2014年9月30日火曜日

国民の疑問に答える国会論戦を望む

 臨時国会が始まった。国政の目下の重要課題は経済再生である。アベノミクスの先行きは大丈夫なのか。消費再増税は予定通り実施するのか。地方は本当に立て直せるのか。国民が知りたいのはそういうことだ。疑問を置き去りにしない国会論戦にしてもらいたい。

 この国会では、安倍晋三首相が内閣改造に際して重点政策と位置付けた地方創生や女性の活躍に関する法案が審議される。首相は所信表明演説の紙幅の大半をこの2つのテーマに費やした。

 「やればできる」「政府一丸となって応援していきます」「一緒にやろうではありませんか」

 地方創生ではこう訴えた。伝えたかったのは、地方の発展は自らの創意工夫なしにはなし得ないとの思いだ。

 戦後の歴代政権は「国土の均衡ある発展」を掲げ、交通網の整備などに取り組んできた。ただ、一口に地方といっても事情は千差万別である。中央主導の地方振興対策は必ずしも効果的ではなかったし、無用な公共事業のばらまきは財政難の一因となった。

 首相は演説で町おこし・村おこしの成功例をこれでもかと並べあげた。重要なのは、これを聞いた地方が事例をまねるのでなく、やる気をまねるようになることだ。

 自治体の多くは霞が関頼みの体質から抜け出せていない。交付金制度の見直し、中央省庁からの職員派遣などを求める声もあるようだ。地方のやる気を引き出すのに必要なのは財源なのか、人材なのか、さらに別の手があるのか。活発な議論を期待したい。

 「経済再生と財政再建を両立させながら、経済の好循環を確かなものとする」。首相は国民の最大の関心事である消費税の8%から10%への引き上げの是非にはほとんど触れなかった。

 最終決断するのは臨時国会の閉幕後になる見込みだが、だからといって会期中ずっと「検討中」「まだ白紙」といった木で鼻をくくったような答弁ばかりでは、国民はかえって心乱されよう。来年の通常国会にどんな補正予算案を出すのかなども知りたいところだ。

 「悲観して立ち止まるのではなく……」「厳しい現実に立ちすくむのではなく……」。所信表明演説は国民を鼓舞する言葉で終わった。国民の政権への信頼なしに、アベノミクスの成功はない。臨時国会は「経済最優先」で当たってもらいたい。

マグロやウナギの保護急げ

 資源の減少が目立つ太平洋のクロマグロやニホンウナギについて、国際的な保護策が進んできた。広い海域を回遊するマグロなどの乱獲を防ぐためには各国の緊密な協力が不可欠だ。最大消費国の日本が各国をけん引し、資源保護へ導く必要がある。

 中西部太平洋域でマグロ類などの資源を管理する国際機関は今月の会合で、成魚になる前のクロマグロ(体重30キログラム未満)の漁獲量を2015年から02~04年平均の半分に削減することで合意した。日本政府が提案し、韓国などの同意を取り付けた。

 クロマグロの調査にあたった科学者は、資源量を適正水準まで回復させるには未成魚の漁獲を半分に減らすことが必要だと提言しており、今回の合意は前進だ。

 しかし、太平洋域のクロマグロ保護は道半ばだ。太平洋にすむクロマグロの多くは沖縄周辺の海域で生まれ、米国やメキシコ沿岸まで回遊することが明らかになっている。クロマグロ保護の効果を高めるためには、東部太平洋でも同じような漁獲規制が要る。

 東部太平洋海域の資源管理機関は10月に米国で臨時会議を開く。7月の会合では、日本が示した未成魚漁獲の半減案にメキシコが反対し、合意できなかった。

 メキシコでは日本が買い手となり、クロマグロの養殖産業が盛んになった。12年のメキシコの未成魚漁獲は日本を上回り、太平洋全体の半分近くを占める。メキシコを合意に導くのは、買い手である日本の責任だ。

 ニホンウナギでは今月、日本と中国、韓国、台湾の間で初めて国際的な資源管理の枠組みができた。ただ、今回の合意は養殖施設への稚魚供給量の抑制が柱で、日本政府が考えた生産管理を含む幅広い規制より緩い。資源量の回復にはもっと厳格な規制が必要だ。

 完全養殖の技術を高め、人工稚魚の供給を増やすのも課題だが、当面は乱獲の抑止が優先だ。水産資源に影響する河川や海洋汚染の防止策も各国で進めてほしい。

臨時国会―課題は地方だけでなく

 安倍内閣の改造から初めてとなる臨時国会が開会した。首相が論戦の中心テーマに掲げるのは「地方創生」と「女性が輝く社会」である。

 首相はきのうの所信表明演説で、こう強調した。

 「若者にとって魅力ある町づくり、人づくり、仕事づくりを進める。これまでとは次元の異なる大胆な政策をとりまとめ、実行していく」

 「女性の活躍は、社会の閉塞(へいそく)感を打ち破る大きな原動力となる。その認識を共有し、国民運動を展開していく」

 確かに、これからの日本の人口減少を考えれば、ともに重要な論点ではある。少なくとも方向性に異議はない。

 ただし、このふたつをことさら強調する首相の姿勢には、来春の統一地方選をにらんだ得点稼ぎのにおいがする。この国会で議論すべき課題は、これだけにとどまるわけがない。

 安倍首相は先の通常国会で、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を会期内にすませるため、自民、公明の与党協議を急がせた。最終的に閣議決定は閉会後となったが、あまりに短兵急な運びだった。

 ところが、首相は閣議決定の内容を実行に移すための関連法の改正は来年の通常国会に先送り。きのうの演説でも「切れ目のない安全保障法制の整備に向けた準備を進める」とあっさり触れただけだ。

 法案づくりに時間がかかる事情はあるにせよ、根強い反対を抑えて突き進んだあの性急さはいったい何だったのか。

 首相は、消費税率の10%への再引き上げを、臨時国会の閉会後に判断する構えだ。「アベノミクス」の成果を強調する首相だが、一連の政策が日本の経済再生に本当に有効だったのか、これからも成果が見込めるのか、論戦を通じて明らかにすべきだ。

 首相はまた、原子力規制委員会が求める安全性が確認された原発は再稼働を進めると語った。だが、御嶽山の突然の噴火は、火山列島と呼ばれる国土で原発を稼働させることの危うさを改めて思い起こさせた。

 この国会が政権の思い描く通りに進むかどうかは、ひとえに野党の力量にかかっている。

 先の通常国会では「責任野党とは政策協議を行っていく」との首相の分断策に、野党は押され気味だった。

 臨時国会を前に民主党は執行部を刷新、維新の党も政権との対決姿勢を見せる。野党は「多弱」の汚名を返上する気概を、論戦の中で示してほしい。

土井さん逝く―変わらぬことの意味

 元社民党党首の土井たか子さんが85歳で亡くなった。

 護憲勢力の代表的な担い手であり、女性として憲政史上初の衆院議長でもあった。

 なにより異彩を放ったのは、頑固なまでに持論を曲げなかった政治姿勢だろう。賛否はあろうが、一本筋の通った個性を持ち合わせていた。

 その個性がブームを呼び、数々の名文句が政治の「変化」を体現していた時代があった。

 1986年に女性初の社会党委員長に就任し、「やるっきゃない」。88年、政府・自民党が消費税導入を打ち出すと、「だめなものはだめ」と反対姿勢を鮮明にした。

 89年の参院選、女性候補を前面にたてた「マドンナ旋風」で与野党逆転を実現し、「山が動いた」。女性の目覚めをうたう与謝野晶子の詩から援用した、決めぜりふだった。

 一方で、土井さんの絶頂期は、冷戦の終焉(しゅうえん)やバブル崩壊といった転換期とも重なる。

 冷戦構造や成長神話に支えられた自民党とそれに対抗する社会党という55年体制が崩れた。

 自民党の地盤沈下に伴い、連立と政権交代の時代となり、変化に対応できなかった社会党(のち社民党)は、凋落(ちょうらく)の道に入り込んだ。

 94年にできた自社さ連立政権で、社会党委員長だった村山富市首相は日米安保を容認するなど政策転換に踏み切った。多くの支持者が離れた。失地回復の期待を背負い、土井さんは96年に社民党党首を引き受けたが、「だめなものはだめ」の姿勢は変わらなかった。

 安倍政権が集団的自衛権の行使容認に踏み切り、日本の針路が問われる今、土井さんが変わらなかったことの意味に思いを巡らせる。

 変わることの大切さと、変わらないことの大切さと。政治家には、ときどきの局面で違った生き方があり得る。土井さんも他党との幅広い連携の中に活路を見いだす道があったかもしれない。それが結果的に護憲の理念をいかすことにつながったかもしれない。

 しかし、土井さんはそうしなかった。孤立を恐れない姿勢こそ、今の時代に必要だと思う人も少なくあるまい。「1強」と呼ばれる政治を、土井さんはどう見ていたのだろう。

 〈生きることは一すじがよし寒椿(かんつばき)〉

 映画監督の五所平之助さんの句が書かれた色紙を、土井さんは大切にしていたという。

 その言葉に忠実だった政治家の、静かな旅立ちである。

所信表明演説 地方創生の具体論が問われる

 地方創生や「女性が輝く社会」の実現を通じて日本の成長力回復を目指す。安倍首相の狙いは理解できる。肝心なのは、その具体論である。

 首相が衆参両院本会議で所信表明演説を行った。臨時国会を「地方創生国会」と位置づけ、地方の活性化と人口減対策のため、「これまでとは次元の異なる大胆な政策」を実行すると強調した。

 「若者こそが危機に歯止めをかける鍵」と語り、若者に魅力的な町づくりや観光・地場産業の振興などに努める考えも示した。

 首相の決意は伝わってくるが、各論の議論は始まったばかりだ。処方箋は明確ではない。今国会で成立を図る「まち・ひと・しごと創生法案」も、基本理念や国の役割などを定めるにとどまる。

 日本の人口は50年後に8700万人と、現在の3分の2に落ち込み、全国の自治体の半数が消滅するとの推計もある。1億人程度の人口構造を保つ、という政府目標の達成は容易ではない。

 政府は、自治体や民間とアイデアを出し合い、地域の実情に応じた対策を講じる必要がある。

 過去の国土開発計画のように旧来型の公共事業や交付金をばらまくのでは効果は限られる。町づくりの成功事例を検証し、費用対効果の観点で有望な政策に重点的に予算配分することが大切だ。

 首相は、女性の活躍を支援するため、子育て支援の拡充や、上場企業への女性役員数の公表義務づけに取り組む意向を表明した。女性の能力の活用は、成長戦略の一つの柱となろう。

 大胆な規制改革や、安全性の確認された原発の再稼働も着実に進め、「経済最優先」の方針に有言実行で取り組んでもらいたい。

 首相は、年内に是非を判断する消費税率の10%への引き上げに言及しなかった。どんな手続きと考え方で判断するのか、今後、丁寧に説明することが求められる。

 外交面では、環太平洋経済連携協定(TPP)など、経済連携を戦略的に進める考えを示した。首相は就任以来、49か国を訪問し、原発、高速鉄道のトップセールスなど経済外交を重視してきた。

 新興国の活力を取り込むことは日本経済の成長に資するし、経済力は外交カードとなる。外交と経済の好循環を目指したい。

 中国、韓国との関係改善も急務だ。中韓両国にも前向きな兆候があり、11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)は首脳会談の好機となる。静かな外交で中韓との調整を進めたい。

交流サイト被害 便利な機能には危険も潜む

 見知らぬ人と情報交換する交流サイトをきっかけに、性暴力などの被害に遭う。子供を卑劣な犯罪から守る対策を急ぐ必要がある。

 一口に交流サイトと言っても、種類は様々だ。

 フェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)や、LINE、カカオトークといった無料通話アプリ、友人を募る掲示板などがある。

 警察庁によると、交流サイトで知り合った相手から被害に遭った18歳未満の子供が、今年上半期に698人を数え、2008年に調査が始まって以来、最多となった。被害者の9割以上が少女だ。深刻な事態である。

 淫行や児童買春、児童ポルノなどの犯罪に巻き込まれるケースが多い。熊本県では女子高生が殺害される事件も起きた。

 人気の無料通話アプリの利用者IDを不特定多数の人と交換できる掲示板が登場したことが、被害を広げている。

 無料通話アプリは、IDさえ分かれば、電話番号やメールアドレスを知らなくてもメッセージの交換や通話ができる。IDを安易に掲示板に公開したことがきっかけで、やりとりが始まり、誘い出されて被害に遭う例が目立つ。

 面識がないことに乗じ、若い別人の写真を送信して、少女をおびき出す手口もある。少女の方から援助交際を持ちかけるような書き込みも見られる。

 LINEは昨年末までに、18歳未満の利用者について、IDしか知らない相手との通話やメッセージ交換をできないようにした。その結果、被害は減少傾向にあるという。他のアプリ事業者にも対策を講じてもらいたい。

 出会い系サイトに関しては、子供の性被害を防ぐ規制法が設けられている。サイト運営業者の届け出や18歳未満の書き込み禁止の規制がある。しかし、趣味仲間や友達の募集などをうたう交流サイトは、規制の対象外だ。

 交流サイトの機能は、連絡手段などとしては便利だが、危険も潜んでいることを、家庭や学校できちんと教える必要がある。

 子供の携帯端末から特定のアプリやサイトに接続できないようにする「フィルタリング」も有効だろう。内閣府の調査では利用率は半数程度にとどまっている。設定しているかどうか「わからない」という保護者も約2割に上る。

 子供が携帯電話やスマートフォンをどう使っているのか。親はしっかりと把握しておきたい。

2014年9月29日月曜日

突然の噴火に備え火山防災の総点検を

 長野県と岐阜県にまたがる御嶽山(おんたけさん)が噴火し、多くの登山者が巻き込まれた。山岳災害として国内で最悪規模になる恐れがある。周辺では降灰による農作物などの被害も出ている。

 今回の噴火は、地下のマグマに地下水が触れて起きる水蒸気爆発とみられ、27日昼前に突然始まった。御嶽山周辺は紅葉シーズンに入り、多くの入山者がいた。政府は危機管理センターに連絡室を設け、自衛隊や警察などが不明者の捜索や救助にあたっている。

 水蒸気爆発はなお続く恐れがあり、噴火活動の拡大にも予断を許さない。捜索隊は二次災害の防止に細心の注意を払いつつ、人命救助に全力を挙げてもらいたい。

 周辺の住民は引き続き、噴石への注意が要る。雨が降り、火山灰が泥になって山腹を下る泥流の発生も懸念される。火山灰は風で運ばれて飛行機の運航にも悪影響を及ぼす。航空会社などは安全確保に万全を期してほしい。

 今回の噴火は突然だったとはいえ、なぜこれほどの被害を招いたのか、徹底的な検証が要る。

 気象庁は9月に入って御嶽山周辺で火山性の弱い地震を観測していた。だがその後、微動は収まり、同庁は警戒情報を「レベル1(平常)」にとどめていた。警戒を「レベル3(入山規制)」に引き上げたのは、噴火後だった。

 噴火の予知や予測は一部の火山を除けば難しい。とはいえ、変調をとらえた段階で、住民や登山者に周知できなかったのか。気象庁は警戒レベルの引き上げには、マグマの動きが観測されるなど一定の基準を満たす必要があるとしている。そうした基準が妥当なのか、きちんと検証すべきだ。

 列島には110の活火山があり、うち47火山は噴火の恐れが強いとされる。それらの監視を強め、対策を早急に総点検するときだ。巨大地震の直後には火山が噴火しやすく、3年半前の東日本大震災後、多くの火山学者が噴火に警戒を呼び掛けている。

 火山灰や火砕流などの到達範囲を予測したハザードマップが作られ、住民に配られているか。予兆が観測されたら、どの段階で住民に避難を指示するのか。火山に近い自治体は重ねて点検すべきだ。

 火山の研究者が減り、監視体制の弱体化も指摘されている。専門家をどう育て、地元と連携して日ごろから対策をどう練るか。国もこれらを真剣に考えるときだ。

虐待から子どもを守りたい

 子どもへの虐待が後を絶たない。全国の児童相談所が対応した件数は2013年度、7万件を超え、過去最多を記録した。警察が摘発した児童虐待事件も14年上半期は過去最高の317件だった。

 政府は、年内をめどに総合的な対策を打ち出すという。子どもは社会の宝だ。健やかな育ちを支えていけるよう、あらゆる手を尽くしてほしい。

 厚労省の専門家会議は年1回、児童虐待の報告書をまとめている。このほどまとまった報告書によると、心中以外の死亡事例の半数近くを、0歳児が占めた。こうした悲劇を防ぐためには、妊娠中から継続的に支援していく体制づくりが欠かせない。

 望まない妊娠などで、出産前から不安や悩みを抱えているケースは少なくない。いかに相談しやすい体制を築き、手をさしのべていくか。親子を孤立させず、必要なサービスにつなげていくことは、虐待の予防はもちろん広く育児不安の軽減などにも役立つだろう。

 体にあざがある、乳幼児健診に来ていない……。過去には、周囲が疑念を抱きながら、そのシグナルを生かせなかったケースも少なくない。早期発見に向け、児童相談所や市町村、医療機関、学校など、関係機関が緊密に連携することも不可欠だ。

 多くの自治体は、関係機関が参加する協議会を設けている。だが件数の多さに対応しきれなかったり、協議会が形骸化していたりするケースもある。十分な機能が果たせるよう、事務局のあり方を含め、運営の工夫を求めたい。

 もちろん、対策の中核を担う児童相談所の役割は大きい。件数が急増するなか、どう機動的に対応できる体制を整え、職員一人ひとりの専門性を高めていくか。大きな課題だ。

 児童虐待防止法は、国民一人ひとりに、虐待が疑われる子どもがいたら児童相談所などに通告するよう求めている。児童虐待を防ぐために、何ができるか。誰もが関心を持っていきたい。

御嶽山噴火―火山リスクの直視を

 紅葉を楽しむ、楽しい登山が暗転し、30人以上の登山者が心肺停止状態で発見された。うち4人の死亡が確認された。

 長野・岐阜県境の御嶽山(おんたけさん)の噴火は、多くの被災者を出す惨事になった。身を隠す場所が限られる山頂付近で、噴石に直撃されたのだろうか。

 今回、噴火するまで御嶽山の警戒レベルは、5段階で最低の「レベル1」(平常)だった。

 気象庁は噴火を予知することは困難だったとしている。火山性の地震が今月になって増えたが、ほかに異常がなく地震も落ち着いていた。地震の続発は、地元自治体に伝えてもいた。

 もし地震が増えた段階で、火口周辺への立ち入りを規制する「レベル2」に警戒レベルを引き上げていたら、あるいは立ち入り自粛を呼びかけていたら、被害を減らすことができただろうか。検証が必要だろう。

 自己責任にゆだねられる部分が多い登山で、こうした警戒情報をどのように伝え、万が一の事態にどう備えるのか。それぞれの火山で、地元自治体は気象庁や登山愛好者らと相談してみてはどうだろう。

 火山噴火予知連絡会の拡大幹事会はきのう見解をまとめた。今回の噴火は、地下水がマグマで熱せられて起きた水蒸気爆発で、火砕流を伴った。今後も同程度の噴火や火砕流の発生に警戒が必要と呼びかけている。

 国内の噴火で犠牲者が出たのは、1991年の長崎県の雲仙・普賢岳以来だ。110もの活火山がある日本だが、全体としては静穏な歳月が続いてきた。

 火山噴火は比較的低いリスクと見なされ、他の災害に比べ対策が遅れている。火山予知連が監視強化を求め、気象庁が常時監視する47火山でさえ、必ずしも観測体制は充実していない。

 地震よりまれにしか起きず、直接的で実証的な研究が進みにくい難しさもある。大学など研究現場で実用的な成果を短期間で求める風潮が強まるなか、火山研究者は減少の一途だ。

 このままでいいはずはない。

 300年前の1707年に起きた富士山の宝永大噴火は、噴火規模を0~8で示す火山爆発指数で5相当と考えられているが、横浜で10センチ、江戸で5センチもの火山灰が降り積もった。

 現代なら電子機器や交通網、上下水道など、都市機能は壊滅的な打撃を受けるだろう。

 世界有数の火山国である以上、政府は火山のリスクを軽視していてはならない。

 火山の観測や研究を強化するとともに、噴火被害の軽減策を着実に図るべきである。

日本と韓国―前を向き進むしかない

 すっかりさび付いてしまった歯車が、やっと少しずつかみ合い始めた感がある。国連総会が開かれたニューヨークを舞台にした日韓の政治の言動は、そんな思いを抱かせた。

 韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は、おそらくこれまででもっとも穏やかな表情で岸田外相と握手した。

 両首脳の演説も印象的だった。朴槿恵(パククネ)大統領が「慰安婦」という言葉を使わずに、戦時の女性への性暴力問題を取り上げると、安倍首相は「日本は紛争下での(女性に対する)性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立つ」と呼応した。

 このきっかけを日韓両国は大切に育てていかねばならない。そのためには互いに無用な刺激をしないことが求められる。

 安倍政権の発足に続き、韓国で朴政権が誕生したのは約1年半前のこと。新政権同士の関係は空回りを続けた。

 双方ともこれまで自国の「世論」を気にして、外交の柔軟さを欠いていた。だが、国交正常化50年となる来年が迫るなか、疎遠な政治の関係をこのまま放置していいのか、という危機感が背中を押している。

 朴大統領は、これまで歴史認識問題に熱心とはいえなかった安倍政権に強い警戒心を抱いてきた。政権発足以来、対日強硬論を唱えた尹外相の存在も大きかった。

 だが、政権内の権力構造の変化にともない、最近では経済分野など外交当局以外の部署から多様な日本情報が入ってくるようになった。尹外相の発言力は弱まり、大統領も軟化を始めたようだ。

 日本も「対話のドアはオープン」(安倍首相)と言うだけで中韓の首脳をドアに近づける努力は十分ではなかった。

 日韓の外務当局間で続いている局長級協議の主議題は慰安婦問題である。歴史認識がからむ問題の解決には政治指導者の決断が欠かせない。

 だからこそ、首脳会談を始めるべきだ。トップ同士の対話は重くのしかかった懸案を改善する役割を当然担っている。

 関係改善に向けた始動は遅きに失したが、前を向いて歩みを進めるしかない。

 両首脳がともに出席する年内の国際会議は、11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)などいくつかある。これらの機会を上手に使い、国交半世紀の節目をどう迎えるか、思い描くイメージを伝えあうべきだ。

 隣国の首脳同士が行き来しあえるという本来の関係を、早く取り戻さなければならない。

チーム学校構想 事務職員も欠かせない戦力だ

 教育現場の様々な課題に対処するため、教師だけでなく、事務職員や外部人材の力を有効に活用したい。

 中央教育審議会が、学校組織の総合力を高める方策の議論を始める。

 教師と事務職員の役割分担を見直す。児童心理や福祉の専門家を積極的に受け入れる。学校をいわば一つのチームとして活性化させようという構想である。

 いじめや不登校、保護者からのクレームの対応、貧困家庭の子供の支援、学校施設の地域開放など、教育現場の業務は授業以外にも多岐にわたる。教師はこれらをすべて抱え込みがちで、多忙化の要因の一つになっている。

 業務の内容を再点検し、事務職員や専門スタッフに任せられる仕事は任せていく。それによって、教師が授業の準備をする時間や、子供と向き合う機会を増やし、指導の充実につなげようという方向性は妥当と言えよう。

 文部科学省は今後10年間で、3000人の事務職員の増員を計画している。現在、主に学級数の多い大規模校で認められている事務職員の複数配置を、中規模校にも広げることを目指している。

 増員を図る上で重要なのは、事務職員の資質の向上である。

 学校の事務職員は、自治体によって採用や育成の方法にばらつきがある。パソコンを使った情報処理の技術など、現場で必要とされる能力をしっかり身に付けられるよう、各自治体の研修を充実させることが求められる。

 児童・生徒の心のケアを担うスクールカウンセラーや、家庭訪問などを通じて環境の改善にあたるスクールソーシャルワーカーを、どう確保していくかも課題だ。

 こうした外部の専門スタッフは、臨床心理士や社会福祉士といった資格を持ち、現場のニーズは高い。にもかかわらず、勤務形態は非常勤で、複数の学校を掛け持ちするケースが多い。

 学校教育法上、学校の職員としても位置づけられていない。継続的・安定的な配置を実現するためには、職務を法的に明確にすることを検討してはどうか。

 外部の人材をも束ねることになれば、校長や副校長ら学校管理職の役割は一層、重くなる。

 現在、公立学校の教師の年齢構成は、50歳代に比べて30~40歳代が少なく、将来の管理職候補が手薄な状況だ。中堅教師が学校運営の手法を学べる講座を教職大学院に設けるなど、管理職養成の体系的な仕組みを整えたい。

