2014年7月31日木曜日

こじれた中間貯蔵施設への不信を拭え

 石原伸晃環境相が「金目の問題」と失言してこじれた問題をこれで修復できるのか。東京電力福島第1原子力発電所事故の除染で生じる汚染土を保管する中間貯蔵施設について、政府は候補地の福島県と地元2町に新たな案を示した。

 中間貯蔵施設は同県内の除染で生じる汚染土を集め、最長30年間、保管する施設だ。政府は大熊町と双葉町に候補地を絞り、当初は用地を国がすべて買い上げて施設をつくる計画だった。

 新たな案では全面国有化は断念し、住民が希望すれば国が土地を借り上げる選択肢を加えた。土地の所有権は地権者に残したまま国が地上権を得て使用契約を結び、施設をつくる。売却する住民も、将来地元に戻る意思があれば住民票を残せるようにする。

 これらの案自体は妥当だろう。国が用地を買い上げる方式には「先祖伝来の土地を失うことになる」と抵抗感を示す住民が少なくない。除染が完了した後に帰還を望む住民もおり、新たな案はそうした声に応えたものといえる。

 政府はこれらの案を地元に丁寧に説明し、理解を得られるよう全力を挙げるべきだ。石原環境相もあらためて地元を行脚して不信を拭う覚悟がいる。

 福島県内の除染で生じる汚染土は東京ドーム18杯分にのぼる。「原発事故の被害を受けたうえに迷惑施設も引き受けるのか」と地元が反発するのは無理もない。だが遅れている除染を進め、福島の復興に道筋をつけるには中間貯蔵施設は欠かせない。

 施設の建設にはなお課題が山積する。土地を国に売ったり貸したりした住民が別の場所で生活を再建できるよう、政府の支援は欠かせない。土地の買い取り額や使用料、補償金などの指針もできるだけ早く示す必要がある。

 建設が始まれば大型トラックが頻繁に往来する。こぼれた土で被曝(ひばく)しないか、道路の渋滞や騒音が増えないかと心配する住民もいる。国がきめ細かな対策をつくり、住民の疑念にひとつひとつ応えなければならない。

 貯蔵を終えた汚染土の最終処分をどうするかも大きな課題だ。政府は「福島県を最終処分場にしない」と地元に約束し、法制化するという。一方で汚染土をどこに運んで最終処分するかは白紙の状態だ。「30年後の問題」と先送りにせず、最終処分をどうするか真剣に考えるべきだ。

「大物」の立件が映す中国の腐敗

 2012年秋に引退するまで中国の最高指導部の一角を占めていた周永康氏について、中国共産党は「重大な規律違反」の疑いで調査を始めたと正式に発表した。事実上の立件で、周氏の政治的な失脚も意味している。

 規律違反の具体的な内容は明らかにされていないが、汚職の疑いとみられている。最高指導部の一員だった大物を汚職で立件するのは、きわめて異例だ。

 特に周氏は引退するまでの5年間、裁判所や検察、警察といった司法部門を統括する最高責任者だった。共産党政権の深刻な腐敗を象徴する事件ともいえよう。

 習近平国家主席ひきいる今の指導部は発足以来、腐敗摘発キャンペーンを大々的に進めてきた。権力基盤を強める思惑と同時に、共産党の一党独裁の正当性が腐敗のために揺らぎかねないとの危機感から、という面が大きい。

 かつてない大物の立件でキャンペーンは節目を迎えた。指導部は権力基盤を一段と強めたようにみえる半面、党内からの反発が強まるおそれも否定できない。今後、摘発の網をさらに広げるのかどうかが、一つの焦点だ。

 それ以上に、腐敗を生む構造問題にどこまでメスを入れられるかが、問われる。共産党が10月に開く年に1度の重要会議のテーマを「法治」にすると発表したのは、そんな意欲を示したといえる。

 周氏をはじめ、立件・摘発した高官たちの問題をどこまで明らかにできるか。党官僚の手足を縛るようなルールに基づく透明性の高い仕組みを作れるか。こういった点を注視したい。

 懸念されるのは、党内の腐敗摘発と平行して、党の外では情報統制や抑圧的な宗教・民族政策など締め付けを強めていることだ。これでは透明性の高い「法治」に逆行するのではないか。

 何より、抑圧を受ける人たちが心配だ。彼らの反発が高まれば社会の安定も揺らぐ。イスラム教徒の多い新疆ウイグル自治区では血なまぐさい事件がまた起きた。

最低賃金―まずは「目安超え」を

 最低賃金の引き上げを厚生労働省の審議会が答申した。全国平均で16円。2桁は2年連続になる。今の最低賃金(全国平均)は764円なので、実施されれば780円になる。

 最低賃金は、国が定める1時間あたり賃金の最低基準だ。原則として、すべての労働者に適用され、時給がこの額を下回ると法律違反になる。

 16円は、時給だけで決めるようになった2002年以降、最も高い。いまは「経済状況に応じて都道府県をAからDの4ランクに分け、それぞれの引き上げ目安額を示す」という決め方だ。16円はその加重平均。つまり、東京都や愛知県など、労働人口が多くて企業にも比較的余裕のある大都市部の引き上げ目安額が高め(19円)だったことを反映した結果になっている。

 「16円は高い引き上げ」と言っても、その裏側で、大都市と地方の最低賃金格差は拡大する。答申通りに引き上げが実施された場合、最高の東京都(869円+19円)とDランクに属する最も低い県(664円+13円)の差額は211円と、現行より6円分、広がってしまう。

 「上に厚く、下に薄く」が経済状況に応じたものだとしても、この方式を続ければ格差は広がるばかりだ。来年夏にかけて、最低賃金の決め方は見直されることになっている。この機に、格差の是正策を正面から議論してほしい。

 働き手から見ると、最低賃金の水準はまだ低い。最低の県で1日8時間働いた場合の月給は約11万円。これで生活を維持するのに十分な水準と言えるだろうか。最低賃金で働く人はパートタイムなどの非正規労働の人が多いから、実際の手取り額はもっと低くなってしまう。

 一方で物価は上がっている。4月には消費税率が8%に引き上げられ、最近の消費者物価指数は3%以上の上昇が続く。

 答申を受けて、これから都道府県ごとに経営者と労働者の代表、有識者が話し合い、10月までには新しい最低賃金が決まる。最近は、過半数の都道府県で目安を上回る額に決まっている。今年もまずは「目安超え」をめざしてほしい。

 幸い、企業側の心理は変わりつつある。労働組合の中央組織である連合の集計によると、今年の春闘では、15年ぶりに2%を超える賃上げを達成した。

 最低賃金は、春闘の成果が及ばない労働者にも影響する。経済が上向いて人手不足感が強まり、都市部を中心に時給が上がるいまは、最低賃金引き上げの好機でもある。

中国汚職摘発―真の法治をめざすなら

 中国共産党の政治局常務委員とは、13億人の大国を仕切る最高指導部メンバーである。

 胡錦濤・前政権に9人いたうちの一人だった周永康氏(71)が「重大な規律違反」を問われることになった。

 大規模な汚職があったとされ、改革開放以降では最高位の摘発となる。はびこる腐敗をただすことは正しい方向だ。

 ただし、異例の大物立件の本質は、習近平(シーチンピン)・現政権が仕掛ける権力闘争であることを見落としてはなるまい。

 周氏は国有石油企業の出身。石油ビジネスに絡む不正資金をてこに、利益で結ぶネットワークを築いたとみられている。

 一枚岩にみえる中国指導部だが、党と国家の中枢は多元的で、各部門が利益集団化しがちだ。最近、そこにメスを入れるケースが相次いでいる。

 トップが汚職で捕まった鉄道省は、習政権発足時に三分割した。軍の元最高幹部の徐才厚氏は収賄の疑いで党籍を奪った。そして今は「石油グループ」に切り込もうとしている。

 周氏は江沢民・元国家主席とつながりが深かったといわれる。党内の抵抗は強かったに違いない。

 関係者の拘束は、一昨年に周氏が常務委員を退いた直後から始まった。同時に習政権は反腐敗の旗のもと、「地位の高い者も例外扱いしない」と強調し、世論の地ならしをした。

 実に周到な準備で一歩ずつ追い詰めた末の立件である。これで習氏の政権基盤は固まったとみるべきだろう。

 党中央委の昨年の総会は司法改革を唱え、次の10月の総会の主な議題も「法治」とされる。

 ただ、この立件が法治に資するかといえば、根本的な疑問がぬぐえない。

 今回の決定を下したのは、党中央であり、司法ではない。党の調べで違反ありと認定すれば党籍を剝奪(はくだつ)し、そこではじめて司法手続きに移る。党は司法に優越し、党中央は常に間違えないという前提がある。

 汚職をなくして公正な社会を築くという目標はいいが、それが一党支配をより強固にするための権力者の道具でしかないなら、おのずから限界がある。

 法治といえば、国民の諸権利を明記した憲法が、いまの中国にはある。しかし、「憲政の実現」を訴える弁護士や学者を次々と弾圧している現状は、法治にほど遠い。

 真に必要なのは党の指導者をもチェックできる「法の支配」だ。それこそが反腐敗の王道ではないのか。

最低賃金上げ 中小企業への目配りも大切だ

 消費を下支えし、デフレを脱却するには、賃金の底上げが重要だ。

 厚生労働省の中央最低賃金審議会が、今年度の最低賃金(時給)の引き上げ幅を全国平均で16円とする目安を決めた。

 2年連続で2桁の大幅アップとなり、最低賃金は平均780円に上昇する見込みだ。この目安を参考に、各都道府県の審議会が地域の実情を踏まえて金額を決め、10月ごろに改定される。

 最低賃金を巡っては、生活保護の給付水準を下回る「逆転現象」が、労働意欲を損なうとして問題視されてきた。現在も5都道県で生じている。

 今回の引き上げで、それがすべて解消される見通しとなったことは、評価できよう。

 最低賃金でフルタイム働いた場合の月収は、平均で2500円程度増える。非正規労働者の増加で、一家の担い手が最低賃金ぎりぎりで働くケースも多い。引き上げの意義は小さくない。

 日本の最低賃金が、先進国の中で低い水準にあるのも事実だ。

 景気の回復傾向を受け、今春闘で大企業を中心に賃上げが相次いだ。しかし、物価上昇に消費増税の影響も加わり、家計の実質的な収入は目減りしている。

 非正規労働者や、中小・零細企業では、賃上げの動きは鈍い。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の恩恵が及んでいないとの不満も強まっている。

 今回の大幅アップは、デフレ脱却を軌道に乗せたい政権の強い意向を反映したものと言えよう。田村厚労相は「昨年並みか、それより良い成果」を求めていた。

 若年層に低賃金の非正規雇用が増え、結婚や子育てをあきらめる人も目立つ。少子化を加速させる大きな要因となっている。最低賃金の引き上げは、人口減対策の観点からも重要である。

 非正規労働者などにも賃上げが波及するよう、官民を挙げた取り組みが求められる。

 心配なのは、最低賃金の引き上げが、中小・零細企業の経営を圧迫しないかという点だ。多くの企業が、円安による原材料価格や燃料費の高騰に直面し、厳しい経営状況にある。

 賃金の引き上げを求めるだけでは、さらなる業績の悪化を招きかねない。従業員の解雇など弊害が拡大する恐れもある。

 政府は、中小企業の実情に目配りし、成長分野への進出を後押しするなど、効果的な支援策に取り組むべきだろう。

周永康氏摘発 腐敗蔓延の陰で続く権力闘争

 中国の最高指導部メンバーの不正に、調査のメスが入る。極めて異例の事態である。

 中国共産党が、2012年秋まで党政治局常務委員を務め、党内序列9位だった周永康・前党中央政法委員会書記について、「重大な規律違反」があったとして、調査、立件することを決めた。

 具体的な容疑は明らかにしていないが、昨年来、周氏の側近や元部下らが汚職容疑で相次いで摘発されている。周氏自身も、汚職に関与したとの見方が強く、既に軟禁状態にあるという。

 巨大な党組織の頂点に立つ政治局常務委員は、現在、習近平総書記以下、7人しかいない。周氏の在任中も9人だった。

 このごく一握りのトップ層に関しては、党の分裂回避や威信維持の観点から、不正は摘発しないとの不文律があったとされる。

 だが、腐敗の蔓延まんえんは今、国民の不満・不信の源であり、党の生き残りにも関わる重大問題だ。「ハエもトラもたたく」と腐敗一掃を宣言した習氏は、タブーに手を付けざるを得なかったのだろう。

 特大の「トラ」の摘発には、腐敗撲滅に向けた断固たる姿勢を国民にアピールする狙いがある。10月の党中央委員会総会でも、反腐敗が主要議題となる見通しだ。

 中国での腐敗摘発は、党内抗争とも密接に結びついている。

 周氏は、豊かな資金力を誇る石油業界「石油閥」の中心的存在である。政法委書記として公安や司法部門の実権も握っていた。

 江沢民・元総書記や江氏側近の曽慶紅・元常務委員らが後ろ盾とされる。昨年、収賄罪で無期懲役が確定した薄煕来・元党政治局員とも近かったと見られている。

 習氏は現在、治安対策や経済改革の指導組織のトップに相次いで就任するなど、自身への権限集中を急いでいる。

 周氏を摘発し、その背後にいる石油閥など既得権益層や江氏の影響力を排除することは、習氏が権力基盤を固める一環と言えよう。ただ、これで習政権が盤石になると見るのは早計だ。

 周氏摘発は一時的に民衆に歓迎されるとしても、根深い党の腐敗体質に変わりはない。習氏の強引な手法に対する党内の反発が強まる恐れもある。中国の社会と政治の安定は、なお遠い。

 内政が不安定化すれば、習氏は国民の愛国心に訴えるため、独善的な対外姿勢を強めかねない。日本は、腐敗摘発の陰で続く権力闘争を注視する必要がある。

2014年7月30日水曜日

都道府県は無理のない最低賃金の決定を

 都道府県ごとの地域別最低賃金引き上げの目安を議論してきた中央最低賃金審議会は、今年度の時間あたりの上げ幅を、全国平均で16円とすることを決めた。昨年度の15円を上回る伸びとなり、答申通りに上がれば最低賃金は平均で時給780円となる。

 消費を刺激して企業の生産活動を活発にし、それが新たな雇用を生むという好循環をつくるために賃金の上昇は重要だ。働けば少なくともこれだけはもらえるという最低賃金はパートなどの収入に影響し、引き上げはそうした非正規労働者の処遇改善にもつながる。

 ただし企業の生産性の伸び以上に賃金を上げることになれば、企業の競争力を低下させ雇用や地域経済に悪影響を及ぼしかねない。実際の最低賃金の引き上げ額を決める各都道府県の地方最低賃金審議会は、地域の景気や企業収益の現状を精査し、それを踏まえて慎重に上げ幅を判断すべきだ。

 引き上げ額の目安が今年度も大幅になった背景には経済指標の改善がある。2013年度、消費者物価指数は5年ぶりにプラスに転じた。現金給与総額も3年ぶりのプラスだった。

 だが都市部に比べて景気回復のペースが遅い地域は少なくない。卸小売業などは再編の遅れから過当競争が続き、経営の苦しい中小企業が多いのが実情だ。

 最低賃金で働く人の手取り収入が生活保護受給額を下回る逆転現象を解消し、勤労意欲をそがないようにするため、この数年は最低賃金を積極的に引き上げる傾向にあった。企業のコスト負担が重くなっていることも地域別最低賃金の改定では考慮すべきだろう。

 重要なのは企業が無理なく継続的に賃金を上げていけるようにすることだ。働く人が新しい技能を身につけて、生産性を高めることができれば、賃金を上げやすくなる。政府はIT(情報技術)関連など成長性の高い分野を中心に職業訓練を充実させるべきだ。

 企業が成長力を高められるよう、医療・介護や農業、環境・エネルギー分野などに参入しやすくする規制改革も急ぐ必要がある。

 今年度の最低賃金引き上げで田村憲久厚生労働相からは、昨年度並みかそれ以上の上げ幅を期待する発言があった。賃金決定への政府の介入と受け取られかねない。民間が活動しやすい環境をつくって、持続的に賃金を上げられるようにすることが政府の役割だ。

聡明な学長ばかりならいいが

 トップが大胆な改革に挑もうとするが、教授会から異論反論が噴き出して立ち往生――。大学でしばしば見られる光景だ。こうした事態を防ぐための法律が、通常国会で成立した。改正学校教育法と改正国立大学法人法である。

 現行の学校教育法では、教授会の役割を「重要な事項を審議する」とだけ定めている。改正法ではこれを限定し、教授会は「教育研究に関する重要事項」について学長が決定をする際に意見を述べる機関と位置づけた。

 大学運営などにも影響を及ぼしがちな教授会の権限を縮小し、学長のリーダーシップを確立するのがねらいだ。しばしば意思決定に手間取り、国際競争にも立ち遅れる日本の大学のガバナンス改革に一定の効果はあるだろう。

 国立大学法人法の改正では、学長選考基準やプロセスを透明化する規定も盛り込まれている。

 2つの改正法は来春施行だ。うまく運用できれば思い切った入試改革や教育・研究体制の再編、外部人材の登用などが進むかもしれない。しかし一方で、学長は自らの責任が格段に重くなるのを自覚しなければなるまい。

 教授会の力がそがれ、学内に表立った批判が出なくなったからといって、トップが恣意的な施策を打ち出したり不適切な人事に走ったりするならキャンパスはかえって混乱するだろう。そういう恐れのない、聡明(そうめい)な学長ばかりかどうか心配は残る。

 さまざまな「知」が集積する大学という場の特質をわきまえ、同時に現実感覚も失わず長期的な経営判断ができる学長は、残念ながらそんなに多くはいまい。ならば今回の改革を機に、大学は学長を「育てる」ことを心がける必要がある。あるいは経営と教育・研究の分離も課題となるはずだ。

 ひとくちにガバナンス改革というが、いまの大学は極めて多様である。いきなり学長に全責任を押しつけてよしとするのではなく、それぞれの実情に合ったやり方を探る必要もあろう。

子どもの貧困―ひとり親世帯を救おう

 事態を打開するため、まずは今そこにある貧困の解消に力を注いでほしい。

 子どもの貧困率が、過去最悪の16・3%(2012年)に達した。子どもの6人に1人が、平均的な所得の半分を下回る世帯に暮らしている。

 この数字は、先進国の中では最悪クラスだ。しかも、この30年近く、率の悪化に歯止めがかからずにいる。

 政府は「子どもの貧困」対策の大綱づくりを進めている。そこに何を盛り込むか。

 有識者による検討会の提言には多岐にわたる対策が並んだ。とくに、教育支援策が充実している。

 教育は子どもに自立できる力をつける。親から子への貧困の連鎖を断つために大切だ。

 ただ、今すでに貧困にあえぐ子を救うには、まず保護者の貧困を改善する必要がある。深刻なのは貧困率が5割に及ぶひとり親世帯、とくに母子家庭だ。

 母子世帯の母の8割は働いているが、仕事による年収は平均で180万円にすぎない。生活保護を受けているのは1割ほどだ。働いても貧しさを抜け出せないところに根深さがある。

 大きな要因は、不安定な非正規雇用が半数に及ぶことだ。たとえば、収入の低いシングルマザーを正規で雇い入れた企業には助成をする、といった思い切った手を打てないか。

 根本的には、雇用の構造から生じている問題だ。非正規雇用を正規にかえていく努力をしなければ、貧困に苦しむ人はなくならない。非正規の待遇改善も必要だ。

 検討会では「収入の低いひとり親家庭に支給される児童扶養手当を増額してほしい」との声が、当事者や支援者から上がった。優先順位は高いだろう。

 貧困の根絶には息の長い取り組みが要る。それは貧困率に長年歯止めがかからなかったことからも明らかだ。大綱を作って終わりにしてはならない。

 政策の効果を検証できるように、大綱には貧困率や進学率、就職率などを改善する数値目標を定めておくべきだ。

 生活の苦しい家庭の子どもに学習や食事を支援する民間組織は各地にあり、効果をあげている。ただ、どこもメンバーの献身的な努力に支えられているのが実情で、運営は厳しい。

 検討会では、こうした活動の支援にも使える官民基金の創設が提案された。わが子や孫だけでなく、よその子にも出来る範囲で手をさしのべる。社会で子どもを育てるために、そういう仕組みがあっていい。

高速道路―「賢く使う」の実行を

 とかく「造る」ことに傾きがちな意識が、ようやく変わりつつあるのだろうか。

 国土交通省が高速道路を念頭に「賢く使う」と唱え始め、審議会で検討がスタートした。

 渋滞の「名所」で、安全を前提に路肩をつぶして車線を増やす。料金を工夫して車の流れを制御し、渋滞を防ぐ。このあたりに狙いがあるようだが、「使う」を極める大切さは、わが国の厳しい状況からも明白だ。

 高度成長期に整えた社会基盤が一斉に更新期を迎えつつある。財政難が深刻ななか、インフラでは新設から維持更新へとかじを切り、一部については「捨てる」発想が欠かせない。

 「使う」ための検討を通じて、真に必要なインフラを絞り込む。そうした問題意識を忘れないでほしい。

 国交省が「使う」ことを強調するのは、首都圏や近畿圏では、高速道路の整備が終盤に近づいてきたためだ。

 首都圏では、都心環状線の外側を囲む中央環状線など「3環状」の工事の大半が、あと2年ほどで終わる。首都圏を通過するだけの車には、どの環状道路を通るか選択肢は広がる。

 渋滞解消へのカギは料金だろう。建設時期の違いから路線ごとにぶつ切りの体系を一本化する。渋滞しやすい区間や時間帯は料金を高く、すいている区間や時間帯は安くして車を誘導する。ETC(自動料金収受システム)の普及で環境は整ってきた。具体化を急いでほしい。

 一方、地方については、国交省は「道路網はまだ貧弱」と強調する。東日本大震災後は防災対策としてルートの二重化を掲げ、地方都市を支えるために市街地へ機能を集約しつつお互いに結ぶ「コンパクト+ネットワーク」を主張する。

 防災や地方対策に名を借りたバラマキが許されないのは言うまでもない。一つひとつ、費用対効果も踏まえて必要性を吟味すべきだ。

 高速道路では、05年の公団の民営化時に「50年までに債務を返して無料化する」と決めながら、大規模更新費を計算していなかったお粗末さで、65年までの有料化継続が決まった。更新が必要な路線は今後増えるだけに、無料化は難しいだろう。

 学校や病院を除き、道路や下水道、空港など国交省が所管するインフラだけでも、維持更新費は20年後には最大で13年度の1・5倍、5・5兆円に膨らむとの試算もある。

 「造る」から「保つ」「使う」、さらに「捨てる」へ。問われるのは発想と実行だ。

衆院選制度改革 有識者答申に拘束力が必要だ

 有識者に選挙制度改革の検討を委ねる以上、各党は、検討結果をそのまま受け入れることを約束すべきだろう。

 伊吹衆院議長の諮問機関である衆院選挙制度調査会の委員が発表された。

 大学教授や首長、報道関係者ら15人で、座長には佐々木毅・元東大学長が就任する見通しだ。9月上旬に初会合を開くという。

 与野党は3月に有識者会議の設置で合意した。初会合まで半年も要するのは、あまりに遅い。今後の議論を加速する必要がある。

 懸念されるのは、調査会の答申の扱いが明確でないことだ。

 与野党は6月に、答申を「尊重する」ことで合意している。

 ただ、自民党の石破幹事長は、答申について「自動的に法案にするとなると、議会の権能は何かとなる」と語った。答申の内容次第では、一部を修正する可能性を示唆したとも受け取れる発言だ。

 与野党は、1年以上も議論しながら、改革策をまとめられなかった経緯を忘れてはなるまい。各党は、答申が拘束力を持つことを改めて確認しなければならない。

 調査会は、「1票の格差」是正や定数削減、衆参両院の選挙制度のあり方を検討する。答申時期は、2016年12月までの衆院議員の任期を考慮して決めるという。

 答申後の法案作成作業や審議、周知期間を考えれば、残された時間は長くない。調査会は、次期衆院選から適用する改革と、長期的に取り組む課題を仕分けして、議論することが大切である。

