2014年2月28日金曜日

現実を見据えぶれないエネルギー計画に

 政府はエネルギー基本計画の案をまとめ、与党との調整に入った。政府案は民主党政権が掲げた「原子力発電所ゼロ」を転換し、原発を「重要な」電源と位置づけ、安全性を確認したものは再稼働させると明記した。与党は慎重に審議するという。

 福島第1原発事故の教訓は重い。一方で、原発の停止が長引けば化石燃料の輸入代金がかさみ、その分国富が流出することになる。電気料金が上がり国民生活への悪影響は大きい。太陽光など再生可能エネルギーもすぐに原発を肩代わりできるわけではない。

 それらを考えれば、原発への依存度を可能な限り減らしつつ、安全性を確かめて再稼働させるとした政府案は現実的といえる。

 原発の比率をいま決めるのでなく、温暖化ガスの削減や安全保障などの視点も含めてさらに議論して示すとしたのも妥当だろう。

 詰めるべき点は多い。原発の再稼働は安全性の確認に加え、地元の同意が不可欠だ。政府案で「国も前面に立ち、地元の理解と協力を得る」としたのはよいが、どんな手順で進めるのか。原子力規制委員会まかせにせず、政府が具体的な手続きを早く示すべきだ。

 これから原発への依存度を下げていくには、経済性も考慮して原発を選別するルールが要る。

 新しい規制基準を満たしても安全対策に巨額の費用がかかり、経済的に高くつく原発が出てくるだろう。廃炉にした場合、地域経済への影響をどう和らげるかなど国が道筋を示す必要がある。

 再生エネルギーについては「3年程度、導入を最大限加速する」としたが、なぜ3年に限るのか。導入の呼び水になった買い取り制度は電気料金への上乗せによって支えられている。短期間に集中導入すれば国民負担が増えかねない。ほかの支援策も考え、長い目で持続的な拡大をめざすべきだ。

 計画づくりは予定より遅れた。原発について当初は電力供給を支える「ベース電源」としたが、政府案は昼夜安定して発電する「ベースロード電源」に変更した。その調整に手間取ったという。

 どちらの文言でも本質的な違いはなく、国民には分かりにくい。今後の協議で与党側は、原発推進か反対かの二者択一でなく、現実を見据えた注文をつけてほしい。安倍政権が発足してから1年2カ月たつ。ぶれないエネルギー政策を決めるときだ。

PM2.5注意情報をきめ細かく

 大気汚染物質である微小粒子状物質(PM2.5)の濃度が各地で上昇している。26日には近畿や北陸、東北の一部などで国の暫定指針値を超える恐れがあるとして自治体が注意情報を出した。黄砂の季節になり、中国からの飛来が原因とみられる。

 PM2.5は工場や車などから排出され、直径2.5マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル以下の微粒子だ。大量に吸うとぜんそくなどを悪化させ、環境省は昨年、暫定指針値(1日平均で1立方メートルあたり70マイクログラム)を定めた。

 肺や心臓などに持病のある人や子供がいる家庭では、注意情報が出れば不要な外出を控え、窓を閉め切るなどの対策を取るのが望ましい。運動会や遠足を中止するのもやむを得ないだろう。

 ただ健康な大人では、指針値を超える場所に数時間いても健康への影響は科学的に確認されていない。「激しい運動は控えたほうがよいが、洗濯物は屋外に干しても問題ない」とみる専門家が多い。冷静に対応することが肝要だ。

 それにはまず自治体に適切な情報発信を求めたい。指針値を超えそうな日があれば早めに注意を喚起するのはよい。同時に、健康な大人には基本的にふだん通りの生活を呼びかけることも大事だ。

 政府も中国に大気汚染対策の徹底を強く求めるべきだ。PM2.5は日本国内の工場や車からも排出されているが、ここ数年の濃度上昇の主因が中国からの越境であることは間違いない。

 中国では工場や家庭で石炭を燃やし、車の多くが硫黄分の多いガソリンを使っている。そこから出るばい煙や排ガスにPM2.5が多く含まれている。中国政府は排出規制を強めてきたが、急速な経済成長で対策が追いつかない。

 3月下旬に北京で、日中韓政府の大気汚染対策の担当者による会合が開かれる。排ガスやばい煙対策で日本企業は優れた技術を持つ。日本と中韓との関係は冷えているが、国境を越える大気汚染対策では足並みをそろえてほしい。

表現の自由―「あいつが悪い」のか?

 社会がしぼんでいる。

 憲法が悪い。ネトウヨが悪い。中韓が悪い。そうやって次々と「あいつが悪い(自分は悪くない)」で物事を単純化して批判すると、スッキリする。しかしみんながスッキリしていても、誰もが生きやすい、豊かな社会は成り立たない。批判を恐れ、人々は萎縮するばかりだ。

 「表現の自由」をめぐる現状を例に、考えてみたい。

 NHK経営委員という公人が、都知事選の応援演説で他候補を「人間のくず」とののしっても、「表現の自由だ」として許される。

 一方、東京都美術館は今月、展示されていた作品の一部、「現政権の右傾化を阻止」などと書かれた紙を撤去させた。

 昨年7月の参院選前には、東京都千代田区立の図書館で開催が決まっていた映画「選挙」の上映会が、内容に懸念があるとして中止されそうになった。

 いずれも苦情があったわけではない。館の自己規制だ。

 美術館や図書館といった公共施設は、表現の自由が最も守られる場所であらねばならない。

 多様な価値観を擁護し、新たな価値観を創出するという社会的使命を忘れ、安易な自己規制に走る。それがどれだけ社会を萎縮させるか、自覚すべきだ。

 その上でもう一歩分け入ってみる。そもそも、このような「べき」論を支える社会的基盤が弱っているのではないか。

 「官僚たたき」や行政の無駄に対する批判の中で、03年に新制度が導入され、公共施設の運営が民間に委託されるようになった。例に挙げた2館も、公益財団法人や企業が自治体から運営を請け負っている。

 各施設でサービス向上、集客増などの成果があがる一方、運営に関わる人からはこんな声も漏れる。

 「外部からクレームがつくと、自治体から契約を切られるかもしれないという不安がある。表現の自由を守るために踏ん張れと言われても、厳しい」

 「効率」や「利益」が優先された結果、数字には還元されない「表現の自由」のような公共的価値は脇に置かれる構造が生まれてしまっている。

 さあ、どうしよう。

 まずは私たち一人ひとりが「あいつが悪い」から抜け出すことだろう。社会の豊かさとは何か、自分の問題として引き受け、しぼんだ社会に少しずつ息を吹き込んでいくしかない。面倒だしスッキリもしない。でも、誰かのせいにしているだけでは社会の萎縮と自粛が進み、息苦しさは増す。

朝鮮半島統一―信頼の小石を積もう

 北朝鮮南東部にある金剛山は朝鮮半島の人たちが、思いこがれる美しい山だ。

 その名峰は、今月25日までの6日間、涙に暮れた。

 南北に暮らす離散家族が六十数年ぶりに再会した。約700人がわずかな時を分かち、またも別離の悲しみを抱えてそれぞれの「国」にもどった。

 高齢化が進んでおり、救急車で軍事境界線を越えたお年寄りもいた。再会を申請した人のうち韓国側だけでも年に約3800人が亡くなっている。

 政治が対立を続ける限り、この悲劇は終わらない。

 3年4カ月ぶりに実現した再会事業を機に、韓国と北朝鮮は民族の和解と地域の安定に向けた本格対話を進めてほしい。

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は今年に入り、「統一はビッグチャンスだ」と繰り返している。統一は朝鮮半島の新たな成長動力を生み、韓国や周辺国にとって好機になるとの趣旨だという。

 25日に就任1年を迎えた朴氏は、大統領直属の「統一準備委員会」を設けるとも表明した。

 北朝鮮は韓国経済にのみ込まれる「吸収統一」を、韓国は北朝鮮の武力による「赤化統一」を絶対に受け入れられない。そのため「統一」という言葉自体が敏感に扱われてきた。

 朴政権は最近、金正恩(キムジョンウン)体制の急変事態も想定し、米国との協議を進めている。一方の北朝鮮は自主統一を唱え、米国など外部勢力の排除を呼びかける。

 同じ言葉を使っても、双方が描く絵はかけ離れている。

 相互不信の岩盤は厚いが、それでも少しずつ南北を結ぶ風穴をうがつような和解の作業を不断に続けるしかない。

 00年に実現した初の南北首脳会談では、それぞれの統一構想に接点があることを確認した。

 今回の離散家族の再会事業を決めた高官協議では、相手を誹謗(ひぼう)中傷しないことや話し合いの継続を確認した。

 微々たる進展ではあるが、南北間の緊張緩和は、日米など周辺国の安全保障にも役立つ。

 朴政権は、すべての南北事業を滞らせた李明博(イミョンバク)・前政権の轍(てつ)を踏んではならない。

 もちろん統一構想を進めるうえで、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決は必須条件である。

 北朝鮮に対し譲れない原則は貫きつつも、対話の窓は広げる硬軟両様の知恵が求められる。

 再会事業のさなかも、朝鮮半島西側の黄海では米韓合同軍事演習をめぐって緊張が続いた。

 一進一退のやりとりの中から信頼の小石を積み上げる。それ以外に南北和解の道はない。

教育委員会改革 責任の明確化で機能強化図れ

 教育現場の諸問題に、適切に対処できる体制の構築に向けて、一層議論を深めてもらいたい。

 自民党が教育委員会制度の改革案をまとめ、公明党との協議を進めている。政府は与党協議の結果を踏まえ、今国会に地方教育行政法の改正案を提出する方針だ。

 自民党案のポイントは、地方教育行政の最終権限を教委に残して、政治的中立性を確保しつつ、自治体の首長の意向を従来より反映しやすくしたことにある。

 具体的には、教委を代表する教育委員長と実務を統括する教育長を統合し、首長に任免権を与えた。教育委員長と教育長が併存し、責任の所在が不明確な現状を是正する方向性は妥当である。

 現行制度は、地方の有識者ら教育委員が合議で意思決定する仕組みになっている。教育長以外の委員は非常勤で、形骸化が指摘されてきた。改革は急務だ。

 中央教育審議会は昨年12月、地方教育行政の最終権限を教委から首長に移す答申をまとめた。

 中教審の改革案では、首長が特定の立場に偏って影響力を行使しようとした場合、歯止めがきかなくなる恐れがあった。

 自民党案のように教委に最終権限を残せば、首長の暴走を防ぐ上で一定の効果が期待できよう。

 一方で、自民党案は、予算の執行権を握る首長が主宰する「総合教育施策会議」を新設し、重要施策を策定することも提言した。

 首長の指導力を発揮できる場を確保する意味合いがあるが、大切なのは、首長と教委の権限の均衡を保ちながら、地方教育行政をしっかり機能させることである。

 自民党案では、総合教育施策会議は、公立学校の設置や廃止、教職員の定数などを協議し、教委は教職員人事や使用教科書を決めることを想定している。

 だが、両者の関係は今ひとつ分かりにくい。自治体が役割分担を明確にして運用しないと、かえって教育現場に混乱が生じ、円滑な教育行政の遂行の障害となる。

 自民党案には、児童・生徒の自殺など重大事案が発生した際、首長が教委に対して適切な措置を要求できることも盛り込まれた。大津市のいじめ自殺事件で、迅速な対応がとれない教委の危機管理能力の欠如が露呈したからだ。

 教委事務局には教師出身者が多い。学校関係者に対する身内意識から、厳しい姿勢で原因調査に臨めないとの批判が根強くある。制度改革では、こうした体質を改める視点も重要だ。

個人賠償請求 訴え受理なら日中関係損なう

 日中関係の大原則をゆるがせにしかねない。習近平政権は将来を見据えた判断をすべきだ。

 戦時中に中国から強制連行され、過酷な労働を強いられたとする中国人の元労働者らが、日本企業2社を相手取り、謝罪と損害賠償を求める訴状を北京の裁判所に提出した。

 これに対し、菅官房長官は「日中間の請求権問題は、個人の請求権問題を含め、存在していない」と日本政府の立場を強調した。

 中国政府は、1972年の国交正常化時の日中共同声明で、日本に対する戦争被害の賠償請求を放棄する、と宣言している。

 日本では、中国人による個人賠償請求訴訟があったが、最高裁は2007年、「日中共同声明により、中国人個人は戦争被害について、裁判上の賠償請求はできなくなった」として訴えを棄却した。適切な判断だったと言える。

 問題は、今回の訴えを、共産党政権の指導下にある裁判所が受理するかどうかだ。受理されれば、中国では、日本企業に対する初めての強制連行訴訟となる。

 中国政府は、日中共同声明には個人の賠償請求権は含まれないという立場を取っている。しかし、実際には、裁判所は今までそのような訴えを受理しなかった。

 巨額の円借款などで経済発展を支えた日本との関係維持を重視したからだろう。

 ひとたび歴史を巡る国内での法廷闘争を容認すれば、大規模な反日デモや、政権の対応を「弱腰」とする批判を誘発しかねないとの警戒感もあったに違いない。

 ただ、現在の状況はこれまでと異なる。日中間では首脳同士が会談さえできない。習政権は、安倍首相による昨年末の靖国神社参拝を機に、歴史問題で日本を攻撃する反日宣伝を一層強めている。

 習政権が従来の方針を転換し、裁判所が訴えを受理すれば、関係の悪化はより深刻となろう。

 そうなれば、どれだけの個人が被害を訴え出るのか、予測もつかない。中国は、強制連行された人は約4万人に上るとしている。

 中国リスクの高まりが懸念され、日中間の貿易や投資、観光などが冷え込む可能性もある。

 日本にとって、韓国で元徴用工が日本企業に損害賠償を求めている裁判と、中国の強制連行訴訟は、基本的に似た構図と言えよう。

 日本政府は、訴えられた企業を支援すべきだ。中韓及び国際社会に対しては、法的に解決済みの問題を蒸し返すことの不当性を強く訴えていかねばならない。

2014年2月27日木曜日

日韓は早期の首脳会談で難局打開めざせ

 韓国で朴槿恵(パク・クネ)大統領が就任して1年が過ぎた。国内ではなお50%を超える支持率を維持し、国民の評価は歴代政権の中では高いといえる。そんななかで懸念されるのは、かたくなともいえる対日外交の厳しさだ。

 安倍晋三首相との首脳会談は結局、一度も開かれなかった。朴大統領は歴史問題をめぐる安倍政権の言動を疑問視し、日本訪問はおろか、国際会議の場を利用した首脳会談にも応じなかった。

 かつて日韓国交正常化を果たした故・朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領は父親だ。それだけに親日派のレッテルを貼られ、政権運営の足かせになることを極端に警戒している面もあるのだろう。

 朴大統領は日韓首脳会談について「事前に十分な準備」が必要という。植民地支配と侵略を謝罪した村山談話、慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めて謝罪した河野談話の継承など、日本側の「真摯な行動」が見られない限りは容易に応じない構えとみられる。

 安倍首相はかねて首脳対話を呼びかけているが、自らの靖国神社参拝や河野談話の信ぴょう性を検証する動きが韓国側の不信を増幅し、会談の実現を一層難しくしている現実も自覚すべきだ。

 歴史、領土をめぐる日韓の溝は確かに深い。だが民主主義の価値観を共有し、経済のつながりも深い隣国の首脳が1年たっても会わない事態はやはり異常だ。難局を打開するには、両首脳が歴史問題を含めて胸襟を開いて話しあい、関係改善の糸口を探るのが近道ではないか。一度の会談で成果がなければ、会談を重ねればいい。

 李明博(イ・ミョンバク)前大統領の竹島上陸で冷え込んだ関係は、この1年でさらに悪化した。嫌韓、嫌日の国民感情も広がっている。日本企業の昨年の対韓直接投資は約4割も減り、韓国を訪れる日本人観光客も急減した。日韓がこのままでよいはずがない。

 日韓は北朝鮮の核問題、中国の軍事的な台頭といった北東アジアの懸念が深まるなか、安全保障分野でも協力していく必要がある。米国がともに同盟関係にある日韓の関係改善を執拗に求めているのもそんな事情があるからだ。歴史問題に限らず、日韓の将来を見据えた懸案は山積している。

 3月にはオランダで核安全保障サミットがある。まずはこうした国際会議の場を使い、1日も早い首脳会談の実現をめざしたい。

石油・化学は効率化で連携を

 経済産業省の委員会が石油産業の競争力強化策について議論を始めた。焦点は製油所が抱える過剰設備の扱いだ。

 グローバル競争に勝ち抜くには適正な水準への能力削減は避けて通れない。石油会社間の連携に加え、同じ課題に直面する化学産業などと業種の壁を超えて生産の効率化に取り組むことが重要だ。

 石油各社に事実上、精製能力の削減を義務付けた規制が2013年度末で期限を迎える。JX日鉱日石エネルギーは3月末で室蘭製油所での原油処理を停止する。国内の製油所数は08年4月の28カ所から、今年4月には23カ所となり、精製能力は約2割減る。

 それでも国内の精製能力は、ガソリンや軽油など石油製品の需要に比べ、まだ2割多い。需要は17年度までの6年間でさらに8%減る見通しだ。もう一段の余剰解消に踏み込まざるを得ない。

 生産能力の過剰がもたらす高コスト構造は、日本の製造業が抱える共通の課題だ。化学業界も能力削減を迫られている。三菱ケミカルホールディングスは5月に石油化学製品の基礎原料となるエチレンの製造設備1基を停止する。国内のエチレン生産能力は16年度までに約1割減る見通しだ。

 エチレンの生産は石油精製の過程でできるナフサを原料に使う。製油所と石化工場は同一コンビナートの中に近接して立地するケースが多い。生産に使う電力や水、出荷用の桟橋など共用できる施設も少なくない。

 アジアや中東では石油精製と石化生産を一体化した大規模工場が相次ぎ、高い競争力を誇っている。国内でも製油所と石化工場が生産連携を深めることでコストを下げる余地は大きいはずだ。

 岡山県の水島コンビナートなどで資本や業態を超えた連携が始まっている。これを全国に広げたい。政府は規制で能力削減を迫るだけでなく、設備の廃棄や共用を促す支援を拡充する必要がある。設備の稼働率を高めることは、輸出市場の開拓にもつながるはずだ。

エネルギー政策―これが「計画」なのか

 安倍政権が新しいエネルギー基本計画の政府案を決めた。

 昨年末の原案から少し手直しがあったものの、焦点の原発については依存度を「可能な限り低減させる」としながら、何の手立ても示していない。

 これではとても「基本計画」とは言えない。

 原発による発電の比率は、原子力規制委員会の審査状況が見通せないため、具体的な数字が盛り込めないという。

 私たちは社説で原発ゼロを目指すべきだと主張してきた。安倍政権は原発維持の立場だが、「減らす」というからには、数字が出せなくても、その手順を示すのは最低の条件である。

 ところが、政府案は「規制委の判断を尊重し、再稼働を進める」というだけだ。

 福島第一原発の事故が起き、規制が強化された。おのずから動かせる原発の数は減る。それ以上のことは何もしないなら、ただの現状追認でしかない。

 使用済み核燃料を全量再処理する核燃料サイクル事業も、行き詰まりを直視せず、相変わらず「推進」とうたっている。

 詰める点はほかにもある。

 老朽化した原発を円滑に閉めさせるため、政府は何をするのか▼30キロ圏内の自治体に義務づけた防災計画を再稼働の判断にどう位置づけるのか▼使用済み核燃料棒の保管場所を確保できる見通しがたたない原発は、その段階で運転を止めさせるべきではないか……。

 電力市場の活性化も原発と密接に関連する。

 電力会社は原発の再稼働をにらみ、老朽化して燃料効率の悪い火力発電の建て替えに動こうとしない。政府が原発以外への電源へシフトさせる策を示さなければ、代替電源の開発は進まない。化石燃料費の圧縮にもつながらない。

 原発への回帰は、再生可能エネルギー事業者など新電力にとっても投資意欲を失わせる。当面のコスト競争では既存の原発が有利だからだ。政府が原発の低減に強い意志がないと見れば、リスクをとって新規参入したり、新技術を開発したりしようという企業は出てこない。

 原発は政府の支援がなければ成り立たない電源だ。事故の反省をもとにエネルギー計画を立てる以上、まず政府自身が原発に偏ってきた政策を改めるべきだ。そうしない限り、政権が進めようと意気込む電力改革も挫折する可能性が高い。

 政府案はこれから、自民、公明両党のワーキングチームで議論するという。国民がしっかり見ていることをお忘れなく。

TPP交渉―日米の責任は大きい

 環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐるシンガポールでの閣僚交渉は、合意に達することができなかった。次回の閣僚会合も未定だ。

 参加12カ国のうち経済規模でず抜けている米国と日本が、関税分野で折り合えなかったことが主因である。

 両国の責任は大きい。4月にはオバマ米大統領の訪日も控える。ただちに二国間交渉を再開し、打開策を見つけてほしい。

 まずは、米国である。

 牛・豚肉やコメなど日本が高い関税で守っている「重要5項目」について、米国は一律に関税ゼロを求める姿勢を崩さなかったようだ。

 TPPは関税撤廃を原則に掲げ、高い水準の自由化を目指している。米国の方針はこれに沿ったものではあるが、かたくなな対応では交渉は進まない。しかも、豪州との自由貿易協定では砂糖などを「聖域」として保護しており、TPPでも同様の考えとされる。

 米国では、通商分野での議会の権限について、政府がまとめた協定を一括して認めるか否かに限る貿易促進権限法が失効している。今秋の中間選挙を控えて議会は個別業界の利害に神経質になっており、政府は議会の意向を気にしてことさら強硬になっているようだ。

 ただ、これは米国が自ら解決すべき問題であり、国内事情を交渉に持ちこむのは筋違いだ。米国は、新興国との間で対立していた国有企業や知的財産権をめぐるルール作りでは、一定の譲歩をした。こうした柔軟性を関税分野でも期待したい。

 日本にも、問題は多い。

 全品目のうち関税を撤廃する品目の割合である自由化率で、日本の提案は米国を含む他の国より大きく見劣りしている。重要5項目は細かく分けると586品目あるが、この4割は輸入実績がない。品目ごとに関税を下げたり撤廃したりする余地は十分あるはずだ。

 甘利TPP相は、日本の事情は理解されたとしつつ、「何もしなくていい、という理解ではない」と強調した。当然だ。

 重要5項目は、衆参両院の委員会が決議で示したとはいえ、貿易の実態を反映していないことを踏まえねばならない。

 アジア太平洋は今後、高い成長が期待できる地域だ。そこに新たな貿易・投資ルールを打ち出し、地域の活力を取り込むことが欠かせない点は、日米両国に共通する。

 TPPの目的は何か。両国政府は改めて確認し、粘り強く交渉する必要がある。

TPP交渉不調 日米が協力して漂流させるな

 日本と米国の対立が障害となり、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は再び、大筋合意を見送った。

 このまま交渉を漂流させてはならない。主導すべき日米両国が交渉を早急に立て直すべきである。

 日米を始め、豪州など12か国が参加したシンガポールでのTPP閣僚会合が終了した。

 昨年12月の仕切り直しだったのに、2度目の物別れだ。妥結目標を示さず、次回日程も決まっていない。期待外れの結果である。

 TPPは、アジア太平洋地域で新たな自由貿易ルールを作り、21世紀型の経済連携で世界をリードすることが狙いだ。しかし、交渉の勢いが弱まれば、膠着(こうちゃく)状態を打開するのは難しくなるだろう。

 大筋合意を断念した主因は、関税撤廃を巡る日米の対立だ。

 自民党がコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の聖域として主張している問題で、米国はあくまで関税撤廃を求めて強硬だった。日本は5項目のうち、牛肉や豚肉の関税引き下げを打診し、妥協点を探ったが、溝は深かった。

 日本が米国に要求した自動車や自動車部品の関税撤廃問題でも、対立は解けなかった。

 経済大国の日米がTPP交渉で互いに原則論に終始し、柔軟性を示さなければ活路は開けない。ともに大局的見地を欠いていた点は反省すべきだ。

 日米協議を注視していた豪州やマレーシアなど新興国も消極的になった。米国と新興国の主張にも開きがあった。交渉全体の足を引っ張った日米の責任は大きい。

 今後の焦点は、TPP交渉をどう立て直すかである。

 12か国は中国・青島で5月に開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合の際に次回会合を開く考えとみられる。

 TPP交渉打開に向けて重要になるのが、4月下旬に来日するオバマ米大統領と安倍首相との日米首脳会談である。TPPが主要議題にならざるを得ない。

 米国では、11月の議会中間選挙を控え、保護貿易主義圧力が高まっている。このため、米国が譲歩しにくい展開も懸念される。

 大統領は雇用や輸出拡大のためTPP妥結を最優先課題に掲げてきた。国内調整と交渉進展で指導力を発揮してもらいたい。

 TPPを成長戦略の柱に据える安倍首相の姿勢も問われる。市場開放に備え、農業分野の競争力を強化しながら、米国との接点を見いだす先頭に立つ必要がある。

福島原発汚染水 管理は限界に近づいている

 東京電力福島第一原子力発電所で、110トンの汚染水漏れが起きた。

 昨年8月に300トンもの漏出が発生したにもかかわらず、今回も東電の対応には初歩的ミスがあった。防止策が急務である。

 漏出は、4号機の山側にあるタンクで起き、放射性ストロンチウムを含む高濃度の汚染水が漏れ出た。海洋汚染の心配はないが、土壌などが汚染されたという。

 まずは、汚染水の回収や土壌の除染を進めねばならない。

 原因は、満杯に近いタンクに汚染水が流れ込んだことだ。このタンクにつながる配管の弁が開いていたため、別のタンクに貯めるはずの汚染水が入り、あふれた。

 なぜ弁が開いていたのか、徹底究明を求めたい。

 漏出したタンクの水位が高いことを示す警報は表示されていた。だが、現場では計器の異常と判断し、対応を怠った。

 昨夏の汚染水漏れの後、東電はタンクに水位計を付け、巡回点検を強化していた。再発防止策が機能しなかったのは問題である。

 現場の放射線量は依然として高い。厳しい作業環境の中で、汚染水を貯めるタンクが増えすぎて、管理は限界に近づいているという側面もあるのではないか。

 福島第一原発では、炉心を冷やす冷却水や、建屋に流れ込む地下水が元になって、毎日400トンの汚染水が発生している。敷地内の貯水タンクは、すでに約1000基に達しており、タンクの設置に追われている状況だ。

