2014年4月30日水曜日

米のアジア重視 対中牽制に同盟諸国を生かせ

 「アジア重視」政策を掲げるオバマ米大統領が同盟国との結束を確認した意義は大きい。

 オバマ氏が、日本、韓国、マレーシア、フィリピンのアジア4か国への歴訪を終えた。

 一方的な現状変更を伴う中国の海洋進出や、北朝鮮の核開発に対し、断固たる姿勢を鮮明にして、アジア太平洋における米国の存在感を示したことは評価できる。

 今回の訪問で注目されるのは、南シナ海での領有権を巡り中国と対立するフィリピンにおける、米軍再駐留に道を開く軍事協定に、米比両国が調印したことだ。

 協定で、米軍はフィリピン軍基地の使用を認められる。常駐ではないが、部隊の巡回派遣や戦闘機、艦船の配備も可能となる。

 米軍はかつてフィリピンを戦略拠点としていたが、冷戦終結後、フィリピンに駐留延長を拒まれ、1992年までに撤収した。

 その後、フィリピンが領有権を主張する環礁に支配を拡大するなど、力の空白を埋めるように、南シナ海での勢力増強に乗り出してきたのが、中国だ。最近も、外国漁船に操業の許可申請を義務付けて、一段と緊張を高めている。

 協定は、南シナ海での米軍のプレゼンスを回復する契機となる。共同演習などで、米軍が各国軍と協調を強めれば、中国の活動を牽制(けんせい)する効果を持とう。オバマ氏が、協定で「地域の安定を促進する」と述べたのは、うなずける。

 オバマ氏は日米共同声明で、東シナ海の尖閣諸島が日米安保条約の適用対象だと確認した。米比協定によって、南シナ海でも中国の覇権主義的な行動は許さないとの意思を表明したことは重要だ。

 一方、オバマ氏は、韓国の朴槿恵大統領と、核開発を進める北朝鮮による「挑発を阻止する」ための協力強化で合意した。さらに、在韓米軍基地での演説では、「同盟国を守るためなら軍事力行使もためらわない」と断言した。

 具体的措置として、有事における米韓連合軍の指揮権限を米軍が当面維持することも認めた。北朝鮮抑止に、米国が今後も責任を持つ姿勢を示したのは、適切だ。

 朴大統領は中国への傾斜を強めているが、オバマ氏は韓国紙への書面回答で、「米国との同盟が韓国の安全と繁栄の基盤だ」と述べた。日米韓の連携を重視するよう韓国にくぎを刺したと言える。

 アジア太平洋の緊張は今後も継続するだろう。米国と同盟国が協力して、具体的な行動を積み重ねていくことが求められる。

政府系マネーに頼りすぎていないか

 民間マネーの活気のなさの裏返しだろうか。最近の日本経済を見渡すと、政府系の金融機関や官製ファンドの存在感がかつてなく高まっている。

 政府が100%出資する日本政策投資銀行は、富士通とパナソニックが共同で設立する半導体の設計・開発会社に40%出資する方針で、半導体再編において主導的な役割を果たし始めた。

 正式決定はまだだが、原子力発電所の稼働停止で経営難に直面する北海道電力や九州電力への投資も、政投銀は検討している。

 安倍政権下で相次いで発足した官製ファンドの動きも活発だ。経済産業省系のクールジャパン機構は投資案件の第1弾として、エイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)が中国に開く商業施設への出資などを検討する。

 官製ファンドの中では2009年設立の老舗で2兆円規模の投資枠を持つ産業革新機構は、王子ホールディングスと共同でニュージーランドの紙パルプ会社の買収を決めた。機構は323億円を上限に出資し、取締役も送り込む。

 それぞれの案件にそれなりの理由や意義があるのは確かだ。たとえば、電力会社の経営基盤が揺らぎ「経済の血流」ともいわれる電力の安定供給に不安が生じると、地域経済全体が大きく混乱するかもしれない。

 あるいは、民間資金がリスクを取ることに尻込みする中で政府系マネーが呼び水になって業界再編や海外展開の流れを促すのなら、日本経済にとってプラスの効果が期待できるだろう。

 ただ、公的マネーにつきまとう負の側面を忘れてはならない。

 まず、技術や事業の将来性を見抜く眼力を官製の組織が備えているのか、という疑問がある。政治的な要請やその他の理由で利益の追求という投資の基本がおろそかになれば、公的資金の無駄遣いに終わる懸念がある。

 本来なら淘汰されるべき企業が公的資金で延命すると産業構造の転換が足踏みする。「経営に失敗しても政府が助けてくれる」と経営者が考えるようになれば深刻なモラルハザードが生じる。

 競争市場で政府が一方のプレーヤーに肩入れすると公正な競争が損なわれるおそれもある。

 公的マネーに一定の役割はあるにしても、やりすぎは弊害が大きい。そのことを関係者は肝に銘じてほしい。

歳費削減の原点に立ち返れ

 国会議員の給与である歳費の2割削減が4月で終わり、5月から満額が支払われる。年俸換算で約2100万円だ。なぜカットされていたのかという原点に立ち返れば、丸ごと元に戻すという判断になるはずがない。

 「新人議員は財政的に極めて厳しい」。自民党の石破茂幹事長は歳費削減を継続すべきではないと訴えてきた。地盤がまだ弱い衆院の当選1回議員の約6割が自民党に所属する。台所事情が苦しいのは事実だ。

 石破幹事長は歳費の適正額がいくらかを与野党で検討すべきだとも提唱する。そうした議論はどんどんすべきだ。

 質の高い国会議員を確保するにはそれなりの報酬は必要だし、手弁当で働け、などというのは暴論だ。この機会に逆に3割削減に踏み込めという日本維新の会の主張にはポピュリズムを感じる。

 ただ、議論に際しては2割削減に至った理由を思い出してもらいたい。2011年に東日本大震災が起きて復興財源を捻出する必要が生じた。国会議員の歳費は12.88%、国家公務員給与は平均7.8%を削減し、国民には復興特別法人税などを課した。

 今春、公務員給与は元に戻し、復興特別法人税も廃止した。歳費の12.88%削減も終わりにするのは自然だろう。

 他方、残り7.12%はどうか。12年の衆院選に先立って「消費増税を国民にお願いするからには国会議員も身を切るべきだ」として、自民、公明、民主3党が議員定数削減で合意した。その際、選挙制度改革には時間がかかるので代替措置として削減幅を増した。

 増税からわずか1カ月で旧に復するのはおかしくないか。

 自公両党が政権復帰時に作成した政権合意にも「国会議員にかかる経費を縮減する」とある。これをほごにするのは国民への違約と受け止められても仕方がない。「7.12%削減だけは復活しては」との声も公明党にはある。自民党も耳を貸すべきだ。

年金の未来(中)―「生活習慣病」から脱する

 年金を受け取っている方々は「とんでもない」と思うかもしれない。だが、いまの年金の水準は本来の姿よりも高くなっている。

 前回(21日付)の社説で紹介した通り、少子高齢化にあわせて年金水準を抑える仕組み(マクロ経済スライド)は、賃金や物価の下落時には適用しない決まりだからだ。その分、将来世代の年金を下げざるをえない圧力がかかっている。

 人の体にたとえれば、生活習慣病の状態である。手をこまねいていれば、いずれ致命傷になりかねない。

■将来世代に影響

 年金制度は5年に1度、「財政検証」という健康診断を受ける。年金水準はその重要なチェック項目で、「所得代替率」で診る。受け取る年金が現役世代の手取り収入に対し、どのくらいの割合かという数値だ。

 今の制度は、サラリーマンと専業主婦の世帯が年金を受け取り始める時点で「所得代替率50%」を下限としている。何かと物入りな現役世代の半分くらいの収入で生活してもらうというイメージだ。

 日本では老後の平均所得の7割弱は公的年金で、年金しか収入のない人も6割いる。老後の生活を支える水準を確保しないと、社会が成り立たない。

 それを、代替率50%に設定したわけだ。このラインを下回ると、年金を増やす検討に入ることがルール化されている。

 一方、代替率が高すぎるのもまずい。今の年金受給者には良くても、年金のお金の入りと出を調整する積立金を多く取り崩したりしなければならず、将来世代が受け取る年金が減ってしまうからだ。

■国民に「痛み」迫れず

 04年の年金改革の時点で、代替率は59・3%。これを5年で57・5%に引き下げる予定だった。ところが、09年の健康診断では逆に62・3%へと上がってしまった。

 一番の原因は、前述したように、現役世代の収入が下がったのに、それに見合って年金を下げられなかったことにある。

 年金は高齢者を社会全体で扶養する「国民仕送りクラブ」のようなものだ。支える側の現役世代の暮らしぶりと、年金という仕送りでの生活とのバランスが崩れれば長続きしない。

 国はこの問題の是正に手を付けないできた。

 いずれデフレが解消され、マクロ経済スライドも機能し始めるという立場だったが、内実は「将来世代のために今の年金を削る」というつらい措置について、国民を説得する気構えも体力もなかったといえる。

 体力を奪ったのは、04年以降に相次いだ旧社会保険庁の不祥事だ。年金記録ののぞき見や「宙に浮いた年金」など、ずさんな運営が露呈するなか、厳しい見通しを示して痛みを迫れば不信感を増幅する。そう恐れたのかもしれない。

 「抜本改革」を求める声が強まった背景には、こうした年金不信の高まりがある。その流れを振り返ってみよう。

 厚生労働省は09年5月、野党だった民主党の求めに応じ、賃金や物価などの経済前提を「過去10年の平均」にした場合、年金の先行きはどうなるかという試算を公表する。

 結果は衝撃的だった。マクロ経済スライドが機能しないために、所得代替率が72%まで上がり、2031年に積立金が枯渇するというものだった。

 もっとも、試算の前提となった「過去10年」は、長期の景気拡大時を含んでいたとはいえ、平均すれば実質経済成長率も賃金・物価もマイナスだった時期だ。これがずっと続けば、年金どころか日本の経済や社会自体が立ちゆかない。

■政権交代からの教訓

 民主党は「破綻(はたん)しかけている年金を抜本改革する」と主張。最低保障年金の創設を掲げ、国民全員に月7万円以上の年金を約束して政権の座についた。大胆な外科手術の提案である。

 しかし、与党としての3年3カ月、民主党案は実現の兆しすら見えなかった。制度変更に伴う国民の負担が重くなりすぎるからだ。結局は自民、公明の両党と話し合い、漸進的な修正に立ち戻るしかなかった。

 生活習慣病には、食事制限と運動を地道に積み重ねるしかない。経済全体の体力を回復させつつ、将来世代も考えて妥当な給付水準を設定する。それが年金をめぐって、政権交代から得た貴重な教訓だろう。

 安倍政権のもと賃金や物価は上昇基調に転じ、マクロ経済スライドの発動開始も視野に入ってきている。

 ただ、長期にわたり年金額を抑制していく措置には相当な反発があるはずだ。将来世代への責任を果たすため、政治には強い覚悟が求められる。

    ◆

 来月上旬の最終回では、公的年金の足腰を強くする具体策について検討する。

「小1の壁」 解消へ学童保育拡充が急務だ

 子供が小学校に入ると預け先がなくなり、親が仕事を辞めざるを得なくなる。「小1の壁」への対策が急務である。

 共働き世帯の小学生などを放課後に預かる学童保育の整備が遅れている。それが、親の就労継続の壁となっている。

 学童保育では、子供たちが宿題をしたり、おやつを食べたりして過ごすのを、指導員が見守る。「放課後児童クラブ」とも呼ばれ、児童福祉法に定められている。全国に2万1500か所あり、公設が8割を占める。

 子供の遊び場が減ったこともあり、設置数、利用児童数とも急増してきた。現在、1~3年生を中心に89万人が利用している。

 だが、都市部を中心に開設が追いついていない。政府は今年度末までに受け入れ数を111万人に増やす目標を掲げてきたが、現状は遠く及ばない。

 希望しても利用できない待機児童は、把握されているだけで8700人に上る。潜在的には数十万人に達するとの指摘もある。

 開所時間の延長も必要だ。午後6時前後に閉まってしまう施設も多く、フルタイムで働く親の事情に合っていない。就学前は子供を保育所に預けて働いてきた親が、退職やパートへの転換を余儀なくされるケースが目立つ。

 安倍首相が、保育所の拡充に加え、「『小1の壁』を乗り越えなくてはならない」と具体策の検討を指示したのは、もっともだ。

 学童保育の整備促進には、学校の空き教室などの活用が欠かせない。設置費用が安く済み、子供の安全面でも望ましい。

 しかし、開設に消極的な学校は少なくない。万一、事故が起きた際に、学校の責任が問われかねないためだろう。

 学童保育を所管する厚生労働省と、文部科学省が連携し、校内に設置する場合のルールを明確化することなどが求められる。

 学童保育の「質の改善」も課題だ。厚労省は指針で適正規模を40人程度としているが、それを大幅に上回る施設がある。過密状態では、子供が伸び伸びと過ごせない。指導員の目も行き届かず、トラブルが起きやすい。

 政府は、2015年度に始まる「子ども・子育て支援新制度」の対象事業に学童保育を組み込み、地域のニーズに応じた整備を市町村に義務づけた。職員配置などの基準も設ける。

 「小1の壁」を解消するためには、政府と市町村が一体となって取り組むことが重要だ。

2014年4月29日火曜日

認知症高齢者を支える仕組みづくり急げ

 急増する認知症の人たちをどう見守っていけばいいのか。認知症をめぐる厳しい現状や課題を、浮き彫りにする判決があった。

 2007年に愛知県内で、当時91歳の認知症の男性が徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した。男性の家族にJR東海が損害賠償を求めた裁判の控訴審判決で、名古屋高裁は妻に約360万円の支払いを命じた。

 妻には男性を監督する義務があったのに十分に果たさなかった、という判断である。当時85歳だった妻は自宅で男性を介護していたが、目を離したわずかなすきに夫が自宅を出て、事故が起きた。

 夫を突然亡くしたうえに、事故の責任まで問われる。高裁の判断は賠償額を一審の判決より半減させたものだが、割り切れない思いを抱く人は少なくないだろう。

 警察庁によると、12年に認知症が原因で行方不明になったと届け出があったのは9607人に上る。死亡して見つかった人は359人もいる。私たちだれもが、こうした事態に直面する可能性があるといっていい。社会全体で支える仕組みづくりが急務だ。

 行政の責任は重い。政府は、認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる体制の整備を目指している。そのために医療や介護などのサービスを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」をつくるという。各自治体が工夫を凝らし、このシステムを迅速にしっかりとつくってほしい。

 ただし、介護保険や行政サービスばかりに頼っていては国民の税・保険料の負担が重くなるばかりだ。行政が調整役となって、NPOや地域住民のボランティアの力を引き出し、見守りなどを充実させていくことも欠かせない。

 地域の医療機関も積極的に認知症対策にかかわるべきだ。かかりつけ医が研修で認知症の知識を身に付け、患者の認知症の兆候を早く発見できれば、早期に適切な対応ができて、症状の進行抑制や緩和が期待できる。

 名古屋高裁の判決は、鉄道会社に対しても注文をつけた。利用客への目配りや駅ホーム先端の扉の施錠によって事故を防ぐことができた可能性に触れ、一層の安全向上に努めるよう求めている。

 認知症の高齢者は25年には約470万人に増えると推計されている。悲劇を繰り返さないよう、地域の力を結集して認知症の人とその家族を支えたい。

米比合意を地域安定の一歩に

 22年前にフィリピンを去った米軍が再び、戻ってくることになった。中国による海洋での強気な行動に直面するアジア太平洋にとって、朗報といえる。

 米国とフィリピンは、新しい軍事協定に署名した。米軍はフィリピン軍の基地を利用できるほか、物資補給のための施設を建てたり、航空機や艦船を派遣したりできるようになる。

 米軍はいま、南シナ海の要衝にこのような拠点はもっていない。今回の協定は「常駐」ではないが、事実上、米軍がフィリピンに再駐留するのを認めるものだ。東南アジアだけでなく、東シナ海の安定にも役立つ合意である。

 そもそも、アジアの海で緊張が高まるきっかけになったのが、米軍による1992年のフィリピン撤退だった。米軍がいなくなると、その「力の空白」を埋めるように中国が南シナ海への進出を加速した。

 その結果、南沙諸島などの領有権をめぐるフィリピンやベトナムとの対立が深まり、南シナ海の緊張が高まるようになった。米国とフィリピンが新協定を結んだのは、米軍を南シナ海に戻し、中国との力関係を改めるためだ。

 ただ、これはアジア太平洋の安定に向けた一歩にすぎない。オバマ大統領は日本や韓国、マレーシア、フィリピンへの訪問を通じ、この地域への関与をさらに深める決意を示した。次に求められるのは言葉ではなく、今回の新協定のような目に見える行動だ。

 オバマ政権は中国をにらみ、約2年前からオーストラリアで米軍の駐留を始めた。同様に、ベトナムやインドネシアとの軍事交流も強めようとしている。こうした動きを域内の安定につなげたい。

 米国のアジア関与をかけ声倒れに終わらせないよう、日本にもできることがある。情報収集などの得意分野で、米軍の活動を肩代わりすることも、そのひとつだ。東南アジア各国の港湾整備などを支援し、米軍の大型艦船が利用しやすくすることも一案だろう。

ダンスの自由―法律でしばれるのか

 営業として客がダンスを踊れるようにしているなら、規制の対象とする。こんな時代遅れを残す現在の風俗営業法は、抜本的に見直した方がいい。

 警察は近年、公安委員会の許可を得ずに客を踊らせていたクラブを次々に摘発してきた。騒音や暴力などで近隣からの苦情が続出したことが背景にある。

 だが大阪地裁は、無許可営業していたとして、風営法違反の罪に問われた大阪のクラブの元経営者に無罪を言い渡した。

 判決は、風営法の規制目的は性風俗にかかわる問題の防止にあり、騒音や暴力、薬物への懸念ではない、と明示した。風営法をたてにクラブに幅広い網をかけようとした捜査のあり方は反省を迫られる。

 1948年に制定された風営法がダンスを規制の指標にしたのは、戦前のダンスホールが売春の温床にもなった時代背景があったとされる。

 裁判で検察側は「男女の享楽的な雰囲気を過度にかもし出す」かどうかが、違法と判断する基準だ、と主張した。

 ただこの裁判のケースでは、男女の客は触れ合ってもいなかったのに、大阪府警は摘発に踏み切った。結局のところ、違法の線引きは捜査側の裁量に委ねられ、あまりに判断基準があいまい過ぎる。

 「どんな行為が犯罪かは明確でなければならない」という罪刑法定主義の考えにはとてもそぐわない。

 ダンスは身体の動きが表現の手段である。言うまでもなく、憲法が保障した表現の自由を最大限に享受すべきである。判決は風営法の規制自体は合憲としたが、自由への制約は、できる限り小さくすべきであろう。

 ヒップホップ、レゲエ、サルサ……。世界各地のさまざまなダンスを若者が楽しむ。男女が触れ合うペアダンスも、高齢者に人気を集める時代だ。ダンスを、風俗を乱す指標とみる考え方に、もはや合理性はない。

 一連の摘発をきっかけに、文化人らの呼びかけで風営法改正を求める運動が高まった。超党派の国会議員連盟も今国会に改正案を出す構えだ。判決を機に、議論を加速させたい。

 むろん、自由に踊れる環境をつくるには、周囲の理解が欠かせない。この点への気配りをおろそかにしたクラブもあったことが、近隣住民が不安を強めた要因である。

 暴力や薬物などの犯罪の排除に進んで乗り出す。業界は自由を享受する一方で、自主、自律で努力を重ね、信頼を広げていく責任もある。

休眠口座活用―社会的事業の支援に

 銀行などにある休眠口座の資金をNPOや社会的事業の支援に活用しようと、超党派による議員連盟が発足した。

 早ければ今国会での議員立法を目指すという。

 民主党政権のときに一度、検討されたが、政権交代で中断していた。国会主導による復活は歓迎だ。ぜひ実現にこぎつけてもらいたい。

 休眠口座は、10年以上お金の出し入れがなく、本人の所在が確認できない預金のことだ。年間約850億円規模で発生しており、いまは便宜上、金融機関の収益になっている。

 払い戻し請求があれば応じるのが原則だが、口座の9割以上は1万円以下で、請求がない預金が金額ベースで6割にのぼっている。

 これを、社会の課題解決に取り組むNPOや企業の資金確保に役立てようというのが、今回の取り組みだ。

 先行する英国の事例などを参考に、関係者の間ではおおまかな仕組みについて、めどが立った。新たにつくる独立機関に一元的に運用管理を任せ、そこから実際の事業先に資金を配分する。具体的な制度設計が今後の焦点だ。

 不特定の預金者から提供されるお金である。行政による補助金や民間金融といった既存の資金では十分に対応しきれていない分野や事業にあててこそ、納得も得られよう。

 社会的事業は採算性も、成果が出るまでに要する時間も、さまざまだ。お金の出し方も、助成や融資、出資などの手法を柔軟に組み合わせる。

 出しっぱなしにせず、必要に応じてNPOなどの運営も支援しながら成果を出す仕組みにしていくことが求められる。

 運用管理機関は、できるだけ政府の関与をはずし、一定の実績がある財団など、民間の人材を中心に構成すべきだろう。地域金融機関などとの連携も模索してはどうか。

 別途、第三者委員会を設け、資金の偏在がないか▽運営・指導が適正か▽支援先の事業が成果をあげたか、などをチェックし、透明性を確保することも不可欠だ。「成果」をどんな指標ではかるかも課題である。

 教育、福祉、雇用創出――地域や社会が抱える問題は、もはや行政だけで対処しきれない。

 自分たちのお金を、自分たちで有効に回しながら自律的な共助・協業の循環の輪を大きくしていく。そんな社会づくりは着実に進んできている。

 「次の一手」を、ぜひ繰り出したい。

大学改革法案 迅速な意思決定が求められる

 大学改革を迅速に進めるため、政府が、学長のリーダーシップの強化を柱とする学校教育法と国立大学法人法の改正案を国会に提出した。今国会での成立を目指している。

 日本の大学は、国公私立にかかわらず、意思決定に時間がかかり、柔軟で機動的な運営ができていないとの批判が多い。

 時代の変化に対応するため、大学はガバナンス(組織統治)の在り方を改善し、人材育成や研究活動の充実を図ることが重要だ。

 改正案のポイントは、教授会の権限の見直しだ。

 現行の学校教育法は、教授会について「重要な事項を審議する」と定めている。教授会の権限が大学運営全般に及ぶと解釈され、教授会が事実上の意思決定機関となっている大学も少なくない。

 学長が思い切った改革を進めようとしても、教授会の反対で実現できない弊害が出ている。

 改正案は、教授会の役割を、学長が決定を行う際に意見を述べることに限定した。大学運営の決定権が学長にあると、法律上、明確にし、トップ主導の改革を促しているのは妥当と言える。

 学長が人事や予算の権限を適切に行使し、優秀な研究者を積極的に採用すれば、大学の国際競争力を高めることにもつながろう。

 私立大では、経営母体である学校法人の理事長と、大学の学長が別々のケースもある。そうした大学では、円滑な意思決定を可能にしていくことが大切だ。

 国立大学法人法改正案で注目されるのは、学長の選考過程を透明化する規定を加えた点だ。

 現行法は、学内外の委員で構成する学長選考会議を設け、学長を選ぶと定めている。ところが、実際には、学内の教職員で事前に意向投票を行い、その結果を選考に反映させている大学が多い。

 学内の多数派工作がトップ人事を左右するようでは、能力を備えた人物が選出されるか疑問だ。

 2004年に法人化された国立大の学長には、経営手腕も求められる。こうした能力も評価できる選考法にしなければならない。

 改正案が、学長選考の基準を策定し、選考結果とともに公表するよう求めたのは理解できる。

 ただ、一連の法改正が実現すれば、学長に権限が集中する。学長が適正さを欠く大学運営を行った場合、任期途中で交代させるのは容易ではなかろう。

 学長の暴走を防ぐ仕組みを、どのように整えるのか。国会で議論を深めてもらいたい。

熱狂の日音楽祭 クラシックの裾野を広げたい

 クラシック音楽の名作を気軽に楽しめる催しとして、定着してきたことは喜ばしい。

 「ラ・フォル・ジュルネ『熱狂の日』音楽祭」が始まった。

 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールでは29日まで、「ウィーンとプラハ」をテーマに演奏会が開かれ、ファンで賑(にぎ)わっている。

 東京都心のオフィス街でも、連休中の5月3日から、「祝祭の日」をテーマに数多くのコンサートが開かれる。

 東京開催は今年で10年目だ。これまでに延べ577万人が来場し、「アジア最大のクラシックの祭典」と称されるようになった。クラシックファンの裾野拡大に大きく貢献していると言えよう。

 「ラ・フォル・ジュルネ」の特色は、従来のクラシック音楽の鑑賞のあり方を変えたことだ。

 演奏時間45分、2000円前後の低料金の演奏会が、終日催される。野外での無料コンサートも開かれる。小さな子供と一緒に聴ける「0歳からのコンサート」といった企画もある。

 「ラ・フォル・ジュルネ」の発祥の地は、フランスの港町ナントだ。大規模なロック・コンサートをヒントに、1995年、クラシックの祭典として始まった。

 その日本版が多くの人々に受け入れられたことは、興行面で頭打ちが続くクラシック音楽界内部でも注目を集めている。

 東京だけでなく、地方の会場の人気も上々だ。今年は、既に日程を終えた新潟のほか、大津、金沢が開催地だ。今後、さらに各地に広がることを期待したい。

 ただ、各会場の運営資金は、決して潤沢とは言えない。自治体や地元企業の出資に頼っているのが現状だ。東京会場では、5億6000万円の事業費の半分は、東京都の補助金や企業の協賛金などで賄われている。

