2016年12月31日土曜日

株価に映った不確実性への備えを

 株価は経済の先行きを映す鏡だ。2016年の株式市場は景気回復の期待と政治混迷への不安との間で揺れた。政府も企業も環境の急変への備えは十分か、いま一度点検しつつ新年を迎えたい。

 大納会の30日、日経平均株価の終値は1万9114円37銭と15年末に比べ80円66銭高い水準だった。暦年での日経平均の上昇は12年から5年連続で、バブル崩壊後では最長となった。

投資資金が米国に流入

 米株式市場ではダウ工業株30種平均が終盤にかけて上昇の勢いを増し、一時は初の2万ドル台に近づいた。欧州の株価もおおむね堅調に推移した。

 主要国の株価上昇が鮮明になったのは、11月の米大統領選でトランプ氏が勝利してからだ。

 日本の株価に大きな影響を与えた米ダウ平均の年間上昇幅のおよそ6割は、米大統領選以降のものだ。選挙結果は驚きをもって迎えられたが、市場の反応もまた予想外だった。

 トランプ氏の掲げるインフラ投資や規制緩和策が注目され、投資資金が米国に流れた。米景気の回復や財政赤字の拡大を織り込む形で米長期金利が上昇し、外為市場では主要な通貨に対してドルが買われた。米株高と円安・ドル高が日本株の上昇を促した。

 こうした「トランプ相場」が始まる前は、中国や欧州発の要因で日本の株式市場は下落する場面が多かった。

 年の初めには人民元安がきっかけとなり、中国の株式相場が急落した。これにより世界的に投資リスクを避ける動きが強まり、安全資産とされる円が買われ、日本株は下げ足を速めた。

 6月に英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決め、日経平均が1000円を超える大幅な下げとなったのは記憶に新しい。

 こうした中、日銀はマイナス金利の導入や上場投資信託(ETF)購入の拡大、長期金利の操作といった手立てを講じて景気や株価の下支えに動いた。

 企業もまた、昨年来の企業統治改革などを加速させた。ソフトバンクグループによる英アーム・ホールディングスの巨額買収が示したように、成長戦略としてM&A(合併・買収)を活用する動きも定着した観がある。

 企業のこうした取り組みがあったところへ「トランプ相場」の追い風が吹き、日本の株価も底堅く推移したと見るべきだ。

 17年の世界を展望すると、各国で重要な政治日程が続き、金融市場は波乱含みの展開を予想する声が多い。

 米国では1月20日にトランプ大統領が就任する。期待先行の時は過ぎ、現実的な政策遂行の能力が問われる。次期大統領が保護主義的な政策を実施するようなことになれば外為市場はドル安・円高に転じ、日本の株式市場が悪影響を受ける可能性がある。

 欧州に目を転じれば、英国のEU離脱交渉が始まる。フランスの大統領選やドイツの総選挙なども控えている。政治の季節が続く欧州で反EUを掲げる大衆迎合主義(ポピュリズム)の政治勢力が勢いを増すようなら、ユーロの信認が揺らぎかねない。

 日本の政府や企業は、国際政治と絡み合ったグローバルな金融市場の急変への備えを、怠るわけにはいかない。

改革の手綱を緩めるな

 日本は主要国の中で政権の安定度が相対的に高い。安倍晋三首相は高支持率を生かし構造改革を進めるべきだ。アベノミクスは「第1の矢」の金融緩和によりデフレ心理を払拭しつつあるが、社会保障制度や労働市場の改革など踏み込み不足の分野は多い。

 アベノミクスへの外国人投資家の期待はかなり下がっている。今年の株式市場で外国人が売り手に回る場面が多かったことが、それを物語る。安倍首相は経済を成長軌道に乗せる姿勢を、いま一度内外に示す必要がある。

 企業もなすべきことは多い。積年の課題である資本効率の低さを解消しなければならない。経営資源を高採算の事業に集中させるべきだ。100兆円の手元資金を活用すれば投資や賃上げ、株主還元も上積みできる。企業に滞留するお金の巡りが良くなれば、経済の活性化につながっていく。

 日銀の黒田東彦総裁は、日本経済新聞のインタビューで世界経済について「良い方向に向かっている」との認識を示した。しかし、市場に映る未来には不確実性も多く残る。政府も企業も過度の楽観を戒め、改革の歩みを進めていきたい。

ニッポン2016年 このまま流されますか

 2016年が終わる。

 世界中で「分断」「亀裂」があらわになった。

 ニッポンは、どうか。

 「言葉」で振り返る。

 政治では、悲しいかな、ことしもカネの問題があった。

 「私の政治家としての美学、生き様に反する」

 業者から現金をもらった甘利明経済再生相は1月に、こんな発言を残して閣僚を辞めた。その後の国会を「睡眠障害」で欠席し、関係者の不起訴が決まると、さっさと復帰した。

 「公用車は『動く知事室』」

 東京都の舛添要一知事は公用車での別荘通いや、1泊20万円のホテル滞在で袋だたきにあった。そのうえ政治資金の私的流用を「せこい」と酷評され、6月に知事の座を追われた。

 「飲むのが好きなので、誘われれば嫌と言えない性分」

 700万円近い政務活動費を飲食やゴルフなどに使った富山市議が8月に辞職した。似たような地方議員の税金乱費が、各地でぼろぼろと見つかった。

    *

 国会はさながら「安倍1強」劇場だった。安倍晋三首相は夏の参院選に勝ち、自民党総裁の任期延長に異論も出ない。

 「結党以来、強行採決をしようと考えたことはない」

 「こんな議論を何時間やっても同じですよ」

 首相の答弁は、ぞんざいさを増し、与党は「数の力」で採決を強行していった。

 国連平和維持活動(PKO)に派遣する自衛隊に「駆けつけ警護」の新任務を与えた。強引に憲法解釈を変えた安全保障関連法の初めての具体化だが、首相の言葉は軽かった。

 「もちろん南スーダンは、例えば我々が今いるこの永田町と比べればはるかに危険な場所」

 南スーダンでは武器で人が殺されている。それを稲田朋美防衛相はこう説明した。

 「それは法的な意味における戦闘行為ではなく衝突である」

 この種の「言い換え」が増えた。沖縄県でのオスプレイ大破は「不時着」だった。安倍政権は「積極的平和主義」で「武器輸出三原則」を葬り、「防衛装備移転三原則」と称している。

    *

 ご都合主義的な言葉づかいの極みが、首相の6月の消費増税先送り会見で飛び出した。

 「再延期するとの判断は、これまでの約束とは異なる新しい判断だ」

 「新しい判断」は公約違反の逃げ口上だ。2年前には「再び延期することはない。ここでみなさんに、はっきりとそう断言する」と言ったのだから。

 しかも国会での追及をかわそうと、閉会直後に表明した。ところが、野党も増税延期を唱えていたため、参院選の争点にすらならなかった。

 「確実な未来」である人口減少と超高齢社会に備えるための国民の負担増を、政治家が先送りし、多くの有権者がそれを歓迎、あるいは追認した。

 医療も介護も年金も生活保護も子育ても、財源難にあえいでいる。この厳しい現実から目をそむけ、社会全体が「何とかなるさ」とつぶやきながら、流されてゆくかのようだ。

 その流れは、政治家の粗雑な答弁や暴言をも、のみ込んでしまっているようにも見える。

 この夏、101歳で逝ったジャーナリスト、むのたけじさんの著作に次の一節がある。

 「(日本人が)ずるずるべったり潮流に押し流されていくのがたまらなかった」

 敗戦直後の世の中への感想だが、どこか現在に通じないか。

    *

 9月、安倍首相は所信表明演説で言い切った。

 「非正規(労働)という言葉を、みなさん、この国から一掃しようではありませんか」

 だが、働き方の問題は深刻かつ多岐にわたる。

 「保育園落ちた日本死ね!!!」

 この匿名のブログへの反響の大きさが、待機児童問題の窮状を物語っている。

 過労自殺した電通の女性社員(24)の言葉も切ない。

 「大好きで大切なお母さん。さようなら。ありがとう。人生も仕事もすべてがつらいです」

 衝撃的な事件があった。

 相模原市の障害者施設で19人を殺害した男は言った。

 「障害者は生きていても無駄だ」

 この異常な偏見に対する確固たる反論を、だれもが心に堅持し続けねばならない。

 ことしも、いじめを苦にした自殺を防げなかった。原発事故の自主避難先で、いじめられた少年の手記が話題になった。

 「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」

 それぞれの「言葉」が、ニッポンのありのままの姿を映している。だから聞き流すまい。立ち止まって受け止めよう。

 このまま来年も流されてしまわぬように。

給付型奨学金 学ぶ意欲ある若者への支援に

 低所得世帯の大学生らを対象とした返済不要の給付型奨学金を、政府が創設する。

 進学する意欲があるのに、経済的事情で断念せざるを得ない生徒を後押しする制度だ。有効に機能させたい。

 本格実施は2018年度からだ。大学や短大、専門学校への進学者に対し、自宅か下宿か、私立か国公立か、などに応じて、月2万~4万円が給付される。

 国による給付型奨学金制度を設けていないのは、経済協力開発機構加盟国では、日本とアイスランドだけだという。

 対象となる住民税非課税世帯の進学希望者は、全国で1学年約6万人とされる。そのうち、給付を受けられるのは約2万人だ。全国の高校から、学業や課外活動のほか、本人の意欲や家庭の事情も踏まえて推薦してもらう。

 親が十分な教育費を捻出できず、成績が伸び悩む生徒もいる。高校間の学力差も大きい。一律の成績基準を設けず、現場に判断を委ねる仕組みは理解できる。各校は生徒を総合的に評価して、向学心のある子を選んでほしい。

 大学進学率が5割を超える中、学費や生活費の工面に苦労する学生が増えている。年間の授業料は私立で平均86万円、国立でも54万円かかる。保護者の負担は重い。昼間部の大学生の半数が、何らかの奨学金を利用している。

 国の奨学金は現在、無利子と有利子の貸与型しかない。独立行政法人・日本学生支援機構を通じて132万人が利用している。

 学生は大学卒業時に平均310万円の借金を抱える。非正規雇用で返済に苦しむ人も多く、3か月以上の滞納者は17万人に上る。

 低所得世帯ほど将来の負担を懸念して、「借り控え」をする傾向もある。教育の機会均等の観点からも、新たな制度を創設する意義は小さくない。

 21年度以降は、年間220億円の財源が必要になる。「未来への投資」に対する社会の理解を得るため、入学後の成績などを確認することは、欠かせない。

 新制度導入後も、無利子の貸与型奨学金を併用できる。アルバイトに追われず、学業に専念できる環境整備が大切だ。

 無利子の貸与型奨学金には、卒業後の所得に連動した返済制度が来年度から導入される。返済期間の一層の延長などの工夫も必要だろう。大学にも、授業料減免の拡充といった努力が求められる。

 熱意ある若者を、重層的に支援する態勢を整えたい。

キトラ壁画修復 史跡の新たな活用法を示した

 かけがえのない文化遺産が無事、修復されたことに安堵(あんど)する。

 奈良県明日香村の国特別史跡キトラ古墳(7世紀末~8世紀)の極彩色壁画をはぎ取り、保存修理する作業が完了した。

 12年をも費やして、難事業を完遂させた。関係者の熟練の技と根気の賜物(たまもの)である。

 キトラ古墳では、1983年から石室内部にファイバースコープや小型カメラを挿入して調査が実施された。壁には「朱雀」を始めとする四神図などが描かれていることが確認された。天井には天文図も見つかった。

 壁画が剥落しそうなことが、その後に判明した。壁と漆喰(しっくい)の間に水がしみ込むなどしたためだ。文化庁は2004年、漆喰ごと取り出して保存する方針を決めた。

 漆喰の厚さは数ミリだ。わずかなミスが損傷につながる。2人が入れば満員の空間で、日本画の修復が専門の技術者らが、1100片以上に分けて、はぎ取った。

 色や描線の状態について、直接触れずに分析する技術を採り入れるなど、様々な工夫を凝らした。その手法や工程は、文化財修復の得難い財産となろう。後世に確かに伝えることが大切だ。

 再構成された壁や天井は、古墳のそばに政府が整備した保管・公開施設に移された。今年9月の開館から1か月間、「朱雀」や天文図などが公開された。この間に、2万人近くが壁画を観覧した。小中学生らの姿も多かった。

 今後も定期的に実物が展示される。本物を見ることで、多くの人が文化財を身近に感じ、その重要性を再認識する。文化遺産の有効な活用法だろう。

 修復に際し、「現地保存の原則」を主張した専門家は少なくない。「墳丘や石室、壁画を一体で残すべきだ」という考え方だ。

 だが、蘇(よみがえ)った壁画を石室に戻すと、カビの発生などの危険性が高い。被害を防ぐ確かな手立てがない現状では、別施設での保存が理にかなっていると言えよう。

 明日香村では、石室内の不十分な管理により、カビの大量発生を招いた高松塚古墳の壁画修復が続く。劣化が激しいため、07年に石室自体を解体して、墳丘から取り出さざるを得なかった。

 修復作業の終了後は、同様に別施設で保存・公開する方針だ。

 第3の壁画古墳発見の可能性はある。できる限り元の状態のまま後世に受け継ぐには、どう対処すべきなのか。キトラ壁画の修復は貴重な実例となるだろう。

2016年12月30日金曜日

東芝は不可解な「巨額損失」の経緯解明を

 会計不祥事で再建中の東芝に、新たな巨額損失の可能性が浮上した。昨年末に子会社の米ウエスチングハウスを通じて買収した、原子力発電所の建設などを手がける米企業で想定外のコストが生じ、数千億円規模の減損損失が発生するおそれがあるという。

 財界トップを輩出した名門企業は重大な岐路を迎えたといえる。東芝の経営陣にまず求められるのは損失額の一日も早い確定と、なぜ巨額の損失が出る見通しになったのか、経緯の解明だ。

 東芝の説明によると、原発をめぐる安全意識の高まりから、米社の手がける原発建設のコストが予想以上に膨らみ、巨額の損失につながったという。

 だが、原発の安全性に厳しい視線が注がれるようになったのは最近の話ではなく、東京電力福島第1原発事故以来だ。昨年末に買収を決める時点で、考慮に入れるのが当然の要素だろう。

 加えて当時の東芝は会計不祥事の渦中にあった。さらなる問題を起こせば、上場廃止を含めて市場や社会から厳しい制裁を科されるのは、必至の情勢だった。

 そんな企業がなぜこれほどの失敗を重ねたのか、理解に苦しむ。買収相手の資産査定でよほど大きな見落としがあったのか、それ以外の深い事情が隠されているのか。納得いく説明が聞きたい。

 いずれにせよ同社は今後、解体的出直しを迫られるだろう。複数の事業を抱える「総合電機」という企業の形をいつまで継続できるか、先行きは見通せない。

 だが、発想を切り替えれば、今回の事態を再出発の機会ととらえることもできるのではないか。

 例えばフラッシュメモリー事業だ。最大手の韓国サムスン電子にも対抗しうる強い事業だが、東芝の一事業部門にとどまるかぎり、十分な資金を調達できず設備投資競争に劣後するかもしれない。

 むしろ独立して外部のリスクマネーを取り入れたほうが展望が開ける、という見方がある。

 原発事業も、国内他社との再編集約を含め様々な選択肢が浮上するだろう。日本では東芝、日立製作所、三菱重工業の3つの原発メーカーが並び立つ。「多すぎる」という声は前々からあった。

 企業の再生や事業の再構築を成功に導くには、強力なリーダーが不可欠だ。社内外を問わず有為の人材を登用し、難局に立ち向かわなくてはならない。

トップ辞任に及んだ過労自殺

 昨年12月に電通の女性新入社員、高橋まつりさんが過労自殺した問題で、石井直社長が辞任することになった。過重労働の把握と是正は経営者の責任であることを示したといえる。ほかの企業も警鐘と受け止めるべきだ。

 厚生労働省東京労働局は、労使協定の上限を超える違法な残業をさせた疑いで、高橋さんらの上司だった幹部と電通を書類送検した。石井社長の辞任はその責任をとってのものだ。

 過重労働を放置し、自殺にまで追い込んでしまう組織は異常である。電通では1991年にも入社2年目の男性社員が過労で自殺し、最高裁が2000年に会社の責任を認めている。企業風土などの面で根深い問題があると考えざるを得ない。

 違法な長時間労働は全社的に広がっていた疑いも持たれており、東京労働局などは10月に同社本社と3支社、子会社5社を立ち入り調査した。電通が的確な対策を立てるためにも、過重労働の実態の究明を急いでほしい。

 長時間労働は電通に限った問題ではない。厚労省が10月にまとめた過労死白書によると、2割を超える企業で、過労死の労災認定の目安となる月80時間を超える残業があった。

 仕事の仕方の見直しは待ったなしの課題だ。不要な業務がないか、企業は点検を求められる。日本の正社員は欧米に比べ職務内容が不明確で、これが長時間労働の温床になっているともいわれる。職務の明確化も考えたい。

 労働時間ではなく成果の対価として賃金をもらう「脱時間給」制度の創設や、仕事の時間配分を本人が決められる裁量労働制の拡大は、メリハリのきいた働き方を広げることにつながろう。

 日本は残業時間への規制が緩く、これを見直す必要はある。しかし基本は、労働生産性を上げることで働く時間を短くするという考え方だ。企業も政府も、どうすれば生産性が上がるかという問題意識で対策を考えるべきだ。

靖国参拝 「真珠湾」は何だったか

 稲田防衛相が靖国神社に参拝した。極めて残念だ。

 安倍首相がオバマ米大統領と真珠湾を訪ね、日米の「和解」を強調したばかりである。

 稲田氏も同行したこの真珠湾訪問で、日本の過去の歴史をめぐる問題は清算された。稲田氏がそう考えているとしたら、それは大きな誤りだ。

 稲田氏は「祖国のために命を捧げた方々に敬意と追悼の意を表するのは、どの国でも理解をしていただける」と語った。

 戦争で命を失った肉親や友を悼むため、遺族や一般の人々が靖国で手を合わせる。そのことは、自然な営みである。

 だが首相をはじめ政治指導者の参拝となると、その意味は異なる。靖国には、若者たちをアジアや太平洋地域の戦場に送った側のA級戦犯が合祀(ごうし)されているからだ。

 そこに政治家が参拝することに、割り切れない思いをもつ遺族もいる。中国、韓国、さらには欧米など国際社会にも、日本がかつての戦争責任から目を背けようとしているとの疑いを広げかねない。

 まして稲田氏は自衛隊を指揮監督する立場の防衛相である。

 A級戦犯が罪を問われた東京裁判には、勝者による裁きという批判もある。それでも、日本はこの裁判を受け入れ、平和国家としての一歩を踏み出したことを忘れてはならない。

 首相はかねて、日本の過去の侵略と植民地支配を認めた村山談話を疑問視してきた。3年前、靖国に参拝した際には、中韓との関係が悪化し、オバマ政権から「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動に失望している」と批判を浴びた。

 首相が昨年4月の米議会演説で「先の大戦に対する痛切な反省」や「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」に触れ、今回、真珠湾を訪問したのは、そうした経緯を踏まえ、日本の首相としての歴史認識に変わりがないことを示すためだったはずだ。

 首相が重用し続けている稲田氏の言動は、個人の行為にとどまらず、政権の意思と受け止められかねない。首相のこれまでの積み重ねを傷つけ、その真意に再び疑念を広げるだろう。

 稲田氏の参拝は、首相を支持する右派へのメッセージと見ることもできる。首相の真珠湾での演説も、旧日本軍が悲惨な被害をもたらしたアジア太平洋地域への視線は希薄だった。

 稲田氏の参拝について首相はコメントを避けた。だがアジアを含む国際社会と真の意味での「和解」をめざすなら、稲田氏の参拝を放置してはならない。

慰安婦合意 後戻りさせないために

 かつて日本軍将兵たちの性の相手を強いられた元慰安婦らの気持ちをどうやって癒やすか。日韓両政府がこの問題で政治的に合意して1年が過ぎた。

 合意に盛り込まれた元慰安婦を支援する韓国の財団が今夏に立ち上がり、日本政府が送った10億円をもとに現金を支給する事業が始まっている。

 1年前に46人が生存していた元慰安婦のうち、これまで7割以上にあたる34人が受け取りの意思を明らかにしたという。

 傷つけられた名誉や尊厳が、70年後に受け取った金銭によって完全に癒やされることはあるまい。だが、いまできる限りを尽くそうとする意思が、元慰安婦らに少しでも受け入れられたのなら、政治合意には意味があったと言えるだろう。

 着実に歩みを進めてきた事業を、日韓両政府は今後も協力して後押ししてほしい。

 合意では、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」することが確認された。

 持ちつ持たれつの両国関係はいまや、多くの分野に広がっている。慰安婦問題では互いに一定の譲歩をしつつ、一層連携を強めていこうとの思いが、合意には込められた。

 後戻りさせないためには不断の努力が欠かせない。なのに、合意の精神に逆行するような言動が双方で出るのは残念だ。

 朴槿恵(パククネ)大統領の進退問題に揺れる韓国では、野党勢力が日本との再交渉などを求めている。

 次期大統領選を意識し、合意を決断した朴政権を批判するための発言との指摘があるが、歴史問題を政争の具として使おうというのであれば、無責任な政治と言わざるをえない。

 日韓両政府が今後取り組むべきは、元慰安婦らに寄り添いつつ、不幸な歴史を教訓として、永遠の不戦の誓いなど普遍的な問題に昇華させ、人権の向上に努めることではないのか。

 日本政府や自民党の一部には財団に資金を出した時点で日本側は役割を終えた、との意見があるが、これも大きな誤りだ。

 お金の受け取りを拒む元慰安婦らは、安倍首相をはじめ、日本政府が真に謝罪していないとして反発を強めている。

 ソウルの日本大使館前に立つ少女像の移転は、韓国政局の不安定化でさらに難しくなったとみられている。釜山でも、市民団体らが日本総領事館前に少女像を設置しようとして混乱している。

 この問題が象徴するように、日韓の心が通い合わないと根本的な解決は図れないことを、双方が改めて認識すべきである。

南スーダン情勢 安定構築へ外交努力強めたい

 政情不安が続く南スーダンをいかに安定させるか。日本は関係国と連携し、同国政府への働きかけを強めるべきだ。

 国連安全保障理事会で米国が提出した対南スーダン制裁決議案が否決された。

 安保理の15か国のうち、米英仏など7か国が賛成し、日中露やアフリカ3か国を含む8か国が棄権した。米国主導の決議案に日本が同調しないのは異例である。

 決議案は、南スーダンへの武器輸出を禁止し、政府と反政府勢力の幹部に資産凍結や渡航禁止を科す内容だ。虐殺など住民への人権侵害を防ぐのが目的という。

 別所浩郎国連大使は、「政権が前向きな行動を取っている時に、制裁は逆効果だ」と棄権の理由を説明した。制裁を科す時機として適切ではないとの認識だ。

 安保理は今年8月、首都ジュバなどの治安確保へ、国連平和維持活動(PKO)部隊の約4000人の増派を決議した。南スーダンは難色を示したが、日本などの説得で11月に受け入れを決めた。

 南スーダンでは、昨年8月の和平合意を踏まえ、今年4月に暫定政府が発足した。政府が反政府勢力を弾圧し、難民を大量に発生させたのは事実だ。国連に非協力的という問題もある。

 それでも、今、制裁を科せば、国連との信頼関係が一層失われ、和平の維持が困難になる。棄権という判断は十分に理解できる。

 日本は、PKOに陸上自衛隊部隊約350人を派遣している。

 野党の一部などには、陸自の安全を優先して武器禁輸を回避するのは本末転倒だ、との批判もある。だが、重要なのは、禁輸の実効性と影響を見極めることだ。

 南スーダンでは、様々な不法ルートで周辺国などから武器を容易に輸入できる。反政府勢力に武器が渡れば、政府軍による治安維持の重大な障害となろう。

 ケニアなど東アフリカ8か国は「制裁は安定をもたらす解決策ではない」と決議案に反対する声明を発表している。米国も、「人権重視」という政治的なアピールに重点があったのではないか。

 岸田外相は今月7日、キール大統領と電話会談し、「市民への暴力は絶対に受け入れられない」と伝えた。先週も、政府特使を派遣し、国民融和に向けての一層の努力をキール氏に求めた。

 日本も、将来の制裁を否定してはいない。制裁実施も外交カードとし、南スーダン政府に過剰な暴力の自制と治安回復への真剣な取り組みを迫ることが大切だ。

電通社長辞任へ 企業経営者への強い警鐘だ

 大手広告会社・電通の過労自殺問題は、社長の辞任表明に発展した。過重労働は、経営者が責任を問われなければならない重大事案であることを浮き彫りにした。

 石井直社長は記者会見で、「120%の成果を求め、仕事を断らない矜持(きょうじ)もあった」と述べ、電通特有の企業風土が過重労働を招いたとの認識を示した。「経営陣が歯止めをかけられなかった」と、自らの責任を認めた。

