2015年2月28日土曜日

政投銀の完全民営化へ明確なプラン示せ

 政府が日本政策投資銀行法と商工組合中央金庫法の改正案をまとめた。

 将来、政府が保有する株式すべてを売却する「完全民営化」の方針を維持する一方、これまで2022年度としていた完全民営化の新たな時期を示さず、事実上先送りする内容だ。

 政投銀は2008年に特殊法人から、全株式を政府が保有する株式会社へと変わった。商工中金は政府が5割弱の株式を持つ。

 法案は政投銀に当分の間、東日本大震災やリーマン・ショックのような危機に対応する業務を義務づけるとともに、政府に発行済み株式の3分の1超の保有を課した。商工中金にも危機対応業務を義務づけ、それまでは政府が株式を保有し続ける。

 震災や金融危機が起きたとき、企業の資金繰りを支えたり、壊れた工場や店舗などを再建する設備資金を提供したりする金融機関は必要だ。しかし、東日本大震災の際にこうした危機対応業務を担う民間金融機関はなかった。

 民間金融機関が危機対応を担えるようになるまで、政投銀や商工中金が有事の金融安全網の役割を果たすのは理解できる。完全民営化の先送りはやむを得ない。

 問題は完全民営化の目標時期すら示さなかったことだ。「当分の間」といいながら実質的に完全民営化を無期延期したとも読める。「民間でできることは民間で」という公的金融改革を後退させてはならない。

 たとえば、3年ごとに民間金融機関が危機対応業務を担えるようになっているかを点検し、政投銀や商工中金の完全民営化の目標時期を見定めるような仕組みは必要だろう。

 政投銀は資金調達のかなりの部分を政府の財政投融資に頼っている。完全民営化に備え、できるだけ自力で資金を調達できる工夫と努力を怠るべきではない。民業補完の原則の下で先端的な金融サービスにも磨きをかけてほしい。

 政投銀は地方創生に重点投資するファンドもつくる。ファンドが存続する25年度まで、政府は政投銀株を2分の1以上保有する。

 官民ファンドが乱立し、その機能や役割に重複があるか否かの検証が十分でない。そんな中で新たな官製ファンドができるのは疑問だ。民業圧迫を避けると同時に、地方支援の名の下で地域の自助努力をそぐことは厳に慎むべきだ。

判決をセクハラ防止の指針に

 女性の部下にセクハラ発言を繰り返した男性社員2人を出勤停止にした懲戒処分は重すぎるか。これが争われた訴訟で最高裁は「処分は妥当」との判断を下した。

 言葉によるセクハラ被害を正面から認定し、企業が毅然とした対応をすることを後押しする判決だ。セクハラがまかり通るようでは「女性の活躍」も絵に描いた餅となる。セクハラを許さない職場にする指針としたい。

 「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」「夜の仕事とかしたらええやん」。1年以上にわたったセクハラ発言の一部だ。より露骨な性的表現もあった。最高裁は「強い不快感や嫌悪感、屈辱感を与えるもので、極めて不適切」などと指弾した。

 とりわけ、女性側から明白な拒否がなかったことを、男性側に有利な事情と認めなかったことは大きい。人間関係の悪化などを心配して、抗議や会社への申し出をためらう人が少なくないからだ。

 二審は、拒否がなかったことに加え、会社が事前に男性に警告をしていなかったことを重視し、処分を「無効」としていた。だが、セクハラは密室で行われ、周囲が把握しにくいことも多い。二審を破棄した最高裁の判断は、被害の実態を踏まえた妥当なものだ。

 セクハラは被害者を傷つけ、苦しめるだけではない。職場の雰囲気や企業イメージにも悪影響を及ぼす。セクハラをなくすことは、働き手がより力を発揮しやすい環境整備につながる。

 企業の取り組みを真に実効性のあるものにするためには、一人ひとりが意識を変えることが欠かせない。ともすれば言葉によるセクハラは、「体を触る」などに比べ軽く受け止められがちだが、そんな甘えはもはや通用しない。

 大事なのは、セクハラの何が問題なのかをきちんと考えることだ。本質を理解しないまま必要なコミュニケーションまで減らしたり、形式的なやりとりに終始したりすることがあってはならないのは、言うまでもない。

政治とカネ―疑惑の連鎖を断ち切れ

 安倍内閣の閣僚に、政治献金の疑惑が相次いでいる。

 国からの補助金交付が決まった企業からの寄付が問題とされ、西川前農水相が辞職したばかり。きのうは、望月環境相と上川法相が代表を務める自民党支部が、やはり補助金交付対象の企業から禁止された期間内に寄付を受けていたことが明らかになった。

 また、下村文科相を支援する団体が政治団体の届け出をしないまま活動していることが違法ではないかと週刊誌で報じられ、国会で民主党などから追及を受けている。

 望月氏は、企業が補助金を受けていることは知らなかったなどとして「法には触れない」。下村氏は「世上いわれるような政治活動をする後援会とは全く違う」と説明する。安倍首相も、問題はないとの認識だ。

 しかし、単に「知らなかった」ですませられる問題なのか。辞めた西川氏は、寄付を受けた企業から顧問として報酬を受け取っていたことも明らかになった。野党が厳しく追及するのは当然である。

 この種の問題が発覚するたびに、政治資金規正法の限界が指摘されてきた。改正を重ねても、政治とカネをめぐる不祥事は尽きることがない。

 疑惑の連鎖を断ち切るためには、問題の根っこから改めることが必要だ。企業・団体献金の禁止である。

 1994年の一連の政治改革では、5年後に政治家個人への企業・団体献金を禁止し、政党への寄付のあり方についても見直すと決められた。

 確かに、99年の政治資金規正法の改正で政治家個人への企業・団体献金は禁止された。だが、大きな抜け穴がいまだに温存されている。

 政治家が代表する政党支部への企業・団体献金が、いまだに認められているのだ。

 今回、西川前農水相や望月環境相、上川法相が問題にされている寄付は、まさにこの政党支部に寄せられたものだ。

 企業や団体が献金を通じて政治家とつながれば、癒着や腐敗を招きやすい。そのもとを断ち、国民1人あたり250円分の税金による政党助成と個人献金を中心に政治を支えるようにしていく。国会は20年前そう説明していたのではなかったか。

 おりしもきのう、維新の党が企業・団体献金を全面禁止する法案を衆院に出した。

 20年前の「約束」を実行に移す時ではないか。安倍首相をはじめ与党も、その他の野党も、明確な態度を示すべきだ。

中1殺害事件―なぜ異変を見逃したか

 なぜ、13歳の命を守れなかったのだろう。

 川崎市で中学1年の上村(うえむら)遼太さんが殺された事件で、10代の3人が殺人容疑で逮捕された。

 上村さんは未明に河原で暴行を受け、首を何カ所も切られて命を絶たれた。どれほどの恐怖と苦しみを味わったことか。

 周りが異変に気づく契機はいくつもあった。学校、行政、地域はなぜあと一歩踏み出せなかったのか。そのことが悔しい。

 まず不登校だ。彼は冬休み明けから欠席するようになった。

 川崎市教育委員会によると、担任教諭は自宅や母の携帯に30回以上電話し、5回家庭訪問していた。本人とは1回電話で話したが、会えなかったという。

 彼は昨年の夏休み過ぎから部活動を休み始めていた。学校は、他校の生徒たちと一緒にいる姿を把握していたという。だが、暴力を受けた事実は知らなかったとしている。

 市教委の発表からは、学校の組織としての対応が見えてこない。学校と警察、教委が集まる会合でも、名前を伏せて「不登校の子がいる」と報告しただけだったという。これでは情報交換になっていない。

 思春期の子が気持ちを打ち明けるのは、教師や親より同じ世代の友達であることが多い。

 今回も友人が1カ月前、目の周りに大きな黒いあざができた上村さんに会い、「殴られた」と聞いていたという。「柄の良くない人と遊んでいるのを見た」という生徒もいる。

 子どもたちがこうした話を、そっと寄せる関係が、教員や保護者、地域の大人との間にあったなら、と残念でならない。

 彼は5人きょうだいで一昨年秋、転校してきた。母が家計を支えていた。島根県の島の港から「遼太頑張れ」の横断幕を掲げた数十人の子たちに送り出されていた。都会に来た彼の居場所はどこにあったのだろう。

 ケアを要する子どもは少なくない。だとしても彼の場合、もっと周りに家庭ごと支える視点が必要だったのではないか。

 市教委は市内全区にスクールソーシャルワーカーを置いている。家庭や地域など環境に働きかけて子どもを支える役目だ。だが学校は市教委に派遣を求めていなかった。学校と市の福祉部局、児童相談所などの連携のあり方も問われる。

 文部科学省は学校や教委の対応を検証する会議を設けた。経緯を公表し再発防止策を打ち出してほしい。全国の学校や地域は自分ならどうするか考えてもらいたい。大人が13歳の死を無にしない道は、それしかない。

自衛隊「恒久法」 国連決議なしの活動も可能に

 様々な事態が発生した際に、自衛隊を機動的に派遣し、世界の平和と安定に協力できる法制にすることが肝要だ。

 新たな安全保障法制に関する与党協議が本格化してきた。自衛隊の国際協力活動は、現行の周辺事態法と国連平和維持活動(PKO)協力法の改正と、新たな恒久法の3本柱の法制とする方向で調整している。

 無論、自衛隊が戦闘行動に参加することはない。他国部隊に対する補給・輸送などの後方支援を柔軟かつ効果的に実施できるようにしておくことが欠かせない。

 その観点から、周辺事態法を改正し、地理的な制約を外すとともに、米軍以外の他国軍への後方支援を可能にすることが重要だ。

 肝心なのは、危機が発生した場所がどこかでなく、日本の平和と安全にどんな影響を与えるかだ。朝鮮半島有事に限らず、日本から離れた地域の事態が重大な影響を及ぼすことは十分あり得る。

 米軍以外の部隊と自衛隊が連携する機会も少なくなかろう。

 恒久法では、国連安全保障理事会の決議がない場合も含めるかどうかが焦点となっている。

 自衛隊が役割を果たせる活動はPKOやインド洋での給油、イラク復興支援のように国連決議に基づくものに限定されまい。

 2000年以降だけでも、スリランカやフィリピン・ミンダナオ島の停戦監視、ソロモン諸島の治安維持など、決議がない活動に多国籍部隊が従事した例は多い。

 そもそも安保理は、一部の国が拒否権を発動すれば、決議の採択はできない。決議のない「有志連合」の活動にも自衛隊が参加する余地を恒久法に残すべきだ。

 恒久法を制定すれば、平時から訓練や調査を重ね、装備を整えるなどの派遣準備が可能となる。

 自衛隊はすべての活動に参加するわけではない。任務の重要・緊急性や、日本との関係、他国の動向などを総合的に勘案し、その都度、派遣の是非を判断する。

 原則、国会の事前承認を得るなどの手続きを定めておくことが、文民統制上の歯止めとなろう。

 自衛隊による海外で拘束された邦人の救出や、周辺事態以外での船舶検査を可能にすることも検討されている。邦人救出は、受け入れ国の同意などの厳しい条件が付くし、特殊な訓練も必要だ。

 実際に自衛隊を派遣する可能性が高くなくても、あらゆる事態に備えた法制を整備することが、切れ目のない対応と、迅速な国際協調行動を可能にしよう。

水俣条約批准へ 世界の「脱水銀」を進めたい

 水銀による健康被害や環境汚染を防ぐ取り組みを加速させたい。

 2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」の批准に向け、政府は関連法案を今国会に提出する。水俣病を引き起こした日本は、重い教訓を「脱水銀」に生かしていくことが重要である。

 水銀は、蛍光灯や電池、体温計など、身近な製品に使われてきた。毒性が強く、体内に大量に取り込まれると、手足の震えや運動障害などを発症する。

 石炭火力発電所などから大気に排出された水銀は、分解されずに遠くまで運ばれる。土壌や海に沈着し、生物の体内に蓄積する。

 水俣条約は、水銀の使用や排出を世界的に抑制することが目的だ。一定含有量以上の製品の製造や輸出入を20年以降、禁止する。条約発効には50か国の批准が必要で、既に10か国が批准した。日本も批准を急ぐ必要がある。

 関連法案の特徴は、条約で義務付けられている以上の厳しい規制になっている点だ。20年よりも前に、水銀含有製品の製造・輸出入を禁止する。

 市町村には、使用済み製品を速やかに回収し、適正処理するよう求める。国内では、水銀を使わない製品開発が早くから進んだが、家庭に眠る古い製品も多い。

 水銀含有製品の分別回収を行っている市町村は、約7割だ。分別回収の徹底に加え、店頭回収の拡大など、消費者が利用しやすい仕組みを整備することも大切だ。

 回収された水銀の多くは、アジア諸国などへの輸出に回されている。再製品化の需要があるためだ。輸出量は年間約70トンに上る。

 政府は、回収水銀の輸出も原則禁止とする。今後は国内での処分技術の開発が課題となる。

 大気中への排出抑制も重要である。国内の年間排出量は約20トンで、世界全体の1%程度だが、政府は大気汚染防止法を改正し、新たに排出基準を設ける方針だ。

 条約の対象外である製鉄所には、自主的な取り組みを求める。業界の姿勢が問われる。

 世界的に見ると、途上国の小規模金採掘の現場で大量の水銀が使用されている。鉱石から金を取り出す溶剤として用いられ、約1000万人に上る作業員に健康被害が多発しているという。

 採掘現場からは、大気中にも大量の水銀が排出されている。

 日本など先進国には、途上国での脱水銀を後押しする技術支援が求められる。金採掘に代わる産業育成も必要だろう。

2015年2月27日金曜日

中国と対話を深め独禁政策に透明性を

 中国の独占禁止法当局が外国企業を対象に、不公正な取引を摘発する事例が目立っている。国家発展改革委員会が米半導体大手クアルコムに科した制裁金は、過去最大の60億8800万元(約1150億円)に上った。

 昨年には日本の自動車部品メーカー12社の価格カルテルや、独フォルクスワーゲン、米クライスラーによる補修部品の価格をめぐる不正行為も公表された。競合する中国企業を保護するため意図的に外国企業をたたいているのでは、という疑念も浮上している。

 中国は欧州連合(EU)の制度に倣い2008年に独禁法を施行した。明文化した法律にもとづき自由で公正な競争環境を整えようとすること自体は歓迎できる。

 ただ制度を作っただけでは不十分で、運用が透明でなければならない。外国企業に差別的だという印象が広がれば、国際的な信頼は築けない。外国企業は中国での投資をためらい、中国自身にとっても中長期的に不利益となる。

 クアルコムの場合は、有力な特許を保有する優越的な地位を利用して法外な特許料を徴取したほか、不正な取引条件を強要したとされる。改善が進めば、特許を使う通信端末などの小売価格が下がり消費者にとって恩恵となる。

 企業間の競争にかかわらず消費者に不利益をもたらす不正は許されない。事例は個別に是々非々で論ずべきだ。とはいえ、それにはまず法律を具体的にどう適用したか透明性を高める必要がある。

 企業は目先の摩擦を避けようとしてだんまりを決め込むべきではない。独禁当局と密室の取引で和解するだけでは、本質的な問題解決とはいえない。独禁法運用の実情を企業が自らの体験を踏まえて開示することは、当局の独走に歯止めをかける有効な手立てだ。

 一方、独禁法に照らして首をかしげたくなる案件が中国で散見されるのは事実だ。鉄道車両を製造する2大国有企業の合併や、市場占有率が合わせて9割を超える2大タクシー配車アプリ会社の合併などだ。これでは自国企業には甘いと言われても仕方がない。

 競争政策の法体系は日米欧の間でも整合性が十分ではない。日本は将来的な制度調和を視野に米欧と協調し、中国を恣意的ではない制度の整備と運用へと導くよう対話を深めるべきだ。それは習近平政権の改革の本気度を瀬踏みすることにもなる。

遺族も納得の医療事故調に

 医療行為にともなう死亡事故の原因究明と再発防止を目的とした医療事故調査制度が、10月に始まる。ところが細則を定めるため厚生労働省が設けた検討会の議論が紛糾している。いま一度、原点に立ち返って、遺族らも納得できる仕組みを目指してほしい。

 患者が亡くなったとき、遺族は病院など医療機関の説明に納得できない場合がある。真相を明らかにし責任を追及するため訴訟を起こすことも珍しくない。しかし裁判は長引きがちで遺族も病院も疲弊する。しかも真相は不透明なまま、ということもある。

 責任の追及より原因の究明と再発防止を重視し、医療の質を上げていこうという仕組みが、事故調の制度だ。

 予期しない死亡事故が起こった場合、病院は新設される「医療事故調査・支援センター」に届け出たうえで、外部の専門家も交えた調査組織を院内に設けて調査を実施し、報告書をまとめる。

 この調査結果に納得ができなかった場合、遺族はセンターに再調査を依頼できる。

 制度の細部をめぐって特に問題になっているのは、院内での調査結果の説明の手法についてだ。一部の医療関係者は「口頭説明でよい場合もある」と主張する。遺族側は「落ち着いて理解するためにも報告書を遺族に渡してほしい」と訴えている。

 報告書を手渡すと責任追及のための訴訟などに利用されるのではないか、との心配が医療側にはあるようだ。しかし、2013年に新制度の骨格を定めるために設けられた検討会の報告書は、院内調査報告書について「遺族に十分説明の上、開示しなければならない」と明記している。

 これまで遺族はほとんど情報のない状況の中で苦しんできた。事故が起きた場合、病院はまず誠心誠意、遺族に対して説明を尽くすべきであることは論をまたない。医療者の懸念に一定の配慮は必要だが、基本を忘れずに制度をつくってもらいたい。

衆院選挙制度―アダムズと「朝三暮四」

 猿にトチの実を与えるのに、朝に三つ夕方に四つとしたら猿たちは少ないと怒ったので、朝に四つ夕方に三つとしたら喜んだ――。衆院の選挙制度改革を検討する衆院議長の諮問機関「衆議院選挙制度に関する調査会」(座長=佐々木毅・元東大総長)の議論をみると、「朝三暮四」の言葉が頭をよぎる。

 調査会は「一票の格差」を是正するため、小選挙区の定数配分を「アダムズ方式」と呼ばれる新しいやり方で行うことを軸に検討を進めている。

 この方式で現行の295議席を配分すると、青森、鹿児島など9県で1議席ずつ減る一方、愛知など4県で1議席、神奈川は2議席、東京が3議席増えて「9増9減」となる。2010年の国勢調査に基づく試算では、都道府県間の最大格差は1・598倍になるという。

 佐々木座長は「アダムズ方式」の利点として①議席の増減の幅が小さい②人口減少にある程度対応することができる――などを挙げる。

 しかし、アダムズ方式は、標準的な比例代表制の議席配分方式であるドント方式に基づいて各都道府県に議席を割り振った後、すべての都道府県に1議席ずつ加えた場合と同じ結果をもたらす。かつての「1人別枠方式」はあらかじめ1議席を各都道府県に割り振ったのに対し、アダムズ方式は後から1議席を加えるというだけの違いと言え、11年の最高裁判決の趣旨に照らして疑問がある。

 同判決は、投票価値の不平等をもたらす「1人別枠」には合理性がないとし、速やかな廃止を求めた。3年前の法改正で1人別枠方式は条文から削除されたが、実質的には温存され、最高裁は国会に抜本的な改革を求めている。

 調査会の議論では、アダムズ方式の計算過程には「1人別枠」の考え方は入っておらず、結果として同じになるだけだから問題ないという趣旨の意見も出ているようだが、果たして国民の理解を得られるだろうか。

 そもそも、公表されている議事概要を読む限り、調査会には、民主的平等とは何かという根本的な議論が欠けている印象がぬぐえない。

 有権者の意思を適正に反映する選挙制度は、民主政治の基盤であり、本来、衆参両院の役割分担を踏まえた一体的な議論が不可欠である。昨年12月に衆院選が行われたことで、調査会は時間的余裕を手にしたはずだ。拙速と短絡に流れることなく、「専門家」として、幅広い見地からの議論をお願いしたい。

ドローン―ルールと法の整備急げ

 「ドローン」と呼ばれる小型の無人飛行ロボットが、さまざまな分野で使われ始めている。

 御嶽山噴火の際には降灰の確認に、福島第一原発では放射線が高い区域での調査に利用された。道路橋やトンネルの老朽化チェック、物資の輸送、不審者の発見・追跡といった防犯にも活用が期待されている。その一方で、事故やトラブルの増加や犯罪への悪用といった心配も生じている。

 今ある法律は、ドローンの登場を想定していない。政府は成長戦略の一つとしてドローンの普及に向けた特区を設ける検討を進めているが、まずは安全確保や悪用防止へ、ルール作りや法整備を急ぐべきだ。

 今、注目されているのは、複数の回転翼をもつヘリコプター型のドローンだ。コンピューターを搭載し、GPS(全地球測位システム)などから情報を得て翼の回転速度や姿勢を制御する。事前にプログラムを組み込むことで、完全自動飛行も可能だ。小型カメラつきの機種もあり、ネットで数万円から手に入れることができる。

 様々な分野で活用され始めている一方で、事故やトラブルも目立つようになった。

 昨年秋、神奈川県のマラソン大会で撮影用の無人ヘリが落ち、スタッフが負傷した。フランスでも不審な無人飛行機が大統領府や原発の上空で目撃されて騒ぎになり、米国では今年1月にドローンがホワイトハウスに墜落した。旅客機とのニアミス、麻薬の運搬や無断空撮によるプライバシー侵害なども懸念されている。

 しかし、法整備は遅れている。日本の場合、空港周辺などを除き地上から250メートルまでなら航空法の規制外で、届け出や申請の必要もない。自動飛行時に事故を起こした場合の責任の所在も、操縦者なのかメーカーなのか、あいまいだ。すでに数千機ともされる普及の現状も十分に把握できていない。

 米国政府は先日、商業目的のドローンについて、高度約152メートルまでで昼に限る、といった飛行条件や、操縦者の資格などを含めた規制案を公表した。また、政府機関がドローンを使用する際のガイドラインを検討し始めた。データ収集で人権を侵害する恐れがあるためだ。

 日本政府は、法整備を今後5年以内に進める方針を打ち出してはいる。しかし、年内にも国内メーカーによるドローンの量産が始まるなど、現実が先行している。ドローンの問題点や懸念材料を洗い出して、早急に着手してほしい。

年金制度改革案 将来世代守る視点を忘れるな

 年金制度を老後の支えとなる形で将来世代に引き継ぐには、痛みを伴う改革が待ったなしだ。

 その点で、厚生労働省がまとめた年金制度改革案には、疑問がある。今国会に関連法案を提出する方針だが、内容の再検討を求めたい。

 最大の問題は、少子高齢化の進み具合に応じて給付水準を引き下げる「マクロ経済スライド」の完全実施を先送りしたことだ。

 物価や賃金の上昇分より年金の増額を小幅にとどめ、給付抑制を図る仕組みだが、物価や賃金が下がるデフレ下や上昇率が低い時の抑制を制限するルールがある。

 高齢者の反発を和らげるための措置が、給付抑制の遅れを招き、年金財政を悪化させている。

 少子高齢化に伴い、将来世代の給付水準は、今より2、3割低下する見込みだ。今の高齢者に対する給付引き下げが遅れると、将来世代の年金財源が目減りし、給付水準はさらに下がってしまう。

 将来世代の年金を確保するためには、経済情勢にかかわらず、マクロ経済スライドを完全実施することが不可欠である。

 厚労省は完全実施を模索してきた。ところが、改革案では適用制限のルールを維持しつつ、抑制できなかった分を翌年度以降に繰り越す方式にとどまった。物価や賃金が大幅に上昇した際、まとめて差し引くという。

 この案で懸念されるのは、デフレや低成長が続けば、繰り越しが重なり、いつまでも解消できなくなることだ。かつてのような高成長が難しい時代だけに、その可能性は低くない。

 実例がある。マクロ経済スライド導入前の2000年前後に物価が下落した際、年金の減額を見送った。物価上昇時に調整する予定だったが、デフレが長引き、実現しなかった。結局、13年秋から3段階で減額する事態となった。

 今回の改革案が後退した背景には、与党の反対がある。4月の統一地方選などを控え、高齢者の反発を避けたいという思惑があるのだろう。自民党の会合では「政権は選挙で成り立つ」と、完全実施に異議を唱える声が上がった。

 高齢者に痛みを求める改革は、子や孫世代の安心につながることを、丁寧に説明し、理解を得る。それが政治の責任ではないか。

 医療・介護を含めた社会保障改革は、安倍政権の重要課題だ。財政健全化のカギを握る。選挙の度に不人気な政策から逃げていては、実現は遠のくばかりだ。政府・与党の姿勢が問われる。

