2017年2月28日火曜日

首相は国有地売却の疑問解明に指導力を

 大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に評価額より大幅に安く売却された問題が波紋を広げている。野党は安倍晋三首相の昭恵夫人が「名誉校長」を務めていた経緯を含めて、政治家の関与の有無を追及している。政府は深まる疑問の早期解明に向けて事実を検証する責任がある。

 森友学園は広さ8770平方メートルの国有地を小学校の建設用地として1億3400万円で随意契約で購入した。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円で、建設工事中に見つかった地中のゴミ撤去費用などのため8億2200万円を減額したという。

 財務省近畿財務局は情報公開法に基づく売却価格の開示要求に当初は応じず、後に一転して公表した。財務省は減額分の金額を見積もったのが、伊丹空港の騒音対策の一環で土地を管理していた国土交通省大阪航空局であることも明らかにした。

 国民の財産である国有地が外部の目が届きにくい形で、しかも実勢とかけ離れた価格で取引された事実は重い。財務省はこれまでの審議で「近畿財務局と学園の交渉記録は残っていない」と説明した。政府は減額分のゴミ撤去作業がどう実施されたのかすら詳細に把握していないという。

 麻生太郎財務相は取引について「適正な手続きによって処分を行った」と繰り返し答弁している。だが経緯が不透明なままでは野党が「政治家が関与したとの疑念を持つ」と指摘するのは当然だ。

 さらに野党は学園が土地の取得に動き出した後の2014年末に昭恵夫人が学園の講演会に参加し、名誉校長に就任した点を問題視している。学園が小学校開設の寄付金を「安倍晋三記念小学校」という名称で集めていたことも明らかになっている。

 首相は衆院の審議で「私や妻が関係していたとなれば、首相も国会議員もやめる」と断言している。それならば政府内の調査や関係者の国会招致に自ら指導力を発揮すべきだ。どういう経緯で昭恵夫人は学園を訪れ、名誉校長に就任し、経営内容をどの程度知っていたのかなど疑問点は多い。

 今回の国有地の売却が政治家や官僚の思惑でゆがめられていたとすれば言語道断だ。国民に疑念を持たれること自体が政治不信を増大させかねない。与野党は疑惑の早期解明に向けて一致協力して取り組んでほしい。

メディアは民主社会の基盤だ

 「権力は腐敗する」。英国の思想家ジョン・アクトンの言葉だ。だから、厳しく監視する必要があるが、普通の人々にはそれほど時間はない。有権者を代表して監視役を担うメディアの責任は重大である。トランプ米大統領はこうした民主主義の基本ルールを理解しているだろうか。

 トランプ政権とメディアの対立は激化する一方だ。気に入らない報道機関をホワイトハウス報道官の記者懇談から締め出し、記者会が4月に開く毎年恒例の夕食会にトランプ氏は参加しないそうだ。

 権力とメディアの距離が近すぎるのも問題だが、ここまで溝が深まっては情報の伝達ルートとして機能しなくなる。関係が正常化することを望みたい。

 日本と比べ、米メディアは党派色が鮮明である。懇談から排除された報道機関はいずれも野党の民主党寄りだ。トランプ氏は「敵」と呼んではばからない。

 とはいえ、トランプ政権の一連の対応は、お気に入りメディアに意図して特ダネを流すのとはわけが違う。報道機関に最低限の取材アクセスを保障するのは、権力者の義務といってよい。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が発達し、世論形成における新聞やテレビの影響力は下がっている。トランプ氏のツイッターには2500万人を超えるフォロワーがいる。旧来型メディアに頼らずに世論誘導したいのだろう。

 SNSは考えが近い人を呼び集めるのに有効なツールであり、趣味の友人づくりなどに役立つ。だが、不確かな伝聞や嘘・デマなどがあっという間に広まるという弊害もある。事実の確認や背景の解説といったメディアの役割がなくなることはあるまい。

 国民がデマに踊らされて国を誤った方向に向かわせる。こんなことは古今東西よくあったし、これからもあるだろう。そのとき、民主社会の基盤であるメディアがきちんと役割を果たせるか。米国の現状は決して他人事ではない。

社会的投資 行政の改革と両輪で

 利子や配当といったもうけより、さまざまな社会の課題解決に役立ったという満足感を重視したい――。利殖と寄付の中間と言えばよいだろうか、社会的投資と呼ばれる資金提供への関心が高まっている。

 そうしたお金を行政に呼び込む試みが、新年度から一部の自治体で始まりそうだ。財政難を補いつつ、とかく「成果の検証がなおざりで、使い切って終わり」と批判される予算の見直しにもつなげるのが狙いだ。

 神戸市は新年度予算案に、糖尿病性腎症の重症化予防事業を盛り込んだ。

 症状が悪化して人工透析に頼ることになれば、患者の負担は大きく、医療費も膨らむ。ベンチャー企業に委託して食事療法などを指導してもらうのが主な内容だが、企業はまず、民間の資金で事業を行う。指導が終わると市は一定額を支払い、成果に応じて上乗せする。

 成果を測る指標として、生活習慣の改善につながった人数を決めておく。人工透析を防げた人数も加味して評価する。

 事業の検討を支援した日本財団によると、そんな仕組みだ。

 成果が乏しければ上乗せ額は限られ、最終的に資金の提供者が負担をかぶる恐れがある。まずは大手銀行がベンチャーにお金を出すことを検討中という。

 東京都八王子市が新年度に計画する大腸がんの検診促進事業も、基本的な枠組みは同じだ。

 この手法が軌道に乗れば、自治体は予算を抑えながら成果をあげられる。何より、あらかじめ成果目標を立てて事業を行い、達成度をチェックするという、民間では当たり前の進め方に取り組む意義は大きい。資金を出す大手銀行には、民間事業者の育成につなげる狙いもあるようだ。

 とはいえ、行政と委託先、資金の出し手の三者が納得できなければ長続きしない。メリットとリスクをどう分担し、そのために成果目標や報酬の支払い方をどう工夫するか。知恵を出し合いながら検証してほしい。

 こうした取り組みは英国で始まったとされ、十数カ国で60件ほど実例があるという。ネットを通じて資金を集める「クラウドファンディング」で被災地を支援している国内の民間ファンドも、社会的投資を普及させるきっかけになりうると見ているようだ。広く個人投資家のお金が集まる状況を目指したい。

 社会的投資を引きつけようと行政が予算を改革し、それがさらに社会的投資を促す。官と民が協力して、そんな循環を作っていってほしい。

予算衆院通過 財政論議も忘れるな

 共謀罪を衣替えした「テロ等準備罪」に、長時間労働を改める働き方改革。南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)を巡る問題や米国のトランプ政権との向き合い方。

 文部科学省の組織ぐるみの天下りあっせん、そして国有地の売却にまつわり噴き出る数々の疑惑。

 いずれも国民の生活や外交にかかわり、関心が高い重要問題ばかりだ。花形とされる予算委員会を中心に、国会で徹底的に議論するのは当然だろう。

 しかし、である。国の予算、さらには借金づけの財政の問題が、あまりに脇に追いやられていないか。

 新年度の予算案が衆院を通過し、きょうから参院で審議が始まるが、衆院通過は戦後2番目の早さに並ぶと聞けば、なおさらその感を強くする。

 当初予算では5年続けて過去最大を更新し、歳出抑制への取り組みは甘い。企業業績の陰りで今年度分を下方修正した税収は「トランプ相場」で急回復を見込むが、危うさはないか。財源不足を補う新規国債の発行額を前年度より減らしたと政権は誇るが、特別会計からの繰り入れに頼ったおかげでもある。

 2020年度に基礎的財政収支(PB)を黒字化する目標は、最新の政府見通しではさらに遠のいた。将来世代へのつけ回しに対する危機感と責任感は、相変わらず乏しい。

 「経済を成長させ、税収を増やしつつ、そして無駄遣いをなくしていく」。安倍首相はPB黒字化に向けてそう強調するが、達成は見通せていない。野党も具体的な道筋を繰り返し突くべきなのに、矛先は鈍い。

 首相が2度にわたって延期した10%への消費増税は、今の予定では19年秋と2年半余りも先だ。日銀が大胆な金融緩和の一環で国債を買い続けているため、国債相場の急落に伴う「悪い金利上昇」の恐れもなさそうだ。与野党そろってそんな思いでいるのではないか。

 国債市場が本来持っている財政への警告機能が損なわれているからこそ、政治が財政規律を守る姿勢を示すべきなのに、緊張感を失っているとすれば何をかいわんや、である。

 「もし3度目の消費増税の先送りをした場合は、確実に(日本国債の)格付けが下がる。金利上昇が起こることは考えておかなければならない」

 衆院予算委員会の中央公聴会で、大手金融機関の担当者が力を込めた一節である。

 与野党とも指摘を胸に刻み、参院の審議に臨んでほしい。

残業の上限規制 実効性確保へ一致点見いだせ

 際限なく残業が認められる現状を改め、長時間労働に歯止めをかける。そのためには、労使双方が納得できる制度とすることが大切である。

 残業時間の上限規制を巡り、経団連の榊原定征会長と連合の神津里季生会長が会談した。政府が3月中に策定する働き方改革の実行計画に向けて、合意形成を目指して協議を続ける。

 政府は、残業時間の上限を年720時間とする案を提示している。月平均60時間だ。繁忙期に残業が長くなり過ぎないように、1か月当たりの上限も設ける。

 年間の上限について、労使に意見の隔たりはない。焦点は、1か月の上限をどう設定するかだ。

 政府は、脳・心臓疾患による労災認定基準を踏まえ、「月100時間」「2か月平均で80時間」とすることを検討している。いわゆる「過労死ライン」である。

 経団連は、大筋で受け入れる意向だ。連合は、過労死リスクが高まるなどとして、強く反対してきた。労使が合意しなければ、残業規制は頓挫しかねない。早急に一致点を見いだしてほしい。

 労働基準法は、労働時間を1日8時間、週40時間までと定めるが、労使協定を結べば残業が可能だ。その場合、月45時間、年360時間以内が基準だが、強制力はない。しかも、協定で特例を定めれば、基準を無制限で超過できる。

 月100時間超の残業が可能な協定も散見される。過労死は後を絶たない。電通の過労自殺問題を契機に、長時間労働に対する国民の問題意識は高まっている。

 政府案は、月45時間の基準を法定化した上で、特例にも上限を定める。違反には罰則を設ける。規制が空洞化していることを踏まえれば、一歩前進と言えよう。

 いきなり厳し過ぎる上限を設けても、実効性は上がるまい。法定の上限の範囲内で、企業ごとに労使が協議して、職場の実情に合った個別の上限を定める仕組みとするのが現実的ではないか。

 残業規制の枠外となっている研究開発や建設・運送業などの扱いも課題だ。業務の特殊性に配慮しつつ、適切な規制の在り方を工夫する必要がある。

 終業と始業の間に一定時間を確保する「インターバル規制」の普及も進めねばならない。

 残業の上限規制は、あくまで過労死防止が主たる目的だ。これにより、仕事と家庭の両立や女性の活躍が直ちに実現するわけではない。さらに踏み込んだ長時間労働の是正策が不可欠である。

森友学園問題 適正な国有地売却だったのか

 あまりに不透明な国有地の売却である。

 大阪府豊中市の国有地が、評価額を大幅に下回る価格で学校法人に売却されていたことが判明した。国会の審議でも、連日取り上げられている。

 国土交通省大阪航空局が管理していた8770平方メートルの土地だ。近畿財務局が売却先を公募し、昨年6月に学校法人「森友学園」に小学校建設用地として1億3400万円で売却された。

 不動産鑑定士の評価額は、9億5600万円だった。地中からコンクリート片や廃材などが見つかったため、その撤去費用分を8億円余と見積もり、評価額から差し引いたのだという。

 問題なのは、見積もられた費用に見合う撤去処分が実際に行われたかどうか、不明なことだ。

 学園側は読売新聞の取材に対し、「くいを打ち込む部分のゴミは撤去したが、それ以外は撤去していない」と説明する。見積もりが過大だった疑念は拭えない。

 近畿財務局の依頼を受けた大阪航空局が、専門業者を通さずに、直接算定したことも疑問だ。財務省は「適正だった」と主張するが、算定根拠について納得のいく説明がなされていない。

 会計検査院は「経済性などの多角的観点から検査を実施する」との方針を示している。厳格な調査を求めたい。財務、国交両省も、経緯をきちんと説明すべきだ。

 野党は、安倍首相や昭恵夫人と学園の関係を追及している。

 昭恵氏は、この小学校の名誉校長に就任予定だった。学園のホームページには、写真とあいさつ文が掲載されていた。

 国会で問題視された後に、名誉校長を辞退したものの、脇の甘さは否めない。

 学園側は、「安倍晋三記念小学校」という名称を用いて、寄付金も集めていた。名前を使われたことに対し、首相は「強く抗議した」と答弁している。

 「私や妻は学校の認可や国有地払い下げに一切関与していない。関与していたら、首相も国会議員も辞める」とも言い切った。

 政治家や家族には、その肩書を利用しようと、様々な業者が接近する。便宜供与を期待するケースもあるだろう。疑惑を招かない細心の注意が必要だ。

 学園の教育方針や財務状況については、小学校の設置認可を検討した大阪府私立学校審議会で疑問視する声が出ていた。子供への影響を最小限にとどめるため、認可問題の早期決着が求められる。

2017年2月27日月曜日

審査待ち原発の安全対策を引き締め直せ

 再稼働に向けて審査中の原子力発電所で、安全対策の不備が相次いで見つかった。東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)では事故対応の拠点となる免震棟の耐震性が不足していた。中部電力浜岡原発(静岡県)でも非常時に使う設備で欠陥工事が明らかになった。

 問題がなぜ生じたのかは原子力規制委員会などが調査中だが、これらの原発は審査が長引いたり、後回しになったりしている点で共通する。電力会社が早く再稼働させたいと焦り、審査がさらに延びるのを恐れて、対応や報告を怠った疑いが強い。

 東電や中部電は安全確保に万全を期すことを誓って審査を申請したはずだ。その意識にゆるみが生じているのなら、看過できない。両社は問題の根っこにあるものを調べ、安全対策を引き締め直すべきだ。審査中の原発をもつ他の電力会社も安全策の再点検が要る。

 柏崎刈羽6、7号機の免震棟は2014年の東電社内の試算で耐震性の不足がわかっていた。だが社内で情報を共有せず、規制委にも事実と違う説明をしていた。

 規制委の田中俊一委員長が「組織として信頼できるのか、疑義を持たざるを得ない」と述べたように、東電の安全への意識が根底から疑われる問題といえる。

 浜岡3、4号機でも、事故時に格納容器の圧力を下げる設備で、配管の金具100カ所以上を規定外の方法で取り付けていた。中部電は「担当した社員が工程の遅れを心配し、規定が守られなかった」と説明している。

 2つの原発は「沸騰水型」と呼ばれる。国内の原発のうち西日本に多い「加圧水型」は、内定を含めて12基が審査に合格した。一方で、沸騰水型は10基が審査中だが、合格はまだゼロだ。事故を起こした福島第1原発と同型であるため、審査の項目も多い。

 これらの原発の大半は運転停止が5年以上に及び、作業員らの士気が低下していないかも心配だ。工事や検査の記録を社内で共有して改善策を助言しあうなど、組織として安全への意識を高めていく取り組みが欠かせない。

 沸騰水型の審査の長期化について、規制委は「多くが地震リスクの高い地域に立地するためで、必要以上に時間をかけているわけではない」としている。念入りに審査するのは当然だが、どの原発に審査員を重点配置するかや審査の順番は、見直す余地がある。

米温暖化対策の後退が心配だ

 米環境保護局(EPA)長官に、地球温暖化対策などに反対するスコット・プルイット氏が就任した。温暖化に懐疑的なトランプ大統領の意を受けた人事で、米国の対策が後退するのは確実だ。

 プルイット氏はエネルギー産業が集まるオクラホマ州の司法長官を長く務め、環境規制が行き過ぎであるとして環境保護局を相手取り訴訟を繰り返してきた。エネルギー関連企業との過去の緊密な交流も明らかになっている。

 長官への就任挨拶では職員に「エネルギー開発を進め雇用を生みつつ、環境を大切にすることは可能だ」と語った。経済成長と雇用創出を最優先するトランプ政権の方針に沿った考えだ。

 今後、火力発電所の温暖化ガス排出規制の撤廃に加え、石炭開発規制や水質汚濁防止策の緩和などに動くとみられる。政策転換の影響は米国内にとどまらない。

 世界2位の温暖化ガス排出国である米国は、1位の中国とともに新しい温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」の早期発効を主導した。米国が削減目標をないがしろにすれば、ただでさえ難しい世界全体の目標達成はさらに遠のく。

 そうした事態を避けるため、日本や欧州連合(EU)の役割は一層大きくなる。これから本格化するパリ協定の細則づくりでは、米国に代わって影響力を増す中国との連携も重要になる。

 環境保護局は長期にわたる気象観測データなどを蓄積し、広く公開してきた。プルイット氏の下で、データ利用が制限されるのではないかとの懸念も出ている。

 すでに米大統領府のホームページからは、温暖化に関する多くの情報が消えた。19日には、トランプ大統領が科学的な事実を軽視しているとして数百人の科学者がボストンで抗議集会を開いた。

 大統領の主張と合わない科学研究やデータの公開を拒む姿勢は、温暖化対策だけでなく科学技術全体の進展を妨げかねない。世界の不利益になることを、米政府は常に認識してほしい。

豊洲百条委 都議会も問われている

 あるはずの盛り土がない。環境基準を超えるベンゼンやヒ素が検出される――。

 東京・豊洲新市場で次々と起こる問題の元をたどると、なぜ築地市場の移転先を東京ガスの工場跡地としたのか、汚染対策に巨額の費用がかかることが明らかになるなか、立ち止まることはできなかったのか、という疑問にいきつく。

 東京都議会が、市場の移転問題について調べる百条委員会を設置した。

 議会に求められるのは、偽証した場合の刑事罰など百条委がもつ強い権限を背景に、これまでの経緯を丁寧にときほぐすこと、そして、本来その時どきに果たすべきだったチェック機能をいまこそ発揮して、都民の関心にこたえることだ。

 豊洲への移転は石原慎太郎氏が知事だった2001年に具体化し、以来、都議会でも長年にわたって審議されてきた。

 だが、不明の点も残る。

 たとえば、昨年開示された都と東京ガスの00年秋の交渉記録によると、土地売却に難色を示した同社に対し、当時の浜渦武生副知事は「水面下」での交渉をもちかけた。その3年後、土壌汚染が残っていることを問題視した都の別の担当者に、東ガス側は「都も了解しているはずだ」と反論したという。

 何らかの約束があったことをうかがわせるやり取りだ。

 小池知事から書面で尋ねられた石原氏は「記憶がない」と答えた。百条委は石原、浜渦両氏はもちろん、東ガス関係者や当時の都庁職員らも広く招致し、全体像の解明に努めてほしい。

 一方で、この間の都議らの言動には疑問も少なくない。

 百条委の設置があっという間に決まった背景には、夏の都議選に向けて改革姿勢をアピールしたい思惑がある。

 だが、百条委は都議のパフォーマンスの舞台ではない。

 移転が本決まりになったのは、移転費用を計上した予算案が自民・公明・民主の一部などの賛成で可決された12年だ。土地の来歴や、新たに汚染が見つかっても東ガスに法的責任を問う仕組みがないことなど、いま挙がっている問題の多くは、すでに指摘されていた。

 「なぜ豊洲に決めたのか」という問いが向けられる先には、計画を認めた都議会も含まれる。その自覚なしに、勢いに乗る小池知事と共同歩調をとることを競う姿を見せられても、都民は鼻白むばかりだ。

 独自の調査力、真相を引き出す質問力、過去への責任。都議会もまた、問われる場となる。

ふるさと納税 返礼品より使途で競え

 返礼品ばかりが注目されるようでは、本来の目的からはずれ、寄付のあり方や税制をゆがめるばかりだ。自治体がもっと使い道を競うように改めていくべきではないか。

 自治体に寄付すると、国への所得税や住まいがある自治体への住民税が軽くなる「ふるさと納税」の勢いが止まらない。

 寄付総額は2015年度に前年度から4倍の1600億円余に増えた後、16年度はさらに倍増の3千億円程度になりそうだ。安倍政権が地方創生の目玉として制度を拡充したこともあるが、最大の要因は自治体が寄付者に贈る返礼品である。

 高級牛肉をはじめとする特産品や、立地する工場で作られる家電や情報機器、さらには地元の店や施設で使える商品券まで、ネット上の関連サイトはさながら通販の様相だ。

 ふるさと納税では、所得に応じて決まる限度額までの寄付なら、寄付額から2千円を引いた金額が手元に戻る。つまり、2千円の負担で欲しい商品やサービスが手に入る。

 見返りがないか乏しい民間団体への寄付が不利になる。高所得者ほど限度額も膨らみ、多くの返礼品を得られるため、所得再分配を妨げる。そんな批判が強いのに改善が進まないのは、自治体に一定のメリットがあるからだろう。

 地元の産業が潤って雇用が守られ、知名度も上がる。寄付金を返礼品につぎ込んでもおつりが来る――。過疎化と財政難に苦しむ地域から漏れる本音は、わからなくはない。

 しかし、NPOや公益法人など民間団体への寄付や、急速に広がるネットを使った資金集めの「クラウドファンディング」を見ても、具体的な事業の目的や内容を示した上でお金を募るのが原則だ。地元の農林漁業や商工業を支えたいのなら、まずは行政としての取り組みを示すのが筋ではないか。

 ここ数年、過度な返礼の自粛を求めてきた総務省はこの春、改善策をまとめる。あまりに高額な商品や換金しやすい金券類の見直しや、寄付額に対する返礼品額の比率の制限を求めることが考えられるが、具体的な線引きをどうするか。

 ここは寄付の原則を思い起こすことだ。まずは使い道を示す。いくら集まり、どう使ったかの報告も怠らない。昨年の総務省の調査では、寄付額と活用状況をともに公開する自治体は全体の半数にとどまる。

 政策や事業への共感でお金が集まる、そんなふるさと納税を目指すべきだ。

北朝鮮石炭輸出 中国の制裁履行は緩すぎる

 核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮に対し、中国が制裁の履行をなおざりにしている実態が浮き彫りになった。関係国は包囲網の抜け穴を放置してはならない。

 国連安全保障理事会の制裁委員会は、北朝鮮が昨年11月末から1か月間に輸出した石炭の量が、制裁決議で定めた上限の約2倍、金額は約3・5倍に上ると発表した。輸出先は明示していないが、ほぼすべてが中国とみられる。

 中国政府は昨年12月上旬、年末までの輸入停止を公表していた。輸入が増えたことについて、国内法との調整や企業への伝達のため、決議に従うまでに「時間差があった」と釈明している。

 制裁は、北朝鮮の金正恩政権の主要な外貨獲得源である石炭の輸出を絞り込むのが狙いである。

 安保理常任理事国として決議作成に当たった中国が自ら蔑(ないがし)ろにするようでは、制裁実施の意思を疑われても仕方があるまい。

 王毅外相は今月半ばの岸田外相との会談で、「中国は決議をきちんと履行している」と語った。

 その翌日、中国政府は19日から年末まで、石炭輸入を停止する措置を明らかにした。今年1年間の「輸入上限額に近づいたためだ」という。制裁を厳格に履行する姿勢を示すことで、国際社会の圧力をかわす思惑があるのだろう。

