2014年8月31日日曜日

政治の基本インフラを整えよう

 永田町に再び政治の季節が巡ってきた。内閣改造のニュースが紙面をにぎわす。9月には新しい野党の旗揚げも予定される。どうすれば政治をよくできるのか。この機会に、政治の人材や資金のあり方について考えてみたい。

 改造内閣では大臣補佐官が新設される。すでにある首相補佐官と同じく、得意分野を持つ国会議員や有識者が閣僚の助言役を務める仕組みだ。行政における政治主導を強める狙いがある。

大幅に増えた若手議員
 改革の趣旨はもっともだが、すでに副大臣や政務官がいるではないか、と思う向きもあろう。役所に乗り込む政治家の頭数を増やしても、力不足な面々ばかりでは頼りにならない。

 最近の国会議員はどうも存在感に乏しいという声をよく聞く。政策は詳しいが、個性が感じられないなどの批判が多い。一つには、国政の現場に不慣れな若手の数が大幅に増えたからだろう。

 2012年の衆院選で初当選した自民党議員は119人。294人の所属議員の4割を占める。半世紀前の1963年の衆院選で当選した自民党議員に占める1年生は11%にすぎなかった。

 省庁に人脈を築き、党内に仲間をつくり、国会運営のこつを知らなければ、政治力を発揮することはできない。だが、これほど新人が多いと、周囲のふりを見習っていれば自然に政治の作法が身につくとはなるまい。素人集団になった国会議員をむやみに小粒呼ばわりするよりも、どうすればよくなるのかを考える方が有益だ。

 小選挙区制が導入されて20年がたち、選挙ごとに与野党の議席が大きく変動する。民意を集約する小選挙区制の機能は評価すべきだが、その結果生まれた老壮青のバランスのゆがみは政党が意図してただす必要がある。

 かつての国会議員は中小企業の経営者のような、酸いも甘いもかみ分けた独立独歩の人が多かった。最近は政官業の癒着への批判を意識し、与野党ともそつのない秀才タイプを擁立する例が目立つ。資金力に乏しく、落選して収入を絶たれると簡単に政治の道をあきらめる。

 それで新人公募を繰り返していてはいつまでもベテランに育っていかない。政党が落選候補を資金援助すればよいのだが、政党助成金は議員数に大きく左右されるので、負けた政党ほど資金難だ。

 政党助成金の分配を得票比率だけで決めるようにすれば、政党の財政は少し安定するようになる。公示直前に急に新人が名乗りを上げ、投票日がすぎるとどこかに消えてしまうというむなしい選挙が減るのではないだろうか。

 並行して政治献金のあり方も見直したい。今年は不明朗な借り入れをしていた政党党首が辞任するという出来事があった。いつ返すかが未定のカネを「ヤミ献金ではない」と言い張るのは、違法でないとしても脱法行為だ。

 献金なのか借り入れなのか。党の資金なのか個人の資金なのか。政治資金規正法の抜け穴はしっかりふさがねばならない。

 経団連が企業の政治献金への関与を復活させる方針だ。経済政策への発言力を高めたいというのは経済界として当然の要求だ。

 ただ、かつての献金取りまとめやあっせんが「企業ぐるみ選挙」などの批判を生み、中止になった経緯は振り返っておきたい。再開に際しては後ろ指をさされないように注意を払ってもらいたい。

高支持率にも落とし穴
 衆院が選挙制度を検討するために設けた第三者機関が近く初会合を開く。待ったなしの課題である1票の格差の是正策づくりが最優先だが、せっかく有識者が集うのだから、これら中長期的な政治課題でも幅広くアイデアを出してもらうのは有意義ではなかろうか。

 安倍内閣は発足から1年8カ月を経て、なお高い支持率を維持する。ただ、その中には「民主党政権よりまし」「首相がころころ代わるのは恥ずかしい」という消極的な支持も含まれていることを忘れてもらっては困る。

 日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査の政党支持率をみると、自民党が圧倒的に優勢なようで、第1党は「支持政党なし」だ。この塊が急進的な政治勢力にあおられて暴走し、落とし穴にはまる可能性だってある。

 政治の真の安定をもたらすには民主主義の基本的なインフラを整え、有権者の政治への信頼を失わせないことだ。政治の現状に文句ばかり言うのではなく、すぐれた政治家をみなで育てる心構えがあってよい。

長期金利低下―市場のひずみに警戒を

 日本でも米国でも欧州でも、低かった長期金利がここにきてさらに下がる傾向にある。

 今回の起点は欧州だ。14日に発表された4~6月期の経済成長率はユーロ圏全体でゼロ。最大の経済規模を持つドイツは5四半期ぶりのマイナス成長で、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は「必要なあらゆる手段をとる」と述べた。

 すでにマイナス金利を導入しているECBがさらに利下げをするか、大量の国債を買う量的緩和に踏み切るのではないか。そんな見方から、欧州の市場では国債が買われ、国債価格が上昇して長期金利は低下。指標である10年物国債の利回りがドイツでは初めて1%を割った。

 日米にも波及し、10年物国債の利回りが米国では2・3%程度と1年2カ月ぶり、日本では0・5%程度と1年4カ月ぶりの低水準だ。

 長期金利が下がれば、住宅ローンの金利や、企業の資金調達コストが下がる。国の借金の利払い負担も減る。しかし、喜んでばかりもいられない。今の市場はひずみが大きいからだ。

 長期金利は理屈のうえでは、今後の物価上昇率や経済成長率の見通し、財政悪化のリスクなどを反映して決まる。経済が成長して物価が上がれば金利は上がりやすいし、財政悪化も金利上昇の要因となる。現在の日本では、財政要因を除いても、長期金利は1%以上あるのが自然だという見方が強い。

 それが0・5%程度にとどまっているのは、日銀が「異次元」の金融緩和で抑え込んでいるからだ。財務省が年間に発行する国債の7割に相当する分を日銀が買っており、国債市場では国債が不足して価格は上昇、利回りは下がりがちだ。日銀がもつ国債の残高は3月末で201兆円。国債全体の2割を超え、保険会社を抜いて最大の保有者になっている。

 長期金利の水準が経済の実体とかけ離れ続ければ、適正な水準に戻そうとするマグマが市場にたまる。一方で、日銀の存在があまりに巨大で、政策を変えようとすれば国債暴落など極端な動きを招きかねない。

 日銀は、2%の物価上昇率という目標に届いておらず、異次元緩和の「出口」を語るのは時期尚早という立場だ。しかし、沈黙を続ければ市場のマグマはたまる一方だ。慎重を期すことは当然の前提としても、日銀は、異次元緩和をどう終えるつもりなのか、先々の考え方について、市場との対話をそろそろ始めてはどうだろう。

 沈黙にもリスクは伴う。

海の幸の保護―多様な手段で効果的に

 保護が必要な魚は、国際問題になっているクロマグロやニホンウナギだけではない。

 水産庁はこの秋、太平洋でのマサバ漁で、個々の漁業者に漁獲量を割り当てる「個別割り当て」制度を試験的に始める。

 日本では、マサバを含む7魚種について、年間漁獲量の上限を設ける「漁獲可能量」制度を実施してきた。資源を守る観点から許される漁獲量を科学的に推計し、決める。

 ただ、総枠だけでは「早く取った者勝ち」になりやすい。漁業者の不満を抑え、市況をにらみながら計画的な操業を促すのが、個別割り当ての狙いだ。

 漁業関係者には、役所がかかわる公的管理の強化への反発が根強い。地域や漁協ごとに自主的に操業を規制し、魚を守ってきた例が少なくないからだ。規制がどんどん強化されると減船や廃業に追い込まれかねない、との不安も背景にある。

 実際、日本型の自主管理について、「合意があるからこそ守られる」「担当職員が必要な公的管理より安上がり」といった利点が指摘されている。とはいえ、漁協中心の管理では、ときどきの豊漁・不漁で漁獲上限が決められるなど、科学的な根拠を欠きがちなのも事実だ。

 自主規制と公的管理をうまく組み合わせ、効率的に水産資源を守る視点が重要だろう。

 まずは、マサバの個別割り当てを通じてその利点と問題点を見極めたい。その上で、日本海北部でのスケトウダラ漁や、関係府県が20に及ぶトラフグ漁など、マサバと同様に保護の強化が必要な魚種でどんな対策をとるか、早急に検討すべきだ。

 限られた「海の幸」を保護しつつ食べ、漁業者も安定した所得を得るために、漁獲量の制限は必要な対策のごく一部にすぎないことも忘れてはなるまい。

 藻場の整備など魚が住みやすい環境を整える。さまざまな分野の知見を生かして養殖を強化する。漁業者は魚を取るだけでなく、消費者が手軽に食べられるよう加工し、販売まで手がける「6次産業化」によって所得を増やす。課題は山積みだ。

 太平洋でのクロマグロ漁では、最大の消費国であるわが国が30キロ未満の未成魚の漁獲量をかつての半分に減らすことを決め、9月の国際会議で同様の対策を呼びかける。「絶滅危惧種」に指定されたニホンウナギは将来、国際的な商取引が禁止されかねない状況だ。

 後手に回ると対策は大がかりになり、手遅れになる恐れも高まる。食卓を守るためにも早め早めに動くことが大切だ。

福島・吉田調書 「撤退」も命令違反もなかった

 東京電力福島第一原子力発電所事故を巡る「吉田調書」の全容が明らかになった。

 政府の事故調査・検証委員会が、吉田昌郎元所長から生前に聴取した証言の記録である。

 事実関係のほとんどは、政府事故調の報告書に反映されている。とはいえ、事故対応に当たった作業員の苦労や、吉田氏の心情を生々しく伝える貴重な資料だ。

 津波により、原発冷却に必要な電源が失われた。原子炉に注水し、圧力も抜かねばならなかった。

 事態が切迫する中、当時の菅首相ら官邸サイドや、東電本店から、注水作業などを催促する指示が矢継ぎ早に来た。

 「効果的なレスキュー(支援)が何もないという、ものすごい恨みつらみが残っている」と、吉田氏は不満を口にしている。

 現場の状況を踏まえぬ菅氏らの過剰介入が、作業を遅らせ、士気を損なった。重い教訓である。

 菅氏が、東電の「全面撤退」を阻止したと主張している点についても、吉田氏は「誰が撤退なんて話をしているんだと言いたいぐらいだ」と反発し、「現場は逃げていない」とも述べている。

 吉田調書を入手したとする朝日新聞は、5月20日付朝刊で、作業員が吉田所長の命令に反し、第二原発に撤退したと報じている。

 だが、調書を読む限り、吉田氏は、部下が指示に違反したとは認識していない。

 吉田氏は、「2F(第二原発)に行けとは言っていない」が、指示が伝わる過程で解釈が変わったと説明している。

 その上で、作業に必要な要員以外は「2Fに行った方がはるかに正しい」と、退避を選択した部下の判断を評価した。現場は、放射線量が高く危険な状況だった。

 退避の経緯は、政府事故調の報告書にも詳述されている。朝日新聞の報道内容は解せない。

 吉田氏は「文脈等をふまえなくては誤解を生む」と、調書の非公開を求めていた。しかし、朝日新聞の報道などを受け、証言は独り歩きを始めている。政府は「かえって本人の遺志に反する」として、近く公開する方針だ。

 作業員の奮闘は海外でも称賛されてきた。だが、朝日新聞の「撤退」報道に基づき、米紙が「作業員が命令に反して逃げた」と報じるなど誤解が広がっている。

 吉田氏は、危険を顧みぬ作業員の事故対応に、「本当に感動した」と語っている。彼らの名誉のためにも公開は妥当な措置である。

STAP検証 実験を続ける意味があるのか

 STAP細胞の存在は限りなく疑わしくなったと言えよう。

 理化学研究所は、STAP細胞の検証実験で、存在の兆候すらつかめないとする中間報告を発表した。

 小保方晴子ユニットリーダーが主著者となった論文の記載通り、マウスの脾臓(ひぞう)の細胞を弱酸性の溶液に浸して刺激を与え、多能性を持たせようとしたが、22回の実験は、いずれも失敗した。

 刺激の方法などを変え、来年3月まで実験を続けるという。論文とは異なる手法も試す。

 これとは別に、小保方氏にも、11月末まで実験させる。

 理研は、細胞の有無に決着をつけ、国民への説明責任を果たすと強調している。

 疑問の多い判断である。検証実験は4月に始まったが、7月に論文が撤回され、研究は白紙に戻った。STAP細胞は、科学的に「存在しない」状況になった。

 こうした中で、公金を投じて検証実験を続ける意味はあるのか。理研が実施しているのは、「悪魔の証明」と呼ばれる不存在の証明実験とも言えるだろう。

 例えば、雪男を捕らえれば、その存在を証明できる。だが、存在しないことを証明するには、世界中をしらみ潰しに探す必要がある。日本分子生物学会が、実験凍結を求めたのは、もっともだ。

 STAP論文の不正で、理研の信頼は、大きく傷ついた。理研が今、取り組むべきは、研究不正を防ぐ対策の徹底である。

 理研は、外部有識者による改革委員会の提言を基に、組織改革の行動計画をまとめた。STAP研究の舞台となった発生・再生科学総合研究センターの規模を半分に縮小し、体制を一新する。

 STAP細胞の疑惑が2月に浮上して以降、センターの研究活動に悪影響が及んでいる。STAP細胞論文の主要著者である笹井芳樹副センター長の自殺という痛ましい出来事もあった。

 センターはこれまで、再生医療研究の主要拠点としての役割を担ってきた。今後も、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜細胞を移植する世界初の臨床研究が予定されている。

 組織のスリム化により、人事などの透明性を向上させ、科学者が研究に集中できる環境を築いてもらいたい。

 理研本部は、ガバナンス(組織統治)強化のため、経営戦略会議の新設を決めたが、人選はこれからだ。外部の目を生かし、危機管理能力を高めねばならない。

2014年8月30日土曜日

民法の大改正を機に消費者も自立を

 民法のうち個人や企業の取引規則を包括的に定めている債権法について、法制審議会(法相の諮問機関)が改正原案をまとめた。1896年(明治29年)の制定から初の抜本改正となる。

 約200項目に及ぶ大改正は、契約のルールを社会の変化に沿ったものにし、消費活動が円滑に行われるようにすることを目指している。消費社会の成熟へ新民法を十分に生かしたい。

 改正原案では、支払いの遅れた債務の返済などに使われる法定利率を年5%から年3%に下げ、さらに定期的に見直す。一般の金利が市場実勢で変わるようになって久しい。社会の変化に合わせた法の現代化という意味では当然の改正で、遅すぎるくらいだ。

 お金の支払いに関する時効の見直しも、現代化の観点で違和感はない。現在は飲食代は1年、弁護士費用は2年といった具合に消滅期限が異なっているが、これを一律5年にする。個別の消滅時効は職業が多様化している現実にうまく対応できず、そもそも合理性を見いだしにくい。

 今回の改正作業は法の現代化とともに、金銭や物のやりとりにかかわる個人の保護も強く意識している。代表的なのは連帯保証に関する規定だ。

 企業が融資を受ける際、経営者の家族などが気軽に連帯保証人になり、多額の債務を負ってしまうことがある。こうした事態を防ぐため改正案は、家族などが保証人を引き受けるにあたっては公証人が立ち会って自発的な意思を確認することとした。

 保護の強化に個人の側が安心したのでは、効果は相殺される。むしろ法律の改正を、融資の仕組みを学ぶなど自助努力を強めていくきっかけにしたい。

 ネット上の売買などでよく使われる約款に関しては、買い手が著しく不利になる項目は無効とするといった改正案が検討された。これに対し経済界から適用範囲の不明確さを指摘する声も出たため、法制審は結論を先送りした。来年2月の答申にむけ、改めて細部を詰める運びだ。

 ひとを欺くような複雑な約款が排除されれば、消費者の保護に役立つ。加えて、約款を丁寧に読んで自らトラブルを回避できるような賢い消費者が増えれば、ネット取引のいっそうの拡大につながる。民法の改正は改めて、消費者に自立を促している。

地方創生でバラマキは慎め

 2015年度予算に向けた各省庁の概算要求が出そろった。総額は101兆円台に達し、過去最大となった。

 日本の財政状態は先進国で最悪だ。財務省は不要不急の事業がないかを厳しく精査し、思い切って歳出を抑制すべきだ。

 まず問われるのは、最大の政策経費である社会保障費の伸びを抑えられるかどうかだ。厚生労働省の概算要求は31兆円あまり。高齢者の増加にともなう自然増が8000億円を超え、要求額は過去最大となった。

 消費税率を予定通り来年10月に10%に引き上げる場合、厚労省は今回の要求額とは別に、医療、介護、子育て支援などの追加費用を要求するという。

 社会保障と税の一体改革ですでに決まっている政策が多いとはいえ、社会保障費全体の伸びに歯止めをかけなければ、財政再建はさらに遠のいてしまう。

 価格の安い後発医薬品を拡大したり、医薬品の公定価格である薬価を毎年改定したりするなど、歳出の抑制につながる手立てはすべて講じるべきだ。介護報酬の安易な大盤振る舞いも論外だ。

 成長戦略を後押しするための「優先課題推進枠」では、「地方」や「地域」の冠をつけた地方創生関連の要求が目につく。

 たとえば、国土交通省は「道路ネットワークによる地域・拠点間の連携確保」、総務省は「地域の元気創造プラン」、厚労省は「地域しごと創生プラン」といった予算を要求した。

 だが、従来型の公共事業や補助金の要求が、看板だけかえて紛れ込んでいるようにみえる。テレワークの推進など各省庁の要求の重複も目立つ。費用対効果の高い事業に重点配分しないと、単なるバラマキに終わりかねない。

 人手不足という供給制約に直面する地方に、予算で一時的に需要をつくっても効果はすぐにはげ落ちるだろう。真の地方創生につながるか、個々の要求を入念に査定することが欠かせない。

予算の編成―「地方創生」に要る視点

 来年度の国の予算編成で省庁の概算要求が出そろった。

 総額が初めて100兆円を超えた。今後、今年度の補正予算が検討される可能性をにらんで最大限要求しておく。そんな姿勢がありありだ。

 政権が重視するテーマに各省庁が殺到するのも相変わらず。今回は「地方創生」で顕著だ。

 街の中心部に施設を集めるコンパクトシティーの推進や、都市間・拠点間を結ぶ道路などのネットワーク整備(国土交通省)。中心都市と近隣市町村、集落間の連携促進や地域密着型企業の立ち上げ支援(総務省)。中心市街地の再興を核とするコンパクトシティー事業や地域発ベンチャー企業の創出(経済産業省)……。

 「看板の掛け替え」を含め、似たような施策が乱立する。

 少子高齢化が加速し、東京など大都市圏への人口集中も止まらない中で、地方の街をどう維持し、活性化していくかは大きな課題だ。しかし、国主導で予算をばらまいても効果は乏しく、財政を悪化させるだけだ。

 発想を根本的に転換することが必要ではないか。

 例えば、コンパクトシティーの整備と言っても、①住まいの移転と集約②地場産業の再編・振興③医療や福祉、教育施設の再配置④道路や上下水道などのインフラの更新・縮小と、あらゆる分野にまたがる。自治体が住民と徹底的に議論し、納得を得ながら進めていくしかない、息の長い取り組みである。

 国が補助金・交付金のメニューをてんこ盛りに並べ、そこから自治体が選ぶ仕組みでは、「お金をたくさんもらえる施策」へと傾き、短期志向になるのも無理はない。支給には省庁が細かい条件をつけており、自治体が求める支援とズレが生じがちでもある。

 国と地方が財政の厳しさを共有し、「ハード(施設)よりもソフト対策」の基本を確認したうえで、まずは各自治体が対策を突き詰める。国は、自由に使える予算でそれを後押しする。そんな仕組みに切り替えていくべきではないか。

 国にも「縦割り」への反省はあるようだ。自治体などに公募して全国から地域活性化への取り組みを30余り選び、省庁横断のチームで支援を始めた。

 せっかくの試みが、補助金申請手続きのわずらわしさを減らすのにとどまっては意味がない。国と地方の関係を見直す機会にできるかどうか。

 「地方創生」は国のあり方も問うことを自覚し、予算編成や制度改正を進めてほしい。

感染症対策―国際的取り組み強化を

 西アフリカでのエボラ出血熱の拡大が懸念されるなか、日本ではデング熱の国内感染が約70年ぶりに確認された。

 デング熱の感染場所と疑われている東京・代々木公園では、ウイルスを運びかねない蚊が駆除された。

 警戒が必要な状態だが、正しく対処していけば、むやみにおびえることはない。

 デング熱は人から人に直接感染することはない。38度を超す発熱や関節痛などの症状が出ても、早く適切に治療すれば命にかかわることはまれだ。

 エボラ出血熱はまだ、感染はアフリカに限られている。

 とはいえ、これまでは熱帯・亜熱帯の病気と思われていた感染症が、温帯の先進国に入り込むリスクは日々高まっている。

 デング熱はその典型である。

 世界保健機関(WHO)によると、1970年以前に重症型のデング熱が流行したのは9カ国だけだったが、今は中南米、東南アジア、西太平洋を中心に100カ国以上で流行している。感染者は激増し、年に5千万~1億人とも推計される。

 意外なことに、デング熱は都市部の病気だ。ウイルスを媒介する蚊の行動範囲は半径50メートル程度と狭い。ウイルスをもつ人の血を吸った後、別の人を刺して初めて感染が広がる。

 途上国で都市への人口集中が進んだことで、爆発的に感染が広がる素地ができたのである。

 主に媒介する蚊は越冬できないが、地球温暖化と暖房の整備で生息域を広げ、人や商品とともに温帯へやってきている。

 感染者が多い国々の、特に都市部で蚊を駆除することが最も有効な対策になる。

 一方、エボラ出血熱は、ジャングルの開発と都市化が進んだため、ウイルスと人の接触する機会が増え、流行の規模が大きくなったと考えられている。

 WHOは懸命に感染封じ込めを図っているが、現在3千人とされる感染者数が最悪の場合2万人を超す恐れもある。

 現地に赴いた日本人医師によると、医療従事者を指導できる治療チームの派遣とともに、防護具や遺体を入れる袋など消耗品の補充が必要だという。

 新型インフルエンザを含め、こうした感染症は日本で守りを固めるだけでは根本解決にはなりえない。対岸の火事のように考えず、感染拡大を監視し、できるだけ小規模なうちに適切な方法で火消しする国際的な態勢強化が欠かせない。

 日本はWHO分担金で米国に次ぐ第2位だ。感染症対策により積極的に関与していきたい。

概算要求 「選択と集中」で歳出の抑制を

 国の借金が1000兆円超という厳しい財政事情を踏まえ、歳出の膨張に歯止めをかけなければならない。

 2015年度予算の概算要求総額が、初めて100兆円を超えた。14年度当初予算の96兆円を大きく上回る規模である。

 20年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字化する政府の目標は、消費増税などを見込んでも達成が難しい状況だ。財務省には、より厳しい査定が求められる。

 政府は、公共事業などの「裁量的経費」の要求上限を、14年度予算より10%低い水準に抑えるルールを設けた。

 一方で、成長戦略の推進など安倍政権の優先課題に重点配分するために設けた4兆円の特別枠に、上限いっぱいの要求が集まり、総額は膨らんだ。

 特別枠には、地方活性化などを名目とした道路建設など、旧来型の要求も目立つ。思い切った絞り込みが求められる。

 別々の府省から類似の施策が要求されるケースもある。総務省と国土交通省はそれぞれ、商業施設や病院などを集約する地方の拠点都市を設ける事業を要求した。

 財務省は査定を通じ、各府省や特定の政策課題のために置かれた本部などに調整を求め、重複の解消を図る必要がある。

 特別枠には、効果に疑問のある施策も紛れ込んでいるようだ。

 厚生労働省は女性の活用計画を立てた企業に20万円程度の助成金を支給する制度の創設を求めた。広く薄くお金をばらまく仕組みでどんな効果があるのだろうか。

 概算要求を分野別に見ると、公共事業の大幅な伸びが目立つ。

 むろん、老朽化した道路や橋の改修、地震・津波や土砂災害に備える防災対策など、国民の命や財産を守る投資は大事だ。

 ただ、人手不足による人件費の上昇や資材費の高騰のあおりを受け、公共事業のコストが増大している。不要不急の事業を大胆に削減する「選択と集中」の重要性は一段と高まっている。

 社会保障費の拡大にもブレーキがかからない。厚労省の要求額は高齢化などによる1兆円近い自然増を含め約32兆円に上った。

 歳出の3分の1に迫る社会保障費を抑制できるかどうかが、財政健全化のカギを握る。

 割安な後発医薬品の利用拡大など地道な取り組みに加えて、医療や年金の給付削減など、痛みを伴う大胆な改革も避けられまい。社会保障制度改革推進会議などの議論を加速すべきだ。