言葉のセクハラ 厳格な処分を支持した最高裁

 度を越した従業員のセクハラ発言に、企業が厳格に対応するのはもっともだ――。最高裁の明快なメッセージだろう。

 女性従業員にセクハラ発言を繰り返した男性社員2人に対する懲戒処分を巡り、最高裁は処分を妥当だとする判決を言い渡した。

 大阪の水族館運営会社で課長代理を務めていた2人は、部下の女性に「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」「夜の仕事とかせえへんのか?」といった言葉を度々発した。

 露骨な性的話題を口にすることもあったという。

 会社は、2人を30日間と10日間の出勤停止処分としたうえで、係長に降格させた。

 最高裁は、「強い不快感や嫌悪感、屈辱感を与え、執務環境を著しく害した」と、一連の発言の悪質性を認定した。

 体への接触の有無にかかわらず、性的な言動で相手を不快にさせることは許されない。そんな警告と捉えることもできる。

 1審の大阪地裁は、会社の処分を支持した。2審の大阪高裁は逆に、処分を無効と判断した。

 高裁は、女性が明確に抗議しなかったことから、2人は自分たちの発言が許容されていると受け止めたと認定した。これを踏まえ、処分が重すぎると結論付けた。

 セクハラへの理解を欠いた判断だったと言わざるを得ない。

 最高裁は、セクハラの被害者について、「職場の人間関係の悪化などを懸念し、抗議や抵抗、会社への申告を躊躇ちゅうちょすることが少なくない」という点を重視した。実態を的確に捉えている。

 ハラスメント被害に対し、「我慢した」「諦めて仕事を辞めた」という女性は、それぞれ3割前後に上るという調査結果もある。

 2人は、職場のセクハラ防止に努めるべき管理職の立場にあった。それにもかかわらず、悪質な発言は1年余りにも及んだ。

 こうした状況を考えれば、最高裁が、処分無効を求めた2人の訴えを退けたのは、当然である。

 2007年に施行された改正男女雇用機会均等法は、相談体制の整備など、必要な措置を講じるよう事業主に義務付けた。運用指針では、厳正な対処を就業規則に定めることも求めている。積極的に取り組んでいる企業は多い。

 だが、言葉のセクハラを軽視する風潮は、一部に根強く残っているのも事実だろう。最高裁判決を機に、セクハラに対する意識改革をさらに進めたい。

2015年2月26日木曜日

内外に誤解を生まない戦後70年談話に

 安倍晋三首相が8月に発表する戦後70年談話の作成に向け、西室泰三日本郵政社長を座長とする有識者会議が初会合を開いた。日本が今後、世界とどうかかわっていくのかを示す重要な文書となる。国内外に無用なあつれきを生んでは出す意味がない。誤解を招かない談話にしなくてはならない。

 村山富市首相の戦後50年談話、小泉純一郎首相の戦後60年談話は過去の反省に重きを置いた。

 首相は持論の積極的平和主義の観点から、これからの日本がどんな国際貢献を進めていくのかを談話に盛り込みたい考えだ。意気込みは「20世紀を振り返り21世紀の世界秩序と日本の役割を構想するための有識者懇談会」という会議の長い正式名称から読み取れる。

 メンバーは首相と親しい北岡伸一国際大学長や中西輝政京大名誉教授ら保守論客が入った一方、リベラルな考えの人も含むおおむねバランスの取れた人選となった。

 菅義偉官房長官は「談話を検討するにあたって意見をうかがう意味で設置した」と述べたが、ガス抜きに終わらせず、広範な声をしっかりくみ取ってほしい。

 談話は首相が国を代表して出すもので、個人的な思いを吐露する場ではない。与党の公明党と丁寧に擦り合わせるなど幅広く民意に耳を傾け、どの政権でも通用する着地点を探るべきだ。

 安倍談話は中韓など周辺国との関係に大きな影響を及ぼすだけではない。戦後の世界秩序を否定する歴史修正主義者と見られれば、日米関係も損ないかねない。

 首相の支持基盤である保守派は「村山談話は自虐史観である」として「痛切な反省」や「心からのお詫(わ)び」などのくだりをやり玉にあげることがある。過去の日本の行為を考えれば、これらの表現が行き過ぎとはいえない。

 山口那津男公明党代表が「意味が変わるものにならないようにすべきだ」と力説するのはもっともである。新しい表現にする場合でも、それが「痛切な」よりも意味が強いか弱いかで激論になるような愚は避けねばならない。

 小泉談話は国連平和維持活動(PKO)などを例示して「世界の平和と繁栄のため物的・人的両面から積極的に貢献してきた」と強調した。過去の反省を巡りあつれきを生まなかったから、こうした姿勢が評価されたのだろう。積極的平和主義だけが突出した安倍談話にしないようにすべきだ。

公的年金の組織改革を怠るな

 130兆円の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革に不透明感が強まってきた。

 政府は独立行政法人を特殊法人に改組し、理事長に権限が集中する現在の組織を、専門家の合議によって運用方針を決める形態へと変える意向だ。しかし、組織の具体的なあり方などに関する意見のとりまとめが遅れているため、今国会への関連法案の提出は見送られる方向だという。

 信頼できる組織の構築は、公的な年金制度を維持していくうえで欠かせない前提となる。政府は組織改正に向けた意見集約などの作業を急いでほしい。

 GPIF改革のもとになっているのは、大学教授などで構成する有識者会議が2013年11月に発表した提言だ。大きな柱は国債中心の運用内容の見直しと、受託者責任を果たすために政治からの独立性が高い組織をつくることだ。

 運用の見直しは昨年10月に実施し、国内債券の運用比率の目安を60%から35%に引き下げた一方、国内株式は12%から25%へと引き上げた。

 GPIFの積立金の原資は、国民が納める保険料だ。運用収益が上がる可能性もあるが損失リスクも高い資産での運用を増やすなら、それに適した組織づくりも並行して進めなければならない。

 現状では金融関係者などから成る委員会が理事長に運用を提案しているが、決定の権限は理事長に集中する。しかし、資産運用のリスクは景気や国際情勢など多岐にわたる。受託者責任を果たすには、運用の知見を持つ人材を幅広く募り、合議制で運用の戦略などを決めるほうが国民の安心感は高いと考えられる。

 GPIFは資金量の大きさから株式市場でクジラにたとえられ、運用内容の変更が株価に大きな影響を与えるようになっている。それだけに、組織の運営や運用方針の策定にあたっては、国民への説明責任や透明性の高さが最も重視されるべきである。

戦後70年談話―未来を語るのならば

 戦後70年の「安倍談話」について意見を交わす有識者懇談会がきのう、初めての会合を開いた。懇談会として草案を書くわけではないというが、国内外から評価される談話づくりに向け、バランスのとれた議論を期待したい。

 戦後70年だからといって、必ずしも首相談話を出さねばならないわけではない。それでも安倍氏は2012年に首相に再登板してから、「安倍政権として未来志向の談話を出したい」と繰り返してきた。

 首相はかねて村山談話への違和感を漏らしてきた。06年に初めて首相に就任したころから「その精神を引き継いでいく」としながらも、「国策を誤り」「植民地支配や侵略」といった村山談話の根幹部分への評価は明確にしてこなかった。

 村山談話を「全体として引き継ぐ」と言い始めた最近も、その違和感の根本は変わっていないようだ。

 いったい何のために新しい談話を出すのか。有識者の議論が始まるにあたり、この原点に立ち返ってみたい。

 首相は「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、今後、アジア太平洋地域や世界のためにどのような貢献を果たしていくのか」を書き込み、世界に発信したいという。

 日本のさらなる貢献をうたうことに異論はない。だが、その基礎となるのは、戦前の日本の行為についての明確な認識と反省である。それをあいまいにしたまま未来を語っても、説得力は生まれない。

 全体として引き継ぐと掲げながら、植民地支配や侵略といったキーワードを村山談話もろとも棚上げにしてしまうのが新談話の目的ならば、出すべきではない。そうした意図があればすぐに見透かされ、「過去に目を閉ざす者」と世界に受けとられるのが落ちであろう。

 先の国連安保理の討論会で、中国の王毅外相が「真実を認めることをためらい、過去の侵略の犯罪をごまかそうと試みる者がいる」と演説した。

 王毅氏は演説後、「だれかに照準を合わせることはない」と述べたが、植民地支配や侵略を否定するかのような日本政界の一部の発言を牽制(けんせい)する意図があったのは明らかだ。

 首相はきのう、懇談会の委員に「未来への土台は、過去と断絶したものではあり得ない」と語った。その通りである。

 談話を出すならば、国連での王毅発言が的外れであることを首相自身の言葉ではっきりとさせるべきである。

ギリシャ支援―ユーロ安定につなげよ

 欧州連合(EU)とギリシャが、対ギリシャ支援策について合意した。これで財政・金融危機の再燃といった事態は当面避けられる見通しになった。

 しかし、今回の合意は、今月末で期限が切れる従来の支援策を4カ月間、延長するに過ぎない。ギリシャの経済と財政をどう再建するのか。ユーロを安定させるには、根本に立ち返った論議が必要だ。

 これまでギリシャはEUなどの支援を受けて、資金繰りをしてきた。支援の条件の一つが緊縮財政だった。しかし、1月の総選挙で反緊縮を掲げる政権が誕生、条件の見直しを求めた。

 今回の合意は、ムダな歳出の見直しなど従来の緊縮路線の継続という色彩が濃く、ギリシャ新政権にとっては大幅な妥協となった。それでも貧困層対策を認めるなど、EU側も最低限の譲歩はした。期限切れが迫る中で探った、現実的な着地点だったと言えるだろう。

 ギリシャ政府は国営企業の民営化など、EUに約束した改革を着実に進めなければならない。改革は財政再建だけでなく、経済の効率化や体質強化につながることを、国民に説明し、理解を得る必要がある。

 それでも、今回の支援策は6月末に期限を迎える。問題は次の支援の枠組みだ。

 2009年の債務危機発生後、ギリシャの国内総生産(GDP)は約25%縮小し、失業率はいまだに約25%にのぼる。経済がこれほど縮んだままでは、いくら歳出を絞っても、財政は再建できないだろう。

 規律を守るのは当然だとしても、いかに成長にも目配りした財政運営をするか。ギリシャの経済と財政を立て直すには、そんな考えに基づく長期的な取り組みが欠かせない。そのことを考慮したうえで、EU各国、中でも中心的な存在のドイツは、ギリシャと協議すべきだ。

 債務危機は、ユーロの構造的な問題も明らかにした。ユーロには、ドイツのような経済力が強い国も、ギリシャのような弱い国も加わっている。ドイツの経済力から見ればユーロの相場は割安になりがちだが、ギリシャにすれば割高で、輸出産業の振興などは難しい。しかしユーロ圏各国の財政はバラバラで、各国間の経済のひずみを財政で調整することはできない。

 ユーロ各国が国債の代わりに共同で発行する「ユーロ圏共同債」が一時検討されたが、ドイツなどの反対で具体化していない。長い目で見てユーロをどう安定的な通貨にするのか。そんな知恵が試されている。

戦後70年懇談会 21世紀の世界を構想したい

 戦後70年の日本の歩みを踏まえ、未来志向のメッセージの発信に向けた議論を期待したい。

 安倍首相が今夏に発表する予定の戦後70年談話に関する「21世紀構想懇談会」の初会合が開かれた。

 首相の私的諮問機関で、経済界、学界、メディアなどの16人の委員で構成されている。座長には西室泰三・日本郵政社長が就任した。月1回程度のペースで会合を重ね、今夏に議論を集約して首相に報告する予定だ。

 ただ、報告は、政府が談話の内容を検討するための参考にするものであり、談話はあくまで首相の責任でまとめるという。

 首相は会合のあいさつで、戦後日本について「先の大戦への反省の上にアジア太平洋地域の平和と繁栄を支えてきた」と語った。

 「途上国への開発協力など、大きな責任を果たしてきた。この平和国家としての歩みは、今後も変わらない」とも強調した。

 未来志向の談話の前提として、戦前・戦中への反省と戦後の歩みをきちんと踏まえるのは、国際社会の理解を得るうえで重要だ。

 さらに、首相は、今後の日本の方向性について「国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、国際社会を平和にし、豊かにし、人々の幸福を実現する上で、より大きな役割を果たす」と述べた。

 アジアと世界の平和と繁栄を維持・発展させるため、日本がどのような役割を担う覚悟があるのか。同盟国の米国をはじめ、国際社会とどう連携していくのか。明確な理念と具体策を70年談話で打ち出すことが大切である。

 戦後50年の村山談話や60年の小泉談話当時と比べ、日本を取り巻く国際環境は大きく変化した。

 中国は経済、軍事両面で台頭し、影響力を強めた。尖閣諸島や歴史認識をめぐって日本との対立が拡大している。日韓関係も、慰安婦問題などで冷え切っている。

 戦後70年の今年、中国は反日宣伝を本格化させており、首相談話も歴史をめぐる宣伝戦に組み込まれようとしている。そうした国際情勢も踏まえ、冷静で戦略的な対応が安倍首相には求められる。

 懇談会では、「日本は戦後70年、どのような和解の道を歩んできたか」「20世紀の教訓を踏まえ、21世紀のアジアと世界のビジョンをどう描くか」など、五つのテーマについて議論する予定だ。

 初会合では、「日本と世界を切り分けずに捉えるべきだ」といった意見が出たという。多角的な議論を展開してほしい。

ギリシャ改革案 実効性のある具体策が肝心だ

 ギリシャは財政再建に誠実に取り組むのか。具体策をしっかり見極める必要がある。

 欧州連合(EU)は、金融支援延長の条件としてギリシャが提出した構造改革案を了承した。

 EU各国は、今月末で期限切れとなる支援策を、4か月延長するための国内手続きを進める。

 ギリシャの改革案は、脱税対策の強化による税収増や、無駄な歳出の削減によって、財政再建を進めることを約束した。

 EUは声明で「十分に包括的だ」と前向きに評価したが、肝心の中身は踏み込み不足である。

 EUとともにギリシャ支援を担う国際通貨基金(IMF)などが、「具体性に乏しい」と批判しているのはもっともだ。

 ギリシャ政府の資金繰りは、既に綱渡り状態とされる。ギリシャでは、財政破綻への懸念を背景に金融不安が高まり、銀行預金を引き出す動きも強まっている。

 「反緊縮」を公約し、国民の支持を得たチプラス政権としても、差し迫った危機を回避するため、EU側と一定の妥協を図らざるを得なかったのだろう。

 ギリシャが今後、より詳細な改革案を提出し、4月末までにEU側の合意を取り付けないと、支援延長は白紙に戻る。交渉の先行きは、予断を許さない。

 今回の改革案でさえ、反緊縮を掲げるギリシャの与党内から反発の声が出ている。これまでの緊縮策の副作用で、失業率が25%を超えるなど経済の低迷が続き、国民の不満も強まっている。

 EU側との合意に向けて、緊縮財政の継続について連立与党の意見をまとめ、国民を説得するのは容易ではあるまい。

 しかし、交渉が決裂し、債務不履行(デフォルト)などの事態となれば、ギリシャ経済は壊滅的な打撃を受ける。ツケを払わされるのは、ギリシャの国民である。

 チプラス政権は、実効性のある構造改革案を、早急に策定しなければならない。

 ユーロ体制は、共通通貨のもと、各国が独自に財政を運営している。国力や経済情勢によって政策の足並みが乱れる構造的な弱点があり、これを補うため加盟国に厳しい財政規律を課している。

 その国の経済規模の大小にかかわらず、財政運営を巡る不協和音で「落後者」を出せば、欧州統合の推進力は弱まりかねない。

 ギリシャ問題を乗り切れるかどうかは、ユーロ体制の行方を占う試金石である。

2015年2月25日水曜日

《広告運用の現状を把握する》 レポートの作成方法

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恩恵だけでない資源・素材安

 原油、鉄鉱石といった資源や鉄鋼など素材の価格が軒並み急落している。原油の国際相場は昨年前半の半分、2008年7月の最高値に比べ3分の1の水準だ。鉄鉱石の日本向け輸出価格も11年の最高値に比べ6割下落した。

 資源や素材価格が昨年後半から急落した背景には、相場高騰時に増強された設備からの供給が増える一方、中国などの景気減速で需要の伸びが鈍り、世界的な供給過剰に陥ったことがある。代表的な海上運賃指数が過去最安値に下げた主因も船舶の過剰だ。

 鉄鉱石はブラジルのヴァーレなど資源大手が生産を拡大し、世界最大の設備能力を持つ中国は高水準の鉄鋼生産を続ける。しかし、中国内の需要は伸び悩むため、あふれた鉄鋼は海外市場になだれ込む。中国の1月の輸出量は1029万トンと過去最高を更新した。前年同月に比べ5割の増加だ。

 中国の輸出急増を受け、アジア地域では鋼材の取引価格が下落している。日本企業による輸出価格は主力の熱延鋼板が06年以来の安値に下げた。

 原燃料の大部分を輸入に頼る日本経済にとって、価格下落の恩恵は大きい。ただ、資源や素材が国境を越えて活発に取引されるようになった現状では、関連国内産業への影響が無視できない。

 石油精製や石油化学などの産業にとって、国内市場の縮小に対応する設備淘汰は喫緊の課題だ。だが、中国で過剰設備の整理が遅れれば、日本にとって将来必要な設備まで淘汰の圧力が及ぶ可能性がある。これを和らげるため、製品の付加価値を高め、差別化を進める対策は不可欠だ。

 過剰設備が解消されるまで、資源や素材価格の低迷は長期化する可能性がある。その間、内外の物価に強い下落圧力がかかることにも注意が必要だ。相場急落を受け、ヘッジファンドなどは原油など商品市場での運用を減らし、株式市場などに資金を戻している。各国の金融当局は、投資マネーの影響にも目配りしてもらいたい。

M&Aの腕を磨いて世界展開の加速を

 日本企業による海外企業の買収が加速している。日立製作所はイタリアの防衛・航空大手のフィンメカニカから同社の鉄道車両・信号事業を買収すると発表した。旭化成は2600億円を投じて米国の電池素材メーカーのポリポア社を傘下に収める。

 このほか、日本郵便によるオーストラリアの物流大手の買収や、キヤノンによるスウェーデンの監視カメラ世界最大手の買収など、買収額が数千億円規模の大型案件が目白押しだ。

 今年1月には伊藤忠商事が中国最大の複合企業、中国中信集団(CITIC)に6千億円を出資すると発表し、「日本企業の中国企業への出資案件として過去最大」と各方面から注目された。

 買収ラッシュが映すのは、グローバル化にかける日本企業の意欲の高まりだ。守りの経営から脱却し、それぞれの企業が独自の成長戦略を描き始めたといえる。

 日本の上場企業が持つ手元資金は過去最高水準の100兆円近くに達している。資金を漫然と抱え込むのではなく、新たな成長に向けて、M&A(合併・買収)を含めた戦略投資に踏み出し始めたことは評価できる。

 M&Aの活用は経営の幅を広げる効果もある。これまで日本企業の海外進出はゼロから工場を建てたり、販売網を独自に整備したりするタイプの事業展開が多かったが、事業基盤の固まった既存の会社を買うことで、よりスピード感のあるグローバル展開に道が開けるだろう。

 ただし、買収にはリスクがつきまとうことも忘れてはならない。丸紅は2013年に買収した米穀物大手ガビロンが想定通りの収益を上げられず、減損処理を迫られ、業績の下方修正につながった。ソフトバンクが買収した米スプリントも苦戦が続いている。

 こうした見込み違いを避けるためにも、各企業はM&Aの腕を一段と磨く必要がある。

 買収を成功に導くには、相手企業の持つ資産価値を正確に評価したり、買収後の統合作業を円滑に進めたりするための財務や人事の専門家集団の育成が欠かせない。今のような買収ブーム時には、本来の価値より高い値段を払ってしまう「高値づかみ」が起こりやすく、それにも注意が必要だ。

 M&Aの巧拙が企業の盛衰を左右する。そんな時代が到来したことを経営者は肝に銘じてほしい。

自衛隊の統制―抑制が生み出す信頼

 「制服組」と呼ばれる陸海空の自衛官より、「背広組」と呼ばれる内局官僚が優位に立つ――。そんなこれまでの仕組みを、防衛省が見直すという。

 実現すれば、制服組は背広組と対等の立場になり、制服組の軍事的な意見が政治に反映されやすくなる可能性がある。

 こうした防衛省内の力関係の変化が、自衛隊にどのような影響を及ぼすのか。文民統制(シビリアンコントロール)を担保する観点から懸念がある。

 文民統制は、軍事に対する政治の優位を意味し、ひいては有権者が内閣や国会を通じて自衛隊をチェックすることだ。

 日本では文民統制を確保する手段のひとつとして、背広組が防衛相を補佐する体制をとってきた。戦前・戦中に軍部が暴走して無謀な戦争に突き進んだ反省から生まれた措置である。

 旧日本軍と別の組織だとはいえ、自衛隊は武力行使ができる唯一の組織であり、政治が統制しなければ民主主義の基盤を損ないかねない。背景にはそんな考え方がある。

 補佐体制があることで、防衛相が自衛隊部隊への命令を出すときや、自衛隊から防衛相に連絡をするときは背広組を通す仕組みになっていた。政治と軍事の距離を保ち、政策的な見地から一定のチェック役を果たしてきたと言える。

 だがそれは、ともすれば制服組からは迂遠(うえん)な回路にみえる。実際、背広組の介在によって防衛相への情報伝達が遅れたとの指摘もある。

 国連平和維持活動(PKO)や災害派遣の実績を重ねてきた自衛隊への信頼が増し、制服組の発言力が強まっている。現在の中谷防衛相は自衛官の出身だけに、制服組の立場の向上に熱心に取り組んできた。

 制服組が直接、防衛相に情報をあげ、指示を受ければ、自衛隊の対応は素早くなるだろう。一方で、背広組が意思決定の蚊帳の外に置かれれば、文民統制に影響を及ぼす恐れがある。

 関連する予算や人事も制服組が握るのか、国会答弁も担うのかといった課題もある。

 自衛隊はこれまで抑制的な姿勢に徹してきたからこそ、幅広い国民の信頼を受けている。制服組の矜持(きょうじ)として、そのことを忘れるべきではあるまい。

 政治の責任はきわめて重い。集団的自衛権の行使を認めた閣議決定を受け、新たな安全保障法制が焦点となる今国会は、文民統制を洗練させる機会でもある。国会の関与を含め、自衛隊を統制する確かな方策を講じなければならない。

地域自主組織―住民参加と行動の場に

 人口が約4万人、過疎に悩む島根県雲南市の呼びかけに全国の140の自治体が応えた。「地域自主組織」の推進会議が今月中旬に発足した。

 自治会に加えて消防団や婦人会、地元の学校のPTA、福祉や体育関係など、地縁に根ざす団体が力を合わせ、できればひとつになる。自治会の活動が世帯ごと、長老主導になりがちな点を改め、住民一人ひとりが対等の立場で参加し、活動する。これが地域自主組織のおおまかなイメージだ。

 その役割は、防災や福祉、教育、地場産品の製造販売など多岐にわたり、推進会議は「小規模多機能自治」と呼んでいる。

 地域で大きな役割を果たしてきた自治会・町内会の存続が、高齢化と少子化で危うくなってきていることが背景にある。

 先行する雲南市には、形態や取り組みはさまざまながら、約30の地域自主組織がある。独り暮らしのお年寄りへの声かけを兼ねた水道検針、民間スーパーの撤退を受けた住民管理のミニ店舗、廃校後の校舎を改装した宿泊研修施設の運営など、コミュニティーを維持し、活性化するための事業が生まれている。

 全国の市町村の1割近くが推進会議の会員に名を連ねたのは、危機感の表れだろう。推進会議は、自治体間で情報交換しながら、小規模多機能自治に適した法人制度や税制を国に求めていく考えだ。国の既存の制度に頼り切るのではなく、自治体同士が学び合い、国と向き合おうとする姿勢を歓迎したい。

 注文もある。

 まず、自治体の歳出削減ありきでは、失敗しかねない。

 住民による活動が広がれば、税金で提供するサービスを減らせるかもしれない。ただ、それはあくまでも取り組みの成果であり、目標は地域コミュニティーの維持・活性化だ。自主組織の挑戦を支えるのは、行政からの自由度の高い交付金である。

 次に、NPO法人や公益法人など、地縁に基づかない民間団体とも連携してほしい。

 雲南市も、地域自主組織の整備と並行して、市内外の若者らが交流する場を設け、人材育成を担うNPO法人の設立につなげるなど、地域外の声や活力を取り込む工夫をしている。