 中朝間には国境周辺での密輸や第三国を迂回(うかい)する貿易もあるとされる。中国は王氏の言葉通り、制裁逃れを摘発し、決議の実効性を高める取り組みが欠かせない。

 看過できないのは、王氏が「直接の当事国である米朝が、速やかに必要な政治的決断をすべきだ」と述べ、トランプ米政権に核問題解決の責任を転嫁したことだ。

 金政権の暴走に歯止めをかけるには、北朝鮮経済の生命線を握る中国が重大な役割を担っていることを忘れてはならない。

 そもそも、中国が北朝鮮の体制不安定化につながる制裁に消極的で、その内容を骨抜きにしてきたことが核・ミサイル開発を許している主な要因ではないのか。

 習近平政権は、最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」の韓国配備に反対し、圧力をかける。

 中国の新華社通信は韓国大手財閥ロッテグループに対して、「中国の顧客と市場を失うことになる」と警告する論評を伝えた。

 ロッテの所有するゴルフ場がTHAADの配備予定先となる。一企業を脅迫する振る舞いは、地域の不信感を高めるだけである。

クロマグロ漁 食べ続けたいなら範を示そう

 人気のすしネタが幻の食材になりかねない。最大消費国が規制を蔑ろにしては、世界の理解は得られまい。

 絶滅の恐れがある太平洋クロマグロの漁で、国際的な規制に基づく国内の漁獲ルールに反する水揚げが横行していた。沿岸39都道府県のうち、三重、長崎、静岡、岩手など10県に及んだ。

 水産庁の調査によると、未承認漁船での操業、別の魚種とする虚偽報告、上限を超えた水揚げなど違反の形態は様々だ。

 かつて10万トンを超えた太平洋クロマグロの資源量は、乱獲で1万トン余まで激減している。国際自然保護連合(IUCN)は2014年、絶滅危惧種に指定した。

 日本などが加盟する「中西部太平洋まぐろ類委員会」は、30キロ未満の未成魚の漁獲量を半減させる規制を15年から導入している。

 日本は、太平洋クロマグロの大半を消費する。率先して資源保護に努めるのは当然である。

 委員会は昨年、未成魚がさらに激減した際の緊急規制の導入を検討したが、合意には至らなかった。過度の規制に慎重な日本の提案に対し、欧米などが「生ぬるい」と反発したためだ。

 科学的知見に基づき、資源保護と活用のバランスを取る。それが日本の基本方針だ。現行規制さえ順守できないという国際的な評価が定着すれば、日本の主張は到底、受け入れられないだろう。

 まず問われるのは、漁業者のモラルだ。水産庁は18年から、違反した漁業者に罰則を導入する。

 罰則付き規制は、サンマ、スケトウダラなど7魚種で実施済みだが、クロマグロほど資源量が逼迫ひっぱくし、一段と厳格な運用が求められる例は初めてと言っていい。

 問題は、これにとどまらない。自治体や漁協などの管理体制が十分ではなく、規制の周知徹底も進んでいないのが現状だ。

 国や県、漁協などが連携し、現場への指導強化で違反行為を未然に防ぐ取り組みが求められる。

 定置網漁などでは、他の魚種が目当てでも、クロマグロが紛れ込んでくることがある。規制を守るためには、操業を自粛する以外にないとの声も出ている。

 許される漁獲量を巡っては、漁法や規模の大小などで漁業者も一枚岩ではない。多くの人が納得できる方向を探ることが大切だ。

 水産大国・日本は、クジラやウナギなどの資源保護に関しても矢面に立つことが多い。クロマグロへの対応は、日本漁業全体の信用にもかかわってこよう。

2017年2月26日日曜日

賃金が力強く上がる基盤を築こう

 消費は依然として本格的な回復に遠い。このままでは消費を盛り上げて企業の生産活動や設備投資を活発にし、経済全体を元気にするという政府の筋書きも画餅に帰そう。起点となる賃金の伸びが勢いを増すよう、本気で取り組むときだ。

 総務省の家計調査によると、2人以上の世帯が使ったお金は2016年に月額平均28万2188円で、物価変動の影響を除いた実質で前年比1.7%減となった。14年も2.9%、15年も2.3%の前年比マイナスとなっており、3年連続の減少だ。

付加価値の伸び低迷

 14年4月の消費税率引き上げや、円安が進んだ局面での輸入物価の上昇が消費を抑えた面はある。だが、大きく影響しているのは賃金の伸び悩みだ。

 厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、現金給与総額は16年まで3年連続で前年比プラスとなったものの、増加率はいずれの年も1%に満たない。

 経済界は安倍政権の要請に応えるかたちで賃上げを進めてきたが、基本給を増やすベースアップ(ベア)は大手企業でも力強さを欠く。経団連の会員企業などを対象にした集計では、14年0.3%、15年0.44%、16年は0.27%と、2%以上のベアがざらだった1980年代などと差がある。

 賃金の低迷にはいくつかの要因が絡み合っている。まず、1人あたりで生み出す付加価値がこの20年ほどの間、ほとんど伸びていないことだ。

 内閣府によると、1人あたり名目国内総生産(GDP)は12年度から増え続けているが、15年度実績(419万1千円)は90年代後半からほぼ変わっていない。賃金の伸びも鈍って当然だろう。

 90年代半ば以降、企業の多くは正社員を減らし、人件費を抑えて収益性の確保に努めてきた。だが、成長性の高い事業へのシフトや新しい事業モデルの創造などは遅れた。それが、生み出す付加価値の停滞に表れている。

 企業の間で賃金の安い非正規社員の活用が広がり、正社員との二極化が進んだことも、全体として働く人の収入の伸びが鈍化した理由だ。総務省の労働力調査では、非正規社員の比率は16年平均で37.5%と高止まりしている。

 社会保険料がじわじわと上がり企業の負担が増していることも、賃上げ抑制につながっていよう。

 これらを踏まえれば、賃金上昇のために何をしなければならないかは明らかだ。企業が付加価値を高めるための生産性の向上と、労働市場改革、社会保障改革の3つが欠かせない。

 生産性向上は、もちろん第一には企業自身の経営改革にかかっている。コンサルティング・投資会社、経営共創基盤(東京・千代田)が支援する茨城交通(水戸市)は、高速バス路線の新設などを進め、社員の平均年収をこの7年間で2割強増やした。

 人工知能(AI)など企業の競争力のカギを握る技術にたけた人材や外国人を採りやすくするために、企業は成果に見合った処遇を徹底する必要もある。

 あわせて政策面で、企業がより収益を上げられる環境をつくっていかなければならない。

民間の力を引き出せ

 成長分野への新規参入を阻んでいる制度を見直すなど、企業活動を活発にする規制改革に政府はもっと力を入れるべきだ。投資家の声を生かし、経営者に成長投資などの収益力向上の取り組みを促す企業統治改革も重要になる。

 労働市場改革では、自らの技能や知識を磨けば、賃金がいまより高い仕事に移っていきやすくなる環境の整備が求められる。

 非正規で働く人の賃上げを広げるには、その人の生産性向上を支援することが確実な道だ。衰退産業で働く正社員が成長力のある産業に転じやすくするには、柔軟な労働市場づくりが大事になる。

 参考になるのはドイツが2000年代に進めた改革だ。実習生を受け入れる企業を増やすなど職業訓練に力を入れた。さらに民間の人材サービスを積極的に活用し、職業紹介を受けやすくした。日本も人手不足を追い風に、労働市場改革を推進すべきだ。

 社会保障は費用が高齢化で膨らまないよう効率化を急がなくてはならない。子育て支援は充実させながら、医療や介護費用は必要なものに絞るなど、メリハリのきいた改革が要る。

 賃金を継続的かつ安定的に上げていくための改革は、一朝一夕ではできないものばかりだ。腰を据え、着実に進めたい。

共謀罪 「テロ対策」が隠すもの

 国会で「共謀罪」をめぐる質疑が続いている。だが、費やされた時間に比べ、議論が深まっているとはいえない。

 政府が今回の立法をテロ対策と位置づけ、「共謀罪というのは全くの間違い」(首相)としていることが、質問と答弁がかみ合わない理由の根底にある。

 経緯をおさらいしたい。

 00年に国連で国際組織犯罪防止条約が採択された。条約は、マフィアや暴力団を念頭に、重大犯罪を共謀する行為を犯罪として罰する法律をつくるよう、加盟国に義務づけている。

 これを受けて国会に共謀罪法案が3度提出されたが、強い異論があり成立に至らなかった。そこで政府は、対象を「組織的犯罪集団」に限り、犯罪のための準備行為がなされることを要件に加え、呼称も「テロ等準備罪」にすると言い出した。

 だが、犯罪が実際に行われる前の段階で摘発・処罰できるようにする本質に変わりはない。危うさをはらむ法律に、テロ対策という見栄えのいい衣をまとわせたため、そもそも何のための立法かという原点が見えにくい図になっている。

 問われているのは、人権擁護と治安保持のふたつの価値を、どう調整し両立させるかという難しい問題である。イメージに頼らず、流されず、実質に迫る審議を国会に期待したい。

 その際はっきりさせなければならないのは、法案作成や審議の前提となる条約の解釈だ。

 政府は一貫して、条約に加盟するには600超の犯罪に広く共謀罪を導入する必要があると訴えてきた。それへの疑義として「各国の事情に即した対応が認められており、現にそうしている国がある」との指摘を受けても、頑として譲らなかった。

 ところが一転、対象犯罪を減らすことも可能と言い始めた。絞り込み自体は結構だが、ずいぶん都合のいい話である。

 従来の見解が間違っていたのか。あえて過剰な法整備を意図したのか。かつての国会答弁が信用できないとなれば、これからの答弁を信用できる根拠はどこにあるのか。混乱の責任をどう考えるのか――。

 これらの疑問に対し、政府は法案が国会に未提出なのを理由に説明を拒んできた。加盟した187カ国・地域の法整備状況についても、報告をまとめたのは野党の要求から1カ月後、それも約40カ国分にとどまる。

 こうした誠実とは言い難い対応をしながら「一般市民に累は及ばない」と言われても、説得力に欠ける。議論できる環境をまず整えるのが政府の責務だ。

大阪都構想 実現ありきはだめだ

 大阪市を東京23区のような特別区に分割する案を練る「法定協議会」の設置案が、大阪府・市議会に出された。15年5月に大阪市の住民投票で否決された「大阪都構想」の再始動だ。

 地域政党・大阪維新の会を率いる松井一郎府知事と吉村洋文市長は都構想への再挑戦を公約に掲げ、15年11月の知事・市長ダブル選で圧勝した。法定協設置はその民意にこたえるものというのが両氏の考えだ。

 ただ、2年前の住民投票は、市内210万人の有権者の3分の2が投票し、反対と賛成の差は1万票余りという僅差(きんさ)だった。市を二分する争いの中、市民が悩み抜いて出した「都構想ノー」の結論はきわめて重い。

 これを覆すというのであれば、より明確な民意が不可欠だ。松井、吉村両氏は来秋にも2度目の住民投票をめざす方針だが、橋下徹前市長の時のような、都構想実現ありきの強引な進め方は願い下げだ。

 そもそも法定協設置には、府・市議会の議決が要る。維新だけでは過半数に届かない。

 カギを握る公明党は、大阪市を残したまま、区の数を絞って区長の権限を強める「総合区」の導入を主張する。松井、吉村両氏は、都構想が住民投票で再否決された場合は総合区にするとして、公明に法定協設置議案への賛同を働きかけている。

 だが、大阪市を廃止する都構想はもちろん、今の市内24区を8区に減らすとする総合区案も、行政制度に深く切り込む「手術」だ。移行に要するコストや、住民の利便性低下といった副作用も避けがたい。

 松井、吉村両氏は、都構想と総合区のほかに、大阪に選択肢はないと強調しているが、本当にそうか。市民の間では、現行制度を保ったままで改善は図れないのか、と疑問視する声も根強い。切り捨てることなく、耳を傾けていくべきだ。

 大阪は経済の低迷に苦しみ、急速な少子高齢化で3大都市圏では最も早く人口減少に直面する。貧困層の増大も深刻だ。

 維新は、統合型リゾート(IR)や万博の誘致、交通網整備といった大型事業中心の成長戦略を掲げ、推し進めるには都構想の実現を、と説くが、大阪の今の苦境にどれだけ即効性がある政策かは疑問が尽きない。

 大都市・大阪の再生に「万能薬」はない。都構想も総合区も一長一短があるし、まったく別の改革の道筋もありえよう。

 住民投票で再び市民の選択を問う前に、知事、市長と議会とで時間をかけ、ほかの選択肢も含めて議論を深めるべきだ。

著作権料徴収 音楽教室は「聖域」と言えるか

 文化の発展のために、著作者の権利保護は欠かせない。その原則を踏まえた議論が必要だ。

 ピアノなどの音楽教室での楽曲演奏に対して、日本音楽著作権協会(JASRAC)が、来年1月から著作権料を徴収する方針を決めた。

 対象となる教室を運営するヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所などの団体・企業は、反発を強める。「音楽教育を守る会」を結成し、ネットに公開質問状を掲載するなど、反対運動を展開している。

 対立の背景にあるのが、著作権法の解釈の違いである。

 著作権法は、楽曲を公衆に聞かせる目的で演奏する「演奏権」を作曲家や作詞家に認めている。演奏権に基づく徴収は、歌謡教室やカルチャーセンターなどに段階的に広がってきた。

 JASRACは、音楽教室だけを対象外にするのは不公正だ、と主張する。著作者保護を重視し、利用者から広く薄く使用料を徴収したい、というJASRACの考えは理解できる。

 音楽教室側は、指導のための演奏は、聞かせることを目的にしたものではないと訴える。既に楽譜代などの著作権料は支払っているとも主張する。

 2003年から協議を続けてきたが、決裂した場合には、債務が存在しないことを確認する訴訟も辞さない構えだ。

 地域に根付いた音楽教室が、音楽のすそ野を広げる役割を果たしてきたことは間違いない。音楽教室側の見解を支持する人は、少なくないだろう。

 だが、著作者が権利を有する楽曲を演奏しなければ、教室のレッスンは成り立たない。著作者に敬意を払い、利益を還元するために、演奏にも応分の負担をするという考え方はできないものか。

 JASRACにも、音楽教室にとって過大な負担にならないよう配慮することが求められる。

 一定の料金内で何回でも演奏できる包括契約の場合、受講料収入の2・5%を徴収する方針だ。

 カルチャーセンターを対象とした包括契約の料率は1%だ。センター内の音楽教室以外に、BGMでの利用なども含まれる。こうした事例と比較して、2・5%の料率には再検討の余地もあろう。

 著作権法の立法趣旨は「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与すること」だ。

 音楽文化の発展を願うという点で、意見の相違はあるまい。双方が歩み寄り、折り合える解決策を見いだしてもらいたい。

長周期地震動 高層ビルの揺れから身を守れ

 急増する高層ビルの地震対策を急ぎたい。

 大地震の際、高層ビルに大きな揺れをもたらすのが長周期地震動だ。その発生が予測される地域について、気象庁が緊急地震速報の中で伝える方針を決めた。2018年度以降の運用を目指す。

 長周期地震動は、ゆっくりとした揺れが特徴だ。上層階では揺れ幅が5メートルを超えることもあるという。東日本大震災の際には、壁や天井の破損、家具・備品の転倒などが被害を拡大させた。

 発生が懸念される南海トラフ巨大地震では、さらに大きな揺れが見込まれている。

 身を守るためには、家具や備品をしっかり固定しておくことが不可欠だ。大地震の時には、勝手に動き出したキャスター付きの事務機器などとの衝突を避けるため、速やかに逃げるしかない。

 長周期地震動は、初めの小さな揺れが徐々に大きくなり、長時間続く。対処が遅れれば、身動きできなくなる。新設される速報は、迅速な行動に役立つだろう。

 長周期地震動の揺れの程度は、4段階に分かれる。速報は、立っているのが困難な階級3と4が予測される場合に出される。

 予測システムの構築を急がねばならない。現行の緊急地震速報と同時に出す際には、伝え方にも工夫が求められる。

 気象庁は、速報までには至らない弱い揺れなどの情報も、気象事業者を通じて、ビル管理者らに提供する方針だ。自らのビルの揺れ方を把握し、安全性を向上させるために有効だろう。

 概おおむね10階建てに相当する高さ31メートルを上回るビルは、15年に5万棟を超えた。01年の約2倍だ。16階建て以上のビルの着工数は、毎年約100棟にも上っている。

 免震構造のビルも、地震動の周期によっては、効果が発揮されないという。可能な限り最新の研究を踏まえた耐震性を備えたい。

 国土交通省は昨年、南海トラフ巨大地震に伴う長周期地震動に備えて、太平洋側の11都府県の都市圏を対策地域に指定した。

 この地域で4月以降に建築申請される高さ60メートル超のビルは、長周期地震動を厳格に想定して設計する必要がある。60秒間だった揺れの想定継続時間は、500秒以上になる。家具の転倒や移動を防ぐ措置も講じるよう促す。

 既存のビルやマンションでは、耐震評価や補強工事などを実施する場合の支援制度を設ける。

 高層ビルが巨大地震による被害を増幅させない対策が大切だ。

2017年2月25日土曜日

司令塔不在の韓国はどこに向かうのか

 韓国で朴槿恵(パク・クネ)政権が発足してから、きょうで4年がたった。とはいえ、当の朴大統領は昨年末以来、国会による弾劾訴追で職務停止の状態が続く。司令塔不在のなか、混迷を深める韓国はどこに向かうのか。

 朴大統領は4年前の就任演説で「希望の時代を開く」と述べた。だが肝心の経済は低迷が続き、昨年の成長率は2年連続の2%台に沈んだ。貧富の格差是正も進まず、社会の閉塞感は募った。

 国民や政界との意思疎通に後ろ向きで独善的な姿勢も災いし、朴氏は旧友の国政介入疑惑で一気に国民の支持を失った。いまや罷免の是非を審理中の憲法裁判所の判断を待つ身だ。残る1年の任期を全うするのは難しいだろう。

 朴氏の疑惑は政界と財閥の癒着問題にも及び、最大財閥サムスングループの事実上のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長の逮捕にもつながった。

 政財界の癒着は韓国の長年の悪弊とされ、格差社会の「勝ち組」である財閥への国民不信もかねて根強い。朴氏も財閥改革を公約したが、本腰を入れたとは言いがたい。それが皮肉にも自らの醜聞によってメスが入ったわけだ。

 これを機に企業統治を含む財閥改革が進み、政財界の関係が透明化されるのであれば望ましい。

 一方で厳しい世論におもねるあまり、疑惑追及が度を越している側面はないのか。海外では今後の韓国の内政・外交が世論の風潮に左右され極端に振れることを危惧する声も出ている。マティス米国防長官が就任後、真っ先に訪韓したのもその証左だろう。

 次期大統領選に向けた政治論戦が本格化する韓国では、野党勢力が世論の後押しで勢いを増す。その野党側は総じて北朝鮮に対する融和路線への転換に前向きだ。

 しかし弾道ミサイル発射や金正男(キム・ジョンナム)氏の殺害で浮き彫りになったように、北朝鮮の脅威は深刻だ。それに対処する上でも、日米韓が連携し厳しい圧力をかけていく必要がある。

 野党内で浮上している米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備や日韓の慰安婦合意の見直し論も、無責任な主張といわざるを得ない。

 国内改革もしかりだ。例えば韓国経済のけん引役である財閥の力を損なわず、財閥改革をどう進めていくのか。真の国益を冷静に見据えた政策論争を求めたい。

「プレ金」から働き方改革へ

 月末の金曜日は仕事を早めに切り上げようという「プレミアムフライデー」が、きのう始まった。消費の喚起と働き方改革の一石二鳥をねらって、政府と経済界が主導した企画だ。

 毎月1回、数時間だけの早帰りに、どれだけの経済効果があるのか、冷ややかな見方はあろう。導入する企業が一部にとどまっているのも、事実だ。

 「金曜日の消費が増えても土日分の先食いに終わるのでは」「前日の残業につながらないか」といった疑問の声もある。時給制で働く人は収入減になりかねないという懸念も聞かれる。

 ここは、日本の経済・社会に欠かせない働き方改革のきっかけとして、とらえたい。週末に会議を入れない、駆け込みで命令をしない、などと決めれば、仕事の簡素化や平準化につながる。特にホワイトカラー職場では無駄な仕事を点検する契機になる。

 いまでは普通になった週休2日制も当初はゆとりのある一部企業が先行し、隔週から毎週へと導入も段階的だった。支持する人々が多ければいずれ広がるだろう。

 また、今の消費者はモノの購入より特別な体験に支出する傾向が強い。自由時間を増やし消費を掘り起こす発想には一定の説得力がある。サービス業などには新しい仕掛けを試したり、新規顧客を呼び込んだりする好機になる。

 より大事なのは、政府や企業がこの企画だけで良しとするのでなく、将来不安の解消や生産性向上による賃上げ、休暇をとりやすい職場づくりを進めることだ。

 遊びだけでなく子育てや介護、病気の治療、学習、家族や友人との交流、地域活動など、それぞれの事情や要望で弾力的に取得できるほうが、休暇や時短勤務の満足度は高まる。仕事の繁閑を見極めて工夫すれば、一斉早帰りより支障は出にくいかもしれない。

 個人消費の喚起も働き方改革も息の長い取り組みが必要だ。いっときのイベントにせず、さらなる改革につなげなくてはならない。

女性候補者増 政治を変える第一歩に

 女性議員が増え、男性に偏った議会を変える第一歩となることを期待する。

 衆参両院や地方議会の選挙で候補者の男女の数をできる限り「均等」にする――。

 そのために、政党に女性候補者の擁立を促す法案が、超党派の議員立法により今国会で成立する見通しとなった。

 男女比の努力目標を「同数」と表記するよう主張していた野党4党が、与党などの「均等」の表記を受け入れた。

 安倍政権は「女性活躍」を掲げ、「2020年までに指導的地位の女性割合を30%にする」とするが、女性の進出はまだまだ進んでいない。

 とくに議会は圧倒的な男性社会だ。女性国会議員はいま衆院で44人(9・3%)、参院で50人(20・7%)。国際機関「列国議会同盟」が1月に公表した下院の調査では、日本の女性衆院議員の割合は統計対象国193カ国のうち163番目だ。

 都道府県議会における女性議員の比率も、2015年12月現在で10%に満たない。

 国会も、地方議会も、有権者を偏りなく代表しているとはとても言えない。

 今回の法案は強制力のない理念法で、あくまで政党の努力目標にとどまる。それでも、法成立後は国政選挙や地方議員選挙のたびに、各政党は女性候補者の比率が問われることになる。どの政党が女性候補者の擁立に本気かが、有権者の重要な判断材料の一つとなるだろう。

 女性議員が増えれば、より多様な声が議会に届く効果が期待できよう。多様性は、柔軟でバランス感覚のある政治を実現する素地となりうる。

 海外では、100を超す国が候補者や議席の一定割合を女性にする「クオータ制」を採用している。フランスや韓国などは憲法や法律で女性候補者の割合を義務づける。一方、オランダや英国などでは政党による自発的なクオータ制をとる。

 ドイツでは、緑の党が1986年に選挙名簿に女性と男性を交互に載せる手法を導入したのをきっかけに、女性票を意識した他の政党にも自発的なクオータ制が広がった。いまや連邦議会の女性議員は4割に迫る。

 日本も女性の政治参加を当然と受け止める社会でありたい。

 そのために、依然として女性の負担が重い育児や家事、介護などの役割分担をはじめ、女性が政治に参加しやすい環境をどうつくっていくか。

 今回の立法を、それに向けた方策を社会全体で考えていく契機にしたい。

嘉手納判決 許されない「漫然放置」

 「米国または日本政府による被害防止対策に特段の変化は見られず、違法な被害が漫然と放置されている」――。裁判所のこの重い指摘を、政府は真摯(しんし)に受けとめる必要がある。

 極東最大の米空軍基地、嘉手納基地の周辺住民約2万2千人が騒音被害を訴えた裁判で、那覇地裁沖縄支部は約302億円という、過去最高の賠償額の支払いを国に命じた。

 これだけの金額になったのは、原告数が最多だったのに加え、生活・健康被害の深刻さ、そして半世紀近くも激しい騒音にさらされている住民たちの苦しみを認めたからだ。

 判決は、音に対する感受性が高い子どもたちへの影響や、騒音が戦争経験者に戦時の記憶をよみがえらせ、大きな不安を与えることにも言及した。

 中でも注目すべきは、この間の政府の無策ぶりを、厳しい言葉で批判したことだ。

 日米両国は96年に、夜10時から翌朝6時までの飛行制限で合意しており、政府は対策に取り組んでいる証拠にあげた。

 だが判決は、測定点によってはその時間帯に月100回超の騒音が観測されていると指摘。「規制措置の少なからぬ部分が十分に履行されていない」「政府が米国に対し、履行を求める措置をとった証拠はない」と述べ、国側の主張を退けた。