 電通では、過去にも社員が過労自殺している。近年も、違法な長時間残業で相次ぎ労働基準監督署の是正勧告を受けた。その後、「ノー残業デー」を設けるなどの対策を取ったものの、新たな悲劇を防げなかった。

 経営陣が、職場の実態を十分に把握し、本気で変革に取り組んだとは、到底言えまい。

 昨年末に新入社員の高橋まつりさんが過労自殺した問題で、東京労働局が法人としての電通と幹部社員1人を労働基準法違反容疑で書類送検した。これにより、石井社長は辞任に追い込まれた。

 11月の強制捜査から2か月足らずでの早期立件である。日本の著名企業で過重労働が常態化していたことに対する当局の危機感の表れと言えるのではないか。

 労使協定で決めた残業の上限を超えて高橋さんらを働かせた上、勤務時間を上限内に収まるよう過少申告させていた疑いがある。同様の例は複数見られ、労働局は労務担当役員ら上層部の立件も視野に入れ、捜査を続ける。

 徹底的に全容を解明し、再発防止につなげてもらいたい。

 高橋さんは、母子家庭で育ち、東大から電通に入った。「夢に向かって努力を続けてきた」「生きて社会に貢献できることを目指していた」。命日を前に母親が公表した手記につづられている。

 若い社員の夢と希望を断ち切った電通の罪は重い。

 電通だけの問題ではない。10月に公表された初の過労死白書によると、過労死ラインとされる月80時間超の残業があった企業は23%に上る。他の企業経営者も重く受け止める必要がある。

 長時間労働の是正は、政府の「働き方改革」の柱だ。社員が疲弊すれば、生産性も低下する。

 業務量を変えないまま、残業を禁じるだけでは、仕事を持ち帰る社員を増やす結果になる。受注する仕事の量や内容を精査し、社員に無理を強いずに業績を上げる。そのために、知恵と工夫を凝らすのは経営者の責務である。

2016年12月29日木曜日

「真珠湾の和解」を世界安定の礎に

 山本五十六率いる連合艦隊がハワイを奇襲してから75年、終戦からでも71年が過ぎ去った。長い長いときを経て、日米の首脳がようやく開戦の地、真珠湾に一緒に足を運んだ。

 国と国との戦い、そこに参加した人と人との争い。その痛みの記憶が完全に風化する前に「和解」を象徴する機会を設けることができた。画期的なできごとと高く評価したい。

曲折あった日米の絆

 いまでこそ簡単に「日米同盟」という言葉を口にするが、戦後史を振り返ると、両国は常に一枚岩だったわけではない。日本では国会が反安保のデモに取り囲まれたことがあったし、貿易摩擦をめぐり米国で排日の声が広がった時期もあった。

 さまざまな曲折を経て、オバマ大統領が真珠湾で述べた「オタガイノタメニ」へとたどり着いたのだ。信頼できるトモダチがいる。それがどれほど得がたいことであるか。2011年の東日本大震災でも感じたが、この機会に改めてよくかみしめたい。

 いま世界は再びいがみ合いの時代へと入りつつある。共通のルールをつくり、正々堂々と競争することが経済成長を促し、互いにウィンウィンになれる。2度の世界大戦を経て確認されたはずの「戦争は結局、誰の得にもならない」という原則すら揺らいでいる。

 そういう時代だからこそ、かつての敵がいまや手を携えて前進する「真珠湾の和解」が光り輝くのだ。「戦争の惨禍は、いまだ世界から消えない。寛容の心、和解の力を世界はいまこそ必要としている」。安倍晋三首相はこう強調した。オバマ大統領は「戦争は終わり得るものなのだ」と訴えた。深化した日米の絆を世界の安定につなげねばならない。

 オバマ大統領が日米同盟を「共通の利益だけでなく、共通の価値観に根ざして結びついた」と評したこともよく記憶しておきたい。日本には現在の日米同盟を中国の海洋進出や北朝鮮の核開発がもたらす軍事的脅威への対抗手段と捉える人々が少なくない。

 仮想敵国を抑え込む。そんな単純な国益だけでできた軍事同盟ほどもろいものはない。もしもトランプ次期政権が米国の国益を最大化する手段として「対中融和」を選択したら、いっぺんに崩壊してしまう。

 民主主義と市場経済。この普遍の価値を世界に広める。日米同盟はそのためにあることをここでよく確認しておきたい。

 同盟には政治的思惑、経済的利益、人間的な友情が絡み合う。どれが欠けても機能しない。世界の安定を先導してきた米国に疲れがみえるいまこそ、日本は積極的に補佐する役割を担うべきだ。中国を敵視するのではなく、むしろ仲間に引き込む日米同盟が理想の姿である。

 「戦争の惨禍は二度と繰り返してはならない。私たちはひたすら不戦の誓いを貫いてきた」。安倍首相は真珠湾でこのことも強調した。安全保障関連法の制定などによって日本は戦争をする国になった。そういう見方が内外にある。

 誤解だと無視するのはたやすいが、それでは解決にはならない。先の大戦の教訓は本当に徹底されているのか。不戦の誓いはいくら繰り返してもやり過ぎということはない。

戦争への道の検証を

 その意味で、安倍首相の所感が、日本がなぜ戦争への道を歩んだのかに触れなかったのは残念である。いつまでも「謝罪」ではあるまい。オバマ大統領は広島で原爆投下を謝罪しなかった。それはその通りだ。

 とはいえ、戦争をしかけた側としかけられた側の立場は同じではない。真珠湾で始まった戦争は両国のみならず、アジア太平洋の多くの住民に多大な被害をもたらしたことも忘れてはならない。

 なぜ戦争を始めたのかをきちんと検証しなければ、再び戦争を始めるのではないかとの懸念は払拭されない。個別の被害への謝罪よりも、大きな課題である。

 安倍首相の真珠湾訪問によって、これまであまり知られてこなかったさまざまなことにも光が当たった。吉田茂、鳩山一郎、岸信介といった終戦からさほどたっていない時期の首相たちがすでに真珠湾を訪れていたことも、そのひとつである。

 わたしたちは自分たちの歩みにあまりにも無関心だったのではないか。振り返るべき歴史がまだまだたくさんある。安倍首相の旅にはそれを教えてくれるという効果もあった。

真珠湾訪問 「戦後」は終わらない

 旧日本軍による奇襲から75年。米ハワイの真珠湾を訪問中の安倍首相がオバマ大統領と演説し、かつての敵味方による「和解の力」を訴えた。

 「戦争の惨禍は、二度と繰り返してはならない」「戦後70年間に及ぶ平和国家としての歩みに静かな誇りを感じながら、この不動の方針を貫いていく」

 首相はそう語り、「未来」に向けて不戦の決意を強調した。

 一方で、抜け落ちていたのは「過去」への視線である。

 真珠湾攻撃を、さらには日米のみならずアジア太平洋地域の国々に甚大な犠牲をもたらした先の戦争をどう振り返り、どう歴史に位置づけるか。演説はほとんど触れていない。

 未来こそ大事だ、反省を繰り返す必要はない。首相はそう考えているのかもしれない。

 真珠湾攻撃から半世紀の1991年、当時の渡辺美智雄副総理・外相は「我が国の過去の行為に対し深く反省します」とする談話を発表した。

 安倍首相自身も昨年4月、米議会での演説で「先の大戦に対する痛切な反省」や「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」に言及した。

 だが、未来志向は、過去を乗り越える不断の努力のうえに成り立つ。日米の首脳がともに世界に語りかける絶好の機会に、先の戦争をどう総括するか、日本のリーダーとして発信しなかったことは残念でならない。

 アジアへの視線も希薄だ。

 太平洋戦争は日米だけの戦争だったわけではない。米英などとの開戦は、満州事変以来の10年に及ぶ中国への侵略や、その行き詰まりを打開するための東南アジアへの武力進出から生まれた。アジアの人々にも悲惨な犠牲を強いたことを忘れてはならない。

 首相がハワイに出発した翌日、安倍政権は沖縄県の反対を振り切って、名護市辺野古での埋め立て工事を再開した。

 全国の米軍専用施設の7割が沖縄に集中する現状も、真珠湾攻撃に端を発した米国との戦争のひとつの帰結である。

 演説で首相は日米同盟を「希望の同盟」と自賛したが、沖縄には触れなかった。

 日米の「和解」は強調するのに、過重な基地負担にあえぐ沖縄との和解には背を向ける。そんな首相の姿勢は、納得できるものではない。

 首相は、今回の演説で戦後を終わらせたかったのだろう。

 だが逆に印象に残ったのは、過去を語らず、沖縄の声を聞かず、「美しい未来」を強調しようとする首相の姿である。

電通違法残業 他社の話ではすまぬ

 広告大手の電通とその幹部が、社員に違法な長時間労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検された。

 今から1年前、新入社員の高橋まつりさん(当時24)が長時間の過重労働が原因で自殺し、労災と認定されたのを受けて、厚生労働省東京労働局などが捜査してきた。高橋さんを含む社員2人に対し、労使で決めた時間外労働の上限を超えて働かせていた疑いである。

 電通は、過去にも過労自殺した男性社員を巡って会社側の責任を認める最高裁判所の判決が示されたり、違法な長時間労働で労働基準監督署から是正勧告を受けたりしている。今回の捜査でも、複数の部署で違法な時間外労働や、勤務時間を実際より過少に報告させていた例が見つかっているという。

 長時間の残業を当然とする空気が電通の社内全体にあったということだろう。全容の解明を目指して捜査は続く。石井直社長は辞任を表明したが、実効性のある再発防止策を実施することが企業としての責務である。

 もっとも、これは電通だけの問題ではない。

 今年初めて公表された過労死白書によると、労災認定の目安とされる月80時間を超える残業をした社員のいる会社は約2割にのぼる。すべての会社、すべての職場が自らを省みて、社員に無理をしいていないか点検し、問題があれば改めていかなければならない。

 朝日新聞社も今月、社員に違法な長時間労働をさせたとして労基署から是正勧告を受けた。電通事件をはじめ違法残業問題を報じる立場として、自らが問われることを肝に銘じたい。

 政府が力を入れる「働き方改革」でも、長時間労働の是正は喫緊の課題だ。厚労省は、違法残業のあった企業名の公表対象を広げることをはじめ、緊急対策を示した。

 ただ、従業員を大切にすることは、政府に迫られてではなく、企業が自主的に取り組むべき課題だ。働く時間を抑えるには、仕事の中身やそのやり方を見直すことが欠かせない。

 難しい課題だが、従業員の意欲と生産性を高め、企業の収益改善にもつなげうるテーマである。集中して働き、給与もしっかりもらう理想の姿を目指し、まずは経営者が方針を明示して職場で知恵と工夫を重ねたい。

 「日本の働く人全ての人の意識が変わって欲しい」

 高橋まつりさんの母、幸美さんが、まつりさんの命日に公表した手記の言葉である。社会全体で受け止めねばならない。

首相真珠湾訪問 日米は「和解の力」を実践せよ

 ◆同盟の国際秩序貢献が問われる◆

 戦後の日米外交の重要な到達点と言えよう。

 安倍首相が米ハワイの真珠湾を訪れた。オバマ米大統領とともに、旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者らを慰霊した。

 今回の訪問は、昨年4月の首相の米議会演説、8月の戦後70年談話、そして今年5月のオバマ氏の広島訪問から連なる日米の戦後処理の歴史的な集大成である。

 首相は演説で、「戦争の惨禍は二度と繰り返してはならない」という「不戦の誓い」を今後も堅持する考えを改めて表明した。

 ◆「寛容の大切さ」訴える

 首相が言及したように、日本の戦後70年余の平和国家としての歩みは世界に誇れるものだ。平和は何もしないことでは実現しない。自国の安全と地域の安定を確保する不断の努力を継続したい。

 首相は、戦火を交えた日米両国が「深く強く結ばれた同盟国」になった「和解の力」が今、世界の課題解決に必要だと指摘した。日米は「寛容の大切さと和解の力を世界に訴え続けていく任務を帯びている」とも語った。

 今回の演説では、米議会演説で触れた「痛切な反省」「深い悔悟」など歴史認識には一切言及しなかった。未来志向に徹したいという首相の意向は適切だ。

 演説後、首相と抱き合った高齢の元米兵が「私自身が日米和解の体現者」と語ったように、謝罪のないことを問題視する米側の関係者はほとんどいない。

 オバマ氏の広島訪問時の被爆者の反応と同様、70年余を経て成熟した日米関係を象徴している。

 「リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)」は、奇襲攻撃を仕掛けた日本に対する米国の敵意を示す言葉だった。真珠湾が今後、日米の和解の象徴となるのであれば、喜ばしい。

 首相は、様々な国際課題に取り組む日米の「希望の同盟」の重要性を強調した。オバマ氏も、「お互いのために」という日本語を引用し、両国の連帯を訴えた。

 ◆安保協力を拡大したい

 日米同盟は、東西冷戦中は西側陣営の主要な柱として機能した。冷戦終結後も、多くの不安定要因を抱えるアジア太平洋地域の平和と繁栄を支える公共財として、関係国に高く評価されている。

 首相の言う「希望の同盟」を実践するには、日米両国が政治、経済両面で、従来以上に緊密に戦略的な対話を重ねる必要がある。韓国、豪州、インドなど友好国とも重層的な協力関係を構築し、課題を処理することも大切だ。

 戦没者の慰霊に先立ち、首相とオバマ氏は最後の首脳会談を行い、日米同盟を一層強化する方針を確認した。中国の空母が西太平洋に進出したことについて、「中長期的観点からも注視すべき動向だ」との認識でも一致した。

 首相とオバマ氏の4年間の関係は当初、順調ではなく、首相の靖国神社参拝や日露外交を巡って、ぎくしゃくすることもあった。

 首相が米軍普天間飛行場の辺野古移設や安全保障関連法の制定などで実績を上げ、両首脳の信頼関係は着実に高まった。

 アジアを重視するオバマ政権のリバランス(再均衡)政策と、日本の国際的な役割を拡大する安倍政権の「積極的平和主義」の歯車がかみ合ったことも追い風となった。

 アジアでは最近、多くの安全保障上の懸案が深刻化している。

 中国は、急速に軍備を増強し、南シナ海の人工島の軍事拠点化など、力による独善的な現状変更を試みている。北朝鮮は、国際社会の制裁や警告を無視して、計5回もの核実験を強行し、多様な弾道ミサイルの発射を繰り返した。

 昨年4月に改定した日米防衛協力の指針(ガイドライン)に基づき、自衛隊と米軍による共同の警戒監視活動や合同演習を重ねて、同盟の抑止力の実効性を向上させる努力が求められる。

 ◆トランプ氏と対話急げ

 来月20日に就任するトランプ次期米大統領のアジア外交の行方が不透明なことも気がかりだ。

 トランプ氏は再三、在日米軍経費の日本側負担の増額に言及した。環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱表明は、アジアの自由貿易体制を揺るがしている。

 安倍首相は、11月中旬の電撃的な非公式会談に続き、来月下旬に正式な会談を調整している。

 日米両国には、政治家、官僚、制服組、経済人など各層に、長年かけて築き上げてきたパイプが存在する。これらを土台に、首脳同士が、同盟の意義と新たな方向性について率直に意見交換し、認識を共有することが急務である。

2016年12月28日水曜日

企業は長期の視点でROE向上目指せ

 企業が資本をどれほど効率的に使っているかを示す「自己資本利益率(ROE)」という財務指標が、日本で定着してきた。中期経営計画の中で「ROE10%以上」といった目標を掲げる上場企業も、増えつつある。

 リスクマネーの提供者である株主に対し、企業が資本の効率利用を打ち出すのは当然のことだ。この動きを加速させ、確かなものとしていく必要がある。

 ROEは、アベノミクス(安倍首相の経済政策)の一つである株主重視の企業統治(コーポレートガバナンス)が徹底されているかどうかを示す指標でもある。現在、日本企業のROEはおよそ8%と米企業の半分程度だ。満足すべき水準ではない。

 ただ、手っ取り早く目先の数値を改善しようとすると、企業活動の萎縮を招く恐れもある。低採算の事業から撤退する一方で有望事業に経営資源を投じるなど、構造改革を進めることによって長期的にROEを高めていくのが、本来の姿である。

 まず欠かせないのは経営者と株主との対話だ。株主がどの程度の資本効率を求めているかを知る必要があるからだ。企業に求められる最低限の資本効率を資本コストといい、ROEはこの水準を上回らなければならない。

 日本企業の平均資本コストは約8%とされるが、企業間の差は大きい。情報開示の良しあしなどによっても変わる。自社の資本コストをきちんと把握しないままROE目標をかかげても、株式市場の評価は高まらない。

 長い目でみてROEを高めるには、成果が出るまで時間がかかる研究開発や設備投資も積極的にすすめなくてはならない。短期的な利益を求めて投資や雇用、賃金を犠牲にすれば、収益力はいずれ衰えてしまう。

 企業が株主に伝えるべき経営情報は多面的になってきた。業績や財務に関する情報だけでなく環境対策や働き方改革、性的少数者への配慮なども問われる時代だ。経営者がROEに象徴される財務指標だけを重視すると、情報開示の間口が狭くなり株主の信頼も失いかねない。

 ROEの考え方が広がったことをきっかけに、総じて日本企業は株主との意思疎通に積極的になった。多様な株主の求めに耳をよく傾けながら、資本を有効に使う経営を徹底すべきだ。

鳥インフルに最大限の警戒を

 致死率の高い高病原性鳥インフルエンザが前例のない勢いで広がっている。野鳥に加え、飼育された鶏などの感染も増えてきた。季節的に流行のピークはこれからで、最大限の警戒が必要だ。

 鳥インフルのウイルスは渡り鳥が大陸から運んでくる。人間への感染はまれだが、家禽(かきん)に広がりやすく、その際の経済的な損失は大きい。今シーズン、韓国では既に2500万羽を超える鶏やアヒルを殺処分した。

 日本では野鳥の感染件数が過去最高を超えた。鳥の種類によっては症状があらわれにくく、確認されているよりも広範囲に感染が拡大しているおそれもある。それを前提に対策を講じたい。

 鶏舎を清潔に保つ。近くで感染報告がなくても、野鳥やネズミなどの小動物が入らないよう、ネットを張ったり隙間をふさいだりする。感染した場合にそなえ、殺処分や消毒の手順を確認し、防護服やマスクをそろえておく。

 家禽の死亡数が普段より増えていないか、など、感染を疑わせるわずかな変化も見逃さないよう関係省庁、自治体、農家が協力して監視を強めなくてはならない。

 流行は今年だけで済まない可能性が高い。20年ほど前に中国の家禽で最初に見つかって以来、ウイルスは少しずつ性質を変えながら感染範囲を広げてきた。

 近年では2010~11年に韓国や日本で、14~15年に北米などで流行した。今シーズンは欧州でも感染報告が相次いでいる。流行が起きやすい状態が数年間は続く、との見方も出ている。

 韓国や中国では日本ほど厳密に感染の監視や素早い殺処分が実施されていない、との指摘がある。中国ではワクチンを多用しているが、症状を抑えるだけで感染は防げないため、かえってウイルスを広げている心配もある。

 日本政府は国際協力を一段と緊密にし、早めの対策に役立てなくてはならない。ウイルスの遺伝子解析などを進め、感染を防げるワクチンを開発するのも課題だ。

政府と沖縄県 この不条理いつまで

 約10カ月間止まっていた米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事が、再開された。

 今月20日の最高裁判決で沖縄県側の敗訴が確定してから1週間。前知事による埋め立て承認が復活したのを受けて、政府がさっそく工事を始めた。

 県の理解を得ぬままに工事再開を強行した政府。与えられた知事権限を行使して抵抗する構えの翁長知事――。

 政府と県の対立は、3月に両者の裁判上の和解が成立する前の状態に「逆戻り」してしまった。極めて残念である。

 この1年、沖縄では米軍基地による過重な負担を痛感するできごとが相次いだ。

 5月には20歳の女性が殺害された事件で、元米海兵隊員で軍属の男が逮捕された。政府は7月、全国から集めた機動隊員を投入し、米軍北部訓練場のヘリパッド工事に着手。抗議する人々に機動隊員が「土人」「シナ人」と暴言を吐いた。

 12月には懸念されてきたオスプレイの事故が起きた。県民の反対にもかかわらず、米軍はわずか6日後に飛行を再開し、政府もこれを容認した。

 いずれも米軍基地がない地域では起こりえない、重大な基地被害である。日米安保の抑止力のために、平時の沖縄県民の安全・安心が脅かされる。全国の米軍専用施設の面積の7割が沖縄に集中することの不条理を、改めて思い知らされる。

 その不条理は、普天間から辺野古への基地の県内たらい回しでは決して解決しない。地元の理解を欠いたままでは米軍基地の安定的な運用も望めない。

 その現実を、政府は真正面から受け止める必要がある。

 想起すべきは、3月の和解の際、福岡高裁那覇支部が政府と県に示した次の見解だ。

 「本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである」

 国と地方の争いの解決に当たる第三者委員会も6月、普天間返還という共通の目標の実現に向けた真摯(しんし)な協議を政府と県に促した。

 確かに普天間返還こそが両者の共通目標のはずだ。その原点に、立ち返るべきだ。

 だが繰り返し対話を求める県に対し、政府は後ろ向きとしかいえない姿勢に終始してきた。

 事態打開には、政府がまず工事を止め、県民との信頼を回復する糸口をつくる必要がある。

 自民、公明の与党も手をこまぬくばかりでいいのか。「辺野古が唯一の解決策」と言うだけでは展望は開けない。

天皇退位問題 「一代限り」のおかしさ

 天皇陛下の退位をめぐり政府が設けた有識者会議は、今の陛下に限って退位を可能とする法律の制定を提言する方向で、議論をまとめつつあるという。

 将来にも適用される恒久的な制度にするには、退位を認める要件を定める必要があるが、それは「なかなか難しい」(御厨貴〈みくりやたかし〉座長代理)との説明だ。

 だが「一代限り」というのは国民の大方の意見に反する。有識者会議自身が行った専門家ヒアリングの内容を踏まえたものともいえず、賛成できない。

 会議に先立ち朝日新聞の社説は、皇室典範を改正して制度化するのが筋だが、特別立法も一概に否定できないと書いた。

 典範を不磨の大典ととらえ、手をつけることに強く反対する人々がいる。論議が暗礁に乗りあげ、結果として退位の道がふさがれてしまっては、高齢社会における象徴天皇のあり方という、提起された重要な問題がうやむやになりかねない。

 ならばまずは特別法で手当てをし、引き続き典範改正にとり組む。そんな手法もあり得る。ヒアリングでも複数の専門家が同様の2段階論に言及した。

 一方、有識者会議がとろうとしているのは、将来のことは将来考えるべきだとして、当座の対応にとどめる立場だ。根本において考え方が異なる。

 要件化は本当に困難なのか。

 ヒアリングで退位を認めるべきだとした論者たちは、ほぼ一致して「高齢」「天皇の意思」「三権の長などで構成する皇室会議による承認」の三つを要件とする見解を示した。

 もっともな指摘である。これをもとに議論を深めれば、退位を制度として導入しつつ、懸念される外部からの強制や天皇の恣意(しい)による代替わりを防ぐことは十分可能ではないか。

 にもかかわらず、ヒアリングの後に2度、他の論点もふくめて合計わずか3時間半の話し合いで「難しい」と結論づけるのは、最初からその気がないためだと疑わざるを得ない。

 要件を定めないまま退位の前例だけ残し、後はその時々の対応にゆだねれば、強制や恣意が入り込む余地はむしろ広がる。そう考えるのが自然なのに、有識者会議の議事概要を見てもそうした観点からの検討はない。退位制度は設けないという立場から、説得力に欠ける発言をくり返している感が強い。

 一代限りの特別法は、当初から政権内で取りざたされている案だ。典範改正を避けたい官邸の意向に沿い、結論ありきでことを進めるのであれば、「有識者」の名に値しない。

同一賃金指針 非正規の処遇改善を着実に

 非正規労働者の処遇改善に、確実につなげることが重要である。

 政府の働き方改革実現会議が、雇用形態で賃金差をつけない「同一労働同一賃金」の指針案を公表した。給与や福利厚生の待遇差の適否を具体例で示している。

 指針案に法的拘束力はないものの、待遇差の是非が争われた場合に、司法判断の目安になるとみられる。政府は、労働契約法など関連法改正案を来年の通常国会にも提出する。実効性ある内容にしなければならない。

 指針案は、基本給について、能力や成果、勤続年数の3要素に分け、それぞれにおいて、違いがなければ同一に支払うことを原則とした。差異が生じる場合は、その程度に応じた差を認める。

 例えば、配置転換や転勤の有無、責任の重さなどによって賃金差をつけることは許容される。

 同一労働同一賃金が根付く欧州では、職務を限った採用と、その難易度に応じて設定された「職務給」が原則だ。これに対し、日本の正社員の賃金は、長期雇用を前提に、能力や経験を評価した「職能給」が中心となっている。