 どのタンクも満杯に近く、日常的に警報が出ているという。タンクの総容量を倍増する計画だが、遠からず設置場所はなくなる。

 地下水は海洋に放出し、建屋への流入量を減らす対策が必要だ。地盤を凍らせて流入を防ぐ凍土壁の開発も急ぎたい。大がかりな事業だけに、政府が主体的に取り組むことが大切である。

 さらに汚染水も、浄化して海に流せば貯蔵のトラブル軽減につながる。政府と東電は、粘り強く地元の理解を得ねばならない。

 4号機では、燃料貯蔵プールの冷却が停電により4時間半止まるミスも起きた。近くで道路を掘削中に電源ケーブルを誤って損傷したという。プールには1000体以上の燃料が保管中だ。重要な冷却用電源の管理に不安が残る。

 汚染水の浄化装置も26日、トラブルにより停止した。

 廃炉への長い道のりを乗り切るには、政府と東電が安全対策を総点検することが重要である。

2014年2月26日水曜日

自由貿易の原点に戻りTPPを立て直せ

 大枠合意を目指してシンガポールで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、膠着状態を打開できずに終わった。昨年末の閣僚会合での合意見送りに続き、2度目の挫折となる。極めて残念な結果である。

 数ある通商交渉の中でもTPPは最も高い目標を掲げ、貿易・投資の自由化に向けて世界各国を突き動かす原動力となってきた。ここで交渉の勢いが衰えれば、グローバル経済の進化に合った通商ルールを築く機運が縮みかねない。

 TPPの理念は、中国を含むアジア太平洋地域で自由かつ公正な競争市場を設計することにある。交渉が迷走するのは、交渉国が目先の利害に目を奪われて、この原点から遊離しているからだ。

 とりわけ交渉の推進役である日米両国の責任は重い。失敗を真摯に反省し、交渉を立て直さなければならない。全12カ国の国内総生産(GDP)の8~9割を占める日米が率先して自由化を進めなければ他の10カ国はついて来ない。

 難航する関税分野では、全ての貿易品目で関税をゼロにするのが当初のTPPの目標である。日本は高い目標を共有する仲間に遅れて加わったが、関税撤廃の例外とする「聖域」を主張した。

 「ならば我々も」と、今回の閣僚会合ではマレーシアやベトナムなどのアジア新興国が、それぞれ自国の聖域を公然と主張し始めている。同じ理念の下での結束が緩み、いまTPP交渉は空中分解の危機に直面している。

 米国は巨大な国内市場を背景とする自国の交渉力を過信し、新興国の国内事情への配慮を欠いていた。多国間の共同作業でルールを築く姿勢が足らず、米国流のルールを押しつけすぎた面がある。

 通商交渉は特定の国が「一人勝ち」するのではなく、長期的にお互いに恩恵を得られるという信頼があって初めて成り立つ。その信頼関係を日米が損なうような展開に陥ってはならない。

 このままでは交渉の進展は期待できない。自民党が聖域とする農産品5項目をめぐり、安倍晋三首相は一段の市場開放に向けて政治決断をする時だ。

 国民の食を支える国内農業が重要であるのは当然だが、守り方を関税だけに依存はできない。成長戦略の柱である農業改革を加速すると同時に、自由化による農家への影響を緩和する措置を講じ、日本が交渉の突破口を開くべきだ。

セブンイレブンに学ぶこと

 流通大手、セブン&アイ・ホールディングスのコンビニエンスストア事業であるセブンイレブンが好調だ。2014年2月期の決算は、公表済みである第3四半期までの累計としては営業利益、出店数とも過去最高を更新した。毎月の既存店売上高も12年夏以降、前年同月比でプラスが続く。

 コンビニエンスストアもセブンイレブンも米国で生まれたものだが、いま私たちが目にする「コンビニ」は、日本で創意工夫を重ねて育てた姿だと言っていい。カギは消費者の目線だ。

 働く女性の増加などで「時間」が貴重品になる。そうした変化をにらみ、家で作るのが常識だったおにぎりを、味や具材の工夫で主力商品に育てた。銀行も設立し店内にATMを置いた。総菜の充実や入れ立てコーヒーの販売は、ファストフードやコーヒーチェーンの経営を揺さぶっている。

 消費者の目線で考えれば社会や市場の変化にも敏感になる。かつては単身世帯の増加を先取りし、深夜営業に先べんをつけた。近年は高くてもおいしいものを少量、身近な場で購入したい高齢者などの需要を、高級食パンなどの独自商品で掘り起こしつつある。

 変化に敏感な姿勢は海外での事業にも生きる。経済成長で忙しい消費者が増え、都市に人口が集まり、大家族が消える。世界の生活スタイルが均質化しつつある中、コンビニの成長余地は大きい。御用聞きや弁当宅配など、日本で試みている高齢者向けサービスは海外でも生きるはずだ。

 「小売りの王道は安売り競争」「消費者の価値観は国ごとに全く違う」という業界の常識に挑み、生活習慣を提案し、業種などの壁を崩す。そうした姿勢には、業界を超え参考にすべき点は多い。

 日本の産業界では、今も技術偏重の商品開発が目立つ。いたずらな高機能競争は、使い方を習得するための時間や手間を惜しむ現代の消費者とすれ違う。なぜ国境を越え人々の心をつかめたのか。学ぶべき点は学びたい。

NHK会長―報道トップの資質疑う

 報道機関の長が、現場を上から黙らせようとすることが、どれほど致命的なことか。

 報道人としてのイロハのイの認識が、NHKの籾井勝人会長には欠けているのではないか。

 そう疑わざるをえない。

 籾井氏は就任直後に、理事10人全員に日付を空欄にした辞表を提出させていた。理事全員が国会でその事実を認めた。

 あらかじめ辞表を書かせる。それは、自分に従わなければいつでもクビにできると宣言し、異議を唱えられないように理事らを縛ることを意味する。

 メディアのトップとして、最も慎むべき行いだろう。

 放送法は「放送の不偏不党」と「健全な民主主義の発達に資する」ことを目的に掲げる。その実現に一番大切なのは、異論を封じないことである。

 まして視聴者の受信料で営む公共放送には、多様な声を尊重する姿勢がとりわけ求められよう。組織内の異論に耳を傾けられない人が、世の中の少数意見に目配りなどできまい。

 NHKの理事会は、番組内容が放送法や番組基準に照らして適切かどうか報告を受け、検討を行う。理事は報道や制作、経営企画などに携わってきた生え抜き幹部で、一般企業の執行役員のような存在だ。

 その首を会長が好き勝手にすげ替えられるとなれば、報道や番組作りの現場をどれだけ萎縮させるか。計り知れない。

 だからこそ放送法は、会長による理事の罷免(ひめん)は「職務上の義務違反その他」の非行があるときなどと制約を課している。

 籾井氏は自分への絶対服従が理事の義務と考えているのか。理事が自ら辞めた形にすれば、法の制約は受けないと考えたのか。どのみち見すごせない。

 籾井氏は就任会見で、特定秘密保護法や領土問題、靖国神社参拝などについて政府に寄り添うような発言をし、のちに撤回した。ところが経営委員会でただされると「私は大変な失言をしたのか」と開き直った。

 批判をかわすためだけに撤回し、真意と違うことを報道されたと責任転嫁する。見事なまでに失言政治家そっくりだ。

 経営委員会はきのう籾井氏に言動を慎むよう求めて2度目の注意に踏み切った。強い危機感の表れだろう。

 籾井氏や経営委員ら、外部から登用された上層部の言動が、現場の築いてきた信頼を危うくしている。職員らには迷惑このうえあるまい。その責任をどう考えるのか。公共放送を率いる資質はあるのか。籾井氏は胸に手を当てて考えるべきだ。

武器輸出原則―性急な転換は許されぬ

 安倍政権が検討している新しい武器輸出原則の案が明らかになった。

 武器の輸出は認めず、認める場合は例外とするいまの「三原則」を撤廃。新たな原則に反しない限りは輸出を認めるようにする。平和主義の転換であり、性急な決定は許されない。

 いまの三原則は67年に佐藤首相が、共産圏▽国連決議による武器禁輸国▽国際紛争の当事国またはそのおそれのある国へは武器輸出を認めないと表明。76年に三木内閣が、その他の地域にも輸出を「慎む」とした。

 その後、米国への武器技術の供与を皮切りに次々と例外が設けられた。それでも、そのつど官房長官が談話を出し、輸出する理由を説明してきた。

 新たな原則は、国際的な平和及び安全の維持を妨げることが明らかな場合は輸出しない▽輸出を認める場合の限定と厳しい審査▽目的外使用や第三国移転の適正な管理が確保される場合に限定する、というものだ。

 この新しい原則のもと、政府は戦闘機などの国際共同開発や、自衛隊がPKOで使った重機を相手国に提供することなどを想定している。

 とりわけ懸念されるのは、輸出を禁じる相手から「国際紛争の当事国」が外されたことだ。

 念頭にあるのは、日本が共同生産に加わる最新鋭戦闘機F35の部品のイスラエルへの輸出だ。共同生産システムは米国が管理しており、日本製の部品が補修のため、周辺国との緊張が絶えないイスラエルに輸出される可能性が出てくる。

 原則を改める背景には、コスト削減のためハイテク武器の国際的な共同開発・生産が主流になっていることがある。

 経済界の要請を受け、防衛産業の育成を図る意味も大きい。

 国内企業がつくる自衛隊機向けの部品などが輸出できるようになれば、企業の利益が上がる一方、自衛隊の調達コストも下げられるという。

 限られた防衛費を効率よく使う必要はあるだろう。それでも、原則として「武器は輸出しない」という平和国家のあり方はゆるがせにはできない。

 いったん国境を越えた武器が、最終的にどこでどう使われるかを管理することは極めて難しい。部品だからいいというものではない。日本製のエンジンで飛ぶ戦闘機が異国の空で実戦に使われる。それが現実になるかもしれない。

 政府は新原則を3月中にも閣議決定したいという。これほど重い方針転換を、そんな短期間でしていいはずがない。

エネルギー計画 「原発活用」への妥当な転換だ

 資源の乏しい日本にとって、原子力発電所の活用を続けていくことが、最も現実的なエネルギー戦略である。

 政府は、中長期的なエネルギー政策の指針となる、新たなエネルギー基本計画案を決めた。

 昨年12月に経済産業省の有識者会議が示した原案に、パブリックコメント(意見公募)などを反映させた。政府は与党との調整を経て、3月中にも閣議決定する。

 焦点だった原発の位置付けについて政府案は、原案の「基盤となる重要なベース電源」を「重要なベースロード電源」に修正した。ベースロード電源とは、昼夜を問わず一定量の発電を続け、安定供給を支える電源を指している。

 民主党政権の掲げた「2030年代の原発稼働ゼロ」を転換し、原発を重要電源として活用する方針を示したものだ。政府案は、大筋で妥当と言える。

 原子力規制委員会が安全性を確認した原発について、再稼働させる方針も明記した。

 原発依存度は「可能な限り低減させる」としたが、「確保していく規模を見極める」とし、今後の新増設に含みを残した。現実的な判断である。

 全原発48基の停止が続き、全発電量の9割近くを火力発電に頼っている。燃料費が増大し、電気料金高騰や巨額の貿易赤字などの弊害が深刻化している。

 火力と原子力、太陽光や水力などの再生可能エネルギーが補完しあう、多様性のある電源構成の確立が求められよう。

 政府は、今回は提示を見送った最適な電源構成の数値目標をできるだけ早く示してほしい。

 政府案は再生エネの導入加速をうたった。ただ、再生エネを高値で買い取る現行の普及制度は、家計や企業に重い料金負担を強いる副作用が大きく、制度の抜本的な見直しが急務だ。

 核燃料サイクルについて「対応の柔軟性を持たせる」との文言を追加し、見直しの可能性を示唆した点には懸念が残る。ウラン資源の有効活用などのため、「着実な推進」というこれまでの政府方針を堅持すべきである。

 放射性廃棄物の最終処分に「国が前面に立つ」としたのは当然だろう。今度こそ処分場の選定に道筋をつけねばならない。

 気がかりなのは与党の対応だ。公明党は「速やかに原発ゼロを目指す」と公約している。脱原発論に流されず、厳しい電力事情を踏まえて判断してもらいたい。

徳田議員辞職 政界去っても説明責任は残る

 大がかりな選挙違反に親族が関わった以上、辞職は当然である。むしろ、遅すぎた決断だったと言えよう。

 医療グループ「徳洲会」の公職選挙法違反事件で、自民党を離党した徳田毅衆院議員が、議員辞職願を提出した。

 事件が発覚した昨秋以降、徳田氏は衆院の本会議や委員会を繰り返し欠席している。国会議員として無責任に過ぎる。今回、初めて記者会見で謝罪したが、自らの陣営に司直のメスが入った時点で、説明責任を果たすべきだった。

 徳洲会は一昨年12月の衆院選で、総額2億円超の資金を運動員らの買収に充てたとみられている。グループ創業者で、徳田氏の父の虎雄元衆院議員は、難病のため立件されていないが、母親と2人の姉らが逮捕、起訴された。

 捜査段階で事件への関与を認めた次姉の判決公判が、3月5日に迫っている。公選法の連座制の規定により、徳田氏の失職は避けられない状況になっていた。

 辞職表明は、親族の公判日程をにらんでのことだろう。

 記者会見で、徳田氏は「寛大な措置をお願いしたい」と述べ、自発的に議員辞職することで親族らの情状酌量を求めた。虫が良すぎると言うほかはない。

 東京地検特捜部は、現金5000万円が徳田氏から猪瀬直樹・前東京都知事に渡った問題について捜査を進めている。現金の趣旨が都知事選の選挙資金だったかどうかが、捜査の焦点だ。

 仮に選挙資金であったのなら、選挙運動費用収支報告書に記載していなかった猪瀬氏側の刑事責任が問われる可能性もある。

 徳田氏は「猪瀬氏との会食で都知事選の話が出た」と述べたが、使途に関しては「私からはお話しできない」と明言を避けた。

 捜査中であることなどを理由に、猪瀬氏とのやり取りも具体的には語らなかった。だが、5000万円の授受は公知の事実だ。徳田氏は一方の当事者として、きちんと説明すべきである。

 猪瀬氏の説明との食い違いも明らかになった。「猪瀬氏から貸してほしいとの依頼があったのか」との質問に、徳田氏は「そのように認識している」と答えた。

 猪瀬氏は、逆に徳田氏からの申し出だったと主張している。

 徳洲会が取得に動いた東京電力病院の売却問題も含め、徳田氏の詳細な説明を改めて聞きたい。

 徳田氏辞職に伴う衆院鹿児島2区の補選は4月に行われる。事件の反省に立った選挙にしたい。

2014年2月25日火曜日

成長促進へ向け具体策が問われるG20

 世界経済は金融危機から脱却しつつあるが、これに慢心してはならない。20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は23日の共同声明でそんなメッセージを発した。具体的な成長目標を定めたのは真剣さを示す狙いだろう。問われるのは、そのために何をするのかという行動の中身である。

 世界経済が少しずつ改善しているのは間違いない。とくに、リーマン・ショックで大きな打撃を受けた米国経済が安定的な回復軌道に入り、欧州もマイナス成長から抜け出しつつあるのは朗報だ。

 だが、その後遺症は重く、若年層を中心とした長期失業問題は解消の見通しが立っていない。欧州の金融システムはなお不安定で、中小企業向けの金融は滞ったままだ。その一方、高成長を続けてきた新興国経済は曲がり角を迎えている。世界経済の姿は満足できる状況にはなく、G20が協調して動く姿勢を示したのは評価できる。

 共同声明は、世界全体の国内総生産(GDP)を従来見通しより5年で2%高める目標を示した。その実現へ向けて、投資や雇用を増やし、貿易や競争を促すための包括的な成長戦略を今秋までにまとめる考えだ。

 問題は、各国が成長促進に役立つ具体策を打ち出せるかである。

 財政や金融政策に頼った成長拡大には限界がある。急な引き締めで経済を傷めないようにするのは当然だが、追加的なマクロ政策を発動する余地がある国は減っている。巨額の財政出動で金融危機の拡大を防いだ中国も投資過剰経済からの脱却を迫られている。

 もちろん、経済活性化に必要なインフラ投資は先進国、新興国を問わず進めるべきだ。そのために民間資金をどう取りこんでいくかなどの知恵と工夫が求められる。

 持続的な成長拡大には、各国とも痛みの伴う構造改革を進めざるをえない。欧州は、労働市場改革や金融システムの強化策が求められるだろう。中国は国営企業改革で民間の活力を引き出すべきだ。

 日本もアベノミクスの第3の矢である成長戦略を強化、実現しなければならない。女性の雇用促進など労働参加率を高めるための施策や、医療や農業などへの参入を促す規制改革は待ったなしだ。

 G20が慢心を戒め、成長を促す姿勢を示したのは歓迎したい。だが実行が伴わなければ、世界の課題に協調して取り組むG20の枠組みへの信頼は損なわれかねない。

混迷ウクライナの安定急げ

 旧ソ連の大国、ウクライナで親ロシア派のヤヌコビッチ政権が事実上崩壊した。流血を伴う深刻な政治危機は収束しつつあるとはいえ、事態収拾への道のりはなお険しい。国際社会は同国の混迷に終止符を打つべく、一致団結して支えていく必要がある。

 今回の政治危機は昨年11月、ヤヌコビッチ政権が欧州連合(EU)との関係を強める連合協定の締結を直前になって凍結したのが発端だ。協定は将来のEU市場への統合にも道を開くはずだった。

 締結見送りに憤慨した市民ら反政権派は首都キエフなどで大規模な抗議行動を繰り返した。ついには警察・治安部隊との衝突に発展し、多くの死傷者が出た。統治能力を失った大統領は逃亡し、反政権派は首都を掌握した。

 議会は大統領代行を選任し、5月の大統領選実施を決めた。大統領の政敵で服役中だったティモシェンコ元首相は釈放され、次期大統領選への出馬を明言した。ウクライナの政治危機は当面、収拾の方向に向かうとみられる。

 ただ、予断は禁物だ。ウクライナは歴史的に東部は親ロシア派、西部は親欧州派の住民が多い。親ロか親欧かの路線対立は国を二分する論争だ。かつて「オレンジ革命」といわれる民主革命を経て、いったんは進んだかにみえた親欧米路線が頓挫した経緯もある。

 責任の一端はEUとロシアにもある。いずれもウクライナを自陣に引き寄せるため、綱引きを演じてきた。とくにロシアは経済的な圧力をかけ、EUへの接近をけん制した。ヤヌコビッチ政権がEUとの連合協定締結を見送ると一転して、安価での天然ガス供給や多額の金融支援を約束した。

 独立国家の将来を決めるのは国民自身である。EUもロシアもまずはウクライナの混迷打開を優先し、民主的な大統領選の実施を含め、安定的な体制移行の実現に協力すべきだ。欧州とロシアのはざまに位置するウクライナの政情安定は地域の平和と秩序維持に直結することを忘れてはならない。

原発避難解除―不安に応える態勢を

 福島第一原発の事故で避難を指示されていた福島県田村市の都路地区について、政府が4月1日に指示を解除する方針を決めた。

 除染で放射線量が一定レベルに下がったことなどから判断した。いまの避難区域割りになってから初めての解除となる。

 事故から3年。帰りたい人もいれば、心配がぬぐえない人もいる。帰還を強制されるわけではないが、指示が解除されれば東京電力による精神的被害などに対する賠償は、いずれ打ち切られる。住民の複雑な思いを考えれば、素直には喜べない。

 政府もそれなりの対策は打ってきた。

 昨年6月に除染作業を終え、8月には希望者に長期宿泊を認めた。日々の生活の中で個人が実際にうける放射線量を測ったところ、おおむね年間1ミリシーベルト程度におさまっているという。

 空間線量や飲料水の測定態勢も整備した。東側に隣接する町は依然として線量が高く立ち入りできないため、地区内にコンビニを誘致し、共同商業施設や夜間診療所も新たにつくる。

 昨年末には、避難指示の解除後も戻らない住民に対する新たな賠償枠が決まった。「解除は切り捨てと同じ」との懸念が少し和らいだ面はあったろう。

 それでも、23日に市内であった住民の意見交換会では、除染や子どもの健康・教育、農作物の風評被害などへの対策に要望・不満が相次いだ。

 政府側の出席者は「これで終わりではない」と強調したが、当然だ。今後も、住民の求めに対していねいに応えていく態勢の充実を強く求めたい。

 新たに設ける「相談員制度」はその一つになる。まずは放射線や健康面での住民対応が想定されているが、もっと国や市と住民とを結ぶ包括的な役割を担えないか。

 科学的な専門性だけでなく、今後、身近に起きるさまざまな困り事や不安に耳を傾け、住民側に立って国や市へと情報をあげ、ともに解決策を見いだしていく役回りだ。

 原発被災地は、市町村や地区ごとに置かれている状況が異なり、賠償額の違いなどから住民の分断も起きやすい。「元に戻す」というより、「新たにつくる」作業が多いだけに、ここからが本番である。

 早期の避難指示解除を検討する自治体は、ほかに6市町村ある。田村市の試みがそのまま他の市町村に適用できるとは限らないが、先行例として実績をしっかり積み上げてほしい。

G20声明―地に足ついた成長こそ

 米国の量的緩和(QE3)縮小で、新興国の一部がマネーの流出にあえぐなか、主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が経済成長の底上げ目標を打ち出した。

 今後5年間で世界経済の成長率を2%幅以上かさ上げすることを目指す。金額にして2兆ドル(約200兆円)の規模だ。民間資金を中心とする長期投資を各国のインフラ開発に誘導することが柱だという。

 G20が共同声明で初めて成長目標を設けた背景には、景気回復で緩和縮小に動き出した米国と新興国との間であつれきが高まるのを封じ込める意味合いもあるのかもしれない。

 ただ、日米欧の景気が復調しつつあるとはいえ、成熟した先進国で成長の押し上げには限度がある。かたや新興国は高成長の陰で蓄積された経済構造の矛盾を是正するため、成長の減速がむしろ望ましい場合もある。中国がその典型である。

 いたずらに表面的な数字を追うと、放漫な財政拡張や金融緩和に頼むことになり、むしろ世界経済のひずみが悪化するのではないかと気にかかる。

 成長戦略は11月のG20首脳会議までに具体化する。拙速を戒め、新興国の弱みを他国が補う投融資や技術支援のネットワークをつくる地道な努力を促していくべきだ。

 共同声明は米国を念頭に、異例の金融緩和を正常化する必要性に理解を示しつつ、世界経済への影響にも配慮し、市場の過剰な反応を招かないような丁寧な説明努力を促している。

 一方、新興国にはインフレや経常赤字への対策、経済構造の改革などを求めた。

 米国と新興国双方の顔を立てた格好だが、米国は新興国の金融安定に向けて、さらに取り組む余地がある。問題国にドル資金を融通するスワップ協定を広げることはそのひとつだ。

 なにより、国際通貨基金(IMF)を増資して新興国の割合を高める改革案は米議会が承認せず、立ち往生している。増資に伴う影響力の低下をいつまでも嫌がっていては、米国にとってもマイナスである。

 変調のもう一方の極にあるのは中国経済の不透明感だ。財テク商品の信用不安など「影の銀行」問題が波状的に市場を騒がせている。

 中央と地方の政府、銀行、企業の利害が絡まり一筋縄ではいかないが、国内の駆け引きにかまけて世界に不安をばらまくのでは通らない。早急に処理方針を明示し、金融不安を抑え込む覚悟を見せるべきだ。

羽田と成田空港 利便性高めて競争を勝ち抜け

 成長するアジアの航空需要を取り込むために羽田と成田の両空港の利便性向上を図り、経済の活性化にもつなげたい。

 国土交通省は3月末、羽田の航空機の発着枠を年41万回から44・7万回に拡大する。成田も2014年度中に年27万回から30万回に増やす。

 これにより、羽田発着を含めた国際線の増便や、昨年初めて1000万人を超えた訪日客のさらなる増加が期待されよう。

 アジアの航空旅客数は今後も伸び続ける見通しで、20年には東京五輪・パラリンピックが開催される。羽田と成田を航空会社と利用客がより使いやすい空港にする必要がある。

 両空港の課題は、香港、シンガポール・チャンギ、韓国・仁川といったアジアのライバル空港に比べ、国際線の旅客数で差を付けられていることだ。

 仁川など各空港が設備拡充に加え、都心への交通手段の改善も進めたことから、欧米への乗り継ぎ便などを積極的に誘致した効果が表れた。アジアの国際拠点(ハブ)空港をめぐる競争は、一段と熱を帯びている。

 羽田と成田にまず求められるのは、アジアの主要空港よりも高い着陸料の引き下げである。

 航空会社が払う着陸料が下がれば、欧米とアジアを結ぶ乗り継ぎ便が増えそうだ。成田は昨春、低騒音機などの着陸料を下げたが、一段の下げを求めたい。

 成田で年27万回の発着枠のうち未使用の約5万回分も改善の余地がある。利用率の低い夜間・早朝帯などの発着を増やし、空港を最大限活用すべきだ。

 空港や航空各社は、鉄道やバス会社と連携して都心への便数を増やすなど、利用客の交通手段の利便性向上も図らねばならない。

 政府は、羽田の強化策として滑走路新設を検討している。発着枠の大幅拡大が見込まれる反面、巨額の工事費用が要る。民間資金の活用などでコストをできるだけ圧縮することが欠かせない。

