2014年11月30日日曜日

政治資金の透明化が不祥事を防ぐ

 自民党の政権復帰で政治資金の流れは変わったか。注目を集めた2013年分の政治資金収支報告書が公表された。自民党への献金が前年比7割近く増え、与党効果を印象付けた。安倍政権への経済界の期待の表れではあるが、「政治とカネ」の問題につながらないかどうかしっかり見守りたい。

 総務省が発表したのは、国所管の3345の政党や政治団体が提出した報告書だ。収入の総額は1134億円で、前年比0.3%増とほぼ横ばいだった。

 与野党交代で政党ごとの収支は激変し、自民党の収入は前年より74億円増の233億円で5年ぶりにトップに返り咲いた。

 12年12月の衆院選での議席増で政党交付金が前年より49億円増額されたのが大きかった。個人や企業などからの献金も10億円近く増えた。企業献金の増加分のほとんどが自民党関連だった。

 経団連は今年9月に企業献金への関与を再開すると表明した。14年分では自民党への企業献金の集中はさらに進みそうだ。

 こうした献金において重要なのは透明度を高めることだ。業界団体などが自分たちの利益のために政治に働きかけをすることは違法ではない。やり方が常識の範囲内かどうか。政治家がどこから資金を受け取っているかが一目瞭然になれば有権者も判断しやすい。

 国所管分と都道府県所管分の一括処理、役所のホームページですべての報告書が領収書のコピー付きで即時閲覧できる仕組みづくりなどに努めてもらいたい。

 報告書を提出前に事前監査する政治資金監査人制度が08年にできたが、小渕優子前経済産業相の閣僚辞任を招いた不明朗な資金の流れを防げなかった。原因を調べ、制度の手直しが急務である。

 「政治とカネ」の問題が突然の衆院解散の一因などといわれるわりに、この問題に関する論戦があまり活発でないのは残念だ。

 衆院選の公約をみると、公明党が政治資金規正法改正、維新の党が国会議員の文書通信交通滞在費の使途公開などを訴えているが、自民党は全く触れていない。反省しているのかが問われる。

 しばらく前まで「政治とカネ」といえば、賄賂まがいの裏献金をどうなくすかが課題だった。最近は資金の使い方にも関心が集まっている。政治家は以前よりも厳格に身を律する必要があることを自覚せねばならない。

もっと議論要る「40年廃炉」

 関西電力は運転開始から39年を超えた高浜原子力発電所1、2号機(福井県)について、20年程度の運転延長をめざすことを決めた。特別点検を実施し、安全審査を来春にも原子力規制委員会に申請するという。

 昨年できた新規制基準は原発の運転期間を原則40年と定め、特別点検を経れば延長もありうるとした。高浜原発は「40年廃炉」の原則の例外として、初めて審査を申請するケースになる。

 原発を改修し、規制基準を満たすには巨額の費用がかかる。関電は「高浜1、2号機は出力が大きく競争力がある」と判断したという。運転延長を申請するかどうかは電力会社の経営判断に属する。だが古い原発を安全に再稼働できるのか、心配な点も多い。

 原発の安全性を判断するのは規制委の役目だが、老朽原発については科学的な議論が尽くされているとは言いがたい。規制委は透明性の高い指針を定め、公開の原則も徹底し、多くの人が納得できる判断を下してほしい。

 原子炉の運転年数が長くなると、炉内の機器が中性子を浴び、もろくなるという課題がある。一方で40年を超えても問題ないとの研究もあり、米国なども60年までは延長を認めている。こうした技術課題について、まず規制委は考え方を示すべきだ。

 高浜1、2号機は機器を結ぶケーブルに燃えやすい材料を使っており、規制委は難燃ケーブルへの交換を求めている。火災予防は規制基準の重点項目のひとつであり、規制委の注文はもっともだ。関電には規制基準より一段高い安全性を確保する姿勢を求めたい。

 40年廃炉を厳格に守るなら、国内の原発48基のうち半数が2020年代後半までに廃炉になる。その場合、電気料金がどの程度上昇するのか、電力を安定供給できるのか、まだ見通しが立たない。

 40年廃炉問題は、日本がこれから原発にどの程度依存するかに深くかかわる。政府が原発の位置づけを明確にすることも不可欠だ。

(衆院選)憲法と首相―立憲主義には逆らえない

 12月2日に公示される衆院選には、いままでの選挙とは違った重みが加わっている。

 改憲のための法的手続きが整ってから、初めての国政選になるということだ。

 6月の改正国民投票法の成立で、衆参両院で3分の2以上の賛成があれば、改憲案を発議し国民投票にかけられるようになった。未確定だった投票年齢が、4年後までには18歳以上とすることで決着したからだ。

 いまの憲法を「みっともない」と言っていた安倍首相は、この選挙で憲法改正をどう訴えるのか。朝日新聞との会見でこう語っている。

 「憲法改正は国民的な議論と理解が不可欠だ。国会で3分の2の多数を形成するのは簡単ではない。同時に国民の中で、憲法改正の議論が深まっている状況では、残念ながらない」

 今回は訴えの正面にはすえず、機が熟するのを待つということか。党の公約でも、憲法改正は末尾でわずかに触れているだけだ。

 だが、自民党はこうした表向きとは違う動きをみせる。

■憲法の私物化

 首相は改正国民投票法が成立した直後、集団的自衛権の行使を認める9条の解釈変更に踏み切った。歴代内閣が「行使できない」としてきた憲法解釈の大転換である。

 憲法についてのこんな線引きを、いつから首相ができるようになったのだろう。

 自民党が12年に発表した憲法改正草案は、戦争放棄の9条1項の後に「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」との条文を加えている。

 その趣旨は個別的、集団的を問わず、「自衛権の行使に何らの制約もないように規定した」のだという。

 集団的自衛権の行使を認めるならば、この改正案を国会に示し、3分の2の賛成を得て国民投票に問う。これが憲法に定められた手続きのはずだ。

 野党も交えた議論や国民投票をへなければできないことを、閣議決定ですませてしまう。憲法の私物化であり、立憲主義への反逆にほかならない。

■改憲への中期戦略

 自民党の改正草案はすべての条項にわたっている。

 ただ、実際は関連する条項ごとに個別に改正案を発議することが国会法で決められており、いっぺんに全面改正はできない。

 首相は「自民党は改正全文を示している。その中で3分の2の多数派を形成できるものから行っていくというアプローチが、一番現実的ではないか」と話している。

 どういうことか。

 党憲法改正推進本部の幹部は「9条改正をやりたいが、世論を真っ二つにする問題。9条は2回目以降に延ばさざるを得ない」と話す。国民の抵抗が少ない条項から改正し、まずは国民の改憲への抵抗感をなくすとの狙いだ。

 そこで最初のテーマとして浮上しているのが、有事や大災害時に、法律と同じ効力のある政令制定を内閣に認める緊急事態条項の新設だ。

 自民党はすでに衆院憲法審査会で、このための具体的議論に入りたいと提案している。首相に極めて大きな権限を与えるものだが、首都直下型地震などが想定される中、危機への備えなら野党や国民の理解を得やすいというわけだ。

 党幹部は、16年夏の参院選をめどに最初の改正案をまとめたいと公言。改憲に向け、地方議会に意見書を可決するよう促したり、各地で党員向け研修会を開いたりしている。

 首相は憲法改正は遠い先の課題のようにいうが、実は準備は着々と進めているのだ。

■個人より国家を尊重

 憲法は不磨の大典ではなく、必要なら改めればよい。

 ただ、それにしても自民党草案は問題だらけだ。端的なのが、個人の尊重を定めた13条の扱いだ。

 一人ひとりが国家からの介入なしに自由に生きる。この近代の人権保障の核心を、13条は「すべて国民は、個人として尊重される」と規定する。

 だが、自民党草案は13条から「個」を奪い、「人として尊重される」と改めた。

 さらに、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」の尊重には、「公共の福祉」に代え、「公益及び公の秩序」に反しない限りとの縛りをかけている。

 わずかな文言の違いではあるが、個人よりも国家に重きを置く思想が色濃い。これは、立憲主義の精神とは正反対だ。

 安倍首相の今回の衆院解散劇を見ると、新たな民意を得ることで憲法改正を含めた政策実現への推進力を得たいという狙いは明らかだ。

 だが、たとえ選挙で多数を得た者であったとしても、憲法を恣意(しい)的に操ることが許されるわけではない。

集団的自衛権 行使容認の意義を堂々と語れ

 ◆安保法制整備へ各論が問われる◆

 日本の安全保障環境は近年、一段と厳しさを増した。北朝鮮は核や弾道ミサイルの性能を高め、中国は軍備増強と海洋進出を加速させる。国際テロの脅威も拡散している。

 日本の平和と安全を確保するには今、何をすべきか。各党は、責任ある論戦を展開してほしい。

 安倍政権は7月、集団的自衛権の行使を限定容認する新たな政府見解を閣議決定した。「国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」などに、必要最小限の武力行使を可能にする。

 ◆抑止力の向上が急務だ

 安倍首相は街頭演説で、新見解について「日本の70年にわたる平和国家の歩みにゆがみはない。地域や世界の平和を守る責任を果たすために有意義だ」と力説した。

 軍事技術が発展し、国際情勢が激動する中、日本単独の個別的自衛権による防衛では限界がある。日米同盟と国際連携を強化し、抑止力を高めることで、紛争を未然に防ぐ考え方は妥当だ。

 自民党政権公約は、新見解を基に「平時から切れ目のない対応を可能にする安全保障法制を速やかに整備する」と明記した。

 公明党は、「国民の命と平和な暮らしを守る法制の検討を進める」と足並みをそろえた。「国民の理解が得られるよう丁寧に取り組む」とも強調している。

 次世代の党も、「個別的・集団的自衛権行使の要件を明確化する安全保障基本法を整備」と訴え、行使容認に前向き姿勢を示す。

 来年の通常国会では、関連法案の審議が最大の焦点となろう。

 ◆解釈変更に問題はない

 自公両党などは、集団的自衛権の行使容認を反映する法制の必要性について、堂々と、かつ丁寧に国民に訴え、理解を広げる努力を尽くすことが大切である。

 民主党は公約で、政府の憲法解釈の変更を「立憲主義に反する」と批判し、「行使一般を容認する憲法の解釈変更は許さない」との従来の主張を繰り返した。海江田代表も、解釈変更という手続きに「大いに問題がある」と言う。

 だが、解釈変更は内閣の公権的解釈権に基づき、過去の政府見解との整合性を維持している。国会は今後、関連法案を審議し、司法も違憲立法審査が可能だ。まさに憲法の三権分立を体現する。

 「立憲主義に反する」との主張は、独善的に過ぎよう。

 民主党は行使の可否の見解をまとめていない。賛否両論があるため党内論議を避け続ける姿勢こそ「大いに問題」ではないか。

 維新の党は、「現行憲法下で可能な『自衛権』行使のあり方を具体化し、必要な法整備を実施する」と公約するが、分かりづらい。

 行使容認に前向きな日本維新の会の一部と、慎重な結いの党が合流したため、あいまいな表現になったのは、言い訳になるまい。米軍艦船の防護、ミサイル防衛などの具体的事例に即して、自らの立場をきちんと説明すべきだ。

 新たな政府見解では、武装集団による離島占拠など、平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」への対処を強化することも重要な柱である。

 グレーゾーン事態に関して、民主、維新、次世代の3党は、「領域警備法の制定」を掲げた。民主、維新両党の5項目の共通公約にも同じ内容が盛り込まれている。

 尖閣諸島周辺で中国公船の領海侵入、小笠原諸島では中国漁船のサンゴ密漁が常態化した。自衛隊や海上保安庁が連携し、切れ目のない対処や、効果的な武器使用を可能にすることが急務だ。

 領域警備法の整備も必要だが、自衛隊法への領域警備任務の追加や海上保安庁法の改正といった方法もあり得よう。どんな法整備が有効なのか、議論を深めたい。

 ◆「恒久法」も検討したい

 新政府見解では、自衛隊の国際平和協力活動の拡充も可能になった。国連平和維持活動(PKO)に参加中、他国部隊などへの「駆けつけ警護」を容認し、憲法の禁じる「武力行使との一体化」の対象を戦闘現場などに限定した。

 国際社会で自衛隊がより大きな役割を果たすことは、日本の存在感と発言力を高める。安倍政権が標榜(ひょうぼう)する「積極的平和主義」の具体化にもつながろう。

 単なるPKO協力法の改正でなく、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の整備も検討に値する。新たな海外任務が必要になる度に、特別措置法を制定する従来の手法では、迅速な活動ができない。

 この問題についても、各党は積極的に論じ合ってもらいたい。

2014年11月29日土曜日

市場の変化映すOPECの減産見送り

 石油輸出国機構(OPEC)はウィーンで開いた総会で、日量3000万バレルとする原油の生産目標を据え置いた。原油価格の下落に歯止めをかけるために減産を打ち出すかどうかが注目を集めていたが、加盟12カ国は見送った。

 シェールオイルと呼ぶ新型の石油資源の台頭など、原油市場の構造変化を映す判断である。原油安は消費国には望ましい。同時に原油価格の低迷は産油国の財政運営に打撃を与え、世界経済の新たなリスクになりかねないことも忘れてはならない。

 1バレル100ドル超の高値で安定してきた原油相場は、今春以降、約3割下落した。中国の景気減速や欧州経済の停滞で需要が伸び悩む一方、北米でのシェールオイルの生産量が増えた。リビアなど国内の混乱で停滞した中東産油国の生産量も回復し、供給過剰感が強まっている。

 総会ではOPEC最大の産油国であるサウジアラビアが減産に否定的で、減産を求めるベネズエラなどとの足並みがそろわなかった。減産してもシェールオイルがその分を埋め、価格立て直し効果が薄いという事情もあった。

 シェールオイルはサウジ産原油に比べ生産コストが高く、原油価格が下がると採算割れに陥る事業も出てくる。シェールオイルの伸びを抑えることで、OPECの市場シェアを守りながら需給も引き締める――。

 減産見送りにこうした狙いがあるなら、潤沢な生産能力を背景に需給の調整役を務めてきたOPECが価格カルテルとしての役割を放棄したといわざるを得ない。

 日本では原油高に円安が加わり、燃料費や原材料費の上昇が企業経営や日常生活を圧迫してきた。原油安で航空や物流などの産業では収益の改善が見込まれる。原油価格に連動して価格が決まる液化天然ガス(LNG)の調達コストも下がる。恩恵は大きい。

 一方、原油安は日銀が目指す物価上昇率の目標達成には目先、逆風となる。一部の産油国では高い原油価格が歳入の前提だ。ベネズエラでは債務返済に不安が広がり、ロシアではウクライナ情勢をめぐる対ロ制裁や通貨ルーブル安とともに経済を圧迫している。

 日本は原油の約8割をOPEC諸国から輸入する。シェールオイルなど供給の多様化に対応した最適な調達体制を築く努力を怠るわけにはいかない。

汚染水対策に確かな二の矢を

 東京電力は福島第1原子力発電所の地下道(トレンチ)の止水工事が思うように進まないことから、汚染水を地下道から抜き取る作業手順に変更を加えた。止水をしないまま特殊なコンクリートを注入して、地下道を埋めて水を抜き取る方式にする。原子力規制委員会も変更を了承した。

 地下道からの汚染水抜き取りは海の汚染を防ぐうえで重要な作業だ。前例のない工事で、完全に水を抜き取れるかはやってみないとわからない面もある。作業員の被曝(ひばく)リスクも伴う。安全に最大限の配慮をしつつ慎重に作業を進めてほしい。

 2、3号機の海側にある地下道には約1万1千トンの高濃度の汚染水がたまり、地震などで海に漏れ出す危険が指摘されてきた。また今後、地下凍土壁を築いて原子炉建屋への地下水の出入りを防ぐためにも、建物につながる地下道の止水は不可欠だ。

 東電は地下道と建屋の接続部で水を凍らせて流れを止めてから水を抜き取る計画だった。しかし建物からの流れを完全に止めることができなかった。このため水中で固まる特殊なコンクリートを少しずつ充填し、底部から固めつつ水を抜くやり方に切り替えた。

 地下道いっぱいにコンクリートが詰まれば、汚染水は流れ込まなくなる。ただ地下道は場所によっては約80メートルもの長さがあり、これほど大きな規模で特殊コンクリートを使うのは前例がない。

 汚染水対策は原子炉建屋などへの地下水の流入を減らす対策と、建屋から出る汚染水を安全にためておく対策に大別できる。

 地下道の汚染水をなくし凍土壁を築けば流入対策は前進する。貯蔵についても、汚染水から放射性物質を取り除く浄化装置が動き始めた。汚染度を下げてタンクにためることが可能になりつつある。

 東電の広瀬直己社長は来年3月末までの汚染水の浄化完了を「公約」している。公約は公約として、焦ることなく着実に進める必要がある。

(衆院選)TVへ要望―政権党が言うことか

 衆院選の報道について、自民党がテレビ局に、〈公平中立〉〈公正〉を求める「お願い」の文書を送った。

 総務相から免許を受けているテレビ局にとって、具体的な番組の作り方にまで注文をつけた政権党からの「お願い」は、圧力になりかねない。報道を萎縮させる危険もある。見過ごすことはできない。

 自民党の萩生田光一・筆頭副幹事長と福井照・報道局長の名前で出された文書は、20日付で在京の民放キー局5社に送られた。NHKは来ているかどうか明らかにしていない。

 文書は、過去に偏った報道があったとしたうえで、出演者の発言回数と時間▽ゲストの選定▽テーマについて特定政党への意見の集中がないように▽街頭インタビューや資料映像の使い方の4点を挙げ、公平中立、公正を期すよう求める。

 選挙の際、報道機関に公正さが求められるのは当然だ。なかでもテレビ局は、ふだんから政治的に公平な番組を作らねばならないと放送法で定められている。日本民間放送連盟の放送基準、各局のルールにも記されている。政権党が改めて「お願い」をする必要はない。

 文書には〈具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあった〉ともある。

 1993年のテレビ朝日の出来事を思い浮かべた放送人が多いだろう。衆院選後の民放連の会合で、報道局長が「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようという考え方を局内で話した」という趣旨のことを言った問題だ。

 仲間内の場とはいえ、不適切な発言だった。局長は国会で証人喚問され、テレビ朝日が5年に1度更新する放送局免許にも一時、条件がついた。

 ただし、放送内容はテレビ朝日が社外有識者を含めて検証し、「不公平または不公正な報道は行われていない」との報告をまとめ、当時の郵政省も「放送法違反はない」と認めた。文書がこの件を指しているとすれば、〈偏向報道〉は誤りだ。

 放送に携わる者の姿勢が放送局免許にまで影響した例を、多くの人に思い起こさせた威圧効果は大きい。

 選挙になるとテレビ局には与野党から様々な要望が寄せられるという。テレビ局は受け取った要望書などを、公平に公表してほしい。有権者にとっては、そうした政党の振る舞いも参考になる。

地球温暖化―日本も目標設定急ごう

 地球の温暖化をめぐる世界の取り組みが、真剣味を増している。ところが残念なことに、主要国の一つである日本が立ち遅れている。

 国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP20)が12月1日からペルーで始まる。国際責務をどう果たすか、日本は目標を掲げる努力を急ぐべきだ。

 日本はいまも原発事故を抱えている。そのため温暖化対策をめぐっても、発電に占める原発の比率が見通せない問題が論議のネックとされてきた。

 だが、原発問題に結論が出なくとも目標を定める道はあるはずだ。再生可能エネルギーや省エネなど幅広い方策を重ねることで、温室効果ガスの削減幅を設けることはできる。

 このまま日本が停滞を続ければ、世界の足を引っ張る存在ともなりかねない。政府は積極的に議論を進めるべきである。

 気候変動に関する政府間パネルは今月、7年ぶりに公表した報告書で「温暖化は疑う余地がない」「人為起源のガスが原因だった可能性が極めて大きい」との科学的な確信を示した。

 報告書は産業革命以後の温暖化を2度未満に抑える重要性を説く。それには2050年に世界の温室効果ガス排出量を2010年比でほぼ半減し、2100年までには自然吸収量と釣り合わせる必要があるという。

 欧州を始め、多くの国が報告書を真剣に受け止めている。

 2大排出国の米中の動きが象徴的だ。今月の首脳会談で、米国は二酸化炭素排出量を25年に05年比26~28%減らすと発表。中国も30年ごろに排出量を減少に転じることなどを表明した。

 欧州連合(EU)はすでに30年に1990年比40%減、ロシアも同25~30%減を表明した。

 それぞれ目標の妥当性や実現性に疑問も残るが、議論の土台を示した態度は評価できる。

 ひるがえって世界5位の排出国である日本はどうか。20年以降の目標は来年3月が提出のめどなのに、まだ動きはない。

 日本には省エネ先進国のイメージがあるが、今はGDP当たりのガス排出量で英独仏などと変わらない。もはや「優等生」でもない以上、欧米から大きく見劣りする目標は出せない。

 日本の原発停止によって増えた二酸化炭素の排出量は、国内全体の約1割でしかない。残り約9割の排出対策を語れない理由にはならない。

 例えば、温水供給や冷暖房などの熱関連では太陽熱や燃料電池に大きな可能性がある。輸送の効率化も有効だろう。議論すべきことは原発だけではない。

地方創生 人口減止める活性化策を示せ

 人口減対策と東京一極集中の是正は、日本の存立にもかかわる重要課題だ。各党は、厳しい現状を直視し、具体策を競うことが求められる。

 日本の総人口は、2008年をピークに減少に転じた。出生率が現水準のままなら、今の約1億2700万人から60年には8700万人に落ち込むと推計される。

 特に地方では、少子化に都市部への人材流出が重なり、状況は深刻だ。このまま人口減が続けば、「消滅自治体」が続出しよう。

 安倍政権は今夏、人口減対策や地域活性化を図る「地方創生」を看板政策に掲げた。先週、地方創生関連2法を成立させた。今後5年間の総合戦略などを近く策定する。

 自民党は政権公約で、地方自治体向けの自由度の高い交付金や、商店街の「地域商品券」発行を支援する交付金の創設を掲げた。公明党も、地方の人材流出防止や定着促進を支援する交付金の新設を盛り込んでいる。

 新交付金は自治体の創意を引き出す効果が期待される。ただ、自治体に数値目標などの明示を求めるなど、一定の要件を定めるべきだろう。地域商品券には、バラマキにならない工夫が必要だ。

 自民党公約は、地方での若者の雇用創出・人材育成を打ち出した。一方で、「地方創生特区」の創設や「高次都市機能」の強化なども並ぶが、効果は不透明だ。

 歴代の自民党政権は、「国土の均衡ある発展」を目指したが、東京一極集中と地方の過疎化を防げなかった。過去の失敗を検証し、縦割り行政とバラマキを徹底して排除しなければ、地方創生は看板倒れに終わるだろう。

 民主党公約は、「国・地方関係抜本改革推進法」の制定、一括交付金制度の復活、地域の発想に基づく規制改革などを列挙した。国の出先機関見直しなど、地方への権限・財源移譲にも取り組む。

 問題なのは、従来通り「地域主権改革」を掲げ、国家主権を否定するかのような不適切な表現を使い続けていることだ。

 維新の党は、「地方にできることは地方に任せる」として、「道州制への移行」を主張する。

 地方分権は地域活性化の一つの有力な手段だが、それだけで人口減少に歯止めをかけるのは不可能だ。民主、維新両党の公約からは、人口減社会に対する自治体と同様の危機感が伝わってこない。

 活力ある社会の維持へ、各党はもっと知恵を出し合うべきだ。

高浜延長申請へ 40年超える原発運転の試金石

 安全性を確認できた原子力発電所を、長期にわたって有効活用していくことができるか。その試金石となろう。

 関西電力が、高浜原発1、2号機について、運転開始から40年経過後も、運転の継続を目指す方針を発表した。

 原発の運転期間は原則40年と定められているが、原子力規制委員会の安全審査をクリアすれば、最長20年の延長が認められる。

 関電は12月上旬から原子炉の劣化状況などの特別点検を開始し、早ければ来春にも規制委に安全審査を申請するという。安全性の確保を最優先し、点検作業に万全を期さねばならない。

