2016年9月30日金曜日

長引く原油安が促したOPECの減産

 石油輸出国機構(OPEC)はアルジェリアで開いた会合で、加盟14カ国の原油生産量を日量3250万~3300万バレルに抑えることで合意した。8月の生産量と比べ最大で約75万バレルの減産となる。

 OPECが減産を決めたのは2008年以来、8年ぶりだ。14年に原油価格が急落して以降、市況立て直しへ具体策を打ち出せなかった加盟国が初めて歩み寄った。産油国と消費国の双方に望ましい原油市況の実現への一歩となることを期待したい。

 OPECはこの2年、生産量をめぐり加盟国の足並みがそろわず増産を競ってきた。なかでもOPECの盟主であるサウジアラビアと、有数の生産国であるイランの対立が協調を難しくしてきた。

 しかし、歳入の多くを原油収入に頼る産油国の経済は悪化している。国際エネルギー機関(IEA)は今月、16年中としてきた供給過剰の解消時期が、17年にずれこむと見通しを修正した。

 長引く価格低迷への危機感が歩み寄りを促した。今回の会合が失敗すれば、「決められないOPEC」への失望がさらに広がり、一段の原油安を招きかねないことへの警戒もあったのだろう。

 消費国にとって原油安の恩恵は大きい。だが、産油国の不安定化は世界経済にとってリスクだ。原油市場の秩序回復へ、OPECが示した結束を評価したい。

 ただし、需給緩和の効果は慎重にみる必要がある。OPEC全体での生産量の抑制は決めたが、加盟国別の減産量は11月の総会で決める。核問題をめぐる経済制裁が解除されたイランは、制裁前の生産水準への回復を求めている。

 リビアやナイジェリアも国内の治安悪化により生産量が落ち込んでいる。こうした事情を考慮して国別の生産量の上限を決め、各国に守らせるのは簡単ではない。

 OPEC以外の産油国、特に日量1千万バレル超の生産を続けるロシアとの連携も不可欠だ。サウジとロシアは石油情勢をめぐり接触を続けている。両国の間でも歩み寄りを実現してほしい。

 ここ数年の供給過剰は米国でのシェールオイルの急速な増産がきっかけだ。中東産原油に比べ生産コストの高いシェールオイルは価格急落により、生産量が頭打ちになった。だが、原油価格が上昇すれば増産に転じ、OPECの減産分を帳消しにしかねない。シェールオイルの動向も注視が必要だ。

IoTの特許リスクに目を

 人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)といった次世代技術が脚光を浴びているが、その裏で企業が特許係争に巻き込まれるリスクも増している。

 経済産業省も対策の検討に乗り出した。特許制度を本来の趣旨であるイノベーションの促進につなげることが重要だ。

 特許係争の主な舞台は米国で昨年は6千件弱の訴訟が起きた。うち6割強は、自ら特許を利用して製品をつくるわけではない「非実施主体(NPE)」と呼ばれる企業によって引き起こされた。

 NPEは「パテントトロール(特許の怪物)」という別名でも知られる。多数の特許を保有し、事業会社を相手に賠償金や和解金狙いで訴訟を仕掛ける存在だ。

 こうした訴訟リスクはIT(情報技術)分野が中心で、日本勢でもソニーやキヤノンなど電機大手は相当数の訴訟を起こされた経験を持つ。係争処理ノウハウもそれなりに蓄えてきた。

 だが、近年はモノづくりとITの融合が進み、自動運転技術の開発を急ぐ自動車大手やIoTで設備の効率化をめざす機械メーカーなど、リスクにさらされる業種の幅が広がった。米企業が日本の中小企業に特許侵害の警告書を送り、和解金を手にするケースもあるとされる。

 特許は発明者の権利を保護し、技術革新を促すための制度だ。訴訟リスクが過度に高まれば、新規の挑戦を阻害し、社会全体のイノベーションを停滞させかねない。日本政府は米政府などとも連携しながら実態把握を急ぎ、必要な対策をとってほしい。

 企業も不当な要求ははね返す姿勢が必要だ。安易な和解は相手を調子づかせ、新たな訴訟を呼び込むリスクをはらむ。

 一方でNPEに特許を売却する日本企業もある。事業を整理する際に関連する特許も一緒に売り払うのだ。少しでも資金を回収したい気持ちは分かるが、それがどんな結果をもたらすのかも同時に考えてほしい。

東京五輪 司令塔が不可欠だ

 2020年の東京五輪・パラリンピックの経費について、東京都の調査チームが小池百合子知事への報告書をまとめた。

 総費用が3兆円を超える可能性を指摘し、ボート会場の変更など施設の見直しを求めた。小池氏が検討する姿勢を示したのに対し、大会組織委の森喜朗会長は「(計画を)ひっくり返すのは難しい」とさっそく難色を示した。

 膨らむ予算に、関係者のバトル……。五輪を巡って繰り返されるそうした状況に、報告書が本質的な問題としてあげる「司令塔の不在」が表れている。

 東京都、組織委、政府。いったい誰が全体を統括し、責任をもつのか。開催まで4年をきったというのにはっきりしない。

 約1カ月前にチームが調べ始めた時、各施設を政府や都、その他の自治体がどこにいくらで建て、工事はどこまで進んでいるのか一覧できる資料すらなかったという。上限もなく経費が積みあがる状態に、報告書をまとめた経営コンサルタントらは「社長と財務部長がいない会社と同じ」と警鐘を鳴らした。

 つけを払わされるのは都民だ。組織委の収入は5千億円が限界とされ、不足分は都にふりかかる仕組みになっている。

 ここは小池知事が前面に立つべきだろう。五輪を開催する20年に東京は人口減に転じる。巨額のつけを丸々背負えば、都民の暮らしを支えつつ首都の魅力を保っていけるのか、大きな影がさしかねない。

 報告書は、開催計画や予算、人員などを一元管理する体制が必要だとしている。リオ、ロンドンの両五輪には組織横断的な枠組みがあり、施設整備を担ったり、準備状況の情報公開を進めたりした。参考になるものは取り入れながら、体制づくりを急いでほしい。

 競技施設の変更は、確かに容易ではないだろう。一部ではすでに工事が始まっている。競技団体の間では「さまざまな見直しや検討を重ねていまの計画になったはずだ」との声が強い。

 しかし、予想される費用の巨額さを考えると、組織委は都と協力して変更の可能性を探るべきだ。リオ五輪では工事現場と見間違えるような簡素な会場も使われた。柔軟に考えたい。

 国も傍観者ではいられない。安倍首相はリオ五輪の閉会式でマリオに扮して東京五輪をPRし、国会では「必ずや、世界一の大会にする」と述べた。

 2回目の五輪開催で、成熟都市での運営モデルを示す。見直しへの最後のチャンスとして、提言と向き合うべきだ。

全国学力調査 本当の力測れているか

 文部科学省が、小6と中3の全員を対象にした全国学力調査の結果を公表した。

 本来は例年どおり8月末には数字がまとまるはずだった。ところが、中3の採点を担当した業者の集計ミスが直前になってわかり、延期されていた。

 教育委員会や学校が待ちぼうけを食わされた――という、単純な話ではない。

 調査の目的は、教育施策を検証し、指導の充実や学習の改善にいかすことにある。それが動きだすのが1カ月遅れた。子どもたちの学びにも、それだけ影響が出たことになる。

 業者はもちろん、作業を委託した文科省も責任が問われる。再発防止策の検討が必要だ。

 文科省は今回の発表で、都道府県別の一覧表での表示方法を改めた。これまで平均正答率を小数点以下まで出していたが、四捨五入して整数で示すようにした。「正答率のわずかな差は学力の違いを表すものではないから」というのが理由だ。

 一覧表はたしかに世間の注目を集める。地方議会で前年からの順位の上下や近県との比較が話題になることもしばしばだ。

 数字のもつ意味を正しく理解し、わずかな差異や変化に一喜一憂すべきではない、という文科省のメッセージは正しい。

 だが、表示方法の見直しは対症療法でしかない。

 きっかけとなったのは、当時の馳浩(はせひろし)文科相に届いた情報だ。「教委の内々の指示で、4月に行われる調査の2カ月くらい前から、過去のテストを解く練習をしている」。現場の教員からの告発だった。

 問題の根は、点数をあげることが自己目的になっている現実にあるといえる。

 以前の設問を指導に使うことは認められている。とはいえ、本番の調査前に子どもたちにそれらを解かせ、慣れさせるのは「指導」ではなく、明らかなテスト対策だろう。

 それで素顔の学力が測れるのか。今後の指導に本当に役立つ分析が得られるのか。

 制度の趣旨は損なわれ、そもそもこれほど大規模な調査をする必要があるのかとの根源的な疑問まで引き起こす。文科省はこうしたゆきすぎた措置がどこまで広がっているかを調べ、是正を指導すべきだ。

 1960年代の学力調査は、成績のふるわない生徒を当日休ませるなどの行為がはびこり、結局、中止になった。そんな愚を繰り返してはならない。

 子どもたちの未来のために、大人は何をすべきか。原点に立って考えたい。

東京五輪施設費 野放図な膨張は許されない

 2020年東京五輪・パラリンピックの開催費用は、膨張が避けられない状況だ。手をこまぬいてはいられない。

 東京都の小池百合子知事が設置した都政改革本部の調査チームが、五輪費用などに関する報告書を公表した。総費用が「3兆円を超える可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 東京五輪の総費用は当初、約7340億円と試算されていた。だが、計画が具体化される中で大幅に膨張する実態が分かった。

 都や大会組織委員会は、資材や人件費の高騰などを要因に挙げるものの、招致段階の見積もりが甘過ぎたことは否定できまい。

 大会まで4年を切り、小池氏は「見直しの最後の機会になるかもしれない」と強調した。多額の公費が投入される以上、費用を可能な限り縮減するのは当然だ。

 将来にわたって活用する恒久施設を都が建設する。五輪後に取り壊す仮設会場については、大会組織委が受け持つ。当初は1538億円だった都の費用は、約3倍に跳ね上がることが判明し、2241億円に抑えた経緯がある。

 報告書は恒久の3施設の抜本的見直しを提言している。ボート・カヌー競技用の「海の森水上競技場」の建設を中止して、会場を宮城県内に移す案などを示した。既存施設の活用により、一層の費用圧縮を図る姿勢はうなずける。

 会場変更には、国際オリンピック委員会(IOC)や競技団体の承認が必要になる。大会組織委の森喜朗会長は、ここにきての変更に否定的な見解を示している。

 小池氏と森氏の調整力が問われよう。都と大会組織委の費用分担の在り方をどう見直すかも、大きな課題だ。遅れがちな大会準備を加速させるためには、総費用を早急に算出して、全体計画を確定させねばならない。

 報告書は、都が大会組織委の指導・監督を強化する必要性に言及した。都が資金を拠出している団体である点を重視したためだ。

 大会エンブレムの撤回問題などで、大会組織委の閉鎖的体質への不信は根強い。透明性の向上とガバナンスの確立が欠かせない。

 政府、都、大会組織委による準備体制について、報告書は「社長と財務部長のいない会社と同じ」と批判している。大会準備を一体的に進めるためには、責任の所在を明確にすることが急務だ。

 丸川五輪相と小池氏、森氏は、角を突き合わせるのではなく、協力し合って、五輪を成功に導く重い責任を負っている。

全国学力テスト 地域の指導改善に蓄積生かせ

 子供たちの基礎的な学力は着実に伸びている。地域ごとの順位に過度にとらわれず、授業や教育内容の改善につなげていくことが重要である。

 文部科学省が4月に行った全国学力テストの結果を公表した。小学6年生、中学3年生の全員を対象に、国語と算数・数学の基礎知識と応用力を測る。2007年度から実施され、今年で10年目を迎えた。

 目立つのは、成績の振るわなかった県の学力向上だ。

 各教科の平均正答数をみると、成績下位県が近年、全国平均に近づき、上位県との差も縮小している。下位県が上位県に教員を派遣して指導方法を学んだり、補習を強化したりしたことが功を奏したとみられる。

 民主党政権下の10、12年度は、「競争をあおる」として、約3割の学校を抽出して実施された。

 全員が受ければ、抽出方式よりも正確に現状を把握でき、教員が当事者意識を持ちやすい。全員参加方式の継続が、指導内容の見直しにつながった面があろう。

 一方で課題も残る。

 計算や漢字の読み書きなど基礎問題の正答率は向上したが、資料を読みとって考えをまとめるといった応用問題の成績は伸び悩んでいる。記述式は無解答も多い。

 グローバル社会で活躍する人材を育成するには、思考力や表現力を高めることが欠かせない。一方的に教師が教える授業を見直し、討論や発表を重視する学習方法を取り入れることが求められる。

 今回は、家庭の経済状況と学校ごとの成績、指導法の関係を調査し、詳細に分析した。

 自治体から就学援助を受けている家庭の割合が高い学校ほど、テスト結果は低い傾向にあった。塾通いができない、落ち着いた家庭環境になく学習に集中しづらいといったケースが考えられる。

 経済状況が学力に影響しているとみられる子供が多い学校に対し、文科省は来年度、教員配置を増やす方針だ。

 子供の状況に応じてきめ細かい指導を行い、家計による学力格差を抑えることが大切である。

 教育委員会が都道府県別の順位を気にして、試験対策が過熱する傾向も一部で指摘されている。

 学力テストは本来、結果を丁寧に分析し、指導の改善に役立てることが目的のはずだ。

 実施には60億円弱の費用がかかっている。これまでの蓄積を活用し、新たな時代に求められる学力を育みたい。

2016年9月29日木曜日

経済政策の対立軸が見える国会論戦に

 臨時国会の論戦が始まった。7月の参院選の勝利で基盤を固めた安倍政権に対し、体制を刷新した民進党などの野党が政策の対立軸をどこまで示せるかが、焦点となる。経済運営をはじめ日本が直面する課題への処方箋を競い合う、実のある議論を期待したい。

 きのうは民進党の蓮舫代表が就任後はじめて参院本会議での代表質問に立ち、政権発足から3年9カ月を経たアベノミクスへの疑問を矢継ぎ早にぶつけた。

 「日本の潜在成長率は今や0.3%との試算がある。成長戦略が失敗した表れではないか」

 「2回も消費税増税を先送りした。経済対策は借金。これでどうやって財政規律を守るのか」

 安倍晋三首相は「雇用は改善し実質賃金も上がっている。経済の好循環が回り始めている」と反論したが、デフレ脱却が道半ばなのは首相自身も認めている。

 一方で蓮舫氏も「批判から提案へ」との方針を掲げた割には、アベノミクスに代わる成長戦略の考え方は明確に語らなかった。

 蓮舫氏は行政改革を徹底し、子育てや介護など「人への投資」に予算を大胆に振り向けると主張した。人口減を見据えた対応はたしかに喫緊の課題だが、安定財源のメドがなければ、公約を実行する力を欠いた旧民主党政権の教訓に学んでいないことになる。

 政府は今国会で環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案・関連法案の成立を目指している。かつて首相として交渉参加を準備した民進党の野田佳彦幹事長は27日の衆院代表質問で「守るものを守り切れていない協定案には反対せざるを得ない」と表明した。

 安倍首相は日本が「世界の自由で公正な貿易ルールのけん引役でなければならない」と反論した。TPPの合意をテコに、他の国々との経済連携協定(EPA)などの交渉も速めたい考えだ。

 与野党は国会審議を通じてTPPの中身への国民の理解を深めなくてはならないが、いたずらに審議を引き延ばすべきではない。

 与党は参院選の勝利で「国政選挙4連勝」となった。民進党の野田氏は代表質問で「蓮舫代表を先頭に自民党に代わり政権を担いうる政党を目指す」と宣言したものの、信頼回復への道は険しい。

 まずは「安倍1強」といわれる現状の打破へ、説得力のある対案を有権者にきちんと示すことができるかどうかが問われる。

「健康経営」で日本に元気を

 「健康経営」ということばを聞く機会がふえた。企業が従業員の健康維持や増進に積極的にかかわることで、生産性や企業イメージの向上、さらには医療費の抑制につなげる、とする考えだ。

 この観点からの優良企業を、経済産業省と東京証券取引所は「健康経営銘柄」に選定している。健康な職場をつくるため、経済団体や医療団体などが集まり日本健康会議という組織も設立した。

 人口が減る日本では企業の生産性向上が大きな課題だ。増え続ける医療費を抑えることは過重な負担を避けるためにも必要だ。

 働く人ができるかぎり健康をたもち、これらの課題解決の一助となるのであれば、ぜひ広がってほしい理念である。

 もちろん、唱えるだけで物事が進むわけではない。まず求められるのは、従業員の健康を経営の課題として企業がしっかりと位置づけ、企業のトップがみずから積極的にかかわることだ。

 実際、企業理念のなかに従業員の健康の追求を明記する例も出てきている。そうした企業では、社員に対してメタボ解消へ向けた生活指導をおこなったり、運動の機会を数多く提供したりする、といった取り組みが盛んだ。その場にトップ自身がくわわり、情報発信する例も目にする。

 必要な投資や働き方の改革を進めることも大切だろう。一時的にコストがかかったとしても無駄にはならないはずだ。積極的な健康投資をしている企業では、社員のつかう医療費が減ったり社員の欠勤が少なくなったりする成果が表れているという。

 企業と健康保険組合の連携も重要になる。健保組合には社員の医療データが蓄積されている。個人情報の扱いにじゅうぶんに目配りしながら、それを分析することで、効率的な健康増進対策を実施しやすくなるはずだ。

 日本経済にとって、従業員も会社も元気であるに越したことはない。そのための環境の整備をおおいに進めてほしい。

原発の廃炉費 「新電力も負担」は論外

 消費者の理解を得られるとは到底思えない。

 経済産業省の有識者会議で、大手電力が持つ原発の廃炉費用を巡る議論が始まった。電力自由化で生まれ、原発を持たない「新電力」にも廃炉費用の一部を負担させる案が検討される。

 新電力は、自ら発電したり他社から調達したりした電気を顧客に売っているが、その際に大手電力の送電線を使う。その使用料に廃炉費用の一部を上乗せするという。電気料金を通じて、新電力の契約者が廃炉費用を負担することになる。

 電力小売りの自由化はこの春から一般家庭にまで広がったが、かつては「地域独占」のもとで全ての家庭が地元の大手電力と契約し、原発がつくった電気を使ってきた。だから、大手から離れた人も廃炉費用を負担してほしい――。原発を特別扱いする、そんな理屈のようだ。

 ガスや水道など、日々の生活に欠かせない他のサービスを考えてみる。引っ越しで新たな会社と契約した。そこへ以前の契約先から設備の後始末に伴う請求書が届いた。支払いに応じる人がいるだろうか。

 新規参入を促し、大手もまじえた競い合いを活発にする。「料金が安い」「環境にやさしい」といった多様な理由から契約先を選べるようにする。それが自由化の目的だ。新電力にも廃炉のつけを回せば、競争と選択の土俵をゆがめる。

 なぜこんな理不尽な案が出てくるのか。

 大手が持つ原発の廃炉費用は電気料金を通じて契約者が負担してきた。しかし、費用を料金に反映させる仕組みは自由化に伴っていずれ廃止される。新電力にも開放している送電線の使用料に上乗せする制度をつくり、費用を確実に回収する思惑がある。自由化で大手からの顧客離れがじわじわと進んでおり、危機感は強いようだ。

 今回の検討は、福島第一原発の廃炉をにらみながら進む。通常の原発の廃炉費が1基あたり大型炉でも800億円程度なのに対し、炉心溶融を起こした福島第一の廃炉には数兆~十数兆円かかるとの見方が出ており、他の廃炉とは事情が異なる。

 東電は7月の会見で支援を求めた。リストラ策とともに別の有識者会議で検討されることになったが、まずは廃炉費がどこまで膨らむかを厳しく見通すことが先決だろう。

 廃炉費のつけ回しが、大手電力の原発への優遇策となり、新電力の多くが手がける再生エネルギー導入への逆風となる。そんな事態は許されない。

代表質問 すれ違い埋める論戦を

 衆参両院での代表質問に対する安倍首相の答弁は、自らが所信表明演説で呼びかけた「建設的な議論」とは言いがたい。

 論点をはぐらかしたり、野党批判で切り返したり。きのうまで2日間の野党党首らとの論戦は、すれ違いが目立った。

 衆参ともに与党が圧倒的多数を占める国会の力関係を、映し出しているようにも見える。

 たとえば民進党の蓮舫代表は消費税引き上げ再延期を受け、介護や子育てなど社会保障政策にどう優先順位をつけるかや、実際に使える「アベノミクスの果実」の予算規模を問うた。

 これに対して首相は、優先順位も金額も明確には示さず、「最大限努力する」などと、参院選での論戦をなぞるような答弁を繰り返した。

 民進党の野田佳彦幹事長らはアベノミクスへの疑問をぶつけた。金融緩和に手詰まり感があることや、日銀による国債購入が限界ではないかなどと指摘。蓮舫氏も「本当に必要なのはアベノミクスそのものの検証ではないか」と追及した。

 これに対し首相は、安倍政権になってからの税収増や、就労者が100万人近く増えた点などを列挙してアベノミクスの正しさを強調。「経済の好循環」を自画自賛した。

 環太平洋経済連携協定(TPP)問題で、コメなどの聖域が守られていないと指摘されると、首相は「決断すべき時に決断しきれない過去の轍(てつ)は踏まない」と、与党時代に交渉参加に踏み切らなかった旧民主党を皮肉るような態度で応酬。中身の議論にほとんど立ち入ろうとはしなかった。

 違憲の疑いが指摘されている安全保障法制をめぐっては、共産党の志位和夫委員長が、首相が所信表明演説で触れなかった点を問うた。

 首相は7月の参院選で法案の意義を訴え、圧勝したなどと答えつつ、「国民の信認を得ることができた」と切り返した。

 質問1回、答弁1回の代表質問では論点を絞り込み、議論を深めるのは難しい。それでも、今国会で与野党が論じ合うべきテーマは見えてきた。

 まずは事業規模28兆円の補正予算案の中身、TPP承認や関連法案の是非、アベノミクスの検証、具体的な運用に動き出そうとしている安保法制についても十分な議論が欠かせない。

 あすにも衆院予算委員会で一問一答形式の議論が始まる。

 与党が数の力で押し切るのではなく、野党ともできる限り共通の基盤をつくる。真の意味での「建設的な議論」を望む。

働き方改革会議 まずは長時間残業を減らそう

 人口減社会で経済の活力を維持するためには、女性や高齢者がより能力を発揮して活躍できる環境の整備が不可欠だ。

 政府の「働き方改革実現会議」が初会合を開いた。今年度中に実行計画をまとめる。安倍首相は「必ずやり遂げるという強い意志を持って取り組んでいく」と強調した。実効性ある施策を練り上げてもらいたい。

 最大の課題は、長時間労働の是正である。日本の正社員の労働時間は年2000時間程度で高止まりしている。長時間労働者の割合も欧米に比べて際立って高い。

 残業が常態化した労働慣行は、育児や介護で時間が制約される女性らの活躍を阻んできた。仕事と家庭の両立を困難にし、少子化の大きな要因ともなっている。

 焦点は、「36(サブロク)協定」の見直しだ。労働基準法は、労働時間を1日8時間、週40時間までと定めている。ただし、労基法36条に基づく労使協定を結べば、使用者側は実質的に無制限で残業させることも可能だ。

 企業の過半数が36協定を結んでいる。大企業では94%に上る。過労死ラインとされる「月80時間超」の残業が可能な協定も目立つ。

 政府は残業時間に上限規制を設ける方針だ。長時間労働に歯止めをかけるには必要な措置だろう。罰則の導入も検討するという。

 経済界は、業種の特性を無視した一律規制に反対している。業務実態への配慮は必要だが、安易な例外の拡大は避けるべきだ。

 同一労働同一賃金の実現も重要テーマだ。非正規雇用が労働者全体の4割近くにまで増えている。非正規の賃金水準は、正社員の6割にとどまる。その処遇改善を急がねばならない。

 政府は、どのような格差が不合理なのかを示すガイドラインを年内に作成する。労働契約法など関連法の改正にも踏み込む。年功賃金といった日本の雇用慣行に留意しつつ、非正規雇用の賃金底上げにつなげることが大切だ。

 正社員への転換を促進して、雇用の安定を図る必要もある。

 働き方改革を進めるには、働き手一人一人の生産性の向上が欠かせない。企業の収益力を損なうようでは、実現はおぼつかない。職業訓練の充実や大学での「学び直し」の機会拡充などで、能力開発を支援することが求められる。