 政府は日米合同委員会などの場で、米側に対し、規制の順守を強く働きかけるべきだ。国民の生命・身体を守るのが政府の最大の使命ではないか。

 一方で判決は、原告が最も強く求めてきた米軍機の夜間・早朝の飛行差し止めについては、「国に米軍機の運用を制限する権限はない」とする最高裁判例を踏襲して退けた。

 安保条約と日米地位協定で、基地の管理運営の権限はすべて米国に委ねられており、司法手続きで救済する道は事実上ふさがれている。対応できるのは、やはり政府しかない。

 「漫然放置」は許されない。日米協議の俎上(そじょう)にのせるべく、交渉を進めるべきだ。

 政府は「沖縄の負担軽減」を繰り返す。だが普天間飛行場の辺野古への移設計画を強行し、騒音被害には手をこまぬいたままでは、県民の理解は到底得られない。安全保障の不安定化が進む要因ともなりかねない。

 判決にはこんな一文もある。「日米同盟で国民全体が利益を受ける一方、一部少数者に特別な犠牲が強いられている」

 沖縄で、そして本土で、基地被害に苦しむ多くの人がいることを、忘れてはならない。

参院選改革 憲法改正も視野に議論深めよ

 参院は、どんな役割を担うべきなのか。選挙制度の抜本改革には、その議論が欠かせない。

 伊達参院議長の諮問機関である参院改革協議会が7年ぶりに設置された。各党の参院幹事長らで構成する。

 最大の焦点は、選挙制度の見直しだ。昨年7月の参院選は、「1票の格差」を是正するため、二つの合区を導入した。対象選挙区を始め、地方の反発は強く、全国知事会は解消を要望している。

 一方で、格差はなお最大3・08倍に上る。高裁段階では、「違憲状態」が10件、「合憲」が6件と判断が分かれた。最高裁は、年内にも判決を出す見通しだ。

 地方の人口減少が進む中、格差を是正しつつ、合区を解消するのは、かなりの難題である。

 自民党は、合区解消を最優先するため、憲法改正によって、全都道府県から最低1人を選出する制度の導入を主張している。

 これに対し、民進党は、格差是正を重視し、合区拡大や、地域ブロックを選挙区とすることなどを検討する。公明党も、ブロック制が望ましいという立場だ。各党の意見の隔たりは大きい。

 忘れてならないのは、参院の在り方や衆参の役割分担を議論し、新たな参院の姿に即した選挙制度とする視点である。

 本来、衆院が首相指名などで優越するのに対し、参院は抑制・補完の役割が期待されている。

 だが、過去10年のうち約5年の衆参ねじれ国会では、政府提出法案の成立が困難となり、政治の停滞と混乱を招いた。参院が、法案の成立に関して衆院とほぼ対等の権限を持つことが原因である。

 「強すぎる参院」を改善するには、衆院での法案の再可決要件を「3分の2以上」から「過半数」に引き下げるという憲法改正も避けてはなるまい。

 改正公職選挙法は付則で、2019年参院選までに「選挙制度の抜本的な見直し」について「必ず結論を得る」と明記している。

 協議会の座長を務める自民党の吉田博美参院幹事長は、「全会一致に努める」と強調する。

 19年参院選を新制度で実施するには、遅くとも来年中には公選法を改正する必要がある。国会が、自らの約束を反故(ほご)にすれば、政治に対する信頼が失われよう。

 今年は、参院が創設されてから70年の節目でもある。

 「政局の府」でなく、「良識の府」にふさわしい参院にするため、各党には、党利党略を排した大局的な議論が求められる。

相模原事件起訴 身勝手な大量殺人が裁かれる

 犯罪史上に残る事件の発生から、7か月近くを経て迎えた節目だ。

 神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設で起きた入所者殺傷事件で、横浜地検が、元施設職員の男を殺人罪などで起訴した。犯行時の男には、完全な刑事責任能力があったと結論付けた。

 男は19人を殺害した。包丁を用意し、障害の重い入所者を選んで襲った。逮捕後、「不幸を作る障害者はいなくなればいい」と差別意識に満ちた動機を供述した。

 事件前には、犯行を予告する手紙を衆院議長公邸に持参した。自己の論理を妄信し、計画的に犯行に及んだことがうかがえる。

 起訴に持ち込んだ地検の判断は、妥当である。

 精神鑑定のため、地検が実施した鑑定留置は5か月間に及んだ。まれに見る凶悪事件だけに、より慎重を期したのだろう。

 男は、「自己愛性パーソナリティー障害」などと診断された。自らを特別な存在と思い込むのが特徴だ。過去の事件の裁判では、完全責任能力が認められている。

 今回の裁判員裁判でも、男の刑事責任能力が焦点となろう。なぜ邪悪な考えを抱き、事件に至ったのか。男の供述や、関係者の証言は、再発防止にも役立つ。裁判は長期化が必至だ。裁判員の負担軽減も重要な課題である。

 厚生労働省の有識者検討会が、昨年末に再発防止策を提言した。精神保健福祉法改正案が今国会に提出され、措置入院から退院した患者への継続的な支援が制度化される見通しだ。

 自治体と病院の連携が不十分だった反省に基づく。支援計画の作成や実施主体など、自治体や病院の責務を明確化する。切れ目のない支援には、人員確保が重要だ。国の援助が欠かせない。

 神奈川県は、施設を全面的に建て替える当初の計画を見直すことを決めた。数十億円を投じ、防犯対策も大幅に強化する構想だったが、地域の中で共生するという障害者福祉の理念に反するとの批判が相次いだためだ。

 家族会は、早期の建て替えを求める。社会の偏見を恐れ、引き続き施設への入所を望む家族もいる。計画の練り直しには、こうした声への配慮も求められる。

 県警は大多数の被害者の実名を公表しなかった。「障害者であることや家族の意向などに配慮した」のが理由だ。

 偏見や差別が依然、存在するのは事実だ。再発防止には、その根絶が何より重要である。

2017年2月24日金曜日

米法人税の国境調整措置は経済に有害だ

 米下院共和党が法人税の抜本的な改革案について、トランプ政権と内容の調整を進めている。

 下院共和党が昨年まとめた改革案は、高すぎる税率の引き下げや投資の即時償却制度の導入など理解できるところも多い。問題は国境調整措置の導入によって輸入に高い税を課そうとしている点だ。実現すれば、米国や世界の経済に甚大な悪影響を及ぼしかねない。この部分の実施は見送るべきだ。

 国境調整は、輸出による収益を免税とする一方、輸入にかかる費用を課税所得から控除するのを認めないという仕組みだ。

 世界貿易機関(WTO)は、消費税など付加価値税で国境調整することは認めている。だが、法人税での導入は国際競争上問題があるとして容認しておらず、改革案が実現すればルール違反と判定する公算が大きい。

 それ以上に心配なのは、輸入への重課税がもたらす経済への影響だ。輸入品を売る米国の小売業者の利益が圧迫されたり、価格転嫁で消費者の負担が急増したりする恐れがある。対米輸出が多い海外企業にも当然大きな打撃になる。

 国境調整措置を導入してもドル相場の上昇によって影響はすぐに相殺されるとの見方もある。だが、その通りになるか不透明なうえ、ドルが仮に急上昇すれば、世界の金融市場が動揺しかねない。

 トランプ政権は国境調整措置の導入について明確な見解を示していない。小売業者をはじめとした反対論も強まっており、対応に迷っているようにもみえる。

 ただ、政権内には輸入を抑えて貿易赤字の縮小をめざす考えが根強くあり、下院案に賛同する可能性もある。下院案を退けたとしても、トランプ大統領が選挙戦で主張したような高関税政策に走れば、問題はより大きくなる。

 米国の企業課税を抜本的に見直すこと自体は間違っていない。現行制度には問題点も多いからだ。

 たとえば、米企業は海外で稼いだ収益を国内に還元する際に、巨額の税の支払いが必要になる場合が多い。ほとんどの日欧企業が原則無税で海外収益を国内還元できるのと対照的だ。この税制の違いが、欧州など海外に本拠地を移す米企業が多い一因になっている。

 法人税改革によって国内経済の活性化をめざしたいなら、こうした特異な税制の見直しを急ぐべきだ。内外経済を揺るがしかねない国境調整にこだわる時ではない。

ゴーン改革から何を学ぶか

 日産自動車のカルロス・ゴーン会長兼社長が4月1日付で社長を退き、最高経営責任者(CEO)のポストも次期社長の西川広人・現副会長に譲ると発表した。会長職は続けるが、1999年の来日以来18年間、日産の経営を最前線で引っ張ってきた自らの役割に区切りをつけることになった。

 ゴーン氏の大きな功績は、破綻の瀬戸際にあった日産自動車を果断なリストラでV字回復に導いたことだ。その後もライバルに先駆けて中国市場を開拓したり、電気自動車に力を入れたりして、独自性を発揮してきた。

 2005年からは日産の大株主で、自身の出身母体の仏ルノー社長も兼任した。99年時点で日産・ルノー連合の年間生産台数は480万台だったが、昨年は1千万台規模に達し、世界最大手の独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車に迫る水準に引き上げた。

 ゴーン革命のひとつの教えは、しがらみにとらわれない危機突破力だ。99年に打ち出した「日産リバイバルプラン」では古くから付き合いのある部品メーカーの株式を売却する系列解体を実行し、業界の常識に挑戦した。

 今も東芝をはじめ経営が迷走する企業は少なくない。内部の人間では大胆な改革が難しいのなら、社外に人材を求めるのも一案だ。

 ゴーン社長の経歴も示唆的だ。最初に入社した仏ミシュランでは30歳代の若さでブラジル法人の再建や米国での企業買収を任され、工場閉鎖の指揮を執ったこともある。日産に来たのは45歳のときだが、それまでに経営者として十分な経験を重ねてきたのだ。

 日本企業も有為な人材には若いうちから、失敗を恐れず大きな仕事を与えるべきだ。年功序列型の横並び人事から脱却しないと、スケールの大きいグローバル経営人材はなかなか育たないだろう。

 環境技術や自動運転技術をめぐって、自動車市場の競争は一段と激しくなりつつある。西川次期社長率いる日産の新経営陣のかじ取りにも注目したい。

金正男氏殺害 「人権」で国際的圧力を

 多くの人々が行き交うクアラルンプール空港で、なぜ命を奪われたのか。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄で、故・金正日(キムジョンイル)総書記の長男である金正男(キムジョンナム)氏が殺害されてから10日がすぎた。

 真相は今もなぞに包まれている。だが、現地警察の捜査で、事件の背景に北朝鮮の犯行グループがいることが判明した。

 特に在マレーシア北朝鮮大使館の2等書記官が重要参考人にあげられたことで、国家組織が関与した可能性が強まった。

 ところが北朝鮮政府は、これらを陰謀だとしてマレーシアや韓国を非難している。捜査に協力するどころか、なんとか妨害しようという姿勢だ。改めて、北朝鮮の異様さが際立つ。

 北朝鮮はこれまで、韓国大統領一行を狙ったラングーン爆弾テロ(1983年)や、大韓航空機爆破事件(87年)など、残忍な犯行を繰り返してきた。

 いずれも最高指導者が指揮したとされるが、いまだに事件への関与を認めていない。

 今回の殺害も北朝鮮工作員らのしわざであれば、正恩氏のあずかり知らないところで企てられたとは考えにくい。正男氏は権力を親子で継承してきた金一族の一人だからだ。

 さまざまな臆測が飛び交っている。正男氏が正恩氏から権力を奪おうとしたとの見方や、韓国への亡命を企てたとの説、米国関与説などだ。

 ただ、韓国を発信源とする不確かな情報が目立ち、実像は見えにくい。

 当面は、主権が侵された疑いが強いマレーシア政府の対応を見守りたい。また、一部容疑者の出身国であるインドネシアやベトナムを含め、関係各国が捜査の連携を進め、できる限り真相を解明してもらいたい。

 同時に国際社会は、北朝鮮によるさまざまな人権の侵害を追及し、改善へ向けて圧力を強めるべきである。

 日本人拉致の被害者は、政府に認定されただけでも17人にのぼる。韓国人ら、その他の拉致被害者は相当な規模になる。

 北朝鮮の国民に対しての侵害も甚だしい。過酷な政治犯収容所の存在が知られるほか、多くの国民が自由を奪われ、困窮の中に放置されている。

 国連総会の第3委員会は、北朝鮮での「人道に対する罪」を指摘し、国際刑事裁判所への付託を安保理に促している。

 日本を含む国際社会は、あらゆる多国間会合の場で北朝鮮の人道無視の問題を取りあげ、北朝鮮が動かざるをえないような環境づくりを急ぐべきだ。

月末の金曜日 働き方変える一助に

 今日から「プレミアムフライデー」の試みが始まる。経済団体と行政が連携した取り組みで、月末の金曜日には早く仕事を終え、買い物や家族との外食、観光などを楽しもうと呼びかけている。

 長時間労働の是正は待ったなしの課題だ。ほかならぬ経済界が自らそれに取り組み、労使の意識改革を含めて働き方を変える機会にしていくなら、結構なことだ。

 ただ、その狙いを見ると「生活スタイルの変革」「コミュニティーの機能強化」「デフレ的傾向を変えていくきっかけ」など、様々な要素が盛りだくさんだ。息の長い取り組みにしたいなら、もう少し優先順位を整理することが必要ではないか。

 そもそもこの構想の発端は、昨年初めの経済財政諮問会議で、民間議員が「全国規模のセールで消費拡大を促す」と提案したことだった。米国のクリスマス商戦の開始日で、小売業界が黒字になることから名付けられた「ブラックフライデー」などが例示され、訪日客の取り込みも念頭に置かれていた。

 その後「働き方改革」をめぐる政策論議が進むにつれて、プレミアムフライデーの位置づけも微妙に変化したようだ。

 「全国規模のセール」は、米国を見ても、基本的には民間経済の工夫や競争を通じて根付くものだろう。行政まで加わって実現を急いでも、需要の先食いになりかねない。最近の諮問会議でも「消費の山と谷を作るだけに終わらせてはいけない」といった指摘があった。

 「幸せや楽しさを感じられる体験を促す」といったスローガンもあるが、幸せや楽しさの中身は人によって様々だ。政策的に大事なのは、それを享受できる基盤を整えることであり、まずは所得と労働条件の向上に注力すべきだろう。

 もちろん「金曜の午後」の需要を狙って企業が様々な工夫を重ねれば、経済の好循環につながる可能性はある。ただ、消費拡大はあくまで結果としてついてくるもの、と割り切るべきではないか。

 長時間労働の是正を第一に考える場合、課題になるのは裾野の広がりだ。開始当初はやむを得ないとしても、余力のある一部の大企業の試みにとどまれば、意味は薄れる。

 「月末の金曜」に注目するあまり、他の曜日に仕事が積み上がったり、個人の都合に合わせた休みがとりにくくなったりしても本末転倒だ。「働き方改革」が全体として目指す方向性を見失わないようにしたい。

金正男氏殺害 北朝鮮の責任逃れは見苦しい

 北朝鮮による国家ぐるみの凶行の可能性が濃厚になった。友好関係にあった東南アジア諸国さえも敵に回し、国際的な孤立が一段と深まろう。

 北朝鮮の金正男氏殺害事件で、マレーシア警察当局は、北朝鮮大使館の2等書記官と国営・高麗航空の職員を含む3人が関与した疑いがあるとして、出頭させるよう北朝鮮に要請した。

 実行犯とされるベトナム人とインドネシア人の女2人のほか、北朝鮮国籍の男を逮捕している。残りの容疑者4人は北朝鮮に帰国したと見て、引き渡しを求めた。

 初期捜査は、犯行グループの輪郭をつかむ成果を上げた。空港の監視カメラの画像が身元の特定につながったのが大きい。

 実行犯の容疑者らがクアラルンプールの商業施設で、毒物使用の予行演習を行っていたことも判明した。周到に準備された計画的犯行だったことをうかがわせる。

 殺害に使った毒物は不明だ。当局は、事件の全容解明に全力を挙げてもらいたい。

 看過できないのは、北朝鮮が遺体の早期引き渡しを要求するなど、露骨な捜査妨害を試みたことだ。その結果、マレーシアとの対立が先鋭化している。

 北朝鮮の駐マレーシア大使は、「政治目的の捜査だ」と非難した。マレーシア政府は「捜査は国内法に基づき公正に行われている。侮辱だ」と反論し、駐北朝鮮大使を召還する事態に発展した。

 朝鮮中央通信は、北朝鮮犯行説は韓国が台本を書いた「陰謀」だと喧伝(けんでん)した。客観的な根拠は何も示していない。

 自国に嫌疑がかかると、他国に難癖をつけて責任逃れを図る。これは北朝鮮の常套(じょうとう)手段である。

 マレーシアは1973年に北朝鮮と国交を樹立した。ビザなし渡航を許し、外貨稼ぎが目的の労働者も受け入れていた。

 こうした寛容な姿勢が仇(あだ)となり、北朝鮮工作機関の活動拠点として利用されている。対北朝鮮政策の見直しが急務だろう。

 自国民が逮捕されたベトナムとインドネシアも、北朝鮮の伝統的な友好国だ。不信感が他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国に広がるのは避けられまい。

 ヒトやモノの移動規制が甘い東南アジアは、核・ミサイル開発を巡る国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁の抜け穴になっているとの指摘がある。

 ASEAN各国は、今回の事件を機に、対北包囲網の強化に積極的に協力せねばならない。

プレミアム金曜 「アフター3」をどう広げるか

 ゆとりある週末に、少しだけ贅沢(ぜいたく)な体験を楽しむ。そんな「特別な金曜日」になるだろうか。

 月末の金曜日に定時前退社を促し、消費拡大につなげるプレミアムフライデーが、きょうから始まる。

 午後3時に仕事を切り上げて、自由になった時間を買い物や娯楽に振り向けてもらう。官民一体で働き方改革と消費活性化を目指す新たな取り組みである。

 賛同する企業・団体は3500を超え、「アフター3(スリー)」商戦を狙う飲食店や百貨店、旅行会社などが相次いで新規の商品やサービスを打ち出している。

 安倍首相も「できる限り多くの職員が楽しめるよう工夫したい」と語る。国会が、24日に予定された来年度予算案の衆院通過を来週に持ち越すなど、官民双方で後押しするムードが高まっている。

 問題は、どう定着させるかだ。イベントには賛同するが、実際に早めの退社で対応するのは見合わせるという企業が多く、「笛吹けど踊らず」の感もある。

 残業が常態化し、3時に帰れるはずがない。忙しい月末の金曜は大企業でも難しい。人繰りに苦しむ中小企業は、なおさらだ。時間給の派遣社員は、給料が減る。

 そんな声が聞かれる。

 せっかくの試みも、企業の努力なしでは軌道に乗るまい。

 全社一律3時は無理でも、他日をまじえて交代で早く帰る。半日より短い有給休暇を活用する。柔軟な働き方と休み方を工夫する企業の意識改革が必要だ。

 消費刺激効果を疑問視する意見もある。早く帰っても自宅で過ごす人が多く、金曜に消費が増えても土日需要の先食いだという。

 確かに、月1日程度の早帰りで長期化する消費不振が劇的に改善するものではなかろう。

 地域振興券や家電エコポイントなど過去の消費喚起策は、限定的なバラマキ政策だ。それに比べると、民間の知恵を生かすプレミアムフライデーは、長い目で見て、新しい消費行動を生み出す力を秘めているのではないか。

 仕事帰りに夫婦や家族、友人同士で食事や買い物を楽しみ、映画や音楽、美術に興じる。地方や海外への小旅行もできる。

 働き方やライフスタイルを見直す契機となれば、プレミアムフライデーの意味は小さくない。

 今では当たり前の週休2日制も定着には、長い時間を要した。プレミアムフライデーも様々な課題を解決しつつ、恩恵を受けられる人が増えるように展開したい。

2017年2月23日木曜日

規制改革の再加速で技術革新を促せ

 時代に合わなくなった規制を改廃して民間の企業や個人に自由を与え、技術革新や新サービスを後押しする。そんな日本経済を活性化するための規制改革を政府は再加速するときだ。

 自動運転や小型無人機(ドローン)といった先端技術は次世代の経済のけん引役として注目されている。人工知能(AI)などを使った技術は、生活の利便性を大きく高める潜在力を持つ。

 開発した技術を実用化するには、まず実証実験を重ねていく必要がある。すでに地域限定で規制を緩和した国家戦略特区での実証実験は始まっている。

 しかし、実証実験は公道や空間を利用するため、参加する企業が関係機関との事前調整に煩雑な手続きを強いられている。開始までに数カ月かかる例があり、研究開発の足を引っ張っている。

 こうした問題を解決するのが、英国発の「規制の砂場」という仕組みだ。企業が当局の了解を得て、現行の規制にとらわれずに新たな事業やサービスを実験しやすくする。

 小さな失敗を許容して試行錯誤を認めるやり方だ。迅速に実証実験をしやすくなるので、実用化までの期間が短くなる効果が期待できる。

 政府はこの仕組みを盛り込んだ国家戦略特区法改正案を今国会に提出する方針だ。第4次産業革命の成否は日本経済の国際競争力を左右する。官民一体で特区での実証実験を急いでほしい。

 法改正案には、宿泊や飲食、警備といったサービス業で訪日客に対応する外国人材を受け入れやすくする規定もつくる。外国人材の活用は日本の技術革新の一助にもなる。妥当な内容だろう。

 一方で、自家用車で客を送迎する「ライドシェア」はほとんど広がっていない。個人住宅の空き部屋などに旅行者を宿泊させる「民泊」についてはルール整備が遅れているうえ、自治体が過度な規制をかける懸念も残っている。

 日本経済の実力である潜在成長率は1%未満に沈んでいる。これを引き上げるには規制改革を通じて生産性を高める必要がある。

 働き方改革などの課題はもちろん重要だが、政権にとって規制改革の優先順位が低下しているとしたら問題だ。かつて安倍晋三首相は「規制改革は成長戦略の1丁目1番地」と発言した。その矢は力強く放ち続けねばならない。

豊洲の検証に何が必要か

 築地市場の豊洲への移転問題を巡って、東京都議会が22日、地方自治法100条に基づく強い調査権限をもつ特別委員会(百条委員会)を設置した。

 百条委は自治体の仕事に関して関係者の出頭や証言、記録の提出を求めることができ、正当な理由がないのに出頭を拒んだり、虚偽の証言をしたりすると禁錮や罰金が科せられる。今後、用地を取得した当時の知事である石原慎太郎氏らを証人喚問する予定だ。

 なぜ、土壌が汚染された東京ガスの工場跡地を移転先に選んだのか、多くの都民、国民が疑問を抱いている。汚染対策費の多くを原因者である東京ガスではなく、都が負担する契約になっている点などについても批判が出ている。

 豊洲問題に対する国民の関心は極めて高い。都議会が自らの調査権限を生かして一連の疑問を解明しようとする点は評価したい。

 一方、老朽化した築地市場の移転は30年前から曲折を経ながら進められてきた。都が豊洲への移転を決めて以降でも16年がすぎた。

 都は当初、現在地での再整備に着手したが、営業活動を続けながらの工事は難航し、他地区への移転へ方針を転換した経緯がある。市場関係者の間でも当時、築地に近く、広い用地を確保できる豊洲への移転を求める声があった。

 東京ガスは2007年までに約100億円をかけて都の条例に基づいて土壌改良をしている。それでもその後の調査で有害物質が検出され、都が自ら大規模な対策に乗り出して、現在に至っている。

 今回の百条委の設置は7月の都議選をにらんだ会派間の駆け引きの結果という側面が強い。石原氏への責任追及を強める小池百合子知事の動向も影響している。

 30年という時間軸に沿って、ていねいに事実を確認しながら審議しないと、単なる政治ショーに終わるだろう。過去の検証は必要とはいえ、本当に重要なのは3月に明らかになる豊洲市場の地下水の再調査の結果と、それを踏まえた小池知事の判断である。

