燃費車を優遇するエコカー減税の基準を厳しくするのも、環境対策の面から妥当だ。

所得税改革も取り組め
 問題は結論を先送りした部分だ。そのひとつが、専業主婦らがいる世帯の所得税を軽くする配偶者控除の見直しだ。

 パートで働く主婦らが年収を103万円の範囲内におさえようと就業を調整する例が多く、女性の就業を妨げているとの批判は多い。政府・与党は社会保険料を含めて働き方に中立的な制度のあり方を早急に詰めるべきだ。

 年金課税の見直しを素通りしたのも弊害が大きい。年金受給者に適用される非課税枠は現役世代のものより大きく、世代間の給付と負担の不均衡を助長している。消費税の軽減税率のやり方も引き続き課題だ。

 日本経済の最大の懸案は経済再生と財政再建の両立だ。税制はそのための大きな政策手段となる。消費増税の延期で、抜本改革の機運が遠のくようでは困る。

 法人税改革の宿題に答えを出すのと同時に、個人向け所得課税の改革に着手するときだ。社会保障分野を中心とする歳出の削減・抑制も、歳入改革と両輪で進めてもらいたい。

税制改革―「再分配」は置き去りか

 民間主導の自律的な経済成長は、アベノミクスの恩恵を受けた一部の家庭と企業が消費や投資を増やすだけでは難しい。偏る富を広く行き渡らせ、全体を底上げするために、税制の「再分配」機能を生かす視点が欠かせない。

 そう考えると、政府・与党が決めた税制改革には疑問符をつけざるをえない。

 まず、贈与税の非課税枠の拡大だ。

 13年度に創設され、「孫への贈与」と話題になった教育資金贈与の期限の延長に加え、結婚や出産、子育て向けの新たな非課税枠を設ける。住宅資金用の特別枠も大幅に広げるという。

 社会の一線を退きつつある世代がため込んだ資産を、何かと物入りな現役世代に移せば、消費を増やし、足元の経済の活性化にはつながるだろう。

 しかし、こんな富の移転では豊かな家族とそうでない家族の差は広がる。国民全体を支える政策の財源を確保するという税本来の目的にもそぐわない。

 企業への課税も心配だ。

 安倍首相の強い意向を受けて、企業の利益に課税する法人税(国税)を中心に実効税率を2・5%強、1兆円規模で減税する。それをある程度穴埋めするため、法人事業税(地方税)の外形標準課税を強化する。

 外形標準課税は、利益ではなく人件費の総額や資本金など「企業の大きさ」に基づいて負担を求める仕組みだ。現在は全法人の1%、資本金1億円超の企業が対象だ。赤字でも税金を納めることになるため、赤字法人課税と言われる税制である。

 今回の改革では、対象は広げずに外形課税を強める。法人税の減税と合わせれば、利益を出している企業の負担は軽くなり、稼げていない企業は負担増となる。

 企業にも、社会の一員として損益にかかわらず負担を求めることは必要だ。ただ、来春の統一地方選を意識して中小企業への適用拡大が検討すらされないなど、全体像を欠いた小手先改革の感が強い。

 足元では、輸出型製造業など一部の大企業に利益が偏っていることが課題なのに、それを助長することにならないか。

 安倍政権は、減税によって経済を活性化させようとする姿勢が強い。しかし、持てる家庭や企業からしっかり税金をとり、さらには予算編成を通じて、再分配を意識した政策運営を心がけることも大切だ。

 それが国民の暮らしを支え、経済全体を成長させるのではないか。

沖縄冷遇―政府対応は大人げない

 あまりにもこわばった政府の対応ではないか。

 11月の沖縄県知事選で当選した翁長(おなが)雄志(たけし)知事が先週、就任あいさつで東京に出かけた。ところが、沖縄関連の閣僚との面会はほとんど実現しなかった。

 新内閣発足直後の慌ただしい時期であることに配慮し、翁長知事は「名刺だけでも」と日程調整を試みたが、安倍首相、岸田外相、中谷防衛相だけでなく、沖縄基地負担軽減担当でもある菅官房長官にも会えずじまい。山口沖縄担当相だけが応じた。菅氏は記者会見で「年内はお会いするつもりはない」とまで言い切った。

 地元では「沖縄を冷遇」と大きく報じられ、県民の怒りを買っている。

 翁長知事は政府の方針に反対し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設阻止を訴えて当選した。保守系の翁長氏が移設反対に回った沖縄の現実を、政府は直視する必要がある。むしろ何を置いても政府側が新知事に理解を求めに出かけるのが筋だろう。政府の対応は大人げない。

 さらに政府は沖縄振興予算の減額まで検討し始めた。地元の反発は増幅するばかりだ。

 昨年のクリスマス、首相官邸で安倍首相と菅官房長官が当時の知事、仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)氏に概算要求を上回る3500億円の予算などを約束した。仲井真氏が移設に伴う埋め立てを承認したのは、その直後だった。

 あれから1年。政府の態度は冷たく一変したのである。

 政府は、基地問題と振興策はリンクしないと説明し続けてきたはずだ。移設容認の見返りに振興予算を使ったと、自ら示したようなものではないか。

 安倍首相は「沖縄に寄り添う」と言ってきた。ならば、振興予算を取引材料にするようなやり方はやめ、沖縄との対話の道を探るべきだ。「辺野古移設しかない」という政府の理屈には、沖縄県民の多くが強い疑念を抱いている。だからこそ、説明と対話が不可欠だ。

 知事選後の衆院選でも、沖縄の4小選挙区とも辺野古移設反対派が制した。こうした民意を背負った翁長知事に対する一連の政府の対応は、知事を容認に転向させる揺さぶりとみられるが、逆効果しかないだろう。

 26日深夜、沖縄に戻った翁長氏を励まそうと、80人近い県民や議員が那覇空港ロビーで出迎えた。そこにいた名護市民の男性が言った。「こんな仕打ちを受けると、ますます沖縄と政府の溝が深まる」。政府にぜひ、この声を受け止めてほしい。

与党税制大綱 経済再生へ着実に改革進めよ

 経済成長に資する税制の見直しが、一歩前進したと言えるだろう。

 自民、公明両党が、2015年度与党税制改正大綱を策定した。内容は政府がまとめる来年度予算案と税制改正関連法案に反映される。

 最大の焦点だった法人税の実効税率は、現在の34・62%(標準値)から、15年度に2・51%、16年度に0・78%以上引き下げることで決着した。

 実効税率の引き下げは、産業の空洞化に歯止めをかけ、海外から日本への投資を促す効果が期待される。経済政策「アベノミクス」が掲げる成長戦略の柱だ。

 大綱が、欧州やアジア諸国並みの20%台への引き下げに一定の道筋を示したことは評価できる。

 地方に本社や研究施設を移転・新設した企業の法人税を軽減する制度を創設する方針も示した。

 高齢者が、子や孫に結婚や出産、育児といった費用を援助する場合は、一定額まで贈与税を非課税とする制度も新設する。

 高齢世代から若い世代への資産移転を促し、消費拡大などに役立てるという狙いは妥当だろう。

 成長強化や地域活性化に税制の後押しは有効だ。与党は今後も、経済再生につながる税制改革を、着実に進めなければならない。

 気がかりなのは、法人税減税に伴う税収の減少額を埋める財源を十分確保できなかったことだ。

 15年度の実効税率引き下げには1兆円強の財源が必要になる。

 与党は、赤字企業でも事業規模に応じて納税する外形標準課税の拡大などで財源の一部を捻出したが、全額は賄えなかった。

 特定業界の法人税負担を軽減する租税特別措置の縮小をごく一部にとどめた影響が大きい。

 当面の財源不足を景気回復に伴う税収の上振れ分で補うのはやむを得ないが、厳しい日本の財政事情を考えると、財源不足の状態はいつまでも放置できない。

 20%台への引き下げの実現に向け、租税特別措置などの大胆な改革に踏み込むべきである。

 食料品など必需品の消費税を低く抑える軽減税率の導入時期を巡る議論も、決着は見送られた。

 大綱は「17年度からの導入を目指す」とし、自公連立政権の合意内容を踏襲するにとどめた。

 消費税率を17年4月に10%へ引き上げるのと同時導入を唱える公明党と、それに慎重な自民党との意見対立は解消できなかった。

 与党は導入時期の合意を急ぎ、対象品目の選定作業などを加速していかねばならない。

性犯罪の罰則 深刻な被害に見合う法改正を

 性犯罪は被害者の心身に深刻なダメージを及ぼす。強姦は「魂の殺人」とさえ言われる。

 被害の重大さに見合うよう、罰則を厳しくするのは、有力な選択肢だろう。

 法務省の有識者検討会が、性犯罪の罰則の見直しを議論している。強姦罪の法定刑の引き上げなど、10項目が対象だ。罰則強化が必要との結論になれば、法務省は刑法の改正手続きに入る。

 刑法で強姦罪の刑の下限は、懲役3年となっている。強盗罪の5年よりも短く、「物を奪う罪よりも軽いのはおかしい」といった声が多い。国連の人権委員会からも再三、是正を求められてきた。

 裁判員裁判の判決では、性犯罪の量刑が裁判官のみの裁判よりも重くなる傾向にある。検察の求刑を上回る判決も出ている。

 卑劣な犯罪に対する国民の厳しい処罰感情を考慮すれば、厳罰化は自然な流れだろう。

 刑法の強姦罪と強制わいせつ罪は、被害者の告訴を起訴の要件とする親告罪だ。この要件撤廃の是非も重要な論点だ。

 被害者の多くは、警察に出向いて告訴手続きをすることに大きな心理的負担を感じる。「事件を思い出したくない」という思いも強い。性被害に対する周囲の偏見や加害者の逆恨みなどを恐れ、告訴を断念する例も少なくない。

 検討会では、「被害者が年少者で自ら告訴できない場合でも、事件化が可能になる」と、撤廃を支持する意見が出た。一方で、「被害者の意思を担保する制度が必要だ」との慎重論も示された。

 非親告罪にするのであれば、捜査や裁判の過程で被害者が再び傷つく二次被害を防ぐ必要がある。警察・検察がプライバシー保護などを徹底することが重要だ。

 検討会が被害者や支援団体などに行ったヒアリングでは、「暴行・脅迫」がないと成立しない強姦罪の要件を緩和すべきだとの要望があった。被害者が恐怖のあまり声を出せず、抵抗できないまま被害に遭う場合があるからだ。

 親や上司といった優位な立場を悪用した犯行には、加重処罰を求める声も上がった。

 性犯罪は、再犯率が比較的高いため、加害者対策として、専門医によるカウンセリングなどの治療の充実を求める意見もある。

 2010年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画は、罰則の見直しをはじめとする性犯罪対策の推進を、15年度末までの課題としている。検討会の議論を加速させねばならない。

2014年12月30日火曜日

企業の公的支援で自由競争をゆがめるな

 個別企業への公的支援をめぐって公正取引委員会が指針作りに乗り出す。政府による恣意的な支援で特定の企業が強くなりすぎて、市場競争をゆがめる事態があってはならない。指針策定は遅すぎた感もあるが、公取委は公正競争の実現に全力を尽くしてほしい。

 企業への公的支援について、信用システムを守るために銀行に公的資金を注入する例は前々からあった。だが支援の対象が広がり、通常の事業会社まで救済されるようになったのは2008年の世界金融危機などがきっかけだ。

 米国では自動車大手の再建に政府資金が投じられた。日本でも経営破綻した日本航空に対して、当時の民主党政権は公的資金を投じて再建を支援した。

 その結果、日航は世界的にも高収益の航空会社に変身し、自助努力を重ねるANAホールディングスとの財務格差が広がった。それに対して、自民党などから「政府の過剰支援が不公平を招いた」という声が高まったのが、今回の指針作りの背景である。

 まず確認したいのは、個別企業への公的支援はあくまで例外的な措置であり、乱用してはならないという原則である。経営に失敗した企業が市場から退出することで、産業の新陳代謝が進む。

 この原則を踏み越えて公的支援を実施する際は、例えば東京電力に対する政府の出資のように「福島第1原子力発電所事故の賠償や廃炉を着実に進める」「電力の安定供給を守る」といった説得力のある理由が必要だ。

 次に支援する場合でも競争のゆがみを最小化する配慮が欠かせない。日航の支援について、所管する国土交通省の研究会は後から振り返り「競争環境確保の配慮に欠けた」と反省の弁を口にした。

 支援の影響を完全に消し去るのは難しいが、再建計画の策定段階で競合他社の意見を聞いて反映させる仕組みがあれば、「過剰支援」の批判は小さかっただろう。

 後から慌てて羽田空港の発着枠をANAに厚く配分したり、新興航空会社スカイマークの提携先選びをめぐって政府が口を挟んだりといった、過度の行政介入とも受け取られかねない事態は避けられた可能性がある。

 自由競争の守り手である公取委は競争環境がゆがまないよう監視し、必要なら是正措置をとるべきだ。公正競争が阻害されかねない時は公取委の出番である。

関電は経営合理化へ決意示せ

 関西電力が家庭用電気料金の引き上げを経済産業省に申請した。政府の認可がいらない産業用の料金も引き上げる。2013年5月に続く値上げである。

 2年足らずで2度の値上げは家計や企業活動への打撃であり、もたつく関西の景気回復に一段の足かせとなる。関電は厳しくコストを見直し、値上げ幅を少しでも圧縮すべきだ。

 前回、値上げした際に見込んでいた原子力発電所の再稼働が進まず、代替する火力発電用の燃料費が膨らみ収益が悪化した。資産の減少が続き、再値上げに踏み切らざるをえなくなった。

 申請した値上げ幅は家庭用で平均10.23%。認められれば、関電の料金は2度の値上げ前と比べ2割以上高くなる。東日本大震災後も値上げをせずにきた北陸電力や中国電力などとの料金格差が広がる。関電は地域経済が被る痛みを重く受け止める必要がある。

 財務の悪化の原因となった原油や液化天然ガス(LNG)の調達を一段と効率化し、値上げ幅を圧縮すべきだ。人件費、設備投資や修繕費などに無駄はないか。改めて洗い出すことが欠かせない。

 国主導で経営再建に取り組む東京電力はコスト削減策を積み上げ、向こう1年は値上げしないことを決めた。関電も経営合理化への決意を示さなければならない。

 16年4月には家庭用を含む電力小売りが全面自由化される。すでに自由化されている産業用では11年度以降、約7500件の顧客が割高な関電から、新規参入した電力事業者に契約を切り替えた。コスト削減の努力は全面自由化後の競争への備えにもなる。

 今回の値上げは福井県の高浜原発3、4号機が15年11月に再稼働することが前提だ。同原発は原子力規制委員会から再稼働に必要な安全審査について、事実上の合格を得ている。これ以上の財務悪化を回避するには着実に再稼働の手続きを進めることが欠かせない。地元の理解を得るために国が前面に出ることも必要だ。

日韓国交50年―歴史の節目に歩み寄りを

 いまだ晴れぬ歴史の情念が、日本と韓国の間に重い澱(おり)のように横たわっている。戦時下で将兵たちの性の相手をさせられ、人権や尊厳を傷つけられた慰安婦たちの問題である。

 この問題をめぐる朝日新聞の報道を検証した第三者委員会(中込秀樹委員長)は、韓国・済州島で暴力的に女性を連れ出したとする故吉田清治氏の証言について、長年にわたって誤報を放置し、取り消しも遅れたことを厳しく批判した。

 「読者の信頼を裏切るもの」との指摘について、社説を担当する私たち論説委員も真摯(しんし)に受け止めている。何より事実を重んじることが新聞づくりの基本であることを肝に銘じたい。

 慰安婦たちはどんな人で、どうやって集められ、どんな生活を強いられたのか。その実像はいまも明確になっていない。

 朝日新聞は第三者委員会から出された指摘を踏まえ、多角的な取材によって実像をつかむ努力を重ねてゆく考えだ。論説委員室でも、冷静に歴史に向き合う論議を続けていきたい。

■なお解明を待つ実像

 閉ざされていた歴史の闇に、光があたり始めたのは1990年代の初めだった。

 長かった軍事独裁政権の下で言論や表現の自由が制限された時代が去り、韓国の元慰安婦たちは、ひとりふたりと名乗り出始めた。

 それから20年以上の時が流れたが、問題はいまも克服されないまま日韓の歴史的な課題であり続けている。

 いま、それぞれの国内で強調される「記憶」は、むしろ以前よりも偏りが目立つ。「慰安婦の多くは自発的になった」「大半は暴力的に連れていかれた少女たちだった」などの言説だ。

 朝鮮半島で日本軍などが、組織的に人さらいのように女性を連れて行ったという資料は見つかっていない。一方で韓国には「軍に無理やり連れていかれた」と証言する女性がいる。

 さまざまな実像が戦後70年という歳月で見えにくくなってはいるが、解明の努力を続けることは当然の責務であろう。

■協力すべき課題山積

 日本と韓国は国交締結後、ときに互いを支え、ときに競いながら今日までやってきた。その歩みは新年で半世紀を迎える。

 もちろん、日韓が向き合うべき課題は、歴史認識問題だけではない。自由貿易圏構想や、同じ対米同盟にもとづく安全保障など、多岐にわたる。

 とりわけ北朝鮮の脅威にどう立ち向かうかは共通の課題だ。日米韓はきのう、北朝鮮の核・ミサイルなどの秘密情報を共有するための覚書を交わした。

 地理的にも経済的にも共通点の多い隣国同士が手を組むべき課題は山積している。それぞれの分野で違いを乗り越え、少しでも国と国の距離を縮めることこそが政治の責任だ。

 その中で慰安婦問題は人権問題であり、被害者らをいかに救済するかを中心にすえねばならないのは当然のことだ。国の威信をかけて、勝ち負けを競うようなテーマではない。

 来年こそ日韓の歩み寄りを実現するためには何が必要か。

 日本側が留意すべきは、安倍政権が出すとみられる戦後70年の首相談話の重みである。

 歴史問題を乗り越えるうえで好機になりうる一方、逆に負の影響ももたらしかねない。

 韓国側は、慰安婦問題での反省と謝罪を盛り込んだ93年の河野官房長官談話の継承を期待している。安倍首相も受け継ぐ方針をことしの国会で表明した。

 真の和解に役立つ談話を練ったうえ、さらに互いに前の政権で合意に近づいていた元慰安婦たちへの新たな対応を実現する工夫と努力を望みたい。

 日本政府は50年前の日韓請求権協定で解決済みとの主張を続けるが、たとえば日本政府として被害者と直接対話するなど、協定の枠組みを維持しながらできることは少なくない。

■深刻な感情の悪化

 一方、就任からもうすぐ2年を迎える韓国の朴槿恵(パククネ)大統領も関係改善へ向けて真剣な行動をおこすときだ。

 日本が加害者であるからといって、ただ提案を待つだけでは問題の決着はありえない。

 韓国政府は、日本を批判する元慰安婦の支援団体との対話を重ね、コンセンサスを得る必要がある。また、韓国政府が取り組む慰安婦問題の白書づくりでは、これまでの研究成果を踏まえた冷静な対応が求められる。

 政治が疎遠な関係を続ける間に、双方の国民感情の悪化は深刻になっている。

 国交正常化に、安倍首相の祖父の岸信介氏は大きく関わり、朴大統領の父、朴正熙(パクチョンヒ)氏は国内の反対を押し切って決断した。このままでは日韓双方で当時の決断を疑問視する声さえ強まりかねない。

 日韓は建設的な議論を重ね、歩み寄る必要がある。両首脳には来年こそ、隣国関係の改善に指導力を発揮してもらいたい。

原子力人材育成 原発政策に新増設も加えよ

 原子力発電所を円滑に利用していくには、技術の継承が不可欠だ。

 原子炉の新増設ができないままでは、訓練や活躍の場が確保できず、有能な人材は育たない。

 経済産業省の有識者会議「原子力小委員会」が、原子力政策に関する中間報告書をまとめた。

 委員会では、「新増設の必要性を明記すべきだ」などの声が相次いだが、報告書は、そうした意見を紹介するにとどめ、新増設の方針を打ち出さなかった。中途半端な内容と言わざるを得ない。

 一方で、報告書は、新増設を行わない場合の弊害を挙げた。

 米国の例を挙げ、「スリーマイル島原発事故以来、新増設を行わなかった結果、技術・人材が失われた」と指摘した。これにより、「製造技術だけでなく、原子炉のメンテナンスも、我が国に依存せざるを得なくなった」という。

 原発がエネルギーの安定供給、地球温暖化対策に貢献するとも明記した。新興国では電力需要の急増に対応して原発新設が活況で、日本の技術に対する期待は大きいことも強調している。

 こうした点を踏まえれば、政府は原発の新増設、建て替えへと歩を進め、資金支援制度など必要な施策を示すことが肝要である。

 東京電力福島第一原発事故後、原子力分野へと進む若者は減っている。電力会社や原発関連企業も採用を絞り込んでいる。政府が明確な方針を示していないため、将来を展望できないからだろう。

 東大や東工大、東北大など原子力研究の拠点大学が、文部科学省の補助を受け、今秋、福島第一原発の廃炉に必要な人材の育成に乗り出した。来年度からは、参加大学が増える見通しだ。

 だが、廃炉現場で働くだけが目的では、有能な人材がどれほど集まるだろうか。福島第一原発の廃炉作業を担う人材さえ確保できない恐れがある。

 福島第一原発では今月、4号機の燃料プールから燃料を取り出す作業が終了したが、これからの道のりはなお険しい。

 1~3号機は汚染が激しい。4号機以上の困難が予想される。政府と東電の計画では、廃炉完了までに30~40年かかる。

 強い放射線にも耐えられるロボット技術や、放射能汚染除去の新手法を開発せねばならない。

 福島第一原発事故の教訓を生かし、安全性を大幅に向上させた新型の原発を建設することで、産官学に幅広い人材を育てる。そうした原子力政策を確立すべきだ。

小中一貫校 導入の効果と課題見極めたい

 義務教育の9年間を、「6年・3年」にとらわれずに教える小中一貫校が制度化される。

 中央教育審議会の答申を受けた文部科学省は、来年の通常国会に学校教育法などの改正案を提出する。2016年度からの導入を目指している。

 新たな仕組みを教育の質向上につなげられるかが問われよう。

 各市町村の判断で、9年間を「4・3・2」や「5・4」に区切ったり、小学校で中学の内容を先取りして教えたりできるのが、小中一貫校のポイントだ。

 答申は、2種類の形態を提案した。一つは、1人の校長が運営する「小中一体型」、もう一つは、校長や教職員組織は別々のまま、小中が協力して一貫教育を行う「校舎分離型」だ。

 小中一貫校は、校舎の集約など施設整備に費用がかかるのが障害とされる。既存の学校施設を活用し、費用負担を抑える校舎分離型も選択肢に加えたことで、普及を促す狙いがあるのだろう。

 一貫校の制度化を通じて、中学になじめず、不登校などが増える「中1ギャップ」の解消が期待される。子供の理解力に応じて、弾力的なカリキュラムを組めるようにする意義は小さくない。

 文科省の調査では、政府の特例校制度などにより、既に小中一貫教育を行っている学校のうち、9割が成果を認めている。

 例えば、学習内容が難しくなる小学校高学年から、中学のように教科専門の教師が教える「教科担任制」を採用した結果、学力テストの成績向上や子供の学習意欲の高まりが見られたという。

 一方、課題を挙げた学校も9割に上る。9年間を同じ環境で過ごすことによる人間関係の固定化を心配する声は根強い。

 既存の公立の小中学校と指導方法や学習進度が違いすぎると、転出入する児童・生徒が戸惑うケースも懸念される。

 各自治体は効果と課題をしっかりと見極めることが、まずは重要だ。導入する際には、転校生へのきめ細かな指導など対応策を講じることが欠かせない。

 私立中学を受験する子供が多い地域や、既に公立の中高一貫校が設置されているところもある。自治体はこうした実情にも十分配慮して検討する必要がある。

 小中一貫教育で、9年間の指導方針を明確にすることも大切だ。新たに住む地域を決める際、公立校の教育状況を参考にする保護者は多い。自治体は情報発信の充実に努めてもらいたい。

2014年12月29日月曜日

国に頼らずに地域主導で地方創生を

 政府が地方創生に向けた総合戦略と人口の長期ビジョンをまとめた。5年間で地方での若者雇用を30万人分創出し、地方への人材回帰の流れを作ろうという意欲的な計画だ。2060年時点で1億人程度の人口を維持することを最終的な目標に掲げている。