 喫緊の課題は格差是正だ。

 最高裁は、格差が最大2・43倍だった12年衆院選小選挙区を「違憲状態」と判断している。

 昨年成立した改正公職選挙法による小選挙区定数の「0増5減」により、いったん格差は2倍未満に抑えられたが、最近の試算では、再び2倍を超えている。

 衆院選挙区画定審議会設置法は2倍未満を基本と定めており、さらなる是正策を講じるべきだ。

 選挙制度改革では、多党化を避け、安定した政治を実現するという視点が欠かせない。そのためには、当面、現行の小選挙区比例代表並立制の大枠を維持しながら、格差是正を図るのが現実的な選択肢となるだろう。

 与野党協議では、各党が競うように大幅な定数削減を主張した。消費増税に伴い、議員も身を切る姿勢をアピールしようとする発想は、大衆迎合と言えよう。

 定数削減は、今回の選挙制度改革とは切り離すべきである。

軽減税率 家計と活字文化を支えたい

 消費増税が家計に過大な負担となり、景気を失速させてはならない。

 2015年10月に消費税率を10%へ引き上げる場合には、食料品や新聞など必需品の税率を低く抑える軽減税率を導入すべきだ。

 自民、公明両党の与党税制協議会は軽減税率への賛否に関し、各種業界など50近い団体からのヒアリングを進めている。

 このうち日本新聞協会は、消費税率を10%に引き上げると同時に、新聞や書籍などに5%の軽減税率を適用するよう求めた。

 その理由として、「新聞は単なる消費財ではなく、国民の知識の根幹をなす公的な財であり、低所得者や地方居住者も等しく購読できる環境を守る必要がある」などと説明した。

 新聞は、広範なニュースや多様な意見を国民に提供する。活字文化の発展と民主主義社会の基盤を守る、重要な必需品と言える。

 ヒアリングでは、消費者団体などからも、軽減税率の導入を支持する声が上がった。

 全国消費者団体連絡会は、「景気は回復基調にあるというが、消費者の実感は厳しい」と指摘し、食料品に対する軽減税率など、負担軽減策の実施を要望した。

 全国農業協同組合中央会も、農産品とその加工品も含め軽減税率の適用が望ましいとした。

 一方、経団連や流通業界団体の多くが、企業の事務負担増などを理由に導入反対を表明した。

 どの品目に軽減税率を適用するかの「線引き」が難しいうえに、複数の消費税率が混在すると、帳簿の作成や納税の手間が煩雑になると訴えた。

 事務手続きが増すのは確かだが、欧州のほとんどの国では長年にわたり、日本の消費税にあたる付加価値税で、食料品や新聞に軽減税率を適用している。

 海外の先行事例に学び、効率的な納税事務の在り方について、官民で知恵を絞ってもらいたい。

 政府は今年4月に消費税率を5%から8%としたのにあわせて、低所得者への給付金支給を決めたが、1回限りの給付では消費下支えの効果は限られよう。

 消費者の負担感を和らげ、消費低迷のリスクを抑えるには、買い物のたびに恩恵を実感できる軽減税率の方が効果的である。

 財務省は「全ての飲食料品」の税率を1%軽減すると、消費税収は年6600億円減るとの試算を示している。社会保障の財源確保と家計負担のバランスを考え、対象品目を慎重に検討すべきだ。

2014年7月29日火曜日

新卒外国人を呼び込みやすい環境に

 大学や大学院を出た外国人新卒者を採用する動きが広がっている。国際感覚があり海外の生活習慣にも通じた若い人材は経営のグローバル化を進めるうえで貴重な戦力だ。外国人材の積極採用は日本企業の成長力向上につながる。

 外国人採用をさらに促すため、政府は規制を見直して日本での在留資格を得やすくするべきだ。企業も能力や成果で処遇する仕組みを強める必要がある。外国人が日本で働きやすい環境づくりに官民それぞれが取り組むときだ。

 これまで日本企業の外国人採用は専門性のある人材の中途採用が中心だった。近年力を入れているのは海外の大学・大学院を出る学生や留学生の新卒採用だ。

 日立製作所は今春入社の新卒者のうち外国人が1割を超えた。ローソンは新卒採用の3割を外国人にするという基準を設けている。

 リクルートキャリア(東京・千代田)の「就職白書」によれば、来春の新卒採用で海外の大学・院卒の外国人学生を採る企業の割合は従業員5千人以上で41%にのぼる。今春に比べて倍増する。

 企業の関心が高いのがアジアの人材だ。アジア市場が収益源になり、この地域の出身者への需要は一段と高まろう。人材サービス会社の役割も重要になる。

 人材紹介の南富士(静岡県三島市)は中国やベトナム、インドネシアで現地の大学生向けに私設教育機関を開き、卒業前の半年ほど企画力やリーダーシップなどの研修をして企業に送り込んでいる。

 GAコンサルタンツ(大阪市)はベトナムの大学に日本語教室を設け、技術系学生らを日本企業に紹介する。人材サービス会社が海外で活発に活動すれば、日本企業の外国人採用にも弾みがつく。

 政府に求めたいのは大学・院卒者へ就労ビザを発給するときの条件の緩和だ。現在は卒業した学科や専攻と、就職先での業務内容が異なるとビザがおりにくい。

 就職先での業務に必要な専門知識があることをみるためだが、文系の学生がソフト開発など技術関係の仕事に就く際の壁になっている。見直しを急いでほしい。

 年功制が強すぎれば外国人の不満が高まりやすい。若くても重要なポストに就ける実力主義の人事制度が企業に求められる。日常の生活や医療などの相談窓口を各地域で充実させていく必要もある。外国の人材が力を発揮できる環境を総合的に整えていきたい。

裁判員に公平性求めた最高裁

 裁判員制度は刑事裁判に市民感覚を反映させるために導入された。だがその結果、他の裁判と比べて刑の重さが大きく違う判決が出ると、不公平な裁判制度ということになってしまいかねない。

 裁判員裁判が抱えるこの難しい問題に、最高裁が初判断を示した。「過去の量刑の傾向に従うことまでは求められないが、公平性は必要」というのが結論である。

 確かに、同じような事件で判決の結果が著しく異なるようでは、司法そのものへの信頼にもかかわってくる。最高裁の判断は妥当といっていいのではないか。

 問題になったのは、2010年に大阪府寝屋川市で、当時1歳8カ月の女児が死亡した事件だ。女児に暴行して死なせたとして、傷害致死罪で両親が起訴された。

 一審大阪地裁の裁判員裁判では、懲役10年という検察の求刑に対し、1.5倍にあたる懲役15年の判決が2被告に言い渡された。

 「児童虐待は大きな社会問題であり、今まで以上に厳しい罰を科すことが相当」というのが判決の理由だった。裁判官だけで判断する二審も、この量刑を支持した。

 だが最高裁は「過去の量刑から大きく外れるのであれば、納得できる理由を示さなければならない」という基準を示し、父親を懲役10年、直接的には暴力を振るっていなかった母親を懲役8年にそれぞれ減刑したのである。

 児童虐待が強い批判を浴びるべき行為であることは間違いない。しかし、それだけを理由に刑を重くするのは適当ではない、という判断になろう。

 もちろん、裁判員がいたずらに先例にとらわれてしまっては、制度を導入した意味そのものがなくなってしまうのも確かだ。

 裁判官が過去の量刑の意義や内容を裁判員に十分理解してもらったうえで、市民と法律のプロが協力してより良い判決を目指す。求められているのは、この裁判員制度の原点に立ちかえるということだ。個々の裁判官の力量が、なにより問われている。

ミサイル発射―日朝協議でも説得を

 北朝鮮がミサイルやロケット砲の発射実験を繰り返している。先週末も日本海に向けて短距離ミサイルを1発撃った。

 北朝鮮は、これまでも核やミサイルの無謀な実験を重ね、国連安全保障理事会から制裁を強められてきた。

 短距離であってもミサイル発射は国際社会への挑戦であり、自国の孤立を深みに追い込む。その愚かさを悟るべきだ。

 発射の政治的なねらいは、まず韓国の朴槿恵(パククネ)政権を意識したものとみられる。

 事件事故や不祥事など国内事情で苦境に立つ朴大統領を圧迫し、いずれ始まる南北協議を有利なかたちで始めたい、とみるのが妥当だろう。

 朴政権は対北関係の改善を掲げてはいるが、実際には強硬姿勢を崩していない。そのため、北朝鮮は反発を強めており、対話は軌道に乗っていない。

 北朝鮮は韓国を射程に収めるミサイルを撃ち続ける半面、9月に韓国・仁川で始まるスポーツ行事、アジア大会への選手や応援団の派遣を表明した。

 だが、そのためには「平和的な環境が整えられるべきだ」とも訴える。来月予定される米韓合同軍事演習の中止を暗に求めるなど、硬軟織り交ぜて朴政権を揺さぶっている。

 そうした対外戦術をめぐらすなかで北朝鮮は、日本人拉致問題などをめぐる日朝協議も利用しようとしている恐れがある。

 最近のミサイルの発射にも、日米韓をにらんだ思惑がにじんでいるとみるべきだろう。

 日本政府は発射に抗議しつつも、日朝協議は続ける意向だ。「ただちに日本の領土や国民に重要な影響をおよぼさない」などとの理由だが、そうした影響評価は韓国とは当然ずれる。

 日本の協議継続の姿勢に米韓が理解を示しながらも、不安なまなざしを向けるゆえんだ。

 ただでさえ歴史認識などで関係が悪い日韓が、北朝鮮政策でも足並みを乱せば、それこそ北朝鮮の思うつぼだろう。

 見方をかえれば、北朝鮮と今、正面から向き合えるパイプを持つのは日本だけだ。拉致問題と並行して、直接対話でミサイルなどの挑発行動をやめるよう求め続けるべきである。

 来月にミャンマーである東南アジア諸国連合の会合には、北朝鮮の李洙●(へんが「つち」、つくりは「庸」)(リスヨン)外相が出席する可能性が取りざたされる。北朝鮮の高いレベルと意思を交わす機会になるかもしれない。

 日本は政府間協議の継続をてこに、軍事挑発は北朝鮮のためにならないことをねばり強く説く必要がある。

老老介護―孤立させずに支えよう

 介護される人と介護する人がともに65歳以上という「老老介護」が増えている。国の推計では、2025年には夫婦二人暮らしで世帯主が65歳以上の世帯数が10年の1・2倍、75歳以上だと1・6倍になる。国は介護の在宅化を進めており、老老介護の広がりは避けられない。介護する側への支援を充実させることが急務となっている。

 先ごろ公表された2013年の国民生活基礎調査によると、同居する家族が主に介護を担う世帯のうち、老老介護の割合が半分になった。介護される人とする人の双方が75歳以上という世帯も増えている。

 介護する人自身の健康状態が「よくない」と思っている割合は、65歳以上では29%、75歳以上では36%となっている。

 介護保険はあるのに、利用していないケースも目立つ。「自分たちで何とかやっていける」「他人を家に入れたくない」といったことが主な理由だ。さらに「どんなサービスがあるのか」「どう手続きすればよいのか」など、制度が周知されていない現実もある。

 まず、介護保険でできることを平易に伝えて支援につなげることを行政は目指してほしい。

 老老介護は、介護する側も骨折や体調不良など「不測の事態」が生じやすい。ならば、支援も臨機応変に提供できるようにしていかなければならない。いつでも施設の宿泊サービスを利用できれば、大いに助かるだろう。

 東京都世田谷区では、保健師や社会福祉士による「見守りコーディネーター」が区内全域にいる。民生委員や近所の人からの情報をもとに、見守りが必要になりそうな高齢者の自宅を訪れている。

 コーディネーターは訪問先の状況に応じて、利用できる介護保険のサービスを説明したり、研修を受けた区民による「見守りボランティア」の訪問につなげたりする役割を担う。

 介護する人が「全部自分で」と抱え込めば、ストレスがたまり、将来への悲観を生む。虐待や殺人に至った不幸な出来事の背景には孤立がある。老老介護に限らず、高齢者がいる世帯を孤立させない世田谷区の取り組みは参考になる。

 行政だけが支援の源というわけではない。配食サービスの際にお弁当を手渡す、介護する人を介護者の集いに誘い出す、といった方法でも、孤立は和らぐ。種々の宅配サービス業界、知人友人といった「つながり」にも役割がある。老いの不安を軽くする方策を考えたい。

国家公務員削減 人員再配置にメリハリが要る

 組織のスリム化と同時に、戦略的な人員再配置で政府の政策遂行能力を高めることが肝要だ。

 政府は、国家公務員の機構・定員管理の新たな方針を閣議決定した。

 2015年度から5年間で、自衛官などを除く一般行政職の定員約30万人の「10%以上」を配置転換・削減する。この目標は、10~14年度と同じである。

 5月に新設された内閣人事局が府省ごとの配転・削減目標数を設定した。これを「原資」に、震災復興や海上保安、税関・出入国管理・検疫など、職員が不足している部門に再配分し、増員する。

 震災復興は依然、被災者の期待と比べて遅れている。尖閣諸島周辺での中国公船の領海侵入などで、海上保安庁は人員のやり繰りが厳しい状況が続く。

 重要性が薄れた部署を縮小し、行政需要が高い部署を増強して、メリハリをつけるのは妥当だ。

 政府は従来、国の出先機関を中心に配転・削減を進めてきた。07~10年度には、農林水産省の農林統計や食糧管理部門などの職員を省の垣根を越え、刑務所や国税局などに大量に異動させている。

 だが、配転・削減が一定程度進んだため、「5年で10%」の目標達成は難しくなりつつある。

 このため、政府は、各府省が自主的に事務内容を見直し、組織の統廃合、事務の地方・民間移管を進める方針を示した。府省側の合理化意欲を引き出すため、節約した定員を府省内の別の部署に再配置要求できることも明記した。

 それでも民間に比べ、役所の合理化は甘いとの指摘は根強い。

 内閣人事局は、情報通信技術(ICT)を活用した効率化によって、人員削減につなげたい考えだ。総務省行政管理局とも連携し、各府省の合理化計画を厳しく点検することが欠かせない。

 政府は06年度以降、独立行政法人などへの移行分を除き、毎年1000~2000人の国家公務員を純減してきた。こうした削減努力は継続する必要がある。

 民主党政権は、衆院選政権公約で国家公務員の「総人件費の2割削減」を掲げ、11、12年度の新規採用を3~4割削減した。13年度も5割以上減らす方針を決め、国民の批判を浴びた。

 「人気取り」目当ての極端な採用抑制は、各府省の人事構成をいびつにするうえ、就職難の新卒学生への門戸を狭め、優秀な人材の公務員離れを助長する。

 公務員の採用は、中長期的観点から戦略的に進めるべきだ。

危険ドラッグ 摘発の徹底で流通を阻止せよ

 名称変更を機に、違法なドラッグの規制をさらに強めたい。

 乱用者による事件・事故が相次ぐ「脱法ドラッグ」の名称が「危険ドラッグ」に改められた。

 「脱法」では、法規制が及ばないとの誤ったメッセージを与えかねず、安易な使用を誘発する恐れがある。そうした判断から、警察庁と厚生労働省が公募した。

 危険性を強調しようという狙いはわかるが、違法性が十分に伝わる名称なのか、という疑問は残る。政府は、危険性と違法性をともに周知する必要がある。

 危険ドラッグに手を出したことのある人は、全国で40万人に上るとされる。厚労省が乱用者を対象に調査したところ、4割以上に幻覚や妄想の症状が出ていた。覚醒剤の3割を上回っている。依存症状が生じた人も6割近かった。

 極めて有害であることは明らかである。急性中毒症状で救急搬送されるケースも急増している。

 蔓延まんえんを阻止するため、政府が緊急対策をまとめたのは当然だ。

 警察や地方厚生局が連携し、約250か所とされる販売店への一斉立ち入り検査を行うことなどが対策の柱だ。危険薬物を容易に入手できる状況を改めるには、販売店の規制強化が欠かせない。

 摘発が後手に回った教訓から、緊急対策では、違法な指定薬物に分類される前でも、薬事法で販売を禁じる「無承認医薬品」として取り締まることも打ち出した。

 指定薬物を含む疑いのある商品については、販売業者に成分検査を命じ、結果が出るまで販売を停止させる。命令に従わなければ、業者に罰則を科す。

 移動販売やインターネットを介した注文販売に移行しつつある業者の監視を強めてほしい。

 密造・販売ルートの実態把握も重要だ。沖縄、石川両県では製造工場が摘発された。原料の薬物は中国から輸入された疑いがある。日本への流入を水際で阻止するため、税関でのチェック体制を強化する必要があろう。

 薬事法上は違法とされていない商品であっても、身体に危害を及ぼす恐れがあれば、条例で独自に規制している自治体もある。

 和歌山県は、お香やアロマと表示した商品でも監視製品に指定し、扱う店に届け出を義務付けている。大阪府は、警察官の店舗への立ち入り調査権限を条例に盛り込んだ。東京都も条例を改正し、同様の規定を設ける方針だ。

 政府の取り組みを補完する上で、自治体の役割は大きい。

2014年7月28日月曜日

女性登用には働き方改革が必要だ

 管理職や役員になる女性を増やそうと、行動計画を立てる企業が増えてきた。具体的な数値目標をあげる企業も目立つ。企業の「本気度」を社内外にアピールし、女性の登用や育成を着実に進めていくための手段として、前向きに評価できる。

 ただ、それには、長時間労働の見直しなど、働き方の抜本的な改革が不可欠だ。男女ともに当事者となり、職場を変えていくチャンスとしたい。

管理職なお1割程度
 女性の登用を後押しする動きが相次いでいる。経団連は会員企業に自主行動計画をまとめるよう呼びかけ、まず約50社分をホームページで公開した。「女性管理職数を2020年に3倍、30年に5倍に」(トヨタ自動車)、「20年度までに女性役員2人以上」(全日本空輸)などの目標が並ぶ。

 政府も6月の成長戦略で、女性の活躍推進を柱に据えた。実効性を高めるために、企業に行動計画づくりなどを促す新しい法律を制定する方針も打ち出した。

 日本の女性はどこまで職場で活躍しているのか。足元の数字は厳しい。14年の男女共同参画白書によると、就業者に占める女性の割合は、日本は欧米各国に比べて著しく低いわけではない。しかし管理的な立場の人に限ると、1割程度の日本に対し、米国は4割を超える。フランスやスウェーデンなども3割を超えており、日本のかなり先を行っている。

 政府は指導的地位に占める女性の割合を20年に30%にする目標を掲げている。日本の現状との隔たりは大きい。

 男女問わず意欲と能力のある人が力を発揮できるようにすることは、企業の成長にとって欠かせないテーマだ。単に労働力不足を補うためではない。多様な経験と価値観を持つ人材がいる職場は、より創造性の高い職場になりうる。

 もちろん、すべての働き手が管理職を目指すわけではないだろう。しかし意欲を阻む壁があるなら取り除いていくことが必要だ。

 まずは育成に向けた地道な取り組みを進めたい。管理職向けに女性社員の育て方を教える研修を開いたり、女性を対象にキャリア意識向上の研修を開いたりする企業は多い。

 特に管理職の役割は重大だ。同じように接しているつもりでも、つい男性の部下にだけ目を向けたり、女性に過剰な配慮をして能力を伸ばせなかったりすることもあるからだ。

 取り組むべき課題は、さらにある。女性管理職が少ない理由としてよく「本人が希望しない」という声が聞かれる。しかし女性側の意識の問題だけなのだろうか。背景をよく見ていくと、長時間労働や、仕事と家庭の両立が難しいことが、女性を尻込みさせている例も少なくない。

 そもそも子どもを持つ段階で仕事か家庭かの二者択一を迫られ、退職する女性は今なお多い。一度職場を離れると好条件での再就職は難しい。これでは管理職候補となる女性の数は限られてしまう。

 良質な保育サービスの拡充が就業継続の支えになることはもちろんだが、それだけでは不十分だ。

 カギを握るのは、長時間労働を見直し、職場環境そのものを変えていくことだ。子育てによる時間的制約があっても、仕事の内容や進め方を見直し、効率的に働けるような工夫をすることはできる。

男性はもっと家庭に
 フレックスタイムや在宅勤務など柔軟な働き方を広めることや、時間ではなく成果で評価する仕組みをつくることもあわせて必要になる。再雇用制度や中途採用などにより、女性の再チャレンジを後押しすることも大事だろう。

 同時に、男性がもっと家庭で役割を果たせるようにすることも欠かせない。日本の男性が育児や家事にかける時間は、欧米に比べ短い。育児休業からの復帰セミナーに夫婦そろっての参加を呼びかけたり、男性社員に短期間であっても育児休業の取得を促したりする企業もある。こうした取り組みはもっと広がっていい。

 高齢化が進む日本では、今後、男女問わず親の介護に直面する働き盛りの人が増える。女性が育児や家事、介護を担い、男性が長時間労働に没頭する。このモデルではもはや乗り切れない。

 女性の登用に向けた取り組みは、女性のためだけではない。時間的な制約の有無を含め、様々な属性を持つ人材がそれぞれの力を発揮できるよう、職場環境を変えていくことにつなげたい。多様性を包み込む、柔軟で力強い職場にしていくための一里塚だ。

薬の研究不正―癒着許さぬ仕組みを

 製薬会社と医師、病院のもたれ合いは深刻な問題である。患者と国民を食い物にする癒着を断ち切る方策が必要だ。

 製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンをめぐる論文不正問題で、東京地検は会社と元社員を起訴した。

 会社ぐるみの不正だった疑いがきわめて濃厚になったが、起訴の罪名は薬事法の虚偽広告などでしかなく、罰則も軽い。

 会社は不正で巨利を獲得し、医師らにもその一部が回る。そうした構造を土台から崩す仕組みづくりを、厚生労働省を中心に急がねばならない。

 製薬会社による研究不正は、次々に明らかになっている。

 国内トップの武田薬品工業は高血圧治療薬の臨床研究に、組織的に不適切な関与をしていたと発表した。研究結果と異なる学会発表資料をまとめ、販売の宣伝に転用していた。

 協和発酵キリンも貧血治療薬の臨床研究で、販売促進の目的で研究計画をつくったり、データを解析したりしていた。ブリストル・マイヤーズ社員による不適切な関与も見つかった。

 ひとを対象にした臨床研究で不正をし、製品を不当に売り込むのは、患者に対する裏切りであるだけでなく、健康保険の財政を傷める。つまり国民からの詐取行為といっていい。

 最も注意を要する個人の病気に関する情報が、製薬会社側に漏れていたケースもあった。

 なのに、同時に得た大量の副作用情報は、厚労省への報告義務を無視していた。社会的倫理の欠如というほかない。

 一連の問題は、法規制の緩い医師主導の臨床研究が、製薬会社と医師の癒着の道具に成り下がる危険性を示している。

 ディオバンの研究で中核となった5大学への奨学寄付金は、02~12年の総額で約11億3千万円。一方、ディオバンの売り上げは単年で約1千億円だから、ノバルティスが不正で得た利益はけた違いに大きい。

 これに対し薬事法違反の罰金は200万円以下に過ぎない。

 不正利得を許さない法制度は何としても必要だろう。米国では近年、製薬会社が30億ドルの和解金を払ったこともある。

 医師の不正関与を防ぐには、奨学寄付金など不透明な資金提供をやめ、製薬会社の委託研究として実施するべきだ。

 患者が各病院を信頼し研究に協力する以上、信頼を裏切った病院に組織としての責任を問う制度も検討が必要だ。

 医療の発展は阻害せず、しかし不正は許さない。そんな仕組みをしっかりつくりたい。

リニア新幹線―これが最良の選択か

 リニア中央新幹線の品川―名古屋間の環境影響評価(アセスメント)がほぼ終わった。国土交通相はJR東海の計画を大筋で容認した。JR東海はこの秋にも着工する構えだ。

 ただ3年に及んだアセスで、計画への疑問はむしろ膨らんだといわざるをえない。工事で6千万立方メートルを超す残土や汚泥などが出る。沿線河川の水が減ったり、南アルプスの景観や動植物の生息に影響したりする恐れも明らかになった。

 こうした環境問題も心配だが、時代の移り変わりを見ると、そもそもリニアは必要なのかとの疑問も抱かせる。

 中央新幹線は、1973年に基本計画が決まった。ほどなく高度成長が終わり、同時に計画が示された11路線は凍結状態だ。中央新幹線だけが進んだのは、JR東海が東京―大阪間で9兆円超の建設費を自己負担すると表明したことが大きい。