 佐賀県鳥栖市では、九州新幹線開業を機に11年から開催したが、今年は財政上の理由で断念した。残念な事態である。

 文化活動を根付かせるには一定の費用がかかる。「ラ・フォル・ジュルネ」の場合も、音楽による地域の活性化という趣旨を広く理解してもらうことが大切だ。

 仙台市では、「ラ・フォル・ジュルネ」とよく似たスタイルの音楽祭を毎年秋に開催している。「音楽とともに、前へ仙台」をキャッチフレーズに、東日本大震災からの復興を後押ししている。

 官民が連携し、音楽を通した心豊かな文化を育てていきたい。

2014年4月28日月曜日

中小企業が自ら成長する環境づくり急げ

 全国で385万社ある中小企業は地域の経済を支える存在だ。従業員数は雇用者全体の約7割を占める。消費が増え、景気が本格的な回復軌道に乗るかどうかは、中小企業の経営状況によるところが大きい。

 このため中小企業が成長力を高め、利益を増やしていくことはより重要になっている。政策面からも支援する必要がある。

 ただし、中小企業にとって過保護にならないようにしなくてはならない。自らの力で競争力を高める経営に変わらなければ、企業の持続的な成長は望めないからだ。

 政府は販路開拓費の3分の2を、50万円を上限に補助する制度を設けた。従業員数が製造業で20人以下、小売りやサービス業などでは5人以下の小規模事業者が対象だ。試作品の開発などに取り組む中小企業に、原則1千万円を上限に補助する制度もある。

 これらについて手厚すぎると一概にいえるわけではない。安定的に商品を納入できる取引先を見つけたり、新しい製品やサービスの創造につなげたりする例はあるだろう。だがこうした助成策が国に頼る気持ちを生む恐れは残る。

 重要なのは、中小企業が自ら成長するのを支える環境づくりだ。中小企業の資金繰りを助ける金融円滑化法は昨年3月末で撤廃された。企業は成長力を失った事業をやめ、伸びる事業を育てて自力で経営を再生させる必要がある。

 経済産業省によれば2000年から10年までに新規事業を始めた中小製造業は2割に満たない。競争を促進するなかで、新事業に積極的に挑戦する中小企業を増やしていく必要がある。

 その意味で大事なのは規制改革だ。成長性の高い農業や医療関連分野などで企業の参入を阻んでいる規制の緩和や撤廃が急務だ。

 ベンチャー企業が次々に生まれることが産業の新陳代謝を促す。だが14年版中小企業白書によれば、起業を希望する人は12年に84万人で1997年の167万人から半減している。

 創業した会社が立ち行かなくなったときのリスクを嫌う傾向が強い。生活に困らないよう、中途入社でも就職しやすい社会にしていくことが求められる。柔軟な労働市場の整備が欠かせない。学校教育でも生徒に起業に関心を持たせる工夫をするなど、起業が当たり前になる環境を多面的につくっていきたい。

安倍政権を信任した衆院補選

 消費増税後の初めての国政選挙である衆院鹿児島2区の補欠選挙で自民公認、公明推薦候補が勝利した。安倍政権の経済政策が信任されたとみてよい。これを追い風にして、規制緩和などの成長戦略を推し進めてほしい。

 補選は、徳洲会グループを巡る公職選挙法違反事件で親族らが逮捕・起訴された自民党の徳田毅衆院議員の辞職に伴い実施された。選挙戦で民主党など主要野党が推した無所属候補は「政治とカネ」を争点に据えて政権批判に力を入れた。

 しかし、選挙民の関心はむしろアベノミクスの先行きにあった。安倍晋三首相が現職首相として初めて離島の奄美大島を訪れて「景気の温かい風が全国津々浦々に吹くことは間違いない」と説いて回ったことも好感された。

 農業県でもあり、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)を締結すると畜産業が先細りになると懸念する有権者は少なくない。オバマ米大統領の来日時にTPPの日米直接交渉が合意に至らなかったことで、自民党は戦いやすかったようだ。

 安倍政権は歴代内閣でも高い支持率を維持している。補選勝利が加わり、政策を実現しやすい環境が一段と整った。これをさらなる景気浮揚にいかさない手はない。

 民主党は2012年の衆院選では公認だった候補を無所属で出馬させ、日本維新の会などから推薦を得た。とはいえ、党首そろい踏みでの応援などはなく、共闘効果はみられなかった。1強多弱とされる現在の政治状況を変えるきっかけにできなかった。

 脱原発を掲げる候補も出馬し、同県にある九州電力川内原発の再稼働反対を訴えた。だが、選挙区が違うこともあり、2月の東京都知事選と同じく大きなうねりにはならなかった。

 奄美諸島が独立した選挙区だった時代を含め、過去30年以上も選挙戦の主役だった徳洲会はほぼ沈黙していた。金権選挙区批判もこれで下火になろう。

残業と賃金―成果主義を言う前に

 何時間働いたかではなく、どんな成果をあげたかで賃金が決まる。それ自体は、合理的な考え方だ。

 だが、過大な成果を求められれば、長時間労働を余儀なくされ、命や健康がむしばまれかねない。その危機感が薄いのが心配だ。

 政府の産業競争力会議で、民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事が新しい労働時間制度の創設を提案した。

 賃金を労働時間と関係なく成果で払うようにすれば、労働者が働く時間や場所を選べ、創造性を発揮できる弾力的な働き方が可能になるという主張だ。

 日本では原則1日8時間・週40時間労働で、残業や休日・深夜労働には割増賃金を払う必要がある。ただ、上級管理職や研究者などで例外がある。

 提案は、この例外を大きく広げる。国が目安を示して「労働時間を自分の裁量で管理できない人」を除けば、労使の合意で誰でも対象にできる。

 最大の懸念は労働時間の上限規制があいまいなことだ。国が基準を示しつつ、労使合意に委ねるというが、雇い主と働く側との力関係を考えると、有効な歯止めにはならないだろう。

 今も労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になる実態がある。しかも、サービス残業が労働者1人あたり年間300時間前後にのぼるとの推計もある。残業代さえ払われない長時間労働を根絶するのが最優先課題である。

 その点、長谷川氏が前提として挙げる「職務内容の明確化」は重要な視点だ。労働者が過重な仕事を割り当てられる状況を改めるには、「どのくらいの時間が必要か」を含め、仕事の質と量を労使で調整する作業が必要になる。これは、新しい制度の導入の有無に関係なく取り組むべき事柄だ。

 長谷川氏の提案は、長時間は働けない子育て・親介護世代や女性、高齢者の活用を期待してのことだという。だが、短い時間で高い成果を上げる人を活用し、高い給料を払うことに何ら規制はない。経営者の取り組みに大いに期待したい。

 成果ベースの賃金制度は、政府の規制改革会議も提案している。こちらは「労働時間の量的上限規制」や「休日取得に向けた強制的な取り組み」とセットであることを強調している。

 働き方を柔軟にすることは望ましい。しかし、理念を追求するだけでは、逆に労働環境を悪化させかねない。どんな場合でも、労働者の命と健康を守るための「岩盤規制」は必要だ。

原発ゼロの夏―内向きの経営脱する時

 原発なしでは電気が足りず、電気代も上がる――電力会社はもう、そんな不安を前面に出す姿勢を改めるべきではないか。

 この夏の原発再稼働が見通せぬ中、電力各社は「原発ゼロの夏」を乗り切る計画を示した。実現すれば、震災後初のこととなる。

 とはいえ、もともと原発に過大な依存をしていた関西電力では、真夏のピーク時の余裕は3%しかない。節電の手を緩めてはならないが、つい2年前「原発ゼロなら計画停電もある」「企業活動や医療現場に影響が出かねない」と大飯原発を再稼働したときのことを思えば、世の変化に目を見張る思いだ。

 原動力は、予想を上回る節電の定着である。

 あの夏、大飯原発に頼った関電管内では予想の3倍を超える節電を達成。原発ゼロでも乗り切れた計算となった。昨年は歴史的猛暑だったのに、節電の定着ぶりは変わらなかった。

 こうした実績から、関電は今夏、原発2・5基分の節電を見込むことができた。原発事故を真摯(しんし)に受け止めたユーザーの努力が「節電発電所」の建設につながったといえる。

 電力会社の努力はどうか。

 安定供給には原発しかないと説き続け、リスクが明らかに高い人口密集地付近の原発でも再稼働を申請する。一方で、余った電力を地域を越えて融通しあう仕組みはなかなか整わない。関電は今夏初めて、東京電力から融通を受けて電力不足を乗り切る計画だが、周波数の違う東西での融通能力は震災時から2割増えただけだ。

 燃費がかさむ古い火力に頼り、「いつ故障とも知れない」「電気代が上がる」という説明も続く。最新鋭の高効率の火力発電所建設の動きが出始めたのは、ごく最近のことだ。

 電力市場の自由化を進める法案が、国会で審議中だ。家庭も含めて自由に電力会社を選べる時代へと移っていく。すでに自由化された自治体などの大口利用者は、電気代の安い新電力に乗り換え始めた。発想を切り替えねば、大手電力会社自身が生き残れまい。

 節電する人びとが求めるのは、安全に安定して、できるだけ安く電気を使えるシステムをつくっていくことだろう。再生可能エネルギーを拡大し、限られた電気を融通し合える仕組みを早く根付かせたい。

 福島での事故で巨大なリスクが潜むことが明らかになった以上、巨額の投資をしたから原発を動かしたいという経営の論理はあまりに内向きに見える。

鹿児島2区補選 安倍政権の政策遂行に追い風

 安倍政権になお期待するということだろう。これに慢心することなく、懸案となっている課題を推進してもらいたい。

 衆院鹿児島2区補欠選挙は、自民党公認で公明党に推薦された金子万寿夫氏が、野党4党が推薦した無所属の打越明司氏らを破って当選した。

 補選は、医療グループ「徳洲会」の公職選挙法違反事件に絡み、自民党を離党した徳田毅前衆院議員が辞職したために行われた。消費税率が8%に引き上げられて初の国政選挙であることからも、有権者の判断が注目された。

 金子氏の勝因としては、自民党が、安倍政権の信任を得る「中間選挙」と位置づけて石破幹事長ら党幹部を送り込み、総力戦を展開したことが大きいのだろう。

 安倍首相は遊説で、経済政策「アベノミクス」の成果を強調するとともに、消費増税の理由について「伸びていく社会保障費に対応し、子育て支援も充実していく必要がある」と訴えた。

 経済政策に対する期待感で、補選の原因となった「政治とカネ」の問題が、選挙戦には大きな影響を及ぼさなかったと言える。

 農業が盛んな選挙区であり、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の日米協議で、農産物の「重要5項目」の関税の扱いについて明確になっていないことも、金子氏には幸いしたと見られる。

 政府・与党は、アベノミクスや消費増税に一定の理解が得られたと受け止めている。

 ただし、増税による景気への影響にはなお注意が必要だ。安倍政権は、予算の早期執行に努め、民間活力を引き出す成長戦略の具体化に力を入れねばならない。

 一方、民主党が主導した野党共闘は、実を結ばなかった。

 打越氏は、民主党、日本維新の会、結いの党、生活の党の推薦を受けた。自民党の「金権政治」を批判して、野党勢力の結集を図るという狙いは理解できる。

 だが、支持が広がらなかったのは、肝心の政策の主張があいまいだったからではないか。

 首相が主導する集団的自衛権の行使を巡る憲法解釈見直し問題について、民主党は反対だが、維新の会は容認する立場だ。

 九州電力川内原子力発電所の再稼働の是非に関しても、選挙の争点にはならなかった。

 民主党の海江田代表は「安倍政権にブレーキをかける選挙」と訴えたが、これも具体性を欠いた。来春の統一地方選に向けて、野党共闘のあり方が問われよう。

ダンス営業規制 実態に即した法改正が必要だ

 風俗営業法でダンス教室まで規制するのは、的外れと言われても仕方あるまい。実態に即した法改正が必要である。

 若者らがダンスを楽しむ「クラブ」を無許可営業したとして、風営法違反に問われた元経営者に、大阪地裁が無罪を言い渡した。「風営法が規制する享楽的なダンスをさせたとは言えない」との判断からだ。

 一方、弁護側の「風営法は営業の自由を侵害しており、憲法違反だ」という主張に対して、判決は「規制は公共の利益のために必要で、合憲」と結論づけた。

 性風俗の乱れを取り締まる合理性は認めながら、クラブなどの個別の状況に応じて事実認定したのは、適切と言えよう。

 風営法の規定で時代にそぐわないのは、ダンスに関するあらゆる営業を「風俗営業」と位置づけ、一律に規制している点だ。

 風営法にダンスの営業規制が盛り込まれたのは、戦後間もない1948年の制定時に遡る。当時、ダンスホールが売春の温床となっていたことが背景にある。

 客に飲食を提供しないダンスホールやダンス教室を含め、営業には、原則として公安委員会の許可が必要だ。住宅地や学校、病院などの近くでは開業できない。営業時間は原則午前0時までで、18歳未満の立ち入りは禁止される。

 ダンスをスポーツや芸術活動として楽しむ人が増えている。高齢者を中心に社交ダンスも流行している。こうした現状を考えれば、ダンスホールやダンス教室への規制は撤廃すべきではないか。

 その一方、クラブに対しては、一定の規制を残すべきだろう。大音響で音楽を流すため、騒音や振動の苦情が多い。薬物売買や暴力事件なども発生している。

 超党派の国会議員約60人で作る「ダンス文化推進議員連盟」は、風営法改正案を今国会に提出することを目指している。

 ダンスホール、ダンス教室の規制は撤廃し、クラブについては、立地規制を維持しつつ、許可を受ければ営業時間を延長できるとする案が有力とされている。

 営業の終了時間が早いと客が集まらないとして、あえて無許可営業を続けているクラブは少なくない。改正案は、現実的な対策として検討に値するのではないか。

 政府の規制改革会議の部会では、2020年の東京五輪を前に、クラブを観光資源として活用すべきだといった意見も出た。

 重要なのは、ダンスを健全に楽しむための環境作りである。

2014年4月27日日曜日

変革への挑戦を迫られる米欧の大企業

 企業は事業内容や国際戦略を常に見直さなければならない。成功体験は時に成長の足かせとなる。世界の主要企業の2014年1~3月期決算はそんな厳しさを映し出す。世界の企業と競う日本企業も改革の速度を上げるべきだ。

 米国では主要500社の今年1~3月期の純利益が前年同期に比べ約3%増えたもようだ。約10%の増益だった13年10~12月期から伸びが鈍るのは、記録的な寒波の影響だけでなく、一段と速くなった産業構造の変化に事業の見直しが追いつかない企業が増えているという要因もある。

 代表例は半導体大手のインテルだ。売上高は1%増えたものの、純利益は5%ほど減った。パソコンへの依存度を下げる取り組みを続けているが、タブレット(多機能携帯端末)向けなどの事業は赤字が続いている。

 事業構造の早期転換に成功した例としては、交流サイト(SNS)最大手のフェイスブックがあげられる。スマートフォン(スマホ)向けのサービスを増やし純利益は2.9倍に膨らんだ。

 同社が事業改革を急いだ理由の1つは、12年の上場直後に株価が低迷するなど株式市場の圧力を強く受けたことだ。

 市場の圧力は増益の企業にも変革を迫っている。

 米食品・飲料大手ペプシコは有力株主から北米飲料事業の分離を求められている。1~3月期に純利益を13%増やすなど同社の業績は順調に見えるが、好調なスナック菓子事業が不振の飲料事業を補う構図もはっきりしてきた。経営資源を強い分野に集中させるべきだとする株主の主張は、さらに強まりそうだ。

 企業が短期間に事業の選択と集中を進めるために、M&A(合併・買収)を活用する動きも加速している。

 スイス製薬大手ノバルティスは英グラクソ・スミスクライン(GSK)から抗がん剤事業を買収する一方、同社にワクチン事業を売却する。研究開発費を得意分野に集中させるためだ。株主から経営効率を高めるよう求められている多くの日本企業にとっても、参考になるM&A戦略だ。

 米ゼネラル・モーターズ(GM)やオランダのフィリップスなど、新興国で苦戦気味の米欧企業も増えた。世界戦略のテコ入れが必要となっているが、それは日本企業にも共通する課題である。

喜べない「京都」の目標達成

 日本が京都議定書に基づき約束した温暖化ガス削減目標の達成が確定した。2008~12年度の5年間の平均排出量は1990年度比で8.4%減り、目標の6%減を上回った。

 97年に京都で開いた国連の会議で世界に向けて誓った約束を果たしたことになる。しかし削減の中身をみると素直に喜べない。化石燃料を燃やすことなどで生ずる二酸化炭素(CO2)などの実際の排出量、いわゆる「真水」は増加しており、海外からの排出枠の購入などで補っているからだ。

 環境省によると、5年間の真水の平均排出量は12億7800万トンで、基準年(90年度)に比べて1.4%増えた。東京電力福島第1原子力発電所事故を機にCO2を排出する火力発電への依存が高まったためだ。景気が回復傾向にあることも加わって排出量増加が省エネ努力による抑制をしのいだ。

 政府と企業が海外から購入した排出枠(5カ年の平均7400万トン)を削減実績に算入し、植林などによる森林のCO2吸収効果(同4900万トン)も加味して、ようやく目標を達成した。

 排出枠購入の約25%は政府で、約1500億円を投じた。企業の購入総額はわからないが、購入価格が政府と同程度だとすると、京都議定書の達成に官民で約6千億円を払った勘定になる。

 原発停止の影響で天然ガスや石炭を燃やす火力発電が増え、発電時に出るCO2は約4割多くなっている。石炭火力の新設計画が相次いでおり、このままだとCO2の増勢は長期化しかねない。

 国連を舞台に世界各国が目指す新たな削減目標を決める議論が進んでいる。日本も一層の削減を求められており、地球温暖化対策をいま一度立て直す必要がある。

 省エネ技術をもっと活用し経済の成長とエネルギー消費の抑制を両立させる社会づくりを進めることが急務だ。同時に再生可能エネルギーの拡大と原子力の維持を通じて、発電部門のCO2を減らすことにも努めねばならない。

政治とカネ―借金ですむはずがない

 渡辺喜美前代表の8億円の借り入れ問題で、みんなの党が調査報告書を公表した。

 驚いたことに、渡辺氏は化粧品会社の会長から借りた8億円とは別に、5カ所から計6億1500万円を借り入れていたことが明らかになった。

 報告書は、公職選挙法や政治資金規正法に違反する事実はなかったと結論づけた。だが、仮に法的にはその通りだったとしても、黙って見過ごすわけにはいかない。

 報告書の説明はこうだ。

 渡辺氏は借金を自らの選挙に使ったわけではなく、自身の選挙費用収支報告書に記載しなくても違法ではない。また、政治資金規正法は政治家個人には会計帳簿や収支報告書の作成は求めていないため、法的な問題は生じない。

 一方、報告書は、渡辺氏が借入金をもとに党への貸し付けを行っており、それが党の候補者の供託金や選挙運動の費用に使われたと認めている。

 これも公選法に違反するものではないとしているが、それですむのだろうか。

 政治資金規正法の趣旨は、政治にかかわるカネの流れを透明にし、その是非を国民の判断に委ねようというものだ。

 それなのに、法のすき間を抜ける形で巨額の資金が「借金」として政治家に流れ、選挙や政治活動に使われる。国民はそのカネの動きを知ることはできない。法の本来の趣旨に反していることは明らかだ。

 これが許されるなら、寄付に近い資金提供でも、借金と称せばいくらでもできることになってしまう。これに合法のお墨付きを与えることはできない。

 渡辺氏に対しては、公選法違反などの疑いで東京地検に告発状が出されている。違法な点は本当にないのか、まずは検察の判断が求められる。

 そのうえで、こんな抜け道をふさぐための法改正を検討しなければならない。

 今回の借入金問題は、新しい政党が党勢を拡大していくためには、巨額の資金を調達しなければならない実態もまた浮き彫りにした。

 その多くが1人あたり衆院小選挙区で300万円かかる供託金で占められる。売名や選挙妨害目的の候補者乱立を防ぐためだが、諸外国に比べ際立って高額だ。

 おりしも衆参両院で一票の格差是正のための選挙制度の見直しが動き出そうとしている。

 政治にまつわるカネの問題をどう扱うか。この検討もあわせて進めるべきだ。

脱線事故9年―被害者視点で見えた事

 106人の乗客と運転士が死亡したJR宝塚線脱線事故はなぜ起きたのか。

 遺族とJR西日本幹部、有識者でつくる安全フォローアップ会議が、尽きぬ疑問に迫った報告書が、事故9年の日に公表された。

 事故の被害者と加害者が同じテーブルにつき、原因を議論したのは画期的だ。JR発足後最悪の事故を風化させず、真の安全向上につなげたい、という遺族らの執念が実を結んだ。

 被害者の視点が生かされた報告書は、今後の安全策を考えるうえで示唆に富む。JR西はもちろん、安全にかかわるすべての関係者に読んでもらいたい。

 これまで、脱線の直接原因は、電車のスピードを落とさぬまま、カーブに入った運転士のミスとみられてきた。

 JR西は「事故前も安全を優先してきた」と言う一方、「カーブに安全装置を設置する法的義務はなかった」「プロである運転士の速度超過は予想できなかった」と主張してきた。

 安全対策をすり抜ける想定外の事故が起きた、との認識だ。

 だがフォローアップ会議は「事故は起きるべくして起きた」との前提に立ち、直接原因の背後に潜んでいたさまざまな要因との連鎖を分析した。

 経営陣は事故前、収益増を狙って宝塚線のダイヤを高速化した。高速で走るほどミスが事故につながる危険は高まるが、安全装置でカバーする発想は乏しく、運転士の負担は増した。

 運転士のミスに対しては、懲罰的な指導で臨んだ。運転士が恐れて萎縮するあまり、かえってミスを犯すリスクを見過ごしてしまった。報告書は「経営層もヒューマンエラーの罠(わな)に陥る」と表現した。

 事故が起きると、加害者は「反省し、再発防止に努める」と言うのが常だ。報告書は、こうした事後対処型の対策の限界を指摘した。

 それに代わり、経営陣から現場まで、事業者全体を一つのシステムととらえ、総合的な安全管理体制を整える必要性を説いた。しっかり機能させるため、安全に関する知見を持ち、事業者と利害関係のない第三者機関の検査も提案した。

 国は宝塚線事故後、交通事業者が安全管理体制を強化するよう促してきた。だが、身内だけの体制は形骸化しやすい。窮地に陥ったJR北海道が典型だ。

 第三者による検査は、組織の体質を不断に見直せるだけでなく、社会的信頼を高める効用もあろう。国は、交通全般で広く導入を検討してはどうか。

認知症事故判決 介護する側の苦労も考慮した

 認知症になっても自宅で暮らせる体制をどう築くか。重い課題を突きつける判決である。

 認知症の男性が列車にはねられて死亡し、JR東海が遺族に遅延損害の賠償を求めた訴訟の控訴審で、名古屋高裁は、介護していた妻に賠償を命じる判決を言い渡した。

 認知症の高齢者が徘徊(はいかい)し、鉄道事故に遭うケースは少なくない。介護する家族にとって、人ごとではない問題だ。

 この事故では、妻がまどろんでいるわずかの間に、男性は外出し、線路内に立ち入った。

 1審の名古屋地裁は、男性が外出すれば事故が起きる危険性を予見できたとした上で、「妻には、夫から目を離さずに見守るのを怠った過失がある」と認定した。

 これに対し、名古屋高裁は「事故は予見できなかった」と判断した。妻らが介護に努めていた点も考慮し、不法行為による過失を否定した。ただ、責任能力のない夫を介護する妻には、監督義務者としての賠償責任を認めた。

 介護する家族が四六時中、認知症の高齢者から目を離さずにいることはできまい。家族に過重な責任を負わせれば、自宅での介護に二の足を踏む人が増えよう。

 高裁が賠償額を1審に比べ半減させたのは、介護する側の苦労にも目配りした結果と言える。

 高裁は、JR東海に対しても、男性が線路に立ち入ったとみられるフェンスに施錠していれば、「事故を防げたと推認できる」と落ち度を指摘した。

 事故の危険を理解できない人がいるのを考慮し、「公共交通機関として安全の向上に努めるのは社会的責務」とも述べた。鉄道各社は重く受け止めてもらいたい。

 認知症高齢者は急増し、460万人に上る。特別養護老人ホームの入居待機者も多く、施設だけで介護するのは困難だ。

 認知症が原因で行方不明になった人は2012年に約9500人に上り、359人は発見時に死亡していた。在宅介護を支援する体制の拡充と、徘徊による事故を防ぐ手立てを考えねばならない。

 政府は、24時間型の訪問介護サービスや症状の悪化時に往診する医療機関の整備を急ぐべきだ。

 地域ぐるみの対策も欠かせない。認知症の高齢者が行方不明になると、市民に一斉メールで知らせる福岡県大牟田市の取り組みは、他の自治体の参考になる。

 事故が起きた場合、鉄道会社に損害金が支払われる保険制度の創設も検討課題になるだろう。

渡辺氏の8億円 内部調査でも疑念は晴れない

 任意調査の限界だ。不明朗な資金の流れや趣旨が、十分解明されたとはとても言えない。疑念は深まるばかりである。

 みんなの党の渡辺喜美前代表が化粧品製造販売会社会長から8億円を借りていた問題で、みんなの党は、違法性が認められなかった、とする調査報告書を公表した。

 それによると、8億円のうち、7億1000万円は党への貸し付けや、渡辺氏の妻の口座に保管していたことなどが確認できた。残る9000万円のうち、5500万円は渡辺氏が、3500万円は妻が使っていたという。

 渡辺氏は、飲食会合費や旅費宿泊費などに充てたと説明しているが、カードの利用明細の開示を一部拒んだため、解明し切れない部分が残った。妻の明細の確認は出来なかった。

 会社会長は衆参両院の選挙資金として貸したと証言している。ところが、妻の口座に5億円が移され、大半が手つかずで残っていたことが確認された。

 調査チームは、政界再編に備えて「軍資金として保管しておいた」という渡辺氏の説明を受け入れた。みんなの党の候補者の選挙資金として使われていない以上、公職選挙法に抵触しない、との見解を示している。