 国会で継続審議中の労基法改正案は、時間ではなく成果で賃金を決める雇用形態の導入などが柱だ。生産性向上に資する内容だけに、早期に成立させたい。

首相VS蓮舫氏 「人への投資」偏重では危うい

 民進党の蓮舫代表が就任以来、初めて国会論戦にデビューした。

 看板政策の「人への投資」に過度に偏った主張は、野党第1党の党首として、物足りなかった。

 蓮舫氏は参院本会議での代表質問で、アベノミクスについて「スローガンだけは活発に循環しているが、経済はまったく好循環していない」などと批判した。

 「教育、雇用、老後の不安を取り除いて初めて個人消費が動き出す。『人への投資』の強化が経済再生につながる王道だ」とも述べ、経済政策の転換を求めた。

 持論の「提案」路線の一環だろう。ただ、「人への投資」は、民主党政権の「コンクリートから人へ」の焼き直しの色彩が濃い。

 公共事業が悪いかのような誤解を与え、財源不足で破綻したため、「人への投資」に衣替えしたが、この方針は行き過ぎれば、バラマキにつながる恐れが大きい。

 安倍首相は、アベノミクスが雇用、賃上げなどで効果を上げたと反論した。「安倍内閣は、成長と分配の好循環を作り上げる。成長の果実も生かし、子育て支援や介護離職者ゼロ、若者への投資も拡大する」とも強調した。

 「人への投資」という分配政策は、低迷する個人消費を刺激し、高齢者や女性の労働力を活用して成長力を高める一定の効果は持とう。安倍政権も、「1億総活躍社会」という形で民進党の主張を取り入れているのは事実だ。

 しかし、最優先課題のデフレ脱却や、財政健全化のためには、民間企業の創意工夫を政府が支援して、生産性や国際競争力を高める成長戦略の拡充が欠かせない。分配の原資の確保にも、「稼ぐ力」の強化が必要である。

 蓮舫氏は、「人への投資」では様々な提案をしたが、企業を通じた成長戦略には全く言及しなかった。この点を抜本的に改善しなければ、蓮舫氏の唱える「民進党が選択される政党になる」という目標の実現は難しいだろう。

 疑問なのは、蓮舫氏の質問が経済、社会保障政策に集中し、国の基本である憲法や外交・安全保障政策に触れなかったことだ。野田幹事長は前日の質問で、幅広く重要課題を網羅した。どちらが党首なのか、という感さえする。

 蓮舫氏は、行政刷新相を務め、行政改革を重視してきた。外交・安保は、必ずしも得意分野ではないのかもしれない。だが、国政選での勝利を目指すのなら、もっと聞き応えのある骨太の論争を仕掛けることが求められよう。

2016年9月28日水曜日

米大統領候補は世界への責務を忘れるな

 米国の大統領の指導力が今ほど求められる時代はないかもしれない。世界が地政学的にも経済的にも不安定さを増し、国際情勢が混沌としているからだ。

 来年1月に就任する新大統領は米国と世界との関係のあり方を深く考え、超大国のリーダーとして責任ある行動が取れる人物でなければならない。

 だが、これまでの選挙戦の議論を見る限りでは、その点について大いなる不安がつきまとう。1回目となる大統領候補の討論会でも懸念は払拭できなかった。

 民主党のクリントン候補と共和党のトランプ候補は、国内経済対策については、両党の伝統的な立場をある程度反映した政策を訴えた。クリントン氏はインフラ投資拡大や低所得者への配慮を主張。トランプ氏は大型減税や規制緩和による経済刺激を唱えた。

 問題は、雇用や所得格差への対応を問われたトランプ氏が、もっぱら過去の米国の通商政策やメキシコ、中国など外国に対する攻撃に終始したことだ。北米自由貿易協定(NAFTA)や中国への甘い姿勢によって「雇用が盗まれた」と指摘、過去の自由貿易協定の再交渉などを訴えた。

 米国市場に壁を設けて雇用を維持・拡大する考え方は、自由貿易を尊重してきた共和党の従来の姿勢と相いれない。クリントン氏も「貿易は重要」としつつ、国務長官時代に主導した環太平洋経済連携協定(TPP)に反対する姿勢を明確にした。

 トランプ氏は安全保障政策でも同盟国との絆を重視する米国の伝統的な立場と距離を置く姿勢を鮮明にした。北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国や日本、韓国に、防衛義務の対価としての負担増加を求める考えを示した。クリントン氏は、日韓など同盟国を必ず守る姿勢を明確にして信頼を維持することが重要と反論した。

 トランプ氏の通商・安保政策は保護主義、孤立主義的な色彩が強く、実施されれば世界への悪影響は甚大だ。一方、クリントン氏が日韓など同盟国重視を強調したのは評価できるが、オバマ政権のアジア重視政策の柱であるTPP抜きにアジアでの影響力をどう高めようとしているのかは見えない。

 米国の新大統領が経済・社会の現状に不満を持つ有権者の信頼回復を重視するのは当然だが、世界の安定や繁栄にも責任を負っていることを忘れてはならない。

株式市場の日銀頼みが心配だ

 今の株式市場で最も注目を集めている投資主体のひとつは、日銀だ。金融緩和策の一環として市場全体の動きに連動する上場投資信託(ETF)を購入し、株価を下支えしているからだ。

 株価が安定すれば、企業の投資や個人の消費を促す要因になるとされる。日銀がETFを購入しているのもそうした経済の好循環をつくりだすためだ。

 しかし、日銀のETF購入は株価形成をゆがめ、業績不振の企業でも株価下落を通じた市場の規律を受けにくくなるといった弊害を伴う。ETF購入が経済に本当に良い影響を与えているかどうか、注意深く見る必要がある。

 日銀が初めてETF購入を決めたのは2010年10月のことだ。円高やデフレ進行への対応の鈍さを批判された当時の日銀が、資産買い取りの一環として年4500億円の枠を設定した。それが黒田東彦総裁のもとで段階的に年6兆円まで広げられた。

 6兆円といえばアベノミクス(安倍晋三首相の経済政策)が始まった13年からの3年間で、外国人投資家が日本株を買い越した金額の約4割に相当する大きさだ。ETFを通じて日銀が間接的に10%以上の大株主となる上場企業は1社や2社ではない。経営監視が甘くなるのではないかなど企業統治の観点からの懸念が浮上する。

 その結果、企業統治の改革を高く評価してきた外国人が日本への投資を手控えるようにならないかどうかも、心配になる。日銀は株式市場の投資家の声にもよく耳を傾けるべきだ。

 株式市場は実体経済を反映するものだ。株価だけを下支えしても景気や企業業績が良くなるわけではない。

 日銀が株価を支え、経済全般にリスク回避の雰囲気が広がるのをくい止めている間に、政府は企業活動が活発になるような規制改革を急ぐべきだ。そうした連携により高まった経済の成長期待が株価に反映されていくというのが、正しい道筋である。

働き方改革 実効性が問われる

 政府の「働き方改革実現会議」が発足した。

 主なテーマは、非正社員と正社員の不合理な賃金格差をなくす同一労働同一賃金の実現と、長時間労働の是正だ。来年3月までに実行計画をまとめる。

 いずれも長年の課題であり、これまではむしろ野党が求めてきた改革だ。会議の議長には安倍首相が自ら就いた。本気で取り組むというなら歓迎する。

 問われるのは、計画が実効性のある中身になるかどうかだ。

 アベノミクスで改善したと首相が誇る雇用の現場では、非正社員が全体の4割近くまで広がっている。先行きへの不安から消費はさえず、結婚や出産をためらう若者も少なくない。格差の是正は待ったなしだ。

 首相は「非正規(労働)という言葉をこの国から一掃する」と意気込むが、知りたいのは具体的な道筋だ。政府は、欧州の事例も参考に指針づくりを進めるというが、負担増を警戒する経済界からは早くも「(これまで積み上げてきた)雇用慣行への配慮も必要だ」との声が出ている。賃金の底上げにつなげられるのか、注視したい。

 先進諸国の中で際だって長い労働時間も是正が急務だ。過労死など健康上の問題だけでなく、子育てや介護をしながら働くことを難しくしている。

 ただ、長時間労働の問題については、法改正をちゅうちょなく行うと言っている同一労働同一賃金と比べ、どうも及び腰の印象だ。

 野党は先の国会で、残業時間の上限規制や、1日の勤務を終えてから次の勤務につくまでの間に一定の休息時間を設けるインターバル規制の導入を提案した。検討するべきだろう。

 首相は所信表明演説で、働き方改革について「働く人の立場に立った改革だ」と説明した。が、一方で政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すとして、むしろ経済界が求める規制改革などに前向きな姿勢を示してきた。

 国会では、一定収入以上の専門職を労働時間規制の対象から外し、野党が「残業代ゼロ法案」と批判する労働基準法改正案が継続審議になっている。会社が金銭を支払って労働者を退職させる「解雇の金銭解決」も検討が続く。

 働き方改革の中で、これらをどう位置づけるのか。継続審議中の法案は再検討して国会に出し直すなど、国民にわかりやすく説明するべきではないか。

 何をめざし、どこに軸足を置く改革なのか、全体像をしっかりと示すことが欠かせない。

米大統領選 具体的な将来像を競え

 どちらが指導者にふさわしいか。米大統領選のテレビ討論会は、候補者同士が直接論戦し、政策と手腕について、公に吟味をあおぐ貴重な機会である。

 しかし、民主党のクリントン氏と共和党のトランプ氏による最初の対決は、論戦に深みがなく、物足りないものだった。

 相手の主張のあやまりや歪曲(わいきょく)ぶりへの指摘に時間を費やし、今の米国や世界が直面する数々の難題に正面から向き合ったとは到底、言えない。

 経済問題でクリントン氏は、最低賃金引き上げや女性の地位向上など分配の重視を説いた。トランプ氏は減税による経済活性化を唱える一方、自由貿易協定が「産業を国外に流出させ、雇用を奪った」と批判した。

 いずれも従来の主張の繰り返しだ。グローバル経済のもとで米国の伝統的な製造業が衰退しつつあるという問題意識は共有されているが、その現実にどう取りくむのかが見えない。

 中間層を守る姿勢を強調したクリントン氏は、有望な産業分野に再生可能エネルギーを挙げたが、全体的に新味に欠けた。トランプ氏は、なぜ保護主義を強めれば企業競争力が高まるのか、明確に説明しなかった。

 安全保障で、トランプ氏はさらに内向きな主張を展開した。

 「日韓、ドイツ、サウジアラビアは米国から多大な軍事サービスを受けながら対価を払っていない」と非難した。

 これもトランプ氏のかねての持論とはいえ、共和党の大統領候補という責任ある立場にある以上、見過ごせない。

 同盟国が米軍に駐留拠点を提供することで米国の安全は保たれている。中国やロシアなどが国際秩序に挑むような行動をとり、テロ組織の脅威が国境を越えて米国内にも及ぶ時代だからこそ、同盟国の結束がますます求められている。トランプ氏には、理性的な状況認識が欠けていると言わざるをえない。

 何より残念なのは、今回の討論会ではお互いの欠点を批判し合うやりとりが中心となり、政策をめぐる議論がほとんど、かみ合わなかったことだ。

 クリントン氏はトランプ氏の税逃れ疑惑、人種・女性差別を責めたてた。トランプ氏は、弱体化し、犯罪やテロで混乱する「悲観的な米国」を印象づけ、オバマ大統領やクリントン氏のせいだとやり玉にあげた。

 まだ論戦は始まったばかりだ。テレビ討論会はあと2回ある。米国をどうやって再生させるのか、国際社会でどんな責任を果たすのか。今度こそ、具体的な将来像を示してほしい。

米大統領選討論 クリントン氏が器を示した

 国際情勢が不安定さを増す中で、どちらの候補が米国の指導者にふさわしいのか。民主党のヒラリー・クリントン氏に軍配を上げる材料が多く示されたと言えよう。

 11月の米大統領選に向けた第1回テレビ討論会が行われた。支持率で迫る共和党のドナルド・トランプ氏が、クリントン氏と直接対決したのは初めてだ。

 クリントン氏は「日本、韓国との同盟を改めて保証したい」と述べ、日米韓の安全保障体制を維持する方針を強調した。

 中東の混乱やテロ対策については、国際協調を基本理念に掲げた。過激派組織「イスラム国」を打倒するため、シリアなどでの空爆を強化する意向も表明した。

 オバマ政権の外交・安保政策の継承は日本の国益にも適(かな)おう。

 国務長官を務めた実績を挙げ、激務に耐えられる体力と経験をアピールしたのは理解できる。

 実業家のトランプ氏は、公職経験のないアウトサイダーとして、オバマ政権の「失政」を突く戦術に出た。米軍撤収により、中東に力の空白が生じ、「イスラム国」の台頭を招いたと批判した。

 「我々は日韓、ドイツを守っているが、とてつもない貢献に見合うカネが支払われていない」との持論を展開し、「日本は自らの力で国を守るべきだ」と主張したのは的外れである。

 中露は「力による現状変更」を公然と進めている。北朝鮮は核・ミサイル開発で威嚇する。日米韓の安保協力がアジアの安定を支え、米国の利益とも合致することを認識していないのか。

 日韓の核武装を容認するトランプ氏の発言も論点になった。米国の核の傘を前提とする安保戦略の変更を目指すなら、実現可能な代替策を提示せねばなるまい。

 「『世界の警察官』ではいられない」と言う一方で、「偉大な米国の復活」を公約するのは矛盾していよう。クリントン氏が「最高司令官にふさわしくない」と断じたのは当然である。

 深刻なのは、両氏が共に、環太平洋経済連携協定(TPP)への反対姿勢を示したことだ。大衆迎合的な見解を競い合い、保護主義の世論が高まれば、TPPの批准は一層困難になる。

 討論会がクリントン氏の私用メール問題やトランプ氏の不透明な納税実態を巡り、中傷合戦に終始したのは残念だ。事実を歪曲(わいきょく)し、自説を正当化する発言も目立った。政治不信と社会の亀裂をこれ以上深めてはならないだろう。

衆院代表質問 民進党の「提案」路線は本物か

 新しい民進党執行部が批判一辺倒を脱し、「提案」路線に踏み出せるかどうかが問われよう。

 安倍首相の所信表明演説に対する衆院の各党代表質問が始まった。

 民進党の野田幹事長は、「国民目線で安倍政権を厳しくチェックするとともに、地に足の着いた提案をする」と強調した。蓮舫代表の掲げる「批判から提案へ」という新方針を踏まえたものだ。

 その路線が本物なら歓迎したいが、この日の質問は、首をかしげざるを得ない主張が目立った。

 野田氏は、憲法改正論議を始める前提として、国防軍、天皇の元首化などを規定した自民党憲法改正草案の撤回を要求した。

 だが、衆参の憲法審査会では本来、各党が独自案を出し合い、議論を通じて改正項目ごとに合意形成を図るのが筋のはずだ。自民党は草案に固執せず、各党と接点を探る柔軟姿勢も示している。

 「撤回しなければ議論できない、という主張は理解に苦しむ」との首相の答弁はうなずける。

 民進党の要求は、党内に護憲派を抱える中で、議論を先送りするための口実だと見られても仕方あるまい。意見集約が難しいテーマにも逃げずに取り組む努力が、提案路線には欠かせない。

 環太平洋経済連携協定(TPP)承認案・関連法案について、野田氏は、「攻めるものを攻め切れず、守るものを守り切れていない」として、反対を明言した。

 首相は、「農林水産品の約2割で関税保護を維持し、自動車部品の対米輸出の関税は8割以上即時撤廃した」と反論した。

 TPP発効によって、アジア太平洋地域に巨大な貿易圏が誕生すれば、新興国の活力を取り込むことで、日本の経済成長の底上げが期待される。安全保障面でも、中国への牽制になろう。

 民進党は、こうしたメリットを踏まえ、建設的な議論を展開すべきではないか。

 消費税率引き上げの延期を巡って、野田氏は、社会保障・税一体改革に関する2012年の自民、民主、公明3党合意が「風前のともしびになった」と指摘した。

 消費増税への国民の理解を得るためには、「身を切る改革」が不可欠だとも主張した。

 野田氏は首相当時、3党合意の当事者だっただけに、一体改革への思い入れは理解できる。ただ、行政改革による財源捻出は限定的だ。今は、デフレ脱却を実現し、増税が可能な経済環境をどう整えるかの議論がより大切だろう。

2016年9月27日火曜日

未来を切り拓くには痛みの訴えも必要だ

 政治は言葉である。とりわけ演説では、聞く人の心にひびき、共感を得るものがあるかどうかがポイントだ。それには多くの人が魅力を感じるキーワードをちりばめるのがひとつの方法である。

 安倍晋三首相の26日の衆参両院の本会議での所信表明演説を聞いていると「未来」という言葉がたびたび出てくる。

 「安倍内閣は未来への挑戦を続ける。世界の真ん中で輝く、日本の未来を共に切り拓(ひら)いていこう」

「2020年、その先の未来に向かって、誰もが能力を存分に発揮できる社会を創る。一億総活躍の未来を共に切り拓いていく」

 「思考停止に陥ってはならない。互いに知恵を出し合い、共に未来への橋を架けようではないか」

 20年の東京五輪を念頭に、将来に向かって共に歩もうという演説は、けっこう訴えかけるものがあるだろう。

 介護福祉士をめざす学生、山形で農業の道を志した22歳の若者、世界シェアの7割をほこるカニかまぼこの製造装置を開発した山口の中小企業……具体的なエピソードを盛り込み、政策課題をホチキスで止めた演説にならないよう苦心の跡がうかがえる。

 それでは安倍内閣が見すえている未来とはそもそも何なのだろうか。一億総活躍は将来の日本のビジョンを示すものではない。

 第1次内閣でそれは「美しい国」だった。理念先行で空回りした反省から封印、第2次内閣では目の前の課題の処理を優先してきた。それが功を奏し、常に「やっている感」を与え、高い内閣支持率を維持してきたのは間違いない。

 しかし政権発足からすでに3年9カ月。向こう2年、場合によってはさらにその先まで、国政を担当していこうとすれば中期的な国家ビジョンが必要になるのではないだろうか。

 そのとき「痛み」なしにこの国の未来があるとはとても思えない。不人気であっても、つらくても、正面から向き合い、有権者に訴えていくしかない。ときに政治指導者が真摯に立ち向かってきたことが自民党への信頼につながってきたのを忘れてはなるまい。

 演説への共感は負担や不利益を率直に語ることにもあるのを我々は知っている。かつての小泉純一郎首相の「言葉政治」がそうだった。安倍首相は当時、官房副長官として間近で見ていたはずだ。

シリア停戦をあきらめるな

 シリアのアサド政権と反体制派の停戦が事実上、崩壊した。米国とロシアが仲介した停戦は発効から1週間あまりしか続かず、政権軍はシリア北部にある反体制派の拠点に激しい空爆を再開した。

 憂慮すべき事態である。停戦の破綻は2月に続いて2度目だ。内戦の収拾には、アサド政権の後ろ盾になっているロシアと、反体制派を支援する米国の連携が不可欠だ。5年半に及ぶ悲劇は放置した国際社会の責任でもある。停戦の実現をあきらめてはならない。

 内戦の死者は30万人を超えた。国外に逃れた難民と国内に残る避難民をあわせると、国民の半分が住む家を追われた。北部の都市アレッポでは20万人超の市民が政権軍に包囲され孤立している。

 シリア情勢は様々な勢力と、その背後にいる米ロや周辺国の思惑が複雑に絡み合い、身動きできない状態が続く。その隙を突いて過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭し、影響を受けたテロが世界各地に広がる。

 混迷の糸を解きほぐすには、まず政権軍と反体制派が銃を置くことだ。今回の停戦はアレッポの人々に食料や医薬品を届けるのが第1の目的だったはずだ。人道危機の解消を急がねばならない。

 米ロは停戦の定着を確認したうえで連携してISを掃討し、政権と反体制派が共同で移行政権を樹立する段取りを描いていた。軌道に乗せるには、当事者に圧力をかけ続けなくてはならない。

 だが、戦闘の再燃を受け米ロは国連安全保障理事会の場で互いの非難をくり返している。国際社会の機能不全は内戦の犠牲者を増やしISを延命させるだけだ。ののしりあっている場合ではない。

 米国では大統領選挙が迫っている。オバマ政権に残る時間は少ないが、シリア問題の打開をぎりぎりまであきらめてはならない。

 一方、米国が政権交代期に入ったことにロシアは乗じるべきではない。双方の動きに目を光らせ、歩み寄りを後押しするのは、日本や欧州の役目である。

臨時国会開幕 巨大与党こそ建設的に

 自民、公明両党が衆参ともに圧倒的多数を握る巨大与党のもとで、臨時国会が始まった。

 安倍首相はきのうの所信表明演説で「私たちに求められていることは、悲観することでも、評論することでも、ましてや批判に明け暮れることでもありません」と語り、こう続けた。

 「建設的な議論を行い、先送りすることなく、結果を出す」

 与野党が建設的な議論をへて結論を出す。それが望ましい国会の姿なのはその通りだ。だが過去4年近くの安倍政権での国会をみる限り、首相の言葉は空々しく響く。

 野党の批判に耳を傾けようとせず、一定の審議時間が積み上がったからと、与党の数の力で結論を押し切る――。特定秘密保護法や安全保障関連法の審議で安倍政権が繰り返してきたやり方は「建設的な議論」とはほど遠い。

 忘れてならないのは、民主主義における野党の役割の一つは、権力を握る与党に異議申し立てをすることであるという点だ。その異議の背後には、与党が選挙ですくいきれなかった少数派の声がある。

 野党の批判や異論に理があれば、与党はそれを取り込み、政策をより良くしていく。時間はかかっても、そうした丁寧なプロセスを踏むことこそ「建設的な議論」の名にふさわしい。

 首相は所信表明演説で、憲法改正案を国民に示すのは「国会議員の責任」と意欲を示した。

 衆参で改憲勢力が3分の2の議席を占めてはいても、実際に改憲手続きに動き出すなら、少なくとも野党第1党の民進党と足並みをそろえる必要がある、との見方は与党内にもある。であれば、首相が重視すべきは民進党とも話し合える議論の基盤づくりではないか。

 少子高齢化が進み、未曽有の財政危機のなかで、将来世代が安心できる社会をどう築いていくか。国民に新たな負担を求めることも避けては通れない。

 そんななか、民進党の新幹事長に野田佳彦前首相がついた。

 民主党政権だった2012年の「社会保障と税の一体改革」で、消費税率10%への引き上げを決めた自民、公明、民主の3党合意をまとめた当事者だ。

 安倍首相による2度の増税延期について、民進党(民主党)も是としたが、いま一度、持続可能な税財政の構築に向けて、与野党が共通の基盤に立って知恵を出し合う時ではないか。

 この臨時国会を、それに向けた「建設的な議論」の第一歩にすべきだ。議論をリードする最大の責任は、与党にある。

核実験決議 保有国はさらに努力を

 国連安全保障理事会が23日、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効と、核実験の自制を求める決議を採択した。

 核爆発を伴うあらゆる実験を禁じるCTBTは20年前に国連総会で採択されたが、潜在的な核開発能力を持つ44カ国のうち、米国や中国など8カ国が未批准のため、発効のめどが立たない。署名もしていない北朝鮮は核実験を公然と繰り返す。

 決議は米国が提案し、ロシアと中国、英仏両国も賛成した。核を持つ5常任理事国が核実験禁止の強い意思を一致して示したことは評価できる。中ロの反発を踏まえ、法的拘束力を強める文言こそ盛り込まれなかったが、北朝鮮への圧力を強める一助になることを期待したい。

 オバマ米大統領はCTBTの早期批准を公約にしてきたが、野党・共和党を中心にした議会の反対は根強く、果たせずに任期を終えようとしている。今回の決議を単なる「レガシー(遺産)」に終わらせず、次期政権へ引き継ぐ努力を求めたい。

 中国も早く批准すべきだ。

 普段は対立することも多い5常任理事国が足並みをそろえた背景には、核軍縮や核不拡散はあくまで核保有国主導で進めたいとする思惑がうかがえる。

 CTBTにあきたらず、核兵器そのものを禁じる条約の制定を目指している非核保有国の動きへの牽制(けんせい)だ。

 来月始まる国連総会第1委員会では、非核保有国側が、核兵器禁止条約の交渉を来年中に始めるよう求める決議案を提出する見通しだ。

 米国をはじめ5常任理事国は「安全保障のバランスが崩れる」とこぞって反対の構えをとってきたが、国際社会の不満をもっと理解してほしい。

 核不拡散条約(NPT)は米ロ英仏中の5カ国のみに核保有を認める一方で、核廃絶に向けた軍縮の義務を課している。

 だが、世界の核兵器の9割を持つ米ロの核軍縮交渉は停滞したままだ。米国はオバマ政権下でも、爆発を伴わない核実験を続けてきた。ロシアや中国は核戦力の増強に躍起だ。

 これでは、核兵器のない世界に近づきようがない。今回の安保理決議をめぐっても、非常任理事国のエジプトは「核保有国の義務に触れていない」と反発し、採決を棄権した。

 核保有国は、義務を誠実に果たすべきだ。とりわけ核兵器禁止条約をめぐる国際的な議論に背を向けない姿勢を強く求めたい。日本も被爆国の責務として、核保有国側に粘り強く働きかけていくべきである。

所信表明演説 与野党は憲法論議を前向きに

 憲法改正は、国の最高法規をより良いものにする重要な作業だ。与野党は、幅広い合意形成に努力せねばならない。

 安倍首相が衆参両院本会議で所信表明演説を行った。憲法改正に関して「憲法はどうあるべきか。どういう国を目指すのか。それを決めるのは政府ではない。国民だ」と強調した。