 最高時速500キロ超の超伝導リニアは、62年から研究が続く日本の鉄道技術者の夢だ。何としても実現させ、将来は輸出も、との思いがある。

 ただこの40年余りで、社会状況は大きく変わった。最も留意すべきなのは、人口が急速な減少局面に移ったことだ。

 JR東海は、東京、名古屋、大阪を1時間程度で結ぶことで、6千万人を超す巨大都市圏がうまれ、日本全体の経済成長を促す、と強調する。

 だが、東京一極集中と地方の疲弊が問題になっているのに、3大都市圏の合体化が最適の処方箋(しょほうせん)なのか。リニア計画を認めた国の審議会でも、社会構造に及ぼす負の側面を十分に検討したとは思えない。

 JR東海がもう一つ説くのは、東海道新幹線の代替機能だ。今年で開業50年を迎えて老朽化対策が急務なうえ、リニアがあれば地震の時も東西ルートを確保できるとの考えだ。

 ただ、北陸新幹線の整備が進み、東京―敦賀(福井県)間は25年度に開業する予定だ。さらに1本、しかも建設費が割高で電力消費も大きいリニアが唯一の選択なのか。

 JR東海が自己負担する9兆円余りは、企業努力の産物ではあるものの、公共交通であるJRに国民が払った運賃が原資となっている。地方公共交通が衰弱している現状で、何ともアンバランスな投資にも思える。

 着工にゴーサインを出すのは国だ。安倍政権は前のめりだが、リニア抜きの案も含めた国土利用の未来計画を示して、国民の意思を確かめてはどうか。拙速に進める必要はない。

防衛装備の輸出 新3原則を効果的に適用せよ

 米欧各国などとの防衛装備協力を拡充し、日本の安全保障に役立てることが重要である。

 政府の国家安全保障会議(NSC)は、旧型地対空誘導弾パトリオットミサイル2(PAC2)の目標探知・追尾装置の部品について、米国への輸出を許可した。

 米国が、この部品を使った完成品をカタールなどに輸出することも認めた。米国の輸出管理体制などが適切だと判断したためだ。

 4月に閣議決定された防衛装備移転3原則に基づく初の許可だ。新3原則は、平和貢献・国際協力目的などの装備輸出を厳格な審査を条件に認めると定めている。

 この部品は米国での製造が終了しており、米国は日本の輸出を求めていた。日米双方に有益であり、こうした円滑な装備協力を可能にした新3原則の意義は大きい。

 NSCは、英国製ミサイルに日本の目標探知技術を組み合わせる共同研究を開始することも承認した。将来的に、航空自衛隊の次期主力戦闘機「F35」に搭載することも視野に入れている。

 英国との共同研究は、昨年7月に合意した化学防護服に続き、2例目である。具体化に向けて、着実に進めていくべきだ。

 NSCは今回、審議の概要を公表した。情報公開に努め、透明性を高めることが欠かせない。

 近年、米欧を中心に、防衛装備品の共同開発・生産の動きが活発化している。日本がこれに加わることは、防衛技術を維持・向上させるとともに、開発費の抑制にもつながる。積極的に参加する機会を見つけたい。

 日本は米英に加え、豪州とも防衛装備品の共同開発を進める方針だ。当面、日本の潜水艦技術を念頭に、船舶の流体力学分野を研究する。日仏は、無人潜水機などの開発協力を検討している。

 インドとは、海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の輸出に向けて協議している。原油などを運ぶ海上交通路(シーレーン)の安全を確保するうえで、日印の安保協力は重要である。防衛装備の輸出にも力を入れるべきだ。

 大切なのは、どんな装備・技術の共同研究や開発を進めれば、双方のプラスになるかをしっかりと見極めることだ。政府は、民間とも連携し、情報収集・分析に戦略的に取り組む必要がある。

 防衛省は来年度に、装備品の研究開発から購入までを一元的に扱う「防衛装備庁」の新設を目指している。業務の効率性を高める観点を重視せねばならない。

裁判員判決破棄 量刑の公平性重視した最高裁

 被告の刑を決めるにあたり、過去の裁判例をきちんと考慮すべきだという最高裁の姿勢を明確に示した判決である。

 最高裁が、1歳8か月の娘を虐待死させたとして、傷害致死罪に問われた両親の刑を大幅に軽減した。

 検察側求刑の1・5倍の懲役15年を言い渡した裁判員裁判の1審と、それを支持した2審の判決を破棄し、父親を懲役10年、直接的には暴力を振るわなかった母親は懲役8年とした。

 懲役15年の刑は、著しく均衡を欠き、重すぎるとの判断だ。

 量刑不当を理由に、最高裁が裁判員裁判の結論を見直すのは初めてである。判決は、「裁判員裁判といえども、他の裁判の結果との公平性を保たなければならない」と指摘した。

 同種事件の判決で、刑の重さが極端に異なれば、国民の司法に対する信頼が揺らぎかねない。最高裁が最終審としてのチェック機能を果たす立場から、量刑の公平性を重視したのは理解できる。

 1審・大阪地裁の裁判員裁判は、両親の常習的な虐待が事件の背景にあったと認定し、大きな社会問題となっている児童虐待には、今まで以上に厳しい刑で臨むべきだと結論づけた。

 これに対し、最高裁は「従来の傾向から踏み出す重い刑を科す場合、説得力のある根拠を示す必要がある」と強調した。1審判決では、根拠についての言及が不十分だったということだ。

 最高裁は今回、蓄積された量刑データを目安として、裁判官と裁判員が被告の刑を検討するよう求めた。今後の裁判員裁判に大きな影響を与えるだろう。

 ただ、裁判員制度の趣旨は、法律の専門家だけが担ってきた刑事裁判に、国民の視点や社会常識を反映させることにある。

 先例ばかりにとらわれて、刑を決めていては、制度導入の意義が失われかねない。

 そもそも、裁判員制度の導入で、量刑にある程度の幅が出ることは、想定されていた。

 実際、性犯罪事件に関しては、裁判官裁判の時代と比較して、全般的に重い刑が言い渡される傾向が見られる。卑劣な犯罪を憎む市民感覚の表れと言える。

 重要なのは、刑の公平性を維持しつつ、市民感覚を判決に生かしていくことである。

 裁判官には、直感や情に偏った判断を排すことの大切さを裁判員に丁寧に説明し、適切な結論を探る努力が求められる。

2014年7月27日日曜日

カジノ解禁のマイナス面 十分に検証を

 カジノの合法化に向けた動きが進んでいる。議員立法によって提出されたカジノ解禁法案が今秋の臨時国会で成立する可能性があり、各地の自治体もカジノ施設の誘致に名乗りを上げている。

 推進派は、経済の活性化や外国人観光客の増加に期待をかける。政府は法案の成立を見越して内閣官房に新しい組織をつくり、2020年の東京五輪に間に合うよう、具体案の検討を始める。

 だがカジノはギャンブルへの依存をはじめ、青少年への悪影響、反社会的勢力の暗躍、マネーロンダリング(資金洗浄)の懸念など、様々な負の側面を抱えている。国民の間にも強い反対の声や拒否反応がある。

 国や自治体は前のめりになっていないだろうか。社会に影響を与える懸念があるカジノの解禁を、拙速に進めるようなことがあってはならない。マイナス面を十分検証したうえで、幅広く意見を聴いて議論を尽くすべきだ。

 カジノを開くことは、刑法の賭博罪にあたる。そこでカジノ法案は指定された地域に限ってカジノを合法化し、ホテル、娯楽・商業施設、国際会議場などと組み合わせた統合型リゾート施設の整備を目指そうとしている。

 法案は昨年12月に自民、日本維新の会、生活の3党が提出した。会期末に審議入りし、秋の臨時国会の焦点になりそうだ。

 高齢化や人口減に悩む地方の自治体などが、カジノの誘致を疲弊した経済を立て直す起爆剤にしたいという思いは理解できる。新たな観光客が訪れ、地元の雇用が増えるという側面はあるだろう。

 ただ、日本にはすでに競馬や競輪などの公営ギャンブルに加え、パチンコ店なども身近にある。厚生労働省の調査では、日本のギャンブル依存者の割合は諸外国に比べて高い。実際にギャンブルで多重債務や家庭崩壊に追い込まれる人は少なくない。

 カジノの解禁は、こうした傾向をさらに強める心配がある。賭博依存への対応に支払う社会的、経済的コストは大きい。推進派の構想では、カジノの収益の一部を依存症の対策にあてるというが、本末転倒ではないだろうか。

 韓国やシンガポールのカジノでは、利用を外国人に限ったり、家族の申請を受けて入場の禁止措置をとるような制度がある。こうした実態も詳しく調べて公表し、議論を深めていく必要があろう。

企業の「稼ぐ力」をもっと高めよ

 日本経済はデフレ脱却へと進んでいるものの、人手不足による供給制約、日本企業による国内外での「稼ぐ力」など多くの課題に直面している――。2014年度の年次経済財政報告(経済財政白書)はこう警鐘を鳴らしている。

 「よみがえる日本経済、広がる可能性」という副題は楽観的すぎるが、成長力を高めていくには、多くの宿題をこなさなければいけないことを指摘したのは妥当だ。

 足元では非製造業を中心に人手不足が広がっている。少子高齢化で労働力人口が減り続けるなか、女性や高齢者のさらなる就業の促進は待ったなしの状況だ。

 日本の女性の労働力率(就業者と失業者が人口に占める割合)は先進国のなかで低い。白書はスウェーデンなど北欧諸国と同じ程度まで上昇すれば、労働力人口を約400万人増やすことができると試算している。

 日本人は平均寿命が長く、高齢者の就業意欲も高い。白書が「働き方の見直しなどを通じて女性や高齢者が活躍できる環境を整えていくことも重要」との認識を示したのは当然だろう。

 同時に、雇用分野の規制改革などにより、働く人の時間あたりの付加価値である労働生産性が持続的に上昇していけば、物価変動の影響を除いた実質賃金も上昇しやすくなる。それはデフレ脱却の後押しにもなる。政府は規制改革を通じた環境づくりを急ぐべきだ。

 成長の主役である日本企業の奮起にも期待したい。米国では製造業の内部で設計、研究などの比重を増やす「製造業のサービス化」が進むが、日本は遅れている。

 海外投資に伴う収益率や、特許などの知的財産権から得られる収益も外国企業に見劣りしている。白書が指摘している通り、日本企業は経営改革を通じてもっと稼ぐ力を高められるはずだ。

 白書は、外国人材の活用の遅れや、廃業率の低さといった課題には触れていない。政治的に議論を呼びそうなテーマをあえて避けたとすれば残念だ。

予算編成―納税者への責任果たせ

 政府が来年度予算の概算要求基準を閣議で了解し、編成作業がスタートした。

 国の借金が1千兆円を超えた財政をたて直していくには、税制改革を通じた負担増、経済成長に伴う税収増とともに、予算の徹底した見直しが欠かせない。

 来年10月に消費税の再増税が予定される一方、安倍政権は法人減税を急ぐ。企業を核に日本経済を元気にし、国民全体に恩恵が及ぶ絵を政権は描くが、疑問や反発は根強い。

 納税者の理解を得るには、例年にも増して予算を効果的に配分し、賢く使うことが求められている。

 ところが、疑問符がつく動きが早くも相次いでいる。

 今は2年に1回の薬価改定について、経済財政諮問会議の民間議員が毎年行うよう提言した。薬の価格は、発売から時間がたつにつれ下がっていく。それをきめ細かく反映し、患者の窓口負担や保険料負担、税金の投入を減らすのが狙いだ。

 ところが、医師会や製薬業界、族議員などが「毎年改定では、そのための調査が不十分になる」「新薬開発や医療機関経営への影響が大きい」などと反発。政府が6月に決めた「骨太方針」では、改革するのかしないのか、あいまいな表現にとどまった。国民と業界のどちらを向いているのだろうか。

 公共事業を巡っては、政府は今年度予算の前倒し執行へ号令をかける一方、補正予算編成による上積みが霞が関周辺では当然のように語られている。

 東日本大震災の復興事業や東京五輪の施設建設、景気回復に伴う民間工事の増加が重なり、人件費や資材費の高騰は深刻だ。入札が成立せず、予定価格を引き上げてようやく発注にこぎつける例も珍しくない。「景気下支えには公共事業」と、政府が経費増に拍車をかけてどうするのか。

 高齢化に伴って医療や介護、年金に必要な予算が膨らみ続ける一方、子育て支援など手厚くしたい分野は少なくない。効果や必要性が薄れた給付は、国民に痛みを強いてでも削っていかざるをえない。

 その前に、より少ない予算でサービスを維持する取り組みさえ徹底できないようでは、財政再建など夢物語である。

 予算配分にメリハリをつけるための「優先課題推進枠」も、来春に統一地方選を控え、地方向けに予算をばらまく手段になりそうな気配だ。

 安倍政権には、財政への危機感がないのだろうか。

再エネと地域―「主権」育てる好機に

 朝日新聞と一橋大学が共同で実施したアンケートで、回答した全国の自治体の8割が再生可能エネルギーの推進に意欲的で、地域振興に役立てようとしていることがわかった。

 福島第一原発の事故から3年以上。発電の方法を見直す動きから、地域を自分たちの手で再構築する試みへと深化しつつある様子がうかがえる。

 例えば、電力会社に電気を売って得た収益を福祉施設の運営に回したり、発電設備を維持し保守する会社をつくって雇用創出につなげたり。地域で資金を募って設立する市民共同型の発電所も増え、500を超える勢いだ。

 いずれ電力が自由化されれば、電力会社や電源を選んで電気を買えるようになる。そんな将来をにらんで、農業や漁業、林業の生産者が遠隔地の消費者とつながり、直売する地場産品の中に、電気も組み込もうという構想も生まれている。

 経済活動の枠組みには収まりきらない動きも現れている。

 原発被災地となった福島県南相馬市では、太陽光発電所とそこでできた電力を使った植物工場を運営しながら、子どもたちが体験学習できる場がある。

 代表理事の半谷栄寿さんは地元出身で東京電力の元役員。事故の反省から事業を起こした。目標とするのは電気の仕組みや活用法の学習を通じて「自分で考え行動する」人材を育てることだという。

 これまでの電源開発は「つくる人」と「使う人」が分かれがちだった。とりわけ原発は、大量に電力を消費する都会向けにつくられてきた。立地条件も限られ、恩恵を受ける「地元」も一部にとどまった。

 地域振興にしても、これまでは大企業を誘致したり補助金でハコモノをつくったりという他力本願型。その面でも原発誘致は典型だった。

 確かに、安定的な電力供給という面では、再生可能エネルギーに技術的な課題は残る。固定価格での買い取り制度も、電源の開発費用が下がらないと料金負担が大きくなる欠点がある。

 それでも、地域に普通にある資源をいかす再生可能エネルギーは、従来の発想を転換させて、地域に「主権」を育むきっかけになる。

 自分たちで事業を進めれば難題や意見の相違にもぶつかる。どう乗り越え、いかに納得するか。小さな民主主義の実践が積み重なる。

 自分たちの町や生活と関連づけてエネルギーをとらえる機運を歓迎したい。

概算要求基準 特別枠を「抜け道」に使うな

 経済成長と財政健全化を両立するメリハリのきいた予算とするため、要求段階から厳しく精査する必要があろう。

 政府が2015年度予算の大枠となる概算要求基準を決めた。人口減対策や地方活性化など、安倍政権の重要課題に予算を重点配分するため、4兆円の特別枠を設けるのが柱である。

 特別枠の財源として、公共事業費などの「裁量的経費」を14年度予算の約15兆円から1割削減する方針も盛り込んだ。

 優先度の高い政策を推進するため、予算の配分を変えていく狙いは理解できる。

 ただ、特別枠に要求できる予算の範囲を、政府の「骨太の方針」や成長戦略で掲げた諸課題に関係する事業としたのは疑問だ。

 これでは、外交や防衛なども含めた幅広い分野の事業が要求の対象となり得る。

 来春の統一地方選をにらみ、地域振興に関連した歳出圧力も一段と高まろう。

 特別枠を「抜け道」にして、成長戦略などにかこつけた要求が各府省から殺到する懸念がある。

 財政運営の司令塔である経済財政諮問会議が本来の役割を果たし、対象を具体的に絞り込むべきだったのではないか。

 安倍首相は諮問会議で、来年度予算について「メリハリのついた予算とするよう政府を挙げて取り組んでいく」と強調した。

 諮問会議の議長である首相は、「不要不急」の事業の要求が横行しないよう、各府省に指導力を発揮してもらいたい。

 焦点は、最大の歳出項目である社会保障費の抑制を徹底できるかどうかである。

 高齢化などによる社会保障予算の「自然増」は、来年度も1兆円近い。概算要求基準はこれを厳しく精査する方針を明記した。

 予算節約の努力を通じ、割安な後発医薬品の利用促進や、年金支給開始年齢の引き上げの検討など、社会保障制度改革を着実に進展させる必要がある。

 政府は、現在30兆円と巨額の赤字である国と地方の基礎的財政収支を、20年度までに黒字化する目標を掲げている。

 だが、政府試算によると消費税率を予定通り10%に引き上げ、実質2%の経済成長を見込んでも、11兆円の赤字が残るという。

 財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)では、機動的な経済政策を行えず、日本経済の本格再生も望めまい。来年度予算を財政再建に道筋をつける第一歩としなければならない。

ガザ流血拡大 本格停戦への道筋を探りたい

 米国や欧州、国連は、紛争当事者に影響力を持つ中東諸国と連携し、本格的な停戦への道筋をつけてもらいたい。

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとイスラエルの軍事衝突で流血が拡大している。両者は一時的には停戦したが、事態が収拾する見通しは立っていない。

 イスラエル軍は、空爆に加えてガザへの地上侵攻に踏み切った。ガザに張り巡らされた多数の地下トンネルの全面的な破壊を目標としている。トンネル網が、イスラエルへのロケット弾の発射や越境攻撃に利用されているためだ。

 トンネルは、住宅や民間施設の地下にもあるため、多くの民間人の犠牲者を生んでいる。ゆゆしき事態である。双方の死者は計1000人を超えたという。

 国連は、病院や学校、退避施設も対象とするイスラエル軍の攻撃と、民間人を「人間の盾」に使うハマスの卑劣な手段を「戦争犯罪となり得る」と強く非難した。

 火力で圧倒的に勝るイスラエルが自国の攻撃を「自衛権の行使」などと正当化する説明には、無理がある。少なくとも、民間施設に対する攻撃は回避すべきだ。ハマスも、人命を軽んじる対応を早急にやめる必要がある。

 ケリー米国務長官や国連の潘基文事務総長が、仲介外交を続けている。イスラエルと国交のあるエジプトやヨルダンに加え、ハマスに影響力を持つカタールやトルコなどの協力が欠かせない。

 シリアやイラクの内戦などで中東各地が混乱する中、周辺の関係国が結束できずにいる。ハマスを長年敵視してきたエジプトのシシ大統領の影響力も限定的だ。

 ケリー長官は、戦闘を1週間停止し、その間に本格停戦に向けた協議を行うとの案を提示した。

 イスラエルとハマスは提案を拒否したが、米欧や関係国はあきらめず、双方が受け入れ可能な案を粘り強く探ってほしい。

 本格停戦には、イスラエルに対する安全の保証や、7年に及ぶ経済封鎖で慢性的な困窮状態に置かれたガザの再建に向けた、双方の歩み寄りが欠かせない。軍事力だけでは問題は解決しない。

 イスラエルとハマスが、12時間の時限的措置とはいえ、人道的観点から戦闘を中断したことは評価できる。これにより、負傷者を含むガザ住民の避難や、食料や医薬品などの搬入が可能になった。

 停戦工作の前途は楽観できないが、今回の歩み寄りを問題解決への一歩としなければならない。

2014年7月26日土曜日

今度こそ本気で歳出削減に踏み込め

 政府による2015年度予算案の編成作業が本格化する。先進国で米国に次いで高い法人実効税率(東京都の場合で35.64%)を引き下げる道筋を定めつつ、予定通り来年10月に消費税率を10%に引き上げられるかが焦点だ。

 15年度は、国と地方の基礎的財政収支の赤字を10年度比で半減させる目標を達成しなければならない。政府はまずは目標達成を確実にして、経済成長と財政再建を両立させる足場固めをすべきだ。

 政府の中長期の財政試算によると、成長率を楽観的に想定し、10%の消費増税を前提にしても、20年度に基礎的収支を黒字にするという次の目標は達成できない。政府がこれまでに思い切った歳出削減に取り組んでこなかったからでもある。

 各省庁の予算要求のルールを定めた概算要求基準では、歳出上限の目安を示さなかった。消費増税や法人減税の具体策が固まっていない段階ではやむを得ないとはいえ、歳出の削減・抑制の手を緩めていいわけがない。

 最大の政策経費である年金や医療などの社会保障費では、高齢化による自然増加分(8300億円)を認めたが、自然増の内容を含めて厳しく査定し、できるだけ伸びを抑えてほしい。

 医療では、価格の安い後発医薬品を普及させたり、医薬品の公定価格である薬価を毎年改定したりといった案もある。年金では、支給開始年齢を65歳からさらに引き上げることも検討すべきだ。

 安易な介護報酬の引き上げも論外だ。余裕のある高齢者には応分の負担と給付の抑制を求めていくような大胆な制度改革に踏み出すときだ。

 成長戦略や地方再生を後押しする目的で「新しい日本のための優先課題推進枠」をもうけたのは理解できる。ただ、その中身は精査する必要がある。

 従来型の公共事業のバラマキや、費用対効果の乏しい補助金が紛れ込む恐れは大いにある。真に日本経済の再生につながるか否か、経済財政諮問会議は入念に点検してほしい。

 14年度予算の歳出・歳入総額は過去最大の95兆円台に膨らんだ。社会保障はもちろん、公共事業、防衛、文教・科学、農林水産などの予算も軒並み増え、「選択と集中」とはほど遠い代物だった。15年度予算案でこれを繰り返すのは厳に慎むべきだろう。

強みに磨きかける世界の企業

 世界の大企業が成長を確かなものにするため、中核事業をてこ入れする動きが強まっている。変化の速いグローバル経済の中で高い収益力を保つのは容易ではない。日本企業も気を抜けない。

 米国では主要500社の4~6月期の売上高が前年同期比3%伸び、純利益は6%増えたもようだ。金融を除くほぼ全業種が増収増益となるなど好調な決算だ。

 しかし同じ事業でも明暗は分かれる。例えばスマートフォンだ。

 中国で「iPhone(アイフォーン)」の販売が好調なアップルは12%増益だった。直営店を中国内陸部に展開するなど、攻めの戦略も打ち出した。対照的にマイクロソフトはフィンランドのノキアから買収した携帯端末事業が振るわずに7%減益となり、人員削減に追い込まれた。

 マイクロソフトの苦戦が示すとおり、競争力を失った事業を短期間でよみがえらせるのは難しい。だからこそ、企業はこれまで以上に早めに事業の選択と集中に着手し、常に事業の内容を見直していく必要がある。13%の増益だったゼネラル・エレクトリック(GE)は北米の個人向け金融業を縮小し、エネルギー事業などへの傾斜を強める。

 足元の業績が好調でも改革の手綱を緩めないという潮流は、世界に広がっている。

 欧州では独化学大手BASFが汎用化学品の事業を切り離し、独自性を発揮できる農薬事業などに投資を振り向ける。インドのIT(情報技術)大手インフォシスは競合会社との収益力の開きを埋めるため、独ソフトウエア大手SAPで製品開発などを担当してきた元幹部をトップに迎え、経営力の強化に乗りだした。

 国際通貨基金(IMF)は最新の世界経済見通しの中で、中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の急騰など、下振れリスクを指摘した。強い事業を磨いておけば、企業は環境の激変にも対応しやすい。そんな備えが日本企業の経営にも求められている。

オスプレイ移転―選挙目当てで済ますな

 安倍政権が、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備中の新型輸送機オスプレイを、佐賀空港(佐賀市)に移転させる計画を明らかにした。