 東京上空の飛行制限の緩和も懸案である。東京上空には民間機が飛行できない空域が多く、飛行ルートが限定されているためだ。

 技術の進歩に伴い、航空機の騒音は一定程度改善しているとはいえ、羽田近隣の自治体や住民側との合意が課題と言える。

 羽田、成田両空港の使い勝手が良くなれば、急成長する格安航空会社(LCC)の参入が進むだろう。価格や路線の選択肢が増え、利用客の恩恵も大きい。

ウクライナ政変 安定回復へ欧露の責任は重い

 欧州とロシアのはざまで揺れるウクライナの安定を回復させるため、国際的な協力が必要だ。

 ウクライナのヤヌコビッチ政権が事実上崩壊した。大統領は、激しい反政府デモの中で、首都キエフからの退去を余儀なくされた。

 議会は、野党のトゥルチノフ氏を大統領代行として承認し、5月に大統領選を実施すると決議したが、混乱の行方は不透明だ。

 ヤヌコビッチ氏失脚のきっかけは、欧州連合(EU)と、自由貿易を柱とする協定で合意したにもかかわらず、昨年11月、署名の段階で見送りを決めたことだ。

 ウクライナとEUの接近を警戒するロシアが、協定締結延期の見返りに大規模な経済支援を約束するなど、露骨な働きかけを行ったためと見られている。

 野党とその支持者は強く反発し、反政府デモを始めた。今月に入り、治安部隊との衝突で、80人以上が死亡したことが、政権の命取りとなったと言えよう。

 ウクライナは、歴史的に、西部は欧州、東部はロシアの強い影響を受けてきた。1991年の旧ソ連からの独立以降も、ロシアとの関係を重視する親露派と、EUとの接近を図る親欧州派が拮抗(きっこう)し、政権交代を繰り返した。

 親露派と見なされたヤヌコビッチ氏が権力の座から追われ、服役中だったチモシェンコ元首相ら親欧州派が実権を握ったことで、ウクライナは今後、EUへの傾斜を強めることになるだろう。

 ソチ冬季五輪の成功で、旧ソ連圏の経済的再統合に弾みを付けたいプーチン大統領は、冷水を浴びせられた思いではないか。

 プーチン氏が、ウクライナに影響力を行使しようとして、過去に行った天然ガス供給制限のような強硬措置をとるようなことがあれば、混乱は深刻化するだけだ。自重を求めたい。

 EUは、事態悪化を防ぐため、ロシアとも調整しつつ関与すべきである。メルケル独首相が、プーチン氏と電話会談し、ウクライナの「領土の一体性維持」の必要性で一致し、東西分裂の回避で足並みをそろえたのは評価できる。

 ウクライナは、巨額の対外債務を抱え、債務不履行の危険さえ指摘されている。EUを始めとする国際社会の支援が、安定回復の鍵を握っている。

 チェルノブイリの原子力発電所事故を経験したウクライナは、日本と協定を結んで情報交換や専門家交流を行っている。政権崩壊の行方を注視したい。

2014年2月24日月曜日

教育委員会改革を見かけ倒しにするな

 木に竹を接いだ感がぬぐえないプランである。今国会への提出をめざして自民党がまとめた教育委員会制度の改革案だ。

 さまざまな意見を折衷したのはいいが、実際にこの仕組みがきちんと機能するのか心もとない。入念な制度設計が必要である。

 教委改革をめぐり、中央教育審議会が出した案は2つあった。

 教育行政の責任者を委員会の事務局トップである教育長と定め、委員会自体は諮問機関化するのが「A案」だ。首長に教育長の任免権を与えており、教育行政にその意向が直接反映される。一方の「B案」はいまの制度に近い。

 A案が出てきた背景には、教育委員会という存在そのものへの不信感があった。最終責任者が委員長なのか教育長なのか曖昧で、いじめ問題などの際にそれが如実にあらわれたからだ。

 地方分権の流れにそって考えると、選挙で選ばれた首長が教育行政に最終責任を持つA案のような発想は妥当だろう。

 しかしひとたび首長が暴走した場合、教育の中立性や安定性、継続性が保てるのか。そんな指摘が与党内から噴き出し、自民党がまとめたのが今回の案だ。

 この案は入り組んでいる。

 (1)教育長と委員長を統合した新ポストを設け、首長が任免権を持つ(2)首長が主宰する「総合教育施策会議」を新設し、教育行政のおおまかな方針を決める(3)委員会はこの会議が決めた方針を執行し、教科書選定や教職員人事などの権限も持つ――などが骨格だ。

 首長の権限を強めて責任の所在を明確化し、同時に教育の中立性にも配慮した苦心の作ともいえる。しかし総合教育施策会議のあり方や教委との役割分担などはっきりしない部分が多い。会議のメンバーをどうするかも課題だ。

 加えて、別の疑問もある。この改革案で「教育ムラ」ともいえる閉鎖的な教育行政の体質を変えられるのか、文部科学省を頂点とする上意下達システムを崩せるのか、といった根本的な問題だ。

 現行の教育委員会制度のもとでは事務局の存在感が極めて大きい。多くの事務局で教員系の職員が要職を占め、排他的な雰囲気のもとになっている。自治体のなかの「聖域」といってもいい。

 今後の与党協議や国会審議の過程では、そうした点も大いに議論してもらいたい。見かけ倒しの改革にしてはならない。

サウジ・UAEと関係深化を

 サウジアラビアのサルマン皇太子が来日した。25日からはアラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国のムハンマド皇太子が日本を訪れる。

 日本にとり、サウジは最大の原油輸入先であり、UAEは2番目だ。次の国政を担う2人の訪問をエネルギーにとどまらず、幅広く関係を深めるきっかけにしたい。

 サウジとUAEからの原油輸入量は、日本の全輸入量の半分以上を占める。途絶えれば日本経済は深刻な影響を受ける。まずは安定して供給を受ける体制を万全にしなければならない。

 日本政府は昨年、サウジとUAEとそれぞれ、外交・防衛当局者間の対話を始めることで合意した。この枠組みを活用し、地域情勢への対応やシーレーン(海上交通路)の安全確保で緊密に連携することが重要だ。

 サウジは沖縄県、UAEは鹿児島県にある日本の石油備蓄基地に自国産の原油を蓄えている。中東からの供給が動乱などで止まった場合、日本は優先して使える。

 ただ、備蓄量は日本の消費量の数日分だ。これを増やしたい。産油国が消費国と連携し、備蓄拠点を持つ試みは、原油の中東依存度が高まる中国や東南アジア諸国の参考にもなるはずだ。

 大切なのは日本がエネルギーを買うだけの一方的な関係にしないことだ。サウジやUAEの国づくりに積極的に協力し、双方向の関係を太くすることが、ひいてはエネルギーの安定確保につながる。

 来日したサルマン皇太子と会談した安倍晋三首相は、エネルギー分野に加え、産業の多角化や人材育成など包括的な関係強化で一致した。ぜひ進めてもらいたい。

 中東諸国に共通する課題は増大する人口への対応だ。新たな産業を育てて雇用の場をつくり、電力や水道などのインフラを着実に整備する必要がある。サルマン皇太子の来日にあわせ、日本とサウジの産業界代表が集まる会議が開かれ、日本への期待が相次いだ。この声に応えていきたい。

通信の傍受―乱用を防ぐ方策が先だ

 本人が知らないうちに捜査当局が電話の会話を聞いている。その内容が裁判の証拠にもなる。これが通信傍受だ。

 裁判所の令状が必要だが、逮捕や捜索とは異なり、本人に事前に示されることはない。

 憲法が保障する通信の秘密やプライバシーとの関係で深刻な問題をはらむ捜査手法である。

 乱用のおそれは強いものの、今すでに限定的に認められている。1999年に反対の声が渦巻くなかで法制化された。

 この通信傍受をさらに大幅に拡大する案が、捜査や公判を改革する法制審議会の特別部会で議論されている。

 現行制度で認められている対象は、薬物、銃器にかかわる犯罪、集団密航、組織的殺人の4種類にとどめられている。

 だが法務省案は、その対象を窃盗、詐欺、恐喝などの一般的な犯罪に拡大するという。

 あまりにも広すぎないか。

 当局が強調するのは、振り込め詐欺など特殊詐欺や、集団窃盗への対応だ。現金を受け取る末端の共犯者を捕まえても、首謀者にたどりつくのが難しい。グループ間の通信をつかめば捜査に役立つとしている。

 しかし、新しく加えるという窃盗だけでも、犯罪全体の半分を占めるほど対象は広い。極めて慎重にあたるべき捜査の対象が無制限に広がりかねない。

 電話の会話、メールといった個人の領域に踏み込む権限は、当局の思惑次第でいかようにも利用される可能性がぬぐえない。それが通信傍受の本質的な問題だ。

 これまで傍受は通信会社で行われ、社員が立ち会ってきた。法務省案では、対象となる通信を暗号化して警察施設に送信させるという。

 捜査機関はもはや通信会社に出向くことなく、立会人もなしに傍受ができることになる。

 これまで立会人の役割は形式的なものに過ぎなかったとの指摘もあるが、傍受の現場での第三者の存在には何らかの歯止め効果があったはずだ。

 傍受を広げる議論の前に、まず傍受が適切に行われているかを第三者機関がチェックするしくみを検討すべきだ。

 現行制度では、傍受の状況を国会に報告する義務があるが、内容は件数程度にとどまる。捜査に無関係な会話を記録していないか、別件の捜査に用いられていないか、といった検証の目にさらされていない。

 乱用を防ぐ手立てをとったうえで拡大の可否を考えるのが、市民社会の自由と人権を守るうえで取るべき順序であろう。

南シナ海問題―中国は合意を忘れるな

 日本周辺の東シナ海だけでなく、台湾以南の南シナ海でも、中国が影響力を広げようとする行動が目立っている。

 南シナ海問題をめぐり中国は周辺国と平和解決をめざすルール作りで合意したはずだ。

 みずから合意の精神に背き、大国エゴに走る行動は地域の警戒心を高めるだけだ。中国は自身の利益のためにも、行動を自制すべきである。

 中国軍は昨年以来、空母を含む艦艇を送り込み、防空識別圏を南シナ海域にも設ける可能性を示唆している。

 今年1月には、中国海南省政府が外国漁船に対し、入漁の許可手続きを義務づけた。

 これに東南アジア諸国連合(ASEAN)が外相会議で懸念を表明したのは当然だ。

 この海域では、中国のほか、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが権利を主張している。

 中国の主張の中でも不可解なのは、「9段線」と呼ばれる境界線だ。1947年に中華民国内政部(当時)が引いた線を受け継いだものだが、現時点での意図ははっきりしない。

 9段線内は領海というのか、排他的な経済権益なのか。何であれ、国際ルールとは相いれない。中国側には海洋資源確保のほか、海軍の活動海域を確保する狙いがあるのではないか。

 中国は強硬路線と対話路線の間を揺れてきた。

 80~90年代、ベトナムとフィリピンが領有を唱えるスプラトリー諸島の岩礁を占拠したり、監視施設を設けたりした。

 一方でASEANとの間で、平和解決をめざす02年の「行動宣言」、さらに12年に「行動規範」作りに合意した。軍事演習の禁止や、救難活動のルール設定などが想定されている。

 だが、交渉は遅れており、この間も海域では米国も含む各国軍艦、監視船、漁船が接触寸前になる事態が頻発している。

 東南アジア各国にも冷静な行動が求められる。一部に潜水艦増備の動きがあるが、軍拡競争は事態を悪化させる。

 南シナ海は東アジア全体の安保と経済の安定のカギを握る重要な航路海域でもある。日米を含む国際社会はさらに監視の目を強める必要があろう。

G20共同声明 世界成長2%底上げへ結束を

 新興国通貨安などへの懸念がくすぶる中、世界の成長加速に向けて、日米欧と、中国、ブラジルなど新興国の連携強化が問われよう。

 先進国と新興国が参加し、シドニーで開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は共同声明を採択した。

 共同声明は「世界経済は改善しているが、力強く持続的で均衡の取れた成長にはほど遠い」と分析した。その上で、「今後5年間で世界全体の成長率を2%以上引き上げる」という新目標を明記したことは強いメッセージである。

 G20は、11月に豪ブリスベーンで開く首脳会議までに「行動計画」をまとめる方針を示した。

 G20が成長率引き上げの数値目標を設定するのは初めてだ。

 その背景には、明るさが出てきたとは言え、世界経済への警戒感を拭えないことが指摘できる。2%という数値目標を設け、持続的成長を目指す決意を示す必要があると一致したのだろう。

 国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しによると、2014~15年の世界成長率は実質3・7~3・9%が見込まれる。

 米国の景気回復が鮮明になり、欧州経済もようやくマイナスからプラス成長に転じた。日本の景気も回復基調が続いている。

 一方、08年の金融危機後に先進国に代わって世界経済を牽引(けんいん)してきた新興国経済の減速が最近目立っていることが懸念材料だ。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和策を縮小する「出口戦略」に踏み出したのを機に、トルコ、インドなど「フラジャイル5(脆弱ぜいじゃくな5か国)」と呼ばれる新興国で通貨安が加速した。

 新興国に流れ込んでいた緩和マネーが引き揚げているのが要因で、新興国経済の変調や通貨安によって世界の市場が動揺する悪循環を食い止める必要がある。

 G20声明が通貨安に見舞われた新興国を念頭に、「経済政策や構造改革を強化すべきだ」と指摘したのは妥当だろう。巨額の経常赤字や高インフレといった課題の克服を加速してもらいたい。

 声明は米金融政策に関連し「世界経済に与える影響に配慮する」との文言も盛り込んだ。FRBは金融緩和策縮小に当たって、新興国経済への目配りなど「市場との対話」の工夫が求められる。

 世界経済の成長を加速するため日本への期待も大きい。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の3本目の矢である成長戦略の強化を急がねばならない。

ソチ五輪閉幕 日本選手の奮闘をたたえたい

 ソチ冬季五輪が閉幕を迎えた。

 テロの脅威にさらされる中での異例の五輪だったが、大きなトラブルがなく競技が実施されたのは、何よりだった。

 日本選手は、金1、銀4、銅3の計8個のメダルを獲得した。

 金5個を含む10個のメダルを取った長野五輪(1998年)以上という目標には及ばなかったが、それに次ぐ上々の成績である。選手たちの奮闘をねぎらいたい。

 大会終盤、スノーボード女子パラレル大回転で竹内智香選手が銀メダル、新種目のフリースタイルスキー女子ハーフパイプで小野塚彩那選手が銅メダルに輝いた。

 スキージャンプの葛西紀明選手(41)は、冬季五輪の日本勢で最年長メダリストとなった。外国選手に「レジェンド」(伝説)と敬われる葛西選手の存在は、日本選手団の誇りと言える。

 フィギュアスケート女子の3人は、メダルに届かなかった。

 浅田真央選手は、ショートプログラムでの失敗が響いた。それでも、気持ちを入れ替えてフリーの演技に臨み、自己最高得点をマークしたのは立派だった。

 ひたむきにスケートに打ち込む姿から、多くの人が元気をもらった。誰もが、親しみを込めて「真央ちゃん」と呼んだ。金メダルの夢はかなわなかったが、これまでの実績が色あせることはない。

 浅田選手のほか、フィギュア男子の高橋大輔選手、フリースタイルスキー女子モーグルの上村愛子選手らが、今大会を競技生活の集大成と位置付けた。

 高橋選手を追いかけて成長し、日本に今大会唯一の金メダルをもたらした19歳の羽生結弦選手ら、10代の若い力の活躍が目立ったことは、心強い。

 それぞれの競技を牽引(けんいん)してきた選手が一線を退いた後、世界に通用する選手をいかに育てるか。4年後に向けて、日本オリンピック委員会(JOC)や各競技団体の重要な課題である。

 圧巻だったのは、スピードスケートでのオランダの強さだ。日本が得意とした男子500メートルでも表彰台を独占した。

 オランダ選手は、日本の滑走技術を参考にしたと言われる。オランダの技術者が製氷した今大会のリンクは、軟らかく、パワーのあるオランダ勢に有利に働いたという指摘もある。

 各競技の関係者は、好成績を残した国の取り組みや、今大会での採点の傾向などを分析し、対策を練ることが大切だ。

2014年2月23日日曜日

勝者に劣らぬ敗者への敬意

 ソチ五輪がきょう23日(現地時間)、閉幕する。日本選手が獲得したメダルは21日までに金1、銀4、銅3の計8。メダリストは15歳の中学生、平野歩夢選手がこれまでの最年少なら、41歳、7度目の五輪だった葛西紀明選手が最年長という多彩ぶりである。

 金メダルの羽生結弦選手ら、重圧に負けない10代の若者たちの演技が特に印象に残った。

 冬季五輪には夏の五輪とは違う特徴がある。優劣が素人には分かりにくい採点種目が多いこと。雪や氷の上だから転倒などの失敗がつきものなこと。ヨーイドンで一斉に始まらず選手が順番に登場する種目が多く、風向きなど刻々変わる天候の影響を受けやすいこと、などである。

 極度の緊張のなか、そうした難しさや運不運を克服して自分の持つ力を出し切り、求められる結果を得ることがいかに大変なことかを教えられた大会でもあった。メダルを期待され、失意のうちにいる選手もいるだろう。ただ、17歳の高梨沙羅選手には4年後、そしてその先がある。浅田真央選手のフリーの演技は素晴らしかった。

 やはり敗れたスノーボードのスーパースター、ショーン・ホワイト選手(米)は「自分の日じゃなかった」と語ったという。そんな日は誰にもある。敗者への敬意が勝者に劣ることはない。

 今回の五輪では、競技の後、支えてくれた人々への感謝を多くの選手が口にした。それが大会を通じて日本選手がさわやかな後味を残した大きな理由だ。

 8年前、トリノ五輪金の荒川静香さんが演技で使った曲「トゥーランドット」を演奏していた世界的なバイオリニスト、バネッサ・バナコーンさん(タイ)がスキー選手として出場し、最下位ながら完走したという話題もあった。

 五輪はどうしても自国選手の勝った負けたやメダルの数に目を奪われがちだが、心に刻みたい場面はいくらでもあった。6年後には東京五輪である。スポーツを見る視線はいろいろあっていい。

銀行介さない金融に揺れる中国と世界

 金融当局の監督が十分ではないノンバンクやファンドを通じたお金の流れが世界的に膨らんでいる。こうした銀行を通さない金融仲介は「影の銀行」と呼ばれ、世界経済の安定を損ないかねないとの警戒感が強まっている。

 リーマン・ショックの後、世界の金融当局は銀行への規制を強化してきた。今後は銀行以外の金融仲介についても実効性のある監督が必要となる。

 「影の銀行」への懸念が特に高まっているのは中国だ。1月下旬には理財商品と呼ばれる個人向けファンドが債務不履行になりかけた。理財商品から資金を調達している地方の資源会社が経営難に陥ったからだ。

 理財商品の全体の残高は約10兆元(約170兆円)とされる。債務不履行をきっかけに商品全体への信用不安が広がれば、消費活動が鈍るなど中国経済に悪影響が出る。他の新興国や先進国も影響は避けられない。

 実際、理財商品の債務不履行の観測が高まった今回は、日本や欧米の金融市場が動揺するなど影響が世界に及んだ。

 中国政府は昨年12月に公式文書で、監督の対象とする「影の銀行」の範囲を明確にした。理財商品の販売会社やネット仲介会社を規制していなかったことを認め、包括的な監督体制を整える方針を打ち出した。

 まずは中国人民銀行(中央銀行)などによる監督体制の具体化が急がれる。理財商品のリスクや運用の中身に関する情報開示を進め、投機的な個人のお金の流れを抑えていく必要もある。

 それと同時に、資金が非効率な国営企業に流れやすい金融市場の改革も求められる。

 「影の銀行」は中国だけの問題ではない。世界の金融当局から成る金融安定理事会の昨年11月の調べでは、銀行を通さない金融仲介は2012年に全世界で71兆ドル(約7100兆円)に達した。中身は個人向け商品のほか、年金の資金を企業や不動産に投資するファンドなどさまざまだ。

 厳しい規制を課された銀行がリスクを伴う資金仲介をしにくくなっており、ファンドがそれを補完している面もある。

 必要な資金の流れを損なうことなく、金融システムの危機の芽はいち早く摘む。「影の銀行」に対するそんな機動的な対応が日米欧にも求められている。

ウクライナ―流血防止へ行動急げ

 欧州とロシアの中間に位置するウクライナの混乱が、痛ましい流血に発展した。

 77人もの死者を出した末、ヤヌコビッチ大統領と野党勢力が事態の収拾策で合意した。

 さらに大統領の即時辞任を求める動きも強く、情勢はなお不透明だが、これ以上の悲劇を避けるために、各当事者と周辺国は全力をあげるべきだ。

 人口4500万。旧ソ連諸国ではロシアに次ぐ大国である。地理的な要衝にあることから、欧州とロシアの勢力圏をめぐる綱引きで揺れ動いてきた。

 今回の事態も、昨年秋にヤヌコビッチ氏が欧州連合(EU)との関係を強める協定の調印を直前でやめ、ロシアに急接近したことが引き金だった。

 この国は多大な対外債務を抱え、経済危機の瀬戸際にある。対ロ接近の見返りに巨額融資と天然ガス価格引き下げを受け、危機の乗り切りを狙った。

 だが国内は歴史的に、親欧米の西部と、ロシアの影響が強い東部との間に深い分断がある。言語も宗教も状況が異なる。

 国の将来の方向を当面の都合で決めたことに、西部を基盤とする野党勢力が強く反発したのは必然の結果だった。

 前世紀の二つの世界大戦時には、独立を求める西部の民族主義勢力と、東部の勢力とを軸に武装闘争が起こり、おびただしい犠牲者を出した。

 だから、旧ソ連から独立したあと、歴代の大統領は、東西の微妙なバランスに配慮した政治を進めることで、国内の融和と安定の維持に努めてきた。

 だが今回、首都キエフで抗議活動を続けた野党勢力に、ヤヌコビッチ氏は治安部隊による排除などの強権的手段をとった。自国の歴史を顧みない重大な誤りだったといえる。

 事態を収拾するには今回の合意にもある、野党勢力も含めた連合政府の編成などを早急に実現しなくてはならない。野党側も、銃撃戦を演じた過激派を抑えるなどの自制が必要だ。

 再び対立が激化して内戦のような事態になれば、旧ユーゴスラビアのように欧州の安定にとって重大な脅威となる。

 ロシアとEUは、自らの影響力拡大に重点を置くこれまでの態度を改め、安定化を最優先した協調行動をとる必要がある。

 日本はこの国のチェルノブイリ原発事故への支援は続けてきたが、政治の安定や経済的自立に向けては熱心でなかった。

 安倍政権が「地球儀を俯瞰(ふかん)した外交」を掲げるのならば、この地政学的な要衝国の安定のために関与を強めるべきだろう。

電子商取引―公平な課税で競争を

 インターネットを通じた電子商取引が広がっている。

 衣料品やDVDソフトなど「モノ」の売買に加え、電子書籍や音楽、映画といった「デジタルコンテンツ」を、消費者がオンラインで購入することも当たり前になった。

 幅広い選択肢から安く安心して買える環境を整えるには、電子商取引での健全な競争が欠かせない。そのための課題の一つが税制である。

 消費税の場合、現状では国内に拠点を置く業者からデジタルコンテンツをオンラインで買えば払う必要があるのに、海外拠点から配信する業者を通じて買うと課税されない。

 これでは不公平だ。消費者に混乱が生じるし、日本企業が海外勢と比べて不利になる。拠点を海外に移す日本企業が現れるなど、空洞化への懸念も高まっている。

 4月の消費増税を前に、財務省が制度改革の方針を決めた。海外の業者に国税当局への登録を求め、消費税を納税してもらうのが柱だ。約10年前に対策に乗り出した欧州連合(EU)の仕組みにならった。

 民間調査機関によると、海外からの配信サービスに伴って取りはぐれている消費税額は、推計で250億円(12年度)。すべての取引をつかむことは不可能だが、手をこまぬいているわけにはいかない。

 制度の詳細はこれから詰めるため、今春の消費増税には間に合わないという。早く具体的な仕組みを整えたうえで、海外の当局との情報交換や業務面での協力を急ぎ、実効性を確保してほしい。

 一方、デジタルコンテンツのオンライン取引をめぐる関税のあり方については、通商協定などに明確な規定がない。

 世界貿易機関(WTO)は90年代末の閣僚会合で「電子データの送信には関税をかけない」と合意済みだ。ただ、それを協定にする作業が進んでおらず、閣僚会合のたびに合意を延長している。

 日本は、09年に発効したスイスとの経済連携協定で初めて電子商取引の章を設け、「関税をかけない」と明記した。

 WTO交渉が暗礁に乗り上げているだけに、地域間・2国間の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)によってルールの網を広げていく必要があるだろう。環太平洋経済連携協定(TPP)でも関連規定を盛り込みたい。

 時代の急速な変化に対応していけるかどうか、政府のスピード感が問われる。

竹島の日 内外に訴えよ韓国の不法占拠

 竹島は日本固有の領土であるのに、現在は、韓国が不法占拠している。この認識を、より多くの国民が共有することが肝要である。

 島根県が第9回「竹島の日」記念式典を開催した。政府代表の亀岡偉民内閣府政務官は、「竹島問題の冷静かつ平和的な解決に全力で取り組む」とあいさつした。

 2月22日は、1905年に竹島が島根県に編入された日だ。島根県は「竹島の日」条例を制定し、2006年以降、毎年、この日に式典を開いている。竹島に関する啓発活動を地道に実施してきたことを高く評価したい。

 昨年、安倍政権が初めて内閣府政務官を派遣した。無論、領土問題の解決は簡単でなく、時間を要するだろうが、こうした活動を着実に継続することが大切だ。

 日本は、竹島を海上交通の中継地や漁業に利用し、17世紀半ばには領有権を確立した。韓国は第2次大戦後、日本が放棄すべき領土に竹島を含めるよう米国に要請したが、拒否された。

 ところが、韓国は52年に一方的に李承晩ラインを設定し、その内側の竹島の不法占拠を始めた。国際司法裁判所に付託するという日本の提案も拒否している。

 昨年8月発表の内閣府世論調査で、韓国の不法占拠を知っている人は63%、竹島を我が国固有の領土と認識している人は61%だった。残念ながら高い数字ではない。政府は、竹島に関する正しい理解を広げる努力が求められる。

 文部科学省は今年1月、中学と高校の学習指導要領の解説書に竹島や尖閣諸島を日本の領土と初めて明記する改定を行った。こうした領土教育は、政府見解の認知度を高める効果を持とう。

 世界への情報発信も重要だ。外務省が昨年10月、12か国語で政府見解を説明する動画をホームページに掲載したところ、計100万件超の視聴があったという。

 韓国は「竹島の日」に反発し、政務官派遣の中止を求めている。だが、その主張に正当性はなく、内政干渉にほかならない。

 政府は、自民党が衆院選政策集に掲げた政府式典の開催や、島根県の求める首相や閣僚の式典出席を見送っている。韓国に対する十分な外交上の配慮と言える。

 一方で、北朝鮮の核問題や環太平洋経済連携協定(TPP)など、日韓が協力して対処すべき課題は多い。竹島をめぐる日韓対立が、両国関係改善の決定的な障害とならないよう、双方の外交当局は慎重に対応すべきだ。