ウクライナ情勢 ロシアは侵入を直ちにやめよ

 ロシア軍の兵士1000人以上が、ウクライナ領内に侵入していたことが判明した。

 クリミア半島編入に続く露骨な介入である。隣国の主権を踏みにじる暴挙は、断じて容認できない。

 北大西洋条約機構(NATO)は、侵入の「動かぬ証拠」として、ウクライナ領内を移動する露軍の自走砲の隊列をとらえた衛星写真を公開した。撮影日は、今月21日だとしている。

 国連安全保障理事会が緊急会合を開き、欧米各国の代表がロシアを一斉に批判した。米国のパワー大使は会合で「ロシアはウソばかりついてきた」と指摘した。

 オバマ米大統領が、「暴力の責任はロシアにある」と強調し、制裁強化を示唆したのは当然だ。菅官房長官も、「G7(先進7か国)で連携しながら適切に対応していきたい」と述べた。

 それでもロシアは、ウクライナ侵入の情報について「でたらめだ」などと否定し続けている。

 国際社会は協調してロシアに圧力をかけ、ウクライナへの不当な介入をやめさせる必要がある。

 ロシアは、ウクライナ東部で親ロシア派武装集団に加勢しているロシア人は、軍に属さない「義勇兵」だと説明してきた。

 ところが、ロシア軍の兵士が2週間以上前から戦闘に加担していたことも明らかになった。

 ロシアの人権委員会のメンバーは、ウクライナ東部ドネツク州で13日、100人以上のロシア兵がウクライナ軍の攻撃で死亡したと証言した。弾薬運搬中のトラックの車列が攻撃されたという。

 ロシア軍がウクライナで大規模に活動していたことになる。ウクライナ東部の戦闘は「ウクライナ内部の危機だ」とするプーチン大統領の主張と、真っ向から矛盾する事実と言える。

 プーチン氏は26日、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、「いかなる協力についても話し合う」と述べた。笑顔で握手を交わす裏で、着々と軍事介入を進める。そんな“二枚舌外交”が長く通用するわけもない。

 ロシア大統領府直属の人権委から話が漏れたのも、情報統制がとれなくなってきた表れだろう。

 欧州連合(EU)は30日の首脳会議で、ロシアに対する追加の経済制裁を協議する方針だ。

 天然ガスをはじめエネルギーをロシアに依存する欧州が弱腰の姿勢を見せれば、ロシアをますます増長させよう。毅然(きぜん)とした対応が求められる。

2014年8月29日金曜日

アジア貿易自由化のエンジン止めるな

 アジア太平洋地域の16カ国で貿易自由化を目指す東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の閣僚会合は、関税をなくす品目の比率で具体的な目標設定に失敗し、自由化を巡る各国の姿勢の違いが浮き彫りになった。貿易と投資の拡大で地域の成長力を一段と高めるはずが、その道筋が見えない。

 自由化の機運が世界的に後退しているのが心配である。2008年のリーマン・ショック後に貿易保護主義が台頭しかけたが、これを抑え込んで自由貿易の輪が再び広がったのは、世界各国が長期停滞の危機感を抱いたからだ。

 その自由化の原動力がエンストを起こしている。問題の根底にあるのは、米国と日本が主導するはずの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の不調である。

 これまでのところ、さまざまな地域の枠組みが競い合う形で、世界全体で自由化の動きが高まってきた。この潮流の中心にあり、最も馬力が大きいエンジンがTPPである。だが、日米が関税交渉でもたついている間に、肝心のTPPの推進力が衰えつつある。

 参加国がさらに多いRCEPはただでさえ意思の統一が難しい。日米の経済連携に対抗する意識がある中国や、国内産業の保護を優先したいインドは、TPPの停滞を横目に「急ぐことはない」と判断するだろう。わずか数年前の危機感を忘れ、先送り気分の連鎖が起きていないか心配だ。

 TPP交渉の決着を遅らせている日米両国の責任は大きい。オバマ政権は国内での政治指導力の低下が著しく、議会や産業界の保護主義勢力や対外強硬論を抑えられない。日本政府は農業市場を守る防戦一色で、膠着状態を破る構想や提案を練り出す力に欠ける。

 これでは東アジア各国だけでなく、世界がついてこない。世界経済を望ましい方向に導くという大局的な見地に立ち、日米の政権が国内でどれだけ政治リスクをとって改革を実行できるか。自由貿易の前途は、両国の指導力にかかっていると肝に銘じるべきだ。

 RCEPには、ラオスやカンボジアなど発展が遅れるアジアの国々を広く包括する長所がある。半面、自由化の水準が高くないため「ぬるま湯」となる恐れもある。ここで構想が頓挫すれば、東アジア域内で保護主義に傾く国も増えるだろう。放置すれば状況は悪化する。今こそ自由貿易のエンジンを再起動しなければならない。

社会起業家を育てよう

 地域などが抱える社会問題をビジネス的な手法で解決しようと、会社や事業を立ち上げる動きが日本でも広がり始めた。担い手となる人々を社会起業家と呼ぶ。国や自治体に比べ小回りがきき、効果的で斬新なアイデアを試しやすいのが特徴だ。こうした人々を支援し育てる仕組みを工夫したい。

 社会起業家について法律などの明確な定義はまだない。NPO法人では働く親に代わり風邪などの子供を随時預かるフローレンスや高校生に大学生との対話の場を提供するカタリバ、株式会社では低価格で簡易な健康診断を受けられるケアプロなどがある。

 多くは売り上げと寄付で事業を回す。子育て支援、まちづくり、高齢化対策、教育などの分野で成功例が増えつつある。大手流通業のショッピングモールがケアプロの検査コーナーを設けるなど、企業との協力も進みつつある。

 英国では「小さな政府」を目指すのと並行し社会企業局を新設、削減される公共サービスの新たな担い手として社会起業家の育成を始めた。資金調達に有利な新しい法人格も創設、休眠口座の資金もこの分野の投資に振り向けた。

 6年前の調査では英国の社会的企業は5万に増え、市場規模も日本円換算で5兆円に育った。受刑者が社会復帰しやすい訓練を提供したり、犯罪多発地区の青少年に音楽活動の場を与え非行防止につなげたりするなど、斬新な取り組みが目立つ。

 イタリアでも社会的協同組合という新制度ができ、福祉や農業などの地域密着ビジネスを展開する。米ハーバード大学はビジネススクール内に社会起業家育成コースを設け、韓国は2007年に社会的企業育成法を制定した。

 高齢化や格差、地方の衰退など従来の政策では解決できない課題が増える。国も地方も財政は厳しく、ばらまき的な福祉も難しい。限りある資金や人を有効に使い、困っている人や地域を効果的に救う。そんな社会起業家の育成に、日本も力を入れてはどうか。

A級戦犯法要―聞きたい首相の歴史観

 「私人としてのメッセージ」で済む話ではないだろう。

 安倍首相が今年4月、A級、BC級戦犯として処刑された元日本軍人の追悼法要に、自民党総裁名で哀悼メッセージを書面で送っていた。

 「今日の平和と繁栄のため、自らの魂を賭して祖国の礎となられた昭和殉職者の御霊に謹んで哀悼の誠を捧げる」

 送付先は、高野山真言宗の奥の院(和歌山県)にある「昭和殉難者法務死追悼碑」の法要。碑は、連合国による戦犯処罰を「歴史上世界に例を見ない過酷で報復的裁判」とし、戦犯の名誉回復と追悼を目的に20年前に建立された。名前を刻まれている人の中には、東条英機元首相らA級戦犯14人が含まれている。首相は昨年と04年の年次法要にも、自民党総裁、幹事長の役職名で書面を送付していた。

 菅官房長官は会見で、内閣総理大臣としてではなく、私人としての行為との認識を示した。その上で、「A級戦犯については、極東国際軍事裁判所(東京裁判)において、被告人が平和に対する罪を犯したとして有罪判決を受けたことは事実」「我が国はサンフランシスコ平和(講和)条約で同裁判所の裁判を受諾している」と述べた。

 戦後69年。このような端的な歴史的事実を、いまだに繰り返し国内外に向けて表明しなければならないとは情けない。

 日本は、東京裁判の判決を受け入れることによって主権を回復し、国際社会に復帰した。同時に、国内的には、戦争責任を戦争指導者たるA級戦犯に負わせる形で戦後の歩みを始めた。

 連合国による裁判を「報復」と位置づけ、戦犯として処刑された全員を「昭和殉難者」とする法要にメッセージを送る首相の行為は、国際社会との約束をないがしろにしようとしていると受け取られても仕方ない。いや、何よりも、戦争指導者を「殉難者」とすることは、日本人として受け入れがたい。戦後日本が地道に積み上げてきたものを、いかに深く傷つけているか。自覚すべきである。

 首相の口からぜひ聞きたい。

 多大なる犠牲を生み出し、日本を破滅へと導いた戦争指導者が「祖国の礎」であるとは、いったいいかなる意味なのか。あの戦争の責任は、誰がどう取るべきだったと考えているのか。

 「英霊」「御霊」などの言葉遣いでものごとをあいまいにするのはやめ、「私人」といった使い分けを排して、「魂を賭して」堂々と、自らの歴史観を語ってほしい。

 首相には、その責任がある。

リビアの混乱―国造りに国際関与を

 北アフリカの産油国リビアが内戦状態に陥っている。

 国内の政治勢力と結びついた民兵組織同士の戦闘が激化し、日米欧の大使館も退去する事態になっている。

 混乱の悪化は、中東全体の治安に波紋を広げる。地中海を隔てた欧州にはすでに多くの難民が到着している。石油価格や国際経済への波及も懸念される。

 事態の打開へ国際社会は行動を急がねばならない。何より、各勢力の自重を促し、対話の機運を創出しなければならない。とりわけ周辺諸国の協力と、米国や国連、欧州連合(EU)の本格関与が不可欠である。

 中東情勢は、エネルギーの供給面などを通じて日本とも深く結びついている。調停役、助言役として、日本も積極的にかかわる道を探るべきだ。

 リビアを40年以上支配してきたカダフィ独裁政権は、2011年の政変で崩壊した。民主的な国家の誕生が期待されたが、実際には、民族系とイスラム系の両勢力の対立が悪化した。この夏には首都で戦闘が拡大し、国際空港も閉鎖された。

 長い独裁下で育つ土壌すらなかった民主政治を基礎から築かねばならない国だ。安定した統一国家づくりへ向けて、各勢力が結集する自覚をもつよう時間をかけて促すほかない。

 欧米は軍事力も投じて政変にテコ入れしたが、その後の支援は明らかに不足した。

 12年秋には米領事館が襲われ、大使らが死亡した。そこまで事態は悪化していたが、以降も混乱に巻き込まれるのを恐れて関与を控え、現地を争うに任せてしまった。その結果、高性能の兵器が拡散し、イスラム過激派の伸長を招いた。

 同じような混迷ぶりは、「アラブの春」を経た中東の国々に多かれ少なかれ共通する。欧米は後手続きの政策を改め、もっと積極的にかかわるべきだ。

 リビアが破綻(はたん)国家となると、その影響は計り知れない。米国や国連、EUは、湾岸諸国やトルコなどとも協力して、沈静化を急ぐ必要がある。過激派を抑えつつ、正式な政府を樹立させる道筋を探らねばならない。

 各部族や勢力間の利益分配を民主的な政治手続きで決められるようになるまでには、長く険しい道のりが予想される。長期的には、市民社会を成熟させることなしに、安定化と民主主義の定着は実現しないだろう。

 冷戦終結後、欧州各国は旧東欧や旧ソ連諸国に対して、様々な形で民主化支援に尽力した。同様の息の長い、地道な取り組みが中東にも求められる。

日本海の津波 短時間での襲来に備えたい

 日本海側では、揺れはさほどでなくとも、大きな津波が来る。不意打ちされぬよう、着実な防災対策が求められる。

 日本海の海底で発生する様々な地震で、どのような津波が襲来するか。政府が、想定すべき津波の最大規模や到達時間を初めて試算し、発表した。

 人口の多い平地部では、北海道から福井県までの沿岸が4~12メートル台、京都府から九州北部が3~4メートル台の津波に襲われる可能性がある。沿岸部全体では、北海道で20メートルを超える地点がある。

 ただ、これらは、あくまで現段階での目安に過ぎない。まだ見つかっていない断層で発生する津波もあろう。警戒は怠れない。

 試算は、東日本大震災を踏まえて2011年に制定された「津波防災地域づくりに関する法律」に基づく。沿岸自治体に津波対策の強化を義務づけている。

 太平洋側では、南海トラフ地震などを念頭に、各自治体が巨大津波対策を進めている。これに対し、広大な震源域がない日本海側では、関係する16道府県の取り組みにばらつきがあるのが現状だ。

 今回、政府が津波の試算をまとめたことは、関係自治体の対策を促す上で意義がある。

 対策を講じる際に重要なのは、日本海側の地震、津波の特性を十分に考慮することだ。

 日本海の海底断層は沿岸に近く、浅い位置にある。津波が大きくなりやすく、地震発生から沿岸に達するまでの時間も短い。試算によると、到達時間が1分以内という地域が少なくない。迅速な避難が何より大切になる。

 被害軽減のため、地域の実情に合わせたハザードマップを作成すべきだ。避難路の整備や訓練など、ハード、ソフト両面から実践的な取り組みを進めたい。

 北海道から秋田県の沖で発生した津波が、海底の地形の影響を受けて拡散し、中国地方まで到来する可能性も指摘された。

 日本沿岸の津波が大陸沿岸で跳ね返り、繰り返し被災地に押し寄せる恐れもあるという。いったん津波が引いても、気を緩められないということだ。

 原子力発電所の安全対策も重要である。日本海沿岸には、福井、新潟両県のように、原発が集中立地している地域が多い。

 電力会社は東日本大震災を教訓に、既に政府試算より大きな津波を想定し、防潮堤の建設や、浸水時の電源確保などの対策を講じている。津波の脅威を考えれば、万全の備えが欠かせない。

ガザ停戦合意 楽観できぬ和平実現への道

 恒久的停戦を実現し、和平への道を探らなければならない。

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム主義組織ハマスとイスラエルが、50日の戦闘の末、ようやく無期限の停戦に合意した。

 ガザ地区の死者は2100人を超え、その大半が女性や子供など一般市民だった。双方は、停戦維持を最優先すべきである。

 7月上旬の戦闘開始以来、エジプトの仲介による時限付きの停戦が何度か発効したが、いずれも長続きしなかった。

 無期限停戦が成立したのは、イスラエルによって軍事部門の幹部3人を暗殺されたハマスが、危機感を強めたためだ。イスラエルにも、犠牲者の増加でネタニヤフ政権の支持率が急落し、早期収拾を迫られていた事情がある。

 今回の合意を受け、イスラエルは、2007年のハマスによるガザ制圧以来続けてきた経済封鎖を緩和した。人道支援物資や、復旧に必要な建築資材の搬入なども認められることになった。

 国連の世界食糧計画(WFP)は食糧援助を開始している。

 ただ、復旧への道は険しい。

 ガザは、前例のない規模で破壊された。失業率が50%に達するなど経済も破綻状態で、60億ドルと見込まれる復旧費用を自力で調達するのは困難だ。国際社会による支援が課題となろう。

 欧米やエジプトには、イスラエル打倒を掲げるハマスに多額の援助をすると、戦力増強に転用されかねないと懸念する声がある。

 実際にハマスは、イスラエルとの衝突が一段落する度に、ロケット弾などの武器を補充し、攻撃を再開してきた。

 国際的な支援の枠組みを作るには、ハマスと暫定統一政府を組むパレスチナ自治政府が支援の窓口となり、援助物資や資金の流れの透明性を確保することが欠かせまい。アッバス自治政府議長の政治的指導力が試される。

 一方、恒久的な停戦に向けた協議は、エジプトを仲介役とした間接交渉の形で、1か月以内に始められることになった。着実な交渉開始が和平への第一歩となる。

 イスラエルは自国の安全保障を、ハマスはガザ封鎖の完全解除やパレスチナ囚人釈放などを要求している。いずれも、双方が鋭く対立してきた懸案である。交渉の行方は楽観を許さない。

 仲介役のエジプトや、イスラエルへの影響力を持つ米国を中心に、国際社会が歩み寄りを促す努力を続けることが重要だ。

2014年8月28日木曜日

理研の自己改革能力が問われている

 理化学研究所はSTAP細胞論文の不正問題を受け、再発防止策などを盛り込んだ「行動計画」を発表した。論文著者の小保方晴子氏が所属する発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の幹部を交代させ組織も刷新する。

 外部有識者による改革委員会が同センターの解体を求めた提言を出して2カ月以上がたつ。遅きに失したと言わざるを得ない。もっと早く対処していれば、センター運営を担ってきた有為の科学者が自らの命を絶つという事態を避けられたかもしれない。

 行動計画によると、企業経営者ら外部の目を加えた「経営戦略会議」を新設し、ガバナンスを強化し不正防止のため研究コンプライアンス本部も設ける。一方で若手研究者の積極的登用や自由闊達な研究を奨励する風土を維持する。

 研究の適正な管理と研究者の自律性の尊重の両立を目指す考え方は理解できる。問題は実行力だ。

 前例のない独創的な研究に失敗はつきものだ。リスクが伴う。理研の経営陣には挑戦を促す一方で失敗や不正があれば認める度量や責任感が求められる。不正には厳しく対処せねばならないが、羹(あつもの)に懲りて研究者の意欲をそぐようでは困る。そうした組織に生まれ変われるか、だ。

 政府はSTAP細胞問題が起きる前、来春に発足予定の新制度「特定研究開発法人」に理研を指定する腹づもりだった。技術革新を主導できる実力を備えた国の研究機関を特別扱いする制度で、指定されると優れた研究者を破格の報酬で雇えるようになる。

 不祥事で日本の科学への信頼を傷つけた理研がいま、特別に優遇されるのは筋が通らない。理研や文部科学省は行動計画の公表を区切りとして指定を急ぎたいのかもしれないが、その必要はない。理研が行動計画の実践を通じて組織風土を真に刷新できたかどうかを確認してから判断しても遅くはないだろう。

 理研はまた、STAP細胞の有無に関する検証実験に関しても現状を中間報告した。論文に記された通りの手順で実施しても万能性が明確に確認できる細胞はつくれていない。ただこの実験には小保方氏本人は参加していない。

 急ぐべきは検証実験ではない。論文に関し指摘された様々な未解明の疑問に真摯に応えることだ。近く本格的な調査を始めるとしているが、これも遅すぎる。

ロシアは危機打開へ行動を

 泥沼の戦闘が続くウクライナの危機打開につながるのだろうか。ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領がベラルーシで会談し、東部の停戦協議の再開などで合意した。

 両首脳の会談はポロシェンコ氏の大統領就任後、初めてだ。ウクライナ東部ではこの間に政府軍と親ロシア派武装勢力による戦闘が激化し、マレーシア航空機が撃墜される惨事まで起きた。

 首脳会談は遅きに失した感もあるが、すみやかに停戦を実現し、話し合いによる紛争解決の道を模索する必要性で一致したのは一歩前進といえるだろう。

 会談では、和平に向けた調整を両国と欧州安保協力機構(OSCE)で進める「連絡グループ」の活動を再開するとともに、東部の停戦実現への行程表を作成することで合意したという。

 大切なのは合意内容を早急に行動に移し、停戦の実現と政治解決への道筋を整えていくことだ。ウクライナは厳しい停戦条件を突きつけるだけでなく、地方分権の拡大など親ロ派にも配慮した長期の行程表をつくる必要があろう。

 気がかりなのはロシアの対応だ。プーチン大統領は停戦交渉について「ウクライナの内政問題」と突き放す姿勢を示した。しかし、早期停戦を願うなら、親ロ派に戦闘の即時停止と和平協議の受け入れを迫るのが筋だろう。

 ロシアが親ロ派に軍事支援しているとの疑惑は根強い。会談の直前には武装したロシアの空挺(くうてい)部隊員がウクライナに越境し拘束される事件も起きた。

 日米欧の対ロ経済制裁はウクライナ和平への前向きな行動をロシアに促すためだ。だが、ロシアは欧米からの農産物輸入を制限し、日本に対しても特定の日本人の入国を制限する報復措置に出た。

 制裁の応酬は日米欧との関係を悪化させるだけでなく、ロシア経済にも深刻な打撃を与えつつある。ロシアはこんどこそ国際社会と協力し、ウクライナの危機打開へ具体的な行動に出るべきだ。

パブコメ制度―「面倒」を引き受ける

 いくらいい制度があっても、うまく生かそうという意思をもって動かさなければ役に立たない。パブリックコメント(意見公募)制度がその好例だろう。

 99年の閣議決定で導入され、05年の行政手続法改正で法制化された。政令や省令などを定める際には、「案」の段階で一般に公表し、広く意見を募る。行政運営の透明性を高めて公正さを確保し、国民の権利や利益の保護に役立てることが目的で、寄せられた意見は「十分に考慮しなければならない」と定められている。

 ところが安倍政権下において、パブコメは単なる「通過儀礼」と化している。

 昨秋、特定秘密保護法案の国会提出前に実施されたパブコメには約9万件が寄せられた。賛成13%、反対77%だったが、十分に考慮された形跡はない。

 エネルギー基本計画の原案には1万9千件。賛否の内訳は公表されないまま、原発は「重要なベースロード電源」と位置づけられ、今年4月に閣議決定された。その後、朝日新聞が情報公開請求に基づき賛否を集計したところ、脱原発を求める意見が9割を超えていた可能性があることがわかっている。

 民主党政権は12年に「30年代に原発稼働ゼロ」の方針を決める際、パブコメに加え、討論型世論調査も実施した。重要政策に関しては、民意の堅い下支えがあるに越したことはない。

 安倍政権は選挙で勝った自分たちこそが民意だと言わんばかりの手荒さで、民意の吸い上げと反映を怠っているが、長い目で見れば、それは政権の基盤を弱くするだろう。

 さて先日、秘密法の運用基準と政令の素案に対するパブコメが締め切られた。単なる賛否ではなく、問題点などを具体的に指摘しなければならない。素案や資料は大量かつ難解で、読み込むには骨が折れるが、各地で勉強会が開かれ、ネット上には書き方を指南するサイトもさまざま登場した。政府に勝手に決めさせないために、「面倒」を引き受ける。そんな主権者としての自覚がうかがえる。

 パブコメはこのあと、素案を了承した「情報保全諮問会議」(座長=渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長・主筆)に打ち返される。諮問会議は、その議論を公開してはどうか。

 自由な意見を言いにくくなるなどの懸念もあるだろう。だが、みんなが少しずつ「面倒」を引き受けなければ、民主主義はうまく機能しない。国民の根強い不安と批判に、有識者は正面から答えてほしい。

地域をつくる―新しい互助を考えよう

 財政難のもとで高齢化が進む日本。介護や福祉の支え手として「地域」が脚光を浴びている。「高齢者が自宅で暮らし続けていくためには、地域で支えることが大切」という趣旨だ。

 しかし、高齢化が急速に進む都市部は、そもそも職住が分離して発展してきている。地域とは、何なのだろう。

 東京都足立区は「孤立ゼロプロジェクト」に取り組む。まず自治会や民生委員が高齢者宅を訪ねて、他人と世間話をする頻度や、困りごとの相談相手がいるのか調査。他人との接触が少ない人がいれば、区に登録した住民ボランティアが定期的に訪問する。もちろん、本人の同意が前提であり、ボランティアは秘密を守る。

 埼玉県内の戸建て住宅地「フレッシュタウン」では、高齢者が庭の手入れや外出の付き添いを気軽に頼める態勢づくりに取り組む。依頼に応じるボランティアをそろえることがカギだ。近隣の総合病院や行政に呼びかけて「支え合い協議会」を設けて、看護師による相談会や健康づくりの催し、趣味の会を自治会館で開いている。

 いずれも、地域のつながりをつくり出す試みである。

 一方、都市部で地域を支えてきたのが、民生委員だ。しかし、昨年12月時点で全国の定数23万6271人のうち、欠員は6783人。特に都市部での欠員が目立つ。委員自身の高齢化も進み、後継者がいないとの声も聞こえてくる。活動の負担が膨らんで、新潟市では、民生委員を助ける「協力員」制度を設けている。

 自治会のような地縁型の組織だけではなく、介護や食事など特定のテーマに強いNPOやボランティア団体が果たす役割もある。昨年12月には全国社会福祉協議会や日本生活協同組合連合会の呼びかけで「新地域支援構想会議」が誕生するなど、協働する動きも出始めている。

 こうした動きを広げていくことが、これからの私たちを大いに助けるはずだ。

 仕事漬けだった会社員OBが地域に入ってもいい。空き家を活用して「ちょっとした困りごと」を解決する場にしてもいい。福祉の専門職がこうした場や活動に関われば「最近、あの人は元気がない」といったSOSの端緒がつかみやすくなる。

 新しい互助の形として、地域のつながりをつくり出せれば、災害や悪質商法の被害防止にも役に立つ。高齢者ばかりか子どもや障害者を含め住民全体の暮らしやすさにも通じていく。地域をつくる工夫を広げたい。