 沖縄では米軍統治下、強制的に基地がつくられ、本土の基地が移ってきた。復帰42年の今も、全国土の0・6%の沖縄に米軍基地の74%が集中する。

 軍用機の事故や騒音、米軍兵士らによる事件、事故に脅かされ続ける沖縄県民に、これ以上過重な負担は強いられない。

 これまで政権は、地理的な条件などを理由に、沖縄県内への移設を唯一の選択肢としてきた。一時的とはいえ、県外への移転も可能だという認識を自ら示した意味は重い。

 しかし、今回の計画には数々の疑問が浮かぶ。

 まず背後に、11月の沖縄県知事選対策という政権の意向が透けて見える。

 知事選では、普天間飛行場の県内移設を容認する現職の仲井真弘多(なかいまひろかず)氏と、反対する那覇市長、翁長雄志(おながたけし)氏の立候補が見込まれる。

 容認派の仲井真氏が敗れれば、政府が進める名護市辺野古への県内移設は頓挫しかねない。県民の反発を和らげるために、政権は基地負担軽減を必死でアピールしている。

 空中給油機15機の普天間から岩国基地(山口県)への移駐や、都道府県を対象にした米軍再編交付金の浮上も、知事選を見据えた動きの一環だろう。

 一方、今回の計画は沖縄の負担軽減につながるものではない。辺野古に基地が完成すれば、オスプレイは沖縄に舞い戻ってしまう。

 もともと陸上自衛隊は、2015年から17機のオスプレイを佐賀空港に配備する検討をしていた。今回の移転案は、そのプランに便乗した、その場しのぎの計画と言わざるをえない。

 佐賀空港建設前、県が地元漁協と交わした公害防止協定の関連文書で、空港を自衛隊と共同使用しないとしており、陸自の計画も簡単に進む保証はない。

 事故を繰り返したオスプレイの安全性への疑問も、消えていない。低周波騒音も心配され、住民の反発は根強い。

 さらに、これまで県外移設に強い難色を示してきた米軍に対し、説得できる見通しを日本政府は持ち合わせているのか。

 政権が本気で沖縄の負担軽減に取り組むのなら、辺野古に新たな基地はいらない。選挙向けのパフォーマンスで終わらせないよう、計画を県外移設への一歩と表明し、佐賀県や米国との真剣な交渉に臨むべきだ。

中国鶏肉―対策もグローバルに

 中国では、外資系の食品メーカーは「世界基準を採用しているから大丈夫」と信頼が厚いという。

 ところが、米食品卸大手のグループ会社で、多くの世界的な外食チェーンと取引してきた「上海福喜食品」が、期限切れの肉を使っていた。

 日本でも、取引していたファミリーマートと日本マクドナルドが、商品の販売中止や仕入れ先の変更を迫られた。

 ファストフードに代表される日々の食では、安全や品質はもちろん、安さも欠かせない。より安い食材と作業員を求め、農畜水産物やその加工品が中国など新興・途上国とわが国を含む先進国の間を複雑に行き交っている。

 グローバル化する食の安全・安心をどうすれば確かにできるのだろう。

 まずは、今回の問題の徹底解明である。

 上海福喜食品は、組織ぐるみで不正行為を続けていたと伝えられる。日系企業を含む取引先の立ち入り検査の時にはきちんと対応し、チェックをかいくぐっていた、ともされる。

 事実なら、こうした行為に対する罰則の強化や抜き打ち検査などを含めて、中国行政当局の監督や指導の見直しが検討課題になる。

 日本の厚生労働省は、4年前から中国と食品安全に関する定期協議を続けている。日本側からは、残留農薬の管理強化などを求めてきた経緯がある。

 中国側から情報提供を受けて、食の安全・安心につながる態勢づくりを進めてほしい。それが日中双方の消費者の利益にかなう。

 とはいえ、まず消費者に責任を負うのは、商品を提供する民間企業だ。日本企業の取り組みには定評があるが、改善の余地はありそうだ。

 海外の取引先への検査態勢の見直しを急ぐとともに、日本国内の消費者に対する情報提供も増やしてはどうか。

 加熱処理した加工食品の多くは、生鮮食品と違って原材料の産地表示が義務づけられていない。しかし、産地や加工場所、仕入れ先をどうチェックしているかなど、消費者が知りたい情報は少なくない。

 中国を始めとする海外産の食品は不安だと言ったところで、国産だけでは日常生活が成り立たないのが現状だ。

 無責任な企業は淘汰(とうた)され、信頼できる企業が生き残るような仕組みを国際的に整えていく。そのために、一歩一歩、改善を重ねていく以外に解はない。

朴・舛添会談 国民の心を遠ざけたのは誰か

 歴史問題で一方的に日本を非難する反日姿勢に変化がなかったことは、残念である。

 韓国の朴槿恵大統領がソウルで、東京都の舛添要一知事と会談した。

 朴氏は、日韓関係の悪化について「一部政治家の言動」が原因だと強調した。関係発展には「正しい歴史認識」の共有が必要だとも語った。安倍首相の歴史観を批判する持論を繰り返したものだ。

 朴氏は、いわゆる従軍慰安婦問題について「普遍的な人権に関する問題だ」と述べ、その解決を最優先する考えも示した。

 今回の会談に先立ち、安倍首相は「対話のドアは常に開いている」と日韓首脳会談を望むメッセージを舛添氏に託していた。だが、朴氏の発言は、慰安婦問題の解決などを首脳会談の前提条件とし続けたものと受け止められよう。

 朴氏は、東京・ソウルの自治体交流構想を評価し、東京と平昌の日韓双方の五輪開催に向けて関係者が協力することも支持した。

 しかし、朴氏が就任後、1年半近くも首脳会談を拒否している異常な状況下では、こうした交流にも限界があるだろう。

 朴氏が会談で、「政治的に困難な状況になり、(日韓の)国民の心まで遠くなっていくようで残念に思う」と人ごとのように語ったことには違和感を覚える。

 他国要人の前で日本を批判する朴氏の「告げ口外交」は、日本で強い反発を招いている。自らの責任をどう考えているのか。

 オバマ米大統領の仲介による3月の日米韓首脳会談を受けて、日韓の局長級協議が始まった。

 韓国側は、慰安婦問題で日本の譲歩を求め、日本側は、韓国人元徴用工の訴訟問題などを取り上げたが、議論は進んでいない。

 今月上旬には、ソウルのホテルが突然、自衛隊創設記念行事の開催を拒否する事態が起きた。韓国有力紙が行事を批判したのがきっかけで、ホテルに抗議が殺到したためだという。

 朴氏が韓国社会に反日ムードを蔓延(まんえん)させた結果だろう。

 看過できないのは、朴氏が歴史問題などで、中国との共闘姿勢を見せていることだ。習近平国家主席との会談では、最近の日本と北朝鮮の協議進展を警戒する点でも、足並みをそろえた。

 日韓が連携すべき課題は、対北朝鮮政策のほか、日韓自由貿易協定、中国からの大気汚染対策など、数多い。朴氏はこのまま、日韓関係停滞の打開策を探らなくてもいいと考えているのだろうか。

熱中症予防 夜でも暑ければ冷房を使おう

 各地で連日、猛暑が続いている。体が暑さに慣れないこの時期は、熱中症が急増する。予防を心がけたい。

 熱中症は、高温の中で体内の水分や塩分が失われ、体温の調節機能が働かなくなることによって起こる。

 近年、最高気温が35度以上の猛暑日や、夜間の最低気温が25度以上の熱帯夜が増えている。それとともに、熱中症による死亡者は増加傾向にある。

 水分や塩分をこまめに取る。暑い時間帯の外出を控える。屋外では帽子をかぶる――。こうした予防策を真夏の習慣にしたい。

 熱中症はお年寄りに多い。昨年、熱中症で救急搬送された5万8729人のうち、47%が65歳以上だった。高齢者は皮膚の温度センサーが鈍くなっている。暑さを感じず、汗をかきにくいため、体内に熱がたまりやすい。

 東京都監察医務院の統計では、熱中症による死亡例の9割は室内で起きている。そのうち、冷房を使っていなかったケースは86%に上り、大半が高齢者だった。

 東京都練馬区は、高齢世帯を対象に、気温と湿度を測定する熱中症計を配布している。危険が高まるとブザーが鳴る仕組みだ。

 図書館や公民館などの施設を「避暑スポット」として活用している自治体もある。独り暮らしのお年寄りを守るためにも、地域ぐるみの取り組みが求められる。

 見過ごしがちなのは、就寝時の熱中症が少なくないことだ。死亡した人の約3割は夜間に発症している。室温を28度前後に保つよう、夜でも冷房を使いたい。

 体温の調節機能が発達していない乳幼児も、要注意である。

 大人より身長が低い幼児は、アスファルトからの照り返しを強く受ける。気温は通常、地面から150センチの高さで測定するが、幼児の周りの気温は、それより3~4度も高いとされる。

 涼しい服装を心がけ、こまめに水を飲ませるなど、大人が気を配らねばならない。顔が赤く、汗をひどくかいている場合は、日陰で休ませる必要がある。

 学校では、運動部の活動中に発症しやすい。30分に1度は、休憩が欠かせない。立ちくらみや、こむら返り、頭痛や吐き気の症状が出たら、すぐに体を冷やそう。

 地球温暖化により、熱中症で病院に搬送される人は、今世紀末には2倍になるとも予測される。緑地や街路樹の整備など、ヒートアイランド現象を和らげる長期的な対策も重要である。

2014年7月25日金曜日

日本の半導体失墜の教訓をくみ取れ

 日本の半導体産業の再編リストラが最終局面を迎えている。富士通が国内の2つの半導体工場の段階的な売却を進めており、最終的に半導体生産から手を引く可能性が大きい。買い手には台湾メーカーなどが有力視される。

 昨年はメモリー大手のエルピーダメモリが米企業に買収され、マイコン大手のルネサスエレクトロニクスは官製ファンドの産業革新機構の傘下で再出発した。今春にはパナソニックが国内3工場の経営権をイスラエルの半導体生産受託会社に譲渡している。

 「産業のコメ」と呼ばれた半導体は、かつては日本勢の独壇場だった。1990年には世界上位10社のうち、NECをはじめ日本企業が6社を占めたが、今は見る影もない。東芝のフラッシュメモリーなど一部に強い商品はあるものの、総じて見れば、インテルなどの米国勢や韓国サムスン電子などに圧倒されているのが実情だ。

 なぜ日本の半導体はここまで弱体化したのか。円高など外からの逆風も響いたが、根本の原因は経営のかじ取りの失敗だ。

 世界の半導体市場では今世紀に入って、受託生産専門のファウンドリーと呼ばれる企業が台湾を中心に台頭した。彼らは巨額の投資で新鋭工場を次々につくったが、生産の自前主義に固執した日本企業は小規模の古い工場をいくつも抱えたまま身動きがとれず、コスト競争力で大きく劣後した。

 顧客基盤が国内の家電メーカーなどに偏り、世界的な広がりを欠いたのも痛かった。ソニーなどの顧客企業の競争力が低下するのに連動して、日本の半導体の活躍舞台も狭まった。

 顧客の指示どおりに商品開発して、それで良しとする受け身の体質も事業の発展を妨げた。米インテルやクアルコムのように、自ら次世代技術の工程表を示し、IT(情報技術)の世界全体を前に引っ張っていこうという事業構想力や気概にも欠けた。

 日の丸半導体を立て直そうと、経済産業省を中心に政府も数々のプロジェクトや政策を発動したが成功したとは言いがたい。個別企業や産業を育成・支援する、いわゆるターゲティング・ポリシーの限界を浮き彫りにするものだ。

 過去四半世紀の半導体の歩みを反面教師とし、くみ取るべき教訓は他の産業にも多いはずだ。企業は足元の好調に浮かれず、謙虚な気持ちで改革を急いでほしい。

安全性の確保は食品の命だ

 おいしい、安い、手間がかからない――。現代の消費者は食品に様々な要素を求める。しかし、何よりも重要なのは、食べて安全なことだ。健康を害するような材料は使っていないと信じ、食品を口にする。その信頼を裏切る事件がまた起きた。

 中国の米国系食肉加工会社、上海福喜食品(上海市)が使用期限の過ぎた鶏肉を使っていた問題が発覚し、日本マクドナルドとファミリーマートは加工食品の販売停止や仕入れ先の切り替えに追い込まれた。

 上海福喜はマクドナルドグループが品質管理基準に適合すると指定し、ファミリーマートと伊藤忠商事も現地で商品の生産・管理体制を確認したという。それでも不正行為を見抜けなかった。

 安全性の確保には地道な努力の積み重ねが必要だ。2008年に起きた中国製ギョーザの中毒事件をきっかけに安全管理を進めたはずの中国で、今回の事件が起きたことを企業は教訓にすべきだ。

 工場が国際基準を満たしていても、実際の作業で不断のチェックを怠れば思わぬ事故を起こす。現地の従業員との連携を強め、意識改革に取り組むことも重要だ。

 わたしたちが外食店で食べたり店頭で買ったりする食品の多くは輸入品だ。食材は国産でも、賃金の安い中国やタイなどで加工し、日本に輸入される食品も多い。

 企業が生産コストの引き下げを狙い、加工拠点を海外に移す行動には理がある。ただし、流通経路が複雑になればなるほど、それに応じた安全管理が求められる。安全性の確保には十分な人手とコストをかけてもらいたい。

 国内でも昨年12月、アクリフーズ(当時)の工場で冷凍食品への農薬混入事件が起きたばかりだ。国内の安全管理も厳格にしたい。

 提供する食品にどのような原材料や添加物が使われ、どこで生産され、だれが輸入したのか。透明性を高めるための情報表示を、外食産業で進めることも検討課題になる。

ガザ紛争―流血拡大を防ぐ収拾を

 どの国や地域であれ、人間の安全と財産、権利を守るのが政治の役割のはずだ。

 中東のイスラエルとパレスチナとの間で今起きているのは、その逆ではないか。政治の思惑で紛争が起こされる。市民が逃げ惑い、次々に命を落とす。

 パレスチナ自治区ガザの紛争は悪化の一途をたどり、23日までの死者は700人を超えた。双方の指導者の責任は重い。

 長く複雑な歴史をくぐってきた紛争である。根本的な解決は容易ではない。だとしても、いま眼前で続く流血を止めるのが何よりも最優先である。

 力の差を考えれば、紛争を収束させる主導権はイスラエルにある。ネタニヤフ政権は無差別の攻撃をやめるべきだ。

 一方のイスラム組織ハマスもこれ以上ガザの市民を危険にさらす行為を続けてはならない。ロケット攻撃などを控え、紛争の収拾を急がねばならない。

 イスラエルが先週から踏み切った地上戦は、流血の規模を一気に拡大した。国内の強硬派をなだめる意図だったとすれば、なおさら無謀というほかない。

 ネタニヤフ政権はしきりに自衛権を主張しているが、いまの侵攻は明らかに自衛の範囲を超えている。犠牲者の大半がパレスチナ人で、23日までに700人余り。そのうち200人以上は子どもや女性だ。

 地上侵攻でイスラエル側も兵士を中心に被害が急増し、死者は30人余りに達した。イスラエル側もこれ以上、痛ましい犠牲を重ねるのは理不尽だ。

 ガザの人口は約170万人。その地域全体がイスラエルの強いる検問と人工壁などで封鎖されており、「天井のない監獄」とも呼ばれる。

 抜本的にはその窮状の改善が必要だが、当面の域内ではハマスの側に重い統治責任がある。市民の犠牲をいとわず戦い続けて内外の同情を集めようとするならば、大きな間違いだ。

 侵攻前の先週、エジプトが停戦案を示し、今週からは米国のケリー国務長官も中東入りして仲介にあたっている。

 ハマスに影響力のあるペルシャ湾岸の国カタールや、トルコも巻き込んで、一刻も早く安定化を図る必要がある。

 このまま悲惨な状態が続けば、もっと過激な勢力がガザに台頭するおそれもある。イスラエル側で誘拐やテロが頻発する事態も考えられる。

 長期的にはイスラエルとパレスチナの共存を探る和平交渉を復活させるべきだろう。そのためにもまず、今は双方が武器を置いて頭を冷やすときだ。

名簿ビジネス―まず業者の登録制から

 どんなに事前の対策を講じても、不正や犯罪を100%防ぐことはできない。

 利便性と引き換えに、さまざまな個人情報を電子化してやりとりすることが当たり前の社会に私たちは暮らしている。

 通信教育大手ベネッセホールディングスの子ども情報が大量に流出した事件は、容疑者が逮捕されて、流出の全容解明と今後の対策に焦点が移った。

 とりわけ問題として浮上しているのが「名簿ビジネス」のあり方だ。

 名簿の流通を律する法律としては個人情報保護法がある。だが、名簿を持つ企業は「当事者から求められたら削除する」という条件を満たせば、転売できる。その名簿を仕入れて別の企業に売る名簿業者も「不正に流出したものとは知らなかった」と説明すれば、司直の手が入りにくいのが実情だ。

 そもそも、こうした名簿業者が何社あるのか、現時点ではわかっていない。業界内には、ホームページを設けて大規模に展開する企業もあれば、暴力団などと一体化して不正入手した金融情報などを売買する業者もいるという。

 こうした不透明さも、私たちの個人情報がどこでどう使われているのかわからないという不安の温床になっている。

 政府は名簿業界の実態を把握する手立てをできるだけ早く講じるべきだ。

 そのためには、名簿業者を登録制にすることを考えたい。基準を定めて登録する仕組みがあれば、怪しげな業者を選別する一つの目安にもなるだろう。

 業界の自主的な取り組みだけでは不十分なら、所管官庁を明確にして法律をつくることを視野に入れてもよい。名簿の入手が不正だったり、犯罪性が疑われたりする場合に、立ち入り調査できるようにしてはどうだろうか。

 もちろん、規制を強めれば解決するわけではない。民間のビジネスに政府が過度に干渉することも避けるべきだ。

 そもそも名簿業者の隆盛は、個人情報保護が厳しくなったことと裏表の関係にある。ニーズがある限り、違法とされる行為が水面下にもぐり込んで続く危険も生じる。

 個人情報は、どこまで共有できるか、どこからが守られるべきなのかという命題にも、改めて向き合う必要がある。

 個人情報をもつ企業ができる限りの対策を不断に積み重ねることは当然としても、それだけでは問題を防げないことをベネッセの事件は示している。

中国期限切れ肉 外資企業にも及んだ背信行為

 中国製食品の信頼性を著しく損なう事件が、またも起こった。ゆゆしき事態である。

 中国・上海にある米食品加工大手の子会社「上海福喜食品」が、品質保持期限を過ぎた肉製品を出荷していたことが発覚した。

 この会社から鶏肉製品を輸入していた日本マクドナルドとファミリーマートが、一部商品の販売中止に追い込まれた。

 中国当局は、上海福喜食品による組織的な違法生産と断定し、工場責任者ら5人を拘束した。実態解明を急いでもらいたい。

 問題を暴露した中国のテレビ報道によると、工場では、返品された商品をミンチにして再利用していた。冷凍保存が必要な鶏肉は、常温の倉庫に置かれていた。

 従業員は、期限切れの肉を混ぜることについて、「食べても死なない」と言い放った。消費者の安全を最優先すべき食品製造現場のモラル崩壊を象徴する言動だ。

 中国では2008年、粉ミルクに有害物質が混入し、乳幼児約30万人に健康被害が出た。昨年にはカドミウム汚染米の流通が発覚するなど、問題が後を絶たない。

 金儲もうけを優先し、消費者の健康を軽視する風潮が背景にあるのは間違いあるまい。

 食の安全がおろそかにされている現状に対し、中国国民の不満は強い。社会の安定に腐心する共産党政権は、不正に厳しく対処する姿勢を示すため、素早く強制捜査に乗り出したのだろう。

 看過できないのは、比較的安全とされた外資企業で違法生産が行われていたことである。

 従業員が殺虫剤を混入させた08年の中国製冷凍ギョーザ中毒事件を契機に、日系のメーカーや商社は品質管理に一層努め、安全水準を維持してきた。中国からの食品輸入額も回復しつつある。

 今回の事件は、日本側のこうした取り組みに冷や水を浴びせる背信行為と言わざるを得ない。

 厚生労働省は、上海福喜食品からの輸入を差し止めた。過去1年間に輸入された鶏肉製品は6000トンに上る。消費者の不安を軽減するため、期限切れのものがなかったか、徹底調査が必要だ。

 日本の食産業は今や、中国産の安価な食材なしには成り立たない状況にある。

 輸入企業に求められるのは、中国側の生産工程では不正が起こり得るという性悪説に立った監督・検査体制の強化だ。防犯カメラの設置や、現地に出向いての定期的なチェックは欠かせまい。

インドネシア 「庶民派」は成長維持できるか

 東南アジアで指導的役割を担う地域大国に、過去に例のない「庶民派」の指導者が誕生した。

 インドネシア大統領選で、ジョコ・ウィドド・ジャカルタ特別州知事が、プラボウォ・スビアント元陸軍戦略予備軍司令官を小差で破り、初当選した。10月に正式に就任する。

 プラボウォ氏は、選挙に不正があったとして、異議を申し立てる構えだ。混乱を招かぬよう、両陣営は融和に努めるべきである。

 今回の選挙は、憲法の3選禁止規定の下、2期10年務めたユドヨノ大統領が退任することに伴うものだ。初代のスカルノ氏以来、6代の大統領を軍幹部や政治家一族などが占めてきた「エリート政治」の継承の可否が注目された。

 大工の家庭に生まれたジョコ氏は、住民との対話を重ねて、「汚職撲滅」を強調し、貧困層などに支持を広げた。州知事時代は、行政改革で指導力を発揮する反面、低所得者の医療・教育費の無償化など人気取り政策も目立った。

 プラボウォ氏は、スハルト元大統領の元娘婿で、軍特殊部隊トップを務めた典型的なエリートだ。「強い指導者」像を訴え、高学歴者層や財界に浸透していた。

 ジョコ氏の当選は、インドネシアが長年の独裁政治を経て、民主化の階段を着実に上がってきたことを印象づけた。

 ジョコ氏の最大の課題は、経済の減速傾向が見える中、国家の安定と成長を維持することだ。

 更なる経済成長には、道路、港湾、発電所など貧弱な社会基盤の整備が急務である。近年の急速な発展の裏側で拡大してきた所得格差の是正も欠かせない。

 そうした政策に必要な財源をどう確保していくのか。

 ジョコ氏は、ユドヨノ現政権が打ち出したニッケルなど未加工資源の輸出規制の強化を引き継ぐ姿勢を示している。こうした内向きな経済政策も懸念材料である。

 日本を含む外国資本の投資をさらに呼び込み、経済成長に活用するためには、安易な保護主義に走るのは禁物だろう。

 インドネシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)随一の海洋大国でもある。日本にとっては、「航行の自由」「法の支配」などの原則的な価値観を共有できる重要なパートナーだ。

 ジョコ氏の外交手腕は未知数だが、日本との関係を重視する考えを表明している。両国の戦略的関係を強化することは、中国の独善的な海洋進出や近隣外交に対する牽制(けんせい)効果を持つだろう。

2014年7月24日木曜日

インドネシアの新風は成長加速できるか

 インドネシアの政治に新風が吹き込む。そんな印象を受けるリーダーの登場だ。9日に行われた大統領選挙の結果、ジャカルタ州知事のジョコ・ウィドド氏(53)が元陸軍戦略予備軍司令官のプラボウォ・スビアント氏(62)を退けて、勝利した。

 家具の輸出で成功したジョコ氏は2005年に地元の市長に転身し、観光業の育成などで実績をあげ全国的な注目を集めた。12年からは首都の知事としてインフラ整備などに腕を振るってきた。スハルト元大統領の元女婿で軍のエリートだったプラボウォ氏とは対照的な「庶民派」と評される。

 プラボウォ氏は「不正があった」として選挙結果を受け入れない姿勢を示している。激しい選挙戦が生んだ国内の亀裂は心配だ。スハルト独裁体制の崩壊から16年を経て定着してきた民主主義が後戻りしないよう、ジョコ次期大統領は国内の融和に努めてほしい。

 次期大統領にとって最大の課題は、経済成長率の底上げだ。10年に及ぶユドヨノ政権の下でインドネシアは年平均5%を超える成長を遂げたが、ユドヨノ大統領が目標とした7%にはなお遠い。

 ジョコ氏は選挙戦でインフラの整備や腐敗の抑制を公約した。いずれも同国の成長を妨げてきた構造的な問題で、果敢な取り組みを期待したい。一方、資源輸出規制や銀行への外資の出資制限など、保護主義的な政策を強める構えを見せているのは気がかりだ。

 政策を遂行するうえで国内の調整は難題だろう。選挙戦でジョコ氏を支えた諸政党の国会での議席は計4割に届かないからだ。次期大統領の手腕が問われる。

 外交・安全保障政策は未知数だが、基本的に現政権を踏襲するとの見方が強い。東南アジア諸国連合(ASEAN)のリーダー的な存在として、来年のASEAN経済共同体の発足をさらなる飛躍につなげる構想力が求められる。

