2015年3月31日火曜日

普天間移設を法廷で争うのは筋違いだ

 米軍普天間基地の移設を巡る国と沖縄県の対立が法廷に持ち込まれそうだ。同じ行政の側にありながら、司法の場で主張をぶつけ合うことに違和感を禁じ得ない。歩み寄りの余地はないのか。早期に話し合いの場を持ってほしい。

 同県宜野湾市の普天間基地は住宅密集地にあり、米軍機の墜落事故などがあれば大惨事を招きかねない。そこで人口が比較的少ない同県名護市に移設するというのが日米両政府の合意だ。

 沖縄県は2013年、移設予定地である名護市辺野古沿岸部の埋め立て工事を許可した。この手続きは合法的に進められたし、行政には一定の継続性が必要である。知事が交代しても移設は見直さないという国の方針は理解できる。

 沖縄県の翁長雄志知事が出した基地工事の停止命令は、水産資源保護法という工事とは直接関係ない法律に基づくものだ。知事は昨年の当選時から「あらゆる手段を用いて移設を阻止する」と語ってきたが、こうしたやり方は筋違いである。

 農水省が知事の停止命令の是非を審理する間、命令の効力をいったん無効にすると林芳正農相が判断したのはもっともだ。

 ただ、法的に正しいからとかたくなな対応でよいのかはよく考える必要がある。安倍晋三首相も菅義偉官房長官も昨年の知事選後、翁長知事と一度も会っていない。こうした対応が基地移設に賛成の県民の心証まで害していないだろうか。

 農相の発表を受け、翁長知事は「腹を据えて対応する」と表明した。県が埋め立ての前提となる岩礁破砕許可を取り消し、対抗して国がその取り消しを求めて裁判所に提訴する形で法廷闘争に突入する可能性が高まっている。

 これと似た事例が1995年にあった。米軍用地の収用に必要な代理署名を当時の大田昌秀沖縄県知事が拒んだことだ。最高裁まで争って国が勝訴したが、このときに生じた国と県民の溝がいまに至る普天間問題の遠因になっている面もある。

 基地はただつくればよいのではない。周辺住民の理解がなければ円滑な運用は難しくなる。菅長官は「辺野古移設の原点が何であるかということが、沖縄県民や国民に説明が行き届いていない」と述べたが、それを説明するのは政府の責任である。裁判で争わなくてよい努力をまずすべきだ。

人口減見据えた国土計画に

 今後の10年間、政府や自治体が国土整備を進めるうえでの指針となる新しい「国土形成計画」の中間案がまとまった。人口減少という現実をもっと厳しく直視した計画にすべきだろう。

 今回、国土審議会でまとまった中間案では「対流促進型国土」の形成を基本構想として掲げた。多様な個性をもつ都市が相互に連携して人や情報などの交流を活発化し、地域の活力を高める戦略だ。

 各地域で生活に必要な様々な機能を集約する方針も盛り込んだ。そのうえで各拠点を情報網や交通網でつなぎ、圏域全体の人口を維持する。交流を促すために地方への移住を後押しし、観光やスポーツ拠点の整備などを支援する。

 三大都市圏については建設中のリニア中央新幹線を軸に世界最大の「メガリージョン」を形成。大都市を成長のエンジンとして海外から投資を呼び込む。

 今回の中間案の方向性そのものは悪くない。しかし、2025年までの10年間を「日本の命運を決する10年」と位置づけている割には危機感が希薄ではないか。人口減が深刻な地域をどう再編成するのかといった目標がみえない。

 子育てに優しい街をつくるといった少子化対策は重要だ。それでも人口は長期間、減り続ける。国土交通省の推計では、50年には全国の6割以上の地点で人口が半分以下になる見通しだ。コンパクトな都市をつくるなどという抽象的な言葉を並べただけではだめだ。

 今回の国土計画は日本の人口が本格的に減り始めて以降、初の計画になる。人口の動向に合わせて全国の市街地面積をどの程度に絞り込むのが望ましいのかといった具体的な目標も示してほしい。最終案をまとめる夏までにもっと踏み込んだ内容にすべきだ。

 国土形成計画は今回の全国計画とブロックごとにつくる広域地方計画の2本立てになる。自治体も参加する地方計画の策定はこれから始まる。今のままでは、地方計画も危機感が薄いあいまいな内容になりかねない。

南海トラフ―地震の備え常時更新を

 太平洋沖の海底のくぼみ「南海トラフ」での巨大地震に備えて、国の中央防災会議がきのう応急対策活動計画をまとめた。

 事前に大まかな計画をつくっておく。実際に発生したら、被災状況がわからなくても救援に動き出す。そんな内容には、東日本大震災の教訓を生かそうとする姿勢が感じられる。

 この計画で、本物の災害時にどこまで有効に対処できるか。そこは不断の見直しによる更新を重ねてゆくしかあるまい。

 さまざまな運用訓練を続けて計画の中身を常に検証し、定期的に改善することが重要だ。

 静岡県沖の駿河湾から九州沖まで続く南海トラフでは、マグニチュード(M)7~8級の地震が繰り返し起きている。

 東日本大震災では、最大でM8程度と考えられていた宮城県沖でM9が起きた。このため、国は南海トラフ地震の想定を最大M9・1まで上げた。この規模だと死者が約32万人、経済損失が東日本大震災の10倍を超える220兆円に達するとみる。

 現代の地震学では、いつ、どれぐらいの地震が起きるかを予測することはできない。

 今回の計画は、あしたかも知れない巨大地震が起きた際に、最善を尽くすためのものだ。

 優先的に確保すべき道路をあらかじめ定め、災害時には通行情報を共有し、応急復旧や交通規制を一体的に進める▽海や空からの救助も事前に想定する。

 全国で1300以上に増えた災害派遣医療チームをフルに活用する▽食料や毛布などは要請を待たずに調達・輸送に動く▽防災拠点に燃料を優先供給できる体制を石油業界と築く――。

 東日本大震災での苦労や後悔が各所ににじんでいる。

 内閣府の担当者は「計画を作り込み過ぎないよう心がけた」という。詳細すぎると、現実と違う場合に混乱するからだ。

 当然、計画に寄りかからず、現実に対応して的確に判断できる人材がさまざまなレベルで求められよう。実践的な訓練を重ね、そうした人材を育てることが計画実行のカギになる。

 国は昨年、「今後10年間で死者数を8割減らす」など南海トラフ地震の減災目標を定めた。

 事後の計画だけでは目標は達成できない。建物の耐震化や津波避難場所の確保などが決定的に重要だ。医療機関など防災拠点の対策は、特に急がれる。

 国は北海道から千葉県沖で発生が予想される日本海溝と千島海溝周辺の地震についても、被害想定を見直している。

 警戒すべきは南海トラフだけではないと肝に銘じたい。

秘密の監視―国会は責任を自覚せよ

 政府による特定秘密の指定や解除の運用をチェックするために設置された、衆参両院の「情報監視審査会」がきのう、初会合を開いた。

 ようやく、である。

 本来、昨年12月の特定秘密保護法の施行にあわせて始動するのが筋だった。しかし昨年11月に安倍首相が衆院を解散したため協議が中断。越年しても委員を選任できない状態が続き、施行から4カ月近く経った。

 「国民を代表して監視するという、審査会の果たすべき役割は極めて重要なものがある」。衆院の審査会で、会長に選ばれた自民党の額賀福志郎議員はこうあいさつした。だが「監視」の名にふさわしい機能を発揮できるかは、やはり疑問だ。

 審査会は政府から毎年、秘密の指定や解除の状況に関する報告を受ける。政府に特定秘密の提出を要求し、運用に問題がある場合は改善を勧告できる。ただし、秘密の提出を求めても、政府は、我が国の安全保障に著しい支障を及ぼす恐れがあると判断すれば拒否できる。運用改善の勧告にも強制力はない。

 問題は、「何が秘密にあたるかは秘密」という、秘密法それ自体にある。野党側は、国会への情報提供を義務づけるよう求めたが、与党側は「三権分立の観点から、行政権を侵してはならない」と受け入れなかった。ならば何のために国会に監視機関を置くのか。三権分立の観点から国会がやるべきことを、よくよく考えてもらいたい。

 先月の衆院議院運営委員会で、民主党の後藤祐一議員が、「(昨年末に指定された)382件の特定秘密情報と、その中のおそらく47万件にわたる文書等」の題名すら提示しない場合があるのかとただしたところ、政府側は「精査中」と繰り返した。可能な限り具体的な形での提出を、審査会として強く要求し、政府は応じるべきだ。

 実際の運営も不透明な点が多い。例えば、衆参各8人の委員の3分の1以上の要求があれば会長は審査会を開かねばならないと規定されている件。衆院では2人しかいない野党委員が開会を求めても、3分の1に満たないとして却下されるのか。

 結局は審査会、とりわけ与党委員が「国民の代表として監視する」という責任をどれだけ自覚して動くかにかかっていると言える。積極的に秘密の提出要求をする。改善勧告を行う。そのような実績を積み重ねることによって存在感を示し、政府に緊張感を持たせる――。最低限の役割はせめて、果たしてもらわなければならない。

独旅客機墜落 二重三重の安全確保策が要る

 ドイツ旅客機の墜落事故は、副操縦士の意図的な操縦が原因だった疑いが強まってきた。

 「想定外」の事故を極小化するためには、墜落に至る経緯を徹底的に解明するとともに、二重三重の安全確保策を講じることが肝要である。

 格安航空会社(LCC)ジャーマンウィングスの旅客機がフランス南東部で墜落してから1週間になる。日本人2人を含む乗員乗客は計150人で、生存者は発見されていない。アルプス山中の現場では遺体回収作業が続く。

 仏検察当局は、回収されたボイスレコーダーの録音を分析した結果、操縦室で1人になった副操縦士が機体を意図的に降下させたとの見解を示した。機長が操縦室の扉を開けるよう求めたが、副操縦士は応じなかったという。

 2001年の米同時テロ後、ハイジャック対策として操縦室の扉を強化したことが裏目に出た。

 今回、異様な行動をとった副操縦士は08年から、LCCの親会社である独大手ルフトハンザ航空の操縦士養成訓練を受けた。13年から現在の会社に勤務している。

 独検察当局は、副操縦士の自宅の捜索で、墜落当日の勤務を不可とする医師の診断書を押収した。副操縦士が精神的な問題で治療を受けていたとの情報もある。

 心身が不調なのに勤務を続けていたとすれば、航空会社によるチェックの甘さが問われよう。

 世界の航空業界は今後、需要の大幅増やLCCの急成長で、操縦士不足の深刻化が懸念される。その中で、多数の人命を預かる操縦士の能力と資質を確保することが各国にとって大きな課題だ。

 欧州航空安全局は、欧州の航空会社に対し、操縦士を含む乗員2人以上が操縦室に常駐するよう求める暫定的な勧告を出した。

 日本では、操縦士が操縦室を離れる際は、代わりに客室乗務員が入室するなど、同様の措置をスカイマークがとっているが、そうでない会社が主流という。

 太田国土交通相は、「国内でも安全上の措置を注意喚起したい」と述べ、航空会社に安全管理の徹底を求める考えを示した。

 精神に変調をきたした機長が飛行中にエンジンを逆噴射させた1982年の羽田沖での日航機墜落事故を機に、国内の操縦士の健康管理体制は強化されている。

 操縦士が定期的に受診する航空身体検査や、精神面のカウンセリングの充実を通じて、操縦士の異状を早期に発見し、搭乗させない体制を構築する必要がある。

生活困窮者支援 早期の対応で自立を促したい

 仕事に就けず、生活に困っている人を自治体が手助けする。生活困窮者自立支援制度が4月から始まる。

 生活保護に至る前段階の人を早期に発見し、働いて自立できるように援助するのが目的だ。「生活保護の手前の安全網」と言える。

 都道府県や市区など福祉事務所を持つ全国約900の自治体が実施主体となる。政府は新制度の事業費として、2015年度は612億円を見込んでいる。

 生活保護の受給者は217万人に上り、保護費は年3・8兆円に達する。不安定な雇用が増えた結果、働く世代の増加が目立つ。

 生活保護を受けるまで窮乏してからでは、就労や自立がより困難になる。早期の支援は、長期的には、生活保護費の軽減につながるだろう。人口減に伴う労働力不足を補う効果も期待される。

 新制度の下、自治体には総合的な相談窓口の設置が義務づけられた。個々の状況に応じて「支援プラン」を策定し、福祉サービスや就労支援につなげる。必要な場合は家賃補助も行う。

 就労訓練や家計相談、子供の学習支援は任意で実施する。

 親族や地域の結びつきが希薄化する中、新たな支え合いの仕組みとして機能させたい。

 ただ、課題は多い。

 困窮者は孤立しがちで、支援の情報が届きにくい。自ら窓口を訪れる人は少ないだろう。住民税や水道料金の滞納記録や、民生委員などの地域の目を糸口に、自治体は対象者を見つけ出す必要がある。関係機関の連携が大切だ。

 困窮者が抱える問題は失業、心身の病気、借金、引きこもりなど様々だ。複合的に絡み合う場合も多い。的確に対処できる人材の養成も重要である。

 自立を支えるには、就労や訓練の受け皿となる協力企業・団体の確保が欠かせない。

 大阪府豊中市は、地元企業のデータベースを整備し、受け入れ先を開拓している。企業には継続雇用へ向けた助言をする。

 北海道釧路市では、基幹産業の漁業を支える漁網作りを就労訓練に活用している。介護や農業など人手不足が深刻な分野で、困窮者の活躍を図る自治体もある。

 ボランティア団体など地域の多様な組織とも連携し、困窮者を重層的に支える仕組みとしたい。

 自治体の取り組み方次第では、地域格差が生じかねない。政府は先進事例を周知し、自治体を後押しすべきだ。

2015年3月30日月曜日

通信自由化の原点に戻り利便性高めよ

 日本電信電話公社(NTT)の民営化から4月で30年を迎える。この間にインターネットや携帯電話が普及し、我々の生活も便利になった。だが通信会社や国内端末メーカーは集約が進み、外国勢の力が強まっている。通信の多様化を狙った自由化の原点に戻り、様々なサービスを見直す時だ。

 1985年の自由化はNTTの独占を崩し、新規参入の促進を狙った。鉄道や高速道路、電力などの企業が参入したが、結果的にはNTT、KDDI、ソフトバンクの3社に集約され、寡占による料金の高止まりが指摘される。

 端末メーカーは携帯電話ブームに乗り、一時は家電メーカーを含め20社近くあったが、ほぼ5社に集約されてしまった。日本独自の仕様にこだわり、スマートフォン(スマホ)時代の到来を見誤ったためだ。人気が高いのは米アップルなど外国ブランドの方だ。

 通信市場は30年で激変したが、消費者には恩恵もあった。家庭の通信費は増加したものの、いつでもどこでも家族や友人と連絡がとれるようになり、ネットによるコミュニティーが作られた。通信速度が飛躍的に高まり、ネットで動画も見られるようになった。

 こうしたサービスは通信技術が電話網からインターネットに移ったことによるが、企業向け市場ではまだ十分に移行できていない。受発注用のファクスやクレジットカードの信用照会端末などはいまだに電話網に依存している。

 海外ではスマホによるクレジット決済など金融サービスへのネット利用が進んでいる。産業界でも機器の情報をネットで集め、ビッグデータとして効率化に役立てる動きが活発だ。日本も今後はネット技術を社会インフラとして広く活用していくことが重要だ。

 特に2020年の東京五輪に向け、公衆無線LANサービスの整備は喫緊の課題だ。海外から来る外国人の最大の不満は無料ネット環境の不足だという。集客したい店舗や施設に無線基地局を置き光回線で結んでいくことで、そうした需要に応えられるだろう。

 その意味でNTTが光回線網を開放したことは評価したい。今後はコンビニや銀行など、通信会社でなくてもNTTから光回線を借りることで、自らの事業と融合した新しい通信サービスができる。そうした多様で便利な新しいサービスを生み出すことが、新たな通信の自由化策となろう。

インドネシアと海洋協力を

 インドネシアのジョコ大統領が日本と中国を歴訪した。昨年10月に就任して以来、東南アジア諸国連合(ASEAN)のメンバー以外の国を訪れたのは初めてだ。対外政策で日本と中国を重視する姿勢を示したといえよう。

 一方で、インドネシアの発展に役立つ協力を日中の双方から引き出そうという、したたかな計算もうかがえた。日本は戦略的に関係を深めていく必要がある。

 安倍晋三首相との会談では、海洋をめぐる包括的な協力をすすめる方針で一致し、安全保障から海洋関連産業の育成まで幅広く話し合う枠組みを設けることで合意した。両首脳は共同声明で「海洋と民主主義に支えられた戦略的パートナーシップ」をうたった。

 ジョコ大統領は「海洋国家」構想を掲げている。それを踏まえ、互いに海洋国家として関係の拡大と深化をめざす新たな方針を打ち出したと評価できよう。

 今後は外務・防衛担当の閣僚級協議(2プラス2)の開催や、両国の防衛相が署名した防衛装備品に関する覚書の具体化などを着実に進めていくべきだ。

 ただ、南シナ海などで進出の動きを強める中国への姿勢では、安倍首相と大統領の間で微妙な温度差も感じ取れた。ジョコ大統領は中国の習近平国家主席との会談でも海洋協力の強化で一致し、習主席が唱える「海のシルクロード」構想と自らの「海洋国家」構想を連結させる方針で合意した。

 日本と中国のいずれにも傾かないよう、大統領は注意深くバランスをとったとの印象だ。安倍首相からも習主席からも鉄道建設への協力を取り付けるなど、バランス外交がインドネシアの実利につながっている面がある。

 インドネシアはASEANのリーダー的な存在で、アジアの安定と繁栄をめざす日本にとって大切なパートナーだ。アジア最大の経済大国となった中国と関係を深めたいインドネシアの立場に目配りしながら、日本は海洋協力を深めていかなくてはならない。

介護の人手不足―魅力向上に手を尽くせ

 団塊の世代が75歳以上になる2025年に介護を担う人材が全国で30万人不足する。厚生労働省がまとめた推計である。

 今でも介護現場で人手は足りない。2月の有効求人倍率(常用)は2・51倍と、全職種平均の1・11倍を大きく上回る。賃金が安いことが大きな理由だ。

 人材を確保するために、賃金アップは欠かせない。その原資は、事業所が介護保険サービスを提供した対価として受け取る介護報酬だ。

 その介護報酬を国は4月に全体で2・27%引き下げる。人手不足からサービスが縮小する悪循環に陥ることをまず、避けなければならない。

 報酬引き下げ後も、一定の条件を満たした事業所は、賃金上乗せ分を受け取れる。しかし、その代わりにボーナスを減らし、職員数を減らす事態が生じる懸念は労使双方から上がっている。年収ベースで増えているか、労働環境が悪化していないか、チェックすることが当面、必要になるだろう。

 介護報酬を引き上げれば、税金や保険料を通じた国民の負担は増す。それでも、必要なサービスのためには、負担増も視野に入れるべきである。その前提として、現行の給付に無駄がないか点検し、効率的な使い方を考えることが必要だ。

 また、賃金以外にも、待遇改善に工夫の余地はある。

 京都府は、13年度に独自の認証制度をつくった。一定の基準で事業所にお墨付きを与え、ホームページで検索できるようにした。その基準は、人材育成の計画を作って全職員に公表する▽休暇取得や労働時間短縮に取り組んでいる、など17項目。すべてを満たすと認証される。認証を目指す事業所には研修や相談の機会も設けて、取得を促している。

 こうした仕組みがあれば、学生らが職を選ぶ際の参考になるし、事業所が自らの業務や運営を見直すきっかけにもなる。国が後押ししていいやり方だ。

 厚生労働省の専門委員会が人材確保策についてまとめた報告書にも、新人が将来の展望を持てるよう、事業所はキャリアパス制度や賃金の上がり方が分かるようにすることが盛り込まれている。

 また、政府は今国会で介護福祉士の届け出制度を設ける法改正を目指している。離職時に届け出た介護福祉士に求人情報を流したり、復職時に研修の機会を設けたりする方針だ。これも人材確保の一助にはなる。

 介護を「選ばれる職」にする知恵と工夫が求められている。

社外取締役―経営鍛える役割を

 会社を切り盛りする取締役に社外から少なくとも2人を登用すること。東京証券取引所が6月から適用する上場企業の行動指針に、そんな内容が盛り込まれる。実施しない場合はその理由の説明が求められる。

 経歴も専門も異なる人が取締役会に入り、株主や社会の代表として経営を監視し、助言すれば、会社の発展につながるはずだ。そんな考えから、社外取締役の導入が進められている。

 昨年の通常国会で成立した改正会社法も社外取締役の導入を強く促しており、東証1部上場企業ではすでに社外取締役を置く企業が7割を超える。

 今回、東証の指針が「2人以上」とするのは、社内出身の取締役の中に1人だけ社外取締役がいても、力を十分に発揮しにくいと考えられるからだ。

 日立製作所の場合、12年6月から取締役の過半数を社外取締役にした。「取締役会では『こんな低い営業利益率でよく満足してますね』と、社内役員では考えられない厳しい指摘が出るようになった」という。14年3月期に営業利益が23年ぶりに過去最高を更新したのは、円安の恩恵もあるが、取締役会の活性化も刺激になったという。

 社外取締役が果たす役割は様々だ。社内の常識が社会とずれていないかチェックすることも、その一つ。創業者が始めた不採算事業からの撤退といった厳しい判断も、社外取締役の方がやりやすい。外国人や女性の社内登用に限界がある場合、外部から招くことで経営陣に多様性をもたらすことができる。

 もちろん、社外取締役を置きさえすればよいわけではない。最近、注目を集めた大塚家具にも、複数の社外取締役がいたが、それでも騒動は防げなかった。社内と社外とを問わず、取締役には企業統治の重い責任がある。そのうえで、社外に人を求めるなら、それぞれの企業が、自分たちの弱点を認識し、それを補うにはどんな人材が必要か考えなければならない。

 すべての上場企業が複数の社外取締役を置くには、新たに延べ数千人の社外取締役が必要になる。これまでも特定の経済人や研究者が何社も兼任する例があったが、職責を果たすには限界があるだろう。

 人材をどう確保していくのかはこれからの課題だ。経営の経験者が、次は社外取締役として別の企業の経営にかかわることが当たり前になる。そんな流れを促すのも一案だろう。各企業も社会も、より広い視野から人材について考え、経営者と経営を鍛える取り組みを進めたい。

インドネシア 海洋安保で戦略的協力強めよ

 安全保障面で、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中心国と戦略的な協力関係を強化する意味は大きい。

 インドネシアのジョコ大統領が来日し、安倍首相との会談で、海洋安保や産業振興を政府間で協議する「海洋フォーラム」を設立することで合意した。

 首相は、「安定した海洋は地域の繁栄に不可欠だ」と強調した。ジョコ氏は「沿岸警備への協力に期待している」と述べた。

 1万3000を超す島で構成されるインドネシアは、日本と同じ海洋国家だ。ジョコ氏は昨秋の就任以来、海洋国家構想を掲げ、海賊対策や資源管理を重視する。

 インドネシアの海上保安能力の向上は、マラッカ海峡など、日本の海上交通路(シーレーン)の安全確保にも役立つ。

 日本は2007年、インドネシアに巡視船3隻を供与している。日本の知見と技術を生かし、支援を着実に拡充すべきだ。

 両国は今回、防衛協力に関する初の覚書に署名した。外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の早期開催でも一致した。防衛装備・技術面を含め、自衛隊とインドネシア軍の協力を強化する。

 海上自衛隊は昨年3月、インドネシアが主催したASEANなどの多国間共同訓練に参加した。防衛交流は自衛隊の円滑な海外活動に資する。積極的に進めたい。

 両首脳は、南シナ海の紛争防止に向けて、法的拘束力を持つ中国とASEANの「行動規範」の制定が急務との認識で一致した。

 首相は、中国とフィリピン、ベトナムなどの対立を念頭に、「法の支配に基づく対応が重要だ」と述べ、インドネシアの積極的な関与を求めた。ジョコ氏は「和解に貢献したい」と応じた。

 東・南シナ海で一方的な海洋進出を強める中国の「力による現状変更」を阻止することは、日本や米国、ASEANなどにとって共通の課題だ。関係国が緊密に連携し、中国に自制と協調を促し続けることが欠かせない。

 会談では、貿易・投資の協力拡大も確認した。首相は、都市高速鉄道整備などで約1400億円の円借款の供与を表明した。

 インドネシアは、人口、国内総生産(GDP)ともASEANの約4割を占める大国だ。経済成長のため、日中両国との関係強化を目指している。

 日本は長年の友好関係と実績を生かして経済面の協力を拡大し、インドネシアの成長力を取り込むことが重要である。

法テラス拡充案 DV被害を未然に防止したい

 いつでもどこでも、必要な法的支援を受けられる。そんな司法ネットワークの機能を高めることが大切である。

 政府が、日本司法支援センター(法テラス)の業務拡充を柱とする総合法律支援法改正案を国会に提出した。今国会中の成立を目指している。

 法テラスは、「身近な司法」の実現を目指し、2006年に設立された法務省所管の公的な法人だ。法律サービスの拠点として、全国に110の事務所がある。

 紛争解決に役立つ情報を提供するほか、資力の乏しい人に対する無料法律相談や弁護士費用の立て替えを行っている。相談は年約32万件に上る。司法アクセスの向上に一定の役割を果たしてきた。