大飯原発 不安がぬぐえていない

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が新規制基準に適合する、との審査書案を原子力規制委員会がまとめた。

 大飯3、4号機は、福井地裁が14年に運転を差し止める判決を出し、安全性に重大な疑問が投げかけられた。福井、京都、滋賀の3府県にまたがる30キロ圏には約16万人が暮らすが、事故時にスムーズに避難できるかという難題も残ったままだ。

 朝日新聞の今月の世論調査では、原発再稼働に57%が反対し、賛成のほぼ2倍だった。東京電力福島第一原発事故から来月で6年たつが、国民の不安はぬぐえていない。

 関電は3、4号機を早ければこの夏にも再稼働したいとするが、とうてい賛同しがたい。

 大飯原発の周辺には複数の断層がある。地裁判決が最も懸念したのは、想定を上回る地震が起き、原子炉や使用済み核燃料プールが壊れる恐れだった。

 関電は控訴する一方、想定される最大の揺れ(基準地震動)を引き上げた。安全対策工事には1220億円を投じる。

 だが、前規制委員長代理で地震学者の島崎邦彦氏が昨年4月の熊本地震の観測データを踏まえ、関電の計算手法では揺れが過小評価されている可能性がある、と異議を唱えた。

 規制委は再検討の結果、「根拠がない」(田中俊一委員長)と島崎氏の主張を退けたが、周辺住民らの懸念は強まった。

 大飯を含め、関電の三つの原発の使用済み核燃料プールは満杯が近い。関電は30年ごろに福井県外に中間貯蔵施設をつくり、搬出するとしているが、具体的なめどは立たぬままだ。

 関電の高浜原発では1月、工事用の大型クレーンが倒れ、建屋の一部が損傷した。関電が暴風警報の発令を施工業者に伝えず、業者もクレーンを事前にたたまなかったためという。

 自然現象のリスクを甘く考えず、最大限の措置をとる。それが事故の教訓ではなかったか。再稼働に前向きな福井県からでさえ、「関電の原発運営に十分な信頼を置くことは難しい」(副知事)との声が上がる。

 今後は地元同意手続きが焦点になる。関電は、安全協定に基づく事実上の「同意権」を持つのは福井県とおおい町だけ、との姿勢を崩さないが、もし事故があれば琵琶湖が汚染されるなど、被害は関西に広く及ぶ。

 とりわけ、住民が避難する可能性がある地域の理解なしに、再稼働を進めてはならない。京都、滋賀両府県を含め、少なくとも30キロ圏の自治体の同意を得るよう、改めて求める。

クロマグロ 大消費国の責任果たせ

 太平洋クロマグロの保護と管理が正念場を迎えている。絶滅危惧種に指定されるほど減った海の幸の回復に向け、大消費国の日本は先頭に立つべきだ。

 昨年末以来、計12県の漁業者がクロマグロの漁獲ルールを守っていなかったことが明らかになった。必要な承認を受けずに漁に出たり、水揚げの報告を怠ったりしていた。

 日本も加盟する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)は2014年、この海域のクロマグロの幼魚(1匹の重さが30キログラム未満)の漁獲を半減させることで合意した。これを受けて水産庁は地域や漁獲方法ごとに上限を設け、それを超えた場合は自粛を求める措置をとっている。

 今回のルール違反の中には、県からの自粛要請後も漁を続けていた例があった。再発を防ぐため、違反には罰則措置もある漁獲可能量(TAC)制度を来年にも適用する方針を水産庁は打ち出した。先を争って一気に取るような漁業を避ける方策も検討が必要だろう。

 ただ、問題はそこにとどまらない。資源管理の枠組み自体をさらに進めることが求められているからだ。

 WCPFCは昨年12月に開いた会合で、新しい資源回復措置の検討を始めることで合意した。EUや太平洋諸国、NGOなどから現行の規制では不十分との声が高まったためだ。

 背景には、厳しい規制でクロマグロが増えた大西洋に比べ、太平洋では回復の歩みが遅いとの見方がある。日本側は当初、漁業への影響などを理由に新しい方策に消極的だったが、最終的には合意に加わった。

 検討作業は今春から始まる。日本はクロマグロを最も消費してきた国として、実効的な資源管理措置をつくる責任を果たすべきだ。後ろ向きの姿勢を示せば、他の魚の資源管理での影響力も落としかねない。

 新たな措置に積極的に取り組むためにも、国内の漁業者の理解と協力が大切になる。例えば、沿岸の小規模漁業者には、より大規模な巻き網漁業のあり方への疑問が強い。漁法ごとの幼魚の漁獲枠の配分や、産卵期の親魚を巻き網漁で取ることへの不満や批判だ。こうした問題も改めて議論する必要がある。

 一部のスーパーでは、資源保護の視点からクロマグロの幼魚の販売をやめる動きがある。クロマグロは日常的に食べる魚ではない。当面、値段が上がったり、手に入りにくくなったりしてもやむを得ないことを、消費者として理解したい。

テロ準備罪審議 不安を煽る言説は慎みたい

 組織犯罪を起こす意思のない人には、無縁の罪だ。政府はその点を丁寧に説明すべきである。

 組織犯罪処罰法を改正して創設するテロ準備罪の対象に関し、政府が衆院予算委員会で見解を示した。

 一般団体であっても、「目的が犯罪を実行する団体に一変した」場合には組織的犯罪集団として罪が適用される、というものだ。

 宗教法人のオウム真理教が、地下鉄サリン事件を引き起こした。安倍首相は「犯罪集団として一変したわけだから、その人たちは一般人であるわけがない」と説明した。もっともな認識である。

 疑問なのは、民進党などが「一般市民は対象にならないと言ってきたことと矛盾する」と反発している点だ。「共謀罪」法案と同様、テロ準備罪も人権侵害の恐れが強いと印象付ける狙いだろう。

 共謀罪と異なり、適用対象は組織的犯罪集団に限られる。罪の成立には、犯行計画に加え、資金調達など、具体的な準備行為の存在が必要となる。適用範囲がなし崩し的に拡大するかのような言説は無用な不安を煽(あお)るだけだ。

 テロ準備罪の創設は、国際組織犯罪防止条約の加入に必要な法整備だ。条約は2000年の国連総会で採択され、翌年の米同時テロを経て、テロ集団やマフィアなどによる犯罪に立ち向かう国際的な礎として機能している。

 既に187の国・地域が締結した。首相は「法を整備し、条約を締結できなければ、東京五輪・パラリンピックができないといっても過言ではない」と強調する。

 捜査共助や犯罪人引き渡しに支障が生じかねない今の状況は、一刻も早く改善せねばならない。

 野党の中には、現行法でも対処が可能だ、との声もある。果たしてそうだろうか。

 大量殺人を目的に殺傷能力の高い化学薬品の原料を入手したり、航空機テロのために航空券を予約したりした場合は、現行法の予備罪を適用できない恐れがある。

 重要インフラの誤作動を狙ってコンピューターウイルスの開発に着手した場合には、未遂段階で取り締まる罪が存在しない。政府は、こうしたケースを想定する。

 金田法相は、一般団体が重大犯罪を1回だけ実行することを決定しても、「組織的犯罪集団にはあたらない」との見解も示す。誤解を招かない説明が求められる。

 政府は、3月上旬にも改正法案を国会に提出する。国民の安全を守るため、法の穴をなくし、重大犯罪の芽を摘まねばならない。

豊洲百条委設置 都議選への思惑が先行気味だ

 政治的な駆け引きに振り回されることなく、市場移転問題の判断材料にもなる有益な議論と調査の場にしたい。

 東京都議会が、築地市場の移転先が豊洲市場になった経緯などを検証する百条委員会を設置した。全会派が共同提案し、即日可決された。

 焦点となるのは、東京ガスの工場跡地が移転先に決まった過程の解明だ。小池百合子知事も定例会冒頭の施政方針演説で、築地市場の移転問題によって「都政の透明化が問われる」と強調した。

 用地購入時に知事だった石原慎太郎氏は、小池氏からの質問書に「記憶にない」などと回答した。小池氏が指摘するように、納得できる内容とは言えまい。

 土壌汚染が判明していた用地の取得については、石原氏に購入費を賠償させるよう、住民が都を相手取り提訴した。小池氏は「石原氏に賠償責任はない」という都の従来の方針を再検討している。

 都議会は市場問題の特別委員会を昨年秋に設置し、石原氏と副知事だった浜渦武生氏の参考人招致を3月に予定していた。

 特別委は廃止され、石原氏らは強力な調査権限を持つ百条委で証人喚問される方向だ。証言拒否や虚偽証言には罰則がある。

 豊洲市場を巡っては、極めて高い工事の落札率や、主要な建物下に盛り土が行われなかったことなど、不透明な部分が多い。問題点を検証する意義は理解できる。

 気がかりなのは、7月の都議選を意識した政治的な思惑が先行していることである。

 都議会で12年ぶりの百条委設置は、共産党や民進党系会派が提唱した。慎重だった自民党も公明党に続き、急きょ賛成に転じた。

 千代田区長選では、小池氏が支援する現職が大勝した。小池氏が事実上率いる地域政党「都民ファーストの会」は、都議選で単独過半数を目指す。自民党などは、「抵抗勢力」と見られる事態を恐れて浮足立っているのだろう。

 小池氏は、市場問題を都議選の争点とする構えだ。移転を推進した自民党の姿勢を問い、石原氏の責任を追及する戦略ものぞく。

 市場移転問題で最も重要なのは、豊洲市場が安全かどうかを見極めることだ。小池氏には、科学的なデータに基づき、客観的に是非を判断する責務がある。

 百条委は、老朽化した築地市場の安全性も調査する方向だ。選挙にらみのパフォーマンスではなく、都民の視点に立った建設的な議論を進めてもらいたい。

2017年2月22日水曜日

世界の安定に欠かせぬ米欧の緊密な連携

 米国のペンス副大統領や主要閣僚が相次ぎ訪欧し、トランプ政権誕生でぎくしゃくした欧州との関係修復に動いた。強い米欧同盟の継続は日本にも重要だ。大統領自身が不規則な発言を控え、早く安定した外交姿勢を打ち出して不安を解消してほしい。

 欧州連合(EU)は「ドイツのための乗り物」であり、北大西洋条約機構(NATO)は「時代遅れ」。トランプ氏は就任前にこうした冷ややかな発言を繰り返し、欧州側の強い反発を招いていた。

 米側からは今回、副大統領のほかティラーソン国務長官、マティス国防長官がそれぞれ欧州を訪れ、EUやNATOとの関係を重視する姿勢を示した。米欧間の亀裂が広がっていくことへの危機感があったのだろう。

 トランプ政権の幹部が総じて冷静で妥当なメッセージを伝えたことを歓迎したい。欧州側からも評価の声が聞かれた。

 だが、これで米国への懸念を十分ぬぐえたとはいえない。米政権内で外交方針がきちんと共有されているのか確かでないからだ。トランプ氏は物議をかもす発言を続けており、世界情勢への認識や考え方にも不明確なところが多い。

 例えばロシアへの対処のしかたは不透明だ。ティラーソン長官はロシアとの外相会談でウクライナ東部の停戦合意を順守するよう求めるなど、対ロ関係で慎重な姿勢を示したとされる。

 ロシアとの関係改善に前向きな姿勢を見せてきたトランプ氏と認識は一致しているのだろうか。

 力による国際秩序の現状変更を辞さないロシアは、米欧の足並みが乱れればつけ込む可能性が大きい。トランプ氏は対ロ政策を欧州とすりあわせ、効果的に協力する体制を築いてもらいたい。

 米欧の結束に向けた課題は多い。マティス長官はNATOの会合で、国防費の支出水準が低い加盟国の取り組み強化を要求した。欧州側が応じなければ米欧対立に発展する恐れがある。

 独仏などでは今年、重要な選挙があり内政の不透明感が増す。欧州側も求心力を保つのに苦労している状況だ。

 米欧同盟が揺らげば世界は不安定になり、影響は日本にも及ぶ。米政権の対中姿勢もなおはっきりしない。トランプ氏が世界の現実を正しく見つめ、理にかなった外交路線を軌道に乗せるよう、日欧も連携していく必要がある。

低コストの無電柱化を探れ

 電線などを地中に埋めて電柱をなくす無電柱化を進めようという機運が高まっている。カギを握るのは埋設費用の削減だ。

 昨年末に無電柱化推進法が施行され、政府は具体的な目標を盛り込んだ計画を策定する準備に入った。自治体でも茨城県つくば市が中心市街地などで新たな電柱の設置を規制する条例を制定し、東京都も都道での新設を禁じる条例をつくる方針だ。

 現在、日本には3500万本を超す電柱があり、宅地開発などに伴って今も増えている。無電柱化の割合をみると、最も進んでいる東京23区ですら7%にすぎない。

 海外ではロンドンやパリ、香港が100%、シンガポールや台北なども9割を超している。日本が遅れているのは一目瞭然だ。

 東日本大震災で大量の電柱が倒れて復旧の障害になったように、無電柱化が進めば街の防災性はかなり高まるだろう。日々の生活を考えても、電柱がなければ歩行者や車いすが通行しやすくなるし、街の景観も向上する。

 現在、各地に電柱が林立している最大の理由はコストにある。地下深くに共同溝を設けて電線や通信ケーブルを通す現行方式では、官民合わせた費用は1キロメートル当たり5億3千万円程度かかる。電柱を設置する場合の10倍以上だ。

 一方で、ロンドンやパリで一般的な電線などを直接埋める方式ならば、電気・通信設備などを除いた工事費だけでも共同溝方式の4分の1以下になる。道路の脇の小型の側溝などに電線を通す方式も費用を抑えられる。国はこうした新方式の実証試験を進めている。

 首都直下地震などを考えれば無電柱化を急ぐべきだが、予算も限られている。まずは、主要道での新設を原則禁止すると同時に、市街地再開発などに併せて地中化を進めるのが現実的だろう。

 生活道路などの電柱は安全で低コストの技術が確立した段階で、本格的に撤去すればいい。国や自治体はしっかりとした計画をつくって着実に取り組んでほしい。

文科省天下り もたれ合いに切り込め

 文部科学省が、組織ぐるみの「天下り」のあっせんについて中間報告を発表した。

 外部の弁護士を中核とする調査班によって、法の網をくぐる行為の広がりと、手法の悪質さが明らかになりつつある。

 内閣府の再就職等監視委員会が国家公務員法に違反、もしくはその疑いがあると指摘した計38件のうち、今回、文科省自身が27件を違法だったと認めた。関与した官僚は前川喜平前事務次官を含め20人に及ぶ。

 あっせん作業の手順を引き継ぎ、共有するための人事課内のメモも2種類見つかった。あっせんが「業務」として位置づけられていた事実を物語る。

 うち一つは監視委対応マニュアルというべきもので、天下りのあっせん役を担っていた文科省OBの氏名は明らかにしないようにと明記されていた。

 後ろ暗さがあるからこその隠蔽(いんぺい)ではないか。前高等教育局長の早稲田大への天下り疑惑を監視委が調べた際、人事課職員が関係者に口裏合わせを求めたことと並んで、許しがたい。

 当のOB自身を学長予定者とする大学の設置申請に関するやり取りも、調査対象になった。

 驚くことに、申請内容を審査する審議会の情報が、まったく関係のない人事課職員に漏れ、OBに伝わる可能性があったという。文科省内のコンプライアンスのあり方に重大な疑念を抱かせる出来事といえよう。

 文科省はさらに調査を進め、来月、最終報告を発表する方針だ。行政や税金の使い道がゆがめられていなかったかを、徹底的に調べる必要がある。

 違法行為をうんだ原因について、松野文科相は「規制への認識が十分でなく、省内の順法意識が欠けていた」と述べた。

 だが根本的な問題は、再就職先を必要とする文科省と、設置認可や補助金の獲得を有利に運びたい大学との、持ちつ持たれつの関係にあるといえる。

 この十数年、文科省は改革を促すために大学を競わせ、めがねにかなったところに補助金を出す政策を続けてきた。大学側からは「国の狙いをいち早くつかみ、繁雑な事務手続きをこなすには文科省出身者の力が不可欠」との本音が漏れてくる。

 加えて、来年からの18歳人口の急減期を前に、経営の行く末を心配する大学は少なくない。再就職だけでなく、文科省職員の現役出向も広がっている。

 調査班は事実関係の解明にとどまらず、こうした官と学のもたれ合いの構図にも切り込み、違法な天下り根絶策の検討に役立つ素材を示してほしい。

豊中の小学校 不可解な点が多すぎる

 国有地を売る場合、厳格な価格決定と透明性は欠かせない。この基本から逸脱していなかったか、検証が必要だ。

 財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地(8770平方メートル)を学校法人「森友学園」(大阪市)に近隣国有地の約1割で売っていた。当初、国は価格を非公表にしていた。なぜこの値段で、なぜ表に出さなかったのか。不可解なことが多い。

 国の説明によると、この土地は同学園が4月に開校する小学校予定地。地下に廃棄物が埋まっているため、鑑定価格の9億5600万円から、ごみ撤去費などとして8億円余りを差し引き、1億3400万円で売ったという。だが学園側は、実際の撤去費は「1億円くらい」と述べた後、「はっきりわからない」などと取材に答えている。

 格安で売ったのではないか。この疑問に財務省は「適正な時価だ」と説明する。しかし学園側がごみをすべて撤去したのか確認もしていない。非公表の理由も学園側の要望という。あまりに厳格さを欠いていないか。

 過去には別の学校法人が7億円前後でこの土地の取得を希望したが、財務局から「価格が低い」といわれ、断念した。当時の経緯とあわせ、今回の売却の流れを詳しく調査すべきだ。

 森友学園をめぐる問題はこれだけにとどまらない。

 学園が運営する幼稚園のホームページには、元保護者をののしる文書が掲載されていた。

 「巧妙に潜り込んだ韓国・中華人民共和国人等の元不良保護者であることがわかりました」

 府が学園から事情を聴き、その後、学園は「誤解を招く表現があった」として削除した。府は22日の私立学校審議会で、同学園の小学校の認可等を審議する。開校に向けた準備状況などをしっかり議論してほしい。

 気になるのは、この小学校の名誉校長に、安倍首相の妻の昭恵氏がついていることだ。

 17日の衆院予算委員会でこの点を問われた首相は「妻から学園の先生の教育への熱意はすばらしいという話は聞いている」などと語った。

 一時期、学園は「安倍晋三記念小学校」の文言で寄付金を集めていた。首相は土地払い下げや学校認可への関与を否定し、「関係していれば総理も国会議員も辞める」と答弁した。

 学校のホームページには昭恵氏の写真の横に「内閣総理大臣夫人」とある。少なくとも差別的な言動が問題視される法人の学校に名誉校長として名を連ねることが適切か、首相自身が慎重に判断するべきではないか。

竹島の日 「領土」認識を広く共有したい

 竹島が日本固有の領土であるという認識を、より多くの国民が共有し、世界に発信する。こうした取り組みが、竹島問題の解決に欠かせない。

 島根県の第12回「竹島の日」記念式典がきょう、松江市で開かれる。22日は、1905年に日本が竹島を島根県に正式編入した日だ。2005年に県条例で竹島の日と定められた。

 政府は、領土問題を担当する務台俊介内閣府政務官を派遣する。政務官の式典出席は5年連続だ。日本の領土・主権に関する啓発事業は本来、政府の役割である。政府は、地元自治体の式典を継続的にきちんと支援すべきだ。

 日本は17世紀半ばには、竹島の領有権を確立した。第2次大戦後も、日本の領土として扱われてきた。しかし、1952年に韓国が李承晩ラインを一方的に設定し、力による現状変更を行って以来、不法占拠を続けている。

 竹島が歴史的にも国際法上も、我が国の領土なのは明らかだ。

 文部科学省は14日公表した小中学校の学習指導要領改定案の社会科で、竹島や尖閣諸島が日本固有の領土だと初めて明記した。

 従来は、教科書作成の指針となる解説書の記述にとどまり、法的拘束力がなかった。指導要領の内容に格上げした意義は大きい。

 領土教育の充実を通じて、国民全体が竹島などの問題に関心を持ち、正確な史実に基づく知識を身につける必要がある。無論、領土問題の解決は簡単でないが、健全な世論形成を着実に進めたい。

 容認できないのは、韓国側が最近も、竹島の不法占拠を強化する動きを重ねていることだ。

 昨年8月、超党派の国会議員団の計10人が竹島に上陸し、示威活動を実施した。今年1月には、慰安婦を象徴する少女像を竹島に設置するための募金活動を地方議員らが行った。韓国軍も竹島周辺海域での訓練を恒常化している。

 来年2月に予定される平昌冬季五輪の組織委員会ホームページが、竹島を「独島」と表記し、「韓国最東端の領土」などと記述していることも発覚した。

 スポーツの祭典に領土問題を持ち込むのは禁じ手だ。岸田外相が17日の日韓外相会談で修正を求めたが、韓国側は応じていない。

 韓国は重要な隣国で、北朝鮮の核・ミサイル問題などでは緊密な協力が求められる。しかし、竹島問題で安易な妥協はあり得ない。韓国側の身勝手な行動には、抗議や懸念表明を行い、平和的解決を粘り強く追求せねばならない。

文科省天下り 順法意識の欠如が目に余る

 組織ぐるみの違法な天下りのあっせんが、恒常的に行われていた。文部科学省の順法意識の欠如は、目に余る。

 再就職あっせん問題で文科省が設置した調査班が、中間報告を公表した。新たに17件を国家公務員法違反と認定した。政府の再就職等監視委員会が違法性を認めた分と合わせると、違反事案は計27件となった。

 既に判明している早稲田大などに加え、上智大や岐阜大などが、あっせん対象となっていた。

 依願退職した前次官が、次官在任中に違法なあっせんに関与していたことも判明した。16人の処分が検討されている。

 問題なのは、OBの嶋貫和男氏を調整役とするあっせんについて、人事課職員が引き継ぎ書を作成していたことだ。

 OBを介在させて、現役職員によるあっせんを禁じた国家公務員法の規制をすり抜ける仕組みを維持するためだった。あっせんを「業務」の一環として行っていた実態が裏付けられたと言える。

 無論、官僚の再就職が、一律に非難されるものではない。在職中に培った知見が、企業や大学などにとって貴重な戦力となるケースは少なくない。

 ただ、所管する業界への再就職には、慎重な対応が求められる。文科省は大学の補助金や設置認可に強い権限を持つ。大学側が見返りを期待することも否めまい。

 国家公務員法が天下りに規制を設けているのは、癒着の温床となるのを防ぐためだ。ルールを蔑(ないがし)ろにした文科省の責任は重い。

 調査では、嶋貫氏の天下り先に関わる大学設置審査の情報が、文科省内で不適切に扱われていたことも判明した。

 嶋貫氏を学長予定者とする私立大の設置審査について、認可の見通しが厳しいことを、当時の高等教育担当の審議官や職員が人事課職員に伝えて、助言を行った。担当部署で厳格に管理すべき情報の事実上の漏えいである。

 調査班が「審査の信頼性を大きく損なう」として、国家公務員法が禁じる信用失墜行為にあたると判断したのは当然だ。

 別のOBが調整役を務めた事例も、調査で明らかになった。脱法的な行為が広がった背景には、天下りに対する認識の甘さや感覚のまひがあるのではないか。

 文科省は3月末に最終報告をまとめる。全職員への書面調査などで全容を解明するとともに、再発防止のために、抜本的な意識改革を急がねばならない。

2017年2月21日火曜日

懸念を拭えないトランプ政権の1カ月

 トランプ米大統領が就任して1カ月がたった。政権幹部の辞任劇があったり、司法と衝突したりするなどごたごた続きだ。やや現実的になった分野もあるが、世界が抱く懸念を払拭するにはほど遠い。職責の重さを自覚し、ふさわしい振る舞いをしてもらいたい。