 ASEANのメンバーであるフィリピンとベトナムは南シナ海で中国と厳しく対立している。強硬姿勢を強めている中国とどう向き合っていくかは、次期大統領にとって難しい問題となろう。

 日本はインドネシアと政治的にも経済的にも深いつながりを築いてきた。インフラの整備や中国をにらんだ外交・安保政策の調整など、協力すべき課題は多い。次期政権とも早期に、戦略的な対話を深める必要がある。

宇宙ステーションを問い直す

 文部科学省の科学技術・学術審議会の小委員会(藤崎一郎主査)が、日米欧ロなど15カ国で共同運用する国際宇宙ステーション(ISS)への日本の参加延長を適当だとする報告書をまとめた。

 ISSは2020年で運用を終える計画だったが、今年1月に米政府が24年までの延長を提案し、各国に協力を要請した。国際協力を重視する観点からは、小委員会の結論は理解できる。

 だが、国際協力に先立って考えなければならないことがある。日本が宇宙開発で何を目指すのか、という長期的な方向性だ。ISSへの参加延長を通じて達成する目標を具体的に示し、国民の理解を得ることがまず大事だ。

 日本はISSに年間約360億円(宇宙関連予算の1割強)を投じている。その多くは無人輸送機「こうのとり」の製造などで国内で使われているが、予算がこれ以上膨らむのは歓迎できない。

 日本の宇宙政策は測位や防災など社会に役立つ宇宙利用を広げる方向に舵(かじ)を切ってきた。それとの整合性も問われる。

 一方、中国が独自の宇宙ステーション建設を目指すなど、新興国の台頭によって宇宙開発は新たな競争と連携の時代に入った。

 ISSの運用を延長しようという米国の提案に対しては、ウクライナ問題を背景にロシアから否定的ともとれる発言が出ている。現状ではロシアの宇宙船が人間をISSまで運ぶ唯一の手段で、ロシアの出方は極めて重要だ。

 こうした国際情勢を踏まえ、日本はむしろ率先して協力すべきだ、とする意見もある。ISSへの参加には、単純な費用対効果で測れない外交・安全保障上の意義があるのは、否めない。

 国全体の宇宙政策を立案する内閣府の宇宙政策委員会(葛西敬之委員長)は今後、米ロなどの動きを注視しつつ議論を深める必要がある。参加を続けるなら予算増加への歯止めが欠かせない。宇宙ステーション参加の意義を問い直す機会にしたい。

インドネシア―民主主義の深化を

 インドネシアの人々は次の大統領にジャカルタ特別州知事のジョコ・ウィドド氏を選んだ。軍出身や政治家一族ではない庶民派大統領である。

 スハルト独裁政権が倒れてから16年になる。ジョコ氏が民主化をさらに進め、成長が続く南の大国の隅々にまで、その成果を届けることを期待する。

 現職のユドヨノ大統領は10年の任期中に、テロの根を断って治安回復に努め、アチェの独立紛争を平和的に収めた。汚職の摘発にも力を入れた。ただ経済は安定を取り戻したものの、貧富の格差は大きくなった。

 その国を引き継ぐジョコ氏は貧しい家庭に生まれ、中部ジャワの市長からジャカルタ特別州知事になった。

 教育や医療分野で弱者に優しい政策をとり、行政に競争や透明性をもたらそうと努めた。腰軽く現場に出かけて住民と話す姿勢が人気を集め、大統領候補に駆け上がった。

 スハルト政権は、この国に長く腐敗、癒着、縁故主義をはびこらせ、その体質はいまも社会のいたるところに巣くう。

 大統領選で猛追したプラボウォ氏は、国軍の幹部としてスハルト元大統領を支えた人物である。国民の中には強い指導者を好む気持ちも残る。

 だが選挙結果が示すのは、権威主義とは無縁の非エリートの新大統領に、既得権益を崩す改革が託されたということだ。

 ただ、ジョコ氏には不安材料も多い。国政の経験はなく、大統領選で支持した政党が国会に占める議席は4割以下だ。

 選挙で大きな差をつけられなかったことは、ジョコ氏の政治的立場を弱いものにするかもしれない。外交手腕もまったく未知数だ。

 インドネシアは、世界4位の2億5千万人の人口をもつ。その半数は30歳以下で、2030年ごろまで生産年齢人口が増え続けるとみられている。

 日本にとっては援助と投資の重要な対象であり、成長する市場でもある。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は来年の共同体設立を目指している。タイの政治混乱が続くなかで、盟主を自任するインドネシアの指導力がより問われる。

 インドネシアはASEANの一体性とアジア地域のバランスをもっとも重視する。日本と中国との対立に巻き込まれるようなことは好まない。

 日本はそうした立場を理解したうえで、ジョコ新政権が民主化と改革への新たな階段を上っていくのを助けるべきだ。

五輪選手強化―足腰鍛える論議こそ

 2020年東京五輪の開会式は、きょうからちょうど6年後に開かれる。

 日本オリンピック委員会(JOC)は金メダル数世界3位を目標に掲げているが、その足元が揺らいでいる。

 選手強化のための公的資金の使い道を決める権限を、国に取り上げられかねないからだ。

 そのきっかけは、国会のスポーツ議員連盟が来春の設置をめざすスポーツ庁の議論だ。強化資金の窓口を、日本スポーツ振興センターを改組する新法人に一本化したい方向だ。その担当は文部科学省となる。

 スポーツ界の頭越しに国策で選手強化が進もうとしている。

 JOCには負い目がある。昨年、柔道女子のトップ級指導者による暴力が表面化した。競技団体による公的資金の不正受給などの不祥事も相次ぎ、スポーツ界の信頼は大きく崩れた。

 そうしたなか、JOCが今後6年間で1千億円の強化費を要望し、「カネは欲しい、口は出すな」と主張するのは、説得力に乏しい。

 かといって、国主導にも懸念がある。新法人はスポーツの現場に精通した人材を確保できるのか。職員がむやみに膨れあがるのは行政のスリム化という時代の流れに逆行する。

 窓口を新法人に一本化するにしても、JOCやスポーツ界の知見を入れ、配分を決めるにあたっての透明性の確保と、ルールの明確化が求められる。

 そもそも、カネの権限をどの組織が握るかに議論が偏っているのが残念でならない。

 選手強化とともに、考えるべきは競技団体のガバナンス(組織統治)強化ではないか。

 一連の不祥事の背景には経理、財務、法律の専門知識を持つ人材の不足がある。民間の協賛金を集めにくく、財源が乏しい団体ほど切実な悩みだ。

 日本の財政赤字、さらに過去の開催国の例を見ても、東京五輪が幕を閉じればスポーツ予算の大幅カットが予想される。スポーツ界は自立を迫られ、自己財源の充実に活路を見いださざるを得なくなるだろう。

 五輪までの6年間は、競技団体が組織の足腰を鍛える準備期間になる。

 世界のスポーツ関係者と交流を深め、マーケティングや大会運営のノウハウなどを学ぶ絶好のチャンスだ。

 JOCは統括団体としてのリーダーシップを発揮すべきだ。国もメダル競争で前面に出るのではなく、屋台骨である競技団体の自立を促すサポート役の自覚をもってもらいたい。

陸自オスプレイ 南西諸島防衛を強化したい

 離島防衛はもとより、災害派遣や急患搬送などで、その高い輸送能力を発揮させる環境を整えることが肝要である。

 防衛省は、陸上自衛隊が2015年度から調達する新型輸送機「MV22オスプレイ」の佐賀空港への配備を佐賀県に打診した。19年度から全17機を佐賀空港に駐機したい考えだ。

 尖閣諸島など南西諸島の防衛を強化するため、陸自は18年度までに、長崎県佐世保市に駐屯する離島防衛専門の普通科連隊を中心に、米海兵隊をモデルにした「水陸機動団」を新設する。オスプレイは、その隊員輸送を担う。

 佐賀県が管理する佐賀空港は、佐世保市から約60キロと近く、海に面している。南西諸島の有事などに迅速に対応するうえで、オスプレイ配備は理にかなっている。

 オスプレイは、ヘリコプターの垂直離着陸機能と固定翼機の高速飛行の長所を兼ね備える。米海兵隊の輸送ヘリCH46と比べ、速度で約2倍、搭載量で約3倍、行動半径は約4倍の能力を持つ。

 滑走路のない離島でも自由に離着陸できるほか、災害時の人命救助や物資輸送などでの活躍が期待される。昨年11月のフィリピンの台風被害時も、米軍オスプレイがいち早く救援活動に当たった。

 オスプレイは極めて危険であるかのような誤解が広がっている。しかし、実際の事故率は、米軍の全航空機の平均以下で、むしろ安全な輸送機と言える。

 自治体管理の空港を自衛隊が共用する例としては、愛知県営名古屋空港の滑走路を使う航空自衛隊小牧基地がある。防衛省は今年度予算に約9億4000万円の愛知県への使用料を計上している。

 佐賀空港は当初の見通しほど利用されず、歳出が歳入の約3倍の状態が続く。自衛隊との共用化は、地元漁協などとの調整が必要だが、現実的な選択ではないか。

 政府は、佐賀県や関係団体にオスプレイの安全性などを丁寧に説明し、理解を得るべきだ。

 防衛省は、沖縄県の米軍普天間飛行場のオスプレイが佐賀空港を暫定利用する可能性があることも佐賀県に伝えた。

 日米両政府は、沖縄県の過重な米軍基地負担を軽減するため、米軍オスプレイの飛行訓練を日本各地に分散移転する方針だ。

 沖縄の負担を本土の自治体が分かち合うことは、日米同盟をより持続可能なものとし、平和と安全のコストをより公平に担ううえで極めて重要だ。佐賀県も、その意義を十分に分かっていよう。

女性管理職比率 無理なく高める環境整備急げ

 日本が人口減少社会を迎えた今、持続的な経済成長を実現し、国際競争力を高めるには、女性を指導的地位に登用することが欠かせない。

 経団連が、女性管理職を増やすための主要な会員企業47社の自主行動計画を公表した。このうち、27社が具体的な数値目標を掲げている。資生堂など3社は2~7年以内に女性管理職の割合を30%に引き上げるという。

 日本企業は、他の先進国と比べて、女性が責任ある立場に就くことが遅れている。女性管理職の比率は、米国が43%で、欧州各国も軒並み30%以上なのに対し、日本は11%にとどまっている。

 経団連が各企業に対し、行動計画の策定を通じて、女性の活用を呼びかけるのは妥当と言える。

 行動計画の公表は、優秀な人材を集める機会にもなる。積極的な取り組みを示せば、就職活動中の女子学生にアピールしよう。

 今回の計画には、目標人数が示されないなど、あいまいなものもある。随時、見直して、より具体的な内容にしてもらいたい。

 無論、単に女性管理職を増やす目標を掲げれば済む訳ではない。肝心なのは、それを実現するための職場環境を整えることだ。

 1986年の男女雇用機会均等法の施行で、女性も、男性と同様に総合職を選択し、管理職を目指しやすくなった。92年には育児休業法が施行され、育児休業制度を企業に義務づけるなど、法制度の整備は一応、進んできた。

 だが、結婚・出産した女性にとっては、保育所の恒常的な不足に加え、家事や育児の負担が女性に偏っていることが、管理職になるために必要な職務経験を積む上での障害となっている。

 長時間労働を求める慣行を見直すとともに、男性の育休制度を拡充・普及させる必要がある。出産や育児のために女性が一時的に職場を離れても、復帰しやすい制度作りを進めることも大切だ。

 一部企業は、女性が子育てをしながら働き続けられるように、配偶者が転勤する際、同じ地域に異動できる制度を導入している。他の企業も参考にしてはどうか。

 管理職の資質を有する女性を対象とした専門の研修・教育制度を設けることも検討に値しよう。

 安倍政権は、社会のあらゆる分野において指導的地位に占める女性の割合を、20年には30%に引き上げることを目指している。

 目標達成は簡単ではないが、官民を挙げた取り組みを社会全体で後押ししたい。

2014年7月23日水曜日

予算ありきではなく骨太な地方対策を

 政府は地方の人口減少に歯止めをかけ、地域を活性化するために「まち・ひと・しごと創生本部」を設置する方針を打ち出した。安倍晋三首相は秋の臨時国会に地方産業を後押しする関連法案を提出する意向という。

 地方では急速に人口が減っている。2050年には全国の居住地域の6割強で人口が半減し、暮らす人がいなくなる地域も2割近くに上るという人口推計もある。こうしたなかで、少子化対策とは別に、地方の活性化に取り組むことは評価できるだろう。

 地方の衰退に歯止めをかける特効薬はないだけに、多角的な対策が要る。すでに政府内では地方の特産物の販売を支援したり、ふるさと納税を拡充したりする案が浮上している。

 地方での起業を支援したり、若者が就農する環境を整えたりすることも必要だ。自治体などと協力して地方への移住を希望する都市住民に対する情報提供を増やし、後押ししてもいいだろう。

 ただし、あらかじめ地方向けの予算枠を設けるような地方対策になっては困る。来春の統一地方選を念頭に、来年度の政府予算で地方向けの歳出を無理に増やそうとすれば、政策効果があいまいな公共事業費が膨らむだけに終わるに違いない。

 地方で今、必要なのは一時的な需要創出策ではないだろう。人口減少社会を見据えて、都市機能の再編に持続的に取り組む骨太な対策こそ要るのではないか。

 人口減対策として総務省はすでに、人口20万人以上の「地方中枢拠点都市」を核に地方からの人口流出を抑える構想を進めている。国土交通省は人口10万人以上の複数の都市を高速道路などで結ぶ「高次地方都市連合」構想を打ち出している。

 各省庁がばらばらで取り組んでは自治体が混乱するだけだ。政府が本部を設けるなら、中央省庁の縦割り行政をまず排して、中長期的に何が必要なのかを詰めるべきだろう。

 ひとくちに人口減少や高齢化といっても地域の事情は様々だ。政府が画一的な政策を押しつけるのではなく、自治体や民間の創意工夫を引き出すことが大切だ。

 自治体も国任せではだめだ。地元の企業や住民と協力して自らの地域の将来像を描き、街づくりや雇用の創出などに取り組むことこそ欠かせない。

情報は原則公開を再確認せよ

 政府が特定秘密保護法に関する政令と運用基準の素案を有識者の集まり「情報保全諮問会議」に提示し、了承を得た。どうすれば国民の「知る権利」を守れるのか。重要なのは、全ての秘密情報が最終的には公開され、歴史の審判にさらされる機会をつくることだ。

 12月に施行する予定の同法は(1)防衛(2)スパイ防止(3)テロ防止――など4分野を対象に政府が重要情報を秘密指定し、原則30年は非公開とすることを認める内容だ。自衛隊の暗号などが敵に知られては防衛力が損なわれる。こうした法整備は必要である。

 他方、ときの政権が自分たちに都合の悪い情報を隠し立てするおそれが生じる。運用基準の中身をよく点検せねばならない。

 素案を読むと、法律では23項目に分類していた適用範囲を55項目に細分化した。だいぶわかりやすくなったが、あらゆる場合を網羅したとはいえまい。

 政府は近くパブリックコメントによって意見を広く募集する。これこれのケースはどうなるのか。疑問をどんどんぶつけ、あとに残さないようにしたい。

 何を指定するのかの基準の一つに「非公知性」を盛り込んだ。すでに多くの人が知っている情報は秘密指定できないという意味だ。

 米政府が公開した外交文書に書かれた話を日本政府が否定し続けた例は少なくない。途中で「公知」になった場合、直ちに公開する仕組みづくりが欠かせない。

 秘密文書の廃棄基準にも不安を感じる。30年を超えて秘密指定された文書は国立公文書館などに移すが、30年以下のものは「首相の同意を得て廃棄できる」とした。国民の目の届かないところで闇に葬られかねない。

 秘密指定するからには、程度の差こそあれ、大事な文書なのだろう。指定解除後は必ず公開するルールを再確認すべきだ。

 30年後ならば指定を決めた当事者が存命な場合が少なくない。「必ず公開」は無用な指定を減らす効果を生むはずだ。

旅客機撃墜―ロシアに究明の責任

 旅客機への攻撃は断じて許されない。世界の空の安全を保障するためにも、国際社会は原因を徹底追究すべきである。

 ウクライナ東部でマレーシア航空機が撃墜された事件をめぐり、国連安全保障理事会が非難の決議をした。

 国際調査団による無制限の立ち入りを現地の武装勢力が認めるよう要求している。

 近年の安保理は米欧対ロシア・中国のかたちで分裂することが多かったが、今回は一致した国際世論を明示できた。せめてもの前進といえる。

 疑惑の渦中にある常任理事国のロシアも賛成せざるを得なかった。ならば、積極的に疑問に答え、自ら検証に踏み出して、真実を明らかにすべきだ。

 事件の調査は難航している。現場の一帯を支配する親ロシア派の武装勢力が撃墜にかかわった疑いが濃厚だが、これほどの悲劇をへてもなお彼らは無法な行動が目立つ。

 発生直後、欧州安保協力機構(OSCE)の監視団を妨げたり、遺体や残骸の一部などを勝手に運び出したりした。

 ようやくきのう、墜落機の飛行情報を収めたブラックボックスの引き渡しなどに応じたが、これまで証拠隠滅とみられかねない動きを続けてきた。

 そうした振る舞いがかき立てる国際社会の怒りは、武装勢力だけでなく、その背後にいるロシアにも向けられている。

 その現実をプーチン大統領は重く受けとめてもらいたい。

 米政府は、撃墜は武装勢力によるとの見方を強め、ミサイルはロシアから運ばれていたと明言している。その疑いを強める情報は相次いでいる。

 事件直後に武装勢力が撃墜を確認したとされる会話の交信記録や、事件に使われたあとのミサイルがロシア領に運ばれるところとされる写真など、いずれも注目に値するものだ。

 ロシア国防省は逆にウクライナ側が撃墜した可能性を示唆しているが、その疑いを抱かせるような具体的情報は乏しい。

 このまま、事実をうやむやにしかねない態度を続けるなら、そのつけは自身にはね返る。

 これまで欧州連合(EU)は米国に比べてロシアへの制裁に慎重だった。天然ガスの取引など経済に配慮してのことだったが、多数の犠牲者を出した欧州の世論も硬化し始めている。

 クリミア半島の併合だけでなく、プーチン氏はウクライナ東部でも自国の権益を押し通そうとしてきた。だが、その強硬策はロシア自身を深い孤立に陥れることを悟るべきだ。

タクシー規制―慎重な制度づくりを

 タクシーの過当競争は改善すべきだが、むやみに規制の強化に走りすぎるのもまずい。

 タクシー業界への規制を盛り込んだ「タクシー適正化・活性化特別措置法」の改正法が、ことしから施行されている。

 運賃と車両の数の両面で規制を強める内容であり、自由競争という経済の原則に照らして「劇薬」とも称される。

 与野党による議員立法だが、運用を担うのは国土交通省だ。時間をかけ、慎重に制度づくりを進めるべきだ。

 国交省は、タクシーが過剰と判断した地域を「特定地域」に、過剰が心配なところは「準特定地域」に、指定する。

 運賃は両地域とも国交省が上限と下限を決め、変更を命じられる公定幅制だ。特定地域では業者に減車の指示もできる。

 過当競争で運転手の待遇が悪化し、サービスや安全がおろそかになると乗客が困る。だが、規制が厳しすぎても、業者の競争や工夫を損ねて料金が高止まりし、乗客の負担となる。

 そのさじ加減がむずかしいところだが、国交省は規制強化へ前のめりな姿勢が目立つ。

 全国で155の地域が指定され、車両数で見ると全体の8割を超える準特定地域では、4月に公定幅運賃制が始まった。

 下限より低い運賃を届けた業者は6月時点で30近くあり、その一部は運賃変更命令を食い止めようと裁判に訴えた。

 大阪、福岡両地裁は訴えを認め、命令を出さないよう仮処分決定をした。規制の強さと比べてその幅があまりに狭いため、「社会通念上妥当性を欠く」(大阪地裁)と判断した。

 特定地域の指定に向けた基準づくりには、政府の規制改革会議がかみついた。国交省は、運転手の賃金水準などの指標で決める方針を示したが、それだと車両数で見て最大6割の地域があてはまる可能性がある。規制改革会議が「対象が広すぎる」としたのは当然だろう。

 改正法は、国会の委員会で可決された際、安易な値上げを招かないことなど付帯決議がされた。特定地域については、影響が大きいため慎重に指定する旨の注文もつけられた。国交省はしっかり受けとめるべきだ。

 指定地域では、自治体やタクシー事業者、利用者代表、識者らで協議会がつくられる。要介護者や観光客らの新たな需要にどう応えるか。歩合給に偏りがちな運転手の賃金体系をどう改善するか。課題は多い。

 運賃や台数の規制や命令に走る前に、こうした幅広い問題に取り組んではどうか。

撃墜非難決議 国際調査にはまだ障害がある

 悲惨な事件の真相を早期に究明するため、ロシアなど関係国と紛争当事者は国際調査団に積極的に協力すべきだ。

 ウクライナ東部で発生したマレーシア航空旅客機の撃墜事件について、国連安全保障理事会が、強く非難する決議を全会一致で採択した。

 決議は、事件の責任者を追及するよう国際社会に呼びかけた。現場を支配する親ロシア派武装集団に対しては、「調査団の安全、完全かつ無制限の立ち入り」と「現場の保存」を要求している。

 武装集団は事件後、調査団の立ち入りや犠牲者の遺体の搬出を公然と妨害した。飛行データや通信内容を記録した「ブラックボックス」をいち早く現場から回収するなど、証拠隠滅と見られる動きもしてきた。

 国連安保理が、法的拘束力を持つ決議によって、その行動の是正を求めた意味は小さくない。

 武装集団は決議を受け、2個のブラックボックスをマレーシア当局に引き渡した。犠牲者の遺体搬出にも応じた。遅きに失した対応だが、一歩前進ではある。

 ウクライナや米国は、親露派に対する地対空ミサイル供与など、ロシア軍の事件への関与を非難してきた。ミサイル発射の衛星画像や、撃墜後の武装集団の会話傍受記録などを根拠としたものだ。

 武装集団の後ろ盾であるロシアが果たすべき役割は大きい。

 ロシアが決議に賛成したのは、多くの犠牲者を出した欧州で反露感情が高まり、英独仏が対露制裁強化を検討する中で、国際的な孤立を回避する狙いからだろう。

 しかし、真相究明が円滑に進む保証はない。ロシアが言行不一致を続けているためだ。

 ロシアは、調査に協力する姿勢を示しながら、事件への関与を否定している。ウクライナが戦闘地域上空での民間機航行を認めていたことを「犯罪的だ」などと批判し、責任転嫁も図っている。

 プーチン露大統領には、国際調査団による真相究明が前進するよう、自らが保有する情報を提供するとともに、武装集団への影響力を行使する責任がある。

 米露どちらの主張に理があるかは、調査が明らかにするだろう。関係国や国際民間航空機関(ICAO)は、公平かつ透明な形で調査を進めなければならない。

 安保理決議は、現場周辺での軍事活動の停止も訴えた。これを機に、ウクライナ軍と親露派武装集団は戦闘行動を自制し、早期停戦に動くことが求められる。

早大博士論文 杜撰な審査がまかり通るのか

 博士論文がお粗末なうえに、大学内の審査も杜撰(ずさん)だった。

 理化学研究所の小保方晴子氏が早稲田大学に提出した万能細胞に関する博士論文について、早大の調査委員会は、盗用などの不正を認定し、「内容の信ぴょう性は著しく低い」と結論づけた。

 早大側の対応についても、論文の作成指導や審査体制に重大な不備があったと批判している。

 ところが、調査委は「博士号の取り消しには該当しない」と判断した。実験結果を偽った不正ではないという理由からだ。

 解せない結論である。

 小保方氏は、3年半前に下書き段階の「草稿」を誤って大学に出してしまったと弁明し、今年5月になって、「完成版」を調査委に改めて提出した。

 草稿を出したこと自体、研究者を目指す者として、うっかりでは済まされない行為ではないか。

 論文の完成版でさえ、研究の意義をアピールする序章の大半で、米国の研究機関の文章を丸写ししていた。論文の独創性が疑問視されても仕方がない。

 他の著作物の画像流用についても、小保方氏は「何の問題意識も持っていなかった」と調査委に語ったという。本人の未熟さは言うに及ばず、研究倫理や論文作成の基本をきちんと教えなかった指導教員の責任は重い。