 渡辺氏は自らの説明に正確さが欠け、「一部に疑問や誤解を与えたことをわびる」としながらも、法的、道義的な問題はないと判断された、とコメントしている。

 だが、不自然な点が多く、説得力がないと言わざるを得ない。

 調査の過程で、新たな驚くべき事実も判明した。渡辺氏は会社会長とは別に、5か所から計6億1500万円を借りていたことだ。この借入金は、党への貸し付けなどに回っていたという。

 渡辺氏は、借入先を公表しなかった。政治とカネの問題は不透明さが増した感もある。説明責任を果たす気はあるのだろうか。

 政治資金規正法は、主に政治団体を規制対象としており、政治家個人の借入金には報告を求めていない。個人の借り入れとすれば、その収支は公表しないで済むなら、法律の「抜け穴」にほかならないとの指摘が出ている。

 与野党は、個人の借入金であっても、政治活動に使ったものは公開を義務づけるような法改正を検討すべきではないか。

 税金から多額の政党交付金が支給されている。政治資金の流れの透明化に努めるのは、政党や国会議員に課せられた責務である。

2014年4月26日土曜日

TPPは「日米主導」ではなかったのか

 日米両国政府は、24日の日米首脳会談の合意内容を盛り込んだ共同声明を発表した。経済の分野で最大の焦点だった環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐっては、「2国間の重要な課題について前進する道筋を特定した」と記すにとどまった。

 声明発表を一日保留するという異例の措置をとり、首脳会談が終わった後も夜を徹して閣僚協議と事務レベル協議を続けた。この結果、交渉が実質的に大きく前進したのは事実である。だが、目指していた「大筋合意」の文言を盛り込むまでには至らなかった。

 残念な結果だと言わざるをえない。一方、共同声明は日米が全てのTPP交渉国に対し、妥結を目指して「可能な限り早期に行動するよう呼びかける」とも記している。日米が結束して他の10カ国に働きかける意志を表明する以上、まず両国が堂々と「合意」を宣言しなければ説得力に欠ける。

 諸外国の目には、TPP交渉の主導役を自任する日米が、それぞれ国内に抱える保護主義的な勢力の声に押されて、譲り合うことができなかったと映るだろう。日米が結束し率先して市場開放や国内改革に取り組まなければ、他の新興国は追随しないだろう。

 残る課題を早急に片付け、世界に胸を張って「合意」と呼べる交渉成果を示すべきだ。農林族を中心に自民党が「聖域」として保護を訴える農産物5項目のうち、焦点は豚肉の関税の扱いなどに絞られてきている。妥結を目指す両首脳の政治決断は既に下っている。ここ数日の詰めの交渉で見せた勢いが失われる前に、一気に2国間協議を完結させてほしい。

 日米首脳は、相互の信頼とルールに基づく国際秩序、民主主義の価値、開放的な市場など共通の認識を確認し、アジア太平洋地域の安定と繁栄をうたいあげた。TPPはその大きな目標を実現するうえで重要な手段となる。

 TPPの要諦は、現行の世界貿易機関(WTO)協定では十分に扱えない新しい通商問題に対応するために、次世代の貿易・投資のルールを築く点にある。日米が旧来型の関税問題でもたつくようでは、12カ国間の複雑なルール交渉を前進させることはできない。

 日米首脳は記者会見で両国の絆の太さを強調した。2国間の関税協議が決着しても、その先の道のりは長い。TPPの実現に向けて、日米の絆の真価が問われる。

「1票の格差」優先は当然だ

 参院の選挙制度協議会で1票の格差を1.83倍以下に縮める座長案が示された。昨年7月の参院選での最大格差は4.77倍だったので、思い切った提案だ。これを軸に与野党は合意を急ぐべきだ。

 選挙制度の見直しが進まなかったのは、選挙区と比例代表のどちらに軸足を置くのか、議員定数は多いのか少ないのか、など多くの課題を一体で議論してきたからだ。特に参院は定数の半数を3年ごとに改選すると憲法にあるため、衆院より格差が広がりやすい。

 今回の座長案は3年ごとの改選議席数を選挙区73、比例48とするこれまでの配分を変えなかった。そのため小手先直しにすぎないと批判する向きもあるようだ。

 だが、いま最優先すべきは1票の格差是正だ。2010年の参院選の格差5.00倍を最高裁が違憲状態と判断し、昨年の4.77倍には全国の高裁から違憲ないし違憲状態との判決が出た。2年後の次期選挙までの是正には緊急避難的な見直しにならざるを得ない。

 座長案は決して理念ゼロの数合わせではない。総人口を選挙区議席の73で割った175万人を標準人口と定義し、それを基準に都道府県を1人区、2人区……に分類した。1人区たり得る人口を下回る13県を合区対象とした。

 参院の選挙区は長らく都道府県単位で議員を選出してきたが、憲法がそう定めたわけではない。かつて検討されたブロック単位への移行も悪くない案だが、道州制に先行しての移行はやや無理がある。今回の合区計画を激変緩和措置とみることも可能だ。

 「地域の代表がいなくなる」との懸念にも配慮した。和歌山を同じ1人区の奈良ないし三重と合区せず、4人区の大阪府とくっつけて5人区とした。和歌山が地盤の候補も十分当選可能だ。

 参院の格差が1.83倍に縮まれば、格差1.998倍の衆院もうかうかしていられまい。国会議員は自分の地盤を守るため、最高裁判決すら軽視する人たちだ。そんな世評を返上する絶好の機会だ。

日米とTPP―交渉の手を緩めるな

 首脳会談をはさんで断続的に続いた日米の環太平洋経済連携協定(TPP)協議で、オバマ大統領の滞日中の「大筋合意」は見送られた。

 ただ、安倍首相は「諸懸案について前進していく道筋を確認できた」と語り、大統領に同行した米政府高官も「局面の打開があった」と評価した。

 おとといの両首脳の共同会見では、尖閣諸島への日米安保条約の適用が明言された。これに比べれば、TPP交渉でどんな進展があったのか、極めて分かりにくい結果となったことは否めない。

 TPPは、関税の原則撤廃や投資の自由化などによって、参加国の共存共栄を図る自由貿易の枠組みだ。

 同時に、地域の秩序やルールに、やがては中国も組み込んでいこうという戦略的な狙いもある。TPPもまた広い意味での安全保障政策の一環なのだ。

 安保条約による守りを固めたにせよ、両国主導で中国との協力関係を築く足がかりにすべきTPPで、はっきりとした合意を首脳同士で確認する好機を逃してしまったのは残念だ。

 米国は11月の中間選挙に向けて、政治の季節に入っていく。国賓待遇の大統領訪日という大きな節目を生かし切れなかったことが交渉の漂流につながらないか、懸念も残る。

 安倍首相との共同会見でオバマ大統領が語ったように、交渉にあたっては双方ともに「政治的な問題」を抱えているのは確かだ。

 大統領にとっては民主党を支持する自動車業界からの圧力、首相にとっては農産品重要5項目の関税を守れという国会決議などがこれにあたる。

 だからこそ、交渉では安易な妥協は難しくなる。日本側の交渉責任者の甘利TPP相が「もう一度担当相をやりたいかと言えば、やりたくない」とこぼしたくなる気持ちもわからないではない。

 だが、もはや交渉を後退させるわけにはいかない。

 例えば、米国の自動車安全基準をのめというような一方的な主張は論外だとしても、日米がそれぞれ痛みを分かち合う譲歩は不可欠だ。まさに国内政治の利害を超えた指導者の知恵と決断が求められている。

 安倍首相が、今回の会談で尖閣防衛への米国の関与や集団的自衛権容認への支持を取り付けたことをもって「よし」とするなら、それは違うだろう。

 大統領は日本を後にしたが、近い将来の合意に向け、交渉の手を緩めてはならない。

防衛省の隠蔽―良心はどこへいった

 都合の悪い文書は組織をあげて隠す。それを内部告発する者は徹底攻撃する。そんな防衛省の姿が浮かび上がった。

 海上自衛隊の男性隊員の自殺をめぐり、先輩のいじめを示す証拠を同省が隠蔽(いんぺい)していたと、東京高裁が認定した。

 そんな証拠があることは、裁判を担った海自の3等海佐が暴露し明らかになった。それがなかったら、いじめを放置した組織の責任は闇に葬られていた。

 人命を守るべき組織でありながら、命が失われた重みを顧みずにひたすら自らの防衛に腐心したのである。

 猛省するほかあるまい。誰が隠蔽を指示し、その事実を誰が知っていたのか。早急に徹底調査し、公表すべきだ。

 隠されたのは、男性が所属した護衛艦の乗組員たちにいじめの有無を聞いたアンケートや、事情にくわしい乗組員に聞き取ったメモだ。

 遺族は情報公開法に基づいて開示を請求したが、海自は存在しないとして応じなかった。

 情報をもつ側が「ない」と突っぱねれば、情報公開は成り立たない。そんな実態がある中で年内に特定秘密保護法が施行される。当局に不都合な情報はいっそう闇にとどまるだろう。暗然たる気持ちになる。

 救いといえば、3佐の良心が、それを許さなかったことだ。控訴審で証拠の存在を明らかにしたことは、組織人としての立場を賭した、勇気ある行いだった。

 しかし、控訴審で国側はその発言を「信用できない」と批判した。実際には、少なからぬ関係者が隠蔽を知っていたはずだが、その3佐以外、誰も真実を語ろうとしなかった。

 同省は3佐の懲戒処分も検討したという。言語道断の対応というほかない。処分が必要なのは告発者ではなく、情報隠しをした側である。告発した3佐を不当に扱うことはしないと約束すべきだ。

 男性の自殺からすでに10年がたっている。アンケートが早く明らかになっていれば、裁判は長引かなかったし、その教訓は自衛隊内のいじめ防止などに生かせたかもしれない。

 ふつうの裁判に勝敗はつきものだが、国が当事者の場合、勝てばいいというものではないはずだ。真実に近づく証拠を裁判で示すことが、公益の側に立つ政府の責任ではないか。

 どんな公的組織であれ、その組織自体よりも大切に守るべき社会の正義というものがある。防衛省はその当たり前の原則を肝に銘じるべきだ。

日米共同声明 TPP決着へ「大胆な」決断を

 難航する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の最終決着に向けて、日米首脳会談後に行われた異例の延長協議は、大きな前進があった。

 日米協議をテコに、豪州なども含めた12か国のTPP全体交渉の合意を目指さねばならない。

 日米両政府は25日、安倍首相とオバマ大統領による首脳会談の共同声明を1日遅れで発表した。

 共同声明が日米TPP協議について、「2国間の重要課題について前進する道筋を特定した」と明記し、交渉全体の「キー・マイルストーン(重要な一里塚)」と位置付けた意味は重い。

 前日の首脳会談では、まとまらなかった。両首脳の指示で、甘利TPP相とフロマン米通商代表の閣僚協議などが25日未明まで続いた結果、大統領の離日直前に発表にこぎつけた。

 TPPを成長戦略の柱と位置づける安倍首相が、「大きな成果を上げることができた」と述べたのも、ようやく手応えを感じたことをうかがわせる。

 日米は他の10か国に早期妥結を呼びかける方針だ。来月にも予定される12か国の閣僚会合で、今度こそ、大筋合意できるかどうか。アジア太平洋地域の新たな貿易・投資ルールにより、自由貿易を一層推進することが求められる。

 一方で、共同声明は「まだなされるべき作業が残されている」と強調した。野心的な合意に向け、「必要な大胆な措置を取る」とも明記した。日米間でさらなる調整が必要と見ているのだろう。

 最大の焦点となったのは、日本が関税撤廃の例外を主張した農産物5項目の扱いである。

 コメ、麦、甘味作物については関税を原則維持できる見通しになった。しかし、米国は、牛・豚肉の大幅な関税引き下げのほか、米国車を一定台数まで輸出できるよう、日本の安全基準を緩めることを要求して激しく対立した。

 双方とも国内業界の反発などがあり、安易に妥協しにくい。ぎりぎりの協議で、歩み寄ろうとしたことは評価できる。

 ただ、気掛かりなのは、オバマ大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案が米議会で成立するメドが立たないことだ。

 TPA法案が未成立のままではTPPが最終決着しても、議会の承認を得られない恐れがある。11月の議会中間選挙を控え、大統領は難しい舵取りを迫られる。

 先進国とマレーシアなど新興国の対立も根深い。最終段階の交渉を楽観視してはならない。

参院選制度改革 「合区」案は受け入れられるか

 参院選の「1票の格差」を是正し、「違憲状態」を解消する目的は理解できる。ただ、人口減に悩む地方の声が国政に十分反映されるかどうか。

 この案をたたき台に、議論を深めてもらいたい。

 参院選挙制度協議会座長の脇雅史参院自民党幹事長が、参院選改革の座長案を示した。議員1人当たりの人口が少ない選挙区を隣接区と統合する「合区」を導入するインパクトのある案である。

 「鳥取・島根」「徳島・高知」「大阪・和歌山」など11の合区を作る一方、東京、神奈川など6選挙区の改選定数は1ずつ増やす。東京は「6人区」となり、「1人区」は17選挙区に抑えられる。

 1票の格差は、昨年の参院選の最大4・77倍から1・83倍へ一気に縮小されるという。

 選挙区選と全国比例選を組み合わせた現行制度の骨格と参院定数242は維持しているが、「抜本改革」案と言えるだろう。

 脇氏が、参院で1票の格差を「2倍以内」に抑えるという野心的な方針を掲げた結果、長年定着している都道府県の行政単位を超える選挙区が22府県にも上る。

 文化や歴史が異なる選挙区の合区には、抵抗も予想される。

 特に、改選定数1の合区では、人口が少ない方の県から「参院に我々の代表を送れなくなる」との不満が出る可能性が大きい。

 各党は、隣接する両県から3年ごとに交互に候補者を擁立するなどの調整も必要となろう。

 比例選は、各党が候補者の名簿順位をつけられる仕組みにする。合区における候補者調整の余地を残すのが狙いだろうが、複雑な制度になるのは否めない。

 参院各党は、座長案を踏まえて来月中に見解をまとめる予定だ。脇氏は、今国会中の改革案の合意を目指しているが、各党の主張には依然、隔たりがある。

 自民党には現在、特定の改革案はない。公明党は11ブロック程度の大選挙区制を主張し、民主党は40程度の定数削減案を検討中だ。共産党などは、完全比例選の導入を提案している。

 日本の国会議員が人口比では他国と比べて決して多くない以上、民主党が主張する定数削減は今回の改革と切り離すべきだ。

 新制度の導入を目指す2016年の次期参院選に向けて、各党は検討を急がねばならない。

 1票の格差是正が最優先の課題なのか。衆院と参院の役割・機能分担はどうあるべきか。こうした本質的な議論も欠かせまい。

2014年4月25日金曜日

アジアの繁栄支える日米同盟に

 アジア太平洋地域にとっていちばんの課題は、中国の台頭を受け止め、地域の安定と成長に向けた協力を引き出していくことである。そのためには、日米が結束し、中国に向き合っていくことが大切だ。

 安倍晋三首相とオバマ米大統領の会談は、その意味で成果があった。両首脳は日米同盟をさらに深めていくことで一致し、安全保障から経済まで幅広い分野で協力を強める道筋を敷いた。

安全保障で大きな成果
 大きな焦点である環太平洋経済連携協定(TPP)については、なお閣僚級協議が続いているが、安全保障分野では目に見える進展があった。とりわけ大きいのは、尖閣諸島をめぐり、日米が結束を強めたことだ。

 中国は尖閣諸島への揺さぶりを続けている。オバマ氏はこの状況を踏まえ、米大統領として初めて、尖閣諸島には日米安全保障条約が適用されると表明した。尖閣について、米国が条約上の防衛義務を負うとの立場を明確にし、力による一方的な現状の変更を認めない考えを示した発言である。

 すでにオバマ政権の閣僚らは同じような見解を表明しているが、米軍の最高司令官である大統領が言明した重みはとても大きい。

 中国は南シナ海でも、強気な行動によって東南アジア諸国の懸念を招いている。米大統領はそうした状況も念頭に、アジア太平洋の安全保障に深く関与していく姿勢を共同記者会見で強調した。

 日本としては米軍のアジア関与が息切れしないように支えるとともに、中国にどう責任ある行動を促すか、米側と対中戦略を擦り合わせていく必要がある。

 安倍政権は集団的自衛権行使の容認を検討している。オバマ大統領はこの動きを歓迎し、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を再改定する方針も確認した。集団的自衛権をどう行使するのかについては、米側との調整も怠らないでもらいたい。

 会談では日韓関係も話題になり、安倍首相が改善に意欲を示した。北朝鮮が挑発を繰り返すなか、日米韓の連携が問われている。オバマ大統領は日本に続き、韓国を訪れる。これを機に、日米韓の結束を取り戻したい。

 経済分野でのいちばんの課題は、言うまでもなくTPPの交渉だ。甘利明経済財政・再生相とフロマン米通商代表部(USTR)代表による協議はなお続いている。決着を目指す両首脳の指示が出たことで、交渉が一気に加速するよう期待する。

 対立を抱えながらも両首脳が早期決着にこだわるのは、TPPが単に輸出を拡大するための枠組みではなく、アジア太平洋の安全保障を支える基盤にもなるからだ。

 たとえば中国は、領土問題などで日本に圧力を強めるために、貴重な天然資源のレアアース(希土類)を輸出規制したり、商船三井の船舶を差し押さえたりするなど、経済を外交の武器に使っている。こうした自国中心主義的な行動を未然に封じる国際ルールは、今のところ世界にない。

 これまで膠着していた12カ国によるTPP交渉が前進すれば、将来的には「国際標準」となるルール体系の骨格ができるだろう。日米主導で新しい通商秩序を築くことで、企業や投資家が安心して活動できる舞台が広がる。TPPの本質は経済の安全保障にある。

TPP妥結へ指導力を
 もっとも、高い理想をかかげるだけでは現実の交渉は進まない。閣僚級協議の決着は首脳会談に間に合わず、共同声明を発表できないという異例の展開となった。

 日米交渉の難航は、農業や自動車など、それぞれが国内に抱える個別業界の利害関係や、選挙への配慮などの政治事情に振り回された結果でもある。国内で意見調整に手間取る日米政権の課題も、浮き彫りになった。

 TPPを実現するには、輸出や投資が増える恩恵を漠然と語るだけでは不十分だ。市場開放と並行して国内で構造改革を進め、自由化に伴う短期的なマイナスの影響を和らげる対策も打ち出す必要がある。国内のさまざまな意見をまとめるのは難しい仕事だが、それこそが政治指導者の責務だ。

 日米のTPP交渉の決着はこれ以上、先延ばしにすべきではない。この機会を逃せば、オバマ政権は今秋の中間選挙に向けて、一段と妥協が難しくなる。今こそ、決断のときである。

 アジア太平洋の繁栄のため、日米は国内政治を乗り越え、どこまで結束できるか。世界の国々がその行方を見守っている。

日米首脳会談―アジアの礎へ一歩を

 極めて異例の会談だった。

 きのうの安倍首相とオバマ大統領の日米首脳会談は、環太平洋経済連携協定(TPP)の協議がととのわず、共同記者会見に合わせて共同声明を発表するにはいたらなかった。

 事前の閣僚らの折衝で大筋が詰められ、首脳はその成果を確認し合う。首脳会談のこうした通例とはかけ離れた今回のありようからは、焦点の農産品や自動車の貿易をめぐって、国益むき出しのやりとりがあったことがうかがえる。

 一方、安全保障分野に限れば、首相は大統領から、ほぼ望み通りの「お墨付き」をもらったということなのだろう。

 共同会見で大統領は、沖縄県の尖閣諸島が、日米安保条約5条に基づく米国の防衛義務の適用対象だと明言した。

 首相はまた、集団的自衛権の行使容認に向けての政権内の検討について、「大統領から歓迎し、支持するとの立場が示された」と明らかにした。

 閣僚レベルで何度も確認していることでも、大統領の口からはっきり宣言してもらう。これが尖閣周辺海域で緊張を高めている中国への牽制(けんせい)になるというのが日本政府の狙いだ。首脳会談に先立つ調整でも、そこに力点が置かれた。

 だが、オバマ大統領の発言の主眼は、日本側の期待とは少しずれていた。

 大統領はこう語った。「私が強調したのは、この問題を平和的に解決することの重要性だ。言葉による挑発を避け、どのように日本と中国がお互いに協力していくことができるかを決めるべきだ」。さらに「日本と中国は、信頼醸成措置をとるべきだ」とも。

 尖閣諸島の「力による現状変更」は決して認めないにしても、関係改善に向けてもっと努力すべきだという、日中双方に対するメッセージだろう。大統領は「我々は中国とも非常に緊密な連携を保っている」と付け加えるのを忘れなかった。

 首相がいくら米国との同盟の絆をうたいあげようと、中国との間に太い一線を引いたままではアジア太平洋地域の安定はあり得ない。日米中の三つの大国がそれぞれ安定した関係を保つことが、周辺諸国が求めるところでもあろう。

 首相の昨年末の靖国神社参拝が、日本と中国や韓国との関係を決定的に悪化させ、米国からの不信も招いた。

 米国との関係にひとつの区切りをつけたいま、近隣諸国との関係改善への一歩は、安倍氏から踏み出さねばならない。

子どもを守る―カメラは脇役に過ぎぬ

 子どもや街の安全を、どう守るか。これを機会に、それぞれの地域で冷静に考えたい。

 東京都が通学路への防犯カメラ設置を促す事業を始めた。

 全ての小学校区に5台ずつ付けられるよう、25億円に近い補助金を用意する。ただし、設置は義務ではない。それぞれ地元のPTAや町会で、必要性を判断してもらう。あくまで地域の合意が大前提だという。

 子どもの安全に投資すること自体に、異論はまずあるまい。大切なのは、今どんな危険がどの程度あるのかを知り、それを防ぐには防犯カメラが有効なのかを考えることではないか。

 防犯カメラの普及は1990年代末ごろから加速した。当時は犯罪の認知件数が増える一方、検挙率は落ちていた。

 通学路や学校で子どもが襲われる事件も続いた。通学路を見守る活動が広がったが、続けるには苦労も多い。「カメラがある方が安心」との意識が市民に広がったのは無理もない。

 しかし、今は検挙率が底を打ち、子どもの犯罪被害はこの10年ほどの間に大きく減った。

 厚生労働省の統計では、事件より交通や生活の中の事故、自殺で亡くなる子の方がはるかに多い。他殺にも身内による虐待死が多く含まれる。それらの防止策を優先した方が、命を守る効果は高いかもしれない。

 防犯カメラには、犯行を思いとどまらせる一定の効果はあるだろう。ただ、あくまで「点」の守りであり、街全体を「面」で守ることはできない。人の目を補う道具にすぎないと考えるべきだ。

 また、使い方を誤ればプライバシーを脅かす。映像の保存期間や、見てよい人の範囲を話し合って厳格に守る必要がある。

 機械に頼り切ってしまうと、失うものもある。危険に気づく力、対処する力である。

 人付き合いの薄れた街は、いざ不審者に入り込まれた時にはもろい。地震などの災害に見舞われた時にも困る。

 カメラを付けた他の街では、どのくらい犯罪が減ったのか。わが街はどの時間帯にどの場所が危ないのか。行政に情報の開示を求め、自分たちの身を守る方法を自分たちで考えたい。

 機械の目より人の目だ。通りに面した家からこぼれる明かりや人の気配にも不審者を遠ざける効果はあろう。そんな街づくりの工夫を話し合うのもいい。

 なにより、ぬくもりのある街は住みやすい。安全をどう守るかを考えることは、どんな暮らし方をしたいかを考えることでもある。

日米首脳会談 中国念頭に強固な同盟を築け

◆TPP合意へ一層歩み寄る時だ

 安倍政権の「積極的平和主義」と、米オバマ政権のアジア重視のリバランス(再均衡)政策が、相乗効果を上げることが肝要である。日米両政府は緊密に政策調整すべきだ。

 安倍首相とオバマ大統領が東京で会談し、日米同盟について、アジア太平洋地域の平和と繁栄に主導的役割を果たしているとして、一層強化する方針で一致した。

 米大統領の国賓としての来日は18年ぶりだ。安倍首相の靖国神社参拝に米国が「失望」を表明し、一時はすきま風が指摘された日米関係を立て直し、連携を国際的にアピールできた意義は大きい。

◆尖閣「安保適用」は成果

 首相は共同記者会見で「日米同盟はかつてないほど盤石だ」と強調した。大統領は「日本がさらに多くの世界の平和に貢献してくれることを期待する」と語った。

 注目すべきは、オバマ大統領が尖閣諸島について「日米安保条約第5条の適用対象となる」と初めて明言し、対日防衛義務の対象と認めたことである。日本外交の大きな成果と言えよう。

 両首脳は、自由で開かれたアジア太平洋地域に中国を関与させるために日米が連携する一方、「力による現状変更」には明確に反対する方針を確認した。

 中国は、東シナ海で防空識別圏を一方的に設定し、尖閣諸島周辺で日本の領海侵入を繰り返している。南シナ海でも、軍事力を背景に領土・海洋権益の拡張を図る動きを公然と見せている。

 中国にこうした行動の自制を求めるには、日米同盟の抑止力と実効性を高める努力が欠かせない。自衛隊と米軍の協力を強化し、今回の首脳会談の政治的メッセージを具体化すべきだ。

 年末に予定される日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの作業を加速し、日米共同対処のあり方を明確化する必要がある。

◆集団的自衛権の容認を

 在日米軍の駐留をより安定的で持続可能なものにするため、米軍普天間飛行場の辺野古移設や在沖縄海兵隊のグアム移転を進め、沖縄の基地負担を着実に軽減することも大切である。