ソニー経営不振 大胆な発想で活路を開きたい

 かつて独創的な製品で世界市場を席巻したソニーが、深刻な経営不振にあえいでいる。

 「過去の栄光」に安住していては、厳しい国際競争に勝ち抜けない。一から出直す覚悟で、再建を果たしてもらいたい。

 ソニーは、2015年3月期決算の予想赤字額を500億円から2300億円に修正した。株主配当を見送り、1958年の上場以来、初めて無配に転落する。

 ソニーの赤字決算は、最近7年で6回目となる。長期低迷からの再生を託され、一昨年に就任した平井一夫社長は、スマートフォンを中核事業に据え、反転攻勢をかける方針を示していた。

 だが、肝心のスマホ事業で収益目標を達成できず、大幅な損失計上を迫られた。高級端末は米アップルのiPhone(アイフォーン)に大差をつけられ、低価格帯でも中国など新興国メーカーに市場を奪われた。

 平井社長は高級端末への絞り込みなどで収益性を高める考えを強調したが、同様の手法で巻き返しを目指した薄型テレビは、今も赤字続きである。スマホも同じ轍(てつ)を踏む懸念が拭えない。

 高度成長を支えた電機メーカーの多くは、新興国勢との競争で苦戦し、利益の薄い消費者向けから企業向けビジネスに軸足を移し、生き残りを図った。

 日立製作所や東芝は、原子力発電や鉄道などインフラ事業に経営資源を集中し、安定した収益を上げている。パナソニックも薄型テレビやスマホを縮小する一方で、住宅や自動車の事業に注力し、業績を回復させた。

 これらの総合電機メーカーとは違い、ソニーは東京通信工業として創業し、ラジオ、テレビ、ゲームなどで成長してきた。消費者向けの事業を単純に切り捨てる手法では、再生は望めまい。

 ソニーは映像や音声の技術力に定評がある。11月に発売する新型ウォークマンは、CDより高音質な規格に対応した再生機として、世界最小、最軽量を実現した。

 こうした性能向上や改良で、支持を広げてほしい。さらに、消費者が待っているのは、ソニーらしい大胆な発想をヒット商品に結びつける力の復活だろう。

 かつてウォークマンでは、「音楽を持ち歩く」という生活スタイルそのものを提案し、絶大な支持を得た。「ソニー神話」を支えた自由闊達(かったつ)な企業風土を生かし、全く新しい消費者ニーズを掘り起こすことが、活路を切り開こう。

2014年9月28日日曜日

日本の競争力を高める特許の仕組みを

 企業の従業員が仕事で生み出した発明(職務発明)の帰属をめぐって、議論が高まっている。今の法律では特許権は最初は従業員個人に帰属し、企業は「相当の対価」を支払ってそれを譲り受ける仕組みだが、経済界を中心に「職務発明の特許は始めから会社に帰属させるべきだ」との声も強い。

 これに応えて、政府の知的財産戦略本部が「職務発明制度の抜本的な見直し」を打ち出し、特許庁の有識者会議で具体案づくりが進み始めた。

 法人帰属を求める声は、研究開発に巨額を投じる製薬業界や電機業界で特に強い。そもそも職務発明は会社の意思に基づいて、会社がリスクを取る形で資金や設備を提供して実行するものであり、法人帰属が妥当という意見だ。

 「相当の対価」をめぐって会社と個人が法廷で争う事態が頻発すれば、研究開発そのものに尻込みする企業が増える可能性もある。米国の製薬産業の団体なども「今の制度は、日本における研究開発投資をためらわせるものだ」という見解を表明している。

 組織運営の観点からは、処遇の公平性の問題もある。発明が会社の利益に貢献するまでには、生産や販売など各部門の協力が必要なのに、「なぜ研究者だけが特別扱いなのか」という疑問である。

 こうした種々の事情を考えると、法人帰属への転換を検討すべき時期ではないか。諸外国を見ても英仏など法人帰属の国も多く、従業員帰属は必ずしも多数派とはいえない。

 ただ、制度変更によって発明者の意欲が低下したのでは元も子もない。大企業の多くは研究開発に関する報奨制度を持っているが、それを一段と拡充するとともに、成果を上げた人をきちんと処遇する必要がある。

 各企業に報奨制度の詳細や技術者の処遇について、情報開示を義務付けるのも一案だろう。それを比較することで、これから就職する研究者の卵や転職を考えるエンジニアがよりよい職場を選ぶことができる。

 優秀な人材を採るために、各社が競って制度を拡充する効果にも期待したい。

 社員と企業は、一方が得をすれば片方が損をするというゼロサムの関係ではない。メリットを分かち合い、結果として日本の技術力やイノベーション力が高まる仕組み作りに知恵を絞りたい。

負けられぬエボラとの戦い

 西アフリカでのエボラ出血熱の流行が勢いを増している。

 国連の安全保障理事会は緊急会合を開き「エボラ出血熱の流行は国際社会の平和と安全にとって脅威である」と決議、制圧に各国の力を結集するよう訴えた。

 世界保健機関(WHO)によると、26日時点で感染者は約6500人、死者は3千人を超えた。WHOが8月8日に緊急事態を宣言したが、その後も感染の拡大は止まらない。

 米疾病対策センター(CDC)は、このまま手をこまぬいていると来年1月には感染者が55万~140万人にも達しかねないとの予測を公表した。アフリカ経済に深刻な打撃となり、周辺国や他地域への拡大リスクも高まる。

 米国は兵員約3千人を派遣し、航空路の途絶で孤立した地域に向けて医療資材や人員を運ぶ活動を始めている。フランスや中国、キューバなどが医療チームを送り込んでいる。

 安倍晋三首相は26日に国連本部で開いた会合で4千万ドル(約44億円)の追加支援を表明、日本としてできる限りのことをすると約束した。医師や感染症対策の専門家の増派を含め、各国と連携して対応にあたってもらいたい。

 グローバル経済の拡大によって局地的な感染症の流行がたちまち世界各地に広がるリスクが高まっている。また地球温暖化の進行で熱帯特有の病気が温帯地域にも拡大する兆しがみえる。

 エボラウイルスはコウモリが自然宿主だ。コウモリとの接触を通じ、人間社会に新たな感染症として現れたとみられる。鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など人獣共通感染症も新たな脅威といえる。

 新型感染症への国内の備えを厚くしておく必要がある。例えば、病原体を厳重に隔離して研究できる「BSL(バイオ・セーフティー・レベル)―4」と呼ばれる施設がある。多くの先進国にはあるが、日本にはない。国内に建設するかどうか、検討課題だ。

国連演説―首相の重い国際公約

 安倍首相が国連総会の一般討論演説で、中東の過激派「イスラム国」との戦いに関連し、難民支援などに計約5千万ドルを拠出すると表明した。

 演説後の記者会見では、難民や周辺国への人道支援など「軍事的貢献でない形で可能な範囲の支援を行う」とも語った。

 日本は米国などの軍事攻撃には関与せず、あくまで非軍事の支援に徹する方針を国内外に示したことになる。

 では、日本として何ができるのか。テロ対策での国際的な連携はもとより、難民の受け入れなど、平和的な支援に知恵を絞らなければならない。

 米軍などのシリア領内での空爆について、首相の見解は「やむを得ない措置だったと理解している」というものだった。

 空爆にあたっては、シリア政府からの明確な要請も、国連安全保障理事会での決議もなかった。国際法上の根拠には疑問が残り、「支持」でなく「理解」にとどめたのだろう。

 集団的自衛権の行使容認を閣議決定した政権がどう振る舞うか。ここは国際社会での日本のありようが問われる。

 自衛隊への憲法上の制約がゆるめられ、政治判断で自衛隊を動かす余地が大きくなった。

 もちろん、閣議決定だけで自衛隊は動かせない。関連の立法措置が必要であり、自衛隊の活動の範囲を規定する歯止めなど具体的な中身は今後の国会論議にかかっている。

 「イスラム国」との戦いは長期化が予想されており、米国が自衛隊の支援に期待する可能性もある。だが、首相自身が「軍事的貢献でない支援」と国際社会に約束した。そのことを忘れてはならない。

 一般討論演説で首相は改めて積極的平和主義を掲げた。各国と協力し、海外の紛争や安全保障上の課題に関与していく考え方だが、軍事的貢献ばかりが国際協力ではない。

 紛争から一定の距離をとり、非軍事的な手段で平和構築をはかってきた戦後日本の歩みは、世界に誇れるものだ。

 日米関係は重要だが、国際的な支援のあり方は各国がそれぞれ判断すべきことだろう。米国とは違う独自の立場で、その個性をいかすべきではないか。

 国連常任理事国入りに改めて意欲を示した演説には、こんな一節も盛り込まれた。

 「日本の未来は既往70年の延長上にある。不戦の誓いこそは、日本の国民が世々代々、受け継いでいくものだ」

 この言葉もまた、首相の重い国際公約となる。

待機児童問題―まず全体像の把握を

 認可保育所に入れない待機児童は、全国で2万1371人(4月1日時点)。厚生労働省が今月公表した集計数は前年より1370人減ったものの、6年連続で2万人を超えた。

 共働き世帯は近年、増え続けている。育児と仕事を両立させようとすると、直面するのが預け先の問題だ。

 自治体の側も保育所を増やしてきているが、施設を増やせば利用者も増えて、待機はなかなか解消しない。この1年を見ても、全国総計で定員を4万7千人分増やしたところ、利用者もほぼ同数増えた。

 待機児童問題を解消するためには、実態把握が大前提になる。ところが、国の定義にあいまいな部分がある結果、児童の数え方も自治体によってまちまち。「保育所が見つからず、育児休業を延長」「自宅で育児をしながら求職中」といったケースをどう扱うのか、統一基準がない。

 まず、待機児童の定義を一本化して、全体像の把握に努めるべきだ。

 安倍政権は、17年度末までに40万人分の保育の受け皿を増やす方針を打ち出している。保育所など施設の拡充とともに、子どもの世話をする保育士も確保する必要がある。17年度末の必要数は46万人と推計されているが、このままでは7万4千人不足する見通しだ。

 資格を持ちながら保育士として働くことを望まない人に対する厚労省調査(複数回答)では「賃金が希望と合わない」が20~40代を通じて最も多く、30代では「就業時間が希望と合わない」(33%)「子育てとの両立がむずかしい」(26%)が目立った。「自分の子どもが学校に行っている間だけ働きたい」といった希望もあった。

 預ける側、預かる側とも長時間労働を前提とする限り、待機の問題は解決が一層、難しくなる。待機児童問題は「働き方」の問題にもつながっている。

 来年度からの新制度に向け、今は「認可外」の保育について、国の基準を設けて認可する仕組みが動き出す。小規模保育所のほか、保育士らが自分の家などで子どもの世話をする「保育ママ」など、認可された保育サービスが広がる。

 待機児童問題で成果を上げている横浜市では、認可保育所に入れなかった家庭に専門の職員が連絡を入れ、代わりに使える保育施設やサービスの情報を提供し、多くの利用に結びついているという。こうしたきめ細かな対応が、自治体にはいっそう求められる。

日韓外相会談 関係改善への機運は本物か

 解決が困難な課題があっても、対話を重ね、接点を探る。そんな外交の常道に立ち返りたい。

 岸田外相がニューヨークで韓国の尹炳世外相と会談し、日韓関係について「高いレベルの意思疎通を継続し、深化させる重要性」で一致した。

 まだ実現していない安倍首相と朴槿恵大統領の首脳会談を念頭に置いたものだ。両外相は先月も会談しており、関係改善に向けての前向きな動きと評価できる。

 ただ、いわゆる従軍慰安婦問題について岸田外相は「日韓双方が努力する必要がある」と語ったが、尹外相は日本に謝罪と具体的措置を求める立場を崩さなかった。

 岸田外相の言うように、韓国が日本に一方的な譲歩を求めるのでなく、双方が歩み寄らなければ、慰安婦問題のトゲは抜けない。

 懸念されるのは、朴大統領の頑(かたく)なな姿勢にあまり変化がないことだ。国連演説でも、慰安婦問題を念頭に「戦時の女性に対する性暴力は人権に反する」と語った。

 昨年の尹外相の国連演説よりは抑制された表現だが、2国間の課題を国連総会で取り上げること自体、問題を複雑化する。

 朴大統領は19日の森元首相との会談でも、「過去の傷を治癒する誠意ある努力の先行」を求め、慰安婦問題の「解決」が首脳会談の前提との姿勢を変えなかった。

 大統領は「誠意」や「努力」の具体的内容には言及しようとしない。反日姿勢を続けることに意味があるのだろうか。

 自らがこの問題に固執し、日本批判を強めることが、「韓国は放置しておけば良い」という日本世論の反発を招き、日韓関係を冷え込ませている。この実態を大統領には早く理解してもらいたい。

 韓国側も最近、歴史問題以外の分野では、対日関係を前進させようとする動きを強めている。

 今月だけでも、日中韓の次官級の非公式協議、尹外相と別所浩郎駐韓大使の会談、文化交流の局長級協議などが行われた。

 この背景には、日中関係の改善の兆し、日朝協議の再開、米国からの外交圧力など対外要因に加えて、日韓関係の修復を求める韓国内の一部メディアや経済界の声の高まりがあるのだろう。

 日韓関係の停滞は、北朝鮮政策での連携、防衛協力のほか、日本企業の投資や日本人観光客の減少など経済関係、文化・スポーツ交流にも影響が及んでいる。

 日韓両政府は、最近の対話の機運を大切にし、実務的な協力関係を着実に進めることが重要だ。

御嶽山噴火 見せつけられた予知の難しさ

 火山の猛威を、まざまざと見せつけられた。

 長野県と岐阜県にまたがる標高3000メートル超の御嶽山が噴火した。

 紅葉シーズンの週末とあって、登山客が大勢いた。高温の火山灰などで多数の重傷者が出ている。山小屋に退避した人もいるが、噴火が続いているため、救援活動は時間を要している。

 政府は、首相官邸の危機管理センターに連絡室を設置し、被害の情報収集などを急いでいる。安倍首相は、被災者の救助や登山客の安全確保に全力を尽くすよう指示し、自衛隊を派遣した。

 負傷者の搬送、行方不明者の捜索・救難を急ぎ、被害を最小限に食い止めねばならない。

 噴火活動がいつ静まるのか、まったく予測はつかない。

 山頂付近から噴煙が高く舞い上がり、大量の火山灰が猛烈なスピードで山腹を流れ下った。噴石も広範囲に飛散している。

 引き続き火山活動の厳重な監視が必要だ。二次災害にも十分警戒してもらいたい。

 気象庁は、今後も同規模の噴火が起きる恐れがあるとして、警戒を呼びかけている。5段階ある噴火警戒レベルを平常時の1から入山規制を伴う3に引き上げた。

 活動性が極めて低い火山と考えられていた御嶽山は、1979年に突如噴火し、火山灰が広い地域に降った。91年と2007年にも小規模の噴火を起こしている。

 気象庁は、全国に110ある活火山のうち、活動が活発な23火山の一つに御嶽山を選び、監視体制の充実を目指していた。だが、噴火の予兆は捉えられなかった。

 噴火予知の難しさが浮き彫りになったと言えよう。

 気象庁は今月上旬から、やや活発な地震動を観測していたが、過去の噴火データが乏しく、噴火につながると判断できなかった。噴火の明確な前兆となる地殻変動なども探知されなかった。監視体制の再点検が求められる。

 日本は火山国なのに、監視に必要な予算や人材が不足しているとの指摘がある。充実した観測体制は、鹿児島県の桜島や長野・群馬県境の浅間山などに限られる。

 8月に鹿児島県の口永良部島で新岳が噴火した際には、前兆を察知できなかった。噴火活動が続く小笠原諸島の西之島は、常時の観測さえしていない。

 最近は、中高年の登山ブームもあり、登山客でにぎわう火山は多い。周辺には温泉など有名観光地もある。万一の事態があることも忘れてはならない。

2014年9月27日土曜日

日本の危機でもある「イスラム国」の台頭

 いま、世界は2つの危機に襲われている。過激派「イスラム国」の台頭とロシアによるウクライナへの介入だ。特に、中東の紛争は日本の原油調達にも影を落としかねない。これは対岸の火事ではなく、日本の危機でもある。

 こうしたなか、安倍晋三首相は国連総会を舞台に首脳外交を繰り広げた。イラクやシリアで勢いづく「イスラム国」との戦いを支持すると表明。避難民の救済などのために、5千万ドル(約55億円)の中東支援を打ち出した。

 中東情勢のカギをにぎるイランをはじめ、イラクやエジプトの首脳とも会談した。日本は傍観者にならず、必要な役割を果たしていく。ひとまずこんな意思は示せたといえる。だが、これは第一歩にすぎない。

 「イスラム国」との戦いは長く続くだろう。日本としても腰を据えた対応が求められる。まず期待されるのは経済的な支援だ。

 イラクやシリアの内戦で、避難民はさらに増えるとみられる。貧困や混乱への不満が米欧への反感につながり、「イスラム国」の増長を許す。こうした悪循環を止めるためにも、情勢に応じ、新たな人道支援を検討してほしい。

 テロを抑えるには、イラク政府の統治能力を高めることも欠かせない。行政や治安を担う人材を育てるための資金や知見を、提供することも意義ある貢献だ。

 第2は、「イスラム国」への資金や人の流れを断つための対策である。国連安全保障理事会はテロを目的に外国に渡航する者の処罰を、各国に義務づける決議を採択した。そうした渡航者を募ったり、資金を提供したりすることも禁じた。

 この決議がきちんと実行されるよう、日本は各国の通関や財政当局と密に連携し、テロリストの包囲網づくりを後押しすべきだ。インターネットを駆使して戦闘員を集める「イスラム国」に対抗するには、各国との情報共有も大切になる。

 日本は中東諸国と独自のパイプを築いてきた。米国が外交関係を持たないイランとも首脳交流を保っている。今こそ、この外交資産を生かすときだ。

 ニューヨーク入りした安倍首相が、早々にイランのロウハニ大統領に会い、事態収拾への協力を促したのも、そんな狙いからだ。引き続き、イランを含めた中東諸国への働きかけを続けてほしい。

日中の「互恵」へ一層の努力を

 日本の大手企業のトップらで構成する日中経済協会の訪中団が、中国の汪洋副首相らと会談した。日本側は習近平国家主席か李克強首相との会談を求めていたが、実現しなかった。

 11月に北京で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせた日中首脳会談の開催を期待する日本側には、中国側の姿勢を瀬踏みする思惑があった。中国側は慎重な構えを改めて示したといえよう。

 一連の会談では、日中関係の現状は打開する必要があるとの考えで双方が一致した。中国の高虎城商務相は、日本からの対中直接投資が大きく落ち込んでいることに懸念を表明した。

 今年上半期の日本から中国への対中直接投資額は前年同期に比べ48%減った。原因として中国側からは、日中の政治関係の悪化を特に問題視する声が出たようだ。確かに、政治問題は経済関係に深刻な影を落としている。

 2012年に尖閣諸島を国有化したあとの反日デモでは、日系企業への焼き打ちや略奪が起きた。昨年の安倍晋三首相の靖国神社参拝などで歴史認識をめぐるあつれきが深まるなか、商船三井の船舶の差し押さえなど経済の面でも過去を問う動きが浮上した。

 ただ、政治リスク以外の要因も少なくない。人件費の急激な上昇や依然ずさんな知的財産の保護、透明性を欠いたビジネス環境などを心配する声は多い。

 こうした問題をめぐって率直に意見交換し着実に改善していくことは、双方にメリットがある。途絶えている閣僚級の「日中ハイレベル経済対話」を再開したいと汪副首相が表明したのは、意味があろう。双方の官民がそろって知恵を出し合うべきだ。

 ここにきて日中間では政治面の接触も増えている。両国外相が会談し、東シナ海で不測の事態に備える高級事務レベル海洋協議が開かれた。とはいえ双方が掲げる「戦略的互恵関係」にはなお遠い。一層の努力が求められる。

日中関係―首脳対話を始める時だ

 安倍首相と習近平(シーチンピン)・中国国家主席が、この秋に北京で握手を交わすかもしれない。そんな機運が高まってきた。

 日中両国の外相がニューヨークで会談した。比較的長い時間をかけて意見交換した。前向きなできごとと受け止めたい。

 その場で首脳会談の開催は決まらなかったが、アジア第1と第2の経済大国だ。トップ同士が会わない異常事態には、早く終止符を打つほうがいい。

 安倍首相は、かつてのような中国をいたずらに刺激する発言を控え、会談の希望を繰り返し表明している。中国側の態度もおおむね穏やかになった。

 北京で11月にあるアジア太平洋経済協力会議(APEC)のホスト役である習主席が、日本の首相と会わないのはさすがにまずい、という空気が中国側にはあるようだ。

 中国政府は、関係の改善には「問題の適切な処理」が必要だと日本に求めている。それはまず、首相が靖国神社に参拝しないと確約すること。そして、尖閣諸島をめぐり領有権問題が存在すると認めた上での棚上げ、の2点に集約される。

 だが、首脳会談の実現にこうした前提条件をつけるのは適当ではない。

 靖国神社は、戦争指導者だったA級戦犯の合祀(ごうし)を含め、過去の戦争を正当化する性格を帯びている以上、日本の首相として参拝すべきではない。中国に言われるから行かないという話では、問題をかえってこじらせかねない。

 尖閣諸島は、日本の領土であり、争いの余地はない、というのが日本政府の立場だ。領有権問題の存在を認めれば、中国側で「力で押せば日本は譲る」と受けとめられる恐れがある。

 「問題が存在するかどうか」といった応酬は生産的ではあるまい。いま大事なのは、尖閣周辺の東シナ海やその上空でいつ起きるか分からないトラブルを避ける仕組みをつくることだ。

 その意味で、山東省青島で今週開かれた日中高級事務レベル海洋協議は前進だった。不測の事態が軍事衝突に発展しないよう、防衛当局間の「海上連絡メカニズム」づくりに向け、話し合いを再開すると合意した。

 首脳会談が実現すれば、こうした動きを含め、各分野の交流に弾みがつくだろう。

 安倍政権は改造内閣が発足し、習政権は一連の反腐敗キャンペーンで権力基盤を固めた。互いに腰を落ち着け、双方に利益をもたらす関係を構想し直すための出発点として、首脳対話を始めるときだ。

TPPと日米―原点に返り交渉続けよ

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に伴う日米閣僚会談が物別れに終わった。

 本格化して4年が過ぎたTPP交渉は、オバマ米大統領も言及した通り、年末にかけて大筋合意できるかどうかが成否を左右しそうだ。交渉参加12カ国のうち、2大大国である両国が歩調を合わせないと前へ進めないのが実情である。

 甘利TPP相が「議論がかみ合わなかった」「まとめるには、(日本だけでなく)双方が歩み寄る必要がある」と米国に不快感を示した通り、溝は深い。予定より早く会談を切り上げ、次回会談の日程も決めなかったため、TPP交渉が「漂流」する恐れもささやかれる。

 ここは、日米ともにTPPの原点を確認してほしい。

 世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が滞るなか、成長著しいアジア太平洋地域で新たな貿易・投資ルールを作り、世界経済を引っ張る。WTO停滞の原因ともなった先進国と新興国・途上国の利害対立に向き合いつつ、貿易促進と労働者や環境の保護との両立など、新たな課題を見すえた「21世紀型」の協定にする。そんな目標だった。

 一方、日米交渉の現在の焦点は、牛肉・豚肉や自動車など「モノ」の貿易自由化を巡る利害対立だ。関税引き下げ・撤廃とその期間、輸入急増時の緊急輸入制限措置(セーフガード)の組み合わせなど、技術的な駆け引きが続いている。

 もちろん、これらは重要な論点だろう。が、あまりに業界の声に振り回されていないか。

 とりわけ、11月上旬に議会の中間選挙を控える米国にその傾向が顕著だ。豚肉の対日輸出を増やそうと日本市場の大幅な開放を求める養豚業界、日本製乗用車の輸入を抑えるために関税撤廃に否定的な自動車業界などの政治力に、米政府の立ち位置が定まらないようだ。日本側は、今回の日米閣僚会談での米国の強硬姿勢について「議会や業界へのアピールだった」と不満を募らせている。

 日本政府も、牛肉・豚肉やコメなど農産品の「重要5項目」を守るよう求める国会決議を抱える。消費者の利益を念頭に置きつつ、必要な業界保護策を講じる。この基本に沿って米国と向き合い、交渉を軌道に乗せてほしい。

 TPP交渉は、知的財産権の保護や国有企業の扱いなど、先進国と新興国が対立する難題を抱える。全12カ国の閣僚会合が模索されているが、日米が対立したままではそれも危うい。

