2014年10月31日金曜日

「政治とカネ」の徹底解明を

 永田町を揺るがす「政治とカネ」の問題に検察の捜査のメスが入った。国民の政治への信頼を取り戻すには、さまざまな疑惑の徹底的な解明が必要だ。不正が明白になれば、関わりのある政治家には議員辞職など目に見えるけじめを求めたい。

 東京地検特捜部が小渕優子前経済産業相の元秘書の自宅、後援会の事務所などを家宅捜索した。小渕氏の後援会が催した「観劇会」の収支が大幅に食い違っており、検察は政治資金規正法違反(政治資金収支報告書の虚偽記入)の疑いがあるとみている。

 観劇会にかかった費用を後援会が補填していれば、有権者への利益供与を禁じた公職選挙法に抵触するおそれもある。

 小渕氏は後援会の代表ではないので、後援会に不正があっても直ちに罪に問われるわけではない。とはいえ、監督責任は免れない。

 政治資金規正法や公選法は、不正な資金集めなどで選挙に勝つ人がないように定めた法律である。もしも、その法律に反したのであれば国会議員を辞めるのが筋だ。閣僚辞任では責任を取ったことにはならない。

 9月の内閣改造以降、政界には「政治とカネ」を巡る多くの疑惑が渦巻く。与野党双方から次々と名前が出ており、そろそろ撃ち方やめにしようとの雰囲気もあるようだ。もしも、そんなことをすればさらに政治不信をかき立てる。この際、全ての政治家が我が身を省みて襟を正すときだ。

 松島みどり前法相のいわゆる「うちわ」疑惑の場合、公選法違反ではないと釈明する一方で安倍晋三首相に辞表を出すという釈然としない辞任劇だった。合法なのか違法なのか。はっきりさせたい。

 最高裁が地方議会の政務活動費の使途は少額でも開示すべきだとの初判断を下した。国民の「政治とカネ」への視線はどんどん厳しくなっている。「以前はとがめられなかった」ではすまない。政治にかかわる全ての人がそのことを自覚せねばならない。

米量的緩和後の利上げに世界は備えよ

 中央銀行が市場に出回るお金の量を増やし、景気や物価の押し上げを狙う政策は、量的金融緩和政策とよばれる。米国で2008年秋のリーマン危機後に導入された、この異例の金融緩和政策がいよいよ終わる。

 米連邦準備理事会(FRB)が29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、量的金融緩和の第3弾に伴う証券の購入を10月いっぱいで終えることを決めた。

 米国の景気回復の足取りはしっかりとしている。雇用情勢も次第に改善し、今年9月の失業率は5.9%とほぼ6年ぶりの低水準となった。FRBがこの時期に量的緩和を終え、金融政策の正常化に向けて大きくカジを切るのは妥当といえるだろう。

 今後の焦点は、FRBがいつ政策金利の引き上げに踏み切るかだ。政策金利を事実上ゼロにする「ゼロ金利政策」について、FRBは量的緩和終了後も「相当な期間、維持する」としている。市場関係者の間では、来年中の利上げを予想する声が多い。

 利上げが遅すぎると物価の安定が損なわれる。またリーマン危機のきっかけとなった米国の住宅バブルの崩壊は、金融緩和の長期化が一因だった。その二の舞いは避けるべきだ。一方で、早すぎる利上げは雇用の回復に水をさす。

 対応を誤ると通貨・株式などの国際金融市場が動揺しかねない。FRBは雇用・物価情勢を丹念に点検し、利上げの時期を慎重に見極めるとともに、市場との対話に万全を期してほしい。

 日本経済も無関係ではない。FRBが利上げを始めれば、日米の金利差が拡大することで、市場では円売り・ドル買いが進みやすくなる。急激な円安は原材料やエネルギー価格の上昇を通じ、景気を下押しするおそれがある。

 新興国も米国の利上げの影響は大きい。巨額の経常赤字や財政赤字を抱えている新興国から資金が流出すれば、こうした国々で通貨安とインフレに拍車がかかり、インフレを防ぐための利上げがさらに景気を減速させる悪循環に陥る可能性はゼロではない。

 輸出競争力を高め、財政赤字を減らす。外国企業の投資を呼び込む規制緩和をする。こうした構造改革を新興国は急ぎ、米国の利上げに備えるべきだ。新興国からの資金流出は、日米を含む先進国経済にも打撃を与えかねない。こうした点への目配りは怠れない。

沖縄知事選―基地を正面から語れ

 沖縄県知事選がきのう告示された。

 米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題について菅官房長官は「過去の問題」と強調するが、これこそ沖縄の現実の問題であり、知事選の主要な争点である。

 立候補したのは、元郵政民営化担当相の下地(しもじ)幹郎(みきお)氏、元参院議員の喜納(きな)昌吉(しょうきち)氏、前那覇市長の翁長(おなが)雄志(たけし)氏の新顔3人と、昨年12月に辺野古の海の埋め立てを承認し、3選を目指す現職の仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)氏。

 自民推薦の仲井真氏は辺野古移設を容認。自民党県連幹事長だった翁長氏は「断固反対」。下地氏は移設問題を決着させるために県民投票実施を主張。喜納氏は民主党方針に反して「埋め立て承認の撤回、取り消し」を掲げ、党を除名された。

 沖縄でずっと続いてきた「保革対決」の構図は崩れた。公明、民主は自主投票。保守の一部が革新と組む保守分裂の選挙戦となった。移設問題への立ち位置の違いが、この新たな構図を生んだと言える。

 既成政党の枠組みが壊れ、保守が分裂した背景には、仲井真氏の方針転換がある。

 前回知事選で県外移設を公約して当選したものの結局、埋め立てを承認した。今回は、辺野古移設が具体的で現実的な方策だと、計画容認にかじを切った。仲井真氏の決断を受け、政府は辺野古のボーリング調査に着手した。

 知事の承認に至る過程で、やはり県外移設を公約に当選した沖縄県選出の国会議員や自民党県連に、自民党本部が公約放棄を迫り続けたことも、県民に不信感を植え付けた。知事の公約変更に、有権者がどう審判を下すのかが注目される。

 さらに、政権が相次いで打ち出す「基地負担の軽減策」をどうみるかも問われる。

 「過去の問題」と言いながら政府は移設に絡んで、現職の仲井真候補へ露骨な肩入れを続けていると受け止められかねない状況が生じている。

 普天間配備の空中給油機を8月に岩国基地へ移転。オスプレイの訓練も県外へ分散するとも言う。だが、空中給油機は今も普天間に来ているし、オスプレイの普天間での飛行回数は、配備直後の1年間よりこの1年の方が増えている。

 普天間を2019年2月までに運用停止にする政権の約束も、米政府が拒否し、空手形だったことが明らかになった。

 「負担軽減」は本物か。知事選を通じて、沖縄の有権者はじっと見ている。

津波と学校―総合的な視点で対策を

 東日本大震災を受け、文部科学省が、全国の公立学校施設の津波対策を初めて調べた。

 津波で浸水が想定されるのは2860校。その4割近い1066校がまだ「検討中」であると答えた。

 耐震化を優先して津波対策が後回しになっている事例や、自治体の想定が確定しておらず、対策が定まらない例もある。

 学校は子どもだけでなく、地域住民の命のとりででもある。一日も早く整備してほしい。

 今回調べたのは浸水の想定区域内の学校だ。東日本大震災で実際に津波が来た学校のうち、浸水を予測していなかったのは、宮城県石巻市立大川小など半数を超えた。想定区域外の学校への対応も欠かせない。

 対策はハード面だけでなく、防災教育や訓練などソフト面も重要だ。文科省の別の調査では、想定区域内で津波の危機管理マニュアルのない学校や、津波の防災訓練をしていない学校がそれぞれ2割余りだった。

 住民の避難所としての機能の調査でも、課題が目立つ。9割の学校が避難所に指定されているが、自家発電設備があるのは神奈川が84%に対し、島根が3%など地域格差が大きい。

 これらの調査の主体は、施設が文教施設企画部、ソフト面はスポーツ・青少年局、避難所は国立教育政策研究所とばらばらだ。文科省は局の縦割りを超えて調べてほしい。地震や火災、防犯なども含め、「学校防災白書」をつくってはどうか。

 学校現場の危機感は大きい。

 日本教育学会の研究グループが東南海地域の沿岸部の小中学校にアンケートをしたところ、7割近い学校が、自由記述欄に対策の課題を書いた。

 「近くに高台がない。校舎の高さ以上の津波にどう対応するか」「児童の安全を確保しながら住民への対応をどうするか」

 条件整備への要望も強い。

 「少数の教員で安全に誘導しなくてはならない。教員配置で支援を望みたい」「財政が追いつかず、施設の補強や資材の充実に行政が対応できない」

 こうした不安や要望に、国や都道府県、市町村は丁寧に応えていくべきだ。特に国の補助制度の充実は欠かせない。

 自治体では、学校、教育委員会と一般行政の防災部局で、もっと協議する必要がある。

 教委の制度改革で、自治体の長が設け、教委と話し合う「総合教育会議」が来春から設けられる。

 震災を風化させてはならない。防災拠点としての学校の整備を、ぜひ取り上げてほしい。

沖縄知事選告示 「辺野古」で責任ある論戦を

 沖縄の米軍基地負担をいかに軽減するか。各候補者は、責任ある論戦を展開してもらいたい。

 沖縄県知事選が告示された。3選を目指す現職の仲井真弘多知事と、翁長雄志・前那覇市長、喜納昌吉・前参院議員、下地幹郎・元郵政改革相の新人3人が立候補した。

 最大の争点は、米軍普天間飛行場の移設問題とされる。

 自民党が推薦する仲井真氏は、「普天間問題の解決が最優先の課題だ」と訴え、名護市辺野古への移設を容認している。

 翁長氏は、「あらゆる手段を尽くして新基地を造らせない」として、辺野古移設に反対する。

 喜納氏は、移設先の埋め立て承認の取り消し・撤回を掲げる。下地氏は、移設の是非を問う県民投票の実施を唱えている。

 仲井真氏は前回知事選で県外移設を主張したが、昨年末、辺野古沿岸部の埋め立てを承認した。市街地にある普天間飛行場の危険性除去を最優先したためだ。

 辺野古移設は、基地負担の軽減と米軍の抑止力維持を両立させるうえで、最も現実的な選択肢だ。実現には大きな意義がある。

 日米両政府は昨年4月、辺野古移設を前提に、2022年度以降の普天間飛行場返還で合意した。移設が遅れれば、普天間だけでなく、合意に盛り込まれたキャンプ瑞慶覧など他の米軍5施設の返還も先送りされる可能性が高い。

 辺野古移設に反対する候補は、普天間の危険性を除去する具体的な代替策を示す必要がある。沖縄全体の基地負担の軽減が遅れるリスクについても、県民にしっかり説明しなければならない。

 防衛省は公有水面埋立法に基づき、必要かつ正当な手続きを踏み、埋め立ての承認を得ている。この法律には、喜納氏の言及する承認撤回などの規定はない。法令に基づく決定の一方的な変更は、行政権限の乱用にあたるだろう。

 疑問なのは、公明党が自主投票を決めたことだ。辺野古移設を支持する党本部は、反対する県本部を説得できず、仲井真氏の推薦を見送った。与党の一員として責任ある対応ではあるまい。

 民主党の姿勢にも問題がある。鳩山政権時代に普天間問題を迷走させた末、辺野古移設の支持に転換した。それなのに、今回の自主投票は無責任ではないか。

 最近は、尖閣諸島周辺で中国公船が領海侵入を繰り返すなど、沖縄県の平和と安全が脅かされている。知事選では、こうした問題も議論することが大切だ。

米量的緩和終了 未知の局面に踏み出すFRB

 米国による未曽有の金融緩和策が、大きな節目を迎えた。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が、国債購入などで大量の資金を世の中に供給する量的緩和策を、10月末で終了する。

 2008年秋のリーマン・ショック以降、3段階にわたる異例の量的緩和策を打ち出し、「100年に1度」と言われた世界的な経済危機を、ひとまず収束させたことは評価されよう。

 米国債などを買い続けた結果、FRBの資産は米国の経済規模の4分の1に相当する4・5兆ドル(約490兆円)に膨らんだ。

 景気が回復した一方で、巨額の資金が市中に出回る「カネ余り」が常態化している。放置すれば、投機によるバブルや、インフレの引き金ともなりかねない。

 ただ、これほど大量の資金を回収していく経験は、どの中央銀行にもない。FRBは今後、金融政策にとって「未知の領域」に踏み出すことになる。

 当面の焦点は、政策金利の誘導目標を「0~0・25%」としている事実上のゼロ金利政策を、いつ解除するかである。

 FRBは声明で、ゼロ金利政策を「相当の期間」維持するとし、これまでの表現を踏襲した。「早期利上げ」の観測を打ち消し、市場の動揺を避ける狙いだろう。

 昨年5月には、当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を示唆したことをきっかけに、世界的な株安を招いた。

 ショックを与えぬよう、FRBの意図を少しずつ市場に浸透させることが大切だ。丁寧な「市場との対話」が求められる。

 気がかりなのは、新興国に大量の「緩和マネー」が流入していることだ。米国の利上げ観測が一気に高まれば、米国への急激な資金還流を起こす恐れがあろう。

 新興国の通貨や株価の急落などで、世界経済を揺るがす事態は避けねばならない。

 FRBは、超金融緩和を脱却する「出口戦略」を、慎重に進めてもらいたい。

 米国以外に世界経済の牽引(けんいん)役が見当たらないことも、市場を不安定にしている要因だ。

 特に欧州は、経済政策で各国の足並みがそろわず、低成長とデフレ化の危機が拡大している。財政出動や一層の金融緩和など、機動的な対応が急がれる。

 日本も消費を中心に内需が冷え込んでいる。民間企業を活気づける成長戦略を、さらに加速させることが何より重要である。

2014年10月30日木曜日

労働時間改革で企業の創意工夫を競え

 会社に社員がそろう時刻を早めた新しいフレックスタイム制で、相互の連携を深める。夜遅くの残業を禁じ、仕事の密度を濃くする――。そうした働く時間の改革が企業の間で相次いでいる。

 仕事の生産性を上げる労働時間制度の見直しでは、働く時間の長さでなく成果で賃金を支払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」への関心が高い。しかし、それ以外にもやり方は多様だ。

 女性の働きやすさも労働時間改革では大事になる。それぞれの企業が創意工夫を凝らした改革が広がり、競争力の向上につながるよう期待したい。

 リコーと富士ゼロックスは始業と終業時刻を社員が柔軟に決められるフレックスタイム制を刷新し、勤務しなければならない時間帯(コアタイム)を広げた新制度を始めた。従来のコアタイムはリコーで午前10時15分から、富士ゼロックスで10時からだったが、両社とも9時からへ早めた。

 製品開発、営業、顧客対応など部門間の連絡をとりやすくするためだ。背景には、ものづくりからサービスへ収益源が移る「製造業のサービス化」の流れがある。

 複写機メーカーはハード(機器)単体の販売から、企業へのコンサルティングを通じて情報システムを提案するサービス事業に軸足を移しており、それには各部門の連携が欠かせない。事業構造の変化に合わせ、働き方も変える必要があることを示している。

 伊藤忠商事は午後8時以降の残業を原則禁止とし、午前5時~9時の時間帯に割増賃金を払って朝型勤務を促す制度を設けた。残業禁止で社員は仕事の優先順位をはっきりさせるようになり、早朝出勤で1日の業務の流れがつかみやすくなったという。仕事にメリハリをつけた好例といえよう。

 長時間労働を是正して効率的に働ける仕組みをつくることは、専門性のある外国人を採りやすくし、子育て中の女性に十分に力を発揮してもらうためにも急務だ。

 1日の勤務時間を6時間などとする「短時間正社員」の制度は女性が働きやすい環境づくりに役立つ。企業は積極的に導入を検討してほしい。

 ホワイトカラー・エグゼンプションは企業の競争力を高める手段のひとつにすぎない。労働規制の見直しを待たずに、働く時間の制度改革に自ら踏み出すことが企業を強くする。

閣僚増員は慎重に検討せよ

 政府が閣僚を1つ増やす法案を国会に提出した。2020年の東京オリンピックに備え、専任閣僚を置くためだ。五輪は成功させねばならないが、6年も前から専任閣僚が必要かどうかは議論の余地がある。行政改革に反しないかどうかなどを与野党は慎重に検討してほしい。

 昨年9月に五輪の東京開催が決まると、安倍晋三首相は直ちに五輪相設置を決め、下村博文文部科学相に委嘱した。五輪準備は多くの省庁が関係することから、政府は今度の法案が成立し次第、兼務から専任に格上げする方針だ。

 首相を除く閣僚の数は、1885年の内閣制度発足時は9人だった。省庁新設などで徐々に増え、1974年に20人になった。2001年の省庁再編時に初めて減らし、内閣法で「14人以内。特別に必要がある場合は3人を限度に増加できる」と定めた。

 その後の内閣が常に特別3枠をフル活用してきたことからも、永田町に「大臣病」患者がいかに多いかがうかがえる。安易な増員は厳に慎まねばならない。

 政府は一昨年、東日本大震災の復興相を置くため、閣僚枠を特例で1増した。あれだけの国難だったのだから、当然の措置である。五輪準備はそれに匹敵するだろうか。半世紀前の東京五輪の際に五輪相を置いたのは開催の2年前、専任にしたのは3カ月前だった。

 法案は専任の五輪相を置くのは21年3月までとしている。気がかりなのは、スポーツ庁設置構想などと絡め、自民党内から「スポーツ相などの形で1増枠をいずれ恒久化できるのではないか」と期待する声が聞こえてくることだ。1増する場合には、五輪終了後は必ず元に戻すと安倍首相に確約してもらいたい。

 政治主導を強化するには閣僚がもっと多くてよい、という意見がある。一理あるが、だとすれば現在の省庁体制が適正か、内閣府の肥大化にどう歯止めをかけるのかなどの議論と一体で考えるのが筋だ。慌てて決める話ではない。

派遣法審議―目指すべきは均等待遇

 労働者派遣法改正案の国会審議が始まった。

 派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結んで、派遣先企業で働いている。派遣先で仕事がなくなると派遣会社から解雇されたり、賃金を安くされたりする問題がある。このため、派遣労働が広がらないよう、派遣先が派遣社員を受け入れる期間は上限3年に規制されている。ただし、専門的だとされる26業務では期間の制限はない。

 この「業務」による規制がわかりにくいという主張が、派遣業界や経済界に強かった。派遣労働者にとっても、上限を業務で決めると、例えば前任者が2年をこなすと、後任の派遣社員が1年しか働けない事態が起きてしまう。

 改正案は、業務による規制を見直し、派遣会社と派遣社員の間の契約期間によって区別することにした。期間を決められている有期雇用派遣と、定年まで働ける無期雇用派遣だ。同じ派遣先で働ける期間は、前者が上限3年、後者は無制限となる。

 派遣会社が無期雇用派遣を増やせば、派遣社員から見ると、解雇の不安は緩和される一方で、働き方が派遣というスタイルに固定される恐れもある。有期雇用派遣の場合は、3年ごとに派遣社員を代えれば良く、業務自体が派遣に固定化されてしまう可能性が残る。国会での論議も、この見方を巡って賛否が割れている。

 しかし、目指すべき方向ははっきりしている。同じ価値のある仕事をしている人には同じ待遇を義務づける「均等待遇原則」を導入することだ。

 この原則があれば、派遣会社に支払うマージンが必要な派遣労働は直接雇用よりも割高になり、コスト目的で派遣労働を使うことへの歯止めにもなる。

 改正案のとりまとめ過程で均等待遇原則の導入が提案されたが、経営者側の反対で見送られた経緯がある。確かに、いきなり賃金の均等待遇を実現させるには、無理もあるだろう。しかし、交通費などの手当や福利厚生面で待遇に違いがある。まず、そんな扱いをやめて、原則の実現を目標にするべきだ。

 改正案には、これまで一部の派遣会社に認められていた届け出制をやめ、全てを許可制にすることも盛り込まれた。条件を満たせば届け出だけですんだことが、不適切な業者がはびこる一因になっていたからだ。

 改正案に盛り込まれた改善の流れを太くするためにも、派遣労働者の所得が向上する道筋をつけること。その責任が、この国会にはある。

ウクライナ―親西欧の改革望む民意

 民意は欧州への統合と改革の推進をはっきり求めた。

 ウクライナの議会選挙でポロシェンコ大統領の与党など親欧州派勢力が圧勝した。これで、格段に強い基盤をもつ連立政府が発足する方向となった。

 1991年の独立後、ウクライナの議会は、親西欧派と親ロシア派が拮抗(きっこう)しつつ争う不安定な状況が続いてきた。親西欧派だけで安定多数を占めるのは、初めてのことである。

 今年2月の政変で親ロシア派の前大統領が退くと、ロシアはクリミア半島を併合した。さらに東部の親ロシア派武装勢力を後押しして内戦を激化させ、新政権がとった欧州連合(EU)への加盟政策などの阻止へ向けて圧力をかけてきた。

 だが、ポロシェンコ氏が大勝した5月の大統領選に続き、国民はロシアの介入を真っ向から拒む選択を示した。

 武装勢力の一部支配地域で投票ができなかったとはいえ、公然と主権や領土を侵す力ずくのやり方が、自らの思惑と逆の方向にウクライナ国民の大多数を向かわせたことは明らかだ。

 東部での内戦は9月に停戦合意が成立した後も、政府軍と親ロシア派武装勢力との間で局地的な戦闘が続いている。これまでの紛争による死者の総数は、約3700人に達した。

 停戦合意では、武装集団の国外撤退や、ロシアの兵力や武器の流入が指摘される国境の管理強化などが決められていたが、遅々として進んでいない。

 ロシアが義務を果たしていない責任は大きい。米欧が制裁を緩めずにいるのは当然だ。

 ロシアの経済は、制裁の影響と主要輸出品である石油の安値で苦境を深めている。プーチン大統領はウクライナ政策をただちに転換し、米欧との建設的な協力関係の回復を図るべきだ。

 ウクライナの側にも、課題は山積みだ。人口4500万人の大国で、地味豊かな黒土地帯や天然資源にも恵まれている。

 なのに汚職や腐敗、絶え間ない政争、極度に安い公共料金など人気取り本位の政策が、この国を深くむしばんできた。

 莫大(ばくだい)な対外債務を抱え、経済は破綻(はたん)寸前だ。ロシアとの間で続く天然ガス料金の未払い問題は、またも供給停止の余波を欧州に及ぼしかねない。

 EU加盟を本気で目指すなら、痛みを伴う改革に敢然と取り組むしかない。地方分権の推進やロシア語系住民ら少数派の権利保護に真剣に努め、東部の混乱を収束させることも必要だ。圧勝劇を一時の幻影で終わらせてはならない。

政治資金問題 報告書監査の実効性を高めよ

 政治とカネを巡る閣僚や国会議員の不祥事が相次いでいる。国民の信頼を回復するため、与野党は、再発防止策を早急に検討すべきである。

 宮沢経済産業相が代表を務めていた自民党支部は2007、08年に、外国人が株式の過半数を保有する企業から計40万円の政治献金を受け取っていた。

 外国人や、外国資本の企業などからの献金を禁じる政治資金規正法に抵触する可能性がある。宮沢氏は、企業の実態を知らなかったと説明したが、資金管理が甘かったことは否定できない。

 民主党政権当時は、前原外相が在日韓国人から献金を受けていた責任を取って辞任した。菅、野田両首相も外国人からの献金問題で非難された。類似の問題が後を絶たないのは残念である。

 宮沢氏の資金管理団体がSMバーに政治活動費を支出していたことも発覚している。これ以外に不適切な支出がないか、厳格な点検と丁寧な説明が求められる。

 望月環境相の関連政治団体は、08、09年分の政治資金収支報告書に交際費として計約660万円を計上すべきだったのに、本来は関係がない賀詞交歓会の経費に付け替えて記載していたという。

 望月氏は、経理を担当していた妻が死去したため、付け替えの理由など詳細は確認できない、と釈明している。だが、望月氏の監督責任は免れない。関係者からの事情聴取など、本格的な調査を行い、結果を公表せねばならない。

 野党も人ごとではない。民主党の枝野幹事長の関係政治団体は、11年の新年会収入約240万円を記載していなかった。枝野氏は、記載ミスを認めて陳謝した。

 政党交付金制度の導入で政治資金には公金も含まれる。

 女性2閣僚の辞任後も、問題が続出している。国民の政治不信を助長しかねない事態だ。

 国会議員の関係政治団体は、07年に改正した政治資金規正法によって、09年分の報告から、公認会計士や税理士らによる政治資金監査を義務づけられている。

 ただ、実態は、領収書通りに記載されているかなどの確認にとどまり、支出の適正性などはチェックされない。監査の実効性を高める方策を検討してはどうか。

 報告書を作成する会計担当者や秘書らの能力向上も欠かせない。自民党は、所属議員秘書らを対象に、報告書などに関する研修会を検討している。こうした取り組みを積極的に進め、幅広く定着させることが急務である。