 オバマ大統領は会談で、安倍政権による集団的自衛権の憲法解釈の見直しを歓迎し、支持した。

 憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能にすることは、日米同盟を強化するうえで、極めて有効な手段となろう。

 政府・与党は、来月の有識者懇談会の報告書を踏まえ、必要最小限の集団的自衛権に限って行使を容認する「限定容認論」の合意形成を急がねばならない。

 北朝鮮の核・ミサイル問題について、両首脳は、日米韓3か国の連携の重要性で一致した。大統領は、日本人拉致被害者の家族の代表と初めて面会し、拉致問題の解決に協力する考えを表明した。

 米国の支持をテコに、日朝協議で拉致問題の再調査を実現し、具体的な進展につなげたい。

 ウクライナ情勢について会談では、ロシアのクリミア半島編入を念頭に「力による現状変更は許されない」ことを確認した。領土問題で中国に誤ったシグナルを送らないよう、日米は欧州と協力し、平和的解決を模索すべきだ。

 オバマ大統領は日本訪問後、韓国、マレーシア、フィリピンを歴訪する。

 日米両国が、韓国や東南アジア各国と重層的な協力関係を構築し、各国の海洋監視能力を高めて、海上交通路の安全を確保することが重要だ。

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に関しては、首脳会談で決着せず、甘利TPP相とフロマン米通商代表による閣僚協議を継続する異例の展開となった。

 日本が関税撤廃の例外扱いを求める農産品の重要5項目を巡り、大筋合意できなかったためだ。

◆自由貿易で共栄を図れ

 5項目のうち、コメ、麦、甘味作物は一定の前進があったが、牛・豚肉などは対立が続いている。大統領は「日本市場のアクセス(開放)が必要だ」と強調し、日本に一層の譲歩を求めた。

 日米双方とも、農業団体の圧力など厳しい国内事情を抱えている。だが、アジア全体の経済成長を促進して、共存共栄を図るという大局的見地から、両国が政治決断し、歩み寄る時である。

 アジア太平洋地域で高いレベルの自由貿易体制を導入するTPPの12か国による交渉の妥結には、日米両国の合意が不可欠だ。

 日米が新たな貿易・投資のルール作りを主導することは、国際的発言力を強める中国に対するけん制効果を持つという戦略的な視点も忘れてはならない。

2014年4月24日木曜日

電力需給に危機感をもち夏の節電継続を

 電力各社によると、今年夏の電力需給は昨年より厳しくなる。ピーク時の需要に対する供給余力は全国で4.6%と、昨夏より1.6ポイント悪化する。関西電力と九州電力は特に厳しく、両社は東京電力から融通を受けて安定供給の目安になる3%を確保するという。

 昨夏は運転していた関電大飯原子力発電所が止まって原発の稼働がゼロになり、電力の供給不安はなお拭えない。家庭や企業の節電はまだ緩められず、電力会社や政府が引き続き節電を呼び掛けることは欠かせない。

 景気が上向き、地域によっては電力需要の増加が予想されている。東日本大震災から4度目の夏となり、国民に「節電疲れ」が広がったり、大規模停電が起きなかった安心感から節電をやめる人が増えたりすることも心配だ。

 電気は足りていると過信せず、危機感をもって節電を続けられるよう、電力会社や政府は分かりやすい情報発信に努めてほしい。冷房の設定温度を上げる、人がいない部屋では照明を切る、始業時刻を早めるなど、これまでの対策を続けるよう呼び掛けるべきだ。

 需給が厳しい西日本では追加的な節電策が必要になるかもしれない。政府は5月中に夏の電力需給対策をまとめる。経済活動を萎縮させないように企業や家庭に自発的な節電をどう促すか。具体的な節電メニューを示してほしい。

 震災後、電力各社は老朽化した火力発電所を稼働させ、点検も延ばしている。不測の事故が起きれば大規模停電につながるリスクは拭えない。そうした状況を国民に知らせることも大事だ。

 来年以降を見据え、電力業界は地域をまたいで電気を融通する能力の拡充を急ぐべきだ。周波数50ヘルツの東日本と60ヘルツの西日本の間の変換設備は大規模発電所1基分の120万キロワットしかない。震災を教訓に電力業界は2020年度までに210万キロワットに増強する計画だが、これを前倒しできないか。

 広域的な送電網の整備は、電力市場を自由化して多くの新規事業者が送電線に接続しやすくしたり、風力や地熱発電などを伸ばしたりするためにも重要だ。

 電力の安定供給を確保するには原発の再稼働は欠かせない。原子力規制委員会は科学的な見地から原発の安全審査を進めている。電力事情を理由に審査を急ぐよう圧力をかけるのは筋違いだが、規制委は迅速に審査してほしい。

連合の行動力が問われる

 非正規社員の処遇改善など働く人全体の利益を考えた活動が、連合(日本労働組合総連合会)にいまほど求められている時はない。

 非正規労働者は雇用者の4割近い。国の調査では正社員の年収(2012年)が平均468万円なのに対し、非正規は168万円。二極化に歯止めをかけなければならない。女性や高齢者が働きやすい環境づくりも大きな課題だ。

 非正規労働者の待遇改善は職業訓練を充実して新しい技能や知識を身につけやすくすることが確実な道だ。女性や高齢者が就業しやすくするには長時間労働の見直しなどが欠かせない。

 それらの実行には政府を動かす必要がある。26日に連合が開くメーデー中央大会には安倍晋三首相が自民党総裁として13年ぶり、山口那津男公明党代表が同党党首として14年ぶりに出席する。民主党だけでなく政権ともパイプを太くすることは、賃金などの労働条件の改善や雇用の安定に取り組むために現実的な判断といえる。

 肝心なのは連合自身の行動だ。傘下の労組が非正規労働者の待遇改善や長時間労働を防ぐ働き方の改革などを、経営側に粘り強く働きかけていかなくてはならない。

 傘下労組は組合員の大半を正社員で占め、非正規労働者の処遇改善は後回しになりがちだ。連合には労働運動のリーダーとして、正社員以外の利益も広く考える意識改革が求められる。

 大手企業と比べ格差のある賃金など、中小企業の労働条件の向上も課題だ。労働組合員の割合を示す労組組織率は従業員99人以下の企業では1%にすぎず、賃上げの要求を出せないケースも多い。

 都道府県ごとに連合は地方組織を置く。これを通じて労働条件改善の取り組みを強化すべきだ。

 連合は傘下組合員数が発足時の800万人から現在は680万人に減っている。しかし過重労働の防止など労働者保護の点で存在意義は大きく、責任も重い。経営者に緊張感を与えるためにも連合は役割をしっかり果たしてほしい。

原発と安全―知事の疑問が示すもの

 原発事故の被害者を二度と出さない。原発の再稼働に前のめりな安倍政権に、本当にその覚悟はあるのだろうか。

 再稼働をめざす全国の原発で新しい規制基準を満たしているかどうかの審査がすすむ中、東京電力の柏崎刈羽原発を抱える新潟県の泉田裕彦知事が、たとえ審査を通っても住民の安全は守れないと主張している。

 原発の安全性を高めるには、施設が厳しい規制を満たすだけでなく、万一に備えて避難計画をしっかり立てておくことが欠かせない。この避難計画づくりを担当する自治体トップの発言だけに、政権は真摯(しんし)に耳を傾ける必要がある。

 中越沖地震では柏崎刈羽原発の火災に直面し、福島第一原発の事故では被災者の救助支援を要請された泉田知事の指摘は、いずれも具体的である。

 中越沖地震では道路が寸断され、緊急車両すら動けなくなった。雪が深ければ一段と逃げにくくなる。いくら計画で避難先を決めても絵に描いたモチだ。知事は、各戸に核シェルターを作るしかないかもしれないと危惧するが、国や電力会社にその認識と覚悟はあるか。

 避難が遅れた住民を助けるには放射線量が高い地域にバスの運転手らが入らねばならない。現実には、民間人である運転手も被曝(ひばく)していいように法令を改めないとバスは避難に役立たないが、被曝限度を緩める合意形成をはかれるのか。

 事故対策そのものの甘さも指摘する。すべての冷却材が失われ、生身の人間が危険な高線量下で収束作業をするしかなくなったとき、誰が行くのか。事故の拡大を食い止めるため、電力会社の経営に重大な損害を与える決断が必要になったとき、経営が優先され住民が被害を受けない保証はあるのか。

 いずれも現実の事故で浮き彫りになった課題だが、議論は後回しになっている。

 安倍政権は、今の規制基準は「世界一厳しい」と、基準をパスした原発は動かす姿勢だ。だが知事は「世界標準にも達していない」とし、うそをついてはいけないと批判する。指摘は当たらぬというなら、政権は一つ一つ疑問に答える責任がある。

 再稼働に期待する地元の中には、すでに避難計画をつくったというところも少なくないが、住民の安全を守る責務を負う自治体として、泉田知事の疑問を吟味し、自らの避難計画が本当に機能するか、つぶさに点検してほしい。事故が起きてから「想定外だった」という言い訳は、もう許されない。

船差し押さえ―日中は冷静に対応せよ

 商船三井の大型運搬船が中国の裁判所に差し押さえられた。

 唐突感はぬぐえない。日中関係が冷え切っている時だけに、不穏にもみえる出来事だ。

 だが、この訴訟の由来をひもとけば長く複雑な経緯がある。戦後補償問題に絡めて論じるのは難しい特殊な民事紛争だ。

 ことさらに政治問題化することは日中双方にとって利益とならない。両政府は当事者間の解決が図られるように冷静に振るまうことが肝要である。

 話の始まりは古い。1936年、上海の海運会社が日本の会社に船2隻を貸した。やがて日中戦争が起き、船は日本軍に徴用され、44年までに沈没した。その日本の会社を今に引き継ぐのが商船三井だ。

 中国の会社側の創業者遺族は戦後すぐ来日して交渉、のちに東京で提訴したが敗れた。中国で88年に改めて提訴し、07年に一審で勝訴。10年に確定した。

 その後も和解の話し合いは続いたが、破談となって遺族側は差し押さえを申請した。

 日中は72年の国交正常化の際「戦争賠償請求は放棄する」と合意した。だが、中国側の法廷は、安全海域でのみ船を航行するとした契約の不履行を重視した。ふつうの民間企業同士の訴訟としての扱いだ。

 中国側は、戦争賠償の放棄とは別に残る問題として①強制連行・労働②慰安婦③遺棄化学兵器を挙げ、折に触れ日本側に対応を求めている。今回の件はいずれにも当てはまらない。

 日本企業がかかわるトラブルは、戦前の中国で多かったはずだ。ただ、87年に中国で民事の法制度が変えられた際、それ以前の案件は88年末まで受け付け、以後は時効成立とした。今回に似たケースが蒸し返されることは考えにくい。

 むろん、中国では司法は完全に独立しているわけではない。共産党政権は差し押さえをあえて止めなかったとみられる。それによる対日関係への影響をどう考えたかは不透明だ。

 だとしても日本政府が「国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と即断して反発するのも賢明さに欠ける。

 日本政府は遅くとも一審判決時にはこの問題を知っていた。経緯を踏まえ、この民事問題が円満に収まる環境を整える方向に動くべきではないか。

 日中間の経済交流は切っても切れない関係にある。どの国同士でもあるように、民間の紛争は絶えないだろう。できるだけ政治から遠ざけ、実務的に解決できるようにすることが、日中双方の国益にかなう。

配偶者控除 女性活用につながる見直しか

 所得税などの負担を軽減する「配偶者控除」の見直し論議が、政府税制調査会で始まった。

 少子高齢化で「働く世代」が減少する中、女性の社会進出を後押しするため、税制だけでなく、総合的な対策が問われている。

 見直しは、女性活用を成長戦略に掲げる安倍首相が「女性の就労を抑制する税制を見直すべきだ」と指示したのがきっかけだ。時代の要請とも言えるだろう。

 所得税の配偶者控除とは、専業主婦やパートで働く配偶者の年収が103万円以下の場合、世帯主の課税所得を一律で38万円減らす制度である。

 103万円を境に配偶者手当などを減らす企業も多い。パートで働く主婦は103万円を超えないよう仕事を調整しがちになる。

 収入が103万円を超えても141万円未満までなら、控除を受けられる特別措置も設けられているが、「103万円の壁」が女性の働く意欲を損ねている側面があるのは確かだ。

 配偶者控除は1961年に導入された。夫が外で働き、妻が家庭で育児や家事に専念するという、当時の一般的な家族を税制面から支援する狙いがあった。

 しかし、今では、共働き世帯が専業主婦の世帯数を上回る。仕事や家事の分担に対する意識も大きく変化している。

 ただ、配偶者控除を見直しただけで女性がより働くようになると短絡的に考えることはできない。働きたくても働けない理由は様々だ。子育てや介護で就労しにくい専業主婦も少なくなかろう。

 政府は待機児童の解消や介護保険拡充、長時間労働の慣行是正といった課題の解決策も併せて検討しなければならない。

 控除を廃止すれば、年収500万円の家庭で7万円程度の増税になるとの試算がある。家計の負担が大幅に増えないよう、負担緩和措置の検討も必要になる。

 消費税率が予定通り2015年10月に10%へ引き上げられると、家計負担はさらに膨らむ。政府は法人税率引き下げを検討中だが、「企業優遇」「家庭増税」という批判が高まりかねない。

 自民党は、12年の衆院選と昨夏の参院選の政策集で配偶者控除の維持を掲げていた。党内では制度見直しに異論も少なくない。麻生財務相は、「うかつなことはできない」と慎重論を唱えている。

 女性の就労機会をどう拡大するか。政府・与党は幅広い観点から議論を深めてもらいたい。

海上行動規範 中国に「国際常識」順守を迫れ

 中国軍に危険な示威行動の自制を促し、不慮の海上事故や衝突を防ぐうえで、重要な合意だ。

 日米中など21か国の海軍幹部らが参加し、中国で開かれている西太平洋海軍シンポジウムで、他国艦船への火器管制レーダー照射などの危険行為を禁じる行動規範が採択された。

 規範は、各国海軍の艦船や航空機が洋上で遭遇した場合の無線通信や安全確保の手順を定めた。ミサイルなどを他国艦船に向けたり、他国艦船近くで模擬攻撃をしたりするなど5項目の「回避すべき行動」も明記している。

 法的拘束力はなく、中国以外の海軍にとっては極めて常識的な内容だが、中国を含む多国間の枠組みで、安全確保のための国際ルールを明文化した意義は大きい。

 中国海軍は昨年1月、海上自衛隊の艦船に火器管制レーダーを照射した。南シナ海でも、フィリピン、ベトナムなどへの挑発行為を繰り返している。一歩間違えば、事故や衝突に発展しかねない。

 中国海軍は従来、海上での行動規範によって、自らの活動が制約されることに慎重だった。しかし、議長国として規範をまとめた以上、その内容を各部隊に徹底させ、太平洋地域の航行の安全確保に協力する責任がある。

 重要なのは、各国が今回の規範を足がかりとして、事故回避のルールを着実に拡大することだ。

 日中の防衛当局は2012年6月、制服組幹部間のホットライン設置などの「海上連絡メカニズム」の構築で大筋合意した。だが、中国側が同年9月の日本の尖閣諸島国有化に反発し、協議を停滞させて、正式合意に至っていない。

 海上連絡メカニズムの構築は、中国にとっても利益となる。中国側は依然として頑(かたく)なな姿勢を続けているが、日本は粘り強く交渉し、早期の合意を目指したい。

 南シナ海では、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、紛争の平和的解決をうたった中国との行動宣言について、拘束力のある行動規範への格上げを目指している。これに対し、中国は消極的だ。

 日本は、米国などと連携し、ASEANを後押しすべきだ。

 中国はシンポジウムに合わせた国際観艦式を計画し、海自だけに招待状を送らなかった。これに反発した米軍が艦船派遣の見送りを決定し、観艦式は中止された。

 海自と米海軍の長年培ってきた信頼関係が中国の「日本外し」を頓挫させた。日本を一方的に敵視する中国の姿勢は、国際社会の中国異質論を加速させるだろう。

2014年4月23日水曜日

閣議議事録の公開テコに情報開示進めよ

 政府の意思決定機関である閣議の議事録が初めて公開された。ものごとが決まる際、どんな発言を経て決定されたのかを知ることは重要だ。これを一歩として、行政のさまざまな場で透明性を高めるよう一段の努力を期待したい。

 内閣制度が発足したのは1885年だが、閣議の議事録はつくられてこなかった。明治政府の「知らしむべらかず」という姿勢が戦後も踏襲されてきた。

 変化のきっかけになったのが3年前の東日本大震災だ。ときの政権は原発事故にどう取り組んだのか。検証しようにも、記録は残っておらず、首相や閣僚がどんなやりとりをしたのかの再現は当事者の曖昧な記憶だけが頼りだった。

 この反省を踏まえ、安倍晋三首相はこの4月から閣議や閣僚懇談会の議事録を作成するよう指示した。原則3週間後に首相官邸のホームページに掲示される。

 初の公開となった4月1日の閣議の議事録を読むと、消費税率引き上げ初日とあり、首相が「景気下振れリスクに万全を期す観点から予算の早期実施を図る」などと指示をしたことがわかる。

 ほとんどの発言は菅義偉官房長官らが閣議後の記者会見で要旨を紹介済みだが、公開により正確な言い回しが明らかになった。政策決定過程を研究する政治学者らにも有益だろう。

 政府には閣議のほかにもいろいろな会議がある。経済財政諮問会議のように議事録が公開される例もないわけではないが、政策テーマごとの関係閣僚会議などの大半はまだブラックボックスだ。

 稲田朋美行政改革相は対象拡大に前向き姿勢を示した。一刻も早く取り組んでもらいたい。

 政府が閣議の発言を意図的にゆがめて発表したり、一部非公開にしたりしていないかどうかを調べる方法を担保することも大事だ。

 議事録は閣議に陪席する3人の官房副長官らがメモを取り、つき合わせて作成する。手書きのメモを保存し、一定期間後に情報公開請求できるようにすれば議事録の信頼性は高まる。

 今年12月に施行される特定秘密保護法の対象となった公文書は原則30年間公開されない。これはいかにも長い。手書きメモがもう少し早く読める仕組みを整える必要がある。

 秘密保護法成立時に宿題として残った情報公開法や公文書管理法などの改正も急がねばならない。

日欧のEPA交渉も加速を

 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉が大きな節目を迎える。正式協議の開始から1年がたち、EU側がこれまでの進展を評価し、交渉を継続するかどうか判断する段階に入った。協定締結への道はまだ遠いが、EU側の関税撤廃を目指して粘り強く交渉する必要がある。

 財務省が発表した2013年度の貿易統計(速報)によると、EUに対する日本の貿易収支の悪化は顕著だ。主力品目である自動車の輸出は、円安が追い風となって金額ベースで前年度より29.5%増えたが、輸入はそれ以上に伸びて30.0%増となった。

 台数ベースでみると、日本経済が抱える問題点が見えてくる。EUへの自動車の輸出台数は前年度比で3.2%しか増えていない。ところが、円安で価格面で不利になったにもかかわらず、輸入は23.3%増と飛躍的に伸びている。

 円安になった当初は輸入金額の増加で貿易収支が赤字の方向に動くが、時間の経過とともに輸出数量が増えて黒字に向かう、いわゆる「Jカーブ効果」は表れていない。日本企業が輸出価格を下げず目先の円建て収益の数字を増やす道を選んでいることが分かる。

 数量で輸出が増えなければ、国内の生産は増えない。これでは雇用の拡大にもつながらず、本物の経済力の回復とは呼べない。EU市場では韓国製品がシェアを着実に伸ばしており、日本製品は存在感が低下の一途だ。3年前に発効した韓・EU協定で、韓国製品だけ関税が下がっているからだ。

 このままでは日本製品はジリ貧になってしまう。EUは米国と並ぶ巨大市場である。そのEU市場に日本企業が打って出て、製品力で勝負するためには、EU側の関税障壁の撤廃が欠かせない。

 米国が核となる環太平洋経済連携協定(TPP)と並び、日・EU交渉も加速すべきだ。そのためには、EUを納得させる市場開放や規制緩和の努力が必要だ。5月にも開く日・EU首脳会談に向けて交渉進展を期待したい。

閣議の議事録―何のための公開なのか

 これが、安倍首相が胸を張る「歴史的な一歩」か。これが、公明党の山口那津男代表が言う「画期的」な試みなのか。

 1885(明治18)年に内閣制度が発足して以来初めて、閣議と閣僚懇談会の議事録が公開された。そのこと自体は歓迎したいが、公開のあり方は到底満足できるものではない。

 公開された4月1日の閣議では、「武器輸出三原則」に変わる「防衛装備移転三原則」が決定された。憲法の理念に基づく、戦後日本の平和主義のひとつの重要な転換点である。

 ところが議事録によると、閣議では関係閣僚が、新原則の適切な運用に関して「決意表明」するにとどまっている。安倍首相も「新たな原則の趣旨を分かりやすく説明し、国民的理解を促進することが非常に重要であると考えております」。

 所要時間12分。A4判で実質4枚。内閣の最高かつ最終的な意思決定の場である閣議の現実がこれなのか。にわかには信じがたい空疎さである。

 かねて閣議は極めて形式的で、閣僚懇談会でも突っ込んだ議論はほとんどされないと言われてはきた。しかし本当にこの程度のやりとりしか行われていないとすると、この国の意思決定はいったいどこで行われているのか。根本的な疑問が頭をもたげてくる。ただ問題はそれ以前に、本当にこの程度の発言しか出ていないのか、検証のしようがないことだ。

 公開は法律で義務づけられたものではなく、閣議決定に基づいている。公開されるのは議事録といっても陪席した官房副長官らが発言要旨を記録したメモであり、どのような基準に基づきまとめられているのかわからない。首相は「現行法の下で速やかに公表した方が情報公開の観点で望ましい」としているが、何か勘違いしていないか。

 議事録の作成と公開は「サービス」ではない。公文書管理法第1条は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置づける。誰が、なぜそのような意思決定をしたのか、過程を記録し後世の検証に堪えられるようにする。

 その歴史に対する責任を等閑視し、検証不能なものをどんなに速やかに公開したところで、何の意味もない。

 公文書管理法を改正し、閣議や閣僚懇のほか国家安全保障会議(日本版NSC)など重要な意思決定に関わる会議も議事録作成を義務づける。一定の年月が経てば原則公開する。

 そこに踏み込んで初めて、「歴史的な一歩」が刻まれる。

公共交通―未来へ、声を上げよう

 地方の公共交通が、深刻な危機にぶちあたっている。

 国土交通省によると、この5年で8千キロ超のバス路線と、105キロの鉄道が廃止された。バス停が500メートル以内、駅が1キロ以内にない空白地域は、国内の可住地の3割に及んでいる。

 日本の公共交通は、民間が線路や車両といったインフラを自前で用意し、運行も担う「民設民営」が中心だ。

 だが人口が少ない地方では、運賃収入だけで経営を成り立たせるのはもともと難しい。急激な少子高齢化に加え、00年代からの規制緩和も過度な競争を招き、鉄道・バス事業者の7~8割が赤字に苦しんでいる。

 車を運転できない高齢者や児童・学生にとって、公共交通は暮らしに欠かせない足である。どう守り、発展させていくか。発想の転換が急務だ。

 これまでの日本の交通網整備は、新幹線や高速道路、空港といった「幹」に重点が置かれてきた。今もまた、リニア中央新幹線計画が脚光を浴びている。

 一方で、「枝」の問題は長く置き去りにされてきた。その結果、交通の基点である東京への一極集中が加速し、地方の公共交通はますますやせ細るという悪循環に陥った。

 この現実を前に、国の姿勢も変わってきた。昨年12月、交通政策基本法が施行され、「日常生活に必要不可欠な交通手段の確保」が、国の施策と位置づけられた。

 「誰でも自由に移動できることは、基本的な人権の一つ」という考え方が根底にある。市町村や都道府県が、公共交通の再編計画を立て、国が支援する。そんな枠組みを国交省は法改正で整えようとしている。

 だが自治体がどれほど立派な計画を立てても、利用する側のニーズと合っていなければ長続きしない。基本法も、利用者である国民に「積極的な役割」を求めている。

 どうすれば便利で乗りやすい公共交通になるのか。住民がニーズを考え、議論に参加していくことが、第一歩となろう。

 熊本市は昨年4月、国に先駆けて公共交通基本条例を施行した。市と市民、交通事業者が一体となって、公共交通で移動できるコンパクトな都市に転換するのが目標だ。市民から市への提案を促す条文もある。担当者は「市民の関心も高まってきた」と手応えを口にする。

 公共交通は地域の動脈だ。熊本市の例が物語るように、住民も加わってより良いものを目指す営みが、地域の未来を左右すると言っても過言ではない。

混合診療 拡充は患者の選択肢を広げる

 政府は「混合診療」の対象を拡大することを決めた。安倍首相の指示を受け、厚生労働省が具体策の検討を始めた。

 患者が効果的な先端治療を受けられるよう、早期に実施する必要がある。

 混合診療とは、公的医療保険で認められた検査や薬とともに、保険適用が認められていない治療法を併用することだ。厚労省は、有効性や安全性に疑問がある治療法が横行しかねないとして、原則禁止としてきた。

 海外では広く使われていながら、国内では承認されていない薬を試したい。そう願う難病などの患者は少なくないだろう。

 だが、現行の仕組みでは、未承認薬を使う場合、本来なら保険が適用される検査や入院費用まで全額自費となってしまう。混合診療の制限は、患者に過度の経済的負担を強いているとの批判が多いのは、もっともだ。

 現在、混合診療が例外的に認められているのは、高度がん放射線療法の重粒子線治療や、家族性アルツハイマー病の遺伝子診断など、約100種類にとどまる。

 厚労省は、適用範囲を広げ、重い病状の患者に限って、抗がん剤などの未承認薬を新たに混合診療の対象にする方針だ。細胞・組織を培養する再生医療や、未承認の医療機器を使った治療を対象に加えることも検討している。