 関電の八木誠社長は、運転延長を申請する理由について、「必要な工事の実施にメドがつき、経済性も見通せた」と述べた。

 原発停止を補っている火力発電の追加燃料費は、今年度上半期で5000億円にのぼり、関電は3期連続で赤字決算となった。

 特別点検と安全対策に1000億円を超える費用をかけても、高浜1、2号機の運転を延長した方が、中長期的なメリットが大きいと判断したのだろう。

 発電コストの上昇により、関電の家庭向け電気料金は、東日本大震災前より月2000円近く上昇し、「原発ゼロ」が続けば、追加値上げに追い込まれかねない。

 家庭や企業に過度な料金負担を強いる事態は避けるべきだ。関電が電力安定供給と料金抑制を図るため、高浜1、2号機の運転延長を決めたのは理解できる。

 問題は、厳しい安全審査をパスできるかどうかである。

 新規制基準は、火災の発生・延焼を防ぐため、原発では一定の難燃性を備えた電源ケーブルを使うよう求めている。

 関電は、膨大な費用と時間のかかるケーブル交換を避け、防火塗料を塗るなどの措置で耐火性能を確保したい考えだが、規制委が許容するかどうかは不透明だ。

 原子力規制委の田中俊一委員長は、「新しい炉ではないので、審査は相当厳しくなる」との見方を示している。

 規制委の基準では、2016年7月までに安全審査が終わらないと、「40年廃炉」の原則が適用され、再稼働できなくなる。

 規制委が安全を最優先に、念入りに審査を行うことは当然だ。しかし、同時に遅滞なく審査を進めることも求められる。

 いたずらに手続きに時間を浪費し、結果的に「時間切れ」となる事態は避けるべきだ。

2014年11月28日金曜日

営業秘密の流出を防ぎ競争力の強化を

 経済産業省が不正競争防止法の見直し作業を進めている。企業が持つ技術情報やノウハウ、顧客リストなどの営業秘密を不正な手段で取得しようとする個人や会社に対し、罰則を強化する方針だ。

 営業秘密が外部に漏れないよう適切に保護することは日本企業の競争力の強化に必須で、実効ある法律改正を求めたい。

 政府が営業秘密の保護強化に踏み込むのには二つの背景がある。一つはサイバー攻撃など情報を盗み出す新たなルートが登場したことだ。もう一つは外国企業が絡んだ大型係争案件の続発だ。

 新日鉄住金は一昨年、同社OBを通じて特殊鋼の製造技術を不正に取得したとして、韓国のポスコを日米両国で提訴した。東芝も今年、半導体メモリーをめぐって韓国のSKハイニックスを訴えた。この両件がきっかけになり、技術情報などの営業秘密の保護強化を求める声が官民で高まった。

 罰則の強化は当然だ。他人の財産である「価値ある情報」を不正に取得するのはれっきとした犯罪であり、それが外国に流れた場合には、たんに企業の利益だけでなく、日本の雇用まで脅かされるおそれがある。

 営業秘密をめぐる米国の法制度や実際の運用をみると日本よりかなり厳しく、米連邦捜査局(FBI)も摘発に積極的だ。不正に手を染めた個人が懲役刑に服することも珍しくない。

 日本での法改正に当たって最も大事なことは、不正取得を未然に思いとどまらせるための抑止力の強化だ。盗まれた物品は取り戻すことができるが、情報は一度流出すると元には戻らない。そもそも自分の情報が盗まれても、それと気づかない場合も多い。

 経産省は今回の法改正で、実際に不正に取得した場合だけ罰してきた仕組みを改め、未遂でも刑罰を科す「未遂罪」を導入する。営業秘密を不正に利用して作った物品の販売・輸出入の禁止や、盗んだ人の「やり得」を防ぐため犯罪で得た利益を没収する措置についても、検討を急いでほしい。

 企業の側も重要情報に近づける人を限定するなど、社内の情報管理体制を今いちど点検すべきだ。加えて漏洩が判明すれば、毅然とした対応をとってほしい。「情報漏洩は会社の恥」という感覚で泣き寝入りした例も過去には多かったとされるが、それでは不正取得者を利するだけである。

受け皿たり得ぬ野党の主張

 主要野党の衆院選の公約が出そろった。「今こそ、流れを変える時」(民主党)など安倍政権との対決姿勢を前面に打ち出すが、ならばどうするとなると目立った対策は少ない。相当に肉付けしなければ、説得力に欠ける。

 民主党は「厚く、豊かな中間層を復活させる」を公約の柱に据えた。具体策の最初に書いてあるのは「補助金交付を通じたガソリン・軽油などの価格高騰対策」だ。自民党の公約にある「燃料高騰によるコスト増を被る事業者に具体的な措置を講じる」とどこが違うのだろうか。

 日銀の「過度の異次元緩和」を「国民生活に十分留意した柔軟な金融政策」に置き換えると聞き、何をしようとしているのかが理解できる有権者は少ないだろう。

 消費再増税の延期を容認したことにも違和感がある。安倍晋三首相の決断を批判しつつ、方向性は同じというのはわかりにくい。

 維新の党は「身を切る改革」を看板政策に掲げた。国会議員の定数の3割削減や、議員歳費減額などだ。議員数が多いか少ないかはさまざまな意見がある。同じく議員数削減を訴える民主党にも「3割は行き過ぎ」との声がある。

 次世代の党の「アベノミクスの基本的方向性は是とするが、軌道修正が必要」との訴えは、与党との距離感が読み取りにくい。

 どの党も政権批判はいろいろと並べてはいる。だが、この国をどう動かすのかという大きな見取り図を有権者に提示する姿勢は感じられない。踊り場の選挙という位置付けなのだろうが、与党支持者を切り崩すどころか、安倍政権に不満を抱く層の「受け皿」になるのも厳しいだろう。

 日本経済新聞とテレビ東京の世論調査によれば、「支持政党なし」が「自民党支持」よりも多い。狙うべき層はあるのにひき付けられないとすれば、魅力的な政策がないからだ。

エアバッグ―まずはリコール徹底を

 事故の時に命を守るはずの装置が、命を奪う凶器になるのでは、安全・安心への備えが根底からくつがえってしまう。

 エアバッグで世界第2位、約2割のシェアを持つタカタ(東京)が製造したエアバッグの欠陥問題が、米国や日本を中心に拡大している。車の衝突時にエアバッグが破裂し、金属片が飛び散る恐れがあるという。

 米運輸省は、タカタが米国の一部地域で進めているリコール(回収・無償修理)を、全米に広げるよう命じた。タカタ製品を使う自動車メーカーも対応を迫られ、全世界で1千万台規模というリコール台数がさらに膨らむのは必至だ。

 タカタが関連を認めただけでも3件の死亡事故が米国などで起きた。日本でも死傷者こそいないとされるが、4件の事故が報告されている。

 タカタと自動車メーカーはリコールに全力で取り組むべきだ。米当局の新たな指示に応じるのは当然だろう。

 日本国内でのリコール台数は260万台余だが、10月末時点で90万台近くが未改修のままだ。10年近く前に造られた古い車が多く、所有者の追跡が難しいのが一因という。

 各社ともホームページで対象車種を公開し、車台番号を入力すればリコール対象かどうかがわかるようにしているが、より広く注意を促してほしい。

 業界を監督する国土交通省は、関連事故が見逃されていないか調査しつつ、リコールの範囲が適切かどうかも確認する必要がある。既にリコール対象外のタカタ製品の破裂がわかっており、対応は急務だ。

 それにしても、タカタと自動車メーカー側、特にリコール台数が多いホンダの対応は後手に回ったと言わざるを得ない。

 タカタが不具合に気づいたのは05年、ホンダからの連絡だったという。だが「特異な事例」と判断し、運輸当局に報告しなかった。07年になって破裂事故が相次ぎ、再調査した結果、08年に米国でリコールを始めた。

 一方のホンダは、タカタ製エアバッグがらみの事故を含め、米当局に報告義務がある死傷事故について、過去11年で1700件余の報告漏れがあったと新たに発表した。

 タカタ、ホンダとも隠蔽(いんぺい)は否定しているが、再発防止に向けた焦点であり、第三者機関による検証が必要だ。全容解明と責任追及に乗り出した米議会の関心もその点に集中する。

 「安全」を売り物にしてきた自動車業界への信頼を守れるかどうかが問われている。

香港占拠運動―次の目標を考える時だ

 香港中心街で「雨傘革命」が始まって50日余り。世界が見つめる学生らの街頭運動が、ついに行き詰まってきた。

 当局はバリケードの撤去と強制排除に乗り出した。当局は引き続き流血を避け、冷静に対応するよう努めねばならない。

 学生らも、民主主義を求める声を内外に響かせた成果を誇りつつ、次の目標を考える時だ。

 異例の運動にとって、潮目が変わった一番の理由は、地元の民意の離反である。占拠活動の長期化で経済的影響が深まり、最新の世論調査では市民の7~8割が撤退を求めている。

 当局も周到に準備を整えた。道路を使うビル管理会社やバス会社の訴えにより、裁判所が強制執行を命じたのを機に、排除に踏み切った。背後には、国際的な非難を避けたい習近平(シーチンピン)政権の思惑があったのだろう。

 そもそも学生らが立ち上がったのは、香港の行政長官を選ぶ選挙制度をめぐる対立からだ。習政権は、候補者をあらかじめ2~3人に制限して、中国側の意に沿わない候補を除外できる制度の導入を決めた。

 異議を唱えた学生らは、今回の運動で、香港政府との対話を実現させた。「中国の決定は永久に適用されるものではない」という、譲歩とも受けとれる発言を引き出した。

 ただ、彼らが輝いていたのはそこまでだ。抵抗運動は、有効な目標を設定し、実行し続けなければ、活力を失う。占拠場所で「広場投票」をすると提案しては中止したり、北京へ行こうとしては空港で断られたりして、方向感を失った。

 それでも、この運動には歴史的な意義がある。

 「一定の市民の支持があれば誰でも立候補できる制度を」という当然の主張を掲げて香港当局と習政権と対峙(たいじ)した姿は、多くの国で共感を呼んだ。

 10代を含む若者が牽引(けんいん)役となったことは特筆される。97年に英国から返還されて以降、日々強まる中国の影響力への反作用もあって、香港アイデンティティーと呼ぶべきものが根付いている。

 彼らは生まれ育った地を愛するからこそ、選挙にこだわるのである。

 いちど決まった制度を覆すのは難しい。だが、梁振英行政長官が明言したように、候補者を決める指名委員会の1200人の構成をどうするかなど、制度には検討の余地がある。

 次の選挙は3年後だが、民主主義の模索に終わりはない。様々なスタイルで問題提起を続ける運動を考えてほしい。

アベノミクス 持続的成長の処方箋を競え

 ◆民間活力引き出す視点が要る

 日本経済再生を、安倍政権の経済政策「アベノミクス」にこれからも託するか。それとも他に選択肢はあるのか。

 これが、衆院選の最大の争点である。

 アベノミクスは、大幅な株価上昇など一定の効果を発揮したが、手詰まり感も強まっている。

 減速する景気を回復させ、デフレから確実に脱却しなければならない。各党の活発で建設的な議論が求められる。

 ◆数字の意味が問われる

 「就業者100万人増加」「過去15年で最高の賃上げ率」

 自民党の政権公約は、雇用などの統計を列挙して、アベノミクスの実績を強調している。

 安倍首相は「景気回復には、この道しかない。国民の信頼と協力を得て、成長戦略を前に進めていく」との決意を表明した。

 公明党の山口代表も「連立政権は、アベノミクスで経済再生を進めてきた。さらに強化してやり遂げる」と訴えている。

 これに対し、民主党は公約の冊子に、「実質賃金が15か月マイナス」「増え続ける非正規雇用」などと別の統計を掲載して、アベノミクスによって国民生活は悪化し、格差の拡大・固定化を招いたと主張する。

 取り上げる統計によって、評価が正反対になることに、戸惑う有権者も多いだろう。それぞれの数字が持つ意味は何か、各党は丁寧に説明してもらいたい。

 ◆顕在化してきた「誤算」

 アベノミクスの滑り出しは順調だった。「3本の矢」のうち、1本目の大胆な金融緩和と、2本目の機動的な財政出動が奏功し、円安・株高に加え、経済成長率がプラスへの転換を果たした。

 ただ、2年近くを経て、「誤算」も顕在化している。

 今年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた後、個人消費の低迷が長引き、実質国内総生産(GDP)は2期連続でマイナス成長となった。

 首相が景気に配慮し、来年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを、1年半先送りしたのは、妥当な判断である。

 金融緩和で円安は進んだが、期待ほど輸出が増えず、設備投資や生産の動きは弱い。円安が燃料や食品の輸入価格を押し上げ、家計や中小企業の負担が増すという副作用も目立ってきた。

 自公両党は、速やかな経済対策の策定を、民主党も円安対策の実施を打ち出した。

 いずれも、円安による燃料高などで苦境に立つ消費者や中小企業、農家などへの支援が中心だ。景気の下支えに一定の効果が期待できるが、財政支出が過度に膨らむのは避けねばならない。

 問題なのは、3本目の矢である民間活力を引き出す成長戦略が、目に見える効果を出していないことである。

 自民党は、民間企業の収益拡大が雇用・賃金の増加をもたらし、消費の活性化によって企業業績をさらに押し上げる「経済の好循環」を目指すと公約した。

 そのため、法人税実効税率の20%台への引き下げや、農業、雇用、医療分野などの岩盤規制の打破を明記したが、内容は従来の政策の範囲内にとどまる。

 民主党や維新の党は「成長戦略が手つかずのままだ」などと、厳しく批判する。

 ただ、野党側の対案も、精彩を欠いている。

 民主党は、若者に対する支援など「人への投資」で可処分所得を増やし、「厚く、豊かな中間層」を復活させると主張する。

 だが、個人に対する給付でお金を配る政策では、日本経済に新たな「富」は生まれない。生産性を高め、経済自体のパイを大きくする視点が不可欠だ。

 ◆恩恵を全国に広げたい

 かつて民主党政権は、財源のメドもないまま子ども手当などのばらまきを公約し、主要な政策の実行が行き詰まった。失敗を繰り返してはならない。

 民主党は、環境や医療などの分野に政策資源を集中させるとする成長戦略も掲げているが、新味と具体性に乏しい。

 上場企業の業績は過去最高の水準に迫る勢いだが、利益は賃金や設備投資へ十分に回っていない。中小企業や地方の回復が遅れているのも事実である。

 日本経済の閉塞感を打破し、持続的な安定成長の軌道に乗せるには、何が必要か。各党はより具体的な処方箋を示し、戦略を競い合うべきだ。

2014年11月27日木曜日

一刻も早く1票の格差をただす道筋示せ

 1票の格差が最大4.77倍だった2013年7月の参院選について、最高裁が「違憲状態」とする判決を言い渡した。10年の参院選に対しても同じ判断が示されており、3年ごとに半数が改選される参院は、まるごと違憲の状態ということになる。

 衆院も同様に、09年、12年の選挙を違憲状態と判断されたまま、抜本的な改正をせずに解散した。両院ともに、議員としての資格が問われかねない状態が慢性化している。国会は本気で定数の配分を正すつもりがないのではないか。そう疑われても仕方がない。

 格差是正に向けた参院の取り組みは、意見の対立から与野党協議会の座長が更迭されるなど迷走している。16年の次の参院選までに形をつければいいと考えているとすれば、有権者の失望を買うだけだ。議論を進め、一刻も早く改革への道筋を示すべきである。

 「違憲状態」とは、まさに投票の価値が平等の原則に著しく反しているということである。ただ、その是正のために必要な時間を考慮して、これまでの判決で「状態」を付けてきたにすぎない。

 10年の参院選を違憲状態とした12年10月の判決で、最高裁は「都道府県を単位とする区割りの見直し」を求めた。13年の参院選はこうした改正を行わないまま実施されたが、この判決から9カ月しかたっていなかったため、今回も違憲状態との判断にとどまった。

 だが区割りの抜本的な見直しの必要性は以前から指摘されており、改正のための時間は十分あったともいえる。

 実際、大法廷の15人の裁判官のうち、4人が「違憲」とする反対意見を述べている。うち1人は「選挙は無効」と踏み込んだ。最高裁として引き続き国会の取り組みを見守る、ギリギリの許容範囲内だったということだ。

 国会の不作為が批判されるのは当然である。しかし司法の側にも、問題がありはしないだろうか。最高裁はこれまで、国会議員の定数のあり方について、明確な基準や姿勢を示してきたとは言いがたい。それが結果として、現行の選挙区の定数を増減させる数合わせ的な改正を許してきたことにつながってもいる。

 最高裁は一体、イエローカードを何枚持っているのか。そんな疑問を抱かれないよう、毅然としてわかりやすく、国民のふに落ちるような判決を求めたい。

成長に資する企業統治指針を

 金融庁と東京証券取引所が企業統治の指針作りに動いている。株式市場から見た上場企業の経営の透明度を高めるのが狙いだ。年内にも中身を詰め、2015年からの適用を目指す。

 一般に、株主の声に耳を傾ける企業は、そうでない企業に比べて収益力が高いとされる。企業が収益力を高めれば、投資や雇用を増やす余地も広がる。日本経済の活性化に資する企業統治の指針を確立するときだ。

 金融庁と東証は市場関係者からなる有識者会議を設け、8月から指針作りを進めてきた。これまでに示された案で注目されるのは、上場企業に2人以上の社外取締役を選任するよう促す項目だ。現状では社外取締役を1人だけ選任する上場企業が多いが、企業統治指針は2人以上と数値を示すことにより、高い規範を課す。

 外部の意見が経営に伝わりやすくなるという点で、社外取締役の複数選任は望ましい。多様な人材を迎えることにより、取締役会の議論が活発になるといった効果も見込まれる。

 しかし企業が取引先やOBなど利害関係者から取締役を選ぶようなことになれば、2人以上という数値基準を満たしたとしても、企業統治の実効性は高まらない。社外取締役の独立性の要件を指針に明記する必要がある。

 社外取締役の複数選任と並んで重要と見られるのは、株式の持ち合いについて企業に説明責任を求めている点だ。株式持ち合いは買収防衛策として乱用される懸念があるうえ、資本の効率利用の面からも問題含みだ。企業は合理的に説明できない保有株式を売却し、得た資金を投資や配当・自社株買いに回すべきだ。

 このほか指針には女性の活用や役員報酬の決め方の開示などが盛られる見通しだ。指針は義務ではないが、順守しない企業は理由を明らかにしなければならない。自社に適した企業統治の型を選び、それを株主に伝える力が経営者に必要とされている。

参院違憲状態―国民の代表といえるか

 鳥取で16万票得た候補が当選し、東京で55万票の候補が落選した。一人ひとりの投票価値に最大4・77倍の差があった。

 昨年7月の参院選について、最高裁はきのう、違憲状態にあったと判断した。

 最高裁は2年前、一票の格差が最大5・00倍だった10年の参院選について違憲状態とし、都道府県単位の区割りを改める抜本改正を促した。

 しかし、参院は「4増4減」の手直しでとどめた結果、5倍近い格差を温存してしまった。今回の判決が「違憲状態解消には足りない」と断じるのも、もっともだ。

 参院の一票の格差がここまで開くのは都道府県ごとに選挙区とし、半数ずつ改選するため、最低2人を割り振るためだ。

 この点、判決は改めて都道府県単位の区割りの見直しに言及した。これを避けては是正は無理と考えてのことだろう。

 違憲状態ではなく違憲だったと厳しく判断した少数派の中には、格差の大きい一部の選挙区について、選挙無効とまで踏み込む裁判官もいた。国会は「次はない」と覚悟するべきだ。

 前回参院選後も、選挙制度の改正議論は滞ったままだ。

 今年4月、参院選挙制度協議会で座長の脇雅史・自民党参院幹事長(当時)は、鳥取と島根など22府県の選挙区を統合する合区案を示した。しかし、自民党内の反発が強く、逆に本人が事実上更迭された。

 参院が自ら抜本改革をしてのぞむと決めた次の参院選は、16年夏に迫っている。このままでは間に合わないのではないか。

 「良識の府」と呼ばれた参院だが、選挙区と比例区からなる選挙制度はいまや衆院と重なり、政党色も強まっている。これも最高裁が参院の一票の格差により敏感になるゆえんだ。

 二院制のもとで衆院と参院がどう役割分担するか、両者が議論することが不可欠だ。参院ならではの価値を生み出せる選挙制度にする改革が必要だ。

 国会が怠ったままであれば、いずれ司法がはっきり「違憲」との判断を示すしか、是正の道はないだろう。

 深刻なのは、衆院も同じだ。最高裁は2年前の衆院選も違憲状態とし、都道府県に定数をまず1人割り当てる「1人別枠方式」の見直しを求めたが、衆院は小選挙区定数の5減だけで解散し、総選挙を迎える。

 弁護士グループは衆院選後、訴訟を起こすと明言した。選挙のたびに国会の代表性に疑問が出る状況はもう終わりにしなければならない。

教研集会判決―橋下流労組対策の誤り

 労組への便宜供与はしない。

 そう定めた「労使関係条例」を根拠に、教育研究集会を小学校で開こうとした大阪市教職員組合に会場を貸さなかった大阪市の対応について、きのう、大阪地裁が違法と判断し、組合への賠償を命じた。

 注目されるのは、市の不当労働行為などを正当化するためにこの条例の条項を使えば、「職員の団結権を保障した憲法に違反する」と踏み込んだことだ。

 大阪市は「違憲」の指摘を受け止め、すみやかに条例の見直しに取り組むべきである。

 教研集会は、教職員が授業や課外活動など日頃の研究の成果を報告し、参加者が意見を交わしながら自主的に学びあう場だ。子どもや保護者が参加することもあり、待遇改善などを求める労働運動としての色彩は強いとはいえない。それにもかかわらず、大阪市は労組の主催というだけで条例を適用し、学校から閉め出した。

 市当局が作った当初の条例案には「労組活動に対する市の便宜供与は、適正かつ健全な労使関係が確保されていると認められない限り行わない」と、留保がつけられていた。それを橋下徹市長の指示で一律に「全面禁止」とした経緯がある。

 大阪市では2004年から05年にかけ、市職員のヤミ年金やヤミ退職金など非常識な職員厚遇ぶりが次々と明らかになり、いびつな労使関係が問題になってきた。橋下氏が大阪府知事から転身した11年の市長選では、対立候補の現職を市職員の労組が職務中に支援していたこともあり、「組合と市役所の体質をグレートリセットして、一から考え直したい」とする橋下氏の考えには、一定の理があった。

 だからといって、労組への便宜供与を一律にやめてしまうのはやり過ぎだ。判決が「橋下市長は職員の団結権を侵害する意図をも有していたとみざるを得ない」と指摘した通りである。

 大阪地裁は9月にも、この条例を根拠に市庁舎から労組事務所を撤去させた大阪市の対応について同じ判断を示している。市は控訴中だが、司法が2度にわたって条例の問題を指摘した事実は重い。

 橋下市長はこれ以外にも、労組とのかかわりなどを尋ねるアンケートを職員に強制したり、組合費の給与からの天引きを廃止したりした。だが大阪府労働委員会などでいずれも「不当」と認定されている。

 これ以上、労使間の不毛な対立に時間を費やすべきではない。大阪市が取り組むべき課題は、ほかに山ほどある。

参院1票の格差 国会の裁量権尊重した最高裁

 参院の選挙制度改革を進展させられない国会に対し、司法が再び厳しい判断を示した。

 「1票の格差」が最大4・77倍だった昨年7月の参院選について、最高裁大法廷は「違憲状態にあった」との判決を言い渡した。

 15人の裁判官のうち、11人の多数意見だ。残り4人は「違憲」と判断した。国会は真摯(しんし)に受け止めねばならない。

 最高裁は2012年10月の判決で、格差が5・00倍だった10年の参院選を違憲状態とし、都道府県を選挙区の単位とする現行制度の見直しを求めていた。

 国会はその後、選挙区定数を「4増4減」したが、制度改革に手をつけないまま、昨年の参院選を迎えた。最高裁が今回、「違憲の問題が生じる著しい不平等状態を解消するには足りないものだった」と断じたのは無理もない。

 最高裁判決が違憲にまで踏み込まなかったのは、制度の抜本改革には相応の時間がかかることを考慮したためだ。

 最高裁は、12年の違憲状態判決から選挙まで約9か月しかなかった点を挙げた。4増4減の改正公職選挙法に「16年参院選に向け、選挙制度の抜本的見直しの検討を行い、結論を得る」との付則が設けられたことも重視した。

 「高度に政治的判断が求められる」と、国会の裁量権を尊重しつつ、司法として制度改革を迫る姿勢を一層鮮明にしたと言える。

 疑問なのは、違憲とした4人の裁判官のうち、元内閣法制局長官の山本庸幸氏が「選挙無効」と判断したことだ。議員1人当たりの有権者数が全国平均の8割に満たない選挙区の議員は身分を失う、という独自の見解を示した。

 無効にしても非改選の議員らの身分は継続するので、参院の機能は停止しないとも主張している。再選挙の明確なルールがない中で非常識と言わざるを得ない。

 一方、参院各党の選挙制度改革の協議は難航している。自民党の内紛と怠慢による面が大きい。

 自民党は先月末、ようやく複数の改革案を他党に提示した。現行選挙区の定数配分を変える「6増6減」や、人口の少ない県と隣接県を一つの選挙区に統合する「合区」などである。