TPP閣僚会合 日米互いにカードを切る時だ

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意できるかどうか、大きなヤマ場を迎えた。

 膠着(こうちゃく)状態を打開するため、今度こそ、交渉を主導する日本と米国の歩み寄りを求めたい。

 日米、豪州など12か国によるTPP交渉の閣僚会合が22日、シンガポールで始まった。昨年12月に合意を見送って以来、約2か月ぶりの仕切り直し交渉である。

 TPPは、高い自由化率の新貿易圏をアジア太平洋地域で創設するという野心的な試みだ。

 TPPをテコにアジアの活力を取り込めば、日本の成長戦略に弾みがつくと期待される。雇用と輸出拡大を狙うオバマ米政権も、TPP重視を掲げてきた。

 しかし、昨年末に合意できなかったのは、日米の対立が交渉全体の足を引っ張ったためだ。

 TPPは原則、関税撤廃がルールだが、自民党はコメ、麦など農産品5項目を「聖域」として死守するよう主張している。あくまで関税撤廃を求める米国と日本の主張の隔たりは大きい。

 閣僚会合前、甘利TPP相がフロマン米通商代表と会談したほか、日米協議も東京で行われた。甘利氏が「互いにカードを切る」と意気込んだのは、着地点を探りたい決意の表れだろう。

 日本は5項目のうち、牛肉や豚肉の関税率引き下げなどを打診した模様だが、米国はまだ不十分として一層の自由化を求めている。今のところ、日米協議が決着する見通しはたっていない。

 関税分類上、5項目は586品目に及ぶ。日本は何を守り、何を譲るか。輸入実績がない品目や影響が軽微なものを中心に、現実的な市場開放策を検討し、交渉の突破口を開いてもらいたい。

 日本が自動車関税の撤廃時期明示や部品関税撤廃を求めている点では、国内業界の意向を受けて米国が抵抗し、平行線が続く。

 米大統領に通商交渉権を与える貿易促進法案は議会で成立していない。議会の支持を集めて法案成立を目指そうと、オバマ政権がTPP交渉で強硬姿勢を堅持せざるを得ない事情もうかがえる。

 シンガポールでは、多国間と日米など2国間の交渉が並行して行われる。知的財産権や競争政策分野でも、米国とマレーシアなど新興国との対立が根深い。

 日米対立が続けば、他の難航分野の打開も厳しいだろう。TPPで新たな貿易・投資ルールを作り、世界貿易をリードする道を日米がつぶしてはならない。

2014年2月22日土曜日

TPPは通商ルールづくりで大枠合意を

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大詰めを迎える。交渉12カ国は目標だった昨年末までの大枠合意に失敗し、いま交渉は漂流しかけている。交渉を主導する日米は、今週末からシンガポールで開く閣僚会合で膠着状態の打開に全力を上げるべきだ。

 日本の役割は大きい。安倍晋三首相は昨年3月に交渉参加を決断した際、「日本だけが内向きになったら成長の可能性はない」と語った。その通りである。だが一年たったいまでも、日本の農産品の関税撤廃をめぐる日米2国間の協議は難航し続けている。

 自民党内にはコメ、麦、牛肉・豚肉など農産品5項目を「聖域」とし、関税削減に反対する声が強い。このため政府は米側に踏み込んだ譲歩案を示せず、交渉で取引が成立しない。事務レベルの協議では、突破口を開くのは難しいだろう。安倍政権として政治判断が必要な局面に来ている。

 米政府にも柔軟な対応を求めたい。オバマ政権は米議会から通商交渉権限を得る見通しが立っておらず、これが外国と交渉を進める上で弱点となっている。自動車、繊維など米側の「聖域」の保護や新興国に一方的に要求する姿勢を改めないと、TPP交渉自体を潰してしまう恐れがある。

 関税をめぐる12カ国の交渉は複雑で多品目にわたる。たとえ着地点が見えても、決着まで数カ月間の技術的な詰めの作業が要るだろう。シンガポール会合では、まず通商ルールづくりを先行させて協定の大枠を固めるべきだ。

 そのためにも交渉を主導する立場の日米の建設的な歩み寄りが欠かせない。経済大国である日米が、自由貿易を目指す強い姿勢を率先して示し、その意志を他の10カ国と共有しなければならない。

 安倍首相は昨年3月に「新たなルールづくりをリードする」と決意表明した。いまこそ、その言葉を実行に移す時である。オバマ政権との対話を深め、日米の密接な連携で難局を突破してほしい。

 今回の閣僚会合で進展がなければ、年内の合意は難しくなるだろう。11月の米中間選挙を控え、苦戦が予想される米民主党は保護主義への傾斜を強めている。自由貿易を掲げるオバマ政権は米国内で動きにくくなり、交渉は来年以降に先送りとなる可能性がある。

 日米国内の政治事情で、明日の世界経済を築く貿易自由化の勢いを失速させてはならない。

甘すぎる東電の汚染水対策

 東京電力・福島第1原子力発電所の敷地内のタンクから高濃度の汚染水がまた漏れた。タンクを囲む堰(せき)の外に100トンが漏れ、敷地が放射性物質で汚染された。昨年8月にも300トンが漏れ、それに次ぐ大量漏出だ。

 今回は配管の弁が開きっぱなしになり、タンクが満杯になってあふれた。水位が高いことを示す警報が出ていたが、計器の異常と判断し、適切に対応しなかった。

 昨年の大量漏れは、溶接していないタンクに隙間ができたことが原因だった。東電は前回の事故を踏まえ、タンクの巡回点検を増やすなど再発防止策を打ったはずだ。しかし異なる事態や漏れ方も想定して多面的に対策を検討したのか、疑わざるを得ない。

 徹底した原因究明と対策の見直しは不可欠だ。東電は4月に汚染水対策や廃炉を担う部門を社内分社する。それを待たずに再発防止策を練り直し、新組織の陣容を強化してすみやかに実施すべきだ。

 汚染水は高濃度の放射性ストロンチウムなどを含んでいる。タンクは山側にあり、海には流れ出なかったという。

 だが海への流出を防げばすむ問題ではない。今回の漏れで870平方メートルの水たまりができ、土壌も汚染された。東電は土を取り除くというが、汚染水漏れがたび重なれば作業環境が悪化し、廃炉にとって重大な支障になる。

 東電はこうした事態をもっと深刻に受け止めるべきだ。同型タンクは約350基あり、頑丈なタンクへの移し替えはこれからだ。これを急ぐべきだ。汚染水浄化設備の着実な稼働も欠かせない。

 政府は昨年、汚染水対策で470億円以上の国費投入を決め、専門家組織を設けて技術的な助言にも乗り出した。だが国が机上で対策を練っても、有効な手立てになるとは限らない。

 現場の実態をよく踏まえ、政府も責任をもって実効性の高い支援策を考えてほしい。汚染水漏れがなお続くようなら、国が側面支援するだけではすまなくなる。

安倍外交―孤立への道を進むのか

 「日米の絆を取り戻す」

 安倍首相が掲げる外交政策の柱が傾きかけている。しかも、首相自身の手によって。

 オバマ大統領訪日を控え、安倍政権はその深刻さを正面から受け止めるべきときだ。

 きっかけは、昨年末の首相の靖国神社参拝だった。

 首相は参拝にあたり「戦争犠牲者の御霊を前に、不戦の誓いを堅持していく決意を新たにした」との談話を出した。だが、米国が突きつけたのは「失望した」との声明だった。

 この声明への激しい反発が、首相側近とされる自民党の議員から噴き出ている。

 衛藤晟一首相補佐官は「我々の方が失望した。米国は同盟関係の日本を何でこんなに大事にしないのか」と語った動画を公開した。

 萩生田光一・自民党総裁特別補佐は「共和党政権の時代にこんな揚げ足をとったことはない。民主党政権だから言っている」と講演で批判した。

 また、首相が任命したNHK経営委員の百田尚樹氏は、東京裁判について「(米軍による東京大空襲や原爆投下を)ごまかすための裁判だった」と東京都知事選の際に演説した。

 米国務省は「不合理な示唆だ」と反論した。日本はサンフランシスコ講和条約でこの裁判を受諾した。当然の反論だ。

 解せないのは、一連の言動を「個人の発言」「放送法には違反していない」と繰り返す首相や菅官房長官の姿勢だ。

 こんな言いつくろいが世界に通じるわけがない。きっぱりと否定しなければ、首相の本心を周囲が代弁しているととられても仕方がない。

 首相はこのところ、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しに前のめりだ。

 集団的自衛権はもともと米国が後押しし、昨秋の日米外務・防衛担当閣僚会合では、容認に向けた政権の動きを「歓迎する」としていた。

 ところが、歴史に真摯(しんし)に向き合わない首相らの姿勢は、むしろ米国のアジア戦略の攪乱(かくらん)要因になっているとの見方が、米国内で急速に広がっている。

 先日、日本を訪れた米下院のロイス外交委員長は、首相の靖国参拝について「中国を利することになると心配している」と日本の議員団に語った。

 ロイス氏は、首相側近が批判した民主党ではなく、共和党の議員だ。

 こんな忠告をしてくれる友人がいる間はいい。異なる見解を排除するだけの外交姿勢は、このへんでやめにすべきだ。

橋下市長―辞職を撤回しませんか

 辞職を撤回しては――。27日に失職する橋下徹大阪市長に、あえて呼びかけたい。

 「大阪都構想の設計図を完成させる」として、橋下氏が仕掛けた出直し市長選は「不発」の様相だ。自民、公明、民主、共産の4党が「大義のない選挙」とし、独自候補の擁立を見送る方針を固めたためだ。

 もし無投票になっても、橋下氏は支持されたと解釈し、大阪府と大阪市を分割・再編する都構想の検討を一気に進めるつもりのようだ。

 ただ現実をみると、各党との亀裂は深まった。選挙後も橋下氏に従うとは思えない。

 世論調査では、6割近い市民が出直し選に反対している。橋下氏の支持率は5割を切り、都構想についても反対が賛成を上回った。選挙を強行すれば、「橋下離れ」はさらに加速する可能性が大きい。

 私たちが懸念するのは、この政争のはてに、大阪に何が残るのか、ということだ。

 経済の地盤沈下に歯止めがかからないまま、全国最多の生活保護受給者数は今後も増えそうだ。不毛な争いにエネルギーを投じるひまはない。

 橋下氏の都構想は、大阪の未来を考える問題提起となった。時間をかけて課題を整理し、議論を進めていくべきだ。

 橋下氏は、府・市議会の代表と法定協議会で話し合ってきた。選挙で信を得れば、メンバーを入れ替えたいと言うが、これは通らない。もともとメンバー構成は議会側との協議で固め、橋下氏も了解したはずだ。

 「自分の言うことを聞かないから」と、今さら交代を求める姿勢は、わがまま、苦し紛れと言われても仕方ない。

 都構想は良くも悪くも市民生活に大きな影響を及ぼすものだ。反対論にもしっかり耳を傾けて作りあげた設計図でなければ、住民投票にかけても賛同を得られるとは思えない。

 そもそも府・市議会で過半数の承認を得なければ、住民投票すらできない。橋下氏がどうしても都構想を実現させたいというなら、結局は対話を通じて道を探るしかない。

 都構想に反対しながら明確な対案を示さず、いざ選挙となったらさっさと不戦敗を決め込んだ各党も、市民を落胆させた。ここは「痛み分け」とし、共に仕切り直して対話すべきだ。

 最高裁は64年、選挙の告示前なら、市長の辞職撤回は原則として許される、との判断を示している。今ならまだ間に合う。橋下さん、大阪のために考え直してもらえませんか。

河野談話 慰安婦証言を検証・公開せよ

 いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる河野官房長官談話がどのように作成されたのか。政府はしっかり解明すべきだ。

 菅官房長官が、衆院予算委員会で、河野談話の作成過程を検証する政府チームの設置を検討する考えを示した。

 河野談話は、元慰安婦に対する「おわびと反省の気持ち」を表明したもので、1993年に発表された。だが、河野談話の根拠となる元韓国人慰安婦16人の証言に、なんら資料的裏付けがないことは、既に明らかになっている。

 菅長官は学術的観点からの検討が望ましいとも述べた。歴史学者らが内容をチェックできるよう、機密扱いになっている元慰安婦の証言録は公開すべきだろう。

 委員会には、93年当時に官房副長官だった石原信雄氏も参考人として出席した。

 石原氏は、韓国側の強い要請を受け、元慰安婦から聞き取りを行ったと述べたうえ、「証言の裏付け調査を要求できる雰囲気はなかった」と明かした。

 だが、確たる証拠もなく談話を発表したため、日本軍が強制的に若い女性を慰安婦にしたという形で世界に受け止められている。

 河野談話が禍根を残したことは間違いない。

 例えば、韓国系米国人が中心となって米国のグレンデール市に慰安婦像が設置され、碑文には「20万人以上の女性が性奴隷にされた」と記された。米国各地にそうした運動が広がりつつある。

 河野談話の中に強制連行を認めたかのような表現があるために、日本側は韓国側の主張に有効な反論を展開できない。

 委員会で質問に立った日本維新の会の山田宏氏は、談話作成の段階で韓国側と文章をすり合わせたのではないかとただした。

 石原氏は、直接確認していないが、「すり合わせは当然行ったと推定される」と応じた。談話の核心部分である「官憲等が直接これに加担したこともあった」との表現に、韓国側の意向が働いたとすれば極めて問題だ。

 韓国政府は、河野談話が発表された後、しばらくは慰安婦問題を提起することはなかったが、近年、蒸し返している。朴槿恵大統領も、日本政府に対し新たな解決策を求めている。

 政府は、未来志向の日韓関係を築くために、韓国側に「善意」を示して、河野談話を発表したが、結局は通用しなかったということだ。河野談話の検証作業を急ぎ、誤りを正さねばならない。

原発安全審査 独善的な先送りは許されない

 原子力発電所の再稼働に向けた安全審査を速やかに進める。原子力規制委員会は、自らの使命を忘れてはならない。

 規制委が、原発の安全審査の最終段階で意見公募(パブリックコメント)と公聴会を実施することを決めた。技術的判断に対する意見を求めるという。

 田中俊一規制委員長が提案したものだが、あまりに唐突だ。再考を求めたい。

 意見公募や公聴会の実施は、法律に定めがない。過去に規制当局が公開ヒアリングの形で実施した例はあるものの、主に原発新設の際だ。規制委が現在、審査しているのは既設の10原発である。

 意見公募は、新規制基準の策定時に、既に実施している。

 田中委員長は「社会的説明」が目的だと言うが、独善的ではないか。まずは規制委が専門的知見に基づき判断し、その理由を国民に丁寧に説明するのが筋だろう。

 規制委は審査に着手した昨年7月、「半年程度で結論が出るだろう」との見通しを示していた。

 無論、安全性の徹底確認は重要だが、審査は、今でも大幅に遅れている。不合理な手続きを取り入れることで、結論がさらに先送りになりかねない。

 意見公募を行えば、寄せられた意見への対応に人員を割かねばならない。公聴会は、自治体からの要望で開催するというが、規制委の原子力災害対策指針が対象とする原発周辺30キロ圏内の市町村だけで、100以上にのぼる。

 この時期に意見公募や公聴会を持ち出すのは、「後出しジャンケン」と言われても仕方がない。

 原発の長期停止は、日本経済と国民生活に、悪影響を及ぼしている。安全審査に終わりが見えないことから、料金の再値上げを検討する電力会社もある。

 規制委は今週、新たな審査方針も決めた。審査中の10原発から課題の少ない1、2か所の原発を来月にも選び、審査官を重点配置して優先審査する。その後の審査のモデルにするという。

 有用な手法だが、意見公募などが足かせになれば、審査のスピードアップにはつながるまい。

 審査に当たっては、規制委が電力会社と真摯に向かい合う姿勢も求められよう。

 審査会合では、電力会社が用意してきた資料に規制委が「内容が不十分」と指摘するケースが目立つ。規制委の具体的な考え方が事前に示されていないため、電力会社が戸惑うのも無理はない。

 対話重視の審査が大切だ。

2014年2月21日金曜日

原子力規制委は信頼醸成にもっと留意を

 停止中の原子力発電所が新規制基準に適合するかどうかを審査している原子力規制委員会が2つの決定を下した。

 審査を優先的に進める原発を選び出し、人員を集中的に投じる。また、審査結果に対する科学的・技術的な意見を広く募り公聴会も開く。

 審査は昨年7月の新基準施行でスタートを切り、現状は6原発が最終コーナーに近づいている。複雑多岐にわたってきた審査作業をここで整理し「模範」となりうる実例を先行させる考え方は理解できる。それによって審査の進み具合を見通しやすくなり、全体の効率を高める効果が期待できる。

 審査結果に関し広く意見を求めることも、それ自体は望ましい。ただ審査が終盤に近づいた今になって言い出すのは唐突感があり、付け焼き刃の印象を免れない。

 科学的・技術的な意見の具申を求めるのならもっと早い段階がより望ましいし、外部の専門家との意見交換は継続的であるべきものだ。規制委はこれまで、原発立地自治体を含め外部の声を聴くことに積極的ではなかった。

 一般の意見を広く聴き、地元の理解拡大につなげるつもりなら、それは規制委の仕事ではない。再稼働を進める経済産業省や電力会社が取り組むべきことだ。

 2つの決定によって原発の再稼働が早まるかどうか、現時点ではわからない。北海道電力が原発停止を理由に料金の再値上げを表明、同様の再値上げが相次ぐ事態は避けたい。再稼働は早いのが望ましいが、値上げ回避のため審査がおろそかになることはあってはならない。

 規制委は10原発17基の審査と同時に、旧原子力安全・保安院から引き継いだ6原発の活断層調査にも取り組んでおり、審査に時間を要するのは当初から推測できた。安全の最優先と審査の迅速化を両立させる抜本策は規制庁の陣容を厚くする以外にない。円滑な審査に必要な体制づくりを怠ったのは政府にほかならない。

 新基準に基づく初めての審査で、規制委の進め方にも電力会社の対応にもこれから改善すべき点は多いだろう。とりわけ規制委は審査のプロセスや考え方を前もって電力会社や国民によく説明し信頼醸成にもっと注意を払うべきだ。唐突な審査手法の変更など、ごくささいな行き違いや誤解から信頼が崩れることがありうる。

北の「拉致」解決への圧力に

 国連の北朝鮮人権調査委員会が同国による深刻な人権侵害を厳しく非難する報告書を公表した。日本人を含めた拉致被害者の早期解放につなげるためにも、人権問題で北朝鮮に国際的な圧力を強めるきっかけにしていきたい。

 報告書は北朝鮮では「組織的で広範かつ深刻な人権侵害が行われている」とし、恣意的な拘束や拷問、公開処刑、強制収容所における政治犯の粛清といった残虐行為を例示した。思想、表現、信教の自由の侵害や移動制限など、北朝鮮で人権がほぼ完全に否定されている実態も浮き彫りにした。

 日本人など外国人の拉致については「最高指導者の承認のもとで陸・海軍や情報機関が実行した」と断定している。北朝鮮で起きている「人道に対する罪」の重さを改めて痛感する内容である。

 拉致問題を含めた北朝鮮の国家ぐるみの人権侵害の深刻さを国際社会に広めた意義は大きい。

 報告書は国連安全保障理事会に対し、人権侵害にかかわった者の責任を追及すべく、国際刑事裁判所(ICC)への付託や国連特別法廷の設置を勧告している。中国は否定的な反応を示しているが、安保理に課された責任は重い。

 安倍政権は拉致問題の解決に強い決意を表明している。政府は今回の報告書を生かしつつ、人権問題でも国際社会との連携を強め、拉致被害者の帰国実現につなげてほしい。そのためにも中国、韓国との関係改善は欠かせない。

 北朝鮮はここにきて融和路線に転じ、韓国とは約3年ぶりに南北の離散家族再会事業の実施に応じた。中国の外務省幹部も今週、訪朝した。金正恩政権は中国とのパイプ役とされた張成沢氏の処刑で冷え込んだ中朝関係の立て直しにも腐心しているもようだ。

 ただ、経済支援を仰ぐのが狙いとみられ、核開発を放棄し、人権侵害を改善する兆しは全くみえない。拉致、核、ミサイルの包括的解決をめざす日本政府には、「対話と圧力」を軸にした粘り強い対北朝鮮政策が求められる。

原発の審査―経産相発言は筋違いだ

 「原発によっては申請から相当な時間がたっている。審査の見通しを示すことは事業者が今後の経営を見通すうえで有益だ」。再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査について、茂木経産相がこう発言をした。

 安全優先のため、独立性を重視した規制委の設置法の趣旨を軽んじていないか。規制委への圧力となりかねない発言は厳に慎むべきである。

 もちろん、規制委は影響されてはならない。再稼働に前のめりな電力会社や経産省の思惑を排し、科学的・技術的な観点から審査を尽くすのが使命だ。

 茂木発言は、北海道電力が電気料金の再値上げ方針を表明したことを受けて飛び出した。

 北電は昨年7月、新規制基準による審査開始と同時に泊原発1~3号機を申請した。9月に家庭用で平均7・73%値上げしたのは、12月以降に3基が順次再稼働するのが前提だった。

 だが今週、再稼働時期は見通せないとして再値上げを経産省に申請すると明らかにした。

 茂木氏は北電に値上げ回避の努力を求め、「審査に予断を与えるものではない」と断りつつ、規制委に注文した。

 審査の見通しが示されれば、電力会社には好都合だろう。

 だが、それを経産相が促すのはどうしたことか。旧原子力安全委員会と、経産省の下にあった旧原子力安全・保安院による「なあなあ」の安全規制への反省はどこへいったのか。

 そもそも審査が進まぬ最大の原因は、電力会社側にある。

 新規制基準を甘く見て、審査資料が大幅に遅れたからだ。自然災害の想定がおざなりだったり、過酷事故を真剣に考えていなかったり。福島第一原発事故の教訓を自らの問題としているのか、疑問な対応が相次いだ。

 泊原発は特に穴が多かった。

 北電は1、2号機で過酷事故対策の有効性を評価する際に、構造が違う3号機の解析を流用し、規制委に「代替(替え玉)受験のようだ。審査しようがない」と酷評された。津波想定は「不適切」、噴火の影響評価は「不十分」で、3号機の地下構造の再分析も求められた。

 茂木氏は審査に時間がかかっている要因には「言及を控えたい」と述べた。改めさせるのは電力会社の甘い姿勢のほうだ。

 田中俊一規制委員長は茂木発言を「我々へのメッセージとはとらえていない」というが、審査実務を担う原子力規制庁の次長はその前日に「経産相の立場として自然な発言」と述べた。独立性を保つためには、常に毅然(きぜん)とする必要がある。

TPPと関税―自由化の原点忘れるな

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉が山場を迎えた。

 国有企業や知的財産権の扱いをめぐる先進国と途上国の対立に加え、日米間の関税交渉が焦点である。

 米国は自動車業界の保護を譲らない。一方の日本は、国会の委員会決議であげられたコメ、牛・豚肉、乳製品など「重要5項目」を守ろうと、畜産・酪農分野を中心に激しいやりとりが続いている。

 交渉がきれいごとではすまないのは確かだ。ただ、「高い水準の自由化を目指す」というTPPの理念を、両国政府は忘れないでほしい。

 国内の産業が打撃を受けそうなら、関税の引き下げ・撤廃に一定の年数をかけつつ、競争力の強化に向けて対策を講じる。これが基本だ。関税撤廃への姿勢が他の国より見劣りするとされる日本政府は、特に肝に銘じるべきだろう。

 心配なのは、政府が5項目を「聖域」と意識するあまり、他の品目の関税交渉や関税以外の分野にしわ寄せが生じたり、思わぬ代償を払わされたりしないか、ということだ。

 交渉はゼロか100か、ではない。関税に限っても貿易の実態を見れば突破口はある。

 重要5項目は細かい分類では586品目あるが、その4割では輸入実績がない。関税をなくすと輸入が急増して関連産業が痛手をこうむるのか、そもそも需要が乏しいのか、個別に見極めることが不可欠だ。

 関税で守るばかりでは課題が解決しないことは、これまでのコメ政策が物語る。

 90年代の貿易自由化交渉ではコメ市場の抜本的な開放を拒否し、一定量の輸入義務付けを受け入れることで対応した。

 この仕組みは今も続いており、国内の年間消費の1割にあたる量を輸入している。それに伴う国の財政負担は年300億円前後。だが、コメ農家の競争力がついたとは言いがたい。

 政府はようやく生産調整(減反)制度をなくし、新たな機構を設けて農地の集約を急ぐ方針を打ち出した。一方、この間、コメの国際相場は値上がりし、国内産との価格差は確実に縮まってきた。

 こうした状況を踏まえ、コメにかけている高い関税を下げる余地がないのか、ギリギリまで検討する必要がある。

 国内の産業に目配りしつつ、消費者がさまざまなモノやサービスを安く買えるようにして、生活を豊かにしていく。

 通商交渉の原点を見失ってはならない。

集団的自衛権 憲法解釈の変更に問題はない

 安倍首相が、集団的自衛権の行使を可能にするため政府の憲法解釈を見直すことに意欲を示している。日本の平和と安全の確保に必要であり、首相の考えを改めて支持したい。

 首相は20日の衆院予算委員会で4月に予定される有識者会議の報告後、政府が内閣法制局を中心に解釈変更を検討し、与党との調整を経て、新たな解釈を閣議決定する意向を示した。その後、自衛隊法改正などに取り組むという。

 軍事技術の進歩や大量破壊兵器の拡散などにより、日本が単独で領土・領海を守り抜くのは難しい時代を迎えている。

 中国の軍備増強や海洋進出、北朝鮮の核ミサイルの脅威などを踏まえれば、解釈変更による日米同盟と国際連携の強化が急務だ。

 首相は先週、予算委で「(憲法解釈の)最高責任者は私だ。選挙で国民から審判を受けるのは法制局長官でなく、私だ」と答弁し、自民党内からも異論が出た。

 憲法解釈は、法制局の助言を受けて、内閣全体で判断するもので、首相発言は間違っていない。ただ、選挙に勝てば首相が自由に解釈を変えられるかのような誤解を招いたのは残念である。首相には、より丁寧な説明が求められよう。