 地方は人口減で経済規模が縮小し、それがさらなる人口減少につながる悪循環に陥っている。これまでも歴代内閣が様々な形で地域再生に取り組んだが、短期的な対応にとどまり、中身も旧来型の公共事業に頼る場合が多かった。

 今回は5年間の計画なうえ、政策ごとの雇用創出数のような成果指標を明示した。腰を据えて地域活性化に取り組むためにもバラマキを防ぐためにも、どういう政策が有効なのか、検証しながら進むことが欠かせない。

 総合戦略で掲げた最大の柱は東京一極集中の是正だ。地方での雇用創出や都市住民の移住促進、企業の地方移転などを通じて、年間約10万人に上る東京圏への転入超過数を20年にゼロにして、一極集中を止める目標を盛り込んだ。

 主要国をみると、日本は韓国などと並んで首都への機能集中が著しい。子育てがしやすい地方への人材回帰の流れが強まれば、結果的に日本全体の出生率の向上にもつながるだろう。

 ただし、企業の地方移転は税制面で後押しするにしても簡単に進む話ではない。まずは、政府の判断で実現できる国の関係機関の地方分散に全力を挙げるべきだ。

 今後、政府の計画を参考に全国の自治体が地方版の戦略を作り、使い道の自由度が高い交付金などを使って政府が支援することになる。地方の活力を取り戻すには何が必要なのか、地域自ら考えなければ前に進まない。

 その際に重要なのは各地域で過去の政策を真摯に反省することだ。地方の衰退が止まらない責任の半分以上は自治体自身にある。

 農業でも商業でもそれぞれの地方には様々な既得権が巣くっている。そこから見直して新陳代謝を促さないと地方経済の立て直しは難しい。法令などの規制が壁になっている場合があるなら、どんどん声を上げればいい。

 国に依存するだけでは何も変わらない。東京を悪者扱いしても地方が活性化するわけではない。そのことを各地の首長がまず肝に銘じ、地域主導で地方創生をなし遂げたい。

正念場迎えた大学入試改革

 中央教育審議会が、大学入試センター試験に代えて2020年度に新たな共通試験を導入するよう求める答申を出した。

 文部科学省は今後1年をめどに具体策をまとめる。入念な制度設計で関係者の懸念を払拭し、国民的理解を得なければならない。1979年の共通1次試験導入以来の抜本改革は正念場である。

 中教審の案は、センター試験に代えて導入する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」で複数の受験機会を提供し、結果は1点刻みでなくレベル別に示すのが柱だ。知識の活用力をみる問題を出すべきだとして、教科を横断した「合教科型」などを提案した。

 同時に、高校在学中の生徒にも共通の学力テストを受けてもらい、「大学全入」の流れを背景におろそかになりがちな基礎学力の定着を促す。こちらは19年度からの実施を想定している。

 2種類の共通試験の設定やその方向性は、昨年の教育再生実行会議の提言にほぼ沿ったものだ。肉付けを進めていた中教審での議論は集約に手間取ったが、知識偏重を脱却し、多様な物さしで人材をみるという理念が生かされたのは評価したい。

 もっとも、中教審はもう一段の具体案には踏み込めず、詳細な制度設計を文科省の専門家会議に委ねた。教育再生実行会議の提言から1年あまり、いまだに新試験の全体像が見えないのでは関係者の不安や疑念は募る一方だろう。

 複数回の試験をうまく運営できるのか、1点刻みをやめるというが選考実務に支障はないか、総合型の問題をどう作るのか――。課題はあまりにも多い。答申は各大学の個別試験で面接や集団討論などを取り入れるよう求めているが、私立大のマンモンス入試などで現実に可能だろうか。

 答申通りだと、新試験は現在の小学校6年生からが対象となる。極めて社会的関心の高いテーマだけに、文科省は制度づくりの進捗状況などについて積極的な情報発信を心がけねばならない。

温暖化対策―希望をつないだ妥協

 落胆する人もいれば、希望を感じた人もいるだろう。見方の分かれる結末になった。

 ペルーで今月開かれた気候変動の国際会議(COP20)である。190以上の国と地域が激論を交わし、何とか合意にこぎつけた。

 温暖化を19世紀末の工業化前から2度未満に抑えるという大目標達成のめどはさらに遠のいた。確かに厳しい結果だ。

 ただ、各国は曲がりなりにも対立を封じて、決裂を避けることを選んだ。温室効果ガスの削減に世界全体で取り組もうと基本合意した意味は大きい。

 温暖化対策は今後、ほぼ永続的に取り組むべき人類の課題である。今回の妥協の先にもっと光明が見えるよう各国こぞって機運を盛り上げたい。

 来年末にパリで開かれるCOP21は、2020年以降の新しい枠組みをめざしている。

 先進国だけに削減義務を課した京都議定書は、米国の離脱も招いたが、今回のペルーでの合意では、途上国を含むすべての国の参加が明示された。

 今年の世界の平均気温は観測史上最高になる可能性が高いとされる。温暖化の主因が人類の活動にあるとの科学的な確信も深まった。

 手をこまぬいてはいられない。すべての国が自主的な目標を掲げることになったのは、その共通認識が広がったからだ。

 いまや世界最大の二酸化炭素排出国となった中国と、第2位の米国も早々に目標を決め、責任を果たす姿勢に転じた。

 一方で枠組みを決める前に各国の目標内容を吟味する仕組みは設けられないことになった。中国やインドなどが目標引き上げを警戒したためで、効果は限定的にならざるをえない。

 それでも提出する目標は明確でなければならず、「公正で、相応の責任を果たすものになっているか」の説明なども盛り込むことになった。おざなりな目標は、国際社会から強い批判を受けることになる。

 省エネや土地利用など温暖化対策の模範事例を共有する技術専門家会合が注目されている。目標の前倒し達成や超過達成に役立つ仕組みも整えたい。

 日本は、国連事務総長や各国から「目標を早く明らかにすべきだ」と強く求められた。

 主要国のほとんどが来年3月末までに目標を出す見込みなのに、日本が遅れるようでは、今後の地球環境問題全体での信頼や発言力が後退するだろう。

 環境技術大国を自任する日本である。内容のある目標づくりを急ぐべきだ。

遠隔教育―多様な授業期待したい

 情報通信技術の発達により、学校の授業も離れたところに届けられるようになった。「遠隔教育」と呼ばれる。

 その導入が、この春にも、全日制と定時制の高校で認められる。文部科学省の検討会議が方針をまとめた。

 教室で教員と生徒が向き合うこれまでの授業に、空間を越える形が加わる。多様な授業が生まれることを期待したい。

 検討会議は遠隔授業を二つに分けた。一つは、教員がテレビ会議などを使い生中継で授業を送り、生徒が質問できる「同時双方向型」。二つ目は、授業を録画しておき生徒が好きな時間に見る「オンデマンド型」だ。

 広く認められるのは「同時双方向型」の方だ。教員と生徒がふれあうことが重要と考えた。受信側にも教員にいてもらう。

 一方向の「オンデマンド型」は特例とし、不登校生のほか、病気や障害で通学できない生徒に限って認めた。

 まずは一歩を踏み出そうという姿勢といえる。検証しながら進めてほしい。

 遠隔教育で何ができるのか。

 まず一つ目は、地域格差を縮められることだ。離島や過疎地の小さな高校は教員が少なく、選択科目も限られる。そこで遠隔教育を導入すれば、様々な授業ができる。

 人口減が進むなか、統廃合の対象になりがちな小規模校に存続の道が開かれることになる。

 二つ目は、優れた授業を教室に持ち込めることだ。送り手に免許を出せば、大学から講義を受けることができる。海外とつなぐことで、生の外国語に接する機会も増やせる。

 三つ目は、教員の勤務の幅を広げられることだ。育児や介護などで自宅にいる教員も授業ができるようになる。職場復帰の助けにもなるだろう。

 活用法は、アイデア次第で広がる。文科省は各地の試みを集め、有効策を広めてほしい。

 課題も多い。本格的な仕組みはまだ高額だ。教員の指導力の向上も求められる。システム対応のために、技術に通じた人材も必要になろう。

 検討会議は、教職員を減らす目的での導入を戒めている。新しい技術は公教育の質を高めるためにこそ使ってもらいたい。

 世界の有名大学の講義がネット上に公開され、無料で受講できる時代だ。文科省は小中学校でも、遠く離れた学校をつなぎ、合同授業を試みる実証研究を考えている。

 技術が進んでも、学校や授業に欠かせないものは何か。それを考えながら活用したい。

地方創生戦略 目標達成へ実行力が問われる

 掲げた多くの数値目標を、いかに実現するか。政府は自治体や民間と連携し、日本の総力を挙げて取り組むべきだ。

 政府が、人口減少と東京一極集中の是正を目指す「地方創生」に関する長期ビジョンと、2015年度から5か年の総合戦略を決定した。安倍政権の看板政策は今後、実行段階に入る。

 ビジョンは、昨年時点で1・43の出生率が「若い世代の結婚・子育ての希望が実現すると、1・8程度に向上する」と分析した。

 出生率が30年に1・8、40年に人口維持に必要な2・07に回復すれば、「60年に総人口1億人を確保」という長期目標が実現できるとの推計も示している。

 人口減少に歯止めをかけ、活力ある社会を維持するには、出生率の向上が必須だ。長期目標の達成は困難を伴うが、こうした目標を掲げることには意義がある。

 総合戦略は、5年間で達成すべき数値目標を多数掲げた。

 地方に若者30万人分の雇用を創出する。それを受け皿に、東京圏から地方への転出を4万人増やす一方、地方からの転入を6万人減らし、転出入を均衡させる。これらの達成も容易ではない。

 男性の育児休業の取得率を2%から13%に高める。新規学卒者の県内就職率を72%から80%に上げる。こうした目標も明記した。

 重要なのは、目標達成に必要な施策を講じ、目標の進捗(しんちょく)度に応じて随時、施策を見直す作業に政府全体で取り組むことである。

 戦略は、地方移住の推進策として、希望者のための一元的窓口の設置、地方で仕事ができる「サテライトオフィス」や在宅勤務型の「テレワーク」の普及などを盛り込んだ。企業の地方移転には税制上の優遇措置も講じるという。

 効果が不透明な施策も少なくない。戦略は、歴代政権が人口減対策で目立った成果を上げられなかった要因として、府省の縦割り行政や、効果を検証しない予算のバラマキなどを指摘した。

 失敗を教訓に、様々な政策から相乗効果を引き出したい。

 肝心なのは、各自治体が地域の現状について強い問題意識を持つことだ。地元の大学や民間企業と知恵を出し合い、実情に応じた政策を考案せねばなるまい。

 政府は自治体に15年度中の「地方版総合戦略」策定を求めている。その策定を前提に、使途の自由度が高い交付金も新設した。

 政府は、ノウハウの提供や人材派遣を通じて自治体の戦略策定を多角的に支援する必要がある。

アルコール問題 ほどほどでこそ「百薬の長」に

 お酒は生活に根ざした文化であり、人付き合いの潤滑油でもある。

 だが、量が過ぎればトラブルの元になる。心身の健康も損なう。飲酒の機会が増える年末年始こそ、「適量」を心がけたい。

 アルコール依存症や暴力、飲酒運転など、酒に起因する問題に、政府が総合的に取り組むための基本計画作りが始まった。依存症の当事者や家族、医師、酒類事業者などが約1年かけて議論する。

 基本計画には、節酒指導や依存症治療、社会復帰支援などを充実させるための目標と達成時期を盛り込む方針だ。広告・販売の手法や、家庭、学校での教育の在り方も検討対象となる。実効性ある計画にすることが重要だ。

 厚生労働省は適度な飲酒の目安として、男性で1日に日本酒1合相当、女性はそれよりも少ない量を推奨している。3合以上の飲酒は依存症のリスクを高める。

 国内では、57万人がアルコール依存症と推計される。だが、専門治療を受けているのは4万人にとどまる。依存症とは認めたがらない人が多いためだ。「否認の病」と言われるゆえんである。

 飲酒の欲求をこらえきれず、酒量を抑えようと思っても減らせない。こうした状態になったら、要注意だろう。

 多量の飲酒が、糖尿病や高血圧などの生活習慣病、肝臓や膵臓(すいぞう)疾患、転倒・転落による外傷の原因になることも少なくない。内科、外科の診療時に、医師が依存症を早期発見し、専門治療につなげることが大切だ。

 厚労省研究班の推計では、飲み過ぎの社会的損失は年間4兆円を超え、喫煙による損失に匹敵する。内訳は、労働効率の低下による損失が2兆円弱、早期死亡者の逸失利益や関連疾患の医療費が、それぞれ1兆円程度に上る。

 家庭内暴力や児童虐待には、依存症が関わっているケースが多い。医療機関と警察、児童相談所の連携は今後の課題である。

 40~74歳を対象にした特定健診に、昨年度から減酒支援が加わった。10項目のテストで、飲み方に問題がないかどうかを診断する。節酒が必要な人には、酒量を記録する日記の作成が勧められる。

 長寿県日本一への返り咲きを目指す沖縄県は、飲酒対策を重点目標に掲げ、今月から運転免許更新時に診断テストを実施している。酒量を記録できるスマートフォン向けアプリも独自開発した。

 こうした支援策は、他の自治体の参考になるだろう。

2014年12月28日日曜日

経済対策にバラマキの懸念はないか

 政府が国費で3兆5000億円程度の経済対策をまとめた。

 日本経済が7~9月期まで2四半期連続でマイナス成長となったのをうけ、個人消費の喚起と、地域経済の活性化が目的だという。

 第2次安倍内閣ができた2012年12月以降の過去2回の経済対策とくらべ、規模を抑えた。厳しい財政事情をふまえれば当然だが、疑問は残る。

 まず、エネルギー価格上昇への対策だ。たしかに日銀の異次元の金融緩和を背景に円安がすすみ、原材料価格は上がった。

 一方で、足元では原油価格が下落し、ガソリン価格も下がっている。企業や家計の負担は減り、先行きの景気を押し上げる好材料だ。円安で物価が上がっても、そのかなりの部分をエネルギー価格の低下が相殺するだろう。

 にもかかわらず、経済対策ではトラック事業者への燃料費支援、漁業者への支援などを盛り込んだ。原油安の利点はいわず、円安の負の側面だけを強調してメニューを上積みするのは理解に苦しむ。

 広島の土砂災害や台風などの被害を受けた学校施設や公営住宅の復旧工事はもちろん必要だ。東日本大震災からの復興も加速しなければならない。

 気がかりなのは、災害対策の名目で従来型の公共事業が紛れ込みそうなことだ。建設労働者の人手不足で公共事業や民間工事の執行には遅れもみられる。真に必要な事業に絞り込んだかどうか、はっきりしない。

 地方創生では、地方自治体が自由に使える交付金を新たにつくり、それぞれの創意工夫で打ち出す経済活性化策を支援する。

 ただ、商品券を配るといった一時的な消費刺激策にお金を使っても、その効果はすぐにはげ落ちてしまうだろう。少子化対策や創業支援といった、中長期的に地域経済の実力を底上げする中身に使途を限るべきだ。

 経済対策の財源は13年度決算の剰余金や、14年度税収の上ぶれ分などだ。新規国債の発行も減額し、財政規律に目配りした点は半歩前進だが、減額幅はもっと上積みできたのではないか。

 景気は力強さがないとはいえ、8月で底入れしたあとは緩やかな持ち直しが続いている公算が大きい。そんななかでの経済対策には、不要不急の事業にまでバラマキをしようとしているとの懸念を払拭できない。

高浜再稼働に広く地域の声を

 原子力規制委員会は関西電力の高浜原子力発電所3、4号機(福井県)について、再稼働に必要な安全対策の基準を満たしているとの判断を示した。規制委が再稼働の「合格証」を出したのは、九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)に続いて2カ所目だ。

 関電と政府はこれを受け、立地自治体だけでなく県境をこえた周辺地域の声にも耳を傾け、ていねいに再稼働への理解を求めていく必要がある。

 東京電力福島第1原発事故のあと、事故に備えて住民の避難計画などが必要な地域は半径8~10キロ圏から30キロ圏に広げられた。5キロ圏内では即時の避難などの早期対応を求められる。原発の「地元」の範囲をどこまでとするか、旧来の考え方は改めるべきだ。

 高浜原発の場合、半径30キロ圏に京都府や滋賀県の一部が入る。京都府舞鶴市の一部は原発から5キロ圏に含まれる。30キロ圏が鹿児島県内に収まっていた川内原発とは、事情が大きく異なる。

 私たちはこれまで、避難が必要な地域の拡大にともなって「広い範囲の地元の意見を原発の安全に反映させる仕組みを新設する必要がある」と主張してきた。高浜原発はまさにこれにあたる。

 福井県の自治体は国の原子力政策に協力してきた歴史がある。京都や滋賀の自治体とは発言の重みに違いがあって当然だとする主張に、理解できる点はある。

 ただ、ひとたび事故が起きればその影響が県境で止まることはない。福井県民の避難を円滑に進めるうえでも、隣接する府県の協力が不可欠だ。

 持続的な原発利用のため、広い視野から原発と地元自治体の関係を見直すときだ。資源エネルギー庁の小委員会も原子力政策をめぐる議論の中間整理案で「結論ありきではない、きめ細やかな広聴・広報」が国民との信頼関係に欠かせない、と指摘した。

 高浜がモデルケースになるよう、関係者は知恵を絞り汗を流してもらいたい。

地方創生戦略―自治体の学び合いこそ

 政府が地方創生戦略と経済対策を閣議決定した。

 創生戦略は東京一極集中の是正を掲げ、「地方から東京圏への転入を現状より年に6万人減らし、東京圏から地方への転出は4万人増やす」といった数値目標をちりばめた。さらに、全ての自治体に数値目標付きの総合戦略づくりを求めている。

 自治体への財政支援の柱が、経済対策に計上した新しい交付金だ。「自由度が高い」とうたい、創生戦略の目玉でもある。

 ただ、実際に交付する際には、自治体の総合戦略を国が審査する。地域での消費を支えるための交付金も別に用意したが、こちらも商品券の発行や灯油購入の補助など、国が使い方を例示する。地方に任せきりにはしない姿勢は相変わらずだ。

 政府の心配も、わからなくはない。四半世紀あまり前、竹下内閣が当時3300あった市町村に一律1億円を配った「ふるさと創生」事業では、必要性に乏しい施設が各地に作られ、金塊の購入など首をかしげざるをえない使い方が散見された。

■カギは地方の知恵

 しかし、あのころとは比較にならないほど、地方を取り巻く状況は厳しさを増している。少子高齢化はいやおうなく進み、集落の維持すらままならない自治体があちこちにある。

 ここは思い切って地方に任せ、それぞれの置かれた環境や特徴に応じた知恵に期待してはどうか。人材が乏しく、自力では政策づくりが難しい小さな自治体は、国に尋ねるのではなく他の自治体に学べばよい。

 国が旗を振り、おしりをたたくやり方から、自治体自身が考え、連携しつつ挑戦する――。そんな発想の転換が必要だ。

 そう考えさせる取り組みが、島根県雲南市にある。東京23区の広さに匹敵する中山間地域に4万人余りが住むが、高齢化ぶりは全国平均の25年先を行き、人口の減少が止まらない。苦悩する自治体の一つである。

 話は、「平成の大合併」で六つの町村がひとつになった10年前にさかのぼる。

 地域社会を支える自治会の機能は、少子高齢化で着実に弱っていた。市が直接個々の集落を支えることは、財政的にも人手の面でも不可能だ。

■新たな住民組織作り

 ヒントになったのが、合併に加わった旧掛合町だった。82年に島根県で開かれた国民体育大会で相撲会場になった同町は、町民あげて全国から選手や応援団を受け入れたことがきっかけで、住民活動が活発だった。

 自治会を生かしつつ、消防団や農業関係の組織、学校のPTAなど地域のさまざまな団体を一つにまとめ、統廃合が進む小学校区ごとに地縁に根ざした新たな組織へと作り直す。その活動拠点として公民館を交流センターに格上げし、交付金を出して、生涯学習だけでなく防災や福祉、まちづくりなどさまざまな活動を後押しする……。

 こんな構想を打ち出し、今では市全域に約30の地域自主組織ができた。地区でただ一つの商店が撤退した後、旧小学校舎を使って住民管理でミニスーパーを営んだり、住民が水道検針を受託して各戸の見回りを兼ねたりと、全国から視察が相次ぐ活動が生まれている。

 雲南市は自ら旗を振り、地域自主組織の全国的な推進組織を来年2月にも発足させる。数十の自治体が参加するという。

■任せて支える役割に

 小さな自治体が、なぜ全国的な組織づくりにまで踏み込むのか。ここに、地方創生を巡る本質的な問題が潜んでいる。

 自主組織が活動の幅を広げ、販売や作業受託などで収益を得るようになると、法人格が不可欠になってきた。雲南市は、地縁に根ざす新たな法人制度を実現しようと、歴代政権が導入してきた特区制度に挑戦する。

 が、中央省庁の壁は厚かった。地方自治法上の認可団体、NPO法人、公益法人など、さまざまな制度をいくつかの省庁が所管しているが、どれも自主組織にはそぐわない。既存の制度のほうを自主組織に合わせてもらうこともかなわず、役所の間をたらい回しにされるばかりだったという。

 住民の安全・安心をゆるがせるような提案でない限り、自治体の責任で実行してもらう。そして、成功のカギや失敗の原因を自治体間で共有し、次のステップにつなげる。「地方発」のそんな循環を後押しすることこそが、国の役割ではないか。

 創生戦略にはこんな施策も並ぶ。地方で就職する大卒者の奨学金返済を免除する。本社機能を移す企業を税で優遇する。国のどんな機関がほしいか、自治体に手をあげてもらう。

 これらは「東京から地方に移す」という従来型の発想に基づくが、しょせんは東京と地方の分け合い・取り合いだ。

 地方が挑戦し、国が支える。そうして新たな価値を生み出し、国全体の活力を高める。地方創生の目標はそこにある。

経済対策3兆円 地方バラマキの思惑はないか

 円安に苦しむ中小企業の支援や、消費の落ち込みを食い止めようとする狙いは理解できる。

 ただ、景気の下支えを名目にバラマキ策が紛れ込む懸念は拭えない。

 政府が、総額3・5兆円規模の経済対策を策定した。年明けには、対策の内容を反映した2014年度補正予算案を編成する。

 今回の対策は、地方自治体の施策を国が支援する総額4200億円規模の交付金創設が柱だ。

 「地域消費喚起型」と「地方創生型」の2種類を用意した。

 消費喚起型は、地元の商店で使う商品券の発行や、低所得者層への燃料費補助、子育て支援などに取り組む自治体を助成する。

 4月の消費税率引き上げや円安の進行に伴う物価上昇などで、消費の不振が続いている。「アベノミクス」の恩恵が、地方へ十分に及んでいないことも事実だ。

 ただ、政府は、景気回復を優先して、15年10月に予定していた消費税率の10%への引き上げを17年4月まで先送りした。

 それに加えて、景気対策を打つ以上は、当面の痛みを和らげる実効性の高い対策に絞り込むべきだったのではないか。

 政府が過去に実施した「地域振興券」の配布は、景気刺激効果が限定的だったと指摘される。今回も効果の検証が欠かせない。

 一方、地方創生型の交付金は、創業支援や少子化対策などを手がける自治体の助成に充てる。

 自治体からの事業提案を政府が審査し、支給の是非を判断する仕組みの創設を検討している。

 こちらは、中長期的に地域活性化に役立つ事業だけを支給対象とすべきである。

 政府は、優れた提案を的確に目利きする能力が求められよう。

 来春に統一地方選を控え、甘い審査体制で、地方から要望されるまま、交付金を支給するような事態を招いてはならない。

 交付金事業の費用対効果について、事後的にチェックする仕組みを整えることも大切になる。

 経済対策の財源は、14年度の税収が当初の見込みを上回った分と13年度予算の使い残しで賄う。

 現在の危機的な財政事情を考えれば、新規の国債発行を回避したのは当然の判断と言える。

 だが、予算の使い残しは本来、国の借金返済に回し、財政再建に役立てるのが筋だ。

 財務省は14年度補正予算案の編成作業で、対策に不要不急の事業がないか、しっかり査定し、歳出をできるだけ圧縮すべきだ。

2014回顧・世界 顕在化した様々な脅威と危機

 様々な脅威と危機が顕在化した1年だった。

 本紙読者が選んだ「海外10大ニュース」の1位は、「エボラ出血熱で世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言」だ。

