2015年11月30日月曜日

円借款改革 国際受注競争へ機動性高めよ

 新興国の持続的な成長には、質の高いインフラ(社会基盤)の整備が不可欠だ。政府は、積極的に支援し、日本企業の受注にもつなげたい。

 安倍首相がマレーシアのビジネス投資サミットで、政府が長期・低金利で途上国に資金を貸し付ける円借款の改革を表明した。

 手続き期間を現在の3年から最大で1年半に短縮する。自治体や国営企業に対する融資条件も緩める。従来は、現地政府が返済を確約する「政府保証」を必須としていたが、相手国の経済が安定している場合などは免除する。

 今年9月、インドネシアの高速鉄道計画の受注競争で、日本は中国に敗れた。中国は、インドネシア政府の保証を求めず、短期間で施工する提案を行ったという。

 これを教訓に、円借款の機動性と柔軟性を高め、中国に対抗しようとする政府の方針は妥当だ。

 首相は、アジア諸国に対して「積極的にリスクマネーを供給する」とも強調した。

 政府系金融機関の国際協力銀行(JBIC)は、より高いリスクを取った融資も行う。アジア開発銀行との連携も強化する。首相は今後5年間で約13兆円のアジア支援を行う方針を示している。

 急成長するアジアでは、年間8000億ドル(約98兆円)のインフラ需要が見込まれる。政府資金を呼び水にして、民間資金も取り込み、各国の要請に応えたい。

 重要なのは、相手国の自立的な発展を後押しするという日本外交の伝統的な理念を貫くことだ。

 優れた技術を生かし、強靱で環境に優しい道路や橋、海底トンネル、発電所などを建設することが相手国の長期的な利益となる。

 現地の若者らの技能向上や知識の習得などにも協力すべきだ。

 こうした日本の姿勢が各国に評価されれば、日本企業のインフラ輸出の拡大にも役立とう。

 環太平洋経済連携協定(TPP)により、マレーシアやベトナムなどでも公共事業の国際入札が広がるとみられる。こうした商機を逃さないようにしたい。

 先進国でも高速鉄道事業などを巡る受注競争が激しい。

 安倍首相は外国訪問に日本企業幹部を積極的に同行させ、受注に結びつけている。こうしたトップセールスは続ける必要がある。

 日本の官民ファンドは今月、米テキサス州で高速鉄道事業を計画する企業への出資を決めた。新幹線システムの採用を目指す。

 官民一体となった戦略的な取り組みを進めたい。

核廃棄物処分 現実的なフィンランドの判断

 原子力発電に伴う高レベル放射性廃棄物の処分に苦慮する国々の参考になるのではないか。

 フィンランド政府が世界で初めて、最終処分場の建設を許可した。計画を担うポシバ社は、来年末までに着工し、2023年の稼働を目指す。

 高レベル放射性廃棄物は、長期間にわたって強い放射線を発するため、深い地下に埋める地層処分が最適とされている。

 安定した地層を選び、開発が及ばない地下400メートル以上の場所に何重もの安全措置を講じて埋設すれば、半永久的に地上への影響は生じない、という考え方だ。

 先頭を走るフィンランドは、その実証に挑むことになる。

 日本と異なり、フィンランドは使用済み核燃料を再処理せず、直接埋める計画だが、高度な安全性が求められることに変わりはない。工事が円滑に進むかどうか、各国の関心は高まろう。

 建設許可まで進んだ背景には、フィンランドの地政学的事情もある。エネルギー資源に乏しく、電力の3割を原発に頼る。使用済み核燃料を隣国ロシアに移送した時期もあるが、国際情勢を考慮すればロシア依存は続けられない。

 フィンランドでは、政府と原子力業界が1980年代に処分地探しを始めた。地層データから100以上の候補地を選び、国会が01年、地元の了解を得て、オルキルオトを予定地として承認した。

 原子力業界が建設主体として設立したポシバ社が04年から、オルキルオトの地下調査施設「オンカロ」で、地層や地下水の状態を調査してきた。

 一帯の地下は、安定した岩盤から成る。10億年以上動いていないとされるが、将来の安定性まで証明するのは事実上、不可能だ。

 フィンランド政府はポシバ社に対し、計画を段階的に進め、得られた知見を踏まえて安全性をその都度、向上させるよう求めた。

 日本など多くの国では、永久に安全だと証明できないのなら建設は認めない、といった極端な意見が出る。米国でも、100万年以上も先の安全性が問題視され、候補地の選定は頓挫したままだ。

 この点、フィンランド政府の考え方は現実的と言えよう。

 地元は、雇用創出や税収増を重視して受け入れた。反原発の政党が与党に加わったこともあるが、政争の対象にはならなかった。

 日本では、地元の了解が得られず、詳細な地層データさえ収集できない。処分地探しには、冷静な議論が重要である。

2015年11月29日日曜日

バラマキ排し成長力高める補正予算を

 安倍晋三首相が2015年度補正予算案の編成を指示した。10月に大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)対策や、一億総活躍社会の実現に向けた政策などにあてる費用を盛り込むという。

 実質経済成長率は7~9月期まで2四半期連続のマイナスとなったが、政府は今回の補正予算案を景気対策とは位置づけていないようだ。

 財源は前年度の剰余金や15年度の税収の上振れ分を使い、新規国債の追加発行は見送るという。日本の財政事情は先進国で最悪だ。財政規律への目配りは当然だ。

 歳出面で、災害復旧費などを盛り込むのは妥当だが、安易に歳出を膨らませるようなことがあってはならない。

 政府内では、低所得の年金受給者に3万円程度の給付金を支給することが検討されている。「賃上げの恩恵が及びにくい世帯にアベノミクスの成果を届ける」のが目的とされている。

 今も低所得者向けに年6000円の臨時福祉給付金があるが、それと比べても3万円はかなりの大盤振る舞いだ。

 低所得者なら若年層にもいるが、なぜこの給付金は年金受給者だけが対象なのか。そもそも来年の参院選を意識したバラマキ政策ではないか。一定の低所得者対策は必要だが、今回の給付金には疑問が多い。

 一億総活躍社会に向けた対策として、いずれ必要となる介護施設や保育所を前倒しで整備するのは一理ある。

 しかし、人口減への対応策は本来、息の長い取り組みが必要だ。医療や年金など既存の社会保障予算を抜本的に組み替えて安定財源を確保し、毎年の当初予算に計上していくのが筋だ。

 歳出管理が比較的厳しい当初予算を迂回し、補正予算に対策費を紛れ込ませるのは今回で最後にすべきだ。TPP対策も、農業の体質を抜本的に改善する内容に重点を置いてほしい。

 日本経済の最大の課題は、持続的な経済成長と財政健全化の両立だ。財政出動で一時的に景気を押し上げるのではなく、構造改革で潜在成長率を高めるのが急務だ。

 補正予算案はその目的にあった、費用対効果の高い中身に絞り込んでほしい。野放図に歳出を積み上げるよりも、新規国債発行額を減らして着実に財政健全化を進める視点も忘れてはならない。

民泊活用へルール整備急げ

 個人の家やマンションに宿泊客を受け入れる「民泊」について、厚生労働省などが有識者会議を発足させた。良質の民泊が広がれば、海外からの観光客を増やす効果が期待でき、空き部屋や空き家など遊休設備の有効活用にもつながる。新たな宿泊形態の登場に伴うトラブルを最小限に抑えつつ、民泊を定着させるためのルールづくりを急ぎたい。

 民泊が注目される背景には、都市部のホテル不足がある。外国人観光客の急増にホテルの供給拡大が追いつかず、個人の家を開放することで、少しでも客室不足を和らげようという発想だ。

 だが、民泊の意味合いは単なるホテルの代替ではない。個人の家に泊まることで、日本人の暮らしや住まいに密着した異文化体験ができる。観光ルートから外れた、ホテルなどのない町でも外国人客の誘致が可能になり、地方創生に一役買うかもしれない。

 部屋を貸す側にとっても空き部屋などの活用で追加的な収入が得られる。遊休資産の有効利用は、やや大げさにいえば日本経済全体の生産性向上につながるだろう。引退後に民泊を手掛けたいとの声も多く、宿泊客との交流を生きがいにする人も出てきそうだ。

 そこで急がれるのは民泊をめぐるルール整備だ。有料の宿泊施設の提供には旅館業法の許可が必要だが、ネット上で貸し手と借り手を結ぶ仲介サービスが登場し、法的な位置づけがあいまいなまま普及しているのが民泊の実態だ。

 政府としては、個人の家を開放するホームステイ型民泊については基本的に自由化を進めるべきだろう。借り手と貸し手がネット上で互いに評価し合うことで、粗悪な物件や部屋を汚すような借り手は自然に排除されるはずだ。

 一定の規制が必要なのはアパートの空室などに高回転で客を受け入れるホテル型の民泊だ。騒音などで近隣住民が迷惑するようではかえって民泊普及の妨げになる。

 宿泊客の本人確認など治安面の対策についても検討が必要だ。

民泊の広がり 現実みすえてルールを

 住宅の一部やマンションの空き部屋などを旅行者に提供し、料金を受け取る。いわゆる「民泊」の広がりと、それに伴うトラブルの急増を受けて、政府が検討会を立ち上げて対策とルール作りに着手した。

 使っていない部屋に外国人を泊め、交流しながら生計の足しにする。空き家・空き部屋を有効活用し、地域におカネを落としてもらう――。

 そうした取り組みは、遊休資産を大勢で利用する「シェアリング・エコノミー(共有型経済)」と呼ばれ、社会・経済の新たな潮流として世界的に注目されてきた。

 日本でも、ネットによる仲介業者への登録物件が急増するなど関心が高まっているが、このところ話題になるのはもっぱらトラブルのほうだ。

 旅行客が出す騒音やゴミを巡る周辺住民との摩擦だけではない。外国人旅行者のマンションからの転落死や、多数の部屋をまとめて民泊に回していた業者の摘発など、事故や事件も目につき始めた。

 民泊について、政府は国家戦略特区に指定された自治体で実験的に試みてもらう考えだが、既に現実が先を行っている。訪日外国人の急増を受けて東京や大阪など大都市圏ではホテル不足が深刻で、「民泊なしでは東京五輪を開けない」との声が上がるほどだ。

 まずはトラブルを防ぐルールの整備を急ぎたい。民泊を巡る責任の所在があいまいなまま事故や事件が相次げば、その利点や可能性を逃すことにもなりかねない。

 部屋の提供者や仲介業者にどんな義務・規制をどこまで課すか。多くの法律がからむなかで、旅館業法の適用の可否が焦点になりそうだ。

 ホテルや旅館、民宿などの営業には、旅館業法のもとで都道府県知事などの許可が必要だ。公衆衛生の維持管理を目的とするほか、宿泊者名簿を備えるよう義務づけるなど治安を意識した対応を強化してきた。

 農家に泊まりながら農作業を体験できるのが人気の「農家民宿」も旅館業法の対象だ。ただ、ホテルや旅館には課されているフロントや客室数、客室面積に関する義務や基準がない。民泊にも同様の考えで臨むのか、新たな仕組みを作るのか。

 民泊がいち早く普及した欧米諸国は、規制の導入で試行錯誤を続けている。それらを参考にしつつ、部屋の提供者や仲介業者からのヒアリングも踏まえて、実態に即したルールを整えてほしい。

志賀原発 1号機廃炉へ踏み出せ

 足元に活断層が存在する疑いがある。そんな原発は動かすわけにいかない。

 北陸電力の志賀原発1号機(石川県志賀町)の原子炉建屋直下を走る断層について、「活断層の可能性が否定できない」とした原子力規制委員会の有識者会合の報告書が確定する見通しになった。規制基準は原子炉などの重要施設を、活断層の上につくることを認めていない。

 「疑わしきはクロ」が大原則だ。北陸電力は1号機の廃炉へ踏み出すべきだ。

 自社調査をもとに「活断層ではない」と主張する北陸電力は「合理的な判断とは言えない」と反発している。近くにある2号機の再稼働をすでに規制委に申請しており、その審査の場で反論を続ける構えだ。

 地下の断層が将来活動する可能性があるか。専門家でも判断が難しい。志賀原発では、建設前の地層の図面から活断層の疑いが浮上したが、その場所は工事で現存しない。有識者会合は2回の現地調査のほか、周辺の地形や岩盤などを総合的に検討し、第三者の専門家の検証も経て、北陸電力の主張を退けた。

 その判断は重い。

 規制委に反論し続けるには、さらに調査費がいる。すでに北陸電力は2号機の規制基準適合に向けた対策工事を進め、費用は1500億~2千億円にのぼる見込みだ。再稼働が極めて困難になった1号機に金をつぎ込み続けることが、どこまで利用者の理解を得られるか。

 志賀1、2号機は東京電力福島第一原発事故の直前から停止したままだ。だが、需給に大きな支障はなかった。北陸電力は事故後もほぼ黒字経営で、電気料金の水準は全国一低い。

 北アルプスの水資源に恵まれた北陸電力は、発電量の4分の1を水力が占める。地の利を生かし、原発をもたぬ電力会社に生まれ変わる選択肢もある。

 福島のような事故を二度と起こさないためには、危険度が高い原発から閉じていくのが早道だ。北陸電力には、ぜひ先鞭(せんべん)をつけてもらいたい。

 志賀1号機の運転開始は93年で、国内では比較的新しい。廃炉は重い経営判断だろう。

 ただ、円滑に廃炉を進めるため、国は今春、会計ルールを変えた。廃炉に伴う損失を10年間に分割して計上できるようになるなど、電力会社の負担は軽くなった。

 来春の電力小売りの完全自由化で、電力会社の地域独占は崩れ、経営手腕がより厳しく問われる時代になる。そんな将来をにらんだ判断を期待したい。

官民対話 賃上げと投資増を実現しよう

 日本経済を成長軌道に乗せるには、官民が協力し、知恵を出し合うことが欠かせない。

 政府と経済団体の代表による「官民対話」が開かれた。経団連の榊原定征会長は来春闘で「今年を上回る賃金引き上げを期待する」と述べ、経済界に働きかける考えを表明した。

 実現すれば、2014年の2・28%、15年の2・52%に続く3年連続の高水準の賃上げとなる。経団連の積極姿勢を評価したい。

 安倍首相は「経済の好循環が実現できるかどうかは、賃上げと設備投資にかかっている」と強調した。国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費を増やすには、賃金の上昇が重要だ。

 企業は、過去最高の好業績を上げている。その一部を賃金に反映させることは、経済の好循環を促すうえで有効な手段だろう。

 忘れてならないのは、正社員だけでなく、4割を占める非正規労働者の処遇を改善し、賃上げの裾野を広げることである。

 政府は、全国平均798円の最低賃金を1000円に引き上げる目標を掲げた。中小企業が人件費増に耐えられるよう、大企業と下請けの取引条件の適正化などの政策支援が大切となる。

 企業の設備投資について、榊原会長は、3年間で現在の70兆円から80兆円に増やせるとの見通しを示した。規制改革など9項目の政府の支援策を前提にしている。

 企業の内部留保は350兆円を超え、資金は豊富にある。人口減に伴い、国内市場は縮小傾向にあるが、国内での適切な設備投資は、生産性を向上させ、海外市場での競争力強化につながる。

 生産現場にロボットを導入し、省力化を進める。需要動向などのビッグデータを活用し、製造ラインを高度化する。こうした攻めの投資に取り組んでもらいたい。

 安倍首相は官民対話で、法人実効税率について「16年度の引き下げ幅を確実に上乗せし、早期に20%台に引き下げる道筋をつける」と明言した。経済界の要望に応えることで、企業投資を促進しようとする狙いは妥当である。

 政府は、成長分野に新規企業の参入を促すため、農業や医療、労働分野の規制改革に積極的に取り組むことが求められる。

 政府が企業経営に注文をつけることには異論もあろう。だが、官民双方が要望を出し合い、高い目標を共有して、具体策を講じる意義は大きい。対話を継続する中で問題点と対策を整理し、デフレ脱却を確実なものにしたい。

小中教員定数 削減と課題克服の両立を図れ

 教育は、日本の将来を担う子供たちへの先行投資だ。財政再建とのバランスを考慮しつつ、指導態勢を充実させたい。

 来年度予算の編成を控え、公立小中学校の教職員定数を巡る財務省と文部科学省の対立が激しさを増している。

 少子化に伴い、2024年度までに約3万7000人を削減できると、財務省は主張する。10クラス当たり18人の教員が配置されている現在の水準を維持した上で、今後の児童・生徒数とクラス数の減少を反映させた試算だ。

 厳しい財政状況の下、教育予算で大きな割合を占める義務教育の教職員人件費を見直したい財務省の考えは分からないでもない。

 教職員の定数は、クラス数に応じた「基礎定数」と、いじめ対策などの課題に対処するために予算措置される「加配定数」から成る。財務省が今回、加配定数の削減に踏み込んだのは疑問だ。

 加配定数を増やしてきたにもかかわらず、いじめの認知件数が増加しているから、効果があるとは言えない。財務省の試算は、そんな考えに基づく。

 果たしてそうだろうか。いじめ問題を解決するには、早期発見と適切な指導が重要であり、認知件数の増加自体は悪いことではない。複数の教員が子供を見守っているからこそ、いじめを見つけられたという側面もあろう。

 教育現場では、障害を持つ子供へのきめ細かな配慮や、外国人の児童・生徒の増加といった課題にも直面している。道徳の教科化にも備えねばならない。経験豊富な教員が定年を迎え、大量退職する状況は今後も続く。

 「機械的な削減は学校の現状を無視している」と、文科省が反発するのは無理もないだろう。

 そもそも、公的教育支出の割合が、日本は他の先進国に比べて低いことを忘れてはなるまい。

 無論、文科省も、教員数の確保を目指すのであれば、論拠をきちんと示す必要がある。

 財務省の3万7000人削減案に対し、文科省は5000人の削減にとどめたいと主張しているが、現場のニーズに応じるためというだけでは説得力に欠ける。

 教育界には、定数削減により、教員の長時間労働に拍車がかかるのではとの懸念が強い。ただ、多忙化の主な原因が、教育委員会からの調査への回答といった事務作業にあるのも事実だ。

 ICT(情報通信技術)の活用など、事務の効率性を高める努力を重ねることが大切である。

2015年11月28日土曜日

政府の圧力は民の活力をそぐ恐れがある

 賃金も設備投資もいくらにするかは企業の経営判断による。この市場経済の原則を、政府は十分に理解しているのだろうか。

 政府は「官民対話」の場で経済界に賃上げや設備投資の拡大を促してきた。安倍晋三首相は具体的な見通しを示すよう求めた。

 これに応える形で経団連の榊原定征会長は、来春は今春を上回る賃上げを企業に呼びかけると表明した。設備投資も法人減税などで環境が整えば、2018年度に10兆円増やすことも可能とした。

 企業にゆだねられている賃金や投資決定に政府が口を挟むことに、違和感を覚えざるを得ない。企業によって経営状態は異なる。政府の圧力で無理な賃上げや設備投資に追い込まれるようなことがあれば、企業の競争力が損なわれる恐れがある。

 政府は13、14年度と政労使会議で経済界に積極的な賃上げを求めた。今年度の官民対話では要請を投資拡大にも広げた。

 中国経済の減速などを背景に企業は設備投資を先送りし、個人消費も力強さを欠く。7~9月期の実質国内総生産(GDP)は2四半期連続でマイナスになった。一方で企業業績は堅調だ。政府が企業に賃上げや積極投資を迫る気持ちもわからないではない。

 だが企業の経営戦略がゆがめられては問題だ。投資などをうまく判断した企業が生き残り、そうでない企業が淘汰されるのが市場経済の強みである。政府の介入は民間の活力をそぐことにもなる。

 政府の役割は企業が活動しやすい環境づくりだ。法人実効税率の着実な引き下げや「岩盤規制」改革など、やるべきことは多い。

 内部留保をめぐる誤解もある。企業の内部留保は3月末で354兆円と過去最高水準にある。それを投資や賃上げに回すべきだとの声があるが、内部留保は機械設備などに形を変えている場合も少なくない。354兆という数字を前面に出しての議論は混乱を招く。

 政府・与党内には内部留保への課税案もある。しかし法人税を払った後の内部留保への課税は二重課税になる。現実的か疑問だ。

 もちろん企業には資金の有効活用が求められる。使えるお金が産業界全体で膨らんでいるのは事実だ。自社の成長戦略を明確に描ければ、何に投資すべきかはおのずと見えてくる。未来に投資しているか、株式市場が注視していることを経営者は忘れないでほしい。

対テロへ結束の機運を逃すな

 パリ同時テロをきっかけに国際社会に芽生えた結束の機運を後退させかねない事態である。トルコ軍がシリアとの国境付近でロシア軍機を撃墜した。

 トルコはロシア軍機の領空侵犯を主張し、ロシアは否定する。真相ははっきりしないが、主張は対立し、互いに非難を強めている。

 両国に自制を求めたい。国際社会は冷静な対話を促す必要がある。目前の敵は過激派「イスラム国」(IS)だ。これを見失ってはならない。掃討へ国際社会が早急に連携を深めることが重要だ。

 事件の背景にあるのはシリアをめぐるロシアとトルコの立場の違いだ。ロシアはISだけでなく、アサド政権に敵対する反政府勢力も攻撃しているとされる。トルコはアサド大統領の退陣を求め、ロシア軍機が墜落した地域に暮らすトルクメン人を支援している。

 パリの痛ましい事件が示したのは、国際社会がシリアの内戦を放置してきた結果、中東を越えて拡散するテロの現実だ。優先しなければならないのはISの封じ込めと、シリア内戦の収拾である。

 ロシアとトルコの対立を新たな火種にしてはならない。米国を中心とする有志国連合とロシアが、それぞれの利害を優先した軍事行動を続けていては、今回のような衝突が再び、起こりかねない。

 パリの事件を受けて、フランスのオランド大統領が米国やロシア、英国、ドイツなどの首脳と相次いで会談し、ISと戦う「大連合」を提案した。

 オバマ米大統領とは空爆の強化で一致し、ロシアのプーチン大統領は「米国が率いる連合とも協力の用意がある」と述べた。

 国際社会の亀裂はISを利するだけだ。結束が何よりの圧力となる。ロシアはISの掃討に集中し、トルコはシリア国境でのIS戦闘員や原油密輸の取り締まりを厳しくして、他国から疑念を持たれないようにすることが必要だ。

 関係国が偶発的な軍事衝突を回避するための情報交換の仕組みも早急に整えるべきだろう。

1億総活躍 分配とバラマキは違う

 政策展開の柱の一つとして「分配」をしっかりと位置づけたことは歓迎する。しかし、税・財政政策を通じて政府が目指すべき分配は、けっしてバラマキではない。

 安倍政権が打ち出した「1億総活躍社会」の緊急対策と、それに盛り込まれそうな低年金者への給付金のことだ。

 緊急対策の副題は「成長と分配の好循環の形成に向けて」。法人減税や規制緩和による経済成長を重視してきた政権が、視野を広げて「分配」を掲げた点が目を引く。

 その具体策ということなのか、公的年金受給者の4人に1人、約1千万人を対象に、一人あたり3万円を配るようだ。

 年金が少ない人は、確かに助かるだろう。ただ、そうした人が皆、貧しいとは限らない。不動産や金融資産を持つなど、所得や資産を巡る状況は一人ひとり異なるからだ。

 そうした事情にできるだけきめ細かく対応し、社会保障を中心とする予算や税制を工夫して、生活が苦しい人を支える。そんな仕組み作りこそが、政府が考えるべき分配政策である。

 深刻な財政難のなかで、総額3千億円は貴重な財源だ。今年度の税収が見込みより増えそうな分を充て、国債の追加発行は避けつつ補正予算に計上できるとの算段のようだが、なぜ一時金の配布なのか。現役組にも無業や非正規の人など支援が必要な人は少なくないのに、なぜ年金の受給者なのか。

 足元の景気は2四半期続けてマイナス成長とさえない。来年夏には参院選がある。お年寄りは投票率が高い……。そう勘ぐられても仕方あるまい。

 緊急対策の副題は、安倍首相の思いを踏まえたという。

 確かに、分配のゆがみは成長の足かせとなる。国内総生産の6割をしめる個人消費にしても、一部の高所得層だけで引っ張るのは難しく、中堅・低所得層の財布のひもがゆるんで初めて盛り上がる。

 政権も「分配」にかかわる政策が手つかずだったわけではない。本来は労使で決めるべき賃金交渉に口を出し、賃上げを後押ししてきたのも、労働者への分配促進とは言えるだろう。

