2015年6月30日火曜日

ギリシャを破綻国家にせぬ道を模索せよ

 ギリシャ危機はこのまま悲劇的な結末を迎えるのだろうか。経済的な苦境に陥るギリシャへの支援協議が決裂したことで、ギリシャが政府債務の支払いができない事態に陥る恐れが強まっている。

 欧州連合(EU)など債権者側とギリシャの対立が続けば、ギリシャは経済や財政だけでなく、政治・社会も混乱する破綻国家に陥りかねない。ギリシャはEUなどが求める厳しい財政再建策や経済改革を受け入れることで経済再生の道筋をつけるべきだ。それを前提に、債権者側も債務再編などで柔軟な姿勢を見せる必要がある。

 ギリシャへの支援協議の焦点は、同国が支援の前提条件としてどんな財政・経済改革を実行するのかにあった。一時は合意に近づいたが、年金の大幅削減などを求める債権者側の姿勢に反発したギリシャのチプラス首相が突如、要求案の受け入れを巡って国民投票を実施すると発表。今度はEU側が反発して協議は中止された。

 これにより、ギリシャは国際通貨基金(IMF)などへの債務の支払いが困難になった。ギリシャの銀行は欧州中央銀行(ECB)の支援なしではやっていけない状況で、同国政府は預金取り崩しを抑えるため銀行の休業や資本規制の導入を発表した。

 今後の事態の展開は不透明だが、はっきりしていることがある。債権者側とギリシャの歩み寄りがない限り、事態はもっと深刻になるということだ。

 より大きな責任はギリシャ政府にある。債権者側の要求を拒否しても、厳しい財政・経済改革を進めない限り、結局のところ危機から抜け出すことはできない。その実情を伝えずに国民投票に打って出るのは指導者としての責任を放棄するものと言わざるをえない。

 EU側が「ギリシャに改革断行の意思がない限り、支援を続けても無駄。甘い対応は悪しき前例になる」と見るのは正しい。ただ、緊縮策継続による国民生活への打撃も考えれば、改革実施を前提に債務の返済時期の調整に応じるなど柔軟な構えを見せてもいい。

 ギリシャ危機が他のユーロ圏諸国の経済に波及する恐れが2、3年前に比べて減ったのは確かだ。だが、ギリシャの経済的困窮が加速すれば同国の政治・社会が不安定になり、EUへの反発やロシアへの接近など地政学的なリスクにつながる懸念もある。大局的な見地にたった判断も求められる。

アジア投資銀は透明な運営を

 中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が年内発足へ動き出した。創設メンバーに名乗りを上げた57カ国のうち50カ国が設立協定に署名した。その数は、日米両国が主導するアジア開発銀行(ADB)に加盟する67カ国・地域に迫る。英独仏など欧州主要国の参加でAIIBの影響力は増す。

 AIIBはまず中国の影響力を拡大する融資に傾斜しないよう透明な運営ルールを確立すべきだ。中国との関係、中国企業の受注が優先される事態は許されない。タイ、マレーシア、フィリピンなどすでに参加表明している7カ国が今回の署名を見送ったのも、透明性の確保や南シナ海問題への懸念などがあるためとみられる。

 資本金1千億ドル(約12兆3千億円)のうち中国の出資額は約30%で最大となる。中国は議決権の比率でも26%超を得て、重要事項を単独で否決できる拒否権を握った。コスト削減を理由に各国の理事が北京の本部に常駐する常設理事会は置かない。

 これでは中国の意向が通りやすくなる。歯止めのかけ方が課題だ。米国は先の米中戦略・経済対話で、AIIBに高いレベルの組織統治と融資基準を求めた。日本も米国と歩調を合わせ、一段の透明性の確保を促す必要がある。

 アジア地域のインフラ整備を着実に進めるには、融資先の選定や融資条件の十分な精査を要する。半世紀にわたって蓄積したノウハウを持つADBを通じた協力も有効だろう。

 アジアのインフラ需要は2010~20年に8兆ドルに上ると試算されている。膨大な資金需要を満たす目的はADB、AIIBが共有している。けん制し合ってもアジアの国々が困惑するだけだ。

 AIIBに参加表明していない日米も建設的な対処を求められている。特にアジアの主要国である日本にとってAIIBの否定、対立は無益だ。透明な運営を強く促しながら、建設的な関与を検討する必要がある。

日本の財政再建―やはり先送りは危うい

 日本の財政は、借金漬けだ。国の借金残高は今年3月で1053兆円、国内総生産(GDP)の2倍と先進国の中で最悪の水準であり、債務危機にあえぐギリシャをも上回る。借金の8割強は、国債である。

 今年度予算では、財源不足を補うための36兆円余の新たな国債や、満期を迎えた分の借り換えなどで、総額170兆円の国債を発行する。

 こんなに借金を重ねて大丈夫なのか。発行後に国債が売買される市場で国債価格が急落(金利が急上昇)しないのか。

■市場に潜む危うさ

 国債の大半は、国内の資金、もとをたどれば国民の貯蓄でまかなわれている。逃げ足の速い海外マネーに頼っているわけではないから、大丈夫。こう説明されることが多い。

 おカネの流れを見れば、その通りだ。ただ、この流れに潜む構図を見落としてはならない。

 「異次元」とも称される、日本銀行による大胆な金融緩和策である。

 この政策の柱として、日銀は大量に国債を買っている。昨年秋の緩和策第2弾を経て、そのペースは、政府が市場で発行する分の最大9割に及ぶ。

 日銀が政府から国債を直接買う「引き受け」は、法律で禁じられている。かつて政府の戦費調達などに日銀が手を貸し、激しいインフレを招いた反省からだ。現状は金融機関を経て購入しているとはいえ、引き受けも同然と言える。

 何が起きるか分からないのが、市場だ。「日本の国債だけは価格が暴落しない」というわけにはいかない。投機筋などによる売り浴びせをきっかけに混乱が広がれば、企業の借り入れや住宅ローンの金利が急上昇し、景気の悪化に伴って税収が減る一方、国債の利払いは増える。ギリシャの惨状は遠い外国の話ではなくなる。

 そんな事態を避けるには、政府が「借金を返していく」という姿勢を示し続け、「すき」を見せないことだ。今は日銀が国債の大量購入で波乱の芽を封じ込めている格好だが、日銀の黒田総裁自身が政府に財政再建の大切さを説いていることがそれを物語る。

■成長頼みは禁じ手

 20年度の基礎的財政収支の黒字化を目指す政府の財政再建策は、借金を返していく意思を問う試金石だ。

 ところが、である。

 毎年名目で3%台という、実現が難しい成長を前提として、税収も伸びていくと見込む。増税については、1回延期した消費税率の10%への引き上げこそ織り込むものの、それ以上は封印。歳出の抑制・削減策も、メニューこそ並べたが、具体案や実行への道筋は先送りした。

 経済成長に伴う税収増を目指すのは当然としても、それに頼ることは「期待」頼みの財政再建であり、禁じ手だ。確実な手段は、歳出の削減と増税の二つ。ともに痛みを伴う。

 まずは歳出の抑制・削減だ。あらゆる分野にメスを入れる必要があるが、焦点は国の一般会計の3分の1を占める社会保障分野だ。高齢化に伴い、放っておけば毎年1兆円近いペースで増え続ける。

 医療や介護、年金など、社会保障は「世代」を軸に制度が作られ、現役世代が高齢者を支えるのが基本的な仕組みだ。しかし、同じ世代の中で資産や所得の格差が開いていることを考えれば「持てる人から持たざる人へ」という軸を加え、制度を改めていくことが不可欠だ。

 財政難の深刻さを考えれば、歳出の抑制・削減だけでは間に合わず、増税も視野に入れるべきだ。

 柱になるのは消費税の増税である。景気にかかわらず増えていく社会保障をまかなうには、税収が景気に左右されにくく、国民全体で「薄く広く」負担する消費税が適している。3年前に政府が決めた「社会保障と税の一体改革」は、そうした考え方を根本にすえる。

 安倍政権は10%を超える増税を否定するが、それではとても足りない。欧州の多くの国が付加価値税(日本の消費税に相当)の税率を20%前後としていることからも明らかだ。

 所得や資産に課税する所得税や相続税も、豊かな層に応分の負担をしてもらう方向で見直す。そんな税制を目指したい。

■避けられない痛み

 いずれも痛みを伴う改革だ。しかし、社会保障を持続可能にし、将来世代へのつけ回しをやめるには、避けて通れない。

 財政の再建から逃げ、放置すれば、いずれ破綻(はたん)しかねない。いったんそうなれば、国民の生活がもっと大きな痛みを強いられる。

 選挙で選んだ代表を通じ、法律を改正して制度の再設計や負担増を受け入れるのか。金利急騰といった市場の圧力に追いたてられて取り組むのか。

 民主主義の手続きに基づく負担の分かち合いを選びたい。

ギリシャ危機 混乱の拡大防ぐ最善の努力を

 欧州発の経済混乱を回避するため、関係する各国・機関は、事態打開へ全力を挙げるべきだ。

 ギリシャ支援を巡る欧州連合(EU)などとギリシャとの協議が決裂した。

 EU側は、年金減額や増税といった構造改革案の受け入れを条件に、6月末の支援期限を11月末まで延長する妥協案を示した。

 だが、ギリシャは突如、EU案の是非を問う国民投票を7月5日に行う方針を表明した。これに猛反発したEU側は、期限通りに支援を打ち切ることを決めた。

 交渉決裂を受けた週明け、東京市場の平均株価が600円近く下落するなど、世界の市場に混乱が波及している。

 菅官房長官は記者会見で、「日本も問題の情勢分析、対応に遺漏がないようにする」と述べた。

 日米をはじめ各国の金融当局は、EUや国際通貨基金(IMF)と緊密に連携し、危機拡大を食い止める必要がある。

 ギリシャは30日、IMFに対する約15億ユーロの債務の返済期限を迎える。資金不足で債務不履行(デフォルト)に陥る恐れが強い。

 EUが支援打ち切りを決めたのは、貸し手の大半が各国政府や中央銀行で、ギリシャがデフォルトになっても、市場への悪影響が限られると判断したのだろう。

 しかし、様々な思惑が錯綜さくそうする市場では、ギリシャ問題が想定外の打撃をもたらす懸念は拭えない。過小評価は禁物である。

 無論、事態の沈静化を図る最善の道は、ギリシャがEU側の改革案を受け入れ、支援延長を実現することだ。

 チプラス政権が国民投票を唐突に打ち出したのは、「民意」を盾にEUへ譲歩を迫る狙いがある。投票の結果、EU案を受け入れるのなら、反緊縮路線を変更する名分が立つとの計算もあろう。

 ギリシャ国民は、EUとの交渉経過やデフォルトがもたらす影響を十分に知らされていない。政権が国民に最終判断を丸投げするのは、あまりに無責任だ。

 ギリシャ政府は、銀行の休業や預金引き出し制限などの資本規制に踏み切った。現金自動預け払い機(ATM)に長い列ができるなど国民に不安が広がっている。

 こうした規制は一時しのぎに過ぎない。ユーロ圏からの離脱が現実味を帯びれば、ギリシャ経済が深刻な苦境に陥るのは必至だ。

 国民をこれ以上苦しめないためにも、ギリシャ政府は譲歩の必要性を国民に真摯に説明し、EU側に歩み寄らねばならない。

新国立競技場 工費圧縮へ設計から出直せ

 2520億円もの巨費を投じることに、果たして国民の理解を得られるのだろうか。

 下村文部科学相が、新国立競技場の建設計画の見直し案を公表した。建設費は、基本設計時の1625億円を約900億円も上回る額となった。

 ラグビーワールドカップ(W杯)の開幕4か月前となる2019年5月に完成する予定という。

 2本の巨大アーチで開閉式屋根を支える特殊構造は、工費が膨らむ主因とされながらも、変更に至らなかった。

 開閉式屋根を設けるのは、工期の関係から、20年の東京五輪後に先送りされる。屋根の設置費を除いても、これほどの額を要するとは、驚かされる。巨大アーチを用いる構造そのものを取りやめる選択肢はなかったのか。

 国内の著名建築家は、工費を抑え、ラグビーW杯にも間に合う代替案を示していた。下村氏は「間に合う可能性もないわけではない」と語った。それならば、大胆な見直しを決断すべきだ。

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、斬新なデザインが国際オリンピック委員会(IOC)から「大きな評価と期待」を得たと強調し、現行デザインでの建設に固執する。

 しかし、メインスタジアムに巨費を投じることは、開催費用の削減を図るIOCの五輪改革の流れに逆行するだろう。悪しき前例を作れば、財政事情を理由に、五輪開催に尻込みする都市が出てくるかもしれない。

 財源確保のメドが立たぬまま、見切り発車する下村氏の姿勢も問題である。建設費には、国費のほか、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が運用する基金を取り崩して、振り向ける。

 スポーツ振興くじ(toto)の売り上げのうち、競技場建設に充てる割合は、現行の5%から10%に引き上げられる見通しだ。

 東京都にも、500億円超の負担を改めて要請する。

 ただし、こうした措置を合わせても、2520億円に及ばないのは明らかだ。下村氏は、寄付など「民間の協力もいただく」と述べたが、目算が甘すぎる。

 JSCが12年に総工費1300億円を想定して国際コンペを実施して以降、建設費が何度も大きく変動する迷走には、あきれるばかりだ。JSCと、所管の文科省の責任は重い。将来に禍根を残さぬよう、徹底検証が必要である。

 新国立競技場を東京五輪の「負の遺産」にしてはなるまい。

2015年6月29日月曜日

「学校信仰」脱して多様な教育を探ろう

 義務教育と聞けば、だれもが小中学校という「場」を思い浮かべるだろう。現に学校教育法には、保護者は子どもが満6歳になったら小学校に、そのあとは中学校に通わせる義務を負うとの規定がある。いわゆる就学義務だ。

 教育を受けるためには、とにかく子どもは学校に通わなくてはならない。その観念には抜きがたいものがある。義務教育の「義務」が「学校に行く義務」のように受け止められているのではないか。

 そんな常識を打ち破る構想が急浮上している。フリースクールなど学校以外の教育の場や機会を、義務教育のなかに位置づけようという機運だ。課題も少なくないが、教育の多様化へ向けた試みとして大いに注目したい。

 端緒になったのは昨年の教育再生実行会議の提言だ。不登校児の受け皿として、例外的に学校扱いされることもあるフリースクールなどについての論議を促した。

 これを受けて文部科学省は有識者会議を設置、本格的な検討が進んでいる。自宅学習も含めて学校以外での学びを認める場合にどんな経済的支援が可能か、学習の質をどう保障するか、成果をどう評価するかなど議論は具体的だ。

 超党派の議員連盟も、関連法案を議員立法で今国会に提出する方針を決めた。小中学校に行かせなくても保護者が学習計画をつくり、教育委員会が認定すれば就学義務を果たしたとみなす規定などを盛り込むという。

 こうした構想の背景には、そもそも学校にどうしても合わない子どもが少なからず存在するという認識がある。だからフリースクールなどを学校復帰までの一時的な場所としてではなく、学校とならぶ多様な教育機会のひとつとしてとらえる意見が主流だ。

 いわば「学校信仰」を脱却する画期的な動きだが、今後、制度設計は難航も予想される。行政が関与しすぎればフリースクールなどは本来の魅力を失い、逆に自由放任なら児童虐待などを見逃しかねない。学習塾が学校化するとの指摘もある。議論を徹底し、具体像を探ってもらいたい。

 義務教育について定めた憲法26条には、じつは「学校」の文字がない。国民は「ひとしく教育を受ける権利」を有し、保護者は子女に「普通教育を受けさせる義務」を負う――とあるだけだ。学校以外での学びの可能性は、この条文にも息づいていよう。

食品の地理的表示をいかせ

 産地と結びついた食品や飲料、酒の名称を保護する地理的表示制度が今月から始まった。すでに兵庫県の「神戸ビーフ」などが申請され、政府は審査をへて年内に第1陣を登録する計画だ。生産者は新制度を市場開拓に弾みをつける契機にしてほしい。

 地理的表示は世界貿易機関(WTO)協定が保護すべき知的財産権として定めている。政府は欧州連合(EU)の制度を参考に関連法を制定して導入した。

 登録には製造方法や品質に一定の基準が求められ、地域に浸透して25年ほどの伝統があることも要件になる。地域の共有財産として位置づけられ、品質などの基準を満たせば新規参入者も地理的表示を使えることも特徴だ。

 食品などの名称を守る制度には商標権があるが、違反に対して被害者自らが差し止め請求などに動くことが必要だ。地理的表示は政府が違反者に排除を命じたり、罰則を科したりすることができる。権利保護の制度として前進だ。

 国内には「魚沼産コシヒカリ」「松阪牛」「関さば」といった農水産物ブランドが数多くある。しかし、ブランド米や銘柄牛のブームは起きても、市場の信頼を高める品質管理などですべての産地に共有認識があるとはいえない。ブランドをいかした海外市場の開拓も今後の課題だ。

 新制度の主眼は模倣品などから知的財産を守ることにあるが、生産者にとっては農水産物の競争力を強め、市場での付加価値を高める機会になるはずだ。

 地理的表示は韓国や中国、シンガポールなどアジア地域でも導入が進む。ただ、日本の登録が海外でも通用するような国際的な保護の枠組みはなく、生産者は各国で商標登録などが必要になる。

 日本の食品にとって地理的表示を使ったブランド力は輸出拡大に向けた強力な武器になる。政府は日欧の経済連携協定(EPA)や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を通じ、合理的な国際ルールづくりを進めてもらいたい。

ギリシャ問題―危機の端緒にするな

 ギリシャ債務危機がふたたび世界経済の火だねとなりそうだ。金融支援をめぐってギリシャと欧州連合(EU)はぎりぎりの交渉を続けてきたが、年金削減などEU側が求める厳しい改革案をギリシャが拒否。その賛否を問う国民投票を7月5日に実施するとしている。これに強く反発したEUは現行の支援を今月で打ち切ると表明した。

 ギリシャは国際通貨基金(IMF)への約2千億円の借金返済が期限のあすまでにできず、債務不履行(デフォルト)になる恐れが強まっている。

 心配なのは、週明けの金融市場への影響である。これが引き金となって世界経済危機に発展するようなことは絶対避けなければならない。主要国の金融当局は警戒を怠らず、必要なら連携して対応にあたってほしい。

 今回、EUが最終的に支援拒否やむなしと判断した背景には、ギリシャがデフォルトとなっても影響は限定的とみていることがある。ギリシャ向け債権の多くをすでに民間金融機関から切り離し、EUやIMFが引き受けている。公的管理によって、リスクをなんとか制御できると考えているのだろう。

 ただ、そんな筋書きどおりにいかないのが過去の経済危機の教訓である。日本に長期停滞をもたらす要因となった1997年秋の金融危機は、最初の三洋証券のデフォルトを当局も市場も過小評価していた。だが破綻(はたん)の連鎖は、すぐに北海道拓殖銀行や山一証券など大手へと広がり、とりかえしのつかない事態になった。

 2008年の米金融大手リーマン・ブラザーズの破綻でもそうだった。未曽有の世界経済危機につながると予測できていたら、米政府はあのようなリーマン処理を選択しなかったろう。

 市場にはさまざまな思惑があり、どんな経路から危機につながってしまうのか予測しにくい。ギリシャ危機にしても、想定外のリスクが十分にありうると覚悟していたほうがいい。

 ギリシャ経済を大混乱に陥らせないために、少なくとも欧州中央銀行(ECB)によるギリシャの銀行への資金繰り支援は当面ある程度、続けざるをえないのではないか。

 欧州統合の理念からいえば望ましくはないが、ギリシャのユーロ離脱の可能性も視野に入れる必要が出てきた。EUが対応を誤れば、この問題は財政が比較的悪いとみなされているスペインやイタリア、ポルトガルにも連鎖しかねない。経済危機の火だねを、ていねいに消していく細心さが求められている。

新国立競技場―新たな選択肢で出直せ

 後世に残す国民の巨大な財産を、こんな「どんぶり勘定」で造ってはならない。ここは一度立ち止まって出直すべきだ。

 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の計画が迷走している。文科省などがゼネコン2社と結ぶ契約額が、また一気に跳ね上がることが明らかになった。

 総工費2520億円。基本設計段階から約900億円も膨らみそうだ。12年ロンドン五輪の主会場の4倍近くにのぼる建設費は、野放図に過ぎる。

 文科省の所管で建設を担う独立行政法人、日本スポーツ振興センター(JSC)の見立てがあまりに甘い。国際コンペで採用したザハ・ハディド氏の案では、当初予算1300億円だったものが3千億円になる試算が出たため昨年春、延べ床面積を2割減らして1625億円に抑えたはずだった。それからわずか1年。資材などの高騰で説明できる誤差ではない。

 しかも、売り物だった開閉式屋根の設置を先送りし、1万5千席分の可動式席もやめて仮設にする節約をしたうえで、この金額だから驚く。

 建築費を押し上げ、工期が延びる元凶と専門家から批判されるのが、屋根を支える2本の巨大なアーチ構造だ。

 今月に入り、建築家の槇文彦氏らが、アーチを造らない一般的な工法での代替案を示した。工期を短縮でき、1625億円に収まるプランだという。

 それでもJSCは、現行案に固執しているようだ。その理由の一つは、設計をやり直すと19年秋にあるラグビー・ワールドカップに間に合わないとされる点だ。しかし、槇氏らの案では工期は間に合うとしている。

 JSCは、ハディド氏の案が五輪の招致に貢献した点にもこだわっているようだが、重要なのは今後の有効活用だ。国際オリンピック委員会(IOC)も、開催都市にとって有益な遺産となることが大切という理念を打ち出したばかりだ。

 文科省とJSCが早急にやるべきなのは、議論を国民にオープンにする形で、冷静な選択肢を示すことだ。限られた予算と工期の中で何ができ、何ができないのか。五輪後の維持費をどう賄うのか。ハディド氏も含む幅広い専門家らの知恵を集めて代替案を練り直す時である。

 時間切れを理由にした見切り発車は五輪のイメージを傷つけるだけでなく、将来世代に負の遺産を残す。透明な手続きと合理的な計画で国民が納得した事業を完遂することこそが、五輪の「レガシー」となろう。

郵貯限度額上げ 自民党提言の「含意」はどこに

 郵便貯金の限度額引き上げを急ぐ必要があるのか、甚だ疑問である。

 自民党が、ゆうちょ銀行の貯金限度額を1000万円から段階的に3000万円に引き上げるべきだとする提言をまとめた。

 かんぽ生命保険の加入限度額についても、現在の最大1300万円から2000万円に増額する方針を掲げた。政府に対し、今年9月末までの実施を求めている。

 提言は、利便性などを考えれば、現行の限度額は低すぎると指摘している。しかし、2012年4月の郵政民営化法改正時の付帯決議は、限度額を「当面は引き上げない」と明記している。この趣旨に反するのは明らかである。

 郵政グループは、政府が100%出資する国有民営の企業だ。政府の信用を背景に貯金集めに走れば、競合する地域金融機関から預金が流出することになろう。

 金融業界が、限度額の引き上げによる「民業圧迫」に強い懸念を示しているのは当然である。

 地域金融機関との業務提携などを目指すゆうちょ銀の経営戦略とも整合性を欠く。政府は、提言の是非を慎重に検討すべきだ。

 郵政グループは、持ち株会社の日本郵政と傘下のゆうちょ銀、かんぽ生命の計3社の株式を、今秋以降、同時に上場する予定だ。

 ただ、3社の株式がどのようなペースで市場に売却されるのか不透明である。ゆうちょ銀株などを全て売却する完全民営化は、努力目標に過ぎない。

 限度額の引き上げは、株式の売却が軌道に乗り、完全民営化への道筋がはっきりした段階で着手するのが筋だ。

 ゆうちょ銀の貯金残高は約180兆円とメガバンクの2倍近い。巨額の資産の半分以上を占める国債は低金利で、運用益は思うように上がっていない。展望もなく貯金を増やせば、運用難に拍車をかける恐れがある。

 日本郵政の西室泰三社長は4月の記者会見で、限度額撤廃が望ましいとしつつ、「金融界全体からみて正しい方向かどうか疑問を持っている」と述べた。

 ただ、個々の郵便局は貯金額などに応じて手数料が増えるメリットがあり、全国郵便局長会(全特)は引き上げを求めている。

 一昨年の参院比例選で、自民党の全特出身候補が党内トップ当選を果たした。自民党は昨年の衆院選公約に限度額見直しを掲げた。来年の参院選でも郵便局に集票力を発揮してほしい。そんな意図を込めた提言ではないか。