 改正案のポイントは、配偶者らによる暴力(DV)やストーカーの被害者を、法テラスの法律相談の対象に加えた点である。

 従来は民事分野に限定されていたため、刑事事件につながる案件は十分な対応がとれなかった。

 加害者が近親者である場合、警察に訴えることをためらう被害者は多い。深刻な被害に発展する前に、まず弁護士が相談に乗る態勢を整える意義は大きい。

 昨年、全国の警察が把握したDV被害は5万9000件、ストーカー被害も2万2800件に達する。中には、被害者の生命が危険にさらされたケースもある。

 早期の相談を、重大事件の防止につなげねばならない。

 認知症などの高齢者や障害者について、資力にかかわりなく、法テラスで法律相談を受けられるようにしたのも評価できる。

 こうした人たちの多くは判断能力が低下しているため、金銭トラブルに巻き込まれやすい。ただ、現行の仕組みでは、経済的に余裕がある人は、法テラスの支援の対象外だった。

 気がかりなのは、地域の弁護士会や弁護士の一部に、法テラスに対する警戒感が根強いことだ。

 法テラスには、国の給与をもらう常勤のスタッフ弁護士がいる。司法制度改革に伴う弁護士の大幅増で、競争が厳しくなったこともあり、法テラスを「民業圧迫」と見る弁護士は少なくない。

 地元弁護士会などとの調整がつかず、法テラスの事務所にスタッフ弁護士をいまだに一人も配置できていないところもある。

 法テラスと弁護士会が協力関係を構築し、国民のニーズに応えることが重要だ。多くの人に利用してもらえるよう、法テラスの認知度を高める努力も欠かせない。

2015年3月29日日曜日

経済変調が映す新興国の構造問題

 経済が変調気味の新興国が目立っている。実質経済成長率が低下している国が多く、雇用情勢の悪化やインフレが加わって社会の動揺や政治の緊張につながっている国も少なくない。

 背景には、米国が今年後半にも金融引き締めに転じる見通しになったことがある。原油など資源の輸出に頼ってきた新興国にとっては、中国の景気減速などによって1次産品の国際相場が下がってきたことも打撃だ。

景気減速でも利上げ
 同時に、新興国の抱える構造的な問題があぶり出されている面は見逃せない。足元の変調をバネにして、さらに強固な成長の基盤作りに向けた改革を進めることを新興国は求められている。

 経済の変調が目立つ代表的な新興国は、資源大国のブラジルだ。2014年の実質国内総生産(GDP)伸び率は前年比0.1%と、リーマン・ショックの影響が深刻だった09年以来の低成長にとどまった。今年は再びマイナス成長に陥るとの見方も出ている。

 景気が減速しているのに、中央銀行はインフレを抑えるためこの半年足らずで政策金利を1.75%引き上げた。景気をてこ入れするどころか、むしろ悪くする金融政策をとらざるを得ないわけだ。

 問題の根っこには国内のエネルギー価格の統制がある。原油の国際相場が下がっても国内の物価に波及しない。逆に輸出の伸び悩みを通じて通貨安をもたらし、インフレ圧力を生んでいる。

 人為的な経済政策のツケが、経済運営のジレンマとなって表れたといえよう。ルセフ大統領は貧困対策を看板にばらまき的な政策に傾斜してきたが、市場の役割を重視した改革を進める必要性が改めて浮き彫りになっている。

 事態を悪くしているのが、国営石油会社ペトロブラスをめぐる汚職スキャンダルだ。その影響で政局は混乱し、今月15日には各地で計100万人以上が参加したとされる反政府デモが起きた。国営企業に対するガバナンスの立て直しも緊急の課題に浮上した形だ。

 輸出の9割以上を原油に頼ってきたベネズエラは、ブラジル以上に景気の落ち込みが鮮明だ。外貨準備の急減で対外債務の支払い能力を懸念する声が浮上し、政府は硬直的な為替制度の見直しを余儀なくされた。国民の不満を政府は力で押さえ込む姿勢を強めていて、政治的緊張が高まっている。

 同じ中南米の産油国でもメキシコの経済は底堅い。ブラジルやベネズエラに比べ製造業の育成に成功していて、隣の米国の景気回復の追い風を生かしている。エネルギー部門の改革を実施していたことも強みだ。

 国際通貨基金(IMF)の見通しでは、世界の新興国・途上国の今年の実質経済成長率は4.3%と14年より0.1ポイント低下する。主な原因の一つは1次産品輸出国の景気減速だ。

 特にロシアは、ウクライナ情勢をめぐって米欧から経済制裁を受けていることもあって、今年はマイナス成長に陥る見通しだ。自ら引き起こした地政学的リスクに足をとられている。

 一方、資源・エネルギーを海外から調達している国々にとって1次産品価格の下落はプラスの効果が大きい。アジアにはそんな国が多い。アジア開発銀行(ADB)は域内の新興・途上国の今年の成長率について、前年比横ばいの6.3%とみている。

インドに規制緩和効果
 最大の新興国である中国の成長率は一段と低下する見通しで、中国を除けば全体として成長率が高まるという。とりわけ目立つのはインドだ。成長率は15年度(15年4月~16年3月)に0.4ポイント上向き、中国の成長率を上回る勢いという。

 輸入に頼る原油の値下がりでインフレ懸念が和らいだ結果、利下げ余地が出てきたのが大きい。14年に就任したモディ首相が、保険分野の外資規制の緩和など成長戦略を着実に進めていることは、外資の流入を促している。

 もっとも、原油安が物価を落ち着かせる効果も今年の後半には縮小するとみられる。過度の金融緩和は将来の不安材料となりかねない。サウジアラビアがイエメンに軍事介入したのを受けて原油価格が上昇したように、地政学的リスクの火種も多い。

 市場の役割を重視した改革を進め、成長産業を育て、汚職がはびこらないようガバナンスを強化する――。当たり前ともいえる取り組みを着実に実行することこそ、多くの新興国にとっての課題にほかならない。

安倍政権の激走―「いま」と「わたし」の大冒険

 走る、曲がる、止まる。

 これは自動車の基本性能だが、政治におきかえてみても、この三つのバランスは重要だ。

 「この国会に求められていることは、単なる批判の応酬ではありません。行動です」

 先の施政方針演説で、野党席の方を指しながらこう力を込めた安倍首相。確かに、政権の激走ぶりには目を見張るものがあり、ついエンジンの馬力やハンドルの傾きにばかり気をとられてしまうが、最も注視すべきは、ブレーキだろう。

■ここでないどこかへ

 権力を縛る憲法。歴史の教訓。権力を持つものの自省と自制。メディアや野党による権力の批判的検証――。敗戦から70年の間、これらは日本政治のブレーキとして機能してきた。

 しかし安倍政権やそれを支える自民党の一部は、ブレーキがあるからこの国の走りが悪くなっていると思い込んでいるようだ。「行動を起こせば批判にさらされる。過去も『日本が戦争に巻き込まれる』といった、ただ不安をあおろうとする無責任な言説が繰り返されてきた。批判が荒唐無稽であったことは、この70年の歴史が証明している」。防衛大学校の卒業式で、首相はこう訓示した。国会では自衛隊を「我が軍」と呼んだ。

 「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」とは、ブレーキなんか邪魔だ、エンジン全開でぶっ飛ばすぜという冒険主義のことなのだろうか。

 「いま」がすべて。どこに向かっているのか、なぜそんなに急ぐのか、危ないではないかと問うても、いまこの走りを見てくれ、こんなにアクセルを踏み込める政権はかつてなかっただろうと答えが返ってくる。とにかく前へ、ここではないどこかへと、いま必死に走っている最中なんだ、邪魔をするのかと、あらゆる批判をはねのける。

 奇妙な論法が横行している。

■権力者のクラクション

 「八紘一宇(はっこういちう)」。もともとは世界を一つの家とする、という意味だが、太平洋戦争中は日本の侵略を正当化する標語として使われた。自民党の三原じゅん子女性局長は先日の国会で、そのような歴史的文脈を捨象し「日本が建国以来、大切にしてきた価値観」と紹介した。

 「わたし」を中心にものごとを都合よく把握し、他者の存在をまったく考慮に入れない。狭隘(きょうあい)かつ粗雑な世界観が、あちこちから漏れ出している。

 首相は昨年、民放ニュース番組に出演し、テレビ局が「街の声」を「選んでいる」「おかしい」などと発言した。先日の国会で、報道への介入と言われても仕方ないと批判されると「言論の自由だ」と突っぱねた。

 権力が抑圧してはならない個人の権利である「言論の自由」を権力者が振りかざすという倒錯。首相はさらに「私に議論を挑むと論破されるのを恐れたのかもしれない」「それくらいで萎縮してしまう人たちなのか。極めて情けない」とも述べた。

 ひょっとして首相は、最高権力者であるという自覚を根っこのところで欠いているのではないか。巨大な車にクラクションを鳴らされたら、周囲が一瞬ひるんでしまうのは仕方ないだろう。だからこそ権力は国民をひるませないよう、抑制的に行使されねばならない。首相たるもの「いま」「わたし」の衝動に流されるべきではない。

 情けないのは抑制や自制という権力の作法を身につけず、けたたましいクラクションを鳴らして走り回る首相の方である。

■不安社会とブレーキ

 そうは言っても、安倍政権が激走を続けられるのは、社会の空気が、なんとなくそれを支えているからだろう。

 長引く不況。中国の台頭。格差社会の深刻化。さらに東日本大震災、過激派組織「イスラム国」(IS)による人質事件などを経て、焦燥感や危機意識、何が不安なのかわからない不安がじわじわと根を張ってきた。

 国ぐるみ一丸となって立ち向かわなければやられてしまう。国家が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、政府の足を引っ張ってはいけない――。そんな気分が広がり、熟議よりもトップダウン、個人の権利や自由よりも国家や集団の都合が優先される社会を、知らずしらず招き寄せてはいないだろうか。

 無理が通れば道理が引っ込む。「反日」「売国奴」。一丸になじまぬものを排撃する一方で、首相に対する批判はメディアのヘイトスピーチだという極めて稚拙な言説が飛び出す。

 昨今「メディアの萎縮」と呼ばれる事態も、強権的な安倍政権にたじろいでいるという単純なものではなく、道理が引っ込み、液状化した社会に足を取られているというのが、情けなくはあるが、率直な実感だ。

 ブレーキのない車のクラクションが鳴り響く社会。メディアが耳をふさいでやり過ごしてはならない。そしていま、この社会に生きる一人ひとりにも、できることはあるはずだ。

衆院1票の格差 違憲状態判決に気を緩めるな

 国会は、判決の真意を見誤らず、選挙制度改革に真剣に取り組むことが求められよう。

 「1票の格差」が最大2・13倍だった昨年12月の衆院選に関する高裁の憲法判断が出そろいつつある。17件の訴訟のうち、これまでの判決は「合憲」が4件、「違憲状態」9件、「違憲」1件である。

 2012年の衆院選を巡る高裁段階の判決は、違憲状態が2件に対し、違憲が14件を占めるという異例の事態となった。違憲のうち2件は「選挙無効」にまで踏み込む無責任な判決だった。

 今回、違憲が大幅に減り、違憲状態が増えたのは、12年衆院選を「違憲状態」と認定した13年11月の最高裁判決の影響が大きい。

 最高裁は、違憲か違憲状態かを判断する際、容認できない格差を放置した期間の長短だけでなく、是正に必要な立法措置や作業の内容などを総合的に考慮すべきだとする新たな基準を示した。

 今回、違憲状態とした高裁判決は、この考えを踏襲している。

 衆院選挙区画定審議会設置法は1票の格差について、「2倍未満」を基本とすると定めている。国会は、昨年の衆院選前に、選挙区定数を「0増5減」し、格差をいったん2倍未満に抑えた。

 「違憲状態」判決は、こうした経緯も重視している。立法府の持つ裁量権に配慮を示した現実的な判断と言えよう。

 もっとも、「違憲状態」判決も、格差の現状に対し、「憲法の求める投票価値の平等に反する」と判断している点では、「違憲」判決と変わらない。

 衆院選挙制度改革に関する有識者調査会は、格差是正のために定数を各都道府県に配分し直す新方式を検討している。

 現時点で有力とされるのが、第6代米国大統領の名にちなむ「アダムズ方式」だ。現行制度より人口比を反映する方式で、これを採用すれば、定数は「9増9減」され、都道府県間の最大格差が1・598倍に縮小するという。

 1票の格差を中長期的に「2倍未満」に抑える観点から、さらに議論を深めてもらいたい。

 調査会は、定数削減も議論しているが、主要各党の主張は、削減幅などが大きく異なる。合意点を見いだすのは容易ではない。

 そもそも定数を減らせば、行政監視など国会の機能が低下しかねない。人口比で見れば、日本の議員数は欧州などより多くない。調査会は、定数削減を切り離し、格差是正策をまとめるべきだ。

理研新体制へ 「STAP」に何を学んだのか

 失われた科学研究への信頼を取り戻せるのか。理化学研究所に課せられた責任は重い。

 STAP細胞問題で揺れた理研の体制改革に道筋がついたとして、野依良治理事長が今月末で退任することになった。後任には松本紘・前京都大学長が4月1日付で就く。

 野依氏は記者会見で、STAP問題について、「研究が虚構というのが大事な結論。大きな意味で真相は解明できた」と述べた。

 果たして、そうだろうか。

 理研はこの1年余、調査や検証実験などSTAP問題対応に8360万円を費やした。調査委員会は昨年末、STAP細胞は既知の万能細胞の混入とほぼ断定した。だが、誰が、なぜ混入したのかという肝心な点は謎のままだ。

 混入した人物が特定できないため、刑事告訴は断念した。

 データ捏造(ねつぞう)などの不正を認定した小保方晴子・元研究員は昨年12月に退職した。懲戒解雇相当との処分が出たのは今年2月だ。小保方氏には、論文掲載料に相当する約60万円の返還だけを求める。

 ちぐはぐな印象は拭えない。

 野依氏は理研の対応について、「一般社会の関心事やスピード感と乖離かいりがあった」と認めた。

 一方で、給与の自主返納により責任は果たしたと述べ、「(研究不正で)組織の長が引責辞任する例は皆無だ」と強調した。

 この発言にも違和感を覚える。問題とされているのは、疑義が生じた後の組織としての対応だ。

 STAP論文について、理研は昨年3月に最初の調査が終了した後、著者に論文撤回を勧告し、追加調査は行わないと表明した。早期収拾を図ったのだろう。疑義が拡大し、新たな調査委員会を設置したのは9月になってからだ。

 小保方氏の研究室の試料を解析し、細胞の真偽を明らかにするという姿勢を早い段階で示していれば、混乱が長引くことはなかったのではないか。

 理研はガバナンス(組織統治)の強化に向け、外部委員を含む経営戦略会議を新設し、倫理教育の徹底など不正防止策を講じた。

 STAP不正の最大の原因は、現場の研究者の間で、実験結果の相互検証や論文作成時の対話が欠けていた点にある。

 自由に研究ができる環境と、組織としての規律を両立させることが重要である。

 日本を代表する研究機関である理研が、社会の負託にどのように応えていくのか。新理事長の手腕も問われている。

2015年3月28日土曜日

スマホ市場に挑むゲーム2社

 ゲーム市場の有力企業である任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)が手を組む。株式を持ち合い、そろって出遅れの指摘されるスマートフォン(スマホ)向けゲームを共同開発して巻き返しを狙う。日本のゲーム産業の将来を占ううえでも注目すべき提携だ。

 両社はともに独自の事業モデルを確立し一世を風靡した実績がある。任天堂は「Wii」など独自のゲーム機と、それに合わせた専用ソフトを展開するハード・ソフトの一体路線を貫き、累計で7億台近いゲーム機を販売してきた。「マリオ」など世界的な人気を誇るゲームキャラクターも多い。

 DeNAはガラケーとも呼ばれる従来型の携帯電話ゲーム事業の「モバゲー」で成功し、一時は破竹の勢いだった。プロ野球球団も傘下におさめ、1999年創業の若い企業としては異例の存在感を誇っている。

 だが、両社とも過去の成功体験にとらわれすぎたのかスマホ化の波に対応が遅れた。ガンホー・オンライン・エンターテイメントなどの新興勢力に対し守勢に立ち、収益力の低下も著しい。

 互いの強みを持ち寄り反転攻勢に出ようというのが今回の提携の眼目だ。任天堂の人気キャラクターや世界的なブランド力と、DeNAのネットゲームの開発・運用力を組み合わせ、世界に通用するスマホゲームの投入をめざす。

 任天堂にとってはハード・ソフト一体路線を軌道修正し、スマホ対応市場に事業の幅を広げる大きな一歩だ。DeNAにとっては内需依存から脱却し世界市場に進出する機会である。

 両社とも自己資本の蓄積は厚い。低迷が続いたとしても、すぐには経営は揺らがない。そんな中で歴史や企業文化の違う相手とあえて提携し事業モデルの革新をめざす攻めの姿勢に、期待したい。

 イノベーションを活発にするには、自前主義に拘泥せず、外部の技術や知識を積極的に取り込む姿勢が欠かせない。他企業にとっても示唆に富む両社の決断である。

判決に一喜一憂せず1票の格差是正急げ

 1票の格差が最大2.13倍だった昨年12月の衆院選を巡る高裁判決の内容がばらついている。最高裁がどんな判断を下すのかは読みにくいが、甘めの判決を期待して格差是正への国会の取り組みが緩むことがあってはならない。

 高裁を一審とする1票の格差訴訟17件のうち、27日までに14件の判決があり、「合憲」4件、「違憲状態」9件、「違憲だが選挙は有効」1件だった。

 最高裁はこれまで(1)格差が限度を超えているか(2)是正するのに十分な時間があったか――の2段階で判断してきた。格差が許容範囲内ならば合憲、限度を超えているが直す時間がなかった場合は違憲状態、時間があったのに直さなかった場合が違憲である。

 一連の判決で東京高裁などは小選挙区の0増5減により、格差がいったんは最大1.998倍に縮小したことを評価し合憲とした。

 他方、福岡高裁は、2009年の前々回の衆院選に関する最高裁判決があった11年3月から昨年の衆院選まで3年8カ月あったのに格差を生む理由の一つである「1人別枠方式」が廃止されなかった、などとして違憲とした。

 これらの判決には賛否両論があろう。いずれにせよ、最高裁が年内にも下す最終判断を先読みし、それをぎりぎり満たせばよいなどと考えるのは邪道だ。与野党は高裁判決に一喜一憂せず、国政の担い手として誰からも後ろ指を指されないよう是正を急ぐべきだ。

 有識者による第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」の佐々木毅座長は2月、小選挙区を9増9減して格差を最大1.598倍に縮小する試案を示した。「1人別枠方式」と似ているなど問題点はあるが、この案を捨てて議論を振り出しに戻せば早期の合意はますます難しくなる。

 衆院の任期満了時点でも格差が2倍未満に収まる是正を直ちに実施する。その後に抜本的な制度改革を含めた検討を継続する。そんな進め方が妥当ではないか。

 最近、地方創生にからめて「格差はあってよい」との声を一部の自民党議員から聞くことがある。憲法に「議席は地域性に基づき配分する」と書き足せば、合憲性を担保できるのだそうだ。

 議席の配分は長年にわたって地方に手厚かったのに、地方の衰退は進んだ。1票の格差を温存すれば本当に地方は栄えるのか。冷静な議論を望みたい。

不平等な一票―正統性が問われている

 いまの国会に、戦後の平和主義を転換したり、憲法を変える論議を提起したりする正統性があるといえるのか。

 新たな是正策を検討しているとはいえ、国会の動きはあまりに鈍い。法の下の平等という原則を尊重する意思があるのか。それすら疑わざるを得ない。

 昨年12月の衆院選の一票の格差をめぐる判決が、各地の高裁・支部で続いている。17件のうち14件で判決が出て、「違憲」が1、その手前の「違憲状態」が9。「合憲」は4だった。

 「違憲状態」判決には、来年12月を期限とし、改めずに選挙したら次は「違憲・無効」もありという、最後通告のような厳しさも含まれている。

 あのときの一票の格差は最大2・13倍。ある人の投票の重みが、違う選挙区に住む人の半分にも満たないことを意味する。

 そこまでの不平等を、有権者は耐え忍ぶしかないのか。国会の怠慢による不平等の放置は、民主主義に対する軽蔑以外の何ものでもない。

 前回衆院選は「0増5減」の調整はされたが、議席をまず都道府県に一つずつ割り振る「1人別枠方式」を事実上残して行われた。最高裁が4年前、一票の重みを不平等にする主因とし、廃止を促した方法だ。

 格差をゼロに近づける抜本改革はなされず、いま検討されているのも「9増9減」という、別の数合わせにすぎない。自ら代表性や正統性を低めようとしているといわれても仕方ない。

 最高裁の判決を待つまでもなく、国会は衆参両院をにらんだ抜本改革に本気で取り組むしかない。合憲判決があったことで開き直る雰囲気もあるようだが、それは間違っている。あくまでも国会で制度見直しが進むことを前提にしており、三権の緊張関係の中で、司法が立法の裁量権に配慮した判断だということをふまえるべきだ。

 改めて甘かったと感じるのが、前々回の12年衆院選をめぐる13年の最高裁判決である。

 1人別枠方式を実質的に残したやり方に一定の理解を示した点が、今回の高裁で「合憲」まで出る寛容さをうみ出しているのではないか。

 忘れてならないのは、投票価値の不平等に伴う司法の責任の重みだ。議員が自分を選んだ制度を温存したいのは本音だろうし、平等な一票を求める国民の利益代表にはなりにくい。司法がきっちり言わないと、ないがしろにされがちな価値なのだ。

 高裁判決は来月も続く。国民の側に足場を置いて、判断を尽くしてほしい。

JR事故裁判―「無罪」が示した課題

 現場カーブで事故が起きる危険性を、3人は具体的に予見できなかった――。

 107人が死亡したJR宝塚線脱線事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴されたJR西日本の歴代3社長に、大阪高裁は一審に続き無罪を言い渡した。

 検察が起訴した別の元社長もすでに無罪が確定している。

 これほどの大事故をおこした企業のトップが誰も処罰されない事態に、遺族は「とうてい納得できない」と憤った。

 来月25日で事故から10年を迎える。無罪であっても、一連の裁判を通じて浮き彫りになったJRの安全軽視の姿勢は明白だ。経営陣の責任はきわめて重いことを指摘しておきたい。

 事故の直接原因は、死亡した運転士が速度を出しすぎたためとされた。だが、現場が急カーブに切り替えられたのは事故の9年前だ。速度超過による脱線の危険性が高まったのに、JRではこの間、誰も安全装置を付けようと考えなかった。

 元社長らは「安全対策は担当者に任せていた」「当時、安全装置を設置する法的義務はなかった」と繰り返した。

 きのうの判決は「大規模鉄道事業者として率先して安全対策を進めることが強く期待されていた」と指摘し、組織としてのJRの責任を示唆した。

 刑法で過失責任が問えるのは個人だけだ。市民で構成される検察審査会は、組織を束ねる元社長らに責任があると判断し、強制起訴に持ち込んだ。しかし大きな組織ほど業務は分かれ、責任のありかは見えにくい。

 その結果の「全員無罪」だ。

 記者会見で、遺族は組織そのものを処罰できる法整備が必要だ、と強く訴えた。巨額の罰金を科すほか、経営陣の安全意識が低い場合は公表するとの案を挙げた人もいた。

 事故で人が死亡した時、組織を処罰する法律は英国にあるが、日本への導入には慎重論も強い。関係者が責任追及を恐れて口をつぐみ、原因究明に支障をきたす懸念があるためだ。

 だが課題はあっても、国レベルで検討する価値はあろう。

 組織を処罰対象に加えることのメリットとデメリットは何か。遺族の疑問にこたえる事故の原因究明をどう実現するか。考えることは多いはずだ。

 10年たっても、遺族は「脱線事故の真相を知りたい」と求めてやまない。この現状は、いまの法制度に不備があることを如実に物語っている。

 事故の犠牲を決して無にせず、より安全な社会へとつなげる仕組みを整えていきたい。

御嶽山噴火半年 惨事を繰り返さぬ体制整備を

 噴火の兆候を的確に捉え、登山客や住民の安全を確保する。惨事の教訓を火山対策の充実につなげねばならない。

 死者57人、行方不明者6人を出した御嶽山の噴火から半年が過ぎた。火口から3キロ・メートル圏内は、今も入山規制が続く。雪に覆われ、捜索再開は早くても6月以降になるという。