 「その案を国民に提示するのは、国会議員の責任だ」とも述べ、衆参の憲法審査会で改正論議を深めるよう、与野党に呼びかけた。

 憲法改正の発議権を持つのは内閣でなく、国会だ。首相がその点を重ねて力説したのは、野党に前向きな対応を促すためだろう。

 7月の参院選大勝により、与党は、憲法改正に積極的な日本維新の会などとの合計で、衆参両院で3分の2以上の議席を占めた。

 憲法審査会では、与野党の対立が続き、改正項目の絞り込みは進んでいない。国民投票で過半数の賛成を要するという改正の高いハードルを踏まえれば、自民党には、与野党の一致点を見いだすための柔軟な姿勢が求められよう。

 首相は演説で、キーワードの「未来」に18回も言及した。

 経済政策アベノミクスについて「一層加速し、デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げる」と訴えた。その具体策として、1億総活躍社会に向けて、子育て支援、介護の拡充などの「未来への投資」を重視する考えを示した。

 アベノミクスは3年半余、金融緩和と財政出動を重ねてきたが、デフレ脱却は依然、道半ばである。「第3の矢」の成長戦略が効果を発揮せず、日本経済の実力である潜在成長率は伸びていない。

 情報技術(IT)活用や規制改革を通じて、日本企業の生産性と国際競争力を高める。成長戦略強化の具体案と、日本経済の「未来」を明示しなければ、企業経営者や消費者の将来不安を払拭し、投資や消費に向かわせられまい。

 環太平洋経済連携協定(TPP)は成長戦略の柱の一つである。今国会で確実に承認すべきだ。

 首相は、日露関係について「領土問題を解決し、平和条約がない異常な状態に終止符を打つ」と述べ、改善に意欲を示した。12月のプーチン大統領来日に関し、「首脳同士のリーダーシップで交渉を前進させる」とも語った。

 戦後71年間も未解決の状態が続く北方領土問題の前進には、日露両国の歩み寄りが欠かせない。従来の発想にとらわれない「新しいアプローチ」を含め、双方が大いに知恵を絞る必要がある。

農業とIT 実用化で輸出競争力高めよう

 日本が得意とするハイテク技術を生かし、生産性の低い農業の国際競争力を高めたい。

 日本の農村は、高齢化が進み、後継者難が深刻だ。機械化による重労働の軽減から、気象データや市況の分析といった分野まで、情報技術(IT)の利用を図る余地は大きい。

 農林水産省が、IT活用を来年度予算の重点分野に位置付けた。政府の「未来投資会議」も、成長戦略の課題として、農業の生産性向上を取り上げた。着実に前進させてもらいたい。

 農業を収益性の高い成長産業にするには、若者や企業など多様な担い手を呼び込むことが欠かせない。それには、農業とITの結び付きをより強固にすることだ。

 現場では、すでに様々な取り組みが始まっている。

 山梨県甲州市のブドウ園では、気温や湿度をセンサーで計測し、農薬散布量を従来の半分に抑えた。品質向上とコスト削減の一石二鳥の効果が上がっている。

 開発段階の試みでは、日本独自の衛星システムがトラクターを誤差数センチで農地を自在に誘導する。果実の成熟度を人工知能が独自に判断し、ロボットアームで収穫する。牛の搾乳ロボットが、病気の早期発見や健康管理も行う。

 畜産物や果実は、日本産の高級品が海外でも人気を博す。先端技術が実用化されれば、輸出競争力を一段と引き上げるだろう。

 気になるのは、IT活用が特定の地域や企業単位で、ばらばらに進められていることだ。

 せっかくシステムを開発しても市場が限定されれば、価格が割高になる。多くのデータの様式が統一されておらず、複数のシステムで相互利用できないことも、IT普及を阻む要因となっている。

 政府が、データ化する農作業の名称や項目の指針を定めたのは、一歩前進と言える。今後は、気温や湿度など生産現場の環境データを標準化し、どのシステムでも使えるようにする必要がある。

 IT活用の効果を最大限に発揮させるには、構造改革を進めることも忘れてはならない。

 自動化や機械化のメリットをより大きく引き出すためには、営農の大規模化が不可欠だ。

 バラマキ型の農業補助制度を改め、経営意欲の高い中核的な農家に支援を集中する。企業による農業参入のハードルを下げる。農地を集約して規模拡大を図る。

 農業の「稼ぐ力」を強めるには規制改革と技術革新の相乗効果を上げる戦略が求められている。

2016年9月26日月曜日

EUの個人情報保護ルールへの対応急げ

 欧州連合(EU)は2018年から、域内企業が個人情報を域外に持ち出すのを厳しく規制する。

 欧州でビジネスを展開している日本企業は大きな影響を受ける。日本政府はEUとデータ移転をめぐる枠組みで合意できるように、早急に対応すべきだ。

 これから導入されるEUの「一般データ保護規則」は、域内市民の氏名や住所、クレジットカード情報、写真などの域外への持ち出しを原則禁じる。データを合法的に持ち出すには特別な手続きが必要で、違反すると巨額の制裁金を払わされる。

 日本企業の場合、たとえばEU域内の子会社や支店があつかう顧客一覧や従業員の名簿を日本の本社に持ち出すと、違法と認定されかねない。ビッグデータを活用しようとしている日本企業にとって死活問題となり得る。

 EUは規制の例外として、個人情報保護の体制が十分だと認めたイスラエルやスイスなどの国・地域については、EU域外へのデータ移転を認めている。

 日本では、2014年に設立した個人情報保護委員会の体制をようやく強化し始めところだ。まだ万全とはいえない。

 参考になるのは米国の対応だ。EUと新協定「プライバシーシールド」に合意した。米企業の個人情報保護の取り組みを強化することで、EU域内から米国に情報を持ち出すことを認める内容だ。

 見逃せないのは、韓国がEUから個人情報保護体制のお墨付きを得ようと動き出した点だ。EU企業が個人情報を保管するセンターを韓国に置けば、日本企業はアジアでのIT(情報技術)ビジネスの競争で後手に回りかねない。

 日本は、EUから個人情報保護の体制が十分だと認められるよう努力するか、米国のようにEUと協定で合意するといった対応策が考えられる。

 実は日本の個人情報保護法でも、日本に進出している外国企業が日本から個人情報を持ち出すのを制限する規定がある。

 最も望ましいのは、EUに進出している日本企業と、日本で活動しているEU企業の双方が安心して個人データを域外に持ち出せる枠組みで合意することだ。

 米国は政治主導でEUとの合意を推進した。日本も個人情報保護法を担当する部局を、政府一丸となって支えるような体制づくりを急ぐときだ。

遠い中南米とも「近い関係」に

 地球儀を手にとるまでもなく、中南米は日本から遠く離れた存在だ。この関係をどう近づけ、互いに恩恵を得られるようにしていくか。日本は真剣に戦略を描くときにきている。

 安倍晋三首相は先週、日本の首相として初めてキューバを訪れた。社会主義体制を維持する同国は昨年、54年ぶりに米国と国交を正常化し、外国への扉を大きく開け始めた。

 日本としても、今回の訪問を中南米との交流を深めるきっかけにしたい。

 安倍首相は一連の会談で、日本からの投資を増やす方針を伝えた。対日返済が滞っている債務約1800億円のうち、1200億円の返済も免除する。

 キューバの潜在力は決して小さくない。1千万人以上の人口を抱え、ニッケルやコバルトなどの鉱物資源に恵まれている。識字率も、ほぼ100%という。

 ただ、資材の調達や販売、雇用など、外国企業の活動にはさまざまな制約が課せられている。日本企業の進出を促すには、これらの規制を緩めてもらう必要がある。政府は改善に向け、キューバ側との交渉を急いでもらいたい。

 キューバは北朝鮮にとっても、数少ない友好国だ。日本がキューバとのパイプを強めれば、北朝鮮への外交圧力にもなる。

 1999年以降、この地域には米主導の「新自由主義」への反発もあって、反米的な左派政権が相次いで生まれた。中国やロシアは米国をけん制するため、キューバやベネズエラに接近してきた。

 中南米が「反米勢力の牙城」になることは、米国の同盟国である日本だけでなく、世界の安定にも望ましくない。そうした展開を防ぐには各国の経済を改善し、政治の安定につなげるしかない。

 いま、多くの左派政権の経済は1次産品価格の低迷に苦しんでいる。日本が経済を軸に、各国との協力を進める余地は広がっている。中南米に穏健な政権が根づくよう、できる支援から始めたい。

災害列島 経験を蓄える仕組みを

 日本は世界有数の災害大国だ。そう痛感する日々が続く。

 4月に熊本地震が起こり、8月には台風10号に伴う豪雨が岩手県や北海道などを襲った。ともに多くの人命が失われた。

 災害は各地で毎年のように生じている。一方で、被災地では「この地方で大きな地震はないと思っていた」「こんな大雨や川の氾濫(はんらん)に見舞われるとは」といった声が後を絶たない。

 ギャップはなぜ生じるのか。

 建物の耐震化や治山・治水対策はそれなりに進み、少々の地震や雨では被害が出にくくなった。ただ、活断層の解明をはじめ科学の力には限界がある。地球温暖化に伴って大型台風や集中豪雨といった「極端現象」も増えており、想定を超える大規模な風水害や土砂災害の危険性は全国的に高まっている。

 被災後の「まさか」という嘆きや悔いを減らすには、経験や知見を共有する仕組みが欠かせない。災害列島・ニッポンでの防災・減災の要として、国に専門組織を設けてはどうか。

 全国の事例を分析し、引き出した教訓を他の地域や多種多様な災害の備えに生かす。災害と直接向き合う都道府県や市町村と日常的に接しながら、人手や専門人材の乏しさを補いつつ、臨機応変の対応力を一緒に磨いていく。規模ではなく、そんな機能を重視した組織である。

 防災や災害時の対応には国土交通省や警察・消防、防衛省・自衛隊、厚生労働省をはじめ、大半の省庁がかかわる。それらを束ねるのが内閣官房と内閣府で、事故を含む緊急時の危機管理を内閣官房が、予防から復興までの自然災害対策は内閣府が、それぞれ担っている。

 ただ、内閣府の防災担当は100人ほどだ。他省庁からの出向者が多いほか、内閣府採用の職員も含め1~2年程度で入れ替わる。自治体からも十数人を受け入れているが、研修が主な目的で期間は長くて1年だ。

 熊本地震時には、東日本大震災関連の仕事にかかわった各省庁の職員が何人も、いまの業務を脇に置いて現地応援に入った。自治体との連携を含め、「人」とそのネットワークを生かして機敏に対応することは大切だが、災害は千差万別だ。経験や教訓、対策をきめ細かく継承していくには不安が残る。

 政府は、米英独仏韓などの危機管理組織を調べ、昨年3月にまとめた報告書で「日本の仕組みには合理性があり、機能している」と結論づけた。だが防災対策に終わりはない。より理想的な組織のあり方について、引き続き研究してほしい。

最年少棋士 AI時代の知のかたち

 史上最年少の将棋プロ棋士が来月、誕生する。

 藤井聡太さんは愛知県瀬戸市の中学2年生。14歳2カ月でプロとなる四段に到達し、現役最年長の加藤一二三(ひふみ)・九段(76)の最年少記録を62年ぶりに更新した。小4で棋士養成機関の奨励会に入り、4年で難関を突破した大器である。

 最高峰のタイトルの一つ、名人も若返りが進む。5月に当時の佐藤天彦(あまひこ)八段(28)が羽生(はぶ)善治四冠(45)を下し、16年ぶりに20代の名人が誕生した。

 40代半ばの羽生世代の活躍が続くなか、若手の台頭は未来に向けて明るいできごとだ。

 一方で、近年の将棋界は人工知能(AI)を用いたソフトの攻勢にさらされている。

 今年の電王戦では、山崎隆之八段(35)がソフト「PONANZA(ポナンザ)」に2連敗した。改良と学習を重ねてきたソフトの形勢判断能力は年々向上し、いまやトップ棋士と互角かそれ以上の実力をもつといわれる。

 ソフトは日常の一風景にもなっている。研究に使う棋士が増え、対局でソフト発の新手が指されることもしばしばだ。

 将棋は江戸時代初期から幕府の保護を受け、家元制度のもとで発展してきた。いまも主なタイトル戦に棋士は和装で臨む。そんな伝統的な世界が、自動運転車や医療診断の補助などで注目される、AIと人間との協働の最前線になっているのだ。

 先端をゆく分野だからこそ、AIがさらに発展したら棋士という職業はなくなってしまうのでは、と心配する人がいる。

 だが、知力の限りを尽くす盤上のドラマや、棋士たちの個性が将棋の魅力だ。常に直線的に最善手を選ぶソフトに対し、人間には駆け引きやミスによる逆転がある。だから面白い。

 藤井さんも佐藤名人もネット対局などで腕を磨いたデジタル世代だ。しかし2人の持ち味はそれにとどまらない。藤井さんは詰将棋で終盤の力を養った。佐藤名人は大山康晴十五世名人らの棋譜を研究し、自在な棋風を生んだ。昔ながらの鍛錬法が有効である証左だろう。

 7月に亡くなった英文学者の柳瀬尚紀さんは将棋ファンとして知られた。1996年に羽生七冠が誕生したとき、「いわば将棋常套(じょうとう)句の視点からでは見えにくいものを羽生天才は見つける」と偉業をたたえた。

 次代を担う棋士たちも、柔らかな発想で、人間の「知のかたち」を示す、創造的な将棋を指し続けてほしい。その姿は、AI時代を生きる私たちの手がかりや励ましになる。

里親制度 普及へ担い手支援拡充したい

 虐待などで親と暮らせない子供のために、安心できる温かい成育環境を確保するには、里親制度の普及促進が大切だ。

 親が養育できない場合は、里親などによる家庭養育を優先する。5月に成立した改正児童福祉法には、そう明記された。里親支援は、新たに児童相談所の業務と位置付けられた。施設頼みの施策を転換した意義は大きい。

 親が養育できず、保護を要する子供は4万6000人に上る。大半は、児童養護施設や乳児院などの施設で暮らすのが現状だ。

 集団生活では、一人一人へのきめ細かな対応に限界があり、管理的になりやすい。自尊心や社会性を育むための基盤となる特定の大人との愛着形成も困難だ。

 虐待による保護が増え、傷ついた子供にしっかりと向き合える養育環境の重要性は増している。

 政府は、保護を要する子供の3割を里親に託す目標を掲げる。しかし、里親への委託率は、数人を預かるホーム型も含めて16・5%にとどまる。この10年で倍増したものの、目標にはほど遠い。

 先進諸国では、里親などの家庭的な環境での養育が一般的だ。施設に偏った日本の現状は特異で、国際的にも批判が強い。

 課題は、里親の担い手をいかに増やすかである。

 現在、約1万世帯が児童相談所の訪問調査などを経て里親に登録している。以前は専業主婦世帯に限られていたが、徐々に要件が緩和され、共働き世帯も増えた。

 ただ、50~60歳代が中心で、幅広い層への広がりを欠く。若い世代が里親になりやすい環境の整備が求められる。育児休業の適用を認めることも一案だろう。

 自治体間の差も大きい。委託率が1割前後の自治体が多い中、新潟県は4割に上る。

 委託率を大幅に引き上げた例もある。過去10年で福岡市は7%から32%、大分県は7%から29%に伸びた。いずれも、児童相談所への専任職員の配置、里親支援の充実、民間団体と連携した広報活動などの対策に力を注いできた。

 里親への支援強化は、とりわけ重要だ。虐待の影響などで心身の発達に問題を抱え、養育が難しい子供も多い。研修・相談体制の拡充や、里親同士の交流促進で、里親の孤立化を防ぐ必要がある。

 児童相談所は、児童虐待への対応に追われる中で、里親の募集や支援も担う。児童養護施設や子育て関連のNPOなどの協力を得ながら、里親と子供たちを支え、育む体制作りを進めてほしい。

関空麻疹拡散 感染症対策の意識を高めよう

 空港は、様々なウイルスが侵入する危険にさらされている。空港職員らの感染症対策を強化せねばならない。

 関西空港で麻疹(はしか)の集団感染が発生した。空港の従業員33人のほか、乗降客ら9人が発症した。従業員が受診した病院でも患者が出るなど、感染拡大が懸念されている。

 日本は、土着の麻疹ウイルスが存在しない「排除状態」と世界保健機関から認定されている。集団感染は、海外から持ち込まれたウイルスが原因の可能性が高い。

 見過ごせないのは、20~30歳代に感染が集中していることだ。

 予防には2度のワクチン接種が効果的だが、乳児や幼児への定期接種が始まったのは2006年度からだ。感染歴のある人が多い中高年層と比べて、20~30歳代は十分な免疫力を持っていない。

 保健所の指示で、空港の運営会社が初めて従業員の接種歴を調査した結果、この年代の約9000人のうち、未接種か、あるいは感染歴のない人が1割に上ることが分かった。いつ集団感染が起きてもおかしくない状態だった。

 麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、手洗いやマスクでは防げない。免疫のない人が感染すると、100%発症して高熱や発疹の症状が出る。肺炎、脳炎などの合併症のほか、流産や早産を引き起こすケースもある。

 関空に限らず、空港の従業員はワクチン接種を徹底すべきだ。

 医師の的確な診断も大切である。最初に感染が判明した従業員は、発熱の症状が出た際、医療機関で風邪と診断された。

 いったんは休んだものの、熱が下がると国際線エリアで接客を続けた。これが感染拡大につながったことは間違いないだろう。

 大阪府が感染を発表したのは、最初の患者を確認した2週間後だった。不安を煽(あお)らないように、という判断からだったが、松井一郎知事は「ここまで広がるとは思っていなかった。対応が甘かった」と落ち度を認めた。

 迅速な情報提供も、感染の拡大防止には欠かせない。

 訪日外国人が急増する中、空港での感染症対策は重要性を増している。感染者が検疫をすり抜ければ、ウイルスが拡散する危険性は格段に高まる。

 検疫所でのチェックは、発熱の有無や目視が中心だ。潜伏期間であれば、自覚症状のない感染者もいるだろう。国立感染症研究所など関係機関が連携して、検疫体制を再構築する必要がある。

2016年9月25日日曜日

難民問題への取り組みが問われている

 シリアなどの紛争地域から逃れた難民や、経済的理由から国境を越えてくる移民に国際社会はどう対処すべきか。各国首脳が集う国連総会を機にニューヨークで開いた国際会議は、問題の根深さを改めて示した。

 内戦などが原因の難民や避難民は世界で6500万人にのぼり、難民が滞在する国の負担も増している。支援強化は喫緊の課題だ。

 国連の難民・移民サミットには多数の首脳や閣僚が参加し、国際社会として難民や移民の問題に対応する決意を表明した。国連総会がこの問題で初めてサミットを開き、国際社会の取り組みを申し合わせたことは評価できる。

 オバマ米大統領の主催で開いた別の難民サミットは、参加国が難民支援の拠出金を上積みするとともに、各国が受け入れる難民数を計36万人超にほぼ倍増することを打ち出した。

 個別の国レベルではなかなか進まない難民支援について、国際的な場で負担を約束し合うことの意義は大きく、歓迎したい。

 しかし、資金による解決には限界があるし、難民の受け入れ拡大も全体からみると多いとはいえない。一連の会議も力不足といわざるをえない。

 難民や不本意な移民をなくすには、原因となる紛争や貧困の問題への取り組みが欠かせない。人道面の支援強化と同時に、内戦の終結に向けた外交努力など、状況を抜本的に改善させるための国際協力を加速させる必要がある。

 日本の貢献姿勢も問われる。会議には安倍晋三首相が出席し、人道援助や難民受け入れ国への支援などで28億ドル(約2800億円)規模の資金を拠出することや、紛争の影響を受けた難民らへの教育支援や職業訓練実施を表明した。5年間で最大150人のシリア人留学生の受け入れも約束した。

 だが、日本の難民受け入れ数はきわめて少ないのが実態だ。難民認定の申請者数は昨年7500人を超えたが、難民と認定された人はわずか27人だった。法務省によると、今年1~6月の認定者数は4人にとどまる。

 シリア難民の留学生受け入れは前向きな一歩ではあるが、人数が限られる。このまま日本は、お金は出すが難民受け入れに消極的な国という印象を与え続けるのか。それとも、もっと受け入れる方針に転じるのか。早急に議論を深めるべきだろう。

警鐘鳴らすヤフーの情報流出

 ネットサービス大手の米ヤフーから5億人分以上の個人情報が流出した。単一サイトからの漏洩としては過去最大とみられる。個人情報を扱う企業はもとより、日々ネットを使う個人も警鐘と受けとめ、備えを厚くする必要がある。

 ヤフーによると、利用者の名前やメールアドレスなどが盗まれた。流出は2014年に起き、国家を後ろ盾とするハッカーの関与が疑われるという。日本のヤフーはシステムが異なり、利用者への影響はないとしている。

 疑問は多い。なぜこれほど大規模な流出が起き、事態の把握に時間がかかったのか。事業売却などのリストラに追われ、安全対策が手薄になっていなかったか。

 ヤフーはきちんと検証し、再発防止策を含めて説明する責任がある。類似の流出問題を防ぐため、他のネット企業などと情報を共有することも欠かせないだろう。

 IT(情報技術)は深く社会に浸透している。ネット業界に限らず、大量の個人情報を抱える企業は少なくない。管理体制に不備がないか、企業は総点検のときだ。

 システム強化や社員教育など従来型の対策だけでは足りない。例えば、社外の技術者に報奨金を払い、自社システムの欠陥を見つけてもらう手法などもある。うまく使い、守りを固めたい。

 やみくもに個人情報を集めないことも重要だ。サービスの創出や改善に不可欠な情報だけを厳選して集め、その管理に万全を期す。そうした姿勢が利用者のプライバシーを保護し、企業としての信用を高めることにつながる。

 個人も自衛の意識が要る。情報を交換したり保存したりするネットサービスが次々生まれるが、情報の流出や消失のリスクを忘れてはならない。大事な情報は安易にネットに流さず、バックアップをとるなど、注意点は多い。

 あらゆるものがネットにつながる時代だ。利便性が増す半面、サイバー攻撃の危険が高まる現実がある。安全確保に向け、知恵を絞り続けるしかない。

消費者訴訟 企業の姿勢、再確認を

 長い時間をかけ、曲折を経てできあがった制度だ。上手に運用し、社会に根づかせたい。

 消費者の泣き寝入りを防ぎ、権利を守るための新たな裁判手続きが10月1日から始まる。

 語学教室との契約を解除したら、法外な違約金をとられた。買った商品に欠陥があった。こういった、多くの被害者がいることが想定されながら、費用や手間を考えると裁判までするのは二の足を踏むトラブルが、身の回りでおきたとする。

 そんなとき、被害者にかわって消費者団体が訴訟を起こし、相手に賠償義務があることを、まずはっきりさせる。続いて、団体が被害にあった人に届け出を呼びかける。その結果を元に個々の被害者が受けとる金額を裁判所が決める――というのが今回導入される手続きだ。

 経済界が「訴訟が乱発され企業活動が滞るおそれがある」と慎重論を唱え、国会が政府に検討を求めてから法律の施行までに10年の月日を要した。

 経営リスクの高まりを心配するのはわかる。だが、回復すべき被害をそのままにしておくことが正義にかなうはずがない。長期的視点に立てば、そんな不健全な社会のもとで経済の進展など期待できないだろう。木を見て森を見ない議論は、結局は自分たちの首をしめる。

 それでも根強い懸念をふまえて、▽精神的苦痛などにもとづく慰謝料の請求は手続きの対象としない▽たとえば欠陥商品から火が出て家財が被害を受けるなどしても、賠償は商品の代金までとする▽訴訟を起こせるのは、十分な活動実績があり首相が認定した団体に限る、などの枠がはめられている。

 企業側がとるべき対応ははっきりしている。

 適切な契約を交わし、順守する。不当な表示で消費者をごまかさない。欠陥のある製品をつくったり売ったりしない。要はごくまっとうな活動をし、万一問題が起きてしまったら真摯(しんし)に対応する。これに尽きる。

 自社のコンプライアンスのあり方を点検する良い機会ととらえ、足元を固め直してもらいたい。それは消費者と企業の双方に果実をもたらすだろう。

 制度づくりをにない、ようやく実施の日を迎える消費者庁だが、課題は山積している。

 現時点で認定団体になれるのは10程度と見込まれ、力量にも地域分布にもばらつきがある。自治体や弁護士会と連携をとりながら、団体の育成・充実に努め、消費者行政の底上げを図っていく必要がある。「魂」を吹きこむ作業は、これからだ。

文化と社会 結びつける人材育てて

 文化とお金を結びつける考え方が、声高に語られている。

 文化GDP拡大。文化庁の文書にしばしば、この文字がおどる。先の参院選で自民党の政策集にも載った。文化庁は現状を約5兆円と試算。それを3倍以上に伸ばして、政府が掲げる「GDP600兆円の達成に貢献する」と、勇ましい。