 指導教員は審査の責任者でありながら、博士論文を精査しなかった。論文の合否判定を担う学内の審査会に草稿が出ていることすら気づかなかったのは問題だ。

 審査の形骸化も看過できない。審査会の委員が個々の論文を閲覧する時間は数分程度にすぎなかった。これでは、論文の中身をチェックするのは不可能だろう。

 博士号を授与するかどうかの最終的な決定権は大学総長にある。調査委の報告を受け、鎌田薫・早大総長は「内容を吟味して、学内での検討に入る」と述べた。

 早大が厳正な対処を怠れば、日本の博士号に対する国際的信用も揺るがしかねない。

 小保方氏の所属した研究科では、他の学生の博士論文にも疑義が指摘されている。早大には徹底した実態解明が求められる。

 政府は、科学技術の向上を目指し、博士を大幅に増やす政策を進めてきた。博士号の取得者は1990年代初めに比べて、1・5倍に増えた。

 だが、質は伴っているのだろうか。他の大学も、学位授与の審査体制を点検すべきだ。

2014年7月22日火曜日

ビッグデータ活用で成長めざせ

 膨大なデータを収集・分析し、それに基づいて需要を予測したり、隠れた消費者ニーズを探り当てたりする「ビッグデータ」の活用が注目されている。

 データの有効利用は企業の競争力向上に役立つだけでなく、交通事故の低減など社会問題解決のための武器にもなる。官民ともにビッグデータを扱う技量を磨くことで、国全体の生産性を高め、国民生活の向上をめざしたい。

競争力強化の決め手に
 ビッグデータの活用で期待される1つが、製品やサービスの価値向上だ。料理レシピサイトのクックパッドは、毎月のべ4000万人を超える利用者がどんなキーワードで検索したかを「たべみる」というデータベースにまとめ、食品メーカーや小売りチェーンに有償で提供している。

 利用する企業は、家で実際に料理をする人の関心を即座に把握でき、消費者目線に沿った新商品の開発や売り場構成が可能になる。クックパッドの担当者は「今年ブームになった新食材の『塩レモン』は昨年から検索がじわじわ増えていた。データの山の中にヒットの予兆が隠れている」という。

 工夫次第で、これまでIT(情報技術)とは縁遠かった分野にも恩恵が及ぶのもビッグデータの特徴だ。牛は発情すると、いつもより歩数が増加する。富士通はこんな事実に着目し、畜産農家向けの繁殖支援システムを開発した。

 それぞれの牛に歩数計を装着し、無線でデータを集め、種付けの機会を逃さないようにする。受精のタイミングをうまく調整することで、雄雌の産み分けも容易になり、畜産農家のメリットは大きい。北海道や九州のほか、韓国やオーストラリアなど海外でも利用が広がっているという。

 システムや機械の変調を予知して、先手を打つこともできる。IT利用の先進企業として有名な米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、自社のジェットエンジンやタービンに多数のセンサーを取り付け、振動や温度などを細かく監視。異常の兆候があれば、部品交換などの措置をとる。トラブルを未然に防ぐことで、顧客満足度を引き上げる戦略だ。

 インフラやプラントの異常予知は日本でも始まっている。NECは発電プラント向けに、総合水道事業大手のメタウォーターは上下水道向けに、ビッグデータの活用を始めた。故障の芽を早めに摘むことで、設備の稼働率を高める狙いだ。

 ビッグデータは、より良い社会をつくるためにも威力を発揮する。東日本大震災の際は、ホンダやパイオニアなどが車のカーナビの位置情報をもとに、どの道が不通で、どの道が通れるかを示す「道路通行実績マップ」をつくって広く社会に公表した。この情報がとりわけ被災地支援で活躍したことは記憶に新しい。

 交通安全にも効く。埼玉県は車の走行情報を集めて、急ブレーキの多い「危険場所」を割り出した。そこに注意喚起の電光掲示板を置いたり、ドライバーの視界を妨げる木を伐採したりして、人身事故を2割低減したという。

 このほかビッグデータで電力の需要予測の精度が上がれば、夏場に需要が急増した時もそれに先回りして供給を増やせるので、予期せぬ停電のリスクを抑えられる。

プライバシーと両立を
 診療報酬明細書(レセプト)のデータを解析すれば、過剰な検査や投薬などを洗い出すことも可能になり、医療コストを削減しやすくなる。

 ビッグデータを活用するうえで、必ず出てくる課題が個人のプライバシーの保護だ。東日本旅客鉄道が昨年6月に電子乗車券「スイカ」の乗降情報を他社に提供しようとしたところ、利用者から反発の声が上がり、計画が頓挫した例もある。

 一方で悩ましいのは、個人情報の保護を強めすぎるとビジネスを制約し、技術の進化が止まりかねないことだ。ビッグデータの活用を成長戦略の一角に位置づける政府は、個人情報保護法の改正やプライバシー保護を担う第三者機関の設立に動きだしている。

 個人に関するデータとして保護されるべき情報と、個人を特定できないように加工すればビジネスなどに活用してもいい情報の線引きを明確にする必要がある。それにより、データを利用する企業や行政にとっても、データを提供する国民にとっても安心できる環境を整えてほしい。日本企業が世界でビジネスをしやすくするために、海外のプライバシー保護制度との調和も重要な課題である。

公益法人認定―多様な価値観に立つ

 各省庁がばらばらに許可していた旧公益法人は、天下りなど役所と法人の癒着を生み、「業界益」の温床になった。
 だから、民間人からなる第三者機関「公益認定等委員会」を設け、委員会が公益性を判断する仕組みに改めた。
 これが、昨年まで5年をかけた公益法人改革の概要である。
 制度を刷新し、NPO法人などとともに民間による公的活動を促す。多様な価値観の実現を後押しし、いきいきとした社会を作っていくのが狙いだ。
 そんな改革の今後に影響を与えかねない出来事があった。日本尊厳死協会の公益法人申請を認めなかった一件である。
 尊厳死協会は、「患者本人の意思を尊重した終末期医療の普及啓発」を掲げる。不治の病で末期を迎えた時の延命治療をあらかじめ断る「リビングウイル」(尊厳死の宣言書)の登録事業を展開し、患者の意向に沿った医師が責任を問われないよう法律作りを働きかけてきた。
 公益認定委の判断はこうだ。
 リビングウイルに従わせることは、医師を刑事・民事・行政上、不安定な立場に置きかねない。医師の免責を含む法制化の推進を「公益」と認めれば、国会より先に適否を判断することになりかねない……。
 会員12万人余の尊厳死協会の調査によると、13年に亡くなった会員の遺族の9割が「リビングウイルが生かされた」とする一方、医師の判断を巡る問題は特に生じていないという。
 議員立法による尊厳死の法制化を目指している超党派の議員連盟(約170人)も「公益認定されても審議に影響を及ぼすことはない」としている。
 一方、法制化にはさまざまな障害者の団体などが強く反対する。日本医師会や日本弁護士連合会も極めて慎重だ。意見が分かれる、難しい問題である。
 ただ、尊厳死への賛否と公益の認定は別の問題ではないか。
 認定委も「尊厳死問題の是非論や政策論で判断したのではない」「良識ある立法促進活動は民間団体として自由に活動しうる領域ではないか、との意見もあった」と述べている。
 国の認定委と、都道府県ごとの第三者機関が「不認定」とした例は10件余り。組織や経理など運営体制への不安、特定業界のための活動が中心で公益とは言えないといった理由が多く、尊厳死協会のケースは異例だ。
 賛否が対立するテーマだからこそ、双方の意見を尊重し、対話を通じて議論を深めていく。
 目指すべき「公益」について、改めて考えたい。

精神医療改革―あくまでも地域へ

 精神疾患で1年以上入院している人が、全国で20万人いる。6万5千人は10年以上の入院だ。入院治療の必要性が低い「社会的入院」も多い。OECD(経済協力開発機構)の統計で、日本の精神病床数は人口あたりで加盟国平均の4倍に及ぶ。

 「入院医療中心から地域生活中心へ」。国が精神障害者施策で、この方針を打ち出してからほぼ10年が経つ。それでも、なかなか進んでいないのが実情だ。流れを確かなものにしなければならない。

 「地域へ」の具体策を検討していた厚生労働省の有識者会議が報告書を公表した。新たな入院は原則1年未満とすること、地域生活のサポート体制の充実などが盛り込まれた。

 議論の焦点は、「病院のベッドを減らす場合、病院敷地内へのグループホーム設置を認めるか否か」だった。最終的には容認されたが、入居の際には複数の選択肢から本人が自分の意思で選べる、外出や外部からの訪問は自由、入居期間を区切る、といったことが前提とされた。

 退院しても病院の敷地内に住むのと地域に住むのとは違う。

 最優先すべきは、退院した人が地域に戻って生活できるようにする支援の充実だ。ただ、長期入院の結果、すぐ地域に戻ることに不安を感じる人もいる。グループホームを「仮住まい」として設置できる余地はあってよいだろう。

 しかし、この「仮住まい」はあくまでも例外であり、限定的に利用されるべきものだ。大前提である本人の選択による入居かどうかを確認したうえで、第三者が常に状況をチェックする仕組みも欠かせない。

 報告書に基づき、厚労省は今後、グループホームへの転換を認める条件を具体的に定める。地域の住まいに移るステップとして機能するのか、あるいは、病院が敷地内に囲い込むだけの単なる看板の掛け替えに陥るのかは、その条件と運用にかかっている。

 グループホームへの転換については、障害者団体などが「退院後も病院が患者を抱え込むことになる」と反発し、福祉関係者の間でも意見は割れている。厚労省は、透明性を確保して丁寧に条件づくりを進める必要がある。

 退院者がグループホームに住みながら地域との交流を深めていけるか。その視点が欠かせない。地域の住まいに移るための支援が弱まるようでは本末転倒だ。弊害の大きさが明らかになったときは、やめるのをためらうべきではない。

白ナンバー輸送 過疎地の足を確実に維持せよ

 地方分権を進め、地域にとって大切な交通手段を確保・維持したい。

 国土交通省は来年4月に、過疎地などで自家用の白ナンバー車で料金を取って客を運送する制度の登録・指導・監督事務を自治体に移譲する。地域の実情に応じた運行を可能にするのが狙いだ。

 5月に成立した第4次地方分権一括法に基づくもので、今夏から自治体向けの説明会を開く。

 この自家用有償旅客運送制度は2006年の改正道路運送法で導入された。民間のバス・タクシー事業のない過疎地の輸送や、福祉タクシーがない地域での車いすの身体障害者などの輸送を自治体や非営利組織(NPO)が担う。

 登録団体は約3000団体で、うち福祉関係が約8割を占める。登録車両は約1万9000台だ。11年度の輸送人員は推計約2684万人に上っている。

 車の運転ができない高齢者などにとって、買い物や通院の交通手段の確保は不可欠だ。自治体が赤字を負担し、NPOのボランティアに頼りながらも、「地域の足」は維持する必要がある。

 登録事務などは、全国一律でなく、希望する市町村だけに移譲される。市町村が希望しない場合は、希望する都道府県に移す。「手挙げ方式」と呼ばれ、分権一括法でも唯一の新たな分権の手法だ。

 事務を移譲された自治体は、国交省の出先機関との調整が不要となり、地域のニーズに応じた迅速な対応が可能になる。町づくりと連動した小型バスの運行など、創意工夫の余地も生まれよう。

 反面、安全確保のための指導・監督事務を引き受けることで、事故の発生時などの責任も負う。各自治体のやる気と覚悟が問われる仕組みだ。今後、他の事務・権限の地方移譲のモデルとなろう。

 国交省の昨秋のアンケート調査では、移譲を希望する市区町村は6%で、政府の支援など条件付きの希望を加えても17%にとどまった。「希望しない」は51%で、「分からない」も43%と多かった。

 事務量の増加や、事務の実態が不明なことに対する自治体の不安が少なくないと見られる。

 地方移譲を円滑に進めるには、国交省の出先機関が指導・監督事務のノウハウを各自治体に伝授するとともに、人材育成面などで支援することが欠かせない。

 都道府県の役割も大きい。小規模の市町村に代わって事務を引き受けるのはもとより、地域の交通ネットワーク作りを側面支援することが求められよう。

BRICS開銀 欧米主導への対抗軸となるか

 経済力を増した新興国が、欧米主導の国際金融秩序に対抗姿勢を示したと言えよう。

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5か国(BRICS)首脳会議は、「新開発銀行」を創設することを決定した。

 新興国や途上国による社会基盤(インフラ)整備などを支援するのが目的で、5か国が100億ドルずつ出資する。中国の上海に本部を置き、初代総裁はインドの出身者が務めることになった。

 新開銀とは別に、金融危機の際に外貨融通などの支援を行えるようにするため、1000億ドルを共同で積み立てる外貨準備基金を設けることでも合意した。

 存在感を増す新興国が、途上国支援や国際金融秩序の維持に一定の役割を果たそうとしていることは評価できる。

 新開銀設立の背景には、欧米の主導する現在の国際金融秩序に、新興・途上国が強い不満を持っているという事情がある。

 国際通貨基金(IMF)や世界銀行は長年、途上国の支援や危機回避に貢献してきた。

 しかし、1990年代のアジア通貨危機などの際に緊縮財政など厳しい条件を課したことから、途上国では各国の事情への配慮が足りないとする批判が根強い。

 BRICSは経済規模で世界の約2割、人口で約4割を占めるまでに成長したが、IMFでの発言力を示す出資比率は、BRICS全体で11%にとどまる。これにも新興国は反発している。

 IMFは比率を14%に引き上げる改革案をまとめたが、米国などの反対で実現していない。

 新興国に応分の責任を果たしてもらうためにも、IMF改革を進展させる必要がある。

 ただ、新開銀などがIMF体制のような機能を発揮できるかどうかは未知数だ。

 設立時期さえ明示されず、金融支援などの具体的な枠組みも、あいまいである。

 新開銀が出資国の資源権益や企業利益の拡大ばかり重視し、安易に支援するようでは困る。甘い審査が原因で巨額の投融資が焦げ付き、国際金融システムを混乱させることにもなりかねない。

 人権弾圧や乱開発など問題の多い国への援助も避けるべきだ。透明性の高い運営が求められる。

 中国とインドが領土問題を抱えるなど、BRICS諸国は一枚岩ではない。金融危機などの緊急事態に、緊密に連携して対処できるかどうかも疑問である。

2014年7月21日月曜日

BRICSは世界秩序に貢献できるのか

 中国やロシアなどBRICSと呼ばれる主要新興国がブラジルで首脳会議を開き、独自の開発銀行(新開銀)や緊急時に外貨を融通しあう共同積立基金の設立を決めた。新興国の力を結集し、国際社会での影響力を強める思惑だろうが、よりよい世界秩序をつくろうとする覚悟があるのか心配だ。

 中ロにブラジル、インド、南アフリカを加えた5カ国で構成するBRICSは定期的に首脳会議を開いてきたが、これまでは実体に乏しい枠組みとの見方もあった。今回は具体的な連携策に踏み込んだ点で注目に値する。

 とくに新開銀は当初の資本金を500億ドルとし、アジアやアフリカなど途上国のインフラ整備を支援するという。順調に設立されれば、途上国の資金不足を補ううえで建設的な役割を担えるかもしれない。ただ、資源確保など自らに都合のいいように活用しようとする中ロの姿勢が露骨に出てくる恐れは捨てきれない。

 より懸念されるのは、第2次世界大戦後の金融秩序の枠組みであるブレトンウッズ体制への挑戦という政治的な思惑が見え隠れすることだ。

 同体制の中核となる世界銀行や国際通貨基金(IMF)は、途上国支援を含めた金融秩序の形成と維持に大きな役割を果たしてきたが、意思決定を担ってきたのは主に米欧だ。経済的に台頭してきた新興国には先進国主導の体制への不満も根強い。

 世界経済に占めるBRICSの比率はいまや2割に上る。世界の金融秩序を維持するうえで、新興国の声に耳を傾けるのは当然だ。米欧も新興国の出資比率を高め、発言権を強化することで、既存の国際金融機関を時代の変化に適合させていく必要があるだろう。

 中国の習近平国家主席は新開銀の設立について、「国際金融の分野でBRICS諸国の発言権を高めるのに役立つ」と述べた。中国は独自のアジアインフラ投資銀行の創設準備も進めている。こうした動きが世銀やIMFの存在意義を低下させる狙いであれば、国際社会の信任は得られまい。

 BRICS首脳会議は、国際政治の分野では「一方的な経済制裁を非難する」との文言を首脳宣言に盛り込んだ。ウクライナ問題でロシアを擁護し、米欧の制裁圧力を批判した格好だ。ご都合主義の枠組みのままでは、かえって国際秩序を乱しかねない。

国際連携で公海の環境守れ

 海の環境悪化が進んでいる。二酸化炭素(CO2)の排出増加によって、水温が上がるだけでなく海水が酸性化し海の生物に影響が出始めている。乱獲で魚が減り、投棄された大量のゴミによる汚染も目立つ。

 海洋国家の日本は海の恵みを他国にまして多く享受している。海の環境悪化を科学的に調べ、国際協調による適切な管理のため必要な行動をとっていく責任がある。

 世界の主要17カ国の政治家や企業経営者が組織した世界海洋委員会(共同議長・デビッド・ミリバンド英元外相ら)が海洋環境の再生を訴える報告書を発表した。米国の環境団体や英オックスフォード大学などが資金を出し、日本からは川口順子元外相が加わった。

 委員会が特に強く警鐘を鳴らしたのは、各国政府の管轄外にある「公海」の危機だ。

 「海の憲法」と呼ばれる海洋法条約は、沿岸から12カイリ(約22キロメートル)を領海、200カイリ(約370キロメートル)までを「排他的経済水域」とし沿岸国の権利が及ぶとした。公海はその外側で、海洋全体の3分の2を占めるが、責任を持って管理する国が存在しない。

 海域別にマグロなどの漁獲を管理する仕組みや廃棄物の海洋投棄を禁ずる条約はあるが、管理が十分に行き届かず、違法操業による乱獲などを許している。無秩序な利用が資源の枯渇をもたらす「共有地の悲劇」の典型と言える。

 海洋法条約は海に人為的な線を引いたが、海はつながっている。広大な公海の環境悪化は海全体の危機だ。

 世界海洋委員会は、乱獲を助長する漁業補助金の廃止やプラスチックゴミの流入規制、海底油田に対する拘束力のある国際安全基準づくりなどの必要性を指摘した。また地域別の「海洋管理委員会」の設置などを求めている。

 公海は長らく「自由の海」と考えられてきた。国際的なガバナンス強化を求める主張には異論や抵抗があるだろうが、海を守るため発想の転換を検討すべき時だ。

欧州連合―高い理念を忘れずに

 欧州連合(EU)は、欧州の国々を一つに束ねる歴史的な試みを続ける枠組みである。

 その首相にあたる「欧州委員長」が11月に交代する。

 ルクセンブルク前首相のジャンクロード・ユンケル氏が、2期10年務めたバローゾ氏から、かじ取り役を引き継ぐ。

 移民や社会政策、職員数が2万人を超える欧州委員会のスリム化など、課題は山積みだ。

 世界では近年、中国やインド、ロシア、ブラジルといった新興国が台頭している。ダイナミックな経済力を誇るこれらの国は、しかし時に、力に任せ、国際社会のルールを軽んじる態度も見せる。

 そんなとき、法の支配や人権擁護、民主主義の実現といった原理原則をEUは掲げてきた。その役割は今も貴重である。

 ユンケル氏はその中心に立つ。新興国にむやみにすり寄らず、時には断固として苦言を呈する役目も担ってほしい。

 EUでは最近、加盟28カ国の意見や立場の違いが目立つ。

 ギリシャの財政問題に端を発した債務危機では、苦境に陥った南欧と、比較的好調な経済を維持したドイツなどとの間で、対応をめぐる論争が起きた。

 ウクライナ情勢では、ロシアへの強硬な姿勢を求めた旧東欧やバルト諸国と、ロシアとの経済的なつながりを重視する独伊などとの間で、考え方の違いがしばしば浮き彫りになった。

 また、欧州ではEUへの懐疑的な世論も根強い。5月の欧州議会選では、欧州統合に反対する右翼などが勢力を伸ばした。英国は、EU脱退の賛否を問う国民投票も辞さない構えだ。

 旧東欧諸国などを取り込んでひたすら拡大を目指していた10年前とは、EUは異なる環境にある。苦しい時代だけに、加盟国の足並みをそろえる力が、欧州委員長には欠かせない。

 ユンケル氏はルクセンブルク首相を19年近く務め、EUの方針決定にも長年かかわった。筋金入りの欧州統合推進派で、その手腕に期待がかかる。

 一方、統合をためらう世論が広がる今、統合推進派の立場をどこまで発揮できるか、疑問の声もある。英国などはユンケル氏の選出に公然と反対した。

 ユンケル氏は、そのような批判も受け止めつつ、EUの一体性を保つ努力が求められる。

 EUが「5億人の市場」としての存在感を示すためにも、人権や民主主義といった欧州伝統の理念を訴えるためにも、何より大切なのは、結束だ。その軸となり得るか。ベテラン政治家の力量が問われる。

記憶遺産―広い視野で地域に光を

 富岡製糸場の見学者が急増したり、和食が注目されたり。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産、世界無形文化遺産が広く話題を集める。

 ユネスコにはもう一つ「世界記憶遺産」という事業がある。歴史的に重要な文書、映像、音声などのより良い保存と活用が目的だ。国宝の古文書と並び、市井の人が残した記録も登録される。私たちが生きる時代と世界を考える手がかりとして、生かしたい取り組みだ。

 記憶遺産は1992年に始まった。登録は隔年。これまでにフランス「人権宣言」、ベートーベン自筆の「第九」楽譜、「アンネの日記」、「ベルリンの壁」の記録など、301件が登録されている。

 日本では、条約に基づいて政府が取り組む世界遺産・無形文化遺産と比べ、あまり知られていなかったが、2011年に初めて福岡県田川市の「炭坑記録画・文書」が登録され、13年に政府申請の2件が加わった。

 国だけでなく地方自治体や団体・個人も申請できる。日本の15年の登録候補は4件。各国2件が上限のため先ごろ国内選考があり、政府申請「東寺(とうじ)百合(ひゃくごう)文書(もんじょ)」と、京都府舞鶴市「シベリア抑留からの引き揚げ記録」に決まった。

 17年に向けては、今回選にもれた「知覧特攻遺書」(鹿児島県南九州市)、「全国水平社創立宣言」(奈良人権文化財団など)に加え、水俣病の記録、広島の原爆文学資料など、各地で手が挙がっている。

 政府が申請したのはいずれも国宝だが、地域からのそれは、近現代の民衆の記録がほとんどだ。国の文化財保護の枠に入りにくい。申請を目指す人たちには、その価値を広く知ってもらい、史料を長く伝えてゆきたいという思いが強い。登録によって、関心が高まり、保存への追い風が吹くのを期待する。

 国内の登録第1号は、炭坑労働者だった山本作兵衛さん(1892~1984)が、仕事や暮らしを描いた絵だ。海外の専門家の助言でユネスコへ申請したが、その前に長い期間、山本さんの絵を貴重な史料だと考え、収集・保存した地元図書館などの活動があった。

 地域の記憶に光を当てる。ユネスコへの申請と並行し、国内でもこうした活動を応援する仕組みが出来るといい。

 近現代、特に戦争に関わる史料は、立場の異なる人の評価が欠かせない。自分たちの記憶を世界と共有するために、申請を目指す過程で、他者の視点で見つめ直すのも意義深いことだ。

大陸棚延長 戦略的に海洋資源を開発せよ

 海洋立国としての立場を一段と強固にするうえで、重要な前進だ。

 政府は、日本最南端・沖ノ鳥島の北方など2か所の海域を、日本の大陸棚として政令で定めることを決めた。小笠原諸島周辺など2か所も米国と調整したうえで、政令に規定する予定だ。

 国連海洋法条約は、沿岸から200カイリまでを大陸棚とし、海底の資源開発などに関する沿岸国の主権的な権利を認めている。自然な地続きであると証明できれば、200カイリを超えて延長できる。

 政府が今回制定する大陸棚は、一昨年4月に国連の大陸棚限界委員会から延長を認められた。

 総面積は計31万平方キロ・メートルに及び、日本の国土の約8割にも相当する。大陸棚には、天然ガスを含有するメタンハイドレートなどの貴重な資源が存在するとされる。資源の乏しい日本が、海洋権益を広げる意義は大きい。