 米国は政権交代ごとに政府高官が多数入れ替わるため、出だしでもたつくことは珍しくない。それでもトランプ政権の出だしはあまりに多難である。ギャラップの世論調査によると、目下の支持率は41%。歴代政権の同時期の平均値より21ポイントも低い。

 トランプ氏は、既成権力への人々の嫌悪感を糾合する形で当選した。自分が最高権力者になったにもかかわらず、大衆扇動的な手法は変わらない。

 イスラム圏の7カ国からの入国制限は連邦高裁で否定された。移民制限を進めるにしても、民族・宗教の対立をあおるようなやり方は好ましくない。

 来日したマティス国防長官が日米同盟の価値を再確認したことは評価できる。とはいえ、司令塔は誰で、政権全体としてどこへ向かおうとしているのかは、相変わらずよくわからない。

 就任前にロシアと接触していた問題の責任を取り、フリン国家安全保障担当大統領補佐官が辞任した。政権発足3週間余での幹部更迭は前代未聞である。

 「昨夜、スウェーデンで起きたことを見たはずだ」。トランプ氏は先週末の支持者向け集会で、ありもしなかったテロ事件に言及した。メディア報道をよく「偽ニュース」と罵るが、これでは天に唾するようなものだ。

 より危惧すべきは、不確かな話をうのみにする人であるとわかったことだ。目にしたのが、米国のどこかが核攻撃を受けたという偽ニュースでなかったのは、不幸中の幸いである。

 北朝鮮の弾道ミサイル発射に際し、衆人環視のもとで機密情報の報告を受け、側近と対応を協議したのも大統領らしからぬ振る舞いだった。公職に就くのは初めてなので、政権運営の基礎知識が乏しいのだろう。

 歴代の米大統領の回顧録を読むと、酒も遊びも控えなくてはならないかごの鳥の日々への恨み節がよく出てくる。超大国の指導者というのは決して楽しい仕事ではないはずだ。トランプ氏にはまずそれをわかってほしい。

閣僚の答弁に緩みが目立つ

 今国会は序盤から閣僚の答弁が乱れ、野党の追及を受ける場面が目立っている。閣僚が所掌する重要案件を十分に説明できないようでは国政を安心して任せられない。5年目に入った安倍政権の緩みと言われないよう緊張感を持って国会審議に臨んでほしい。

 野党は文部科学省の組織的な天下り問題で松野博一文科相、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)の日報問題で稲田朋美防衛相、テロ等準備罪(共謀罪)法案で金田勝年法相の責任を厳しく追及している。野党4党は稲田、金田両氏の辞任も要求している。

 南スーダンPKOへの陸上自衛隊の参加を巡り、野党の一部はかねて「現地情勢が悪化し活動を継続できる状況ではない」と指摘してきた。今回は昨年7月に首都ジュバで起きた大規模な武力衝突に関する日報の有無と記述内容が焦点になっている。

 防衛相は日報は「廃棄」されたといったん説明。だが2月に入って電子データが昨年末に「発見」され、その報告を今年1月下旬に受けたと公表した。野党は「存在している日報を意図的に隠蔽したのではないか」と批判し、日報に記述された近隣での「戦闘」が本当にあったのなら陸自の活動継続は憲法違反だと指摘している。

 もし隠蔽はなかったとしても、防衛相への報告が1カ月も遅れたのは大きな問題だ。防衛省・自衛隊はこれを機に部隊の安全や活動に関する情報保全と報告体制を根本から見直す必要がある。

 金田法相はテロ等準備罪の新設がなぜ必要なのかという基本的な説明が二転三転している。詳細な国会での質疑は法案提出後にすべきだという趣旨の文書を官僚に作成させて報道陣に配った対応も首をかしげざるを得ない。

 野党側があえて細かい質問をしている場合もあるとはいえ、今国会は閣僚が政府見解の紙をただ読んだり、官僚から助言を受けたりする姿が目立つ。充実した国会審議につながるよう気を引き締めて公務にあたってほしい。

PKO日報 防衛相の責任は重大だ

 あまりにもひどい防衛省・自衛隊の混乱ぶりである。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣部隊をめぐり、防衛省が「廃棄した」としていた日報が見つかった。

 12年の派遣開始以来、すべての日報が電子データの形で残されていた。稲田防衛相は「隠す意図はなかった」というが、これまでの政府の国会答弁の前提が覆る事態だ。防衛省・自衛隊の情報管理に加え、文民統制の機能不全があらわになった。

 発端は情報公開請求を受けた防衛省が昨年12月、日報は「廃棄した」として不開示としたこと。自民党議員らが再調査を求めたのを契機に、電子データが残っていたことが判明した。

 それを防衛省が稲田氏に報告するまで約1カ月かかったのも不可解だ。どの部分を黒塗りするかの判断に時間を要したというが、まず発見した事実だけでも報告するのが当然だろう。稲田氏が省内を統率できているのか、強い疑問を禁じ得ない。

 深刻なのは、報告が遅れた問題について防衛省が調査委員会を設けようとすると、国会審議への影響を懸念する与党が反対し、取りやめたことだ。

 国会審議のために真相究明への動きを封じるとは本末転倒である。与党も与党だが、それで断念する防衛省も防衛省だ。

 情報公開請求された昨年7月の日報は、首都ジュバで起きた政府軍と反政府勢力の大規模な戦闘を生々しく記録していた。そこでは繰り返し「戦闘」という記述が出てくるが、稲田氏らは「戦闘」とは認めず「衝突」と言い換えて答弁してきた。

 「戦闘」と認めれば、憲法やPKO参加5原則に抵触し、部隊の撤退を迫られるためだ。

 驚いたのは、制服組トップの河野克俊・統合幕僚長が記者会見で、事実上、日報に「戦闘」の言葉を使わないよう部隊を指導したと語ったことである。

 日報の意義を損なう行為だ。現場の感覚が反映されてこそ、日報の意味がある。そうでなければ、政府として的確な状況判断に生かすことはできない。

 防衛省・自衛隊は、過去にも同じような不祥事を繰り返してきた。海上自衛隊の護衛艦「たちかぜ」乗組員の自殺をめぐる訴訟では、東京高裁が14年、国による文書隠しを認定。今回、その教訓が生かされていない実態を露呈した。

 稲田防衛相の責任は重大だ。

 真相究明と実効性のある再発防止策を今度こそ、講じる必要がある。そのためにはまず、外部専門家らをまじえた調査委員会の設置は不可欠だ。

天皇退位問題 思惑や打算超え協議を

 天皇陛下の退位をめぐり、衆参両院の正副議長による政党・会派への意見聴取が行われた。

 退位を認める点に違いはないが、自民、公明などが陛下一代限りの措置を唱えたのに対し、民進、共産などは将来も適用される制度づくりを主張した。

 朝日新聞の社説は、退位のルールを定めることが大切で、当面、特別法で手当てするとしても引き続き皇室典範の改正に取り組むべきだと主張してきた。

 ルール抜きで一代限りの退位に道を開けば、この先、政権や多数党の意向で天皇の地位が左右される恐れが生まれ、禍根を残すことになるからだ。

 自民党などは、退位の要件を設けるのは難しいという。たとえば天皇の意思をそこに盛りこめば、「天皇は国政に関する権能を有しない」という憲法の規定に触れると指摘する。

 理解に苦しむ話である。

 皇室会議などの議決を併せて必要とすれば、進退を天皇の自由な判断に委ねることにはならず、憲法の趣旨に反するとは思えない。そもそも意思を確認しないままでは、まさに強制退位になるではないか。制度化を避けるために、筋の通らぬ理屈を展開しているとしか見えない。

 この問題を考えるにあたっては、昨年夏の陛下のお気持ち表明をきっかけに、人々の間に醸成された認識を踏まえることが肝要だ。それはおおよそ次のようなものといえよう。

 天皇は、国民に寄り添い、ともにある存在であってこそ、国民統合の象徴たりうる。高齢などによって務めを果たすのが難しくなり、天皇自身がそれを良しとしないのであれば、人権の見地からも在位を強いるべきではない。将来の天皇にも起こりうる構造的な課題ととらえ、対応することが求められる――。

 「一代限り」は、事の本質を見ず、多くの国民の思いにも反する案と言わざるを得ない。とりわけ、党内のオープンな議論を封じ、幹部だけで政権の意向に沿う見解をまとめた自民党の姿勢は大いに疑問だ。

 この間の政府・与党の動きを貫くのは、退位をあくまでも例外とし、明治憲法とともに導入された終身在位制にこだわる考えだ。背景に、当時と同じように天皇を超越した存在と位置づける保守層への配慮や、政権運営のためには皇室に関する微妙な問題への関与を極力避けたいという意向が見え隠れする。

 そんな思惑や打算を超えて、国民の総意に向け、あるべき姿を追求する。それが国会、なかでも中立の立場で調整の任にあたる正副議長の責務である。

「退位」各党聴取 一代限りか制度化で溝がある

 国民の多くが納得できる成案を得るために、各党は真摯(しんし)に議論を進めてもらいたい。

 天皇の退位に関する問題で、衆参両院の正副議長が各党・会派から意見聴取を行い、議論が始まった。

 天皇陛下の退位には、全党が理解を示した。意見が割れたのは、皇室典範を改正して、将来の天皇にも適用される恒久的な退位制度を創設することの是非だ。

 自民党は、制度化に必要な要件の設定は、極めて困難だと主張した。「退位は一代に限った対応とするのが望ましい」という意見も提示した。特例法の制定を念頭に置いたものだ。

 仮に、天皇の意思を退位要件とすると、「天皇は国政に関する権能を有しない」と定めた憲法4条に違反しかねない。こうした理由で、制度化に否定的な自民党の姿勢には、うなずける面もある。

 公明党は、天皇の終身在位制は維持されるべきだとしつつ、特例法での対応を支持した。

 民進党は、皇室典範に「天皇はその意思に基づき、皇室会議の議により、退位することができる」との規定を設けるよう求めた。

 憲法2条が、皇位継承は「皇室典範の定めるところ」によると規定していることに照らし、一代限りの特例法は「違憲の疑い」があるとの見解も示した。共産党も皇室典範の改正を主張している。

 自由党は、皇室典範改正を容認する一方で、「本来、摂政を置くことが望ましい」と強調した。

 衆参両院の正副議長は、3月中旬までに国会としての意見を政府に提示する。政府は、有識者会議の提言も参考にして、関連法案を今国会に提出する方針だ。

 憲法は、天皇の地位を「国民の総意に基づく」と定める。退位に関しても、多くの党の合意により、案をまとめることが望まれる。各党が歩み寄る道筋をつけるのが、正副議長の役割だろう。

 自民党は「憲法及び皇室典範と立法措置の関係を明確にする必要がある」とも言及している。

 民進党が指摘する憲法上の問題に配慮し、皇室典範の付則に特例法の根拠規定を新設する案を示唆したものだと言えよう。検討に値するのではないか。

 民進党内には「妥協すべきではない」という強硬論もある。議論を前に進めるには、互いの意見に耳を傾ける姿勢が重要である。

 意見聴取では、皇位の安定的継承の議論を求める声もあった。退位の問題とは別に、女性宮家の創設なども今後、検討すべきだ。

MRJ納入延期 いつまで視界不良が続くのか

 日本の製造業の裾野を広げる国産初のジェット旅客機がまた、つまずいた。開発体制の早急な見直しが求められる。

 三菱重工業が開発中の「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の初号機の引き渡しが、さらに2年先送りされた。延期は今回で5度目である。納入は、当初予定より7年遅れの2020年半ばまでずれ込む。

 国産旅客機開発は、プロペラ機「YS―11」以来、半世紀ぶりで、トヨタ自動車など大企業や政府系金融機関も出資する一大プロジェクトだ。部品供給で中小企業の参画も促し、航空機を製造業の新たな柱に育てる狙いがある。

 繰り返される納入の延期は、日本のもの作りへの期待と信頼を裏切ることになりかねない。

 宮永俊一社長は、延期の理由について「開発前に、安全性のリスク分析を、もう少し勉強すべきだった」と語った。

 社外から招いた米航空機業界出身者の指摘を受け、機体の安全性を高めるための設計変更が必要になったと判断したという。

 MRJは航空当局の型式証明を得るため、飛行試験を米国で始めていたが、開発が最終段階を迎える中で、重大な設計変更に追い込まれた。これまでの開発過程で十分なチェックが行われていなかった、と言わざるを得ない。

 三菱重工は、米ボーイングなど旅客機メーカーへの部品供給で豊富な実績を誇る。だが、部品の約7割を海外から調達し、自ら主体となって設計・製造を手がけるのはMRJが初めてだ。

 開発の迷走を招いたのは、三菱重工が、過去の航空機事業に関する技術や経験を過信したからではないか。組織の縦割り主義による弊害も要因とみられる。

 三菱重工は、子会社の三菱航空機が主導するMRJ開発を宮永社長の直轄事業とし、防衛・宇宙部門トップを子会社の新社長に送り込んだ。遅きに失した感はあるが、受注を優先する体制から開発重視に切り替える狙いは分かる。

 三菱重工は、造船部門でも工事の遅れで2000億円超の損失を計上したばかりだ。海外から受注した大型豪華客船の建造費が当初見込みより膨らんだ。

 社内調査は「大型客船の建造実績に基づく、楽観的で拙速な判断が原因だ」と総括した。

 造船、航空機と主力部門で相次ぐ納入延期は、リスク管理の甘さを露呈している。MRJのテコ入れを機に、社内風土の抜本的な見直しに取り組むべきである。

2017年2月20日月曜日

自由な競争を実現し農業の成長を導け

 政府は昨年11月にまとめた農業改革策を具体化する農業競争力強化支援法案を閣議決定し、国会に提出した。今国会では半世紀ぶりとなる原料生乳の流通改革など、合わせて8つの農業関連法案の成立をめざす。

 農業改革の狙いは自由な競争を実現し、そこから新たな付加価値や生産、流通の合理化を引き出すことにあるはずだ。政府はその目的を後退させず、改革を断行してほしい。

 農業競争力強化支援法案は肥料や飼料、農薬などの農業資材に加え、コメ卸や製粉など流通加工の分野で業界再編を促すことがおもな狙いだ。

 ここで重要なのは、農業資材や農産物の流通で高いシェアを握る全国農業協同組合連合会(JA全農)の事業改革だ。政府は農業資材の分野で価格競争が十分に機能しておらず、韓国などと比べ農家の生産コストが高くなっている現状を問題視している。

 農協の設立目的は農家の経済活動を支援し、農業生産の拡大を後押しすることにある。農業生産にかかるコストや、農産物の出荷経費が少しでも安くなるように努力することは当然だ。全農は政府に促される前に、近くまとめる改革案で自ら農家支援の事業体制を示すべきだ。

 生乳の流通改革も旧弊を改め、自由な競争を実現することが目的だ。安倍晋三首相は今国会の施政方針演説で「事実上、農協経由に限定している補給金制度を抜本的に見直し、生産者の自由な経営を可能にする」と言明した。既得権益を守ろうとする農協の圧力でその方針が曖昧になることがあってはならない。

 イネなどの品種普及を都道府県に主導させる主要農作物種子法を廃止し、品種開発に民間の技術力を取り込む改革も急ぐべきだ。

 旧来型の横並び保護を求める声は根強い。野党は畜産農家の保護を拡充する法案を議員立法で提出した。自民党の中にも環太平洋経済連携協定(TPP)関連法の保護対策を、TPPと切り離して出そうとする動きが見られる。

 しかし、旧来型の保護が競争力を高める農家の努力を阻害し、農業を弱体化させたことを忘れてはならない。飼料米の増産支援なども農業改革の目的に逆行しかねない政策だ。自由な競争で農業を自立した産業へと導く改革を貫いてもらいたい。

注目したいエコカーの新展開

 自動車の環境技術が新たな進展を見せている。過去20年間、動力源が「エンジンを主、電池を従」のハイブリッド車がエコカーの代名詞だったが、その進化形ともいえる次代の技術方式が続々と名乗りを上げ始めた。

 日本車が今後も環境技術で世界をリードし、地球温暖化問題や排ガスによる大気汚染の解決に寄与することを期待したい。

 近年エコカーの分野では海外企業に注目が集まることが多かった。排ガスゼロの電気自動車(EV)では、新興の米テスラの急成長が脚光を浴びた。

 従来型ハイブリッド車から進化した「電池を主、エンジンを従」として走るプラグインハイブリッド車(PHV)については、ドイツ勢が商品投入で先行した。

 だが、ここにきて日本メーカーの取り組みも活発化しており、今後の展開が注目される。

 トヨタ自動車はプラグインタイプの「プリウスPHV」を全面改良し、国内で発売した。ハイブリッド車の生みの親の内山田竹志会長は「プラグインが次のエコカーの大本命」と宣言。電池だけで68キロメートル走るので、夜充電しておけば、ガソリンを一滴も使わず日々の通勤や買い物ができるという。

 日産自動車もエンジンを使って発電し、その電気でモーターを駆動して走る新しい形のハイブリッド機構を開発し、コンパクト車の「ノート」に搭載した。航続距離が短いというEVの弱点を克服しつつ、EVの魅力である静かでスムーズな走りを実現した。

 各社が様々なエコカー開発に力を入れる背景には、米欧や中国における環境規制強化の流れがある。従来型ハイブリッド車や既存エンジンの改良だけでは対応が難しくなりつつあるのが現状だ。

 世界市場の約3割を占める日本の自動車産業はこうした社会的要請を前向きに受け止め、エコカーの開発競争を引っ張ることで、次の飛躍の機会としたい。自力だけでは対応しきれない中堅企業には、大手との連携も必要になろう。

受動喫煙防止 命を守る視点を第一に

 政府が検討中の受動喫煙対策を強化する法案に対し、一部の議員から強い反発が出ている。

 だがそれは、たばこ業界や飲食店の代弁に過ぎず、国民の健康を守るという国の役割を軽く考えているとしか思えない。

 まわりの人のたばこの煙を吸わされる受動喫煙によって、国内では、乳幼児を含めて毎年約1万5千人もの非喫煙者が亡くなると、厚生労働省の研究班は推計している。

 はた迷惑や好き嫌いの話ではない。命の問題である。

 日本も加盟するたばこ規制枠組み条約の指針は、屋内全面禁煙を唯一の解決策としている。法案はその線を貫くべきだ。

 たばこの煙に含まれる物質の害は、遺伝子レベルで明らかになってきている。1万5千人という数字は、人口動態統計の交通事故による死者約6千人を大きく上回る。推計値とはいえ、これだけの命が奪われている重みをかみしめる必要がある。

 厚労省の調査では、受動喫煙の機会は飲食店が最も多く、次いで職場と路上だった。

 焦点の飲食業界は「全面禁煙となれば売り上げが減る」と訴える。果たしてそうか。

 全面禁煙にした国は少なくとも49ある。研究班によると、各国でレストランやバーの営業収入への影響を調べた27の報告では約8割が「変化なし」だ。愛知県が行った飲食店調査でも、自主的に全面禁煙にした店の94%が「変化なし」と答えた。

 全面禁煙ではなく、分煙の徹底と喫煙室の設置で対処すればいいとの意見も根強い。

 だがその場合、たばこを吸わない従業員や相客の健康をどうやって守るのか。煙が漏れず、換気機能の高い喫煙室を設けることができるのか。費用もかかるし、その性能を誰がどうやって保証し維持するのか。

 新しい検査機関などつくろうものなら、全面禁煙は将来にわたって困難になるだろう。

 厚労省は、小規模のバーなどを全面禁煙の例外とする検討をしているようだが、アリの一穴になりはしないか。例外なしの方が公平感も得られよう。

 規制のあり方は明快・単純であることが望ましい。公共の屋内スペースは全面禁煙とし、零細業者への配慮は、違反したときの罰則の適用時期を繰り下げるなどにとどめるべきだ。

 アスベスト(石綿)規制のことを思い起こしたい。発がん性がひろく知られ、各国が使用を禁じた後も、日本は対策を怠り続け、いまも多くの人が呼吸器の病に苦しんでいる。同じ愚を繰り返してはならない。

東京一極集中 このままじゃいけない

 東京一極集中に歯止めがかからない。総務省の人口移動報告で、東京圏の1都3県は昨年も12万人弱の転入超過になった。96年以来、21年連続だ。

 14年に「地方創生」を政策の柱に据えた安倍政権は、具体的な目標として、東京五輪が開かれる20年に東京圏の転出入を均衡させるとしてきた。しかし達成は早くも絶望的な状況だ。

 保育所の不足をはじめ、東京の過密がもたらす問題は深刻で、少子化の一因と指摘される。五輪後は東京も急激な高齢化が進み、医療・介護施設の不足が懸念されている。首都直下型地震も差し迫った危機だ。

 過度の一極集中は日本全体の未来を揺るがしかねない。どうすれば是正できるか。地方創生の5カ年計画の折り返しを迎える今、政策を練り直すべきだ。

 根本的な問題点は、東京に集まり過ぎている行政や経済の機能を、国土全体にどう分散していくか、という骨太の理念がいっこうに見えないことだ。

 地方創生の目玉だったはずの中央省庁の地方移転が、その典型だ。全面移転するのは文化庁のみにとどまった。

 「東京一極でなく、多極を目指す」という理念を明確かつ具体的に示すべきではないか。

 東京への流入が特に多いのは10代後半から20代の若者だ。知名度が高い大学や大企業が多いことが、進学や就職を考えた時に魅力的に映る。交通も便利だ。家賃の高さや子育てのしにくさに目をつぶってでも住みたいという人が少なくない。

 地方に目を転じれば、20の政令指定都市を中心に、一定の社会基盤が整っている地域はある。過密も東京ほどではない。関西などの中核的な都市圏に国の行政機能を分散し、税制面での優遇策などで企業の移転をもっと強く促す。そうした政策が現実的ではないか。

 今の地方創生はもっぱら国が交付金で自治体の奮起を求める相変わらずの中央集権型だ。政府は昨年末から、東京都心部の大学の新増設を抑える検討も始めた。だが卒業後も働きやすく、住みたいと思わせる地方を増やさないと、若い世代の流入を抑える効果は期待薄だろう。

 地方の魅力を高めるには、核となる都市を中心に、各地域の特性を踏まえた策を実行していくしかあるまい。そのためには、地方が自主性を発揮できる権限と財源が欠かせない。

 民主党政権の地域主権改革の頓挫以来、地方分権の議論はすっかり低調だが、いま一度、一極集中是正の方向性と合わせて論じていくべきだ。

農水産品の輸出 官民で日本の「食」売り込もう

 安全で品質の高い日本の農水産品をもっと海外に届けたい。

 農林水産物・食品の2016年の輸出額は、前年比0・7%増の7503億円だった。

 4年連続で過去最高を更新したが、前年まで続いた2ケタの伸びがほぼ横ばいにとどまった。

 水産物の不漁が響いた。輸出の1割近くを占めるホタテが台風などの被害を受け、カツオ・マグロの水揚げも振るわなかった。

 農水産業は自然条件に左右される。家族経営が多く、生産販売態勢が十分ではない問題もある。

 輸出を着実に伸ばすには、売れる品目を増やし、安定供給する仕組みの構築が欠かせない。

 政府は、輸出額を19年に1兆円に引き上げる目標を掲げる。山本農相は、その達成が「今の歩みではなかなか難しい」と認める。

 テコ入れ策として、海外での宣伝、輸出業者の支援、物流対策などを挙げる。いずれも重要だ。

 輸出振興につながる様々な試みはすでに始まっている。

 シンガポールの百貨店では、日本政府の支援を受けた農水産品ショップが消費者の反応を探る。日本貿易振興機構(ジェトロ)は日本の生産者に海外の買い付け業者を紹介する事業を手がける。