 地域自主組織の形態や活動は、自治体や自治体内のコミュニティーの数だけあるはずだ。官や民、団体間の縦割りを取り払い、住民一人ひとりが参加・行動するという原則を見失わない。そうして、無数の小規模多機能自治が芽生え、育つことを期待したい。

国連「70年」討論 歴史を曲げる中国の反日宣伝

 「戦後70年」を巡る中国の反日宣伝活動が、本格的に始まった。

 国連安全保障理事会が戦後70年と国連創設70年に合わせた公開討論を開いた。2月の議長国である中国が提案した会合で、約80か国の代表が発言した。

 議長を務める中国の王毅外相は第2次大戦について「いまだに真実を認めたがらず、侵略の犯罪をごまかそうとする者がいる」と語った。名指しは避けたが、日本を念頭に置いているのは明白だ。

 日本が侵略の事実を認め、反省と謝罪を表明してきた経緯を無視しており、看過できない。日本をおとしめる意図もうかがえる。

 韓国の国連大使も「歴史の教訓を無視しようとする試み」への注意が必要だと呼びかけた。基本的に中国に同調したとみられる。

 これに対し、吉川元偉国連大使は「日本は戦後、大戦の深い反省に立ち、平和国家としての道を歩んできた」と強調した。その姿勢は「日本人の誇りであり、決して変わらない」とも言明した。

 この70年間を踏まえた適切な主張だ。日本は、世界の平和と繁栄に寄与し、国際社会で信頼を着実に築いてきた。国連にも巨額の分担金を拠出し、その機能を強化する安保理改革を提唱している。

 不当な批判には、的確かつ冷静に反論したい。菅官房長官が「主張すべき点はしっかり主張する」と述べ、対外発信を強める考えを示したのは当然だろう。

 王氏は、中国が「反ファシスト戦争」の「戦勝国」として、国連を支持し、平和と安定を守ってきたと述べた。戦後秩序を維持する姿勢をアピールしたものだ。

 だが、中国は戦後、インドや旧ソ連、ベトナムなど周辺国と武力衝突を繰り返してきた。現在も、力による現状変更を図り、地域を不安定化させている。

 南シナ海の岩礁の基地化など、国際法上の根拠がない実効支配の拡大や、東シナ海での度重なる日本領海侵入が典型例である。

 中国は、今回の討論を70年行事の「序幕」と位置づける。今後、国際的な反日宣伝を強めよう。

 中国との協調姿勢が際立つのが、ウクライナで一方的な現状変更を試みているロシアだ。

 5月の対ドイツ、9月の対日戦勝記念日に合わせ、習近平国家主席とプーチン大統領が、モスクワと北京を相互訪問する。

 一連の動きが日本の国益を損なわないか。中露の連携を注視するとともに、双方に戦略的外交を展開することが重要である。

騒音条例改正案 子供の声に寛容でありたい

 条例改正を、子供が伸び伸びと遊べる環境整備につなげたい。

 東京都が、騒音に関する規制基準を設けた環境確保条例の改正案を都議会に提出した。小学校就学前の子供が出す声や遊具の音を対象から除外することが柱だ。

 各党・会派に目立った反対の動きはない。3月中に成立し、4月から施行される見通しだ。

 都内では、保育所や幼稚園の子供の声に対する住民の苦情が少なくない。都条例を根拠に子供の声を「騒音」だとして、差し止めを求める訴訟さえ起きている。保育所建設が滞ったケースもある。

 一方で、住宅地にも保育所を建設しなければ、子育て世代の需要を賄いきれない。条例改正は、保育所整備の追い風となろう。待機児童の減少が期待できる。

 2012年に制定された子ども・子育て支援法は、地域ぐるみで子育てに参加することを求めている。条例改正は、そうした法の趣旨にも合致する。

 少子化対策として、仕事を持つ親が安心して子供を預けられる場所を確保することが重要だ。

 都の騒音規制は、高度成長期に公害防止の観点から始まった。人が出すあらゆる音を一律に数値規制の対象にしていることに対し、「子供の声を工場騒音と同列に扱うのはおかしい」との批判があった。もっともな指摘である。

 声を出して遊ぶのは、子供の自然な姿と言える。苦情を気にして外で遊ぶ機会が減れば、発育への影響が懸念される。

 ただし、音への感じ方は人によって異なるのも事実だ。

 東京都西東京市が整備した公園の噴水で遊ぶ子供の声を巡り、病気療養中だった近隣の女性が騒音差し止めの仮処分を申し立てた。裁判所は07年、都条例を基に、「受忍限度を超える」と認め、噴水を止めるよう命じた。

 子供の声を苦痛だと感じる人への配慮は、今後も必要である。

 条例が改正されても、保育所などは、野放図に音を出すことを許されるわけではない。受忍限度を超えると都などが判断すれば、改善を勧告できる。

 誤解を招かぬよう、都は保育所関係者らに、条例の内容を丁寧に説明することが大切だ。

 開設前から、防音対策などについて周辺住民と対話を重ね、理解を得た都内の保育所もある。同様の問題を抱える他の自治体の参考になるだろう。

 防音壁などの設置には、公費助成も検討すべきだ。

2015年2月24日火曜日

訪日客の多様化に応じた通訳ガイド育め

 日本を訪れる外国人が急増している。特にアジアからの伸びが大きい。東京や京都だけでなく日本各地を観光してもらえれば地方経済の活性化にもつながる。各国の言葉で、きちんと旅行者の手助けができる人たちを確保したい。

 一部の特区などを除き、報酬を得て外国語で案内ができるのは国家試験に合格した通訳案内士に限ると法律は定めている。1949年に始まった制度だ。

 アジアからの訪日客が増えるにつれ、有資格者の使える言語が英語に集中し、居住地も首都圏、関西圏に偏っているという課題が浮上してきた。大型客船が地方に寄港したときや、桜や紅葉などの観光シーズンに通訳案内士が不足し、スムーズな受け入れの壁になり始めているという。

 通訳案内士の試験は語学力のほか日本の歴史、地理などの知識が日本語で問われる。語学は10の言語から選ぶが、英語など欧米系7言語に対しアジア系は中国語、韓国語、タイ語のみ。訪日客が増えるベトナム、インドネシアなどの言葉には対応していない。

 歴史などの試験は、特に外国人受験者にはハードルが高い。訪日客の目的も一般的な名所巡りだけでなくアウトドア、ラーメン、アニメなど多様化している。廉価なツアーでは添乗員が案内も手がけたり、無資格のガイドが高額な土産物店を紹介、手数料をもらったりする問題も指摘されている。

 どうすれば、日本に来る外国人の満足度を高められるか。この視点を最優先に、関係者は今後の通訳ガイドのあり方を考えたい。

 ネット端末の普及で一通りの知識は手軽に得られる。母国語でのちょっとした手助けで十分という人や、特定の分野、地域に特化したガイドの希望も増えている。

 留学生やホテル従業員、外国人の関心が高い分野に詳しい人が、一定の研修などを条件に手ごろな料金で案内できるようにする案を旅行会社などが提唱している。旅行者には喜ばれそうだ。同時に、高いスキルやノウハウを持つ通訳案内士は能力に応じた報酬を得られるよう、ツアーの売り込み方や料金体系を工夫すべきだ。

 高度なガイドから手軽なサポートまで幅広い手助けを、各地方で多様な言語を使い提供できるようにしたい。そのためにどういう仕組みが最適か、政府、旅行業界、実際に外国人に接する人々などで知恵を出し合う必要がある。

農相辞任で政策停滞を招くな

 西川公也農相が政治とカネを巡る問題の責任を取り、辞任した。さまざまな疑惑が取り沙汰されてきただけに辞任は当然である。閣僚交代が農協改革や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉などの遅れを招かないようにしなければならない。

 「いくら説明しても分からない人は分からない」。辞表を提出した直後の西川氏の弁である。公人が説明責任を問われるのは当たり前のことだ。辞任で終わりにせず、今後もできるだけの説明をすべきだ。

 西川氏は昨年9月に就任直後、自らが代表を務める政党支部が、親族が経営する企業から物品を買っていたことが判明した。違法性はないかもしれないが、公私混同のそしりは免れない。

 今年に入ってからは、政治献金が禁止されている補助金対象企業から資金提供を受けていたことなどが指摘された。

 いずれも政治資金規正法などに抵触するかどうかははっきりしないが、不明朗な印象を有権者に与えたことは否定できない。これらの問題で国会審議はたびたび紛糾し、与党内からも批判する声が出ていた。

 安倍晋三首相は昨年10月の2閣僚辞任を踏まえ、12月の第3次内閣発足時には政治とカネの疑惑があった江渡聡徳防衛相を再任しなかった。

 西川氏に関してももっと早めに手を打てたのではないか。首相は西川氏辞任について記者団に「任命責任は私にあるので国民におわびを申し上げたい」と述べた。今後の人事において教訓にしてもらいたい。

 後任には政策の継続性を重視して西川氏の前の農相だった林芳正氏を当てた。閣僚辞任が政策遂行の停滞につながり、有権者の政権への信任が失われた第1次内閣の二の舞いは避けねばならない。

 農協改革は今国会の最重要案件のひとつである。政権をあげて林氏をバックアップし、まずは法案づくりを急ぐべきだ。

農水相辞任―政権におごりはないか

 自ら代表を務める自民党支部への寄付が問題視されていた西川農水相が、安倍首相に辞表を提出、受理された。

 昨年の秋以降、辞任した閣僚は3人目だ。ただ、過去の2人のケースに比べ、首相の責任は二つの点でより重いと言わざるを得ない。

 ひとつは、安倍政権が成長戦略と位置づける環太平洋経済連携協定(TPP)を進める上で中心的な役割を果たした人物が、利害がからむ企業から不明朗な献金を受けていたこと。もうひとつは、疑惑発覚後の首相らの対応が極めて問題の多いものだった点だ。

 西川氏が代表の党支部は、政府がTPP交渉に初めて参加する直前の2013年7月、砂糖業者でつくる「精糖工業会」の関連会社「精糖工業会館」から100万円の寄付を受けた。

 自民党は当時、砂糖の原料をTPPでの関税撤廃の例外とする「重要5項目」のひとつと位置づけ、西川氏は党TPP対策委員長としてその聖域を守ると関係団体に訴えていた。

 また、精糖工業会は寄付の4カ月前に農水省所管事業の補助金交付が決まっていた。政治資金規正法は、補助金の交付決定通知から1年間の政治献金を禁じている。西川氏は同様に交付決定された地元の木材加工会社からの寄付も受けている。

 法には直接は触れなくとも、関連会社を経由させた手法は法の趣旨を逸脱している。寄付のタイミングと西川氏の言動を考えれば、利益誘導を疑われても仕方ない。

 首相らの対応も、理解しがたいものだった。

 首相らはいち早く「法律上は問題ない」と表明。また、首相は衆院予算委員会で民主党議員からの「ダミー会社を迂回(うかい)させた脱法献金だ」との指摘に対し、「日教組どうするの」とのヤジで応酬した。

 首相はヤジの意図について、日教組は補助金をもらっており、日教組が本部を置く日本教育会館から献金を受けている民主党議員がいるからだと翌日に説明していた。だが、事実ではないと民主党は主張。首相は「私の記憶違い」と訂正せざるを得なかった。

 当の西川氏も辞表提出後、「私がいくら説明しても、分からん人には分からないな」と開き直ったように語った。あまりにも誠実さに欠ける。

 昨年の衆院選で3分の2の与党勢力を確保して以来、政権のこうした態度は目にあまる。有権者からの信任を、はき違えていると言わざるを得ない。

辺野古の抗議―強硬政府が生んだ混乱

 理不尽な逮捕である。

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する運動のリーダー、山城博治・沖縄平和運動センター議長ら2人がおととい、米軍キャンプ・シュワブゲート前で米軍に身柄を拘束された。

 2人はその後、名護署に移送され、県警が日米地位協定の実施に伴う刑事特別法違反の疑いで逮捕、送検するという異常な展開をみせた。

 県警の発表では、山城議長らは、正当な理由がないのにシュワブ敷地内に侵入した疑いがあるという。

 複数の目撃者によると、山城議長は抗議する仲間らを制止しようとして「引け」と叫んでいた。その際、米軍の日本人警備員に引っ張られ、数人がかりで足などをつかまれて基地内へ連行された。侵入といってもゲート前に引かれた黄色い境界線をほんの1、2歩越えたかどうかだったという。

 そばには県警機動隊員が何人もいたが、山城議長らの行動を見ても身柄を拘束しようとはしなかった。米軍側の強引な行為だったと言わざるを得ない。

 18日には移設容認派の名護市議が基地に無造作に出入りしていたが、県警、米軍とも排除も拘束もしなかったという。

 弁護団は「反対派リーダーを狙い撃ちした逮捕。運動の萎縮を狙っており、極めて不当な行為だ」と批判している。

 辺野古では19日、沖縄防衛局が「米海兵隊から要請があった」として、反対運動の拠点となっているゲート前のテントの撤去を要請するなど、米側が圧力を強めていた。

 だが、自由に抗議の意思を表すことは、民主主義社会では当然の権利だ。

 解せないのは日本政府の対応である。今回の拘束にあたっても米軍側に行き過ぎがあったなら、むしろ日本の政府や当局は米側に抗議すべきではないか。

 昨年の名護市長選、沖縄県知事選、衆院選と、選挙でいくら移設反対の民意を示しても、政府は沖縄に目をくれようとしない。安倍首相も菅官房長官も翁長知事に会おうとせず、沖縄側との対話を閉ざしている。一方で、海上保安庁や県警機動隊による厳重な警備態勢を敷き、衝突によって、けが人が相次ぐ事態となっている。

 2人の拘束後に現地であった移設反対の集会には沖縄各地から主催者発表で2800人が集まり、抗議の声を上げた。今の事態を招いているのは、ほかでもない政府自身だということに早く気付くべきだ。

西川農相辞任 農業改革の体制再建が急務だ

 西川農相が自らの政治献金問題で辞任した。

 安倍政権には痛い打撃だが、西川氏は野党の厳しい追及を受けていた。国会での新年度予算案審議や、大詰めの環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への影響を考えれば、辞任はやむを得ない。

 西川氏が代表を務める自民党支部は2013年7月、砂糖業界団体の関連会社から100万円の寄付を受け取った。団体は、その4か月前に農水省から13億円の補助金交付が決まっていた。

 政治資金規正法は、企業などに、国の補助金交付決定の通知後1年以内の政治活動に関する寄付を禁じている。団体と会社は別法人だが、団体の会長が社長を兼務するなど、密接な関係にあった。

 砂糖の原料は、TPP交渉で関税撤廃の例外を目指す「重要5項目」の一つで、西川氏は当時、自民党TPP対策委員長だった。

 自民党支部は12年9月にも、林野庁の補助金受給が決まった栃木県鹿沼市の木材加工会社から300万円の献金を受けていた。いずれの寄付も返金されている。

 西川氏は、「法律に触れることはない」と改めて強調する一方、辞任の理由について「これから農政改革をやる時に内閣に迷惑をかけてはいけない」と語った。

 疑問なのは、西川氏が「私がいくら説明しても、分からない人には分からない」と述べ、説明責任を放棄するような姿勢を示したことだ。辞任で疑惑を幕引きにせず、一連の献金の趣旨や経緯などについて説明を尽くすべきだ。

 安倍首相は、「任命責任は私にある」と陳謝した。今後の政権運営について「しっかり政策を前に進めていくことによって責任を果たしていきたい」と語った。

 政治とカネの問題では、小渕優子前経済産業相と松島みどり前法相が昨年10月に辞任した。辞任した3人はいずれも昨年9月の内閣改造で起用された。事前調査が不十分だったことは否めない。

 第1次安倍内閣でも、赤城徳彦氏ら3人の農相がカネの問題で交代している。農相ポストは首相にとって“鬼門”なのだろうか。

 首相は、西川氏の後任に、林芳正・前農相を充てた。国会審議を乗り切るため、即戦力となるとの判断だろう。妥当な人事だ。

 政府は、農協改革を実行するための農協法改正案を今国会に提出する。TPP交渉が妥結すれば、国際競争力の強化など、強い農業の確立が待ったなしとなる。改革を前進させるため、早急に体制を立て直さなければならない。

与那国住民投票 国防を地方政争の具にするな

 島を二分する政争を展開してまで、住民投票を行う意味が果たしてあったのか、甚だ疑問だ。

 日本最西端の与那国島の沖縄県与那国町で、陸上自衛隊の沿岸監視部隊配備の是非を問う住民投票が行われ、賛成が過半数を占めた。

 陸自部隊配備は、防衛省が2009年に与那国町の要望を受け、11年に決定した。隊員は約150人で、地上レーダーで艦船や航空機を監視する計画だ。来年3月の配備に向け、昨春から駐屯地の造成工事を進めている。

 外間守吉町長は、一貫して陸自配備を推進しており、09年と13年の町長選で反対派候補を破った。13年は47票の僅差だった。

 反対派は昨年11月、町議会で住民投票条例を可決し、激しい反対運動を展開してきた。今後、施設建設の差し止め訴訟を起こすことも検討しているという。

 そもそも住民投票の結果は、法的拘束力を持たない。仮に反対が多数を占めても、配備を中止することは難しかった。

 住民投票は本来、市町村合併への対応など、地域で完結する身近なテーマで実施することが望ましい。国全体の安全に影響を与えるような自衛隊配備や米軍基地の問題で行うことは避けるべきだ。

 看過できないのは、今回、中学生以上の未成年や永住外国人にも投票を認める異例の措置をとったことだ。賛否を逆転したい反対派の思惑によるものだろう。

 国防を政争の具にして、選挙権のない中高生らを巻き込み、国の安全保障に関する判断を迫った町議会の責任は重い。

 外間町長ら推進派は、陸自誘致による経済効果で、人口約1500人の町の過疎化に歯止めをかける必要性を訴えた。

 これに対し、反対派は「有事に陸自駐屯地が攻撃目標にされる」などと主張したが、説得力を持たず、支持は広がらなかった。

 沖縄本島から与那国島までの約500キロの地域には、航空自衛隊のレーダー基地が宮古島などにあるが、陸自部隊は不在だ。

 中国は、急速な軍備増強を背景に、尖閣諸島周辺などで海洋進出の動きを強めている。南西諸島の防衛態勢を強化し、武装集団による離島占拠などの事態に備えることが急務である。

 菅官房長官は「計画通り部隊配置を淡々と進めていきたい」と語った。政府は、「国境の島」に部隊を置く意義を丁寧に説明し、町の協力を得ながら、配備を円滑に実現することが重要だ。

2015年2月23日月曜日

中東で広がる過激派封じ込めへ結束せよ

 シリアやイラクの過激派「イスラム国」に共鳴するように、中東各地に危険な動きが広がっている。イスラム過激派が国境を越えて結びつき、テロの連鎖は世界を脅かしつつある。

 テロの拡散を防ぎ、過激派のネットワークをどう断ち切るか。軍事行動だけでは限界がある。中東の国づくりや人々の生活向上など、過激思想を生む根っこを取り除くために、国際社会が幅広く結束する必要がある。

 イスラム国などの過激派対策について話し合う閣僚級会合が、日本を含む60カ国以上が参加して、米国で開かれた。若者をひきつける過激思想の拡散を防ぐために、情報の共有や地域社会との連携を強化することを確認した。

 オバマ米大統領は会合で「イスラム国壊滅に向けた作戦の手は緩めない」と述べた。非道なテロ組織は撲滅しなければならない。軍事力の行使も必要だろう。ただ、際限ない軍事介入はかえって混乱の増幅につながりかねない。

 並行して必要となるのは、中東の社会を安定に導き、過激派を封じ込める取り組みだ。その意味で、閣僚級会合が教育や貧困の解消など長期的な対策の必要性を指摘したことは重要だ。

 イエメンではイスラム教シーア派系の武装集団が政権掌握を宣言した。民主化要求運動「アラブの春」後の民主化の取り組みは頓挫した。リビアではカダフィ政権の崩壊後、民族派勢力とイスラム勢力が対立し、国土の分断が続く。

 無政府状態の隙を突き、イスラム過激派が勢いを増している。リビアではイスラム国に忠誠を誓う組織が活動を活発化させた。エジプト人のキリスト教徒21人を殺害し、映像をネット上で公開する卑劣な手口までまねている。

 エジプトは自国民殺害への報復として、リビア領内のイスラム国に対する空爆を始めた。軍パイロットが殺されたヨルダンもシリア領内のイスラム国への空爆を強めている。テロと軍事報復の連鎖が止まらなくなる恐れがある。

 イエメンは中東産油国の要であるサウジアラビアと国境を接する。リビアも有力産油国だ。原油の大半を中東に頼る日本は混乱を座視するわけにはいかない。

 資金流入の監視などイスラム国対策はもちろん、イエメンやリビアの国民和解を促し、安定を回復する国際社会の取り組みに積極的に加わっていく必要がある。

問われる調剤薬局の意義

 病気やけがで病院や診療所にかかったとき、薬は外にある調剤薬局で受け取ることが多い。「医薬分業」と呼ぶ仕組みだ。薬の専門家である薬剤師の目で、医師が処方した薬が患者にとって安全で有効かを点検するためだ。

 この医薬分業の意義が問われる問題が起きた。ドラッグストア大手ツルハホールディングスの子会社、くすりの福太郎(千葉県鎌ケ谷市)やイオン子会社のCFSコーポレーションの調剤薬局が、患者の薬の服用歴などの情報を記録せずに患者に薬を渡していた。

 これまでどのような薬を服用してきたのか、また、その薬によって副作用があったかどうかは患者にとって重要な情報だ。薬剤師は本来、これらの情報をもとに、飲み合わせによる相互作用なども考慮し、患者に服薬指導をする。

 薬歴の記録管理などを実施すれば、薬局は公的医療保険制度から一定の報酬を得ることができる。だが、両社は記録をしないまま報酬を受け取っていた疑いがある。責務を果たさず、利益だけを得ていたとすれば見過ごせない。

 調剤薬局の役割をめぐってはかねて疑問も指摘されている。「医師の処方通りに薬を出しているだけで、丁寧な指導を受けたことはない」といった声も珍しくない。

 人口の高齢化などに伴い、公的医療保険制度を通して使われる医療費は年40兆円ほどに達する。このうち調剤薬局には7兆円ほどが支払われており、その伸びは大きい。市場拡大を見込んでチェーン薬局の参入も相次いでいる。

 ただこの財源は税金や健康保険料だ。利益だけを優先するような振る舞いは許されない。関係者には限られた財源の中で医療の質を高めるための工夫が求められる。価格が安い後発薬の普及にも力を入れてもらいたい。

 健康維持の指導をするなど患者のために活動する薬局もあるが、今回のような問題が起こるようでは医薬分業を進める意義が薄れかねない。関係者は原点に戻って職責をまっとうすべきだ。

民間税調―育て、モノ言う納税者

 「民間税調(税制調査会)」が発足した。納税やそれに伴う紛争にかかわる税理士や弁護士、税制を研究する税財政分野の学者らのほか、一般の市民にも門戸を開き、皆で議論しながらあるべき税制を考えようという珍しい組織である。

 今月上旬の初会合で決めた設立宣言では、真っ先に「格差を是正し、分厚い中間層を形成する税制と財政支出」を掲げた。

 中心となる5人は、民主党の元国会議員をはじめ、同党の政権時に政策づくりに加わった人が多い。その主張もあいまって「民主党の別動隊」といった声が聞こえてきそうだが、ここは一般市民の参加を求める姿勢、言わば「モノ言う納税者」を促すことの意義を考えたい。

 税制改革は、財務省が選んだ「有識者」からなる政府の税制調査会が理論面を検討し、与党、とりわけ自民党の税制調査会が財務省とやりとりしつつ具体案を決める。その主役は、力の衰えをささやかれながらも、税制通を自任する一部のベテラン議員だ。肝心の納税者は蚊帳の外と言っても過言ではない。

 もちろん、議会制民主主義・議院内閣制のもとでは、国民の多数の支持を得た与党と内閣が税制を決め、選挙を通じて審判を仰ぐのが基本だが、納税者の影があまりに薄い。

 納税者側に「税金を取られる」意識ばかりが強まり、「税金を納め、国や自治体に必要なサービスをさせる」という、主権者としての意識が乏しいのも、そんな税制の決定過程が一因と言えまいか。

 納税者の「被害者」意識は、財政のあり方に影響する。

 税金を取られるという感覚では、負担と給付を一体で考えることは期待できず、「負担は少なく、給付は多く」となりがちだ。そこに選挙での勝利を最優先する政治家の姿勢が重なるとどうなるか。国の借金総額が1千兆円を超えた財政難の、根っこにある構図である。