新ODA大綱案 平和目的の軍支援は進めたい

 政府開発援助(ODA)をより戦略的に活用し、日本の外交力を強化することが重要である。

 政府が、ODA大綱に代わる「開発協力大綱」の原案を公表した。大綱改定は11年ぶりで、意見公募を経て12月に閣議決定する。

 原案は、道路建設、災害救助など、軍隊の非軍事目的の活動に対する支援について「実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」として、容認したのが特徴だ。

 外務省の有識者会議が6月、軍隊への民生目的のODAに関して「一律に排除すべきではない」と提言したのを踏まえたものだ。

 現在は、軍隊が関与する活動へのODAは厳しく制限されている。軍関係者に対する研修も難しい。だが、途上国では、大規模災害の対処、復興、感染症対策などで軍隊が活動する例が多い。

 こうした実情に合わせて、ODAを活用するのは妥当である。

 安倍政権が掲げる「積極的平和主義」とも合致しよう。

 防衛省は、東ティモールでの車両整備など、軍関係者の人材育成のために自衛官を派遣し、能力構築支援活動を行っている。こうした活動とODAを組み合わせ、効果を高めることが大切だ。

 原案は重点課題として、「自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配」などの普遍的価値に基づく支援を明示した。中国を念頭に、東南アジア諸国などとの連携を強化するのは適切である。

 平和構築支援として、途上国の海上保安や治安維持、テロ対策の能力強化などを列挙している。

 こうした支援は、日本の海上交通路(シーレーン)の安全確保につながり、国益に資する。

 原案は、経済協力開発機構(OECD)の基準では「ODA卒業国」となった中所得国も、新たに支援対象とすることを明記した。災害に弱い太平洋やカリブ海の島嶼とうしょ国などを想定している。

 従来のODAの枠にとらわれず柔軟な支援を可能にすることは、日本の国際貢献の幅を広げる。国連安全保障理事会の改革などで、より多くの国の協力を得るための有効な外交カードとなろう。

 ODAと、国際協力銀行など政府系金融機関や民間企業による投融資を連動させ、相乗効果を上げる考えも原案に盛り込まれた。

 菅官房長官は「ODAを触媒に、官民一体でインフラ整備を支援することは重要だ」と語る。ODAを呼び水に日本企業の海外活動を拡充し、日本と被支援国の双方が利益を得る関係を構築したい。

2014年10月29日水曜日

失速経済の再生求められるブラジル大統領

 ブラジル大統領選挙の歴史で最も僅差の勝利という。再選にこぎ着けたとはいえ、ジルマ・ルセフ大統領(66)は苦戦した。最大の原因は同国経済の失速。大統領は危機感をもって経済の立て直しに取り組まなくてはならない。

 決選投票で大統領の得票率は52%に届かなかった。対抗馬のアエシオ・ネベス上院議員(54)の得票率は48%を超えた。

 第1期ルセフ政権の経済運営は「失敗した」とするネベス候補の批判が、広く共感を集めた。大統領が再選を決めたのを受け同国の通貨レアルの対ドル相場や株価が急落したことからも、これまでのルセフ政権の経済運営に対する不信の広がりは明らかだ。

 ブラジル経済はルラ前大統領の時代に力強い成長軌道に乗ったかにみえた。実質成長率は03~06年の第1期ルラ政権の下での年平均3.5%から、07~10年の第2期政権での4.6%に加速した。BRICSと呼ばれる代表的な新興国の一角を占め、世界経済を引っ張るとの期待が高まった。

 ところがルセフ政権下では年率3%にとどかない低成長に逆戻りした。今年は上半期に景気後退に陥り、通年では0.3%成長にとどまるとの見方が強い。

 経済の失速は外部要因によるところが小さくない。一つは中国の景気減速とそれにともなう1次産品価格の下落だ。米金融当局が量的緩和政策を縮小し始めた影響もある。資本が流出して通貨レアルが下落し、景気が低迷しているのにインフレは高止まりするという困難に直面している。

 と同時に、複雑な税制や硬直的な労働制度など、経済の効率向上や外資の流入を妨げているとされる問題による面も大きい。「ブラジルコスト」と呼ばれるこうした問題を打破するための改革こそ、第2期ルセフ政権の最も重要な課題といえる。

 2年後にはリオデジャネイロ五輪が控える。今年のサッカー・ワールドカップはブラジル社会の亀裂を印象づけた半面、景気浮揚効果は弱かった。次の世界的なイベントは生かしてもらいたい。

 景気の低迷もあって日本との経済関係が拡大する勢いは弱い。再選を決めたあとにルセフ大統領が強調した工業の振興など、日本と同国の経済は補い合える部分が少なくない。長期的な視野から世界第7位の経済大国に取り組む戦略を、日本企業は求められる。

富士山噴火への備えは万全か

 戦後最悪の火山災害になった御嶽山(長野・岐阜県)の噴火から1カ月たち、火山周辺の自治体が防災計画の見直しに動いている。富士山の大規模噴火を想定し、静岡など地元3県と国による初の合同訓練も今月中旬に行われた。

 いま富士山が噴火する兆しはない。だが1707年の宝永噴火から300年以上も静かな状態が続き「いつ噴火しても不思議でない」と火山学者は口をそろえる。

 大規模に噴火すれば溶岩流や火砕流が山麓を襲い、首都圏で最大数十センチの火山灰が積もる。交通機関のマヒや停電など、国民生活への影響は甚大だ。

 国などは2004年、溶岩流や火山灰などの到達範囲を示したハザードマップを作り、被害額は2.5兆円と試算した。これをもとに周辺自治体も対策を定めた。

 それから10年。なお心配な点が多い。東日本大震災など大きな災害のたびに「想定外」の被害が起きてきた。富士山の防災計画も机上の対策に終わっていないか、国や自治体は見直すときだ。

 まず問題になるのは、噴火の前兆とみられる現象が観測された場合に情報をどう出すかだ。御嶽山では噴火の数週間前に火山性の地震が観測されたが、登山者に周知されず、被害を広げた。

 富士山の場合、国が「噴火の可能性に言及した火山情報」を順次発表することになっている。だが住民の避難指示はどの段階で出すのか、首都圏の住民や企業は何から手をつければよいのか、あいまいだ。国の中枢機能を守る手立ても具体性を欠く。これらを盛った対策をつくる必要がある。

 「噴火は宝永と同規模で半月で終わる」というシナリオしか想定していないのも問題だ。噴火が長期化したり大地震と連動したりする事態も考えておくべきだ。

 噴火の予測はいまの科学では難しい。「前兆情報」が空振りになるおそれもある。不確実さを伴う情報を、混乱を防ぎながらどう発信するか。気象庁や専門家だけの検討課題ではない。

再稼働の地元―立地自治体に限るな

 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機が立地している鹿児島県薩摩川内市がきのう、再稼働に同意した。市議会の採決を受け、岩切秀雄市長も同意を表明。再稼働に至る地元の同意手続きが一つクリアされたことになる。

 だが、政府も電力会社も、これで地元の理解を得られたと考えるべきではない。

 原発再稼働に関して、地元の同意も自治体の範囲も法的な定めはない。伊藤祐一郎・鹿児島県知事は自らの判断で、知事、県議会、それに原発立地自治体の薩摩川内市長、同市議会と定めた。

 だが、もし過酷事故が起きれば、被害は立地自治体にとどまらない。福島第一原発を見れば明らかだ。同意を得る対象を立地自治体に限るべきではない。実際、周辺自治体は再稼働に必ずしも納得してはいない。

 原発から最短5・4キロのいちき串木野市や、市の北半分が30キロ圏内に入る日置市の議会は、再稼働の同意対象に自分たちの市も含めるよう求める意見書を可決した。

 30キロ圏に一部がかかる姶良(あいら)市議会も、7月に川内原発の再稼働に反対し、廃炉を求める意見書を可決。電源立地地域対策交付金や使用済み核燃料税が入ってくる立地自治体の議会に公正な判断ができるのか。そんな不信感が語られている。

 政府が同意自治体の範囲を地元の判断に丸投げしているために起きている問題だ。

 30キロ圏の5カ所で住民説明会が開かれたが、必ずしも理解が進んだとは言えない。県が説明対象を新たな規制基準に基づく審査に限ったため、避難計画の説明もなかった。会場では「再稼働を判断する材料は不十分」との声も上がった。住民にすれば当然である。

 川内原発の場合、巨大噴火の可能性や予兆観測について火山学者から異論が出るなど、不安が解消されたわけではない。

 避難計画の立案や実行は県と市町村にゆだねられている。県はきょう、避難計画を含む補足説明会を日置市で開くが、さらに機会を増やすべきだ。幅広い地元の人々の疑問や不安に正面から応える責任が、知事や県議会にはあるのではないか。

 今後、11月上旬にも鹿児島県議会で再稼働の是非を採決した後、伊藤知事が再稼働の是非を判断する。その際、周辺自治体や住民の意向をくみ上げる努力を重ねるべきだ。それこそが「3・11」後の政治と行政の責任だろう。再稼働の地元とは、どこなのか。川内原発でまず、明確に示してほしい。

エボラ対策―冷静な対処が試される

 エボラ出血熱は、重い感染症である。だが、その対処はあくまで冷静でなければならない。そのことをいま一度、肝に銘じておきたい。

 リベリアに滞在後、東京・羽田空港に着いた男性の感染が疑われ、おとといから都内の指定医療機関に入院している。

 きのうまでの血液検査では陰性だったが、引き続き数日程度経過をみることになった。

 世界保健機関(WHO)によると、リベリアとシエラレオネ、ギニアの西アフリカ3国での感染拡大は依然続いている。世界全体で今回の感染者は1万141人に達し、うち4922人の死亡が確認されている。

 ただ、現状はこの3カ国におおむね封じ込められている。制御を失った状態ではない。

 流行地との往来が盛んな欧米では、発熱などで感染が疑われる例が何人も出ているが、これまでのところそのほとんどがエボラではなかった。

 欧米での発症確認は、米国4人、スペイン1人の5人、死者は米国の1人だけだ。

 これはエボラが患者の血液などを介してしか感染しないからだ。新型インフルエンザのようにせきのしぶきなどで感染するわけではない。流行地以外では限られた患者に適切に対処すれば感染拡大は防げる。

 もちろん、日本でも感染者がいつ確認されるかわからない。日本政府は、流行国への滞在歴がある入国者全員に毎日体温など体調を報告してもらうことにした。

 国内で発症した場合、指定医療機関に誘導することを含め、現段階ではそうした措置を徹底することが肝要である。

 一部の国や地域では、3カ国からの渡航を禁止したり、症状のない入国者を強制隔離したりする動きもある。だが、それは人権を極端に制限するだけでなく、感染症対策を徹底するうえで逆効果となりかねない。

 過剰ともいえる隔離や検査を強要すれば、流行地に渡航した人たちが検疫などで虚偽申告したり、密航しようとしたりする可能性を高める。そうなれば流行の制御が難しくなる。

 米ニュージャージー州では、流行地でエボラと闘った看護師が、症状もないのに一時強制隔離され、犯罪者のような扱いを受けたと訴えている。非科学的な対応で医療者の士気をくじくようでは、有効な態勢づくりはおぼつかない。

 国内の備えを地道に整えつつ、流行地での対策には国際社会で結束して取り組む。その着実な努力が求められる。

エボラ熱対策 国内発生に万全の態勢整えよ

 日本国内でエボラ出血熱患者が確認された際、速やかに対応できる態勢を築かねばならない。

 エボラ出血熱の感染が西アフリカで拡大し続けている。欧米にも飛び火する深刻な状況だ。日本政府は28日、関係閣僚会議を開き、国内の対策を徹底する方針を確認した。

 安倍首相は、感染症対策を担う塩崎厚生労働相に対し、国家安全保障会議にも状況を報告するよう指示している。患者が発生すれば、国内に不安が広がるだろう。経済活動にも支障が出かねない。

 安全保障の観点を重視するのは当然と言える。

 東京・羽田空港で27日、リベリア滞在後に欧州経由で到着した男性に発熱症状が見つかり、政府の指定医療機関に搬送された。検査の結果、幸い陰性だった。

 国境を越えた人の往来が活発な中、日本もアフリカ発の感染症と無縁でないことを印象づけた。

 男性は、リベリア滞在を自己申告したため、関係機関が速やかに対応できた。厚労省は、この男性が搭乗していた便の乗客名簿を確保して万が一の事態に備えた。機内の消毒も行われた。

 ただ、陽性だった場合には、機内で乗客や乗務員に感染する可能性がゼロではない。申告がない場合の対処にも不安が残る。

 厚労省は既に検疫を強化している。国際便が到着する空港では、入国者全員に流行国での滞在歴がないかを尋ねている。

 エボラ出血熱は、発症までの潜伏期間が最長21日程度と長いため、該当者には、症状がなくても1日2回、健康状態を検疫所に報告するよう義務づけている。これを徹底せねばならない。

 検疫所と入国管理局が連携を密にし、可能な限りの水際対策を講じることが求められよう。

 対策を強化しても、検疫のすり抜けは起こり得る。国内の医療体制を充実させることが肝要だ。

 全国に45か所の指定医療機関があるものの、9県では未整備だ。他県への搬送態勢を整えておく必要がある。西アフリカや欧米では医師や看護師の二次感染が多い。国内でも、防護服の着脱法などの訓練が欠かせない。

 西アフリカでは感染者数が1万人を超え、死者は約5000人に上る。来年初めには感染者が140万人にまで増えるという最悪シナリオ通りの勢いである。国際社会が協力し、多発地域での感染封じ込めに当たらねばならない。

 日本も、医療支援や治療法の研究開発などで貢献すべきだ。

アジア投資銀 過剰な中国主導で大丈夫か

 中国の主導する新たな国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)が、設立されることになった。

 アジアのインフラ整備促進を目的に掲げ、中国が創設を提唱していた。インドや東南アジアの9か国など21か国が、2015年中の発足で基本合意した。

 アジアでは20年までに、鉄道や道路などのインフラ投資の需要が、総額8兆ドル(約860兆円)に上るとの試算もある。

 アジア開発銀行(ADB)など既存の国際金融機関だけで、これほどの巨費を賄うのが難しいのも事実である。

 インフラ開発を成長の原動力としたいアジア新興国が、AIIBに期待するのは理解できる。

 一方、日本は参加を見送った。AIIBの意義や、今後の運営方針が不透明だからだ。オーストラリアや韓国も不参加だった。

 中国は今年7月、ロシアやインドなどと協力し、新興5か国(BRICS)による「新開発銀行」を創設することも決めた。

 どちらも、国際通貨基金(IMF)体制を主導する日米欧に対抗し、新たな国際金融秩序を構築する思惑があるようだ。

 特にAIIBは、中国国内で行き詰まる国有企業に、アジアのインフラ整備という巨大な市場を提供する狙いがあるのだろう。

 4兆ドルに膨らんだ外貨準備を有効活用し、「中国シンパ」の国を増やす戦略もうかがえる。

 気がかりなのは、AIIBに対する中国の影響力が、突出して強くなりそうなことである。

 北京に本部を置き、資本金は1000億ドルを目指す。出資比率は経済規模に応じて決める方針で、中国が過半を占める見通しだ。

 国際機関の名の下で、中国企業の受注を条件とする「ひも付き」の融資が乱発され、中国を利する開発案件ばかりが優先されることはないか。融資審査が甘くなれば、環境や人権を無視した開発を助長する恐れもある。

 中国に過度に依存した金融支援の枠組みでは、中国経済が変調をきたした際に、開発プロジェクトが滞るリスクも大きくなる。

 アジア地域の健全な発展に資する運営が行われているか、日米などが連携して、監視を強めることが重要だ。

 潤沢な中国マネーを、アジアの成長に生かす視点も忘れてはならない。ADBの最大の出資国である日本は、ADBとAIIBが適切な補完関係を築けるよう、働きかけるべきである。

2014年10月28日火曜日

欧州は金融の目詰まり解消し景気回復を

 ユーロ圏経済が低迷している。4~6月期に経済成長はとまり、域内銀行による企業向けの貸し出しは減り続けている。銀行の貸し渋りがさらに経済を冷え込ませ、物価が持続的に下落するデフレに陥りかねないとの懸念が金融市場に出ている。

 こうした不安を払拭しようと、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の銀行を対象にした資産査定の結果を発表した。問題を指摘された銀行が速やかに自己資本を増強するなどして、金融の目詰まりを解消すべきだ。

 資産査定は、経済成長率がマイナスになったり、株価や住宅価格が下落したりした場合、ユーロ圏の銀行が十分な自己資本を保てるかどうかを点検する目的で始められた。

 十分な自己資本があるとして「合格」した銀行は、企業に積極的にお金を貸す方針に転じやすくなる。「不合格」の銀行が増資をして経営基盤を強化すれば、域内全体で銀行の健全性は格段に増す。ユーロ圏に対する投資家の信認も回復させようというねらいが資産査定にはこめられていた。

 ユーロ圏の主要130銀行のうち「不合格」となったのは、イタリアなど南欧勢を中心とした25行だ。このうち12行はすでに約150億ユーロの増資をした。残る13行も増資の準備を急いでほしい。

 過去2回の資産査定では、「合格」とされた銀行がその後に経営不振に陥るなど、信頼性に大きな疑問符がついていた。

 今回の査定はデフレのケースを想定しない点に甘さが残ったとはいえ、一定の評価はできる。過去2回と比べるとたくさんの「不合格」を出し、厳しく銀行の経営状態をあぶり出そうとしたからだ。「合格」した銀行も貸し出しを増やし、企業の資金需要にこたえて景気を下支えする必要がある。

 ユーロ圏主要行の大半で経営体力の回復が確認できた今、欧州中銀はしっかりと金融緩和策を実施し、景気と物価の安定に注力する時だ。低成長とデフレが共存する「日本化」を防ぐことは、世界経済の成長にも貢献する。

 ユーロ圏の銀行監督はこれまで各国が個別に手がけてきたが、11月からは「銀行同盟」として欧州中銀の下に集約される。さらに破綻処理の枠組みや預金保険制度の一元化も着実にすすめ、危機の再発を防ぐための強固な体制をつくることも忘れてはならない。

TPP成否は日米の呼吸次第

 シドニーで開いた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は、知的財産権の保護など次世代の通商ルールづくりで、多くの課題を積み残したまま終わった。決着を目指す各国の意気込みは感じるが、これまで目安としてきた年末までの大筋合意が達成できるかどうか予断を許さない。

 11月に入るとTPP交渉国の首脳がアジア域内に集まる国際会議が集中する。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議から東アジア首脳会議、20カ国・地域(G20)首脳会議まで続く一連の首脳外交の舞台を、最大限に生かさなければならない。

 目指すのは地域の経済安定を支える貿易・投資の枠組みづくりである。交渉を主導する日米両国の政権は、大局観を持って交渉に臨むべきだ。それぞれが国内に抱える特定業界の利害関係に目を奪われていないか、何が国益なのか、日米の政権はいま一度、自らにしっかり問い直してほしい。

 中間選挙を控える米オバマ政権は、自動車業界を手厚く保護する姿勢を崩さない。輸出志向が強い農・畜産業や医薬品、著作権など個別業界の要求に振り回されている印象も強い。安倍政権は農業改革の看板をかかげるが、市場開放と農業制度改革に大胆に踏み出す意気込みは感じられない。

 政治的に難しい国内事情を抱えるのはどの国も同じだ。だが、現在のTPP圏の経済の約8割を占める日米の責任は格段に重い。保護主義勢力に迎合せず、率先して改革を実行し、環太平洋に安定した経済秩序を築く責務がある。これこそが国益にほかならない。

 劇的な成果こそ見えないが、シドニー閣僚会合では実質的な協議が進展した。今後の焦点は、協定締結に向けて高まった交渉国の機運を、どう維持するかに移る。

 そのためには米国の中間選挙後に、まず日米が呼吸を合わせて関税交渉を決着させるべきだ。大国のエゴや特定業界の利害調整ではなく、地域全体の成長を追求する姿勢を率先して示してほしい。

大学入試―実現できる制度設計を

 大学入試をてこに、高校や大学の教育、さらには社会の意識を変える。文部科学相の諮問機関の中央教育審議会が、そんな大胆な答申案をまとめた。

 ポイントは3点ある。

 高校では基礎的な知識が身についているかを見る「高等学校基礎学力テスト」を導入する。

 大学入試では、センター試験を廃止し、知識の活用力を問う「大学入学希望者学力評価テスト」を始める。大学の個別試験では、面接や志望理由書など「人が人を選ぶ」入試をする。

 答申案は言う。「試験の点数のみに依拠した『公平性』の観念という桎梏(しっこく)は断ち切らなければならない」

 たしかに、高校生や大学生の学力を担保する新たな仕組みは必要だ。18歳人口が減って「大学全入時代」を迎え、受験を勉強の動機づけにすることが難しくなった。学力試験を経ない推薦やAO(アドミッション・オフィス)入試を、入学者確保の手段とする大学も増えている。

 答申案は、こうも訴える。これからの社会では知識を覚えるだけでなく、自ら課題を見つけて解決を探り、多様な人々と協働する力が必要だと。その方向性にうなずく人も多いだろう。

 だが問題は、描いた理念をどう実現するかである。その点で答申案はまだまだ生煮えだ。

 まず入試で見ようとする「主体的に生きる力」「協働する力」などの新しい学力は抽象的なままだ。評価手法の具体的な検討もこれからだ。高校の学習内容を定め、テストの土台となる学習指導要領は、中教審にまだ諮問さえされていない。

 「学力評価テスト」に「合教科・科目型」「総合型」の問題を盛り込むともいうが、その問題例は示されていない。

 「基礎学力テスト」は高校2、3年生に年2回ほど行うというが、部活動や行事への影響はどうなるのか。

 個別試験も、一般入試だけで5万人も受ける大学で、どこまで記述や面接など、きめ細かな選抜ができるのか。選抜の基準をどうつくるかも問われる。運営の負担も並大抵ではない。

 改革は、高校や大学の協力なしには進まない。子どもや保護者を不安にさせないよう、具体案を示し、実現可能な制度設計をする必要がある。

 入試は過熱する競争の弊害が問題になり、日本の教育問題の焦点であり続けた。特に大学入試は小学校からの教育のありようを一変させる影響力を持つ。

 国は専門家会議を設け、答申後1年をめどに具体化するという。拙速ではない議論を望む。

大阪都案否決―正攻法でやり直そう

 大阪市を五つの特別区に分割し、広域行政は大阪府に一元化する大阪都構想案が、大阪府・市議会で否決された。橋下徹市長が率いる大阪維新の会以外の主要会派が反対した。法に基づき、都構想の是非を問う住民投票はできなくなった。

 橋下氏は「議会ではなく住民が決める問題だ」と反発し、住民投票をするべきかを問う別の住民投票条例案を出す考えを示した。首長権限で議会承認を飛ばす専決処分も視野に入れる。

 だが、議会承認は、法に明記された要件だ。市議会が新たな条例案を通す可能性も低い。民意を直接問いたいという橋下氏の思いは理解できなくもないが、専決処分のような強引な手段では、都構想への住民の支持が失われるリスクもあろう。

 やり直したいなら、橋下氏はあくまで正攻法で臨むべきだ。

 議会と橋下氏の対立が深まったのは、都構想案をまとめる法定協議会をめぐってだった。

 維新は3月の出直し市長選での橋下氏再選を根拠に、反対派府議を協議会から締め出した。市議会の反対派も協議をボイコットし、都構想案は維新議員だけで完成した。民主的な正統性は疑問というしかない。

 もっとも、自民や公明など反対派も責務を果たしたとはいえない。市議会の集中審議には橋下氏を呼ばず、事務方にだけ質問した。弁舌を封じる作戦らしいが、あまりに情けなかった。

 橋下氏も各党も、冷静に考え直してほしい。いま取り組まなければならないことはなにか。

 大阪は深刻な危機に直面している。高齢化と生活保護受給者の多さは群を抜き、東京との経済格差は拡大するばかりだ。

 橋下氏は府市の二重行政こそが元凶とし、解決策として都構想の具体化に力を注いできた。賛否はおくとしても、問題提起としての意義は大きかった。

 都構想案に対しては「新しい特別区が財政的に立ち行くか」「行政コストがかえって増えないか」といった重大な疑問がいくつも出ている。

 橋下氏は「車を買うのに設計図を一から見るか」と語り、住民投票で結論を出すのが先だというが、それは乱暴すぎる。大阪市をひとたび解体すれば、もうやり直しはきかない。

 維新以外の各党は、法定協議会に反対派を戻すことを決め、協議の再開を求めている。橋下氏はぜひ応じてもらいたい。

 来年4月の府・市議選まで半年を切った。大阪の改革は都構想で進めるべきか否か。有権者が判断できるよう、橋下氏と野党は誠実に議論してほしい。

原発賠償条約 事故収束の加速にも有益だ

 原子力事故の損害賠償に関する国際条約に加盟する意義は大きい。

 米国などと緊密な協力関係を築き、東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の加速にもつなげたい。