 戦後最悪の火山災害となった今回の噴火は、監視体制の見直しなどを政府に迫った。

 気象庁は、常時観測の火山を47から50に増やす。火口周辺の監視カメラなども増強する。

 政府の中央防災会議の有識者会議は、火山情報の提供方法などに関する改革案をまとめた。噴火危険度を5段階で示す「噴火警戒レベル」の基準を、火山ごとに明確化することが柱だ。

 警戒レベル1の「平常」という従来の表現は、安全だとの誤解を招きやすい。「活火山であることに留意」に変更し、御嶽山のような突発的な噴火に注意を促す。

 火山活動の異変が察知された際には、気象庁が直ちに公表し、基準に照らして警戒レベルを速やかに引き上げる。政府は新年度から順次、火山情報に反映させる。着実に実施してもらいたい。

 火山と共生せざるを得ない周辺自治体と政府が、防災面での連携を強化することも重要だ。

 政府は、常時観測する火山の全てで、自治体や警察、消防、火山専門家などによる火山防災協議会の設置を義務付ける方針だ。活動火山対策特別措置法(活火山法)改正案を今国会に提出する。

 各協議会には、想定される噴火パターンに応じ、危険地域を明示したハザードマップや避難計画の作成が求められる。

 自治体による従来の避難計画は、麓の住民の安全確保に主眼を置いていた。今後、重要なのは、登山客も含めた対策である。御嶽山では噴火直後、登山客に噴石が襲いかかった。

 迅速な安否確認や避難を可能にするため、中央防災会議の改革案は、登山届の提出を促すことや、携帯電話への危険情報のメール配信などを提案している。

 電波が届かない火山では、登山口での情報掲示など、多様な伝達体制を整えるべきだ。

 鹿児島県の桜島など、各地で火山活動が活発化している。東日本大震災の後、列島の地下が不安定になったと指摘される。

 観測体制を充実させるには、不足している火山の専門家の育成も不可欠である。

大塚家具内紛 勝者なき不毛な親子げんか

 創業者一族の不毛な対立は、会社の信用を落とすだけである。

 大塚家具創業者の大塚勝久会長と、長女の久美子社長が、互いの解任を求めて争った株主総会は、久美子社長側の提案が6割の支持を得て、ひとまず決着した。

 取締役を解任された勝久氏は、「株主の判断を真摯(しんし)に受け止める」とのコメントを発表したが、引き続き大塚家具の筆頭株主だ。内紛再燃の火種はくすぶっている。社員の結束を取り戻し、混乱に終止符を打てるだろうか。

 大塚家具を巡る一連の騒動は、同族会社における事業承継に潜む落とし穴を象徴している。

 勝久氏は、来店客を担当者が付き切りで案内し、高級家具を勧める販売手法で大塚家具をジャスダック上場会社に育て上げた。

 ところが、社長を引き継いだ久美子氏は、ニトリやイケアなど新興の家具チェーンに対抗するため、来店客が気軽に立ち寄れる店作りに大きく舵かじを切った。

 この方針転換に不満を持った勝久氏が主導し、2014年7月の取締役会で久美子氏を解任に追い込み、自ら社長を兼任したが、15年1月には逆に、多数派となった久美子氏が社長に返り咲いた。

 株主総会では、大株主の金融機関や投資ファンドの多くが、幅広い消費者をターゲットとする久美子氏の戦略を支持したようだ。

 そもそも、親から子へ経営をバトンタッチする際に、丁寧に意見をすり合わせておけば、対立は避けられたはずである。

 世間の耳目を集めた骨肉の争いが、会社に残した傷は大きい。

 総会では一般の株主から「親子げんかしている家具店で誰が買いたいと思うか」と批判の声が上がった。低下したブランドイメージの回復は容易ではあるまい。

 営業方針が迷走したことで顧客離れが加速し、14年12月期の営業利益は赤字に転落した。

 にもかかわらず、久美子氏が配当を従来の2倍、勝久氏は3倍に増やす提案をした。株主総会での支持拡大を狙ったのだろう。

 無理な増配は企業価値を下げ、長期的にみて株主の利益にならない。増配を材料に株価が急騰するや、大株主の外資系ファンドが保有株を売り抜け、多額の利益を得た。結果的に、マネーゲームに手を貸したことになる。

 大塚家具の社外取締役は、従来の2人から6人に増えた。傷ついたイメージと業績の回復に社外の声をどう生かしていくか。企業統治改革の実効性が問われよう。

2015年3月27日金曜日

働き方の見直しで少子化の流れ変えよう

 2020年までの少子化対策の指針となる大綱を、政府がまとめた。妻が出産した直後に夫の8割が休暇をとるようにするとの目標を掲げるなど、育児への男性の参加を促す内容だ。

 政府が成長戦略に掲げる「女性の活躍」を後押しするうえでも欠かせない視点だろう。着実に進めていく必要がある。

 大綱は04年、10年に続き今回が3回目だ。「男性の家事・育児が少ないことが、少子化の原因の一つ」とし、「働き方改革」を重点課題にあげた。6歳未満の子どもがいる男性の育児や家事の時間を1日あたり2時間半にする、といった目標も盛り込んだ。

 カギを握るのは長時間労働の是正だ。残業が常態化したままでは、育児にかかわりたい男性の希望はかなわない。女性は仕事か子育てかの二者択一を迫られる。

 仕事の内容や進め方を見直し、短時間でも成果が上がる働き方を工夫すれば、企業にとってもメリットがあるはずだ。職場の意識改革を進める必要がある。

 子育て支援策の充実も欠かせない。政府は17年度末までに待機児童をなくす方針を掲げる。保育施設を増やすだけでなく、子どもの育ちを支える保育士をどう確保するかが重要だ。

 若い世代のなかには、雇用が安定しないため結婚や出産に踏み切れない人が少なくない。就業支援や非正規労働者の処遇改善などの施策が求められる。

 問題は、こうした課題が過去にも指摘されてきたのに少子化の流れは変わっていないことだ。日本の合計特殊出生率は1.43(13年)となお低い。出生率向上と女性の社会進出を両立させているフランスなどとの隔たりは大きい。

 今回の大綱は「子どもへの資源配分を大胆に拡充」とうたう。「多子世帯への一層の配慮」も盛り込んだ。が、財源との兼ね合いもあってか具体策は乏しい。

 本気で流れを変えるなら、高齢者に偏りがちな社会保障の配分にメスを入れ新たな財源確保策を考える必要がある。大綱にどう実効性を持たせるのか。問われているのは政権の本気度だ。

 子どもを持つかどうかは個人の選択だが、持ちたいと希望してもそれを阻む壁が多くある社会は幸せな社会といえない。少子化の流れが変わらなければ、経済が勢いを失い、社会保障制度の土台も揺らぎかねない。

イエメンの混乱収拾を急げ

 内戦の瀬戸際にあるイエメンで勢力を伸ばすイスラム教シーア派系の武装集団に対し、サウジアラビアが空爆に踏み切った。

 イエメンはサウジと国境を接し、アジアと欧州を結ぶ海上交通路の要に位置する。その混乱は中東を一段と不安定に陥れ、世界経済を揺さぶりかねない。国際社会は収拾を急がねばならない。

 北部を地盤とする武装集団は首都サヌアを掌握したのに続き、ハディ暫定大統領が逃れた南部の主要都市アデンにも迫っている。

 これに対しサウジやクウェートなど5カ国は「ハディ大統領の要請にもとづいてイエメンを守る」との共同声明を出し、軍事介入に乗り出した。その軍事行動を米国も後方支援するという。

 シーア派武装集団は同じシーア派の国家であるイランの支援を受けているとされる。サウジなどスンニ派のアラブ諸国はイランの影響力拡大を警戒している。

 一方では、国際テロ組織アルカイダにつながるイスラム過激派がイエメンで勢力を伸ばしている。フランスで起きた連続テロ事件への関与を主張している勢力だ。

 スンニ派のサウジとシーア派のイランがそれぞれ別の勢力を支援し、混乱に乗じてイスラム過激派が台頭するのは、シリアやイラクと同じ構図だ。

 サウジの軍事介入には自国への波及を防ぐ自衛の思惑があろう。しかしイエメンの安定を実現するには、ハディ政権と武装集団の間で停戦と和解を促す政治的な取り組みが欠かせない。難しい課題だが、武装集団に影響力を持つイランを動かすことが大切だ。

 イエメンはスエズ運河からインド洋に通じる紅海の南の出入り口にある。同国沖を航行する船舶は年間およそ2万隻。その安定は円滑な国際物流に不可欠だ。

 原油価格は下落傾向にあるとはいえ、サウジなどペルシャ湾岸の産油国への混乱の波及は原油供給に重大な影響をもたらす。原油調達の8割超を中東に頼る日本にとって人ごとではない。

「我が軍」発言―憲法軽視が目にあまる

 安倍首相が参院予算委員会で自衛隊を「我が軍」と呼んだことが波紋を広げている。

 自衛隊と他国軍との共同訓練について問われ、「『我が軍』の透明性を上げていくことにおいては、大きな成果を上げている」と答えた。

 これが批判されると、菅官房長官は記者会見で「自衛隊は我が国の防衛を主たる任務としている。このような組織を軍隊と呼ぶのであれば、自衛隊も軍隊の一つということだ」と述べ、首相発言を追認した。

 だが歴代政府は「自衛隊は、通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」としてきており、憲法上、自衛隊は軍隊ではない。

 単なる呼び方の問題ではない。自衛隊の位置づけは憲法の根幹にかかわる。

 首相が国会で「我が軍」と言い、官房長官が修正もせずに首相をかばうのは、憲法の尊重・擁護義務を負う者としてふさわしい所作ではなかろう。憲法によって権力を縛る立憲主義の原理をないがしろにするものと言わざるをえない。

 たしかに国際的には自衛隊は軍隊の扱いを受けている。だがそれは自衛隊員が国際法上の保護を受けるためだ。他国軍との共同訓練に関する答弁だったとはいえ、国会では自衛隊と呼ぶのが当然ではないか。

 憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認をはじめ、一連の安保法制の議論を通じて、安倍政権には憲法軽視の姿勢が際立っている。

 日本の安保政策は、憲法との整合性を慎重に考えながら組み立てられてきた。9条で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」としつつ、自衛隊が合憲とされるのは「自衛のための必要最小限度の実力は認められる」と解釈したからだ。

 1967年に佐藤栄作首相が「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁した基本原則は、簡単に覆せるものではない。

 内閣府の最新の調査では自衛隊に「良い印象」と答えた人が92・2%と過去最高になった。東日本大震災で黙々と作業に励む隊員たちの姿は、国民の目に焼き付いている。あえて軍と呼ばず、抑制的な姿勢に徹してきた自衛隊への評価の到達点ではないか。

 持てる力をむやみに振り回さず、海外の紛争と一定の距離をとってきたからこそ、得てきた信頼がある。その確かな歩みの延長線上に、国民や国際社会の幅広い理解を得られる活動のあり方を描くべきだ。

イエメン危機―国家崩壊防ぐ協力を

 シリアやリビアに続き、中東でまた一つの国が紛争の影に覆われている。アラビア半島南部のイエメンである。

 旧約聖書に登場する「シバの女王」が治めた王国はこのあたりらしい。豊かな歴史と文化に彩られた地域。しかし、近年は内紛の絶えることがない。

 北部を拠点とした少数派のイスラム教シーア派武装組織「フーシ派」が、首都を掌握し、2月に暫定政府樹立を宣言した。同じシーア派の国イランの支援を受け、さらに南部に侵攻している。南部に逃れたハディ暫定大統領を支えるスンニ派のサウジアラビアなどは、フーシ派への空爆に踏み切った。

 過激派組織「アラビア半島のアルカイダ」なども活動を広げ、対立構造は複雑だ。

 シリアやリビア、さらにイエメンと海を隔てるソマリアでは、国家の統一が保てず、過激派が勢力を広げている。テロの温床ともなっている。

 イエメンまでそうなると、周辺への影響が計り知れない。安定に導くため、欧米や周辺諸国は協力態勢を築く必要がある。

 イエメン沖はスエズ運河に直結する航路で、航行に支障が生じると日本への影響も甚大だ。イエメンの安定化に向けて日本に何ができるか、模索したい。

 イエメンは冷戦時代に南北で別の国に分かれていたが、1990年に統一された。しかし、国内では様々な勢力が対立を続け、10年あまり前からフーシ派が次第に勢力を拡大した。

 背後でてこ入れするイランは自国の核開発をめぐり、米国などとの間で枠組み合意に向けた大詰めの協議の最中だ。もし合意を望み、国際的な孤立から抜け出したいなら、イエメンで争いをあおる場合ではあるまい。紛争の種を振りまくのでなく、停戦や和平を助ける姿勢を持たないことには、国際社会にも受け入れられない。

 サウジも、軍事行動に慎重であるべきだ。スンニ派とシーア派の代理戦争を繰り広げると、周辺に飛び火する恐れがある。両派の対立を元々抱える湾岸諸国も動揺すれば、日本の原油供給にも支障が生じかねない。

 さらに、混乱に乗じようとする過激派にも警戒が必要だ。「アラビア半島のアルカイダ」は、フランスやデンマークのテロへのかかわりも取りざたされる組織である。

 混乱の長期化は、イエメン国民の暮らしを破壊するとともに、国際テロの危険もいっそう高めかねない。日本を含む国際社会には、イエメンの国家崩壊を傍観する余裕はないはずだ。

統一地方選 地域再生の処方箋を論じたい

 地方の人口減少にどう歯止めをかけ、いかに活性化させるのか。その処方箋を具体的に論じ、考える機会としたい。

 北海道、神奈川など10道県の知事選が告示され、4年に1度の統一地方選が始まった。

 41道府県議選なども順次、告示され、4月12日に投開票される。後半戦は、市区町村長・議員選で、26日が投票日となる。

 全国の半数の自治体が将来的に「消滅」する恐れがあるとの民間推計を踏まえ、安倍政権は昨年末、「地方創生」の総合戦略をまとめた。各自治体も、それぞれの戦略を15年度中に策定する。

 若者が地方にとどまり、安心して子育てをするには、雇用の確保や育児支援の充実が欠かせない。医療や教育、産業振興、防災なども自治体の重要な役割だ。

 地域の実情を踏まえ、優先すべき政策は何か。各候補者は積極的に論戦を展開すべきである。

 地方自治は、首長と議員の「二元代表制」だ。だが、議会は、審議が形骸化し、「首長の追認機関」と揶揄やゆされることも多い。

 昨年は、政務活動費の不自然な使途を問われて号泣した兵庫県議や、セクハラのヤジを飛ばした東京都議らが強く批判された。

 議員選では、候補の能力や資質が厳しく問われる。自らの名前を連呼したり、抽象的に「改革」を唱えたりするだけでは困る。有権者の眼力も試される。

 統一地方選の投票率は低下傾向が続く。前回11年の道府県議選では初めて5割を下回った。

 無投票も増えている。昨年の地方選では、首長選の約4割、議員選の約1割が無投票だった。

 いずれも深刻な状況である。

 地方自治は住民の暮らしに密接に関係する。女性や若者を含め、より多くの人が身近な政治に関心を持ち、担い手に名乗りを上げる。有権者も積極的に選挙権を行使する。そのことが地方政治に活力と緊張感を与えよう。

 主要政党には、来夏の参院選への基盤固めの戦いとなる。

 ただ、知事選で政党の影は薄い。自民、民主両党系候補の対決は北海道と大分県だけだ。各党の安易な相乗りが、有権者の選択肢を狭めたことは否めない。

 自民党は、道府県議選に前回を上回る候補者を擁立し、議席増を目指している。

 民主党は、岡田代表の地元の三重県知事選で候補を擁立できず、道府県議選の公認候補も現時点で前回より約4割少ない。地方組織の立て直しへの道は険しい。

プロ野球開幕 ファン層をさらに広げよう

 プロ野球が開幕を迎えた。球春到来である。

 日本野球機構の今季のスローガンは「この1球に未来を懸けて」だ。

 2020年東京五輪で野球・ソフトボールの復活が期待されている。迫力あるプレーでより多くのファンの心をつかみ、機運を盛り上げていきたい。

 世界野球ソフトボール連盟が主催する新たな国際大会「プレミア12」が、11月に日本と台湾で開催される。選手にとっては、ペナントレースで好成績を残すことが、日本代表「侍ジャパン」のメンバー入りにつながろう。

 セ・リーグでは、巨人が4連覇を目指す。球団創設80周年の阪神などが、どう立ち向かうか。パ・リーグでは、昨季の日本一に輝いたソフトバンクに、大型補強をしたオリックスなどが挑む。

 12球団のうち、5球団で監督が交代した。新指揮官の采配からも目が離せない。

 広島の黒田博樹、ソフトバンクの松坂大輔両投手らが、日本球界に復帰した。米大リーグで培った円熟のプレーを見せてほしい。昨季、最年長勝利のプロ野球記録を更新した中日の山本昌投手は、50歳のシーズンとなる。

 日本ハムの大谷翔平投手の「二刀流」が、どこまで進化するかも楽しみである。

 巨人の岡本和真選手、楽天の安楽智大投手ら、期待の新人も入団した。次代の野球界を背負って立つ選手に成長してもらいたい。

 セ・リーグの昨季の観客数は、前年比で3・4%増加した。パ・リーグも4・0%増えた。

 目を引くのは、広島とオリックスだ。前年よりもそれぞれ21・7%、18・4%の大幅増だった。観戦ツアーの実施などで、「カープ女子」「オリ姫」と呼ばれる女性ファンを獲得したことが、観客増の大きな要因だろう。

 首都圏を本拠地とする巨人、DeNA、ヤクルト、ロッテ、西武の5球団は、「野球女子倍増プロジェクト」を始めた。

 各球団が、プロ野球を観戦したことのない女性を球場に招待し、野球の醍醐(だいご)味を味わってもらうという。グラウンドに入って練習を見学する企画などもある。

 この5球団は、公園で親子や友達同士がキャッチボールを楽しもうという催しも開いている。

 女性や子供に野球の魅力をアピールし、ファン層を拡大することは、野球界の発展のために欠かせない。球場に足を運んでもらえるよう、12球団が一体となって、サービス向上に知恵を絞りたい。

2015年3月26日木曜日

人口減踏まえた活性化策を競う地方選に

 神奈川や奈良など10道県の知事選が26日告示され、統一地方選が始まる。安倍政権が「地方創生」を掲げるなかで、地域を活性化する具体策を競う選挙になる。

 今回の知事選は福井や徳島など6県で自民と民主が現職に相乗りしたため、政党色が比較的薄い選挙になるとみられる。民主党は岡田克也代表の地元である三重ですら独自候補を擁立できなかった。有権者からみれば選択肢が少なくなるだけに残念だ。

 与野党が直接激突する北海道と大分では、自民、公明の与党が現職を、民主などの野党が新人を推薦、支援している。ともに4選を目指す現職の実績が問われる。

 今回選挙がある地域をみると、神奈川と福岡以外はすべて本格的な人口減少局面に入っている。「子育てに優しい街にする」などといった抽象論ではなく、人口の減少に歯止めをかける具体策を各候補はしっかりと示してほしい。

 産業政策や雇用対策も重要だ。どんな政策でどれだけ雇用を増やすのか。数値目標を明示したほうが有権者にはわかりやすい。

 一方、少子化対策に取り組んだとしても、人口は長い間減り続けるだろう。地方財政も厳しい。自治体の「消滅」が話題になるなかで、地域社会をどうやって維持するのかについても聞きたい。

 地方分権の進展で、知事の手腕が地域の浮沈に直結する時代だ。有権者も政策の具体性やその実現性をよく吟味してほしい。

 知事選のある4月12日には41の道府県議選なども実施される。地方議員は国政選挙の実動部隊になるだけに、各党は議員選に力を入れている。大阪の府議選や市議選では大阪都構想の是非が最大の争点である。5月に実施される住民投票の前哨戦になるのだろう。

 知事の権限が強まった分、それを監視する議会の役割は重い。しかし、実際には予算案や条例案を追認するだけの議会が多い。政務活動費の浪費も目立つ。

 大阪のように独自の争点がある地域は少ない。各候補は身近な地域の課題を示し、その対策も併せて有権者に提示すべきだ。

 4年前の統一地方選では道府県議選の平均投票率が初めて50%を下回った。知事選でも過去2番目に低かった。最近の投票率の低下には危機感を覚えざるを得ない。

 地域のことは地域で決める。これが地方自治の原則だ。一票を投じてこそ、地域を変えられる。

食品の機能性表示どう生かす

 4月から食品表示のルールが新しくなる。最大の柱は「機能性表示食品」制度の導入だ。科学的根拠を国に届け出れば、事業者が自らの責任で、健康にどんな効果があるかをうたうことができる。

 「すっきり」といったイメージではなく、「おなかの調子を整える」などの具体的な表示があれば、消費者が自分にあったものを選び、体調管理に生かすのに役立つだろう。生鮮食品も対象であり、市場の拡大への期待も高い。

 ただ、新しい表示は国の事前審査を必要としない。消費者の信頼を得られる有効な制度に育てていくうえで、事業者の責任は重い。行政がきちんと監視をしていくことも欠かせない。

 新しい表示制度は2013年、規制改革の一環として導入が決まった。先行する「特定保健用食品(トクホ)」は国の厳しい審査があり、事業者にとっては時間がかかり、費用負担も重かった。「栄養機能食品」の制度もあるが、表示できる成分や表現は限られる。

 機能性表示食品では、事業者は販売の60日前までに消費者庁に届け出をすればよい。臨床試験の代わりに、過去の研究論文の分析を科学的根拠として使うこともでき、ハードルは低くなる。

 届け出た内容は、販売前に消費者庁のホームページで公開され、多くの目にさらされる。事業者は、消費者に科学的根拠などを分かりやすく伝える工夫が要る。万一の健康被害に備えて、事業者が消費者からの相談、情報収集体制を整え、行政にすぐに届けられるようにすることも必須だ。

 事前の審査はないとはいえ、何か問題があれば、行政による命令や指示などの対象となる。事後チェックの中核を担う消費者庁の役割も大きい。

 あくまで健康の維持・増進のためのものであり、病気を治すものではない。事業者、行政ともに消費者に正しい理解を広めていきたい。消費者自身も、健康には運動など日々の生活習慣こそが大事であることを忘れてはならない。

統一地方選―「消滅危機」をはね返せ

 きょう、全国10の道県知事選が告示され、統一地方選が始まる。4月12日と26日の2回にわけて、全国で1千近くの選挙が行われる。

 知事選では、北海道と大分で自・公の与党と民主党など野党が推す候補らによる対決となる。1月の佐賀知事選の農協改革のように、安倍政権の政策が争点となった知事選で敗北が続いた与党が踏ん張るか、先の衆院選で振るわなかった民主党が巻き返すかが注目される。

 一方、自治体の半数が「消滅可能性都市」になるとの民間研究組織の報告が発表され、首相が地方にも知恵を出すよう求める「地方創生」を打ち出してから初めての統一選だ。

 この状況をどう受け止め、未来にどう生かしていくのか。まさに自治の真価が問われる選挙となる。

 統一選は回を追うごとに低調になっている。昭和30年代までは80%前後だった各選挙の投票率は右肩下がりで、4年前の前回は50%前後に落ちた。

 無投票も目立つ。前回の無投票当選者の割合は市長17%、町村長47・9%、道府県議17・6%、町村議20・2%。町村部での高さが目立つ。候補者が定数よりわずかに多い議員選挙も含めれば、無風状態はさらに広がっていると見られる。

 自治体のかじ取りをできる人材が少ない、意欲はあっても職を捨てて立候補するリスクはとりにくい――。長らく指摘されてきた問題である。

 住民との垣根を低くするため、夜間議会や報告会を開くといった取り組みも増えてきた。だが、議会を通じて住民が自治にもっと参加していくには、抜本的な改革が必要だ。

 例えば、1人の有権者が複数票を投じる「制限連記制」を導入するなど、女性や若者でも当選しやすい選挙制度にする。夜間や休日を定例会にしてサラリーマンでも議員になりやすくする。住民が議会で直接発言できる機会を増やす。有識者からはこんな提案が出ている。

 要は議会を一部の「プロ」だけに独占させないことだ。そうすれば、政務活動費を特権のように浪費することもできなくなるはずだ。

 もちろん、一挙に進まない現実がある。だが、「消滅可能性」の深刻な危機は、政府の振り付けのもと役所主導で進められてきた「おまかせ自治」を改めるチャンスではないか。

 そんな志をもった候補者は、あなたの地元にはいないだろうか。短い選挙期間だが、じっくりと見極めてみたい。

踏切事故―渡る人の視点で考えよ

 踏切を渡ろうとした女性4人が電車にはねられ、2人が死亡、2人がけがをした東武伊勢崎線竹ノ塚駅(東京都足立区)事故から今月で10年がたった。

 事故は、当時まだ手動式だった遮断機を係員が誤って上げたことが原因でおきた。ピークの1時間で57分も閉まったままの踏切での事故は、踏切対策を見直すきっかけになった。

 国土交通省は全国3万超の踏切のうち、遮断時間が長いなど特に課題がある1960カ所で対策を進めた。線路の高架化などで130カ所以上の踏切をなくした。歩道を広げ、多くの歩行者が一度に渡りやすくするといった対策もとってきた。