 合区には、民主党なども理解を示す。自民党は第1党として、早急に改革案を絞り込み、各党との調整を主導する責任がある。

 衆院と参院が役割や機能をどう分担するか。こうした本質的な議論も深めなければなるまい。

長野北部地震 「共助」が犠牲者ゼロの要因だ

 震度6弱を記録した大きな地震だったが、一人の死者も出なかった。

 災害が起きた際、住民同士の助け合いがいかに大切か。そのことを実感させられた。

 長野県北部を襲った地震では、40人以上が負傷し、全半壊を含め住宅約500棟が損傷した。22日夜の発生以来、多数の住民が避難を余儀なくされている。

 豪雪地域である。本格的な冬を前に、政府や長野県などは、被災者の仮住まいの確保など支援活動を加速すべきだ。

 震源は、本州を南北に横切る国内最大級の「糸魚川―静岡構造線断層帯」北部だった。地震のエネルギーが集まる「新潟―神戸ひずみ集中帯」の一部でもある。周辺地域での地震を誘発する可能性も指摘されている。

 政府や関係自治体には、十分な警戒が求められる。

 今回、被害が大きかったのが白馬村だ。高齢者や幼児らが倒壊家屋の下敷きになった。夜にもかかわらず、近所の住民たちが、すぐさま現場に駆けつけ、ジャッキなどでがれきを持ち上げて、被災者を救い出した。

 地域の人たちが各戸の家族構成を把握していなければ、がれきの下に取り残される人が出たかもしれない。古くからの住民が多く、「顔の見える」付き合いが浸透していたことが、犠牲者がゼロだった大きな要因と言えよう。

 大規模災害時には、行政機関の機能が麻痺(まひ)するケースがある。道路が寸断され、救援隊の到着が遅れることも少なくない。今回の地震を契機に、地域での「共助」の重要性を再認識したい。

 内閣府の調査によると、地震や津波で孤立する恐れがある集落は、全国で1万9160か所に上る。その多くが、高齢の住民が多い過疎集落だ。

 人口減が加速する中、災害弱者を地域で守る共助の仕組みを築くことが急務である。

 災害対策基本法は昨年の改正で、介護が必要な高齢者や障害者など、自力での避難が難しい「避難行動要支援者」について、氏名や住所、必要な支援を記した名簿の作成を市町村に義務づけた。

 万一の際の備えとして、名簿情報を活用し、誰がどの要支援者に対応するのか、地域ごとのきめ細かな避難支援計画などを作成しておくことが大切だ。

 首都直下地震や南海トラフ巨大地震も想定される。近所付き合いが希薄な都市部の住民同士の協力体制作りは、大きな課題だ。

2014年11月26日水曜日

耳に心地よい話が並んだ自民の公約

 自民党が衆院選の政権公約を発表し、「地方に実感が届く景気回復を加速させる」との目標を掲げた。そうなることを望みたいが、個別の政策をみると、ばらまきではないかと思われるものが結構ある。耳に心地よい話ばかり並べるのではなく、本当に経済効果のある施策を取捨選択すべきだ。

 公約は表紙に安倍晋三首相の顔写真と「景気回復、この道しかない」とのキャッチフレーズを載せた。続く首相メッセージにも「この道」は2回出てくる。アベノミクスは是か非かの二者択一を有権者に迫るつくりになっている。

 問題は具体策である。安倍政権の看板政策である「地方創生」を柱に据えた結果、「地域経済を支える建設業・運輸業・造船業の経営基盤の強化」「整備新幹線を含む高速鉄道体系の形成促進」など自民党の伝統的な支持基盤に目を向けた公約が多く並んだ。

 国土強靱(きょうじん)化や中小企業育成の名の下に無駄な公共事業が乱発される懸念がある。

 公約を決めた総務会では、選挙を前に業界団体に配慮すべきだとの趣旨の発言があった。農協改革の表現が「議論を深め、着実に推進する」との言い回しにとどまったのはそのせいだろうか。

 「責任あるエネルギー戦略」の項目は、原発再稼働の是非に注目を集めたくないためか、「エネルギーミックスの将来像を速やかに示す」と曖昧な表現だった。

 女性活躍は「子ども・子育て支援新制度を必要な予算を確保し、来年4月から実施する」と明記した。だが、消費再増税の延期で財源のめどは立っていない。これでは「財源なきばらまき」と批判された民主党政権と大差ない。

 気になるのが経済政策以外への言及があまりに少ないことだ。

 自民党の党是ともいうべき憲法改正は末尾に4行だけ。しかも憲法改正案の国会提出について「国民の理解を得つつ」との縛りを付けた。外交・安保に「集団的自衛権」という単語は出てこない。

 国論を二分するようなテーマを争点にしたくないのだろうが、これは極端なやり方ではないか。

 「突然の解散で投票率が下がるだろうから、固定票をまとめれば勝てる」。この公約からは自民党内のそんな雰囲気が読み取れる。

石化産業は構造改革を急げ

 経済産業省が石油化学業界に過剰設備の統廃合を求める調査報告書を公表した。合成樹脂や合成繊維などの原料となるエチレンの生産能力は2020年に最大で2割以上が余剰になるという。

 グローバル競争を勝ち抜くには適正な水準への能力削減が避けて通れない。事業環境の変化に応じた生産体制を築き、成長分野に軸足を移す構造改革の速度を上げなければならない。

 調査は産業競争力強化法に基づく。政府が供給過剰にある業界を調べ、結果を公表して事業再編を促す狙いだ。事業再編は国が干渉すべきではなく、企業自身が判断するのが筋だ。とはいえ調査結果は重く受け止める必要がある。

 エチレンの工場は国内に14カ所ある。住友化学が15年に千葉県の生産設備を停止し、三菱化学と旭化成は共同で岡山県にある設備を減らす。それでもこのままだと20年時点で大型設備2、3基分の能力が余剰となる。中国や中東で最新工場が完成し、割安なシェールガスを使う米国産の石化製品が市場になだれ込むためだ。

 過剰設備を抱えたままでは工場の稼働率が落ち、生産コストは上昇する。日本のエチレン工場は古いプラントが多く、最新設備を稼働させる海外勢との競争力格差はさらに広がる。

 企業単独での削減には限界がある。企業の枠を超えて設備を統廃合し、生産の最適化を急ぐべきだ。エチレンの原料となるナフサを供給する製油所と一体で設備効率化を探ることも必要だろう。

 東レは米ボーイングの新型旅客機向けに、最新の軽量素材である炭素繊維を1兆円分納入する契約を結んだ。エチレンなどの汎用素材の競争力を高めるだけでなく、付加価値の高い高機能素材の開発、生産で先行することも大切だ。

 人口減少に伴う国内需要の縮小とアジアで次々と立ち上がる大型設備との競争を迫られる構図は、鉄鋼や石油、製紙など素材産業に共通する。構造改革を急がねばならないのも石化と同じである。

(衆院選)政権公約・自民―実績ばかり並べても

 自民党の政権公約は「景気回復、この道しかない」と掲げ、経済再生と財政再建をともに実現すると宣言している。

 消費税率の再引き上げを先送りしても、基礎的財政収支の赤字を目標通り減らし、子ども・子育て新支援制度をはじめとする社会保障政策も進めていくという。本当に実施できるのか、かつての選挙公約のような「あれもこれも」式の空手形にならないのか、安倍首相らは道筋を示さねばなるまい。

 首相自ら「アベノミクス解散」とうたう通り、政権公約は経済対策に重点を置いている。強調しているのは、過去2年間の実績だ。

 「就業者数は約100万人増加」「賃上げ率は過去15年で最高」。確かにこれらの数字は、第2次政権発足以来の株高ともあいまって安倍氏の経済政策がそれなりの成果を上げてきたことを示している。

 ただ、首相自身が認めるように、その果実は中小企業や地方には行き届いていない。問題の本質はそこにある。

 本来なら、株高などの恩恵に浴する富裕層から富がしたたり落ちる「トリクルダウン」効果が出て、多くの国民が景気回復を実感できるようになるのかが問われるはずだ。それなのに、そこにいたる道筋は、次のように極めて抽象的だ。

 「雇用や賃金の増加を伴う経済の好循環をさらに拡大し、全国各地への波及を図る」「燃油高騰や米価下落などに十分配慮し、力強い景気対策を速やかに実施する」。公約の詳細版である「政策BANK」をめくっても具体策は乏しい。

 民主、自民、公明による2年前の「社会保障と税の一体改革」の3党合意には、国民に負担増を強いる苦い決断を与野党で分かち合う意味があった。それをないがしろにする形で踏み切った衆院選だというのに、政権党の公約が抽象的なかけ声にとどまっていては、アベノミクスの将来にも不安が募る。

 一方、有権者の賛否が分かれる課題には、簡単に言及しているだけだ。

 安全保障では「集団的自衛権」の言葉は使わず、「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備する」と触れた。原発再稼働では、相変わらず原子力規制委員会任せの書きぶりだ。

 首相は「アベノミクスは成功だった。今後も続けるから、将来のことはみな白紙委任しろ」とでもいうのだろうか。

 とうてい納得の得られるものではない。

(衆院選)政権公約・民主―「対立軸」は見えるが

 民主党のマニフェスト(政権公約)は「今こそ、流れを変える時」として「アベノミクスからの転換」「厚く、豊かな中間層の復活」を掲げた。

 「この道しかない」と繰り返す安倍首相に対して、「いや、ほかの道もある」と訴える戦略なのだろう。その意味で、かろうじて与野党の「対立軸」は見えてきたと言っていい。

 しかし、それが実効性をもつ「対案」と呼べるかと言えば、いささか物足りない。

 冒頭の2ページを埋めたのは安倍政権の2年間への批判である。「実質賃金が15か月連続マイナス」「GDPが二期連続マイナスに!」といった見出しが列挙されている。

 政権批判の受け皿をめざしたのだろうが、有権者が聞きたいのは現状からどう抜け出すかの道筋だ。そこを示さなければ、政権与党の経験を持つ政党として怠慢のそしりを免れない。

 特に消費増税の延期に同調し、一体改革を棚上げしたのは、財政リスクから目を背けていると言わざるをえない。

 アベノミクス批判にうなずける点はあるものの、具体的な政策につながっていない。第1の矢の金融緩和については急激な円安に伴う弊害を批判し「柔軟な金融政策」を掲げたが、それだけでは説得力に乏しい。

 第2の矢の財政出動に対しては、公共工事中心のあり方に疑問を投げかけ、子育て支援など「人への投資」を訴えた。「コンクリートから人へ」の発想は理解できるが、その理念を生かし切れなかったのが民主党政権ではなかったか。

 「一向に進まない」と批判した第3の矢の成長戦略も、「未来につながる成長戦略」を掲げたが、やはり抽象的だ。

 バラ色の公約を掲げて失敗した民主党への不信はなお根強い。野党になって2年。議論を重ね、政策を鍛える時間は十分あった。民主党の政権担当能力を示す絶好の機会のはずだ。

 集団的自衛権の行使容認の閣議決定については「立憲主義に反するため、撤回を求める」としているが、手続き論にとどまり、集団的自衛権そのものの是非には踏み込まなかった。党内論議をまとめきれなかったとすれば、党としての一体性に疑問符がつく。

 一方で、野党間の連携には前進もあった。維新の党との間では、同一労働同一賃金法や領域警備法の制定など5項目の共通政策で合意した。急場しのぎではあっても、今後の論戦を通じて、「次の政治」の選択肢を示し続ける必要がある。

自民党政権公約 「この道」の具体策が問われる

 様々な政策課題に、具体的な処方箋を示し、着実に実現するのが政権党の責務である。

 自民党が、「景気回復、この道しかない」と題した政権公約を発表した。安倍首相の経済政策「アベノミクス」の推進を前面に掲げた。

 成長戦略として、法人税実効税率の20%台への引き下げや、科学技術基盤の強化、再生医療の推進などを挙げた。農業、医療分野などの「あらゆる岩盤規制を打ち抜く」とも強調している。

 企業の競争力を強化し、日本の「稼ぐ力」を高める狙いは妥当だが、具体策は新味を欠く印象が拭えない。農協など自民党の支援・友好団体が反対する規制改革をどう実行するかも不透明である。

 来年10月の消費税率10%への引き上げは1年半先送りし、引き上げ時の軽減税率導入を目指す方針を明示した。一方で、財政健全化目標は維持し、その具体的な計画を来年夏に策定するという。

 目標達成には、景気回復による税収増に加え、給付抑制を含む社会保障制度改革など、歳出構造の大胆な見直しが欠かせない。

 疑問なのは、ばらまき政策の復活である。整備新幹線の工期の大幅な短縮や、商店街の「地域商品券」発行を支援する交付金などが盛り込まれた。財政再建とどう両立していくのか。

 焦点のエネルギー政策では、安全性が確認された原発の再稼働を進める。政府が前面に立ち、地元自治体の理解と協力を得るよう取り組む。この方針は適切だ。

 中長期的には、「原発依存度は、可能な限り低減させる」とした。電力の安定供給には、火力、原子力、再生可能エネルギーなどのバランスが取れた活用が望ましい。自民党は、最適な電源構成に関する議論を主導してもらいたい。

 安全保障分野では、集団的自衛権行使を限定容認する政府見解に基づいて「安全保障法制を速やかに整備する」と明記した。昨年の参院選でも掲げた「国家安全保障基本法」の制定は削除した。

 重要なのは、平時から有事まで切れ目のない危機対処体制の構築だ。来年の通常国会への関連法案提出に向け、その必要性を国民にきちんと訴える必要がある。

 憲法改正については、「国民の理解を得つつ憲法改正原案を国会に提出する」と記述した。具体的な改正点や手順に言及していないのは、物足りない。自民党は積極的に改正論議を深めるべきだ。

薬のネット販売 監視と啓発で違法売買を防げ

 薬とは名ばかりで、健康に害を及ぼす恐れさえあるとなれば、野放しにはできまい。

 厚生労働省は4月から9月にかけて、インターネット上で未承認の医薬品を販売していた74の違法サイトを閉鎖させた。

 偽造とみられる性的不能治療薬や、国の承認を受けていない睡眠薬などを販売していた。サイトに商品一覧を掲載しており、厚労省は法律で禁じられた未承認医薬品の広告にあたると判断した。

 6月の改正薬事法施行で、市販薬のネット販売が解禁された。ネットを通じて薬を買う人は、今後ますます増えるだろう。

 一方で、危険ドラッグをはじめ、怪しい薬物を売るサイトが氾濫している。販売業者の摘発が重要だが、海外のサーバーを経由したものが多く、開設者の特定が困難なのが実情である。

 厚労省は、米国の専門業者に委託して薬物販売サイトへの監視を強化している。消費者の健康と、安全な医薬品の流通を確保するために、違法サイトを閉鎖させるのは現実的な措置だろう。

 違法サイトで売られた“医薬品”の半数以上は偽造とされる。偽造薬の販売額は、2010年時点で750億ドルとの試算もある。

 消費者が正規品と偽造薬を見分けるのは難しい。錠剤の形や色、包装まで、正規品そっくりに作られている。効能がないばかりか、不純物や過剰な有効成分を含んだ危険なものさえある。

 誤って買った人は、副作用で命の危険にさらされかねない。

 特に注意が必要なのが、性的不能治療薬のネット購入だ。個人輸入の代行と称して注文を取り、偽造薬を売りつける業者が横行している。ネットで購入した男性が意識障害を起こした例もある。

 製薬会社4社が、ネットで性的不能治療薬を買った人に行ったアンケートでは、9割が「自分が買ったものは本物だと思う」と回答した。「健康被害が生じる可能性があると思う」とした人は、わずか2割だったという。

 ネット購入に対する危機意識の低さがうかがえる。

 国内で市販薬の販売サイトを開設できるのは、自治体の許可を得た薬局・薬店だけだ。正規サイトでは、副作用の強い性的不能治療薬などの処方薬は扱えない。個人輸入した薬は、健康被害が生じても、救済制度の適用外だ。

 厚労省は、ネット販売のルールや危険性を十分に周知し、適正購入を促す必要がある。

2014年11月25日火曜日

雇用をつくり、地方へ人の流れを

 安倍政権は衆院選に向けて「地方創生」を看板政策に掲げている。人口減が続く地方では経済規模が縮小し、それがさらなる人口減少を招く悪循環に陥っている。これを断ち切るためにも地域の雇用を創出し、人の流れを変えたい。

 先の国会で地方創生関連2法案が成立した。この点は評価するが、2つの法律は理念や手続きを定めているだけだ。地域経済を立て直す具体案を自民や公明など各党は公約で示してほしい。

企業の潜在力引き出せ
 地方を活性化するカギは地域の中小企業の潜在力を引き出すことにかかっている。産学官と金融機関が連携し、技術開発や販路の拡大を支援すべきだろう。公設の研究機関の研究成果を地元企業にもっと還元する仕組みも要る。

 経済産業省は今年3月、特定の製品や技術に強みをもち、世界市場で高いシェアと利益を確保している「グローバルニッチトップ企業」を選定した。そこには金沢市の津田駒工業や岡山市の内山工業など地方に拠点を置く企業が多数、名を連ねている。

 グローバル企業になる条件に本社の立地場所など関係ない。強い地方企業が増えれば雇用の厚みが増す。経済の新陳代謝を進めるために起業を促し、ベンチャー企業を支援することも欠かせない。

 人口減で域内の消費は減るのだから、域外から需要を取り込めるかどうかが地方経済の行方を左右する。この点からみて大きな意味を持つのは観光だ。ビザの発給要件の緩和や特産品の開発を後押しして観光客をさらに増やしたい。

 農林水産業も地方の強みなはずだ。大規模化や6次産業化を進めればもっと雇用を生み出せる。

 職住近接が可能で、自然が豊かな地方の方が子育てをしやすい面がある。機会があれば地方での暮らしを望む都市住民は少なくない。UターンやIターンを後押しする仕組みが必要だ。

 自民党は地元出身者の採用を増やす地方企業の支援策を検討している。全国知事会は地方大学を卒業して地元で就職した人を対象に奨学金の返済を免除する制度の創設を提案している。どういう方法が地域の活力を高めるうえで望ましいのか、議論を深めてほしい。

 地方の活性化は急務だが、それでも地方の人口減少は続く。地域ごとに都市機能を再編して「賢く縮む」戦略が欠かせない。商業や医療・福祉などの施設を幾つかの区域に集約できれば、バスなどの公共交通網を維持しやすくなる。

 そこに住宅も誘導できれば人口は減っても地域社会の崩壊を防げる。まずは老朽化した公共施設の再配置から取り組むべきだろう。

 この点で、財政再建中の北海道夕張市の取り組みは参考になる。夕張では街の中心部に市営住宅を建て、周辺部の古い住宅で暮らす市民の住み替えを促している。

 この2年間の安倍政権を振り返ると気になる点がある。地方分権の優先度が低下したことだ。政府の地方分権改革有識者会議が10月下旬にまとめた案をみると、地方が権限の移譲や規制緩和を求めた935項目のうち、実現のめどが立ったのは4分の1にすぎない。

分権なしに創生なし
 保育所の設置基準の緩和などは少子化対策を進めるうえでも不可欠だ。農地転用のような土地利用の権限ももっと市町村に移した方がいい。地方創生は分権なしには進まない。

 政府は小規模な市町村を対象に「日本版シティマネジャー」と名付けて中央省庁の職員などを派遣する制度を設ける方針だ。シティマネジャーとは米国の州や自治体にいる実務経験が豊富な行政の専門家集団のことだ。

 職員不足に悩む市町村は多いから国が支援するのは構わないが、地方をやや見下した名称ではないだろうか。必要なのは専門知識が豊富で、自治体職員と一緒に汗を流せる人材だ。

 地方を再生するためには中央省庁の予算に地方が合わせるのではなく、地方のニーズに合わせた予算にすることが肝要だ。この点からみても、あらかじめ使途を決めた補助金を減らして、使い道が幅広い新たな交付金制度に変えるべきだろう。

 地方を活性化する特効薬はない。一時的な予算のばらまきではなく、人の流れを変える効果的な政策は何か、選挙戦を通じて各党が競い合ってほしい。

域内開発金融―中国取り込む努力を

 中国が提唱する新たな国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が来年末までに設立される。アジアには国際金融機関として、すでにアジア開発銀行(ADB)がある。AIIBは法定資本金がADBの約6割で影響力を持つとみられる一方、組織や融資の中身は明らかになっていない。中国はまず理念を明確に示すべきだ。

 AIIBの設立覚書には中国やインド、東南アジアの各国など計21カ国が調印した。法定資本金は1千億ドル(約10兆8千億円)。出資比率は各国の経済規模をもとに今後話し合う。

 設立の背景には、国際金融秩序に対する中国のいらだちがある。米欧日などの影響力が強く、中国は経済発展に応じた発言権を持てていない。AIIBについては「4兆ドルに膨らんだ中国の外貨準備を活用し、融資を中国企業の海外進出につなげる」「融資先の国への中国の影響力を高める」といった意図が取りざたされている。

 アジアの新興国はインフラ整備のために膨大な資金を必要としている。ADBの試算では20年までに域内で8・3兆ドルが必要になる。ADBが域内に提供する資金は年間200億ドル程度で、とても賄えない。

 今月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議では、首脳宣言でインフラ投資の重要性をうたった。世界経済の成長を押し上げるのが目的だ。AIIBが活動する余地はあるものの、G20はAIIBには触れなかった。

 ADBはアジア太平洋地域から貧困をなくすことを目的とし、世界銀行とともに、融資対象の事業が環境破壊や人権侵害を招かないか、腐敗の温床にならないかなどを審査している。そうした面への配慮が不十分な融資は、新たな混乱を招くことになりかねないからだ。AIIBも融資の基準と理念を打ち出すべきだろう。

 AIIBに参加しない日本はADBの強化に取り組むべきだ。日本はADBの最大出資国であり総裁も出している。ADBは、民間の資金やノウハウを生かしてインフラ整備を進めることにも力を入れている。日本はもっと協力できるはずだ。

 ADBの融資能力を増すために、増資も欠かせない。09年に増資したばかりで、日本に次ぐ出資国の米国などは消極的だ。増資は中国の出資比率増大にもつながる。しかし、中国に対抗し、封じ込めようとするより、既存の国際金融秩序に中国を取り込む努力が大切ではないか。その意味でも増資を進め、域内の開発金融に資するべきだ。

環境と教育―協調が育む世界の持続

 地球という限られた環境で、人間がずっと共生してゆくために大切なものは何か。

 足元の暮らしと世界の結びつきに思いをはせ、長続きできる経済や開発のためにはどう行動すればいいかを考えてみる。

 すると、さまざまな立場の人間同士の対話と協働にこそ答えがあることに気づく。

 そんな発想で国連教育科学文化機関(ユネスコ)が進めてきた「持続可能な開発のための教育(ESD)」の普及活動が、ことし10年目を迎えた。

 節目の世界会議が今月、名古屋であり、「緊急行動」を採択した。世界市民としての意識を来年以降、もっと速いペースで高めなければならない、と。

 グローバル化の時宜にかなう取り組みである。子どもたちが地球規模の発想を養う機会は、もっと潤沢にあっていい。

 テーマは難しく聞こえるが、具体的な内容は親しみやすい。

 たとえば愛知県立豊田東高校の現場は、近くの川だ。カワヒバリガイという特定外来生物を調べている。輸入シジミにまじって国内に入り、大量発生すると水路を妨げる。外国交易の影が身近にあることを学ぶ。

 ユネスコが拠点として認定する国内の学校は、この10年間で15校から約800校に増えた。学校現場での試みが広がっていることは評価したい。

 ただ、その進め方には改善すべき点が少なくない。

 この学習が意義深いのは、単に環境と開発の調和を唱えるだけでなく、そのために国内外の人間同士の協調を重んじていることだ。ユネスコが各国に政府と市民の絶えざる意見交換を求めるのもそのためだ。

 だが日本では、官民の協力が十分とはいいがたい。実施計画を決める文部科学省や環境省などの省庁連絡会議と、NPOなど市民との間にはまだ距離感がある。政府が設けた民間有識者らの円卓会議は、この秋まで3年以上も開かれなかった。

 来年からのユネスコの指針は、市民参加を訴えている。NPOのほか、環境問題に直面する災害被害の関係者など幅広い声を生かしたい。

 10年の成果をまとめた政府文書には、福島第一原発事故について「エネルギーへの国民意識が高まった」と記した半面、負の側面への言及は少なかった。そうした評価は市民意識とずれているとの指摘もあった。