原発政策 「重要電源」支える工夫が要る

 原子力発電を中長期的に活用し、電力の安定供給体制を確立することが求められる。

 経済産業省の有識者会議で、原発政策に関する議論が進められている。全電源に占める原発比率をどのように設定するかが最大のテーマとなる。

 政府は、今年4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。

 一方、原発事故前は3割だった原発比率を「可能な限り低減させる」とし、「確保していく規模を見極める」との方針を示した。

 これでは、原発活用の中身があいまい過ぎる。原発は燃料費が安く、発電中に二酸化炭素を出さない。国民生活の安定と経済成長に不可欠な基幹電源だ。

 政府は、安全確保を前提に経済性と安定性、地球環境にも配慮し、原子力、火力、再生可能エネルギーの電源構成について、実現可能な目標を定める必要がある。

 問題は、原子力規制委員会による原発の安全審査が遅れ、再稼働のメドが立たないことだ。新たな規制基準のもとで当面、何基程度の原発を運転できるか見通せないと、電源構成の策定は難しい。

 規制委の安全審査を遅滞なく進め、安全性の確認ができた原発を着実に再稼働すべきだ。政府は、安全性と再稼働の必要性を地元に丁寧に説明する責任がある。

 原発を新増設せず、運転開始から40年で廃炉にする原則を厳格に適用すれば、2049年に国内の原発はゼロになる。古くなった原発の更新は重要な課題だ。

 電力会社は安全対策などの負担増にも直面している。原発事業を長期的に継続できるようにすることが、安定供給のカギとなる。

 政府は一案として、原発で発電した電気に基準価格を設け、一定の収入を保証する制度を有識者会議に提示した。

 電力料金の自由化などで値下げ競争が激化した場合でも安定収入が得られ、1基4000億円とされる原発建設費の回収見通しを立てやすくなるという。廃炉や使用済み核燃料処理の費用を、基準価格の収入で賄う案もある。

 英国で昨年導入された仕組みを参考にしている。実現すれば、原発の更新や新増設を後押しする効果もあろう。

 米国には原発建設のために電力会社が負った債務の最大8割を政府が保証する制度がある。こうした海外の事例のメリットや課題を詳細に検討し、日本に適した制度とすることが重要だ。

道徳の教科化 思いやりの心を培う授業に

 教科化を契機に、道徳教育を充実させることが大切である。

 中央教育審議会の専門部会が、小中学校の「道徳の時間」を「特別の教科」とするよう求める報告案を大筋で了承した。検定教科書を導入する一方で、点数による評価はしない新たな教科である。

 文部科学省は、学習指導要領の改定や検定基準の作成を行った上で、早ければ2018年度からの実施を目指す。

 現在、道徳は正規の教科でないため、学校によっては、国語や算数・数学の授業に振り替えるなど、軽視するケースも見られる。教科化はこうした状況を改善するのが狙いである。

 将来を担う子供たちが、社会のルールを学び、思いやりの心を培う意義は大きい。道徳の教科化には、「特定の価値観の押しつけにつながる」といった批判もあるが、的外れと言うほかない。

 報告案は、学校でのいじめが深刻さを増していることを踏まえ、「人間の弱さ」や「困難に立ち向かう強さ」を、取り上げるテーマとして例示した。ネットを利用する際の情報モラルなど、今日的な課題も扱うよう提案している。

 問題は授業の質をいかに向上させるかだ。教師が教科書を読み上げるだけの授業では、子供たちの心には響くまい。

 いじめやトラブルの場面を設定し、子供たちに役割を割り振って、とるべき行動を考えさせる。一つの課題を徹底的に討論させる。そうした工夫の必要性を報告案が指摘したのはうなずける。

 教師の力量が問われるが、現状は心もとない。大学の教員養成課程では道徳に関する講義の時間が少なく、指導方法に自信を持てない教師が多いからだ。

 道徳の授業は、児童・生徒と身近に接する学級担任が担当する。担任任せにして、独り善がりの授業が行われるような事態を招いてはならない。各校の校長には、責任ある対応が求められる。

 今後の焦点は、教科書検定基準と、子供の評価方法の検討だ。

 読み応えのある内容にするため、民間の教科書会社の創意工夫を生かすのは大事だが、政治的中立性など記述のバランスに目配りした基準作りは欠かせない。

 内面的資質を育てる道徳には、一般の教科のような点数評価はそぐわない。報告案が示したように、授業に取り組む姿勢や成果を文章で記述する方式が適切だろう。文科省は現場の参考になる具体的な指針を示してもらいたい。

2014年8月27日水曜日

競争政策に目覚めた中国と対話深めよ

 中国の独占禁止法当局が、中国内市場で事業展開する企業への独禁法の適用を強化している。価格カルテルで自動車関連の日本企業12社を摘発し、10社に総額約200億円の制裁金を科した。

 ソフトウエアの抱き合わせ販売やライセンス料の不正計上などの疑いで米マイクロソフトやクアルコムの調査にも入った。独ダイムラー、アウディを筆頭に米欧の自動車大手を調べるなど、摘発や調査対象には外国企業が目立つ。

 外から見る限り、国内企業を保護するための「外資たたき」とも映る。だが、競争政策の重要性に目覚め、市場競争を促進しようとする習近平政権の動き自体は歓迎すべきだ。問題は透明性や公正さを確保できるかどうかである。

 市場を健全に機能させるためには、明文化した独禁法に基づく競争政策が欠かせない。独禁法は強力な政策手段であり、運用を担う当局は強大な権限を握る。使い方をひとつ誤れば、保護主義や権力の乱用にもつながる。

 一方、競争政策の分野には、世界貿易機関(WTO)で定めた関税のような世界共通の基準が存在しない。このため各国がそれぞれ独禁法を導入しても、国ごとに異なる判断で自分勝手な運用に陥る危険がつきまとう。

 中国は欧州連合(EU)の制度に倣い、2008年8月に独禁法を施行した。まだ6年間の経験しかなく、今年7月の国務院通達で運用強化に乗り出したばかりだ。試行錯誤の面もあるだろう。

 日中の政治関係は冷え込んでいるが、中国が諸外国と整合性を欠いた独自路線を歩まないよう、今こそ政府間の政策対話が必要だ。競争政策で共通ルールを作る環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も、中国に国際的な基準を意識させる上で大きな力となる。

 内外の企業を差別しない制度に発展させるために、外国企業が果たすべき役割も大きい。何よりも法令順守を徹底し、違法行為の事実があれば正すのが当然である。一方、当局の判断が納得できない場合は、自社だけを守るために黙って従うのではなく、公に声を上げて具体的に反証すべきだ。

 習政権は、特権的な地位の乱用が顕著な国有企業の改革に取り組んでいる。独禁法はそのための強力な手段となる。投資先としての信用を失わないためにも、外資差別ではなく真の市場改革にこそ独禁法の活用を求めたい。

途上国の医療に日本の知恵を

 途上国の保健医療水準の向上が思うように進まず、まだ多くの人が病気で苦しみ、亡くなっている。日本は公衆衛生の確立や、すべての国民が公的な医療保険制度に入る皆保険の実現などで世界トップレベルの長寿国をつくり上げてきた。その実績を基に途上国への支援をより一層充実させたい。

 国連は2000年に世界的な貧困撲滅などを目指す「ミレニアム開発目標」を策定した。この目標の大きな部分を占めるのが保健医療分野だ。15年までに、5歳未満の子供の死亡率と妊産婦の死亡率を1990年比でそれぞれ3分の1、4分の1に削減するなどとした。しかし、期限を目前にして達成が難しい目標も多い。

 これらの課題をめぐって日本への世界の期待は高い。「すべての人が保健医療サービスを受けることができ、その支払いのために経済危機に陥らない」ことを「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)と呼ぶ。途上国でUHCの確立が大きな政策目標となるが、UHCは日本の皆保険そのものでもある。

 安倍晋三首相は昨年、英国の世界的な医学雑誌「ランセット」に寄稿し、「世界の国々と共にUHCを達成するため、日本の開発援助を強化する」と表明した。

 しかし政府開発援助(ODA)予算は財政難からピーク時に比べ半減しており、その中での保健医療分野の比率も小さい。ODAの中身を見直すことなどによってこの分野の拡充を進めたい。

 お金をかければよいというものでもない。例えばミャンマーでは、日本の母子保健推進員にあたる住民ボランティアが妊産婦の家を訪問して面倒を見るシステムを導入し、妊産婦の健康状態改善に成果を上げている。日本の経験と知恵は大きな費用をかけずに活用できる余地がある。

 アベノミクスの流れの中で日本の経済成長に資する医療輸出が話題となっているが、途上国の人々の命を救うための支援・協力という視点も忘れたくはない。

全国学力調査―順位より分析に目を

 慎重な判断を支持したい。

 全国学力調査の結果が公表された。今年度から自治体の判断で、学校ごとの成績を公表することもできるようになった。だが、公表を予定する市区町村は今のところ少ないようだ。

 1年目だけに、様子を見た市町村も多いのかもしれない。ただ、成績がよくなかった学校にレッテルが貼られることは避けたい。そういう配慮が働いたことも確かだろう。

 学力調査は、テストを行うだけではない。参加した小中学生と学校からアンケートも取り、どんな授業方法や生活習慣が学力を高めることに役に立つかを分析している。

 点数や順位より、この分析を読んで行政や学校が政策や教え方の改善に生かすことの方が、ずっと大事だ。

 なかでも、総合学習にきちんと取り組んでいる子や学校は国語や算数・数学の成績も良い、という点は注目されていい。

 総合学習は、たとえば地理と化学で学んだことを使って環境問題を考えるような、教科横断型の学習だ。今の学習指導要領では学力低下批判をうけて主要教科の時間を増やすため、かわりに授業時間数を削られた。

 批判の一因は国際学力調査PISAでの日本の順位低下だった。しかし、PISAは本来、教科横断型の学力を理想とするテストだ。文部科学省の中央教育審議会での大学入試改革論議も、同じ方向を向いている。

 それは、知識よりも実社会で使える学力が世界的に求められているからだ。これからはむしろ総合学習のような学びが重みを増すに違いない。

 次の指導要領で総合学習をどう位置づけるか。調査を参考に、意義を見直すべきだ。

 保護者にとっても、参考になる項目はいろいろある。

 調査から全体的に読み取れるのは、学ぶ動機づけや、社会に関心をもつことの大切さだ。

 ニュースをよく見ている子、学校行事に対する関心が高い家庭の子は、学力が高い傾向があるという。机で勉強するだけが勉強ではない。そう実感させられる。

 都道府県別の成績をみると、大半の都道府県が小さな点差の幅に収まっている。これまで下位だった県が、先生の授業研究や研修を増やしたり、上位の県のやり方に学んだり、努力してきた成果でもあろう。

 どの地方に住んでも同じ水準の公教育を受けられる。日本の強みは健在といえる。わずかな点差に一喜一憂するより、地道な授業改善に役立ててほしい。

原発と自殺―過酷さに司法の警告

 福島第一原発の事故のために避難生活を強いられた女性が、命を絶った。つかの間だけ戻れた自宅で焼身自殺した。

 夫と子どもたちが東京電力に賠償を求めて提訴した。約2年の審理をへて、裁判所はきのう、東電の責任を認めた。

 判決は、避難生活によるストレスの過酷さを強調している。慣れ親しんだ暮らしや仕事を奪われ、将来も見えない。その心の負担はあまりに重い。

 ひとたび事故を起こせば、避難生活の中で自ら死を選ぶ人が出ることを東電は予想できたはずだ。判決はそうも指摘した。

 原発の事故は、人間の環境も人生も激変させる。そこで起きた自殺との因果関係をそもそも否定する方がむずかしい。まっとうな司法判断である。

 避難中の自殺はこのほかにも起きている。事故が時を超えて、どれほど重い苦難を人びとに強いているか、この判決は改めて考えさせる。

 事故と自殺との関連性はこれまで、あいまいにされてきた。遺族が直接、賠償を求めても、東電側が因果関係を認めなかったり、認めても遺族には納得できない低い額を示したりといった対応が多かった。

 今回の裁判でも東電は、女性の精神的な弱さに責任があったかのような主張をしてきた。この判決を機に、そうした姿勢を反省すべきだ。

 個々の人間の心が強かろうが弱かろうが、死を選ばせるほどのストレスを与えたことに免罪符はないだろう。

 家族関係や健康など、自殺をとりまく状況はさまざまだ。原因の厳密な特定はむずかしい。だとしても避難生活の中で起きたケースである限り、直接、間接に事故が影を落としていることは明らかといえる。

 東日本大震災に関連した自殺者の人数は、遺体を調べる警察が判断し、内閣府がまとめている。それによると、福島県内では、2011年10人、12年に13人、13年に23人と、時間がたつほど増えている。岩手、宮城両県より多く、今年も7月末までに10人にのぼっている。

 計56人の半数近くの年齢は、50~60代に集中しており、動機は、健康問題(27人)、経済・生活問題(15人)などが挙げられている。

 いま何より肝要なのは、震災と原発事故がもたらす悲劇をこれ以上、起こさないことだ。

 被災者を死に追い込まないために、ストレスをいかに小さくできるか。その手だてを、国、自治体、東電を中心に社会全体で急がねばならない。

慰安婦問題 史実踏まえて新長官談話を

 戦後70年に向けた「河野談話」の事実上の見直し要請である。

 自民党政務調査会は、いわゆる従軍慰安婦問題に関する新たな内閣官房長官談話の発表を求める申し入れ書を、菅官房長官に提出した。

 第2次大戦中に日本軍が多くの慰安婦を「性奴隷」として強制連行したとの誤解が、国際社会に広がっている。その要因の一つが河野談話である。

 菅氏は新談話に消極的だというが、自民党の要請を重く受け止め、前向きに検討すべきだ。

 河野談話は、宮沢内閣時代の1993年に元慰安婦へのおわびと反省の意を表したものだ。慰安婦募集について「官憲等が直接これに加担したこともあった」と、軍などによる強制連行があったかのように記している。

 しかし、強制連行を裏付ける資料は確認されていない。

 有識者による政府の検討会は6月、河野談話の作成過程に関する報告書をまとめた。韓国側が「韓国国民から評価を受け得るものでなければならない」と修正を求めるなど、日韓両政府が表現を調整した実態が明らかになった。

 これを踏まえ、申し入れ書は、「検証作業を経ずに『政治的すり合わせの産物』としての談話を世界に発出した」と批判した。「当時の自民党政権の責任は重い」と指摘したのは、もっともだ。

 申し入れ書は、「事実に基づかない虚偽を繰り返し喧伝(けんでん)し、日韓関係を悪化させた」として、「一部報道機関」の記事を問題視した。朝日新聞の慰安婦報道を指したものだろう。

 朝日新聞は、82年以降、韓国・済州島で戦時中に多くの慰安婦を「狩り出した」などとする吉田清治氏の虚偽の証言を、繰り返し記事にした。

 今月5日の紙面で、ようやく吉田証言に関する記事を取り消したものの、一連の報道が韓国の反日世論をかき立て、河野談話の伏線となったことは間違いない。

 安倍首相は、河野談話を継承する方針を明らかにしている。日韓関係のこれ以上の悪化などを憂慮しての大局的判断なのだろう。

 だが、戦後70年と日韓国交正常化50年の節目となる来年に向け、新談話の発表は、国内外に正しい歴史を伝える上で意義がある。

 強制連行はなかったにせよ、戦時中に多数の女性の名誉と尊厳が傷つけられたことも事実だ。

 自民党が提言しているように、史実に基づいた慰安婦問題の情報を世界に発信していきたい。

「イスラム国」 凶暴な武装集団の跳梁許すな

 凶悪な武装集団の掃討に向け、国際社会はあらゆる手を打つべきだ。

 イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」のイラク、シリアでの勢力拡大が止まらない。シリア北部で、アサド政権軍を空軍基地から撤退させ、北部最大の都市アレッポ攻略も視野に入れたという。

 「イスラム国」は、油田の強奪や誘拐などで不当に得た資金で戦闘能力を高める一方、巧みな宣伝活動で、過激思想に染まった戦闘員を世界中から集めている。勢力は約1万5000人に達したとの見方もある。

 支配地域では、虐殺や性的暴行を繰り返している。約2年前にシリアで消息を絶った米国人男性を処刑し、その模様をネットで流した。日本人男性も拉致され、安否が心配されている。

 残虐極まりない組織の跳梁ちょうりょうをこれ以上許さないことは、国際社会にとって喫緊の課題と言える。

 米国は8月上旬から、イラク国内に限定して「イスラム国」への空爆を実施し、一定の効果を上げた。しかし、国境をまたいで勢力圏を広げる「イスラム国」は、シリア側に活動の重点を移し、米国人の犠牲者も出た。

 米国は、自国民を守ることを空爆の目的に掲げており、シリア側での空爆も選択肢に入った。

 シリアのアサド政権は、米国が事前調整の手続きを取ることを前提に、空爆を容認する構えだ。

 だが、米国にとっては、空爆が対立するアサド政権の存続を利するジレンマがある。オバマ大統領は難しい判断を迫られよう。

 欧米各国は、「イスラム国」と戦っているシリア反体制派武装組織「自由シリア軍」とイラクのクルド人部隊に武器を供与する方針だ。敵対勢力にてこ入れし、打撃を与える作戦である。

 心配なのは、「イスラム国」が戦闘を優位に進め、結果的に、紛争地域に出回った大量の武器を手にしてしまうことだ。

 「イスラム国」が強大化している背景には、産油国の富裕層などによる多額の資金供与があるとされる。国際社会は、こうした実態を徹底的に解明し、資金源を断つ必要がある。

 要員集めの封じ込めも、急がなければならない。過激思想の拡散を防ぐため、ネットに流れた「イスラム国」の宣伝映像の丁寧な削除などが課題となろう。

 中東などでテロに関与した人物が、欧米などへ帰国する例が目立ってきた。厳重な監視と摘発が極めて重要だ。

2014年8月26日火曜日

米FRB議長への過剰期待は避けたい

 金融政策は労働市場や物価動向を見ながら柔軟に見直していく。米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が最近の講演で述べた発言は極めて常識的な内容で、金融市場も大きく動かなかった。

 だが、米国経済が着実に改善すれば金融緩和政策はいずれ転機を迎える。議長は金融危機後の雇用悪化に強い懸念を示してきたため、金融引き締めに慎重なハト派と見られがちだ。しかし労働市場や物価が望ましい状況に戻れば、緩和終了に加え利上げも視野に入れた判断をすることになろう。

 イエレン氏なら市場にやさしい金融政策運営をしてくれるはず。投資家がそんな期待に基づいて行動すれば、後々混乱が大きくなる恐れもある。

 イエレン議長は米保養地で開いた毎夏恒例の経済シンポジウムで、失業率が予想以上に早く改善しつつあると指摘しながらも、労働市場は完全に回復していないと強調した。雇用環境の悪化で就職を断念した人やパートタイムで働いている人の数がかつてより多いことを背景としてあげた。

 こうしたなかで、経済の需要と供給のバランスがどうなっているのかを測定するのは容易ではなく、金融政策についての判断もこれまで以上に難しくなっている。

 そもそも、米国の金融緩和がマクロ経済にどんな効果をもたらしているのかについても見方が分かれている。長期金利の低下は低迷していた住宅投資の改善に結びついたのは確かだが、設備投資促進などへの効果は限定的という見方も少なくない。

 その一方、株高や高利回り債投資の拡大など金融市場の活況につながったのは確かだ。一部ではバブルを警戒する声もある。

 金融の量的緩和が今年秋に予定通り終了し、来年にも引き締めに向かえば、こうした金融市場への追い風は消え、内外の市場が不安定になる恐れがある。

 金融政策の影響は事前に計り知れない面もある。グリーンスパン氏がFRB議長として金融政策運営を主導した2000年代には、引き締めに動いても米国債が買われ、長期金利が低下したことがある。「市場の神様」と呼ばれた同氏への過信が背景にあったが、低金利はバブルの一因にもなった。

 そのころとは状況は異なる。しかし、金融政策に万能薬を期待すべきではないという教訓だけは変わらない。

サービスの技能を競える国に

 接客など対人サービス分野を中心に、身につけた技能のレベルを判定する制度を充実させるべきだ――。職業能力開発のあり方を議論する厚生労働省の有識者研究会がそんな中間報告をまとめた。

 提言を歓迎したい。職業能力を評価する仕組みが整えば技能を磨く励みになる。サービス分野で評価制度が広がれば、製造業に比べて低いこの分野の生産性の上昇につながる。国は民間企業・団体の協力を得て具体化してほしい。

 対人サービスは接客、商品販売や苦情対応など範囲が広い。それらの技術は、流通や教育、健康・生活支援ビジネスなどサービス業全体の基盤となる技能だ。

 報告では業界団体などが主体になり、業界ごとに、技能をレベルに応じて段階的に認定する制度をつくるべきだとした。業種によって仕事の内容や求められる技能は異なり、それらをよく知っている民間が制度設計の中心になるのは妥当だ。人材の採用や人事に活用しやすい制度が期待できよう。

 現在ある職業能力の評価制度は国による技能検定制度が代表的で半世紀を超える歴史がある。金属加工や機械組み立てなど、主にものづくりの分野から成り、日本の製造業の発展を下支えしてきた。

 だが産業構造が変化し、サービス産業の国内総生産(GDP)や就業者数に占める割合はそれぞれ約7割にのぼっている。能力評価制度も経済のサービス化に対応した仕組みをつくる必要がある。

 サービス産業の労働生産性は長期にわたり低迷している。内閣府によれば非製造業全体の生産性上昇率は1990年代、2000年代とマイナスだ。働く人1人あたりの付加価値を高めていかなくてはならない。能力評価制度を整え技能向上を後押しすれば非正規労働者の処遇改善にもつながる。

 職業訓練も充実させるときだ。能力評価制度ができれば必要な技能が段階ごとにはっきりするため、訓練内容を決めやすくなる。経済のサービス化に合わせ公共職業訓練を刷新する好機としたい。

女性の活躍―働き方全体の見直しを

 女性が職場で十分に活躍できるようにしよう。そんな動きが広がっている。

 経団連が主な会員企業約50社の女性登用計画をまとめたところ、27社が数値目標を掲げた。経団連は他の会員企業にも、計画づくりを呼びかけている。

 日本の就業者に占める女性の比率は4割強で、ほぼ主要国と並ぶ。しかし、管理職となると1割にも届かない。米国では4割、欧州各国で3割を超えており、日本の少なさが際だつ。

 日本では出産を機に職場を去る女性が少なくない。長く働き続けることが前提である限り、出産・育児で離職すれば昇進のチャンスは遠くなりがちだ。

 政府は03年に、指導的地位に女性が占める割合を20年までに30%にするという目標を決めている。ようやくではあっても、経済界全体で具体化を始めたことは評価できる。

 先行する企業をみると、女性社員のキャリアを戦略的に考えるとともに、社員全体の働き方を見直す例がめだつ。社員を長時間縛りつけていては、家庭と仕事の両立は難しいからだ。

 長時間労働を避けるために午後8時に消灯する企業がある。始業・終業時間を自分で決められるフレックスタイムと在宅勤務を組み合わせ、柔軟な働き方を認めている企業もある。

 男性社員に育児休業をとるよう促す企業も少なくない。女性が活躍するためには、男性が家庭で応分の責任を果たすことが不可欠だからだ。

 今後は親の介護をする人も増える。仕事と家庭を両立するための工夫は避けて通れない。

 管理職に占める女性の比率の数値目標を経営トップが掲げれば、こうした改革の推進力となる。日本企業の風土や文化にも変化をもたらすはずだ。

 安倍政権は「女性の活躍促進」を成長戦略の柱として掲げている。役員の女性比率や女性の登用プランなどの情報を企業にオープンにしてもらうほか、女性の活躍のための新法を国会に出す方針だ。

 今年の成長戦略には、男性の育児参加を促すことや、男女ともに長時間労働を減らし、年次有給休暇の取得を進めること、などが並んでいる。

 その目標はもっともではあるが、発想が狭すぎないか。人間が性別を問わず仕事に打ちこめる環境をつくることは本来、成長戦略と位置づけるものではない。男女を問わず、働き方全体を見直す契機にすべきだ。

 成長に直結するかどうかは別にして、誰もがより良く働き、暮らせる社会をめざしたい。

難病支援―氷水かぶりに学びたい

 マイクロソフトのビル・ゲイツ氏、サッカー・ブラジル代表のネイマール選手、ノーベル賞学者の山中伸弥京大教授……。世界の著名人が、次々に氷水を頭からかぶっている。

 あまりの猛暑だから、ではない。難病患者への支援を行動で表す慈善活動「アイス・バケツ・チャレンジ」である。

 映像がネットで公開され、関心が一気に地球規模で伝わった。「面白半分なのはどうか」といった声もあるが、その広がり方は示唆に富んでいる。

 元々は7月末に米国の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の呼びかけで始まったとされる。

 参加した人は、次に加わってもらいたい誰かを指名する。指名された人は、氷水をかぶるか、100ドル(約1万円)をALSの研究支援に寄付するか、どちらかを選ぶ。もちろん、両方をしてもいい。