 そんな状況を、「モノ言う納税者」への試みを通じて改めていけないか。

 税制についてどんどん声をあげる。負担と給付の全体に目を光らせ、政府・与党が決めた税制や予算に点数を付けつつ、新たな注文を出す。そんな循環を作りたい。

 民間税調の中心メンバー5人の間では、消費税率の10%超への引き上げの是非など、一致しない点もあるようだ。そうした違いを隠さず、一般の参加者も交えて意見を戦わせてほしい。

 徹底的な議論こそが「モノ言う納税者」への出発点である。

研究開発法人―組織間の連携を急げ

 二つの独立行政法人「科学技術振興機構(JST)」と「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」が先週、包括的な相互協力協定を結んだ。

 これまでは個別の協力案件があると、そのたびに知的財産の扱いや、費用分担、秘密保持などを協議していた。

 協定により、JAXAの有望な技術に対して、JSTが研究開発費をつけて発展させたり、宇宙航空以外での応用をめざしたり、といった協力がずっとスムーズになるという。

 合理的で結構なことである。

 政府の下で重要な研究開発を担う独法は、これにならって連携を強めてほしい。

 効果は期待できる。

 例えば、宇宙での天体観測用に開発したJAXAの技術が、JSTの資金で放射能汚染を画像で示すカメラに結実した。すぐに製品になり、福島第一原発の周辺で使われている。

 だが、これまではごく少数の個別案件にとどまってきた。

 各独法同士に互いの連携という意識が乏しいからである。

 JSTが他の独法とこうした協定を結んだのは初めて。JAXAも2例あるだけだ。

 新日鉄副社長を務めた奥村直樹JAXA理事長は、一昨年の就任直後からJSTに連携を持ちかけた。だが最初は担当部署さえはっきりせず、協定を結ぶまで時間がかかった。

 同じ文部科学省が主管する両者でさえ、それが現状である。別々の省の下にある独法間の垣根はさらに高い。

 4月の独法改革で、研究開発を担う独法は約30の「国立研究開発法人」として再出発する。主管は文科省のほか、内閣府、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省と8府省にわたる。

 国家戦略に沿った研究開発の推進をめざすが、同時に導入される主務大臣の関与強化が縄張り意識や省益の維持に向かう懸念もある。

 地球温暖化や自然災害への対策、少子高齢社会の医療など、分野融合的な研究や技術開発がますます重要な時代である。

 情報を共有し重要課題を効率よく多角的に研究するために、新法人同士の連携は不可欠だ。

 世界はさらに先を行く。国境を超えて技術や研究アイデアを集め、実用化を急ぐオープンイノベーションに向かっている。

 研究機関の連携に関して、日本は周回遅れといえるかも知れない。山積する地球規模の問題を解決するために、世界から知を集める仕組みづくりが国内でも求められている。

将来の電源構成 原発の適切な活用が現実的だ

 日本の電力供給は、原子力、火力、再生可能エネルギーをどう組み合わせて賄うべきか。

 2030年の最適な電源構成の目標策定に向けた議論が、経済産業省の審議会で本格化している。6月までに結論を出す方向という。

 電源構成は、エネルギー安全保障や経済成長にかかわる重要な課題だ。経済性と安定供給、環境にも目配りした論議を求めたい。

 焦点は、東京電力福島第一原子力発電所の事故前に約30%を占めていた原発比率の扱いである。

 政府は昨年4月のエネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた。一方、原発依存度を「可能な限り低減させる」とし、電源構成の全体像は明示しなかった。

 原発は発電量が安定しており、燃料費は他の電源よりも格段に安い。温室効果ガスを発生しない利点もある。安全性の確保を大前提に、一定の原発の活用を続けていくことが現実的だ。

 全原発の停止が続く現在、電力供給の約90%を火力発電に頼っている。追加燃料費は年4兆円近くかかり、電気料金は家庭用で2割、産業向けは3割も上昇した。

 エネルギー自給率は、1970年代の石油危機時を下回る6%に落ち込み、経済性と安全保障の両面で危機的状況に陥っている。

 審議会では今のところ「原発ゼロ」を求める意見はなく、15~25%を軸に検討が進みそうだ。

 ただし、原発を運転開始から原則40年で廃炉にする規制を厳格に適用していくと、原発比率が30年に15%に下がり、49年にはゼロになるという問題がある。

 これでは、安定供給を支える重要なベースロード電源の役割は果たせない。電源構成と併せて、老朽化した原発の更新や新増設を行う方針を明確化すべきだ。

 政府は基本計画で、水力を含めて約10%の再生エネを30年に20%以上とする方針を示した。環境負荷の小さい再生エネはできるだけ伸ばしたいが、現状では欠点が多く、基幹電源とはなりえない。

 発電コストの高い太陽光や風力を急激に普及させると、家計などの料金負担は大きく膨らむ。時間帯や天候による発電量の変動が大きいため、需給バランスが崩れ、停電を引き起こす懸念もある。

 発電の安定している大規模水力や地熱は、適地が国立公園などにあり、開発の余地が限られる。

 電源構成を定める際、再生エネ拡大に過度に期待し、安易に高い比率を見込むのは無責任だ。

保釈率の上昇 「人質司法」見直しを進めたい

 否認すると身柄拘束を解かれない。そんな「人質司法」に改善の兆しが出てきたのだろうか。

 逮捕した容疑者に関する検察の勾留請求を裁判所が却下する割合や、起訴後に被告の保釈を認める割合が、近年、上昇傾向にある。

 勾留請求の却下率は、2004年の0・5%から13年は2%に、被告の保釈率も、04年の13%から13年は22%に伸びた。ともに、09年の裁判員制度導入を境に上昇が目立っている。

 裁判所が勾留の必要性を厳格に判断し、その結果として、過剰な拘束が減っていると、好意的に捉える司法関係者は多い。

 裁判員制度の導入により、裁判所が国民の目を従来よりも意識し、公正な運用に努めている側面もあるのではないか。

 昨年11月には、最高裁が、地裁の保釈決定を取り消した高裁の判断を退け、保釈を認めた。その際、最高裁は、保釈については地裁の判断を尊重すべきだとの初判断を示した。保釈拡大の流れを後押ししたと言えよう。

 容疑者や被告を拘置所などに拘束する勾留は、憲法で保障された身体の自由という重大な権利を制約する手続きである。

 それゆえ、証拠隠滅や逃亡の恐れがどの程度あるかを、裁判官が事件ごとに勘案した上で、限定的に行うのが原則だ。

 ところが、被告が否認している場合、裁判官は必要以上に保釈に消極的だった。

 電車内の痴漢行為による迷惑防止条例違反など、執行猶予付きの判決が予想される比較的刑が軽い事件でも、勾留が続くケースが少なくなかった。

 大阪の郵便不正事件では、無実を訴えた厚生労働省の村木厚子さんが、起訴後も5か月近く、勾留されている。

 勾留中には、拘置所の面会室でアクリル板越しにしか弁護士と打ち合わせができず、裁判の準備をする上で大きな制約を受ける。被告の防御権を確保する観点から、徒(いたずら)に勾留を長引かせるべきでないのは明らかだろう。

 長期の拘束が、自白を迫る圧力となり、冤罪(えんざい)の一因になってきたことを忘れてはならない。

 法務省は、今国会に提出する刑事訴訟法改正案で、裁判官が保釈の是非を判断する際に留意すべき点を明文化する方針だ。

 あいまいに運用される余地を残さないためにも、国民が理解しやすい具体的なルールを示すことが肝要である。

2015年2月22日日曜日

ギリシャ危機の解決はこれからが本番だ

 緊縮財政に強く反発するギリシャへの金融支援をめぐり、欧州連合(EU)と同国は、2月末が期限の支援を4カ月延長することで合意した。財政破綻やユーロ圏離脱という最悪の事態はとりあえず回避された。しかし、債務問題と構造改革など同国が向き合うべき最も重要な課題については、議論を先送りしたにすぎない。

 ギリシャが求めた6カ月の支援延長は4カ月に短縮された。歳出削減や公的資産の売却など、構造改革の中身では、具体的な合意には至らなかった。改革案はこれから同国がまとめ、EUなどが認めれば、正式に支援延長の手続きに入るという。

 ギリシャは3月下旬にも資金不足に陥ると見られていた。チプラス政権は今回の合意に安堵することなく、まず実行可能な改革案をつくり、金融支援を土台に自律的な成長を可能にする道筋を示すべきだ。政権を担う以上、保護に慣れた国民を説得し、現実的に政策を運営する責任がある。

 ユーロ圏に占める経済規模が3%弱にすぎない小国ギリシャに、単一通貨ユーロ体制が激しく振り回されている。ドイツ、フランスなど欧州主要国の政治指導者は、この厳しい経済統合の現実の姿を直視すべきである。

 ギリシャでは1月の総選挙で、年金支給額や公務員給与の引き上げなど甘い公約を並べた急進左派が圧勝し、反EUを掲げる右派政党と組んでチプラス政権が誕生した。今後こうしたポピュリズム政治が、緊縮財政に疲れた国々で台頭する可能性は否定できない。

 目先の金融市場の混乱や、ギリシャの銀行破綻を避けるため努力するのは当然である。ユーロ圏発で再び世界的な金融不安が起きては困る。だが、ギリシャ危機の本質は、経済的な問題にとどまらない。EUと対立するロシアと地理的に近いギリシャ経済を、ユーロ圏の一員として安定させることが地政学的に極めて重要だ。

 チプラス政権が一貫して強気であるのも、EUにとってギリシャが戦略的に重要な地位にあることを、十分に認識しているからだろう。だとすれば、EUはギリシャを仲間として守るために、現実主義に立って協議し、必要な支援を続けるしかない。

 とりわけ緊縮財政で教条的な主張が目立つドイツに、柔軟な対応を期待する。今回の合意をギリシャ再建への一歩にしてほしい。

撤廃したい有期雇用への規制

 働く期間を定めた「有期雇用」契約が5年を超えて更新された場合に、その人が望めば無期雇用に移れるというルールが、4月から一部見直される。年収が1075万円以上で高度の専門知識や技能を持った人は、無期雇用に転換する権利が生じる期間を10年に延ばすなどの内容となっている。

 2013年春に施行された改正労働契約法の無期転換ルールをめぐっては、雇用責任が重くなるのを嫌った企業が、5年を超える前に契約を打ち切りかねないという懸念がある。特例措置は歓迎だ。

 だが問題は、企業に無期雇用を義務づけるルールそのものにある。雇用不安が広がらないよう撤廃を考えてはどうか。

 特例は高度の専門性を持った人材が、5年を超えるプロジェクトに有期契約で加わりやすくするなどの狙いがある。博士の学位や弁護士、公認会計士、1級建築士などの資格の取得者らが対象になる。労働法規では高度の専門職の年収要件を1075万円以上としており、この基準を今回の特例にも使うこととした。

 また定年後に契約制で継続雇用される人については、無期転換ルールの対象に含めない。

 ただ1440万人にのぼる有期契約の労働者のなかで、こうした特例の対象になる人は限られる。大部分を占めるパート労働者や契約社員らが早めに雇用契約を打ち切られる心配に変わりはない。

 無期転換ルールは民主党政権下で、非正規労働者の雇用を安定させようと導入された。早期の契約打ち切りを招いて雇用が不安定になっては本末転倒だ。

 非正規労働者の処遇改善や正社員転換など雇用の安定化には、労働規制の強化で企業にコスト負担増を強いるのでなく、本人が技能を高めたり新しい知識を身につけたりする機会を広げることの方が確実な道だ。

 成長産業で働くのに必要な技能を習得できるよう公共職業訓練の中身を見直すなど、自助努力がかなう環境づくりに力を入れたい。

首相のヤジ―敵意むき出し華もなし

 先日の衆院予算委員会で、耳を疑う場面があった。

 民主党の玉木雄一郎氏が、砂糖業界団体の関連企業から西川農水相への寄付について、「脱法献金だと言わざるを得ない」と追及していた時のことだ。

 首相が自席からこんなヤジを飛ばした。

 「日教組!」「日教組どうするの、日教組!」

 玉木氏は「総理、ヤジを飛ばさないで」と繰り返し、見かねた大島理森予算委員長が「総理、総理も、ちょっと静かに」とたしなめた。

 NHKやネットで生中継されていた中でのこと。首相がどうしてこんなヤジを飛ばすのか、多くの人が首をひねったに違いない。

 首相の念頭には自民党が野党時代に国会で取り上げた民主党議員と日教組との関係があったようだ。翌日には民主党からの抗議に「今後、静かな討論を心がけたい」と語った。

 ヤジは「議会の華」という。ただし、これは言論を生業とする政治家ならではの絶妙な「突っ込み」をたたえる言葉だ。

 首相はよく、答弁中のヤジに「私が答えているんですから」と顔をしかめる。それなのに閣僚の疑惑を突かれたからといって敵意むき出しで言い返すのでは、行政府の長としての矜恃(きょうじ)や品位を自らおとしめることにしかならない。

 最近の首相発言でもうひとつ気になったのは、中東の過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件にからむ答弁だ。

 周辺国への2億ドル支援を表明した首相スピーチによって、人質に危険が及ぶかもしれないとの認識はあったのか。参院予算委での共産党の小池晃氏の問いに、首相はこう答えた。

 「小池さんの質問はまるで、ISIL(「イスラム国」)に対しては批判をしてはならないような印象を我々は受ける。それはまさに、テロリストに屈することになると思う」

 そうだろうか。むしろ逆に「首相の答弁はまるで、『イスラム国』と闘う首相に対しては批判をしてはならないような印象を我々は受ける」と返したくなってしまう。

 後日の衆院本会議で自民党議員が、共産党の志位委員長の質問中に「さすがテロ政党」とヤジを飛ばした。首相の意を忖度(そんたく)したのかどうかは知らないが、悪質なレッテル貼りとしかいいようがない。謝罪に追い込まれたのは当然だ。

 国権の最高機関の中での話である。あきれるしかない発言はお断りしたい。

青酸事件―犯罪死の見逃し防げ

 青酸化合物を使って夫や内縁関係の男性を殺害したとして、京都府の無職の女(68)が殺人罪で起訴された。

 警察の調べに対し、女はほかにも複数の男性の殺害を認める供述をしているという。

 捜査関係者によると、女は約20年間で10人以上の男性と再婚・交際し、億単位の遺産を手にしていたという。起訴した事件以外にも被害者はいるのか、動機は何かなど、未解明な点は多い。捜査当局は全容解明に力を尽くしてほしい。同時に、供述の通りならなぜ今まで明らかにならなかったのか、検証も必要だろう。

 捜査を難しくしているのは、過去の証拠が十分に残っていないことだ。事件性があると判断していなければ、遺体の解剖はされていない可能性が高い。死因を調べ直すことは難しい。

 人が死亡した時の初動対応がいかに大切か、改めて指摘しておきたい。

 連続不審死の疑いが強まったのは、女の元交際相手らが相次いで亡くなっていることをつかんだ京都府警が、他府県警に夫以外の男性の死亡状況を照会したことがきっかけだった。

 その結果、約3年前に病死したとされていた大阪の男性(当時71)の血液が、遺体を解剖した大学病院に保管されていることがわかった。男性はバイク事故の後に亡くなったが、事故死か病死かを見極めるために司法解剖されていた。再鑑定で血液から青酸化合物が検出されたため、この事件は起訴された。

 警察庁の有識者研究会が4年前にまとめた報告書「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方について」によると、警察への届けがあった死体のうち、司法、行政いずれかの解剖に至ったのは約11%にとどまっている。スウェーデンでは89%、フィンランドでは78%で、報告書は理由として人口100万人あたりの解剖医の数が、スウェーデンが約5・4人なのに対し日本は約1・3人に過ぎないことを指摘する。

 医師そのものが不足しているいま、監察医や法医学者だけを増やすのは難しいだろう。警察は、検視にあたる捜査員の資質向上など、できることから対策を強化しなければならない。

 日常的に人の死に接する臨床医の眼力も問われている。不審な点を認めたら、ためらわず警察へ通報するべきだ。

 死因の究明は疫病や労災、事故の再発防止にも役立つ。今回の事件を、死者の残した手がかりを最大限、見逃さない制度整備につなげてほしい。

竹島の日10年 「領土」解決に重要な啓発活動

 領土問題の解決には、外交交渉に加え、国民の関心を高め、問題を正しく理解してもらう国内啓発活動が欠かせない。

 島根県などが22日、松江市で第10回「竹島の日」記念式典を開催する。

 島根県は2005年に条例を制定し、翌年以降、1905年に竹島が県に編入された2月22日に式典を開いてきた。竹島に関する調査研究活動を続け、解説書や記念誌も製作した。その地道な努力に敬意を払いたい。

 政府は、領土問題担当の松本洋平内閣府政務官を式典に参加させる。12年まで政府代表は出席していなかったが、安倍政権の発足後、政務官の派遣は3年連続だ。

 自民党は12年衆院選で政府式典の開催を公約したものの、韓国への配慮から見送っている。

 13年2月には内閣官房に領土・主権対策企画調整室を設置し、昨年6月から竹島関係の資料収集を続けている。領土教育や対外発信にも力を入れたい。より多くの人々が竹島問題の歴史的経緯や現状を知ることが大切である。

 竹島は、江戸時代から日本が漁労地として利用してきた。戦後のサンフランシスコ講和条約でも日本が放棄する領土に含まれなかった。だが、条約発効直前の52年1月、韓国は李承晩ラインを一方的に設定し、不法占拠している。

 昨年6月と11月にも、日本の中止要求に応じず、周辺海域で軍事訓練を強行した。

 日韓関係は停滞の度を深めている。朴槿恵大統領が、慰安婦問題の解決が前提条件とし、首脳会談を頑かたくなに拒否しているためだ。

 今月中旬、自民党の二階総務会長が韓国を訪問し、関係改善を呼びかける安倍首相の親書を手渡した。朴氏は「元慰安婦が生きている間に問題を解決したい」と繰り返すのみだった。その主張は依然として、具体性に欠けている。

 アジア通貨危機を踏まえて01年に締結された日韓通貨交換(スワップ)協定も、23日に期限切れのために終了する。

 韓国の外貨準備高が増え、協定の必要性は低下したとはいえ、李明博前大統領の竹島訪問強行などに伴う日韓関係の悪化が背景にあるのは間違いあるまい。

 日中韓当局は、3月下旬に3か国外相会談を韓国で開く方向で調整している。6月22日に日韓基本条約署名50周年を控え、関係修復への契機となる可能性もある。

 領土問題で対立しても、対話や実務的協力を重ね、双方が歩み寄って良好な関係を構築したい。

難民偽装問題 悪用防ぐ制度見直しが必要だ

 深刻な迫害から逃れてきた難民を救済するための制度が、就労目的の外国人に悪用されている。制度の根幹を揺るがす、ゆゆしき事態である。

 悪用が横行している実態は、昨年11月、ネパール人のブローカーの男が入管難民法違反(不法就労助長)容疑で入管当局に摘発されたのを機に表面化した。

 男は、短期ビザなどで来日した多数のネパール人に虚偽の難民申請をさせて、仕事をあっせんしていた。申請者には一定の条件下で就労が認められる難民認定制度を逆手にとった犯行だった。

 背後には、安価な労働力を求める日本国内の企業、人材派遣業者の存在も浮かんでいる。

 男は「日本は申請のハードルが低い。ウソを書いても受け付けてもらえる」と供述したという。

 いかなる理由の難民申請でも受理される現行制度の問題点が浮き彫りになった、と言えよう。

 2010年3月の制度改正で、正規在留者は申請から6か月を超えれば、一律に就労できるようになった。不認定とされても、異議申し立てや再申請を繰り返せば、合法的に働き続けられる。

 この改正以降、同様の就労目的の虚偽申請が相次ぎ、難民申請の総数が急増している。14年中の申請者は、10年の4倍超の約5000人に達し、異議申し立ても増え続けている。

 入管当局の認定審査も追いつかない。結果が出るまでの期間は、11年度の平均5・25か月から、14年は6・3か月に延びた。異議申し立ての審査には、さらに平均約2年5か月を要している。

 審査の長期化は、救済されるべき難民の保護の遅れにつながる。看過できない状況だ。上川法相は記者会見で「適正化を図ることが重要だ」と述べ、制度を見直す意向を明らかにした。

 難民調査官などを増員する一方、申請理由が明らかに難民に該当しないケースは、早い段階で審査対象から外すなど、認定審査の効率化を図る必要がある。

 欧州連合(EU)は、最初の申請と同じ理由での再申請を却下する「一事不再理」の導入を加盟国に促している。参考にしたい。

 一連の偽装申請には、実習先から逃亡した外国人技能実習生も多数、関わっている。

 技能実習制度は、途上国の人に日本の技術を伝えるのが狙いだ。就労目的の偽装申請をするために、実習制度を「隠れみの」に来日したとすれば問題である。法務省は実態解明を進めるべきだ。

2015年2月21日土曜日

企業は資本効率の向上で市場評価高めよ

 日経平均株価が1万8000円を上回り、IT(情報技術)ブームにわいた2000年春の水準まで回復してきた。

 企業が不採算事業の見直しなどによって稼ぐ力を取り戻していることが、株高の背景にある。それだけでなく、資本を効率的に使う意識が企業の間で広がっていることも見逃せない。企業が市場評価を長期的に高めるには、資本効率の向上策を株主に示し実行することが欠かせない。

 資本効率を示す代表的な経営指標として、自己資本利益率(ROE)があげられる。低ROEは投資家の目に日本企業の競争力の低さと映り、株価が低迷する一因となってきた。

 14年度の上場企業のROEは9%弱と、ITブームのころに比べて4ポイント程度改善する見通しだ。こうした変化の兆しが日本企業に対する市場の評価を良い方向に変えつつある。しかし、米欧に目を転じるとROEが15%程度の企業も珍しくない。日本企業は改善の余地がまだ大きいといえる。

 ROE向上の姿勢を鮮明にした企業の一つがソニーだ。このほど発表した中期経営方針の中で17年度の数値目標として、5000億円以上の営業利益と10%以上のROEを掲げた。成長分野とみる電子部品やゲーム、映画、音楽に重点的に投資し、資本を無駄遣いしないようにする。

 ROEは自社株買いや配当で資本の増加を抑えることによっても引き上げが可能だ。株主が企業に自社株買いを求めるのもROEを意識してのことだ。それに呼応して企業も自社株買いなどの株主配分を増やしている。

 株主配分は個人消費を刺激するなど、経済を活性化させる効果もあるとされる。しかし、企業が投資に回すべきお金まで配分すると、中長期の利益成長や雇用の拡大が犠牲になりかねない。

 こうしたROE重視経営の副作用を避けるために、資本効率と利益成長の両面を追求することも必要だ。例えば富士フイルムホールディングスは昨年11月に作った経営計画でROEの数値目標を掲げるとともに、M&A(合併・買収)に4000億~5000億円を投じる戦略も示した。

 多くの企業はリストラで捻出した資金を豊富に持っている。手元資金を効率よく使って利益を増やし、ROEを向上させるという好循環が期待される。

海外下請けの現場に目配りを

 カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの製造を請け負う中国企業2社の工場を、香港の非政府組織(NGO)が潜入調査し、労働環境に深刻な問題があるとの報告を先月に発表した。

 ファーストリテイリングは報告の一部を事実と認める一方、2016年3月末までにすべての取引先工場の労働環境に対する監査を実施すると表明した。

 法律上、ファーストリテイリングに海外下請け会社の労働環境を整える義務はない。ただ、放置すればユニクロのブランドに傷がつきかねない。

 NGOの報告を頭ごなしに否定したり無視したりせず正面から受け止めて対応したのは、危機管理の面で適切だったといえよう。半面、NGOの指摘を受けて対策を打ち出す形になったのは、世界規模でビジネスを展開する企業として恥ずかしい印象もある。

 グローバル企業の海外下請け工場では、労働環境に問題があると疑わせる出来事がしばしば起きている。有名なのは、米アップルの製造を請け負う台湾の鴻海精密工業の中国子会社で5年前、従業員の自殺が相次いだ事件だ。

 結果としてアップルは、下請け工場の労働環境の改善に乗り出さざるを得なくなった。こんな前例をファーストリテイリングは知らなかったのだろうか。

 国境をまたがるサプライチェーン(供給網)がグローバル企業の経営効率を高め高収益を支えてきたのは確かだ。だが下請け企業が多く立地する途上国では、地元の当局も企業経営者も労働環境の向上に必ずしも積極的ではない。

 そんな現実をグローバル企業の経営者はしっかり見据え、対策をとる必要がある。

 政府の姿勢も問われる。米国は外国と自由貿易協定を結ぶ際、労働環境への目配りを求める条項を盛り込むようつとめてきた。対して日本は自由貿易交渉で重視してきたとは言いがたい。もっと前向きの取り組みが求められる。