 だが、毎年100人前後が踏切で死亡する状況は変わっていない。当の竹ノ塚の踏切でも今月1日、死亡事故が起きた。

 事故をゼロにするには、高架橋や地下道をつくることが最も効果的だが、多額の費用と手間がかかる。道路を管理する国や自治体、鉄道事業者の対応がなかなか進まないのが実情だ。

 それでも、できることはまだある。10年前の事故で母(当時75)を亡くした加山圭子さん(59)は「一つひとつの踏切の実態に合わせた対策をとってほしい」と求める。

 10年にほかの事故遺族らと「紡(つむ)ぎの会」を結成した。踏切事故が起きたと聞けば、できる限り現場を訪ね、原因を考えた。特急が時速100キロ超で通るのに、遮断機も付いていない山あいの踏切。警報機が鳴り始めると遮断機がすぐ下り、足の悪い人では渡りきれない都会の踏切。渡ってみると、感じることがたくさんあった。

 たとえば子どもがよく通る踏切は優先的に遮断機をつける。お年寄りが多い地域は棒が下りきるまでの時間を延ばす。車いすの人が住む地域では段差をならし、立ち往生しても検知装置で電車に知らせるようにする。

 「まず渡っている人たちの実態を調べることが大切です」

 加山さんの提言には、すぐできそうなことがいくつもある。

 鉄道事業者は列車の安全輸送を優先し、渡る側の安全対策は啓発が中心になりがちだ。

 だが高齢化が進み、踏切を渡るお年寄りは増えている。社会環境の変化に合わせ、渡る人の目線からの安全策をもっと講じてほしい。

 死亡事故が減らない現状を踏まえ、国交省は横断者数や過去の事故状況を踏切ごとにまとめた「カルテ」を新年度につくる方針だ。客観的なデータをもとに社会全体で知恵を絞り、踏切の危険度を下げていきたい。

アジア投資銀 中国の支配力が強すぎないか

 中国主導で年内の発足を目指す「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に、30か国以上が参加する見通しとなった。

 当初はアジアや中東など21か国が設立を発表したが、今月末に創設メンバーの申請が締め切られるのを前に、先進7か国(G7)の英独仏伊をはじめ、10か国以上が参加を表明した。

 欧州各国には、AIIBを通じて中国との関係を強化し、成長するアジアでの投資機会を増やしたい思惑がある。日米に比べて安全保障面で中国と利害がぶつかることが少なく、参加のハードルが高くない事情もあるのだろう。

 ただ、AIIBは、中国が最大の出資国となり、本部は北京、初代総裁も中国人となる方向だ。経営陣の構成や融資案件を決める基準の指針は、示されていない。

 これでは、中国が過度の支配力を持ち、中国企業の受注を融資条件とするなど、自国に有利な運営が行われる疑念が拭えない。参加国の拠出した資金が中国の意のままに配分され、アジアでの影響力強化に流用されないだろうか。

 中国がアフリカなどで行ってきた開発支援には、環境保護や人権への配慮を欠いたケースが少なくないという指摘もある。

 安倍首相がAIIBに関し、「公正なガバナンス(統治)を確立できるか、慎重な検討が必要だ」と述べているのはもっともだ。統治体制や運営に関する懸念が解消されない限り、日本が出資国に名を連ねるのは難しかろう。

 AIIBが参加国によって適正に運営されれば、インフラ整備に潤沢な資金が供給され、アジア経済の発展に資するはずだ。

 だが、審査が甘いようだと返済能力を超える融資が横行し、焦げ付きのリスクが高まる。アジア開発銀行(ADB)など、別の貸し手にも損失が及ぶ恐れがある。

 世界経済の基盤である国際金融秩序が、AIIBによって揺さぶられる事態は好ましくない。

 重要なのは、AIIBが国際機関にふさわしい運営の透明性や公正性を確保することだ。

 米国は今のところ参加を見送る一方、「世界銀行やADBなど既存の機関と共同で融資を行うことが高い基準の確保につながる」との見解を示している。

 AIIBを世銀やADBとの共同事業に取り込むことを通じて、審査や融資の適正化を迫る道を探っているのだろう。

 日本も米国と協調し、AIIBが国際ルールに基づいて運営されるよう働きかけねばならない。

再生エネ負担増 買い取り制の欠陥を改めよ

 太陽光や風力など再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度で、家庭や企業の負担が急激に拡大している。

 経済産業省によると、買い取り費用として電気料金に上乗せされる2015年度の負担金は、総額1・3兆円と、前年度の約2倍に急増する。

 年間の負担額は、標準的な家庭で5700円、中小工場では50万円にもなるという。

 国がこれまでに認定した再生エネ発電設備がすべて稼働を開始すると、負担金の総額は2・7兆円と、さらに倍増する。

 12年に制度を導入した民主党政権が、最長20年間適用される太陽光の買い取り価格を、破格に高くしたことが、負担増の主因だ。

 その後、政府は段階的に買い取り価格を下げているが、ペースは遅い。価格が下がる前に認定を受けようと、駆け込み申請が殺到し、負担増に拍車をかけた。

 現在でも太陽光の買い取り価格は、ドイツなどより2倍以上も高い。国際的にみて妥当な水準へ、早急に引き下げるべきだ。

 高価格で認定を受けたのに設備を作らず、もうけを増やすため、太陽光パネルの値下がりを待っている業者もいる。

 経産省は、悪質業者の認定取り消しを進めているが、人手不足もあって調査は追いついていない。対応を早める必要がある。

 新規電力会社の一部が、再生エネ事業者から仕入れた電気を高値で転売し、利ざやを稼いでいる実態も判明した。買い取り制度は利用者の負担で維持されている。不当な利得行為は許されまい。

 政府は今夏をめどに、2030年に目指すべき原子力、火力、再生エネの最適な電源構成を決める。東日本大震災前に約30%だった原発比率をどこまで下げ、水力を含めて約10%の再生エネをどの程度増やすかが焦点となる。

 政府のエネルギー基本計画は、再生エネを20%超とする目標を掲げている。再生エネは環境負荷が小さく、国内で自給できる長所がある一方、天候などで発電量が急激に変動する短所もある。

 導入コストは電気料金の上昇として国民に跳ね返る。許容できる負担には限度があろう。

 再生エネの電気を地方から首都圏など消費地に届ける送電線の増強や、発電量の変動を調整する大型蓄電池の整備にも、兆円単位の費用がかかるとされる。

 こうした再生エネ拡大に必要なコストをきちんと勘案し、現実的な導入目標を設定すべきだ。

2015年3月25日水曜日

日本は国際会計基準の改善にも尽力を

 欧州やアジアの企業が使っている国際会計基準(IFRS)が、日本でも普及し始めた。基準を使う日本企業の数は過去1年余りで3倍ほどに増え、2015年中にも100社を超える見通しだ。

 資本市場のグローバル化が進むなか、企業評価のモノサシである会計基準は、国・地域の違いが少ないほうが良い。日本市場が国際会計基準の普及で透明度を高め、多くの投資資金を引きつけるようになることが望ましい。

 日本企業は10年3月期から国際会計基準を自主的に使えるようになった。ここにきて普及が加速している背景には、企業がM&A(合併・買収)を通じて国際展開を進めていることがある。

 M&Aでは買収額が被買収企業の純資産を上回ることが多い。この超過部分を「のれん」と言い、日本の会計基準では決算で定期償却する。国際会計基準では、決算のたびに買収先の事業価値を見積もり、価値が大きく下がった場合にだけ減損処理する。

 つまり、国際会計基準ならば巨額の買収をしても、目先の業績が償却で圧迫されることが少ない。商社や医薬品、通信などM&Aが活発な業種の企業ほど国際会計基準を早く使い始めたのは、そうした事情による。

 ただ、会計の専門家の中には「のれん」を定期償却するほうが、財務の健全性を保つうえで望ましいとする意見も根強い。丸紅は買収した米穀物商社の事業が想定通りに拡大せず、多額の減損処理に迫られた。こうした例が相次ぐと、企業の財務内容に対する市場の懸念が高まりかねない。

 国際会計基準を使う企業は買収先の事業価値を見積もるだけでなく、想定しうる損失の額を開示するなどの手立てを講じる必要もある。国際会計基準と似ている米会計基準を使う企業にも同じことが言える。

 国際会計基準をつくる組織は英国を本拠に、米当局と連携して基準の統一を進めてきた。市場や産業の構造変化に応じて今後も新基準の設定や、既存の基準の見直しを進める。目下の焦点は、国によって異なる企業の売上高の計上方法の違いを減らすことだ。

 そうした議論の場で、日本企業は基準の使い手として積極的に意見を表明すべきだ。欧米の動向を追いかけるだけでなく、個別基準の具体的な改善策を示すような役割が期待される。

これでいいのか理研の幕引き

 理化学研究所の野依良治理事長が3月末付で退任し、松本紘・前京都大学学長が後任に就くことが決まった。また外部有識者でつくる委員会が理研の改革状況を点検し、「真摯に取り組んでいる」とする報告書を公表した。

 理研と文部科学省はこれでSTAP細胞をめぐる騒動の幕引きとしたいようだが、それでよいのか。理研が日本の科学をけん引できる組織に本当に生まれ変われるのか、このままでは疑問が残る。

 理研は論文不正の再発を防ぐため、研究コンプライアンス本部を新設し研究倫理の教育体制を充実させたという。理事長ら経営幹部の補佐役を増やし、外部有識者が加わる経営戦略会議もつくった。

 組織改革にはそれぞれ意義があろうが、対応が問題の本質から少しずれてはいないか。

 STAP論文にかかわった科学者たちは小保方晴子氏の出した実験結果を科学的な批判精神をもって検証しなかった。論文作成にあたっては研究チーム内で意見交換や討論がまったく不十分だったことがわかっている。

 実験結果の検証と討論は科学者が当然なすべきことだ。多くの科学者は日常的にそうしている。しかし理研では一流の科学者と呼ばれる人たちが基本動作を怠った。なぜなのか。外部有識者の会合も疑問を呈したが、答えはない。

 研究者に対する組織的な管理が不十分だった点が騒ぎの原因ではなく、自由闊達な議論を阻害する雰囲気があったことに問題があったように思える。

 不正発覚後、真相解明に力を尽くした科学者が少なからず理研内部にもいた。現場が抱いた危機感に経営陣は当初、耳を貸さなかった。野依理事長の「責任は現場」との発言もやや的外れに響く。

 肝心な点を押さえねば、改革は組織的な体裁を整えるだけの上滑りなものになりかねない。

 実験試料に既存の万能細胞を入れたのは誰かという事件の核心も、未解明のままだ。文科省と理研にはまだ宿題が残っている。

政治資金規正―やり過ごすつもりか

 安倍政権は、このまま何事もなかったかのようにやり過ごすつもりなのか。

 国から補助金を受けた企業からの政治献金の問題である。

 西川前農水相が辞任した後も、安倍首相や菅官房長官、民主党の岡田代表らの政党支部、自民党の政治資金団体「国民政治協会」にも同じような寄付が相次いで発覚した。

 だが、政治家側はいずれも「補助金を受けているとは知らなかった」「利益を伴わない補助金なので問題はない」などと主張している。

 一連の問題で明らかになったのは、補助金を受けた企業からの寄付が事実上、野放しになっている実態だ。企業の利益に全く結びつかない補助金は別にしても、こうした寄付は政治家への税金の環流になりかねない。企業側は罰せられるのに政治家側の責任は問われないのは、法の不備である。

 民主党は、補助金受給企業の情報開示を義務づけたり罰則を強化したりする政治資金規正法の改正を議論。維新の党は企業・団体献金を禁じる法案をすでに提出している。

 驚くのは自民党が法改正ではなく運用の見直しですまそうとしていることだ。閣僚辞任まで招いた問題なのに「のど元過ぎれば」の典型のような態度でいるのは見過ごせない。

 リクルート事件などを受け、政治腐敗防止をうたった20年前の「政治改革」の議論を思い起こしたい。

 選挙制度改革とともに、国民1人あたり年250円、総額300億円を超える国費からの政党助成制度が95年から導入された。政治家個人への企業・団体献金は5年後に禁止、政党への献金も見直すとされた。

 実際、5年後には個人への企業・団体献金は禁じられた。だが、政治家が代表する党支部への献金という形で、実質的にはいまだに抜け道のように残っている。税金との「二重取り」と批判されるゆえんだ。

 安倍首相は「企業・団体献金が即、悪いものだとは全く考えていない」「(問題は)民主主義のコストをどう分かち合うかということだ」と繰り返す。これまでの経緯を考えれば、開き直りというしかない。

 政界からは、企業・団体献金の全面禁止は現実的ではないとの声が聞こえてくる。

 すぐには無理だというなら、せめてもの一歩として、政党支部への献金という抜け道ぐらいはふさいではどうだ。この国の政治は、この程度も襟を正せないというのだろうか。

免震ゴム偽装―安全軽視の姿勢改めよ

 地震国に暮らす国民への背信行為である。

 東洋ゴム工業(大阪市)が製造した免震装置のゴムに、国土交通大臣の認定基準に満たない性能不足の製品があった。

 免震ゴムは建物の基礎などで使われ、伸縮で地震の揺れを吸収する機能をもつ。その能力が不足していたのに、製品データを偽って販売していた。

 性能不足の製品が使われた建物はマンションや役所の庁舎、病院など18都府県の55棟。災害時に防災拠点となる建物も含まれており、影響は大きい。

 同社はすべての建物の安全をすみやかに再確認し、改修や製品交換を急ぐべきだ。財産価値が下がるなどの理由から公表されていない共同住宅などについても、利用者に誠実に伝え、不安にこたえる責任がある。同時になぜこんなことが起きたのかを調査し、公表してほしい。

 子会社で製品評価を10年以上担当していた課長代理が、国の認定基準に収まるよう試験データを改ざんしていたのが発端という。国交省は「納期に間に合わせるため、営業からのプレッシャーもあったようだ」と説明する。だとすれば製造工程はもちろん、チェック態勢のあり方まで見直す必要がある。

 理解できないのは、子会社で不良品の可能性が浮上した昨年2月以後も1年間、不良製品が出荷され続けたことだ。確証を得るのに手間取ったとしても、危機感が薄すぎないか。

 東洋ゴムでは07年にも建築用断熱パネルの試験データ偽装が発覚し、社長が辞任した。その際、「二度とこのようなことを起こさない」ため、品質管理を経営の中核にすると発表した。

 にもかかわらず偽装を繰り返すようでは、安全を軽視する姿勢が改まっていない、といわれても仕方ない。

 免震ゴムは80年代から使われるようになり、95年の阪神・淡路大震災後、急速に普及した。今は大規模なビルを中心に約3300棟で使われている。

 品質保証の裏付けとなる大臣認定を得るには、メーカーが設計者や施工者と実験を重ね、国から認証を受けた評価機関にデータを提供して審査してもらう。だが審査対象は書類だけで、データが改ざんされれば不正を見抜くのは難しい。

 南海トラフ地震などに備え、被害を小さくする技術は災害に強い社会を築くために欠かせない。国交省は今後、大臣認定のあり方を含めて検討するという。品質管理は国の役割も重要だが、一義的にはメーカーの責任だと肝に銘じてほしい。

辺野古移設作業 冷静さを欠く知事の停止指示

 必要な法的手続きに問題がない以上、政府は、米軍普天間飛行場の移設作業を計画通りに進めることが重要である。

 沖縄県の翁長雄志知事が、移設先の名護市辺野古沿岸部での移設作業を停止するよう防衛省に文書で指示した。応じない場合は、昨年8月の県の岩礁破砕許可を取り消すという。

 防衛省が地質調査のため無許可で設置したコンクリート製アンカーがサンゴ礁を破壊した可能性が高い、とするのが県の主張だ。

 工事に必要な許可を取り消し、移設を阻むのが狙いだろう。だが、この対応は、あまりに一方的であり、疑問である。

 防衛省は、県に事前確認し、昨年6月、アンカー設置に県の許可は不要との回答を受けている。

 さらに県は、那覇空港第2滑走路建設工事でも、今回と同様なアンカー設置について、許可は要らないとの立場を示している。

 行政には継続性と公平性が求められる。「県と十分に調整したうえで作業を実施している」という政府の主張は、理解できる。

 菅官房長官が、知事の指示について「違法性が重大かつ明白で、無効だ。作業を中断する理由にはならない」と述べ、作業を続ける方針を示したのは妥当である。

 防衛省は、県への対抗措置として、関連法を所管する林農相に、県の指示に対する行政不服審査請求と執行停止を申し立てた。

 県が停止指示の根拠とする県漁業調整規則は水産資源保護法に基づいており、農相は、県に指示の是正を促す権限があるためだ。

 林農相は、一連の経過を客観的に検証したうえで、適切な判断を下してもらいたい。

 住宅密集地にある米軍普天間飛行場の辺野古移設は、住民の基地負担軽減と米軍の抑止力維持を両立する最も現実的な方策だ。

 移設が遅れれば、飛行場の危険な現状の長期化に加え、在沖縄海兵隊のグアム移転など他の基地負担軽減策の実現も危うくなる。

 1996年の普天間飛行場返還の日米合意が、様々な曲折を経て、ようやく実現のメドが立った今、再び移設問題を迷走させる事態はあってはなるまい。

 政府は、地元関係者の理解を広げる努力を根気よく続けながら、決してぶれることなく、移設を進めていく必要がある。

 翁長知事は、辺野古移設を阻止するため、法廷闘争も辞さない構えを見せている。政治的パフォーマンスに走らず、冷静に政府との接点を探るべきではないか。

自公幹事長訪中 議員交流で信頼醸成を図ろう

 政府が対立しても、政治家が忌憚(きたん)なく話し合って、信頼醸成に努める。そこに、議員交流の重要な役割がある。

 自民党の谷垣、公明党の井上両幹事長が北京で中国共産党序列4位の兪正声人民政治協商会議主席と会談した。

 谷垣氏は「過去に不幸な時代もあった。乗り越えないといけない」と呼びかけた。兪氏は「関係発展に尽力したい」と応じた。

 会談では、2009年以降中断している自公両党と中国共産党による「日中与党交流協議会」を再開させることに合意した。年1回の開催を原則とし、年内に中国の地方都市で開く予定だ。

 歴史認識や尖閣諸島を巡る日中対立の影響で途絶えていた政党間交流が復活する意味は大きい。

 外交交渉は政府間で行うのが基本であり、議員交流はそれを側面から支え、外交の幅を広げることができる。政府間の意見対立が深まった際には、緊張を緩和する「潤滑油」ともなり得る。

 今の与党には、自民党の谷垣氏や二階総務会長、公明党の山口代表など、中国とのパイプを持つ幹部が少なくない。

 二階氏は週内にフォーラム出席のため、5月下旬にも観光業界関係者を率いて訪中する。中国の国会にあたる全国人民代表大会の代表団も4月に来日し、約3年ぶりに公式な議会交流を再開する。

 一連の交流で率直な対話を重ねて、日中の「戦略的互恵関係」の重要性を再確認すべきだ。それが、日中首脳がより頻繁に会談する環境整備につながろう。

 兪氏は会談で、歴史問題に関し「日本には正しい歴史認識を持って頂きたい」と述べた。一方、9月に北京で行う「抗日戦争勝利70年」式典は「恨みを増幅するためではない」とも語ったという。

 谷垣氏は、今夏に発表する安倍首相の戦後70年談話について、「中国が心配しているようなものにはならない」と説明した。

 首相は、先の大戦への反省に繰り返し言及している。平和国家としての戦後日本の歩みは、国際社会から高く評価されている。

 歴史認識の問題が日中関係全体を損なわないよう、双方の指導者には大局的判断が求められる。

 谷垣氏は会談で、尖閣諸島周辺で続く中国公船の領海侵入を自制するよう要求した。

 東シナ海での偶発的な軍事衝突を防ぐ日中防衛当局間の「海上連絡メカニズム」の早期構築へ協議を急ぎたい。建設的な議論は両国関係の改善にも役立つはずだ。

2015年3月24日火曜日

知恵を絞れば再生エネはもっと伸ばせる

 2030年の再生可能エネルギーについて、経済産業省は全電源のおよそ2割に相当する導入が見込めるとの試算を同省の有識者会合で示した。

 この数字には電力自由化でこれから進む送電網の広域運用などの効果が十分に反映されていない。再生エネルギーを伸ばせる余地はまだある。経産省の有識者会合には再生エネルギーをできるだけ活用する方向でていねいな議論を望む。

 昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画は、従来の政府目標(30年に約2割)を「さらに上回る水準」の再生エネルギー導入をうたった。今回の試算値は基本計画の方針を満足させるものとはいえない。有識者会合でも「もっと増やせる」との意見が出た。

 拡大の制約要因に経産省があげるのは送電網の能力だ。急激な拡大によって再生エネルギーの発電量が送電能力を超えるとみる。

 しかし、電力会社間で電気を融通し送電網を広域的に運用すれば、新たな送電線を敷かなくても導入余地は増す。原子力発電所の廃炉で送電線に余裕も生まれる。

 各地でエネルギーの地産地消を目指して太陽光発電などを導入する動きがある。つくった電気を地域の中で消費すれば送電網にかかる負担は少なくて済む。

 状況は地域によって異なる。もっときめ細かいデータを示した上で議論する必要がある。

 再生エネルギーには長所も欠点もある。エネルギーの自給率を高め、温暖化ガス削減につながるのは長所だが、発電コストが高く電力料金を押し上げるのは困る。太陽光や風力発電は天気次第で発電量が変動するが、地熱やバイオマス発電には安定供給ができる利点がある。

 将来の電源構成を決めるには、各電源の特質を踏まえてバランスのとれた導入策が必要だ。

 12年から始まった再生エネルギーの固定価格買い取り制度は太陽光発電の普及に効果はあったが、導入のペースが速すぎ「太陽光発電バブル」とも呼べそうな社会現象を生んだのは反省点だ。今後大きなコスト負担を国民にもたらすのは避けられず、風力などが相対的に伸びていないため電源構成のバランスも欠く。

 経産省は太陽光発電の買い取り価格の引き下げを決めたが、今後も不断に見直し、持続可能な制度としていく責任がある。

リー氏は何を世界に残したか

 シンガポールの「建国の父」であり「発展の父」でもあったリー・クアンユー元首相が死去した。独立から半世紀で、1人当たり国内総生産(GDP)がアジアで最も多い国を築き上げた実績は、高く評価できよう。

 一方で、自由主義や民主主義に対する懐疑的な姿勢が批判を浴びたことにも留意したい。

 近代化を急ぐ途上国は開発独裁と呼ばれる権威主義的な体制をとることが多い。リー氏が強いリーダーシップをふるったシンガポールは代表的な成功例といえる。

 同じように開発独裁の下で近代化を進めたフィリピンやインドネシアは、激しいデモや騒乱を経て民主化した。シンガポールが今後も権威主義的な体制を続けるのかどうかは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の行方を占う意味でも注目しなければならない。

 現在はリー氏の長男であるリー・シェンロン首相の下で政治も社会も安定し、大きな変動の兆しはない。それでも一つの時代の終わりを感じさせるリー氏の死去は微妙な波紋を生むかもしれない。

 世界の指導者がリー氏に学ぶべきことは多い。市場の役割を存分に生かしながら戦略的に成長産業を育てた経済運営。優秀なエリートを大胆に登用し十分な待遇を提供することで、高い成果を生む一方で汚職を抑えた人材戦略。

 とりわけ、したたかで現実的な対外政策は参考になる。

 華人国家と呼ばれるシンガポールが独立したのはマレー人が多数を占めるマレーシアから事実上追放されたからだ。リー氏にとっては涙を流すほどの痛恨事だったが、その後もマレーシアとの関係に細心の目配りを怠らなかった。

 インドネシアが中国との国交を回復するまで中国と正式の関係を結ばなかったのも、隣の大国への配慮からだったといえる。

 日本が大きな存在感を誇ったころは日本を、近年は中国をけん制するため、米国のアジア関与を一貫して促した。力の均衡を重んじる現実主義の表れだった。

辺野古移設―沖縄の問いに答えよ

 政府はどこまで問答無用の姿勢を続けるつもりなのか。

 沖縄県の翁長雄志知事はきのう、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設に伴う埋め立て工事に向けたボーリング調査など一連の作業を1週間以内に停止するよう、沖縄防衛局に指示した。

 指示に従わなければ、昨年8月に仲井真弘多・前知事が出した「岩礁破砕許可」を取り消すとしている。

 翁長知事は会見で「腹を決めている」と述べた。沖縄側の最後通告ともいえる意思表示と考えるべきだろう。

 これまでの経緯を振り返ると、「沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら」と言ってきたはずの政府が実際には、沖縄の訴えに耳を閉ざして「粛々と」作業に突き進んできた状況がある。

 岩礁破砕は海底の地形を変化させる行為。水産資源への影響を避けるため、県漁業調整規則で知事の許可が必要だ。

 ことの発端は1月、沖縄防衛局が海底に大型のコンクリートブロックをいくつも沈めたことだった。

 ブロックの投下は、許可区域を広く取り囲むように設定された立ち入り禁止区域に沿って行われ、許可区域外の海底のサンゴ礁などが傷ついているおそれがある。県は独自調査に取り組み始めていた。