 患者にとって、治療の選択肢が増える。医師も新しい治療法に積極的に取り組むようになる。混合診療の適用拡大には、こうした効果が期待できるだろう。

 政府の規制改革会議は、混合診療を利用しやすくする方策として、「選択療養制度」の創設を提言した。患者と医師が合意すれば、混合診療の実施を認める内容だ。厚労省の方針よりも適用範囲を幅広くとらえている。

 ただ、規制改革会議の案で懸念されるのは、医師が丁寧な説明をしないまま、混合診療の実施について患者の同意を得ることだ。

 患者が入手できる医療情報には限りがある。科学的な根拠のない治療が患者に押しつけられる事態は避けねばならない。

 どこまでを混合診療の対象とするのか。政府にとって、その線引きは大きな課題である。具体策として、海外の臨床試験で効果と安全性が確認された医薬品や、国内外の学会が推奨している治療法を認めることが考えられよう。

 政府は、患者の利益を最優先し、安全性の確保にも配慮した仕組みを構築してもらいたい。

韓国船沈没事故 危機対応の拙さが招いた惨事

 船会社と船長らの安全意識の低さと危機対応の拙さが招いた大惨事と言えるだろう。

 韓国・珍島沖で、旅客船沈没事故が発生して、1週間が過ぎた。死者は100人を上回った。200人近い行方不明者の捜索活動が懸命に続けられている。

 乗客の多くは、修学旅行の高校生だ。収容される遺体との悲しみの対面が相次ぐ。奇跡の生存に望みをつなぐ家族や友人の心痛も、想像するに余りある。

 旅客船は、急旋回した後、傾いて復原力を失い、転覆した。現場海域は潮の流れの速い難所だったが、操船していたのは不慣れな3等航海士だったという。

 この船は日本から購入後、定員を増やすために改造された。事故当時には、申告した以上の貨物を積んでいた疑いも出ている。

 急旋回で積み荷が動き、船のバランスが崩れ、転覆につながったのではないか。韓国当局の徹底的な真相究明が必要だ。

 乗組員による乗客の避難誘導が不十分だったことが、人的被害を拡大させたのは、間違いない。

 船長や乗組員の多くは、乗客に対し、室内に待機するよう指示しただけで、自分たちが先に救出された。救命ボートはほとんど使われなかった。大半の乗客は、船内にとり残されて、脱出の道を断たれたと見られる。

 船長らの無責任な行動に、韓国社会から強い怒りの声があがったのは、理解できる。

 船長らは、乗客の救助を怠った疑いなどで逮捕された。「非常時の安全教育を受けていなかった」と供述した乗組員もいる。

 運航する船会社が、乗客の避難誘導などの訓練を軽んじていたなら、深刻な問題である。

 朴槿恵政権への批判も出ている。救助された人数の当局発表が二転三転したことや、乗客の家族に対する政府高官の無神経な言動が、国民の反感を買った。政権は、より丁寧な対応を迫られよう。

 日本でも、ゴールデンウィークの行楽シーズンを前に、国内の交通機関の安全対策を改めて見直さなければならない。

 国土交通省は、事故を受けて、国内の旅客船業界に対し、航路の安全性や非常時の脱出手順を確認するよう通達した。関係者は、今一度、対策に不備がないか、総点検してもらいたい。

 利用者も、旅客船などに乗る場合には、救命胴衣の位置を確かめるなど、自分の身を守る努力を忘れてはなるまい。

2014年4月22日火曜日

日米首脳は大局的な決断でTPP打開を

 日米が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は、両国が個別の市場分野で利害を調整するためだけの場ではない。民主主義と市場経済の価値観を共有する2つの経済大国が絆を強め、アジア太平洋地域の安定と成長のために、新しい国際通商ルールを築くことに本質的な意義がある。

 オバマ米大統領の来日と日米首脳会談が目前に迫った。しかし、最大の議題となるTPPに関しては、なお日米2国間の関税協議が難航している。たび重なる閣僚協議でも合意に至っていない。

 日米が対立する理由は、自民党が「聖域」としてきた牛肉・豚肉など農産品の5項目の扱いで、関税の引き下げ幅などの溝が埋まらないからだ。米側はコメ、麦、砂糖については関税撤廃を求めない柔軟姿勢を示したが、牛肉・豚肉と一部の乳製品で大幅な引き下げを強く要求しているという。

 このままでは、首脳会談でも関税では決着が見送りとなりかねない。日米双方の政府が、簡単には妥協できない理由を国内に抱えているのは事実だ。だが互いに譲り合わなければ、道は開けない。

 その政治決断ができるのは首脳だけだ。安倍晋三首相とオバマ大統領はTPP構想の原点に立ち返り、大局的な見地から決着を目指してほしい。日米の関税協議は、今回の首脳会談が事実上の最後の期限だと肝に銘じるべきだ。

 TPP域内経済の8~9割を占める日米が、関税削減という旧来型の自由化で合意できなければ、他の交渉10カ国への影響は計り知れない。関税率など具体的な数字を欠けば、いくら両国が「交渉前進」を演出しても、「日米合意」とは見なされない。TPP構想自体が勢いを失い、高水準の自由化を目指す夢は遠のいてしまう。

 中国やロシアなど知的財産権や競争ルールを軽視する自国中心主義的な国々が、一段と幅をきかせる事態にもなりかねない。そのような世界市場の姿は、健全とはいえない。世界の経済成長の中心となったアジア太平洋地域で、ルールを重んじる新しい経済の秩序を築けるかどうか。日米連携の真価が問われている。

 日米の対立が、TPP交渉全体を停滞させている。その現実を日米はいま一度直視すべきだ。両首脳の決断で突破口が開ければ、TPP交渉を再び活性化することもできる。通商交渉の新たな歴史を開く日米首脳会談にしてほしい。

警戒怠れぬ中国の司法リスク

 中国の上海海事法院(裁判所)は、戦前の契約に由来する損害賠償などを商船三井が支払っていないとして、同社の大型鉄鉱石運搬船を差し押さえたと発表した。

 紛争の当事者が話し合っている段階での強制執行で、唐突感は否めない。中国ビジネスを進めるうえで司法がからむリスクも小さくないことが浮き彫りになった。

 中国の報道などによると、日中戦争が始まる前年の1936年、中国の会社が商船三井の前身である日本の海運会社に船舶2隻を貸し出した。これを旧日本海軍が徴用し、最後は沈没した。

 中国の会社の経営者の遺族は1988年に、未払いの賃貸料や船舶を失ったことによる損害への賠償を求め、中国の裁判所に提訴した。2010年には、約29億円の支払いを商船三井に求める判決が確定した。

 同社はその後、賠償の支払いについて原告側と話し合いを進めてきた。上海海事法院は、話し合いは決裂したとして強制執行を求める原告の2度目の訴えが昨年末にあった、としている。

 中国では今年、日中戦争時の強制連行被害者らによる対日賠償請求訴訟を裁判所が初めて受理した。習近平国家主席ひきいる指導部は司法の面でも対日攻勢を強めているわけだ。今回の強制執行もその一環とする見方が出ている。

 中国の一党独裁体制の下では政治が司法を左右する。日中の政治関係が悪い現状では、中国ビジネスを進める日本企業は司法リスクへの警戒を怠れない。

 もっとも今回の強制執行には、戦争賠償を求める動きの一環だと決めつけられない面がある。習指導部の対日攻勢や中国の司法リスクは要注意だが、思惑を見極めて慎重に対処すべきだろう。

 一方の中国側は、不透明な司法の動きが日本企業の対中ビジネスを一段と萎縮させかねないことを、理解する必要がある。今年1~3月の日本から中国への直接投資は、前年同期に比べ4割以上も落ち込んでいる。

韓国船沈没―悲劇を繰り返さぬよう

 韓国はいま、国全体が深い悲しみと怒り、さらに何ともやるせない思いで覆われている。

 韓国南西部の珍島付近で起きた旅客船の沈没事故は、300人を超す死者・安否不明者が出る大惨事となった。

 乗客の多くは修学旅行に向かう高校生だった。隣国の悲劇に胸がえぐられる思いだ。いまは一人でも多くが奇跡的な生還を果たすことを祈りたい。

 6千トンを超える客船が、どうして転覆、沈没したのか。

 原因はまだ特定されていないが、捜査当局や韓国メディアの報道をみる限り、海運会社や船の乗組員らの、あまりにずさんな行動が浮かびあがってきた。

 現場付近は韓国でも有数の潮流が速い難所にもかかわらず、操船は経験の浅い航海士に任されていた。最大積載量を超える貨物を積んでいたほか、それらをしっかりと固定していなかった疑いも強まっている。

 さらに被害を大きくしたとみられるのは、乗客に適切な避難誘導をしなかったことだ。

 船が傾き始めた際、船内放送は「動かないように」と繰り返した。管制センターが、乗客に救命胴衣を着させて早く脱出させるよう強く促したのに、対応した形跡がみつからない。

 朝鮮戦争で国土が廃虚となった韓国は、「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異的な成長で、経済先進国の地位を築き上げた。

 だが、まるで高度成長のひずみが噴き出すように、これまで多くの大事故が起きた。運輸に限らず、インフラや建造物などのまさかの惨事もあった。

 90年代半ばには、営業中の百貨店が崩壊したり、早朝に大きな橋が落ちたりして、多数の死者が出た。今年2月にはリゾート施設の屋根が崩れ、大学生たちが犠牲になったばかりだ。

 その裏側では、効率や利益を優先する油断や慢心はなかったか。成長と競争の論理が、地道な安全策の積み重ねを置き去りにする風潮はなかったか。

 安全の落とし穴は、他の国々にとっても決してひとごとではない。日本でも05年に起きたJR宝塚線の脱線事故で、安全対策を後手に回した利益優先のJR西日本の体質が批判された。

 日々の業務のルール順守、機材や施設点検の徹底、事故時を想定した避難・救助の訓練などは、どの業界にも通じる基本原則である。

 どんなに技術が進んでも、安全の最後の守り手は人間の意識でしかない。

 悲劇を防ぐために毎日の安全を不断に見つめ直す。隣国の事故をそんな他山の石としたい。

ハーグ条約―子どもの利益を第一に

 国際結婚が破綻(はたん)した。父と母はそれぞれ別の国に住むことになった。その場合、子どもはどちらと暮らすべきか。

 子はまず、元々住んでいた国の親の方に戻す。そして、その国で親権や、その後の面会について決めることを原則とする。それがハーグ条約である。

 90カ国以上が加盟しており、日本でも今月、発効した。

 海外で結婚生活を送っていた日本人の親が子と帰国する。外国人の親が日本から子を連れ出す。いずれのケースもある。

 どちらであれ、これまで連れ去られた親の側にとれる有効な手立ては少なかった。また、連れ去った親が外国当局から誘拐犯扱いされることもあった。

 元々家族が暮らしていた国での解決を後押しするのは理にかなう。ただ、親の事情は千差万別であり、なかなか原則通りにいかないこともあろう。

 最優先すべきは、子にとって最善の解決策をとることだ。それを基本としておきたい。

 条約の対象は16歳未満の子。連れ去られた先の国に、その子を捜して元の国に戻す支援をする責任がある。

 日本国内に子がいる場合、その親が応じなければ、東京または大阪の家裁が連れ戻しの是非を判断し、強制的に親から引き離すこともある。

 まずは父母の話し合いによる合意をめざすべきなのは、いうまでもない。弁護士会などは国と提携した民間の調停機関づくりを進めている。言語や文化、法の違いに配慮し、海外から援助を求める人にも納得してもらう対応をしてほしい。

 父母の対立が深刻だと家裁の関与は避けられない。条約では子に重大な危険があれば、連れ戻しを拒むことも認めている。

 とりわけ連れ去った方の親が配偶者の暴力に耐えかねて帰国したケースでは、子を戻すリスクをどのように考えるかは難しい。条約の理念は尊重しつつ、できるだけ実態を把握、勘案したうえで判断すべきだ。

 条約は、連れ戻しを拒む子の意思も尊重している。家裁は子が本心を話しやすい雰囲気づくりをすることも必要だろう。

 国際結婚は今後も増えそうだ。日本では離婚後は一方の親が親権をとるが、他の先進国では共同で子育てにかかわるのが一般的だ。婚姻関係にかかわらず、子は成長過程で父と母の双方とのふれあいを必要とするという考え方が根底にある。

 こうした海外の事情を考えるとともに、日本でも、離婚した両親と子育ての役割をめぐる論議を高めてはどうだろうか。

船舶差し押さえ 日中共同声明の精神が揺らぐ

 日本企業に対する前例のない公権力行使だ。歴史問題で対日圧力を強める習近平政権の下、日中関係がさらに悪化しかねない事態である。

 中国の裁判所、上海海事法院は19日、1936年の船舶賃貸借を巡る訴訟に絡み、商船三井所有の大型船舶を浙江省の港で差し押さえたと発表した。

 中国の司法は、共産党の指導下にあり、習政権の意思を反映したものと言えよう。

 訴訟は、中国海運会社の関係者が80年代に起こした。商船三井の前身となる企業に貨物船2隻を貸した際の賃貸料や、沈没した船の賠償金の支払いを求めてきた。

 2010年末、商船三井に29億円余の賠償金支払いを命じる判決が確定した。

 商船三井が賠償に応じないとして、裁判所は、中国の鉄鋼会社に貸し出されていた船舶の差し押さえという措置を取った。

 中国外務省は「戦争賠償問題とは無関係」と説明している。

 これに対し、菅官房長官は「極めて遺憾だ。1972年の日中共同声明に示された国交正常化の精神を根底から揺るがしかねない」と述べた。賛同できる見解だ。

 共同声明で中国政府は、戦争賠償請求の放棄を表明している。中国側は、基本的には民間からの賠償請求を封じ込めてきた。

 日本政府は、総額3兆円余の円借款を供与し、中国の経済発展を支えた。貧困地域などへの無償資金協力はなお続いている。企業も現在に至るまで投資や技術協力で多大な貢献をしている。

 こうした経緯を中国政府は、国内に十分説明していない。

 習政権は、安倍首相の靖国神社参拝を機に、歴史認識問題での反日宣伝を一段と強めている。

 判決確定から3年以上たって、なぜ、差し押さえという手段をとったのか。オバマ米大統領の訪日直前というタイミングをとらえた対日圧力と見ることもできる。

 菅長官は、中国でのビジネス展開を考える日本企業にとって「萎縮効果」を生みかねないと指摘し、憂慮の意を示した。

 日本の対中投資が落ち込む中、中国リスクの増大は日本だけでなく、経済成長が減速している中国自身にとっても痛手のはずだ。

 戦時中に強制連行されたとする中国人元労働者らが、日本企業に損害賠償を求める動きが相次いでいる。今後、日本企業の資産差し押さえが拡大する恐れもある。

 習政権は、互恵という日中関係の原点を再確認すべきである。

貿易赤字最大 「空洞化」が助長する国力低下

 巨額の貿易赤字が長引けば、日本経済再生への道は、さらに険しくなるばかりである。

 輸出額から輸入額を差し引いた2013年度の貿易収支は、13・7兆円の赤字となった。貿易赤字は3年連続で、これまで最大だった12年度の1・7倍に達した。

 政府は貿易赤字が今年度以降、海外景気の回復などを追い風に、緩やかに縮小していくと見ているが、楽観は禁物だ。

 貿易赤字拡大の主因は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、停止した原発を代替するために、火力発電所向けの燃料輸入が急増したことである。

 主力燃料の液化天然ガス(LNG)輸入額は、10年度の3・5兆円から13年度は7・3兆円と2倍以上になった。資源価格の高騰と円安で、円ベースの輸入額が膨らみ、赤字拡大に拍車をかけた。

 資源国への国富流出は日本の国力を低下させる。安全性を確認できた原発の再稼働を進め、火力への過度な依存を脱却すべきだ。

 気がかりなのは、安倍政権の経済政策「アベノミクス」で超円高が解消されたのに、輸出よりも輸入の方が大幅に増加し、貿易収支が悪化したことである。

 生産拠点が海外に移転する「産業空洞化」が進み、国内に輸出品を生産する工場が減った。円安になっても輸出が増えにくい産業構造に変化したと言える。

 薄型テレビなど日本メーカーの製品が、海外から大量に逆輸入されるようになった影響もある。円安になると逆輸入品の価格が上がり、むしろ赤字が拡大する「逆効果」の弊害が顕在化している。

 政府は、日本産業への警鐘と受け止めるべきだ。

 確かに大企業を中心に業績は回復しているが、空洞化の進行を食い止めないと雇用が減り、消費者に十分な恩恵が波及しない。国内の事業環境を好転させ、内需や雇用の拡大を図りたい。

 日本の国際競争力を強化する成長戦略の具体化を、一段と加速させる必要がある。

 安倍政権は6月に成長戦略の第2弾を策定する。雇用や医療、農業などの分野で、新たなビジネスの参入を阻む「岩盤規制」に、大なたを振るえるかどうかが、成否を占うカギとなろう。

 原発や高速鉄道などインフラの輸出で官民連携を強め、具体的な成果を出すことも大切だ。

 アジアや欧州の各国より高い法人税率についても、大幅な引き下げの実現が求められよう。

2014年4月21日月曜日

外国人の活用に「国家百年の計」を

 企業の生産や販売活動が活発になり、様々な分野で人手が足りなくなっている。将来も人口減少で労働力不足は大きな問題になる。

 外国人の労働力の活用を真剣に考えるときだ。足元の人手不足、中長期的な労働力不足のそれぞれについて、戦略的に外国人受け入れ政策を練る必要がある。

 現在、人手不足が特に深刻なのは建設や土木の分野だ。東日本大震災の復興工事に加えて景気対策の公共工事も増えているためだ。

 2020年に開く東京五輪関連のインフラ整備もあり、建設労働者の需要は今後も増大する。

■見直したい技能実習
 このため政府は緊急措置として、途上国の人材に日本で働きながら技能を学んでもらう外国人技能実習制度の拡充を決めた。建設業を対象に20年までに限って、現在は最長3年の受け入れ期間を5年に延ばすなどの内容だ。

 技能実習制度をめぐってはかねて、最低賃金に満たない賃金で働かせたり、長時間の残業を強いたりするなどの違法行為が問題になっている。

 ただ目の前の人手不足への対応は急務だ。建設職人が足りず、保育所が予定通りに開設できない例もある。政府の緊急措置では、実習生を受け入れる企業が過去に不正行為を働かなかったかをチェックすることにしており、当座の対策としてやむを得まい。

 並行して、中長期的な視野に立った外国人受け入れの政策づくりを急がなければならない。

 高齢化で介護に携わる人材は25年に約100万人足りなくなると見込まれている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の15歳から64歳までの生産年齢人口は、13年の約7900万人から39年には6000万人を割る。

 女性や高齢者の就業促進により力を入れなければならないのはもちろんだ。だが、それで労働力不足を賄えるかどうかは不安がある。これまで外国人の単純労働力は国内の雇用に影響をおよぼさないよう受け入れを抑制してきたが、この姿勢は改める必要がある。

 ただし、永住を前提とした移民の本格的な受け入れについては、国民の間に合意ができていない。このため外国人は、まずは受け入れる期間や職種を限るかたちで増やしていくべきだろう。

 どのように外国人の受け入れを拡大していけばいいか。いくつかポイントがある。

 まず、技能実習制度についてだ。実習生を安い労働力ととらえる雇用主が少なくない。現行制度は抜本的に見直して、受け入れの新たな器になる制度を考えたい。

 逆に、もっと機能させるべき制度がある。経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアやフィリピンから介護福祉士や看護師の候補者を受け入れている。これをさらに増やせるはずだ。受け入れにあたって現在は厳しい資格要件が設けられており、日本で働き続けるには一定期間内に日本語による国家試験に合格しなければならない。もっと柔軟に考えるべきだ。

 また、いまも「特定活動」という在留資格を法相の指定で外国人に与えることができる。11年のタイの洪水の際は、操業できなくなった日系企業の工場のタイ人従業員に、この在留資格で日本の工場で働いてもらった。この仕組みを活用する余地も大きい。

■生活環境の整備急げ
 大事なのは安定的に外国人労働力を招き入れるために、その経路を多面的につくることだ。

 受け入れ拡大には注意も必要だ。競争力を回復させるのが難しい労働集約型の産業で、外国人労働者を増やして受注増に対応するようだと、日本の産業構造の高度化を妨げる。受け入れる外国人の数には、業種別に上限を設けることなども考えられる。

 情報分野の技術者や大学の研究者など専門性の高い「高度人材」は、より積極的に受け入れを拡大したい。親や家事使用人を呼べる優遇措置があるが、年収などの要件が厳しい。緩和を検討すべきだ。単純労働力と高度人材の両面で、総合的な外国人受け入れ政策が求められる。

 加えて重要なのは外国人の生活インフラの整備だ。彼らが日本の社会になじみ、暮らしていくためには、行政や自治体、ボランティアらによる支援が欠かせない。

 まずは日常の生活や教育、医療など、さまざまな分野での困りごとを一括して受け付け、対応にあたるワンストップ型の相談窓口を充実させていかなければならない。外国人の家族らが日本語や日本の社会制度などを学ぶ場の整備にも力を入れていく必要がある。

年金の未来(上)―「100年安心」を脱して

 今年は、公的年金に対する健康診断の年だ。

 5年に1度、新たな人口推計が出るのにあわせ、政府が100年を対象に年金の先行きをシミュレーションする。「財政検証」と呼ぶ。

 年金について、国民の不信感は根強い。真っ当な批判もあれば、誤解も少なくない。

 年金のどこに問題があり、どんな処方箋(せん)があるのか。財政検証を前に、皆さんと一緒に考えたい。

■現役の負担に上限

 「100年安心」。10年ほど前、公的年金制度の大きな改革が議論された際、政治の場に登場した言葉だ。

 03年の総選挙で、当時、厚生労働相を出していた公明党が使い始めた。政府としては公式に一度も使っていない。

 この言葉は、現行制度の本質的な理解を妨げ、「年金は破綻(はたん)する」と主張する立場からは格好の批判の対象ともなった。二重の意味で年金への信頼を損ねてきたといえる。

 確かに04年の年金改革は、それまでの制度から考え方を大きく変えるものだった。

 日本の公的年金は現役世代から集めた保険料を、その時点での高齢者に給付することを基本とする。以前は一定水準の年金を確保するため、保険料を引き上げていた。

 だが、そのままだと厚生年金の保険料率は26%近くまで上がる。そこで発想を転換し、現役世代の負担に上限を設けることにした。「お金の入り」に枠をはめ、その範囲内でやり繰りをするという考え方だ。

 04年改革によって、保険料は毎年、自動的に少しずつ引き上げられ、17年度以降は勤め人が入る厚生年金では18・3%(労使折半)、パートや自営業の国民年金では1万6900円で固定される。

 これに国が税金を加え、積立金とその運用収入も使って、おおむね100年間、収支を均衡させる。

■デフレで発動せず

 さらに、急速な少子高齢化でお金の入りと出のバランスが崩れないよう、「マクロ経済スライド」という仕組みを設けた。

 人口の減少や平均余命の伸びにあわせて、年金を自動的に抑える。要は、「稼ぎ手が大変だったら高齢者も我慢する」という、家族なら当然のルールを働かせるわけだ。

 なるほど、これなら「100年安心」と胸を張りたくなったのもわかる。

 問題は、このマクロ経済スライドがほとんど知られず、実際に機能していないことだ。

 認知度の低さは無理もない。04年当時は閣僚の未納問題や旧社会保険庁の不祥事が噴出し、メディアでも制度の中身は十分には取り上げられなかった。

 国会では、「これこそ法案の背骨だ。総理は理解しているのか」とただした民主党の山本孝史・参院議員(故人)に対し、小泉首相が「専門家に聞いてください」としか答えられなかった場面さえあった。

 発動されなかったのは、賃金や物価のデフレ下では適用しないと決めていたからだ。

 年金には別途、物価スライドがあり、過去はインフレにあわせて給付額を上げてきた。ところが、物価の下落に直面し、政治は受給者の反発を恐れ、年金額を引き下げられなかった。

 この据え置かれた2・5%分は、昨秋から段階的に下げ始めているが、マクロ経済スライドは適用されていない。

 その結果、収支のバランスが崩れ、いまの年金の水準は高止まりし、将来世代の年金を下げる構図になっている。

■就業者減へ歯止めを

 04年改革の時点では、長期間のデフレは想定していなかったかもしれない。

 しかし、問題点は09年の財政検証で明らかになっていた。修正を急ぐ必要がある。個人が退職後を見据えたライフプランを立てていても、仕事や家族に変化があれば見直すのと同じだ。

 むろん年金額を減らす見直しに反発は強いだろう。消費増税で基礎年金の財政基盤は強化されたが、年金制度への信頼度が高まったわけでもない。

 年金不信の元を絶ち、安心できる年金水準を支えうる社会をどうつくっていくか。きちんと議論を進める必要がある。

 どのくらい年金が受け取れるかは、その時々の経済力に左右される。

 手を打たないと、働く人の数は30年までに820万人以上減るという推計もある。女性や高齢者を含め多くの人が働ける環境をつくり、就業者の減り方を抑えないと、年金に安心を求めることなど不可能だ。

 こうした覚悟を私たちが持つのに、「100年安心」というスローガンは不要である。

 当時の与党は、政権交代を経て与党に返り咲いた。誤解をただすなら今だ。

外国人労働者 活用策を幅広く議論する時だ

 少子高齢化で、働く世代の人口は減り続けている。社会の活力を維持するため、労働力の確保は大きな課題である。

 政府は建設、介護などの分野で外国人労働者の活用策の検討を始めた。第1弾は、建設業での外国人の受け入れ拡充だ。

 建設業界は、2020年東京五輪・パラリンピックに向けて施設の建築需要が急増し、大幅な人手不足が予想される。

 政府は開発途上国から受け入れる外国人技能実習制度について、在留できる期間を3年から最長6年に延長する方針を決めた。15年度から五輪開催までの時限措置とする。労働力不足の急場をしのぐ苦肉の策と言えよう。