 こうした違いを踏まえて、経済界が求めてきた日本型雇用慣行の尊重に配慮したのは妥当だ。

 注目されるのは、原則として非正規労働者にも賞与の支給を求めた点だ。通勤手当や福利厚生の一部も同一処遇とした。

 企業の8割超が正社員に賞与を支給しているが、パートへは4割弱にとどまる。金額も4万円前後と低額だ。正社員と同様の基準で支給されれば、非正規労働者の大幅な処遇改善となろう。

 指針案は、許容される格差の水準を明示せず、企業に待遇差の説明義務も課していない。企業に求められるのは、自主的かつ積極的な取り組みである。

 労使で協議を重ねて、正社員と非正規労働者の双方が納得できる透明性の高い賃金決定ルールを構築することが大切だ。

 外食産業や小売業など、パートを多く抱える業種や、経営基盤の弱い中小企業からは、人件費負担が増えるとの懸念が強い。

 非正規労働者の処遇改善を生産性向上につなげ、収益増を図る発想の転換が必要だ。教育訓練を充実させ、昇進・昇給に反映させる仕組み作りも進めたい。

 人事制度や給与体系の見直しは、容易でないことも事実だ。政府は、処遇改善に前向きに取り組む中小企業などへの支援策を着実に実施すべきである。

2016回顧・世界 ポピュリズムの激震が走った

 既存のエリート支配を拒む米欧の投票結果に、世界が揺さぶられた。

 読売新聞読者が選んだ今年の「海外10大ニュース」の1位は、公職経験のないドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利だった。

 移民やイスラム教徒に対する排他的な主張が、鬱屈(うっくつ)する白人労働者らに受け入れられた。「米国第一」主義を唱えるトランプ氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱する意向を示した。保護主義の高まりが懸念されよう。

 2位もグローバリズムに逆行する動きだ。英国の国民投票で、欧州連合(EU)からの離脱支持が過半数を占めた。生活苦や移民の増加に不満を持つ人々が、ポピュリズム(大衆迎合主義)に引きつけられたのだろう。

 「英国が毎週、EUに480億円を拠出している」などの偽りの主張が罷(まか)り通ったのも問題だ。

 中米パナマの法律事務所から内部資料「パナマ文書」が流出し、国家首脳や富裕層によるタックスヘイブン(租税回避地)の利用が暴露された(5位)。既存支配層への反感が各国で膨らんだ。

 来年、試金石となるのは仏大統領選と独総選挙である。排外主義を掲げる政党の伸長や扇動政治家の台頭を警戒せねばなるまい。

 フィリピンでは、地方市長出身のドゥテルテ大統領が就任(11位)し、「犯罪者は殺す」などの過激発言で人気を集める。トランプ現象に通じるのではないか。

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は南シナ海の領有権問題に関し、フィリピンの訴えを認め、中国の主権主張に法的根拠はないとする判決を出した(15位)。ロシアの国家主導のドーピング不正が国際機関に認定された(8位)。

 中露の無法な振る舞いには、国際社会が厳しく対処したい。

 深刻なのは、不安定さを増す朝鮮半島情勢である。

 北朝鮮は今年だけで核実験を2回強行し、弾道ミサイル発射などの挑発を繰り返した(7位)。韓国は、朴槿恵大統領が友人女性の国政介入疑惑で弾劾訴追され、職務停止に追い込まれた(3位)。混乱の早期収拾が求められる。

 テロの惨劇も続く。仏南部ニースで革命記念日を祝う群衆に大型トラックが突入し、85人が死亡した(12位)。ベルギーのブリュッセルでは、空港と地下鉄駅を襲う同時テロ(19位)が起きた。

 いずれも、過激派組織「イスラム国」の関与や影響が指摘されている。過激派が拠点を置く中東の安定と警備強化が急務である。

2016年12月27日火曜日

欧州は結束固め危機の連鎖を防げ

 欧州が再びテロの惨劇に見舞われた。ドイツの首都ベルリンのクリスマス市にトラックが突入し、10人を超える死者を出した。

 昨年のパリに続き、今年もブリュッセル、ニースなどでテロが相次いだ。市民を無差別に襲う卑劣な行為は断じて許されない。

 チュニジア出身の容疑者はイタリアのミラノで警察官に発砲し、応戦した警察官に射殺された。欧州各国の警察当局による連携の産物ならば、一定の前進だ。

統合による安定訴えよ

 一方で疑問も多い。たとえば、容疑者は独当局の監視下に置かれていたが、なぜその網をかいくぐってテロを実行できたのか。

 なぜ犯行後にフランス、イタリアへと簡単に逃走できたか。過激派組織「イスラム国」(IS)の関与はどこまであったか。真相を徹底究明し、欧州連合(EU)と加盟各国による今後のテロ対策に生かさねばならない。

 欧州では、2010年からのギリシャ危機がなおくすぶる。15年から難民の大量流入、テロの脅威が加わり、EUは「複合危機に直面している」とフェルホフスタット元ベルギー首相はいう。

 次のリスクは「政治危機」だろう。懸念されるのは、テロを受けて欧州各国の極右勢力が勢いづき、難民・移民の排斥を唱える世論が強まりかねないことだ。

 ドイツには15年だけで100万人を超える難民が殺到し、メルケル独首相はできるだけ受け入れる寛容な政策をとった。独民族主義政党はこれを厳しく批判する。

 17年の欧州は国政選挙が目白押しだ。3月にオランダ下院選挙、4~5月にフランス大統領選挙、秋にドイツ連邦議会選挙がある。

 現時点で極右や大衆迎合主義の政党の躍進が予想されている。反EUや反難民・移民を唱えるこうした政治勢力は、グローバル化、市場経済、開かれた社会、さらなる欧州統合を拒もうとしている。

 しかし、欧州の主要国が二度と戦火を交えないため重ねてきた欧州統合を後退させては、欧州や世界の安定を損なう。経済や雇用にも悪影響を与えるのは確実だ。そうした点を各国の主要政党は粘り強く訴える必要がある。

 同時に、極右政党台頭の背景にある欧州市民の不安や不満にもしっかりと目を向けてほしい。

 テロ対策の強化は最優先課題だ。また中東や北アフリカから受け入れた難民が地域社会に溶け込めるように、言語教育などの地道な対策を講じることも、長い目でみたテロ・治安対策になる。

 経済面では、まずEU全体の成長力を底上げし、雇用拡大につなげる必要がある。17年3月、EUの前身である欧州経済共同体の創設をうたったローマ条約の調印から60年を迎える。

 これを機に、EU域内でヒト、モノ、カネ、サービスが自由に行き来できる単一市場の潜在力を発揮するため、エネルギーやデジタルなどの分野で市民に成果が見える具体策を打ち出してほしい。

 技術革新の波に追いつけずにいる人材にはきめ細かな職業訓練や再就職支援を講じる。安全網も再構築する。こうした対策を積み重ねて「包括的で持続可能な成長」の青写真を示すときだ。

 ユーロ圏の銀行や金融の再生も道半ばだ。イタリア政府は、多額の不良債権を抱えるイタリア銀行3位モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテパスキ)への公的支援を決めた。

銀行の負の遺産一掃を

 大事なのは、モンテパスキを含むイタリアの銀行が再編、店舗統廃合、事業モデルの刷新を通じ、負の遺産を一掃することだ。

 金融システム不安を招かないように、公的支援の是非を審査する欧州委員会は柔軟に対応してほしい。その先の道筋として、ユーロ圏各国は銀行システムを一元的に運営する「銀行同盟」を完遂する作業を急ぐ必要がある。

 英国のEU離脱では、英政府が17年3月末までにEU側に正式に方針を通告する。その後、EUが指針をまとめてから交渉入りするが、実質的な期限は18年10月までの約1年半とされる。

 EUと英国の双方が簡単に合意できる安易な解決策はない。短期間ではあるが危機意識を持って真剣に交渉に臨み、着実に協議を前進させてほしい。

 「常に行動が小出し・後出しなのが失敗の原因だ。17年をEU崩壊の始まりにしてはならない」とフェルホフスタット氏はいう。

 欧州が大きな正念場を迎える来年、EUや各国の指導者は結束を固めて行動し、危機の連鎖を防がねばならない。

南スーダン 流血回避の努力こそ

 日本政府の判断に、強い疑問を禁じえない。

 南スーダンに武器禁輸などの制裁を科す、国連安全保障理事会の決議案が廃案になった。

 決議案を主導した米国は、根深い民族対立が大量虐殺に発展することへの危機感から、武器流入の阻止を模索してきた。

 これに対し、日本やロシア、中国など8カ国が棄権したことで廃案となった。

 日本政府はなぜ、米国とたもとを分かってまで棄権に回ったのか。

 背景には、現地の国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊の存在がある。

 南スーダンは政府軍と反政府勢力が対立し、事実上の内戦状態にある。

 そんななかで政府は先月、派遣部隊に「駆けつけ警護」の新任務を付与した。派遣部隊に協力してくれる現地政府に制裁を科せば、反発を買い、危険度がいっそう高まりかねないとの判断がある。

 また、決議案に賛成すれば、日本政府が現地の危機的な状況を認めることになる。紛争当事者間の停戦合意など「PKO参加5原則」に改めて疑問が突きつけられ、自衛隊派遣の根拠が揺らぎかねない。

 一方で、制裁の実効性には疑問の声もあった。

 南スーダンの政府軍は石油収入で武器を輸入し、それが反政府勢力にも流れるなど、すでに全土に蔓延(まんえん)している。内陸国の同国は、周辺国からの流入を止めるのは難しい。そんな状況下で武器禁輸の制裁を科すことに、どれほどの効果があるのか。いまは南スーダン政府の和平への取り組みを優先すべきではないか。そんな疑問だ。

 だとしても、少しずつでも現地への武器流入を減らし、武装解除を進めることが、長い目で見て南スーダンの「国づくり」を進め、国民に平和と安定をもたらすことにつながる。

 そのために、今回の決議案はひとつの契機となりえた。それを後押しし、実効性を高めるよう努力することが、日本の役割だったのではないか。

 日本政府は今回の棄権によって、陸自部隊の活動継続と安全確保を優先し、武器禁輸に後ろ向きであるかのようなメッセージを国内外に発信してしまった。極めて残念だ。

 そんな意図はないと言うのなら、日本政府は武器禁輸に向けて動くべきだろう。

 内戦状態が大規模な流血の惨事に発展するのを避ける外交努力こそ、日本を含む国際社会の責任である。

災害この1年 タイムラインで備えを

 今年も自然災害が多発し、各地で犠牲者が相次いだ。災害は決してひとごとではない。身近な備えを再確認し、命を大切にする姿勢につなげたい。

 4月には熊本で震度7の地震が2度起き、家屋倒壊などによる直接死が50人におよんだ。10月には鳥取で震度6弱の地震が発生、約200棟の住宅が全半壊し、11月には福島県沖を震源とする地震で東日本大震災以降で最大の津波を観測した。

 震度5弱以上の地震は全国で30回超。昨年の約3倍で、12年以後で最も多かった。

 将来起こるとされる南海トラフ巨大地震や首都直下地震も念頭に、住宅の点検や避難路の確認などの準備が必要だ。

 雨の被害も続いた。6、7月には梅雨前線などに伴う豪雨が九州を襲い、8月には台風10号の雨で河川が氾濫(はんらん)、岩手の高齢者施設で9人が死亡した。

 長期的には雨の総量に大差はないが、降り方は局地的で、短時間に集中する傾向にある。極端化する気象に対し、防災体制を不断に見直す必要がある。

 今年の災害で課題となったのが自治体の対応だ。避難勧告を出す時期や、援護を必要とする者への情報伝達のあり方など、考えておくべきことは多い。

 全国で災害は頻発しても、その地域にとってはまれで、防災担当者が混乱する例も多い。落ち着いて即応するには、やることを時系列で決めておきたい。その方法の一つが、行動計画表「タイムライン」の策定だ。

 「いつ」「誰が」「何を」するか、関係機関の役割を整理し明示しておく。自治体の地域防災計画の実践編ともいえる。台風上陸を想定し、「48時間前に避難所の開設準備」「36時間前に自主避難呼びかけ」といった具合だ。米国でハリケーン接近の際に効果を出した。

 国土交通省は全国の市町村に策定を呼びかけ、8月に指針を示した。海岸に面し、高潮被害などを警戒する大阪府貝塚市では、市の検討会に住民も加わっている。市や府、気象台の担当者とともに、住民自ら避難のタイミングなどを考えれば、より実践的なものになろう。

 先を見越して動けば、不測の事態にも対応しやすくなる。未策定の自治体は、近隣自治体とまず相談してはどうだろう。

 1400人以上の死者・行方不明者を出した昭和南海地震から、今月21日で70年がたった。津波の被害にあった徳島や和歌山では、被災体験者らの話を聴く会が今も毎年のように開かれる。教訓を具体的な備えに結びつけ、減災を実現させたい。

遼寧太平洋進出 中国空母の展開に警戒怠れぬ

 中国海軍の近海防御型から遠海護衛型への脱皮を象徴する動きだろう。日本は米国と緊密に連携して、警戒を強めることが肝要である。

 防衛省は、中国初の空母「遼寧」が沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過し、太平洋に向かったと発表した。駆逐艦3隻とフリゲート艦2隻を合わせた計6隻で航行しているという。

 遼寧が太平洋に進出したことが確認されたのは初めてである。中国国防省は先に、活動の目的が遠洋訓練だと公表していた。

 九州南方から沖縄、台湾などを結ぶ中国独自の防衛ライン「第1列島線」を越えて、伊豆諸島からグアムに至る「第2列島線」まで制空・制海権を確保するための布石と考えているのだろう。

 遼寧はウクライナから購入した空母を改修したもので、2012年の就役以来、艦載機の訓練などを重ねてきた。今月中旬には、遼寧を中心とする艦艇が中国近海で初の実弾演習を行っていた。

 習近平政権が空母の運用を急ぐのは、米軍の有事介入を阻む「接近阻止・領域拒否(A2AD)」戦略を推進するためである。

 来年には、初の国産空母が進水するとみられる。2隻目が建造中との情報もある。将来的には、米国型の「空母戦闘群」を複数編成する方針だとされる。

 今後、東シナ海から西太平洋にかけて、中国軍の活動が一段と活発化することは避けられまい。

 菅官房長官が中国空母の太平洋進出について、「中国の海上戦力の能力拡大を示すもので、警戒監視活動に万全を期したい」と強調したのは当然である。

 今回、宮古海峡を通過した中国のフリゲート艦から哨戒ヘリコプターが発艦したため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した。領空侵犯や領海侵入はなかったが、不測の事態への備えは怠れない。

 今年度上半期だけで約600回に達する空自の緊急発進の大半が中国機に対するものだ。防衛省は今年3月には、与那国島に陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置し、地上レーダーによる他国軍の艦艇、航空機の情報収集を開始した。

 17年度の政府予算案には、宮古島と鹿児島・沖永良部島にある空自の固定式警戒管制レーダーの機能強化費や、新型潜水艦の建造費などが新規に計上されている。

 最新鋭ステルス戦闘機のF35の取得に加え、無人偵察機グローバルホークやP1哨戒機の配備といった施策も、着実に進めていくことが欠かせない。

2016回顧・日本 歴史のページに刻まれる1年

 後世の歴史の教科書に掲載されるような出来事が目立った。読売新聞の読者が選ぶ「日本10大ニュース」の今年の特徴と言えるだろう。

 「天皇陛下、退位のご意向を示唆」(4位)は、社会全体の高齢化が進む中での象徴天皇の在り方について、国民が考えるきっかけとなった。

 陛下は異例のビデオメッセージで、高齢による体力の低下から、「象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と述べられた。

 陛下の責任感の強さに感じ入った人も多いだろう。一方で、退位に否定的な声も少なくない。国会での審議は来年、本格化する。将来にわたる皇室の姿を見据えた冷静な議論が必要だ。

 「オバマ米大統領が広島訪問」(5位)も、戦後史の重要な節目だった。唯一の原爆使用国の現職大統領が初めて被爆地で犠牲者を追悼した。「核兵器のない世界」を追求する重要性も訴えた。

 オバマ氏が被爆者と抱擁を交わす姿は、かつて戦火を交えた日米両国の和解と同盟深化の象徴だった。安倍首相もハワイで真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊する。トランプ氏の大統領就任後も、成熟した同盟関係を維持せねばならない。

 読者投票の1位は「熊本地震、死者50人」だ。観測史上初めて、一連の地震活動で2度の震度7を記録した。想定外の事態に対処し得る防災対策を心がけたい。

 リオデジャネイロ五輪で、日本は史上最多のメダル41個を獲得した(3位)。「銀」に輝いた陸上男子400メートルリレーのバトンパスなどが、世界を驚嘆させた。

 4年後はいよいよ東京五輪だ。開催都市・東京都では、2代続けて知事が「政治とカネ」の問題で辞職に追い込まれた。

 「都民ファースト」を掲げて新知事となった小池百合子氏は、大会経費の膨張に待ったをかけ、築地市場の移転延期も表明した(2位)。課題はなお山積する。真価を問われるのは、これからだ。

 「オートファジー(細胞の自食作用)」の仕組みを解明した大隅良典・東京工業大栄誉教授にノーベル生理学・医学賞が授与された(6位)。自然科学分野で3年連続して日本人が受賞した。今後も基礎研究への支援は不可欠だ。

 神奈川県相模原市の知的障害者施設で起きた入所者殺傷事件(8位)では、19人もの命が奪われた。犯罪史に残る凶悪事件だ。犯人の男が抱いたような障害者への差別意識を、社会から一掃したい。

2016年12月26日月曜日

成長底上げへ長期志向の改革を怠るな

 2016年は世界の経済政策の潮流が転機を迎えた1年だった。

 第一に中央銀行の大胆な金融緩和に対する限界論が台頭した。08年の金融危機後、日米欧の中銀は前例のない金融緩和で経済と物価の低迷を打開しようと腐心した。金利はゼロの下限を超えてマイナス圏に突入し、その副作用が金融や経済の活動に影響を及ぼした。

 日本銀行が1月に導入を決めたマイナス金利政策が典型例だ。2%の物価上昇に向けた強力な政策は、収益が悪化する金融機関や手取りが減る年金生活者の反発を買った。マイナス金利で先行する欧州中央銀行(ECB)にもドイツなど域内国の批判が集中した。

 日欧が巨額の国債を買う量的緩和を進め、品薄となった国債の利回りが低下(価格が上昇)した。一部の国では市場に出回る国債の過半がマイナス金利をつけた。トランプ次期米大統領の就任期待によるドル高や株高で状況は一服したが、金融緩和に一方的に依存する構図は曲がり角を迎えた。

 第二の変化として、先進国に共通する低成長や低インフレを打開するため、財政政策や構造改革をさらに活用する意識が定着した。経済協力開発機構(OECD)は今秋の経済見通しで「低成長のワナから逃れるために財政のテコを使おう」と提言した。

 米欧で拡散する反グローバリズムの影響も大きい。国際競争や情報技術(IT)の進歩で人々の間の所得格差が広がり、既存の政治に対する不満が募る。各国政府が弱者の生活の安定や能力向上を支援する必要度は高まった。

 日本を筆頭に先進各国が直面する高齢化は、潜在成長率の低下や社会保障財政の圧迫につながりかねない。構造改革も避けて通れない道だ。

 その際は、各国が経済と財政の事情をよく考慮して政策の組み合わせを探る視点が重要になる。

 国内総生産(GDP)の2倍を超す政府長期債務を抱えた日本に多額の財政出動の余地は乏しい。子育て支援や人工知能(AI)分野など技術革新への投資は欠かせないが、既存の支出の再配分で財源を見いだすのが基本である。

 日本に必要なのは中長期の視野で成長を底上げし、経済や社会を安定させる改革の断行だ。労働生産性を高める働き方改革や外国人材の活用、将来不安を和らげる社会保障の骨太な改革など、山積する宿題をさぼってはいけない。

再生医療の産業化を進めよう

 日本で再生医療産業が成長する契機になるのではないか。富士フイルムホールディングスが武田薬品工業傘下の試薬大手、和光純薬工業の買収を発表した。来年4月の完全子会社化を予定している。

 富士フイルムは国内外の複数の再生医療関連企業に対し、相次ぎ買収や出資をしている。リスクを恐れず再生医療にかける姿勢は他社にとっても刺激になるだろう。

 政府は山中伸弥・京都大学教授が世界で初めて作製したiPS細胞を軸に、再生医療の実用化に力を入れている。大学研究の強化、新薬の承認手続きの迅速化などが進む。

 しかし、大手製薬企業などは安全性の確保など手間とコストがかかる再生医療への本格参入に慎重だった。国の研究費も人材も京大に集中している。政府の期待ほどには産業化は進まないのではないか、との見方も出ていた。

 再生医療に使う多数の細胞を効率よく作るには、大量の試薬や培地が必要だ。これらを得意とする和光純薬の製品や技術は、高品質な治療用細胞の供給に役立つ。

 富士フイルムは昨年、iPS細胞などの優れた作製技術をもつ米セルラー・ダイナミクス・インターナショナルを買収。今年に入って、英国で再生医療の臨床試験を準備中のオーストラリアのベンチャー企業への出資も決めた。

 さらに、中国でヘルスケア事業を展開し傘下に病院も持つ華潤集団との提携で合意した。将来、再生医療薬の臨床試験を中国で展開するのに役立つとみられる。

 川上の材料となる細胞づくりから治療薬開発、川下の臨床試験関連までを、国境を越えて広く手掛ける再生医療の総合企業は世界でも類をみない。新しいビジネスモデルとして注目したい。

 iPS細胞の仕組みは未知の部分も多く、一層の安全性研究が不可欠なのは言うまでもない。企業と大学や研究機関が連携してこうした課題を解決し、少しでも早く再生医療の薬を製品化して新市場を開拓してほしい。

原発事故負担 国会で幅広く検討を

 福島第一原発の事故費用のうち、東京電力が自前でまかなえない分は、手っ取り早く電気料金で集める――。経済産業省が主導し、有識者会議を舞台にしたこの3カ月足らずの議論は、そんな「結論ありき」だった。

 21・5兆円にのぼる事故費用について、政府が新たな負担方針を決めた。筋違いな新電力へのつけ回しを含み、与野党や閣僚、消費者団体から異論が相次いだが、経産省は押し切った。

 膨らむ賠償や廃炉などの費用を、誰にどう負担してもらうべきか。この難題を考える際の大原則は、関係者の責任をうやむやにしないことと、国民負担をできるだけ抑えることだ。

 だが、有識者会議でこれらは脇に追いやられた。年明け以降、関連する法案や予算案が国会で審議される。経産省がまとめた負担案にとらわれず、最善の策を徹底的に探ってほしい。

 この案の最大の問題は、原発を持たない新電力とその契約者にも、原発のコストを押しつける点だ。具体的には賠償・廃炉費の一部を、新電力が大手の送電線を使う時に払う託送料金に付け替える。あからさまな原発優遇で、電力自由化の土台となる公正な競争を軽んじている。

 経産省が持ち出した理屈も常識外れだ。「賠償費は本来、福島の事故の前から確保しておくべきだった。この『過去分』は今後すべての電気利用者が負担するのが公平だ」という。

 原発の「安全神話」によりかかり、備えを怠ってきたのは、ほかならぬ経産省と大手各社である。自民党内からも「利益は自分の懐に入れ、損失は他人の懐を当てにするのは、理屈が成り立たない」との批判が出た。

 原発のコストは、原発を持つ電力大手が自前でまかなうのが筋である。松本純消費者相が「託送料金は送配電に必要な費用に限定すべきだ」とクギをさしたのも当然だ。

 負担方法をめぐっては、有識者会議で「税金や賦課金の方がよい」との声も出た。託送料金の仕組みは経産省による手続きで変更でき、国会や国民のチェックが働きにくいためだ。原発に否定的な超党派の国会議員グループは「国民に負担を求める前に、資本主義のルールに沿って東電を破綻(はたん)処理し、株主や取引金融機関にも責任を取らせるべきだ」と主張している。

 与野党ともに、消費者の視点を大切にして、選択肢を広げて利点や課題の検討を尽くす責任がある。今の案のまま不透明な国民負担が確定するようなら、エネルギー政策への不信をいっそう強めるだけだろう。

酒税見直し 簡素・公平をいうなら

 晩酌のお酒を替える人が出てくるかもしれない。お酒にかかる税が、10年がかりで大きく変わる見通しになった。

 ビールが減税になる一方、発泡酒と第3のビールは増税になる。醸造酒では日本酒が減税でワインは増税。酎ハイなどもワインとともに増税になる。

 政府が決めた酒税法改正案が国会で可決されれば確定する。それぞれの店頭価格も、税の増減に応じて変わる見込みだ。

 お酒は原料や製造方法で分類され、税額が決められている。区分はビール類と醸造酒、蒸留酒、その他の四つだが、さらに十数品目に分かれ、税額もバラバラだ。

 欧米でもお酒に3~4区分ある国が大半だが、日本のような細かな分類は異例だ。今回の見直しには、区分ごとに税額をそろえていく狙いがある。

 税金は強制的に徴収される。だから、特定の人への有利・不利がない「公平」、個人や企業の選択や活動をゆがめない「中立」、分かりやすく納税の手間もかからない「簡素」の三つの原則が大切だとされる。それに照らせば、酒税見直しの方向性は理にかなっている。