 両国の責任は重い。

首相国連演説 常任理事国へ戦略的に挑め

 国連安全保障理事会の改革は、関係国の利害が複雑に絡むため、実現が難しい。だが、「国連重視」を掲げる日本は率先して取り組むべきだ。

 安倍首相がニューヨークでの国連総会で演説した。国連創設70周年の来年に向け、「21世紀の現実に合った姿に国連を改革し、日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担いたい」と表明した。

 安保理はしばしば機能不全に陥り、国際紛争に対応できなくなる。拒否権を持つ常任理事国の米英仏と、露中が対立するためだ。

 ロシアのクリミア半島編入などウクライナ情勢が典型例である。米国が「有志連合」を組織し、イスラム過激派組織「イスラム国」への空爆に乗り出したのも、安保理の対応に限界があるからだ。

 アジアやアフリカは、加盟国や人口が多いのに、常任・非常任理事国の割り当ては少ない。地域的な偏りを是正し、安保理の機能を回復する改革は長年の懸案だ。

 常任理事国入りを目標とする日本、ドイツ、インド、ブラジル4か国(G4)の外相はニューヨークで会合を開き、来年の改革実現に向けて、全加盟国に協力を求める共同声明を発表した。

 G4は2005年にも、常任・非常任理事国を拡大する決議案を提出したが、中国や米国が反対し、実現しなかった。その反省を踏まえ、米中両国の一定の理解を得つつ、大票田のアフリカとの連携を戦略的に進めることが重要だ。

 常任理事国を目指す日本は、一層の国際貢献が求められる。

 首相は演説で、国連平和維持活動(PKO)に関連し、「平和構築分野で世界に貢献する人材を、質量とも一層育てていきたい」と語った。紛争予防や復興支援などに力を入れねばならない。

 対外援助で、女性の地位向上を重視する考えも示した。「20世紀には紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が深く傷付けられた歴史があった」と指摘し、「紛争下での性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立つ」と強調した。

 いわゆる従軍慰安婦問題で中国と韓国が日本を貶(おとし)めていることが念頭にあるのだろう。日本が、教育や保健・医療分野の知見を生かし、世界の女性の自立を後押しする意義は大きい。国連と連携し、持続的に取り組みたい。

 来年は戦後70年に当たる。首相は「不戦の誓いは、日本国民が世々代々、受け継いでいく」と言明した。様々な機会に、平和国家としての歩みを発信し、国際社会の理解を深めることが大切だ。

児童虐待防止 妊娠期から切れ目ない支援を

 児童虐待が後を絶たない。予防と早期発見・対応へ向けた体制作りが急務である。

 警察庁によると、今年上半期に、児童虐待を受けた恐れがあるとして、全国の警察が児童相談所に通告した子供は1万3037人に上った。半年間の通告数では最も多かった。

 厚生労働省のまとめでは、2012年度に虐待を受けて死亡した子供は51人に上っている。原因は、身体的虐待が63%、育児放棄(ネグレクト)が28%で、加害者の75%は実母だ。

 着目すべきは、亡くなった子供の4割以上を0歳児が占めている点だ。その半数は生後1か月未満の新生児だった。

 厚労省の専門委員会が検証したところ、これまでに新生児が犠牲になった事例の7割が「望まない妊娠」を背景にしていた。母子手帳をもらわず、妊婦健診も受診していない母親が目立つ。

 妊婦が1人で悩みを抱えながら出産に至り、悲劇を招いたことがうかがえる。専門委員会が、妊娠期からの相談・支援体制の充実を求めたのは、もっともだ。

 三重県名張市は、妊娠・出産・育児の相談窓口を一本化し、専門職員が対応して必要な支援につなぐ制度を導入している。千葉県浦安市は、妊娠期から継続的に保健師などが面談し、子育ての支援プランを作る事業を近く始める。

 いずれも、出産前からの切れ目のない支援体制作りへ向けた厚労省のモデル事業の一環だ。

 親子に寄り添ったサポートは、新生児の虐待死だけでなく、育児疲れや経済的な不安を背景とした虐待の予防にもつながろう。こうした取り組みを広げたい。

 その際、重要なのは、悩みを抱える妊婦が相談しやすいよう、窓口の周知を図ることだ。市町村が産科医などと連携し、支援を要する家庭を把握する必要もある。

 虐待防止には、医療機関や保育所、学校を含めた関係機関の連携強化も欠かせない。児童相談所や市町村が問題を把握しながら、連携が不十分で、虐待死を防げなかった事例が少なくない。

 児童虐待や所在不明児に関する情報が、自治体間で共有されていないことも問題だ。虐待リスクのある家庭が転居を繰り返すうちに支援が途切れ、深刻な事態を招いたケースがある。情報共有のあり方を工夫する必要があろう。

 児童虐待防止法は、虐待に気づいた人に児童相談所などへの通告を義務づけている。社会全体で子供を見守ることが大切だ。

2014年9月26日金曜日

温暖化対策は言葉だけでなく行動を

 地球温暖化対策について各国の首脳級が討議する気候変動サミットが、ニューヨークの国連本部で開かれた。

 温暖化ガスの二大排出国である中国と米国が、2020年以降の温暖化対策の国際協調体制づくりに前向きに関与する姿勢を示した。明るい兆しといえる。

 中国の張高麗副首相は温暖化ガス排出の総量抑制に、同国高官として初めて言及した。これまでの「国内総生産(GDP)当たりの削減目標」から踏み込んだ。世界最大の排出国であることを考えれば総量抑制は避けて通れない。

 中国は先進国だけが温暖化ガスの削減義務を負うべきだと主張し続けている。産業革命以降の歴史を踏まえれば先進国の責任は免れない。しかし今や世界の4分の1を排出する中国の責任も重い。総量抑制の幅や時期を早期に示し応分の責務を果たすべきだ。

 オバマ米大統領は国内の石炭火力発電所に厳しい規制を課すなど、温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)の排出削減に意欲的である。米議会には温暖化対策に消極的な意見が根強く、政治的に難しい制約があるなかで対策を強めている点は評価したい。

 ただ、大統領の任期はあと2年ほど。米国として前向きな姿勢が後戻りしないよう、国内の合意をしっかり固めてもらいたい。

 米国は1997年の京都議定書合意の際に積極的な役割を果たしたが、国内の意思統一ができず議定書から離脱した。その経緯を世界は忘れていない。

 安倍晋三首相は人材育成などで途上国支援を強めることなどを約束したが、肝心のわが国の20年以降の排出削減目標については「できるだけ早期に提出を目指す」と述べるにとどまった。

 今回、中国は来年3月末に削減目標を決める方針を示した。日本の対応は国際社会の議論から周回遅れになりつつある。提出期限を明確にしたうえで、目標づくりの国内議論を急ぐべきだ。

 世界各地で豪雨や干ばつなど異常気象が増えている。洪水などによる多数の難民の発生や、穀物生産の減少、熱帯病の流行が予測されている。温暖化は世界の安全保障への危機といえる。

 それぞれ国内事情はあろうが、待ったなしの対応が求められている。各国首脳は国連で誓った言葉を具体的な政策にし、確実に行動に移すべきである。

日米はTPP決着の意志示せ

 通商交渉に瀬戸際の攻防はつきものである。だが、交渉当事者の間で、どのタイミングが交渉の最終局面なのかという認識がずれる場合がある。ワシントンで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる閣僚協議で、日米の呼吸が合わなかったのが残念だ。

 甘利明経済財政・再生相は「今回が最後」と語って、フロマン米通商代表部(USTR)代表との会談に臨んだ。日本側としてぎりぎりの妥結案を提示したとみられるが、米側は強硬な姿勢を崩さなかったようだ。フロマン代表はまだ粘れると考えたのだろう。

 オバマ政権は11月4日に中間選挙を控えている。フロマン代表としては、いま日本に譲歩したとみなされて、米議会や対日強硬派の自動車業界、畜産業界などから反発を買いたくないはずだ。だとすれば、最終局面はいつなのか。

 TPP交渉には現時点で明確な合意期限がない。オバマ米大統領が、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)をめどに大筋合意を目指す意向を表明し、この米国の方針を他の交渉国が尊重しているにすぎない。

 世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は、合意期限を設けられず13年間も漂流が続いている。その教訓を忘れてはならない。

 11月に向けて他の交渉国の合意への機運が高まるかどうかは、日米の行動次第である。閣僚協議が物別れに終わったことで、他国に失望が広がりかねない。

 日米の経済規模は、TPP交渉国全体の約8割を占める。自由化のけん引役であるべき日米が、逆に合意機運を損ねるようでは情けない。明確な期限がないからこそ日米の責任は重い。そのことを両国の政権は肝に銘じるべきだ。

 土俵際の攻防の中に合意への意志と信頼がなければ、けんか別れに見えてしまう。決着は先送りとなったが、交渉はあと一歩の段階に来ている。国内ばかりに目を向けて世界へのメッセージの発信のしかたを誤ってはならない。

気候サミット―2大国の責任は重い

 地球温暖化対策のための新たな国際的枠組みをつくる目標時期は、来年末とされている。

 あと1年余りに迫ったいま、温室効果ガスの2大排出国である米国と中国が取り組み強化に前向きな姿勢を示した。

 異常気象や海面の上昇など、さまざまな影響が地球を覆っているといわれる。米中は、言葉だけでなく具体的な目標と行動で世界を率先してほしい。

 主な温室効果ガスである二酸化炭素を出す量は、中国が1位、米国が2位だ。両国だけで世界の4割以上を占める。

 今週、国連本部で開かれた気候サミットには120カ国以上の首脳が参加した。「気候変動は確実な現象である」(オランド仏大統領)といった認識や危機感が次々表明された。

 オバマ米大統領は「米中は先頭に立つ特別な責任をもつ」とし、「来年の早い時期に(20年以降の)新たな削減目標を示す」と明言した。

 米国は、先進国にのみ削減を義務づけた京都議定書から離脱した。だが、最近は石炭火力発電所に厳しい規制をかけるなど一定の努力も見せている。

 一方、大気汚染が深刻な中国の張高麗副首相も「温暖化対策は我々の内なる要求だ」と述べ、できるだけ早く排出を減少に転じると表明した。

 中国は従来、排出総量の削減義務は負わないとして、国内総生産(GDP)当たりの削減目標しか掲げてこなかった。しかし、新たな目標を来年1~3月の期間内に発表するとし、方針転換の可能性を示唆した。

 新しい枠組みでは、すべての国が自ら約束した削減を進めることになっている。米中が目標を定め、本腰を入れることは、温暖化防止の実効性の面からも、国際的な政治・倫理面からも、必要不可欠である。

 米国には野党共和党や産業界の強い反対があり、中国は削減の時期やペースが問題だ。両国は「特別な責任」を果たす努力を惜しんではならない。

 サミットでは、化石燃料から再生可能エネルギーへの100%転換を表明した国もあった。

 一方、安倍首相は温暖化に伴う災害の対策などでの貢献をアピールしたものの、削減目標は提出時期も示せなかった。

 長期にわたる温暖化対策に取り組むには、まず国としての意思を明確にすることが重要だ。

 原発の規制基準が強化され、原発に大きく頼った削減はもはや現実的ではない。再生可能エネルギーを中核にすえ、脱原発と削減の二兎(にと)を追う決断が求められている。

整備新幹線―前倒しより財政規律を

 建設工事が進む整備新幹線の3線区について、政府・与党が完成時期の前倒しを検討し始めた。

 2035年度に開業予定の北海道新幹線(新函館北斗~札幌、211キロ)は5年前倒しを、25年度完成予定の北陸新幹線(金沢~敦賀、113キロ)は3年前倒しを目指す。22年度開通予定の九州新幹線(武雄温泉~長崎、66キロ)も、できるだけ早めるという。

 事業費の総額が3兆3千億円に達する3線区の建設を政府が認可したのは2年余り前。「造ることになったのだから、早く開通させた方がよい。地元も望んでいる」というのが理由だ。

 もっともな主張ではあろう。ただ、深刻な財政難と人口減少の中で、整備新幹線の新規着工自体に根強い疑問や反対があったことを忘れないでほしい。

 現在の完成時期は、財政の厳しさにも配慮しつつ決めた、ギリギリの計画ではなかったのか。財源の具体的な検討はこれからだが、建設前倒しは税金など公費の増額につながる恐れが多分にある。

 整備新幹線は独立行政法人が施設を建設・保有し、運行を担うJR各社に貸し出す。政府・与党は、完成後に入る使用料収入を担保に独法が銀行から借金したり、上場を目指しているJR九州の株式売却益を充てたりすることを検討するという。

 しかし、使用料の活用で短縮できる工期はせいぜい1~2年だ。JR九州の上場はまだ目標の段階にすぎない。

 整備新幹線への税金投入は、国と自治体が2対1の割合で負担してきた。今年度の拠出額は合わせて1千億円余の予定だ。

 使用料をフルに活用したうえで不足分に税金を充てても、1年あたりの増額は200億円余りで済む。そんな計算もある。

 ただ、政府・与党内では、他の分野でも歳出増を求める声があちこちから上がっている。不足する社会保障財源をまかなうための消費増税が呼び水となり、安倍政権が主要課題に掲げた「地方創生」が拍車をかける構図だ。来春に統一地方選を控え、財政再建という課題を忘れたかのような様相だ。

 消費増税を重ねても社会保障費はまかなえず、高齢化で増えていく。東日本大震災に伴う復興財源も、さらに手当てを迫られそうだ。

 問題なのは、整備新幹線の前倒し建設で増える公費の多寡ではない。財政規律をゆるめる「アリの一穴」にならないか。私たちが心配するのは、そのことである。

TPP協議 進展阻む米国の対日強硬姿勢

 新たな自由貿易の枠組み作りが大詰めで足踏みしている。交渉を前進させるには、大胆な歩み寄りが必要だ。

 ワシントンで行われた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を巡る日米閣僚協議は、双方が折り合わないまま終了した。

 今回の協議は、米国産の牛・豚肉の輸入が急増した場合に、関税率を元の高い水準に戻す緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動要件など、最後まで難航している分野の決着を目指していた。

 甘利TPP相は協議後、「当方は柔軟性のある提案をしたが、進展を得られなかった」と述べ、フロマン米通商代表の譲歩が不十分だったとの認識を示した。

 甘利氏は「今後は(米国以外との)2国間協議を加速する」としたが、TPP交渉を主導する日米が正式合意しないと、12か国による交渉全体は前に進まない。

 11月中の大筋合意という目標の達成は、今回の日米物別れで一段と不透明になったと言えよう。

 日米両国は交渉を再開し、最終合意を急ぐべきだ。

 米側がかたくなな背景には、11月4日の中間選挙を控え、日本に譲歩しにくい事情がある。

 オバマ政権に対し、厳しい姿勢で交渉に臨むよう求める声が、議会や業界団体で高まっている。

 中でも、政治力の強い畜産団体と、その関係議員は、日本が農産物の関税撤廃に応じない場合、TPP交渉から日本を排除するよう迫っている。

 国内の過激な対日強硬論をどう抑え込むか。交渉妥結へ、オバマ大統領の指導力が問われよう。

 大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案が、与党・民主党の反対などで成立していないことも気がかりである。

 日米協議が決着しても、議会の反対で合意を反故(ほご)にされる懸念が残る。オバマ氏は責任を持って民主党を説得し、TPA法案の早期成立を図ってもらいたい。

 TPPを実現し、アジア太平洋地域に世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏を誕生させる意義は大きい。

 関税の引き下げや貿易・投資のルール共通化によって経済活性化のメリットが期待できる。

 経済力を増す中国をけん制し、地域の安定に資するという戦略的な狙いもある。

 国際交渉で各国がそれぞれ国益を主張するのは当然だ。しかし、最終段階においては、大局的な見地から譲歩し合い、合意に達することが重要だ。

国語世論調査 誤用に気づく契機にしたい

 本来の意味とは異なることを知らずに、誤った使い方をしている言葉はないだろうか。

 例えば、「煮詰まる」だ。議論が尽くされ、結論が出せるようになった状態を示す慣用表現だが、4割の人は、議論が行き詰まった状態と思い込んで使用している。

 文化庁が16歳以上の男女を対象に実施した「国語に関する世論調査」の結果で明らかになった。

 「世間ずれ」は、世間を渡ってずる賢くなっていることを示す言葉だ。正しく使っている人は3割にとどまり、半数以上が誤って、世の中の考えから外れている意味で用いていた。

 眠らないでいる状態を表す「まんじりともせず」も、半数の人が、じっと動かないでいるという意味で使っている。

 いずれの表現も、若い年齢層ほど誤用が多い傾向がある。調査結果を言葉の正しい意味を知るきっかけとしたい。

 文化庁は、慣用表現の意味や使い方を説明する動画を作り、ホームページなどで公開している。啓発に努めてほしい。

 敬語の使い方では、不適切だったり、ふさわしくなかったりする表現に気づく人が増えている。誤用をなくす上で明るい材料だ。

 「お客様、どうぞいただいてください」という文は、謙譲語の「いただく」を尊敬語と間違えている。この例文について、7割以上が「気になる」と答えた。10年前よりも8ポイント増えた。

 若年層では、人間関係を円滑に進めるために、敬語を重視する傾向がうかがえる。接客のアルバイトなどの研修で、学生時代から敬語を学ぶ機会が増えていることも影響しているのだろう。

 今回の調査では初めて、名詞などに「る」「する」をつけた言葉の使用状況も調べた。

 代表格が「チンする」だ。9割の人が、電子レンジで加熱する際に使っている。全ての年齢層ですっかり定着したと言える。

 「サボる」「お茶する」「事故る」なども使用率が高い。

 一方で、否定する意味の「ディスる」や、挙動不審な態度を示す「きょどる」などは、一部の若者がネット上などで使っているだけで、一般化はしていない。

 言葉は時代とともに変化する。新しい言葉も次々と生まれる。

 若者の間では広く使われている表現でも、高齢者には通じないこともあるだろう。意図を正しく伝えるため、場面に応じて用いる心配りが必要だ。

2014年9月25日木曜日

シリア領への空爆で問われる全体戦略

 米軍がシリア領内で過激派「イスラム国」への空爆を始めた。イラク領内への空爆に続き、軍事行動の範囲を広げた。

 国境を越えて勢力を伸ばす「イスラム国」は国際社会に共通の脅威である。排除を急がねばならない。シリア領への空爆は困難がつきまとい、長期化も危ぶまれる。国際社会が連携し、軍事作戦を地域の安定につなげる全体戦略を描くことが大切だ。

 「イスラム国」の戦闘員はイラクとシリアの間を自由に移動する。イラク領内の拠点を攻撃しても、シリアに逃げ込まれては意味がない。空爆が効果をあげるにはシリア領も攻撃する必要がある。

 しかし、米国はシリアのアサド政権と敵対する。「イスラム国」への空爆は政権を助けることになる。それでも「イスラム国」の放置はテロ攻撃の危険を高めると見て脅威の排除を優先した。シリア領への空爆にはロシアなどが反対する。米国は判断の理由を丁寧に説明することが必要だろう。

 空爆が事態の打開につながるかどうかは見通せない。武力による掃討にこだわるなら、空爆で拠点を破壊した後に支配地域の奪還と安定に地上部隊が必要となる。

 オバマ米大統領は米軍の地上部隊は派遣せず、アサド政権でもなく、「イスラム国」でもない反体制派にまかせるという。だが、育成には時間がかかる。空爆後の見取り図を示せていない。

 見逃してならないのは、暴力と恐怖で支配地域を広げる「イスラム国」が、一方で欧米やアラブ諸国の若者をひきつける現実だ。中東の人々には米欧など大国の介入が中東を混乱に陥れたとの根深い反感が底流にある。空爆の長期化はこれを刺激しかねない。テロによる報復にも警戒が必要だ。

 軍事行動とあわせて、「イスラム国」の台頭を許した根っこの問題を国際社会が結束して取り除かねばならない。

 「イスラム国」は支配地域にある油田から出る石油の違法取引が資金源になっているという。戦闘員の勧誘にはインターネットを巧みに使う。資金や情報の流れを断つことが急務である。

 シリアの内戦長期化に伴う権力の空白が「イスラム国」を生み、イラク政府内の民族や宗派の争いが勢力の拡大を許した。排除にはイラク政府の統治能力を高め、シリア内戦を収拾することが何より重要である。

ウエアラブル端末の可能性

 腕時計で通話し、特殊な眼鏡をかけると仮想空間に様々な情報が映し出される。少年漫画やSF映画でおなじみのシーンが現実となってきた。スマートフォンの次は身に着けるウエアラブル端末が有力な携帯端末となりそうだ。

 そんな次世代製品が今月開かれた独家電見本市「IFA」で勢ぞろいした。韓国のサムスン電子は画面が湾曲した腕時計型の端末を発表、LG電子は通常の腕時計のような丸型の端末を発表した。

 日本からはソニーやセイコーエプソンが活動量計などを搭載した腕時計型端末を発表。ソニーはレンズ越しに様々な情報を表示できる眼鏡型端末も展示した。

 こうした情報機器が登場したのは高速無線で様々な情報をインターネットから取り込めるようになったためだ。米グーグルの「グーグルグラス」が代表例で、米アップルも腕時計型端末の発売を発表、世界的な開発競争に入った。

 では、どんな需要があるのか。新製品が多いのは活動量計や心拍計などの健康管理分野だ。欧米ではベンチャー企業が様々な製品を開発、インターネット上の健康情報サービスと連動させ、新たな利用法を提案している。

 映画鑑賞やスポーツなど娯楽への期待も強い。眼鏡型モニターなら大型スクリーンがなくても大画面映像が楽しめ、加速度センサーを使えば、ゴルフやテニスなどのスイングを計測できる。

 自動車分野でも電子鍵やカーナビの補助手段として開発が進む。独自動車大手は米IT企業などと様々な実験を進めており、商品化される時期も近いだろう。

 ウエアラブル市場は年率18%伸び、2018年には世界で80億ドルに達するという。台数は1億3千万台となる見通しだ。携帯分野で韓国勢に負けた日本メーカーには巻き返しの好機といえよう。

 ただ端末だけでは価格競争にのみ込まれる。ネットと連動した情報サービスを新しい事業モデルとしてどう構築するかが、ウエアラブル市場でも求められている。

シリア空爆―安定化への道筋探れ

 中東のシリア領内で、米軍が過激派組織「イスラム国」の拠点への空爆に踏み切った。

 米軍は隣のイラクで、8月に空爆を始めたばかりだった。今回は、その単なる延長というだけではすまない。

 イラクやアフガニスタンからの撤退を進めた米オバマ政権にとって、新たな国での軍事行動という大きな方針転換である。

 戦争を終わらせると公言してきた大統領だが、中東の脅威をこれ以上は見過ごせない。そう判断せざるを得なかった。イラク戦争による秩序崩壊の重荷から、米国は逃れられないという現実があらわになっている。

 シリアが内戦状態に陥って3年以上たつ。この間、国際社会は有効な手を打てないまま、19万を超える人命が失われた。

 米国はこれを機に、シリアの和平に向けた道筋づくりに本腰を入れるべきだ。アラブ諸国や国連、欧州連合(EU)などとともに、イラクを含めた秩序の再生を探らねばならない。

 「イスラム国」を危険視する認識は各国に共通しており、空爆への批判は今は少ない。ただし今後について、明確な青写真が描けているわけではない。

 空爆にはサウジアラビアなどアラブ5カ国も加わった。米国は、対立してきたシリアのアサド政権にも事前に伝えた。自衛権の行使とする説明に、国連事務総長も理解を示している。

 ただ、本来は軍事行動に必要な国連安全保障理事会の決議はない。英仏などが参加していないのも、そのためだ。

 これまでシリア問題でしばしば決議を阻んできたロシアと中国にも、「イスラム国」に対する問題意識は少なからずある。米国は国際社会の一致した合意を築く努力を続けるべきだ。

 さらに、空爆の軍事的な効果も見通せない。地上戦をゆだねるシリア反体制派の働きがどうなるかは未知数だ。

 市民の犠牲が増えると、地元の世論の反発を招く。逆に「イスラム国」への支持を強める結果ともなりかねない。

 そもそも、軍事行動だけでは問題は解決できないことを自覚すべきだ。むしろ重要なのは、シリア各派間の対話と、崩壊した社会再建のための環境を整える国際的な外交努力である。

