2015年4月30日木曜日

日米が支えるアジア安定への一歩

 生き物がそうであるように、環境の変化に応じ、進化していかなければ、国と国の同盟も生命を保つことはできない。第2次世界大戦が終わってから、70年を迎え、日米同盟も大きな岐路にさしかかっている。

 日米同盟は戦後の長い間、日本が米軍に基地を提供し、米国が日本の防衛義務を負うことが、目的のほとんどを占めてきた。

緩やかな安保網築け
 安倍晋三首相とオバマ大統領はここから大きく踏み出し、世界の繁栄と安定を支えるために日米が協力するという、新しい同盟像をかかげた。

 両国はこの路線を実行するため、防衛協力のための指針(ガイドライン)も18年ぶりに改定した。これにより、アジア太平洋を越えた地域でも、米軍と自衛隊が連携しやすくするためだ。

 経済では、環太平洋経済連携協定(TPP)を軸に、世界のルールづくりを主導したい考えだ。

 理にかなった戦略といえる。中国が台頭し、米主導の秩序が大きく変わろうとしているからだ。

 急成長する中国は、経済面では世界に大きな恩恵をもたらしている。その一方で、海洋などの秩序を、力によって変えようとする姿勢も鮮明になってきた。東シナ海に防空識別圏を設けたり、南シナ海の岩礁を埋め立てたりして、各国の懸念を招いている。

 戦後、世界の警察を任じてきた米国には、もはや独りでアジア太平洋の安定を支える余力はない。この地域には、欧州のような多国間の安全保障体制もない。

 だとすれば、日米、米・オーストラリア、米韓の同盟を足場に、多国間で安定を守る仕組みをつくるのが、次善の策だ。具体的には、日米の協力を豪州、韓国、さらには東南アジアやインドにも広げ、ゆるやかな安全保障網を築くのが有力な選択肢だろう。

 これは中国を封じ込めるためのものではない。中国に各国がそろって関与し、責任ある行動を引き出していくためのものだ。

 問題は、どう具体化していくかだ。米国の指導力が欠かせないが、日本にもやるべきことがたくさんある。まず大切なのは、新ガイドラインに沿って日米協力を拡充できるよう、国内の安全保障法制を整えることだ。

 政府は5月半ばにも関連法案を閣議決定し国会に提出する。集団的自衛権を限定して使えるようにし、自衛隊による米軍への支援の幅を広げることが大きな目的だ。

 この法案が成立しなければ、新ガイドラインも絵に描いた餅になる。与党はていねいな法案審議に努めながら、早期の成立をめざしてほしい。

 そのうえで、大きな課題が2つある。ひとつは広がる任務を確実に遂行できるよう、自衛隊を改革していくことだ。

 新ガイドラインの下では、日本に重大な影響が及ぶ危機が外国で起きたとき、自衛隊が米軍を支援するケースがふえる。一方、中国や北朝鮮などの軍拡を受け、日本の防衛も怠ることはできない。

 厳しい財政事情の中で両方の任務を果たすには、自衛隊のぜい肉をさらに削り、運用の効率を高めなければならない。

TPPの早期妥結を
 第2に、日本は米国だけでなく、他のアジア諸国ともこれまで以上に対話を深め、政策目標を共有することが大事になる。

 たとえば南シナ海問題をめぐっては、東南アジア各国の対中姿勢には違いがある。そうした複雑なひだを理解しなければ、安全保障協力を深めることは難しい。

 その意味で、安倍政権が歴史問題に適切に対応することも重要だ。この問題で日韓の対立が続いたままでは、アジアに安全保障網を築くことはできないからだ。

 経済面では、TPPの実現が重要なことはいうまでもない。TPPは、公平で透明度が高い貿易や投資のルールを打ち立て、それを尊重するよう、中国にも働きかけていくねらいがある。中国主導で創設するアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも、透明な運営を促していく必要がある。

 日米は首脳会談で、交渉の早期妥結をめざすことを再確認した。日米交渉の進展が、全体の行方も大きく左右する。両国は合意に向けて、詰めを急いでほしい。

 日米同盟の強化は、政治指導者や一部の官僚だけでは、なし遂げられない。なぜ、自衛隊の海外での活動を拡大するのか、安倍政権はもっとていねいに国民に説明し、理解を得るべきだ。その努力を怠れば、同盟という名の建物を、砂地に建てるようなものだ。

日米首脳会談―核廃絶へ、次は行動だ

 「広島、長崎の被爆70年において、核兵器使用の壊滅的で非人道的な結末を思い起こす」

 オバマ米大統領と安倍首相が、核不拡散条約(NPT)再検討会議に関して、共同声明を発表した。

 米国では原爆投下は正当だったという意見が根強い。そんな中、トップが核の非人道性に踏み込んだことは意義深く、核廃絶への一歩と評価したい。

 被爆国の日本は、もとより核廃絶の先頭に立つべき国だ。最大の核大国である米国と連携し、果たしうる役割は大きい。

 声明の背景には、NPTに基づく核不拡散体制が揺らいでいることへの危機感があった。

 非核保有国の間では、米ロ中英仏など核保有国の核軍縮のスピードが遅く、「核なき世界」への展望がいっこうに開けぬことへの不満が高まっている。

 日米両国はその実現に向けた努力を改めて宣言した。積極的に行動していく責任がある。

 声明は「即時に採らねばならぬ措置」として、米国とロシアの交渉を通じたいっそうの核削減をかかげた。さらに、議会の抵抗で米国が批准できていない包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効も挙げた。

 いずれも、当事国の米国がただちに着手すべき課題だ。

 ただ、楽観はできない。

 共同声明は、核軍縮はあくまで段階的に進められるべきだ、との考えを強調した。

 「核兵器は非人道的。だから国際法で明確に禁止しよう」とする一部の非核保有国の動きには距離を置くものだ。

 米国は核兵器を安全保障の根幹に据え、日本はその傘に依存する。にわかに非合法化に応じられないにしても、非核保有国側の失望は必至だ。

 NPT再検討会議では、核の非合法化が論点となりそうだ。日米としてもっと歩み寄る道を探ってもらいたい。

 一方で声明は、日米安保体制の核の傘のあり方には言及しなかった。

 オバマ政権は核兵器の役割低減に力を注ぐ。核保有の目的を「相手からの核攻撃の抑止」に限り、相手より先に核を使わないと約束する政策も視野に入れる。だが日本は核実験を繰り返す北朝鮮や、中国の核の脅威を理由に、「核の傘」の維持にこだわる方針を崩さない。

 核の脅しで身を守ろうとする発想を変えない限り、相手の核依存も変わるまい。

 核廃絶を実現するには「核の傘」からの脱却が不可欠だ。その具体的な道筋を、日本が率先して探っていく必要がある。

日米首脳会談―「和解の力」を礎にして

 戦後70年の日米首脳会談である。訪米した安倍首相とオバマ大統領がホワイトハウスで会談し、安全保障、経済の両面で、強い連携をうたいあげた。

 両首脳の共同声明では、こんな認識が示されている。

 「かつての敵対国が不動の同盟国となり、アジアや世界において共通の利益や普遍的な価値を促進するために協働しており、和解の力を示す模範となっている」

 70年前、米国を中心とする連合国との戦争に敗れ、占領された日本。そこから民主主義国として再出発し、憲法9条と日米安保条約を基盤に平和国家を築いてきた。

 その延長線上に、日米とアジアの未来を描けるか。まさに、和解の力が針路を定める原点でなければならない。

 両首脳が意識しているのは、大国化した中国の存在である。日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の18年ぶりの改定は対中戦略の一環だ。

 両首脳が合意への決意を示した環太平洋経済連携協定(TPP)も、米国中心の国際秩序にいかに中国を組み込むか、という発想が根底にある。

 日米にとって中国は明確な敵ではない。経済の関係を深め、安全保障上の危機を回避するため、知恵を絞って向き合うべき相手である。必要なのは、やはり和解の力に違いない。

 今回の訪米で、米側が安倍首相の歴史認識に注目しているのも、そのためだ。米国や中国、韓国と共有できる歴史認識に立って、粘り強く地域の安定をめざすことが日本のリーダーには求められる。

 共同会見でオバマ氏は「日本の軍事力の展開にすぐに大きな変化があるとは思わない」と述べた。日米同盟の強化とあわせて「中国との軍同士の協力も強化したい」とも語った。

 同盟の目的は、地域の安定であり、中国と敵対することではない。そんな考えが鮮明に表れている。

 気がかりなのは、沖縄の普天間問題だ。辺野古以外の選択肢を模索しない両政府の姿勢は、日米安保の効果的な運用を妨げる可能性がある。

 首脳会談の開かれた28日は、沖縄にとって「屈辱の日」とされる。52年にサンフランシスコ講和条約で日本が主権を取り戻す一方、沖縄などが米国統治下に残された。首脳会談は沖縄を再び置き去りにする内容だったと言うほかない。

 この断絶を放置して同盟強化をうたってもむなしい。ここでも、和解の力が試される。

日米首脳会談 世界平和と繁栄に役割果たせ

 ◆対中国で「法の支配」を広めたい◆

 戦後70年の節目に、日米両国が世界の平和と繁栄の維持に向け、主導的な役割を果たす意志を明示した意義は大きい。歴史的な会談と言える。

 安倍首相とオバマ米大統領がワシントンで会談し、「日米共同ビジョン声明」を発表した。声明は「かつての敵対国が不動の同盟国」となり、アジアと世界のために協働していることを「和解の力を示す模範」と評価した。

 安倍政権の「積極的平和主義」と、オバマ政権のアジア重視のリバランス(再均衡)戦略を通じ、日米が連携する方針も示した。

 ◆「不動の同盟」発信せよ◆

 日米同盟は、東西冷戦中も冷戦終焉(しゅうえん)後も、地域を安定させる「国際公共財」との信頼を得てきた。今後も両政府は、政治、経済両面で世界に貢献すべきだろう。

 声明は、日米関係の歩みに関連し、「過去の経験は教えとすべきであるが、将来への可能性に制約を課すべきではない」と指摘した。歴史認識を巡る中韓両国の日本批判を想定したとみられる。

 首相は、共同記者会見で、慰安婦問題について、「非常に心が痛む。河野談話を見直す考えはない」と強調した。

 日本は戦前・戦中への反省を踏まえつつ、未来志向で国際社会に関与することが大切である。

 会談では、新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)の策定で日米同盟の抑止力と対処力が一層強化されると確認した。

 オバマ氏は、尖閣諸島が日米安保条約5条に基づく米国の防衛義務の対象だと改めて明言した。

 ◆新防衛指針の具体化を◆

 新指針は、平時から有事まで、自衛隊と米軍の切れ目のない協力を可能にする。日本周辺に限定されていた日米協力も地球規模に拡大する。いずれも画期的だ。

 日米の部隊運用の調整機関や共同作戦計画を具体化し、新指針の実効性を高めたい。安保関連法案は今国会で成立させるべきだ。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設について、首相は、「唯一の解決策との立場は揺るぎない」と強調した。米軍の新型輸送機オスプレイの訓練の県外移転など、沖縄の負担軽減に努める考えも示した。オバマ氏は協力を約束した。

 同盟の根幹である米軍の日本駐留を持続可能なものにするため、日米双方が基地周辺住民の負担軽減に力を入れる必要がある。

 辺野古移設をめぐる日米両政府と沖縄県の主張の違いは大きい。だが、普天間飛行場の固定化を避けるには、ぶれることなく移設を進めることが欠かせない。

 中国について、両首脳は、南シナ海での岩礁埋め立てを念頭に、「一方的な現状変更の試みに反対する」との立場で一致した。

 日米が連携し、「法の支配」に基づく自由で開かれたアジア太平洋地域を発展させ、そこに中国を取り込むことでも合意した。

 オバマ氏は、中国の強引な海洋進出について「力を拡大しようとしている。そうしたやり方は間違っている」と批判した。

 東シナ海における防空識別圏の設定や恒常的な領海侵入、南シナ海での飛行場建設など、中国の一方的な行動は看過できない。

 軍事、経済両面で台頭し、自己主張を強める中国に、いかに独善的な行動を自制させるかは、国際社会の共通課題だ。

 日米両国は、国際ルールに沿った話し合いによる問題解決を中国に働きかける必要がある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)に関し、会談では、先週の日米閣僚協議の「進展」を歓迎した。日米協議の前進が12か国の全体交渉を推進するとして、日米が早期妥結を主導する方針も確認した。

 TPPは、成長が著しいアジアに高いレベルの自由貿易・投資ルールを確立し、将来的には安定的な国際経済秩序に中国を組み込むという戦略的な重要性を持つ。

 ◆TPP早期妥結図ろう◆

 米国産米の輸入量拡大など、残された課題の克服へ、日米双方の一層の努力が求められる。

 交渉の妥結には、米大統領に通商一括交渉権(TPA)を付与する法案の早期成立が不可欠である。オバマ氏には、議会の説得工作を加速させる責任がある。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)について、首相は、個別融資案件の厳重な審査など「公正なガバナンス」の必要性を指摘した。オバマ氏も、融資基準の透明性の確保が重要だと語った。

 AIIBには、国際金融機関としての運営の公平性などに強い懸念がある。日米両国が参加を見合わせているのは妥当だ。今後も中国の出方を慎重に注視したい。

2015年4月29日水曜日

経産省の電源構成案は長期展望を欠く

 経済産業省の有識者会議が2030年の日本の電源構成について原案をまとめた。福島第1原発事故のあと白紙同然だったエネルギー政策に、ようやく見取り図らしきものができた点は評価したい。だが、事故の教訓を踏まえた議論としてはなお不十分だ。

 私たちは電源構成の議論で明確にすべき点を2つ指摘してきた。ひとつは原発の位置づけだ。1年前に閣議決定したエネルギー基本計画は「(原発)依存度を可能な限り低減する」と表明し、同時に電力の安定供給に必要な「規模を見極める」とも打ち出した。

 経産省案は全電源の20~22%を原子力とした。これは東日本大震災前の約28%より低い。問題は、さらに依存度を下げていく通過点なのか長期的に確保を目指す水準なのか、はっきりしないことだ。

 通過点とするなら、将来の依存度をどこまで下げるのか明らかにする必要がある。長期的な目標なら原発の建て替えや新設を避けて通れない。どちらの議論も経産省案には盛り込まれていない。原発の位置づけは曖昧なままだ。

 もうひとつは再生可能エネルギーの導入目標だ。国が認定済みの建設計画が加わるだけで再生エネの比率は20%に近づく。経産省案の22~24%だと、これ以上は大きく増やせない。それでいいのか。

 2012年に始まった再生エネの固定価格買い取り制度は、太陽光発電に偏りすぎた。風力や地熱発電の拡大はこれからだ。

 一方、買い取り制度の下で家庭や企業が支払わなければならない賦課金は、10~20年の買い取り期間が終われば減少に転じる。太陽光発電は燃料不要の安価な電源になりうるわけだ。こういった論点を精査して長期的な導入戦略を考える必要があるが、経産省案にそんな目配りはうかがえない。

 見通しが不透明なのは石炭火力も同じだ。石炭火力は発電コストが比較的安く、電力自由化を前に駆け込み的な増設計画が相次いでいる。発電能力の増加は原発15基分に相当するとされる。

 経産省はそうした増設計画の詳細を示さないまま石炭火力を約30%から26%に減らすとしたが、現実に即した数字といえるのか。

 省エネや再エネへの投資は新産業を生みだす可能性がある。一方で、電力コストの上昇は電力を多く消費する産業にとって逆風となる。電源構成が経済や産業構造に及ぼす影響も分析すべきだ。

証券取引所の競争力を磨け

 東京証券取引所と大阪取引所を傘下に持つ日本取引所グループのトップが6月に交代する。斉藤惇グループ最高経営責任者(CEO)が退任し、東証社長の清田瞭氏が新CEOに就任する。

 斉藤氏は東京と大阪の取引所を統合し、証券市場の活性化や国際化への基礎を築いた。新CEOの責務は、市場機能を磨き、高成長が続くアジアの中で存在感を高めることにある。

 まず、日本の株式市場の規模をさらに大きくしたい。そのためには成長力ある企業の上場を促し、株式市場に多くの資金を呼び込まなければならない。

 アジア各地の取引所と比べると、日本市場の株式の売買代金は中国の上海などを下回っている。証券会社との連携を深め、成熟した大企業だけでなく、地方企業やベンチャーの上場も積極的に支援していく必要がある。

 多くのIT(情報技術)企業が集まる米ナスダック市場の株価が15年ぶりに最高値を更新したことにうかがえるように、企業の成長性こそはグローバルな投資資金を引きつける大きな力だ。

 投資家から信頼される質の高い市場づくりも求められる。説得力のある業績予想の開示や、社外の目を取り入れた企業統治の確立など、取引所が上場企業に働きかけられることは多い。

 取引所自身も、コンピューターを使った超高速取引に対応できるシステム開発を、引き続き進める必要がある。

 国際戦略も大きな課題となる。まずはアジア各国との結びつきを強めたい。日本取引所はミャンマー証券市場の整備を手伝っているほか、ベトナムのデリバティブ(金融派生商品)市場の設立も支援する方針だ。

 こうした取り組みを、地理的に近いアジアはもちろんのこと他の新興国にも広げ、世界の投資家の日本への評価を高めたい。市場への資金の呼び込みにもつながる。各国の取引所との資本・業務提携を積極的に検討すべきだ。

外務省の広報―報道の自由を損なう

 日本政府は外国メディアに不当な圧力をかけているのではないか。そう疑われても仕方のない事態が起きている。

 ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネの東京特派員カルステン・ゲルミス氏が5年余りの任期を終えるにあたって日本外国特派員協会の会報誌に回顧談を寄せ、「外務省からの攻撃にさらされるようになった」と振り返った。昨年夏、安倍政権を「歴史修正主義」と批判する記事をゲルミス氏が書いたところ、フランクフルトの日本総領事が同紙の本社を訪れ、編集幹部に抗議したのだという。

 その際、総領事は「中国が反日宣伝に利用している」「金が絡んでいると疑い始めざるを得ない」と侮辱したと、ゲルミス氏は書いている。この点について外務省は否定する。

 記事に対し外務省が反論するのなら、投稿などオープンな方法で伝えればいい。わざわざ本社に乗り込んで抗議するのが適切な方法だったのか。メディア側に圧力と受け止められれば、対外広報としては失策だ。

 報道の自由は民主政治の根幹のひとつである。このことを外務省はどれだけ理解しているのだろうか。

 米紙の東京特派員が、在米日本大使館幹部から圧力と疑われるメールを受け取っていたことも明らかになった。慰安婦問題で安倍政権批判のコメントを寄せた学者について「よく分からない人物」と評し、別の学者に取材するよう勧める内容だった。外務省は「あくまで個人的な意見」と釈明するが、特派員としては政府の圧力と受けとっても当然だ。

 フランスに本部を置く「国境なき記者団」が今年2月に公表した報告は、報道の自由度ランキングで日本の順位を昨年から二つ下げ61位とした。昨年12月に施行された特定秘密保護法によって、取材のやり方次第で記者が懲役刑を受ける可能性が生じた点を重くみたためだ。

 米国の非営利団体「フリーダムハウス」も同様の理由から、日本の報道の自由度が下がったと判断している。

 これらの見方がすべて妥当とは限らない。ただ欧米でそんな見方が広がっていることは、意識しておく必要があろう。

 外務省は外国の世論に直接働きかける「広報文化外交」を重視している。積極的に情報を発信し、日本の政策や文化への理解を深めてもらう狙いだ。しかし、いま起きているのは、外務省が率先して自国の印象を損なっているという倒錯である。根本的に考え直した方がいい。

原発の比率―40年超を前提にするな

 経済産業省が、2030年の電源構成(エネルギーミックス)について、きのうの審議会に骨子案を示した。省エネ対策を進めて年間の電力需要を今より17%(1961億キロワット時)減らしたうえで①水力を含む再生可能エネルギーの割合を22~24%②原子力は20~22%程度、とする中身である。

 原発比率を「20~22%程度」とすることには、問題がある。

 というのも、「20~22%」は事実上、40年超の原発も運転し続けることを前提にした数字だからだ。この水準を維持するには、原発を新増設するか運転を延長するしかないが、政府は「新増設は考えていない」との姿勢を崩していない。

 福島第一原発の事故後、原子炉等規制法が見直され、原発は40年を寿命とする原則が決まった。この法律と整合しない数値を示すことに、正当性はあるのだろうか。

 国内で建設が始まった当初、原発は30~40年の寿命が前提とされてきた。だが、新規立地が難しくなり、主として経済的な要因から運転延長が認められてきた経緯がある。

 ただ、運転を長く続ければ原子炉圧力容器などが劣化し、安全性も下がる。事故後は「供給側の事情に配慮するような発想を切り離す」ことを目指して、運転を40年に制限することが改正法に盛り込まれた。

 法律には原子力規制委員会の特別な審査に合格すれば1回だけ最長20年の延長が認められる規定がある。

 ただ、これは法案をつくる時点で、電力不足に陥る懸念があったために「極めて例外的」なケースとして設けられたもので、規制委の田中俊一委員長も規制委発足時の会見で「(特別審査への合格は)相当困難」との認識を示している。

 国内の原発は運転開始から30年を超えるものが多く、40年規制を自動的に当てはめるだけで、30年時点での原発比率は15%程度に低下する。

 大地震の恐れや活断層などの問題があったり、十分な避難計画が策定できなかったりする原発については寿命をまたずに閉めることを踏まえれば、比率はさらに下がるはずだ。

 電力会社側は「40年には科学的根拠がない」として、関西電力が3基について運転延長を申請する準備に入っている。しかし、審査に通るかどうか、現時点では見通せず、40年超を前提にすることには無理がある。

 骨子案をもとに、政府は6月にも電源構成を決める。原発比率は再考するべきである。

2030年電源構成 エネルギーの安定に資するか

 ◆原発新増設の必要性を明示せよ

 電力は日本の経済・社会を支える極めて重要なインフラである。

 電源構成の将来像は、安全性はもとより経済性やエネルギー安全保障、地球環境への影響を総合的に判断して定めるべきだ。

 経済産業省の有識者会議が、2030年の望ましい電源構成案を公表した。これを踏まえ、5月中にも政府案が決定される。

 東日本大震災前に29%だった原子力発電の比率を「20~22%」とし、10%の再生可能エネルギーは「22~24%」に倍増する。残りは火力発電で賄う内容だ。

 ◆高コスト体質が心配だ

 政府は、電源構成をもとに温室効果ガス削減目標を定め、6月の先進7か国首脳会議で示す。

 安全性の確保を前提に一定の原発比率を維持する。環境負荷の小さい再生エネは、コストを勘案しながら最大限活用する。燃料を輸入に頼る火力は抑制する。こうした方向性は妥当だろう。

 燃料費が安く、昼夜を問わず発電するベースロード電源は、原発と石炭火力、再生エネの水力・地熱の合計で56%とした。

 経産省や自民党が掲げたベースロード電源6割という安定供給の条件にも配慮したと言える。

 問題なのは、震災前より家庭で2割、企業は3割も上がった電気料金が、30年になってもあまり下がらない見通しであることだ。

 発電費用の高い再生エネの拡大によって、電力の高コスト体質が改善されないためである。

 電気料金の高止まりのハンデを負って、日本企業は厳しい国際競争を勝ち抜けるか。家計のやり繰りが苦しくならないか。経済成長や国民生活への影響を、しっかり検証する必要がある。

 発電費用が低く、二酸化炭素を排出しない原発は、料金抑制と環境保全の両面で貢献しよう。

 経団連は、電力コストや供給の安定性を重視して、原発を25%超とし、再生エネは15%程度にすべきだとする提言をまとめている。政府はこうした意見にも耳を傾け、有識者会議の示した電源構成案の妥当性を精査すべきだ。

 無論、将来の電源構成を掲げるだけでは、電力の90%を火力に依存する危機的な現状を解消できない。安全性を確認できた原発の再稼働を着実に進めることが、何より重要だ。

 ◆最終処分場確保も急務

 気がかりなのは、原発を運転開始から40年で廃炉にする原則を厳格に適用していくと、2030年の原発比率は最高でも15%にとどまることである。

 新規制基準に基づく安全審査をパスすれば、運転期間は最長60年間に延長できる。原子力規制委員会による審査を円滑に機能させ、既存の原発を有効活用したい。

 30年以降も原発を主要電源として利用し、必要な人材を確保・育成するには、原発の更新や新増設は欠かせない。政府は今夏に予定する電源構成の正式決定にあわせて、将来的に原発を新増設する方針を明確に打ち出すべきだ。