 ネットを通じ、米国内、次に英語圏、そして日本など非英語圏へと瞬く間に広がった。

 米ALS協会に7月末から8月24日までに届いた寄付は、7020万ドル(約73億円)と前年同期の30倍近くに達した。初めて寄付した人が130万人にものぼり、さらに増えている。

 日本ALS協会にも先週1週間で通常の1年分に匹敵する1千万円以上が集まった。

 ネット社会の瞬発力を示したといえよう。

 ALSは運動をつかさどる神経がおかされ、全身の筋肉が萎縮する。五感や知力はそのままなのに、身動きはおろか、最後は自力で呼吸もできなくなる。治療法はまだない。

 日本には推定で約9千人の患者がいる。厚生労働省が特定疾患(難病)に指定している。

 大リーグのルー・ゲーリッグ選手や、車いすの宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士らもかかり、難病の中では比較的知名度が高いほうだ。それでもネットには「初めて知った」との書き込みが多い。

 むろん、参加を拒む人もいる。難病は特定疾患だけで130もあるのだから、むしろ自然な反応でもある。

 とはいえ、ユニークで注目に値する啓発法であることは間違いない。これで難病について知れば、かけがえのない命や人生を考える契機ともなろう。

 日本でも寄付税制が拡充された。日本ALS協会はまだだが、患者支援団体などが公益法人や認定NPO法人になれば、個人や法人の寄付金は税金が優遇される。

 官製ではない、民間の寄付文化を力強く育てていきたい。

広島土砂災害 安否確認と被災者支援を急げ

 広島市で発生した土砂災害は、死者が50人を超える大惨事となった。行方不明者も依然、20人以上を数える。

 一刻も早い安否確認と被災者の支援が求められる。

 25日に現地を視察した安倍首相は、激甚災害指定の方針を示し、「行方不明者の捜索に政府一丸となって全力を尽くす」と語った。被災者支援チームを発足させ、生活再建支援を加速させる考えも示した。着実に実行してほしい。

 現地では、悪天候の中、行方不明者の捜索が続く。今後1週間は、広島市を含む広い範囲で強い雨の恐れがあるという。

 国土交通省は、土石流の発生場所の上流に、土砂崩れが起きるとワイヤが切れて危険を知らせるセンサーの設置を始めた。

 警察や自衛隊は、高台に監視員を配置して、再度の崖崩れなどを警戒している。ヘリコプターによる監視活動も続けている。

 二次災害に見舞われぬよう、細心の注意を払いながら、捜索活動にあたってもらいたい。

 広島市は25日になって、広島県警から提供を受けた行方不明者の氏名や住所、年齢といった情報を報道機関やホームページを通じて公表した。適切な判断である。

 市は、これまで個人情報であることを考慮して、公表を控えていた。しかし、警察と市、消防が把握する不明者数が食い違うなど、混乱が生じた。

 広島市の個人情報保護条例は、災害時に人命や財産などを保護する上で、やむを得ない場合には、個人情報を外部に提供できると規定している。専門家は「救助・捜索は一刻を争う状況で、公表には正当性がある」と指摘する。

 行方不明者の中には、親類宅に避難するなどして、連絡が取れない人も含まれる可能性がある。情報の公表は、人的被害の全容把握に資することになろう。

 約1600人の被災者は、体育館などで避難所生活を余儀なくされている。エアコンのない避難所では、熱中症などの危険が高い。きめ細かい健康管理が必要だ。

 プライバシーが確保できないため、精神的な負担も重いのではないか。「災害派遣精神医療チーム」(DPAT)などによる心のケアが大切になってくる。

 広島市は、自宅を失った被災者向けに、公営住宅の入居受け付けを開始した。仮設住宅の建設や、民間アパートの借り上げなども検討課題となるだろう。

 被災者の実情に応じた支援が欠かせない。

全国学力テスト 適度な競争が好結果を生んだ

 成績の振るわなかった地域で、学力の向上が目立った。全国学力テストの成果の表れだろう。

 文部科学省が4月に実施した全国学力テストの結果を公表した。

 全国学力テストは、小学6年生と中学3年生の全員を対象に、国語と算数・数学の基礎的な知識と応用力を測るため、2007年度から実施されている。

 民主党政権時代には、10年度と12年度に約3割の小中学校を抽出して行われたが、昨年度からは全員参加方式に戻った。

 今回、成績アップが目立ったのは、沖縄県の小6だ。全国最下位の科目がなくなり、算数の基礎問題ではトップ10に入った。

 昨年度、小6国語の基礎問題で最下位だった静岡県も、ほぼ全国平均に回復した。

 こうした自治体では、児童生徒に、自分の考えを文章にまとめさせる授業に力を入れている。指導力向上のための研修会に参加する教師も増加した。

 成績上位の秋田県や福井県などの教師との交流を通じて、指導方法を学ぶ試みも進んでいる。

 文科省は、指導改善の取り組みが、学力の底上げにつながっていると分析している。全員参加の全国学力テストが、適度な競い合いを生み出した結果と言えよう。

 ただ、小6、中3とも、図形の証明や、書き手の意図を文章で表現するような応用問題を苦手とする傾向が続いている。

 今回のテスト結果を基に、文科省が来月配布する授業のアイデア例などを参考に、指導力の一層の向上を図ってもらいたい。

 全国学力テストについては、今回から、自治体の教育委員会が学校別成績を公表することが認められるようになった。

 文科省は学校の序列化や過度な競争を招かないようにするため、平均正答率などの数値だけでなく、分析結果や改善方法を併せて公表するよう求めている。

 日教組は数値を示せば、序列化は避けられず、子供に過度なストレスを与えると反対するが、果たして、そうだろうか。

 子供たちはどのようなところで学習につまずいているのか。学力アップには、どのような対策が必要なのか。テスト結果から、教師と保護者が共通の認識を持つことで、学校教育に対する保護者の理解が進むはずだ。

 大半の教委はまだ、学校別成績の公表には及び腰だという。文科省は、公表のメリットを周知していく必要がある。

2014年8月25日月曜日

原発の安全と安心を取り戻すには(エネルギーを考える)

 原子力発電所の再稼働に向けた準備が進んでいる。電力会社10社は計20基の安全審査を原子力規制委員会に申請し、規制委は九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)に事実上の合格を出した。

 原発の稼働ゼロが長引けば化石燃料の輸入費がかさみ、日本経済や国民生活への悪影響は大きい。再稼働は欠かせない。そこで重要なのは厳格な安全審査に加え、事故への備えも万全にして国民の不安を拭うことだ。

事故に備え多重の盾を
 東京電力福島第1原発の事故で原子力の「安全神話」は崩れた。規制委が定めた新規制基準は事故が起こりうることを前提に、そのリスクを可能な限り下げるよう求めた。災害やテロで電源が失われたり、航空機が墜落したりする事態も想定した。

 安全の強化とは原子炉を頑丈にすることだけでない。国際原子力機関(IAEA)は多重の「盾」を設け、事故の影響を最小限にするよう求めている。「深層防護」と呼ばれる考え方だ。

 そのひとつが、事故が起きても大量の放射能が外に漏れないようにすることだ。格納容器の爆発を防ぐため、放射性物質を減らして圧力を下げるフィルター付きベント(排気)装置などがこれにあたる。もうひとつが住民を迅速、安全に避難させ、放射能の影響を最小限に抑える対策である。

 深層防護をすべての原発で徹底する必要がある。政府は原発から30キロ圏にある市町村に防災計画づくりを義務づけた。だが原発周辺の135市町村のうち、避難計画ができたのはおよそ6割にとどまる。東電柏崎刈羽原発(新潟県)や東北電力女川原発(宮城県)などでとくに遅れている。

 計画づくりを市町村任せにせず、国が防災の専門家を派遣してもっと支援すべきだ。国の対策づくりも、地震や津波など自然災害は中央防災会議、原発事故は原子力防災会議と、縦割りのままでよいのか。地震・津波と原発事故が同時に起きる複合災害も想定し、両組織の連携を考えるときだ。

 規制委や専門家も、事故のリスクについて国民に丁寧に説明する義務がある。原発に反対する人のなかには、ひとたび事故が起きると破局的な災害になるとの懸念がある。事故の頻度やその影響などリスクをどこまで下げられるのか。国民と対話を続け、溝を埋めていく努力が要る。

 原子力の安全と安心を取り戻すには、福島第1原発事故の完全な収束と着実な廃炉も欠かせない。

 敷地内では大量の汚染水が発生し続け、地下を凍らせて流出を止める「凍土壁」も予想したほどの効果を上げていない。汚染水対策はなお決め手がみつからない。

 廃炉は40年以上かかる長期戦になり、作業員をどう確保するかも重い課題だ。作業員は被曝(ひばく)と闘いながら厳しい作業を強いられている。労働安全衛生法では被曝線量が年50ミリシーベルトを超えると、それ以上働けない。

 東電は廃炉に必要な作業員を年1万人強と見込み、数年先までは確保できるとしている。

長期の人材確保が課題
 だが事故で溶け落ちた核燃料の取り出しなど、廃炉はこれから難関にさしかかる。長期的に人員を手当てする計画が不可欠だ。

 政府は汚染水・廃炉対策に1700億円弱の国費を投入した。東電の賠償資金を肩代わりするため設けた原子力損害賠償支援機構も改組し、廃炉を支援する役割を加えた。廃炉を東電だけが担うのは資金や技術面で限界があるにしても、国が場当たり的に東電支援を強めてきた印象は否めない。

 廃炉を着実に進めるには、世界から知恵と技術を集めなければならない。その責任を誰が負い、資金をどう分担するのか。国と東電の役割を改めて明確にし、国民にきちんと説明すべきだ。

 人材の確保は原子力全般で直面する課題でもある。福島原発の事故後、大学の原子力学科の志願者や原子力関連メーカーの就職希望者は急減した。政府はエネルギー基本計画で原発を「重要な電源」と位置づけたが、人材をどう確保するのか具体策を示していない。

 いまある原発の安全性の強化や廃炉だけでなく、国際的な核不拡散体制の堅持や核テロ防止を担う人材も必要だ。そうした人材を持続的に育てる方策を官民で真剣に考えるべきだろう。

アベノミクス―「何でもあり」に潜む死角

 一国の指導者の名を冠した経済政策として有名なのは、英国の「サッチャリズム」と米国の「レーガノミクス」だろう。

 1970年代後半から80年代にかけて、市場の機能を重視して「小さな政府」を志向、「新自由主義」のさきがけとなった。ともに哲学や思想と結びつき、功罪が議論されてきた。

 さて、「アベノミクス」はどうか。

■企業寄りでも国主導

 思い浮かぶのは、企業に寄った政策である。

 法人税を減税する。原子力発電所の再稼働を急ぎ、電気代を抑える。労働規制を緩和し、企業が人を使いやすくする――。円高の是正や温暖化対策の見直し、経済連携協定の拡大を含め、経営の「六重苦」を解消する方針は一貫している。

 企業は市場経済の原動力だ。ならばアベノミクスも英米両巨頭の系譜に連なるのだろうか。

 「賃金をあげろ」「雇用や投資を増やせ」「女性をもっと活用しろ」と、企業が自ら決めるべきことに介入する。企業の再編やベンチャー育成、「クールジャパン」の売り込みなど、さまざまな分野で「官民ファンド」を押し立て、国が主導しようとする。

 個々の政策の当否はともかく、その手法は「自由主義」「市場経済」からは遠い。

 財政でも、歳出を絞る「小さな政府」とは異なる。補正予算で公共事業を積み増し、国の年間予算は100兆円規模が続く。消費増税に伴う景気対策を打ったとはいえ「大きな政府」そのものだ。

 デフレ脱却と経済成長に向けて何でもあり。これが安倍政権の経済政策の実像だろう。気にかける指標は株価だ。海外のファンド関係者と首相や官房長官が会談するなど、歴代政権と比べてもその姿勢は際だつ。

■株価重視の危うさ

 株価は確かに大切だ。上がれば、株式を持つ人だけでなく、年金運用の改善などで恩恵は広く国民全体に及ぶ。

 しかし、株価は、グローバル化が進む経済全体を反映する。米国など諸外国の政策の変化や地政学リスクなど、一国では対応できない理由で動く。株価を意識しすぎると、市場にひずみをもたらしかねない。

 一例が、日本の公的年金資金を運用する世界最大級の機関投資家、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を巡る動きである。

 GPIFが株式への資金配分を増やす方針変更を「政治主導」で進めた。時には有力政治家が「近くGPIFが動く」と口先介入もする。多くの投資家がGPIFの動きを見極めようと様子見を続け、売買が盛り上がらないなかで値動きが底堅い最近の状況は、政府による管理相場の様相を帯びる。

 企業経営への「介入」も、危うさをはらむ。

 多額の手元資金をため込みながら、なかなか動こうとしない。そんな企業へのいらだちは、わからなくはない。

 ただ、政治力で動かしても、企業の取り組みが持続しなければ元のもくあみだ。むしろお上頼みの風潮を強め、民間主導の成長に欠かせない企業の活力をむしばみかねない。

 政府は、予算や税制、規制改革などを通じて、企業が活動する基盤を整えることに徹するべきだ。その原則を、政権はどうとらえているのだろうか。

■富の分配に目配りを

 「何でもあり」のアベノミクスにも、欠けている取り組みがある。所得の少ない人たちへの目配りである。

 人手不足を背景に、パートやアルバイトの時給が上がり、正社員の賃金も上向き始めた。しかし、脱デフレと今春の消費増税がもたらす物価上昇に所得の増加が追いつかない。労働市場からこぼれ落ちたままの人も少なくない。

 豊かな人が消費を増やすだけでは、経済は回らない。国民の多数を占める中・低所得層を底上げできるかどうか。これが今後の経済を左右する。

 国の借金が1千兆円を超える深刻な財政難と膨らみ続ける社会保障費を考えれば、今後も消費増税が避けて通れない。それだけに、中・低所得層にどのような対策をとるのかが、ますます重要になる。

 富の「分配」を重視し、格差の縮小を唱えたのは民主党政権だった。その民主党から政権を奪い返した自民党は「拡大」を強調し、異次元の金融緩和、機動的な財政運営、成長戦略の「3本の矢」を展開してきた。

 しかし、民間主導の自律的な経済成長に「分配」の視点が欠かせないのは、まぎれもない事実である。

 民間シンクタンクの間では、「デフレは脱した」との見立てが増えてきた。危機対応でもあるアベノミクスは、国民全体の生活を見すえ、その功罪や足らざる点について検証すべきときを迎えている。

サイバー対策 政府の防護態勢強化が急務だ

 政府機関を標的にしたサイバー攻撃が急増している。宇宙開発関連の情報などが流出したケースもある。

 防護態勢の強化に、政府は全力を挙げねばならない。

 政府が先月に公表した年次報告によると、2013年度の政府機関に対する不正アクセスは、約508万件に上った。前年度の5倍にも増えている。

 不正アクセスの大半は、重要情報を盗み取ろうとするサイバー攻撃とみられる。攻撃の多くが中国など海外から発信されている。

 昨年8~9月には、財務、外務、経済産業、農林水産などの中央省庁を狙った標的型サイバー攻撃が相次いだ。ウェブサイトにウイルスを仕込み、標的とした組織の職員がそのサイトを閲覧した場合にのみ感染させるタイプだった。

 攻撃対象は、宇宙や原子力関連の独立行政法人などにも広がっている。深刻な状況である。

 米国は11年、サイバー空間を陸海空と宇宙に次ぐ「第5の戦場」と位置づけ、深刻なサイバー攻撃には報復も辞さない方針を打ち出した。サイバー攻撃を安全保障上の重要問題と捉えている。

 今年5月には、米企業にサイバー攻撃を仕掛け、機密情報を盗んだとして、米司法省が中国軍所属の5人を起訴した。

 日本政府も昨年12月、国家安全保障戦略でサイバー攻撃への対応能力の強化を掲げたが、取り組みの遅れは否めない。

 政府内で現在、サイバー攻撃に対処する司令塔となっているのは、官房長官が議長を務める「情報セキュリティ政策会議」だ。

 だが、省庁がサイバー攻撃を受けても、政策会議は、その省庁に情報提供を強制する権限はない。迅速な原因究明が進まないという問題点がある。

 司令塔機能を高めることが、重要な課題である。政府は、政策会議を15年度にも「戦略本部」に格上げする方針だ。攻撃された省庁には情報提供を義務づける。

 こうした内容は、自民、公明両党と民主党などが先の通常国会に共同提出し、継続審議となっているサイバー攻撃対処の法案にも盛り込まれている。臨時国会で法整備を急がねばならない。

 金融、電力など経済活動の中枢を担う企業へのサイバー攻撃も増えている。世界の目が集まる20年の東京五輪に向け、日本は攻撃の標的になりやすい状況にある。

 不足する情報セキュリティーの人材育成など、官民が一体となった備えが欠かせない。

水中遺跡調査 沈没船は何を教えてくれるか

 日本沿岸の海底に眠る沈没船を調査すれば、新たな史実が分かるかもしれない。「水中遺跡」の研究にもっと力を入れるべきではないか。

 日本国内では、約500か所で水中遺跡が確認されている。

 長崎県松浦市沖の海底には、13世紀の元寇(げんこう)の際に沈没したとされる軍船がある。琉球大学の研究グループが3年前に発見した。「てつはう」として「蒙古襲来絵え詞ことば」に描かれた球状のさく裂弾なども見つかり、引き揚げられた。

 周辺海域は、鷹島神崎遺跡と呼ばれ、水中遺跡としては初めて国の史跡に指定された。今夏も付近で水中探索が行われている。

 文化庁は、ここでの実績を今後の水中遺跡調査に生かす考えだ。有識者による検討委員会も発足させた。成果に期待したい。

 瀬戸内海には、幕末に坂本龍馬が乗船し、紀州藩の船と衝突した「いろは丸」が沈んでいる。船室で使用されていたとみられる調度品などが既に回収された。

 古代から中国への海上交通路の要衝だった長崎県五島列島・小値賀(おぢか)島の近海では、13世紀ごろの中国の陶磁器が見つかった。

 こうした例はあるものの、ほとんどの水中遺跡が、未調査のまま放置されているのが実態だ。

 沈没船や水没した古代都市などを調査し、当時の技術水準や人々の暮らしぶりなどを探る水中考古学は、第2次大戦後に欧米を中心に発達した。

 近年は、水中音波探知機や遠隔操縦カメラなどの進歩に伴い、より多くのことが分かるようになった。諸外国に比べ、立ち遅れている日本の水中考古学の基盤整備を進めていく必要がある。

 ネックとなっているのは、陸上遺跡の10倍はかかるとされる調査費の調達である。調査は、多くの場合、自治体や研究機関が主体となって実施されている。

 だが、調査費は時として億単位にもなる。二の足を踏むケースは多いだろう。歴史的な価値のある遺跡の調査については、資金面での政府の支援は欠かせまい。

 水中考古学の専門家を養成していくことも重要だ。

 日本も加盟する国連海洋法条約は、海中の遺跡について、「文化上の起源を有する国の優先的な権利に特別な考慮を払う」ことを求めている。日本近海に沈む外国船の調査では、関係国との調整が必要となるケースもあるだろう。

 政府には、水中遺跡調査に関わる様々な課題を整理することが、まずは求められる。

2014年8月24日日曜日

改革を再加速するGEから何を学ぶか

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)が改革を再加速している。柱の一つは事業の中身の入れ替えであり、もうひとつは伝統的な製造業とデジタル技術の融合だ。

 同社は1892年設立の名門企業だが、1世紀以上たった今も純利益が毎年安定して100億ドルを超える高い収益力と成長性を維持する例外的な存在だ。持続的な発展のために何をすべきか、日本企業が学ぶべき点も少なくない。

 最近のGEの歩みを一言でまとめると、製造業への回帰である。ジャック・ウェルチ前会長時代のGEは金融事業の比重が高まったが、2001年就任のジェフ・イメルト現会長はその路線を修正し、製造業に軸足を戻した。

 08年のリーマン・ショックを機にその傾向はさらに強まり、発電用タービンや医療機器を得意とする「メーカーとしてのGE」の顔が前面に出るようになった。

 だが、単純に古いビジネスにたち返ったのではない。同じ製造業といっても、20年前とは中身も質も違う。まず特筆すべきは、事業構成の入れ替えを間断なく進めてきたことだ。

 イメルト会長は07年に高機能プラスチック事業を外部に売却したが、これはウェルチ前会長が手塩にかけて育てたビジネスだ。今月半ばには、創業事業の一つである冷蔵庫などの家電部門を売却する方針も明らかになった。

 手放すべき事業はタブーなく売る一方で、戦略分野には大胆に資金を投下し、大型の買収も辞さない。仏重電大手のアルストムをめぐり、独シーメンス―三菱重工業連合との買収合戦が起きたが、最後はGEが勝利した。

 もうひとつはデジタル技術を使いこなし、競争優位につなげる巧みさだ。航空機エンジン部門はビッグデータの手法を応用し、単にエンジンを売るだけでなく、航空会社に対してどう飛べば飛行距離が短くなり、燃費がよくなるかを指南するサービスを始めた。

 そのほか、部品生産に3次元プリンターを導入したり、技術の用途開発のためにネット上のコミュニティー経由で社外からアイデアを募ったりと、全社を挙げて常にイノベーションを志向する。

 「会社も年齢を重ねると、徐々に活力が衰える」。よくあるこんな説が間違いであることが、GEを見ていると、よく分かる。日本の老舗企業も新しい事業、新しい取り組みに挑戦してほしい。

大事にしたい産業技術遺産

 6月に世界文化遺産に登録された群馬の富岡製糸場が見学者でにぎわっている。製糸場の操業開始は1872年(明治5年)。当時の日本は欧米と対等につきあえる国を目指し、産業や社会の近代化に思い切ってかじを切った。そんな先人たちの思いと労苦に人々が触れる機会を提供している。

 富岡のほかにも、国内には歴史的な価値が高い工場や鉱山の跡、一世を風靡した装置や製品など様々な産業技術遺産がある。「技術立国」を目指してきた日本の歩みの証しでもある。それらは日本の産業のこれからを考える上でも参考になる大切な資料といえる。

 国立科学博物館が組織するネットワークには、トヨタ博物館や竹中大工道具館など企業や大学の110の産業史系の博物館が参加、各博物館が所有する約2万3千点の資料が登録されている。

 また日本機械学会は「機械遺産」、土木学会は「土木遺産」の名称で歴史に残る機械製品や土木構造物を毎年指定している。

 こうした試みは製作者らの功績をたたえるとともに、貴重な資料が不用意に捨てられたり壊されたりするのを防ぐためでもある。企業合併や博物館の再編などで収蔵品の行き場がなくなり廃棄されることも現実に起きているという。

 欧米には科学や技術の発展を実際のモノで後世に伝える博物館がある。米国のスミソニアン博物館が代表例だ。日本には総合的な産業技術の博物館がない。かつて国立産業技術史博物館の構想があり、大阪府と市が大阪万博跡地に誘致を目指し資料を収集したが、財政制約などから計画が中止となった経緯がある。

 日本の産業は旧来のモノづくりだけでは立ちゆかず、ソフト重視やシステム化が強く求められている。古い機械など不要との意見もあるだろう。しかし転換期だからこそ過去から学び未来に引き継いでいく努力も要るのでないか。

 世界遺産登録はすばらしいが、それがすべてではない。地道な収集と保存の努力も大事にしたい。

辺野古掘削―説明できぬなら凍結を

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設工事に向けたボーリング調査が、海上保安庁や沖縄防衛局による厳戒態勢のなか、移設予定地の名護市辺野古の海で始まった。

 小船やカヌーによる海上での抗議行動に対し、体を押さえたり、羽交い締めしたりして強制排除する当局の姿勢に、県民は反発を強めている。

 きのう、辺野古の米軍キャンプ・シュワブのゲート前で主催者発表で3600人が参加し、移設反対の抗議集会があった。

 沖縄各地から県民がバス30台以上を連ねて集まった。家族連れも目立つ。経済界からの参加者の姿もあった。

 「この海に海保の船がびっしりと浮いている様子は、69年前、沖縄を占領するために軍艦が取り囲んだ光景と同じ」

 集会で稲嶺進・名護市長はそう指摘した。

 実際に「海から艦砲射撃を受けた沖縄戦を思い出す」と話す年配者もいる。その心情を、政府は想像してみるべきだ。

 海保は海に張り巡らせた浮き具に抗議船を近づけない理由を「危険だから」とする。一方で、浮き具の内側では米軍関係者とみられる人々が海水浴をしているのに、警告もしない。

 県民には、沖縄に米軍基地を置くことの説明に政府が使う「抑止力」が信じられない。

 軍事技術が高度化したいま、沖縄に基地を集中させるのが必要不可欠なことなのか。新型輸送機オスプレイを佐賀空港に暫定移転させる計画は、必ずしも沖縄に集中させる必要がないと政府自らが認めたことになるのではないか。