 そのためには、アサド政権との妥協や、ロシアとの協力といった現実的な選択も視野に入れざるを得ないだろう。

 中東の安定化をめざすうえで最大の政治力をもつのは、今に至るも米国である。オバマ政権はその使命を忘れず、外交の指導力こそ発揮してほしい。

ウイグル問題―民族融和への不当判決

 中国の多数派である漢族と少数派ウイグル族との融和に力を注いできた著名な学者に、理不尽な判決が出された。

 被告人は、経済学者イリハム・トフティ氏。新疆ウイグル自治区の裁判所が無期懲役刑を言い渡した。

 イリハム氏は、民族自治の確立や、漢族との協調を唱える一方で、国家分裂につながる独立運動には反対してきた。

 ことし1月から拘束されて厳しい取り調べを受けたが、公判で「分裂活動はしていない」と反論した。それでも、裁判所は国家分裂罪で重刑を科した。

 一党支配のもとで司法が独立していない国にあって、この判決は習近平(シーチンピン)政権の意思と見るべきである。不当な弾圧だ。

 報道によれば、判決は「国家分裂をたくらむ犯罪集団をつくった」「民族間の憎しみをあおり、暴力行為を扇動した」と断じた。どんな証拠が示されたのかは明らかにされていない。

 昨年からウイグル族がかかわるテロ事件が各地で続発している。テロは決して許されない。イリハム氏を知る友人らは、彼が暴力活動はもちろん、海外のウイグル独立組織とも距離を置いていたと話している。

 09年のウルムチ騒乱事件の後にもイリハム氏は当局に拘束された。当時は中国の学者300人以上が釈放を求め立ち上がった。民族間の懸け橋となる人物であることを物語る。

 ウイグル問題は、漢族優位の社会で、イスラム教信仰や生活習慣が尊重されていないことが根底にある。民族間の不信を解くため、イリハム氏のような存在は貴重だ。分裂を図る人物として扱うとは理解しがたい。

 要するに判決は、ウイグル族には一切発言させない、民族問題は一切議論させない、と言っているに等しい。

 習政権は最近、中東の過激派組織「イスラム国」に対する米国主導の包囲網に理解を示すような態度をとっている。ウイグル族の過激派と「イスラム国」とのつながりを示唆する共産党系メディアの報道もある。

 習政権としては、国際情勢を国内問題に利用したいのだろう。だが、ウイグル族への不当な抑圧には、国際社会として、声を上げなくてはならない。

 イリハム氏への仕打ちは、中国の国内で市民運動や言論活動などへの弾圧が強まっている現状と軌を一にするものだ。

 この強権ぶりは、すでに習政権の体質と化している。イリハム氏だけの問題ではない。中国全土の人々がものを言う権利の問題である。

米シリア領空爆 「テロとの戦い」に結集しよう

 長期に及ぶ困難な「テロとの戦い」が、新たな段階に入った。

 米国が、イスラム過激派組織「イスラム国」に対する空爆をシリア領へ拡大した。艦船搭載の巡航ミサイルやステルス戦闘機、無人機などが、イスラム国の司令部や軍事施設を破壊した。

 欧米へのテロ攻撃を計画していたとされるアル・カーイダ系組織も攻撃目標となった。

 オバマ米大統領は、「流血をもたらす過激思想を弱体化させ、壊滅する」と強調した。

 オバマ政権は、イラク駐留米軍を撤収させ、国民を弾圧したシリアのアサド政権への空爆も見送った。だが、イスラム国の脅威が世界に広がる中、中東への軍事関与を強める路線転換を迫られた。

 作戦には、サウジアラビア、ヨルダンなどアラブ5か国が加わった。反米感情を高める単独行動を避けたい米国と、国境や体制の変更を図るイスラム国の脅威に直面する5か国の利益が合致した。

 米国は、アラブ世界との連携を保ちながら、「有志連合」の結束を強めることが求められよう。

 米国は、空爆について「自衛権の行使」と説明する。シリアのアサド大統領も「反テロの努力を支持する」として自国領内への攻撃を容認した。敵対勢力の弱体化を期待しているのだろう。

 懸念されるのは、空爆の効果が限定的なことだ。イスラム国の壊滅には地上戦が避けられない。

 米国は、シリアの穏健な反体制派を組織化し、軍事訓練を行って、イスラム国との地上戦の主体とするとともに、いずれアサド政権に代わる勢力に育てたい考えだ。

 ただ、それには相当な時間と労力を要するだろう。国際社会が、米国と緊密に連携し、後押しすることが重要である。

 テロとの戦いには、軍事面に加え、外交の強化が欠かせない。

 米国は、外国の戦闘員や資金がイスラム国に流入することを防ぐため、国境管理の強化やテロリストの資産凍結を訴えてきた。

 国連安全保障理事会は24日の首脳級会合で、国境管理に関する決議の採択を目指している。軍事作戦に参加していない他の中東や欧州の国々も協力すべきだ。

 安倍首相がイスラム国の蛮行を非難し、今回の空爆に「理解」を示したのは妥当である。

 イスラム国は、大量の犠牲者と難民を生むなど、中東に重大な危機をもたらしている。日本も、難民への人道支援などで、従来以上に積極的に貢献したい。

気候サミット 日本の知見を途上国の対策に

 異常気象や海面上昇、食糧危機、水不足――。地球温暖化は世界全体に深刻な影響をもたらす。各国が協力して対策を進めなければならない。

 国連気候サミットが国連本部で開かれ、120を超える国・地域の首脳らが自国の温暖化対策をアピールした。

 二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減を巡る最大の焦点は、京都議定書に代わり、2020年に発効する予定の新たな国際的枠組みの策定だ。

 来年末のパリでの国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で合意を目指している。実効性のある枠組み作りの機運を高める上で、気候サミットの開催は一定の意義があったろう。

 安倍首相は演説で、発展途上国に対し、気象予報や防災に携わる専門家など1万4000人の人材育成を支援する方針を表明した。海面上昇の影響が甚大な島嶼とうしょ国が主な対象となる。

 日本は高潮や洪水の被害を何度も経験し、台風の進路予測の精度向上や護岸の強化などに努めてきた。災害対策が遅れている途上国に日本の知見を伝え、被害抑止につなげることは、有効な国際貢献と言えよう。

 優れた省エネ技術など、日本の強みを生かした技術支援の拡充も、COPの交渉で存在感を示すためには欠かせない。

 日本の温室効果ガスの新たな削減目標について、安倍首相は「早期に提出する」と述べたが、時期は明言しなかった。

 温暖化対策上、CO2を排出しない原子力発電は、重要なエネルギーである。だが、東京電力福島第一原発事故のため、原発をどのようなペースで再稼働し、将来的に活用していくか、メドが立たない状況が続く。

 削減目標の設定に時間を要するのはやむを得まい。鳩山政権が掲げた「25%削減」のような非現実的な目標は避け、実現可能な数値にすることが大切だ。

 世界全体のCO2排出量のうち、日本の占める割合は4%に満たない。これに対し、2大排出国の中国、米国を合わせると、40%を超える。新たな枠組みで最も重要なのは、米中が排出削減に応分の責任を果たすことである。

 オバマ米大統領も、今回のサミットで、「世界1、2位の排出国である私たちは、率先して行動しなければならない特別な責任がある」と述べた。国際社会は、排出削減に向けた米中の取り組み状況を注視していく必要がある。

2014年9月24日水曜日

調査捕鯨の強行を懸念する

 国際捕鯨委員会(IWC)総会は、ニュージーランドが提出した調査捕鯨の計画評価などを厳しくする案を賛成多数で可決した。決議は調査捕鯨計画について2年に一度開く総会で検討することを求めており、日本の調査捕鯨再開は早くて2016年になる。

 政府はこの決議には法的拘束力はないとして、予定通り15年度から南極海での調査捕鯨を規模を縮小したうえで再開する方針だ。

 ニュージーランドの提案は日本の調査捕鯨の再開を先延ばしする狙いがある。その手法に納得しにくい面はあるが、国際会議での合意事項だ。おかしな部分があればまずはそれを各国に訴え、賛同を得るのが筋ではないだろうか。

 南極海での日本の調査捕鯨が国際捕鯨取り締まり条約に違反するとして、国際司法裁判所は3月末に中止を命じた。実際の捕獲枠が設定した捕獲枠を大幅に下回ることなどを指摘し、科学調査目的とはいえないと断じた。

 今日まで、政府は各国に調査の妥当性を十分に説明してきただろうか。補助金で赤字を補填し、調査捕鯨の事業を継続するのであれば国民への説明も要る。

 捕鯨に対する国際世論は年々厳しさを増している。日本が決議を無視して調査捕鯨を強行すれば、国際世論は合意に反するとして反発を強め、捕鯨に対する理解はますます得にくくなる。

 1960年代に年20万トン以上あった国内の鯨肉消費量は、いまや5千トンに満たない。豚肉や牛肉などが手ごろな価格で供給されるようになったからだ。たとえ本格的に捕鯨を再開できたとしても、年600万トン近い食肉供給の中でどれだけ需要があるだろうか。

 捕鯨問題は、地域に残る食文化をどう維持するかを考えるべきだ。国内沿岸の捕鯨は、IWCの管轄対象から外れるツチクジラなどに頼らざるをえない。今回の総会で日本が求めた三陸沖などでのミンククジラの捕獲枠(計17頭)は否決された。戦略を間違えれば地域文化も衰退してしまう。

企業は女性の力伸ばす職場改革を競え

 男女問わず、意欲と能力のある人が力を発揮しやすい職場をつくる。労働力人口の減少が懸念されるなかで、企業の競争力を高め、社会・経済に活力をもたらすためには、欠かせないテーマだ。

 とりわけ女性の力を生かすことは焦眉の課題だ。すでに自主的に、女性の育成や登用に向けた行動計画を策定する企業は増えている。政府も秋の臨時国会に、行動計画づくりを企業などに求める法案を提出する方針だ。日本の職場が大きく変わる後押しになることを期待したい。

 日本はまだ、女性が十分に力を伸ばせる環境が整っているとはいえない。男女共同参画白書によると、組織の管理職に占める女性の割合は欧米では3~4割が中心だが、日本は1割程度にとどまる。

 「女性は昇進への意欲が低い」「すぐに仕事を辞める」。企業からはときに、そんな声が聞こえてくる。しかし、防ぐための方策は十分にとられているだろうか。

 女性の管理職やその候補者が少ない原因は企業によって様々だ。男女で仕事の与え方に違いがあったり、硬直的な長時間労働で仕事と子育ての両立を阻んだりする。残念ながら、そんな職場は今も珍しくない。女性の採用が少ないことが原因の企業もあるだろう。

 よりよい行動計画づくりの最大のカギは、各社が現状をしっかりと分析し、課題を浮かび上がらせることだ。それにより、取り組むべき対策も異なってくるだろう。

 気をつけたいのは、目先の計画づくりにとらわれ、本質的な改善に向けた道筋を見失うことだ。例えば、数値目標は分かりやすい指標となるが、しっかりした現状分析に基づくものでなければ、かえって弊害が生じかねない。女性の育成と登用に熱心だが、あえて数値目標は示さない企業もある。

 政府は指導的地位に占める女性の割合を、2020年に30%にする目標を掲げている。だが個々の企業が具体的にどんな計画を立てるか、目標を数値で示すかなどは、企業の自主的な判断が生かせるよう十分な配慮が必要だ。

 人材の育成や長時間労働の是正といった働き方の見直しに、王道はない。トップが女性活用の旗を掲げること、そしてその意義を社員一人ひとりが理解することが欠かせない。特に若手の育成を担う中間管理職の役割は大きい。もちろん、女性自身が仕事への意欲を高めることは言うまでもない。

日ロ首脳対話―外交の理念を忘れずに

 ウクライナ情勢のあおりで停滞していた日ロ関係が、再び動き出す兆しを見せている。

 安倍首相とロシアのプーチン大統領が今週、電話で協議し、対話を続ける考えで一致した。首相は11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)で会談することも提案した。

 もともと合意していた今秋の大統領訪日は、困難になっている。首相は、就任後に5度会談したプーチン氏との個人的関係を守りつつ、来年以降の訪日へ目標を切り替えた形である。

 ウクライナ紛争をめぐりロシアを批判する米欧に同調し、日本は2度の対ロ制裁に踏み切った。ロシアは、北方領土問題をめぐる日ロ次官級協議の延期などで反発を示した。

 それでもロシアは、大統領の訪日予定は取り消さず、日本との建設的な対話の継続をさぐる姿勢は崩さずにきた。

 米欧と対立するロシアは、中国と接近している。長年の交渉を決着させたロシア産天然ガスの供給合意は、その象徴だ。

 しかし、膨張する中国はロシアにとって潜在的な脅威でもある。過度な依存はできず、アジアで第2の経済規模と進んだ技術をもつ日本との関係強化を望むのは、自然な選択だ。

 そんな事情もにらみつつ対話のパイプを保つことは、日本の近隣外交にとって得策である。安全保障やエネルギー分野などで足場の強化に役立つだろう。

 ただし、日本は守るべき原則を忘れてはならない。領土問題などでの「力による現状変更」を許すわけにはいかない。この理念を共有する米欧と緊密な連携を維持してこそ、ロシアとの対話も成果をあげられる。

 ウクライナ東部では、先の停戦合意の後も、各地で戦闘が繰り返されている。米欧は、ロシアによる軍事介入が続いているとの見方を変えていない。

 今週、国連総会の場で主要7カ国(G7)の外相会議が開かれる。停戦にロシアが十分な努力を果たしていないと見なされれば、日本も新たな制裁をためらうべきではない。

 米欧とロシアは、中東で勢力を広げる過激派組織「イスラム国」対策をめぐっても駆け引きを本格化させる。今後の外交情勢は一層複雑になりそうだ。

 どんな局面であれ、日本は米欧とともに、国際法の順守と、民主主義・人権の価値観を守る姿勢を貫く必要がある。

 日ロ関係においては、ウクライナ情勢を安定させることが、両国の対話に役立つ。安倍首相はそのことを、プーチン氏にしっかりと伝えていくべきだ。

国際的税逃れ―対応策、確実に実行を

 多くの国で財政悪化から国民の税負担が増す一方で、グローバル企業は、国ごとの税制の違いを利用して節税に励む。税制への信頼を揺るがす現状に、経済協力開発機構(OECD)が新しい国際ルールを示した。

 発端は、著名企業の税逃れが表面化したことだ。

 例えば昨年、米上院に提出された報告書は、米アップルの税逃れを詳述している。

 アップルはアイルランドに子会社数社を設立。中国の委託先が製造したアップル製品をアイルランドの子会社が仕入れて各国の販売会社などに売る形をとり、米国以外で得た利益をアイルランドに集めた。特許などの知的財産権の一部もアイルランド子会社に持たせ、米国での課税対象となる利益を減らした。

 一方でアップルはアイルランド政府と個別に優遇税制の取り決めを結んだ。適用された税率は2%未満、日本の法人税の実効税率約35%と比べれば極めて低い。一部の子会社は米国とアイルランドの課税対象企業の定義の違いを使い、どちらの国にも納税していなかった。

 違法でなくとも、一般の納税者には到底、受け入れがたい。そんな実態が、グーグルやアマゾン、スターバックスなどでも明らかになり、欧米の議会で強い批判を浴びた。

 OECDがまとめたルールは、税制の隙間や抜け穴を埋める作業だ。

 特に注目されるのは、多国籍企業の各国での利益や納税額、グループ内の国際的な取引の内訳について、関係国の税務当局に報告するよう義務づける勧告だ。税率の低い国の子会社に知的財産権を持たせ、その使用料を払うことで各国での利益を低税率の国に集めることは、アップルの例で見られるように、多国籍企業では珍しくない。報告義務づけは、グループ内で支払われる使用料などが適正な水準かどうか、税務当局が判断する材料とすることが目的だ。

 OECDがまとめたルールに強制力はないが、主要20カ国・地域(G20)の会議にも報告された。各国政府は税法などを改正し、新しいルールを実効あるものにしなければならない。

 多国籍企業の納税に対する一般国民の不信感は、どこの国でいくら稼ぎ、いくら納税しているのか、明らかでないことに根ざしている。多国籍企業も、税務当局に報告する情報の一部を自主的に公表してはどうだろう。自社への信頼だけでなく、税制への信頼を高めることにもつながる。そういう貢献を考えてもいいはずだ。

維新の党結党 安倍政権との距離感が曖昧だ

 政党の離合集散を繰り返すだけでは、国民の理解は得られない。地道に政策を磨き、党の足腰を鍛えるべきだ。

 日本維新の会と結いの党が合流し、新党「維新の党」を結党した。衆院42人、参院11人が参加し、民主党に次ぐ野党第2党である。共同代表には、日本維新の会の橋下徹代表と、結いの党の江田憲司代表が就任した。

 党綱領は「政権担当可能な一大勢力の形成を目指す」と明記した。民主党やみんなの党などに合流を働きかける方針だ。橋下氏は「安倍政権に緊張感を持ってもらうためには、きちんとした野党を作る必要がある」と強調した。

 自民党の「1強」体制に対抗するため、政党の規模を拡大しようとする狙いは理解できる。

 だが、野党再編は、数合わせではなく、理念・政策や政治路線の一致を前提とすべきである。

 維新の会、みんなの両党は、2012年衆院選で躍進したが、いずれも内紛から分裂した。維新の会の一部と、みんなの党を離れた結いの党が今回、維新の党を結成したが、政策などで足並みがそろわない部分が少なくない。

 集団的自衛権の行使については「自衛権行使の範囲の適正化」で対応するというが、分かりづらい。前向きな旧維新の会と、慎重な旧結いの党との妥協の結果だからだろう。個別事例に基づき、より具体的に説明する必要がある。

 安倍政権との関係も曖昧さが残る。橋下氏は「反対するだけの野党ではいけない」と語るが、江田氏は「違いをはっきり打ち出すべきだ」と主張し、対決路線に軸足を置いているように見える。

 野党再編について、民主党の海江田代表や枝野幹事長は慎重な立場だ。当面は、野党間で、国会対策での共闘や選挙協力などを進めることになるだろう。

 維新の党の持ち味は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の推進や農業の規制改革など、大胆な政策だ。こうした分野で安倍政権に論争を積極的に挑み、存在感を発揮してはどうか。

 みんなの党は、浅尾代表と渡辺喜美前代表の確執が深まっている。渡辺氏が、安倍政権との連携を強化する「与党再編」を主張するのに対し、浅尾氏がこの路線を否定しているためだ。

 渡辺氏は4月、8億円の借入金問題の責任を取って代表を辞任した。その使途などは依然、未解明の部分がある。渡辺氏は、党内闘争より前に、自らの問題について説明責任を果たすべきだ。

アフガン新政権 挙国一致で治安を確保せよ

 この国がテロの温床に逆戻りしないよう、国際社会が粘り強く支援を続けることが重要だ。

 アフガニスタン大統領選で、アシュラフ・ガニ元財務相の当選が決まった。来週にも就任する。

 6月の決選投票では、ガニ氏がアブドラ・アブドラ元外相に大差をつけた。しかし、アブドラ氏が「不正投票」を主張し、選挙結果の確定がずれ込んでいた。

 米国の外交圧力により、タジク系のアブドラ氏陣営が、2年以内に首相に格上げされる行政長官ポストを得る代わりに、パシュトゥン人のガニ氏の当選を認めた。

 民族対立を避ける「挙国一致政権」の誕生を歓迎したい。投開票手続きに多くの問題があったにせよ、民主的な選挙で権力の移譲が達成されたことは意義深い。

 ガニ氏の喫緊の課題は治安維持だ。旧支配勢力タリバンが南部などで勢力を維持し、首都カブールでもテロが後を絶たない。

 イラクとシリアで伸長する過激派組織「イスラム国」がタリバンなどに共闘を呼びかけ、一部の武装勢力は呼応している。

 米軍や北大西洋条約機構(NATO)主体の治安維持部隊計約4万人は、年内で撤収する。その後は、米軍の軍事支援要員約1万人が、約35万人のアフガン治安部隊の訓練に従事する見通しだ。

 ガニ氏は、米軍の駐留継続に必要な協定を早急に締結し、治安部隊の能力向上を急ぐ必要がある。長期的な安定には、タリバンとの共存の道も探らねばなるまい。

 経済と社会の基盤作りも急務である。世界銀行で勤務した経験もある国際派エコノミストのガニ氏の手腕が試されよう。

 国家予算の約6割を外国の援助に依存する恒常的な財政難が、政府職員の汚職や、兵士や警官の離職・士気低下を生んでいる。

 生計手段を欠く農民が、ケシを栽培し、麻薬を製造、販売する。これがタリバンの資金源となっている問題も深刻である。

 国際社会は、財政支援に加え、警官などの人材育成、農業振興、教育・医療の充実などに重点的に取り組むことが大切である。

 米国に次ぐ世界2位の支援国である日本の役割は大きい。

 政府は2012年から、約5年で最大約30億ドル(約3300億円)の支援を実施している。

 元タリバン兵に職業訓練を行い、社会復帰を促す事業は、高い評価を受けてきた。今後も欧米諸国と連携し、日本独自のノウハウを生かして国造りを支えたい。

2014年9月23日火曜日

世界経済の成長持続へ結束力欠くG20

 21日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議はほとんど見るべき成果がなかった、と言わざるを得ない。

 共同声明は世界経済について「成長にはばらつきがあり、慢性的な需要の弱さに直面」していると指摘した。問題は、世界経済の持続的な成長に向けた各国・地域の政策協調がはっきりと示されなかったことだ。

 米国は4~6月期にプラス成長に転じた一方、ユーロ圏は実質経済成長率がゼロ、日本は年率7.1%のマイナス成長となった。

 ルー米財務長官は「ユーロ圏と日本の成長は期待外れ」と述べたが、批判の矛先は主にユーロ圏で最大の経済規模を誇るドイツに向けられたようだ。

 ドイツは2015年に財政赤字を解消する見通しで、もっと財政出動でユーロ圏全体の景気を下支えすべきだと米国はみている。

 だが、ドイツのショイブレ財務相は健全財政の重要性を唱えて反論。共同声明は「短期的な経済状況を勘案して機動的に財政戦略を実施する」という2月の会議と同じ表現にとどまった。これではほぼ何もいっていないに等しい。

 ユーロ圏内ではドイツなどが財政規律を重視する一方、フランスやイタリアは財政赤字の国内総生産(GDP)に対する比率を3%以下にする欧州連合(EU)のルールの柔軟な運用を求めている。

 ユーロ圏内の足並みさえそろっていないのに、まして世界規模での政策協調はほとんど期待できないというのが実態だ。まずはユーロ圏がEU予算なども使いつつ、経済成長と財政再建を両立させる具体策を詰めるべきだ。

 成長と財政健全化の両立という点では日本も人ごとではない。10%への消費再増税ができる環境を整えるのが政府の責務だ。

 米国の宿題は金融政策の転換を円滑に進めることだ。米連邦準備理事会(FRB)が利上げをする際は、世界の金融市場に混乱を与えないような細心の注意が要る。

 G20は18年までに世界経済全体の成長率を2%押し上げる目標を掲げている。そのために中国など新興国を含めて構造改革をさらに進める必要がある。

 共同声明は外国為替市場で進むドル独歩高を事実上、追認した。日本は、急激に円安・ドル高が進むとエネルギー価格上昇などを通じ、家計や企業の負担が増える。その副作用への警戒も怠れない。

アフガン新政権の責務は重い

 混迷が続いたアフガニスタン大統領選挙でようやく、国内きっての国際派とされるガニ元財務相の当選が決まった。新政権の発足が国内の復興や治安維持への一歩となるよう期待したい。

 決選投票でガニ氏と争ったアブドラ元外相は将来の首相職となる新設の「行政長官」に就任する見通しで、ともに挙国一致政権を樹立することで合意した。

 アブドラ氏はこれまで決選投票での不正を訴え、独自の政権樹立の可能性すら示唆していた。結局は米国が調停し、投票を再集計するとともに、両陣営に和解と協力を求めた。4月の第1回投票から約5カ月を要したとはいえ、国家分裂の危機は防げた。

 9月末にも正式に大統領に就任するガニ氏は最大民族のパシュトゥン人出身で、世界銀行での勤務経験を持つ。一方のアブドラ氏は少数派のタジク系で、ともに協力できれば対立する民族間の融和にも寄与するだろう。

 難題はただでさえ山積する。特に同国では、アフガン戦争後の治安維持のために展開してきた米欧主体の国際治安支援部隊(ISAF)が今年末で戦闘任務を終える。米国はその後は小規模の部隊だけを残し、アフガニスタン治安部隊の訓練に重点を置く計画だ。新政権はこうした難しい局面で国造りを担わなければならない。

 国内では反政府武装勢力のタリバンが再び台頭し、テロも頻発している。国軍や治安部隊の育成を早急に進め、テロ対策を強める必要がある。国民の支持を得るには貧困対策や、カルザイ政権下で横行した汚職対策にも全力を挙げなければならない。