 政府が、原発事故の賠償の枠組みなどを定めた「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」に加盟する方針を決め、その承認案と関連法案を国会に提出した。今国会での成立を目指す。

 原発事故は発生国だけでなく、周辺国にも被害が及びかねない。CSCは、万一の際に賠償などが円滑に進むよう、国際的なルールを決めておく狙いがある。

 すでに米国、アルゼンチン、モロッコなど5か国が加盟しているが、原発の出力合計の要件を満たしておらず未発効だ。日本が参加すれば発効条件を満たす。

 この条約は原発事故に備え、各国が最低470億円を用意するよう義務づけている。賠償額がそれを超えた場合は、一部を加盟国の拠出金で支援するが、5兆円に迫る福島第一原発の賠償額を考えれば、備えが十分とは言えない。

 むしろ、大きな効果が見込めるのは、賠償責任の所在などが明確化される点だ。

 CSCは、事故の賠償責任は全て電力会社が負い、裁判は事故の発生国で行うと定めている。

 福島第一原発の事故収束や廃炉作業は、米国技術の活用が求められている。だが、米国企業は、新たな事故が起きた場合、米国で被害者に巨額の訴訟を起こされると懸念し、二の足を踏んでいる。

 条約締結で、今後の賠償責任を東電が負うことが明確になれば、積極的な協力が期待できよう。

 福島の事故収束は、汚染水処理でつまずいている。前例のない廃炉作業も、日本単独での取り組みには限界がある。

 スリーマイル島事故に対処した米国の技術やノウハウを、溶融した核燃料の取り出しなど困難な作業に生かしたい。

 CSC加盟は、日本メーカーにとっても、原発輸出に伴うリスクを軽減する利点がある。

 世界で建設中や計画中の原発は200基近くに上る。日本の原発輸出には、世界最高レベルとされる安全性能や安全基準を国際的に広める意味がある。

 原発事故が起きた場合に備えた法整備が不十分な新興国も多い。日本メーカーが輸出を予定しているトルコやベトナムも、CSCに未加盟だ。政府はこれらの国に加盟を呼びかけ、原発を巡る国際協力の基盤整備に貢献すべきだ。

「イスラム国」 過激派の勧誘に惑わされるな

 テロを正当化する過激派の宣伝が、先進国で新たなテロを生む。

 この悪循環を断ち切らねばならない。

 カナダの首都オタワで中東行きを計画していたイスラム教徒の男が、兵士1人を射殺した後、国会議事堂内で銃を乱射した。男は衛視に射殺された。

 モントリオール郊外や米ニューヨークでも、男が兵士や警官を殺傷する事件が起きた。

 いずれの事件の犯人も、イスラム過激主義に共鳴していたことが分かっている。ニューヨークの事件の犯人は、過激派組織「イスラム国」のサイトを見ていた。

 イラク、シリア領内で勢力を拡大するイスラム国の過激思想が、一連の事件の背景にある可能性は否定できまい。

 イスラム国には、各国の若者が戦闘員として加わっている。先進諸国は、戦闘員が帰国してテロを起こす事態を警戒していた。

 だが、今のところ、一連の事件の犯人が戦闘員だった形跡はない。先進国における“国産テロ”と言えよう。新たな脅威だ。

 単独犯であることも特徴だ。仲間との謀議などがないため、捜査当局にとっては、事前の察知が難しい点が大きな問題だろう。

 日本では、イスラム国に外国人戦闘員として加わる目的で、シリアへの渡航を企てたとして、男子大学生が私戦予備・陰謀容疑で警視庁の捜索を受けている。

 男子学生は、イスラム法学が専門の元大学教授から渡航方法の助言を受け、イスラム教に入信した。「この世界が嫌で死にたい。シリアで殺されてもいい」と語っているという。一緒に住んでいた男性も同行予定だったとされる。

 イスラム法による支配を正当化する巧みな誘いが、疎外感を抱く者の心に付け入っているのか。

 イスラム国は、大量殺りくや奴隷制を肯定する凶悪組織だ。今年に入り、人質の身代金で約22億円を手にした。米国が9月に製油施設を空爆するまでは、原油の密売で1日約1億円を得ていた。

 テロ組織としては類のない資金力を背景に、大がかりな宣伝戦を仕掛けているのだろう。各国は、イスラム国の真の姿をネットなどで広く知らせる必要がある。

 無論、最も重要なのは、イスラム国の壊滅だ。米国などの有志連合は、イラク、シリア領内で550回以上の空爆を行ってきたが、戦闘は一進一退の状態にある。

 有志連合には、戦術面で足並みの乱れもある。共闘態勢を立て直すことが急務である。

2014年10月27日月曜日

再生エネ政策は原点から再設計を

 太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入が岐路に立っている。2012年に始まった固定価格買い取り制度のもと、太陽光発電が突出して増え、電力会社が契約を保留する異常事態になった。

 電力不安はなお解消されておらず、温暖化対策も急務だ。国内で賄え、温暖化ガスを出さない再生エネルギーを目いっぱい伸ばす必要がある。原点に立ち返って制度を再設計し、再生エネルギーの持続的な拡大をめざすべきだ。

経産省の不作為で混乱
 買い取り制度の開始から2年、太陽光発電の計画は大型火力発電所70基分の7千万キロワットを超えた。九州電力など5社は「すべて受け入れると供給が需要を上回り、停電の恐れがある」として契約を中断した。事業者ははしごを外された形になり、混乱が生じている。

 事態を放置した経済産業省の責任は重い。太陽光の買い取り価格は当初から発電事業者に有利に設定され、太陽光発電ばかりが増えるいびつな状況は1年以上前からわかっていた。

 同じ制度を先んじて始めたドイツなど欧州各国も、電力需給のバランスが崩れる問題を経験している。経産省は制度を始める際、「ドイツなどの経験から学び、正すべき点は正す」と説明していた。いったい何を学んだのか。不作為と言わざるを得ない。

 同省はようやく有識者会議を立ち上げ、再生エネルギーの受け入れ可能量について検証を始めた。まず電力会社にデータを包み隠さず開示させ、現状を正しく把握すべきだ。新規事業者や国民へのわかりやすい説明も欠かせない。

 そのうえで再生エネルギーを増やす目的や理念を明確にし、制度を根本から見直す必要がある。

 まず風力や地熱、水力、間伐材などを燃やすバイオマス発電をバランスよく伸ばすことが大事だ。とくに地熱やバイオマスは天候に左右されず安定した電源になる。

 風力や地熱は環境影響評価や許認可に時間がかかることが課題になっている。規制改革など他の施策と買い取り制度をうまく組み合わせ、普及を後押しすべきだ。波や海流などで発電する新技術も官民あげて実用化を急ぎ、制度の対象に早く加えたい。

 太陽光発電は設備コストが下がっている。買い取り価格を抑えるとともに、いまは1年ごとの価格改定を半年以下に短縮したり、審査を厳格化したりするなどの見直しは必須だ。創意工夫により、安価に発電する事業者を優先して選ぶ仕組みも必要だろう。

 新産業の育成に役立つ制度にすることも重要だ。再生エネルギーの発電機や関連製品の市場が広がれば、技術革新を促し、雇用を生む。だがいまはこうした好循環が生まれているようには見えない。

 再生エネルギーによる発電と蓄電池を組み合わせた事業を優遇したらどうか。太陽光などによる電気を蓄電池にため、需要にあわせて供給すれば、天候に左右されずにすむ。日本企業は蓄電池の技術力で世界をリードしており、新産業や雇用を生む有望分野になる。

 再生エネルギーと原子力発電を共存させる方策も探るべきだ。

国民負担を丁寧に示せ
 九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)が原子力規制委員会の安全審査に合格した。原発の安全性を確認したうえで再稼働させるのは大事だ。一方で、原発は年間を通して発電するので、再稼働で再生エネルギーの受け入れ余地が狭まる事態も想定される。

 原発を優先するあまり、再生エネルギーの門戸を閉ざすのであれば問題だ。夜間に余った電気をためる揚水発電所をもっと活用できないか。原発と再生エネルギーをあわせて需給のバランスをとることを検討すべきだ。

 送電網を増強し、地域をまたいで電気をやりとりして需給変動を抑える対策にも、電力会社が真剣に取り組んでほしい。

 買い取り制度は電気料金に上乗せする形で、家庭や企業の負担により成り立っている。経産省は先月「再生エネルギーがこのまま増えると、家庭の負担額がいまの4倍の月900円超に膨らむ」と公表したが、こうした試算を唐突に示すのでは国民の不信を買う。

 再生エネルギーの導入でどのような経済効果が見込め、国民負担はどれだけ増えるのか。政府はこれらのデータも丁寧に示しながら、見直し議論を進めるべきだ。

福島新知事―生活再建に尽力を

 震災・原発事故後初めてとなった福島県知事選で自民、公明、民主、社民各党が支援した内堀雅雄氏が当選した。3年7カ月を経て県民の中には対立や先行き不安への疲労感も目立つ。勇退する佐藤雄平知事を副知事として支えた内堀氏には、復興を前に進め、成果を形にすることが求められる。

 県内原発の全廃では県民が一致している。着実な廃炉、原発に代わる新たな産業ビジョン、復興財源や人手の確保、放射線被害への取り組み――。

 課題は尽きないが、とりわけ急ぐべきは避難者の生活再建だ。直接的な支援は住民と接する市町村が中心でも、県が果たす役割もある。

 いわき市は地価高騰と住宅不足に悩む。元の住まいに近く、気候や風土も似ているいわきで新生活を、という長期避難者の流入が続いているからだ。

 市は県に宅地開発ができるよう都市計画法上の区分見直しを求めたが「2年以上かかる」と言われた。市は県を飛び越えて国と相談し、特例措置の適用や売却時の所得税の減免といった施策を示すことで、道筋をつけた経緯がある。地元自治体から上がる行政ニーズをくみ上げて国を動かすことは、県の役割のはずだ。

 避難先の仮設住宅や借り上げ住宅で暮らす住民と行政をつなぐ役割を担う復興支援員をめぐっても、不満があがる。

 市町村ごとの制度に加えて県が独自に取り組んでいるため、縦割り行政の弊害が生じている。「原発事故による避難者は支援できるのに、津波の被災者には支援ができない」「同じ地域にいても他の町の避難者は対象外」といった問題だ。「県が現場の声を吸い上げて整理し、効率化すべきだ」との声も聞かれる。

 原発事故の収束も放射線の問題も、将来の見通しがつかない問題だ。人や地域によって事情や受け止め方が異なり、それが賠償問題などともつながって分断を生み、政策を進めにくくしている。それが、福島が直面する問題の難しさだ。

 「違い」の尊重は欠かせない。だが、そのうえで広域的な視野から共通項や優先順位を探り出し、国や市町村と調整して限られた予算や人材を効果的に配分していく。現場で閉塞感や焦りが強まっている今だからこそ、県の役割が重要になる。

 3年7カ月の経験を生かして何ができるか。新知事の座右の銘は「進取果敢」だという。生活再建をはじめとする福島の復興に力を尽くしてほしい。

公的年金運用―改革で信頼高めよ

 公的年金の積立金の運用を政府が改革しようとしている。論点は①積立金を運用する資産の中身②運用機関の意思決定のあり方の2点だ。

 論議の対象は、約130兆円を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。従来、国債などの国内債券に60%、国内株式と外国株式に各12%などという基準で運用していた。これに対し、政府の成長戦略にもとづいて設置された有識者会議が昨年11月の報告書で、国内債券の比率を下げるよう提言した。GPIFは国内株式などの比率を上げる方向で検討している。

 超低金利が続き、国債中心の運用を見直すことは理解できる。が、積立金は国民全体のものだ。見直しには、国民の理解を得ることが欠かせない。安倍首相は「できる限り早く見直しを行いたい」としているが、まず急ぐべきは、GPIFの意思決定のあり方の改革だ。

 GPIFには現在、大学教授やエコノミストらから成る運用委員会があり、運用方針について議論するが、決定の権限や責任はない。決定権を持つのは理事長1人。130兆円の運用を担うには、心もとない。有識者会議は、合議制の意思決定機関である理事会の設置を提案した。一つの選択肢だろう。

 理事会では、投資先の資産配分を決めるのはもちろんだが、その前提としてどの程度のリスクを受け入れるのか決めることが大切だ。一定の運用益を期待するために、国民はどこまでリスクを許容するのか。そのバランスを熟慮し、決定内容を国民に説明する責任がある。

 政治からの独立性を保つことも大切だ。公的年金が政治の圧力で株価対策に使われた例が過去にあるからだ。

 参考になるのは日銀だろう。日銀の金融政策は、総裁、副総裁と審議委員で構成する政策委員会で決定する。委員会後には、決定事項にだれが賛成し、だれが反対したのかが明らかにされる。日銀も政治の圧力にさらされているが、政府と対立する決定をしたこともある。

 だれがどう人選をするのか。海外の公的年金では、担当大臣らが指名委員会を選び、具体的な人選はその委員会に委ねている例もある。GPIF改革でも慎重な制度設計が望まれる。

 気になるのは、今回の改革論議の出発点が成長戦略にあることだ。年金の積立金は経済成長のためにあるのではない。将来にわたって安定的に年金の給付を続けること。それを最優先にしなければならない。

福島県知事選 復興と帰還を加速する契機に

 原子力発電所事故からの復興と避難住民の帰還の加速に向けて、新知事には強い指導力を発揮することが求められる。

 新人6人の争いとなった福島県知事選は、前副知事の内堀雅雄氏が大差で初当選した。

 自民党県連は当初、独自候補の擁立を目指した。だが、党本部は認めず、民主党などとの相乗りで内堀氏を支援することを決めた。7月の滋賀県知事選に続く敗北の回避を最優先したのだろう。

 内堀氏は、自民、民主、公明など各党の組織票を手堅くまとめ、無党派層にも支持を広げた。

 選挙戦では、復興を最優先課題に位置づけ、「国や東京電力と直接交渉する」と訴えた。トップセールスで、企業誘致や県産品の販路拡大を進めるとも強調した。

 総務省出身の内堀氏は2001年に福島県に出向し、06年から副知事を務めていた。東日本大震災後は佐藤雄平知事の下、原発事故対応や復興の実務を仕切った。

 その高い行政手腕に、県民は期待を寄せたと見られる。

 原発政策では、6候補とも県内の原発10基をすべて廃炉にすると主張した。熊坂義裕・前岩手県宮古市長は県外の原発の再稼働にも反対したが、浸透しなかった。

 原発政策は、国全体のエネルギー事情や安全・経済性などを考慮し、大局的な観点から政府が判断すべきものだ。内堀氏が県外の原発について「言及する立場にない」と明言したのは、妥当だ。

 大震災から3年7か月が経過したが、福島再生は道半ばだ。県は、従来以上に復興促進の前面に立ち、市町村への支援や調整、政府との交渉に臨んでもらいたい。

 原発周辺に住んでいた12万以上の人たちが今なお、県内外で避難生活を送る。今年4月に田村市で、今月には川内村の一部地域で避難指示が解除された。希望者の帰還を進め、その生活再建をしっかりと支えることが重要だ。

 道路や医療・教育施設の整備や、雇用確保などを計画的に推進せねばならない。市町村単位でなく、広域で町づくりを進めるには、県が果たす役割は大きい。

 除染作業で生じる汚染土などを保管する中間貯蔵施設の建設も喫緊の課題だ。行き場のない汚染土は県内各地に点在し、復興停滞の一因となっている。政府による用地交渉や工事、汚染土の搬入を県が側面支援する必要がある。

 風評被害により、県内の農産物価格は依然、震災前の水準に戻りきっていない。新知事は、正確な情報発信の先頭に立つべきだ。

読書週間 本と出会う場を増やしたい

 今日は、文字・活字文化の日だ。

 11月9日までの読書週間の始まりでもある。今年の標語は「めくる めぐる 本の世界」だ。

 秋のひととき、書店や図書館を巡れば、思わぬ本との新たな出会いがあるかもしれない。

 読売新聞の最近の世論調査によると、自宅から気楽に行ける場所に書店が「あった方がよい」と答えた人は79%に上った。多くの人が本との出会いの場を求めていることがうかがえる。

 その「街の本屋」が姿を消しつつあるのは、寂しいことだ。全国の書店数は約1万4000店で、2000年の3分の2に減った。雑誌などの販売の低迷や郊外型大型店の伸長が背景にある。書店ゼロの市町村も約330に上る。

 地域住民の熱意が実って、書店の誘致に成功した例もある。

 市内にあった唯一の書店が閉店した北海道留萌市では、主婦らのグループが東京の大手書店に働きかけて出店を実現させた。朗読会や出張販売会なども行われ、収支は黒字が続いている。

 「マイクロ・ライブラリー」と呼ばれる小さな私設図書館の開設も各地で進む。

 長野県小布施町の「まちじゅう図書館」はその一つだ。町内に書店はないが、商店や銀行、農家などの一角に書棚が設けられ、個性豊かな蔵書が並ぶ。

 アットホームな雰囲気の私設図書館は、全国で500を超えると言われる。インターネットを通じて運営方法の情報交換が行われ、急速に増えている。

 図書館は、地域の人たちの対話や交流の場でもある。読書の輪を広げるには欠かせない。

 子供の読書を推進するため、学校図書館の役割は重要である。子供たちの好奇心を刺激する書籍を充実させたい。

 専門職員である学校司書も、大切な存在だ。多忙な教師に代わって、図書の管理や児童生徒の調べ物のサポートを行う。例えば、オリンピックや月食など、時宜にかなったテーマの本を紹介するのも学校司書の役割だ。

 学校司書を置く小中学校は、半数程度にとどまる。今年6月に成立した改正学校図書館法には、小中高校への配置を進める努力義務が盛り込まれた。

 学校図書館での読書活動を活性化させる契機としたい。

 活字が紡ぎ出す物語の世界に感動し、知識を得る喜びを味わう。読書の楽しさを子供たちに伝えていきたい。

2014年10月26日日曜日

道徳教育には伸びやかに取り組みたい

 週1回の「道徳の時間」を「特別の教科」に格上げし、検定教科書を使う。数値では示さないが成績評価もする。中央教育審議会が道徳教育について、こんな内容の答申を出した。文部科学省は2018年度にも導入する方針だ。

 本当に教科化は必要か、道徳心を型にはめる心配はないか。この問題をめぐっては、かねてそうした懸念があった。教科化ありきで結論が出たことは残念だが、学校現場では萎縮することなく、いじめなどを防ぐ「心の教育」に伸びやかに取り組んでもらいたい。

 現行の「道徳の時間」が設けられたのは1958年だ。徳育は学校教育のさまざまな場面を通じて展開したほうが効果的だという判断から教科の枠外に置かれた。

 それから半世紀、学校では社会生活のルールとマナー、人間としてしてはならないことを工夫を凝らして教えてきた。臨機応変の対応が必要なだけに教科としては位置づけにくい、との声は教育界の保守的な層にも多い。

 第1次安倍政権下で教科化が浮上しながら見送りになったのも、そうした事情がある。ところが今回は昨年から着々とレールが敷かれ、首相の「宿願」実現への配慮を背景に中教審答申に至った。

 もっとも答申は、教科化への不安を意識して慎重な書きぶりに終始している。「特定の価値観を押しつけたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりすることは、道徳教育がめざす方向の対極にある」などといった指摘はもっともである。

 文科省は今後、答申の具体化作業に乗り出すが、この点を十分に踏まえてもらいたい。一般の教科とは違う「特別の教科」とはいえ、検定教科書を使い、成績評価の対象にもする以上、どこまで画一性、硬直性を排したものにできるかが問われよう。

 もうひとつ気になるのは、教科化が旧態依然の思想的対立を招きかねないことである。戦前の「修身」のように思想統制につながるとの批判がある一方で、これを機にもっと愛国心を育むべきだといった意見もある。イデオロギーのにじむ応酬は避けたいものだ。

 学校現場にはいま、教科としての道徳への不安が募っている。しかし制度的な位置づけが変わっても、道徳は決してしゃくし定規には教えられない。人はいかに生きるべきかを、教育全体のなかで考える姿勢を失ってはなるまい。

交通の空白地域を減らそう

 人口減少が続く地方を中心に公共交通の空白地域が広がっている。買い物や通院などに必要な住民の移動手段をどのように確保するのか。地域社会を維持するために避けられない課題だ。

 政府は11月中旬に改正地域公共交通活性化・再生法を施行する。自治体がまちづくりの一環で公共交通網の再構築に取り組むきっかけにしたい。

 地方の現状は厳しい。バス路線をみると、2006年度から6年間で1万1千キロ以上が廃止された。交通空白地域も広がり、駅から1キロ以上、バス停から500メートル以上離れた地域で暮らす人は全国で730万人を超す。

 地方都市では郊外部で赤字のバス路線が増える一方、駅前と中心部などを結ぶ路線では複数の事業者が顧客を奪い合っている。自治体が運営するコミュニティーバスと既存の路線バスが競合する場合も少なくない。

 改正地域交通法では、公共交通網を維持するために市町村が中心になって路線やダイヤの見直しなどを盛り込んだ計画を策定するように求めている。計画をつくった自治体に対して国が重点的に支援する方針だ。

 今後、コンパクトな街づくりを進めるには交通網の再構築は避けられない。観光客を呼び込むためにも移動手段の確保は不可欠だ。これまでのように事業者任せでは空白地域が広がるだけだろう。

 過疎地域では利用者の予約を受けて小型バスや乗り合い型のタクシーを運行するデマンド交通が広がっている。タクシーでも対応できない地域では、NPOなどが自家用車を使い、料金をとって住民を運ぶ「自家用有償旅客運送」も増えている。

 来年4月から希望する市町村に対して、この自家用有償運送の登録や監督権限が移譲される。NPOなどによる取り組みは、車を運転できない高齢者などの足を確保する最後の手段だ。自治体は事業者間の利害を調整し、交通網の維持に全力を挙げるべきだ。

いま国会で―論ずべきは憲法の価値

 「憲法9条を保持する日本国民」がノーベル平和賞の候補になった。これをどう考えるべきか、先日の参院憲法審査会で議論になった。

 「哲学的には素晴らしいかもしれないが、賞をもらったからといって国は守れない」。自民党の丸山和也氏がこう指摘すると、民主党の有田芳生氏は次のように反論した。

 「特定秘密保護法や集団的自衛権で、日本は大丈夫かという海外からの厳しい目がある。そうした背景を考えないと」

 この日はここで時間切れになってしまったが、議論を深めるべきテーマである。

 「地方」や「女性」「政治とカネ」が焦点になっているいまの国会だが、もっと注目されていい論点がある。憲法だ。

 先の通常国会で憲法改正のための改正国民投票法が成立。これで法的手続きは調い、憲法論議は新たな段階に入った。

 もちろん、憲法改正原案が直ちに国会に提出される環境にあるわけではない。それでも自民党はすでに「環境権」や「緊急事態条項」などの創設を論点に議論を進めたいと衆院の憲法審査会で提案した。2年ほどで原案をまとめたい意向だ。

 抵抗の少ない条項を手始めに、改憲の実績を重ねようというのが自民党の狙いである。

 だが、いま議論すべきはそんなことではないだろう。

 集団的自衛権の行使容認の閣議決定は、政権内の内輪の議論だけで憲法の平和主義を大きく方向転換させてしまった。

 基本的人権など意に介さない団体によるヘイトスピーチが横行する。その主張を明確には否定しない閣僚がいる。

 日本国憲法の基本的な価値が損なわれつつあるこうした現状こそ、国会がいま、正面から論じるべきテーマである。

 自民党が野党時代にまとめた憲法改正草案は、国民の権利の尊重に「公益及び公の秩序に反しない限り」との留保をつけている。一方、冒頭に紹介した参院憲法審査会で、自民党の丸山氏はこんな発言もして野党から注目を集めた。

 「現行憲法が権利に偏重しているというのが党内の多数意見だが、私はそうは思わない。むしろ個人が強い権利を主張することで強い個人が成立し、強い国家が成立する」

 国会でこうした議論が行われていることに、もっと関心が払われていい。衆院憲法審査会は来月、盛岡市で陳述人を公募して地方公聴会を予定している。国会の外でも、様々な機会を通じ、憲法の議論を深めたい。