 一方で、民主党などが、解釈変更による集団的自衛権の行使の容認を「立憲主義」の否定だ、と批判しているのは、的外れだ。

 立憲主義の基本的指標は、人権の保障と三権分立にある。憲法に従った統治に主眼がある。憲法の役割は権力者を縛るものだ、という考え方がすべてではない。

 内閣が新たな解釈を示し、国会がそれを裏付ける法律を整備し、司法が違憲立法審査を行うのは、立憲主義にも沿っている。

 政府が検討しているのは、過去の政府見解とも一定の論理的な整合性を保ちつつ、安全保障環境の変化に対応して日本の平和と繁栄を維持するための解釈変更だ。

 解釈変更に慎重とされた横畠裕介内閣法制次長も、「解釈変更が至当だとの結論が得られた場合、変更がおよそ許されないものではない」と指摘している。

 無論、解釈変更が無制限に許されるわけではない。限界を超える場合は、解釈変更でなく、憲法を改正するのが適切である。

 集団的自衛権の行使容認に慎重な公明党も最近、解釈変更の議論に応じる意向を示し始めた。井上幹事長は「真正面から否定するわけではない」と語った。首相は、解釈変更の意義と必要性を堂々と論じ、理解を広げるべきだ。

英語教育改革 指導体制の整備が最大懸案だ

 将来を担う子供たちに確かな英語力を身に着けさせるには、指導体制の整備が欠かせない。

 文部科学省が、小中高校の英語教育の強化計画を打ち出した。

 小学校で英語を教え始める時期を現行の小学5年から小学3年に早め、5年生からは正式な教科にする。中学の英語の授業は原則英語で行い、高校では生徒が英語で発表や討論をできるようにする。そんな内容だ。

 文科省は、有識者会議の検討を経て、学習指導要領を改定し、2020年度からの完全実施を目指している。

 日本人は学校で英語を学んだのに、コミュニケーションの手段として使えないといった英語教育への批判が根強い。

 授業の中で、実際に英語を使う機会をできるだけ増やし、実践的な語学力の習得につなげようという計画の狙いはうなずける。

 ただ、現状の学校教育の水準を考慮すれば、かなり高めの目標設定と言える。計画に無理はないか。様々な角度から課題を徹底的に洗い出す必要がある。

 計画を実践する上で、最大のポイントは、すべての学校に、適切な指導を行える教師を配置できるかどうかだ。

 小学校の教師の多くは、大学の教員養成課程で英語の指導法を十分に学んでいない。

 正式な教科として英語を教えるのであれば、専任教師を確保する必要が出てくる。その養成には時間とコストがかかる。

 中学や高校の英語の授業をコミュニケーション中心にするには、教師自身の会話能力が問われる。研修を強化するにしても、すべての英語教師のレベルアップを図るのは容易ではあるまい。

 英語圏の外国語指導助手を今以上に増やす必要がある。海外経験が豊富な元商社マンなど、外部の人材を積極的に活用するのも一つの方策ではないか。

 子供たちが学習面で消化不良を起こすことも懸念される。

 授業内容を変更することで、かえって英語嫌いの子供が増えては、本末転倒である。小学校の授業では、楽しく英語を学べる工夫が欠かせない。

 授業が変われば、高校や大学の入試問題の内容も大幅な見直しを迫られるだろう。

 文法の理解力や長文を訳読する力を問う現在の「受験英語」から、生徒の「聞く」「話す」能力を見極める入試へと転換していくことが求められる。

2014年2月20日木曜日

時代に即した独禁法の流通指針を

 公正取引委員会が1991年に策定した「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(流通ガイドライン)」の見直し機運が高まっている。

 経済産業省は見直しを求める報告書を昨年まとめ、政府の規制改革会議も関係者の意見聴取を始めた。6月をメドに見直しの是非について結論を出したいという。

 背景にあるのは、市場の実態変化だ。91年当時はメーカーの価格支配力が強く、メーカーの行為を縛ることが消費者利益に結びつくという判断があった。

 指針策定の直接の契機になった日米構造協議でも、米国側は日本市場の閉鎖性を指摘し、「メーカーの流通支配が外国製品の排除につながっている」と批判した。

 ところが、それから23年たち、メーカーと流通の力関係は大きく変わった。家電や日用品市場では幅広いメーカーの商品を扱う量販店が台頭し、取引の主導権を握った。ネット通販などの拡大で今後もこの傾向はさらに進みそうだ。「強いメーカー、弱い流通」を前提にした現行ガイドラインはそろそろ改訂すべき時期である。

 見直しのポイントは、独禁法に触れるのか否か、判然としない灰色の領域をできるだけ縮小し、事業者が取り得る戦略の幅を広げることだ。例えばメーカーが期待の新製品を投入する際に、店頭での品切れを防ぐために、小売店に一定の在庫を持つことを要求したとする。あるいはブランドイメージを高めようと、自社専用の販売棚の設置を求めたとする。

 今の指針では、これらも競争制限行為と見なされる恐れがあるが、家電業界などからは「企業の販売戦略を不当に制約し、ブランド形成を阻害している」という声が多い。公取委はこうした批判を踏まえ、より判断基準の明確な指針づくりに取り組んでほしい。

 その際にはメーカーと流通を対立する存在ととらえるのではなく、両者が協調して市場調査などを実施すれば、消費者のためにもなるという視点も欠かせない。

 ただし、メーカーが小売店の販売価格を拘束することを禁じた再販規制の撤廃にまで踏み込むのは行き過ぎだろう。消費者利益を損ねる恐れがある。魅力ある商品をつくれば、独禁法関連の規制がどうであれ、その商品は高い値段で売れ、ブランド力も向上する。そんな当たり前の事実を各メーカーはいま一度銘記すべきである。

海外IT市場の開拓に力注げ

 楽天がスマートフォン(スマホ)向けの無料対話ソフト大手、バイバー・メディアを買収する。同社としては4度目の大型海外企業買収となる。日本のIT(情報技術)企業は米国などに比べ海外展開が遅れており、これを機に市場開拓が進むことを期待したい。

 キプロスに本社を置くバイバーは、メッセージや写真などをスマホで簡単に送れるサービスで、世界に3億人の顧客を持つ。無料通話もでき、ネット通販や情報配信に使えるため、既存会員と合わせ顧客数を5億人にする計画だ。

 楽天は欧米のネット広告会社や電子書籍会社なども買収したが、主力のネット通販事業は海外比率が5%にも満たない。日本のIT企業はサービス系が多く、すでに原型が海外にあり、言葉の壁などから海外展開が難しいためだ。

 実際、海外のIT市場を見ると、自動車などの製造業に比べ、日本企業の存在感は薄い。家電分野もIT化により、アップルやグーグルなど米企業が優位に立つ。ハードからソフトやサービスに主力が移った情報分野も同様だ。

 では、商品力が問われる製造業に対し、ソフトやサービスがカギを握るIT市場で日本が競争力を高めるにはどうすべきか。一つは外国人の活用、もう一つはグローバルなブランド戦略だろう。

 楽天はすでに外国人の従業員が3割を超え、公用語を英語にした。技術者の採用も7割以上が外国籍だという。さらに新興国に強いバイバーの買収で、欧米以外の需要も取り込む戦略だ。

 形のないソフトやサービスを売るにはブランド構築も重要だ。富士通は買収した欧米企業の社名を統一し、存在感を高めた。外国人比率が5割を超えたNTTデータは社名の統一だけでなく、世界共通の社歌を作り、内側からも一体感を醸成しようとしている。

 海外企業の買収ではソフトバンクも積極的だ。弾みがつき始めた日本の海外IT市場の開拓を成功させるには、そうした体制固めも併せて進めていく必要がある。

北朝鮮の惨状―人間の尊厳を認めよ

 「私たちは収容所の規則に従って生き、死ぬだけでした」

 飢え、拷問、目の前でみせられた家族の公開処刑……。

 北朝鮮の政治犯収容所に生まれ育ち、韓国に逃げのびた申東赫(シンドンヒョク)さんの体験をもとにした映画「北朝鮮強制収容所に生まれて」は、日本でも3月から各地で上映が始まる。

 その申さんからも話を聞いた国連の北朝鮮人権調査委員会が最終報告書をまとめた。400ページ近くにのぼり網羅的に惨状をあぶり出した異例の内容だ。

 核・ミサイル問題での制裁にもかかわらず行動を改めない北朝鮮に対し、中立的な国際調査団が人権のテーマでも深く切り込んだことは意義深い。

 収容所に限らず、一般住民も言論や思想、宗教などの自由がほぼ完全に否定されている。そうした国民全体の実態が、国策に基づく「人道に対する罪」にあたると判断した。

 日本人を含む外国人拉致についても「国策として組織的に携わってきた」と結論づけた。

 調査委は、北朝鮮が国内での調査を拒んだため、東京やソウルなどで公聴会を開き、脱北者や拉致被害者の家族らから聞き取り調査をした。

 脱北者の話がすべて正確とは限らないが、北朝鮮で人間の尊厳が無視されていることは否定できないだろう。

 国際社会はこの問題に関心を持ち続け、実態に迫ると同時に足並みをそろえて北朝鮮に圧力をかける必要がある。

 そこで気がかりなのは中国の対応だ。

 報告書は国連安全保障理事会に対し、責任者を訴追するため国際刑事裁判所に持ち込むよう促したが、常任理事国の中国は反対するとみられている。

 その中国自身も、報告書の中で、脱北者を強制送還していると批判されている。その事実を重く受け止め、他の理事国と歩調を合わせねばならない。

 北朝鮮は報告書を拒絶し、「人権侵害は存在しない」と反発している。本当にそう言えるのならば、国際機関や人道支援組織を受け入れ、詳しく調べさせるべきだ。

 調査委のカービー委員長は、報告書とともに「あなたも将来訴追されかねない」とする書簡を金正恩(キムジョンウン)・第1書記に送った。

 北朝鮮は最近、国際社会との友好・協力関係を発展させる、と強調しているが、人権は人類普遍の価値である。

 人権問題が改善しない限り、国際社会が注ぐ冷たい視線は変わらない。指導部はこの現実を直視しなければならない。

教委の改革―政治介入に歯止めを

 教育の場に、政治を極力もちこむべきではない。

 教育委員会の制度をめぐる自民党の改革案がまとまった。

 ①教育行政の実権は、これまで通り委員会が担う②教育長を責任者と位置づける③首長主宰の会議を新設し、首長の権限を強める。この3点が柱だ。

 中央教育審議会が昨年末に示した答申は、首長に権限を移して、委員会を諮問機関に格下げする案を推していた。首相や文部科学相の強い意向を反映したものだ。

 これに比べると、自民案は①の点で、教育を政治介入から守りやすい制度設計といえる。

 ただ、首長主宰の新会議の力をあまり強くすれば、実質は首長主導となる。

 教育委員会は、教育を行政任せにせず、住民代表が参画するための制度だ。問題は、その仕組みが形骸化していたことにある。教育に民意を反映させるためにこそ、これ以上委員会の力をそぐべきではない。

 相次ぐいじめ・体罰問題は、教委の動きの鈍さをあぶり出した。教育ムラの論理で身内の学校を守ろうとし、都合の悪い事実を隠す体質が問われた。

 それで首長主導への改革論が力を得たのだが、これには中教審でも「首長が暴走したら止められない」と強い心配の声があがった。静岡県で、知事が国の基準に反する形で学力調査の学校成績を公表しようとした騒ぎなどが、懸念を裏打ちした。

 本紙の世論調査では、教育行政が首長の政治的な考え方に左右されない仕組みを望む人が、6割に及ぶ。市民は政治家に口を出してほしいのではない。委員や事務方がきちんと学校を点検し、責任を持って問題を解決してもらいたいのだ。

 無責任体質の問題は、教育長を責任者と決めることで、あるていど改善できよう。教員出身者の比率を下げるなど、事務局改革も忘れてはならない。

 政治介入を防ぐために、首長主宰の会議と教育委員会の役割は厳格に仕分けすべきだ。

 教科書採択のような教育の中身は、教育委員会の仕事だ。首長主宰の新会議は、学校統廃合や給食、就学援助など教育条件整備に役割をとどめるべきだ。自民案には、教職員の懲戒方針作りを新会議に委ねるなど、気になる点がある。

 安倍政権は教科書検定や採択への国の統制を強めている。その強硬な姿勢こそ、教育に政治を持ちこむ危うさを物語る。首長主導への改革案には、与党内からも強い懸念が出ていた。その意味をかみしめるべきだ。

オバマ外交 アジア重視へ日米韓の連携を

 アジアの平和と安定を維持するためには、米国と、同盟国である日本や韓国などが協力関係を深化させねばならない。

 オバマ米大統領が「アジア重視」の外交政策立て直しに乗り出した。揺らいでいる日米韓の連携再構築が重要な課題だ。

 ケリー米国務長官は今月、ワシントンで岸田外相と会談した後、韓国と中国、インドネシアを訪問した。4月下旬には、オバマ氏の日本、韓国、マレーシア、フィリピン歴訪が予定されている。

 アジアでは、防空識別圏の設定など中国の拡張主義的な行動が顕著になった。北朝鮮では不安定な情勢が続き、核の脅威は増大している。オバマ氏は関与に本腰を入れるべきだと考えたのだろう。

 習近平国家主席はケリー氏に、「新しいタイプの大国関係」の構築を再び求めた。米国は中国を軍事的に牽制したい一方で、経済面では中国との相互依存関係が一段と高まっている。

 複雑な思惑が交錯する両国がどのような「大国関係」を築くのか。難しい課題となろう。

 それだけに、米国にとっては同盟国との協力強化が不可欠だ。

 ケリー氏は、日韓両外相に両国関係の改善を強く要請した。アジア戦略の要となる日米韓の結束が歴史問題などを巡る日韓対立によって損なわれていることに、危機感を募らせたからに違いない。

 韓国外相との共同記者会見では「日韓が米国と共に取り組むことを求める」と述べた。日韓の仲裁に乗り出す方針の表明である。

 だが、事態打開は容易でない。日韓首脳会談について、安倍首相は無条件で開催する意向だが、韓国の朴槿恵大統領は、いわゆる従軍慰安婦問題での譲歩など日本に様々な条件を付けている。

 昨年末の安倍首相の靖国神社参拝に米国が「失望」を表明して以来、日米関係がぎくしゃくしているのも気がかりだ。

 靖国問題について、ケリー氏は会見で「これ以上こだわる必要はない」と強調したが、米国内には対日不信を示す論調もある。

 日本側にも不満が残る。衛藤晟一首相補佐官は、その後取り消したものの、ネット上で「我々の方が失望した」と米国を批判する発言を公開して、物議を醸した。

 佐々江賢一郎駐米大使も米国で「米国は誰が友人で、誰をトラブルメーカーと考えているのかはっきりさせてほしい」と訴えた。

 日米関係の重要性を再認識する姿勢が、アジアへの関与を強めるオバマ氏に問われよう。

「もんじゅ」 有効活用へラストチャンスだ

 高速増殖炉「もんじゅ」は、日本の原子力政策の中で今なお可能性を秘めたプロジェクトだ。

 トラブル続きで、失った信頼を回復するためにも、政府は、近く策定するエネルギー基本計画の中に、もんじゅを利用した研究目標を明確に位置付ける必要がある。

 政府はこれまで、もんじゅの研究目標として、ウラン資源の効率的利用を柱に掲げてきた。しかし、ウランを当面、安定して確保できる状況では、切迫したテーマとは言い難くなっている。

 自民党の高市政調会長は「(もんじゅを使って)高レベル放射性廃棄物の減容化、毒性期間の短縮化が実現できるか、検討している」と述べた。減容化とは高レベル放射性廃棄物を減らすことだ。

 各地の原子力発電所には、使用済み核燃料がたまっている。これを処理した際に出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の候補地選定も難航している。

 問題の重要性を考えれば、高市氏が、もんじゅへの新たな期待を表明したことは理解できる。

 もんじゅは、燃焼性能が一般の原発(軽水炉)よりも高い。軽水炉なら燃え残る放射性物質を燃やし、減らすことが可能だ。

 文部科学省の試算では、使用済み核燃料をそのまま廃棄するのと比べ、体積は7分の1に減る。有害性が自然状態に戻るのに要する期間は、約10万年から約300年へと短縮できるという。

 高レベル放射性廃棄物の減量、毒性期間の短縮は、ウラン資源の効率的利用に加え、もんじゅが、特性を十分に発揮し得る研究テーマと言えるだろう。

 研究の成果を上げ、高速増殖炉が実用化されれば、廃棄物を減らしながら、3000年以上も発電を続けられるという。下村文科相は「この夢を頓挫させてはならない」と語った。

 問題は、もんじゅの運転停止が長期化していることだ。機器の故障や事故ばかりでなく、必要な点検を怠るなど、運営にあたっている日本原子力研究開発機構の不手際があまりにも目立つ。

 安倍首相は先週の衆院予算委員会で、「政府として反省すべき点はしっかり反省し、今後対応しなければならない」と改革の必要性を強調した。

 危機感を持って組織を立て直し、原子力規制委員会から準備作業を禁じられている運転再開に漕ぎ着けることが肝要である。

 もんじゅを有効に活用するためのラストチャンスと言えよう。

2014年2月19日水曜日

太陽光発電の持続的な拡大へ制度を正せ

 太陽光でつくった電気を電力会社が買い取る制度をめぐり、国から認定を受けながら発電の実態が不明な事業者について、経済産業省が認定取り消しの検討を始めた。対象は672件にのぼる。

 指導を超える厳しい措置だが、この制度が一般の家庭や企業の負担によって成り立っていることを考えれば、認定取り消しは当然だろう。同時に、この問題は制度の不備を浮き彫りにした。太陽光発電を持続的に伸ばしていくため、審査を厳格化するなど運用を抜本的に見直すべきだ。

 この制度は発電設備を設けた企業や家庭が一定の利益を得られるようにし、導入を後押しする。2012年7月の開始時から13年3月末までに44万件が認定された。

 だが経産省の調べでは、この期間に認定を得たのに発電していない事業が4699件あった。うち571件は土地や設備がなく、調査に回答しなかった101件とあわせ実態が不明な事業だった。

 12年度の買い取り価格は1キロワット時40円(税抜き)と、事業者に有利に定められた。買い取り価格が高いうちに認定だけ受け、太陽光パネルの値下がりを待って利益のかさ上げを狙ったり、発電の権利だけ売買したりする事業者がいるとみられる。経産省は悪質な事業者の認定を取り消すという。

 この制度では電力会社が事業者に支払った分は一般の電気料金に上乗せされている。事業者が不当な利益を得れば、被害を受けるのは消費者だ。実態不明な事業を放置すれば消費者の不信を招き、制度の根幹が揺らぎかねない。

 制度見直しでは審査の厳格化は避けられない。認定時に土地や設備を手当てできているか、計画が現実的かなどを国が厳しく審査すべきだ。認定後に進捗状況をチェックする仕組みも要る。

 買い取り価格を年度ごとに決める今の方式も見直すべきだ。太陽光パネルのコストは急速に下がっている。それにあわせ、たとえば半年ごとの改定を考えてもよい。

 大多数の事業者は申請通り発電している。国内の太陽光発電の能力は制度開始前の2倍に増えた。風力や地熱なども含めた買い取り制度が再生可能エネルギーの拡大へカギを握ることは間違いない。

 経産省は有識者検討会を設けて制度の見直しを始めた。審査を厳しくする一方、まじめに取り組んでいる事業者を萎縮させないルールづくりが欠かせない。

有期雇用規制の抜本見直しを

 期間を定めて契約する「有期雇用」の労働者の中で、5年を超えて契約が更新された場合は無期雇用に転換できるというルールに、例外が設けられることになった。

 厚生労働省の労働政策審議会が特例を決めた。収入が多く、高度な専門知識を持った人は、無期雇用に転換する権利が生じるための期間を10年に延ばす。公認会計士、弁理士などの資格取得者や、年収が約1千万円以上の技術者、デザイナーらを想定している。

 さらに定年後に継続雇用される高齢者については、無期雇用に転換できるルールの対象にしないこととした。

 こうした有期雇用規制の見直しは歓迎だ。昨年4月施行の改正労働契約法で定められた無期転換ルールをめぐっては、企業が雇用責任の重くなる無期転換を義務づけられるのを嫌い、有期で働く人の契約を早めに打ち切る動きが出かねないとの懸念がある。それを和らげることにつながるからだ。

 大学などで有期契約で働く研究者が5年を超えるプロジェクトに参加しにくくなる心配もあった。より長く働けるようになることは研究現場にとって望ましい。

 無期転換ルールに特例を設けることは国際的なビジネス環境を整える国家戦略特区の議論がきっかけだった。地域を限った雇用規制の変更に反対する厚労省が、全国を対象に制度を見直すことになった。国家戦略特区の効用だ。

 今後は無期転換ルールそのものの是非が問われよう。パートなどを含め有期労働者は約1400万人に上り、勤続が5年を超える人は3割いる。今回の見直しでルールの例外となる人は一部に限られる。企業の契約打ち切りを広げないため、ルールは撤廃すべきだ。

 有期労働者の雇用安定を考えるとき、規制強化で企業に負担を強いすぎると逆に雇用不安を招きかねない。職業訓練を充実して、正社員になりたい人が自分の能力を高めて希望をかなえやすくするなど、規制によらない効果的な対策に政府は力を入れるべきだ。

選挙制度改革―ぐずぐずせず前へ

 小異を捨てて大同についたということだろう。

 民主、日本維新の会、みんな、結い、生活の野党5党が、衆院小選挙区の定数を「5増30減」か「3増18減」し、一票の格差を是正する選挙制度改革案をまとめた。

 本来は衆院と参院の役割分担をはっきりさせた上で、それぞれどのような選挙制度がふさわしいのか、一体で議論すべきだ。議席をいくつ減らすという「数合わせ」に矮小(わいしょう)化して済まされる問題ではない。

 だが、本格的な改革に向けた第一歩だととらえれば、議論の基礎となる案が出た意義は大きい。次期衆院選に間に合うよう全ての党が誠実に議論し、何としても結論を出す必要がある。

 そもそも一票の格差を生む主たる要因は、議席をまず都道府県に一つずつ割り振る「1人別枠方式」の存在だ。最高裁は速やかな廃止を求め、12年11月の法改正で法律の条文からは消えた。しかし昨年6月に成立した「0増5減」の新区割りでも、1人別枠に基づく議席の割り振りは実質的に残った。

 野党案は、これを「名実ともに廃止」する方針を盛り込んだ。しかし与党は後ろ向きで、安倍首相も国会で「現在では違憲状態が解消されたと考えている」と答えた。

 最高裁が昨年11月、1人別枠の問題は解決されていないとしつつも「0増5減」に一定の評価を与えたことが、この開き直りを後押しする。甘い司法判断と、それをつまみ食いする政治。おなじみの構図である。

 忘れてもらっては困る。自民、民主、公明3党は、前回衆院の解散当日、定数削減について、「選挙制度の抜本的な見直しについて検討を行い」必要な法改正を行う、という合意書に署名している。それが「0増5減」どまりか。あまりにも怠惰であり、無責任だ。

 「国権の最高機関」たる国会の正統性を担保するのは、正しく選挙された有権者の代表によって構成されているという端的な事実である。その根本が揺らいでいるのに、なぜ自ら積極的に手を打たないのか。

 党利を超えて、大義にかなう結論を出す。深まる政治不信を少しでもぬぐうために、ここで国会の矜持(きょうじ)を示さなければならない。その議論を主導する責任は第1党である自民党にある。

 自分たちの手に余るなら、情けないことだが早く有識者による第三者機関に議論を委ねるべきだ。衆院議員の任期満了まで3年を切った。いつまでぐずぐずしているつもりなのか。

裁判と証拠―真相解明へ開示広げよ

 刑事裁判の被告にとって有利な証拠を、埋もれさせない。このルールを確立するときだ。

 捜査や公判を改革する法制審議会の特別部会で、検察側の手元にある証拠の開示のあり方が焦点になっている。

 証拠は圧倒的に検察側に集中するものだ。だが、検察側の主張に合わなかったり、矛盾したりする証言や鑑定結果などの証拠を、検察側が裁判で調べるよう求めることはまずない。

 有罪かどうかを左右する証拠があっても、弁護側は存在さえ知りえない状態が続いてきた。

 そんな検察側と弁護側の格差に変化をもたらしたのが、05年に始まった証拠開示制度だ。弁護側の主張を補強する証拠にもアクセスする道が開かれた。

 それでも、検察が抱えるすべての証拠が明らかになるとは限らない。小出しで出されて公判が始まるまで時間がかかる、といった課題もうまれている。

 検察側の証拠の独占が深刻な影響をもたらすこともある。

 ネパール人男性の無期懲役が最高裁で一度は確定した東電社員殺害事件では、再審でやっと第三者の犯行を強く疑わせる現場遺留物の鑑定書などが裁判に出てきて、無罪になった。

 厚生労働省の村木厚子さんが無罪になった郵政不正事件では、検察が保管していた証拠を改ざんした。それが発覚したのも、裁判所が捜査報告書の開示を決めたからだった。

 特別部会では、検察側がもつ証拠の一覧表を出させることを検討している。このようなリスト化は弁護側の活動には不可欠なものだろう。

 捜査当局には、一覧表上の各証拠の記載を、タイトルや作成日など最低限にとどめようとする姿勢がみえる。だが、どんな遺留物の、どんな鑑定結果なのかなどと具体的に示さなければ活用のしようがない。

 また、供述調書の開示が求められるときに、検察側が「捜査報告書」「取り調べメモ」などの形式にして開示を免れようとする傾向も指摘されている。実質的に供述を記載したものなら対象とすべきだろう。

 捜査側の思い込みが、証拠を見る目を曇らせることもある。証拠を違う角度から吟味できるしくみを確立したい。

 証拠開示の制度をどれだけ整えても、捜査当局が証拠を一手に管理する以上、隠滅などの可能性は残る。

 集めた証拠は当局の所有物ではないし、有罪立証だけのためのものでもない。真相を解明するための公的な役割をもっていることを肝に銘じてほしい。

国連人権委報告 認定された北朝鮮「国家犯罪」

 日本人拉致などの北朝鮮の国家犯罪に対する国連の厳しい告発である。北朝鮮には、強い国際的圧力となろう。

 その圧力をテコに、拉致問題の解決につなげていくことが肝要だ。

 北朝鮮の人権に関する国連調査委員会が報告書を公表した。

 報告書は、北朝鮮による「組織的で広範かつ深刻な人権侵害」の存在を認め、「国家政策に基づくもの」と断定した。これらが「人道に対する罪」にあたるとして、国際刑事裁判所に付託するよう国連安全保障理事会に勧告した。