 安倍首相は「広い海からもたらされる資源は、日本の未来を切り開く可能性を秘めている」と強調している。エネルギー安全保障の観点でも重要である。

 ただ、海底での資源開発は、巨額の費用を要し、技術的な課題も多い。政府主導による長期的な取り組みが必要である。

 一方、大陸棚限界委員会は、沖ノ鳥島の南方にある「九州パラオ海嶺南部海域」の大陸棚延長申請について結論を先送りしている。中国と韓国が「沖ノ鳥島は『島』でなく『岩』で、大陸棚の基点にならない」と反対したためだ。

 政府は国際社会に、日本の主張の正当性を訴えていくべきだ。

 沖ノ鳥島の周囲には、広大な排他的経済水域(EEZ)が広がり、水産・海底資源を日本にもたらしている。政府は、港湾施設の整備などを進め、島を確実に保全することが肝要である。

 中国の強引な海洋進出は、東・南シナ海にとどまらず、西太平洋に及ぶ。島嶼とうしょ国の港湾整備を支援し、将来、中国海軍の拠点とする可能性も指摘される。グアムの米軍基地をにらんだ動きである。

 日本が沖ノ鳥島や南鳥島、小笠原諸島の周辺海域で適切な海洋管理に努めることが、中国に対する戦略的なけん制効果を持とう。

 政府は昨年4月、5年間の海洋政策の基本方針となる「海洋基本計画」を定めた。海洋資源開発や離島の保全・管理、海洋での再生可能エネルギーの技術開発などを重点的に推進する内容だ。

 民間とも緊密に連携し、多角的に取り組むべきである。

エネルギー高騰 価格交渉力の強化も急ぎたい

 原油などの資源価格が高止まりし、景気への悪影響が懸念される。

 エネルギーコストの上昇が企業収益を圧迫し、設備投資や賃上げの足を引っ張る事態となれば、安倍政権の目指す「好循環経済」の実現は難しくなろう。

 政府はエネルギー安定供給の確保と、価格高騰の抑止に全力を挙げなければならない。

 原油価格は中東情勢の悪化を受け、リーマン・ショック後の底値より2倍以上高い、1バレル=100ドル前後で推移している。

 原油高を背景に、全国のレギュラーガソリンの平均価格は12週連続で上昇し、1リットル=170円目前の高値となった。消費税率引き上げも重なり、家計にとっては、かなりの痛手だろう。

 軽油や重油などの価格も上がり、燃料使用量の多い運送や漁業、有機溶剤を使うクリーニングなど幅広い分野の業種にコスト増が重くのしかかっている。

 運転を停止している原子力発電所を代替するため、火力発電所の燃料である液化天然ガス(LNG)などの輸入が増えた影響も大きい。火力発電の追加燃料費は年3・6兆円に上り、巨額の国富が流出している。

 原発停止前に比べ、電気料金は家庭用が2割、産業用は3割上昇し、このままではさらなる値上げも避けられない。企業が生産拠点を海外に移転する産業空洞化の加速も心配だ。

 安全審査に「合格」した九州電力川内原発の再稼働を急ぐとともに、他原発も円滑に審査を進め、着実に再稼働させるべきだ。

 同時に、燃料の調達価格を下げる努力が求められる。

 日本が中東やロシアから輸入しているLNGの価格は、高止まりしている原油に連動して決まる仕組みで、シェールガス革命で採掘コストの下がった米国産LNGの約4倍という高値だ。

 ガス価格の決定方法を改めるよう、官民を挙げて産出国に強く働きかける必要がある。

 大手電力やガス会社がLNGを共同購入し、価格交渉力を高める取り組みも始まった。こうした動きの広がりに期待したい。

 原子力を含む日本のエネルギー自給率は、震災前の約20%から約6%に低下し、1970年代の第1次石油ショック時を下回った。エネルギー安全保障の観点から危機的な状況と言える。

 民間ビジネスと政府の資源外交とを連動させ、調達先を多様化することも急務である。

2014年7月20日日曜日

「質」志向の消費をつかまえよう

 個人消費が持ち直してきた。今年春の消費増税前に膨らんだ駆け込み需要の反動減が和らぎつつある。政府も個人消費の回復をみて7月の月例経済報告で景気判断を引き上げた。原因の一つに企業努力がある。新商品の投入などで、生活の「質」の向上を求める消費者をうまくつかんだのだ。

 今の消費者の多くは節約一辺倒ではない。かといって、バブル期のように、むやみに豪華なものを求めてもいない。手ごろな価格で質の高い商品やサービスを提供する技を磨くことは、生活産業の国際競争力向上にもつながる。

■高めの新商品で好決算
 企業はこの流れをうまくつかまえたい。流通・サービス業界の今年3月から5月までの四半期決算で目立ったのが、付加価値の高い商品を好業績につなげた企業だ。衣料・雑貨のパルの連結営業利益は、この期としては過去最高になった。高品質で価格も高めの新商品を積極的に投入した結果だ。

 靴のエービーシー・マート、家具のニトリホールディングスも大人の客を狙い商品の付加価値を高め、単価を引き上げたことが好業績を生んだ。両社ともデフレ時代、若者向けに安さで成長してきた企業だ。機能性衣料に力を入れる「ユニクロ」のファーストリテイリングも含め、低価格から少し上質へ、という流れをとらえた企業群が業績を伸ばしている。

 大手メーカーの一般的な商品よりも上質の商品を独自に開発しているセブン&アイグループも好調だ。高額な腕時計などの販売が減った百貨店各社も、中流層向け衣料の好調などから落ち込みは想定以下にとどまった。

 すべての流通業が好調なわけではない。低価格・大量販売に力を入れる一般のスーパーは不調だった。しかし流れをみすえ、食材ではなく手間をかけた総菜を売るなど、方向転換を試みる動きが広がりつつある。少し上質な食材を売る高級スーパーは好調だ。

 物販だけではない。JR九州が運行を始めた居心地がよく、ゆっくり旅ができる寝台列車の人気が高い。JR東日本も2017年にも同様の列車を投入する。星野リゾートが各地で運営するホテルは、ひと昔前の豪華ホテルとは一味違い、地元の祭りなど土地の文化を取り入れファンを増やす。

 広いテーブルで近所の人々が集える「コメダ珈琲店」という喫茶チェーンが店舗数を広げている。早さをうたった牛丼チェーンが、少し高めのメニューをゆっくり食べてもらうよう方針を変え業績を伸ばす。上質、ゆっくり、文化。そんなキーワードが成熟社会の消費を掘り起こす。

 けん引役は貯蓄、時間、知的好奇心に富む団塊世代を中心とするシニア層だ。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は東京の代官山に大型書店や飲食店の複合施設を開業した。ゆったり座れるカフェ、古雑誌、古い映画や趣味的な本をそろえる。

 売れ筋の本や新作に重点を置く普通の書店やレンタルビデオ店とは逆だ。狙いは団塊世代だったが、低成長下で育ち、むやみに刺激を求めるより、じっくり物を選ぶようになった若い世代も引き付けたという。東京郊外の住宅街や湘南、大阪にも開業を決めた。

■レジャーも文化求める
 世界遺産となった古い工場に人が集まる。歴史的な駅舎を復元した東京駅の昨年度の乗車客は、若者の多い渋谷駅を抜いた。人が集まる街の条件も、新しさや刺激などから変わりつつある。自治体などは念頭に置くべきだ。

 消費者の「質」志向に対応することは企業の国際競争力も磨く。アジアを中心に、生活に一定のゆとりがある中間層が世界で急速に育ちつつある。彼らは日本の昭和30年代風の「庶民」的生活を一気に飛び越え、生活の質を求める。日本は安全・快適・便利・丁寧な生活を丸ごと提供できる数少ない国だ。観光客もそれを期待する。

 手厚いサービスで有名な温泉旅館の加賀屋は既に台湾にも開業。中国やベトナムからも進出の要請がある。商業施設の運営でも、日本的サービスは有力な武器だ。

 質志向への対応は国内での人材育成にもつながる。例えばいま、手で1杯ずついれるコーヒーの店が増えている。勝負を分けるのは人材だ。こうした現象が多くの商品、サービスで起こっている。

 良いモノやサービスを丁寧に売れば、従業員一人ひとりが生む付加価値が高まり、企業の生産性も上がり、賃金上昇につながる。それがさらに消費を加速させる。経営者は豊富な労働力を安く使いつぶす発想から脱皮したい。

BRICS銀―国際金融再考の契機に

 米国など先進国を中心とした国際金融秩序に対する、異議申し立てと言えるだろう。

 BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の首脳が、途上国のインフラ整備などに融資する銀行「新開発銀行」の設立を決めた。金融危機の際に外貨を融通するための基金も設立する。

 途上国の開発を後押ししてきた世界銀行と、国際的な経済・通貨危機の火消し役である国際通貨基金(IMF)という既存の機関に相当する組織を、BRICS主導で新設するものだ。

 新興・途上国の資金需要は旺盛で、現行組織を補完する余地はある。開発資金の融資を通じ、中国などが自らの発展の経験を他の新興・途上国に伝えることにも意義はある。

 しかし実現は容易ではない。インフラ整備への融資では、その経済効果、環境に対する悪影響などを事前に評価し、融資後も事業が計画通りに進んでいるかなどを点検しなければならない。どういう人材でどういう組織をつくるのか。十分なノウハウがあるとは言い難い。

 そもそも動機が心配だ。新興国や途上国をどう発展させ、世界経済の安定にどう寄与するのかといった価値観を、5カ国は共有しているだろうか。

 明確なのは、自分たちの経済発展に応じた影響力を、国際金融の舞台で発揮できないことへのいらだちだ。第2次大戦後に設立されて以来、世銀のトップは米国、IMFのトップは欧州が占めてきた。BRICS5カ国の経済規模の合計は世界の2割を占めるのに、IMFでの投票権は計1割に過ぎない。

 IMFは新興国の発言力が増すよう投票権を配分し直す改革案を決めている。しかし影響力の低下を懸念する米国議会の反対で実現していない。

 IMFの融資は財政再建などの条件が厳し過ぎる、世銀の融資先は米国の意向に左右されているのではないか、といった不満も新興・途上国にはある。一定の基準は欠かせないが、融資先の理解を得る努力が必要だ。

 BRICS5カ国も加わっているG20などでIMF改革などを論議し、協調体制を築くべきだ。そうすれば、新組織ができても、建設的に役割を分担できるだろう。

 21世紀になって、グローバリゼーションは深化した。世銀とIMFの設立を決めたブレトンウッズ会議から70年。世界経済を支える仕組みも制度疲労が否めない。それを補正する機会として、BRICSの異議申し立てをとらえるべきだ。

幼児教育―低所得層を優先に

 学力だけではなく、貧困対策の面からも、幼稚園や保育所の幼児教育の役割は大きい。

 年収360万円未満の家庭の5歳児に限り、幼稚園や保育所を無償にする。文部科学省が方針を示した。今も生活保護世帯などは無償だが、これで5歳児の23%に対象が広がる。

 本来の目標は3~5歳児全員の無償化だが、それには年間で7800億円、5歳児だけでも2600億円かかり、難しい。まずは一歩前に進むという判断は現実的だ。

 今後は所得制限をゆるめ、5歳児全体へと対象を横に広げていくのが、政府の基本的な考え方だ。教育再生実行会議は「5歳児の義務教育化検討を」とふみこんでいる。

 だが、財政難の中で優先順位を考えると、低所得家庭への支援を4歳、3歳と下に広げてゆくのが先決ではないか。

 子どもの貧困率は16%を超えて過去最悪を更新した。内閣府が専門家を集めて開いた対策検討会では「教育投資の中では幼児教育が最も効果的だ」という意見が強かった。幼いうちの貧困ほど、成人後への影響が大きいとの指摘もあった。

 幼児教育の充実というと、文字や数を読み書きする勉強の前倒しを想像するが、必ずしもそうではない。むしろ集中力や好奇心、話す力や聞く力のような学びの土台を、小学校入学前に作っておく役割が大きい。

 通園は親にも利点がある。育児や生活の相談相手ができる。行政の支援につながる窓口にもなる。貧困率の高いひとり親家庭の親にとっては、子どもの通園は安定した仕事をさがすために欠かせない条件だろう。

 5歳児は約99%が通園しているが、4歳、3歳と年が下がると通っていない子は増える。政府の「すべての子に幼児教育の機会を」との理念を実現するには、経済的理由で通えない子はなくさなくてはならない。

 「子どもへの投資は未来への投資」。子どもの貧困対策に取り組む人からよく聞く言葉だ。この子らが将来自立できれば本人はもちろん、社会保障のコストが下がって社会のみんなの利益になるという意味だ。

 裏返せば、そこまで説明しないと必要性を納得してもらえない現実があるといえる。

 高齢者はますます増え、年金や介護、医療費は膨らむ。一方で子どもは減る。その中で子どもや教育への投資を増やすことに理解を得るのは簡単でない。教育者だけでなく、高齢者福祉や財政の専門家と知恵を出し合う場が要るのではないか。

南シナ海情勢 掘削を中止させた対中包囲網

 強い国際的な批判を受けて、「力による現状変更」を中断せざるを得なかったのだろう。

 中国が、南シナ海・パラセル(西沙)諸島付近での石油掘削作業を終了した。

 作業は当初、8月中旬までとされていた。中国は「作業が順調に終わった」と説明するが、実際は、対中包囲網が作業短縮の要因だったのは間違いあるまい。

 中国がベトナムとの係争海域で一方的に掘削を始めたのは5月初旬だ。ベトナムは強く中止を求めた。中越双方の船が衝突を繰り返し、ベトナム船が沈没するなど、一時は危険な状態に陥った。

 ベトナムは、中国の不当性を国際社会に訴え、大規模な反中デモも続発した。中国は、経済面で対中依存を強めるベトナムの抵抗が、これほど激しいとは予測していなかったのではないか。

 更に大きな誤算は、日米両国や、東南アジア諸国連合(ASEAN)などによる対中連携が一気に強まったことだろう。

 安倍首相は国際会議などで、中国の独善的な行動を批判した。領有権を巡る中国の主張に国際法上の根拠がないことを念頭に、「法の支配」の重要性を繰り返し強調し、幅広い賛同を得た。

 集団的自衛権の行使容認を通じた日米同盟の強化も、関係国の支持を集めている。

 「アジア重視」政策を掲げる米国も、南シナ海問題に積極的に関与する姿勢を明確にした。中国がアジアの安保秩序から米国の排除をうかがう中、その意図を正面から否定する意義は大きい。

 普段は対中姿勢がばらつくASEAN各国も外相会議で、南シナ海の危険な状況に「深刻な懸念」を表明し、共同歩調を取った。

 中国の孤立は明らかだった。

 来月上旬には、日米中も参加するASEAN地域フォーラム(ARF)が開かれる。11月には、中国が北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主宰する予定だ。

 中国には、こうした場で対中批判が集中する事態を避けたい思惑があろう。当面は、抑制的な行動を取るとの見方も出ている。

 しかし、南・東シナ海で自らの領土や海洋権益の拡大を図る中国の海洋進出戦略は変わるまい。

 日米両国は、中国の覇権的な行動は長期化すると覚悟すべきだ。今回、国際的な連携の積み重ねが一定の成果を上げた。この経験を踏まえつつ、新たなアジア秩序作りに、中国を建設的な形で参加させていくことが求められよう。

トラック新免許 事故防止策の徹底を最優先に

 小型トラック免許の取得条件の緩和が、ドライバー不足を補う有効打となるか。

 運送業界の期待は大きいが、重要なのは、事故防止策の徹底である。

 警察庁の有識者会議が、小型トラックの新たな免許区分の導入を提言した。警察庁は、来年の通常国会に道路交通法改正案を提出する方針だ。

 運転免許は現在、車の総重量別に、5トン未満の普通、5トン以上11トン未満の中型、11トン以上の大型の3種類に区分されている。これを4種類に変え、普通と中型の間に3・5トン以上7・5トン未満の新区分を設けるのが、提言の柱だ。

 現在の中型免許には「20歳以上、普通免許取得から2年以上」という取得条件がある。これに対し、新区分の免許は、18歳から取得可能で、普通免許を取ってからの経験年数も問われない。

 見直しのきっかけは、宅配便やコンビニの商品配送で利用されている小型トラックの総重量が、全体的に重くなったことだ。保冷設備や昇降機などを備えた結果、5トンを超える車両が増えた。

 5トン以上になると、中型免許が必要なため、ドライバーの数は限られる。使われる車両の変化に応じて、制度を柔軟に見直し、免許を取得しやすくしようという狙いには、うなずける面もある。

 ドライバー不足に悩む運送業界では、「高校の新卒者を採用したくても、すぐには中型免許を取れないため、見合わさざるを得ない」との声が高まっていた。

 新区分が導入されれば、18歳の若者も即戦力として、5トン以上の小型トラックのハンドルを握れるようになる。業界の要望を色濃く反映した制度改正である。

 懸念されるのは、経験の浅いドライバーによる事故の増加だ。

 車両が重くなれば、ブレーキを踏んでから停止するまでの距離が長くなる。死角が多く、バックや方向転換には、乗用車以上の技能が求められる。小型トラックの死亡事故率は、乗用車に比べて大幅に高いというデータもある。

 今の中型免許が2007年に導入されたのは、未熟な運転手による事故の多発がきっかけになったことを忘れてはならない。

 中型、大型と同様、新区分でも実際のトラックを使った教習を必修として、ドライバーの技能を確保すべきだ。自動車教習所に課せられる責任は重い。

 運送業者も、運転手に対する研修の強化など、事故防止に一層、力を入れる必要がある。

2014年7月19日土曜日

マレーシア機撃墜の真相を徹底究明せよ

 ウクライナで続く戦闘の巻き添えで、多くの民間人の命が失われたとすれば極めてゆゆしき事態である。同国の東部でマレーシア航空の旅客機が墜落し、約300人の乗客・乗員全員が犠牲になったもようだ。事件の徹底した真相究明を求めたい。

 米政府は事故ではなく、地対空ミサイルによって撃墜されたとの見方を強めている。ウクライナのポロシェンコ大統領は「テロ行為だ」とし、東部の親ロシア派武装勢力による犯行と断じた。同国の保安当局はその証拠として、親ロ派がロシア情報機関に撃墜を報告する盗聴記録を公表した。

 一方で、親ロ派は「高高度を飛ぶ航空機を撃ち落とす兵器を持っていない」と関与を否定。ロシア政府はウクライナ軍の防空部隊が撃墜した可能性を示唆し、激しい非難合戦を繰り広げている。

 なにより急がれるのは、墜落の原因究明だ。国際社会は国際調査団を直ちに派遣し、中立的な立場から事件の真相を徹底的に洗い出す必要がある。

 墜落現場のウクライナ東部は親ロ派が実効支配しており、フライトレコーダーなどを持ち去ったとの情報もある。証拠の隠蔽は決して許されない。ウクライナ政府も親ロ派も、第三国の多数の民間人が犠牲になった痛ましい事件を深刻に受け止め、調査に真摯に協力するのが当然だろう。

 そもそも事件はウクライナ政府軍と、同国からの独立を求める親ロ派武装勢力の戦闘が続くさなかに起きた。事件の徹底した調査にはもちろん、即時の戦闘停止が欠かせない。さらに、こうした悲劇を2度と繰り返さないためにも、双方は恒久的な停戦と和平協議を早急に進めるべきではないか。

 6月に就任したウクライナのポロシェンコ大統領は当初、一時停戦を打ち出したものの、親ロ派が武装放棄に応じず頓挫した経緯がある。政権側も親ロ派も、話し合いによる事態打開の道を再び模索すべきだろう。

 ロシアの責任も重い。プーチン大統領は「戦闘が再開されなければ悲劇は起こらなかった」とウクライナ政府を非難したが、自らは親ロ派の説得と緊張緩和に果たしてどこまで真剣に動いたのか。

 米欧が対ロ追加制裁を決定したのは、ロシアへの失望の現れだ。ロシアは事件の真相究明はもちろん、こんどこそウクライナの混乱収拾に積極的に行動すべきだ。

ガザの流血を放置するな

 イスラエルとパレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの軍事衝突が激しさを増している。

 イスラエル軍はハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへ空爆を繰り返し、地上からも侵攻を開始した。ハマスはイスラエルに向けて手製のロケット弾を打ち込んでいる。

 パレスチナ人の死者は240人を超えたという。流血の事態を放置してはならない。暴力の応酬からは何も生まれない。イスラエルとハマスの双方に自制を強く求めたい。国際社会は結束して停戦の実現にあたらねばならない。

 衝突のきっかけはイスラエル人の若者3人と、パレスチナ人の少年1人が相次いで殺害されたことだ。憎しみと暴力の連鎖に歯止めがかからない。地上戦が始まったことで、犠牲者はさらに増える可能性がある。

 イスラエルの隣国シリアでは内戦が続き、混乱はイラクに広がっている。パレスチナの混迷が加われば中東全域が不安定化することになりかねない。衝突の拡大を食い止めなければならない。

 国際社会は責任を免れない。国連や、米国、ロシアなどの主要国は中東の民主化要求運動、いわゆる「アラブの春」以降、各地に広がった混乱の収拾に有効な手を打てずにきた。米国が仲介してきたイスラエルとパレスチナの和平交渉も中断したままだ。

 エジプトが提示した停戦案は事態を打開できなかった。しかし、あきらめてはならない。粘り強く自制を促す必要がある。和平は対話を通じてしか実現できないと、改めて訴えることが大切だ。

 茂木敏充経済産業相が今月上旬、イスラエルとパレスチナを訪問した。イスラエルには情報技術(IT)などの分野で優れた企業が多い。経済関係の深化は日本にとっても重要だ。

 経済交流も中東和平が実現してこそ弾みがつく。イスラエルとパレスチナが和平のテーブルにつくための働きかけに、日本も積極的に加わっていくべきだ。

マレー機墜落―紛争激化の果ての悲劇

 悲痛きわまる惨事としか言いようがない。

 ウクライナ東部でマレーシア航空機が墜落、乗客乗員298人全員が死亡したとみられる。

 周辺では、ウクライナの政府軍と親ロシア派武装勢力との戦闘が激化している。マレーシア機も戦闘の巻き添えとなり、対空ミサイルによって撃墜された可能性が濃厚である。

 乗客には、夏休みの旅行に向かう子どもたちや、豪州でのエイズの国際会議に出席予定の専門家らが含まれていた。

 民間機への攻撃を断じて許すことはできない。

 オバマ米大統領や国連の潘基文(パンギムン)事務総長が訴えるように、原因の徹底的な国際調査を実現しなくてはならない。

 国際社会は足並みをそろえ、欧州安保協力機構(OSCE)などを軸に、何が起きたのか全力で究明すべきだ。

 ウクライナ政府は、親ロシア派武装勢力による「テロ攻撃」と主張している。

 武装勢力は今月、高い高度も射程に含むミサイルを入手したと表明し、実際にウクライナの軍用機を撃墜していた。

 今回の現場は武装勢力の支配地域にある。関与を否定するのなら、機体などを保全したうえで調査団を受け入れ、原因究明に率先して協力すべきだ。

 ウクライナ東部では今月、政府軍が拠点を奪回した後、戦闘が急速に激化した。武装勢力が高性能のミサイルや戦車などでにわかに戦力を高めたからだ。

 米欧は、背後にロシアの後押しがあるとみている。今週、ロシアに対する制裁を厳しくし、強い警告を送っていた。

 事件は、ウクライナの動乱が世界の安全を揺るがす深刻な問題であることを示した。

 今後もロシアが武装勢力への支援を続けるならば、国際社会からのいっそうの非難の高まりは免れない。

 ロシアは今回の原因究明にきちんと協力したうえで、武装勢力に強硬な抗戦をやめさせねばならない。ウクライナ政府との対話を通じた現状の打開を急ぐ責務がある。

 米欧も、当事者たちの交渉仲介の努力を強めるべきだ。紛争に無関係な多くの人命が失われた悲劇の衝撃をせめて、和平づくりの契機に転じるべきだ。

 日本は今週、岸田外相がウクライナを訪ねたばかりだが、看板の「積極的平和主義」に見合うような関与は見えない。

 ロシアが行動を改めないなら、新たな制裁強化や米欧との協調行動など、決然とした対応を考えるべきではないか。

中国の経済―土地依存脱する改革を

 中国の4~6月期の国内総生産が発表された。成長率は7・5%で悪くない。

 ただ、先行きが心配だ。問題は、財政も金融も不動産にかかわりすぎている点にある。

 この体質を変えるだけの改革をすすめる実行力が、習近平(シーチンピン)政権に問われている。

 リーマン・ショック後の積極財政と金融緩和で住宅価格は急騰した。だが、曲折をへて今春から低迷がはっきりした。

 1~6月の住宅販売総額は去年の同期より9・2%減った。主要都市の8割で新築住宅が値下がりしているという。

 マイホームを買えない庶民からみれば歓迎されるだろう。だが需給のバランスが崩れれば、負の連鎖が起きかねない。

 中国のいびつさは、財政が不動産に頼っている点にある。

 各地の野放図な開発を後押ししたのは地方政府だ。国有地を使う権利を開発業者に売るなどして、不動産関連の収入が地方財政の4割を占める。

 税収を補うとして、権利の売却は加速している。ことしは6月までに全国で2兆1千億元(約35兆円)にのぼり、去年の同期より26%増えた。地価が下がれば、財政に穴があく。