 使用済み核燃料を再処理して活用する核燃料サイクル政策の停滞も、解消が急がれる。

 青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場が稼働しないと、多くの原発で使用済み核燃料の保管場所が満杯になり、運転が継続できなくなる恐れがある。

 放射性廃棄物の最終処分場の確保も避けて通れない課題だ。政府が前面に立ち、候補地の選定に道筋をつけねばならない。

 ◆費用対効果の検証を

 国内で自給できるクリーンな再生エネはできるだけ伸ばしたいが、費用対効果の面で今回の比率目標が現実的かどうか、さらなる検討が必要だろう。

 現在、再生エネの大半を占める大規模水力は、ダムの新規開発が見込めず、大幅な上積みは望み薄と見られる。

 このため、比率を22~24%に高めるには、発電単価が原発の2~3倍も高い太陽光や風力などを中心に増やさねばならない。

 現行の固定価格買い取り制度で国が既に認定した太陽光や風力などの全発電設備が稼働すると、計2・7兆円の負担金が電気料金に上乗せされる。目標達成には、さらにコストがかかる。

 再生エネの発電量低下に備えた火力のバックアップ電源を維持するだけでも、最大で年7000億円の費用が要る。

 天候や時間帯に応じて発電量が大きく変動する再生エネの比率が高まると、電力の需給調整が困難になるという技術的な問題もある。これらにどう対処するかが、大きな課題となる。

2015年4月28日火曜日

海外市場で競うエネルギー企業目指せ

 東京電力と中部電力が火力発電と燃料調達事業を統合する新会社が30日に発足する。

 電力小売りの全面自由化を来年に控え、電力業界の本格再編が幕を開ける。新会社の始動が国内だけでなく、海外市場で競うエネルギー産業に脱皮する足がかりとなることに期待したい。

 新会社は東電と中部電が個別に実施してきた発電燃料の調達や、新しい火力発電所の建設を一体化する。既存の火力発電所についても、2017年をめどに新会社に移管するかどうか判断する。

 新会社が海外から買う液化天然ガス(LNG)は、年間4000万トンと、世界最大規模になる。調達量をいかして燃料コストを下げ、電気料金を抑えることは東電や中部電の競争力を高め、ひいては消費者の利益となるはずだ。

 新会社の社長に就く中部電の垣見祐二専務執行役員は記者会見で、「世界で戦うグローバル企業を目指す」と語った。地域独占に守られてきた電力会社が海外に目を向ける決意に注目したい。

 東電と中部電の火力発電能力は国内外合計で7400万キロワット。新会社はこれを世界最大級となる1億キロワットに増やすという。国内の電力需要の伸びは限られる。目標の達成には海外での発電能力を現在の4倍に高める必要がある。

 電力自由化で先行した欧州では、自由化をきっかけに業種や国境を越えたエネルギー企業の再編が進んだ。連携によって高めた競争力を、電力需要が伸びる新興国市場の開拓につなげた。

 英蘭系メジャー(国際石油資本)のロイヤル・ダッチ・シェルが買収する英BGグループは政府系の英国ガス公社が源流だ。民営化と自由化をてこに海外事業を広げてきたが、厳しい競争を乗り切るためメジャーの傘下に入る。欧州は今も再編の途上にある。

 日本は欧州がたどった道の入り口に立つ。国内に閉じこもってきた日本の電力やガス会社は海外勢に比べて経験が乏しい。それでも、新興国の成長取り込みに動くべきだ。他社との連携はそのための重要な手段となる。

 九州電力と出光興産、東京ガスの3社は東京湾岸に共同で石炭火力発電所を建設する検討を始めた。関西電力も商社や石油会社と東日本での発電所建設を検討している。他社も連携に踏み出しつつある。この流れを新しいエネルギー産業の姿につなげていきたい。

核軍縮への機運再び高めよ

 世界の核不拡散体制の礎となる核拡散防止条約(NPT)の再検討会議がニューヨークの国連本部で27日開幕し、1カ月近くに及ぶ議論が本格化する。今年は広島、長崎への原爆投下から70年の節目でもある。核軍縮への取り組みを着実に進める必要がある。

 同会議は5年ごとに開き、核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用を話し合う。その成果を最終文書として採択できるかが焦点だ。

 5年前の会議は、米国のオバマ大統領が「核兵器なき世界」を唱えるなか、核大国の米ロが戦略核弾頭の配備数を各1550発まで削減する新たな条約に調印した直後に開かれた。追い風もあって10年ぶりに最終文書を採択した。

 今回はイランの核問題をめぐる枠組み合意を除けば、一転して逆風下にある。核軍縮を主導すべき米ロの関係が、ウクライナ危機で大きく冷え込んだからだ。ロシアのプーチン大統領は米国への対抗意識を強め、「我々は偉大な核大国」と公言してはばからない。

 中国の対応も遺憾だ。NPTは米ロ英仏中の5カ国を核兵器保有国と定めるが、中国だけが核戦力を増強しているようだ。同国は核兵器の保有数を公表せず、透明性にも問題がある。

 核保有国が核軍縮に取り組まなければ、NPT体制は一段と形骸化しかねない。現に北朝鮮は国際社会の批判を無視して核開発を続け、核弾頭の小型化も進める。事実上の核保有国であるインドやパキスタン、イスラエルがNPTに加わる可能性もほぼ皆無だ。

 世界には1万6000発を超える核弾頭が存在し、9割以上を米ロが保有する。いくら関係が冷え込んだとはいえ、米ロには誠実に核軍縮を進める責務がある。

 米国は2年前、配備済みの戦略核弾頭を各1000発程度に減らすようロシアに呼びかけた経緯がある。まずは両国が歩み寄り、いずれは中国を含む多国間の核軍縮交渉につなげるべきだ。会議では日本も主導して、核軍縮への機運を再び高める議論を求めたい。

日米防衛指針の改定―平和国家の変質を危ぶむ

 実に18年ぶりの「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)改定である。

 日米両政府が今後の安全保障政策の方向性を確認する新指針には、「切れ目のない」「グローバルな」協力がうたわれ、自衛隊と米軍の「一体化」が一段と進む。憲法の制約や日米安保条約の枠組みは、どこかに置き忘れてきたかのようだ。

 これまでのガイドラインは、1978年に旧ソ連の日本侵攻を想定し、97年には周辺事態を想定して改定された。今回はさらに、次元の異なる協力に踏み込むことになる。

 改定の根底にあるのは、安倍政権が憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使容認に踏み切った、昨年7月の閣議決定だ。それを受けた安保法制が今国会の焦点となる。

 その審議を前に、新指針には早々と集団的自衛権の行使が反映されている。自民党と公明党との間で見解の割れる機雷掃海も盛り込まれる。

 対米公約を先行させ、国内の論議をないがしろにする政府の姿勢は容認しがたい。

■戦後日本の転換点に

 「積極的平和主義」のもと、国際社会での日本の軍事的な役割は拡大され、海外の紛争から一定の距離を置いてきた平和主義は大幅な変更を迫られる。

 それはやがて日本社会や政治のあり方に影響を与えることになろう。戦後日本の歩みを踏み外すような針路転換である。

 その背景には、大国化する中国に対する日本政府の危機感がある。

 ――軍事的に日本より中国は強くなるかもしれない。それでも、中国より日米が強ければ東アジアの安定は保たれる。緊密な日米同盟が抑止力となり、地域の勢力均衡につながる。

 そんな考えに基づき、より緊密な連携機能を構築して、共同計画を策定。情報収集や警戒監視、重要影響事態、存立危機事態、宇宙やサイバー空間の協力など、日本ができるメニューを出し尽くした感がある。

 だがそれが、果たして唯一の「解」だろうか。

 中国の海洋進出に対して一定の抑止力は必要だろう。だがそれは、いま日本が取り組むべき大きな課題の一部でしかない。経済、外交的な手段も合わせ、中国という存在に全力で関与しなければ、将来にわたって日本の安定は保てない。

 軍事的な側面にばかり目を奪われていては、地域の平和と安定は守れまい。

■あまりにも重い負荷

 新指針が示しているのはどのような日本の未来なのか。

 まず多額の防衛予算を伴うはずだ。5兆円に近づく防衛費は自衛隊が海外での活動を広げれば、さらにふくらむ可能性が大きい。財政健全化や社会保障費の削減を進めながら、防衛費の大幅な拡大に国民の理解が得られるとは考えにくい。

 自衛隊員への負荷はいっそう重いものとなる。

 特に、戦闘現場に近づく活動が見込まれる陸上自衛隊には、過酷な任務が待ち構えている。海外で治安維持の任務にあたれば、銃を撃ったり、撃たれたりする危険がつきまとう。とっさの判断で現地の人を撃つ場面がないとは言い切れない。

 国際社会で日本の軍事的な関与が強まれば、それだけテロの危険も高まるだろう。

 近年は、警備の手薄な「ソフトターゲット」が攻撃される例が目立つ。外交官やNGO関係者ら日本人対象のテロを、より切実な問題として国内外で想定しなければならない。

 将来的には、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで自衛隊が米軍の後方支援に派遣される可能性もゼロとは言えない。南シナ海では、すでに米軍が警戒監視などの肩代わりを自衛隊に求め始めている。

■問われる方向感

 メニューを並べるだけ並べながら日本が何もしなければ、かえって同盟は揺らぐ。米国から強い要請を受けたとき、主体的な判断ができるのだろうか。

 安倍政権の発足から2年半。日本の安保政策の転換が急ピッチで進められてきた。

 安全保障政策の司令塔となる国家安全保障会議(NSC)を創設し、国家安全保障戦略(NSS)を初めて策定。特定秘密保護法が施行され、武器輸出三原則も撤廃された。

 新指針では、「政府一体となっての同盟としての取り組み」が強調されている。政府が特定秘密保護法の整備を進めてきたのも、大きな理由の一つは、政府全体で秘密を共有し、対米協力を進めるためだった。

 安倍政権による一連の安保政策の見直しは、この新指針に収斂(しゅうれん)されたと言っていい。

 だが、国内の合意もないまま米国に手形を切り、一足飛びに安保政策の転換をはかるのは、あまりにも強引すぎる。

 戦後70年の節目の年に、あらためて日本の方向感を問い直さなければならない。

防衛協力新指針 日米同盟の実効性を高めたい

 平時から有事まで、切れ目のない自衛隊と米軍の共同対処の大枠が整ったことを評価したい。

 日米両政府は、外務・防衛担当閣僚の安保協議委員会(2プラス2)で、新たな日米防衛協力の指針(ガイドライン)を決定した。

 安保法制の全容が固まったことを踏まえ、集団的自衛権の行使の限定容認に伴う様々な協力が盛り込まれた。海上自衛隊による米軍艦船の防護や、海上交通路(シーレーン)での機雷掃海などだ。

 日本の安全確保にとって、長年の懸案だった自衛隊に対する憲法解釈上の制約の緩和は、米軍との機動的かつ柔軟な協力を大幅に強化する画期的な意味を持つ。

 軍備増強や海洋進出を続ける中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への抑止力も強まる。

 有事に至らないグレーゾーン事態でも「アセット(装備品)防護」による米艦防護を可能にする。

 米軍も自衛隊への支援を強化する。南西諸島を念頭に置いた島嶼(とうしょ)防衛の協力は象徴的だ。作戦は自衛隊が主体的に実施し、米軍は支援・補完する立場だが、米軍の関与が明確になることで、他国に対する牽制効果は大きい。

 双方向の協力の拡大で、日米の信頼関係は一層深まるだろう。

 新指針は、自衛隊と米軍の部隊運用に関する日米共同調整所などの「同盟調整メカニズム」を平時から設置する、と明記した。

 1997年策定の現指針は、危機発生後に設置するとしていた。より早い段階から日米が情報を共有し、共同対処することの重要性は、東日本大震災での米軍の「トモダチ作戦」で再認識された。

 日米が効率的に役割分担し、危機の芽を迅速に摘める仕組みとすることが大切である。

 現指針は、朝鮮半島有事を想定した周辺事態での日米協力に力点を置いた。新たな指針は、世界規模の日米同盟を目指し、協力の対象や地理的範囲を拡大する。

 周辺事態を「重要影響事態」に改めるのに伴い、米軍に対する自衛隊の後方支援の地理的な制約を外し、日本周辺以外でも支援できるようにすることは意義深い。

 新指針は、あくまで日米協力の大枠を定めるものだ。自衛隊と米軍の部隊を効果的に動かすには、様々な有事のシナリオを想定した共同計画の策定が欠かせない。

 その計画に基づき、共同訓練を実施する。問題点を検証し、計画の内容を見直す。このプロセスを着実に繰り返すことこそが、日米同盟の実効性を高めよう。

ネパール大地震 国際社会の手厚い支援が要る

 国際社会が協力し、生存者の救出や保護を急がねばならない。

 ネパール中部でマグニチュード7・8の地震が発生した。インドやバングラデシュ、中国なども強い揺れに見舞われ、4か国の死者は3900人を超えた。

 被害が甚大なのは、震源に近いネパールの首都カトマンズだ。多くの住宅やビルが倒壊し、生き埋めになる住民が相次いだ。道路をふさいだがれきが、救助活動を阻む。重機も足りない。

 余震を恐れ、多くの人が屋外で避難生活を続ける。水や食糧、医薬品などが不足している。

 交通や通信網が寸断され、被害の全容ははっきりしない。犠牲者はさらに増えるとみられる。ヒマラヤ山系では地震に伴う雪崩も発生し、登山で訪れていた日本人男性1人が亡くなった。多くの登山客が下山できずにいる。

 地震発生から72時間が過ぎると、生き埋めになった人の生存率は大きく下がるという。28日午後が救助作業の一つの目安だ。一人でも多くの被災者を助けたい。

 中国、インド、米国など各国が捜索・救援隊などを送り込んだ。日本政府は、2500万円相当の支援物資の提供を決め、70人の国際緊急援助隊も派遣した。他国チームとの連携が不可欠である。

 ネパール周辺は、二つのプレート(岩板)がぶつかる世界有数の地震多発地帯だ。1934年には1万人以上が死亡した。

 地震対策は著しく遅れている。観光以外に主要産業がなく、財政基盤が脆弱なため、ネパール政府は防災にまで手が回らない。

 今回、倒壊したのは、レンガを積んでモルタルで固めただけの建造物がほとんどだ。

 地盤が軟弱なカトマンズ周辺の特性を踏まえ、建造物の耐震化などの減災対策を進めることが重要である。各国には、救助活動の後も、復旧・復興へ向けた息の長い支援が求められる。

 3月に仙台市で開かれた国連防災世界会議で「仙台防災枠組み」が採択された。災害への備えができていない途上国に対し、国際社会が財政面や技術移転、人材育成などの支援を進める内容だ。

 その実効性が問われよう。

 大地震の発生が懸念されていたネパールでは、日本の大学の研究者や国際協力機構(JICA)が、被害予測や防災体制の調査に携わってきた。

 日本には、幾度もの震災を乗り越えた経験がある。その知見をネパールのために活用したい。

2015年4月27日月曜日

日本のITはウエアラブルで巻き返せ

 米アップルが腕時計型のIT(情報技術)機器を主要国で発売した。こうした端末はウエアラブルと呼ばれ、関連サービスを含めて裾野の広い市場に育つ可能性がある。日本企業も後れを取らず、新たな産業の創出に向け戦略的に事業を進めるべきだ。

 かつてコンピューターは巨大な装置だったが、1970年代に机に載るパソコンが登場し、ここ数年はポケットに入るスマートフォン(スマホ)が普及した。次の潮流であるウエアラブルは「身につけられる」を意味し、腕時計や眼鏡のような形状が多い。

 情報をやり取りするスタイルが変わるだけでなく、端末のセンサーで身体データを集め、健康管理をするといった使い方もできる。人とコンピューターの関係が再び変革期を迎える。

 パソコン、スマホの技術進化を主導したのは米国企業だった。製造分野ではコスト競争力をつけたアジア勢が台頭した。日本のIT業界は、世界の勢力図で影が薄れている。ウエアラブル時代の到来を巻き返しの契機にしたい。

 機器の小型・省電力化やセンサーに関する技術は、日本企業の強みだ。例えば、セイコーエプソンは腕時計、ディスプレー分野で蓄えたノウハウをもとにウエアラブル事業に進出した。社内に眠る技術を生かせないか、他の企業も点検してはどうか。

 ただし、単に端末をつくればすむほど競争は甘くない。それを使えばどんな便利さがあるのかを利用者に示す必要がある。センサーデータを活用して暮らしや仕事に役立つサービスを編み出すなど、柔軟な発想が問われる。

 個人情報の保護も気を抜けない。ウエアラブルは利用者の居場所や健康状態などプライバシーにかかわるデータを扱う。専門家からはハッカーの標的になるとの見方も出ている。サイバー攻撃への備えをこれまで以上に手厚くしなければならない。

 そういうソフト面の力が日本企業は弱いとされてきた。データ分析や安全対策のための人材育成が欠かせない。アイデアや技術をもつ起業家がいれば、資金や販売力のある大企業が協力し事業として伸ばしていく姿勢も大切だ。

 世界を見渡せば、ファッションなどIT以外の業界からウエアラブル市場に参入する例も目立つ。競争で埋没しない奮起を日本企業に望みたい。

「大阪都」巡る住民投票の意味

 大阪都構想の是非を問う住民投票が27日、告示される。5月17日に行われる投票の結果は大阪の将来を大きく左右する。

 橋下徹大阪市長が掲げる都構想は大阪市を5つの特別区に分割し、都市開発や大規模なインフラ整備などの権限を大阪府に集中させる構想だ。実現すれば2017年4月に大阪市は廃止され、東京の自治制度とほぼ同じ形になる。

 最大の利点は大阪という地域の司令塔を府に一本化して二重行政をなくし、政策を迅速に進める体制をつくれるということだろう。一方、新たな区庁舎の建設やシステム改修などにかなりの費用がかかるのがマイナス点だ。

 東京23区をみてもわかるとおり、新たにできる5つの特別区の行政サービスの水準はいずれ確実に違いが出てくる。これを地域住民の声を反映した各区の個性ととらえるか、格差とみるかで都構想に対する評価は分かれるだろう。

 これまでも全国各地で様々な住民投票が実施されてきたが、大阪市民を対象とする今回の投票は格段に重い。法律に基づく住民投票なので、市長や市議会はその結果に従うよう義務付けられている。大阪市民の選択がそのまま結論になるということだ。

 大阪では賛成派、反対派双方の活動が活発化している。自らの主張を訴えるだけでなく、市民の疑問に丁寧に答えてほしい。

 自治制度や政策を巡って、大都市で住民投票が実施されるケースも極めてまれだ。26日まで続いた統一地方選では各地で投票率が低下した。住民に直接的に政策を問う今回の試みは、自治のあり方を考えるきっかけにもなる。

 政令指定都市は1956年の制度創設時には大阪や横浜など5市だけだった。その後、人口基準が緩和され、現在では20市に上る。浜松市など過疎地域を抱える政令市も少なくない。

 もはや政令市は大都市だけに適用する制度とは言いがたい。今回の投票結果は他の大都市のあり方にも一石を投じるだろう。

大阪住民投票―大都市のあすを選ぶ

 大都市のあり方を直接、住民に問う、過去に例のない試みだ。後戻りできない重い選択であることを大阪市民は十分に考え、投票にのぞんでほしい。

 大阪市を廃止し、5特別区に分割する協定書への賛否を問う住民投票が、きょう告示される。橋下徹大阪市長は「大阪都構想」への賛否を問うという。反対派は、市を解体することの是非を問う投票と主張する。

 いずれにせよ、賛成が1票でも上回れば、政令指定都市の解体は決まる。市の行方は211万人の有権者に委ねられる。

 協定書によれば、人口34万~69万人の5区が誕生し、公選区長と議会を持つ。広域行政は大阪府が担い、市営地下鉄や都市計画決定権の多くも府に移る。

 この構想の最大のメリットは、府と市の長年の対立が解消し、強力な大阪府が誕生することだろう。橋下氏は「府域全体を見渡した成長戦略が実行できる」とし、カジノを中心にした大型複合施設の誘致や、鉄道・高速道路の整備を掲げる。都への名称変更にも意欲を示す。

 半面、懸念されるのは、誕生する5特別区の財政だ。

 大阪市の税収6300億円のうち、特別区の自主財源になるのは1700億円。残りは府が区の財政力に応じて配分する。

 初期費用として、新たな区役所の建設や住民票システムの変更などに600億円かかる。発足後の17年間で、5区合わせて2762億円の黒字を積み上げられるというが、市有財産の売却や職員の削減が前提だ。

 かつて、東京でも同じような制度変更があった。

 戦時中の1943年、首都の行政機構を簡素化するため、東京府と東京市が廃止され、東京都が誕生した。旧市域は現在、23の特別区が基礎自治を担う。

 協定書のモデルは東京都だが、大阪の特別区は児童相談所の設置、保育所の認可など、東京23区を上回る権限を持つ。大阪は少子高齢化、貧困層の増加といった課題が特に深刻だ。特別区が時代に合った行政サービスを担えるかがカギとなろう。

 市主催の説明会や、反対派の集会には多くの市民が詰めかけ、関心は高まっている。

 ただ橋下氏の説明ぶりには疑問を感じる。構想のデメリットはほぼ語らず、質疑では「反対の人とは議論しない」「もっと勉強して」との発言も。異論を認めない姿勢が目に余る。

 住民投票は橋下氏の信任投票ではない。投票日は5月17日。市民は政党や個人への支持・不支持を超え、協定書の中身を吟味して、賛否を決めてほしい。

高齢者の虐待―根絶に知恵しぼれ

 特別養護老人ホームやグループホームを対象に、高齢者への虐待の有無について聞いた全国調査で、1510施設が「あった」「あったと思う」と回答した。この項目に答えた約9千施設の約17%にあたる。

 調査はNPO法人が実施、この3年間について聞いている。虐待は▽暴力▽緊急やむを得ない場合を除く身体の拘束▽威嚇的、侮辱的な言葉▽状態に応じた介護を怠ること、などだ。

 虐待が高齢者の人権を侵害する行為であって、許されないことは論をまたない。同時に、虐待の土壌として、介護現場の人手不足があることも、かねて指摘されている。認知症や、手厚い対応が必要な高齢者の増加もあって、職員の労働は過重になりがちだ。余裕のなさや疲れが高齢者に対する配慮や優しさを奪ってしまう。

 人手不足の解消と、人手不足の原因となっている低賃金問題の解決が急務であることを改めて訴えたい。介護職の平均賃金は、全産業平均に比して月約10万円低い水準だ。

 しかし、現実には賃金の原資となる介護報酬は今年度から引き下げられている。予算措置を待っていては、問題の解決が先送りされることにもなりかねない。賃上げ以外にも、虐待を防ぐためにできることは尽くすべきである。

 まず、職員に対する研修の充実だ。人手不足を背景に、異業種から介護の職場に移る人も増えている。何が虐待にあたるのか、知らないための虐待、対応に困って高齢者を怒鳴りつけてしまうことを防ぐためには、知識や介護技術を基礎から丁寧に教える必要がある。

 経験を積んだ職員にとっても研修は日々の介護を振り返ったり、高齢者への接し方で気になる点を互いに指摘し合ったりする機会になる。

 基本的には各施設での実施になるが、国や自治体も積極的に関わるべきだ。都道府県が実施して参加を募る方法もあるし、研修を実施する施設や業界団体に費用を助成する支援もある。また、施設のトップに対する研修が効果的だとの指摘もあり、これを行政が主催してもいい。

 高齢者虐待防止法は、自治体に虐待の相談・通報窓口を周知させるよう求めている。家族の通報や職員の内部通報があれば、自治体は施設への事実確認を含めて必要な対応を取ることになる。窓口が広く知られ、施設が「外の目」を意識するようになれば、抑止にもつながる。

 虐待の根絶に、官民の知恵が求められている。

統一地方選終了 無投票は民主主義を脅かす

 地方創生の担い手をどう確保し、育てるか。深刻な課題が改めて浮き彫りになった。

 統一地方選の後半戦が終了し、政令市以外の市区町村で新たな首長と議員が誕生した。

 全国の自治体の約半数が「消滅」する恐れがある、との民間試算が昨年5月に発表された。東京一極集中が進む中、いかに人口流出を食い止め、地域を活性化するかが選挙戦で重要な論点となった。