 ただ、デフレ脱却と経済成長に向けた政策総動員をうたう中で、場当たり的な対応が目についたのも否定できまい。

 「分配がうまくいっていない社会は成長も難しい」「成長の成果を配分し、次の成長につなげる」。緊急対策の副題に込めたというそんな考えにふさわしい、本格的な対策を求める。

診療報酬改定 納得できるメリハリを

 医療サービスや薬などの公定価格にあたる診療報酬の2年ごとの見直しに向けた議論が本格化している。診療報酬を全体で引き上げるのか、それとも抑えるのか。年末の来年度予算編成までに、まず大枠が決まる。

 国民医療費はすでに40兆円を超えている。高齢化の進行や医療技術の進歩を踏まえると、これからも増えることが見込まれている。医療行為の単価である診療報酬を引き上げれば、医療費全体を膨らませることにつながる。

 医療費を支えているのは、税金や保険料、窓口で支払うお金など国民の負担である。全体として医療費の増加を抑える努力は必要だろう。

 社会保障費の抑制を進めた小泉内閣のもとでは引き下げが続き、地域の「医療崩壊」を招いたと批判を浴びた経緯がある。必要な医療サービスは報酬を手厚くして充実しながら、無駄をなくしていく。そんなメリハリのある抑制策が必要だ。

 まず、手をつけるべきなのが、医療費全体の2割を超える薬剤費だろう。

 たくさんの薬を処方されたお年寄りが飲み残しや飲み忘れた薬をたくさん抱えている問題や、複数の医療機関で同じ薬が処方されるといった重複投薬の問題がある。むだをなくす取り組みをぜひ進めてほしい。

 また、これまでも、実勢価格に合わせて薬価は引き下げている。これに加えて、価格の安い後発医薬品の使用をもっと広げる余地はあるはずだ。

 一方で、勤務医の待遇改善、医療と介護の連携、在宅医療など、充実・強化しなければならない分野もある。こうした分野は診療報酬を引き上げることも必要になる。

 とりわけ、高齢化社会における医療のあり方は大きな課題だ。病気を抱えながら住み慣れた地域で暮らし続けるのを支える。痛みや苦痛をやわらげながら、人生の最期を尊厳をもって迎えられるようにする。病気を「治す」のにとどまらない、そんな「支える」医療も広げてほしい。

 大事なことは、限りある医療費を、患者や家族が望む医療に使っていくことだ。診療報酬の見直しに際して、どんなニーズに応えるものなのか、国民にわかりやすく示すことが大切だ。

 例えば、民主党政権の時には、救急医療や勤務医の待遇改善に配分すると枠をはめた。そんな工夫もあって良いのではないか。こんな医療のためなら負担も納得できる。みんながそう思える見直しにしてほしい。

軽減税率 不正が横行しない制度設計に

 税の公平性にも目配りした制度設計にすることが求められる。

 与党が、2017年4月の消費税の軽減税率導入に伴い、請求書に税額や税率を記入するインボイス(税額票)の採用を、事業者に義務づける方針を打ち出した。

 採用時期は「20年度以降」としているだけで、具体的な期日は未定だ。義務化までは、請求書の軽減品目に印をつけるだけの「簡素な方式」の経理処理も認める。

 複数税率になると、標準税率の売り上げを軽減税率の取引と偽り、事業者が手元に税金の一部を残す不正が横行しかねない。

 大半の国が軽減税率を導入する欧州では、不正を防ぐため、インボイスが定着している。日本が採用に踏み切るのは当然だ。

 与党は、極力早期に採用する方向で時期を明示すべきである。

 気になるのは、中小事業者の優遇措置が手厚いことだ。

 現行の小規模事業者の免税制度や、納税計算を簡単にする簡易課税制度は存続する。

 こうした制度によって、消費者が払った税金が事業者の手元に残る「益税」が年6000億円に上る、という試算もある。

 さらに、「みなし特例」制度も新設される。事業者が集めた10日間の販売データを基に売上高に占める軽減品目の割合を推計し、1年分の納税額を決めるものだ。

 売上高5000万円以下の事業者が対象で、軽減税率と標準税率の取引の仕分けが不要になる。

 10日間だけの調査で正確に品目の割合を推計するのは難しい。益税が一段と膨らむ恐れがある。

 現行の優遇措置でさえ、欧州に比べて手厚すぎるとの批判が根強い。益税は拡大せず、縮小する方向で検討するのが筋だ。

 与党内では、軽減品目の範囲を巡る対立も続いている。自民党は生鮮食品と加工食品のごく一部に対象を限定し、軽減規模は4000億円を上限としたい考えだ。

 公明党は生鮮食品に加工食品を加えたより広い対象を唱え、1兆円前後の規模を想定している。

 低所得者を中心に痛税感を和らげ、増税を受け入れてもらうには食品など生活必需品をなるべく広く対象とすることが望ましい。

 公明党の山口代表が、「生鮮食品だけでは足りない。大部分の国民が加工食品に頼っている」と強調したのは理解できる。

 与党内では、幹事長間の調整も始まった。自民党の谷垣幹事長は、財源確保策を前向きに検討し、歩み寄りを図ってもらいたい。

五輪基本方針 テロ対策にも万全を期したい

 新国立競技場の建設計画とエンブレムの白紙撤回により、2020年東京五輪・パラリンピックの開催準備は、大きくつまずいた。

 大会まで間もなく4年半となる。政府は、閣議決定した基本方針に基づき、多岐にわたる作業を加速させねばならない。

 基本方針は、大会を「成熟社会における先進的な取り組みを世界に示す契機」と位置付けた。

 中でも、「障害者の自立を促す大きな力となる」として、パラリンピックの充実を掲げた。1964年東京大会で、パラリンピックという用語が初めて使用された。20年大会は、同一都市で2回目の開催という初のケースとなる。

 こうした経緯を踏まえ、過去最大規模のパラリンピックを目指すことは、共生社会の構築を推進する上で意義があろう。

 五輪関連で目を引くのは、過去最多の金メダル獲得という目標を打ち出した点だ。64年東京五輪と04年アテネ五輪の16個がこれまでの最高だった。

 選手強化に公費を投じる以上、政府が具体的な目標を示すのは、当然だろう。日本選手が活躍すれば、大会は大いに盛り上がる。

 目標達成に重要なのは、戦略的な取り組みだ。20年に向けて、有望選手に強化費を重点配分するなど、限られた財源を有効に使う必要がある。配分を主導するスポーツ庁の責任は重い。

 競技を公正に実施するには、ドーピング対策も大切だ。ロシア陸上界の薬物汚染が問題になる中、ドーピングの撲滅は、スポーツ界の最優先課題である。

 基本方針は、世界反ドーピング機関(WADA)などと連携し、「万全の体制整備を行う」との記述にとどまる。検査体制を強化する具体策の検討を急ぐべきだ。

 選手や観客の安全を守るために、最も注力せねばならないのが、テロ対策である。

 基本方針も「テロの脅威が現実のものになっている」と危機感を示し、「情報収集・分析、水際対策、会場の警戒警備などの強化」を挙げている。

 官民一体となって対処能力を向上させることが不可欠だ。

 道路・交通インフラの整備、暑さ対策など、基本方針には様々な施策が列挙されている。費用の膨張を避けるには、対策に優先順位をつける必要がある。

 大会準備を効率的に進めるため、政府と大会組織委員会、東京都の役割分担と責任を明確にすることも忘れてはならない。

2015年11月27日金曜日

道筋も財源も不透明な「一億総活躍」対策

 安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の実現に向けた政府の緊急対策がまとまった。保育所や介護施設の受け入れ人数拡大などによって子どもの出生率を上げることや、親の介護で現役世代が仕事を辞めるといった事態をなくすことを目指すという。

 日本の安定と活力を維持していくため少子化や介護の対策は重要だ。それには長期を見据えた革新的な取り組みが求められる。

 しかし緊急対策は各省庁の従来施策を寄せ集めた印象が強い。目標の達成に向けた道筋や財源も不透明だ。来夏の参院選対策とみられてもおかしくない。来春の「一億総活躍プラン」策定に向け、改めて真摯な議論を望みたい。

 緊急対策では、2017年度末までに40万人分増やすとしていた保育の受け皿を50万人分増やす、とした。不妊治療費の助成拡充や、出産前後の女性の国民年金保険料免除なども盛り込んだ。

 介護の関連では、特別養護老人ホームや高齢者向け住宅などの受け入れ人数を20年代初頭までに約50万人分拡大する目標を掲げた。介護休業の分割取得なども可能にする、と打ち出した。

 これらの対策は目標実現の一助にはなろう。だが、長らく低迷する出生率を回復に向かわせたり、介護保険を導入してもなお解決しない介護問題を解消したりするには、力不足ではないか。

 わたしたちがかねて主張している通り、少子化対策としては、長時間労働を是正し仕事と家庭を両立できるような働き方の改革も欠かせない。また、保育にしても介護にしても、それらを担う人材を確保しないことにはすべてが絵に描いた餅となりかねない。

 今、両業界は深刻な人手不足の状態にある。さらに働き手を確保するには保育・介護職の待遇改善も課題となる。

 それには恒久的な財源が欠かせない。厳しい国の財政の中でどうやってそれを確保していくかが問われる。社会保障制度や政府の歳出構造全体を根本的に見直して、予算の付け替えをするぐらいの覚悟が必要だろう。外国人の活用も真剣に議論すべきだ。

 「在宅」重視のはずだった介護施策について「施設」拡充を打ち出すなど、緊急対策にはこれまでの政策との整合性も疑わしい部分がある。場当たり的な政策で効果は望めない。財源を含め筋の通った対策にしてもらいたい。

国産ロケットの競争力磨け

 日本の主力ロケット「H2A」がカナダの通信放送衛星を軌道まで無事に運んだ。H2Aが商業衛星を打ち上げたのはこれが初めてだ。日本は悲願だった国際的な打ち上げビジネスにようやく参入を果たした。

 宇宙航空研究開発機構が設計・開発し三菱重工業が製造するH2Aの成功は、これで23回連続。信頼性の高さは国内外から衛星打ち上げを受注する武器になる。

 ただ、100億円程度かかる費用は欧米やロシアに比べて2~3割高い。海外勢と競うには、これからが正念場だ。

 今回の打ち上げでは、カナダの衛星運用大手テレサットの通信放送衛星を高度3万6千キロの静止軌道近くに届けた。エンジンを改良して飛行時間を大幅に延ばし、遠くまで運べるようにした。

 信頼性に加え技術力の高さは誇ってよい。前身である「H2」の初飛行から約20年がすぎ、国産ロケットは研究開発段階を終え、産業利用の時代を迎えた。

 三菱重工と宇宙機構は次期ロケット「H3」の開発を進め、2020年に初飛行をめざしている。H2Aは技術力や信頼性を重視したため費用が割高になった。この反省からH3では三菱重工が設計・開発段階から主体になった。

 H3が世界と競うには技術力に加え、コスト競争力をつけることが不可欠だ。それには官民が役割分担を明確にする必要がある。

 三菱重工は部品の選定などで民間の発想を最大限生かしてほしい。国産技術だけにこだわらず、性能やコスト面で優れていれば海外技術を活用する姿勢が要る。

 宇宙機構もこれまで蓄えた技術を惜しまずに民間に移転すべきだ。鹿児島県種子島の射場は年間の打ち上げ回数に制約がある。受注拡大に向け、インフラを整えるのも同機構の役割だ。

 ロケット開発は他の産業への波及効果が期待できる。政府がトップセールスで海外に国産ロケットの利用を働き掛けることも、宇宙産業の自立に役立つはずだ。

ロシア機撃墜 目標見失わぬ冷静さを

 パリでの同時多発テロという不幸な事件は、国際社会の結束を促す機運を生んだ。国境を越えた暴力に団結して立ち向かう流れを乱してはならない。

 ところが、トルコによるロシアの戦闘爆撃機の撃墜が、不穏な空気を漂わせている。両政府は非難の応酬をやめて、冷静に自制すべきである。

 欧米各国、日本も、仲介を急ぎ、この事件がシリア問題への国際的な取り組みに水を差すことがないよう努めるべきだ。

 両国の主張は食い違う。ロシア機はトルコの領空を侵したのか、警告はあったのか、トルコ機による攻撃は自国領の外だったのか。真相は見えない。

 もともと両国間には最近、シリアのアサド政権と戦う少数民族トルクメン人の問題がくすぶっていた。トルコにとっての同胞民族の地域を、ロシアが爆撃していたとされる。

 その渦中におきた撃墜をめぐり、ロシアは対抗措置としてシリア側の国境近くに地対空ミサイルを配備するといい、トルコ側も今後の侵犯に「あらゆる措置をとる」としている。

 いずれも国内向けにあえて強硬発言をしている面もあろう。だが国際情勢を考えれば、対立はだれの利益にもならない。

 ロシアはパリのテロ後、フランスなどとの協調姿勢に転じており、ウクライナ問題をめぐる孤立感がやや和らいでいる。

 トルコもこれまで、ウクライナ問題をめぐる対ロ制裁に加わらず、欧米と異なる良好な関係を続けてきた。両政府とも頭を冷やし、穏当に事件の影響を落ち着かせるのが賢明だ。

 各国が向き合うべき相手は、過激派組織「イスラム国」(IS)であり、目標はシリア内戦の収束におくべきだ。足並みの乱れはISを利するだけだ。

 今回の撃墜事件の背景には、ロシアやトルコなどがそれぞれの思惑で勝手な軍事行動をシリアで進めている問題がある。

 IS掃討といいつつ、ロシアはトルクメン人を含む反アサド各派を爆撃し、トルコもクルド人組織への攻撃を加えているという。そうした関係国の利己的な行動が続く限り、偶発的な衝突のおそれはぬぐえない。

 事件を機に、トルコを含む米欧中心の有志連合とロシアは、シリアへの介入行動をしっかり調整する作業を急がねばならない。軍事行動の狙いをISに絞るとともに、アサド政権と、内戦を続ける各派に対話の席につくよう説得に動くべきだ。

 関係国が互いにいがみ合うようでは、テロ対策でも難民支援でも、希望の光は見えまい。

最低賃金 政府の役割は大きい

 安倍首相が最低賃金を年3%程度ずつ引き上げて、時給1千円を目指す方針を掲げた。26日に発表された「1億総活躍社会」のための緊急対策で柱の一つになっている。

 自身の掲げた「名目GDP600兆円」の目標に合わせて、賃金も底上げし、個人消費を増やすことで経済成長を後押しするとの考えだ。

 だが、最低賃金の底上げは成長目標がどうあれ取り組まなければならない課題だ。「最低賃金1千円」はかつて民主党政権も掲げた政策でもある。どうすれば実現できるのか、働く人と職場の現実を踏まえて有効な手立てを講じてほしい。

 最低賃金引き上げの目標を掲げた以上、それが実現するよう努めることは政府の役割である。

 日本の最低賃金は現在、全国平均で時給798円。1日8時間、週5日働いても年収150万円程度にとどまる。

 国際的に見ても、日本円に換算して約1200円を超えるイギリスやフランスなどと比べて見劣りする水準だ。

 最低賃金が低水準にとどまったことで、地域によっては、フルタイムで働いても月収が生活保護費を下回ることが問題となった経緯もある。法改正がされて「逆転現象」が解消されたのは、最近のことだ。

 非正社員は働く人の4割を占める。その人たちも、普通に働けば安定した生活ができるようにする。「時給1千円」をそのために最低限必要な水準と位置づけて、着実に底上げに取り組んでほしい。

 引き上げを実現するには、経営環境の厳しい中小・零細企業が、引き上げられるようにすることが欠かせない。

 緊急対策でも、事業者の生産性を高めて経営を安定させるための支援や、大企業と下請けの関係など取引条件の改善を図ることがうたわれている。

 いずれもこれまで必要とされながら、十分に成果が上がってこなかった課題だ。どうすれば克服できるのか、政府は知恵を絞ってほしい。

 日本の最低賃金は、厚生労働省の審議会が示した目安をもとに都道府県ごとに決める仕組みだ。協議は労働者側、使用者側の代表らによって行われるが、国の審議会は非公開だ。

 今のやり方では、引き上げる数字の根拠が分からないままになっている。この機会に、開かれた議論のあり方を考えてみてはどうだろうか。この問題を広く共有する一助にはなるはずである。

1億総活躍対策 財源と人材をどう確保する

 政府が、「1億総活躍社会」へ向けた緊急対策を決定した。主要目標として掲げる「出生率1・8」と「介護離職ゼロ」を実現するための施策に重点を置いている。

 子育てや介護への支援を強化し、女性や若者、高齢者の働き手を増やす。中長期的には人口減に歯止めをかける。それにより、日本経済の成長につなげる。方向性としては妥当である。

 安倍首相は「1億総活躍社会とは、成長と分配の好循環を生み出していく新たな経済社会システムの提案だ」と強調した。

 緊急対策では、出生率向上策として、保育の受け皿のさらなる拡充を打ち出した。2017年度末までに40万人分増やす従来の計画を、50万人分に引き上げた。

 子育て期の経済的負担を軽減するため、幼児教育の無償化の拡大や奨学金の充実も掲げた。

 介護離職対策の柱は、介護サービス整備計画の前倒しと上乗せだ。そのために、施設用地として都市部の国有地を安く貸し出す。介護休業の分割取得や休業中の給付金の増額も検討する。

 緊急対策の多くは、以前から必要性が指摘されながら、財源不足などから先送りされてきた。政府は、優先度の高い施策について、今年度補正予算案に盛り込む方針だ。着実に実施してほしい。

 問題は、来年度以降の財源である。「1億総活躍」がスローガン倒れにならないよう、政府は来春にまとめる中長期プランで、具体的な目標と工程表に加え、実現可能な財源確保策を示すべきだ。

 保育・介護サービスを担う人材の確保も大きな課題である。人手不足が深刻化し、十分なサービスを提供できない事業者も目立つ。現状の打開には、賃金などの処遇改善が不可欠だが、やはり財源の見通しは立っていない。

 「103万円の壁」「130万円の壁」など、女性が働くより配偶者に扶養される方が有利になるような税制や社会保険制度の見直しは、検討課題とした。

 女性の就労を抑制し、非正規雇用を増やす要因とされるだけに、引き続き議論を深めたい。

 長時間労働を前提とした働き方の見直しも忘れてはならない。育児・介護と仕事の二者択一を迫られる状況では、出生率の向上や介護離職の減少は望めまい。

 それぞれの事情に合った柔軟な勤務形態を広げ、短時間で効率的に働くことを促す。高齢者や障害者ら多様な人材が活躍するためにも大切なことだ。

露軍機撃墜 非難合戦を続けている場合か

 パリ同時テロで生まれた米欧とロシアの協調機運に水を差す事態だ。非難合戦で過激派組織「イスラム国」掃討の足並みを乱してはならない。

 トルコ軍機が、シリアとの国境付近で露軍の爆撃機を撃墜した。トルコは、露軍機が領空に侵入し、再三の退去警告にも応じなかった、と主張している。領空侵犯については、これまでも繰り返し抗議してきたという。

 9月末から「イスラム国」掃討を名目にシリアで空爆を始めたロシアは、シリアのアサド政権を擁護する。トルコはアサド政権の打倒を最優先し、反体制派を支援する。今回の撃墜の背景には、両国の立場の根本的な違いがある。

 プーチン露大統領は侵犯を否定し、「重大な結果をもたらす」と強く反発した。ラブロフ外相がトルコ訪問を中止し、トルコ産農作物の輸入を制限するなどの対抗措置も取り始めた。

 だが、北大西洋条約機構(NATO)はトルコの言い分を支持し、米軍も露軍機が警告を受けていたことを確認した。ロシアの主張は信用性に欠けるのではないか。

 重要なのは、ロシアとトルコが批判の応酬をやめ、再発防止と事態の沈静化へ動くことだ。

 米国を中心とする有志連合とロシアは個別に、シリアで空爆を続けている。今回のような不測の事態を防ぐために、軍同士の連絡体制を整えることが急務である。

 国際社会は、共通の敵である「イスラム国」の弱体化に集中すべきだ。シリア内戦終結と政権移行に向けた関係国の協議の空転も避けねばならない。

 国連安全保障理事会はテロ防止決議を全会一致で採択し、「イスラム国」打倒の決意を新たにしたばかりだ。英国はシリアへの空爆拡大方針を示し、フランスは空母投入で攻撃態勢を強化した。

 オランド仏大統領は、ロシアも含めた大包囲網の構築を目指し、活発な首脳外交に乗り出している。オバマ米大統領とワシントンで会談し、「イスラム国」対策で協力を深めることで一致した。一連の国際連携を大切にしたい。

 プーチン氏は、フランスを対テロの「同盟国」と位置づけ、協調姿勢を見せている。ウクライナ介入に伴う米欧の制裁緩和を実現させ、国際的孤立から脱却する狙いがあるのだろう。

 しかし、アサド政権を温存したまま、軍事力に頼ってシリア情勢で主導権を握ろうとする戦略に変化は見られない。これでは、米欧が「共闘」するのは難しい。

2015年11月26日木曜日

TPP対策は目標より具体策が肝心だ

 政府が環太平洋経済連携協定(TPP)に関連する政策大綱をまとめた。TPPを生かしながら「『グローバル・ハブ』として持続的な成長を遂げる」との方針を打ち出したのは妥当だ。しかし、焦点の農業ばかりか、それ以外の分野でも目標が先行し、新たな経済圏を取り込む攻めの具体策を描けていない。

 関税および貿易に関する一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンドの時を反省し、農業対策が金額ありきでないことは評価できる。それでも政府が「重要5項目」と位置づけ、自由化を阻止した分野には具体的な保護策が並ぶ。

 コメは新設される輸入枠で流入可能な量以上の規模を、政府が国内市場から備蓄用に買い上げる。家畜飼料米の増産と合わせ、主食米の値下がりを防ぐ考えだ。畜産や酪農に対する支援も強化した。

 飼・肥料の市況変動にもさらされる農業経営には一定の安定策が必要だ。しかし、横並びの保護が恒常化すれば生産性の向上を阻害する。手厚い保護で守られてきた分野こそ、体質強化につながる攻めの具体策が必要だ。

 政府は酪農などの分野でもっと規制改革に踏み込み、競争力を高める生産者の工夫を後押ししてもらいたい。

 コメの生産性を上げる手法は農地の集約だけではない。TPP対策をまとめる過程では、財務省が田植えの手間を省く栽培や多収性品種の活用を提言した。今後詰めるという政策の中身には、こうした従来の殻を破る対策が要る。

 農業協同組合や漁協も保護や補助金にすがる旧来の発想から抜け出し、自由化は農漁業の好機ととらえるべきだ。これまでの内向き志向を改め、海外の需要も探りながら市場が求める食品をつくる意識改革が欠かせない。

 日米など12カ国が参加するTPPは、世界経済の4割弱の規模を占める巨大な経済圏だ。域内をモノ、カネ、サービス、ヒトが自由に行き来しやすくなることで、日本経済の潜在力も高める効果が期待できる。

 だが、農業以外の政策でも「2020年に約30兆円のインフラ受注」「18年度までに470件の外国企業誘致」といった数値目標が目立つ。政府は威勢のいい「的」を掲げるだけでなく、法人実効税率の引き下げや規制改革といった対日投資を促すための「矢」をきちんと放ってほしい。

今度こそ1票の格差を正せ

 1票の格差が最大2.13倍あった2014年12月の衆院選について、最高裁が「違憲状態」とする判決を出した。09年、12年の衆院選に続き、同じ判断が3回連続で示されたことになる。

 最高裁が定数配分の見直しを求め、国会が数字あわせ的な改正でしのぎ、再び最高裁が見直しを迫る――。こうした動きが繰り返されてきたが、今度こそ抜本的な是正を実現しなければならない。

 最高裁が「違憲」と言い切らないのは、選挙制度の見直しには時間がかかるという事情を考慮しているからだ。今回も「定数を0増5減したが、2倍を超える格差が残った。しかし合理的期間内に是正されなかったとまではいえない」との判断である。

 憲法問題が生じるほど投票価値が不平等であることに変わりはなく、国会に対して改革のための猶予期間を与えているにすぎない。今回は3人の裁判官が「違憲」との反対意見を述べ、うち2人は「選挙は無効」と踏み込んだ。

 一方で最高裁は、定数の見直しに国会の裁量を広く認めてきた。判決が常に「寸止め」でとどまることへの安堵もあってか、国会は抜本改正に応じてこなかった。

 判決を踏まえ、衆院議長が設けた第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」は近く是正案をまとめる方針だ。与野党は第三者機関の結論を尊重し、速やかに格差是正を実現させるべきだ。