就活と採用―ふだんの接点設けては

 人手不足もあって企業の求人数が増え、学生の内定率は上がっている。一方で「短期決戦」の様相が強まり、複数の内定を得た学生からの辞退を巡るドタバタも――。来年春に大学・大学院を卒業する学生の就職活動は、こんな状況のようだ。

 リーマン・ショックで「就職氷河期」の再来がささやかれたころと比べ、学生の選択肢が増えたことは喜ばしい。ただ、内定辞退が相次ぐ一方で、なかなか就職先が決まらない学生も少なくない点は見過ごせない。

 企業は就職情報会社のサービスも使って多くの学生を集め、エントリーシートや筆記試験、面接など似たり寄ったりの方法でふるいにかける。学生はそれに身を任せるしかなく、自分の特徴を十分アピールできない。そんな構図が続く。

 16年春の卒業生から、就職・採用活動のスケジュールが変わる。学業に専念する期間を確保するため、「大学3年の3月に会社説明会解禁、4年の8月に選考開始、10月から正式内定」になる。スタートが3カ月遅くなり、その分全体の期間は短くなる。「短期決戦」の弊害を防ぐことがいっそう大切になる。

 学生と企業双方の関心が高く、文部科学省も推奨するのがインターンシップだ。職場を体験すれば、学生は職種や企業への理解が進む。2~3カ月間も社員と一緒に研究に挑んだり、新規事業を学生が提案したりと、内容も多様になってきた。

 ただ、ある民間調査によると、昨年度に企業がインターンシップの対象としたのは、3年生が9割と圧倒的に多かった(複数回答)。就職・採用と結びついているのが実態だ。

 教育の一環として、早い時期から学生が企業と接する機会を増やしたい。卒業後を見すえた「キャリア教育」には多くの大学が力を入れている。OBやOGを招いた講演会などに加えて、もうひと工夫できないか。

 例えば、京都産業大学(京都市)のプログラム。様々な学部の2~3年生が、希望に沿って特定の企業の社員と半年間向き合い、「新ブランドの宣伝方法」といった実践的な課題を一緒に考える。電気通信大学(東京都調布市)では、企業の定年退職者を中心に60人余りがボランティアの補助講師を務めており、学びを助けながら企業の姿も伝えている。

 企業との「ふだん付き合い」を通じて学生がさまざまな職場を知り、就職活動の本番前に希望を絞り込む。そんな形になれば、企業にもメリットは大きいはずだ。

整備新幹線 前倒しで公費負担を増やすな

 財政負担を追加してまで建設を急ぐ必要があるのか、疑問である。

 政府・与党の作業部会が、建設中の整備新幹線3区間について、開業前倒しの検討を進めている。

 与党は、2035年度に開業予定の北海道新幹線(新函館北斗―札幌間)で5年、25年度の北陸新幹線(金沢―敦賀間)は3年の前倒しを求めた。

 22年度の九州新幹線(武雄温泉―長崎間)も、できるだけ早期の完成を目指すという。

 沿線自治体や関係議員は、開業を早めれば、その分、観光や企業誘致といった地域活性化の効果も早く表れると主張している。

 地元の期待は分かるが、重要なのは巨額の費用をきちんと手当てできるかどうかである。

 整備新幹線は、独立行政法人の「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」が建設している。費用の3割は、JR各社が機構に払う既存の新幹線の線路使用料などで賄い、残りは国と地方が負担する。

 与党の要望通り前倒しすると、工期短縮の影響で毎年の費用が増えるため、新たに5400億円の財源を確保する必要がある。

 与党は、JRが将来払う使用料を担保に、機構が金融機関から2000億円の融資を受ける財源案を示した。機構による自主財源の「前借り」であり、国や地方に新たな負担は生じないという。

 ただ、2000億円による前倒し効果は1~2年にとどまる。

 このため与党は、使用料の増額を検討しているが、負担の膨らむJR側の反発は必至である。

 16年度までにJR九州株の上場を実現し、それで得られる政府保有株式の売却益などで不足分を穴埋めする案も浮上している。

 JR九州株をいつ上場できるかや売却益の規模は不透明だ。「皮算用」に過ぎない財源を頼りに、前倒しを強行するのは危うい。

 そもそも、JR九州株の売却益は、法律で旧国鉄の年金財源に充てることになっている。安易な流用は避けねばならない。

 与党内に、国の負担増もやむを得ないとする声があるのは、看過できない。「地方創生」に便乗したバラマキにならないか。

 開業50年を迎えた新幹線は、主要都市を短時間で結び、経済成長を支えてきた。とはいえ、厳しい財政事情を踏まえれば、今後の整備は既存の財源の範囲内で、無理なく進めるのが現実的だろう。

 政府・与党は、老朽化した交通インフラの維持・更新など、喫緊の課題を優先すべきだ。

子供の体力 キャッチボールから始めよう

 国民の健康増進を図る上で貴重なデータだ。

 文部科学省が半世紀に及ぶ「体力・運動能力調査」の分析結果をまとめた。小学生から高齢者までを対象に、東京五輪が開かれた1964年から実施してきた。

 これほど長期の体力調査は、世界でも例がないという。

 興味深いのは、子供の体力や運動能力の傾向が、大きく三つの時期に分けられることだ。

 まず、調査開始からの約20年間だ。体力は全体的に急激に向上した。開始時点で18キロ・グラムだった11歳女子の握力は、20年で1割以上増えた。13歳男子の1500メートル走では、記録が17秒短縮した。

 分析した専門家は、東京五輪の影響を挙げる。栄養状態が好転し、体格が大きくなっていく時代に、五輪で活躍する選手を見て、多くの子供が触発された。

 漫画などで盛んにスポーツが取り上げられたことも、体力向上を後押ししたと言えよう。

 85年頃をピークに、体力の低下が目立つようになる。13歳男子の1500メートル走の記録は、90年代後半に大きく落ち込んだ。ピーク時より27秒遅い年もあった。

 テレビゲームや塾通いで、外で遊ぶ子供が減ったのが大きな原因という指摘はうなずける。

 98年以降が第3期だ。体力不足が深刻な問題になり、学校での指導の充実が図られた結果、徐々に持ち直してきた。

 それでも、まだピーク時の記録には及ばない。

 スポーツに親しみ、体を動かす機会を増やすことが一番の体力増進策だ。2020年東京五輪・パラリンピックの機運を盛り上げ、スポーツ熱を高めたい。

 男子のソフトボール投げだけは、記録が落ち込み続けているのが気にかかる。10歳男子では50年間で約6メートルも縮んでいる。

 投げることが減ったからだ。キャッチボール禁止の公園が増えたのも影響しているのではないか。運動機会が減ると、基本的な能力も低下することがうかがえる。

 東京都千代田区では週1回、一部の公園や広場でのキャッチボールを解禁している。こうした取り組みを広げたい。

 文科省は昨年度、運動の楽しさを遊びで学ぶ事業を始めた。

 小中学校で昼休みや放課後、大学生や地域のボランティアが石けりやケンケンといった昔ながらの遊びを教える。休み時間に校庭に出る子が増えたという。

 休日に親子で外に出て楽しむのも、体力向上に役立つはずだ。

2014年10月25日土曜日

経済減速でも成長の歩み止めぬ世界企業

 世界経済に減速の懸念が強まり金融市場が乱高下をくり返すなかで、世界の大企業による決算発表が本格化してきた。

 調査会社トムソン・ロイターの集計によれば、世界の景気動向を敏感に反映する米国の主要500社は7~9月期に収入が前年同期に比べて4%伸び、純利益は7%増えたもようだ。

 直近の企業業績の現状や経営者らが明らかにした見通しから判断する限り、景気の先行きについて市場が懸念するほどに悲観する必要はないようにもみえる。

 ただ、全体としては底堅い印象と同時に、いくつかのリスクも顕在化しつつある。日本勢にも当てはまるもので、今後の経営のカジ取りを注視したい。

 リスクの一つは、収益を確実に上げられる地域が北米地域に偏る傾向がうかがえることだ。

 たとえば米建機大手のキャタピラーは7~9月期、北米事業は15%の増収だったが中南米で19%減収となり、全体の売上高はほぼ横ばいにとどまった。経費の抑制などで増益を保っているとはいえ、成長の中期的な道筋が示されたとはいいがたい。

 加えて、中核事業の競争優位が長続きしないという現実に、少なくない企業が直面している。

 オランダのフィリップスはAV(音響・映像)にかわる主力事業として医療機器を育て上げたが、このところユーロ高などで苦戦を余儀なくされている。韓国サムスン電子は稼ぎ頭のスマートフォンで中国勢の攻勢を受け、7~9月期は6割減益だった。

 高い競争力を誇る米IT(情報技術)企業も例外ではない。グーグルは買い物の検索でアマゾン・ドット・コムなどの追撃を受け始めた。対抗してデータセンターなどへの投資を増やした結果、7~9月期の収益が圧迫された。

 顕在化する様々なリスクを乗り越えるため、強さに磨きをかけようとする企業は多い。

 半導体の製造受託で世界2位の米グローバルファウンドリーズは、世界首位の台湾積体電路製造(TSMC)との差を縮めるため、米IBMから半導体製造部門の譲渡を受けることを決めた。

 経営環境が不透明ななかでも、世界の大企業は成長のための攻勢を止めていない。米欧アジアの企業とグローバルに競争している日本勢も、改革の足取りを速める必要がいちだんと増している。

不当な表示を許さぬ社会に

 不当表示に課徴金を科す景品表示法の改正案が閣議決定された。法案審議が順調に進めば、2016年春をめどに施行される。

 景表法は、商品やサービスが実際より著しく優良・有利だとの誤解を消費者に抱かせるような表示を禁じている。今回の法改正は不当表示を許さない社会への新たな一歩だ。企業は、改めて自社製品の表示や社内の管理体制を点検する契機としてほしい。

 課徴金の導入は長年にわたり検討されてきた。昨年秋にホテルなどで発覚した食材の偽装表示が導入の最大のきっかけになった。

 今年も外食店での牛肉偽装が明らかになるなど違反は相次いでいる。合理的な根拠がないのに簡単にやせられるなどとうたった広告も、後を絶たない。

 再発防止などを求める措置命令の件数は10年度の20件に対し13年度は45件と、増加傾向にある。不正の抑止に課徴金は有効だろう。社会の意識が高まっていることを企業も肝に銘じるべきだ。

 課徴金の額は不当表示をした売上高に3%をかけて算出する。3%の数字は過去に措置命令を受けた事業者の利益水準をもとに決めたという。この数字の高低については、消費者側、事業者側それぞれに意見があろう。国会でよく審議してほしい。

 消費者に自主的に返金すれば課徴金が減額・免除される仕組みも盛り込まれた。消費者の被害を早期に回復することをうながすという意味で評価できる。

 不当表示を防ぐことは健全な市場の育成に役立つ。一方で、課徴金の導入が企業の正当な事業活動を過度に萎縮させるようなことはあってはならない。

 法案は、表示について「相当の注意」を払っていた場合は課徴金の対象外とした。例えば取引先から書類を提供してもらい表示の根拠を確認するなどしていればよいとされる。ただ、何が「相当な注意」か、ややあいまいだ。企業に分かりやすく説明し不安を取り除く責任が、消費者庁にはある。

中国と法治―誰のための改革なのか

 中国共産党の最高指導機関である中央委員会の第4回全体会議が開かれた。4中全会と呼ばれ、主要テーマは「法にもとづく国家統治」だった。

 行政や司法の信頼性を高める改革は歓迎すべきだが、そこに込められた真の狙いは、共産党の一党支配をより強固にすることとみるべきだ。

 発表されたコミュニケは、法体系のいっそうの整備、人材育成などを含め、幅広く課題を挙げている。中国の問題状況を直視したものと言っていい。

 注目されるのは「幹部による司法への関与、介入を責任追及する制度を設ける」と明記した点だ。地方の党・政府幹部が事件の捜査や裁判に口出しをし、身内や業者に便宜を図ることが横行しているからだ。

 行政機関についても、責任追及の仕組みづくり、住民参加、情報公開などを今後の方針として盛り込んでいる。

 各地方の行政、司法は、権利意識を高めつつある住民とじかに接する部分でもあるだけに、習近平(シーチンピン)指導部としては重視せざるを得ないところだろう。

 中国は建国後、幾たびの混乱をへて、70年代末に本格的な法整備が始まった。以来、政府機関での手続きや裁判所の対応が少しずつ改善されてきた。

 それがさらに前進するのであれば、中国の国民はもちろん、中国で活動する外国人、外国企業にとってもプラスになる。

 だが、この法治をめぐる改革は、党中央が地方の隅々まで統制しなければならない、という点にそもそもの目的がある。コミュニケは「党の指導の堅持」を繰り返し強調している。

 では党中央は、つねに清潔で正しいといえるのか。それはどう担保されうるのか。その答えは示されていない。

 習指導部のもとで、最高指導部メンバーだった周永康氏ら多くの党幹部が「党規律違反」として取り調べを受けている。周氏の側近らは今回の会議で党籍剝奪(はくだつ)処分が決まった。

 前例のない反腐敗キャンペーンは、党の自浄能力を示すとしている。だが、それはむしろ、最高指導部の権力が腐敗と結びつきやすいことを物語る。

 疑問はまだある。習氏は一昨年の演説でも「憲法にもとづく法治」をうたった。しかし、憲法に明記してある諸権利の保障を訴える市民を次々と拘束し、投獄している現実をどう説明するのか。

 一党支配システムの堅持と、真の法治はそもそも両立しえない。いまの中国が抱える矛盾の根源はそこにある。

忘れられる権利―ネット空間にルールを

 インターネットの検索サイトに自分の名前を入力すると、犯罪とのかかわりを示すかのような検索結果がいつも出てくる。

 困った男性の訴えに対し、東京地裁が今月、検索最大手グーグルに検索結果の一部を削除するよう命じた。

 検索サイトはいまや暮らしの中で欠かせない便利なものだ。だが、根拠のない情報を含むサイトに導くこともある。

 その運営会社はかねがね、検索結果の内容や真偽に責任はなく、中立的な仲介者にすぎないと主張してきた。

 しかし、裁判所は責任を明確に認めた。検索結果の表題や内容の抜粋はものによっては人格権を侵し、会社は削除しなくてはならないと判断した。

 まっとうな決定である。本来は問題サイトの情報そのものの削除が筋だが、責任者が不明だったり、依頼に応じなかったりすることが少なくない。検索で出てこなければ、不特定多数の目に触れることはない。

 同様の判断は、欧州司法裁判所が5月に示した。あるスペイン人が過去に遭ったトラブルを示す検索結果が問題になり、「忘れられる権利」という言葉が話題になった。

 この後、欧州では検索結果の削除依頼が急増し、多くは逮捕歴や過去の反社会的な行動についての情報だという。

 処罰を受けた後も、半永久的に自分の過去がさらされるのは酷であり、更生を促すうえでも望ましくない。まして無関係のことで窮地に立たされることがあってはならない。

 一方、だからといって検索サイトの情報表示をむやみに操作するのも問題がある。検索サイトが市民の情報アクセスの面で果たす公益性は高いからだ。

 例えば政治家など公的な立場にある人の過去の発言や行動など、仮に本人が不都合ととらえて削除を求めても、広く共有、提示されるべき情報がある。

 どんな場合なら検索結果の操作が許されるかは、当事者が受ける影響と公益をくらべて慎重に判断すべき問題だ。

 運営会社にとっては削除の当否を個別に吟味するより、削除依頼にすべて応じる方がコストは低い。だが、市民の情報力が大きく影響を受けるだけに、そのやり方は社会全体で論議を加えていくべきだろう。

 政府が夏にまとめた大綱で、個人データに関する規制は、政府から独立した第三者機関が担うことになった。ネット検索とプライバシーの関係をめぐり、この機関がどんな役割を担うかも検討を深めるべきだ。

中国4中総会 独裁強化の「法治」ではないか

 国際社会が共通認識とする「法の支配」とは全く異質の中国式「法治」が強化される。一党独裁の堅持が狙いだろう。

 習近平政権下で4回目の中国共産党中央委員会総会(4中総会)は「法治の推進」をうたう声明を採択、閉幕した。

 最大の焦点である周永康・前党政治局常務委員に対する処分は先送りした。習政権は7月、最高指導層の常務委員の不正は問わないという不文律を破り、周氏を摘発したものの、今回は、党内の安定に配慮したとみられる。

 周氏の後ろ盾だった江沢民・元総書記を中心とする勢力に加え、官僚の多くも、習氏の強引な手法に異論を持つとされる。習氏は、党内情勢を慎重に見極め、処分内容を決めることになろう。

 総会声明には、司法に介入した幹部の責任追及や、行政機関の政策の合法性を審査する機構設立などの具体策が盛り込まれた。

 地方指導者らの専横を抑えるのが目的だろうが、実際にどこまで実行されるかは不透明だ。

 声明は、憲法に基づく「共産党の指導」を堅持し、「社会主義法治」を構築する決意を強調した。事実上、党が法を支配する現体制を守り抜く意思表示だろう。

 これでは、真の「法治」が実現するはずがない。

 習政権が「法治」を掲げるのは、党の統治の綻びが表面化していることへの危機感の裏返しだ。

 官僚の腐敗や独裁、不公正な司法などに対する国民の不満は根強い。民主化や人権向上の要求も高まっている。政権にとって「法治」は、一連の問題への厳格な対処を正当化する手段ともなろう。

 学生らのデモが長期化する香港に関して、声明は、「一国二制度の実践を法に基づいて保障し、長期的な繁栄と安定を維持し、香港同胞の権益を守る」と記した。

 表向きは香港の「高度な自治」を尊重しつつ、実際は、デモを「違法行為」として実力で取り締まる方針は一切変更しない。そんな“宣言”とも受け取れる。

 こうした強硬姿勢一辺倒では、デモの早期収拾は難しい。

 経済成長の減速も、習政権の大きな不安材料である。

 7~9月期の国内総生産は前年同期比7・3%増で、5年半ぶりの低水準となった。不動産市況の悪化が響いたようだ。「中国リスク」を嫌う日本など海外からの投資の減少傾向も続いている。

 国際的な信用の確保には、経済分野でも中国式ではない「法治」の確立が欠かせない。

野生鳥獣の食害 効率的駆除で農作物を守ろう

 シカなどの野生鳥獣が農作物を食い荒らす害が後を絶たない。実りの秋の今、農家のダメージは深刻だ。政府と自治体は、計画的に駆除を進める必要がある。

 環境省は、ニホンジカとイノシシを、新たに設けた「指定管理鳥獣」に指定する方針だ。都道府県が駆除計画を立て、民間業者などに捕獲を委託できるようになる。夜間の銃猟も解禁される。

 5月に改正された鳥獣保護法は、増え過ぎた鳥獣を適正規模にまで減少させる「管理」の概念を強く打ち出した。保護を重視してきた鳥獣行政の転換が鮮明になった。「指定管理鳥獣」の新設も、その流れの一環だ。

 野生鳥獣による野菜や果実などの食害は年200億円に上り、シカとイノシシによる被害が6割を占める。それを考えれば、現実的な対応だろう。

 シカに樹皮を食べられた樹木が枯死し、植生に変化が生じている地域がある。森林の保水力が失われ、土壌流出の危険性も指摘されている。対策は急務だ。

 2008年に施行された鳥獣被害防止特措法に基づき、地域住民が報酬をもらって駆除などに加わる被害対策実施隊が、800以上の市町村に設置されている。害獣の駆除数は、増えてきている。

 だが、それ以上のペースで、生息数が増加している。

 特に、シカの繁殖力は強い。本州以南の生息数は261万頭と推定される。温暖化による積雪の減少や、餌場となる耕作放棄地の増加が、繁殖に拍車をかけているとみられる。このままでは、25年度には500万頭に達する。

 環境省と農林水産省は、現在の生息数を10年後に半減させることを目指しているが、達成は容易でないだろう。

 最大の課題は、駆除を担う人材の不足だ。わな猟や銃猟の免許保持者は10年現在、19万人で、40年前の3割余りに減少した。免許保持者の高齢化も著しい。60歳以上が6割を超えている。

 講習会の開催などを通し、後継者の確保が欠かせない。

 効率的な駆除には、詳細な生息調査も重要だ。長野県は独自の調査結果を基に、生息数が多い地域で重点的に捕獲を実施している。昨年度の捕獲数は目標を上回り、食害の被害額は、ピーク時の6割に抑えられた。

 シカなどの群れを餌場に誘導し、まとめて捕獲する。少ない人員で多くを駆除するには、こうした工夫も求められるだろう。

2014年10月24日金曜日

次世代の移動通信技術の開発に注力を

 通信速度が現在の100倍になる次世代の移動通信技術の開発が始まった。第5世代(5G)の技術と呼ばれ、機械や装置をつなぐ手段として期待が高い。日本は携帯市場で外国勢に押されているだけに、積極的に取り組みたい。

 次世代技術はデータ通信速度が毎秒10ギガ(1ギガは10億)ビットと、光ファイバー網の100倍。一つの基地局で今の100倍の端末を処理できる。消費電力も半分から3分の1となり、産業分野など様々な用途が見込まれている。

 特に信号が届くまでの遅延時間が10分の1に短縮されるため、センサー情報などの伝達に向く。身に着けるウエアラブル端末や自動車、ロボット、産業機械など、日本が得意とする製造分野を強化する新しい通信技術となる。

 次世代技術の標準化は国際電気通信連合(ITU)が中心となり、今年秋にも具体的な技術仕様が固まる見通しだ。2020年の実用化を目指しており、日本としても標準化活動に積極的に参加していく必要があるだろう。

 20年には日本で東京五輪が開催される。総務省はそれまでに4Kや8Kの高精細放送を商用化する計画だ。ただ、映像の注文配信や有料課金は放送より通信の方が対応しやすい。第5世代技術を上手に使えば、世界初の高精細映像の無線配信も可能になるだろう。

 韓国は18年に平昌で冬季五輪が開かれるため、2年前倒しで第5世代サービスの試験導入を検討している。世界が注目する五輪の場で技術力を示すには、日本も今から開発に着手すべきだ。

 現時点ではノキアやエリクソンなど北欧メーカーが先行し、通信分野で世界を狙う韓国や中国がその後を追っている。日本も総務省を中心に外資系企業を交えた産官学からなる推進組織を先月立ち上げた。グローバル市場をにらんだ開発を進めてほしい。

 次世代技術の実用化には新たな周波数の手当ても要る。総務省は携帯電話などに使う周波数を20年までに3倍に増やす計画だ。それには行政が使用している周波数も含め、利用効率の低い電波を洗い出し、新たな用途に振り向けられる政策の導入が欠かせない。

 日本はかつて第3世代(3G)技術ではインターネット接続などで世界をリードした。日本の情報通信産業が再び国際競争力を取り戻すためにも、第5世代技術への取り組みに力を注ぐべきだ。

妊娠後も活躍できる職場か

 女性が子どもを産み、育てながら力を発揮できる職場をどうつくっていくか。それを考えるうえで重要な判決が、最高裁第1小法廷で下された。判決は妊娠・出産などによる不利益な取り扱いを禁じた男女雇用機会均等法の趣旨を徹底するよう強く求めた。

 個別の職場の個別の事例、と狭く捉えず、社会全体でしっかりと受け止める必要がある。

 裁判は広島市の理学療法士の女性が起こした。妊娠が分かり、勤務先の病院で業務が軽い部署への異動を希望したところ、異動後に副主任の肩書を外された。一審、二審とも「本人の同意を得ており、人事上の必要性もあった」などとして女性が敗訴していた。

 最高裁の判決は、不利益な取り扱いを禁じた均等法の原則を確認したうえで、その例外になるような「特段の事情」があるかを詳細に検討するよう、審理を二審の高裁に差し戻した。

 判決では具体的な指摘もあった。どれぐらい仕事の負担が軽減されたか明らかではないのに降格による不利益は重大、病院側の説明は不十分、降格させる必要性もはっきりしない……などだ。雇用主に対し、女性としっかり向き合い丁寧に対応することを求めたといえる。

 原告の女性は育児休業を終え、異動前の職場で再び働き始めた後も、すでに後輩が副主任になっていたため肩書は戻らなかった。裁判官の1人は補足意見でこの点についても言及した。復帰後にどのような配置をするかを本人にあらかじめ明示し、それを前提に他の職員の雇用管理もすべきだったという。重い指摘だろう。

 政府は「女性の活躍推進」を掲げている。だが、妊娠・出産が働くうえで大きなハンディになるようでは、せっかくの人材活用もままならない。出産を機に仕事を離れる女性は今も多く、仕事を続けていても十分に力を発揮できない人もいる。その背景に、女性に厳しい職場風土が隠れていないか。改めて点検する契機としたい。