 しかし立ち入り禁止区域での調査は米軍に拒まれ、県は再度調査を申請している。翁長知事は今回、防衛局に調査への協力も求めた。

 翁長知事は仲井真前知事が出した埋め立て承認を検証する第三者委員会の結論が出るまで、作業の中止を要求した。それを無視して政権側はボーリング作業に突き進んだ。

 政府はブロック投下について「(前知事時代に)県から岩礁破砕手続きの対象とならないと示されていた」と主張し続け、「対象となる」とする県の言い分に聞く耳を持たない。

 知事選で辺野古移設阻止を公約して当選した翁長知事にしてみれば、知事の行政権限を駆使して沖縄の立場を訴える行動に出るのは当然の流れだろう。

 知事の姿勢を、中谷防衛相は「もう少し沖縄県のことや日本の安全保障を踏まえて考えていただきたい」と批判する。

 だが、米軍基地が集中する沖縄の県民にとっては、国の安全保障政策は「なぜ辺野古か」「なぜ沖縄に海兵隊か」といった疑問だらけである。沖縄からの深刻な問いかけに、政府はまず向き合うべきだ。

リー氏死去―巨人が残した宿題

 シンガポールはことし、建国50周年を迎える。8月9日の独立記念日を待たず、建国の父リー・クアンユー氏は逝った。

 マレー半島先端のごく小さな貧しい島を世界有数の富裕国にした、見事な指導力を持つ政治家だった。世界史に名を残すアジアの巨人である。

 建国後の初代首相であり、その後も上級相や顧問相として実践した国家統治は「シンガポール・モデル」と呼ばれる。

 対外開放された市場経済を巧みに誘導して高い成長を実現する。国民に住宅を安く取得させるなど分配面にも力を入れる。

 かじ取りをするのは、優秀で汚職に無縁なエリートに率いられた人民行動党(PAP)の一党支配体制。その安定的な維持のため野党を抑え込み、言論、集会を厳しく規制した。要するに、成功した開発独裁だ。

 強権的だったリー氏を支えたのは、小国をいかに生存させていくかという危機意識だった。英国による植民地支配の崩壊を経験し、続く日本の占領下で危険な目にも遭った。

 マレーシアから分離独立した65年当時、産業は乏しく、水さえ自給できなかった。リー氏は晩年も、自国の将来への不安を公言した。政権批判など許している場合ではないとの思いがあったのだろう。

 リー氏の遺産である、この統治モデルの評価をめぐっては、議論が尽きない。国民の自由を犠牲にしている点は、欧米から絶えず批判の的にされてきた。一方、中国は故鄧小平氏以来、その成功を高く評価し、多くの若手幹部に研修をさせた。

 国家が国民に与えるべきは、自由か、パンか。国々の事情により様々な尺度があり得る。二者択一でもない問いだ。ただ、シンガポール自身が曲がり角に来ているのは事実だろう。

 PAPへの支持は減っている。直近の2011年の総選挙で9割を超す議席を得たが、得票率は60%にとどまり、野党の票が伸びた。選挙制度によって一党支配を支えている状態だ。所得格差や物価高騰、さらには外国人労働者の受け入れ政策が国民の不満を招いたという。

 また、主要新聞、テレビが統制されているのに対し、国民に広まったソーシャルメディア上では、政権批判の声を抑え込むことが難しくなっている。

 1人あたりGDPが日本など多くの先進国を抜き、世界屈指になった今、国民の渇望は自由へと傾いているようだ。リー氏の後継者らは、経済成長戦略のみならず、政治の新たなモデルも探るべき時代を迎えている。

玄海MOX訴訟 安全性を認めた意義深い判決

 核燃料サイクルの柱となるプルサーマル発電の安全性を認めた意義のある司法判断である。

 ウラン資源の有効活用へ、政府と電力会社にはプルサーマル計画を軌道に乗せることが求められる。

 九州電力の玄海原子力発電所3号機を巡り、市民団体のメンバーが、使用済み燃料から取り出したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料の使用差し止めを九電に求めていた。佐賀地裁は、その訴えを棄却した。

 原告側は「MOXから発生するガスの圧力で被覆管に隙間が生じ、炉心溶融などの重大事故を引き起こす」などと主張した。

 判決は、証拠として提出された九電の試験データや解析計算などを検証し、「被覆管の隙間は発生せず、炉心溶融の危険は認められない」と結論付けた。

 事故により、住民の健康が侵される危険性があるとする原告側の主張についても、「何ら立証されていない」と退けた。

 原発の通常運転でも、ウラン燃料の一部はプルトニウムなどに変化し、プルサーマルと似た現象が起きる。海外では1960年代にプルサーマルが導入され、大きなトラブルは発生していない。

 こうした状況を考えれば、佐賀地裁は、客観的な根拠に基づく妥当な判断を示したと言えよう。

 2009年に国内で初めてプルサーマルを開始した3号機は、定期検査のため、10年から停止している。九電は、再稼働に向け、原子力規制委員会の安全審査に的確に対応することが重要だ。

 原発では通常、ウラン燃料の3~5%しか燃やせない。使用済み核燃料から再利用できるウランやプルトニウムを再処理工場で回収して活用するのが、核燃料サイクルである。

 問題は、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場の竣工(しゅんこう)が、トラブル続きで遅れていることだ。

 核燃料サイクルの実現の遅れは再稼働した後の原発にも影響を及ぼす。多くの原発で、10年以内に使用済み核燃料の保管場所が満杯となり、停止を迫られる恐れがある。政府と電力会社は、再処理工場の完成を急がねばならない。

 電力会社は、英仏の再処理工場に使用済み核燃料を輸送し、回収と燃料加工を委託してきた。プルトニウムの日本全体の保有量は、約47トンに達している。

 核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有は、他国から疑惑を招きかねない。核燃料としての着実な利用に道筋をつけたい。

免震ゴム不正 建物の信頼回復へ対応を急げ

 建物の安全に対する信頼を揺るがした。その責任は重い。

 大手タイヤメーカーの東洋ゴム工業が、10年余りにわたって、国の性能基準を満たしていない免震ゴムを製造・販売していた。

 免震ゴムは、建物の基礎部分で地震の揺れを吸収し、緩和する。この性能を偽って出荷された製品は2052基に上り、18都府県の建物55棟に使われている。

 マンションのほか、自治体庁舎や警察署、病院なども含まれる。地震発生時に対応の拠点となる重要施設だ。万一、大きく損壊した場合の影響は計り知れない。

 対象の建物が安全かどうか、確認を急がねばならない。国土交通省は先週、55棟について1週間以内に調査結果を報告するよう東洋ゴムに指示している。

 東洋ゴムは、性能試験の数値を改ざんして国交相の認定を受けていた。10年以上、性能試験を1人の社員が担当してきたため、誰も不正に気づかなかったという。

 東洋ゴムでは2007年にも、防火用断熱材で性能偽装が発覚した。これを受け、全ての生産拠点の品質検査を一元的に実施する部署が設けられた。それが機能していなかったことになる。

 社内では、担当者の交代をきっかけに、昨年2月に偽装の疑いが浮上していた。しかし、国交省への報告は1年後で、この間にも不良製品の出荷は続いた。安全を優先すべきメーカーとしての責任感は、どこにあるのか。

 不正の実態と、会社の対応を徹底的に検証する。有効な再発防止策を講じる。それなくして消費者の信頼は取り戻せまい。

 免震ゴムは、1基100万円程度で、建物1棟につき数十基が使われている。55棟の調査で仮に安全と判断された建物でも、性能の不足する製品が使用されている事実は変わらない。

 自治体などから、調査結果にかかわらず全面交換を求める声が上がっているのは、もっともだ。

 東洋ゴムは、交換に応じる方針だ。責任を持って正規品の製造を進め、追いつかない場合には他社製品で対応するなどの措置を取らねばならない。

 免震ゴムの認定制度は、メーカーが性能試験を行い、民間の性能評価機関が国に代わって書面審査する仕組みだ。偽装が見過ごされたことから、太田国交相は、改善策を検討する考えを示した。

 性能評価機関によるサンプル検査の実施など、偽装を防ぐ効果的な対策が求められる。

2015年3月23日月曜日

夏までに実現したい日中韓の首脳会談

 歴史認識や領土をめぐる対立は根深い。しかし、それが障害となって会談すらできないという異常な事態からは、ひとまず抜け出そうとしている。

 約3年ぶりに3カ国の外相会談を開いた日本と中国、韓国の関係は、こんな状況といえるだろう。関係の修復にはなお遠いが、外相が一堂に会する枠組みが復活したことは成果といえる。

 会談では「最も早期で都合のよい時期」に、3カ国の首脳会談の実現をめざすことで一致した。今年が戦後70年であることを考えると、首脳会談は夏までに開くことが望ましい。8月以降には歴史問題をめぐるさまざまな動きが想定されるからだ。

 8月には安倍晋三首相が戦後70年の談話を発表する。9月3日には中国が「抗日戦争勝利」を祝う大式典を開く。中国は同時に、大がかりな軍事パレードも予定している。こうした節目では、それぞれのナショナリズムが刺激され、緊張が高まりかねない。

 それは日本にとってはもちろん、内政の安定に努める中韓にも望ましくないはずだ。

 だとすれば、夏までに首脳会談を開き、3カ国の緊張や不信感を少しでも和らげてから一連の行事を迎えるべきだ。歴史問題で安倍首相は慎重に対応し、積極的に地ならしに努めてもらいたい。中韓にも歩み寄りを促したい。

 歴史問題をすぐに解決できる即効薬はない。日中、日韓、3カ国のいずれの外相会談でも、この問題が提起された。日本と中韓には領土の対立も横たわっている。

 では、どうすればよいか。大事なことは、互いに恩恵を受けやすい経済や環境、テロ・サイバー対策などの協力を進め「歴史・領土」対立が関係全体に占める比重を減らしていくことだ。若者や文化の交流もその柱といえる。

 その意味で、3カ国が今回まとめた共同文書はよい足場になる。日中韓自由貿易協定(FTA)の早期妥結や、防災、環境分野の協力をかかげた。テロ対策、アフリカ、中東政策をめぐる協議の再開や新設も決まった。

 中国は韓国との個別の会談で、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を促したという。中国には韓国を自分の側に引き寄せ、日米との間にくさびを打ちたい思惑もあるだろう。日中韓に合わせ、日米韓の政策の擦り合わせも重要だ。

卸売市場の抜本改革を急げ

 卸売市場の改革に向けた報告書を市場関係者や学者が今月まとめた。これを踏まえ政府は新たな市場整備計画をつくる。来年11月には東京・築地市場が移転し、豊洲新市場として開業する。流通の変化に追いついていない卸売市場を思い切って改革すべきだ。

 産地からさまざまな食品を集め公正な価格を形成するのが、卸売市場の役割だ。その重要性は今も変わらない。

 ただ、食品の取引では大規模なスーパーや外食産業が買い手として台頭し、産地との直接契約が増えた。食品流通量のうち卸売市場を経由する割合は2011年度時点で水産物が56%、食肉は9%に低下した。こうした変化に比べ卸売市場の改革は遅れている。

 政府は市場再編などを促すために04年に卸売市場法を改正し、04年に86あった中央卸売市場は67に減った。ところが市場の取引額は03年度から12年度までに2割強も減少し、卸売市場を担う卸や仲卸会社の多くは赤字だ。

 政府は10年にまとめた前回の整備計画で、全国の中央卸売市場を拠点市場と、それを補完する市場に役割を分けて再編を進めようとした。しかし今回の報告書が指摘しているように、整備計画が想定する市場間のネットワーク作りなどは進んでいない。

 トラックなどの輸送網が整備され、中核市場に全国の食品が集まるようになった変化に合わせ、市場再編を大胆に進めるべきだ。

 豊洲市場が強化する保冷施設なども重要だが、取引手法などの制度改革も欠かせない。卸売市場でせりや入札にかけられる食品の比率は年々低下している。食品の種類によってはネット取引による価格形成なども検討すべきだ。

 04年の法改正は卸売手数料の設定を弾力化したが、現状はほぼ横並びのままだ。市場の魅力を取り戻すには取引コストの低減が欠かせない。卸売市場の管理運営も民間企業への委託などで合理化を進め、卸や仲卸の負担軽減につなげてもらいたい。

日中韓―首脳会談へ歩を進めよ

 日中韓外相会談が3年ぶりに開かれた。一時は途絶状態にあった日本と中韓の対話が、外相レベルを第一歩として前進したことを歓迎したい。

 もともとは07年から毎年開かれていた。それが、尖閣諸島の国有化問題で中国が反発して中断していた。流れを変えたのは昨秋の日中首脳会談である。

 以来、少しずつ各分野での対話も動き始めた。アジアの主要3国の交流が、政治指導者の対立で滞る異常事態は、ここらで打ち止めとしてもらいたい。

 今回の成果を踏まえ、3カ国首脳会談と日韓首脳会談の早期実現へとつなげ、対話ルートの完全正常化を図るべきだ。

 戦後70年を迎えた今年は歴史認識問題への対処が避けられない。会談後の共同報道発表文では「歴史を直視し、未来に向かう」との文言が盛り込まれた。

 歴史問題は本来、日本人自身が自国の歩みをどう考え、今後の鑑(かがみ)とするかが問われる問題である。とりわけ20世紀の侵略戦争、植民地支配という過去への反省は、決して踏み外してはならない戦後日本の礎である。

 この70年間積み上げた平和主義の蓄積こそ、日本が世界に誇るべき実績であり、今後のアジアと世界の安定・繁栄への貢献の道もその延長線上にある。安倍政権は、その歴史の重みを忘れるべきではない。

 一方、中韓も、3カ国で協力を進める場で過剰に歴史を持ち出すのは非生産的であり、そろそろ終止符を打つべきだ。中国の王毅(ワンイー)外相は歴史問題の発言に長時間を費やしたと伝えられるが、その執着ぶりは、関係進展のためというより、歴史を国際政治の具にしようとする不毛な意図が疑われる。

 東アジアを見れば、中国自身の行動に由来する現在進行中の問題が多くある。この四半世紀、軍事費をほぼ毎年2桁台の伸び率で拡大するのはなぜか。近海での強引な振る舞いと併せ、きちんと説明することが当然の責務であり、この3カ国でも率直に論じるべきテーマだ。

 日中韓の対話が滞った間に、これまで大きな存在感があった米国と、成長を続ける中国との間の溝は一層深まってきた感がある。日韓は、そのはざまで新たな秩序を探る立場にある。

 安全保障だけでなく、アジア域内の貿易、インフラ開発、災害・貧困対策など、日中韓が力を合わせるべき問題は幅広い。アジアを含む地球規模の安定と発展がなければ、3カ国の未来も危うい。その共通認識のもと、首脳レベルの政治対話を速やかに再開してもらいたい。

国連防災会議―リスク直視を新潮流に

 手間や資金をかけても、災害に備えて開発した方が、長期的には得だ。そして、自然災害だけでなく人のミスなどによる「人為災害」も、リスクを直視する対象に加えよう――。

 先週まで仙台市で開かれた国連防災世界会議は、現代社会における防災の意義を各国の首脳や高官が確認して幕を閉じた。

 東日本大震災から4年がたつ被災地に187カ国の代表が集い、延べ15万人以上が関連行事に参加した。防災の重要性を訴えるとともに、復興も励ます会議となった。

 ただ、地球温暖化との関係が疑われる気象災害や原発事故など、近年注目の高まったリスクへの対応では課題が浮き彫りになった。国際社会は今後、真正面から向き合うべきである。

 1994年の横浜、2005年の神戸に続き、3回目も日本で開催された。今回は初めて首脳級会合に格上げされた。

 災害の頻発に加え、グローバル化の中で災害に伴う経済損失や政情不安、感染症の流行などが被災国にとどまらない悪影響を生じうると認識されるようになって、関心が高まった。

 キーワードは持続可能性だ。

 一定の投資を防災に充てた方が持続可能な開発になる。

 安倍首相は、あらゆる政策に防災の観点を組み込む「防災の主流化」を主張。今後4年間で総額40億ドル(約4800億円)の国際支援や防災リーダーら4万人の育成を表明した。着実な実行が求められる。

 会議は終盤紛糾した。温暖化が招くとされる巨大台風や高潮などに関して、途上国が先進国に責任を認めさせて対策費用を引き出そうとしたためだ。

 結局、気候変動では先進国の責任が重いとする国連気候変動枠組み条約を尊重するとの表現を、防災行動指針「仙台防災枠組」に盛り込んで決着した。

 温暖化での対立が防災にまで及べば、国際協力は実を結ばない。防災は人命に直結するだけに、今後も対立を乗り越える道を探ってほしい。

 仙台防災枠組は人為災害を対象に明記した。原発や化学工場の事故など技術災害への備えも組み込むものだ。自然災害同様に、リスクの把握や管理、防災投資、効果的な緊急対応の準備などを求めている。

 だが、福島第一原発事故について日本政府は会議で詳しくは語らなかった。リスクの把握から緊急対応まで、どこに問題があり、事故後どう改善しようとしているのか。会議は終わっても、教訓を世界で共有する責務は終わっていない。

国連防災会議 「仙台枠組み」で被害の抑制を

 災害による死亡率と被災者数を2030年までに大幅に減らす――。仙台市で開かれた第3回国連防災世界会議で、防災対策の国際指針「仙台防災枠組み」が採択された。

 目標の実現に、世界全体で災害への備えを進める必要がある。

 会議には、過去最多の187か国が参加した。東日本大震災の被災者が各国代表の前で体験を語った。今も残る津波の爪痕や復興現場の視察なども行われた。

 大規模災害の様々な教訓を世界と共有した意義は大きい。

 近年、過去に例のない規模の台風や洪水、干ばつなどの自然災害が世界的に多発している。会議の直前には、南太平洋の島国バヌアツが大型サイクロンに襲われ、甚大な被害に見舞われた。

 災害による犠牲者は、この10年間で70万人に上る。経済損失は1・3兆ドルに達している。減災の取り組みを強化せねばならない。

 「仙台防災枠組み」には、病院や教育機関など、住民にとって重要な施設の被害を減らすことが盛り込まれた。途上国に対する国際支援の強化も掲げられた。

 防災対策は、一義的には各国政府が自国の実情に応じて進めるべきものだ。だが、島嶼(とうしょ)国や途上国では、財政的な理由から十分な対策を講じられず、災害に対して脆弱(ぜいじゃく)なケースが多い。

 日本政府は今回、4年間で40億ドルの支援を表明した。世界で計4万人の防災専門家などの育成を手助けすることも発表した。

 数々の自然災害を乗り越えてきた日本は、建物の耐震技術や気象予測など、ハードとソフトの両面でノウハウを蓄積している。それらを途上国などの防災対策に役立てることが求められる。

 海岸林や干潟といった自然の緩衝帯を高潮対策に活用するなど、地域の特性を生かした効果的な支援を進めたい。森林伐採などの乱開発を食い止め、開発計画に防災の視点を取り入れる重要性を周知していくことも大切だ。

 今回の会議では、防災と地球温暖化対策の密接な関わりが、改めて浮き彫りになった。気候変動が、多くの自然災害の要因と考えられているからだ。

 途上国は、産業活動により温暖化の原因を作った先進国には、重い責任があると主張し、より多くの支援を求めた。これに先進国が反発し、会議は紛糾した。温暖化対策の国際交渉と同じ構図だ。

 温暖化と自然災害は、人類共通の脅威だ。対策を進める上で、最も重要なのは国際協調である。

公示地価 街の魅力向上で回復を地方に

 地価の回復傾向が、一段と強まってきた。

 国土交通省が発表した1月1日時点の公示地価は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏の住宅地と商業地が2年連続で上昇した。

 下落を続けていた全国平均の商業地は、横ばいとなった。住宅地はマイナスだったが、下落幅は5年連続で縮小した。

 都心などでは、企業業績の改善に伴い、オフィス需要が拡大している。大胆な金融緩和による余剰資金や、円安で流入した大量の海外マネーも、不動産取引を活発化させている要因だ。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」が、地価の回復を後押ししていると言えよう。地価の適度な上昇が、デフレ懸念を和らげ、設備投資や消費などの活性化につながることが期待される。

 ただ、昨年4月の消費増税後に冷え込んだ住宅市場の復調は遅れ気味だ。資材値上げや人手不足で建設費が高騰し、首都圏の郊外などでは、新築マンションの契約率が低下している。地価動向の先行きは予断を許さない。

 法人税実効税率の引き下げなどで企業投資を促進し、不動産への実需を高めることが大事だ。

 気がかりなのは、地方圏の地価が23年連続のマイナスとなり、都市部と比べて回復の歩みが遅い状態が続いていることである。

 地方圏のうち札幌、仙台、広島、福岡の中枢4都市は、2年連続で上昇した。地方での地域間格差も広がっている。

 地価は、経済や社会の活力を示す一つのバロメーターとなる。地価低迷は、「地方衰退」の警報と受け止めるべきだろう。

 安倍政権は、重要課題に掲げる「地方創生」の施策を着実に実行し、人口流出や地域経済の地盤沈下を食い止めねばならない。

 地域医療体制の充実や子育て支援策、特色を生かした産業の育成などにより、多くの人が「住みたい」と思える街づくりを推進することが求められる。

 局地的に地価が跳ね上がる「ミニバブル」の兆候もある。東京五輪が開催される臨海部などでは、上昇率の高い地点が目立つ。

 住宅地は、上昇率の全国トップ10のすべてが、福島県いわき市内の調査地点だった。福島第一原子力発電所事故の避難者が帰還を諦め、移住する動きが広がっているためだという。

 投機的な思惑でさらに地価が急騰し、被災者の生活再建に支障が出ないよう、政府や自治体は監視を強める必要がある。

2015年3月22日日曜日

課題のりこえ老朽原発の廃炉を着実に

 関西電力や九州電力など4社が、運転開始から40年前後となる原子力発電所5基の廃炉を決めた。東京電力福島第1原発の事故後、政府は原発の運転期間を原則40年と定めた。この決まりに基づいて運転を終える初の例となる。

 どの原発を残し、どれをやめるのか。原発は選別の時代に入った。残す原発を国民の理解を得て使い続けるためにも、役割を終えた古い原発は確実に廃炉にしていくことが重要だ。

 関電は美浜1、2号(福井県)、九電は玄海1号(佐賀県)の廃炉を決めた。中国電力の島根1号(島根県)、日本原子力発電の敦賀1号(福井県)の廃炉も決まった。この結果、日本の原発は48基から43基に減る。

 運転期間が40年を超える原発は、新しい規制基準を満たせば一度に限って最長20年の延長が可能だ。ただ、それには安全性を高める工事に多額の投資が必要になる。対象となる5基は投資に見合う利益が得られないと判断した。

 廃炉は完了までに20~30年かかる。廃炉を選ぶ電力会社は今後も出てくるだろう。これからは複数の原発で並行して作業を進める時代に入る。必要となる人材を育て、技術を共有する仕組みを整えることが大切だ。

 対応を急がねばならない課題も多い。まず、原発を解体して撤去する際に出る放射性廃棄物の処分だ。原子炉の中核部分など比較的放射能レベルの高い廃棄物は解体の後、一定の深さの地中へ埋めることが適当とされている。

 そのための規制基準は原子力規制委員会が策定に取りかかったところだ。処分場の確保もめどがたっていない。解体の後に残る使用済み核燃料を保管する場所も必要だ。これらに道筋をつけない限り廃炉は進まない。処分場選びは電力会社だけでは限界がある。国全体で対処にあたるべきだ。

 自治体への支援のあり方も見直す時だ。原発が立地する地域では原発を中心とする産業構造ができあがっている。国からの交付金や固定資産税収入など、歳入に占める原発関連の比率が高い自治体も少なくない。

 廃炉後に原発に依存しない地域づくりは本来、自治体が取り組むべき課題だ。しかし、産業構造を急速に変えるのは難しい。廃炉の影響を緩和し、新たな産業の育成や雇用をつくるための支援策も検討する必要があるだろう。

岩盤規制の改革は道半ばだ

 政府が国家戦略特区の第2弾となる「地方創生特区」として、秋田県仙北市、仙台市、愛知県の3カ所を指定した。これで東京圏、関西圏などを加えた計9カ所の特区が生まれる。規制改革をさらに加速すべきだ。