 残念だったのは、41道府県議選などの前半戦に続き、後半戦でも無投票当選が目立ったことだ。

 89市長選では、津、長崎両市など、約3割を占めた。122町村長選では半分近く、373町村議選でも4分の1弱が、告示日に当選者が決まった。

 地方自治の人材の不足が今回ほど顕著になったことはない。

 農業や酪農が盛んな北海道浦幌町は、町議選の立候補者が10人にとどまり、定数11を割った。

 事前審査に出席したのは現職9人の陣営だけで、危機感を抱く関係者が候補者を懸命に探したが、呼応したのは1人だった。拘束時間の長さなどが敬遠された。

 出産祝い金、子供の医療費無料などの施策を講じているものの、人口は1960年の約1万4000人から半減した。人口減と政治の担い手不足の悪循環をどう脱するか。町の悩みは深い。

 無投票の増加は、地方の民主主義の危機にほかならない。

 有権者は、候補者の訴えに耳を傾けることで、自治体の将来を考え、より良い選択をする機会が持てる。候補者も、有権者の視線にさらされ、鍛えられる。

 無投票は、首長や議員の資質を低下させ、住民の地方政治への関心を一層弱めかねない。

 政府や自治体は、立候補者を増加させるための具体策に、本格的に知恵を絞る必要がある。

 長崎県小値賀町は今回、満50歳以下の町議の報酬を月18万円から30万円へ大幅に引き上げた。今回は出馬につながらなかったが、目のつけどころは悪くない。

 会社員が兼職しやすいよう、夜間や休日に本会議や委員会を開く方法もある。企業も、社員が出馬・当選した場合の休職制度の導入などを真剣に検討してほしい。

 投票率の低下傾向に歯止めをかけることも急務である。

 総務省研究会は先月末、駅構内やショッピングセンターへの投票所設置や、期日前投票の投票時間の柔軟化などを求める中間報告をまとめた。検討に値しよう。

装備の長期契約 防衛力増強へ効率化の徹底を

 防衛装備の調達を効率化し、限られた予算を有効活用して、防衛力の強化につなげるべきだ。

 航空機や艦船など高額な装備を長期契約で購入できるようにする特別措置法が成立した。現行の財政法では、契約の翌年度以降に支払う「国庫債務負担行為」は最長5年だが、10年まで延長する。

 防衛省は特措法を適用し、最新鋭のP1哨戒機20機を7年契約で一括購入する。総額3396億円で、4年契約で4回に分けて5機ずつ購入する従来方式に比べ、417億円も節減できるという。

 特措法は、南西諸島防衛を重視する中期防衛力整備計画(2014~18年度)に基づく装備調達を大幅に効率化する狙いがある。

 P1は、初の純国産哨戒機で、現在運用中のP3C哨戒機より潜水艦探知能力などが大幅に優れている。順次、P3Cと入れ替え、警戒監視活動に従事する。

 次の長期契約候補は、哨戒ヘリSH60Kなどである。

 厳しい財政状況の下、調達費の抑制は欠かせない。中期防は、7000億円程度の財源を調達改革で確保すると定めた。長期契約はその有効な手段と評価できる。

 短期契約の場合、企業は将来の受注が見通せず、人員配置や設備投資の計画を立てにくい。長期契約なら、人材育成や投資を積極的に行えるし、材料などのまとめ買いによるコスト縮減も可能だ。

 海外では、長期契約による調達が一般的である。米仏は、艦船や戦闘機、ミサイルなどを10年前後の契約で購入している。英国は最長25年の契約ができる。日本もようやく国際標準に近づいた。

 特措法は18年度までの時限立法だ。効果と課題を検証し、制度の恒久化を検討してはどうか。

 防衛省は10月に、装備調達などを一元的に担う「防衛装備庁」を設置する予定だ。必要な装備の目利きや価格交渉力の強化など、様々な改革を行い、合理化と透明性の確保を徹底してもらいたい。

 日本周辺では、ロシアや中国が急速な軍備拡大を続ける。

 中国の公表分国防費は1989年以降、ほぼ毎年10%以上伸びている。日本の防衛費は10年連続で減少し、13年度から増加に転じたが、伸びは年平均1・3%だ。

 このまま推移すれば、中国の国防費は5年後に日本の4倍超、10年後には7倍近くに膨らむ。

 こうした厳しい安全保障環境に対応するには、安保法制の整備に加え、調達改革を戦略的に進めることが重要である。

2015年4月26日日曜日

ギリシャは債務危機回避へ構造改革を

 ギリシャが借りたお金を返せずに、事実上の債務不履行となる危険が高まっている。金融市場では、ギリシャがユーロ圏から離脱する観測すら出ている。

 24日の欧州連合(EU)のユーロ圏財務相会合では、EUによるギリシャ向け支援の条件となる同国の財政改革や構造改革で合意できなかった。

 EUはギリシャの改革が「不十分」として、約72億ユーロのギリシャ向け融資を凍結している。ギリシャは5月以降に国際通貨基金(IMF)への借金返済を控え、EUの融資がなければ資金が底をつきかねない状況だ。

 EUとギリシャの協議が難航している最大の責任はギリシャにある。現在のチプラス政権は緊縮財政策に反対するギリシャ国民の支持を得て、1月に誕生した。

 民意が背後にあるからといって、総額で2000億ユーロを上回る支援を受ける見返りとしてEU・IMFと約束した改革を、すべてご破算にしていいわけがない。

 チプラス政権がこれまでにEU側に示したとされる改革案はあいまいな部分が多く、信頼に足る内容とはいえない。EU側とのいちおうの合意期限である4月末までに、詳細な歳出・歳入改革案や、抜本的な労働市場改革、国営企業の民営化計画を示すべきだ。

 仮にギリシャによるIMFへの返済が一時的に滞ったとしても、格付け会社が債務不履行と認定するかは不明だ。また、ギリシャが直ちにユーロ圏からの離脱を強いられるわけではない。

 現在のEU条約ではユーロ圏から離脱する規定は存在しない。ユーロ圏から離脱するならばEUからも離脱しなければならず、その場合はギリシャ経済に破滅的な被害をもたらすだろう。

 2010年~12年のギリシャ危機当時と比べると、ユーロ圏では金融安全網が整い、銀行システムも健全になりつつある。欧州中央銀行(ECB)の量的金融緩和を支えに、景気も持ち直している。

 しかし、ギリシャの混迷を放置しておけば、金融市場や貿易・投資を通じてユーロ圏全体に悪影響が及び、世界経済を揺るがす火種となるリスクは残っている。

 EU側も、ギリシャの財政再建のペースをやや緩めるなどして、柔軟に対応できる余地があるはずだ。今こそ「責任と連帯」の精神でギリシャとEUは歩み寄り、危機回避に全力を挙げてほしい。

空の競争を後退させるな

 民事再生手続き中のスカイマークが再生計画の素案を発表した。投資ファンドのインテグラルを中心にANAホールディングスや銀行が総額180億円を出資し、5年内の再上場をめざすという。

 1990年代の航空自由化で誕生したスカイマークは、これまでANA陣営にも日本航空陣営にも属さない唯一の独立系航空会社として存在感を発揮してきた。

 今年1月に法的整理に追い込まれた後も、当初は既存の航空会社の支援を受けない形の再生をめざしたが、最終的にはANAの出資を受け入れることになった。

 この決定そのものは妥当だろう。ANAはスカイマークの大口債権者である欧州のエアバスなどと取引がある。ANAが再建に加わることで、こうした債権者との交渉が円滑に進む可能性がある。

 きめ細かな料金設定などANAの持つ事業ノウハウを移植すれば、スカイマークの経営力向上も期待できる。再建を確実に進めるためにも、既存航空会社の参画は必要な一歩といえる。

 懸念されるのはスカイマークがANA陣営に帰属することで、競争が後退し、消費者の利便が低下しかねないことだ。競合会社の退出後に、その路線の運賃が値上がりする例は過去にもあった。

 空の競争環境の確保という視点からすれば、再建が完了した段階で、スカイマークが独立系企業として再出発するのが望ましい姿ではないだろうか。

 国土交通省には改めて航空市場の活性化策を求めたい。スカイマークなど新規参入組の経営が行き詰まった要因を分析し、今後に生かす必要がある。

 足元では訪日外国人が急増しており、海外勢を含めて格安航空会社(LCC)の日本への就航が拡大している。市場が伸びる局面は競争導入の好機でもある。新規航空会社の受け入れ余地を広げるためにも、羽田や成田など混雑空港の能力増強を進める必要もある。政府は「空の競争」促進にこれまで以上に本気になってほしい。

NPT会議―暗雲払う道筋を

 5年に1度、約190カ国の担当者らが核軍縮などを話し合う核不拡散条約(NPT)再検討会議が、27日から始まる。

 核兵器のない世界への歩みは依然として進まず、むしろ核を巡る世界の状況は悪くなっているなかでの開催だ。今年は広島、長崎への原爆投下から70年の節目にあたる。暗雲を払う道筋を示すことを期待したい。

 2010年の前回会議では、核廃絶への具体的措置など、64項目の行動計画を盛り込んだ最終文書が採択された。しかしこの5年間、その中身はほとんど達成されていない。

 例えば核大国である米ロの戦略核。3割減らす条約が11年に発効したが、両国の関係悪化でその後の交渉は停滞している。ロシアは核使用を示唆する動きすら見せ、不透明感を増す。

 懸案だったイランの核開発を巡っては米国などと枠組み合意に達した。一方、前回会議で開催を約束された中東非核化への国際会議は、関係国の合意が得られず開催のめども立たない。

 NPTの非加盟国に目を転じれば、インド、パキスタンは核兵器を増やしている疑いが強い。NPT脱退を宣言した北朝鮮も核実験を継続する。

 こうした情勢にどう歯止めをかけるか。

 風穴をあける端緒として期待したいのが、国際法で核兵器を禁じようという動きだ。前回会議の最終文書で「核兵器の非人道性」が明記されたのを受け、非核保有国の間で急速に拡大している考え方だ。

 昨年末、非人道性をテーマにウィーンで開かれた国際会議には米英も参加した。ただ核を安全保障の根幹に位置づける核保有国側は、核兵器の禁止は断固として応じないかまえだ。

 会議を主催したオーストリアは、再検討会議を前に禁止に向けた「効果的な措置」を考えようと呼びかける文書を出した。

 核保有国が主張する段階的核軍縮に進展がないなら、もっと効果的な別の道を考えるのは当然だろう。議論に背を向けず、接点を探ってほしい。

 残念なのは、米国の「核の傘」に依存する日本が非合法化に否定的なことだ。被爆国として特別の立場にある日本は、非核保有国側との橋渡しが期待されてきた。これではその役割を果たすどころか、核廃絶への流れを遅らせる恐れすらある。

 会議に合わせ、30人を超す被爆者が渡米する。最高齢の斎藤政一さん(90)は「生きている限り核廃絶を訴える」と語る。願いの実現に向け、とりわけ日本に積極的な行動を望む。

スカイマーク―「第三極」として再建を

 経営が行き詰まった国内航空3位のスカイマークについて、再建策の骨格が固まった。

 新たな株主として、既にスカイマークを支援している投資ファンドのインテグラルが50・1%を、わが国航空トップのANAホールディングスが最大19・9%を出資する。ANAはスカイマークとの共同運航に加え、機体整備や燃料、部品の共同調達など業務面でも支援する。

 ただし、スカイマークはあくまで独立した会社として運航路線や運賃を独自に決め、5年以内に株式の再上場を目指す。

 ANAと日本航空(JAL)の2強が主導する国内航空分野で、スカイマークは低料金を武器に約20年前に参入し、競争の促進と新たな需要の開拓にひと役かってきた。その会社が、ライバル視してきた大手の支援を受けつつ生き残りをはかる、複雑な構図である。

 スカイマーク以外にも札幌や北九州、宮崎各市に拠点を置く地域航空会社3社が旗揚げしたが、自力での経営が難しくなり、そろってANAの支援を受けている。3年前にはいわゆる格安航空会社(LCC)も加わったが、航空網の中心である羽田空港に乗り入れていない。

 羽田に大手2社に次ぐ発着枠を持つスカイマークまでANAの傘のもとで安住するようでは、空を巡る状況が「スカイマーク前」に逆戻りしかねない。

 スカイマークが経営破綻(はたん)したのは、欧エアバスと超大型航空機の購入契約を結んで国際線への参入を急ぐなど、無謀とも言える拡大策の失敗が直接のきっかけだった。経営の原点に戻れば、道は開けるはずだ。

 株式の過半を握る予定のインテグラルの責任は重い。投資ファンドは短期間で株式を手放して利益の回収を急ぐことが多いが、同社は長い目で支援する姿勢を強調している。経営の主導権を守り、ANAとも競う「第三極」としてのスカイマークの立ち位置を貫く必要がある。

 ANAは、スカイマークとの共同運航などを通じてANAの利用客の選択肢を増やし、顧客の囲い込みを強化できる利点を重視したのだろう。スカイマークが独自に路線や運賃を決めることに同意した以上、その方針をしっかりと守ってほしい。

 航空機購入のキャンセルに伴うスカイマークとエアバスの係争では、ANAはエアバス機の大口顧客としてのパイプを生かすことが期待される。これまで整備面の不備などトラブルが目についたスカイマークに「安全文化」を徹底させることもANAの役割だろう。

酒の安売り規制 消費者の利益を損なわないか

 酒の安売りを規制するため、自民党は酒税法などの改正案を今国会に提出する方針だ。

 財務相が、酒類販売の「公正な取引基準」を新たに定め、業者が従わない場合には、販売免許を取り消せるようにする。

 量販店などの安売りから、「街の酒屋さん」を保護する狙いという。だが、免許取り消しを恐れ、経営努力による適正な値引きまでしなくなる懸念は拭えない。

 過剰な規制強化で、消費者の利益が損なわれないだろうか。慎重に見極める必要がある。

 酒の販売は、1990年代以降の規制緩和で大手スーパーや量販店などの参入が相次ぎ、競争が激化した。一般の酒店はこの20年でほぼ半減し、全国で約5万5000店になっている。

 追い込まれた中小販売店の組合などが安売り規制の強化を求め、自民党が議員立法で対抗措置を講じることになった。

 新しい取引基準の詳細は決まっていないが、原価を下回る安値販売などを禁じ、これを守らない業者名の公表、罰金、免許取り消しへと、段階的に重い処分を科す内容になりそうだ。

 もちろん、採算を度外視した安値攻勢で大手業者が周辺の酒店を廃業に追い込むといった、不当な販売は看過できない。

 ただ、こうした不当廉売については、独占禁止法に基づいて公正取引委員会が摘発する仕組みがある。国税庁も2006年に策定した取引指針で、公取委との連携強化などを打ち出している。

 まずは、既存の制度をしっかり機能させることが重要だ。

 量販店などの攻勢を受けているのは酒店だけではない。なぜ、酒に限って独禁法とは別の廉売規制が必要なのか。筋の通った説明がなければ、酒以外の小売店や消費者はとても納得できまい。

 酒店は、コンビニやネットスーパーなどとの競争でも劣勢に立たされている。求められるのは、大型店にない個性的な品ぞろえなどの創意工夫だ。法律で量販店などの安売りを制限しても、業績改善の効果は限られよう。

 新たな安売り規制は、自民党などが昨年に議員立法で実施したタクシー業界の参入規制強化と同様に、競争制限的な政策だ。

 規制緩和を推進して民間の自由な競争を促し、経済活性化を目指すことが「アベノミクス」の本筋と言える。自民党は、安易な業者保護政策に走り、成長戦略の路線を踏み外してはならない。

JR西脱線10年 教訓を胸に安全最優先で臨め

 兵庫県尼崎市のJR福知山線で発生した脱線事故から、25日で10年が経過した。

 106人の乗客が犠牲となった大惨事は、鉄道への信頼を大きく揺るがした。JR西日本は、事故の教訓を忘れることなく、安全対策をさらに充実させねばならない。

 死亡した運転士は、現場のカーブに列車を減速しないまま進入させた。前駅で起こしたオーバーランのミスが頭から離れず、ブレーキ操作が遅れたためとされる。

 運転士には、反省文を書くよう強要される「日勤教育」を受けたくない思いがあったとみられる。ミスをした社員に厳しいペナルティーを科すJR西の企業体質が、事故の一因だったと言えよう。

 JR西は事故後、懲罰的な日勤教育を改めた。労務管理を見直し、細かいミスやトラブルも社員に報告させ、全社的な事故防止策に生かす「リスクアセスメント」を実践している。

 今年度からは、安全管理の内部監査に専門機関が関与する第三者評価制度をスタートさせる。

 鉄道や船舶の安全評価に実績を持つ外資系企業の担当者が立ち会い、法令順守や災害訓練などの監査が適切に行われているかどうかをチェックする。

 事故の遺族とJR西、有識者で構成する「安全フォローアップ会議」の提言が、制度導入のきっかけとなった。JR西が遺族の意見を採り入れ、安全対策に取り組む姿勢は評価できる。

 管内全域に自動列車停止装置(ATS)も整備した。

 一連の対策を機能させ、事故の芽を未然に摘むことが重要だ。

 しかし、不安は残る。JR山陽線で2月、踏切で立ち往生したトラックに普通電車が衝突し、乗客17人が負傷した。発光により危険を知らせる装置が線路脇に設置されていたにもかかわらず、運転士は気付くのが遅れたとされる。

 国土交通省は、発光機に加え、運転席で警報音が鳴るシステムの導入を促していたが、対応できていなかった。

 すべての社員に安全最優先の意識を徹底させ、事故防止策を不断に見直すことが求められる。

 福知山線事故で業務上過失致死傷罪に問われた元社長は、無罪が確定した。強制起訴された歴代の3社長は、1、2審で無罪となり、上告審が続いている。

 個人の刑事責任とは別に、JR西は、安全運行を担う公共輸送機関としての社会的責任を改めて肝に銘じる必要がある。

2015年4月25日土曜日

地裁の原発判断が問うもの

 原子力発電所の再稼働をめぐり地裁の判断が割れている。福井地裁は関西電力高浜3、4号機について再稼働を認めない仮処分を決めた。一方、鹿児島地裁は九州電力川内1、2号機で住民が求めていた差し止め請求を退けた。

 ともに原子力規制委員会の安全審査には合格している。福井地裁は「規制委の安全審査は合理性を欠く」として差し止めを命じた。対照的に鹿児島地裁は「科学的知見に照らし、不合理な点はない」と結論づけた。

 原発をめぐるこれまでの司法判断や安全審査の経緯に照らせば、鹿児島地裁の決定の方がより説得力をもっている。

 原発の安全対策は科学的、技術的な見地から議論を尽くして決めるべきものだ。最高裁も過去に、個々の安全対策は専門家が集まる規制当局の裁量に委ねられるとの判断を示している。鹿児島地裁はこれを踏襲した。

 一方、福井地裁は、耐震指針づくりに携わった専門家の発言を根拠に「規制基準は緩すぎる」と断じた。だがこの専門家自身が「事実誤認が多い」と指摘するなど、緻密さを欠くのは否めない。

 同様の訴訟は各地で相次いでいる。原発の再稼働をどう判断するかは、政府や規制委だけでなく司法も重い役割を担う。安全審査の根幹部分が妥当かどうかや、原発が経済や国民生活に及ぼす影響も含めて、幅広い視点からの判断を司法には期待したい。

 2地裁の判断が割れたことは深刻な課題を投げかけている。

 東京電力福島第1原発の事故を踏まえ、規制基準は事故が起こりうることを前提に何段階もの安全策を講じるよう定めた。

 これに対し福井地裁は「重大事故が万が一にもない、といえる厳格さが(規制には)必要」と、事実上のリスクゼロを求めた。

 原発事故のリスクについて、どう考えたらよいか。司法にも国民にも合意がない。規制委や専門家は基準の意味をよりていねいに説明し溝を埋める努力が要る。

安保法制で何が変わるか具体的に説明を

 国民がいちばん知りたいのは、新しい法制度を使って、自衛隊が海外で「何を、どこまで」やるのかだろう。その疑問に答える説明が一層、求められる。

 自民、公明両党による新たな安全保障法制の与党協議が事実上、決着した。焦点のひとつが、海外での自衛隊の活動にどのような歯止めをかけるかだった。

 活動を大きく広げることに慎重な公明党の主張もあって、政府の当初案に比べると歯止めはきつくなった。政府は5月半ばにも法案を閣議決定し、国会に提出する考えだ。

 新法制の柱は主に3つある。第1は集団的自衛権を行使できるようにすることだ。第2は、日本周辺で大きな危機が起きたとき自衛隊が米軍を後方支援できると定めた周辺事態法の、抜本改正だ。これにより、より幅の広い貢献ができるようになる。

 第3は、日本にすぐに重大な影響が及ばない場合にも、国際貢献の一環として自衛隊が多国籍軍などを後方支援できるようにするための、法整備だ。具体的には、恒久法となる「国際平和支援法案」を国会に提出する。

 このうち「国際平和支援法案」をめぐっては、自衛隊の派遣を決める際に国会がどこまで関与するのかが争点になった。

 政府・自民党内には「事前承認を原則」としつつ緊急時には事後承認も認めるべきだとの声があった。だが最終的には公明党の要求を受け入れ、例外なく事前承認を義務付けることになった。

 一方の集団的自衛権では、日本の存立が脅かされる明白な危険があるだけでなく「他に適当な手段がない」ことも、行使の法的要件にすることで落ち着いた。いずれも妥当な決定といえよう。

 過度な制約を設け、いざというときに使い物にならない法案になっては元も子もないが、自衛隊の派遣には厳格な基準が必要だ。

 それにしても不安を禁じ得ないのは、世論の理解がいっこうに広がっていないことだ。最新の世論調査でも、集団的自衛権行使のための法整備への賛成は、約3割にとどまっている。

 どんなに趣旨が正しくても、国民の支持が乏しい安保政策は長続きしない。政府・与党は具体的な事例もまじえながら、新法制の中身をていねいに説明し、世論の不安と疑問を和らげる努力をもっと尽くしてほしい。

地中海の難民―救難と安定化が急務だ

 高級リゾート地や古代遺跡に代表される豊かで明るいイメージの地中海が今、悲劇の海と化している。

 アフリカ大陸から欧州をめざす難民らを乗せた船の発見や保護が相次いでいる。貧弱な船に多くの人がすし詰め状態となり、遭難も多い。先週にはついに700人以上といわれる犠牲者を出す大事故が起きた。

 多数の人命にかかわる緊急の事態である。欧州連合(EU)が中心となり、国際社会は全力を挙げて対応を急ぐべきだ。

 危うい航海には犯罪組織や違法業者がかかわり、だまされて乗った人も多いようだ。多くの船が出航する北アフリカの国、リビアでの業者の取り締まりも欠かせないが、現地は内戦状態で、政府が崩壊している。

 事態の打開に向け、リビアの安定に力を注ぐ必要がある。

 地中海を越えた難民らは昨年1年間で22万人近く、遭難による犠牲者も3千人以上に達した。今年に入ってもすでに難民らの数は3万6千人、死者はすでに1700人を超えたと、国連機関が集計している。

 こうした動きは、中東の民主化運動「アラブの春」を機に、2011年ごろから急増した。これに伴い事故も増え、13年には2件相次いだ遭難で600人近くが犠牲になった。

 これを受け、イタリアは船を捜索する作戦を始めたが、昨秋にEU機関が引き継いだ際に作戦の規模が縮小された。予算面の負担のほか、移民に厳しい右翼政党が各国で支持を広げていることも、及び腰の態度の背景にあったという。この頃に抜本的な対策に乗り出していたら、と悔やまれる。

 EUはおとといの首脳会議で、警備や救助の予算増額などを決めたが、まだ不十分だとの声が内部からも出た。もっと危機感を強めるべきだ。救援の強化や受け入れ態勢の充実だけでなく、リビアや周辺国の安定をめざす包括的な取り組みに本腰を入れなくてはならない。

 リビアが内戦に陥った大きなきっかけは、英国やフランスを主力とする空爆によってカダフィ独裁政権が崩壊したことにある。しかし、期待したリビアの民主化は進まず、逆に混乱を招く結果となった。その意味でも、リビアの安定は欧州が責任を担うべき課題といえる。

 もちろん、特定の国だけの重荷にならないよう、欧州内で各国が分担する仕組みも必要だ。原油供給やビジネス、安全保障面で北アフリカ地域とつながりをもつ米国や日本も、しっかり協力の道を探りたい。

GPS情報―捜査利用は論議尽くせ

 いまの携帯電話の多くには、人工衛星による位置情報を示すGPS機能がついている。

 その携帯を持っている人がいま、どこにいるか。通信事業者は知ることができる。

 その情報を警察など捜査機関が、本人の知らないうちに利用できるようにする方針を総務省が決めた。通信事業者の個人情報取り扱い指針を改める。運用は6月にも始めるという。