 多様な人々が異論をぶつけあい、共通点を見いだすプロセスそのものが、持続性のある社会を築くための原則だ。その協調の理念を大切にしたい。

民主党公約 与党への「対案」として十分か

 安倍政権の政策の対案としては、新味や具体性に欠けるのではないか。将来、政権奪還を目指すなら、より徹底した党内論議が求められる。

 民主党が衆院選公約を発表した。「今こそ、流れを変える時」として、経済、社会保障など10項目の重点政策を掲げている。

 経済政策では、国内総生産(GDP)の2四半期連続のマイナス成長や、実質賃金の15か月連続減を踏まえ、「アベノミクス」を批判した。「厚く、豊かな中間層」の復活の必要性を強調する。

 党の経済政策3本柱として「国民生活に十分留意した柔軟な金融政策」「(子育て支援、雇用の安定など)人への投資」「未来につながる成長戦略」を示した。アベノミクスの金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢に対抗するものだ。

 疑問なのは、「人への投資」の財政政策に、2009年衆院選で訴えた「コンクリートから人へ」の発想が残っていることだ。

 子育て支援の拡充などは重要だが、公共事業や産業振興を軽視しては、雇用創出や所得向上を実現するのは難しい。「厚く、豊かな中間層」への道筋も見えない。

 肝心の成長戦略も、13年参院選公約とほぼ同じ内容にとどまっている。この1年余の党内論議の成果がうかがえない。

 社会保障では、最低保障年金制度の創設を今回も掲げた。「非現実的」と批判された09年政権公約の「月7万円」は12年以降、撤回され、金額は示されていない。

 最低保障年金には大幅な増税が不可欠だ。党内に見直し論があるのに、財源問題を棚上げしたまま、看板政策に今なお固執しても、国民の幅広い支持は得られまい。

 農家に補助金を配る民主党政権の「戸別所得補償制度」を維持したのも同様だ。バラマキとの批判に、どう答えるのだろうか。

 原発については「30年代の稼働ゼロ」を踏襲したが、その道筋は依然、明確にはなっていない。

 安全保障では、集団的自衛権の行使を限定容認する7月の新たな政府見解について、「立憲主義に反する」と撤回を求めている。

 だが、政府の新見解は、従来の見解とも一定の整合性を維持した合理的な範囲内の憲法解釈の変更であり、批判は的外れだろう。

 党公約は従来通り、「行使一般を容認する憲法の解釈変更は許さない」としただけで、行使容認の是非の判断は示さなかった。責任ある対応ではない。

学習指導要領 実社会で役立つ力培う教育に

 変化の激しい時代に対応し、社会で活躍できる力を子供たちに身に付けさせる。そのために必要な教育の在り方をしっかり議論してほしい。

 下村文部科学相が、小中高校の学習内容などを定める学習指導要領の改定を中央教育審議会に諮問した。2016年度に答申を受け、20年度以降の実施を目指す。

 08~09年に改定された現行の指導要領は、ゆとり教育からの脱却を図り、学習内容と授業時間を増やした。それが学力水準の底上げにつながったのは確かだろう。

 一方、国際学力調査で、日本の子供の学ぶ意欲や関心が低いとの結果が出ている。課題の解決方法を主体的に考えさせる学習が必要だと指摘する専門家は多い。

 諮問にあたり、下村文科相が探究心や思考力を育む指導方法の検討を要請したのはうなずける。中教審には、研究発表やグループ討論など、子供の自主性を引き出す具体策を示してもらいたい。

 今回の改定で焦点になるのが、英語教育の強化である。

 文科省の有識者会議は9月、小学校で英語を教え始める時期を小学5年から3年に早め、5、6年は正式な教科とすべきだとする報告書をまとめた。中学校では英語による授業が基本になる。

 国際化が進み、実生活で英語を使う機会は増えつつある。早い時期から英語に親しませ、コミュニケーション能力を伸ばそうという狙いは妥当だろう。

 ただ、指導体制の整備や授業時間の確保など、実施には課題も山積している。高い目標を設定しすぎて、子供たちが消化不良を起こしては元も子もない。理解力に応じた、無理のない教育メニューを工夫する必要がある。

 現在、高校の地理歴史で選択科目の扱いになっている日本史の必修化もポイントになる。

 日本人としてのアイデンティティーを涵養(かんよう)するため、日本史教育の充実は大切だ。同時に、国際情勢が複雑化する中、世界史の知識も、諸外国と日本の関わりを正確に理解する上で欠かせない。

 日本学術会議は6月、日本史と世界史を統合し、近現代のアジア太平洋史を重点的に教える必修科目の新設を提言している。検討に値するのではないか。

 政治参加や社会規範について、包括的に学ぶ高校の新科目を設けることも課題に挙がっている。選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられる見通しが強まっているためだ。実社会で役立つ判断力を培いたい。

2014年11月24日月曜日

敦賀原発の活断層判定が示した課題

 原子力規制委員会の有識者会合が日本原子力発電の敦賀原子力発電所2号機(福井県)の真下にある断層を「活断層」だと再認定する評価書案をまとめた。この判断を規制委が了承すれば、同機の再稼働は極めて困難になる。

 規制委の判断は日本原電の存続を左右しかねない重い意味を持つ。その最終的な判断がどうであれ、原子力安全の見張り役である規制委の判断を尊重したい。

 敦賀2号機の建設時(1982年着工)から原発の安全審査の体制も基準も大きく変わった。だが、同機は国が建設を認め稼働してきた原発である。結論が「活断層」で変わらないなら、国にも「活断層の上の原発」を認めた責任がある。電力会社だけに責めを負わせるのは公平ではない。

 有識者会合による調査の早い段階で「活断層であるのは明瞭」などの発言があり「先に結論ありき」の印象を与えたのは否めない。日本原電が議論の進め方に不信感を抱いたのも無理はない。

 規制委は昨年5月に有識者会合の評価書案をいったん承認したものの、日本原電が地層のデータなどを追加提出して反論したため有識者会合の作業を延長した。こうした経緯が広く社会から信頼を得るうえで適切であったか、規制委は反省する必要があろう。

 日本原電は「活断層」の認定が正式決定した場合であっても、再稼働を目指し新規制基準への適合性審査を申請する方針だという。

 しかし活断層の上に原子炉を設置しないのが基本原則だ。敷地内には原子炉から約200メートルの位置に「浦底断層」という、議論の余地のない別の活断層も見つかっている。再稼働のリスクは大きいと言わざるを得ない。

 日本原電は電力業界が共同出資する電気の卸売会社だ。日本初の商用原発の建設と運転を担った。しかし東日本大震災後は保有する3基の原発がすべて停止し、売れる電気がなく出資する電力会社の支援で経営を維持している。敦賀2号機が廃炉と決まれば存続の危機にもつながる。

 日本原電が今後どのような状況に置かれるにしても、原子炉や核燃料を安全に管理する体制を維持し続けることが大事だ。最終的に廃炉になるまで電力会社と国が安全に責任を持たねばならない。

 同社を廃炉を専門に請け負う会社に衣替えするなどの案もある。関係者は知恵を絞ってほしい。

欠陥エアバッグの対応急げ

 タカタ製エアバッグの欠陥問題が収束する気配を見せない。20日には米上院で公聴会が開かれ、「情報公開が遅い」などと厳しい批判の声が上がった。同社のエアバッグを搭載するホンダなどへの風当たりも強まり、世界の自動車産業が揺れている。

 問題になっているのはタカタが10年ほど前に米国やメキシコで生産したエアバッグ。風船を膨らませるためのガス発生装置が異常破裂し、金属の部品片が飛散して、人を傷つける恐れがある。

 日本では負傷例は確認されていないが、米国やマレーシアでは死亡事故も起きており、放置できない深刻な欠陥である。

 ところが、タカタの対応は後手に回り続けた。昨年4月にホンダやトヨタ自動車が世界で約380万台の大型リコール(回収・無償修理)に踏み切ったが、その後も断続的に追加リコールが繰り返され、今では世界で1千万台を超える車がリコール対象になった。

 欠陥の原因についても複数の要因が積み重なっており、製造現場のお粗末な実態が浮かび上がった。修理の加速や再発防止の徹底など課題が山積するなかで、タカタという企業に十分な当事者能力があるのか懸念する声もある。

 世界2位のエアバッグメーカーとして、社会の信頼を取り戻すためにも、事態を究明するための第三者委員会の設置などを検討すべきではないか。

 同社の経営トップがこの問題について、記者会見などを開き、自分の言葉で事態の説明をしたことがないのも理解できない。企業が危機に直面したとき、経営者の振る舞いは会社の命運を左右する。厳しい事態から目をそむけるようではリーダーとしての役割を果たしているとはいえない。

 自動車は乗る人の命を預かる機械であり、安全性に問題があれば厳しい批判を浴びるのは当然だ。タカタをはじめとする自動車産業の関係者は今回の問題をきっかけに、「安全第一」の姿勢を改めて確認してほしい。

(衆院選)アベノミクス―抱えたリスクこそ課題

 来年10月に予定されていた消費再増税の先送りを、安倍晋三首相が表明した。自らの経済政策の成功を確かなものとするためだという。

 「消費税を引き上げることで景気が腰折れすれば、国民生活に大きな負担をかける」。7~9月期の経済成長率が予想外のマイナスに沈んだことにも触れながら、首相は説明した。

 17年4月には必ず増税し、財政再建の旗は降ろさないという。日本政府の深刻な財政難を考えれば、再度の先送りは許されないだろう。増税先送りで穴があいた社会保障の財源をどうするのかも重要な課題だ。

 同時に増税先送りは、安倍政権の経済政策がはらむ「危うさ」への警戒を促している。

 いわゆる「アベノミクス」が依存する、「異次元」とも称される大胆な金融緩和と、財政政策。つまり日本銀行と政府を巡る問題である。

■目に見えぬ危うさ

 日本経済は90年代末から、物価が下がり続けるデフレに苦しんできた。デフレからの脱却と、そのための大胆な金融緩和を掲げて2年前、安倍政権は発足した。その主張を実行したのが、昨年3月に就任した日本銀行の黒田東彦総裁だ。

 黒田総裁は目標を「2年間で物価を2%上昇させる」ことに据え、昨年4月から膨大な国債を買い入れることで市場にお金を供給する「異次元緩和」を開始。最近になって物価の上がり方が鈍ったと見るや、10月末に追加緩和も決めた。

 物価が将来、どれほど上がると考えるか。消費者や市場関係者らの期待(予想)に働きかけるのが異次元緩和だ。円安や株高を促す効果も期待された。

 安倍首相は「経済政策は確実に成果を上げつつある」と強調する。確かに雇用の指標は改善した。一方、1人当たりの賃金上昇は、物価上昇には追いつかず、実質では減少を続けている。そのため消費も伸びない。

 金融緩和で円安が大幅に進み、輸出企業の円換算での利益は増えた。しかし、輸出量の伸びは鈍く、国内での生産も増えないため、恩恵は下請け企業などには広がっていない。

 この現実をどう見るか。2年間の経済政策を評価する際のポイントの一つではあろう。

 しかし、現状を見るだけでは、安倍政権の経済政策の是非は判断できない。政策の主役である異次元緩和がはらむリスクが、今は目に見えないからだ。

 追加緩和の結果、日銀が買い入れる国債の量は、政府が新たに発行する国債の9割相当に増えた。日銀が事実上、国の借金を肩代わりしているに等しい。国の財政に対する信認が失われれば、膨大な国債を抱える日銀、そして日銀が発行する通貨への信認も失われかねない。そうなれば、国債売りや円売りを誘発して日本経済の土台を揺るがすことになる。

■選択肢奪った政策

 その危うさを認識しているからだろう。黒田総裁はかねて、消費増税の先送りで財政健全化に対する市場の疑念が膨らめば「日銀として対応のしようがない」と繰り返し訴えていた。10月末の追加緩和も、景気てこ入れで再増税の決断を後押しするため、との見方があった。それでも安倍首相は増税を先送りした。追加緩和が政府の財政規律を緩めたという見方が、市場関係者からは出ている。

 記者会見で首相は「私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。論戦を通じて明らかにしてまいります」と述べた。「アベノミクス」に対する批判はあっても、ほかの選択肢が示されたことはない、とも指摘した。

 しかし、異次元緩和にいったん入ったら、政策を転換することは極めて困難である。仮に日銀が国債購入をやめれば、国債売りや円売りのリスクが顕在化しかねない。市場や経済に混乱をもたらすことなく、今の政策をどうやって終えるのか。政策の「出口」に至る道筋が示されなければ、政策の妥当性を判断することは、無理なのだ。

 首相自身が異次元緩和以外の選択肢がない状況をつくったと言える。

■脱デフレの歩み方は

 異次元緩和は当面続けるしかない。「出口」を探れるのは、今回の選挙期間を遠く超えた先のことになるだろう。

 それを前提に、経済政策について有権者が問いかけることができるのは、これまで通りにデフレ脱却の道を突き進むのか、異次元緩和のリスクと限界を踏まえて経済運営をより慎重に進めるのかということだろう。

 デフレ脱却を優先すれば財政再建の比重は下がるだろうし、リスクを気にすれば財政再建も急がざるをえない。

 いずれにしても細く険しい道だ。異次元緩和の目標を何にし、「出口」の条件となる財政再建はどう進めるのか。有権者が選ぶに足る道筋を示すことが、各党には求められる。

主要な争点 経済再生の具体策を議論せよ

 ◆安全保障法制をどう整備するか◆

 デフレを完全に封じ込め、安定した成長軌道を実現できるか。日本経済は正念場にある。

 中国は、海と空で軍事力を背景とした覇権主義を強めている。北朝鮮の核・ミサイルの脅威も変わらない。

 将来にわたり平和で豊かな日本を築くには何が必要か。衆院選で各党は、経済と外交・安全保障の具体策を活発に論じるべきだ。

 ◆問われる成長戦略

 最大の争点は、経済政策「アベノミクス」継続の是非だ。

 安倍首相は、株価上昇や雇用情勢の改善など、これまでの成果を踏まえ、「景気回復には、この道しかない」と強調している。

 自民党は政権公約で、企業の競争力強化のため、法人税改革や基礎研究支援、規制改革を掲げる。アベノミクスの「第3の矢」である成長戦略を強化する狙いだ。

 法人税減税の進め方や、岩盤規制とされる農業・医療分野の改革にどう取り組むか、掘り下げた処方箋を示してほしい。

 民主党は、景気回復の遅れについて「安倍政権の経済失政」と批判する。アベノミクスの恩恵は大企業など一部に偏っているとして、非正規労働者の待遇改善や正規雇用の拡大などを通じた「厚い中間層の再生」を掲げる。

 雇用拡大や所得向上には、企業の活力強化が欠かせない。その具体策を示すことが求められる。

 消費増税の先送りについて、主要政党は容認しており、歳入減で社会保障財源への大きな影響は避けられない。

 ◆最適な電源構成を探れ

 他の財源確保策や、給付抑制を含む、年金、医療、介護など社会保障制度の効率化について、議論を尽くすことが必要だ。

 経済再生には、安価で安定した電力供給が不可欠である。

 九州電力川内原子力発電所が年明けにも再稼働する見通しとなった。安倍政権は、関係自治体との調整に積極的に動いた。

 首相は、再生可能エネルギーの導入などで、原発依存度を極力低減させると主張している。

 民主党は従来、「2030年代の原発稼働ゼロ」を掲げながらも、安全性が確認された原発については再稼働を容認してきた。

 各党は、原子力、火力、再生エネなどを組み合わせた最適な電源構成について、さらに論議を活発化させることが大切である。

 来年の通常国会は、安全保障法制の整備が重要課題となる。

 安倍政権は今年7月、憲法解釈を見直し、集団的自衛権行使を限定容認する新見解を決めた。平時から有事まで「切れ目のない対応」を可能にした意義は大きい。

 疑問なのは民主党の対応だ。

 解釈変更に反対したが、行使の是非は示していない。党内に賛否両論を抱えるためで、政権を担当した政党として、責任ある対応ではない。早急に党見解をまとめなければ、論戦に参加できまい。

 新見解は、自衛隊の後方支援活動の拡大を可能にした。国連平和維持活動(PKO)に参加中の自衛隊が他国軍などを助ける「駆けつけ警護」も容認した。

 自由度が高まる自衛隊の国際平和協力活動を通じて、日本がより大きな役割を果たすことは、世界の平和と安定だけでなく、日本自身の安全を確保することにもつながろう。

 どんな役割を担い、どう歯止めをかけるのが適切か、各党は、議論を深めてもらいたい。

 ◆人口減対策も重要だ

 日本が直面する中長期的な課題に関する論戦にも期待したい。

 若年女性の激減により、40年に自治体の約半数が消滅する可能性がある――。今春、そんな民間推計が地方に衝撃を広げた。

 安倍政権は「地方創生」を掲げ、人口減対策や地方活性化に取り組み始めたが、まだ効果的な具体策をまとめるには至っていない。

 妊娠・出産・子育ての切れ目ない支援、東京一極集中の是正、地方での若者の雇用確保など、論点は多岐にわたる。自治体や民間のアイデアも取り入れながら、地域の実情に応じた施策について、議論を重ねることが重要だ。

 今年6月、改正国民投票法が与野党8党の賛成で成立し、憲法改正の国民投票を実施する環境が整った。自民党内では、16年にも憲法改正原案の国会提出を目指す案が浮上している。

 今後の焦点は、憲法のどの条項を、どう改正するかという点だ。各党は、どんな「国のかたち」を目指すのか、具体案を提示してもらいたい。

2014年11月23日日曜日

経済再生へ「アメ」より改革案を競え

 降ってわいたような解散・総選挙だが、経済の再生にはどうすればいいのかをあらためて議論する良い機会ともいえる。痛みの伴わない安直な対策で有権者に幻想を振りまくことだけは願い下げだ。「アメ」をすぐ配ることよりも、中長期的な視野に立って経済を強くし、生活を安定させるための改革案を競い合うべきだ。

足踏みする「第3の矢」
 7~9月期に予想外のマイナス成長となるなかでの総選挙だけに経済が大きな争点になるのは間違いない。とりわけ安倍晋三首相が推し進めてきたアベノミクスの是非が問われるのは当然だろう。

 懸念されるのは、経済悪化の「罪」の押しつけ合いや、おカネをどう配分するかの議論に終始することだ。野党は経済指標の悪化を奇貨として、十把ひとからげにアベノミクスを否定することに全力をあげそうな気配だ。一方、自民党からは「景気を悪くした増税を決めたのはそもそも民主党の野田政権だ」という声も聞かれる。

 消費税増税や景気悪化の悪影響を受けた人々への配慮は必要だ。だが、同時に先進国で最悪の財政をどう立て直すのか、膨らむ社会保障費をどう賄うのかといった議論をしなければ政治家として無責任である。有権者も甘い言葉だけささやくような候補にはノーを突きつけなければならない。

 振り返って、安倍政権の2年間の経済政策運営をどう評価すべきだろうか。

 安倍政権登場前の日本経済の最大の足かせは超円高だった。大胆な金融緩和というアベノミクスの「第1の矢」を首相が任命した黒田東彦日銀総裁が進めたことで、円高が是正されたのは成果といえる。株価上昇やグローバル企業の業績改善につながったからだ。

 誤算は円安が必ずしも輸出量の増加に結びつかなかったことだ。このため、設備投資や生産への波及効果は限られ、むしろ輸入価格上昇という円安の負の面が際だってしまった面がある。

 機動的な財政政策という「第2の矢」は公共事業依存という問題を残したが、景気の下支えや消費増税によるマイナス面を和らげる役割は果たした。予想より悪影響が長引いているものの、消費増税を実行したのは厳しい財政状況を考えれば間違いではなかった。

 最大の問題は「第3の矢」である成長戦略が物足りないことだ。金融緩和や財政出動は基本的に経済を一時的に改善させる効果しかない。潜在成長力を底上げする「第3の矢」こそが本丸だが、大きな前進があったとは言えない。特に首相が一丁目一番地と強調する規制改革で足踏みが目立つ。

 財政・金融政策には副作用もあり、いつまでも使い続けるわけにはいかない。成長力を高める「第3の矢」が力強く放たれるまでは、アベノミクスを高く評価することはできないだろう。

 安倍首相や自民党の候補者に求められるのは、今後実行する「第3の矢」の中身や時期を明示することだ。野党にもアベノミクス批判だけでなく、独自の成長戦略をはっきりと示してもらいたい。

民間の活力を引き出せ
 成長戦略の基本は民間の活力を引き出すことであり、その環境を整えるのが政府の仕事だ。諸外国に比べて高すぎる法人税の大幅な減税は競争条件を改善し、海外から投資を呼び込むうえで欠かせない。技術の進歩に法や規制が追いつかず、イノベーションが抑えられている現状も打破すべきだ。

 貿易や投資を促進する自由貿易協定(FTA)の推進で日本は後れを取っている。環太平洋経済連携協定(TPP)の実現はもちろん、欧州などとのFTA妥結も急ぐ必要がある。人口減少時代を迎えるなかで、女性や外国人の雇用を増やし、労働力を量・質ともに強化していくのも待ったなしだ。

 増税の先送りによって財政への信認が失われないようにするためには、信頼に足る財政健全化計画を策定することが不可欠である。

 そこでは消費増税を核とする増収策をどう実現していくかはもちろん、膨らむ一方の社会保障費をどう抑えていくかも示す必要がある。小手先の経費抑制だけでなく年金や医療を持続可能な制度にどう改革していくのかも重要だ。

 各党が示すべき経済再生策は目の前の有権者だけでなく、次世代の利益にもつながるものでなければならない。

(衆院選)与党公明党―連立の意味を語れ

 公明党が、安倍首相と手を携えて衆院選に臨む。

 17日の結党50周年パーティーに駆けつけた首相はあいさつで「天気晴朗なれども波高し」と語りかけた。

 日本海海戦の直前、連合艦隊が打電した一節に、衆院解散のサインを込めたのだろう。

 今なぜ解散か。わかりにくい衆院選のタイミング。そこには連立を組む公明党の意向が反映されたという見方がある。

 ▼来春の統一地方選と重なるのは避けたい

 ▼再来年の参院選とのダブル選挙も避けたい

 ▼消費税10%への引き上げと同時に軽減税率を導入したい

 結果として年末解散に持ち込んだ公明党は、軽減税率の実現を前面に押し立て、選挙戦を乗り切ろうとしている。

 だが、安倍政権の一翼を担う政党として、ほかにも語るべき重要な論点がある。集団的自衛権の行使容認の問題だ。

 統一地方選後、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定と、安全保障法制の国会審議が控えている。

 7月の閣議決定の「武力行使の新3要件」の解釈で与党内の見解は食い違ったままだ。

 公明党は「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」という新要件を厳格にとらえ、日本周辺の事態にしか対応できないと説明してきた。これを法律で担保できるかが問われる。

 ならば公明党の公約に、こうした主張を明確に盛り込むべきだ。そこをあいまいにして、選挙が終わればうやむやという話は通らない。

 安倍首相の率いる自民党と連立する意味についても、丁寧に説明してほしい。

 自公連立の一つの断面があらわになったのが、先の沖縄県知事選だろう。公明党は、自民党と同調せず、地元の民意を踏まえて自主投票とした。

 政権は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を進める姿勢を崩していない。埋め立て工事を強行したとき、公明党はどう対応するのか。

 それだけではない。首相の視野には憲法改正や国防軍の創設も入っている。首相の国家観を容認するのか、しないのか。

 異論があれば、公党として堂々と主張すべきだ。連立にひそむ亀裂を放置すれば、いつか「平和の党」の看板を下ろすことにもなりかねない。

 結党半世紀を経た今、次の50年を見据えて、公明党は何を語るのか。衆院選で大きな道筋を示してもらいたい。

学習指導要領―21世紀の学力育つか

 学校の教育内容を定める「学習指導要領」の改訂に、中央教育審議会が取りかかる。下村博文・文部科学相が諮問した。2020年度にも本格実施する。

 グローバル化や情報化の進むなか、学校で習った知識が社会で通用し続けるとは限らない。

 そこで学校も「何を学ぶか」だけでなく、社会との関係を意識し、知識を使って「何ができるようになるか」を重視する。

 「ゆとり」か「脱ゆとり」かといった、教える質と量の議論を超える大転換だ。指導要領の構造ごと改めると文科省は言う。教科書や通知表も変わる。

 目指すのは、教わったことを多く覚え、早く答えを出す力ではない。自ら考え、問いを見つけ、対話しながら新しい価値を生み出す「21世紀の学力」だ。

 肝心なのは、目の前の子どもの実態を踏まえ、実際の教室の授業をどう改革するかである。

 改訂では、黒板とチョークによる一斉授業を変え、子どもが討論や体験を通じて自ら学ぶ「アクティブ・ラーニング」を充実させる。

 だが、100万人もの教員が自ら経験したことのない手法で授業をするのは簡単ではない。

 国際調査の結果を見ると、道は険しい。日本は、子どもが少人数グループで解決策を考え出す授業をしている割合が最低レベルだ。学習の動機づけや批判的な思考を促すことに自信を持つ割合も、圧倒的に低い。