 長期的にはタリバンの穏健派勢力との和平協議も大きな課題だ。新政権に課せられた責務は重い。

 アフガニスタンの安定には国際社会の支援が欠かせない。これまで民生支援を主導的に進めてきた日本の役割も大きい。アフガニスタンを米軍の撤退後に過激派「イスラム国」の台頭を招いたイラクの二の舞いにしてはならない。

G20の成長―雇用の質に取り組みを

 経済成長と雇用創出のためには、政府の機動的な財政出動が必要だ。主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議がそんな考えを打ち出した。

 念頭にあるのは、デフレに陥りそうな欧州だ。ユーロ圏の経済大国ドイツは、財政状況が改善しているが、財政出動には否定的だ。財政出動への言及は、景気対策を求める米国などの声を反映した結果だ。

 欧州中央銀行(ECB)はすでにマイナス金利という奇策まで導入、金融政策には限界が見える。デフレ回避のために財政政策を使うことは理解できる。

 ただ、目先の成長率にだけとらわれては困る。G20は今後5年間で世界経済の成長率を2%幅以上かさ上げすることを目指している。しかし、大切なのは2%という数字ではなく、G20の経済が安定的に成長し、それぞれの国民が豊かさを実感することだ。

 それを考える手がかりはある。国際労働機関(ILO)と経済協力開発機構(OECD)、世界銀行が今月まとめた、G20の雇用に関する報告書だ。

 報告書は、G20の多くの国々で、労働生産性の伸びに賃金の上昇が追いつかず、それぞれの国内で賃金や所得の不平等が拡大していると指摘した。

 こうした現象が広がる背景には、厳しい国際競争にさらされて目先の成長を急ぐ企業の行動がある。ITを活用して雇用を削り、人を雇う場合も、正社員にするのは利益や成長に直結する人材だけで、低賃金の非正社員を増やす。一度失業したり非正社員になったりすると、なかなか正社員になれない。それぞれの国の制度によって現れ方は違うものの、G20の国々で似たような光景が広がっている。

 企業が利益をあげても、雇用の質を犠牲にしていては、望ましい経済成長にはつながらない。リーマン・ショックから6年、失業率という数字のうえでは雇用が改善してきた多くの国で、そう感じられているのだ。

 雇用の質を高めるのに、即効薬はない。正社員と非正社員に分断されている労働市場の改革や、よりよい職に就くための職業訓練など、地道な息の長い取り組みが必要だ。

 ILOなどの報告書は、G20の成長率かさ上げ目標について「追加的な成長が多くの雇用をもたらし、多くの人々を包摂することが大切だ」と指摘した。

 G20は昨年の首脳宣言で、質の高い雇用の創出は「各国の政策の核である」とうたっている。その具体化のための議論を、ぜひ深めてほしい。

社福法人改革―出発点は情報公開だ

 社会福祉法人は、お年寄りや子ども、障害を抱える人たちへの幅広いケアを担っている。

 その社福法人をめぐる問題点を洗い出し、改善するための論議が政府内で続いている。

 全国の総数は1万9千を超える。限られた財源をやりくりしつつ地域の暮らしに大きく貢献している法人は少なくない。

 一方で、マイナスの指摘もあとを絶たない。資金を多くため込んでいる、運営が不透明、理事長職の世襲や天下りの弊害が目立つ、などの批判がある。

 民間の法人でありながら、株式会社とは異なる「非営利法人」の一つとして、社福法人は政府から補助金や税制優遇を受けている。少子高齢社会でますます重要になる福祉事業の担い手として、活動を展開していくための課題は何か。

 財務諸表や、支給された補助金、活動の内容、役員の経歴や報酬など、運営全般のデータを公開することが不可欠だ。政府は全国のデータベースを整え、だれでも簡単に比較・一覧できるようにしてはどうか。

 社福法人制度は、福祉への需要の急増が予想された昭和20年代、行政が事業の対象者や内容を決めた後の委託先として始まった。そのため、行政からの強い規制と優遇措置がセットとされてきた。

 転機は、00年度からの介護保険制度だ。社福法人のほか、株式会社やNPO法人などもサービス提供者とされ、利用者が契約先を選ぶことになった。

 民間の競争にさらされる社福法人について、政府は当時から改革の対象とし、サービスの向上や運営の透明性を求めた。

 それが徹底しないまま、むしろ、ひずみが拡大してきたのが現状ではないか。

 改革の論点は情報公開にとどまらない。例えば税制だ。介護事業で得た収益の場合、株式会社やNPOには法人税が課されるが、社福法人は非課税だ。平等な競争のために、税率はそろえていくべきだろう。

 社福法人は総じて小規模で基盤が弱い。社福法人同士の合併や権利移転を促すために、「持ち株会社」的な仕組みを導入する方針を政府は打ち出した。

 民間法人として経営を安定させるうえで「規模」は大切だ。ただし並行して透明性を向上させるのは必須の条件である。

 厚生労働省の有識者会議が7月にまとめた報告書は、こう指摘した。「率先して改革しなければ、地域住民の信頼を失い、未来を断ち切られかねない」

 この危機感を大切にし、改革を進めてほしい。

円安の進行 景気への副作用に目配りせよ

 日本経済の追い風となってきた円安も、行き過ぎれば手放しでは歓迎できなくなる。

 政府・日銀は、円安の副作用にも目配りした政策運営に努めるべきだ。

 1ドル=100円近辺で安定していた円相場が、ここ1か月で大きく円安に振れ、先週末には約6年ぶりの110円台に迫った。

 景気が堅調な米国の利上げ観測が強まり、円売り・ドル買いが加速したことが主因である。

 米連邦準備制度理事会(FRB)は、国債購入などの量的金融緩和策を10月で終えると表明した。ゼロ金利政策を解除し、異例の金融緩和を通常に戻す「出口戦略」の計画も公表した。

 これに対し、日本は消費税率引き上げ後に景気がもたつき、黒田東彦日銀総裁が追加金融緩和も辞さない構えを見せている。

 主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の記者会見でルー米財務長官は、「ユーロ圏と日本の成長には失望させられている」と述べた。「強いドル」の局面は当面、続くと見られる。

 気がかりなのは、為替相場の動きが激しいことだ。乱高下につながる投機の動きはないか、政府・日銀は監視を強めてほしい。

 円安は、企業の輸出代金や海外で上げた収益の為替差益を拡大させる。東京市場の平均株価が約8か月ぶりに1万6000円台を回復した。業績への円安メリットを素直に評価しているのだろう。

 ただ、日本経済全体を見ると、円安には「負の側面」もある。

 みずほ銀行の推計によると、円安が10円進めば、上場企業には計1・9兆円の増益効果がある一方、非上場企業は逆に1・2兆円の減益になるという。

 輸出や海外展開に縁のない中小企業や、小売り、サービスなど内需産業は円安メリットが乏しい。それに加え、輸入原材料や電気料金の高騰などでコストはかさむため、経営は圧迫される。

 過剰な円安で、中小企業が苦境に陥らないか心配である。

 経済の構造的な変化も見過ごせない観点だ。生産拠点の海外移転が進み、円安でも国内生産や輸出が以前ほど増えなくなった。

 円安の恩恵が、雇用増や賃上げとして国内に還元されにくくなったと言える。家計の所得が伸びない状況で、輸入食品やガソリンなど必需品の高騰が続けば、消費が低迷し、景気回復の足を引っ張る懸念があろう。

 円安が景気に与える影響を、詳細に分析することが急務だ。

日露首脳協議 G7協調前提に対話続けたい

 政府は、米欧との連携を重視しつつ、ロシアとの対話を続けることが重要である。

 安倍首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、日露間の対話を継続することが大事だとの認識で一致した。

 大統領は、早期の首脳会談の開催に意欲を示した。首相は、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議での会談を提案した。

 首脳会談が実現すれば、2月のロシア・ソチでの会談以来となる。首相は、先に訪露した森元首相を通じて、対話を呼びかける親書を大統領に送っている。

 日露関係は、3月のロシアによるウクライナ・クリミア半島編入を機に停滞している。

 日本が4月に米欧の対露制裁に同調すると、ロシアは強く反発した。日露両政府は、既に今秋の大統領来日で合意しているが、今春以降、両国間の準備作業は事実上ストップしており、来日の実現は極めて困難な情勢だ。

 首相が東京でなく、北京での首脳会談を提案したのは、プーチン大統領来日に強い不快感を示す米国に配慮したものだ。

 オバマ政権は、ウクライナ東部への軍事的介入を続けるロシアを厳しく批判している。協調を基本としてきた冷戦後の対露政策の転換を余儀なくされたと言える。

 今の段階で、プーチン大統領が来日すれば、日米関係がきしみかねない。日本としては、先進7か国(G7)内の協調関係を維持しながら、ロシアとの対話も断たないのが現実的な選択肢だろう。

 米欧が今月中旬、金融やエネルギー分野が中心の厳しい対露追加制裁を発動したことを踏まえ、日本も、ロシアへの新たな制裁措置を検討している。

 クリミア編入に関与したロシア政府関係者らに限定した現在の入国禁止や資産凍結の対象を拡大する案などが浮上している。

 日本は、領土などに関して「力による現状変更」を許さない立場を堅持している。ロシアがウクライナ政策を修正しない以上、追加制裁を講じるのは妥当だろう。

 日本は、G7の足並みを乱さない範囲で、米英など関係国との意思疎通を図りつつ、ロシアを孤立させず、2国間協議を続けることも大切である。

 岸田外相は今週のニューヨークでの国連総会で、ラブロフ露外相との会談を調整している。会談した場合は、日露関係だけでなく、ウクライナ情勢についても突っ込んだ意見交換をすべきだ。

2014年9月22日月曜日

原発の選別に備えた体制づくりを急げ

 電力の供給をどこまで原子力発電に頼るのか。この問いは原発をどう減らしていくのかと表と裏の関係にある。

 電力会社は新規制基準の下でどの原発を残し、どれを廃炉にするのか決めなければならない。再稼働の準備と並行し、役割を終えた原発を円滑に廃炉にする体制を国全体で整えることが重要だ。

 新規制基準は原発の運転期間を40年と定めた。条件を満たせば最長で20年間延長できる。2016年7月時点で運転期間が40年を超える原発は関西電力美浜原発1、2号機、九州電力玄海1号機など7基ある。再稼働を希望するなら、15年7月までに原子力規制委員会に申請しなければならない。

 ただし、古い原発の場合、新規制基準を満たすには、安全確保のための改修工事に多額の投資が必要になるとみられている。

 安全性を高めて再稼働を目指すのか、廃炉にするのかは電力会社が判断すべきことだ。再稼働させても、安全対策の費用に比べて得られる収益が少ないなら廃炉を選ぶ判断も出てくるだろう。

 電力会社が一斉に廃炉に踏み出す可能性がある。だが、廃炉を後押しする環境が整っていない。

 まず、廃炉の費用だ。電力会社は廃炉に備えた費用を積み立てているが、施設の解体後に出る放射性廃棄物の処分費用などが加われば見込みより膨らむ恐れがある。

 廃炉費用は電気料金に上乗せし消費者が負担する。上振れは電気料金を押し上げる要因となる。不足する費用を、だれが、どう負担するのか考えなければならない。

 原発は廃炉が決まると資産価値がなくなる。電力会社はその分を特別損失として計上しなければならない。財務悪化に直面する電力会社には負担が重い。

 廃炉を選びたくてもできず、老朽原発が放置されるようでは安全上も問題だ。政府は昨年、損失を一度でなく、複数年に分けて処理できるようにしたが、こうした手立ての拡充も必要ではないか。

 解体後の廃棄物の処分方法も決まっていない。廃炉は数十年かかる作業だ。人材やノウハウを共有し、作業を効率的に進める仕組みを考えるべきだ。

 原発は選別の時代に入った。規制委は九州電力川内原発1、2号機について、新規制基準を満たすと結論づけた。原発の再稼働に理解を得るためにも、廃炉への道筋を整えることが欠かせない。

中国ネット企業の躍進と影

 電子商取引で中国最大手のアリババ集団がニューヨーク証券取引所に株式を上場した。調達した資金はおよそ2兆4000億円で史上空前の規模となった。

 上場初日の取引価格は公開価格を大きく上回り、同社の株式時価総額はトヨタ自動車を上回った。中国のネット業界の旺盛な活力を印象づけたといえる。

 英語教師などの経歴を持つ馬雲(ジャック・マー)会長が、企業間の電子商取引のためのサイトを立ち上げたのは15年前。これで大成功をおさめたのに続き、通販サイトなど消費者向けのビジネスでも急成長してきた。

 強みの一つは、電子商取引に欠かせない決済の仕組みを整えたこと。それを足場に、国有銀行が牛耳ってきた中国の金融界をも揺さぶっている。

 中国経済の高成長が追い風になったのは確かだが、ネットの可能性を貪欲に追求する姿勢が次々と革新的なサービスを生んできた面は見逃せない。日本企業も見習うべき点があるのではないか。

 中国では近年、国有企業が躍進し民間企業は停滞する「国進民退」現象が指摘されてきた。ただアリババのように、ダイナミックな民間企業が力をつけているのも同国経済の一面だ。

 創業直後に出資して大株主となったソフトバンクは今回の上場で巨額の含み益を手にした。日本の産業界にとって中国の民間企業の活力を取り込む意義は大きい。

 一方で中国のネット企業の不透明な側面には注意が必要だろう。たとえば外資の受け入れを制限されているため、今回上場したのもアリババ本体ではない。中国当局の対応次第では投資家が十分な保護を受けられない可能性がある、との警告が出ている。

 グーグルやフェイスブックが中国市場から締め出されていることが示すように、中国のネット企業は共産党政権に保護されると同時に情報統制に協力している面もある。躍進の裏にある影の部分から目をそらすわけにはいかない。

公明党大会―実利の政治を超えて

 公明党がきのう、東京都内で党大会を開いた。11月に結党50周年を迎える今年は、自民党との連立15年の節目でもある。

 党大会には安倍首相が駆けつけ、連立の絆を強調した。山口代表の4選も正式に承認され、自公連立は当面、安定軌道に乗ったように見える。

 連立離脱の可能性が指摘されていた集団的自衛権の問題で行使容認の閣議決定を受け入れ、最大の危機は乗り越えたという安堵(あんど)感に包まれているようだ。

 だが、「戦後レジームからの脱却」をめざす安倍政権と、戦後日本の価値観を大切にしてきた公明党とは、大本の理念で相いれない面がある。両者の亀裂を埋め合わせる明確な道筋が見えたわけではない。

 公明党はこれまで、もっぱら実利を求めることで、自民党への違和感を封印してきた。与党の一角で予算編成に関わり、児童手当の拡充や地域振興券などの政策を実現した。

 そこで重要なのは、福祉であり、景気対策であり、自民党との選挙協力を通じた候補者の勝利だった。

 そのためには連立維持が最優先となる。イラク戦争への自衛隊派遣など大きな流れは自民党の判断にゆだね、ときに妥協もいとわない。その代わり、実利のからんだ政策では微修正を重ね、成果を勝ち取る。

 しかし安倍政権のもとで、そんな政治モデルへの不安が強まってきたのではないか。とくに集団的自衛権の行使容認は、この党に改めて、自らのあり方を問い直している。

 7月の閣議決定の直後、自公系候補が前民主党衆院議員に敗れた滋賀県知事選で、多くの公明支持者は投票所に足を運ばなかった。憲法解釈の変更を与党だけで推し進めた姿が、支持者らを落胆させたことは想像にかたくない。

 安倍首相が「経済優先」を強調している分には、手を組む余地もあるだろう。だが、憲法改正や靖国参拝などで首相の思いが前面に出ると、底流にひそむ亀裂が浮かび上がる。

 党大会では、反戦平和、社会的公正などの意味を込めたという「中道」の政治理念が強調されたが、どこまで貫けるか。

 目を向けるべきは、安倍首相の意向でもなければ、支持母体である創価学会の組織防衛でもない。草の根の人々の素朴な信条を大切にしなければ、この党は存在意義を失う。

 実利の政治を超えられるのか。結党半世紀、「大衆とともに」と言い続けてきた公明党の原点にかかわる。

リニア新幹線―国は独自に判断せよ

 東京と名古屋を結ぶJR東海のリニア中央新幹線の着工が迫る。環境影響評価(アセスメント)が終わり、国土交通相の認可を待つばかりになっている。

 45年までに大阪まで延ばして3大都市圏を1時間ほどで移動できるようにする、とJRはいう。経済界も「世界一の巨大都市圏が生まれ、日本の国際競争力が増す」と歓迎する。

 日本は急速な少子高齢化に伴う人口減少に直面している。その中でリニアはどう位置づけられるのだろう。国の側にその方向性が見えない。

 少子化の要因の一つに、出生率が低い大都市圏への人口流出があるとされる。今年5月には「多くの地方で20~39歳の女性が40年までに半減し、自治体が消滅するおそれがある」との試算も出た。安倍政権も「地方創生」を掲げ始めている。

 リニア新幹線は、東京を中心に、大都市間の結束を強める発想だ。計画を審査した国交省の審議会は「さらなる東京一極集中を招く可能性もある」と注意を促した経緯がある。

 一方、国交省が7月にまとめた「国土のグランドデザイン2050」では、リニア整備は前提となっている。地方については「巨大都市圏の効果を拡大する」と楽観的に見通している。

 JR東海がリニア新幹線を建設するのは、経営の根幹である東海道新幹線の経年劣化や大規模災害に対する抜本的な備えのためだ。

 しかし、JR東海の経営判断とは別に、国土全体を見渡した国としての判断があっていい。東海道新幹線の代替として北陸新幹線を位置づけることも国の立場ならできるのに、そうした思考が止まっていないか。

 リニアの沿線自治体は、各県に一つずつできる中間駅に期待する。もっともJR東海は東京、名古屋、大阪以外は通過する列車中心のダイヤを組む構えだ。各駅停車しか止まらぬ新幹線駅周辺の現状を見ても、効果は限定的とみたほうがいい。

 そもそも着工の大前提である沿線住民の合意が得られているかも疑問だ。環境アセスを通じ、懸念や要望が多く寄せられたのにJR東海が十分にこたえていない、との不満は根強い。

 リニア中央新幹線は、日本の国造りに大きく影響する。人口減少という歴史的な曲がり角に立ついま、リニアについて国を挙げて議論するべきである。

 今月末に召集される臨時国会で安倍政権は地方創生をテーマにする方針だ。ならば、リニアに関して集中審議してはどうだろう。熟議の好機である。

公明党大会 政権の合意形成へ役割果たせ

 政治の安定と重要政策の遂行に向けて、公明党は連立政権の合意形成に引き続き努力し、役割を果たしてもらいたい。

 公明党が第10回全国大会を開き、山口代表の4選と新役員人事を正式決定した。井上義久幹事長、石井啓一政調会長は留任し、国会対策委員長には大口善徳国対委員長代理が昇格した。

 山口代表はあいさつで、安倍改造内閣について「連立与党としてしっかり支え、国民のための政策実現に不退転の決意で邁進(まいしん)する」と語った。来賓の安倍首相も、「与党と協力して結果を出したい」と述べ、結束を呼びかけた。

 山口、井上両氏は2009年9月の就任以来、3年余の野党時代を含め、自民党との連携・協力関係を維持してきた。

 小渕内閣で自公両党が連立してから、来月で15年を迎える。主張が異なる政策についても、双方が協議を重ねて歩み寄り、合意を形成してきたことは、政治の安定に貢献したと評価できる。

 安倍政権は今、経済再生、地方創生、震災復興、社会保障制度改革など、多くの政策課題に直面している。これらを着実に前進させるため、公明党には、一段と建設的な取り組みが求められる。

 安全保障政策でも、安倍政権は今年4月、武器輸出3原則に代わる防衛装備移転3原則を、7月には集団的自衛権の行使を限定容認する政府見解を決定した。いずれも歴史的な意義を持つものだ。

 50年前の結党以来、「平和の党」を標榜(ひょうぼう)する公明党には、特に集団的自衛権の憲法解釈変更について慎重・反対論が強かった。

 だが、山口執行部は、地方組織代表を交えた会議を何度も開き、粘り強く説明と説得を繰り返して党内の意見をまとめた。政権与党として責任ある対応だった。

 党大会での井上幹事長報告は、公明党の中道路線の「今日的意義」として「政治の左右への揺れや偏りを正す」「時代の変化に応じた新しい政策提言」などを挙げた。集団的自衛権をめぐる対応はその実例だとも指摘した。

 今後は、新政府見解に基づく安全保障法制の整備が課題となる。日米同盟の抑止力を強化し、自衛隊が実効性ある活動をできる法制となるよう、公明党には、一層の前向きな対応を期待したい。

 山口代表は、消費税率を10%に引き上げる際の軽減税率の導入を目指す方針を改めて強調した。

 公明党は与党内で、軽減税率の具体的な制度設計の議論を主導することが重要である。

結核の予防 早期治療で感染拡大を防ごう

 結核を「過去の病気」と侮ってはならない。

 結核予防週間が24日から始まるのを機に、早期発見・治療の重要性を再認識したい。

 世界保健機関(WHO)によると、世界では2012年に860万人が結核に罹患りかんし、130万人が死亡した。日本でも毎年、約2万人が発病し、2000人以上が亡くなっている。

 結核菌は肺に炎症を引き起こし、せきやくしゃみで人から人に感染する。日本ではかつて「亡国病」と恐れられ、戦後間もない1950年は12万人が死亡した。

 治療薬の開発や衛生状態の向上とともに、脅威は薄れた。それでも、2013年時点の人口10万人に対する新規患者数(罹患率)は16人で、米国の5倍に上る。

 厚生労働省や結核予防会などは7月に行動計画を策定し、20年までに罹患率を10人以下に抑えるという目標を掲げた。

 その達成のために、まず必要なのは、高齢者対策の拡充だ。若い頃に感染し、休眠状態にあった結核菌が、免疫力の衰えや糖尿病などにより活発化し、発病する患者が増えている。高齢者施設での集団感染も起きている。

 高齢者は、せきやたんなどの典型的な症状が表れないケースも多い。発見の遅れは、重症化や感染の拡大につながる。体重減少や微熱も結核の兆候だ。

 早期に胸部エックス線検査などを受けることが大切である。

 生活困窮者の発病も多い。大阪市は、ホームレスの人を対象に、無料検診や看護師による訪問服薬支援を重点的に実施し、罹患率を10年間でほぼ半減させた。

 インターネットカフェに長期滞在していた患者から、若者に感染が広がった例もある。身近な場所にも感染の危険は潜んでいる。

 結核の流行国から来日した外国人の患者も増えている。米英では入国前の検査を実施している。日本でも今後の検討課題だろう。

 懸念されるのは、多剤耐性結核の患者の増加だ。通常の治療薬が効かず、死亡率が高い。世界で45万人が罹患している。

 日本では、結核患者の1%未満にとどまっているが、海外との往来の活発化により、感染拡大の危険性は常にある。

 耐性菌に効く日本製の新薬が今年、欧州と国内で承認された。世界の結核対策に役立てたい。

 乳児用の予防ワクチンとして、BCGが普及しているが、効果は10~15年で失われる。成人用ワクチンの開発も急ぐ必要がある。

2014年9月21日日曜日

中国主導のインフラ銀にどう向き合うか

 中国が主導する国際的な金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)の設立準備が進んでいる。出資を呼びかけられている日本は慎重な構えだが、巨大なアジアのインフラ需要にどう対応するのか、日本も問われる。

 年内発足を目指すAIIBについて中国は、アジアのインフラ整備に必要な資金の提供が役割、としている。域内の20前後の国々と話し合いを進めているようだ。

 6月には財政省の担当者が来日し日本にも出資を要請した。これに対し日本は、アジア開発銀行(ADB)と役割が重複する、などとして消極的な姿勢だ。

 確かにAIIBには疑問点がある。ADBとの関係について中国は「競合でなく補完」としているが、「貧困の削減」という明確な理念を掲げるADBに比べAIIBの理念ははっきりしない。

 環境や人権、地域コミュニティーへの目配り、非政府組織(NGO)との連携など、ADBが蓄えてきたノウハウを生かしていくのかどうかも不透明だ。地域の産業育成や雇用促進につながらないひも付き援助になったり、汚職の広がりを招いたりしないか心配だ。

 中国の本当の狙いは国際通貨基金(IMF)と世界銀行を軸とする米国主導の国際金融秩序を揺さぶることではないか、といった観測も根強くある。

 当初日本や米国、インドに声をかけなかったことや、並行してロシアなど主要新興国とBRICS銀行の設立準備を進めていることが、警戒を引き起こしてきた。

 世銀やADBの有数の借り入れ国である中国が、新たな国際金融機関を設けることへの違和感を指摘する声もある。

 とはいえ、ADBが2020年までに8兆ドルと推計するアジアのインフラ資金需要は、既存の国際金融機関ではまかない切れないのも事実だ。資金不足に悩む途上国はAIIBに期待している。