 調査会の佐々木毅座長は今年2月、都道府県に割り振る小選挙区の数を青森など9県で各1減し、その分を東京3増、神奈川2増など都市部に回す9増9減案を軸に検討する考えを示した。実現すれば格差は最大1.598倍に縮まる。妥当な案である。

 自民党は9増9減案に後ろ向きだ。だが、与野党協議が決裂したから有識者に任せることにした経緯を忘れてもらっては困る。

 安全保障関連法など国論を二分する課題が増えている。議論の土俵づくりは公正のうえにも公正でなければならない。

一票の不平等 いつまで放置するのか

 国民の間に厳然とある不平等をいつまで放置するのか。司法も立法府も、異常をただす切迫感に欠けるのではないか。

 昨年の衆院選での一票の不平等をめぐり、最高裁が「違憲状態」との判決を出した。同様の結論はこの4年間で3回目であり、慣例化した感も漂う。

 国会では抜本的に身をただす選挙制度改革の動きは遅れたままだ。最高裁の手ぬるい判決が国会の免罪符にされてしまわないか、懸念が残る。

 最高裁は2011年、各都道府県にまず議席一つずつを割り振る1人別枠方式が、不平等を生む要因と断じた。「できるだけ速やかな撤廃」を求めた。

 ところが13年の判決では、国会が駆け込みで若干の定数削減を決めたことを「一定の前進」とし、手綱を緩めた。今回の判断もこの延長上にある。

 有識者でつくる衆院の選挙制度調査会が見直し策を検討していることにも言及し、これまでの判決に沿って是正が進められていると高く評価している。

 原点に戻って考えたい。今回の最大格差は2・13倍。ある選挙区での一票の重みは、別の選挙区での半分にも満たない。

 選挙で票を投じるという行為は、憲法に定められた国民主権を具現化する数少ない、そしてもっとも重要な権利である。住む場所によって票の価値が倍以上も違うという不平等はただちに改善されるべき問題だ。

 最高裁が1人別枠方式の問題を指摘して4年がたってもなお事実上撤廃されていないのは、国会の怠慢というほかない。

 注目すべきは、14人中3人の裁判官が、「投票の平等」を実現するのに必要な時間はもう十分あったと批判している点だ。うち2人は選挙の無効を、1人は主文での「違憲」の宣言を、それぞれ主張している。

 最高裁は判決で、憲法の秩序は立法府との相互作用で形成されるとの趣旨を展開している。国会が法をつくる。最高裁が判決でメッセージを出す。それにもとづいて国会が法を改める。立法府と司法との「対話」を重んじる考え方のようだ。

 しかし振り返れば、司法のメッセージを国会は繰り返し無視したり、都合よく解釈したりしてきた。「対話」を成り立たせるためには、今後の是正期限を明記するなど具体的な求めが必要だったのではないか。

 衆参両院が「違憲状態」で選ばれたと再三指摘されているのは異常事態である。憲法尊重の義務を負う議員が、不平等を野放しにすることは許されない。早急に改めるべきである。

先生を育てる 一つの型にはめないで

 学校の先生を一つの型に、はめないよう育ててほしい。

 中央教育審議会が、先生の養成、採用、研修に力を入れようと答申案をまとめた。

 「先生になる前は大学」「なった後は教育委員会」という分担を超え、大学と教委が連携を強める。

 そのために全国共通の制度として、議論のテーブルとなる「教員育成協議会」を都道府県や指定市の教委が設ける。そこで大学などと教委が話し合い、共通の目標である「教員育成指標」をつくるという。

 大学と教委が対話を進めることは意義深い。学生からベテランまで、長い視野で育成する道のりを考えることも重要だ。

 気がかりなのは、こうした対話では、学生を採用する側である教委の声が大きくなることだ。実際、現場で役立つ先生をと大学にカリキュラム案を示し、学生相手に「教師養成塾」をつくる動きが各地にある。

 いまの教え方にもとづく即戦力だけでは今後の改革に対応できまい。たとえば、子どもが討論や体験を通じて学ぶ「アクティブ・ラーニング」という新たな指導法も学ばねばならない。

 新しい知見を研究する大学側の意見も、教委は謙虚に生かすべきだ。大学は自由な発想で学生を育て、現場の研修にかかわってほしい。

 育成指標は初任、中堅、ベテランといった段階に分け、授業や生徒指導、学級運営などの力を示すことを想定している。

 だが、先生に求められる力を言葉にするのは難しい。子どもや学校、地域の状況は様々だ。それに対応するには、多様な先生が求められる。なのに指標を事細かに定めれば、似た先生ばかりになりかねない。

 中教審は「指標は研修の目安」としているが、評価のチェックリストと重ねるなら、先生の萎縮を招く恐れもある。表現にはよほど工夫が必要だろう。

 答申案は、国が指標の指針をつくるよう提案した。求める先生像が時の政権の意向に左右されないよう留意すべきだ。

 そのほかにも課題が多い。校内研修に力を入れるというが、国際調査では日本の先生は参加国中で最も忙しい。書類を減らすなどの対策が必要だ。

 先生はいまや6人に1人が非正規だ。彼らにも研修の機会を保障しなければならない。

 団塊世代の大量退職で、新人が増えている。先輩から後輩へノウハウが自然に伝わる状況ではない。大学と教委は互いの強みを生かしつつ、先生を育てる改革を進めてほしい。

衆院選違憲状態 国会に制度改革促した最高裁

 立法府の裁量権を尊重する中で、司法として可能な範囲で注文を付けたということだろう。

 「1票の格差」が最大2・13倍だった昨年12月の衆院小選挙区選について、最高裁大法廷は、違憲状態にあったとの判決を言い渡した。

 投票価値の平等という憲法の要請に反しているとして、「選挙制度の整備を着実に続ける必要がある」と国会に求めた。格差是正に要する合理的な期間は過ぎていないとも認定した。国会は引き続き是正に努めねばならない。

 1票の格差について、衆院選挙区画定審議会設置法は「2倍以上にならないことを基本とする」と定めている。昨年の衆院選に先立ち、国会は選挙区定数の「0増5減」で、2倍未満に抑えた。

 人口変動で選挙の時点では2倍を上回った。だが、最高裁は、国会の取り組みを「是正実現に向けた一定の前進」と評価した。格差是正には時間がかかることを踏まえた現実的な見解と言えよう。

 2012年の衆院選について、一部の高裁が「違憲・無効」とするなど、近年は行き過ぎた判決も目立っていた。

 最高裁は今回、「裁判所は憲法上問題があると判断したとしても、自ら具体的な制度を定め得るものではない」との考え方を改めて示した。司法の役割を抑制的に捉えた妥当な判断である。

 最高裁は、各都道府県に1議席を割り振ったうえで定数配分する「1人別枠方式」を格差の主因と指摘してきた。これを受け、国会は、別枠方式の規定を廃止する関連法改正を既に行っている。

 今回も、0増5減の対象外だった都道府県で、別枠方式に基づく配分が残存することを、格差が2倍を超えた要因に挙げている。

 衆院選挙制度改革に関する有識者調査会は、別枠方式に代えて、より人口に比例する「アダムズ方式」の採用を検討している。この方式なら、当面、格差を2倍未満に抑えられるとみられる。

 気がかりなのは、定数削減の議論だ。調査会の佐々木毅座長は、各党が公約などで定数削減を唱えていることを踏まえ、「政治的な約束を無視できない」と語る。

 だが、定数を減らせば、選挙で多様な民意を反映しにくくなる。法律を作り、法案審議を通じて行政を監視するという国会本来の機能も低下しかねない。人口比でみれば、日本の国会議員は欧州諸国などより多くはない。

 調査会は、定数削減の負の面も真剣に考慮すべきではないか。

TPP政策大綱 輸出と海外展開へ知恵を絞れ

 日本の農業や製造業の競争力を強化するため、官民が連携し、本腰を入れなければならない。

 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の大筋合意を踏まえ、政府が総合政策大綱を策定した。

 中小企業の海外進出や農産品の輸出を促す一方、輸入増の影響を受ける農家の保護策も打ち出し、攻守両面の政策を盛り込んだ。

 農林水産物の輸出額を2020年に1兆円とする従来の政府目標の達成を前倒しする。インフラ(社会基盤)整備事業の海外受注額を20年に30兆円にする。こうした数値目標も掲げている。

 安倍首相は、「TPPを経済再生や地方創生に直結させるのに必要な政策だ」と強調した。

 人口減少に伴い、国内市場の縮小は避けられない。TPPをテコに、アジア太平洋地域の成長と活力を取り込む狙いは妥当だ。

 ただ、大綱は、中小企業の相談窓口の拡充や農産品の販促強化など、従来の施策の焼き直しが目立つ。肝心な具体策に乏しい。

 数値目標にも、「中小企業の海外事業拡大の成功率を6割以上にする」など、達成できたかどうかの判断が難しい項目がある。

 15年度補正予算案や16年度予算案に間に合わせようと、急ごしらえとなった印象が否めない。

 高いレベルの関税撤廃や透明性あるルールの合意を活用し、域内国への投資と貿易を拡大する具体策にもっと知恵を絞るべきだ。

 「守り」の面で気がかりなのは、手厚い農家保護策である。

 例えば、牛・豚肉生産者の経営赤字の一部を穴埋めする現行の基金制度について、法制化や補填ほてん割合の引き上げを図る。

 外国産品との競争を強いられる農家に対する一時的な支援は必要だが、法制化で赤字補填を永続化すれば、生産者の経営改善意欲が薄れよう。日本農業の構造的な弱点を固定化し、安倍政権の「攻めの農業」にも逆行しかねない。

 コメの輸入枠拡大の対策では、政府備蓄米の買い取り量を増やして、米価を安定させる方針だ。

 安い農産品が買いやすくなるというTPPの恩恵を、消費者が享受できなくならないか。

 大綱は、対策費の予算規模を示さなかった。過度に額が膨らまぬよう注意する必要がある。

 自民党内からは、来年夏の参院選をにらみ、土地改良事業など公共工事予算の増額を迫る声が強まっている。対策の費用対効果をよく分析し、適切に予算を配分することが求められよう。

2015年11月25日水曜日

世界はパリで結束し温暖化対策打ち出せ

 国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が30日からパリ郊外で開かれる。約190カ国・地域が参加し、2020年以降の地球温暖化対策の枠組みを決める。

 地球温暖化の影響とみられる異常気象が世界で頻発しており、対策は待ったなしだ。温暖化にブレーキをかけられる実効性のある国際協力の枠組みを、何としてもつくりあげる必要がある。

 合意で最も大事なのは、すべての国が能力に応じて温暖化抑止に貢献する仕組みを築く点だ。現在の枠組みの「京都議定書」は世界を先進国と途上国に二分し、先進国だけが削減義務を負った。

 先に工業化を果たした先進国が途上国に比べ大きな役割を担うのは当然だが、中国など新興国の台頭で単純な二分法が現実に合わなくなったのも確かだ。

 各国はCOP21に先立ち、20年以降の自主的な削減目標を国連に出した。各国の実情に応じ削減の進め方や目標は様々だ。能力に応じた貢献度の違いはすでに明らかになったともいえる。COP21では他国の目標に難癖をつけるのはやめ、目標を相互に認め合い、その達成に向けた努力を促す仕組みを詰めていくのが望ましい。

 COP21での合意は、温暖化抑止の長期目標を満足する内容でなければならない。21世紀末の世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑える目標を、国際社会は掲げてきた。しかし各国の自主目標を合計しても2度未満に収まりそうもない。

 そこで新枠組みには各国が対策を定期的に見直す仕組みの導入が検討されている。技術進歩や経済成長に合わせ、例えば5年ごとに各国が削減目標を次第に高め最終的に長期目標の達成を目指す。この点での合意も不可欠だ。

 新枠組みは、6年前の第15回締約国会議(COP15)で合意できたはずだった。だが、先進国と途上国の対立から交渉が決裂した。これ以上、時間を割くことはできない。より望ましい環境を未来の世代に残すため、小異を捨てて結束するよう各国に求めたい。

 どれほど難しい課題でも、暴力には頼らず話し合いと英知で解決の道を探る。そうした国連のプロセスの価値を、パリで理不尽なテロが起きた今こそ示すべきでもある。会議がテロの妨げを受けないよう、主催国のフランスにはしっかりした警備を望む。

変化を選んだアルゼンチン

 アルゼンチンの大統領選挙で、中道右派の野党候補マウリシオ・マクリ氏(56)が中道左派の与党候補を破り、当選を決めた。12年に及んだポピュリズム(大衆迎合主義)的な路線への決別を、国民は選択したといえる。

 2年ほど前まで比較的力強い成長を見せていた同国経済は今、スタグフレーションに陥っている。今年の実質経済成長率は昨年に続いて年率1%を下回る見通しだ。その一方、足元の物価上昇率は年率20%を超えている。

 中国の景気減速で大豆や原油といった主な輸出品の国際相場が下がったのが、景気失速の要因だ。

 と同時に、好況の時期にフェルナンデス政権が貧困対策や保護主義的な政策に傾斜した結果、産業競争力が全般に衰えたとの指摘も多い。外貨準備は過去5年の間にほぼ半減した。

 経済を立て直すため、マクリ次期大統領は市場原理を重視する構えだ。南米で2番目の経済規模を誇るだけに、開放路線への転換は日本企業はじめ世界の投資家にチャンスとなりそうだ。ただ、実行は容易でない。

 外貨取引や貿易に対する規制の緩和を、次期大統領は打ち出している。通貨ペソの切り下げによる輸出振興を目指すことになるとみられるが、インフレ抑制との兼ね合いは難しいものになろう。

 フェルナンデス政権で膨らんだ財政赤字を抑えるには国民に痛みを強いる改革が欠かせないが、政治的には厳しい選択となる。

 しこりとなってきた対外債務問題への対処も問われる。同国は2001年にデフォルト(債務不履行)に陥ってから外貨の借り入れが困難なまま。次期大統領は債務問題の決着に向け交渉に前向きとされるが、先行きは不透明だ。

 ブラジルやベネズエラ、ボリビアなどと並んで、米国に距離を置く中南米の左派勢力の一角を、アルゼンチンは占めてきた。それが変わることは中南米全域の政治情勢に波紋を投げかけよう。対外政策のかじ取りも注目される。

集団的自衛権 容認の正当性が揺らぐ

 政府の憲法解釈の正当性をいっそう揺るがす事実が、明らかになった。

 政府解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた昨年7月の閣議決定について、内閣法制局が内部での議論の過程を文書に残していなかった。朝日新聞の情報公開請求に対し、該当文書が示されなかったのだ。

 先の国会で、日本の安全保障政策の歴史的転換となる安保法制が成立した。そのもととなった閣議決定を法的に問題なしとしたのが内閣法制局だ。

 そこにいたる経緯が文書に残されていなかった事実は重い。解釈変更が妥当だったのかどうか、主権者である国民が検証できないことになるからだ。

 公文書管理法は、行政機関が意思決定にいたる過程を合理的に跡づけ、検証することができるよう、文書の作成と保管を義務づけている。「事案が軽微なもの」は除かれているが、憲法解釈の変更がこれにあたるとはとうてい思えない。

 解釈変更にあたって内部議論をしていたことは、横畠裕介法制局長官自身が国会答弁で認めている。あえて記録を残さなかったとすれば、国民に対する説明責任の放棄であり、歴史への背信と言われても仕方がない。

 さらに重大なのは、法制局内で本当に詳細な法的検討がなされたのか、あるいは政府内における「法の番人」として機能したのか、という疑問だ。

 集団的自衛権は保有しているが行使できないとの政府解釈は、長年の政府内での議論や国会での質疑によって積み重ねられてきた。だから政府は「行使を認めたいのであれば、憲法改正という手段をとらざるをえない」と説明してきた。

 これを政府の解釈変更で可能だと一変させる閣議決定にむけては、自民、公明による与党協議と、一部の与党幹部と法制局長官ら官僚による水面下での協議が並行して進められていたことが明らかになっている。

 解釈変更が法制局による組織的な検討を離れ、一握りの政治家らと長官の手で実質的に進められていたのなら、法制局の存在意義そのものが問われる。

 今後の政府の意思決定においても、法的妥当性よりも政治的要請が優先されてしまう前例を残すことになりかねない。

 限定的な集団的自衛権の行使は認められるとの政府の説明は、安保法制が成立したいまもなお、多くの国民の納得をえられたとは言い難い。

 政府は事実関係を国民に説明する責任があるし、国会は一連の経緯を詳細に検証すべきだ。

東アジア外交 分断でなく理念の力で

 東南アジア諸国連合(ASEAN)と日米中など域外8カ国の首脳による東アジアサミットが、10周年の節目を迎えた。

 南シナ海での中国による人工島造成で緊張が高まるなか、各国の活動を法的に規制する「行動規範」の早期締結をめざすことでは合意したが、合意の時期は示せなかった。

 中国としては各国との協調姿勢は示しつつ、領有権の問題を二国間で解決する方針は崩さない。人工島造成を進める時間稼ぎの思惑すらうかがえる。

 行動規範の成否は今後の中国の判断にかかるが、緊張が高まる時にこそ、多国間の話し合いの枠組みが生きてくる。日本も各国との連携をいっそう強め、中国に国際規範を守るよう促していく必要がある。

 改めて思い起こしたいのは、1977年に当時の福田赳夫首相が示した対ASEAN外交の原則、「福田ドクトリン」だ。

 日本は軍事大国にならない▽心と心の触れ合う関係をつくる▽対等なパートナーになる――の3原則である。

 軍事大国にならない原則について、福田氏は「人口稠密(ちゅうみつ)で資源に乏しく、海外諸国との交流と協調を必要とする我が国にとってはこれ以外の選択はありえない」と語った。

 今も通じる考え方である。こうした理念の上に築かれた東南アジアの発展は、日本外交の一つの成功例と言えるだろう。

 安倍首相も2年前の東南アジア訪問で、5原則を発表した。「力」でなく「法」の支配を強調し、自由で開かれた海洋は公共財であり、ASEAN諸国とともに全力で守る、と訴えた。

 ASEAN各国は、大国化した中国と日本や米国の軍事的な緊張が高まることを望んでいない。一方で中国はその経済力を背景に、南シナ海問題でASEAN各国に個別に働きかけるなど、地域の分断につながりかねない動きを強めている。

 だが中国への対抗心にはやるあまり、日本が同様の振る舞いに出る愚を犯してはならない。

 中国に法の支配など普遍的な理念を説く日本の言葉が説得力をもつためにも、力対力のパワーゲームとは一線を画す。そうした姿勢を貫くことこそ、ASEAN各国の日本に対する信頼を育てるはずだ。

 同時に、大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)を弾みとして、東アジア包括的経済連携協定(RCEP)交渉の前進にも力を尽くしたい。

 経済を含む連携に中国を巻き込んでいく。そんな環境を作ることが地域の安定に資する。

H2A打ち上げ 官民で商業衛星の受注拡大を

 日本の宇宙産業を発展させる弾みとしたい。

 国産ロケット「H2A」が打ち上げられ、初の民間商業衛星を赤道上の軌道近くで切り離した。日本のロケット技術は新たな段階に入ったと言えよう。

 H2Aロケットの打ち上げは29回目だ。これまでは、政府が発注し、情報収集衛星や地球観測衛星などを搭載してきた。今回は、カナダのテレサット社の通信放送衛星の軌道投入を請け負った。

 受注の決め手となったのは、人工衛星をより遠い宇宙空間にまで運ぶ技術の改良だ。

 北緯30度の種子島から打ち上げると、赤道に対して斜めになった軌道を修正しなければならず、早めに切り離された衛星自身が、進路を変える必要があった。

 この弱点を克服するため、ロケットエンジンの燃焼時間を長くして、静止軌道の近くまで衛星を運搬した。衛星の燃料消費は抑えられ、軌道上でより長く活動できるようになった。

 衛星を運用する企業などにとっては、魅力的な改良だろう。H2Aロケットを開発した宇宙航空研究開発機構(JAXA)と、打ち上げや市場開拓を担う三菱重工業との連携の成果である。

 宇宙産業は成長が見込まれる有望な分野だ。自然災害に対して脆弱ぜいじゃくな途上国での気象観測、農作物の広域的な作柄のチェック、鉱物資源の探査など、人工衛星の需要は様々な用途で高まっている。

 静止衛星の打ち上げは、世界全体で年間20回前後、行われている。民間商業衛星の打ち上げの受注拡大を目指す日本は今後、欧州や米国、ロシアなどのロケットとの激しい競争にさらされよう。

 重要なのは、打ち上げコストの削減である。H2Aの打ち上げには約100億円を要し、欧米より割高だ。政府は、半額程度で打ち上げられる新型基幹ロケットH3の開発を進めている。

 目標である2020年度の打ち上げを実現するには、JAXAと三菱重工業に加え、コンピューターや機械など幅広い業種のノウハウを結集させることが求められる。ロケットは、日本の安全保障にも欠かせないインフラだ。

 政府の宇宙基本計画は、13年に約3000億円だった宇宙機器関連産業の売上高を、今後10年間で計5兆円に増やすことを掲げている。宇宙開発に民間活力を生かすための宇宙活動法案も来年の通常国会に提出する方針だ。

 関連企業の技術力を向上させる重要性が一層、高まっている。

韓国朴教授起訴 自由な歴史研究を封じるのか

 これでは、歴史を巡る自由で冷静な研究活動や議論が成り立たない。

 学術研究を立件するのは、公権力の乱用になりかねず、日韓関係に微妙な影も落としている。

 韓国の地検が、朴裕河・世宗大教授を名誉毀損の罪で在宅起訴した。著書「帝国の慰安婦」で、慰安婦の強制連行を否定し、元慰安婦の名誉を傷つけたという。

 「『強制連行』という国家暴力が朝鮮人慰安婦に関して行われたことはない」とする朴教授の主張を「虚偽」だと決めつけた。朝鮮人慰安婦が「基本的に軍人と『同志』的な関係を結んでいた」とする記述なども問題視した。

 これらの表現が、元慰安婦の人格権を侵害し、憲法が保障する「学問の自由」を逸脱している、と起訴理由に示している。

 昨年6月に元慰安婦ら11人が告訴し、ソウル東部地検が捜査していた。検察が、専門家でも見解が分かれる史実の中身にまで立ち入って判断を下すのは疑問だ。

 朴教授は、「曲解だ」と反論している。慰安婦の境遇は多様で、「性奴隷」「売春婦」などと一括くくりにはできないと主張する。

 著書では、戦時勤労動員だった挺身隊(ていしんたい)と慰安婦が今も混同されているという問題点も指摘した。

 看過できないのは、地検が朴教授の主張を虚偽と断じた根拠として、河野官房長官談話や国連人権委員会のクマラスワミ報告なども挙げていることだ。

 河野談話の作成過程では、旧日本軍による慰安婦の「強制連行」を裏付ける文書は見つかっていない。談話は日韓の政治的妥協の産物であったことが、昨年6月の日本政府の検証で判明している。

 クマラスワミ報告には、20万人の朝鮮人女性が「性奴隷」となり、その後、大半が殺されたといった、根拠に乏しい記述が多数、含まれる。韓国の済州島で慰安婦を強制連行したという吉田清治氏の虚偽の証言も引用されている。

 いずれも、慰安婦強制連行説の根拠とするには無理がある。

 「帝国の慰安婦」は、一部修正された日本語版も刊行され、早稲田大主催のジャーナリズム大賞の受賞が決まっている。

 朴教授は、朝鮮人慰安婦は旧日本軍の協力者でもあったと指摘する一方で、その過酷な境遇を作り出した責任は「大日本帝国」にあったと厳しく批判している。

 こうした客観的な見解の表明さえも制約するようなら、慰安婦問題を巡る日韓の建設的な対話は困難と言わざるを得ない。

2015年11月24日火曜日

テロと憎悪の連鎖を断ち切るには

 パリ同時テロから10日あまりが過ぎた。卑劣なテロへの怒りは犠牲者への追悼とフランスへの連帯の輪となり世界に広がっている。

 近代共和制は18世紀のフランス革命で幕を開けた。多くの血を流してつかみ取った自由や平等の価値観は現代社会の土台である。これを踏みにじる理不尽な暴力を許すわけにはいかない。

 イスラム過激派に国際社会は結束して立ち向かわねばならない。同時に忘れてならないのは、なぜイスラム教の過激思想が生まれ、勢力を広げるのか。根っこにさかのぼって対処することだ。

拡散する過激思想

 事件は多くの課題を残した。

 パリ同時テロでは中東の過激派「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。エジプトで起きたロシア旅客機の墜落でも関与を主張している。テロの標的は中東を越えて広がっている。