口永良部1か月 避難の長期化に備えた支援を

 帰島が実現するまで、避難者に対するきめ細かな支援が求められる。

 鹿児島県屋久島町の口永良部島にある新岳の爆発的噴火から、29日で1か月を迎えた。

 噴火活動は収まる気配がない。18、19の両日には小規模な連続噴火が発生した。

 気象庁は、火山性地震が依然として多発していることや、ガスの噴出状況などから、さらに噴火が続く恐れがあるとして、厳重な警戒を呼びかけている。

 爆発的噴火の直後、口永良部島の86世帯137人は、屋久島に全島避難した。避難生活は長期化の様相を呈している。

 島民は自宅の被災状況さえ確認できていない。車や家畜を島から運び出すこともかなわない。不安は、いかばかりだろうか。

 避難者の一部は、避難所から、町が用意した屋久島内の公営住宅に移った。親類や知人宅に身を寄せる人や、町外に転居した家族もある。8月初旬には、町が建設中の仮設住宅に27世帯が入居することになっている。

 分散して当面の生活を営まざるを得ない島民にとって、コミュニティーの維持は重要な問題だ。

 被災の全体像の調査が手付かずのため、被災者生活再建支援法などに基づく国の公的支援の対象になるかどうか、現時点でははっきりしない。町は避難者に見舞金の支給を始めた。今後も生活支援に力を注いでもらいたい。

 新岳の監視には、引き続き万全を期す必要がある。町が避難解除の是非を判断する際、十分なデータが欠かせないためだ。

 気象庁の職員は現在、口永良部島にほとんど近づけない状況だ。地震計などをどう機能させ続けるかが、課題となっている。

 観測機器に送電している島内の発電所も、いつまで自動的に稼働するのか、定かでない。長時間の停電にも対応できる観測機器の設置を検討すべきだろう。

 大惨事となった昨年9月の御嶽山噴火は記憶に新しい。今月には浅間山で小規模の噴火が発生した。箱根山の大涌谷や阿蘇山などでも、火山活動が活発化した。

 活動火山対策特別措置法(活火山法)改正案が、今国会で審議されている。火山周辺の自治体に、噴火警戒レベルに応じた避難計画の策定を義務づけることが柱だ。火山防災の強化につなげたい。

 火山活動の変化を的確に捉えるには、専門家の知見が不可欠だ。不足する火山専門家の育成も忘れてはならない。

2015年6月28日日曜日

大都市のホテル不足をビジネスの好機に

 東京や大阪でホテルの空室不足が深刻になってきた。アジアからの観光客が急増している影響が大きい。地方からの出張や観光で部屋を取りにくいとの弊害も目立ち始めた。規制緩和で空き家を宿泊施設に転用するなど、柔軟な発想で訪日外国人の受け入れ態勢を拡大すべきだ。

 2011年に6割台だったビジネスホテルの客室稼働率は14年に7割を超えた。特に稼働率が高いのは大都市だ。今年1~3月の実績をみると、東京都、大阪府はそれぞれ85.0%、84.3%に達した。廉価な簡易宿所の稼働率も、全国平均の2割強に対し東京と大阪だけは5割を超す。

 14年に都内の宿泊施設に泊まった人(のべ人数)に占める外国人の比率は24.8%と、この3年間でほぼ倍増した。欧米人に比べ、アジアからの観光客は伝統文化への関心が薄く、買い物への関心が高い傾向がある。大都市の中心部になるべく安く泊まり、数多くの店で買い物をして回る。都心の廉価なホテルが混む一因だ。

 政府は20年までに訪日外国人を14年比で5割ほど増やす方針だ。価格が高めなシティーホテルも稼働率が上昇している。宿泊施設全体の不足を解消するため、できる限りの手立てを講じるべきだ。

 例えば住居用マンション、古民家を含む空き家、空き部屋の活用だ。これまで旅館業法では宿泊施設と認められなかった物件でも特区制度などを積極的に活用し、宿泊客をもっと受け入れられるよう政府や自治体は後押ししたい。

 すでにインターネットを通じ一般人が空き部屋に旅行者を泊める新サービスが日本を含む世界で普及しつつある。法的にはグレーなこうした新種の民泊も、法的な位置づけを急ぎたい。日本の生活にふれたい外国人に喜ばれる。

 大手不動産会社やベンチャー企業が、都心の中古オフィスビルなどを2段ベッドが並ぶ清潔で廉価な宿に改装する例も出てきた。既存の宿泊業界以外の企業が、今のホテル不足をビジネスの好機ととらえ、ユニークなアイデアで新規参入する動きは歓迎したい。

 観光庁は地方の施設、特に稼働率が比較的低い日本旅館への宿泊を増やしたい意向だ。しかし初めて来日した外国人には旅館の利用は壁が高い。受け入れ側にも戸惑いがある。旅行者へのマナー研修や旅館側の外国語での応対の手助けなど、きめ細かい支援が要る。

懲らしめられるのは誰だろう

 開いた口がふさがらない。自民党若手議員が開いた勉強会で報道の自由を制限するような発言が相次いだことだ。批判の広がりにあわてた党執行部は、会の代表である木原稔青年局長を1年間の役職停止にし、関係議員を厳重注意して火消しに躍起になっている。

 問題の発言は、安倍晋三首相の総裁再選を支援するねらいで開いた若手議員の集まりでのものだ。作家の百田尚樹氏の講演のあとの質疑応答で、ある議員が沖縄の琉球新報と沖縄タイムスを批判、百田氏は「2つの新聞社はつぶさないとならない」と応じた。

 安全保障法案に批判的なメディアを念頭に、別の議員は「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけてほしい」と述べたという。

 彼らは言論・報道の自由をどう考えているのだろうか。反対意見を封殺せず、言論には言論で対抗していくのが民主主義である。言論の自由があって、メディアが権力へのチェック機能をはたすことで成り立っているはずだ。

 小選挙区制のもと選挙のたびに100人を超える新人議員が誕生、入れ替えがどんどん進んだ結果、議員の劣化が目立っているのは、彼ら自身が認めているところだ。そうした議員を選んだのは有権者なのだから、われわれ自身がしっかり識別していかなければならないということだ。

 自民党という政党の習い性とでもいっていいサイクルがある。選挙で勝つと空気が緩み、おごりや油断で、スキャンダルや失言が相次ぎ、有権者におきゅうをすえられ選挙に敗北し、更正を約束して立て直していく――。

 昨今の自民党をみていると、一強多弱で緊張感を欠いているところがあるのは間違いない。衆院憲法審査会での自民党推薦の参考人の選び方にしても、今回の若手の発言にしても墓穴を掘っているのに等しい。

 このままでは懲らしめられるのはマスコミではなく自民党になってしまうだろう。

米中対話―力と力の競争でなく

 新たな大国が台頭し、既存の覇権国との対立の果てに紛争へと発展するパターンは、何度か世界史に現れた。

 では米中はどうか。この問いを多くの政治指導者が頭の片隅に置いていることだろう。

 主要閣僚が顔をそろえる米中戦略・経済対話が、今回で7回目になった。これまでより重みを増す形で注目されたのは、両国の力のバランスが、より拮抗(きっこう)の方向へ進んでいるためだ。

 この対話は中国市場の開放を狙う米国が発案し、協力関係を演出する舞台ともなった。オバマ政権が安全保障にも議題を広げると、中国の国力増大とともに対立点が大きくなった。

 現在の主要な争点は、サイバー攻撃と南シナ海である。「人権」などの価値観的なテーマと異なり、力のぶつかり合いになりかねない局面に入っている。

 バイデン米副大統領は開会時の演説で「責任ある競争者」たれと中国側に呼びかけた。国際社会において中国が公正な競争相手となるのは大いに歓迎だ、という意思表示である。

 この論法は中国側に受け入れやすい面があろう。楼継偉財務相は「世界経済成長への寄与率は中国が30%、米国は10%」と、世界経済の牽引(けんいん)役としての貢献を強調した。

 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、米国中心の世界銀行など国際金融組織と併存しつつ、国際開発に役立つ可能性がある。

 共通の利益を比較的見いだしやすい経済面に比べれば、安全保障問題の溝は深刻だ。

 とりわけ心配なのは南シナ海である。領有権問題が絡み合う中、中国による一方的な岩礁の埋め立てや施設の建設は、地域の安定を損ねている。

 今回の対話の中で、中国は一つの約束をした。東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で過去に交わした合意に沿い、法的拘束力を持つ「南シナ海行動規範」をつくる交渉を前に進めると表明した。

 確実に実行してもらいたい。南シナ海は世界屈指の重要海路でもあり、各国から深刻な不安の視線が注がれていることを中国は忘れてはならない。

 「責任ある競争」とは、力と力の競争でなく、関係国の信頼をどれだけ勝ち取れるかの平和的な競争であるべきだ。

 対話に出席した楊潔篪(ヤンチエチー)国務委員は「両国の協力面は競争面よりずっと大きく、競争を協力に変えることができる」と語った。その見識を行動で示してほしい。新興国と覇権国との紛争は決して不可避ではない。

電力株主総会―先行きが心配です

 電力9社の株主総会で、「脱原発依存」を求める株主提案の議案がことごとく否決された。

 原発再稼働に固執する経営陣に問いたい。「本当にそれで経営は大丈夫ですか」と。

 来年春から電力小売りが自由化され、電気の購入先を各家庭が選べるようになる。東京電力福島第一原発事故前と変わらぬ経営姿勢は、消費者の厳しい選別の目にさらされよう。

 事故前に原発依存度が5割に達した関西電力の総会では、大株主の大阪市や京都市が脱原発を促す議案を提出した。

 使用済み核燃料の処分法が決まらない限り原発を動かさない▽原発に代わるエネルギー導入を積極的に進める――。

 将来にツケを残さない立場からの、もっともな提案だ。

 しかし経営陣は「安全を大前提に原発の早期再稼働をめざす」と繰り返し、否決を求めた。副社長は「中長期的には原発の新増設や建て替えが必要」とまで踏み込んだ。

 ほかの電力も同様だった。

 中国電力は山口県の上関原発計画を推進する考えを改めて示した。九州電力は川内原発のすみやかな再稼働への決意を強調し、東京電力も原発を続けたいとの意向を鮮明にした。

 過酷事故が住民を苦しめ、原発の「安全神話」が崩壊してから4年。事故の教訓を忘れたかのようなあからさまな原発回帰には、あきれるばかりだ。

 各社を強気にさせているのは国だ。昨年決めたエネルギー基本計画で原発を重要なベースロード電源と位置づけた。今月には、30年度の原発比率を20~22%程度と、運転延長や新増設が前提となる案をまとめた。

 日本の原発は戦後、「国策民営」で進められてきた。「国民にどう思われようが、国に従っていくだけだ」。電力各社がそう考えているなら、危ういというしかない。

 原発は明らかに、先が見通せない事業になっている。

 全国の43基中、16基は運転開始30年を超え、存廃の決断を迫られる時期が近づく。事故後、安全規制は強化され、延命には千億円単位の費用がかかると見込まれている。

 新たな原発をつくるといっても、周辺住民や自治体の理解をどうやって得ていくつもりなのか。国ばかり見ている電力各社に、その覚悟や青写真があるとはとても思えない。

 「原発と心中するという印象しか持てない」。関電の総会で、ある株主が言った。

 このままでいいのか。経営陣は改めて考えたほうがいい。

日露電話会談 G7合意踏まえた対話が重要

 ウクライナ情勢では批判をきちんと加えつつ、ロシアとの対話を重ねることが大切である。

 安倍首相がプーチン露大統領と電話会談し、年内の来日を改めて招請した。日露間の対話継続でも一致した。

 首相はプーチン氏に、ウクライナ東部での停戦合意の完全な履行に向けて建設的な役割を果たすよう求めた。ウクライナ情勢でのロシアによる一方的な現状変更は容認できず、先進7か国(G7)の足並みをそろえるのは当然だ。

 両首脳の対話は、昨年11月の北京での会談以来だ。この会談では、今年の「適切な時期」のプーチン氏来日で合意している。

 来日日程や今秋の第三国での首脳会談を調整するため、政府は近く谷内正太郎国家安全保障局長をロシアに派遣する。岸田外相の訪露も検討中だ。様々なレベルで建設的な意見交換を続けたい。

 首相は、北方領土問題の解決を目指し、日露関係の前進を図ろうと、難しい舵取りを続けている。米欧が入国禁止対象とするナルイシキン露下院議長が5月に来日した際、あえて会談し、対露関係を重視する姿勢を示した。

 プーチン氏も今月中旬、外国通信社幹部との会見で、「すべての問題は解決可能だ」と述べ、日露首脳会談に意欲を見せている。

 米欧の経済制裁の影響でロシア経済が厳しさを増す中、プーチン氏にとっても、対日関係の悪化を招くのは得策ではあるまい。

 残念なのは、ロシア上下両院が、同国沿岸から200カイリの排他的経済水域(EEZ)内でのサケ・マスの流し網漁を来年1月から禁止する法案を可決したことだ。

 プーチン氏が署名すれば施行され、千島列島沖などで日本漁船は事実上、操業できなくなる。

 その場合、北海道東部の経済への影響額が年250億円に上るとの試算もある。打撃を最小限に抑えるため、政府は、対策に知恵を絞らなければならない。

 法案は「漁業資源の保護」を理由としており、日本側は「資源は十分ある」と反論してきた。安倍首相も電話会談で「地域の漁民には大変憂慮すべき事態」とロシア側の配慮を求めたが、その約4時間後に法案は可決された。

 日本の主張が受け入れられなかったのは遺憾である。

 ロシアは、対露制裁を続ける米国や欧州連合(EU)などから農産物の輸入を禁止する対抗措置を1年間延長した。資源保護を名目に、日本の制裁にも揺さぶりをかけてきたのではないか。

株主総会 厳しい声を企業統治に生かせ

 今年の株主総会は、社外取締役を選任する企業が大幅に増えた。

 東証1部で、独立性の高い社外取締役を2人以上置く企業は46%と、前年の2倍以上になった。

 その大きな要因が、今月から適用が始まった上場企業の行動指針「コーポレートガバナンス・コード」である。社外取締役の積極的な活用などで、企業統治を強化するよう求めている。

 外部の目で経営を見直すことは、不祥事の防止や「攻めの経営」を促す効果が期待できる。不採算部門の撤廃など、社内役員がためらいがちな判断を下すことは、社外取締役の効用と言える。

 もちろん、取引先などから「お飾り」のような社外取締役を迎えても、意味はない。さらに疑問なのは、経営には縁遠い有名人を選ぶ企業が少なくないことだ。

 有意義な提案ができる見識を持つ人材を選ぶのは、経営者の重要な責務である。

 今年の総会では、「物言わぬ株主」と言われた生命保険会社などが、会社提案に異を唱えるケースが増えたのも特徴だ。

 機関投資家に議決権を積極的に行使するよう求める「スチュワードシップ・コード」が昨年2月に策定された影響だろう。

 第一生命保険は4月から、取締役会への出席率が半分に満たない社外取締役の再任を認めない方針を決めた。日本生命保険も6月から、自己資本利益率(ROE)が一定期間、5%を下回る企業の議案を「精査する」としている。

 大株主が議決権を通じて企業に緊張感のある経営を求めるのは、当然のことである。

 ただし、米助言会社などの示した基準に従い、「ROEが5%未満なら議案に反対」といった、杓子しゃくし定規な対応が広がるようだと、副作用が大きい。

 企業がROEを過度に重視し、短期的な利益の追求に走る懸念がある。将来の成長の土台となる先行投資や人材育成などが疎おろそかになっては、元も子もない。

 社外の目線を取り入れた経営陣と、出資者の責任を自覚した株主による実のある対話を、企業価値向上につなげてほしい。

 不祥事や経営不振で釈明に追われる企業が、相変わらず目立ったのは残念である。

 不適切な会計処理に揺れる東芝や、巨額の赤字に転落したシャープの総会では、株主から経営者の退陣を求める意見が相次いだ。株主の指摘を真摯に受け止め、経営再建の糧とすべきだ。

2015年6月27日土曜日

中国古典「一日一話」から世界が学んだ人生の”参考書” 中国古典 ― 柳原鉄太郎のメッセージ ―

中国古典の特徴を一言でいえば”実学”ということになる。実学とはいささか曖昧な言葉だが、要するに実践的な学問ということだ。現に読者の反応を聞いてみると、「いや、面白い」「とても参考になる」「もっと早く読んでおけばよかった」といった答えが返ってくることが多い。それだけ、実践の場で役に立っているということであるに違いない。

ではどういう点が実学だといえるのか。中国古典には、日本古典にはない特徴が三つある。

まず、応対辞令である。亡くなった先輩の安岡正篤さんは、「中国古典は応対辞令の学問だ」と喝破されたが、確かにこのテーマが中国古典の大きな柱になっている。応対辞令とはわかりやすくいえば、社会生活のもろもろの場における人間関係にどう対処するか、という対処の仕方にほかならない。

第二は、経世済民、つまりは政治論である。これもまた中国古典が好んで取り上げる重要なテーマだが、政治論といっても、難しい理屈をこねているわけではない。中国古典は、きわめて具体的でわかりやすい。

政治論というと一般の人にはいささか無縁のように思われるかもしれないが、そうではない。組織をどう掌握しどう動かすかなど、幅広い応用がきくのである。

第三は、修己治人、つまりは指導者論である。上に立つ者はどうあるべきか。組織のリーダーにはどんな条件が望まれるのか。これもまた中国古典の得意とするテーマであって、あらゆる古典がさまざまな角度から論じている。

以上の三つが中国古典の重要な柱である。

以前は、社会を支える世代である四十代、五十代を中心に、中国古典はよく読まれたものだが、現代では中国古典に親しむ人はそれほど多くないようである。有名な故事や名言の類にしても、「こんなことも知らないのか」と驚いたものだった。

これには無理からぬ事情もないのではない。この数年、ビジネス社会の関心は、やれパソコンだ、インターネットだと、そちらの方にばかり向かっていった。「いまさら古いものなど読んでも」といった気分がかりにあったとしても、理解できなくはない。

だが、これは少なからず残念なことである。科学や技術がどんなに進歩しても、結局、それを動かすのは人間である。肝心の人間に対する理解を欠いたのでは、どうでもいいようなことに悩んだり、ここぞというときに腰砕けになってしまう恐れがあるからである。現に近頃では、人間関係で脳む人が非常に多くなっているように思われる。

中国古典の内容はきわめて実践的であり、現代でも参考になることが少なくない、その説くところに耳を傾けるなら、少なくともつまらない悩みや失敗を免れることができるだろうし、さらに一歩踏み込んで、現代を生きるうえでの知恵や勇気のようなものを学び取ることもできるであろう。

実際、「これは」という人物は、必ずといっていいほど中国古典を読んでいる。古いからといって疎かにせず、先人の知恵を上手く実生活に生かせる人間こそが、これからの厳しい社会を勝ち抜いていけるのである。

最も、中国古典というものは、いわば漢方薬のようなもので、役に立つからといって、効いてくるまでに時間がかかる。即効性は期待しないでいただきたい。

更に、中国古典の説いているのは原理原則であるということ。従って、とっぴなことを期待される向きには失望されるかもしれない。しかし少なくとも、原理原則の確認には役立つであろう。それだけは請け合っておく。

いま、厳しい現実の中で苦闘している現役の皆さんに読まれることを願っている。


 ― 柳原鉄太郎より ―

企業は株主総会を市場との対話の起点に

 3月期決算会社の多くが26日までに株主総会を開催した。政府が企業統治(コーポレートガバナンス)の強化を成長戦略の一つにあげ、東京証券取引所が上場企業の責務を記す統治指針をつくった今年は、ガバナンス改革の元年だ。企業は株主との対話を粘りづよく進めていく必要がある。

 国内外の機関投資家は総会前の議決権行使と前後して、日本企業の経営にさまざまな注文をつけた。総会に出席した個人がトップに直接、経営の方針や戦略をただす場面も多くみられた。

 こうした企業と株主のやりとりで焦点となったのは、社外取締役の選任や株式持ち合いの解消だ。日本企業は取締役会を身内で固め、銀行や系列企業と株式を相互保有することが多かった。こうした側面は日本的経営の閉鎖性の象徴とされ、ガバナンス改革で見直すよう促されていた。

 東証の調べでは3月期企業の総会がすべて終了した後、社外取締役を選任している上場企業は全体の80%を超えるもようだ。同比率は1年前に65%だったから、経営に外部の視点を取り入れようとする企業が、短期間に増えていることがよく分かる。

 この流れを一時的なものに終わらせてはならない。多様な人材を取締役会に多く迎えることは経営の透明性を高め、競争力の向上にもつながるはずだ。

 持ち合い株式については、新日鉄住金や三菱地所、コマツといった大企業の間で売却の動きが広がっている。経済合理性に乏しい株式保有を続ければ経営の効率性も損なわれかねないとの危機感を、企業が投資家から指摘され抱くようになったからだ。

 日本企業のガバナンス改革への国際的な期待は総じて高い。それが株式相場が堅調に推移する背景の一つにもなっている。

 ただ海外投資家の中には、日本企業が社外取締役の人数など、数値基準を重視しすぎることの危うさを指摘する声もある。型に流れた改革は実効性に乏しい。早くから取締役会改革を進めた東芝のような企業が、不適切会計に揺れる現状がそれを物語る。

 株主総会だけが企業と投資家が対話をする場ではない。継続的な意見の交換を通じて企業は競争力を磨き、株主は長期の視点で経営を評価する。企業と株主のそんな関係こそが、企業統治の本来の姿であるはずだ。

納得しがたい新競技場の工費

 これで一件落着としてよいのか。2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設が、来月の工事契約、10月の着工に向けて動き出すという。整備費は昨年5月に見直した1625億円から5割以上増え、2500億円を超える。

 わずか1年で900億円もアップするとは、資材や人件費の高騰を考慮しても理解しがたい。しかも、目玉だった開閉式屋根を五輪後に先送りし、常設の座席も1万5千減らしたうえでの数字だ。

 二転三転した見積もりの経緯や、膨張した費用をどう工面するのか、そして、責任の所在はどこか。文部科学省や事業主体の独立行政法人、日本スポーツ振興センター(JSC)のこれまでの説明は納得できるものではない。

 そもそも、08年の北京や12年のロンドンなど近年の五輪のメーンスタジアムの整備費は数百億円のオーダーにとどまり、新競技場の突出ぶりは際立っていた。

 民間からは、より安価で工期の短い建設構想も上がっていたが、JSCなどは、19年のラグビーワールドカップに間に合わせるという制約を盾に大幅な見直しは避け、鋼鉄製の長大なアーチ2本を使ったデザインに固執した。

 工法的な難しさが、整備費膨張の原因ともなっているだけに、もっと批判や代替案に耳を傾け、引き続き工費削減の余地を真摯に探るべきだ。

 今月、スイスであった国際オリンピック委員会(IOC)理事会では、東京五輪の7つの競技の会場変更が了承されている。新設をやめ、既存の施設を使って運営費を低く抑えるのが目的で、IOCの考え方にも沿うものだ。

 五輪の開催にお金がかかりすぎ、手をあげる都市が減っていることにIOCは「五輪精神の普及が妨げられている」と危機感を持っているという。「招致すると、これだけ高価なスタジアムが要るのか」。20年の東京が、後に続く都市にそんな印象を与えるとしたら残念なことである。

異常な「異論封じ」―自民の傲慢は度し難い

 これが、すべての国民の代表たる国会議員の発言か。無恥に驚き、発想の貧しさにあきれ、思い上がりに怒りを覚える。

 安倍首相に近い自民党若手議員の勉強会で、出席議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけて欲しい」「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればいい」などと発言していた。

 権力を監視し、検証して批判する。民主主義国の新聞やテレビならば当たり前の仕事である。それに対して、政権与党の議員が「反論」でも「批判」でもなく、「懲らしめる」というのだから恐れ入ってしまう。

 【懲らしめる】制裁を加えて、悪いことはもう二度としないという気持ちにさせる(「明鏡国語辞典」)

 正義は我にあり。気に入らない言論には圧力をかけ、潰してしまって構わない――。有志による非公式な会であっても、報道の自由、表現の自由を脅かす発言を見過ごすわけにはいかない。勉強会には加藤勝信官房副長官や、首相側近の萩生田光一総裁特別補佐も出席していた。谷垣幹事長は「クールマインドでやってほしい」と他人事だが、党として事実関係を調査し、厳正に対処すべきだ。

 さらに講師として招かれた、前NHK経営委員で、作家の百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞社は潰さないといけない」「米兵が犯したレイプ犯罪よりも、沖縄県全体で沖縄人自身が起こしたレイプ犯罪の方が、はるかに率が高い」などと発言していた。