 すべてのもとは、国土の0・6%しかない沖縄に、米軍基地の74%が集中する不公平な実情にある。そもそも沖縄の海兵隊は、復帰前に反基地運動が激化した本土から移駐した。

 この不公平を承知のうえでなお、沖縄に新たな基地をと言うのなら、少なくとも辺野古の掘削調査は中断し、県民の疑問に誠実に答えるべきだ。

 沖縄では11月に県知事選があり、辺野古移設が最大の争点になるとみられている。政権側が知事選を有利に戦いたいという意図で調査を強行したとすれば、現状では逆効果だというほかない。

 22日に移設断念の意見書を可決した那覇市議会に続き、県議会も抗議決議を検討する。保守陣営も含め、政府との溝は深まる。力ずくの権力行使は禍根を残すばかりだ。沖縄に理解される説明ができないなら、辺野古移設は凍結するしかない。

イラク新政権―「最後の機会」の覚悟で

 崩壊の危機にひんしたこの国に、一筋の光がようやく差してきた。イラクでアバディ国民議会副議長が首相に指名された。情勢はなお混沌(こんとん)としているが、新政権への準備が始まる。

 イスラム教シーア派、スンニ派、クルド人の三つに分裂しかかっている国内をまとめ、挙国一致の態勢を築けるか。それがこれからのかぎになる。

 国家の分裂は、民族や宗派間の大規模な虐殺や避難民の発生を招きかねない。中東全体の混乱につながる恐れもある。新首相が担う責務は大きい。

 国内の各勢力も小異にこだわることなく、国家再建に向けて力を合わせてほしい。

 8年間にわたって政権を担ってきたマリキ前首相は、自らのシーア派に偏った人事を進め、軍や行政の重要ポストから他派を排除した。不満を強めたスンニ派部族は、過激派「イスラム国」への支持に走り、クルド人は独立志向を強めた。

 議会の最大会派であるシーア派連合が、マリキ氏の下にいたアバディ国民議会副議長をあえて首相候補に選んだのも、イラクが統一国家として生まれ変わるうえでマリキ氏の退任が不可欠と判断したからだ。政権を手放そうとしなかったマリキ氏は結局辞任に追い込まれた。

 アバディ氏はバグダッド出身のシーア派で、イラク戦争後に亡命先の英国から帰国した。調整型の実務家だ。欧米との交渉に手慣れている一方で、地元社会での基盤は薄く、軍や行政機関をどれほど掌握できるかわからない。

 何より急がれるのは、軍や警察から排除されてきたスンニ派を統治システムに取り込み、国家の建設に参加させることだ。

 手間と時間がかかる作業で、難航が予想される。しかし、イラクが国家としての枠組みを保つには、欠かせない営みだ。

 近隣諸国との関係改善も望まれる。そのためには、米国、国連のほか、イランやトルコなどの周辺国が、自らの利益に固執することなく、新首相を支える必要がある。

 日本はこの地域への直接のかかわりは薄いが、そのぶん調整役として適任ともいえる。積極的な貢献への道を探りたい。

 イラクがこのような状況に追い込まれたのは、マリキ氏ひとりのせいではない。国内各派がそれぞれ党利党略を追い求めた結果である。

 過激派が伸長し、宗派間の溝が深まるいま、対応に猶予はない。イラクの政治家たちには、今回が最後のチャンスかも知れないとの自覚を促したい。

健康寿命 「元気で長生き」を目指したい

 高齢になっても、介護を必要とせず、自立して生活できる期間をできるだけ延ばしていく。超高齢社会へ向けた大きな課題である。

 厚生労働省が今月公表した2014年版の厚生労働白書は、「健康長寿社会の実現に向けて」をタイトルに、「健康寿命の延伸」をメインテーマに掲げた。

 健康寿命は、健康上の問題で日常生活が制限されず、家族などの手を借りることなく暮らせる年数のことだ。日本では、2010年時点で男性70・42歳、女性73・62歳と世界最高水準にあり、年々延びている。

 ただし、平均寿命(13年)の男性80・21歳、女性86・61歳と比較すると、いずれも10歳前後の開きがある点に留意すべきだ。

 この差は、介護や医療への依存度が高くなる期間を意味する。健康寿命より平均寿命の延びが大きいため、拡大する傾向にある。

 できる限りこの期間を短縮することが、高齢者一人一人の生活を充実させるために欠かせない。寝たきりにならず、健康に過ごせる期間が延びれば、医療・介護費の抑制効果も期待できる。

 政府は、健康長寿の実現を成長戦略の柱とも位置づけている。

 7月に閣議決定した「健康・医療戦略」では、20年までに健康寿命を1歳以上延ばす目標を打ち出した。「元気で長生き」を支える健康・医療関連産業を育成して、海外展開を促し、経済成長につなげたい考えだ。

 元気な高齢者の増加は、労働力の確保やボランティアの活性化にもつながるだろう。

 健康寿命を延ばすには、現役時代から生活習慣病の予防を心がけることが大切だ。糖尿病や高血圧などは、様々な合併症を引き起こし、要介護状態を招きやすい。

 自治体や企業も、住民や社員の生活習慣の改善や、健康診断の受診率向上などの健康作り対策に積極的に取り組む必要がある。

 静岡県は、健診の受診や日々の運動実績をポイント化し、一定以上になると協力店で優待サービスを受けられる「健康マイレージ」事業を行っている。

 計測器メーカーのタニタは、歩数計を全社員に配って計測を義務づけ、ランキング上位者を表彰する制度を設けている。

 地域や会社の実情に合った対策を進めてもらいたい。

 高齢者の活躍の場を広げることも重要だ。仕事や地域活動で社会に貢献することは、生きがいになり、介護予防に役立つだろう。

関空運営権 利便向上へ民間の力生かそう

 空港の運営を民間が担うことで、利便性の向上をどう実現していくかが問われよう。

 国が全額出資する新関西国際空港会社が、関西空港と伊丹空港の運営権売却に向けた手続きをスタートさせた。

 空港ビルや滑走路など施設の所有権は移さず、両空港を45年間にわたって運営する権利を外部に譲渡する計画という。今年10月に入札を開始し、来秋にも売却先と契約を結ぶ予定だ。

 運営権売却は、民間の資金とノウハウを導入し、空港経営の改善を目指す新たな手法である。財政負担を避けつつ、公共インフラ(社会資本)の質を高めようとする狙いは理解できる。

 政府は成長戦略の一環として空港の運営権売却を掲げ、2016年度末までに6空港での実施を目指している。すでに、仙台空港が運営権売却に関する募集要項を発表しており、福岡、広島の両空港なども検討を進めている。

 関空、伊丹の成否は、今後の運営権売却の試金石となる。

 新関空会社が今月開いた説明会には、金融機関や商社など国内外から約150の企業・団体が参加し、関心の高さを裏付けた。

 関西圏の観光資源の豊富さやアジアの航空需要の高さを理由に、購入に意欲を示す海外空港の運営会社もあるという。複数の日本企業や外資が連合を組んで入札に参加することが想定される。

 気がかりなのは、関空側の提示した売却額が巨額なことだ。前払い金ゼロの場合、45年間の支払総額は2兆2000億円に上る。

 新関空会社は、現状程度の利益を上げ続ければ、支払いは十分可能だと説明する。だが、不動産業界などには、数千億円が相場とされる海外の空港に比べて高すぎるといった声もある。

 関空、伊丹、神戸の「関西3空港」の役割分担もあいまいで、長期にわたって安定した収益を上げられるかどうか不透明だ。

 新関空会社の株主である国は、空港政策の方向性をきちんと説明する責任があろう。

 海外では、民間企業による経営が奏功し、商業施設の拡充などで集客数を大幅に増やしたケースも少なくない。

 一方、民間が運営に乗り出した後に赤字に陥り、利用者の負担増やサービスの低下を招いたアルゼンチンのような失敗例もある。

 民間への売却が利用者に不利益をもたらしては本末転倒だ。売却先の経営能力や事業計画を精査して選定することが求められる。

2014年8月23日土曜日

足腰の強い観光産業を育てるには

 円安を背景に、日本を観光する人が増えている。日本を訪れた外国人は3月から7月まで5カ月連続で100万人を超えた。政府は昨年1000万人を超えた訪日外国人を2倍、3倍に増やす構想だ。そのためには、付加価値の高い旅を提供できる観光産業をじっくり育てる必要がある。

 日本の観光消費の付加価値誘発効果は25.2兆円と名目国内総生産(GDP)の5.2%を占め、貢献度は高い。しかし個々の企業の生産性は高いとはいえない。宿泊業などで働く人の賃金は全産業平均より低い。大手ホテルチェーンの規模も米国などに比べれば小ぶりだ。

 国内の旅行消費額の94%は日本人によるものだ。地方の観光業がいきなり外国人をたくさん集客するのはハードルが高い。まず国内の大都市から来る旅行者に付加価値の高いサービスを提供し、産業としての基盤をしっかり築き直すのが現実的な道ではないか。

 日本の観光業は戦後、男性団体客で成長してきた。個人やグループで旅する人が増えた今も対応は遅れ気味だ。旧来の名所に代わり人気小説の舞台を再現した施設や世界遺産など文化的な場が人を集める。サイクリング専用道やお遍路などの徒歩旅行も関心が高い。こうした流れを見据え、投資をした企業や地域は集客を大幅に増やしている。円安で旅行者の目が国内に向いている今、好機を生かし、各地に試みを広げたい。

 地方の旅行会社は地元から国内各地や海外に送り出す営業が事業の柱だった。これからは外からの受け入れに知恵を使いたい。都会生活を経験した若者などの意見を積極的に聞いて、地域の魅力を発掘し、新たな旅行企画を問うてはどうか。

 こうした努力は外国人受け入れの準備にもなる。海外からの旅行者も年々個人客が増えている。いま訪日外国人のうち日本の旅行業者を利用する人は10%に満たない。地域の多様な楽しみ方を用意し個人に提供すれば、その地方を繰り返し訪れてくれる人を増やすことにつながる。

 長期的には人材の育成も課題になる。シンガポールは米国の大学と提携し、サービスのプロを育てている。経営基盤を安定させ優秀な人材が集まりやすくすると同時に、質の高いサービスを効率的に提供できる経営のプロの育成にも今後は取り組むべきだろう。

資源の輸出規制に歯止めを

 中国が導入したレアアース(希土類)などの輸出規制について、世界貿易機関(WTO)は日米欧の提訴内容をほぼ全面的に認める最終報告書を公表し、中国の敗訴が確定した。政府はこれを機会に資源の輸出規制が国際ルールに反することを各国に訴え、拡大に歯止めをかけるべきだ。

 レアアース生産で圧倒的な世界シェアを握る中国は輸出量を段階的に削減し、2010年秋に尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起きた後には対日輸出が一時停滞した。

 中国は輸出規制について環境や天然資源の保護が目的と主張したが、WTOは国内産業を恣意的に優遇する政策だと断定した。独占的な立場を利用し、希少資源を外交戦術にまで使った中国の輸出規制は許されない。敗訴は当然だ。

 中国はレアアースとともに敗訴したタングステンやモリブデンのほか、アンチモニーなどでも高い生産シェアを持つ。いずれも特殊鋼材や合成樹脂の製造に欠かせない資源だ。中国は今回の敗訴を踏まえ、世界第2の経済規模を持つWTO加盟国として公正な貿易をしてもらいたい。

 中国以外の有力資源国でも、輸出規制の動きは広がっている。インドネシア政府は自国産業の振興を狙い、1月に発効した新鉱業法でニッケル鉱石などの輸出を禁止した。

 プラチナなどで高いシェアを持つ南アフリカ共和国も「戦略的鉱物資源」は一定量を決まった価格で南ア国内に優先供給させる政策の実現をめざしている。

 インドネシアの禁輸はWTOへの提訴も検討課題になる。ただ、その前に政府は自国産業を優遇する輸出規制が国際社会で認められないことや、中国の規制が結果として需要の減少を招いたことなどを説明し、政策の是正を促してもらいたい。

 日本国内ではレアアース危機の教訓を踏まえ、供給国が限られる資源についてリサイクルの推進や省資源技術の開発を進めることも重要だ。

原発と自由化―優遇策はいらない

 経済産業省は原発で発電した電気に基準価格を設ける制度案を打ち出した。

 2016年以降の電力自由化で、電気は基本的に市場を通じて売買されるようになる。今回の制度案では、まず基準価格を設けておき、市場価格がこれより下がったときには、差額分を後の電気料金で回収できるようにする。逆に、上がったときには差額を還元する。原発事業者に、収入を保証する仕組みと言える。

 経産省は「円滑な廃炉や安全投資、安定供給に支障が出ないようにするため」と説明する。基準価格は、使用済み核燃料の処分や廃炉にかかる費用も含めて必要額を計算し、政府と事業者で決める。

 電力自由化で、現行の料金制度(総括原価方式)が撤廃されると、原発にかかる巨額の費用を十分に回収できなくなる可能性が高い。原発事業者にとってはありがたい制度だろう。

 しかし、それではエネルギー基本計画がうたう「(原発は)可能な限り低減させる」方針と逆行する。不要な原発が淘汰(とうた)されないばかりか、新増設に道を開くことにもなりかねない。

 政策的に減らそうという原発に優遇策を講じれば、原発事業者を温存し、他の事業者との競争の条件もゆがめてしまう。

 電力自由化のもとでは、電源も競争にさらされ、安全性や経済性を見る利用者側の選択によって決まっていく。

 原発は他の電源に比べ、初期投資と後始末に巨額の費用がかかる。加えて福島での原発事故以降、安全基準が厳しくなり、もはや「安くて安定的な電源」とは言えなくなっている。

 そうした原発も公平な競争にさらすことに自由化の一つの意味はあったはずである。

 確かに、廃炉や使用済み燃料を含めた放射性廃棄物を管理・処分するには費用がかかる。必要な財源が足りないようなら、手当てしなければならない。

 ただし、これらは別途、透明性の高い手順で適正な金額を見積もり、電気料金とは明確に区別したうえで国民に負担を求めるのが妥当だろう。

 そのためにも、まずは原発を着実に減らす具体的な施策を示すことが欠かせない。既存原発の後始末に必要な費用の算段はその後の話である。

 電力自由化の影響は大きいし、経営環境の激変で事業者の経営が一気に悪化しないように経過措置を講じる必要もあるかもしれない。その場合も、自由化の狙いを阻害しない工夫が不可欠だ。

大学入試改革―高校の教育とセットで

 知識の量より、考える力や意欲を重視する。ペーパーテストだけでなく、高校でしてきたことも含めて多面的に評価する。そんな大学入試の改革案を、当の大学はどうみているか。

 朝日新聞と河合塾の大学調査では、考え方じたいには賛成している大学が多い。ただ、実際に形にするのは容易でないと考えているようだ。

 改革は大学入試センター試験のみならず、各大学の独自入試にも求められている。

 教わった通り覚えるだけでなく、自分で考えて動ける人を育てたい。入試もそういう選考基準にしたい――。政府や審議会のその問題意識はわかるが、理念先行で具体的なイメージがわかない。調査から浮かぶのは、大学側のそんな戸惑いだ。

 たとえば、「意欲を入試で測る」ことについては7割の大学が「困難」と考えている。

 確かに、面接をすれば多少の見当はつくにしても、大きな大学では全員の面接は難しい。

 そもそも、入試を改革しただけで能動的な学生が集まりはしない。いかに入試で意欲を測るかより先に、どうすれば高校までの教育で子どもの意欲を育めるかを考える必要がある。

 大学入試の改革は、高校までの教育内容の見直しとセットでなくては進まないはずだ。

 文部科学省は2020年実施をめざして学習指導要領を改訂しようとしている。その骨格を早めに示してもらいたい。それが入試のあり方を具体的に煮詰める手がかりにもなる。

 審議会では、問題解決や複眼思考の力をみるため、教科や科目をまたぐ出題も検討されている。これも、小中高でそういう授業が当たり前になるのが前提だろう。歴史などの科目再編があればその影響も受ける。

 改革案の柱は、学力のほか、課外活動など高校時代にしてきたことも含めた多面的評価への転換だ。受験勉強だけでなく、多様な活動に打ち込んでほしいという考え方は理解できる。

 理念を実現するには今の推薦や、個性重視のAO入試の教訓をふまえる必要がある。これらも同様の発想で私大中心に広まったが、学力不問にして入学者を確保する方便にも使われ、学力低下を招いたと批判された。

 特別な受験勉強が不要で、基礎学力の有無をきちんと判定できる。そんな共通試験をうまく設計できるかが鍵になる。

 数十万人の受験生に、多面的評価がどこまでできるか。公平さとのバランスをどう取るか。受験する人が納得できるよう、じっくり議論したい。

自衛隊海外派遣 恒久法制定は有力な選択肢だ

 外国で重大事態が発生した後、特別措置法を制定して自衛隊を派遣する手法には、終止符を打つ時ではないか。

 政府・与党内で自衛隊海外派遣に関する恒久法を制定する案が浮上している。

 集団的自衛権の行使を限定容認する新たな政府見解が7月に決定された結果、自衛隊の後方支援活動の拡大などが可能になり、関連法整備が必要になったためだ。

 安倍首相も参院の集中審議で、自衛隊の国際平和協力活動の関連法整備について「一般法(恒久法)か特別措置法かといった形態を含めて検討する」と述べ、恒久法制定に前向きな考えを示した。

 自衛隊の海外派遣の特措法は、過去に2本ある。2001年の米同時テロ後、インド洋での給油活動の根拠となったテロ対策特措法と、イラクでの給水など人道支援活動や空輸活動を可能にした03年のイラク復興支援特措法だ。

 いずれも時限法で目的が限定されており、今は失効している。

 今回、国連平和維持活動(PKO)協力法など個別法の改正にとどめず、包括的な恒久法を制定すれば、事態に応じて特措法を整備する必要がなくなり、迅速で機動的な自衛隊派遣が可能となる。

 安倍政権の「積極的平和主義」を具体化するため、恒久法の制定は有力な選択肢となろう。

 新見解は、憲法が禁じる「武力行使との一体化」の対象を、戦闘現場での自衛隊の後方支援などに限定した。受け入れ国の同意があれば、他国軍などに対する「駆けつけ警護」も可能にした。

 いずれも、自衛隊の国際平和協力活動を拡充し、その実効性を高める上で重要な意義を持つ。

 従来、自衛隊の活動は、国際的に通用しない概念である「非戦闘地域」に限定されていた。

 他国軍に救援を要請されても、断るか、様子を見に行き、自分たちが危険になった段階で正当防衛で武器を使用するという非常手段で対応するしかなかった。

 06年の改正自衛隊法で国際平和協力活動が自衛隊の本来任務に格上げされ、08年には自民、公明両党が恒久法を検討したが、合意に至らず、断念した。今回の新見解は恒久法制定の格好の機会だ。

 恒久法は、自衛隊の国際活動の全体像を整理し、明示する効果も持つ。国連安全保障理事会決議がある場合と、ない場合を分けた上で、実際の派遣には国会承認などの歯止めをかける必要がある。

 政府・与党は、恒久法について前向きに検討してもらいたい。

検察の再犯対策 高齢・障害者に福祉の支援も

 万引きや無銭飲食など比較的軽微な犯罪を繰り返す高齢者や知的障害者の社会復帰支援に、検察が力を入れている。

 福祉の専門家と協力して、福祉施設などの受け入れ先を確保した上で、起訴猶予にしたり、執行猶予付きの判決を求めたりする取り組みだ。

 国民生活の安全を守るために、再犯を防ぐことは重要である。服役させるだけでなく、容疑者や被告の状況に応じた再犯防止策を模索し、社会内での立ち直りを促そうという狙いは理解できる。

 東京地検では昨年1月から、社会福祉士を非常勤職員として採用し、担当検事に具体的な支援方法を助言してもらっている。

 例えば、万引きで逮捕された高齢の男性は、認知症が疑われたため、起訴猶予にして介護施設に入所させた。この1年半で、350人以上が、刑務所に収容されず、福祉や医療の支援を受けた。

 長崎や大津などでは、精神科医らでつくる委員会が被告の障害の程度を調べ、地検がその報告書も参考に求刑などを決める。仙台など20地検は地元の保護観察所と連携し、保護観察官が容疑者の釈放後の住居探しにあたっている。

 福祉のネットワークや専門的知見を生かす試みと言えよう。

 背景には、高齢者や障害者の再犯が後を絶たない現状がある。

 法務省の犯罪白書によると、刑務所に入所する高齢者はほぼ一貫して増えており、2012年は20年前の5倍を超えた。その7割以上が再犯者だった。

 知的障害の見られる受刑者を抽出調査したところ、平均の入所回数は3・8回で、5回以上入所しているケースも目立った。

 こうした人たちは、刑務所での服役が更生に結びついているとは言い難い。刑期を終えても、居場所がなく、生活の見通しも立たないと、再び犯罪に手を染め、刑務所に逆戻りしてしまう。

 凶悪事件の犯罪者には、厳しい刑罰を科さなければならない。ただ、事案によっては、福祉的な観点を取り入れた処遇を用意することも、治安対策上、有効な手法の一つだろう。

 刑務所の過剰収容を抑え、コストを削減できる側面もある。

 課題は、受け皿が十分に整っていない点だ。法務・検察は厚生労働省や自治体と連携し、協力施設を増やす努力が欠かせない。

 福祉の支援を受けた人がきちんと更生し、再犯の抑止につながったのか。検察には、効果の検証も求められる。

2014年8月22日金曜日

成長戦略の実行へ強力な司令塔を

 安倍晋三政権が6月に成長戦略を閣議決定してからほぼ2カ月がたった。大事なのは、決めたことを着実に実行することだ。安倍首相はそのための強力な体制づくりに心を砕いてほしい。

 霞が関の人事異動や夏休みもあり、ここ1~2カ月の経済政策づくりは実質的に止まっている。来月初旬に予定されている内閣改造を機に、安倍政権は改革を本格的に再起動すべきだ。

 安倍政権では、民間人が議員として参加する政策会議として、経済財政諮問会議のほか、産業競争力会議、規制改革会議、国家戦略特区諮問会議、社会保障制度改革推進会議など乱立している。

 成長戦略とりまとめの過程で明らかになった問題は、必ずしも個々の政策会議の役割分担が明確でなく、会議の間の連携も十分でなかったことだ。こうした事実は民間議員も認めている。

 たとえば、雇用分野では、労働時間に縛られない新しい働き方である「ホワイトカラー・エグゼンプション」をめぐり、産業競争力会議と規制改革会議が別々に検討を重ねてきた。

 医療や農業といった分野でも、テーマが同じなのに、違う会議でバラバラに議論してきた。これでは非効率なうえに、改革の推進力がそがれてしまう。

 民間人の知恵を結集して官邸主導でさらなる改革を進めるには、思い切って政策会議を統合したり、複数の政策会議の合同会議をもっと頻繁に開いたりすることが必要だ。各会議ごとに異なる縦割りの事務局も、テーマ別に横割りで再編してはどうか。

 特に成長戦略の1丁目1番地である規制改革では、国家戦略特区をもっと有効に使うべきだ。特区で試行する改革と、全国レベルで実現をめざす改革の仕分けをするとともに、特区で成功したものは速やかに全国展開するといったやり方を定着させたい。

 医療、雇用、農業分野の規制改革、法人減税などは、これから成長戦略を踏まえた具体的な制度設計の段階に入る。ここで骨抜きにならないようにするには、厳しい監視が欠かせない。

 成長戦略に盛り込んだ政策すべての進捗状況を点検する。必要に応じて追加策を打つ。そんな形で政策の循環を早めるには、やはり強力な司令塔が要る。「成長戦略担当相」として1人の閣僚に権限を集めるのも一案だろう。

なお死角多い土砂災害対策

 広島市で大規模な土砂災害が起き、多くの死者・不明者が出ている。20日未明の猛烈な雨で市内各地で土砂崩れが多発した。自衛隊や消防などが不明者を捜している。2次災害に注意し、人命救助に全力を挙げてほしい。

 同市北部では20日未明に3時間で200ミリ超と、8月の月間雨量を上回る雨が降った。台風や梅雨末期ではなく、盛夏の土砂災害に不意を突かれた住民も多かったことだろう。対策にはなお死角が多いことを浮き彫りにした。

 ひとつが、数カ月分の雨が短時間に降る集中豪雨にどう備えるかだ。地球温暖化が犯人とは言い切れないが、集中豪雨や土砂災害は列島のどこでも油断できない。

 広島市が避難勧告を出したのは土砂崩れの発生後だった。被災地は花こう岩が風化したもろい地質からなり、15年前にも大規模災害を経験している。8月に入って雨が続き、地盤もゆるんでいた。

 真夜中に突然、避難勧告を出すのは住民の安全確保に課題があり、自治体がためらうのは無理もない。だが雨の予報が出た段階で、注意を呼び掛ける「避難準備情報」は出せなかったのか。