 国家戦略特区は、医療、雇用、農業などの分野で、既得権益に守られた「岩盤規制」を地域限定で緩和するしくみだ。

 仙北市は、医療ツーリズムの一環として、外国人医師が日本人患者向けに診療所でも働けるようにする。無人飛行機(ドローン)の実証実験もする。

 仙台市では、起業の受け皿となるNPO法人の設立手続きを簡単にできるようになる。愛知県は、自動車の自動走行の実証実験などをしやすくする。

 政府が東北の2カ所を特区に選んだのは、東日本大震災からの復興を後押しするねらいもあったとみられる。特に仙台市は東北全体の活性化をけん引してほしい。

 昨年の衆院解散のあおりで国家戦略特区法改正案は廃案になった。都市公園内での保育所設置を解禁するといった新たな改革の内容も加え、政府は今国会に法案を再提出する。

 だが、その背後では、むしろ突き崩せなかった岩盤規制の存在が鮮明になった。その象徴が、農業への株式会社の参入だ。

 農水省が農協改革に忙殺された面はあるにせよ、昨年1月に安倍晋三首相が今後2年で岩盤規制をすべて打破するとした約束との整合性を問われかねない事態だ。

 地域限定の美容師を創設したり外国人美容師を解禁したりする案は見送られた。タクシー規制の緩和も断念に追い込まれた。

 安倍政権の成長戦略にとって、規制改革は一丁目一番地ではなかったか。規制改革は民間の技術革新や競争を促し、潜在成長率を高める王道だ。

 岩盤規制の改革は道半ばだ。首相は業界や族議員の抵抗にひるむことなく、強い決意で改革の先頭に立ち続けてほしい。

チュニジア―民主化への歩み継続を

 博物館は、異なる文明を結ぶ十字路である。世界中から人々が集い、交流や相互理解が生まれる。世界一といわれるモザイク画コレクションを誇るチュニスのバルドー博物館は、そのような施設の一つだ。

 18日に起きたテロの舞台が、この博物館だった。日本人3人を含む20人あまりが犠牲になった。容疑者はイスラム過激派と見られている。

 国外から旅行者を引き付ける博物館は、チュニジアの開放性を象徴してもいた。その存在を、自らの価値観以外認めない偏狭なテロリストらは許せなかったのではないか。観光収入に頼るチュニジア政府に打撃を与える意図もあったに違いない。

 「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が起きたアラブ諸国の多くは、その後混乱や内戦に陥った。その中で唯一、チュニジアでは民主化定着の兆しが見える。このような歩み自体を、容疑者らは標的とした。

 自由で開かれた社会をつくろうと奮闘するチュニジアに突きつけられた脅しは、欧米や日本を含む民主社会への挑戦に他ならない。チュニジアの政府や市民は、これに屈することなく、取り組みを継続してほしい。

 武装グループの挑発に乗らず、自由な市民社会を守りつつ、かつ治安を回復させる。経験の浅いこの国にとって極めて困難な道のりだ。その試みが成功するには、欧米など国際社会の支えが欠かせない。

 民主社会の結束が問われているといえる。

 チュニジアでは、2010年末に民主化運動「ジャスミン革命」が起き、ベンアリ独裁政権を翌年崩壊させた。その後の「アラブの春」の先駆けとなる動きだった。

 以後、野党指導者の暗殺などを乗り越えて、世俗派とイスラム勢力が協力し、新憲法を制定した。昨年末には自由選挙で大統領を選出した。報道の自由もある程度確保され、他のアラブ諸国にとって民主化のモデルとなってきた。

 一方で、シリアやイラクなどで勢力を広げる過激派組織への参加者が3千人に及ぶなど、国内社会に問題も抱えている。その安定のためには、欧米諸国との連携が必要だろう。

 この事件を機に、欧米がチュニジアと距離を置くようなことがあれば、テロリストの狙い通りだ。これまで以上に協力するための体制を築く必要がある。

 それは、日本にとっても同様だ。不幸な事件だが、これを機に両国が結びつきを深めるよう望みたい。

上方の星逝く―米朝はん おおきに

 上方文化の象徴といわれた落語家の桂米朝さんが、この世からあちらへ、「宿替え」した。

 芸風と同じく、89歳で旅立つ姿もまた、端正だったという。眠るような最期を見守った弟子の桂ざこばさん(67)は、記者会見で「亡くなるとは、こんなきれいなもんか」と泣いた。

 やわらかなことばで、奥深くて知的な笑いの世界へ誘う。その品格ある高座でファンを魅了し、関西だけでなく広く全国で愛された。学究肌で知られ、著書も数多い。

 人間国宝、文化勲章など、後年、様々な栄誉を受けたが、入門した時分の上方落語界は、決して恵まれてはいなかった。

 一時は演者が十数人に減り、衰亡の危機に直面する。その中で米朝さんは自身の芸を磨き、弟子を育てた。今では上方の落語家は約250人、米朝一門は約70人の大所帯になった。復興の立役者といっていい。

 消えかけていた多くの噺(はなし)を復活させた功績も大きい。

 高齢の先輩の記憶の断片や文献を丹念に集めて研究。仕立て直して、次々と高座にかけた。成果は、落語界全体の財産になった。例えば、あの世での珍道中を描く「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」。この大作は、東西の落語家が挑む人気演目になっている。

 交友も幅広い。30代で雑誌「上方風流(かみがたぶり)」に集い、狂言の茂山千之丞、文楽の竹本住大夫、吉田簑助、吉田文雀、歌舞伎の坂田藤十郎、喜劇の藤山寛美さんら同世代の仲間とジャンルを超えて芸能や文化を考えた。小沢昭一、矢野誠一さんら、東京の俳優や評論家とも交流した。

 旧満州で生まれ、兵庫県で育った米朝さんは、進学のため一時期、東京でも暮らした。だからだろうか、上方落語の真ん中にいながら、それを外から見る視点も持っていた。一口に上方といっても京都、大阪、神戸で文化が異なり、同じ大阪の中でも言葉が一様でないことを面白がる文章も残している。

 自分たちの文化を相対化し、繊細に分析する米朝さんの落語は、気取りとも押しつけがましさとも無縁だった。それが、上方落語の魅力を全国に伝える力になった。圧倒的な発信力で東京文化が広がる中、この国の文化の土壌を豊かに耕すことにもつながっていた。

 古い知恵を理解し、現代の知で磨き直して次代に手渡す。地元の文化を愛し、また客観的にとらえる。米朝さんはこの営みを高いレベルで実践した。名人の足跡には、人が生きること、社会を築くことを考えるヒントもたくさん詰まっている。

日中韓外相会談 「歴史」乗り越え対話進めたい

 日中韓3か国の対話と協力を重ねる中で、歴史認識の問題などで対立する日中、日韓の関係の改善に、いかにつなげていくかが問われよう。

 岸田外相、中国の王毅外相、韓国の尹炳世外相がソウルで会談した。「歴史を直視し、未来に向かうとの精神」で、2国間関係の改善と3か国協力の強化を進めることで一致した。

 日中韓首脳会談については「最も早期で都合のよい時期」の開催に努力することを確認した。

 中国は、首脳会談の前提として、今夏に発表される戦後70年の安倍首相談話の内容を見極めたい意向とされる。だが、まずは前提条件をつけずに、大局的な観点から首脳会談を行う準備をすべきだ。

 解決が困難な問題があっても、様々な会談を通じて、各国が歩み寄れる妥協点を模索するのが、本来あるべき外交の姿だろう。

 王外相は会談後の記者会見で、「戦後70年が過ぎたが、歴史問題はまだ過去形ではない。現在進行形だ」と強調した。

 中国は、9月3日に北京で行う「抗日戦争勝利70年」記念式典に韓国の朴槿恵大統領を招待するなど、歴史問題で韓国と「対日共闘」を目指す動きを見せている。

 しかし、戦後日本は、先の大戦への反省を踏まえ、一貫して平和国家の道を歩んできた。安倍政権は、そのことを国際社会に積極的に発信し、関係国の理解を広げる努力が欠かせない。

 岸田外相は日中韓外相会談で、「近接し、文化的な深いつながりを持つ3か国の交流、協力を促進することが重要だ」と指摘した。王、尹両外相も同調し、環境や防災分野などで3か国の連携を強化する方針を確認した。

 中国では、微小粒子状物質(PM2・5)などの大気汚染が深刻で、その影響は国境を超えて日韓に及んでいる。日本が技術協力などを通じて、中国の大気汚染を改善すれば、各国の利益となる。

 日本が長年培ってきた防災・減災に関する知見や技術は、中韓両国にも参考になろう。

 様々な分野で実務的な協力を着実に進展させ、3か国の信頼醸成を図ることが重要である。

 会談では、北朝鮮の核兵器開発を容認しない方針を再確認した。3か国が足並みをそろえることが、北朝鮮に一定の圧力をかける効果を持つのは間違いない。

 活発化するイスラム過激派組織の国際テロについても、3か国は、具体的な封じ込め策の議論を深めることが大切だ。

サリン事件20年 教訓をテロ封じ込めに生かせ

 オウム真理教による地下鉄サリン事件から、20年が経過した。

 朝の通勤時間帯に、東京・霞ヶ関駅を通る地下鉄3路線で、猛毒のサリンがまかれた。13人の尊い命が奪われ、6000人以上が重軽傷を負った。

 先進国における初の化学テロとして、世界に衝撃を与えた。

 オウム真理教は、教祖・松本智津夫死刑囚の指示の下で武装化を進め、テロ集団と化した。

 殺人などの犯罪を重ねていたにもかかわらず、県警間の連携が悪く、教団の暴走を食い止められなかった。事件の重い教訓だ。

 公安調査庁は、地下鉄サリン事件の翌年、破壊活動防止法に基づく教団の解散処分を請求した。しかし、公安審査委員会は「教団が将来、破壊活動を繰り返す明らかなおそれがあるとは認められない」との理由で退けた。

 凶悪事件を何度も引き起こした組織を解散させなかったのは、不見識と言うほかない。

 教団の後継団体は今も、松本死刑囚の影響下にあるとされる。ソーシャル・ネットワーキング・サービスなどを活用し、信者の勧誘を続ける。ネット時代となった現在、若者がカルト集団に取り込まれる危険性は高まっている。

 公安調査庁が教団の監視を徹底することが重要だ。

 事件の被害者は、サリンの後遺症に苦しんでいる。

 被害者支援団体が実施したアンケートによると、回答した被害者の7割が何らかの目の異常を訴えた。3割の人には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が見られたという。

 継続的な健康診断や心のケアの充実が求められる。

 事件を契機に、テロ発生時の備えは整えられつつある。

 警視庁など9都道府県警には、NBC(核・生物・化学)テロ対応専門部隊が設置された。あらゆる事態を想定して訓練を重ね、消防や自衛隊などとの連携を強化しておくことが欠かせない。

 主な医療機関には、救急治療の専門チームが作られている。ただ、サリン中毒の治療に有効な解毒剤は、平時での使用機会が少ないため、備蓄が十分とは言い難い。

 迅速な投与を可能にする態勢づくりが急務である。

 日本は、過激派組織「イスラム国」をはじめ、新たなテロの脅威に直面している。5年後には東京五輪・パラリンピックも開催される。事件の苦い経験をテロの封じ込めに生かさねばならない。

2015年3月21日土曜日

安保法制整備にはなお宿題が山積みだ

 ひとまず輪郭は描けたが、完成品ができるまでには、なお多くの宿題がある。自民、公明両党が合意した新たな安全保障法制の骨格をひとことで表現すれば、こんな評価になるだろう。

 集団的自衛権を行使できるようにする。危機が起きたとき、自衛隊が米国などに提供できる後方支援の幅を広げる。国連平和維持活動(PKO)などへの貢献を増やす――。新法制の柱は主にこの3つだ。実現すれば、戦後の安保政策の大きな転換点になる。

 日本が他国と助け合って平和と安全を守っていくうえで、新法制の方向性は妥当といえる。

 だが、これまでの作業で、重要な課題も浮かび上がった。ひとつは、これほど大事な法制にもかかわらず、世論の支持がいっこうに広がっていないことだ。主な世論調査をみると、集団的自衛権を使えるようにする法制への支持は、なお過半数に達していない。

 理由のひとつは自民と公明による綱引きの末、法案がとても複雑な構造になったことだ。後方支援だけでも、日本の安全に重要な影響が及びかねない事態に際し、米軍などを支援する周辺事態法の抜本改正と、それ以外のケースを対象とする恒久法の2つがある。

 与党の国会議員の一部からも「何が、どう変わるのか、まだよく分からない」との声が聞こえる。国民の幅広い支持がなければ、安保政策は成り立たない。政府・与党はもっと説明を尽くすべきだ。

 もうひとつの課題は、自衛隊派遣の可否を判断する基準と歯止めだ。自公合意では、あいまいな部分が少なくない。

 その一例が、集団的自衛権を行使できる基準をどう法律で定めるかだ。政府は日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される「明白な危険がある」ことなどを要件とする考えだ。だが、公明党は「他に適当な手段がない」との要件も加えるよう求めており、明確に合意したわけではない。

 周辺事態法の抜本改正では、支援の対象を米軍以外に広げることでは合意したが、その範囲は明確ではない。恒久法に基づく後方支援をめぐっても、国会の事前承認をどこまで厳密に義務付けるか、あいまいさが残る。

 派遣に過度のしばりを設ければ、危機に対処しづらくなる。だが、明確な歯止めも不可欠だ。このバランスに十分配慮しつつ、さらに法案の細部を詰めてほしい。

オウム事件の教訓学ぶ努力を

 1995年にオウム真理教の元幹部らが都内で起こした地下鉄サリン事件から20年がすぎた。13人が死亡し、6千人以上が負傷した事件の記憶は薄れつつある。

 ヨガのサークルがなぜ狂信的な組織に変容したのか。若者たちはなぜ教団に引き寄せられたのか。事件が投げかけた問いは明確な答えが出ないまま、いまも社会に突きつけられている。凄惨な事件の風化が進むなか、改めて教訓を学び取るための努力が必要だ。

 公安当局によると、オウム真理教から名称を変えた「アレフ」は依然として、事件の首謀者である教祖の松本智津夫死刑囚を、信仰の中心に置いている。

 アレフや、アレフから分かれた「ひかりの輪」はあわせて毎年100人を超える若者らを新たに入信させている。オウムに限らず、カルト的な集団が若者や社会的な弱者を狙って勧誘を繰り返す実態もなくなっていない。

 地下鉄サリン事件は大都市で初めて化学兵器が使われた無差別テロで、世界中が衝撃を受けた。米国は事件発生当初から専門家を送り込み、いまなお研究者が死刑囚からの聞き取りを行っている。

 肝心の日本では、一連の事件について警察や政府がどのように対応し、その後問題点をどう改善したのかといった検証がなされていない。これも、2001年の米同時テロを受けて第三者機関が勧告を出し、政府がそれを政策に取り入れた米国との違いが際立つ。

 89年に坂本堤弁護士一家殺害、94年には松本サリン事件と、教団による凶悪な犯罪が続いていた。どうすれば地下鉄サリン事件を防ぎ、被害を軽減することができたのか。いまからでも当時の経緯を検証し、失敗の経験を含めた情報を開示することが風化を防ぎ、教訓を得ることにつながる。

 イスラム過激派「イスラム国」が日本をテロの標的とするなど、テロの脅威は高まっている。オウム事件を問い続けることが、こうした新しいテロの問題を考え、備えていくことにもなる。

安保法制の与党合意―際限なき拡大に反対する

 自民、公明両党による与党協議がきのう、安保法制の基本方針を正式合意した。

 日本の安保政策を根底から組み替えるような内容だ。

 少人数の与党議員が集まって1カ月余り。驚くばかりのスピードである。4月の統一地方選への影響を避け、安倍首相の訪米に間に合わせるため、結論を急いだのだろう。はじめに日程ありきの印象は否めない。

 昨年7月の閣議決定で、安倍政権は歴代内閣の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認に踏み切った。日本の存立が脅かされるなど一定の要件に合致すれば、他国への武力攻撃に対して自衛隊が武力で反撃できるようにする。その法制化に向けて、与党が大きな一歩を踏み出したことになる。

 集団的自衛権の問題だけではない。これまで自衛隊は海外の紛争に一定の距離をとり、抑制的な対応をとってきた。合意はその縛りを解き、世界規模の派遣拡大に道を開く内容だ。

 底流には、米軍の負担を自衛隊が肩代わりする際限のない拡大志向がある。

 断じて、容認できない。

■無理を重ねた末に

 米軍への協力のグローバル化は「日本と極東の平和と安全の維持」という日米安保条約の目的から逸脱する恐れがある。

 安保法制の柱の一つである周辺事態法は、事実上の地理的制約を課してきたが、与党は「周辺」を抜く改正をはかる。

 「極東条項」と呼ばれる安保条約6条は、かねて自衛隊の対米支援の実態との整合性が問われてきた。本来なら条約の改定が必要になるが、外務省は「政治的なコストが高い」と拡大解釈を重ねてきた。

 憲法の制約も安保条約の枠も踏み越えて、政府与党はどこまで米軍協力を拡大するつもりなのか。そこが不明確である限り不安が解消されることはない。

 今春にも改定される「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)は、それを示す日米の政策合意となる。

 だが、そのための日米交渉で奇妙な事態が起きている。

 新ガイドラインには集団的自衛権の行使容認に伴う武力行使の新3要件を明記するが、日本政府の働きかけで「集団的自衛権」という言葉を書き込まない方向になっているのだ。

 米国が「自分たちと同じことを日本ができるようになった」と誤解しないようにするという。国内では「集団的自衛権の行使を容認した」としながら、米国には「あなたのいう集団的自衛権ではない」。憲法解釈の無理な変更が生み出した、ひずみと言うほかない。

■イラク戦争の反省は

 根拠があいまいなまま自衛隊員を戦地に送り出すことは許されない。

 思い起こされるのは、12年前のきのう開戦したイラク戦争である。「大量破壊兵器がある」という米国を、日本は支持し、特別措置法を成立させて自衛隊を派遣した。

 大量破壊兵器は発見されなかった。米国情報をうのみにして追従したとの批判は免れない。誤った戦争に加担した経過も、いまだ検証されていない。しかも今度は特別措置法ではなく、いつでも派遣できる恒久法をめざしている。

 与党合意では自衛隊派遣の歯止めとして「国会の事前承認を基本とする」とされた。それは当然としても、実効性が保たれるか、はなはだ疑わしい。特定秘密保護法が施行された今、国民や国会議員に十分な判断材料が示される保証はない。

 イラク戦争のときは武力行使を明確に容認する国連安保理決議もなかった。国際社会が結束せず、国民の幅広い理解が得られないような状況での自衛隊派遣は、禍根を残すことになりかねない。

■抑止力強化の限界

 安倍首相が強調するのは「抑止力」という言葉である。それによって「国民の命と幸せな暮らしを守っていく」という。

 しかし、抑止力の強化だけが日本の平和を守るための方策なのだろうか。

 中国の軍事的な脅威に備える必要はあろう。といって世界規模の米軍支援に踏み出すとなると、話は違ってくる。

 抑止力への傾斜が過ぎれば反作用も出る。脅威自体を減らし紛争を回避する努力が先になされなければならない。

 安全保障は軍事だけでは成り立たない。自衛隊ができることにも限りがある。国際テロ対策にいたっては、抑止力がきかない難題でもある。

 肝要なのは、憲法と日米安保条約を両立させながら、近隣諸国との安定した関係構築をはかることだ。国際社会の懸念を招かないよう、成熟した外交姿勢が求められる。

 戦後日本が培ってきた平和国家のブランドを失いかねない道に踏み込むことが、ほんとうに日本の平和を守ることになるのか。考え直すべきだ。

自公安保合意 切れ目ない危機対処が重要だ

 ◆平和確保へ自衛隊の活動広げよ

 日本と世界の平和の維持に向けて、様々な事態に切れ目のない対処を可能にするうえで、大きな意義を持つだろう。

 自民、公明両党が、新たな安全保障法制整備の「具体的な方向性」に合意した。集団的自衛権の行使容認、自衛隊の海外派遣の恒久法制定など、5分野で自衛隊の活動を拡大する。

 4月中旬に与党協議を再開し、関連法案の内容を詰める。政府は5月に法案を国会に提出し、今国会中の成立を目指す方針だ。

 ◆高めたい同盟の抑止力

 自衛隊の活動拡大に慎重な公明党に配慮し、法案作成時まで結論を先送りした論点も複数ある。だが、自公両党が歩み寄り、包括的な安保法制の骨格をまとめたことを高く評価したい。

 安保法制の内容は、4月下旬に策定する新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)に反映される。集団的自衛権の行使容認や、米軍への後方支援の拡充は、日米同盟を強化し、抑止力を高めよう。

 中国の急速な軍備増強や一方的な海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発、国際テロの脅威など、日本の安保環境の悪化に対応するのに有効である。

 危機が発生する度に特別措置法を制定して自衛隊を海外派遣する手法をとらず、恒久法を制定することは、機動的で効果的な部隊運用を可能にする。

 自衛隊は、法律が定める活動しか実施できない。その点が、禁止された活動以外は原則可能な普通の軍隊と決定的に違う。それだけに、対処の選択肢を極力多く確保しておくことが欠かせない。

 与党合意は、自衛隊の国際活動のうち、後方支援は恒久法と周辺事態法改正案で、人道復興支援は国連平和維持活動(PKO)協力法改正案で規定するとした。

 周辺事態の地理的制約を外し、後方支援を可能にするのは適切である。海上交通路(シーレーン)での危機など、日本から離れた場所でも、日本の安全に重要な影響を与える事態は起き得る。

 ◆後方支援を限定するな

 疑問なのは、与党合意が後方支援を、根拠となる国連安全保障理事会の決議や関連決議がある場合に限定したことである。政府・自民党が、自衛隊の行動に「国際法上の正当性」という歯止めを求める公明党に譲歩したためだ。

 決議がなくても、他国軍への補給・輸送支援などが必要となる事態はあり得よう。人道復興支援と同様に、国際機関や地域機関の要請などで後方支援を行う余地を残すよう再調整すべきだ。

 後方支援と人道復興支援について与党合意は、「国会の事前承認を基本とする」と定めた。公明党は「事前承認以外は認めるべきでない」と主張しており、自衛隊派遣後の国会承認を容認するかどうかは、引き続き検討する。

 国会が閉会中などで、事前承認が得にくい状況も想定し、事後承認も可能にしておきたい。

 後方支援の課題は、憲法が禁じる「他国軍の武力行使との一体化」に抵触しないようにすることだ。この点で、昨年7月の政府見解は、戦闘現場以外での支援が原則可能なことを明確にしている。

 「テロとの戦い」におけるインド洋での給油活動が国際社会で高く評価されたように、後方支援は重要な国際貢献になる。自衛隊が海外で実績を重ね、国民の理解も着実に広がってきた。

 日本が世界平和構築の一翼を担える法制にする必要がある。

 平時でも有事でもない「グレーゾーン事態」では、米軍に加え、米国以外の他国軍の艦船などの防護に関しても、「我が国の防衛に資する活動」などを条件に認める方向となった。適切な判断だ。

 日米同盟は日本防衛の根幹であるが、自衛隊は近年、豪州軍など、米軍以外とも共同訓練を実施し、行動を共にする機会が増加している。より多くの国と多角的で重層的な安保協力を強化することが、日本の安全を確実にしよう。

 ◆多角的な防衛協力に

 このほか、現行法では周辺事態に限定されている船舶検査を、平時も実施する。海外で邦人が人質になった場合、受け入れ国の同意などを条件に、自衛隊による輸送に加え、救出を可能にする。

 こうした内容も安保法制に盛り込む方向で検討している。

 無論、いずれも、実施には厳しい要件がつく。その事態の蓋然性が高いわけでもない。

 しかし、そうした法制の整備によって、自衛隊が新たな訓練を実施し、他国との連携や情報共有を拡充できる。自衛隊の対処能力の向上につなげることが大切だ。

2015年3月20日金曜日

中国が主導するインフラ銀に積極関与を

 中国主導で創設するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、欧州の主要国が相次いで参加意思を表明した。日本はどう向き合うべきか。欧州の先進国が加わり、広がりのある国際金融機関がアジアに誕生する以上、目をそむけ続けるわけにはいかない。

 AIIBの現時点の構想は、意思決定の仕組みや審査基準などに不透明な点が多い。資本金の過半を拠出する中国が強大な発言力を持ち、巨大なインフラ需要に応える資金の流れに支配的な影響を与える可能性もある。

 さらに安全保障上の警戒感もあり、日米両国は参加に否定的だ。だが対中貿易・投資の実利を追う英国、ドイツ、フランス、イタリアの加入で主要7カ国(G7)のうち4カ国が構想支持に回り、先進国の日米欧と中国が対峙するという構図は完全に崩れた。

 流れが変わった以上、現実的な目線で中国の構想と向き合うべきではないか。AIIBの否定や対立ではなく、むしろ積極的に関与し、関係国の立場から建設的に注文を出していく道があるはずだ。

 AIIBを「中国の銀行」ではなく中立性の高い「多国籍機関」に導いていく努力を、怠るべきではない。創設メンバー国となる欧州各国やニュージーランドは、内部から透明性の確保を働きかけていく構えだ。中国側も新銀行が国際的な信認を得るために、耳を貸さないわけにはいかない。

 欧州各国が中国陣営に取り込まれ、G7に亀裂が入ったとの見方はある。だが、AIIB設立協定の締結に向けた協議や設立後の運営への発言権を確保し、内外からAIIBへの関与が可能になったと考えることもできるはずだ。