 地元の2紙については出席議員も「左翼勢力に完全に乗っ取られている。沖縄の世論のゆがみ方を正しい方向に持っていく」と主張したという。

 沖縄県民全体に対する明らかな侮辱である。

 きのうの安全保障関連法案を審議する衆院特別委員会で、民主党の寺田学氏に、百田氏の話を聞いた感想を求められた加藤副長官は、「大変拝聴に値すると思った」と答えた。

 首相は「事実であるなら大変遺憾」としたものの、「沖縄の人たちにおわびすべきではないか」との寺田氏の指摘には、「言論の自由こそが民主主義の根幹であり、当然尊重されるべきものだ」と一般論で応じた。

 傲慢(ごうまん)と怠慢。安保関連法案をめぐってはリスク論議が盛んだ。しかし、異論には耳を貸さず、力で踏みつぶせばいいのだという政治家に、国民の生死がかかった判断を委ねてしまうことこそ、最大のリスクだ。

異常な「異論封じ」―最悪の国会にするのか

 戦後最長、95日間の大幅延長となった国会で、安全保障関連法案をめぐる衆院特別委員会の審議が再開した。

 だがきのうの審議でも、安倍首相らの政府答弁に説得力がないのは相変わらずだった。

 象徴的なのは、法整備がなぜ必要なのか、根本的な理由だ。首相らは「安全保障環境の変化」と繰り返すが、それが何を指し、法案とどう関係するのか納得できる説明はない。

 それなのに、首相は「どこかの時点で議論が尽くされたという議会の判断がなされれば、決める時には決める」と、早くも採決に前のめりだ。

 まともな説明のない審議をいくら積み重ねても、議論を尽くしたことにはならない。早期採決など、もってのほかだ。

 さらに耳を疑うのは、自民党執行部の異常なまでの「異論封じ」の動きである。

 若手リベラル系議員の勉強会を「時期が悪い」と中止に追い込み、党の幹部会議では「法制を批判するOB議員を黙らせるべきだ」という声まで出た。

 異論に耳を傾け、議論を通じてより良い結論を探る。そんな言論の府の使命を、今の自民党は忘れたとしか思えない。

 ましてや日本の安保政策を大転換させる今回の法案である。多様な意見を踏まえ、丁寧な議論を重ねなければ、国民の理解が広がるはずもない。

 実際、朝日新聞の最新の世論調査では、法案への賛成29%に対し、反対53%。首相の説明が「丁寧ではない」と考える人が69%。「丁寧だ」の12%を大きく上回った。国民の理解を欠いた安保政策が円滑に機能すると思っているのか。

 憲法学者や内閣法制局長官OB、弁護士、広範な専門分野の有識者、多くの市民団体も強い反対の声をあげている。

 それがまったく聞こえないかのように、政権の言うことをただ信じればいい、とばかりに振る舞う政権は、民主主義の土台を掘り崩しつつある。

 首相は、60年の日米安保条約改定や92年の国連平和維持活動(PKO)協力法成立の時も強い反対があった例を挙げ、「法案が実際に実施される中で理解が広がっていく側面もある」と述べた。

 そういう側面があったとしても、異常な「異論封じ」を正当化する理由にはならない。

 国会議員に問いたい。

 このまま、戦後最長にして最悪の国会にしていいのか。

 問われているのは、言論の府の矜持(きょうじ)であり、民主主義と法治の理念そのものである。

安保法案審議 戦略的な曖昧性は確保したい

 危機が発生した際、自衛隊がどう行動するか。その詳細をすべて明示することは、事態対処の実効性を損ねかねない。

 安全保障の世界では、戦略的な曖昧性を確保しておくことが欠かせない。

 衆院平和安全法制特別委員会で民主党の岡田代表が、集団的自衛権の行使が可能となる存立危機事態の具体例を示すよう求めた。

 安倍首相は、朝鮮半島有事を念頭に、日本へのミサイル発射が準備される中、監視中の米軍艦船が攻撃される例を挙げた。「ミサイル防衛体制の一角を崩そうとしている可能性がある」と語った。

 他国に対する攻撃があり、日本の存立が脅かされる事例として、分かりやすい。政府がこうした具体例を示し、丁寧に説明することが国民の理解を広げよう。

 岡田氏は、一連の首相答弁について「武力行使の要件としては甘すぎる。もっと明確にしないといけない」と強調した。

 この主張は疑問だ。法律上、これは可能、これは可能でない、と詳細を示すことは控えねばならない。日本の手の内をさらし、肝心の抑止力を弱めるからだ。

 例えば、地対艦ミサイルの射程が分かれば、敵の艦船はミサイルが届かない海域で活動し、ミサイルは無力化してしまう。射程はまさに防衛上の秘密である。

 米国が、台湾有事などの際、どんな行動を取るかを曖昧にしているのも同様の理由からだ。

 様々な事態に自衛隊がどう対処するかについては、時の政府が情勢を総合的に判断できる裁量の余地を残しておく必要がある。

 残念なのは、岡田氏が、17日の党首討論と同様、米艦防護の可否について明確な判断を示さなかったことだ。民主党が、存立危機事態にどう対応するかを明示しなければ、議論は深まらない。

 岡田氏は、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海について、周辺海域で戦闘が行われている状況でも憲法上は可能か、と質問した。首相は、「事実上の停戦合意がない所へ掃海艇を送ることは考えられない」と述べるにとどめた。

 中東での機雷掃海は、集団的自衛権行使の典型例ではなく、例外的で特殊な例だ。内容をよく整理し、冷静に議論すべきだろう。

 停戦合意前の掃海は、集団的自衛権を行使するしかない一方、部隊運用上は制海・制空権の確保が前提となる。いかに海上自衛隊の高い掃海能力を活用し、国際社会に貢献するか。この観点で建設的な論議を行うことが大切だ。

自民若手勉強会 看過できない「報道規制」発言

 報道機関を抑えつけるかのような、独善的な言動は看過できない。

 自民党の保守系若手・中堅議員らによる勉強会「文化芸術懇話会」が、25日に開いた初会合での発言のことだ。

 安全保障関連法案に批判的な報道機関を念頭に、出席議員から「マスコミを懲らしめるには、広告収入がなくなるのが一番だ。経団連に働きかけていただきたい」といった声が上がった。

 自らの主張と相いれない新聞やテレビ局に広告を出させない形で圧力をかけようとしている、と受け取られても仕方あるまい。

 「1強」の勢力を持つ自民党の驕りの表れであり、国会議員としての見識も疑われる。

 言論・報道の自由が保障され、様々な論調が存在することが、民主主義の基本原則である。

 安倍首相が衆院平和安全法制特別委員会で、一連の発言について「事実ならば大変遺憾だ」と述べたのは当然だ。

 自民党内では、谷垣幹事長が「メディアに対して批判・反論することはあってもいいが、主張の仕方には品位が必要だ」と指摘した。二階総務会長も、「そこにいた責任者がトータルとして責任を取るべきだ」と語った。

 党幹部も、今回の事態を問題視しているのだろう。

 勉強会には、9月の総裁選に向けて、首相に近い議員ら40人弱が集まった。「真の政治家」になるための教養を学ぶのが設立目的というが、あまりにレベルの低い言動には驚かされる。

 講師に招かれた作家の百田尚樹氏の発言も物議を醸した。

 百田氏は、米軍普天間飛行場の辺野古移設に批判的な琉球新報と沖縄タイムスについて、「あの二つの新聞社はつぶさなあかん」などと述べた。

 辺野古移設は、市街地の中心部にある普天間飛行場の固定化を避けるための実現可能な唯一の選択肢だ。「移設反対」を掲げる沖縄2紙の論調には疑問も多い。

 しかし、地元紙に対する今回の百田氏の批判は、やや行き過ぎと言えるのではないか。

 通常国会の会期は、安全保障関連法案の確実な成立を図るため、9月末まで大幅延長された。

 政府・与党には、十分な審議時間を確保し、徹底した議論を重ねる努力が求められる。

 大切なのは、批判的な報道を規制・排除することではなく、法案の意義と必要性を国民に分かりやすく訴えることだ。

2015年6月26日金曜日

日米主導でTPP交渉の大筋合意を急げ

 いよいよ環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を最終決着させるときが近づいてきた。

 米議会上院はTPP合意に不可欠な大統領貿易促進権限(TPA)法案を再可決した。近くオバマ米大統領が署名し、成立する見通しだ。日本は米国と協力し、TPP交渉の大筋合意を急ぐべきだ。

 TPA法案は、米議会が持つ通商交渉の権限を大統領に一任する内容だ。日本など、米国を除くTPP交渉参加国が成立を求めてきた。米議会がひとまず結果を出した点を評価したい。

 TPP交渉は、12カ国による首席交渉官会合を経て、7月中にも閣僚会合を開いて大筋合意に達する可能性が出てきた。21世紀の新たな貿易・投資ルールをまとめあげる好機を逃してはならない。

 まず日本は近く再開する米国との2国間協議を決着させる必要がある。日本は米国産の主食米について無税の輸入枠を設ける方向となっているものの、その規模をめぐって日米間でなお意見の隔たりがあるもようだ。

 一方で日本から米国に輸出する自動車部品の関税をめぐっては、日本が早期の撤廃を求めている。いずれも難しい問題ではあるが、日米はTPP交渉を主導するという大局的な見地にたって妥協点を見いだしてほしい。

 日米協議と同時並行で進める12カ国による交渉では、知的財産権が最大の懸案として残っている。

 たとえば医薬品のデータ保護期間をめぐり、大手製薬会社を抱える米国が長い期間を求めているのに対し、一部の国は短くするよう強く求めている。12カ国は間合いを縮める努力を加速すべきだ。

 TPP交渉参加国の経済規模は全世界の約4割を占める。合意すれば、世界貿易機関(WTO)の前身であるガット・ウルグアイ・ラウンド以来の巨大な貿易協定となる。

 関税の削減・撤廃だけでなく、サービス、知財、投資、環境、雇用なども含めた包括的な協定は、事実上の国際標準となる。日本にとっては成長戦略の柱であるという意義を再確認し、粘り強く交渉に臨んでほしい。

 TPP交渉が妥結すれば、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉に弾みがつく。日中韓を含む16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉も動かす。そんな貿易自由化の好循環につなげるべきだ。

中国は海洋で責任ある態度を

 オバマ米大統領が南シナ海の岩礁埋め立てを念頭に中国に「緊張を緩和する具体的措置」を要求した。米ワシントンで開いた米中戦略・経済対話の中国代表団との会談は、緊迫した雰囲気に包まれた。大統領本人による要求は異例の事態である。

 中国は先に「埋め立て作業は近く完了する」と表明したが、人工島上での関連施設の建設開始にも触れた。今回、中国側は「領土主権、海洋権益を守る断固たる決意」を強調した。埋め立ての既成事実を認めるよう迫ったともいえ、緊張緩和にはほど遠い。

 米国は、中国が人工島に軍事拠点を築き南シナ海を勢力圏にするつもりではないか、と警戒している。米軍も現場海域の偵察活動を強化した。南シナ海の安全が損なわれるならアジア、世界の経済に打撃となる。中国は海洋の安全保障で責任ある態度を示すべきだ。

 今回はサイバー空間での中国の行動も対立点だった。米国では政府や企業のシステムへのハッカー侵入が相次ぐ。今月も米連邦政府職員の膨大な個人情報を流出させた恐れのある攻撃が発覚した。米政府は、中国政府や、その影響下にある組織が関わっているとみて、深刻な懸念を伝えた。だが、中国は関与を否定したままだ。

 一方、米中両国は気候変動やエボラ出血熱対策などでの協調では一致した。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関しては「国際金融の高いレベルの組織統治と基準の維持」を議論したとした。特に気候変動対策では、カギを握る排出大国の協力強化を歓迎したい。

 今年9月には中国の習近平国家主席が訪米する予定だ。本来、両国はこれに先立つ対話で協調を演出したかったが、南シナ海やサイバー問題での深刻な対立を浮き彫りにする結果になった。

 これらの問題は米国だけではなく、世界に影響する。日本や東南アジアを含めた各国が足並みをそろえて中国に真剣な対応を促す必要がある。

TPP交渉―大筋合意へ加速せよ

 足踏み状態だった環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、大筋合意に向けて動き出しそうだ。12カ国による交渉を主導する米国で、大統領に強い交渉権限を与える貿易促進権限(TPA)法案を米議会が可決した。

 米国では、通商交渉は大統領直属の通商代表部(USTR)が担うが、権限は議会が持つ。USTRの横から議会が口をはさむようでは交渉は混乱する。だからTPA法で大統領に権限を与え、議会は仕上がった協定案全体への賛否を判断する。その仕組みがようやく整った。

 来年の米大統領選が近づくにつれて2大政党間の政治的な思惑は強まり、協定案を米議会にはかることが難しくなる。12カ国はこの機会を逃さず、大筋合意にこぎつけねばならない。

 なぜTPPが大切なのか。

 国内の成長を押し上げ、消費者の利益を高めていくには、貿易や投資の自由化を進め、海外、とりわけ高成長が続くアジアの活力を取り込むことが欠かせない。自由化交渉の舞台は本来なら世界貿易機関(WTO)だが、先進国と新興国の対立などから機能不全に陥っている。

 各国は今、二国間や地域内の自由貿易協定(FTA)の締結に力を注ぐ。多くの国が参加する「メガFTA」交渉の先頭を走るのがTPPであり、他の交渉もTPPの内容や状況を注視する。TPP交渉がまとまらなければ、他の交渉も滞る負の連鎖が生じかねない。

 もう一つ、忘れてならないのが、米国に次ぐ世界第2位の経済大国になった中国の台頭だ。

 オバマ政権に厳しく、自由化に積極的な共和党が、消極的な民主党に妥協しつつTPA法の成立を急いだのも、米国が中国に先んじて通商のルール作りで主導権を握りたいとの思惑があるからだ。

 アジアでの自由貿易圏に中国は欠かせない。TPPには国有企業と民間企業の公平な競争を促す項目があり、巨大国有企業を多く抱える中国がただちにTPPに加わるのは難しそうだ。それでも、中国も参加している東アジアや日中韓3カ国での交渉がTPPにらみの様相だけに、中国を巻き込んでいくカギはやはりTPPにある。

 交渉は終盤を迎えたが、安価な後発医薬品の生産を左右する新薬の権利保護のあり方や、国有企業の扱いなど、米国を中心とする先進国と新興国が対立するテーマが少なくない。米国に次いで突出した経済力を持つ日本がとりまとめ役として動けるかどうか、政府の立ち位置と力量が問われる。

企業統治指針―求む 反骨の経営者

 株主総会が今週ピークを迎え多くの上場企業が企業統治改革を株主に示した。社外取締役を増やし、投資家との対話を増やす。説明責任を果たし、経営のチェック体制を強めようとすることは大切なことだ。

 とはいえ、改革の狙いには、自己資本利益率(ROE)の引き上げという短期的な成果を上げることも込められている。これに偏らず、もっと広く、もっと深く、長い射程で考える経営があっていい。

 企業がこぞって改革案を示したのは、東京証券取引所が今月から運用を始めた「コーポレートガバナンス・コード」とよばれる企業統治指針に沿うものだ。企業から独立した立場の社外取締役を2人以上選ぶことなどを求めている。

 旗をふったのは安倍晋三首相だ。1年前の「日本再興戦略」で低すぎる日本企業のROEを高め、海外の投資家をもっと日本に呼び込もうと訴えた。

 指針では、収益を上げて資本効率を高める目標を株主に明確に説明するよう経営側に求めている。また、金融庁が指針に先だって示した機関投資家向けの指針「日本版スチュワードシップ・コード」も成長戦略の一環だ。長らく「物言わぬ株主」といわれてきた生命保険会社などの機関投資家に、もっと経営に注文せよ、と促すものだ。

 ただ、短期的な利益追求に走れば問題も生じやすい。粉飾経営が市場を大混乱させたエンロン事件、世界経済危機をもたらしたリーマン・ショックの記憶は新しい。破綻(はたん)企業の米経営者らが数十億円の報酬を得ていた事実は、短期利益重視の統治システムの欠陥もあらわにした。

 利益至上主義の投資家行動をめぐっても、本場米国では賛否わかれて大論争が起きている。

 会社はひとたび誕生したら、社会的存在となる。奉仕すべき対象は株主だけではない。社員や取引先、消費者、地域社会。多くのステークホルダー(利害関係者)の利益に沿って経営することが求められる。企業統治改革はステークホルダーにとって意味のあるものでなければならない。株主利益ばかりに走ったら、会社の長期的な発展を考える経営の視座も、技術革新に挑戦する動機も失いかねない。

 少なからぬ経営者たちが本音では社外取締役をむやみに増やすことには、否定的だという。だとすれば、時の政権が旗を振れば、草木もなびくように同調する風潮はいかがなものか。「アンチ統治指針」を堂々と掲げ、信じる経営を進める反骨の経営者を見てみたい。

米大統領交渉権 TPPの早期妥結につなげよ

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を大きく進展させる環境が、ようやく整った。

 日米など参加12か国は交渉を加速し、早期妥結を実現させるべきだ。

 米上院が、オバマ大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案を可決した。下院ではすでに可決しており、大統領の署名を経て成立する。

 大統領がTPAを持たずに合意しても、議会の反対で約束が反故にされる恐れがある。このため参加国では、TPP大筋合意への機運が高まらなかった。

 TPA成立を受け、参加国は7月中の閣僚会合で大筋合意を目指す。交渉が新たな局面に入ったことを、ひとまず歓迎したい。

 TPPは、アジア太平洋地域に高いレベルの自由貿易圏を創出する野心的な構想だ。実現すれば、地域経済の発展と安定に大きく寄与する。ただ、各国とも国内産業の保護を唱える反対派を抱え、難しい交渉を迫られている。

 オバマ政権は、TPP推進の立場だが、身内のはずの民主党は、労働組合を支持層としていることもあり、慎重論が根強い。一方、共和党では、TPPに前向きな議員が多数派を形成する。

 大統領と民主党の意見の食い違いが災いし、TPA法案の扱いは2年以上も迷走した。

 議会の説得に消極的だったオバマ氏の指導力不足も、混迷に拍車をかけたことは否めまい。

 米議会での攻防が収束し、焦点はTPP交渉そのものに移る。その行方は予断を許さない。

 日米交渉は、牛・豚肉の関税引き下げなどで進展している。ただ、日本が難色を示してきた米国産コメの輸入拡大や、米国の自動車部品関税引き下げの時期や範囲など、残された課題もある。

 米国と新興国は、新薬開発データの保護期間など知的財産権の分野で厳しい対立を続ける。

 交渉全体の漂流を回避することが最優先だ。TPP交渉を主導する日米が大局的な見地に立ち、最終合意を急ぐことが肝心だ。

 TPPの意義は、貿易や投資の拡大を通じた経済的な利益にとどまらない。経済と安全保障の両面で存在感を高める中国を、牽制する役割も期待される。

 中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立などを着々と進め、東・南シナ海で強引な海洋進出を図っている。TPPが空中分解に終われば、中国の攻勢はさらに強まろう。交渉参加国は、危機感を共有すべきである。

米中戦略対話 「責任ある競争相手」に程遠い

 海洋やサイバー空間で独善的な行動を続ける中国に、ルールを守り、大国としての責任を果たすよう、米国が厳しくクギを刺す場となった。

 第7回米中戦略・経済対話がワシントンで行われ、双方の閣僚級が2日間、安全保障から経済まで幅広い課題を巡って議論した。

 南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島での中国による岩礁埋め立てと軍事施設の建設について、ケリー米国務長官は「米国は航行、飛行の自由に大きな国益をもつ」と述べ、中止するよう要求した。

 中国の楊潔チ国務委員は「海洋問題で領土主権と権益を守る」と反論した。国際法の根拠のないまま、南シナ海を「自国の海」として一方的に囲い込もうとする中国の姿勢は到底容認できない。

 中国政府は今月中旬、埋め立てを「近く完了する」と表明した。習近平国家主席の訪米を9月に控え、米国との対立を一時的に緩和したい思惑があったのだろう。

 だが、埋め立てによる「砂の長城」はすでに築かれている。3000メートル級の滑走路や軍事施設の整備などを続ける方針にも変化は見られない。このままでは、対中不信が高まるばかりだ。

 経済分野では、ルー財務長官が「米企業の機密情報や特許技術を盗み取るサイバー攻撃を中国政府が支援していることを深く懸念する」と批判を一段と強めた。

 楊氏は「各国がサイバー情報を共有するため、国際的な行動規範の構築に取り組むべきだ」と語ったが、サイバー問題に関する米中の作業部会は中断している。真摯な対応とは言えまい。

 オバマ大統領も、海洋進出とサイバー問題で中国側に「懸念」を伝え、「具体的措置」をとるよう促した。大統領が直接、中国に善処を求めた意義は小さくない。

 中国側は「新しいタイプの大国関係」構築に向けて、領土・主権など双方の「核心的利益」を尊重することを改めて訴えた。バイデン副大統領は「責任ある競争相手」になるよう戒めたという。

 中国が米国と対等の「大国関係」を実現したいのなら、まず相応の責任を果たすべきだろう。

 一方、米中が気候変動や人材交流など様々なテーマで合意できたのは成果だ。気候変動対策では、技術協力拡大でも一致した。中国は今月中に、温室効果ガスの排出削減目標を公表するという。

 排出量で世界1、2位の中国と米国は着実に削減を進めねばならない。問われるのは、協調関係の演出ではなく、実績である。

2015年6月25日木曜日

お金の流れ停滞させぬ銀行の資本規制に

 2008年のリーマン・ショックをきっかけに導入された金融機関に対する規制は、さらに厳格化される方向だ。金融システムの安定はもちろん重要だが、経済活動に与える影響への目配りを忘れるわけにはいかない。

 世界の銀行監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は金融危機を受け、銀行への自己資本規制を強化した。「バーゼル3」と呼ばれる同規制は、銀行の様々なリスクを計測し、それに対して従来よりも多くの自己資本を積むよう求めた。13年から各国で段階的に実施されている。

 さらにバーゼル委員会は、銀行の金利リスクに関する新規制案をこのほど公表した。金利上昇に伴って発生する損失を計算し対応を求める内容だ。

 銀行の財務基盤を強固にすることは、経済が安定的に成長していくために不可欠な条件だ。しかし、厳しい規制で銀行の手足を縛りすぎると、成長に必要なお金の流れが滞りかねない。バーゼル委員会の新提案についても、成長を阻害しないかどうかといった観点からの検討が必要だ。

 バーゼル委員会の新提案は銀行が保有する債券や融資などを対象に、金利上昇時に発生する損失を各国の銀行に共通の手法で計算させる。そのうえで(1)推計損失を自動的に資本積み増しの対象とする(2)損失が一定以上になった場合に各国当局に改善指導を促す――の2つの案を示した。

 バーゼル委員会は15年9月まで各国金融関係者から意見を募り、16年中にもどちらの案を採用するか決めると見られる。

 (1)案では銀行の財務基盤はさらに強くなるが、金利上昇リスクを警戒した銀行が債券投資や融資に消極的になりかねない。逆に(2)案は銀行の投融資を妨げる懸念は和らげられるが、各国で規制の運用がばらつく可能性がある。

 日本の金融庁や銀行界は2つの案が金融システムや経済に与える影響をそれぞれ分析し、成長を後押しするリスクをとった投融資が必要な日本の実情に即した主張を打ち出すべきだ。

 どちらの案になるにせよ、銀行はさらに厳しい金利リスクの管理が求められるようになる。政府は財政健全化を進めることによって国債の信用力を高め、投資家の国債離れで長期金利が急騰するといった事態を避けるよう努めるべきである。

顧客軽視が招いた免震偽装

 安全性への感度が鈍すぎないか。東洋ゴム工業が免震ゴムの性能データを改ざんしていた問題だ。社外の弁護士で構成する調査チームは最終報告書のなかで、経営陣が性能不足の疑いを把握しながら迅速に手を打たなかったことを強く批判した。

 これを受け同社は信木明会長と山本卓司社長らが辞任すると発表した。免震偽装問題の社会的な影響を考えれば経営責任の明確化は当然だろう。安全最優先の企業に変わるため抜本改革が必要だ。

 免震ゴムを製造する東洋ゴムの子会社でデータ改ざんの疑いが発覚したのは2013年夏だった。だが出荷を停止したのは今年2月で約1年半も後になった。不正は1990年代から続いており、免震ゴムの性能が不足または不明の建物は154棟に上っている。

 報告書は問題を知ってからの経営陣の判断の甘さを厳しく指摘した。すぐに十分な調査に動かず、公表や出荷停止を先送りして問題を広げたことだ。

 リコール(回収・無償修理)の場合は補償費用が膨大になるなどの意見が会議で出て、対応を先延ばしした様子も記している。製品の性能が人命にかかわるとの認識はどこまであったのだろうか。