 パリの事件の首謀者はシリアへの渡航歴があるという。ISなどには100カ国から3万人近い外国人戦闘員が流入した。これらが出身国に戻りテロを起こすという懸念が現実になった。ISと戦うすべての国が同じ危険を抱える。

 実行グループは高度に組織化されていた。ISはもはや、中東の一無法集団ではなく、地域を越えて過激思想でつながるテロ組織の集合体と考えるほうがいい。指導者を捕らえたり、シリアの都市を奪還したりしても、拡散した過激思想を完全には抑え込めないことを覚悟する必要がある。

 事件が欧州に残したなにより深い傷は、隣人であるイスラム教徒へのまなざしを変えかねないことではないか。欧州は様々な民族や宗派の人々を受け入れてきた。事件により移民や難民への警戒や排斥の動きが強まることが心配だ。

 ポーランドではEU(欧州連合)が決めた中東からの難民受け入れの合意撤回を求める声があがる。移民排斥を訴える極右勢力も欧州各国で支持を伸ばしている。

 テロリストの移動を封じるには出入国管理の厳格化が避けられない。だが、経済統合を進めるEUにとって人やモノの自由な移動は根幹だ。域内の往来を制限するようなことになれば、地域統合の理念は崩壊しかねない。

 フランスには約500万人、ドイツには約400万人のイスラム教徒が暮らす。こうした人々に広がる疎外感は過激主義が広がる土壌となる。テロが憎悪を呼ぶ連鎖を断ち切らねばならない。移民社会の不満の根底にある格差の是正に目を向けることも必要だ。

 ISの問題を考える時、2011年に中東で始まった民主化要求運動「アラブの春」の失敗を見落とせない。長期独裁政権が相次いで倒れたが、人々が思い描いた安定は訪れなかった。

 中東の多くの国々は第1次世界大戦の戦後処理の過程で独立した。欧州列強の手で人為的に引かれた国境線に基づく国民国家の枠組みは求心力を失いつつある。自分は何者なのか。拡大する混乱と帰属のよりどころを求める中東の人々の心にISがつけ込んだ。

 歴史を逆戻りさせてはいけない。拡散する危機への対処には、中東を安定に導く新たな秩序が不可欠だ。そのために国際社会は何をすべきだろうか。

融和への努力強化を

 第1は目先の脅威であるISの封じ込めであることは言うまでもない。ISの掃討作戦で米国を中心とする有志国連合とロシアに歩み寄りの機運が生まれている。シリア内戦の外交解決に向けた協議も動き出した。これらを成果につなげたい。情報交換や資金源を断つ連携を深めることも必要だ。

 第2は中東に暮らす人々の生活水準を底上げし、社会環境を改善する息の長い支援だ。若者の過激思想への傾斜を食い止めるには増大する人口を吸収する雇用の創出や産業の育成が必要だ。中東に原油輸入を依存する日本はこの分野で積極的に役割を果たすべきだ。

 シリアのほかにも、リビアやイエメンでも内戦や混乱が長期化し事実上の無政府状態が続く。国際社会が和平の実現を後押しし、国を逃れた人々が母国に帰還できる環境を整えることが大切だ。

 第3は共存への理解だ。欧州は積み上げてきたイスラム社会との融和の努力を止めてはならない。難民に門戸を閉ざすことだけがテロへの処方箋ではないはずだ。市民どうしやイスラム教とキリスト教の宗教指導者など、あらゆる階層での対話を強化すべきだ。

 日本で暮らすイスラム教徒も増えている。異なる宗教への理解と寛容を身につけることの大切さは欧州だけの問題ではない。

五輪のメダル 政府目標は必要か

 2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、政府が基本方針をつくろうとしている。

 国民総参加。復興五輪。そんなスローガンに並んで、気がかりな目標が盛り込まれた。

 「過去最高の金メダル数」を獲得するという。五輪では1964年東京、04年アテネの16個を超す数をめざすことになる。

 日本選手が活躍すれば、もちろん喜ばしい。国内開催だけに大会も盛り上がるだろう。

 ただ、ちょっと立ち止まって考えたい。メダル数の目標を決めるのは、国の役割なのだろうか。自民党が了承し、閣議決定するというが、本来、スポーツは政治から独立しているべきものではないのか。

 選手強化に多額の公的資金を投じるからには成果を求めたいという気持ちもわかる。とはいえ、五輪の成果をメダルの数に託すのは、政府が率先してメダル主義に走るのに等しい。

 スポーツの価値は自発的に目標をさだめ、継続的に努力する過程にある。勝っても敗れても心を揺さぶられるのは、精いっぱいのプレーとその裏にある苦労に思いをはせるからだ。

 もちろん大会の成功に、国の支援は欠かせない。しかしそれは、選手が力を身につけるための環境づくりや、施設の整備、安全の確保、禁止薬物対策などの分野で示せばいいことだ。

 スポーツは近年、国策化の一途をたどっている。遠藤利明五輪担当相(当時は文科副大臣)の私的諮問機関が07年、トップスポーツは国家戦略とすべきだという報告書をまとめた。

 これを受けて自民党のスポーツ立国調査会も同じ趣旨の提言をした。日本人の活躍で「国際社会でのわが国のプレゼンス」向上が期待できるとしている。

 国威発揚をめざす動きの末に今年10月、スポーツ庁が発足した。選手強化費も増えている。

 財政的な支援を得たいスポーツ界はこの動きを歓迎し、むしろ意欲的に国の関与を求めてきた。その結果、自らの独立性をあやふやにし、国の発言力を高めてしまった。

 目標はけっこうだが、それはスポーツ界自らが、各競技ごとの現在の成績や、めざすべき水準を考えて決めればいい。政府がスポーツを国の広告塔にして介入するようでは、大会の意義が見失われてしまう。

 選手たちが競技場で織りなすドラマに触発されて市民スポーツが裾野を広げるのも、また五輪の大きな効能だろう。

 勝利だけでは語れないスポーツと人間の関係を、今後5年間でじっくり考えてみたい。

子の問題行動 画一指導の危うさ

 「ゼロトレランス」という言葉がある。「寛容度ゼロ」と訳される。小さな問題をあいまいにせず、段階に応じて罰則を定めた行動規範を子どもに示し、破ったらペナルティーを科す。そんな生徒指導法のことだ。

 1990年代、学校で銃乱射事件が相次いだことを受け、全米に広まった。

 これにヒントを得た「学校安心ルール」という指導法を、来年度から大阪市教委が導入する。問題行動を5段階に分け、レベルごとに対応を定める。

 たとえばこんな具合だ。

 【レベル1】授業に遅れる▽ずる休み▽先生をからかう

 →その場で注意。聞かなければ別室指導。従わなければ奉仕活動か学習課題を課す。

 【レベル2】先生の悪口を言う▽友達を仲間はずれにする

 →複数教職員による指導と家庭への連絡。改善しなければ、数日間の奉仕活動……

 レベル4、5の暴力や傷害には、警察への通報や出席停止措置などが明記されている。

 対象は市立の全小中学校424校で、徹底させるため、市教委は学校がルール通りに動かなければ市教委に通報するよう保護者へ呼びかけるという。

 問題行動の背景は子によって違う。学校の事情もそれぞれだ。「ルールだから」とマニュアル的に対応するのは無理があると言わざるを得ない。

 「ぶれない指導で安心、安全な学習環境を確保する」のが市教委のねらいだ。だが、そもそも問題行動にどう対処するかは学校自身が決めることだ。

 市教委は「学校の裁量もある程度認める」と説明する。ならばなぜ、保護者に監視させるような仕組みまで作るのか。

 罰則規定をしゃくし定規に当てはめるようでは、子どもとの対話も失われかねない。

 確かに先生にかつての権威がなくなり、学校の規律をどう守るかは悩ましい問題だ。

 暴力を止めようとしたら「体罰だ」と言われたり、ささいなことでキレられたり。子どもが変わったと感じる先生も多い。

 ルールを守らせるのに手がかりが欲しい。そんな声もあろう。だが、統一的な基準を作るにしても、あくまで教員間の指導の目安にとどめるべきではないか。困難であっても、子どもに直接向き合う先生がその子に合った対応を考える。それが教育だからだ。

 市教委は来年度の1学期から試行し、2学期から本格実施するという。現場の教員からは疑問の声や、撤回を求める動きもある。強く再考を求めたい。

日豪2プラス2 安保協力を重層的に進めたい

 日本と豪州の安全保障協力は、アジア太平洋地域の平和と安定への重要な基盤である。意思疎通を図り、多角的に連携を深化させるべきだ。

 日豪両政府はシドニーで外務・防衛閣僚会合(2プラス2)を開き、共同訓練や部隊交流など、両国の防衛協力を強化するとの共同声明を発表した。

 岸田外相は、日豪関係について「基本的な価値、戦略的利益を共有する特別な関係だ」と強調した。ビショップ豪外相は、「かつてないほど重要だ」と指摘した。

 安倍首相と親密だったアボット豪前首相は9月、経済不振などで退任した。同じ自由党のターンブル首相は、対中関係を重視しており、対日関係が後退することへの懸念が一部にあった。

 安倍、ターンブル両氏は今月中旬、トルコで初めて会談した。今回の2プラス2開催で、両政権の関係は軌道に乗った、と評価できる。今後も、政治対話を重ね、信頼醸成を図ることが大切だ。

 中谷防衛相は、9月に成立した安全保障関連法を説明した。ビショップ氏は「平和維持活動、人道支援、災害救援でより多くの貢献をしてもらえる」と歓迎した。

 安保関連法は日米同盟と国際連携を強化し、日本と世界の安全を確保することが主眼である。

 後方支援の対象を米軍以外にも拡大したのは、日本周辺での緊急事態に豪州軍が駆けつけるケースなどを想定している。

 自衛隊と豪州軍、さらに米軍を交えた共同訓練などを通じ、重層的な協力関係を構築したい。

 豪州は、次期潜水艦の共同開発の相手について、日仏独の3か国の中から選定する。

 日本の潜水艦製造技術は世界最高水準とされる。政府は、第三国への技術流出防止について、豪州側と十分協議する必要がある。

 共同声明は、中国の東・南シナ海での海洋進出や人工島造成を念頭に、「あらゆる威圧的、一方的な行動に強く反対する」と表明した。すべての国が、国際法に基づいて「航行と飛行の自由」を持つとも明記している。

 人工島の12カイリ内での米軍の巡視活動は、国際法の原則を体現するものだ。日豪は、様々な手段で米国を後押しする必要がある。

 日豪は、パプアニューギニアなど太平洋の島嶼(とうしょ)国に対し、海上保安能力の向上や社会基盤整備などを支援する方針だ。

 西太平洋の海上交通路(シーレーン)の安全確保は、各国共通の利益だ。積極的に寄与したい。

ハローワーク 国と地方が雇用で連携しよう

 雇用政策のノウハウや財政・人的資源を持つ政府と、地域の実情に通じた自治体の能力をうまく組み合わせて、成果を上げることが大切だ。

 内閣府の地方分権改革有識者会議の雇用対策部会が、ハローワークの運営に関して、政府と自治体の連携を大幅に拡大する報告書をまとめた。政府は、年内に新方針を閣議決定し、来年の国会への関連法案提出を目指す。

 報告書は、厚生労働省の労働局と都道府県・市町村が、職業安定事業の計画策定などに関する協定を締結することを提案した。

 労働局のハローワークの職業紹介と、自治体の生活保護、就労支援などの業務の「一体的実施」を協定に明記し、全国規模で推進することも求めている。

 「一体的実施」は2011年度以降、約150自治体で行っている。同じ施設内に政府と自治体の窓口が並ぶため、求職者には便利だ。行政側の情報共有が進み、適切な支援によって就職率も上昇したという。着実に進めたい。

 報告書は、知事が協定全般について、労働局に「要請」する権限も盛り込んだ。事実上の「指示」に相当するとされる。

 埼玉、佐賀両県の「ハローワーク特区」では、知事に指示権が付与された。指示に基づき、佐賀の一部では、就労相談から職業紹介まで同じ職員が行っている。

 知事がこうした権限を持つことを、労働局との調整の円滑化に有効活用し、職業紹介の効率化につなげることが求められる。

 自治体が、政府と同様に「地方版ハローワーク」を独自に設置することも報告書は容認した。

 都市部から離れた地域での設置が想定される。求職者の利便性の向上や、地方企業の求人の掘り起こしにつなげねばならない。

 ハローワークと近接しないように設置し、業務の重複を避けることが大切である。

 全国知事会は当初、「政府と自治体の窓口が別だと、利用者には二度手間になる」などとして、雇用保険業務を含むハローワーク業務の全面移管を求めていた。

 厚労省と経団連、連合は、「職業紹介の全国ネットワークが維持できなくなる」などと地方移管に反対した。報告書が、全面移管でなく、連携強化にとどめたのは、現実的な判断である。

 重要なのは、自治体が地方創生の総合戦略の一環として、雇用政策に取り組むことだ。政府も、そうした視点で、新たなハローワークの制度設計を進めるべきだ。

2015年11月23日月曜日

大阪を巡る混乱に終止符を

 「大阪都」構想への再挑戦を掲げた地域政党「大阪維新の会」が知事と市長の大阪ダブル選で勝利を収めた。「都」構想は5月の住民投票では否決されており、何が民意かが見えにくくなった。大事なのは税金の無駄遣いをなくすという原点に帰ることだ。大阪を巡る混乱に終止符を打ってほしい。

 今後、大阪維新は「都」構想の実現を目指すことになるが、府議会、市議会とも過半数を占めていない。自民、公明、共産各党などと対立を続ければ堂々めぐりの議論が続くことになる。

 自公共とも府と市が同じような施設づくりをする二重行政をよしとしているわけではない。大阪維新は敵を徹底的に批判する政治手法で人気を集めてきたが、どうすれば合意形成ができるかにそろそろ目を向けるときだ。

 大阪維新を立ち上げた橋下徹氏は来月の市長任期切れをもって政界から身を引くと明言してきた。代表を外れたら党運営への発言は慎み、二重権力状態になるような振る舞いは避けるべきだ。政治にかかわり続けるならば、引退発言をきちんと撤回するのが筋だ。

 それにしても構図のわかりにくい選挙だった。表向きは知事選も市長選も自民党と大阪維新の事実上の一騎打ちだった。

 その一方で安倍政権中枢の菅義偉官房長官が大阪維新の松井一郎知事と告示直前に会談するという出来事があった。安倍政権打倒を訴える共産党は自民党候補を全面支援し、国政与党の公明党は自民党と組まずに自主投票だった。

 国政選と地方選で政党の組み合わせが違うことや、党本部と地方組織の思惑がずれることは珍しくない。が、これほどいろいろな要素が絡むと大阪の有権者も何を基準に投票してよいのか迷ったことだろう。選挙結果が安倍政権に及ぼす影響も即断できない。

 はっきりしたのは、大阪維新には地元で根強い支持があることだ。「都」構想一辺倒でなく、国政の第三極として何を目指すのかを示す責任がある。

連携して南シナ海の秩序守れる体制に

 いくら経済の統合が進んでも、安全保障の土台が大きく揺らいだら、アジアが高成長を続けることは難しくなってしまう。各国がさらに連携し、この地域の海洋秩序を守っていく体制を整えなければならない。

 日米韓中やオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)などの首脳がマレーシアに集まり、安全保障問題をめぐって議論を交わした。個別の会合に続き、22日には各国が一堂に会し、東アジア首脳会議を開いた。

 焦点になったのは、中国が南シナ海に人工島をつくり、軍事拠点にする動きをみせている問題だ。満潮時に水没する岩礁を埋め立てても、国際法上、領海を有する島とは認められない。ところが、中国は人工島を領土であるかのように扱っている。

 日本や米国は一連の会合で、中国による人工島の建設を強く批判し、軍事拠点として使わないよう迫った。他のほとんどの首脳も、東アジア首脳会議で南シナ海問題にふれ、「航行の自由」の確保や平和解決を促したという。

 これに対し、中国は、日米などの域外国が介入すべきではないとの立場だ。だが、南シナ海は世界にとっても重要なシーレーン(海上交通路)であり、中国の主張は到底、受け入れられない。

 中国の行動に歯止めをかけるには、各国が連携して自制を求めるしかない。気がかりなのは、ASEAN内の足並みがそろっていないことだ。中国と領有権争いを抱えるフィリピンなどは日米と同じ立場だが、中国に隣接し、多くの経済援助をもらっているカンボジアなどは中国批判に慎重だ。

 中国は援助外交などをテコに、対中批判を控えるようASEAN各国に強く働きかけているとされる。各国の溝がさらに広がれば、中国が強気の行動を続けるのを許すことになってしまう。

 そうした事態を防ぐには、2つの対応が欠かせない。まずは関係国の対話をさらに緊密にして、意思の統一を図ることだ。たとえば、日米豪とASEANの国防相会議を新設する案なども考えられるだろう。

 そのうえで重要なのは、中国の一方的な行動にみなで対抗できるようにするため、ASEAN各国の海上警備能力を高めていくことだ。日米は、巡視船の供与や人材の育成にそろって取り組んでいきたい。

テロと日本 人道支援でこそ連帯を

 過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威にいかに向き合うか。世界が直面する喫緊の、そして最大の難問である。

 日本としても、国際社会と団結し、できる限りの貢献をする必要がある。安倍首相が、国際会議などを通じて連携を呼びかけたのは当然のことだ。

 残念なのは、では具体的に何をするのか、何をすべきかの議論が深まらないことだ。

 議論の場となるべき臨時国会は見送られた。自民党では共謀罪の新設が取りざたされているが、テロの病根をどう絶つかの本質的な議論とは程遠い。

 大事なのは、日本外交が何を強みとし、国際社会の中でどんな役割を担うべきなのか、テロの時代に対応する日本外交のあり方を問い直すことである。

 その答えは、戦後日本の歩みから見えてくるのではないか。

 これまで日本は海外での武力行使に歯止めをかけてきた。その結果、中東などで根づく平和国家ブランドこそ、日本外交の貴重な資産である。

 米欧やロシアが空爆を強化しているが、中長期的にみれば、軍事だけで過激思想の温床はなくならない。憎悪の連鎖を招く副作用もある。軍事と非軍事の両輪が欠かせないのだ。

 安保法制が来春に施行されれば、自衛隊が中東などで、他国軍の後方支援に、より踏み込んで加わることが可能になる。しかし、それは日本の強みを失わせかねない。

 日本はむしろ、中東の人びとの暮らしの安定をはかる非軍事の人道支援の分野で独自の役割を果たしうる。そこに持てる力を注ぐことが重要だ。

 まず議論すべきは、難民支援に本腰を入れることだ。すでにシリアとイラクの難民と国内避難民向けの支援を昨年実績の3倍に手厚くすると表明した。さらに支援の手を広げたい。

 厳しすぎる難民認定基準は見直し、受け入れを拡大すべきだろう。当面は難民の若者を留学生として招いたり、先進的な医療を希望する難民を受け入れたりする工夫もあっていい。

 ピークだった97年度の1兆1700億円から半減している途上国援助(ODA)予算の増額も、検討する必要がある。

 歴史的に複雑な関係にあるアラブ諸国やイスラエル、イランのいずれとも対話ができることも、日本外交の大きな資産だ。それを生かして、難民問題やテロ対策の国際会議の開催などで汗をかくことも意義がある。

 人道外交を重んじる平和国家日本。その理念を忘れず、粘り強く役割を果たしたい。

大阪維新勝利 対話と融和を最優先に

 大阪のかじ取りは再び大阪維新の会に託された。

 22日投開票された大阪ダブル選で、大阪維新幹事長の松井一郎氏が知事に再選され、大阪市長には橋下徹氏が後継とした吉村洋文氏が初当選した。

 大阪維新は5月の住民投票で否決された大阪都構想への再挑戦を公約に掲げた。だが今回の結果を、ゴーサインととらえるのは尚早だ。

 低迷する大阪は変えてほしいが、市を解体する都構想が唯一の道ではない。住民投票と選挙の相反する結果は、そういう複雑な民意の表れではないか。

 まずは都構想に反対する住民の声を聴く。松井、吉村両氏は、そこから始めるべきだ。

 前回ダブル選後の4年間、大阪は混迷を極めた。橋下、松井両氏が都構想などの改革を強引に進めたことが大きい。

 橋下氏に欠けていたのは、反対意見を尊重し、誤りがあれば柔軟に修正する姿勢だ。吉村氏は「橋下氏の修正すべき点は修正する」と約束した。今後は対話を優先し、大阪の融和を図ってもらいたい。

 橋下氏は住民投票後、「12月の市長退任で政界を引退する」と表明した。ただ、維新の党を割って新党をつくる意向を示してからは「党の法律政策顧問になりたい」と述べている。

 あいまいな立場で政治にかかわるのはやめるべきだ。首長を退いたのに府市の行政に影響力を持ち続ければ、「院政」との批判は避けられまい。

 反維新側は自民が擁立した候補を共産、民主が支援する異例の態勢で臨んだが、敗れた。国政で対立する与野党が反維新の一点で手を組むことに、理解が広がらなかった可能性がある。都構想に代わる明確なビジョンを示せなかったことも大きい。

 選挙戦では自民党幹部や閣僚も次々と大阪入りした。安倍政権とのパイプで鉄道や高速道路を整備し、大阪を浮揚させる。そうした中央頼みの訴えが、現実味のある策として受けとめられなかったのではないか。

 維新の政治に不安や不満をもつ住民が少なくないことは、選挙戦からもうかがえた。そうした声を代弁し、チェック役を果たす責任は重い。

 知事、市長選とも投票率は4年前を下回った。非難合戦で大阪の課題をめぐる議論が深まらなかったことが背景にある。多くの有権者が棄権したことを両陣営は重く受けとめてほしい。

 貧困、少子高齢化、教育、財政危機など、大阪が抱える問題は数多い。今度こそ力をあわせ、解決策を探るべきだ。

東アジア会議 南シナ海で対中圧力を強めよ

 国際法に基づく「航行の自由」を揺るがしながら、自らの行為を正当化する中国の言動は容認できない。その脅威と独善性を国際社会に繰り返し訴えることが重要である。

 日米中露などと東南アジア諸国連合(ASEAN)の計18か国による東アジア首脳会議が、マレーシアで開かれた。中国が南シナ海で人工島造成と軍事拠点化を進めている問題を巡って、日米などとの間で応酬が繰り広げられた。

 安倍首相は、海洋での「法の支配」を徹底するよう訴えた。中国を念頭に、「大規模かつ急速な埋め立てや拠点構築、軍事目的での利用が継続している」と指摘し、「深刻な懸念」を表明した。

 オバマ米大統領は、人工島の12カイリ内を米艦艇が巡視する作戦の継続を前提に、「航行と飛行の自由」の重要性を力説した。フィリピンのアキノ大統領らも同調した。

 日米が共同で関係国と連携して中国への圧力を強めることは、地域の安定維持に欠かせない。

 看過できないのは、中国が日米を南シナ海の「域外国」とし、その関与を批判していることだ。

 李克強首相は「域外国」に対し、「地域情勢を緊張させる行動をとらない」ことを求めた。米軍の巡視活動を牽制する狙いだろう。

 南シナ海の海上交通路(シーレーン)の安全確保は、南シナ海の沿岸国だけでなく、日米を含む国際社会共通の利益にほかならない。中国の主張は筋違いだ。

 中国は、法的拘束力のある行動規範の策定に向けたASEANとの協議に応じているが、策定時期の見通しは立っていない。対話で時間を稼ぎ、南シナ海支配を既成事実化する意図は明白だ。

 先に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、南シナ海問題が議論されなかった。中国が事前に根回ししたことがうかがえる。

 習近平国家主席は今月上旬、領有権問題で対立するベトナムを訪問し、APEC議長国のフィリピンには、王毅外相を派遣した。

 経済カードで懐柔し、ASEANを分断するのは、中国の常套手段だ。だが、その場限りのごまかしを続け、力による一方的な行動を改めなければ、地域の不信感を高めるだけではないか。

 中国の揺さぶりは、ASEANの結束に悪影響を及ぼす。ASEAN各国は経済共同体を年末に発足させると宣言した。域内人口6億人超の単一市場構築を目指す。日本は米国と協調し、ASEANの一体的発展を支えるべきだ。