 こうした地道な取り組みを、点から面に広げる必要がある。

 輸出が伸び悩む中でも、和牛が人気の牛肉や、和食ブームを反映した緑茶や日本酒などは好調だ。今後も新たな海外需要の掘り起こしがカギを握るだろう。

 政府や自治体、企業が役割分担し、様々なルートでの日本ブランドの売り込みが求められる。

 多くの国内農家が手がけるコメは、ほとんど輸出されていない。昨年の輸出額は27億円と、全体の0・4%にすぎない。

 割高な高級米が中心で、新興国などで敬遠されると指摘されている。生産者も、手間のかかる輸出用米を作るより、補助金の手厚い飼料用米に目が向くのだろう。

 農協の商社機能を担うJA全農は、輸出の専門部署を設けるという。先進的な農家の輸出ノウハウを共有し、生産者の支援に力を尽くしてもらいたい。

 世界的にみると、日本の農産物輸出額は13年時点で60位だ。上位を目指すには、食文化と食品を一体的に売り込み、10位に食い込むイタリアの戦略が参考になる。

 日本農業は、就業者の減少と高齢化に歯止めがかからない。輸出振興で「稼ぐ農業」を実現することが活性化への一助となろう。

米・イスラエル 関係改善を中東和平に繋げよ

 イスラエルとパレスチナによる中東和平をどう実現するのか。米国の役割が問われよう。

 トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が初の首脳会談を行った。オバマ前政権が進めたイラン核合意を巡り、冷え込んでいた関係を改善することで一致した。

 トランプ氏は記者会見で、歴代米政権が20年来、目標としてきた「2国家共存」に固執しない意向を示した。「2国家と1国家の両方を検討しているが、両当事者が望む形が好ましい」と述べた。

 「2国家共存」は、将来樹立されるパレスチナ国家がイスラエルと平和的に併存する構想だ。国際社会は、この案を後押しする。安倍首相も衆院予算委員会で「わが国が支持する方針に変わりはない」と強調した。

 トランプ氏がどこまで熟慮したかは定かではないが、イスラエル寄りの姿勢を明示し、和平プロセスを活性化させたいのだろう。

 ネタニヤフ氏は、連立政権内の強硬派から「2国家共存」案の放棄を迫られ、苦しい立場にある。記者会見でも「新しい方策が必要だ」と主張した。

 注目すべきは、トランプ氏が過去の偏った発言を修正し、現実的な考えをのぞかせたことだ。

 米大使館をテルアビブからエルサレムに移転させるとの公約は、「慎重に検討している」とトーンダウンさせた。イラン核合意は「最悪」としつつ、「破棄」には触れなかった。中東の不安定化を招く恐れを理解したのだろう。

 パレスチナ占領地で、ネタニヤフ政権がユダヤ人入植地の建設を拡大していることに対しては、「少し自制してほしい」と、直接苦言を呈した。「和平交渉成功のために、両当事者は妥協しなければならない」と注文も付けた。

 交渉は、入植活動が阻害要因となり、頓挫したままだ。ネタニヤフ氏は、米国との強固な関係を基に強硬派を抑え込み、交渉再開に繋(つな)げねばなるまい。

 トランプ発言への反発により、イスラエルを標的とするテロの増加が懸念される。パレスチナ自治政府のアッバス議長は、「2国家共存」の堅持を明言する一方、米国と協力する用意を表明した。

 パレスチナを支持するサウジアラビアやヨルダンなどのアラブ諸国も静観している。敵対するイランへの対処やテロ組織掃討などで、米・イスラエルとの連携を視野に入れているのではないか。

 アラブの国々を和平プロセスに関与させる努力が欠かせない。

2017年2月19日日曜日

揺らぐ香港の「一国二制度」

 香港政府トップである行政長官を決める選挙が、3月26日投票に向けて本格化する。中国政府が香港に約束した「一国二制度」の下での高度の自治が、真の意味で機能しているのか問い直す良い機会である。

 1月下旬、多くの香港市民が不安を感じる事件が起きた。高級ホテルから中国出身の著名な大富豪が失踪した問題だ。中国当局の関係者に強要される形で大陸に連れ出されたとみられている。

 香港では先に中国に批判的な書籍を扱う銅鑼湾書店の関係者らが次々、連れ去られた。一連の事件が浮き彫りにした香港の法規を無視した越権行為は「一国二制度」の根幹に関わる。それは国際的な信用にも影響しかねない。

 中国は1997年の返還の際、香港の有権者「1人1票」の普通選挙を将来、導入すると公約した。だが2014年、事実上、親中派しか出馬できない制度を一方的に示す。反発した学生らは真の普通選挙を求め長期間、道路を占拠した。いわゆる「雨傘運動」だ。

 習近平指導部はかたくなだった。制度改革は白紙に戻り、今回の選挙も従来の間接方式で実施する。親中派が多数の選挙委員会(定数1200)で選ぶ仕組みでは、中国政府の意向が反映される。現職の梁振英氏は出馬せず、前政務官の林鄭月娥氏、前財政官の曽俊華氏らが立候補を表明している。

 香港の若者らは奇怪な「連れ去り事件」を目の当たりにし、将来に強い不安を抱いている。中国は今年後半、共産党大会の最高指導部人事を控えている。一連の事件の裏には、中央の権力を巡る闘いがあるとの見方も多い。だからといって香港の高度の自治をないがしろにしてよいはずがない。

 「一国二制度」は、香港の繁栄が大陸の発展を後押しするとの理念に支えられてきた。香港の自由な雰囲気が消えれば都市の魅力は半減し、世界から資本や人材も集まらなくなる。香港は今後の選挙戦を通じて高度な自治を守る決意を新たにする必要がある。

企業は最高益に安住せずさらに強さ磨け

 日本企業が効率よく利益を上げる体制を整えつつある。強みを持つ事業や製品に経営資源を集中させることにより、売り上げが伸び悩んだり、環境が急に変わったりした場合に備える動きだ。企業はこの流れを途切れさせることなく、事業基盤をさらに強固なものとしなければならない。

 本紙集計によれば上場企業の2017年3月期は売上高が3%減る一方、純利益は11%増えて2期ぶりに過去最高となる見通しだ。減収増益の決算が示すものは、ここ数年で日本企業が進めた事業再編や合理化の効果だ。

 日立製作所は物流や金融といった本業と関係の薄い事業を切り離すことにより、収益力の向上をはかってきた。その結果、今期は売上高が10%減りそうだが、経営の効率化が寄与し純利益は16%増えると見込んでいる。

 日立は非中核と位置づけた黒字の子会社、日立工機の売却も決め、インフラ事業などに集中する方針を改めて示した。得意分野をさらに強くする姿勢は他の日本企業の刺激ともなり、業種を越えて広がっている。

 たとえば不採算品を減らしてきた三井化学は今期、1割の減収だが10期ぶりの最高益となる見通しだ。機能性肌着の販売に力を入れたグンゼは2%の微減収にもかかわらず、最終損益が黒字に転換するという。

 世界経済の不透明感がいまひとつ晴れないため、景気が多少回復しても必要以上には規模の拡大は追わない。減収増益の決算の背景には、こんな経営判断もはたらいているのだろう。なんといっても心配なのは、自国優先の姿勢を崩そうとしないトランプ米大統領の経済政策だ。

 輸出企業の税負担を軽くする一方、輸入企業への課税を重くする措置が米国で導入された場合、日本の自動車メーカーが打撃を受けるのは避けられそうにない。トヨタ自動車などの16年4~12月期決算は、収益の北米依存が浮き彫りになった。

 英国が欧州連合(EU)からの離脱を通告する時期も近づきつつある。欧州全域での生産・販売体制を再検討する必要に迫られている企業も多い。

 米欧の経済と政治に懸念がくすぶるなか、企業の最善策は環境に左右されにくい収益構造を築くことだ。自らの強みを見きわめ、磨きをかける必要がある。

米政権1カ月 混乱深めたトランプ流

 過激な発言に眉をひそめつつも、「大統領になれば、腰を据えて政策に取り組んでくれるのでは」と予想した向きも少なくなかっただろう。

 その期待は、就任1カ月を前に急速にしぼみつつある。

 政権の混乱は深まる一方だ。トランプ大統領のみならず、側近らの軽率さが目に余る。

 国家安全保障担当の大統領補佐官は、就任前に駐米ロシア大使と対ロ制裁について協議していた疑惑が発覚、辞任した。

 別の高官は、トランプ氏の娘が手がける衣料ブランドの購入をテレビで呼びかけ、懲戒勧告を受けた。「メディアは黙っていろ」とすごんだ高官もいる。

 国の安全保障の中枢を担う緊張感、公人としての倫理観、説明責任を果たす自覚を欠いた振るまいに、あぜんとする。

 公職を担う資質より、選挙の論功行賞で腹心を要職に配した責任はトランプ氏にある。

 大統領と閣僚、高官同士の発言がしばしば食い違うのも問題だ。ロシアを「脅威」とするマティス国防長官に対し、トランプ氏はプーチン大統領を「尊敬している」と繰り返す。

 練られた政策なのか、政権内でどんな認識が共有されているのか、疑念は深まるばかりだ。

 混乱の源はトランプ氏自身の政治手法にある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱、メキシコ国境への壁建設、中東・アフリカ7カ国からの入国一時禁止などの大統領令を矢継ぎ早に繰り出した。

 国内雇用の保護、移民の規制、テロ対策など選挙中の公約をただちに実行に移し、指導力を印象づける狙いだろう。

 だが、自由貿易体制を後退させるリスクや、隣国関係への悪影響、現場の混乱や憲法に抵触する恐れなど、中身の吟味が尽くされた形跡はない。

 疑問を呈した高官を解任し、批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶりは、およそ自由主義のリーダーの姿とは言えない。

 熱心な支持層ばかりを喜ばせる政策を並べる手法は、米社会の分断を広げ、米国の国益や信頼を損なうことを、トランプ氏は悟る必要がある。

 実際、論争を呼ぶ政策や人事が、党派を超えた協力をより難しくさせ、議会での閣僚承認が滞る悪循環を招いている。

 「全ての米国民の大統領になる」「支持しなかった人にも助言と支援を求めたい」。トランプ氏は、当選の日に語った初心から出直すべきだ。もちろん政権をチェックする議会やメディアの役割はますます重い。

家庭教育法案 なぜ今、何のために

 いま、このような法律をつくる必要がどこにあるのか。

 自民党が今国会への提出をめざしている「家庭教育支援法案」のことだ。

 家庭における教育を支援するために、国や自治体、学校・保育所の設置者、さらには地域住民の責務や役割を法律で定めるという。家族がともに過ごす時間が減ったり、家庭と地域の関係が薄まったりしていることを制定の理由にあげている。

 確かに一人親や経済的に余裕のない家庭が増え、虐待や家庭内暴力の相談も絶えない。そうした人々のサポートに、従来以上に力を注がねばならない。

 だが法案に書かれている施策は、学習機会や情報の提供、相談体制の整備など、国や自治体がすでに取り組んでいるものばかりだ。それらを着実に進めればよいのであって、あえて法律をつくる意図は何か、疑いの目を向けざるを得ない。

 というのも、家庭や家族の意義をことさらに強調し、思い描く「あるべき家庭像」を人々に押しつけようとする、この間の自民党や政権の逆立ちした発想と施策があるからだ。

 第1次安倍内閣で成立した改正教育基本法は、「家庭教育」の名のもと、父母ら保護者の責任を定める条文を新設した。政府の教育再生会議は、子育て指南として「子守唄を歌い、おっぱいをあげる」との提言をまとめようとして批判を浴びた。

 自民党改憲草案は「国民は、個人として尊重される」の「個人」を「人」に変え、憲法の基本理念をあいまいにする一方、「家族は、互いに助け合わなければならない」と書く。

 今回の法案づくりでも自民党は当初、子どもに「国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにすること」を家庭の役割と位置づけていた。

 底を流れるのは、まず国家や社会があり、その役に立つ人材を育てるために家庭がある。そして、そのような家庭を築く目標に向けて、国などは支援をするという考えだ。

 法案を先取りする形で、家庭教育に関する条例を設ける動きが全国の自治体に見られるが、中には「祖父母の役割」にまで言及しているケースもある。

 求められるのは、法律をつくって国民や家庭をひとつの鋳型にはめることではない。

 さまざまな生き方や家族の姿があることを認めたうえで、困難をかかえる家庭を福祉や医療につなぎ、貧困や経済不安の解消をめざす。国や自治体の役割は、本来そうした環境整備にあることを改めて確認したい。

日米韓外相会談 対「北」国際圧力を強化せよ

 北朝鮮の暴走を止めるため、国際社会の圧力を一層強めねばならない。その先頭に立つべきは、日米韓3か国である。

 岸田外相がドイツでティラーソン米国務長官、韓国の尹炳世外相と会談した。12日の北朝鮮の弾道ミサイル発射について「最も強い表現で非難」する3か国共同声明を発表した。

 岸田氏は「日米韓が団結し、北朝鮮に断固たる姿勢を示すとともに、国際社会の対応をリードしなければならない」と強調した。

 トランプ米政権の発足後、3か国外相が会談するのは初めてだ。日米首脳会談で同盟強化で合意した直後に、韓国を交えて固い結束を確認した意義は大きい。

 北朝鮮は、米本土に到達する弾道ミサイルの完成に近づいているとの見方がある。米国は危機感を持ち、軍事的な圧力を強める構えで、安倍首相は「米国の姿勢はより厳しくなる」と指摘する。

 北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させるには、日米韓や中国などによる北朝鮮包囲網の実効性を高めることが欠かせない。

 外相会談では、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議について、「全ての国が義務を完全かつ効果的に実施する」ため、日米韓が連携する方針で一致した。特に重要なのは、原油供給などで北朝鮮を支えてきた中国の対応である。

 岸田氏は中国の王毅外相との会談で、「責任ある安保理常任理事国として、建設的な対応を求める」と述べた。石炭輸入制限など、厳格な制裁実施を求めたものだ。

 王氏は「中国は決議をきちんと履行している」と反論した。

 しかし、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止できなかった要因の一つは、中国の従来の制裁実施が不完全だったことにある。

 中国は、その点を深刻に受け止め、北朝鮮に対する働きかけにもっと本腰を入れるべきだ。

 岸田氏は尹氏との個別会談で、韓国・釜山の日本総領事館前に設置された、慰安婦を象徴する少女像の撤去を求めた。

 尹氏は、少女像について「外交儀礼に鑑(かんが)みて適切ではない。最大限の努力を行う」と語ったが、撤去は確約しなかった。

 重要なのは、言葉ではなく、具体的な行動である。少女像を設置した民間団体や地元自治体との協議に早期に動いてもらいたい。

 長嶺安政駐韓大使の一時帰国は1か月を超え、長期化している。対北朝鮮政策で日韓の連携を密にするためにも、韓国側の真剣な対応が求められる。

部活動の休養日 楽しんでこそのスポーツだ

 適度な練習により、生徒や指導教員が楽しく、前向きに取り組める部活動にしたい。

 中学や高校の運動部の活動に関し、文部科学省は、休養日を適切に設けるよう教育委員会に通知した。

 スポーツ庁が約1万600の中学校を対象に実施した調査で、2割が週に1日も休養日を設けていないことが分かった。東京や大阪では6割超に上った。

 行き過ぎた部活動は、身体の故障や精神的な「燃え尽き」につながる。疲れ切って、勉強が疎おろそかになっては、本末転倒だ。文科省が「生徒、教員ともに、様々な無理や弊害を生む」として、改善を求めたのは、もっともである。

 部活動は学校教育の一環だ。学習指導要領は、学習意欲の向上や責任感、連帯感を育むのに役立つ、と謳うたっている。練習や試合を通して培った友情が、大きな財産となっている人も多いだろう。

 部活動は、アスリート養成の役割も担う。競技力向上の最前線として、猛練習を容認する風潮が少なからずある。各競技の名門校で、特にその傾向が強い。

 政府の有識者会議が1997年に、「中学は週2日の休養日、土日の練習は3、4時間以内」といった指導例を示したものの、十分に浸透していないのが現状だ。

 より多くの生徒がスポーツに親しむ環境作りのために、部活動の在り方を見直すべきだ。トップ選手を目指す生徒の受け皿としては、地域や民間のクラブなどを充実させることが求められる。

 部活動は、教員を多忙にする大きな要因でもある。練習や試合への引率などで時間を割かれる。

 横浜市教委は一昨年、「部活ノーデー」を設けた。大阪府教委は、府立校に週最低1日の休養を義務付ける試みを1月から始めた。

 スポーツ庁も、医学の観点を取り入れた調査を実施した上で、練習時間や休養日に関する新たな指針を新年度に策定する。

 確実に改善するためには、教諭以外の外部人材を積極的に活用することが欠かせない。

 少年野球チームの監督や各競技の元選手らを指導者として受け入れている自治体もあるが、身分や責任は必ずしもはっきりしない。教員ではないため、大会への引率ができないケースも多い。

 文科省は、学校教育法の施行規則を改正して、法的立場を明確にした「部活動指導員」の配置を促し、問題点を解消する方針だ。

 適切な指導を徹底させて、つら過ぎる部活動をなくしたい。

2017年2月18日土曜日

現実を直視した帰還困難区域の復興を

 東京電力・福島第1原子力発電所の事故で立ち入りが制限されている帰還困難区域について、政府は復興の指針となる特別措置法の改正案を国会に提出した。区域内に復興の拠点を設け、5年後をめどに避難の解除をめざす。除染にかかる費用は東電に代わって国が負担することも盛った。

 帰還困難区域の復興に向けてはまずこの地域の現実を直視する必要がある。帰還を望む住民が減っているなか、復興拠点を地域の再生にどうつなげるのか、政府はその道筋を示すべきだ。除染への国費投入についても、その理由を丁寧に説明することが欠かせない。

 2011年の福島原発の事故後、双葉町や浪江町など7市町村が帰還困難区域に指定され、この地域だけでいまも2万人以上が避難を続けている。政府の方針では、市町村が特定の地区を選んで復興拠点とし、国が認定して除染やインフラ再建に取り組むとした。

 事故から6年近くたち、帰還困難区域の中でも放射線量がかなり下がってきた場所がある。一律に帰還困難とするのでなく、拠点を設けて復興の足がかりとする考え方自体は妥当だろう。

 重要なのは、どこを拠点に選び、どんな将来像を描くか、住民の声をきめ細かくくみとり、計画に反映させることだ。

 県外を含めて他の地域に避難している住民の中には、移転先で生活再建をめざしている人も多い。復興庁などが避難者の意向を聞いたところ、帰還を希望する住民は1~2割にとどまり、「戻らない」とした人が半数を超える。

 復興拠点がコミュニティーとして機能するには、もともとの居住者が戻るだけでなく、拠点の外から移り住む人を集められるかがカギを握る。商店や医療機関などを呼び戻し、産業や雇用をどのように再生するかも大きな課題だ。

 除染への国費投入についても政府が説明を尽くすべきだ。復興庁などは「公共事業として除染とインフラ整備を一体的に進める」と説明している。だが福島原発の廃炉や賠償で東電が負担する費用が予想以上に膨らんだ末の、事実上の東電救済である面は否めない。

 東電の負担だけでは福島の除染や復興が進まない現実を包み隠さず説明し、国民の理解を得るべきだ。市町村が立てた計画を国が認定する際にも、国民から幅広く意見を募るなど、透明性の高い手続きが欠かせない。

「2国家共存」を放棄するな

 パレスチナ人が自分たちの国を持ち、隣り合うイスラエルと共存する。長い対立と流血の末にたどりついた、パレスチナ問題を解決に導く和平の道である。これを放棄してはならない。

 米国のトランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、「2国家でも、1国家でも、双方が望む方でいい」と語り、パレスチナ国家とイスラエルの「2国家共存」にこだわらない考えを示した。

 2国家共存をパレスチナ問題の唯一の解決策としてきた米歴代政策からの唐突な転換である。

 イスラエルとアラブ諸国は、1948年のイスラエル建国以来、何度も戦火を交えてきた。パレスチナ紛争はイスラエルとアラブの対立の核心にある問題だ。

 パレスチナ国家の樹立による和平に道を開いた93年のパレスチナ暫定自治宣言を仲介したのは米国だ。その後のイスラエルとパレスチナの交渉は順調ではなかったが、独立国家はパレスチナ人の悲願である。反発は当然だろう。

 イスラエルに影響力を持つ米国が、2国家共存の旗を降ろせば、イスラエルによる占領地の固定化を許すことになりかねない。ネタニヤフ政権はヨルダン川西岸などへの入植地拡大を続けている。その撤去は一段と難しくなる。

 心配なのは、トランプ大統領が米国大使館をエルサレムに移す意欲を見せていることだ。エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教それぞれの聖地だ。

 イスラエルは67年に東エルサレムを占領した。エルサレムを「永遠の首都」と主張するが、国際社会は認めていない。日米はじめ、各国はテルアビブに大使館を置いている。米国が大使館を一方的にエルサレムに移せば、イスラム世界全体の怒りを招くだろう。

 トランプ大統領とネタニヤフ首相は弾道ミサイルの開発を続けるイランへ厳しく臨む考えで一致した。米政権のイスラエルへの過度の肩入れが中東の緊張を高めることにならないか懸念する。

民進党 「脱原発」の旗を鮮明に

 安倍政権との対立軸を鮮明に示せるかどうか。民進党が正念場を迎えている。

 次の衆院選に向けて、蓮舫代表の執行部が検討する「2030年原発ゼロ」をめぐり、党内から賛否両論が出ている。

 従来の民進党の原発政策は、あいまいさが指摘されてきた。

 将来的な原発ゼロを目標とするものの、「30年代原発ゼロに向け、あらゆる政策資源を投入」という幅のある表現を使ってきた。背景には、党内に「脱原発派」と、電力などの労働組合出身議員ら「原発容認派」が共存する実情がある。

 安倍政権は原発維持の姿勢を変えないが、世論は原発を使い続けることに否定的だ。原発再稼働の是非について聞いた昨年10月の朝日新聞の世論調査では57%が反対し、賛成は29%に過ぎない。

 蓮舫執行部が検討している「30年」への前倒しは、想定より速いスピードで節電が進んでいることなどを受けて可能と判断したという。

 「原発ゼロ」の到達目標を、具体的に示すことには意義がある。ただ、民進党に求められるのは、それにとどまらない。

 目標達成への道筋として、稼働期間を限る「40年廃炉」をどう徹底するか。核燃料サイクルや原発輸出はどうするのか。再生可能エネルギーの普及や節電をどう促していくか。

 「原発に頼らない社会」の青写真を実現可能な選択肢として描き、説得力あるかたちで国民に示すことが求められている。

 思い起こすべきは昨年10月の新潟県知事選だ。原発再稼働に慎重な米山隆一氏が、共産、自由、社民3党の推薦を受け、与党系候補を破って当選した。

 民進党はこの選挙で自主投票に終わった。支持組織である電力総連などが加盟する連合新潟が、対立候補を支持したことに配慮したとされる。

 だが、朝日新聞社が実施した出口調査では、民進党支持層の85%が米山氏に投票していた。支持層の期待と、党の判断の落差の大きさが読み取れる。

 今回、民進党が脱原発でさらに踏み込むことができれば、昨年夏の参院選で一定の成果をあげた野党3党や市民との共闘を、次期衆院選へとつなぐ旗印ともなりうるだろう。

 もちろん、党内や支持組織の労組などを丁寧に説得する努力は欠かせない。そのうえで、脱原発を望む民意にこたえる結論を出せるかどうか。

 民進党はどこに立脚し、何をめざす政党なのか。そのことが厳しく問われている。

韓国の財閥 政経癒着からの脱皮を

 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領をめぐる疑惑が同国最大の財閥に飛び火した。

 サムスングループの事実上のトップで、サムスン電子副会長の李在鎔(イジェヨン)容疑者が、贈賄などの疑いで逮捕された。

 李副会長は、グループ内の企業合併に政府の協力を受け、その見返りに、朴氏の知人に巨額の資金を提供したとされる。

 日本企業にとってサムスンはライバルであると同時に、多くの部品などを取引する大切なパートナーでもある。

 グループの年間売上高は、国内総生産(GDP)の約2割を占めるといわれる。文字どおり韓国経済の牽引(けんいん)役だ。

 それだけに、逮捕は国内外に衝撃を与えている。政権の疑惑を機に、巨大な権益をもつ財界への国民の怒りが背景にあるのも確かだ。司法当局は、冷静に事実の解明を進めてほしい。