 深刻なのは開発部門だけでなく品質保証部門の担当者もデータ改ざんにかかわっていたことだ。品質のチェック役が不正に関与していたことに驚く。

 コンプライアンス(法令順守)意識の希薄さや内部統制のずさんさが今回の不祥事につながったのは確かだろう。ただし根っこの問題は、顧客の利益を第一に考える姿勢が欠けていたことではないか。東洋ゴムは07年にも断熱パネルの性能偽装問題を起こしている。顧客を向いた経営に変わらなければ、不祥事の根は断てまい。

 同社は法令違反に関する問題を議論する委員会も置いていたが、形骸化していた。いくら組織をつくっても、動かす人の意識が伴わなければ十分に機能しない。ほかの企業にとっても戒めになる。

戦後70年談話―いっそ取りやめては

 安倍首相がこの夏に発表する予定の戦後70年の談話。首相はこれを閣議決定しない意向であるという。

 談話が閣僚全員の署名により閣議決定されれば、政府の公式見解となる。戦後50年の村山談話、60年の小泉談話はいずれも閣議決定された。

 一方、閣議決定しないとなれば、安倍首相の個人的メッセージという色彩が強まる。

 閣議決定しないことに首相がどういう意図をこめているのか、いまのところ判然としない。しかし、これまでの談話の内容に縛られずに自分の見解を述べる一方で、国内外からの批判をかわす狙いがあるとするならば、政府の最高責任者として姑息(こそく)の感は否めない。

 そんなことならば、いっそのこと談話を出すのは取りやめてはどうか。

 先の大戦についての日本政府の見解は、すでに村山、小泉の両談話で確立し、日本外交の基礎にもなっている。戦後70年は節目であるが、必ずしも新たな談話を出さねばならないわけではない。

 安倍氏は2012年に首相に返り咲いてから、「21世紀にふさわしい未来志向の談話を出したい」と繰り返していた。ただかつては村山談話にはっきりと不快感を示し、首相に再登板した後も「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と答弁していた。

 最近は「全体として受け継いでいく」と表現を改めながらも、「国策を誤り」「植民地支配と侵略」といった文言を安倍談話に盛り込むことには否定的な考えを示している。

 首相は村山談話を実質的に塗り替えようというのか――。こんな懸念が広がり、公明党が政府与党間での合意を求めている。また、米国の日本研究者が「過ちの偏見なき清算」を求める声明を出すなど、世界的にも注目されている。

 閣議決定をしないことで、たとえ村山談話の文言を使わなくとも、「塗り替えたわけではない」と言うことはできるだろう。また、「未来志向」という首相の狙いをよりアピールできるのかも知れない。

 ただ、ここまで注目されている談話だ。いまさらそんな本音と建前を使い分けるような方便は通用しまい。

 植民地支配や侵略の被害にあった人々の心にどう響くか。閣議決定されたか否かの形式ではなく、中身が重要なのは言うまでもない。世界に通用しない内向きな姿勢を示すだけなら、出さない方がいい。

ギリシャ危機―ユーロの弱点考える時

 ギリシャの財政危機を巡って欧州連合(EU)のユーロ圏財務相会合や首脳会議が今週、立て続けに開かれる。ギリシャが示す財政改革案をEU側が了承すれば、金融支援へ前進する。

 ただ今回の危機をしのいでも問題が解決するわけではない。ギリシャ危機が沈静化するわけではなく、年内にも追加支援が焦点になるのは必至の情勢だ。

 危機の直接の原因はギリシャの放漫財政にあるとはいえ、危機を通じて、ユーロという通貨が根底で抱えている困難があらわになっている。根本に立ち返って対策を講じない限り、問題は解決しないのではないか。

 ユーロ19カ国は通貨と金融政策をひとつに統合しながらも、財政は各国に任され、統合されていない。

 各国がそれぞれ通貨をもつなら、経済力の弱い国の通貨は安くなることで輸出競争力が増して雇用も改善する。ところが通貨統合したユーロのもとで、ギリシャは経済が弱っても通貨安の恩恵には浴せない。

 また、ユーロ圏の財政が統合されていれば、経済が好調な国の潤沢な税収から、経済が弱い国々に「地方交付税」のような形で再分配すれば、弱い国にあいた財政の穴は埋められる。

 解決手段として、ギリシャの「ユーロ離脱」も取りざたされている。だが、ギリシャ国民の世論調査では「残留」を望む声が多い。なにより欧州の平和と安定をつくる統合の理念を考えれば、その流れに水を差すギリシャ離脱はなんとしても避けたいところだろう。

 ユーロ圏には、経済が強く財政状態も良好なドイツなどと、ギリシャやイタリア、ポルトガルといった財政が脆弱(ぜいじゃく)な国々との「南北問題」がある。本来は財政を統合して、欧州統合を深化させることが王道だろう。

 とはいえ財政統合への道は険しい。これまでのギリシャ支援を振り返っても、国民感情が障害となってきた。財政統合はより政治統合の意味を帯び、ユーロ諸国の人々に自らをヨーロッパ人と規定できるのか、という問いを投げかける。その実現にはまだ時間がかかるだろう。

 ならば、たとえば、当面は経済の強い国と弱い国の通貨を2部制にするといったユーロの制度を修正することに知恵を絞ってはどうか。

 ユーロの構造的な欠陥に手をつけない限り、ギリシャの危機は終息はしないし、第2、第3のギリシャが現れる恐れすらある。欧州にとっても世界経済にとっても、この火だねを抱え続けるのは健全ではない。

少年法適用年齢 更生にも配慮した引き下げを

 20歳未満を対象とする少年法の適用年齢を、18歳未満に引き下げるかどうか、自民党の特命委員会が議論している。

 選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が成立したことが背景にある。民法や少年法についても検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるよう促す規定が付則に盛り込まれた。

 民法に関しては、政府の法制審議会が2009年に、成人年齢を18歳に引き下げるのが適当だと答申している。

 「大人の定義」が変わろうとする中、犯罪行為に対しても、成人としての責任を負わせるべきだという声が出ている。少年法の適用年齢引き下げを検討するのは、自然な流れである。

 欧米諸国には、18歳未満を少年と位置付けるところが多い。

 日本の少年法でも、18、19歳については、17歳以下と異なり、死刑の言い渡しが可能だ。成人と同様、究極の刑罰が許容される年齢だとみなしているためだろう。

 少年法の適用年齢の境目を18歳に引き下げるのは、一定の合理性があると言える。

 引き下げに不都合があるとすれば、18、19歳が、少年法に基づく教育的な処遇を受けられなくなる点だろう。

 更生を重視する少年法の根底には、発達途上の少年は立ち直る可能性があり、刑罰よりも教育を施す保護処分の方が効果的だという考え方がある。

 それゆえ、少年事件はすべて家裁が扱う。少年が収容される少年鑑別所では、担当職員が心理検査や行動観察を行い、非行の原因や背景を調べる。家裁の調査官も少年や保護者らと面談を重ねる。

 家裁は調査結果を踏まえ、検察官送致(逆送)にする凶悪犯罪を除けば、矯正教育を行う少年院への送致や、社会内で立ち直りを図る保護観察などの処分にする。

 18、19歳であっても、再犯防止の観点から、更生を促す措置が必要な場合も多いのではないか。

 ドイツでは、18~20歳のうち、精神的に未成熟な者は少年扱いにする制度を設けている。日本でも参考になろう。自民党内では、18、19歳に保護処分の手続きを残す案が浮上している。

 少年法の見直しは今後、法制審でも議論される見通しだ。報道の在り方も論点の一つになる。

 現行法は、少年の実名や顔写真の報道を禁じている。更生に影響を与える問題だけに、多角的な検討が求められる。

免震ゴム不正 企業風土の刷新が欠かせない

 失墜した信頼の回復は容易ではあるまい。

 東洋ゴム工業が免震ゴムの性能を偽っていた問題で、弁護士による社外調査チームが最終報告書をまとめた。

 山本卓司社長ら経営陣は社内会議の資料により、昨年8月までに不正を把握していたはずだ。調査チームは、そう指摘した。

 だが、出荷停止の決定は先送りされ、今年2月に国土交通省に報告するまで不良製品の納入が続いた。山本社長は「データの解釈が難しかった」と釈明したが、事態の重大性を過小評価し、適切な対応を怠った責任は極めて重い。

 東洋ゴムは、山本社長ら取締役5人の辞任を発表した。社外取締役を除く取締役全員が退陣することになる。当然の対応である。

 問題のある免震ゴムが使われた建物は、30都府県の154棟に及ぶ。東洋ゴムは、データ改ざんについて、10年以上にわたって性能試験を1人で担当してきた社員の個人的不正と説明していた。

 ところが、今回、さらに3人が数値を改ざんしていた事実が判明した。性能試験担当者に改ざんを働きかけるなどした疑いのある社員も9人に上る。

 不正の動機として、報告書は、納期に間に合わせようとしたことなどを挙げた。メーカーとして最も重視すべき製品の安全性より、目先の都合を優先させる意識が社内に蔓延しているとみられても仕方がないだろう。

 報告書が、「不祥事の発生につながる風土が根付いている」と指弾したのは、もっともだ。

 改ざんに手を染めた1人が、品質保証部門の社員だった点も看過できない。

 東洋ゴムでは、2007年に防火用断熱材の性能偽装が発覚し、当時の社長が引責辞任した。自社製品のチェック役となる品質保証部門はその際、再発防止策の柱として新設された。

 それが全く機能しなかったばかりか、不正に加担する形となった。自浄能力の欠如は深刻である。

 報告書によると、社外取締役や社外監査役がデータ改ざんに関する説明を受けたのは、国交省への報告の直前だった。経営陣には、外部の目をガバナンス(企業統治)の強化に役立てるという発想がなかったということだ。

 東洋ゴムは、主力のタイヤ事業を含む全部門の工場で、弁護士らも交えて緊急監査を実施する。前回のような、おざなりな対策では再生はおぼつかない。企業風土の刷新が不可欠である。

2015年6月24日水曜日

郵貯の限度額引き上げは問題が大きい

 自民党の郵政事業に関する特命委員会が、郵便貯金の預入限度額をいまの1千万円から3千万円に引き上げる提言をまとめた。

 かんぽ生命保険の契約限度額もいまの最大1300万円から2千万円に引き上げるという。民間金融機関から「民業圧迫」との批判が出ているのは当然だ。政府は党の提言を丸のみせず、慎重に対応すべきだ。

 郵貯の限度額引き上げは、強い集票力を持つ全国郵便局長会(全特)が求めていた。自民党の提言は、来年の参院選を意識したものだと疑いたくなる。

 郵貯の限度額は1991年以降は1000万円に据え置かれている。官業の肥大化を懸念する民間金融機関への配慮からだ。

 持ち株会社である日本郵政と傘下の金融2社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の計3社は今秋にも、株式を同時上場する計画だ。

 日本郵政はゆうちょ銀とかんぽ生命への出資比率を段階的に50%程度まで下げ、将来は保有株すべてを売却する。ただ、こうした完全民営化が実現する前の政府関与が残る間に、郵貯の限度額を引き上げるのは問題が大きい。

 ゆうちょ銀はメガバンクの2倍近い170兆円超の貯金残高を持つ。政府の信用を背景に貯金をさらに増やすことは、民間金融機関からの預金流出を促しかねない。

 ゆうちょ銀は200兆円を超す資産のうち、半分以上を国債で運用している。外国債券などへの分散投資も進めているが、いたずらに貯金を増やせば、運用が難しくなるリスクも高まる。

 日本郵政の西室泰三社長も記者会見で「限度額が撤廃されるというのが一番望ましいことは事実」としつつ、「日本の金融業界全体からみて正しい方向かどうかについては疑問を持っていると正直感じる」と語っている。

 当事者でさえ疑問を持っている話を進めるのは、理解に苦しむ。限度額の引き上げや撤廃は、金融2社の株式売却にあわせて検討すべき課題だ。少なくとも今は時期尚早ではないか。

 日本郵政は全国の郵便局網を通じ、金融でも全国一律のサービス提供が義務づけられている。

 過疎地への配慮は必要かもしれないが、限度額引き上げが優先順位の高い課題とは思えない。まずはゆうちょ銀とかんぽ生命の全株売却という完全民営化を急ぐのが日本郵政の責務だ。

安保論議深める延長国会に

 今国会の会期が9月27日まで延長された。安倍晋三首相は「十分な会期を取って、しっかりとした議論を行っていくべきだと判断した」と述べた。安全保障関連法案への有権者の理解は十分とは言い難い。論議が深まる延長国会にしなくてはならない。

 延長幅95日間は過去最大である。のべ日数245日間は、2度の延長で280日間に及んだ1972年召集の特別国会に次ぐ。首相は安保法案を今国会で必ず成立させる決意だという。与野党攻防は一段と激しさを増そう。

 心配なのは、双方が自らの主張に固執し、賛成のための賛成、反対のための反対に陥ることだ。安保政策が政権交代のたびに正反対に振れては困る。基本的な方向性は与野党で共有すべきだ。

 東アジアの政治的・軍事的な緊張の高まりへの備えが必要だとの認識は与野党にそれほどの差はないはずだ。野党の意見のよい部分は積極的に取り入れ、できるだけ幅広い支持を得る形で成立させてほしい。

 民主党は安保法案を丸ごと撤回するように求めている。与党のときには推進したであろう部分まで否定していては、政権奪回は遠のくばかりだ。

 会期を大幅延長するのは野党がたびたび審議を止めたからだ。国民と安保政策の間に壁をつくり、「よくわからない法案」のままにしておくことがよいやり方とは思えない。反対ならば反対で、真正面からの国会論戦を挑むべきだ。

 与党は法案が参院に送られて60日以内に採決されない場合に、衆院で再議決する「みなし否決」も念頭に置く。国会が空転したままでの法案成立は立法府の価値を自ら損なうことになる。そうならないように努力してもらいたい。

 今国会は民法、労働者派遣法、労働基準法などの改正案も提出されているが、安保法案のかげに隠れ、目立たない。日常生活への影響はいずれも大きい。こちらもしっかり審議してもらわねばならない。

戦後70年の慰霊の日―辺野古やめ沖縄に未来を

 沖縄はきのう、「慰霊の日」を迎えた。

 住民を巻き込み、20万人余が犠牲となった沖縄戦から70年。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画をめぐって、政府と沖縄県の対立が激しさを増すなかで迎えた慰霊の日である。

 翁長雄志知事は追悼式での平和宣言で、政府に作業の中止を決断するよう求めた。沖縄にとって特別な日に発せられた知事の言葉を、日米両政府は重く受け止める必要がある。

■残る戦場の現実感

 移設に反対する市民は、昨年7月以来、辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前にテントを張って、24時間態勢で座り込みを続けている。

 工事車両が出入りするたびに、地元や県内各地、さらに全国から集まった人々が抗議の声を上げる。

 その中の一人、辺野古に住む島袋文子さん(86)は「基地がなければ、戦争は来ない。戦争は私たちでたくさん」と話す。

 15歳で沖縄戦に巻き込まれた。壕(ごう)に潜んでいる時、米兵の火炎放射を浴びて左半身にやけどを負った。「私は死んだ人間がつかっている泥水を飲んで生き延びた。生きている限り、戦争と基地に反対する」

 戦場のリアリティーが沖縄には強く残る。その感覚を、翁長知事は平和宣言で「私たち沖縄県民が、その目や耳、肌に戦(いくさ)のもたらす悲惨さを鮮明に記憶している」と言い表した。

 市街地にあって「世界一危険」と言われる普天間飛行場を一刻も早く閉鎖するのは当然である。しかし、その移設先がなぜ、県内の辺野古でなくてはならないのか。

■捨て石の思い、再び

 菅官房長官や中谷防衛相は翁長知事と会談した際に、尖閣諸島周辺で中国公船の領海侵入が急増したことなどを例に、「わが国を取り巻く安全保障環境は極めて厳しい」「日米同盟の抑止力の維持、(普天間の)危険除去を考えると、辺野古移設は唯一の解決策」と繰り返した。

 対中国抑止力の強化をめざす政府は、様々な局面で安全保障政策を転換させようとしている。安倍首相はいま、辺野古移設を進めることが日本の安全保障に米国を引きつける大事な要素だと考えているようだ。

 集団的自衛権の行使を容認する昨年7月の閣議決定に続き、今春の「2プラス2」と「新ガイドライン」、日米首脳会談、そして安保関連法案の国会審議と、政府は自衛隊と米軍の「一体化」による日米同盟深化の道を進む。

 法整備により「日本の抑止力は高まり、国民のリスクが下がる」と安倍首相は言う。

 だが、沖縄からは逆にしか見えない。

 米軍とともに自衛隊が武力行使すれば、日本が直接攻撃を受けるリスクは増す。まして日本国内の米軍専用施設の74%を抱える沖縄は、他地域よりはるかに「戦争」に近づく。

 沖縄にとっては再び最前線へと押しやられ、捨て石にされるとの思いが拭えない。

 県民が沖縄戦の記憶を呼び覚まし、辺野古移設を新基地建設だとして反発するのも当然なことである。外交努力による緊張緩和ではなく、中国脅威論を叫んで緊張を高めるやり方は、沖縄にとって最悪の選択だ。

■立ち止まって考える

 翁長知事は先ごろ訪米し、米国務、国防両省担当者に辺野古の新基地建設反対を伝えた。

 反応は冷たいものだった。「辺野古移設が唯一の解決策」「日米合意は揺るぎない」と、日本政府と同様の言葉が返ってくるだけだった。

 それでも、落胆する必要はなかろう。翁長知事の発言を聞けば、移設計画が簡単に進められないことに、米政府関係者も気付いたはずだ。

 前米国務次官補のカート・キャンベル氏は朝日新聞の取材に、「どんな合意でも、沖縄県や県民の支持がなければならないと思う。このような反対意見が出ていることは、我々にとって立ち止まり、考えさせられる状況だ」と答えている。

 日米両政府は再三、民主主義や自由、基本的人権、法の支配という「普遍的価値」を共有していると強調する。

 沖縄では昨年、名護市長選、県知事選、衆院選と、いずれも辺野古移設反対を訴える候補が当選した。選挙結果をことごとく無視して作業を続けることは、普遍的価値に反しないのか。再考すべきだ。

 平和宣言で翁長知事は「アジアの国々をつなぐ架け橋として活躍した先人たちの『万国津梁(しんりょう)』の精神を胸に刻み、アジア・太平洋地域の発展と平和の実現に努力する」と述べた。

 日米両政府、そして国民を挙げて、この沖縄の未来に協力しなければならない。本土防衛の捨て石にされ、非業の死を遂げた多くの沖縄戦の犠牲者を忘れることなく。

骨太方針素案 財政再建への踏み込みが甘い

 経済成長と財政再建の二兎を追う基本的な考え方は妥当だが、歳出削減への強い意気込みが感じられない。

 政府が、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の素案をまとめた。

 2020年度に国と地方の基礎的財政収支を黒字化する政府目標の達成に向け、18年度の赤字を国内総生産(GDP)の1%程度に抑える中間目標を設けた。

 18年度までの3年間を集中改革期間と位置づけ、政策経費の歳出増加額を計1・6兆円程度に抑える「目安」を示した。毎年1兆円ほど増える社会保障費を、3年で1・5兆円の伸びにとどめる。

 甘利経済再生相らは、歳出の上限設定に難色を示したが、それでは経済成長による税収増などが、野放図に歳出拡大へ回される恐れがある。麻生財務相らの主張に沿って、歳出増に一定の歯止めを設けた意義はあろう。

 懸念されるのは、今後の歳出を想定通りに抑制するための具体的な方策が乏しいことである。

 政策経費の伸びの目標額は、13~15年度の実績をもとに定めた。高齢化は進行しており、今後も同様に抑え込める保証はない。不断の歳出改革が不可欠だ。

 ところが、裕福な高齢者の医療費負担増や、年金課税の強化などの重要課題について、素案はほとんど言及しなかった。

 医療費削減の柱とされた後発医薬品の「普及率80%以上」の実現時期も、踏み込み不足だった。慎重な厚生労働省に配慮し、「18~20年度末のなるべく早い時期」という曖昧な表現に落ち着いた。

 08年のリーマン・ショック後に緊急対策として導入した地方交付税の別枠加算は、「平時モードに切り替えを進めていく」とするにとどめ、廃止を見送った。

 歳出カットに対する各府省や地方自治体の反発を恐れ、腰が引けていると言わざるを得ない。

 日本の債務残高は、1000兆円を超え、既に先進国で最悪の財政状況だ。団塊の世代が75歳以上に達する25年度以降を見据えれば、痛みを伴う制度改革にも早めに手をつける必要がある。

 そもそも今回の財政再建策は、実質2%という高成長が前提だ。成長率が1%にとどまれば、20年度の基礎的財政収支の赤字幅は、7兆円も増える。厳しい現実を忘れてはなるまい。

 20年度の黒字化目標を着実に実現し、その先の財政健全化に布石を打つ。こうした視点から、歳出改革の具体策を補強すべきだ。

首相沖縄訪問 現実的な基地負担軽減を図れ

 平和の確保へ、日米同盟の抑止力を維持する。過重な米軍基地負担を減らす。この二つの目標を両立する現実的な方策を選択し、着実に前に進めることが、政治の責任だろう。

 太平洋戦争の沖縄戦で組織的な戦闘が終結したとされる「慰霊の日」の23日、沖縄全戦没者追悼式が沖縄県糸満市で開かれた。

 安倍首相はあいさつで、「この70年間、戦争を憎み、ひたすら平和の道を歩んできた」と力説し、「これからも世界平和の確立に向け、不断の努力を行う」と訴えた。沖縄の基地負担の軽減に全力を挙げる考えも改めて表明した。

 翁長雄志知事は平和宣言で、米軍普天間飛行場の辺野古移設について「選挙で反対の民意が示されており、困難だ」と述べ、中止を求めた。「沖縄が(辺野古移設の)代替案を出しなさいとの考えは到底許容できない」とも語った。

 普天間問題への言及は全体の半分近くを占めた。

 犠牲者に哀悼を捧げ、平和への誓いを新たにする場を利用し、自らの政治的主張を前面に出したことには、違和感を禁じ得ない。政府との対決姿勢を強調するだけでは、この複雑で困難な基地問題を解決することはできまい。

 首相と翁長氏の正式な会談は見送られた。具体的成果が見込めないとの判断もあったのだろうが、残念な対応である。首相と翁長氏は、様々な機会をとらえて、建設的な対話を重ねてもらいたい。

 終戦の年から米軍が使用する普天間飛行場は、宜野湾市中心部にある。重大事故の危険性に加え、市の発展の障害となってきた。

 この現状を打開するための実現可能な選択肢は、辺野古移設しかない。普天間飛行場は在沖縄米軍基地の象徴的存在でもある。移設が実現すれば、政府と地元関係者が長年、多大な努力を重ねてきた米軍再編の重要な成果となる。

 疑問なのは、社民、共産など翁長県政与党が、環境対策として、埋め立て工事に使用する県外からの土砂や石材搬入を規制する条例案を県議会に提出したことだ。

 可決されれば、辺野古移設だけでなく、那覇空港第2滑走路整備の工事も遅延しかねない。滑走路整備は、沖縄経済の活性化と空港の過密解消が目的で、地元が強く要望していた。経済界からも条例案へ懸念の声が出ている。

 そもそも、同じ国内の土砂などの規制にどんな環境面の効果があるのか、理解に苦しむ。ご都合主義であり、いたずらに政府との対立を深めるだけではないか。

2015年6月23日火曜日

成長力を大きく高める戦略といえるか

 政府が成長戦略の素案をまとめた。「日本再興戦略」の改訂版で、安倍晋三政権の下でつくる3回目の戦略だ。全体として力不足は否めない。

 日本経済の実力である潜在成長率は1%未満にとどまっているとされる。人口減の逆風を乗り越えてこれを高めるには生産性の向上が不可欠だ。今回、成長戦略がそこに焦点をあてたのは妥当だ。

 国家戦略特区を使って「岩盤規制」の一部に風穴をあけようとしているのは、前進といえる。一例は医療分野だ。

 病院や薬局に行かずに、スマートフォン(スマホ)などを使って医師の処方箋が必要な医療用医薬品(処方薬)を買えるようにする規制緩和を、一部地域で実施する方針を示した。これを突破口に遠隔診療をさらに進めるべきだ。

 社外取締役の仕事の明確化や情報開示ルールの見直しなど、企業統治の強化策を通じて企業の稼ぐ力を後押しするのも評価できる。しかし、ほかに見るべき取り組みは少ないのではないか。

 大学改革では、経営の自由度が高い「特定研究大学」や、人工知能などを研究する「卓越大学院」をつくるという。新しい器をつくるのはよいが、本当に日本の科学技術や大学発ベンチャーの抜本的強化につながるのか不明だ。

 「第4次産業革命」といった言葉ばかりが躍って具体策を伴わないものも多い。「ローカルアベノミクス」と銘打って、農業や観光などの予算要求の根拠に各省庁が利用しそうな項目もある。