 とりわけビール類については、主原料の麦芽の比率が低い発泡酒や、麦芽以外のものを使うなどした第3のビールが生まれ、税額の統一が課題だった。

 メーカーは、税が軽い発泡酒や第3のビールで、ビールに似せた商品をつくる競争にしのぎを削ってきたが、海外ではほとんど出回っておらず、国際競争力の向上につながらないことが問題視されてきた。海外市場も意識した商品開発を促すためにも、細分化された税額をそろえるのは当然の流れだろう。

 ただ、安さが人気の発泡酒や第3のビール、酎ハイなどが軒並み増税になるため、「大衆増税だ」との声も聞かれる。酒税全体では「増減税ゼロ」で、税額の変更は段階的に実施されるが、消費動向を注視していくことが必要だろう。

 酒税が課されるようになったのは、酒は高級品だからというのが主な理由だった。広く普及したいまも税が残るのは、たばこと同様、健康への悪影響や周囲への迷惑を考慮してのことだというのがもっぱらの説明だ。

 だとすれば、アルコール度数が高いお酒ほど税額を高くするのも一案だ。

 今回の見直しが完了しても、アルコール度数が低いビールの税が、醸造酒などほかのお酒より突出して重いままだ。区分間の税額格差をどうするかが、今後の検討課題になる。

防衛予算増額 機動的な対処能力を高めたい

 日本の安全保障環境の悪化を踏まえれば、自衛隊の機動的な警戒・監視・対処能力を着実に高めることが欠かせない。

 2017年度政府予算案は防衛費に5兆1251億円を計上した。初の5兆円台となった前年度より1・4%増えた。

 北朝鮮は今年、新型を含め、20発以上の弾道ミサイルを発射し、技術向上を誇示した。中国は、海空軍の急速な軍備増強を背景に、尖閣諸島周辺などの東シナ海で海洋進出を強めている。

 財政事情が厳しい中で、日本の領土を守り、地域の安定に寄与するため、安倍政権が5年連続で防衛費を年0・8~2・8%伸ばしてきたことは評価できる。

 中国の軍事費は10、16年を除き、20年間以上も2ケタ台の伸びを示している。既に日本の3倍以上で、今後、その差の拡大は避けられない。ロシアも15年まで、中国以上のペースで国防費を増やした。韓国の伸びも日本より大きい。

 近隣国と比べて、日本の防衛費は抑制されている。予算の数字で対抗するのではなく、日米同盟の抑止力の実効性という「質」を重視することが大切だろう。

 17年度予算案は、ミサイル防衛に重点を置いている。日米が共同開発した海上発射型迎撃ミサイルSM3ブロック2Aを取得する。在韓米軍に配備される最終段階高高度地域防衛(THAAD)システムの導入の検討も始める。

 北朝鮮の核・ミサイル開発を考慮すれば、ミサイル防衛の優先度は高い。中長期的観点から計画的に迎撃体制を拡充すべきだ。

 離島防衛の強化も喫緊の課題である。17年度は、陸上自衛隊に水陸両用車などを備えた水陸機動団を創設する。輸送機オスプレイ4機を購入し、長射程の地対艦ミサイルの開発にも乗り出す。

 過去最高の2106億円の予算を計上した海上保安庁との連携を強めることが重要である。

 武装集団による離島占拠など、様々なシナリオを想定し、海保や米軍との共同訓練を重ねることによって、迅速で効果的な対処ができるようにしておきたい。

 沖縄振興予算は3150億円で前年度より6%減少した。

 11年度までは2000億円台前半だったが、米軍普天間飛行場の辺野古移設へ地元の協力を得るため大幅に増やした経緯がある。

 翁長雄志知事が地域振興に積極的な姿勢を見せないうえ、使途の自由度が高い一括交付金の使い残しも目立つ。この状況が続くなら、さらなる減額もあり得よう。

ノロウイルス 手洗いが感染防止の基本だ

 ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が流行している。こまめな手洗いで、感染を防ぎたい。

 全国約3000か所の小児科からの患者報告数は、11日までの1週間で、1か所あたり19・45人だった。昨年同時期の2倍以上で、大流行した2012年に並ぶ勢いだ。

 都道府県別では、山形県が45・37人で、最も多い。宮城、埼玉、三重など13都県で、報告数が20人超の「警報レベル」に達した。

 保育園や幼稚園、小学校での集団感染が目立つ。茨城県では今月中旬までに、13の小学校や保育園で約700人の児童や職員らが嘔吐や下痢などの症状を訴えた。

 飲食店やホテルなどでの食中毒発生も相次ぐ。手で丸めた餅を食べることで、感染する恐れがあるとして、餅つき大会を中止する動きも広がっている。

 今の時期に流行する感染性胃腸炎の原因のうち、最も多いのがノロウイルスだ。感染すると、1~2日後に下痢や嘔吐、激しい腹痛などの症状が表れる。

 大人なら数日で回復するが、抵抗力が弱い乳幼児やお年寄りの場合、脱水症状を起こして重症化しやすい。吐いたものをのどに詰まらせて、死亡したケースもある。周囲の目配りが欠かせない。

 感染力は非常に強い。少量のウイルスでも、口から入って腸内で大量に増殖する。

 予防の基本は、石鹸での入念な手洗いだ。トイレの後や食事前には、特に徹底せねばならない。

 食べ物では、カキなど二枚貝に蓄積されやすい。生ものを出来るだけ避け、85度より高温で、90秒以上加熱することが大切だ。

 ウイルスは、患者の嘔吐物や排せつ物に大量に含まれる。

 家族が発症したら、使い捨てのマスク、手袋、エプロンを着け、塩素系漂白剤で慎重に処理する。ドアのノブなど、触れた可能性のあるところをしっかりと拭くのも、重要なポイントだ。

 厄介なのは、ウイルスの型が約30種類もあることだ。一度かかって免疫ができても、違う型に感染すると機能しない場合もある。

 同じ型であっても、遺伝子の一部は常に変化するため、免疫をすり抜けやすい。今季流行しているのは、数年前まで見られたタイプの変異型だという。

 発症しない感染者もいる。気付かないまま、家庭や職場などで感染を広げてしまう恐れがある。

 冬休みが始まり、子供が自宅で過ごす時間が多くなる。家庭での衛生教育を心がけたい。

2016年12月25日日曜日

無理がある大学の立地規制

 地方創生は必要とはいっても、そのためなら何でもやっていいわけではないだろう。政府が改訂した総合戦略についてだ。東京一極集中を是正するために新たな対策を加えている。

 政府は2014年末にまとめた総合戦略で、東京に埼玉、千葉、神奈川を加えた東京圏への転入超過数を20年にゼロにする目標を掲げた。

 しかし、15年の東京圏への転入超過数は約12万人になり、前年よりもむしろ1万人増えた。これまでの政策はまだ効果が表れていないといえる。

 東京圏への人口移動の大半は若年層だ。特に大学入学時と就職時に増える。そこで打ち出したのが地方大学などへの支援策だ。

 まず、地方大学に通い、地元の企業に就職する学生を対象とする奨学金の減免制度を普及させる。地方大学を核とする産学官の連携も後押しする。

 地方企業でのインターンシップ事業にも積極的に取り組む。東京圏で暮らす地方出身の学生に、魅力的な地方企業を知ってもらって就職につなげる。こうした政策は評価できる。

 気になるのは「東京における大学の新増設の抑制」を来年夏までの検討課題に盛り込んだ点だ。大学や学部の東京23区内での新増設を抑えるように求める全国知事会の要望を反映した。

 地方への学部設置を後押しするなら構わないが、東京での立地を規制するのは行き過ぎではないか。少子化で競争がさらに激しくなっている大学の経営の自由度を損ないかねないからだ。

 政府はかつて工業等制限法に基づき、東京23区などで一定面積以上の大学や工場の新増設を制限してきた。区部の過密解消にはある程度は効果があったものの、大学の移転先は東京の多摩地域や埼玉など東京の周辺が多かった。

 同じことをしても、東京はともかく、東京圏に転入する動きは変わらないだろう。大学の立地規制はやはり無理がある。

出生数100万人割れが示す危機に向き合え

 日本で1年間に生まれる赤ちゃんの数が、ついに100万人を割る。2016年は98万1千人にとどまるとの推計を、厚生労働省がまとめた。

 第1次ベビーブーム世代は260万人、第2次ベビーブーム世代は200万人を超えていた。その半分以下の数字だ。

 長年にわたる少子化で、母親となる年代の女性の数そのものが減っている。大台を割るのは時間の問題だった。ここにいたるまで実効性のある手を打てなかった政府の責任は重い。

 子育てにお金がかかる、仕事との両立が難しい、そもそも結婚できるだけの生活基盤が整わない……。少子化の原因は繰り返し指摘され、対策も検討されてきた。

 だがどんなに政策を磨き上げたとしても限界がある。エンジンがなければ船は動かないし、優れたかじ取り役も欠かせない。少子化対策は日本の最大の課題である、働き方改革とともにしっかり財源を投入することが大切だ。こうした社会的な合意は、どこまでできていただろうか。

 フランスやスウェーデンは手厚い支援により、高い出生率と女性の就労とを両立させてきた。家族関係社会支出が国内総生産(GDP)に占める割合は3%前後ある。これに対し日本は1.25%だ。

 子どもたちは将来の社会保障の担い手であり、日本を支える労働力でもある。未来への投資として財源を振り向ける合理性はある。

 そのためには、社会保障を効率化しつつ、豊かな高齢者には一定の負担をしてもらうといった改革が必要だ。税と社会保障制度のあり方を一体で見直す抜本改革に踏み込めなかったことが、今の状況を招いていることを、政府は重く受け止めなければならない。

 痛みをともなう改革には強いリーダーシップがいる。また、少子化対策は厚生労働省や内閣府など複数の省庁にまたがる。政策に優先順位をつける意味でも、リーダーシップは大切だ。

 政府は希望出生率1.8の実現を、経済対策の柱に掲げた。人口1億人の維持もうたう。安倍晋三首相は強い覚悟を持って少子化対策の意義を語り、着実な道筋をつけなければならない。

 結婚や出産をするかどうかは、もちろん個人の選択だ。だが望んでも果たせなかったり、先延ばししたりしなければならない障壁が日本の社会には多すぎる。

新指導要領 現場の不安にこたえよ

 態勢が整わないままスタートすることのないよう、手当てを急がなければならない。

 中央教育審議会が、2020年度から始まる次の学習指導要領について答申を出した。

 この指導要領がカバーする2030年ごろの社会の姿を考えてまとめたものだ。

 自ら問題を見つけ、新たな価値をつくり出す力を育てる▽「何を学ぶか」だけでなく、「何ができるようになるか」を重視する▽大学入試改革とも連動して、小学校から大学までの教育を一体として見直す――。

 こうした目標をかかげた答申だ。理念先行の感があり、学校現場からは「こなしきれるだろうか」との声が上がる。

 教育行政にかかわる者は、この不安にこたえる責任がある。

 まず政府・文部科学省だ。

 新指導要領は「脱ゆとり」の流れを引き継いで、学習内容を削らない方針だ。小学校の英語の教科化や、プログラミング教育の必修化が新たに盛り込まれるにもかかわらず、である。

 10年近く前に現行指導要領が改訂されたとき、授業時間は増えた。だが、中教審自身が「何よりも必要」と訴えた教員の十分な配置は、厳しい財政のなかで見送られ、一線の先生と子どもたちがしわ寄せを受けた。

 同じことをくり返してはならない。政府としていかなる姿勢でのぞむか意思を統一し、必要な教員数を確保しなければならない。

 都道府県や市町村の教育委員会の役割も大きい。

 答申は、小中高の全教科で「アクティブ・ラーニング(能動的学習)の視点」からの授業改革を促している。教員が教え込むのではなく、子どもが主体的に学ぶ授業にするという。

 教員が自らの役割を理解し、授業の組み立てを考えるには、入念な準備と研修が不可欠だ。

 書類仕事を減らすとともに、必要以上に精力を割かれている部活動の指導の負担を軽くしなければ、そうした余裕は生まれないだろう。教委のサポートを求めたい。

 ただし行政が教え方や評価法を細かく指示し、上意下達で押しつけては、どの学校の授業も金太郎あめになる。現場の裁量に任せることが必要だ。

 子どもの実態を最もよくつかんでいるのは、ほかならぬ現場である。

 各校がヒト、モノ、カネを生かして教育計画を立て、実践することを答申は求めている。

 学校そして教員は、目の前の子どもたちに向きあい、それを踏まえた教育を行ってほしい。

クマと人間 適度な距離を保つには

 人がクマに襲われる事故が相次ぐ。環境省のまとめでは、今年度は10月末までに75件にのぼる。秋田県鹿角(かづの)市では5~6月に4人が連続して亡くなった。

 クマの出没は年によって大きく変化する傾向がある。今年は目撃情報も約1万5千件にのぼり、14年以来の、出没数の多い年だったようだ。事故の再発をどうやって防ぐか。クマたちが冬眠に入るこの時期、教訓を踏まえて考えてみたい。

 全国にクマが何頭いるかははっきりしないが、分布域が拡大しているのは確実とされる。

 鹿角ではタケノコ採りに出かけた人たちが襲われた。専門家らでつくる日本クマネットワークの調査では、現場は開けたササやぶの周辺で、70年代にはクマはいなかった地域だという。

 同ネットは、事故時の自治体や警察、猟友会などの情報共有が十分でなかったと指摘し、あらかじめ連絡協議会をつくっておくよう提言した。クマの出没地域は対応を急いでほしい。

 クマの出没が多いと住民の不安が高まり、有害獣として捕獲される数も増える。今年度は2972頭が捕獲・殺処分された。秋田県はうち469頭を占め、過去最多だ。

 ただ、クマは本来臆病だ。人里にあえて近づくクマは、えさ場を見つけているなど、理由があると考えられている。

 捕獲する時も、人里に執着する個体を科学的になるべく特定して進めないと、再発防止につながらない。クマは繁殖力が弱く、地域によっては絶滅の恐れがある。生息状況を把握し、人とのあつれきを減らす保護管理の仕組みが求められる。

 戦後、日本人の生活様式が変わり、人が入らなくなった里山がクマの領域になったことも、被害多発の要因といわれる。

 クマと適度な「距離」を保つには、人間側が動くしかない。

 例えば、住民の高齢化で放置された山村のカキの実はクマを引き寄せる。早めにもぎ取るのが一番だが、人手が要る。都市住民との協力の輪を広げたい。

 クマは豊かな森林を代表する存在だ。日本クマネットワークの大井徹代表は「クマを考えることは、自然を考え、社会を考えること」と話す。わがこととして、クマとの共生の道を考える人を増やしていきたい。

 北海道や兵庫県、島根県は専門機関を持ち、被害予防のコツを住民に伝える啓発活動で成果を上げている。シカやイノシシの被害も増え、野生動物対策は急務だ。都道府県を中心に、専門家の育成・配置や組織の強化も進めてもらいたい。

北部訓練場返還 沖縄負担減を現実的に進めよ

 合意から20年、沖縄県で本土復帰後最大級の米軍用地返還が実現した。基地負担の軽減を加速させる契機としたい。

 県内最大の米軍施設である北部訓練場約7500ヘクタールのうち、約4000ヘクタールが日本側に返還された。

 1996年12月の日米沖縄施設・区域特別行動委員会(SACO)合意に基づくもので、県内の米軍施設の総面積が18%も減った。

 返還された森林地は、隣接する「やんばる国立公園」に編入される見通しだ。政府は、不発弾、汚染物質などを処理し、地権者への早期引き渡しに努めてほしい。

 地元の国頭村、東村には、地域振興への期待が大きい。菅官房長官は返還式典で、両村長や地元住民、ケネディ米駐日大使らを前に「必要な支援を行う。財政措置も確実に実施する」と強調した。

 自然豊かな森林を観光資源に活用するなど、有効な土地利用計画を地元と相談し、策定することが大切だ。関係者が返還の意義を実感することにつながろう。

 疑問なのは、翁長雄志知事が式典を欠席し、反対派の集会に出席したことだ。北部訓練場の存続区域に移設された6か所のヘリコプター着陸帯を、輸送機オスプレイも利用するのが理由という。

 翁長氏は10月、返還を「歓迎する」と表明したが、支持を受ける共産党などの反発で撤回した。

 日頃、米軍専用施設の面積を基準に、沖縄への過度な集中を批判していたのに、返還を評価しないのは二重基準ではないか。

 着陸帯の建設工事が10年近くを要したのは、反対派が違法な妨害活動を繰り広げたためだ。地元以外の活動家などが目立ち、周辺住民らの反発も招いていた。

 オスプレイの不時着事故が返還に水を差したのは残念である。

 住民の不安を払拭するため、米軍は、飛行時間や経路に関する日米合意を順守し、安全確保を徹底すべきだ。政府は、騒音対策などに力を尽くさねばならない。

 SACO合意に基づく他の米軍施設返還も着実に進めたい。

 当面の課題は、那覇市の米軍那覇港湾施設の移設だ。浦添市が受け入れを表明し、翁長氏も県議会で容認する意向を示した。

 施設は市街地に近く、経済効果が期待される。県内移設への反対論も一部にあるが、政府、県、両市などが結束し、ぶれずにやり遂げる覚悟と努力が問われる。

 基地負担軽減は、米軍の抑止力維持も考慮しつつ、現実的に一歩ずつ進めることこそが王道だ。

東京五輪総経費 果たして正確な金額なのか

 2兆円を切ったとはいえ、巨額であることに変わりはない。その額も精緻な積算に基づくものなのか、疑問符が付く。

 2020年東京五輪・パラリンピックの組織委員会が、大会開催に要する総経費が1兆6000億円から1兆8000億円に上ると発表した。

 国際オリンピック委員会(IOC)、政府、東京都、組織委のトップ級会談で提示した。

 東京開催が決まった13年当時、総経費は約8000億円とされた。会場整備費が中心で、都などが負担する警備費や輸送費は含まれていなかった。資材費や人件費が予想以上に高騰した。

 こうした事情はあるにせよ、約2倍の膨張により、大会計画が変更を余儀なくされているのは事実だ。当初の見積もりが過小だった、との批判は免れまい。

 IOCは、組織委が先に示した2兆円を上限とする案に納得せず、一層の削減を求めていた。

 組織委を巡っては、予算管理の甘さが指摘されてきた。今回の総経費も、2兆円を切ることを眼目とした正確性を欠くものではないのか、という疑念は拭えない。徹底した精査が求められる。

 費用分担の在り方も、大きな課題だ。組織委のスポンサー料などの収入は、5000億円とされる。残りの最大1兆3000億円をどう賄うか、が問題となる。

 開催都市である都の負担が主になるだろう。だが、これだけの巨費を投じることに、都民は納得するのか。政府が応分の負担をするにしても、国費を投じるための説得力のある理由が必要になる。

 東京都以外の6道県でも競技が実施される。その自治体にも負担を求めるのかどうか、という問題もある。会場周辺のインフラ整備など、今回は盛り込まれていない五輪関連の費用も多い。

 政府、都、組織委の費用負担に関する協議は、年明けに再開される。国民に理解してもらえる結論を導き出さねばならない。小池百合子知事の調整力が問われる。

 会場の見直し問題で、懸案だったバレーボール会場は、当初の計画通り「有明アリーナ」を新設することで決着した。小池氏が見直しを提起した3会場のすべてが、変更なしという結果となった。

 時間の浪費だった、との指摘もあるが、3会場の整備費は計約400億円圧縮された。問題提起は意義があったと言えよう。

 各会場を五輪のレガシー(遺産)として、どう活用するのか。その検討も忘れてはならない。

2016年12月24日土曜日

学校はゆたかな「知」を築けるか

 憂鬱の「鬱」の字を書けますか。御成敗式目の成立はいつ? 原子番号26の物質は何でしょう。球の体積の求め方は……。

 といった問いに答えられたら世間でちょっと尊敬されるだろう。学校教育が人々に与える、こうした知識の量は膨大である。だからわたしたちは、学校で学んだ知識自体を「知」であると思い込んでしまう。「高学歴芸能人」が競うクイズ番組など、その典型だ。

AI時代の教育とは

 しかし、本当はもっと大切なことがある。知識や体験を基に、物事を多面的に見る力や考える力、そしてひらめきを生む感性を持つことだ。単なる知識を超えた、ゆたかな「知」と呼びたい。

 それは人工知能(AI)が進歩する時代の要請でもあろう。ただ知識をため込んだり、事務をこなしたりする営みはAIに取って代わられる。だとすれば、人間にしかできない仕事が問われる。そんな時代を前に、学校教育は相当な危機感を持たねばなるまい。

 ところが現実はどうか。明治初年の学制公布以来の、欧米に追いつけ追い越せを目標とした知識注入教育が役割を終えた現代になっても、日本の学校教育はあまり変わることがない。授業が文字通り、教員によって「業を授ける」スタイルを抜け出せないのだ。

 その意味で、こんど中央教育審議会が答申をまとめ、文科省が改訂を進めている新しい学習指導要領は注目すべき内容といえる。

 2020年度から小中高校で順次導入されるこの指導要領は、教員が「何を教えるか」ではなく、児童・生徒の側に視点を移して「何を学ぶか」を示すことになる。それにより「何ができるようになるか」を問い、さらに「どのように学ぶか」を掲げるという。

 その手法が「アクティブ・ラーニング」だ。一方通行の授業を脱却し、討論への参加や体験学習を通して「対話的・主体的で深い学び」を実現する。知識だけでなく、思考力・判断力・想像力の育成をねらう。こんな理念をちりばめた指針となるはずだ。

 方向性も、こめられた問題意識も、まずは是としたい。

 かねてアクティブ・ラーニング的な学びは先進国を中心に普及してきたが、日本では立ち遅れていた。改革がうまくいけば、柔軟な思考と感性で問題に向き合える人材の育成が進むかもしれない。主権者教育でも重要なことだ。

 もっとも、そのために取り除くべき障壁があまりにも多い。

 まず試されるのは、文科省が指導要領の趣旨を学校現場に丁寧に説明しつつ、教員一人ひとりの自主性と創意工夫を重んじた「学び」をうまく見守っていけるかどうかである。アクティブ・ラーニングに決して特定の型はない。

 すでに教育界では新指導要領の先取りが始まっており、中央からの指示を待つ空気も漂う。そんななかで文科省が不用意な対応をすれば、新指導要領の趣旨とは相いれぬ画一化が進むだろう。

 そもそも学校現場の多くが、経済的困窮とも関連する低学力層の底上げに悩んでいる。そうした子どもたちを救いながら「深い学び」の実現は可能なのか。教員にはかなりの力量が求められるが、掛け声だけでは人は動かない。

質と量の両立は困難

 もうひとつの心配は、学習の量を削らずに「深い学び」がどこまで追求できるかという点だ。教員が真摯に取り組むほど、知識自体の伝授は不十分になる恐れがある。思い切って「質」を優先し、「量」は後回しにするような現場の裁量も認めたらどうだろう。

 こうした課題克服に加えて、欠かせないのは教育条件の整備だ。多忙を極める教員に、いまの環境のままで新指導要領の徹底を求めるのは酷だ。長期的視点に立った教員定数と処遇の改善がきわめて重要である。体験豊富な社会人の力も、もっと借りたい。

 視野を広げれば、大学入試の抜本改革が必須だ。どんなに小中高校の授業が変わっても、選抜のあり方が旧態依然では意味がない。私立大の大規模入試も含め、手間がかかっても考える力を問う選抜へと転換すべきである。

 問題を挙げればきりがない。それでも学びの変革は、学校にゆたかな「知」をもたらすと期待をつなぐだけの価値はあろう。

 米国の哲学者ジョン・デューイは19世紀の末に「学校と社会」のなかで、子どもたちを機械的に集団化し、画一化する教育からの解放を説いた。学校教育のコペルニクス的転回を――。100年以上前のこの言葉を、いま改めてかみしめるべきである。

防衛費 優遇はしわ寄せを生む

 来年度の国の当初予算案で、防衛費は前年度当初から1・4%増の5・1兆円になった。第2次安倍政権発足後の2013年度予算で増額に転じて以来、5年連続の増加である。

 中国の強引な海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル実験など東アジア情勢が不安定なだけに、ある程度の負担は避けられまい。ただ財政難のなかで、防衛費をことさら優先するような予算編成には疑問を禁じ得ない。

 来年度予算案の政策経費の伸び率を分野ごとにみると、高齢化に伴う自然増や少子化対策で1・6%増の社会保障費と、原発事故の賠償関連経費が加わって3・5%増となるエネルギー対策費を除けば、防衛費の伸びが最も大きい。5年続けて1%前後の増加を確保するのも、社会保障費以外には例がなく、優遇ぶりが際立つ。