 今回の事件をきっかけとして、韓国の政財界が真剣に取り組むべき課題がある。それは、政治権力と財閥の関係の見直しである。

 韓国は朝鮮戦争を経て、貧困のふちから今日までめざましい発展を遂げた。だが、80年代後半に軍事独裁の時代が終わりを告げた後も政治と財閥は持ちつ持たれつの関係を続けてきた。

 政権側は金融面や税務調査で財閥ににらみをきかす一方、規制の適用を見送ったり、ゆるめたりして恩恵を与える。財閥は政治資金を提供し、政府が進める事業への資金の捻出にも応じる――。こんな構図が常態化してきた。

 労働界も財閥系であるかないかで二分され、それが著しい貧富の格差の拡大につながったと指摘されている。政財界の癒着の構図は、その恩恵と縁のない国民の不満を募らせ、社会の不安定要因になっている。

 民主化宣言から今年で30年。政治の民主化に続く「経済の民主化」を求める声は根強い。

 弾劾(だんがい)の瀬戸際に立たされている朴大統領も、選挙戦では経済民主化を公約に掲げて当選した。だがその後、財閥改革に本腰を入れたとは到底言えない。

 韓国経済はいま、先行きに暗雲が漂っている。サムスン電子はスマートフォンの発火事故で打撃を受けた。海運最大手の韓進海運は裁判所から破産宣告を受けた。

 次期大統領選に向けて動き始めた有力候補らは、財閥改革の訴えを強めている。大統領の弾劾の行方がどうであれ、韓国は持続可能な発展と社会の安定のために、政治と財閥の関係の健全化を急ぐ必要がある。

トランプ外交 現状では対露融和に動けない

 ロシアのプーチン政権の強権的な外交手法に変化はない。トランプ米政権の無節操な対露接近が見直しを迫られているのは当然である。

 ティラーソン米国務長官が、ドイツのボンで、ラブロフ露外相と初めて会談した。ロシアが軍事介入するウクライナ東部の紛争に関して、停戦合意の履行を求めた。米国による対露制裁の解除は議論しなかったという。

 ロシアとの連携は、「米国民に利益をもたらす分野」に絞って、実務的に進める方針を示した。

 シリア内戦の収拾や過激派組織「イスラム国」の掃討で、米露が歩み寄ることは欠かせない。だが、ロシアから協力を得る見返りに、制裁を安易に解除することがあってはなるまい。

 トランプ大統領は「プーチン大統領を尊敬する」と公言し、対露批判を避けてきた。その野放図な融和路線は政権の不祥事を招き、早くも壁にぶち当たっている。

 外交・安全保障政策のとりまとめ役で、米露協調の先頭に立っていたフリン大統領補佐官が更迭された。就任後、1か月足らずでの交代は前代未聞だろう。

 政権発足前に、駐米ロシア大使と電話で話し、制裁見直しを密約したとされる。疑惑の発覚後、ペンス副大統領に釈明した際、虚偽の報告を行っていた。

 昨年の米大統領選の最中に、トランプ氏陣営の幹部がロシアと接触した疑いも報じられている。オバマ前政権が「ロシアによる選挙介入」と断じたサイバー攻撃と時期が重なる。司法当局や米議会は真相究明を急がねばならない。

 トランプ氏は、一連の疑惑を否定し、「偽ニュース」だと主張した。「間違った報道のせいで、ロシアとの交渉がはるかに難しくなった」とも語った。側近の失態を認めず、メディアの報道姿勢を問題視するのは筋違いである。

 懸念されるのは、外交・安保担当の高官ポストの多くが、いまだに空席であることだ。トランプ氏を批判した共和党系の元政府高官が人選から排除されている。これでは適材適所の人事は難しい。

 黒海を航行中の米駆逐艦に対するロシア軍用機の接近が確認された。欧州を射程に入れる露の新型巡航ミサイルの実戦配備も報道された。米露は、軍制服組のトップ会談を踏まえて、偶発的な衝突の防止に努めるべきだ。

 ロシアが今後も、硬軟両様で揺さぶりを続けるのは間違いない。トランプ氏に求められるのは、冷静な対露戦略である。

GDPプラス 外需主導リスクに注意が要る

 景気は緩やかな回復が続いているが、力強さは感じられない。

 持続的な安定成長へ、消費を中心にした内需の底上げが急がれる。

 内閣府が発表した昨年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0・2%増、年率換算では1・0%増だった。前期よりは減速したが、4四半期連続でプラス成長を維持した。

 その要因は、外需の好調さにある。輸出は前期比2・6%増、年率では11%の高い伸びとなった。米国や中国向けの自動車などが堅調だった。輸出の増加に支えられ、企業の設備投資も2四半期ぶりにプラスに転じた。

 円安・株高が進んだ「トランプ相場」による業績改善も、追い風となった。安倍首相とトランプ大統領の日米首脳会談で、為替や貿易問題での衝突が回避され、市場には安心感が広がっている。

 ただ、外需頼みの成長にはリスクもある。新設する日米経済対話において、通商分野などで強硬な要求が突きつけられ、自動車などの輸出産業が影響を受ける懸念は拭えない。米側の出方を注意深く見守ることが欠かせまい。

 首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)の意義を説いたが、トランプ氏は離脱を翻意する気配を見せていない。世界経済の発展には多国間の自由貿易が不可欠で、米国の国益にもかなうことを、粘り強く説得する必要がある。

 GDPの6割を占める個人消費は、0・01%減と4四半期ぶりのマイナスになった。外食などの飲食サービスは好調だったが、天候不順による生鮮野菜の急騰が消費者心理を冷やした。冬物衣料の売れ行きも振るわなかった。

 給与などの実質雇用者報酬の伸びは前年同期比2・0%増にとどまり、前期の2・9%増から鈍化した。消費者の財布のヒモが緩むには、物価の伸びを上回る賃上げを継続することが大切だ。

 今年の春闘で、労組側は給与を底上げするベースアップを求めている。一方、企業側には賞与などを含む年収を重視する声が強い。固定費上昇を避けたい事情はわかるが、各企業は消費刺激効果の高いベアに努めてもらいたい。

 非正規雇用者の待遇改善や正社員化などで、雇用・所得環境の継続的改善も図らねばならない。

 賃上げの原資を稼ぐため、企業の生産性向上も重要だ。新産業育成につながる規制改革を加速したい。政府は、人工知能などの活用を柱とした「第4次産業革命」への支援を着実に実施すべきだ。

2017年2月17日金曜日

自治体による民泊の規制は最小限に

 個人住宅の空き部屋などに旅行者を有料で宿泊させる「民泊」について、政府や自民党に、自治体が独自に条例を定め稼働日数を制限できるようにしようという動きがある。民泊は観光地としての魅力を高め、個人の持つ資産の活用にも道を開く。営業日数などの規制は最小限にとどめるべきだ。

 政府は今国会に民泊解禁のための新法を提出する予定だ。この中に、営業日数を年間180日までと明記したうえで、生活環境悪化の防止などを理由に、個々の自治体が上限日数をさらに短く定められるとの項目を盛り込む方向で検討が進んでいる。

 旅館業界は民泊の合法化にかねて反発しており、解禁する場合でも稼働日数を短く制限すべきだと主張してきた。仮に自治体が上限をゼロ日と定めれば、一部の特区を除き、その地域での合法的な民泊はできなくなる。有名観光地などで民泊が事実上、不可能になる事態も考えられる。

 訪日外国人は増えたが旅館の稼働率は伸び悩んでいる。旅館業界は新興勢力を警戒するより、外国人客の取り込みを工夫し、日本の宿泊業全体の魅力向上につなげてほしい。政府は旅館業を保護するのではなく、設備などへの過剰な規制を緩和し、コスト負担を下げるといった形で支援すべきだ。

 民泊での滞在を希望する外国人には、日本のファンとなり、普通の日本の生活を体験したい人も多い。子供が独り立ちした後の部屋にそうした旅行者を泊めれば外国人は喜び、家主は外国人と交流できるうえに収入も得られる。これが民泊本来の姿だ。

 自治体が地域の特性にもとづき民泊について判断するのはもっともだ。一方で、民泊への過度な規制は、地域の住民の資産活用や国際交流の道をせばめるという側面もある。

 仮に自治体による営業日数の制限を可能にするとしても、規制は最小限にとどめてはどうか。既存の業界を保護するために新サービスの芽を摘むとしたら、長い目でみて地域の活力をそぐことにつながりかねない。

 民泊をはじめ、個人の資産や技能を多くの人と共有し生かす「シェアリングエコノミー(共有型経済)」が各国で広がっている。外国人観光客の誘致も、アジアなどの経済成長を国内に取り込むのに有効だ。民泊という新しい文化をうまく生かしたい。

北の独裁体制に警戒怠れぬ

 マレーシア政府が同国の空港で殺害された男性について、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏と確認したと表明した。搭乗手続き前に襲われ、毒物で暗殺されたとみられる。

 韓国の情報機関は、正恩氏が5年前から正男氏の殺害を指示していたとし、北朝鮮が事件に関与した可能性が濃厚とみている。事実であれば、独裁色を強める正恩体制の恐怖政治の実態が、改めて浮き彫りになったことになる。

 正男氏は故金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男だ。かつて後継者と目されたこともあるが、2001年に偽造旅券で日本に入国しようとして発覚。父の怒りを買い、後継者争いから脱落した。近年は主に東南アジアや中国を拠点に暮らしていたようだ。

 正恩氏による権力継承後は政治的発言も控えており、北朝鮮の統治体制に脅威を与える存在ではなかったとの見方が根強い。

 むしろ、権力に執着する正恩氏の「偏執狂的な性格」が背景にあるというのが韓国の情報機関の見立てだ。現に正恩氏は権力を握って以降、後見人でナンバー2とされた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)氏を処刑するなど、側近らを次々と粛清してきた。

 また北朝鮮がかねて、ビルマ(現在のミャンマー)訪問中の韓国閣僚らが爆死したラングーン事件のほか、大韓航空機爆破事件、日本人拉致事件など、国際テロや無法行為を繰り返してきた経緯も忘れてはなるまい。

 正男氏殺害の背景、北朝鮮工作員の関与の有無など不透明な部分はなお多い。マレーシア当局の捜査の行方を見守る必要があるが、時代錯誤ともいえる特異な独裁国家が北東アジアに存在するという現実は改めて認識すべきだろう。

 しかも、北朝鮮は核兵器やミサイル開発を着々と進めている。日米韓や中国など周辺国は、その暴走に歯止めをかけるうえでも北朝鮮の脅威の深刻さを共有し、警戒を強めていく必要がある。

米国と中東 「2国家」が和平の道だ

 中東地域の紛争の根源にあるのは、イスラエルとパレスチナの歴史的な対立である。

 その解決へ向けて国際社会は長年の努力の末に、目標を定めた。いまは国を持たないパレスチナが国家を樹立し、イスラエルと平和的に共存する――。

 「2国家共存」と呼ばれる、この構想こそ、今もめざすべき中東和平の姿である。

 ところが、トランプ米大統領はその転換も辞さない発言をした。イスラエルのネタニヤフ首相との会見で、「2国家共存と1国家を検討している。双方が望む方でいい」と述べた。

 パレスチナ側やアラブ諸国と綿密な調整をした様子はない。世界の安全保障にも直結する中東政策について、唐突に変更を口にするのは軽率に過ぎる。

 トランプ政権はそもそもイスラエル側への過度な肩入れが心配されていた。米国が仲介者としての信頼を失えば、中東和平は完全に遠のく。トランプ氏はその重責を自覚すべきだ。

 確かに和平の動きは停滞している。この間、ネタニヤフ政権下で、パレスチナ側の地域への入植が一方的に広げられた。

 「2国家共存」の実現をむずかしくする強硬策をたしなめるのは、米国の役割の一つだ。だが、明確に苦言を呈したオバマ前政権から立場を変え、トランプ氏は入植について「少し自制を」と述べるにとどまった。

 さらに憂慮されるのは、米国大使館の移転計画だ。米国をはじめ多くの国は、イスラム教の聖地でもあるエルサレムをイスラエルの首都と認めてこなかったが、これもトランプ氏は変更しかねない。

 大使館を、いまのテルアビブからエルサレムへ移せば、世界中のイスラム教徒の反発は必至だ。トランプ氏は明確に計画撤回を表明すべきである。

 イスラエルとパレスチナの争いは、世代を超えた病根だ。

 1948年のイスラエル建国で家を追われたパレスチナ人と子孫は500万を超す。今も周辺国の難民キャンプや、イスラエルが自由を制限する地域で劣悪な生活を強いられている。

 人権が軽んじられ、貧困の絶望をもたらすパレスチナ問題が過激思想を生む土壌となって久しい。イスラエル国民も多くのテロに苦しめられてきた。

 トランプ政権は、テロ対策に力を入れると強調するが、パレスチナ問題が放置される限り、国際テロは根絶できない。

 世界と米国の安定のためにも、米国は2国家共存の道に立ち戻り、公正な仲介役を果たすべきである。

残業上限規制 尻抜けは許されない

 長時間労働をどう改めていくか。政府の働き方改革実現会議でたたき台の案が示され、いまは事実上青天井の残業時間に上限を設けることになった。

 一歩前進ではある。しかし詰め切れていない課題、さらに深めるべき論点がある。規制が尻抜けにならないよう、さらに検討を続けてほしい。

 労働基準法では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて残業をする場合、労使で協定を結ぶことになっている。その際、残業時間は月45時間以内が望ましいとされているが、強制力はない。年に6カ月まで残業時間を無制限にできる特例もある。

 新たな案では、この月45時間の限度基準を法律で定め、違反した場合の罰則も定める。さらに、特例でも上回ることのできない残業の上限を年720時間(月平均60時間)とした。

 焦点は、特定の月に残業が集中する場合に、どこまで認めるのかだ。

 政府は、脳・心臓疾患の労災認定の基準となっている「1カ月100時間超」「2~6カ月の平均で80時間超」の、いわゆる「過労死ライン」を上回らないようにするとしているが、それで十分か。労働団体や過労死で家族を失った人たちからは「過労死ぎりぎりまで働かせることを認めることになりかねない」との懸念が出ている。

 いまは規制の対象外の研究開発や建設、運輸などの仕事の扱いも、案では示されていない。建設、運輸は脳・心臓疾患の労災が多い業種でもある。

 そもそも、1カ月で80~100時間の残業というのは、業務に起因した病気と認められる目安であって、下回れば問題がないわけではない。結婚や出産を望む人が希望をかなえ、育児や介護と仕事を両立できるような環境を整えるという視点も忘れないでほしい。

 規制のあり方とともに、実効性をどう確保するかも大事だ。

 協定の残業時間が長時間でなくても、実際に働いた時間より過少に申告させ、協定を超えて残業させる違法行為は後を絶たない。偽装請負や名ばかり管理職など、あの手この手の規制逃れが増える恐れもある。監督・指導態勢の強化も必要だ。

 仕事を終えてから、次の仕事を始めるまでの間に一定の休息時間を設ける「インターバル規制」は、欧州で広く導入されている。日本でどう根付かせるのか、道筋も示してほしい。

 残業の上限規制だけでなく、多様な角度から議論し、長時間労働を改めなければならない。

金正男氏殺害 「北」恐怖政治の残虐さ強まる

 独裁者による恐怖政治は、とどまるところを知らない。

 マレーシアのクアラルンプール国際空港で、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男氏が殺害された。地元警察が、容疑者として女2人を逮捕した。

 マレーシア政府は、死因は不明と発表したが、韓国政府は、北朝鮮の工作機関が毒殺したとの見方を示した。事実とすれば、マレーシアの主権を侵害する重大な国家犯罪であり、許し難い。

 韓国情報機関によると、金委員長が最高指導者となった5年前から、工作機関は暗殺指示を継続的に受けていた。

 2012年に試みた際は未遂に終わり、正男氏は金委員長あての書簡で、自身と家族の助命を乞うたとされる。暗殺への執着は、金委員長の冷酷かつ残虐な体質を改めて鮮明にしたと言えよう。

 正男氏は、金正日総書記の長男で、一時は権力継承が有力視された。01年に日本に不法入国しようとして退去処分を受けた前後に、後継レースから脱落した。近年は、北京やマカオ、東南アジア諸国を転々としていた。

 かつて、正男氏が「3代世襲には反対だ」と語ったことがメディアで報じられた。金委員長は正男氏を体制の潜在的脅威とみなし、除去を図ったのではないか。

 軍や党の幹部を次々と粛清するのが、金委員長の権力維持の手法だ。1月には、秘密警察のトップであり、体制の柱と目されていた金元弘国家保衛相を解任し、その部下を多数処刑したとされる。

 強引な国内引き締めに、エリート層の反発が強まっている。昨年夏には駐英公使が韓国に亡命したほか、昨秋には北京の北朝鮮代表部に所属する保健省出身幹部の亡命が判明した。

 金政権が正男氏暗殺で離反の連鎖を防ごうとした可能性もあろう。万一、正男氏までが韓国に亡命していれば、反体制運動を勢いづかせる恐れもあった。

 注目すべきは、事件が対中関係に与える影響である。

 金委員長は13年、叔父で中国とのパイプ役だった国防委員会の張成沢副委員長を、国家転覆を画策した罪で処刑した。中朝関係を冷え込ませる原因となった。

 習近平政権は核ミサイル配備へと暴走する金政権に手を焼く。

 北朝鮮の体制が変動する場合は、正男氏が金委員長の後継候補になり得ると考えて、庇護ひご下に置いていたとすれば、殺害されたのは中国にとっても誤算だろう。

東芝経営危機 統治不在が招いた名門の迷走

 日本を代表する名門企業が存続の危機に立たされている。生き残りに向け、明確な事業再生の戦略を早急にまとめなければならない。

 東芝は、2016年4~12月期決算で、米国の原子力事業に関する損失が7125億円に膨らみ、最終赤字が4999億円に達するとの見通しを発表した。

 財務内容が悪化し、このままでは17年3月期に1500億円の債務超過に陥る重大局面である。

 原子力事業を縮小するほか、稼ぎ頭の半導体事業を分社化し、新会社を設立する方針だ。

 「20%未満」としていた外部からの出資受け入れ比率を、過半まで引き上げる意向を打ち出した。半導体の主導権を握られても資金手当てを優先する狙いだろう。

 だが、事業の切り売りで債務超過を解消しても、一時しのぎに過ぎない。経営の2本柱である原子力と半導体事業を縮小して、どう収益源を確保するかが課題だ。

 東芝は、グループ全体で19万人の従業員を抱える。再建の行方は社員やその家族のみならず、投資家や取引先も注視している。数多くの関係者が納得できる将来展望を示すことが何より重要だ。

 危機を克服するには、企業統治の抜本的見直しが欠かせない。

 東芝は今週予定されていた決算発表を当日になって突然、延期した。米原発子会社ウェスチングハウス(WH)での不正経理を指摘する内部通報があったためだ。監査法人の承認を得られず、東芝の決算を確定できなかった。

 WHが15年に買収した原発建設会社の会計処理を巡り、WHの経営陣が「不適切な圧力」をかけていた疑いがあるという。

 深刻なのは、東芝の危機を招いた震源地であるWHから再び、問題が持ち上がったことだ。

 東芝は15年に発覚した会計不祥事でも、経営トップが過大な目標の達成を部下に強要し、批判を浴びた。新たな疑惑の発覚と決算発表の延期は、過去の教訓が生かされず、社内改革が遅々として進んでいないことを示している。

 国内原発事業で大きな役割を担ってきた東芝の経営難は、エネルギー政策にとどまらず、国内経済にも悪影響を及ぼしかねない。

 東芝の社外取締役の小林喜光・経済同友会代表幹事は「原発事業が一企業で成り立つのか考えて、日本に残すべきだ」と語る。

 東芝危機の影響を最小限に抑えるため、関係省庁や電力会社、原発関連企業が、十分に意思疎通を図る必要があろう。

2017年2月16日木曜日

柔軟に働ける制度づくりも忘れずに

 政府が残業への規制案を示した。残業時間を実質的に青天井で延ばせる仕組みを改め、月60時間の上限を設けるというものだ。

 働く人の健康を確保するため、残業に一定の制限を設けることは妥当だ。ただ、働く時間の配分を本人にゆだねた方が生産性が上がる業務の場合は、そもそも労働時間への規制がなじみにくい。柔軟に働ける労働時間制度の整備も忘れないでもらいたい。

 政府の残業規制案は、仕事が集中する時期には月60時間を超える残業も認めるが、年間では720時間以内に収めることを義務づける。忙しい時期は2カ月の平均で月80時間を超えないようにすることなどを検討する見通しだ。

 仕事の繁閑に対応するため残業の上限を弾力的に定めるのは適切だろう。上限をどうするか、政労使で議論を深めるべきだ。

 現在は労使協定で労働時間規制の適用除外になる建設業や運輸業も、政府は一定の猶予をおいて新規制の対象としたい考えだ。人員配置や業務を見直すには、十分な準備期間が要るだろう。

 中小企業は納入先企業からのコストや納期面の要求が厳しく、長時間労働を招きやすい。独占禁止法や下請法の違反がないか、監視を強化する必要もある。

 こうした過重労働対策と同時に、経済のソフト化・サービス化といった変化に合わせた労働時間規制の見直しも、求められる。

 厳格な労働時間の管理は、工場労働を念頭に戦後に設けられた仕組みだ。働く時間が長いほど生産が増える工場労働には、時間に応じた賃金の支給が適している。だが、時間で成果が測れないホワイトカラーにはそぐわない。

 時間でなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」制度は、独創性や企画力で勝負するホワイトカラーなどの生産性向上を促す。この制度の創設を盛り込んだ労働基準法改正案を政府は国会に提出済みだが、本格審議は見送られ続けている。成立を急ぐべきだ。

 人工知能(AI)の普及などを背景に、脱時間給制度を活用したい企業は多い。今の政府の制度設計では対象者が高収入の一部の専門職にとどまるが、さらに範囲を広げていく必要もあろう。

 脱時間給の導入企業には、労働時間の上限設定や深夜労働の制限などのどれかが義務づけられる。健康確保策を充実し、制度を使える人を増やせるようにしたい。

偽造薬の流通を断固はばめ

 薬の偽造品が市中の薬局に出回るという事件が起きた。信頼して薬を服用している患者に健康被害が出かねない、危険な事態だ。政府や医療関係者は原因究明と再発防止に全力を尽くしてほしい。

 見つかったのはC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品。この薬は2年前に認可されたばかりで、治療効果が非常に高いとされる。一方で1錠の薬価が5万円以上もする高額品だ。

 問題の偽造薬は、奈良県の薬局が正規の流通ルート以外から仕入れ、患者に処方した。異常に気づいた患者の通報で発覚した。

 明らかな違法行為であり、捜査当局は偽造した人物をすみやかに見つけだし事件の全容を解明する必要がある。同時に、薬局の責任や不透明な医薬品の流通システムも、問われなくてはならない。

 偽造品を扱った薬局は、余った薬を医療機関から買い取り転売する「現金問屋」といわれる業者から仕入れたという。用法などを説明した添付文章もついていなかったことから、その段階で法令違反を疑えたはずだ。だが正規ルートより安いので仕入れたという。

 安ければ安いほど薬局の利益は膨らむ。しかし薬は命にもかかわる商品だ。また、この薬は公的な健康保険制度の中で使われるもので、その財源は健康保険料や税金である。医療関係者には高度な倫理観も求められるはずだ。

 流通にかかわった関係者には、法令に照らした厳正な処分をする必要がある。と同時に、関係する業界が独自に規律を引き締める努力も求められる。

 「現金問屋」といった不透明な流通システムも、見直しの余地はないか議論すべきだろう。製薬企業も偽造品を防ぐため製品の形状や包装に工夫をしてほしい。

 医療の世界では膨大な研究開発費を投じた高額な医薬品が次々と登場している。偽造薬でひともうけを狙う犯罪もさらに増えかねない。ネット通販では偽造薬がかねて問題になっている。政府や関係業界は警戒を強めるべきだ。