与党安保協議―歯止めはどこへ行った

 今国会の焦点となる安全保障法制をめぐり、政府の拡大志向が止まらない。まるでブレーキのない乗り物をつくるような勢いである。

 政府はきのうの与党協議で、周辺事態法の抜本改正案を示した。自衛隊の活動の地理的制約として機能してきた「周辺」という概念をなくすという。

 だが周辺事態法から「周辺」をなくして、いったい何が残ると言うのだろう。

 かりに政府案のまま与党が合意すれば、朝鮮半島など日本周辺の有事を想定して米軍への後方支援を定めた周辺事態法は、まったく別の性格の法律に変質する。公明党から慎重論が出るのは当然だ。

 政府はもともと周辺事態法を撤廃する考えだった。自衛隊の他国軍への後方支援を可能とする恒久法に一本化し、活動範囲を地球規模に広げる考えだ。

 結局、地理的な歯止めを求める公明党に配慮し、周辺事態法を残す方向になったが、改正案の中身は完全な骨抜きとしか言いようがない。

 確かに周辺事態という言葉にはあいまいな側面がある。政府は「地理的概念ではなく、事態の性質に着目した概念」と説明してきた。それが国会で批判されると「中東、インド洋、地球の裏側は考えられない」などと答弁して切り抜けてきた。

 法制定時、「周辺」という考え方について丁寧に説明するよう法案を修正した経緯もある。国民の幅広い理解を得るための措置だった。これを度外視するのは、当時の国会の議論を軽視することにならないか。

 政府が矢継ぎ早に投げかける提案は、これにとどまらない。自衛隊の支援対象は米軍以外にも広げ、これまで認めてこなかった武器・弾薬の提供や、発進準備中の航空機への給油なども想定している。

 国際貢献をめぐる恒久法についても、国連決議なしで後方支援ができるようにする考えだ。公明党は「国連決議を条件とすべきだ」と主張しているが、議論の行方は見えない。

 周辺事態法の地理的制約も、国会の関与も、国連決議も、政府をしばる要素は外していこうという動きである。集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の活動範囲を広げる昨年7月の閣議決定を、与党だけの協議でさらにゆるめようというのか。

 政府は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安全保障法制」をめざすという。だがその結果、歯止めのない法案になってしまうなら、国民の理解は得られまい。

株価の上昇―賃上げの追い風に

 東京株式市場で株価が上昇している。日経平均株価はITバブルのころ以来、15年ぶりの高値で、リーマン・ショック後の最安値(09年3月)と比べて2・6倍近い水準に達している。

 株高は、日本企業の好業績が反映している。電機や自動車などの輸出型の企業では、円安メリットを受けて今年3月期の純利益が過去最高になりそうなところが目立つ。原油安の恩恵が及ぶ企業も多い。

 ただ、今の株価は業績だけの産物ではない。日本銀行の金融緩和でお金が株式市場に流れ込み、株価を押し上げている。

 各国の中央銀行も金融緩和を続けてきた結果、株高は世界的な現象になり、経済好調の米国はもとより、デフレ懸念に加えてウクライナ紛争やギリシャの債務問題を抱える欧州でも、史上最高値水準で推移している。

 金融の世界では、巨額のお金が国境を越えて瞬時に動く。株価も、金融要因が大きければ、上にも下にも大きく動く。

 日本の場合には、約130兆円の公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が資金を国債から国内株式に移していることも株価を支えているとはいえ、今後も株価がこれまでのように上昇を続けるかどうか、保証の限りではない。

 それでも、15年ぶりの株高は日本経済にとっては追い風である。この好機を生かして、日本経済が成長軌道に戻るためには、実体経済の一層の改善が不可欠だ。

 週初めに発表された昨年10~12月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、3四半期ぶりにプラスに転じたものの、事前に期待されていたほど成長率は高くなかった。特に、経済の柱である個人消費が0・3%増と、円安を受けて持ち直した輸出(2・7%増)に比べて伸び悩みが目立った。

 回復を本物にするためにカギを握るのは、個人消費だ。個人消費が膨らめば、企業の設備投資の回復も期待できる。

 昨年4月の消費増税もあって振るわない個人消費が上向くためには、賃金の増加が欠かせない。名目の給与額は増えているものの、物価上昇分を差し引いた実質賃金は昨年12月まで、18カ月連続で前年を下回ってきている。

 春闘の労使交渉が本格化している。円安や原油安、さらには株高で企業が受けた恩恵を賃上げを通じて家計に広げてほしい。株高による景況感の改善は賃上げにこそ、追い風になるはずである。

対テロ閣僚会合 重層的な包囲網の構築を急げ

 テロと、その源泉である過激思想を封じ込めるため、国際社会が実効性ある重層的な包囲網を構築することが急務だ。

 米国主催の「暴力的過激主義への対処に関するサミット」の閣僚級会合は、過激派組織「イスラム国」などの宣伝戦への対抗措置を強化するとの共同声明を発表した。

 「イスラム国」は、巧みなインターネット戦術で、100か国以上から2万人以上の外国人戦闘員を勧誘したとされる。だが、出身国に帰還した元戦闘員には、大義のない残虐行為や過酷な生活に失望した人が少なくない。

 そうした声を広く紹介し、「イスラム国」の宣伝がウソだらけであることを的確に指摘する戦略的な広報活動を、各国政府が協調して展開することが重要である。

 オバマ米大統領は、十字軍や植民地支配の歴史を持つ西洋と中東が「戦争状態にある」とする、テロ組織による「文明の衝突」論を否定すべきだと訴えた。イスラム教指導者に「イスラム国」批判の声を上げることも呼びかけた。

 国際社会が穏健なイスラム教指導者と共闘し、過激派組織を孤立化させることが欠かせない。

 イスラム教徒の間で、暴力を正当化するイデオロギーを排除することが、「イスラム国」の勢力伸長に歯止めをかけよう。

 会合は、家族や宗教関係者らが若者の過激化を防ぐ努力や、刑務所内での過激思想の拡散を阻止することの必要性で一致した。

 危険人物の渡航制限のため、人定や移動に関する情報を国際刑事警察機構(ICPO)でデータベース化することも確認した。多国間の情報共有を急ぎたい。

 日本も、従来以上に主体的な取り組みが求められる。

 中山泰秀外務副大臣は会合で、中東、アフリカ諸国のテロ対処能力向上のため、国境管理の強化費などに1550万ドル(約18億円)を拠出する方針を表明した。

 日本人が標的となり得る現実を見据え、積極的に役割を果たす必要がある。過激思想を生む貧困や腐敗、人権抑圧などの土壌を改善せねばならない。

 中東諸国に対する医療や食料、教育などの人道支援を拡充し、地域の安定に寄与したい。

 テロ防止策として外務省は、携帯電話による在留邦人らの安否確認システムを導入し、日本人学校の警備強化も支援する。

 外国軍から情報を得るため、防衛駐在官を増員し、アラブ専門家を育成することも大切だ。

医療保険改革 都道府県主導で効率化図ろう

 医療の質を保ちつつ、制度の効率化を徹底し、膨張する給付費を抑制する。持続可能な制度にする契機としたい。

 厚生労働省が、医療保険制度改革関連法案をまとめた。政府は近く、法案を閣議決定し、通常国会に提出する。

 国民健康保険の財政運営を市町村から都道府県に移管することが柱だ。規模の拡大により、財政基盤を強化する狙いがある。

 国保は元々、自営業者らが対象の制度として創設された。しかし、定年後の元会社員ら無職の人や、企業の健康保険組合に入れない非正規労働者の加入が増え、今では全体の8割を占める。

 加入者の平均所得が低く、保険料収入が伸びない。高齢の加入者の増加で、医療費はかさむ。こうした構造的要因から、多くの市町村が実質的な赤字に陥っている。国保の現状を考えれば、都道府県移管の方向性は妥当である。

 移管により、市町村ごとの格差が大きい保険料や医療費の平準化を進めることも必要だ。

 国民全体の医療費は、年40兆円に達し、毎年1兆円ペースで増えている。その抑制は社会保障制度改革の最大のテーマである。

 昨年成立した医療・介護総合推進法は、都道府県に対し、将来の医療ニーズや必要な病床数を見通した上で、適切な医療の提供体制を整備するよう求めている。

 都道府県が国保の財政運営にも責任を負うようになれば、より効率的な医療体制作りに取り組む動機付けになろう。

 国保の赤字体質改善のため、政府は新たに年3400億円の財政支援を行う。消費増税分から年1700億円を投じるほか、加入者の給与水準が高い健保組合の負担を増やして財源を確保する。

 各健保の財務内容に応じた負担を求めるのは、やむを得まい。

 だが、健保組合も高齢者医療への拠出金が増加し、内情は厳しい。負担増には限界がある。国保側の一層の自助努力が不可欠だ。

 関連法案には、紹介状なしで大病院を受診する患者に定額負担を求めることが盛り込まれた。75歳以上の保険料を本来より軽減する特例措置は廃止される。負担の公平性の観点から必要な措置だ。

 病気予防や健康増進の奨励策も導入する。健診の実施率などに応じ、保険者の高齢者医療への拠出金を減らす。健康作りに努めた加入者に景品と交換できるポイントを付与する制度も後押しする。

 医療費の抑制に向け、官民を挙げて取り組むことが重要だ。

2015年2月20日金曜日

表面的な格差論争では満足できない

 国会論戦が佳境に入ってきた。最大野党の民主党は岡田克也代表が衆院の与野党代表質問や予算委員会で質問に立ち、格差問題を前面に出して舌戦を挑んだ。だが、目立った対案はなく、突っ込んだ議論には至らなかった。

 「30年前に12.0%だった相対的貧困率が2012年に16.1%に上昇した」。岡田氏はこのデータを根拠に国民の間で格差が広がっていると認めるよう迫った。アベノミクスは失敗だと印象付ける狙いのようだ。

 安倍晋三首相や甘利明経済財政・再生相は(1)所得分配の不均衡を示すジニ係数は大きく変化していない(2)相対的貧困率は保有資産などを含んでいない――などを理由に「格差が許容範囲を超えているとは認められない」と反論した。

 アベノミクスについては「全体の底上げをしっかり行っていく」として、弱者切り捨てとの見方を否定した。

 民主党が格差論争にこだわるのは、同じく岡田代表だった2004年の参院選にこの攻め口で勝利した記憶があるからだろう。

 当時は「政府は何とかしろ」というだけでアピールできた。政権を経験した今となっては「我々はこうする」がなければおかしい。格差のあるなしだけの表面的な論戦ではもはや満足できない。

 岡田氏が具体的な格差対策として挙げたのは、児童扶養手当の増額、とりわけ第3子の月額3000円の引き上げなどだ。塩崎恭久厚生労働相は財源の必要性などを挙げ、応じなかった。

 歯がゆい論戦だ。例えば、手当の増額と保育施設の充実のどちらが子育て世帯のためになるのか、経済の底上げにつながるのか。その優先順位などを巡って争えば、子どものいる家族など国会の外にも話題が広がっていこう。格差に関心を持つ人は増えつつあり、もっと深掘りした議論が必要ではないか。

 岡田氏はその後も「集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しは国会に諮るべきだった」「菅義偉官房長官が選挙期間中に首相官邸を離れていたのは危機管理上、好ましくない」など、手続き論的な政権批判に終始した。

 野党第2党の維新の党は「身を切る改革」に絞り、国会議員の給与である歳費の3割削減や文書通信滞在費の使途公開を訴えた。これだけで政権を託するに値する党なのかどうかは判断できない。

夫婦別姓問題を直視したい

 夫婦別姓を認めない民法の規定が憲法に違反するかどうかが争われた訴訟について、最高裁は大法廷で審理することを決めた。大法廷では裁判官の15人全員が審理に加わり、初の憲法判断を下す。

 夫婦別姓はこれまでもたびたび政府、政党内で議論されながら、そのままにされてきたテーマだ。社会全体で改めて正面から向き合い、考えていく必要がある。

 民法は結婚の際、夫婦が同じ姓を名乗るよう定めている。この規定を巡り男女5人が計600万円の国家賠償を求めて裁判を起こした。一審・東京地裁は「夫婦別姓は憲法で保障された権利とはいえない」として訴えを退け、二審・東京高裁も維持していた。

 法務省の法制審議会は1996年に、夫婦が希望すれば別々の姓を名乗ることを認める「選択的夫婦別姓制度」を導入するよう答申を出している。しかし自民党内で反対論が出たことなどから、法案提出には至らなかった。その後も何度か議論が起きたが、具体的な見直しにはつながっていない。

 姓を変えるのはほとんどが女性だ。仕事などで不便が生じないよう、旧姓を一定の範囲で使えるようにする職場は多いが、使い分けに苦労する人は少なくない。

 「家族の絆が弱まる」「子どもによくない影響がある」などの反対も根強い。とはいえ、社会のあり方や家族観が変わり、女性の社会進出も進むなか、約20年もの間、解決に向けた道筋が立たなかったことは残念だ。

 最高裁は女性の再婚禁止期間を6カ月と定めた規定を巡る訴訟についても、大法廷で審理することを決めた。やはり96年に6カ月から100日に短縮する答申が出たまま、棚上げされてきた課題だ。

 最高裁はいずれについても早ければ年内にも判断を示す見通しだ。政府も政治も、もはやこれらの問題から目をそらすことはできない。大事なのは幅広い国民的な議論だ。国民一人ひとりが自分のこととして、関心を寄せていくことが欠かせない。

夫婦別姓―多様な家族認めるとき

 夫婦別姓を認めない民法の規定は、個人の尊厳や男女平等などの憲法の理念に沿うのか。最高裁が判断することになった。

 地裁、高裁で退けられた事実婚の夫婦ら5人の訴えが、最高裁で大法廷に回された。判決はまだ先だが、最高裁は、高裁の判断をそのまま追認するわけではない姿勢を示唆している。

 生き方や、家族の形が多様化するなか、例外なく夫婦の一方に姓を変えさせる民法は、もはや時代にそぐわず、柔軟さを欠いている。最高裁は現実をつぶさにみて、考えてほしい。

 結婚を機に同姓になりたいと思う夫婦もいれば、そうできない、望まない人たちもいる。

 仕事で使ってきた姓を変えるのは不便だし、それまでの実績、人脈が途絶えるリスクもある。姓を変えて、自分が自分でなくなってしまうと感じる人もいる。一人っ子同士の結婚が増え、どちらの姓とも決められない場合もあるだろう。

 近年、職場で旧姓を使い続けるケースは浸透してきたが、それでも、文書の署名や銀行口座を開くような肝心の場面で、戸籍上の姓を使わざるをえない現実は今もある。

 婚姻届を出さずに事実婚を選ぶ場合、法律婚にある税制上の優遇はあきらめるしかない。

 女性だけに離婚後6カ月間、再婚を禁じる民法の規定についても、最高裁大法廷が判断することになった。こうした人生や個人のアイデンティティーに直結する問題を放置してきた国会の責任は重い。

 法制審議会は19年も前に「結婚しても姓を変えない利益を保護する必要がある」として、別姓を選べる民法改正要綱案を答申した。法務省が法案を準備し、是正の道筋をつけた。

 実現していないのは保守系議員が「家族の崩壊を招く」などと反対してきたからだ。必要な人に選択肢を与える改正なのに、それを許さない一部議員の姿勢は頑迷というほかない。

 12年の政府の世論調査では、「夫婦は同姓にすべきだ」と「希望すれば旧姓を名乗れるよう法改正していい」が拮抗(きっこう)するが、年代別では20~50代で「別姓許容」が上回る。今後の社会を担う世代の意識を重んじていくべきだろう。

 結婚で姓を変える96%は妻の側で、負担は女性に集中する。「女性の活躍を阻むあらゆる課題に挑戦する」と安倍政権は宣言している。ならばまず、選択的別姓を阻んできた自民党の姿勢を顧み、改めるべきだ。最高裁から言われる前に、国会自らが実行すべき問題である。

技能実習制度―人権守れる改革なのか

 外国人技能実習制度の見直しに関する報告書を、法務省と厚生労働省の合同有識者懇談会がまとめた。制度のもとで賃金不払いやパスポート取り上げなどの問題が生じ、内外から批判を招いた経緯がある。報告書は、監視の強化などは盛り込んだものの、実習生の環境を抜本的に見直すまでには至っていない。

 制度は「日本で働いて知識や技術を身につけ、母国に帰って生かす」という国際貢献を目的に掲げる。しかし、問題を根絶できなければ、外国人を受け入れる国際貢献にはならない。廃止を視野に入れるべきだ。

 この制度のもとで現在、約16万人が滞在。期間は最長3年、69職種に及ぶ。実習生は、数カ月の講習を経た後は法令上、労働者と位置づけられている。

 だが、労働法令が守られない問題が続き、労働基準監督署が寄せられた情報などを元に実習先を調査したところ、2013年には1844カ所(実習先全体の約6%)で違反が見つかった。法務省からは、パスポート取り上げなどの人権侵害事例も報告されている。同省によると、実習先からいなくなった実習生が13年に約3500人を数えている。

 米国務省は「強制労働がある」と批判。日本弁護士連合会も「(実習先の)変更が想定されておらず、支配従属的な関係が生じやすい」と指摘している。

 報告書は①監視強化のための組織を新設、実習先への立ち入り権限を持たせる②新組織に人権侵害などの通報窓口を設け、必要に応じて実習先の変更を支援する③問題を訴える実習生に実習先が不利益を与えた場合の罰則を整える、といった対策を打ち出した。

 今回の見直しには、条件付きで実習期間を5年に延ばせるようにすることも盛り込まれた。同時に4年目以降は職場を移ることも認めている。しかし、実習先で段階的に技能を習得する制度の目的から「(実習先を)自由に変更できるようにすることは困難」とした。

 報告書案で実習生の立場が変わるのか。外国人支援団体からは「実習生は帰国させられることを恐れて、やはり何も言えないのでは」との声もあがる。

 制度の見直しにあわせて対象分野を介護にも広げることも打ち出された。政府はこれまでの検討を踏まえて、今国会に法案を提出し、15年度中に実施することをめざす。

 問題を解消しないまま、制度を拡大してよいのか。国際貢献になるのか。国会で十分な審議を尽くしてほしい。

衆院予算委 本質的な安保論議が聞きたい

 注目された集団的自衛権をめぐる党首対決は、入り口論にとどまり、物足りなかった。次は、より本質的な安全保障論議を展開してほしい。

 新年度予算案に関する衆院予算委員会の質疑が始まった。

 民主党の岡田代表は、集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の新政府見解について「内閣が憲法解釈を変える悪い前例を作った。国会の議論がほとんどなく、国民の理解もない」と批判した。

 安倍首相は、1972年の政府見解の基本的な考え方を新見解は踏襲していると反論した。「何回も与党協議を開き、国会でも相当議論を重ねた」とも強調した。

 新見解は、行使の要件に「国民の権利が根底から覆される明白な危険」を明記し、従来の見解と一定の整合性を維持している。

 透明性の高い与党協議を経た閣議決定による政府見解の変更に、何ら瑕疵(かし)はあるまい。国会では今後、関連法案の審議を通じて、大いに議論を深めればよかろう。

 岡田氏は「徴兵制は憲法違反という解釈を変える内閣が将来出てこない保証はあるのか」とも語ったが、この論法は乱暴だ。

 岡田氏は幹事長時代、自衛隊による米軍艦船の防護の必要性などに理解を示していた。手続き論に終始せず、いかに日本の平和と安全を確保するか、という建設的な視点で論戦に臨んではどうか。

 過激派組織「イスラム国」の邦人人質事件に関し、岡田氏は首相官邸の危機管理体制を非難した。昨年12月に被害者家族に犯人側のメールが届いた際、首相と菅官房長官が衆院選遊説で東京に不在だったことを問題視したものだ。

 首相は、内閣法に基づき、世耕弘成官房副長官が菅長官を代行しており、対応に問題はなかったと突っぱねた。当時、拘束の事実が未確認だったとも説明した。

 重要なのは、首相や官房長官がどこにいたかではなく、官僚を含めた組織が適切に対応したかどうかである。政府の事件対応の検証は、冷静に進めたい。

 民主党の玉木雄一郎氏は、西川農相が代表の自民党支部が一昨年7月、砂糖業界団体の関連会社から100万円の寄付を受けた問題について「脱法行為だ」と追及した。農相は今週、返金した。

 団体は農水省の補助金を受け取っていたが、会社は別法人のため、政治資金規正法違反ではない。ただ、団体の会長が社長を務めるなど、両者は密接な関係にあった。農相は、寄付の経緯などをより丁寧に説明する責任がある。

PM2.5汚染 国内での排出抑制も忘れずに

 今年も微小粒子状物質(PM2・5)が、大陸から大量に飛来する季節になった。

 中国では、春にかけて大気中のPM2・5濃度が極めて高くなる。今季はまだ、西日本などでの広域汚染は観測されていないが、5月頃までは警戒を怠れない。

 健康被害を防ぐため、自治体は大気中濃度などのきめ細かい情報を住民に提供してもらいたい。

 PM2・5は直径2・5マイクロ・メートル(1マイクロ・メートルは1000分の1ミリ)以下の物質の総称だ。スギ花粉の約10分の1の大きさで、肺の奥まで入り込みやすい。

 喘息ぜんそくや肺がんなどの呼吸器系や循環器系の疾患につながる恐れもある。特に、高齢者や幼児は要注意である。濃度の高い日は、窓の開閉や外出を控えるなど、自衛策が求められる。

 九州で確認されるPM2・5の約7割が、中国や朝鮮半島から飛来したとみられる。北九州市は上海に専門家を派遣し、大気汚染対策などをアドバイスしている。こうした都市間の協力を拡充させていくことが大切だ。

 国内の排出源対策も忘れてはならない。関東では、確認されるPM2・5の約5割が、国内で発生したものと推定される。

 工場や焼却炉、自動車などから煤塵(ばいじん)として排出されるPM2・5のほか、排ガスや排煙中の窒素酸化物、硫黄酸化物などが大気中で化学反応を起こし、PM2・5に変化することも多い。

 日本では、他の大気汚染物質に比べ、PM2・5に的を絞った対策は遅れている。自動車の排ガス規制や焼却炉の排出規制の中で、削減が図られてきた。PM2・5の環境基準が設定されたのは、2009年になってからだ。

 環境省は、工場などの対策強化に乗り出す方針だ。効果的な排出抑制策の検討が必要である。

 発生源として無視できないのが、給油時にガソリンが気化して発生する「ガソリンベーパー」だ。PM2・5だけでなく、光化学スモッグの原因にもなる。

 米国では、発生を抑える装置を自動車に搭載することを義務付けている。欧州では、多くのガソリンスタンドに揮発防止装置が設けられている。日本でも、普及を促す方策を考えるべきだ。

 堆肥から出るアンモニアや、野焼きの煙も、PM2・5の発生源と考えられている。PM2・5の生成メカニズムには不明な点が多い。対策を充実させるには、科学的な解明が欠かせない。

2015年2月19日木曜日

「18歳投票」に備えた有権者教育が急務だ

 早ければ来年の参院選から現在は20歳以上の投票年齢が18歳以上に引き下げられる。戦後初の選挙で25歳から20歳にし、女性参政権を認めて以来の約70年ぶりの大改革だ。変えてよかったと誰もが思う選挙にするにはどうすればよいか。早めの備えをしておきたい。

 18歳に引き下げるための公職選挙法の改正は、自民、民主など主な与野党が合意済みだ。近く国会に法案を共同提出する方針で、今国会で成立する見通しである。

 憲法改正のための国民投票の投票権は18歳以上にした。一般の選挙も同じにするのが当然だ。

 国会図書館によると、調査した189カ国・地域のうち投票年齢が18歳なのは170もある。遅ればせながら、世界標準の仲間入りすることを歓迎したい。

 日本の主要法規は20歳をもって成人とする仕組みである。今回の与野党合意は投票年齢だけ下げ、重大な選挙違反に少年法を適用しないなど最低限の手直しにとどめる。民法の成人年齢などの引き下げに反対が多かったためだ。

 国政を左右する有権者でありながら、法的には子どもという人ができるのは違和感がある。現在の法体系を丸ごとつくり直すのは困難でも、法律ごとの成人年齢の見直しは続けるべきだ。

 明るい選挙推進協会によると、2013年の参院選での20歳代前半の投票率は31.18%で、70歳代前半(70.94%)の半分もなかった。放っておけば18、19歳の投票率も似たようなものになろう。適切な有権者教育が急務である。

 中学や高校で民主主義の大切さは教えているだろうが、選挙に関心を持たせる工夫がいる。近年、政党の選挙公約を読み比べて品評させ、国政選の模擬投票をする学校が増えているのはよい傾向だ。

 18歳投票が実現すると、実際に有権者がいる高3では、こうした試みがやりにくくなることが予想される。特定の政党を利することのないように配慮しつつ、必要以上に政治を教育から遠ざけることのないようにしてもらいたい。