 技能実習制度を巡っては、賃金不払いなど労働基準法違反の事例が相次いでいる問題がある。厚生労働省は、不正の監視を強化しなければならない。

 介護分野の人手不足も深刻だ。急速な高齢化に伴い、政府推計では、25年までに介護職員を100万人増やす必要があるという。

 経済連携協定(EPA)に基づき、外国人の介護労働は、インドネシアなどから介護福祉士の資格取得を目指して来日する場合に限られている。これまでの試験合格者は約240人に過ぎず、人手不足の解消にはほど遠い。

 一定の技能を持つ外国人に門戸を広げなければ、今後の需要はまかなえない。新たな技能検定試験なども検討してもらいたい。

 介護に不可欠なコミュニケーション能力を高めるため、政府は介護職員を志す外国人への日本語学習支援にも力を入れるべきだ。

 建設や介護分野の人手不足の背景には、就職した若者が定着しない問題も指摘できる。賃金が他の産業に比べて低く、将来の生活設計を描きづらい事情がある。

 安上がりな外国人労働者に頼ろうとする限り、賃金水準は向上せず、人手も確保できない。昇給制度など待遇改善やキャリア形成の仕組みを整えることが大切だ。

 政府は女性や高齢者の就労促進を打ち出している。それでも不足する分野の労働力として外国人を活用する方策を考えるべきだ。

 家事支援に外国人を受け入れれば、女性の就業率をアップさせる効果も期待できよう。

 現在、外国人労働者は約70万人に上るが、文化的な摩擦や治安への影響を考えると、無秩序に増やすことはできまい。

 外国人労働者をどう受け入れ、どう活用するか。官民で幅広く議論する時期に来ている。

給食の事故防止 アレルギー症状を把握したい

 食物アレルギーを抱える子供が増えている。新学期が始まった今、学校は給食の安全対策を点検し、児童・生徒を被害から守ってもらいたい。

 文部科学省が昨年実施した調査によると、全国の公立小中高校で食物アレルギーのある児童・生徒が約41万人に上った。2004年の前回調査と比較すると、1・2倍に増加している。

 一昨年12月、東京都調布市の市立小学校で、5年生の女子児童が給食を食べて死亡した。その痛ましい事故が、食物アレルギーへの関心を高めた。

 しかし、給食でアレルギー食材を誤って食べてしまうケースは後を絶たない。給食の事故防止は、教育現場の喫緊の課題である。

 卵や牛乳、エビ、カニなど特定の食べ物を口にすると、じんましんが出たり、呼吸が乱れたりする。ショック状態に陥り、意識が低下する場合もある。こうした危険を伴うのが食物アレルギーだ。

 学校が適切な対応をとるためには、子供の症状を正確に把握しておく必要がある。

 ところが、アレルギーを持つ子供の保護者のうち、症状の特徴や注意点を記した担当医の診断書類を学校に提出していたのは、2割にとどまっている。

 文科省が先月末、全国の学校向けに出した通知の中で、診断書類を必ず保護者から提出させるよう求めたのは妥当な措置だ。

 各自治体は、誤食を防ぐ取り組みを進めている。

 調布市では、事故の教訓から、アレルギーの子供用の給食を盛りつけるトレーや食器の色を、他の子供のものと区別した。

 アレルギー食材が除かれているかどうか、調理や配膳など各段階で栄養士や担任教師が確認し、給食に添えるカードにサインしている。複数の目によるチェックは有効だろう。

 万が一、事故が起きた場合への備えも欠かせない。

 子供がアレルギーによるショックを起こした際は、症状を和らげる自己注射薬をいかに早く投与できるかがポイントになる。日頃から実践的な研修を行い、すべての教職員が取り扱えるようにならなければならない。

 医療機関や消防機関との協力関係も築いておくべきだ。

 子供たちに食物アレルギーの正しい知識を教えることも大切である。アレルギーを持つ子がいたら、クラス全員で注意を払う。給食を通じて、思いやりの気持ちを育み、事故の防止につなげたい。

2014年4月20日日曜日

新たな不安を抱える米金融システム

 リーマン・ショックから6年目の今も、米国の金融機関の経営基盤には弱い部分が残る。金融システム全体としては、投機的な商品の復活など新たな不安の芽も見え始めた。

 米国の金融システムは経済成長に必要なお金を世界中に循環させる役割を担っている。米大手金融機関が経営を強固なものにするよう望みたい。さらに金融監督当局には、新たな不安の芽を素早く摘むための柔軟で実効性ある監督を期待する。

 米大手金融機関の2014年1~3月期決算は、多くの課題を浮き彫りにした。危機の再発防止策として金融市場での売買業務が厳しく制限されたため、JPモルガン・チェースなど減収になる銀行が相次いだ。バンク・オブ・アメリカは証券化商品に関する訴訟関連費用が重くのしかかり、赤字に転落してしまった。

 シティグループは決算に先立つ当局の特別検査で、拡大しすぎた国際業務のリスク管理体制の弱さを理由に、自社株買いなどの計画を却下された。

 いずれも新しい経営モデルを確立できず、過去の負の遺産に足を引っ張られている例だ。得意な分野や地域に経営資源を集中させ、万が一の事態に備え資本を厚く積む戦略を徹底すべきだ。

 大手金融機関とは対照的に、規制の緩い買収ファンドやヘッジファンドは存在感を高めている。そのようなファンドが取引を仲介し、信用力は低いが利回りは高い特殊な金融商品が市場に大量に出回るようにもなった。

 例えば、高い利息を現金ではなく別の債券で支払うことができる投機的な債券が、活発に取引されている。こうした債券は07年に175億ドル発行され、危機後は消滅したとみられたが金融緩和を背景に復活。13年の発行額は150億ドル強と危機前に迫る。

 高利回り債の発行急増への懸念は、国際通貨基金(IMF)が金融システムの安定性に関する報告書で言及している。既存の金融システムの枠外で膨らむ信用リスクにも目をこらすべきだ。

 投機的な商品の発行を抑えるうえでも、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和を円滑に縮小することが重要だ。短期の収益を求め銀行が高リスクの投資を増やしすぎるようなことがないよう、監督当局が金融機関の資産内容に目を光らせる必要もある。

健保組合の負担増に歯止めを

 主に大企業の従業員が加入する健康保険組合の財政悪化が加速している。原因は高齢者が使う医療費を賄うための拠出金の増加だ。このままでは従業員や企業の負担がやみくもに増え、解散に至る組合が増える恐れもある。対策が求められる。

 健保組合は全国に1400ほどあり、この多くが赤字の状態。従業員の給与に対する保険料率も毎年のように上がっており、2014年度は平均8.86%になる。

 中小企業従業員のための「協会けんぽ」に比べると健保組合の財政は健全とされてきた。しかし、協会けんぽの平均保険料率10%を上回る健保組合も前年度より大幅に増えて251組合になる。

 高齢者の医療費を賄うための制度に対する健保組合の拠出金は総額で約3兆3千億円にも達する。従業員と会社が負担する保険料総額の半分弱が拠出金のために消えていく。従業員やその家族といった当事者のために使っているのは半分強にすぎない。

 政府は今年中に高齢者の医療費を賄う仕組みの見直し案をまとめる予定だ。財政が比較的豊かな健保組合がより多く拠出金を負担する案などが議論される。この案だと、特に苦しかった健保組合や協会けんぽは拠出金の負担が多少和らぐ。公正の観点から一定の負担増減が生じるのはやむを得ない面もあるだろう。

 ただ、取りやすいところから取るという発想だけでは広く理解は得られない。15年10月には消費税率の10%への引き上げが予定されている。消費税は現役世代だけでなく高齢世代も負担する。この増税で得られる財源の一部を高齢者の医療費に充てることも必要だ。

 もちろん、高齢者が使う医療費そのものを抑える努力も欠かせない。複数の医療機関にかかって、飲みきれないほどの薬を処方されたり、同じような検査を重複して受けたりする無駄はなくしたい。医療に使えるお金は無尽蔵ではない。どう有効に使うべきか、真剣に考えなければならない。

混合診療解禁―患者の利益になるのか

 公的な医療保険が使える診療と、使えない自由診療を組み合わせる「混合診療」が、規制改革の焦点に浮上している。

 混合診療は従来、医療費全額が保険の対象外だったが、一定の先進医療を併用する場合、保険診療部分は1~3割の自己負担ですむ制度が導入された。これを抜本的に拡大しようというのが、経済人らからなる規制改革会議の提案である。

 むろん、患者のニーズにあわせ、認められる治療の審査を迅速化することなどは必要だ。

 しかし、一線を越えれば、「安全な医療を、貧富の差にかかわらず受けられる」という原則を骨抜きにし、患者の利益を損ねる可能性もある。6月の答申に向けて注視したい。

 規制改革会議は提案を「選択療養」と呼ぶ。患者と医師の合意があれば、対象となる治療法を積極的に認める内容だ。

 議事録から透けるのは、治療の選択を極力、当事者である医師と患者に委ねる姿勢である。だが、医療は専門性がきわめて高く、多くの場合、患者は医師を信用するしかない。

 「全国統一的な中立の専門家による評価を受ける」というものの、委員の発言を読めば届け出制に近く、「絶対危ない治療、めちゃくちゃな医者にストップをかける」という程度のゆるい審査で実施したいようだ。

 これは危うい。きちんと客観的に評価できる臨床試験の枠組みで進めるのが筋だ。

 そうでないと、すでに自由診療で広がりつつある「効果ははっきりしないが、副作用はごく軽い」という「最新医療」を横行させ、わらにもすがる思いの患者が食い物にされかねない。

 もう一つの懸念は、貧富の違いによる医療の格差を広げ、固定化する恐れがあることだ。

 これまで混合診療が認められた治療法は、安全性と有効性を確かめたら公的保険の対象に移し、誰もが使えるようにすることを前提にしている。

 今回の提案には、この前提がない。効果が認められた治療が「選択療養」にとどまり、金持ちしか受けられないなら、医療の格差は固定化される。

 難病患者の団体は「必要な医療は保険適用が原則」として、「なし崩し的な解禁」に反対を表明している。10年前の混合診療論議では、高価な未承認薬を使うがん患者らの声が一部解禁を後押ししたが、今回はそれも聞こえてこない。誰が大幅な緩和を望んでいるのだろう。

 「岩盤規制の打破」というスローガンの前に、患者の真の利益を考えてほしい。

日中関係―この機運を生かしたい

 凍りついていた日中関係に、やっと改善に向けた兆しが出てきた。両国間には過去と現在にまたがる多くの難問が横たわるが、だからこそ、ふつうに対話できる関係を作り直したい。

 このところ注目すべき交流が続いている。

 習近平(シーチンピン)国家主席と近い関係にある胡徳平氏が来日し、今月上旬、安倍首相と面会していたことが明らかになった。

 元衆院議長の河野洋平氏が北京で会談した汪洋(ワンヤン)副首相は、安倍首相を批判する一方、「日本の経済界が困難克服のため努力し、関係改善に貢献することを望んでいる」と発言した。

 今月24日からは舛添要一・東京都知事が友好都市関係にある北京を訪れる。北京市からの招待は実に18年ぶりだ。中国外務省も歓迎の談話を出した。

 隣国同士、このまま疎遠でいいはずがない。なんとか改善の道はないか。そんな意思が双方に働いているとすれば、好ましい進展だ。

 昨年も事態打開への努力はあった。11月に中国国防省が東シナ海域で突然、防空識別圏を敷く挑発行動に出た後も、外交当局者間の往来は続いた。だが、安倍首相による年末の靖国神社参拝で交流は途絶えた。

 歴史問題で非難を強めてきた習政権は、安倍首相が譲歩しない限り、公然と和解に動くような体裁はとりたくない。まずは経済と民間の交流に力を入れ、安倍氏の出方は慎重に見極めよう、ということなのだろう。

 ただ、日中の間にある障害は歴史認識だけではない。むしろ中国が危うい軍拡を長年続け、周辺域での影響力拡大を図っていることが、日本を含む近隣に緊張をもたらしている。

 無用な衝突を防ぐためにも、防衛当局間の対話が必要だ。空や海での警戒行動をめぐる安全確保のメカニズムをつくれば、地域の安保環境に役立つ。

 一方、経済面では日中は相互補完関係が強い。今も中国は日本の技術を求め、日本は中国の市場と労働力を必要とする。

 日中韓で構想されている自由貿易協定交渉の加速を含め、経済関係強化をめざした議論を政府間で進めるべきだ。

 軍事大国化する中国への懸念は、今や環太平洋諸国が共有している。それでも、米国はじめ各国は首脳同士の対話を絶やすような選択はせず、むしろ活発に主張をぶつけ合う関係を維持している。

 対立を抱えていても、共存共栄を図る。それがかつて日中で合意した「戦略的互恵関係」の意味するところではないか。

日米TPP協議 首脳の決断で大筋合意目指せ

 難航してきた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の日米協議は、大きなヤマ場を迎えた。

 焦点の農業分野で歩み寄ろうとする動きがうかがえ、互いに着地点を探る一層の努力が重要である。

 高いレベルの自由貿易を推進するという野心的な合意に向け、24日に東京で会談する安倍首相とオバマ大統領が指導力を発揮することが求められよう。

 ワシントンで3日間行われた甘利TPP相とフロマン米通商代表の協議が終わった。

 首脳会談直前の重要な地ならし交渉だったが、今月上旬の東京での閣僚協議に続き、最終的な大筋合意には至らなかった。

 協議後、甘利TPP相は、「一定の前進はあったが、まだ距離は相当ある」と述べた。米通商代表部も、「重要な課題でかなりの意見の隔たりが残っている」との声明を発表した。

 日米両国は首脳会談まで事務レベルの協議を続ける。限られた時間で、どこまで対立点を埋められるかが課題になる。

 今回、閣僚協議が決着できなかった主因は、自民党が関税撤廃の例外扱いを主張している農産品5項目を巡って、駆け引きが続いたためである。

 米国は、コメ、麦、甘味作物については、関税撤廃を求めない柔軟姿勢を示唆する一方、牛肉・豚肉の大幅な関税引き下げを強硬に要求したとされる。

 日本は大幅下げに難色を示しながらも、ギリギリの妥協案を模索したようだ。しかし、輸入が急増した場合の緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動条件などを巡って溝は深く、なお調整が必要と判断したのだろう。

 11月に議会中間選挙を控えた米国では、保護貿易主義圧力が高まり、オバマ政権が対日強硬姿勢に傾いている。日本の畜産農家も一層の市場開放に警戒感を示す中、日米双方とも安易に妥協できない事情がうかがえる。

 だが、互いに頑(かたく)なな姿勢を続けるばかりでは活路は開けまい。

 オバマ大統領は、TPPを重視するとともに、米国の輸出拡大を掲げている。安倍首相は、TPPを成長戦略の柱に位置づけ、交渉合意に意欲を表明してきた。

 日米主導でアジア太平洋地域の活力を高めるため、首脳同士が大局的な見地で決着を図る時だ。

 日米の対立が続けば、このままTPP交渉が漂流しかねない。豪州など他の参加10か国は、日米交渉の行方を注視している。

性暴力被害者 “駆け込み寺”を充実させたい

 性的暴行や強制わいせつなど、性暴力の被害を受けながら、泣き寝入りせざるを得ない人を少しでも減らす。そのためには“駆け込み寺”となる救援施設の整備が必要だろう。

 性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」が今月、福井、滋賀両県の民間病院に新たに設置された。

 専門の支援員や産婦人科医が常駐して相談や診療に当たる。希望に応じて弁護士やカウンセラー、福祉窓口、警察への仲介役にもなる。様々な支援の窓口として、センターが果たす役割は大きい。

 周囲に打ち明けにくく、潜在化しやすいのが、性暴力被害の特徴だ。消えない不安や恐怖心で外出できなくなるなど、生活に支障をきたす例も多い。

 支援センターに求められるのは、心身に傷を抱える被害者に寄り添った対応である。

 支援センターは2010年、大阪府内の民間病院に初めて設置された。現在、年6500件もの相談が寄せられる。

 政府は、第2次犯罪被害者等基本計画の重点項目に、支援センターの設置促進を盛り込んだ。12年には開設・運営の手引を作成し、「都道府県内に少なくとも1か所は設置することが望ましい」との方針を示した。

 しかし、これまでに設けられたのは、東京、北海道など10か所程度にとどまる。整備が進まない最大の要因は、資金不足だ。

 設置主体の多くは民間団体で、運営資金を寄付に頼っている。支援員が手弁当で対応している支援センターもある。産婦人科医が不足する中、拠点となる病院を確保できない地域も多い。

 欧米や韓国では、24時間対応の公的支援網が整っている。米国では1100か所ものレイプクライシスセンターが、連邦政府などからの補助金で運営されている。

 支援センターの設置や運営に、政府や自治体による一定の補助が必要ではないか。公立病院内のセンター設置も進めるべきだ。

 支援員の養成も重要である。被害者対応には、高度な知識と技術が要求される。被害者が周囲の不用意な言動で傷つく「二次被害」対策も欠かせない。

 支援員希望者に40時間に及ぶ養成プログラムを課している団体もある。優れたノウハウを普及させるため、自治体などが研修会を開催することも可能だろう。

 被害者の治療・検査の費用補助など、政府や自治体が検討すべき課題は少なくない。

2014年4月19日土曜日

ロシアはウクライナ合意の責務果たせ

 ウクライナとロシア、米国、欧州連合(EU)の4者による初めての外相級協議がジュネーブで開かれ、ウクライナのすべての武装勢力の武装解除や暴力の停止、監視団の派遣などで合意した。

 緊張が高まるウクライナ危機を緩和できるかどうかは、危機をあおってきたロシアの対応が大きなカギを握る。ロシアはその責任を重く受け止め、今回の合意を着実に履行する責務がある。

 ウクライナではロシアが武力を背景に南部のクリミア半島を自国に編入したのに続き、東部のドネツクなどでは親ロシア派の武装勢力が庁舎などを相次ぎ占拠した。政権側は強制排除に乗りだし、極度の緊張が続いている。

 大規模な流血の事態を避けるには、4者協議の合意を迅速に進めることが欠かせない。米国は東部の騒乱にロシアが加担しているとみている。ロシアは関与を否定するが、仮にそうだとしてもロシア系武装勢力の武装解除に主導的な役割を果たせるはずだ。

 プーチン大統領は国民との対話で「秩序をもたらすのは武力ではなく、対話だけだ」と述べた。この言葉に偽りがないのなら、まずは武装勢力に武器の放棄と占拠した場所の明け渡しを促すべきだ。さらにウクライナ東部の国境付近に展開するロシア軍を撤収させ、威圧をやめるのが筋だろう。

 ロシアはウクライナの危機緩和策として、地方の自治権を拡大する連邦制の導入などを盛り込んだ憲法改正を求めている。4者協議の合意も憲法改正に言及し、ロシアの主張に配慮した。

 確かに、東西分裂の懸念を抱えるウクライナが国家の一体性を保つうえで、地方分権のあり方は大きな課題だ。ただ、ロシアには5月末に予定されるウクライナ大統領選を控え、自国の影響力を最大限確保する思惑もうかがえる。

 国家制度のあり方や憲法改正の是非を決めるのはウクライナの国民自身だ。武力の威圧や経済的な圧力でウクライナを圧迫し、内政に介入することは決して容認できない。国際社会は制裁の強化も視野に、ロシアに厳しい監視の目を向けていく必要がある。

 日本政府は今月下旬に予定していた岸田文雄外相の訪ロ延期を決めた。ウクライナの緊張が続くなか、いまは主要7カ国(G7)が協調してロシアに強い圧力をかけるべき局面だ。訪ロ延期は当然の選択だろう。

電力ビッグデータを生かそう

 東京電力や関西電力など電力10社がスマートメーター(次世代電力計)を2024年度末までに、国内の全世帯に設置する方針を表明した。これまでの計画を1~8年前倒しする。

 スマートメーターは通信機能を備え、家庭での電力の使用状況をきめ細かくつかむデジタル式の電力計だ。スマートメーターを通じて集まる膨大な情報、いわゆる「ビッグデータ」は、多様な料金メニューや新たなサービスをつくるうえで大いに役立つ。

 電力小売りの全面自由化を控え、電力会社がメーターの導入を急ぐ必要があるのはもちろんだ。加えて新たに電力供給に参入する事業者も、同じように使えるようにする必要がある。集めた情報を電力以外のサービスに生かす環境を整えることも重要だ。

 電力の使用状況がわかれば、日中は外出が多い家庭向けに夜間の電気料金を安くするなど、生活スタイルにあわせた料金設定がしやすい。夏の午後など需要が集中する時間帯に使用を控えてくれる家庭には料金を割り引くといった方法で、需給調整にも使える。

 電力データは電力供給を効率化する以外にも活用の余地が大きい。エネルギーの使用状況から一人暮らしの高齢者の異変を察知したり、宅配業者が在宅か不在かを判断して配送ルートを組んだりすることなどが考えられる。

 そのためにはデータを使いたい事業者が、すみやかに入手できることが必要だ。だが電力会社は、いったん自社に集まるデータを外部に提供するには一定の時間が要ると説明する。

 これでは電力供給に参入する事業者にとって競争条件が同じとはいえない。データが遅れて届いては高齢者の見守りサービスや宅配ルートの最適化も難しい。時間差をなくさなければならない。

 電力データの活用にあたっては、情報の流用防止などの安全対策や、個人情報保護への十分な配慮も必要だ。国は電力データを使いこなす環境整備を急ぐべきだ。

ウクライナ危機―合意の確かな実行を

 欧州とロシアのはざまに高まる緊張が、外交解決に向かうのか。ウクライナ情勢の改善は、ここからが正念場である。

 米国とロシア、欧州連合、ウクライナの外相級が会談し、事態の沈静化で合意した。

 同国の東部では、公庁舎などを占拠した親ロシア派勢力に対し、国軍が強制排除に乗り出した。内戦にも陥りかねない危機である。

 その瀬戸際で、武装勢力の退去や暴力停止など緊急行動の必要性で4者が一致した。打開へ向けた一筋の光明といえよう。

 共同声明は、欧米が問題視するロシアのクリミア編入にはあえて言及していない。逆にロシアが求めたウクライナの「連邦化」も盛り込まれなかった。それぞれが譲歩した形だ。

 ウクライナの暫定政権と、その正統性を認めてこなかったロシアが初めて対話の席についたこと自体、重要な一歩である。

 ウクライナは、来月の大統領選や憲法改正などを経て国家再建に進まねばならない。ロシア系住民が安定した暮らしを営める融和の社会づくりは、ロシアにとっても有益なはずだ。

 ロシアでは株価と通貨が下落し、輸入品の値上がりが市民生活をじわじわと苦しめている。工業地帯であるウクライナ東部に混乱が広がれば、取引が多いロシア経済へのさらなる打撃は避けられない。

 エネルギーや金融でロシアと深く結びつく欧州でも、さらなる対ロ制裁が自国経済にはねかえる心配が高まっていた。

 冷戦時代と異なり、世界のどの国も地域も経済面で互いを必要としている。その相互依存の構図が、事態の悪化を防ぐ力学になりつつある。東西対決の時代ではないのだ。

 今なすべきは、合意した言葉を実行に移すことだ。

 まず求められるのがロシアの行動だ。速やかに国境に集結させた軍部隊を撤収させねばならない。親ロシア派に武装を解かせるよう働きかけるべきだ。

 依然不穏なのは、ロシアのプーチン大統領の言動である。

 外相級協議の直前、「私にはウクライナに武力を行使する権限がある」と述べた。国際社会は引き続きロシアへの警戒を怠ってはならない。

 ウクライナ暫定政権が果たすべき課題も大きい。合意は、すべての国内勢力による対話も求めている。東部の自治権拡大やロシア語を話す住民の保護などを進め、東西の亀裂を着実に修復してゆく必要がある。

 緊張緩和への道のりはスタート台に立ったばかりだ。

放射線量調査―住民の役に立ってこそ

 原発事故による低線量被曝(ひばく)の影響をどう考えるか。

 確たる知見がない領域だからこそ、対策を講じるうえでは丁寧な説明や情報公開を心がけてほしい。

 政府が福島県内で、空間線量からの推計値と個々人が実際にうける線量との関係を調べて、公表した。

 線量が高く実測値を得ることが難しい避難指示区域で、機械的な推計値ではなく、できるだけ本来の生活パターンに即した数値を得ることが狙いだった。

 結果、人体を模した計測器から得られるデータと空間線量からはじく積算線量の間には強い相関関係が認められた。

 避難指示解除を境にふるさとへ戻るか否かの判断を迫られる住民には、「空間線量ではなく実際に自分が戻ったときにうける線量が知りたい」という切実な思いがある。

 今後、避難指示の解除を検討する際、住民の判断に役立つ推計法を確立していくことは重要だ。今回の調査はその一歩として評価したい。

 問題は、これまで調査の存在自体を公表しておらず、「数値が悪く、隠していたのではないか」との疑念を招いたことだ。

 昨年夏に調査を決めたにもかかわらず、この間、原子力規制委員会内で開かれた住民帰還に関する会合や、田村市内の避難指示解除を検討する住民説明会といった場でも、調査のことを明らかにしなかったのはなぜなのか。

 政府側は「推計値の算出方法が科学的に正しいと検証するのに時間を要した」「途中経過まで公表するという判断はなかった」という。

 だが、原発事故をめぐっては避難時の大混乱をはじめ、政府の情報公開に対する不信が根強い。今回の調査も、被災者への有益な情報提供が主眼なのであればなおさら、調査実施の段階から広く知らせ、データがそろわない段階でも進み具合や見通しについて適時開示していくべきだった。

 政府のもつデータを個人情報などに注意しつつ公開し、よりよい政策づくりにつなげるのが世界的な流れだ。原発事故について日本がもつデータは、世界が共有して次に生かすべき最たるものだろう。