 昨年3月に国連人権理事会が全会一致で設置した専門家による調査委が、北朝鮮の国家ぐるみの犯罪を糾弾した意味は大きい。国際社会は、今なお続く北朝鮮の人権侵害を座視してはならない。

 報告書は、多数の被害者や目撃者、各国政府関係者らによる膨大な証言に基づいており、人権侵害の全体像を包括的に立証した。

 強制収容所、恣意的な拘束や拷問、公開処刑、政策に起因する飢餓、自由の抑圧や差別など人権侵害のおぞましい実態を詳述している。「これほどの人権侵害がまかり通る国は、現代では類を見ない」との指摘には説得力がある。

 特に、日本人を含む外国人拉致は「金日成―金正日―金正恩」の3代世襲の体制下、「最高指導者の承認」で実行されたと明記した。調査委員長は金正恩第1書記の責任を問う可能性にも言及した。

 北朝鮮は調査委に一切、協力せず、今回の報告書にも「全面的に拒否する」と強く反発した。だが、人権状況を改めない限り、経済再建に不可欠な国際社会との関係改善は望むべくもあるまい。

 北朝鮮は、拉致被害者に関するすべての情報提供や、生存者の速やかな帰国などを求めた報告書の勧告を重く受け止めるべきだ。

 報告書は、拉致が日本だけの問題ではなく、国際社会の重大な懸念事項であることを示した。調査委設置に積極的に関わってきた安倍首相の外交成果でもある。

 政府は、国際的懸念の高まりを背景に政府間協議の再開を北朝鮮に促し、拉致被害者全員の即時帰国、真相究明、犯人引き渡しの実現に全力を挙げてもらいたい。

 中国に入国後、強制送還される脱北者も後を絶たない。中国に居住する脱北者を北朝鮮の工作員が拉致する事件も起きている。

 北朝鮮に影響力を持つ大国として、中国には、拉致問題の解決を含めた北朝鮮の人権状況の改善に協力する責任がある。

記録的大雪 教訓生かして被害を防ぎたい

 関東甲信から東北地方などを襲った記録的な大雪は、各地に甚大な被害をもたらした。死者は約20人に上っている。

 政府は18日、非常災害対策本部を設置し、安倍首相は「関係省庁一体となって国民の生命財産を守る」ように指示した。

 被害の早期復旧を図るとともに、雪害の状況を検証し、今後の対策に生かさねばならない。

 今回の大雪は、太平洋岸に沿った「南岸低気圧」の通過に伴って発生した。関東などの各地で観測史上最大の積雪を記録した。

 物流の大動脈である高速道路が通行不能となった。スーパーやコンビニエンスストアで品切れが相次いだ。必要な部品が届かず、一時的な操業停止に追い込まれる工場も続出している。

 雪に不慣れな地方が、大雪への対応という難題を突きつけられたと言えよう。

 道が閉ざされ、多くの集落が孤立したのは、想定外である。今後の対応が問われる。

 極めてまれな大雪に備え、自治体が除雪や融雪のための機材整備に多額の費用をかけるのは、現実的ではあるまい。被害を最小限にとどめるには、どのような対策が効率的なのか、自治体の実情に応じた対応を検討すべきだ。

 自衛隊が各地に派遣され、住民の救援にあたった。今後も、都道府県が臨機応変に派遣要請できるよう、自衛隊との連絡体制を強化しなければならない。

 自治体が、孤立しそうな地域をあらかじめ想定し、ヘリコプターなどで人や物資を運べる手段を確保しておくことも必要だろう。

 幹線道路の渋滞は混乱に拍車をかけた。東名高速ではスリップ事故が続発し、40キロ以上にわたって車が立ち往生した。

 規制が後手に回り、通行止めにしたのは大渋滞の発生後だった。雪がやんだ後も車両の移動に時間を要し、復旧を遅らせた。

 太田国土交通相は、通行規制のあり方を見直し、今後は早い段階で通行止めにして、集中的に除雪を行う方針を明らかにした。

 立ち往生した車両を所有者の同意なしに道路上から移動させることの是非を含め、政府でしっかり改善策を検討してもらいたい。

 チェーンやスタッドレスタイヤを使わず、普通のタイヤで走行していた車の事故が目立った。雪への油断があったのではないか。

 大雪の予報が出たら外出を避ける。出かける際には万全の備えを怠らない。一人一人のこうした心がけが大切である。

2014年2月18日火曜日

経済の持続的な回復へ基盤固めが重要だ

 日本経済が引き続き堅調な足取りをたどっている。2013年10~12月期の国内総生産(GDP)は前期に比べて年率で1.0%増え、4四半期連続のプラス成長になった。

 経済が今後持続的に拡大するには、民間企業が元気を取り戻し、設備投資や雇用・賃金を増やしていくことが重要だ。政府は企業活動の壁を取り払う規制改革などを通じて、成長力強化へ向けた基盤固めを急ぐべきだ。

 昨年10~12月期の成長をけん引したのは個人消費などの内需だ。今年4月の消費税率引き上げを前にした駆け込み需要が支えとなったほか、企業の設備投資も前の期より伸びが高まった。

 全体の成長率はエコノミストらの予想を下回ったが、これは輸出が伸び悩んだためだ。円安で輸出品の価格競争力は高まったはずだが、その効果が思うように出なかった。新興国などの景気が減速したことも伸び悩みにつながった。

 今年は増税前の駆け込み需要が残る1~3月期は高い成長が予想されるものの、4~6月期以降はその反動がある程度出るのは避けられない。政府は13年度の補正予算に盛り込んだ公共事業の執行を急ぎ、増税による景気への悪影響をできるだけ防ぎたい考えだ。

 より重要なのは、民間の経済活動が自律的に強まっていくかどうかである。企業収益は改善しており、民間企業が稼いだおカネを積極的に使っていけば経済回復の勢いを維持できるだろう。企業には新しい需要を発掘して、売り上げを伸ばすプラス思考の経営努力が期待される。

 政府に求められるのは企業が活動しやすい環境を整えることだ。国際的に見て高い法人税率の引き下げや規制改革は国内企業だけでなく、海外企業の対内投資を促す意味でも意義がある。

 日本経済の先行き不安を取り除くことも、企業の投資や消費を長い目で促していくうえで不可欠だ。少子高齢化が一段と加速する中で、社会保障制度や財政は維持可能なのか。経済の活力維持に欠かせない人材は確保できるのか。こうした不安にも応えていかなければ、前向きな経済活動は高まりにくいだろう。

 日本経済が消費税増税を乗り越え、活力を高めていけるかどうか。それは政府と民間がそれぞれの役割を果たしていけるか、にかかっている。

大雪対策でも「想定外」なくせ

 関東甲信から北海道にかけて記録的な大雪が降り、交通や物流の混乱が続いている。甲府市で1メートルを超えるなど、8道県17地点で史上最多の積雪を観測した。崩れた屋根の下敷きになるなどして死者・負傷者も相次いでいる。

 山間部では道路が寸断され、多くの集落が孤立したままだ。高齢者や持病のある人にとって、孤立が長引けば命にかかわる。国や自治体はまず、物資の補給や道路の復旧に全力をあげてほしい。

 首都圏でも2週続けて週末の大雪となり、交通機関のマヒなど雪への弱さが浮かび上がった。だが道路に融雪装置を設けたり、除雪車を増やしたりするなどの対策は、大雪の頻度や費用対効果を考えれば現実的ではない。

 大事なのは大雪を「想定外」とせず、身の回りの備えをいま一度点検することだろう。

 高速道路の閉鎖が多発したのは、冬用タイヤやチェーンを持たない車が動けなくなり、他の車の通行を妨げたのが一因という。チェーンなどの装備は自分の安全のためだけでなく、道路機能を守る上でも必要なことを自覚したい。

 駅などで屋根が雪の重みで崩れたり、落ちた雪が通行人を直撃したりする事故も起きている。多くの人が集まる建物では、所有者が安全性を点検する必要がある。

 気象庁も警報の出し方を見直すべきだ。数十年に一度の災害が予想されるときに出す「特別警報」は今回発令されなかった。「降雪が丸1日以上続くこと」という基準を満たさなかったためという。

 昨年10月に伊豆大島で多くの死者を出した台風災害でも特別警報が出なかった。都道府県ごとではなく、地域ごとにきめ細かく発令するなどの改善が要る。

 全国的に毎年の降雪量は減っているが、ひとたび降ると大雪になる傾向が強まっている。地球温暖化の影響で集中豪雨などが起きやすくなる「極端気象」との関連を疑う研究者もいる。「大雪はまれなこと」とたかをくくらず、ひとりひとりが備えを強めたい。

核の非人道性―日本から行動すべきだ

 非人道的な核兵器を縛る法の枠組みが必要だ――。146カ国が参加した会議が、こんなメッセージを発して閉幕した。

 開催地メキシコは67年に中南米の非核化条約が調印された国だ。議長は、広島、長崎への原爆投下70年を前に「行動に移るべき時」と呼びかけた。

 会議では、日本の被爆者の証言が注目を浴びた。半生をかけた訴えが、国際社会の潮流となりつつあることを歓迎したい。

 世界には今も推定1万7千発の核がある。廃絶への道筋が見えないことを危惧する多くの非核国は、非人道性を強調し、使用や保有を条約で禁じていこうとする動きを加速させている。

 08年には、やはり非人道性が問題視されたクラスター爆弾を禁止する条約が結ばれた。その潮流をいかす動きだが、核不拡散条約(NPT)で核保有を認められた米ロなど5カ国は核を安全保障の根幹に据えたままで、禁止条約に否定的だ。今回の会議にも参加しなかった。

 日本政府の立場は複雑だ。昨年は核の非人道性を強調した共同声明に賛同する一方、禁止条約に慎重な別の声明にも加わった。核の残虐さはどの国よりも知っているが、米の核の傘に頼る安全保障政策はすぐには変えにくい。そうした板挟みが、国の方針を見えにくくしている。

 広島出身の岸田外相は1月、長崎市内で、核軍縮・不拡散に向けた今後の戦略を語った。安倍政権の「積極的平和主義」の具体化と位置づけ、核兵器の数、役割と、核を持つ動機をいずれも下げていく「三つの低減」を掲げた。

 大事な考え方だが、世界でも緊張感の高い東アジアで、どのように進めていくのか。

 軍備増強を進める中国、核実験を繰り返す北朝鮮があり、米の核が果たす役割はなお重要というのが政府の認識だ。

 ミサイル防衛の強化など、安倍首相が力を込める政策は、中国や北朝鮮を警戒させ、核の役割をかえって高めるリスクもある。韓国との関係悪化も、朝鮮半島非核化をめざす6者協議に影を落としている。

 せっかくの核軍縮戦略も、周辺国との信頼醸成につながる外交なしでは、絵に描いた餅だ。

 核保有の動機を下げるには、核に頼らなくてすむ安全保障の枠組みづくりが欠かせない。

 オバマ政権も「三つの低減」と通底する政策をとってきた。核の傘の中にいる日本が、米国とともに「三つの低減」を具体化する政策を練るべきだろう。

 核軍縮が「積極的平和主義」なら、日本から行動すべきだ。

大雪の教訓―想定外に備える社会を

 2週続きの週末豪雪は、この国の防災をめぐる課題を浮かび上がらせた。いわば日常と化した想定外への備えである。

 雪害に関する近年の課題は、過疎の豪雪地帯で誰が除雪を担うかという問題だった。だが今回は、ふだんあまり降らない地域で突然の豪雪にどう備えるかという問いを突きつけられた。

 とりわけ、除雪の能力が乏しいために道路や交通が寸断されたことは深刻だ。各地で集落が孤立し、車や列車内で何日も足止めされた人が相次いだ。

 高速道路など物流の動脈が断たれ、各地で食料や燃料が底をつく。天候急変で一つ歯車が狂うだけで、暮らしや経済が広範にまひ状態に陥る現代社会のもろさを見せつけた。

 温暖化の影響で全国をならせば雪は減っている。ところが、ゲリラ豪雨同様に、ひとたび降れば局所的に大雪になる傾向が強まっているという。しかも重く湿った雪になりやすい。

 備えの乏しい地域が大雪に襲われることは今後もしばしばあると考えた方がよさそうだ。

 雪国ではない地域で、まれに起きる大雪に備えて多くの除雪車両を各自治体で持つことは、コストを考えると難しい。

 国土交通省は、地方整備局が持つ除雪機械を無償で自治体に貸し出しているという。県単位など広域レベルでそんな準備を充実させ、いざというときに機動的に対応する仕組みを強化できないか。

 豪雪地帯の共助の仕組みも参考になりそうだ。

 事前登録した住民による協力隊や、学校の生徒やPTAによる除雪。さらには県外からのボランティア受け入れといった工夫がある。人手不足をおぎなうための知恵だ。

 都会でも、足りない除雪設備をおぎなう知恵が問われる。災害は雪だけではない。風水害や地震もある。安全に配慮しながら、地域の住民ができる範囲で助け合う仕組みが平時からあれば、早期復旧に役立つだろう。

 自助も課題だ。今回は、事故車や乗り捨てられた車が除雪作業や物流を阻んだ。雪が降る予報なら、チェーンやスコップを車に積む。食料や水の蓄えは地震の備えにもなる。

 荒天の時は不急の外出をやめる意識も徹底したい。災害時もいつも通り暮らしたいという意識が交通の混乱を増幅させ、救援の手を遅らせかねない。

 今回の積雪は予想を大きく超えた。自治体や政府は、想定外の事態に即応できる構えを取れていたか。救援活動が落ち着いた段階で検証すべきだろう。

GDP1%増 成長シナリオに狂いはないか

 持続的な安定成長の達成へ、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の真価が問われよう。

 内閣府が発表した昨年10~12月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比0・3%増となった。4四半期連続でプラス成長を維持し、年率換算の成長率は1・0%だった。

 個人消費は、消費増税をにらんだ自動車など耐久消費財の「駆け込み需要」で堅調に伸び、回復の鈍かった設備投資も、年率5・3%増と復調した。

 甘利経済財政相は「民需を中心に景気が着実に上向いている」と、楽観的な見方を示した。

 しかし、「1%成長」は2~3%が中心だった民間の事前予想を大きく下回った。

 伸び悩みの主因は、成長を牽引していた公共投資に一服感が出たことだ。建設現場の人手不足や資材高騰による工事遅延が、一段と深刻化してきたのではないか。

 円安が追い風になったはずの輸出も、新興国の景気減速などの影響で小幅な増加にとどまった。

 超円高の時代に多くの日本メーカーが生産拠点を海外に移したため、円安でも輸出があまり伸びなくなった面も指摘できる。

 確かに足元の内需は堅調だが、最大の課題は、4月の消費税率引き上げのショックを、どのように乗り切るかである。

 政府は総額5・5兆円の経済対策や外需の回復で、消費増税後の「反動減」を補い、安定的な成長軌道につなげるシナリオを描く。だが、今回のGDPは、その目算が狂い始めた兆しも見える。

 消費増税を克服する切り札として政府が重視する公共事業の執行が大幅に遅れれば、景気失速を防げないかもしれない。

 麻生財務相は、公共事業の予算執行を急ぐよう各府省に促す考えを示したが、人手不足などを解消する有効策は不透明だ。

 政府と地方自治体、建設業界の連携により、公共事業の円滑な執行に万全を期さねばならない。

 原子力発電所が停止し、大量の火力発電燃料を輸入している悪影響も大きい。円安で輸入額が膨らみ、貿易赤字がGDPを押し下げている。安全性を確認できた原発を着実に再稼働すべきだ。

 持続力のある成長を実現するには、政策対応はもとより、日本経済の主役である民間企業の努力が不可欠である。

 業績の回復した企業が賃上げで利益を労働者に還元することで、購買力を底上げし、「経済の好循環」を後押ししてもらいたい。

少年法厳罰化へ 凶悪犯罪の抑止につなげたい

 罪を犯した少年に、より厳しい刑を科す。それを凶悪犯罪の抑止につなげることが肝要だ。

 政府は少年法改正案を国会に提出した。今国会での成立を目指す。

 改正案の柱は、少年犯罪の量刑を引き上げることだ。

 2004年の刑法改正で、成人の有期刑の上限が30年に引き上げられたのに対し、少年法の量刑は据え置かれていた。

 例えば、18歳未満の少年が、成人であれば無期懲役に相当する事件を起こした場合、よほどの凶悪犯罪でない限り、少年法の規定により「15年以下」の刑となる。改正案では、これを「20年以下」へと刑期を長くする。

 少年犯罪の被害者団体は「成人に比べ、少年の量刑が軽すぎる」と訴えてきた。厳罰化は、その意向を反映した結果と言えよう。

 無論、少年の更生を主眼とする少年法の趣旨は尊重すべきだ。

 一方で、凶悪事件を起こした少年に厳しい刑で臨むことについては、国民の多くも納得するのではないだろうか。近年、少年犯罪の件数は減少傾向にあるものの、殺人や強盗などの凶悪事件は後を絶たないからだ。

 厳罰化論議のきっかけの一つとなったのは、大阪府富田林市で09年に起きた殺人事件だ。当時17歳だった少年が、高校1年の男子生徒を木製バットで殴り殺した。

 大阪地裁堺支部は裁判員裁判の判決で、少年に求刑通り懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡した。そのうえで、「十分でない刑期となった。適切な法改正を望みたい」と注文を付けた。

 刑事事件の裁判で、法改正にまで言及するのは、極めて異例である。裁判員も、残忍な犯行状況に照らし、量刑が釣り合わないと感じたのだろう。

 厳罰化で刑期が長くなる分、少年刑務所などで、じっくり矯正教育に取り組むことも可能となろう。少年が二度と犯罪に手を染めないようにするため、矯正プログラムの再検討が求められる。

 改正案には、国費で弁護士をつける国選付添人制度の対象を広げることも盛り込まれた。捜査や裁判の過程で、少年の権利を保護するためだ。殺人などの凶悪事件だけでなく、窃盗や傷害といった比較的軽微な犯罪も対象にする。

 少年は取り調べの際、捜査員の強圧的な言動や誘導などで、自らに不利な供述をするケースも少なくない。付添人の弁護士は、少年の言い分に耳を傾け、適正な事実認定に協力することが大切だ。

2014年2月17日月曜日

まだ道半ばにすぎないユーロ圏経済再生

 金融危機に苦しんできた欧州の経済が緩やかに回復し始めた。単一通貨ユーロを導入している17カ国の実質経済成長率は、2013年10~12月期に前期比年率で1.1%と3期連続のプラスとなった。ただ、力強さにはほど遠く、経済再生には様々な宿題に答えを出していかなければならない。

 欧州は金融危機が深刻化するなかで、一時はユーロの存続すら危ぶまれる事態に追い込まれた。欧州中央銀行(ECB)がドラギ総裁のもとで金融の混乱防止へ強い姿勢で臨んだことや、欧州各国が金融統合に向けて一歩動き出したことで、危機はようやく収束に向かいつつある。

 ユーロ圏の経済成長率は13年全体ではマイナス0.4%と2年連続のマイナスになったが、14年は3年ぶりにプラスに転じるとの見方が増えている。危機の影響が大きかったスペインやアイルランドなどの経済がようやく上向いてきたことに加え、米国など海外経済の改善が追い風になる。

 ただ、欧州経済の足取りはなお重く、多くの問題を抱えたままだ。一番大きいのは高失業問題である。ユーロ圏全体の失業率はなお2ケタ台に高止まりしており、スペインやギリシャなどでは20%を上回っている。とくに若者の長期失業が深刻だ。

 金融システムもまだ不安定だ。銀行は多額の不良債権を抱えており、資本不足の金融機関もまだ多い。このため、新規融資も滞り気味で、南欧の中小企業などは資金調達に苦しんでいる。こうしたなかで物価上昇率が低迷しており、一部ではデフレ転落を懸念する声も出ている。

 これらの問題を乗り越えてユーロ圏経済を再生するには、各国が協調体制を強めていくことが欠かせない。

 影響力の大きいドイツには内需促進のほか、域内の金融や財政の統合を進めてユーロ圏全体の底力を高めていく指導力が求められる。イタリアなど南欧諸国は引き続き成長力を高めるための構造改革が欠かせない。不良債権処理など金融の健全化も欧州全体として急がなければならない。

 いずれも痛みを伴うが、実施しなければ欧州経済が長い停滞に陥る恐れがある。そうなれば、世界の中での欧州の存在感低下につながりかねない。経済回復に慢心することなく、「強い欧州」へ向けた歩みを進めてほしい。

日米指紋協定は厳正な運用を

 日本の警察庁と米連邦捜査局(FBI)が指紋のデータベースを互いに照会し、必要に応じて犯歴などの情報を提供しあうことになった。両国政府が制度の導入に合意し、協定に署名した。

 指紋の照会は現在、国際刑事警察機構(ICPO)を介してやり取りしており、回答に1~数カ月かかる。直接照会すれば結果がすぐにわかり、テロの抑止や犯罪捜査に役立つことが期待できる。

 ただ国民の犯歴などを法制度が異なる他国に提供することには、本来慎重であるべきだ。政府は導入に必要な法案をいまの国会に提出する方針だが、審議の場などで制度の意義を十分に説明し、情報が漏れない仕組みを作るなど厳正な運用が求められる。

 協定の対象には、テロや殺人などの重要犯罪に関与していると疑われる人物を逮捕したり、入国の際に拘束したりした場合が想定される。重大な未解決事件の現場に残された指紋も照会できる。

 逮捕や拘束した人物の指紋はまず、相手国のデータベースにあるかどうかをオンラインで照会する。一致する指紋があれば、目的や必要性を説明し、情報の提供を求める。正当な照会であると判断されれば、氏名や生年月日、犯歴などが相手国から提供される。

 米国は査証の申請を免除している日本以外の36の国・地域とはすでにこの協定を結んでいる。他国・地域とは捜査当局が持つすべての指紋を照会することで合意したが、日本側は逮捕者らの照会から不起訴となった人や保護処分となった少年などを除くよう求め、米側が了承したという。

 照会された指紋の記録はただちに削除されるが、後から検証できるように照会の履歴は最低2年間残すことになった。制度の透明性を保つためには、こうしたルールを設けたことは妥当であろう。

 両国間での運用が実際に始まるのは数年先の見通しだという。法律、システムの両面でしっかりと準備をし、厳正で効果のあがる制度にしてもらいたい。

日米韓の結束―米国頼みを卒業せよ

 今世紀の歴史はアジア太平洋を主舞台に描かれる。

 オバマ米政権はかねてそう宣言し、外交の軸足を大西洋から太平洋へ移すと唱えてきた。

 だが、その「アジア重視」路線の難題として、自らの同盟国間の反目が重くのしかかるとは想定できなかっただろう。

 日本と韓国の両政府の間に続く不毛な対立は、米政府を板挟みの立場に追い込んでいる。

 ケリー国務長官は今月、訪米した岸田外相と会談したのちに訪韓し、オバマ大統領の4月の日韓訪問予定を伝えた。

 大統領は仲介役を担う用意はある。だが、その前に当事者同士で関係を修復するのが筋だ。ケリー氏はそう呼びかけた。

 米国からの異例の和解勧告といえる。日韓両政府はこのまま自らの近隣関係まで米国頼みにするつもりなのか。互いに頭を冷やし、自助努力で歩み寄りを図るべきだ。

 周辺では緊張の火種が増えている。軍拡と勢力拡張を進める中国にどう対処するか。北朝鮮に核の放棄をどう迫るか。

 そんな差し迫った難題が眼前にあるというのに日韓両政府が背を向け合うことに、米政府はいらだちを強めている。

 オバマ氏の来訪についても日韓はさや当てを演じた。国賓として長い滞在を望む日本側と、短時間でも立ち寄らせたい韓国側。駄々をこねる兄弟げんかのような綱引きに、米政府はほぼ平等の扱いで応じた。

 若い指導者が自らの後見役を処刑した北朝鮮の情勢は予断を許さない。この時期の米大統領の訪韓は理にかなう。日本は国賓待遇といった儀礼形式にこだわるべきではあるまい。

 むしろ気にかけるべきは、近隣外交をめぐる緻密(ちみつ)な戦略を描く能力そのものが安倍政権には欠けているのではないかという米国側の懸念だろう。

 集団的自衛権の行使容認で対米同盟を強化するという掛け声とは裏腹に、靖国神社参拝で同盟を揺さぶる安倍首相の真意を米側は測りかねている。

 一方の韓国政府も意固地な姿勢を続けている。ケリー氏との共同会見で尹炳世(ユンビョンセ)外相は、現状を改善する責任は日本側にのみあるかのような見解を示した。一方的に相手の非を唱える発言には賢明さが感じられない。

 日韓の安全保障はともに米国の傘のもとにあるが、その枠組みの強度を保つのは、日韓それぞれの外交努力である。

 日米韓の結束は当事国のみならず、東アジア全体の安定に欠かせない。日韓両政府とも、その重い責任を自覚すべきだ。

大間原発―うやむやで進めるのか

 青森県下北半島の北端に建設中の大間原発をめぐって、対岸の北海道函館市が事業者のJパワー(電源開発)と国を相手取り、建設差し止めを求める訴訟を起こす。

 これまでも住民による原発差し止め訴訟はあったが、自治体が原告となるのは初めてだ。

 過酷事故が起きれば、近隣の自治体も壊滅的な被害を免れない。それが福島での原発事故が突きつけた現実だ。

 このため、原発から30キロ圏内は防災対策の重点区域に指定され、避難計画の策定が義務づけられた。

 にもかかわらず、原発そのものの建設や稼働の是非には立地市町村と当該県以外、関与できないのはおかしい。函館市の提訴は、周辺自治体に共通するいらだちと危機感の表れだ。

 国も事業者も、重く受け止めなければならない。

 「原発に依存しない社会」と言いながら、安倍政権はいっこうに具体策を示そうとしない。むしろ、東京都知事選では原発の争点外しに躍起となり、与党が推薦する舛添要一氏が当選すると、翌日から再稼働に意欲を見せるありさまだ。今後の原発の新増設についても、言を左右にしている。