 「総合的な学習の時間」が、不十分な条件整備のもとで始まったときのような混乱を繰り返してはならない。教員が授業研究に取り組む時間を確保し、研修の機会を設けてほしい。

 諮問のもう一つの柱は、高校の教科や科目の検討だ。

 そこには、安倍政権が打ち出した改革案が盛り込まれた。日本史の必修化を含め、地理歴史科を見直す。国や社会の責任ある一員として自立する力を育てる新科目を設ける。自民党の提案した「公共」を踏まえた。

 日本を知ることは重要だ。社会生活を営む力も欠かせない。

 だが今の日本史のまま必修にして世界史を外すなら、世界の視点を学ぶ機会が減る。高校教員や大学研究者のアンケートでも、「日本史のみの必修」に7割以上が否定的だった。

 新しい科目も規範意識や国家への義務、愛国心を刷り込むだけなら、批判的に考え多様な人々と協働する人間は育つまい。

 今回の改訂は、大学入試改革と同時に検討する。幼稚園から大学までの教育が一気に変わる。理念と現実をつなぐ議論が求められる。

安倍政権総括 経済最優先で「好循環」目指す

 ◆画期的な集団的自衛権の行使容認

 衆院選は、2年近くの第2次安倍内閣の功罪を評価、検証する貴重な時機となる。それは国民の審判にも直結しよう。

 日本の政治は、2006年から12年まで毎年、首相が交代する異常事態が続いた。衆参ねじれ国会も重なって、「決められない政治」が恒常化し、国際社会での日本の存在感も低下した。

 ◆政治の閉塞感を払拭

 その状況を打破したのが安倍内閣だ。昨年7月の参院選大勝で衆参ねじれを解消し、久々に安定政権を築いたことは、政治の閉塞感を払拭する効果も生んだ。

 「お友達内閣」と揶揄(やゆ)された第1次内閣の失敗を教訓とし、菅官房長官を中心に危機管理を重視した。憲法改正、安全保障など「安倍カラー」の強い課題よりも、経済再生を先行させ、政策の優先順位にも慎重に目配りした。

 与党が、旧日本維新の会などに法案修正の協議を積極的に持ちかけ、民主党との分断を図る国会戦術の奏功も見逃せない。

 反面、自民党が突出する「1強多弱」は、緊張感を欠く政治を招いた。今秋の内閣改造後、政治とカネの問題が噴出し、女性2閣僚が辞任する遠因となった。

 経済政策「アベノミクス」は、金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢で、デフレ脱却の礎を築いた。日銀の「異次元緩和」などにより、政権発足時から、円安が30円以上も進行し、株価は約7000円も上昇した。

 ◆デフレ脱却は道半ばだ

 輸出企業を中心に大企業の業績は好転し、有効求人倍率など雇用情勢も改善した。今年の春闘では賃上げの動きが広がった。

 だが、4月に消費税率を8%に引き上げたこともあって、物価上昇に賃金が追いつかず、9月の実質賃金は前年比3%減少した。

 所得の増加が民間消費を増やして、さらなる企業収益を生む「経済の好循環」は、道半ばである。中小企業や地方にアベノミクスの恩恵が及ばず、経済格差が拡大したとの指摘も少なくない。

 景気回復が足踏みする中、15年10月の消費税率10%への引き上げを17年4月に先送りしたのは、妥当な判断である。

 首相は今秋の臨時国会を「地方創生国会」と位置づけた。人口減対策と地方活性化の総合戦略などの策定に向け、地方創生関連2法を成立させたが、女性活躍推進法案などは廃案となった。

 首相は昨年3月、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を決断した。「聖域なき関税撤廃が前提でない」との理屈で、自民党公約との矛盾を避けたのは、“大人の知恵”と評価できるが、日米の関税協議は難航している。

 外交・安保分野では、安倍首相の積極姿勢が目立った。

 今年7月、集団的自衛権の行使を限定容認する新たな政府見解を決定したのは、日米同盟の抑止力を強化する画期的な意義を持つ。内閣法制局や公明党を巻き込んだ合意形成は現実的な対応だ。

 国家安全保障会議(NSC)の創設や、「積極的平和主義」を掲げる安保戦略の策定、武器輸出3原則に代わる防衛装備移転3原則の決定などは、国際社会から高い評価を受けている。

 昨年12月に成立した特定秘密保護法は、安全保障に関する機密を米国などと共有・交換するうえで不可欠な法制だ。戦前の治安維持法になぞらえるような一部の批判は、暴論というほかない。

 国民の知る権利や報道の自由を守るため、国会の監視機関などの実効性を高めることが大切だ。

 米軍普天間飛行場の移設問題で昨年12月、沖縄県知事の公有水面埋め立ての承認を得たのは大きな前進だ。ただ、今年11月の知事選では、辺野古移設に反対する知事が誕生した。移設実現には、引き続き地元調整が課題となる。

 ◆外交を害した靖国参拝

 中国、韓国とは首脳会談が開けず、外交関係が停滞した。

 領土や歴史認識への頑(かたく)なな中韓両国の姿勢に負う面が大きいが、昨年末の安倍首相の靖国神社参拝が問題を悪化させたのは否めない。米国の「失望」も招いた。

 中国の独善的な海洋進出を批判する一方で、水面下の交渉を通じ、尖閣諸島の日本の領有権を損ねることなく、今月の日中首脳会談を実現したのは成果である。

 慰安婦問題に関する河野談話の検証作業は、作成過程で外交的配慮が事実関係に優先していたことをあぶり出した。日本が慰安婦を強制連行したかのような誤解を解く努力が引き続き求められる。

2014年11月22日土曜日

解散のなぜ?吹き払う政策論議を

 衆院が解散され、12月2日公示―14日投票の衆院選に向けて、政党も候補者も一斉に走り出した。

 消費再増税の延期を踏まえ、第2次安倍晋三内閣の経済政策であるアベノミクスの評価が問われる選挙戦になるが、どうしても唐突な感じが否めない解散に有権者の受けとめ方はクールだ。与野党ともよほど説得力ある訴えをしないと、かつてない低投票率で政党政治そのものへの不信任を突きつけられかねない。

アベノミクス工程示せ
 3年3カ月にわたった民主党政権から自公政権にもどって2年弱。「一強多弱」といわれるように、弱体化した野党によるチェック機能がほとんど働かない状況となっている。

 自民党も派閥がこわれてしまい、派閥の連合体から議員の集合体になり、以前のような内部ではげしくぶつかり合うパワーも影をひそめた。首相官邸主導で意思決定がどんどん進んでいくかたちがすっかり定着した。

 今回の解散劇も首相ペースで、いきなり伝家の宝刀を抜いた。派閥全盛期の自民党では解散権を行使できず政権の座を去っていった首相が何人かいたことを思えば、小選挙区制が首相の力を強めているひとつのあらわれといえる。

 このタイミングで解散権を行使した安倍首相の対応は権力闘争をくり広げる現実政治家としてはおそらく間違いではないのだろう。

 政治合理性とは権力の最大化をめざすことだとすれば、多くの人がまずノーではない再増税延期で信を問う、選挙に有利な時期を選ぶ、相手の準備が整わないところで抜き打ち的に断行する、というのは政治技術的に、たけていることになる。

 しかしこんどの解散にどこか蹴手繰りのような印象が否めないのは、増税しないのに信を問う必要があるのかという疑問がどうしても、ぬぐい去れないからだ。民主党を含めて多くの野党で、増税延期を批判し論戦を挑もうとするところはない。解散の大義名分が争点にならないのである。

 だからこそ、この「なぜ?」にしっかり答える必要がある。衆院選を経て、あらためて有権者の信任を得て政権の力を回復し、アベノミクスをさらに進めたいのなら、取り組みが手薄だったテーマを含めて道筋や工程表をはっきりと示さなければならない。

 それがなければ権力闘争としての政治に理解は得ても、利害を調整し政策を実現していくための政治には疑問符がついたままになってしまう。そこからめばえてくるのは、政治家や政党への有権者の不信感である。だれのための政治なのかという疑問だ。

 野党に目を向けると、解散を前に政党が解党するなど何ともむなしくなるようなドタバタ劇がくり広げられている。第三極もその後二つに割れてしまった。

 野党第1党の民主党は政権担当の失敗をどう反省し、果たして何を学んだのかもよく見えない。

 政党の立ち位置でいえば、自民党の左側であるリベラルの位置で野党を結集して、保守と対峙するかたちがなぜできなかったのか。

 野党がわれると自民党に漁夫の利となることは前回の衆院選で痛いほど分かったはずだ。小選挙区制への理解の欠如である。今からでも遅くないので公示までに野党の戦線を統一すべきだ。

既成政党離れ忘れるな
 アベノミクスに疑問を持ち、安倍政権をチェックしたい有権者は、野党がバラバラでは困ってしまう。政党政治が機能するには確かな野党の存在が不可欠だ。政治不信を助長しただけの衆院選になってしまっては元も子もない。

 このまま行けば、間違いなく投票率は低くなるとみられる。過去最低を記録した前回の59.32%を下回り、万一50%を切るような事態になれば、選挙の有効性そのものが問われかねない。

 日本経済新聞社とテレビ東京の10月の世論調査結果をみても、政党支持の第1党は自民党(37%)ではなく無党派(45%)である。有権者はすでに既成政党に背を向けているという厳しい現実を忘れてはならない。

 アベノミクスの評価、つまり経済政策が争点ということはイデオロギー的な対立ではないので、お互いの生活をどうやって豊かにしていくかをめぐる競い合いの選挙になるはずだ。しっかりかみあった政策論議をくり広げれば、政党や政治家への不信感をぬぐいさることも決して不可能ではない。

 あとに広がるのが政治的な虚無主義の荒野という選挙だけは願い下げにしたい。

(衆院選)安倍政治への審判―有権者から立てる問い

 衆議院が解散された。総選挙の公示は12月2日、投開票は14日に決まった。

 私たちはこれまで社説で、安倍首相による今回の解散に疑問を投げかけてきた。

 首相はきのうの記者会見で、こう語った。「アベノミクス解散だ。消費税率引き上げを18カ月延期し、税制に重大な変更を行った以上、選挙をしなければならないと考えている」

 また、「代表なくして課税なし」という米独立戦争で語られた民主主義と税との関係も引き、「大義」を強調していた。

 だが、透けて見えるのは「いまなら負けない」という打算。長期政権を狙う首相自身のための選挙との色合いが濃い。

 とはいえ、解散となったからには、有権者がなすべきことはひとつだ。

 主権者として一票を行使する。その判断のもととなる問いかけを、政党指導者や候補者にぶつけていく。

 菅官房長官は「何を問うか問わないかは、政権が決める」と言い放った。それは審判を受ける側の身勝手な理屈、あるいは逃げに過ぎない。

 決めるのは、有権者だ。

■憲法軽んじる姿勢

 安倍首相の消費増税の延期と2年間の経済政策への評価は大切な論点である。そこはこれからじっくりと論じていきたいが、まず問われるべきなのは、首相の政治姿勢だ。

 昨夏の参院選をへて、衆院で3分の2、参院で半数を超える与党勢力を得た安倍政権には、数の力頼みの姿勢が著しい。

 その典型は、自らの権力に対する「縛り」となっている憲法への態度である。

 首相に返り咲いた直後の13年の通常国会で、安倍氏は「憲法を国民の手に取り戻す」と、改憲手続きを定めた96条の改正を唱えた。憲法改正案の発議に必要な議員の賛成を、3分の2以上から過半数に改めるという内容だ。

 だが、憲法で権力を縛る立憲主義に反するとの理解が広まると、首相は96条改正にはほとんど触れなくなった。かわりに進めたのが、解釈改憲による集団的自衛権の行使容認である。

 首相は今年7月、私的懇談会の報告からわずか1カ月半後、与党協議をへただけで行使容認の閣議決定に踏み切った。

 来月に迫った特定秘密保護法の施行も、憲法に基づく報道の自由や知る権利を侵しかねないとの懸念を押し切っての、強行採決の結果である。

 首相が長期政権を確保したうえで見すえているのが、憲法の明文改正だ。自民党は、再来年夏の参院選の前後に改正案を発議できるよう、準備を始めようとしている。

■前のめりの原発回帰

 もうひとつの大きな問いは、安倍政権の「原発回帰」への動きである。

 原子力規制委員会の審査と鹿児島県などの同意を得た九州電力の川内原発は、近く再稼働する見通しだ。

 民主党政権時代に起きた福島第一原発の事故を受け、安倍氏も前回の衆院選では「できる限り原発に依存しない社会をつくっていこうと決めている」と語っていた。

 だが、政権に就くと安倍氏は「規制委が基準に適合すると認めた原発は再稼働を進める」との方針のもと、過酷事故への備えが不十分なまま、「まずは再稼働」に前のめりである。一方で、「脱原発依存」への道筋は描けていない。

 安倍政権の大きな課題は来年から動き始める。

 集団的自衛権の行使に向けた関連法案は、来年の通常国会に提出する予定だ。川内原発も、原子炉が動き出すのは年明けになりそうだ。

 来年はまた、戦後70年の節目の年でもある。歴史認識や領土をめぐって冷え込んだ中国や韓国との関係では、正常化に向けた道のりはなお遠い。

 安倍政権に対し欧米も抱きはじめた「歴史修正主義」との疑いをぬぐい去り、近隣諸国と和解の握手を交わす8月を迎えることができるかどうか。

■「これから」の選択

 朝日新聞社の緊急調査に対し、6割を超える有権者が首相の掲げた解散理由には「納得しない」と答えている。

 だが、ここまで挙げてきたように来月14日の投票は、2年間の安倍政権の評価とともに、日本の「これから」を選ぶ重要な機会になる。そう考えれば、一票の重みもまた格別である。

 こうした問いはまた、野党にも向けられる。

 あまりの大敗に茫然自失(ぼうぜんじしつ)で時を浪費した民主党。第三極として躍進しながら、分裂や解党に追い込まれた旧日本維新の会やみんなの党。いずれもこの2年、政権を奪うために政策を磨いてきたとは言い難い。

 それでも選択肢がなければ困るのは有権者だ。政党としての責任は、果たしてもらわなければならない。

衆院解散 首相への中間評価が下される

 ◆「アベノミクス」論争を深めたい

 デフレ脱却をいかに確実に実現するか。厳しさを増す安全保障環境にどう対応するのか。誤りなき日本の針路を定める機会としたい。

 衆院が解散された。衆院選は12月2日に公示され、14日に投開票が行われる。事実上の選挙戦がスタートした。

 2012年12月に自公連立の第2次安倍内閣が発足して以来、初の衆院選である。衆院選は本来、政権選択の選挙だ。09年と12年は2回連続で政権が交代した。

 ◆政策推進に必要な民意

 今回は、安倍政権の2年間の評価が問われる選挙となる可能性が大きい。野党の選挙準備が大幅に遅れ、過半数の議席を得るには候補者が不足しているからだ。

 自民、公明両党は、295小選挙区のほぼ全部に公認候補を擁立するが、野党第1党の民主党の候補は160~170人程度にとどまるとみられている。

 無論、それで今回の衆院選の重要性が減じることはない。

 安倍首相は、景気回復と財政再建の両立、持続可能な社会保障制度の構築、集団的自衛権の行使を限定容認する新たな安全保障法制の整備、原発の再稼働など、困難な政策課題を抱えている。

 特に世論を二分する課題の前進には国民の理解と協力が欠かせない。衆院選で新たな民意を得て、政策の推進力を手に入れようというのが首相の総合的判断だ。

 自民、公明両党で計326の解散時勢力をどこまで守れるのか。これが首相に対する国民の信任のバロメーターである。

 前回、大惨敗した民主党は、どれだけ失地を回復できるか。離合集散を繰り返した維新の党や次世代の党などは、生き残りをかけた戦いとなる。

 その結果は、今後の日本政治の行方に重大な影響を与えよう。

 ◆建設的な対案が必要だ

 各党は、政権公約の策定を急ぎ、新たな国家像や様々な課題の処方箋を示すことで、国民に選択の判断材料を提供する責任がある。

 中でも大きな争点は、経済政策「アベノミクス」である。

 安倍首相は記者会見で、今回の解散を「アベノミクス解散」と名付け、「私たちの経済政策が間違っているのか、正しいのか、国民に伺いたい」と語った。「デフレ脱却には、この道しかない」とも強調している。

 野党は、消費税率10%への引き上げ先送りは「アベノミクスの失敗の証明」と主張する。民主党の海江田代表は「この2年間、社会の格差は拡大し、15か月連続で実質所得が減った」と批判した。

 より建設的な論戦にするには、野党が批判に終始せず、対案を示すことが大切である。

 17年4月の消費再増税を可能にする環境を作るには何が必要か。各党は、効果的な成長戦略や、増大する社会保障費の効率化策などを競い合ってもらいたい。

 自民、公明両党は、17年の再増税時に軽減税率の導入を目指すと共通公約に明記することで一致した。軽減税率は、消費者の負担感を和らげる対策として有効で、評価できる。野党も、この議論に積極的に参画することが求められよう。

 論点は経済だけではない。

 最近、日本の平和と安全が脅かされる事態が顕在化している。北朝鮮の核・ミサイル開発の進展や、中国の危険な示威活動を伴う海洋進出や軍備増強、国際テロなどである。

 来年の通常国会は、新たな安全保障法制の整備が焦点となる。与党は、日米同盟の強化に向け、どんな法整備を目指すのか、丁寧に説明することが欠かせない。

 ◆野党は安保の見解示せ

 民主党は、「集団的自衛権の行使一般を容認する憲法解釈の変更は認められない」との見解を発表したが、肝心な行使の是非の見解はまとめていない。

 維新の党も、「自衛権の範囲の明確化」で対応するとの見解を決めているが、分かりづらい。野党は、早急に自らの立場を明示し、論戦に臨むべきだ。

 今回の衆院選は、有識者の第三者機関が衆院選挙制度改革を検討中の段階で実施される。「1票の格差」是正は、小選挙区の「0増5減」にとどまった。

 首相が衆院を解散した以上、抜本的な格差是正が持ち越しとなったのはやむを得まい。

 だが、次の衆院選までには抜本改革を実現する必要がある。大衆迎合的な衆院定数の削減は、優先課題ではない。格差是正と切り離すのが適切だろう。

2014年11月21日金曜日

燃料電池車は水素社会の扉を開けるか

 水素を使って発電する燃料電池車の時代が来る一歩になるのだろうか。トヨタ自動車が「ミライ」と名付けた燃料電池車を来月、発売する。価格は723万円で、政府の補助金を使うと、消費者の負担は500万円強になる。10年前には1台1億円といわれた価格が、何とか手が届くところまで下がったことを歓迎したい。

 次世代車には電気自動車(EV)などいろいろ候補があるが、燃料電池車を「本命視」する人も多い。電池の容量に限界があり、航続距離の短いEVに比べ、高圧に圧縮された水素はエネルギー密度が高く、一度充填すれば500キロメートル以上走れるのが特長だ。

 EVの充電が急速充電でも30分かかるのに対し、水素の充填は3分程度で済み、ガソリンの補給と変わらない。電気で動き、走行時の二酸化炭素の排出がゼロでありながら、今の車とほぼ同じ感覚で乗れるのが大きな魅力である。

 ただ、燃料電池車の普及は水素ステーションの整備が前提であり、10年単位の息の長い取り組みが必要だ。政府には水素の取り扱いに関するルールを決めたり、水素充填の仕組みなど日本発の技術を国際標準化したりする努力を求めたい。企業単独では荷の重い水素供給インフラの整備についても、青写真を示す必要がある。

 トヨタに続き、来年度にはホンダも燃料電池車を投入する。トヨタは独BMWと、ホンダは米ゼネラル・モーターズと提携しており、彼らと協力しながら市場を広げる姿勢が欠かせない。扱うメーカーが増えれば、消費者が認知するようになり、各国政府もインフラ整備などに本気になる。

 燃料電池や水素の可能性は車だけでなく、家庭向けの定置型燃料電池のほか、水素を使った本格的な発電所をつくる構想もある。

 水素の利点の一つは製造方法が多様で、これまで未利用だった低質の石炭などからも生成できることだ。オーストラリアなど地政学リスクの低い地域のこうした資源の活用が進めば、エネルギー調達の安定感が増すだろう。

 エネルギーの「貯蔵庫」としての役割にも期待したい。電気は貯蔵が利かず、太陽光のように発電量が乱高下する電源は扱いが難しいが、余った電気で水を電気分解し、水素をつくっておけば、有効活用の道が広がる。日本のエネルギー問題を考えるうえでも、水素は重要な存在である。

大西洋マグロ管理を手本に

 大西洋・地中海で水産資源を管理する大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)は年次会合を開き、クロマグロの漁獲枠を来年から3年間、20%ずつ拡大することを決めた。

 科学者が資源量の回復を確認し、主漁場である東大西洋・地中海の漁獲枠を現行の1万3400トンから2万3千トン程度まで増やしても大丈夫と判断したからだ。

 大西洋クロマグロは一時、生物保護を目的にしたワシントン条約会議で即時禁輸案が提出されるほど危機的な状況に追い込まれた。そのため日本などの漁業国は同海域で成魚の漁獲枠をピーク時の3分の1近くに減らし、未成魚は原則禁漁とする規制を導入した。

 水産資源は人間の手によって乱獲が続いたり、汚染が進んだりしなければ強い再生力で回復できる。大西洋クロマグロの「復活」は見事にそれを証明した。

 対照的に、太平洋の資源管理は遅れている。日本近海を含む中西部太平洋の国際管理は、日本が提案した未成魚漁獲の半減策で合意できた。だが、東部太平洋の資源管理は日本の半減案に対し、大規模なクロマグロ養殖施設を持つメキシコが反発。未成魚を総漁獲量の半分以下に抑える合意も努力目標にとどまる。

 太平洋クロマグロの多くは沖縄周辺の海域で生まれ、米国やメキシコ沿岸まで回遊する。資源保護の効果を高めるためには、太平洋全域で漁獲規制を徹底すべきだ。

 国際自然保護連合(IUCN)は今週、太平洋クロマグロの絶滅リスクについて従来の「軽度の懸念」から「絶滅危惧」へ引き上げた。次回2016年のワシントン条約会議では、米国などがウナギ類とともに国際取引の規制を提案する可能性はある。

 大西洋の管理を手本にすれば、太平洋の資源量も必ず回復する。科学的な検証に基づく漁獲規制を導入し、それを確実に実行すればワシントン条約の規制も回避できる。各国の協力を導くのは最大消費国の日本しかない。

(衆院選)政治とカネ―解散でリセットか

 安倍首相がきょう、衆院の解散に踏み切る。

 この解散の遠因となったのは、9月の内閣改造後に噴き出した「政治とカネ」をめぐる数々の不祥事だろう。

 女性閣僚5人のうち、小渕前経産相と松島前法相の2人が同時辞任に追い込まれた。代わった宮沢経産相は、政治資金管理団体からSMバーへの政治活動費の支出が発覚した。ほかにも複数の閣僚が野党から追及を受け、来年の通常国会の運営が危ぶまれていた。

 政権を覆う暗雲を解散・総選挙で振り払う狙いがあるとすれば、ずいぶんと虫のいい話だ。小渕氏の問題には捜査の手が入り、とても幕引きとはいかない。選挙を経たからといって、済んだ話となるはずもない。

 解党するみんなの党の渡辺前代表ら野党の疑惑も指摘されていた。与野党を問わない問題なのに、うやむやにされかねない危惧がある。

 解散は、すべてを白紙に戻すリセットボタンではない。有権者を甘く見ないでほしい。

 最近はお金の「入り」だけでなく、不適切な「出」が問題となっている。政治資金の使い道の適正化が急務だ。

 どこからお金を得て、何に使っているのか。それは、政治家がどこを向いて働いているかの判断材料となる。総選挙は各党の姿勢を問う絶好の機会だ。まずは公約で、具体的な改善策を競ってもらいたい。

 国会議員に毎月100万、年間1200万円も支給されている「文書通信交通滞在費」は、領収書が不要で公開の義務もない。維新の党が、使途公開を義務づける法案を衆院に提出したが、黙殺された。

 経費が必要なら、上限を設けて実費請求にするなり、すべての支出への領収書添付を義務づけるなりすればいい。透明性を高めるのに何をためらうことがあろうか。

 負担増を求める時代、政治に甘い対応は許されない。

 しかし現実はどうか。経団連が献金呼びかけの再開方針を示すと、自民党は「大変ありがたい」と受け入れた。民主党は12年の政権公約で「企業・団体献金の禁止」を掲げていたが、翌年の参院選公約で削除した。