降格違法判決―妊娠を不利益にしない

 妊娠を理由に降格させることは、よほどの事情がない限り、認められない。

 最高裁がそう判断した。

 広島市内の病院に勤める理学療法士の女性は、就職後10年で管理職の副主任になった。08年、妊娠がわかって負担の軽い業務に変えてもらえるよう願い出たところ、異動後に副主任の役職を外された。

 これまでの努力が無に帰したと感じた。月9500円の副主任手当を失ったことも家計には痛手だった。

 男女雇用機会均等法は、妊娠・出産を理由とする不利益な取り扱いを禁止している。

 最高裁は、本人の意に反して、妊娠を理由にした降格が許されるのは、雇用主がやむをえない事情を説明できる場合に限定した。納得できる判断だ。

 しかし現実はどうだろう。妊娠を報告したら、上司から退職を迫られた、派遣先に契約更新はないと告げられた、夜勤など業務の負担を軽くする配慮が全くない、といった経験を耳にすることがあまりに多い。

 「マタニティー・ハラスメント」という言葉が定着し、同様の問題に直面した人たちのグループもできている。

 厚生労働省によると、都道府県労働局に昨年度、妊娠・出産に伴う雇用主による不利益な取り扱いや健康管理をめぐる相談が3千件以上寄せられた。

 これも氷山の一角で、不本意ながら受け入れているのが多数ではないか。

 子どもを産み、育てながら働き続ける。多くの先進国で当たり前のことが、日本では難しい状態が続いてきた。

 政府は女性の活躍推進を掲げているが、足元にあるこうした現実をまずしっかり見すえてほしい。問題ある雇用主への指導など、関与を強めるべきだ。

 裁判で病院側は、ほかの女性職員は役職を外されても子育てが落ち着いてから再び役職につけるよう努力している、と降格を正当化した。

 女性は妊娠・出産のたびキャリアをリセットしてやり直すものだ、という発想だ。雇用する側の本音かもしれない。だが、母性を保護し、仕事も充実させるという均等法の理念からは、およそ逸脱していた。

 最高裁が厳格な基準を示した以上、各企業は自らの姿勢を問い直してみるべきだろう。

 妊娠中や出産後にどう働くかは、職場の理解や協力によるところが大きい。カバーする負担が一部の人に集中して別の無理をうむことがない、職場環境の工夫も不可欠である。

大学進学率―地域格差を見つめよ

 高校生の大学進学率の差が、都市と地方で広がっている。

 朝日新聞の計算によると、最上位の東京(72・5%)と最下位の鹿児島(32・1%)の差が40ポイントあった。20年前とくらべると倍になっている。

 これでは住む場所の違いで進路が狭まりかねない。

 大学に進まない選択は、もちろんあってよい。だが、行きたくても行けない生徒が多い現実は問題だ。能力や意欲のある子が進学をあきらめるのは、本人だけでなく社会にとってもマイナスとなる。

 文部科学省はこの地域間格差を政策課題ととらえるべきだ。各都道府県で国公私立別や専門分野別の進学率を世帯年収の層ごとに調べ、分析してほしい。

 進学率はこの間、どの都道府県も伸びてきたが、特に大都市圏が著しい。国が02年、都市での大学増設の抑制方針を撤廃し、大学が集中した。もともと大学が多かったが、さらに通いやすくなった。

 地方はどうか。大学に進みたくても数や定員が少ない。都市の大学に行くには、下宿代など親の負担が重くなる。保護者の収入が下がる折から難しい。

 そこで重要なのが、地元の国立大だ。戦後、教育の機会均等を実現するために「1県1大学」以上の原則でつくられた。だが、その授業料は、入学金と合わせると82万円と30年前の倍以上まで上昇している。

 最後の頼みの綱は奨学金だが、全体の9割の額を占める日本学生支援機構の奨学金は、すべてローンだ。しかも利子つきの枠が7割近くを占める。返さなくてすむ給付型はない。返せなくなると延滞金もかかる。

 そもそも都市部の方が親の学歴が高く、年収も多い。地方の生徒はいくつものハンディを負っているのだ。

 ことは教育にとどまらない。

 大学教育を受けるのに地方が不利となると、子どもを持つ家庭や、これから産もうとする若年層が流出する恐れが高い。地方の人口はますます減る結果となるだろう。

 政府の教育再生実行会議は、「地方創生のエンジン」となる教育のあり方や、これからの教育財政の方向の議論を始めた。

 地元の国立大が豊かでない家庭の子に門戸を開き、地域の人材を育てる役割を持つことに改めて目を向けてもらいたい。奨学金の充実は言うまでもない。

 教育は、努力次第で誰もがチャンスを得られる「格差是正装置」だったはずだが、「格差拡大装置」になっている。この現状への処方箋(せん)を描いてほしい。

拉致訪朝団 交渉相手のペースにはまるな

 日本人拉致問題で、北朝鮮に主導権を握られることがないよう、政府は厳しい姿勢で交渉に臨まねばならない。

 政府は27~30日、外務省の伊原純一アジア大洋州局長が率いる代表団を平壌に派遣する。拉致被害者などに関する北朝鮮の特別調査委員会の幹部らと接触し、進捗(しんちょく)状況を聴取する。

 被害者の家族会は「調査に日本が巻き込まれ、結果に責任を持たされる」として、派遣の見合わせを求めていた。北朝鮮が繰り返してきた不誠実な対応を踏まえれば、その心情はもっともだ。

 しかし、北朝鮮から譲歩を引き出し、具体的な成果を上げるには、圧力をかけつつ、交渉と対話を重ねるしか選択肢はない。

 安倍首相は、派遣決定について「今後調査ができなくなるリスクを考えた」と語った。派遣しない場合、日朝協議の扉が閉ざされかねないとの懸念があるのだろう。首相の決断は理解できる。

 宋日昊・日朝交渉担当大使は、調査に関する権限はなく、限定的な情報しか持っていない。権力中枢に近いとされる調査委幹部と接触する意味は小さくあるまい。

 大切なのは、情報を小出しにし、より多くの見返りを狙う北朝鮮の交渉ペースに巻き込まれないことだ。調査の責任者を直接問いただす機会を最大限活用し、調査の加速につなげたい。

 調査委は、国内全機関を調査する権限を付与されているという。それなのに、「夏の終わりから秋の初め」としていた第1回調査報告をなぜ先送りしたのか。調査手法や態勢に問題はないか。疑問点を突きつける必要がある。

 首相は、訪朝団の目的について「拉致問題の解決が最優先であると伝えることだ」と強調した。

 調査対象は、未帰国の拉致被害者12人や拉致の可能性のある特定失踪者のほか、日本人遺骨問題などを含む。拉致問題を後回しにしないよう迫ることが重要だ。

 首相が掲げる「行動対行動」の原則に基づき、拉致問題について具体的な進展がない限り、北朝鮮に対する制裁緩和や人道支援は行わない。そのことを、北朝鮮に理解させねばなるまい。

 北朝鮮は今月、政権ナンバー2らを韓国に派遣した。拘束していた米国人も約6か月ぶりに解放した。中国との関係悪化を踏まえ、孤立状態からの脱却を目指す動きだ、との見方が出ている。

 日本は、米韓と緊密に情報交換し、北朝鮮の出方を見極めつつ、交渉することが欠かせない。

「マタハラ」判決 事業者に意識改革迫る最高裁

 妊娠や出産をした女性に嫌がらせをしたり、退職を迫ったりする。「マタニティー・ハラスメント」の抑止に向け、事業者に意識改革を迫る司法判断である。

 最高裁が「マタハラ」を巡る初の判断を示した。

 広島市の女性が、妊娠後の異動先で管理職を解かれたのは男女雇用機会均等法に違反するとして、勤めていた病院側に損害賠償を求めた裁判だ。女性が敗訴した2審判決を破棄し、審理を広島高裁に差し戻した。

 妊娠した女性が自由な意思に基づいて同意するか、円滑な業務運営や人員の適正配置の観点から、やむを得ない場合を除き、降格などの措置は均等法違反になる。最高裁は、そう判断した。

 「今回の降格は本人の意向に反するものだった」とも認定し、特段の事情の有無について、審理を尽くすよう高裁に求めた。

 均等法はそもそも、妊娠・出産を理由に、職場で女性に不利益な処遇をすることを禁じている。最高裁が、働く女性が安心して出産できるようにする法の趣旨を重視したのは、当然である。

 原告の女性は、病院の副主任として勤務し、妊娠すると、負担の軽い職場への異動を希望した。ところが、異動先で副主任を解かれ、育児休業後の部署でも副主任に復帰できなかった。

 妊娠を契機に降格させられる事態が許されれば、女性は子供を産むことに二の足を踏みかねない。すべての事業者が最高裁判決を重く受け止めるべきだろう。

 「マタハラ」被害を訴える女性は増加傾向にある。

 「1年ごとの契約更新を繰り返して働いてきたが、妊娠を報告したら、次回の更新はないと言われた」「育児休業から復帰する際、パートになるよう命じられた」

 全国の労働局には、こうした相談が相次いでいる。2013年度には2000件を超えた。

 事業者側が、均等法の内容を十分に理解していないことが背景にあるのだろう。

 上司や同僚から「周囲に迷惑がかかる」といった言葉を浴びせられるケースも多い。連合の調査では、妊娠経験のある働く女性の26%が、暴言を含めた「マタハラ」を受けたことがあるという。

 政府は、均等法などのルールや相談窓口の周知に努める必要がある。最高裁判決を機に、事業者にも、社員の啓発や、産休や育休を見越した人員配置などを進めることが求められる。

2014年10月23日木曜日

農家による農家のための農協に戻れ

 政府は農業協同組合のあり方を抜本的に見直すため、農協法の改正案を来年の通常国会に提出する方針だ。農協自らも改革策のとりまとめに着手した。現在の農協は1947年の制度導入時にめざした姿と大きく異なる。農家が自主的に設立し、所得向上に役立てる農協の原点に戻るべきだ。

 農協法の改正案は6月に政府・与党でまとめた改革案が土台になる。基本的な考え方は、地域ごとの単位農協の活動を自由にし、組合員である農家とともに競争力を高めることにある。

 その意味で、全国農協中央会(JA全中)が単位農協を指導・監査する権限はなくすべきだ。全中の権限は、農協の経営不振が相次いだ時期に導入された。その後、単位農協は統合が進み、信用(銀行)事業については上部組織の農林中央金庫が指導する体制もできている。全中の権限は必要ない。

 政府・与党の改革案が促す全国農協連合会(JA全農)の株式会社化は、単位農協が株主となり、農家に役立つ事業運営ができているかをチェックする狙いだ。

 現状のように、全農自身のリスクを軽減するためにコメ農家に支払う概算金(仮渡し金)を大幅に下げ、農家の不安を高めるようでは困る。農協制度の目的を踏まえれば自らの改革で実現すべきだ。

 農家の協同組合であるはずなのに農家以外の「准組合員」が過半を占める状態も制度目的に照らしておかしい。是正すべきだ。

 准組合員の増加は農協が組織を維持するため信用、共済(保険)事業を拡大したからだ。農家による農家のための組織であるからこそ農協には銀行、保険業務の兼営など「特権」が認められている。金融事業を一般顧客に拡大する現状は、他の金融機関と比べた公平性からも問題がある。

 政府は単位農協の信用事業を農林中金などへ譲渡させ、単位農協は本来の事業に専念してもらう考えだ。しかし、規制改革会議の作業部会が提言した准組合員の事業利用についての具体的な歯止めは当面かけない方針。農協の信用事業などを利用するだけで議決権を持たない准組合員の位置づけも、曖昧なままだ。

 政府・与党はこれまで長い間、農協の実態が制度目的から大きくずれていることを認識しながら放置してきた。農家だけでなく、消費者である国民が納得できる農協の姿を実現してもらいたい。

伸びぬ輸出が試す日本経済

 円安なのに、日本から外国への輸出がなかなか伸びない。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は、赤字がすっかり定着してきた。

 財務省が発表した4~9月の輸出額は前年同期比1.7%増にとどまった。液化天然ガスなどで輸入額が2.5%増えた結果、貿易赤字は5兆円を超え、上半期としては過去最大となった。

 かつては円安になると、一定の時間をおいて輸出数量が徐々に増えるといわれたが、今のところそうした現象はみられない。

 第1に、日本企業が海外での生産を増やしているからだ。新興国や欧米の需要にこたえるため、海外の消費地に近いところで生産拠点を拡大している。

 第2に、円安になっても、日本企業は海外での外貨建ての販売価格を引き下げず、輸出数量の拡大をやみくもに追わなくなった。もちろん、電気機械などの分野で日本製品の国際競争力が低下した面もある。

 経済のグローバル化の進展を前提にすれば、円安だからといって日本企業が簡単に海外工場を閉鎖し、国内に生産拠点を戻すとは考えにくい。試されているのは、輸出がそれほど伸びなくても、日本経済が持続的に成長できる構造をきちんと築けるかどうかだ。

 日本企業が海外での財やサービスの売上高を増やし、海外子会社から得た配当を国内に還元する。そして国内での研究開発投資や、付加価値の高い先端製品の生産に磨きをかけてほしい。

 海外での収益拡大を、国内従業員の賃上げや採用拡大につなげられれば、個人消費の下支えにもなる。こうした好循環をつくる努力を日本企業は怠ってはならない。政府は法人減税や規制改革で環境づくりに全力をあげるべきだ。

 足元の輸出動向に持ち直しの兆しはみられるものの、7~9月期の実質経済成長率を大きく押し上げるほどの力はないだろう。中国経済は減速し、欧州経済は低迷している。輸出の先行きを過度に楽観するのは禁物だ。

香港の対話―問われる中国の態度

 香港の中心街が学生らに占拠されて、間もなく4週間になろうとしている。

 争点である行政長官選挙をめぐり、学生団体と香港政府との直接対話がやっと実現した。

 香港政府が対話に応じたことは前進と評価していい。だが、議論は平行線に終わった。

 そのやりとりからうかがえるのは、香港政府自身に決定権はなく、背後にいる中国・習近平(シーチンピン)政権こそが鍵を握っているという厳然たる事実である。

 長官選挙は17年に予定されている。対立点は、立候補するための資格条件だ。政府は「1200人からなる指名委員会の過半数の支持」としている。

 それに対し学生側は「市民の一定の支持があれば誰でも立候補できる」よう求めている。

 今回の対話で政府は、それを拒んだうえで、17年の選挙後に改めて議論しようと提案した。つまり問題の先送りだ。いまは中国の決定に従うしかない、という構えが明確になった。

 では中国の態度はどうか。

 北京の要人の発言に目立つのは「カラー革命」になぞらえた非難だ。カラー革命とは00年代に東欧・中央アジアで続いた政権転覆を指し、背後で米国が仕掛けた、と解釈されている。

 要するに、香港の学生らによる抗議を「英米勢力の介入による陰謀」と決めつけている。

 こうした陰謀説は、中国共産党が対抗勢力を排除する際の常套(じょうとう)論法だが、そんな曲解を続ける限り、抗議活動の真相を見極めることはできない。

 運動の先頭に立つ学生らは政治的に目覚めた世代とされる。一昨年、中国が香港に「愛国教育」を強制しようとしたことに反発し、街頭行動に立ち上がった若者らが中心だ。その意味では、ほかならぬ中国自身が火付け役だったといえる。

 彼らの要求は政権転覆ではない。よりよき選挙制度である。

 学生代表の一人は対話の中で「香港は平等な社会に向かっているのか」と問うた。

 財界人が多数を占める指名委に選ばれる長官候補者に、低所得者の声は届かないという問題提起だ。格差が広がる社会に向き合って選挙制度を考えようとする姿勢は、香港の内外で共感を呼ぶだろう。

 普通選挙を実施する以上は、香港市民が納得して投票できるよう、制度を改善する努力を続けるのは当然だ。

 現状からみて、妥協は難しそうにみえる。だが香港の民主主義を前に進めるため、また習政権に再考を促すためにも、対話を粘り強く続けてほしい。

認定こども園―減収の不安をなくせ

 働く親にとって、保育所は仕事を辞めれば子どもを預けることができず、幼稚園は長時間預けるのが難しい。2006年にできた「認定こども園」なら、親の働き方に関係なく子どもを通わせることができる。

 その認定こども園で、認定を返上する動きが出ている。来年度から始まる新制度で、大幅な減収が見込まれるためだ。定員割れが増えている幼稚園が認定こども園として保育も担えば、全国に2万人以上いる待機児童の減少にもつながる。国は減収を防ぐ対策を急ぐべきだ。

 認定こども園は、今年4月時点で全国に1359カ所ある。文部科学省所管の幼稚園と厚生労働省所管の保育所の二本立てで運営してきた制度を来年度から改め、内閣府で全体を所管する。これに伴い、補助金の出し方も変える。幼稚園部分に出している私学助成の主立った費用を、園児1人あたりの単価をベースに計算する補助金に置き換え、現在の保育所補助金のような支給方法に一本化する。

 大規模な園は、例えば人件費を園児1人あたりで計算すれば小規模園より少額にできる、との考え方から、補助単価を低く設定している。私学助成は都道府県ごとの差が大きい。

 来年度から全国一律に新方式の補助になると、大規模園や私学助成が手厚かったところで減収になる可能性があるという。

 7月に国が実施した調査では約1割の認定こども園が認定を返上するとの意向を回答。全国認定こども園協会には「減収になるから認定返上せざるをえない」との声が寄せられている。国会質問でも、減収による認定返上への懸念が指摘された。

 仕組みが大きく変わる際には、十分な事前説明が不可欠であり、経過措置も必要だろう。しかも、今回は率先して新たな取り組みに乗り出していた園が不利益を被りかねない状況だ。

 国は、こども園側が試算の方法を間違えて「減収になる」と誤解しているケースもあるとみているが、誤解の解消も含めて丁寧な対応が欠かせない。

 新制度の財源は、消費税を10%に引き上げた時点で7千億円があてられる。それでも新制度で必要と見込む1兆円超には届かず、別途3千億円超を確保しなければいけない。そこに生じた今回の事態。補助金の設計に見通しの甘さがあった面は、否めない。

 新制度開始まで半年を切り、来年春の園児募集も始まりつつある。まずはこの混乱を収拾するべきだ。その最も大きな責任は制度を切り替える国にある。

後期高齢者医療 過剰な保険料軽減はやめよう

 超高齢社会で社会保障制度を維持していくためには、高齢者にも応分の負担をしてもらうことが欠かせない。

 75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度で、厚生労働省が、低所得者などの保険料負担を本来より軽減している特例を見直す方針を示した。2016年度にも実施する考えだ。

 低所得者については、保険料の中で全員が払う「均等割」を最大7割軽減するのが、本来のルールだ。特例では、これを最大で9割軽減としている。

 75歳になるまで、家族が入る医療保険の被扶養者だった人にも特例がある。本来、2年間に限り5割軽減される均等割が、無期限で9割軽減となっている。

 特例の対象者は865万人に上り、全加入者の過半数を占める。うち485万人は9割軽減で、保険料額は全国平均で月370円と極めて低い。特例には今年度予算で811億円が投じられた。

 75歳未満の無職や自営業の人が加入する国民健康保険より、格段に手厚い軽減策である。被扶養者だった人には低所得者に該当しないケースも多い。公平性の観点から、厚労省が特例の廃止を打ち出したのは、もっともだ。

 08年に後期高齢者医療制度が創設された際、民主党などが「うば捨て山」と非難したため、自公政権は高齢者の反発をかわそうと、特例を導入した。

 後期高齢者医療制度の目的は費用負担ルールの明確化だった。的外れの批判で、制度が「政争の具」とされた末の産物が特例だ。

 75歳以上の医療費は、5割が税金、4割が主に現役世代が加入する医療保険制度からの支援金で賄われている。高齢化に伴う医療費の膨張で、赤字に陥る健保組合が続出している。現役世代の負担感は強まる一方だ。

 支える側の納得がなければ、制度は維持できない。年齢で区別せず、支払い能力に応じて負担する方式に転換するのが、社会保障制度改革の大きな流れである。

 高齢者の生活に配慮し、特例廃止は段階的に進めるべきだ。消費増税や年金の給付抑制で、高齢世帯の家計は厳しさを増そう。政府には丁寧な説明が求められる。

 特例を廃止しても、現役世代との不公平感は残る。

 高齢者には、サラリーマンの給与所得控除より手厚い公的年金等控除があり、保険料算定のベースとなる所得が少なくなる。遺族年金は所得に計上されない。これらの見直しも、今後の課題だ。

携帯電話契約 消費者縛る商法の見直し急げ

 好条件で新規契約を勧誘する一方で、他社への乗り換えにはさまざまなハードルを設ける。

 そんな携帯電話会社の「囲い込み商法」を変えられるだろうか。

 総務省の審議会が、携帯電話会社の競争促進やサービス向上策を盛り込んだ報告書をまとめた。

 契約から一定期間は、無料で解約できるルールの策定を提言した。携帯電話やスマートフォンの端末を、他社のサービスで使えないように制限する「SIMロック」の解除の義務化も求めた。

 総務省は報告書をもとに、2015年度から新たな制度を導入する方針だ。健全な競争の促進や、消費者の利益拡大につながる改革としてもらいたい。

 無料解約制が始まれば、いったん契約しても、電波状況やサービスに不満があれば、他社に契約を変えやすくなる。消費者が、料金やサービスの良い会社を選びやすくなるメリットは大きい。

 ただ、解約時にSIMロックが解除されていないと、新品の端末があるのに、買い直さねばならない。実効性は限られよう。

 報告書は、最初からSIMロックをかけないか、購入から一定期間で解除することが適当とした。総務省は、利用者が希望すれば、携帯電話会社が直ちに解除に応じる仕組みを取り入れるべきだ。

 これらが実現しても、囲い込みの解消へ、残る課題は多い。

 特に問題なのが「2年縛り」と呼ばれる契約形態だ。2年契約を結ばないと、端末価格や通信料が割高になる。途中解約すると多額の違約金を求められ、乗り換えをためらう利用者は少なくない。

 今回の報告書は、「2年縛り」について改善策を示さず、今後の検討課題とするにとどめた。

 消費者の選択肢を狭める商慣行には問題が多い。総務省は利用者の声にきちんと耳を傾け、さらなる改革を急がねばならない。

 端末の安売り合戦が、再び過熱してきたのも気がかりだ。

 米アップルのiPhone(アイフォーン)6が9月に発売されたのを機に、携帯各社は古い端末の高額な下取りを開始した。

 各社は、あくまで「買い取り」であり、かつて問題となった格安販売とは違うと説明しているが、実情は大差あるまい。

 買い取り費用は結局、通信料などでまかなわれ、そのツケは利用者に回る。頻繁に端末を買い替える人のために、同じ端末を使い続ける人が不利益をこうむる現状は改める必要がある。

2014年10月22日水曜日

公的年金運用の信頼高める改革を急げ

 政府が公的年金の運用改革を進めようとしている。現在の国債中心の運用を改め、株式など価格変動の大きい資産の比率を上げる方向だ。公的年金という資産の特性をよく踏まえ、改革に向けた議論をつめてほしい。

 運用内容の見直しが検討されているのは、国民年金と厚生年金を合わせた約130兆円の積立金を持つ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。

 昨年11月に有識者がGPIFの運用の改革を提言した。国内債券の比率を60%から下げ、国内株式の比率を12%から上げることなどが提言に盛り込まれた。

 提言に沿ってGPIFの運用改革が進めば、株式市場に流入する資金が増えると期待する向きは多い。そうした思惑が交錯し、最近の株価の乱高下を誘っているとの指摘も聞かれる。

 しかし、GPIFの資産の原資はすべての国民への年金給付に回る保険料だ。年金受給者の長期的な利益に資するため、安全で効率的な運用に徹するという原則が貫かれる必要がある。公的年金の運用改革と目先の株価の動向を関連づけるような議論は避けなければならない。

 GPIFの運用は大学教授などから成る委員会が理事長に提案し、それに基づいて理事長が決めるという手続きをとる。委員会は運用方針について実質的に大きな影響力を持つが、結果について責任を負っていない。

 こうした意思決定の過程は外から見てわかりにくく、年金運用の受託者責任を果たすという点からも問題が多い。

 GPIFの本格的な改革の第一歩は、公的年金への信頼が高まるような組織の見直しだ。年金や運用に詳しい人たちを常勤委員に迎え、結果責任を課したうえで、専門家の見地から資産の構成比などを決めてもらう。そんな体制を築くことが必要だ。組織を変えるために法改正が必要ならば、そちらをこそ急ぐべきだ。

 GPIF改革で欠かせないもう一つの点は、政治からの独立性を保つことだ。政府に意図はなくても、公的資金で株価を維持しているという不健全な印象を持たれることは避けたい。