 東日本大震災の時点で着工済みだった原発は大間を含め、全国に3基あった。私たちは社説で建設中止を求めたが、自民党への政権交代の直前、東電が手がける原発以外は工事が再開され、なし崩し的に進んでいる。

 大間原発をいったん運転してしまえば、最終処分のあてがない放射性廃棄物をまた増やすことにもなる。こうした根源的な問題を「脱原発依存」の観点からどう考えるのか。

 月内にも閣議決定するエネルギー基本計画では、原発推進に対する国民の反発を懸念し、当初案で予定していた原発の位置づけを少し弱める方向が検討されている。

 だが、政権が示さなければならないのは、そうした小手先の批判かわしではない。どのような条件や基準に基づいて廃炉を進めていくのか、放射性廃棄物の増加をどう抑制するのか、といった具体的な道筋だ。

 大間原発は、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料だけを使う「フルMOX原発」として計画されている点も見逃せない。世界で初めてであり、その運転には一段と慎重な検討が必要なことは、原子力規制委員会も指摘している。

 うやむやにしたまま進めていいわけがない。

高速有料の延長 安全確保にはやむを得ない

 政府は、高速道路の有料期間を最長15年延長して2065年までとする道路整備特別措置法改正案を国会に提出した。

 利用者の安全を守るため、老朽化した高速道路の造り替えや補修は急務だ。

 全国の高速道路のうち、開通から30年以上経過した区間が約4割を占める。山梨県の中央自動車道・笹子トンネルでは、老朽化が原因とみられる天井板崩落事故が起き、多数の犠牲者が出た。

 財政難で巨額の国費を投じる余裕が乏しい中、有料期間の延長で得られる料金収入を更新・修繕費に充てるのはやむを得ない。

 首都高速道路など高速道路6社は先ごろ、今後十数年で総額4兆円規模の更新・修繕費がかかるという試算をまとめた。

 政府は05年の道路公団民営化の際、50年までの料金収入で約40兆円の債務を返済した後、高速道路を無料にする計画を立てた。

 しかし、当時は、将来の道路補修などに巨額の費用がかかる事態を十分に想定していなかった。見通しが甘かった点は否めない。

 道路各社には今後、将来の利用者の負担が過度に重くならないよう、更新・修繕費を可能な限り抑制することが求められる。

 高速道路の上空や高架下の使用権を企業に売却・賃貸して費用の一部を賄うなど、民間資金の活用に工夫を凝らしてもらいたい。

 単なる造り替えではなく、車線拡張や急カーブの解消など、道路の使いやすさや安全性を高めるための改修も大切である。

 疑問なのは、政府が依然として高速道路を将来、無料化する計画を掲げ続けていることだ。

 高速道路を利用し続ける以上、将来的に追加の更新・修繕費が必要になる。新たな財源問題が浮上するのは必至だろう。

 無料化を前提とする現行計画の再検討は避けられまい。将来にわたって低廉な料金を徴収し続けるのも一つの選択肢ではないか。

 政府が、自動料金収受システム(ETC)の搭載車を対象にした割引制度を4月から縮小するのは妥当な措置である。

 割引には08年以降、総額3兆円の国費が投入されてきた。だが、道路各社が経営努力の範囲内で実施するのが、割引サービスの本来の姿のはずだ。

 割引制度は政権が代わる度に変更され、利用者には複雑で分かりにくい仕組みになっている。これまでの効果を検証し、物流の活性化や一般道の渋滞緩和などに、より役立つ制度へ改善すべきだ。

保険金不払い 顧客軽視の悪弊を断ち切れ

 顧客軽視の企業体質が根強く残っているとすれば問題である。

 損害保険大手の東京海上日動火災保険が、自動車保険の保険金の一部を契約者に支払わず、10年以上も放置していたことが判明した。

 不払いが見つかったのは、交通事故でけがをさせた相手への見舞金などを補償する特約で、10万件を超える可能性もあるという。

 生命保険と損害保険では、2005年の金融庁検査で大規模な不払いが発覚し、行政処分や経営トップの辞任が相次いだ。

 これを教訓に、保険各社は再発防止策を講じ、新たな不払いは起きにくくなっている。

 問題なのは、東京海上日動が05~06年に行った社内調査の対象から、これらの特約を除外していたことである。

 当時は請求があった分だけに保険金を支払う社内ルールを適用していたとして、今も「不払いにあたらない」との説明を繰り返している。顧客の利益より、内輪の論理を優先した解釈と言えよう。

 保険に詳しくない契約者が、多種多様な特約の請求を忘れることもあろう。突然の事故に動揺する契約者に丁寧に説明し、請求漏れを防ぐことは、保険会社本来のサービスである。

 東京海上日動は03年7月、請求がなくても保険金を支払うよう対応を変えたという。この時にルールの変更を対外的に説明し、過去の契約にさかのぼって不払いの解消を図るべきだった。

 東京海上日動の永野毅社長は記者会見で「当時としては最善を尽くした」などと述べ、過去の対応を正当化した。この説明では保険金を受け取れなかった契約者は、納得がいかないのではないか。

 金融庁が当時の対応を「問題なし」としている点も、不可解に感じる人は多いだろう。

 盛りだくさんの特約を売り物に契約させておいて、事故が起きると保険金を出し渋る――。そんな消費者の保険不信が高まらないよう、東京海上日動には、誠意のある説明と対応を求めたい。

 永野社長はこれから請求があれば支払いに柔軟に応じる方針を示したが、実効性は不透明である。東京海上日動のデータ保管期間は9年で、当時の記録の大半が破棄されてしまったからだ。

 社員の記憶や書類のコピーなどを丹念に調べ、適正な支払いに全力を挙げねばならない。

 他の損保各社も「対岸の火事」とせず、類似の不払いがないか、念入りに点検してほしい。

2014年2月16日日曜日

一体改革で高齢化の負担増抑えよ 医療と介護を立て直す(下)

 介護が必要になりやすい75歳以上の高齢者は2025年には約2200万人に増える。介護費用の膨張をいかに抑え、持続可能な制度にしていくか。国会に提出された医療・介護の改革法案はその一歩だが、踏み込みは足りない。

 法案は利用者の負担を増やすことが大きな柱だ。1割に据え置かれてきた自己負担の割合は、所得の多い人は2割になる。低所得でも資産があるなら、特別養護老人ホーム入居時の補助をなくす。

「2割」の効果は限定的
 だが、財政への寄与度はわずかだ。厚生労働省の試算では、65歳以上の人が支払う保険料を抑える効果は2割への引き上げなどで月39円分、特養補助の見直しと合わせても計75円分でしかない。

 経済的に苦しい人への配慮は必要だが、2割負担の対象範囲を広げるなど、さらなる見直しが必要ではないか。現在は40歳となっている徴収開始年齢の引き下げや、保険料の引き上げなども選択肢だ。財源なくしてサービスはない。納得できる分担のあり方を真剣に議論する時期にきている。

 もちろん、より効率的にサービスを提供し、高齢化のコストを抑制することは欠かせない。

 比較的軽度の「要支援」の人への訪問介護と通所介護を、全国一律のサービスから市町村が独自に内容を決める事業に変えるのは、その一歩だろう。財源が介護保険から出るのは同じだが、ボランティアなども活用すれば費用の増加を抑えられる。

 だが、初期の段階から専門家の支援が必要なケースもある。丁寧な対応をしなければ状態を悪化させかねない。認知症への対応を含め、高齢者への窓口となる地域包括支援センターの役割がより重要になる。

 医療と介護をより一体的にとらえ、両者の連携により在宅での生活を支える仕組みを整えることもカギを握る。

 高齢者をいたずらに病院や介護施設で受け入れてばかりでは、膨大なコストがかかる。できるだけ長く自宅で暮らしたいという高齢者の願いにも反する。それぞれの人の状態に応じながら「入院から介護へ」「施設から在宅へ」の流れを促す工夫が必要だ。

 改革法案では、多額の公費が必要な特別養護老人ホームへの新規入居は原則、介護の必要性が高い人に限ることが打ち出された。だが現状では、在宅での生活を支えるサービスは十分とはいえない。

 在宅医療や訪問看護、介護や生活支援サービスなどの体制整備を急がなければならない。なかなか進まない「24時間対応」をどう増やすかなど課題は山積みだ。

 独り暮らしや夫婦だけの世帯も増えている。高齢者に適した住まいを増やしていくことも重要だ。

 なにより大事なのは、高齢化社会を支える核となる人材をどう育成、確保していくかである。

 例えば25年には、介護職員は現在の1.5倍の人数が必要とされているが、離職率が高く、確保は容易ではない。処遇や職場環境の改善を進め、働き続けやすくすることが欠かせない。介護事業所の経営を安定させるうえでは、保険外のサービスを育てていくことも大事になるだろう。

外国人材の拡大急げ
 海外の人材をもっと受け入れることも必要だ。

 経済連携協定に基づき看護師、介護福祉士候補者の受け入れが始まって何年もたつが、まだまだ数が少ない。日本語の壁を低くするなど、定着への支援を続けたい。技能実習制度の介護分野への拡大も検討する必要がある。

 看護師の活躍の場もいっそう広げていく必要があるだろう。今回の改革法案では、医師が事前に示した手順書に従って、脱水状態の患者への点滴など特定の医療行為を行う看護師への研修制度が創設される。指示書の範囲内なら、その場でいちいち医師の判断を仰がなくていい。在宅医療を進める支えにもなる。

 患者の安全が大切なのはもちろんだが、制度の具体的な検討が始まってからすでに4年近くがたつ。看護師の能力を高めて、委ねられるところは委ねたい。

 高齢化への対応は総力戦だ。医療は医療、介護は介護、といった縦割りの発想では乗り切れない。改革法案はスタート地点にすぎない。論点は多様だ。審議が不十分になっては将来に禍根を残す。

沖縄の基地問題―「日本」への失望が深まる

 沖縄が本土に突きつける言葉が、近年はとみに険しい。

 「差別」は当たり前のように飛び交うし、「植民地支配」や「独立」も耳にする。

 なぜか。

 私たちメディアはよく「在日米軍基地の74%が沖縄に集中している」と説明する。「札束でほおをたたくような政府の手法への反発」とも書く。

 けれど、どれほど沖縄の思いを伝えられているだろうか。もどかしさを覚える。

 たぶん言葉は、背景の理解なしには伝わらないものなのだ。だから歴史の話から始めたい。

■継続中の人権侵害

 沖縄の人たちの言葉には歴史への情念がにじんで、はっとさせられることがある。

 先月、大田昌秀・元沖縄県知事と話したときは「1級の日本人」という言葉が心にひっかかった。「あれだけ『1級の日本人』として認められることをやったのに、日本から切り離されて」と大田さんは言った。

 明治政府に琉球王国をとりつぶされた沖縄の人たちは、皇民化教育を受け、本土防衛のための沖縄戦で4人に1人が命を落とした。師範学校生だった大田さんも戦い、九死に一生を得た。それほど日本に尽くしたのに、沖縄は戦後27年間も米軍統治下に置かれた。

 沖縄の歴史は、日本の国益のために犠牲を払う繰り返しだった。その一つが米軍基地だ。

 沖縄への基地集中が進んだのは米軍統治下でのことだ。

 当時の沖縄には人権を保障する日米の憲法は及ばなかった。米軍は県民に銃剣を突きつけ、ブルドーザーで農地や家屋を押し潰した。本土で反基地闘争が高まると、日米両政府は本土にいた海兵隊を沖縄に移し、そのために基地を広げた。

 日本復帰から42年を経ても奪われた土地は戻らない。基地問題は継続中の人権侵害であり、本土からのしわ寄せなのだ。

■広がる記憶ギャップ

 42年の間に、本土と沖縄はもっと溶けあっていてもいいはずだ。なのにそうならない。

 本土では沖縄戦などの記憶が薄れ、何が沖縄を傷つけるかも忘れてしまう。傷口に塩を塗られるたび、沖縄では苦い歴史がよみがえる。時の経過とともに記憶のギャップが広がり、亀裂を深めている。

 安倍政権は昨年、本土が独立した「主権回復の日」に式典を催した。沖縄を米軍の下に置き去りにした1952年のその日を祝おうとしたのだ。本土の歴史だけが日本の歴史のように扱う無神経さが反発を招いた。

 やはり昨年、沖縄の全市町村長、議長らがオスプレイの配備撤回を求めて東京でデモをしたら、日の丸を手にした沿道の人たちに「シナの手先」「日本から出ていけ」とののしられた。

 デモの中にいた翁長(おなが)雄志(たけし)・那覇市長(元自民党県連幹事長)は「もがき苦しむ沖縄を、中国に近いんじゃないかとみられると耐えきれない」と話す。

 翁長さんは、沖縄の空気の厳しさは「本土の人はみな同じ」と感じたせいだという。

 かつては、自民党政権は基地負担を強いているが、理解ある人が本土にいると思うことができた。だが、鳩山政権が米軍普天間飛行場の県外移設を探っても、だれも引き受けない。県外移設方針の撤回で、政権交代しても変わらないとみせつけられた。そんな経緯を指す。

■ひずんだ民主主義国

 沖縄の人が復帰運動で掲げたのは「憲法の下への復帰」。米軍から人権侵害を受け、人権を保障する憲法を渇望した。

 復帰した日本に人権感覚は根づいていたか。1級、2級に国民を分け、犠牲を強いるようなふるまいが続いていないか。沖縄の失望は、ひずんだ日本の民主主義の産物である。

 それは、本土に暮らす一人ひとりが考えるべき問題だ。

 日本から出ていけ、という人はわずかだろう。けれど「基地の見返りに金を受け取っているから当然」「沖縄の地理的位置からいって仕方ない」といった言説をうのみにしていないか。

 金? 沖縄は特別に優遇されてはいない。国からの地方交付税と国庫支出金の合計を人口1人あたりで比べると、沖縄県は全国10位(11年度決算)。日本は沖縄の負担によって日米安保を維持し、防衛費を抑えながら経済成長を遂げたのに、見返りと呼べる額を払っていない。

 地理? 人権を無視できた沖縄に基地を集めたのだ。旧ソ連と対峙(たいじ)したころも、中国や北朝鮮と緊張が高まるいまも、沖縄の位置が望ましいという説明は合理的だろうか。

 私たちは自分に都合のいい説明を好み、無意識や無関心で差別していないか。

 先月の名護市長選では普天間の辺野古移設反対派が再選された。市議会の多数も反対だ。それでも政府は、来月には調査・設計の入札を行うという。

 無理やり進めれば、回復不能なまでに亀裂が深まらないか。

羽生結弦「金」 あくなき向上心が五輪を制覇

 日本のスポーツ史に残る金字塔である。栄誉を祝福したい。

 ソチ五輪のフィギュアスケート男子で、19歳の羽生結弦選手が、金メダルを獲得した。

 フィギュア男子の金メダルは、日本の五輪史上、初めてだ。

 ショートプログラムで世界歴代最高得点をたたき出した。フリーでも世界選手権3連覇中のパトリック・チャン選手(カナダ)を抑えた。堂々の世界一である。

 五輪ならではの緊張感からだろうか、フリーの演技ではジャンプの失敗があった。それでもあきらめず、長い手足を生かした見事な表現力で観衆を魅了した。

 コーチと抱き合って、快挙達成を喜んだ。その一方で、「悔しい。自分の演技に満足していないので」とも語った。完璧な演技を追い求める向上心が、羽生選手を金メダルへと導いたのだろう。

 仙台市の出身。4歳でスケートを始めた。2011年3月の東日本大震災発生時には、市内のリンクで練習中だった。スケート靴を履いたまま逃げた。

 その後、全国のアイスショーに出場しながら練習を積み、12~13年シーズンからカナダ・トロントに拠点を移した。

 羽生選手は、本来ならずっと仙台で練習を続けたかったという。五輪の大舞台では、仙台の人たちへの思いを胸に滑ったに違いない。金メダルは、復興が思うように進まない被災地に向けたこの上ないエールとなっただろう。

 06年のトリノ五輪で、荒川静香さんが金メダルに輝いた。今回、男子でも五輪を制したことで、日本のフィギュア界は大きな目標を達成したことになる。

 日本スケート連盟は1992年から毎年、「全国有望新人発掘合宿」を開いている。「野辺山合宿」と呼ばれるこの取り組みで、才能豊かな小中学生を見いだし、早いうちから国際大会に派遣して、経験を積ませている。

 羽生選手、荒川さんも、かつてこの合宿に参加した。

 伝統的な強さを持つ欧米勢に、日本が割って入れたのは、戦略的な強化策の成果と言える。

 ただ、今大会から正式種目となったフィギュア団体で、日本は5位にとどまった。層が薄いペアとアイスダンスの選手育成が今後の課題である。

 大会終盤には、女子の競技が控えている。羽生選手の金メダルは、浅田真央選手ら日本選手にとって、大きな励みとなったはずだ。力を存分に発揮してほしい。

米債務上限問題 不毛な対立の棚上げは前進だ

 米国財政を巡る議会の対立が収束し、政府が国債の元利払いができない債務不履行(デフォルト)に陥る事態は当面回避されることになった。

 与党・民主党と野党・共和党は混乱を繰り返してきたが、足かせとなってきた難題をひとまず棚上げできたのは前進である。合意の成立を歓迎したい。

 議会上下両院は、政府が借金できる限度額を示す法定の債務上限(約17・2兆ドル)について、来年3月15日まで無条件で引き上げる法律を賛成多数で可決した。

 オバマ大統領と民主党の主張に沿って、共和党が、ベイナー下院議長ら幹部の主導で大幅譲歩したのがポイントである。

 昨年10月、民主、共和両党の対立で2014会計年度予算が成立せず、政府機関の一部閉鎖に追い込まれた。連邦債務も上限に達し、デフォルト寸前に陥った。特に厳しい批判を浴びたのが、強硬姿勢を続けた共和党だった。

 与野党はその後、今年2月7日までは債務上限を一時無効とすることで合意したが、期限内に引き上げられなかった。

 その背景には、共和党の保守派を中心に、債務上限を引き上げる場合には、それに見合う歳出削減を求めるべきだという強硬論が出ていたことがある。

 ルー財務長官は財政のやり繰りでしのぐとしても、2月末にもデフォルトに陥ると警告していた。混乱が再燃すれば、共和党に対する国民の批判が一層高まるのは避けられなかったのでないか。

 11月には議会中間選挙がある。共和党は世論を意識し、この段階では矛を収めるのが得策と考えたのだろう。

 与野党は昨年末、2年間の予算の政策経費をそれぞれ1兆ドルとすることで一致し、予算不成立に伴って政府機関が再び閉鎖されるリスクも回避した。

 二つの懸案の決着によって株式市場などの不安要因が解消できたことは、景気回復が鮮明になってきた米国経済にも追い風だ。

 ただし、財政政策を巡る与野党の主張は大きく食い違う。共和党内では、ベイナー議長に「弱腰」と反発する声もくすぶる。

 このため、中間選挙や16年の大統領選に向け、むしろ党派対立が一段と激化する可能性がある。

 「小さな政府」を掲げる共和党保守派では、大統領が推進する医療保険改革(オバマケア)への抵抗が根強い。中間所得層向け施策や経済格差是正策なども含め、建設的な政策論争を期待したい。

2014年2月15日土曜日

効率追求し若者へのつけ回し断て

 1949年に生まれた最後の団塊世代がことし65歳になる。総人口に占める高齢者の割合は一段と高まる。日本人が長命になったのは喜ばしいが、それは医療・介護サービスを旺盛に消費する層が劇的に増えるのを意味する。

 国民医療費と介護保険サービス費を合わせた額は、足元で年50兆円を突破し、国内総生産(GDP)の10%を超えたもようだ。

GDPの10%を突破

 アベノミクスは成長路線への回帰を追求しているが、医療・介護費の膨張ペースはもっと速い。日本経済新聞社は2010年3月に公表した改革提言で、医療・介護費の合計がGDP比10%を超えたときは、抑制策をとるよう求めた。今がそのときである。

 しかし制度が内包する無駄を省き、サービス提供を効率化させ、医療・介護費が膨れあがるのを抑える意欲は与党の自公両党、厚生労働省ともに薄い。4月の消費税増税が社会保障費のやり繰りをいっとき楽にすることも、改革への意欲をそいでいる。

 効率化の飽くなき追求こそが制度の持続性を高め、若い世代の保険料や税負担の増大をくい止める抜本策である。政府・与党はタガを締め改革にまい進してほしい。

 1人あたり医療費は現状、次のようなものだ。生涯に消費する医療費は男2359万円、女2609万円に達する。11年度は75歳以上の後期高齢者が92万円を使ったのに対して現役世代は20万円だ。

 負担・給付の世代間格差が浮き彫りなのは、年金と同じ構図だ。安倍政権は4月から70代前半の窓口負担を法定の原則20%にする。しかし70歳になる人から順に適用するので、すべての対象者を20%にするのに5年の歳月を費やす。法の定めどおり全対象者を一度に20%にするのが筋だった。

 13年末の財務、厚労両相の閣僚折衝を経て政権は診療報酬を14年度に0.1%増額する。これは消費税増税で病院・診療所の仕入れ費がかさむ分の手当てを含む。具体的にどう手当てするか。厚労相の諮問機関、中央社会保険医療協議会は初診料を120円、再診料を30円上げるよう答申した。

 初再診料という基本料金の引き上げは、すべての患者にその分が転嫁される。企業の健康保険組合や市区町村が運営する国民健康保険の給付もその分、増大する。

 これは本来、消費税がかからないはずの保険診療費に消費税を課しているのと変わりない。ならば診療報酬を課税対象にして患者や健保運営者に税の負担意識をもたせるほうがすっきりするのではないか。15年10月に予定している再増税時の検討課題にしてほしい。

 政権は14年度に人口高齢化に即した病棟再編を促すため、国と地方自治体の分を合わせ900億円強の基金をつくる方針だ。財源は消費税収と看護師養成などに使っていた一般財源を充てる。

 急性期の患者に対応する病床は減らし、慢性期対応の病床を増やしたり在宅医療を拡充したりするという。

基金ばらまき排せ

 しかし政府や自治体がカネを配れば医療の提供体制がすんなり変わるとは考えにくい。医療法人などが運営する民間病院に高度な急性期医療を担いたいという意欲をもつ経営者が少なからずいるなかで、この基金が実効を上げられるのか。

 数ある官製ファンドと同様に、基金を単なる病院へのばらまき原資にしてはなるまい。

 これから著しく増える後期高齢者のなかには慢性疾患をかかえ、いくつかの病気を併発している人が少なくない。治療より介護が必要な人も増えている。

 その観点から、首相官邸の社会保障制度改革国民会議が昨夏、病院完結型の医療から地域完結型の医療への移行を提言したのは的確だった。問題はその方法だ。

 日本の患者は大学病院など設備が整った病院への志向がつよい。そうした病院は重篤な急性期患者の治療に専念するのが本来の役割だが、だれもが行きたい病院にかかれる自由アクセス制がその発揮を阻んでいる面がある。

 そうした弊害を減らすには、どんな病気もひと通り診られる家庭医の養成を急ぐのが有効である。

 保険財政、提供体制の両面で推し進めるべき医療改革は山積している。その行程を明確にするのが政府・与党の責務である。

集団的自衛権―聞き流せぬ首相の答弁

 安倍首相の「立憲主義」や「法の支配」への理解は、どうなっているのだろうか。

 集団的自衛権をめぐる国会審議で、こんな疑問をまたもや抱かざるを得ない首相の答弁が続いている。

 日本国憲法のもとでは集団的自衛権の行使は認められない――。歴代内閣のこの憲法解釈を、安倍内閣で改めようというのが首相の狙いだ。

 歴代内閣は一方で、情勢の変化などを考慮するのは当然だとしつつも、「政府が自由に憲法の解釈を変更することができるという性質のものではない」との見解を示してきた。

 この矛盾にどう答えるか。野党議員からの問いに、安倍首相は次のように答えた。

 「(憲法解釈の)最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任をもって、そのうえで私たちは選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは、内閣法制局長官ではない。私だ」

 最高責任者は、確かに首相である。内閣法制局は、専門的な知識をもって内閣を補佐する機関に過ぎない。

 それでも法制局は、政府内で「法の番人」としての役割を果たしてきた。首相答弁はこうした機能を軽視し、国会審議の積み重ねで定着してきた解釈も、選挙に勝ちさえすれば首相が思いのまま変更できると言っているように受け取れる。

 あまりにも乱暴だ。

 首相の言うことが通るなら、政権が代わるたびに憲法解釈が変わることになりかねない。自民党の党是である憲法改正すら不要ということになる。

 首相はまた、解釈変更の是非を国会で議論すべきだとの野党の求めも一蹴した。解釈変更は政府が判断する、その後に必要となる自衛隊法などの改正は国会で議論するからいいだろうという論法だ。

 ここでも議論が逆立ちしている。集団的自衛権の行使容認は本来、憲法改正手続きに沿って国会で議論を尽くすべき極めて重いテーマである。

 選挙で勝ったからといって厳格な手続きを迂回(うかい)し、解釈改憲ですまそうという態度は、民主主義をはき違えている。

 一連の答弁から浮かび上がるのは、憲法による権力への制約から逃れようとする首相の姿勢だ。そのことは、こうした立憲主義を絶対王制時代に主流だった考えだと片づけた先の発言からもうかがえる。

 これでは、首相が中国を念頭にその重要性を強調する「法の支配」を、自ら否定することになりはしないか。

浜岡原発―動かしてはならない

 中部電力が浜岡原発4号機(静岡県)の再稼働を、原子力規制委員会に申請した。

 浜岡を動かしてはならない。その再稼働の可否は、規制委の審査の次元を超えている。国全体のリスク管理の一環として、政府が主導して廃炉にしていくべきだ。

 理由ははっきりしている。

 浜岡原発が、南海トラフ巨大地震の想定震源域に立地しているからだ。複合災害を含め、どんな被害が生じるかはまさに未知数である。

 必ず「想定外」のことが起きる。そこを出発点に、あらためて原発の必要性を問い直し、できるだけ危険性を小さくすることが、福島での過酷事故を経験した私たちの義務だ。

 福島第一原発の事故で避難指示の対象となった被災者は8万人以上にのぼる。浜岡原発から30キロ圏内の防災重点区域の人口は約86万人。事実上、避難は不可能と考えるべきだ。

 近くには東名高速、新東名高速、東海道新幹線が通り、人やモノが日々、大量に行き交う交通の要所である。放射能漏れが起きれば、東西を結ぶ大動脈が断たれ、日本全体がまひしかねない。自動車産業を中心に製造業が集積する拠点でもある。経済活動への世界的な影響ははかりしれないだろう。