 防衛費とは対照的に、教育・科学振興費は5・3兆円余と横ばいで、防衛費との差は2千億円余りに縮まる。目玉政策とされた給付型奨学金も小粒なスタートだ。社会保障でも、予算の増加を抑えるため医療と介護で高齢者を中心に負担増を求めており、日々の暮らしに直結する項目で厳しさが目につく。

 防衛費には、14~18年度の中期防衛力整備計画で一定の枠がはめられている。米軍再編経費などを除く費用については、5年間の総額を約24兆円にするため、毎年度の伸びを平均0・8%に抑えるという目安がある。

 それが最近、当初予算ではこの範囲にとどめつつ、補正予算で上積みして目安を超える例が目立ってきた。補正を抜け道に使うのは今に始まったことではないが、防衛費もすっかり「常連」になっている。

 今年度の第3次補正予算案にも1700億円を計上した。高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD)などを念頭に置く、弾道ミサイル迎撃態勢の調査研究費も含まれる。仮に日本全土をカバーするTHAADが導入されれば、1兆円規模の支出になるとの指摘もある。

 当初予算関連でも、戦闘機F35Aや輸送機オスプレイ、滞空型無人機グローバルホークなどは複数年で分割払いする「後年度負担」という仕組みで、維持・修理費もかさむため、将来の予算を圧迫していく。大学などに研究費を支給する制度に110億円を計上したのも、学術と防衛の関係で問題をはらむ。

 財政の状況は厳しい。防衛費も聖域とせず、費用対効果を厳しく検証するべきだ。他の分野にしわ寄せするばかりでは、国民の理解は得られない。

五輪会場決着 態勢立て直し再出発を

 東京五輪・パラリンピックの3競技の会場見直し問題は、当初の案どおりで決着した。

 議論を通じて400億円余の経費削減の道が開けたのは、小池百合子東京都知事が問題を提起した成果のひとつといえる。

 一方で、小池氏が推した変更案が通らなかった経緯や理由はあいかわらず不透明なままだ。そして氏は早くも、バレーボール会場となる有明地区を「スポーツ、イベントの街」として整備する考えを表明した。

 総括ぬきで次の花火を打ちあげ、目先をそらすような姿勢はよろしくない。そもそもこうした構想は、招致段階から青写真を描いておくべきものだ。

 氏には、ていねいな説明と対話を通じて都民との信頼関係を築いていくよう求めたい。

 今回の騒ぎは、五輪準備にあたる都、組織委員会、国の三者間の連携の悪さと、当事者意識の欠如を浮かびあがらせた。

 選手が実力を十分に発揮できる環境、観客の収容能力、五輪後の活用策、将来の維持費も含めたコスト――。こうしたさまざまな要素を検討して最適解を探り、積みあげてきていれば、いまになって見直し論が浮上することはなかっただろう。

 その反省をふまえ、態勢を根本から立て直してほしい。

 まずとり組むべきは、組織委が最大で1兆8千億円ほどとする経費の分担問題だ。

 「組織委でまかないきれない分を都が負担し、それでも足りなければ国が支払う」との合意はあるが、詰めた話はできていない。そして組織委の収入はせいぜい5千億円とされる。

 「都と国の負担を注視する」(小池氏)、「なぜ国でなければならないのか」(丸川珠代五輪担当相)と互いを牽制(けんせい)する発言が飛びかい、都以外で開催地となる自治体からは「地元負担のないことが引きうけの前提だった」との声があがる。

 都と国に大きな責任があるのはいうまでもない。ただ他の自治体も一定の出費は避けられないのではないか。会場になることによるイメージ向上、選手や観客との交流など、五輪がもたらす資産を地域振興にどう生かすか、住民・納税者が納得できるアイデアを競ってほしい。

 五輪まで3年半。前年から本番にむけたプレ大会も始まる。関係者が不信とわだかまりを捨て、理念を共有し、しっかり向きあうことが何より必要だ。

 「準備が半年は遅れた」(森喜朗組織委会長)などと、今回の会場見直し問題をひとごとのように論評していては、大会の成功はおぼつかない。

天皇陛下83歳 退位の議論に拙速は禁物だ

 天皇陛下が、23日で83歳になられた。

 ご高齢の陛下のお気持ちを考慮しつつ、退位の問題について国民的な議論を深めたい。

 誕生日前の記者会見に臨んだ陛下は、この1年を振り返る中で、4月の熊本地震に言及された。

 「皆が協力し合って困難を乗り越えようと取り組んでいる姿に、心を打たれました」。5月に皇后陛下と被災地を訪問した際の思いを、こう表現された。

 公的行為を通じて国民に寄り添う。それが象徴天皇の務めだとする陛下の姿勢がうかがえる。

 退位問題について、陛下は「多くの人々が耳を傾け、各々(おのおの)の立場で親身に考えてくれていることに深く感謝しています」と述べられた。判断は国民に委ねたいというお気持ちなのだろう。

 政府の有識者会議は、「退位を認めない」「一代限りの特例法で退位を容認する」「皇室典範改正で制度化する」という三つの意見のうち、一代限りの退位を支持する方向性を打ち出した。

 御厨貴座長代理は「将来にわたって判断できるように退位を要件化することには、無理がある」とその理由を語る。確かに、将来の天皇にも適用される要件を一律に定めるのは、難しいだろう。

 専門家からは、公的行為が困難になったことを退位の要件に盛り込めば、「天皇の地位に能力主義が持ち込まれてしまう」といった懸念も示されている。

 疑問なのは、有識者会議が専門家の意見聴取終了後、わずか2回の会合で方針を定めたことだ。来月中に論点を整理して、公表するという。拙速の感は否めない。

 「同じ天皇の存在の継続そのものが、国民統合の要だ」「前例ができると、将来的に恣意的な退位が起きる恐れがある」。こうした理由から、退位自体に否定的な考えが根強くあるのも事実だ。

 有識者会議は、様々な主張を改めて吟味して、丁寧に議論を進めてもらいたい。

 国会での議論も始まる。政府は一代限りの退位を容認する特例法案を来年の通常国会で成立させる方針だ。自民、公明両党も支持する意向を示している。

 民進党は、皇室典範改正による退位制度を求める独自の論点整理をまとめた。特例法に関しては、「天皇陛下のお気持ちにも反している」と否定している。

 天皇の地位は国民の総意に基づくものである。各党は政争の具とすることなく、冷静な論議を重ねて、着地点を探るべきだ。

独トラックテロ 排外主義を勢いづけるのか

 伝統の祝祭を狙い撃ちし、市民らを犠牲にした卑劣なテロである。断じて許されない。

 ベルリン中心部にある屋外のクリスマスの市に大型トラックが突入し、多数の死傷者が出た。

 ドイツの捜査当局は、逃走した容疑者の男を指名手配した。男はイタリアで警官に射殺された。チュニジア出身で昨夏、ドイツに入国したが、難民申請を却下されていたという。当局は、事件の全容を解明せねばならない。

 過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出した。組織壊滅に取り組む有志連合の国民を標的にするよう求める呼びかけに、「戦闘員」が応じたと喧伝(けんでん)する。

 「イスラム国」は、イラクとシリアで支配地域が縮小するなど、劣勢が目立つ。巻き返しのため各地でテロを激化させる恐れがある。警戒を怠ってはなるまい。

 トラックを「凶器」として用いたのは、7月に発生した仏南部ニースのテロ以来だ。花火見物客で賑(にぎ)わう遊歩道が襲われた。

 不特定多数が出入りする「ソフトターゲット」をテロ攻撃から守ることは、喫緊の課題である。

 ベルリンの現場では、大型車両に対する十分な進入防止策がとられていなかった。当局は事件後、各地で警備を強化しているが、後手に回ったことは否めない。

 懸念されるのは、ドイツやフランスなど周辺国で排外主義的な政党が勢いづくことである。

 難民受け入れに反対する新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の党首は、事件を政治利用し、「メルケル首相とその仲間の重大な罪だ」と、批判をエスカレートさせた。

 メルケル氏は昨年、寛容な難民政策を進め、国内で反発を受けた。今年は流入抑制へ重点を移したが、今回の事件によって難民問題が再燃するのは避けられまい。

 メルケル氏が4選を目指す来年秋の総選挙に向け、AfDへの支持が伸びれば、政治の不安材料となりかねない。難民申請却下の場合は、早期に送還するなど、難民政策の厳格化を迫られよう。

 トルコの首都アンカラでは、ロシア大使が護衛役を装った警察官に射殺された。シリア内戦では、ロシアの支援を受けたアサド政権が反体制勢力への攻勢を強めている。ロシアの介入に対する報復テロとみられる。

 シリアなど中東や北アフリカを震源地として、欧州が難民とテロという問題に揺さぶられる事態は深刻さを増す一方である。

2016年12月23日金曜日

3党合意の次の一体改革の検討に入れ

 先進国で最悪の財政状態であるにもかかわらず、歳出が膨らむ主因である社会保障費の効率化はなお道半ばだ。政府が決めた2017年度予算案である。

 経済成長と両立させつつ、財政と社会保障を持続可能な状態にしなければならない。そのために政府は新たな社会保障と税の一体改革の検討に速やかに入るべきだ。

 17年度予算案の総額は97兆円超と過去最高を更新した。

 歳入面では、税収を57.7兆円と見積もった。見逃せないのはむしろ16年度だ。今秋までの円高で企業業績が悪化したため、16年度第3次補正予算案で税収を1兆7千億円あまり下方修正した。

 赤字国債を追加発行する結果、16年度の一般会計に占める新規国債発行額の割合は38.9%と4年ぶりに上昇する。

 安倍晋三政権は経済成長に伴う税収増をアベノミクスの実績として強調してきたが、やはり税収増に過度に依存した財政健全化は危うい。社会保障費を中心に歳出にしっかり切り込む必要がある。

 17年度予算案では、医療や介護で高齢者の負担増に踏み込んだ。たとえば、70歳以上の外来医療費の上限を引き上げたり、介護サービスでは一部の利用者の自己負担を3割に引き上げたりする。

 所得や資産にゆとりのある高齢者にも応分の負担をしてもらうのは当然だ。高齢化に伴う社会保障費の伸びを年5千億円程度に抑える目標は達成し、18年度も同程度の目標達成のメドがたったと財務省は説明している。

 しかし、目先の帳尻合わせだけでは困る。政府は20年度に国と地方をあわせた基礎的財政収支を黒字にする目標を掲げる。19年10月に消費税率を10%に上げたとしても、目標達成のハードルは高い。

 その先の25年には、団塊の世代がすべて75歳以上になる。放置すれば医療や介護の費用は急増しかねず、今から思い切った対策を検討する必要がある。

 12年の自民、公明、民主(現・民進)の3党合意を何とか維持しようと四苦八苦していたり、次の消費増税の是非を議論したりするだけでは不十分だ。

 社会保障を効率化しつつ、真に支援が必要な人や子ども・子育て向けの支援を強化する。その財源確保を含めて社会保険と税制のあり方を一体で見直す。そんな抜本改革に今から着手するのが政府・与党の責務だ。

もんじゅ失敗の総括が先だ

 高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)について政府の原子力関係閣僚会議が廃炉を正式に決めた。同時に、もんじゅに代わる新たな高速炉を開発し、原子力発電所の使用済み燃料を再利用する核燃料サイクルは堅持するとした。

 決定自体は妥当といえる。日本原子力研究開発機構が運営するもんじゅは1兆円以上を投じたのにほとんど運転できず、ずさんな安全管理も問題になった。運転を再開するとさらに5千億円以上かかる。安全に稼働させるメドが立たない以上、廃炉は当然だ。

 高速炉の研究を続けることにも意義はあろう。日本はエネルギーの9割以上を輸入に頼り、原発依存をすぐにはゼロにできない。今後、新興国で原発が増えればウランを安定的に確保できるか不透明だ。高速炉はウランを有効活用できる可能性があり、その選択肢をいま放棄するのは得策でない。

 だが、研究を続けるうえでもんじゅの轍(てつ)を踏んではならない。政府は2018年までに新たな工程表をつくるとした。その前に、もんじゅがなぜ失敗したのか、徹底した検証が不可欠だ。

 もんじゅは開発当初から、ウランを燃やした以上に増やせる「夢の原子炉」とされてきた。これが大義名分となり、経済性や誰が商業炉を建設するかが二の次になった。建設を推進してきた文部科学省が、開発体制や進め方のどこに問題があったかをきちんと洗い出し、総括すべきだ。

 新たな高速炉も建設ありきではなく、技術の裏づけやコストを見極めることが欠かせない。原発の使用済み燃料から取り出したプルトニウムは国内外に48トンたまっており、国際社会の懸念も強い。プルトニウムを燃やすだけの炉を研究するのも選択肢だろう。

 もんじゅの廃炉をめぐっては福井県の西川一誠知事らが「説明が不十分だ」と反発している。地域の理解がなければ核燃料サイクルは維持できない。政府は原子力の将来展望を丁寧に説明し、理解を得る必要がある。

財政再建 税収増頼みの危うさ

 費用対効果の意識を徹底して歳出を抑制・削減する。税制改革を実行し、増税する。経済成長によって税収を増やす。

 借金まみれの財政を立て直すには、この三つを怠らず、地道に取り組んでいくしかない。

 だが、安倍政権は成長による税収増によりかかった財政運営を続けている。それで2020年度に基礎的財政収支(PB)を黒字化する再建目標を達成できるのか。政府が決めた予算案を見ると、不安と疑問が募る。

 まずは歳出である。

 国の来年度の一般会計当初予算案は総額97兆4500億円に達し、当初予算としては5年続けて過去最大を更新する。少子高齢化に伴う社会保障費の増加が大きいが、全ての分野を対象に、より少ない予算で政策効果を高める検討を尽くしたとはとても言えまい。

 財源不足を埋める新規国債の発行額が前年度からわずかに減るため、財務省は「経済再生と財政健全化の両立を実現する予算」とうたう。だが、予算全体の3分の1超を新規国債に頼る現実を忘れてはならない。

 補正予算を組んで、災害復旧など緊急事業に限らず歳出を幅広く積み増す作業は、もはや恒例行事だ。今年度の補正は3次にわたり、当初予算から歳出は3兆円余、新規国債の発行も4兆円余り増える。毎年度の当初予算同士を比べて増減を論じることがむなしくなる。

 補正予算に関しては、3次補正で税収見込みを1・7兆円減らすことになった点にも注目するべきだろう。

 景気はさえない状況が続くとは言え、わずかながらもプラス成長を続けており、経済が大きく落ち込んだわけではない。それでも輸出型製造業が為替相場の変動に直撃され、法人税収が見込みを下回ることになった。それに象徴される通り、不安定なのが税収である。

 安倍政権は、消費増税を2度にわたって延期するなど、本格的な負担増を避け続けている。一方で法人税は減税し、企業を元気にすれば税収も増えて財政再建が進むとの立場をとる。

 しかし、財政再建を着実に進める観点からは、それが甘い「期待」にすぎないことを、今回の予算が示している。

 政府の夏時点の試算では、19年10月に10%への消費増税を実施し、毎年度の実質成長率を2%程度と高めに見込んでも、20年度のPBは5兆円超の赤字が残る。黒字化は高い目標だ。

 それでも旗は降ろさないと、首相は繰り返す。どうやって達成するのか、語る責任がある。

訓練場返還 かえって溝を深めた

 国内最大の米軍専用施設、沖縄県の北部訓練場の半分にあたる約4千ヘクタールがきのう、日本側に返還された。

 日米合意から20年越しの懸案である。返還がようやく実現したこと自体は評価したい。

 残念なのは、せっかくの返還がかえって、県民と政府の溝を深めてしまったことだ。

 最大の原因は、沖縄の民意より、米軍の要求を優先する日本政府の姿勢にある。

 返還条件とされた東村高江周辺でのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)移設工事に、全国の機動隊を投入。抗議行動を続けた人々にけが人が相次いだ。

 そもそも政府は新パッドをオスプレイが使うことを隠し続けていた。前提が変わったとして県が求めた環境影響評価のやり直しも拒んだ。工事を急ぐために工法を変更し、それに県が異を唱えても耳を貸さない――。

 こうしたふるまいが、いったんは返還に歓迎の意を示した県の不信感を強めた。

 そんななかで起きた名護市でのオスプレイの事故。米軍による飛行再開を、事故機の回収すら終わっていないわずか6日後に政府が認めたことも、県民の怒りを増幅させている。

 翁長知事はきのう、名護市であった政府主催の返還式典には出席しなかった。

 一方で、同じ名護市で市民4200人(主催者発表)が参加した、オスプレイの撤去を求める集会で壇上に立ち、「県民に寄り添う姿勢が見られない」と政府の対応を批判した。

 今回の返還後、全国の米軍専用施設の面積のうち沖縄県に集中する割合は74・5%から70・6%に減る。

 政府は「負担軽減」を強調するが、逆に基地機能の強化につながるのではないか。沖縄ではそんな不安が広がっている。

 北部訓練場にヘリパッドが完成する一方、名護市に近い伊江島補助飛行場では最新鋭のステルス戦闘機やオスプレイが利用するための拡張工事も進む。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設が実現すれば、この3カ所を拠点に、県北部の米軍基地機能は格段に増強される。

 辺野古移設計画をめぐる訴訟で、最高裁は県側の主張を退けた。だが政府が強引に工事再開に突き進めば、県民の不信を高めるだけだ。

 そうなれば移設そのものにも、在沖米軍基地全体の運用にも、支障をきたすだろう。

 民意を踏まえた丁寧な対話でしか、互いの信頼は取り戻せない。その原点に、政府は立ち返るべきだ。

17年度予算案 「未来への投資」となり得るか

 ◆成長と財政再建の両立目指せ

 成長を維持しつつ、財政再建を進める。その難題を克服しなければ、経済の再生は望めない。

 政府が2017年度予算案を決定した。一般会計総額は97・5兆円と、5年連続で過去最大を更新した。

 新規国債発行額は16年度当初より抑え、歳入中の借金の割合である国債依存度も小幅改善した。

 政府は「経済成長と財政再建の両立を図った」と説明する。

 ◆重点事業はパンチ不足

 だが、社会保障費の膨張で財政の硬直化が進み、メリハリに欠ける。借金依存も変わらない。安倍首相が掲げる「未来への投資」に十分応えたものとは言い難い。

 政府が予算案の目玉事業としたのは、「成長と分配の好循環」につなげるための施策だ。

 「1億総活躍社会の実現」に向けて、保育士・介護職員の処遇改善、保育の受け皿拡大、雇用保険料の軽減などを予算化した。

 しかし、保育士などの処遇は、全産業平均の賃金より月10万円程度も低い。この水準をごく一部、底上げするに過ぎない。

 「働き方改革」関連では、非正規雇用から正社員に切り替える企業への支援などを予算計上した。こうした企業支援も、経営者が自社の業績に明るい展望を持てるかどうかにかかっていよう。

 重点事業の狙いは理解できる。予算の効果を上げるには、民間活力を引き出す様々な規制緩和などを組み合わせる必要がある。

 人工知能やIoT(モノのインターネット)といった第4次産業革命を推進することも大切だ。

 公共事業費は6兆円でほぼ横ばいとした。度重なる自然災害を踏まえ、防災・減災に重点を当てたのは妥当だろう。

 問題なのは、社会保障費の膨張が止まらないことだ。

 団塊世代の高齢化で、17年度は初めて32兆円を超えた。一般会計全体の3分の1を占め、歳出拡大の主因となっている。

 ◆社会保障費どう抑える

 医療分野で、豊かな高齢者に現役世代並みの負担を求め、75歳以上の保険料を軽減する特例を段階的に廃止する。年齢ではなく所得に応じた仕組みに転換したのは一歩前進だ。超高額薬オプジーボの薬価50%引き下げも実現した。

 こうした措置で、6400億円と見込まれた自然増を16年度に続いて目標の5000億円まで圧縮した。その努力は評価できる。

 だが、高齢化の進行により、社会保障費が予算全体を圧迫する構図は今後さらに強まる。一方、財源となる消費税率10%への引き上げは19年10月まで延期された。

 医療、介護、年金各分野で持続力を高める制度設計への練り直しが求められる。国民が痛みを分かち合う議論が避けられまい。

 成長戦略を後押しする機動的な予算編成の余地を残すためにも、社会保障と税の一体改革を抜本的に再構築することが必要だ。

 予算効果を見極め、歳出削減を加速させねばならない。

 農道や用水路の整備などを行う土地改良事業は、4000億円に増額した。与党内で、民主党政権時代に削減された事業費の回復が声高に唱えられた。

 事業の質より量を求める旧来の発想が残っているとすれば、歳出改革は実現できない。

 17年度末の国と地方を合わせた長期債務残高は1094兆円に達し、先進国で最悪の水準だ。

 政府は、20年度に基礎的財政収支を黒字化する目標を掲げている。今のような財政運営を続けていては、目標の達成は一段と危ぶまれる状況にある。

 安倍政権は、金融緩和や財政出動による経済成長で税収増を実現し、それをテコに財政再建の歯車を回す戦略を取ってきた。

 ◆歳入歳出の徹底改革を

 だが、アベノミクスの果実である税収増はブレーキがかかっている。16年度の税収は、円高などで企業業績が頭打ちとなり、当初見込みを大幅に割り込む。

 17年度の税収は、景気の改善を見越して、7年連続増の57・7兆円を見込んでいる。

 ただ、前提となる名目成長率は2・5%で、大方の民間予想を上回っている。政府の見立ては強気に過ぎるのではないか。

 利上げ後の米経済の動向や、中国経済の減速など、日本経済を取り巻く情勢は予断を許さない。

 トランプ次期米大統領の景気刺激策で円安・ドル高が進み、輸出産業の収益増への期待は高まるものの、不透明感も強い。

 景気変動にも耐えられる財政運営へ向け、歳入歳出両面で不断の改革を進めていくべきである。

2016年12月22日木曜日

五輪は費用の協議を急ぎ理念の明確化を

 2020年の東京五輪・パラリンピックへ向けた準備は今年も順調に進んだとは言いがたい。

 本番まで3年半余り。五輪組織委員会の幹部も「半年ほど遅れている」と指摘し、残された時間は刻々と減っている。スピード感を持って課題の解決に取り組むとともに、五輪の未来を見据えた理念も追い求めてほしい。

 国と東京都、組織委、国際オリンピック委員会(IOC)の4者協議で、大会の総経費は最大1兆8千億円と示された。

 このうち組織委が負担できるのはチケット代金やスポンサー収入など5千億円程度とされ、残る1兆円以上を都や国の公費で分担することになる。不断に経費を圧縮する努力と同時に、納税者への丁寧な説明が求められよう。

 巨費を投じたかいがあった、と国民やアスリートが納得できる大会運営に知恵を絞るべきだ。

 費用の分担で焦点のひとつは仮設する施設の整備費だ。当初は組織委がすべてを担うはずだったが、2千億円以上にも膨らんだため、3月に国と都、組織委の3者が協議を始めていた。

 舛添要一・前都知事は一定の負担に応じる意向を示したが、6月の辞任のあと協議は途絶したままである。一部の競技では都外の既存の施設に会場を変更しており、その改修費用をめぐる議論も先送りされている。協議を早く再開し結論を得なければならない。

 8月に就任した小池百合子都知事は、費用分担のあり方よりもボート・カヌーの会場など3つの施設の見直しに注力してきた。今ふり返れば、この作業は必要以上に長引いた観がある。

 最後まで残ったバレーボール会場も結局は、予定通り東京・有明アリーナを新設することで決着した。知事が主張した横浜アリーナの活用案は、すでに11月下旬の4者協議の段階で困難だったとみられるだけに、時間を空費した印象はぬぐえない。

 3施設で400億円超を圧縮した点は評価できるが、知事の意向で最終決着が先送りされ、全体の準備も遅れたといえる。

 巨額の経費を考えると、招致の時に掲げた「コンパクト五輪」のスローガンは色あせたと言わざるを得ない。財政難から開催に手をあげる都市が減るなか、人類の遺産である五輪のバトンをどうつないでいくのか。明快で骨太の理念が求められている。

非正規の賃上げは能力向上で

 仕事が同じなら賃金も同じにする「同一労働同一賃金」をめぐり、正社員と非正規社員の待遇に差があっても問題ないとみなせる例などを示したガイドライン案を、政府が明らかにした。経験や能力、成果、貢献度などに応じて賃金に差をつけることは認められるとしたのは、妥当だろう。

 非正規社員の賃金を上げるため政府は同一労働同一賃金の制度化をめざしているが、重要なのは非正規で働く人たちが仕事に必要な技能を高め、貢献度を上げられるようにすることである。職業訓練の充実など環境の整備に政府は力を注いでもらいたい。

 ガイドラインは待遇の差が訴訟になったときに、裁判所が判断の参考にする可能性がある。

 基本給については、職業経験や能力などに違いがあれば差が許容されるとした。賞与も会社の業績への貢献度に応じた支給を認めている。生産性に応じて対価を払うという、賃金決定の原則に沿った内容になったといえよう。