 理事長などの人選や運用の意思決定に関する情報公開を一段と進め、GPIF運営の透明度を高める必要がある。そうした改革は早急に着手できるはずだ。

一段と減速した中国の景気

 中国の国家統計局は7~9月期の国内総生産(GDP)が前年同期に比べ実質7.3%増えたと発表した。4~6月期の7.5%増から減速し、リーマン・ショックの影響が最も強く表れた2009年1~3月期(6.6%増)以来の低い水準となった。

 1~9月期の成長率は前年同期比7.4%増。中国政府は今年の目標として7.5%前後の成長を掲げているが、その達成に黄信号がともったといえる。

 すでに中国政府は住宅購入制限の部分的な緩和など小刻みの景気刺激策を打ち出している。ただ、リーマン・ショックの後のような大規模な景気対策に踏み切る可能性は否定している。

 成長が鈍った最大の原因は、不動産市況の低迷を背景とした建設投資の減速にある。ここで強力な景気対策を打ち出すと投機的な不動産開発を再び刺激しかねない、と指導部は警戒している。

 かつて闇雲に不動産開発を進めた地方当局の債務はなお高い水準にある。金融システムが揺らいだりしないよう目配りしながら、その処理を着実に進めよう、というのが指導部のシナリオだろう。

 李克強首相は雇用情勢を特に重視している。景気減速にもかかわらず足元の雇用情勢はおおむね安定しており、この面からも大規模な景気対策は必要ないとみているようだ。当面、中国の成長は鈍化傾向が続くとの見方が多い。

 中国の景気減速は原油や鉄鉱石など1次産品価格の下落を促し、世界経済に複雑な影響を及ぼしている。日本の企業も経済運営を担当する当局も、中国の景気変動がもたらすリスクとチャンスの双方をにらんだ戦略が問われる。

 特に中国の個人消費が底堅いことには注目したい。小売売上高に当たる社会消費品小売総額は1~9月、前年同期に比べ名目で12.0%拡大した。消費はいまや投資を上回る成長エンジンとなっている。景気の先行きをみるうえでも、ビジネスチャンスを探るうえでも、重みを増している。

普天間問題―「運用停止」の空手形

 米政府との調整がつく見通しもないままの約束なら、とんだ空手形と言うほかない。

 日本政府がめざす米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の2019年2月までの運用停止について、米政府が拒否する意向を明確にした。

 米国防総省当局者が朝日新聞に示した回答を見ると、その意図は鮮明である。

 ▼13年に日米が合意した22年度以降の返還が唯一の方策

 ▼19年2月の運用停止に米政府は同意していない

 ▼日本側から正式要請はない

 つまり、22年度以降に名護市辺野古の代替施設が完成しなければ、普天間の運用停止はできないという意味だ。

 沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事が5年以内の運用停止を日本政府に求め、菅義偉官房長官は9月、その期限を19年2月までと明言した。仲井真氏が立候補を表明している県知事選向けのリップサービスと受けとられても仕方あるまい。

 菅氏は最近の記者会見で、19年2月までの運用停止を「米国に様々なレベルで繰り返し伝えている」と説明した。たしかに日米首脳会談などで日本政府の姿勢として言及してはいる。しかし、その実現に向けて、米側に正面から真剣な検討を求めたことがあっただろうか。

 米政府内で、一顧だにされていないのは明らかだ。

 普天間のKC130空中給油機15機は米軍岩国基地に移転されたが、普天間での訓練はなくなっていない。同じく普天間の新型輸送機MV22オスプレイの佐賀空港への移転案も一時浮上したが、米側が難色を示して暗礁に乗り上げた。

 こんな状況で、運用停止が実現するかのような説明をするのは不誠実ではないか。

 菅氏は辺野古への移設問題を「過去の問題」「終わっていることだ」と述べ、強い反対を押しのけて掘削調査を進めている。移設の「既成事実化」であり、地元の理解を得ながらの作業とはとても言えない。

 米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授はザ・ハフィントン・ポストへの寄稿で、沖縄のいらだちに言及。「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘し、在日米軍の配備について再考を求めた。米国内の知日派にも柔軟な考え方が出始めている。

 安倍首相は次の日米首脳会談で、5年以内の運用停止を正式に要請すべきではないか。

 それさえしないのなら、やはり口先だけの約束だったということになる。

道徳の教科化―多様な価値観育つのか

 「道徳」が小中学校で子どもたちの学ぶ教科になる。中央教育審議会がきのう、その答申を文部科学相に出した。

 これまでは教科外の扱いだったが、早ければ18年度にも格上げされる。戦前の「修身」が軍国主義教育を担ったとして終戦の年に廃止されて以来、70年目の大きな転換となる。

 答申は、こう述べる。「特定の価値観を押し付けることは、道徳教育が目指す方向の対極にある」。その通りだと思う。

 では、教科にすることで多様な価値観が育つのか。かえって逆効果になりはしないか。その懸念をぬぐえない。

 教材には検定教科書の導入が提言された。国がつくるより、民間が工夫したさまざまな教科書が使われる方が望ましい。

 ただ答申は、教科書づくりのもとになる学習指導要領の記述を、これまでより具体的にするよう求めてもいる。細かく書きすぎると教科書も縛られる。

 「正直、誠実」「公正、公平、正義」などのキーワードの明示も考えられるとした。だが規範や徳目を詰め込むより、何が正直で何が正義かを考える授業であってこそ意味がある。

 文科省は今年、検定のルールを変えた。「愛国心」を盛り込んだ教育基本法の目標に照らして重大な欠陥があると判断されると、不合格になる。この運用次第では、かつての国定教科書に近づきかねない。

 評価は点数制を見送り、コメントで記すよう求めた。だとしても、何をどう評価するかが問われるのは変わらない。

 文科省が今年つくった教材「私たちの道徳」は、二宮金次郎らの偉人伝や格言を集めている。そんな物語から「正しい人間像」を説き、それを受け入れた場合のみ評価するのなら、思考を養うことにはなるまい。

 答申は、学校や教員で格差が大きいといった現状を改めるためにも教科にしたいという。だが、それは運用で解決する話ではないか。重要なのは教科化という形ではなく、何をどう教えるかという授業の中身だ。

 答申は情報モラルや生命倫理など現代の課題を扱うことや、対話や討論の授業も求めた。ぜひ進めてほしい。そうなると、シチズンシップ(市民性)教育や哲学に限りなく近づく。

 生の社会で価値判断の分かれるものこそ、格好の素材だ。そのために教員にはテーマを選ぶ自由がなければならない。

 決まった教科書を使っているかどうか、国がいちいち調べているようでは困る。挑戦を応援する姿勢こそ必要だ。

米軍基地新協定 環境面で地元負担を軽減せよ

 政府は、在日米軍基地の環境対策を強化し、周辺自治体の負担軽減につなげることが重要だ。

 日米両政府が、米軍基地の環境調査に関する新たな日米協定(環境補足協定)の締結で実質合意した。

 返還予定の米軍基地内の土壌汚染や埋蔵文化財を調査するため、自治体などが返還前に立ち入ることを認める。環境汚染につながる事故が発生した際、立ち入り調査を行うことも可能となる。

 一方で、米軍基地内の環境対策として、日本政府が汚染水の浄化設備や太陽光発電装置の整備などに資金提供するとしている。

 新協定は、沖縄県の仲井真弘多知事の要望を受けたものだ。日米両政府が11月の沖縄県知事選前の実質合意を目指していた。

 環境対策に関する規定がない日米地位協定を事実上、初めて改正するものであり、前向きに評価できる。仲井真知事も、「地位協定締結から54年を経て初めての成果だ」と歓迎している。

 地位協定では、基地管理権は米軍にあり、日本政府や自治体の立ち入りには米軍の許可が必要だ。米側には返還時の原状回復義務がないため、土壌汚染などがあった場合、日本側が調査や有害物質の除去を行っている。

 日米両政府は多数の在沖縄米軍基地・施設の返還で合意しているが、基地跡地では過去に再三、環境問題が発生している。2003年には、キャンプ桑江の一部返還地で高濃度の鉛などが検出され、跡地利用の障害となった。

 新協定による立ち入り調査の制度化により、日本側の事前調査が容易になる意義は大きい。跡地利用の迅速化が期待される。

 ただ、調査手続きなど細部の詰めの交渉は続いている。沖縄県は返還3年前からの事前調査を求めている。自治体が跡地を利用しやすい制度にしてもらいたい。

 日米両政府は、両国の環境基準のうち厳しいものを在日米軍に適用するとしているが、具体的な内容は公表されていない。透明性を高める努力が求められる。

 政府は新協定以外でも、沖縄の基地負担軽減を進めている。

 米軍普天間飛行場に配備されていた空中給油機KC130部隊は8月、山口県・岩国基地への移駐を完了した。普天間飛行場の米軍輸送機オスプレイの訓練も、県外への分散移転を拡大している。

 日本防衛に不可欠な米軍の沖縄駐留を持続可能なものにするため、日米双方がこうした措置に着実に取り組まねばならない。

火力発電提携 料金値下げにもつなげたい

 大手電力10社が各地域ですみ分けてきた業界の構図を変える契機となるのだろうか。

 東京電力と中部電力が火力発電事業での提携で基本合意した。

 今年度中に共同出資で新会社を設立し、火力発電燃料の共同調達や老朽化した火力発電所の建て替えなどで協力する方針だ。

 東電は、福島第一原子力発電所の事故処理と損害賠償、電力の安定供給などの重要な責務を担っている。これらを着実に果たせるよう、提携をテコに収益力の向上を図らねばならない。

 東電と中部電では、原発再稼働のメドが立たず、液化天然ガス(LNG)を燃料とした火力発電が全体の6割を超える。LNGの国際市況は下落傾向にあるが、日本企業の調達価格は高止まりし、発電コストを押し上げている。

 LNGを新会社で一括購入すれば、年間4000万トンと世界で最大規模の買い手となる。ガス産出国との価格交渉力は強まろう。

 割高な燃料の調達価格を是正して、電気料金の値下げにつなげるなど、提携効果を利用者に還元することも望まれる。

 最終合意に向けて気がかりなのは、両社の姿勢に、微妙な温度差があることだ。

 東電は、既存の火力発電所を新会社に移管するよう提案したが、中部電は慎重な姿勢を崩さず、結論は持ち越されている。

 東電は2012年に実質国有化された。他社との提携による経営基盤の強化は、政府の意向に沿って進められた。一方、中部電は政府の介入を警戒している。両社共にメリットのある形で、連携を深めていく工夫が必要だろう。

 政府が16年に予定している電力小売りの全面自由化を前に、電力各社は営業区域を越えて事業展開する動きを加速させてきた。

 既に自由化されている大口の電力販売では、関西電力が首都圏に進出したほか、九州電力などが他業種の企業と連携して参入する計画も相次いでいる。

 電力大手が、それぞれの地域独占を尊重するという「暗黙のルール」は崩れ始めた。

 競争激化をにらんだ東電と中部電の提携に刺激を受け、地域や業種を超えた再編劇が活発化する可能性もある。各陣営が料金やサービス向上で競い、恩恵が消費者に及ぶことが期待される。

 ただ、過剰なコスト競争が電力安定供給を損なう事態は避けねばならない。政府は、電力自由化の副作用にも目配りするべきだ。

2014年10月21日火曜日

閣僚辞任の打撃は政策で挽回せよ

 「政治とカネ」。この使い古されたことばをまた耳にするのか。2閣僚の辞任にそんな思いを抱いた国民は少なくあるまい。安倍晋三首相に打撃なのは言うまでもないが、それで済むだろうか。日本の政治はこの程度なのかという不信感が広がることがこわい。

 政治資金収支報告書によれば、小渕優子前経済産業相の後援会が2010年と11年に実施した観劇会の支出が収入を大幅に上回っていた。差額を後援会が補填したならば、自身の選挙区の有権者への寄付に当たる。公職選挙法に違反する疑いがある。

資金の出口も改革を
 12年に催した観劇会の収支は記載もされていなかった。こちらは政治資金規正法に抵触する可能性が高い。これらの疑問にわかりやすく答えられないからには、閣僚を辞めるのは当然である。

 小渕氏は弁護士ら第三者の手でなぜ辻つまが合わないのかを調査させると表明した。閣僚を辞めさえすれば一件落着ではない。第三者による調査でも、なお資金の流れが解明できないならば、国会議員の辞任を含め、さらなるみそぎをしてもらわねばならない。

 政治活動にかかわる贈答品などを主に親族が経営する企業に発注していた件は、直ちに違法かどうかが判然としない。とはいえ、国のリーダーたらんとする者は、疑念を持たれそうな言動はあらかじめ慎むのが筋である。

 松島みどり前法相は自身の似顔絵などを印刷したうちわ状のものを選挙区内で配った。うちわであれば、こちらも有権者への寄付に当たる疑いがある。

 文章も書いてあることから、松島氏は「(公選法で認められた)討議資料だ」と反論した。だが、柄がついており、外見はうちわにしかみえない。

 法律の番人である法相が法の抜け穴のような話をしたことに違和感を禁じ得ない。閣僚たる資質にはじめから欠けていたとしか言いようがない。

 うちわの配布が合法か違法かは今後のあらゆる選挙の戦い方に大きく影響する。閣僚辞任で幕切れとならないように、公選法違反かどうかを調べるべきだ。

 政治資金を巡る不祥事は以前は公共事業の受注と引き換えに裏金を受け取るなど「入り」の問題が多かった。不明朗なカネに手を出す政治家が減ったのは、政党助成制度を導入した効果だろう。

 なくならないのが、政治資金を何に使うかという「出口」の不祥事である。昔ながらのどんぶり勘定で平気な政治家は多い。選挙民への利益供与や公私混同が疑われる物品購入はあってはならない。

 第1次安倍内閣以降、不祥事や失言で辞める閣僚が後を絶たず、1年ごとの首相交代を招いた。もううんざりだが、少々の不祥事に目くじらを立てるな、という雰囲気が政界にあることは遺憾だ。信頼に値しない政治家に国家の大事を委ねるわけにはいかない。

 第2次安倍内閣は発足から戦後最長の617日も閣僚交代がなかった。内閣改造後はごたごたが相次ぐのはどうしたことだろうか。

 急な人事だったのではない。疑念を持たれそうな言動がないかどうかを調べる時間はたっぷりあったはずだ。安倍首相の任命責任は重大である。1強多弱などとおだてられ、たかをくくっていたのか。猛省すべきだ。

女性活躍は滞らせるな
 これをきっかけに安倍政権は第1次内閣のときと同じく坂道を転げ落ちるのか。世間は注目している。首相は閣僚が次々と火だるまになる辞任ドミノは避けたいだろうが、改めて厳しく点検し、国民の信頼回復に努めねばならない。 後任の閣僚の責任も重大だ。もう失敗は許されない。

 アベノミクスへの期待感などに支えられ、第2次安倍内閣は高い支持率を維持してきた。ただ、背景には民主党政権への失望感という上げ底があったことは、もう一度思い出してもらいたい。

 改造内閣の目玉だった女性閣僚がつまずいたことで、女性閣僚5人は多すぎたとの見方もあると聞く。不祥事に足をとられ、看板政策の「女性が活躍する社会の実現」が足踏みしては本末転倒だ。

 進めるべき政策を着実に実現する。それ以外に閣僚辞任の打撃を挽回する方法はない。首相は一刻も早く政権のタガを締め直さねばならない。

 勢いづく野党にひとこと言っておきたい。今回の閣僚辞任は敵失であり、野党に手柄があるのではない。疑惑はどんどん追及すべきだが、無関係な国会審議まで滞らせてはならない。

閣僚同時辞任―首相が招いた異常事態

 2人の閣僚が、有権者への利益供与や寄付を疑われて同時に辞める。極めて異例、いや異常というべき事態である。

 安倍首相は「国民に深くおわびする」と頭を下げたが、その任命責任は極めて重い。

 小渕経産相は、疑惑が報じられてから5日目の辞表提出だ。苦しい言い訳を重ねた過去の例に比べれば、引き際はよかったと言えるのかもしれない。

 しかしそのことは、今回の疑惑がもはや国会で説明ができぬほど悪質だったことの裏返しだろう。

 閣僚を辞めても、小渕氏は衆院議員としての説明責任から逃れることはできない。

 いくつかの疑惑の中でもっとも重大なのは、後援会員の観劇会の費用の収支が大幅に食い違っていることだ。

 小渕氏はきのうの記者会見で、観劇の費用は「参加者から全額集めている」と説明。公職選挙法が禁じる選挙区の有権者への利益供与は否定した。だが、観劇会は毎年催されているのに、その収支が報告書に全く記載されていない年もあり、「大きな疑念があると言わざるを得ない」と認めた。

 報告書への不記載は政治資金規正法に違反するし、利益供与の疑いも晴れたわけではない。

 まさに小渕氏自身がいうように「知らなかったではすまされない」重大な行為である。

 松島法相は、自身の似顔絵入りのうちわを選挙区内で配ったことが、公選法が禁じる寄付にあたるのではないかと国会で追及された。それが「雑音」であるかのような発言までして、法務行政の責任者が刑事告発される倒錯した事態を招いた。

 先月までの第2次安倍内閣は、1年8カ月あまり閣僚が1人も交代しない戦後最長記録をつくった。ところが、改造したとたんに閣僚の問題行為が次々と明るみに出ている。

 小渕氏も松島氏も、「女性が輝く社会」を掲げる安倍首相の肝いりで入閣した。

 改造内閣の看板づくりを優先するあまり、資質を十分に吟味せず、不祥事の芽を見逃してはいなかったか。

 ほかにも、江渡防衛相の政治資金収支報告書の訂正や、山谷国家公安委員長が「在日特権を許さない市民の会」の元幹部と一緒に写真撮影していた問題などが発覚している。

 安倍政権の気の緩みやおごり、あるいは体質そのものが一連の事態を招いているとしたら、極めて深刻だ。

 こうした疑念をぬぐい去る責任もまた、首相にはある。

学校のいじめ―粘り強く取り組もう

 小中高校の児童生徒の問題行動について、文部科学省が年に一度の調査結果を発表した。

 13年度のいじめの認知件数は18万5千件だった。なお多いが、ピークだった12年度より1万2千件減っている。12年度といえば、大津市の中学生の自殺が問題になった年だ。

 調査がいじめの統計を取り始めて30年近い。件数は社会問題化した年に急増するが、その後は減り出し、数年後、また問題になると増える。そのサイクルを繰り返してきた。

 文科省は「防止の成果で減ったと答えた自治体が多い」としつつ、「認知の意識が低くなった地域があるのも否定できない」と言う。

 「のど元過ぎれば熱さ忘れる」では困る。無料通信アプリ「LINE」などの普及で、見えにくいいじめも増えている。粘り強い取り組みが必要だ。

 件数が急増や急減を繰り返すのは、調査自体の問題も大きい。いじめは暴力行為や不登校と違い、何をいじめとするかで判断が分かれがちだからだ。

 京都府はいじめを数える方法を変えた。嫌な思いをした子どもがいるレベルを「1段階」、継続的に見る必要があるケースを「2段階」、命にかかわるなど重大な事態を「3段階」と分け、「1段階」からすべて数えた。すると件数が3倍になり、都道府県で最多になった。積極的にとらえるヒントとしたい。

 いじめ防止対策推進法が施行されて1年がたつ。文科省は、その状況も調べた。

 学校は、いじめを防ぐ基本方針をまとめ、対策の組織をつくることを義務づけられた。そのため、ほとんどの学校が方針や組織をつくり終えている。

 年度途中の施行だったこともあり、国や都道府県の基本方針を要約しただけの学校が目立つ。大切なのは、教職員の意識を高めることだ。何がいじめで、どう対応するか。現場で互いに議論し、共通の土台をつくる機会としたい。

 心配なのは市町村の自治体だ。都道府県はほとんど方針をつくったが、市町村は4割ほどで、連絡組織の設置も3割どまりだ。職員が少ない事情もあろうが、そうならなおさら、都道府県や近くの自治体との連携を考えてほしい。

 今回の調査では、小中高校生の自殺のうち、「いじめ問題」があったと学校が報告したのが6人から9人に増えた。いじめが理由ではと疑われるケースはもっと多い。いじめ問題は終わるどころか、なお深刻だ。その意識を持ち続けたい。

女性2閣僚辞任 早急に政権の態勢を立て直せ

 政治とカネの問題を巡り、改造内閣の発足後、わずか1か月半で女性2閣僚が辞任した。安倍政権への大きな打撃だ。

 首相は、早急に態勢を立て直し、国政運営に取り組まなければならない。

 小渕経済産業相は記者会見で、「経済、エネルギー政策に停滞は許されない。大臣を辞し、疑念を調査する」と語った。調査は弁護士ら第三者に委ねるという。

 小渕氏の関連政治団体の収支報告書では、判明分だけで、支援者向け観劇会の4年分の支出が会費収入を約4200万円上回っている。団体が差額を補填(ほてん)していれば公職選挙法違反の恐れがある。

 小渕氏は、参加者から実費を徴収していたと説明し、公選法違反の疑いを否定した。ただ、その場合でも、報告書への収入の過少記載や不記載により、政治資金規正法に抵触する可能性がある。

 政治資金の管理を会計担当者などに任せ切りにし、これほど杜撰(ずさん)な報告書を提出し続けた小渕氏の監督責任は極めて重い。

 小渕氏は、資金管理団体による地元特産のネギやベビー用品などの購入について、「公私の区別はつけている」と釈明しているが、より丁寧な説明が求められる。

 辞任による問題の幕引きは許されない。衆院政治倫理審査会での弁明などを検討すべきだろう。

 小渕氏は衆院当選5回で再入閣し、女性首相候補と目されていた。元首相の次女として恵まれた環境にあった。自らをより厳しく律するべきではなかったのか。

 今後の調査次第で、一層厳しい局面を迎えることもあろう。

 松島法相は、地元行事で「うちわ」を配布したとして公選法違反の疑いが持たれている。民主党は、東京地検に刑事告発している。

 松島氏は、辞任の理由について「私の言動で国政に遅滞をもたらした」と語る一方、配布については「問題になる寄付行為とは思わない」と強調した。違法かどうかを明確にする必要がある。

 安倍首相は、両氏の辞任について「任命責任は私にある」と語り、国民に陳謝した。過去最多の女性閣僚5人の起用は「女性が輝く社会」の象徴とする狙いがあった。閣僚起用に関する事前調査が甘かったと言えよう。

 後任の経産相に自民党の宮沢洋一政調会長代理、法相には、上川陽子・元少子化相が起用される。野党は今後、国会で政権批判を強めるだろう。首相と全閣僚は、政策の遂行を最優先し、緊張感を持って職務に専念すべきだ。

子供のいじめ 様子の変化に敏感でありたい

 学校でのいじめがなかなか減らない。根絶に向け、さらに取り組みを強化する必要がある。

 文部科学省の調査によると、2013年度中に全国の小中高校などで起きたいじめの認知件数は、計18万5860件に上った。前年度より約1万2000件減ってはいるものの、依然として高い水準である。

 小学校での件数は、過去最多だった。児童の場合、悪ふざけといじめの区別が難しいケースもある。教師は普段から子供たちの変化に目を配り、早期にいじめの芽を摘むことが大切だ。

 大津市の中学生が自殺した事件を受け、昨年9月にいじめ防止対策推進法が施行された。被害者が生命を脅かされたり、長期の不登校になったりする悪質ないじめを「重大事態」と定義し、教育委員会や学校に調査を義務づけた。

 その重大事態が、いじめ防止法施行後の半年間で181件起きているのは、深刻な状況だ。

 最近も、「失神ゲーム」と称して中3男子の胸を強く圧迫し、何度も気絶させたとして、東京都内の中学生3人が逮捕された。被害者の母親が気づいて発覚した。

 保護者は子供の様子を注意深く見守ることが重要である。

 パソコンや携帯電話を通じた「ネットいじめ」は、過去最多の8787件に上った。無料通話アプリ「LINE(ライン)」の仲間など、特定のグループ内で起きる例が目立つ。

 メッセージへの返信を忘れたといったことが、いじめの発端になる場合も多い。広島県では2月、部活動でウソの集合場所を伝えられるなど、LINEを通じていじめを受けていた高1の男子生徒が自殺した。

 ネットいじめの実態は、連絡を取り合っている当事者以外には見えにくい。いじめを受けた子供は、周りに気づかれぬまま、悩みを抱え込んでしまいがちだ。

 日頃から親や教師が子供と意思疎通を図り、子供が相談しやすい関係を築いておきたい。

 学校側に積極的な対応を求めたいじめ防止法の施行後も、被害者側が教委や学校に不信感を抱くケースは少なくない。山形県で1月に中1女子が自殺した際も、学校側は当初、いじめの存在を否定し、対応が後手に回った。

 責任追及などを恐れ、教育現場には、いじめを認めたがらない傾向が強い。隠蔽体質は変わっていないとの批判もある。教委や学校は真摯(しんし)に受け止め、早期の対応に努めてもらいたい。