 「そもそも建てるべきではなかった場所にある原発」といわれるゆえんである。

 再稼働には地元の合意が必要だが、静岡県知事は慎重な姿勢を崩していない。中部電力が安全協定を結んできた4市でも、例えば牧之原市議会は「確実な安全・安心が担保されない限り永久停止」を決議している。

 原発の潜在リスクが企業の立地回避や、お茶など農産品の風評被害につながりかねないという懸念がある。

 浜岡原発が廃炉となれば、中部電力の経営には打撃になる。廃炉に向けて、政府はさまざまな支援を講じる必要もあろう。

 ただ、中部電力は発電設備に占める原発の比率が10・6%と、他の大手電力より低い。このため原発停止後の燃料費増を受けた電気料金の値上げ幅も小幅にとどまっている。

 原発に依存しないぶん、大阪ガスとパイプラインを構築したり、東京電力管内での電力販売に名乗りを上げたりと、経営に独自性をみせる電力会社だ。今後の電力システム改革の中で、いち早く競争力をつける可能性がある。

 浜岡の再稼働にこだわらず、負荷をチャンスへと転じる好機ととらえてはどうか。

中国漁船長提訴 尖閣の主権を内外に明示した

 安倍政権が、尖閣諸島を巡る中国への対応について、筋を通したということだろう。

 中国漁船が2010年9月、尖閣諸島沖の領海内で操業し、海上保安庁の停船命令を無視して巡視船に体当たりした事件で、海保は漁船の船長を相手取り、損害賠償を求める訴訟を那覇地裁に起こした。

 政府は、巡視船の修繕費などの支払いを再三求めてきたが、中国側は応じなかった。このままでは法に基づく賠償請求の時効を迎えるため、提訴に踏み切った。

 領海で起きた違法行為について、日本の国内法に基づき司法判断を求めるのは当然である。

 尖閣諸島に日本の主権が及んでいることを、改めて明確にする意義も大きい。

 事件当時の菅政権は中国の理不尽な抗議を受けた。那覇地検は、逮捕した船長を釈放した。事実上の報復措置とみられる中国当局による邦人拘束もあり、民主党政権は難しい判断を迫られた。

 しかし、行き過ぎた融和姿勢は日本の主張を弱め、中国が筋違いの言い分を喧伝けんでん)することにもつながった。教訓とすべきだ。

 漁船衝突事件後も、尖閣諸島を巡って、中国の力による現状変更の試みは勢いを増している。安倍政権は今後も日本の主張を国際社会に発信し、浸透させていく必要がある。尖閣周辺の警戒監視活動も、怠ってはならない。

 菅官房長官は「提訴にあたって、政府の主張の正しさを立証するための映像記録を提出する」と述べた。海保で、求めがあれば映像を一般にも公開するという。

 映像は元海上保安官が、動画投稿サイト「ユーチューブ」に流出させたことなどから、今では広く知れ渡っている。

 だが、映像公開は、日本政府の取った措置の正当性を内外にアピールする狙いがある。映像を見れば、強引に船を衝突させた船長に非があるのは明らかだ。

 今回の映像公開には、昨年成立した特定秘密保護法の意義を示す狙いもあるようだ。菅政権は、保安官の映像漏えいを許し難い行為とし、これを契機に秘密保護法制を検討した経緯がある。

 安倍首相は、衝突時の映像は特定秘密に当たらないと指摘し、秘密保護法の制定により、むしろ、政権の都合で情報が隠蔽されることはなくなると強調してきた。

 安全保障にかかわる機密情報と、公開しても支障のない情報をいかに峻別(しゅんべつ)するか、政府には適切な判断が求められる。

出直し市長選 大阪都構想の展望が見えない

 膠着(こうちゃく)状態を打開できるのか、甚だ疑問だ。

 日本維新の会共同代表である橋下徹大阪市長が任期途中で辞職し、3月23日投票の出直し市長選に臨む意向を示している。

 大阪市議会は14日、橋下市長が提出していた辞職願を自民、公明、共産の各党や民主党系などの多数で不同意とすることを決めた。いずれも、「辞職に大義はない」と主張している。

 橋下氏は、地方自治法の規定により、27日での辞職となる。

 看板政策である「大阪都」構想は、行き詰まりを見せている。

 大阪府と市の議会で、大阪維新の会は過半数に届かない。それを反映した各派代表らで作る法定協議会の反対多数で、特別区の区割り案が絞り込めないためだ。

 橋下氏は法定協の構成そのものに問題があると考える。

 再選されることで都構想の推進に新たなお墨付きを得て、構想に反対する法定協の委員を推進派に差し替えると主張している。新たな法定協で夏までに「大阪都」の設計図となる協定書を策定し、構想を前に進める方針だ。

 しかし、地方自治体は、首長と議員が別々の選挙で選ばれる二元代表制である。首長だけが民意を背負っているわけではない。

 これまで協力関係にあった公明党など議会側に時間をかけて説明し、理解を得る努力を尽くすべきだったのではないか。

 橋下氏は公明党批判を強めているが、議会との合意形成を図るうえでは逆効果だろう。

 都構想の成否は、秋以降に予定される住民投票で決まる。実施するには、府市両議会から協定書の承認を得ねばならないが、出直し市長選を経ても、両議会の構成は変わらない。

 日本維新の会の石原共同代表が市長選をやり直しても「結果は同じじゃないか」と、橋下氏に疑問を呈したのはもっともである。維新の会本拠地・大阪の勢力と、東京の国会議員団とのミゾも市長選への対応を巡って深まろう。

 一方、自民、民主、共産など主要政党は市長選での候補擁立を見送り、静観を決め込む構えだ。

 「都構想に反対するのなら、僕を選挙で落とせばいい」と主張する橋下氏の“独り相撲”を際立たせたいのだろう。

 ただ、同じ土俵には乗らないという理由だけではなく、勝てる候補が見当たらないのが本音ではないのか。大阪都構想に反対しつつ有権者に堂々と訴えられないのなら、それも情けない。

2014年2月14日金曜日

仮想通貨ビットコインとどう向き合うか

 「ビットコイン」と呼ばれるインターネット上の仮想通貨が関心を呼んでいる。電子決済や海外送金などに使え、ほぼ手数料がかからないのが特徴だ。しかし発行主体がなく、相場が不安定といった問題もあり、新技術をどう活用していくかが問われている。

 ビットコインが登場したのは2009年で、発行量はすでに円換算で1兆円を超えたといわれる。「サトシ・ナカモト」という日本人名を名乗る人物の理論をもとに、ネット技術に詳しい人々が利用を開始し、米国では実際の店舗でも使えるようになった。

 通貨といってもコインや紙幣はなく、決済はネット上のデータのやり取りで行う。「エディ」のような現金に裏付けられた電子マネーと異なり、需給次第で相場が変わるのも特色だ。1ビットコインあたり200ドルくらいだったのが一時1200ドルまで上がった。

 問題は中央銀行のような管理者がなく、匿名性が高い分、投機や薬物などの違法取引、マネーロンダリング(資金洗浄)などに使われやすいことだ。金融機関のネットワークを経由しないため捕捉が難しく、課税にも支障がある。

 仮想通貨が注目された一つのきっかけは欧州の通貨危機だ。国が発行する通貨の信用が揺らぎ、資産の保全手段として使われるようになった。新しいビットコインを獲得するには難しい暗号計算を解く必要があり、発行量が限られることで価値が担保されている。

 実はこうした仮想通貨は20年ほど前にも登場した。英国のモンデックスやオランダのデジキャッシュなどだ。日本にも進出したが、当時は需要がなく、行き詰まってしまった。今回は利用が実際に広がっていることから、不正な取引を助長しないよう取引を把握できる仕組みづくりも重要だ。

 ビットコインに対する各国政府の対応はまちまちだ。欧米諸国は様子見状態だが、中国やインドなどは規制に動き出した。ビットコインを現金に交換できる取引所が停止したことなどから、米アップルは先週、ビットコインを使える財布ソフトを同社の携帯向けソフトの配信サイトから削除した。

 日本では黒田東彦日銀総裁が関心を示しているが、利用を促すには信頼できる取引所の設置など安全対策が必要だ。仮想通貨は現行通貨制度への挑戦ともいえるだけに、各国通貨当局は早急に実態を解明し、対応を急いでほしい。

自由化時代の公営ガスの課題

 経済産業省の委員会が都市ガス市場の自由化を議論している。電力市場改革にあわせ、ガス事業も地域や業種の垣根を越えて競争できる環境を整えることが重要だ。

 ただし、ガス自由化には電力と異なる課題がある。自治体が運営する公営ガスの存在だ。エネルギーの大競争時代に公営企業をどう位置付けるのか。しっかり議論しなければならない。

 都市ガス事業者は全国に209ある。そのうち28事業者は市町村が運営する公営事業体だ。仙台市ガス局や大津市企業局のように、準大手級の事業者もある。

 政府は2016年をめどに電力小売りを全面自由化する。電力会社の地域独占はなくなり、消費者は自由に電力会社を選べるようになる。家庭向けの地域独占が残るガス事業も自由化が不可欠だ。

 だが、公営ガスの場合、国の規制がなくなっても、予算や料金の変更は議会の承認が要る。域外への供給や、ガス供給以外の事業進出には制約がある。

 電力・ガスの自由化に期待されるのは、事業への新規参入を促し、多様な事業者がサービスや料金を競うことだ。自由に料金を決めたり、事業領域を広げたりできない公営ガスは、民間ガス会社と同じように競うのは難しい。

 公営ガスだけを市場改革の例外にはできない。公営ガスの供給地域に暮らす消費者が、自由化の恩恵を受けられないようなことがあってはならない。

 自由化に取り残されないようにするには、まず、公営ガス自身の対応が必要だ。ムダを省き、競争力を高める経営効率化が欠かせない。仙台市ガス局は民営化の検討を09年に中断した。他の公営ガスも含め、長期的には改めて民営化が選択肢になるだろう。

 経産省の委員会は全国のガス事業者を経営規模でグループに分け、自由化の影響や今後の進め方を議論している。公営ガスも民間大手と一律ではなく、自由化への移行に時間の余裕を持たせるなどの方策を考えることが必要だ。

沖縄の教科書―無理強いで解決するか

 紛争を解決するつもりなら、こんな一方的で強硬な手段をとるべきではない。

 中学校の公民教科書の採択をめぐり、文部科学省は沖縄県に続き、八重山諸島の竹富町にも是正要求を出す構えだ。

 人口4千ほどの島々の町で、生徒が支障なく利用している検定教科書を、国が無理強いして変更させる緊急性があるのか。そのあまりにかたくなな姿勢は理解に苦しむ。

 対立の背景は複雑だ。3年前、石垣・与那国・竹富3市町でつくる採択地区の協議会が、一つの教科書を選んだ。

 その際、竹富は、協議会のメンバーが事前に入れ替えられたことなど運営に異を唱え、独自に別の教科書を採択した。

 国の無償措置は受けられなくなったが、代わりに有志の寄付で生徒に無償で配っている。

 問題をこじらせた一因は、教育に関する二つの法律の矛盾だ。採択地区で教科書を一本化せよと定めた法がある一方、各市町村に採択権を認める法もある。その状況下で竹富が一方的に悪かったと言えるのか。

 そもそも教科書を一本化する責任は3市町全体にあるとみるべきだ。是正要求するなら3市町みんなに出すべきだろう。

 教科書選びの判断で、竹富は米軍基地の記述を、2市町は領土の記述をそれぞれ重視した。いずれも沖縄にとって切実な問題だ。国が「こちらにせよ」と求めれば、一方の価値観への肩入れにもなりかねない。

 この問題が浮上した3年前、民主党政権の文科相は、内閣法制局の見解をふまえて次のように国会答弁した。自治体が自ら教科書を買って無償で配ることまで法令は禁じていない、と。

 政治判断ならともかく、法解釈は政権が代わっても変わるものではないはずだ。

 文科省は、地方教育行政法にも是正要求の定めはあるのに地方自治法の是正要求を選んだ。地教行法は、生徒の教育を受ける権利が侵されていないと使えない。竹富の生徒も検定教科書を無償で使っており、適用しにくいと判断した。

 裏返せば、教育的には直ちに問題はないといえる。にもかかわらず過去に国が直接、市町村に下した例のない強硬手段をとろうとするのはなぜなのか。

 いま、採択地区は市郡の単位でしか作れないが、文科省は町村単位でもよいと認める法改正案を今国会に出す予定だ。それなのに竹富には採択を変えよと迫るのは首尾一貫しない。

 ことを荒立てているのは誰なのか。首をかしげてしまう。

格安航空―安全第一で成長を

 日本の空で、格安航空会社(LCC)が急速に存在感を増している。

 日本に定期便を飛ばしている海外のLCCは、韓国勢を中心に10社を超えた。国内線でも、2年前に日本企業が出資する3社が就航したのに加え、今年5月には中国のLCCが日本法人を通じて参入する計画だ。

 訪日外国人が昨年1千万人を突破した原動力の一つであり、国内線でのシェアも6%強(昨年12月)に達する。既存の航空会社から乗客を奪うより、新たな客をつかまえており、市場を広げているようだ。

 観光振興による経済成長や地域の活性化にとって、LCCは欠かせない。成田、関西の両空港がLCC専用ターミナルの新・増設を急ぐなど、空港経営を左右し始めてもいる。LCCが発展し、国や自治体、関連企業も恩恵を受ける好循環を築いていきたい。

 ただ、気がかりな点がある。経営体力に乏しいLCCが目立つこと、機体の整備など安全への取り組みにほころびが見えることだ。

 日本航空が出資するジェットスター・ジャパンは昨年、基盤強化のために増資を迫られた。LCC大手のエアアジア(マレーシア)と全日本空輸の合弁で発足したエアアジア・ジャパンは合弁を解消し、全日空の全額出資子会社バニラ・エアとして再出発した。

 利用者の声を聞くと、LCCの魅力は「料金の安さ」が圧倒的に多い。一方で、日本は空港着陸料など費用が高い。経営が比較的好調とされる全日空系のピーチ・アビエーションを含め、安定して利益を出していくのは簡単ではなかろう。

 だからといって、安全への目配りをおろそかにできないのは言うまでもない。

 ジェットスターと旧エアアジアは昨年、古いマニュアルを使っていたために機体の点検漏れを起こし、国土交通省から厳重注意を受けた。ジェットスターは一昨年にも、社内規定を満たさない整備士を使っていたとして厳重注意されている。

 大手航空で整備を担当したOBの活用など、安全投資のあり方を改めて点検してほしい。

 航空各社を監督する国交省の役割は大きい。従来の航空会社よりLCCへの安全監査の回数を増やしたりしているが、ささいな不備も見逃さず、きちんと公表する必要がある。

 安全に細心の注意をはらうLCCが乗客に選ばれ、競争に勝つ。そんな状況をつくることが大切だ。

中台閣僚級会談 歴史的な一歩にはなったが

 中国と台湾の関係は、当局同士が直接交流する新たな段階に入った。これが、台湾海峡の緊張緩和を促し、東アジアの安定に寄与するのかを注視したい。

 中台関係の主管官庁トップである、中国の張志軍・国務院台湾事務弁公室主任と、台湾の王郁●・大陸委員会主任委員が、南京で会談し、恒常的な相互連絡ルートを設けることで合意した。(●は王ヘンに奇)

 1949年の中台分断後、中台政策担当の閣僚級会談が行われたのは初めてだ。

 互いに相手の主権を認めていない中台間には、これまで当局同士の対話の枠組みはなく、経済協力などの話し合いは、「民間」の窓口機関を通じて行われてきた。

 今後、当局間では、出先事務所の相互設置をはじめ、様々な形の直接交流が模索される。

 ただ、歴史的な閣僚級会談を実現させた中台首脳の思惑には大きな食い違いがあると見てよい。

 台湾の馬英九総統の狙いは、対中ビジネス拡大につながる規制緩和を中国当局から引き出したり、国際的な経済協定の当事者としての地位を中国に認めさせたりすることだろう。

 そうした成果を上げられれば、支持回復につながるとの読みがあるのではないか。年末の統一地方選を控えて、経済成長の鈍化や所得格差、側近の汚職、与党・国民党の内紛などにより、馬政権の支持率は低迷したままである。

 これに対して、中国の習近平国家主席は、今回の会談を中台統一に向けた政治協議への足がかりとみなしているに違いない。

 だが、台湾側は政治協議には消極的だ。台湾住民の大多数は、現状維持を望んでおり、中国との統一は拒んでいる。

 当面の焦点は、北京で今秋開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に、馬氏と習氏による会談が実現するかどうかだ。実益重視の台湾と、統一協議につなげたい中国との駆け引きが続くことになろう。

 中台当局間の交流が本格化しても、台湾周辺の安全保障の構図には、依然変化がない。中国は武力統一の選択肢を放棄していない。台湾は、武器購入などで米国からの支援に依存している。

 日本にとって、台湾は、尖閣諸島周辺を含む東シナ海などでの中国の覇権的行動をけん制する上でも重要な隣人である。中台接近が地域情勢に及ぼす影響を見極めながら、台湾との関係を密にしていくべきだ。

JR北海道捜査 組織蝕む病巣をえぐり出せ

 保線データの改ざん問題は、刑事事件に発展した。強制捜査により、組織の問題点を徹底的に洗い出してほしい。

 北海道警が、鉄道事業法と運輸安全委員会設置法違反の容疑で、JR北海道の本社や、改ざんに関与した保線担当部署の一斉捜索に乗り出した。

 国土交通省と運輸安全委員会の刑事告発を受けた強制捜査だ。改ざんは、両法が禁じた虚偽報告や監査妨害の疑いがある。

 これらの容疑による告発は前例がない。JR北海道は1月にも、国交省からJR会社法に基づく初の監督命令を受けた。安全運行に対する信頼を失墜し、1987年の会社発足以来、最も危機的な状況にあると言えよう。

 道警の捜査は、昨年9月の貨物列車脱線事故の直後に行われた改ざんが対象となる。

 現場を管轄する部署で、脱線の危険性が高い「限界値」に近づいていたレール幅の計測値が、大幅に改ざんされた。虚偽の数値は、国交省や事故原因を調査する運輸安全委に報告された。

 その後、国交省の特別保安監査を受ける際にもデータを改ざんした部署がある。

 極めて悪質な行為である。太田国交相が「輸送の安全確保の仕組みを覆すもので、絶対に容認できない」と批判したのは当然だ。

 改ざんを巡っては、JR北海道自身も社内調査を実施し、44の保線担当部署のうち、33部署で数値の書き換えがあったことを確認した。強制的な手続きを伴わない監査や身内同士の調査でさえ、多くの不正が明らかになった。

 強制捜査により、組織全体を蝕(むしば)む病巣が浮き彫りになることを期待したい。根深い改ざんの実態を解明するには、経営陣や労組関係者の聴取は欠かせまい。

 重視すべきは、法人としてのJR北海道も告発された点だ。鉄道事業法などの両罰規定により、会社自体が違法行為の当事者として刑事責任の追及を受けることになる。捜査のメスが入る事態を招いた経営陣の責任は極めて重い。

 改ざん問題だけでなく、JR北海道では不祥事が相次いでいる。1月には、運転ミスを隠すために自動列車停止装置(ATS)を壊した社員が逮捕された。

 野島誠社長らは当面の続投を表明している。しかし、不祥事の再発を防ぐ有効な手立てを講じたとは言い難い。

 組織を立て直すには、JR他社など外部からの人材登用も含め、経営陣の刷新が必要である。

2014年2月13日木曜日

信認確立へ手腕試されるイエレンFRB

 米連邦準備理事会(FRB)のイエレン新議長が議会証言に臨んだ。バーナンキ前議長が着手した量的金融緩和の縮小を継続し、証券購入の規模を段階的に減らしていく方針を示した。

 足元の米国経済は着実に回復しており、量的緩和縮小の路線を継承するのは自然だ。だが世界の経済や市場に与える影響を最小限に抑えながら、米国の金融政策を正常化するのは容易ではない。

 イエレン議長は下院での証言で「米経済のけん引力はより高まった」と述べた。そのうえで「米連邦公開市場委員会(FOMC)は一定の割合で証券購入額を減らすだろう」と語った。

 昨年10~12月期の米実質成長率は前期比年率で3.2%となり、昨年7~9月期の4.1%に続いて高い水準を記録した。金融危機後の調整が進み、個人消費や設備投資が堅調に推移している。

 FRBは月850億ドルの証券購入額を1月から750億ドル、2月から650億ドルに減額した。米経済が変調をきたさない限り、一層の減額に動くのは妥当だ。

 リーマン・ショックの引き金は米国の住宅バブル崩壊だった。そのバブルの一因は金融緩和の長期化にあった。今の量的緩和を長引かせ、同じ過ちを繰り返すことは避けなければならない。

 一方、新興国ではマネーが流出し、通貨や株式が売られやすくなっている。その影響が先進国にも波及し、世界の経済や市場は不安定になりつつある。

 イエレン議長も「最近の国際金融市場の変動を注意深く見ている」と認めた。量的緩和縮小のペースを柔軟に調節し、政策運営の透明性を高めることで、不測の事態を回避しなければならない。

 証券購入の縮小から停止、保有資産の売却、ゼロ金利政策の解除に至るまでには長い時間がかかる。市場との対話に工夫を凝らし、過度の長期金利上昇を抑えるイエレン議長の手腕が試される。

 米国の金融政策が正常化に向かうことを前提に、主要国が成長基盤を固めておくことも重要だ。大幅な経常赤字を抱える新興国は、輸出競争力の強化や財政収支の改善に取り組む必要がある。

 日本も例外ではない。株価や円相場の変動に振り回されぬよう、成長戦略を強化しなければならない。安倍政権は関係者の抵抗が強い岩盤規制の緩和や法人実効税率の引き下げに踏み込むべきだ。

中台関係は突破口を開けるか

 中国と台湾は1949年の分断後初めて、中台政策を担当する閣僚級の会談を開き、両当局の間に直接対話の枠組みを設けることで合意した。中台はお互いを国として承認せず、民間の窓口機関を通して経済問題などを協議してきた。対話ルートができれば関係は新たな段階に入ることになる。

 中国政府で対台湾政策を担当する張志軍・国務院台湾事務弁公室主任と、台湾で対中政策を担当する王郁琦・行政院大陸委員会主任委員が11日、南京で会談した。

 1996年の台湾初の総統直接選挙に際し、中国が台湾の近海でミサイル演習を強行するなど、冷戦後も中台関係は東アジアの緊張の火種となってきた。

 それが緩和に転じたのは2008年に台湾で国民党の馬英九総統が就任してから。両当局が直接連絡できるようになれば、中台間の緊張緩和は大きく進展する。

 今秋に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて馬総統が訪中し、習近平国家主席と会談する案も浮上している。

 ただ、先行きには不透明感が強く、関係強化へ突破口を開けるかはまだ見えない。中国は統一に向けた協議に早く踏み込みたい考えだが、台湾では現状の維持を求める声が圧倒的に多いからだ。

 対話が軍事・安全保障の面にも広がるか、独立志向の強い台湾の最大野党・民主進歩党が対中政策をどう調整するか、16年の馬総統退任後にどんな政権が誕生するのか、などを注視していきたい。

 中台間の緊張緩和にともなって中国が台湾への軍事的な威嚇を抑制する一方、東シナ海と南シナ海で日本やフィリピンなどへの圧力を強めてきたことには、注意が必要だろう。

 中国が台湾への圧力を和らげると、周辺国への圧力を強化する余裕が生まれる。中台関係の改善は東アジアの安定につながると期待できるが、中国が強硬な対外姿勢を続けるようだとむしろ不安を誘いかねない微妙な一面もある。

診療報酬改定―主治医を選ぶためには

 病気の治療だけでなく、予防から介護サービスの使い方まで何でも相談できる。

 そうした「かかりつけ医」を誰もが持つ時代に向け、医療界が自己改革し、患者も意識を変える出発点にすべきだ。

 医療の公定価格である診療報酬の改定内容が決まった。40兆円近い医療費の配分を見直す2年に一度の改定で、医療の質に大きく影響する。

 目玉の一つが、「主治医」の普及を促す新料金だ。診察や検査などの報酬をひとまとめにして、生活習慣病や認知症の患者1人あたり月約1万5千円が医師側に支払われる。患者がかかる他の病院や処方薬をすべて把握するのが条件だ。

 今回、消費増税への対応として初診や再診の料金を一律に引き上げたのは疑問だが、患者の生活全体に目配りする主治医に厚く配分する方向性は正しい。

 診療所から動こうとせず、患者と目も合わさず、薬を処方するだけ。時間外は一切、対応しない。そんな開業医にまでお金は回せない。

 ただ新制度の定着には、個々の医師がバラバラにがんばっても限界がある。地域の医療機関同士で情報を共有する仕組みが必要になろう。

 参考になるのが、大阪市浪速区の医師会が4年前から取り組むネットワークづくりだ。

 かかりつけ医が、患者の病気や薬、アレルギー歴などを記入した「ブルーカード」と呼ばれる書類を作成し、緊急時に対応を依頼する地域の病院に送るとともに、地区の医師会がデータベース化している。

 登録した患者はのべ約700人。病気が悪化して救急車を呼んだ場合、登録先の病院がスムーズに受け入れる。そこでの状況は、医師会とかかりつけ医に報告される。

 入院患者が退院する際、医師会がかかりつけ医を紹介する事業も手がける。

 集めたデータを病気の予知に役立てることも視野に入れる。医師と患者の一対一の関係を超え、地域全体が有機的につながって安心を生むだろう。

 誰を自分の主治医にするか、選ぶのは患者だ。その際、医師の診療科以外でも相談に乗ってくれるか、適切な病院を紹介してくれるか、などが重要な判断基準になる。

 最初から大病院に行くのではなく、いざという時に地域の医療と介護のネットワークが頼れるよう、日頃から医師と信頼関係を結んでおく。そんな心構えが求められる。それは結果的に医療費の節約につながる。

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人手不足への対応は急務だ

 日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業、中堅、中小企業をあわせた全規模全産業の業況判断指数(DI)が26年ぶりの高水準になった。景気回復は6年目に入り、中小企業にも裾野が広がってきたが、先行きに懸念材料もある。深刻な人手不足だ。  従業員などの...

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