 低線量被曝の影響評価については未知の部分が多い。被曝の受け止め方も様々だ。

 「住民の役に立ってこそ」を大原則に、国内外の専門家同士による論評や検証を重ねつつ、知見を国民全体で共有していく努力を怠らないでもらいたい。

原子力協定承認 官民連携で受注・輸出を図れ

 これを機に、原子力発電所の輸出拡大に弾みを付けたい。

 日本と、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)それぞれとの原子力協定が参院本会議で、自民、公明、民主3党などの賛成多数で可決、承認された。

 今夏の発効後、日本から両国に対する原子力関連の資機材や技術の輸出が可能になる。

 トルコとは、すでに三菱重工業などの企業連合が同国北部に4基の原発を建設することで合意している。安倍首相が2度、トルコを訪問し、「トップセールス」によって契約にこぎつけた案件だ。

 地震国のトルコには、日本が持つ原発の耐震技術への期待も大きい。政府は、福島第一原発事故の教訓を生かし、トルコが安全に原発を活用できるよう継続的に支援することが大切である。

 協定では、日本が同意した場合に限り、トルコは核物質の濃縮や再処理ができるとした。将来の核燃料サイクル導入など技術向上の余地を残したいのだろう。

 国会審議では、野党が核兵器開発に結びつきかねないと指摘したが、岸田外相は「濃縮、再処理を認めるつもりはまったくない」と明確に否定した。政府は、核物質の平和利用に寄与することもアピールしなければならない。

 経済成長の著しい新興国は、エネルギー確保のため原発建設に乗り出している。世界全体では2030年までに最大で350基程度増えるとの予測もある。

 原発1基の建設費は数千億円とされ、ロシアや韓国、中国などとの受注競争も激化している。インフラ輸出を一つの柱に据える安倍政権の成長戦略を踏まえ、官民挙げた取り組みを強化したい。

 今回の協定承認案を巡っては、野党の対応も問題となった。

 日本維新の会の石原共同代表は、党の反対方針に納得せず、一時は離党を口にしたほどだ。結局、採決を欠席した。原発政策を巡る対立は解消されないままだ。

 民主党は政権担当時に原発輸出を推進しており、今回、賛成したのは自然な流れだ。だが、脱原発派は協定に反対論を唱え、意見集約は難航した。菅元首相ら数人が採決では党議に反して、退席や欠席、棄権に回った。

 党執行部が造反者に対し、党の役職停止や注意などの軽い処分にとどめたことに党の甘い体質が表れていると言える。

 重要政策で一致した行動を取れないようでは、海江田代表の求心力も問われよう。

ウクライナ声明 親露派の武装解除が鍵になる

 緊迫するウクライナ情勢の沈静化につながるかどうか、まだ不透明である。ロシアは速やかに合意を履行すべきだ。

 米国、ロシア、ウクライナ暫定政府、欧州連合(EU)の4者が初の外相級協議を開き、共同声明を発表した。

 共同声明は、ウクライナ国内のすべての不法な武装集団の武装解除や、不法占拠した建物や公共の場所の明け渡しを求めた。東部各地で、親ロシア派武装勢力が地方政府や警察の庁舎などを占拠している事態を踏まえたものだ。

 ウクライナ暫定政府が、軍を動員して武装勢力の強制排除に乗り出したが難航し、流血を伴う混乱が広がっている。

 4者が協議のテーブルにつき、全当事者に暴力や威圧、挑発行為の自制を促すことで合意したのは、一定の評価に値しよう。

 最大の課題は、武装解除や明け渡しをどう実現するかだ。

 声明は、米欧露が参加する全欧安保協力機構(OSCE)の特別監視団が、ウクライナ当局による武装解除などを支援するとしている。だが、親露派を後押しするロシアの積極的な協力なしには効果は乏しいだろう。

 ロシアは親露派への関与を否定してきたが、編入したクリミア半島については、プーチン大統領が露軍の関与を認めた。東部ではそうではないと言い切れるのか。

 オバマ米大統領が、共同声明の合意について、「現時点では何も確実ではない」と懸念を示し、「数日内の合意履行」がなければロシアへの追加制裁に踏み切る方針を表明したのは当然である。

 米欧を中心とした国際社会は、ロシアに合意の確実な履行を求め、圧力を強めねばならない。

 日本も国際社会と連携する姿勢が問われている。岸田外相が訪露を延期したのもやむを得まい。

 気がかりなのは、共同声明が、ウクライナとの国境沿いに集結する数万人規模の露軍部隊の撤収について言及しなかったことだ。撤収は緊張緩和の重要なステップだけに、今後の課題である。

 中長期的な混乱収拾策を示さずに、5月予定の大統領選に触れていないのも問題といえる。

 暫定政府主導の選挙を認めないロシアの意向に配慮したとみられる。だが、親露派も参加した公正な選挙で新指導者を選んでこそ、声明に記された「幅広い国民対話」を早期に実現できるはずだ。

 ウクライナの分裂を防ぎ、安定政権をどう作るか、ロシアを含む外交交渉の継続が求められる。

2014年4月18日金曜日

農協は組織と発想を根本から変えよ

 政府は農業協同組合法を抜本改正する方針だ。1947年に制定された農協法とそれに基づく農協制度は、幾度かの改革にもかかわらず市場の変化に追いついていない。安倍政権が農業を成長産業と位置付け、様々な政策を見直すのを機会に、農協も思い切って変わる必要がある。

 戦後の農政は食糧管理法と農地法、農協法を軸に推進してきた。コメなどの生産、流通を政府が管理する食管法は95年に廃止され、流通は自由化された。政府はコメの生産調整も2018年に廃止する。農地解放で細分化された農地が再び集約されないように売買を規制してきた農地法の考えも、安倍政権が集約・大規模化に大きくかじを切ったことで変わる。

 しかし、全国農協中央会(JA全中)が今月まとめた改革策は全中を頂点とした組織形態を維持し、付加価値や輸出の拡大方針を並べたにすぎない。市場や制度が様変わりすることを踏まえ、農協は従来の組織と発想を根本から見直すべきだ。

 農協法は農業生産力の増進と農家の経済的、社会的地位の向上をめざし、日本経済の発展に結びつけることを農協制度の目的とする。その目的は農業改革に通じる。

 問題は、農協の組織改革が遅れているために農家が購入する資材が割高になり、農産物の流通経費がかさむと指摘されることだ。農協が組織維持のために高い手数料をとるようでは、農家や消費者に貢献する目的に逆行する。農協は手数料収入の減少につながる農産物価格の下落にも抵抗する。

 農業の環境は食糧不足の時代から競争の時代に転換した。消費者や企業に買ってもらおうと、意欲のある農家は付加価値や安さで農産物の魅力を高め、売り方にも工夫を凝らす。

 こうした創意工夫をもっと引き出すために、どの農家の作物も同じように扱う手法は改めるべきだ。上部組織がまとめた経営方針を、地域の農協、農家へ指導する上意下達の発想も時代遅れだ。農家が販売力の強い農協を自由に選び、農協が地域を越えて魅力を競う環境に変えてもらいたい。

 第三者機関による農協監査や金融・保険業務のあり方も規制改革会議などで議論してほしい。農協改革で優先すべきなのは本当に農家や日本経済に役立っているのかを農協制度の原点に照らして見つめ直し、問題を解消することだ。

日韓首脳会談への布石に

 日本と韓国の関係改善を妨げている歴史問題、とりわけ従軍慰安婦問題を話しあう外務省局長級協議がソウルで開かれ、今後も協議を続けていくことで合意した。

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)政権は慰安婦問題の決着をとくに重視し、かたくなともいえる対日強硬姿勢を続けてきた。ただ、ここにきて安倍晋三首相が旧日本軍の関与を認めて謝罪した河野談話の踏襲を明言し、日本が慰安婦問題を話しあう政府間協議に応じたことを前向きに受け止めている。

 今回の協議は日韓関係の冷え込みを憂慮するオバマ米大統領のアジア歴訪を前に、関係修復に向けた取り組みを示す思惑が双方にあった面は否定できない。とはいえ、協議の場を設けたこと自体が一歩前進といえるだろう。

 今後も協議を続けるなかで打開策を模索し、安倍首相と朴大統領による初の首脳会談の実現と関係改善への布石としたい。

 慰安婦問題をめぐる日韓の溝は深い。韓国側は「誠意ある措置」を求め、日本が法的責任を認めるとともに、首相による謝罪や政府予算を使った支援を期待しているという。日本政府はとくに法的責任については「決着済み」との立場で、協議でもこうした主張を改めて強調した。

 日韓は1965年の国交正常化の際に、請求権問題は「完全かつ最終的に解決した」とする協定を結んでいる。慰安婦問題で法的責任を認めれば、請求権協定そのものが揺らぎかねない。この点で日本側に譲歩の余地はない。

 韓国では戦時中に日本に強制徴用された韓国人への損害賠償を日本企業に求める訴訟も相次いでいるが、こうした賠償請求は本来、韓国政府が対処すべきものだ。

 一方で慰安婦問題は、女性の尊厳と人権に関わる問題だ。米欧からも日本に厳しい視線が注がれている。日本としては「アジア女性基金」を通じて元慰安婦への償いの事業を実施した経緯も踏まえ、人道的な見地から改めて、真摯に決着の道を探る必要があろう。

日韓局長協議―関係改善の足がかりに

 従軍慰安婦問題をめぐり、日本と韓国の外務省の局長がソウルで話し合った。

 互いの主張には隔たりがあり、今回は基本的な立場の確認にとどまった。次回は来月に東京で開くという。

 解決への道のりは曲折も予想されるが、安倍政権と朴槿恵(パククネ)政権のもとで直接協議が始まったことを歓迎したい。

 この問題を放置できないとの認識を両政権が確認し合った。少なくとも、そこが出発点だ。両政府は、この協議をきっかけに、総合的な関係改善の足がかりを築いてほしい。

 今回の協議の伏線は、先月、オランダで開かれた日米韓首脳会談にあった。オバマ米大統領が仲介し、就任から1年以上実現していなかった日韓両首脳の直接対話ができた。

 この首脳会談と、いわばパッケージの形で進められてきたのが今回の局長級協議である。

 調整は難航した。韓国側は慰安婦問題にしぼった話し合いを求めた一方、日本側は竹島問題や対北朝鮮政策なども協議すべきだと主張した。

 開催にこぎつけたのは、日韓の和解を強く求めるオバマ氏が来週、両国を訪れることを双方が意識したためだろう。

 結局、初回の協議は慰安婦問題を集中的に話し合ったが、次回以降は幅広いテーマが取り上げられる見込みだという。

 慰安婦問題で日韓がもっとも対立するのは日本の「責任」をどこまで認めるかだ。

 韓国政府は、市民団体などの強い主張を背景に「法的責任」の認定を求めるが、日本側は国交正常化の際に「法的には解決済み」と主張する。

 ただ、日韓ともに前政権だった一昨年秋に、政治決着の間際までこぎつけたことを、双方の当事者らが証言している。

 日本側は当時、駐韓大使によるおわびや、すべて政府資金による被害者支援を提案した。

 日本の衆院解散で実現しなかったが、韓国側は朴政権下でも同様の提案を求めてきた。

 安倍政権も人道的な措置の必要性は認め、韓国側と水面下の折衝を続けている。

 日本政府は今後も誠意をもって可能な限りの措置を探るべきだ。一方の韓国政府も市民団体との対話を進め、現実的な解決策に対する国内世論のとりまとめに取り組んでほしい。

 日韓の間にはこの問題以外にも多くの懸案が横たわる。両国のトップは、対話のチャンネルを広げ、真の未来志向の日韓関係を切り開く指導力を発揮してもらいたい。

ビットコイン―まず現実世界の守りを

 仮想通貨ビットコインの取引所を運営していて破綻(はたん)したマウント・ゴックス社が、破産手続きに入る見通しになった。民事再生法の適用申請は東京地裁に棄却された。

 顧客から預かっていたビットコイン65万枚(時価340億円相当)と通常のお金28億円が消えたというが、破綻から50日近くたっても真相解明は進んでいない。世界に広がる12万7千人の債権者の被害回復は、破産への移行でより難しくなる。

 ひとつの取引所の破綻がビットコイン・システム全体の成否に直結するわけではない。米国ではビットコイン関連の新ビジネスが立ち上がるといった巻き返しの動きもある。

 ただ、カナダでも取引所が閉鎖されるなど、トラブルは絶えず、規制や国際的な対応をめぐる議論が活発になっている。

 発行体もなくネット上で利用者たちが分散管理するビットコイン自体を、どこかの政府や国際機関が一元的に管理・規制するのは無理だろう。「ビットコインとは何か」という法律的な論議も尽きそうにない。

 だが、なにより各国が現行法の枠内で現実世界に被害が及ぶのを防ぎ、国際協力によってネットを介した不正の抜け穴をふさぐのが急務だ。

 ビットコインを扱う業者は各国の法律の外にいるわけではなく、その国の通貨も扱って、取引する。送金サービスの広がりは犯罪取引や資金洗浄の温床にもなる。ネットの出入り口にいる業者は犯罪防止や健全経営に一定の責任を負う。

 日米欧は当面、ビットコインを通貨ではなく資産として規制・監視、課税の対象にすることで足並みをそろえた。日本の現行法では「モノ」と見なされ、銀行や証券会社の取り扱いも禁止された。半面、モノと見なすなら、これまで銀行を中心としてきた資金洗浄対策などで、別の手立てが必要になる。

 ゴックス社の破綻は仮想世界の事件であると同時に、同社が銀行に預けていたという28億円が消えた「現実世界の経済事件」でもある。

 出資法は不特定多数から反復継続して預かり金を受け入れることを禁じている。当局が実態を調べ、合法な取引所業務の目安を示せれば、被害の予防や新ビジネスの法的リスクの低減になるのではないか。

 現行法は、所管官庁の縦割りで責任の押し付け合いになりかねない面もある。仮想通貨の利用実態の変化や国際協調に対応できるような柔軟な規制づくりの態勢が必要だ。

高齢人口25% 独り暮らし対策は待ったなし

 団塊の世代が高齢期を迎え、日本の総人口の4人に1人が65歳以上になった。世界に類を見ないスピードで進む高齢化への対策が急務である。

 総務省が2013年10月1日時点の人口推計を公表した。65歳以上の人口が初めて全体の25%を超え、3190万人に達した。

 総人口は3年連続で減少し、15~64歳の生産年齢人口は32年ぶりに8000万人を下回った。

 高齢化に伴い、医療や介護などの社会保障費は膨張している。減少する「働く世代」には、社会保障制度を維持するための負担が重くのしかかる。

 このままでは、制度を持続できず、経済・社会の活力も損なわれる。深刻な事態である。

 団塊の世代が75歳以上となる25年には、医療や介護を必要とする人がさらに増えるだろう。

 増加する高齢者を施設や病院で受け入れることには限界がある。介護・医療保険から支払われる費用が高くなりがちで、給付費の一層の膨張を招く。

 可能な限り自宅で暮らせるよう、訪問介護や在宅診療を一体的に提供する体制作りが必要だ。低所得でも入居できる高齢者向け住宅の整備も求められよう。

 独り暮らしの高齢者対策も待ったなしだ。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、10年の498万人が35年には1・5倍の762万人にまで増える。

 家族の手助けがない高齢者は、心身が少し不調でも自立生活が困難になる。認知症などの症状も見過ごされやすい。家族に代わり、地域で支え合う互助の仕組みを育てることが欠かせない。

 各地でNPOやボランティアによる見守り活動や、交流サロンといった高齢者の居場所作りが始まっている。こうした取り組みを広げていきたい。

 自治体の役割も重要だ。戸別訪問で独り暮らし高齢者の生活状況を把握し、適切なサービスにつなぐ東京都港区の取り組みなどは、他の自治体の参考となる。

 元気な高齢者にはボランティアなどとして地域で活躍してもらいたい。それが自身の生きがいや介護予防になり、社会保障費の抑制につながるだろう。

 独り暮らし高齢者の増加は、未婚率の上昇と密接な関係にある。低賃金の非正規労働者の増加で、結婚をあきらめる人が多い。

 将来の独り暮らし高齢者を増やさないためにも、非正規労働者の処遇改善や正社員への転換を促進しなければならない。

日韓局長級協議 関係修復へ粘り強く接点探れ

 冷え切った日韓関係を修復することは簡単ではないが、未来志向の関係を再構築するための重要な一歩としたい。

 外務省の伊原純一アジア大洋州局長と韓国外交省の李相徳東北アジア局長がソウルで会談し、いわゆる従軍慰安婦問題について協議した。

 伊原局長は会談後、「真摯しんしな姿勢で意見交換ができ、有意義な協議だった」と語った。

 ただ、慰安婦問題をめぐる日韓双方の主張の隔たりは大きい。

 韓国政府は、日本の法的責任の認定や政府による補償など「誠意ある措置」を求めている。

 日本政府は、慰安婦問題は「解決済み」との立場だ。国家補償に応じる国際法上の義務はない。1965年の日韓請求権協定は、個人も含めた賠償請求権問題について「完全かつ最終的に解決された」と明記している。

 それでも日本は90年代にアジア女性基金を創設し、「償い金」の支払いや医療福祉支援、首相のおわびの手紙など、元慰安婦に対する人道的な措置を講じた。

 韓国側が国家賠償と区別された形の「償い金」支給に強く反発し、日本の法的責任の追及にこだわったため、この措置はあまり評価されなかったという経緯がある。

 朴槿恵大統領の頑(かたく)なな反日姿勢が日韓双方の国民感情の悪化を招いている現状も踏まえれば、日本政府が慰安婦問題で新たな措置を講じるのは政治的には困難だ。

 一方で、安倍首相と朴大統領がまだ一度も首脳会談を行えないという異常事態が続いている。

 米政府が日韓関係の改善を本格的に仲介してきたのは、北朝鮮の軍事的挑発や中国の軍備増強が続く中、日米韓の連携を立て直す必要があると考えたからだろう。

 今回の局長級協議も、来週のオバマ米大統領の日韓歴訪を前に、日韓双方が対話姿勢を演出した面があるが、この機会を関係改善に役立てるべきである。

 次回協議は、5月に東京で開かれ、慰安婦問題以外の議題も取り上げる見通しだ。日韓間には、元徴用工による賠償請求訴訟、竹島問題など懸案が多い。様々な問題を協議する中で、双方が歩み寄れる接点を粘り強く探りたい。

 来年は日韓国交正常化50周年かつ戦後70年のため、歴史問題が改めて注目される可能性が高い。

 今年秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの国際会議に合わせて、日韓首脳会談を実現する必要がある。双方が一層努力を重ねなければなるまい。

2014年4月17日木曜日

道路老朽化に対する「最後の警告」は重い

 老朽化した道路をどう維持し利用者の安全を守るか。国土交通省の有識者部会が本格的な対策の実施を求める提言をまとめた。

 日本にはおよそ70万の橋と1万のトンネルがある。そのうち橋では9割、トンネルでも7割は自治体が管理している。老朽化で通行止めになったり通行規制されたりする例が増えており、橋だけで2013年4月時点で2100を超す。5年間で倍増した。

 早期に危険性に気づいて対処するのなら、まだいい。予算も人材も余裕がなく、十分に点検していない市町村が少なくない。このままでは、12年末に中央自動車道の笹子トンネルで発生したような事故が頻発しかねない。

 有識者部会はまず、すべての橋やトンネルを対象に5年に一度、全国統一の基準で点検するよう義務付けることを求めている。結果に基づいて安全度ごとに区分し公表する、という案だ。

 老朽化対策にはお金がかかる。公共事業の重点を「造る」から「守る」へ移さなければならない。その前提としても、インフラの安全性を「みえる」ようにする工夫が要るのは確かだ。

 管理や補修を地域で一括して民間に発注したり、複数年にわたって契約したりすることも、提言は求めている。市町村や官民の枠を超えて、人材やノウハウを共有する仕組みが求められる。

 民間からみると、道路を新たに造る場合に比べ点検や補修は手間がかかる割に採算がよくない。このため機材の確保や技術開発が進みにくい面がある。複数の橋やトンネルの管理を長期にわたって受注できれば、必要な投資が可能になるのではないか。

 国や高速道路会社などが定期点検や補修を代行するのも一案だろう。高速道路の上にかかる橋は市町村が管理している場合が多いが、高速道路会社が手掛ければ効率的だ。インフラは適切に管理すれば寿命を延ばすことができる。例えば、東京の隅田川には完成から80年を超す橋が10もある。

 人口減を踏まえるなら、利用が少ない橋などは思い切って撤去してはどうか。定期点検に併せて利用者数も調べれば、地域住民の合意を得やすくなろう。

 同部会は提言の冒頭部分で「最後の警告」と書いた。問題を先送りしがちな行政への警鐘である。重く受け止め、すぐに対策に乗り出すべきだ。

中国経済揺らす改革の痛み

 中国の国家統計局は1~3月期の国内総生産(GDP)が前年同期に比べ実質7.4%増えたと発表した。昨年10~12月期の7.7%増から一段と減速し、6四半期ぶりの低水準となった。

 輸出が落ち込み、投資や工業生産が減速したのが主な原因。そのなかで心強いのは、個人消費がわりあい底堅くみえることだ。

 小売売上高に当たる社会消費品小売総額は1~3月、前年同期に比べ名目で12.0%拡大した。このうち、規模の大きな政府機関や企業など向けの売り上げは1桁の伸びにとどまったので、個人消費による売り上げは同12%をかなり上回ったとみられる。

 共産党政権は投資と輸出に頼りすぎた成長モデルからの脱却を目指し、個人消費の拡大に力を入れると表明してきた。1~3月の動きからは、共産党政権が期待する方向への変化が表れ始めたとみることもできよう。

 ただ、投資や輸出が急速に持ち直すとは期待できない状況で個人消費がどこまで景気を下支えできるのか、心配する声は少なくない。とりわけ不透明感が強いのは、投資の動向だ。

 従来、投資は最強の成長エンジンだった。だが最近は副作用がむしろ目立っていた。地方政府の債務の膨張や、当局の目の届かない「影の銀行」の拡大などだ。

 副作用を抑える対策を共産党政権が打ち出し、実行してきたのは当然ではある。個人消費の拡大を重視するのは、そうした方針の一環という面もある。

 問題は、短期的には経済の安定にマイナスに作用する可能性だ。たとえば、地方の不動産価格が下落に転じ、金融機関の不良債権への懸念が高まっている。社債の債務不履行(デフォルト)が相次いでいる。

 成長モデルの転換に向けた構造改革の痛みが、足元の経済運営を難しくしているといえる。短期的な安定を保ちながら長期的な視野からの改革をどう進めるか、政権の手腕が問われる局面だ。

秘密の監視―国会が、やるのだ

 特定秘密保護法の恣意(しい)的な運用を防ぐために、国会はどのような役割を果たすべきか。

 自民、公明両党はプロジェクトチームをつくり、国会に設置する監視機関について与党協議を始めた。

 全国100を超える地方議会が秘密法廃止を求める意見書を可決しており、同法への不安が根強いことを示している。

 国会の監視機関にできるだけ強い権限を持たせ、少しでも不安を取り除くことが、強引に法律を成立させた与党が果たすべき、せめてもの責任だろう。

 ところが、自民党案は、監視に対してあまりにも腰が引けていると言わざるを得ない。

 衆参両院に「情報審査会(仮称)」を新設。国会の常任・特別委員会が政府に対して資料の提出を要求→政府が「特定秘密が含まれる」として提出を拒否→拒否された委員会からの要請を受けた場合に審査会を開き、政府に秘密の提供を要求しチェックする――という想定だ。

 当初案にあった「特定秘密の指定の適否は判断しない」との文言は、党内外からの異論に配慮し削除された。とはいえ、「判断する」と明示されたわけではなく、運用に問題があった場合に、審査会としてどう対応するのかもはっきりしない。

 一方、公明党案は、衆参合同の「両院情報委員会(仮称)」をつくり、政府による秘密の指定や解除のあり方を常時監視する。問題がある場合は、政府に改善を勧告できるとしている。

 与党協議では公明案を軸に、さらに国会にできることがないか、真摯(しんし)に検討すべきだろう。

 そもそも秘密法は、閣僚ら行政機関の長が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断した場合は、国会への秘密提供を拒むことができると規定している。

 これによって政府に対する国会の調査・監視機能が制約され、三権分立が形骸化してしまうのではないか。懸念はなお強い。国会が自らの手足を縛るような法律を、なぜあれほど乱暴な手つきで成立させてしまったのか、いまも理解に苦しむ。

 議院内閣制の日本では、与党議員はどうしても政府と心理的に一体化しやすい。しかし国会議員は全国民の代表である。政府が「やりたいこと」を後押しするだけでなく、国民のために「やるべきこと」がある。それを忘れてもらっては困る。

 民主党を中心に野党案を出そうという動きもある。与野党を超えて、十分な権限を有する監視機関を設置し、国会の自負を示すべきだ。

STAP騒動―あおり競争で細る社会

 どうも空しさが漂う。STAP細胞という大発見の立役者から一変、不正の烙印(らくいん)を押された小保方さん騒動である。

 反論会見には300人以上が詰めかけ、テレビも中継した。これほど関心を集めたのは発見の真偽に加え、「30歳の割烹(かっぽう)着を愛用するリケジョの星」という当初の鮮やかな登場が人々の興味をかき立てたからだろう。

 確かに、経済が滞り、対立と閉塞(へいそく)感ばかりが強まる日本で、軽々とホームランを放ったような若い女性は、存在そのものが希望の明かりをともした。

 それを誇らしげに強調したのは、彼女が所属する理化学研究所だった。研究費獲得にしのぎを削る現実の中、看板となるスターを押し立てたかったのではないか。研究をくるんだ「包装紙」にメディアも目を引かれ、注目度は高まったが、肝心の論文はずさんだった。

 前に見たものとどこか似ている。交響曲を「全ろうの被爆2世作曲」という包装紙で包んだ佐村河内氏騒動。ホテルやデパートがブラックタイガーを「車エビ」という包装紙で包んだメニュー偽装事件――。いずれも中身より外観に振り回された。