2014年10月20日月曜日

スーパー復活の鍵は高齢者への対応に

 イオンがダイエーを完全子会社化し、ローソンが成城石井を買収するなど、スーパーマーケットを巡る再編が加速している。消費不振を規模拡大で乗り切る狙いが濃い。ただし、今後もスーパーが成長を続けていくには、高齢化などの構造変化に合わせた商品やサービスを提供する必要がある。

 スーパーは大量仕入れと安売りが子育て中の専業主婦に支持され台頭した。接客の省略も安売りに生かした。高齢化が進み、単身世帯や働く女性が増えた現在、身近なコンビニエンスストア、薬と食品を併売するドラッグストア、手軽なネット通販に押されている。

 2013年のスーパー業界の既存店売上高は17年連続でマイナスとなった。今年は増税の影響でコンビニに流れた客が多少戻っているが、低価格だけに頼っていては持続的な成長は難しい。新たな道のヒントは、一部の先進的な試みから見つけることができる。

 例えば全国の生活協同組合では1日9万食を家庭に届ける。その7割はおかずだけの配達だ。ご飯くらいは自分で炊きたい。その代わり健康的なおかずを少量、日替わりで味わいたい。そうした高齢者の心理に応えたものだ。手間はかかるが、高齢化が進めばこうした市場は広がる。

 ある地方スーパーは、地元の食文化に合った品ぞろえで常連客に支持されている。これらの商品を、全国に住む地元出身者に向けてネット経由でも販売している。商圏を周辺住民に限る発想からの転換だ。

 鮮魚売り場に職人を配置、魚をさばいて料理法を指南する店もある。自分で調理しづらくなった高齢者だけでなく魚の知識が乏しい若い客にも歓迎され、なじみの薄い魚の売り上げにもつながった。

 農林水産省の調査によれば、専門知識のある店員と対話する場や鮮度の高い魚を扱う店が減ったことも、消費者の魚離れを招いた。小売店の変化は国内漁業の振興にもつながる。

 大手スーパーでは店を改装し、高齢者が交流するカフェや文化教室を設ける例も現れた。狙い通り高齢客の来店が増えたという。

 手間をかけた商品、店員や客同士の対話、物販以外の場など、一度は無駄とした要素が売り上げにつながる。そうした変化を見据えきめ細かい工夫を重ねてこそ、消費者や地域に必要とされる店になるのではないか。

名古屋議定書の批准へ努力を

 遺伝子資源の活用で得た利益の配分を定めた国際的な取り決めである「名古屋議定書」が、韓国の平昌で開いた生物多様性条約の締約国会議(COP12)で発効した。発効に必要な50カ国以上の批准が得られたためだ。

 議定書は2010年に名古屋で開いた締約国会議(COP10)で誕生した。日本が国内の意見調整の遅れなどから批准を見送ったのは残念だ。政府は議定書の運用ルールを透明にすべく国際交渉で積極的な役割を果たし、早期の批准を目指してほしい。

 遺伝子資源とは、医薬品や食品などの研究開発や製造に役立つ動植物や微生物のことを指す。かつては企業の研究者らが世界各地で生物を集めて新薬開発などに利用していた。多様性条約の下では、資源国の許しなく採集はできず、製品化で生ずる利益も資源国との配分を求められる。

 日本政府が批准を見送った一因はバイオ関連の業界に慎重論があるためだ。議定書にあいまいな記述があり、資源国から過去に遡って利益配分を求められる恐れがあると懸念する声が出ている。

 遡及して配分を求められれば、大きな負担になりかねない。また米国が多様性条約そのものに加盟していないため拙速な批准は日本の競争力をそぐとの指摘もある。産業界の心配は理解できる。

 ただ議定書合意からすでに4年だ。ルールの明確化に向けて政府や産業界がもっと積極的に取り組む余地はなかったのか。

 「遡及」はかねて利益配分をめぐる大きな争点だった。COP10で豊富な資源をもつ途上国が遡及を求めたが、日本などの主張が通って遡及条項は明示的に議定書に盛り込まれなかった。その結果を産業界もおおむね支持した。

 ルールが不明確なままでは資源の活用が進まず研究開発の新しいタネを提供できない。新製品も生み出せない。批准をいたずらに遅らせず、利用国にも十分な利益をもたらす実効性のある仕組みにするよう努力すべきだ。

カジノ法案―懸念材料が多すぎる

 自民、維新、生活の3党が出したIR推進(カジノ解禁)法案が成立するかが今国会の焦点となってきた。

 私たちは社説でカジノ解禁に反対してきた。世論調査でも反対が賛成を大きく上回る。カジノがもたらす害については、徹底した議論が不可欠だ。推進派は、20年の東京五輪に間に合わせたいとするが、拙速に成立させるべきではない。

 最も懸念されるのは、ギャンブル依存症の問題である。

 厚生労働省の研究班は8月、依存症の疑いがある人が成人の5%弱、536万人にのぼる、との推計を公表した。他国と比べても高い水準だという。

 推進派の議員連盟はこれを意識し、日本人のカジノ入場に関して必要な措置を政府が考えるよう、法案の修正を決めた。

 ギャンブル依存症は世界保健機関(WHO)が精神疾患の一種と位置づける国際的な問題である。日本人だけ入場を厳しくすれば済むという話ではない。

 カジノを解禁した各国も、依存症対策に苦心している。

 シンガポールは、地元住民には8千円程度の入場料を課し、本人や家族の申し出で立ち入りを制約する制度を設けた。それでも対象者はこの2年間で2倍以上増え、21万人を超えた。

 全国に17あるカジノのうち、国民が入れる場所を1カ所のみとしている韓国でも、依存症の増加が社会問題化している。

 「国内で依存症が多いのはパチンコ・パチスロや、競馬、競輪などの公営競技のため。カジノが加わっても変わらない」との声も聞かれる。推進議連は、カジノの収益の一部を依存症対策にあてる考えも示している。

 賭博として禁じられていないパチンコや公営競技が引き起こす依存症には、国としての対策が急務だ。だが、それはカジノ解禁を急ぐ理由にはなるまい。

 カジノに前向きな安倍首相はその理由として「観光振興、雇用創出の効果は非常に大きい」と国会で述べた。

 ただ、依存症対策などに必要な社会的コストを上回るほどの経済効果は本当にあるのか。

 カジノの収益の本質は、客の負け分である。日本進出に意欲的な外国資本は、中国や東南アジアからの観光客以上に、約1600兆円といわれる日本人の個人資産に注目している。カジノで一見カネが動いても、海外に吸い上げられるだけではないか、との懸念がぬぐえない。

 目先の利益ではなく、日本にとって長期的にプラスになるかを考える。そういう姿勢を、推進派に強く求めたい。

従業員の発明―報酬切り下げはダメだ

 企業の従業員が仕事で生み出した発明(職務発明)に関しては、従業員が特許を受ける権利を持つ。会社に譲り渡す場合は「相当の対価」を請求できる。

 そうした現行制度を改め、特許を最初から会社のものにする。ただし、従業員に対価請求権と同等の権利を保障し、政府がガイドラインも作る。

 特許庁の審議会がこんな改革案骨子を打ち出し、具体案を詰めることになった。

 現在も、大手を中心に企業は勤務規則などで特許を会社側に移している。研究開発は個人よりチームでの取り組みが中心だ。特許を最初から会社に帰属させ、素早い経営判断を後押ししよう。そんな考えに基づく。

 審議会は「従業員へのインセンティブは企業にとっても重要」と強調する。当然だろう。発明を生むのはあくまで従業員だからだ。

 今後の検討作業でその視点を貫けるかどうかが問われる。

 例えば「対価請求権と同等の権利」の中身。特許を会社帰属とするよう求める経営側の委員と、現行制度維持を主張する労働側の委員が対立し、妥協の産物として盛り込まれた。

 現行制度の「相当の対価」は現金報酬が想定されている。一方、特許庁は「同等の権利」について処遇や研究費も含めて検討する構えだ。あるアンケートでは、特許が会社帰属に変われば「従業員に支払う原資を減らす」企業が約3割を占めた。やはり現金報酬に限って「同等」とするべきではないか。

 政府が作るガイドラインは、インセンティブにかかわる協議など手続き面を定める予定だが、そのあり方にも触れる必要がないか。そもそも法的拘束力がない点も心配だ。

 経営側の主張は、かつて「相当の対価」を巡る裁判で多額の支払いを命じる判決が続いたことを受けている。このほどノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二氏が元勤務先を訴え、200億円の支払い命令を得た04年の判決(後に約8億円で和解)がその代表例だ。

 しかし、最近は巨額請求訴訟は影を潜めている。04年に特許法が改正され、「相当の対価」について労使間などでの協議を促す趣旨の規定が盛り込まれたことが大きい。

 必要なのは、04年改正の狙いを徹底することではないか。

 経営体力を見つつ従業員が納得できる報酬を用意し、やる気を引き出す。発明を通じて企業が潤い、わが国全体としての競争力が高まる――。そんな好循環を目指さねばならない。

老朽原発の廃炉 円滑な実施へ環境整備を急げ

 老朽化した原子力発電所を無理に使い続けるのは、安全性とコストの両面で問題がある。

 安全性の確認できた原発を着実に再稼働する一方、古い原発は将来的な新増設も視野に入れ、計画的に廃炉にしていくことが得策だ。

 東京電力福島第一原発の事故を受け、原発の運転期間は「原則40年」と定められた。原子力規制委員会の認可を得られれば、運転期間を最長20年間延長できる。

 全国の原発48基のうち、関西電力美浜原発1号機など7基は稼働から40年前後たっている。これらの運転期間を延長するには、来年夏までに原子力規制委に対し、認可を申請する必要がある。

 審査をパスするための設備改修などで追加投資額がかさむと、電力会社の経営は圧迫される。電気料金の値上げなど、利用者の負担増につながる恐れもあろう。

 電力各社は、運転延長の費用対効果を踏まえ、廃炉か運転継続かを判断することが求められる。

 小渕経済産業相は17日、電気事業連合会の八木誠会長(関電社長)と会談し、老朽化した原発を廃炉にするかどうか、早期に判断を示すよう電力業界に要請した。

 40年で運転を打ち切られる原発が何基程度あるか分からないと、全発電量に占める原発比率をはじめ、エネルギー戦略の基本方針に関する議論も進められない。

 電力会社はできるだけ速やかに決断してもらいたい。

 ただし、廃炉の決定には、様々なハードルがある。

 電力各社は40年を超える運転を想定して廃炉費用を積み立てている。積立金の不足した原発の運転を前倒しで打ち切れば、多額の追加負担が生じることになる。

 廃炉が決まると、発電設備が資産とみなされなくなるため、会計上、一度に大きな損失の計上を迫られるという問題もある。

 電力会社が、足元の業績悪化を回避しようと廃炉の判断を先送りし、結果的に老朽化した原発が運転も廃炉もされないまま、放置される懸念は拭えない。

 電力会社が廃炉を円滑に進められるようにするための環境整備が急務である。

 政府は、廃炉費用を確実に手当てできる仕組みや、損失処理を段階的に進められる会計制度の導入などを検討すべきだ。

 廃炉となると、国が立地自治体に支払っている交付金がなくなるうえに、地元の雇用への悪影響も避けられない。地域経済への配慮も、大きな課題である。

女性活躍法案 企業は実効性ある行動計画を

 安倍政権が掲げる「すべての女性が輝く社会」の実現に向けて、官民挙げた取り組みを加速させる必要がある。

 政府は、女性活躍推進法案を閣議決定し、国会に提出した。法案は、従業員300人超の企業に対し、女性登用の数値目標を盛り込んだ行動計画を作り、公表することを義務づけた。

 数値目標は、どのような項目を設けるかも含め、企業が自主的に定める。管理職や採用者に占める女性の比率などが想定される。目標値は「倍増する」などの大まかな表現も認められる。

 安倍政権は、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を掲げているが、法案には一律の数値目標を書き込まなかった。

 女性活用の状況や課題は、業種や企業ごとに異なる。個々の実情に応じて目標を設定する方式にしたのは、現実的な判断だ。

 経済界には数値目標の導入に慎重論もあったが、政権の強い意向で義務化が決まった。女性の登用を進める上で一歩前進だろう。

 企業は、採用や管理職登用、勤続年数の男女差など、女性社員の状況を把握、分析した上で、行動計画を策定する。労使で十分に話し合い、実効性ある計画を練り上げることが肝要だ。

 目標に届かずとも罰則はなく、進捗(しんちょく)状況の報告義務もない。だが、取り組む姿勢は、株主や市場の評価にさらされよう。企業トップのリーダーシップが問われる。

 女性を含めた多様な人材の活用は、企業の創造性を高める上で欠かせない。計画策定を、企業の競争力向上の好機ととらえたい。

 重要なのは、企業や男性の意識改革だ。家事・育児の大半を女性に委ねたままでは、女性の活躍は進まない。長時間労働の是正や、在宅勤務をはじめとする柔軟な勤務形態の拡充など、職場全体の働き方の見直しも必要となろう。

 無論、企業で管理職になることだけが女性の活躍ではない。

 女性の雇用者の過半数は、パートなどの非正規労働者だ。その処遇改善や正社員への転換の促進が急務である。

 子育てや介護の分野で地域に貢献できる女性も多い。専業主婦がボランティアやNPOなどで活躍できるよう支援することは、地域活性化の上でも有効だ。

 政府には、様々な立場の女性に目配りした多面的な政策が求められる。男女が共に、職場と家庭、地域のそれぞれで役割を果たせる社会としたい。

2014年10月19日日曜日

国産旅客機を競争力ある事業に伸ばせ

 半世紀ぶりの国産旅客機である。三菱航空機(名古屋市)が開発する国産ジェット機「MRJ」が完成披露式を迎えた。

 航空機は水準の高い工業技術の結晶だ。開発する意義は大きい。良い飛行機をつくることはもちろん、世界の航空機メーカーに伍(ご)して市場を獲得し、投資を回収するビジネスとして成り立たせる力が試される。

 MRJは70~90席級の双発ジェット機だ。高い燃費性能や低騒音の新型エンジンを搭載し、大都市と地方都市を結ぶ近距離路線などでの利用に向いている。

 日本の航空機産業は米ボーイングの国際共同開発に何度も参加し、主翼や胴体など重要な部位の製造をまかされている。とはいえ、どうしても下請けの域を出ない。

 航空機は工業製品の中でもとりわけ高い安全基準が求められる。用いる先進技術や先端素材は、他産業への波及効果も大きい。完成機をとりまとめる力は産業技術力の底上げに欠かせない。

 日本で旅客機をゼロから開発するのは、戦後初の国産旅客機となった「YS11」以来だ。開発を途切れさせるわけにはいかない。

 MRJは来春、初飛行し、2017年に初号機の納入を始める。度重なる開発の遅れにより、すでに納入は当初の予定から大きくずれ込んでいる。引き渡しをこれ以上遅らせないことが重要だ。

 教訓を引き継ぐことも忘れてはならない。YS11は航空機として一定の評価を得ながら、10年足らずで量産中止に追い込まれた。国と航空機メーカーがそろって参加する事業体制の下で、売れば売るほど赤字が膨らんだ。

 MRJは三菱重工業の子会社である三菱航空機が一元的に開発する。市場規模は20年で5000機。三菱航空機はその半分を取りたいという。MRJと同規模の機種で先行するブラジルやカナダなどの企業に競り勝つコスト管理や販売・保守の力が欠かせない。

 航空業界では格安航空会社(LCC)が急速に台頭している。調達する機材に求める条件は、従来の航空会社とは違う。市場の変化に迅速に対応して経営判断を下していくことが求められる。

 国の役割も重要だ。MRJに組み込む要素技術の開発は国の支援を受けてきた。新興国市場の開拓には政府のトップセールスや、輸出を円滑に進めるための制度金融での下支えも必要だろう。

危機が試す日欧連携の強さ

 世界のさまざまな危機に、どう対応するか。アジアと欧州の約50カ国の首脳が集い、意見をぶつけ合った。これをただの言いっ放しに終わらせず、目に見える協力につなげることが肝心だ。

 イタリアのミラノで開かれていたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議が17日、2日間の日程を終えた。

 緊迫するウクライナ情勢、過激派「イスラム国」の台頭、感染が広がるエボラ出血熱、そして海洋の安全保障問題。議長声明には、多くの緊急課題が盛られた。これらについて、首脳同士が対話を進めたことは成果といえよう。

 だが、主張や利害が異なる多くの国々が集まっているだけに、議論を深めるにしても限界がある。中国を念頭においた東シナ海や南シナ海問題には深入りせず、平和解決の原則を唱えるにとどまった。ウクライナ危機をめぐるロシアと日欧などの議論も、接点は見いだせなかったようだ。

 それでも、待ったなしの課題に対応するには、アジアと欧州の連携が欠かせない。まずは主要7カ国(G7)のメンバーである日本、ドイツ、フランス、英国、イタリアが、欧州連合(EU)も交えて、協力を強める必要がある。

 なかでも緊急課題のひとつが、ウクライナ危機だ。英独仏伊とEUはASEMの合間に、ロシア、ウクライナを交えて首脳会議を開き、ウクライナ東部の完全停戦を促した。

 だが、ロシア側との対立はなお埋まらず、現地からは散発的な戦闘が伝えられる。先にウクライナと交わした停戦合意を厳格に守るよう、ロシア側に強く求めたい。

 安倍晋三首相もプーチン・ロシア大統領と会談し、停戦合意を完全に履行するよう促したが、明確な言質は得られなかった。

 日欧は米国と連携し、圧力と対話を通じ、今後もロシアに強く働きかけていく必要がある。日本の対ロ制裁は米欧より軽いが、情勢が再び悪化するようなことがあれば、追加制裁も検討すべきだ。

慰安婦問題―貴重な女性基金の精神

 戦争の時代、日本軍の関与の下で作られた慰安所で性行為を強いられた元慰安婦らに対し、戦後50年を機に国民的な償いを試みたのが「女性のためのアジア平和国民基金(アジア女性基金)」だった。

 その基金への参加を呼びかけた文書を、外務省がホームページ(HP)から突如削除した。

 呼びかけ文には「10代の少女までも含む多くの女性を強制的に『慰安婦』として軍に従わせた」とあった。衆院予算委員会で、この記述が強制連行をほのめかすようだと批判されたための措置とみられる。

 基金は、93年の河野洋平官房長官談話を受けてできた。慰安婦問題は法的に解決済みとの立場を保ってきた日本政府にとって、基金の活動は和解への後押しができる実践的な取り組みだった。

 事業の柱は、元慰安婦に首相の「おわびの手紙」のほか、募金からの償い金を渡すこと、さらに政府資金から医療支援することだった。基金は7年前に解散したが、その後も外務省が呼びかけ文を掲載し続けてきたのは、これらの努力に意義を見いだしてのことだろう。

 削除について岸田外相は、HPに政府が作った文書とそうでない文書が混在していたので構成を整理した、と説明する。だが、基金の関連文書の内容は政府も認めてきた。しかも大本の河野談話について、安倍首相自ら、見直す考えはないと明言している。

 なのになぜ、呼びかけ文を削除しなければならないのか。国際社会からは日本政府が歴史認識をさらに後退させたと受け取られかねない。まして河野談話についても首相周辺からは、来年の戦後70年談話で「骨抜き」にすればいいとの発言さえ出ており、なおのことだ。

 もとより海外での評価だけが問題なのではない。私たちが過去とどう向き合うのかが問われているのである。

 基金解散後、元理事らがウェブ上で「デジタル記念館『慰安婦問題とアジア女性基金』」(http://awf.or.jp)を立ち上げ、本にもまとめられた。

 基金に集まったのは約6億円。「入院のため振込(ふりこみ)が遅くなりました」「貧者の一灯です」。デジタル記念館には寄金した人のメッセージのほか、「おわびの手紙」に号泣した元慰安婦の話も紹介されている。

 そんな心の交わりの起点となったのが、基金の呼びかけ文だった。外務省が問題意識に変わりはないというのなら、今からでもHPを元に戻すべきだ。

エボラ出血熱―国内外で態勢強化を

 もはや、アフリカの話ではない。欧米の先進国でも感染の広がりが現実味を増してきた。

 スペインと米国で、エボラ出血熱患者の治療にあたった看護師らへの二次感染がわかった。スペインでは一時、看護師搬送での「3次感染」も疑われた。

 不穏な情勢ではあるが、やがて感染が大陸を超えて伝わる事態は考えられたことであり、浮足立つ必要はない。冷静かつ着実に対策を強めるべきだ。

 日本にも、どんな経路で入ってくるかわからない。日本政府は、国内での備えを早急に固めるとともに、流行地での対策拡充をめざす国際行動に積極参加しなければならない。

 世界保健機関(WHO)の報告では、今回これまで疑い例も含め9216人が感染し、うち4555人が死亡している。

 患者の発生はリベリアなど西アフリカの国々に、スペインと米国が加わり7カ国に増えた。最も深刻なリベリアでは患者の数の把握さえ難しいという。

 欧米で二次感染が確認されたことで、「先進国で、厳重な防護服を着ていても防げないのか」との不安も出ている。

 必ずしも正しい解釈とはいえない。同じ患者の治療にあたった関係者は多く、そのなかで例外的に感染したにすぎない。

 国際組織「国境なき医師団」によると、流行地の医療従事者の感染の90%以上は防護服の着脱が手順通りでなかったり、防護服が不適切だったりしたミスが原因という。米国でも同様の失敗が取りざたされている。

 日本でも指定医療機関の関係者向け研修や訓練が始まった。スペインや米国から詳しい情報を得て万全を期したい。

 潜伏期間が長いので入国時の検疫は効果が限られる。だが、入国後の体調悪化への対処法を正しく伝え、国内での感染リスクを抑えることが重要だ。

 国内ではエボラウイルスの検査や研究ができる「BSL4」級の施設が動いていない。早急に整備すべきではないか。

 一方、流行国への支援も待ったなしだ。リベリアなどでは隔離治療施設が足りず、感染拡大を防げずにいる。安倍首相は9月に国連の会合で4千万ドル(約42億円)の追加支援や専門家の派遣を表明した。国際機関と連携して具体化を急いでほしい。

 エボラとの闘いは、負け続きではない。セネガルとナイジェリアでは約6週間、新たな患者の発生が途絶えている。

 各国とも、渡航制限などで国の扉を閉めるような政策に走るのではなく、科学的で地道な対策を積み重ねることが大切だ。

日豪防衛相会談 技術移転で安保協力を強めよ

 日本の高度な防衛装備技術を友好国に供与することは、安全保障協力を大幅に強化する。前向きに進めたい。

 江渡防衛相とジョンストン豪国防相が東京で会談し、豪州が導入する新型潜水艦について、共同開発を含めた協力の協議を始めることで一致した。豪州の要請によるものだ。

 江渡防衛相は「米国以外で、豪州ほど緊密で高い協力をしている国はない」と強調している。

 豪州は、西太平洋で海洋進出を強める中国の動向をにらみ、潜水艦6隻を2030年頃から順次、更新することを計画している。

 技術移転の候補は、海上自衛隊の最新鋭潜水艦「そうりゅう型」だ。原子力を使わない通常動力型では世界最大級で、潜航深度や航続距離などで最高水準にある。

 安倍首相とアボット豪首相は様々な機会に会談を重ね、「蜜月関係」を築いている。潜水艦の技術協力が実現すれば、両国関係は一段と深化する。日本の防衛生産・技術基盤の拡充にも役立とう。

 日本は4月、新たな防衛装備移転3原則を決定した。これに基づき、米国への地対空誘導弾の部品輸出や戦闘機用ミサイル技術の日英共同研究が認められている。

 新3原則は、平和貢献・国際協力目的などの装備輸出を厳格な審査を条件に認めている。日豪協力では、第三国への技術流出防止策を慎重に検討する必要がある。

 潜水艦は、「最高機密の塊」とされているからだ。

 日本の技術は、エンジンやスクリューの静粛性、水中音波探知機(ソナー)の性能などに優れている。仮に第三国に流出すれば、対抗措置を取られ、日本の安全保障が脅かされかねない。企業の国際競争力も低下するだろう。

 会談では江渡防衛相が、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの中間報告を説明した。ジョンストン国防相は、中間報告への支持を表明し、日豪・日米豪の安保協力の深化を確認した。

 中間報告は、豪州などを念頭に、日米がアジア太平洋地域の同盟国やパートナーとの安保協力を推進する方針を明記している。

 自衛隊と豪州軍は近年、米軍を交え、陸上・海上・航空など様々な共同訓練を実施している。3か国の連携を着実に強化したい。

 11月には主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)出席のため安倍首相が訪豪し、日米豪首脳会談を行う方向で調整している。多角的な協力を進めることが、アジア全体の安定に寄与しよう。