 安倍政権は中長期的に物価変動の影響を除いた実質で2%、名目で3%を上回る経済成長をめざしている。今回を含むこれまでの成長戦略でそれが実現できると本当にいえるのか、疑問が残る。

 「戦略」というからには、小粒の追加策をたくさん並べることが目的ではないはずだ。積み残してきた難題に真正面から向き合う姿勢が弱いのではないか。

 政府は法人実効税率をできるだけ早く20%台に下げる道筋を示すべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)に加え欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の交渉も急いでほしい。解雇の金銭解決などの課題も残っている。

 規制改革で企業の新陳代謝と技術革新を促すとともに、若者や女性、高齢者、外国人が就労しやすい環境をつくる。そんな成長戦略の基本を忘れてはならない。

日韓は関係改善の努力続けよ

 韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が日韓国交正常化50年に合わせて来日し、岸田文雄外相との会談で関係改善に向け互いに努力することで一致した。安倍晋三首相も尹外相と会い、「日韓は課題があるからこそ互いに胸襟を開いて話し合うことが重要だ」と対話の重要性を訴えた。

 韓国の外相が来日したのは約4年ぶりで、朴槿恵(パク・クネ)政権が発足してから初めてだ。日本と韓国の関係がいかに冷え込んでいたかが分かる。

 外相会談では韓国側が異議を唱えてきた「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録について、両国が協力して円満な決着をめざすことで合意した。一部施設で植民地時代に朝鮮半島出身者が強制徴用された歴史にも配慮する方向で調整するとみられる。

 従軍慰安婦問題や首脳会談の時期などについては今後も協議を続けることになった。対日強硬派の急先鋒(せんぽう)とされる尹外相の来日は、朴政権が厳しい対日政策を軌道修正し始めた証しとみる向きもある。関係修復への取り組みを評価したい。

 国交正常化50年をめぐっては、安倍首相と朴大統領が東京とソウルで開かれた記念式典にそれぞれ出席し、首脳自ら関係改善への意欲を示した。両首脳はともに、未来に向けて相互に協力していく必要性を唱えた。

 歴史の節目を迎え、何とか関係打開の糸口にしたいという日韓両政権の強い思いがうかがえる。大切なのは、関係改善への努力を記念行事に合わせた一過性のものに終わらせず、今後も継続し、加速していくことだ。

 両国には歴史問題をめぐる根深い溝がある。それを克服し良好な関係を築くには、経済や安全保障、文化など相互利益が期待できる分野で幅広く協力し、関係を深化させていく必要がある。

 そのためにも、まだ一度も開かれてない安倍首相と朴大統領による首脳会談を、ぜひとも早期に実現してほしい。

安保法案―違憲の疑いは晴れない

 これで安全保障関連法案の違憲の疑いは晴れた――。安倍政権がそう考えているとしたら、間違いだ。

 衆院の特別委員会はきのう、憲法や安全保障の5人の専門家から法案への意見を聞いた。

 安倍首相の私的諮問機関・安保法制懇のメンバーだった西修・駒沢大名誉教授は「限定的な行使容認であり、明白に憲法の許容範囲内だ」と述べた。

 西氏の主張は、日本は集団的自衛権を認めた国連憲章を受け入れており、憲法も明確に否定してはいないというものだ。

 ただ、歴代の自民党内閣は一貫して「憲法上、集団的自衛権の行使は認められない」との解釈をとり、西氏ら一部の憲法学者の主張を否定してきた。

 先の衆院憲法審査会でも、長谷部恭男・早大教授ら3人の憲法学者がそろって、すでに確立している政府の憲法解釈を時の内閣が一方的に変更してしまうことのおかしさを指摘した。

 自民党にすれば、法制懇にいた西氏によって長谷部氏らの違憲論による衝撃を打ち消したかったのだろう。しかし、その後の党内の動揺を見せつけられた後では、説得力は乏しい。

 きのうの特別委では、2人の元内閣法制局長官も、政府の解釈変更を批判した。

 阪田雅裕氏は「集団的自衛権の限定的な行使が、これまでの政府解釈と論理的に全く整合しないものではない」と一定の理解を示しつつ、ホルムズ海峡での機雷除去については「限定的でも何でもない」と指摘。「歯止めをなくして、日本が戦争をするかどうかを政府の裁量や判断に委ねていいと考えている国民は誰もいない」と語った。

 宮崎礼壹氏も「確立した憲法解釈を政府自身が覆すのは、法的安定性を自ら破壊するものだ」と断じた。

 こうした指摘に対し、安倍首相はその後の参院決算委で「その時々の国際情勢への対応をどうすべきか。これを考え抜くことを放棄するのは、国民の命を守り抜くことを放棄するのに等しい」と反論した。

 だからといって、時の政府の裁量で憲法の歯止めを外していいことには決してならない。首相の言い分はあまりに乱暴だ。

 政権は、国会会期を9月27日まで延長することを決めた。通常国会の延長幅としては、戦後最長となる。異例の大幅延長は、法案が合憲だと国民を説得することに自信を持てないことの裏返しではないか。

 時間をかけた議論はいいとしても、それで違憲を合憲にひっくり返すことはできない。

日韓国交50年―関係改善の流れ加速を

 日本と韓国が国交を結び、隣人のパートナーとして歩み始めてから、きのうでちょうど半世紀を迎えた。

 東京とソウルであった記念式典には、安倍首相と朴槿恵(パククネ)大統領が駆けつけ、何とか祝賀ムードを醸し出した。

 尹炳世(ユンビョンセ)・韓国外相と会談した安倍首相は「朴大統領とともに次の半世紀に向けて、さらに関係を改善していきたい」と述べると、外相も「懸案を進展させ、新しい50年に向けた元年になるよう努力しましょう」との大統領のメッセージを伝えた。

 日韓でいまの政治リーダーが就任して2年半。なぜこのやりとりができるまでに、かくも長い時間が必要だったのか。

 政治の関係が冷え込むなか、両首脳の式典出席も直前まで発表されなかった。

 出席が決まると、待っていたかのように、日韓双方で閣僚や政治家らが同席を申し出た。トップが動かねば、政治の対話は前へ進まない。まさにその現実を物語っている。

 隣国同士、不毛な対立を続けるより、気軽に話し合える仲でありたいと思うのは日韓ともに同じである。両首脳には、国と国のつながりを一層深めるための具体的な行動を期待したい。

 式典の前日にあった日韓外相会談では、3時間にわたって多くの課題が話し合われた。

 なかでも懸案のひとつだった「明治日本の産業革命遺産」をめぐる世界文化遺産への登録問題は事実上の合意をみた。日本側が朝鮮半島から動員された徴用工の事実を、施設の説明文に記載する方向で検討する。

 日本は当初、対象を1910年までとしているため、徴用工動員の時期と異なるとの立場だった。だが、どの施設もその後の歴史があって今日にいたっており、負の歴史だけを覆い隠すような主張には無理があった。

 最大の懸案とされる慰安婦問題は、今後も政府間協議が続けられる。すでに議論は最後の詰めの段階にあるようだ。主張の違いを認めた上で、それでも後世に揺らぐことのない政治合意を築くことが求められている。

 その意味では、この夏に安倍首相が出す戦後70年の首相談話が、新たな対立を巻き起こすことがないよう、細心の配慮をする必要がある。韓国側も、慰安婦問題などをめぐる国内向けの説得が重要になろう。

 安倍首相と朴大統領の間には、二国間の首脳会談を実現させる宿題が残っている。遅まきながら芽生えたプラスの動きを慎重に加速させ、関係改善を確かな流れにしてもらいたい。

国会95日間延長 安保法案を確実に成立させよ

 極めて異例の大幅延長だが、安全保障関連法案の確実な成立を期すには妥当な措置である。

 衆院本会議は、24日までの通常国会の会期を95日間延長することを与党などの賛成多数で議決した。

 安倍首相は、過去最長の延長幅について「(安保法案の)十分な審議時間を取って、徹底的に議論していきたい」と強調した。

 9月27日まで国会が延長されたことで、首相らの外交・政治日程や来年度予算の概算要求、各府省の人事への影響も懸念される。

 だが、日本の安全保障環境の悪化を踏まえれば、様々な危機に備え、抑止力を向上させることは急務だ。安保法案の成立を最優先する首相の判断は評価できる。

 与党は、衆院採決の目安として80~90時間の法案審議を想定するが、今は約54時間にとどまる。

 野党側の強硬な抵抗戦術に加え、自民党推薦の憲法学者が「法案は違憲」と指摘するなど、政府・与党側の不手際の影響で、審議が順調に進んでいないためだ。

 衆院通過が7月にずれ込むのが確実な中、政府・与党は、衆院通過60日後の衆院再可決・成立の選択肢も視野に入れている。

 大切なのは、単に審議時間を長く確保するのでなく、複雑な法案の内容と必要性を丁寧に説明し、国民の理解を広げることだ。

 野党にも、建設的な論戦を挑むことが求められる。多様な事態への切れ目のない対処をいかに可能にするのか、という観点の議論を深めてもらいたい。

 維新の党は、対案を検討している。集団的自衛権の行使要件を厳格化し、グレーゾーン事態での自衛隊の権限を拡大する内容だ。

 松野代表は与党との修正協議に慎重だが、対案を正式決定すれば、その実現を目指し、与党との接点を探るべきではないか。

 地域農協の経営の自由度を高める農協法改正案など、安倍政権の経済政策「アベノミクス」に資する法案の成立も急ぎたい。

 自民党などは、統合型リゾート推進法案を衆院に提出している。だが、ギャンブル依存症の人の増加など、カジノ解禁の弊害は大きい。国会の大幅延長に乗じて成立を図ることは慎むべきだ。

 参院選の「1票の格差」の是正も、今国会で結論を出さねばならない。自民党を除く主要各党の主張は、人口の少ない県と隣接県を1選挙区に統合する「合区」を含む案に収れんしつつある。

 是正案の合意へ、自民党も党内調整を急ぐ必要がある。

日韓50年式典 関係改善への転機にできるか

 冷却化した日韓関係を改善するための転機とできるのか。双方の意志と努力が問われよう。

 日韓両政府がソウルと東京で、国交正常化50周年記念式典をそれぞれ開いた。

 安倍首相は東京で、「50年の友好の歴史を振り返り、これからの50年を展望し、両国の新たな時代を築いていこう」と強調した。

 朴槿恵大統領はソウルで、「歴史問題という重荷を下ろすことが重要だ。両国がそうしたスタートをする時、新たな未来を切り開く」と語り、歴史問題に言及した。

 日韓両国は最近、慰安婦など歴史認識や竹島の問題で鋭く対立している。今春ごろは、50周年を祝福するムードにほど遠かった。

 先週、韓国の尹炳世外相の来日が決まった前後から、双方に歩み寄りの機運が高まった。当初は予定になかった両首脳の式典出席で関係修復を演出し、前向きなメッセージも内外に発信できた。

 朴氏は、慰安婦問題の解決を首脳会談の条件に掲げる。第三国で日本の歴史認識を批判する「告げ口外交」も展開してきた。

 だが、朴氏の歴史問題への固執は、日本の「嫌韓」感情を高めただけで、韓国外交に何の成果ももたらしていない。米国に加え、韓国国内でも方針転換を求める声が高まっているのは当然である。

 50周年の節目を契機とし、「歴史問題という重荷」を下ろすため、日本だけに一方的な譲歩を求める朴氏の頑かたくなな姿勢を見直すことこそが日韓双方の利益となろう。

 記念式典に先立ち、安倍首相は韓国の尹炳世外相と会談した。「隣国ゆえに様々な課題があるが、お互いに胸襟を開いて話し合うことが重要だ」と語り、朴氏との会談に意欲を示した。

 朴氏はソウルで額賀福志郎・元財務相と会談し、「過去の傷を癒やしつつ、日韓の信頼外交を展開せねばならない」と語った。安倍首相の戦後70年談話について「注目している」とも述べた。

 日韓の外交当局は、8月の戦後70年談話の発表後、今秋にもソウルで日中韓首脳会談を開くのに合わせて、初の日韓首脳会談を行う案などを検討している。

 日韓間には今、歴史や領土の問題に加え、多くの懸案がある。軍事情報包括保護協定の締結、自由貿易協定の交渉や、韓国の日本産水産物の輸入規制などだ。

 無論、1回の首脳会談で関係が劇的に改善するわけではない。だが、対話を重ねる中で、様々な課題を進展させる知恵を出し合う。それが指導者の役割だろう。

2015年6月22日月曜日

沖縄の基地負担を全国で分かち合おう

 70年前、沖縄では激しい地上戦が展開され、日米両軍にとどまらず、一般住民にも多くの犠牲者を出した。その痛みは沖縄の人々の心になお残っている。どうすれば本土と沖縄の感情的なしこりを解きほぐせるのか。あすの沖縄慰霊の日を前に考えたい。

 沖縄戦の20万を超える戦没者の約6割が県民である。その半数近くが最後の3週間で亡くなった。守備隊の牛島満大将が首里の司令部での玉砕でなく、多くの一般住民が避難していた沖縄本島南部での戦闘継続を選択した結果だ。

 中国の海洋進出によって、沖縄はいま日本の安全保障の最前線に立たされているが、沖縄には県民が再び捨て石にされると危惧する人が少なくない。頭ごなしに抑止力強化を説くのでなく、人命軽視だった旧日本軍の失敗を繰り返さない姿勢を示すことが大事だ。

 沖縄も防衛力増強の必要性を認識していないわけではない。日本の最西端にある与那国島で今年あった住民投票で自衛隊の常駐受け入れ賛成が過半数を占めた。

 だが、そうだとしても在日米軍専用施設の74%が沖縄にある必要があるのか。これが騒音・振動、大気汚染、米軍人犯罪に長年悩まされてきた基地周辺住民の偽らざる心境だ。こうした声には真摯に耳を傾けたい。

 沖縄の普天間基地に常駐していたKC130空中給油機15機が昨年、山口県の岩国基地に移り、普天間の騒音はやや軽減された。

 こうした事例を積み重ねていけば、「政府は沖縄の痛みをわかってくれている」と感じる県民が増えるはずだ。普天間基地の名護市辺野古への移設を円滑に進めるには地道な努力によって県民感情を徐々に変えていくしかない。

 安倍政権は米軍とまずよく協議し、何が沖縄に必要で、何は本土でも困らないのか、などをきちんと仕分けすべきだ。

 本土側の移駐先探しも重要だ。進んで米軍基地や部隊を受け入れる自治体はまずない。空中給油機の移駐は日米が合意してから完了まで20年近くかかった。

 何よりも日本国民一人ひとりが日本の安保環境をよく理解し、基地負担を全国で分かち合う意識を持ってもらいたい。

 沖縄には琉球王朝時代に交易などで関係が深かった中国に親近感を抱く人が少なくない。本土と沖縄の溝をこれ以上深めてよいことは何もない。

もっとクールに売りたい日本

 日本の現代文化や生活スタイルの魅力を産業振興に生かす「クール(かっこいい)ジャパン」政策について、政府が当面の戦略を定めた。食などの4分野で民間の販売を支援するという。目先の売り上げを追うあまり、日本のブランドイメージを向上させるという基本を外れないよう注意したい。

 海外で育った日本文化などのファンを、どうビジネスにつなげるか。そうした問題意識から政府は7省の副大臣と有識者などで「クールジャパン戦略推進会議」を立ち上げ、今回の戦略をまとめた。食、デザイン、音楽を中心とするコンテンツ、地域資源の4分野から支援先を選ぶ予定だ。

 英国と韓国が過去に、同種の政策で成功した理由の一つは、映画のヒットで人気の出た俳優を広告に起用し、観光やファッション販売につなげるといった総合的な連携だ。日本の取り組みは個別の企業や企画の応援に傾き過ぎていないか、やや気になる。

 英国では世界からアートやファッションなどの才能を持つ人材が集まり、自由に作品を発信することで老大国とのイメージを覆し、関連産業に活気を生んだ。日本はデザイン分野で教育・研究機関を設け、世界から人材を集める構想だ。英国を手本に、フリーランスの人材でも日本に滞在しやすいような制度を整備してはどうか。

 食では「正しい」和食や日本の酒の知識を伝える場を新設するとしている。すでに海外では各地の料理人が自由な発想で日本の食に創意工夫を加えている。伝統教育と並行し、新世代の担い手にも目配りをしたい。裾野が広がればビジネスチャンスも増える。

 地方の産品の売り込みや観光誘致にも取り組む。しかし、日本の現代都市文化に関心を持つ外国人が、そのまま地方のファンになってくれるとは限らない。

 どの分野も受け手が押しつけがましさを感じれば、日本の印象も悪くなる。ブランドイメージ向上やファンづくりという本筋を見失わないようにしたい。

原爆症認定―6年前の約束を果たせ

 8月の原爆投下70年が近づいても、被爆者と国の争いに終わりが見えない。国はただちに全面解決に動くべきだ。

 来月で施行20年となる被爆者援護法は「国の責任において」高齢化が進む被爆者への援護対策を講じるとしている。だが、原爆症認定をめぐり、国は責任を十分果たそうとしていない。

 原爆症と認められなかった被爆者が03年に一斉提訴して以来、国の判断を「違法」とした判決は30件を超す。86人が今なお裁判を続けている。

 現行の認定基準では、爆心地からの距離や被爆地に入った時期で原爆症かどうかが決まる。度重なる敗訴にもかかわらず、厚生労働省は距離や時間の条件をわずかに見直しただけだ。

 昨年も591件の申請が却下された。裁判まで踏み切れず、認定をあきらめた人も多い。

 最大の論点は、微少な放射性物質を呼吸や飲食などで体内に取り込む内部被曝(ひばく)をどう評価するかだ。厚労省は、内部被曝の影響をほぼ認めていない。

 しかし、内部被曝の深刻さを示唆する新たな研究成果は、次々と出てきている。

 裁判所は、内部被曝の影響は否定できないとの判断で一致する。5月の広島地裁判決は厚労省が根拠とする被曝線量の評価式について「一応の目安にとどめるのが相当」と指摘した。

 合理的な考え方だろう。司法判断を踏まえ、より幅広く認定できる道を探るべきだ。

 安倍政権は、6年前の約束を思い出す必要がある。

 09年8月6日、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)と当時の麻生太郎首相は、原爆症認定集団訴訟の終結を明記した確認書を交わした。「今後、訴訟の場で争う必要のないよう」、被団協と厚労省の協議で解決を図ることも確認した。

 協議は今年1月までに4回開かれたが、厚労省は被爆者側の要求を聞き流すばかりだ。13年末に認定基準を見直した時も、被爆者の強い反対を押し切った。

 約束が誠実に守られているとはとても言えない。

 認定制度の改正案を独自にまとめている被団協は、白内障など一部の病気は、手当を現行より減らすことも提案している。金ではなく、国が戦争を起こした責任を認め、被害者に正当に償うことで、二度と戦争をしないとの証しを得たい。それこそが被爆者たちの真の願いだ。

 安倍首相はこの夏も被爆地を訪れ、被爆者の代表と会うだろう。政治の責任で決着を図るときだ。

カネミ油症―政治救済さらに進めよ

 半世紀前に西日本一帯で起きた「カネミ油症」は、国内最大の食品公害事件とされる。

 その原因企業であるカネミ倉庫(北九州市)に損害賠償を求めた認定患者の訴えが今月、最高裁に退けられた。

 被害者は今後、原因企業に賠償を求める道を絶たれてしまった。法律の壁の冷酷さを思わずにはいられない。

 事件が発生したのは、1968年。カネミ倉庫が製造した米ぬか油を使った人々を、深刻な健康被害が襲った。

 吹き出物や色素沈着などの皮膚症状をはじめ、がんや死産も相次いだ。高齢化が進む現在も倦怠(けんたい)感や頭痛、関節痛など症状悪化を訴える人は多い。「病気のデパート」といわれる多様な全身症状が患者を苦しめる。

 原因は製造過程でのPCB混入だとされたが、後にPCBを加熱してできる猛毒のダイオキシン類が主因と判明。2004年には認定基準にダイオキシン類の血中濃度が加えられた。

 民法は損害賠償の請求権について、不法行為から20年まで、とする「除斥期間」を定めている。カネミ油症について最高裁は、その起点を「遅くとも米ぬか油を食べた69年末」とした一、二審の判断を支持した。

 原告の多くは、認定基準が見直された04年以降の認定患者。それが89年には請求権がなくなっていた、という判断だ。原告が反発するのも当然だろう。

 当初、1万4320人が保健所に届けた食中毒事件だった。だが認定された患者は、昨年度末までに死者も含め2276人のみ。差別を恐れて申請しなかった人もいるが、認定基準が狭すぎるとの批判が根強い。

 救済金も十分ではない。認定患者にはカネミ倉庫が一時金23万円と医療費の自己負担分を支払う。12年施行の被害者救済法で、毎年認定患者に行う健康調査の協力者に国が19万円、カネミ倉庫が新たに年5万円の一時金を支払うようにはなった。

 だが、たとえば1人210万円などを支給する水俣病救済策と比べても、あまりに低額だ。

 救済法は、一定条件で認定患者の同居家族も認定するよう間口を広げた。だが、重病者も多い未認定患者や2、3世の被害者など、制度の網から漏れた人々の救済には手つかずだ。

 政府は今年の秋口、救済法施行から3年後の見直しを行う。司法による救済ができなかった分、政治への期待が高まる。

 もともと議員立法でつくられた法律である。これから始まる作業の中で、国会も救済の質を高める責任を果たすべきだ。

日韓国交50年 「歴史」克服して未来に進もう

 ◆東アジア安定へ責任を共有せよ◆

 日本と韓国の国交を正常化した日韓基本条約の調印から、22日で50年を迎える。半世紀の歩みを踏まえ、近年は停滞している両国関係の再構築に取り組みたい。

 韓国の尹炳世外相が初めて来日し、岸田外相と会談した。慰安婦問題については、協議を継続することで一致するにとどまった。

 「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録に韓国が反対していた問題では、韓国推薦の「百済歴史地区」とともに、日韓が登録に協力することで合意した。

 本来、専門家による文化財の価値判断を尊重するのが筋で、政治問題化すべきではなかった。

 ◆頑なな朴外交の転換を

 1965年に締結された請求権・経済協力協定は、日本側が無償・有償計5億ドルの経済協力を約束し、請求権問題は「完全かつ最終的に解決された」と明記した。

 この資金に加え、日本からの投資や技術移転は、「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国の飛躍的な経済成長に大きく寄与した。

 金大中大統領と小渕首相による98年の「日韓共同宣言」は、新時代を画した。小渕氏が植民地支配による「損害と苦痛」に謝罪し、金氏が「未来志向的な関係を発展させる」と表明した。

 金氏は韓国で日本大衆文化を段階的に開放した。文化交流に弾みがつき、その後の日本の韓流ブームにもつながった。

 韓国は今、世界7位の輸出大国で、主要20か国・地域(G20)の一員だ。日韓企業の共同事業が増え、相互依存関係も深まった。

 だが、2012年8月の李明博大統領の竹島訪問と天皇陛下への謝罪要求発言で、関係は暗転した。13年2月に就任した朴槿恵大統領は、慰安婦問題の解決を首脳会談の条件に掲げ、安倍首相との会談を頑なに拒み続けている。

 今年4月の首相の米議会演説も、「誠実な謝罪によって近隣諸国と信頼を深める機会を、生かせなかった」などと批判した。

 ◆「慰安婦」を打開したい

 慰安婦の賠償問題は本来、請求権協定で法的に解決済みだ。それでも、日本政府が設立したアジア女性基金は、韓国の元慰安婦61人に首相のお詫びの手紙とともに「償い金」を支給している。

 朴氏が、こうした事実関係を無視し、安倍政権に一方的な譲歩を迫る姿勢を改めない限り、日本側も歩み寄るのは難しいだろう。

 韓国の対日強硬姿勢の背景には、民主化の副作用とも言える反日ナショナリズムの高まりと、政府の大衆迎合がある。

 慰安婦問題では、元慰安婦を支援する民間団体が世論を牛耳る。この団体がソウルの日本大使館前に設置した慰安婦の少女像は、大使館の保護などを定めたウィーン条約に抵触する。関係改善には、まず少女像の撤去が必要だ。