大阪維新2勝 都構想巡る対立再燃が心配だ

 地域政党・大阪維新の会の完勝である。「大阪都」構想に再挑戦する構えだが、不毛な政治対立の再燃が懸念される。

 大阪ダブル選は、大阪維新代表の橋下徹大阪市長から後継指名を受けた吉村洋文前衆院議員が、市長選で初当選した。府知事選でも、大阪維新幹事長の松井一郎氏が再選された。

 大阪は近年、企業の流出が続き、経済的な地盤沈下に歯止めがかからない。有権者が閉塞感を抱き、変化を求める中、発信力の高い橋下氏らに対する期待の根強さが示されたと言えよう。

 職員や外郭団体の削減、市営地下鉄の値下げなど、実績を強調する大阪維新の戦術も奏功した。

 いずれも敗れた自民党推薦候補の陣営は、民主、共産両党の支援も受けたが、寄り合い所帯で最後まで足並みがそろわなかった。

 共産党との共闘に加え、安倍首相や菅官房長官が橋下氏らと親密なことなどから、自民党支持層の一部が離反したことも響いた。

 今後4年間の舵取りを任された松井、吉村両氏は、大阪再生に向けて、成長戦略に取り組み、具体的な成果を上げねばならない。

 気がかりなのは、5月の住民投票で否定された都構想が、再び政治テーマになることだ。住民の賛否を二分するのが確実なだけに、激しい政争が繰り返され、大阪の浮揚策が後回しにならないか。

 あえて敵対勢力を作って攻撃し、注目を集めて正面突破する。橋下氏は、こうした独特の政治手法で自らの主張を押し通してきた。だが、この強引さが住民投票で裏目に出て、政界引退を表明したのではなかったのか。

 大阪維新は、府・市議会とも過半数の議席を有していない。松井、吉村両氏は、意見の異なる人とも議論を尽くし、理解を得つつ、再生の道筋を描いてもらいたい。

 橋下氏は、維新の党を離党し、10月末に国政政党「おおさか維新の会」を旗揚げした。今回のダブル選勝利の余勢を駆って、政治力の維持・拡大を目指す。

 おおさか維新には国会議員19人が参加する。橋下氏は政界引退後、党の「法律政策顧問」に就き、影響力は確保するだろう。

 おおさか維新は、安倍政権との協力も視野に入れる。対案を提示し、建設的論戦を挑むことが大切だ。そうした「責任野党」志向こそ、反対一辺倒に陥りがちな民主、共産両党との違いを明確にし、存在感の発揮につながろう。

 維新の党の政治資金を巡る残留組との対立の解消も急務だ。

2015年11月22日日曜日

こまめな価格改定で太陽光導入を抑えよ

 政府は2012年に導入した再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の見直しを進めている。

 エネルギー自給率の向上と地球温暖化対策のため再生エネの最大限の導入が求められており、制度はその拡大に効果をあげている。一方で、買い取りのため消費者が支払う賦課金が増え国民負担の抑制も課題に浮上した。どうバランスをとるかがポイントだ。

 太陽光発電と、風力や地熱発電など太陽光以外を区別して考える必要がある。買い取り制度の下で急速に導入が進み、負担増を招いているのは太陽光だ。風力などは設置場所選びから稼働まで数年以上かかり、普及はこれからだ。

 太陽光には何らかの抑制策が必要だが、風力などは逆に、規制緩和を進めもっと導入を促す必要がある。

 買い取り制度で認定済みの太陽光発電は8200万キロワットに達する。30年度の想定導入量6400万キロワットを数字の上では超えた。消費者が負担する賦課金も1キロワット時あたり約0.22円(12年度)から1.58円(15年度)に増えた。

 ただ8200万キロワットがすべて稼働するわけではない。相当の量が認定を取得しただけで稼働に至らないとみられている。

 制度を所管する資源エネルギー庁は未稼働案件の実態を把握し、場合によっては認定を取り消すなどして現実の導入見込み量を早期に示すべきだろう。併せて未稼働案件が多数生じないよう、認定時期や条件を改善する必要がある。

 普及の速さを調整するには、買い取り価格を四半期、あるいはもっとこまめに見直すのがよい。太陽電池などの価格低下に買い取り価格をもっと敏感に追随させ、賦課金の圧縮に努めるべきだ。そもそも「太陽光バブル」を生んだのは、年1回しか価格を見直してこなかったことが大きな要因だ。

 見直しでは入札方式への変更も選択肢にあがっている。導入枠をあらかじめ決めて入札すれば導入量の管理は確実だが、価格設定を通じて導入量を制御する現行制度からの大きな転換になる。

 入札制への変更は必ずしも買い取り価格の抑制につながる保証はない。また入札は大規模な導入が有利になり、エネルギーの地産地消を掲げて再生エネを手がける地方の企業や自治体の取り組みを阻害する恐れもある。制度の継続性からも、ここは現行制度の十分な活用にまず取り組むべきだ。

ロシアは対テロ国際協調を

 エジプトのシナイ半島で先月末起きたロシア旅客機の墜落について、ロシアのプーチン政権が「爆弾によるテロ」と断定した。

 搭乗していたのはほとんどがロシアの観光客で、乗客・乗員224人が犠牲になった。プーチン大統領は「地球のどこにいようが犯人を見つけ出して処罰する」という。ロシアが国際社会の足並みを乱さず、関係国と連携してテロとの戦いを進めるよう求めたい。

 墜落原因を調査した連邦保安庁(FSB)は機体の破片などから外国製爆発物の痕跡が見つかったとし、機内に仕掛けられた手製爆弾が上空で爆発したと断じた。

 ロシア機墜落に対しては、過激派組織「イスラム国」(IS)傘下の組織が犯行声明を出しているが、ロシアはこれまでテロの可能性に慎重な見方を示してきた。

 プーチン政権はIS掃討と称して、9月末からシリア領内で空爆を開始したばかりだ。その報復テロだったと早々に認めれば、政権への不信が国内で広がりかねないと危惧したとみられる。

 ここにきてテロと断定したのはやはり、パリ同時テロの影響だろう。ISによる残忍なテロの被害国としてフランスと共闘すれば、国際社会の同情も集めやすい。ロシアが唱えてきたIS掃討の国際連携と、政権派と反体制派の協議を通じてシリアの内戦終結をめざす構想も関係国の理解を得やすくなると踏んだようだ。

 現にオランド仏大統領は近く米国とロシアを歴訪し、対テロ連携に向けた米ロの仲介役を担う意向だ。ISを封じ込めるには、テロとの戦いで国際社会が結束するとともに、シリアの内戦を一刻も早く終わらせる必要がある。

 ロシアがシリアに介入する思惑をめぐっては、ウクライナ危機による国際的な孤立脱却に加え、アサド政権の延命やシリアでの軍事的な利権保持を狙っているとの疑心が拭えない。ロシアが真に国際連携を望むなら、米欧や中東諸国の主張に真摯に耳を傾け、協調した行動をとることが肝要だ。

消費増税と与党協議 「再分配」を論じる時だ

 消費税率を10%に引き上げる際、食料品などの税率を現行の8%にとどめる軽減税率の導入を巡って、自民、公明両党の溝が深い。

 外食を含む飲食料品全般を対象にする案など、幅広く適用したいのが公明党だ。自民党は、消費税収を社会保障に充てることを決めた「一体改革」の枠組みを重視し、生鮮食品などに限るよう主張している。

 消費税には、所得の少ない人ほど負担が重くなる「逆進性」がある。与党が軽減税率を検討し始めたのは、逆進性を和らげるためだった。ところが、ここへきて「景気への悪影響を小さくする」「痛税感を緩和する」との狙いが語られている。

 そればかりか、軽減税率導入に伴う税収減の穴埋め策として、低所得者向けの社会保障給付の取りやめが浮上するなど、本末転倒とも言える議論が続く。

 ■検討されない2案

 そもそも、軽減税率では支援の必要がない高所得者も恩恵を受ける。税収減の度合いと比べて低所得者を支える政策効果は大きくない。

 低所得者対策を中心とする「再分配」の仕組みを整えることは、税財政政策の眼目である。自民、公明両党もよくわかっているはずだ。

 民主党政権だった3年前、自公両党も賛成して成立した税制抜本改革法には、次の三つが逆進性対策として列挙された。

 まず、給付付き税額控除。税額控除とは納税額を直接減らす減税手法のことだ。税制と社会保障などの給付を一体で設計しようという考え方である。

 次に、総合合算制度。医療や介護、保育の自己負担を個人ごとに合計し、上限を設ける仕組みだ。所得の少ない人にとって、社会保障に伴う保険料や自己負担の逆進性は消費税より大きいとの指摘がある。総合合算制度は、保険料が対象外ではあるが、社会保障に伴う負担を取り上げた点が注目された。

 そして、軽減税率である。

 給付付き税額控除は、負担と給付を国民ごとに把握する手段が乏しいことが難点とされてきたが、来年から本格導入されるマイナンバーを使えば道が開けそうだ。ところが、与党は検討を始めるそぶりすら見せない。

 総合合算制度にいたっては、制度導入のために消費増税分の一部を充てることになっていたのに、軽減税率導入に伴う税収減対策として、撤回の方向で与党が合意してしまった。

 どんな制度が負担と給付の観点から公平なのか。根本から考える絶好の機会を、与党は自ら放棄している。

 ■変化に遅れる税制

 政治の「迷走」を横目に、再分配について議論を続けている組織がある。官と民、二つの税制調査会である。

 政府税調は、働き方やライフスタイルの多様化など、構造変化に合わせた税制をテーマに掲げる。国民の所得や資産の状況について、現役組や高齢者といった世代にとらわれがちだった従来の見方を脱して「正社員と非正規社員」「貯蓄や不動産の多い人と少ない人」といった観点からとらえ直すのが狙いだ。

 このほどまとめた論点整理では、若い低所得層の負担を軽くするべきだという方向性を示した。世代を問わず所得や資産が多い人にもっと税金を納めてもらい、貧しい人への支えを厚くするための税制改正を目指し、来年夏に答申を出す。

 もう一つが、大学教授や元官僚らが「納税者一人ひとりが税制を考えよう」と立ち上げた民間の税制調査会だ。政府税調が省庁の縦割りから議論の対象を税制に限っているのに対し、民間税調は医療・介護などの保険料や自己負担、社会保障を中心とする給付も視野に入れ、再分配の全体像を問い直そうとしているのが特徴だ。

 高所得者が多く持つ株の配当や売却益への課税が軽いため、所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる。税制の再分配機能は弱く、社会保障頼みになっている。子どもの貧困から格差・不平等が世代ごとに拡大するのを防ぐため、社会保障と教育政策を一体で考えたい……。独自の視点も交えながら、近く税制改革案をまとめる。

 ■対策は待ったなし

 二つの税制調査会に共通するのは、少子高齢化と格差・不平等の深刻化が同時に進む日本の現状への危機感だ。

 社会の公正や安定への配慮にとどまらない。非正規や無業の若者が増え続ければ知識や技能の伝承が途切れ、国全体の成長力が低下しかねない。貧しい高齢者の増加を放置していては、既に不十分な社会保障制度や予算が破綻(はたん)してしまう。

 深刻な財政難を考えれば、「消費増税は10%まで」と見るのは楽観的に過ぎるだろう。だから今、再分配に正面から向き合うことが必要なのだ。

 与党には、こうした問題意識がないのだろうか。

福島原発廃炉 適切な放射線管理が不可欠だ

 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉には約40年を要する。必要な人員を確保するためには、作業員の健康管理を徹底することが大切だ。

 東電が、安全対策の強化に乗り出した。作業員を派遣している協力会社と協議組織を作り、現場の巡回や点検の回数を増やした。作業員への安全教育も拡充した。政府が8月下旬に設けた安全ガイドラインに沿った内容だ。

 福島第一原発では、1日平均で約7000人が働いている。土木作業などに伴う事故は少なくない。東電は作業環境の向上に万全を期してもらいたい。

 特に重要なのは、作業員の放射線被曝を減らすことだ。

 敷地内の除染が進み、ほとんどの場所では、使い捨ての防塵マスクだけで作業が可能になった。

 だが、建屋付近には、深刻な汚染が残る。そこでの作業については、事前に被曝線量を試算し、被曝低減策を講じてから着手する手順が新たに設けられた。

 現場では、鉛の板で測定器を遮蔽し、被曝線量を少なく見せかける不正が起きた。対策として、測定器を入れる作業着のポケットを透明にして、外からチェックできるようにした。

 作業員の安全確保には、被曝線量の厳格な管理が欠かせない。

 厚生労働省は先月、福島第一原発で働き、白血病を発症した40歳代の男性を労災と認定した。廃炉作業の従事者では初となる。

 男性の被曝線量は、他原発での分を含めて19・8ミリ・シーベルトだった。厚労省が定めた原発作業員の被曝限度の「年間50ミリ・シーベルト、5年で100ミリ・シーベルト」を大きく下回る。

 それでも労災と認定されたのは、被曝限度とは別に、白血病の労災認定基準があるためだ。厚労省の専門家検討会が「年5ミリ・シーベルト以上の被曝がある」「他の要因が考えられない」といった認定基準を踏まえて判断している。

 被曝限度は、健康への影響が顕在化しないとされる値だ。一方、労災基準は、放射線への感受性が特異的に高い人がいると仮定し、こうした人が補償から漏れないよう定められたものだ。

 全く別の観点から設定された被曝限度と労災基準を安易にリンクさせてはならない。

 厚労省は、1976年から原発作業員13人を労災認定している。今回を含め、「(被曝と発病の)因果関係が証明されたものではない」と強調している。

 不安が広がらないよう、正確な情報の周知に努めたい。

性犯罪再犯対策 きめ細かな更生教育を進めよ

 性犯罪は、被害者の人格や尊厳を著しく侵害する。卑劣な犯行を繰り返さないよう、いかに更生させるか。加害者対策の充実が不可欠だ。

 今年の犯罪白書は、「性犯罪者の実態と再犯防止」を特集テーマに採り上げた。2008年7月からの1年間に、性犯罪で懲役の有罪判決が確定した1791人について、再犯の状況を詳細に調べたのが特徴だ。

 類型別で最も常習性が高かったのが、痴漢だ。痴漢行為で有罪となった者のうち、85%に性犯罪の前科があった。凶悪犯罪の強姦では20%余りだった。

 性犯罪の前科が3件以上ある者の初犯年齢では、10~20歳代が8割を占めた。再犯に走らせないためには、若年層への早期の対処が重要だということだろう。

 法務省は06年から、再犯リスクの高い受刑者や仮出所者を対象に、再犯防止プログラムを実施している。心理療法により、思考・行動パターンの問題点を自覚させ、犯行を思いとどまることを身に付けさせるのが狙いだ。

 出所後3年間の動向調査では、刑務所での受刑中と、仮出所後の保護観察期間中の双方でプログラムを受講した者の再犯率は、受講していない満期出所者の5分の1にとどまっていた。プログラムの効果がうかがえる。

 刑期や保護観察期間が短いために、受講の機会が確保できない者も少なくない。

 法務省は今年度、刑務所で半年以上かかっていたプログラムを4か月に短縮した「集中プログラム」を本格導入した。短期でも効果が得られるよう、内容に一層の工夫を重ねてもらいたい。

 社会生活に復帰してからの更生を支えることも重要である。

 満期出所者の性犯罪の再犯率は、25%と高い。刑期を満了しているため、司法当局が強制的に監督・指導できないためだ。

 帰住先のない出所者や定職のない者に、再犯の傾向が強い。法務省と厚生労働省が連携し、出所後の受け入れ先の確保や就労支援に力を入れる必要がある。

 子どもへの暴力的性犯罪の前歴者に対しては、法務省から提供された居住地情報を基に、警察官が定期的に自宅を訪問している。ただ、本人が同意した場合に限られることから、再犯の抑止効果について、検証が必要だろう。

 性依存症などを抱えた性犯罪者もいる。適切な治療を受けさせるには、矯正・更生施設と医療機関の連携が求められる。

2015年11月21日土曜日

日米の安保協力を「面」に

 世界の成長センターであるアジア太平洋では、安定を揺るがしかねない火種があちこちでくすぶっている。日米は安全保障協力を「線」から「面」に広げ、他国と一緒になってこの地域の秩序を支えることが大切だ。

 安倍晋三首相とオバマ米大統領による会談は、そうした努力を急がなければならない現実を改めて印象づけた。話し合われた懸案の多くが、日米両国だけでは解決できない問題だったからだ。

 会談では、国家や企業の情報を盗むサイバースパイや、大規模テロへの対策が取り上げられた。日本では来年に主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)、2020年には東京五輪・パラリンピックが控える。米国だけでなく、世界各国との協力が欠かせない。

 もうひとつの課題が、中国が南シナ海を埋め立て、人工島をつくっていることへの対応だ。それらが自分の領土であるかのように中国が振る舞い、軍事化を進めれば、各国の「航行の自由」は大きく制限されかねない。

 オバマ大統領は会談で、人工島を中国の領土と認めない姿勢を鮮明にするため、12カイリ(約22キロメートル)以内に米軍艦船を送り続けると言明した。安倍首相も「日本の安全保障に与える影響」を踏まえ、自衛隊による南シナ海での活動を検討すると伝えた。

 南シナ海は重要なシーレーン(海上交通路)であり、安定を保つため、日本としても一定の役割を果たすべきだ。

 現状でも、警戒や訓練のために自衛隊を送ることは不可能ではない。ただ、いくら頑張っても、米国や日本だけで中国の強硬な行動を抑えるには限界があるだろう。そこで肝心なのは日米が南シナ海の周辺国と密に連携し、みなで中国に自制を迫れるような体制をつくり上げることだ。

 自衛隊はフィリピンと共同訓練をしたほか、ベトナムとも実施で合意した。各国が海上警備力を底上げできるよう、装備面の支援も日米が協力して広げたい。

無責任な仕事生む建設業の構造を変えよ

 傾いた横浜市のマンションで発覚した杭(くい)打ち工事のデータ改ざんは、旭化成建材が手掛けた横浜市以外の工事で広がるだけでなく、業界大手のジャパンパイルの工事でも見つかった。

 建設各社や国土交通省は特定の企業、分野の問題として片付けず、建設業全体の不信につながる問題として危機感を強めるべきだ。無責任な仕事を生む構造や管理体制を早急に変えてもらいたい。

 建設業は総合建設会社(ゼネコン)を頂点に、分野ごとに1次、2次、3次と多数の下請け企業がぶらさがる構造を持つ。この重層下請け構造は工事の専門化に対応する側面もあるが、施工の管理責任を曖昧にしがちだ。

 工事全体の管理監督責任は元請け企業が負う。しかし、横浜市のマンション工事で元請けの三井住友建設の責任者は問題になった杭打ち工事に立ち会っていない。

 三井住友建設と2次下請けの旭化成建材は、互いに責任を押しつけ合う発言が目立つ。両社の間に入った1次下請けの日立ハイテクノロジーズは工事の役割がみえにくく、中間利益だけを得た「丸投げ(一括下請負)」の疑いがあるとみて国交省が調べている。

 杭打ち工事を担当した旭化成建材の体制もずさんだ。杭打ちデータを改ざんした50人以上の現場責任者の多くは、工期中だけ下請けの建設会社などから同社に出向しており、現在では連絡もとりにくいという。

 こうした現状を見れば、建設産業への信頼は揺らいで当然だ。

 工事後の検査体制も重要だが、見えない部分の不正やミスを発見することには限界がある。まず建設業界が工事の最終責任は元請けにあることを確認し、元請けと下請けが建設業法の定める責任者を適切に配置、機能させて隙間のない管理体制を徹底すべきだ。

 下請けの重層構造は、業界団体の日本建設業連合会がめざす「2次下請けまで」の簡素化を実現してほしい。下請けの数が減れば中間コストを削減でき、現場で働く建設技能者の待遇改善にもつながる。厳しい労働環境は人手不足だけでなく、モラルの低下やミス、深刻な事故を招く。

 工期や予算を理由に安全性の確保をおろそかにすることは許されない。マンション工事が終わる前に販売する「青田売り」の慣行を含め工事の発注、設計段階から問題点を洗い出して見直すべきだ。

南シナ海問題 緊張緩和の努力こそ

 南シナ海が「開かれた海」であり続けるために、日米が連携するのは当然だ。そうだとしても、米国は米国の、日本は日本の役割を大事にしたい。

 安倍首相がオバマ大統領との首脳会談で、南シナ海で米軍が行っている「航行の自由作戦」への支持を表明した。

 中国が埋め立てて造った人工島近くに米軍艦船を派遣し、国際規範に沿った「航行の自由」を示すのが作戦の狙いだ。独断でルール変更をめざす中国の行動は容認できるものではなく、首相の支持表明は理解できる。

 一方で、米軍の作戦が南シナ海の緊張を高め、偶発的な軍事衝突を招きかねないことも確かだ。中国に責任ある大国としての自制を促すためには、軍事的な抑止と、外交的な緊張緩和のバランスが求められる。

 その意味で懸念されるのは、日米協力の必要性を強調する大統領に対し、首相が南シナ海での自衛隊活動について「(海域の)情勢が日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と伝えたことだ。

 菅官房長官は「航行の自由作戦に自衛隊が参加する予定はない」と説明したが、首相の発言は将来の自衛隊派遣に含みを残したとも受け止められる。先の国会での安全保障法制の審議では、南シナ海への自衛隊派遣について十分な議論はなかった。

 首相の真意は何なのか。やはり早期に国会を開き、きちんと説明してもらう必要がある。

 海上自衛隊の艦船は現在も南シナ海を航行しているが、継続的な警戒監視活動は行っていない。法制上、不測の事態への対応が難しく、活動に制約をかけてきた面がある。

 だが安保法制が来春に施行されれば、並走する米艦の防護が可能になるなど、米軍と自衛隊の共同行動がやりやすくなる。

 かねて米国からは、南シナ海での自衛隊の活動に期待が示されてきた。米軍の負担がそれだけ軽くなるからだろう。

 しかし、日本は中国を侵略した歴史があり、隣国でもある。日中が軍事的に衝突すれば、米中の場合以上に事態の収拾が難しいことは想像に難くない。

 日米が同じ行動をとることだけが連携ではない。日本として何を、どこまでするのか。国民的な議論が欠かせない。

 軍事的な行動を言う前に、東南アジア諸国などと連携しながら、経済や環境、エネルギーなど幅広い分野で中国を対話に巻き込み、同時に国際ルールを守るよう促していく。

 緊張緩和に向けた外交努力こそ、日本の役割ではないか。

歴史観の訴追 韓国の自由の危機だ

 韓国の検察が、同国で出版された「帝国の慰安婦」の著者、朴裕河(パクユハ)・世宗大教授を在宅起訴した。旧日本軍将兵らの性の相手をさせられた女性たちに対する名誉毀損(きそん)の罪に問うている。

 起訴内容は、元慰安婦らの告訴をそのまま認めた。著書には「朝鮮人慰安婦と日本軍は基本的に同志的関係にあった」といった表現などがあるが、検察はこれらを「虚偽の事実」にあたると断じている。

 また、言論や出版、学問の自由は憲法が保障する基本的権利だとしながらも、元慰安婦らの「人格権などを侵害し、学問の自由を逸脱した」と起訴理由をあげている。

 慰安婦問題をめぐり、当事者や支援者にさまざまな意見があるのはわかる。だが、史実の正否は検察当局が判断を下すべきものではない。ましてや歴史の解釈や表現をめぐる学問の自由な営みを公権力が罰するのは、きわめて危険なことである。

 朴さんが著書で論じている趣旨は、帝国主義が抱える女性抑圧の構造的な問題である。さらに、同志的関係にならざるをえないような状況に追い込んだ当時の日本の責任を厳しく追及してもいる。

 韓国ではこれまでも日本の過去の問題が関係する事案では、法律論よりも国民感情に流されるかのような捜査や判決があった。今回の判断の背景に、そんな要素は働かなかったか。

 この本をめぐっては元慰安婦らの仮処分申請を受け、裁判所も、一部を削除しなければ出版を認めない決定をしている。

 確かに慰安婦問題については実際の総数など、まだ不明な部分も多い。一方で、被害者の韓国人女性たちが90年代初めに名乗り出始めて以降、日韓を中心に研究が進み、徐々に慰安婦問題の実態がわかってきた。

 同時に明らかになったのは、慰安婦といっても、実に多様なケースがあったということだ。朴さんの著書はまさにその多様な側面に焦点をあてたが、韓国で広く語られる「純真で無垢(むく)な少女」という被害者像と必ずしも一致するわけではない。

 だからといって、研究者が成果を発表するたびに刑事事件で起訴されていたのでは学問は成り立たない。学説や発見、解釈は互いに検証し、批判や反論をし合うことで、研究が進展したり、淘汰(とうた)されたりするものだ。