 社会保障・人口問題研究所によると、1960年に41.5歳だった有権者の平均年齢は、半世紀後の2010年には52.7歳になった。政党はどうしても高齢者の意見に耳を傾けがちである。

 今回の法改正で若い有権者が240万人増える。社会保障などの世代間の負担が公平かどうかを改めて考えるきっかけにしたい。

コメ品種開発に企業の力を

 日本の農業の競争力をどうやって高め、産業として自立させていくか。農地の集約・大規模化や農協改革も重要だが、いろいろな分野で民間企業の力や知恵をいかす意識改革が欠かせない。コメなどの品種開発もそのひとつだ。

 「ササニシキ」や「ひとめぼれ」の開発で有名な宮城県の古川農業試験場は昨年、コメを大量消費する企業が参画する品種開発を始めた。外食や食品企業は既存の品種から選ぶのではなく、開発段階で「こんなコメがほしい」という要望を反映できるようになる。

 外食などの企業が調達するコメの量は年間300万トン程度に及び、国内需要のおよそ4割を占める。古川農業試験場の取り組みは遅すぎるくらいだ。

 コメの品種開発はこんなコメを作るべきだとして、戦後から一貫して国が主導してきた。その色彩はいまだに濃い。しかし、コメの国内流通は自由化し、需要は絶えず変化している。品種開発も企業の力を借りて進めるべきだ。

 そのために都道府県は公的な農業試験場だけでなく、民間企業が開発した品種も積極的に普及を後押しする対応を考えてほしい。

 住友化学は昨年9月、コメの生産・販売事業への参入を発表した。バイオベンチャーから買収した品種を農家に生産委託し、味の良さと生産コストの低減を両立したいという。企業の意欲を新品種の普及にもっとつなげるべきだ。

 単位面積あたりの収量を増やす多収性品種の開発にも取り組んでもらいたい。政府は飼料米で収量を増やす品種開発に力を入れる。ただ、減反政策が本格導入されて以降、主食米の多収性品種の普及は事実上、制限されてきた。

 三井化学グループが開発した「みつひかり」は通常品種に比べて最大5割ほど収量が増える。政府は2018年に減反廃止の方針を決め、生産コストを下げる政策を進めている。主食米でも多収性品種を活用すべきだ。農業改革には従来の固定観念を抜け出す自由な発想が欠かせない。

西川農水相―やましさはないのか

 西川農水相が代表を務める自民党支部への寄付が、疑惑を招いている。

 寄付をしたのは、環太平洋経済連携協定(TPP)で焦点になっている砂糖の業界団体の関連企業だ。西川氏は「違法性はないが、農水大臣の職責に鑑み、いささかも疑問を持たれないよう返金した」という。

 この説明は素直にうなずけるものではない。違法性がないならばあわてて返金する必要はないし、返金しなければならない献金なら、そもそも受け取るべきではなかった。

 野党はきょうからの衆院予算委員会でこの問題を取り上げるという。納得いく説明をしてもらわなければならない。

 問題になっているのは、「精糖工業会」の関連会社「精糖工業会館」から自民党栃木県第2選挙区支部への100万円の寄付。政府がTPP交渉に初めて参加する直前の、2013年7月のことだ。

 砂糖の原料は、政府がTPPで関税撤廃の例外とする「重要5項目」に含まれている。問題の寄付と同月にあった参院選前に発表された党の総合政策集には、5項目を聖域とし、それが確保されなければ「脱退も辞さない」と明記されている。

 当時、自民党のTPP対策委員長だった西川氏は農業団体などに「聖域は守る」と訴え、政府交渉団の「監視役」として海外にも同行していた。こうした立場の政治家への寄付である。交渉に圧力をかける意図を疑われても仕方がない。

 精糖工業会はまた、13年3月に農水省所管の事業で13億円の補助金を受けることが決まっていた。政治資金規正法は、国の補助金の決定通知から1年間の政治献金を禁じている。

 西川氏が「違法性はない」とするのは「工業会と会館は別法人」という理由からだが、双方の役員は重なり、事務所も同じビルにある。法の抜け穴をくぐったということではないのか。

 腐敗を招きやすい企業・団体献金をなくしていこうとの狙いで設けられたのが年間約320億円の政党助成制度だ。だが、20年たっても企業・団体献金の見直しは進んでいない。

 政治家が資金管理団体や政党支部など複数の「財布」を持ち、資金の流れが見えにくい仕組みも温存されている。

 問題が発覚するたびに政治家が理屈にあわぬ釈明を繰り返す。こんなことを続けていては、政治は信頼を失うばかりだ。「改革」を志向する政権ならば、こちらにも本腰を入れてみたらどうか。

ホルムズ海峡―これを突破口にするな

 安倍首相が衆院代表質問の答弁で、中東ホルムズ海峡での停戦前の自衛隊の機雷掃海について「国民生活に死活的影響が生じるような場合」には、集団的自衛権の行使で掃海が可能との見解を示した。

 日本が輸入する原油の8割はホルムズ海峡を通過しており極めて重要な輸送経路である▽ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合、かつての石油ショックを上回るほどに世界経済は大混乱し、我が国に深刻なエネルギー危機が発生しうる――。

 そんな説明の上で安倍首相は「我が国が武力攻撃を受けた場合と同様に深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況にあたりうる」と結論づけた。

 安保法制をめぐる与党協議は始まったばかりだ。公明党が慎重姿勢をとるなか、それを押し切るかのように自説を強調する首相の姿勢は疑問だ。まずは「死活的影響」とは何かを明確にする必要がある。そこをあいまいにしたまま、海峡での掃海を突破口にして、自衛隊の中東派遣と集団的自衛権の行使に道を開くべきではない。

 機雷がまかれた場合、想定されるのは日本の経済的な損失であろう。だがそれで、昨年7月の閣議決定に示された武力行使の新要件を満たすと考えるのは無理がある。

 新要件は「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」としている。経済危機が直ちに該当するとは考えられない。

 国民生活に「死活的影響」が生じるケースも、およそ想定しにくい。過去の政府答弁では憲法9条について「外部からの武力攻撃によって国民の生命や身体が危険にさらされるような場合」に、必要最小限度の実力行使を認めてきた。

 それと同じくらい深刻、重大な被害だとすれば、ホルムズ海峡への機雷敷設によって、国民の生命や身体が危険にさらされる事態ということになる。

 日本の石油備蓄は約6カ月分ある。その間、外務省も経済産業省も手をこまぬいたまま、新要件の「国民を守るために他に適当な手段がない」状況に陥って集団的自衛権の行使に踏み切ると言うのだろうか。

 いま中東について世界が頭を悩ませているのは過激派組織「イスラム国」への対処だ。混乱をどう収め、日本としてどんな貢献ができるか。それが喫緊の課題である。想定しがたい危機を取り上げて、自衛隊の活動をめぐる拡大解釈を重ねることが政治の役割ではあるまい。

戦後70年談話 平和貢献の決意を発信したい

 過去への反省を踏まえつつ、世界の平和と繁栄に日本がどんな役割を果たすのか。未来志向のメッセージを対外発信することが肝要である。

 安倍首相が、今夏に発表する予定の戦後70年の首相談話に関して月内に有識者会議を設置し、談話の内容や表現方法を議論してもらう意向を表明している。

 談話には、大戦への反省、戦後の平和国家の歩み、今後の国際貢献などを盛り込む考えだ。

 戦前・戦中に関する歴史認識だけでなく、戦後日本を総括したうえで、将来の針路や政策の方向性について、国際社会に明示することは重要な意義を持つ。

 日本は戦後、一貫して日米同盟と国際協調を重視し、平和外交を推進してきた。政府開発援助(ODA)や国連平和維持活動(PKO)などを通じた貢献は、高い評価を受けている。

 国際社会は今、地域紛争や、国際テロと大量破壊兵器の拡散、貧困、環境破壊など、様々な脅威に直面する。日本が今後、「積極的平和主義」に基づき、こうした課題に、より能動的に取り組む姿勢を明確に打ち出すべきだろう。

 戦後50年の村山談話は、「植民地支配と侵略」でアジア諸国などに「多大の損害と苦痛を与えた」として、「痛切な反省」と「心からのお詫(わ)び」を表明した。

 この認識は、歴代内閣に引き継がれている。戦後60年の小泉談話も、一連の文言を踏襲した。

 安倍首相は、村山、小泉両談話について、「全体として引き継ぐ」と何度も明言している。

 一方で、植民地支配、侵略など個別の文言については、「今までのスタイルを下敷きにすると、細々した議論になる」と述べ、必ずしもこだわらない考えも示す。

 首相談話を出す度に、大戦への謝罪を続けることが適切なのか。過去の談話との違いばかりに関心が集まることが良いのか。首相には、こうした問題意識があるようだ。その点は理解できる。

 首相は、今春の大型連休に米国を公式訪問し、戦後70年と今後の日米関係に関する共同文書を発表する方向で調整している。

 共同文書には、日本が日米同盟を通じてアジア太平洋地域と世界の平和と安定に寄与してきたとの見解や、同盟関係を一層強化する方針が盛り込まれる見通しだ。

 今夏の70年談話は、中国、韓国など多くの国が注目し、政治的な影響もあろう。その前に共同文書により、日米両国の認識を調整しておくことは重要である。

自衛隊海賊対処 司令官派遣は役割拡大の一歩

 自衛隊の海外任務を拡大し、国際協力を強化する一歩としたい。

 アフリカ・ソマリア沖で海賊対処活動を展開する米英豪韓などの多国籍部隊「CTF151」の司令官に、防衛省は5月末、海上自衛隊の海将補を派遣する。

 自衛官が多国籍部隊でトップを務めるのは初めてである。

 司令官は約3か月ごとに参加各国が持ち回りで派遣している。約20人の司令部を指揮し、各国艦船の連絡・調整などを行う。

 海自と各国軍の信頼関係が深まり、様々な国際協力活動時の情報交換や協力が円滑になる。新たな部隊運用や作戦のノウハウを得ることで、海自自身の能力向上にも役立つ。その意義は大きい。

 ソマリア沖の海賊事件は2011年の237件をピークに減り続け、昨年は11件だった。各国の海賊対処活動に加え、武装警備員など民間船舶の自衛の成果とみられる。12年のソマリア統一政府樹立による政情改善も要因という。

 だが、海賊を生む根本的原因であるソマリアの貧困や失業問題は解決していない。取り締まりの手を緩めれば、海賊活動が再び活発化する恐れがある。日本は関係国と協力し、粘り強く対策を継続することが大切である。

 海自は09年以降、護衛艦2隻で船舶の護衛や不審船警戒を行っている。護衛は620回を超す。

 P3C哨戒機2機も投入し、約1200回の飛行で1万件超の不審船情報を各国に提供した。哨戒飛行全体の約6割を占めており、海自の評価を高めた。

 ソマリア沖のアデン湾は、年間約1万8000隻の船舶が往来する海上交通路の要所だ。日本関係船舶が全船舶の約1割に上る。海洋国家の日本にとって、この海域の安全確保は極めて重要だ。

 防衛省は、自衛隊が駐留するジブチの駐機場、隊舎などの施設を、中東・アフリカでの国際協力活動の拠点として拡充したい考えだ。将来の国連平和維持活動(PKO)や災害救援などに備え、物資の備蓄・中継基地とするためだ。

 政府は昨年、国連から南スーダンPKO部隊ナンバー3の参謀長への自衛官就任を打診された。前向きに検討したが、「参謀長の指示が、PKO協力法にない警護任務に該当する恐れがある」と内閣法制局に指摘され、断念した。

 自衛隊の部隊だけでなく、自衛官も、国際舞台でより大きな役割を果たすことが求められる時代になった。それを可能にする安全保障法制の整備を進めたい。

2015年2月18日水曜日

健康確保し脱時間給で働ける人をもっと

 働いた時間ではなく成果に対して賃金を支払う「脱時間給」制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の内容が固まった。対象者を年収1075万円以上の専門職とすることなどで、労働政策審議会で労使が合意した。

 この制度は社員に生産性の向上を促し、企業の競争力を高める効果が見込める。にもかかわらず対象者の範囲が限定されたのは残念だ。活用できる人が増えるよう、今後も制度設計を見直していく必要がある。

 新制度は1日8時間までといった労働時間規制を外し、これに伴い時間外勤務や休日出勤の手当がなくなる。長く働いても収入は増えない。賃金はこれまでのおおよその残業代を「込み」にして決め直すことを想定している。

 社員に、効率的に働いて成果をあげるよう促す。専門性を磨く意識を持たせることにもつながろう。人材の力を高める意義が新制度にはある。

 だが今回決まった制度案では、対象者は年収が1075万円以上あり、かつ、金融ディーラーや研究開発職など高度の技能を持つ専門職に限られることになった。労働法規には高度の専門職の年収要件を1075万円以上とする基準があり、これを当てはめた。

 国税庁の調査によれば、年収が1000万円以上の人は役員や管理職を含めても3.9%。新制度の対象になる専門職はわずかだ。

 対象者が限定された背景には、労働時間規制をなくせば過重労働を助長するという労働組合の主張がある。もちろん社員の健康確保は最も重要な点だ。

 制度案では、導入にあたっては職務の範囲が明確でなければならず、本人の同意を条件とした。そのうえで企業に、(1)年104日以上の休日を設定する(2)1カ月間または3カ月間の働く時間に上限を設ける(3)1カ月間の深夜労働を一定の回数以内とする――のどれかを義務づけることとした。

 今後、働く時間の上限設定などを詰める中で、健康確保策を十分に講じながら、制度を使える人が増えるよう検討してはどうか。

 今回の労働時間規制の改革では、一定時間を働いたとみなして賃金を払い、出社や退社が自由の裁量労働制も見直した。対象に営業職の一部なども加える。柔軟な働き方が広がることは望ましい。その観点からも脱時間給制度の対象拡大を前向きに考えるべきだ。

地方分権は一歩前進したが

 政府が地方分権に関する改革案をまとめた。農地の転用権限を自治体に移すことが柱だ。今国会に関連法案を提出する。

 政府は有識者会議を設けて、分権改革について検討している。これまで国主導で検討対象を決めていたが、自治体から見直してほしい項目を提案してもらう方式を今回初めて採用した。

 まとまった案をみると、最終的に535項目に上った地方提案のうち、約6割について規制を緩和したり、権限を移したりする。空港業務や水道事業、医薬品の製造販売など幅広い。

 最大の柱は農地を他の用途に使う権限の移譲だ。例えば、現在は国が許可するかどうか決めている4ヘクタールを超す農地について、国との事前協議を条件に都道府県が決められるようにする。国が定める条件を満たす市町村には都道府県と同じく権限を移す。

 これまで企業を誘致しようと思っても、農地の場合は国の審査に時間がかかって進まないなど、様々な問題があった。これで柔軟に土地利用を見直せるようになる。

 農地転用の権限は地方が長らく求めてきた項目だ。分権における岩盤規制といわれてきただけに、今回の決定を評価したい。

 ただし、これで乱開発が進むようだと問題だ。自治体は農地の確保に関しても重い責任を負ったということを自覚すべきだろう。

 一方で、保育所の面積に関する規制については三大都市圏の一部に限って緩和を認めている特例措置の期限を延長するだけにとどまった。地方提案の6割を見直すといっても具体案が「検討中」となっている項目も少なくない。

 国は法令で様々な基準を設けて、自治体の仕事のやり方を縛っている。地方側が指摘した項目についてひとつずつ見直すかどうかを決めるのでは切りがない。

 国が示す基準は最初から参考値と位置づけ、自治体が弾力的に変えられるようにする方が望ましい。それでこそ、安倍政権が掲げる地方創生も進むのではないか。

国会論戦―節目の年の言論の重み

 戦後70年。この歳月の重みを意識せざるを得ない国会の論戦が、本格的に始まった。

 安倍首相は先週の施政方針演説で、経済再生や社会保障改革、教育再生などを挙げ、「戦後以来の大改革に踏み出そう」と打ち上げた。

 「戦後以来」の本質は何だろう。経済再生など喫緊の課題よりも、70年間築き上げてきたこの国のありようを変えることに、最終的な狙いがあるのではないか。首相がかつて繰り返した「戦後レジームからの脱却」や改憲への意欲を聞けば、そう受け止めるのが素直だろう。

 それが妥当なのか。代表質問や今後の予算委員会などを通じ、野党は首相の真意を引き出し、議論を深めるべきだ。

 首相はすでに「積極的平和主義」の名のもと、日本の外交・安全保障政策を根本的に変質させようとしている。集団的自衛権の行使容認、他国軍を支援する開発協力、そして武器輸出原則の緩和が「三本の矢」だ。

 衆院の代表質問で民主党の岡田代表は、いままで以上に自衛隊を海外で活動させることに疑問を示し、「日本の自衛と世界の平和。めざすものが違う二つをひとつにしているところに、積極的平和主義の危うさがある」と指摘した。

 これに対し首相は「能動的な平和外交が積極的平和主義だ。指摘はあたらない」と一蹴。一方、集団的自衛権の行使が想定される例として、公明党との間で意見が割れている中東・ホルムズ海峡での自衛隊による機雷除去を挙げた。

 停戦前の機雷除去は、武力行使にあたる。立法府としてこれを認めるのか。与党協議に参加している公明党も、国会での議論から逃れられまい。

 内政に目を向けると、急速に広がる所得格差もまた日本社会を変えようとしている。共産党の志位委員長は「首相の経済政策がもたらしたのは格差拡大だけだった」と迫ったが、首相は「格差が拡大しているかは一概にいえない」とかわした。しかし、いまの税制や雇用制度のもとで、不平等はないと言い切れるのだろうか。

 議会多数派が内閣をつくる議院内閣制の日本では、政府が出す法案や政策を野党が変えさせるのは難しい。それでも論戦を通じて政府案の問題点をあぶり出し、国民に判断材料を示すことは野党の重要な役割だ。

 これは首相が牽制(けんせい)する「批判の応酬」では決してない。「戦後」が曲がり角にさしかかろうとしているなか、この国会における与野党の責任は重い。

ギリシャ支援―EUは妥協の糸口示せ

 欧州連合(EU)が求める緊縮財政に従うのか、従わないのか。財政再建中のギリシャとEUの協議で、対立が険しさを増している。

 現在の支援策は、今月末までにギリシャが新たな緊縮策を実行することが条件になっている。しかし、1月の総選挙の結果、ギリシャでは反緊縮を掲げる政権が誕生し、EUとの協議に入ったが、難航したまま期限を迎えようとしている。

 それまでに協議がまとまらなければ支援が打ち切られ、ギリシャは資金繰りに行き詰まりかねない。最悪の事態を避けるため、双方ともに柔軟な姿勢で交渉に臨むべきだ。

 2009年に巨額な財政赤字の隠蔽(いんぺい)が発覚したギリシャは、EUなどに支援されながら、財政再建を進めてきた。緊縮財政のための年金カットや増税に対し、国民の不満は強く、1月の政権交代につながった。

 新政権は緊縮策の緩和を求めている。これに対してEUは、緊縮策を条件とする現在の支援策の延長を主張している。条件の見直しについて話すのは、その後という姿勢だ。

 16日に開かれた財務相会合でも意見の対立は解けず、交渉は決裂した。

 支援する以上、財政規律が守られなくては困る。EU各国がそう考えるのは理解できる。しかし、反緊縮を掲げて政権が誕生した経緯を踏まえて支援策をまとめることを考えるなら、まず、EUが妥協の糸口を示してはどうか。

 新政権も、緊縮策の放棄を求めているわけではない。基礎的財政収支の黒字化目標(対GDP比、16~17年)について、4・5%から1・5%程度に引き下げることを求めている。低所得者の年金の追加削減や付加価値税の再増税を避けることを狙いにする措置だ。

 失業率が今も約25%にのぼることを考えれば、過大な要求とは言えまい。

 もちろん、新政権の要求にも問題はある。例えば、支援の条件となっている、空港の民営化を一方的に見直す、としたことだ。そうした対応がEU側の不信を招いたのは否めない。

 今回の協議で何を優先するのか。新政権も財政再建や構造改革に取り組む姿勢を示しながら要求を絞るべきだろう。

 ギリシャにとってもEU各国にとっても、最優先するのは、ギリシャがユーロ圏の一員として再建を果たすことだろう。

 双方がそれに取り組む意思を明確にしたうえで、現実的な妥協点を探ってほしい。

ギリシャ支援 危機回避へ延長が不可欠だ

 欧州発の危機再燃を回避できるか。事態は緊迫の度を増している。

 ギリシャ向け金融支援策の継続問題を協議していたユーロ圏19か国財務相会合が、物別れに終わった。

 欧州連合(EU)側は、緊縮財政を前提とした現行の枠組みを6か月延長するよう主張した。

 これに対し、ギリシャのバルファキス財務相は「現在の支援策はギリシャ経済の安定に失敗した」と述べ、支援延長を拒否した。

 EUは20日にも再び会合を開いて、合意を目指す考えだが、ギリシャと他の各国との意見の隔たりは大きい。2月末に期限を迎える支援策が続けられるかどうか、予断を許さない状況だ。

 支援が打ち切られると、ギリシャの資金繰りが行き詰まり、国債のデフォルト(債務不履行)などのリスクが一気に高まる。

 再び債務危機が深刻化すれば、ギリシャ経済が破綻するだけでなく、欧州全体が苦境に陥ることは避けられない。世界経済に重大な打撃を与えないためにも、支援策の延長が不可欠だ。

 ギリシャは、放漫財政のツケを他国の財政資金で穴埋めしてもらっている以上、緊縮財政の痛みを甘受すべきである。

 ギリシャのチプラス首相率いる急進左派連合は、反緊縮財政を旗印に1月の総選挙で勝利し、政権を奪取したばかりだ。公約に基づき、EU側の求める緊縮策を頑(かたく)なに拒まざるを得ないのだろう。

 だが、ギリシャ経済は長年にわたり、観光や農業などを除けば有力な産業がなく、労働人口に占める公務員の比率が高い。

 こうした財政出動に依存した経済運営を続けた結果、社会の活力は失われ、歳出増加と税収低迷によって債務は膨張を続けた。

 ギリシャを再生するには、EUなどの支援プログラムに沿って財政規律を立て直すとともに、非効率な経済構造を抜本的に改革する以外に、道はあるまい。

 欧州の一部の国では、ギリシャと同様に「反緊縮」を掲げる政党が支持を広げている。

 EUは、財政規律の緩みが南欧諸国などに波及する事態を懸念して、強い態度でギリシャに緊縮路線の堅持を迫っている。

 悩ましいのは、協議が完全に決裂した場合、ギリシャのユーロ圏離脱が現実味を帯びることである。ユーロ体制の信認が揺らぐ事態は避けなければならない。

 EUは、現行の枠組みを基本としつつ、返済条件の緩和などの妥協策も模索すべきだろう。

デンマーク銃撃 対テロに必要な「共生」の努力

 またも凶悪なテロが発生した。イスラム過激思想が社会の一部に浸透する欧州の苦悩は深い。

 コペンハーゲンで、表現の自由に関する討論会を開催中のカフェと、ユダヤ教礼拝所が、相次いで銃撃され、7人が死傷した。容疑者の22歳の男は警官に射殺された。

 男は、パレスチナ系移民の2世とされ、デンマークで生まれ育った。イスラム過激思想に感化されていた可能性が高い。

 討論会は、イスラム教預言者ムハンマドの風刺画を描いたスウェーデン人画家が主催した。イスラム教を揶揄やゆする風刺画家がいる場所が標的とされた点は、1月のパリ新聞社銃撃事件と共通する。

 いかなる事情があれ、こうした暴力は許すことができない。

 欧州連合(EU)はパリの事件後、国境警備の厳格化や旅行者情報の共有で合意したばかりだ。厳戒下でのテロの衝撃は大きい。

 いくらテロリストの流入防止策を強化しても、自国内に潜在的な危険人物を抱えていては、暴力の封じ込めは極めて難しい。

 相次ぐテロで浮かび上がったのは、イスラム系移民の2世、3世の問題だ。貧困や差別、就職難などが重なり、社会に対する疎外感や不満を募らせる者が多い。その一部が過激思想に走る。