 年間300億円超の税金が政党交付金としてつぎ込まれ、受け取りを拒否している共産党を除く各党に支給されている。それなのに、政官業の癒着の温床と指摘されてきた企業・団体献金の見直しは進まない。

 選挙の喧噪(けんそう)にまぎれて、問題を素通りはできない。

敦賀原発―廃炉促す環境整備を

 福井県敦賀市の敦賀原発2号機直下にある断層について、原子力規制委員会の有識者会合が改めて「活断層」と判断した。

 事業者の日本原子力発電(原電)が独自調査をもとに再考を求めていたが、退けた。原電が再稼働を申請しても規制委は認めないとみられ、廃炉に追い込まれる公算が大きくなった。

 福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、原発の安全審査は「疑わしきはクロ」を大原則とすべきである。支持したい。

 有識者会合は原電の調査結果を検証し、「活断層ではない」とする証拠としては不十分だと結論づけた。

 原電は「科学的判断とはとうてい言えない。反証したい」と徹底抗戦の構えだ。敦賀市長も「遺憾」との談話を出した。

 原電が持つほかの原発2基は運転開始から44~36年たち、再稼働に必要な規制基準をクリアするのは難しい。まだ27年の敦賀2号機は命綱だ。

 多くの市民が原発とかかわる敦賀市にとっても廃炉となれば死活問題である。

 だが原発の安全性は、そうした事情とは別に専門的見地から厳格に検討されるべきものだ。

 敦賀原発は建設後に敷地内で活断層が確認され、他の原発に比べても地震が起きる危険性は高いといえる。有識者会合の判断は、真っ先に影響を受けかねない地元住民を先んじて守るものとみることもできるだろう。

 廃炉にするかどうかの最終決定権はあくまで原電にある。

 安倍政権は原発再稼働をめぐり「規制委の判断を尊重する」と強調してきた。「クロ」判定も重く受け止め、原電に廃炉を促していくべきだ。そのための環境整備を急ぐ必要がある。

 廃炉経費は600億円を超すといわれる。放射性廃棄物の処理も難題だ。

 原電は57年、電力業界の主導で原子力開発を担う会社として発足した。株式の大部分は電力各社が保有している。

 今の原電は原発を動かしていないのに、電力5社からの「基本料金」で食いつないでいる。今年度も1100億円の見込みだ。これは電気料金の原価とされ、利用者が負担している。

 原電の先行きが見通せないまま、こんな仕組みをずるずると続けてはいけない。

 近い将来、国内で多くの原発が廃炉時期を迎える。すでに1基の廃炉に着手している原電を、廃炉専門機関に改組しては、との案も出ている。

 国は電力業界に働きかけ、原電の今後のあり方を協議していく場を早急に設けるべきだ。

きょう衆院解散 野党の協力はどこまで進むか

 衆院は21日、解散される。野党各党は、準備不足のまま、事実上の選挙戦に突入する。

 12月2日の公示に向けて、選挙協力を地道に進めることが重要だ。

 安倍首相の解散表明が引き金となって、みんなの党が解党を決めた。浅尾代表は、合併を視野に民主党との政策協議を進めた。自民党との連携を目指す渡辺喜美前代表らが反発し、行き詰まった。

 政治路線がまとまらない以上、解党はやむを得まい。

 党所属議員20人の行き先はバラバラだ。山内康一国会対策委員長ら2人は民主党に入党申請した。渡辺氏らは新党結成を模索している。維新の党や次世代の党への合流を検討する議員もいる。

 2009年衆院選前に結党したみんなの党は、第3極の草分け的な存在だった。大胆な規制改革などを唱え、自民、民主の2大政党に飽き足らない有権者の受け皿となり、12年衆院選で躍進した。

 だが、昨年12月に江田憲司衆院議員らが離党し、今年4月には渡辺氏が巨額の借入金問題で代表を辞任した。国会でも存在感を示せず、党勢は低迷していた。

 日本維新の会も、路線の違いから、橋下徹大阪市長らと石原慎太郎元東京都知事らの勢力に分裂した。それぞれが、維新の党と次世代の党として衆院選に臨む。

 「第3極」は死語と化した。これらの指導者はいずれも個性と自己主張が強い。主導権争いなどで離合集散を繰り返し、支持者の期待に応えられなかったのは、責任ある対応と言えまい。

 12年衆院選の自民党圧勝の一因は、民主党や第3極の候補の乱立による非自民票の分散にある。自民党は、小選挙区で43%の得票率で約8割の議席を獲得できた。

 民主党が今回、自民党に対抗するため、共産党を除く野党と選挙協力を進めるのは理解できる。

 政策や政治路線の違いを棚上げにした政党再編は支持されない。相互推薦などは見送り、競合する候補者の一本化にとどめるのは、現実的な対応だろう。

 ただ、民主、維新両党の調整は難航している。候補者が競合する選挙区は依然、20を超える。

 民主党の候補擁立も遅れている。295小選挙区のうち、半数近くで候補者が不在だ。他の野党との競合を避けるため擁立を見送る選挙区を差し引いても、野党第1党として消極的過ぎないか。

 有権者の選択の機会を確保する観点からも、候補の空白区を極力減らす努力が求められよう。

香港実力行使 「自治」の前進へ対話が必要だ

 最も大事なのは、流血を回避することだ。

 香港当局が、行政長官選挙の民主化を求める学生らが設置したバリケードの撤去を開始した。

 学生らによるデモが続く香港政府庁舎の周辺で、裁判所による道路占拠の禁止命令を強制執行する形で行われた。当局は今後、急進派の拠点がある地区でも、撤去を進める構えを見せている。

 これに反発するデモ隊の一部が暴徒化する事態も起きた。議会の敷地に侵入して警官隊と衝突し、逮捕者が出た。さらなる混乱が懸念される危険な状況である。

 香港当局、デモ隊の双方に、自制を求めたい。

 今回のデモは、9月下旬に始まった。中国が、香港行政長官選挙に親中派しか立候補できない制度の導入を決めたことが発端だ。民主化を求める学生らが反発したのは当然である。

 当局は、いったんはデモの強制排除に乗り出したものの、火に油を注ぐ結果となった。

 一方、長期化するデモに対する住民らの反感も強まっている。観光業者や商店の経済的な打撃は大きく、交通渋滞も深刻だ。

 一部に過激な動きが出たことで、デモへの支持は更に下がった。戦術の甘さは否めない。

 北京で先週開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の前は、香港当局による強硬手段が控えられた。国際的な批判を招かぬよう、首脳会議の閉幕を待って、実力行使に乗り出したとみられる。

 APECに合わせて行われた米中首脳会談で、オバマ大統領は、混迷する香港の情勢について、「人々の声を反映した透明で公正な選挙を促す」と述べた。

 これに対し、習近平国家主席は、デモは「違法だ」と反論し、干渉しないよう牽制した。

 混乱拡大を招いた一義的な責任は、あくまで民主化要求をはねつけ、力で封じ込めようとしている中国にある。

 10月に行われた香港当局と学生代表の対話は物別れに終わり、再開の見通しも立っていない。中国政府との直接対話を目指した学生代表は、香港空港で北京便への搭乗を拒否された。

 香港の憲法にあたる香港基本法は、一国二制度下での「高度な自治」を保障している。中国は基本法を尊重し、高度な自治を前進させる対話を模索するべきだ。

 香港の安定と繁栄は、住民だけでなく、中国にとっても利益となるはずである。

2014年11月20日木曜日

成長・財政両立の新たな道筋示せ

 安倍晋三首相が来年10月に予定していた10%への消費税率引き上げを2017年4月に延期する意向を表明した。

 今年4月に消費税率を8%に上げてからわずか1年半で再増税に踏み切ると、景気の悪化でデフレ脱却が遠のくとの判断による。

 国の予算の歳出を減らす努力がほとんどみられないなか、増税も先送りする。財政健全化の取り組みが足踏みするのは残念だ。

■次世代へのつけは限界

 日本経済にとっての最大の課題は、持続的な経済成長と財政再建を両立させることだ。険しい道だが、この2つを同時に追求せず、日本経済の再生はあり得ない。

 財政の課題ははっきりしている。国と地方をあわせた借金は国内総生産(GDP)の2倍を超え、先進国で最悪の状態だ。国の予算の歳入の4割以上を国債発行に頼るのは異常である。

 高齢化で社会保障費がふくらんでいるとはいえ、その財源を賄うために借金を増やし、次世代に負担のつけを回すのは限界だ。

 消費税は現役世代だけでなく高齢者も含め、広く薄く負担するしくみだ。医療、年金、介護などを支える財源として、中期的に消費税率を上げていく必要はある。

 一方で、歳出を減らす努力を怠れば、財政赤字を穴埋めするために際限のない増税を強いられる。社会保障費を徹底的に効率化し、歳出を抑制・削減していくことを忘れてはならない。

 首相は経済対策を指示したが、安易なバラマキは論外だ。財政出動を伴う対策を真に必要な中身に絞り込めなければ、「財政再建の旗をおろすことはない」という首相の決意が疑われるだろう。

 政府は国と地方の基礎的財政収支について、赤字を2015年度に10年度比で半減し、20年度に黒字にする目標を掲げてきた。

 内閣府の7月時点の試算によれば、仮に来年10月に消費税率を10%に上げても、20年度の黒字目標は達成できない。10%への増税を17年4月に延期すれば、さらに目標の達成は難しくなる。

 各党に問いたい。この目標を堅持するのか否か。そのために消費税率をいつまでに、何%まで上げるのか。歳出もいつまでに、どの項目をどの程度削減するのか。これらに真正面からこたえないなら、責任ある態度といえない。

 財政再建に魔法のつえはない。「増税はしない。歳出も削らない」と痛みを伴う決断から逃げ回るようでは困る。増税延期後の財政再建の具体的な道筋をはっきりと提示すべきだ。

 金融市場でいったん日本の国債の信認が失われると、いずれ長期金利が急上昇して経済に破滅的な影響を与えることは、ギリシャなどの例でも明らかなはずだ。

 脱デフレにむけ異次元の金融緩和を進める日銀の「出口戦略」との関係も問われよう。

 いま長期金利が低い水準で抑えられているのは、日銀が市場で大量に国債を買っているからだ。仮に2%の物価安定目標を達成した後で日銀が国債を買う金額を減らすと、国債の買い手が減って長期金利が上昇しかねない。

 仮に利払い費が増えるのを嫌がる政府に配慮し、日銀が物価安定目標を達成してもなお大量の国債を買い続ければ、こんどは物価上昇が加速するリスクがある。

■生産性向上の後押しを

 日銀がいずれ直面するのはこんなジレンマだろう。意図しない形での悪い金利や物価の上昇を防ぐには、やはり政府の財政再建努力が決定的に重要となる。

 日本経済を強くするには、成長戦略の加速も待ったなしだ。少子高齢化で労働力人口が減るなか、日本経済の潜在成長率は1%未満に低下している。

 経済の生産性を高めてパイを大きくすることは、国民生活の水準を維持・向上させるだけではない。税収を増やし、借金や財政赤字を抑えることにも役立つ。

 そのために先進国で米国に次いで高い法人実効税率を20%台に着実に下げるべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)など貿易自由化の手を緩めてはならない。

 女性や外国人材の活用をすすめるとともに、医療、農業などの「岩盤規制」を崩して技術革新を後押しする努力も欠かせない。安全性を確認した原子力発電所を早期に再稼働すれば、電力料金の上昇に歯止めをかけやすくなる。

 いま求められているのは、こうした成長戦略と財政再建をくみ合わせ、日本経済再生にむけた大きな見取り図を示すことだ。増税延期で買った時間を無駄にせず、改革を急ぐときだ。

(衆院選)身を切る改革―あの約束はどこへ

 衆院解散を表明した記者会見で、安倍首相は繰り返した。

 「国民に信を問う」

 ならば問われる前に問いたい。2年前の党首討論での約束は、いったい何だったのか。

 定数削減を2013年の通常国会で必ずやり遂げる、それまでの間は議員歳費を削減する。「身を切る」決断をするなら衆院を解散してもいいと迫る当時の野田首相に、自民党総裁だった安倍氏は答えた。「来年の通常国会において、私たちはすでに、選挙公約において定数の削減と選挙制度の改正を行っていく、こう約束をしています。今この場で、そのことをしっかりとやっていく、約束しますよ」

 この2日後に衆院は解散され、総選挙では自民党が圧勝、政権に復帰した。

 ところが約束はいまだに果たされていない。小選挙区を「0増5減」し、最大格差を1・998倍に抑えたが、これはあくまでも緊急避難に過ぎない。最近の試算では最大格差は2倍を超える。選挙制度の抜本改革については、与野党の溝が埋まらず、衆院議長のもとに第三者機関を設置して議論を委ねた。議員定数削減を実現するまでとして12年末から7%削減されていた議員歳費削減は、今年5月、なし崩し的に元に戻った。

 この間、首相がリーダーシップを発揮したとは言いがたい。重大な約束違反である。

 問題は、身を切ったか否かにとどまらない。最高裁は前回衆院選について、「違憲」一歩手前の「違憲状態」と判断。各都道府県にまず1議席ずつを割り振る「1人別枠方式」が一票の格差を生む要因と指摘し、国会に抜本的な改革を求めている。

 しかし今回の総選挙は、この方式が事実上残ったまま行われる。「民意を反映しない国会議員が選ばれてしまう」。格差是正を求めてきた弁護士グループは、選挙差し止めを求める訴訟を東京地裁に起こした。

 総選挙には700億円近い経費がかかる。それだけの税金を使って、公平性に疑問符がつく選挙制度の下、多くの人が「なぜいま?」といぶかる選挙を断行する。果たしてそこには党利党略を超えた意義があるのか。「首相が自らに有利な時期を選んで解散するのは当然だ」との声も政界にはあるが、だからといって約束をほごにし、憲法が要請する投票価値の平等を軽んじていいはずはない。

 「信なくば立たず」。首相は会見でこう述べた。政治に対する有権者の信頼を損なわせているのは誰なのか。首相はまず、自らに問うてみるべきだ。

健さん逝く―自らを律する美学残し

 日本映画には、誰もが親しみを込めて「名前」で呼び、その名を聞くだけで、風姿と人柄が思い浮かぶヒーローが、ふたりいる。

 ひとりは「寅さん」。シリーズ48作を数える「男はつらいよ」で、主演の渥美清さんと山田洋次監督らが作り上げた、スクリーンの中の人物だ。

 もうひとりは「健さん」。

 83歳で旅立った、俳優の高倉健さんである。

 映画以外にはほとんど出演せず、観客に私生活を見せなかった最後の「銀幕スター」。生涯で205本に出演したが、観客はいつも、演じる役の中に「健さん」を見てきた。

 格好良く、自分のためではなく、他人のために命を賭ける「男の中の男」を。

 人気を決定づけた任俠(にんきょう)映画では、義理と人情のはざまで、我慢に我慢を重ねた末に敵陣に斬り込む、悲壮美と迫力が、熱く支持された。

 その後は様々な作品で、過酷な自然と闘う人間の強さ、不器用に愛を求める男の切なさ、実直に仕事を守り続ける者の誇りなどを体現し続けた。

 スクリーンの中に息づく、信義に厚く、損得勘定とは無縁の寡黙な姿を、人々は生き方の一つの規範と受け止めた。そしてそれを、人間・高倉健と重ねてきた。

 素顔の健さんも、観客の期待を裏切らない生き方を貫いた。

 礼節を重んじ、過酷な撮影現場でも、決して楽をしようとはしなかったという。

 有名無名を問わず、出会った人との交流を大切にし、いつもこまやかな心配りをしていたことが、多くの追悼談話で語られている。

 背筋の伸びた、たくましい健さんの後ろ姿。その背骨には、母の言葉があった。

 「辛抱ばい」

 「家族に恥ずかしいことをしなさんな」

 映画の中で「入れ墨を入れたり、寒いところへ行ったり」する息子の身を案じ続けていたというおかあさんの、素朴だが、重い人生訓である。

 この教えを一途に守った健さんの姿勢は、役を通してスクリーンからにじみ出た。それは国内だけでなく、海外でも、尊敬できる人間像、生き方の美学として受け止められてきた。いま、中国からも、アメリカからも哀惜の言葉が届く。

 逆境に耐え、自らを律する。そう望んだ母の教えに照らして、恥ずかしくないか。健さんを磨き上げ、輝かせたのは、その自省の深さだったのだろう。

あす衆院解散 評価できる法律駆け込み成立

 21日の衆院解散を前に臨時国会で、重要な法律が相次いで成立した。与野党が大局的見地から協力したのは適切だ。

 19日の参院本会議では法律11本が成立し、条約1本が承認された。このうち、中国漁船のサンゴ密漁対策を強化する改正外国人漁業規制法・漁業主権法の成立は、全会一致だった。

 小笠原諸島周辺での密漁急増を受け、与野党の議員立法で提出された。改正法は、外国人による日本領海内での操業や、排他的経済水域(EEZ)内での無許可操業に対する罰金を最高3000万円に引き上げる。

 貴重な生物資源を乱獲し、地元漁業を脅かす中国密漁船の取り締まり強化は緊急性が高い。来年の通常国会への先送りは許されず、与野党が協力したのは当然だ。

 野党8党は先週、「社会的・人道的に緊急を要する法案には協力する」との方針を確認した。この方針通り、エボラ出血熱患者らの検体の強制採取を認める改正感染症法や、リベンジポルノ被害防止法の成立に協力した。

 食品などの不当表示への課徴金を導入する改正景品表示法や、危険ドラッグ規制を強化する改正薬事法も全会一致で成立した。

 いずれも国民生活に影響する法律で、成立の意義は大きい。

 一方、安倍内閣が最重要法案とする「まち・ひと・しごと創生法案」など地方創生関連2法案は参院特別委員会で、民主など4野党の議員が欠席する中、与党と次世代の党の賛成で可決された。21日に成立する予定だ。

 民主党の川端達夫国会対策委員長は、審議拒否について「(首相が解散を表明し)国会の機能はいらない、と言った時点から、審議には参加しない」と主張する。

 川端氏は「国会は首相の持ち物ではない」と批判したが、「民主党の持ち物」でもなかろう。首相の解散表明後とはいえ、安易な審議拒否はいただけない。

 政府・与党は今国会で、与野党対決法案の提出を極力控えたが、「政治とカネ」を巡る女性2閣僚辞任などにより、国会審議が混乱し、大幅に遅れた。労働者派遣法改正案や女性活躍推進法案などは廃案となる見通しだ。

 多くの法案を処理できなかった責任は、政府・与党にもある。

 臨時国会は、閣僚らのスキャンダル追及ばかりが目立った。肝心の政策論争は低調で、国会改革の目玉として拡充するはずだった党首討論が一度も行われなかったのは、残念である。

腹腔鏡手術死 群馬大病院は真相究明を急げ

 同じ医師の手術を受けた患者の相次ぐ死を、なぜ防げなかったのか。

 群馬大学病院第二外科で2010~14年、腹腔(ふくくう)鏡(きょう)の肝臓手術を受けた92人のうち8人が、術後100日以内に亡くなっていた。いずれも40歳代の助教が執刀した。

 肝臓の腹腔鏡手術の死亡率は、30日以内で0・2%程度とされる。術後の期間こそ異なるが、群馬大病院では8・7%と極めて高い。病院側は、手術と死亡の因果関係について、「調査中」として明言を避けている。

 外部専門家を含む病院の調査委員会が、聞き取りやカルテのチェックなどを進めている。厚生労働省は立ち入り検査を検討している。徹底調査を求めたい。

 腹腔鏡手術では、腹部に数か所の穴を開けてカメラと手術器具を入れ、映像を見ながら患部を除去する。患者の体の負担が少なく、回復が早い利点がある。胃や大腸の手術で普及し、腹部外科では年8万件以上実施されている。

 ただ、血管が多い肝臓の手術では、大量出血のリスクが高い。助教のチームは、8件の死亡例を含む56件で、広範囲に切除する手術を実施していた。難度が高く、医療保険の適用外だ。

 助教は、患者や家族に「2週間で退院できる」などと説明し、承諾を得ていた。保険が適用されるとも偽っていた。インフォームド・コンセント(説明と同意)が十分だったとは思えない。

 手術の危険性を認識していれば、思いとどまる患者もいただろう。助教には、手術の実績を増やす思惑があったのではないか。

 助教は、高難度の手術を実施する際に必要な院内の倫理審査を申請しなかった。その結果、病院側が、手術の妥当性を判断する機会がなかった。申請を執刀医任せにしてきた病院の管理体制にも問題があったのは明らかだ。

 最初の死者が出たのは11年1月だ。その後、1年間で4人が亡くなった。病院は8人目が死亡した直後の今年6月、ようやく事態を把握した。もっと早く検証に乗り出していれば、死亡者が相次ぐ事態を防げた可能性もある。

 群馬大病院では、第一外科でも腹腔鏡手術を受けた患者が死亡していたことが新たに判明した。

 千葉県がんセンターでも08年以降、11人が死亡している。

 腹腔鏡手術は、機器の操作面などで、医師の技量に負う部分が大きいとされる。関係学会が、研修などを充実させ、医師のレベルアップを図っていく必要がある。

2014年11月19日水曜日

アベノミクスに通信簿つける選挙

 安倍晋三首相が21日に衆院解散・総選挙に踏み切る意向を表明した。衆院任期半ばでの異例の解散には賛否両論あるが、せっかく投票の機会が巡ってきたのだから、有効活用しない手はない。この選挙で問うべきは何だろうか。

 「デフレ脱却のチャンスを手放すわけにはいかない」。首相は日本経済の再建に向けた道筋を確かにするには消費再増税を延期せざるを得ないと説明した。そのうえで「公約の重大な変更であり、国民の信を問う」として衆院解散に値する決断との認識を示した。

難しい途中での評価
 結局のところ、安倍政権の経済政策を評価するのかどうかを争点に据えるということだ。今回の解散をどう名付けるかはまだ定まっていないが、「アベノミクス解散」と呼ぶのが一番ふさわしそうだ。

 アベノミクスはうまくいっているのか。成否がはっきりしていれば結論を出すのは簡単だ。今回は途中段階での難しい判断になる。選挙戦での与野党の論戦にしっかり耳を傾けたい。

 「アベノミクスに任せれば大丈夫」の一点張りの与党候補。こうすればよいがない野党候補。そんな政治家に国政は任せられない。

 首相は消費税の10%への引き上げを2017年4月まで延期しても、財政健全化目標は堅持すると明言したが、実現可能なのか。1年半延期した後には必ず再増税するとの約束は景気が大幅に悪化した場合でも守るのか。知りたいことはたくさんある。原子力を含めエネルギー政策をどうしていくのかも経済再建と密接にかかわる。

 ただ、あまりにアベノミクス一点集中型の選挙戦にすると、政治の全体像がみえにくくなる。

 2005年の衆院選で当時の小泉純一郎首相は「郵政民営化は是か非か」と叫び、地滑り的勝利を得た。09年には民主党が「いまこそ政権交代」と訴え、有権者をひき付けた。そのたびに与野党の議席は大きく入れ替わった。

 ブームに乗って当選した小泉チルドレンや小沢ガールズの多くが目立った働きもないまま次の選挙で淘汰された。こんな愚は繰り返したくない。自分の住む選挙区に名乗りをあげた候補が風目当てなのかどうかはよく見極めたい。

 選挙には2つの側面がある。業績評価と将来期待である。難しいプロジェクトをまとめたベテラン社員を役員に起用し、実績はなくともやる気はある若手を課長に引き上げる。それを判断する役割を有権者が担うわけだ。

 第2次安倍内閣は政治に安定をもたらした。9月の内閣改造の際に石破茂地方創生相とあつれきがあったとはいえ、ごたごた続きだった民主党政権に比べればまだ平穏だ。民主党がこじらせた日米関係もほぼ修復した。その力量は認めなければならない。

 不安材料は「古い自民」が息を吹き返す気配が見え隠れすることだ。政治とカネに絡んで2閣僚が辞めたが、政治資金の透明化に動く気配はない。選挙が始まれば、企業ぐるみ選挙に走る候補がまた出てこないかも心配になる。

 業界団体などの既得権益におぶさっていれば楽だろうが、それで岩盤規制を砕けるのかという問題もある。アベノミクスの第三の矢である成長戦略が骨抜きになって困るのは安倍首相自身である。

他の課題にも目配りを
 衆院選は向こう4年間の国のかじ取りを託す選挙である。その間に起きるであろうさまざまなことを想定してみよう。安倍首相は今年、集団的自衛権に関する憲法解釈を見直した。政権が続けば、来年の通常国会で自衛隊法など関連法の改正をする方針だ。そのあとにはいよいよ憲法本体の改正を政治日程に載せることになる。