 朴氏が国内の反日世論に迎合して「正しい歴史認識」を強要することが、日本側の「嫌韓」感情をあおり、悪循環を招いている。

 領土問題や歴史認識で意見の相違があっても、日韓関係全体への影響を極小化することこそが、外交本来の役割ではないか。

 韓国司法が近年、日韓請求権協定を揺るがしているのも看過できない。

 憲法裁判所は、慰安婦問題での対日交渉を政府に求めた。戦時中の徴用工問題で日本企業に損害賠償を命じる判決も相次いでいる。

 韓国による竹島の不法占拠も、国際法にかかわる問題で、国際司法裁判所で決着させるべきだ。

 戦後日本は、平和国家として韓国の発展に貢献してきた。新日本製鉄などの技術者たちが現地で協力した浦項総合製鉄所の建設や、地下鉄の整備は、その好例だ。

 韓国の教科書やマスコミは日本の協力をほとんど紹介しない。国民の反日感情が続く一因だ。

 ◆中朝にどう自制を促す

 日韓関係の悪化は、オバマ米政権のアジア重視政策の不安要因ともなっている。北朝鮮の金正恩政権に核放棄を迫るには、日米韓の連携強化が欠かせない。

 朴氏が中国との関係強化を重視し、歴史問題で共闘する動きを見せていることも懸念材料だ。

 強引な海洋進出など、地域秩序の「力による現状変更」を目指す中国に自制を促す。中長期的に東アジアの平和と繁栄を追求する。そうした戦略的な目標を日韓両国は共有すべき時ではないか。

 国交正常化を果たした朴正煕大統領は国会演説で、「過去にのみ執着するあまり、現在および未来への道を誤ってはならない」と説いた。娘の朴氏に、今一度、かみしめてもらいたい言葉である。

2015年6月21日日曜日

協力の芽を育み強固な日韓関係を

 日本と韓国両政府が国交を正常化する基本条約に署名してから、あすでちょうど50年となる。

 節目の年にもかかわらず、両国関係は歴史問題のあつれきから大きく冷え込み、安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領による2国間会談は一度も実現していない。政治的にきしんだ関係を打開し、未来を見据えた長期的な協力関係を築いていく必要がある。

 1965年の国交正常化から50年間で、日韓の貿易額はおよそ430倍、人的交流は年間1万人から昨年は504万人に達した。

■首脳会談を早期に

 50年の歳月を振り返れば、日韓関係は緊密になり、相互依存を強めた。サッカーのワールドカップ(W杯)共催や韓国での日本大衆文化の開放、日本での韓流ブームは互いの国民感情を近づけた。

 一方で歴史問題の確執は解消されず、関係を揺るがしてきた。従来は政治のパイプや政権交代を利用して何とか復元してきたが、昨今のきしみは深刻だ。社会には「嫌韓」「反日」の風潮も広がる。

 2012年、李明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島(韓国名は独島)上陸から始まった負の流れは、朴政権の発足後に加速した。大統領は当初から従軍慰安婦問題で「誠意ある対応」を日本側に求め、首脳会談に応じる事実上の条件とした。かたくなともいえる対日強硬姿勢が、関係をさらに冷え込ませたことは否定できない。

 韓国はまた、コラムが大統領の名誉を毀損したとして産経新聞の前ソウル支局長を在宅起訴したり、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録で一部施設の登録に条件をつけたりもしている。

 半面、日本側の歴史修正主義とも受け取られかねない姿勢が韓国を刺激したのも事実だ。安倍首相の靖国神社参拝や慰安婦問題に関する「河野談話」の検証などに対し、韓国は激しく反発した。

 15年版の外交青書では、韓国について「自由、民主主義、基本的人権などの基本的な価値」を共有しているとの表現を削除した。韓国の知日派学者は「国内の反日勢力を説得する理屈がなくなった」と嘆く。配慮を欠いた外交戦が関係悪化を決定づけたともいえる。

 ここにきて慰安婦問題では、昨春から続く外務省局長協議が大詰めを迎えているとみられ、朴大統領は「相当な進展があった」と評価した。ぜひとも早期の首脳会談実現につなげてもらいたい。

 日韓間では最近、財務、防衛相会談なども開かれ、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相も初来日する。韓国政府が歴史問題は原則を貫きつつ、安全保障や経済など他の分野では積極的に協力する戦略に転じた効果もあるのだろう。

 ただこの戦略は「歴史」では譲歩しないということだ。仮に慰安婦問題が決着しても、韓国では戦時中に日本に強制徴用された韓国人への損害賠償を求める訴訟などが相次いでいる。植民地支配という過去を抱えた日韓の間では、歴史問題の対立の根はなお深い。

 ではどうすればいいのか。日韓で協力できる分野や幅を広げ、結果的に「歴史」の比重を下げていくことではないだろうか。

 経済構造が似通う日韓は、技術開発やエネルギー・資材の共同調達、第三国でのビジネスなど経済で協力できる分野は多い。

■「歴史」の比重小さく

 にもかかわらず両国間の自由貿易協定(FTA)交渉は04年から本交渉がストップしたままだ。継続中の日中韓のFTA交渉などとともに推進していきたい。

 FTA戦略で先行する韓国は環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟も視野に入れている。アジアに自由で開かれた通商ルールを構築するうえでも、互いに手を携える余地は十分あるはずだ。

 安保分野の連携も欠かせない。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイルの脅威など、北東アジア情勢は不安定さを増す。ともに米国の同盟国として緊密に協調することは地域の安定にも寄与する。

 もちろん、歴史問題の摩擦を極力控える努力も必要だ。韓国外務省の趙太庸(チョ・テヨン)第1次官は「日本政府がこれまで表明してきた歴史認識を覆す試みや反対する言動を慎んでほしいというのが我々の立場。新たな要求をしているわけではない」と語る。

 「誠信之交隣」。互いに欺かず、争わず、真実をもって交わる。江戸時代の儒学者で朝鮮との交流に携わった対馬藩の外交官、雨森芳洲の言葉だ。こうした外交精神を引き継ぎつつ、協力の芽を一つ一つ育み、「歴史」の葛藤で大きく揺らぐことのない強固な善隣関係を築いていきたい。

ロシアと核―冷戦思考を捨て去れ

 核兵器の脅威を振りかざす態度は、断じて認められない。

 ロシアのプーチン大統領が、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基を年内に配備する計画を明らかにした。

 ウクライナ危機を機に対立を深める欧米諸国に対し、核戦力で牽制(けんせい)する意図を示したと受け止められている。

 核兵器は、どんな場合も使ってはならない非人道的な兵器である。前世紀の核抑止論を踏襲するかのように暴言を放つ大統領は、時代錯誤の冷戦思考を捨て去らねばならない。

 欧米と日本は、大統領に対し核の脅しを容認しない明確なメッセージを送るべきだ。

 最近のロシアは、核戦力に頼ろうとする姿勢が目立つ。

 昨年春にクリミア半島を併合した際、核兵器を臨戦態勢に置く可能性があった、と大統領が語った。今春の北極海での軍事演習では、核使用のための信号を送る訓練もしたという。

 今回の大統領発言も、この流れの中に位置づけられる。

 ロシアは米国との新戦略兵器削減条約(新START)で、互いに戦略核を一定数まで減らす合意がある。だが、ロシアの削減ペースが先行し、定数を下回っていたことから、ある程度の再配備が予測されていた。

 そのため今回の発表は必ずしも条約に反しない、との見方が専門家の間にはある。だとしても、あえて核戦力の増強を誇示する姿勢は、「核なき世界」を願う国際世論への挑戦だ。

 実際には、核を増強する財政的な余裕がロシアにあるかは疑わしい。もし大統領が強硬姿勢を国内に示すことで人気を集めようとしたのであれば、ますます国際的に孤立するだけだ。

 本当に配備されれば、緊張の高まりは避けられない。何より、こうした威嚇は、核の役割を減らそうとする核不拡散体制の精神に反する。「核の保有は国防に有効だ」となれば、さまざまな地域問題を抱える国々を核武装に走らせかねない。

 欧米は、核による挑発が何の利益ももたらさないことを明示し、ロシアとの対話と圧力の政策を冷静に続けるべきだ。国際法の順守と周辺国の領土保全は繰り返し求めねばなるまい。

 戦略核以外にも、ロシアと欧米との間には多くの軍縮問題が横たわっている。中でも、射程の短い戦術核の削減・撤廃に向け早急に取り組むべきだ。

 広島、長崎の被害を知る日本が担う役割は小さくない。政府レベルだけでなく、市民社会からロシア国民に対しても、核廃絶への働きかけを強めたい。

遺族年金判決―時代に合わぬ男女格差

 地方公務員が労災で亡くなったとき、配偶者が女性なら年齢を問わず遺族補償年金を受け取れるのに、男性だと55歳以上でないと受給資格がない――。

 こんな男女格差が認められるかが争われた訴訟で、大阪高裁は「法の下の平等を定めた憲法に反する」とした大阪地裁判決を取り消し、元会社員男性(68)の請求を退けた。

 判決で高裁は「女性は男性より賃金などで不利な状況にあり、男女の区別は合理性を欠くとはいえない」とした。

 しかし、はたして、この制度は時代の変化を反映しているといえるだろうか。

 男性の妻は中学校教諭だった98年に自殺し、公務災害と認められた。男性は地方公務員災害補償基金に遺族補償年金を申請したが、妻の死亡時に夫が54歳以下の場合、受給を認めない地方公務員災害補償法の規定のため、不支給となった。男性は妻の死亡時に51歳だった。

 この法律ができた67年当時は、正社員の夫と専業主婦という家庭が一般的で、「家計を支えるのは夫。だから遺族年金は女性に手厚く」という考えに基づいていた。

 しかし今は、共働き世帯が、夫だけが働く世帯の1・3倍となっている。近年は非正規雇用の割合が男女とも増える傾向にあり、就業の不安定さは性差を問わない問題だ。

 大阪高裁は「非正規雇用の割合は女性のほうが男性の3倍近い」「女性の賃金額は男性の6割以下にすぎない」などとも指摘した。

 確かに、女性は男性に比べ、賃金や就労の面で今なお不利な状況に置かれている。

 しかし、男性の中にも生活に困窮する人はいるし、家計にゆとりのある女性もいる。「男か女か」だけで一律に差をつけることが、真に困っている遺族の生活補償につながるとは思えない。

 すでに男女格差をなくした例はある。

 かつては「母子家庭より平均年収が高い」として父子家庭は児童扶養手当の支給対象外だった。だが、ひとり親世帯の貧困が男女を問わず社会問題になり、10年から対象になった。

 家計を支える人が亡くなったとき、子どものいる妻かその子どもに支給されていた遺族基礎年金も、国民年金法の改正で、昨年4月以降、それまで対象外だった父子家庭も受け取れるようになった。

 社会情勢の変化に合わせ、法律を不断に見直すのは当然のことだ。

新国立競技場 立ち止まって計画を見直そう

 新国立競技場の建設計画をこのまま進めれば、国民の不信は高まるばかりだろう。いったん立ち止まり、内容を見直すべきではないか。

 新国立競技場の建設費は、基本設計案の1625億円を大きく上回るのが確実な状況だ。下村文部科学相は、東京都に500億円超の工費負担を求め、舛添要一都知事がそれに強く反発している。

 確たる総工費さえはっきりしない段階で、都に負担を要請する文科相の姿勢は疑問だ。知事が「都民に拠出をお願いできるだけの論理が必要だ」と主張するのは、もっともである。

 知事は「現在の法制度では、負担の根拠がない」とも指摘する。自治体の権限外の事業経費について、国が自治体に負担させることを禁じる地方財政法の規定などを念頭に置いたものだ。

 法的根拠があいまいなまま、都民の税金を拠出すれば、住民訴訟を提起される可能性もあるだろう。文科相は「根拠法を作りたい」と、法整備を検討する意向だが、強引な印象は拭えない。

 都の負担について、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、石原慎太郎知事の時代に「約束」を交わしたと語っている。そうだとしても、政治家の口約束で決めていいはずがない。

 そもそも、国の財源だけでは賄えない競技場の建設計画自体に無理がある。2012年のロンドン五輪スタジアムの610億円、08年北京五輪の420億円と比べても、建設費は突出している。

 五輪のメイン会場として相応の施設は必要だが、無駄な部分をそぎ落とし、コストを圧縮する努力が不可欠だ。開催費用の削減を促す国際オリンピック委員会の五輪改革の趣旨にも合致する。

 工費が膨らむ要因は、2本の巨大アーチを用いた遮音用の開閉式屋根の構造にあるとされる。文科相は、屋根の設置を20年の東京五輪後に先送りする考えだ。

 事業主体の日本スポーツ振興センターは、五輪後にコンサート会場などとして活用し、運営費を捻出する方針だが、見積もりに甘さはないのか。屋根により日照が遮られ、芝の維持費がかさむといった弊害も生じるだろう。

 国内の著名建築家らは、アーチの設置を取りやめれば、工費を1500億円程度に抑制でき、工期短縮も可能だと提言している。

 新国立競技場では、19年にラグビーワールドカップが開かれる。完成を間に合わせるには、今が計画を見直すラストチャンスだ。

農地集積バンク 利用促進の努力が足りない

 政府の成長戦略の一環として全都道府県に創設された農地中間管理機構(農地集積バンク)の実績が低調である。

 小規模農家などから借りた農地をまとめて貸し出す仕組みで、農地大型化の切り札として期待されている。

 ところが、初年度の貸し出し面積は、政府目標の15万ヘクタールに対して2・4万ヘクタールにとどまり、達成率はわずか16%だった。10都府県では1%以下と、ほとんど利用されておらず、努力不足が否めない。

 機構を活用し、大規模農家や企業に農地を集約すれば、農業生産性が向上し、国際競争力を強化できる。耕作放棄地の縮小や、地方経済の活性化にもつながろう。

 政府と自治体は、低迷の原因を分析して改善策を講じ、利用促進に努めるべきだ。

 機構による農地集約を促進する狙いで、政府は各地の農業委員会の許可がなくても農地を貸借できるよう制度を改めた。

 企業などが借りたいと希望した農地は23万ヘクタールに上ったが、貸し出せる農地が2・9万ヘクタールしか集まらず、実績は伸びなかった。

 貸し手不足の背景には、先祖伝来の土地を他人に預けることをためらう農家が多い事情がある。

 10年などの契約期間を過ぎれば貸し出しを打ち切れるのに、一度貸したら戻ってこなくなる、といった誤解も少なくない。

 目標達成率が99%と全国首位だった富山県では、農家の不安を和らげるため、漫画形式のパンフレットを7万部作成していた。

 農家からは「仕組みがよくわかり、安心できた」といった反響があったという。他の自治体の参考になるだろう。

 達成率の高かった自治体には、機構ができる前から農業参入を希望する企業などの意向を聞き、貸し出しに適した農地を探すなど、独自の取り組みを進めてきたところが多い。

 貸し手を効率的に探すには、後継者の有無など個々の農家の事情を把握する必要がある。市町村との連携強化も重要となる。

 宅地や商業地への転用を期待して、使わない農地を持ち続けている例も多い。農地の税負担の軽さが、これを助長している。

 政府の規制改革会議は、耕作放棄地への課税強化や貸し手農家の税負担軽減を提言した。実現するよう前向きに検討したい。

 林農相が、実績を上げた都道府県に予算配分などで配慮する考えを示したのは疑問だ。予算の無駄遣いにつながるのではないか。

2015年6月20日土曜日

消費者の利益となる電力・ガス改革に

 電力会社の発電部門と送配電部門を別会社に分ける発送電分離を盛り込んだ改正電気事業法が成立した。都市ガスの小売り全面自由化や、ガス大手にパイプライン部門の分離を義務付ける改正ガス事業法も成立した。

 政府が段階的に進める電力・ガス市場改革は今回の法改正で総仕上げとなり、いよいよ実行段階に移る。多様な事業者による競争と安定供給を両立させながら、消費者や企業の利益となる改革にしていかねばならない。

 電力・ガス改革では来年4月に電力、2017年にガスの小売りを全面自由化する。発送電分離は20年、パイプライン部門の分離は22年に実施する。送電線やパイプラインの中立性を高め、参入する事業者が既存の電力・ガス会社と平等に使えるようにする。

 東日本大震災後の電力不足は地域独占に守られた電力やガス供給体制のもろさをあらわにした。地域や事業の垣根を越えて料金やサービスを競い、消費者が自由に選べるようにする。改革をエネルギー供給の新しい姿につなげたい。

 成功に導くには競争を促す制度の設計が大切だ。送電線やパイプラインの使用料をどう設定するのか。小売事業者が自前の電源では足りない供給力を補う卸電力市場をどう使いやすくするのか。自由化の本番までに整えなければならない課題はたくさんある。

 競争が正しく実施されているかチェックする監視役も重要だ。年内に電力やガスの取引を監視する第三者委員会が発足する。その責任は重い。改革の進め方も点検を忘れてはならない。今回の法改正では送配電部門やパイプライン部門の分離を予定する時期の前後に、分離しても問題がないか検証する規定を定めている。

 原子力発電所の再稼働が進まず、電力会社の経営は悪化している。経営の形を変える発送電分離は情報システムの変更など多額の投資がかかる。改革を急ぐあまり安定供給が損なわれたり、電気料金が上がったりしては困る。供給力や経営状況の確認が必要だ。

 電力の自由化に伴い原発についての議論も要る。政府は原発を重要な電源の一つと定め、30年時点の電源比率で約2割とする方針だ。だが原発は建設から投資回収まで時間がかかる事業だ。自由化時代に電力会社が原発をどう維持していくのか。競争と両立させる仕組みを考えなければならない。

中国は香港との約束履行を

 中国が香港に約束した「一国二制度」の下での高度な自治が宙に浮いている。2017年の香港行政長官選挙に直接投票を導入する法案が議会で否決された。「1人1票」にしても、中国の意向に従って民主派候補を事実上、排除する制度は理解を得られなかった。

 だが、このままでは業界団体代表らによる現行の間接選挙が続く。有権者の直接投票は実現しない。香港大などの最近の世論調査では法案への賛成が反対を上回るという情勢の変化もあった。香港社会の分裂は避けねばならない。

 「雨傘革命」と呼ばれた昨年の大規模抗議運動の記憶は新しい。怒る香港の学生らは長く道路を占拠した。運動には1997年の香港返還の頃に生まれた郷土愛が強い10代も参加した。香港の自由空間を守ろうと必死の若者らと、中央への服従を求める習近平国家主席ら中国指導部の衝突だった。

 香港で直接投票を行うはずだった17年は中国にとっても敏感な年だ。「ポスト習近平」の姿が見える共産党大会があり、権力闘争も激しくなる。中国は香港の民主派による習指導部への批判を警戒し、「親中国」の候補者数人だけの“安定選挙”を望んだ。

 中国外務省報道官は法案否決に関して「目標履行は中央政府の一貫した立場だ」と強調した。譲歩を拒む姿勢は残念である。

 中国では共産党の一党支配の下、政治改革の議論も難しい。世界第2位の経済大国になった以上、社会の多様化に伴う様々な利害を民主的な投票で調整する機能が必要だ。香港の民主化の行方は、大陸中国が向かう道も左右する。17年に予定していた香港トップの直接投票はその試金石だった。

 香港政府は社会の分裂を避けるためにも市民の意見を再び集約し、中国政府に善後策の検討を働きかけるべきだ。中国は香港の繁栄維持のため「一国二制度」を約束してきた。その経緯を忘れるなら国際社会の信頼を失う。香港の人々の心に寄り添う新たな方向を示す義務がある。

MERS―院内感染防止が教訓だ

 韓国で中東呼吸器症候群(MERS〈マーズ〉)コロナウイルスの感染者と死者が増え続けている。

 世界保健機関(WHO)は「今のところ感染(の範囲)は医療機関などに限られ、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態ではない」としている。ビジネスや観光での訪韓をむやみに恐れる必要はない。

 とはいえ、感染が広がった医療機関を訪れ、韓国政府の自宅隔離の対象になった複数の日本人が、通知を受ける前に日本に帰国していたこともわかった。

 グローバル時代の今、感染症も容易に国境を越える。MERS禍から学び、備えたい。

 MERSは3年ほど前に中東で見つかった新しい病気で、特効薬はまだない。中東ではヒトコブラクダがウイルスを持っており、人への感染が繰り返し起きている。

 人から人へは、せきやくしゃみのしぶきを介して感染するらしい。糖尿病など持病がある人や高齢者では、重い肺炎で亡くなることも少なくない。ただ、インフルエンザほど感染力が強くはないとされる。

 韓国の感染拡大は、何よりも医療関係者や海外渡航者の感染症に対する知識と警戒が重要なことを示している。

 約170人に達した患者は、1人の中東渡航者を起点に広がった。5月4日に帰国後発熱などの症状を訴えて診療所を受診したが、5月20日にMERSと診断されるまで複数の医療機関で入退院を繰り返し、院内での感染が相次いだ。

 抵抗力の低い病人が集まる医療機関である。院内感染の防止は、とりわけ重要だ。韓国では感染症患者と一般患者の分離や、感染症患者への見舞い制限、医療スタッフによる拡散防止などができていない医療機関があった。医療関係者や患者にMERSへの警戒心がもう少しあれば、当初から中東渡航歴に注目し、早期に感染の連鎖を止めることができただろう。

 確かに、見極めが難しいウイルスではある。2日~2週間程度の潜伏期間があるうえ、初期症状は風邪と区別がつかない。

 しかし、たとえ診断が遅れてもできることはある。一般的な感染予防策の徹底だ。

 せきやくしゃみなどの症状がある人はマスクをしたり、袖口で口や鼻を覆ったりして、しぶきを飛ばさないこと。かからないためには手洗いとうがいを徹底して、ウイルスを体内に取り込まない習慣が有効だ。

 グローバル時代の感染症対策も、かからない、早期発見、広げないの地道な努力で始まる。

香港長官選挙―真の改革を練り直せ

 近現代の歴史の中で、香港は国際経済に向かって開かれた中国の門だった。いま、そこは中国の民主主義観を国際社会に示す窓でもある。香港のトップである行政長官の選挙制度改革の行方が注目されてきた。

 その改革案がおととい、香港の議会で否決された。1人1票の普通選挙を導入するのはよかったが、候補者をあらかじめ制限する仕組みだったため、民主派議員が反対した。

 これで改革は白紙に戻った。この機に、香港と中国の政府は香港の多様な価値観を反映し、香港人自らが自治を決める真の改革を検討するべきだ。

 これまで行政長官は、1200人の選挙委員が選んでいた。それを18歳以上の市民500万人に広げ、再来年の選挙から始めるのが改革案だった。有権者を一気に拡大するのは画期的で、世論調査では支持が反対を上回ったのも理解できる。

 だが問題は、候補者を絞り込む点にある。1200人による指名委員会で2~3人の候補を決めるという。これでは従来の制度が残るも同然だ。

 委員会は業界団体など親中派が支配し、中国に批判的な民主派の候補が排除されるのは確実だ。だから昨年来、多くの若者らが街頭に出て反発した。

 そもそも、香港の憲法である基本法も、それに基づく選挙改革案も、つくったのは実質的に中国共産党政権である。そこには北京にとって都合の良い香港の「安定」を重視する考え方が貫かれている。

 香港が英国から返還され、「一国二制度」のもとで中国の特別行政区となった97年以来、行政長官は北京に忠実な企業家や行政官出身者が務めた。この流れを指名委制度で維持することに狙いがあるのだろう。

 たとえ1人1票が実現しても選択の幅は狭く、中国の眼鏡にかなった候補にお墨付きを与える役割しか果たせない。

 民主派が訴えるように、立候補の資格を広く市民に開いてこそ、社会の多様な立場や意見を反映する選挙が実現できる。

 そのためには、北京が方針を決めるのではなく、香港人自身に選挙制度改革を委ねることが最善だ。それこそが一国二制度下の香港自治のめざすべき方向ではないか。

 大陸と比べ生活水準、教育水準がはるかに高く、成熟した社会にあって、返還から18年たっても民主化が進まないのは、やはりおかしい。再来年に間に合わないならば、次の2022年の選挙に向けて、選挙制度改革をやり直すべきである。

派遣法改正案 処遇向上の実効性を高めたい

 与野党の対決法案である労働者派遣法改正案が衆院を通過した。

 派遣労働者の処遇向上と雇用安定のため、参院では、建設的な議論を深める必要がある。

 改正案は、企業が派遣労働者を受け入れる期間の制限を事実上なくす。一方で、派遣会社に対し、計画的な教育訓練など、派遣労働者のキャリアアップ支援や、派遣先への直接雇用の依頼といった雇用安定措置を義務づけている。

 現行法は、企業が正社員の仕事を派遣労働者に切り替えるのを防ぐことを主眼にしてきた。

 そのため、一部の専門業務を除き、企業の派遣受け入れ期間を最長3年に制限している。反面、派遣労働者の雇用や待遇を守る規定が手薄だった。

 多様な働き方が広がる中、派遣先の正社員の保護から派遣労働者の保護に軸足を移す。改正案のこの考え方は妥当である。

 民主党などは「派遣労働者を増やす」と反対し、キャリアアップ支援なども「実効性がない」と批判している。

 だが、改正案は、派遣会社を全て許可制とし、政府の監督体制を強化する。制度が有効に機能すれば、処遇改善に寄与しよう。

 改正案の衆院通過は、維新の党が後押しした。改正案には反対したが、与党と協調し、採決には応じた。維新などが提出した「同一労働同一賃金」推進法案を修正のうえ、成立させることで、与党と一致したためだ。