 土砂災害の危険が高い地域では日ごろから住民に注意を喚起することも欠かせない。

 国土交通省によると、全国で土砂災害の危険地域は52万カ所にのぼる。土砂災害防止法は都道府県が「警戒区域」や「特別警戒区域」を定め、市町村に避難計画づくりを求めている。特別区域には宅地開発の制限もある。だが危険地域のうち3分の1は未指定だ。

 自治体の担当職員の不足に加え、警戒区域に指定されると不動産価格が下がるとして、地元住民が反対するケースもあるという。自治体は住民に粘り強く説明し、区域指定を急ぐべきだ。国が専門家を派遣して防災計画づくりを後押しすることも考えたらどうか。

 土砂災害から命を守るには、先手を打って避難するのが鉄則だ。迅速な避難行動を促すため、事前の情報周知がカギを握る。

広島土砂災害―検証究めて命を守れ

 広島市北部の土砂災害で多くの犠牲者が出た。広島県では15年前、32人が犠牲になる豪雨があり、国が土砂災害防止法を制定するきっかけになった。その教訓が生かされなかったことは痛恨の極みだ。

 今回、土砂が崩れた場所の多くは、法に基づく警戒区域に指定されていなかった。広島市が避難を勧告したのは災害発生後。現場では二次崩壊が起き、消防署員が亡くなった。

 なぜこんなことになったのか。徹底した検証が必要だ。

 積乱雲が急に発達し、1時間100ミリを超す猛烈な雨になったのは未明だった。とはいえ、土砂災害は、累積の降水量が大きく影響する。広島市では今月上旬以降、降水量が平年の3倍強。豪雨がピークを迎える前に、気象台から土砂災害警戒情報は出ていた。

 ただでさえ広島は地質がもろい。山すそに近い住宅地が多く、県内の土砂災害危険箇所の数は全国一だ。広島市幹部は「(雨が)収束するのではとの淡い期待があった」と言うが、認識が甘すぎた。

 日本では毎年1千件前後の土砂災害が起きている。昨年10月は東京・伊豆大島で土石流が発生し、39人が犠牲になった。猛烈な雨も増加傾向にあり、温暖化の影響が疑われている。

 災害リスクは高まっている。命を守る網の強化が必要だ。

 広島の被災地では「危険だと思っていなかった」という声が相次いだ。自治体はハザードマップをつくって公表しているが、住民はえてして「自分のところは大丈夫」と思いがちだ。よりきめ細かく、危険性を周知していく必要がある。

 伊豆大島や広島のケースでは、雨が夜更けに強まったことが自治体の対応を鈍らせた。当然ながら災害は昼夜関係なく起こる。気象予測に合わせた、早め早めの備えが肝心だ。

 熊本県が昨年度から始めた「予防的避難」が参考になる。

 12年7月の未明の豪雨で犠牲者が出た反省から、夜間に大雨が心配される場合は、自治体が夕方から避難所を設け、自主避難を呼びかける。今年7月の台風8号の時は、県全域で約5千人が実際に避難した。空振りはあっても、住民の危機意識を高める効果が期待できよう。

 私たち自身の心がけも重要だ。裏山がある、小川がある。そうした周辺の特性を理解し、大雨の時はどう行動するかをあらかじめ考えておく。一人ひとりがそうした自助努力を積み重ね、命が奪われる事態をなくしていきたい。

万引き犯公開―制裁につながるリスク

 マンガの古書、フィギュアなどを売る東京・中野の店が、万引き犯とおぼしき人物の顔写真の公開を考えていると明かし、議論をよんだ。

 盗んだ品物を期限内に返さなければ公開すると、ホームページ上で通告したのだ。

 盗まれたのは、販売価格27万円のブリキ製おもちゃ。店は警察の要請に応じ、顔写真の公開は踏みとどまった。警察は提供された画像も手がかりに、容疑者の男性を逮捕した。

 それでも店側は「多くの捜査員を投入するくらいなら、映像を公開した方が効率的では」との思いを残す。

 背景には、警察に被害を届け出てもなかなか捜査に動いてくれず盗まれた物を取り戻せないという不満もあったのだろう。

 しかし当事者が犯人を特定し、その写真を公開することは大きな問題をはらんでいる。

 いったんホームページ上で公開されれば、事件が解決し、店側が削除しても、その画像はインターネット世界を漂い、半永久的に残る。

 公開画像が本当に犯人かどうかの検証もできず、人違いのおそれも排除できない。

 商品を取り返すことが目的だったにせよ、犯人として顔をさらされた側には強い制裁となる。第三者から攻撃されるなど、公開した側が意図しない事態を引き起こすかもしれない。

 だから、日本を含めた法治主義のほとんどの国では私人による訴追、制裁を認めていない。犯罪の捜査は警察などの捜査機関にゆだねる。その刑事手続きも、容疑者の人権をふまえ厳格に定められている。

 万引きは軽い犯罪と思われがちだが、小売店経営への影響は深刻だ。小売業界などが作る全国万引犯罪防止機構は被害の実態調査から2010年、国内での年間の被害総額を4615億円と推定した。

 防犯カメラや警備員にかかる負担は、きちんと金を支払う客に回ってくる。どうやって万引きをなくしていくかは、社会全体で向き合うべき問題だ。

 書店が少年の万引き現場をビデオ撮影して販売したり、ディスカウント店が万引きした客の顔写真を店に掲示したりするケースは90年代からあった。

 いまや防犯カメラは社会のいたるところにある。インターネットなど、企業や個人は自ら伝えたいことを広めるツールをもつ。私的な捜査、制裁はその気になればできてしまう時代だ。

 だからこそ、その影響の重みを一人ひとりが考えて行動しなければならない。

宇宙基本計画 安全保障の強化へ改定を急げ

 日本を取り巻く情勢の変化に的確に対応するには、宇宙戦略の見直しが不可欠である。

 政府の宇宙基本計画について、安倍首相の諮問機関「宇宙政策委員会」が、安全保障分野を主軸に据えた内容に改定するよう提言した。

 中国の強引な海洋進出は、アジア諸国の脅威となっている。北朝鮮のミサイル発射や核開発への警戒も怠れない。

 こうした現状を踏まえれば、提言が「自衛隊の部隊運用、情報の収集・分析、海洋監視、情報通信、測位といった分野で、各種の人工衛星の活用を図る必要がある」と明記したのは妥当だろう。

 基本計画は、宇宙基本法に基づいて策定される。現行の計画は昨年1月に決まったが、安全保障の具体策が十分に盛り込まれていないという問題点がある。

 国家安全保障会議(NSC)は昨年末、安保分野への宇宙利用を方針に掲げた。日米両国は今年5月、この分野での連携を強化することで合意した。不備のある基本計画の改定は急務である。

 現在、安保関連の宇宙利用の中心は、4基の情報収集衛星だ。地上監視の精度や、海上の船舶の動向などを迅速に捉える機動力が不足している。

 情報収集衛星の機能を質、量ともに高めなければならない。

 監視活動には、宇宙技術による高精度の位置情報取得も大切になる。現状で頼りになるのは、米国が運用している全地球測位システム(GPS)だけだ。

 提言は、これが攻撃されて機能を喪失した場合に備え、自前の測位システムを充実させる必要性を指摘した。具体策として、「準天頂衛星」を現行の1基から、独自の24時間運用が可能になる7基体制に増やす案を挙げた。

 他国のミサイル発射を即時に探知する早期警戒衛星の技術開発にも着手すべきだと提言した。

 こうした宇宙技術は潜在的脅威への抑止力として重要だが、具体化には巨費を要する。基本計画の改定に当たっては、優先順位をつけることが求められよう。

 宇宙技術を維持し、関連産業や技術者を育てるには、宇宙探査やロケット開発を継続することも欠かせない。国際宇宙ステーションへの参加を継続するかどうかも、重要な検討課題である。

 自民党は、政府に「宇宙庁」を新設し、関連予算を一元化することを提案している。限られた財源を効率的に活用する観点から、議論を深めたい。

水道老朽化 ライフラインの危機は深刻だ

 古くなった水道設備の更新を着実に進め、生活に不可欠なライフラインを守らねばならない。

 水道の老朽化対策は、自治体にとって逃げることのできない課題と言える。

 日本の水道は、1950~70年代に集中的に整備が進められた。そのほとんどを、地方自治体や公営企業が運営している。

 法定耐用年数は40年と定められているが、実際には改修が追いつかず、50~60年間も使い続けている水道管も珍しくない。

 今年6月には各地で、約50年前に敷設された水道管が破裂する事故が相次いだ。大津市では1万2000世帯の水が濁り、北九州市では漏れた水で地下の土が流され、歩道が陥没した。

 こうしたトラブルを防ぐには、計画的に設備の補修や更新を実施することが重要である。

 国土交通省が8月にまとめた水資源白書によると、全国の水道設備の更新費用は現在、年間8000億円弱だが、老朽化がさらに進む15年後には1兆円規模に膨らむ見込みという。

 一方、自治体が更新投資に使える資金は、減っていくと予想している。人口減少とともに水道の料金収入が目減りするためで、あと10年ほどで、更新投資の必要額を賄えなくなる計算だ。

 過疎地など財政基盤の脆弱(ぜいじゃく)な水道事業者の中には、設備を維持できず、自力での事業継続が困難になるところも出てこよう。

 隣接する自治体が水道事業を統合する「広域化」などにより、経営の効率化と基盤強化を図ることが求められる。

 水道更新のための財源確保について、自治体と住民は今から真剣に検討する必要がある。

 更新費用の不足を補うため、料金を値上げする動きも出てきた。水戸市は今年4月、7・9%の値上げに踏み切ったほか、埼玉県秩父市も5月に17・5%の大幅な料金アップの方針を表明した。

 ただ、値上げは住民の生活に打撃となる。料金負担をできる限り抑える努力も要る。

 自治体が老朽化の進み具合をきめ細かく把握し、効率的に改修を進めることが大事だ。丁寧な点検と補修により、設備の長寿命化を図ることも有効だろう。

 心配なのが人材難だ。水道事業に携わる自治体などの職員は、この15年で約3割も減った。特に熟練技術者の不足は深刻で、老朽化への対応を困難にしている。

 IT(情報技術)を活用した点検作業の普及も推進したい。

2014年8月21日木曜日

経済を傷めない簡素な金融規制に

 米大手証券リーマン・ブラザーズの経営破綻から、まもなく6年が経過する。「100年に1度」と形容された危機の再発を防ぐために、金融機関への規制を強化する動きは今も続いている。

 危機の背景には、1990年代の規制緩和を受けて銀行や証券会社などの金融機関がリスクの高い取引に走ったことがある。その反省を生かして各国の監督当局が規制強化に動くのは当然だ。しかし、最近は規制が複雑で厳しすぎるとの指摘も多い。

お金の流れ滞らせるな
 金融機関の手足を縛りすぎて経済に必要なお金の流れが滞るようなことがあってはならない。各国当局は規制を総合的に点検し、過剰な部分は簡素にし、逆に手薄な部分は補う必要がある。そうした作業に日本の金融庁も積極的に加わるべきだ。

 リーマン・ショックの後、世界の主要な銀行を対象として、2つの大きな規制の導入がすでに決まっている。

 1つは「バーゼル3」と呼ばれる資本規制だ。主要国の銀行監督当局が協議して作ったもので、融資などの資産に対し、利益の蓄えや普通株で構成する中核自己資本の比率を7%以上に保つ必要がある。2013年から段階的に導入され、19年までの達成が義務づけられている。

 もう1つは投機的な売買の抑制策だ。代表的な米国の「ボルカー・ルール」は15年から全面的に実施される運びで、自己資金による証券売買やヘッジファンドなどへの投資を禁じている。

 ほかにも、厳しい規制がさらに導入される方向で国際的な議論が進んでいる。

 例えば、経営破綻に直面した時に資本に振りかえられる債務を巨大銀行に積ませておく、「第2資本」ルールだ。また、現在はリスクがないと見なされている国債について、金利上昇時の損失を予想し、それに見合う資本の積み増しを求める案も、バーゼル規制の一環として浮上している。

 監督当局が規制強化の手綱を緩めないのは、リーマン・ショックで経営難に陥った金融機関を公的資金で救済したことへの社会的批判が高まったからだ。

 次に危機が起きても公的資金は使わないと決めている国もある。国民感情を考えれば、政府がそうした強い姿勢を示そうとするのは無理からぬところがある。

 とはいえ、相次ぐ規制の強化が引き起こしかねない弊害への懸念も大きくなってきた。

 何よりも、金融仲介機能の低下が心配だ。銀行が資本の蓄積を重視すると、リスクをとって貸し出しを伸ばそうとする姿勢が弱くなりがちだ。その結果、投資などに必要な資金が産業界に行き渡らなくなるおそれがある。

 金融規制づくりは米欧の主導で進むことが多い。日本の大手銀グループが一方的に厳しい規制を課される心配もある。例えば米欧では「第2資本」を厚く積むよう求める声が多いが、その通りになると日本の大手銀は一行あたり数兆円の資金調達を迫られる。

 規制対応の負担があまりに重くなれば経営の自由度が狭まる。国際展開などが後手に回り、外国為替や決済など顧客へのサービスに支障を来すおそれも出てくる。

 「影の銀行」にリスク
 銀行の動きを縛りすぎると、規制の緩やかなファンドなど「影の銀行」を通じたお金の流れが膨らむ可能性も指摘されている。このところ米国では、ファンド経由のお金が投機的な金融商品に流れ、金融危機の直前のように市場が過熱する現象が見られる。

 リーマン・ショック後の金融規制づくりは、代表的な先進国と新興国の監督当局から成る金融安定理事会が舞台となることが多い。そうした場で日本の金融庁は、過剰規制への懸念や自国の金融業への影響を主張すべきだ。

 危機の舞台にならなかった日本は、米欧に比べ冷静に規制づくりに取り組むことができるはずだ。銀行や証券だけでなく、ファンドなどを含め金融システム全体を見渡したバランスの良い規制を提案することも、重要になる。

 世界経済は潮流の変化を強く意識せざるをえない段階にさしかかっている。米連邦準備理事会(FRB)は今年秋にも金融の量的緩和を終了する見通しだ。米金融政策の転換がグローバルな金融市場や各国の経済に与える影響は正確には予測しにくい。

 そんな微妙な時期だけに、国際的な金融規制づくりにも景気や企業活動へのいっそうの目配りが必要とされている。

ウクライナ―ロシアは譲歩の時だ

 孤立の深まりはロシアに打撃をもたらすだけだ。プーチン大統領はすぐさまウクライナ政策を転換し、世界との協調関係を取り戻さなければならない。

 政府軍と親ロシア派武装勢力との間で衝突が続くウクライナ東部では、戦闘による死者が2千人を超えた。半数は、政府軍の攻勢で戦闘が激化した7月下旬以降の死者だ。

 298人の命を奪ったマレーシア機撃墜事件も発生から1カ月が過ぎたが、現場付近の激しい戦闘に原因調査を阻まれ、真相の究明は進んでいない。

 紛争激化の背景にロシアによる武装勢力への軍事的支援を見る米欧は、撃墜事件の後で厳しい制裁に踏み切った。

 しかし、ロシアの政策が変わる兆候は見えてこない。

 これ以上の犠牲の拡大を防ぎ、撃墜事件の調査を進めるため、国際社会はいまこそ一層の努力を傾けるべきだ。

 折からロシアとウクライナの首脳に欧州連合(EU)の代表らも加わった国際会議が26日に開かれる。それをぜひ、事態打開の第一歩としたい。

 ウクライナ東部は、ロシア語を話す住民が多いとはいえ、ソ連崩壊後もずっと深刻な民族紛争とは無縁だった。住民の分離独立志向や、ロシアへの編入願望もさほど強くなかった。

 武装勢力は旧ソ連圏の民族紛争にかかわったロシアの元工作機関関係者ら、外部の人員を中心に組織された性格が強い。その結果起きた紛争は、暮らしを荒廃させ、地域の産業を破壊した。住民の支持は確実に減り、劣勢にもつながっている。

 ロシアはこうした現状を正しく認識するべきだ。重要なのは米欧も納得できる形で武装勢力への軍事的支援を控え、紛争を収束へ向かわせることだ。

 ただでさえ減速傾向が強かったロシア経済は、新たな制裁によって、エネルギーや金融などの基幹産業を中心に深刻な影響を受け始めている。

 ソ連崩壊後にロシアは、グローバル化という世界経済の動向を受け入れた。世界と協調することで投資や技術を引き入れ、経済を成長させてきた。

 いまプーチン氏は、自給自足的なソ連型経済への回帰すら口にする。だが国際的な孤立は、先端技術をそなえた産業の育成など、資源依存から脱して経済を現代化させるというロシアの重要課題に真っ向から反する。国内から強い懸念が出ているのも当然だ。

 ロシア自身の将来のため、プーチン氏はウクライナ政策で譲歩を決断すべき時である。

公益法人―改革の原点を思い出せ

 新制度に変わった公益法人で不祥事が続いている。

 全日本テコンドー協会は7月、政府の第三者機関「公益認定等委員会」の事務局から認定を取り消されて一般法人になった。総会運営や不明朗な会計処理を巡り、認定委から2度、勧告を受けたあげく、自ら返上を申し出ての異例の事態である。

 認定取り消しにこそ至っていないが、勧告は他にもある。全日本柔道連盟(選手への暴力や助成金の不正受給)、日本アイスホッケー連盟(役員選びを巡る紛糾)、日本プロゴルフ協会(役員が暴力団員と交際、金をもらう)といった具合だ。

 なぜスポーツ団体に目立つのか、徹底的に調べる必要があるが、スポーツ分野の問題だと片付けてはなるまい。都道府県の認定分を含めて9千を超える新公益法人の大半はきちんと活動しているとはいえ、制度への信頼を揺るがしかねない深刻な事態だと考えるべきだ。

 明治時代に始まった旧制度では、各省庁が裁量で公益法人の設立を許可し、行政との癒着や天下りなどの弊害を生んだ。それを断ち切り、第三者機関による公平な認定に衣替えした。

 NPO法人などとともに、新公益法人が民間の非営利団体として公的な活動を担う。官と民が互いに協力し、競い合いながら社会を支えていく。5年間の移行期間を経て昨年末に完全に切り替わった新制度には、そんな狙いが込められている。

 新公益法人になれば、法人税の納税や寄付金集めで優遇税制が適用される。間接的に公費で支えている形だけに、認定委がしっかり監督するのは当然だ。

 ただ、認定委が勧告や取り消しを乱発すれば、法人による「自治」を尊重する改革の趣旨を損ないかねない。公益法人側が自らを正せるかどうかが問われるゆえんだ。

 約1400の会員を持つ公益法人協会は、スポーツ系を含め会員以外の法人にも呼びかけて緊急セミナーを開いた。こうした活動を広げ、非営利法人にくわしい会計士や税理士を紹介しあうなど、公益法人全体で改善に努めてほしい。

 認定委と、その事務局の内閣府にも注文がある。権限に基づく監督に加え、公益法人の自発的な取り組みを促すよう、工夫してほしい。

 例えば、「問題あり」と見た法人にまず報告を求める際、法人名は伏せつつどんな問題が生じているかを公表し、他の法人が自らを点検する機会にできないか。法人との「対話」を通じた支援も、大切な視点である。

広島土砂災害 生かされなかった過去の教訓

 谷を流れ下った大量の土砂が、多数の住宅をのみ込んだ。

 局地的豪雨に見舞われた広島市内の10か所以上で20日未明、土石流や崖崩れが発生した。約40人の死亡が確認され、行方不明者もいる。痛ましい災害だ。

 夏休み中だった安倍首相は急きょ、首相官邸に戻り、被災者の救命・救助にあたっている自衛隊の増員などを指示した。

 現地では、救助活動中の消防隊員も犠牲になった。警察や消防、自衛隊は、二次災害に注意を払いつつ、不明者の捜索に全力を挙げてもらいたい。

 気象庁によると、広島市安佐北区では、20日午前4時半までの3時間雨量が200ミリを超えた。例年の8月1か月間の1・5倍の降水量だった。大量の雨水が、土砂と樹木を巻き込みながら、山裾の住宅地に流れ込んだ。

 甚大な被害が出た原因として、広島特有のもろい地質が指摘される。花こう岩が風化し、堆積した「まさ土」の上に、多くの住宅が建てられている。

 広島県内の土砂災害危険箇所は3万2000か所に上り、都道府県の中で突出して多い。日頃からの備えが、どこよりも求められていたと言えるだろう。

 広島市では1999年6月にも、今回のような崖崩れなどが発生し、20人が死亡した。この災害をきっかけに、土砂災害防止法が2001年に施行された。

 防止法は、都道府県が、危険箇所を調査した上で、警戒区域や特別警戒区域に指定し、市区町村がハザードマップを作製するよう義務付けている。特別警戒区域では、宅地開発が規制される。

 だが、今回の被災地域の多くは警戒区域に指定されていなかった。人員不足で指定作業が追いつかないとの証言もある。防止法が機能しなかったのは残念だ。

 広島市が住民に避難指示・勧告を出したのは、20日午前4時15分以降だった。既に、土砂災害が発生していたとみられる。市は「雨量の分析を誤った」と、発令の遅れを認めた。

 ただ、適切に避難指示・勧告が発令されても、豪雨と暗闇の中での避難は、危険が伴う。

 広島市に限らず、夜間や未明に発生した災害での避難の在り方は、重要な検討課題である。

 今回の豪雨は、日本海にある前線に、南の暖かく湿った空気が流れ込んだことが原因だ。この気圧配置はしばらく続くという。西日本を中心に、警戒を怠れない。

中国WTO敗訴 不当な輸出規制を是正せよ

 自国の利益を優先した資源の輸出規制は国際的なルールに反する。その原則が確認された。

 世界貿易機関(WTO)は、中国政府によるレアアース(希土類)の輸出規制などが、WTO協定に違反するとの最終判断を下し、中国の敗訴が確定した。

 中国は今回のWTO決定に従い、不当な輸出規制を直ちに是正すべきである。

 レアアースはハイブリッド車の高性能モーターやスマートフォンなどに使われる貴重な素材で、中国は世界シェア(占有率)の9割超を占める最大の生産国だ。

 中国は2010年にレアアースの輸出枠を大幅に削減した。一部のレアメタル(希少金属)とともに輸出税も導入している。

 日本と米国、欧州連合(EU)は、こうした措置がWTO協定に違反するとして、12年に共同で提訴していた。

 中国は審査で「環境や天然資源を守るための規制だ」などと反論したが、輸出制限の一方で、国内企業への供給は従来通り続けてきた。自国産業を優遇していたのは明らかだろう。

 WTOが、輸出規制は保護主義的な措置だとする日米欧の主張を全面的に認めたのは当然だ。

 中国はこれまで、自国の資源を外交的な圧力をかける手段としても利用してきた。

 10年に尖閣諸島沖で中国漁船が衝突事件を起こし、日中関係が緊張した際は、レアアースの対日輸出を一時停止した。

 こうした行為は、特定国に対する差別的な扱いの禁止など、WTOの基本原則に反する。

 中国は01年にWTOに加盟し、自由貿易の恩恵を享受しながら高い経済成長を遂げてきた。経済大国としての責任を自覚し、ルールを順守すべきだ。

 日本は今後も、レアアースをはじめ希少資源のほとんどを輸入に頼らざるを得ない。外国による輸出規制などで、経済活動が深刻な打撃を受けないようにすることが重要である。

 日本の政府と業界はレアアースやレアメタルについて、調達先の多様化のほか、資源権益の確保などを進めてきた。さらなる取り組みが求められる。

 使用済みの機器から有用な資源を抽出するリサイクルの促進や、レアアースの代替品の開発などに力を注ぐことも大切だ。

 「資源小国」の逆風をバネに、官民を挙げて技術開発を加速してもらいたい。

2014年8月20日水曜日

空き家の抑制へ中古住宅の市場整備を

 空き家の増加が止まらない。2013年の住宅・土地統計調査によると、全国で空き家になっている住宅は820万戸に上り、5年前に比べて63万戸も増えた。

 日本の住宅はすでに量的には足りている。今後、人口がさらに減少することも考えれば、新規に建設するよりも既存の物件を活用することに、住宅政策の重点を移す必要がある。

 欧米の住宅市場と比べると、日本では中古物件が取引される割合が低い。中古市場が整備されれば、手軽に住宅を購入しやすくなるし、ライフステージに応じて住み替える人も増えるだろう。

 中古市場を活性化するためには物件情報をまず充実させる必要がある。現状では築年数や間取りなど限られた情報しかない。リフォーム歴などを「住宅履歴書」としてまとめたり、類似物件の成約価格を簡単に調べられたりするようになれば便利だ。

 中古物件を購入する際の課題のひとつに、建物の耐久性や設備の劣化状況がわかりづらいという問題がある。第三者が住宅の状況を調べるインスペクション(住宅診断)がもっと普及すれば、消費者は安心して購入しやすくなる。

 物件を買い取って再販する事業者の税負担を軽減する措置も検討すべきだろう。中古物件の購入費とリフォーム費用を一体で提供するような住宅ローン商品の充実も求めたい。健全なリフォーム業者の育成も必要だ。