 異論の封殺は、自由に対する挑戦である。今回の問題は朴さん個人にとどまらない。韓国メディアは起訴を大きく報じていないが、自由を守る声が広がることを願ってやまない。

日米首脳会談 中国の海洋進出に連携対処を

 アジアの秩序を守るため、日米両国が政治、経済両分野で緊密に連携して、主導的な役割を果たすことが肝要だ。

 安倍首相とオバマ米大統領がマニラで会談し、南シナ海での中国の人工島造成問題で、協力を強化することで一致した。

 オバマ氏は、米軍艦船が人工島の12カイリ内を巡視する作戦について「日常の行動として実行したい」と述べ、継続を表明した。

 首相は、作戦を支持し、南シナ海での自衛隊の活動に関して「日本の安全保障に与える影響を注視しつつ検討する」と述べた。

 中国が国際法に反する独善的な論理を用い、大規模な埋め立てや軍事拠点化を進めることは阻止せねばならない。日米が東南アジア各国とも連携し、中国に粘り強く自制と改善を促す必要がある。

 中国の一方的な現状変更を既成事実化させないため、米軍の作戦は重要だ。日本も、作戦に参加しないまでも、側面支援はしたい。海上自衛隊と米海軍は長年、共同訓練や共同の警戒監視活動を通じて、強い信頼を築いてきた。

 政府開発援助(ODA)も活用し、フィリピンなど周辺国の海軍や海上保安機関の能力構築支援にも力を入れねばなるまい。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設について、首相は「確固たる決意で進める」と表明した。オバマ氏は謝意を表し、米軍施設の返還などに協力する考えを示した。

 大切なのは、安倍政権が移設を着実に進める姿勢を堅持することだ。新たな解決策を探ることは、問題を複雑にし、普天間飛行場の危険性除去を遅らせるだけだ。

 オバマ氏は、安全保障関連法の成立について「歴史的業績だ」と高く評価した。日韓首脳会談の実現についても「強く支持する」と語った。首相は、北朝鮮の核・ミサイル問題を踏まえ、日米韓の協力を強化する考えを示した。

 北東アジアの安全保障にとって日米韓の連携は不可欠だ。日米が韓国に前向きな対応を継続的に働きかけることが求められる。

 環太平洋経済連携協定(TPP)について首相は「日米が主導したからこそ、大筋合意ができた」と指摘した。オバマ氏は「TPPはグローバル環境を一変させる。課題は、協定の発効と実施の段階に持っていくことだ」と語った。

 日米が、アジア太平洋地域の自由、公正で透明性のある貿易・投資ルールの確立を牽引(けんいん)した意義は大きい。参加国の拡大も視野に入れて、できるだけ早期の批准・発効を目指すことが重要だ。

パリ同時テロ 「イスラム国」打倒へ結束せよ

 米欧やロシアなど国際社会が、過激派組織「イスラム国」打倒という共通の目標に向けて結束することが急務である。

 世界を震撼させたパリ同時テロから1週間がたった。フランスは、国内のテロ抑止とシリアにある「イスラム国」拠点への空爆に力を入れている。

 仏当局は、事件の首謀者とされる「イスラム国」幹部が潜伏しているパリ近郊のアジトを強襲し、テロ再発を辛うじて阻止した。

 同時テロの犯行グループには、フランスやベルギーで育ち、過激思想に染まっていた共通点がある。同時テロ実行前、シリアと欧州を行き来していたという。

 欧州連合(EU)内の国境自由往来の普及がテロリストの移動を容易にした面は否定できない。

 問題なのは、欧州諸国の治安当局が、国際手配された幹部がシリアから欧州入りしていた事実を把握できなかったことである。

 EUは、域外と接する加盟国の国境での出入国管理を早急に厳格化せねばならない。各国の治安当局による情報共有も緊密化する必要があろう。EU法相・内相理事会や首脳会議の課題だ。

 オランド仏大統領は、非常事態の延長により、捜査態勢を拡充し、国内の治安維持を図る。

 一方で、仏軍空母を地中海に出動させ、米国と連携して、シリアでの「イスラム国」に対する空爆を強化している。

 EUは初めて集団的自衛権を発動し、各国がフランス支援策の検討に入った。キャメロン英首相はシリア空爆に参加する意向を示した。空爆を巡って、米欧の協調が深まったことは評価できよう。

 ロシアも、エジプトで先月起きた露旅客機の墜落を爆弾テロと判断し、独自に実施してきたシリア空爆を自衛権によるものと位置付けた。プーチン大統領は、オランド氏と、対「イスラム国」作戦での連携で合意した。

 ロシアが対仏協調姿勢をアピールするのは、ウクライナ介入などで陥った国際的孤立から脱却する狙いもあるのではないか。

 「イスラム国」との間に対話は成立しない。空爆など軍事力行使に加え、インターネットによる宣伝戦への対抗措置など、包括的な対策を講じるしかあるまい。

 国連安全保障理事会では、フランスが中心となって、「イスラム国」打倒を目指す決議案の検討が始まった。テロ対策が、欧州や中東だけでなく、世界規模の優先課題であることを、改めて確認しなければならない。

2015年11月20日金曜日

環太平洋地域の経済統合を着実に進めよ

 アジア太平洋地域は世界経済の約6割を占める巨大な経済圏であり、世界の貿易センターだ。その経済統合を日本を含む各国・地域は着実に進めるべきだ。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)に参加する21カ国・地域による経済連携は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)といわれる。その中核となるのが日米など12カ国が合意した環太平洋経済連携協定(TPP)だ。

 非常に高い関税撤廃率に加え、知的財産権や環境など包括的な内容を盛り込んだTPPは、世界標準の新たな貿易・投資ルールだ。

 TPP参加12カ国はマニラで首脳会合を開き、早期発効をめざす方針を確認した。

 米議会では、合意内容に不満を持つ一部議員から再交渉を求める声が出ている。しかし、再交渉の余地がない点は、米国を含む12カ国の政府で一致している。

 オバマ米大統領をはじめとする各国首脳は、協定に否定的な議員の説得を含め国内の承認手続きに全力をあげてほしい。

 TPPをめぐっては、韓国やインドネシア、フィリピンが加盟への意欲を参加国に伝えた。タイや台湾も関心を示しているという。

 TPP参加国・地域を広げていくことは、将来のFTAAP実現に近づくための確実なやり方だ。TPPの包括的なルールを受け入れることを条件に、日米などは協力を惜しむべきではない。

 一方で、日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドを含む16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉は、2015年末までを目標としてきた大筋合意が困難になった。

 中国やインドなどが農業分野の関税率引き下げなどに難色を示しているとされる。合意時期を急ぐあまり、貿易自由化の水準が低い内容になってはいけない。日本は粘り強く交渉にあたる時だ。

 ASEANは近くASEAN経済共同体(AEC)設立を宣言する。域内の関税撤廃・削減を進め、ヒト、モノ、カネの移動も円滑にする「単一市場」ができる。

 ASEAN域内で高度なサプライチェーン(供給網)を築いている日本企業の商機も拡大する。さらにAECは将来のFTAAPへの一助にもなるだろう。

 APECの21カ国・地域は同時並行で進む複数の経済連携の成果をしっかりと積み重ね、FTAAPの基盤を固める必要がある。

核のゴミ処分は国民的議論を

 使用済み核燃料のリサイクルに伴って生まれる放射性廃棄物の最終処分に関し、政府は処分場の候補地選定に取り組んでいる。地球科学的な見地からの絞り込みはすでに終え、続いて社会科学的な観点からの作業を始めるという。そこで政府に要望したい。

 まず、地震や噴火のリスクを避ける地球科学的観点から行った絞り込みの結果を示してほしい。第二に、社会科学的な絞り込みでは何を重視するかの基準に関し、できるだけ幅広く意見を聞き、議論したうえで作業を始めてもらいたい。間違っても数人の有識者による会合で決めてはいけない。

 政府は、いわゆる「核のゴミ」を地下深く埋める「地層処分」を計画している。国内には約1万7千トンの使用済み核燃料がたまっており、最終処分は避けて通れない。将来の世代につけを回さないため、現世代で安全な処分地をしっかり決める必要がある。

 しかし、長い年月の間に地下水などを介して放射能が地表に達して、環境や健康に害をもたらしはしないかと心配する声は根強い。処分地選びは容易ではない。

 フィンランド政府は12日、世界で初めてとなる最終処分場の建設を認可した。ここに至るまでは30年以上をかけ、国内に100カ所以上の候補地を示し、話し合いで絞っていったという。

 日本でも政府や事業者は挫折を何度も繰り返す覚悟で、粘り強く時間をかけて選定に取り組む必要がある。また国民は一人ひとりが当事者意識をもってこの問題と向き合うべきだ。そのためには透明性が大事だ。政府が情報開示を意図的に遅らせているなどと疑われては国民参加の議論は困難だ。

 資源エネルギー庁は科学者を集め、地球科学的な観点で処分場に不適当な地域と可能な地域を色分けした。まずこの地図を公開すべきだ。次に、人口密度や自然景観、社会インフラの有無など社会的条件の何を重視して適地とするか、国民世論を喚起し議論を展開してもらいたい。

パリ同時テロ 冷静で着実な対処こそ

 同時多発テロがおきたフランスのパリは、いまも緊張状態にある。関係先とされる現場では当局による銃撃戦もおきている。平穏な市民生活が一日も早く戻るよう望みたい。

 オランド大統領には、当面の治安を回復し、国民の動揺をやわらげる責任がある。同時に、大局的にみてテロの土壌をなくすには何が必要か、冷静で着実な施政を考えてほしい。

 オランド氏は、自国が「戦争状態にある」と宣言した。呼応して、米国とロシアはシリア空爆での連携を確認した。欧州連合では、相互防衛条項を発動することになった。

 テロに怒り、高ぶる世論があるのは仕方あるまい。だが一方で、暴力の連鎖を抑えるうえで有用なのは、力に傾斜した言動ではなく、落ち着いた分析と対応である。

 「対テロ戦」をかかげて軍事偏重の戦略にひた走った米国のあと追いになってはならない。イラク戦争が、今回の事件を企てたとされる過激派「イスラム国」(IS)の台頭をまねいた教訓を思い起こすべきだ。

 テロ対策は、組織網を割り出し、資金源や武器ルートを断つ警察、諜報(ちょうほう)、金融などの地道な総合力を注ぐ取り組みだ。病根をなくすには、不平等や差別、貧困など、社会のひずみに目を向ける必要がある。軍事力で破壊思想は撲滅できない。

 とりわけ今回のテロで直視すべき事実は、容疑者の大半は、地元のフランス人とベルギー人だったことだ。欧州の足元の社会のどこに、彼らを突き動かす要素があったのか、見つめ直す営みが必要だろう。

 オランド政権は、治安対策を強める憲法改正や、危険思想をもつイスラム礼拝所の閉鎖、外国人の国外追放手続きの簡素化などを提案している。

 それらは本当に自由主義社会を守ることにつながるのか、深い思慮を要する。異分子を排除するのではなく、疎外感を抱く国民を包含するにはどうすべきか。人権大国として、移民社会の現状や国民の同化政策をめぐり、開かれた議論を進めることも肝要だろう。

 冷静な対処はむろん、フランスだけでなく、米国、ロシアを含む国際社会にも求められる。

 事件の背後にいるISに対し、有志連合を主導する米国は空爆を拡大し、ロシアもISの拠点都市などを爆撃した。巻き添えになる人びとの被害は、改めて憎悪の連鎖を広げる。

 テロを機に国際社会が最も連携すべき目標は、シリアの停戦を含む中東和平づくりにある。

子育てと介護 人手と財源をどうする

 安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」実現に向けた、関係省庁案と自民党の提言が出そろった。政府はこの中から子育て支援や介護に絞って緊急対策をまとめ、今年度補正予算案や来年度予算案に反映させる考えだ。

 「希望出生率1・8」と「介護離職ゼロ」を優先する安倍首相の意向を受けたものだ。子育て支援や介護に重点を置くことは大歓迎だが、検討中の緊急対策には「大きな穴」がある。保育や介護の人手不足の問題と財源の問題である。重点分野であると言うなら、この問題への対応も示すべきだ。

 緊急対策の「目玉政策」になりそうなのが、保育所や介護施設の整備だ。「保育の受け皿」は2017年度末までに40万人分を整備する計画だったのを50万人分に上積み。介護も特別養護老人ホームなどを2020年度までに34万人分増やす計画だったのを、2020年代初頭までに40万人分整備するという。

 保育にしろ、介護にしろ、いまの一番の課題は人手が足りないことだ。いくらハコモノを作っても、そこで働く人がいなければ役に立たない。

 実際、東京都社会福祉協議会が昨年行った調査では、都内の特養の約半数が職員不足で、人手が足りないために利用者の受け入れを制限している施設もあった。

 厚生労働省の案などでも、人材確保策に触れてはいるが、介護職をめざす学生への支援の拡充など限定的で、抜本的な対策は見当たらない。

 おひざもとの自民党の会合でさえ「職員の待遇改善をしなければ人材難は解決しない。介護報酬も引き上げますと言うべきだ」といった声が出ている。

 その財源は、こころもとないのが実情だ。子育て支援は、税と社会保障の一体改革で、充実させることになった。保育士の増加や処遇の改善などに1兆円を充てることになっているものの、消費税が10%になっても3千億円が不足、穴があいたままになっている。

 さらに、6月に決まった「骨太の方針」では、社会保障費の伸びを抑える方針も掲げている。この中で、どう子育て支援や介護を充実させるのか。

 予算全体を見直して、子育て支援や介護を厚くしようとするのか。あるいは、社会保障充実のために増税などで必要な財源を確保するのか。そうしたことも含めて語るべきではないか。

 ゆめゆめ来年の参院選挙までの間の一時の「打ち上げ花火」に終わらせることのないようにしてほしい。

APEC 自由貿易拡大はTPPを軸に

 環太平洋経済連携協定(TPP)をベースにした、高水準の貿易自由化を広げることが世界経済の発展に欠かせない。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想」の検討加速を柱とする首脳宣言を採択した。

 宣言は、FTAAPに関して、「包括的な自由貿易協定として追求されるべきだ」と強調した。

 FTAAPは、日米中露など域内21か国・地域の経済統合を図る試みだ。先進国から途上国まで経済の発展段階が違うAPECメンバーがルールを統一する重要性を確認できたのは、歓迎できる。

 TPPで大筋合意した高いレベルの関税撤廃や、公正で透明な貿易ルールの適用がFTAAPでより多くの国々に広がれば、地域の経済活性化に弾みがつこう。

 懸念材料は、TPPに参加していない中露がTPPを軸にした経済統合に反発していることだ。

 中国の習近平国家主席は講演で「自由貿易の計画が次々と現れ、地域がバラバラになることを懸念している」と警戒感を示した。

 ロシアのプーチン大統領も「TPPの秘密交渉スタイルは、地域の成長を促す最良の道ではない」とする論文を発表した。

 韓国やフィリピンなどの参加検討表明が相次いでいる。中露は、米国主導の経済秩序に対抗する目論見が危うくなったため、新規参入の動きを牽制したのだろう。

 中国は、日韓やインドなどと交渉中の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を基礎に経済統合を目指す考えだ。米国は交渉に参加していない。

 だが、RCEPは、TPPに比べ、目標とする関税撤廃率が低い。TPPが締結国の政府や企業に求めた環境や人権、知的財産権などへの配慮についても、議論がまだ進んでいないとされる。

 公正で自由な経済活動を確保するには、TPPルールを国際標準とする方が望ましい。

 安倍首相が「日本は今後、TPPを広める取り組みに注力する」と語ったのは適切だ。豪州などと連携して、米国不在のRCEP交渉をリードし、自由化の水準をTPPに近づけねばならない。

 気がかりなのは、TPPの批准が、米国で難航しそうなことである。野党の共和党に加え、与党・民主党でも、支持層の労働組合が反対を強めている。

 米国が批准しないと、TPPは発効しない。米政府は議会対策に精力的に取り組んでほしい。

ブラックバイト 学生の不当な扱いは許されぬ

 学業に支障が出るほどの過重労働を学生に強いる。賃金をきちんと支払わない――。「ブラックバイト」が横行する実態は、看過できない。

 厚生労働省の調査によると、アルバイトをした学生の6割が、賃金など労働条件を巡るトラブルを経験していた。

 「採用時に合意した以上の勤務シフトを入れられた」「急なシフト変更を命じられた」など、学生の都合を無視して仕事を押しつける事例が目立つ。この結果、授業に出られず、試験中にも休めない、といった訴えが相次いだ。

 「準備や片付けの時間について賃金が支払われなかった」「1日の労働が6時間を超えても休憩がなかった」など、労働基準法違反が疑われるケースも多い。

 労働条件を明示した書面の交付は雇い主の義務だが、アルバイトの6割で守られず、口頭での説明さえない例も2割に上った。

 厚労省は、経団連や業界団体に法令順守や適正な人員配置を求めていく。併せて、労働基準監督署による指導・監督を強化し、学生の不当な扱いを許さない職場環境の整備を急ぐべきだ。

 ブラックバイトが広まった背景には、企業がコスト削減のために正社員を減らしてきたことがある。今では、アルバイトなどの非正規雇用が労働者の4割を占めている。責任の重い基幹業務を担うようにもなった。

 最近の人手不足が学生バイトへの依存に拍車をかけている。コンビニエンスストアや居酒屋の店員のほか、学習塾講師などで、特に問題が顕在化している。

 学生側も、親の年収の低下や授業料の上昇で、多くがアルバイトをせざるを得ない。大学生の4割は、家庭からのお金だけでは修学が難しいとの調査もある。

 学生のこうした事情や、社会経験の乏しさに付け込んで酷使し、利益を上げようとする経営手法は改めなければならない。

 アルバイトにも労働基準法などが適用される。被害防止には、学生への労働法の知識普及と、相談窓口の拡充が欠かせない。行政と大学が連携して、セミナーや出張相談に取り組む必要がある。

 学生側は、労働条件を示した書面を受け取ることが大切だ。トラブルの防止や解決に役立つ。困った時は、労基署などの「総合労働相談コーナー」も活用できる。

 利用しやすい奨学金の充実や、授業料の減免措置の拡大など、学生の経済的負担の緩和策も、重要な検討課題となろう。

2015年11月19日木曜日

企業は長期の成長へ投資をためらうな

 日本企業はリーマン・ショック後に様々な経営改革を進め、収益力を回復させてきた。現在はその持続力が試されている、と言えるのではないか。

 本紙集計によれば、上場企業の2016年3月期の経常利益は前期に比べて7%程度伸び、2期連続の最高益となる見通しだ。とはいえ、上期が約11%増益であるのに対して下期は約3%増益にとどまるなど、不透明感も強い。

 足元の収益の伸びが鈍っているのは、中国など新興国の景気減速に影響されている部分が大きい。今こそ過去の利益の蓄積や資本の厚みを生かすべきだ。苦戦する事業は縮小・撤退などの手をうちつつも、長期の成長基盤づくりは続けられるはずだ。成長投資をためらう時ではない。

 中国リスクが顕在化している企業の代表格はコマツだ。同国での油圧ショベルなどの落ち込みにより、通期で10%減益を見込む。需要減にいつ歯止めがかかるか分からない状況だという。

 こうした環境では人員削減などの措置も致し方あるまい。建機のほか工作機械、セメントなどの業種では中国での人員削減が広がっている。景気が上向いた時に反攻に転じやすくするためにも、損失の拡大に素早く歯止めをかける必要がある。

 その一方で、景気が回復している北米での事業が支えとなり、最高益となる企業も多い。典型例は自動車業界で、稼いだ利益の使い方に注目が集まる。

 トヨタ自動車が米国に人工知能(AI)の研究開発拠点を設けるのは、自動運転に使う安全技術の開発などで先行する狙いがある。企業が持続的に成長していくうえで、中期の視点に立った研究開発型投資は欠かせない。

 もちろん、需要の拡大に機動的に対応するための手立ても打たなければならない。スマートフォン(スマホ)の高機能化で受注が拡大している電子部品業界では、日本電産がスマホ向け振動部品の増産に向け、数年間で1000億円超の投資をする。

 自力の研究開発や増産に加え、、M&A(合併・買収)も重要な成長投資となる。日本企業による海外勢の買収は、今年すでに10兆円を突破し過去最高となった。

 国内市場の縮小などを考えれば、M&Aで国際戦略を加速するのは合理的だ。広く世界で成長の芽を探すべきだ。

安心できる老後の住まいに

 老後の安心をどこに託せばいいのか。そんな不安に駆られた人も多いだろう。川崎市の有料老人ホームで入所者3人が相次ぎ転落死したことなどを受けて、厚生労働省は運営会社の親会社、メッセージに対し、介護保険法に基づく業務改善の勧告を出した。

 実態把握や危機管理体制に問題があり、職員への指導も不十分だったという。同社にはグループをあげて、徹底した再発防止策を求めたい。同時に、介護の質をどう高めていくか、社会全体で考えていく必要がある。

 川崎市のホームや系列の施設では、高齢者への虐待も起きていた。高齢者の尊厳を守るべき場所で、あってはならないことだ。川崎市は、転落死があったホームからの介護報酬の請求を3カ月間停止させる行政処分をする方針だ。当然の判断だろう。

 有料老人ホームは高齢者にとって、住み替えの大きな選択肢だ。2014年時点で約9千6百カ所あり、10年で約10倍に増えた。

 懸念されるのは、介護ニーズが高まるなか、同様の問題が介護の現場全体に広がっていかないかだ。厚労省の調査では、介護職員による虐待の件数は13年度、過去最多の221件だった。知識や技術の不足、ストレスが背景として指摘されている。

 介護の現場は人手不足が常態化し、職員の入れ替わりも激しい。その一方で、認知症の高齢者への対応など、高い専門性が求められる場面が増えている。経験の少ない職員が責任の重い仕事を担うことが少なくない。

 もちろん、懸命によい介護をしている職員は多くいる。彼らが意欲を持って働き続けられるようにするためにも、研修、ストレス対策の充実のほか、処遇の改善策や人手不足対策を、国、自治体も含めて検討することが欠かせない。

 問題の未然防止や早期発見のためには、行政の指導・監督の強化のほか、ホームに第三者の目が入りやすくする工夫もいる。決して一グループだけの課題ではない。

関空と伊丹 安全で着実な飛躍を

 関西空港と大阪(伊丹)空港の運営が、来年4月から民間に委ねられる。現在は新関空会社の持つ運営権が、オリックスと仏バンシ・エアポートの企業連合に売却されることになった。企業側は以後44年間で、総額2兆2千億円を払う。

 1日計10万人が利用する両空港は、日本の西の玄関口だ。民間の知恵による活性化を期待する声は大きい。

 企業側は44年後の旅客数と営業収益を、14年度の約1・7倍に増やすとの目標を掲げた。年490億円超を払いながら利益をあげるのは容易ではない。くれぐれも安全性や利便性を損なわないよう注意してほしい。

 もともと運営権の売却は、関空建設に伴う1兆1千億円の借金を返すため、政府が発案した。民間資金を活用したインフラ整備は安倍政権の成長戦略の一つだが、実際は関空の経営の行き詰まりを解決する「失敗のツケ回し」の側面が強い。

 新関空会社は2兆円超の価格設定にこだわり、入札に参加できる企業の代表も国内勢に事実上絞った。このため多くの企業が尻込みし、正式な参加はオリックス連合だけだった。

 これでは競争原理が働かない。空港運営権の売却は仙台空港で交渉が進み、高松や福岡などでも検討中だ。今回のやり方が妥当だったか。今後のためにも検証が必要だ。

 アジアの富裕層増大で訪日観光客は伸び続けている。

 格安航空会社の拠点化に注力した関空は、それを追い風にここ数年、利用者を伸ばしている。それでも韓国・仁川やシンガポール・チャンギといったアジアの巨大空港には路線網、旅客数とも遠く及ばない。

 企業連合の中核となるバンシは、欧州を中心に25空港を運営する。関空の弱みである欧州や北米への新規就航で交渉力を発揮してほしい。

 訪日客の急増で、関空では休憩場所の不足や入国審査の混雑に不満が強い。利用者の視点に立った改善も期待したい。

 新関空会社は引き続き関空、伊丹の施設を保有する。過去には国の出向者が力をふるう傾向が強かったが、今後は運営への干渉を最小限にすべきだ。便数増につながる規制緩和やアクセス交通の改善など、国がやるべきことはほかにある。

 神戸空港とのすみ分けも課題だ。神戸市は利用が伸び悩む空港の運営権をオリックス連合に売却したいとする。ただ、押しつけは好ましくない。関空と伊丹を民間に託す以上、企業側の自主判断に委ねるのが筋だ。