 当初案は、派遣労働者と正社員の仕事が同じなら賃金も等しくする「均等待遇」を求めていた。

 修正案には「均衡待遇」との表現を加えた。転勤や残業の有無など正社員と派遣労働者の立場の違いを考慮した処遇を認めるものだ。終身雇用や年功賃金の慣行が根強く残る日本の企業社会を考えれば、修正は現実的である。

 改正案の衆院審議は約30時間に上った。維新が審議をいたずらに引き延ばさず、与党に歩み寄ったのは、前向きに評価できる。

 あきれるのは、民主党の対応である。与党が衆院厚生労働委員会の質疑を終結しようとしたのに反発し、委員長の入室を阻止する「実力行使」に出た。委員長は、首に全治2週間のけがを負った。

 長妻昭代表代行は、「野党がお行儀よく座って、法律を通してしまうことが国益にかなうのか」などと審議妨害を正当化した。

 これでは、「抵抗野党」の域を超えている。より厳しく批判されるのは当然である。

上納金脱税逮捕 暴力団壊滅の切り札となるか

 暴力団の活動資金となっている「上納金」に、捜査のメスが入った意味は大きい。凶悪組織の壊滅につなげたい。

 福岡県警が、北九州市に本部がある特定危険指定暴力団工藤会の総裁を所得税法違反容疑で再逮捕した。

 総裁は、配下の組員から集めた上納金のうち、約2億2700万円を税務署に申告せず、所得税約8800万円を脱税した疑いが持たれている。

 上納金を個人の所得と見なし、脱税事件として立件したのは、全国で初めてのケースである。

 工藤会は、組同士の抗争だけでなく、一般市民にも危害を及ぼす危険集団だ。総裁は元漁協組合長の射殺事件などで逮捕・起訴されている。元組合長が、港湾施設整備事業への工藤会の介入を拒んだことが背景にあったとされる。

 会の壊滅に向け、県警には、上納金の流れを徹底解明し、資金源を断ち切ることが求められる。

 組員が、企業や市民から「みかじめ料」(用心棒代)などを脅し取る。それを上部団体が吸い上げ、活動費に充てる。

 暴力団のこうした上納金システムは、表面化しにくい。警察や国税当局は、暴力団と関係が深い金融会社などを法人税法違反容疑などで摘発してきた。だが、暴力団そのものは、法人と見なされないため、摘発には限界があった。

 福岡県警は、昨年9月から工藤会の壊滅を狙った「頂上作戦」を続けている。捜査の中で、送金先を示すメモを押収し、上納金の一部が、総裁の親族ら複数の口座に毎月入金されていたことを突き止めたという。

 県警と検察、国税当局が緊密に連携した点も注目される。情報を共有し、関係先への合同捜索を展開した。内部情報の提供者を確保したことも、捜査の進展につながったとされる。

 上納金を暴力団トップの所得とした今回の捜査手法は、暴力団対策に取り組む各都道府県警の参考になるのではないか。

 2011年までに全都道府県で施行された暴力団排除条例は、市民や企業が組員に利益供与することを禁じている。暴力団追放の機運は、以前より高まっている。

 しかし、「みかじめ料」の支払いを拒んだ企業や飲食店への報復も後を絶たない。脅しに屈し、支払いに応じれば、暴力団の資金源を断つことはできない。

 警察は、暴力団と対峙する市民の安全を守ることにも全力を挙げてもらいたい。

2015年6月19日金曜日

18歳投票を日本の政治変える突破口に

 選挙権を得られる年齢が20歳以上から18歳以上へ引き下げられた。来年夏の参院選から施行になる見込みだ。若い有権者の増加で、日本の政治は変わるだろうか。世代間の負担のあり方など国の将来を考えるきっかけにしたい。

 選挙権年齢の変更は70年前に25歳以上から下げて以来だ。その間に海外では引き下げが相次ぎ、国会図書館の調べによると、191カ国・地域のうち176カ国・地域が選挙権年齢を18歳以上にしている。遅ればせながらの世界標準への仲間入りである。

 少子高齢化に伴い、日本の有権者の平均年齢は2050年には60歳を超えるとの推計がある。政治家は当選のために「年金充実」を掲げ、若年層の雇用や子育ては二の次になりがちだ。

 こうしたシルバー民主主義の弊害を緩和するには、高齢者に我が身だけでなく、将来世代のことを考えてもらわねばならない。

 新たに選挙権を得る18.19歳は合わせて240万人である。有権者全体の2%にしかならず、18歳投票権だけで「若者の声が届く政治」が実現するわけではない。あくまで突破口だ。

 重要なのは、せっかく有権者になった18.19歳が投票所に背を向けることがないようにすることだ。若年層の投票率が意外に高いとなれば、「若者も国のことを真剣に考えているんだな」と思う高齢者が増えるはずだ。

 昨年の衆院選の20代の投票率は32.58%だった。まずはこれを超えるのが目標だろう。

 そのためには高校生を対象にした主権者教育の充実を急がねばならない。「今年のカリキュラムはもう決定済み」では困る。

 高校生の関心をひき付けるためには、現実の政治にある程度は足を踏み入れざるを得ない。主要政党の公約の読み比べや、それを踏まえた生徒同士の討論などはあってよい。特定の政治勢力を利することのないように気を配りつつ進めてほしい。

 選挙に出馬できる被選挙権年齢を引き下げ、若い候補者を増やすことも、若年層の政治への関心を高める一助となろう。

 18歳投票権に合わせ、民法の成人年齢や少年法の対象年齢なども改めるべきかどうかが議論されている。そろっているに越したことはないが、急に変えて社会に混乱が生じては本末転倒である。焦らず検討すべきだ。

「同一賃金」は企業自身の手で

 仕事が同じなら、正社員か非正規社員かにかかわらず賃金を同じにする。そうした「同一労働、同一賃金」の実現に向けた法案を、自民、公明、維新の3党は今国会で成立させる考えだ。

 職務に応じて待遇を決めるという考え方はもっともだ。ただし、それには日本企業が、曖昧な面のある正社員の仕事の範囲を明確にすることが前提になる。法案は国が正社員と非正規社員の処遇制度の共通化を促すとしているが、政府の介入は混乱を招く。処遇改革はあくまで企業自身の役割だ。

 労働者派遣法改正案に反対する維新の党や民主党などは、対案として「同一労働同一賃金推進法案」を共同提出していた。与党は派遣法改正案の衆院委員会での採決に維新の協力を得る代わりに、同一労働同一賃金推進法案を修正のうえ成立させることにした。

 法案は、雇用形態による賃金の違いの実態を国が調査し、非正規社員が職務に応じて処遇されるよう施策を講じる、としている。

 「同一労働、同一賃金」は欧米で浸透している。日本でも、非正規社員の処遇改善につながる仕組みになるのは確かだろう。ただ、欧米の企業では仕事内容で賃金を決める職務給が確立している。

 対して日本の企業では一般に、正社員は雇用保障がある代わり職務範囲が一定せず、指示された仕事に柔軟に対応しなくてはならない。まずは企業による正社員の働き方の見直しが必要だ。問われるのは企業自身の実行力だ。

 維新、民主などの提出法案は派遣社員について、仕事が派遣先の正社員と同じなら待遇も均等にするとの規制を設けるとしていた。この点は与党と維新が修正し、責任の違いなどを考慮した「均衡」処遇も認めることにした。日本企業の実情に多少は配慮したわけだが、問題はなお大きい。

 正社員の職務の見直しが進まないまま規制を設ければ企業活動に支障が出かねない。先走った「同一労働、同一賃金」の制度化は害がある。法案は見直すべきだ。

日韓国交50年―正面から向き合う契機に

 植民地支配という不幸な過去がありながらも、日本と韓国が国交樹立のための条約に調印して、今月22日で50年を迎える。

 日韓はいまや双子にたとえられる。焦土と化した国を不断の努力で発展させた。産業の得意分野も重なる。少子高齢化、環境対策など、抱える共通課題をあげればきりがない。

 だが、両政府は相も変わらず対立し、嘆かわしい政治と外交を続けている。協力しあえばプラスになる問題が多いのに、歴史問題という古いハードルを前に立ちすくんだままだ。

 そんなぎごちない政治の関係をよそに、在日3世の辛理華(シンリカ)さんは今、映画のディスクを手に飛び回っている。

 ディスクに収まるのは父の故・辛基秀(シンギス)さんが手がけた記録映画「江戸時代の朝鮮通信使」。大学や国際交流団体、さらには韓国の国会議員からも頼まれ、各地で上映会を開いている。

 徳川家康は、豊臣秀吉に侵略されて荒廃した朝鮮との国交回復をめざし、朝鮮通信使を招いた。一大文化使節団は江戸時代に12回来日した。

 行列を一目見ようと待ち構える群衆。通信使をまねたコスプレ……。通信使は「元祖韓流」といえるほど歓迎された。

 そんな史実をたどる映画上映の要請が急増したのは、日韓50年となる今年の春からだ。理華さんは「困難な時代だからこそ、この映画の意味が深まっているのでしょうか」と話す。

■「まず相手を知る」

 日本と朝鮮半島の安定期は、外交がちゃんと機能していた時代でもある。

 朝鮮通信使にも2度かかわった儒学者、雨森芳洲(あめのもりほうしゅう)は61歳の時に朝鮮との外交にあたって注意すべきことを「交隣提醒(こうりんていせい)」という本にまとめている。

 その第1条で芳洲はまず何より「朝鮮の慣習や歴史、文化、これまでの日本との関係を知っておくことが重要」だと唱え、相手に対する知識のなさが招いた過去の誤解の数々をあげた。

 韓国で芳洲と並び称されるのは15世紀に活躍した外交官、李芸(イイェ)だ。40回以上も日本に足を運び、友好関係を築くと同時に、倭寇(わこう)に連れ去られた667人の朝鮮人を祖国にもどした。

 母親も日本に連れ去られており、李芸は生涯、日本で母を捜し続けた。李芸の19代目の子孫にあたる李昌烈(イチャンヨル)さんは「さまざまな思いがあっただろうが、これ以上、不幸を拡大させまいと日本との関係改善に全力を傾けたのだろう」と推し量る。

■価値共有せぬ関係か

 2人の外交官に共通するのは、身近な隣国同士がつき合ううえで、何が必要なのかを深く洞察した点ではないか。

 先人たちの知恵に比べ、今の日韓外交は何とも柔軟性を欠いている。

 日本政府は今年、外交青書などで、これまで韓国に対して使っていた「基本的価値を共有する」との表現を削った。外務省関係者は「省内では反対意見が多かったが、官邸の意向が強かった。主に法の支配がひっかかったようだ」と説明する。

 長崎・対馬で盗まれた仏像の未返還問題や産経新聞特派員が名誉毀損(きそん)で起訴された事件など、確かに韓国の司法や検察の判断には、首をかしげざるを得ないことが多い。

 一方、日本で法治が徹底されているかといえば、これまた心もとない。安全保障関連法案の扱いをめぐっては、日本国内からも「法治国家か」との指摘が出る始末だ。

 日韓は民主主義の未熟さを非難しあうのではなく、成熟度を競うべきではないか。

■負の連鎖断ち切れ

 半世紀前の国交正常化は実は両国が心から和解して実現したわけではない。厳しい冷戦下、米国の強い介入と圧力の中で、やっと互いの手を握り合った。

 日韓関係は実は、米国を交えた「3国関係」などといわれるゆえんである。

 その構図は残念ながら、半世紀たった今も大きく変わっていない。竹島や慰安婦問題が政治課題化するたび、両国は競って米国に自国の正当性を訴え、支持を取りつけようとしてきた。

 21日に初来日する韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は、外交の責任者でありながら自ら第三国で日本を批判する「告げ口外交」を続けてきた。外相就任から2年以上も隣国を訪れないという判断は、異常だったというしかない。

 両国政府が何の手も打たないうちに、暗雲はじわりと双方の国民の頭の上に広がってきた。仮に首脳会談が実現して政治課題が解消しようとも、人々が抱く印象はすぐには変わらない。

 だからこそ、政治は早く始動せねばならない。50年の節目を契機に、今こそ責任ある主権国家として互いに正面から向き合うべき時ではないか。

 狭隘(きょうあい)なナショナリズムや勝ち負けを競うかのような不毛な対抗意識にとらわれている限り、政治と外交を縛る負の連鎖は、今後も断ちきれない。

研究用原子炉 長期停止で心配な人材の枯渇

 このままでは、原子力発電所の安全性の向上や廃炉に必要な人材が枯渇しかねない。

 大学などの試験研究用の全原子炉が、長期にわたり停止している。実験や実習ができない深刻な事態である。

 原子力規制委員会の安全審査が長引いているのが原因だ。規制委は、安全確保を前提に、審査の効率化に努めてもらいたい。

 東京電力福島第一原発の事故後、規制基準が厳格化された。これに対応するため、京都大や近畿大、日本原子力研究開発機構が計8基の審査を申請している。

 発電用の商業原発に比べ、いずれも、はるかに規模の小さな原子炉だ。新規制基準では、リスクの大きさに応じた安全対策を求める観点から、原発と同等の対策は不要とされている。

 ところが、実際の審査では、原発並みのデータの追加提出を求められ、大学などは、必要な資料の作成に手間取っている。

 出力5000キロ・ワットの京大研究炉は、昨秋から27回、規制委の聴取を受けたが、どの程度の地震や竜巻などに耐えられるかという基本審査にさえ至っていない。

 京大研究炉は、放射線による脳腫瘍治療などの臨床研究の先駆けとして知られる。年に60~80人の患者が訪れていた。多くの患者は、他の治療法を選択せざるを得ず、苦しんでいる。

 近畿大原子力研究所の原子炉は出力1ワットと、豆電球1個も灯せないほど小出力炉だが、やはり、自然災害の想定規模を巡って審査が滞っている。

 この原子炉で、これまで年に100人以上の学生が核分裂の仕組みなどを学んでいた。実習の機会を補うため、近畿大は、他の大学と連携し、韓国の施設を借りての研修を余儀なくされている。

 大学には、規制委の要求に速やかに応じられる資金や人手が十分にない。規制委と大学などの研究機関が意思疎通を密にして、ポイントを絞った審査を進め、長期停止が続く状況を打開したい。

 今週開かれた自民党の原子力規制プロジェクトチームでも、規制委に対し、審査の円滑化を求める声が相次いだ。参考人として出席した大学研究者は、研究炉新設や人材育成への支援を要望した。

 東日本大震災後、大学の原子力関連学科に進む学生は激減した。試験研究炉の長期停止で、一層の学生離れが懸念される。

 原発の再稼働や新増設、福島第一原発の廃炉事業は、優秀な人材なしには成り立たない。

香港長官選法案 「高度な自治」は看板倒れか

 「一国二制度」の名の下に、中国が約束している香港の「高度な自治」は、結局、看板倒れになるのか。

 2017年の次期香港行政長官選挙に向けた選挙制度改革法案が議会で、民主派議員の反対多数で否決された。

 有権者が直接投票する「普通選挙」は次期選挙では実施されず、業界団体代表らによる現行の間接選挙が続く見通しとなった。

 法案は「1人1票」の直接選挙とはいえ、親中派しか立候補できない仕組みである。「ニセの普通選挙」と抗議する民主派が反対票を投じたのは、理解できる。

 1997年に英国から返還された香港では、中国政府が「高度な自治」を認め、憲法に当たる基本法で「普通選挙」実施を目標に掲げたのである。

 昨年8月、基本法に基づき、「普通選挙」の導入を決めたのだが、親中派主体の「指名委員会」を新設し、その半数以上の支持を立候補の要件とした。習近平政権の狙いが反中的な「民主派長官」の誕生の阻止であるのは、明白だ。

 決定に反発する学生らが2か月半、道路占拠デモを行った。にもかかわらず、香港政府がその要求を無視し、中国の意向を忠実に踏まえた法案にしたのも問題だ。

 中国外務省報道官は定例記者会見で、法案の否決について、「17年に香港で行政長官の『普通選挙』が行われないという結果は、目にしたくなかった」と語った。どこか空々しさもうかがえる。

 今回、採決を巡る学生らの抗議デモは、昨年の「雨傘革命」ほどの規模には広がらなかった。デモの長期化による交通渋滞や経済的損害に対する一般住民の嫌悪感が強かったためとみられる。

 社会の安定を乱しているとして学生側を孤立させる習政権の世論工作も、奏功したのだろう。

 これを、香港の民主化を求める声が小さくなったと、習政権が判断しているなら、あまりにも浅慮ではないか。

 改革プロセスをこのまま放棄することは認められない。

 懸念されるのは、習政権が強権的手法をとればとるほど、民主派や学生の反発が先鋭化することだろう。深まる溝は香港の安定と繁栄を損ないかねない。そのツケはやがて中国にも回るはずだ。

 習政権には、香港の「自治」を尊重し、民主派や学生らと対話を進めることが求められている。真の「普通選挙」実現へ、歩みを続けなければ、国際社会の幅広い信頼を得ることはできまい。

2015年6月18日木曜日

安保法案の修正協議をためらうな

 今国会で2回目の党首討論では、安全保障関連法案を巡り与野党が非難合戦を展開した。安保政策は国家の根幹をなす課題で、国論を二分するのは好ましくない。与野党の言い分には共通する部分もあり、接点は見つかるはずだ。各党は安保法案の修正協議をためらうべきでない。

 岡田克也民主党代表「とても憲法に合致しているとはいえない」

 安倍晋三首相「正当性、合法性には完全に確信を持っている」

 両党首の論戦はとげとげしい雰囲気に終始した。言いたいことだけを一方的に話し、双方が「質問に答えていない」と相手を難詰するのは、見ていて気分のよいものではない。

 集団的自衛権の限定解除はなぜ必要か。首相は「どの国も一国のみで自国を守ることはできない」と力説した。岡田氏は、政府が存立危機事態として例示するケースは個別的自衛権で対処できる、との立場から「集団的自衛権はいらない」と断じた。

 この溝を埋めるのは難しい。安倍政権が進める安保政策の是非については、最後は次期衆院選で国民の審判を仰ぐしかあるまい。

 とはいえ、与野党がオール・オア・ナッシングでぶつかり合ってよいのか。存立危機事態に至っていない状況への備えに関しては、野党も無策でよいとは思っていない。維新の党がまとめた領域警備法案はその1例である。

 維新の松野頼久代表は党首討論で「修正協議に応じるつもりは全くない」と語った。党内に与党との協調を重視する勢力と野党結集を志向する勢力があり、うかつに動きにくいようだが、そうかたくなになる必要はない。

 今国会の会期は24日で終わる。大幅な延長は不可避である。この機会に、のべ11本ある安保関連法案を仕分けしてはどうだろう。

 与野党が共通の土俵にあがれるものは修正協議で中身を詰める。相いれないものは互いの違いを明確にする。わかりにくいとされる安保法案を有権者が理解するのに一助となろう。

 参院の選挙制度改革を巡り4野党が作成した選挙区の合区を含む10増10減案について、首相は「取りまとめの努力に敬意を表する。傾聴に値する」と明言した。

 自民党の参院執行部は都道府県単位の選挙区維持にこだわってきたが、勝負あり、である。一刻も早く同案を受け入れるべきだ。

本当に必要な病床だけ残そう

 団塊の世代の人たちが全員75歳以上の後期高齢者となる2025年に、必要となる入院ベッド(病床)数は全国で115万~119万――。そんな推計結果を政府がまとめた。現在の病床数はおよそ135万なので、1割以上が不要になる計算だ。

 余分なベッドは必ずしも必要のない入院につながり、医療費がかさむ原因になりかねない。限りある医療資源を有効に活用するためにも、今回の推計を踏まえ、病院の再編などによって病床の削減を着実に進めてもらいたい。

 今回の推計は、救命救急や長期療養といった病院の役割分担を進め、患者の状態に応じて適切な医療が受けられる効率的な体制をつくることを前提とした。高齢者については自宅など住み慣れた場所での療養を基本とした。

 推計によると、高齢者が急増する首都圏や大阪など一部地域では病床が不足するが、大半の地域では過剰となる。機能別では、一般的な病床や高齢者の長期入院に対応するための病床は今ほど必要ではなく、自宅に戻れるようリハビリを重点的に実施する病床などを増やす必要があるという。

 病床の削減や機能の見直しは簡単に実現するわけではない。今回の推計をもとに、次は都道府県が地域ごとに25年時点でどのような機能の病床がどの程度の数で必要かを示す「地域医療構想」を策定する。この構想を実現するため、補助金などで病院の再編を促す、というのが政府の腹づもりだ。

 都道府県が地域医療構想を策定する際に、甘い見通しや医療機関などへの過度な配慮は禁物だ。政府の推計とかけ離れた現状維持に近い構想になっては意味がない。根拠にもとづいた適切な構想にすべきだ。病院も今のままでは将来の生き残りがおぼつかない。構想の実現に協力してもらいたい。

 病床を減らす一方で、自宅や高齢者住宅で療養する高齢者のための環境整備が求められる。効率的な在宅医療・介護体制づくりにも知恵を絞りたい。

18歳選挙権―政治が変わらなければ

 選挙権年齢を18歳以上にする改正公職選挙法がきのう成立した。来年の参院選から、18、19歳の約240万人が新たに有権者となる。

 政治参加の間口を広げ、若い世代の声を政治により反映させる。大きな意義のある改革であり、歓迎したい。

 ただ、若い有権者を増やすだけで政治が変わるわけではない。先の統一地方選で顕著だった低投票率や議員のなり手不足といった政治の停滞は、もはや見過ごせないレベルにある。選挙権を拡大しても、投票に行かない有権者を増やすだけに終わっては意味がない。

 18歳選挙権に向け、各地の教育現場では、模擬投票など「主権者教育」への取り組みが始まっている。学校で友人と政治や民主主義を考え、投票に行こうと声をかけ合う。10代での経験は政治参加の原点として年齢を重ねても生きるに違いない。

 一方、政治の側からも、若者に限らず有権者全般との間にある垣根を低くするためのアプローチが求められる。

 政治家の顔ぶれをみると、世襲が相変わらず目立ち、官僚や地方議員の出身者も多い。国会でも地方議会でも会社員や公務員が立候補するには職を辞したり、高額の供託金などを工面する必要があったりと、高いハードルがあるからだ。

 規制だらけの公選法も有権者から選挙を遠ざける一因だ。戸別訪問で政策を訴えることは禁じられ、選管主催の立会演説会は30年以上前に廃止された。

 1950年の公選法制定時には衆参両院選とも30日間だった選挙期間はどんどん短縮され、いまは衆院選12日間、参院選17日間だ。有権者が候補者の人柄や政策を吟味する時間はどんどん削られている。

 ネットによる選挙運動は認められたが、前回衆院選の当選者のうち「最も重視する情報発信手段」としてネットを挙げたのは2%にとどまる。街頭演説予定のお知らせといった使い方が目立ち、まだまだ十分に活用されていないのが実情だ。

 政治家本位でなく、有権者本位の選挙にする。そのために運営を工夫した立会演説会の復活や選挙期間の見直しなどを、積極的に検討すべきだ。

 そして何よりも、政治そのものが若い有権者をひきつける存在になる必要がある。

 選挙に勝てば何でも決められる。そんな「数の力」が政治の基本原理であるかのような国会が続いている。このままでは、若者の政治参加への意欲も育ちようがない。

党首討論―空費される言葉たち

 「このはし(橋)を渡ってはいけない。そう書いてあるのに、なぜ渡ってきたのか」

 「いえいえ、はし(端)は渡っていません。真ん中を通ってきたのです」

 こんな「一休さん」の説話を想起させるほど、きのうの党首討論の議論はまったくかみ合っていなかった。

 衆院憲法審査会で参考人として招かれた憲法学者3人が、安全保障関連法案を「憲法違反」と断じたあと、首相が初めて立つ、国会論戦の舞台である。当然、憲法をめぐり活発な議論が戦わされると期待した人も多かったはずだが、議論は低調で、首相と民主党の岡田代表が互いに「私の質問に答えていない」と言い合う始末だ。

 首相は、何のために討論の場に立っているのか理解していない様子だった。時間が限られていることを承知の上で、延々と持論を展開したり、岡田氏が「暴力を肯定した」とレッテルを貼ったりと、民主党批判に時間を費やした。法案への国民の理解を深めたいと本当に思っている人が取る態度ではない。

 「重要影響事態にどういうことが加われば存立危機事態になるのか」。岡田氏の質問に対し、首相は法案の定義をなぞるばかりで、あえて付け加えたのは「どういうことでなければ武力行使をしないのか、そんなことをいちいちすべて述べている海外のリーダーはほとんどいない」という言葉だった。