 好むと好まざるとに関わらず、AIIBは年内に発足する。中国の独走を防ぐためには、まず公平で透明な統治の機構を設計することこそが肝要である。そのための条件が満たされるならば、日本が資金を拠出して構想に参加する選択肢も排除すべきではない。

 AIIBが中国の意のままに動く銀行となり、環境に配慮しないインフラ開発や持続不能な事業への融資が横行するのではないかとの疑念も広がる。非参加国の企業が入札に加われないなど、不利な条件を恐れる日本企業も多い。AIIBを健全に育てるためにも、日米中心のアジア開発銀行(ADB)は資金力を増やし、競争と協調の両面で関与を深めるべきだ。

テロ拡散阻止へ連携深めよ

 北アフリカのチュニジアで、首都チュニスにある博物館を武装集団が襲撃し、日本人3人を含む多数の外国人が死亡した。

 観光客が集まる場所を狙った卑劣な犯行である。痛ましい惨劇に怒りを覚えると同時に、日本人も無差別テロに巻き込まれる現実を改めて知らしめた。国際社会は拡散するテロの封じ込めに一段と連携を深めなければならない。

 チュニジアは地中海に面し、古代ローマなどの遺跡が多数残る。中東・北アフリカでは比較的治安が良く、多くの旅行者が訪れる。武装集団は観光客に人気のある博物館で銃を乱射した。観光立国だけに事件の衝撃は大きい。

 チュニジアのカイドセブシ大統領はイスラム過激派の犯行との見方を示した。イラクやシリアの一部を実効支配する「イスラム国」には約3千人のチュニジア人が加わっているとされる。外国人戦闘員の出身国では最大規模だ。

 アフリカではリビアやナイジェリアで、イスラム国に共鳴する過激派組織がテロを活発化させている。テロの波がチュニジアにも及んできたなら問題だ。

 チュニジアは中東に広がった民主化要求運動、いわゆる「アラブの春」の起点になった。2011年1月にベンアリ政権が崩壊した後、自由選挙で大統領を選出し、世俗派勢力と穏健イスラム勢力が協力して国家運営にあたる民主化の模範国とされている。

 過激派の勢力拡大を許し、チュニジアの人々がようやく手にした民主化を妨害させてはならない。チュニジア当局は事件の全容を徹底的に解明してほしい。

 国際協力も重要だ。過激派メンバーや資金の移動をつかみ、国境を越えた過激派のつながりを断ち切らねばならない。国際社会が連携して情報を集め、共有することが重要だ。

 テロはどこに危険が潜んでいるのか見極めが難しい。危険を最小化するために過激派を封じ込める国際協力の輪に、日本も積極的に加わっていかねばならない。

地下鉄サリン20年―今も問い続ける社会の姿

 あんな事件は二度と起きない。そう言える社会になっただろうか。

 20年前のきょう、オウム真理教の教団幹部らが都内の地下鉄内に猛毒のサリンをまいた。13人が死亡し、6千人以上が負傷する無差別テロだった。

 その前年には長野県松本市で8人が死に至るサリン事件があった。地下鉄事件後も、都庁あての爆発物で職員が大けがをするなど、不穏な日々が続いた。

 教団に怒りが向いたのは当然だが、翻って、戦後50年間築いてきた社会はこれでいいのか、と考えさせる事件でもあった。

■安易な答えの危うさ

 20年といえば、事件を直接知らない世代が、あの犯罪に加担した信徒の当時の年齢にたどりつこうかという歳月だ。

 過去のものとせず、折にふれ問い直していきたい。

 事件の根が深いのは、信徒たちが犯罪をするため教団に入ったわけではなく、生きる意味に悩んだり、社会に矛盾を感じたりしていたことだ。だれにでもある感情である。

 それでも、救いを求めた先が、思考することを許さず、人心を支配し、服従させる集団だったとき、あんな事件は起こりうる。そう考えた方がいい。

 身勝手な主張で人命も顧みない過激派組織「イスラム国(IS)」にひかれる若者がいる現代にもつながる問題である。

 宗教や自己啓発をうたうカルトの誘惑は絶えていない。集団名を言わず友達として近づくなど、手段も巧妙になっている。

 教団の事件の被告たちを心理鑑定した西田公昭・立正大教授は「人生の悩みはそう簡単に解決しない。すぐに答えを出そうとして『カリスマ』に依存する危険を意識すべきだ」と話す。

 社会になじめない人を孤立に追い込んではいないか。多様さも、異質さも受け入れ、包みこむ社会は、一人ひとりが意識することなしにはつくれない。

■検証はまだ間に合う

 逃亡していた被告の、最後のオウム裁判が続いている。

 捜査・裁判の長期化を懸念し、教団の犯罪は一部しか訴追されなかった。信徒に「神秘体験」をもたらした違法薬物や、マインドコントロールがどう用いられたかは未解明だ。

 松本智津夫(麻原彰晃)元教団代表が裁判で語らなかった責任は重い。ただし個人の刑事責任を問う場で分かるのは、一断面でしかない。

 なぜどのように一宗教団体が暴走したのか。食い止めることはできなかったのか。政府や国会が総括することはなかった。

 研究者やメディアが個別に掘り下げてはきたが、同じ根をもつ事件の再発を防ぐには、得た知見を共有し、全体像をつかむしくみが必要ではないか。

 地下鉄サリン事件の裁判長だった山室恵弁護士は、捜査・司法当局やメディアの責任に触れ、「失敗の理由を検証し直すべきだ」と指摘している。

 注目すべきは、米国のシンクタンクの関係者や研究者が、サリン事件の被告・死刑囚への聞き取りを重ねてきたことだ。

 重大な被害をもたらす生物・化学兵器を、都が認可した宗教法人が製造し使ったという事実が国際的に与えた衝撃からすれば、むしろ当然だろう。

 家族以外の面会を制限している法務省が面会を許したのは異例の対応にみえるが、再発防止や学術研究に役立つと判断すれば認めることもあるという。

 教団の犯罪によって死刑を言い渡されたのは13人で、いずれも執行されていない。裁判が終わりつつある今なら話せることも、あるのではないか。

 真実に近づく努力は、まだ間に合う。

■終わっていない被害

 人命を奪い、深刻な後遺症を残した教団の犯罪の被害者救済は、常に後手に回ってきた。

 国による給付金の特例法ができたのは、地下鉄サリン事件から13年後のことだ。

 それまでに教団の資産を押さえるため被害者自ら破産手続きを進め、今も教団の派生団体から取り立てを続けている負担は半端なものではなく、司法の無力さも感じさせる。

 支援団体の調査によると、今も被害者の7割前後が目の不調を感じ、3割に心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状があるという。何か症状が出るたび事件のせいではという不安にかられる人たちは多い。

 事件当時救急医療にかかわった医師などでつくるNPOが年1回無料検診をしているが、連絡先がわかる被害者は一部でしかない。聖路加国際病院の石松伸一副院長は「被害者にみられる症状をすべて分かっている人は誰もいない」と指摘する。

 サリン中毒について、すべての被害者を把握している政府には、その実像を解明し、真の救済をはたす責任がある。

 あの教団の犯罪は、現代の人間と社会の何に起因し、今なお何が問題なのか。闇に包まれている事件の問いかけは重い。

チュニジア襲撃 「民主化モデル」を脅かすテロ

 イスラム過激派によるテロが続く北アフリカでまた惨事が発生した。

 チュニジアの首都チュニスの博物館で武装集団が銃を乱射し、日本人3人を含む外国人観光客ら約20人が死亡した。日本人3人など多数が負傷している。

 罪のない人々を無差別に襲う凶行は、断じて許されない。安倍首相は、犯行を強く非難し、「国際社会と連携を深めながらテロとの戦いに全力を尽くす」と強調した。当然である。

 政府は、被害者の保護や在留邦人の安全確保に努めるべきだ。

 日本人が海外でテロに巻き込まれる例は、もはや珍しくない。政府は、情勢が不安定な地域に関する情報収集と、危険情報の発信を強化しなければならない。

 現地の治安当局が、武装集団のチュニジア人2人を射殺し、複数の容疑者を拘束したという。事件へのイスラム過激派組織の関与が疑われている。全容解明を急いでもらいたい。

 チュニジアは、中東や北アフリカの長期独裁政権を民衆が倒す民主化運動「アラブの春」の先陣を切った。23年続いたベンアリ政権が2011年の「ジャスミン革命」で崩壊すると、その波はエジプト、リビアなどに広がった。

 独裁統治の緩んだ各国で政情が混乱する中、チュニジアは、世俗派とイスラム穏健派が共存する政治体制を構築し、民主化の成功モデルとして注目された。

 ただ、その陰で治安が悪化し、外国の投資や観光客が落ち込み、経済は停滞していた。社会に不満を持つ貧しい若者らに過激主義が浸透し、テロの潜在的な脅威があったことは否めない。

 イラクとシリアに根を張る過激派組織「イスラム国」に参加したチュニジア人戦闘員は、約3000人に達するという。出身国別で最も多く、「過激分子の輸出国」との不名誉な異名も取った。

 隣国のリビアとアルジェリアでイスラム過激派組織が跋扈(ばっこ)するのに対し、チュニジアでの活動は限定的と見られていた。だが、今回の事件は、その見方を覆した。

 チュニジア政府は、せっかく築いた民主主義体制の基盤を揺るがせないため、治安回復と経済再建に真剣に取り組む必要がある。

 事件後、セブシ大統領は、テロ掃討の強化を宣言した。過激派集団の摘発や、戦闘員の往来を阻止するための空港や国境での検問や監視の強化が急務である。

 日本も、欧米諸国と連携し、チュニジア支援に力を入れたい。

老朽原発の廃炉 円滑な実施へ環境整備を急げ

 関西電力など4社が、運転開始から40年前後の古い原発5基を廃炉にすると決めた。

 東京電力福島第一原発の事故を受け、原発の運転期間を「原則40年」に制限する新規制基準が設けられてから、初の廃炉決定である。

 厳しい規制基準を満たせば、運転期間は60年まで延長可能だ。しかし、関電などは、5基の原発はいずれも出力が低く、多額の費用をかけて改修しても採算が合わないと判断した。

 老朽化した原発を無理に使い続けるのは、コストと安全性の両面で問題がある。5基を廃炉にするのは、やむを得まい。

 政府が、廃炉による1基200億円に上る会計上の損失を10年分割で計上できるようにしたことも、各社の背中を押した。

 廃炉作業は、20~30年という長丁場である。工程を着実かつ円滑に進めることが重要だ。

 本格的な廃炉作業に入るには、原子炉建屋内のプールにある使用済み核燃料を、別の保管場所に移さなければならない。だが、現在はその置き場がない。

 既に10件の廃炉を完了している米国では、空冷式の保管施設を敷地付近などに設ける例が多い。日本も参考にしたい。

 廃炉で出る廃棄物の大半は、通常の産業廃棄物として処分が可能だが、原子炉本体など放射能レベルが高い廃棄物もある。

 政府は、地下50~100メートルに埋める方針を示している。ただ、埋設施設の安全対策などについては、原子力規制委員会が検討を始めたばかりだ。廃炉の妨げとならぬよう、策定を急ぐべきだ。

 原発の立地自治体に支払われている政府の交付金は、廃炉になると打ち切られる。地元の雇用への悪影響も懸念される。立地自治体にどのような支援策を講じるかも、大きな課題である。

 40年を超えて運転する際の審査期間が、短すぎる問題もある。満40年の15か月前にならないと規制委に運転延長を申請出来ない。

 再稼働に向けた安全審査に長い時間をかける規制委の現状を考えれば、15か月では審査が終了せず、廃炉に追い込まれるケースが出てくる可能性は否定できない。制度の改善を急ぐ必要がある。

 政府は、今後も原発を「重要電源」として活用するとしている。老朽化した原発を廃炉にする一方で、新増設も必要だ。今夏をめどに原発を含めた最適な電源構成を定める中で、新増設の方針を明確に示すべきだ。

2015年3月19日木曜日

賃上げを好循環につなげる基盤整備を

 デフレ脱却への意気込みを企業が示したといえるだろう。春の労使交渉は18日、自動車や電機などの主要企業から回答があり、毎月の基本給を引き上げるベースアップ(ベア)で昨春を上回る額を提示する企業が相次いだ。

 昨年に続く賃上げを、景気の本格回復や経済再生につなげるときだ。最も重要なのは購買力の高まりを追い風に企業が収益をさらに伸ばし、また賃金が増え新たな雇用を生むという好循環をつくることである。

 規制改革をはじめ企業が活動しやすい環境整備のスピードを上げられるかが問われる。賃上げを強く求めてきた政府が応える番だ。

 トヨタ自動車は昨年を1300円上回る4千円のベアを回答した。2002年に今の交渉方式になってから最高額だ。日立製作所など電機大手のベアも昨年より1千円高い3千円になった。こちらも現在の要求方式になった1998年以降で最高だ。

 積極的な賃上げの背景には、リーマン・ショック後、企業が不採算事業の整理や成長性の高い事業の拡大に力を入れ、収益性を高めてきたことがある。

 上場企業の手元資金は90兆円を超える。M&A(合併・買収)や設備投資の資金は潤沢だ。それだけに企業に投資を促す政策が、この先も賃金が増える「好循環」の実現のためには大事になる。

 企業が成長分野に参入しやすくする規制改革のペースを上げ、法人税率引き下げをさらに進めることは、中小企業の収益力向上を後押しするためにも欠かせない。自由貿易の枠組みづくりである環太平洋経済連携協定(TPP)交渉も加速し合意の道筋をつけなくてはならない。

 非正規社員の賃金増を後押しする動きも広がっている。食品スーパー大手のライフコーポレーションはパート従業員を対象に、商品発注や棚卸しなど店頭での役割に応じて時給が上がる制度を設ける。三越伊勢丹は時給で働く契約社員の評価を年1回から2回にし、昇給する機会を増やす。

 非正規で働く人たちが自らの能力を高めやすくなるよう、政府は支援を強化する必要がある。公共職業訓練は民間の力を活用して内容の充実を急ぐべきだ。正社員の能力向上にもつながる。働く人が技能を身につけやすくし生産性向上を促すことは、継続的な賃金上昇の基盤になる。

実需がカギ握る地価の行方

 国土交通省が発表した公示地価は、商業地で7年ぶりに下落が止まり、住宅地も下落幅が縮まった。安倍政権が掲げる脱デフレを後押しする要因になる。

 地価回復の裾野は着実に広がっている。三大都市圏だけでなく、地方都市でも地価が上がる地点が増えている。なかでも仙台や福岡などの上昇率は三大都市圏を大きく上回っている。

 長期化する低金利を背景に不動産市場に投資マネーが流れ込んでいるのが背景だ。企業や不動産投資信託(REIT)などに加えて、円安で海外からの資金流入も増えている。こうした資金は地方都市にも向かっている。

 実需も堅調だ。オフィスを拡張する企業が相次ぎ、東京や名古屋など主要都市でビルの空室率が低下している。東京の都心部では賃料も上昇してきた。土地の収益力が高まっているのだから地価が上がるのは自然な姿だろう。

 最近の地価動向は都市部でも地方でも総じて二極化している。東京の23区は上昇率が拡大したが、多摩地域の住宅地では縮小した。消費税の増税や建築コストの上昇で住宅価格が上がり、郊外では住宅販売が伸び悩んでいる。

 地方でも上昇に転じたのはインフラ整備や再開発が進む地域が中心だ。北陸新幹線の開業で上昇率が全国トップになった金沢駅周辺が典型例である。一方で地方全体では7割の地点で下落している。

 今後もしっかりとした実需の支えが要る。法人実効税率の引き下げなどを通じて企業の投資意欲を高めることが大事だ。ビジネス拠点としての大都市の魅力向上も欠かせない。人口減という構造的な問題を抱える地方では観光需要を取り込めるか否かがカギになる。

 適度な地価上昇は経済にとって望ましいが、東京や名古屋などでは上昇率が10%台になっている地点も目立つ。リーマン・ショック前のミニバブル期を振り返ってもわかるように、地価は上昇への期待感から大きくふれやすいだけに、今後注意すべきだ。

春闘集中回答―賃上げに広がりを

 春闘はきのうが大手企業の集中回答日だった。自動車や電機などの各社では、賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)で、昨年を上回る高水準の回答が目立った。これから本格化する中小企業の賃上げ交渉に、この流れを波及させてほしい。

 今春闘での賃上げ水準は、今後の景気を左右すると見られている。国内総生産(GDP)の実質成長率は昨年、3年ぶりのマイナスとなった。GDPの6割を占める個人消費が昨春の消費増税後に落ち込んだ後、年後半になっても勢いを取り戻せなかった影響が大きい。

 消費が活性化しないのは、物価の上昇に賃金の伸びが追いつかないからだ。物価上昇分を差し引いた実質賃金は、1月まで19カ月連続のマイナスを記録。その流れを変えることが、今春闘に期待された。

 労働側には追い風が吹いている。円安で大手製造業は史上最高益が予想されている。賃上げを経済の好循環につなげたい政府の後押しもあって、経営側は、水準はともかく賃上げ自体には理解を示していた。

 高齢化などによる人手不足は、賃金を押し上げる要因となる。賃上げの動きが外食産業などに広がった背景には、そんな事情もあった。

 また、今春闘では、賃上げを非正社員に波及させる取り組みがあった。トヨタは期間従業員の日給を組合要求通り300円(月にして6千円程度)引き上げる。食品スーパー大手のライフコーポレーションはパート社員約2万人の一部で、毎年賃金が上がる定期昇給を5月から始める。こうした動きがより多くの企業に広がってほしい。

 個人消費を活性化し、経済の足腰を強くするには、今後も企業が賃上げを続けることが欠かせない。17年4月には消費再増税も控えている。経営者は、コスト削減で利益を確保するデフレ時代の後ろ向きの考え方から、攻めの経営に転じる時ではないか。毎年の賃上げを前提に、その原資を生み出す収益力をどう強化するのか。設備投資や企業買収、社員の教育などに知恵を絞らなければならない。

 雇用者に占める労働組合員の割合は2割に満たない。経済の好循環につなげるためにも、格差の拡大を防ぐためにも、より多くの人たちの賃金が増えていくことが望ましい。

 政府は成長戦略などで企業の収益力の強化を後押しするとともに、最低賃金引き上げなど、春闘の成果が及ばない非正社員の賃金上昇につながる環境整備に努めるべきである。

大阪住民投票―未来考え、意思示そう

 大阪市を分割し、5特別区を置く大阪都構想案への賛否を問う住民投票が、5月17日にも実施されることになった。

 市内の有権者215万人による過去最大規模の住民投票になる。結果は法的拘束力を持つ。投票率に関係なく、賛成が1票でも上回れば126年の歴史を持つ大阪市は廃止される。

 後戻りできない重い選択だ。市民一人ひとりがじっくり考え、一票を投じてほしい。

 都構想は、大阪維新の会を率いる橋下徹大阪市長が5年前から推進してきた。構想が行き詰まった昨年には出直し市長選をしかけた。再選後は反対派議員を協議会から排除し、構想案を固めた。反対派も言い分を主張するばかりで、議論が深まったとは言いがたい。だが、バトンはもう大阪市民に託された。市民全体の意思で決着させたい。

 賛否どちらの道にもメリットとデメリットがある。より良いと考えるほうを選ぶしかない。

 来月は大阪府・市議選がある。自民、公明など維新以外の各党も選挙戦で都構想の論点をわかりやすく示すべきだ。市民も演説会や市の広報資料などに進んでアクセスしてほしい。

 考えるべきポイントは、自分たちが暮らす自治体の規模だ。

 大阪市は明治以降、水道や地下鉄といった基盤整備を全国に先駆けて進めた。一つの大都市だからこそできた面は大きい。

 だが半面、市役所組織が肥大化し、住民との距離は遠かった。同等の権限を持つ大阪府ともしばしば張り合い、「二重行政」の批判を招いてきた。

 5特別区は34万~69万人規模になる。学校教職員の人事権や児童相談所設置など、東京23区を上回る権限が移され、よりきめ細かい行政が可能になる。

 ただ大阪は人口1人あたりの税収が東京のほぼ3分の2しかない。各区は厳しいやりくりを余儀なくされ、独自色を発揮できるのは先になりそうだ。

 そして、経済の低迷、貧困層の増大という大阪の最重要課題は、都構想が実現しようがしまいが、ただちには解決しない。

 橋下氏は住民投票の結果次第で、今後の進退を決める考えを示した。都構想が実現すれば次の策として、大型カジノの誘致や交通網の整備を掲げている。

 こうした方向性でいいかどうか。通算7年に及ぶ橋下改革の評価も合わせ、市民が賛否を判断する際のポイントとなろう。

 大都市はどこも少子高齢化や生活保護受給者の増加といった共通の課題に直面している。大阪の選択は、ほかの都市の住民にも参考になるだろう。

春闘一斉回答 高い賃上げの恩恵を広げたい

 大手企業による賃上げの動きを、中小企業や非正規労働者にも波及させることが重要だ。

 春闘の相場をリードする自動車大手と電機大手などが2年連続で、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の実施に踏み切った。

 トヨタ自動車や日産自動車のほか、日立製作所など電機6社も過去最高のベアを回答した。一時金(ボーナス)についても、要求への満額回答が相次いだ。

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円安や原油安で、大手メーカーを中心に収益が拡大したことが追い風となった。

 昨年末の政労使会議で、安倍首相が賃上げを要請した効果もあろう。経営側にも、安倍政権の目指す「経済の好循環」を実現するには、賃上げが必要だとする認識が浸透してきたのではないか。

 航空や損害保険など、製造業以外の大手企業の多くも、ベア実施を決めた。利益を賃金として積極的に還元する企業が増えたことを歓迎したい。

 昨年の春闘では、定期昇給を含めて2%台の賃上げ率となったが、消費増税の影響もあって物価上昇に賃金の伸びが追いつかず、家計の消費は冷え込んだ。

 大手企業が2年連続で高い賃上げとなったことは、消費の活性化にプラスとなろう。

 ただし、景気を本格的に回復させるには、サラリーマンの7割が働く中小企業でも、高い賃上げを達成することが大事だ。

 輸出や海外事業を手がける大手と違い、中小企業の多くは円安メリットを受けにくい。輸入価格上昇による原材料高で、賃上げの余裕はない、などの声もある。

 大企業の好業績の恩恵を、中小企業に行き渡らせることが課題だ。トヨタは定期的に実施してきた下請けに対するコストダウン要求を控えている。中小企業の賃上げを後押しするためにも、こうした取り組みをさらに広げたい。

 全体の4割近い非正規労働者の待遇改善も急務である。時給の引き上げはもとより、研修の充実による能力向上や正社員への登用機会の拡大など、総合的な対策が欠かせない。

 肝心なのは、企業が自律的な成長を果たし、自らの経営判断によって賃金を持続的に上げられる環境を整えることである。

 国際競争力の強化に向けた法人税減税の着実な実行や、新規事業への進出を後押しする規制緩和の充実が求められる。政府は成長戦略を加速させるべきだ。

「大阪都」投票へ 中身の丁寧な説明が不可欠だ

 人口268万人の大阪市を廃止する重大な制度変更であり、市民の賛否は割れている。構想を進める大阪市の橋下徹市長らは、内容を丁寧に説明する必要がある。

 大阪府議会と大阪市議会が「大阪都」構想の制度案を承認し、構想の是非を問う大阪市民対象の住民投票の実施が決まった。5月17日に行われる見通しだ。

 大阪市の現在の24行政区を五つの特別区に再編する構想だ。特別区には公選の区長と区議を置き、予算や人事を決める。保育所や公立小中学校も区の運営となる。

 国民健康保険や水道事業などは、分割すると非効率的だとの理由で、5区が一部事務組合を作って共同運営する。

 広域的な都市計画や消防などは、府が担う。

 住民投票で賛成が過半数に達すれば、2017年4月に再編が実施される。市民は、重い選択を迫られることになる。

 両議会で、与党の大阪維新の会以外は、制度案の内容に反対している。両議会は昨年10月、制度案を否決した。

 今回、可決されたのは、公明党が方針転換したためだ。「制度案には反対だが、住民投票には協力する」という公明党の姿勢は、理解しにくい。態度を変えた経過も不透明なままである。

 橋下市長らは、「府と市の二重行政を解消し、広域的な都市計画に一元的に取り組める」と主張する。一方、反対派は「今のままでも、知事と市長の調整で二重行政は解決できる」と訴える。

 都構想が、停滞する大阪経済の再生・発展につながるのか、議論が深まらなかったのは残念だ。

 大阪市を5分割することで、行政の効率性が損なわれないのか。庁舎や議場といった公共施設や組織が増え、行政コストがかさむという懸念もある。

 現在の大阪市の住民や事業者が納める税金の一部は、いったん府に入ることになる。このため、市外の施設整備などに税金が使われ、市内の再開発が阻害されるのではないか、との指摘もある。

 読売新聞の昨年9月の世論調査では、大阪市民の53%が構想に「賛成」と答えた。変革への期待だろう。ただ、住民に対する説明については、75%が「不十分だ」と回答している。