 致死率が高い感染症、エボラ出血熱は、西アフリカのリベリアなど3国で死者が7500人を超え、米国や欧州に飛び火した。拡大封じ込めには、国際的な医療支援の強化が不可欠である。

 日本では、幸いにも感染者は確認されていないが、空港などの水際対策の継続が重要だ。

 「ロシアがウクライナ南部クリミアを編入」(5位)は、関係国に深刻な対立をもたらした。

 欧米や日本は、この強引な国境変更を認めず、ロシアに数次にわたる制裁を科した。先進7か国(G7)は、プーチン露大統領を外し、首脳会議を開催した(17位)。

 ウクライナ東部では、旅客機が撃墜され、乗客ら298人が死亡した(4位)。ロシアの後押しを受ける親露派武装集団がミサイルを発射したとの見方が有力だ。

 中東情勢の混迷も懸念材料だ。シリアやイラクで勢力を拡大した過激派組織「イスラム国」に対し、米軍が空爆を開始した(6位)。米軍のイラク撤収を成果として誇ってきたオバマ大統領にとり、軍事介入は苦渋の決断だった。

 オバマ氏への支持率は低迷し、民主党は中間選挙で歴史的な大敗を喫した(7位)。

 女性が教育を受ける権利の確立を訴えるマララ・ユスフザイさんがノーベル平和賞を受賞した(3位)。イスラム武装勢力の銃撃で負傷した後も、信念を貫く勇気に多くの人が感銘を受けた。

 だが、12月には母国パキスタンで、同じ武装勢力が学校を襲い、生徒ら多数を殺害した(「番外」)。テロ根絶の道は険しい。

 韓国では、死者・行方不明者304人を出す旅客船「セウォル号」の沈没事故が起きた(2位)。高校生が携帯電話で家族に送った悲痛な最期のメッセージや、乗客を置き去りにして救助された船長の映像などが強い印象を残した。

 香港で、行政長官選挙の民主化を求める学生らが街頭を占拠した(9位)。香港支配を強める中国の習近平政権への抗議である。南シナ海で実力で現状変更を図る中国は、ベトナムやフィリピンとの対立も深まった(13位)。

 共産党独裁を墨守し、軍事・経済力を背景に領土や権益の一方的な拡大を狙う中国と、いかに向き合うのか。来年も、日本など周辺国にとって重い課題である。

2014年12月27日土曜日

郵政は上場後の将来像を投資家に示せ

 政府が全株を持つ日本郵政が上場計画の概要を発表した。2015年度なかば以降に、傘下のゆうちょ銀行やかんぽ生命保険と同時に上場するという。

 親子3社の同時上場は前例のない方式だ。しかも、総資産が300兆円に達しようかという巨大で複雑な企業グループの株式公開である。上場を円滑に進めるため、政府と日本郵政は市場の声を聞き、今後詰めていく計画の細部に反映させることが大切だ。

 投資家の視点から、上場計画にはいくつか疑問がある。

 まず、日本郵政の将来像が不明確だ。ゆうちょ銀とかんぽ生命の合計経常利益はグループ全体の9割超を占める。改正郵政民営化法の定めに従い金融2社の株式が全株売却されると、政府が3分の1超を保有し続ける日本郵政の傘下には収益力の弱い郵便事業しか残らないことになる。

 金融2社が連結対象から外れたあとも日本郵政は両社と関係を保ち、郵便局で金融サービスを続けるとみられる。日本郵政が2社の株式を売却して得る資金の有効活用策も焦点となる。

 しかし金融2社の上場後に、日本郵政がその株式をいつ、どれだけ売却するのか、判然としない。これでは投資家が日本郵政の株式を正しく評価するのは難しい。

 政府が日本郵政株の売却資金を復興財源に充てるという計画も、揺らぎかねない。

 市場動向に左右される面はあるにせよ、日本郵政は金融2社の完全民営化への道筋をできるだけ明確にすべきだ。

 上場当初の日本郵政と金融2社の株式を投資家がどれほど自由に売買できるか不透明なのも、無視できない問題だ。

 政府が日本郵政などの放出株数を当初は抑えたり、証券取引所が流通株比率の規則を免除したりする可能性がある。

 株式市場の混乱を避けるうえでやむをえない面はあるが、市場に出回る株式があまりに少ないと株価の形成にゆがみが出かねない。需要の聞き取りを重ね放出可能な株式数を見極めるべきだ。

 そもそも郵政上場は官営の金融事業を民営化し、民間の銀行や保険会社との競争条件を適正化することが目的の1つだった。

 郵政グループが成長戦略を進めるためにも、政府の関与を弱め、経営評価を市場に完全に委ねるようにすることが欠かせない。

STAPが問う理研の責任

 STAP細胞をめぐる疑惑について、理化学研究所の調査委員会が最終的な報告をまとめた。STAP細胞とされた細胞は別の万能細胞(ES細胞)が混入したものだとほぼ断定した。ただ、混入が意図的だったのか過失によるのかは判断できないとした。

 報告は外部の専門家が残った試料を詳細に分析してまとめた。小保方晴子氏らの発見は誤りだったとの結論で、ほぼ決着したといえる。問題が論文の不正にとどまらず、研究全体の信ぴょう性にかかわることを示した点でも、これまでの報告より踏み込んだ。

 なお謎は多い。調査委は研究室の関係者から聞き取り調査したが、全員が混入を否定したという。誰が混入したか、故意か過失かは「調査委の能力と権限に限界がある」として結論を見送った。

 報告は小保方氏の上司だった若山照彦山梨大教授や故笹井芳樹氏の責任についても「データの検証を怠った」と厳しく指摘した。だが理研が組織としてなぜ不正を見逃したのか、なぜ成果を大々的に広報したのか、などは調査の範囲外で、いまだ釈然としない。

 理研は今回の報告で調査を打ち切る。笹井氏の自殺もあって、真相の究明が難しい面はあろう。だが少なくとも小保方氏や若山氏らへの聴取を続け、公の場で説明を求める責任が、理研にはある。

 これまでの調査が後手にまわったことも否めない。問題が表面化した今春の時点で、ES細胞が混入している疑いはすでに指摘されていた。だが理研が本格調査を始めたのは9月になってから。その後も、科学的には意味が薄い小保方氏本人による検証実験を進めるなど、真相究明は迷走した。

 研究管理が適切だったかなど、理研の組織のあり方に加え、不正が起きたときに適切に対処する危機管理能力も問われている。

 報告を踏まえ理研は小保方氏ら関係者の処分を決める。それまでに、残る問題点を徹底的に洗い出し、再発防止策を示さないと、失った信頼は取り戻せない。

難民の認定―責任を果たす制度を

 紛争や迫害のため自国にいられなくなった人びとを国際社会で受けとめようと、難民条約が発効して今年で60年になる。

 この間、状況はむしろ悪化した。国連の難民高等弁務官事務所によると、国内外で避難を強いられている人は昨年、第2次大戦後初めて5千万を超えた。

 家も国も追われた人びとを、安定した豊かな国ぐにが受け入れるのは当然の責務である。

 実際、年に数千、数万単位の難民を受け入れてきた先進国は珍しくない。一昨年の統計で、条約に基づく難民認定だけで、米国、カナダは1万人以上、ドイツは約8千人を保護した。

 ところが、同じ先進国で世界有数の経済大国でありながら、日本は難民にきわめて冷たい国として批判されてきた。

 81年に条約に加入しながら、昨年までに認定したのは合計で622人。昨年1年間では、16年ぶりに1けたの6人。難民とは認めないが人道的理由から在留を特別に認めた人を足しても、157人にとどまる。

 はたして加盟国の義務を果たしているか、疑問が出て当然だろう。

 法務省の専門部会がきのう、まとめた報告は、現状の見直しを強く促すものだ。

 まず指摘された問題点は、難民と認めるかどうかの判断基準のあいまいさだ。迫害のおそれなどについて国連の文書など海外の例も参考にして、できるだけ明確にするよう求めた。

 特に急がれるのは、新しい類型の迫害のおそれの認定に、積極的に向き合うことだ。例えばアフリカの一部で女性器切除を行う国の女性、同性愛者を処罰する国の当事者については、難民と認めている国もある。

 手続きの長期化も深刻だ。1回の申請の結果が確定するまで3年がかりとなっている。

 報告は、難民にあたらない人が何度も申請し、手続きを滞らせていると指摘した。法務省は今後、再度の申請は、新たな事情が加わった場合に限るなど制約をつける検討に入るが、ここは慎重に考えてほしい。

 本人が迫害を受けるおそれの証拠を集める負担は軽いものではない。救済ではなく、ふるい落とすことが前提であるかのように制度をつくっては、難民の保護などそもそも成り立たないだろう。

 すでに地域、職場に根をはっていながら在留を認められず、難民申請に望みをつなごうとする人も少なくない。

 同じ人間として、どう共生の道を開くか。その視点を出発点に考えていきたい。

日本郵政上場―将来の具体像を示せ

 政府が100%保有する日本郵政株が来年度、売り出される見通しになった。郵政民営化計画の一環である。しかし、まだ郵政グループの将来像には不確かな点が多い。政治に翻弄(ほんろう)されてきた郵政民営化をどう着地させるのか、政府は早急に具体像を示すべきだ。

 日本郵政の傘下には、日本郵便と金融2社(ゆうちょ銀行とかんぽ生命)がある。日本郵便は上場せず、金融2社については上場させて全株を売却することになっている。

 計画では、持ち株会社の日本郵政と、金融2社の計3社の株を同時に上場するという。まず親会社を上場させるのが一般的なのに、親子同時上場となった背景には、郵政グループならではの事情がある。

 問題は、郵便事業は電子メールの普及で経営が厳しく赤字続きで、グループの収益の大半を金融2社が稼いでいることだ。親会社の日本郵政だけを上場させようとしても、将来、金融2社を手放すことが決まっているため、稼ぎ手から切り離された日本郵政にどれだけの価値があるのか判断できないのだ。

 同時上場となったことで、投資家は金融2社と日本郵政のそれぞれの企業価値を判断することになった。金融2社については、日本郵政の持ち株比率が50%程度になるまで段階的に売り、時間をかけて「グループ内の有機的な結合が担保されているか検証したうえで」(西室日本郵政社長)、残りの株を売っていくという。

 上場後、当面は金融2社が郵便事業を支えることになる。それなら、郵便事業を今後、どうするのか、将来像がほしい。金融2社株を100%手放した後のグループの姿もわからない。

 政府は現在、郵便・金融ともに全国一律の「ユニバーサルサービス」を日本郵政に義務づけている。その費用を、上場した後も郵政グループ内で負担するのが適正なのか。議論の残るところだ。

 グループの収益を担う金融2社の改革も喫緊の課題だ。郵政民営化の狙いの一つは、肥大化した公的金融の縮小だった。しかし今もゆうちょ、かんぽ合計で資産規模は約300兆円と、メガバンクや大手保険会社を大きく上回る。その巨額の資金の7割を国債で運用している。

 2社の上場を急いだのは、「民業圧迫」という批判を受けずに新規事業などに進出し、収益力を高めるためでもある。

 スリム化も含め、市場の評価に耐えられる体質改善が欠かせない。

郵政3社上場へ 市場に評価される将来像示せ

 株式上場をきっかけに郵政民営化をどう進展させていくか。

 政府と日本郵政は、将来戦略を明確に示すことが求められる。

 日本郵政グループが、持ち株会社の日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の金融2社の株式を、東京証券取引所に同時に上場すると発表した。来年度半ば以降の上場を目指す。

 日本郵政の純資産額は14兆円に近く、1998年のNTTドコモ以来の大型上場になると見られている。異例の「親子同時上場」に、市場や投資家の関心は高い。混乱を招かぬよう、政府と日本郵政は万全を期してもらいたい。

 政府は、全株保有する日本郵政株の一部を、上場時に売却する。段階的に「3分の1超」まで持ち分を引き下げ、売却収入のうち4兆円は、東日本大震災の復興財源に充当する。

 気がかりなのは、財源が確保できるよう、日本郵政株が市場で高い評価を得られるかどうかだ。郵便の減少が続き、頼みの金融事業も、貯金残高や保険契約数はピークから大きく落ち込んでいる。

 日本郵政は3年間で1兆3000億円を投じて郵便局の改修やシステム高度化を進め、収益基盤を強化するとしている。だが、成長実現の道筋はあいまいだ。

 持ち株会社と金融2社との、今後の関係も大きな課題である。

 郵政民営化法は、日本郵政の保有する金融2社株の全株売却を目指し、できる限り早期に処分すると定めている。最終ゴールは、2社の完全民営化ということだ。

 日本郵政は上場時に売却を開始し、当面は保有比率が50%程度になるまで売却する方針を示した。だが、完全民営化のスケジュールや手順は、はっきりしない。

 日本郵政の持ち分が50%に下がれば、金融2社は、新規事業の開始などに必要な関係省庁の認可が、届け出で済むようになる。

 経営の自由度が増し、収益改善だけでなく、郵便局の利便性向上も期待できる。

 ただ、国が多くの金融2社株を間接保有したまま、事業範囲を急拡大させれば、民業圧迫の批判が高まる心配がある。

 他方、金融2社が完全民営化すると、日本郵政は有力な収益源を失う。全国の郵便局で、郵便と基本的な金融・保険サービスをあまねく提供する義務を果たすのにも、支障が出ないだろうか。

 こうした課題に、解決策を示さねばならない。上場後は市場の評価にさらされることになる。

2014回顧・日本 災害への備えを問われた1年

 今年も、悲喜こもごもの出来事があった。

 戦後最悪の火山災害に自然の猛威を改めて思い知らされた。

 読売新聞の読者が選ぶ今年の「日本10大ニュース」の1位に、9月27日に起きた「御嶽山噴火で死者57人、行方不明者6人」が選ばれた。

 噴火の予兆は捉えられなかった。紅葉に彩られた、のどかな風景が一変し、噴石が容赦なく襲いかかる。登山客がスマートフォンで撮影した生々しい映像に、衝撃を受けた人は多かっただろう。

 「広島市北部の土砂災害で74人が死亡」も6位に入った。

 広島県では15年前にも同様の災害が起きていた。教訓を生かせなかったことが悔やまれる。

 万一に備えた防災体制の充実が欠かせない。

 科学分野では明暗が交錯した。「ノーベル物理学賞に青色LEDを開発した赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏」(3位)は、日本人として誇らしく思うニュースだった。LEDが世界に普及する礎を築いたことが評価された。

 「新たな万能細胞」との期待を裏切ったのが、「STAP細胞論文に改ざんなど不正」(7位)だ。実験の記録も整っておらず、既存の万能細胞であるES細胞が混入したとほぼ断定された。

 スポーツ界からは、明るい話題が届いた。「全米テニスで錦織圭が準優勝」(4位)は、日本選手初の快挙だ。体格で上回る世界のトップ選手と、互角以上に渡り合う姿に元気をもらった。

 「ソチ五輪で日本は金1、銀4、銅3」も8位に選ばれた。フィギュアスケートで、羽生結弦選手の金メダル獲得は見事だった。フリーで渾身の演技を披露した浅田真央選手の涙は、感動を呼んだ。

 11月には「高倉健さん死去」(10位)の報に、惜しむ声が広がった。スクリーンの中で圧倒的な存在感を放った。その名は、映画史に深く刻まれよう。

 「消費税8%スタート」(2位)は、家計に直接影響するだけに、読者の関心が高かった。増税により、消費は低迷している。

 「『アベノミクス』の評価を問う衆院選」(5位)は、「安倍首相が消費税引き上げ先送りを表明」(16位)して衆院を電撃的に解散したものだ。「集団的自衛権を限定容認、政府が新見解」(12位)も争点の一つになった。

 自民、公明の両党が大勝し、首相は国民の信任を得た。

 来年は、アベノミクスの真価が問われる年となるだろう。

2014年12月26日金曜日

政権は持続力ある成長をめざせ

 長期政権が視野に入る第3次安倍内閣に期待されるのは、日本経済を持続力のある成長軌道に乗せていくことだ。民間の活力を引き出す環境を整え、様々な分野でのイノベーションを促す。借金依存の国の財政への信頼を取り戻す。そうしたことにより経済の基盤を強くしていくことが使命だろう。

 日本経済は今年大きく減速したが、2015年の見通しは悪くない。消費税再増税の先送りや原油価格の下落は、消費を押し上げる要因になる。米国景気の拡大などで輸出が伸びる可能性もある。

民主導へ規制の壁崩せ
 重要なのは当面の景気回復を確実にすると同時に、長い目で見て成長が持続できるような土壌を整備することである。少子高齢化という逆風に日本はどう立ち向かっていくのか。その答えがはっきりと示されなければ、日本経済への期待感もしぼんでしまう。

 安倍首相が推し進めるアベノミクスでいえば、民間企業や個人の力の発揮を促す「第3の矢」がどこまで力強く放たれるかが、まず試されることになる。

 6月にまとめた日本再興戦略は、法人税改革、貿易自由化の推進から農業の活性化まで、成長力の強化に必要な分野を網羅している。女性の活躍促進、企業統治の強化など、これまであまり重視されてこなかった分野にも光を当てた。ただ、踏み込みが足りなかったり、どこまで実現するのか不透明だったりする分野も数多い。

 民間のやる気を促す点では、創意工夫を阻む規制を取り除いていくことが最も重要だが、企業などの期待に十分応えているとは到底いえない状況だ。環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめ自由貿易協定の推進も、世界全体の流れに比べれば遅れたままだ。

 来年度以降、法人税率が引き下げられる見通しとなったが、小幅にとどまれば立地競争力の回復という点で効果は薄い。原子力発電所の事故に伴い上昇している電力料金をどこまで抑えられるかも企業にとっては大きな関心事だ。

 このほか、技能を持った外国人が日本で活躍しやすいようにすることや、地方の自立を促すような施策も求められよう。

 日本経済の潜在成長率は、労働人口の減少を映して、現在ゼロ%台の半ば前後にとどまっているとみられる。この水準を少しでも引き上げることは、長い目で見れば日本の活力を高めるうえで大きな意味を持つ。

 成長力の引き上げとともに重要なのは、先進国で最悪レベルの財政を健全化していくことだ。経済成長によって税収が増えていかなければ財政が改善しないのは確かである。だが、内閣府が示している財政の中長期の試算を見ても、高めの成長だけで健全化が進むシナリオは描けない。

 1980年代後半のバブル期には税収増で財政が一気に改善したが、このころと異なるのは歳出構造が大きく変化していることだ。少子高齢化が進む現在は、社会保障費が毎年大きく伸びており、国債費などを除く一般歳出の過半を占めるようになっている。

 もちろん、無理につくったバブルがはじければ、財政はバブル期以前よりも悪化するという教訓も肝に銘じなければならない。

財政の健全化へ道筋を
 消費税率の再引き上げなどの増税だけでなく、社会保障費の増加抑制を核にした歳出改革も思い切って進めない限り、財政を持続可能な姿にしていくことはできない。信頼できる財政健全化計画を早急に打ち立て、確実に実行していくことが肝要だ。

 そのことは、日銀が進める大胆な金融緩和政策の信認にもかかわる。日銀はデフレ脱却のため、2%の消費者物価上昇率という目標の実現をめざす。その手段として大量に国債を購入しているが、「これは決して財政の穴を埋めるためではない」と強調している。

 だが、もし財政の悪化に歯止めがかからず、国債の買い手が急減すれば、日銀は物価目標を達成しても国債の購入拡大をやめられなくなる恐れがある。その場合の経済の混乱ははかり知れない。そうしたリスクが放置されたままでは、本格的に設備投資や消費を増やす動きも出てきにくい。

 経済活性化の主役はあくまで民間企業や個人だ。何でも政府に依存するようなムードをつくれば、活力は萎える。政府が果たすべき役割は民間が力を出しやすくする土台づくりと、財政など国の基盤に対する不安を除去していくことにある。日本経済を本当の意味で再生させるために、腰の据わった経済政策運営が求められる。

関電再値上げ―いつまで原発頼みか

 関西電力がおととい、来年4月からの電気料金の再値上げを申請した。昨年5月に値上げしたばかりだが、原発の代わりに動かしている火力発電のコストが想定以上に膨らんだ。

 値上げ幅は家庭向けで10%、企業向けは13%を超す。中小企業からは「これ以上の節電は無理だ」との悲鳴が相次ぐ。

 値上げの大前提は、徹底的な経営効率化だ。関電は「聖域なく取り組んでいる」と強調するが、人件費を中心に切り込み不足との指摘がある。国は認可前に厳しく点検すべきだ。

 もっとも、赤字の最大の要因は、福島第一原発事故前に発電量の5割を占めていた原発がほとんど動いていないことだ。

 関電は前回の値上げ時、複数の原発の再稼働を見込んだが思い通りにいかず、再値上げに追い込まれた。社長はそれでも「早期再稼働に努める」と繰り返す。認識が甘くないか。

 事故後、原発の安全性への疑問が広がった。関電は対策に巨費を投じているが、原子力規制委員会の審査をクリアし、再稼働への社会の理解を得るのは容易ではない。

 関電が持つ原発11基のうち9基は来年で運転開始から30年を超す。建て替えや新設は相当に困難だろう。原発頼みでは、どのみち先行きは厳しい。

 一方、値上げすれば、企業や自治体が、関電以外から電力を買う動きが強まるのは確実だ。すでに1万を超す事業所が、割安な新電力に切り替えた。

 節電の定着で、家庭が使う電力も減少傾向だ。16年に家庭向け電力販売が自由化されれば、関電離れは加速しかねない。

 関電は岐路に立っている。原発に依存せず生き残るにはどうすればいいか。長期的な戦略を示すべきだ。それこそが利用者の理解を得る最良の道だろう。

 関西地域は70年代以降、福井県に集中立地した原発にエネルギーの多くを頼ってきた。だが原発事故を経て、原発を消費地外に押しつけてよしとしてきた考え方は反省を迫られている。

 原発から他の電源に切り替える過程で、値上げはある程度避けがたい。せめてあるべきエネルギー社会を地域でいま一度深く考える機会にしたい。

 7府県と4指定市でつくる関西広域連合は今年、再生可能エネルギーの導入量を20年度には今の3倍にするとの目標を掲げた。だが原発依存度を下げていく道筋はほぼ手つかずだ。

 国任せにしていても物事は進まない。関西から率先して声を上げ、関電や福井県とともにビジョンを練っていくべきだ。

学生バイト―学業に配慮してますか

 居酒屋やファストフード店、コンビニ、学習塾の講師など、学生時代にアルバイトをした経験は多くの人にあるだろう。働く理由は様々でも、貴重な体験になったに違いない。

 そのアルバイトで、学生生活と両立できない働き方が増えていると指摘されている。「ブラックバイト」と呼ばれている。

 この問題を提起した大内裕和・中京大学教授は、ブラックバイトを「学生であることを尊重しないアルバイト。低賃金なのに、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたしたりするほどの重労働を強いられること」と定義している。ゼミ合宿やコンパを計画しても学生が集まらないことが増え、事情を聴くと、「アルバイトを休めない」「希望通りに勤務の調整ができない」という学生が多いことがわかってきたという。

 若者を使い捨てにする「ブラック企業」問題に取り組む団体が調査したところ、アルバイト経験のある約2500人のうち、3割弱が週20時間以上働いていると回答した。

 飲食・サービス業では、アルバイトの比重が増し、働き手をランク付けして、リーダーや時間帯の責任者などを任せているところもある。学生生活に支障をきたさないようにする節度を企業側には求めたい。

 学生からは「残業代が支払われない」「休憩時間がない」といった相談があるという。アルバイトだから労働法を無視していいわけではない。法令順守は当然のことだ。

 学生に最低限必要な労働法の知識を教えることも大切だ。アルバイトの時給にも最低賃金が適用されるし、働いた時間に応じて賃金を受け取る権利がある。「おかしいな」と思ったら、相談できる態勢整備が必要だ。行政機関のほか、大学に窓口を設けるのも一案だろう。

 「遊ぶためのお金だろう。辞めればいい」。中高年世代には、こんな疑問があるかも知れない。しかし、学生をとりまく経済状況も変わっている。

 大学の授業料が高騰する一方、労働者の賃金は減少し続けてきた。奨学金制度も心もとない。日本の場合、有利子の貸与型が中心だからだ。

 学業にもっと時間を割きたいのに、生活費のためにアルバイトをせざるをえない。無理な働き方をさせられていても、簡単には辞められない――。そんな悪循環が起きているとしたら、放置はできない。