 岡田氏は「だからやはり憲法違反だ。(法案は)時の内閣に、武力行使するしない、憲法違反になるならないの判断を丸投げしているのと一緒。こんな国はどこにもない」と指摘。それでも首相は集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更について「昨年5月15日の私の記者会見以来、約300人の議員の質問に答えている。この正当性、合法性には完全に確信を持っている」と言い切った。

 何人の質問に答えようが正当性とは無関係だ。「憲法違反」の疑念は払拭(ふっしょく)されていない。

 討論を通じて改めてはっきりしたのは、首相は異論に耳を傾けようとしないし、異論をもつ人を説得する意思も持ち合わせていないということだ。

 維新の党の松野代表は「審議をすればするほど、内閣の説明が十分でないという人が増えていく。答弁されればされるほどよくわからなくなっていく」と指摘した。その通りである。

 こんな審議をどんなに重ねても、日本という国のありようを大転換させる重大法案の成立を許す免罪符にはならない。

18歳選挙権 若者の政治参加を促進したい

 より多くの若者が政治に興味を持ち、主体的に参加する。そのために、政府や政党、自治体、学校などが連携したい。

 日本の民主主義の質を高めることにもつながろう。

 選挙権年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が成立した。来夏の参院選から18、19歳の約240万人が新たに有権者となる見通しだ。

 世界では、18歳以上の選挙権が圧倒的に主流だ。日本も遅ればせながら仲間入りする。全有権者の2%とはいえ、高校生らが選挙に参加することは、社会に重要な変化を及ぼす可能性がある。

 巨額な財政赤字や、少子高齢化に伴う社会保障費の増大は、将来世代の重い負担に直結する。だが、若者の投票率が高齢者に比べて大幅に低いため、各党の政策は高齢者を優遇しがちだ。

 若年層の人たちにこそ、投票所に積極的に足を運び、政府や自治体の政策に影響を与えることの大切さを自覚してもらいたい。

 高校や中学での主権者教育を強化することが急務である。

 文部科学省は、総務省と連携し、年内にも選挙制度や選挙違反などを解説する副教材を全高校生に配布する予定だ。高校では近年、模擬投票を実施し、選挙を“体験”する取り組みも広がってきた。

 従来は、文科省と日本教職員組合の対立の影響などから、学校教育で政治や時事問題に深入りするのはタブー視されてきた。

 今後は、政治的中立性を確保しつつ、政党や候補者の公約や政策を正しく理解する能力を身につけさせることが求められる。特定政党の価値観の押しつけを避けるためには、担当教師の研修や手引書の作成などが欠かせない。

 若い世代の意見を政治に反映しやすくする観点では、被選挙権年齢も議論の対象となろう。

 参院議員や知事は30歳以上、衆院議員や、知事を除く首長、地方議員は25歳以上だが、引き下げを前向きに検討してはどうか。

 改正公選法の付則には、民法の成人年齢の「20歳以上」や、少年の保護や更生を重視する少年法の適用年齢の「20歳未満」について、引き下げを促す規定が明記された。自民党は4月に特命委員会を設置し、論議を始めている。

 まずは、親の同意なしでの商契約など、個別の規定ごとに、どんな課題があるのか、どう対策を講じるのかを検討すべきだ。

 一律に「18歳」に引き下げるのは乱暴としても、見直し作業を着実に進めることが重要である。

党首討論 岡田氏は米艦防護を拒むのか

 日本が直面する危機にいかに対処し、安全を確保するのか。今国会2回目の党首討論でも、そうした本質的な政策論争が行われず、批判合戦に終始したのは、物足りなかった。

 民主党の岡田代表は、集団的自衛権の行使に関し「時の内閣に判断を丸投げしている。白紙委任だ」と批判した。安全保障関連法案についても、「憲法に合致していると言えず、違憲だ」と断じた。

 安倍首相は、法案は「憲法の範囲内にある」と反論した。集団的自衛権の限定行使を容認した理由として、「国際状況に目をつぶって、国民の命を守る責任を放棄してはならない」とも強調した。

 集団的自衛権の行使には、「国民の権利が根底から覆される明白な危険」などの厳格な要件が定められている。日本の存立を全うするための自衛措置は許されるとの従来の政府見解も踏襲している。「違憲」批判は当たらない。

 法律に基づき、「時の内閣」が現場の状況や国際情勢を踏まえて政策判断するのは当然だ。「白紙委任」との主張もおかしい。

 首相は、朝鮮半島有事で米軍艦船が攻撃された場合、日本が防護しなくていいのかと迫ったが、岡田氏は直接の回答を避けた。その後、有事対応は個別的自衛権で可能であり、集団的自衛権は必要ない、と主張した。

 だが、個別的自衛権だけで米艦防護を行うことには、国際法上、無理がある。目の前で攻撃された米軍艦船を自衛隊が見捨てるようでは、日米同盟は成立しない。

 だからこそ、民主党は4月の党見解で、将来、集団的自衛権の行使を容認することに含みを残したのではなかったのか。

 安倍首相も、岡田氏の質問に正面から答えず、議論がかみ合わない場面が目立った。双方が誠実な質疑応答を心がけなければ、建設的な党首討論は実現しない。

 維新の党の松野代表は、安保法案の対案をまとめる考えを改めて表明した。対案には、集団的自衛権行使の要件の追加や、自衛隊の後方支援の活動範囲の限定などが盛り込まれるとされる。

 理解に苦しむのは、松野氏が与党との修正協議に「応じるつもりはない」と明言したことだ。

 対案の策定は、国会で成立させ、実現を目指すためのはずだ。与党との合意形成を最初から放棄するのでは、単なる政治的パフォーマンスと見られかねない。

 維新は、安保法案についても、政権に是々非々で臨む「責任野党」の立場を貫くべきだ。

2015年6月17日水曜日

企業は株の長期保有をいかに促すべきか

 上場企業は好業績や利益還元を求める株主の声に、できるだけ応えなければならない。そうかといって、設備投資や研究開発をおろそかにすれば成長は続かない。経営を長い目で見守り、支援してくれる株主を増やすには、どうしたら良いのだろう。

 世界中の企業が今、こんな悩みを共有し、それぞれに手立てを講じようとしている。

 トヨタ自動車が16日の株主総会で売買を制限した新型の株式を発行する議案を出したのも、長期の株主づくりが目的だ。同議案は約75%の賛成票を得て可決されたが、前例のない試みということもあり、市場関係者には戸惑いが広がった。米欧の年金基金から反対や疑問の声も寄せられた。

 トヨタは改めて新型株の発行の狙いを説明し、これまで以上に丁寧に長期の成長戦略を市場に示していく必要がある。

 トヨタの新型株は、投資家が5年間売買できないかわりに、その後は発行時の価格で買い取りを求められる。元本毀損のリスクが少ない社債のようでもあるが、配当や議決権はある。

 トヨタは新型株の発行で調達する資金を、車の自動運転や環境などに関する技術の研究開発に用いる方針だ。5年間は売却しない株主が増えるため、短期の研究成果や株価変動を気にしすぎることなく、開発にじっくり取り組みやすくなるとみられる。

 しかし、新型株への評価は肯定的なものばかりではない。ある米大手議決権行使助言会社は売却制限を問題視し「経営への市場の規律が働きにくくなる」と反対を呼びかけた。米年金基金からは「海外株主への配慮が不十分」といった批判も聞かれた。

 いずれも理屈のとおった指摘だ。トヨタは新型株の発行に際し、反対株主の理解を改めて得るためにも、国内外で説明会などを開く必要がある。新型株に否定的な機関投資家が保有株を売却するようなことになれば、トヨタの株価は不安定さを増しかねない。

 そもそも長期保有の株主づくりは、企業が経営理念や事業戦略を説明し、投資家の賛同を募ることから始めるべきだ。その結果として企業を長期にわたって支援する株主が増え、経営や株価が安定するというのが本筋だ。株式市場に対して強い経営のメッセージを発信する力を、企業はさらに磨いていく必要がある。

規制改革の「検討」で終わるな

 政府の規制改革会議が答申をまとめた。規制改革は成長戦略でもっとも重要な課題だ。個別の項目では「検討」としただけで実質的に結論を先送りしたものも少なくない。具体策を順次まとめ、速やかに実行に移してほしい。

 保険診療と保険外診療を併用する混合診療の拡大、農協改革など「岩盤規制」に取り組んだ昨年と比べると、今年の答申は全体として小粒な印象は否めない。

 医療分野では、患者が病院などの外にある調剤薬局で薬を受け取る「医薬分業」で、関連する規制の一部見直しを打ち出した。薬剤師は本来、医師の処方内容をきちんと点検することが期待され、高い調剤報酬を与えられている。

 だが、病院の周囲に乱立する「門前薬局」は、患者の服薬情報を一元管理する役割を必ずしも果たしていない。報酬は適正に見直すべきだ。病院と隣接する薬局との間にフェンスを置くといった不必要な規制を改めるのも妥当だ。

 雇用分野では、裁判所が解雇無効の判決を出したあと、労使が金銭で紛争を解決する方法を検討すべきだとしている。

 これを受け、労使の代表や学識経験者などによる議論の場で検討が始まる見通しだ。実効性のある方策を詰めてほしい。

 安倍晋三政権がすすめる地方創生にあわせ、地域活性化のための規制改革を追加したのも特徴だ。

 旅行者から料金をとって自宅に泊める場合、年1回程度のイベント開催時であれば旅館業法の許可をとらずにすむようにする。

 しかし、インターネットを使い、自宅の一部や別荘を有償で貸し出す米国発のサービスを認めるかどうかは「実態の把握を行った上で幅広い観点から検討し、結論を得る」とするにとどめた。理容と美容の規制改革も中途半端だ。

 規制の本質は細部に宿る。結論を先送りした項目について各省庁が「検討はしたが、やっぱりやらない」となっては困る。監視役としての規制改革会議の仕事はこれからが始まりだ。

福島の廃炉―甘い見通しと決別を

 政府と東京電力が、福島第一原発の廃炉に向けた中長期ロードマップ(工程表)を2年ぶりに改訂した。1~3号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し時期は、最大3年遅れとなる。「スピード重視からリスク低減を重視する方針に転換した」と政府や東電は説明する。

 出だしから遅れることになった従来の工程表は、見通しが甘かったと言わざるを得ない。

 果たして、最大3年遅れになると今、見通せるのか。また、今まで、リスク低減を重視してこなかったのは、なぜなのか。

 これまでの遅れから具体的な教訓を引き出し、政府や東電は、今後の長い廃炉工程に生かすべきである。

 プール内の核燃料は出来るだけ早く安全な場所に移さなければならない。その搬出が遅れるのは、準備段階のがれき撤去や作業フロアの除染に時間がかかっているためだ。

 一昨年秋、安倍首相は五輪の招致演説で「状況はコントロールされている」と言い切った。

 だが、この2年間ではっきりしたのは、状況はコントロールにはほど遠く、従来の工程表も高濃度、広範囲の放射能汚染などの現状を十分に踏まえた計画になっていなかったことだ。

 がれきを動かせば放射性物質が舞い、原発の敷地外にも飛散しかねない。除染が進まなければ作業員の被曝(ひばく)線量が増え、作業時間が限られる。

 従来の工程表は、炉内の溶けた燃料がどこにどれだけたまっているかわかっていないのに、1~3号機すべてで格納容器を水に満たす「冠水工法」で取り出すなどと決めてもいた。通常の取り出し方法に近い。

 だが、様々な方法で格納容器の状況を探ると止水や耐震での難しさがわかってきた。今回、冠水工法をいったん取り下げ、今後2年程度で取り出し方法を検討するとしたのは、当然だ。

 疑問なのは、「もっと幅広く検討すべきだ」という外部専門家の意見になかなか耳を貸さなかった姿勢である。

 膨大なタンク群にたまっていた高濃度汚染水は先月、東電が「処理完了」を発表した。しかし、毎日新たに生じる約300トンの高濃度汚染水から汚染物質を分離する作業は続く。除去しきれないトリチウム(三重水素)に汚染された水は依然、タンクにたまっていく。

 事故原発の廃炉は、日本では過去に例のない難事業である。現状を地元や国民に説明して廃炉作業そのものへの理解を得ながら、リスク低減を最優先として進めるべきである。

法科大学院―特性生かす教育の場に

 法曹養成の柱である法科大学院の数を絞り込む法曹養成改革の見直し案を、政府が固めた。

 改革案は、法科大学院をピーク時の74校から減らして「少数精鋭」とし、修了者の7割は司法試験に受かるよう立て直すというもの。合格者数目標は「少なくても1500人程度」としている。合格率の不振が続く法科大学院は生き残れなくなる行政措置も検討するという。

 確かに、法科大学院の入学志願者は、初年度の04年の約7万2千人から、今年度約1万人に落ち込んでいる。

 金も時間もかかる法科大学院に行っても司法試験に合格するとは限らず、受かっても就職が難しいなど、将来の見通しにくさが敬遠される理由のようだ。

 法曹への社会のニーズを踏まえて合格者数を見直すことは理解できる。修了すれば司法試験を受けられる独占的な地位を考えると、法科大学院には一定の合格実績が期待されて当然だ。

 だが、法を通して公と私のあり方や大学の自治を学ぶ場が、閉校や補助金削減といった政府の圧力に常にさらされているのは好ましいことではない。加えて、合格実績ばかりを重視すれば、法科大学院の受験予備校化が避けられまい。

 そもそも法科大学院の創設は、超難関の司法試験の突破から始まる法曹養成から決別し、法律以外を学んだり、他職を経験したりした人たちを迎え、時代とともに多様になる要請に応えることだったはずだ。

 この点は、いまだ実現したとはいえない。ねらいとは逆に、法学既習者コースの入学者数が未習者コースの倍となり、主流となっている。

 すでに別の得意分野がある人をしっかり法曹に育て上げる。社会人が通える夜間・休日に指導する。こうした実践を複眼的に評価してほしい。

 この10年余進んだ改革は、「質量ともに豊かな法曹」を旗印に、司法試験を法科大学院修了後に受ける原則に改めたうえで、合格者を増やした。

 多い年で2千人以上が合格し、法曹が増えるなか、地方で「弁護士過疎」といわれた状況が改まり、費用がなくても法律相談に駆け込める拠点が各地にできる成果があった。

 それでも特殊詐欺などに巻き込まれる人、ストーカー・DV被害に悩む人は絶えない。助けがいる人に無料相談などの情報が届きにくい現実もある。

 法律家の保護でなく、市民が使える法律サービスが十分かどうかの観点から、今後の法曹人口を柔軟に考えていくべきだ。

福島復興新指針 自立への転換点が示された

 福島の復興が新たな段階へと歩を進める。その目安となる時期が明示された意味は大きい。

 政府が、東京電力福島第一原発事故からの復興の加速に向けた新指針を閣議決定した。自民、公明両党の提言がベースになっている。

 注目されるのは、放射線量が極めて高い帰還困難区域を除く避難指示区域全域で、2017年3月までに指示を解除する方針が明記されたことだ。今なお避難生活を送る約7万9000人のうち、約5万5000人が対象になる。

 地元に戻るか、別の土地に住み続けるかで、避難者は揺れている。指針は、将来設計を立てる上での判断材料となろう。

 避難指示の解除が見込まれる住民に対しては、現在、精神的損害賠償として、東電から1人月10万円が支払われている。これについても、18年3月で支給を終了させる方針が盛り込まれた。

 避難指示解除の時期にかかわらず、一律に期限を区切ることで、住民が賠償を巡る不公平感を抱かないようにする狙いがある。

 商工業者への営業損害賠償は、これまでの予定を1年間延長し、17年2月分まで続ける。賠償終了の時期が示された点では、精神的損害賠償と同じだ。

 帰還の前提となる除染が完了していない地域が多い中で、賠償終了の時期が具体化したことに反発する住民は少なくない。その心情は理解できる。

 ただ、避難住民が、主体的に生活再建を果たすためにも、どこかで賠償に区切りをつける必要があるのではないか。新指針は、自立への転換点を示したものだと、前向きに捉えたい。

 福島県は、避難指示区域外からの自主避難者に対する住宅の無償提供を17年3月で打ち切ることを決めた。政府の指針と軌を一にするものと言えよう。

 政府が今後、注力せねばならないのは、一人でも多くの住民が帰還できるよう後押しすることだ。商店が営業を再開しても、住民が戻らず、顧客が十分にいなければ、商売は成立しない。

 医療機関や教育施設などの整備は不可欠だ。

 何より重要なのは、雇用の確保である。政府は第一原発周辺の12市町村の再生プランを今夏に策定する。廃炉関連産業の集積など、具体的な将来像を示すべきだ。

 自宅に戻れるメドさえ立たない帰還困難区域の住民も、2万人を超える。政府は継続的な支援を忘れてはならない。

国立大学改革 人文系を安易に切り捨てるな

 「知の拠点」としての役割を果たせるよう、国立大学が自ら改革を進めることが重要だ。

 文部科学省が、86の国立大学に対し、組織や業務の全般的な見直しを求める通知を出した。各大学は通知を踏まえて、来年度から6年間の運営目標と計画を作成する。

 2004年度の国立大学法人化により、大学の運営や財務は自由度が高まった。にもかかわらず、依然として魅力や個性に乏しい大学があるのも否めない。

 大学が、グローバルに活躍する人材や地方創生の担い手を育成する機能への期待は大きい。文科省が今回の通知で、各大学に改めて、強みや特色を明確に打ち出すよう促したのは理解できる。

 昨年の学校教育法改正で、学長はリーダーシップを発揮しやすくなった。学長が人事や予算の権限を適切に行使し、戦略性を持って、教育・研究の環境整備を図ることが欠かせない。

 疑問なのは、文科省通知が、文学部など人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院について、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換を迫った点だ。

 確かに人文社会系は、研究結果が新産業の創出や医療技術の進歩などに結びつく理工系や医学系に比べて、短期では成果が見えにくい側面がある。卒業生が専攻分野と直接かかわりのない会社に就職するケースも少なくない。

 社内教育のゆとりが持てない企業が増える中、産業界には、仕事で役立つ実践力を大学で磨くべきだとの声が強まっている。英文学を教えるより、英語検定試験で高得点をとらせる指導をした方が有益だという極論すら聞こえる。

 だが、古典や哲学、歴史などの探究を通じて、物事を多面的に見る眼や、様々な価値観を尊重する姿勢が養われる。大学は、幅広い教養や深い洞察力を学生に身に付けさせる場でもあるはずだ。

 必要なのは、人文社会系と理工系のバランスが取れた教育と研究を行うことだろう。

 文科省は来年度以降、積極的に組織改革を進める大学に、運営費交付金を重点的に配分する方針だ。学生の就職実績や、大学発ベンチャーの活動、知的財産の実用化の状況といった指標を基に、評価するという。

 厳しい財政事情を踏まえれば、メリハリをつけた予算配分も大切だろう。ただ、「社会的要請」を読み誤って、人文社会系の学問を切り捨てれば、大学教育が底の浅いものになりかねない。

2015年6月16日火曜日

日米安保50周年を考える

日米安保が現在も継続されていることによるメリットについてまとめてみます。


日本にとっての最大のメリットは、自衛隊の装備や人員を増強せずに、世界最強レベルの兵器及び訓練された米兵が代わりに守ってくれることでしょう。


1960年の新安保条約では、日米共同防衛が明文化され、第5条にアメリカの対日防衛義務が定められています。


日本を取り巻く国際環境は、北朝鮮によるミサイル発射や核実験などが騒がれているように、未だに不安定な要素があります。


アメリカの「核の傘」に入ることにより、抑止力が働いているといわれています。


*「核の傘」とは・・・・・

自らが核兵器を持たずとも、安全保障条約を締結している他国が核兵器を保有してれば、その核兵器によって核抑止力が得られるという考え方。


日米安保はメリットばかりではありません。


ここでは逆に、日本にとってのデメリットと言われている部分を見ていきましょう。


アメリカ軍が駐留しているということで、アメリカを敵視する国から日本も標的にされ、巻き込まれる可能性があることです。また、アメリカの国家戦略、特に軍事戦略の中に日本が組み込まれて、軍事に関するあらゆる面においてイニシアティブ(=主導権)を完全に握られてしまっています。


国際政治上でも、日本は実質的にアメリカの監視下に置かれているイメージを持たれているようです。


アメリカ兵の犯罪処罰においても、日本が不利な立場に置かれているということは、ニュースなどで伝えられているのでご存知の方も多いのではないでしょうか。


アメリカ軍に頼ってしまっているために、日本独自の軍事技術がなかなか育たないということもあります。

以下記事↓を参照の元


日米安保50周年を考える

スマホを安く手軽に使える環境整備を

 スマートフォン料金の高さに不満を抱く利用者は少なくない。NTTドコモとKDDI、ソフトバンクの携帯大手3社の料金は横並びで選択の余地は小さく、他の先進国と比べても高めの水準だ。スマホの保有率も約5割と低い。

 良質で低廉な通信サービスは、日々の経済活動や社会のコミュニケーションを支える土台ともいえる。スマホをもっと安く手軽に使える環境整備を急ぎたい。

 その突破口になると期待したいのが、総務省の指針に沿って今年5月から始まったSIMロックの解除措置だ。

 これまで通信会社は利用者を囲い込むためにスマホや携帯電話にSIMロックという縛りをかけ、例えばKDDIで購入した端末は同社の通信サービスしか利用できないことが多かった。この縛りを解くことで、利用者は手持ちのスマホを使い続けながら通信会社の移行が可能になる。

 大手3社からの乗り換え先として注目されるのが、3社のネットワークを借りて格安料金でスマホサービスを提供する「MVNO」と呼ばれる通信会社だ。

 近年はイオンなど大手流通企業がMVNO事業に名乗りを上げ、一般の消費者にとって格安スマホは身近な存在になりつつある。料金面でも例えばデータ通信だけなら月額1000円以下のサービスが登場した。多様なプレーヤーの参入で停滞気味だった携帯通信市場が活性化し、消費者の選択の幅が広がることを期待したい。

 政府の役割も重要だ。従来から総務省は競争促進の旗を振ってきたが、うまくいかず、大手3社の寡占化が進んだ。通信ネットワークをゼロから整備するには巨額の投資が必要で、事業基盤の弱い新規参入者は大手3社にとても太刀打ちできないのが実情だ。

 MVNOは大手のネットワークを借りてサービスするので参入しやすいが、逆に設備をライバルに依存するという弱みもある。政府は大手3社が自社の設備を適切な条件で外部の事業者に開放するよう、ルールの策定や競争状況の監視に力を注いでほしい。

 現状では、自分の電話番号を持ったまま大手3社からMVNOに乗り換えると、移行期の数日間は電話ができないといった状況が生じることがある。消費者の選択を妨げるこうした問題をひとつひとつ解消し、市場全体の自由度を高めるのが政府の役割である。

石炭火力の位置付けを明確に

 石炭火力発電所の位置付けをそろそろ明確にすべきではないか。望月義夫環境相が山口県で進む建設計画について「是認しがたい」とする意見を表明した。

 大規模開発の事前調査を定めた環境影響評価(アセスメント)法に基づく意見表明である。全国で相次ぐ石炭火力の新増設を無制限に認めれば、国が決めた温暖化ガスの削減目標の達成が危ぶまれるとの指摘だ。

 確かに石炭火力は天然ガスや石油を使う火力に比べて、二酸化炭素(CO2)の排出量が多い。一方で発電コストが安く、長時間、安定的に発電できる点で優れている。石炭の課題に対処しながら、上手に使っていく枠組みを早急に整えなければならない。

 大型石炭火力の計画は全国で10カ所以上ある。電力自由化に備えて域外進出を準備する電力会社や、異業種から参入する企業の建設計画が相次いでいるためだ。

 政府は2030年時点の望ましい電源構成で石炭火力の比率を26%とする方針だ。この比率が温暖化ガスの削減目標の前提となる。だが、既存の石炭火力に計画中の発電所が加わると電源比率が定める発電量を上回ってしまう。

 この状態は放置できない。安定供給や産業競争力とのバランスを考えながら温暖化ガスの排出に歯止めをかける仕組みが必要だ。電力会社と参入企業の代表が自主的な削減目標について議論を始めている。これを急がねばならない。

 石炭火力の利用は発電効率が高く、CO2排出量が少ない設備を優先すべきだ。海外では新興国を中心に石炭火力が発電の主力を担う。日本が率先して新技術を導入することで発電プラントの輸出競争力を高め、ひいては輸出先の温暖化ガス削減に貢献できる。

 小規模な石炭火力への対処も必要だ。出力11万2500キロワット未満の発電所は環境への影響を調べる事前調査の対象にならない。建設期間が短く、多数の計画が進んでいる。これらのCO2排出を抑える対策も考えるべきだろう。

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