赤字の鉄路 地域の知恵で足守れ

 JR西日本が、広島、島根両県を結ぶ三江(さんこう)線(108キロ)の廃止を検討していることが明らかになった。

 昨年は岩手県のJR岩泉線と北海道のJR江差(えさし)線の一部が廃止された。経営再建中のJR北海道は今年8月、留萌(るもい)線の一部も廃止する方針を表明した。いずれも赤字のローカル線だ。

 00~13年度に全国では35路線(673キロ)が廃止されたが、このうちJRは1路線だけだった。国鉄からの移行期に赤字路線を大量整理したためだったが、ここへきて再び動きが加速する可能性がある。

 JR各社は基本的に、都市部の稼ぎでローカル線の赤字を埋めてきた。だが人口減少時代に入り、こうした経営構造が成り立ちにくくなっている。

 過疎に歯止めがかからない限り、路線廃止の流れは避けがたい。山あいや海沿いを走る路線は災害にも弱い。時に数百億円にのぼる復旧費は重荷だ。土砂崩れで不通になったまま廃止された岩泉線はその典型だ。

 だが公共性の高い鉄道事業の性格から、廃止はあくまで最終手段と考えるべきだ。法律上、鉄道会社は国に届け出るだけで路線を廃止できるが、できるだけ時間をかけて沿線住民の理解を得る必要がある。

 三江線の場合、JR西日本は、乗客が1日平均183人しかおらず、年10億円近い赤字になっていると説明する。

 ただ、列車は1日17本だけ。午前に列車が出ると夕方まで1本も来ない駅もある。乗客を増やすため、利便性を高める努力をどこまで尽くしたのか。住民が抱く当然の疑問に、JRは丁寧に答えていくべきだ。

 地元も「とにかく存続を」と訴えるだけでは限界がある。

 明治以来、鉄道が交通の主役だった日本では「鉄路は地域のシンボル」と言われてきた。ただ、鉄道は路線を簡単に変えるわけにいかず、運行ダイヤも融通がきかない。過疎地に適した足とはいいがたい。

 需要をよく見極める必要がある。高校生の通学や高齢者の買い物、通院が主ならば、路線やダイヤを柔軟に組めるバスや予約制の乗り合いタクシーがより喜ばれる場合もありえよう。

 人口が少ない地域ではどんな交通でも黒字化が難しい。運行経費をどこまで公費で負担するかという議論も欠かせない。

 大事なのは、地域に必要な足は自分たちで守るという意識だ。自治体が先頭に立ち、住民と知恵を出し合いながら、どういう公共交通が望ましいか、早め早めに考えていくべきだ。

辺野古法廷闘争 普天間の危険除去こそ公益だ

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡り、政府と沖縄県の主張が全くの平行線である以上、司法の場を決着の契機とするのは有力な手段だろう。

 政府は、地方自治法に基づき、翁長雄志知事を相手取り、辺野古の埋め立て承認取り消しを撤回する代執行に向けて、福岡高裁那覇支部に提訴した。

 米軍基地に関し、政府と沖縄県の法廷闘争は20年ぶりだ。来年春にも判決が出るとみられる。

 翁長氏は、石井国土交通相の是正勧告・指示を拒否している。提訴はやむを得ない判断だ。

 訴状は、承認取り消しにより、普天間飛行場の危険性除去や沖縄県全体の基地負担軽減が実現できず、日米関係に亀裂が入るなどの不利益が生じる、と指摘した。

 辺野古移設の騒音、環境への影響などの不利益は小さく、取り消しは違法だ、とも主張する。

 妥当な内容だ。勝訴すれば、政府は、代執行により、県の承認取り消しを撤回できる。

 翁長氏は、「銃剣とブルドーザーによる強制接収を思い起こさせる。沖縄差別の表れだ」と反発したが、正当な法的手続きを米軍の強制接収になぞらえるのはおかしい。辺野古移設は沖縄の負担軽減が目的で、「差別」ではない。

 翁長氏は、県民感情をいたずらに煽(あお)るべきではあるまい。

 県庁内には、翁長氏が承認取り消しの理由とする「法的瑕疵(かし)がある」との判断は客観性、公平性に欠ける、との批判がある。

 埋め立てを承認した仲井真弘多前知事は、「論理が合わない点やあいまいな点は(防衛省に)何度も質問した」と語り、法律に基づき厳密に審査したと強調する。

 本当に瑕疵があるなら、県の担当職員の責任を問わないと整合性が取れないではないか。

 翁長氏は、国交相による承認取り消しの効力停止を不服とし、総務省の国地方係争処理委員会に審査を申し出た。効力停止取り消しを求める訴訟も検討している。

 翁長氏は、辺野古移設に反対を唱えるばかりで、普天間飛行場の危険性除去への言及は少ない。

 菅官房長官が「翁長氏から解決策を聞いたことは全くない。沖縄県の関係者を含めた、これまでの努力を無視している」と批判したのは、理解できる。

 辺野古移設は、日米両政府と地元自治体が長年の厳しい協議と決断の末、「唯一の現実的な解決策」と判断した案だ。沖縄県内も反対一色ではない。政府は、移設作業を着実に進めるべきだ。

国内テロ対策 水際を固めて発生を阻止せよ

 海外のテロ情報を収集し、国内での犯行阻止につなげる。その体制整備が喫緊の課題である。

 安倍首相は、主要20か国・地域(G20)首脳会議からの帰国直後に開いた国家安全保障会議(NSC)で、「テロの未然防止に全力を尽くしてほしい」と指示した。

 パリ同時テロを引き起こした過激派組織「イスラム国」は、日本も標的に挙げている。来年の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)や2020年東京五輪・パラリンピックを控えるだけに、対策に時間的な猶予はない。

 パリのテロでは、不特定多数の民間人が集まる劇場や競技場が狙われた。ソフトターゲットと呼ばれ、政府機関などに比べて警備が手薄になりがちだ。

 ソフトターゲットになり得る場所は日本にも多い。入場者の手荷物検査といった対策が必要だ。ただし、全ての施設で手厚い警備を実施するのは不可能だろう。

 重要なのは、テロリストを入国させないことだ。そのためには、国際テロ組織や個々のテロリストに関する情報が欠かせない。事前に機密情報をどこまで入手できるかに、水際対策の成否がかかっていると言えよう。

 「イスラム国」は日本人の人質2人を殺害した。この事件を受け、政府は今年5月、「国際テロ情報収集ユニット」を外務省に設置することを決めた。

 政府の全関係機関が共同でテロ情報を収集する官邸主導の組織となる。来春の設置を目指してきたが、前倒しも検討するという。

 独立した対外情報機関を持たない日本は、テロ情報の保有量が少ないとされてきた。特定秘密保護法の施行で、その弱点は改善されるだろう。早急にユニットを始動させ、外国の情報機関との連携を強めてもらいたい。

 今後も観光などで来日する外国人の増加が見込まれる。空港などの入国審査で、不審人物を迅速にチェックする必要がある。

 法務省は、テロリストらの顔画像をデータベース化し、瞬時に照合できるシステムを来年度から全国の国際空港に導入する方針だ。指紋によるチェックと併せ、有効に機能させねばならない。

 組織的犯罪の対策を巡っては、重大犯罪を計画した段階で処罰対象とする共謀罪の創設の是非が議論されてきた。現行法で適用範囲が厳しく制限された通信傍受の柔軟な運用を望む声もある。

 人権に配慮しつつ、実効性のある方策を見極めたい。

2015年11月18日水曜日

テロとの戦いへG20は決意を行動に

 日米欧と主要新興国による20カ国・地域(G20)首脳会議は、テロを非難し、連帯してテロと戦う強い決意を表明した。市民と社会の安全を守るため、各国はただちに決意を具体的な行動に変える必要がある。

 2008年のリーマン・ショックを受けて始まったG20は、これまで経済問題を主な議題にしてきた。パリの同時テロ直後の開催となった今回は、首脳たちの強い危機感を映してテロ対策が中心的な議題となった。

 テロ対策として会議は、テロリストに関する情報共有やテロ関連資産の凍結のための国際協力、テロ資金の遮断に向けた取り組みなどを打ち出した。国境の管理や空の安全対策の強化へ協力することも決めた。

 各国は合意を着実に実行し、強力な対策網を築かねばならない。テロリストのネットワークを断つため、G20以外の国・地域も含めた広範な協力体制を確保することが求められる。

 会議の声明はテロを「いかなる宗教、国籍、文明または民族集団とも関係づけられ得ないもの」と表明した。過激派組織による暴力行為であるテロを、宗教や文明間の対立にエスカレートさせてはならない。

 パリの同時テロで犯行声明を出した過激派組織「イスラム国」(IS)を封じ込め、これ以上のテロを防ぐには、ISが勢力を築いているシリアの内戦を一刻も早く終わらせることが重要だ。そのための国際協力も欠かせない。

 シリア情勢のカギを握る米国とロシアが歩み寄る兆しを見せてきたことは評価できる。G20首脳会議に合わせて会談した米ロ首脳はともに、情勢の収拾を目指す姿勢を示したとされる。

 アサド大統領の退陣を求める米国と、政権を支援するロシアとの間には隔たりがある。しかしISに対処するには、米ロが立場の違いを克服して協力しなければならない。シリアの当事者や周辺の中東諸国なども交え、内戦の終結と次期政権への道筋づくりで合意を急ぐよう求めたい。

 フランスはISとの「戦争状態」を宣言しシリアでの対IS空爆強化に踏み切った。封じ込めや掃討作戦に反発するISによる新たなテロには一層の警戒が必要となる。国際社会は全力でテロを阻止するとともに、過激派組織の根を断つ外交努力を加速すべきだ。

創作促す著作権の仕組みを

 著作権の保護強化をうたった環太平洋経済連携協定(TPP)の発効をにらんで、政府が著作権法の改正作業に着手した。知的財産の保護は日本の文化と産業にとって重要なテーマだが、「権利保護が強くなりすぎると創作の妨げになる」という懸念もある。

 オリジナル作品の作り手と、その作品を楽しみ活用する人の双方に目配りした、バランスの取れた制度改正が必要だ。

 焦点になりそうなのは、TPPに盛り込まれた著作権侵害の非親告罪化だ。本や映画を著作権者の許可なく複製して販売する「海賊版」などの行為は今でも刑事罰の対象だが、それは被害を受けた側の告訴が前提となっている。

 これが非親告罪になると、著作権者の意向とはかかわりなく、警察などが独自の判断で取り締まれるようになる。

 このため、有名な漫画の登場人物や設定を借用してパロディー作品を生み出す同人誌活動などが摘発の対象になる可能性がある。

 二次創作とも呼ばれるこうした活動は原作の著作権者の黙認のもとで実施され、模倣のなかから新たな才能が生まれることも多い。オリジナル作品の保護が行きすぎて社会全体の表現活動が萎縮するのでは、著作権制度の本来の趣旨にも逆行するだろう。

 制度改正で政府はこの点を十分に配慮する必要がある。オリジナルをそのままコピーするのではない「翻案」と呼ばれる行為や、原作の売り上げに響かない、仲間内で楽しむための非営利の活動は刑事罰の対象にならないことを、法令上も明記してほしい。

 TPPには著作物の保護期間の長期化も盛り込まれた。現在、作者の死後50年間とされている小説や音楽の保護期間を70年に延長する。これは条約上の要請であり、すでに70年保護を採用している国が多いことも事実だ。

 ただ、保護期間が長期化すればするほど、古い作品の自由な活用が妨げられるという副作用があることには、留意したい。

政権、沖縄知事を提訴 「第三の道」を探るとき

 沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、安倍政権と県が法廷闘争に入った。

 政府は、辺野古埋め立ての承認取り消しを撤回するよう県に指示したが、翁長雄志知事が拒否。そこで福岡高裁那覇支部に知事を提訴したのだ。

 1年前の知事選など一連の選挙で反対派が勝利し、辺野古移設拒否の民意は明白である。そこから目をそらし、強引に移設を進めれば、沖縄県民に、日本国民に分断を生む。

 沖縄の声になぜ耳を傾けないのか。不毛な政治のありようと言うほかない。

 ■二者択一を超える

 改めて考える。辺野古移設は安全保障上、唯一の選択肢か。

 答えは、否である。

 政府は「辺野古が唯一の選択肢だ」と繰り返す。だが実際には、辺野古しかないという安全保障上の理由はない。むしろ、米国との再調整や、関係自治体や住民との話し合いなど、代替策の検討に入った場合に生じる政治的な軋轢(あつれき)を避けようとする色彩が濃い。

 辺野古移設か、普天間の固定化か――。その二者択一を超えて、政府と沖縄、そして米国が納得しうる「第三の道」を探るべきときだ。

 まず大事なのは、軍事技術の進展や安全保障環境の変化に応じて、日本を含む西太平洋地域全体の安保戦略を描き直すことだ。米軍と自衛隊の役割・任務・能力を再検討しながら抑止力をどう維持、強化していくか。そのなかで、沖縄の基地をどう位置づけるかを日米両政府が議論する必要がある。

 たとえば、知日派の米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授は「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘している。中国に近い沖縄に米軍基地を集中させる発想は、かえって危ういという意見だ。

 すでに米海兵隊は、ハワイやグアム、豪州、フィリピンへの巡回配備で対応を進めている。南シナ海での中国の海洋進出への対応を重視するなら、フィリピンなどに代替施設を造る選択肢もあり得るだろう。

 ■負担を分かち合う

 そうした再検討のなかで、日本全体で安全保障の負担を分かち合うことも、いっそう真剣に検討する必要がある。

 政府はこれまで、沖縄県外への機能移転を具体的に検討してきた。普天間の空中給油機部隊は岩国基地(山口県)に移ったし、新型輸送機オスプレイの佐賀空港への暫定移駐案が浮かんだこともある。

 航続距離の長いオスプレイが、いつも沖縄にいる必然性はない。現実に訓練は本土でも行われている。

 辺野古の代替施設が絶対に必要だとも言えない。横須賀基地(神奈川県)や三沢基地(青森県)の米海空軍を増強することにより、日本全体の抑止力が高まり、在沖縄海兵隊の削減につながるという指摘もある。

 2011年には米上院のマケイン議員らが、沖縄・嘉手納基地の空軍の戦闘機部隊を三沢基地などに分散したうえで、普天間の海兵隊を嘉手納に移す案を示したことがある。

 その後、仲井真弘多(ひろかず)前知事が辺野古の埋め立てを承認したため立ち消えになったが、日本全体や周辺を見渡せば、対案の組み合わせはほかにも考え得るだろう。当面は普天間の平時の運用停止を急ぎ、その代わり有事の際の使用は認める案もある。

 ■日本が決める問題

 国土の0・6%の沖縄に、全国の73・8%もの米軍専用施設を押しつける異常事態を正すためにも、この際、日本政府として辺野古移設を白紙に戻す決断を求めたい。

 そのことこそ、より説得力をもって「日本全体での負担の分担」を自治体や住民に働きかける力になるはずだ。

 いまは「辺野古移設を支持する」と繰り返す米国の政策も、不変とは限らない。

 来年11月に選ばれる米国の次期大統領が、違う選択肢を探る可能性もある。

 実際、米国の駐日大使経験者からは柔軟な見方が相次ぐ。

 19年前、橋本龍太郎首相と普天間返還を発表したモンデール氏は最近、沖縄の基地について「これは日本で決めるべき、日本の問題だ」と語った。前任のアマコスト氏も辺野古移設について「コストと便益を考えると見合わない。海兵隊基地の戦略的価値はどれほどあるのか」と疑問を投げかけている。

 日本政府が辺野古に固執し続ければ、沖縄の民意はますます硬化し、結局、普天間の固定化による危険が続く可能性が大きい。周辺住民に支持されない基地に安定的な運用は望めず、長期的に見れば、日本の安保環境を損ねかねない。

 まさに悪循環である。

 辺野古をめぐる法廷闘争は、むしろ基地問題の解決を遠ざける。日米の政治の構想力と実行力が問われている。

G20対テロ声明 国境管理の徹底で封じ込めよ

 パリ同時テロを機に生まれた国際社会の結束を実効性ある対策につなげねばならない。

 主要20か国・地域(G20)首脳会議は、テロと戦う決意を示す緊急声明を採択し、閉幕した。

 声明は、パリ同時テロと10月のトルコでの爆弾テロを「最も強い表現で非難する」と明記した。

 テロとの戦いを「すべての国の優先課題」と位置付け、テロ資金の遮断やテロ組織の宣伝戦への対抗措置を各国に求めた。急増する外国人戦闘員に関する情報の共有や国境管理の徹底も促した。

 どの具体策も目新しさはない。関係国は既に取り組みを進めているが、大規模テロを防げずにいる。国際社会の連帯を強め、その効果を高めることが求められよう。

 オバマ米大統領は、シリアでの空爆作戦などを強化する意向を表明した。プーチン露大統領も、「力を合わせることでのみ、戦いの効果がある」と述べた。

 G20を欠席したオランド仏大統領は、過激派組織「イスラム国」と「戦争している」と力説した。掃討に向けた協力要請に、米露は積極的に応じるべきだ。

 フランスは近く、「イスラム国」打倒に関する決議案を国連安全保障理事会に提出する。安保理は決議を迅速に採択し、国際社会の総意として、掃討作戦を後押しすることが重要である。

 テロは、人やモノの流れを滞らせ、世界経済の不確実性を高める。G20は、貧困や若者の失業など、テロの背景にある課題の克服を目指し、各国の成長底上げに努めねばなるまい。

 新興国での雇用創出や生活向上に効果的なインフラ(社会資本)投資の拡大がカギを握る。G20首脳宣言が「最優先事項は雇用を生み、不平等を減らす成長戦略だ」と指摘したのはもっともだ。

 会議では、中国の景気減速や米国の利上げも議題となった。いずれも新興国経済に打撃を与えかねない問題だ。テロの芽を摘むという観点からも、悪影響を最小限にとどめることが大切である。

 中国の景気が腰折れすれば、石油などの資源輸出国は苦境に陥る。各国から、中国が世界経済の波乱要因とならないよう、構造改革の努力を迫る声が相次いだ。

 安倍首相が「過剰生産設備の解消など構造的課題への努力が求められる」と語ったのは頷(うなず)ける。

 米国が利上げすれば、新興国からの資金流出が加速しかねない。首脳宣言が金融政策の慎重な判断を促したのは妥当だろう。

日露首脳会談 プーチン氏の真意が見えない

 日露首脳間の対話を重ねる中で、北方領土問題の着地点をじっくりと探るしかあるまい。

 安倍首相はトルコで、ロシアのプーチン大統領と会談した。第1次内閣を含めると、両氏の会談は12回目だが、成果に乏しかったのではないか。

 焦点のプーチン氏の来日については、「最も適切な時期」を目指すことで一致した。当初は、今年中の予定だったが、事実上、年明け以降に先送りしたものだ。

 ロシアの一方的なクリミア併合などに対して、米欧の反発は根強い。特に米国は、プーチン氏来日に否定的な立場だ。

 現時点で、北方領土問題が進展する見通しも立たない。

 国際情勢も、2国間関係も、来日の環境が整っていない以上、延期するのはやむを得まい。

 日本は来年、先進7か国(G7)の議長国となる。G7の協調を大切にし、シリア情勢などの行方をにらみながら、来日時期を適切に判断することが求められる。

 会談では領土問題について、2013年の日露共同声明に基づき「双方に受け入れ可能な解決策」を目指す方針を改めて確認した。

 安倍首相は、「ロシアとは戦後70年を経ても、平和条約を締結できていない異常な状態が続いている」として、領土問題の解決に強い意欲を示している。

 日露関係の強化は、中国を牽制(けんせい)する戦略的な狙いもある。焦らず、腰を据えて取り組みたい。

 ロシアは、日本の出方を試すような揺さぶりを強めている。

 ラブロフ外相らは、領土問題について一切譲歩しない考えを繰り返す。先月中旬には、シベリア抑留に関する資料の世界記憶遺産への登録に対し、突然、登録申請の取り下げを求めた。

 ロシアで領土問題に関して重大な決断を下せるのはプーチン氏しかいない。首相が会談で「重要なことは、こうした形で2人で話し合うことだ」と指摘したのは、そうした認識に基づいている。

 中国などとの国境を画定したプーチン氏は、日本との領土問題解決を政治的遺産にしたいはず。そう分析する外務省幹部もいる。

 ただ、プーチン氏の真意はなお見えない。今回の会談でも、「ロシアの地方で会えればうれしい」と語り、首相の訪露を要請した。地方視察を通じて日本の投資に期待する、経済協力優先路線の一環とも解される。

 首相の訪露を含め、首脳外交をどう進めるのが効果的か、慎重な見極めが必要だ。

2015年11月17日火曜日

ロシア陸連への処分は当然だ

 国際陸上競技連盟が世界反ドーピング機関(WADA)の第三者委員会の勧告により、ロシア陸連に暫定的な資格停止処分を科した。ドーピングに無関係な選手も含め、国際大会には参加できず、対応の遅れによっては、来夏のリオデジャネイロ五輪に出場できない恐れも出てきた。

 総力を挙げ、ドーピングの根絶に努めている世界のスポーツ界の趨勢から見て、今回の処分は極めて当然だ。ロシアは猛省し、陸上界にフェアプレーの精神を取り戻し、信頼を積み上げてほしい。

 第三者委が指摘したロシアでの実態は耳を疑う。WADAの公認検査機関のトップが陽性反応の隠蔽の見返りに選手に金銭を要求する。さらに、第三者委の調査を妨害すべく多数の検体を破棄したほか、すり替え用の陰性検体を保管する「第2の機関」も存在した。

 秘密警察の後身であるロシア連邦保安局(FSB)職員も公認機関に出入りして監視し、圧力をかけていた。国家の威信が全てに優先した社会主義国に先祖返りしたかのような不正といっていい。

 当初、ロシアは第三者委の勧告を「根拠はない」などと批判していたが、処分を回避すべく態度を軟化させた。プーチン大統領も全面協力を指示する一方、「違反の責任は常に個人が負うべきだ」と述べ、最悪の事態を避けようと躍起になっていた。

 ロシアのスポーツ相は3カ月で陸連の再建をめざす考えを示している。無実の選手の出場機会を奪わぬためにも、薬物汚染の実態を詳細に明らかにするとともに、ウミをすべて出し、再発防止に向けた徹底した改善策を講じる必要がある。疑惑は陸連だけにとどまらない。政権が主導し、ロシアのスポーツ界全体に向けられた不信を払拭していく必要があるだろう。

 5年後に五輪を迎える日本も、改めてドーピング排除の決意を固めるとともに、メダルの色や数ばかりにこだわらぬ、クリーンで、次世代に夢を与えるスポーツ振興の範を築く努力が必要だ。

民需主導の成長促す環境整備を急げ

 内閣府が発表した7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質で前期比0.2%減、年率換算で0.8%減となった。

 2四半期連続のマイナス成長となった。中身はそれほど悪くないが、日本経済の停滞が改めて浮き彫りになった。

 マイナス成長の主因は在庫投資の減少で、GDPを年率2.1%分押し下げた。GDP統計上は在庫が増えれば成長率を押し上げ、逆に在庫が減ると下押しする。

 今回は個人消費の緩やかな増加を背景に、在庫調整が進んだ結果といえる。パリ同時テロの余波で海外経済の下振れリスクは残るが、景気の先行きを過度に悲観視する必要はないだろう。

 個人消費は夏場の猛暑でエアコンや夏物衣料の販売などが伸び、2四半期ぶりにプラスとなった。輸出や住宅投資もプラスだ。

 同じマイナス成長だった4~6月期と比べると、景気の足どりはしっかりしている。賃金総額である雇用者報酬が高い伸びを保っているのも好材料だ。

 気になるのは、設備投資が2四半期連続で減ったことだ。中国経済の減速などで企業が投資を先送りしている可能性がある。

 甘利明経済財政・再生相は企業経営者に「企業収益が過去最高水準でも設備投資しない経営判断はいかがなものか」と苦言を呈した。官民対話の場で、経済界に設備投資を要請していくという。

 しかし、政府は自らの宿題を忘れてはならない。法人実効税率を早期に20%台に下げる道筋をつけるとともに、規制改革を迅速に断行すべきだ。

 経済協力開発機構(OECD)は今月発表の経済見通しの中で、日本経済の実力を示す潜在成長率をそれまでの0%台後半から0.4%に下方修正した。

 日本経済がこれほど頻繁にマイナス成長に陥りやすくなっているのは、そもそも潜在成長率が低くなっているからだ。

 いま政府がやるべきことは構造改革を通じて潜在成長率を押し上げつつ、民需主導の景気回復を後押しする環境を整えることだ。

 2015年度補正予算案には環太平洋経済連携協定(TPP)対策なども盛り込む方向というが、農業の競争力向上につながる内容に重点を置いてほしい。公共事業などで目先の成長率を安易に押し上げようとするのは慎むべきだ。