 プライバシー性の高い情報への捜査機関のアクセスを、そう簡単に緩めていいのだろうか。市民の幅広い理解と合意なしに始めるべきではない。

 かねて犯罪捜査に使われてきた携帯の基地局情報は大まかな地域までだが、GPSはピンポイントで位置を特定できる。誰かに知らないうちに把握されれば不安になるのは当然だ。

 だからこそ、この情報を捜査機関に提供する指針が4年前にできたとき、裁判所の令状に加え、情報の取得を本人に通知するよう義務づけていた。

 その通知義務を不要にするのが今回の改正案だ。警察庁の要請によるもので、通知すれば捜査が及んでいることを知らせることになり、現実の捜査では使えない、という理由だ。

 たしかに、容疑者の動きを常時、監視できる位置情報は、ほかに決め手となる捜査方法がないとき、有効かもしれない。

 一方で、いったんGPS情報の提供が始まれば、犯罪と関係のない活動も含めて把握されることにもなりかねない。

 個人がどこに、どれだけ滞在しているかという情報は、交友相手や趣味、ときには思想信条さえも示すものだ。

 やはりプライバシー性が高い電話や電子メールなどをひそかに傍受する捜査手法と比べても、GPS情報の制約は格段に緩くなる。通信傍受の場合は、令状が許した犯罪とは関係ない通信の見聞きは許されない。

 また、通信傍受では、対象犯罪も組織的殺人などの重大なものに限っている。傍受したことを通知し、対象者は裁判所に不服を申し立てられるなど、さまざまな制約がある。

 それでも、捜査機関による乱用のリスクがある、と指摘する弁護士や研究者も少なくない。

 GPS情報の捜査利用も、少なくとも事後に本人が知ることができなければ、捜査自体が秘密の闇に覆われてしまう。

 総務省は専門家の部会で改正案を決めたが、捜査利用の議論は警察庁を招いた1回だけだった。議論が尽くされたとは言いがたい。社会全体で熟議を重ねるときだ。

与党安保協議 包括的法制で抑止力を高めよ

 ◆日本と世界の平和守る自衛隊に

 日本と世界の平和を維持するため、自衛隊の任務を大幅に拡充する包括的な法制をまとめた意義は大きい。

 自民、公明両党が、新たな安全保障関連法案の条文案を了承した。他国軍への後方支援を可能にする恒久法「国際平和支援法案」と、自衛隊法など10本の現行法改正案の「一括法案」だ。

 政府は5月中旬に関連法案を閣議決定し、国会に提出する。

 法案は、集団的自衛権の行使、国際平和協力活動、平時と有事の中間に当たるグレーゾーン事態の対処の3分野で、切れ目のない対応を相当程度可能にする。

 ◆切れ目ない対処が重要

 日米同盟を強化し、日本の安全を確かにする。積極的平和主義に基づき、アジアと世界の安定を支えるため、日本がより大きな役割を担う。この二つの目的に向けて政府・与党は、法案の今国会中の成立に全力を挙げるべきだ。

 与党の安保協議が2月中旬に始まった際、公明党は、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定に慎重姿勢を示していた。米軍以外の他国軍への後方支援や、国連決議がない場合の自衛隊の海外派遣にも消極的だった。

 だが、協議を重ねる中で、政府・自民党に歩み寄り、恒久法の制定に同意した。国際平和支援法案は、自衛隊の迅速な派遣だけでなく、自衛隊が平時に後方支援の訓練や情報収集などの準備活動ができるなど、大きな利点がある。

 豪州軍などへの後方支援や、国連決議がなくても国連・地域機関の要請に基づく自衛隊派遣を可能にした点も重要な意味を持つ。

 南スーダンで一昨年12月、陸上自衛隊が韓国軍から弾薬の提供を要請されたように、緊急時には、通常は想定されにくいような事態が発生することもある。

 机上の議論にとらわれず、様々な危機に柔軟に対応できる余地のある法制にしておくことが、安全保障の要諦である。

 ◆例外なき「事前」は疑問

 一方、国際平和支援法に基づく自衛隊派遣の国会の事前承認について、政府・自民党が公明党に譲歩し、例外的な事後承認を認めなかったことには疑問が残る。公明党は、統一地方選に影響しないよう、「歯止め」の成果を出すことにこだわったとされる。

 国会が閉会中などで、承認に時間を要するケースもあろう。衆参各院が7日以内に議決するという努力義務規定の順守が必要だ。

 集団的自衛権の行使に関しても公明党に配慮し、関連法案に「他に適当な手段がない」という要件を明記することにした。

 危機発生時に、その規定を根拠に、「適当な手段」を巡る非現実的な議論が起きて、自衛隊の行動の遅れを招くとしたら本末転倒である。過剰な歯止めは安保法制の実効性を損なう。

 日米両政府は27日の外務・防衛担当閣僚による安保協議委員会(2プラス2)で、安保法制を反映した新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)を決定する。

 離島防衛での自衛隊と米軍の共同対処などを明記し、平時から有事まで切れ目のない日米協力を強化することは、様々な有事への抑止力を向上させよう。

 特に、長年の課題だった集団的自衛権の行使の限定容認により、日本周辺海域での米軍艦船の防護や、米国向け弾道ミサイルの防衛などを可能にすることは画期的である。

 自衛隊と米軍が緊密に情報交換し、共同の警戒・監視活動を増やして、よりスキのない防衛体制の構築につなげたい。

 中国は近年、海空軍の装備を質・量両面で拡充し、東・南シナ海で一方的な海洋進出活動を強めている。北朝鮮は、核兵器の小型化や弾道ミサイルの実戦能力向上を着々と進めてきた。過激派組織の国際テロにも警戒を怠れない。

 ◆米豪との協力強化を

 日本にとっては、新たな安保法制に基づき、米国や豪州などとの多角的な防衛協力を深化させることが急務である。日本周辺での軍事的な挑発活動などを封じ込める効果を持つだろう。

 国連平和維持活動(PKO)以外の人道復興支援活動などにも、自衛隊を積極的に参加させたい。世界の安全保障環境の改善は、日本自身の安全確保にもつながる。国際社会における日本の存在感と発言力も高めよう。

 今回の安保法制は、内容が極めて専門的なうえ、複雑で多岐にわたるため、国民に分かりにくいのは否めない。政府は、法制の意義と内容を丁寧に説明し、理解を広げる努力を続けるべきだ。

2015年4月24日金曜日

ドローン生かすためにも悪用の道ふさげ

 テロや犯罪に悪用されるのではないか、との懸念が現実のものになった。「ドローン」と呼ばれる小型の無人飛行機が東京・永田町の首相官邸の屋上に落下していた。取り付けてあった容器からは微量の放射線が検出された。

 幸いけが人などはおらず、放射線も人体に影響が出るようなレベルではなかった。官邸を目標に、何者かが意図的に飛ばしたものとみて、警視庁が調べている。

 無人機の使用については現在、ほぼ規制がない状態といっていい。使い方は利用者に任されているのが実態だ。

 ドローンは災害・事故現場での調査や物品の搬送など、幅広い分野への応用が期待されている。健全な発展を促していくためにも、実効性のある規制の導入を急ぐ必要がある。

 ドローンは無線で遠隔操作でき、全地球測位システム(GPS)の機能を使えば、目的地までの自動飛行も可能だ。操縦に免許などは要らず、個人向けのものは家電量販店などで手軽に購入できる。官邸で見つかったものは直径約50センチで、4つのプロペラが付いたタイプだった。

 利用の拡大にともない、近年、課題も浮上していた。昨年11月には、神奈川県で開かれたマラソン大会のコース付近に墜落し、接触した女性が顔に軽傷を負った。米国ではホワイトハウスにドローンが落ち、テロ対策の面からも大きな問題とされていた。

 過去には日本でも、オウム真理教による一連の事件で、教団が無線操縦のヘリを使って上空からサリンを散布する計画を立てていたことが明らかになっている。

 政府はドローンの規制に向け、関係省庁連絡会議の設置を決めた。官邸など重要施設の上空での飛行を制限するといった措置が必要だが、それだけでは効果は薄い。購入する際に住所や名前を確認して記録したり、個々の機体を登録したりする制度などを、多面的に検討すべきだ。

 技術面からの対策も重要だ。悪意を持ったドローンの接近を探知し、侵入を防ぐための研究開発を進める必要があろう。

 ドローンを適切に利用すれば、社会に大きなメリットをもたらす。自然観測やインフラの状態管理、自動測量などビジネスとしても大きな可能性を秘めている。悪用を防ぎ、安全で真に役立つ道具に育てていきたい。

日中関係改善の流れを確実に

 インドネシアでのバンドン会議60周年の首脳会議を利用し、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が再会談した。昨年11月、北京での3年ぶりの日中首脳会談の際、習主席の表情は固かったが、今回は笑顔も見せた。5カ月を経た2度目の会談実現を歓迎したい。

 尖閣諸島の問題を巡る中国での激しい反日デモから2年半。滞っていた日中対話は再開へ動き出した。北京のトップ会談の後、日本人ビジネスマンが中国の地方幹部らと会う機会もかなり増えた。

 だが関係改善は道半ばだ。習主席は戦後70年の安倍首相談話を念頭に「歴史を直視する積極姿勢を発信してほしい」と注文した。

 安倍首相が戦後50年の村山談話に触れ「歴代内閣の立場を今後も引き継ぐ」と直接説明したのは評価できる。だがインドネシアでの演説では先の大戦への「深い反省」を表明する一方、明確な謝罪はしなかった。

 9月に北京で予定する抗日戦争勝利70年式典に向けて、中国の視線は再び日本の歴史認識に注がれる。日本側は必要なら説明を重ね、対中関係改善の流れを確実にすべきだ。

 両国は世界第2、3位の経済大国で共通利益も多い。アジアと世界の国々に安心感を与えるためにも国際会議を利用して首脳対話を継続し、安全保障や経済面のパイプを太くする必要がある。中断している閣僚級の日中ハイレベル経済対話も再開が急がれる。

 歴史を振り返ると日中の人的交流は1984年の日本青年3000人の訪中から急拡大した。尽力したのが胡耀邦元総書記だ。中国は11月、胡氏生誕100年の記念行事を計画している。しかも習主席の父は胡氏の良き理解者だった。その縁を安倍首相が習主席に提起した相互理解に向けた青少年交流の拡大につなげてほしい。

 習主席は会談でアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しても説明した。日本は今後の日中対話で十分な意思疎通を図ったうえで参加の是非を判断すべきだろう。

官邸に無人機―悪用の防止を急げ

 首相官邸の屋上で、小型無人飛行機(ドローン)が見つかった。放射性物質だと表示した容器がついていて、中の液体から放射線が検出された。人体にただちに影響を与えるものではなかったとはいえ、不安を感じさせる事件である。

 官邸の職員が新入職員を屋上に案内したおととい、見つかった。機体に水がたまっていたことから、発見前日には屋上にあったとみられている。

 信じがたいのは、いつからあったか、一から解明する必要に迫られたことだ。過去1カ月、屋上に上がった人がいなかったことがその理由だ。

 首相官邸は、日本の危機管理の司令塔である。また、安倍政権は危機管理を重視していたはずだ。しかし、その頭上は、あまりに無防備だった。

 官邸に飛来したことで注目を集めるドローンだが、その普及は急速だ。

 コンピューターやカメラを搭載し、GPS(全地球測位システム)の情報を得て自律制御しながら飛ぶ商品が登場し、店舗やネットで手軽に手に入るようになっている。

 福島第一原発で調査に利用され、御嶽山噴火では降灰の確認に使われた実績があり、今後は災害救助や物流などさまざまな応用が期待されている。

 一方で、事故や犯罪利用、私有地への無断侵入によるプライバシー侵害など、課題も生じている。普及に、対策や規制が追いついていないのが実情だ。

 今回、官邸で見つかった機種「ファントム」を製造するDJI(本社・中国)は事件を受けて、GPSによる誘導装置に組み込まれている飛行禁止区域の情報に官邸と皇居周辺を加えた、と発表した。操縦者が意図しても、同域内での離陸や飛行はできなくなる。

 不審なドローンを見つけた場合、近づいて回転翼にひもを絡ませて落下させるなど、排除するドローンの開発なども進む。

 こうした技術や自主的な取り組みも悪用防止の柱となる。

 規制については、今月6日に、国土交通省内の有識者会議で論点の洗い出しが始まったばかりだ。政府は、関係省庁による連絡会議を設けて、運用ルールの策定などに乗り出す考えを示した。一定の能力以上のドローンを登録制にすることも一案だろう。

 海外では、航空関連法などを改正して高度の制限や飛行禁止区域を設けたり操縦条件をつけたりと、法規制を急いでいる。

 各国や国際機関とも連携し、悪用の防止を急いでほしい。

JR事故10年―教訓を安全の礎に

 「生」と「命」。現場近くの畑に地元住民が花で描いた文字が、惨事の記憶を呼び起こす。

 死者107人、負傷者562人を出したJR宝塚線脱線事故から25日で10年。この半世紀で最悪の鉄道事故はなぜ防げなかったのか。遺族や負傷者の問いかけは今も続く。

 強制起訴されたJR西日本の元社長3人には2度の無罪判決が出た。遺族らの強い意向を受け、検察官役の指定弁護士は今月、最高裁に上告した。

 組織としての責任の取り方の一つは、事故を起こさない会社へ生まれ変わることだ。

 この10年で、JR西はどこまで変わっただろうか。

 事故当時は、ミスをした運転士を業務から外し、懲罰的な教育を課していた。それが運転士を萎縮させ、よりミスを重ねる危険を生んだと指摘された。

 私鉄との競争に勝つため、ダイヤ上のゆとりを削って電車を速くした。こうした効率優先の経営姿勢も強い非難を浴びた。

 事故後、JR西はさまざまな改革を進めた。

 08年には、リスクを現場ごとに洗い出し、優先順位を決めて解決していく制度を他社に先駆けて整えた。電車のダイヤにはゆとりを加えた。軽微なミスは処分対象にしないことにした。

 それでも、安全性が飛躍的に高まったとはいいがたい。

 今年2月には岡山県の踏切で電車がトラックと衝突し、乗客ら18人が負傷した。車の立ち往生を知らせる警告が作動していたのに、運転士がブレーキをかけるのが遅れた。労組が昨秋実施したアンケートでは4割近い運転士が、「責任追及の風潮もある」「原因究明より責任追及が重視されている」と答えた。

 改革はなお道半ばといえよう。今やJR西社員の3分の1が事故後の入社だ。全員が事故の教訓を胸に刻み、安全意識を引き継ぐのは容易ではない。

 JR西は今年度から、安全への取り組みを第三者機関が客観的に評価する仕組みを導入する。原因究明に携わった遺族らの提言を取り入れた。身内では気づかない指摘を、さらなる安全向上につなげてほしい。

 「安全に完成はない」

 JR西の真鍋精志社長はそう繰り返す。有言実行を願う。

 ほかの交通事業者も、教訓を改めて肝に銘じてほしい。

 どの事業者も、より便利に、より効率良く、を追求する。だが多くの人を一度に運ぶ交通は、常に惨事と隣り合わせだ。

 気づかぬうちに危険性が高まっていないか。時に立ち止まり、確かめるべきである。

ドローン侵入 官邸警備の盲点を突かれた

 首相官邸の屋上に、小型無人ヘリコプター「ドローン」が落下しているのが見つかった。

 いつ落ちたのか、判然としないという。政府の中枢に、誰にも気づかれず飛来していた。あまりに心もとない警備体制である。総点検が必要だ。

 機体にはデジタルカメラと発煙筒らしきものが搭載されていた。放射能マークが貼られた液体入りの容器も取り付けられ、容器周辺からは、微量の放射性セシウム134と137が検出された。

 思想的背景のある犯行との見方も出ている。警視庁は威力業務妨害などの疑いで捜査を始めた。遠隔操縦した犯人の特定を急がねばならない。

 ドローンを巡っては、米国で今年1月、ホワイトハウスの敷地内に侵入する騒ぎがあった。テロに悪用されることへの警戒感も世界的に強まっている。

 事件を受け、菅官房長官は記者会見で、関係省庁の連絡会議を設置し、早急に飛行規制のあり方を検討すると発表した。

 航空法は、人が乗るものだけを「航空機」と規定している。ドローンは対象外で、模型飛行機などの玩具と同様の扱いだ。空港周辺などを除けば、高度250メートル未満、航空路内でも150メートル未満の飛行なら、全く制限がない。

 墜落事故も相次いでいる現状を考えれば、安全確保と悪用防止のためのルール作りを進める必要があるだろう。

 ただし、ドローンは使い方次第で、大きな可能性を秘めていることを忘れてはならない。

 飛行ルートや目的地をプログラムに入力しておくことで、自動飛行が可能になる機種もある。測量や災害救助などへの活用が期待される。警視庁は2020年東京五輪を見据えて、警備用に導入し、訓練飛行を重ねている。

 離島や山間部に物資を輸送する手段としても有用だろう。米国では、インターネット通販の宅配に利用する計画もある。

 ドローンの開発競争は激しさを増している。低価格化が進み、個人でも購入しやすくなった。1万円を下回る機種もある。世界的な市場規模は、今後10年で倍増し、約1兆3900億円に達するとの予測さえある。

 政府も1月にまとめたロボット新戦略で、無人機を普及させるための環境整備を打ち出している。操縦者の技量やマナーの向上、機体の性能確保など課題は多い。

 一定のルールの下に、ドローンの有効活用を図っていきたい。

株価2万円台 今こそ成長戦略を強化したい

 株価の動きに一喜一憂せず、官民が経済再生の取り組みを着実に推進することが重要だ。

 東京株式市場の平均株価が、15年ぶりに終値で2万円台を回復した。

 2012年末の安倍政権発足から、平均株価は2倍に上昇した。市場が、安倍首相の主導する経済政策「アベノミクス」の実績を評価し、今後に大きな期待を寄せている表れだろう。

 アベノミクスの第1の矢である日銀の金融緩和で円安が進み、第2の矢の財政出動も景気を下支えした。輸出産業などを中心に、企業業績が大幅に改善したことが、株価を押し上げた。

 日本経済再生への期待を背景に、外国人投資家による日本株の買いも、引き続き活発だ。

 株価上昇で個人や企業の資産価値は増す。これが消費や設備投資を刺激する効果で、景気回復に弾みがつくとの見方もある。

 ただし、気がかりな点も少なくない。世界的な金融緩和であふれたマネーがこの先、どう動くか流動的だ。中国経済減速やギリシャ債務問題の再燃などへの懸念もくすぶっている。

 日本経済を取り巻く環境が良好なうちに、第3の矢の成長戦略を強化することが大切だ。

 農協改革や雇用規制の見直しなどでは前進が見られたが、既得権に守られた岩盤規制の切り崩しはなお、道半ばである。政府は、新規参入を阻む規制の撤廃など、民間活力を引き出す構造改革を加速させねばならない。

 無論、株価回復を担う主役は、民間企業である。それぞれの経営戦略がカギとなる。

 自動車や電機などグローバル企業は、中国をはじめ新興国企業と激しい競争を展開している。流通やサービスなどの内需型産業も、人口減少による国内市場の縮小などの課題を抱える。経営のかじ取りは、一段と難しさを増そう。

 余剰資金を貯め込むような守りの姿勢を続けていては、とても荒波は乗り切れまい。

 生産性向上を図るための設備投資や、不採算部門から成長分野への事業転換など、不断の経営改革で「稼ぐ力」を強化したい。

 企業の最大の財産である人材への投資も怠ってはならない。

 今年の春闘で、多くの大手企業が昨年を上回る賃上げに踏み切ったのは心強い。

 収入増が消費を上向かせ、それが企業業績を押し上げる。そんな「経済の好循環」の歯車を、官民でしっかり回すことが大事だ。

2015年4月23日木曜日

株価2万円が映す成長への期待を現実に

 日本経済の体温計ともいわれる日経平均株価が、IT(情報技術)バブルの最盛時だった2000年4月以来、15年ぶりに終値で2万円台を回復した。

 大きな節目を超えた株価が映すものは経済再生への期待である。期待を現実のものとしなければならない。政府は構造改革を進め、企業は成長志向の投資を拡大する必要がある。

 日経平均は金融危機後の09年3月に7054円まで下げ、その後は一進一退が続いた。12年暮れに安倍晋三内閣が発足すると、アベノミクスへの期待から外国人投資家が、日本市場に資金を投じる動きを加速させた。

 アベノミクスの第1の矢と呼ばれる金融緩和を受け、外為市場で円安・ドル高が進んだ。これにより製造業を中心に企業業績が改善した。第2の矢である財政政策も国内の景気を下支えし、株価の押し上げにつながった。

 ただ、第3の矢である成長戦略の物足りなさを指摘する市場の声は多い。医療や雇用、農業といった分野の岩盤規制の改革を進める必要がある。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の合意も急ぐべきだ。そうした一連の施策により日本の潜在成長率が高まる道筋が見えないと、アベノミクスへの期待は失望に転じる。

 株価の上昇が続く今だからこそ、安倍首相は改めて経済重視の姿勢を打ち出し、改革の先頭に立ってほしい。

 上場企業は円安の助けもあり、15年3月期に7年ぶりに最高益となったもようだ。好業績を背景に配当などの株主還元を増やしている。これは株式の持ち合い解消が進み、主要株主が銀行から海外年金などに変わり、市場の強い圧力を受け始めた影響も大きい。

 それでもなお、上場企業の手元には約100兆円の資金が積み上がっている。株主の声にさらに耳を傾け、還元ばかりでなく成長投資を増やす余地は大きい。そうした企業の動きが消費や雇用を拡大させ、経済が成長軌道に乗るという好循環を目指すべきだ。

 株価上昇は世界的な現象でもある。各国の金融緩和を受け、市場にマネーがあふれているからだ。しかし年内には米国の利上げも予想され、世界的なお金のだぶつきは是正に向かい始める。長い目で見て投資資金を市場に引きつけるための努力を、政府も企業も続けなければならない。

アジアの人々の心に響いたか

 ひとと話をするとき、持って回った言い回しでは、意図は上手に伝わらない。安倍晋三首相の言葉はアジアの人々の心に響いただろうか。バンドン会議60周年の首脳会議の演説で、先の大戦への「深い反省」を表明する一方、明確な謝罪はしなかった。

 今年は戦後70年の節目の年だ。日本は過去とどう向き合うのか。首相は8月に出す戦後70年談話について50年の村山談話、60年の小泉談話を「全体として踏襲する」が、同じ表現にはしない考えだ。

 「侵略戦争」「心からのおわび」などの表現を一言一句引き継ぐ必要はない。しかし、そうした要素がなくてよいわけではない。戦後日本が大事にしてきた平和主義が変質したと国際社会で誤解されては、新談話を出す意味がない。

 首相周辺はバンドン会議演説、今月末の米議会での演説、戦後70年談話を一連のものとして首相の思いを示したいと解説してきた。今回の演説は第1弾にふさわしいできばえだろうか。

 先の大戦の評価はひとそれぞれだが、アジアに多大な被害をもたらしたことは否定できない。10年前、当時の小泉純一郎首相はバンドン会議演説で村山談話に沿って「反省」と「おわび」を語り、そのまま小泉談話に盛り込んだ。

 それと比べると今回の演説の書きぶりは複雑だ。「侵略」を非難した60年前のバンドン宣言を紹介したうえで、「バンドンで確認された原則」を守り抜くと誓う。ほかにも、ある文章に他の文章を引用する入れ子構造の箇所がいくつかある。

 先の大戦が「侵略戦争」であったことを否認したのかと問われれば「侵略に触れている」と反論できる。だが、直接の言及はない。首相の支持基盤である保守派とアジア諸国との外交関係の双方に配慮した結果なのだろう。

 玉虫色の表現は国内では通用しても、外国人にもわかってもらえるだろうか。いまのままでは、戦後70年を平穏に終えるのは容易ではあるまい。

70年談話へ―未来への土台を崩すな

 「未来への土台は、過去と断絶したものではありえない」。安倍首相は、自らのこの言葉を忘れるべきではない。

 アジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年首脳会議での安倍首相のきのうの演説は、肩すかしに終わった。

 首相は、60年前に採択された「平和10原則」の一つである「侵略行為の抑制」を引用し、「この原則を、日本は先の大戦の深い反省とともに、いかなる時でも守り抜く国であろうと誓った」と述べるにとどめた。

 10年前の会議では、小泉首相が戦後50年の村山談話を踏襲し、「わが国はかつて植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」と表明。この表現はそのまま戦後60年談話に生かされた。

 きのうの首相演説は、歴史認識の表明に主眼があったわけではない。ただ、10年前の経緯もあり、安倍氏が日本のかつての過ちにどのように触れるのか、来週の米議会での演説とともに注目を集めていた。