 学生の就労もブラック化させてはならない。

国連北朝鮮討議 「拉致」進展への圧力としたい

 高まった北朝鮮への圧力をテコに、拉致問題を解決へ進展させたい。

 国連安全保障理事会が初めて、日本人拉致を含む北朝鮮の人権問題について公式に討議した。

 北朝鮮の広範な人権侵害を強く非難し、国際刑事裁判所(ICC)への付託を安保理に促す国連総会決議の採択を受けたものだ。

 決議は、北朝鮮当局による拷問、公開処刑、政治犯収容、拉致などの人権侵害が「人道に対する罪」に当たると認めた。人権侵害は、国家最高レベルで決定された政策に基づいているとも指摘した。

 北朝鮮の国家犯罪を告発する、かつてなく厳しい決議である。

 安保理では、5常任理事国のうち米英仏はICC付託に前向きな姿勢を示した。だが、中国は「緊張を高めるべきでない」と反対した。ロシアも反対に回った。

 年明け以降、安保理がICC付託を決めるのは容易ではない。

 しかし、安保理が北朝鮮の人権問題を継続的に協議することは、北朝鮮に政策変更を迫るうえで、一定の意味を持つだろう。

 総会決議の根拠は、北朝鮮の人権に関する国連調査委員会の今年2月の報告だ。昨年3月の調査委設置から総会決議まで、日本が積極的に関与した成果である。

 決議は、北朝鮮が7月に開始した拉致被害者らの調査が「具体的結果」をもたらすことに期待を表明している。この決議を踏まえ、日本は北朝鮮に対し、迅速かつ正確な調査内容の通報を粘り強く迫ることが大切である。

 北朝鮮は、国連での動きについて、米国の北朝鮮敵視政策の表れだと反発し、対抗措置として核実験の強行までちらつかせた。

 強硬な表現による揺さぶり戦術は、北朝鮮の常套手段である。日本は、これに惑わされず、「対話と圧力」の基本方針を堅持し、北朝鮮との交渉に臨むべきだ。

 米朝関係は今、緊張している。金正恩第1書記の暗殺を題材にした映画を製作した会社が受けたサイバー攻撃について、米政府が北朝鮮の関与を断定したためだ。

 一国の指導者を揶揄するコメディーの内容には賛否があろうが、米代表は安保理で、「北朝鮮は、米国内の表現の自由を抑圧しようとしている」と批判している。

 上映館へのテロ予告を受け、映画会社は一時、映画を公開中止としたが、上映を求める世論を踏まえ、一部の映画館での上映やネット公開を決めた。サイバー空間での新たな脅威には、国際社会が連携して対応することが重要だ。

関電再値上げへ 原発停止の負担はもう限界だ

 安全性の確認された原子力発電所の再稼働を進め、電気料金上昇の悪影響を和らげる必要性が日に日に増している。

 関西電力が、東日本大震災後で2度目の電気料金値上げを、政府に申請した。北海道電力に続く2社目の再値上げだ。経済産業省などの審査を経て、来年4月からの実施を目指す。

 申請された値上げ率は、家庭向けが平均10%で、標準家庭の料金は月8000円台から8900円台に跳ね上がる計算になる。企業向けは14%とさらに大幅だ。

 関電は昨年4~5月に、家庭向け10%、企業向け17%の値上げを実施したが、これは原発4基が稼働することが前提だった。

 実際には全原発停止が続き、代替する火力発電の燃料費は今年度上半期だけで、震災前より5000億円も余計にかかっている。

 最近の原油安の恩恵で、液化天然ガス(LNG)など燃料の調達価格は下がる見込みだが、この分は「燃料費調整制度」による値下げに反映され、関電の収支改善にはつながらない仕組みだ。

 関電は今年度、4期連続の赤字となり、来年度は債務超過に陥る恐れもあるという。電力の安定供給体制を維持するため、一定の追加値上げは、やむを得まい。

 ただし、消費税率の引き上げや円安による物価高で苦境に立つ家計や中小企業にとって、電気料金の値上げは手痛い打撃だろう。

 関西財界からは「中小企業のみならず、大企業にも大きな影響がある」との懸念が出ている。値上げはできる限り圧縮すべきだ。

 関電は今年度、人件費や修繕費などで2700億円近い経営効率化を計画している。再値上げに向けてさらなるリストラの余地はないか、検討してもらいたい。

 ただ、関電をはじめ電力会社の経費削減が限界に近づいているのも事実だ。九州や四国などの各電力も、赤字決算が続いている。

 各社は、火力発電の点検・修繕の繰り延べなどで費用を浮かせているが、老朽化した施設の故障リスクは高まっている。停電などで電力供給に支障が出る事態は、何としても避けねばならない。

 関電の値上げは、原子力規制委員会の安全審査で「合格」している高浜原発の2基が来秋に再稼働することが前提だ。これが遅れれば、事態はさらに悪化しよう。

 関電が規制委に求められた設備改修などに最善を尽くすのはもちろん、政府も地元の説得などに全力を挙げ、再稼働を着実に実現しなければならない。

2014年12月25日木曜日

対話重視の政権運営を心がけよ

 第3次安倍内閣が発足した。衆院選で得た有権者の後押しを無にせず、ときに細心に、ときに大胆に、政権運営に取り組むべきだ。過去の自民党にしばしばみられた「勝ったもの勝ち」といったおごりは厳に慎んでもらいたい。

 戦後政治において同じ人が首相に3回以上任命されたのは安倍晋三首相で7人目である。在任は第1次が1年、第2次が2年。足してまだ3年だが、今度の衆院の任期いっぱい務めれば計7年、小泉純一郎氏らを抜き、戦後3番目の長期政権になる。

■長期的視野で進め
 長ければよいわけではないが、長期政権ならばかなり先まで見通して手を打てるし、目先の受け狙いのような施策に走る必要もなくなる。長期的視野から生まれる政治力をどう使うか。政治家としての真の力量が試される局面だ。

 政治とは、大衆のさまざまな利害を調整し、国の針路を定める作業である。行き先不明で漂流されては困るが、黙ってついてこいでも困る。大事なのは対話である。

 安倍政権は2つの顔をもっている。ひとつ目が日本の伝統を重んじ、愛国心を称揚し、外国に弱みを見せない保守路線だ。もうひとつはバブル景気の崩壊から20年も低迷してきた日本経済を再生し、国民の日常生活をよくしようというアベノミクス路線である。

 世界における日本の地位を高めたいという意味で、この2つの路線に共通性がなくはないが、日中関係をどう考えるのかなどになると微妙な食い違いも出てこよう。

 日本と周辺国の間には、長く不幸な歴史がある。もつれた糸を解きほぐすのは容易ではなく、主張を貫けば必ず理解を得られるほど国際政治は甘くない。関係改善に向けて時間をかけて対話を続けねばならない。

 話し合いが重要なのは国内も同じである。年明けの通常国会では集団的自衛権に関する憲法解釈の変更に伴う安全保障法制の整備が待っている。この国をしっかり守ってほしい。そう思わない人はまずいないのに、憲法解釈変更への反発はかなりのものがあった。

 なぜだろうか。説明が不十分でないか。もっとわかりやすく語るにはどうすればよいのか。そう考える政権であってほしい。保守派にありがちな一方通行的なものいいでは国はまとまらない。

 安保法制の先には憲法改正が政治日程に上がってこよう。時代の変化に合わせて国の最高法規を不断に見直すのは当然である。とはいえ、あまり身近でない憲法にかける時間があるなら景気をよくしてほしい、と思う人もいよう。

 いまの国の仕組みにはこんな課題がある。それを正すには憲法のここを直したい。そうした議論なしに論戦を始めれば、「改憲ありき」対「とにかく護憲」の二者択一の不毛な争いになりかねない。

 政界は「1強」時代が続くが、有権者が投じた1票の背後にある思いにまで心配りする細心さを安倍首相は忘れないでほしい。

 現在の衆院の選挙制度は「政権交代可能な二大政党制」を目指してつくられた。だが、いまのところもくろみは外れているといわざるを得ない。欧米に多い保守対リベラルという政策の軸がはっきりせず、きちんとした政策論争が生まれないからだ。

■健全野党が必要だ
 欠けているのは、しっかりした野党である。どんな経営者もプランBを考えている。安倍政権に多数を与えた有権者も健全な批判勢力なしでよいとは思っていまい。

 民主党の機関紙の新年号に「民主党は好きでないが、日本の政治には自民党以外の受け皿が必要」との投稿が載っていた。同党は年明けに代表選を実施するが、民主党の看板を下ろすぐらいの覚悟をもって新たな政治勢力結集を考えるときではないだろうか。

 政治の土台づくりでいえば、直ちに取り組むべきは衆参両院の1票の格差の是正である。今回の衆院選における格差は最大2.14倍だった。こうした不平等を放置すれば、有権者の政治への信頼はますます損なわれ、投票率も下がり続けるだろう。

 かつて中曽根康弘首相は行政改革を推進するため、国民運動的な取り組みをした。安倍政権が岩盤規制の打破のような大胆な政治決断をするには、国民の後押しが不可欠である。永田町で行われている政治と有権者の日々の暮らしの距離を縮めるには、まず政治への信頼を回復しなくてはならない。

 その意味で、政治資金を巡る疑惑があった閣僚を交代させたのはよいことである。その細心さを続けてほしい。

第3次安倍内閣―数におごることなかれ

 第3次安倍内閣がきのう発足した。政治資金問題を抱える江渡前防衛相が交代したほかは、選挙前と変わらぬ顔ぶれだ。

 衆院を解散した首相が総選挙をへて引き続き政権を担うのは、2005年の小泉首相(当時)以来のことだ。

 安倍政権は衆院で3分の2、参院で過半数の勢力を確保。自民党内に強力なライバルが見あたらない状況を考えると、長期政権を予感させる船出である。

 であればこそ、安倍氏は数の力におごることなく、少数意見にも耳を傾ける丁寧な政権運営を心がけるべきだ。

 忘れてはならないのは衆院選で示された民意のありようだ。

 投票率は戦後最低の52・66%に終わった。自民党の小選挙区での得票率は、そのうちの48・10%。小選挙区で4分の3の議席を得たのは、「民意の集約」を重視した選挙制度の特性によるところが大きい。

 選挙後の朝日新聞の世論調査では、自民、公明の与党が定数の3分の2超の議席を得たことには59%が「多すぎる」と評価。自民勝利の理由については、72%が「野党に魅力がなかったから」と答えた。

 これらを考えあわせると、与党が勝ったというよりも、野党が負けた選挙だったと見るのが妥当だろう。

 首相は選挙後、最大の論点だったのは、日本経済や国民生活をどのように豊かにしていくのかという経済政策のかじ取りだったと語った。

 世論調査でも、首相に一番力を入れてほしい政策として30%以上の有権者が「社会保障」や「景気・雇用」と答えている。

 首相が何よりもこれらの政策に全力を注ぎ、国民の期待に応えるべきなのは明らかだ。

 一方で、首相は集団的自衛権の行使容認に伴う法整備を進め、憲法改正にも努力していきたいという。政権公約に示された政策は「進めていく責任がある」というが、選挙戦であまり論じられなかったこれらの課題もまとめて認められたと解釈するには無理がある。

 自民党は、沖縄県の普天間飛行場の名護市辺野古への移設推進を公約に掲げた。だが、沖縄県内の4小選挙区すべてで移設反対派が議席を占めた。

 首相がいうように「普天間の固定化はあってはならない」としても、このまま何事もなかったかのように移設を進めるのではあまりに強引だ。

 首相が数に頼らず、丁寧に民意をくみ上げる政治を進めていくのかどうか。移設問題への取り組みはその試金石となる。

第3次安倍内閣―財政再建に道筋つけよ

 「アベノミクスをさらに強く、大胆に実施していく」。安倍首相はこう強調する。

 好調な企業収益を、働く人の賃金増につなげる。社会保障制度を安定させ、安心して消費できる環境を整える。規制・制度の見直しなど「成長戦略」の加速を含め、課題は山積みだ。

 ただ、それらの前提となる課題がある。財政再建への取り組みだ。先進国の中で最悪のわが国財政への疑念が膨らみ、国債相場の急落に伴う「悪い金利上昇」が生じれば、あらゆる努力が吹き飛びかねない。

 消費税の10%への再増税を先送りしたことを受けて、日本国債は格下げされた。財政再建の重要性を直視すべきだ。

 リーマン・ショックのような経済混乱がない限り、景気の変動に左右されず17年4月に消費税率を10%に上げる。消費増税を定めた法律の、いわゆる「景気条項」は削除する。首相はこう明言したが、まずは確実に実行しなければならない。

 さらに、基礎的財政収支の20年度までの黒字化という政府目標がある。首相は来年夏までに具体的な計画を作ると語ったが、その中身が問われる。

 過去に発行した国債の元利払いのための国債発行は認めるが、毎年度の社会保障や公共事業などの政策費用は基本的にその年度の税収でまかなう。これが基礎的収支の黒字化である。

 状況は厳しい。国・地方の14年度の収支は25兆円の赤字。内閣府の試算では、今後「実質2%、名目3%」という、アベノミクスでも未達成の高い成長に基づいて税収を見込んでも、今の調子で予算を組めば、20年度になお11兆円の赤字が残る。

 この差を埋める方法は、三つしかない。経済成長に伴う税収の自然増、歳出の抑制・削減、そして税制改革による増税だ。

 政府の経済財政諮問会議では、民間議員が足もとの潜在的な成長率を0・6%程度としたうえで、これを前提に財政再建を目指すよう提案した。手堅い姿勢として評価できる。

 一方、安倍首相は、基礎的収支の黒字化という目標だけでは経済成長に伴う国内総生産(GDP)の伸びが考慮されないという問題を提起した。

 さまざまなデータで財政再建の進み具合をチェックするのは結構だが、国際的にも約束してきた基礎的収支の黒字化を骨抜きにすれば、国債市場からしっぺ返しを食らいかねない。

 足もとの政策課題に対応しつつ、財政再建を進めるのは、困難を伴う「狭い道」だ。しかし、両立しか道はない。

第3次安倍内閣 経済再生と好循環を完遂せよ

◆積極外交で日本の存在高めたい◆

 衆院選での与党圧勝を踏まえ、様々な政策課題を前進させ、具体的成果を上げねばならない。

 第3次安倍内閣が発足した。安倍首相は、江渡防衛相を除いた閣僚17人全員を再任した。

 9月に内閣を改造したばかりのうえ、現体制での予算編成の加速を重視したことは理解できる。

 江渡防衛相は、自らの資金管理団体の支出をめぐり、野党の追及を受けていた。「政治とカネ」の問題で国会審議が停滞するのを避けるのは妥当な判断だ。

◆丁寧な国会運営が重要

 後任に起用された中谷元・元防衛長官は、集団的自衛権や特定秘密保護法に関する自民党の作業チームのメンバーを務め、安全保障問題全般に詳しい。来年の通常国会では安保法制の整備を控えており、順当な人事である。

 自民党役員も全員が留任した。谷垣幹事長らは、首相の電撃的な「アベノミクス解散」に的確に呼応し、大勝に貢献した。首相官邸が政策決定を主導する「政高党低」が続く中、自民党との足並みを乱さないことが大切だ。

 衆院選における自民党に対する有権者の支持は、「他の党よりはまし」という消極的なものが多い。読売新聞の世論調査で、選挙結果を「よくなかった」とする回答が46%にも上ったことを謙虚に受け止めるべきだろう。

 「1強多弱」体制下でも、自民党は、野党に配慮した、丁寧な国会運営を心掛ける必要がある。

 安倍内閣は、第1次から通算すると、歴代7位の1095日となった。来秋の自民党総裁選、再来年の参院選を乗り切れれば、小泉、中曽根両内閣を抜き、歴代3位の長期政権も視野に入ろう。

 安定した政権基盤は、内政・外交の困難な課題に取り組むことを可能にする。政策の実現には、指導者の揺るぎない決意と周到な戦略が欠かせない。国民への説明を怠らないことも重要だ。

◆成長戦略強化に全力を

 第3次内閣が最優先すべきは、無論、足踏み状態にあるデフレ脱却を再び加速し、経済再生を成し遂げることだ。衆院選で論点となった格差の是正や実質賃金の上昇にも力を入れねばなるまい。

 それには、企業の利益を賃金や投資に回し、消費を拡大して、企業業績の向上につなげる「経済の好循環」の実現が肝要である。

 安倍首相は記者会見で、「アベノミクスの成功を確かなものにするのが最大の課題だ。さらに進化させたい」と強調した。

 首相は、麻生副総理兼財務相、菅官房長官、甘利経済再生相らとより緊密に連携し、機動的な経済運営に努めるべきだ。

 安倍政権は近く、地方活性化を柱とする経済対策と、来年度税制改正大綱を策定する。年明けには今年度補正予算案と来年度予算案を決定する予定だ。費用対効果の高い内容にせねばならない。

 成長戦略の強化も急務だ。

 農業、医療、労働など岩盤規制の改革は、担当の有村規制改革相はもとより、西川農相、塩崎厚生労働相も汗をかく必要がある。

 東京一極集中の是正や、地方創生特区などを通じた地域振興は、日本全体の成長にも役立つ。石破地方創生相は、各府省を総合調整する手腕が問われる。

 安全性の確認された原発の再稼働も円滑に進めたい。宮沢経済産業相は、地元自治体を説得、調整する力が試されよう。

 安倍首相は2年間で、過去最多の50か国を訪問し、高速鉄道や原発などのインフラ輸出を中心に、戦略的な経済外交を展開した。各国首脳との信頼関係を深め、日本の発言力と存在感を高めることは経済にも好影響を与えよう。

 重要なのは、やはり日米同盟の強化である。集団的自衛権の行使を限定容認する7月の新政府見解を反映する安保法制の整備と日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しを着実に進めるべきだ。

◆日中韓首脳会談を急げ

 首相や岸田外相、中谷防衛相は、集団的自衛権の行使容認の意義と必要性に関する国民の理解を広げる努力を倍加させてほしい。

 来年は戦後70年を迎える。

 歴史認識で対立する中韓両国との外交は、従来以上に注意深く進めねばならない。11月の日中首脳会談に続き、日中韓首脳会談を実現することが大切だ。まずは、年明け以降、準備会合の3か国外相会談を早期に開催したい。

 領土や歴史認識で2国間関係全体を停滞させ、相手国に対する国民感情を悪化させるのは、双方にマイナスだ。首脳や閣僚の対話を重ね、接点を探る必要がある。

2014年12月24日水曜日

再生エネ拡大にブレーキをかけすぎるな

 電力会社が契約を中断する事態になった再生可能エネルギー買い取り制度について、経済産業省が見直し案をまとめた。今のように太陽光だけが突出している状況は改めるべきだ。だが逆にブレーキがかかりすぎないように、丁寧な見直し議論が欠かせない。

 買い取り中断は、太陽光発電を計画して国の認定を受けた事業者が急増したために起きた。九州電力では太陽光の計画分が1800万キロワットを超え、夏のピーク時の電力需要を上回る。同社は「すべて受け入れると停電などが起きかねない」とし、東北電力など4社とともに新規契約を保留した。

 経産省はこれを受け、電力会社ごとに再生エネルギーの受け入れ可能量を試算し、制度の見直し案を示した。事業者に適用される買い取り価格の決め方を改めたり、電力会社の判断で発電を制限しやすくしたりする。来年1月中にも運用を見直すという。

 買い取り制度は電力の消費者の負担によって成り立っている。消費者の負担を極力抑え、持続的な制度にしなければならない。

 経産省の案にはなお再考すべき点が多い。まず再生エネルギーの受け入れ可能量を過小評価していないか。同省の試算では九電で900万キロワット、東北電で750万キロワットなどとした。この試算は原子力発電所が東日本大震災前と同じ稼働率で運転することが前提だ。

 原発の再稼働の行方はなお不透明で、その状況によっては再生エネルギーの受け入れ量は増える。電力会社同士で電気を融通し、天候による太陽光発電の変動を調整すれば、再生エネルギーの受け入れ余地はさらに広がるはずだ。

 太陽光発電が急増したのは、買い取り価格が事業者に有利に定められ、早く認定を得ようと申請が殺到したことが大きい。経産省は認定段階ではなく、契約時の買い取り価格を適用することを検討している。これは妥当だろう。

 一方で、電力会社が太陽光発電を制限しやすくする措置は再考が要る。今も年30日までは事業者への補償なしで発電停止を求められる。これを30日を超えて拡大できるとしたが、電力会社の都合で制限が広がる懸念は拭えない。

 風力や地熱などを含め、再生エネルギー全体をバランスよく伸ばすにはどうするかなど、ほかにも検討が必要な点は多い。太陽光偏重を是正するだけでなく、長期的な視点で制度を見直すべきだ。

中国は鉄鋼過剰の対応急げ

 中国の鉄鋼輸出が急増し、11月は過去最高の970万トン台と前年同月の2倍に拡大した。年間に換算すれば日本の生産量に匹敵する規模だ。これだけの量の鋼材が急に世界各国の市場に流入する影響は無視できない。

 中国国内の鉄鋼需要は低迷している。景気減速に加え、中国政府が投資に偏った成長を改めようとしているためだ。安定成長をめざす中国政府の政策は評価できるが、問題は過剰な生産設備の整理が遅れていることだ。

 鉄鋼製品は中国国内で消化できず、海外市場に向かう。中国製品が韓国に入り、韓国国内の需給が緩んで韓国製品が日本や東南アジア諸国などに流入するといった過剰の玉突き現象が目立つ。

 円安・ドル高の進行にもかかわらず、日本の市場に流入する韓国や中国、台湾など海外鋼材の量は10月まで12カ月連続で前年同月を上回った。アジア全域が供給過剰なため日本の輸出も伸び悩む。

 こうした傾向は鉄鋼がもっとも顕著だが、中国は電子部品や造船などでも過剰設備を抱える。各国の市場にこれ以上影響が広がらないように、中国政府には早急な設備淘汰を求めたい。

 韓国やマレーシア政府は中国などの鉄鋼製品に反ダンピング(不当廉売)関税を課すための調査に入った。日本も業界団体の日本鉄鋼連盟が中国などの対日輸出が適正かどうかの監視を強めている。

 中国では内外の課税を軽減するために微量に添加物を入れ、高級な合金として普通鋼材を輸出する例も多いとされる。こうした動きは市場のゆがみを助長する。確実に是正してもらいたい。

 半面、自国産業を守るために一方的な課税や輸入規制が各国で増えてきたことも心配だ。昨年のインドネシアに続き、オーストラリアや米国が日本製鋼材を含む海外製品に反ダンピング関税の適用を決めた。ベトナムなどは品質基準を設けているが、輸出国にすれば新たな非関税障壁だ。保護主義の拡大には歯止めをかけるべきだ。

再エネ新ルール―既存事業はこのままか

 太陽光発電など再生可能エネルギーの新たな受け入れを大手電力が中断している問題で、政府の対応策が決まった。

 受け入れ余地を上回る申し込みがあった結果の中断である。電力会社が再エネ事業者から買い取る量を制限しやすくなるようにルールを改め、代わりに送電網に接続できる事業者数を増やすことをねらう。これから電力会社に契約を申し込む新規事業者が対象となる。

 当座の手当てだ。やむをえない面もあるが、問題は残っている。すでに発電を始めていたり電力会社と契約が済んでいたりする既存事業者が、新ルールの対象外となっている点だ。

 新ルールは、契約時期で線引きしている。仮に新規事業者が効率的な経営をしていても「買い取りは既存事業者優先」となってしまう。経営の優劣より事業を始めた時期がものを言うようでは、公平な競争と言えるのか。優れた事業者が勝ち残るための改善・工夫が必要だ。

 また、利用者の負担が過大になる恐れもある。

 買い取りにかかる費用は、再エネ事業者のコストに一定利益を乗せて計算し、電気料金に含めているので結局、電気を使う利用者が負っている。

 資料などから試算すると、制度が当初想定していた利益率を上回る計画が半数近くある。

 利益を保証して事業への参入を促す。再エネが普及して原材料費が下がれば買い取り価格も下げ、やがて再エネ事業が独り立ちできるようにする。これが制度の本来の狙いだ。それでも利用者の負担が過大になるようなら、改善するべきだろう。

 また、現行制度では経営情報を公開する義務もなく、事業者や発電所ごとのコストと利益が利用者には見えないままだ。

 まず、利用者に対し事業者が経営データを公開する仕組みを取り入れる。既存事業者の財務状況を確認したうえで、新規事業者と同等のルールを適用できれば、制度がより公平なものになるうえ、新規参入の受け入れ枠をさらに増やすことにもつながる。