 こうした構図の改善には、欧州各国が、イスラム系住民の社会的統合を進め、テロの土壌を極小化するという困難な中長期的対策に取り組むことが求められる。

 デンマークは、中東から帰還したイスラム系住民の就業や社会復帰を支援している。

 フランスでは、大都市郊外に移民が密集して住む地域があり、犯罪の温床となっている。職業訓練や住環境の整備が急務である。

 ドイツは、法律を改正し、移民の子供による独国籍取得を容易にした。保育園で独語を学べるように公費で支援している。

 より安全な社会にするには、民族や宗教の壁を乗り越え、教育、労働、福祉など幅広い分野の施策を粘り強く続ける必要がある。

 気がかりなのは近年、欧州各国で、「反移民」を掲げる民族主義的な極右・右派政党の勢力が伸長していることだ。移民対策への公費投入への逆風となっている。

 他文化圏から移民や難民を受け入れ、共生を図る「寛容さ」は、戦後欧州の重要な理念だった。テロの頻発により、穏健なイスラム教徒に対する排斥の動きや民族主義が高まる中、寛容な社会を維持できるかどうかが問われよう。

2015年2月17日火曜日

民需主導の自律回復うながす構造改革を

 内閣府が発表した2014年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.6%増、年率換算で2.2%増となった。3四半期ぶりのプラス成長だ。

 景気が昨年夏ごろまでの後退局面を脱し、昨年秋から回復局面に転じたことを裏づける内容だ。昨年4月の8%への消費増税による景気への悪影響は着実に薄れつつあるとみることができる。

 成長率の水準は、年率4%近くのプラス成長を見込んでいた民間調査機関の予測平均を下回った。個人消費や設備投資が予測ほどは伸びなかったためで、反発力には物足りなさが残る。

 それでも、住宅投資を除けば、内需に底堅さはある。輸出から輸入を差し引いた外需も3四半期連続のプラスだ。足元の景気を悲観視する必要はない。

 見逃せないのは、海外からの利子・配当所得を加えた国民総所得(GNI)だ。実質で前期比1.7%増という高い伸びとなった。日本企業が海外への輸出にとどまらず、投資で稼ぐ力を高めている点を改めて浮き彫りにした。

 日本経済の先行きは比較的明るい。原油安で家計や企業の負担は減る。世界経済が、米国をけん引役に緩やかに回復しているのも追い風だ。

 問題は、今回の景気回復を民間需要主導の自律回復へとつなげられるかどうかだ。焦点の1つが、賃金の行方だ。

 10~12月期の賃金総額を示す実質雇用者報酬は前年同期比で0.5%減った。雇用情勢の改善を背景に賃金は緩やかに増えているものの、消費増税に伴う物価上昇のペースに追いついていない。

 企業が生産性や収益の伸びにあわせて賃上げに動けば、所得環境の改善が個人消費の増加を促す。それが企業収益をさらに改善させ、雇用・消費がさらに増えるという好循環が生まれやすくなる。

 政府がやるべきことは、労使交渉への介入ではない。さらなる法人税改革や、規制改革、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉などを加速し、景気の自律回復を後押しする環境を整えることだ。

 日本経済の実力を示す潜在成長率は0%台半ば程度にとどまっている。この成長率の天井を構造改革で高めていかないと、国内外のわずかなショックですぐに再びマイナス成長に転じかねない。政府は強く自覚してほしい。

言論へのテロの連鎖止めよ

 言論を暴力によって封殺することは許さない。そうした決意を新たにする事件がデンマークの首都コペンハーゲンで起きた。

 14日から15日にかけ、「イスラム教と表現の自由」について論じ合っていた集会と、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)周辺が相次いで銃撃され、市民2人が死亡し警察官5人が負傷した。その後、容疑者とみられる22歳のデンマーク生まれの男は警察官に射殺された。

 パリで風刺新聞社などが襲われてから1カ月あまり。表現の自由に対するテロの連鎖を思わせる事件である。これ以上の事件の拡散をどう封じ込めるか、表現の自由という価値観をどう共有するのか。国際社会は重い課題に向き合っている。幅広い連携と粘り強い相互理解の努力が必要である。

 射殺された男には武器所持などの犯歴があったというが、事件の詳しい背景は分かっていない。

 ただ、集会はパリの連続テロを受けたもので、イスラム教預言者ムハンマドの風刺画を描いたことで過激組織に脅迫されていたスウェーデン人画家らが出席していた。パリでは新聞社とユダヤ人向け商店が標的になっており、今回も集会とシナゴーグが狙い撃ちされた可能性が大きい。

 パリの事件の後、表現の自由を無条件の価値だと訴える意見の一方で、預言者を侮辱する風刺画に対してイスラム教信者が抱く反発や嫌悪感を他の人々も理解する必要があるという考えも、強まっている。襲われた集会もこうした問題意識で開かれたようだ。

 多様な文化、宗教を背景に持つ人々が共生することは、これからの世界にとって欠かせない条件である。簡単に答えの出る問題ではない。話し合いによって相互理解の努力を続けることで共生の道を見いだすしかない。

 どんな場合でもテロ行為は容認できない。人々が分断されお互いを敵視するような社会にしないため、治安の強化はもちろん、福祉や教育など政策を総動員した対応が各国には求められている。

欧州のテロ―暴力の拡散を抑えよ

 フランスをことし襲った惨劇にあまりに似た構図に見える。同じ欧州のデンマークで、銃撃事件がおきた。

 イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を描いた画家を招いた集会が襲われた。そのスウェーデン人画家は、過激派から殺害予告を受けていたという。

 画家は助かったが、参加者の一人が死亡した。翌日未明には約3キロ離れたユダヤ教礼拝所が襲撃され、1人が死亡した。

 パリでは先月、ムハンマドの風刺画を掲載した新聞社や、ユダヤ人が集まるスーパーなどが襲われ、17人が犠牲になったばかりだ。

 デンマークの集会は「芸術と神への冒瀆(ぼうとく)、表現の自由」をテーマに話し合おうとしていた。どんな背景であれ、許し難い暴力だ。言論活動が標的なら、改めて言語道断というほかない。

 今回の過激派の行動からは、パリの事件が市民に与えた恐怖感を他の国にも広げようとする意図が感じられる。ユダヤ教の施設が狙われたことも看過できない。欧州で宗教間の分断を狙っている可能性もある。

 しかし、欧州社会はそんな挑発に乗ることなく、できるだけ平静さを保ってほしい。

 各国で警察などによる警戒を強めるのは当然だが、同時に自由の制限などで社会を息苦しくさせては過激派の思うつぼだ。冷静に、着実に、暴力の拡散を抑える手立てを探りたい。

 なにより、ふつうのイスラム教徒をテロリストと同一視するような憎悪の連鎖は断ち切らなければならない。異なる民族や宗教、文化が平和的に共存する民主社会のありようこそ、テロから守るべきものである。

 このスウェーデン人画家は07年、ムハンマドを犬にたとえる風刺画を描いていた。イスラム教徒の反発は理解できる。過度に挑発的だったと見られても仕方あるまい。

 デンマークでは、他の欧州諸国と同様に、イスラム世界からの人々を含む移民への反発が高まっている。05年にも保守系の新聞がムハンマドの風刺画を掲載し、イスラム各国の社会が反発するきっかけをつくった。

 しかし、どんな事情があろうとも人の命を奪うことは正当化できない。不満があれば、言論なり裁判なり、暴力を使わない手段で応じるべきだ。

 その原則を確認しつつ、考え続けたい。テロを抑えながら、誰もが住みやすい国際社会を築くには何が必要なのか、と。

 デンマークとイスラム教徒を含む世界の人びととの連帯をいっそう深めるときである。

ガスの自由化―安全確保を最優先に

 都市ガスの家庭向け販売が自由化される。

 ガス会社ごとに決まっていた地域割りはなくなり、相互参入や、他の業種からも参入できるようになる。かかったコストに利益を加えた「総括原価方式」による料金決めの仕組みも一定期間後に撤廃される。

 政府は今国会に制度を改正する法案を提出し、17年をめどに実施する計画だ。

 すでに電力は家庭向けについて16年の自由化が決まっている。原発事故や地球温暖化を受けて、効率的にエネルギーを使う工夫が求められていることを考えれば、業界や地域の垣根がとりはらわれる意味は大きい。

 省エネ技術や価格面での競争が期待できるほか、電気・ガス・通信のセット販売など、これまでにないサービスやアイデアが生まれやすくなる。利用者の選択肢が広がり、産業としての成長も期待できる。

 全国のガス販売量の7割を占める東京、大阪、東邦(名古屋)の大手3社については、ガスのパイプライン(導管)事業の別会社化にも踏み切る。

 他業種の企業が参入して家庭にガスを売る際は、既存の導管を利用することになる。誰もが使えるよう公平な運用が別会社には求められる。

 電力は発電部門と送電部門を別会社とする「法的分離」を20年までに実現することが決まっている。ガスについても実施時期はともかく、分離で足並みをそろえるのは妥当だろう。

 導管事業の別会社化に伴って、利用者の関心が集まるのは安全面だ。

 一般的に、敷地の境界線の外側にあるガス管や電線は電力やガス会社の資産だが、敷地内の設備や機器は家主が所有する。

 都市ガスの場合、敷地内の設備や機器についても点検はガス会社が行い、ガス漏れなど緊急時の対応も担ってきた。

 そのガス会社が今回の改革で、導管業者と小売業者に分かれることになる。これまでの議論で、ガス栓までの検査・保安対応が導管業者の、コンロなど消費機器の調査は、小売業者の責任というところまで整理されているが、災害時の連携のあり方などはこれからだ。

 ガス業界には、敷地内のガス管の老朽化を業者が指摘しても、家主の事情でそのままになりがちだという問題もある。自由化を機に、こうした課題の解決にも取り組んでほしい。

 安全確保は最優先である。改革が消費者に利益をもたらすよう、制度などの整備に万全を期してもらいたい。

衆院代表質問 現実的な格差論議を深めよ

 政府の政策を多角的に点検し、現実的な対案を示す。野党がそんな論争を仕掛けてこそ、国会に緊張感が生まれよう。

 安倍首相の施政方針演説に対する代表質問が始まった。先月の就任後初めて質問に立った民主党の岡田代表は、首相の経済政策「アベノミクス」について「成長の果実を分配する視点が欠落している」と批判した。

 低所得層が増加し、格差が拡大しているとも主張した。

 首相は「税や社会保障による再分配後の格差は、おおむね横ばいで推移している」と反論した。

 どの指標を重視するかで、格差の現状認識は異なる。重要なのは、世代を超えた格差の固定化を避けて、「機会の平等」を確保することだ。子どもの貧困対策や教育の充実、非正規労働者のキャリアアップや処遇改善が欠かせまい。

 岡田氏は格差是正策として、富裕層を対象に、所得・相続税の課税強化を検討するよう求めた。

 だが、行き過ぎた所得再分配は、経済や社会の活力を失わせる。民間活力を喚起し、「稼ぐ力」を高めて、国民生活の向上を図るアベノミクスの方向性は妥当だ。

 成長を維持しつつ、いかに格差を是正するか、与野党は、さらに議論を深めてもらいたい。

 疑問なのは、岡田氏が、集団的自衛権の行使を限定容認した政府の新見解について「立憲主義に反する」と批判したことだ。

 新見解は、従来の見解と一定の整合性を維持した、合理的な範囲内の憲法解釈の変更であり、批判は当たらない。民主党は、集団的自衛権行使の是非について党見解をまとめることが先決だろう。

 今夏に発表する戦後70年の首相談話に関し、岡田氏は、村山談話の「植民地支配」「侵略」などの表現を明記するよう求めた。

 首相は、先の大戦への反省や戦後の歩み、今後の国際貢献などを盛り込む考えを表明した。

 過去への反省を踏まえ、未来志向の談話を目指す方針は適切である。国際的に注目される中、表現には工夫が求められる。

 維新の党の江田代表は、「アベノミクスの方向性自体には賛成」と言明しながら、規制改革などが不十分だと指摘した。

 政府の農協改革は「看板の掛け替え」に過ぎないとして、非農家の「准組合員」の利用制限など抜本的改革の断行も主張した。

 維新の党が、規制改革や安保政策で、民主党と異なる視点から建設的な提案を行う意味は小さくない。その姿勢を維持すべきだ。

GDPプラス 持続的な成長への正念場だ

 プラス成長に転じたものの、力強さには欠けている。景気の着実な回復に向けて、これからが正念場となろう。

 昨年10~12月期の実質国内総生産(GDP)速報値は、前期比0・6%増、年率換算2・2%増と、3四半期ぶりに増加した。個人消費と輸出が、2期連続で伸びたことが主な要因だ。

 昨年4月の消費税率引き上げ後で、初のプラス成長になったことを歓迎したい。

 肝心なのは、安定成長の軌道に乗せることだ。回復ペースは緩やかで、先行きは楽観できない。

 GDPの6割を占める個人消費の拡大がカギを握る。賃金上昇によって、家計の消費意欲を高める必要がある。

 昨年の春闘は、2%超の高い賃上げ率となった。それでも、消費増税分を含む物価上昇率に、賃金の伸びは追いついていない。

 所得増が消費を刺激し、それが企業業績をさらに押し上げる「経済の好循環」を本格化させることが大事だ。今年の春闘が果たす役割は、極めて大きい。好業績の企業が、積極的に賃上げに取り組むことを期待したい。

 自動車、電機などの大手メーカーが、基本給を底上げするベースアップに前向きなのは心強い。

 大企業を起点として、中小企業の社員や非正規労働者に賃金改善を広げることが求められる。

 気がかりなのは、民間の設備投資が、微増にとどまったことだ。公共投資の伸びは鈍化している。成長の維持には、民間投資がもっと活気づく必要がある。

 日本企業は、過去の利益の蓄積である内部留保が総額300兆円を超える。上場企業は今年度、過去最高益をうかがう好業績が見込まれる。賃上げや設備投資に回せる資金は潤沢なはずだ。

 輸出産業は今、円安の恩恵を受けているが、国際競争は厳しさを増していこう。流通・外食などの内需産業は、人口減による国内市場の縮小に直面している。

 企業は資金をため込むばかりでなく、成長分野を開拓し、生産性向上に資する先行投資に動かないと、生き残れまい。

 挑戦する企業への政策支援も大切だ。安倍政権は、経済政策「アベノミクス」を引き続き推進し、規制改革などの成長戦略を、さらに強化しなければならない。

 消費税率が10%に上がる予定の2017年4月までに、増税に耐えられる経済体力をつけ、成長と財政再建の二兎(にと)を得る。官民が連携して達成すべき目標だ。

2015年2月16日月曜日

現実的な電源比率を決めるときだ

 2030年時点で、原子力や火力発電、再生可能エネルギーをどんな比率で組み合わせて使うか。それを軸にした「エネルギーミックス」の議論を政府が始めた。

 東日本大震災から4年。原発が停止して天然ガスなどの輸入が増え、電気料金が上昇している。エネルギー自給率は主要国で最低水準だ。企業も経営環境を見通しにくい。エネルギーを安価に安定供給できるよう、現実を見据えた電源比率の目標を決めるときだ。

温暖化防止へ責務
 震災前の10年度時点で、日本の電力は原発で28%、火力で62%、水力を含む再生エネルギーで10%を賄っていた。だが震災の影響で原発が止まり、13年度時点では火力が88%を占める。再生エネルギーも微増にとどまった。

 いびつな状況といえる。化石燃料の輸入増加で貿易赤字が膨らみ、温暖化ガスの排出も増えた。安全性や経済性、環境など多面的な観点から、エネルギー供給のあり方を見直すことが欠かせない。

 電源構成を決めなければならない大きな理由は、今年末にパリで開く国連の会議で20年以降の温暖化ガス削減の枠組みが決まることだ。国連は各国にできるだけ早く削減目標を示すよう求めている。

 日本も責任ある目標を示さなければならない。数字先行で国民に負担を強いては困る。工場や家庭、運輸など各部門で省エネをどこまで強められるか。電源構成の見通しを持ち、数字を積み上げて議論の基礎にするのが望ましい。

 エネルギー安全保障の意味も大きい。原油価格は下落基調にあるが、化石燃料の多くは政治的に不安定な中東に頼っている。輸入先の多様化に加え、化石燃料への依存度自体を下げる目標が要る。

 エネルギーミックスの具体的な数字を詰めるうえでは、主に2つの点で議論を深めてほしい。

 まず再生エネルギーの導入目標を明確にすることだ。12年に電力会社による買い取り制度が始まり、制度面で課題を残しつつも、導入拡大に弾みがついている。

 一方で、家庭や企業の負担も増している。経済産業省によれば、このまま増え続けると家庭の電気料金への上乗せ額はいまの月225円から4倍に膨らむ。制度見直しで国民負担を減らし、持続性のある目標を定めるべきだ。

 もうひとつが原発の位置づけだ。電源比率を決めることは、原発をおよそ何基稼働させるか目安を示すことになる。九州電力川内原発と関西電力高浜原発が原子力規制委員会の審査に合格したが、ほかの原発では見通せない。そんな状況で政府が目安を決めてよいのかという疑念はあるだろう。

 政府は再稼働の条件として規制委による安全確認と地元による同意を掲げた。政府が原発比率の目標にこだわり、規制委に圧力をかけることは許されない。規制委の独立性と中立性を再確認したうえで、目標を決めるべきだ。

 原発については、老朽原発の運転延長や建て替えをどうするかも議論を避けて通れない。

原発建て替えも議論を
 原発の運転期間は法律で原則40年と定められた。これに沿えば30年に運転可能な原発は20基、40年に7基に減る。自然減に委ねれば、30年時点で発電量に占める原発比率は15%に届かない。

 それで電力を安定供給できるかは未知数で、運転延長や建て替えの選択肢をいま放棄することはできない。個々の原発の運転延長の可否は規制委が判断することで、政府が口出しすべきではない。一方で、建て替えは許認可や地元同意などで10年以上かかり、国が方向性を示すことは不可欠だ。

 電力市場の自由化が進めば、電力会社が原発の建て替え費用をどう調達するかや電気料金の決め方、人材確保が課題になる。電力改革の制度設計とあわせ、それらをいまから議論しておくべきだ。

 私たちは東京電力福島第1原発事故の後、5~10年程度をエネルギー政策の「調整と点検の期間」にするよう訴えてきた。その間は再生エネルギーの利用拡大に全力をあげ、エネルギーの主役になり得るか見極めよと主張してきた。

 将来の電源構成を示すことはいわば「調整」の目標を定めることだ。電源ごとのコストや導入見通しがはっきりしてくれば、目標を「点検」して柔軟に見直せばよい。電源構成をいま決めることは、その出発点になるはずだ。

首相と財政―「苦い薬」を示せるか

 財政再建の道のりがいかに険しいか。内閣府による試算がそのことを物語る。

 目標は、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化だ。毎年度の財政で、過去に発行した国債の元利払い分には新たな国債発行を認めるが、社会保障や公共事業などの政策経費はその年度の税収を中心にまかなう。これが黒字化だが、今年度は国・地方の合計で25兆円強の赤字だ。

 試算は示す。アベノミクスが奏功し、名目成長率が毎年3%程度になる「経済再生」ケースを想定。税収が伸びても、予算を今の仕組みのまま計上していけば20年度のPBは9兆円強の赤字が残る。成長率が1%台にとどまると赤字は16兆円強になる。いずれも17年度からの消費増税を前提にしての数字だ。

 財政の再建には、成長に伴う税収増、税制改革による増税、歳出の抑制・削減の三つしか手段はない。経済再生ケースの成長率は、民間調査機関の見通しと比べても高めだ。残るのは、増税と歳出抑制・削減という、国民への「苦い薬」である。

 首相には、反発を恐れずに処方箋(せん)を示す覚悟があるか。20年度のPB黒字化に向けた具体的な計画づくりが政府・与党内で本格化してきたが、まずはその点を注視したい。

 政権は当面、歳出の見直しを優先させる構えだ。試金石となるのは社会保障分野である。国の新年度予算案では31兆円強、全体の3分の1を占めるうえ、国民の関心は高い。

 首相は施政方針演説で「経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成していく」と断言した。だが、社会保障分野の具体策は、難病患者への助成拡充や認知症対策の推進、子ども・子育て支援新制度など「充実」ばかりだった。

 いずれも不可欠な対策である。しかし、そのための財源が足らず、国債発行を通じて将来の世代に負担のつけを回しているのが現状だ。そこにどうくさびを打ち込むのか。高齢者でも所得や資産が多い人には給付減や負担増を受け入れてもらうことが避けられないはずだ。

 社会保障だけではない。「聖域なき見直し」は政権の口癖だが、問われるのは実行である。

 国会に出した新年度予算案は、既に成立した今年度の補正予算とともに景気への配慮を最優先させた内容だ。が、原油値下がり効果の広がりとともに環境は様変わりしている。

 新年度予算案を見直し、財政再建への出発点とする。そのぐらいの姿勢を見せてはどうか。

過激派の伸長―人質事件は終わらない

 過激派組織「イスラム国」の犠牲になったとされる日本人2人を追悼する集会が今月、各地で開かれた。人びとは合言葉をプラカードに掲げて参加した。

 I am Kenji

 I am Haruna

 後藤健二さん(47)、湯川遥菜さん(42)と無念の思いを共有し、テロと暴力の根絶を目指す――。「私は健二」「私は遥菜」には、市民のそのような決意がにじんでいる。

 この事件の急展開から半月余りが経ち、日々忙しい日本社会で2人のことが語られる機会も少し減った。しかし、中東の現地で「人質事件」はまだ、過去のものとはなっていない。

 2人のように、「イスラム国」に拘束されたジャーナリストらが、依然として解放を待ち望んでいるとみられている。何より、地元の何百万人もの市民が、事実上の人質状態に置かれている。

 今回の事件を機に、「イスラム国」による恐怖支配の下で暮らす彼らにも思いをはせたい。その苦悩を共有してこそ、国境を超えた連帯が生まれ、「イスラム国」壊滅への道が開けるに違いない。

 「私は……」の言葉には、背景や事情は異なろうとも被害者や犠牲者に寄り添いたい、といった意識が込められている。2001年の米同時多発テロの際、仏ルモンド紙は1面に「我ら皆米国人」と題する社説を掲げた。先月フランスで週刊新聞社「シャルリー・エブド」などが襲われた連続テロでは、「私はシャルリー」が合言葉となった。

 同じ言葉を、「イスラム国」支配下の人びとにも送りたい。支配地域から漏れ聞こえてくる情報や証言からも、大変な悲しみと怒り、不安を抱えていることがうかがえる。

 「イスラム国」支配の恐怖に加え、地元の市民は米主導の有志連合軍による空爆にもさらされている。二重の苦難。後藤健二さんがフリージャーナリストとして伝えようとしたのも、さまざまな苦難からの解放を願う人びとの姿でなかったか。

 人質は「イスラム国」に限らない。ナイジェリアでは昨年4月、イスラム過激派「ボコ・ハラム」によって200人以上の女子生徒が誘拐された。この事件が未解決のまま、現地では子どもたちを対象にした新たな誘拐も起きている。

 彼女ら彼らもKenjiやHarunaと同様、一人ひとりがかけがえのない名前と人生を持つ。一日も早い解放に向けて何ができるか、模索したい。

高浜原発 関電は再稼働へ万全を期せ

 原子力規制委員会が、関西電力高浜原子力発電所3、4号機に対し、再稼働に向けた安全審査に合格したことを示す「審査書」を交付した。

 安全審査を終えたのは、昨秋の九州電力川内原発1、2号機に続き、2か所目となる。

 関電は、再稼働への手続きに万全を期さねばならない。地元の同意と理解を得ることも重要だ。

 今後、難関となるのは、規制委による認可手続きだ。設備の詳細設計や保守点検体制の確認、現地での検査が待ち受ける。

 先行した九電は、安全審査に合格後、直ちに認可に必要な書類を提出したが、規制委から、書類の不備を指摘された。その後も、補正書類の作成に手間取り、認可手続きは滞ったままだ。

 九電は、既にファイル25冊、計2万ページの書類を提出している。さらに設備の強度計算などを追加して補強するという。

 川内原発の再稼働に向けたスケジュールは見通せない状況だ。

 東京電力福島第一原発の事故を踏まえ、原発の新たな規制基準では、地震や津波など自然災害の規模を従来より厳しく想定するようになった。配管を補強し、万が一に備えて、複数の電源や水源などを設けることも求めている。

 このため、必要な追加工事の量は膨大にならざるを得ない。原発運転員や保守担当者の仕事量も大幅に増えている。

 これらをチェックする認可手続きに、規制委が厳しい姿勢で臨むのはうなずける。

 関電は、安全審査の段階に増して、書類の不備や誤りがないよう細心の注意を払うべきだ。九電も、補正書類提出へ向けた作業を加速する必要がある。

 規制委には、安全を最優先にしつつ、認可手続きを効率化することも求められる。

 電力会社は、新規制基準に手探りで対応している面がある。既に基本的な安全確保策は確認済みであることを踏まえ、規制委は、書類作成や認可手続きの重要項目や留意点について、電力会社に明確に指示すべきだろう。