 長所と短所を理解した上で、判断したいと考える市民は多いはずだ。住民投票に向け、賛成派、反対派双方は、分かりやすい判断材料を提供してもらいたい。

2015年3月18日水曜日

日銀は経済全体を見据えて政策運営を

 日銀の黒田東彦総裁が就任してからほぼ2年が経過した。

 強力な金融緩和によって行きすぎた円高は是正され、株高も進んだことは成果だろう。今後重要なのは、経済全体を見据えながら金融政策運営にあたることだ。

 黒田総裁は2013年4月、資金供給量を2年で2倍に増やす量的・質的金融緩和を導入するとともに、2年程度を念頭に2%の物価安定目標の達成をめざす方針を打ち出した。

 しかし、14年4月の消費増税の影響を除いたベースでみると、今年1月の消費者物価上昇率は0.2%にとどまる。今春には再び上昇率がマイナスに転じるとの予測もある。2年をメドに2%という目標の達成は難しくなった。

 大事なことは、2年で2%という目標達成の成否ではない。消費者物価の下振れは、原油価格の下落が主因だとはっきりしている。原油安は企業や家計の負担を減らし、交易条件を改善させる日本経済の追い風だ。

 もしも日銀が物価目標の達成を急ぎ、無理に追加緩和をしてしまうと副作用は大きい。さらに円安が進んで輸入物価が上がれば、原油安の恩恵を相殺しかねない。

 足元の景気は緩やかに回復している。雇用情勢の改善を背景に賃金が上向けば、個人消費を後押しし、物価も上がりやすくなる。今はその動向を見極めるべきだ。

 わたしたちは物価目標を柔軟に運用すべきだと主張してきた。とにかく早期に物価が2%に上がるまで機械的に金融緩和を強化するようでは困る。金融政策は物価だけでなく、景気や雇用、金融システムを総合判断するのが筋だ。

 経済全体の動向を丹念に点検し、世界経済の変調などで経済が悪化し、企業や家計が再びデフレ心理に陥るリスクが高まれば果敢に対応する。日銀に求められているのはこんな柔軟な構えだ。

 金融市場では日銀が年内に追加緩和をするとの観測が多い。昨年10月の追加緩和を受け、目先の消費者物価上昇率が金融政策の最大の決定要因との見方を市場に広げてしまったとすれば、市場との対話は稚拙だったとの批判は免れない。

 3年目に入ったアベノミクスは相変わらず、金融緩和ばかりが目立つ。政府は財政健全化の道筋をつけるとともに、構造改革で潜在成長率を引き上げる努力を怠ってはならない。

国際秩序乱すロシアへの疑念

 ロシアがウクライナ領のクリミア半島の編入を一方的に宣言してからきょうで1年。武力を背景に主権国家の領土の一部を奪ったロシアの行為は、冷戦後の国際秩序を大きく乱した。

 日米欧はこの間、度重なる経済制裁などで誤りを正そうとしてきたが、ロシアは「地元住民の意思」を盾にクリミアのロシア化を着々と進めている。国際社会の警告に全く耳を傾けようとしないかたくなな態度は極めて遺憾だ。

 それどころか、ここにきてプーチン大統領から何とも不気味な発言が飛び出した。クリミアの編入に当たり、欧米による妨害に備えて、核戦力を戦闘態勢に置く検討まで進めていたというのだ。

 先に放映された国営テレビの番組で明かした。恐らく、強いリーダーシップを国民に誇示する思惑なのだろうが、核兵器を脅しの材料に使うようでは、責任ある大国の指導者とはとてもいえない。

 大統領はさらに、昨年2月のウクライナ政変の直後からクリミア編入の検討を始め、ロシア軍の海兵隊や空挺(くうてい)部隊を現地に送り込むとともに、地対空ミサイルなどの大量配備で要塞化した経緯もつまびらかにした。

 ロシアはこれまで、昨年3月にクリミアで実施された住民投票で圧倒的多数がロシア編入に賛成したことを編入の根拠にしてきた。それを覆し、武力による威圧の事実を自ら認めたともいえる。国際社会の疑念は強まるばかりだ。

 ウクライナではロシアによるクリミア編入に続き、東部では政府軍と親ロシア派武装勢力による戦闘で多くの死傷者が出た。先月の停戦発効後も緊張状態が続く。ロシアは東部での軍事介入や親ロ派への軍事支援を否定しているが、これにも大きな疑問符がつく。

 ウクライナ危機でロシアと欧米の関係は大きく冷え込んだ。武力を背景にしたロシアの拡張主義は旧ソ連の友好国でも疑問視され始めている。このままでは国際社会で孤立の道を歩むだけだ。その認識がロシアにあるのだろうか。

廃炉の決定―「脱原発」を見すえてこそ

 関西電力と日本原子力発電(原電)が、運転開始から40年を超えた原発3基の廃炉を決めた。中国、九州の2社も計2基の廃炉を18日に決める予定だ。

 運転期間を原則40年とする、福島第一原発の事故後に設けられた規制が初めて適用される。

 日本の発電所に48基ある原子炉(商業炉)のうち、20基近くが運転開始から30年以上経過している。延長は1回だけ認められるが、特別な審査に合格しなければならず、追加投資の必要も生じる。今後は毎年のように、廃炉にするのか決断を迫られるようになる。

 1963年に原子力発電に成功して以来、日本は後始末に道筋をつけないまま原発を推進してきた。このため、廃炉を進めるために解決しなければならない課題が山積している。これらを克服し「廃炉できる国」にしていくことは、脱原発を着実に進める前提にもなるはずだ。

■未解決のゴミ問題

 廃炉事業で最も深刻なのが、ゴミの問題だ。解体にともなって出る使用済み核燃料と放射性廃棄物の置き場所が決まっていない。

 使用済み燃料については、全量を再処理する「核燃サイクル」を掲げることで直視を避けてきた。しかし、事業は事実上破綻(はたん)している。使用済み燃料は原発の冷却プールや乾式キャスクに入れて敷地内に保管せざるをえないのが実情だ。

 特に関西電力は、福井県と「使用済み燃料の保管・処分は県外で」と約束してきた経緯がある。今回、美浜2基の廃炉を決めたことで、この約束とも直面することになる。

 放射性廃棄物の取り扱いもやっかいだ。線量の多寡によって分別され、それぞれ地中で管理する方針は決まっている。だが、高レベル廃棄物はもとより、低レベル廃棄物も処分地が決まっていない。埋設にあたっての管理基準もこれからだ。

 処分のめどが立たなければ廃炉作業自体が滞る。実際、国内の商業炉で初めて廃炉を決めた原電の東海原発(茨城県)では低レベル廃棄物の処分法が確立できないため、一度3年延期した原子炉の解体作業の着工をさらに5年先送りしている。

 政府は高レベル廃棄物の最終処分場について、立候補を待つ方式を改めて、自ら候補地の選定に乗り出す。どこにも決まらなかった経緯を考えれば、選定は難航が予想される。一方的な押しつけにならないよう手続きの透明性とともに、対話する機会を確保することが何より大切になる。

■必要になる地元支援

 原発が立地する地域にも配慮する必要がある。

 立地自治体には現在、電気料金に含まれる税金を財源とした電源三法交付金が配られているが、廃炉が決まれば対象外となる。経済的な自立の難しい過疎地域で、自治体財政を原発マネーに依存しているところが多いだけに影響は少なくない。

 お金を理由に立地自治体が原発の維持や建て替えを望む悪循環は断ち切らなければならない。ただ、いきなり住民生活に支障が出ることは避けるべきだ。当面、何らかの財政支援が必要になるだろう。

 人口も資源も少ない地域の振興は容易ではない。それでも、事故で大きな被害を受けた福島県は、再生可能エネルギーによる再生にかじを切った。福井県でも地域の資源を見つめ直す動きはある。国は、電力消費地との連携をとりもつなど、原発からの自立を積極的に支えることに注力してほしい。

■自由化に沿うものに

 政府は、電力の自由化を進めている。16年度には電力大手の地域独占を廃し、20年度には発送電を分離する計画だ。電気の利用者は、自由に電源を選べるようになる。

 一方、廃炉は20~30年かかる長丁場の事業になる。そのコストは一体、誰が負担するのか。

 今回の廃炉にあたっては会計処理のルールが見直され、必要額を電気料金から回収できるようにしている。廃炉費用の負担が電力会社にとって過大であれば、廃炉自体にブレーキがかかるとの考えからだ。

 今後についても送電網の使用料の一部として広く国民に負担を求める案が浮上している。だが、政策上増やしていく電源ならともかく、配慮が過剰になれば減らしていくべき原発の温存につながる恐れがある。競争上の公平さからも疑問は残る。詰めの論議が必要だ。

 廃炉の道筋を整えることは一面で、原発を更新しやすい環境をつくることにもなる。しかし、福島第一原発の事故を思えば、脱原発につなげることにこそ、廃炉を進める意味がある。

 関西電力は同じ17日、40年前後の原発3基の運転延長を求めて、原子力規制委員会に審査を申請している。脱原発依存を着実に進めるのか。政府はエネルギーの将来絵図を明確に示すべきである。

プーチン発言 「核準備」の恫喝は認められぬ

 核兵器に言及した威嚇である。核大国の指導者として極めて不穏当、無責任と言うほかない。

 昨年3月のロシアによるウクライナのクリミア半島編入の経緯を巡り、プーチン露大統領が、核戦力を臨戦態勢に置くことについて「そうする用意があった」と発言した。

 一方で、クリミアの事態が核の臨戦態勢には発展しないと考えていた、とも弁明している。

 それでも、発言は重大な問題を含んでおり、看過できない。

 ロシアの核兵器運用の基本指針は、核の使用を、大量破壊兵器などの攻撃を受けた場合と、国家の存続が脅かされた場合に限る。クリミア編入時にロシアが存続の危機に陥ることは想定されず、発言は基本指針を軽視している。

 露外務省高官は、「ロシアはクリミアに核を配備する権利を原則として持つ」とまで語った。

 一連の発言には、米欧を恫喝(どうかつ)し、その干渉を排することにより、クリミア支配の既成事実化を図る狙いがうかがえる。

 世界の平和に責任を持つべき国連安全保障理事会の常任理事国としての見識が疑われよう。

 米国務省報道官は、プーチン発言について「ロシア軍によるクリミア介入にとどまらず、もっと攻撃的な行動を取る用意すらあったと世界中に公言したことになる」と批判した。当然だろう。

 核拡散防止条約(NPT)は、ロシアを含む加盟国に、他国の領土保全を武力で脅かさないよう求めている。今回の発言がNPTの精神にも反するのは明らかだ。

 懸念されるのは、ロシアがここ数年、核戦力を増強していることだ。米露の中距離核戦力(INF)全廃条約など、冷戦後の核軍縮の流れに逆行する。

 プーチン氏は今回、「ウクライナ政変まではクリミアを奪取しようと考えていなかった」と述べた。昨年2月の親露派ウクライナ政権の崩壊直後、クリミア編入に向けて動いたことを認めたものだ。

 クリミア編入は「(昨年3月の)住民投票結果を尊重した」との従来の主張を覆したことになる。実際、クリミアの住民投票を実現するため、ロシア軍の特殊部隊が介入し、様々な工作活動を実施したとの指摘が出ている。

 一方的な「力による現状変更」を進めるプーチン氏は、重大な不安定要因となりつつある。

 国際社会は、ウクライナを財政支援しつつ、対露圧力を維持し、プーチン氏に冒険主義的な言動の自制を促さねばならない。

社外取締役 攻めの経営にどう生かすか

 とかく内向きと言われる日本企業が、「攻めの経営」にカジを切るきっかけとなるだろうか。

 金融庁と東京証券取引所がまとめた上場企業の行動指針は、東証1部と2部の企業に、独立性の高い社外取締役を2人以上置くよう求めた。

 外部の目を不祥事防止などに役立てるだけでなく、社内にはない視点や発想を生かし、積極的な事業展開を後押しする狙いだ。

 東証は上場規則を改正し、6月から適用する。複数の社外取締役を置かない上場企業には、文書による理由の説明を義務付ける。

 5月には、社外取締役を少なくとも1人選任するよう促す改正会社法も施行される。

 しがらみで不採算部門を切れない。失敗を恐れて投資に二の足を踏む。そんな生え抜き役員にカツを入れる外部人材の存在は、企業の活力を増す刺激剤となる。

 「稼ぐ力」の強化を目指し、社外取締役を有効に使う動きが定着すれば、日本経済の成長力向上にも寄与しよう。

 無論、社外取締役の起用は、ガバナンスや業績の改善を実現する「魔法のつえ」ではない。

 社外取締役登用の先駆けとなったソニーは、業績低迷にあえいでいる。複数の社外取締役を置きながら、粉飾決算事件を起こしたオリンパスなどの例もある。

 最も大切なのは、経営トップをはじめ経営陣が社外取締役の指摘や助言を真摯(しんし)に受け止め、経営改革に生かすことだ。地に足の着いた取り組みが求められる。

 会社発展に資する中長期戦略を提案できる見識を持つ人材を、どう確保するかも大きな課題だ。

 東証上場企業のうち、独立性の高い社外取締役が2人以上いる会社は約2割にとどまる。仮に全社が複数化するには、延べ3000人の人材が必要となる。

 親会社や主要取引先の人では、行動指針の定める独立性の条件を満たせない。学者や弁護士などの専門家なら独立性は確保しやすいが、企業戦略の立案に疎い人が多いという指摘もある。

 一方、経営手腕に定評のある人でも、複数の会社を掛け持ちし、目が行き届かないようでは困る。適材を探すのは難題だろう。

 社外取締役に適した人材のデータベースなどを、官民が連携して整備するのも一案ではないか。

 ガバナンス強化に取り組んでいる日本取締役協会は、社外取締役の候補者などを対象に、研修を行う予定という。こうした「質の向上」への取り組みも大切だ。

2015年3月17日火曜日

中国は透明で公正な反腐敗の取り組みを

 中国で年に一度の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が閉幕した。例年、当局の腐敗対策が手ぬるいことへの批判票が目立つ会議だ。それが今年はやや沈静化した。習近平政権の反腐敗運動は支持を得ているといえよう。

 3年前まで最高指導部のメンバーだった周永康・前共産党政治局常務委員を汚職容疑で立件するなど、反腐敗運動はかつてない大物にも切り込んできた。国民の間で共産党政権の求心力を立て直すことにもつながっている。

 問われるのは、そうした成果を一過性のものに終わらせないための仕組みを整えることだ。反腐敗運動については「習国家主席が権力基盤を固める手段にすぎない」といった冷めた見方も根強い。公正な仕組みを整えないと、そんな声は絶えないだろう。

 全人代閉幕後の記者会見で李克強首相は「腐敗の土壌を取り除く」「社会の監督を受ける」と表明した。いずれも透明性を欠いたままでは実効性を望めない。

 中国国内ではかねて、高官の財産を公開する制度を求める声が上がっていた。これを共産党政権は無視するどころか押さえ込んできたのが実情で、摘発が公正かどうか疑問符がつきまとう。

 習主席の指導力は胡錦濤・前国家主席や江沢民・元国家主席をしのぐ――。そんな見方が最近は強まっている。だが反腐敗運動の公正さが疑われるようだと、国民の支持が揺らぐだけでなく、摘発された元高官たちの反撃を招く可能性を高めることになりかねない。

 一方で習政権はメディア統制を強めている。全人代が開かれている間にも、ウイグル人やチベット人ら少数民族にかかわる事件が海外メディアで伝えられたのに、中国メディアの反応は鈍い。異論や少数民族の不満を力で押さえつけようとする姿勢もまた、危うさを覚えざるを得ないところだ。

 透明性が低いことは中国の対外政策への疑念を募らせてもいる。典型的なのは、今年の全人代でも総額の膨張だけ伝えられて内訳はほとんど明らかにされなかった、国防費だ。

 サイバー安全保障をめぐる米国との対立や、設立準備が進むアジアインフラ投資銀行に対する日米の不信も、低い透明性が一因となっている。中国はいまや世界第2の経済大国。世界を不安にさせないよう、透明性の向上に前向きの姿勢へと転じる必要がある。

免震への信頼揺るがす問題だ

 地震の揺れを特殊なゴムで抑える免震装置をめぐり、大阪市のタイヤメーカー、東洋ゴム工業の子会社の製品の一部が国の基準に適合していないことが分かり、国土交通省は認定を取り消した。子会社の担当者が認定試験のデータを改ざんした疑いがあるという。

 問題の装置は、18都府県で55棟のマンションや庁舎などに使われている。国交省によれば、地震が起きたときの安全性は不明で、改修が必要になれば居住者が一時退去を迫られる恐れがある。住人の不安がこれ以上広がらないよう、まず東洋ゴムと国交省が必要な情報を開示すべきだ。

 免震装置は4年前の東日本大震災でも効果が認められ、マンションなどで急速に普及している。通常の建物に比べて建築費は割高だが、地震が多い日本ではより安全で安心な建物を求める消費者が増え、市場が急拡大した。

 消費者の信頼を裏切るデータの偽装は許されない。東洋ゴムによれば、製品を発売した2003年以降、評価試験を社員一人で担当していた。組織としてチェック機能はなかったのか。同社の法令順守のあり方が問われる。

 東洋ゴムの製品だけでなく、免震装置全体への消費者の信頼も揺らぎかねない。国交省は責任をもって原因究明にあたり、同じ問題を繰り返してはならない。

 建物の耐震性をめぐっては05年、元建築士がホテルなどの耐震強度を偽装した事件が起きた。この事件で国や自治体による建築確認の甘さが問われ、国は建築基準法を改正して審査を厳しくした。

 免震装置でも建物ごとに公的機関が耐震性を審査し、国交相が認定する仕組みになっている。だがメーカーが試験データを偽れば審査で見抜くのは難しく、審査を厳格化しても解決策にはならない。

 メーカー側が消費者本位の原点に立ち返り、自社で得たデータは第三者の評価を受けるなど透明性を高めることが欠かせない。耐震技術を手掛ける他の企業も、今回の問題を他山の石とすべきだ。

ロシア核発言―併合1年の無謀な言動

 責任ある大国の指導者の発言とは到底思えない。ロシアのプーチン大統領が、クリミア半島の併合の際、核兵器の使用準備を検討した、と明らかにした。

 ロシアが半島を併合してから1年がたつ。ロシア国営テレビの質問に答え、併合への米欧による妨害を念頭に、核戦力を臨戦態勢に置く用意があったことに言及した。

 そもそも現代の国際社会は、武力による紛争の解決を禁じている。とりわけ核兵器は人類の存亡にもかかわる重大な意味をもつだけに、第2次大戦後の国際社会は核の軍縮・軍備管理と不拡散に努力を注いできた。

 ところがプーチン氏は自国の領土拡張のために、核の準備の可能性まで考えていたのだ。

 ロシアの軍事ドクトリンも、核の使用を「核攻撃を受けた場合」や「国家存立の危機」などに限っている。冒険的な突出発言であることは明らかだ。

 半島の併合についてロシアは「ロシア系住民の保護」を主な理由にした。だが、ロシア系はバルトや中央アジアなど他の旧ソ連国にも多く住む。

 こんな姿勢では、そうした場所で分離・独立の問題が起きるたび、世界は核戦争を心配しなくてはならなくなる。

 ウクライナは旧ソ連からの独立後、核を放棄することで米英ロから領土保全を保証された。その意味でロシアの一方的な併合がまかり通れば、核をあきらめることが不利益を生む、あしき先例となりかねない。

 そのうえロシア高官は、クリミアへの核配備の可能性も示唆している。核大国が本来取り組むべき軍縮の責務をかなぐり捨て、逆に核による脅しに突き進むかのような暴言である。

 核問題だけではない。プーチン氏は「住民投票の結果を待たずに併合を決めた」とも明かした。ロシアの特殊部隊を使い、親ロシア派武装勢力を後押ししたことも認めた。

 その後、ロシアは同じ手法でウクライナ東部の分離・独立問題に介入し、死者6千人を超える紛争を引き起こした。

 その点で鳩山由紀夫元首相が示した認識は的外れだ。住民の意思だけでロシア編入が進んだのではない。軍事力を伴った工作で併合され、既成事実化されたのだ。米欧や日本が制裁を科したのは当然である。

 力による国境の変更に加え、核による挑発。プーチン氏の行動は、前時代的な大国意識の表れではないか。これ以上、国際秩序に挑むような言動は慎むべきだ。国際社会のロシアへの警戒心は極度に深まっている。

政務活動費―住民感覚とのずれ正せ

 政務活動費は何のために必要なのだろう。多くの人がそんな疑問を抱いたのではないか。

 47都道府県議会が13年度、議員に支給した政務活動費を朝日新聞が調べた結果、正当とは思えない支出が次々と発覚した。

 長男が運営する会社に家賃や印刷代などとして260万円を支出▼他の議員らの政治資金パーティーの参加費▼計108回の外食代計35万円超▼服をかけるマネキンの購入費――。

 税金でまかなわれている重みをどこまで理解しているのか。

 地方自治法の改正で、政務調査費が調査研究目的以外にも使える政務活動費に変わったのは2年前だった。議員の政策立案能力を向上するねらいがあったはずだが、「改悪だったのでは」と思わずにいられない。

 地方自治体はどこも財政事情が厳しい。その運営を監視すべき議会がこのありさまでは、政治不信は強まるばかりだ。

 問題の根源は、議会と住民感覚との深刻なずれだ。直ちに正していかなければならない。

 まずは透明性の確保だ。

 議員が議会に提出した領収書は、全議会が「閲覧可」としている。だが、コピーするには情報公開請求の手続きをしなければいけない議会が大半だ。

 高知県、大阪府の議会は7月以降、領収書をインターネットで公開することを決めた。ほかの議会も、これぐらいはすぐにやってもらいたい。

 使途の厳格化も不可欠だ。飲食費がどこまで許されるかなど、各議会のマニュアルをこの際、総点検してはどうか。

 事前に一定額を渡す前払い方式が、無理な使い切りを招くという指摘もある。領収書をもとに事後精算する後払いを徹底することも考えてよい。

 政務活動費は自治体予算の一部だ。首長は議会に遠慮しがちだが、議会の動きが鈍ければ改善を強く働きかけるべきだ。

 直接的な監視の仕組みも広げていきたい。

 「号泣県議」の不適切支出が問題となった兵庫県議会は、有識者による第三者機関を設け、2親等内の親族らへの人件費の支出を禁じる答申を受けた。

 人口5500人の北海道鹿追町は町民5人の第三者審議会が、政務活動費の使途を議員に直接、ただしている。

 第三者機関を持つのは47都道府県議会で五つだけだが、全議会が設置すべきだろう。

 議員は有権者に選ばれた住民の代表であり、間接民主制を体現する責任をもつ。活動をガラス張りにし、常にチェックを受けるのは当たり前のことだ。

国連70年と日本 平和構築へ積極的に関与せよ

 紛争解決やテロ対策、途上国支援など、創設70周年の国連の課題は山積している。日本は、国連重視の方針を堅持し、従来以上に積極的に役割を果たすべきである。

 安倍首相は東京都内の国連大学で演説し、「日本は、国連を支える太くて頑丈な柱であり続ける」と強調した。安倍政権の「積極的平和主義」は、「国連との協調が根幹にある」とも語った。

 日本の国連への拠出金は総額200億ドルを超え、世界2位だ。カンボジアをはじめ、13の国連平和維持活動(PKO)などに自衛官ら延べ1万人を派遣してきた。

 貧困・感染症対策など「人間の安全保障」に重点を置いた日本の平和国家としての貢献は、各国から高く評価、歓迎されている。

 首相は、仙台市で開催中の国連防災世界会議で、東日本大震災での各国の支援に感謝し、防災分野の新たな貢献策を表明した。

 2015年から4年間で、途上国の社会資本整備などに総額40億ドルを拠出する。研修や技術者の派遣を通じて、4万人の防災専門家らの育成も支援する方針だ。

 日本が持つ自然災害に関する知見や技術を、各国の防災体制の充実に役立てる意義は大きい。

 紛争の停戦・和平から復興までに至る平和構築の分野でも、能動的な関与が求められる。

 安倍政権は、自衛隊の国際協力活動を拡充する安全保障法制を今国会で整備する予定だ。新たな法制に基づく人道復興支援活動や、他国軍に対する後方支援活動により、世界の安定確保の一翼を担うことが大切である。

 首相は演説で、国連安全保障理事会の改革について「具体的な成果を生む時だ」と力説した。今年と、日本の国連加盟60年の来年を「行動の年」とも位置づけた。

 日本は10月、加盟国最多の11回目の安保理非常任理事国に選出され、来年1月から2年間務めることが確実だ。実績を重ね、常任理事国入りの足がかりとしたい。

 安保理は、5常任理事国の対立により、シリアやウクライナの危機などで機能不全を露呈した。常任・非常任理事国の地域的な偏りも指摘される。改革は急務だ。

 無論、改革には米国や中国が慎重なうえ、関係国の複雑な利害調整が必要で、ハードルは高い。

 日本は常任理事国入りを目指すドイツ、インド、ブラジルとの連携を強化する方針だ。安保理拡大に前向きなアフリカ諸国の協力を得ながら、改革への機運を高める粘り強い努力が重要である。

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