 事後変更があまりに頻繁だと事業の先行きが見通せなくなり、制度そのものが信用されなくなる。しかし、規制と競争が混合する新産業育成だ。試行錯誤の要素は除けない。ドイツは、既存事業者にさかのぼって新たなルールを適用する対策を実施してもいる。

 利用者負担を抑えながら再エネを普及させる。大きな目標にそって、制度の改善に努力してもらいたい。

公共交通再生―自治体がまず動こう

 苦境の公共交通をどう守るか。その礎となる改正地域公共交通活性化再生法が先月施行された。自治体を中心に、地域交通網の再構築を促すものだ。

 交通のこれからを考えることは、人口減少時代の地域の未来像を探る切り口となる。自治体の積極的な行動を期待したい。

 現状は深刻だ。12年秋には岡山、広島両県で71路線を運行していたバス事業者が経営破綻(はたん)した。栃木県北部では今年5月、高校生らが使う路線バスが事業者の経営難で突如運休した。

 民間中心だった日本の公共交通は、少子高齢化に加え、規制緩和に伴う競争過熱で経営環境が悪化した。次の危機がどこで起きてもおかしくない。

 07年施行の地域公共交通活性化再生法は、公共交通への市町村の関与を定めた。地方の創意工夫で再生を図るためだった。

 だが実際は、民間撤退路線に市町村がコミュニティーバス(コミバス)を走らせるといった局所的な対応が目立った。採算が合わずに公金支出が膨らんだり、コミバスと民間バスが競合したりする問題も起きた。

 改正法はこうした反省を踏まえ、地域全体を考えた交通網の立て直しを求めている。市町村に加え、都道府県も計画づくりにかかわれるようにした。

 すでに動いた自治体もある。

 兵庫県豊岡市は民間バスの大幅撤退を機に、幹線は民間、支線は市営、と役割を整理した。バスで割に合わない地域には、市が公用車を提供し、住民が運転する新たな交通を導入した。

 奈良県は全市町村長の協議会で民間バス路線を「仕分け」する仕組みを整えた。利用状況や収支に応じ、ルートの変更やコミバスへの転換といった改善策を示す。ニーズに適した足へと変えていくのがねらいだ。

 新制度では、地域の判断でルートや運賃を柔軟に決めることができる。国は多彩な財政支援策も用意している。その気になればかなりのことができよう。

 大切なのは交通の再生を通じ、「こんな地域にしていく」という目標を定めることだ。

 新型路面電車の整備で注目を浴びる富山市は、街のコンパクト化が目標だ。高齢者が歩きやすい街を目指す新潟県三条市は、タクシーを用い、割安な乗り合い交通の乗り場を611カ所設け、外出を促している。

 どんなやり方がふさわしいかは地域ごとに違う。車通勤の職員ばかりで、公共交通の課題を理解していない自治体も少なくない。住民の声を聴き、有識者に助言を求める。地域の総力を束ね、知恵を絞ってほしい。

大学入試改革 山積する課題を克服できるか

 大学入試の見直しをテコに、高校・大学教育を充実させる。掲げる理念はもっともだが、実現に向けて克服すべき課題はあまりに多い。

 中央教育審議会が、大学入試改革に関する答申をまとめた。

 現行の大学入試センター試験を廃止し、思考力や表現力を中心に評価する「大学入学希望者学力評価テスト」を導入する。各大学は、その成績に加え、面接や集団討論など多面的な手法で受験生の主体性や協調性も見極めるという。

 昨秋に政府の教育再生実行会議が出した提言に沿った内容だ。

 教科書を暗記するだけでは、社会の様々な問題に適切に対処するのは難しい。従来の入試が知識偏重だったことは否めない。

 柔軟な発想と問題解決能力を備え、社会に貢献できる人材を育成するには、入試の在り方の大胆な転換が必要だ、という答申の指摘には理解できる面がある。

 しかし、肝心の学力評価テストの具体像は見えない。どんな問題で思考力や判断力を測るのか。

 答申は、複数の教科にまたがる「合教科・科目型」や、教科の枠にとらわれない「総合型」の問題も出すとしている。だが、高校は教科ごとの学習が中心だ。高校生は入試の準備に戸惑うだろう。

 学力評価テストの成績は「1点刻み」ではなく、大まかなランクの段階別に表示する方向だ。点数という客観的な物差しをなくすことで、大学の選考作業に不都合は生じないか。また、社会的な理解は得られるだろうか。

 各大学の個別選抜の行方も不透明だ。面接や集団討論のノウハウを持つ大学は少ない。評価基準があいまいなら、選抜の公平性が疑われる。大規模な大学が全受験生を面接するのは不可能に近い。

 難関大学からは、幅広い知識や学力の習得を個別試験で確認したいという異論も出ている。

 答申は、高校2、3年生を対象にした「高等学校基礎学力テスト」の導入も提言した。学力の定着度の把握が目的で、小中学校の全国学力テストの「高校版」だ。入試の参考資料にも使うという。

 両方の新テストは、年に各複数回の実施を想定している。生徒が「テスト漬け」にならないか、学校行事や部活動の時間を確保できるか、高校側には懸念が強い。

 答申は新たな入試の2020年度からの実施を求めているが、拙速は避けねばならない。教育現場に混乱をもたらさないよう、文部科学省は、実現性を考慮し、慎重に検討を進めるべきだ。

地震予測地図 日本中どこでも災害は起きる

 日本各地が、どれくらいの確率で、大きな地震に襲われるか。

 政府の地震調査研究推進本部が、最新の知見をまとめた「全国地震動予測地図」を公表した。

 危険度ごとに色分けされた地図を見ると、地震災害と無縁の場所は、国内のどこにもないことが分かる。日本は世界有数の災害列島だと改めて実感する。予測地図を各地の防災対策に生かしたい。

 今後30年以内に、一部の耐震性の低い建物が壊れる震度6弱以上の揺れが起きる確率を見ると、切迫した実態が浮き彫りになる。

 都道府県庁所在地の市庁舎周辺で、確率が最も高いのは、横浜市の78%だ。千葉市は73%、水戸市と高知市も70%と高い。東京都庁は46%となっている。

 関東地方では、相模湾から房総半島沖に延びる相模トラフ沿いで起きるとされる巨大地震が、強い揺れの確率を引き上げている。

 対策は急務だが、万一の際の防災拠点となる市庁舎でさえ、耐震化が万全でない自治体がある。横浜市庁舎は、築50年以上で、老朽化が懸念されている。

 予測地図を参考に、各自治体は、地震に強い街づくりをしっかりと進めてもらいたい。

 この地図は2005年に初めて作成され、地震に関する調査研究の進展に合わせ、毎年、更新されてきた。建造物の設計強度計算や地震保険の料率算定など、日常的に活用されている。

 だが、10年版の地図には、翌年の東日本大震災に関する予測が十分に盛り込まれていなかった。

 これを教訓に、根本から予測手法を見直した。12年~13年は暫定版を作成し、今回、検討内容を網羅した正式版を公表した。

 想定される震源域や規模を大きくした結果、さいたま市で発生確率が21ポイント増の51%になるなど、大幅に上昇した地域もある。

 従来の地図は、専門的で難し過ぎるとの批判があった。今回は地震調査研究推進本部のホームページで活用法を丁寧に紹介した。直下型か、沿岸の海底を震源とする巨大地震か、各地で警戒すべき地震のタイプも示した。

 地図を見れば、誰でも250メートル四方の揺れの予測を確認できる。一人ひとりが、身を守るため、住宅の耐震化や家具の転倒防止などに取り組みたい。

 来年で発生20年となる阪神大震災の前には、「関西で大きな地震は起きない」と言われ、建造物の耐震化の遅れなどを招いた。

 油断は禁物である。

2014年12月23日火曜日

対米攻撃が示すサイバー脅威の深刻さ

 サイバー攻撃やテロ予告によりソニーの米映画子会社の新作上映が中止に追い込まれた。オバマ米大統領は北朝鮮が関与したとし、ソニーの対応にも遺憾の意を表明した。国境を越えたサイバー攻撃の脅威が高まっており、日本にも十分な対策が求められる。

 新作は北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺計画を描いたコメディー映画。公開発表に伴い、ソニーの映画子会社にはサイバー攻撃が行われ、情報システムが停止し、社内の情報が流出した。その中には同社幹部による差別的な発言も含まれていたという。

 上映予定だった映画館にもテロ予告が行われた。中止する映画館が相次いだため、映画子会社も封切りを見送った。オバマ大統領が指摘するように「表現の自由」が損なわれたことは、遺憾といわざるをえない。

 米政府は今回の攻撃を受け、北朝鮮に対し相応の対抗措置をとる方針だ。大規模なサイバー攻撃は昨年3月に韓国でも起きており、韓国政府は北朝鮮の攻撃とみている。北朝鮮はサイバー攻撃の専門部隊を抱えているといわれ、日本にとっても大きな脅威だ。

 特に今回の対米サイバー攻撃は中国など他のアジアの国を経由してきたとの見方が強い。国境をまたいだサイバー攻撃に備えるには1国だけの対応では無理だ。国際的な協力関係を築き、各国が足並みをそろえる必要がある。

 日本政府はすでにサイバー防衛協力について米国や中国、韓国などと協議している。来年改定する日米防衛協力のための指針にもサイバー攻撃対策への協力を明記する計画だ。こうした協力国をもっと増やしていくべきだ。

 サイバー攻撃に備えるには防衛省や総務省など省庁間の連携も重要だ。サイバー空間の安全対策を定めた「サイバーセキュリティ基本法」が先月制定され、内閣にサイバーセキュリティ戦略本部が新設される。各省庁をまとめる司令塔の役割を期待したい。

 日本の政府機関に対する不正アクセスは昨年度で508万件と前年度の5倍に増えた。その多くが海外からの攻撃であり、2020年の東京五輪を控え、脅威はさらに増すとみられる。

 ソニーの米子会社に対するサイバー攻撃は、政府間や日本の省庁間のみならず、民間企業とも十分に連携体制をとっていく必要性を示しているといえよう。

コンビニを高齢者ケアの場に

 認知症などの高齢者を地域で支え、見守る態勢づくりが急務になっている。そのための拠点として全国で5万店を超えたコンビニエンスストアを、これまで以上にうまく活用してはどうか。コンビニ各社や介護などの関連業界、国、自治体、地域などは知恵を出し合い、仕組み作りに取り組みたい。

 コンビニは年々、地域社会のインフラという性格を強めている。買い物だけでなく住民票の取得や公共料金の支払いなど公的サービスの窓口にもなった。深夜の防犯活動に協力し、災害時に生活物資を供給する準備も進めている。

 この流れを一歩進め、高齢者の生活支援にも力を入れたい。セブン―イレブン・ジャパンは昨年以降、福岡県や千葉県と協定を結び、宅配先の高齢者に異常があれば専門機関に通報するといった見守り活動に一部の店が参加している。こうした活動に加わる店や地域をもっと広げたい。

 経済産業省によれば、自治体の2割強がコンビニに対し見守り活動など高齢者への対応の強化を期待している。

 一方でこの種の活動に参加していない店舗の経営者に理由を聞くと、「参加・協力の要請を受けたことがないから」が3割強でトップとなった。すれ違いを解消していけば、高齢者が安心して暮らせる街が今よりも増える。

 高齢者やその介護者を対象に、身近にあって頼れる拠点を目指すのもいい。ローソンは2015年から、介護プランを立てるケアマネジャーが昼間に常駐する新しいタイプの店を出す。介護用品の販売や関連サービスの紹介をするほか、高齢者が集うスペースを設け、運動の場にもする構想だ。

 駐車場に血液などの検査ができる車両に来てもらい、健康診断や診察をした例もある。工夫次第でさまざまなサービスが提供できるはずだ。経営面でも、国内出店に飽和説もあるなか、高齢者やその家族の来店が増えれば、新市場や新しい顧客の開拓につながる。知恵を絞りたい。

サイバー攻撃―国際社会共通の脅威

 北朝鮮の首脳を暗殺するという筋立てのハリウッド映画をきっかけに、国際的な緊張が高まっている。

 北朝鮮が映画に激しく反発していたなか、先月、米国にある日系の制作会社に対する大規模なサイバー攻撃がおきた。

 さらに映画館などにテロを予告する脅迫文がネットに出た。制作会社は今月に予定していた全米での公開を中止した。

 オバマ米大統領は今回の攻撃を「北朝鮮が国として行った」と名指しで非難。「対抗措置をとる」と明言した。

 サイバー空間は、世界のインフラや通信が頼る重要公共財である。それを悪用して国家が攻撃や脅迫をしたとすれば、戦争行為にも近い暴挙である。国際社会が懸念するのも当然だ。

 北朝鮮は関与を否定しているが、韓国でも昨年春に北朝鮮によるとみられるサイバー攻撃がおきている。当時と手口も似ており、疑いは相当に濃い。

 韓国政府はかねて、北朝鮮が1万人規模のハッカーを養成していると指摘してきた。北朝鮮外務省は「今回の事件は我々に関連がないことを実証する方途がある」というが、そうであれば速やかに証明すべきだ。

 金正恩氏は政権に就いて約3年たつが、国内はまだ盤石の態勢とはいえない。来年の朝鮮労働党創建70年に向けて、対外関係の改善を志向しているとみられるが、今回の事件で、最大の交渉相手である米国との対話の模索は大きくつまずいた。

 オバマ氏は、6年前に解除した北朝鮮のテロ支援国家への再指定を検討している。そうなれば朝鮮半島の緊張は急速に高まりかねない。国際社会での孤立化はさらに強まるだろう。

 米国と対話するためには何が必要なのか。金正恩氏は熟考する必要がある。

 一方、今回の事件を機に、米国がサイバー上の安全策について、中国に協力を求める異例の展開になっている。北朝鮮のネット接続の大半が中国経由という実情があるからだ。

 米国の盗聴疑惑と、中国のハッキング疑惑とで、これまで両国は互いを非難し合ってきた。その米中がサイバー安全保障について真剣な論議を始めるならば、注視に値する。中国は責任ある大国として、米国の呼びかけに応じるべきだ。

 この問題を国連安全保障理事会で取り上げるのも一案だ。多国間で取り組む国際サイバー対策の構築に向けて、機運を高めてもらいたい。もちろん日本にとっても重大な関心事であり、積極関与が求められる。

大学入試改革―個別試験がカギだ

 高校と大学の教育を、入試の仕組みを変えることで転換する。そんな改革を求める答申を、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会が出した。

 国レベルで導入するテストは二つある。高校2、3年で教科の知識をはかる「高等学校基礎学力テスト」と、大学受験生の知識の活用力をみる「大学入学希望者学力評価テスト」だ。

 ともに1点刻みの成績表示をやめる。これまでの日本の入試を大きく見直すものだ。

 だが、両テストですべてが変わるわけではない。高校、大学がどう動くかがカギを握る。

 一つのポイントは大学の個別試験だ。答申は「人が人を選ぶ選抜」として面接や討論、活動報告書などを見るよう求めた。

 だが、こうした方法は人手が要り、時間がかかる。国が支援しなければ難しい。大人数の受験生を抱える大学で、どこまで可能かなどの課題も多い。各大学は求める学生像をもとに、自校の方法を検討してほしい。

 もう一つは、高校、大学が教育をどう見直すかだ。

 改革の出発点は学生の学力不足が問題になったことだった。

 少子化で「全入時代」を迎え、受験勉強をしなくても大学に入りやすくなった。学生確保のために推薦、AO入試を選び、テストを課さない大学が増えた。高校の教育も選択科目が増え、幅広く学ばなくなった。

 もっと教科の学力をつけるべきだとの声は高い。

 さらに改革を促しているのがグローバル化と情報化だ。

 知識を覚え込む人から、自ら問いを立て動く人へ。社会の求める人材像は変わりつつある。

 この二つの要請に、どう向き合うか。高校が「大学入試が変わらないと」、大学が「高校が学力をつけないのが悪い」と言い合うだけでは済まない。

 高校はいまや9割以上が通い、進学率では義務教育に近い存在だ。小中の内容も含め、学力の底抜けを防いでほしい。それは「基礎学力テスト」への対策以前のことだ。高校の授業は知識注入型が多い。教科の壁を越えてどう伸ばすか。各校で話し合う必要がある。

 大学も、大学生がエリートだった時代は遠い。学生が目標を探り、学習習慣をつけるのを助ける。グループ学習やインターンシップを組み合わせ、意欲を高める。そんな教育が必要だ。

 18歳人口は2021年ごろから再び減り始める。入試でふるい落とすことで学力を担保するのは、さらに難しくなる。小学校から大学までの教育をどう積み上げるか。議論を進めたい。

朝日慰安婦報道 指弾された「強制性」すり替え

 朝日新聞は、慰安婦報道を巡って示された多くの批判を重く受け止めねばならない。

 慰安婦報道の検証を委嘱された第三者委員会が報告書をまとめ、朝日新聞の渡辺雅隆社長に提出した。

 渡辺社長は「改めるべき点は、誠実に実行していく。朝日新聞を根底からつくりかえる覚悟で改革を進める」と語った。慰安婦問題に代表される報道姿勢の見直しを迫られるだろう。

 問題となったのは、韓国・済州島で「慰安婦狩り」をしたとする吉田清治氏の証言だ。朝日新聞は1982年から90年代半ばまで計16回にわたり記事を掲載した。

 吉田証言については、92年に歴史家の秦郁彦氏が信憑性に疑問を投げかけた。

 朝日新聞も97年の特集で「真偽は確認できない」との見解を示したが、過去の記事の訂正や取り消しはしなかった。今年8月5日の検証記事でようやく虚偽と認め、一連の記事を取り消した。

 第三者委の報告書が「読者に対して不誠実」と非難したのは、もっともである。

 朝日新聞は当初、日本軍が直接、強制連行したという「狭義の強制性」を大々的に報じていた。しかし、吉田証言に疑問が呈されると、民間業者が本人の意に反して連れ去ったとして、「広義の強制性」を問題視するようになった。

 報告書は、朝日新聞のこうした変化をとらえて、「議論のすりかえである」と指弾した。軍による強制連行の有無が慰安婦問題の本質であることを踏まえれば、核心を突いた見解と言えよう。

 朝日新聞の慰安婦報道が国際社会に及ぼした影響について、一部の委員は「限定的だった」との見方を示した。

 一方で、複数の委員は「韓国における過激な慰安婦問題批判に弾みをつけた」と指摘した。

 92年1月の宮沢首相の訪韓直前に、朝日新聞が慰安所への軍の関与を大々的に報じたことは、「韓国の対日批判を、謝罪・賠償という方向に一挙に向かわせる効果をもった」と強調する委員もいた。説得力のある主張だ。

 今年8月の検証記事を批判した池上彰氏のコラムの掲載を見送った問題で、報告書が、実質的には当時の木村伊量社長の判断だったと認定した点も注目される。

 報告書は、新聞の影響力の大きさに言及し、「万が一誤った場合は、素直かつ謙虚に認めなければならない」と指摘した。報道機関全体への注文とも言える。

保育施設の事故 再発防止の体制整備が急務だ

 保育所など、子どもを預かる施設での事故が後を絶たない。

 政府と自治体、保育施設の連携を強化し、再発防止を徹底したい。

 厚生労働省によると、2013年に認可保育所などの保育施設で起きた重大事故は162件に上り、10年の3倍以上になった。このうち死亡事故は19件で、こちらも増加傾向が続く。

 小学生を放課後に預かる学童保育でも、毎年のように200件を超える事故が発生している。

 幼児が昼寝中に心肺停止になった。おやつの白玉団子をのどに詰まらせた。川遊び中に流された――。こうした様々な事故の原因を詳しく分析し、防止策を広く周知することが求められる。

 ところが、教訓を生かすための体制は、極めて心もとない。

 厚労省は、都道府県から保育所などの重大事故について報告を受けているが、集計結果の発表は年1回だけだ。内容も事故の種類や発生場所などの概略にとどまり、現場での再発防止には、あまり役に立たないとの指摘もある。

 死亡事故などに関する市町村の検証結果も、厚労省への報告義務はない。これでは事故の教訓を全国で共有するのは難しい。

 幼稚園で起きた事故については、所管する文部科学省では情報を十分に把握しておらず、公表や検証も行っていない。

 情報の集約・分析、注意喚起などの体制整備を急ぐ必要がある。警察との情報交換の在り方も検討すべきだろう。

 15年度からスタートする子ども・子育て支援新制度では、保育サービスの多様化と定員拡大に合わせて、補助を受ける保育所などに対し、重大事故を市町村に報告するよう義務づける。

 情報収集体制を明確化するのは妥当である。適切に運用し、再発防止に生かすことが肝要だ。

 新制度の発足に向けて、政府の有識者会議は、事故情報をデータベース化し、発生状況をホームページで公表するよう提言した。

 新制度の枠組みに入っていないベビーシッターなども、報告の対象とすることを求めた。着実に実施してもらいたい。

 商品・サービスによる重大事故を対象とした消費者安全法など、既存の法律や制度を有効に機能させることも大事だ。

 児童虐待では、事例を検証する政府の専門委員会が、原因分析と再発防止策の提言を行っている。保育事故でも、こうした組織の設置を検討すべきではないか。

2014年12月22日月曜日

原油安に気を緩めず最適な調達体制築け

 原油安が日本にもたらす恩恵は大きい。エネルギーコストを下げ、家計や企業活動の負担を減らす。景気回復の追い風にもなる。だがこれに気を緩めてはならない。

 原油輸出に経済が依存するロシアや中東の産油国にとって原油安は打撃だ。混乱は金融市場に広がり、世界経済の新たなリスクになりつつある。日本も警戒を怠るわけにいかない。

 加えて浮かび上がるのは、価格の変動に揺さぶられる日本の資源調達のもろさだ。原油安に気を抜かず、エネルギーを安く、安定して供給するための長期戦略を立てる努力を続ける必要がある。

 今夏に1バレル100ドルを超えていた原油価格は60ドルを割った。ガソリン代や電気代、原材料費などの低下は生産活動を活発にし、消費を刺激する。円安の負担を軽減する効果が期待できる。

 SMBC日興証券によると、原油価格が1バレル60ドルで推移すれば、国内総生産(GDP)を約10兆円押し上げる。原油安を経済再生に生かしたい。

 ただし、化石燃料に依存するエネルギー供給を放置して良いということではない。福島第1原子力発電所の事故後、原発を代替する火力発電用の原油や液化天然ガス(LNG)の輸入が急増した。国富の流出が加速し、貿易赤字が拡大する要因になった。

 震災前に約6割だった発電に占める化石燃料の比率は、2013年度は9割近くに高まった。原油安の恩恵は大きい。しかし、いつまでも続く保証はない。

 資源価格の変動による影響を最小にする調達構造を築く必要がある。原油やLNGは輸入に頼り、温暖化ガスの排出量も多い。太陽光や風力などの再生可能エネルギーはコストや供給の安定性に課題があるが、国産の資源だ。これを着実に伸ばしたい。

 天然ガスの成分が地中深くで水と結合したメタンハイドレートなど、日本の周辺海域に眠る国産資源の開発を急ぐべきだ。省エネも緩めるわけにいかない。

 原油安は米国でのシェールオイルと呼ぶ新しい石油資源の増産で供給が増えたことが背景にある。日本は原油の8割以上を中東から輸入する。供給構造の変化は調達先を多角化する好機でもある。

 大切なのは経済性や安定供給、環境への影響などの要素を考慮し、バランスのとれたエネルギー戦略を考えることだ。

起業を妨げぬファンド規制に

 簡単な届け出だけで個人から資金を集め不動産などに投資する「プロ向けファンド」について、金融庁が規制を検討している。集めたお金が私的に流用されるなどの被害が後を絶たないからだ。

 規制対象には企業の設立資金を出すベンチャーファンドも含まれる。投資家保護はもちろん必要だが、起業支援のお金の流れまで滞ることがないよう目配りの効いたルールづくりが求められる。

 プロ向けファンドは専門運用会社の出資を前提に、49人以下の個人からお金を集める。被害が出ているファンドは運用会社の実態が乏しかったり、資金管理がずさんだったりする例が多い。

 このため金融庁は、出資する運用会社に一定以上の純資産を持つよう義務づけることや、ファンド運営会社に業務改善命令を出せるようにすることを検討している。どちらもファンドの信頼性を高めるために不可欠な措置といえる。証券取引等監視委員会が運営会社を調べるための陣容を充実する必要もあるだろう。