 だが、文化GDPには確たる定義はないという。根拠の頼りない金勘定は説得力を欠く。

 文化を考える時、「経済」は大事な視点の一つである。

 寺社などの文化財を見に人が集まり、美術や音楽のフェスティバルが人気を呼ぶ。文化芸術の魅力は人を動かす。観光産業などと結びつき、結果として、お金や雇用を生むケースも多い。見せ方の工夫や内容の充実で、来訪者を増やし、満足度を高めて経済効果を上げる努力も意味あることだ。文化事業などの波及効果を金額に換算する便法も理解できる。

 お金は意味のある尺度の一つではある。

 しかし、物差しの一つが力を持ちすぎるのは危険だ。それに合うものばかりが注目され、外れたものが隅に追いやられては困る。

 美しいものに触れる。新しい世界を開く。楽しむ。驚く。考えを深める。先人の足跡を知る――。文化芸術の根幹は、そうした人間や世界を探究する営みだ。その価値は、経済性と切り離して理解されるべきだ。

 そのうえで、文化芸術の力を有効に使うことも考えたい。

 芸術祭で地域が活気づく。演劇で高齢者が生き生きする。そうした例は各地にある。文化芸術が、人と人、人と場所、過去と未来とを結び、人や地域のエネルギーを引き出すからだ。その力を、暮らしや社会を豊かにし、様々な課題を解決するのに役立てる取り組みが、もっと広がるといい。

 それには有能な調整役が必要だ。芸術家の創作や、文化財の研究に寄り添い、意義をわかりやすく伝える。同時に、社会のニーズを探り、文化芸術が力を発揮できる方策を考え、実践する。専門家と地域の人々、行政などを結び、有形無形の価値を生み出す。そんな仕事のできる人を、数多く育てなければならない。

 これまで一部のアート関係者や芸術家自身、文化施設の職員らが担ってきた役割だが、まだまだ人材は乏しい。活躍する環境も整っていない。

 こうした人材を育て、全国に定着させる施策こそ、文化庁の力の入れどころである。

シリア危機 露には停戦実現の責任がある

 シリアのアサド政権と反体制派の内戦を巡り、米露が仲介した停戦合意が発効からわずか1週間で崩壊の危機に陥った。深刻な事態である。

 ロシアの支援を受けるアサド政権が、停戦終了を一方的に宣言した。「反体制派が合意に従わなかった」と主張し、攻撃を再開した。停戦発効後、米軍が政権軍を誤爆した疑いが浮上したことも、背景にあるのだろう。

 看過できないのは、シリア北部アレッポ郊外で、食料や医薬品を運ぶ車列が空爆されたことである。国連は輸送活動の一時停止に追い込まれた。

 アレッポの一部地域は政権軍の包囲作戦により、道路が封鎖されている。住民数十万人が孤立し、爆撃と飢餓に苦しむ。米露が停戦を急いだのは、支援物資を安全に届ける手段を確保し、人道危機を回避するためではなかったか。

 国連などが「極めて悪質な国際法違反」として空爆を非難したのは当然だ。米国は「ロシアもしくは政権軍による攻撃」と断じ、責任を追及した。ロシア側は否定し、泥仕合が続いている。

 米露は2月にも停戦合意を主導したが、数か月で破綻した。政権と反体制派が和平協議を進め、8月までに移行政権を樹立するという構想もすでに頓挫した。

 米国は、アサド政権の早期退陣と新政権の発足を目指す。5年に及ぶ内戦を終結させれば、過激派組織「イスラム国」の打倒に国際社会が集中できる態勢が整う。難民問題を収拾する契機にもなる。妥当な考え方と言えよう。

 問題なのはロシアの姿勢だ。

 化学兵器使用も指摘されるアサド政権を温存し、シリア情勢の主導権を米国から奪うことを最優先目標としている。1年前に「イスラム国」掃討の名目で軍事介入し、劣勢だった政権軍の反転攻勢を空爆などで後押しした。

 ロシアには、政権軍に停戦を守らせる責務と影響力がある。オバマ米大統領の任期が残り4か月しかないことにつけ込み、現状維持を図る工作は許されまい。

 シリアの戦況は複雑さを増している。隣国トルコは、敵対する少数民族クルド人勢力の支配地域の拡大を抑えるため、戦車部隊を越境させた。イランからは、政権軍を支援する組織が参戦している。関係国の自制が求められよう。

 安倍首相は、シリアや周辺国の住民向けに約11・3億ドルの支援を表明した。日本は引き続き、非軍事面の貢献を通じ、危機を解決する環境の醸成に努めたい。

富山政活費不正 「公金」意識の欠如にあきれる

 地方政治の担い手でありながら、公金を使うことへの規範意識があまりにも欠如している。

 富山市議会で政務活動費の不正受給が次々と発覚した。議長を含む自民党会派7人、民進党系会派2人の計9人が辞職し、11月6日に補選が行われる事態に発展した。

 不正受給額は過去5年間で計約3270万円に上る。地元メディアの報道を機に明るみに出た。市議会への信頼を失墜させた責任は重い。辞職や返金は当然だ。

 9人は、白紙に金額を記入するなどの方法で偽造した領収書を提出し、政活費を受け取った。飲食や事務所の改修などに流用したという。「酒が好きで、つい手を出してしまった」と釈明した前市議もいる。あきれるほかない。

 地方議員の政活費は本来、政策の調査・研究などが目的だ。税金が原資なのに、会派と議会の事務局のずさんな管理は目に余る。

 自民、民進系の両会派では、事務員が会派や各市議の口座を管理し、市議の求めに応じて政活費を渡していた。議会事務局も使途や金額の整合性を確認する程度で、チェック機能が働かなかった。

 全国で一般的な前払い制も不正の温床となった。残った政活費は返還する必要があるが、そうした例は少ない。「もらった分は使い切る」との意識が強いからだ。

 富山市議会は、政活費のあり方に関する検討会を設置した。市政の混乱の収拾には、問題の全容解明に加え、厳格な再発防止策の取りまとめが急務である。

 市民団体は、一部の前市議を詐欺の疑いで富山県警に刑事告発した。捜査の行方を見守りたい。

 政活費の不正受給は富山県議会でも相次ぎ、副議長ら2人が辞職し、1人が辞職願を提出した。山形県議会などにも飛び火した。

 読売新聞の調査では、都道府県や政令市などの98議会で、回答した会派の4割が政活費支出について「点検していない」と答えた。2014年に兵庫県議の不正受給が発覚したにもかかわらず、見直しの動きが鈍いのは問題だ。

 領収書と引き換えに必要金額を支払う後払い制とする。収支報告書を全面公開する。不正防止には、厳しいチェックと外部の目による監視が欠かせない。

 看過できないのは、富山、金沢両市などの議会事務局が、政活費の情報公開請求を行った報道機関名を議員側に漏らしたことだ。

 取材活動の妨害や、地方公務員の守秘義務違反などに当たる可能性がある。猛省を求めたい。

2016年9月24日土曜日

もんじゅ抜きの核燃サイクルの展望示せ

 高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)について、政府の原子力関係閣僚会議は廃炉を含めて計画を抜本的に見直すことを決めた。年末までに廃炉を最終的に決め、もんじゅに代わる新たな高速炉の開発を検討するとした。

 見直しは当然だ。私たちはもんじゅの延命にこだわらず、計画をゼロベースで見直すよう主張してきた。高速増殖炉は実用化の見通しが立たず、原子力を取り巻く状況も大きく変わったからだ。

 もんじゅはプルトニウムなどを使った以上に増やせる「夢の原子炉」とされてきた。だが稼働直後に事故が起き、運転実績はほとんどない。ずさんな安全管理も発覚し、原子力規制委員会は昨年11月に運営の見直しを勧告していた。

 政府はこの時点で計画を見直すべきだった。存続を求める文部科学省に対応を委ねたため、時間を浪費したと言わざるを得ない。

 政府はもんじゅを廃炉とする一方で、官民で新たな高速炉の開発を検討するという。だが高速炉がなぜ必要なのか。根本に立ち返った議論を求めたい。

 論点のひとつがプルトニウムをどう利用するかだ。日本には使用済み燃料から取り出したプルトニウムが48トンたまっている。プルトニウムは核兵器に転用でき、国際社会の懸念が強い。プルトニウムを増やさず燃やすだけの高速炉も考えられるが、何をめざすのか。

 研究開発を続けるのなら、目的や意義をきちんと説明し、実用化の時期や経済性についても見通しを示すべきだ。官民の役割分担をどうするかや、研究に携わる人材の育成策を含め、長期的な視点に立った計画が欠かせない。

 一方で、プルトニウムをウランとともに通常の原発で燃やすプルサーマル計画の着実な推進が不可欠になる。原子力発電所の使用済み燃料を再処理し、ウランの有効活用をめざす核燃料サイクルを続ける以上、プルサーマルがカギを握るからだ。

 政府と電力業界は16~18基の原発で計画しているが、東京電力福島第1原発事故後、見通しが立っていない。原発の再稼働を着実に進め、プルサーマルでも地元の理解を得ていく必要がある。

 高速増殖炉の見直しは、日本の原子力政策にとって大きな転機になる。核燃料サイクルの意義や実現性、コストなどについても改めて点検するときだ。そこでは透明性の高い議論が欠かせない。

目に余る富山市議会の不正

 地方議員はいつになったら懲りるのだろうか。富山市議会の政務活動費(政活費)の不正問題はあまりにもひどい。

 富山市議会では自民党系会派の議員を中心に議員辞職が相次いでいる。白紙の領収書を使った政活費の不正請求が続々と発覚したためだ。パソコンで自ら領収書を偽造していた議員もいた。

 富山市では議員数に応じて会派にあらかじめ政活費が支払われ、議員が領収書と引き換えに現金をもらっている。支払われたお金が余ると市に返還する必要がある。このため、使い切ろうとして不正請求が広がったとみられる。

 政活費の原資は税金である。それを不正に取得して飲食代などに使うなど許されない。富山市議会では6月に議員報酬を月60万円から70万円に引き上げる条例を可決している。これも撤回すべきだ。

 これだけ組織的に不正行為をしていたのだから、もはや議員個々のモラルの問題で済む話ではないだろう。市議会事務局のチェックも形式的なものにとどまり、不正をまったく見抜けなかった。

 政活費を巡る問題は他の地方議会でもしばしば発生している。この際、全国の議会で不正防止策に取り組むべきだ。

 監視の目を広げるために領収書はすべてインターネットで公開する。政活費の支給は実際に使った経費を後から支払う「後払い方式」にする。まず、この2点を改善策として求めたい。

 政活費はかつて「政務調査費」といわれ、「調査研究」に使途を限っていた。2012年の地方自治法の改正で現在の形になり、使い道が広がった。これも不正が広がる一因になったとみられるだけに元の形に戻すべきだろう。

 一部の地方議会は政策条例の制定に努めたり、住民に対して議会報告会を開いたりするなど、様々な改革に取り組んでいる。

 しかし、有権者の信頼を失えば改革は水の泡に終わりかねない。このことをすべての地方議員がしっかりと自覚すべきだ。

自民総裁任期 忘れてはならない論点

 自民党が総裁選のルール変更に向けた議論をはじめた。

 総裁選の歴史は、権力闘争の歴史である。派閥や実力者の綱引きによって、さまざまな党則改正が重ねられてきた。

 今回は「連続2期6年」の総裁任期を延長したいという。

 執行部からは「3期9年」という私案が示され、任期を制限する規定を撤廃すべきだとの意見もある。

 安倍氏に限った任期延長ではなく、将来の総裁すべてに適用する党則改正をめざすという。だが少なくとも当面は、2年後に2期目を終える安倍氏の任期延長が目的である。

 長期政権は外国指導者との関係を深めやすい。政治を安定させる観点からも望ましい。延長論者からはそんな声が出る。

 一方で、権力の長期化は硬直や腐敗を招く懸念もある。

 自民党長期政権が続いた中選挙区制時代とは異なり、政権交代が起きやすい小選挙区制になった。首相は衆院選を通じて有権者に事実上、直接選ばれている。そのことを考えれば、総裁任期の延長そのものに異を唱えるものではない。

 ただ、忘れてはならない論点がある。総裁の任期が首相の任期より優先されている現状だ。

 これは中選挙区制時代の遺物でもある。有権者が選挙で首相を代えることが難しかった時代には、党内の派閥が総裁選を通じて首相の座を争い、結果として首相の在任期間を調整する意味があった。いわゆる「疑似政権交代」である。

 だがいま、有権者と首相の関係は変わった。小選挙区制時代の首相は、衆院議員の任期(4年)の間に、総選挙で掲げた公約を実現すべきリーダーとして有権者に信任される。

 であれば、首相として本来務めるべき任期4年の前に、党総裁選の結果で首相が交代するのは有権者の信任に反する。

 任期をまっとうすべきだという点では、首相の判断で衆院解散ができるとする解散権の扱いも考え直す必要がある。

 いつ解散があるか、与野党の議員たちが常に浮足だつ状況は望ましくない。

 日本と同じ議院内閣制の英国では、2011年に、議会が内閣不信任した時以外にはほぼ解散ができないとする法律が成立した。政治の思惑での解散を許さず、任期中、腰を据えて政権運営に取り組むためだという。

 2大政党の党首選びのルール変更は、首相の選び方の議論でもある。日本の政治をより成熟させ、安定させる論点も、あわせて論じてはどうだろう。

JR地方路線 地元も国も危機感を

 JR各社によるローカル線縮小の動きが加速している。

 JR北海道は、自力で維持できない路線を近く公表し、存廃を地元と協議する意向を示した。JR西日本は、島根、広島両県を結ぶ三江線(108キロ)の廃止を正式に決めた。

 87年の国鉄民営化に先立ち、不採算のローカル線は大幅に整理された。しかしこの30年の過疎化と道路網の整備で、残された路線も客離れが続いている。

 全国のJR路線のほぼ半分はいま、80年代にバス転換の目安とされた輸送密度(1日1キロあたり4千人)に届かない。ローカル線の沿線住民や自治体は、こうした厳しい現状をしっかり認識しておく必要がある。

 各社を最近悩ませているのは災害のリスクだ。

 8月の北海道の豪雨で、JR北海道の主要路線が不通になった。巨額の復旧費は重荷だ。東日本大震災では、JR東日本の2路線がバス高速輸送システム(BRT)に転換され、鉄路の復旧は断念に追い込まれた。

 どの路線でも、予期せぬ災害で廃止が突如浮上する可能性はあると思ったほうがいい。

 ローカル線の苦しさについて、JR側は普段から沿線に理解を得る努力をしてほしい。JR北海道は今年、路線別の収支状況を初めて公表し、全区間が赤字であることが明らかになった。ほかの社もこうしたデータを積極的に開示し、沿線に危機感を共有してもらうべきだ。

 人口減少時代に入り、鉄道に限らず、公共交通の維持は困難になってきている。本当に必要な足をどう守るか。各地域で検討を深める必要がある。

 財政再建中の北海道夕張市は8月、市内を通るJR支線の廃止をJR北海道に提案した。新たな公共交通づくりへの協力を条件とした「攻めの廃線」(鈴木直道市長)という。

 地域ごとに交通事情は違う。だからこそ、自治体は住民の移動ニーズをよく見極めたうえで、ローカル線の存廃をめぐるJRとの協議も、受け身にならずに進める姿勢が欠かせない。

 国ももっと危機感を持って対応すべきだ。

 「地方創生」の旗のもと、国はリニア中央新幹線や整備新幹線に数兆円規模の財政投融資を決めた。一方で、ローカル線の存廃をめぐる問題はほぼJRと地元任せだ。

 特にJR北海道は、国が設けた基金の運用益で赤字を埋めるという発足以来の支援の枠組みが低金利で成り立たなくなっている。来春でJR発足30年。抜本的な見直しを考えるべきだ。

日キューバ会談 経済テコに対「北」協調を図れ

 官民を挙げた経済協力を進め、北朝鮮問題での連携につなげたい。

 安倍首相が日本の首相として初めてキューバを訪れた。ラウル・カストロ国家評議会議長と会談し、経済関係強化で一致した。

 首相は、がん診療などの医療機器供与のため12億7300万円の無償資金協力を表明した。「キューバの経済・社会の発展に協力したい。投資先として大きな可能性を持っている」とも強調した。

 キューバは昨年7月、米国と54年ぶりに国交を回復した。以来、各国が関係改善に動いている。

 キューバは、ニッケルなどの鉱物資源や様々な観光資源に恵まれる。一方で、社会基盤が老朽化し、開発需要が大きい。日本が従来の協力関係を土台に、投資を拡大することは双方の利益となろう。

 日本は、キューバの対日債務約1800億円のうち約1200億円を免除する。国際協力機構(JICA)の現地事務所も開設する。インフラやエネルギー分野などで本格的な支援に入る方針だ。

 キューバは、社会主義体制を堅持しつつ、近年は、開発特区の設置など経済改革に取り組むが、外国からの投資はまだ少ない。

 日本企業の進出拡大には、インフラ整備や手続きの簡素化など、キューバの投資環境の改善が急務だ。日本政府は改革を率先して後押しすることが求められる。

 1959年の革命後、キューバは北朝鮮と国交を樹立し、緊密な関係を維持している。高官が訪朝して朝鮮労働党の金正恩委員長と会談するなど、人的交流も続く。このパイプを有効活用したい。

 首相は首脳会談で、北朝鮮の核・ミサイル問題について「従来と異なるレベルの脅威だ」と指摘し、連携を求めた。日本人拉致問題でも協力要請した。ラウル氏は「紛争は平和的に解決することが重要だ」と述べるにとどめた。

 核やミサイルの開発は、経済を一段と困窮させるだけで、かえって体制を不安定化させる。その点を北朝鮮にきちんと理解させることが大切である。関係国による多層的な説得工作の一翼を、キューバにも担ってもらいたい。

 首相は、ラウル氏の兄で、キューバ革命を主導したフィデル・カストロ前国家評議会議長とも会談した。フィデル氏は、2003年の広島訪問を踏まえ、「両国は核のない世界を作ることで一致している」などと語ったという。

 北朝鮮に核放棄を迫るには、国際社会全体の連携をさらに強めることが必要である。

豊洲盛り土問題 方針転換の経緯が不透明だ

 重大な方針転換でありながら、部署のトップが把握していない。無責任体質に驚かされる。

 東京都の築地市場の移転先となる豊洲市場の盛り土問題は、混迷の度を深めている。都の調査によると、中央卸売市場の歴代市場長は、「建物下の地下空間の存在を知らなかった」と口をそろえる。

 土壌汚染対策の柱だった盛り土を建物下では取りやめ、地下空間を設けることを決めた時期や経緯は依然、判明していない。都は方針転換にあたり、専門家の意見を聞くことも怠っていた。

 安全性を確認しないまま、工法を変更したのは問題である。

 全容解明のため、小池百合子知事が追加調査を指示したのは当然だ。月内に最終報告をまとめるという。身内に甘い姿勢があれば、さらなる不信を招く。正確な事実関係を明らかにすべきだ。

 石原慎太郎元知事は2008年5月の記者会見で、建物地下にコンクリートの構造物を埋める案について言及した。

 その2か月後、土壌汚染対策を検討していた都の専門家会議は、建物下も含む敷地全体に盛り土が必要だとする提言をまとめた。

 11年3月に基本設計を発注した当時の市場長は、「敷地全体で盛り土が行われていると思っていた」と説明している。

 ところが、11年6月に完成した工事の基本設計書は、地下空間を設ける内容になっていた。

 地下水を監視したり、汚染が生じた場合に重機を入れたりするスペースとして必要だったというが、変更に至った記録が確認されていないことは不可解である。

 都の担当者と設計会社が協議を重ねる中で、地下空間の設置が決まった可能性もある。設計会社に対する調査も欠かせない。

 そもそも、都はなぜ敷地全体に盛り土を行っていたかのように都議会や都民に説明していたのか。不透明な点があまりに多い。

 都の市場問題プロジェクトチームは、工事入札の経緯も調査する方針だ。計画変更が工費にどう影響したのかが焦点となろう。

 豊洲市場の敷地からは、環境基準を大幅に超えるベンゼンなどの有害物質が過去に検出された。都の今回の調査では、地下空間にたまった水から環境基準を超える有害物質は検出されていない。

 安全性を確認する調査は大切だが、過度に不安を煽(あお)ることは避けねばならない。市場関係者の意向にも配慮しつつ、冷静に移転問題の論議を進めるべきだ。

2016年9月23日金曜日

米政権の末期こそ日米結束に最善つくせ

 もはや「世界の警察」ではない。そう公言しながらも、いまだに米国が国際政治の主役であることには変わりない。ところが11月の大統領選が近づき、オバマ政権の指導力は衰え気味だ。

 日米結束がほころび、アジア情勢に影響を及ぼすことがないよう、安倍政権は細心の注意を払うときである。

 安倍晋三首相は今週、ニューヨークの国連を舞台に外交を繰り広げた。英国やウクライナ、パキスタンの首脳と会談したほか、国連総会で演説し、北朝鮮への厳しい制裁を訴えた。

 だが、安倍首相のニューヨーク訪問は、日本、そしてアジアが直面する難題も照らしだした。米政権が交代期にさしかかるなか、この地域にくすぶる危機をどう封じ込めていくのかという問題だ。

 米国の指導力が弱まれば、危機が加速するリスクも高まる。北朝鮮は最近、5回目の核実験を強行した。制裁を浴びても実験をやめないのは、米政権の足元を見透かしていることが一因だろう。

 こんなときこそ、安倍首相は今週、最優先でオバマ米大統領と会談し、日米の連携を深めるべきだった。だが、バイデン副大統領に加えて、米民主党のクリントン大統領候補と会談したものの、オバマ氏とは立ち話にとどまった。

 これに対し、同時期にニューヨークを訪れた李克強・中国首相はオバマ氏と会談し、北朝鮮問題などを話し合っている。

 日米の首脳会談は9月前半、中国やラオスで開かれた国際会議の際にも開かれていない。米政権の交代期に「権力の空白」が生まれ、アジアの危機が広がる事態を防ぐため、安倍政権には日米同盟をしっかり管理する責任がある。

 こうしたなか、日米韓の外相が今週、ニューヨークで集まり、対北制裁の強化をうたった共同声明を出したのはよかった。それでも、北朝鮮の後ろ盾である中国を動かし、強い制裁を実現するには首脳間の連携が欠かせない。

 安倍氏とバイデン氏との会談では、12月のプーチン・ロシア大統領の来日も話題になった。ウクライナ問題でロシアと鋭く対立する米政権は、安倍政権の対ロ接近に警戒感を抱いている。

 日米に亀裂が生まれれば、北朝鮮包囲網は揺らぎ、中国も海洋で強気な行動に出やすくなる。プーチン氏来日に向けて、米側との意思疎通を密にしてほしい。

求められる米国の成長力回復

 米国の政策金利の引き上げは市場の大方の予想通り見送られた。昨年12月に9年ぶりの利上げに踏み切ってから9カ月間、不動の構えを続けていることになる。

 再利上げが先送りされてきた背景には、英国の欧州連合(EU)離脱など海外要因もあるが、米国経済自体が期待されたほど伸びていないことがある。

 重要なのは、利上げを徐々に進めても耐えられるほど米国経済が力強さを取り戻すことだ。そうなれば世界経済の安定だけでなく、日米欧に広がる異常な超低金利状態からの脱却への道も開ける。

 人口の増加や産業革新の気風など、米国は他の先進国にない活力源を持つ。企業活動を促し、働く低所得者を支援するような規制・税制改革などを通じて潜在成長力を回復させる努力が求められる。

 今回の利上げ見送りは、物価上昇率が2%を下回る水準で足踏みし、労働需給もまだ逼迫してはいないとの判断による。ただ、政策を決めた米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明は「利上げの条件は整ってきた」としており、市場では12月に利上げが実施されるとの見方が有力になっている。

 しかし、その先の利上げのペースは昨年末の利上げ開始時の予想よりもかなり緩やかで限定的との見方が多い。その根拠としてあげられているのが「潜在成長力の低下に伴って、米国は以前よりも金利の上昇に対して脆弱な経済になっている」という分析だ。

 現在0.25~0.5%の政策金利を大きく引き上げられないことになれば、景気が悪化したときでも利下げの余地は限られ、金融緩和が効果を発揮しにくくなる。

 日本にとっても、米国の利上げ余地が小さいとマイナス金利など異例の緩和策からの転換が難しくなる。金利差を縮める措置をとれば円高を招きかねないためだ。

 問題解決のカギを握るのは米国の潜在成長力の回復であり、それには中央銀行ではなく政府の役割が欠かせない。日欧も同じ問題を抱えているのはいうまでもない。

難民と世界 もっと支援に本腰を

 日本人の2人に1人が家を追われた。こう例えれば事態の規模がイメージできるだろうか。

 世界の難民・避難民が6500万人に達し、第2次大戦以降で最大になった。

 迫害や戦火を逃れる難民だけではない。より良い暮らしを求めて他国へ渡る移民の流れも急速に広がっている。

 この喫緊の問題にどう取り組むべきか。その国際協調を探るサミットが国連で開かれた。

 とりわけ内戦の出口が見えないシリア、アフガニスタンなどから逃れる難民の流出は深刻だ。国際社会は停戦への努力を強めるとともに、難民受け入れの負担に苦しむ周辺国に、まず目を向ける必要があろう。