 環境や人権などを無視した開発を助長しないよう促すなど、AIIBへの建設的な関与を日本は考えるべきだ。

 ADBがアジアの資金需要に応じきれない一因は、ADBの増資に米欧が後ろ向きなことだ。中国がBRICS銀やAIIB設立を目指すのは、ADBなど既存の国際金融機関での発言権の拡大が思うように進まないからでもある。ADBの融資能力の強化に向けた努力も、日本は求められる。

公明は結党の原点を見失うな

 今年は公明党の結党50周年である。与党歴も通算10年を超え、小所帯ながら日本の政治に果たすべき役割は小さくない。それだけに21日の党大会を祝賀ムード一色で終えられては困る。何のためにある政党なのか。結党の原点を再確認する場にしてもらいたい。

 支持母体である宗教法人「創価学会」との政教分離を宣言して以降、公明党は基本方針として「大衆とともに」「平和主義の堅持」を掲げてきた。前者は社会福祉の充実を意味し、後者の具体例は憲法9条の改正反対である。

 もっとも政治路線はかなり変化してきた。当初は社会党と組み、その後は非自民勢力の結集を目指して新進党に参加したりした。それが1999年に小渕内閣に参加してからは民主党政権時代を含め自民党と手を携えてきた。

 高度経済成長で日常生活が豊かになるにつれ、国民の政治意識が徐々に保守・中道へとシフトしていった戦後日本を象徴する存在ともいえる。

 問題はこの先、どこに向かうかだ。社会福祉の充実といっても、財政難の時代にできることには限界がある。さりとて自民党の言い分を丸のみばかりしていては「補完勢力」に堕することになる。

 特に難しいのが、安全保障政策だ。集団的自衛権を巡る憲法解釈の変更に際し、公明党は「行きすぎがないように歯止め役を果たした」と力説したが、一方的に押し切られたとの見方が世の中に少なくないことも自覚していよう。

 憲法改正でいえば、公明党は現在の9条を維持しつつ、自衛隊に関する条項を足す「加憲」を主張する。全面改正を求める自民党に抗しきれるのか。積極的平和主義を訴える安倍政権下で、難しい決断を迫られる局面を迎えることは十分あり得る。

 自民党の1割強の勢力であれもこれも望んでも実現は困難だ。これだけは譲れない。結党の原点に立ち返り、それを明確にしなければ、与党で居続けることだけが目的の党と思われる日が来る。

国会の多弱―「野党の本分」に活路を

 自民党の1強支配をどう打破していくか。衆院議員の任期4年の折り返し点が見えてきたところで、「多弱」と呼ばれる野党に動きが出てきた。

 民主党が役員を入れ替え、日本維新の会の分裂を受けた新党ができる一方、みんなの党ではまたぞろ内紛の兆しである。

 民主党は政権時代に中枢を担った岡田克也氏らを執行部に入れ、挙党態勢の形を整えた。だが党内のまとまりのなさを克服し、有権者の信頼を回復できるかどうかはこれからの話だ。

 新しい「維新の党」は野党再編を掲げるが、結党に向けた幹部の話し合いの過程を見ると、再編以前に党としてまとまれるのか危うさが残る。

 自民、公明の与党体制はなおしばらく揺るぎそうにない。

 安定した政治は結構だが、それだけでは政治は進まない。

 民主党の枝野幸男氏は幹事長就任にあたり「いまの日本は異論を大きな圧力で排除し、国全体を一つの色で染めてしまおうという大きな流れが進んでいる」と指摘した。うなずける問題意識だ。

 野党に改めて求めたいのは拙速な再編に走るのではなく、各党がまず「野党の本分」に徹することだ。つまり安倍政権に代わりうる有権者の選択肢としての力を地道に蓄えることだ。

 少子高齢化に伴う社会保障の費用増加や経済の低成長を考えると、国民生活にかかわる分野で取り得る政策的な道筋は限られている。そこで明確な対立軸を打ち出すのは難しい。消費税率の引き上げが自民、公明、民主の3党合意で実施されたことでもそれは明らかだ。

 一方、集団的自衛権の行使容認や原発再稼働について民主党内には、安倍政権に近い考えの議員も多い。それが党内の足並みの乱れの最大の要因なのだが、これから党内議論を尽くし克服していくしかない。

 そんな状況でも、安倍政権との違いを明確に打ち出せるところはあるはずだ。意思決定までのプロセスの踏み方であり、社会のどんな層を代表するのかという政治的立ち位置である。

 集団的自衛権の行使容認のように、与党協議だけで性急に閣議決定に持ち込む手法。政治献金を通じてますます深めようとしている経済界との結びつき。こうした現政権のありように疑問や不満を抱く国民は多い。

 1強のおこぼれにあずかりたいという勢力は別にして、まずは野党に徹するとの覚悟を持った各党で、国会での共闘と選挙協力の道を探るべきだ。再編はその先の話である。

調査捕鯨―強行の損失は大きい

 南極海での日本の調査捕鯨に対して、国際社会から厳しい姿勢が改めて示された。

 スロベニアで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)の総会で、日本の調査捕鯨の再開を遅らせることを狙った決議案が可決された。

 国際司法裁判所が「日本による現行の調査捕鯨は科学的とは言えない」として、中止を命じる判決を出してから約半年。政府は、捕獲する鯨類や頭数を絞り、目視やDNAの採取など捕獲しない調査を増やすことで、15年度からの再開を目指している。

 しかし、それで反対国を説得できるメドは立っていない。IWC総会での決議に拘束力はないものの、再開しようとすれば反発を招くのは必至だ。

 鯨肉の消費は低迷しており、「調査捕鯨で得た鯨肉の販売収入で調査する」という仕組みは崩れている。年間数十億円の税金を投入してまで、わが国が国際的に孤立しかねない捕鯨再開を強行することが、果たして得策だろうか。

 「調査自体は必要だ」との立場を維持しながら、捕獲しない調査に徹する。これまで蓄積してきたデータも生かす。そう訴えて、反捕鯨国も含めて国際的な共同調査に改める道はないのか。

 IWCが管轄する調査捕鯨とは別に、和歌山県太地町などでは「沿岸小型捕鯨」が行われている。地域社会に根付くこれらの捕鯨も、海外の反捕鯨団体からやり玉に挙げられてきた。調査捕鯨は見直し、地域の文化と結びついた捕鯨を守ることに全力をあげるべきではないか。

 水産庁は、IWCの科学委員会に対し、11月上旬に調査捕鯨の新たな計画を提出する構えだ。捕獲をまじえた計画を再び出せば、いよいよ後に引けなくなる。

 国際司法裁判所の判決が出た直後、自民党捕鯨議員連盟は調査捕鯨再開への取り組みを求める決議文を安倍首相に出した。首相の地元、山口県にある下関港は捕鯨の拠点の一つだが、政府として国際関係に目配りした判断を期待する。

 「調査」を名目に捕鯨を続けているのは、わが国だけだ。1980年代に停止された商業捕鯨の再開につなげる狙いだが、その見込みは皆無と言っても過言ではない状況である。

 安倍政権の外交政策は「法の支配」が柱の一つのはずだ。国際司法裁判所のメッセージは、重く受け止めねばならない。

 政策転換は、早く、大胆な方がよい。

調査捕鯨 再開へ日本の主張は通るのか

 反捕鯨国の攻勢を受けて、日本は一段と苦しい立場に追い込まれた。

 国際捕鯨委員会(IWC)の総会で、日本による南極海での調査捕鯨再開を先延ばしするよう求める決議が、賛成多数で採択された。

 決議は、強硬な反捕鯨国であるニュージーランドが提案したもので、2016年の次回総会で審議されるまで、日本の調査捕鯨を認めないとする内容だ。

 日本は今年3月に国際司法裁判所から中止を命じられた調査捕鯨を、15年から再開する方針を表明している。決議は、これに待ったをかける狙いがあるのだろう。

 決議に拘束力はなく、日本は予定通り調査を再開する構えだ。とはいえ、「決議に反する」などとして、国際社会の風当たりが強まることは避けられまい。

 あくまで再開を目指すのなら、調査捕鯨の意義を裏付ける科学的なデータを示し、説得力のある主張を展開する必要がある。

 日本は、クジラが大量の魚を食べ、漁業資源に打撃を与えている実態の解明など、調査捕鯨の成果を強調してきた。

 こうした実例をもっと示し、国際理解を広げることが大事だ。このままでは南極海だけでなく北西太平洋の調査捕鯨についても、中止を迫る声が強まりかねない。

 日本は南極海での調査捕鯨の年間捕獲枠を約1000頭に設定してきたが、実際の捕獲数は4年連続で300頭を下回った。

 反捕鯨団体「シー・シェパード」に妨害された影響を考慮しても、「必要なサンプル数を得るための捕獲調査」との主張が通りにくくなっているのも事実である。

 日本は、11月までにIWC科学委員会へ調査捕鯨の新たな計画書を提出する。最低限の捕獲数に絞り込むなど、多くの国に認めてもらうための工夫が求められる。

 日本は1988年に撤退した商業捕鯨の復活を掲げているが、国内の鯨肉需要は低迷している。商業捕鯨に対する水産会社や消費者のニーズは限られよう。

 商業捕鯨の再開を期し、大規模な調査捕鯨を続けていく意味は薄れてきたのではないか。

 調査捕鯨は多額の国費を投入して実施されている。政府は国内向けにも、継続する必要性を、丁寧に説明しなければならない。

 北海道や和歌山県などでは、小型クジラを対象とした沿岸捕鯨が行われている。これらはIWCの管理対象外だ。日本の伝統に根ざした貴重な食文化を、しっかり後世に伝えていきたい。

女性活躍法案 働き方の見直しにつなげたい

 女性が能力を十分に発揮し、活躍できる社会を作る――。政府は、女性の活躍推進のための新たな法案を臨時国会に提出する方針だ。

 企業に女性登用の行動計画を策定するよう求めるのが柱である。厚生労働省の審議会が具体的内容を検討している。企業の取り組みへの支援策などを工夫し、実効性を持たせることが重要だ。

 経済協力開発機構(OECD)が今月公表した報告書によると、日本では、大卒以上の学歴を持つ女性の就業率は69%で、加盟34か国中31位にとどまる。同様の男性の就業率は92%に達し、2位にランクされている。

 報告書が、能力のある女性が活用されていないと指摘しているのは、うなずける。

 日本では、第1子出産を機に職場を去る女性が6割に上る。保育所不足や長時間労働の慣行など、仕事と家庭の両立が難しいことが背景にある。

 いったん退職すると、正社員として再就職するのは難しい。就業者全体のうち、女性は4割強だが、その半数以上はパートなどの非正規労働者だ。昇進・昇給や研修の機会も限られる。

 能力を発揮できる働き口が少ないことが、女性の就労意欲をそいでいるのではないか。

 管理職に占める女性の割合は1割程度で、欧米諸国の3、4割と比べ、際立って低い。管理職に昇進した女性の4割は未婚だ。6割は子供がいない。日本の女性が、仕事と家庭の二者択一を迫られている現状がうかがえる。

 高い教育を受けた人材が活用されないのは、社会的に大きな損失だ。子育てなどで働く時間に制約があると、活躍の機会が奪われるのは、学歴にかかわらず、女性全般の問題でもある。

 男性を含め、職場全体の働き方を変えることが肝要だ。

 仕事の内容や配分を見直して長時間労働を減らし、男女とも家事・育児を担えるようにする。その上で、フレックスタイムや在宅勤務など、柔軟な働き方を広げる。勤務時間などを限った限定正社員の普及も有効だろう。

 こうした多様な勤務形態が、キャリア形成の上で不利にならないよう、仕事の範囲と目標を明確にし、成果を判断する人事評価システムが求められる。

 様々な経験や価値観を持つ人材の活用は、企業の創造性を高め、成長を促進する上で欠かせない。新たな法案を、企業の理解を深める契機としたい。

2014年9月20日土曜日

スコットランドの投票が促す英国の変化

 英北部のスコットランドで英国からの独立を問う住民投票が実施され、反対する票が賛成票を上回った。経済規模の約1割、国土の約3割を占めるスコットランドは、英国のなかに引き続きとどまることとなった。

 世界中が投票を見守った。独立が経済に与える影響などに懸念を抱いたからだ。正式には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」という英国の政府は、すみやかにスコットランドとの関係を再構築し、連合王国の新しい姿を示す必要がある。

 1707年にイングランドと統合したスコットランドは、1960年代以降の北海油田の開発をきっかけに独立機運を高めた。労働党のブレア政権下で独自議会が復活した。2012年には、保守党のキャメロン首相がスコットランド行政府のサモンド首相と住民投票の実施で合意した。

 今回の投票はその合意に基づく。一時は世論調査で独立賛成派が反対派を上回った。背景には格差問題や国営医療制度見直しへの不満があるとされた。独立運動を主導するスコットランド民族党は福祉国家の樹立を掲げ、住民の不満をすくいあげた。

 一方で、独立後の通貨や欧州連合(EU)への加盟、主要な財源となる北海油田からの収入見通しなど、曖昧な点も多かった。最終的に独立が否決されたのは、独立後の経済運営への不安が反映されたとみることができる。

 投票の直前には、英政府も社会保障の充実や自治権拡大といった政策をスコットランド住民に約束した。独立への反対を促すための妥協策だったといえる。

 独立は否決されたとはいえ、英国の政治経済体制は変わらざるをえないだろう。イングランド中心の体制から、連合王国を構成する各地域の利害をこれまで以上に尊重する分権型への、変化だ。

 独立問題を抱える国・地域は多い。スペインのカタルーニャ自治州では独立を問う住民投票を求めてデモが起きた。スコットランドの投票がそうした運動に勢いをもたらす、との指摘はある。

 だとしても、独立運動が偏狭なナショナリズムに陥ってはならないことを改めて印象づけた面もある。異なる考えの人たちと共生し、徹底した議論で現実的な解決を探る。そんな成熟した民主主義のありようも、スコットランドの住民投票は世界に示した。

女性の活躍へ保育拡充急げ

 保育所に入りたくても入れない「待機児童」の数が、なかなか減らない。厚生労働省のまとめによると4月1日時点の待機児童数は約2万1千人だった。ピークだった2010年より約5千人減ったが、なお高水準だ。

 保護者がやむを得ず育児休業を延長したり、仕事を断念したりするケースは後を絶たない。女性の就労を支えるためにも子どもの健やかな成長のためにも、良質な保育サービスは欠かせない。

 働きたい女性は年々増えている。政府は17年度までの5年間で40万人分の保育サービスを用意し、待機児童をゼロにする方針を掲げている。今年度までの2年で19万人分のめどがついたというが、道はまだ半ばだ。

 幼稚園と保育所の両方の機能を持つ「認定こども園」や、15年度から新たに市町村の認可事業になる「小規模保育」なども、地域の実情を踏まえて組み合わせながら着実に整えていく必要がある。

 何より大事なのは、保育を担う人材をしっかり確保することだ。保育士は首都圏を中心に年々、採用が難しくなっており、予定通りにサービスを充実させていけるか不安視する声は強い。17年度末には約7万4千人が不足するとの推計もある。

 資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」は60万人以上といわれる。責任の重さに加え、処遇の低さなどが働き続ける壁になっている。財源には限りがあるが、処遇改善に向けた一層の工夫を求めたい。短時間勤務など働きやすい勤務体系を広げることも必要だろう。

 15年度からは、子育て経験のある主婦らが「子育て支援員」として、一部の小規模保育などで保育の担い手に加わることも予定されている。しっかり力をつけていけるよう研修やキャリアアップの仕組みを整えたい。

 保育サービスの拡充は未来への先行投資だ。子どもが小学生になってからの学童保育とともに、基盤整備を急ぐべきだ。

英の住民投票―国の姿を見直す契機に

 スコットランドの人びとは、英国に残る道を選んだ。独立の是非を問うた住民投票で、反対が賛成を上回った。

 背景にあったのは、英国との一体感を保ちたい人びとの願いだけではない。混乱を避ける意識も強く働いたとみられる。

 もし独立となれば、通貨や住民の国籍など、国のかたちをめぐる途方もない交渉が待ち構えていた。財政、福祉、国防など、あらゆる分野で見通せない不安がぬぐえなかった。

 ただ、これで一件落着とはならないだろう。このできごとが投げかけた問いは重い。

 なぜ、独立を求める声がこれほど広がったのか。英国は現実を振り返り、自らを問い直す必要がある。その教訓は他の国々にとっても有益なはずだ。

 2年前に住民投票の実施が決まった時、独立派の支持は3割ほどだった。英キャメロン政権が実施を認めたのも、必ず勝てるとの自信があったからだ。

 ところが独立派は終盤になって大きく支持を広げた。最終的に敗れたものの、一時は世論調査で逆転を果たした。

 そこには、地域のナショナリズムだけでなく、英政府が進めてきた政策への不満があった。

 欧州連合(EU)と距離をおき、自由競争を重んじる英政府に対し、スコットランド住民は、EUとの協調、福祉重視などを志向している。

 そうした理念をめぐる葛藤は、多くの国々が共有する課題でもある。

 投票に表れた声に英国は耳を傾け、自国の制度や政策のあり方を問い直すべきだ。さもないと、独立を求める声は再び高まるに違いない。

 スコットランドの自治をどう拡大するか。地元とどう対話するか。今後の課題に取り組む英国の姿を世界が注目している。

 それは、スペインやベルギー、フランスなど、独立を求める地域を抱える欧州諸国だけに限らない。民族や歴史の経緯などから、分離独立をめぐる係争を抱える国は数多い。

 英国は、そうした国々とも意見を交わしつつ、開かれた議論を可能とする土壌づくりを進めてほしい。

 独立まではいかずとも、統治の権限を中央と地方とでどう分け合うかは、ほとんどの国にとって普遍的な課題でもある。

 日本も決して無縁ではない。北海道や沖縄はじめ、地方分権を求める声は少なくない。日本と英国とで、何が共通し、何が異なるのか。

 私たち自身も考えるきっかけとしたい。

広島土砂災害―「よそごと」にしない

 広島市北部を襲った土砂災害からきょうで1カ月たつ。74人が亡くなり、近年では最大級の被害になった。

 避難勧告の遅れをはじめ、広島市の対応のまずさが明らかになってきている。15年前に大規模土砂災害を経験し、1万人近い職員を抱える大都市でさえ、被害拡大を防げなかった。このことを深刻に受けとめたい。

 土砂災害の危険箇所は全国に52万余りある。11年の紀伊半島豪雨、12年の九州北部豪雨、昨年の伊豆大島土石流。ここ数年の土砂災害でも、自治体の対応の問題点が指摘されてきた。

 にもかかわらず、多くの自治体も住民も「しょせんはよそごと」と思ってこなかったか。

 気象庁のデータをみても、広島で今回降ったような1時間で100ミリを超す雨は決して珍しくなくなっている。大きな被害をわがことととらえ、対策を不断に見直すべきである。

 日本のように山がちな国土で、すべての危険箇所にハード対策を講じることは不可能だ。命を守るには結局、「早く逃げる」ことが大事である。

 広島もそうだったように、最近の豪雨災害は夜の発生が目立つ。過去に苦い体験をした地域は教訓を踏まえ、早期避難を促す対策を具体化している。

 和歌山県は昨年、最長51時間先の降雨量予測をもとに、市町村が早めの避難を呼びかけるシステムを始動した。紀伊半島豪雨で、夜間の大雨が多くの犠牲をもたらした反省からだ。

 09年の集中豪雨で20人が犠牲になった兵庫県佐用町は、河川の状況を住民に問い合わせ、町の判断に生かす制度を設けた。こうした取り組みを束ね、全国に広げていきたい。

 もっとも、自治体の避難勧告や指示が早くても、住民が動かなければ元も子もない。

 広島の被災地でも浮かんだ課題だが、住民は「自分は被害を受けない」という思い込みにはまりがちだ。打ち破るには、あらかじめリスクを認識してもらうことがカギとなる。

 国は土砂災害防止法改正の検討を始めた。警戒区域の指定に先立ち、自治体が実施する基礎調査の結果を公表する方向だ。

 その情報を住民がきちんと理解できるよう、工夫をこらす必要がある。これまでのハザードマップは主な公表手段がホームページや各戸配布にとどまり、周知が十分とは言い難い。

 危険な場所では何度も説明会を開く。自主防災組織に避難訓練を働きかける。住民のリスク理解に向けて、自治体は知恵を出し合ってほしい。

スコットランド 独立否決でも難題は残った

 英国が分裂し、混乱に陥る最悪の事態は回避された。だが、自治権限をどう拡大するかなど、難題が残っている。

 英北部スコットランドの独立の是非を問う住民投票は、反対が55%に上った。スコットランドが英国にとどまることが決まった。

 英国の面積の32%、人口の8%を占めるスコットランドが独立すれば、英国の国力低下は避けられなかった。英ポンド急落に伴う欧州経済への打撃や、核搭載潜水艦の母港移転による安全保障政策の綻びを招く恐れもあった。

 キャメロン首相は投票結果について、「英国が団結を維持できたことは喜ばしい」と述べ、国民に結束を呼びかけた。

 住民投票は、独立を目指すスコットランド民族党(SNP)と、反対する与野党の保守、労働両党などが対決する構図だった。

 スコットランド自治政府を掌握するSNPは、独立すれば、北海油田などからの税収を基に社会福祉を充実できる、と訴えた。

 しかし、財源確保の見通しは甘く、英ポンドの使用継続も英政府から拒否され、代替案を示せなかった。欧州連合(EU)残留が可能だとの主張も根拠を欠いた。

 複数の大手企業が、独立すれば本社をスコットランドから移すと公表するなど、経済界には独立への反対論が強まっていた。

 独立反対が過半数を占めたのは、経済面や対外関係での悪影響への懸念が主な理由だろう。現実的な判断だったと言えよう。

 ただ、2年前に投票実施が決まった後、独立賛成派が大幅に伸長したことの意味は大きい。

 キャメロン政権は、スコットランドの自治権限の大幅拡大を約束した。既に権限が移譲されている教育分野などに加え、社会福祉や税制も対象となる見通しだ。

 スコットランドに刺激を受けたウェールズや北アイルランドからの権限拡大の要求に、どう応えるかも課題である。

 特定地域の住民が独自の歴史、文化を背景に独立を求める動きはスペインのカタルーニャ自治州など欧州各地で活発化している。

 欧州統合の進展により、現在の国境を絶対視せず、EU傘下にいれば小国でも独立を維持できる、と安易に考える風潮が助長されている面もあるのではないか。

 今回の住民投票は、世界的な注目を集めた。民族主義などと結びついた自治要求が国際秩序をも揺るがしかねない、という問題意識が共有されたからだろう。

北の拉致報告 「初期段階」の説明は通らない

 北朝鮮は日本人拉致問題で、情報を小出しにするなどの小細工をやめ、誠実に対応すべきだ。

 菅官房長官は、北朝鮮による拉致問題の再調査に関する1回目の報告時期が遅れる見通しを明らかにした。

 日朝両政府は7月、報告時期について「夏の終わりから秋の初め」で合意していた。しかし、北朝鮮が「調査はまだ初期段階にあり、この段階を超えた説明はできない」などと連絡してきたという。報告の事実上の先送りである。

 北朝鮮は7月上旬、特別調査委員会を設置した。金正恩第1書記をトップとする国防委員会から北朝鮮の全機関を調査する権限を付与された、と説明してきた。

 調査開始から2か月以上を経過しているのに、なお「初期段階」とする北朝鮮の言い分は到底、納得できるものではない。

 菅長官が「拉致された人(の情報)は、北朝鮮当局がすべて掌握していると思っている。誠意を持って対応してほしい」と強調したのは、当然である。

 調査期間は1年程度とされるが、北朝鮮は、外交上の駆け引きに走ることなく、調査内容を隠さずに順次、開示すべきだ。

 調査対象は、未帰国の拉致被害者12人に加え、拉致の可能性のある特定失踪者なども含む。被害者の多くは1970~80年代に拉致されており、被害者家族らの高齢化が進んでいる。家族は一日も早い被害者の帰国を望んでいる。

 安倍首相は講演で、「形ばかりの中身のない報告をもらっても仕方がない。しっかりと確実な報告をしてもらいたい」と語った。

 政府は、北朝鮮と交渉し、1回目の報告時期を早急に詰めるとともに、正確な情報を提供するよう強く促す必要がある。

 首相は、「行動対行動」の原則を掲げている。北朝鮮が前向きな対応を示せば、日本もそれに見合う措置を取るものだ。

 日本は、再調査の開始に合わせて、北朝鮮に対する制裁を一部解除した。今回の北朝鮮の対応は、それを裏切るものと言える。

 看過できないのは、北朝鮮が最近も、日本海に向けて、弾道ミサイルなどの発射を繰り返していることだ。日本の再三の抗議を無視し続けている。

 政府は、拉致と核・ミサイルの問題を包括的に解決する方針を堅持することが重要である。来週の国連総会の機会などを通じて、米国や韓国と緊密に連携し、北朝鮮に対する国際包囲網を崩さないことが求められよう。