 待遇の差の理由について従業員への説明を企業に義務づけることは見送られた。だが説明責任は当然ある。求められれば企業はきちんと対応すべきだ。

 非正規で働く人は雇用されている人の4割近くを占め、パート社員の時間あたり賃金は正社員の約6割にとどまる。消費を伸ばすためにも非正規社員の賃金増が求められているのは確かだ。

 企業が賃金を上げやすくなるよう、働く人の能力を高める職業訓練の意義は一段と増している。国や自治体が、たとえばバウチャー(利用券)方式で受講者が自由に講座を選べるようにすれば、訓練施設の間で競争が起き、サービスやIT(情報技術)などの分野の充実を期待できよう。

 職種によって国が設けている能力評価の仕組みも、サービス分野などの対象職種を増やしたい。

 企業もパート社員などへの教育訓練にもっと力を入れるべきだ。生産性向上が賃金上昇を後押しする流れを広げる必要がある。

もんじゅ廃炉 失敗認め、現実を見よ

 主役は故障や不祥事続きで舞台にさっぱり上がれず、金づかいばかり荒い。ようやく降板させると決めたが、公演を中止すると騒ぎになるから「いずれ上演」の垂れ幕は下ろさない。

 代役はまだ生まれてもいないが、「いずれ」がいつかは明言していないから、大丈夫――。

 高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)を廃炉にし、代わりに新たな高速炉の開発を進めて核燃料サイクルは堅持する。政府のこの方針をたとえて言えば、こんなところか。

 ばかばかしい、では片付けられない。国民の貴重な税金がこれまで大量につぎ込まれ、さらにつぎ込まれようとしている。

 もんじゅは明らかに失敗だ。廃炉にし、所管する文部科学相が給与を自主返納すれば済む話ではない。1兆円以上かけながら20年余りの間、ほとんど動かせず、さらに廃炉に4千億円近くかかるという。問題の総括が不可欠だ。

 核燃料サイクル政策を錦の御旗に、これ以上ムダと無理を重ねてはならない。「もんじゅから一定の知見が得られた。それを高速炉開発に生かす」と強弁する姿勢を改め、現実に立ち返るべき時である。

 文科省は4年前、もんじゅの技術成果達成度に関する資料を原子力委員会に出していた。各項目の重要度を加味してはじき、機器・システム試験関連が16%、炉心試験・照射関連が31%、運転・保守関連は0%。総合の達成度は16%だった。

 これで「一定の知見が得られた」と胸を張るのか。

 改めて痛感する教訓は、現実を見ず、リスクや問題点を軽視する代償の大きさである。

 核燃料サイクルの経済性や原爆の原料になるプルトニウムを扱うことへの核不拡散上の懸念から、高速炉開発をやめる国が相次ぐなか、日本はあえて着工した。海外でナトリウム漏れ事故が起きても「もんじゅは起こさない」と言い張り、起こすと虚偽の発表や隠蔽(いんぺい)を重ねた。

 長い休止後に運転再開にこぎつけても装置の故障でふいにし、ついには運営する日本原子力研究開発機構の能力自体が疑問視されることになった。

 廃炉の決断が遅れたのは、核燃料サイクルのなかで原発の使用済み核燃料の再処理問題に波及し、原発稼働に影響することを政府が恐れたからだろう。

 もんじゅ廃炉を契機に、現実を直視し、開かれた議論を通じて、国民が納得する原子力政策を再構築しなければならない。それなしに次の開発に進むことは国民への背信である。

相次ぐテロ 国際結束の再構築を

 背筋が凍るテロが、ドイツとトルコの両首都でおきた。

 ベルリンではクリスマス市(いち)にトラックが突入し、多数が死傷した。アンカラでは地元の警官がロシア大使を射殺した。

 年末に相次ぐ凶行は、改めてテロの脅威と背中合わせにある世界の厳しい現実を物語る。どんな背景であれ、暴力は断じて容認できない。

 ベルリンの事件では、中東の過激派組織「イスラム国」(IS)系のメディアが犯行声明を出した。真偽は不明だが、フランスなど各地でISの関わるテロが続いてきたのは確かだ。

 社会で疎外された若者をテロの道に引き込むISなどの過激思想をいかに根絶するか。今年は、そのための国際社会の結束が叫ばれた一年だったはずだ。

 ところが、ISとの戦いを含むシリア問題への取り組みについて、国際的な足並みは大きく乱れている。

 アサド政権を支えるロシアと、反体制派を支える米欧との対立が続き、内戦による深刻な人道危機にも国際社会は有効な手が打てずにきた。

 先週、アサド政権が制圧を宣言した都市アレッポの惨状は、すさまじい。政権は、一部の市民もテロリストとみて攻撃し、ロシアもそれに手を貸した。

 アンカラの事件の際、大使を射殺した警官は「アレッポ、シリアを忘れるな」と叫んでおり、ロシアへの反発が動機だった可能性が指摘されている。

 これを受けてロシアのプーチン大統領は「テロとの戦いを強化する」と述べ、トルコ政府との連携を表明した。

 それがもし、シリアの反体制派への弾圧を強める意図も含んでいるならば、事態のいっそうの悪化が懸念される。対テロ戦に名を借りた抑圧は、さらなる暴力の連鎖を招くだけだ。

 アサド政権とロシアは一刻も早く、流血を止めるべきだ。ISを解体し、シリア再建の道筋を探る目標に向けて国際社会と結束するべきである。

 欧米社会も自制が必要だ。

 ベルリンの事件後、欧州の一部政治家らは、難民受け入れへの非難を強めている。トランプ米次期大統領は、容疑者も不明な段階で、イスラム過激派の犯行のような言動を繰り返す。

 難民やイスラム教徒もまたテロの被害者である現実から目を背け、彼らをテロ予備軍のようにおとしめる風潮は、憎しみをあおり、社会の分断を広げる。

 感情的な対応は戒めたい。どうすれば対テロの実効性のある国際協調を築けるか、冷静に考えるべきだ。

もんじゅ廃炉 後継開発に失敗の教訓生かせ

 日本の原子力開発の大きな転機と言えよう。

 政府が、長期停止している日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にする方針を決めた。並行して、後継の高速炉を官民で開発するという。

 エネルギー資源に乏しい日本の安全保障上、原発の安定利用と、使用済み核燃料を活用できる核燃料サイクルの実現は不可欠だ。

 高速炉は、その柱である。燃料を効率的に利用できる上、放射性廃棄物を減らせる。増殖機能を持たせれば、燃えないウランをプルトニウムに変換できる。

 だが、もんじゅはトラブル続きで、ほとんど運転できていない。原子力規制委員会は昨年、現状では安全を確保できないとして、新たな運営組織を探すよう、所管の文部科学省に勧告した。

 政府は、もんじゅの再開に5000億円以上を要すると試算している。こうした状況を考えれば、廃炉判断は、やむを得まい。

 電力業界は当面、通常の原発でプルトニウム燃料を使うプルサーマル方式により、核燃料サイクルに取り組む方針を示している。

 問題は、プルサーマル後に発生する使用済み核燃料だ。技術的に再利用が難しい。高速炉なら、これを活用する道が開ける。

 長期的なエネルギー戦略を堅持するために、高速炉の開発目標を揺るがすことはできない。

 経済産業省は来年、関係省庁やメーカー、電力業界と作業部会を設け、実現への行程表をまとめる。もんじゅで得たデータを生かせば、後継炉は実現可能という。

 もんじゅは、部品の欠陥を見抜けずに事故を重ねた。長期停止で有能な人材も流出した。こうした教訓を生かして、品質管理や人材育成を計画的に推進したい。

 経産省は、フランスの高速炉「アストリッド」計画に参加して、経験を積む方針も掲げるが、耐震面などで設計思想の根本的な違いを指摘する声がある。日本の戦略に合致しているのか、慎重に見極めることが肝要である。

 廃炉作業も着実に進めねばならない。政府が、関係省庁や電力業界、メーカーとの議論で廃炉方針を決めたことに、福井県の西川一誠知事は「原子力機構が安全に廃炉にできるのか」と不信を募らせる。組織刷新も求めている。

 政府は、もんじゅ後の地域振興のため、新たな試験研究炉の建設などを福井県に提案中だ。

 立地する自治体との信頼関係なしに、原発利用は進まない。政府には丁寧な対話が求められる。

学習指導要領 読解力の向上につなげたい

 学校現場で子供たちが多様な文章に触れる機会を増やすことで、読解力を育みたい。

 中央教育審議会が、2020年度から順次実施される小中高校の学習指導要領の基本方針を答申した。

 グローバル社会に対応した英語教育の充実などに加え、児童生徒の読解力向上を「喫緊の課題」と位置づけたのが特徴だ。

 文章や資料などから必要な情報を読み取り、自分の考えをまとめる。読解力は、すべての教科の学習の基盤となる。答申が、読書活動の推進や語彙力の強化など、国語教育を改善する必要性を打ち出したことは理解できる。

 子供の読解力低下は、かねて指摘されてきた。今月公表された国際学習到達度調査(PISA)では、日本の高校1年生の「読解力」が前回の4位から8位となり、平均点も低下した。

 これを契機に、読解力に関する答申の記述が手厚くなった。

 文部科学省は、メールなどによる短文のやりとりが広がる一方、本や新聞などで長い文章に接する機会が減ったことが影響していると分析する。

 論理的な文章を読みこなせなければ、知識の幅が広がらず、自分で判断する力も身に付かない。

 文科省は、高校生の読解力に関する詳細な調査を行い、言語能力を高める指導法の研究も始める。児童生徒の読解力の実態把握を踏まえ、学校現場に具体的な対応策を示していくことが大切だ。

 次期指導要領では、討論や発表を重視したアクティブ・ラーニングが導入される。答申は、こうした授業で、新聞や統計資料などを活用する意義を強調した。家庭で新聞などを活用し、社会問題を話し合うことも推奨している。

 全国学力テストの調査では、新聞をよく読む子供ほど、成績が良い傾向も明らかになった。

 新聞を授業の教材にするNIE活動の実践例を、各校が共有することが有効だろう。

 教科書の果たす役割も大きい。子供たちが長文に接する貴重な機会を提供している。

 文科省は今後も紙の教科書を基本とし、タブレット端末などを利用した「デジタル教科書」は、紙との併用にとどめる方針だ。

 安価な紙の教科書は、多くの子供にとって使い勝手が良い。物語に偏らず、論理的な説明文なども含む良質な文章を幅広く収録してもらいたい。

 子供が活字に親しめる環境をつくる努力が求められる。

2016年12月21日水曜日

円滑な日米同盟には沖縄の理解が必要だ

 日本の安全保障において沖縄は地政学的に極めて重要な地域だ。在日米軍や自衛隊が重点配備されるのは当然である。だが、いくら基地をつくっても周辺住民の協力なしに日米同盟の円滑な運用は望めない。沖縄県民の過重な負担感をいかに軽減するか。安倍政権はいまこそ対話姿勢を示すときだ。

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地を県内の名護市辺野古へ移設する政府の方針について、最高裁が全面支持する判断を下した。翁長雄志知事は判決に沿って移設先の埋め立て承認の取り消しは撤回する意向だ。

 とはいえ、ここで政府がただちに工事再開に動くのがよいかどうかはよく考える必要がある。翁長知事はほかの権限を駆使して移設を阻止したいとしている。知事に方向転換を促すには、県民が抱く反基地感情を少しでも和らげる努力が欠かせない。

 移設先の辺野古に近い海岸で先週、米軍の新型輸送機オスプレイが大破事故を起こした。日米両政府は「不時着」としているが、沖縄県は「墜落」との判断だ。同機は普天間基地に所属しており、基地が移ってくれば辺野古に来る。

 移設作業を進めるには、事故がもたらした周辺住民の恐怖感への配慮があってしかるべきだ。にもかかわらず米軍はわずか6日でオスプレイの飛行を再開させた。

 その前日に岸田文雄外相が「再開に向け、(米軍は)意思疎通を図ってもらわなければならない」と語っていたにもかかわらずだ。この程度の交渉力しかなくて「事故の再発防止に万全を尽くしている」と言われても信じがたい。

 日米両政府は沖縄にある北部訓練場の北半分の返還で合意した。これにより在日米軍の専用施設に占める沖縄の比率は74%から71%に低下する。22日の記念式典は安倍政権がいかに基地負担の軽減に努めているかを印象付ける場になるはずだった。

 だが、辺野古での工事再開方針への反発などから、翁長知事は式典を欠席する。県内に祝賀ムードはほとんどない。せっかく県民と雪解けできる機会を空費したのは安倍政権の対応ミスである。

 政府内には翁長知事がさらなる移設阻止に動いた場合に損害賠償訴訟を起こして追い詰めるなどの案もあるようだ。それが本当に移設実現への近道なのか。力ずく一辺倒の政権と思われれば、沖縄以外の案件にもマイナスだ。

待機児童対策の手を緩めるな

 法律で定められた育児休業が最長2年に延長されることになった。子どもが保育所などに入れない場合に、緊急避難的に延長を認める。空きを待つ間に育休が終わってしまい、やむなく離職していた人にとっては朗報だろう。

 延長の方針は8月に政府の経済対策に盛り込まれ、厚生労働省の審議会で具体策を検討していた。現在の育休は原則子どもが1歳になるまでで、最長で1歳半だ。この時点でもなお入れなければ、さらに半年休めるようにする。

 子どもが入園できる可能性は、4月が最も高い。このため例えば8月生まれなら、育休を切り上げて翌年4月の入園を目指す人も多かった。法律が改正されれば、翌々年4月という道も広がる。

 ただ長期の育休は、復職のハードルを高くする。審議会では労使双方から「女性の活躍に逆行する」「保育所の整備こそが重要」といった慎重な声が相次いだ。当然の指摘だろう。仕事や家計の状況により、早く復帰しなければならない人もいる。育休をとってもらえばいい、とばかりに、待機児童対策の手が緩むようでは困る。

 国と自治体は保育サービスの拡充を進めているが、待機児童の数はなかなか減らない。自治体によっては、当初の見通しより利用希望が大きく増えているところもある。整備計画を不断に見直していくことが欠かせない。

 また、保育サービスの種類は多様になっている。地域にどんなサービスがあるか保護者に丁寧に説明し、最新の情報も提供するなどの、きめ細かな対応も大切だ。

 審議会は、男性の育児を促すことの必要性も訴えた。育休の取得率は女性が8割超なのに対し、男性は3%にも満たない。日常の育児も女性が多くを担っている。

 女性の力を生かしてこそ、日本の成長の可能性は高まる。そのためには男女ともに働きながら子育てしやすくすることが重要だ。硬直的な長時間労働の見直しや休暇の取得促進など、企業が果たすべき役割も大きい。

辺野古訴訟 民意を封じ込める判決

 役所がいったんこうすると決めたら、それを役所が自ら覆すことは難しい。たとえ多くの人の思いと違っても、当初の決定に違法な点がなければ裁判所は取り消しを認めない――。

 沖縄・米軍普天間飛行場の辺野古沖への移設計画をめぐる訴訟で、裁判所が示した判断を一言でいえばそうなる。

 最高裁はきのう沖縄県側の上告を退ける判決を言い渡した。前の知事が認めた海の埋め立て処分を、後任の知事が取り消すことができる要件は何か。そんな法律論を淡々と展開したうえで導き出した結論である。

 12ページの判決全文から浮かびあがるのは、民主主義の理念と地方自治の精神をないがしろにした司法の姿だ。

 たしかに行政の意向が二転三転したら、業者らに混乱が起きる。だが自治体がめざす方向を決めるのは住民だ。辺野古移設に反対する県民の意思は、県トップの交代を招いた2年前の知事選をふくむ数々の選挙によって、くり返し表明されている。

 にもかかわらず、政府は以前の路線をそのまま引き継げと次の知事に迫り、裁判所も政府に待ったをかけない。

 沖縄の人びとの目には、国家権力が一体となって沖縄の声を封じ込めようとしているとしか映らないのではないか。

 判決が及ぼす影響は辺野古問題にとどまらない。動き出したら止まらない公共工事など、この国が抱える病を、行政自身、さらに司法が正すことの難しさをうかがわせる。その観点からも疑問の残る判決といえよう。

 沖縄県側の敗訴が確定し、政府は埋め立て工事にお墨付きを得たことになる。だが、事態が収束に向かうわけではない。移設までにはなお多くの手続きがあり、民意を背負う翁長知事は与えられた権限をフルに使って抵抗する構えだ。

 それを知りつつ、政府が工事再開に突き進むのは賢明とはいえない。沖縄の声を政策決定過程に反映させることにこそ、力を注ぐべきだ。

 訴訟に先立つ6月、国と地方との争いの解決にあたる第三者委員会は、普天間の返還という共通の目標の実現にむけた真摯(しんし)な協議を、政府と県の双方に求めた。政府はこれに前向きとは言いがたいが、「辺野古が唯一の解決策」と唱え続けても、展望が開けないのはこの間の経緯から明らかだ。

 安倍首相は「沖縄の気持ちに真に寄り添う」大切さを説く。自らの言葉を実践し、この小さな島が抱える負担を少しでも軽くする道を示さねばならない。

新奨学金制度 心もとない船出だ

 大学・短大や専門学校に進む学生を対象に、返す必要のない「給付型奨学金」の制度を、政府が再来年春の進学者から本格的に導入すると決めた。「貸与型」だけだった施策の大きな変更であり、意義深い。

 だが規模があまりに小さい。将来をになう若い人材をどこまで励まし、支えることにつながるのか、心もとない。

 制度では、給付の対象は1学年あたり約2万人となる。住民税が課税されない低所得世帯から進学する若者だけで、推計で毎年6万人いるのに、その3分の1しかカバーできない。

 金額も月3万円、年36万円が軸だ。国立大の授業料は年約54万円で、私学はさらに高い。入学金も必要だ。私学に通う自宅外生は月4万円に増えるが、授業料の減免や無利子の奨学金など他の制度も組み合わせて、何とかやっていけるレベルの額でしかないと研究者はいう。

 思いおこしたい。

 選挙権が18歳に引き下げられたことし夏の参院選で、各党は給付型奨学金の導入を公約にかかげた。与党の自民、公明両党も例外ではない。そして秋の臨時国会で安倍首相は「若者への投資」を語り、「給付型の奨学金も来年度予算編成の中で実現いたします」と言明した。

 その結果がこれである。

 給付の範囲を段階的に広げ、全学年が対象になる21年度でも必要な予算は約200億円だ。もちろん小さな額ではないが、国の財政規模を考えると、若い世代がいかに冷遇されているかを物語る数字といえる。

 運用面でも気がかりがある。

 給付を受ける学生は各高校が推薦して決めるが、その際、政府は「高い学習成績」や「教科以外の学校活動の大変優れた成果」を求める考えだ。

 だが経済的に苦しい生徒ほど学習や活動にとり組む余裕がなく、成績がふるわないのが現実だ。学生の努力を促すためというが、本当に困っている若者の背中をどこまで押せるのか。

 いま日本は、非正規労働の増加などによって中間層がやせ細り、学費の負担に耐えきれない家庭が増えている。

 進学自体をあきらめる。アルバイトに追われ学業がおろそかになる。卒業後も奨学金の返済が重荷となって、家庭をもてない。そんな現象がはびこり、国の根幹を揺るがしている。

 奨学金は一部の貧しい家庭を助けるためのもの、という発想では、問題は解決しない。

 教育は未来へのバトンだ。次の世代にこの国をどう引き継ぐか。政治の責任は重く大きい。

辺野古判決確定 翁長氏は徹底抗戦続けるのか

 米軍普天間飛行場の辺野古移設に関する行政手続きに瑕疵(かし)はない、とする司法判断が確定した。その意義は大きい。

 最高裁が、移設先の埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事の処分を違法だと認定した高裁判決を支持する判決を言い渡した。翁長氏の上告は棄却された。

 菅官房長官は記者会見で「今回の判決などに沿って、県と協力して移設を進める」と強調した。

 政府は、中断していた埋め立てに関する作業を早期に再開する方針だ。移設の実現へ、作業を着実に進めることが重要である。

 判決は、普天間飛行場周辺の騒音被害の軽減や危険性の除去に加え、施設面積の相当程度の縮小、住宅地上空の飛行の回避など移設の効用に言及した。移設先の環境保全措置の合理性にも触れた。

 仲井真弘多前知事の埋め立て承認に「違法があるとうかがわせる事情は見当たらない」とも認定した。妥当な判断である。

 外交・安全保障政策は本来、国の専管事項である。高裁判決は、自治体には、国全体の安全について判断する権限や組織体制、立場がない、と指摘している。

 翁長氏には、最高裁判決を重く受け止めてもらいたい。

 疑問なのは、翁長氏が徹底抗戦の構えを崩していないことだ。翁長氏は記者会見で、埋め立て承認取り消しの撤回に応じたが、「あらゆる手法を駆使し、辺野古新基地は造らせない」と強調した。

 今後は、知事権限を行使し、来年3月末で期限が切れる岩礁破砕許可の更新や、移設工事の設計変更時の承認を拒否することなどを視野に入れているという。

 だが、今年3月に国と県が合意した和解条項には、「判決確定後、互いに協力して誠実に対応することを確約する」とある。翁長氏は、この条項の趣旨を一方的にないがしろにするつもりなのか。

 翁長氏の承認取り消しという「不法行為」が1年2か月余にわたり、政府と県の対立を煽(あお)って混乱を深めた事実は重い。

 在日米軍は、不時着事故を受けて停止していた普天間飛行場の輸送機オスプレイの飛行を「機体に問題がない」として再開した。

 オスプレイは米軍の抑止力維持に欠かせず、機体が事故原因でない以上、再開はやむを得まい。ただし、米軍は再発防止策の徹底や情報公開に努めるべきだ。

 辺野古移設による現飛行場の危険性除去こそが最大の安全対策であることも忘れてはならない。

日大東北相撲部 暴力は指導でなく犯罪行為だ

 「指導」に名を借りた暴力行為が、いまだにまかり通っていた。暗澹(あんたん)たる思いにさせられる。

 福島県郡山市の日本大学東北高校の相撲部で、顧問の男性教諭とコーチが、部員に暴行を繰り返していたことが明らかになった。

 今年5月頃、教諭はデッキブラシで1年生の部員をたたいて、けがをさせた。部員は1週間近く練習を休み、7月末に転校した。

 教諭が部員の頭を硬質ゴム製のハンマーでたたいていたことも、今月になって判明した。平手打ちや足蹴りも加えていた。

 どのような理由があるにせよ、暴力は、指導でなく、犯罪行為である。生徒の人格を踏みにじるものだ。部活動の指導者は、肝に銘じなければならない。

 日大東北高校相撲部は、全国高校総体に14回出場するなど、強豪校として知られる。

 教諭は、コーチを経て、今年度から顧問になった。日大相撲部時代に、全日本選手権の個人戦で準優勝している。自らの実績をかさに着て、部員に威圧的な態度で接し、服従させたのではないか。

 既に日大を退職したコーチも、ノコギリを用いて部員をしごいたという。常軌を逸した行為が常態化していたと言うほかない。

 大相撲でも、時津風部屋の若手力士の暴行死事件など、暴力的体質が幾度となく問題化した。

 暴力を振るわれた選手は、指導する立場になると、自らが暴力を振るうケースが少なくない。負の連鎖を断ち切ることが肝要だ。

 看過できないのは、今回の学校側の無責任な対応である。

 7月に教諭の暴力行為を把握していながら、対外試合の引率を自粛させただけで、授業や相撲部の指導は、そのまま続けさせた。県への報告も怠った。

 新たに暴力が判明した今月16日になって、ようやく部活動の指導をやめさせ、自宅謹慎とした。校長は「監督不行き届きだった」と謝罪した。危機管理の意識が、あまりにも欠如している。

 大阪市立桜宮高校のバスケットボール部の生徒が2012年、顧問教諭から体罰を受けて自殺した事件では、暴行と傷害罪に問われた教諭の有罪が確定した。

 事件を受けて、文部科学省は体罰禁止の指導を強めた。今回の問題は、それが教育現場に徹底されていないことを示している。

 試合に勝つためなら、「愛のムチ」は許される。そうした勝利至上主義の誤った認識を部活動の指導者から一掃する必要がある。

2016年12月20日火曜日

中国の構造改革遅らせる不動産バブル

 中国共産党は来年の経済運営を固める「中央経済工作会議」で深刻な不動産バブルの抑制と、需要不足を補う積極財政の継続を決めた。特に実需を反映しない住宅価格の高騰は深刻で、抜本的な対策が必要だ。

 住宅バブルは1年前に、同会議で住宅在庫の解消を掲げた副作用でもある。中国の金融機関はこぞって不動産向け融資を拡大した。多くの公有企業は、不振の本業で設備投資せず、短期的利益が見込める不動産に資金を回す投機に走った。