 100万人超のシリア難民を受け入れたレバノンや、250万人が避難したトルコなどからは「限界だ」との声が漏れる。

 全会一致で採択された宣言に「責任の公平な分担」が明記されたのは当然だ。地球規模で人が移動する時代であり、難民・移民問題は世界の政治・経済に直結する。紛争地からの距離にとらわれず、国際社会全体で負担を分かち合うべきだ。

 では、各国がどう分担するのか。具体的な数字や期限が宣言に盛り込まれなかったことは、大きな課題として残った。

 腰が引ける背景には、テロの恐怖や、「仕事を奪われる」との不安による排斥感情の高まりがある。欧米では近年、そうした主張をする政治家や政党が勢いを増している。

 しかし、こうした排他的な非難は、貧富の格差など広範な社会問題への国民の怒りを利用した責任転嫁であることも多い。長い目で見れば、難民や移民は受け入れ国に、利益や活力を少なからずもたらしてきた。

 サミットの会合で、経営者や労働者の団体は「秩序ある移民や難民の受け入れは経済を活性化させる」と述べた。経済協力開発機構(OECD)も、長期的に経済的にプラスになると指摘する。各国政府は、そうした受け入れのメリットについて国民にきちんと説明すべきだ。

 安倍首相は受け入れ国支援のための約2800億円の拠出や、シリア人留学生150人の受け入れなどを表明した。

 だが、多くの国と比べて難民の受け入れが極端に少ない現実は変わっておらず、国際的に批判の的となっている。

 近年は日本でも難民の雇用に取り組む企業や、支援団体に寄付する人が増えている。政府も行動の幅を広げ、もっと世界に門戸を開き、十分な責任を果たす国の姿をめざすべきだ。

待機児童解消 多様な施策の総動員で

 保育施設を増やしているのに、待機児童が減らない。

 厚生労働省によると、自治体が待機児童として公表している子どもの数は4月1日時点で2万3553人で、2年続けて増えた。保育所が見つからないために育休を延長している家庭などのいわゆる「隠れ待機児童」も6万7354人にのぼる。

 安倍内閣は17年度末までに待機児童をゼロにする目標を掲げるが、利用希望者の増加に施設整備が追いついていない。

 はたして今の整備計画が地域の需要をきちんと反映しているのか。実態を調べ直し、計画を練り直す必要がある。

 実際の需要に見合うだけの施設を整えていくには、財源の議論が不可避だ。子育て支援策は消費税収で充実させることになっているが、10%への増税の先送りで不安が高まっている。

 保育士の配置を手厚くするといった「質の向上」も、施設を増やす「量の拡大」とともに大切だが、財源のめどが立たず手つかずのままだ。安定した財源の確保は最優先の課題である。

 運用面でも改善できる点が少なくない。

 例えば、待機児童の8割以上は0~2歳児が占め、都市部に集中している。比較的整備しやすい0~2歳児向けの小規模保育所などの活用が効果的だが、子どもが3歳になった時に別の保育所に移るのが難しいとの声が聞かれる。そうした心配を解消できれば、「受け皿」の多様化がもっと進むのではないか。

 保育所が見つからない場合は育休を最長1年半とれるが、子どもが1歳になってからでは預け先を見つけるのが難しいとの不安が根強く、0歳から入所させる親が多いとの指摘もある。

 厚労省は、育休明けの人がスムーズに子どもを預けられるようにする「入園予約制」の導入を打ち出した。実効性のある仕組みにしてほしい。

 育休を最長2年まで取れるようにすることも検討されているが、子育てを女性任せにしたままでは取得は広がらないだろう。多くの女性は、職場の状況や自身のその後のキャリアを考えて1年以内に職場復帰しているからだ。

 例えば、育休の一定期間を父親に割り当てる北欧の「パパ・クオータ制」のように、夫婦で育休を取ることを促す工夫ができないか。

 長時間労働の是正など、仕事と子育てを両立できる環境づくりも待ったなしだ。「待機児童ゼロ」をスローガンに終わらせないために、様々な課題に並行して取り組まねばならない。

日米国連演説 連携して対北制裁を強化せよ

 新たな段階に入った北朝鮮の脅威に、どう対処するか。日米両国は、緊密に連携し、国連を効果的に活用すべきだ。

 安倍首相が国連総会で演説し、北朝鮮の核・ミサイル開発について「これまでと異なる次元に達した。計画をくじかなくてはならない」と非難した。

 北朝鮮は今年、核実験を2回強行した。20発以上の弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域(EEZ)にも着弾させた。

 首相が「航空機や船舶に被害がなかったのは全くの偶然に過ぎない」と指摘したのは当然だ。

 北朝鮮は国連安全保障理事会の再三の制裁決議を無視している。首相は「国連の存在意義が問われている」と力説した。核保有の野心を断念させるには、更なる制裁強化が不可欠である。

 首相は、安保理常任理事国である米国のオバマ大統領、英国のメイ首相らと意見交換した。新たな制裁決議の採択に向けて、協力を確認した意義は小さくない。

 新決議の採択と、制裁の実効性確保のカギは、追加制裁に消極的な中国の対応である。米国などとともに、中国に北朝鮮包囲網に加わるよう促すことが重要だ。

 今年12月、日本は国連加盟60年を迎える。安保理の非常任理事国を加盟国で最多の11回務めている。支払った国連分担金などの累計は200億ドルを上回る。

 日本は、安保理改革を実現し、常任理事国入りを目指すうえでも、今回の北朝鮮問題できちんと役割を果たしたい。

 オバマ氏も任期最後の国連演説で、核実験は「我々すべてを危険にさらす」と述べ、北朝鮮への圧力を強める必要性を強調した。

 見過ごせないのは、北朝鮮の5回の核実験のうち、4回がオバマ政権下で実施されたことだ。中国に制裁履行を徹底させられず、核・ミサイル開発の進行を結果的に許したのは痛恨である。

 オバマ氏は、中国の独善的な海洋進出やロシアのウクライナ介入を念頭に、「強国が国際法に挑んでいる」との危機感も示した。

 ブッシュ前政権によるイラク戦争の反省から、オバマ外交は国際協調を重視した。日韓との同盟強化で成果を上げたが、中東や対中露での影響力低下は否めない。

 「世界の警察官」として紛争に積極介入する役割を米国が回避した隙に、「力による現状変更」の動きが強まり、「イスラム国」などの過激派組織が台頭した側面もある。オバマ氏にも、忸怩(じくじ)たる思いがあるのではないか。

台風連続上陸 土砂災害への警戒を怠れない

 台風の襲来が相次ぐ。強い勢力のまま上陸し、全国的に大きな被害をもたらしている。台風シーズンは、なお続く。警戒を怠れない。

 今年に入り、発生した台風は16個で、平年より少ない。だが、上陸数は6個に上る。1951年の統計開始以来、2番目に多い。

 20日にも、台風16号が鹿児島県に上陸した。記録的な大雨により、九州や四国、本州の太平洋側を中心に浸水被害などが発生した。

 特異な進路を辿たどったのが、8月の台風10号だ。関東の南方海域から南西に進んだ後、太平洋上でUターンして岩手県に上陸した。

 北海道には、8月の1週間で3個もの台風が上陸し、農作物に甚大な被害を与えた。

 北日本は台風の進路から外れることが多かった。従来のデータに当てはまらないケースが増えていると言えるだろう。

 米国での研究によると、日本周辺の台風の年平均最大風速は、この40年間で15%増した。強い台風の発生数は4倍になった。

 台風は、海水温が高くなると、そこからエネルギーをもらって勢力を増す。地球温暖化が進行すれば、台風は一層、強大化する恐れがある。ハード、ソフト両面での対策が求められる。

 台風10号では、岩手県岩泉町の高齢者施設の入所者9人が死亡した。町が発した避難準備情報の意味を施設側が理解しておらず、避難誘導が遅れたことが一因だ。

 避難準備情報が出たら、一般の人はいつでも避難出来るように備える。高齢者ら要援護者は直ちに避難を始める。こうした定義が分かりにくいことも事実だ。

 群馬県高崎市は、初めから第2段階の避難勧告を発するようにした。「避難所へ行きましょう」と、平易な言葉で住民を促す。このような工夫が大切だ。市町村が空振りを恐れずに避難情報を出すことが、安全確保につながる。

 今後、心配されるのは土砂災害だ。度重なる豪雨で、各地の地盤は緩んでいる。

 土砂災害防止法は、崖崩れや地滑りなどの恐れがある「土砂災害警戒区域」を都道府県が指定するよう定めている。指定されると、土砂災害時の避難経路や避難所が整備される。住居移転の際に、補助金が支給される場合もある。

 警戒区域の指定が完了したのは8月末で9県にとどまる。不動産価値の下落を懸念する住民が少なくないためだ。

 都道府県は、住民の理解を得ながら指定作業を急いでほしい。

2016年9月22日木曜日

量から金利、長期戦への構え万全に

 日本銀行が3年半続けた金融緩和の枠組みを改めた。金融政策を動かす目安を長期国債などの「金利」に切り替え、2%の物価上昇が安定的に続くまで長めに緩和を続けるようにする。マイナス金利の幅は年0.1%を維持した。

 黒田東彦総裁のもとで導入した大胆な金融緩和策はさまざまな面で限界を迎えていた。マイナス金利も金融機関の経営を圧迫するなど副作用に懸念が集まっていた。日銀が緩和手法を現状に合わせて修正するのは妥当な判断だ。

物価低迷で戦術を転換

 見直しの柱は2%の物価上昇を目指す金融政策の主な目安を「量」から「金利」に変えた点だ。

 資金供給量(マネタリーベース)の数字を目安にする今までのやり方に代わり、短期金利と長期金利を金融市場での操作目標とする。長期金利については10年物国債金利を現状並みのゼロ%程度に保つこととした。

 具体的には2年、10年、30年など期間の違う国債をバランス良く買い、短い期間から長い期間までの金利を示す「利回り曲線」が適切な状態になるよう工夫する。全体の金利水準を低くして経済を刺激する一方で、短期と長期の差が縮まりすぎて金融機関の利ざやが悪化しないよう配慮する。

 第2の柱は、2%の物価目標を達成してもすぐに緩和を止めず、2%台が定着するまで強力な緩和を続けると約束した点だ。物価低迷が長引いた日本で、消費者や企業に物価が着実に上がる感覚を根付かせる狙いがある。

 2つの措置は日銀は3年半の緩和策を分析した「総括的な検証」を踏まえて決めた。日銀は年50兆円、のちに80兆円の国債を買い入れる「量的・質的金融緩和」で資金供給量を大幅に増やしてきた。当初は円安と株高が進み2014年には1.5%の物価上昇が実現したが、その後は原油安や新興国不安などの逆風で鈍化している。

 いわば短期戦の大胆な緩和を続けたが、目標は遠い。そこで日銀が長期戦を覚悟して戦術を転換したともいえる。

 従来の政策は様々なひずみを生んでいる。いまや日銀は発行残高の3分の1を超す国債を持ち、今後は買い取りの余地も限られるとの指摘が多い。国債の購入増額は今回は年80兆円を維持する方針だが、将来は金利や経済の環境も見ながら柔軟に減らしていける余地ができた。

 今年2月に導入したマイナス金利も批判が強い。金融機関が日銀に置く当座預金の一部に「手数料」を課し、資金を市中に流して融資を促す政策だが、金融界からは収益の悪化を招くと反発が起きている。長短の利回りを適切に維持する措置は弊害を和らげ、マイナス幅の拡大にも余地を残す。

 長期金利がうまく操作できるかどうかという問題はあるが、全体としては経済や金融活動の実態に合わせて金融政策を運営できるようになる。マイナス金利が金融機関にもたらす悪影響も直視して政策の枠組みを直したことで、金融市場や金融機関との対話が向上することも期待したい。

 日銀は物価上昇の力を押し上げるため、マイナス金利の引き下げ、長期金利の操作目標の引き下げ、資産の買い入れの拡大、さらに資金供給量の拡大ペースの加速といった追加緩和の手段があると指摘した。マイナス金利の幅の拡大が追加緩和の有力な候補になるとみてよいだろう。

政府も成長策で協調を

 だが、マイナス金利にしても国債買い入れにしても、その副作用に十分注意し、闇雲に拡大を続けるのは戒めるべきだ。金融市場の環境が大きく変わったり、景気の勢いが急速に衰えたりしたときの非常手段として追加緩和の余地を残すのが賢明ではないか。

 8月に米国で開いた世界の主要中央銀行の会合では、先進国で共通する潜在成長力の低下を金融政策だけで補うのは難しいという意見が大勢だった。日銀だけが大規模な緩和をいくら強化しても、経済活動や物価見通しが大きく改善するわけではない。

 政府も企業も経済の潜在力を高める改革に一段と深く踏み込み、日銀の緩和策との相乗効果を高めていくことが急がれる。安倍政権は働き方改革や税制、規制改革などの検討作業を次々と立ち上げた。社会保障制度や財政の長期的な安定にも目配りし、日本経済の潜在力を高める包括的な改革を進めなければならない。

 民間企業も日銀の緩和が生んでいる現在の低金利の環境を活用し、積極的な成長に向けた投資を進めていくべきだ。

日銀金融政策 説明なき方針転換だ

 きちんとした説明を欠いたままの、事実上の政策転換である。そう言わざるをえない。

 日本銀行がきのう、金融政策の枠組みの変更を決めた。10年ものといった長期の金利の水準を操作の対象に加える。これまではマネーの「量」に主眼を置いていたが、短期・長期を併せた金利をコントロールする方法に切り替える。

 「年率2%の物価上昇」を目標に掲げて3年半。当初は「2年で」と言っていたが、いまだに達成を見通せないなかで、目標を「できるだけ早期に実現」するために、より柔軟で持続的な対応をできるようにするのが目的だという。

 日銀は今年初めにマイナス金利を導入。その後、長期の金利が急に下がり、銀行が利ざやをとれなくなったり、生命保険や年金の運用が難しくなったりした。長期金利を操作対象にするのは、金利を下げつつ、こうした「副作用」を防ぐのが狙いだろう。

 だが、「二兎(にと)を追う」ようなコントロールが可能なのか。長短様々な金利の「適正な水準」をどう決めるのか。日銀の操作の手を広げることの副作用はないのか。疑問は多い。

 そもそも、長期金利は様々な要因で動くため、中央銀行の操作にはなじまないとされてきた。黒田東彦総裁は、過去数年、各国の中央銀行が長期国債の買い入れを通じて長期金利を下げてきたことを挙げ、コントロールは可能だと主張する。

 しかし、たんに全体的な水準を下げるのに比べ、短期から長期にわたる金利それぞれについて適正値を見極め、そこに誘導することの難易度は高い。また、長期金利を具体的な数字まで示して低水準に固定することは、局面次第で過度な国債買い入れを強いられ、財政規律を緩ませかねない恐れがある。

 この日発表した「総括的な検証」で、日銀は原油価格の下落など外的な要因がなければ、従来の緩和策で2%物価上昇という目標を達成できていた、と主張した。これまでの政策そのものには問題がなく、今後も継続が可能だともいう。

 しかしその一方で、緩和の「強化」と称して、枠組みを大きく変えた。

 従来の政策の限界や副作用をはっきり認めないまま、次々と新しいメニューを打ち出してゆく姿勢は、「建て増しを重ねた旅館」のような迷路を生む。政策の浸透が妨げられれば、目標の実現も遠ざかる。

 原点に立ち戻った丁寧な説明を日銀に求める。

もんじゅ廃炉へ 無責任体制と決別を

 遅すぎたが、当然の決断だ。

 政府がきのう、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)について、廃炉にする方向で見直すことを決めた。

 もんじゅはこの20年あまり、ほとんど運転できていない。動かすには安全対策などに数千億円が必要だ。早期の実用化を求める声がないに等しいなか、多額の国費を使うことは許されない。地元自治体への説明など山積する課題と向き合い、廃炉への歩みを着実に進めてほしい。

 もんじゅに投じた事業費は1兆円に達するが、ほとんど成果をあげられなかった。一方で廃炉の決断も遅れた。ずるずると事業が続く無責任体制と決別しなければならない。

 原子力開発を進めるために原子力委員会と科学技術庁(現文部科学省)が設けられた1956年、政府は最初の長期計画で「主として原子燃料資源の有効利用の面から、増殖型動力炉の国産に目標を置く」とうたった。燃やした以上のプルトニウムができる高速増殖炉は、世界各国が夢見る技術だった。

 もんじゅは、実験炉から原型炉、実証炉、実用炉へと進む2段階目にあたる。85年に本格着工し94年に初臨界に達したが、95年に冷却材のナトリウムが漏れる事故が起きた。海外で事故例があったのに「ナトリウム漏れは起こさない」と強弁し、事故後も被害を小さく見せようと事実を隠したり偽ったりして、社会の信用を失っていった。

 その間に高速増殖炉の技術的な難しさやコスト高がはっきりし、開発を断念する国が相次いだ。2010年の運転再開で研究成果をまとめる機会を得たかに見えたが、燃料交換装置の落下事故を起こし、1万点に及ぶ機器の点検漏れも発覚した。

 にもかかわらず、年間約200億円もの維持費を使って「延命」されてきたのは、事業へのチェック機能が働かなかったからだ。原子力委員会や関係省庁、原子力分野の研究者が一体となり、予算を審議する国会も手をつけようとしなかった。

 今回、政府は関係閣僚会議を開いて廃炉方針を打ち出した。政治が責任を持つという意思表示なら、一歩前進だろう。

 だが、懸念は少なくない。政府は核燃料サイクルを堅持し、もんじゅ廃炉後をにらんだ新たな高速炉の開発に向けて会議の新設を決めた。もんじゅの二の舞いになる危うさをはらむ。

 広く国民が納得できる原子力行政をめざすべきだ。その一歩として、もんじゅ廃炉の実行と、核燃料サイクル全体の見直しが問われている。

日銀金融緩和 長期戦に舵を切った黒田路線

 デフレ脱却に向けて、粘り強く金融緩和を進めていくには、政策効果と副作用への十分な目配りが必要である。

 日本銀行が、長期金利を重視する新たな金融緩和の仕組みを打ち出した。

 黒田東彦総裁は2013年春の就任後、「2年で物価を2%上昇させる」との目標を掲げ、「異次元の金融緩和」に踏み切った。

 しかし、3年半が経過した今も目標を実現できていない。国債大量購入の限界や、マイナス金利政策の副作用も指摘されていた。

 そうした局面で日銀が決めた新方針には、当初狙った短期決戦から長期戦へ、金融政策の舵(かじ)を切る狙いがあろう。妥当な判断だ。

 柱は、長期金利を0%程度に誘導できるように国債を買い入れ、金利を操作する手法である。

 マイナス金利によって下がり過ぎた超長期金利を引き上げる。

 金利低下による金融機関の収益悪化や、年金や保険の運用難に配慮したとみられる。

 年80兆円の国債買い入れは維持しつつ、満期までの期間にこだわらず幅広い国債を買う。購入手法を柔軟化しながら、軸足を量から金利へ移すことで、緩和政策の持続性を増す効果を狙っている。

 期限を切らず、2%の物価上昇が安定して実現するまで、長期にわたって金融緩和を継続する方針も明確化した。

 なぜ物価は上がらないのか。

 最大の理由は、これまでの政策効果を検証した日銀が指摘するように、企業や家計の物価上昇期待が高まらない点にあろう。

 20年に及ぶデフレで「どうせ物価は上がらない」との認識が世の中に広がり、定着してしまった。この状態から、短期間で脱するのは容易ではない。

 新方針の実行に当たって日銀が留意すべきは、市場との対話である。日銀の判断が信用されなければ、市場に混乱が生じる。長期金利をターゲットにする異例の政策の成否は、市場とのコミュニケーションにかかっている。

 長期戦に臨む以上、これまで黒田総裁が多用してきた「サプライズ手法」の転換を図り、金融政策の予見可能性や透明性を高める必要がある。

 もちろん金融政策だけでは、物価上昇は実現しない。

 政府は成長戦略を断行して潜在成長率を高め、企業も内部留保を投資や賃上げに振り向ける努力が要る。官民挙げた取り組みがあってこそ、脱デフレを成し遂げることができる。

もんじゅ「廃炉」 核燃料サイクルを揺るがすな

 核燃料サイクルは日本の原子力政策の要だ。頓挫させてはならない。

 政府が、高速炉開発の方針を抜本的に見直すことを決めた。高速増殖炉「もんじゅ」については廃炉を含めて検討する。

 電力会社やメーカーと「高速炉開発会議」を設けて議論し、年内に最終決定するという。

 もんじゅが廃炉になれば、重大な政策変更である。原子力利用への影響を最小限に抑えるべきだ。もんじゅが立地する福井県をはじめ関係自治体の意見も、十分に踏まえる必要がある。

 見直しのきっかけは、もんじゅでトラブルが相次いだことだ。多数の機器で点検漏れなどが見つかった。所管の文部科学省に対し、原子力規制委員会は昨年11月、日本原子力研究開発機構とは別の運営組織を探すよう勧告した。

 文科省は、新法人設立を提案したが、首相官邸や経済産業省が、もんじゅの廃炉と新たな高速炉開発への移行を主張したため、調整が難航していた。

 高速炉が実用化されれば、ウラン資源を有効活用できる。放射性廃棄物の減量にもつながる。新たな高速炉開発により、その歩みが確かになることが、もんじゅを廃炉にするための条件だろう。

 経産省は、フランスが計画中の高速炉「ASTRID」に参画する案を提唱している。だが、まだ基本的な設計段階であり、実現性には不透明な面が多い。

 詳細設計や建設に課題はないのか。日本はどの程度の費用を分担するのか。独自の技術は取得できるのか。開発会議で注意深く検討することが肝要である。

 これ以上、高速炉の開発が滞れば、日本の核燃料サイクル事業全体が、しぼみかねない。

 原子力発電所の使用済み核燃料から、既に取り出したプルトニウム約48トンの消費が危うくなる。電力会社は、通常の原発で燃やすプルサーマルを進める方針だが、原発の再稼働は遅れている。

 核兵器に転用可能なプルトニウムの保有量が減らないと、国際社会の視線は厳しくなろう。

 日本は非核兵器保有国では例外的に、日米原子力協定でプルトニウム利用を認められている。高速炉を実現する能力がないと判断されれば、協定維持は難しい。

 青森県にある日本原燃の再処理工場も稼働は不可能になる。各原発で、使用済み核燃料の行き場がなくなり、新たな燃料を入れられずに、運転が止まる。こうした事態は回避せねばならない。

2016年9月21日水曜日

多面的な政策で正したい長時間労働

 問題を解決するときは最初に原因を洗い出し、ひとつひとつ手を打っていく必要がある。長時間労働の是正も同じだ。

 政府は残業時間に上限を設けることを考えているが、日本の正社員の長時間労働は法規制の緩さだけが原因ではない。労働生産性が低いことも大きな理由だ。転職が簡単ではないため、過重労働を我慢している人もいるだろう。

 長時間労働の是正は女性の就業や男性の子育て参加を促すうえでも重要だ。労働時間規制以外の点にも目を向け、多面的な対策で効果をあげるよう政府に求めたい。

 日本の正社員の年間労働時間は2000時間超で高止まりしている。厚生労働省は残業時間の上限規制について、有識者による検討会を発足させて議論を始めた。企業の労使が協定を結べば、残業や休日労働が認められる現行制度を見直す。

 今は協定に特別条項を付ければ事実上、青天井で残業時間を延ばせる。政府はこの仕組みを改め、一定の制限を設ける方向という。これは妥当だろう。

 併せて政府は働く人の生産性向上の支援にも力を入れるべきだ。就業者が1時間あたりに生み出す付加価値は、日本生産性本部によると日本は2014年に41.3ドルで、米国の6割強にとどまる。主要7カ国のなかでは最も低い。生産性を上げれば労働時間を短縮しやすくなる。

 労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」の導入や、働く時間の配分を本人にゆだねる裁量労働制の拡大は、メリハリをつけた働き方を広げる効果が見込める。それらを盛り込んだ労働基準法改正案を26日召集の臨時国会でぜひ成立させるべきだ。

 ロボット、ドローン(小型無人機)や人工知能は生産性向上の強力な武器になる。普及には規制のあり方の見直しも課題になろう。

 会社から命じられる仕事の量が多すぎるなら、それを拒否できるように、転職がしやすい柔軟な労働市場を整備する必要もある。求人企業と求職者の橋渡しをする職業紹介業務をもっと民間企業が担えるようにする規制の見直しなどが求められる。

 長時間労働の是正には一人ひとりの職務の明確化や仕事の進め方の見直しなど、企業の取り組みが重要になるが、政策面でもやるべきことは多い。政府は必要な政策を総動員すべきだ。