2014年9月19日金曜日

ソニーはいつまで漂流を続けるのか

 ソニーの漂流が止まらない。同社は17日、2015年3月期の連結最終赤字予想を当初見込みの500億円から2300億円に下方修正すると発表した。今期は配当も見送り、1958年の上場以来初の無配転落となる。

 過去に素晴らしい実績を残した企業でも、経営の舵取りに失敗すれば、とたんに失速する。ソニーの長引く低迷は市場競争の厳しい現実を映す鏡といえよう。

 今回の赤字拡大の直接的な原因はスマートフォン(スマホ)事業の不振だ。それを受けて2年前に完全子会社化した旧ソニー・エリクソンののれん代を減損処理し、1800億円の損失を計上した。

 スマホ事業の先行きはなお不透明感が強く、リストラ費用が膨らむなどして、収益が一段と悪化する恐れもある。

 スマホの不振について、同社の平井一夫社長は「中国メーカーが躍進し、競争が激化した。外部環境が変化している」と説明したが、中国勢の台頭は従来から予想された事態だ。見通しが甘いといわざるを得ないのではないか。

 ソニーはリーマン・ショック後の09年3月期から今期まで7期のうち、最終黒字は1期のみで、残りは赤字決算だ。こうした業績低迷に加えて、会社がどこに向かうのか方向感に欠けるのも痛い。

 ソニーに限らず、日本の電機産業は韓国勢の台頭や円高で一時の競争力を失ったが、その後の経営改革で多くの企業が復活のめどをつけつつある。

 日立製作所は社会インフラ事業への選択と集中を進め、最高益を更新した。パナソニックは経営の軸足を家電から住宅や自動車関連など企業向け事業に移すことで、業績を回復した。シャープは中小型液晶の好調で、危機的状況からひとまず抜け出した。

 その中でソニーが取り残された。平井社長は「スマホで韓国サムスン電子と米アップルに次ぐ3位になる」という旗印を掲げたこともあるが、この目標も頓挫した。画像センサーなど競争力、収益力の高い事業も傘下にあるが、ソニー全体としてどんな企業を目指すのか、ビジョンが見えない。

 ソニーは多数の社外取締役を抱え、「企業統治の優等生」といわれたこともある。だが、いくら形を整えても、実績が上がらないのでは意味がない。ソニー再生に向けて、社外取締役の本気度や力量、見識が問われる局面でもある。

地価上昇は広がり始めたが

 地価の回復傾向が鮮明になってきた。国土交通省が発表した基準地価(7月1日時点)をみると、東京、大阪、名古屋の三大都市圏が2年連続で上昇し、地方圏も下落幅がさらに小さくなった。地価の回復は安倍政権が掲げる脱デフレを後押しする要因になる。

 今回の基準地価の特徴は、これまで大都市部中心だった上昇地点が地方に広がり始めた点だろう。札幌や仙台、福岡のような地方中核都市にとどまらず、金沢市や茨城県つくば市などでも上昇地点が増えている。

 都道府県ごとの平均値をみても同じだ。東京都や愛知県のほか、沖縄県なども上昇した。

 地価回復の最大の要因は企業業績の改善だ。人員の採用増や業容拡大を背景にオフィスを拡張する企業が増えている。東京の都心部ではビルの空室率がかなり低下し、賃料も上昇している。

 ビルの空室率は札幌や福岡などの地方都市でも低下している。オフィス需要が上向き、不動産投資信託(REIT)が地方でも物件を取得しているためだ。

 一方で、今後の地価動向を占ううえで気がかりな点もある。戸建て住宅やマンションの販売はこのところ減少している。消費税の増税前の駆け込み需要の反動減が主因だが、当初の予想に比べて影響は長引いている。

 資材価格や人件費の上昇で建設コストがかさんでいることも背景にある。住宅価格がさらに高くなると需要が冷え込みかねない。

 今後も地価が適度な上昇を続けるためにはしっかりとした実需による下支えが要る。そのためには法人実効税率の引き下げや規制緩和を通じて海外から直接投資を呼び込むことなどが重要だ。

 地方でも上昇地点が増えてきたとはいえ、地方圏全体では依然として下落している。人口減少という構造的なマイナス要因が足かせになっている。先駆けて上昇に転じた沖縄をみてもわかる通り、観光客をどう呼び込むかが、本格回復のひとつのカギになる。

米緩和策終了―日銀にとっての教訓は

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、米国債などを買って市場に大量のお金を流す量的金融緩和策を10月に終えると決めた。経済が順調に回復することが条件だが、実現すれば、米国の金融政策は節目を迎える。

 FRBが現在の量的緩和策の開始を決めた2012年9月には8%ほどだった米国の失業率が、今年8月は6・1%に低下。米経済がデフレに陥る懸念も遠のいた。緩和策に一定の効果があったと言えるだろう。

 一方、カネ余りの副作用で、金融市場ではバブルを思わせる動きも見える。FRBのイエレン議長は17日の記者会見で、08年以来とってきた金融危機対応の異例の政策を振り返りながら、「この間ずっと、より伝統的な方法に戻ろうとしてきた」と述べた。量的緩和策の終了は、その大きな一歩となる。

 ここまでの歩みは順調だったわけではない。バーナンキ前議長が昨年6月、量的緩和の終了に向けたスケジュールに言及した際は市場が動揺。9月に始めると見られていた緩和縮小を見送った。

 昨年末に緩和縮小決定にこぎつけた後の今年2月に就任したイエレン議長は、慎重に歩を進めた。6月の記者会見で、金融政策の「正常化」について連邦公開市場委員会(FOMC)で議論していることに言及。7月に公表した、6月のFOMC議事要旨で、量的緩和策の10月終了を見込んでいることを明らかにした。

 今回はFOMC声明に、緩和策の10月終了方針を明記。同時に、金融政策正常化のための基本方針を公表し、量的緩和のために買った国債などの売却についての考え方などを説明した。

 今回の決定は、イエレン議長にとって最初の大仕事となったが、これで終わりではない。08年からのゼロ金利を「相当の期間」続けるとしているが、いつ利上げに踏み切るのか、どんなペースなのか。慎重な判断とともに、これまで以上に丁寧な情報発信が必要になる。

 FOMCも一枚岩ではない。今回の決定には10人のメンバーのうち、より早期の利上げなどを主張して2人が反対した。景気について慎重な見方をするイエレン議長がどうまとめていくか、手腕が問われる。

 日本では物価上昇率が日銀の目標に届かず、消費再増税の判断も控える。日銀を取り巻く環境はFRB以上に厳しいが、いずれ訪れる「異次元」の金融緩和終了に向け、FRBの政策正常化から学ぶべき教訓をくみ取ってほしい。

核燃サイクル―限界が迫っている

 現在、日本には使用済み核燃料が全国18カ所の原子力発電所などに保管されている。合計で1万7千トン、大半が使用済み燃料プールに入っている。

 プールでの保管は、災害やテロなど不測の事態に対しては非常に弱く、甚大な放射線被害が起きる危険が高い。福島第一原発の事故は、この問題も浮き彫りにした。

 ところが、使用済み燃料の保管や処分をめぐる論議は進んでいない。16日に開かれた経済産業省の原子力小委員会も「使用済み燃料問題」を議題に据えていたのに、議論は深まらなかった。なぜなのか。

 一番大きな原因は、政府が「核燃料サイクル事業」の継続方針を変えないことにある。

 確かに、この計画は使用済み燃料を全量、高速増殖炉や既存の原発の燃料として再利用することが前提なので、実現すればプール保管の問題は解消する。

 しかし、実際には高速増殖炉「もんじゅ」にしろ、既存原発で再処理した燃料を使う「プルサーマル計画」にしろ、技術面でも採算面でも行き詰まりは明白になっている。

 一方で震災後、内閣府の原子力委員会は、再処理より直接処分するほうが安上がりであるとの試算を示している。さらに、当面の間、使用済み燃料を安全な容器に入れて地上保管する「乾式貯蔵」についても、燃料プール保管の危険を回避する手段として有効なことが日本学術会議などで指摘されている。

 こうした処理方法を具体化するためには、現行の核燃サイクル事業の見直しに着手する必要がある。

 これまで再処理施設を受け入れてきた青森県との関係も見直しとなるが、そこに着手しないかぎり、プール保管の危うさは解決の糸口が見えてこない。

 現在、使用済み核燃料は財務上「資産」として扱われているが、廃棄物となれば「負債」として会計処理する必要がある。こうした課題を含めて、政府はまず、核燃サイクル事業の客観データを示して、政策転換を打ち出すべきだ。

 このまま原発再稼働が進めば、原発内のプールは一番早いところで、3年で容量の限界に達する(経産省試算)。

 さらに、16年には電力小売りが全面自由化され、規制料金制度の撤廃も予定されている。プルサーマル計画は、原発をもつ電力会社が財務的に支える形となっており、自由化の重荷になることは明らかだ。

 政府の持ち時間は限られている。

基準地価 都市の回復を地方に広げたい

 大都市圏の緩やかな地価上昇を持続し、全国に波及させる。地価の回復は、地方再生を図るうえでも大切だ。

 国土交通省が発表した7月1日の基準地価は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏で、住宅地が6年ぶりに上昇に転じた。商業地は2年連続で前年比プラスとなり、上昇率も拡大した。

 2008年のリーマン・ショック後の景気悪化で落ち込んだ地価は、大都市で底入れし、回復過程に入ったと言えるだろう。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果などで企業業績が改善し、オフィスの需要が伸びている。日銀の金融緩和を背景とした低金利や住宅ローン減税の追い風を受け、住宅販売が好調だったことも、地価を上向かせた。

 個人や企業の保有する不動産の資産価値の上昇が、消費や設備投資の拡大を後押しし、好景気が不動産市場を一段と活性化させる。そうした「好循環」が実現することを期待したい。

 ただし、地価の今後を展望すると、不安材料は少なくない。

 首都圏のマンション販売戸数の減少が続くなど、住宅需要に陰りが見える。今年4月の消費税率引き上げ前は、住宅市場で駆け込み需要が盛り上がった。その反動減が出ているのだろう。

 人手不足による人件費の上昇や資材の値上がりも心配だ。建設費がかさみ、ビルやマンションの用地取得などの不動産投資を阻害しかねない。

 地価が実需より上がる「ミニバブル」も地価の安定を脅かす。

 20年東京五輪・パラリンピックの主会場となる東京・臨海部では、地価の上昇率が10%前後と高い地点が目立つ。投機的な資金の動きに警戒せねばならない。

 一方、全国平均の基準地価は、住宅地が23年連続、商業地も7年連続で下落した。地方圏の回復が遅れているためだ。

 札幌や仙台など地方の中核都市では上昇した地点が多いが、人口流出や高齢化が進んでいる地域の地価低迷は深刻である。

 多くの人が「住みたい」と思う魅力的な街づくりが進めば、地域が活気づき、地価も改善するはずだ。地方の地価動向は、安倍政権が重要課題に掲げる「地方創生」が成果を上げているかどうかのバロメーターともなろう。

 地場産業や観光の振興、子育て支援など、やるべきことは山積している。政府と自治体が連携し、各地域の実情に合った再生策を加速してもらいたい。

ウナギ養殖規制 資源保護の実効性が問われる

 ウナギを食べ続けられるよう、資源保護の取り組みを強化したい。

 日本と中国、韓国、台湾が、ニホンウナギの養殖量を、2015年から2割減らすことで合意した。ニホンウナギの資源管理に関する初の国際的な枠組みだ。

 養殖に使う稚魚の「シラス」は乱獲で激減している。日本の13年の漁獲量は約5トンで、1970年代半ばの10分の1にすぎない。日本にウナギを輸出する中国などでも漁獲量は低迷している。

 資源の枯渇を防ぐため、最大の消費国である日本が非公式協議で提案し、養殖場に入れるシラスの量を規制することになった。

 法的拘束力のない「紳士協定」とはいえ、4か国・地域が危機感を共有し、資源保護で足並みをそろえたことは評価できる。

 資源管理で合意した背景には、ニホンウナギの乱獲に対する国際社会の厳しい見方がある。

 国際自然保護連合(IUCN)は今年6月、ニホンウナギを「絶滅危惧種」に指定した。このため2016年に開かれるワシントン条約の会議で、輸出入制限の対象になる可能性が出ている。

 対象になれば、国内消費の6割を輸入に頼る日本が困るだけでなく、輸出が制限される中国などの養殖業者も打撃を受ける。

 日本提案に当初は反対した中国や台湾が受け入れたのは、自国の養殖業者を守る狙いだろう。

 ワシントン条約の制限を受けないためには、養殖量の削減を着実に実行し、資源保護の成果を上げることが重要だ。

 2割の削減幅には科学的な根拠はないという。資源回復の効果を検証し、不十分な場合は削減幅の上積みが求められよう。

 資源管理の対応は、各国・地域の業者などに委ねられる。

 規制の順守状況の確認は、養殖業者らが作る民間の自主管理組織が担う。これらの上部団体として国際的な非政府組織を設立し、状況を報告し合うという。

 規制を徹底せずに、ニホンウナギの減少が続くようだと、養殖業者は自らの首を絞めることになる。それを自覚し、積極的に取り組んでもらいたい。

 合意を国際条約に基づく協定に格上げし、拘束力を持たせることも、今後の検討課題だ。

 養殖規制によってウナギが品薄になり、価格が高止まりするとの見方は多い。消費者の懐に響くのは確かだが、ウナギという大切な日本食を守るために、必要なコストである。

2014年9月18日木曜日

諮問会議は歳出改革にもっと力を入れよ

 第2次安倍改造内閣の下で経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)が再開された。一部の民間議員や閣僚が入れ替わったのを機に、経済財政政策の司令塔として、これまでほとんど手つかずの歳出改革にもっと汗をかいてほしい。

 諮問会議の民間議員には、経団連の榊原定征会長と、サントリーホールディングス次期社長の新浪剛史氏が加わった。榊原氏の起用には、デフレ脱却や経済再生で経済界との連携を強めようという首相の意図もあるのだろう。

 新浪氏は自らの役割について「角がある発言をしてもらいたいということだ」と語った。その言葉に偽りがないように、思い切った提言をどんどん出してほしい。

 小泉純一郎内閣のときは存在感を発揮した諮問会議だったが、第2次安倍内閣では埋没していた印象が否めない。

 成長戦略は産業競争力会議や規制改革会議で主に議論され、諮問会議の役割は限られていた。だが、この点を割り引いたとしても、本丸のマクロ経済政策で十分な役割を果たしたとはいえない。

 先進国のなかで米国に次いで高い日本の法人実効税率を引き下げようと、諮問会議が旗を振ってきた役割は評価していい。問題は社会保障費を中心とする歳出への切り込みが甘かったことだ。

 高齢化が進み、放っておけば医療、年金、介護といった社会保障費は際限なく増えてしまう。ここにメスを入れなければ、効率的な社会保障制度も財政再建も絵に描いた餅で終わってしまう。

 首相は「社会保障支出も含め、聖域を設けず、歳出改革に取り組む」と述べた。その議論を今度こそ諮問会議が主導すべきだ。

 首相は来年10月に消費税率を10%に上げるかどうかを年内に判断するが、それと切り離して歳出の抜本的な見直しでもっとできることはあるはずだ。来年度予算編成では諮問会議の真価が問われる。

 16日の諮問会議では、政府、経済界、労働界の代表者が参加する政労使会議を再開することも決めた。行き過ぎた長時間労働の是正など、働き方の改革に向けた認識を共有できるのであれば、会議の意義はあるかもしれない。

 だが、政府が企業の賃金決定に干渉するのは慎むべきだ。働く人の所得が継続的に伸びていくには、企業の持続的成長が欠かせない。規制改革や法人減税でその環境を整えることが政府の役割だ。

再生医療の実現に一歩前進だ

 iPS細胞を患者に移植する世界初の手術が神戸市にある先端医療センター病院で実施された。

 「加齢黄斑変性」という目の病気を患った女性に12日に行われ、術後の経過は良好だという。生きた細胞などを用いて難病やけがを治す再生医療の実用化と普及に向け一歩踏み出した。

 理化学研究所の研究チームが患者の皮膚細胞からiPS細胞をつくり網膜の細胞に育てた。これを先端医療センター病院の医師らが患者の右目に移植した。

 移植後の安全性を確認するのが主目的で、移植した細胞ががん細胞などに変化しないか経過をみていく。1年ほどでがん化の兆候がなければ成功とみなせると執刀医は話す。

 iPS細胞は京都大学の山中伸弥教授が世界に先駆けて作製した。どんな臓器の細胞にも育つ万能性を備えるうえ、患者自身の細胞からつくるため移植しても拒絶反応が起きないなど利点がある。

 しかし作製時に遺伝子を外から導入することから、がん化の危険を完全にぬぐいきれない。網膜に続き、パーキンソン病や脊髄損傷を対象にした臨床研究が順次計画されているが、安全性を慎重に見極めつつ進める必要がある。

 再生医療は外科手術や投薬などでは治る見込みのない難病の治療を可能にする。臨床応用へ患者の期待は大きい。

 政府は薬事法を改正して再生医療に使う細胞などを早期承認する制度を導入し普及を後押しする。再生医療に代表される先端的な医療を経済成長の柱にする。

 そのためには安全性に加えコストの削減が大きな課題だ。網膜の手術には数千万円かかっているそうだ。患者の負担を減らし国民医療費の増大を避けるには細胞培養の効率化などの工夫が不可欠だ。

 日本が世界をリードするには関連技術を世界標準とする必要がある。欧米は胚性幹細胞(ES細胞)など他の細胞を使う再生医療で先行する。iPS細胞の成果だけで安閑としてはいられない。

iPS研究―有望だからこそ慎重に

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)は、体のさまざまな組織になりえる万能の細胞である。

 難病や障害のまったく新しい治療法がもたらされるのではないかと期待されている。

 その世界初の臨床研究が神戸で始まった。理化学研究所などのチームが目の難病「加齢黄斑変性」をもつ患者を手術した。

 本人から採った皮膚細胞に遺伝子を送り込んでiPS細胞をつくり、さらに網膜の組織に変えて移植したのである。

 京都大の山中伸弥教授らが、この万能細胞をマウスで実現したと発表して、わずか8年。革命的な発見だったことを考えると、異例の速さで臨床研究まで進んだといえる。

 臨床研究は、パーキンソン病や心不全、脊髄(せきずい)損傷など多くの病気や障害で計画されている。

 医療の新たな地平を開く有望な存在だが、すべては未知の領域であり、慎重に見守りたい。安全性を確かめつつ進む着実な姿勢が、今後も求められる。

 iPS細胞などを使って体の組織や臓器を再生して治療する医療は、経済活動としても大きな役割を待望する声が強い。

 経済産業省の研究会は、再生医療の国内市場が直接の医療費だけで、12年の90億円から20年には950億円、30年には1兆円に広がるとみている。

 だが日本の再生医療は、研究は世界トップレベルなのに、製品化など応用面では欧米や韓国に大きく後れをとっている。

 基礎研究は文部科学省、臨床研究は厚生労働省、産業化は経産省という縦割りの弊害がしばしば指摘されてきた。

 最近になって再生医療推進法など関連法ができ、政府全体で後押しする態勢がととのった。官民挙げて応用力を加速させようという戦略である。

 医療の新技術に力を注ぐこと自体はけっこうだ。ただし、利益を追う産業化の視点を偏重すれば、安全性や有効性の確認がおろそかになる心配もある。研究結果をゆがめる不正への誘惑も大きくなろう。

 今回の臨床研究は、あくまで安全性の確認が主目的である。研究者の間では、「まだ動物で研究を重ねるべき段階ではないか」とみる声もあることを忘れてはならない。

 再生医療はiPS細胞に限らず、専門家の検討を経て厚労省の監督下で進められることになった。この枠組みをきちんと機能させることが重要だ。

 適切なブレーキがなければ、アクセルは踏めない。期待の万能細胞を、あせらず、じっくり大切に育てたい。

ニュータウン―再生の知恵は現場から

 人口の減少と高齢化。老朽化が進む住宅と空き家の急増。バス路線の廃止やスーパーの撤退に伴って生じる生活の足の問題や買い物難……。

 これらは過疎化が進む地域に限った話ではない。高度成長期に都市近郊で造られた大規模団地、いわゆるニュータウンも同じ問題に直面している。

 国土交通省によると、ニュータウン(1955年度以降に事業が始まり、計画人口3千人以上または1千戸以上)は全国で1500を超える。

 国交省がこの夏、有識者を集めて始めた検討会では、東京・多摩ニュータウン内のある地区の建て替え例が紹介された。5階建て23棟を11~14階の7棟に集約。高齢者支援施設や保育所、住民が憩うカフェも整えた。総戸数をもとの2倍近い1200戸余に増やし、増加分の売却収入で住民の負担を抑えつつ、30~40代の子育て世帯を新たに呼び込んだ。

 様々な世代が暮らす街として再出発できた例だが、交通の便など立地条件に恵まれた面は否定できない。同様の改築ができるところは限られるだろう。

 それだけに、検討会の議論が建て替えや市街地再開発など国交省の所管分野に限られてはならない。医療・介護や教育施設、店舗の誘致など、役所の縦割りを超えた議論が不可欠だ。

 そのためにも出発点として、個々のニュータウンでの取り組みに目を凝らしてはどうか。

 多摩、大阪・千里と並ぶ3大ニュータウンの一つ、愛知県の高蔵寺ニュータウンでは、住民が自ら立ち上げたNPOなどと近くの中部大学が連携する。学生が高齢者宅にホームステイし、空き家で暮らす。大学が住民向けに「シニア大学」を開き、タウン内に大学の施設を設けることも検討していく。

 他の地域でも、住民組織と大学、商工会議所、自治体などが協議会を置いた例は多い。住宅の建て替えや再開発の促進より、老壮青のバランスがとれた街づくりに向けて民と学、官が知恵を出しあい、実践していく試みを大切にしたい。

 近隣と比べて街としての基盤が整っているニュータウンは少なくない。近隣の活性化とバランスをとることも必要になるだろうし、あるいはニュータウンを一帯の核と位置づけることもできるはずだ。広域的な視点が必要だろう。

 正解がすぐには見つからない難題である。しかし、ニュータウン再生を考えることは、少子高齢化時代の街づくりにつながる。

食料自給率 農業再生へ穀物偏重を改めよ

 食料自給率の上昇にこだわった農政は、日本の農業再生にかえってマイナスではないか。

 農林水産省は「攻めの農業」に関する実行本部を設け、農産品の輸出促進など具体策の検討を開始した。

 安倍政権が掲げる成長戦略と地方創生を後押しするためにも、各地の特性を生かした農業の活性化は急務だ。生産から加工、販売まで一貫した事業展開により、地域を潤す成長産業に育てたい。

 気がかりなのは、政府が食料の安定確保の観点から、「食料自給率の維持・向上」を農業政策の目標に掲げていることである。

 食料自給率は国民が消費する食料のうち国産品が占める比率だ。食物のカロリーを基に算出した自給率は現在39%である。政府は2020年度までに、50%に引き上げることを目標にしている。

 ところが、カロリー基準の自給率は、日本の農業の実力を正しく示している指標とは言い難い。

 例えば、国内の酪農家が育てた牛や豚であっても、輸入した飼料を使った分は国産と見なされず、自給率に算入されない。

 野菜や果物は国産が多いのに、コメなどの穀物よりカロリーが低いため、自給率にあまり貢献していない。生産額を基準に算出すると、自給率は65%に上がる。

 野菜や果物は品質向上やブランド化が進み、輸出品としても有望だ。カロリー基準の自給率を重視するあまり、成長分野の振興が後回しになった面は否めまい。

 政府は18年度をメドに、コメの価格維持を目的とした減反政策を廃止する。ただ一方、飼料用米への転作補助金などは拡充する。

 国産飼料の増産は、自給率向上につながる。だが、高いコストをかけ、生産性の低い零細農家を保護することになる。「攻めの農業」には逆行しよう。

 戦後の食糧難の時代、日本の自給率は100%近かった。輸入する余裕がなかったためだ。食料事情の目安としての意味も薄い。自給率を目標にしているのは、海外では韓国や台湾などわずかだ。

 西川農相は食料自給率について「どの辺りを目標にすべきか検討したい」と述べ、下方修正を示唆した。自給率向上を目標としている現状を見直し、穀物偏重の農政を転換すべきだろう。