 足元がぐらつく思いだ。不景気な時代を生き残るには、何を売るかだけでなく「どう見せるか」が大切なのはわかる。それがいつのまにか、見せ方の方が主導権を握っている。

 一連の騒動はひとごとではない。消費社会は行き着くところまで行っているが、それでも買ってもらおうと、売り手も買い手も見せ方、見え方に傾きすぎて刹那(せつな)的な消費を繰り返す。

 その中で、じっくりと腰を据えた愚直な仕事が置いてけぼりになってはいないか。

 仕事の成果を世に問うとは、原点に戻れば、人に役立つモノや発見、サービスを生み出して喜んでもらい、お礼をもらうことだ。それを見失った「あおり」競争は誰をも豊かにしない。いくらお金が回っても、「だまし」「だまされ」の空虚な取引に終わりかねない。

 きれいごとで経済は回らない。だが騒動を機に売り手も買い手も、そして運び手であるメディアも、それぞれ原点に立ち返ることは無用ではあるまい。

 小保方さんは、いつかSTAP細胞が人の役に立つ日を夢見て来たと語った。上司の笹井芳樹さんもきのう、「発見」は今なお検証に値すると強調した。ならば、真実の解明に全力を集中してほしい。

 包装紙よりも、中身の価値にこそ細心の注意を払う。そんな心眼をもつ社会でありたい。

ウクライナ緊迫 露は軍事的圧力を強めるな

 ウクライナ情勢が極めて緊迫してきた。混乱の拡大を阻止できるかどうか、重大な局面だ。

 ウクライナ暫定政府は親ロシア派武装勢力が地方政府や警察の庁舎などを次々と違法に占拠している東部に軍を投入し、武装勢力の強制排除に乗り出した。まず、ドネツク州の空港を奪還した。

 暫定政府による軍の治安維持活動は初めてである。ロシアが南部クリミア半島を編入した際、暫定政府は軍の行動を自制したが、東部での混乱をもはや放置できないと判断したのだろう。

 親露派は、東部各地で違法占拠を拡大し、「人民共和国」樹立を宣言するなど、暫定政府に反旗を翻している。

 暫定政府が強制排除を国家分裂を防ぐための「反テロ作戦」と位置づけたのはやむを得まい。

 米国政府も「暫定政府は法と秩序を守る責任がある」と表明した。東部が無政府状態になることを懸念したからだろう。

 これに対し、プーチン露大統領はメルケル独首相との電話会談で「ウクライナは内戦の瀬戸際だ」と述べ、暫定政府を批判した。

 だが、混乱を招いた最大の要因は、ロシア自身にある。クリミア編入と同様、親露派武装勢力による一連の行動にロシアが関与しているとみられるからだ。

 親露派はロシア製の武器を携行し、組織立って行動している。米国政府は、ウクライナ国内でロシア情報機関要員が拘束されるなど、ロシア関与を裏付ける「証拠」も公表した。

 ロシアが東部との国境沿いに、数万人規模の軍部隊を集結させている事実も確認された。

 ロシア政府は、一貫して関与を否定しているが、それらの部隊を撤収し、軍事的緊張緩和に努力するのが先決と言える。

 混乱を沈静化させるには、欧米など国際社会が経済制裁を始めとする非軍事的手段でロシアへの圧力を高めることが肝要だ。

 暫定政府が戦闘ヘリコプターのエンジンなど武器関連製品の対ロシア輸出停止の方針を決めたのも、圧力の一環となる。

 ラブロフ露外相は訪中し、15日に習近平国家主席らと協調関係を確認した。国際的孤立を回避し、米欧からの圧力に対抗する狙いがあるのだろう。

 ジュネーブでは17日に米国、欧州連合(EU)、暫定政府にロシアを加えた4者会談が行われる予定だ。協議開始を事態打開の一歩としなければならない。

電力経営悪化 エネルギー政策全体の課題だ

 原子力発電所の再稼働の遅れなどで、電力会社の経営悪化に歯止めがかからない。

 電気料金の値上げによる家計や産業界への悪影響が、ますます懸念されよう。

 中部電力の家庭向け電気料金が5月から、平均3・8%値上げされることになった。約5%の申請に対し、政府は燃料費の節約などを求め、値上げ幅を圧縮した。

 原発事故後、国の認可を要する「本格値上げ」は、東京電力や関西電力などに続いて7社目だ。

 東電福島第一原発の事故を受けた全原発の停止によって、火力発電用の燃料費が増大したことが、各社の財務を圧迫している。

 電力10社のうち中部電を含む6社は、今年3月期決算で経常利益が赤字になる見通しだ。このうち5社は、銀行に融資を打ち切られる可能性のある「3期連続赤字」が見込まれる。

 政府が合理化の徹底を求めた上で、各社に値上げを認めたのも、やむを得ない面はあろう。

 ただし、値上げが「2巡目」に入りつつあるのは深刻である。

 昨年9月に7%台の値上げを実施した北海道電力は今年2月、再値上げの検討を表明した。想定通りに原発を再稼働できず、業績改善が望めないためという。

 茂木経済産業相は「値上げ回避の努力が重要だ」などと述べ、事実上待ったをかけている。再稼働が遅れている中で値上げに難色を示すだけでは、電力会社の経営は苦しくなるばかりである。

 累積赤字による債務超過を防ぐため、北海道電は日本政策投資銀行から資本支援を受ける方向で検討しているという。値上げを避ける努力は評価できるが、あくまで「窮余の一策」と言える。

 北海道電以外の電力各社も財務内容が悪化している。資金不足で送電線や変電所などの補修や更新投資が十分に行えず、電力供給に支障が出る事態は、何としても避けねばならない。

 やはり、安全性の確認できた原発を再稼働し、発電コストを低下させることが欠かせまい。

 重要なのは、原子力規制委員会が原発の安全審査を加速させるとともに、審査をパスした原発の再稼働が円滑に進むよう、政府がしっかり後押しすることだ。立地自治体の理解を得るため、説明に全力を挙げる必要がある。

 安価な電力の安定供給は、日本経済再生に不可欠だ。電力会社の経営悪化を、エネルギー政策全体の課題と捉え、官民が対応策を真剣に考える時に来ている。

2014年4月16日水曜日

地域の実情に応じた人口減対策を

 人口の減少、少子高齢化が加速している。総務省が発表した2013年10月1日時点の日本の総人口は1億2729万人で、前年に比べて約22万人減少した。特に15~64歳の生産年齢人口が大きく減り、65歳以上の人口は初めて全体の25%を超えた。

 世帯の高齢化も進む。国立社会保障・人口問題研究所によると、世帯主が65歳以上である高齢世帯が全世帯に占める割合は、35年に40%を超える見通しだ。経済の活力や、国民の安定した暮らしを維持するため、早急な対策が必要であることは言うまでもない。

 ただ人口減、高齢化の度合いは地域により大きく異なる。全国一律ではなく、地域の実情に合わせたきめ細かな対応が不可欠だ。

 今後、高齢化が急激に進むのは東京とその周辺地域とされる。高度成長期以降、東京圏は地方から人を吸収し続けた。その人たちが老いていく。東京都では10年から30年間で、65歳以上の人口が140万人以上増える。

 こうなると医療・介護サービスがどこまで提供できるかが大きな課題だ。とはいえ、無尽蔵に費用をかけることもできない。

 高コストの入院や介護施設への入居はできるだけ減らし、非営利組織やボランティアの力も借り、自宅や高齢者住宅で療養できる効率的な体制づくりが急務となる。地方移住を促す政策も考えたい。

 一方、地方圏では高齢化を通り越し、人口の急減で消滅に近い状態となる自治体も出てきそうだ。

 このような地域では地域の中心市に医療介護や商業施設を集め、高齢者にも便利なコンパクトな街をつくって、人口維持に努める必要があるだろう。豊かな自然環境を生かした研究開発型企業の誘致なども進め、地域から若者が流出せず、逆に東京圏から人を呼べる魅力ある街づくりも大切だ。

 これからは「65歳以上は高齢者」とひとくくりにせず、個々人の体力や意欲に合わせて働き続けることができる社会もつくらなければならない。

 高齢者のほか、女性、外国人など多様な人材の知恵や経験を融合すれば、新たな発想が生まれることも期待できる。企業は多様性を生かした技術革新を起こし、労働力の減少を補うべく、労働者1人当たりの生産性を高めていくことが求められる。こうした企業が東京だけでなく、地方でも増えるよう促す方策も欲しいところだ。

グーグルに問われる情報管理

 米グーグルの情報サービスで、空港や駅などの詳細図が公開される問題が起きた。街頭だけでなく建物内の見取り図も提供し、消費者の利便性を高める狙いだが、保安対策などに支障を来すようでは困る。グーグルや情報を提供する会社の情報管理が問われる。

 問題となったのは「グループ」と呼ぶ電子掲示板サービスで、情報をネット上で共有できる。グーグルは新千歳空港などの運営会社から同サービスを通じて情報を得ていたが、社員が設定を誤り、誰でも閲覧できる状態にあった。

 空港の詳細図には、立ち入りが制限される保安区域への扉などが記載されていた。グーグルに地図情報を提供する際には、非公開にすべき部分を加工して渡すことになっているが、十分な修正がなされていなかったという。

 グーグルは建物内の見取り図をデジタル地図に掲載するサービスを2011年秋から開始した。空港や駅、専門店ビルなどの建物で使われている。顧客をインターネットで店舗に案内するツールとしても利用価値が高まっている。

 だが、こうした情報は本来、安全な専用システムで収集すべきだろう。一般向けの自社の無償掲示板サービスを業務に使っていたグーグルの情報管理体制にも問題があったといわざるをえない。

 同様な問題は昨年夏、環境省や国土交通省でも起きた。行政情報を同サービスで共有し、利用者制限を忘れていた。グーグルはそれを機に初期設定を全員共有から利用者限定に変更したが、その設定を自ら怠った責任は重い。

 しかし、こうした問題を理由に空港や駅など公共空間の情報開示に歯止めがかかることは避けたい。デジタル地図は普段の利便性だけでなく、災害時の避難誘導や救出などにも役立つからだ。

 欧米では国民生活の利便性を高めるため、行政や公的機関の情報開示を促すオープンデータの動きが広がっている。そうした情報開示を日本で促すためにも情報の安全管理を徹底する必要がある。

配偶者控除―働く「壁」はなくそう

 政府税制調査会が、配偶者控除の見直し論議を始めた。安倍首相の指示がきっかけだ。

 何が問題なのか。サラリーマンの夫が主に家計を支え、妻がパートで働く家庭を例に、おさらいをしたい。

 妻は自分の年収が103万円以下なら、給与所得控除(最低保障額65万円)と基礎控除(38万円)が適用されて所得税がかからない。同時に夫にも配偶者控除(38万円)が認められ、納める所得税が少なくなる。

 これでは、妻は年収が103万円を超えないよう、調整しがちになる。働く意欲を損ねていないか――。いわゆる「103万円の壁」だ。

 実際には、配偶者特別控除という仕組みがあるため、103万円を超えた途端に世帯の手取り収入が減る事態は、大半の家庭では生じない。ただ、意識上の「壁」はまだまだ高い。

 さらに、妻の年収が130万円以上になると、厚生年金や健康保険で夫の扶養からはずれ、妻が保険料を納めねばならない「130万円の壁」もある。

 ともに問題点は長年指摘されてきた。当のパート労働者の間でも、もっと働きたい人がいる一方、負担増を避けたい人も多いのが実情だ。

 ここは原則に立ち返ろう。

 税制や社会保障制度は、働き方の選択をゆがめないようにすることが大前提だ。

 パート労働者への厚生労働省のアンケート(11年)では、夫がいる女性パートの2割が「働く時間を調整している」と答えた。その理由では、やはり「二つの壁」が上位にくる。

 待遇を改善しないままパートを便利に使う企業が少なくないのは、こうした制度の問題が一因だろう。少子化で働き手不足が深刻になるだけに、女性にしっかり働いてもらうことは経済にとっても大切だ。

 配偶者控除の背景には「夫が稼ぎ、妻は家庭を守る」という家族像があるが、今や共働き世帯は片働きの1・3倍に達し、「家計も家事も育児も夫婦共同で」と考える人が増えている。

 女性が働きやすい社会には、子育て支援に加え、企業の意識改革がカギとなる。

 政府は16年秋にパート労働者への厚生年金などの適用範囲を拡大するが、保険料の半額負担を迫られる産業界は強く抵抗した。ある調査によると、企業の間では早くも、適用対象とならないようパートの就業時間や賃金を抑える動きが出ている。

 配偶者控除の縮小・廃止論議を皮切りに、様々な制度や慣行を見直していくべきだ。

日本郵政株―あいまい上場は無責任

 政府が100%保有する日本郵政株の上場に向けて、本格的な検討が始まった。

 順調にいけば来秋ごろの上場が見込まれるという。売却益のうち4兆円は震災復興の財源に充てることが決まっている。

 だから先を急ぎたいのだろうが、日本郵政の将来像という肝心な点があいまいだ。このまま上場へ突き進むようでは、投資家や証券市場への背信行為になりかねない。

 持ち株会社である日本郵政は傘下に、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険という金融子会社2社と日本郵便を持つ。

 ポイントは、収益の大半を二つの金融子会社が稼いでいることだ。2社の株式はいずれ全部売却することになっているが、期限は定めていない。今回の上場へ向けた検討でも、この問題は白紙のままだ。

 まずはゆうちょ銀行とかんぽ生保の株式売却の展望と、売却後の日本郵政グループの経営や事業の姿をきちんと示す。そのうえで上場を進めるのが筋だ。

 金融子会社2社の株式売却のめどが立たないと、別の矛盾も深まる。

 日本郵政は政府が3分の1超の株式を持ち続ける。このため子会社2社は日本郵政の傘下にある限り、民業を圧迫しないよう、新規業務や預金額の上限撤廃などが認められず、収益力の向上に見通しが立ちにくい状態が続く可能性がある。

 この矛盾は政権交代などに伴う曲折を経た今の郵政民営化の枠組みに根ざしており、政府が決着をつけるべきものだ。

 日本郵政の将来の価値を左右する事情が不透明では、市場が上場後の株価に不確実性を感じてしまう。政府が皮算用する値段で株式が売れなくなれば、ツケは納税者に回るだろう。

 日本郵政の帳簿上の価値は12兆円に及ぶ。売り出せるのは、最大で3分の2の8兆円分。市場の消化能力にも限りがあるので、まず時価で4兆円分を3年ごとに3分割して売り出す案などが考えられる。となれば、政府保有株が、影響力の目安である過半数を切るまでに10年以上かかる可能性もある。

 政府は、そのうちに問題を処理すればいいと考えているのかも知れない。

 だが、金融子会社の株式売却が政治問題化しやすいことは論をまたない。いったん上場すれば、証券市場全体が政治に翻弄(ほんろう)されるリスクが高まる。

 それを分かっていながら、先行き不透明な半官半民の巨大企業を市場に送り出すようでは、政府として無責任だ。

グーグル流出 テロへの危機意識が足りない

 多くの人が行き来する空港や駅は、警備の要衝だ。ターミナルビルなどの詳細な図面の流出は、安全対策上、ゆゆしき事態である。

 中部国際、新千歳両空港や東京、新大阪両駅の構内図などがインターネット上に流出し、誰でも閲覧できる状態になっていた。

 いずれも、流出元は、米グーグルのメール共有サービス「グーグルグループ」だった。日本法人の社員らがサービスの初期設定で、「非公開」とすべき箇所を「一般公開」にしたまま、メールのやりとりをしたことが原因だ。

 サービスを提供する側が、サービスを使いこなせなかった。グーグルには猛省を求めたい。

 流出は2012年7月から続いていたとみられる。現在、設定方法は改善されたが、これまでに流出した情報は多数のネット利用者の目に触れた可能性がある。

 空港の構内図を見れば、職員専用通路や、立ち入りが制限されている保安区域に近付けるルートが一目でわかる。

 東京駅では、ビルの心臓部と言える中央管理室や高圧線の配置、新大阪駅では鉄道警察隊の取調室などの位置が明示されていた。

 公共交通機関は、テロの標的になりやすい。空港や駅の急所の所在が公になれば、テロリストに付け入る隙を与えることになる。

 空港運営会社やJR側が、グーグルの地図サービス更新のため、図面を提供したのも不用意だ。重要設備の場所は隠すなど、細心の注意を払うべきだった。

 国土交通省が「保安上、極めて問題だ」として、全空港を対象に、図面の提供状況の調査を実施したのは当然である。

 新千歳空港の運営会社が、事前の相談を求めた国交省の通知に反し、無断で図面をグーグルに提供していたことも判明した。

 「保安区域周辺などを修正して提供する」という国交省の指示も守っていなかった。テロやハイジャック対策などの管理体制を定めた「空港保安管理規程」に違反する可能性がある。

 空港利用者の安全を確保するという、運営会社としての自覚を欠いているのではないか。

 「グーグルグループ」では昨夏にも、環境省など中央省庁で情報流出が発覚した。医療機関や学校から個人情報が流出するケースも相次いでいる。

 グーグル以外にも、同様のサービスは存在する。利用者は、ネットを介した情報管理のあり方を再点検する必要がある。

農協自己改革案 本業の生産性を向上できるか

 政府の圧力をかわそうと、農協が自己改革案を打ち出した。だが、農業の競争力を強化する具体策は物足りない。

 農協の中核組織、全国農業協同組合中央会(JA全中)が決めた「営農・経済革新プラン」の柱は、農業所得の最大化である。

 自己改革案には、新規就農者などを支援する「全国基金」の創設や、生産から加工・販売までを手がける6次産業化の加速、輸出振興策などが盛り込まれた。

 政府の規制改革会議や産業競争力会議は、農協改革の遅れが農業衰退の一因だと批判している。安倍首相は「農業を成長産業にする」と表明し、6月に農協改革を含む活性化策をまとめる。

 JA全中がこれに先立ち、自ら改革案を作成したのは、政府主導の改革論議をけん制し、積極姿勢をアピールする狙いだろう。

 ただ、意気込みとは裏腹に、改革案は従来方針の焼き直しが目立つ。改革実現に向けた工程表もあいまいだ。改革の“目玉”とされる全国基金は規模や活用策が明確でなく、効果は不透明である。

 過去20年間で日本の農業所得は半減し、耕作放棄地は倍増した。農家の高齢化も進行している。

 農業の市場開放が焦点の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉は大詰めを迎えており、国際競争力の強化は待ったなしだ。

 規制改革会議の農業作業部会で、自己改革案について「危機感が薄い」などの厳しい意見が相次いだのは当然だろう。

 規制改革会議は、農協が融資や共済といった金融事業で利益を伸ばし、結果的に農家以外の組合員(准組合員)を増やす「農業離れ」を加速させていると問題視している。改革案がその点にほとんど応えていないのも疑問だ。

 農協が農地の大規模化や専業農家への支援に消極的だという批判は根強い。

 専業農家よりも兼業農家や准組合員へのサービスを重視する姿勢を改め、大規模化に本気で取り組まなければ、農業の生産性向上につながるまい。

 経営の効率化に努める農家に農協の資金や人材を手厚く投入する方向にかじを切るべきである。

 政府内には、農協法の改正などでJA全中の地域農協への関与を弱め、各農協に独自経営を促すことで事業意欲を高めるという抜本改革案も浮上している。

 農協は今度こそ危機感を強め、実効性のある組織と意識の改革に自ら踏み出さねばならない。

2014年4月15日火曜日

集団的自衛権行使の条件を詰めよ

 日本の安全保障体制のあり方を問い直す議論が広がっている。いちばん大きな焦点が、集団的自衛権の行使を容認するかどうかだ。

 集団的自衛権とは、日本の同盟国などが攻撃されたとき、日本が直接攻撃されていなくても、反撃する権利だ。日本はこの権利を持っているが、憲法解釈上、行使できないとの立場をとっている。

 安倍政権はこの解釈を改め、集団的自衛権の行使に道を開こうとしている。自民党でも、限定的に行使を認める意見が出ている。

 厳しくなる日本の安全保障環境を踏まえた動きだ。放置すれば、日本の安全に大きな影響を及ぼす場合などに限り、集団的自衛権を認めるのは妥当といえる。

 理由のひとつは、いまの脅威が国境を越えて広がっていることだ。自国が攻撃されなければ安全という一国平和主義では、日本を守りきれないばかりか、国際社会への責任も十分に果たせない。

 たとえば、朝鮮半島で有事になれば、海上の輸送路を確保するため、北朝鮮が設けた機雷を取りのぞくことが必要になるかもしれない。だが、集団的自衛権が禁じられた現状では、日本がこれに参加できない公算が大きいという。

 米同時テロのような大規模テロやサイバー攻撃も、国境を瞬時にまたいでやってくる。日本が対処するには、他国と「互助会」のような安全保障協力網をつくり、助け合うことが欠かせない。

 もう一つの理由は、米国の相対的な国力の低下だ。第2次大戦後、アジア太平洋の安定は米軍の強大な力によって保たれてきた。

 だが、中国軍が台頭し、米国が軍事費の削減を強いられるなか、米国におんぶにだっこの平和は、行き詰まりつつある。日本としても、一緒に行動している米軍が攻撃されているのに、「憲法上の制約」を理由に自衛隊が反撃できない現状は、改めるときだ。

 近くにいる米軍艦船の防護などは、現行の個別的自衛権でも対応できるという見方もある。だが、いたずらに同自衛権の拡大解釈を重ねるよりも、厳しい条件を設けたうえで集団的自衛権を認めるほうが、自衛隊への明確な歯止めになるだろう。

 行使の対象は密接な関係にある国々に限る。相手国から要請があったときだけ発動する。これらは大前提として、ほかにどのような条件を行使に課すか、政府・与党でしっかり詰めてもらいたい。

CO2削減へ議論を深めよう

 地球温暖化の防止策について話し合う国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会が最新の報告をまとめた。

 二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出を世界で大幅に減らすため、太陽光や風力、原子力などCO2排出が少ない「低炭素エネルギー」を最大限活用する必要があるとした。

 高効率の火力発電所やハイブリッド車などエネルギーを効率的に使う技術が世界的に普及しつつある。しかし人口増加と経済成長が効率改善を上回り、CO2は増え続けている。このままだと、世界の平均気温は今世紀末に産業革命前に比べて4度ほど高くなり、豪雨や干ばつが頻発し食糧供給などが脅かされる。

 悪影響を最小限に抑え気温上昇を2度未満にとどめるには温暖化ガスの排出を2050年時点で今より40~70%減らし2100年にはゼロか、マイナスにしなければならないという。

 なまやさしいことではない。木材などのバイオマス発電の拡大やCO2を回収して地中に埋めるCCS(炭素回収・貯留)の実用化にも挑まねばならない。原子力も含めた低炭素エネルギーを3~4倍に増やす必要がある。

 原子力には放射性廃棄物の処分問題があるなど、エネルギー技術はそれぞれに課題を抱える。導入を拡大するには、社会が受け入れやすいよう新たな技術開発や改良に努め、課題を克服する必要がある。環境にやさしいエネルギーを消費者が選べるなど円滑な拡大を促す仕組みづくりも重要だ。

 削減努力が足りず温暖化が進む場合に備えて悪影響の軽減策も今から考えておかねばならない。

 世界各国はIPCC報告を参考に、30年ころまでの中期的な温暖化ガス削減目標を決め来年3月末までに国連に提出する。

 日本も改めて議論を深めるべき時だ。産業構造や生活スタイルの将来像を描き、世界とともに温暖化を抑止する日本にふさわしい目標づくりを進める必要がある。

地球温暖化―対策は待ったなしだ

 私たちはこのまま破局への道を歩み続けるのか。

 煎じつめれば、それが地球温暖化をめぐる世界の多くの専門家からの問いかけである。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめる報告書の概要が固まった。

 07年の前回から中身はそう変わらないが、この7年間に各国で重ねられた研究により、温暖化とその甚大な影響がより確実に見えてきた。「懐疑論」はほぼ否定されたといってよい。

 報告書によると、このままでは今世紀末に世界の平均気温は産業革命前より3・7~4・8度上昇する。国際目標の2度未満を大きく上回る。

 水資源や農作物などへの悪影響はすでに表れている。熱波や洪水、台風など極端な気象現象や海面上昇の恐れが高まり、生き物の大絶滅が起きかねない。水や食料の欠乏は、人間を戦争に駆り立てる要因にもなる。

 対策は待ったなしだ。二酸化炭素など温室効果ガスの排出を減らして気温上昇を抑える「緩和策」と、温暖化に伴う災害や凶作などに備える「適応策」の両輪を回すべきときだ。

 今世紀末の気温上昇を2度未満に抑えるにはどうしたらよいのか。世紀半ばのガス排出量を10年比で4割から7割減らし、そして世紀末にはゼロにする。それでやっと目標達成の可能性が高まるという。

 そのためには、もっと省エネと再生可能エネルギーの利用を進めるとともに、ガスを空中に出さない新火力発電などを普及させることが重要だ。

 原子力の拡大は、核の拡散や廃棄物処理など別のリスクの深化が避けられない。原発事故の処理も総括もできていない日本のとるべき選択肢ではない。

 ことし9月の国連気候変動サミットを起点に、来年末には20年以降のガス排出削減に向けた新しい枠組みがつくられる。

 各国がバラバラに動いても状況は改善しない。環境技術を途上国に広め、統一的な炭素価格の導入でガス排出を減らすなど世界の協調行動が必要だ。

 英米独や中韓では、温暖化で起きる問題を定期的に調べ、国や自治体レベルの適応計画づくりも進めている。そうした流れに日本政府は遅れている。

 日本が昨年示したガス排出削減の目標は、努力不足として国際的に批判された。国の適応計画づくりも来年の予定だ。

 世界に通じる削減目標を早急に詰めるとともに、温暖化に備えた防災構想や省エネ型の都市づくりなどを強力に進める態勢を整えるべきだ。

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