 首相は会議に発つ前夜のテレビで、村山談話について「引き継いでいくと言っている以上、もう一度書く必要はないだろう」と述べ、戦後70年の安倍談話には「植民地支配と侵略」「おわび」などは盛り込まないことを示唆した。きのうの演説はこれに沿った内容だ。

 この考えには同意できない。

 「侵略の定義は定まっていない」といった言動から、首相は村山談話の歴史観を本心では否定したいのではと、アジアや欧米で疑念を持たれている。

 引き継いでいるからいいだろうとやり過ごせば、疑念は確信に変わるだろう。表立って批判されなくとも、国際社会における信頼や敬意は損なわれる。

 それがいったいだれの利益になるというのか。

 一部の政治家が侵略を否定するような発言を繰り返すなか、村山談話は国際的に高く評価されてきた。その後のすべての首相が引き継ぎ、日本外交の基礎となった。率直に過去に向き合う姿勢が、「未来への土台」となったのだ。それをわざわざ崩す愚を犯す必要はない。

 首相はきのうの演説後、中国の習近平主席と5カ月ぶりに会談した。両国関係を発展させ、アジアや世界の安定と繁栄に貢献をしていくことで一致したという。歓迎すべき流れだ。

 そうであればなおさら、首相はごまかしのない態度で過去に向き合う必要がある。「植民地支配と侵略」「おわび」を避けては通れない。

川内の仮処分―専門知に委ねていいか

 福島第一原発の事故後、新たに設けられた原子力規制委員会の規制基準について、まったく異なる二つの判断が司法から示された。

 きのう、九州電力川内原発1、2号機の再稼働をめぐって、運転差し止めの仮処分を求めた住民の申し立てを鹿児島地裁は退けた。14日には、福井地裁は関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決めた。

 判断を分けたのは、規制基準を含む規制委の審査に対する見方である。

 福井地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発で5回起きた事実を重く見たうえで、規制基準について「これに適合しても原発の安全性は確保されない」と判断した。

 一方、鹿児島地裁は、地域的な特性を考慮して基準地震動を策定していることから「基準地震動超過地震の存在が規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない」とし、規制基準は「最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない」と結論づけた。

 鹿児島地裁の判断は、従来の最高裁判決を踏襲している。行政について、専門的な知識をもつ人たちが十分に審議した過程を重視し、見過ごせない落ち度がない限り、司法はあえて踏み込まない、という考え方だ。

 だが、福島での事故は、専門家に安全を委ねる中で起きた。ひとたび過酷事故が起きれば深刻な放射線漏れが起きて、周辺住民の生活を直撃し、収束のめどが立たない事態が続く。

 原発の運転は、二度と過酷事故を起こさないことが原点である。過去、基準地震動を超える地震が5回起きた事実は重い。「想定外」に備えるためにも、厳しい規制基準を構えるべきである。特に、原発の運転には、国民の理解が不可欠であることを考えれば、規制基準についても、国民の納得がいる。これらの点を踏まえれば、福井地裁判断に説得力がある。

 鹿児島地裁は「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではない」「今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合、そうした安全性のレベルを基に判断すべきことになる」とも述べている。

 世論調査では依然として原発再稼働に厳しい視線が注がれている。政府も電力会社も鹿児島地裁の決定を受けて「これでお墨付きを得た」と受けとめるべきではない。

バンドン演説 首相70年談話にどうつなげる

 「演説」を「談話」にどうつなげていくのか。安倍首相の戦略的な取り組みが求められよう。

 新興独立国が第三世界の連帯をアピールしたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の60周年記念首脳会議がインドネシアで開かれた。

 安倍首相は演説で、アジア・アフリカ諸国を「成長のパートナー」と呼び、5年間で35万人の人材育成を支援する方針を表明した。

 相手国の自主性を重んじる戦後日本の援助外交は高く評価されている。成長が著しい各国への投資や輸出の拡大は、安倍政権の成長戦略にも資する。民間とも連携し、積極的に進めたい。

 首相は地域の現状に関し、「強い者が弱い者を力で振り回すことは、断じてあってはならない」と語った。南シナ海で岩礁埋め立てを進める中国が念頭にある。

 海洋秩序の維持に向け、「法の支配」を重視する共通認識を国際社会に広げることが重要だ。

 物足りなかったのは、首相の歴史認識への言及である。約6分間の演説とはいえ、侵略の否定などバンドン会議の原則に触れたものの、先の大戦については「深い反省」を示すにとどめた。

 前回の50周年首脳会議では、当時の小泉首相が過去の植民地支配と侵略を認め、「痛切なる反省と心からのお詫び」を明言した。この表現を、約4か月後の戦後60年談話にも反映させた。

 安倍首相は今夏、戦後70年談話を発表する。日本が過去の反省を踏まえ、世界の平和と繁栄にどんな役割を担うのか。談話では「深い反省」の中身が問われよう。

 首相は来週、米国を公式訪問し、6月に先進7か国首脳会議に出席する。7月には、70年談話に関する有識者懇談会の報告書がまとまる。関係国とも連携しつつ、適切な政治判断を下す必要がある。

 演説後、首相は中国の習近平国家主席と会談し、戦略的互恵関係を推進する方針で一致した。

 昨年11月に続き、両首脳が意見を交わした意義は小さくない。

 習氏は、「歴史問題は中日関係の重大な原則問題だ。歴史を直視する前向きなシグナルを出してほしい」と注文したという。首相は、歴史認識に関する歴代内閣の立場を引き継ぐと説明した。

 歴史認識を巡る日中間の溝は深い。中国主導のアジアインフラ投資銀行、尖閣諸島周辺での中国の領海侵入など、懸案も多い。

 過去の問題を乗り越え、未来志向の関係を築くには、日中双方が歩み寄る努力が欠かせない。

川内原発仮処分 再稼働を後押しする地裁判断

 九州電力川内原子力発電所1、2号機の再稼働を巡り、鹿児島地裁が、運転差し止めを求めた反対派住民側の仮処分の申し立てを却下した。

 東京電力福島第一原発事故を教訓に、原子力規制委員会が策定した新規制基準を尊重する妥当な司法判断である。

 決定は、新基準について、「最新の調査・研究を踏まえ、専門的知見を有する規制委が定めた。不合理な点はない」と認定した。

 九電は、新基準が求める多重防護の考え方に基づき、耐震性の強化や火山対策などを講じているとも判断し、再稼働により、「住民の人格権が侵害される恐れはない」と結論付けた。

 決定で重要なのは、詳細な技術論に踏み込まず、「裁判所の判断は、規制委の審査の過程に不合理な点があるか否かとの観点で行うべきだ」と指摘したことだ。

 最高裁は、1992年の四国電力伊方原発訴訟で、行政の専門的判断を重視するとの判決を言い渡している。今回の決定は、司法の役割を抑制的に捉えた最高裁判例に沿ったものと言える。

 規制委の指針に基づき、周辺市町が策定した事故時の避難計画に関し、決定は「現時点では合理性を持つ」との見解を示した。政府と自治体、九電に不断の安全対策を求めたものだろう。

 川内原発は昨年9月、再稼働の前提となる安全審査の「合格第1号」となった。鹿児島県と立地自治体の薩摩川内市の同意を得て、7月の再稼働を目指している。

 3月から始まった使用前検査では、原子力規制庁の検査官が立ち会って重要設備を点検している。再稼働に向けた詰めの作業だけに、万全を期してほしい。

 今回の決定は、福井地裁による14日の仮処分の特異性を浮き彫りにした。新基準を「緩やかに過ぎ、安全性は確保されない」と断じ、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めたものだ。

 ゼロリスクを求める非科学的な主張である。規制委の田中俊一委員長も、「(新基準は)世界で最も厳しいレベルにある。多くの事実誤認がある」と論評した。

 関電は決定を不服として福井地裁に異議を申し立てた。異議審では現実的な判断を求めたい。

 規制委に安全審査が申請された14原発20基については、未(いま)だ「合格」に至っていない。厳しい電力事情の中、全原発の停止をこれ以上、長引かせてはならない。

 安全確保を最優先に、規制委は迅速に審査を進めるべきだ。

2015年4月22日水曜日

TPP交渉打開へ日米は最後の決断を

 日米両国は環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる閣僚協議を終えた。一定の前進はあったものの、焦点のコメや自動車分野の合意には至らなかった。日米双方は合意を急ぎ、参加12カ国による全体交渉に弾みをつけるべきだ。

 甘利明経済財政・再生相とフロマン米通商代表部(USTR)代表の協議は19日夜に始まり、21日午前3時を回るまで続くマラソン交渉となった。

 28日の日米首脳会談を控え、双方が間合いを縮める真剣な努力をした跡がうかがえる。この点は一応の評価ができる。

 懸案のひとつである米国産コメの輸入拡大をめぐり、米国は主食米だけで年17万5千トンの受け入れを要求した。

 もうひとつの自動車部品では、攻守入れ替わるかたちで日本が米国に関税の即時撤廃を求めた。いずれも双方の国内に慎重論があるが、日米両国政府は粘り強く交渉を重ね、できるだけ早く妥協点を見いだす必要がある。

 TPP参加12カ国を合計した国内総生産(GDP)の規模は、世界全体の約4割を占める。このうち約8割の経済規模を持つ日米両国の交渉の行方は、他の交渉参加国も注視してきた。

 日米間の大筋合意がなければ、12カ国全体の合意はさらに遠のく。来年の米大統領選を控え、決着時期が遅れるほど交渉全体が漂流する危険が高まる。日米両国政府はTPP交渉を主導する責務があると強く自覚すべきだ。

 特に米国に注文をつけたい。

 米議会の超党派グループは、米大統領に強力な通商交渉の権限を与える貿易促進権限(TPA)法案を提出した。大統領が外国とまとめた通商合意を、議会が事後修正なしで一括承認する権限を認める内容だ。

 TPP交渉参加国はまずTPAをとるよう米国に求めてきた。知的財産権などをめぐって米国と対立する新興国から一定の妥協を引き出すためにも、TPAは不可欠だ。米政府は、上下両院の反対派議員の説得に全力をあげなければならない。

 TPPの対象は関税の削減・撤廃だけでなく、サービス、競争政策、知的財産権など広範囲に及ぶ。次元の高い、次の世界標準となる貿易・投資ルールをつくることは、この地域にとっても、日本にとっても最大の成長戦略であると関係者は再認識すべきだ。

米金融機関の回復は本物か

 米国の大手金融機関の2015年1~3月期決算が出そろった。リーマン・ショック後の経費削減などの効果は表れたが、厳しい規制の影も色濃かった。

 金融危機の反省として導入された規制は、世界的に強化の方向だ。一段落したようにみえる業務や資産の分離・圧縮を、米金融機関が改めて迫られるとの観測もある。米金融機関の業績回復が今後も続くのかどうか、日本からも注視する必要がある。

 1~3月期は金融緩和の長期化で株式や債券の取引が活発だったため、各社とも証券関連の業務が好調だった。証券業にほぼ特化するゴールドマン・サックスの純利益は前年同期に比べて40%増え、モルガン・スタンレーも6割近い増益となった。

 預金などで調達した資金を融資に回す商業銀行業務は、利ざやの縮小により収益性が低下した。そのなかで、JPモルガン・チェースなど銀行業と証券業を兼営する総合金融機関は、市場取引の収益が業績を下支えした。

 金融危機の反省から、金融機関は自己資金を使った投機的な取引などが禁じられた。そうした規制への対応を進めた結果、各社とも経営は安定したが、収益性の改善には限界も見えつつある。

 例えば、資本効率を測る自己資本利益率(ROE)という指標をみると、1~3月期は10~15%のところが多かった。リーマン・ショック前にROEが一時、40%を超える金融機関があったことを考えると、現在の規制がいかに金融機関をがんじがらめに縛っているかが分かる。

 今でも厳しい規制がさらに厳しくなると見る向きは多い。破綻に備えた特別の資本を積むよう求めるといった内容だ。

 米金融機関がリスク軽減のために国際業務を縮小したり、銀行業と証券業を分離したりすれば、日本企業の資金調達などに影響が出かねない。米銀の穴を機動的に埋められる実力を日本の銀行が備えておきたい。

安全保障法制―抜け道だらけの決着だ

 今国会の焦点となる安全保障法制は、きのう開かれた自民、公明両党による与党安保協議で最後の課題が決着し、全容が固まった。戦争中の他国軍を後方支援するための恒久法「国際平和支援法」について、例外なく国会の事前承認を義務づけることで事実上合意した。

 だがこれを大きな「成果」と受けとるわけにはいかない。

 安保法制の狙いは、自衛隊の海外派遣の縛りをできるだけ解くことにある。これまでの地理的な制約を取り払い、米軍以外にも支援の対象を広げ、自衛隊員は格段に危険な任務につく。「歯止め」は重要だが、恒久法は巨大な安保法制の一部であり、ここで事前承認をかけたとしても全体の方向性を変えるような話ではない。

 さらに言えば、もともと恒久法は国連総会の決議や安保理決議を要件とする方向で、一定の「歯止め」をかけている。そのうえに国会の事前承認を例外なく課すことは当然だ。

 見過ごせないのは、こうした「歯止め」をかけたとしても、他国軍への後方支援に抜け道があることだ。現在の周辺事態法の地理的限定を外し、抜本改正する重要影響事態法である。

 国際社会に寄与するのが恒久法で、日本の平和に関わるのが重要影響事態法。これが政府の説明だが、どちらも活動の中身は後方支援で重なる。

 これでは、国連決議が出なかったり、国会承認が得られなかったりした場合でも、政府が重要影響事態と認定すれば済むことにならないか。

 この法案については、日米安保条約の効果的な運用に寄与することを「中核とする」と規定する方向だ。そういう表現をとることで、条約に縛られない支援が可能になる。原則は事前、緊急時は事後の国会承認が求められるが、政府には使い勝手のいい法律となりそうだ。

 重要影響事態法による後方支援という抜け道があるので、恒久法には厳しい制約を課しても差し支えない――。そんな判断が与党になかったか。

 そもそも安保法制の出発点は昨年7月の閣議決定だ。憲法解釈を百八十度変え、集団的自衛権の行使容認に踏み込んだ。日本の安保政策の大転換であり、平和国家の原則と法的安定性は揺らいでいる。

 集団的自衛権の行使ができる「存立危機事態」とはどんな事態なのか。そこがあいまいなままの決着であり、時の政権の判断次第で海外での武力行使に道が開かれてしまう。安保法制の最大の抜け道である。

全国学力調査―趣旨を逸脱するな

 試験を受ける。ならばいい点を取らないといけない。子どもならそう思うのが普通だ。

 中学3年生と小学6年生を対象とした年1回の全国学力調査は違う。事前対策などせず、どの子もふだん通り問題にむかい、日頃の実力を試すものだ。

 それは調査の目的が、義務教育の機会均等という立場から教育水準が保たれているかを検証し、指導の改善に役立てるという、教える側の情報収集にあるからだ。

 だが今年で8回目となる調査は、時に競争をあおり、学校の格付けにも使われてきた。文部科学省も自治体も、何のための試験か原点に立ち返るべきだ。

 見過ごせないのは大阪府教委の例だ。府教委は今回の調査の結果を、高校入試の合否判定の材料となる内申点の評定に活用することを決めた。

 調査結果をもとに中学校別の平均を出し、府教委が各中学校に内申点(5段階)の平均値の範囲を示す。学校側はそれをもとに各生徒の内申点をつける。

 大阪府では、来春の入試で使う内申書から絶対評価に切り替える。「学校ごとに評価のばらつきがないようにするため」というのが府教委の言い分だ。

 しかし学力調査の教科は今年の場合、国語と数学、理科の3教科だ。音楽や体育、英語など9教科の各内申点に反映させるには無理がある。個々人の頑張りに関係なく平均点が高い学校ほど有利になることに、不合理さを感じる生徒もいよう。

 文科省が「調査の趣旨を逸脱する可能性がある」と懸念表明したのはもっともだ。府教委は一から考え直すべきだ。

 過去にも調査の趣旨をふみ外すような動きはあった。

 一昨年、北海道教委は調査日前に「そろそろ見せてやろう! 道産子の本気を!!」と奮起を促すチラシを保護者に配り、トップレベルの秋田県と、北海道の成績を比べるグラフを載せた。静岡県では昨年秋、成績が全国平均以上だった校長の名前を、知事が独断で公表した。順位を過度に意識した、競争をあおる行為と言わざるを得ない。

 学力調査は点数主義に陥りやすい。文科省は実施要領で「序列化や過度な競争が生じないよう配慮が重要」と定めている。

 もちろん良い活用例も定着しつつある。成績上位県の教育施策を、他の自治体が学ぶ動きは各地にある。親の経済状態と学力の関係を分析し、教員配置に生かす取り組みもある。

 調査を通じて授業や指導を改善していく。自治体は本来の趣旨を忘れてはならない。

戦後70年談話 首相は「侵略」を避けたいのか

 安倍首相は戦後70年談話で、先の大戦での「侵略」に一切言及しないつもりなのだろうか。

 首相がBS番組で、戦後50年の村山談話に含まれる「侵略」や「お詫び」といった文言を、今夏に発表する70年談話に盛り込むことについて、否定的な考えを示した。

 「同じことを言うなら、談話を出す必要がない」と語った。「(歴代内閣の)歴史認識を引き継ぐと言っている以上、もう一度書く必要はない」とも明言した。

 村山談話は、日本が「植民地支配と侵略」によってアジア諸国などに「多大の損害と苦痛」を与えたことに、「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明した。

 戦後60年の小泉談話も、こうした表現を踏襲している。

 安倍首相には、10年ごとの節目を迎える度に侵略などへの謝罪を繰り返すパターンを、そろそろ脱却したい気持ちがあるのだろう。その問題意識は理解できる。

 首相は70年談話について、先の大戦への反省を踏まえた日本の平和国家としての歩みや、今後の国際貢献などを強調する考えを示している。「未来志向」に力点を置くことに問題はなかろう。

 しかし、戦後日本が侵略の非を認めたところから出発した、という歴史認識を抜きにして、この70年を総括することはできまい。

 首相は一昨年4月、国会で「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と発言した。

 侵略の定義について国際法上、様々な議論があるのは事実だが、少なくとも1931年の満州事変以降の旧日本軍の行動が侵略だったことは否定できない。

 例えば、広辞苑は、侵略を「他国に侵入してその領土や財物を奪いとること」と定義し、多くの国民にも一定の共通理解がある。

 談話が「侵略」に言及しないことは、その事実を消したがっているとの誤解を招かないか。

 政治は、自己満足の産物であってはならない。

 首相は一昨年12月、靖国神社を参拝したことで、中韓両国の反発だけでなく、米国の「失望」を招いた。その後、日本外交の立て直しのため、多大なエネルギーを要したことを忘れてはなるまい。

 70年談話はもはや、首相ひとりのものではない。日本全体の立場を代表するものとして、国内外で受け止められている。

 首相は、談話内容について、多くの人の意見に謙虚に耳を傾け、大局的な見地から賢明な選択をすることが求められよう。

日米TPP協議 最終決着を「逃げ水」にするな

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を主導する日米が2国間協議を決着させ、全体の合意につなげることが重要だ。

 甘利TPP相と米通商代表部(USTR)のフロマン代表による半年ぶりの日米閣僚会談が開かれた。甘利氏は会談後、「2国間の距離は相当狭まってきたが、依然として課題は残っている」と述べた。

 事務レベルでの協議を着実に重ね、最終合意を目指したい。

 焦点となった米国産米の輸入量拡大について、5万トンにとどめたい日本に対し、米国は約20万トンを求めている。日本製自動車部品の関税も、日本は即時撤廃、米国は先送りを主張し、調整が続く。

 双方とも国内への配慮から安易に妥協できない事情はあるが、日米が決裂し、交渉全体が漂流する事態は避けねばならない。

 TPPは、貿易・投資ルールの共通化や関税の撤廃により、アジア太平洋地域に高いレベルの自由貿易圏を構築する構想である。実現には、経済規模の大きい日米両国の歩み寄りが欠かせない。

 来週の日米首脳会談では、安倍首相とオバマ大統領がリーダーシップを発揮し、大詰めの段階で足踏みが続く交渉の打開を図るべきだ。最終決着を「逃げ水」にしてはならない。

 TPPには、成長が期待されるアジアを中心とした域内に、透明で公正なルールに基づく経済秩序を確立する意義がある。

 気がかりなのは、TPP交渉が停滞する間に、中国がアジア経済の「盟主」の地位を固めるべく、着々と手を打っていることだ。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーは57か国に上った。だが、組織運営や融資審査が公正に行われるかどうかは不透明である。

 オバマ氏が、「中国のような国ではなく、我々が世界経済のルールを書いていることをはっきりさせなければならない」と述べたのは、もっともだ。

 交渉全体の決着には、米大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案の成立が欠かせない。政府間で合意しても、TPAがなければ、米議会の反対で反故ほごにされる恐れがある。

 TPA法案が先週、ようやく米議会に提出されたのは前進だが、審議の行方は予断を許さない。

 来年秋の大統領選などをにらみ、労働組合や業界団体など、TPP反対派による議会への働きかけも強まろう。オバマ政権は議会対策を急がねばならない。

2015年4月21日火曜日

人口減を見据え多様な人材生かす社会に

 日本の人口が4年連続で減っている。総務省がこのほど公表した2014年10月1日時点の推計によると、総人口は1億2708万3千人で、前年に比べ21万5千人の減少だ。

 高齢化が進み、亡くなる人が増える一方、生まれてくる子どもの数は減っているので、差し引きで人口は減る。15~64歳の生産年齢人口も減り続けている。

 この構図はいや応なく続きそうだ。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、60年の総人口は約8700万人になる。このとき、0~14歳、15~64歳、65歳以上の人口比率はおよそ1対5対4になっているという。

 十分な少子化対策が必要であることはいうまでもない。結婚や出産を阻む壁を取り除き、子どもの数が増えていけば、日本経済の活性化にも、年金や医療などの社会保障制度の維持にもつながる。

 ただ今すぐ子どもが増え始めたとしても、その子たちが社会の担い手になるには20年ほどの時間がかかる。となると、労働や社会参加の面で従来十分に生かし切れていなかった人たちの活用を一層進めなければならない。まずは高齢者や女性だろう。

 かねて指摘されているように、高齢者を単純に支えられる側と見なす社会を変えたい。男性の4人に1人、女性の約半数が90歳まで生きる時代に、一律に65歳で引退するような社会はそぐわない。

 年齢に関係なく、意欲や能力に応じて働けるようにすべきだ。介護ボランティアなどとして貢献する道もあろう。できる限り社会を支える側に回ってもらいたい。

 女性の力ももっと生かしたい。働きながら子育てしやすい環境を整えることが重要だ。民間の力を使って保育サービスを増やすとともに、長時間労働を見直し、働き方、働く場所の多様化を進める必要がある。男性の意識改革も欠かせない。

 子育てなどでいったん家庭に入った女性が再び職場で力を発揮できるよう、再就職支援を充実させることも大事だろう。

 外国人労働力の活用についても真剣に考えるときを迎えている。単純労働力と高度人材の両面について、外国人が暮らすうえで必要な生活インフラも踏まえた総合的な対策を検討すべきだ。

 これまでと同じことをしていては、この人口減時代を乗り切ることはできない。

スマホ時代の怖さを教えよう

 元交際相手や夫婦関係にあった相手の性的な写真・動画を、腹いせにインターネット上などで公開する「リベンジポルノ」の被害が広がっている。

 公開された画像は早期に削除し、悪質な事例については警察が厳しく取り締まっていく必要があるのは、いうまでもない。だが何より大切なのは、私的な画像を安易に他の人に撮らせたり渡したりしないという、自衛の心がけだ。

 スマートフォン(スマホ)の普及によって、画像の撮影も、やり取りも、手軽にできる時代になった。特に子どもや若者が被害に遭わないようにするため、こうした行為には危険がひそんでいることを学校や家庭できちんと教えていかなくてはならない。

 リベンジポルノは、2013年に東京都三鷹市で起きたストーカー殺人事件で、加害者の男が女子高生の画像をネットに投稿していたことで、大きな社会問題になった。昨年11月には、私事性的画像被害防止法(リベンジポルノ防止法)が施行された。

 法律の施行から約1カ月の間に、全国の警察には110件の相談が寄せられたという。だがこれは氷山の一角にすぎないと、専門家らはみている。

 相談の9割は女性で、全体の約6割が10~20代の若い世代だった。相談の中には、「ネット上だけの知人友人」が相手というものが14件あった。会ったこともない人に、性的な画像を渡しているということになる。