持続的な地価回復のために

 地価は緩やかな回復が続いている。国土交通省がまとめた基準地価(7月1日時点)をみると、商業地は9年ぶりに下落から脱し、住宅地も下落幅が一段と縮まった。地価が持続的に回復するためには、規制改革などをてこに実需を引き出す政策が欠かせない。

 地価回復の理由は主に2つあるのだろう。ひとつは訪日外国人の増加などに伴うホテルや店舗需要の拡大だ。

 東京の銀座や大阪の心斎橋などだけでなく、札幌のような地方都市でも訪日客の増加に対応した土地取引が増えている。今回、住宅地で最も上昇率が高かったのもリゾート地として外国人に人気の北海道倶知安町だった。

 もうひとつは日銀のマイナス金利政策の影響だ。住宅ローン金利の低下が需要を下支えしているうえ、不動産投資信託(REIT)も借り入れコストの低下で物件を取得しやすくなっている。

 一方、不動産市場には懸念材料も目立つ。首都圏ではマンション販売が大幅に減り、契約率も好不調の目安である70%を下回る状況が続いている。建設費の上昇を背景とする販売価格の高止まりに需要が追い付いていない。

 東京都心部の商業地をみても、オフィスの空室率が低下している割には賃料の上昇が鈍い。土地の収益力がさらに高まらなければ、地価の上昇は続かないだろう。

 金融機関の不動産向け融資が高水準で推移している点も心配だ。特に個人向けアパートローンをてこに、賃貸住宅の建設が大幅に増え、すでにミニバブルの様相を呈している。

 地価が適度に上がることは担保価値の上昇を通じて経済にプラスになる。今後も持続的に回復するには実需の下支えが不可欠だ。

 そのためには、規制改革や税制などを通じて都市の魅力を磨き、内外から資金を呼び寄せる必要がある。人口減少が続く地方では観光需要をうまく取り込み、街のにぎわいを取り戻せるかどうかがカギになる。

パラリンピック メダルより大切なこと

 閉会式には、選手たちのすがすがしい笑顔があふれた。

 南米初開催となったパラリンピック・リオデジャネイロ大会は、競技力が一段と向上し、これまでにも増して、アスリートの力強さを世界に印象づけた。

 「リハビリの延長」との位置づけで始まった大会は、回を重ねるごとに、高いレベルの競技会へと進歩している。

 日本の選手は24個のメダルを獲得したが、金メダルは夏季大会で初めてゼロだった。一方、中国の金メダルは107個で、4大会連続1位となった。

 中国だけでなく多くの国が強化に本腰を入れており、危機感をあらわにする声も聞かれる。だが、安易な勝利至上主義とは一線を画すべきだろう。

 強化が不要というわけではない。国の支援はもちろん大切だが、成果をメダルの数だけで評価するような考えは、大会の精神から大きく逸脱している。そう言わざるを得ない。

 残された機能を最大限に生かすという理念のもと、パラリンピックの選手たちは可能性を追い求めてきた。きのうより上の自分をめざして励む。その努力の過程が、何より大切だ。

 同時に、人びとの違いを認めあい、受け入れ、共に生きる社会を実現することも、忘れてはならない。

 パラリンピックの出場選手でつくる日本パラリンピアンズ協会の調査によれば、障害を理由にスポーツ施設の利用を断られた、あるいは条件付きでしか認められなかった経験を持つ選手が回答者の2割にのぼった。

 「知的障害者だとばれたら、いじめられる」として、パラリンピックに出ることを隠している日本選手もいるという。

 私たちが取り組まなければならないのは、メダルの多寡を論ずることではなく、こうした現実を変えていくことだ。

 多様な生き方を受け入れる社会が実現すれば、スポーツ分野のすそ野も広がり、競技力に良い影響を与えるだろう。

 パラリンピックだけではない。五輪憲章もまた、あらゆる差別を認めず、互いを理解し合うことを求めている。

 にもかかわらず、国威発揚の場ととらえ、選手に過大な荷を負わせる空気が厳としてある。その帰結がスポーツ界を揺るがしたロシアの組織ぐるみとされるドーピングである。

 相手への敬意を忘れず、自らは精いっぱい努力する。

 スポーツの意義を、いま一度確認し直して、4年後の東京五輪・パラリンピックに向けた次の一歩を踏み出したい。

児童虐待 役所の枠超え対応を

 全国の児童相談所(児相)が2015年度に対応した児童虐待の件数が、前年度比約16%増の10万3260件となり、初めて10万件を超えた。虐待による18歳未満の子どもの死亡は、14年度で71人にのぼった。

 いずれも厚生労働省のまとめで明らかになった。

 虐待件数は25年連続で過去最多だ。背景には虐待への社会の意識が高まったことや、専用電話からの相談が増えたこともあるようだ。深刻な事案がこれまで埋もれていたといえる。救済の態勢を整え、被害を防ぐ手立てを急ぐ必要がある。

 虐待事例では、目の前で家族に暴力をふるう面前DVなど、直接暴力を受けたときと同じくらい心が傷ついてしまう心理的虐待が半数近くを占め、身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待が続く。

 まずは一時保護や家庭への支援がしっかりできる態勢が必要だ。最前線に立つのは児相の児童福祉司だ。主に心理学や教育学を専攻し、児童福祉施設などで1年以上の経験を積んだ職員が、自治体から任用される。その人数は15年間で2・2倍になったが、虐待件数の増加(5・8倍)に追いついていない。

 厚労省は、19年度末までに550人増やして約3500人にするよう児相の配置基準を見直す方針だ。早急に実態に見合った要員確保に努めてほしい。

 同時に児相まかせでは子どもを守る社会は実現できない。

 5月の児童福祉法の改正で、来年4月から児相が通告を受けた事案を市町村に引き継げるようになった。児相を比較的深刻なケースに専念させ、市町村には身近な相談窓口としての役割を果たしてもらう狙いだ。

 ただ市町村は財政難で職員を減らす傾向にある。首長が先頭に立ち、人員の重点配分や、専門知識をもつ人材育成にリーダーシップを発揮すべきだ。

 司法への期待も大きい。

 時に親の意に反して子を引き離すのが児相の仕事だ。しかし児相が親から憎まれ、その後の支援が難しくなるケースが多い。例えば裁判所が一時保護の許可を児相に出すしくみができないか。第三者である裁判所の許可があれば、親との無用な対立を避けられよう。

 厚労省も一時保護などへの司法の関与を考える有識者会議をつくり、議論を始めている。どんな手続きや要件を設け、どの程度の証拠を必要とするか。裁判所の態勢づくりもふくめ、課題は多いが、虐待の深刻さを思えば、役所の枠を超えて社会一丸となって対処すべき時だ。

自民総裁任期 政治の安定重視する延長論に

 政治の安定を図り、国際社会で日本の発言力を高める。その観点を重視すべきだろう。

 自民党が党・政治制度改革実行本部で、総裁任期の延長の議論を始めた。

 本部長の高村正彦副総裁は、冒頭、「安倍総裁の特例を設けるのでなく、一般的な制度を変える方がいい」と語った。延長への直接の反対論はなかったという。

 現行の党則が「連続2期6年まで」とする任期を「連続3期9年まで」と改めることなどを検討する。年内にも結論を出す。

 安倍首相の総裁任期は2018年9月までで、2年先だ。党内では、二階幹事長らが延長に前向きだが、「今、急いで議論すべきことか」という慎重論もある。

 一般的な制度改正なら、安倍氏の任期切れが近くなる前に、冷静に検討することに一理あろう。

 そもそも1980年に総裁3選が禁止された背景には、党内の権力闘争があった。中選挙区制下の派閥全盛期の名残とも言える。

 小選挙区制の下、首相が国民に支持されていても、政党内部の論理で辞めさせる制度が果たして良いのか、という問題もはらむ。

 日本の首相が概して短命なのは党首選に加え、衆院選、参院選など、ハードルが多すぎるのが原因だと長年、指摘されてきた。

 特に06年発足の第1次安倍内閣から12年までは、首相が毎年交代し、政治の停滞が深刻化した。

 憲法改正、ロシアとの北方領土交渉など、困難で時間を要する政治・外交課題に腰を据えて取り組むことも視野に、総裁任期を延長するのは理解できる。

 諸外国の首脳の任期は、比較的長い。米大統領は2期8年、仏大統領と中国国家主席は2期10年、露大統領は2期12年である。

 議院内閣制では、日本を含め、首相任期を定めないのが普通だ。英国とドイツの主要政党は、党首の長期在任も制限していない。ドイツのメルケル首相は10年以上も政権を担当している。

 首脳外交を考えれば、外国の指導者との人脈を構築するにも、国際会議で主導権を握るにも、長期政権が望ましいのは確かだ。

 仮に総裁任期を延長しても、安倍首相の在任期間が延びる保証はない。国政選や総裁選で勝ち続けねばならない状況は同じだ。

 自民党には、党所属国会議員と都道府県代表47人の過半数が要求すれば、臨時総裁選を行うというリコール規定もある。党内の支持を失った首相は退陣を迫られるわけで、強い歯止めとなろう。

基準地価 緩やかな上昇を持続できるか

 実需に基づく緩やかな上昇基調を続けることが大切である。

 国土交通省が発表した7月1日時点の基準地価で、商業地の全国平均が9年ぶりに下落から横ばいに転じた。全用途、住宅地の下げ幅は、ともに7年連続で縮小した。

 すでにプラス圏にある東京、大阪、名古屋の3大都市圏の商業地は、4年連続で上げ幅を広げた。地価の回復傾向は、一段と鮮明になったと言えよう。

 主要都市では、外国人観光客を当て込んだ商業施設やホテルの開業ラッシュが相次ぐ。アベノミクス効果による企業活動の回復で、オフィスの空室率が低下した。2020年東京五輪に向けた都心や臨海部の再開発も見逃せない。

 地価は経済の活力を示す指標とされる。不動産価格の上昇を、デフレ脱却に向けた日本経済の底上げにつなげたい。

 日本銀行が2月に導入したマイナス金利政策によって、企業融資や住宅ローンの金利が低下した。それが旺盛な需要につながっていると指摘されている。

 ただ、不動産市場の活況が、超低金利政策で生じた緩和マネーの流入に過度に依存しているのであれば、長続きはしまい。

 銀行の企業向け融資が全般的に伸び悩んでいる中で、不動産向け融資は突出している。4~6月の新規分だけで3兆円超に膨らみ、バブル期のピークを超えた。

 東京・銀座は、3年間で地価が2倍に上昇した。金融緩和で行き場を失った資金が投機に流れ、新たなバブルの芽が生まれていることはないだろうか。

 バブルが再来すれば、その崩壊過程で不動産価格を乱高下させる。1980年代の日本が得た教訓を忘れてはならない。

 実体経済を反映した地価の持続的な上昇基調を実現させることが重要である。政府は、投機的な動きに目を凝らしてもらいたい。

 規制改革などの成長戦略を地道に進めることで、不動産の健全な需要を創出する必要もある。

 地方圏の地価は、二極化が進んでいる。札幌、福岡など拠点都市や観光地が外国人効果で潤う一方、人口減の目立つ農村部は一向に下げ止まる気配がない。

 住宅地全体で上昇率1位は、外国人の別荘需要を掘り起こした北海道倶知安町の物件だった。

 地方には、観光資源としてまだまだ「隠れた宝」も眠っているはずだ。地価上昇の裾野を地方に広げるには、自治体や地元経済界の創意工夫が欠かせない。

2016年9月20日火曜日

18歳が安心して契約できる環境整備を

 政府は民法を改正し、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる方針だ。早ければ来年の通常国会に改正案を提出するという。

 見直しの背景には、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことがある。この夏の参院選では、多くの18歳、19歳の若者が投票所に足を運んだ。

 20歳を成人年齢と定めたのは明治時代にさかのぼる。諸外国では成人年齢、選挙権年齢ともに18歳が多い。法制審議会は2009年、「18歳に引き下げることが適当」と答申している。見直しは自然な流れだろう。

 ただ大人と子どもの線引きが変われば、国民生活への影響は大きい。特に親の同意なしに高額な契約ができるようになることから、消費者被害が拡大するとの懸念は強い。若者の自立と成長を支え、安心して契約に臨むことができるよう、環境整備を進めたい。

 民法は、未成年者が親の同意なしに結んだ契約は取り消せると定めている。知識や経験が十分ではない子どもを保護するためだ。成人年齢が引き下げられると、18、19歳が悪質商法の標的とされるおそれがある。法制審の答申も、消費者被害を防止する対策を、引き下げの条件にあげていた。

 消費者庁の発足に伴う消費者行政の強化など、これまでに一定の前進はあった。一方、インターネット関連など従来とは異なる取引が増え、トラブルの種類が多様になっているのも確かだ。

 消費者庁はこのほど内閣府の消費者委員会に、引き下げに伴いどんな対応が必要か、意見を求めた。国民の不安を払拭できるよう、丁寧で幅広い議論を期待したい。

 対策が必要なのは、特定の年代に限ったことではない。消費者教育の充実や時代にあわせて制度を見直していくことは、常に行政に求められている役割だ。

 「18歳成人」が影響する範囲は広い。例えば親が子どもを保護、教育する親権の対象も、18歳未満となる。民法改正でどんな影響があり、どんな対策が必要か。国民的な議論の広がりと十分な移行期間があってこそ、スムーズな引き下げが可能になる。

 少年法や飲酒、喫煙を禁じる法律などをどう扱うかも、大きな課題だ。それぞれの区切りには、それぞれに異なる意義と理由がある。民法の改正とともに、機械的に引き下げていい問題ではないだろう。慎重に検討すべきだ。

魚の乱獲を日本主導で防げ

 マグロなど水産資源の管理を議論する国際会合が国内で開催された。しかし、いずれの魚種も厳格な資源管理では合意に達していない。新興国の需要拡大で乱獲の危機は増しており、最大消費国の日本が資源管理をけん引すべきだ。

 北太平洋の公海上の漁業管理を話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)は、サバの資源管理が焦点になった。昨年の初会合でサンマ漁船の隻数増加に歯止めをかけたものの、今度は中国漁船によるサバの漁獲が急増。NPFCのまとめでは、中国漁船のサバ漁獲量は2015年に13万トンを超え、14年の5倍強に増えた。

 サバ漁船の数をこれ以上増やさないことや資源量調査の実施で合意できたことは前進だ。ただ日本が提案した厳格な漁船規制には中国が反発し、「増やさないことを推奨」という表現にとどまった。

 乱獲防止の観点からは力不足が否めない。各国・地域で資源量を確認し、必要なら漁獲量そのものの規制にも踏み込むべきだ。

 魚群探知機の発達は、これまでの資源管理が想定していなかった広い公海での漁業を可能にした。水産物の需要が増える中国や台湾は大型の漁船を建造し、日本の排他的経済水域のすぐ外側で操業を続けている。資源管理も技術革新や新興国の台頭に合わせて見直し、乱獲を防ぐ必要がある。

 中西部太平洋のマグロ類などを管理する国際機関(WCPFC)の会合では、クロマグロの子供が3年連続で著しく少なかった場合に漁獲量をさらに減らす緊急ルールを日本政府が提案した。だが米国は発動条件の期間が長すぎるなどとして日本案に反対し、ルールづくりは来年に持ち越された。

 米国の主張には環境保護団体の意見が強く反映されている側面はある。それでも足元のクロマグロの資源量が危機的に低い水準にあることは間違いない。日本は緊急ルールに改善の余地があるかどうかを点検し、その規制で資源量を着実に回復できることを科学的に説明しなければならない。

温暖化対策 取り組みを加速せよ

 地球温暖化に立ち向かう世界の潮流は勢いを増している。それを見誤ることなく、官民の取り組みを加速させるべきだ。

 まずは、2020年以降の地球温暖化対策を決めた新たな国際的枠組み「パリ協定」の批准を急ぎたい。

 パリ協定は年内にも発効する見通しになった。二酸化炭素など温室効果ガスの排出で世界1、2位の中国と米国が今月初め、足並みをそろえて協定締結を発表し、発効に必要な条件に大きく近づいたからだ。

 パリ協定が昨年末の国連気候変動会議(COP〈コップ〉21)で採択された後も、日本政府の動きは鈍かった。「発効は18年ごろ。対応は大排出国の動向を見極めてからでいい」との姿勢だった。

 日本が尽力して1997年に採択された京都議定書では、中国が途上国として削減義務を負わず、米国は途中で離脱。不公平だと訴える声が経済界などに広がった。東日本大震災もあって、温暖化への関心自体が薄れていた。

 だが、消極姿勢を一変させた米中に代表される通り、国際社会は危機感を強めている。人類の活動が温暖化を招いていることが一層確実になり、温暖化との関連性が濃厚な熱波や豪雨なども頻発しているからだ。

 パリ協定に関して、日本は温室効果ガスの排出量を「30年度に13年度比26%減らす」との目標を国連に提出済みだ。さらに5月の伊勢志摩サミットでは、ガスの排出を抑えつつ発展していく長期戦略を20年を待たずにつくることを申し合わせた。

 ただ、戦略的な議論は政府の審議会でようやく始まったところだ。製品やサービスの提供に伴うガス排出量を価格に反映させる「カーボンプライシング」や、環境と経済、街づくりを一体に考える土地利用など、社会や産業のあり方にかかわる新たな発想や試みも課題になろう。

 運転時のガス排出が少ない原子力発電の活用もしばしば議論にのぼる。だが、廃棄物処理の費用と難しさ、福島第一原発事故が示した被害の大きさを考えると、原発頼みは許されない。

 省エネを徹底しつつ、太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーをさらに導入する。工場やビルの廃熱を地域の冷暖房や給湯に生かす。エネルギーの自給自足や循環を意識した取り組みは、安全保障の観点からも望ましく、技術革新を促し、街づくりとも相性がいい。

 温暖化対策を大きな軸に、企業や自治体、市民による多様で息の長い挑戦を促す。そんな構想力が政府に求められている。

ブラジル政治 腐敗を断ち信頼回復を

 五輪とパラリンピック大会は成功裏に終わった。その責任を果たしたブラジルでは、国内政治の試練が続いている。

 ルセフ大統領が先月末、議会の弾劾(だんがい)裁判で罷免(ひめん)され、左派政権は13年間の幕を閉じた。

 政変は一区切りついたが、中道与党を率いるテメル新大統領の前途には難題が山積みだ。

 まずは経済の再建である。同時に徹底した汚職の根絶を断行せねば国民は納得できまい。

 ルセフ氏が「有罪」とされたのは、社会保障費の支払いを国営銀行に立て替えさせて政府会計を粉飾した不正だった。

 だが、それは問題の一部に過ぎない。議会を駆り立てた国民の怒りは、生活苦に直結する失政と腐敗に向けられたのだ。

 03年に出発した左派政権は、貧困家庭への給付金や教育支援など、格差是正のため「分配」を重視する政策を進めた。

 それを可能にしたのは、鉄鉱石や石油、大豆など主要輸出産品の高騰だった。高度成長を成し遂げ、ブラジルを主要新興国の座に押し上げた。ルラ元大統領から引き継いだルセフ政権も当初は順調だった。

 しかし、資源価格の下落や中国経済の減速で失速した。緊縮財政や物価高に国民が苦しみ始めた時期に、多数の与党議員が絡む汚職が発覚した。自身は事件に関与しなかったが、ルセフ氏に批判の矛先が向けられた。

 「分配」と共に「経済重視」を掲げながら、産業の多角化や行政の効率化といった改革を怠ったルセフ氏の責任は重い。

 一方で、5千万人が貧困層から脱し、人口の6割を超える厚い中間層が育ったのは「功績」といえる。腐敗がはびこる政治に真っ先に怒りの声を上げたのが、生活の質を重んじ、政治意識が成熟した中間層だった。

 こうした中間層の動きは、ブラジルにとどまらない。

 南米では90年代に貧富の差が広がった。その反動で左派政権が次々に生まれた。「ばらまき政治」の批判もあったが、各国で中間層が育ち、失政や腐敗、強権政治を批判、追及する原動力となった。

 これまでにアルゼンチンとペルーで政権が中道右派に交代した。ボリビア、ベネズエラでも国民が左派政権への抗議を繰り広げている。

 もはや左右のイデオロギーで国を率いる時代ではない。ブラジルの汚職疑惑は政界全体に広がっている。清潔な政治、公正な統治、政策への説明責任を尽くさなければ、国民が再びノーを突きつけることを、新政権は肝に銘じてほしい。

尖閣諸島警備 海保の増強で中国の侵入防げ

 中国の独善的な海洋進出を既成事実化させてはなるまい。海上保安庁の警備態勢を戦略的に増強することが重要だ。

 尖閣諸島周辺で、中国海警局の公船による領海侵入と接続水域進入が続いている。安倍首相が5日の日中首脳会談で自制を求めたのにもかかわらず、11日には公船4隻が領海に入った。

 南シナ海の領有権問題で、日本が国際法の順守を中国に要求していることへの意趣返しとの見方もある。そうだとすれば、全くの筋違いであり、看過できない。

 中国公船の接続水域航行は、2012年9月の尖閣諸島の国有化以降、常態化している。今年8月には、最大15隻の公船と200~300隻の漁船が集結した。昨年12月からは、機関砲のようなものを搭載した公船も増えている。

 日本の排他的経済水域(EEZ)内で、中国公船の乗員が中国漁船に乗り込むケースが再三、確認された。中国の法律に基づく立ち入り検査などの可能性がある。

 EEZ内では、漁船操業は日中漁業協定で可能だが、中国政府が漁業に関する管轄権を行使することは国際法上、できない。

 こうした行為の既成事実化を防ぐため、海保の巡視船は常時、中国公船の動向を監視し、迅速かつ適切に警告せねばならない。

 偶発的な衝突や漁民らの不法上陸を防ぐには、相手の船より数的優位を確保することが肝要だ。

 しかし、海保の現状は、必ずしも十分とは言えない。

 海保は今春、尖閣諸島周辺を警備するため、巡視船12隻の専従体制を整えた。中国公船5隻程度を想定したものだ。より多数の公船が来た際は、全国から巡視船の応援派遣を受け、対応している。

 中国海警局はこの3年で、大型船を3倍増の120隻にした。19年には135隻に増やす。

 海保が保有する大型巡視船は62隻にとどまる。16年度第2次補正予算案に3隻の新造費390億円を計上した。今後も、計画的に増強することが求められよう。

 要員の確保も急務である。

 海保の定員は約1万3500人で、尖閣諸島国有化前より約800人増員した。元海上保安官の再雇用も進めている。保安官の養成には数年を要する。将来を見据えて早めに手を打つ必要がある。

 不測の事態を避けるため、中国当局とのパイプ作りも大切だ。

 海保と中国海警局は昨年、双方に連絡窓口を設けたが、あまり機能していない。粘り強く意見交換を重ねたい。

帰還困難区域 住民の意向に沿った再生を

 帰還を望む住民の心情に配慮し、復興後の街の具体的な姿を早期に示すことが肝要だ。

 東京電力福島第一原子力発電所事故による「帰還困難区域」について、政府は優先地域を決めて、来年度から除染を本格的に行う方針を示した。

 年間の被曝線量が2012年3月時点で50ミリ・シーベルト超だった帰還困難区域は依然、立ち入りが厳しく制限されている。この区域の帰還方針が示されたのは初めてだ。

 区域は、大熊、双葉、浪江各町など、福島第一原発周辺の7市町村にまたがる。

 今回の方針の特徴は、役場や駅を中心とした「復興拠点」を設定し、そのエリアに限った整備計画を策定することだ。政府は除染と同時に、道路などインフラの整備も進める。22年をめどに避難指示を解除し、帰還を可能にする。

 帰還困難区域全体の除染には巨額の費用を要する。効率性の観点から、対象地域を絞って作業を進めるのは、適切な措置だ。

 線量が比較的少ない居住制限区域、避難指示解除準備区域では、既に5市町村で避難指示が解除された。他の4町村でも、来春の解除を目標に、避難住民の長期宿泊などが行われている。

 だが、解除された地域では、住民の帰還が思うように進んでいない。昨秋に解除され、帰還のモデルケースとされる楢葉町でも、戻った住民は1割程度だ。

 医療機関や商業施設といった生活基盤の整備が十分ではない。それが、避難住民が帰還に二の足を踏む主な要因だろう。若い世代には、戻ってからの雇用や子供の教育に関する不安も大きい。

 帰還困難区域の場合、戻れるにしても、6年先のことだ。生活設計を立てるのは難しい。

 現時点で、復興拠点の場所や整備の内容などは未定だ。避難住民の帰りたいという願いに応えるよう、ふるさとの姿を早期に示すことが大切である。

 帰還を諦め、県内外で生活を立て直している避難住民も多い。復興庁による昨年の調査では、「戻りたい」と答えた住民は、原発がある大熊、双葉両町でそれぞれ11%、13%にとどまった。