 農家の担い手不足や耕作放棄地の拡大で、日本農業は存亡の危機にある。農地の大規模化や企業参入などの改革を断行して生産性と競争力を高め、農業を魅力ある産業に転換することが肝心だ。

再生エネ普及 過大な料金負担は看過できぬ

 太陽光や風力など再生可能エネルギーは、家計や企業への過大な負担を避け、無理なく普及させることが重要だ。

 約2年前にスタートした再生エネ買い取り制度に基づく発電計画の認定が、予想を上回る勢いで増えている。

 これまで認定された再生エネ発電がすべて稼働すれば、「2030年に全発電量の2割以上を賄う」とする政府目標の、9割を達成できる計算になる。

 制度導入当初の3年間は、再生エネの普及を促進するため、買い取り価格は高く設定されている。しかも、買い取りは最長20年間、認定時の価格で行われる。

 このため、電気を高値で買い取ってもらう「権利」を早く確保しようとする事業者の申請が殺到したのだろう。

 再生エネの拡大は歓迎すべきだが、買い取りコストは家計や企業の支払う電気料金で賄われる事実も忘れてはならない。

 料金に上乗せされる形で、家計と企業が今後20年間に負担する買い取りコストは、総額38兆円に上るとの試算もある。

 今後もハイペースでの認定が続けば、負担はさらに増す。

 原発の再稼働が進まず、代替する火力発電の燃料費増大によって電気料金は高止まりしている。

 再生エネ買い取りが、家計や企業の負担に追い打ちをかける事態は、看過できない。

 政府が買い取り価格の引き下げに動けば、「駆け込み申請」に拍車がかかる恐れもある。認定を一時停止したうえで、適正な価格への変更を検討してはどうか。

 再生エネのうち、太陽光発電の認定が突出して多いのも特徴だ。買い取り価格が有利なうえに、設備の整備も風力や地熱などより容易なためである。

 ただ、太陽光は天気によって発電量が大きく変動する欠点を抱えている。発電量が変わるタイミングの違う風力や、安定して電力を供給できる地熱も含め、多様な再生エネをバランスよく普及させることが求められる。

 太陽光や風力の発電計画が多い北海道や東北から、大消費地である首都圏に送電する能力が不足している問題もある。

 送電設備の増強にかかる多額のコストを電力会社が負担すれば、これも料金上昇の要因となる。

 再生エネの普及に伴って増える国民負担は、どこまで許容できるか。政府は消費者や経済界の意見も十分聞き、より現実的な制度に改めるべきだ。

2014年9月17日水曜日

急激な為替変動の副作用も警戒せよ

 外国為替市場で円安が進んでいる。12日の東京市場では円相場が一時1ドル=107円39銭近辺と、約6年ぶりの円安・ドル高水準をつけた。

 今の円安は、米国を起点にしたドル高の側面が強い。米連邦準備理事会(FRB)は10月に量的金融緩和政策の終了を決め、来年に政策金利を引き上げるとみる市場関係者が多い。こうした観測から米長期金利が上昇している。

 一方で日銀は2年で2%の物価安定目標を掲げ、金融緩和を続けている。こんな日米の金融政策の違いや金利差を背景に市場で円が売られ、ドルが買われやすくなっている。

 日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)によれば、2014年度の大企業製造業の想定為替レートは1ドル=100円強だ。円安傾向が続けば、輸出企業を中心に企業収益を押し上げるだろう。日本を訪れる外国人観光客が増える効果も期待できよう。

 だが、急激に円安が進むことに伴う副作用も無視できない。エネルギーや食料といった輸入価格が上がり、企業や家計の負担が増える可能性が高くなるからだ。

 足元のガソリン価格は比較的落ち着いている。しかし、灯油などを含めた燃料費がこれから上昇していけば、家計のエネルギー支出の割合の高い地域で、ほかの財やサービスへの消費が抑えられかねない点には注意が要る。

 東日本大震災のあとの日本では、原子力発電所を再稼働できず、火力発電に使う液化天然ガスなどを大量に輸入している。急激な円安は貿易赤字をさらに拡大させる要因にもなる。

 中小企業などの経営者から、これ以上の円安は好ましくないとの声が出ているのは理解できる。

 日銀の黒田東彦総裁は足元の円安・ドル高水準について「日本経済にマイナスになるということはない」というが、短期間のうちに為替が急変動するリスクまで否定したわけではあるまい。

 円安が進めば輸入物価の上昇を通じ、消費者物価が上がりやすくなる。だからといって円安頼みのデフレ脱却では困る。

 企業収益の改善を雇用増や賃金上昇につなげ、経済が持続的に成長する環境をつくるのが政府・日銀の役割だ。企業も円安で一息つくのではなく、内外需を掘り起こして稼ぐ力を高める努力を怠ってはならない。

野党が「多弱」を脱するには

 小説でも映画でも敵役が手ごわくなければ、生き生きした物語にならない。政治の世界でも野党が果たす役割は決して小さくない。現状の「多弱」を脱するにはどうすればよいか。重要なのは、何を目指すのかという政策の旗を打ち立てることだ。

 野党第1党の民主党の新体制がようやく決まった。与党時代に中核を担った岡田克也、枝野幸男両氏らが執行部入りした。

 とはいえ、国民の信頼を取り戻すのは容易ではない。日本経済新聞とテレビ東京の世論調査で、政権獲得直後の2009年9月に58%あった党支持率は今月はわずか5%である。

 民主党の転落の最大の要因が「ばらばら感」にあったことは海江田万里代表も認めるところだ。そっぽを向いていた勢力と少し距離を縮めたぐらいで、挙党態勢とはとても言えまい。

 かつて自民党はタカ派もハト派も包含していたが、野党時代に保守色を強めた。民主党には「中道リベラル」を旗印にして対抗してはどうかとの声があるが、党再分裂を懸念して踏み切れずにいる。

 このままでは新体制も来年春の統一地方選向けの「選挙互助会」のレッテルを貼られかねない。

 同じようなことは他の野党についても言える。

 21日に結党大会を開く維新の党は共同代表に就く橋下徹、江田憲司両氏の息が合わない。政策の食い違いに加え、党本部を東京に置くのか大阪に置くのかなどももめた。分裂した旧日本維新の会の二の舞いを演じないかが心配だ。

 みんなの党では、8億円借金問題で党首を辞任した渡辺喜美氏が後事を託したはずの浅尾慶一郎代表を批判し始めた。小所帯がさらに小さくなりそうだ。

 政策の違いは変に取り繕わず、進路をはっきりさせる。人の好き嫌いはぐっとのみ込み、大同団結する。それが大人の組織というものだ。衆院議員の任期は年末には折り返しを迎える。そろそろ本気で野党再生に動いてもらいたい。

自殺予防策―知恵を集めて充実を

 日本の昨年の自殺者数は2万7283人。前年より2・1%減って、2年連続で3万人を下回った。それでも、毎日70人以上が亡くなっている。

 世界保健機関(WHO)が今月公表した自殺防止に関する報告書によると、日本の自殺率(2012年、人口10万人あたりの人数、年齢調整後)は18・5人。イタリアの3・9倍、イギリスの3倍、ドイツの2倍、アメリカ、フランスの1・5倍で、先進国の中で高い水準となっている。

 過去にも自殺を図ったことがある。そんな人が自殺者には多い。内閣府のまとめでは、2012年に自殺した人のうち未遂の経験がある人が女性は30%、男性は15%。20~40代の女性では40%以上を占めている。

 未遂経験のある人が再度自殺を図ることを防げば、自殺者数の減少につながる。こうした考え方が広がって、国の自殺総合対策大綱にも未遂経験者への対応が重点施策として盛り込まれている。

 東京都荒川区では、4年前から未遂経験者への対応に取り組んでいる。

 自殺を図って救命救急センターに運び込まれると、本人の同意を得て保健師が面会。退院後は個々の事情に応じて生活保護やハローワーク、ボランティアが運営する地域の居場所などにつなぐ。さらに、月に一度は病院と行政、弁護士、NPO法人などの関係者が集まり、ひとり一人について情報を共有する。

 これまでに関わったのは約80人。継続的に支援している間に自殺した人はいないという。

 荒川区の取り組みが示すように、医療や福祉、教育など各分野の専門家が情報を交換しながら継続して関わることが予防につながる。

 横浜市立大学が中心になった大規模調査でも、救急搬送された未遂経験者に対して定期的な面接や医療や生活支援などを手厚くすると、自殺予防の効果が高いことが認められた。はっきり効果が高いと統計的に言えるのは未遂後6カ月間だが、その後についても、再度自殺を図る人は少ない、という。

 自殺の背景には健康問題、家族問題、生活苦、孤立など複数の要因が絡んでいることが多い。今月7日には、相談や啓発に取り組むNPO法人や弁護士、医師や学者、行政や政治家らが発起人になって学会を発足させた。

 「自殺は予防できる」とWHOも訴えている。様々な取り組みや研究の成果を集めて、対策を充実させてほしい。

山口淑子さん―戦後の歩みが語ること

 山口淑子さんが、94年の生涯を閉じた。戦中は満州映画協会のスター「李香蘭」として一世を風靡(ふうび)。戦後は、俳優、テレビキャスターとして活躍し、参議院議員を3期務めた。

 劇的なその人生は、私たちに多くのことを語りかける。

 生まれは旧満州(中国東北部)。南満州鉄道で働く父は中国の人たちと親しく交わり、義兄弟の契りを結んだ。その縁で山口さんも「李香蘭」という中国名を持った。

 北京の女学校には、父の親友の家から「潘淑華」の名で通った。時は日中開戦前夜。祖国日本と母国中国、それぞれへの愛情に引き裂かれ、「日本軍が攻めてきたら、北京を囲む城壁の上に立ち、どちらかの軍に撃たれよう」と思ったという。

 だが、完全な中国語を話す日本人の美少女は、満映によって、「中国人女優・李香蘭」として売り出されてゆく。

 日中のはざまで苦悩した山口さんは時代に翻弄(ほんろう)された「被害者」といえる。半面、日本の国策映画に出演し、プロパガンダの一翼を担わされた。

 中国では日本人の横暴に心を痛め、憧れの日本では、中国服姿を侮辱された。

 こうした自身の複雑な立場のどれからも目をそらさず、深く省みたことが、戦後の生き方を方向づけたのだろう。

 いつも虐げられた側を思い、平和と人権擁護のために発言、行動した。パレスチナ問題に積極的にかかわり、元慰安婦への償いをする「アジア女性基金」の副理事長を務めた。

 著書やインタビューでは、あやまちを率直に語った。

 「李香蘭 私の半生」(藤原作弥氏と共著)には、こんなことが記されている。

 李香蘭時代も、自分なりの信念を持ち、納得できないことは受け入れないできたつもりだった。しかし、日本にとって都合のいい中国の娘を演じた当時の主演映画を改めて見て、衝撃を受けた。信念というものが、いかにあいまいなものだったか、思い知らされた、と。

 この罪を償うには、わびるだけでなく、自分の体験について作為を加えずに語るしかないと考えた。それでも、記憶が自分の都合のよいほうへ流れるのを抑えるのは、ひどく難しい作業だったと明かしている。

 自分の弱さを深く自覚しながら、それでも過去と誠実に向き合うことでしか、人はあやまちを正せない。未来はその先にしかない。長い戦後を生きた山口さんのピンと伸びた背中から、いま学ぶことは多い。

民主党役員交代 バラバラ感を解消できるか

 この新たな布陣で、結党以来の弱点である党のバラバラ感を解消できるのだろうか。

 民主党の新しい幹事長に枝野幸男元官房長官、国政選担当の代表代行に岡田克也前副総理が起用された。海江田代表は両院議員総会で、「全員が一丸となり、自民党の政治に対峙たいじしていく」と強調した。

 枝野、岡田両氏は民主党政権で要職を務めたが、2012年の衆院選後は海江田執行部と距離を置いてきた「6人衆」の一員だ。

 政調会長に政策通で参院議員の福山哲郎元官房副長官、国会対策委員長にはベテランで労組出身の川端達夫元総務相を充てた。

 党内バランスに配慮しつつ、有力議員を取り込んだのは、挙党態勢を構築する狙いがある。

 ただ、これで民主党が一致結束できるとみるのは早計だろう。

 海江田、枝野、福山の3氏は、菅政権が原発事故への対応で批判された際の当事者だ。

 発信力に乏しく、党勢の低迷から抜け出せない海江田氏に対する党内の不満は根強い。

 通常国会中には、保守系議員を中心に、「このままでは来年春の統一地方選を戦えない」として、「海江田おろし」の動きが顕在化した。7月末の両院議員懇談会で代表続投が決まったが、党内は依然、一枚岩とは言えない。

 野党第1党の民主党に最も求められるのは、政策の一致だ。

 民主党は今なお、集団的自衛権の行使の是非に関し、意見集約を先送りしている。

 枝野氏は今年2月、党憲法総合調査会長として、「行使一般を容認する憲法解釈変更は許されない」との見解をまとめるのに尽力したが、行使の限定容認に関する方針は定まっていない。

 海江田氏が8月、限定容認への反対に踏み込むと、保守派からは批判が出た。前原誠司元代表らは、行使を容認する「安全保障基本法」の制定を求めている。

 海江田執行部がリベラル色を強めれば、保守系議員との亀裂が深まる可能性が大きい。バラマキ政策が目立った09年衆院選の政権公約の見直しも、まだ道半ばだ。

 国民の信頼の回復には、安全保障分野などの重要政策で党の軸足を早急に定める必要がある。

 国会対策や重要選挙での野党協力も課題である。海江田氏は、国会での野党統一会派構想に言及したが、党内でも「実現は困難」との見方が大勢だ。自民党の「1強」にどう立ち向かうのか、海江田氏の戦略が見えない。

工藤会幹部逮捕 凶悪集団を壊滅する突破口に

 卑劣な組織暴力は、断じて許されない。警察は「頂上作戦」を突破口にして、組織の壊滅を図ってもらいたい。

 福岡県警が、九州最大規模の指定暴力団「工藤会」の最高幹部2人を殺人などの容疑で逮捕した。2人は1998年、配下の組長らに指示し、北九州市で漁協元組合長の男性を射殺させた疑いが持たれている。

 福岡県内では、市民や企業が拳銃などで襲撃される事件が後を絶たない。県警は、その多くに工藤会が関与しているとみているものの、ほとんどが未解決だ。警察の威信に関わる事態である。

 警察庁は16日、福岡県警や、関係する他の県警幹部に対し、総力を挙げて、工藤会に致命的な打撃を加えるよう指示した。福岡県警は、全職員の3割にあたる3800人を捜査に投入している。

 トップの逮捕により、工藤会の反撃も予想される。県警は、市民に危害が及ばぬよう、繁華街の警備などを強化する必要がある。

 今回の逮捕容疑となった事件は、北九州市の港湾施設整備事業を巡り、利権を得ようとする工藤会の要求を、元漁協組合長が拒んだことへの報復とされる。

 市民や企業に利益提供を強要し、従わなければ暴力に訴える。言語道断である。工藤会のやり口を封じるため、2012年に改正暴力団対策法が施行された。

 企業襲撃に関与した疑いがある暴力団を「特定危険指定暴力団」に指定し、構成員が企業などに不当要求をすれば、即座に逮捕できる「直罰規定」を盛り込んだ。

 構成員560人の工藤会は全国で唯一、特定危険指定暴力団となったが、直罰規定に基づく逮捕は2件にとどまる。効果を上げているとは言い難い。

 福岡市や北九州市などでは、飲食店への暴力団員の入店を禁止する県条例も施行された。しかし、暴力団排除に協力的な店の経営者が刃物で襲われたり、「次はおまえの番だ」などと電話で脅されたりする事件が相次ぐ。

 工藤会の排除が思うように進まないのは、市民や企業が報復を恐れ、警察への情報提供をためらうためだろう。「通報しても、警察は自分たちを守ってくれない」という市民の警察に対する不信感も背景にあるのではないか。

 警察は、資金源を断つなど、あらゆる手段を講じて、工藤会を弱体化させ、市民の信頼を回復せねばならない。

 工藤会対策を全国の暴力団排除のモデルとすることが重要だ。

2014年9月15日月曜日

経済の長期停滞論を乗り越えて

 米欧を中心に経済の長期停滞論が広がりを見せている。リーマン・ショックから6年たつのに経済回復の勢いが弱いためだ。低成長の背後には単なる景気循環だけでは説明できない構造要因があるのではないか、という問題意識に基づく。

 歴史的に見れば大きな金融危機後は経済の回復が遅れがちであり、経済停滞の問題が過大にとらえられている可能性はある。状況は国によっても異なる。だが、日本の経済再生にとって参考になる議論も多い。成長力を高めるための処方箋づくりに生かしたい。

潜在成長力低下に警鐘
 長期停滞論がさかんな米国では金融危機の傷こそ癒えてきたものの、経済拡大の勢いは過去の景気回復期に比べて鈍い。中間層の所得もなかなか伸びない。欧州ユーロ圏の経済は低空飛行を続けており、物価上昇率はゼロに近づきつつある。日本型の長期デフレに陥るとの懸念も出てきた。

 米欧ともに積極的な金融緩和を進め、政策金利はほぼゼロまで下がっているのに、企業の設備投資などには思うほどの効果が出ていない。

 長期停滞論の火付け役でもあるサマーズ米ハーバード大教授は、米国の需要が潜在力を下回る状態が続いていることを問題視し、インフラ投資などで政府が前向きな役割を果たすべきだと主張する。最近は、潜在成長力そのものの低下にも警鐘を鳴らし、人や資本の生産性を構造改革によって引き上げる必要性に言及している。

 イノベーションが成長に貢献する力が低下しているとの議論も出ている。電気やエンジンなど19世紀までの発明に比べれば、インターネットを核とした情報革命が生産性向上に与える影響は大きくないといった見方だ。

 格差の拡大が成長を抑えているという声も高まっている。おカネ持ちは所得のうち消費に回す比率が少ないので、富が高所得者層に集中すると、消費は伸びにくくなるというものだ。一方、貧困により十分な教育や医療を受けられない人が増えた結果、労働生産性が低下しているという見方もある。

 このほか、国の債務膨張や少子高齢化が経済成長にマイナスに働いているという指摘も目立つ。

 欧州の経済低迷は、金融・債務危機の後遺症がまだ消えていないことが背景にある。金融システムがなお不安定で、企業におカネが回りにくい状態が続く。若者を中心とした長期失業が、労働者の能力低下を通じて生産性の悪化に結びついているという指摘も多い。

 こうした米欧の長期停滞を巡る議論や経済動向を日本はどう見るべきだろうか。

 まず教訓として再確認すべきなのは、経済・社会に大きな後遺症を残す金融危機を起こしてはならないということだ。

 日本の長期停滞のきっかけも金融危機だったので当然のことではあるが、決して過去の話とは言い切れない。政府債務の膨張は続いている。財政への信認が損なわれ、金融市場が混乱に陥ることのないよう、財政健全化の道筋を立てていくことが重要だ。

 長期停滞論からは、日米欧が共通の課題に直面していることも浮かび上がってくる。

問われる改革への覚悟
 少子高齢化という制約のなかで労働供給力をどう増やしていくか。めまぐるしい技術の変化やグローバル化が進むなかで、人々が新しい技能を身につけられるようにするには何をすべきか。こうした問題に答えを出すことができなければ、日米欧とも停滞のワナから抜け出すのは難しい。

 画期的なイノベーションにつながる投資を促すことも含め、生産性を高める政策を打ち出すことの重要性が日米欧ともに高まっているといえるだろう。

 米欧で関心が高まる格差問題は日本にとっても無縁ではない。雇用状況は改善してきたものの、低い技能しか持たない若年失業者や非正規労働者が所得の高い職を得るのは難しい。職業訓練の強化・効率化などにより格差の固定化を防いでいくことは、成長力を高めるうえでも欠かせない。

 米欧の長期停滞論が示すのは、先進国が成長を続けていくことが容易ではなくなっているという厳しい現実だ。危機前のように過大な債務をテコに背伸びして成長を押し上げるようなやり方はできないし、すべきでもない。

 悲観論に陥ることなく、潜在的な成長力を少しでも高めるような地道な改革を持続的に推し進める。その覚悟があるかどうかが日米欧には問われている。

地方創生―目線は低く、息長く

 安倍首相が改造内閣の目玉政策に掲げる「地方創生」。これを進める政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が先週、すべての閣僚が参加して初めての会合を開いた。

 人口減少に対応するため、2020年までの「総合戦略」や「50年後も人口1億人維持」の長期ビジョンを年内にまとめる。次の臨時国会には、地方創生の基本理念を定める法案も出すという。

 手をこまねいていれば約半数の市区町村が消滅する可能性がある――。民間の研究組織「日本創成会議」は5月にこんなショッキングな試算を公表した。政権には「アベノミクスの恩恵が地方には届いていない」という問題意識もある。

 少子化や都市への人口流出に対する自治体の危機感は極めて強い。安倍政権が地域の活性化に本腰を入れることについては賛成だ。

 ただし、かつて政府主導で進めた合併推進などの政策が、行政サービスの低下や自治体の借金増を招いた面もあることを忘れてはならない。

 首相は各閣僚に「従来とは異次元の施策を」とハッパをかけたが、新しい政策を進めるにあたっては政府が上から目線でレールを敷くのではなく、自治体側とともに知恵を出し合う共同作業が欠かせない。

 自民党には、来春の統一地方選で「地方重視」をアピールしたいとの思惑もうかがわれる。目先のことにとらわれず、息の長い取り組みが必要だ。

 政権の動きに合わせるように、全国町村会が先週、「都市・農村共生社会の創造」と題した提言を発表した。

 農村を、再生可能エネルギーの供給源として、あるいは企業のサテライトオフィスでの仕事と農業を両立させるような新たなライフスタイルの場としてとらえ直す。そのうえで農業・農村政策で政府と自治体が担うべき役割を整理し直したり、新たな交付金制度を設けたりすることを求めている。

 町村会が具体的な政策を盛り込んだ提言をするのは初めてだ。「人口減の局面で、農村の果たす役割やあるべき姿について、農村から問いかける必要を感じた」と会長の藤原忠彦・長野県川上村長は説明する。

 過疎の問題はいまに始まったことではない。簡単に見つかる解はない。だからこそ、霞が関の発想だけでなく、自治体側からの発信が重要になる。

 知恵を出せなければ消滅は免れない。自治体側にもこのぐらいの気概がほしい。

進む円安―負の側面に配慮が必要

 円安が進んでいる。1ドル=107円台と6年ぶりの円安ドル高水準にもなった。

 年明けから102円前後で安定していた円相場が8月下旬から円安に傾いてきたのは、日米の景況感の差と、それに伴う金融政策の方向の違いが鮮明になってきたからだ。

 米国の4~6月期の経済成長率は年率で前期比4・2%。中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は10月に量的緩和政策をやめ、来年には利上げに踏み切ると見られる。最近は、従来の想定以上のペースで利上げが進むのではないかとの見方も出てきた。

 対する日本は4~6月期の成長率がマイナス7・1%。日銀は量的緩和からの出口については語らず、黒田東彦総裁が11日には将来の追加緩和の可能性に言及、円安の材料になった。

 円が下がっているのとは裏腹に、株価は上昇傾向だ。円安で、輸出企業を中心に業績が回復するとの期待があるからだ。

 確かに輸出が多い大手自動車メーカーなどでは、1円の円安が100億円単位の収益改善につながる企業もある。みずほ銀行産業調査部が昨年まとめた試算では、10円円安になると、営業利益は上場企業全体で約1兆9千億円増える。

 一方、中小が多い非上場企業では約1兆2千億円減るという。輸入原材料価格が上昇するなど負の影響が大きいからだ。日本商工会議所の三村明夫会頭は記者会見で、円安について「中小企業の立場ではあまり望ましくない」と述べた。

 円安は、輸入食品やエネルギーの価格上昇を招き、消費者の懐にも影響する。

 輸出企業が賃金アップや設備投資の増加などで成長のエンジンとなり、持続的な景気拡大につながらなければ、円安は多くの消費者や中小企業にとって負担増の要因となりかねない。

 円安が日本経済にとって必ずしもプラスと言えないことは、貿易統計などからも明らかだ。多くの企業が生産拠点を海外に移した結果、円安傾向でも輸出は伸びず、今年上期の貿易赤字は過去最大だった。

 それでも日銀の黒田総裁は現在の円安について「日本経済にマイナスになるということはない」という立場だ。輸入物価の上昇は日銀の目標である「物価上昇率2%」の達成を後押しする。何より、金融緩和を起点とした円安・株高はアベノミクスの柱の一つだ。

 しかし、経済状況は、円安の負の側面への配慮が必要になっていることを示している。

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