 子どもの場合は「相手に嫌われたくない」という気持ちにつけ込まれる例が目立つという。

 インターネットを介して悪意を持った大人が近づいてくる可能性がある。いったん流出した画像は拡散し、削除は難しくなる。このようなネットの怖さについて、子どもたちに改めて理解させる努力が求められる。

 被害に遭っても、恥ずかしさなどから1人で悩んでいる人も多いだろう。相談しやすい窓口の整備も進めていきたい。

言論の府で―異論への異常な圧力

 言論をめぐる、昨今の自民党の行状が目にあまる。

 1日の参院予算委員会での社民党・福島瑞穂氏の発言について、自民党は「不適切と認められるような言辞があった」として修正を求めている。

 福島氏は質問の中で「安倍内閣が、14本から18本以上の戦争法案を出すと言われている。集団的自衛権の行使や後方支援という名のもとに、戦場の隣で武器弾薬を提供することを認めようとしている」と述べた。

 安倍首相はその場で「レッテルを貼って議論を矮小(わいしょう)化していくことは断じて甘受できない」と反論した。

 その後、自民党の堀井巌・予算委理事が福島氏に会い、「戦争法案」との表現を修正するように要求。福島氏は拒否し、「国会議員の質問権をこういう形で抑え込もうというのは極めておかしい。表現の自由に関わる」と反発している。

 国会議員の国会内での発言は、国会の外で責任は問われないと憲法は定めている。すべての国民を代表する議員が自由に議論するためだ。それほど尊重されるべきものだ。

 これまでも議員発言が議事録から削除・修正されたことはあるが、国会の権威や人権を傷つけたような場合が通例だ。

 福島氏の発言は、集団的自衛権についての強引な解釈改憲に基づく法整備への、国民の根強い懸念を代弁している。多数意見であろうとなかろうと、国会で尊重されるべき主張である。

 政権側に異論があるなら、議場で反論し、やりとりをそのまま記録に残せばいい。その是非を判断するのは、現在と後世の国民だ。

 多数派の意に沿わない発言だからといって、「一方的だ」という理由で修正させようというのは、数の力を背景にした言論の封殺である。

 権力と憲法の関係について、改めて考えたい。

 憲法によって権力の暴走を防ぐ「立憲主義」について、首相はかつて国会で「王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方だ」と語った。まるで権力を縛るなど時代錯誤だと言わんばかりだった。

 しかし、最近の安倍首相ら政権側の言動はどうだろうか。沖縄県知事らの意向などお構いなしの普天間飛行場移設の強硬姿勢。個別の報道番組への口出し。そして今回の議員発言への修正要求である。

 自らと異なる立場に対する敬意や尊重などかけらもない。「絶対権力」の振る舞いと見まごうばかりである。

放送法―権力者の道具ではない

 今の政権党は「放送の自律」という原則を理解していない。そう考えざるを得ない。

 テレビ朝日「報道ステーション」とNHK「クローズアップ現代」で事実ではないことが放送されたとして、自民党情報通信戦略調査会が、両局の幹部を呼んで事情聴取をした。

 番組内容に問題があったことは、両放送局とも認め、視聴者におわびしている。だからといって、その問題を理由に政権党が個別の番組に踏み込むのは、行き過ぎた政治介入というほかない。

 自民党は「放送法に照らしてやっている」と説明している。確かに放送法第4条は「報道は事実をまげないですること」と定めている。テレビ局が誤った報道をしたり、伝え方に問題があったりした場合、自らの責任で訂正するのは当然だ。

 ただし、そうした営みは、あくまで放送局の自律した判断に委ねられるべきである。

 放送法第1条は、「放送が国民に効用をもたらすことを保障し、表現の自由を確保し、健全な民主主義の発達に資する」との目的をうたっている。そのうえで第3条は、番組編集の自由を保障している。

 放送法は、民主主義社会の基盤である国民の知る権利や表現の自由に、放送を役立てることを主眼としている。政治権力が放送局を縛る道具としてあるのではない。

 自民党は、さらに干渉を強めかねない。NHKと民放各社でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」についても、批判的に言及した。

 BPOは、番組への苦情や指摘を受けて、有識者が審議する仕組みだ。再発防止計画を出させ、検証番組の放送を求めることもある。議論の過程や決定、放送局の対応を公表しており、放送界の自律的な審査機関として機能している。

 ところが、BPOの運営資金が放送界で賄われていることから、自民党からは「お手盛り」などという批判とともに、政府が関与するかたちに変えようとの発言も出ている。それは、あまりに乱暴な考えだ。

 放送法もBPOも、テレビを、国民の自律的な言論や表現の場とするための仕組みなのである。そこに政権政党の意向を働かせることは、多様で自由な表現を保障する民主主義の本質的な価値を損ねかねない。

 放送局が公正に番組をつくる責任を自覚すべきなのは当然だが、今の自民党の「圧力」は明らかに行き過ぎだ。権力の乱用を厳に慎まねばならない。

過労死防止大綱 働く人の健康を守れる職場に

 働き過ぎによって命を落とす人をなくすため、長時間労働の実効性ある是正策につなげることが重要である。

 厚生労働省が、過労死防止の具体策となる大綱の骨子案を公表した。昨年11月に施行された過労死等防止対策推進法に基づくものだ。大綱は、6月にも閣議決定される。

 将来的に「過労死ゼロ」を目指し、2020年までに、週60時間以上働く人の割合を今の9%程度から5%に減らす。有給休暇の取得率は49%から70%に上げる。

 骨子案が掲げたこれらの数値目標は既定路線で、目新しさには乏しい。それでも、過労死防止の観点から、企業に働き方の改革を促す意義は小さくない。

 過労死の要因や背景を解明するため、調査研究に力点を置いたのが、骨子案の特徴だ。勤務状況との関連を長期的に追跡調査し、自営業者や公務員を含めた実態調査も進める。効果的な予防策の確立を期待したい。

 過重労働による脳や心臓の疾患で死亡し、13年度に労災認定された人は133人で、12年連続で100人を超えた。うつ病などの精神疾患による自殺や自殺未遂で労災認定された人も63人に上る。

 労災認定は、厳格な基準を満たすケースに限られる。過労死全体の「氷山の一角」だろう。

 予備軍も多い。特に深刻なのは30歳代の男性だ。2割近くが週60時間以上働いている。残業が週20時間以上に及ぶことになり、「過労死ライン」とされる月80時間超に該当しかねない。

 仕事上の強い不安やストレスを訴える人は全体の半数を超す。

 骨子案が、相談窓口の設置や大学や高校を含めた啓発活動の強化を盛り込んだ背景には、こうした現状がある。

 遺族などからは、骨子案の内容が不十分だとの批判も出ている。労働時間の上限規制に踏み込まなかったためだ。

 労働基準法の規定では、労使が協定を結べば、ほぼ無制限に残業が認められる。過労死ラインを超えても違法ではなく、行政による取り締まりも難しい。

 過重労働を強いる職場では、生産性が低下しがちだ。労働力人口が減る中、優秀な人材も集まりにくい。長時間労働の是正は、企業にとってもメリットになろう。

 政府は、先進事例の周知などにより、企業の自主的取り組みを後押しすべきだ。働く人の健康を守る職場作りに向け、官民を挙げた取り組みが求められる。

精神保健指定医 不正の常態化は見過ごせない

 医療に携わる者としての倫理観の欠如に、あきれるばかりだ。

 不適切な診察や治療が行われていなかったのか、徹底した調査が必要である。

 川崎市の聖マリアンナ医科大病院で、11人の医師が「精神保健指定医」の資格を虚偽申請により不正に取得していた。厚生労働省は、指導した上司を含め、計20人の資格を取り消した。

 不正取得による大量処分は、過去に例がないという。

 精神保健指定医は、全国で1万4630人に上る。自分や他人を傷つける恐れがある患者を、知事などの権限で強制的に入院させる「措置入院」の判定に関わる。家族などの同意で入院させる「医療保護入院」の適否も判断する。

 患者の行動を制限する強い権限を持つため、精神保健福祉法に基づき、厚生労働相が十分な知識と経験を持つ医師を指定する仕組みになっている。

 虚偽申請は、資格制度の趣旨を蔑(ないがしろ)にする行為である。

 指定医の申請には、精神科医として3年以上の実務経験と、診断した8症例以上のリポートを提出することが必要だ。11人は先輩医師のリポートの一部を書き換え、自らが診断したように見せかけて申請していた。極めて悪質だ。

 看過できないのは、リポートの使い回しが常態化していたことだ。病院側は、医師間でデータの受け渡しが行われていたと認めた。指導医のチェック機能も働かなかった。深刻な事態である。

 今回、厚労省から酷似したリポートの存在を指摘され、病院側は初めて不正に気付いたという。

 資格を不正取得した医師は、4人の措置入院の判定に関わった。医療保護入院の判定は約100人に達する。誤った判定で患者が措置入院などになっていれば、人権上、大きな問題だ。川崎市と病院には詳細な検証が求められる。

 指定医は診療報酬の優遇を受けられる。資格の不正取得の結果、外来診療で上乗せされた約170万円について、病院側が返還する方針を示したのは当然だ。

 指定医の取り消しにより、聖マリアンナ医科大病院は神経精神科の体制を縮小した。地域医療に影響が及んでいる。

 厚労省は再発防止策として、リポートのデータベース化を急ぐ。類似のリポートを判別できるようにするためだ。他の病院でも同様の不正がなかったかどうかについても調査する。

 精神科医療の信頼回復には、指定医の厳格な審査が不可欠だ。

2015年4月20日月曜日

米大統領候補と幅広いパイプをつくれ

 来年の米大統領選への出馬表明が相次いでいる。民主党の本命とされるヒラリー・クリントン前国務長官も名乗りをあげた。選挙結果は日米関係の行方に影響する。誰が大統領になっても大丈夫なように、日本政府は各陣営に幅広い人脈を築いておくことが大事だ。

 選挙戦は二大政党が候補を絞り込む予備選、そこで選ばれた指名候補が雌雄を決する本選挙の2段階で戦う。予備選の開始までまだ1年近くあるが、米政界は早くも活気づいている。

 クリントン氏は大統領夫人、上院議員、閣僚を務め、申し分のない経歴である。米メディアの世論調査で一歩先行する。国務長官として、欧州や中東に向きがちだった米外交の視点をアジアに転じさせる「リバランス」を主導した。日本には心強い存在だ。

 ただ、党内には貧困層救済に力点を置くエリザベス・ウォーレン上院議員を推す声もある。リベラル派の支持を奪われまいとクリントン陣営が左傾化し、保護貿易の色彩の濃い公約を打ち出せば、環太平洋経済連携協定(TPP)などの先行きは不透明になる。

 ホワイトハウス奪回を目指す共和党の予備選は、父と兄が大統領経験者のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事を軸に展開しそうだ。「茶会」と名乗る極端に「小さな政府」を志向する勢力からはテッド・クルーズ、ランド・ポール、マルコ・ルビオ各上院議員が立候補した。本選挙で挙党一致体制を築けるかどうかが焦点だ。

 オバマ政権が安倍晋三首相の靖国神社参拝への「失望」を表明した際、首相側近から「共和党政権のときはこんな揚げ足をとったことはなかった」との発言が出た。

 共和党に対中強硬派が多いのは事実だが、東アジアに無用な波風が立つのは米国の国益にならないとの認識は党派を問わない。

 いずれにせよ、誰が勝ってもよい備えをする必要がある。いまは泡沫(ほうまつ)候補でも、のちに副大統領や閣僚に就くことは珍しくない。クリントン氏とはこれまでの蓄積がそれなりにあるとすれば、なおさらいろいろな陣営とつきあう余力があるはずだ。

 日本外交は伝統的に国務省など行政府との関係を重視し、米議会への働きかけが手薄である。上院議員時代のオバマ氏とどういう接触をしていたのか。その反省を踏まえ、次期大統領選に対応してもらいたい。

研究活力と不正防止の両立を

 科学研究の不正に関する新しいガイドラインを、文部科学省が今月から実施した。研究者や学生に対する倫理教育の徹底、疑いが浮上した際に証拠となる試料の長期保管、不正の疑いに対する迅速な調査委員会の設置などを、大学など研究機関に求めている。

 研究論文の不正問題が相次いでいるだけに、大学などに管理責任を求めるのはやむを得ない面があろう。だが、管理ばかりが行き過ぎると研究現場を萎縮させ、自由な発想が生まれにくくなる。

 文科省や大学は、独創的な研究を生む環境づくりを最優先に考えてガイドラインを適切に運用すべきだ。不正防止はまず科学者の責任である。不正は科学に対する国民の信頼を失わせかねないとの危機感を持って、襟を正して研究に取り組んでもらいたい。

 論文の不正では理化学研究所のSTAP細胞騒ぎが目立ったが、他にも後を絶たない。東京大学では研究室ぐるみの不正が明るみに出て、3月末に3人の博士号を取り消すことになった。

 不正が近年とりわけ増えていると裏付けるデータはないが、理研や東大といった日本を代表する研究機関で起きていることは深刻に受けとめなくてはならない。

 背景には成果主義のまん延がある、と指摘する声がある。論文数など数値化された指標が研究資金の配分を左右するため、科学者が論文数を増やすことに奔走する傾向があるという。

 成果主義が悪いと一概には言えない。多くの成果を出す者が高く評価されるのは当然だ。ただ、論文で本来問われるべきは数ではなく質だ。また次代の科学者の育成を担う大学では教育が重視されなければならない。成果を測る尺度をより多角化するなど、研究評価のあり方をいま一度、考え直す必要があるのではないか。

 管理強化の取り組みは規模の小さな大学には相対的に重い負担になる。小さくともきらりと光る研究が失われないか心配だ。研究の多様性を確保する目配りも要る。

酒安売り規制―消費者利益が第一だ

 つまるところ、免許の取り消しをちらつかせてお酒の安売りをやめさせようということか。

 自民党が、議員立法で酒税法などの改正作業を進めている。この国会での法改正を目指すという。

 財務相は、酒類の製造や販売に携わる業者が守るべき「公正な取引の基準」を定める。それを守らない業者には指示や命令をし、命令に違反した場合は免許を取り消すことができる。こんな内容である。

 スーパーやディスカウントストア、コンビニなどが加わる販売合戦のなかで、「街の酒屋さん」は苦戦をしいられている。中小零細業者を中心とする販売店の組合は法改正を含む規制強化を求めてきており、政権与党がそれに応じたという構図だ。

 ライバルの追い出しを狙うような安売りが許されないのは当然だ。不当な販売戦略で先祖代々の酒屋さんが閉店に追い込まれる事態は防がねばならない。しかし、それは公正取引委員会を中心に独占禁止法をしっかり運用するべき問題だろう。

 自民党の改正法案が言う「公正な取引の基準」の内容はあいまいなままだ。有識者からなる審議会に諮り、公取委との協議を義務付けるというが、独禁法の趣旨をなぞるだけなら業者側が黙っていないかもしれない。「価格」に踏み込んで安売りを抑えようとするなら、自由な経済活動を妨げ、消費者の利益を損ないかねない。

 お酒の販売免許を巡っては、かつては一定数の住民がいないと免許を出さない「人口基準」や、既存店からある程度離れていないとダメという「距離基準」があった。それらは2000年代に入って相次いで廃止され、消費者の便利さを高める方向で制度が改められた。

 安売りがもたらす弊害に関しては、国税庁が06年に公正な取引のための指針を作り、公取委との連携強化や大手業者への調査の強化を打ち出した。その指針も「常に『消費者の視点』を意識し……」とうたっていることを忘れてはならない。

 お酒は飲み過ぎると体調を崩し、依存症に陥る恐れもある。だからと言って、安売りをなくすことが正当化されるわけではない。お酒との賢い付き合い方は、消費者への教育や啓発を通じて訴えていくべき話である。

 消費者の関心が高く、民間の創意工夫を引き出すカギともなる「価格」を巡る競争を大切にしながら、行き過ぎた場合はしっかりと取り締まる。この原則を、自民党はいま一度思い出してほしい。

国立公文書館―国民に開かれた新館を

 政府などの公文書を保存、公開する国立公文書館。手狭になったいまの施設の建て替えに向けた動きが出てきた。

 超党派の議員連盟が、国会に隣接する衆院の所有地を建設用地とし、建設への予算を計上するよう安倍首相や衆参両院議長に要請。首相は前向きな姿勢を示し、衆院も検討を始める。

 国民の財産である公文書を適切に保存・公開することは、民主主義国にとって極めて重要な知的基盤である。この動きは歓迎したい。

 政府の公文書は、長らく各省庁の勝手な判断によって隠されたり、捨てられたりしてきた。そんな状況を改め、公文書の管理や保存の統一ルールを定めた公文書管理法が施行されたのは2011年だ。最終的な保存先である公文書館は、あと3、4年で満杯になる見通しだ。

 いまの国立公文書館は東京・北の丸公園に本館、茨城県つくば市に分館があるが、他国に比べて見劣りすると指摘されてきた。職員約50人、文書を所蔵する書架の長さ59キロは、米国の約2700人、1400キロに比べればケタがふたつ、イギリスやフランス、韓国に比べてもケタがひとつ規模が小さい。

 また、展示や学習といった機能を考えた設計にもなっていない。本館には昭和天皇の署名入りの日本国憲法などが展示されているが、照度や温度、湿度の管理が十分にできず、原本ではなくレプリカの展示にとどまっている。

 政府の有識者会議が公文書館のあり方について先月まとめた提言は、「公文書は国民共有の歴史的・文化的な資産」という観点での取り組みが重要なのに、日本ではほとんどその機能がないと指摘している。

 施設と同時に、公文書管理の体制強化も必要だ。

 公文書管理法施行後の3年間で、年230万~280万もの公文書のファイルが各省庁での保存期間を終えた。そのうち歴史的文書として公文書館などに移されたのは1%に満たず、ほとんどが廃棄された。移管か廃棄かの判断をしているのは内閣府と公文書館のわずか20人程度の職員で、どれだけ精査できているのかは疑問だ。

 一方、安全保障にかかわる特定秘密保護法は、何が秘密にあたるのか、行政の恣意(しい)的な判断の余地を残したままだ。

 秘密にしておかねばならない情報はあるにせよ、一定期間がたてば秘密指定は解除し、公開する――。そのための公文書館であるとの原則は、決して忘れてはならない。

電力広域機関 安定供給確保が最大の使命だ

 電力の安定供給体制を確立するため、万全を期さなければならない。

 全国的な電力供給の調整を行う「電力広域的運営推進機関」(広域機関)が発足した。

 広域機関の設立は、政府が進める電力制度改革の第1弾と位置付けられている。

 2016年に家庭向けを含む電力販売が全面自由化される。20年には、電力会社の発電と送配電部門を分社化する発送電分離の実施が予定されている。

 電力改革の進展によって多様な事業者の参入が加速し、電力需給調整は今後、格段に複雑になる。広域機関は、大手電力がそれぞれ手がけてきた需給調整を全国規模で統括し、安定供給を確保する重い責任を担うことになる。

 需給調整の失敗によって大停電などを招かぬよう、緊張感を持って業務にあたってもらいたい。

 広域機関は国の認可法人だ。大手電力や新電力など約600社の電気事業者すべてが支払う会費で運営される。

 全国の電力需給を監視し、供給余力がある電力会社に対し、電力が不足しそうな地域への送電を指示する。指示に従わない場合は、制裁金を科す強い権限も持つ。

 それでも、国内の全原発の運転停止が続いている中で、需給調整を行うのは容易ではない。

 今夏は、日本全体の供給力は需要を上回る見通しだが、関西電力と九州電力は、他電力から融通を受けないと供給力不足に陥るという綱渡りの状況だ。円滑な融通体制をとれるか。広域機関の手腕が問われることになる。

 天候や時間帯で発電量が急変動する太陽光や風力など再生可能エネルギーの増加も、需給調整の難度を高めている。

 広域機関は、信頼できる監視・制御システムの構築と、優秀な人材の確保を急がねばならない。

 広域機関には、日本全体の発電所や送電網の整備計画を立て、実施を指示する役割もある。

 欧米では、電力自由化に伴うコスト削減で老朽化した送電設備の更新が進まず、それが原因で大停電も起きている。同じ轍(てつ)を踏まないよう、綿密な中長期計画を立てる必要がある。

 送電網の増強には、兆円単位の費用がかかり、最終的に電気料金など国民負担に跳ね返る。

 過度な利用者負担を避けつつ、安定供給体制を確立するには、どの程度の投資が適切か。費用対効果を踏まえた、現実的な計画とすることが重要だ。

音と色の商標 ブランド戦略の武器にしたい

 CMで流れる印象的なメロディーや、おなじみの玩具のカラー……。

 それぞれのブランドを思い起こさせる「音」や「色」を商標登録できる新制度が今月、スタートした。

 商標とは、会社の商品やサービスを他社と区別するためにつけるマークのことで、文字や記号、図形などが一般的だ。

 欧米や韓国では、ブランドを想起できる特定の音や色についても商標登録を認めている。国際的な流れに合わせて対象を拡大することは、日本企業の知的財産戦略を後押しする上で意義がある。

 文字や記号だけより、音や色を組み合わせた方が、人間の感覚に訴える力が強いとされる。言葉の違う外国でも、CMなどで音や色を有効に使えば、消費者に覚えてもらいやすくなる。

 実際に欧州では、久光製薬のCMで最後に流れる「ヒ・サ・ミ・ツ」のメロディーや、トンボ鉛筆の消しゴム「MONO」に使われている青白黒3色の組み合わせなどが、商標登録されている。

 新制度が始まった日本でも、製薬会社や菓子メーカーのCM効果音やメロディー、玩具の列車が走るレールの色など、既に400件近い出願がある。

 もちろん、各企業が使っている音や色なら何でも商標になるわけではない。特許庁は、長期間にわたって使い続けられ、音や色によって多くの消費者が商品やブランドを具体的に思い浮かべられるものを中心に認める方針という。

 新たな知的財産を、貴重な経営資源として生かしたい。

 音や色が商標の対象となったことで、日本で出願すれば、商標に関する国際協定の加盟国に一括して出願できるようにもなる。日本のブランドを海外に売り込む追い風となりそうだ。

 海外では、日本のブランドを模倣した商品が大量に流通し、日本企業が防戦に追われるケースも珍しくない。

 中国では、佐賀県の「有田焼」や愛媛県のタオル名産地「今治」など、日本の地名やブランド名を商標登録する現地企業が後を絶たない。中国に進出を図る日本企業に権利を買い取らせようとする「悪意の出願」と見られる。

 日本側の異議申し立てで登録を取り消すなど、対抗策は一定の成果を上げているが、多大な手間とコストがかかっている。

 将来の海外展開に備えて、有望なブランドの商標は外国でも早めに登録しておく。こうした地道な自衛策を講じることが重要だ。

2015年4月19日日曜日

G20は国際金融改革の前進へ結束せよ

 世界経済の成長力を底上げするために日米欧と新興国の20カ国・地域(G20)は投資の促進に取り組む。G20財務相・中央銀行総裁会議はそんな内容の共同声明を採択して閉幕した。

 G20会議そのものでは大きな議論にならなかったものの、前後して開かれた他の会議や2国間の会談では、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に焦点があたった。

 中国は、英独仏伊の欧州勢を含む57カ国がAIIBの創設メンバーになると発表した。インドやブラジルを含む新興・途上国24カ国は歓迎の声明を出した。

 これに対し、参加を見送った日本と米国が、AIIBは公正な統治のしくみを備えたり社会・環境に配慮したりすることが重要、との認識で一致したのは当然だ。ただ日米と欧州勢との間で対応がわかれたのは気になるところだ。

 国際通貨基金(IMF)の準備資産に中国の人民元を加えるかをめぐっても、日米と欧州勢の間に微妙な温度差が生まれている。

 今の準備資産はドルとユーロ、円、英ポンドで構成されている。今年は5年に1度の見直しの年で、英国のオズボーン財務相は人民元の追加を支持する考えを表明したが、日米は中国がまず資本規制を自由化すべきだとの考えだ。

 AIIBが世界標準に沿った国際金融機関になるべきだとの立場では日米と欧州勢は同じはずだ。準備資産の問題とあわせて、日米欧の7カ国(G7)は連携して中国に改革を促すべきだ。

 同時に、米国は新興国の発言権を高めるIMF改革の国内承認手続きを早く進めてほしい。新興国のAIIB支持の背景には、経済の規模が大きくなったのに既存の国際金融機関での発言権を低く抑えられている、との不満がある。米国の責任は重い。