 規制委は、2012年の設置以来初の中期目標を決めた。規制行政に対する信頼の確保、厳正かつ適切な規制の実施などが柱だ。

 規制委による活断層の評価などでは、「独善的」といった批判が出ている。電力会社との意思疎通を欠いていることが、主な要因だろう。双方の不信が募っては、原発の安全を見極めるという規制委の使命は果たせまい。

高齢者運転免許 綿密検査で認知症の事故防げ

 記憶力や判断力の衰えは、安全運転の大きな妨げになる。綿密にチェックし、認知症による事故を防ぎたい。

 運転免許更新時に行う認知機能検査の強化を柱とした道路交通法改正案が、今国会に提出される予定だ。検査は75歳以上が対象で、「認知症の恐れがある」と判定された人全員に、医師の診断を義務付ける。

 道交法上、認知症であれば、運転免許の取り消し・停止の対象となる。現行では、「認知症の恐れ」と判定された人のうち、過去1年間に一時不停止や信号無視などの違反があった場合に限り、受診を義務付けている。

 2013年中に、認知症の恐れがあると判定された3万4716人のうち、受診したのは524人にとどまっている。

 多くの人がきちんと診断を受けず、認知症かどうか、あいまいなままハンドルを握り続けている現状は改善せねばならない。

 超高齢社会を迎え、75歳以上の運転免許保有者は、13年末に424万人を超えた。今後さらに増える見通しだ。交通死亡事故全体のうち、75歳以上の運転者による事故の割合も増加している。13年には11・9%を占めた。

 死亡事故を起こした高齢ドライバーの中で、認知機能の低下が疑われる人が3割超に上った。

 危険な逆走事故も多い。先月には、認知症とみられる80歳代の男性が軽乗用車で首都高速道路を逆走し、トラックやトレーラーに衝突して死亡する事故が起きた。

 ドライバー本人や同乗者、歩行者などの安全を守るため、肝心なのは、検査強化を認知症の早期発見につなげることだ。

 法案には、免許更新時だけでなく、信号無視などの違反をした際に随時、認知機能検査を行う規定が盛り込まれる。認知症は急激に進行するケースがあることを考えれば、妥当な措置だ。

 加齢により、運転技能が低下してきた人に、免許証の自主返納を促す取り組みも欠かせない。鉄道やバス、タクシーの運賃を割り引くなど、返納者に対する特典を充実させることは有効だろう。

 本人に症状の自覚がない場合もある。警察は家族に危険性を周知し、協力を仰ぐことが大切だ。

 過疎地域に住み、買い物や通院にマイカーが手放せない高齢者も少なくない。送迎サービスを行うボランティアに補助金を出したり、割安な乗り合いタクシーを委託運行したりする自治体もある。こうした取り組みを広げたい。

2015年2月15日日曜日

裁判員制度の課題を示した最高裁決定

 一審の裁判員裁判が被告を死刑とした判決を、プロの裁判官だけで審理する二審の高裁が覆して無期懲役に減刑した計3件の裁判で、最高裁が二審の判断を支持する決定を出した。

 市民感覚を反映させることが裁判員制度の目的であり、裁判員の判断は十分尊重すべきである。だからといって、積み上げられたこれまでの判決と刑の重さが大きく違っては公平性が保てない。これが最高裁の示した考え方だ。

 特に死刑は、被告の命を奪う究極の刑罰である。最高裁が「裁判員裁判でも、過去の量刑判断を出発点として評議を行うべきだ」として慎重な検討を求めたのは、妥当といえるのではないか。

 死刑にあたるかどうかを判断する際、これまでの裁判では、犯行の動機、計画性、被害者の数などを検討する「永山基準」が用いられてきた。最高裁の指摘は、一審の判決はこの基準から外れているということである。

 3件のうち東京と千葉の強盗殺人事件は、被害者が1人だった。最高裁は被害者が1人の場合でも死刑はありうるとしながら、「被告の前科や反社会的な性格傾向を重視しすぎている」「犯行に計画性はなかった」などとして、死刑の判断を退けた。

 もう1件の長野の事件は被害者が3人だったが、この裁判の被告は事件の首謀者ではないことから、二審で減刑されていた。

 もちろん最高裁も、過去の例を機械的に当てはめて判決を出すべきだといっているわけではない。裁判の公平性を維持しながら、市民感覚をどういかしていくか。裁判員制度が持つこの大きな課題が改めて示されたものとして受け止めるべきであろう。

 ただ、裁判員に選ばれる市民の側としては不安も残る。最高裁の決定は明確な基準を示したわけではなく、「裁判員はバランスを考えて総合的に判断すべきだ」ということにすぎないからだ。

 議論を深めるために知りたいのは、一審のそれぞれの評議の場で裁判官が過去の量刑の意味をどう説明し、それを裁判員がどう受け止めて判決を導いたか、である。

 ところが裁判員には罰則付きで守秘義務が課せられており、評議の様子はほとんど分からない。過去の量刑と市民感覚のバランスのあり方を考えるためにも守秘義務を緩和し、裁判員の経験を社会全体で共有していく必要がある。

座長案軸に1票の格差是正を

 衆院解散に伴い休眠していた有識者による第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」が協議を再開した。1票の価値に不均衡があっては、有権者の民主主義への信頼を損なう。是正に向けた検討が迅速に進むことを期待したい。

 衆院の任期は始まったばかりだが、来年夏の参院選との同日選の可能性などが取り沙汰される。調査会の佐々木毅座長が再開早々に具体的な是正方法の試案を提示したのは妥当な判断である。

 座長案は都道府県に割り振る小選挙区の数を青森など9県でそれぞれ1減し、その分を東京3増、神奈川2増など都市部に回す内容だ。この9増9減案が実現すれば2010年の国勢調査に基づく衆院の1票の格差は最大1.998倍から同1.598倍に縮まる。

 ここまで縮小しておけば今年秋にある次回の国勢調査の結果が出ても、すぐ2倍を超えることはあるまい。自民党内に「9つもの選挙区で候補者調整するのは容易でない」との声もあるが、この程度の痛みを甘受するのは当然だ。

 問題は最高裁がどうみるかだ。座長案は都道府県にまず各1議席を配分し、残り議席を人口比に応じてドント方式で割り振る仕組みだ。最高裁が過去の判決で廃止を求めた1人別枠方式の同工異曲といえなくもない。2倍未満ならば理屈はどうでも最高裁は合憲と判断するのか。そこが不透明だ。

 1議席ずつ配分するのをやめれば、そうした心配は無用になる。しかし、議席が減る都道府県が増えるほど自民党内の反発は強まろう。その辺りの折り合いをどうつければよいのか。

 とりあえず座長案を軸にいったん決着させ、その後に抜本的な制度改革を含めた検討を継続するのが妥当なところだろう。

 調査会は次回の会合で、民主党などが強く主張してきた定数削減について話し合う。「身を切る改革」も大事ではあるが、議論の間口を広げすぎて1票の格差是正が遠のいては本末転倒だ。優先順位をよく考えて議論すべきだ。

与党安保協議―無理筋を押し通すな

 今国会の焦点となる安全保障法制に関する自民、公明両党の与党協議が始まった。

 昨年7月の閣議決定をどう法案化するか。集団的自衛権の行使をめぐる「存立事態(仮称)」▼自衛隊の「後方支援」▼武力攻撃にいたらない「グレーゾーン事態」――が柱となる。

 グレーゾーン事態から始まった議論で、いきなり両党間の溝があらわになった。

 閣議決定は、自衛隊とともに行動する「米軍部隊の武器等」を防護できる考えを盛り込んでいた。だが政府はオーストラリア軍を念頭に、米軍以外にも対象を広げる方針である。

 そうなると、あの閣議決定は一体何だったのか、という疑問がふくらむ。公明党から慎重論が出たのは当然だろう。これを認めるのなら、閣議決定の見直しが必要ではないか。

 与党協議をへて閣議決定したはずなのに、今も法案化をめぐって与党内に溝が残る。このこと自体、閣議決定の中身が生煮えだったことを物語る。

 同じ閣議決定でも、自民党はできるだけ自衛隊の海外活動を広げようとし、公明党は歯止めをかけようとする。結局は、あいまいな閣議決定をもとに、あいまいな法案をつくろうとしているのではないか。

 たとえば現行の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)をもとにした、周辺事態法を存続させるか、どうか。

 政府・自民党は当初、周辺事態法を廃止し、自衛隊の多国籍軍などへの後方支援を常に可能とする「恒久法」に一本化して自衛隊の活動範囲を地球規模に広げる腹づもりだった。

 だが、難色を示す公明党に配慮して、周辺事態法を存続させる方向になっている。

 もともと周辺事態法は、海外での武力行使はしないという一線を引いた法律である。とすると、集団的自衛権の行使との兼ね合いはどうなるのか。武力行使への一線を越えるなら、大きな変質と言わざるをえない。

 政府・自民党の論議から見えてくるのは、自衛隊をすばやく派遣するため、政府の裁量を大きくする考え方だ。国会の関与が不十分なまま、いかようにも解釈可能な法律のもとで、政府の一存で自衛隊を動かす恐れがぬぐえない。根底には、憲法と国会を軽んずる発想がひそんでいないか。

 そのときの都合で簡単に解釈を拡大するのでは、原則がないも同然だ。安保法制への国民の信頼は得られまい。

 筋の通らぬ話を与党だけで押し通してはならない。

同性カップル―支える一歩を広げたい

 同じ性別同士のカップルに結婚に相当する関係を認め、「パートナーシップ証明」を発行する。こんな方針を、東京都渋谷区が表明した。

 特定の異性に自然とひかれていくように、同性間でひかれ、愛しあうこともまた、決して珍しいことではない。

 現実に、ともに暮らし、強い結びつきをもつ同性カップルは少なくないが、法律上の結婚はできない。男女間の結婚のように関係を証明したり保護したりする施策はなく、さまざまな不便や不合理を感じている。

 そんな人たちを支えようと、自治体でできることを模索し、新たな一歩を踏み出そうとする取り組みを評価したい。

 目を向けなければならないのは、同性カップルを取り巻く難しい状況だ。

 一緒に住むアパートを探したが、二人の関係を告げると入居を断られた。パートナーの急病で病院に駆けつけたが「家族でないから」と面会を許されなかった。手術の同意書など治療方針を決める重要な場面で、「伴侶」として扱われなかった。

 そんな局面で、自治体が公的に二人の関係を宣言する証明は大きな重みをもつだろう。

 男女間の結婚と同等に扱わない会社などの事業者は、その名を公表される可能性もある。カップルが区営住宅に家族として入居する道も開かれる。

 当事者から意見をきき、何らかの支援をしようとする動きはほかの自治体にもある。

 性的マイノリティーが抱える問題に政府や国会は積極的に対応してきたとは言えない。そんななかで、困っている人たちの声に耳を傾けることは、地方自治の本分ともいえる役割だ。

 そもそもは、役所や企業だけでなく、地域コミュニティーなど社会全体が問われている問題である。本来、証明などなくても二人の関係を聞いて理解し、受け入れれば済む問題もあるはずだ。そこに同性愛に対する無理解、差別はないだろうか。

 就職、昇進など、さまざまな場面での偏見を恐れ、自分のことを周囲に明かすのをためらう状況が厳然としてある。

 区の証明があっても、法律上の夫婦にはある税制上の優遇を同性カップルが受けられないなど、根本的な違いは残る。

 諸外国では同性間の結婚を認める国が増えつつある。生殖医療を利用したり養子を受け入れたりして、子育てするカップルもいる。人権や多様な生き方を尊重する流れの一つだろう。

 社会全体で広く深く議論を加速していきたい。

労働規制改革 働き過ぎの防止につなげたい

 働き方の効率化によって長時間労働を是正し、仕事と生活の調和を図ることが大切である。

 厚生労働省の審議会が労働時間規制の改革に関する報告書をまとめた。今国会に労働基準法改正案を提出する。

 働いた時間ではなく、成果で評価される「高度プロフェッショナル制度」の導入が柱だ。年収1075万円以上の高収入の専門職が対象で、為替ディーラーやアナリストなどが想定されている。

 労働基準法は「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超える残業や、深夜・休日労働には割増賃金を払うよう企業に義務づけている。だが、新制度の対象者には、この規定が適用されない。

 企画力や発想力が問われる仕事では、働く時間と成果が必ずしも一致しない。漫然と長く働く「だらだら残業」の弊害も指摘されている。効率的な働き方の選択肢を提供し、生産性を高める。その狙いは理解できる。

 新制度を巡っては、労働側から「長時間労働を助長する」との強い反発が出ている。残業代の負担という経営側にとっての歯止めがなくなるためだ。

 報告書は、この制度を採用する企業に対し、月単位で労働時間に上限を設けるなどの対策を義務づけるよう求めた。

 いったん制度が導入されれば、自分の裁量で仕事量や働く時間を決められない一般労働者に、なし崩し的に広がりかねないと懸念する声も多い。

 このため、対象者の年収要件として「平均給与額の3倍を相当程度上回る」ことを改正法案に明記する方向となった。給与水準が上がっても、対象者が急増しないよう歯止めをかける狙いがある。

 経営側は、新制度を安易な人件費節減や長時間労働を強いる手段とせず、適切に運用すべきだ。

 労働者全体の働き過ぎ防止策も忘れてはならない。

 報告書は、有給休暇のうち年5日間を企業の責任で確実に取得させる仕組みの創設を提言した。有休の取得率が低いほど労働時間が長い傾向がある。取得率が50%を切る現状の改善に有効だろう。

 残業に関する労使協定には、1か月45時間を上限とするなどの基準がある。ただし、特別条項を定めれば、実質的に青天井で残業させることもできる。

 この問題について報告書は、行政による指導監督の強化などを求めるにとどまった。実効性ある働き過ぎの防止策について、引き続き真剣に検討する必要がある。

着床前検査 効果と課題の見極めを慎重に

 「着床前スクリーニング」の臨床研究が年内に始まる見通しとなった。体外受精による受精卵の全ての染色体を調べて、異常のない受精卵だけを子宮に戻す検査手法だ。

 日本産科婦人科学会の倫理委員会が研究計画を承認した。不妊に悩む女性の助けとなるのか。効果を慎重に見極めたい。

 不妊や流産の一因に、加齢による受精卵の染色体異常がある。高齢出産が多い日本では、不妊治療としての体外受精が増えている。しかし、何度繰り返しても妊娠せず、心身の負担に苦しむケースが少なくない。

 臨床研究では、原因不明の流産を2回以上経験するか、体外受精を3回以上試みて失敗した人を対象に、300例の着床前スクリーニングを行う。スクリーニングを実施しない場合に比べ、出産率などが向上するかどうか調べる。

 有効性を科学的に検証しようという学会の姿勢は理解できる。

 スクリーニングに関しては、命の選別につながるとの批判がある。ダウン症などの染色体異常を持つ子が生まれる可能性のある受精卵も、排除するからだ。

 学会はこれまで、重い遺伝性疾患と習慣流産に限った「着床前診断」しか認めていない。着床前診断では特定の染色体を調べるのに対し、着床前スクリーニングでは全染色体が検査対象になる。

 学会が今回、会告で着床前スクリーニングを禁じたまま、臨床研究として特別に認めたのは、苦肉の策と言えよう。背景には、技術の精度が向上し、活用を望む人たちの声が高まったことがある。

 2013年には、ダウン症など胎児の病気を、妊婦の血液から調べる新型出生前診断が国内で始まった。着床前の検査で、このような染色体異常の選別を認めないのは、二重基準ではないかという医療現場の指摘もあった。

 一部の医療機関では既に、学会の会告に反し、スクリーニングを実施している。生殖医療技術の進歩に、倫理面の議論が追いつかない現状を如実に物語っている。

 学会は3年間の臨床研究の後、有効性が認められれば導入の是非を最終的に検討する。

 導入するのであれば、着床前スクリーニングの乱用防止策が重要になろう。染色体を調べれば、男女の産み分けも可能になる。本来の目的から逸脱した検査が行われることは許されまい。

 医師に限らず、幅広い分野の専門家を交え、社会的影響についての議論を深めるべきだ。

2015年2月14日土曜日

財政健全化は堅めの想定で最適解を探れ

 政府が中長期の経済財政に関する試算をまとめた。これを受け、夏までにつくる財政健全化計画の議論が本格化する。

 今回の試算は2020年度にかけて名目経済成長率がほぼ3%台で推移する高成長のケースと、1%台にとどまる低成長のケースという2つのシナリオを示した。

 どちらのシナリオでも、消費税率を2017年4月に10%に上げても、20年度時点で国と地方をあわせた基礎的財政収支の赤字は残る。安倍晋三首相は、20年度に黒字にする目標を堅持すると繰り返している。

 そんな中、政府の経済財政諮問会議の民間議員が低成長シナリオに基づき新たな提案をした。20年度までの5年間で経済成長による税収増と歳出改革を通じ、国内総生産(GDP)比で年平均0.5%ずつ収支を改善する内容だ。

 成長戦略を通じて高い経済成長率をめざすのは当然だ。しかし、海外景気や金融市場の急変などで想定よりも成長率が高まらず、税収が増えなくなるリスクは常にある。まずは堅めの、現実的な前提条件を出発点として財政再建策を議論するのは妥当だろう。

 政府は次に、社会保障分野の歳出削減の具体策を最優先で検討すべきだ。高齢化を背景に社会保障費は膨らみ続け、国の一般会計予算の3割超を占める。ここにメスを入れずに、歳出全体を効率化することはできない。

 永田町や霞が関では、小泉純一郎政権時代に年2200億円の社会保障費削減の枠をはめたことが国民の反発を招いたとして、歳出削減の数値目標を掲げること自体への抵抗が強い。

 だが、医療、介護、年金の具体的な改革案と、それに基づく具体的な歳出削減額を積み上げることを避けていては、信頼に足る財政健全化計画になり得ない。

 財政再建の手段は、経済成長による税収増、歳出削減、増税という3つしかない。魔法のつえは存在しない。

 消費税を10%を超えて上げることを念頭に、痛みを伴う歳出削減から逃げるのは困る。もちろん、10%超の消費増税は不要と最初から決めつけ、非現実的な計画をつくるのも論外だ。

 政府・与党は、日本がGDPの2倍超という先進国で最大の借金を抱えている現実を直視し、財政再建に向けた最適な政策の組み合わせを真剣に探ってほしい。

ウクライナ和平につなげよ

 ウクライナ東部で激しさを増している政府軍と親ロシア派武装勢力による戦闘は止められるのか。ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの4カ国首脳が長時間の協議の末、停戦合意文書をまとめた。関係国や当事者はこんどこそ合意内容を着実に履行し、恒久停戦と和平につなげてほしい。

 4カ国会談は独仏首脳の仲介によって実現した。戦闘の長期化は欧州の安全を脅かす。さらに米国がウクライナ軍への武器供与を検討するなか、このまま放置すれば紛争が一段と泥沼化しかねないとの危機感が根強かったようだ。

 合意文書は13項目からなり、重火器の撤去、東部国境の管理、親ロ派への自治権の付与など、停戦履行のための具体的な措置を定めた。政府側、親ロ派がともに署名し、15日から停戦に入る予定だ。

 これで完全に戦火が止まるかはなお予断を許さない。相互不信は根強く、昨年9月の停戦合意は破られた。今回の合意も双方の境界画定を先送りするなど、紛争再燃の火種は残っている。だが、この機会を逃せば危機打開と和平への道は完全に閉ざされかねない。

 長引く戦闘でウクライナ経済は破綻の瀬戸際にある。ポロシェンコ政権はこうした現実も直視し、自制をもって親ロ派との粘り強い和平協議を進めるべきだ。

 ロシアの責務も重い。親ロ派が合意を順守するよう圧力をかけていくのは当然だ。ロシアは否定しているが、欧米が批判する親ロ派への軍事支援が事実なら、直ちに兵員や武器を撤収すべきだ。国際社会はロシアへの監視の目を一段と強めていく必要があろう。

 折から日本とロシアはほぼ1年ぶりに外務次官級協議を開いた。年内を見込むプーチン大統領の来日準備を進めるのが狙いだ。

 安倍晋三首相は日ロの平和条約締結に強い意欲を示している。その前提となる北方領土問題の解決策を探るうえでも、ロシアにウクライナ和平への前向きな行動を促すためにも、日ロが対話を深める重要性は増している。

関西電力高浜原発―再稼働前に地元を見直せ

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)について、原子力規制委員会が「新規制基準を満たしている」と正式に認めた。九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)に続いて2例目となる。

 今後の焦点は地元自治体の同意だ。その範囲に法的な定めはない。川内原発では鹿児島県知事の判断で、県と薩摩川内市に絞られた。安倍政権はこれを基本としており、今回も関電と福井県知事は福井県と高浜町のみを同意の対象にする方向だ。

 原発事故が広大な地域に被害を及ぼすことは、東京電力福島第一原発事故が示した現実だ。事故前と変わらぬ枠組みで原発を動かしていいはずがない。

 同意対象を県と立地の1自治体に限る方式を既成事実化するのではなく、再稼働の前に地元の範囲を定め直すことを改めて求めたい。

 高浜原発は、事故時に住民の即時避難が必要な5キロ圏に京都府舞鶴市が含まれる。国が避難計画策定を義務づけた30キロ圏内だと京都、滋賀両府県の8市町が入る。人口は12万人を超え、福井県側の約5万人を上回る。

 大飯(福井県)、玄海(佐賀県)、伊方(愛媛県)、島根(島根県)、志賀(石川県)。規制委の審査が進むこれらの原発も、近隣に他府県を含む。

 高浜原発での地元同意は、試金石となってこよう。

■立地の権限共有を

 地元同意の根拠は立地自治体が事業者と結ぶ安全協定だ。

 全国に原発が増えた70年代以降、トラブルも多発した。しかし情報は事業者と国に握られ、地元はしばしばかやの外に置かれた。住民の立場から安全を監視しようと、立地自治体は協定を結び、情報を求めてきた。

 福井県が各事業者と結んでいる協定には、事故後の再稼働の事前協議に加え、自治体が原発の運転停止を求めることができる条項もある。事故やトラブルのたび、事業者と粘り強い交渉を重ねて得てきた権限だ。

 一方で福島の事故後、周辺市町村の住民も事故に不安を抱き、「立地並み」の協定を望む声が各地の自治体から相次ぐ。

 関電はこの求めに否定的だ。京都府と協議中の新たな協定案でも、同意権は認めない方向だ。福井県知事も「立地自治体は責任を持ち、リスクを負ってきた経緯がある」と強調する。

 かかわりの薄い地域にカギを握られることには、警戒感もあるだろう。

 しかし周辺自治体が再稼働の判断に加わることは、より多くの目で安全性を広く監視していくことにつながる。安全性を独自にチェックし、不十分であれば再稼働にノーと言う。立地自治体が勝ち取ってきたこの成果を周辺自治体と共有することで、同意を得る地元の範囲を広げていきたい。

■避難と同意をセットで

 福井、京都、滋賀3府県と関係市町は、国の原子力災害対策指針にもとづき広域の避難計画をつくった。しかし計画通りに避難できるのか、細かな調整は緒に就いたばかりだ。

 福井で原発事故が起きれば、3府県の十数万人が主に関西方面へ避難する可能性がある。

 渋滞で混乱が生じる恐れもある。避難者用のバスの確保など、詰めるべき課題は多い。

 2府5県と4政令指定市でつくる関西広域連合は今年1月、広域避難の実効性確保などに、国が主体的に取り組むよう申し入れた。「実行されなければ、高浜の再稼働を容認できる環境にない」とくぎを刺している。

 住民の安全に責任を負う自治体からは、再稼働前の了解を得るのが筋だ。避難対象という側面から、当面は原子力災害対策指針が定めた30キロ圏を同意対象にすべきだ。そのうえで協定で位置づけている地元同意を、将来的には法に明記することを考えてもよい。それほど重いプロセスであることを、事業者側に認識させる意味もある。

■「地元」を結い直す

 12年の大飯原発再稼働の時には消費地・関西の首長らが一時反対を表明し、福井県が孤立感を深めたことがあった。電力を使う側の一方的な主張に、福井県では不信感が根強くある。

 対立を乗り越え、広い意味での「地元」の関係を結い直す取り組みが不可欠だ。

 国主導で、福井と関西各府県の知事、原発30キロ圏の首長に集まってもらい、新たな地元の範囲や権限について、合意形成を図ってはどうだろう。

 原発内のプールにたまった使用済み核燃料をどこで貯蔵するか。老朽原発を廃炉にする場合、経済の柱を失う地域をどう支えるか。立地地域と、電力消費地が手を携えて解決しなければならない課題は数多い。

 手間はかかる。だが、福島原発事故が残した宿題に向き合う時間を惜しむべきではない。

 原発をどうするかは、国民全体で決めていくべきテーマだ。福井と関西とで、それに向けた一歩を踏み出してほしい。

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