 歩調を合わせるように既に持ち家がある富裕層が、うまみのある投資物件として大都市部で2軒目、3軒目の住宅を買っている。既得権益層は手持ちの資金ではなく、金融機関やファンドの資金を利用している。実需の裏付けに乏しい投機である。

 その証拠に小都市の住宅在庫は一向に解消されない。一方、大都市では暴騰の結果、若年世代は一生分の給与をつぎ込んでも生活に必要な1軒目の家さえ買えない。異常な事態だ。

 「住宅は住むためのもので(投機対象として)弄ぶものではない」。中央経済工作会議が当たり前の事実を指摘せざるを得なかったのは、バブルの深刻さを示す。11月の新築住宅価格指数も、70都市のうち55都市で前月に比べて上昇している。

 中国の住宅商業取引の歴史は20年に満たない。しかも土地公有制を維持する中国の不動産市場で、売買されるのは期限付きの使用権だけだ。所有権ではないものが世界に例がない高価格で取引され、一般庶民が苦しむ。社会主義を掲げる中国の矛盾でもある。

 中国当局は過去何度も試された単純な価格抑制策ではなく、公正な不動産市場を形成する恒久的なルール作りを急ぐべきである。

 中国が掲げてきた過剰な生産能力の削減を主とする構造改革は、なお道半ばだ。鋼材など建設資材相場が不動産バブルで持ち直し、生産者は実質的に減産の手を緩めてしまった。不動産バブルが、喫緊の課題である構造改革を遅らせる皮肉な結果になっている。

 中国の経済統計はやや持ち直している。堅調な個人消費や一部工業生産の底打ちが寄与した。だが、これだけで中長期的な成長の確保は難しい。持続可能な成長を目指すには、理念に基づく構造改革を着実に進めるしかない。

米ロはシリア和平へ連携を

 シリアのアサド政権が第2の都市アレッポを、反体制派から奪い返したと宣言した。これにより、政権軍は主要都市をほぼ制圧し、軍事的に優位に立った。政権を支援するロシアの影響力も一段と増すだろう。6年近く続く内戦の重大な転換点である。

 アレッポをめぐる攻防は、2011年に始まった内戦で最も激しい戦いになった。数十万人の市民が政権軍の攻撃にさらされ、水や食料の入手も滞った。

 アサド政権が取るべき道は反体制派を追いつめることではない。反体制派を支持する市民のアレッポからの退避を保証し、市内に残る人々の生活の正常化を急がねばならない。

 大切なのは国を荒廃させた内戦を速やかに終わらせ、国民の間に広がる亀裂を修復することだ。反体制派は今回、アレッポから退くことをロシアと合意した。アサド政権の後ろ盾となってきたロシアが果たすべき責任は重い。

 ロシアのプーチン大統領は日本での安倍晋三首相との共同記者会見で、「次はシリア全体の停戦だ」と語り、政権と反体制派による新たな和平交渉を検討していることを明らかにした。

 シリア内戦の死者は30万人を超えた。国外への難民と国内の避難民をあわせ、国民の半分が住む家を追われた。多数の市民を虐殺したアサド政権の罪は免れないが、まずは未曽有の人道危機を終わらせることを急がねばならない。

 重要なのは米国の出方だ。アサド政権を支えるロシアと、反体制派を支援する米国の足並みがそろわず、内戦は泥沼化した。国際社会の機能不全は、過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を伸ばす土壌にもなった。

 米国のトランプ次期大統領は、IS掃討でロシアとの連携を示唆している。IS掃討へ米ロの連携は大切だ。内戦終結にも広げてほしい。米国や欧州諸国が和平協議に加わることがアサド政権やロシアの行き過ぎを抑え、ひいては将来の中東安定につながるはずだ。

オスプレイ再開 県民より米軍なのか

 政府はなぜ、これほどまでに米軍の言うがままなのか。その姿勢が改めて問われている。

 沖縄県名護市沿岸で、米軍輸送機オスプレイが大破した事故から1週間足らず。同種機の飛行を米軍が全面再開した。

 先週末、民放テレビに出演した安倍首相は「徹底的な原因究明」を強調。「今まで米側はなかなか運航を止めてこなかった。しかしカーター国防長官が日本においては一時的に止めてくれた」と語っていた。

 だがそのわずか3日後、米軍は飛行を再開した。「空中給油の際の給油ホースとオスプレイのプロペラの接触が原因であり、機体そのものが原因ではない」という米軍の説明を、政府はそのまま容認した。

 大破事故と同じ日、普天間飛行場で、別のオスプレイが胴体着陸する事故も起きた。ここでも「確立されたマニュアルに従って衝撃を吸収するパッドの上に着陸した」との米軍の説明を政府は受け入れた。

 米軍の説明の根拠は何か。同様の事故が再発する恐れはないのか。胴体着陸事故の日本側への通報が遅れた理由は――。米軍の、そして日本政府の説明は十分とは言えない。

 日本の捜査機関が事故調査に手を出せないことも、県民の怒りを増幅させている。米軍関係の事件・事故に、基地の外でも米軍に警察権を認めている日米地位協定があるからだ。

 今回の大破事故でも、海上保安本部が米軍に捜査協力を申し入れているが、返事さえない。

 日本側が捜査に加われないのならなおさら、政府は米軍に十分な情報開示を求め、国民・県民に丁寧に説明すべきなのに、その努力はあまりに乏しい。

 「もうこういう政府は相手にできない。法治国家ではない」

 翁長雄志知事の言葉は、県民の不安を顧みない米軍への怒りとともに、米軍にもの言えぬ政府への失望の表れだろう。

 事件や事故のたびに問題となる地位協定の改定にも、政府は本腰を入れて取り組むべきだ。

 事故後、在沖米軍トップの四軍調整官が副知事に「パイロットは住宅や住民に被害を与えなかった。感謝されるべきだ」と述べ、「占領者意識そのもの」と県側の猛反発を受けた。あまりに早い今回の飛行再開も、米軍・日本政府と県との溝をいっそう深めかねない。

 オスプレイはすでに本土各地を飛んでおり、配備計画も進んでいる。オスプレイによる不測の事故も、そして国民不在の事後の対応も、沖縄だけの問題ではない。

潜水機事件 看過できぬ中国の行動

 やはり中国は南シナ海全域を支配しようと考えているのではないか。そんな疑いを招く事件がまた起きた。

 フィリピン・スービック湾から約90キロの沖合で米軍の無人潜水機を中国軍の艦船が捕獲し、米軍の返還要求を無視して持ち去った。米中間の協議で返されることになったが、周辺各国には緊張を強いられる数日間となった。

 世界的に重要な航路でもある南シナ海に対立を持ち込まないよう、強く望みたい。

 米海軍が無人潜水機を使っていたのは、潜水艦の運用に必要な水質などの調査のためとみられる。米側は「機密情報にはかかわらない」と説明するが、軍事目的にほかならない。ただ、米比両国は軍事同盟を結んでおり、この海域での米軍の活動は特異なこととは言えない。

 潜水機は米軍のものであることが明らかな状況で、しかも米軍の意向を無視して持ち去った行為が正当化できるだろうか。

 中国国防省の報道官は潜水機捕獲の理由を「往来する船舶の安全と人員の安全に危害をもたらすのを防ぐため」と説明した。同時に「米軍が長期にわたり中国の面前の海域で接近偵察と軍事測量を行っている」として、中止を強く求めた。

 しかし、今回の事件が起きたのは、中国からはるか遠く、フィリピン周辺の海域である。

 中国は、南シナ海の大半を囲むようにしてU字形の「9段線」を描き、この海域に優先的管轄権を有すると主張してきたが、今年7月にあったオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の判決で全面否定された。

 中国側の発言から透けて見えるのは、判決の論点に正面から触れるのを避けて別の議論を持ち出し、南シナ海全域における自国の権利にこだわる姿勢だ。

 南シナ海では、中国がスプラトリー(南沙)諸島で埋め立てた7カ所の岩礁に防空システムを配備したことが明らかになったばかりだ。これも海域の安全確保に逆行する動きとして憂慮される。

 特定の国の力による支配ではなく、各国が協調して海域の平和を維持する方向を目指さねばならない。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との間で懸案になっている南シナ海域での「行動規範」づくりを加速させることが第一歩となる。

 米国にも注文がある。対応次第では中国の反発をいたずらに強め、悪循環に陥りかねない。トランプ次期大統領には、対立をあおらぬよう、言動に指導者らしい冷静さを求める。

北陸新幹線延伸 熟慮を欠く決定に疑問が残る

 巨額の投資に見合う効果を上げられるのか。採算性や必要性について十分な議論を尽くしたとは言い難い決着である。

 与党の作業部会が、北陸新幹線で未着工の福井県・敦賀から大阪への延伸ルートを決めた。福井県・小浜と京都を経由する「小浜―京都案」だ。

 2031年に着工し、46年の完成を見込む。東京―大阪間を結ぶ北陸新幹線は、災害時対応の観点から全線開通の必要性を指摘する声がある。ただ、今回の計画でも完成は今から30年後で、リニア中央新幹線の大阪延伸より後だ。

 140キロに及ぶ小浜ルートの建設費は2兆700億円と試算され、原則として国が3分の2、自治体が3分の1を負担する。

 北海道、九州でも新幹線の建設が進み、財源の確保は容易ではない。北陸新幹線の延伸を今から確定させることには疑問が残る。

 作業部会では、滋賀県・米原で東海道新幹線に接続する「米原案」、京都府舞鶴市を通る「舞鶴案」と併せて3案を検討した。与党は今回の決定理由について、運賃が最も安く、時間短縮効果も大きいことなどを挙げている。

 投入する資金に対して利用者らがどれほどの恩恵を受けるかを示す数値は、効果が費用をわずかに上回る程度だ。

 沿線自治体は新幹線効果を地域活性化の起爆剤にしたいのだろうが、誘致活動の過程で繰り返されたのは、相も変わらぬ政治頼みの「我田引鉄」の主張だった。

 滋賀県は県内駅を通る米原案を推し、京都府は将来の山陰新幹線の整備を視野に舞鶴案を訴えた。地域全体で新幹線をどう活用するか、将来の青写真について熟慮を重ねたとは言えまい。

 開業済みの区間でも明暗が分かれる。金沢などは観光客の増加で潤う一方、利用客が予想を大幅に下回っている駅もある。

 新幹線の開業に伴い、並行在来線が第3セクターに転じたために運賃が上昇し、地域によっては住民負担が増している。

 今回の延伸は1973年に策定された整備新幹線計画に沿ったものだ。だが、その後、高速道路網や地方空港など新幹線を代替する交通インフラの整備が進んだ。

 当時とは経済状況も大きく異なる。とりわけ財政事情が逼迫(ひっぱく)した現状では、新幹線を優先して予算配分する余裕はないだろう。

 整備新幹線の着工計画は、全国的な交通戦略、住民の利便性、財源問題など、総合的な見地から慎重に判断すべきである。

米潜水機奪取 衝突を煽る中国の実力行使だ

 南シナ海の緊張を煽(あお)る危険な行動である。中国の無法ぶりが一段と鮮明になったと言えよう。

 米国防総省は、南シナ海で海洋調査を行っていた海軍の無人潜水機が、中国海軍艦艇に奪取されたと発表した。

 現場は、ルソン島に近いフィリピンの排他的経済水域(EEZ)で、米側は軍事活動が可能な海域だと強調している。

 潜水機は、海水の塩分濃度や水温、透明度など対潜水艦作戦に欠かせないデータを収集していた。米側が、国際法で認められた活動を妨害したとして抗議し、返還を求めたのは当然である。

 中国は、返還で米国と合意した。早期に実行せねばならない。

 国防省が「米軍が頻繁に艦船や航空機を派遣して偵察や軍事測量を行っていることに断固反対する」と主張したのは筋違いだ。

 習近平政権は南シナ海を自国の「核心的利益」と位置づける。対米核抑止力の要となる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載する戦略原潜を配備している。

 中国は、米軍が戦略原潜の展開状況などを探ることに苛立いらだちを強めていたのではないか。

 今回の事件は、南シナ海から西太平洋への戦略原潜進出を目指す中国と、それを封じ込めたい米国の攻防を象徴するものだ。

 懸念されるのは、中国が七つの人工島の軍事拠点化を加速させていることである。今月中旬、対空砲など防空システムの配備が判明した。新型の対空ミサイルを搬送する動きも伝えられる。

 トランプ次期米大統領が就任するまでの政権移行期に、力による南シナ海の支配を一層強化しようとする思惑があるのだろう。

 このままでは、米国との対立が深まり、武力衝突が起きかねないことを認識せねばなるまい。

 トランプ氏が中国を刺激する言動を繰り返し、無用な混乱を招いていることも心配だ。

 1979年の米中国交樹立に伴い、米政府は台湾と断交し、台湾を中国の一部とする「一つの中国」の原則を維持してきた。トランプ氏は「貿易などで合意できないなら、なぜ縛られないといけないのか」と述べ、疑問を呈した。

 今月上旬には台湾の蔡英文総統との電話会談に応じ、米台の指導者が直接接触を避ける慣例を破った。長年、米中関係安定の基盤となってきた原則の見直しを安易に口にしたことには驚かされる。

 トランプ氏が一連の言動を対中カードと考えているのなら、軽率で危ういと言わざるを得まい。

2016年12月19日月曜日

国際社会の安定へ問われる国連の役割

 国連事務総長の潘基文氏が月末に任期満了で退任し、1月からポルトガル元首相のグテレス氏が新事務総長になる。10年ぶりの「国連の顔」交代だ。

 第2次大戦後の世界秩序を主導してきた米欧諸国はいま、変化を求める政治のうねりに揺れ、内向きで自国優先の路線に走ることが懸念されている。国際社会の安全と安定を支える国連がどんな役割を果たすかが問われる局面だ。

 国連にとって不安な点のひとつは、米国のトランプ次期大統領の外交姿勢が読めないことだ。

 米国が自国の利益ばかり優先して大国同士の直接取引を好み、国連を舞台とする多国間の調整や合意づくりをないがしろにすることはないか。環境や開発、人権といった国連が時間をかけて成果をあげてきた分野を軽視し、国際的な合意や規範から一方的にはずれる恐れはないか。疑問は尽きない。

 地球温暖化対策でトランプ氏は、国連のもとで合意に至ったパリ協定から離脱する意向を示したことがある。そうなれば影響は甚大だ。北朝鮮の核問題やシリア内戦など、国連が直面する課題は山積している。米国が責任ある態度を示し、難題に立ち向かわない限り国連は機能しない。

 建設的に関与するよう、各国はトランプ次期政権に働きかける必要がある。国連に限界や欠点は少なくないが、ほかに代わりうる枠組みはない。新しい事務総長のリーダーシップにも期待したい。

 日本がソ連(現在のロシア)と国交を回復した1956年に国連に加盟してから、この18日で60年を迎えた。安全保障理事会の非常任理事国に最も多く選ばれ、国連財政への拠出も米国に次いで多いなど、大きな貢献をしてきたことを誇ってよい。

 国連の平和維持活動(PKO)で「駆けつけ警護」などを可能にし、貢献強化へ新たな一歩も踏み出した。

 だが、日本の発言力や存在感はまだまだ不十分だ。例えば国連で働く日本人職員の数は、望ましいとされる水準を大幅に下回っている。国連で活躍する人材を輩出できる態勢や環境づくりが課題だ。

 日本の役割拡大をめざす安保理の機構改革もそろそろ前に進めたい。それには日本の地位強化が国連にどう役立つのか、説得力のある案を示さなければならない。求められるのは、外交の大きなビジョンを構築し推進する力だ。

ゴーン改革の第2幕開けるか

 「ゴーン改革」の第2幕が始まるのだろうか。1999年に経営危機の日産自動車に乗り込み、V字回復を実現した同社のカルロス・ゴーン社長の動向に再び注目が集まっている。

 一つは燃費不正問題に揺れる三菱自動車との提携だ。日産が三菱自の筆頭株主になり、ゴーン社長が三菱自会長を兼任する新体制が発足した。目下の課題は不正を繰り返した三菱自の体質を改め、業績を回復させることだが、ゴーン社長は「アジアでミツビシのブランドは強い。再建を成功に導く自信がある」という。

 両社の提携が注目されるのは、技術的な要因も大きい。

 日産はエコカーの本命として電気自動車(EV)に力を入れ、三菱自は充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)を重視してきた。PHVはエンジンと電池の二つの動力源を持つが、通常のハイブリッド車が「エンジンが主、電池が従」で走るのに対し、電池中心のPHVはEVに近い。

 世界では車の環境規制の見直しが進み、米欧や中国の当局はEVやPHVを重視する方針を打ち出しつつある。日産―三菱自連合にとっては追い風という見方もあり、両社が提携効果を発揮して、世界のエコカー市場で存在感を拡大できるか注目したい。

 日産が11月に決めた系列部品メーカー最大手カルソニックカンセイ株の売却も、メッセージ性が高い。自動運転技術でライバルに負けないためには、系列企業に頼るのではなく、独ボッシュのようなメガサプライヤーと呼ばれる独立系の巨大部品会社との関係を強めるという意思表示である。

 ゴーン流経営の特長は「ハイブリッド重視」や「系列重視」を掲げる最大手のトヨタ自動車とあえて反対の方向を打ち出すことをためらわないことだ。横並び体質が根強い日本の産業界において、稀有(けう)な存在といえる。

 多様な経営スタイルが競い合うことで、日本の自動車産業がより強くなる展開を期待したい。

北陸新幹線 あまりに前のめりだ

 北陸新幹線を福井県敦賀市から大阪市へ延伸するルートが固まった。複数の案を検討してきた与党が、福井県小浜市と京都市を経由する案を採用した。

 北陸や関西の政財界からは早期着工を求める声が相次ぐが、あまりに前のめりだ。

 小浜・京都ルートの建設には2兆円超かかりそうだ。建設を決めるのは政府だが、財源のあては当分ない。国の財政状況は厳しく、社会保障をはじめ、多額の公費が求められる課題は多い。北陸新幹線の延伸を特に優先する必要性はない。

 東京から長野、富山を経て大阪に至る北陸新幹線の整備計画は、1973年に決定した。現在、北海道と九州で建設中の新幹線2区間も同じだ。

 新幹線と高速道路網の整備で、移動時間を縮め、東京の過密と地方の過疎を解決する。故田中角栄元首相が提唱した日本列島改造論のような考え方が背景にあった。40年余りを経て、全国の新幹線は延べ2765キロに達した。安倍政権は「地方創生回廊」と銘打ち、新幹線整備をさらに推し進める方針だ。

 ただ、期待した効果がどれほどあったかは冷静に見極める必要がある。東京一極集中は加速し、地方では急速な高齢化と人口減が進む。新幹線が通る中核都市の多くも例外ではない。

 北陸新幹線は23年春に東京―敦賀間が完成する。「ここまで造れば、大阪まで早く全通させた方がよい」という考え方もあろう。だが、ルート案の検討過程や内容には疑問が尽きない。

 滋賀県は同県米原市でJR東海の東海道新幹線と接続する案を推した。建設費が6千億円弱と他の案より圧倒的に安い。だがJR東海と、北陸新幹線の運行を担うJR西日本が難色を示したため、与党側が却下した。

 京都府は舞鶴市を経由するルートを支持した。しかし選定にあたってはどの自治体も沿線地元への利益を強調し、日本全体にとってのメリットなど、幅広い視点が見えなかった。

 JR西は京都―新大阪間について、東海道新幹線と別に北陸新幹線の線路を敷いて、と望む。人口密集地のためトンネルが大部分を占める可能性が高く、建設費はかさむ。そこまでして新たな線路は必要なのか。

 新幹線はあれば便利だ。政治家が「実績」とアピールしやすいこともあって、「建設ありき」の議論になりやすい。

 ただ、新幹線建設に多額の税金が充てられることを忘れてはならない。必要性や妥当性について国民が十分納得できない限り、着工に進むべきではない。

北朝鮮核問題 現状打破へ対話模索を

 北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記の死去から、おとといの17日で5年が経った。核実験を強行し、軍重視の先軍政治を進めた父の正日氏から権力を受け継いだのは、三男の金正恩(キムジョンウン)委員長である。

 スイス留学の経験もある若い指導者だ。政権発足当初は「変化」を期待する声もあったが、願いは空しくついえた。

 今年だけでも2度の核実験に踏み切ったほか、各種の弾道ミサイル発射実験もやめようとしない。無謀というほかない金正恩政権に、最大の非難が浴びせられるのは当然である。

 ただ、このまま事態が悪化し続けるのを見過ごすことはできない。日米韓はじめ周辺国は、困難であっても問題解決の道を探らねばならない。

 この間、米国のオバマ政権は「戦略的忍耐」を掲げて北朝鮮を突き放し、韓国の朴槿恵(パククネ)政権は圧迫政策を進めた。それは逆に北朝鮮に勝手に振るまう時間を与え、核・ミサイルの開発技術を飛躍的に高めさせた。

 この悪い流れを、何とかして変えなければならない。

 北朝鮮の核開発の手を止めさせるためには、日米韓を中心とした関係国が、これまで続けた放置の状態を改め、何らかの関与の行動に出るほかない。

 朴大統領の進退で揺れる韓国では、次期大統領をめざす有力候補予定者らが、南北対話の重要性を唱え始めている。

 南北交流の象徴だった開城(ケソン)工業団地を閉鎖するなど、かつてないほど膠着(こうちゃく)している北朝鮮との関係をどう改善するかは、大統領選挙の大きな争点の一つになるだろう。

 北朝鮮が最も関係を重視する米国は、トランプ次期政権がどう対応するか不透明だ。ただ、オバマ政権の政策を踏襲するならば、事態はさらに悪化しかねないことを悟るべきだ。

 日本政府は拉致など人道問題に関する水面下の日朝接触を続けている。核・ミサイル問題は日本にとっても直接の脅威となりうるだけに、新たな関与策づくりに積極的に動くべきだ。

 北朝鮮はこの数カ月、表向きは挑発的な行動を止めている。トランプ政権の出方や、韓国の混乱の行方を見すえているためとみられている。

 朝鮮半島の非核化問題は、これまで6者協議で話し合われてきたが、8年前に止まったままだ。その6者協議の再開も視野に入れ、早く対話基調をつくりださねばならない。

 積もり積もった不信感を解くのは決して容易ではないだろうが、すべての関係国が努力を尽くす以外、道は開けない。

日銀短観改善 新規投資で成長への布石打て

 企業心理が上向いたのは明るい兆しだが、持続性には疑問符もつく。

 企業は目先の円安・株高などに一喜一憂せず、成長力の強化に地道に取り組むことが重要だ。

 日銀の12月の企業短期経済観測調査(短観)は、景況感を示す業況判断指数が、大企業・製造業で前期比4ポイント高い10となり、1年半ぶりに改善に転じた。

 大企業・非製造業は前期比横ばいの18、中小企業は製造業、非製造業ともに指数が上昇した。

 トランプ次期米大統領の経済政策への期待を背景に円安が加速し、電機や自動車など製造業を中心に景況感が回復した。原油価格の持ち直しで石油・石炭製品などの業種も改善が目立った。

 気がかりなのは、3か月先の業況を予想する指数の不振である。大企業も中小企業も、先行きの業況悪化を見込んでいる。

 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱など、トランプ氏の経済政策の影響を見極めたいとするムードが経営者の間に強いのだろう。

 企業が今年度の事業計画の前提とする想定為替相場は、平均で1ドル=104円90銭と、実際の市況より10円以上も円高である。トランプ相場による円安は長続きするのか、自信を持てないようだ。

 大企業の今年度の設備投資計画は前年度比5・5%増で、9月調査の6・3%増より減速した。新事業拡大などの攻めの投資を抑制する傾向が強いとみられる。

 企業利益はここ数年、過去最高レベルで推移し、内部留保は最新の統計で約370兆円に上る。資金不足が投資の伸び悩みの要因ではないのは確かである。

 中長期的には、人口減による国内市場縮小や、米国が保護主義を強めた場合の輸出減など、先行きに懸念材料があるのは分かる。

 だが、リスクに立ちすくむのではなく、将来の需要創出に向けた布石を打つことこそが、経営者本来の仕事だろう。

 今回の短観は、企業の人手不足感が一段と増していることも裏付けた。雇用判断の指数は「不足」を感じる企業が、「過剰」とする企業を大きく上回り、その水準はバブル末期に匹敵する。

 とりわけ、マンパワーに依存する非製造業や、知名度の低い中小企業の人手不足は深刻だ。従業員を確保できないため、業容縮小を迫られる企業も出ている。

 賃金を含む処遇改善で人材を確保しようとする企業を、政府も後押しする必要がある。それが日本経済の活性化にもつながろう。

小池氏VS都議会 改革の推進には協調も必要だ

 不毛な対立は排し、冷静な政策論議の場にしなくてはならない。

 東京都議会の定例会が閉会した。小池百合子知事の就任後2度目となった今定例会は、最大会派の自民党との対立が際立った。

 自民党は、事前に詳しい質問内容を通告せず、小池氏が対応しきれずに、答弁がかみ合わない場面が見られた。前回の定例会で、小池氏が、「なれ合いや根回し」を疑問視したことに対し、自民党が意趣返しをしたものだ。