 ユーロ圏は、債務不履行の懸念が再燃しているギリシャ問題の打開を急ぐときだ。日本は財政健全化計画に盛り込む歳出削減の具体策の検討が急務だ。

 新興国は、今年後半とみられる米国の利上げに備え、経済の基礎体力を高めるための構造改革を忘れてはならない。

 各国・地域は自らの宿題を着実にこなしつつ、国際的な租税回避への対応や、金融規制の強化などに結束して取り組む必要がある。世界経済が緩やかに回復しているからといって慢心は禁物だ。

首かしげる番組内容の聴取

 自分たちがやっていることの意味をしっかり考えたうえでのことだろうか――。自民党の情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の幹部を呼んで番組内容について聴取した件だ。やはり首をかしげざるを得ない行動である。

 自民党が問題にしているのは、NHKの「クローズアップ現代」で「やらせ」があったとの指摘と、テレビ朝日の「報道ステーション」でコメンテーターの古賀茂明氏が自らの番組降板に政権の圧力があったと番組内容とは離れて批判を展開したことだ。

 NHKの番組については調査委員会の中間報告で一部の誤りを認定したのを受け、番組内で謝罪、やらせの有無は調査を続けている。テレビ朝日番組で言及された政権の圧力に関しては菅義偉官房長官が「事実無根」と否定。放送内容についてテレビ朝日は不適切だったと認めている。

 公共の電波を使いながら、やらせや事実に基づかない発言による誹謗(ひぼう)中傷などがあってならないのは言うまでもないが、自民党がテレビ局の幹部を呼んで、個別の番組内容について事情を聞くのは異例である。

 そこには報道や言論に対し、政権党が何らかのかたちで関与していこうとの意図がないと果たして言い切れるのかどうか。与党の中からも「報道への介入と受け止められないよう自民党として説明責任を果たした方がいい」(井上義久公明党幹事長)という反応が出てくるのは当然だろう。

 今回の自民党の対応ぶりは、民主主義のもとでの表現の自由という基本の問題へのありようを問いかけてくれている。権力とメディアの間には、常にある種の緊張関係がある。権力へのチェック機能をメディアが持ち、そのためにも言論の自由があって、民主主義は成り立っているはずだ。

 古き良き自民党はそれを知っていたから、権力の行使には謙虚で、表現の自由への尊重もあった。もちろんその良き伝統は今日も続いていると信じたい。

中国と世界―新たな大局観育てたい

 成長の道を歩む中国は一体、どんな国になるのか。

 その見通しを曇らせる要因の一つは、この国がしばしば経済と安全保障でそれぞれ大きく異なる容貌(ようぼう)を見せることだ。

 アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、中国は国際主義的な姿勢をうたっている。

 旺盛な開発意欲が続くアジアのインフラ需要は膨大だ。既存の日米主導のアジア開発銀行(ADB)だけで賄えるはずもなく、開発支援を複線的に進めようという提案には理がある。

 その呼びかけに応じ、欧州などから56カ国が創設メンバーに加わった。思惑は様々だろうが、多くの国の胸中には二つの共通点があるのではないか。

 それは、中国経済が牽引(けんいん)するアジア開発に対する期待感と、中国外交が主導する国際ルールづくりに抱く不安感である。

 近年、周辺国が感じる脅威の最大の理由は、近海で今も続く中国の振る舞いであろう。

 南シナ海では領有権で争いのある海域の岩礁で一方的に埋め立て工事を施し、軍事施設化が心配される。ドイツであったG7外相会合も懸念を示したが、中国は聞こうとしない。

 そんな中国に対する各国の対応は、戦略的な政経分離だ。例えばシンガポールは「ビジネスは中国重視、軍事は米国重視」と割り切る。フィリピンやベトナムは南シナ海ではにらみ合いつつ、新銀行には加わる。

 中国との新しい距離感を模索し、どの国も悩んでいる。かねて米国でも、世界貿易機関(WTO)に中国を迎える際、中国を国際経済秩序に取り込めば、やがて政治も変わるだろうとの議論が盛んだった。

 それが今や中国が秩序づくりに意欲を見せる時代である。日米にとっても自身の利益のために、中国とアジアの市場が死活的に大切だ。89年の天安門事件当時のように、中国を制裁で国際経済から突き放すような選択肢はありえない。

 南シナ海に見るような中国リスクをどう抑え込み、融和志向へ導くか。難問である。

 政治的な関係がどうあれ、中国と日米を含む周辺国とは、グローバル経済の同舟にある。互いの経済発展が互いの政治の安定を担保する構造にある。もはや前世紀までの「覇権主義」はどの一国の利益も保証しない。

 新秩序を探る中国は、自国のために国際社会との順応性を強めるべきだし、日米も中国の新たな役割を認めつつ、安定を守る道を探るべきだろう。日米中とも、新時代に即した大局観を自らの中に育てたい。

生活困窮支援―相談者に役立つものに

 同じ職場で長く働いてスキルを身につける。そうした機会に恵まれない人が、非正規雇用の増加とともに目立つようになった。そんな人が失業すると、仕事探しは難しくなりがちだ。

 その結果、生活に困ったとしても、「高齢」「障害」といった従来の社会福祉の枠組みからは外れてしまう。

 制度のはざまで生活苦に陥る人に向けた「生活困窮者自立支援制度」が4月から始まった。

 実施するのは都道府県や市など福祉事務所を持つ全国約900の自治体で、様々な問題をワンストップで相談できる窓口の設置が義務づけられた。窓口では、支援員と相談者本人が話し合って「就労」などの目標を設定してプランを作る。

 就労支援に加えて、家賃補助、家計相談、貧困の連鎖を防ぐための子どもの学習支援などのサポートも制度に盛り込まれている。

 本人に寄り添って相談にのるうちに、これまでの仕事、健康状態、収入、借金、家族関係など、機微に触れる情報がこの窓口に集まることもあるだろう。

 厳重な情報管理はもちろん、役所内や関係機関と情報を共有する際には相談者本人の同意を得るなど、取り扱いには十分に注意を払ってもらいたい。

 就労支援では、支援員は企業やNPO法人などを紹介する。その際、相談者本人が仕事に段階的に慣れることができるよう、雇用契約を結ばない実習形式から入る場合もある。

 この運び方には、生活困窮者を支援する人たちから「安い労働力として使われるのでは」と懸念する見方も出ている。

 制度上は①実習先は一定の条件を満たした認定事業者に限る②雇用契約するかどうかは行政が決める③支援員が日常的に目配りする、といった対策を取ることになっているものの、制度が悪用されないよう監視の目を光らせてほしい。

 また、相談者が最低限度の生活を維持できていないなら、生活保護について説明し、受給につなげなければならない。

 生活保護の受給者が217万人を数えて、生活保護に絡む財政負担は国も自治体も増している。このため、自治体が生活保護費を抑えるために新制度を使って、受給させない事態が生じることを危惧する声は根強い。

 厚生労働省は新制度について「生活保護に至る前の段階の自立支援」と説明している。

 生活保護を受けさせないことが目的にならないよう、相談者の実情に沿った支援を徹底してほしい。

アジア投資銀 運営の透明性が確保できるか

 国際金融機関にふさわしい公平性や透明性が確保できるのか。不安は募るばかりである。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーが、57か国で確定した。67か国・地域が加盟するアジア開発銀行(ADB)に迫る陣容となった。

 日米両国は、AIIBで公平・中立な運営や組織体制が実現されるかどうか疑問があるとして、参加を見送った。

 訪米した麻生財務相は、ルー財務長官と会談後、「AIIBは公正なガバナンス(統治)や環境への配慮など、国際的スタンダード(基準)に基づくことが重要だという点で一致した」と述べた。

 AIIBが国際金融秩序の波乱要因とならないよう、日米がクギを刺したのは、妥当である。

 中国は、主要出資国から選出するAIIBの理事を、本部を置く北京に常駐させず、電子メールによる連絡などで理事会を運営する方向で検討しているという。

 これでは、組織運営や融資案件の選定に関し、加盟国の意見は十分に反映できまい。中国から選ばれる見込みの総裁が、意のままに動かす組織になりかねない。

 ADBは、本部に常駐する12人の理事が頻繁に会議を開き、融資案件ごとに精査している。

 中国が、こうした意思決定の方法について、時間や費用がかかりすぎると批判しているのは、到底容認できない。

 国際金融機関を名乗る以上、多様な参加国の意見を踏まえ、融資対象事業の性格や意義、資金返済の確実性などについて、厳密に判断するのが当然である。

 中国が創設メンバーから台湾を除外したことも、AIIBを恣意しい的に運営しようとしている証左ではないか。台湾に政治的な圧力をかける狙いとすれば問題だ。

 日本国内にも、企業の利益につながるとして、参加を前向きに検討すべきだとする意見がある。

 だが、AIIBに加盟した場合の日本の財政負担は、政府の試算で最大30億ドル(約3600億円)と巨額にのぼる。

 日本は米国と並ぶADBの最大出資国だが、ADBが関わったプロジェクトで、日本企業の受注率はわずか0・3%ほどだ。

 中国の発言力が強いAIIBに加わって、出資に見合うメリットがあるのか疑わしい。

 当面は、中国の出方と、創設メンバー国による協議の行方を見守ることが得策だろう。参加を焦る必要はない。

専門職大学構想 産業界との協力推進がカギだ

 社会で活躍できる「即戦力」の養成につながるだろうか。

 下村文部科学相が、職業教育を専門に行う2~4年制の高等教育機関の創設に向けた制度作りを中央教育審議会に諮問した。

 専門的な技能を身に付ける実習を教育の中心に据え、企業へのインターンシップなどを積極的に実施する。国が設置を認可し、卒業生には短大卒や大学卒と同等の学位を与える。こうした構想だ。

 厳しい経済状況が続いたことから、自前で社員教育を行う余裕のない企業が増えている。実務能力を備えた新卒の人材への需要は高まっている。

 新たな教育機関を設置することにより、職業教育のレベル向上を図る狙いは理解できる。

 日本の大学は制度上、学術研究に比重が置かれ、職業教育への特化には限界がある。

 専門学校は様々な職業教育に取り組んでいるが、教育の質には、ばらつきも見られる。設置基準が緩やかで、大学のような第三者評価を受ける仕組みがないことが影響しているのだろう。

 工業や商業、農業など専門高校の出身者は、さらに高度な教育を受ける機会に恵まれていない。専門性を高める新たな教育機関の創設で、こうした人たちの選択肢が広がる意義は大きい。

 2~3か月の短期履修を重ねて、学位を取得できるような仕組みにすれば、社会人も通いやすくなる。「学び直し」の環境を整えることも期待される。

 ただし、構想を実現する上での課題は多い。

 実践的な職業教育には、実務経験の豊富な教員の確保が不可欠である。最先端の技術を学生に教えるには、企業OBだけでなく、現役の社員らも教壇に立つ必要があろう。社員を教育機関に派遣する余力が企業にはあるだろうか。

 福祉・介護や観光、情報技術など、職業の分野によって、要求される能力は異なる。具体的なカリキュラムを策定する際には、卒業生を受け入れる企業側の視点が欠かせない。産業界との協力体制をどう築くかがカギとなる。

 新教育機関は、大学と同様に、公的助成の対象となる見込みだ。新設だけでなく、既存の短大や専門学校などが衣替えすることも想定されている。

 適切な設置基準を設け、公的助成を受ける教育機関にふさわしいかどうか、審査することが大切だ。開校後に教育の質をチェックする仕組みの検討も求められる。

2015年4月18日土曜日

首相と沖縄知事は粘り強く対話を重ねよ

 安倍晋三首相と沖縄県の翁長雄志知事が昨年の知事選後、初めて会談した。双方が主張をぶつけ合うだけの平行線に終わったが、顔を合わせないよりはるかによい。粘り強く対話を重ねて信頼関係を築けば、必ず道は開けるはずだ。

 約35分間の会談のほとんどは、沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地の同県名護市辺野古への移設の是非に費やされた。

 普天間基地は住宅密集地の真ん中にあり、不測の事態がいつ起きても不思議ではない。2004年には米軍のヘリコプターが基地に隣接する沖縄国際大のキャンパスに墜落する事故があった。

 会談で首相は名護市への移設を「唯一の解決策」と説明した。現実を踏まえれば、人口が比較的少ない辺野古への移設によって危険性を低減させる日米合意は妥当といえるだろう。

 知事は「沖縄がみずから基地を提供したことはない」と反論し、普天間基地の無条件での返還を求めた。さらに月末の日米首脳会談で沖縄が移設に反対していることをオバマ大統領に伝えるよう要求した。知事自らも近く訪米して米政府にじかに働きかける意向だ。

 双方の溝を埋めるのは容易ではないが、協議を続ける姿勢が互いにみられたことは評価できる。首相は会談で「理解を得るべく努力を続けていきたい」と述べた。菅義偉官房長官は記者会見で「この会談を機会に対話を重ねたい」と力説した。

 そもそも会談は4月上旬に沖縄を訪れた菅官房長官に、知事が首相と直接対話したいと語ったことで実現した。

 1996年に普天間返還で米政府と合意した橋本龍太郎首相は、当時の沖縄県知事だった大田昌秀氏と短期間に20回近くも会った。大田氏は結局、普天間代替施設を県内につくることに同意しなかったが、橋本氏の真摯な姿勢は県民にも評価する声があった。

 安倍政権もこうした共感を沖縄県民の間に生み出すことができるか。知事を説得するにはこうした地道な努力が欠かせない。

 政府と沖縄が話し合うべきは基地問題だけではない。自衛隊と民間が共用する那覇空港は分刻みで飛行機などが離着陸している。滑走路の増設は南西諸島の防衛にも、沖縄の経済振興にも役立つ。

 普天間移設問題でこうした協議にまで支障が生じたら、政府にも沖縄県にもマイナスだ。

中ロと向き合うG7の役割

 ロシアの領土拡張や中国の海洋進出など、冷戦後の国際秩序を乱す試みにどう対処するか。日米欧とカナダの主要7カ国(G7)がドイツで外相会合を開いた。

 会合後の共同声明では、ロシアによるウクライナ領のクリミア半島編入を「国際法違反」として改めて非難した。政府軍と親ロシア派武装勢力の対立が続くウクライナ東部の情勢についても、ロシアが今年2月の停戦合意の完全履行に向けて影響力を行使するよう求め、そうしなければ対ロ制裁は緩和されないとクギを刺した。

 東シナ海や南シナ海での中国の海洋進出をめぐっては、海洋安全保障に関する外相宣言で「威嚇や強制、力によって領土や海洋に関する権利を主張しようとするいかなる試みにも反対する」と明記。南シナ海で進める大規模な埋め立てなどに強い懸念を示した。

 G7は民主主義や法の支配といった価値観を共有する。こうした主要国が結束し、国際秩序を揺るがす中ロの行動を強く戒めたのは当然だ。より重要なのは中ロの暴走にどう歯止めをかけ、国際秩序の枠組みに戻していくかだ。

 これまでG7は、ロシアについては仲間に引き入れる形で自己変革を促そうとしてきた。だが昨春のクリミア編入をきっかけにG8の枠組みから除外した。中国はもともとG7に加わっていない。

 今後も制裁などを軸に外から圧力をかけるのか、あるいは中ロを取り込んで関与を強めるのか。こうしたアプローチの基本認識も詰めていく必要があるだろう。

 中国が創設を進めるアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐっては、G7の足並みの乱れを指摘する声も出ている。英独仏伊の欧州勢がこぞって参加を決め、日米とカナダは見送ったからだ。

 G7内にもそれぞれの国益がある。すべてに共同歩調をとる必要はないが、中ロとの向き合い方で各国にかなり温度差があるようにもみえる。国際秩序の「番人」の自覚を忘れず、6月の首脳会合でさらに議論を深めてほしい。

安倍・翁長会談―まだ「対話」とは言えぬ

 「私は絶対に辺野古新基地は造らせない」

 安倍首相との会談をようやく実現させた沖縄県の翁長知事は、一段と強い言葉で米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する意思を示した。

 「沖縄の方々の理解を得る努力」を何度も口にしながら、翁長氏の要請を4カ月も拒んできた安倍首相は、先に会談した菅官房長官と同様、「辺野古への移転が唯一の解決策と考えている」と繰り返した。対話はまた平行線をたどった。

 安倍首相は26日から訪米を予定している。戦後70年の節目に日米同盟の深化を世界に示す狙いがある。沖縄県知事と会談することで、政権が普天間問題に積極的に取り組んでいる姿勢を米側に伝えられる、という目算も働いたのだろう。

 だが今回の会談を、政権の「対話姿勢」を米国に印象づけるための演出に終わらせてはいけない。

 安倍政権と沖縄県との対立は険しさを増すばかりだ。首相は打開の糸口を見いだせない現状を直視し、翁長知事が求めた通り、オバマ米大統領に「沖縄県知事と県民は、辺野古移設計画に明確に反対している」と伝えるべきだ。

 「粛々」と移設作業を続けている政権が「対話」姿勢をみせる背景には、国内で沖縄問題への関心が広がっている面もあるだろう。米国でも「移設は順調に進むのか」という懸念が一部でささやかれているという。

 沖縄県は4月からワシントン駐在員を置いた。5月にも翁長知事自身が訪米して直接、移設反対を訴える。

 翁長知事は今回も「沖縄は自ら基地を提供したことはない」と、米軍による土地の強制接収や戦争の歴史に言及した。この言葉が含む史実の重さを、首相はどう感じただろうか。

 菅官房長官との会談で出た翁長知事の言葉は、小手先の経済振興策による解決を拒絶した歴史的メッセージだと、県民の評価は高い。

 そのメッセージはまた、昨年の名護市長選、県知事選、総選挙で移設反対の民意が繰り返し示されながら、無視し続けてきた政権への怒りを、米軍統治下の自治権獲得闘争と重ねてみせた。それは地域のことは自ら決めよう、という自己決定権の主張でもある。

 政権が本気で「粛々」路線から「対話」路線へとかじを切るというのなら、ボーリング調査をまず中断すべきだ。そうでなければ対話にならない。

指定医の不正―患者は「数」ではない

 精神科病院に強制的に入院させることは重大な措置である。その判断に、本来資格のない医師がかかわっていた。

 明らかな人権侵害であり、強い憤りを感じざるをえない。

 川崎市にある聖マリアンナ医科大学病院で、11人もの医師が法律に基づく精神保健指定医の資格を不正に取得していたことがわかった。

 指導していた9人と合わせ、20人の指定医資格が取り消された。大学は医師養成の原点に返った猛省が必要である。

 また、厚生労働省は、こうした不正がほかにないか、全国的に詳しく調べるべきである。

 指定医は、重い精神障害で入院が必要と判断した場合は本人の同意がなくても、保護者の同意だけで「医療保護入院」させることができる。さらに緊急の場合は、都道府県知事や政令指定市長の権限で「措置入院」も決められる。

 患者の人権を大幅に制限する判断にかかわるからこそ、厚労省が精神科医療の経験や資質などをチェックして認定しているのである。ところが、11人は指定医の申請に際し、先輩医師が診断や治療にあたった症例を、自分が担当したかのように偽ってリポートを出していた。知識や経験の不足にとどまらず、人権上の難しい判断をする指定医に求められる高い倫理性の欠如をも物語る行いだ。

 聖マリアンナ医大病院では、こうしたリポートの引き写しが常態化していたという。

 過去、一般の病院で同様のデータ流用と不正申請が発覚し、指導医が処分された事例はあったが、大学病院での大量不正はひときわ医療不信を強める。

 聖マリアンナ医大には過去5年間で、診療報酬約170万円が上乗せして支払われていた。その返還や関係した医師の処分にとどまらず、医師教育や病院運営の問題点を洗い出し、抜本改革を図らなければならない。

 今回は国の審査でチェックが働いたが、学会による認定医や専門医の申請ではこうした症例引き写しのうわさが絶えない。扱った症例を水増しし、申請に必要な数を稼ぐというのだ。

 腹腔(ふくくう)鏡手術で患者が相次いで死亡した群馬大学病院のケースも、未熟な医師が実績づくりを急ぎ、病院内の倫理審査手続きを軽んじた疑いがある。

 患者を、医師の資格や論文のための「症例」「数」におとしめてはならない。

 専門性や先進的な医療技術は大切だが、患者をないがしろにした医療はごめんである。医療界は自浄能力を示すべきだ。

首相VS沖縄知事 建設的対話重ねて接点を探れ

 政府と沖縄県の立場の隔たりは大きいが、建設的な対話を重ねる中で、接点を探るべきだ。

 安倍首相が沖縄県の翁長雄志知事と会談した。米軍普天間飛行場の辺野古移設について「唯一の解決策だ」と述べ、理解を求めた。

 首相は、「一日も早い危険性の除去では、我々も沖縄も思いは同じだと思う」とも強調した。

 翁長知事は、「唯一の解決策という頑(かたく)なな固定観念」に縛られるべきではないと反論し、移設作業の中止を求めた。今月下旬の首相の訪米にも言及し、「知事と県民が明確に反対している」ことを米側に伝えるよう要請した。

 対立点を確認しただけだが、2人が初めて率直に意見交換した意味は小さくない。政府と県は、対話を継続し、まずは一定の信頼関係を築くことが大切である。

 翁長知事は今月5日の菅官房長官との会談で、辺野古移設を巡る政府の対応を「上から目線」「政治の堕落」などと非難した。

 だが、相手を批判するだけでは、沖縄の米軍基地負担の軽減という共通の目標は進展しない。

 翁長知事が3月下旬、県漁業調整規則に基づき、移設作業の停止を防衛省に指示したのに対し、関連法を所管する林農相が指示の執行停止を決定した。

 防衛省は、移設作業に伴い辺野古沖に投入したコンクリート製ブロックについて「サンゴ礁などの生態系に大きな影響は与えていない」との見解を公表している。

 翁長知事は法廷闘争も辞さない構えだが、移設作業を停止させる見通しは立っていない。政府との対立を一方的に深めるだけでは、県民全体の利益になるまい。

 沖縄周辺では、中国が軍事活動を活発化させている。2014年度の自衛隊の中国機に対する緊急発進(スクランブル)は、過去最多の464回に上った。中国公船の領海侵入も常態化している。

 在沖縄米軍の重要性は一段と増した。抑止力の維持と住民の負担軽減を両立する辺野古移設は、現実的かつ最良の選択肢だ。

 安倍首相は会談で、米軍基地の返還に加え、那覇空港第2滑走路建設などの地域振興策を着実に推進する考えを改めて示した。

 沖縄では28年度までに、計1048ヘクタールにも上る県南部の米軍施設が順次返還される予定だ。仮に辺野古移設が停滞すれば、この計画も大幅に遅れかねない。

 政府は、辺野古移設の意義と重要性を地元関係者に粘り強く説明し、理解を広げねばならない。

テレビ幹部聴取 与党として適切な振る舞いか

 報道番組を巡り、自民党の情報通信戦略調査会が、テレビ朝日とNHKの幹部を呼び、意見を聴取した。

 調査会の川崎二郎会長は「真実が曲げられた放送がされた疑いがある」と語った。個別の番組内容について、政権与党が独自に調査に入るのは、極めて異例である。

 問題とされたテレ朝の番組は、先月27日の「報道ステーション」だ。コメンテーターだった元経済産業省官僚の古賀茂明氏が、生放送中に突然、ニュース内容から逸脱し、「官邸からバッシングを受けてきた」などと発言した。

 これに対し、菅官房長官は「全く事実無根だ」と否定した。

 放送法は放送事業者に対し、政治的に公平で、事実に基づいた放送を行うよう求めている。

 公共の電波を使い、確たる根拠を示さずに私的な主張に及んだ古賀氏の行為は、批判されても仕方がない。混乱した番組を放送したテレ朝にも責任がある。

 NHKを巡っては、多重債務者絡みのブローカーとして、昨年5月の「クローズアップ現代」に出演した男性が、「やらせがあった」と訴え、訂正を求めている。

 NHKの調査委員会が今月9日に公表した中間報告によると、裏付け取材が不十分で、放送内容の一部に誤りがあった。構成が適切さを欠いたり、演出が過剰だったりした可能性もあるという。

 いずれも、報道機関としての信頼を損なう問題である。

 ただ、テレ朝はその後、番組中で視聴者に謝罪し、早河洋会長が記者会見で「不適切な放送だった」と非を認めている。

 NHKも中間報告に基づき、番組で誤報部分を訂正、謝罪した。やらせの有無については、現在も調査を続けている。

 こうした状況下で、政権与党がテレビ局幹部を呼び出すのは、行き過ぎではないのか。

 放送免許の許認可権は、総務省が持っている。意見聴取は、政権側による「圧力」や「介入」との疑念を持たれかねない。

 「表現の自由」を尊重する趣旨から、適正な番組作りは、放送界の自主努力に委ねられてきた。

 番組内容に問題があるケースでは、NHKと民放が設立した第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が調査を行い、テレビ局に勧告などを出している。