 銀行は、貸し付けの3~4割が不動産向けか不動産担保による融資だ。価格が下がれば経営を直撃する。銀行以外の民間企業が手がける不動産の投資信託は破綻(はたん)が始まっている。

 習政権は経済の構造的な改革を打ち出し、「目先の景気変動に強い刺激策を打つことはしない」(李克強〈リーコーチアン〉首相)方針だった。ところが実際には老朽住宅の建て替えや、鉄道建設などの景気対策に乗り出している。

 景気の失速で矛盾が噴出するのを避けたいのだろうが、不動産に依存した構造に切り込むことを忘れてはならない。

 財政は、中央と地方との税収の分け方を見直したうえで、基本的に税収で予算をまかなえるよう改革するのが筋だ。

 これまで売られた土地は、農民の意に反して安く収用した農地が少なくない。農民の正当な権利を認めることを含め、大いに改善の余地がある。

 金融面では、官民入り乱れて多様化している資金の流れに対し、監督を強めるしくみを整えることが課題になろう。

 これらは多かれ少なかれ、昨年11月に開かれた共産党の中央委員会の会議で、決定事項のリストに載っていた。その成否を世界が見つめている。

 中国経済が健全で安定した成長を続けるなら、日本を含む各国の利益につながる。

ウクライナ撃墜 真相究明の国際調査が急務だ

 紛争の続くウクライナで、無辜(むこ)の民間人を巻き込む大惨事が起きた。

 国際社会が連携し、真相の究明を急がなければならない。

 親ロシア派の武装集団が実効支配するウクライナ東部で、1万メートルの上空を飛んでいたマレーシア航空機が墜落し、乗客・乗員298人全員が死亡した。

 ウクライナ当局は、親露派武装集団が旧ソ連製の地対空ミサイルを発射したと断定し、ポロシェンコ大統領は「テロリストが撃墜した」と糾弾した。武装集団が露将校に連絡した形跡もあり、ロシア軍の関与が疑われるという。

 この地域では、武装集団とウクライナ軍が日常的に衝突を繰り返している。最近はウクライナ軍の輸送機や戦闘機などが相次いで撃墜されていた。武装集団が旅客機をウクライナ軍機と見誤って攻撃した可能性も指摘される。

 武装集団は「ウクライナ軍による撃墜だ」と主張している。だが、米国が人工衛星の情報などで、旅客機を追尾するミサイルをとらえ、発射地点を解析したところ、武装集団の支配地域から放たれたミサイルだったという。

 ポロシェンコ大統領は、調査委員会の設置を決めた。国際民間航空機関(ICAO)やマレーシアの専門家も参加し、米国も協力する方針を示している。

 ミサイルの破片や、旅客機の飛行データを記録した「ブラックボックス」の回収・分析が、解明の大きな手がかりとなる。

 オバマ米大統領は、ポロシェンコ大統領に、現場での証拠をすべて保全するよう促した。証拠隠滅や調査妨害を防ぐうえで適切な対応と言えよう。

 専門家を含む調査団が、墜落現場周辺に立ち入って、十分な活動を行えるようにすることが欠かせない。武装集団は停戦に応じ、調査団の安全を保証するべきだ。

 国連安全保障理事会は緊急会合を開き、国際機関による調査を求める声明を発表した。独立性と透明性を確保することが重要だ。ロシアをはじめ関係国も、調査への全面的な協力が求められる。

 関係国の駆け引きも激化している。米国と欧州連合(EU)は、ロシアがウクライナの主権を侵害しているとして、対露制裁を強化したばかりだ。

 岸田外相は墜落の直前、ポロシェンコ大統領らと会談し、ウクライナ支援の継続を表明した。日本もウクライナの安定化に協力し、こうした悲劇を繰り返さないための環境作りに関与したい。

地方創生本部 人口減克服へ総力を結集せよ

 人口急減問題は、都市部よりも地方の方が格段に深刻だ。政府と自治体は民間とも連携し、総力を結集して対策に取り組む必要がある。

 人口減対策や地域活性化など地方創生の司令塔として政府が新設する「まち・ひと・しごと創生本部」の準備室が来週にも、内閣官房に数十人の態勢で発足する。

 安倍首相は閣僚懇談会で、「地方創生の各省の企画立案機能を集中させる。地域が持続的な社会を創生できるよう、全力で取り組みたい」と強調した。

 創生本部は、内閣改造で担当相を設置するのに合わせて新設する。本部長は首相が務める。

 人口減問題は、日本の将来を左右する重要課題だ。結婚・出産・子育て支援、地方への定住・移住促進、雇用創出など、取り組むべき課題は多岐にわたる。

 増田寛也・元総務相らの「日本創成会議」は、若年女性の激減に伴い、約半数の自治体が消滅の可能性があると推計している。

 地方の危機感は強い。全国知事会は、少子化対策の抜本的な強化を求める「非常事態宣言」を採択した。会長の山田啓二京都府知事は、「日本は死に至る病にかかっている」とまで訴えた。

 読売新聞の調査では、15道県が人口減対策の全庁的組織を設置し、出生率の向上策や、都会から若い家族や企業などの誘致を進めている。各自治体はアイデアを出し合い、成功事例を参考にしながら施策を推進すべきだ。

 地方創生と人口減の抑制には、長期的な戦略が欠かせない。

 創生本部は、2020年までの総合戦略と、さらに長期のビジョンを策定する方向だ。従来の発想にとらわれず、多様な意見を取り入れることが大切である。

 政府内では既に、複数の地方活性化策がある。総務省の「地方中枢拠点都市」、国土交通省の「高次地方都市連合」などで、いずれも地域圏に拠点を定めて人口流出に歯止めをかける構想だ。

 一連の施策が各府省の「縦割り」に陥らないよう、創生本部が総合調整せねばならない。

 首相は、過疎自治体で地域づくりを手伝う「地域おこし協力隊」を3年間で今の3倍の約3000人に増やす考えを表明している。過疎対策に特効薬は存在しない。ソフト面を含め、地道な努力の積み重ねが求められる。

 来年春には統一地方選が行われる。いかに人口減を食い止めるのか。政党・候補者だけでなく、国民全体で考える機会としたい。

2014年7月18日金曜日

企業は「多様な正社員」の活用を競え

 政府は成長戦略で、勤務地や職務内容が限られたり、労働時間が短かったりする正社員の普及を掲げている。女性の活用や非正規社員の雇用の安定に役立つためだ。

 厚生労働省の有識者懇談会は企業向けに、こうした多様な形態の正社員を導入する際に留意すべき点を報告書にまとめた。勤務地限定などがない正社員と処遇面の均衡をはかり、そうした一般の正社員への転換に道を開くことなどを挙げている。

 問われるのは企業の取り組みだ。働く人にとって使いやすく、仕事への意欲を高められるかどうかは個々の企業の工夫次第だ。「多様な正社員」の制度づくりを各社は競ってほしい。

 勤務地限定や短時間勤務などの正社員は「限定正社員」とも呼ばれる。一般の正社員ほどの待遇ではなくても非正規社員に比べて雇用は安定し、賃金増も見込みやすい。子育て中の人や介護のため働ける地域や時間に制約のある人も正社員として勤めやすくなる。

 企業にとっての利点も多い。非正規社員の正社員登用を進めるときの受け皿になる。短時間正社員の導入は長時間労働になりがちなこれまでの正社員のあり方を見直すきっかけになる。

 すでに多様な正社員の制度を設けている企業では今後導入する企業の参考になる例がある。1日の勤務時間を4時間または6時間とする制度がある衣料品製造販売大手のクロスカンパニー(岡山市)は、これら短時間正社員と一般の正社員で人事評価の仕組みを共通にしている。短時間正社員も昇進昇格が不利にならない。6時間正社員から女性の課長が出ている。

 インキ最大手のDICは勤務地限定の社員でも管理職に登用できるようにした。現在、部課長で勤務地限定の人が8人いる。能力のある人を適切に処遇することを企業は求められよう。

 勤務地や職務が限定された正社員は雇用保障が緩いとする声がある。しかし有識者懇談会の報告書は裁判例をもとに、事業所が閉鎖されたり、その職務がなくなったりした場合でも、企業はただちに解雇できるわけではないと明記した。配置転換による雇用継続の努力が必要になるとしている。

 多様な正社員についても企業は雇用責任があることを自覚し、彼らの力を引き出して企業活動に貢献してもらう制度づくりに知恵を絞るべきだ。

何が父子関係を決めるのか

 DNA鑑定で父親でないことが明らかな場合、法律上の父親と子どもの関係を取り消せるか。これが争われた訴訟で、最高裁第1小法廷は「取り消せない」との判断を示した。

 民法には「妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定する」という「嫡出推定」の規定がある。最新の科学鑑定による証明があっても、この原則の例外にはならないという考え方だ。

 だが判決は、5人の裁判官のうち「3対2」というぎりぎりの結論だった。補足意見で難しい判断だったことをにじませる裁判官もいた。父子関係はどう決まるべきなのか、十分に応えた判決といえるのか。大きな問いかけは残されたままだ。

 裁判は、夫以外の別の男性の子どもを出産した妻側が、「子どもの父親は別の男性」とする鑑定をもとに、夫と子の間に法律上の親子関係のないことの確認を求めて起こした。一審、二審はいずれも、妻側の訴えを認めていた。

 嫡出推定規定が設けられたのは、子どもの身分関係を早期に安定させ、保護を図るためとされる。判決は、生物学上の父子関係がないことが科学的証拠により明白であっても「子の身分関係の法的安定を保持する必要がなくなるわけではなく、嫡出推定が及ばなくなるとはいえない」などとした。

 ただ、今回のケースでは、夫婦関係は破綻し、子どもはすでに実の父親と一緒に暮らしている。2裁判官の反対意見は、こうした現状を重視した。実の父と生活しているのに法律上の父は別という状態が「自然な状態、安定した関係といえるのか」という反対意見には、一定の説得力がある。

 将来、子どもが実の父親との法律上の親子関係を望むこともあるだろう。この点に言及し、規定が社会の実情に沿わなくなっているなら「立法政策の問題として検討されるべきだ」とした補足意見もあった。何が子どもの幸せにつながるのか。考えるべき課題を突きつけた判決だ。

秘密の運用―欠陥は埋まらない

 果たしてこれが、国民の「知る権利」を守るための、実効的な「歯止め」となるのか。甚だ疑問だと言わざるを得ない。

 昨日、「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆)が開かれ、特定秘密保護法の指定や解除に関する運用基準の素案などが了承された。

 会議では、安倍首相が「秘密の取り扱いの客観性と透明性がより一層進展することが期待される」とあいさつ。渡辺氏は、報道・言論が不当に規制されぬよう細かく配慮されていると評価した。しかし、恣意(しい)的に運用される危険性は残ったままだ。

 特定秘密に当たる情報については、防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野で55項目に細目化した。だが、どの文書がどの項目に当てはまるかの解釈は各省庁に委ねられる。

 特定秘密の指定期間は「適切と考えられる最も短い期間」とされた。だがこれも各省庁の判断次第だ。また、秘密として指定された期間が30年以下の文書は、「歴史的公文書」に当たらなければ首相の同意を得て廃棄できる。なにが「歴史的」か、その定義は不明確だ。

 内閣府に新たに置かれる「独立公文書管理監」は、各省庁の大臣らに特定秘密の提出を求め、運用基準に合わないと判断すれば指定解除を要求できる。ただし、大臣らは「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす」ことを理由に、管理監への情報開示を拒否できる。

 振り返っておく。秘密法に対する国民の根強い批判は、何が秘密に当たるのかがわからず、秘密の範囲が際限なく広がる危険性があること、しかもそれが半永久的に公開されない可能性があるという点に向けられた。今回示された運用基準は、この批判に応えられていない。

 諮問会議は、政府に直接意見を言える唯一の外部機関だ。厳格な基準作りを期待する向きもあった。だが、そもそも法律の欠陥を、運用で根本的に埋め合わせるのは無理だ。「欠陥住宅」に住み続けるコツに知恵を絞るよりも、建て直す知恵をこそ絞るべきではないのか。

 政府は今後、運用基準などについてパブリックコメント(意見公募)を行い、それを踏まえて諮問会議で再度議論した後、閣議決定する方針だ。諮問会議の委員からは、パブコメへの真摯(しんし)な対応を求める意見が出たという。当然である。

 秘密法のパブコメに寄せられた意見の約8割は「反対」だったが、置き去りにされた。同じことを繰り返してはならない。

父子の関係―現代の家族に添う法を

 血のつながりはないことが科学的に証明されても、法的な父子の関係は取り消せない。

 DNA型鑑定で親子の血縁が手軽に分かるようになったなかでの、最高裁の判断だ。

 法的な親子には相続、扶養など様々な権利、義務が伴う。父子として築いてきた関係を血縁がないという一点で否定するべきではない。そうした最高裁の考え方は理解できる。

 一方、妻が夫以外の男性と子どもをもち、その後に離婚して3人で新生活を始めたケースでも、子の法的な父は前夫。血縁も育てる意思もある人が法的な父になれない結論に割り切れなさを感じる人もいるだろう。

 明治以来の民法で対応する無理も出ている。現代に適応した親子の法制度を検討すべきだ。

 産んだ母と子の親子関係は明らかにわかるが、父と子は血縁が必ずしもわからない。

 民法は産んだ人を母とし、母が妊娠時の夫を父とする嫡出(ちゃくしゅつ)推定という考え方をとってきた。夫婦の別居など外観上、妊娠の機会がありえないときに限り、その例外となる。

 嫡出推定のねらいは、父を早く確定して子の利益を守り、妻の不貞といった各家庭の事情を公にさせないことにあった。

 しかし、法的に夫婦であるというだけで父を決めるルールが、子や親の大きな負担となるケースも目立っている。

 例えば、暴力をふるう夫から逃げた妻が次のパートナーともうけた子の父は、戸籍の上では夫となる。夫が否認すれば父子関係は消えるが、その協力が期待できず、出生届を出すことをためらった結果、子が無戸籍の状態になるケースがある。

 離婚しても300日内に生まれた子の父は別れた夫となる。現実にはこれから離婚する夫婦が子をもうけるより、妻と新しいパートナーとの間の子であるケースがずっと多いだろう。

 婚姻届を出す前に相手との子を出産することはもはや珍しくないが、民法は結婚後200日を過ぎた後の出産でない場合は夫の子と推定しない。

 そうした場合は個別に救済するしくみがあるとはいえ、父だと推定する範囲を、現実に合うように見直すべきではないか。判決の補足意見も、立法の課題とするよう促している。

 父の側からは、出生を知ってから1年間は血縁がないことを理由に父であることを否認できる。子や母の側から父子関係がないとする訴えも、より広く認める検討が必要だろう。

 生まれた経緯で子を困らせないルールを考えたい。

DNA父子訴訟 民法の枠組み重視した最高裁

 DNA鑑定で血縁が否定された場合でも、法律上の父子関係は無効にできない。最高裁は判決でそう結論づけた。

 父子関係について定めた民法の枠組みを重視した司法判断である。

 妻が夫と婚姻中に、別の男性と交際して妊娠・出産した。DNA鑑定の結果、子の血縁上の父親が交際男性であると確認された。妻側が夫に対し、父子関係の取り消しを求めたのが今回の訴訟だ。

 民法には「妻が婚姻中に妊娠した子は、夫の子と推定する」という嫡出推定の規定がある。扶養義務を負う父親を法的に明確にし、子の保護を図るのが目的だ。

 最高裁は、「血縁関係がないことが明らかであっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要性はなくならない」と指摘した。嫡出推定の規定を厳格に適用する姿勢を示したものだ。

 従来の判例では、嫡出推定の例外は、妻の妊娠時に夫が服役したり、海外に長期滞在したりして、夫婦の性交渉がないことが明らかな場合に限定してきた。

 最高裁は今回、民法の趣旨を踏まえ、DNA鑑定では嫡出推定を覆せないと判断したと言える。

 1、2審は父子関係の取り消しを認めた。最高裁はこれと正反対の結論を導いたが、5人の裁判官のうち、2人が1、2審を支持するという際どい判決だった。

 今回のケースでは、子は血縁上の父と同居し、新たな環境で生活を送っている。

 「血縁関係のない人と法律上の父子関係を残すことは、子の成育にとって心理的、感情的な不安定要因を与えるのではないか」と疑問を投げかけた少数意見にも、うなずける面がある。

 別の少数意見は「嫡出推定の規定と、血縁関係を戸籍にも反映させたいと願う心情を調和させる必要がある」と言及している。

 そもそも、嫡出推定の規定は、明治時代に設けられ、DNA鑑定を想定していない。鑑定技術の進歩に法制度が追いつかず、社会の実情に沿わなくなっている。民法の嫡出推定について、議論すべき時期に来ているのではないか。

 近年、DNA鑑定の費用が安価になり、一般の人が利用しやすくなっている。一方で、参入業者の急増とともに、鑑定の精度に対する懸念も生じている。

 血縁関係がなくても、愛情を注ぐことで、親子の信頼関係は築けるという声も根強い。

 子どもの幸福を最優先に、制度の在り方を考えたい。

ベネッセ流出 逮捕を情報管理徹底の契機に

 子どもの個人情報が大量に流出した問題が、刑事事件に発展した。

 ベネッセコーポレーションの顧客情報を持ち出したとして、警視庁は、顧客データベース(DB)の管理を担当していたシステムエンジニアの男を不正競争防止法違反(営業秘密複製)容疑で逮捕した。

 男は、ベネッセから与えられたDB接続用IDを悪用していた。DBの保守管理担当の中で指導者的立場にもあった。

 顧客情報の買い取りを何度も名簿業者に持ちかけ、計250万円を得たと供述している。ギャンブルや生活費で数十万円の借金を抱えていたという。

 職務上の立場を利用した、極めて悪質な犯行である。

 不正競争防止法は、顧客名簿など「秘密として管理された有用情報で、公然とは知られていないもの」を「営業秘密」と定義し、不正な複製や開示を禁じている。

 2009年の改正で、個人が不正に利益を得る目的で漏洩した際にも適用されるようになった。警視庁は、男の行為が営業秘密の不正な複製に当たると判断した。

 問題発覚後、「子どもの個人情報が悪用されるのでは」といった不安が広がっている。警視庁が逮捕に踏み切ったのは、事態の深刻さを重視した結果だろう。

 同様の事件が繰り返されないよう、一罰百戒の意味合いもあるのではないか。

 犯行を許したベネッセの管理責任も重大である。

 漏洩された情報は、すでに名簿業者間で転売され、少なくとも十数社に流れたとみられる。

 不正競争防止法は、営業秘密に関し、不正な利益を得る目的で買い受けることを禁じている。

 問題なのは、名簿業者が不正に入手された情報であることを知らなければ、罪に問われない点だ。今回の事件でも、男から顧客情報を買い取った業者は、「不正に持ち出された情報とは知らなかった」と弁明しているという。

 名簿業者に関しては、所管官庁が明確でなく、数さえ把握されていないのが実情だ。

 個人情報保護法の規定も実効性に乏しい。5000人超の個人情報を扱う業者が、本人の同意なしに第三者へ提供することを禁じているが、名簿の表題などを店頭やホームページで公表すれば、同意を得なくても販売できる。

 事件を受け、名簿業者の規制強化を求める声が高まっている。政府は、不正に流出した個人情報の拡散防止策を検討すべきだ。

2014年7月17日木曜日

川内再稼働へ国は避難計画で責任果たせ

 原子力発電所の「稼働ゼロ」の解消へ前進といえるが、再稼働にはなお多くの課題が残っている。

 原子力規制委員会は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の安全審査について、事実上の合格とする「審査書案」を了承した。東京電力福島第1原発の事故を受けて昨年7月に定めた新規制基準に照らし、合格第1号となる。

 審査書案自体は妥当だろう。規制基準は重大事故を防ぐため最低限の対策を電力会社に求めた。九電は津波に備えて高さ10メートルの防護壁や非常用電源を設け、火災対策などもほぼ終えた。基準の大枠を満たしているといえる。

 だが審査合格は再稼働の必要条件のひとつにすぎない。再稼働には地元の自治体や住民の理解が欠かせない。安倍政権は安全性が確認できた原発の再稼働について「国が前に出て地元の理解を得る」とした。電力会社まかせにせず、国がやるべきことは多い。

 まず規制委の説明責任は重い。鹿児島県や地元市町は住民向けの説明会を予定している。そうした場に委員が出向き、審査経過を丁寧に説明するのは当然だ。

 政府も再稼働がなぜ必要か、国民に説明を尽くすべきだ。事故が起きることも想定し、被害を最小にする態勢づくりも国の責任だ。

 福島の事故後、原発30キロ圏内の自治体は防災計画が義務づけられ、川内では周辺9市町すべてが計画をつくった。だが高齢者や子どもらが安全、迅速に避難できるのかなど、課題が多い。

 全国16カ所の原発周辺の135市町村をみても、避難計画がまだない自治体が4割弱にのぼる。自治体には防災の専門知識をもつ職員がほとんどいない。国の中央防災会議が専門家を派遣するなど、政府がもっと支援すべきだ。

 規制委は川内のほか11原発17基の安全審査を進めている。川内原発は九電が地震や津波を厳しめに想定し、規制委は優先的に審査してきた。だがこれが模範になったといえるのか。

 審査が大詰めの段階で規制委が九電に再三、書類の出し直しを命じるなど、手際の悪さや時間がかかりすぎた印象はぬぐえない。

 審査体制を見直し、規制委と、事務局である原子力規制庁の役割分担を明確にする必要がある。審査官の増員も真剣に考えるときだ。原発の安全性をないがしろにすることなく、審査を迅速化することはできるはずだ。

安全第一のトラック免許に

 宅配便やコンビニエンスストアの商品配送に使われる小型の貨物自動車(トラック)について、運転免許を取る際の条件が緩和されることになった。ドライバー不足に悩む運送業界などの要望を受け、警察庁が方針を決めた。

 小型のトラックを対象にした新しい区分を作ったうえで、年齢制限を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げ、これまで普通免許の取得後「2年以上」必要だった運転経験は問わないことにする。来年の通常国会での、道路交通法改正を目指すという。

 物流の需要に応え、高校の新卒者など若い人たちが運送業界に就職しやすい仕組みにするという狙いは理解できる。

 だが、トラックは乗用車に比べて制動距離が長く、死角が多い。実際に死亡事故が起きる割合も高い。警察庁は道交法の改正に新たな安全対策を盛り込む計画だが、免許の条件緩和は安全面を十分考慮しながら進めるべきだ。

 いまの運転免許には、総重量が5トン未満までの「普通」、5トン以上11トン未満の「中型」、11トン以上の「大型」の3区分がある。

 以前は小型のトラックは5トン未満が多く、普通免許で運転できた。しかし保冷装置や昇降機を備える必要から5トンを超える車が増え、普通免許では乗れなくなっていた。このため業界などから、中型免許をすぐにとれない若手を採用しにくいとの声が出ていた。

 新しい制度では、普通免許で運転できる総重量を現行の5トン未満から3.5トン未満に引き下げ、中型との間に3.5トン以上7.5トン未満の新しい区分を作る。この区分では、普通免許があれば18歳でも免許が取れるようになる。

 警察庁は、新しい区分では実際のトラックを使った免許の講習義務付けなどを検討しているが、当然の措置といえる。

 運送業者が自ら行う安全対策も拡充する必要がある。運転手に対する研修や教育の強化、事故防止のための装備や運行管理システムの向上などを図るべきだ。

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