 故郷がどのような形で再生すれば、帰還を考慮するのか。各市町村は、避難住民の要望をきめ細かくすくい上げ、整備計画に反映させてもらいたい。

 福島の復興が進む中、帰還困難区域が「取り残された地域」とならないよう、政府は引き続き、支援に全力を挙げる必要がある。

2016年9月19日月曜日

安保法の実行に欠かせぬ情報と判断力

 日本の対外政策を大きく転換する安全保障関連法が、いよいよ運用の段階に入る。自衛隊が任務を果たすには、入念な準備はもちろん、これまで以上に緻密な情報収集と高い判断力が必要だ。

 3月に施行された安保法により、自衛隊は主に3つの分野で活動を広げられることになった。

 集団的自衛権の行使を含めた米軍などへの支援、世界平和に貢献するための外国軍への支援、国連平和維持活動(PKO)における役割――である。政府はまず、このうちPKOから安保法の適用を始める考えだ。

 具体的には、11月から南スーダンのPKOに派遣する部隊に、「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防護」の準備をさせる。その成果や現地の情勢を踏まえ、問題がないと判断できれば、実際に任務を命じる方向だ。

 いずれの任務も安保法で初めて認められた。「駆けつけ警護」とは、PKOで一緒に活動する国連や民間の人たちが離れた場所で襲撃されたとき、助けることだ。

 「宿営地の共同防護」は、宿営地が攻撃されたとき、自分が直接、攻撃されていなくても、同じ拠点にいる他国軍と協力して守るというものだ。

 従来は、民間人や他国部隊から救助を要請されても、自衛隊は「法的制約」を理由に断るしかなかった。こうした状況が改められることは国際協力上、好ましい。

 その一方で、自衛隊が戦闘に巻き込まれ、死傷者が出る危険は高まる。実戦を想定した訓練を重ね、十分な準備が整うまで任務を始めるべきではないのは当然だ。

 南スーダンは事実上、内乱状態にある。政府は各国と密に情報を共有し、リスクを小さくする手立てを尽くすことが欠かせない。日本のPKO参加は、停戦合意などの5原則が守られていることが前提だ。この原則が崩れていないかどうか。情勢が急変すれば、政治指導者の判断力も問われる。

 政府は集団的自衛権行使などの新たな対米支援については、今秋以降、共同演習に取り入れていくことを検討中だ。その前に、米軍が何をどこまで期待しているのか、十分に調整してほしい。

 安保法は世論の賛否が割れている。政府はなお、理解を広げる努力を尽くすべきだ。そのためにも、PKOの活動状況や新たな日米共同演習などをめぐる情報は積極的に公開してもらいたい。

パラ五輪に学ぶ共生社会

 リオデジャネイロ・パラリンピックが閉幕する。

 150を超える国と地域から史上最多の4300人の選手が集い、磨いた技や鍛えぬいた力で競い合った。4年後、東京でも自らの限界に挑む勇姿を多くの観衆の前で披露してほしい。

 かつて障害者のリハビリテーションの一環と位置づけられていたパラリンピックだが、現在は各競技種目とも独自の地位を確立したといってよい。

 陸上や水泳では障害の種類や運動機能でクラス分けがされ、団体の球技では障害の程度をポイント化する手法を使いチーム内でのメンバーの役割を分担している。

 補助スタッフも充実し、車いすや義足の開発・改良では最新の技術が反映された。公平さを保つためのルールや支援の枠組みは、今後も維持し続けねばならない。

 この点に鑑み、国際パラリンピック委員会(IPC)がドーピングを理由にロシア選手団を大会から除外したのはうなずける。持てる運動能力で正々堂々と戦うというパラリンピック精神と薬物汚染は対極にあるからだ。次回もこの方針は貫徹すべきだ。

 「障害を持つ人も健常者も相互に人格と能力を尊重し支え合う」。共生社会の理想である。パラリンピックのアスリートらは、人間の秘める可能性の大きさを私たちに気づかせてくれる。

 これに学び、障害のある人たちや高齢者らが積極的に社会に参加し貢献できるよう、インフラの面とともに、人々のこころの面でのバリアフリー化をさらに推し進める必要がある。

 相模原市の障害者施設殺傷事件の容疑者のようなゆがんだ排除の論理をまん延させてはならないのは論をまたない。東京の地下鉄で、目の不自由な人が線路に転落してはねられ死亡した悲劇も繰り返してはなるまい。

 4年後、東京を訪れた人たちから「成熟した都市空間とはこういうものか」と評価されるようスタートを切りたい。

安保法1年 まだ「違憲」のままだ

 1年前のきょう未明、全国各地での反対行動のなかで、集団的自衛権の行使を認める安全保障関連法が成立した。

 「違憲法制」との批判に対し、安倍首相は「これから粘り強く説明を行っていきたい」と語った。だが、その後の姿勢はその言葉とはほど遠い。

 野党5党が国会に提出した廃止法案の審議に与党は応じなかった。夏の参院選でも首相ら与党幹部の言及は限られた。

 一方で、自衛隊は安保法による新任務の訓練を始め、政府は着々と運用に動きだしている。

 この1年、北朝鮮は核実験やミサイル発射を重ね、中国の軍拡や海洋進出も続く。日本周辺の情勢をみれば、安全保障環境は厳しさを増している。

 だが安保法の違憲の疑いは、1年たったからといって晴れるわけではない。参院選で与党が勝っても、廃止を訴えた野党が負けても合憲にはならない。

 安保法については違憲訴訟が続いている。自衛隊は世論の後ろ盾を欠いたまま任務の遂行を求められる。そんな事態は避けねばならない。

 なぜ「違憲」なのか。国会審議をおさらいしておく。

 政府は一貫して「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」との立場をとってきた。2年前に一転して「行使できる」と唱え始めたときの論拠は、集団的自衛権と憲法との関係を整理した1972年の政府見解だ。

 ところが、この見解の結論は「集団的自衛権は行使できない」なのだ。その文章を変えることなく、解釈を百八十度ひっくり返した。

 理由を問う民進党の小西洋之参院議員らに、内閣法制局長官は「(見解の中に行使容認の)法理としては当時から含まれていた」などと答えた。

 けれど、72年以降の歴代政権も内閣法制局幹部も「行使はできない」と答弁し続けてきた。昨夏の週刊朝日の取材に、72年当時の幹部は「これを根拠に解釈改憲なんて夢にも思っていなかった」と語っている。

 政府の説明は説得力を欠く。

 安保法の成立時に、安倍首相は「時がたてば間違いなく理解は広がっていく」と述べた。

 だが、朝日新聞の今春の世論調査では、安保法が憲法違反と思う人は50%、違反していないと思う人は38%。安保法に賛成の人は34%、反対は53%。国民は納得していない。

 政府が安保法の運用に向かうなか、臨時国会が26日に始まる。憲法審査会でも他の委員会でもいい。与野党は安保法を改めて論じあうべきだ。

性犯罪の処罰 「魂の殺人」を許さない

 性犯罪にいかなる姿勢で臨むべきか。法制審議会が答申をまとめ、法相に提出した。

 強姦(ごうかん)罪について、加害者を起訴する際に被害者の告訴を必要とする定めをなくす▽量刑を懲役3年以上から5年以上に引きあげる▽男性の被害も対象とする――などの見直しを提言している。親ら監護者が影響力に乗じて18歳未満に性交やわいせつな行為をするのを、犯罪として罰することも盛りこまれた。

 背景にあるのは、性暴力を人間の尊厳に対する罪ととらえ、被害者が心身にうける傷の深さを重くみる考えだ。

 総じて妥当な内容だが、懸念がないわけではない。

 加害者とは一切かかわりたくない。記憶を呼び起こすことはしたくない。そんな思いで告訴を見送る被害者も多い。

 答申通りに刑法を改めれば、告訴するかどうかの判断を迫られることはなくなり、被害者の負担は軽くなる。一方で希望しない裁判が始まる例も想定される。2次、3次の被害を招かぬよう、捜査・公判に携わる者には十分な配慮が求められる。

 監護者の処罰規定が入ったのは、近親者による性犯罪の深刻さが広く認識されるようになったためだ。この提案も立場によって評価は分かれる。

 被害者支援にあたる人々は、教員やスポーツコーチらによる性暴力も見過ごせない状況にあるという。だが「監護者」ではないため、処罰の網がかからない。「もっと踏み込んでほしかった」との声に、思いを同じくする人も少なくないだろう。

 逆に、刑事弁護を担う側からは、犯罪の要件があいまいで、恋愛感情にもとづく行為も摘発対象となり、冤罪(えんざい)を生む恐れがあるとの指摘が出ている。

 国会審議を通じてこうした疑問や不安の解消に努め、その後は実務のなかで適切な運用例を積みあげてもらいたい。何より尊重すべきは、被害者の人権であり、日々の生活であることは言うまでもない。

 過酷な体験をした人たちの話を見聞きすると、強姦が「魂の殺人」と呼ばれる理由が痛切に伝わってくる。他の性暴行の罪深さも同様である。

 だが、私たちの社会はこの問題に正面から向きあってきたと言えるだろうか。支える仕組みは貧弱で、声をあげられない被害者がいまも大勢いる。

 サポート態勢の充実、被害にあった人に向けられる無理解や偏見の克服、治療プログラムなどを通じた再犯防止策の拡充。

 答申を機に、山積する課題へのとり組みを強めたい。

安保関連法1年 様々な危機対処の重要基盤だ

 安全保障関連法が制定されてから、19日で1年を迎える。

 アジア情勢が不安定化する中、安保関連法の適切な運用により、日米同盟を強化し、日本の安全をより確かなものにしたい。

 北朝鮮は核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す。中国は独善的な海洋進出と軍備増強を続ける。国際テロの脅威も拡散している。

 こうした様々な危機に効果的に対処するうえで、安保関連法は重要な基盤となっている。

 日本の存立が脅かされるような事態が発生した際には、集団的自衛権の限定的な行使が可能になった。平時でも、自衛隊が米軍艦船を防護することができる。

 安保関連法は既に、日米の信頼関係を高め、防衛協力を深化させるのに大きく寄与している。

 北朝鮮の再三のミサイル発射に関して、自衛隊と米軍が情報共有や共同の警戒監視活動をより円滑に実施できるようになった。

 今月9日の北朝鮮の核実験を受けて、日米の外務・防衛当局の局長級がテレビ会議を開催した。安保関連法制定を前提に昨年4月に改定された防衛協力の指針(ガイドライン)に基づく「同盟調整メカニズム」の一環である。

 15日の日米防衛相会談では、調整メカニズムが効果的に機能していると評価し、今後も一層活用する方針で一致した。不慮の事態に即応できるよう、平時から日米の当局者が緊密に意見交換しておくことが大切である。

 稲田防衛相は8月下旬、安保関連法に基づく自衛隊の新たな任務の訓練を開始すると発表した。

 日米2国間や、韓国、豪州などを加えた多国間の訓練を重ねて、艦船防護や、補給・輸送支援などの熟練度を高めることが欠かせない。危機を未然に回避するための抑止力の向上につながろう。

 安保関連法では、国際平和協力活動も拡充された。紛争の発生後に特別措置法をいちいち制定しなくても、人道復興支援や他国軍への後方支援活動に機動的に自衛隊を派遣できるようになった。

 南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)に11月に派遣される陸上自衛隊の部隊には、「駆けつけ警護」任務が付与される見通しだ。民間人に救援要請されても断るしかないという、いびつな状況が解消される意義は大きい。

 新たな任務には、危険も伴う。従来以上に現地情勢の情報収集を強化するとともに、実戦的な訓練を通じてリスクを最小限にする努力が求められる。

法曹離れ対策 法科大学院は再生できるのか

 今年の司法試験合格者は1583人で、昨年から267人減少した。

 法科大学院を中核とする法曹養成システムの危機的状況を、如実に反映した結果だと言えよう。

 政府は昨年、合格者数の目標を「年1500人以上」と決めた。身近な司法の実現を目指して掲げた「年3000人」を撤回し、新たに設けた最低ラインである。

 これは何とかクリアしたが、問題なのは、受験者が昨年から1000人以上も減ったことだ。深刻な「法曹離れ」を食い止めるためには、優秀な人材の供給源であるはずの法科大学院の立て直しを急がねばならない。

 司法試験合格者のうち、法科大学院の修了者は昨年より316人少ない1348人にとどまっている。合格率は過去最低の20・68%にまで落ち込んだ。

 修了しても、法律家への道が開けない。これでは、法科大学院の魅力は薄れるばかりだ。

 最大で74校が乱立し、2004年度には7万人を超えていた法科大学院の志願者は、今年度は約8300人まで減少した。既に30校近くが廃止や募集停止に追い込まれた。入学者数は全募集定員を900人近くも下回っている。

 実務教育を重視し、即戦力の人材を育てる。法科大学院のこの理念は重要だが、司法試験の合格を見据えた指導強化も不可欠だ。

 優秀な大学生を早期入学させる飛び入学など、法曹を志す人材にアピールする手立てが求められる。給付型や無利子の奨学金の拡充も有効だろう。

 法科大学院を経ず、予備試験を突破して司法試験の受験資格を得た合格者は、今年、過去最多の235人に上った。

 経済的理由などで法科大学院に進めない人に門戸を開くのが、予備試験の本来の趣旨だ。だが、大学生らには、法曹への「近道」と捉えられている。法科大学院を存続させるのなら、予備試験のあり方も再検討が必要だ。

 司法試験を巡っては昨年、問題作成にあたる考査委員による漏えい事件が発覚した。法科大学院教授を務めるこの委員は、教え子に問題を事前に漏らし、解答の添削までしていた。

 司法試験のみならず法科大学院への信頼を失墜させる事件だった。法務省は、考査委員の任期を限定し、委員を務める教員の授業を録音して漏えいを防ぐといった再発防止策を検討している。

 優れた教員の確保も、法科大学院の再生には欠かせない。

2016年9月18日日曜日

働き方と税・社会保障の一体改革を

 政府・与党による所得税改革の議論が始まった。

 人口が減少する日本の経済を活性化するには、女性や高齢者にもっと活躍してもらう必要がある。子を産み、育てる世帯も支援しなければならない。働き方と一体で所得税の抜本改革に踏み切ってほしい。

 日本の経済社会の構造は大きく変わった。かつて夫婦と子だけの世帯は4割を超えていたが、いまや3割未満にとどまる。夫婦共働きの世帯の数は専業主婦の世帯の数を大きく上回る。

配偶者控除を見直せ

 そんな中で、政府・与党は専業主婦の世帯の税負担を軽くする配偶者控除の見直しを検討するという。1961年にできた税制の弊害は大きくなりつつある。改めるのは当然だろう。

 パートで働く妻などの年収が103万円以下だと、夫の課税所得から38万円の控除を受けられる。その結果、年収を103万円以下に抑えようと就業を調整するパートが多く、「103万円の壁」といわれている。

 日本では労働力の担い手が減り、成長力を押し下げている。女性が年収への意識から働くことを抑える結果、サービス業などの現場で人手不足に拍車がかかっている現状は放置できない。

 安倍晋三政権は非正規の処遇を改善する「同一労働同一賃金」を推進している。

 しかし、いまの配偶者控除の仕組みを残したままだと、いくら非正規の時給が上がってもすぐに年収が103万円に達し、これまで以上に就業を抑えるおそれさえある。働き方改革を掲げるならば、やはり新たな仕組みがいる。

 配偶者控除を見直して、妻の年収に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める「夫婦控除」をつくる案がある。

 年収を気にせずに女性がもっと働きやすくなる効果は期待できる。もちろん財源にも限りがある。一定の年収要件を課して、高所得者を適用対象から外すなどの対応はやむを得ない。

 制度の設計しだいで多くの個人が負担増を強いられる。政府・与党は夫婦控除以外のさまざまな案も選択肢から外さず、丁寧に議論をすすめてもらいたい。

 年金課税も見直すべきだ。年金受給者に適用される公的年金などの控除は、現役世代の給与所得控除より大きい。高齢者優遇の政策といえる。

 公的年金をもらう高齢者の数は増える一方で、保険料負担を通じて年金を支える現役世代の数は減っている。

 いきすぎた世代間の受益と負担の不均衡は問題だ。低所得の年金受給者に配慮しつつ、少なくとも原則として控除枠は現役世代と同程度に圧縮してはどうか。

 気になるのは、社会保障制度の改革への視点を欠いたまま、狭い税という世界だけで議論がすすみかねない点だ。

 いまや年金や医療などの社会保険料収入は国税収入を上回る。国民負担という点は社会保険料も税金も同じだ。両者を一体的に改革する必要がある。

 たとえば、厚生年金や医療保険などの社会保険には「130万円の壁」がある。パートなどの年収が130万円を超えると年金や医療の保険料負担が生じ、可処分所得が目減りしてしまう。

低所得者対策も急げ

 仮に103万円の壁がなくなっても130万円の壁が残っていれば、就業が抑えられてしまう。保険料負担のあり方を含めて制度を再検討するときだ。

 真に支援が必要な低所得者への対策も急ぎたい。

 国民年金や国民健康保険(国保)には、相対的に低所得者の負担が重い「逆進性」がある。この問題にも、税制と社会保障制度の双方に目配りした政策で対応できる余地は大きい。

 その一例が、生活保護を受けている人らの就労を促す「勤労税額控除」といった仕組みだ。所得が低いうちは社会保険料を減免し、手取りの所得を段階的に増やせるようにする案だ。

 税と社会保障の共通番号(マイナンバー)を使って個人の所得を把握するのが前提となるが、働く意欲をもっと引き出す効率的な安全網をつくれるはずだ。

 ほかにも高齢者雇用と年金制度のあり方、少子化対策の充実のための財源確保策など、働き方改革に絡んだ課題は山積している。

 その際、柔軟で多様な働き方を実現する改革とともに、税制と社会保障制度を一体的に改革する視点を忘れてはならない。

自治体と災害 混乱の実例から学ぶ

 住んでいる地域が突然、豪雨や地震などに襲われる。その時、住民を守る最前線となる市町村の役場で何が起きるか。

 台風10号に見舞われた岩手県岩泉町は、9人が亡くなった高齢者施設の周辺に避難勧告を出していなかった。担当職員は、近くを流れる川の水位が勧告基準を超えたことをパソコンで確認していた。しかし、ほかの電話対応に追われて町長に報告できなかったという。

 そんなバカな、と誰しも思うだろう。だが、他のまちでも同様の事例が報告されている。

 ちょうど1年前。茨城県常総市のある地区では、避難指示が伝わらぬまま鬼怒川の堤防が決壊した。市の依頼で、大学教授らが関係者にインタビューし、検証報告書を6月にまとめた。

 浮かび上がったのは、業務の激増に追いつけない災害対策本部の混乱ぶりだ。

 中核となるべき防災の担当課は、聞こえにくかった防災無線の問い合わせなど約2千本の電話に手をとられた。「地理はわかっているから」と本部に大型地図は掲げられず、被害の全体像の把握に後れをとった。職員の役割分担も不明で、場当たり的な対応が繰り返された――。

 思わずため息が出るが、自分が住む自治体ではあり得ない話だと言い切れるだろうか。

 ひとたび大きな災害がおきれば、住民への情報伝達や避難所の開設、受け入れなど、自治体は一度に多くの仕事をかかえ込む。一段落した後も、罹災(りさい)証明の発行業務などが続く。

 しかし、職員数が200人以下というところがいまや全国の4割を占める。岩泉町は183人、熊本地震に襲われた南阿蘇村は165人。多くの場合、その職員らも被災する。庁舎は壊れて使えないかもしれない。

 役場も機能不全に陥るという想定に立って、日ごろから対策を練っておく必要がある。

 課や係の垣根を越えて仕事を担い、総力戦でのぞむのは言うまでもない。都道府県庁や周辺自治体、ボランティアの協力もあおがねばならない。事前に協定を結び、実務に即した訓練を積んで、組織を動ける状態にしておくことが欠かせない。

 政府は、市町村の機能が低下しても大事な仕事は続けられるように、業務継続計画の作成を求めている。だが、整備したのは4割にとどまる。小さな自治体ほど人手やノウハウの不足が障害になっているといい、丁寧な支援が求められる。

 災害大国日本。過去の混乱に学び、備え、次の混乱の回避につとめたい。

富山市議会 許されぬ裏切り行為だ

 いったい公金をなんだと思っているのか。有権者への裏切り行為に強い憤りを覚える。

 富山市議会で、政務活動費の不正取得が次々と明らかになった。ほぼ半月で自民の3議員が辞職し、自民、民進系両会派の計5議員が辞職を表明した。欠員が定数の6分の1を超え、補欠選挙となる異常事態だ。

 領収書をパソコンで偽造したり、数字を1けた加えたり。すでに一部の議員について、市民団体が詐欺容疑で富山県警に告発状を提出している。

 不正取得額は判明分だけで約2600万円にのぼる。詐欺や着服の疑いがあれば訴追されるのは当然としても、まず各議員が辞職で終わらせるのではなく、不正の全容を明らかにし、説明を尽くす必要がある。

 手口が会派内で引き継がれていたと認めた議員もいる。不正は会派ぐるみだったのか。ほかに不適切な使い方はないのか。解明すべきことは多い。

 同時に市や議会事務局は本当に気づかなかったのか。市議会全体の責任として徹底解明しないと、予算案件など政策審議はとてもまかせられない、というのが市民の感覚ではないか。

 議員の釈明を聞いて感じるのは納税者との意識のずれだ。

 約695万円の不正取得を認めた議員は、大半を飲食代に充てていたという。「この世界はそういうものだという感覚だった」と説明する議員もいた。

 あぜんとするほかない。

 富山市議会では、月60万円の議員報酬を70万円に引き上げる条例案が6月に可決された。まず白紙に戻し、議員報酬や政活費のあり方について一から審議し直すのが、最低限、市民に示すべき態度ではないか。

 野々村竜太郎・元兵庫県議による政活費の問題が発覚した14年7月以降、収支報告書や領収書をインターネットで公開する議会も増えている。富山市議会はそれもしていない。

 今年6月には、宮城県議会の議長が政活費を自宅の水道代などに充てていたとして議長を辞任。7月には、虚偽の領収書で約565万円を不正受給したとして、元徳島県議が詐欺などの罪で在宅起訴された。

 すべての自治体で、不正を防ぐ制度をつくる必要がある。

 調査に使った分だけを事後精算する「後払い方式」の導入や、視察報告書など活動成果の公開、第三者機関の設置など、とるべき手段はいろいろある。何より市民が地元の議員に関心をもつことが第一歩だ。多数の目にさらすしくみを整えることが、最大の防止策となる。

公明党大会 憲法改正論議に堂々と加われ

 巨大な連立与党の責任を自覚し、円滑な合意形成に努めて、政策課題を前進させてほしい。

 公明党が党大会で、山口代表の5選を正式決定した。井上幹事長も再任された。野党に転落した2009年9月に誕生した「山口―井上」体制は、8年目に入る。

 自民党は7月、議席の6割超を占める衆院に続き、参院でも27年ぶりに単独過半数を回復した。公明党も、参院選で自民党の支援を受け、選挙区選で過去最多の7人が当選した。両党の選挙協力は「自公融合」とまで呼ばれる。

 山口氏はあいさつで、「安定政権のもと、山積する課題解決に結束して立ち向かう」と強調した。経済再生と社会保障の充実を最重要課題に掲げた。

 来賓の安倍首相は、自公連立について「長年の風雪に耐えた。今や新しい次元だ」と指摘した。

 首相は、戦後70年談話や消費税の軽減税率導入などで、公明党の意向を尊重してきた。平和や福祉を重視する公明党の主張を取り入れることは、自民党の政策の幅を広げる意味を持つ。

 公明党も、集団的自衛権行使の限定容認や安全保障関連法の制定を巡り、自民党に譲歩した。山口執行部は、慎重論が強い地方組織や支持者を丁寧に説得した。

 1999年以来の連立は、成熟期にあるとも言えよう。

 気がかりなのは、山口氏が最近、憲法改正について、後ろ向きな発言を続けていることだ。

 9条改正に慎重論を唱えた。改正項目を絞り込む目標時期の設定は、「不適切だ」と語った。

 公明党は長年、平和主義など憲法の骨格は変えずに、新たな規定を追加する「加憲」の方針を掲げてきた。環境権、プライバシー権などの新設や、自衛隊の明記を検討する考え方である。

 民進党の蓮舫代表は、岡田克也前代表とは違って、憲法論議に前向きな考えを示している。与野党の議論の土俵は整いつつある。

 山口氏も党大会では、「現憲法を検証し、何を加憲の対象にすべきかの議論を深めていく」と述べ、議論は否定しなかった。

 公明党は、加憲に関する党内論議の積み重ねを踏まえ、国会での議論に積極的に参加し、合意形成の一翼を担うべきだ。

 党大会では、「大学の無償化の検討」を提言した。安倍政権で経済格差が拡大したと主張する民進、共産両党に対抗する狙いだろう。低所得者への支援は必要だが、バラマキを競ってはなるまい。

EU首脳会議 英離脱に備え再結束できるか

 英国の離脱決定に伴う動揺を抑えるため、難題を先送りし、結束を演出したのだろう。

 欧州連合(EU)が、英国を除く27か国の首脳会議を開き、半年後に「魅力的なEUの将来像を提示する」と宣言した。「難民・移民」「テロ」「経済」の3分野の優先課題に関する「行程表」もまとめた。