 気になるのは個人のファンド出資への規制だ。今のところ、ファンドにお金を出せるのは株式などの金融資産を1億円以上持つ富裕者に限るというものになりそうだ。詐欺で生活資金まで失うといった事態を避けるためだが、ベンチャーファンドの関係者は「資金集めに支障をきたす」などとして規制の見直しを求めている。

 金融審議会ではベンチャーファンドに限り個人に厳しい財産要件を求めず、「上場会社の元役員」や「企業財務の経験者」などに限定するという案が議論されている。経済や金融の知識があれば詐欺にあいにくいという判断だ。

 起業の促進は日本経済にとって重要な成長戦略の一つである。起業資金を幅広く募るためには、厳しい財産基準で個人出資の道を狭くしすぎないほうがいい。ただ、職業要件などを細かく決めすぎても内容が複雑になり、制度の使い勝手が悪くなってしまう。規制の簡素化も必要だ。

全国学力調査―本来の趣旨を忘れずに

 今年の全国学力調査で、学校の教科の平均正答率を市区町村が公表した割合は、2%にとどまった。全校の成績を公表した都道府県もなかった。文部科学省の調査でわかった。

 学校別の数値の公表は各校の序列化につながりかねない。教委の慎重な姿勢を支持したい。

 文科省は今年から、学校の成績を、都道府県教委や市区町村教委が公表できるようにした。ルールを変えたのは、「税金を使う以上、保護者や住民は結果を知る権利がある」といった主張が、一部の自治体の長から相次いだためだ。

 行政が説明責任を果たすことは、もちろん欠かせない。情報公開の点からも重要だ。

 だが、この調査の目的は、住民が各校の成績を知ることではない。文科省や教委、学校が学力の実態をつかみ、その向上に役立てることである。

 文科省は、学校ごとの数値を一覧で公表することを認めていない。ただ、全校の正答率を公表すれば、並び替えてランキングにすることは可能になる。

 自治体の学力調査では、学校の点数を気にした先生が試験の最中、間違えた子の問題を指さして回ったことがあった。そんな不正を招いてはならない。

 そもそも学校の成績が、教員の指導力を直接反映しているとは言い難い。保護者の年収や学歴、塾に通う子の割合などに左右されることは多くの研究で明らかだ。結果を読む側はそこを踏まえておくべきだろう。

 「学力向上に家庭や地域の協力を得るため、説明が必要だ」というなら、何も正答率にこだわる必要はない。順位づけを避けながら、各校の結果を伝える方法はないものか。

 注目すべきは、平均正答率をそのまま明らかにせずに、学校の状況を伝える公表方法を考えた自治体だ。正答率を「数と計算」「図形」といった領域別のグラフに加工したり、成果や課題を文章で述べたり……。

 どんな方法をとれば数値が独り歩きせず、しかも学校や保護者、住民に役立つか。自治体は知恵を絞ってほしい。文科省はよい例を集め、各教委が共有できるようにしてもらいたい。

 公表は、行政にとって終着点ではない。成績が振るわない学校について、原因を分析し、教職員や予算を増やすなどの手当てをする。成果を上げた学校は、その取り組みを他校に紹介する。すべきことは多い。

 この調査の狙いの一つは、教育行政が自らの施策を検証することだ。そのことを肝に銘じてほしい。

認知症対策―早期診断いかすには

 高齢化に伴って増え続ける認知症。5年で65万人増えるとの推計がある。軽度認知障害と呼ばれる予備軍も含めれば800万人超とされる。検査技術の進歩もあって、早い段階で診断される人も増えてきた。

 他の病気なら早く見つかることは歓迎されても、認知症は「早期診断、早期絶望」とも言われる。「認知症になったら何もできない」と本人も周囲も考えてしまいがちだからだ。

 それでも支援があれば、状況は変わる。

 東京都世田谷区では、認知症の人やその手前にいる人の家を看護師や作業療法士が訪問。生活の困難を減らす工夫を一緒に考える。例えば「料理ができない」という悩みの原因がなべを探せないことなら、収納場所に「なべ」と書いて貼っておく、といった具合だ。家族の相談にものる。訪問先の様子は医師や福祉の専門家が加わったチームで共有し、受診を促す、介護保険サービスの利用を勧める、といった方針を決めていく。

 海外でも支援策を充実させてきた。英国スコットランドでは診断を受けた人の窓口となる支援者を1人に定める。この人に聞けば、認知症に関する情報もわかるし、患者交流会の紹介もしてもらえる。先月、東京で開かれた認知症に関する国際会議で報告された事例だ。

 早い段階から専門家が関わって支障が出ている部分を補えば、自宅で暮らす期間を延ばすことができる。今までのように生活できると、本人の自信にもつながる。

 認知症の人の家族を対象にした調査では、より早い診断が可能になった場合、「長い間、精神的な負担を抱えなければならない」「介護や経済支援などのサポート体制が整っていない」といった懸念が示されている。支援の必要性が読み取れる。

 政府も新たな認知症対策をつくる方針を示している。生活全般を支える対策を目指して、徘徊(はいかい)による行方不明者問題や詐欺被害の防止なども検討される見通しだ。

 認知症の人たちが自ら政策提言などに取り組む団体「日本認知症ワーキンググループ」が10月に発足している。当事者の体験や意見を集約して支援策につなげる意向だ。

 診断後すぐのカウンセリング、情報を得られる場、仲間、社会参加して人の役に立つ機会など、当事者が求める支援はさまざまだ。せっかく生まれた団体である。その声を対策に反映させて、「早期絶望」の治癒につなげてほしい。

再生エネ普及 見直しの副作用は最小限に

 大手電力5社が、太陽光など再生可能エネルギーの新規受け入れを中断ている問題で、政府が対策をまとめた。

 太陽光による発電量が急増した際、再生エネの発電事業者に出力抑制を求める制度を拡充することが柱だ。

 国内自給でき、地球環境への負荷が小さい再生エネは、できる限り普及させたい。

 だが、政府がすでに認定した太陽光発電所がフル稼働すると、発電量が送電網の許容量を超え、停電などが起きる恐れがある。

 現行の買い取り制度が正常に機能していない以上、大幅に見直すことは当然だ。

 現行制度では、電力が余った場合、電力会社は年間30日まで、太陽光発電事業者に補償金を払わず受け入れを制限できる。

 これから買い取りを開始する契約については、日数の上限なしに制限をかけられるよう改める。事業用に限っていた出力制限の対象に、家庭用も加える。

 太陽光の買い取り申請が特に多い九州電力や東北電力は、政府の認定した発電能力の半分程度しか受け入れられない計算だ。

 出力制限を拡充して発電量を調整しやすくし、認定を受けた設備が発電を開始できなくなる事態を防ぐ狙いは妥当だろう。

 ただ、買い取り量が見込みより大きく落ち込めば、採算が合わなくなる事業者もいよう。売電収入をローン返済の一部に充てようとしていた人が、住宅購入を見合わせるケースも出ているという。

 各電力会社は、できるだけ再生エネで発電した電気を受け入れるよう、工夫してもらいたい。

 2012年に1キロ・ワット時40円でスタートした太陽光の買い取り価格は、32円に引き下げられたが、それでも欧州の約2倍の高さである。政府はこれを来年4月から、さらに下げると見られる。

 これまで、価格を引き下げる前になると、買い取ってもらえる権利だけは確保しておこうと、実態のない計画が申請され、政府の認定を得ることを繰り返してきた。政府は計画を精査すべきだ。

 予定日を過ぎても発電を開始しない場合は、特段の事情がない限り契約解除を原則としたい。

 太陽光だけでなく、風力や地熱など特性の違う再生エネをバランスよく導入することが、電力の安定供給にも資するはずだ。

 参入が突出して多い太陽光については固定価格による買い取りから入札制に改めるなど、より抜本的な改革が求められる。

香港デモ終結 民主化要求の再燃は不可避だ

 香港行政長官選挙の民主化を求める学生らによる道路占拠のデモは、約2か月半で終結した。だが、いずれ民主化要求の再燃は避けられまい。

 香港警察は先週、香港島の繁華街の大通りに最後まで残っていたデモ隊の拠点を強制排除した。

 深刻な流血が回避されたのは評価できる。学生らが基本的に非暴力に徹したことが要因だ。

 中国の習近平政権が8月に決めた「民主派排除」の行政長官選挙制度の撤回を学生らは求めた。

 香港では、一国二制度下での「高度な自治」が、憲法にあたる香港基本法で保障されている。この法律を軽視し、一方的に香港支配を強めようとした中国に抵抗することが、デモの目的だった。

 中国は「デモは違法」と強調し、学生らの要求を頑なに拒んだ。譲歩すれば、民主化運動が国内に波及する、と恐れたからだろう。

 道路占拠は展望が開けぬまま長期化し、経済的損失や交通渋滞などに憤る住民の支持を失った。900人以上の逮捕者を出しながら、選挙制度の見直しに関しては、何の成果も上げられなかった。

 しかし、この運動に重要な意味があったのは間違いない。

 長年、政治に無関心と言われた若者が、香港の「中国化」に危機感を抱き、異例の直接行動に訴えた。オバマ米大統領をはじめ国際社会は「雨傘革命」に強い関心を寄せ、中国に懸念を表明した。

 中国は、デモの収束に成功したが、失ったものも大きい。

 香港政策への住民の反発が顕在化しただけではない。力による一方的な現状変更を図る強権的体質をここでも世界に露呈した。

 中国が「高度な自治」に背を向けている限り、香港の安定は実現しないことも明確になった。

 中国が、香港と同様の「一国二制度による統一」を呼びかける台湾では、対中警戒感が強まった。馬英九政権の中台接近路線にブレーキがかかったのは痛手だ。

 今後は、行政長官選挙制度の法制化の動きが焦点となる。

 香港政府は来月にも、習政権の方針を忠実に踏まえた法案の作成準備に着手する。

 民主派や学生らは、道路占拠以外の方法でも抗議を続ける構えだ。占拠に反対した住民の多くも、民主化は望んでいる。折に触れて抗議行動が表面化しよう。

 中国が、デモの主導者や反中的言論に対する圧力を強める恐れもある。国際社会は、状況を注視し、必要に応じて、中国に自制と対話を求めていきたい。

2014年12月21日日曜日

人工知能の未来を注視し研究を怠るな

 近い将来、コンピューターが人間を上回るほどの知的な能力を備えるようになる。そんな指摘をよく耳にするようになった。

 グーグルなど米IT(情報技術)大手は人工知能技術に投資を始め、「人工知能ブーム」とすら呼べる状況が生まれている。

 コンピューターが人間を超える優れた判断力を備えるようになれば、研究開発から営業まで企業内の多くの業務の生産性向上に役立つに違いない。病気の診断や生徒たちの学習状況の適切な把握を通じ、医療や教育の質の向上にも応用ができそうだ。

 人工知能はいわば究極の情報処理技術ということもできる。日本の企業や研究機関も技術の動向を見極めて研究に取り組んでおかないと、米企業などに大きく後れをとってしまう恐れがある。

 人工知能の急速な進歩は、いま社会に膨大な量のデジタル情報が日々蓄積されていることと深く関係している。文書や画像、地図情報など多様な情報がコンピューターで読める形式で生み出されて集積され、利用可能になった。

 最先端の人工知能はこうした情報を大量に読み込み学習することを通じ判断力を磨いている。チェスや将棋といったゲームの世界で培い、人間のプロを破るまでになった実力をいよいよ実社会で試す段階に達したともいえる。

 先駆的な例として訴訟支援がある。裁判で証拠に使える情報を大量の文書や電子メールから見つけ出す作業に人工知能が使われている。人間の専門家に引けをとらぬ正確さでより速くこなすという。

 問いかけに答えてくれるスマートフォンのソフトや車の自動運転も人工知能の応用の一部だ。

 人工知能がスマホや自動車、ロボットなどに搭載され普及すればするほど、集まる情報が増え加速度的に賢くなる可能性を秘める。

 技術には光と影がある。国立情報学研究所の新井紀子教授は「コンピューターがホワイトカラーの職を奪う」と指摘する。宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング博士ら人工知能の進歩に警鐘を鳴らす意見も目立つ。人工知能学会は社会への影響を探ろうと倫理委員会を設けて議論を始めた。

 ただ今は過剰な期待も心配も禁物だろう。まずは企業や政府が人工知能の研究を怠りなく進めることだ。同時に研究成果を公開し最先端で起きていることを社会にわかるようにしておく必要もある。

大間原発審査で問われるもの

 青森県大間町で建設中の大間原子力発電所について、事業者のJパワーが原子力規制委員会に安全審査を申請した。同社は2021年度の運転開始をめざしている。

 新規制基準を踏まえ、再稼働に向けた安全審査を申請した原発は20基にのぼる。だが大間は新設であること、燃料や設計が違うことなど、他とは異なる点が多い。

 それらを踏まえ、規制委が厳格に安全性を審査するのは当然だ。審査と並行し、政府としてもやるべきことが多い。地元だけでなく周辺自治体の理解をどう得るのか。使用済み核燃料を再利用する核燃料サイクルの位置づけを明確にすることも欠かせない。

 大間原発は燃料のすべてにウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使う新型炉だ。08年に着工後、東日本大震災で工事が中断した。Jパワーは新基準に合うように設計を変更し、総建設費は約6千億円にのぼる。

 安全審査の申請自体は事業者の経営判断に属することだ。一方で大間原発の運転開始を認めるかどうかは、さまざまな課題を考慮して判断しなければならない。

 安全面では、燃料の一部にMOXを使う方式は国内外の原発で実績がある。だが全量をMOXにして同様の安全性を保てるのか。規制委は科学的知見を踏まえて判断し、根拠を明示してほしい。

 MOX燃料の利用は、他の原発の使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する核燃料サイクルの推進が前提だ。だが政府が4月に決めたエネルギー基本計画では、核燃料サイクルの位置づけがあいまいなままだ。

 中長期的に原発にどの程度依存するのか。再処理はどこまで必要か。政府はもっと詰めるべきだ。

 津軽海峡を挟んだ北海道函館市は「大間で事故が起きれば市民に危険が及ぶ」として建設中止を求める訴訟を起こした。同市は原発から30キロ圏にあり、避難計画をつくる義務を負う。国として周辺自治体の意見を調整するルールづくりも必要だろう。

ふるさと納税―原点は自治体の応援だ

 住んでいる市町村とは別の自治体への寄付を優遇する「ふるさと納税」。安倍政権は地方創生策の目玉として制度を拡充する方針だ。

 が、それでいいのか。応援したい自治体にお金を回すという本来の趣旨が薄れ、寄付先の自治体からもらえる特産品などの「お得」度ばかりが注目される現状を見れば、原点に返るための見直しが先ではないか。

 ふるさと納税をすると、一定の上限まで、寄付額から2千円を引いた金額が確定申告で納税額から戻ってくる。加えて、寄付先の自治体から「お返し」があることが多い。ネット上にはもらえる商品に関するランキングまであり、まるでお得な通信販売の様相だ。

 東海地方のある市は、寄付のお礼として市内の施設への入場券を贈っていたが、今月から黒毛和牛すき焼き肉などから選べるようにした。すると、最初の2日間だけで昨年1年間の6倍を超す寄付が集まった。

 近畿地方の別の市は、寄付額に応じてカタログから謝礼品を選べる仕組みに改めた。15万円相当というカニのセットを筆頭に、3万円近いという革製かばんなどが並ぶ。

 お返しを厚くする自治体の事情も、わからなくはない。高齢化が進み、人口は減るばかり。もらった寄付金を使っても、地元の業者が潤い、全国にPRできれば、それでいい……。

 しかし、ある自治体が始めると、近くの自治体があわてて乗り出す例も目立つ。現状は、寄付を「お返し」で引き寄せる行きすぎた競争に陥っていると言わざるをえない。

 このまま放置すれば、NPO法人など寄付が頼みの民間団体が割を食い、寄付文化の健全な発展を妨げかねない。

 総務省のまとめによると、東日本大震災があった2011年は、ふるさと納税制度に基づく寄付額が前年の10倍近い650億円に、寄付者も22倍の74万人余に急増した。その多くは被災地向けだったと見られる。こんな使われ方なら誰もが納得するだろう。

 政権内でふるさと納税に熱心なのは菅官房長官だ。先の総選挙でも出身地の秋田県での演説で、総務相を務めていた時に制度を作ったことを紹介しつつ、こう語った。

 「東京に出て、働いて税金を納めるとなると東京だ。育ててくれたふるさとに寄付する仕組みがあったらいいと思った」

 それこそが出発点のはずだ。納税者の本来の思いを引き出すよう、制度を改めるべきだ。

核の非人道性―被爆者の訴えを外交に

 戦後70年近く、核廃絶を願ってきた広島や長崎の被爆者の思いが、まだ無視されている。

 国際社会からではなく、日本政府からである。政策にいつまでたっても反映されないのだ。

 ウィーンで今月開かれた核兵器の非人道性をめぐる3回目の国際会議は、多くの課題を浮き彫りにした。日本については、被爆者と政府の間で主張に開きがある問題が鮮明になった。

 核兵器は非人道的であり、廃絶すべきだとする国際的な世論の潮流が急速に強まっている。だが、日本政府の態度は煮え切らず、流れにあらがっているように見えることさえある。

 政府は近年の軍縮外交で、核廃絶を目標にしてきたはずだ。外交政策に、もっと被爆者の声を反映すべきである。

 被爆者と政府との溝は、会議でのそれぞれの発言に対する議場の空気に反映した。

 2人の被爆者や、広島から参加した平和首長会議の事務総長は核兵器禁止への前進を決然と求め、盛んな拍手を浴びた。

 ところが政府代表団長の佐野利男軍縮大使は対照的だった。会合の初日、「核爆発は対応できないほど悲惨な結果を招く」との見方に対し、「悲観的過ぎる」と述べ、多くの参加者をあぜんとさせた。

 大使は、過去の国連決議に盛られた被害救済策の強化も検討に値する、との趣旨だったと釈明する。だが、そもそも会議の狙いは、核爆発の被害が従来考えられていたよりも格段に大きく、対応不能とわかってきた、との認識を深めることにある。これまでの会議で日本も確認してきた見解ではないか。

 2日目の公式声明で日本は発言の趣旨を繰り返すことは控えたが、核軍縮について米国と歩調をそろえ、核不拡散条約(NPT)など既存の枠組みで少しずつ進むべきだという従来の見解を繰り返しただけだった。

 会議は開催を重ねるごとに参加国が膨らんでいる。初参加した米英を含め、今回は158カ国にのぼった。その場で、被爆国の代表が水を差す言動をとったことは実に悔やまれる。被爆者らが抗議し、岸田外相も大使を注意したのは当然だ。

 「核なき世界」の実現に向けて、米国の「核の傘」を土台としてきた安全保障をどのように転換していくか。政府は今こそ真剣に考え、行動すべきだ。

 もちろん容易ではなかろう。だが、そこに真剣に切り込んでこそ、核抑止論にとらわれた核保有国と、人道を原動力に核廃絶をめざす非保有国との橋渡し役にもなれるのではないか。

国際市場の波乱 「逆石油ショック」を警戒せよ

 原油価格急落を引き金に、国際金融市場の動きが不安定化している。

 3か月前は1バレル=100ドル前後で推移していた原油相場が、60ドルを割り込み、産油国ロシアの通貨ルーブルは、対ドルで半値以下に売り込まれた。

 ロシア中央銀行は通貨防衛のために、大幅な緊急利上げに踏み切ったが、効果は乏しく、通貨安と高金利で経済の悪化に拍車がかかる恐れも指摘されている。

 原油安は本来、世界経済全体にとってはプラスだが、原油需要の低迷を世界経済減速のサインと受け止める向きも多い。先行き不透明感から、ロシアだけでなく、他の新興国や日米欧の株価が乱高下を繰り返している。

 市場の動揺が増幅すれば、実体経済に大きな打撃を与える「逆石油ショック」に発展する可能性も否定できまい。

 各国の金融当局は、投機的な動きへの監視を強め、市場の安定に協調して臨む必要がある。

 最近の市場変動の背景には、2008年のリーマン・ショック後に日米欧が進めた大規模な金融緩和による「カネ余り」がある。

 原油市場や新興国に流入した大量の資金が、投資先を求めて動き回り、混乱が加速している。

 当面の焦点は、今年10月に量的金融緩和策を終え、来年にも利上げに転じるとされる米国の金融政策の行方である。

 利上げを機に米国へ資金が一気に還流し、新興国の通貨急落や経済危機を誘発するのではないか。そうした懸念が強まっている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は17日に公表した声明で、04年の利上げ前に使った「忍耐強く待つ」との文言を新たに盛り込んだ。その一方で、ゼロ金利政策を「相当の期間」続けるという従来の方針は維持した。

 FRBは、利上げに向かう方向性は示しつつ、前例を意識して早期利上げ観測が強まることを抑えるため、表現のバランスを取ったのだろう。声明後、日米の株価は大きく上昇した。FRBの対応が奏功したと言えよう。

 無用の混乱を招かぬよう、FRBは今後も丁寧な「市場との対話」に努め、慎重にゼロ金利政策の出口戦略を進めてもらいたい。

 世界経済を牽引していた中国やブラジルなど新興国の景気は、停滞が続いている。

 新興国が、社会インフラの不足や貿易・投資の過剰規制といった成長を妨げている課題を、自ら解決することも急務だ。

米映画中止 看過できぬ北のサイバー攻撃

 サイバー攻撃や、テロの予告によって、映画の公開を妨害する。「表現の自由」に対する重大な挑戦であり、看過することはできない。

 ソニー傘下の米映画会社が、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画の上映の中止に追い込まれた。大規模なサイバー攻撃を受けたうえ、上映館へのテロ予告があったためだ。

 米連邦捜査局(FBI)は、サイバー攻撃について、使用されたプログラムなどから、北朝鮮当局が関与したと断定した。「安全保障上の重大な脅威」と呼び、「国家の行為として許容範囲を超えている」と強く非難している。

 オバマ大統領は記者会見で「犯罪の性質に相応な措置について決断する」と述べ、北朝鮮に対抗措置を取る方針を表明した。

 対抗措置の内容は不明だが、米側が北朝鮮にサイバー攻撃を行うとの見方もある。議会では、制裁強化を求める声が出ている。

 11月下旬のサイバー攻撃では、映画会社のコンピューターシステムが故障し、会社の機密情報や、社員の電子メールなどの個人情報がネットに流出した。

 映画会社の経済的損害は莫大なうえ、米国社会が重視する「表現の自由」という理念が脅かされたことは深刻な問題である。

 公開中止について、米マスコミから「脅迫に屈した」との批判が相次ぎ、オバマ氏も「誤りだった」と評した。映画会社は別の形での映画の公開を検討するという。

 米政府が対抗措置を取ることは理解できる。

 映画には、金第1書記を揶揄する内容が含まれている。北朝鮮外務省は6月、「絶対に許せない」との声明を出していた。

 映画の内容に抗議することは自由だ。だが、サイバー攻撃という暴力的な違法行為や、観客の安全を人質にとる卑劣なテロ予告が容認できないのは当然である。

 北朝鮮は近年、サイバー司令部を創設し、ハッカー部隊を増強するなど、ネット空間での攻撃能力の向上に努めてきたとされる。

 昨年3月、韓国で金融機関やテレビ局がサイバー攻撃を受けた事件で、韓国政府は、北朝鮮の対外工作機関の犯行と結論づけた。

 今回の事件は、日本に波及してもおかしくない脅威である。

 政府の「情報セキュリティ政策会議」を中心に、サイバー攻撃に対する防護能力を高めることが急務だ。サイバー先進国の米国や、韓国、欧州諸国との情報交換や連携も強化する必要がある。

2014年12月20日土曜日

全員参加へ一歩前進の国連温暖化会議

 地球温暖化対策を話し合う国連の会議がペルーの首都リマで開かれ、すべての国が共通のルールに基づいて温暖化ガスの排出削減目標をつくることで合意した。来年末に最終合意を目指す新たな温暖化対策の国際的な枠組みの実現に、一歩近づく成果だ。

 温暖化による異常気象の頻発は、世界各地で深刻な被害を生じ始めている。温暖化の進行を抑え被害を軽減するには、先進国と途上国の別なく国際社会が一致して対策にあたることが必要だ。

 リマで開いた第20回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP20)で得られた合意は、すべての国が参加し能力に応じて対策に努める、新たな国際協力の形につながるものだと評価したい。