香港抗議デモ 強制排除で安定は得られない

 香港の安定回復に必要なのは、実力の行使ではない。対話を通じて「高度な自治」を守らない限り、持続的な安定を実現することはできない。

 香港警察は、政府庁舎の周辺道路で、学生や民主派団体支持者らのデモ隊を強制排除した。衝突が起き、数十人が逮捕された。

 学生らがデモを始めたのは9月下旬だ。中国の習近平政権が決めた“民主派排除”の行政長官選挙制度の撤回を求めている。

 デモの長期化に伴い、多くの住民が経済的損失や生活上の不便に不満を示し始めた。

 香港政府の強制排除の決断にはこうした世論の分裂に乗じて、勢いに陰りが見えるデモ隊をじり貧状態に追い込む狙いがあろう。

 ところが、排除に加わった警官数人が、無抵抗のデモ参加者を暴行する模様がテレビで放映され、住民に衝撃を与えた。

 政府には誤算だったはずだ。梁振英・行政長官は、懸案となっていた政府と学生の対話に応じる意向を表明した。ただ、行政長官選挙制度の見直し要求はあくまで拒否する方針を強調している。

 対話姿勢の一方で、デモを完全に強制排除する時機をうかがう、硬軟両様の構えと言えよう。

 これでは、対話表明が、政府批判を一時的にかわすための方便と見られても仕方あるまい。習政権が決めた有名無実の「普通選挙」を住民に押しつけるのでは、香港特有の「高度な自治」を維持したことにはならない。

 力による異論の抑圧は、香港の「中国化」にほかならず、「一国二制度」の自殺行為と言える。

 その意味で、デモ反対派が、学生を支持する日刊紙の社屋を包囲し、新聞発行を妨害しているのは看過できない。香港政府は、デモ反対派の業務妨害を取り締まるなど、報道の自由を守るべきだ。

 問題の根源は、習政権が香港の自治を軽視し、「北京支配」を一方的に強めていることにある。

 共産党機関紙・人民日報はデモについて、政権転覆を狙う「革命」と見なす論評を掲載した。1989年の天安門事件時と同様、「動乱」との表現も使った。デモ隊への厳しい姿勢が際立っている。

 今週の党中央委員会総会や北京で来月開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に、習政権が事態の収拾を急いでいるのは間違いない。

 だが、人権を軽視した実力行使は、国際社会の批判を高めるだけだ。習政権が熱望する「APECの成功」はおぼつかない。

2014年10月18日土曜日

リニアを実現し経済効果引き出すには

 東海旅客鉄道(JR東海)による東京(品川)―名古屋間のリニア中央新幹線の工事実施計画が17日、国土交通相に認可された。同社は住民説明会や用地買収に着手し、2027年の開業をめざして巨大事業が本格的に始動する。

 リニアで期待されるのは経済効果だ。時速500キロメートルの高速性を生かし、現在は新幹線で約1時間半の東名間の移動が40分に縮まる。人の往来が増え、東名の2大経済圏の一体化が進めば、日本経済の活性化につながるだろう。

 災害に強い国づくりにも寄与する。東海道新幹線とリニアを並行して走らせることで、東名を結ぶ高速鉄道ルートは2本になる。どちらか1本が地震や津波で被災しても、バイパスを確保できる。

 超電導技術を初めて鉄道に応用する技術の先進性にも注目したい。日本が鉄道高速化の新たなフロンティアを切り開けば、海外展開も期待できる。

 ただ、実際の開通までには課題も多い。一つは建設工事に伴う環境問題だ。南アルプスを貫き、ルート全体の86%をトンネルで占めるリニア工事は大量の残土を排出する。それをどう処理するか、具体策作りはこれからだ。

 沿線河川の水量が減ったり、南アルプスの生態系に影響したりするという不安もある。JR東海が環境対策に万全を期すのは当然だ。さらに沿線の住民や自治体に積極的に情報を開示し、十分な説明責任を果たす必要がある。

 もう一つのハードルは事業の採算確保だ。半世紀前に開業した東海道新幹線の総工費は3800億円で、事業主体の国鉄の年間売上高のほぼ6割だった。

 一方、リニアの東名間の総工費は5兆5千億円で、JR東海の売上高の3倍を超える。同社の負担がいかに重いかが分かるだろう。

 こうしたリスクを背負っても、国に頼らず、自己責任で新規のプロジェクトに挑戦する同社の姿勢は評価したい。

 同時に、ビジネスである以上、事業の経済性について絶えざるチェックが必要だ。日本の少子高齢化が進むなか、今後の需要がどう推移するのか、人手不足で工事コストが膨らまないかなど、考慮すべき問題は山積している。

 社内の目だけでなく、社外取締役など第三者による評価も欠かせない。JR東海に建設資金を供給する金融機関や投資家も経営を厳しく監視していくべきだろう。

労働力を眠らせない社会に

 政府にもっと強力に取り組んでもらいたい雇用政策がある。人がより力を発揮できる環境や分野に移れるようにする柔軟な労働市場づくりである。失業中や非正規雇用の人が正社員になれるようにしたり、衰退産業から成長産業への転職を支援したりすることだ。

 労働力調査によれば失業期間が1年以上の長期失業者は4~6月期平均で94万人いる。失業者全体に占める割合は4割にのぼる。

 非正規雇用者の割合は8月に37%と高止まりしている。低賃金で働く人が多いままでは消費が抑えられ、デフレ脱却も難しくなる。

 労働力が減るなかで経済の活力を保つには1人あたりの付加価値を増やす必要がある。そのためにも失業者の就業や非正規雇用者の正社員化の支援が大事になる。

 内閣府の分析では企業内の余剰人員は11年で465万人に達する。こうした労働力を成長分野に移していくことも大きな課題だ。

 求められているのはその人が希望する仕事に就くのに必要な知識や技能を身につけやすくすることや、職業紹介の充実だ。カギを握るのは民間の力の活用だ。

 職業紹介は全国に約540カ所あるハローワークの業務の民間開放を進めれば、民のノウハウで就業先を開拓しやすくなる。その人の就きたい仕事に合わせて職業訓練プログラムをつくるなどの支援も強化できるだろう。

 ハローワークなどで職業能力の向上や転職の相談に乗る「キャリア・コンサルタント」には、企業を定年退職したOBなど会社勤務の経験のある人材を積極的に起用してはどうか。自らの経験を生かした効果的な助言が期待できる。

 産業構造の変化に合わせ、サービス分野の職業訓練を拡充することも欠かせない。ここでも民間事業者の活用を進めたい。

 労働時間の長さでなく成果で賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」は社員の生産性向上を促す。政府には国の成長基盤づくりとして、柔軟な労働市場の整備にもより力を入れてほしい。

リニア認可―拙速に進めるな

 品川―名古屋間で27年の開業をめざすリニア中央新幹線の工事実施計画を、国土交通相が認可した。JR東海は年明けにも工事に入る構えだ。

 45年までに大阪へ延伸されれば、3大都市がほぼ1時間以内で行き来できるようになる。政財界を中心に、大きな経済効果を期待する声が強い一方、東京への一極集中をさらに加速する可能性も否定できない。

 私たちは、人口減少時代に入り、地方の衰退が深刻な今の日本にリニア中央新幹線を整備するのがふさわしいかどうか、主に国土政策の観点から国に慎重な判断を求めてきた。

 だが太田昭宏国交相はきのうの会見で「人の流れが大きく変わり、国民生活や経済活動にも強い影響を与える」と開業の意義を強調した。

 国の姿勢は一貫して「リニアありき」だったといわざるをえず、残念である。

 JR東海が、全線で9兆円を超す建設費を自己負担すると決め、長らく停滞していた中央新幹線計画がにわかに動き出したのは07年だった。

 東京や名古屋周辺の都市部では大深度地下トンネルを活用し、南アルプスは25キロのトンネルで貫くという壮大な事業だ。

 11年から始まった環境影響評価(アセスメント)では、全部で6千万立方メートルを超す建設残土や廃棄物をどう処理するかが大きな問題となった。大井川(静岡県)のような重要河川の水が減ったり、南アルプスの貴重な自然や景観に影響が出たりする恐れも指摘された。

 JR東海は、残土の搬入先の確保に一定のめどを示し、環境対策には万全を期すと強調した。だが、崩落の懸念から残土置き場の再考を求めた静岡県の要請を拒むなど、計画修正にはほとんど応じなかった。不安はいまも根強い。

 工事説明会や用地買収はこれから本格化する。国交相も認可にあたり、地元住民らに丁寧に説明し、理解と協力を得るよう、JRにくぎを刺した。肝に銘じてもらいたい。

 リニア中央新幹線は、140年を超す日本の鉄道史上でも空前の難工事となろう。

 東日本大震災後、国内の人件費や資材費は高騰している。工期が延びれば、ただでさえ巨額の建設費がさらに膨らむリスクがある。JR東海としてはなんとしても予定通りに開業させたいとの思いがあろう。

 ただ、工事はあくまで安全と環境保全を最優先に進めるべきだ。27年の開業という目標ばかりにこだわってはならない。

胆管がん労災―悲劇をなくすために

 大阪市の印刷会社での従業員17人が胆管がんを発症し、9人が死亡した労災事件で、会社側が労働安全衛生法違反の罪で略式起訴された。

 17年間に同じ作業場で働いた4人に1人が発症した。あらためて被害の深刻さを思う。

 厚生労働省が発症の原因の一つに認定したのは、印刷機のインクを拭きとる洗浄剤に含まれていた「1、2ジクロロプロパン」という化学物質だ。

 今回の被害が明らかになるまでは、法的な使用規制の対象ではなかった。検察は業務上過失致死傷罪の適用も検討したが、「当時は危険性が一般的に知られておらず、発症を予測することはできなかった」として見送ったとされる。

 産業界で使われる化学物質は約6万種類もあり、年1千超のペースで増えている。発がん性を調べるには時間がかかる。すべての新規物質の危険性を確認するのは事実上不可能だ。

 だが、被害の拡大を防ぐ手だてがなかったわけではない。

 大阪の会社が刑事責任を問われたのは、衛生管理者や産業医を置かず、労使一体でつくる「衛生委員会」も設けていなかったことなど、法律で義務づけられた衛生管理態勢が取られていなかったことが理由だ。

 会社側は認めていないが、従業員は目の痛みや吐き気を覚えるなど職場環境の劣悪さを訴えていたと証言している。法律を守っていれば、換気設備の改善などの対策につながった可能性もあり、ここまで深刻な事態に陥ることは避けられたはずだ。

 行政の監督態勢も心もとない。今回の問題発覚を受けて厚労省は2年前、印刷業約1万8千社を調査した。有毒な化学物質を使っていると回答した社の約8割が法的に義務づけられた特別の健康診断を怠っていた。

 有機溶剤は塗装や洗浄などでも広く使われている。国は危険性の高い物質を扱う業界への指導の強化など、実効性のある措置を取る必要がある。

 新しい化学物質によるリスクを小さくすることも重要だ。

 有効と考えられる対策の一つが「リスクアセスメント」だ。

 化学物質の有害性、取扱量、揮発性などを調べ、危険性が高ければ、別の物質に変えたり作業手順を見直したりするための評価手法だ。有害かどうかが不明でも、労働者が浴びる濃度などによって、ある程度の危険性は判断できる。

 ただ、現状では実施義務は一部の物質に限られている。企業側には労働者の安全確保のため、積極的な活用を求めたい。

慰安婦問題 韓国も自らの足元を見つめよ

 重要な証言が明らかな誤りと分かった以上、修正するのは当然だ。

 1996年に慰安婦問題に関する国連報告書をまとめたスリランカ人法律家、クマラスワミ氏に対し、日本政府が、報告書の吉田清治氏の証言部分の撤回を申し入れた。

 多くの朝鮮人女性を慰安婦として強制連行したとする吉田証言は報告書作成時から疑問視されていた。最初に報じた朝日新聞も今年8月、虚偽を正式に認めた。

 クマラスワミ氏は、撤回に応じなかった。吉田証言は「証拠の一つにすぎない」と主張している。首をかしげざるを得ない。

 報告書で、元慰安婦を除けば、吉田氏は強制連行を認めた唯一の証言者だ。それが虚偽であることは、当事者以外の客観的証拠がないことを意味する。「証拠の一つ」との主張は説得力を欠く。

 菅官房長官は「国際社会において、我が国の考えを粘り強く説明し、理解を得たい」と語った。強制連行を裏付ける証拠は存在しないという日本の立場を、強力に世界に発信することが大切だ。

 人権問題を扱う国連総会第3委員会では、韓国大使が慰安婦問題について「今も解決していない紛争時の性暴力の主な事例だ」と日本を批判した。慰安婦問題を取り上げたのは4年連続だ。

 だが、慰安婦を含む日韓間の請求権問題は、1965年の国交正常化により国際法上は「解決済み」だ。政府は、アジア女性基金を設置し、韓国人約60人を含む285人に「償い金」も支給した。

 第3委員会で日本側は、朝日新聞が吉田証言の誤りを認めたことにも言及し、韓国に反論した。

 そもそも、韓国が、日韓2国間の問題を国連の場に繰り返し持ち出すこと自体が異様である。

 「性暴力」を問題視するなら、韓国国内はどうなのか。

 今年6月、在韓米軍を相手にしていた「米軍慰安婦」らが、売春を強要されたなどとして国家賠償請求訴訟を起こした。支援団体によると、韓国政府が米軍専用の特定地域を設置し、慰安婦の管理なども行っていたという。

 ベトナム戦争に派遣された韓国兵士らがベトナム人女性との間にもうけて、現地に残した子供は5000~3万人とされる。

 売春や強姦(ごうかん)の例も含まれ、「日本に執拗(しつよう)に道徳的責任を問いながら、我々の暴力について免罪符を主張するのは自己欺瞞(ぎまん)」とするコラムを掲載した韓国紙もある。

 韓国は、自らの足元を見つめるべきではないか。

小渕氏資金問題 実態解明と丁寧な説明を急げ

 政治とカネを巡る小渕経済産業相の疑惑が浮上している。実態の解明を急ぎ、説明責任を果たさなければならない。

 問題とされるのは、小渕氏の2関連政治団体が2010、11年に選挙区の支援者向けに開いた観劇会の収支だ。

 収支報告書には、参加者の会費計742万円が計上されている。一方、会場の東京・明治座への支払額は計3384万円で、2642万円もの差額がある。

 小渕氏は「実費を頂いていると思っていた」と説明した。「(差額分を団体が)補填(ほてん)していれば、法律に引っ掛かるという認識は持っている」とも語った。有権者への寄付を禁じる公職選挙法に抵触する可能性がある。

 12年の観劇会が報告書に記載されていないことも判明した。政治資金規正法違反の恐れがある。

 こうした杜撰(ずさん)な報告書を提出していたのは重大な問題だ。

 小渕氏は、観劇会の実態や報告書作成の経緯を調査し、その結果を早急に明らかにすべきだ。

 小渕氏の資金管理団体は、義理の兄が経営する服飾雑貨店から計384万円分のネクタイや書籍などを購入していた。

 小渕氏は「政治活動の範囲だ」と主張するが、野党は「公私混同」と批判している。不適切な支出の有無を点検する必要がある。

 9月の第2次安倍改造内閣の発足後、新任閣僚の政治とカネに関する問題が相次いで発覚した。

 民主党は、松島法相が今夏、地元の祭りで「うちわ」を配ったと指摘し、公選法違反の疑いがあると追及している。松島氏は「議員活動を印刷した(うちわ型の)配布物だ」と釈明するが、法相就任後も作成していたという。

 江渡防衛相の資金管理団体は先月、江渡氏への寄付350万円を、事務所職員らの人件費に訂正したことなどが批判されている。

 第1次安倍内閣では、不透明な事務所費の問題などを巡り、閣僚が相次いで辞任した。政権が行き詰まる原因の一つともなった。

 政治資金規正法が改正され、使途の透明性が今、一層求められている。国民の視線も厳しい。教訓が生きていないのは残念だ。

 政権が、閣僚の不祥事の処理に追われれば、国政遂行に支障が出かねない。臨時国会は、地方創生、女性活躍推進など重要法案が多い。消費税率の10%への引き上げを判断する時期も控えている。

 首相は、内閣が一致して、重要課題に取り組める体制を早急に整えることが求められる。

2014年10月17日金曜日

メリハリをつけた介護報酬の改定を

 介護保険で介護サービスを提供する事業者が受け取る料金を来年度から見直すための議論が、政府内で始まった。介護保険は保険料や税金で賄われている。厳しい財政や人口の高齢化を考えると、全体としては抑えながら、切り込むべきところと必要なところにメリハリをつける改定が必要だ。

 事業者が受け取る料金は介護報酬と呼ばれる。例えば高齢者宅にヘルパーを派遣し、30分以上1時間未満の身体介護をした場合は約4千円。この1割を利用者が払い、残りは介護保険から払う。

 介護報酬は3年ごとに事業者の経営状況や物価動向などを勘案して見直すことになっている。来年度の改定に向けて厚生労働省がまとめた事業者の経営実態調査によると、特別養護老人ホームなどで高い利益をあげていることが明らかになった。

 この結果を踏まえ、財務省は介護報酬の6%引き下げを求める方針だ。ただし、介護現場では人手不足が深刻となっているので、介護職員の処遇を改善するための方策は別途検討するという。

 介護報酬は前回、前々回とプラスの改定が続いた。マイナス改定となれば事業者の反発は必至だ。しかし、介護保険の事業は一般の事業活動と違って公的な資金で運営される。おのずと適正な利益水準が求められる。今の報酬で高い利益が得られるのなら、ある程度の引き下げはやむを得ない。

 特に特別養護老人ホームの主な運営主体である社会福祉法人は、税制優遇なども受けていて、1施設当たり3億円を超える内部留保があるとされる。さらに利益が積み上がるようだと、国民の理解も得られないだろう。

 ただ、一律の引き下げには懸念もある。介護サービスの種類ごとに経営の状況は異なる。名目上は同じサービスでも、質の高いサービスを提供している事業者もいれば、そうでないところもある。良質な事業者の破綻を招かないような配慮が必要だ。

 介護職員不足の対策としては、事業者の内部留保を使って職員の処遇を改善することがまず考えられる。事業者が付加価値の高い多様なサービスをつくり出し、それを介護保険外の市場で提供して稼ぐことで、対策の原資とする方策などもあるはずだ。

 処遇改善を条件とした介護報酬の加算なども一つの手だが、それだけに頼らないようにしたい。

スマホ高額下取りは必要か

 米アップルの最新スマートフォン(スマホ)の発売を機に携帯端末の安売り合戦が再び広まっている。古い機種を下取りしているだけでかつての現金還元策とは異なる、と携帯各社は説明しているが、値引き販売に違いはない。高額の下取りは本当に必要なのか。

 端末を高額で下取りする販売促進策を最初に始めたのはNTTドコモだ。同社はアップルのiPhone(アイフォーン)の投入で出遅れた。他社に流れた契約者を取り戻す狙いから、自社への乗り換えを条件に最高で4万円相当のポイントを提供している。

 KDDI(au)やソフトバンクも対抗上、似たような下取り策で追随した。結果的に事業者間で契約者の移動はあまり起きず、メーカーとしてのアップルのシェアだけが高まったともいえる。

 下取りは端末を買い替える利用者には好ましいが、問題はそれが形を変えた現金還元にあたらないかどうかだ。総務省の指導もあり現金還元は取りやめたはずだ。

 店頭では、割賦が終わる2年前の端末の方が最近の端末より下取り価格が高い、という例も見受けられる。こうした実質的な値引きの原資がどこから来ているのかも、問われる。

 下取りした端末は海外などに転売するか再利用する、と各社は説明しているが、収益性があるとは考えにくい。結局、2年ごとに契約を自動更新する仕組みの下で高止まりしている通信料金が、事実上の元手といえよう。

 一方で携帯各社は、通話を定額にする代わりに基本料金を引き上げる新しいプランを一斉に打ち出した。家族でデータ通信料を分け合えるなど利点もあるが、海外より高いとされる通信料に不満を持つ利用者は少なくない。

 販促に多額の費用を使うより通信料自体を引き下げるよう、携帯各社は知恵を絞ってほしい。行政もそれを促す必要がある。頻繁に端末を買い替える人の方が同じ端末を使い続ける人より有利になる状況は、改めるべきだろう。

靖国参拝―高市さん、自重すべきだ

 高市総務相が、17日からの例大祭にあわせ靖国神社に参拝する意向を示している。

 だが、高市さん、ここは自重すべきではないか。

 そもそも、首相をはじめ政治指導者は、A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に参拝すべきではない。政教分離の原則に反するとの指摘もある。

 しかも、北京で来月開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)での日中首脳会談の実現に向けて、関係者が努力を重ねているときである。それに水を差しかねない行為を慎むのは、閣僚として当然だ。

 戦争で命を失った肉親や友を悼むため、遺族や一般の人々が靖国で心静かに手を合わせる。それは自然で尊い行為だし、だれも否定はできない。

 一方、かつての戦争指導者がまつられている場所にいまの政治指導者が参拝すれば、その意味は全く変わってしまう。

 A級戦犯が罪を問われた東京裁判には、勝者による裁きといった批判がある。それでも、日本はサンフランシスコ平和条約で裁判を受け入れ、これを区切りに平和国家としての戦後の歩みを踏み出した。

 靖国に参拝する政治家たちは、「英霊に尊崇の念を表すのは当然だ」という。だが、A級戦犯は、多くの若者をアジアや太平洋の戦場に送った側にある。送られた側とひとくくりにすることはできない。

 そこをあいまいにしたまま政治家が参拝を続ければ、不快に思う遺族もいる。また、中国や韓国のみならず欧米からも、日本がかつての戦争責任や戦後の国際秩序に挑戦しようとしているとの疑いが出てくる。

 高市氏は、戦後50年の「村山談話」などにかねて疑問を示してきた。最近も、ナチスの思想に同調しているとみられる団体の代表と写真を撮っていたことが海外で報じられた。

 自民党政調会長や総務相として安倍首相に重用され続けている高市氏の言動は、個人の思いにとどまらず、政権の意思と受け止められかねない。

 その高市氏が靖国神社に参拝すれば、国際社会が抱きつつある疑いをますますかき立てることになりはしないか。

 戦後70年が控えているというのに、いまだ歴史問題にピリオドを打てないのは不幸なことだ。だれもが参拝できる新たな追悼施設をつくるといった、抜本的な解決策を真剣に検討すべき時だ。

 戦没者への強い思いがある高市氏ならばこそ、こうした課題に取り組むべきではないか。

小渕経産相―自ら解明し、説明を

 小渕経産相に、政治とカネにまつわる疑惑が浮上した。

 小渕氏はきのうの参院経産委員会で「お騒がせしていることを申し訳なく思う」と陳謝したが、まずは納得できる説明を求めたい。

 疑惑は、小渕氏の後援会などふたつの政治団体が支援者向けに催した「観劇会」で、費用の一部を負担していたのではないかというものだ。

 政治資金収支報告書によると、2005年から11年までの間で、観劇会に関連する収入に比べ、支出が5300万円あまり上回っていたという。

 政治団体がこの差額を負担していたならば、選挙区の有権者への利益供与を禁じた公職選挙法に触れる可能性がある。

 小渕氏はきのう、観劇会の参加者からは実費を集めていたが、収入と支出に差があることについては「指摘を受けて初めて知った」と答弁した。

 さらに「私の方で補塡(ほてん)したことになれば、法律にひっかかるものだという認識は持っている」と述べた。

 経産委ではこのほか、小渕氏の資金管理団体が、小渕氏の親族が経営する企業からネクタイやハンカチを贈答品として購入していたことが「公私混同ではないか」と指摘された。

 いずれも重大な問題である。小渕氏は後援会などに事実関係の調査を求めているが、自らの責任で結果を早急に明らかにすべきだ。

 政治とカネといえば、2006年からの第1次安倍内閣では、「事務所費」などの名目による不透明な支出が次々と明らかになった。閣僚が苦しい説明を繰り返したあげく、辞任ばかりか自殺にまでいたるという悲劇も起きた。

 先の第2次内閣ではこの種の不祥事は影を潜めていた。ところが改造されたとたんに松島法相が選挙区内で自身の似顔絵入りのうちわを配ったり、江渡防衛相が政治資金収支報告書を訂正したりといった問題が表面化した。相次ぐ事態を安倍首相はどう考えているのか。

 閣僚に限らず政治家は、疑惑を持たれれば説明するのは当然だし、公選法や政治資金規正法は厳格に運用されなければならない。野党が国会で厳しく追及するのは当然だ。

 国会で議論すべき課題はたくさんある。それなのに経済の成長戦略やエネルギー問題、安全保障政策などの重要政策を担当する閣僚が、貴重な審議時間を自らの疑惑の釈明に費やさざるを得ない状況にしてしまった責任は極めて大きい。

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