テロとシリア 内戦の収束へ団結を

 国際社会は、喫緊の人道問題に団結して向き合えるか。暴力と迫害の連鎖を断ち切るための世界の力量が試されている。

 フランスを襲った同時多発テロを機に、中東シリアの内戦をめぐる論議が再燃している。

 首謀したとされる「イスラム国」(IS)は、シリアを拠点にしつつ、戦乱に乗じて伸長した過激派組織だからだ。

 テロの翌日にウィーンであったシリア問題の多国間協議は、異例なことに、和平づくりの具体的な目標の合意をみた。対立してきた米欧とロシアが一気に危機感を強めたためだ。

 パリの市民らの悲劇によって生まれた機運を無駄にしてはならない。国連を含むあらゆる場で、内戦の収束へ向け、国際社会は本腰を入れるときだ。

 17カ国が集ったウィーン協議は、シリアのアサド政権と反体制派による移行政権を6カ月内につくる目標を定めた。来年元日までに、政権と反体制派の公式交渉を国連が開くという。

 ウィーン協議に政権も反体制派も参加しておらず、反体制派には統一された組織もない。目標のハードルは極めて高いが、テロを共通の脅威とみて論議の歩を進めた意義は小さくない。

 アサド大統領が退陣すべきかどうかをめぐり、米欧とロシアはいまも意見が食い違う。国連安保理がシリア問題に大きく動けずにきたのもそのためだ。

 だが事態は急を要する。アサド大統領の処遇問題は当面棚上げして、停戦の枠組みづくりを急ぐべきだろう。混乱を放置すれば、ISを利するだけだ。

 もはやどの主要国にとっても、ISは遠い中東の問題ではあり得ない。エジプトでのロシア旅客機墜落、レバノンの連続爆発、そしてパリのテロと、先月から相次いだ事件はいずれもISが犯行声明を出した。

 さらに、ISが支配していたイラク国内の町では、多数の女性の虐殺遺体が見つかるなど、蛮行が横行している。

 パリの悲惨なテロにより、中東の人々が日々さらされているISの脅威が、日米欧など世界にも「可視化」された形だ。

 オバマ米大統領はテロ直前まで、これまでの空爆の成果を強調して「ISを封じ込めた」と語っていたが、それは希望的な見方に過ぎなかった。

 ISの掃討に米欧の軍事的関与は必要ではあるが、空爆で過激思想の病根を絶つことはできない。シリアはじめ中東の和解と安定化があって初めて、ISの温床をなくすことができる。

 そのためにも、国際社会が真剣に結束せねばならない。

さえない景気 ばらまきは許されない

 今年7~9月期の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比0・8%減(年率換算)となり、4~6月期に続いてマイナス成長だった。

 個人消費や、輸出から輸入を引いた外需は前期のマイナスからプラスに転じたものの、力強さに欠ける。企業の設備投資も過去最高水準の高収益が続いているにもかかわらず、水面下に沈んだままだ。

 外需や設備投資の不振は、世界第2の経済大国である中国の変調が主因だろう。ただ、その中国経済も夏の株価急落後は小康状態にあり、リーマン・ショック時のような世界的な動乱にはなっていない。

 ここは、足元の数字の浮き沈みに一喜一憂するのではなく、中長期的な視点で今後を見すえるべきだ。世界経済が頼む中国は、投資・輸出頼みの成長から内需中心の安定成長へ体質転換を迫られている。かつてのような高成長の継続は望み薄だけに、日本の成長率にもおのずと限界があろう。

 安倍政権は「GDP600兆円」を掲げるが、それには毎年度、実質で2%、名目だと3%超の成長が必要だ。経済のパイを大きくすることは大切だが、実現の道筋が見えない高い目標を設定し、それに伴う税収増を財政再建計画に織り込むのでは、計画への不信感を高めるだけではないか。

 財政面の当面の試金石は、今年度の補正予算と、その前提となる緊急対策である。

 甘利経済再生相は、人手や資材の不足を踏まえ、景気刺激を狙った公共事業の追加を否定した。安倍首相は「1億総活躍社会」に関して掲げた目標に沿って、出産・子育てや介護分野に直結する項目に絞るよう、指示した。

 しかし、補正予算は、災害復旧費や疾病流行の対策費など、予測できなかった緊急の支出に対応するのが役割だ。今年度の補正では、社会保障分野とともに、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意を受けた農林漁業対策も柱になりそうだが、そうした政策は本来、来年度の当初予算案の編成作業を通じて吟味するべきだ。

 今年度の税収が見込みを上回りそうだとしても、その増額分を補正に回すことが当然のように語られているのはどうしたことか。国債の追加発行さえ避ければ財政規律は保たれると考えているのなら、とんでもない。国の今年度当初予算では、37兆円近い新規国債が計上されている。それを忘れてはならない。

GDPマイナス 成長基盤を地道に強化したい

 景気の先行きを過度に悲観せず、中長期的な経済の成長基盤を強固にしなければなるまい。

 内閣府が発表した今年7~9月期の実質国内総生産(GDP)は、前期より0・2%減少した。年率換算では0・8%減だ。2四半期連続のマイナス成長となった。

 最大の要因は、企業の設備投資が前期比1・3%減と、予想以上に落ち込んだことである。

 中国、新興国など海外経済の先行きへの懸念から、投資に二の足を踏む企業が多かったためだろう。膨らんだ在庫を減らすため、生産を抑制した影響もある。

 一方で、個人消費は、0・5%増と、2四半期ぶりに伸びた。円安による食料品などの値上げが続いた反面、賃上げが広がり、実質賃金が上昇したためだ。

 輸出も、円安の定着が追い風となって、前期のマイナスから2・6%増に改善した。住宅投資も3四半期連続で増えている。

 景気回復の足踏みは否めないものの、甘利経済財政相は「雇用、所得環境の改善が続き、緩やかな回復基調にある」と説明する。

 人口減に伴い、日本の潜在成長率は0%台に低下しているとされる。2四半期連続のマイナス成長は、少しの外的要因によって、デフレ脱却が遠のく日本経済の足腰の弱さを象徴している。

 今、最も大切なのは、官民を挙げて、成長戦略を地道に充実・強化することである。

 安倍首相は、名目GDPを600兆円に増やす目標を掲げる。子育て支援や介護施設の整備、環太平洋経済連携協定(TPP)参加に伴う農業強化策を柱とする緊急対策を今月中に策定し、15年度補正予算案に盛り込む方針だ。

 対症療法的な公共事業の積み増しでなく、少子化に抗して成長力を底上げするような政策メニューを考えるべきである。

 企業が過去最高水準の好業績を賃上げや配当増につなげることが重要だ。家計が潤うことで、個人消費を押し上げ、さらに企業収益も伸ばす「経済の好循環」を確実なものにしたい。

 ここ数年、企業の設備投資計画自体は高い水準にある。経営者がデフレマインドを払拭し、計画を実行に移せるよう後押しすることこそが政府の役割だ。

 経済団体の代表と意見交換する「官民対話」で要望のあった施策の検討はその一つだ。法人税実効税率の引き下げに加え、企業に新規事業の展開を促す医療、農業分野などの規制改革が急がれる。

対「イスラム国」 米露の主導権争いは不毛だ

 シリアを巡る米国とロシアの不毛な対立は、パリ同時テロを実行した過激派組織「イスラム国」を利するだけである。

 泥沼化するシリア内戦と難民流出を収拾し、「イスラム国」対策で国際社会の足並みを揃(そろ)えることが急務だ。

 米欧露やアラブ諸国などによる関係国会合は、シリアのアサド政権と反体制派の交渉を年内に開始し、18か月以内に民主選挙を実施するなどの行程表で合意した。

 シリア内戦への対応が遅れたことで、「イスラム国」の伸長を許し、パリ同時テロを招いたとの認識が広がったためだろう。

 オバマ米大統領とプーチン露大統領も、主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせトルコで非公式に会談し、停戦や新政権への移行の必要性で一致した。行程表を「外交的進展」と評価した。

 米国が、アサド政権寄りのロシアが主導した行程表を受け入れたのは、関係国の結束を優先した、苦渋の譲歩と言えよう。

 ただ、アサド政権の継続を容認するかどうかについて、米露はなお対立している。行程表の着実な履行に向けて対話を続け、歩み寄らねばならない。

 オバマ政権は10月末、「イスラム国」との戦いでシリアに米地上軍を駐留させない方針を転換し、特殊部隊派遣を決めた。ロシアがシリア空爆で本格的な介入を始めたことへの対抗策とみられる。

 特殊部隊の規模は50人未満で、反体制派やクルド人部隊の訓練、支援を行う。前線には配置せず、戦闘任務は担わないという。

 オバマ氏は、シリア国外で反体制派の戦闘員を訓練し、地上戦に送り込む意向だった。しかし、志願者が少なく、計画が事実上破綻したことから、米軍によるてこ入れを余儀なくされた。

 情勢悪化のたびに小出しの対応をするのでは効果は望めまい。

 米国はロシアの空爆について、「8~9割が反体制派を狙ったものだ」と批判する。ロシアが中東に強固な足場を築くのを警戒しているのだろう。

 「イスラム国」の掃討は、米露共通の目標のはずである。

 10月末にエジプト・シナイ半島で起きたロシアの旅客機墜落は、爆破テロとの見方が濃厚になっている。「イスラム国」は以前からロシアのシリア空爆に対する報復を宣言し、傘下組織が墜落後に犯行声明を出した。

 報復テロと確認されれば、米露が情報交換などで協力する必要性が一段と高まろう。

2015年11月16日月曜日

自民は「不利益の分配」できる政党に

 自民党は15日、還暦を迎えた。ほとんどの期間にわたり政権を担い、その歴史は戦後日本そのものである。敗戦の焼け野原の中ではだれも予想できなかったような豊かで自由な社会をつくりあげた点は評価していい。だが今日の閉塞状況をもたらした責任の一端があるのもまた事実だ。自民党を問うことは日本を問うことでもある。

 1955年の保守合同で誕生した自民党による政権は38年間の長期におよんだ。米ソ冷戦のもと軽武装重商主義に徹し、経済成長を謳歌した。

派閥と利益誘導の政治

 冷戦が終わりバブルが崩壊し、93年、自民党は政権の座からすべり落ちた。ただ1年弱で社会党と組むという荒技で政権に復帰、連立のかたちをかえながら2009年までその座にとどまった。

 民主党政権の3年3カ月をへて政権を奪還、3年弱になる。

 55年体制といわれた自民党政権の組織原理は5点に集約できる。

 第1は派閥の連合体だ。8個師団といわれた初期から池田勇人、佐藤栄作両首相の黄金期をへて三角大福中の五大派閥、安竹宮の時代と常に派閥中心だった。

 派閥のリーダーが次の総理総裁をめざしてしのぎを削った。トップ交代は疑似政権交代の印象を与えた。イメージをかえる振り子の論理は政権維持の知恵だった。

 第2は当選回数主義である。衆院当選2回で政務次官、3回で政調部会長、4回で常任委員長、5.6回で入閣という序列があった。派閥の推薦をもとに首相が人事を決めていくのが通例だった。

 第3は利益の分配だ。党を結びつけていたのが保守の理念だとしても、共通の目的が地元への利益誘導だったのは否定できない。

 右肩上がりの経済を背景に、公共事業の配分や補助金の交付、既得権益の保護などで実現した。発想の基本は全国津々浦々までみんな等しく豊かになる政治である。均霑(きんてん)の思想だ。それは日本型社民主義といっていい。

 第4は政官業の「鉄の三角形」をつくり上げたことだ。党は法案の事前審査制を通じて官僚を抑え、官僚は許認可権限で業界をコントロールする。業界は政治献金で政治家に影響力を及ぼす。政は官に強いが、官は業に強く、業は政に強い。そのもたれ合いの構図の中心にいたのが族議員である。

 第5は意思決定での全会一致原則だ。政調会や総務会などすべてそうだ。全員一致のためにガス抜きや、足して二で割るなどさまざまな技を駆使した。上意下達ではなく、下からの積み上げで、ものごとを決めていくのも基本だ。

 こうした自民党の統治のやり方をぶっ壊したのが小泉純一郎首相だった。小選挙区制の導入を柱とする政治改革と、内閣主導の省庁再編の枠組みを巧みに使いながら、派閥を壊し、政府与党の2元体制を改め、首相主導のやり方を定着させた。12年12月、政権復帰した後の安倍晋三首相の政治指導もこの流れにある。

 今や自民党は、55年体制下とは異なる姿の政党になっている。小選挙区制で誕生した若手が過半を占め、まとまりに欠けた議員の集合体にすぎない。派閥が壊れた結果、次のリーダーを育てる組織は見当たらない。

新たな統治の形見えず

 意思決定も族議員主導の「党高政低」はすっかり影をひそめた。政高党低、それも首相官邸主導で政策が決まっていく。自民党は新たなガバナンス(統治)のかたちをつかみかねている。

 政党としてどこをめざしていくのかもはっきりしなくなっている。利益の分配ができなくなり、保守のイデオロギー政党の色合いを強めていくしかないとしても、保守とは何かの考え方がまとまっていないのだ。

 とりわけ問題なのは、国と地方をあわせ一千兆円を超える借金を抱え、これから人口が減っていく中で、いかにして社会の活力を維持していくかの政策の基本方向が見えないことだ。

 もはや以前のような利益誘導政治はできない。どんなにつらくとも、利益の分配から不利益・負担の分配へと政治の軸を変えていくしかない。これまで自民党が担ってきた日本政治がやってきたのは、子や孫の資産の先食いだったのだから、それはやむを得ない。

 しかし現状は十年一日で、既得権益の保護などの発想は相変わらずのようである。

 還暦を迎えた自民党が古希、米寿と年を重ねていくためには、そこを乗りこえていくしかない。これは何も自民党にとどまらない。日本そのものの話だ。

非正社員4割 待遇改善が急務だ

 パートや派遣などで働く非正社員が昨年、労働者の4割に達した。厚生労働省がそんな実態調査を公表した。

 特に増えているのが、パートと、定年後の再雇用者を含む嘱託社員などだ。パートは、非正社員の6割を占める。年金の支給開始年齢の引き上げや、年金自体が先細りしている影響もあるだろう。子育てや介護などとの両立を理由に挙げる人も増えている。

 パートに出るのは家計の助けにするため。そんなイメージからも実態は離れつつあるようだ。生活を支える主な収入が「自分自身の収入」という人が非正社員の48%に上る。非正社員の「質」も変わってきていると言ってよいのではないか。

 問題は、そうした変化に非正社員の待遇や社会の仕組みが追いついていないことだ。

 昨年の賃金構造基本統計によれば、非正社員の平均賃金は正社員の約6割。20代、30代の男性で配偶者がいる割合は正社員の半分以下という統計もある。

 非正社員が増えるのに伴って、低い賃金、不安定な収入のために結婚や出産をためらう人たちが増えたのでは、少子化の改善など望むべくもない。

 まずは、非正社員の賃金を底上げし、正社員との格差をできるだけ小さくすることだ。同じ仕事をしているなら、それに見合った賃金を支払うべきだ。

 問題は賃金にとどまらない。

 会社員が加入する厚生年金に入っている人は、非正社員の5割程度。国民年金になると保険料は収入にかかわらず毎月一定額なので負担感が大きく、保険料の未納が増える一因とも言われている。

 厚生年金の傘から漏れ、国民年金の保険料もきちんと納められない現状を放置すれば、将来、無年金や低年金で貧困に陥ることにつながる。今でも生活保護受給世帯の約半分は高齢世帯だ。高齢者の貧困問題を一層、深刻にしかねない問題だ。

 子育てや介護と両立させるために正社員をあきらめる人たちもいる。仕事と子育てや介護の両立を後押しする政策の充実、正社員の働き方の見直しも必要だろう。意に反して非正社員として働いている人たちのためには、教育や訓練の機会を増やしたり、正社員になるのを後押ししたりする政策も大切だ。

 同じ調査で、非正社員を雇う理由のトップは「賃金の節約のため」(39%)だ。雇う側の本音が表れた数字である。多様な働き方を、企業にとって手軽で安上がりな雇用の手段にとどめてしまってはならない。

中国人民元 主要通貨国の責任を

 貿易決済や外貨準備として広く世界で利用される基軸通貨といえば米ドルだ。それに準ずる主要通貨にユーロ、英ポンド、日本円の3通貨がある。

 そこに中国の人民元が仲間入りする見通しになった。国際通貨基金(IMF)が今月末に開く理事会で、仮想通貨「特別引き出し権(SDR)」の構成通貨のひとつに人民元を加える方針だ。

 世界最大の貿易大国となった中国の人民元が主要通貨の仲間に入るのは、当然だろう。

 中国政府は国際金融での地位向上やドル依存脱却をめざしている。とはいえ、国家資本主義のもとで政府が市場介入を続けていたのでは実現は難しい。主要通貨にふさわしい制度へと改革する努力が一層求められる。

 SDRは、IMFが加盟国に対し出資額に応じて割り当てる仮想通貨だ。通貨危機に直面した国が、SDRと引き換えに必要な外貨を融通してもらえる。

 その価値は、複数の主要通貨を一定の構成比で算出して決める。今年はその構成比を見直す5年に1度の機会にあたり、人民元の採用が検討されてきた。

 構成通貨となるには条件がある。一つは「輸出額が大きい国の通貨」であること。いまや世界一の貿易大国の中国は、これに文句なく当てはまる。人民元はアジア諸国を中心に貿易決済に使われる取引が増えており、実績を重ね、国際通貨としての実力を蓄えつつある。

 問題はもう一つの条件、「自由に利用可能な通貨」であることだ。これを満たすには外国為替市場での人民元の相場操作をやめ、金利や資本取引の規制を撤廃する必要がある。

 中国も段階的にこうした規制の廃止や自由化を進めてきた。先月下旬には、預金金利の上限規制の撤廃を発表した。

 とはいえ、資本取引はいまだ当局によって制限され、窓口指導や国有商業銀行の影響力のもとで事実上の金利規制が続く可能性もある。これらの一層の改革を含めて自由化路線を着実に進めなければ、本当の国際通貨とは言えない。経済大国となった中国にはそれだけの責任があるはずだ。

 中国経済の実力を考えれば人民元の存在感は今後もますます高まるだろう。これを機にドル、ユーロ、ポンド、円に人民元も含む主要5通貨の新しい協調体制を検討したらどうか。国際金融の安定はもはや主要先進7カ国のG7体制だけでは難しい。日本と米欧にとっても政治体制が異なる中国との協調が必要不可欠なものとなっている。

福島原発遮水壁 漁業の再生を後押ししたい

 東京電力福島第一原子力発電所前の港湾内で、放射性物質の濃度が大幅に下がり始めた。

 護岸沿いに遮水壁が完成したためだ。汚染された地下水が漏出するリスクは、これでほぼゼロになったと言えよう。汚染水対策は、着実に前進している。

 港湾外の放射性物質の濃度は飲料水の基準を下回る。港湾内の護岸近くでも、遮水壁ができた先月末以降、すべての放射性物質の濃度が顕著に低下している。

 風評被害に苦しむ漁業の再生を後押しする材料となろう。現地で遮水壁の効果を確認した漁業関係者は「現状を国民に知らせてもらいたい」と東電に申し入れた。

 原発事故による水産物への影響はほとんどなかったが、福島県の沿岸部では、未(いま)だに試験操業しかできていない。政府と東電は、対策の進捗(しんちょく)や水質の改善について、国内外に発信すべきだ。

 遮水壁の建設工事は2012年から進められた。だが、護岸を完全に閉じると地下水が行き場を失ってあふれる懸念があり、約10メートル区間を残して中断していた。

 今年9月に、地下水をくみ上げて浄化し、海に流すことが可能になったため、遮水壁の開口部を完全に閉じた。

 放射性物質の海への漏出問題にはメドはついたが、汚染水対策で取り組むべき課題はなお残る。中でも、大雨などの際の対応を急がねばならない。

 敷地内の放射性物質が雨水に入り、排水路経由で海に流れ出すトラブルが、これまでも発生している。原発建屋では、放射性物質の付着・残留が随所に残る。作業員の安全確保に配慮しながら、除染に取り組んでもらいたい。

 建屋に流れ込む地下水対策も途上だ。流入量は、最近でも1日に400トン近くまで増えることがある。流入した水は放射性物質で汚染されるだけに、いかに量を減らすかがカギとなる。

 汚染される前の地下水をくみ上げて、海に流す地下水バイパスは既に実施されている。

 建屋の周囲の土を凍結させ、地下水の出入りを遮断する凍土壁の建設工事も進行中だ。完成後は地下水の流入量は100トン以下に減ると期待される。着実に進めることが求められる。

 懸念されるのは、浄化後の水を貯蔵するタンクが敷地内に林立していることだ。早晩、置き場所の確保は難しくなる。浄化水は、他の原子力関連施設と同様、海に放出するのが現実的だろう。

老人ホーム処分 問題施設の早期把握に努めよ

 高齢者やその家族の安全と安心をないがしろにした経営体質が露呈したと言えよう。

 川崎市内の有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で入居者3人が相次いで転落死したことなどを受け、川崎市はホーム側に対し、行政処分を行うと通知した。

 弁明を聞いた上で、早ければ来年2月から3か月間、市への介護報酬請求を停止する。

 このホームでは、昨年11~12月に、80~90歳代の入居者3人がベランダから転落して死亡した。

 80歳代の女性入居者が、職員4人に頭をたたかれるなどの虐待を受けていたことも発覚した。男性職員が入居者の金品を盗む事件も発生している。

 あまりにずさんな管理体制である。川崎市の処分は当然だ。

 大阪府や千葉県などにある系列の施設でも、職員による入居者虐待や転落死が判明している。

 一連の重大トラブルの教訓が、施設間で共有されなかったのは問題だ。厚生労働省は親会社「メッセージ」に業務改善勧告を出した。再発防止へ向けて、職員の教育と管理を徹底してもらいたい。

 憂慮すべきは、こうしたサービスの質の低下が「メッセージ」傘下の施設に限らないことだ。

 有料老人ホームを含めた介護施設では、虐待などの重大トラブルが後を絶たない。

 厚労省によると、施設職員による虐待の相談・通報件数が、2013年度は962件に上り、前年度より3割増えた。暴力や身体拘束、暴言のほか、必要な介護をせずに放置する事例も目立つ。

 背景として、施設の急増に伴う深刻な人手不足が指摘される。

 介護保険の導入後、特に増加が著しいのが有料老人ホームだ。14年には9581施設と、10年前の約10倍になった。建設業など異業種からの参入も相次ぐ。

 一方、介護職は「低賃金で重労働」との印象が強く、人材確保が追いつかない。経験の浅い職員に頼らざるを得ないのが現状だ。

 認知症など専門的ケアを要する高齢者が増えている。職員の心身の負担は過重になりがちだ。

 職員の介護技術の未熟さやストレスが、事故や虐待の大きな要因とされる。賃上げなどの人材確保策と併せて、職員に対する研修の充実が求められる。政府や自治体は積極的に支援すべきだ。

 行政の指導・監督の強化も重要だ。高齢者虐待などの相談窓口を住民に周知し、問題施設の早期把握に努めることが有効だろう。

2015年11月15日日曜日

みんなにハピネス!AI名曲が映画「パディントン」イメージソングに

2016年1月15日に全国公開される映画「パディントン」のイメージソングに、AIの「ハピネス」が決定。あわせて「ハピネス」を使用した映画の予告編がYouTubeにて公開された。

映画はマイケル・ボンドのベストセラー「パディントン」シリーズを実写化した作品で、野生のクマ・パディントンが家探しのためにロンドンへ降り立ち、奮闘する姿を描く。

配給元のキノフィルムズは「ハピネス」をイメージソングに採用した理由について、「歌詞・楽曲共に『元気をくれる曲』『思わず笑顔になる曲』として日本人に広く認知されており、この曲をイメージソングに起用することで、本作が『観ると笑顔になる / 幸せな気持ちになる映画』であることを観客の皆様に伝えていけたらと思います」と説明。AIも「ハピネスが作品の世界にぴったりと言ってくれて嬉しいです! 曲を聴いてこの映画を観てみんなが幸せな気持ちになったら最高!!! みんなにハピネス!!!!(=´∀`)人(´∀`=)」とコメントしている。


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