 テレビ局が不偏不党に徹した報道を行うのは当然だ。同時に、政権を支える自民党にも、節度ある行動が求められる。

2015年4月17日金曜日

安売り規制では町の酒販店を救えない

 自民党内に、酒の安売り競争を規制する法案を議員立法で今国会に提出する動きが出ている。財務相の示す基準を守らない安売り店は、販売免許を取り消すこともあるという内容だ。小規模な店の保護を目的に掲げるが、この法案には問題が多いのではないか。

 国税庁は2006年、酒の過度な安売りをやめるよう取引指針を出した。これに基づき、原価割れ販売をしていると判断した店などに対し、注意や指導をしてきた。しかし法的な強制力がなく、安売りをやめる店と無視する店があり不公平だとの声があった。

 法案成立を目指す議員たちによれば、酒税法を改正し、注意しても安売りをやめない店はまず名前などを公表する。効果がなければ罰金を科したり免許を取り消したりできるようにするという。

 免許を失えば経営に甚大な影響が出る。自社が掲げる安値が経営努力の結果か、それとも不当な乱売か、証明や線引きが難しい場合もある。法案が成立すれば安売り店を萎縮させるだろう。

 これまで酒販店にとって、配達を伴う業務用の需要は大事な収益源だった。しかし最近、大手ネット通販会社が相次ぎ酒の販売免許を取得し、宅配に乗り出している。量販店に加えネット企業の攻勢も受けている各地の酒販店は規制強化を訴えてきた。

 しかしどこでも手に入る商品の価格を法律で下支えしても、店の集客にはつながりにくい。大型店にない個性的な品ぞろえや独自のサービスなど、創意工夫で付加価値を高めるのが本来の姿だ。そうしてこそ町の魅力が高まり、地域経済も活性化する。

 そもそも不当廉売の防止については、すでに独占禁止法がある。酒の小売店だけをここまで特別に保護しようとするのはなぜか。明快な説明が要るだろう。

 もともと酒には製造、販売、サービスなどで規制が多い。酒税収入を増やしたければ、規制を減らし業界を活性化するのが筋だ。地方企業や小売店による独自の酒の開発など、挑戦を後押しする方が長い目で見て市場は広がる。

 タクシー業界への規制強化など最近、競争を排除する動きが目立つ。しかしイノベーションを生むのは規制の強化ではなく緩和や撤廃である。市場競争を通じ消費者の利便性や満足を高めなければ、経済の成長も企業の存続もない。このことを肝に銘じたい。

中台関係を占う総統選の始動

 台湾の最大野党・民進党は、来年1月に予定される総統選の候補として蔡英文主席(58)を公認した。国民党の馬英九総統が中国大陸との関係拡大に積極的に取り組んできたのに対し、民進党は慎重だ。中台関係の行方を左右する総統選が始動した。

 2008年に就任した馬総統はすでに2期目で、来年5月の退任が決まっている。国民党が6月に決める見通しの公認候補が誰であれ、新しい総統の誕生となる。中台関係の動向は東アジア全域の情勢にも響くだけに、総統選の行方を注視していく必要がある。

 世論調査では今のところ、国民党の有力者の誰に対しても蔡氏が優勢だ。昨年3月、中国とのサービス貿易自由化協定に反発した学生たちが立法院(国会に相当)を占拠した事件が象徴するように、馬政権下での急速な対中接近を警戒するムードが、蔡氏には追い風となっている。

 蔡氏は中台関係について「現状維持」を事実上の公約とした。民進党は独立志向が強いが、中国との緊張が高まることを望まない有権者や経済界、米国などに目配りした対中政策を模索しようとする姿勢がうかがえる。

 ただ、馬政権と違って「一つの中国」の考え方を認めているわけではなく、中国共産党政権は警戒感を隠さない。12年の前回総統選で蔡氏が敗れた一因は対中政策にあったとされる。今回の総統選でも大きな焦点となろう。

 経済政策について蔡氏は、賃金の上昇や雇用の改善、格差の是正などを目標として起業の促進や税制の改革などを掲げた。東京電力福島第1原子力発電所の事故を機に不安の声が高まっている原発をどう位置づけていくかも、問われている。これは日本にとってもひとごとではない。

 蔡氏が当選すれば台湾初の女性トップとなる。「親の七光」がないこともあり、東アジアでは異色の指導者となる。二大政党を軸とした台湾の民主主義の里程標としても、総統選に注目したい。

自民党と放送―「介入」は許されない

 番組に確かに問題はあった。だからといって、権力が安易に「介入」と受け取られる行為に踏み込むことは許されない。

 自民党がきょうNHKとテレビ朝日の幹部を呼び、個別の番組内容について事情を聴く。

 クローズアップ現代で「やらせ」が指摘されている問題と、報道ステーションのコメンテーターが「官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきた」と語った問題である。

 それぞれ批判されても仕方がない、残念な番組内容だ。

 ただ、NHKも、テレ朝も、番組などでおわびした。NHKは調査委員会を設けて中間報告を発表し、最終報告に向けて作業を続けている。

 放送法4条は、放送事業者に「報道は事実をまげないですること」を求めている。誤りがあれば、放送事業者が自ら正すのは当然の責任である。

 一方で、放送法3条は「番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めている。

 放送は、政府による免許事業だ。許認可権をもつ政権の権限の使い方によっては、報道への圧力になり、報道を萎縮させかねない。

 「放送の不偏不党、真実及び自律を保障する」ことで、「表現の自由」を確保し、「健全な民主主義の発達に資する」。

 放送法1条がうたう、放送法の目的である。

 放送が時の権力の一方的な宣伝に利用され、悲惨な戦争に加担させられていった――。先の大戦の反省と教訓に学び、権力から独立した放送を実現するために、放送法は生まれた。

 憲法が保障し、民主主義の土台を支える「表現の自由」を守る観点からも、政権には、その言動に慎重な配慮と自制が求められる。

 それなのに、このところの自民党の振る舞いは見識を欠くと言わざるを得ない。

 自民党は、昨年の衆院選に際してNHKと民放キー局に「公平中立」を求める「お願い」の文書を送った。報ステに対しては、アベノミクスを取り上げた報道を問題視し「公平中立」を要請する文書も出していた。

 TBSのニュース23に出演した安倍首相が、テレビ局が「街の声」を「選んでいる」などと発言したこともあった。

 そうした動きが重なるなかでの、今回の事情聴取である。

 あの手この手で放送に対する政治的な「介入」を強めようとする。そう見られても仕方がない行為は、厳に慎むべきだ。

バスケ統合―出直しをチャンスに

 2005年から二つに分裂していたバスケットボールの男子国内リーグが、ようやくひとつにまとまりそうだ。

 来秋の開幕をめざす新リーグ「ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボール・リーグ」の法人が設立され、統合への道筋が見えてきた。

 これで、昨年11月に国際バスケットボール連盟(FIBA)が日本バスケットボール協会に下した、無期限の資格停止処分も解除される見通しだ。処分が解けなければ、今夏に始まるリオデジャネイロ五輪予選から男女とも締め出される異常事態が続くことになる。

 FIBAは処分解除の条件として、リーグ統合のほか、ガバナンスなど日本協会の抜本的な組織改革を求めている。未来につながる体制づくりを着実に進めてほしい。

 この間、19歳以下の世界女子選手権への出場を断念せざるを得なかった。国内で予定されていた複数の国際大会も中止に追い込まれた。

 リーグ分裂や協会の内紛を繰り返してきたバスケット界は猛省すべきだ。これ以上、選手や子どもたちの夢を壊すことは許されない。

 新リーグは、今月末まで参加チームを募り、その後、審査基準に応じて、1部、2部、地域リーグの三つに分けられる。

 すでに24の団体が参加に手をあげているが、条件をめぐり難色を示すチームも出ている。

 そもそもリーグが分裂したのはプロ化をめぐる対立が原因だった。腰の重い企業チームに反発して、推進派のチームが当時の実業団リーグを脱退した。

 そこで新リーグではチーム名に企業名を残すことは認めたが、親会社から独立した法人が運営するよう求めている。1部リーグの場合、5千人収容の本拠アリーナを確保してホームゲームの8割を開くことなども義務づけられた。

 低くはないハードルだが、盛岡市など各地で既存アリーナを改築する動きも出ている。新リーグを住民や自治体を巻き込むチャンスと考えたい。

 地域密着を前提にプロ化を迫られる企業チームにすれば、プロを持つ意義や責任を議論する機会にもなる。FIBAに委ねるだけでなく、新リーグを自ら育てる取り組みが必要だ。

 リーグ統合には、サッカーのプロ化に携わった川淵三郎氏を中心にJリーグ創設の手法が持ち込まれている。川淵氏は、日本協会の新会長に就く予定だ。競技を超えて連携する先例としても注目したい。

G7外相会合 海洋秩序維持へ連携を強めよ

 海洋秩序を維持するため、中国による一方的な開発や挑発は認めない。日米欧の主要国が一致して強いメッセージを発信した意義は大きい。

 先進7か国(G7)外相会合がドイツで開かれ、共同声明とは別に、「海洋安全保障に関する外相宣言」を発表した。

 中国との名指しを避けつつ、東・南シナ海での大規模埋め立てなど、一方的な現状変更の行動に対する懸念を明記した。威嚇や強制への強い反対も盛り込んだ。

 中国は、尖閣諸島周辺で公船の領海侵入を常態化させた。南シナ海の係争海域でも、岩礁を埋め立てて、施設建設を進めている。

 日米だけでなく、欧州各国がこうしたアジアの現状への危機意識を共有したことは重要だ。

 海洋の安全は、自由な経済活動に欠かせない。海洋権益は、国際ルールに基づき、各国が協調して開発・利用すべきである。

 G7は、東南アジア各国と協力し、中国に独善的行動の自制と国際法の順守を働きかける必要がある。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加の判断は分かれたが、安保分野で足並みを乱してはなるまい。

 G7外相の共同声明は、ウクライナ情勢について、ロシアのクリミア編入を改めて非難した。ウクライナ東部の戦闘に関する2月の停戦合意をロシアが完全に履行しない限り、対露制裁を解除しない方針も明示した。

 ウクライナ政府軍と親露派武装集団の衝突は再び激化している。重火器撤去も進んでいない。

 停戦の実現には、ロシアが武装集団に影響力を行使することが不可欠だ。制裁で圧力をかけつつ、対話によってロシアの譲歩を引き出す。G7には、戦略的な取り組みが求められる。

 ウクライナの経済再建の支援策を具体化させることも急務だ。

 6月のG7首脳会議でも、対中・露政策は主要議題となろう。

 東アジアとウクライナで、力による現状変更を許さず、地域の安定をどう確保するのか。「法の支配」を重視する立場から、実効性ある対策を打ち出す必要がある。来年の議長国を務める日本も、積極的に役割を果たしたい。

 共同声明は、過激派組織「イスラム国」による残虐行為や人権侵害、文化財の破壊を非難した。

 国際テロの封じ込めは、中東のみならず、国際社会共通の課題だ。G7は、テロ資金の規制強化や、戦闘員の移動阻止などを主導する責任がある。

山手線支柱倒壊 危険の芽を摘む意識に欠ける

 危険の芽を即座に摘むことが、いかに大切か。公共輸送機関に対する警告である。

 東京のJR山手線で12日早朝、架線の鋼鉄製支柱が倒れた。高さ約7メートル、重さ約1・3トンの支柱の先端はレールにかかっていた。

 並走する京浜東北線の運転士が倒壊に気づき、他の電車に異常を伝えて緊急停止させた。1分ほど前に山手線の車両が通過しており、その後のわずかな間に倒れたとみられる。約3分後にも電車が現場に差しかかる予定だった。

 過密ダイヤで電車が運行する中、倒壊のタイミングが、わずかでもずれていたら、脱線などにつながった恐れがある。

 山手線と京浜東北線は9時間以上も一部区間で運休し、約41万人に影響が及んだ。

 問題なのは、支柱の傾きを把握した後のJR東日本の迅速性を欠いた対応である。

 倒壊する2日前の10日深夜、別の支柱の撤去作業をしていた社員らが異常を発見したが、目視の結果、すぐに倒れる危険はないと判断した。その日は金曜日で、JR東日本は、週明けまで応急の工事を先延ばしした。

 措置を要する状況だとの認識はあったことになる。

 11日夜には山手線の運転士も異常に気づいた。運行を管理する指令室にも伝えられたが、12日の始発電車に社員が乗り、支柱の傾きを改めて確認しただけだった。

 地震以外で支柱が倒れた前例はなく、傾き自体も大きなものではなかった――。JR東日本は、3度にわたって異常を確認していながら、措置を講じなかった理由をそう説明している。

 常に最悪のケースを想定し、異変に即応するのが、安全輸送を第一の使命とする鉄道事業者の務めだろう。太田国土交通相が「対応に大きな問題があった」と批判したのは、もっともだ。

 倒れた支柱は、別の2本の支柱と、それぞれ梁(はり)とワイヤで結ばれていたが、支柱の交換作業に伴い、梁は既に撤去されていた。梁とワイヤにより引っ張られることで保たれていたバランスが、微妙に崩れた可能性がある。

 JR東日本は約5万か所で同じタイプの支柱を使っている。同様の手順による交換作業を実施してきたが、今回のような事故は起きていないという。

 運輸安全委員会は、重大インシデントとして調査に乗り出した。再発防止のため、原因究明を急いでもらいたい。

2015年4月16日木曜日

減速が鮮明なニューノーマルの中国景気

 中国の1~3月期の国内総生産(GDP)は、物価変動を除く実質で前年同期比7.0%増にとどまった。成長率は2014年10~12月期から0.3ポイント下がり、リーマン・ショックの影響が強く表れた09年1~3月期以来、6年ぶりの低い伸びとなった。

 住宅・不動産市場の落ち込みから生産も投資も伸び悩んでいる。特に1~3月の不動産販売額は前年同期に比べて1割近く減った。景気の減速は鮮明だ。

 政府は今年の成長目標を7%前後とし経済の質と効率を重視する方針だ。習近平指導部が掲げる経済の「新常態(ニューノーマル)」に沿う動きで、1~3月期は目標水準まで成長ペースが鈍った形だ。かつてのような高成長でなく構造改革を通して持続可能な成長を目指す方向は評価したい。

 とはいえ問題点は多い。構造改革は重要だが、打つ手を間違えると景気が腰折れする懸念がある。中国景気の想定以上の減速は、世界経済にも大きく影響する。

 中国では幹部の業績評価の重点は高成長の達成だった。昇進のため彼らは投資の呼び込みに全力を傾けたが、方向転換を迫られた。強引に成長率を追えば習指導部の「反腐敗運動」の標的になりかねず、萎縮している。政策の遂行が滞るおそれは否定できない。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)や、欧州・アフリカまで陸と海で結ぶシルクロード構想には、国外のインフラ需要を喚起することで能力過剰に陥っている国内の製造業を救う狙いがある。だが、そうした枠組みが機能するには時間が要る。

 住宅ローン規制の緩和など当局はすでに不動産市場のてこ入れに乗り出している。今後も、不健全な過熱を招かないよう目配りしながら、政策金利の引き下げといった追加策をとる必要があろう。

 底堅い消費など好材料はある。ネットショッピングの普及などで新たな雇用が伸びてもいる。上海と香港の株式相互取引制度で株式市場は活況だ。こうしたダイナミズムを生かしてもらいたい。

 今年は16年から始まる第13次5カ年計画を練る年になる。既得権を持つ国有企業が幅をきかせ民間企業を圧迫する「国進民退」という問題に対する取り組みが、問われよう。経済の質や効率を高めると同時に景気の腰折れを防ぐには、民間企業の活動を強く後押しする具体的な措置が求められる。

日韓は安保で握手する時だ

 どんなに歴史問題で対立していても、これ以上、安全保障分野の交流を停滞させておくわけにはいかない。こんな危機感の表れといえるだろう。

 日本と韓国両政府は、外務・防衛担当の局長級による安全保障対話を開いた。この会合が開かれるのは、実に、約5年ぶりだ。

 両国の関係は従軍慰安婦問題で冷えたままだ。だが、北朝鮮の核開発や中国軍の海洋進出が加速するなか、安全保障上の連携は待ったなしだ。この対話再開を、目に見える協力につなげてほしい。

 日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えている。政府は、集団的自衛権を使えるようにするほか、米軍などへの後方支援を広げるための安全保障法制を、今国会で整える方針だ。

 日韓対話では、日本側がこの法制や、月内に予定される日米防衛協力の指針(ガイドライン)改定について説明したという。日本が何をやろうとしているのか、韓国側が正確に理解し、無用な疑念を抱かないよう、これからもていねいに説明を重ねていくべきだ。

 当面、急がなければならないのは、自衛隊と韓国軍が燃料などを融通しあう物品役務相互提供協定(ACSA)の締結だ。これがないと、いざというときに円滑に協力できない。北朝鮮などをめぐる秘密情報を共有するため、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も交わしておく必要がある。

 いくら日米の連携が深まっても、日米韓が協調できなければ、朝鮮半島の紛争にはきちんと対処できない。その意味でも、日韓の握手が欠かせない。16日には、日米韓の外務当局による次官級協議が、ワシントンで開かれる。3カ国のきずなを締め直す好機だ。

 北朝鮮に加えて、中国軍の台頭にどう向き合うかも、重い課題だ。韓国は中国の市場に大きく依存しており、地理的にも地続きの関係にある。こうした事情から、日米と韓国の対中政策のずれが広がることがないよう、入念な調整が欠かせない。

与党安保協議―巨大法案で見失うこと

 今国会の焦点となる安全保障法制は、戦後日本の安保政策の歩みを根っこから覆してしまうような巨大な法案である。

 第一に、日本防衛の文脈。集団的自衛権の行使を容認し、他国への攻撃でも、新3要件のもとで武力行使を可能にする。

 第二に、同盟強化の文脈。米軍艦船などを守れるようにし、周辺事態法の地理的制約もはずして後方支援を拡充する。

 第三に、国際貢献の文脈。他国軍への後方支援や国連PKOはもとより、PKO以外の平和協力活動も拡大する。

 それぞれの課題が複雑に入り組み、論点も多岐にわたる。それ以外にも、自衛隊による邦人救出など多種多様な規定が盛り込まれる見通しだ。

 これまで自衛隊が実績を積み重ねてきた国土防衛やPKOなどと、そのほかの活動拡大を同列には論じられない。それなのに政府与党は、すべて安保法制という大きな袋に入れ、一気に成立をはかろうとしている。

 そのなかで見失ってしまうことがないか。「安全保障環境の変化」があるにせよ、安保法制だけが、その対応の「解」なのか。国民の間に、理解が広がっているとは思えない。

 統一地方選の前半が終わり、自民、公明両党による与党協議が再開した。3月20日の協議ですでに安保法制の方向性に合意していたが、選挙結果への影響を懸念した公明党の意向でいったん中断していた。

 それが今度は、月末に予定される日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定や安倍首相の訪米に向けて、再び議論が急ピッチで進みそうだ。

 こうした運び方ひとつとっても、政府与党の姿勢は容認しがたい。安保法制の本質と日本の将来像を語り、覚悟と理解を求める気があるのだろうか。

 国際貢献での後方支援を定める恒久法の名称は「国際平和支援法」となっているが、戦争に参加する現実を表しているとは思えない。本来は後方支援法か他国軍支援法とでも呼ぶところだ。戦争支援という実態を糊塗(こと)する意図があるのではないか、と勘ぐりたくなる。

 この恒久法について自民党は国会の事前承認の例外を求め、それを認めない公明党と溝が生じている。だが、国際貢献にそれほど緊急性があるとは思えない。公明党が例外のない事前承認を求めるのは当然だ。

 なにより、自衛隊の海外派遣は慎重であるべきだ。議論が拡散し、焦点が見えにくくなっているが、この原則をゆるがせにしてはならない。

JR山手線―安全を一から見直せ

 首都の大動脈で「まさか」と思うようなできごとだ。JR山手線の神田―秋葉原間で12日早朝、線路脇にあった高さ7メートルの支柱が基礎から倒壊し、一部が線路に触れる状態になった。

 並行する京浜東北線の運転士が気づいて通報したが、山手線の電車が来ていれば、大惨事になる恐れもあった。

 驚くのはJR東日本の判断の甘さだ。

 支柱はもともと撤去予定で、先月下旬に上部のはりが取り払われた。この後、柱の安定性が失われたとみられる。

 今月10日夜、現場の担当社員らは支柱が傾いていることに気づいた。だが「すぐには倒れない」と考え、週明けの13日夜に撤去することを決めた。

 ところが11日夜、通りかかった電車の運転士が「傾いている」と通報した。工事担当者は翌12日朝、始発電車の中から目視したが、大丈夫だろうと判断し、工事を早めるなどの対策をとらなかった。

 緊急に手を打つ機会は、少なくとも2回あったわけだ。

 JR東は「地震以外で支柱が倒れた例はなかった」と釈明したが、それこそ地震が来たらどうするつもりだったのか。

 鉄道の設備工事は通常、電車の運行が終わった深夜に、作業計画を立てて実施される。

 ぎりぎりの時間と要員で進めるので、予想外の事態への即応が難しいのはわかる。しかし、鉄道の現場がいかなるときも最優先すべきは安全の確保だ。運行開始を遅らせてでもしっかり点検する発想があれば、今回の事態は防げたのではないか。

 作業員や重機の手配に時間がかかるとしても、とりあえず見張り要員を配置する手も考えられたはずだ。

 山手線はラッシュ時に2分間隔で電車が来る超過密路線だ。それを支えるのは、最新鋭の自動列車制御装置(ATC)といった安全システムと、設備を保守する人間の手作業である。

 どれほど万全を期したつもりでも、人知のスキを突くように、事故は起きる。大惨事を防ぐには、「必ずスキはある」との観点から安全対策を不断に見直すしかない。

 JR東日本は浮かび上がった課題を徹底検証すべきだ。

 支柱の撤去工事を何日もかけて進める工程に問題はなかったか。支柱の危険度を判定する仕組みが今のままでよいか。連絡態勢や危険情報の共有の仕方に不備はなかったのか。

 ほかのすべての鉄道事業者も「他山の石」と受け止め、自己点検してもらいたい。

与党安保協議 過剰な歯止めは実効性損なう

 自衛隊の活動に一定の歯止めは必要だが、要件を厳しくし過ぎて、使いづらい法律にすることは避けねばならない。

 自民、公明両党が新たな安全保障法制に関する協議を再開した。月内の大筋合意を目指している。政府は5月中旬に関連法案を提出し、会期を大幅延長して今国会での成立を期す方針だ。

 法制は、平時と有事の中間に相当するグレーゾーン事態の対応、国際平和協力、集団的自衛権の行使容認の3分野で構成される。

 安保環境の悪化を踏まえ、日米同盟と国際連携を強化し、日本の平和を確保する。「積極的平和主義」に基づき、世界の安定に貢献する。こうした目的で政府・与党が足並みをそろえ、法制の内容を詰めてきたことは評価できる。

 残る論点はかなり絞られた。その一つが国会の事前承認だ。

 恒久法「国際平和支援法」に基づく自衛隊の他国軍への後方支援について、自民党は、国会閉会中や衆院解散時は国会の事後承認を認めることを主張している。公明党は、すべて事前承認とするよう求め、結論が出ていない。

 支援相手が早期の支援を要望するなど、自衛隊の迅速な派遣が効果的な活動につながるケースはあり得よう。例外的に事後承認の余地を残しておくことが大切だ。

 自衛隊の人道復興支援活動については、国連決議がなくても、国連の専門機関や、欧州連合(EU)など地域機関、派遣先国の要請がある場合は、活動を可能にすることにした。妥当な判断である。

 ただ、どの国際機関の要請に限って応じるという厳密な規定を法律に設けるのは適切ではない。

 他国の軍隊は原則、禁止された活動以外は実施できるが、自衛隊は法律の定める活動しか行えない組織だ。現時点では自衛隊の派遣要請が想定されない国際機関も、将来はその性格が変わり、派遣を要請することもあり得る。

 南スーダンで一昨年12月、自衛隊が韓国軍から弾薬提供を要請されたように、法律の制定時点では想定されない事態が発生する例も少なくない。政府に一定の裁量権を与えることが肝要である。

 グレーゾーン事態で、米軍だけでなく、豪州軍などの艦船の警護を可能にした意義は大きい。

 自衛隊は近年、米軍以外の他国軍との共同訓練が増えている。新たな安保法制が整備されれば、米軍以外との共同活動の機会が拡大しよう。多角的で重層的な防衛協力を進めることが、抑止力を高め、日本の安全をより確実にする。

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