 日本では戸建て住宅の建物部分の資産価値は、維持管理の状況に関係なく、築20年を超すとほぼゼロになるのが一般的だ。これでは住宅の所有者が適切に家の修繕をする動機づけにならない。

 国土交通省は3月、戸建て住宅の新たな建物評価に関する指針をまとめた。これまでのように住宅を一体で評価するのではなく、柱や壁などの構造部分と内外装・設備部分を分けて評価する方式を提案している。

 早くからシロアリ対策をしていれば構造部分の耐用年数は延びるはずだし、給排水管を交換すれば、設備の資産価値はその分、元に戻るはずだ。業界関係者が協力して従来の大ざっぱな評価方法から新方式への移行を急ぐべきだ。

 古くなったらそのまま放置するのではなく、適切に手を入れて長持ちさせる。そんな住宅が増えて取引が活発になれば、空き家対策にもなるだろう。

イラクは挙国一致の体制急げ

 イラクのマリキ首相が退陣を表明し、アバディ連邦議会副議長が次期首相に指名された。

 イラク北部で勢力圏を広げるイスラム過激派に立ち向かうには、イラク人自身の結束が重要だ。アバディ氏の下でイラクが宗派や民族の対立を乗り越え、挙国一致の体制を築くよう期待したい。

 「イスラム国」を名乗る過激派の台頭は、マリキ首相が自ら属するイスラム教シーア派を過度に優遇した結果ともいえる。

 イスラム教スンニ派の政敵を排除し、強権的な手法でシーア派主導の政権を運営してきたマリキ首相の姿勢は、少数派のスンニ派やクルド人の反発を招いた。

 そこをシリアから流入してきたイスラム国につけ込まれた。政権から離反したスンニ派部族や、旧フセイン政権の残党がイスラム国に加わり、短期間で支配地域を広げたという。

 米軍がイスラム国に対する空爆を続行中だ。イスラム国の進撃を鈍らせ、非人道的な行為をやめさせるには一定の効果は期待できるだろう。だが、本格的な排除と治安の回復にはイラク政府が対処する力を高めることが不可欠だ。

 国家分裂の危機に直面しながら保身に固執したマリキ首相の退陣は当然だろう。アバディ氏の首相指名は米欧日に加え、シーア派勢力に影響力を持つ隣国イランや、スンニ派の大国サウジアラビアなどの周辺国も支持している。

 アバディ氏は国民融和を最優先に取り組んでもらいたい。なかでも重要なのはスンニ派の協力を得ることだ。イスラム国が実効支配する北西部地域はスンニ派住民が多い。奪還には政府軍とスンニ派の有力部族の連携が必要だ。

 イスラム国はシリアとイラクにまたがって勢力圏を広げる。イラクで奪取した武器や資金がシリア内戦に使われているという。シリアでは日本人とみられる男性がイスラム国に拘束された。シリアの混迷を解決するためにも、イラクでのイスラム国の活動を断ち切ることが重要だ。

介護の担い手―役割に見合う報酬を

 高齢者が増えれば、介護の担い手がさらに必要になる。団塊世代が75歳以上になる2025年に、介護職員を今より最大で約100万人増やす必要がある、と国は推計する。

 ところが、現場は人手不足が常態化している。介護職員は現在約150万人。6月の有効求人倍率(パートタイムを含む常用)は2倍を超えた。全産業平均(0・9)を大きく上回る。

 介護労働安定センターなどの調査によれば、人手不足の最大の理由は、賃金が低いこと。国の統計で、ホームヘルパーや施設の介護職の平均賃金は常勤でも月22万円弱。全産業平均より10万円以上低い。

 来年度の介護報酬改定に向けて、秋から議論が本格化する。事業者に業務の効率化などの自助努力を求めつつも、職員の待遇改善・報酬アップにつなげてほしい。

 厚生労働省の検討会は、人口が減っていくなかで、他の職種と「人の取り合い」になることをにらんで、どうしたら介護職が選ばれる仕事になるのか、議論をしている。

 これまでに、仕事の楽しさや奥深さを積極的に発信することや、介護職員の中でも国家資格である介護福祉士を中核として明確に位置づける、といった提案が出ている。

 確かに、こうした事柄は、もっと重視されていい。

 介護職員なら、高齢者と接しながら「今の薬は飲みにくそうだ」「床ずれができそうだ」といった日々の様子や変化に気づくことができるし、そうした高齢者の様子を医師や看護師に伝えて連携することができる。

 さらに、コミュニケーションが難しくなりがちな認知症の人への対応には、専門性が求められる。認知症の人が大声を出したり、落ち着かなかったりする場合、体調や以前の生活習慣から原因を割り出して、穏やかに過ごせるようにする、といった技術・ノウハウだ。

 身の回りの世話に一部手助けが必要な要支援者向けのサービスについて、来年度からはボランティアの人も担えるようになる。間口が広がるなら、地域に貢献したいと思っている人たちを巻き込む工夫が必要だろう。

 同時に、これまで「介護」でくくられてきたサービスひとつひとつに、どの程度の専門性を求めていくのか、仕分ける作業が必要だ。専門性に見合った報酬の体系を整えることができれば、介護職の中でステップアップする道も開けるはずだ。介護職は、生活を支える専門職だ。その充実が急がれる。

生活保護―外国人の扱い法律で

 日本が受け入れた外国人が経済的苦境に陥ったとき、最低限の生活ができるセーフティーネットはどうあるべきか。

 最高裁は先月、永住資格を持つ外国人に生活保護を受ける権利があるかどうかが争点になった訴訟で「法律に基づいて生活保護を求める権利はない」という判断を下した。永住外国人にも生活保護を受ける権利があるとしていた福岡高裁の判断を覆した。

 1950年に施行された今の生活保護法は、その対象を「生活に困窮するすべての国民」と定め、日本国籍を持つことを条件にしている。この規定や、その後も外国人に対象を広げる法改正が行われていないことなどが、最高裁判決の理由だ。

 もっとも、事実上、永住外国人は生活保護の対象になっている。旧厚生省が54年に出した通知で「当分の間、生活に困窮する外国人を生活保護に準じて保護する」ことを認めたためだ。90年に永住外国人や日系人などに対象が限定されたものの、こうした行政の扱いは今も変わっていない。

 今の法律を前提にすると、最高裁の判決は理解できるし、今後、永住外国人が保護の対象ではなくなると見るのは考え過ぎだろう。最高裁は、行政が生活保護を認めなかった時に争う権利を認めなかっただけで、今の行政の扱いを否定したわけではないからだ。

 この問題は、81年に難民条約に加入するときにも議論された。条約が合法的な難民に対しては自国民と同じ扱いをするよう求めていたからだ。このときは、事実上生活保護の対象になっているとして法改正が見送られた。

 だからといって、現状のまま何もしなくてもよい、ということにはならない。行政の判断に大きく依存する現状では、不安定さがつきまとう。

 保護の対象も課題だ。今の運用では、働くことが目的で入国する外国人は対象外となる。

 しかし、今後、介護や建設、家事労働など、これまでより幅広い分野で外国人を受け入れることになったときも同じでいいのか。人口減に直面して、外国人の活用が盛んに議論されている中での新たな課題である。

 不法滞在者や生活保護目当ての人が排除されるような仕組みを構えるのは当然としても、労働力として外国人を受け入れるならば、セーフティーネットも同時に考えるべきだ。今回の判決を契機に、外国人の扱いをきちんと法律で定めることを検討するべきではないか。

福島原発汚染水 リスク減へ知見を結集したい

 東京電力福島第一原子力発電所の汚染水対策が遅々として進まない。

 事故収束に向けた当面の最重要課題だけに、政府と東電は取り組みを強化せねばならない。

 汚染水は1日300~400トンのペースで増えている。損傷した原子炉建屋に流れ込む地下水が、炉心を冷却する高濃度の汚染水と混じり、汚染されるためだ。

 敷地内には約1000基の貯蔵タンクがある。汚染水は既に、貯蔵可能量の55万トン近くに達している。東電は今年度中に80万トン超に増やす方針だが、遠からず足りなくなるだろう。タンクが損傷して汚染水が漏れるリスクも増す。

 対策として、東電は5月から地下水バイパスを開始した。建屋の山側にある井戸から、汚染される前の地下水をくみ上げ、海に放出している。だが、期待されていたほど汚染水の増加を抑えられていない。深刻な状況である。

 東電は今月、建屋のそばにある「サブドレン」と呼ばれる別の井戸からも地下水をくみ上げ、安全性を確認したうえで、海に流す追加策を公表した。

 漁業関係者は、放出による風評被害を懸念している。政府と東電は、安全対策を丁寧に説明し、地元の理解を得るべきだ。

 事故の際に漏出した高濃度汚染水が、海岸脇の地下坑道に残っていることも心配だ。1万1000トンにも上る量で、原子力規制委員会は「(海洋汚染などの)リスクが大きい」と指摘している。

 そのままくみ上げれば、建屋側から新たな汚染水が流入してしまう。東電は、流入部で水を凍らせ、止水を試みてきたが、うまくいかなかった。別の手法による止水を急ぐ必要がある。

 今回の失敗は、凍結の技術的な難しさを浮き彫りにした。

 現在、建屋周辺の地下に「凍土遮水壁」を築いて地下水の流入を封じる工事が進んでいる。汚染水対策の切り札とされる。土木工事のノウハウを結集し、着実に作業を進めてもらいたい。

 汚染水を浄化する装置「ALPS」を安定的に稼働させるのも重要な課題である。高度な浄化が可能になれば、汚染水を処理して海に放出することが有力な選択肢となるのではないか。

 廃炉作業や汚染水対策を、技術的な観点から監視・指導する政府の「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が18日に発足した。

 国内外の幅広い知見、人材を有効に活用し、汚染水対策を前に進めることが求められる。

ウクライナ情勢 撃墜の真相究明へ停戦を急げ

 ウクライナ東部で298人乗りのマレーシア航空機が撃墜されてから、1か月が過ぎた。

 しかし、事件の真相究明は進んでいない。極めて問題である。

 国際調査団を主導するオランダのルッテ首相は、「安全が確保できない」として、8月上旬以降、調査団を撤収させている。

 親ロシア派武装集団が掌握する撃墜現場や、周辺のドネツク、ルガンスク両市で、武装集団とウクライナ軍が激しい戦闘を続けているためだ。死者は一般市民を含めて2000人を超えたという。

 マレーシア当局者は、調査の進捗(しんちょく)状況を「半分以下」と説明する。犠牲者の身元特定は難航し、未回収の遺体も多いとされる。

 ブラックボックスの解析を含めた調査結果は、9月初旬にも公表される予定だが、真相にどこまで迫れるのか、懸念される。

 調査を再開させるとともに、民間の死者がこれ以上出るのを避けるため、ウクライナ軍と武装集団は早期の停戦を図るべきだ。

 ウクライナ政府が頼みとする欧米と、武装集団を支援するロシアとの相互不信は根深い。

 米国などは、武装集団が誤って民間機を地対空ミサイルで攻撃したと指摘し、衛星写真などの証拠も示した。これに対し、ロシアは、ウクライナ軍機による誤射だと主張し続けている。

 欧米の不信の根底には、クリミア半島を一方的に編入したプーチン露政権が、水面下でウクライナ東部への軍事的な介入を続け、親欧的なポロシェンコ政権を揺さぶってきたことがある。

 武装集団の幹部は、ロシアで長期間訓練された戦闘員1200人と多数の戦車や装甲車が武装集団に加わったと発表した。

 ロシアは、ウクライナ東部向けに、大量の食料や医薬品、発電機などの人道支援物資を送った。この援助も、自らの影響力の拡大が目的と見られている。

 プーチン大統領は先週、ウクライナ東部の停戦に向けて「できることはすべてやる」と語った。

 それなら行動で示すべきだ。武装集団を本格的に説得し、戦闘停止と国際調査団への協力を実現させなければならない。

 欧米が7月末に発動した対露経済制裁の影響は、ロシア国内のエネルギーや金融分野で着実に広がりつつある。

 この圧力を維持しつつ、ロシアとの協議を重ねて、ウクライナの安定化に向け、事態の打開を図ることが重要である。

2014年8月19日火曜日

ウクライナ危機の早期収拾が肝要だ

 ウクライナ東部上空でマレーシア航空機が撃墜され、約300人もの尊い民間人の命が奪われてから1カ月が過ぎた。現場周辺はいまだにウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力による戦闘が続き、国際調査団による真相究明のための調査は難航している。

 欧米はマレーシア機が親ロ派による地対空ミサイルの誤射によって撃墜されたとの見方を強めている。一方で親ロ派の後ろ盾となっているロシアはウクライナ政府軍による攻撃説を示唆し、主張は真っ向から対立したままだ。

 悲劇を二度と繰り返さないためにも、真相の究明が欠かせない。それには現場と周辺での徹底した調査が必要だが、国際調査団は治安の悪化で早々に撤収を迫られ、現地調査は中断したままだという。現地調査に全面的に協力するよう、ウクライナ政府と親ロ派に改めて求めたい。

 そもそもウクライナ東部で長期化する泥沼の戦闘がマレーシア機の惨事を招いたともいえる。国連人権高等弁務官事務所によると、東部での戦闘による死者は4月中旬以降で2000人を超えた。双方は一刻も早く停戦を実現し、話し合いによる事態打開の道を模索すべきだ。

 17日にはウクライナの危機打開策を話し合う同国とロシア、ドイツ、フランスによる4者外相協議がベルリンで開かれた。国際社会は引き続き、結束して早期の危機収拾に動くことが肝要だ。

 とくにロシアの責任は重い。欧米はロシアが親ロ派に軍事支援を続けており、これが戦闘を長引かせているとみている。プーチン大統領は先に「紛争の終結にあらゆる手を尽くす」と語った。それが本心なら軍事支援の停止はもちろん、即時停戦を促すための親ロ派への説得を自ら試みるべきだ。

 日本政府は今月初め、米欧と同調してロシアへの追加制裁措置を発動した。ウクライナ危機の収拾に向けたロシアの行動を促すうえでも、追加制裁は当然だろう。

 ロシアは不快感を示し、懸案の北方領土問題を話し合う外務次官級協議の延期を決めたほか、北方領土での軍事演習にも踏み切った。これにより、日ロ間で合意しているプーチン大統領の今秋の訪日にも黄信号がともった。

 仮に大統領の訪日が実現しても領土問題での進展は見込めないだろう。日本の対ロ外交は仕切り直しを余儀なくされている。

スマホを使いやすい料金に

 携帯電話をスマートフォン(スマホ)に替えたら料金が高くなった。そんな不満を持つ利用者は少なくないだろう。しかも携帯大手3社の料金は横並びだ。もっと安く使える仕組みと広い選択肢を整えていく必要がある。

 ソフトバンクグループのワイモバイルが8月から月額約3千円という新料金を導入した。利用できるデータ通信量は少ないが、通話は1回10分以内なら300回までかけ放題という。

 通信回線を他社から借りてサービスする「MVNO」と呼ばれる通信会社も、今月から割安プランを投入している。日本通信は番号情報を記録した「SIMカード」と低価格スマホを一緒にネットで簡単に買えるようにした。

 低価格スマホへの関心は高い。大手3社が横並びで提供する基本料金は割高で、利用の少ない人も高額の定額料金を払わなければならないからだ。データ通信量を抑えた低価格プランも登場しているが、十分に認知されていない。

 このためスマホへの買い替えをためらう利用者は多い。スマホの普及率はシンガポールや韓国の約9割に対し、日本では約5割にとどまる。携帯回線に占めるMVNOの比率も約3%と低い。

 総務省は携帯会社に低料金プランの設定を義務付ける方針を示した。政府が料金設定に口を出すのは異例だが、何らかの是正策は必要といえよう。

 横並びで割高な料金の背景には大手3社による利用者の囲い込みがある。その要因となっているSIMカードのロックを解除することも、総務省は義務づけた。

 ただ、2年ごとの自動契約更新や端末の割賦販売など、囲い込みの仕組みはほかにもある。海外で一般的なプリペイド方式を犯罪防止を理由に制限しているのも、サービスの自由度を奪っている。

 囲い込みは端末メーカーの自由な商品開発を阻害している面もある。消費者のためにも産業育成のためにも、市場全体の自由度を高めていく必要があろう。

WTOの意義―無差別いかす柔軟さを

 国境を越えて影響を及ぼし合うグローバル化の深化に、ルール作りが追いつかない。そんな21世紀の現実を映し出す典型的な例がある。世界貿易機関(WTO)だ。

 昨年末の閣僚会合で、通関業務の簡素化などの「貿易円滑化」について協定を結ぶことに合意していた。しかし、インドなど一部の国の反対で、期限としていた7月末までに協定を結べなかった。

 この結果、2001年に始まった多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の先行きが見えなくなった。これまで何度も行き詰まっては、対象分野を絞るなどして何とか継続してきた。それもいよいよ限界である。

 その一方で、自由貿易協定(FTA)が広がっている。自由貿易の主役をWTOから奪うかの勢いだ。FTAの協定国同士は互いに低い関税率を享受できても、それ以外の国は対象外で差別的な取り扱いを受けてしまう。

 WTOは「すべての国に対する無差別の自由化」をうたう。そこに意義があるし、FTA花盛りの今もWTOの存在価値は失せてはいない。実際、1995年の発足時、128だった加盟国・地域は現在、160に増えた。今も20カ国以上が加盟に向け手続き中だ。

 貿易をめぐる紛争解決の場としても、実績をあげている。例えば、中国によるレアアースなどの輸出制限について今月、WTO協定違反だという日米欧の主張が認められた。こうした争いを当事者間の交渉で解決するのは容易ではない。

 それでも、時代に即したルール作りに失敗し続ければ、WTOへの信頼も揺らいでしまう。

 交渉がまとまらない理由の一つは、全会一致を意思決定の原則にしていることだ。民主的とは言えるが、利害が異なる160の国の意見はなかなか一致しない。

 注目したいのは、一定の国の賛同で協定を結ぶ方式だ。こちらはFTAと異なり、すべての国に参加の扉を開いている。

 WTOではIT製品の関税引き下げについて、この方式をとっている。具体的には、29の国・地域が96年に合意し、参加国・地域のIT製品貿易が世界の90%を超えた時点で発効することとした。参加国が増えて協定は97年に発効。現在は78の国・地域が参加し、世界のIT貿易の97%をカバーしている。

 WTOは柔軟な意思決定方式を広げ、新たなルール作りを急ぐべきだ。投資や電子商取引など対応すべき分野は多い。

「アナ雪」人気―生きにくさを超えて

 きょうもどこかから、「ありのままの♪」の歌声が聞こえてくる。すっかり耳になじんだディズニー映画「アナと雪の女王」(アナ雪)の主題歌だ。

 物を凍らせる力を持つ孤独な姉エルサと、特別な力はないが快活な妹アナ。2人の王女を主人公にしたこの映画の人気が止まらない。

 3月の日本封切り以来の観客は2千万人に迫り、興行収入は253億円。「千と千尋の神隠し」(304億円)、「タイタニック」(262億円)に次ぐ歴代3位になった。

 先月発売されたDVD・ブルーレイの売り上げは200万枚を超え、サウンドトラックCDも90万枚に達したという。

 破格のヒットである。

 「アナ雪」は、ディズニーらしい、お姫様もののおとぎ話。雪と氷の世界が美しく描かれ、幅広い世代が楽しめる。特に主題歌が愛され、動画サイト「ユーチューブ」には、膨大な数の歌う映像が投稿されている。

 ツイッターでは、この作品を話題にしたツイートが他のヒット映画と比べて格段に多く、長期間にわたってつぶやかれているという調査もある。

 歌いたい。触発された思いを伝えたい。そんな、映画に参加する気持ちがネットを介して広がり、共有されている。

 世界でヒットしている「アナ雪」だが、地元北米をのぞけば興収は日本がトップで、他の国々より一桁多い。配給元によると、家族連れに加え、大人の女性客が多いのが特徴だという。

 ディズニー長編アニメ初の女性監督が手掛けたこの作品で、主人公姉妹は「白馬の王子様」を待たず、自分で困難を乗り越える。エルサが主題歌を歌いあげるのは、それまで抑えていた力を存分にふるう場面だ。

 ヒロインが「ありのままの自分になる」と歌う映画に、日本社会は強く反応した。それは、女性たちが生きるうえで、大小様々な障害にぶつかっている現実と無縁ではないはずだ。

 この映画の公開中も、女性の生きにくさを映す事件が頻発した。政権が成長戦略として女性「活用」を唱える一方、働く母親が仕方なく預けた幼い命が奪われたり、国や地方議会で女性差別ヤジが問題になったり。三重県の女性の活躍推進会議では「女は下」発言もあった。

 こうした環境を変えるため、一つ一つの問題を見逃さず、声を上げ、取り除く努力を重ねたい。社会の仕組みを見直し、偏った意識を問い続けよう。女性が、そして男性も、伸びやかに生きられる世の中を目指して。

夏の電力供給 火力頼みはそろそろ限界だ

 お盆明けは例年、厳しい残暑と電力消費の増加が重なる時期である。

 原子力発電所の稼働がゼロの夏を無事に乗り切るための正念場だ。電力各社は安定供給に万全を期してもらいたい。

 今夏の電力需給は西日本を中心に厳しい。特に関西電力と九州電力の管内は、需要のピークに対する供給余力が、不測の停電を防ぐ最低ラインとされる3%しかない。まさにギリギリである。

 これまで西日本は雨が多く、例年より電力需要が抑えられてきたが、油断は禁物だろう。

 懸念されるのが、原発を代替している火力発電所の故障停止などだ。今夏は既に全国で20件を超え、前年から倍増している。

 火力発電所の2割は運転開始から40年以上を経過した老朽設備で、いつ故障が起きてもおかしくない状況と言える。

 例えば、操業開始から40年たった関電の火力発電所では、古くなった部品の不具合が多く、電力需要が少ない土日や夜間に補修作業を行うことで、何とか運転を継続しているという。

 こうした綱渡りの操業を続ける火力発電所が多い中で、トラブルが同時多発すれば、突発的な大停電を引き起こす可能性は否定できないだろう。

 原発ゼロでも電力の安定供給が維持できていると考えるのは、あまりに楽観的過ぎる。

 やはり、安全性が確認された原発の再稼働を円滑に進めることが欠かせない。原子力規制委員会は原発の安全審査を遅滞なく進め、政府も再稼働に地元の理解を得るよう努めるべきだ。

 同時に、全国規模で電力を円滑に融通し合う体制を充実させることも急務である。

 電力需給は、大手電力会社が自社の管内で調整し、どうしても足りない場合は、他社との間で電気を融通し合っている。

 電力融通をさらに効率的に行うための司令塔として、「電力広域的運営推進機関」が来年4月に業務を開始する。

 各電力間の連携不足で電力危機を起こさぬよう、実効性のある運用体制とすることが重要だ。

 電気の周波数の違う東日本と西日本の間の電力融通は、周波数変換設備を通じて行っている。

 現在の変換容量の120万キロ・ワットでは、緊急時に対応し切れない恐れがあり、電力業界は2020年度までに210万キロ・ワットに増強する計画だ。これも着実に進める必要がある。

奨学金の滞納増 所得に応じた返済で負担軽く

 教育の機会均等を実現する上で、奨学金の果たす役割は大きい。使い勝手を良くして、学生の経済的支援を充実させることが肝要である。

 政府が独立行政法人・日本学生支援機構を通じて貸与している奨学金について、文部科学省の有識者会議が、「所得連動返還型制度」の導入を提言した。

 毎月、定額を返済する現行制度と異なり、大学卒業後の年収に応じて返済額を変えられるのが特徴だ。負担を和らげるため、低収入の人には少ない返済額を設定し、年収が上がれば額を増やす。

 奨学生の経済状況に配慮した弾力的な仕組みと言えよう。

 政府の奨学金の利用者は、大学の授業料の上昇などを背景に増えている。無利子と有利子を合わせて、大学生の約4割が利用している。事業規模は年間約1兆2000億円にも上る。

 奨学金を借りた学生は、将来にわたって返済義務を負う。例えば、大学4年間で約260万円を無利子で借りると、月1万4400円を15年かけて返す。

 しかし、近年、非正規雇用の拡大や就職難を背景に、返済金の滞納が増えている。2012年度には33万人が計925億円を滞納した。こうした状況を放置すれば、奨学金制度が揺らぎかねない。

 滞納者の中には、支払いの督促を受けてから初めて返済義務を知った人もいるという。返済金が次世代の奨学金の原資になっていることを忘れてはならない。

 滞納が恒常化すると、個人信用情報機関に氏名が登録され、クレジットカードなどの使用に支障が生じる。本人が返済できず、保証人の家族が機構から支払いを迫られるケースもある。

 新制度の導入が、滞納の減少につながることを期待したい。文科省は、16年から運用開始となる共通番号制度により、機構が卒業後の所得を把握できるようになることを想定している。