 ただ、気がかりはある。途上国の反対でルールを完全に共通化できず、曖昧な部分が残った。各国が打ち出した目標を国連の場で比較し検証する制度の実現も、見送られた。

 地球温暖化の責任は先進国にあるとして、多くの途上国は先進国と共通の土俵にあがるのを拒んできた。その構図はCOP20でも変わらなかったといえる。

 中国やインドなどの二酸化炭素(CO2)排出量はすでに先進国を上回る。途上国と先進国の線引きを固定せず、実態に即した柔軟な枠組みをつくるときだ。

 米欧諸国が公表した2020年以降の削減目標を合計しても、温暖化を産業革命以前に比べ2度未満に抑えるという国際社会の目標は達成できない。足りない分をどうするか。来年の最終合意に向けた大きな課題として残った。

 リマ合意は各国に対し、来年3月末までに20年以降の削減目標を提出するよう改めて促した。過去の取り組みを上回る水準を打ち出すことを求めている。

 合意にできる限り沿うよう、日本は自らの目標を決めていくべきだろう。足元のエネルギー事情からはCO2の大幅削減は難しいようにもみえる。しかし求められているのは20年以降、今世紀半ばを見通した目標だ。

 エネルギー安全保障や経済の観点からも、化石燃料への依存を下げ、エネルギー利用効率が高い産業構造や交通網、都市づくりを目指すことは、合理的で望ましい。目標づくりにあたって政府は、地球環境と経済が両立しうる日本の将来像について広く意見を聞いて議論を進めてほしい。

STAP問題の真相なお遠く

 万能細胞の一種とされるSTAP細胞について、理化学研究所は同細胞をつくったと主張する小保方晴子氏自身による検証結果を公表した。論文とほぼ同じ方法で45回以上試したが、STAP細胞はできなかった。理研の別のチームの実験でも再現できなかった。

 小保方氏らの方法ではSTAP細胞ができないことが、ほぼ裏づけられたといえる。だが、なぜ不正が起きたのか、核心はなおはっきりしない。日本の科学が失った信頼を取り戻すため、理研は徹底的に真相を究明すべきだ。

 そもそも、小保方氏による検証実験の意義自体に疑問がある。科学の発見は、第三者が同じ方法で試して初めて真理と認められる。STAP細胞でも世界の研究者が再現に挑んでいるが、いまのところ成功の報告はない。

 仮に小保方氏がSTAP細胞を再現できたとしても、科学者は信用しないだろう。半面、今回のように再現できなくても、STAP細胞がないと証明できるわけでもない。この実験をもって幕引きにするのであれば、世界の科学界から失笑を買いかねない。

 日本学術会議は「(STAP問題は)研究全体が虚構だった疑念がある」と指摘した。そうした根本的な疑問に、理研は答える必要がある。だが実際には、調査する範囲を画像の改ざんなどに限り、小保方氏らの論文不正を認定したにとどまっている。

 問われているのは理研の研究管理体制やガバナンス(統治)のあり方だ。研究計画や進捗状況のチェックは適切だったのか。不正をなぜ見逃したのか。

 理研は来年3月までの予定だった検証実験を打ち切ることを決め、小保方氏も理研を退職する。STAP細胞の有無を調べても真相究明に直結するわけではなく、実験打ち切りは妥当だろう。

 むしろ、組織のあり方の検証と関係者の責任の究明、再発防止策の確立に力を傾けなければならない。小保方氏も公の場に出て説明し、理研の調査に協力すべきだ。

STAP問題―多方面への教訓生かせ

 むなしさを漂わせながらの幕引き記者会見だった。

 理化学研究所がきのう、STAP(スタップ)細胞の検証実験打ち切りを発表した。

 理研は今年1月、「まったく新しい万能細胞の作製に成功した」と華々しく発表したが、ネット上で不正が発覚し、やがて論文は撤回された。

 理研は、論文に書かれた現象が再現できるかどうかの実験を続けたが、万能性を示す細胞は確認されなかった。「世界的な大発見」は幻と消えた。

 論文の筆頭著者だった研究者は、理研を退職することになった。上司で主要著者の一人だったベテラン研究者の自死を含め、悲痛な1年だった。

 しかし、この騒動をただ無為に終わらせてはならない。重大な失敗から学ぶべきことが多面的に残されている。

 何より、どの研究者も、基本的なルールや倫理を身につけなくてはならない。

 STAP問題の研究者の未熟さを指摘する声は多い。だが、不正が見つかったのは何もこの研究者だけでも、理研だけでもない。東京大の著名な教授など多くの別の不正も近年相次いでいる。個別の人物や研究機関ではなく、研究社会全体の問題として改善を図るべきだ。

 今回の騒動で「研究者をめざす大学院生への指導が変質している」との声が現場からあがった。指導者も院生も成果を急ぐあまり、基本の教育がおろそかになっているという。

 これは政府や研究機関が短期的な論文ばかりで評価し、研究費や処遇を競わせる手法をとってきた副作用だ。行き過ぎを正すべきではないか。

 さらに、科学界と社会とのいびつな関係も照らし出した。

 ゆがみは当初からあった。理研が割烹着(かっぽうぎ)姿の研究者の取材機会を用意するなど、過剰とも思える広報活動を展開した。社会にわかりやすく成果を伝えることが、予算獲得にもつながるからである。

 多くのメディアも若い女性科学者が主役という物語に飛びついた。だが「わかりやすさ」に媒介されて増幅された報道は、不正発覚とともに逆に大きく振れた。朝日新聞を含むメディアにとっても自戒が必要だ。

 第三者が再現できず、論文が撤回された時点で、科学的にはほぼ決着している。世界ではもうほとんど話題にも上らない。

 科学界と社会の間には、科学的な意味合いや冷静さを置き去りにしない、健全なコミュニケーションを築く努力が必要だ。

 各方面で教訓を生かしたい。

ルーブル急落―強硬策が経済を壊す

 ロシア通貨であるルーブルの為替相場が急落し、国の経済が激しく揺れている。

 プーチン大統領は、欧米からの制裁を招いて経済を深く傷つけた、これまでの強硬政策の転換に早急に踏み切るべきだ。

 主要輸出品である原油の安値も受け、インフレが悪化している。来年は経済のマイナス成長も見込まれている。

 資源の輸出に頼る他の新興国もおしなべて通貨安に悩んでいる。だが、そのなかでもルーブルの急落は突出している。

 ロシア経済は新興国の中で規模が大きく、景気後退が深刻な欧州経済と密接な関係を持つ。その変調が世界経済の新たな懸念材料となるゆえんである。

 この苦境から脱する道のりはきびしい。いま直面している事態は、プーチン氏による長年の政策のつけだからだ。

 まず、今週の記者会見で自ら認めたように、資源依存を抜け出して、国際競争力を持つ製造業を育て、経済を多角化する必要に迫られていたのに、長らくその努力を怠ってきた。

 経済の腐敗・汚職体質も依然深刻である。中でもプーチン氏の側近が資源や国防などの基幹産業を牛耳る不透明な国家主導型の経済運営は、外資導入の重大な障害になっている。

 なのに、改革を求める野党勢力をプーチン氏は力で抑えてきた。一方で、米欧と真っ向から対立する強硬策で国民の愛国心を刺激し、自分への高い支持を保とうと努めている。

 隣国ウクライナの領土であるクリミア半島を併合し、さらにウクライナ東部の分離派武装勢力を支援していることも、国民の大国意識をあおり、政権の求心力につながっている。

 しかし、その代償として、欧米から発動された経済制裁の重みが、原油安とともにロシア経済にのしかかった。

 会見でプーチン氏は「世界経済の成長で資源価格は再び上昇し、ロシア経済も早期に回復に向かう」と強気だった。

 だが、資源依存の構造を残したまま、不利益を省みない冒険的な対外政策を続ける限り、経済の脆弱(ぜいじゃく)さはこの国を揺さぶり続けるだろう。

 必要な行動は明らかだ。ウクライナの領土保全を約束した9月の停戦合意に従い、紛争の平和的解決に真剣に努め、制裁の解除につなげる。そして、抜本的な経済改革に今度こそ本腰を入れねばならない。

 国際社会との協力関係の回復と地道な改革以外に経済の再生はないことを、プーチン氏は心にきざむ必要がある。

STAP作れず 細胞の正体は何だったのか

 夢の万能細胞とされたSTAP細胞は、幻だったということだろう。

 理化学研究所は、小保方晴子研究員が実施した検証実験で、期限の11月までにSTAP細胞を作製できなかったと発表した。小保方氏とは別に検証を行った理研のチームも同様の結果だった。

 理研は検証実験の打ち切りを決めた。論文で示された細胞を再現するめどが全く立たない以上、打ち切りは当然の判断だ。

 データ改竄かいざんなどの不正が認定されたSTAP論文は、7月に撤回されている。それでも理研は、「細胞の有無を明らかにするため」として、実験を続行してきた。

 今回の発表により、小保方氏が「200回以上、作製に成功した」と強調したSTAP細胞の真偽をめぐる騒動は、大きな区切りを迎えたと言えよう。小保方氏は理研を退職する。

 今年1月、理研が大々的に発表したSTAP細胞の正体は、何だったのだろうか。既に知られた万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)ではないかとの指摘もある。

 小保方氏の未熟さゆえの誤りだったのか、意図的な不正だったのか。著名研究者が論文の共著者に名を連ねながら、なぜ見抜けなかったのか。なお疑問は残る。

 理研は第三者による調査委員会を設け、論文作成の経緯を調べている。再発防止に役立てることが求められる。

 チェック機能が働かなかったことを教訓に、ガバナンス(組織統治)を立て直し、日本トップの研究機関としての信頼回復を急がねばならない。

 STAP細胞問題は、日本の科学界の懸案を浮き彫りにした。

 小保方氏の博士論文に盗用があったことが明らかになると、博士号を授与した早稲田大に対する批判が強まった。早稲田大は小保方氏の学位審査の不備を認めた。

 各大学は、審査体制を点検し、研究の基本ルールを教える重要性を再認識する必要がある。

 文部科学省は今夏、倫理教育の充実を盛り込んだ研究不正防止の新指針を策定した。若者が、真摯な姿勢で研究に取り組み、柔軟な発想力を伸ばしていくために、有効に機能させたい。

 STAP論文は、権威ある英科学誌に掲載されたため、世界のメディアが、常識を覆す発見として大きく取り上げた。

 だが、論文発表の時点では、仮説の域を出ないことに留意せねばならない。自戒を込め、冷静な科学報道を心がけたい。

米キューバ接近 冷戦の残滓解消に課題は残る

 東西冷戦の残滓(ざんし)である敵対的関係を解消する、歴史的な方向転換だ。

 オバマ米大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長が、53年も断絶してきた国交の正常化を目指すことで合意した。

 親米政権を倒したキューバのカストロ革命政権の米資産接収を機に、両国は1961年、断交した。翌62年、キューバに配備されたソ連製核ミサイルを巡って米ソが対立し、核戦争を寸前で回避した危機は、冷戦を象徴する事件だ。

 米国の歴代政権は、「親ソ反米」のカストロ体制の打倒を目指し、冷戦終結後も「テロ支援国」指定などによる経済制裁を解除せず、孤立化政策を継続してきた。

 だが、オバマ氏は、この政策は成果を上げられなかったとして、「失敗だった」と切り捨てた。

 キューバは冷戦後、ソ連の支援を失って困窮した。ベネズエラの反米政権の支援を受け、細々と経済改革を進める今、米国の戦略的脅威とは到底言えない。

 米国内では、移民社会を中心に民間交流も進み、断交は「時代遅れ」との認識が一般的だ。

 中国のキューバ進出に対する警戒感も、米政財界の国交正常化への支持につながっている。

 米国のキューバ政策が過去の遺物なのは確かである。対立関係の解消を、地域の安定につなげることが重要だろう。

 両国は、拘束していた相手国の工作員らを釈放した。今後、双方の大使館を再開し、渡航や送金の規制を緩和する。米通信企業のキューバ進出も調整するという。

 しかし、国交正常化の実現には障害も少なくない。

 米議会や在米キューバ系の中高年層には、異論も根強い。カストロ一族主導の共産党一党独裁や人権侵害を見逃すとの批判だ。

 対キューバ制裁の解除には、共和党が年明け以降、上下両院を支配する議会の承認を要するものも多い。オバマ氏が大統領権限で制裁措置を骨抜きにしようとすれば、議会との対立が深まろう。

 カストロ政権は、長期の経済低迷が国民の不満を高め、共産党支配が揺らぐことを警戒している。オバマ政権は、人的交流や情報インフラの提供を通じて、キューバの民主化機運を高めると説明するが、楽観は禁物だろう。

 11月の中間選挙の民主党大敗によって、残り2年のオバマ政権のレームダック(死に体)化が指摘されている。政権の「遺産」作りに焦らず、地に足のついた外交を展開してもらいたい。

2014年12月19日金曜日

米・キューバ接近がもたらす力学の変化

 中南米に残された米ソ冷戦の負の遺産を自分の手で取り除いてみせる。外交が不得手と評されることの多いオバマ米大統領が、こんな決意を胸に大きな勝負に出た。

 ほぼ半世紀にわたって関係を断絶してきた隣国キューバと、国交正常化の交渉を始める。1959年の社会主義革命後、米国は同国を敵視し、孤立させる政策をとってきた。この路線を180度変える歴史的な転換だ。

 野党・共和党が強く反発しているため、先行きは予断を許さないが、米政府の発表によると、正常化交渉を進め、数カ月以内にキューバの首都ハバナに大使館を開くことをめざす。「テロ支援国家」の指定の解除を検討するほか、人的往来や送金制限も緩和する。

 実現すれば中南米のみならず、世界の政治力学に影響が及ぶ。アジアにどう跳ね返ってくるか、日本としても注視したい。

 まず、考えられるのは経済面の変化だ。キューバは1千万人を超える人口を抱え、巨大市場である米国と目と鼻の先にある。米国の制裁が緩めば、これまで同国でのビジネスに二の足を踏んでいた日本企業も動きやすくなる。

 見逃せないのが、今回の決定が中南米の地勢図に及ぼす影響だ。この地域にはベネズエラやボリビアなど、反米色の濃い国が少なくない。キューバは代表だ。

 今年7月にはロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席が相次いでキューバを訪れ、連携をうたった。米国をけん制する狙いだろう。米国がキューバに接近することでロ中の動きにブレーキをかけ、中南米の不安定化を防げれば日本にもプラスだ。

 気になるのが、オバマ政権の決断がキューバと同じ独裁国家であり、米国と敵対する北朝鮮にどう映るかだ。同国も本音では米国と関係正常化を望むが、米側が求める核放棄は拒み続けている。

 北朝鮮が「オバマ政権は御しやすい」と思い込めば、米朝関係は一段と泥沼化するおそれがある。米政府は核問題では妥協の余地が一切ないことを、改めて北朝鮮側に突きつけるべきだ。

 歴代米大統領は任期の終わりがみえてくると、後世に名を残そうと特に外交で大きく踏み出すことがある。功名心がかちすぎると、そこに隙ができ、相手につけ込まれかねない。世界史に刻まれる可能性の高い決断であればこそ、地に足をつけて交渉してほしい。

子ども標的の残虐テロを憂う

 極めて残虐で痛ましい事件である。パキスタン北西部のペシャワルで武装集団が学校を襲い、生徒ら140人以上が犠牲になった。罪のない子どもを標的にした卑劣なテロは断じて許されない。

 武装集団は軍関係の学校を襲撃し、自動小銃などで無差別に発砲した。また治安部隊との銃撃戦で生徒たちを「人間の盾」にしたという。当初から人質でなく、殺害目的の残忍な犯行だったようだ。

 事件を起こしたのは、過激派のイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」だ。イスラム教の厳格な戒律を重んじ、現政権や軍を敵視してこれまでもテロを繰り返してきた。

 政権側も対話路線を転換し、大規模な掃討作戦を続けていた。今回のテロはその報復だとされる。シャリフ首相は事態を重く受け止め、過激派の掃討を強化する姿勢を示した。残虐なテロリストの排除は当然だが、報復テロの続発や治安悪化への対応も怠れない。

 TTPはアフガニスタンとの国境地帯に拠点を置く。アフガニスタンでは米軍などが年末までに戦闘任務を終える予定で、地域の不安定化が懸念される。テロの撲滅を含め、国際社会全体で治安対策を考えていく必要があろう。

 子どもや女性の教育の権利を訴え、今年のノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんは事件を受け、「私の弟、妹である子どもたちを悼みたい。私たちは決して屈しない」と表明した。マララさんが2年前、襲撃で重傷を負ったのもTTPの犯行だった。

 パキスタンに限らず、世界では罪のない子どもが犠牲になるテロや紛争が頻発している。

 国連児童基金(ユニセフ)によると、内戦の続くシリアでは1~9月に35回以上も学校が襲われ、105人の子どもが殺された。イラクでは今年、700人以上の子どもが傷つけられたり殺害されたりした。今年は子どもたちにとって「恐怖と失望の年」という。パキスタンのテロはそれをまた裏付けた。大人たちの責任は重い。

高浜原発―集中立地を直視せよ

 複数の原発が同時に事故を起こせば、国の存続さえ揺るがしかねない。

 福島第一原発事故で直面した現実である。ところが、電力会社も原子力規制委員会も、同時多発事故のリスクをあえて直視していないように見える。

 関西電力高浜原発(福井県)の3、4号機について、規制委が新規制基準に適合するとの審査書案をまとめた。事実上、九州電力川内(せんだい)原発に次いで、再稼働に向けた最初の大きなハードルを越えたことになる。

 だが、川内原発とは違い、高浜原発の近隣には多くの原発がある。

 高浜原発には今回の3、4号機のほかに1、2号機があり、計4基の原子炉がある。直線距離で約15キロ離れた関電大飯原発の4基と合わせると、計8基になる。約50キロ離れた関電美浜原発の3基、日本原子力発電の敦賀原発2基まで含めると、13基にものぼる。

 この中で廃炉が決まった原発はない。関電は大飯原発3、4号機の審査を申請しており、高浜原発1、2号機についても申請する構えを見せている。

 田中俊一規制委委員長は「集中立地は検討課題で、新設の際には十分考慮されるべきかも知れない」という。だが、既存原発に対する現在の審査は、原子炉ごとに別々に事故対応できるかにとどまっている。高浜原発3、4号機と大飯原発3、4号機のリスクを総合的に見ることはしていない。

 現在の審査のままなら、個別に対応できる限り既存原子炉は何基再稼働してもいいことになる。従って、原発の集中再稼働がなし崩し的に進みかねない。

 規制委自ら認めるように、新規制基準に適合しても事故リスクはゼロではない。

 大地震などで、狭い地域で多数の原子炉が同時に事故を起こした場合、他の原発からの放射性物質飛散が事故対応に影響を及ぼし、制御は著しく困難になる。単独事故とはまるで異なる対応に迫られるはずだ。本社や社会の能力も問われよう。

 日本ほど原発が集中立地している国は世界でもほとんど例がない。ならば、集中立地していることを踏まえて審査すべきだろう。狭い地域へのリスク集積がどこまで許されるのか、議論する。動かすというのなら、納得いく説明がほしい。

 集中立地のリスクをどう考えるのか。

 電力会社や規制委にゆだねるには重すぎるテーマだと言うのなら、政府全体で正面から議論すべきである。

米国とキューバ―正常化への流れ加速を

 1961年以来、断交を続けてきた米国とキューバが、国交回復に向けて動き出した。

 人の往来や送金の制限を緩めることなどで合意した。米国はハバナの大使館を再開する意向で、キューバに対する孤立化政策は大きな転換点を迎えた。

 米国とキューバといえば、ソ連製ミサイルの配備をめぐって「あわや核戦争か」といわれた62年の「キューバ危機」を思い浮かべる人が多いだろう。

 それから半世紀以上。冷戦はとっくに過去のものとなり、世界は政治イデオロギーより経済優先の時代に移った。

 キューバはテロ支援国家とは言い難いし、経済の自由化も進む。「裏庭に共産国家は認めない」といわんばかりの超大国のかたくなな姿勢には、国連などでも批判がでていた。

 オバマ大統領が「時代遅れの政策を終わらせる」と述べたのは当然だ。粘り強く今後の交渉を進め、ふつうの隣国の交流が実現することを期待したい。

 米国のすぐ南側に位置する島国キューバは、59年の革命後に社会主義路線をとった。91年にソ連が崩壊した後は強い支えを失った。近年は、反米外交を続ける南米の産油国ベネズエラなどから支援を受けていた。

 台頭する中国やロシアが再びキューバに接近することへの懸念もあり、米国にとっては、突き放すよりも接近に転じる方が得策と判断したとみられる。

 むろん、歴史的な敵対国との和解を進め、外交遺産を築きたいオバマ氏の政権末期の野心もあろう。キューバにとっても、米国の制裁緩和は、ラウル政権の経済改革に必須だった。

 米国の野党共和党には、対キューバ強硬派が多い。2年後の大統領選に向けて、移民系の票を取り込みたい与党民主党と、それを阻もうとする共和党との間で駆け引きも予想される。

 ここは大局的な判断を促したい。地域全体の安定と繁栄を考えた時、国交回復は不可欠だ。むしろ、これまでの遅れを取り戻さなければならない。

 キューバ国内で民主化や人権擁護の態勢づくりは、まだ進んでいない面もある。市民同士の交流を活発にすることで、社会の変化を促す必要がある。

 これまでどれほどのキューバ難民が渡米をめざして命を落とし、肉親が離ればなれになったか。今回、ローマ法王が両国の橋渡し役を務めたのも、国家のいがみ合いを早く終える人道上の意義を痛感したからだろう。

 双方とも小異にこだわらず、和解と関係正常化のモデルを世界に示してもらいたい。

高浜原発「合格」 再稼働に政府支援が不可欠だ

 安全審査に「合格」したとはいえ、再稼働への課題はなお多い。

 原子力規制委員会は、関西電力高浜原子力発電所(福井県)3、4号機の審査合格証に当たる審査書案を決定した。

 東京電力福島第一原発事故を踏まえた新たな規制基準に適合していると認められた原発は、今秋の九州電力川内原発を含め、これで4基になった。他の原発についても、規制委は安全確認を遅滞なく進めてもらいたい。

 規制委は今後、高浜原発の補強工事計画や保守点検体制、緊急時対応手順などを審査する。関電による昨年7月の審査申請から1年5か月が過ぎている。安全最優先は当然だが、効率性も重要だ。

 保有原発が全て停止し、関電の電力供給は綱渡りの状況が続く。東日本大震災以降、2度目の電気料金値上げも検討している。

 再稼働にこぎ着ければ、状況は改善しよう。

 高浜原発の安全確保のため、関電は、想定する地震の規模を震災前の1・3倍に、津波の高さを4倍超に引き上げた。従来は検討の対象外だった竜巻など他の災害も考慮した。自然災害への備えは大幅に強化されたと言える。

 関電は、対策の柱である防潮堤整備や配管補強工事、保守点検の充実などをしっかり進めねばならない。新たに追加された機器や設備の取り扱いなどでの人的ミスを防ぐため、現場の作業員の訓練を重ねることも求められる。

 再稼働に対する周辺自治体の理解を得る上でも、こうした着実な取り組みが欠かせない。

 川内原発では、鹿児島県と地元の薩摩川内市の同意により、再稼働へのめどがついた。

 高浜原発についても、福井県の西川一誠知事は「同意の(必要な)範囲は福井県と地元の町」と述べ、立地する高浜町も再稼働に一定の理解を示している。周辺自治体では、防災対策や避難計画の整備が政府の支援で進んでいる。

 京都府と滋賀県は、原発から概ね30キロ・メートル圏内が避難計画策定の範囲になったことを根拠に、同意を得るよう求めている。関電に安全協定の締結も迫っている。

 だが、安全性の判断は、政府が高度に専門的な観点から責任を持つべきものだ。地元の不安を軽減するには、政府が前面に立ち、安全確保策の現状を丁寧に説明することが大切になる。

 再稼働の必要性や、防災対策に関しても、理解を広げるよう努めることが肝要である。

パキスタン襲撃 テロ封じへ国際協調を強めよ

 いかなる理由をつけても許されない、残虐非道な行為である。

 パキスタン北西部で、イスラム武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)の集団が軍設立の学校を襲撃し、生徒・教員ら140人以上を殺害した。