 来年3月は、欧州統合の礎となった「ローマ条約」の調印60年に当たる。それまでに首脳会議を重ね、具体策を練るという。

 不十分な難民・テロ対策への不満は、英国だけでなく、域内各国に広がる。首脳会議が行程表で危機対応策を前面に打ち出したことは、英国に続く「離脱ドミノ」の回避に向けたEUの信頼回復の第一歩として理解できよう。

 難民対策では、流入抑制の方針を明確にした。新設の「欧州国境沿岸警備隊」を年内に稼働させるなど、域外との国境管理を強化する。テロの防止策として、各国情報機関の連携を緊密化させる。

 合意しやすい項目を列挙しただけで、新味には乏しい。

 深刻なのは、難民の受け入れ分担を巡る昨秋のEUの決定が、ハンガリーやポーランドなど東欧諸国の頑強な抵抗によって、宙に浮いていることである。

 足並みの乱れが続くようでは、「魅力的な将来像」は看板倒れになろう。各国が粘り強く妥協点を探らねばなるまい。

 難民流入や相次ぐテロで社会不安が高まる情勢に乗じ、「反難民」「反EU」色の強い政党が、来春に大統領選を控えるフランスなど各国で伸長している。

 EUを牽引(けんいん)するドイツでも、今月上旬の州議会選で、メルケル首相の寛大な難民受け入れ策を批判する新興右派政党が躍進した。

 大衆迎合主義の台頭を抑え、政治の安定を保たねばならない。EUが求心力を維持するには、加盟国が協調を深めて、難民問題や治安回復で実績を着実に上げる取り組みが求められよう。

 経済分野も課題が多い。

 成長戦略を巡っては、各国の財政規律と構造改革を重視するドイツと、財政出動を求めるイタリアなど南欧諸国との「南北対立」が先鋭化している。今後の首脳会議で歩み寄りが欠かせない。

 EUは英離脱という試練に直面しても内向きにならず、世界の自由貿易をリードする役割を担っていることも忘れてはならない。

 日本とEUは経済連携協定(EPA)の締結を目指し、交渉中だ。妥結に全力を挙げてほしい。

2016年9月17日土曜日

型より実質が問われる東芝の統治改革

 会計不祥事を起こした東芝が、企業統治(コーポレートガバナンス)などの改善状況を東京証券取引所に報告した。東芝は1年前から、経営に問題があることを意味する特設注意市場銘柄に指定されている。報告の提出を受けて東証は、注意銘柄の指定を解くかどうかの審査を始めた。

 東芝の会計不祥事は同社株主に損害を与えただけでなく、日本の株式市場への信頼も大きく揺るがせた。東芝問題に対する国際的な注目度は今でも高い。東証は、東芝の改革が実効性を伴うものかどうかをよく見きわめたうえで判断しなければならない。

 東芝はインフラやパソコンなどの事業で、総額約2300億円の利益を不正に操作していた。驚きを与えたのは、水増しされた利益額もさることながら、先進的なイメージがあった東芝という会社が不正を起こしたという事実だ。

 日本企業の中でいち早く社外取締役が経営を監視する体制に移行するなど、東芝は統治改革の先頭集団を走る会社として、市場から評価を受けていた。

 しかし、不祥事が発覚した後の調査では、目標の必達を迫るトップに部下が抗することができないといった実情が、利益操作が起きた背景の一つとして指摘された。問われているのは、そうした上意下達が強すぎる経営風土が変わり、不正の芽が早期に摘み取られる組織になったかどうかだ。

 東芝は経営改善策として社外取締役を入れ替えるとともに、彼らだけで経営を議論する「評議会」を設けるなどの措置を講じた。こうした改革が型だけで終わってはならない。東芝の若手社員の間では、会社の風土はまだ変わっていないとの声もあるという。

 東芝は、注意銘柄のままだと最悪の場合、上場廃止となる恐れがある。このため年金などが投資を敬遠する傾向も強く、資本調達の道は事実上、閉ざされている。東芝としては一日も早く注意指定が解かれ、経営や財務の戦略の自由度を高めたいところだ。

 だが、東証は注意指定の解除を判断するにあたり、必要に応じて関係者から事情を聞くなど踏み込んだ審査をする必要がある。

 今では9割を超える日本の上場企業が社外取締役を選任している。そうした統治改革が効果をもたらすかどうかが、日本企業全体の今後の課題だ。東芝の前途が注目されている理由もそこにある。

「北風」で普天間移設できるか

 米軍普天間基地の沖縄県名護市辺野古への移設をめぐる国と県の争いに初の司法判断が下った。ただ、敗訴した県は最高裁に上告する方針で、決着にはなお時間がかかる。国は最高裁でも勝つに決まっているとたかをくくらず、県との歩み寄りに努めるべきだ。

 辺野古移設に必要な公有水面の埋め立ては知事に諾否を決める権限がある。仲井真弘多前知事は承認したが、翁長雄志現知事は取り消した。福岡高裁那覇支部は知事の取り消しを取り消せという国の主張は妥当だと判断した。

 判決は、国防・外交上の事項は「国の本来的任務」であり、「尊重されるべきだ」と指摘した。同時に普天間基地の県内移設によって「基地負担が軽減される」として「承認を取り消すべき公益上の必要が優越しているとはいえない」と強調した。

 国の言い分をそのまま認めた形であり、最高裁もこれを踏襲する可能性が高い。問題は、司法判断が確定したとしても、それで移設がすんなり進むとは言い切れないところにある。

 沖縄ではこのところ国政選で移設反対の候補が勝ち続けている。この民意を追い風に翁長知事はあらゆる権限を駆使して移設工事を妨げる考えだ。

 他方、安倍政権は2017年度予算案の概算要求で沖縄関連予算を減らした。「毎年使い切れていない」と説明するが、減額すれば兵糧攻めと受け取られることはわかっているはずだ。

 双方の対立は移設の是非はどこへやら、もはや感情論の域に達している。本土は沖縄のことをないがしろにしている。県民がそう考え続ける限り、打開の糸口は見いだせない。

 政治的困難を解決するには北風を吹かせるだけでなく、太陽も必要だ。自民党の二階俊博幹事長が訪沖し、翁長知事に「難しいことはたくさんあるが乗り越えたい」と伝えたそうだ。こうした信頼関係づくりは重要だ。政府がどう動くのかに注目したい。

辺野古判決 それでも対話しかない

 国の主張が全面的に認められた判決だ。だからといって、政府が沖縄の不信を解く努力を怠れば、問題解決には決してつながらない。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐり、国と県が争った裁判で、福岡高裁那覇支部は国側勝訴の判決を言い渡した。

 「普天間の被害を除去するには辺野古に基地を建設する以外にない」と言い切ったことに、大きな疑問を感じる。

 長い議論の歴史があり、国内外の専門家の間でも見解が分かれる、微妙で複雑な問題だ。だが、この訴訟で裁判所が直接話を聞いたのは翁長雄志知事ひとりだけ。それ以外の証人申請をことごとく退け、法廷を2回開いただけで打ち切った。

 そんな審理で、なぜここまで踏みこんだ判断ができるのか。しなければならないのか。結論の当否はともかく、裁判のあり方は議論を呼ぶだろう。

 国と県はこの春以降、話しあいの期間をもった。だが実質的な中身に入らないまま、参院選が終わるやいなや、国はこの裁判を起こした。

 判決は「互譲の精神」の大切さを説き、「国と県は本来、対等・協力の関係」と指摘しながらも、結果として国の強硬姿勢を支持したことになる。

 辺野古移設にNOという沖縄の民意は、たび重なる選挙結果で示されている。

 翁長知事は判決後の会見で、最高裁の確定判決が出れば従う姿勢を明確にする一方、「私自身は辺野古新基地を絶対に造らせないという思いをもってこれからも頑張りたい」と語った。

 国が埋め立て計画の変更申請を出した際など、様々な知事権限を使って抵抗する考えだ。

 一日も早く普天間の危険をなくしたい。その願いは政府も県も同じはずだ。対立ではなく、対話のなかで合意点を見いだす努力を重ねることこそ、問題解決の近道である。

 だが参院選後、政府による沖縄への一連の強腰の姿勢に、県民の不信は募っている。

 大量の機動隊員に守らせて東村高江の米軍ヘリパッド移設工事に着手し、工事車両を運ぶため自衛隊ヘリを投入した。来年度予算案の概算要求では、菅官房長官らが基地問題と沖縄振興のリンク論を持ち出した。

 政府が直視すべきは、県民の理解がなければ辺野古移設は困難だし、基地の安定的な運用は望み得ないという現実だ。

 県民の思いと真摯(しんし)に向き合う努力を欠いたまま、かたくなな姿勢を続けるようなら、打開の道はますます遠のく。

公明党 微修正の政治、脱却を

 公明党がきょう大会を開き、山口那津男代表の5選が正式に決まる。

 1999年の連立参加から17年に及ぶ自民党との絆は太い。

 戦後日本の歩みを肯定的にみる公明党と、それとは異質な歴史観をもつ安倍政権。肌合いの違いは大きいが、それを超えた利益で結ばれている。

 選挙では支持母体の創価学会票の上積みで当選する自民党議員が多い一方で、安倍首相の応援で議席を得る公明党議員も増えてきた。

 安倍首相「一強」で単色に染まる自民党の議論に公明党が加わることで、与党としての幅の広さを示す効果もある。

 両党は互いに依存しあう、切るに切れない存在なのだ。

 公明党は与党の一員として予算編成に参加。「福祉の党」の看板のもと、低所得者を支える政策に力を入れてきたが、なかには地域振興券のように、選挙目当てのバラマキと批判された政策もあった。

 「平和の党」の看板はどうだろう。

 安全保障関連法をめぐっては、山口代表が慎重論を唱えたが、連立離脱の可能性を早々に否定し、首相に押し切られた。自民党との議論の過程で主張を反映した部分はあるものの、違憲の疑いが濃い集団的自衛権の行使を認め、自衛隊の活動範囲を大きく広げる本質は変わっていない。

 この公明党の対応に向ける、支持者の視点は一様でない。

 安保法に一定の歯止めをかけたと評価する人もいる。憲法改正に積極的な安倍政権にひきずられないか、危ぶむ声もある。

 公明党は、7月の参院選で過去最多と並ぶ14議席を得た。半面、朝日新聞の出口調査では、32の1人区で公明支持層の24%が野党統一候補に投票した。

 自民党と選挙協力をし、福祉政策などで果実を勝ち取る。同時に、安保政策などでは自民党の判断に基本的に従い、微修正を求めつつ追随する――。

 長い連立をへて、公明党が形づくってきた自民党との付き合い方に向ける公明党支持者の疑問や不安が、安倍政権のもとで強まっているようにも見える。

 自民党にとってなくてはならない存在となった公明党が、その力をどう使うべきなのか。

 主張すべきは主体性をもって主張し、政権に行き過ぎがあれば厳しく指摘する。もちろん、広く国民のために。

 連立維持や、創価学会の意向ばかりを重視するとすれば、公党として国民への責任を果たすことにはならない。

「辺野古」国勝訴 翁長知事の違法が認定された

 米軍普天間飛行場の移設問題の経緯や在日米軍駐留の重要性などを踏まえた、妥当な判決だ。

 普天間飛行場の辺野古移設を巡り、福岡高裁那覇支部は、沖縄県の翁長雄志知事が移設先の埋め立て承認の取り消し処分を撤回しないのは「違法」と認定した。

 判決は、辺野古移設について、普天間飛行場の騒音被害や危険性を除去する観点から、「必要性が極めて高い」と指摘した。

 さらに、環境悪化などの不利益や、基地の縮小を求める沖縄の民意を考慮しても、仲井真弘多前知事の埋め立て承認の取り消しは許されない、と判断した。政府の主張を全面的に認めたものだ。

 司法が移設の必要性や公共性を認め、後押しした意義は大きい。翁長氏は、判決内容を重く受け止めなければならない。

 今年3月の政府と県の和解は、総務省の第三者機関の判断を踏まえて県が提訴する、と定めた。だが、県が見送ったため、政府が7月に提訴した。判決は、県の提訴見送りにも疑問を呈した。

 評価できるのは、翁長氏支持派による在沖縄海兵隊の撤退要求を判決が明確に否定したことだ。

 判決は、海兵隊について「沖縄から移設されれば、機動力・即応力が失われる」と指摘した。沖縄県外への移転が困難とする政府の判断は「現在の世界、地域情勢から合理性がある」とした。

 辺野古移設は、普天間飛行場の移設が難航する中、日米両政府と地元関係者がぎりぎりの折衝を重ねた末、「唯一の解決策」として決定したものだ。こうした経緯に判決は理解を示したと言える。

 判決は、外交・国防は自治体が「本来所管する事項ではない」と指摘した。自治体が「国全体の安全という面から判断する権限、組織体制、立場を有しない」ことを理由に挙げている。

 1999年制定の地方分権一括法で、政府と自治体は「対等」と位置づけられたが、外交・国防は政府の専管事項であることを改めて明確にしたのは適切である。

 翁長氏は、判決について「沖縄県民の気持ちを踏みにじる、あまりにも国に偏った判断だ」と語った。近く上告するという。最高裁にも現実的な判断を求めたい。

 懸念されるのは、翁長氏が、仮に敗訴が確定しても、移設阻止の動きを続けると公言していることだ。和解では、「判決確定後は、趣旨に沿って互いに協力して誠実に対応する」ことで合意した。翁長氏は合意を尊重すべきだ。

日米防衛相会談 北の脅威に共同対処を強めよ

 我が国の安全保障環境が厳しさを増す中、日米両政府がより緊密に連携し、機動的な共同対処を行う体制を構築することが重要である。

 稲田防衛相が訪米し、カーター米国防長官と会談した。北朝鮮の相次ぐ核実験や弾道ミサイル発射について、「日米両国に対する安全保障上の重大な脅威である」との認識で一致した。

 北朝鮮は、核弾頭を搭載したミサイルの完成、配備を目指し、突き進んでいる。度重なる実験と発射により、核の小型化技術やミサイルの精度は相当程度、向上したと覚悟せねばなるまい。

 カーター氏は、日本防衛目的の米国の核抑止力を再確認した。北朝鮮の挑発への抑止力を高めるものと評価できる。

 自衛隊と米軍の情報共有や共同の警戒監視活動を着実に拡大することが大切だ。日米に、韓国、豪州、インドなどを加えた多国間の訓練や防衛協力にも力を入れ、北朝鮮包囲網の強化を図りたい。

 尖閣諸島周辺での中国公船の頻繁な領海侵入に関して、稲田氏は「日本の主権侵害であり、断固受け入れられない」と強調した。

 カーター氏は、尖閣諸島を日米安保条約5条の適用対象と認め、中国の一方的な行動への反対を明言した。その意義は大きい。

 南シナ海での中国の軍事拠点化について、両氏は、「地域の緊張を高める行動で、国際社会の懸念事項だ」との認識を共有した。

 中国は、7月の仲裁裁判所判決を無視する構えを崩していない。力による現状変更の既成事実化は許されない。日米両国は、巡視船の供与や人材育成を通じて、南シナ海沿岸国の海上保安能力の向上を引き続き支援するべきだ。

 稲田氏は、ワシントンでの講演で、中国の人工島周辺における米軍艦船の巡視活動を強く支持した。日本が、米軍との共同巡航訓練などを通じて、南シナ海への関与を強める方針も表明した。

 軍事力を背景とした中国の海洋進出に自制を促すには、米国だけでなく、日本や関係国が積極的に協調行動を取り、中国に圧力をかけることが欠かせない。

 米軍普天間飛行場の移設問題に関し、稲田氏は会談で、辺野古移設が「唯一の解決策との立場は不変である」と強調した。米軍輸送機オスプレイの訓練の沖縄県外移転について協力要請し、カーター氏も前向きな考えを示した。

 日米同盟の根幹である米軍の駐留を円滑に続けるため、両国は沖縄の負担軽減に一層努めたい。

2016年9月16日金曜日

何が欠けているのか民進党に自覚はあるか

 民進党の新代表に蓮舫参院議員が就任した。「(有権者に)選んでもらえる政党に立て直す」と抱負を述べたが、高い内閣支持率を誇る安倍政権に対抗するのは容易ではない。民進党に欠けているのは何なのか。党をあげてきちんと自覚しなければ、数少ない看板議員を食いつぶすだけに終わる。

 蓮舫陣営には岡田克也前代表を支えてきた野田佳彦前首相らに加え、前回の代表選では岡田氏と競った細野豪志氏らのグループも参加した。最初の投票で過半数のポイントを得て圧勝した。

 裏返せば、岡田路線と全く違う方向には行かないだろう。そのなかで、どう独自性を出すのか。言葉だけが躍ることのないようにしてもらいたい。

 民進党といえば、さまざまな出自の議員の寄り合い所帯で、憲法や外交・安保などを巡って党内はばらばら、というのが一般的な見方だろう。政策をしっかりと詰めることは大事である。

 ただ、それ以前にすべきことがたくさんある。旧民主党政権を崩壊させた結束力のなさ、決めたことを守らないガバナンスの欠如などは改まっただろうか。蓮舫氏は代表選に先立つ候補者演説で「ビラが捨てられる」と嘆いてみせた。政策を訴えようにも、そもそも聞いてもらえない、という自覚は少なくともあるのだろう。

 だとすれば、代表選の最大の話題だった二重国籍問題はどうしたことか。父が台湾人だったことに何の問題もない。だが、政敵はそこを攻めてくるという認識がゼロだったとしたら、それは危機管理能力の問題である。

 民進党には専門分野には詳しいが、それを上手に生かせない議員が少なくない。自分の言いたいことだけを話し、反論されると急に立ち往生する。政治とカネの問題を巡り、他党の疑惑を追及したら民進党もそうだった、ということもあった。

 有権者が求めているのは、さっそうとしたルックスでも横文字の肩書でもない。社会人としての当たり前の振る舞いであり、きちんとした組織運営だ。

 安倍政権の支持率は高いが、NHKの最新の世論調査によると、支持理由のトップは「他の内閣より良さそうだから」である。いわば民進党こそが安倍政権の最大のサポーターだ。競争原理が働かないと進歩は生まれない。しっかりした野党がそろそろ必要である。

豊洲の安全性の確認を急げ

 一体どうなっているのか。東京の豊洲市場を巡る問題だ。

 土壌汚染に関する専門家が敷地全体に盛り土をするように求めたのに、都の担当部署はそれを無視して主要施設の地下に配管などを通す空間を設けていた。にもかかわらず、それ以降もしっかりと盛り土をしているかのような説明を都議会や都民に続けていた。

 これでは都は嘘をついていたことになる。豊洲市場はかつて有害物質が高濃度で検出された場所だ。都の対応はあまりにもずさんと言わざるを得ない。

 まず、誰が、なぜ、どういう経緯で主要施設の設計を現在の形に変えたのか、明らかにすべきだ。事実と異なった情報を出し続けてきた理由も知りたい。

 都庁は巨大な官僚組織である。その風通しの悪さが今回の問題を引き起こした一因ではないのか。都庁内の情報共有のあり方やチェック体制から再検討すべきだ。

 盛り土がなされていなかったことによる環境面の影響も早急に調査する必要がある。地下水に関するこれまでの7回の調査は安全基準を満たしているが、市場関係者や都民が抱く不安は大きい。

 施設の地下に現在たまっている水は有害物質を含んでいないのか。現在の構造でも、地下水をくみ上げて処理した後に排水するシステムを稼働させれば、安全性は確保できるのか。専門家の意見を聞きながら、多角的かつ冷静に調べるべきだろう。

 小池百合子知事は、かつて土壌汚染対策を提言した専門家会議を再度立ち上げると同時に、それとは別に豊洲市場の調査チームを設けて事業費の問題も含めて検証する方針だ。調査結果をもとに、今後どういう対策が必要なのか、できるだけ早く示してほしい。

 大切なのは一連の問題の原因を包み隠さず公表し、説明責任を果たすことだ。今回、失ったのは豊洲市場の安全性に対する信頼だけではない。都政そのものに対する信頼が著しく低下したことを関係者は肝に銘じるべきだ。

民進党 蓮舫氏のもとに結束を

 民進党の新代表に、蓮舫氏が大差で選ばれた。

 安倍首相「1強」のもと、衆参両院とも与党が圧倒的多数の議席を握るなか、野党第1党の民進党は崖っぷちにいる。

 そんな苦境だからこそ、次の衆院選に向けて、知名度の高い蓮舫氏を党の顔にと幅広い期待が集まったのだろう。

 過去の失敗から何を学び、どのような政権戦略を描くのか。新代表の真価が問われるのは、まさにこれからだ。

 民主党政権が失敗した要因の一つは、党内の足の引っ張り合いだった。「親小沢対反小沢」に代表される対立が党分裂に至り、国民の不信を招いた。

 今回の代表選では憲法改正、沖縄の基地問題などで3候補の主張には違いがあった。

 議論は活発に行い、党として決めた後は結束してことにあたる。新代表のもと、そんな政治文化を今度こそ育ててほしい。

 もっとも、結束だけでは国民の信頼は取り戻せない。

 代表選では「低所得者にも納税をお願いしたうえで、就学前教育の無償化や介護の充実に取り組む」(前原誠司氏)、「毎年5兆円の『こども国債』を発行し、子育て、こども施策の予算を倍増」(玉木雄一郎氏)など特色ある提案もあった。

 党内外の多様な意見を取り込み、説得力ある政策体系に練り上げていく。そんな柔軟さも新代表には求められる。

 次の衆院選に向け、自公連立に代わりうる政権づくりをどう構想するかも大きな課題だ。

 ただでさえ強大な安倍政権に対し、野党がバラバラでは相手にならない。野党の連携は政権へのチェック機能を強め、政権の受け皿をつくるために欠かせない。それを主導するのは野党第1党の責任だ。

 代表選出後、蓮舫氏は「ほかの野党と協力してきた経緯がある。大きく振り切っていこうという話ではない」と語った。

 参院選1人区で一定の成果を上げた共産党などとの選挙協力を、どこまで進めるのか。政権選択選挙となる衆院選では協力へのハードルは高くなるが、議論から逃げてはならない。

 一足飛びの信頼回復はない。26日召集の臨時国会では一歩一歩、実績を積み上げ、国会に緊張感を取り戻してほしい。

 代表選では、蓮舫氏の「二重国籍問題」が指摘された。

 蓮舫氏は台湾籍の放棄手続きをとり、謝罪したが、説明が変転したことで批判を受けた。こうした時にどう対処し、国民の理解を得るのかも党全体の課題である。

甘利氏の説明 不誠実な態度に驚く

 かねて力説していた「政治家としての美学」「政治家としての矜持(きょうじ)」とは、しょせんこの程度のものだったのか。

 あまりに不誠実かつ非常識な態度に、ただ驚く。

 あっせん利得処罰法違反の疑いで告発され、その後不起訴となった元秘書2人について、甘利明・元経済再生相が「説明」の会見を開いた。閣僚を辞任した今年1月から約束してきたものだが、こんな内容だった。

 調査を頼んだ元検事の弁護士から口頭で説明を受けた。調査の基本は、甘利事務所の関係者からの事情聴取や資料提供だと聞いている。不起訴の結論をくつがえすような事実は見当たらなかったとのことだった――。

 会見は自民党本部で突然行われ、この問題を長く取材してきた記者の多くが出席できないまま、10分ほどで終わった。

 ここまで国民を愚弄(ぐろう)したふるまいも珍しい。

 人々が求めていたのは、捜査当局が出した結論をあらためて確認することではない。秘書が業者と不透明な関係をむすび、多額の現金を受けとり、くり返し接待を受けていた。その政治的・道義的責任について甘利氏はどう考え、今後いかに身を律していくか、だった。

 そしてその見解が妥当かどうかを判断するには、前提としてどんな事実があったのかが、つまびらかにされなければならない。元秘書らはどんな話をし、それを裏づけるいかなる客観資料があるのか。不起訴処分は確定しているのだから、捜査や刑事裁判への影響を気にせず、公にできるはずだった。

 ところが、担当した弁護士の氏名も、甘利氏との関係もわからない。調査結果をまとめた文書はなく、第三者は中身を検証できない。「不徳のいたすところ」「今後、コンプライアンスを徹底する」という決まり文句は口にしたが、具体的な再発防止策は一切示されなかった。

 甘利氏は経済閣僚や公務員制度改革の担当大臣を歴任した。不祥事を起こした企業や役所がこのような会見と報告で幕を引こうとしたとき、それで良しとしただろうか。

 国民の疑問に向き合い、丁寧に解きほぐすことから信頼の回復と再起を図る。当然そうすると思っていたが、多くの人には「逃げた政治家」という印象だけが刻まれる結果になった。

 今月下旬から始まる国会で、野党が説明責任を果たすよう迫るのは必至だ。甘利氏本人、そして盟友関係にあるとされる安倍首相はどう対応するのか。目を凝らしていきたい。

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