 ただ、検討すべき点も多い。新制度では、返済期間が延びるため、有利子奨学金の利用者を対象にすると、返済総額は従来より増える可能性がある。賃金が上昇しなかった場合の対処も課題だ。

 奨学金を巡っては、返済する必要がない給付型奨学金の創設を求める声が根強くあるが、政府の財政状況は厳しい。

 現在、特に優れた成果を残した大学院生に認められている奨学金の返済免除を学部の学生にも広げるなど、限られた財源の中で、学生を支える対策を考えたい。

2014年8月18日月曜日

温暖化抑止に知恵と技術の結集を

 観測が始まって以来の最大の雨量とか最高気温といった表現を、よく耳にするようになった。自然現象は複雑だから個々の猛暑や豪雨の直接の原因が地球温暖化だと断定はできない。ただ温暖化が進めば、経験したことがない極端な気温や降水の頻度が世界的に増えるのは間違いない。

急拡大する再生エネ
 日本や欧米先進国も洪水や干ばつに苦しめられているが、貧しく社会基盤が脆弱な途上国に気象災害がもたらす被害はより大きい。昨年、巨大台風が襲来したフィリピンの惨状は記憶に新しい。

 地球温暖化は人類全体にとって脅威だ。世界は豊かさを求めて石油や石炭を消費し二酸化炭素(CO2)を排出してきたが、化石燃料を大量に消費し続ける社会は持続可能ではない。温暖化の抑制に早く取り組まないと後世に深刻なつけを回すことになる。

 温暖化対策を議論する国連の会議は世界各国に対し、来年3月末までに2020年以降の温暖化ガス削減の目標を示すよう求めている。それに先だち今年9月23日には、ニューヨークの国連本部で各国の首脳級が集まる「気候変動サミット」が開かれる。

 温暖化対策に消極的だった米国と中国はここへきて前向きの姿勢を示している。欧州連合(EU)は大胆な削減策を模索する。

 日本では東日本大震災以降、温暖化対策の議論は止まっている。それどころか原子力発電所が止まり火力発電所がフル稼働しているため、CO2の排出は増加に転じている。環境を重視する先進国として誇れる政策を、日本も打ち出すときにきている。

 できることは2つ。CO2を出さないエネルギー源を増やす一方で、エネルギー消費をできるだけ減らす。どちらも国民生活や経済成長とのバランスを考えて、進める必要がある。

 原発はCO2の排出削減に有効だ。100万キロワット級が1基動けば年間約500万トンの削減効果があるとされる。日本の総排出量は約12億トン。安全対策を十分に講じた原発は再稼働が望ましい。

 ただ、かつてのように原発の新増設で温暖化に挑むのは、今は現実的ではない。コスト増で経済的な優位性は薄れつつあり、国民の議論も定まっていないからだ。

 再生可能エネルギーも役に立つ。太陽光や風力の電気を電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度」がスタートしたのは2年前。それから今年4月末までに、再生エネの発電能力は977万キロワット増えた。これは原発約10基分に相当する。もっとも発電量が日照や天候に左右され、頼れる安定電源とまでは言えない。

 急拡大に伴う副作用も顕在化してきた。高い買い取り費用が電気料金に上乗せされ、利用者の負担が重くなりつつある。標準的な家庭が今年度に支払う金額は月額225円。昨年度に比べ倍増した。今後も増える見通しだ。

 普及が太陽光発電に偏り、風力や地熱の出足が遅いのも課題だ。制度の手直しが要る。

 再生エネの技術進歩は原子力よりずっと早い。太陽電池や風車はコストダウンが年々進んでいる。発電量の変動も、送電網を広域的に運用して平準化すれば、ある程度は解消できる。

 電力自由化が進むなか、送電線の建設に民間資金を上手に呼び込み、全国規模で送電網の強化を実現していくことが課題になる。

石炭火力に節度必要
 福島や長野など市民出資の再生エネ事業が立ち上がってきたのも見逃せない。再生エネを賢く使うため知恵の絞りどころは多い。

 一方で石炭火力を新設する動きがある。石炭は安価だがCO2排出が多い。発電所は30~40年使い続ける。将来、CO2排出の制約が厳しくなる可能性を考えると、新設には節度が必要だろう。

 温暖化の克服には技術革新が不可欠だ。電力購入量9割減を目指すコマツの新工場は「異次元の節電工場」と呼ばれる。高いエネルギー効率を誇ってきた日本の工場だが、さらなる節電や生産性向上の余地は十分にある。

 ミドリムシ(藻の一種)からバイオ燃料、CO2からプラスチックをつくる研究が進む。千代田化工建設は水素を低コストで安全に輸送できる技術を開発した。産業や社会を大きく変革する技術への長期的な投資も欠かせない。

人口減少を考え直す―「豊かさ」みつめる契機に

 アベノミクスで日本は失われた自信を取り戻した。この勢いで、我々は今後も成長し続けなければならない。政府が6月に閣議決定した「骨太の方針」はそんな決意を伝える。

 だが、行く手には大きな障害が立ちはだかる。人口減少だ。

 日本の人口は2008年をピークに減少に転じた。2100年にはピーク時の4割になるとの予測もある。働き手も、モノを買う人も、税金を納める人も急速に減る。手をこまねいていては、成長どころか縮小スパイラルに陥ってしまう。「そこに至っては、もはや回復は困難」。「骨太」にも、危機感のにじむ文言が躍る。

 いったい、どうするのか。子どもを産んでもらえるよう、あらゆる政策を動員する。高齢者や女性にも働いてもらう。企業は絶え間なくイノベーションを起こす。過疎化する地域は集約化をすすめる――。

 産め。働け。効率化につとめよ。何だか戦時体制のようだ。

 今だって、グローバル競争で生き残りを図る企業の下、多くの人が低賃金や長時間労働に耐えている。いったい、どこまで頑張れというのだろう。

■無理を重ねた日本人

 そもそも「人口減少=悪」なのか。少し視点を変えて考えてみる必要がありそうだ。

 たとえば、千葉大の広井良典教授は「もっと大きな時の流れで考えませんか」と指摘する。

 鎌倉時代に約800万人だった日本の人口はゆるやかなカーブで増え続け、江戸時代後半、3千万人強で横ばいとなった。

 それが明治維新以降、まるで爆発が起きたかのように、急勾配で上昇を始める。

 黒船の訪れで、欧米の経済力と軍事力に頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた日本人は、体にむち打って「拡大・成長」の急な坂道を上り続けた。当初は富国強兵のスローガンを掲げて。敗戦後は経済成長という目標に向けて。

 無理を重ねてきた疲労や矛盾が臨界点に達した結果が、人口減少となって現れているのではと、広井教授はみている。

 「人口減少は、成長への強迫観念や矛盾の積み重ねから脱し、本当に豊かで幸せを感じられる社会をつくっていくチャンスなのではないでしょうか」

■出口の見えぬ迷路

 確かに日本人は頑張ってきた。多くの若者が親を残して故郷を離れ、都会にギュウ詰めとなって生産に力を尽くし、狭い郊外の家を買い、遠距離通勤にも残業にも耐え、高い教育費をかけて子を育てた。

 そうして得たものは、何だったろう。しばらく前まで、経済成長は豊かさの実感を伴っていた。だが次第にモノがあふれて売れなくなると、企業は従業員の我慢に頼って生き残りをはかった。給与も雇用も不安定となり、若者を使い捨てるブラック企業さえ横行する。多くの人には豊かさが遠ざかるばかりだ。

 出口のない迷路に入り込んでしまったようだ。それでも政府は成長を叫ぶが、その神話を信じる人自体が減っていないか。

 いま日本で女性1人が生涯に産む子どもの数が最も少ないのは、成長のエンジン・東京である。保育所不足など子育てがしづらい環境に注目が集まるが、それだけが原因だろうか。成長が豊かさにつながると信じて働けど、そうならない人生への無言の「ダメ出し」が重なった結果ではないのか。

■走り出した過疎地

 戦争や飢餓でもないのに人口が急減するのは、史上初めて。数字上の成長に偏らない、しなやかな発想をあわせもたないと太刀打ちできないだろう。

 難題と向き合い、走り出しているのは過疎地の人たちだ。

 日本海に浮かぶ離島のまち島根県海士町(あまちょう)は、人口がピーク時の3分の1。産業は衰退し、財政破綻(はたん)寸前にまで追い込まれた。だが今では特産品を使った「さざえカレー」や岩ガキなどが全国ブランドとなり、移住希望者が集まってくる。

 町のキーワードは「ないものはない」。都会のように便利ではなくても、人のつながりを大切に、無駄なものを求めず、シンプルでも満ち足りた暮らしを営むことが真の幸せではないか――。土壇場で生まれた発想の転換が、人々を引きつける。

 成長をめざす社会が「役に立たないもの」「遅れたもの」とみなしてきたものは少なくない。その中に豊かさを見いだして元気を取り戻す。そんな過疎地が、少しずつ増えている。

 改装した古民家に、IT企業が次々とサテライトオフィスを置く徳島県神山町(かみやまちょう)。苦境にある林業の再生を掲げて、若い移住者をひきつける岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)。ひきこもりの若者が、働き手として町おこしを担う秋田県藤里町(ふじさとまち)。

 成長のために人を増やせば、幸せも広がる。そんな予定調和には無理がある。

 話は逆で、幸せがあれば、そこに人が集まってくるのだ。

不登校増加 サポート態勢の充実が大切だ

 11万9617人――。昨年度、不登校で30日以上学校を休んだ小中学生の数だ。6年ぶりに増加に転じ、前年度より約7000人増えた。

 中学生では37人に1人の割合だった。数字上は、クラスに1人が不登校ということになる。心配な状況である。

 文部科学省の学校基本調査で判明した。人間関係の構築が苦手だったり、生活のリズムが崩れたりして、登校できなくなる子供が増えているという。

 不登校になる前には、多くの場合、短期の欠席が増える「潜在期間」がある。教師が不登校の兆候を早期に見極め、家庭と連携して生徒の心情を把握することが、対策を講じる上で重要だ。

 児童心理の専門家であるスクールカウンセラーなどとの情報共有も欠かせない。

 いじめが不登校の原因となっているケースもあるだろう。

 大津市のいじめ自殺事件を契機に、「いじめに苦しんでまで、学校に行かなくてもいい」と考える親が増えたようだ。それも不登校増加の要因の一つではないか。

 親や教師には、登校を無理強いするよりも、子供の気持ちを尊重して支える姿勢が求められる。無論、教師は加害生徒を厳しく指導する必要がある。

 不登校が急増した1990年代以降、自治体が開設する約1300か所の適応指導教室や、民間のフリースクールなど、不登校生の受け皿となる施設が増えた。

 学校外に設けられている適応指導教室では、学校への復帰を目指し、カウンセリングと並行して、教師や元教師が勉強を教える。

 民間やNPOが運営するフリースクールは、もっと自由度が高い。学習ペースも生徒が自分たちで決め、級友やスタッフとの調理、動物の世話などを通して、人とのつながりを回復させていく。

 こうした施設に通った期間についても、学校長の判断で、元の学校に登校したと見なす仕組みがある。有効に活用したい。

 文科省は先月、中3当時に不登校だった生徒に対する5年後の追跡調査の結果を発表した。85%が高校などに進学し、13年前の調査結果より大幅に改善していた。

 適応指導教室やフリースクールの成果の表れだろう。政府の教育再生実行会議は先月、フリースクールに対する公費支援を検討するよう提言した。

 不登校生が再び学校の仲間と一緒に学べるよう、一人ひとりの事情に応じたサポートが大切だ。

燃料電池車 エコカーの選択肢が広がる

 「究極のエコカー」と言われる燃料電池車の普及が進むきっかけとなるだろうか。

 トヨタ自動車が今年度中に、ホンダは来年に、それぞれ燃料電池車の市販に踏み切ることになった。

 約10年前に1台1億円とされた価格は、700万円前後に下がる見通しだ。政府は、購入代金を200万~300万円程度補助する制度を検討しているという。世界に先駆け、個人でも手の届く価格を実現することを歓迎したい。

 燃料電池車は、空気中の酸素と燃料の水素を反応させて電気を起こし、モーターで走る。電気自動車(EV)と同様、走行中に二酸化炭素を排出しない。

 火力を含めた発電所で作った電気を使うEVより、さらに環境への負荷を小さくできる。

 水素を満タンにすれば、約700キロ・メートル走れる。EVの3倍以上の距離だ。EVが急速充電でも30分程度かかるのに対し、水素の補給は約3分と短時間で済むことも強みである。

 先端技術を集めた燃料電池車の生産が本格化すれば、幅広い産業へ波及効果が期待できる。普及には、官民の連携が必要だ。

 ただ、課題も少なくない。

 政府や業界は、燃料電池車に水素を補給する水素ステーションを来年度中に全国で100か所とする計画だが、約4万か所のガソリンスタンドよりかなり不便だ。

 建設費が約4億円と、ガソリンスタンドの4倍以上も高いため、計画通りに整備が進むかどうかも不透明である。

 政府が1か所あたり最大2・8億円の補助金を支給する制度もあるが、需要が見通せず、二の足を踏む業者が多いという。

 燃料費も現状ではガソリン車の1・5倍程度かかる。

 水素ステーションの建設費の低減や、国内よりも安価な海外の水素の活用など、コスト削減の取り組みが求められる。

 エコカー市場では、ガソリン燃料を使うハイブリッド車(HV)が、給油の便利さもあり、圧倒的な優位に立つが、化石燃料に依存する欠点を抱えている。

 EVは走行距離が短い弱みがある一方、家庭で手軽に充電でき、燃料費にあたる電気代も安いといった長所がある。

 燃料電池車の本格参戦を機に、3種類のエコカーがそれぞれの長所を生かしてすみ分けることになろう。開発・普及でしのぎを削り、日本の産業競争力の強化につなげることが重要だ。

2014年8月17日日曜日

幼児教育の無償化は施策全体見渡して

 少子化に歯止めをかけ、子どもが健やかに成長できる環境を整える。日本社会にとって焦眉の課題だ。そのための施策はいくつも考えられるが、手を広げてばかりでは、どれも中途半端になり、狙った効果は得られない。

 今、優先すべき施策は何なのか、全体としてどの程度の予算を割きうるのか。政府には、全体を見据えた議論をし、国民に丁寧に説明する責任がある。

 焦点の一つは幼児教育の無償化だ。教育再生実行会議が7月に段階的な無償化を提言し、政府・与党の連絡会議も2015年度に対象者を増やす方針を確認した。

 必要な額は大きい。今も生活保護世帯などは無償だが、5歳児全体に広げると約2800億円、3~5歳児だと約7400億円の追加公費がいる。

 まずは年収360万円未満の家庭の5歳児を対象にする案が出ているが、それでも約240億円だ。下村博文文部科学相は20年までに完全無償化を実現したい考えを示しているが、財源の見通しは立っていない。

 親の経済的負担が軽くなれば、少子化対策になるという。だが、子どもが大きくなってからの方が負担は重い。無償化の目的や期待される効果をより明確に示すことが、今後議論を深めるうえで最低限必要だろう。それによって、5歳児が優先か、5歳児に限らず低所得世帯や多子世帯が優先か、など対策も異なってくる。

 そもそも、次代を担う子どもたちを支える施策は無償化だけではない。15年度からは新しい子育て支援制度が始まる予定だ。保育所に入れない待機児童の解消を図るとともに、保育所、幼稚園などの質の向上も目指している。

 消費税が10%に上がった段階で年間7000億円を投じる計画だが、必要な財源はきちんと確保できるのか。まずは新制度を軌道に乗せることが最優先だろう。

 新たな少子化対策として骨太の方針に盛り込まれた「第3子以降への重点的な支援」も、具体的な検討を急ぐ必要がある。

 何より避けたいのは、省益や選挙をにらんだ場当たり的な予算の取り合いで、政策の長期的な効果が損なわれることだ。

 政府は50年後にも人口1億人を維持する目標を掲げた。それには高齢者向けに偏っている予算の配分を見直すことも必要になる。首相の指導力の見せどころだ。

商品市場は銀行撤退に対応を

 欧米の金融大手が貴金属など商品事業の縮小を打ち出し、国際的な価格指標の変更を迫られたり、企業の価格ヘッジが難しくなったりする問題が起きている。各国当局や市場関係者は商品市場の機能が低下し、企業活動に影響しないように対応してほしい。

 ロンドン市場で国際的な指標価格を決める「銀の値決め」が14日、117年の歴史に幕を閉じた。ドイツ銀行が同業務からの撤退を決め、3社で担う価格の算出が維持できなくなった。

 この指標価格は、世界各国の企業が契約価格などを決める際に利用してきた。貴金属取引の団体は代替の指標として、急きょ米国のシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループなどが提案した算出手法の採用を決めた。

 国際商品市場ではドイツ銀行だけでなく、英バークレイズや米モルガン・スタンレーなどが昨年から相次いで事業縮小を決めた。

 こうした金融大手は企業に対し、リスクヘッジのための金融派生商品も供給している。市場規模の縮小に伴い、ヘッジをしようとする企業が金融派生商品を見つけにくくなっている。

 中東など世界各地で地政学リスクが高まり、今後も原油や金属相場が大きく動く可能性はある。相場の変動が企業経営を揺さぶらないように、リスクを回避する手段は重要だ。金融大手の撤退が続くのであれば、国際指標と同じく、商品市場の新たな担い手を見つける必要がある。

 金融大手が事業縮小を決め値決め業務などが維持できなくなった背景には、国際的な金融規制の強化と価格形成への監視強化がある。指標価格の不正操作は許されず、価格形成の透明性を高めることは重要だ。ただ、規制強化によって急に担い手が減り、商品市場が混乱するようでは困る。

 各国当局は規制や監視の強化で商品市場にどのような影響が広がっているかにも注視し、市場参加者と協力しながら円滑な機能の維持に努めてもらいたい。

食料の確保―自給率一辺倒をやめよ

 昨年度の食料自給率は39%(カロリー換算)で、4年続けて横ばいだった。政府が目標とする50%への道筋は、全く見えないのが実情である。

 カロリー換算では、国産牛でも飼料を輸入に頼れば「100%自給」ではなくなる。消費者が安さを求め、価格では海外産に太刀打ちできない品目が少なくない現状を考えると、カロリー換算の数値を絶対視することは賢明だろうか。

 国内での生産をできるだけ増やそうとする姿勢は大切だが、自給率の引き上げにこだわりすぎれば、効果の乏しい政策に巨費を投じることになりかねない。その代表例は、コメの生産調整(減反)とセットで進めてきた麦や大豆などへの転作奨励策だろう。

 減り続けるコメの消費に合わせて生産を絞る。余った田んぼで輸入頼みの作物を作れば、自給率も上がる。

 一見合理的だが、「費用対効果」があいまいなまま、転作補助金は膨らみがちだ。安い外国産に押される麦や大豆の生産は頭打ちで、現に耕作放棄地は増え続けている。

 政府はコメ政策を転換すると決めた。県ごとに置く機構を通じて田の集約と生産コスト削減を進め、4年後には国は減反から手を引く。

 それでも、需要に合わせて作るという考え方はそのままだ。麦や大豆から家畜に食べさせる飼料用米に力を入れる方針だが、非効率な補助金行政が温存されかねない。

 減反政策がもたらした「おいしくて高級」に偏ったコメ作りを多様化し、「より安く」も追求する。競争力を高めることが輸出への道を開き、国内生産の基盤を守ることにつながる。主食であるコメを中心に、そうした取り組みを進めるべきだ。

 海外からの調達が安定するよう相手国との関係を強め、廃棄や食べ残しによる「食品ロス」を減らすことも欠かせない。

 その意味で、日豪経済連携協定(EPA)に「輸出規制を新設・維持しないよう努める」といった規定を盛り込んだことは注目に値する。豪州以外の農畜水産物の輸出国からも同様の約束を取り付けてほしい。

 食品ロスは政府の推計で年500万~800万トンとされ、コメの生産量にも匹敵する。賞味期限から逆算して商品の受け取りに厳しく臨む小売業界の慣行を見直し、家庭での食生活を改めるなど、ただちに取り組めることは少なくない。

 食の確保は、自給率頼みでなく、多角的に考えたい。

トルコ大統領―人権と自由の定着を

 欧州とアジアのはざまに位置するトルコの存在感が、近年、急速に高まっている。

 成長と発展が目覚ましいだけではない。巧みな外交で中東各国の信頼を集め、地域大国としての地位を確立しつつある。

 その国で首相を11年間つとめたエルドアン氏が、大統領選挙で当選した。就任は28日。依然として厚い国内支持を背景に、新たなポストで国を率いる。

 国境を接するシリア、イラクは内戦状態に陥っている。トルコが強い影響力を持つパレスチナでも紛争が再発した。

 調停者、助言者として、トルコが果たせる役割は大きいはずだ。だが近年は、紛争地で自国と親しい勢力にだけ肩入れする振るまいも目についた。

 新大統領には、この国の力を生かして地域全体を安定化させる賢明な外交を期待したい。

 一方、内政面でも、エルドアン氏には不安がつきまとう。独断と強権ぶりが指摘され、長期政権のおごりではないかと懸念する人が少なくない。

 トルコに敬意が払われるのは、力を持つと共に、民主主義を定着させる努力を続けてきたからだ。人権や言論の自由を後退させないよう、バランスを保った節度ある態度が大切だ。

 トルコは人口の99%をイスラム教徒が占める一方、政教分離が確立された国だ。その中で、イスラムの価値を重んじる公正発展党が次第に支持を集め、党首だったエルドアン氏が03年に首相に就いた。

 任期中、市民の所得は大幅に伸び、インフラ整備も進んだ。国内の少数民族クルド人との融和も進め、かつて衝突やテロが相次いだ社会を安定させた。

 一方で、市民の権利や言論の自由を制限する行為も、近年めだつ。イスタンブールで昨年起きた市民のデモは、力で抑え込んだ。メディアへの締めつけも強め、自らへの批判を封じ込めようとツイッターのアクセスを遮断する騒ぎも起こした。

 今回の首相から大統領への転身にも、都市部の知識層などから複雑な目が向けられている。

 いま3期目を務める首相の再任は党則で難しい。そこで、これまでは儀礼的な役割が中心だった大統領の地位に移り、憲法を改正して実権をにぎる意向だと取りざたされる。

 権力が私物化されれば、その先は独裁しかない。そうならないために、開かれた国家を築く努力を新大統領に求めたい。

 トルコは親日で知られ、両国の関係は良好だ。日本は、経済での連携を深めると同時に、民主主義の定着も支援したい。

辺野古海底調査 移設工事を粛々と進めたい

 政府は法律に基づき、移設工事を着実に進めることが重要である。

 米軍普天間飛行場の移設先の沖縄県名護市辺野古沿岸部で、防衛省が、海底地質を調べるボーリング調査の準備作業を始めた。

 6月に大幅に拡大した米軍キャンプ・シュワブの常時立ち入り禁止水域内で、調査地点を囲む形でブイ(浮標)を設置した。調査を行う台船も組み立てた。

 政府は2004年にも辺野古沖でボーリング調査を試みたが、移設反対派の海上での妨害行為に有効な手が打てず、調査を中止した。同じ轍(てつ)を踏んではならない。

 今回は、反対派が禁止水域に侵入した場合、日米安全保障条約に基づく刑事特別法違反として、海上保安庁が取り締まる方針だ。法治国家である以上、違法な妨害行為の排除は当然である。

 海保は、必要な人員や巡視船・ボートなどを動員し、万全の警戒・警備態勢をとる必要がある。防衛省や警察など関係機関と緊密に連携することも大切だ。

 防衛省は昨年3月、公有水面埋立法に基づき、辺野古沿岸部の埋め立てについて、漁業権を持つ名護漁協から同意を取り付け、仲井真弘多知事に申請した。環境保全措置などに関する沖縄県の審査を経て、12月に承認を得た。

 法律上、必要な手続きは適切に実施しており、多くの関係者の理解も得ている。防衛省は粛々と工事を進めなければならない。

 移設に反対する名護市の稲嶺進市長は、付近の漁港の使用許可権限を盾に、資材置き場の建設に応じないなど、工事を阻む構えを見せる。防衛省は、別の場所に資材置き場を確保するなどの対策を講じることが欠かせない。

 辺野古の代替施設では、米軍機は主に海上を飛ぶ予定だ。市街地にある普天間飛行場に比べて、事故の危険性や騒音など周辺住民への影響が格段に小さくなる。

 辺野古移設の実現は、沖縄県全体の基地負担の軽減と米軍の抑止力維持を両立させる観点から、大きな意義がある。

 11月には沖縄県知事選が行われる。仲井真知事は既に、3選出馬を正式に表明している。

 辺野古移設に反対する翁長雄志・那覇市長と、移設の賛否を県民投票で問うとする下地幹郎・元郵政改革相も出馬する見通しだ。

 公有水面埋立法に、知事が埋め立て承認を取り消す規定はない。沖縄や日米関係を再び混乱させることがないよう、辺野古移設は確実に実現したい。

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