 過激派のテロが頻発するパキスタンでも最悪の惨事である。

 オバマ米大統領や安倍首相ら各国指導者が「最も強い言葉で非難する」と表明したのは当然だ。

 女子が教育を受ける権利を主張し、TTPの銃撃で重傷を負ったノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんは、「凶悪で卑劣な行為。私たちは決して負けない」と語った。国際社会がその決意を共有することが重要である。

 実行犯は、逃げまどう子供らを追いつめて銃撃したという。TTPは、パキスタン軍の掃討作戦による家族殺害への「報復」というが、無辜(むこ)の弱者を標的にした無慈悲な虐殺は正当化できない。

 隣国アフガニスタンの旧支配勢力タリバンも、「イスラムの原理に反する」と襲撃を非難した。

 パキスタンは近年、治安が悪化している。イスラム法統治を目指すTTPなどが、軍の基地、政府機関への攻撃や、市民へのテロを繰り返しているためだ。

 核を保有するパキスタンの混乱は地域全体を不安定化させる。対テロ戦略のてこ入れが急務だ。

 パキスタン軍は事件直後、TTPの拠点への空爆を開始した。オバマ大統領も軍事支援の継続を表明した。パキスタン独力のテロ掃討活動には限界があるためだ。

 ただ、米国の無人機攻撃は、民間人を巻き添えにするため、パキスタン国民の反米感情を高めている。より効果的な軍事支援の手法を検討せねばならない。

 アフガンでは年内に米軍戦闘部隊が撤収する。パキスタンとの国境地帯に巣食う凶暴なテロ集団の活動が活発化し、パキスタンの治安回復の障害となりかねない。

 今回の襲撃には、TTPと協力関係にあるアラブ系テロリストも関与したとされる。TTPの一部は中東の過激派組織「イスラム国」と連携しており、テロの脅威は国境を超えて拡散しつつある。

 テロ封じ込めには、国際社会の強固な連携が欠かせない。TTPにどう対処するかを、米国など関係国は改めて検討すべきだ。

 TTPが拠点を置くパキスタン北西部の部族地域の貧困解消や資金源の取り締まりなど、非軍事分野の取り組みも重要だ。日本も、応分の役割を果たしたい。

2014年12月18日木曜日

原油安と制裁に揺れるロシア経済の不安

 原油安を背景に、産油国ロシアの金融市場が大きく揺さぶられている。通貨ルーブルが急落し、主要株価指数も大きく値を下げた。ロシア発の金融不安が世界市場に波及するリスクも捨てきれず、警戒と監視が怠れない。

 ロシア経済はもともとウクライナ危機に伴う欧米の制裁の影響で低迷していた。そこに追い打ちをかけたのが原油相場の急落だ。

 ロシアの輸出の7割は燃料・エネルギーで、原油は全体の約3割を占める。市場では原油安が続けば経常収支が赤字に転じるとの観測が広がり、ルーブル売りに歯止めがかからなくなっている。

 中央銀行は先月、投機的な動きを抑える狙いで、ルーブルを通貨バスケット制から変動相場制に変えた。今週には通貨防衛とインフレ抑制のため、政策金利を年10.5%から17%に引き上げたが、国内景気を一段と萎縮させるとの見方からルーブル安が加速した。

 ロシアは1998年、アジア通貨危機に端を発した金融危機で債務不履行(デフォルト)に陥った経緯がある。現在は度重なる為替介入などで大きく目減りしたが、外貨準備はなお4000億ドルを超える。政府債務は国内総生産(GDP)比で10%台にとどまる。

 直ちにデフォルトの危機が再燃する状況ではないが、原油依存の経済の弱さは当時と変わらない。

 プーチン大統領は先に、年次教書演説で「通貨安は国内企業の競争力を高める」とし、これを機に外国の技術と工業製品への過度の依存から脱却すべきだと訴えた。

 ただ、ロシアの政権は以前から再三、資源輸出に頼る経済構造を変革する必要性を唱えてきた。これまでの原油高に安住し、製造業の再生を怠ってきたツケが回ってきたともいえるだろう。

 欧米ではロシアの苦境を「自業自得」として、制裁圧力を一段と強める動きもみられる。ウクライナ危機の収拾に向け、ロシアに前向きな行動を促すという意味で、ある程度の制裁は必要だろう。

 同時に、過度の制裁がロシアの金融不安を増幅し、その影響が新興国のみならず、世界市場全体に波及する懸念も念頭に置かなければならない。制裁対象のロシア大手企業や銀行は海外での資金調達が難しくなり、対外債務返済が滞る恐れが指摘されている。

 政治的な圧力と市場の混乱を抑える政策をどう両立するか。国際社会は難しい課題を抱えた。

安全を徹底し車の信頼回復を

 タカタの欠陥エアバッグ問題が拡大している。問題の震源地となった米国では2度にわたって議会で公聴会が開かれ、同社のエアバッグを多く搭載するホンダは原因を特定するための調査リコール(回収・無償修理)の対象範囲を大幅に広げた。

 日本でも「自分の車のエアバッグは安全なのか」と不安を覚える人が増えている。混乱が長引けば、自動車そのものへの信頼が揺らぎかねない。自動車業界は対応をタカタ任せにせず、事態の早期収拾に全力を挙げるべきだ。

 欠陥の中身は、風船を膨らませるためのガス発生装置が異常破裂し、金属の部品片が飛び散って、人を傷つける恐れがあることだ。米国やマレーシアでは死亡事故も起きており、見過ごすことのできない深刻な欠陥である。

 だが、タカタの対応は後手に回り続けた。なぜ異常破裂が起きるのか原因を解明しきれず、リコール対象車種は何度も拡大した。欠陥についての説明や情報発信も十分だったとは言い難く、それも不信と不安を増幅した。

 自動車業界としては、もはや「一部品メーカーの問題」として済ませられる段階を超えた。

 まずは消費者の信頼を取り戻すために、安全性に少しでも疑問のある車はすべてリコールするという姿勢が不可欠だろう。「問題はこれ以上広がらない」という打ち止め感を出すことが大切だ。

 大量リコールによって、タカタの生産能力だけでは交換部品の供給が追いつかないのであれば、他の部品会社にも協力を求めないといけない。リコールを迅速にやり遂げる必要がある。

 原因究明も残された課題だ。トヨタ自動車が第三者機関を設置して、欠陥の原因を分析すると決めたのは一歩前進だ。ホンダなど他の自動車会社もこれに参画する方針だ。命を守るはずのエアバッグが人を傷つけてはいけない。欠陥の再発防止のためにも、業界の総力を結集して科学的な原因解明を急いでほしい。

介護報酬―「引き下げ」でいいのか

 介護保険サービスの対価として事業者に支払われる介護報酬が来年4月に見直される。3年に1度の改定で、政府は来年度予算編成作業の中で引き下げる方向で調整している。しかし、高齢化が進む一方で、介護職員の人手不足は深刻だ。職員を増やすためには賃金の引き上げが急務になっている。賃上げしながら総額を減らせば、サービスが低下しかねない。このまま引き下げていいだろうか。

 介護報酬は、税と保険料で9割、利用者負担1割でまかなわれている。今年度の総額は10兆円。制度を導入した2000年度に比べると3倍近い水準に達している。引き下げは、急増する介護報酬の抑制が狙いだ。

 しかし、介護報酬は、介護職員の賃金の原資でもある。現在、介護職員の平均賃金は月額22万円弱と全産業平均より10万円安く、賃金水準の低さが職員が離職する要因となっている。

 団塊世代が75歳以上になる2025年には介護職員を今より100万人増やす必要がある、との推計もあり、その意味でも賃上げを迫られている。

 介護サービスでは、人手の多寡がサービスの質に直結するため、総人件費を抑制しようと人を減らせば済むわけでもない。

 社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームには、1施設平均3億円の内部留保がある(財務省資料)。この内部留保をはき出して人件費に充てれば、賃上げとサービスの質の維持との両立ができる、というのが介護報酬引き下げの論拠となっている。厚労省はすでに、建て替え資金などを除いた内部留保は、すべて処遇改善と地域の公益活動にあてることを義務づける法改正も準備している。

 しかし、3億円はあくまで平均値だ。小規模だったり、内部留保が薄かったりする事業者には両立は困難だ。

 実際、事業者からは「人減らしにつながり、丁寧なケアが出来なくなるのではないか」「新たに人を雇う元手が減ったら、人手不足が解消されない」といった声が上がっている。

 政府は、一定の条件を満たした事業者には、報酬上乗せを厚くして、職員の処遇改善を図ろうとしている。改善策は必要でも、引き下げに伴うマイナスを打ち消すのに十分なのか。

 日本の家庭全体に目を向ければ、介護を理由に仕事を離れる人が年間10万人に達している。介護保険の外で生じているコストである。事業者の経営努力は当然としても、政府には日本の介護全体を見渡した政策判断が求められる。

パキスタン―テロ根絶へ国際支援を

 世界のどこでも、どんな時でも、子どもたちは守られなければならない。それが大人の責務である。こともあろうに、その子どもたちが標的になった。

 パキスタン北西部のペシャワルで、軍の運営する学校が武装集団に襲われた。死者140人以上の多くは児童や生徒だ。

 犯行声明を出した過激派は、「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」だ。軍が掃討作戦を続けており、今回の襲撃は、その報復だという。

 どんな主張であれ、子どもを狙う暴力は断じて許されない。子どもの殺害は、その国の未来そのものの破壊でもある。

 TTPは一昨年も、当時15歳のマララ・ユスフザイさんを銃撃し、大けがを負わせた。彼女がノーベル平和賞を受けると、「マララたちは何人でも殺されることになる」と脅迫した。

 その卑劣な態度を、世界は声を大にして糾弾すべきだ。

 同時に、このような悲劇を繰り返させないためには、どうするべきか考える必要がある。

 パキスタンのシャリフ政権は今年に入って一時、TTPとの和解をめざしたものの、失敗。夏にはTTPがカラチの国際空港を襲撃するテロが起きた。

 過激派に対する軍事力による対策はやむを得ない。だが、同時に今後も政治的な対話の模索も続けるほかない。シャリフ政権には辛抱強い治安対策と柔軟な統治が求められる。

 欠かせないのは国際社会の支援である。TTPは、隣国アフガニスタンの反政府勢力タリバーンと連携している。両勢力が近年活発になったのは、米軍率いる国際治安支援部隊がアフガンから徐々に撤収するなど、欧米のかかわりが薄まったことと無縁ではない。

 両国が社会を安定させられない以上、欧米各国の監視と支援は引き続き必須だ。手を抜けば、この地域はアルカイダなどの拠点に逆戻りしかねない。

 テロを生む社会の根源には、貧困と腐敗がある。核兵器を持つ国なのに、教育が行き渡らない矛盾がパキスタンにもある。

 マララさんがノーベル賞の演説で語った言葉が重い。「なぜ戦車を造ることは簡単なのに、学校を建てることは難しいのでしょうか」「政治家や世界の指導者だけでなく、私たち皆が貢献しなくてはなりません」

 過激思想に走る大人を減らすためにも、子どもの教育制度を充実させ、貧困対策を進めねばならない。そのためには、日本を含む国際社会全体が、政府・市民レベル双方の重層的な協力を広げるべきだろう。

政労使合意 「人への投資」は企業の役割だ

 デフレからの脱却を実現するには、賃上げをはじめとした雇用の改善が急務である。

 こうした認識で政府、経済界、労働界が改めて一致した意義は大きい。

 3者の代表からなる政労使会議が「経済界は、賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図る」とする合意文書をまとめた。

 春闘に向けた政労使合意は2年連続で、昨年の「企業収益の拡大を賃金上昇につなげる」という表現より、さらに踏み込んだ。

 今年の春闘では、賃上げ率が15年ぶりに2%台に乗った。それでも消費増税と物価の上昇に賃金の伸びが追いつかず、消費が低迷し景気が冷え込んでいる。

 このままでは安倍政権の経済政策「アベノミクス」による日本経済再生が遠のきかねない。政府が昨年に続いて民間に賃上げを促す異例の対応を取った背景には、そうした危機感があるのだろう。

 むろん賃金水準は、各企業の経営判断で決まるものだ。

 だが、日本企業の内部留保(利益剰余金)は300兆円を超える。政府から要請されるまでもなく、賃上げによって利益を「人への投資」に回し、成長を図るのは、企業本来の役割と言えよう。

 好業績の企業は、従業員の持続的な処遇アップに前向きに取り組んでもらいたい。

 労組の中央組織である連合は、春闘で2%以上のベースアップを求める方針を掲げている。

 経営側は1月中旬に春闘方針を決定するが、人件費の底上げにつながるベアには慎重だ。企業の多くは、従業員への利益還元を、業績に応じて増減しやすい一時金で行う傾向が強い。

 非正規労働者も置き去りにせず、労使は処遇改善について真剣に話し合う必要がある。

 アベノミクスによる円安は、輸出関連企業に追い風となる反面、原材料価格の上昇が、多くの中小企業を苦境に追い込んでいる。

 多額の円安差益を上げた大企業は、下請けからの仕入れ価格の引き上げ要請に応じるなど、中小企業が賃上げに踏み切りやすい環境作りに協力すべきだろう。

 こうした民間の取り組みを促すためにも、政府は、法人税の実効税率引き下げや、新規事業を後押しする規制改革を断行しなければならない。

 政労使合意は、長時間労働の是正や、女性が活躍できる環境の整備に、官民を挙げて取り組む方針なども明記した。着実な実行が求められる。

COP20 温暖化対策に問われる実効性

 京都議定書に代わる2020年以降の新たな枠組みを討議するため、ペルーで開かれた国連気候変動枠組み条約の第20回締約国会議(COP20)は、決裂を辛うじて回避した。

 各国は来年のCOP21での最終合意を目指すが、その道のりは険しいと言わざるを得ない。

 COP20で際立ったのは、これまでと同様、先進国と新興・途上国の対立である。すべての国が、温室効果ガス削減の基準年や達成時期などを明記した自主目標を国連に提出することは決まった。

 ただ、新興・途上国は、高潮など温暖化の影響を軽減する自国の対応策を含めた自主目標にするよう主張し、先進国は抵抗した。

 新興・途上国の狙いが、対応策を実施するための資金援助を先進国から引き出すことにあるのは明らかだろう。

 結局、合意文書では、対応策の扱いについて「検討する」という表現に落ち着いた。新たな枠組みを実現するため、先進国と新興・途上国双方が受け入れられるギリギリの内容と言えよう。

 これまでのCOPと異なったのは、最大排出国の中国と、それに次ぐ米国が議論を主導した点だ。自国に有利な枠組みにしようとの思惑がうかがえる。

 各国の目標の妥当性を事前検証する仕組みの導入に中国が反対したのも、その表れではないか。

 米中両国は先月の首脳会談でそれぞれの削減目標を表明し、排出抑制に前向きの姿勢を示した。とはいえ、「30年をピークに排出量を減少させる」というのが中国の目標だ。裏を返せば、今後15年以上も増加させることになる。

 米中の排出量を合わせると、世界の4割超になる。新たな枠組みに実効性を持たせるには、米中の積極的な取り組みが不可欠だ。

 望月環境相はCOP20で、日本の削減目標について「できるだけ早期に提出する」と強調したが、時期には言及しなかった。

 二酸化炭素を排出しない原子力発電所がすべて停止し、将来の電源構成比率が定まらない現状ではやむを得まい。

 来年3月が目標提出のメドとされる。日本の遅れには各国の批判が高まるだろう。だが、大切なのは現実的な削減率にすることだ。原発の活用を考慮した目標策定を進めてもらいたい。

 日本は優れた省エネ技術で途上国を支援し、世界の温室ガス削減に貢献することが重要だ。燃料電池車などの革新的技術は、国内の排出削減にも役立とう。

2014年12月17日水曜日

政府の役割は賃上げできる環境づくりだ

 政府と経営者、労働組合の代表による政労使会議が来年の春季労使交渉に向けた合意文書をまとめた。経済界は賃金の引き上げへ最大限の努力をすると明記。昨年に続いて政府の要請を受け入れる形で賃上げに積極的に取り組む姿勢を示した。

 デフレ脱却に向け、消費を底上げするために賃上げが重要なのは確かだ。しかし、賃金決定への政府の介入は市場メカニズムをゆがめる恐れがある。賃金の決め方は各企業の労使が自主的に判断すべきことだ。2年連続の政府の干渉に違和感を覚えざるを得ない。

 政府の役割は企業が活発に活動して収益を増やせる環境をつくることにある。その点を確認し、規制改革や法人減税などの着実な実行を求めたい。

 今春の労使交渉では、定期昇給と毎月の給与水準を引き上げるベースアップを合わせた賃上げ率が15年ぶりに2%台に乗った。だが物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない。その目減り分を考慮した実質賃金は10月まで16カ月連続で前年を下回っている。

 賃金が上昇して消費を伸ばし、企業の生産活動を盛んにする。それがまた賃金増や雇用拡大につながり、消費を刺激する――。そんな好循環をつくる必要がある。鍵になるのは企業の行動だ。

 上場企業は2008年の金融危機後、財務体質の改善に優先して取り組み、積み上がった手元資金は90兆円にのぼる。

 潤沢な資金を設備、研究開発投資やM&A(合併・買収)に有効に使い、企業の成長力を高めるときだ。収益力を上げれば賃金を増やしやすくなる。大手企業が国内で投資を拡大すれば部品や材料を生産する中小企業の受注増につながる。産業界に賃金の上昇が広がりやすくなる。

 政府はそうした企業活動の後押しに力を注がなくてはならない。農業、医療、エネルギー関連など成長ビジネスへの進出を促す規制改革は欠かせない。介護や医療用などのロボットも有望だ。企業が参入するうえで壁になっている制度の改革を政府に望みたい。

 非正規で働く人の賃金増も課題だ。本人が技能を高め、生産性を上げることが前提になる。職業訓練の充実など能力開発支援はますます大事だ。正社員、非正規社員を問わず、賃金を継続的に上げられる環境づくりにこそ政府は多面的に取り組んでもらいたい。

民主主義を脅かす投票率低下

 衆院選の投票率が2回続けて過去最低を更新した。2人に1人が棄権である。この傾向が続けば、選挙結果を民意と呼べなくなる日が来ても不思議ではない。民主主義の危機といってよい。どうすれば有権者の選挙への関心を高めることができるだろうか。

 投票率が大きく下がり始めたのは1990年代に入ってからだ。95年の参院選の投票率44.52%が国政選挙での過去最低である。

 棄権を防ぐ方法の1つは、投票しやすい環境をつくることだ。98年の参院選から投票時間が午後8時まで2時間延長され、投票率の低下にやや歯止めがかかった。

 ところが、このところ投票所の減少や投票時間の繰り上げ終了が目立つ。平成の大合併で自治体が減り、投開票の事務が重荷になってきたためだ。

 無駄なお役所仕事はなくさねばならないが、選挙にかかる手間を惜しんで参政権が阻害されてはならない。投票所は公共施設にとらわれず、立ち寄りやすい商業施設などに設ける。全国のどこの投票所で投票してもよい。選管職員が投票箱を積んだ車で高齢者の自宅を巡回する。こうした工夫はあってしかるべきだ。

 選挙運動への厳しい規制が有権者を政治から遠ざけている面もある。昨年の参院選で解禁されたネット選挙は大きな不祥事は起こしていない。メールでの投票勧誘は完全自由化できるのではないか。

 選挙運動期間中の戸別訪問の禁止や配布ビラの枚数制限もなくした方がよい。金権選挙を防ぐための規定だが、政治腐敗への目が厳しくなっている昨今、札束を片手に有権者を買収して歩く候補者が出てくる可能性は小さい。

 将来の有権者に政治参加の大切さを説くことも欠かせない。棄権する人が多いと、一部の利益しか代弁しない政府が生まれる。こうした政治構造を教えるとなれば大人も無責任に棄権できまい。

 大人と子どもが一緒に日本の将来を語り合う社会をつくる。それが民主主義の継承につながる。

賃金引き上げ―生活水準向上を目標に

 政府、労働界、経済界の代表による「政労使会議」がきのう開かれ、来春闘をにらんで「賃金引き上げに向けた最大限の努力」を経済界に促すことで合意した。昨年に続いて三者が賃上げで合意したことは成果だ。

 しかし、賃金水準は本来、労使で決める事柄だ。政府に催促されなくとも、経済界は働く人に成果を賃上げの形で還元しなければ、経済の好循環は生まれない。ましてや、アベノミクスの恩恵が行き渡らないまま円安による物価上昇が進みそうな雲行きの昨今である。賃上げが暮らしに与える影響は大きい。

 労働組合の中央組織である連合は、来春闘で賃金全体を底上げするベースアップ(ベア)を「2%以上」要求する方針を決めた。この方針をもとに傘下の産業別組織や各企業の労働組合が要求方針を決めつつある。まず、労働組合は、働く人の生活を向上させる水準の要求、最低でも物価上昇分は賃金に反映させることは要求するべきだ。

 「2%以上」という要求水準は今年(1%以上)を上回る。それでも物足りないという意見が組織内にはある。確かに、ここ最近、消費者物価指数は前年比で3%前後上昇しており、実質賃金も16カ月連続でマイナスを記録している。物足りないとする見方は理解できる。

 大手製造業とサービス業や中小企業の働き手には所得格差がある。多くが労働組合の外にいる非正規労働者の低い処遇も改善しなければいけない。労働組合に入っている働き手の賃上げを非正規にも広げ、さらに最低賃金を引き上げて、格差を解消していくことが日本経済全体の課題にもなっている。

 幸い、有効求人倍率は1倍を超える状況が続き、失業率も低い水準が続いている。各労組が、高い要求を掲げて賃上げを実現させれば、人手不足となっている労働市場を通じて非正規の賃金にも上昇圧力をかけることができる。労組の組織率が2割を下回っているとはいえ、労働市場全体を視野に入れた要求が求められている。

 春闘は1955年に始まり、経済成長の果実を国民全体に広げる役割を果たしてきた。ところが、バブル崩壊で右肩上がりの成長が終わると、春闘の役割も後退。特にリーマン・ショック以降は、年齢や勤続年数に合わせて賃金が増える定期昇給(定昇)を守ることに必死になる状況が続いていた。

 春闘が始まって来年で60年。国民経済に果たす役割が高まる中で、来春闘は真価が問われることになる。

低投票率―民主政治の危険水域

 熱の低い戦い。

 14日までの衆院選を振り返ると、こんな印象が強い。

 街頭演説に人が集まらない。首相ら党首クラスが登場しても、スマホで撮影したらそれでさよなら。最後まで演説を聴いているのは、動員されたとおぼしき人たち……。

 こうした熱の低さを数字で裏付けたのが、戦後最低を更新した52・66%の投票率だ。

 戦後、衆院選の投票率は60%台後半から70%台で推移してきた。小選挙区比例代表並立制が導入された1996年に初めて60%を割り、今回は03年、12年に続き4度目だ。ただ、過去3回はいずれも59%台で、今回の低さは際立っている。

 悪天候など要因はいろいろ考えられるが、まず問われるべきは政治の責任だ。

 安倍首相は衆院解散にあたり、「代表なければ課税なし」との米独立戦争時のスローガンを持ち出し、税にかかわる政策変更について信を問うと語った。だが、それは増税の先送りであり、民主党も異を唱えずに、有権者を投票に駆り立てる争点とはならなかった。

 野党の力不足も響いた。

 共産党を除く野党が候補者を一本化して自民、公明の与党に挑んだのは194選挙区。だが、政策的な連携に乏しく、有権者の選択肢になり得たかは疑問だ。また、候補者が2人しかいない選挙区が32あり、うち自民、共産の一騎打ちは25選挙区。仮に共産党が候補者数を絞っていたら、無投票の選挙区すらでかねない状況だった。

 投票率を都道府県別にみると、青森、宮城、富山、石川、徳島、愛媛、福岡、宮崎の8県で40%台を記録した。このうち宮城の1議席を除き、自民と自民系無所属が小選挙区の議席を独占した。

 制度面での課題もある。手続きが簡単な期日前投票の制度は定着したが、一方で市町村合併や人口減による投票所の統廃合が進み、投票所が遠くなった有権者は多い。午後8時の終了時間が繰り上げられる投票所も増えている。

 今回、自民は小選挙区で4分の3にあたる222議席を得た。ただ、小選挙区全体での全有権者に対する絶対得票率は、約24%だ。

 あまりに投票率が低ければ、議会が民意を正当に代表しているのかどうかに疑問符がつく。それでは代表制民主主義の基盤を崩すことになりかねない。

 今回の数字は、その危険水域に入っていないか。主権者としても考えどころである。

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