 外交・安保にも目配りしたい。日米を基軸とする戦後日本の歩みを否定する主要政党はないだろうが、周辺国とのつき合い方などで政党ごとに立場をやや異にする。

 先の大戦などを巡る歴史問題には複雑な経緯があり、簡単に割り切れない。歯切れのよい発言は心地よいが、それが本当に日本の国益につながるのかはよく考えねばならない。

 衆院選は政権を賭けた戦いであり、与野党の政策をよく見比べ、よりましを選ぶのが基本である。だが、安倍首相は対決の機がまだ熟さない段階での早期解散を選んだ。となれば今回の選挙は政権選択ではなく、安倍政権への通信簿との性格を帯びざるを得ない。

 ここまで述べてきた多くの課題について安倍首相は野党よりも重い説明責任を負うべきだ。「民主党よりまし」などという安易な戦い方は封印してもらいたい。

首相の増税先送り―「いきなり解散」の短絡

 安倍首相が、来年10月に予定されていた消費税率再引き上げの先送りと、21日の衆院解散を表明した。

 おととい発表された直近の国内総生産(GDP)の実質成長率は、年率換算で1・6%の減。事前の民間予測を大きく下回った。

 首相はこれを受け「15年間苦しんできたデフレから脱却するチャンスを手放すわけにはいかない」と判断。ただ、18カ月間の先送り後の再延期はないと断言し、その政策変更の是非を総選挙で問うという。

 確かに2期連続のマイナス成長はショッキングだ。ただ、もとより景気悪化による増税の先送りは消費増税法を改正すれば認められるし、民主党もその判断は受け入れている。

 国会審議をへて法改正し、アベノミクスの足らざる部分を補う。安倍政権がまず全力で取り組むべきことである。

 その努力をする前のいきなりの衆院解散は、短絡に過ぎる。別の政治的打算が隠されていると考えざるを得ない。

■解散に理はあるか

 首相はきのうの記者会見で、「なぜ2年前、民主党が大敗したのか。マニフェストに書いてない消費税引き上げを、国民の信を問うことなく行ったからだ」と解散の意義を強調した。

 民主党は09年の衆院選で消費増税はしないと訴え、政権を奪った。ところが新たな財源を生み出せずに政策転換に追い込まれ、党の分裂と前回衆院選での大敗を招いた。

 民主党の失敗についての首相の見方はその通りだろう。だが、今回の首相の姿勢とは同列には論じられない。

 首相の解散権行使が理にかなうのはどういう場合か。前の選挙では意識されなかった争点が浮上した時、または首相と国会との対立が抜き差しならなくなった時というのが、一般的な考え方だ。

 今回はどうか。12年夏の「社会保障と税の一体改革」の民主、自民、公明の3党合意に基づく消費増税法は、2段階の消費税率引き上げを定めつつ、景気が悪化した時の先送り条項も設けている。

 3党がそろって国民に負担増を求める代わりに、定数削減などの「身を切る改革」を断行する――。安倍氏と当時の野田首相とのこの約束が問われた2年前の衆院選で、自公両党は政権に復帰した。

 昨夏の参院選でねじれも解消し、首相の政権基盤は安定している。9月に内閣改造もしたばかりだ。それでも任期4年の折り返しにもいたらぬ衆院議員の身を切る前に「首を切る」。あべこべではないか。

■国民の思い逆手に

 増税は、政治家にも国民にもつらい選択である。

 消費増税で得られる財源は、子育てや年金などほぼすべての国民に関係する社会保障関係費にあてられる。それがわかっていても、「増税はいや」というのは自然な感情だ。

 実際、今月の朝日新聞の世論調査では、来年10月の税率引き上げには67%が反対と答えた。同時に、それで社会保障に悪影響が出ることを不安に感じると答えた人が66%もいる。国民の複雑な思いを表した数字だ。

 仮に消費税だけが問われる選挙なら、有権者が首相の判断を覆す一票を投じる動機は弱くなる。「景気対策」という名の付録がつけばなおさらだ。

 それを知りつつ、あえて先送りの是非を問うなら、ポピュリズムとの批判はまぬがれない。

 財政再建を重視する勢力の反対で、増税先送りの法改正はできそうにないという状況になって、初めて衆院解散の理屈が立つというものだ。

■「信を問う」の本音は

 首相は昨年の特定秘密保護法案の審議や今夏の集団的自衛権の容認をめぐる議論の過程では、国民の審判を仰ぐそぶりすら見せなかった。

 表現の自由や平和主義という憲法価値の根幹にかかわり、多くの国民が反対した問題であるにもかかわらずだ。

 国論を二分する争点は素通りし、有権者の耳にやさしい「負担増の先送り」で信を問う。政治には権力闘争の側面があるにせよ、あまりに都合のよい使い分けではないか。

 首相は先の通常国会で、憲法解釈の変更について「最高の責任者は私だ。そのうえで私たちは選挙で国民の審判を受ける」と答弁した。「選挙で勝てば何でもできる」と言わんばかりの乱暴な民主主義観である。

 来年にかけて安倍政権は、原発の再稼働や集団的自衛権の行使容認に伴う法整備など、賛否がより分かれる課題に取り組もうとしている。

 世論の抵抗がより強いこれらの議論に入る前に選挙をすませ、新たな4年の任期で「何でもできる」フリーハンドを確保しておきたい――。

 そんな身勝手さに、有権者も気づいているにちがいない。

衆院解散表明 安倍政治の信任が最大争点だ

 ◇消費再増税できる環境が要る

 日本経済や安全保障の課題を設定し、政策を遂行する体制を立て直す。これが、国民に信を問う目的だろう。

 安倍首相が、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げを2017年4月に先送りする方針を発表した。この判断や経済政策「アベノミクス」を争点とし、21日に衆院解散を断行する意向も表明した。

 首相は記者会見で、解散の理由について「国民生活に大きな影響を与える税制で重大な決断をした以上、国民の声を聞かねばならないと判断した」と強調した。

 ◇体制をリセットする

 衆院議員の任期を2年以上残した時点の解散は珍しい。12年の前回衆院選で大勝した自民党は議席を減らすリスクも高い。

 首相が長期外遊中で不在の永田町に「解散風」が吹き荒れ、与野党が一斉に衆院選に走り出す――そんな展開もまた異例である。

 首相には、「政治とカネ」の問題を巡る女性2閣僚辞任などによる混乱や行き詰まりから政治をリセットする狙いがあろう。

 首相は一時、安定政権を目指し、再来年の参院選との同日選などの可能性も検討した。だが、同日選への拒否感が強い与党の公明党の意向や、野党の候補擁立が大幅に遅れている現状を勘案し、最も早い解散を選択した。

 野党は「大義なき解散」と批判するが、それは当たらない。

 首相自身が指摘するように、「国民の理解と協力なくして、政策を進めていくことはできない」のが政治の本質である。

 ◇アベノミクスどう補強

 安倍政権は今、多くの難しい課題に直面している。消費増税先送りと連動したアベノミクスの補強、集団的自衛権の行使容認を反映する新たな安全保障法制の整備、原発の再稼働などである。

 あえて国民の審判を受け、勝利することで、政策遂行の推進力を獲得し、政治を前に進めようとする首相の決断に異論はない。

 長年のデフレからの脱却を最優先して、経済政策を総動員する。「積極的平和主義」を体現し、日米同盟や安保政策を実質的に強化する。こうした安倍政治の信任を得ることが解散の大義だろう。

 首相は、自らの言葉で、こうした意図を国民に繰り返し説明することが求められる。

 そもそも「伝家の宝刀」と呼ばれる解散の判断は、首相の専権事項である。「常在戦場」の構えを怠り、選挙準備が遅れている野党が「党利党略」と首相を批判しても、説得力を持つまい。

 衆院選は12月2日公示―14日投票の日程で行われる。

 12年衆院選と同様、来年度予算編成と税制改正の作業が遅れ、越年するのは確実だ。来年度予算の成立のずれ込みや「政治空白」を最小限に抑えるため、できる限り早い日程を選んだのは適切だ。

 衆院選の争点で、特に重要なのがアベノミクスの評価である。

 7~9月期の国内総生産(GDP)が2期連続のマイナス成長となったことで、民主など野党は、「安倍政権の経済失政が明らかになった」と批判を強めている。

 金融緩和、財政出動、成長戦略の「3本の矢」によって、大幅な円安・株高や、企業業績の好転、雇用情勢の改善などを実現したアベノミクスの基本的な方向性は支持できる。

 だが、今回明らかになった景気回復の足踏み状況という「誤算」を踏まえ、与党は、政策をどう修正・強化するかを示すべきだ。

 安倍首相は、消費増税の先送りについて「デフレから脱却するアベノミクスの成功を確かなものにするため」と語った。

 「財政再建の旗を降ろさない」として、17年4月の増税は再延期せず、20年度の財政健全化目標を堅持する方針も明言した。

 ◇社会保障財源の確保を

 今月に5回開かれた政府の「点検会合」では、有識者45人のうち30人が予定通りの来年10月の増税に賛成し、多数を占めた。

 だが、消費の落ち込みによる景気の腰折れを防ぐことを優先し、増税を先送りするというのが首相の政治判断だった。

 増税の再延期を明確に否定し、財政健全化や国債の信認にも配慮したのと合わせ、評価できる。

 重要なのは、17年4月までに景気を安定した回復軌道に乗せ、着実な賃上げなどによって、増税が確実に実施できる経済環境を作り出すことである。

 先送りに伴う歳入減の影響を受ける子育て支援、医療、介護などの社会保障財源についても、きちんと手当てをする工夫が要る。

2014年11月18日火曜日

増税後の消費回復が遅れる日本経済

 4月に消費税率を5%から8%に引き上げた後の日本経済は、回復が想定よりも遅れているといわざるを得ない。

 内閣府が発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比年率1.6%減った。4~6月期に続き2四半期連続のマイナス成長である。

 多くの民間エコノミストが2%前後のプラス成長を予想していたことからも、驚きだ。東京市場では株価が大幅に下落した。

 振るわなかったのは、個人消費だ。7~9月期は前期比で増加に転じたとはいえ、小幅の伸びにとどまった。

 自動車など高額の耐久財の購入が手控えられた。天候不順の影響でレジャーなどへの需要が落ち、サービス消費も足踏みした。

 設備投資や住宅投資も減った。公共投資や輸出は持ち直したものの、実質経済成長率をプラスにするほどの力はなかった。

 しかし、景気の先行きを過度に悲観する必要はないだろう。

 マイナス成長の最大の要因は、在庫投資の大幅な減少だ。在庫投資の分を差し引けば、プラス成長を保つかたちだ。

 在庫が増えれば成長率を押し上げる。逆に在庫が減れば成長率を押し下げる。企業は7~9月期に、4月の消費増税後に膨らんだ在庫を減らした。在庫調整の進展により先行きの生産は持ち直す兆しがある。

 賃金総額を示す名目雇用者報酬の伸び率はほぼ17年ぶりの高さとなった。高水準の企業収益を背景に、企業が雇用・賃金を増やす好循環の動きは続いている。

 民間エコノミストの間では10~12月期以降の実質成長率はプラスに転じるとの見方が多い。

 安倍晋三首相は7~9月期のGDP統計を踏まえて10%への消費再増税の延期を決める意向だ。

 再増税の是非は10~12月期以降の景気の足どりを確認してから最終判断する手もあったのではないか。2四半期連続で実質成長率がマイナスになるなかで、いま再増税を決めるのが難しいのはたしかだろう。

 大事なのは、デフレ脱却に向けた好循環の動きを途切れさせないことだ。政府は法人減税や規制改革で成長戦略を加速すべきだ。企業も生産性の上昇にあわせ、賃金や配当の形で家計への還元を着実にすすめてほしい。

G20体制の再構築が問われる

 日米欧と主要新興国による20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)は、インフラ投資などで経済成長を加速させることをめざす首脳宣言を採択した。ただ、参加各国の思惑には食い違いも目立ち、宣言の効果がどこまであるかは疑問と言わざるをえない。

 宣言では、各国が責任を果たすことでG20全体の国内総生産(GDP)を、2018年までに国際通貨基金(IMF)の見通しより2.1%引き上げる、とうたいあげた。世界的な成長の底上げによって、金融危機で大幅に悪化した雇用や所得を十分に改善させる必要があるとの判断による。

 その柱として強調しているのがインフラ投資や貿易の促進だ。いずれも重要な課題だが、G20など一連の国際会議で目立ったのはむしろ、メンバー国どうしのすれ違いである。

 中国はアジア域内のインフラ投資の後押しを掲げ、同国主導でアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を決めた。これに対して日米などはIMF、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などを軸とする既存の国際金融秩序への挑戦と受け止めて警戒している。

 自由貿易の拡大でも、投資や知的財産に関する質の高いルールづくりをめざす環太平洋経済連携協定(TPP)を重視する日米などと、アジア・太平洋地域全体に網をかけた自由貿易協定(FTA)を優先すべきだとする中国との対立が目についた。TPPの早期妥結へ指導力を発揮すべき日米間の交渉もまだまとまっていない。

 マクロ経済政策についても、欧州に財政刺激策を求める米国と財政出動に消極的なドイツとのミゾが埋まらずに終わった。

 世界経済に占める新興国の比率が高まるなかで、中国やインドなど主要な新興国を含むG20サミットの役割は今後ますます重要になる。主導権争いや自国本位の主張にとどまらず、世界全体の利益を尊重する協調行動へ向けてどこまで踏み込めるのか。G20体制の再構築が問われている。

マイナス成長―「誤算」と向き合え

 今年7~9月期の日本経済は、消費増税の影響に直撃された4~6月期に続き、2四半期続けてマイナス成長だった。

 特に国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費が弱い。夏の天候不順の影響もあるだろうが、円安や消費増税に伴う物価の上昇に収入が追い付いていないことが響いている。

 サラリーマンの賃金は、上がり始めてはいる。賃金や雇用の増加が消費を促し、それが企業の業績と投資にはね返る好循環を掲げてきた政府は「もう少し時間が必要」と強調する。

 しかし、本当に「時差」なのか。好循環が軌道に乗り切れない背景には日本経済の構造変化があり、それが政府の「誤算」を招いてはいないか。

 「アベノミクス」で、円安と株高の基調は続いている。

 円安によって、日本経済の主力である輸出型製造業をはじめ企業の収益を支える。好業績で外国人投資家の資金を引きつけて株高をもたらし、経済全体の好転につなげていく――。政府の経済運営はそんな内容だ。

 確かに企業業績は好調だ。しかし、円安で増えるはずの輸出数量は伸び悩んでいる。海外への生産移転や一部商品で国際競争力を失ったことが指摘され、消費の不振もあって国内の生産や投資が勢いづかない。原材料を輸入に頼る例も多い中小企業からは「円安はマイナス」との悲鳴もあがっている。

 家計も同様だ。株価が上がっても、大半のサラリーマンは給料が安定して増えていかないと消費に踏み切れない。円安が一因の食料品や日用品の値上がりで財布のひもはしまりがちだ。

 どう所得を増やしていくか。

 まずは民間の取り組みがカギになる。多額の現預金をため込んでいる企業が少なくない一方、人手不足から女性や高齢者を雇い、非正社員を正社員に切り替える動きも目立つ。ヒトへの投資にアクセルを踏むことは、自社の発展に向けた合理的な経営判断のはずだ。

 そうした企業の動きを政府は再教育支援策などで後押ししてはどうか。経営者が歓迎する雇用分野の規制緩和に力を入れつつ賃金増へ圧力をかける「アメとムチ」には限界がある。

 安倍政権が検討する経済対策には、自治体による商品券配布への財政措置や燃料費の補助など、家計や中小企業への支援策が盛り込まれそうだ。

 しかし、目先の対策ばかりでは好循環はおぼつかない。社会保障を支えるのに不可欠な消費増税を先送りするなら、増税できる環境を整えねばならない。

宇宙基本計画―安保色が強すぎる

 日本は宇宙政策の軸を安全保障に移したのだろうか。

 新たな宇宙基本計画の素案にはそんな疑問がぬぐえない。

 21日までのパブリックコメントのために内閣府が公表した素案には「安全保障」という言葉が頻出する。防衛白書と見まがうばかりである。「我が国の安全保障上の宇宙の重要性が著しく増大している」「宇宙システムの利用なしには、現代の安全保障は成り立たなくなってきて……」といった具合だ。

 安倍首相は9月に、政権の安全保障政策を、年末をめどに新しい宇宙基本計画に十分反映させるよう指示した。

 昨年1月にまとめた現行計画の期間は5年間。それを途中で打ち切り、2カ月の議論で安保重視に傾斜させるのは、あまりにも性急すぎる。

 たしかに宇宙やサイバー空間への対処は、いまの安全保障の「急所」であり、研究が必要な分野だろう。07年の中国の衛星破壊実験は米国に大きな衝撃を与えた。宇宙ゴミの監視・除去など各国が連携して取り組むべき課題も少なくない。

 だとしても、科学技術の分野が主導してきた宇宙政策を一気に安保主導に変えてしまうような計画には危うさがある。

 日本は1969年の国会決議で宇宙の平和利用を定め、自衛隊の衛星利用を制限してきた。その後、08年の宇宙基本法制定で安保分野に道を開き、再改定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)も宇宙での協力強化をうたう見通しだ。

 すでに防衛省は、自衛隊に宇宙監視の専門部隊をつくる方向で動き始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA〈ジャクサ〉)の監視業務を自衛隊に移す計画である。

 安保への流れに加え、秘密保持が強調されれば、宇宙に関する情報の透明性が失われる恐れがある。また、日本版の全地球測位システム(GPS)に必要な「準天頂衛星」7機体制の確立や早期警戒衛星の検討などは将来の大幅な予算増につながり財政を圧迫しかねない。

 一方で、目立つのは産業界への配慮だ。宇宙関連の投資を誘うため、現行の5年計画を10年計画に長期化し、官民合わせて5兆円の事業規模をめざすという。安保の「官需」を安定的に提供し、宇宙産業を活性化させる思惑があるのだろう。

 そもそも日本が宇宙をめざすのは安保と経済のためなのか。科学技術の分野とのバランスは適正か。宇宙利用の国際的なルールづくりに、さらに力を注いではどうか。根本から議論し直すべきことが多い。

GDPマイナス 消費増税延期は避けられまい

 予想外のマイナス成長である。景気の停滞が一段と鮮明になった。

 内閣府が発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報は、前期比0・4%減、年率では1・6%減と、2四半期連続のマイナス成長だった。

 安倍首相は、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げを1年半程度先送りする考えだ。その判断の是非や、安倍政権2年間の実績の評価を問い、衆院解散・総選挙に踏み切る意向である。

 厳しい経済情勢が確認された以上、消費増税よりも、それが可能な経済体力の回復を先行させるのは、合理的な判断と言える。

 GDPは年率2%程度のプラス成長が見込まれていた。マイナスにとどまった要因の一つは、4月に消費税率を8%に上げた後、急減した民間消費の回復が鈍かったことである。

 天候不順で夏物の販売が振るわないなど、増税以外の要因も重なった。円安による輸入価格の上昇で食品などの値上げも相次ぎ、消費者心理が一段と冷え込んだ。

 販売不振で積み上がった在庫を減らすため、企業が生産を抑えたことも、成長を押し下げた。

 企業の設備投資も2四半期連続でマイナスだった。消費不振が長引いているため、投資をためらっている面もあるのだろう。

 民主党の枝野幹事長は、「アベノミクスの限界が証明された」と批判している。

 これに対し、甘利経済再生相は「企業業績が賃金に反映され、消費を後押ししていく循環を考えている。それは成功しているが、完成形ではない」とし、景気を下支えするための経済対策が必要だとの考えを示した。

 政府は、円安や燃料費高騰など消費低迷の原因に焦点を絞り、有効な施策を講じるべきだ。

 一方、上場企業の業績が、円安の追い風もあって、最高益を更新する勢いなのは心強い。

 肝心なのは、企業が利益を内部にため込まず、新たな成長に活用することだ。

 賃上げを通じて従業員に還元することで、家計の収入増が消費を刺激し、企業の利益を押し上げる好循環の実現に期待したい。

 企業が、稼ぐ力を高める設備投資を積極化することも大事だ。

 政府は、事業拡大に挑戦する企業を、政策で後押しすべきだ。法人税の実効税率引き下げの着実な実行はもとより、新規事業の展開を阻む規制の撤廃など、成長戦略の一層の充実が急務である。

G20と世界経済 成長回復へ協調と行動を急げ

 世界経済の不透明感を払拭するため、先進国と新興国は協調を強める必要がある。成長回復の具体策を速やかに実行しなければならない。

 主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)が「世界経済の回復は鈍く、ばらつきがある」とする首脳宣言を採択した。

 G20全体の国内総生産(GDP)成長率を、2018年までに少なくとも2%引き上げるという目標でも合意した。

 先進国では、日本の景気が足踏み状態に陥り、欧州はデフレ懸念を強めている。

 中国の景気が減速するなど、新興国も力強さを欠き、世界経済の成長は米国頼みの状況である。

 G20が、経済の現状に対する危機感を共有し、成長加速への決意を示したことは評価できよう。

 気がかりなのは、各国が実際に有効な経済政策を打っていけるかどうか、不安が多い点だ。

 G20は、内需拡大を目指す「行動計画」をまとめたが、内容は各国が表明済みの施策を列挙したに過ぎない。

 欧州では、各国の足並みの乱れから、臨機応変な政策対応が取れるかどうか危ぶまれている。

 財政余力のあるドイツは、南欧諸国や米国から、財政出動による景気刺激策を迫られているが、応じる気配を見せていない。

 一方、安倍首相はG20で「デフレからの脱却に前進が図れた」などと、自らの経済政策「アベノミクス」の成果を強調した。

 首脳宣言には、「短期的な経済状況を勘案し、機動的な財政戦略を実施する」という表現が盛り込まれた。ドイツや日本を念頭に置いた指摘と見られる。

 日独両国は、今後の経済運営を通じ、国際社会の期待に応えていかねばならないだろう。

 さらに心配なのは、先進国が主導する現在の国際金融体制に、新興国が対抗する動きが、G20内で強まってきたことである。

 中国など新興5か国(BRICS)はG20に合わせて、今年夏に合意した「新開発銀行」の設立準備を加速する声明を発表した。

 先進国と新興国が協力し合い、世界経済の安定を図ることが、G20の基本理念だったはずだ。両者のさや当てで、G20の枠組みが揺らぐ事態は避けたい。

 新興国は、米議会の反対が足かせとなり、国際通貨基金(IMF)への出資比率が低く抑えられていることに不満がある。先進国はG20の求心力を保つためにも、IMF改革などを加速すべきだ。

2014年11月17日月曜日

いまこそ政府と沖縄は話し合うときだ

 沖縄県の米軍普天間基地の県内移設を容認した仲井真弘多知事が知事選で敗れた。移設作業が円滑に進まなくなるおそれがある。新知事との話し合いの糸口を探りつつ、日米同盟への影響をいかに小さくするか。安倍晋三首相はこの難題に取り組まねばならない。

 今回の知事選では、沖縄が返還された1972年から続いてきた基地容認の保守と基地反対の革新がぶつかる構図が初めて崩れた。

 初当選した翁長雄志前那覇市長は自民党の沖縄県連幹事長も務めた保守派である。しかし、自民党が推した仲井真氏とたもとを分かち、県内移設反対を掲げて共産党や社民党とも共闘して勝利した。

 背景にあるのは県民意識の変化だ。地元紙の世論調査などによると、県内移設への反対は自民党支持層でも半数を超えており、それが保守分裂を招いた。

 中国の海洋進出で沖縄の地政学的な重要度は高まっている。政府は沖縄などの離島防衛に力を入れると同時に、日米同盟を強化すべく防衛協力の指針(ガイドライン)の改定にも取り組んでいる。

 ところが沖縄ではそうした緊張の高まりが先の大戦での悲惨な経験の記憶を呼び起こし、平和運動が盛り上がるという本土とは逆の現象が起きている。

 ただ、反基地に賛同する県民のすべてが日米安保体制を否定しているのではない。米軍機の騒音や米兵による事件・事故など身近な不満がなかなか解消されないことで「沖縄は軽んじられている」と感情的に反発している面がある。

 ボタンの掛け違いを直すには、安倍政権がこれらの課題に真正面から向き合っているかを目に見える形で示さねばならない。

 翁長氏も国際情勢を冷静に判断し、政府との話し合いのテーブルに着いてもらいたい。名護市での基地建設に必要な埋め立て工事は仲井真氏が承認済みであり、新知事に覆す権限はない。

 沖縄県は長年、日米地位協定の改定を求めてきたが、米政府は消極姿勢を貫いてきた。改定は日本政府と沖縄県が足並みをそろえてこそ実現できる。その結果、県民の日常生活に変化があらわれれば県民感情も徐々に軟化しよう。

 普天間は市街地に囲まれた基地である。ひとたび事故が起きれば甚大な被害が生じる。政府と沖縄県がいがみ合っている場合ではない。その原点を確認するところから話し合いを始めるべきだ。