 行き過ぎた事前調整は、議会の形骸化につながるが、通告なしに大量の質問を浴びせるようなやり方は混乱を招くだけだ。都政は予算規模が大きく、課題も多岐にわたる。必要な調整を経た上で、実のある論議を戦わせてほしい。

 自民党が態度を硬化させたのは、来年度予算の編成を巡り、小池氏が「政党復活予算」の廃止を打ち出したことに起因する。

 都の予算原案に盛り込まれなかった事業費を、各会派が業界団体などの要望を受けて復活させる。他の道府県にはない慣例とされ、毎年200億円が確保されてきた。都民から見れば、不透明な仕組みだったことは否めない。

 小池氏は「(都議会が)白地小切手で使える予算」と断じ、自身が業界団体からヒアリングをする方式に切り替えた。これについても、短時間の聞き取りで適切な判断ができるのか、疑問が残る。

 都民が納得できる予算編成の在り方を模索してほしい。

 長年、「蜜月関係」にあった自民、公明両党にも亀裂が生じている。第2会派の公明党が独自にまとめた議員報酬削減案が事前に報道されたことに、自民党が反発して強硬に修正を求めたためだ。

 公明党は「自公の信頼関係が崩れた」として、自民党との協力関係を見直し、小池氏を支援する意向を明確にした。小池氏は「仲間を増やしたい」と歓迎する。

 自民党都連は、知事選で反旗を翻した区議7人を除名処分とした。小池氏は、4000人以上が参加する自らの政治塾から、都議選に独自候補を立てる方針だ。

 来夏の都議選に向けた政治的な駆け引きが、都議会への関心を高めている側面はあるだろう。

 しかし、対立ばかりが深まって、都政が停滞すれば、結果として都民の不利益になる。

 東京五輪や豊洲市場問題など、都政の重要課題から目をそらすことはできない。小池氏と都議会は、都民の視点に立って、建設的な関係を築いてもらいたい。

2016年12月18日日曜日

円安でも用心深い企業心理

 トランプ米次期大統領の政策への期待で進む円安と株高が景気にどう波及するのか、企業は用心深く見極めているようだ。

 日本銀行による12月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)は代表的な数字である大企業製造業の業況判断指数がプラス10と9月調査を4ポイント上回った。景況感の改善は1年半ぶりになる。

 米大統領選に勝ったトランプ氏がインフラ投資や法人税減税で米経済を成長させるとの見方が市場に広がっている。ドル買いが進み、円の対ドル相場は大統領選前に比べ10円以上の円安だ。グローバルに展開する大企業の収益好転も見込まれ、日経平均株価も選挙前から2千円以上、上昇した。

 市場の雰囲気は変わったものの、企業に楽観的な見方はまだ浸透していない。「トランプ相場」の持続性が不透明だからだ。

 2017年1月20日の大統領就任以降、同氏がドル高修正や保護貿易主義に動く展開も予想される。次期大統領の構想が米議会を通じてすんなり実現するかどうかは不明確だ。3カ月先の見通しを示す業況判断指数は大企業、中小企業とも現状より悪化した。

 非製造業の業況判断は大企業が横ばいで、中小企業も1ポイント改善にとどまる。流通関連の産業は個人消費の低迷になお苦しむ。急激な円安は輸入品やエネルギーの価格上昇につながり、内需型の産業には経営の逆風になる。

 大企業全産業の今年度の設備投資計画は9月調査に比べて0.7ポイント低い前年度比5.5%増だった。経営環境の好転だけでなく、国内経済の成長拡大への手応えがないと、企業は前向きな投資に動かない。中小企業を中心に人手不足の度合いも強まり、事業拡大への足かせになりかねない。

 企業の1年後、5年後の物価見通しは9月時点を上回った。14年3月の公表開始以来で初めてだ。物価上昇の中で賃金が伸び悩めば個人消費を冷やしかねない。企業心理の改善に向け政府の成長戦略の着実な実行が欠かせない。

開かれた組織でイノベーションの加速を

 組織の壁を越えて他企業や大学と連携し、技術革新や新規事業の創出につなげるオープンイノベーションの試みが活発になっている。技術やビジネスの前線が急速に広がる中で、社内の資源のみに頼る経営はもはや時代遅れだ。開かれた組織や企業文化の構築は、避けて通れない課題である。

 最近の動きで注目されるのがトヨタ自動車だ。同社はもともと自前主義が強く、人材も生え抜き中心。社外との連携作業はあまり得意ではなかったが、最近になって経営のかじを切り替えた。

 今年初めに米シリコンバレーに人工知能(AI)などの研究開発会社を設立し、組織のトップに米国の高名な研究者をスカウトしたほか、日本でも社外から事業のアイデアや技術を募り、パートナーと一緒になって新サービスを開発する取り組みを始めた。

 IT(情報技術)化の進展で、自動車産業の姿も大きく変わっている。AIなどを駆使した自動運転技術が注目され、車の使い方でも他人と車を共有するライドシェアやカーシェアといった新たな利用形態が広がりつつある。

 こうした波に対応するには手持ちの人材や旧来の発想だけでは不十分だ。門戸を開き社外の知恵を導入するのは理にかなっている。

 社外連携のための専門組織を設ける企業もある。大阪ガスのオープンイノベーション室は社内各部門から技術ニーズを募り、それを満たす外の企業を見つけるという仲人的な役割を果たしている。

 自社に欠けた技術やノウハウを持つベンチャー企業を買収するのもオープンイノベーションの一種だ。味の素は最近、核酸医薬ベンチャーのジーンデザイン(大阪府茨木市)の買収を決めたが、狙いは相手先の技術を取り込み、事業展開を加速することだ。

 ただ海外と比較すると、日本企業の取り組みは緒に就いたばかりで、さらに深める必要がある。欧米では例えばフィリップス(オランダ)のように、技術者の意識改革のために、新製品の50%に社外発の技術を取り込む目標を掲げる会社もある。シリコンバレーでは技術の取り込みを狙いとする買収が日常茶飯事だ。

 各種の調査によると、オープンイノベーションの阻害要因として「トップが必要性を十分に理解していない」という指摘も多い。経営者をはじめとする関係者の意識改革が求められる。

高齢者負担増 将来像示し不安なくせ

 来年度から順次実施される医療保険と介護保険の見直し案が決まった。高齢者を中心に負担増を求める内容だ。

 医療では、70歳以上で現役並みに所得のある人の月ごとの負担上限額を、現役世代と同水準に引き上げる。75歳以上の保険料を本来より軽減している特例も段階的に縮小する。

 介護では、現役並み所得者の利用者負担を2割から3割に上げる。それより所得の少ない人も、住民税が課税されていれば月ごとの負担上限額が医療並みに上がる。会社勤めの人の保険料は賞与を含む収入に応じた負担とし、大企業の社員は重く、中小企業の社員は軽くなる。

 見直しの根底にあるのは「年齢を問わず、負担能力に応じた負担を求めていく」という考え方だ。4年前の社会保障・税一体改革大綱で示された方針だ。

 少子高齢社会のもと、社会保障費が膨らむ一方で、制度を担う現役世代は減る。高齢者は支えてもらう側、若い人は支える側という従来の考え方では、立ちゆかなくなる。高齢者でも負担ができる人には負担を求めることは必要だろう。

 ただ、生活の実態に照らして過重な負担にならないか、影響は丁寧にみる必要がある。とりわけ介護は、治療を終えれば負担がなくなる医療と違い、長期化する傾向にある。

 必要な介護サービスが利用できなくなれば、家族の介護のために仕事をやめる介護離職が増えてしまうかも知れない。影響を受けるのは高齢者だけでないことも、忘れてはならない。

 介護保険では、昨年夏に一定所得以上の人の利用者負担が1割から2割になったばかりだ。わずか1年あまりでさらなる引き上げを決めたのは、あまりに場当たり的との印象を与えた。

 負担はどこまで増えるのか。そんな先行きへの不安に応える改革の全体像と将来ビジョンを示すことが不可欠だ。

 政府は、社会保障費の伸びを抑えるために、さまざまな検討項目を示している。しかし、それらをどこまで、どう実施していく考えなのかが見えない。検討課題の一つだった軽度の人への介護サービスの縮小などは今回、見送りになった。

 今後、そうした給付の抑制にも踏み込むのか。給付の抑制が限界だというなら、今のサービス水準を維持するために、保険料や税の負担を増やすことも考える必要がある。サービスを担う人材の不足も深刻で、そのための財源も考えねばならない。

 社会保障制度の根本に立ち返った改革に取り組んでほしい。

国連加盟60年 初心に戻り積極関与を

 1956年12月18日の国連総会で、日本の加盟が全会一致で承認された。

 戦争のつらい惨禍から立ち上がり、国際連盟脱退から23年ぶりに国際社会に復帰した高揚感に、日本は沸いた。

 それから60年。いま世界には寒々とした風景が広がる。冷戦時代に逆戻りしたかのような大国間の緊張。ナショナリズムに押され、国際協調に背を向ける国々。国際秩序を支えてきた米国にも、自国第一主義を掲げる大統領が誕生する。

 紛争解決に責任を果たすべき国連安全保障理事会も、目を覆う停滞ぶりだ。シリア内戦ではロシアが拒否権行使を繰り返した。ウクライナ、南シナ海、北朝鮮など、大国がかかわる地域で問題解決の道筋が示せない。

 にもかかわらず、テロや難民危機、地球温暖化、核の脅威など、一国では解決不可能な課題も膨らむ一方だ。国連が果たす役割は、むしろ強まっているというべきだろう。

 日本は加盟翌年の57年、「国連中心主義」を、外交基軸の一つとして掲げた。今こそ、その初心に立ち戻る時だ。

 第2次世界大戦の主要戦勝国が占める常任理事国の枠組みを見直す改革も含め、日本は国連の機能を高めていく取り組みの先頭に、ぜひ立ってほしい。

 ただ残念ながら、国連における日本の存在感は、相対的には縮小傾向だ。

 米国に次ぎ2番目に多い分担金を払っているとはいえ、かつて2割を超えた分担率は1割を切った。日本人職員の割合はわずか2・4%。幹部ポストに就く日本人も少ない。

 財政面での責任を果たし、国連で活躍できる人材を育成していく努力は必要だ。

 むろん、カネや人だけが存在感を示す手段ではない。どんな世界を、どうやって実現するかという構想力が欠かせない。

 日本が提唱した、国ではなく人を基点とする「人間の安全保障」は一定の評価を得た。唯一の被爆国としての体験や、防災や保健といった得意分野も、積極的に打ち出したい。

 国連は昨年、2030年までに極度の貧困の根絶などを目指す行動計画「持続可能な開発目標」をつくった。民間参加も期待され、日本でもビジネスを通じた途上国支援に乗り出す企業が徐々に増えている。

 いまや「国」だけが国際社会のプレーヤーではない。民間企業や市民社会も加わり、平和で繁栄した世界を築いていく場として活用する。そんな柔軟な国連観を築きたい。

国連加盟60年 発言力確保へ役割を果たそう

 日本の国連加盟から、18日で60年を迎えた。

 国際情勢が劇的に変動する中、わが国の地位は着実に向上した。様々な国際課題の克服へ、自らの役割を積極的に果たしたい。

 日本は1952年、サンフランシスコ平和条約発効を受けて国連に加盟申請したが、ソ連が反対した。加盟が実現したのは、日ソの国交が回復した56年である。

 以来、日米同盟とともに、国連中心主義を外交の柱に一貫して掲げてきた。国連への財政的貢献は総額200億ドル超にも上る。

 現在、国連通常予算の分担率は米国に次ぐ9・7%だ。ピークの2000年から半減した。中国が7・9%で3位に迫っている。

 日本経済の低成長が続き、中国など新興国が台頭する中、国連での日本の発言力をいかに維持し、高めるかが重要課題である。

 大切なのは、国際紛争、テロ、環境、飢餓問題などで日本らしさを生かした貢献をすることだ。

 国連は昨年、貧困の撲滅など17分野に関して30年までの「持続可能な開発目標」を策定した。日本が議論を主導し、質の高い教育や保健・衛生、防災などを重視する内容となった。目標の達成へ日本の経験や知見を役立てたい。

 その手段となる政府開発援助(ODA)予算は今年度5519億円で、97年度の約半分に落ち込んだ。ODAの増額とともに、民間団体や企業と協力し、その資金を呼び込む工夫が求められる。

 日本は現在、国連安全保障理事会で、最多の11回目の非常任理事国を務める。北朝鮮の核実験に対し、米国などと連携して3月と11月に制裁決議を採択した。

 長年の懸案の国連改革を実現して、安保理に常に議席を確保することは日本の国益に合致する。

 国連加盟国は、創設時の51か国から193か国へ4倍近くになった。だが、安保理は、非常任理事国が6から10に増えただけだ。

 日独など「G4」は昨年、常任理事国を5から11に拡大する新たな改革案をまとめた。05年の改革は米中両国の反対やアフリカの離反で挫折した。今回は、より幅広い合意形成を目指し、柔軟に対応する戦略が欠かせない。

 日本は冷戦後、国連平和維持活動(PKO)に参加し、延べ1万人以上を派遣した。「積極的平和主義」の下、自衛隊の持ち味である綿密な計画性と高い規律を生かした活動を積み重ねるべきだ。

 国連の日本人職員は約80人で、7位にとどまる。世界に通用する人材を計画的に育成したい。

オスプレイ事故 米軍は再発防止策を徹底せよ

 高性能の米軍機に対する信頼を傷つけかねない極めて遺憾な事故だ。

 米軍普天間飛行場所属の輸送機オスプレイが沖縄県名護市沖の浅瀬に不時着し、大破した。乗員5人のうち2人が負傷した。

 空中給油の訓練中、翼のプロペラが給油機のホースに接触し、損傷したのが原因とされる。

 周辺住民に被害はなかったが、一歩間違えば惨事につながる恐れもあった。稲田防衛相と岸田外相が米側に対し、オスプレイの飛行停止と原因究明の徹底を求めたのは当然である。

 米側も、飛行停止に応じた。ただ、事故が機体に起因する可能性を否定し、オスプレイの安全性に問題はないとして、週明けにも飛行を再開したい意向を示す。

 事故を起こした海兵隊のMV22型の10万飛行時間当たりの重大事故率は、昨年9月時点で2・64と、他の海兵隊機とほぼ同水準だ。

 開発段階で事故が相次いだことから、沖縄県では根強い懸念を持つ人が多い。事故当日には、別のオスプレイが着陸装置の不具合で普天間飛行場に胴体着陸したことも判明している。

 米側は、事態を深刻に受け止めて、より詳細に原因を調査するべきだ。実効性ある再発防止策を講じ、積極的に情報開示して、適切な運用に努めねばならない。

 在沖縄米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官は、「パイロットは住民に被害を与えなかった。感謝されるべきだ」などと県副知事に語ったという。

 事故を最小限に抑えたのは事実としても、県民への配慮を欠いた不適切な発言と言うほかない。

 オスプレイは、ヘリコプターの垂直離着陸と、固定翼機の高速飛行の機能を併せ持つ。従来の輸送ヘリに比べ、最大速度、行動半径、貨物搭載量が大幅に向上した。普天間飛行場に24機配備され、来年は横田基地への配備も始まる。

 朝鮮半島有事、南西諸島防衛などで効果的な部隊輸送が可能となる。今年4月の熊本地震では、救援物資を輸送した。災害時の機動的な活動も期待できる。

 陸上自衛隊が佐賀配備を念頭に調達を始めたのは、安全性が確保されていると判断したためだ。

 政府は、従来以上に丁寧な説明を尽くし、関係自治体などの理解を得ることが重要である。

 翁長雄志知事は、政府と米軍に強く抗議し、配備撤回を求めた。ただ、今回の事故を、普天間飛行場の辺野古移設への反対と絡めるのは筋が違うのではないか。

2016年12月17日土曜日

出方見極め冷静に対ロ交渉継続を

 戦後70年以上も解決できなかった課題だ。北方領土交渉の着地点を見いだすには、相当な努力と知恵が欠かせない。

 ロシアのプーチン大統領が来日し、安倍晋三首相と2日間にわたって会談した。

 両首脳の会談は通算で16回目、今年だけで4回目だ。プーチン氏が大統領として来日するのも11年ぶりだったが、ロシアの姿勢は硬く、返還への目立った進展があったとは言いがたい。

共同経済活動は慎重に

 こうしたなか、新たに2つの合意が交わされた。ひとつは択捉、国後、色丹、歯舞の北方四島に居住していた元島民らの往来の簡素化、もうひとつは四島での「特別な制度」の下における共同経済活動をめぐる合意だ。

 日ロ間ではこれまでも墓参、自由訪問、ビザ無し交流の枠組みはあったが、人数や訪問先が限定され、複雑な入域手続きが必要になるなど制限も大きかった。高齢化が進む元島民の間では、領土返還はともかく、より自由な訪問の早期実現を望む声も強かった。なるべく早く実施するよう求めたい。

 一方の共同経済活動は特別な制度を設け、その下で漁業、観光、環境といった分野の活動を実現しようというものだ。専門機関を設けて具体策を詰めるとみられる。

 問題の核心は、これがどこまで領土返還につながるのかだ。日本が出した声明によると、平和条約問題に関する互いの立場を害さない形で進めるという。

 だが、この合意はもろ刃の剣だ。四島への日本の関与が強まれば、将来の返還に向けた環境整備に役立つかもしれない。だが、帰属問題があいまいなまま進めれば、逆にロシアによる実効支配をさらに固定化してしまう。

 ロシア側はかねて「ロシアの法制度での実施は当然だ」と主張してきた。四島をめぐるロシアの主権をなし崩し的に認めることにならないよう、事前にかなり緻密な制度設計を求めたい。

 今回の会談では、かたくななロシアの態度が印象づけられた。領土問題でプーチン大統領はかねて、平和条約締結後の色丹、歯舞両島の日本への引き渡しを定めた1956年の日ソ共同宣言の有効性は認めている。

 ただし、共同記者会見では、この2島返還ですら、主権の問題を含めて「どのような条件で引き渡すかは明確に定義されていない」と強調。この2島に米軍が駐留しないことも、返還の条件に加える姿勢すらにじませた。

 むろん、領土問題の解決と平和条約の締結をめざし、ロシアと交渉を前に進めようとする安倍首相の路線が間違っているわけではない。だが、焦りは禁物だ。今回の会談結果を詳しく分析し、ロシアの出方を冷静に見極め、話し合いにのぞんでほしい。

 その際、欠かせないのが、日ロだけでなく、世界全体を見据えた情勢分析と戦略の立て直しだ。

 来年1月、米国ではロシアに融和的なトランプ政権が生まれる。原油価格が底打ちし、制裁を受けるロシアの財政の悪化にも歯止めがかかる兆しが見える。

 プーチン氏からみれば、もはや、領土問題で譲歩してまで日ロ関係の修復を急ぐ理由は薄れている。安倍政権がこうした局面に対応するには、日米や日欧関係の強化がこれまで以上に大切だ。

経済協力は採算重視で

 両首脳は今回、8項目の経済協力を具体化するため、政府間と民間レベルを合わせて約80の合意文書を交わした。領土交渉が動かないまま、経済協力だけが「先食い」されてしまうことへの懸念が日本国内にはある。協力に当たっては、事業の採算性を重視して進めることが肝心だろう。

 防衛分野では、外務・防衛担当閣僚級協議(2プラス2)の再開の必要性でも一致した。中国の軍事増強や北朝鮮の核問題を踏まえれば、日ロの対話は日本やアジアの安定に有益な面もある。

 ただ、他の地域に目を向けると、プーチン政権が世界の秩序を脅かす行動を続けていることも忘れてはならない。ウクライナ領のクリミア半島を併合したほか、米大統領選でトランプ陣営を有利にするため、サイバー攻撃をクリントン陣営に仕掛けたと米情報機関は断定している。

 日本は主要7カ国(G7)の一員として、ロシアに国際社会の懸念を伝え、正しい行動を促す役割もある。日ロはともに強いリーダーシップを持った安定政権が続く。安倍政権は会談の結果を次に生かし、局面打開への努力を続けてほしい。

日ロ首脳会談 あまりに大きな隔たり

 すれ違いぶりが際だつ、両首脳の共同会見だった。

 安倍首相が焦点を当てたのは北方領土問題を含む平和条約締結。一方、ロシアのプーチン大統領の関心は日本の経済協力。

 その溝は深い。

 プーチン氏が共同会見で領土問題にからんで強調したのは、1956年の日ソ共同宣言だ。平和条約を結んだ後、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島を日本側に引き渡すとされ、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)への直接の言及はない。

 さらに歯舞、色丹を引き渡すにしても、ロシアの主権を維持する可能性にも触れた。4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという日本の立場とは大きく食い違う。

 プーチン氏は日米安保条約にも言及。引き渡し後の島に米軍基地が置かれることへの警戒感をあらわにした。日本としては受け入れられない主張だ。

 首相が「平和条約締結に向けた重要な一歩」と胸を張った、4島での共同経済活動も具体的な中身はこれからだ。

 かつて何度か検討されたが、日ロどちらの主権を適用するかが問題とされ、そのたびに立ち消えになってきた。ロシア側は今回も「ロシアの法律に基づいて行われる」と明言し、早くもかみ合っていない。

 「戦後71年をへてなお、日ロの間に平和条約がない。異常な状態に、私たちの世代で終止符を打たなければならない」

 首相はそう意気込むが、今回あらわになったのはむしろ、交渉の先行きが見えない現実だ。近い将来、大きな進展が見込めるかのような過剰な期待をふりまいてはならない。

 日ロ間に横たわる戦後処理の決着をめざす首相の姿勢は、理解できる。首脳同士が信頼を育むことは、地域に安定をもたらすうえでも意味がある。

 同時に、日本が忘れてならないことがある。「法の支配」をはじめとする普遍的な原則をゆるがせにしてはならない。

 2014年のロシアによるクリミア併合を受け、日本も欧米とともにロシアに経済制裁を科すなかで、日本は今回、ロシアへの80件もの経済協力で合意した。二国間の信頼醸成には役立つだろうが、制裁を続けるG7の足並みを乱し、「法の支配」の原則を二の次にしたロシアへの急接近と映らないか。

 米国の次期大統領にトランプ氏が当選し、国際社会は米ロ関係やシリア問題の行方に目をこらしている。領土問題は重要だが、決して焦ってはならない。外交の原則を崩さず、粘り強く解決をめざす姿勢が肝要だ。

米国次期政権 原則重んじる外交を

 来年1月に発足する米国のトランプ新政権で外交や安全保障を担う陣容が明らかになった。

 国務長官には米石油大手エクソンモービルの最高経営責任者ティラーソン氏が起用された。資源開発をめぐる国際的な経験や手腕が評価されたようだ。

 特にロシアのプーチン大統領と長い親交がある。プーチン氏の指導力を称賛するトランプ氏の意をくんだ人選であり、冷え込んだ米ロ関係の打開へ向けた外交シフトが鮮明になった。

 ただ、次期政権につきまとう不安は拭えていない。それは、外交を商談と同一視しているのではないかという疑念だ。

 商取引と違い、外交は数字では測れない。単純な利益ではなく、原則を守る責任が問われることを忘れてはならない。

 ティラーソン氏は、クリミア半島を一方的に併合したロシアへの制裁に反対した人物だ。プーチン政権がさらに強権化し、秩序に挑むのを押しとどめられるか、懸念せざるをえない。

 「ディール(取引)」で自国に有利な回答を迫る。そんなトランプ氏の外交観は、中国と台湾をめぐる言動にも透ける。

 1979年の断交後、次期大統領として初めて台湾の総統と電話協議した。その上で中国の通貨・貿易政策などを批判し、米中関係の土台である「一つの中国」政策に疑問を呈した。

 これが「米国第一主義」を追求するための交渉カードだとしたら、アジア太平洋の安定を米国自らが揺らすこととなり、同盟の信頼も失いかねない。就任前でも軽率というべきだ。

 次期政権には、最近まで軍幹部だった面々も目立つ。国家安全保障担当の大統領補佐官に就くフリン氏は元陸軍中将。国防長官と国土安全保障長官には海兵隊の元大将が起用された。

 フリン氏はイスラム教を敵視する発言を繰り返してきた。人種差別的な発言が問題視されたり、テロ容疑者に対する「水責め」を擁護していたりした人物も政権入りする。人権軽視の風潮が強まらないかも心配だ。

 環境長官には、オバマ政権の地球温暖化対策に反対してきた人物を選んだ。政権が代わったからといって、国際社会が築いた合意を一方的に破棄すれば、米国の信頼は傷つく。

 新閣僚を承認する上院をはじめ、米国議会は政権の独走を防ぐ役目を十分果たしてもらいたい。トランプ氏も、目先の国益よりも、「法の支配」や人権重視など普遍的な原則を掲げて国際社会の求心力を得る方が、長期的に米国の利益につながることを理解すべきである。

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