地域の強み生かす職業訓練に

 地方を活性化するため欠かせないのは成長性の高い産業を育て、雇用の安定と拡大につなげることだ。衰退産業から伸びる分野へ人を移していかなければならない。

 そこで重要なのは、人が新しい仕事に就くために必要な技能や知識を習得しやすくすることだ。職業訓練の意義は大きい。自治体は地域で人材の需要が伸びる分野をよく見定め、訓練の内容や進め方に知恵を絞ってもらいたい。

 愛媛県や千葉県は観光、愛知県は産業集積の進む航空機製造、宮城県はIT(情報技術)関連などというように、成長分野を中心とした職業訓練が10都道府県で12月から順次始まる。

 訓練内容はそれぞれの地域で国、都道府県や地元企業が協力してつくり、実際の訓練は専門学校など民間に委託する。訓練を終えた人の就職率など効果の見極めにも力を入れるという。

 地域の強みや資源を生かそうとする点は適切だ。国、自治体による公共職業訓練では今後、そうした地域の潜在力を発揮するメニューづくりを推し進めてほしい。

 なかでも観光は外国人客の増加が追い風だ。添乗やホテル業務に就ける人材の養成は全国共通の課題だろう。英語、中国語など語学力は一段と大事になっており、職業訓練でも重視したい。

 訓練の効果の見極めもこれまで以上に重要だ。公共職業訓練はサービス分野を中心に民間委託が進んできたが、実際に就業できるだけの能力を身につけられるようにするには内容の改善を絶えず促す必要がある。専門学校など民間訓練機関の質向上が欠かせない。

 愛知県での航空機分野の訓練はメーカーの現場で組み立てや修理作業を学ぶ計画もある。企業からじかに教えてもらえれば、即戦力の人材を育てやすい。企業と連携した職業訓練を広げられないか、自治体は考えるべきだ。

 地方を一気に活性化する妙手はない。地域の産業を元気にする手を一つ一つ打つ必要がある。なかでも担い手づくりは柱になる。

沖縄県知事選―辺野古移設は白紙に戻せ

 沖縄県知事選で、新顔の翁長雄志(おながたけし)氏(64)が現職の仲井真弘多(なかいまひろかず)氏(75)らを大差で破り当選した。「これ以上の基地負担には耐えられない」という県民の声が翁長氏を押し上げた。

 最大の争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非だった。1月の名護市長選、9月の同市議選に続き、知事選も移設反対派が制したことで、地元の民意は定まったと言える。

 「沖縄に寄り添う」と繰り返してきた安倍政権である。辺野古への移設計画は白紙に戻すしかない。

■「保革」超えた動き

 政権側は辺野古移設を「過去の問題」として、知事選での争点化を避けようとした。

 だが、翁長氏は「あらゆる手法を駆使して辺野古に新基地をつくらせない」と主張。仲井真氏は「一日も早い普天間飛行場の危険除去には、辺野古移設が具体的で現実的な方策」と応じた。民意は翁長氏についた。

 県民にとって、今回の知事選には特別な意味があった。

 普天間飛行場の海兵隊は、山梨県や岐阜県の基地から、米軍政下の沖縄に移ってきた。米軍は「銃剣とブルドーザー」と呼ばれる強権的手段で住民の土地を奪い、基地を建設した。

 そして、国土の0・6%の沖縄に、全国の米軍専用施設の74%が集中する不公平。

 「基地は県民が認めてできたわけではない。今回、辺野古移設を受け入れれば、初めて自ら基地建設を認めることになる。それでいいのか」。県内にはそんな問題意識が渦巻く。

 それは「本土」への抜きがたい不信であるとともに、「自己決定権」の問題でもある。自分たちが暮らす土地や海、空をどう使うのか、決める権利は本来、我々にこそある、と。

 前那覇市長で保守系の翁長氏は「イデオロギーでなく沖縄のアイデンティティーを大切に」と訴え、保守の一部と革新との大同団結を実現した。とかく「保革」という対立構図でとらえられがちだった沖縄の政治に起きた新しい動きだ。

■公約違反に「ノー」

 96年に日米両政府が普天間返還に合意し、移設先として辺野古が浮上して18年。この間ずっと沖縄では、辺野古移設が政治対立の焦点となってきた。

 転機は2009年、「最低でも県外」と訴えた民主党の鳩山政権の登場だった。迷走の末、辺野古移設に逆戻りしたものの、「県外移設」に傾いた県民感情は収まらない。

 辺野古容認派の仲井真氏も、前回10年の知事選では「県外」を求め、再選された。

 以来、自民、公明を含めた沖縄の主要政党が辺野古移設反対で一致。「オール沖縄」と呼ばれる状況が生まれた。

 ところが、自民が政権に復帰すると、激しい巻き返しが始まる。党本部の圧力で、党国会議員団、党県連が、辺野古容認に再転換。仲井真氏も昨年末、埋め立てを承認した。

 今回有権者が突きつけたのは、本土の政権に屈して公約を覆した地元政治家に対する「ノー」だったとも言える。

 政府がこの夏、ものものしい警備のなか、辺野古のボーリング調査を強行したことも、県民の怒りを増幅させた。

 政府が打ち出す基地負担軽減策も、県民には「選挙対策か」と空々しく映っただろう。

■唯一の選択肢か

 なぜ、日本政府は沖縄に基地負担を強い続けるのか。

 最近は、中国の海洋進出や尖閣諸島の問題があるからだと言われる。だがそれは、米海兵隊の恒久的な基地を沖縄につくる理由になるのだろうか。

 尖閣周辺の対応は海上保安庁が基本だ。万が一の場合でも、少なくとも海兵隊が沖縄の基地に張り付いている必要はない。

 日米両政府は「辺野古が唯一の選択肢」と強調するが、米国の専門家の間では代替策も模索されている。フィリピンや豪州に海兵隊を巡回配備し、ハワイやグアム、日本本土も含め地域全体で抑止力を保つ考え方だ。

 米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授は「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘する。沖縄だけに基地を集める発想はかえって危ういという意見だ。

 「辺野古移設か、普天間の固定化か」。第三の道となる代替策を無視して二者択一を迫る政府の手法は、適切ではない。

 しかし、政権内に辺野古移設を見直す気配はない。新知事となる翁長氏に、沖縄への一括交付金の削減で対抗するという声すら聞こえてくる。

 明白になった沖縄の民意をないがしろにすれば、本土との亀裂はさらに深まる。地元の理解を失って、安定した安全保障政策が成り立つはずもない。

 知事選を経て、普天間問題は新たな段階に入った。二者択一の思考停止から抜け出す好機だろう。政府は米国との協議を急ぎ、代替策を探るべきだ。

沖縄県知事選 辺野古移設を停滞させるな

 曲折の末、ようやく軌道に乗った米軍普天間飛行場の移設を停滞させてはならない。新知事に慎重な対応を求めたい。

 沖縄県知事選は、翁長雄志・前那覇市長が現職の仲井真弘多氏らを破って初当選した。

 選挙では、普天間飛行場の名護市辺野古への移設の是非が最大の争点とされた。

 元自民党県連幹事長の翁長氏は「移設反対」を唱え、共産、社民など革新政党との保革共闘によって、幅広い支持を集めた。

 自民党推薦の仲井真氏は、「普天間問題の一日も早い解決」を最優先課題に掲げ、「移設容認」の立場を鮮明にした。

 仲井真氏が昨年末、移設先となる辺野古沿岸部の埋め立てを承認したのは、住宅密集地にある普天間飛行場の危険性の早期除去を重視したゆえの決断だった。

 移設予定地は市街地から遠く、騒音や事故の危険性が現状に比べて格段に小さい。沖縄全体の基地負担を大幅に軽減しつつ、米軍の抑止力も維持するうえで、最も現実的な方法なのは間違いない。

 知事選では公明党が、辺野古移設に反対する県本部を説得できずに自主投票としたが、与党の対応として疑問が残った。与党時代に辺野古移設を決めた民主党の自主投票も、無責任だった。

 翁長氏は長年、辺野古移設を容認していたが、民主党の鳩山政権下で反対に転じ、県外移設を主張している。今回、「新辺野古基地は絶対に造らせない」と訴えながら、具体的な代替案を示さなかったのは責任ある態度ではない。

 普天間飛行場の移設が滞れば、「2022年度以降」とされた返還が実現せず、危険な現状の長期固定化を招く恐れがある。他の米軍基地の返還も遅れるだろう。

 この問題にどう対処するか、翁長氏は見解を示すべきである。

 翁長氏は当選を決めた後、埋め立て承認の「取り消し、撤回に向けて断固とした気持ちでやる」と語った。だが、法的に瑕疵かしのない承認の取り消しなどは困難だ。

 防衛省は現在、仮設道路の追加など埋め立て工事内容の一部変更の承認を県に申請している。

 翁長氏が徹底的に移設を阻止しようとすれば、政府との対立は避けられない。その場合、年3000億円台の沖縄振興予算をどうするか、という問題も生じよう。

 翁長氏も現実路線に立ち、政府との接点を探ってはどうか。

 政府・与党は、翁長氏の出方を見つつ、辺野古移設の作業を着実に進めることが肝要である。

日米豪首脳会談 重層的な安保協力を強めたい

 アジア太平洋地域は現在、多くの安全保障上の課題に直面している。これらの解決へ、日米豪3か国が重層的な協力を推進する方針を確認した意義は大きい。

 安倍首相は16日、豪ブリスベーンでオバマ米大統領、アボット豪首相と会談した。日米豪首脳会談の開催は7年ぶり2回目だ。

 イスラム過激派組織「イスラム国」の脅威除去や、エボラ出血熱対策、北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題、海洋安全保障などで協力するとの共同文書を発表した。

 オバマ米大統領は15日の外交演説で、残る2年の任期中、アジア重視の「リバランス(再均衡)政策」を堅持し、同盟国との関係を強化する方針を表明している。

 日豪両国がこれに呼応し、安保協力を拡充することは、東・南シナ海における中国の独善的な海洋進出や、北朝鮮の軍事的挑発を牽制(けんせい)するうえで有効だろう。

 会談では、アボット首相が潜水艦の共同開発の必要性に言及し、日米豪協力の推進で一致した。

 豪軍潜水艦6隻を更新する際、日本が船体技術、米国が武器を提供する方向で検討している。

 日本の船体技術は、潜航深度や航続距離で世界最高水準にある。最高機密である潜水艦の装備技術での協力は、日米豪の安保協力が新段階に入ることを意味する。今年4月に決定した防衛装備移転3原則の重要な成果にもなろう。

 安倍、アボット両首相は協調関係にある。日豪協力を重層的な日米豪協力に発展させることはアジアの平和と安定に寄与する。

 共同文書は、安保協力として、自衛隊と米豪軍の共同訓練や、3か国による途上国軍隊の能力構築支援の強化も明記している。

 自衛隊と米豪軍は昨年以降、グアムなどで陸海空3分野の共同訓練を重ねている。今月上旬には東北での自衛隊などの大規模な防災訓練に米豪軍が参加した。

 共同訓練を通じて、相手国の部隊運用や戦術を間近に見ることは自国部隊の能力向上につながる。有事や大規模災害時の即応力も高まる。着実に拡大したい。

 安倍首相とオバマ大統領は日米首脳会談も行い、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について、早期妥結に向けて両国が一層の努力をする方針を確認した。

 日豪が7月に署名した経済連携協定は、年明け以降に発効する方向だ。米国も、中間選挙の終了を踏まえ、日米の関税協議で一定の柔軟性を示し、TPP交渉の合意へ役割を果たしてもらいたい。

2014年11月16日日曜日

企業は一段の成長に向け投資の加速を

 上場企業の2014年4~9月期決算が出そろった。これまでの本紙集計では、本業の稼ぎに金利の受け払いを加えた経常利益が前年同期より約10%伸び、上期として最高水準となった。

 15年3月期通期の経常利益は前期に比べ3%増え、リーマン・ショック前の08年3月期の最高益と肩を並べる見通しだ。日銀の追加金融緩和を受けた円安が、早くから合理化に着手した企業の業績拡大を後押ししそうだ。

 しかし個人消費は回復が遅れ、新興国の成長も鈍るなど、国内外で懸念材料は多い。経営環境が不透明さを増すなか、企業は成長戦略を加速させる必要がある。

 金融危機後の日本企業は不採算事業の縮小・閉鎖や、M&A(合併・買収)を活用した国際展開などにより、収益力の回復をはかってきた。そうした努力の成果は決算に確実に表れている。

 リストラの成功例の1つはパナソニックだ。プラズマテレビなど不振事業からの撤退を進めたことにより高コスト構造が改まり、今期は15%増益を見込む。M&Aが業績に寄与した例としては、12年に米住宅用空調大手グッドマン・グローバルを買収したダイキン工業があげられる。

 全体として企業業績の底上げが進む一方で、収益が低迷する企業も目立つなど、二極化の傾向も出ている。ソニーは上期にスマートフォン事業で損失を計上し、帝人はシンガポール工場などの閉鎖に伴い、通期で200億円の最終赤字を見込む。

 業績がさえない企業に共通するのは、中国をはじめとする新興国の企業との価格競争に押されていることだ。コスト削減や商品の絞り込みといった対応も、必ずしも迅速ではなかった。国内外の競合相手との収益力の格差を縮めるために、今後は聖域を設けることなく事業の選択と集中の速度を上げなくてはならない。

 業績拡大が軌道に乗っている企業も成長のための先行投資を怠るわけにはいかない。北米事業の好調で今期の純利益が2兆円台に乗る見通しのトヨタ自動車は、環境・安全分野などへの研究開発費を従来計画から200億円増やし9800億円とする。

 日銀の追加緩和は海外投資家の日本への関心を再び高めることにつながった。投資資金の流入を確かなものとするためにも企業は強さを磨く必要がある。

認知症対策の担い手になろう

 政府は現行の認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)に代わる、新しい計画を策定する方針だ。より内容を充実させ、取り組みを加速させる必要がある。

 認知症の高齢者の数は約460万人という推計がある。誰にとっても無縁ではない。見守りなど、地域住民にもできることはある。社会全体で認知症への理解を深めて、一人ひとりが対策の担い手になっていくための一歩としたい。

 現行の計画の柱は、早期の対応と地域で支える体制づくりだ。従来、認知症は医療機関への受診が遅れ、症状が悪化してしまう例が珍しくなかった。精神科病院への長期入院や介護施設への入所といった経路をたどることも多い。

 これでは病院や施設が足りなくなり、医療・介護費が巨額になる恐れもある。なによりも本人にとって望ましいのか疑問だ。兆候を早く見つけ、医療機関につなげて、その後は本人ができる限り自宅で心穏やかに過ごせるような環境整備が基本だろう。

 新計画でも現行計画の考え方を踏まえ、認知症に詳しい医師や看護師、介護職ら地域の専門家の育成を急いでほしい。認知症に対する研究を促進し、予防や治療の新技術も開発してもらいたい。

 専門家だけががんばればいいという話でもない。認知症の人の暮らしを支えるためには、地域住民の理解と協力が必要だ。認知症について学ぶ場をもっと増やしていくべきだろう。わたしたちも積極的にそこにかかわりたい。

 徘徊(はいかい)で行方不明になった人を探すためには多くの住民の力が必要になる。認知症高齢者を狙った悪質商法も増えている。日々の見守りは認知症の人や家族の安心につながるだろう。認知症への知識と理解は、自分や家族に兆候があった際にも役立つ。

 このほか、住み続けやすい住宅やまちづくりなども進めたい。認知症の当事者の声を施策に生かすことも必要だ。世界的にも深刻化する認知症に対応していくためには、総合力が求められる。

消費増税の先送り 一体改革を漂流させるな

 来年10月に予定している消費税率の10%への再引き上げを先送りする。安倍政権がこうした方針を固め、民主党も認めた。

 再増税は、7~9月期の国内総生産(GDP)速報などの経済統計を見て、有識者の意見も聞きつつ、安倍首相が判断する。菅官房長官らはそう説明してきたはずだ。

 ところが、GDPの発表を待たず、有識者からの聞き取りが続いているさなかに、政府・与党内で増税先送りと年内の衆院解散が既定路線となった。民主党もこの流れに乗るという。

■議論なき政策変更

 首相が公式にはひと言も発しないまま、重要な政策変更が固まる。もちろん、議論がないままに、である。

 2年半前に民主、自民、公明がかわした「社会保障と税の一体改革」に関する3党合意は、次のような趣旨だった。

 ――高齢化などで膨らみ続ける社会保障を安定させる必要がある。その費用をまかなう国債の発行、つまり将来世代へのつけ回しは減らしていくべきだ。負担を皆で分かち合うために消費税の税収をすべて社会保障に充て、税率を引き上げていく。

 負担増は国民に嫌われる。でも避けられない。だから、与野党の枠を超え、政治の意思として国民に求める――。

 そうした精神も議論の空白の中で吹き飛ぼうとしている。

 まず責められるべきは安倍政権だ。税率の再引き上げについては、増税を定めた法律に経済状況を勘案するとの「景気条項」がある。だからこそ、経済統計を待ち、有識者の意見を聞くのではなかったのか。

 確かに、足もとの景気は力強さにかける。とはいえ、08年のリーマン・ショック時のような経済有事とは違う。一体改革は将来にわたる長期的な課題だ。景気が振るわないなら、必要な対策を施しつつ増税に踏み切るべきではなかったか。

 一方、民主党の野田前首相は「景気回復の遅れを政府が認めようとしている中で、増税しろとは言えない」と語る。選挙戦を念頭に、現政権の経済政策の失敗がこの状況を招いたと強調する狙いがあるのだろうか。

 今後、数十年にわたって直面する高齢化と人口減少を見すえ、私たちは「給付と負担」という重い課題に向き合っていかざるをえない。それなのに政治は、「決断の重さ」からいち早く逃げだそうとしている。

 首相は来月の総選挙を念頭に衆院を解散する意向だ。だがその前に、一体改革をどう考えているのか、安倍氏と野田氏は国民の前で一対一で議論する機会を設けてはどうか。

■福祉も財政も直撃

 消費増税の延期は、社会保障のあり方と、それと不可分の財政再建計画を直撃する。

 一体改革では、税率引き上げによる税収の増加分の使い道もおおむね決められている。

 計画していた給付を削るのか。削らないなら財源をどう手当てするのか。

 国債発行に頼れば財政再建は遠のく。政府は基礎的な財政収支の赤字について、GDPに対する比率を10年度の6・6%から15年度に半減させ、20年度には黒字化する計画だ。消費税率を予定通り10%にすれば15年度の目標はぎりぎり守れそうだが、20年度に向けてさらに増税や歳出削減が不可欠という厳しい状況にある。

 日本銀行は、大胆な金融緩和のために国債を大量に買っている。日銀が政府の予算を穴埋めしていると見なされれば、国債や円への信頼がゆらぎ、相場急落に伴う「悪い金利上昇」や「悪い円安」を招きかねない。

 日銀は、10月末に金融緩和策第2弾を決め、国債購入の上積みを打ち出した。その直後に政府が増税を先送りする。市場の不信を招きかねない。

■先送り論に歯止めを

 この間の経緯を見れば、今後も先送りを繰り返すことにならないか、疑念が募る。歯止めが不可欠だ。

 まずは再増税の時期を明確に示すことだ。1年半先送りして17年4月とする案が有力のようだが、なぜ1年半か、社会保障や財政再建をどうするのか、説明する責任が首相にはある。

 そして、給付をまかなうために負担増が避けられないことを語らねばならない。

 そのためにも、法律の景気条項を削除するべきだ。この条項は経済の混乱時に増税を見送る趣旨だとされるが、増税反対派への配慮もあって「経済の好転」を条件とし、目標とする経済成長率が盛り込まれている。

 経済の混乱時に増税を見送るのは当然であり、規定の有無にかかわらず政治の責任で判断すればよい。不人気政策を避ける方便に使われるあいまいな規定は百害あって一利なしだ。

 いま、考えるべきは、全ての世代にわたる助け合いのあり方だ。政治も、私たち国民も、相互扶助の礎である「給付と負担」を熟考する時である。

衆院選公約 責任ある経済政策を打ち出せ

 各党は衆院選の政権公約作りを急いでいる。消費増税を含む経済政策では、現実的で責任ある主張を掲げるべきだ。

 安倍首相は、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げを先送りし、衆院解散・総選挙に踏み切る構えだ。デフレ脱却を確実にする狙いだろう。

 だが、消費増税により、社会保障費の膨張などに対応するのが、社会保障と税の一体改革に関する2012年の自民、公明、民主3党合意の根幹だった。

 自公両党は政権公約に、いつまで先送りするのか、その時期を明記しなければならない。引き上げと同時に、生活必需品などの税率を低く抑える軽減税率を導入することも盛り込む必要がある。

 持続可能な社会保障制度を築くため、負担増や給付抑制を含む改革に正面から取り組み、将来の不安の解消に努めねばなるまい。

 自民党は既に、公約に盛り込む「当面の経済対策」の検討に着手している。円安やエネルギー価格高騰への対応、地域活性化などが柱だ。景気の腰折れを防ぐ一定の効果はあるだろうが、予算のばらまきは避けることが必要だ。

 デフレ懸念を払拭するには、様々な成長戦略を推進し、企業や地域の活力を最大限引き出すことが、より重要となる。

 自民党は、企業の競争力強化や外国からの対日投資の拡大などに向け、規制改革や税制優遇措置を具体的に示すべきだろう。

 政権選択の選挙である衆院選の公約は本来、4年間の任期を見据えた総合的な政策を打ち出す意味を持つ。与党は、中長期的な視点に立った取り組みと、その道筋を明らかにすべきである。

 民主党は急きょ、消費再増税の先送りを容認する方針を決めた。「安倍政権の経済失政で、国民はさらなる負担増を受け入れるような状況にない」と主張する。

 だが、アベノミクスを批判するだけでは、国民の広範な支持は得られまい。政権を担当した政党として、デフレ脱却の具体的な処方箋を明示するのが筋である。

 最低保障年金の創設など、実現性が乏しい従来の公約の見直しや、集団的自衛権の行使の是非に関する党見解の策定も急務だ。

 1強の自民党に対抗するため、「多弱」の野党は、どこと連携するかも重要である。

 民主党は、維新の党、みんなの党と小選挙区で候補者調整などを始めた。ただ、候補擁立作業は遅れており、選挙協力がどこまで進むかは見通せない。

会計検査院報告 命に関わる予算の有効活用を

 国の借金が1000兆円を超え、財政状況は厳しさを増している。各府省には予算の適正な執行が求められる。

 会計検査院が2013年度の決算検査報告書をまとめた。指摘された税金の無駄遣いや徴収漏れなどは595件、計2831億円に上った。

 検査院は近年、公費で成り立つ制度や事業が有効に運用されているかという観点で、府省の予算をチェックしている。今回の報告書でも、社会保障予算の執行状況に厳しい目を向けた。

 例えば、75歳以上の後期高齢者の高額医療費を国が一部負担する制度だ。10~12年度に13億円超の国費が過大に支払われていた。

 医療機関への支払い業務を担う都道府県の広域連合が、提出された診療報酬明細書(レセプト)を重複計上して、国に請求したのが原因だ。厚生労働省は、ずさんな事務処理の再発防止策を講じ、広域連合を指導する必要がある。

 検査院は、入院の必要性が低い高齢者の病床を介護施設に転換する事業の進捗しんちょく具合も調べた。医療費を抑制するための事業だが、実際に転換したのは、当初見込みの15%にとどまっていた。

 その結果、政府や自治体などが拠出した67億円のうち、55億円が塩漬け状態だった。厚労省の見通しの甘さは否定できまい。事業計画を再検討すべきだろう。

 社会保障費は、最大の歳出項目だ。制度の維持には、無駄な支出を排することが欠かせない。

 報告書では、防災事業の問題点も浮かび上がった。

 23道県にある106の治水ダムでは、上流から流れ込んだ土砂が予想以上に堆積し、大雨に備えて空けておくべき容量が十分でなかった。国土交通省や自治体の維持管理に問題はないのか。

 堤防の漏水量などの計測や、故障した地震計の修繕を3年以上行っていないダムも25を数えた。

 ダムの治水機能が低下すれば、洪水のリスクが高まる。検査院が問題の見つかったダム名を公表したのは、警鐘を鳴らす意味で妥当な措置と言える。

 電柱の地中化事業では、電線を地中に通す施設が完成したのに、電柱と電線が5年以上もそのままになっている地点が少なくとも54か所あった。このうち47か所が災害時の緊急輸送道路に指定されていたことは、見過ごせない。

 地震で電柱が倒れると、救助や消火活動が妨げられる。

 国民の生命に関わる投資は、きちんと生かすことが肝要だ。

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