東芝巨額損失 再生へうみ出し切れ

 再生への道のりは険しい。

 東芝が原発事業で約7千億円の損失を公表した。子会社の米ウェスチングハウス(WH)が受注した原発で、建設費が大きく膨らむのが主な原因だ。

 原発部門では、海外の建設工事から撤退する。損失を穴埋めするため、「虎の子」の半導体事業を切り売りする。

 東芝では15年に不正会計が発覚した。経営再建のため医療機器や白物家電の事業を売り、「2本柱」と位置づけたのが原発と半導体だ。再び立て直しに追われ、柱はともにやせ細る。

 経営責任は重い。原発部門を率いた志賀重範会長が辞任したのは当然だ。ただ、問題の根源は巨費を投じた06年のWH買収にある。歴代経営陣の責任も改めて問われる。

 巨額の損失を招いた米国の原発では、工期の遅れが問題になっていた。WHは態勢を立て直すため、建設工事を受け持つ会社を15年に買収したが、裏目に出た。その後判明した建設費の増大が傷口を広げた。

 理解に苦しむのは、その買収が、不正会計を受けて東芝本体が出直そうとしている時期に進んだことだ。グループを挙げて管理体制の改善に取り組んでいたはずなのに、なぜリスクの見極めがおろそかになったのか。WHを制御できていなかったとしか思えない。

 今回の発表では、損失額を予定日までに確定できないという失態も加わった。正式な決算としてのお墨付きを監査法人から得られず、公表した数字は「見通し」にすぎない。損失の内容を詰める際、WHの管理体制の不備を指摘する内部通報があり、調査に手間取っている。WHの経営者が周囲に「不適切なプレッシャー」をかけた疑いもあるという。

 先の不正会計では、経営トップらが部下に過大な収益目標の達成を迫り、利益の水増しにつながった。その反省が生かされていないのではないか。問題を究明し、公表することが急務だ。うみを出し切らないと、失った信頼は取り戻せない。

 東芝は、株主や従業員、取引先に加え、社会にも重い責任を負っている。特に、福島第一原発の廃炉をはじめ、多くの原発で安全管理を担っている。

 福島第一の事故後、原発の安全規制が国内外で強化され、建設費は膨らむ傾向にある。東芝が、リスクが高まっている原発事業を縮小するのは当然の経営判断だろう。それでも、安全の確保に必要な人材や技術を保ち、メーカーとしての責任を果たさなければならない。

領土教育 複眼的な思考こそ

 政府の見解を教えるだけではなく、相手国の言い分も伝え、世界を知り、自分の頭で考えることをうながしたい。

 北方領土、竹島、尖閣諸島は「我が国の固有の領土」で、尖閣諸島に「解決すべき領有権の問題は存在していない」――。

 そんな記述が小中学校の学習指導要領の改訂案に盛りこまれた。小学5年の社会科と中学の地理、歴史、公民の全分野で、政府見解を教えることになる。

 領土は各国のナショナリズムや利害がぶつかり合い、外交上の摩擦の要因になる。子どもたちが日本の主張を知っておくことは大切だ。

 だが政府見解は数学の公式とは違う。日本の立場の表明であり、それを学ぶのみでは現実は理解できない。教室で「尖閣に領土問題は存在しない」と教えても、中国船による領海侵入のニュースは流れる。

 領土とは何か。隣国はどう考えているか。いかなる歴史的経緯があるか。こうした事実を知って初めて、問題を深く、複眼的に見ることができる。

 新指導要領が重視するのは、答えが一つではないテーマを多面的・多角的にとらえ、他者と協働して思考する力だ。領土をめぐる対立は、ある意味で格好の教材ともいえる。

 政府見解は今回突然、指導要領に登場したわけではない。文部科学省は3年前、政権の意向を踏まえ、教科書執筆や授業の指針となる指導要領の「解説」に同趣旨の記述を入れた。既に小中の社会科の全教科書が三つの領土について記載している。

 だが、法的拘束力をもつとされる指導要領本体と「解説」とでは、重みが違う。教員が指導要領に従わなければ、処分される根拠にもなりうる。

 決められた通りに教えることが従来以上に求められるのではないか。自国第一主義の風潮がはびこるなか、独自の工夫を偏向と批判する空気が広がれば、教員は腫れ物に触るような授業しかできなくなるだろう。

 文化も経済も、国境を軽々と越えていく時代に、自国の主張が正しいと言いつのるだけでは共感は得られない。育てたいのは、相手の立場を理解し、冷静に考え、議論し、共生の道を探ろうとする人材だ。

 教育を通じて一つの価値観や歴史観を植えつける息苦しさと誤りを、この国は過去に経験し、いまは隣国に見ている。

 しなやかで、強い社会をつくるために、子どもたちにはどんなアプローチが必要か。領土教育を考えるときにも、この視点を忘れないようにしたい。

子育て介護提言 人口減克服へ将来の不安拭え

 ◆成長と分配の好循環を作りたい

 人口減と超高齢化に立ち向かい、経済の成長力を引き上げる。持続可能な社会システムに転換する。日本が世界に先駆けて実現すべき課題だ。

 読売新聞社は「安心の子育て・介護」に向けた提言をまとめた。子育てや介護の支援を強化し、仕事と両立できる環境を整備することが主眼である。

 女性や高齢者の活躍を後押しする。多様な人材の登用は、企業活動のイノベーションを促し、生産性を高める。家計に余裕が生じ、将来不安が軽減することで、消費が拡大し、経済が活性化する。出生率の向上にもつながろう。

 ◆増やそう家族向け支出

 子育て・介護分野への分配を増やし、成長の推進力とする。「成長と分配の好循環」を形成することは、政府が掲げる「1億総活躍社会」の目標とも一致する。

 政府や自治体の対策には財政的制約もある。企業など民間の力を最大限に活用しなければ、人口減は阻止できない。提言の背景には、こうした時代認識がある。

 子育てや親の介護に直面する現役世代の経済的基盤は弱体化している。終身雇用や年功賃金の慣行は崩れつつあり、低賃金の非正規雇用が、働く人の4割を占めるまでになった。結婚や子育てに踏み切れない若年層も多い。

 日本は、保育関連など家族向けの公的支出の対国内総生産(GDP)比率が1%台だ。欧州諸国の3~4%を大きく下回る。手薄な支援は少子化の要因でもある。

 右肩上がりの経済と人口増を前提にした社会システムは行き詰まっている。高齢者向けに偏った社会保障制度を改め、現役世代への給付を充実させねばならない。

 ◆1~2歳保育の拡大を

 最優先課題は、保育所に入れない待機児童の解消である。潜在需要も含めれば、9万人に上る。

 提言は、「カギは1~2歳児保育だ」と訴える。待機児童の7割を占めるこの年齢層の受け皿を大幅に増やすべきだ。

 3~5歳児向けの幼稚園を、保育所と一体化した「認定こども園」に移行させるのは、有効な手段だ。主に専業主婦世帯の子供が通う幼稚園は、少子化と共働きの増加で定員割れが目立つ。移行に向けた財政支援の強化が求められる。

 ビルの一室や空き店舗などでも開設できる小規模施設も機動的に増やしたい。企業による社員向け施設の設置を促すため、税制面での優遇の拡大が必要だろう。

 2025年には団塊の世代が75歳以上になる。提言は、「安心の介護と認知症対策を」として、重度化を防ぐ自立支援型ケアの推進や、認知症対策を総合的に実施するための基本法制定を掲げた。

 本人の生活の質を高め、家族の負担を軽減することが大切だ。医療と介護の連携を密にして、必要なサービスを切れ目なく提供できる体制を整えたい。

 保育・介護現場では人手不足が深刻化する一方だ。サービス拡充には人材確保が欠かせない。

 保育・介護職の平均月給は全産業平均を10万円も下回る。政府は17年度から、保育士について月平均6000円、介護職は1万円の賃上げを実施する方針だが、他産業との格差は依然大きい。提言は一層の処遇改善を求めた。

 子育て・介護と仕事の両立には、働き方改革が大前提となる。長時間労働が常態化したままでは、女性の活躍や「介護離職ゼロ」は実現できまい。企業の積極的な取り組みが望まれる。

 ◆財源確保に工夫が要る

 安心の子育て・介護を実現するには、財源の確保が不可欠だ。

 高齢化に伴い社会保障費は膨張を続けている。社会保障・税一体改革は、消費増税の延期で枠組みが揺らいでいる。給付の効率化と能力に応じた負担の推進を軸に、練り直す必要がある。

 財政の赤字と対照的に、家計の金融資産は1700兆円を超え、半分以上が現預金だ。企業の内部留保も378兆円に上る。「眠れる資金」を活用できないか。

 相続税非課税国債は、高齢世帯に集中する個人金融資産を市中に引き出す有力な選択肢だろう。利子をマイナスにする代わりに、将来の相続税を免除する。通常の国債とは異なり、政府に利払い負担がないのが利点だ。

 余裕のある高齢者の資産を現役世代の支援強化に生かす。それが成長と分配の好循環への呼び水となるのではないか。

 企業には、賃上げや、保育所設置などの両立支援策への思い切った資金投入を期待したい。

 活力ある社会を築くため、あらゆる手立てを尽くすべきだ。

2017年2月15日水曜日

危機打開へ東芝は大胆な再建策を示せ

 東芝が迷走を重ねている。14日に正式発表する予定だった2016年4~12月期連結決算は監査法人や弁護士との協議がととのわず、東芝の責任において業績数値を公表した。公表資料に「独立監査人によるレビュー手続き中であり、(数字が)大きく修正される可能性があります」と注記をつける、異例の展開である。

 それによると、米国の原子力発電所建設プロジェクトの費用が大幅に膨らみ、7125億円の巨額の損失が発生した。その結果、同社は昨年12月末時点で1900億円強の実質的な債務超過に転落した。そこで半導体事業の一部売却などの資本対策を実施する。

 会計不祥事に端を発した東芝の一連のトラブルが浮き彫りにしたのは、「内部統制の不在」とも呼ぶべき、お粗末な組織運営の実態だ。同社の経営陣に果たして当事者能力があるのか、疑問視する声もある。

 最大の問題は巨額損失の原因をつくった米原子力発電子会社のウエスチングハウス(WH)だ。同社の経営の動きを、東京の本社がしっかり把握・制御できていたのか、相当に疑わしい。

 今回の決算発表の混乱についても、WH経営陣による「不適切なプレッシャー」があったとの指摘があり、さらなる調査が必要になったという。誰に対するどんな圧力なのか普通の人にも分かる言葉で説明してほしい。

 東芝の経営環境はさらに厳しくなるだろう。今必要なのは原子力以外の事業も含めた負の遺産の洗い出しと、しがらみやタブーにとらわれない思い切った再建策だ。

 同社は既に半導体事業への一部外部資本の受け入れや、リスクの大きい原発建設ビジネスからの撤退方針を打ち出しているが、この程度の対策で危機から脱却できるのかどうか。

 事業の切り売りで今年3月末の債務超過を回避できたとしても、それが一時しのぎで終わっては意味がない。経営危機が長引けば長引くほど優秀な人材が会社を辞めるなどして事業基盤が劣化し、真の再生は遠ざかるからだ。

 財界首脳を輩出した東芝は日本を代表する企業だが、重大局面を迎えた。総合電機の看板に固執している場合ではない。綱川智社長も記者会見で選択肢として言及したが、半導体事業を完全に手放すといった、会社の形を変えるぐらいの大胆な策が必要ではないか。

二兎を追う授業改革は可能か

 学習の量は維持しつつ、授業の質を高める――。文部科学省がきのう公表した小中学校の新しい学習指導要領案は、まさに「二兎(にと)を追う」内容である。中央教育審議会でのこれまでの議論に沿った改訂案だが、学校現場がこれを十分に消化できるのか、疑問が拭えない。

 改訂案は、従来のように教員が「何を教えるか」だけでなく、子どもたちが「どう学ぶか」に視野を広げた。「主体的・対話的で深い学び」の実現を掲げ、そのための授業の改善や学習の過程重視を打ち出している。

 単なる知識の習得よりも、自分の頭でものを考える力を育てることに重きを置いた指針といえよう。体験活動や討論型の授業の充実を期待しており、こうした方向性自体は妥当である。

 とはいえ、定められた学習の量は現行指導要領と同じだから、現場の不安は大きい。意欲的な教員が授業を深掘りすればするほど、知識伝授とのバランスに苦慮することになろう。文科省は「質と量の両立を図る」とひとくちに言うが、容易な話ではない。教員の処遇改善策も立ち遅れている。

 各地の実践例を豊富に示すことで、教員が多様な試みを共有できるようにすると文科省は言う。学校や地域がこれを参考に新たな取り組みを実現できればいいが、マニュアル化して「深い学び」の画一化を招く心配も大きい。

 こんどの改訂案の理念がきちんと具体化するなら、学校教育の姿が変わる可能性がある。いたずらに二兎を追うのでなく、指導要領の運用を弾力化し、現場に「量」よりも「質」を優先する裁量を与えられないものだろうか。文科省はそこには踏み込まず、現場をなだめるのに躍起なようだ。

 背景には、かつての「ゆとり教育」批判のような混乱を避けたいという思いもあろう。「ゆとり」と詰め込みの二項対立を繰り返すべきではないが、摩擦を恐れるあまり、せっかくの「深い学び」をなおざりにしてはなるまい。

学習指導要領 現場の創意を大切に

 小中学校の学習指導要領の改訂案を文部科学省が公表した。

 2030年ごろまでの学校教育の基準を定めるものだ。小学校は20年度から、中学校は21年度から、順次実施される。

 知識を教え込むのではなく、子どもがみずから問いを立て、多面的・多角的に考え、問題を解決する力を育てる。

 改訂案がめざす、この方向自体に異論はない。

 しかし、「質」も「量」も追求するという欲張りな方針のもと、あまりに多くの事柄が盛りこまれてはいないか。

 子どもが主役になり、他者との対話を通じて教科の本質を学ぶようにする。小学校は高学年で英語を教科と位置づけ、成績評価の対象とする。プログラミング教育を必修にする――。

 現行カリキュラムからすると極めて挑戦的な内容である。

 多くの公立学校の先生は、貧困と格差の現実に向き合い、学ぶ環境に恵まれない子たちに基礎学力をつけさせることで一生懸命だ。時間割も既にいっぱいになっている。新たなテーマをどこまでこなせるだろうか。

 文科省は「カリキュラム・マネジメント」と称して教育課程の工夫を学校に求めるが、人手も時間も限られるなか、それだけで解決するわけではない。

 改訂案のもう一つの特徴は、「どんな力を育てたいか」の目標を全教科で具体的に掲げたことだ。全体の記述量は今の1・5倍に増え、一部ではどんな場面でどんな学習活動を用意するかにまで言及している。

 各地の学校はベテランが次々と退職し、若手が増えている。経験の浅い先生に指導要領の狙いを伝えるのに、丁寧な記述が必要なことは理解できる。

 だが、指導要領に書いてあることに従っていれば間違いない、下手に独自の教え方をしてにらまれたくないといった考えが広まれば、授業は金太郎アメのようになり、教室から生気が失われることになりかねない。

 それは改訂の本来の趣旨と相いれない。教えるプロとしての先生の力も育つまい。

 学校は一つひとつ抱える問題が違い、子どもたちの状況も異なる。それぞれの実態にあわせて教える重点を絞り、指導方法も工夫できるよう、文科省と各地の教育委員会は現場の自主性を最大限尊重すべきだ。

 先生の創意工夫を引き出せなければ、指導要領の文字面をいくら整えたところで実はあがらない。先生一人ひとりに、新たな発想を生み出す時間の余裕と研修の機会を保障するのは、教育行政の責務である。

ドーピング 撲滅にあらゆる方策を

 銀メダル、おめでとう――。突然そういわれても、選手もファンも戸惑うことだろう。

 08年北京五輪陸上男子400メートルリレーで優勝したジャマイカのチームが、禁止薬物の使用で失格になると国際オリンピック委員会(IOC)が明らかにした。処分が確定すれば日本は3位から2位に繰り上がる。

 なぜ今ごろ。何で今さら。

 背景には、ドーピング行為の撲滅をめざすIOCの強い意思と取り組みがある。競技終了後に採取した検体は10年間保存する。精度が向上した検査方法が開発されると、再び検査する。最初にすり抜けても2度目、3度目が待ち受ける。

 「逃げ得は許さない」との姿勢を実践で示すもので、違反者の制裁にとどまらず、同様の行為の抑止効果が期待される。

 大会から8年以上が過ぎての繰り上げ銀メダルは、興ざめの感が否めない。だが将来の選手が、同じような苦い思いをくり返さないための措置だ。北京でフェアに戦った日本チームの健闘を改めてたたえたい。

 近年は「競技終了後」だけではなく、ふだんの抜き打ち検査もしばしば行われる。薬物に汚染された選手が大会に出場すること自体を防ぐためだ。

 このため対象選手は競技団体を通じて向こう3カ月間の滞在場所を報告し、検査を受けられる時間帯を1時間指定する義務を負う。負担は大きいが、潔白を証明し、競技の尊厳を守るために甘受してもらいたい。

 検査の結果、陽性反応が出ることもあるが、国内選手の場合不注意による例が大半だ。最近のどあめの「南天」の成分が禁止薬物に指定されるなど、規制の基準や内容は変化し続けている。情報を把握して対処することも、選手、指導者、競技団体に求められる大切な能力だ。

 選手のプロ化で生計や将来が競技結果に左右されることが進めば、薬物への誘惑が増える恐れがある。日本オリンピック委員会や日本アンチ・ドーピング機構は、これまで以上に教育と啓発に力を注いでほしい。

 昨年はロシアの多競技にわたる組織ぐるみのドーピングがスポーツ界を揺るがせた。年末の最終報告書では「1千人以上もの選手がかかわり、国家ぐるみの不正だ」と断罪された。

 一部の選手らはすでに処分を受けたが、ロシアのスポーツ省や陸連など組織と幹部への追及はこれからだ。欧州陸連は過去の記録が信頼できるか、調査チームを設けた。スポーツへの信頼を取り戻すために、IOCはけじめを急がねばならない。

指導要領改定案 主体的に学ぶ授業への転換を

 授業の質を高めて、社会の変化に柔軟に対応できる学力を育むことが大切である。

 文部科学省が、2020年度から順次実施する小中学校の学習指導要領案を公表した。来月告示する。

 改定は、ほぼ10年に1回だ。今回は、「脱ゆとり教育」を打ち出した前回改定の学習内容を維持している。その上で、「どのように学ぶか」「どんな資質・能力が身に付くか」にまで踏み込み、各教科の指導上の目標を記述した。

 思考力や判断力の育成を目指す方向性は理解できる。

 中央教育審議会は、議論や発表を重視する「アクティブ・ラーニング(能動的学習)」の導入を提言していた。今回の改定案では、定義が多様で混乱を招くとして、この言葉の使用を見送った。

 改革の趣旨が不明確になった感は否めないものの、知識偏重型の授業からの転換は必要だ。文科省は具体的な授業のイメージを示すなどして、地域の実情に合った指導の改善を支援すべきだ。

 英語教育の強化が、改定案の柱である。ゲームや歌で英語に親しむ「外国語活動」の開始を小学5年生から3年生に引き下げ、高学年では教科化して文法を学ぶ。中学では実践的な会話力を養う。

 現在の外国語活動の指導は、学級担任が担っている。18年度からの移行期間を前に、外国語指導助手(ALT)や中高の免許を持つ教員らを手厚く配置し、授業の質を高めることが欠かせない。

 英語の授業時間をどう確保するかも、課題となる。前回改定で全体の授業時間数は増えており、今の時間割は満杯の状態だ。

 文科省は土曜日や長期休みの活用を推奨し、現場の判断に委ねた。45分の授業を3分割し、朝の15分を充てる案なども示したが、会話力の育成には、まとまった時間を確保すべきだとの指摘もある。

 改定案は、読解力の向上にも重点を置いている。

 小学校の国語には、新聞や本を活用し、調べたことを報告する活動が盛り込まれた。中学校でも、新聞などから集めた情報を基に、自分の考えをまとめたり、提案したりする授業が推奨された。

 小中の社会では、竹島、尖閣諸島を「我が国の固有の領土」と明記し、重要性を強調した。

 いずれも必要な内容だ。

 授業の質を高めながら、これだけの学習量をこなすことが可能なのか。教員の事務作業や部活動の負担軽減も含めた学校現場の体制整備を急がねばならない。

予算委外交審議 「対米追従」批判は浅薄すぎる

 安倍首相は、先の日米首脳会談の成果を今後の外交政策に生かすとともに、国民に丁寧に説明することが重要である。

 衆院予算委員会で、外交などの集中審議が開かれた。民進党の前原誠司氏は、批判の多いトランプ米大統領と親しくなることで、国際社会から厳しい目が向けられる「リスク」を感じなかったのか、と追及した。

 首相は「北朝鮮のミサイル(から日本)を共同で守り、報復能力を持つのは米国だけだ。大統領と親密な関係を作り、世界に示すしか選択肢はない」と指摘した。

 増大する北朝鮮の核・ミサイルや中国の軍事的挑発の脅威は、日本にとって、より大きな「リスク」だ。首脳間の信頼を深め、日米同盟を強化するのは当然である。

 前原氏は、米・イスラエル関係に関して首相が論評を控えたことについても、「猛獣に従順に従うチキンだ」などと酷評した。首相は、「私がコメントするメリットがあるのか」と反論した。

 外交では、時に不必要な発言を慎む方が良いこともある。特に、唯我独尊のトランプ氏には慎重なアプローチが求められる。

 首相は、首脳会談で「自由や民主主義、人権などを尊重する役割を果たす」ことをトランプ氏に求めたと明らかにした。声高に非難するのでなく、時間をかけて冷静に説得することが大切である。

 民進党など野党の「対米追従」批判は、浅薄に過ぎよう。

 首相は「米政権に不安を持つ国に大統領の考えを伝え、大統領には各国の不安も伝えたい」と語った。米国と他国の仲介役を務めることに意欲を示したものだ。

 首相は、自らの外交経験を踏まえ、トランプ氏に国際協調の重要性を粘り強く訴えるべきだ。

 経済関係について、首相は「大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)の意義に耳を傾けてくれた」と述べた。日米共同声明に、TPPを含む「既存のイニシアチブ」を自由貿易圏の基礎にする選択肢が記されたとも強調した。

 新設される日米経済対話では、TPPと米国が求める2国間協議の両にらみで議論を進めたい。

 野党は、南スーダンで活動する陸上自衛隊の日報問題で、稲田防衛相を集中攻撃した。稲田氏は、日報の発見後も自らへの報告が1か月遅れたことについて「速やかに上がるべきだった。関係部署に厳しく注意した」と語った。

 なぜ報告が大幅に遅れたのか。防衛省はきちんと検証し、再発防止策を徹底する必要がある。

2017年2月14日火曜日

日米韓連携で北のさらなる挑発に備えよ

 日米首脳会談のタイミングに合わせたかのように、北朝鮮が弾道ミサイルの発射を強行した。核の脅威を振りかざす蛮行は断じて容認できない。日米は連携して厳しく対処するとともに、さらなる挑発に備えていく必要がある。

 韓国軍によると、北朝鮮が12日に北西部から発射した弾道ミサイルは約500キロメートル飛行して日本海上に落下した。最大高度は約550キロメートルに達し、通常より高い角度で打ち上げたという。

 北朝鮮メディアは、地対地中長距離弾道ミサイルの試射を「成功裏」に実施したと公表した。大出力の固体燃料エンジンを採用したとしており、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を改良した新型ミサイルの可能性がある。事実とすれば、ミサイル技術を着実に向上させていることになる。

 北朝鮮は米大統領選でトランプ氏が当選して以降、核実験やミサイル発射を控えていた。米新政権が北朝鮮にどのような態度で臨むかを注視してきたのだろう。

 トランプ大統領は安倍晋三首相との会談で、北朝鮮に核・ミサイル計画の放棄を求めたばかりだ。北朝鮮が再び挑発に踏み切った背景に、日米の強硬姿勢をけん制する狙いがうかがえる。16日は故金正日(キム・ジョンイル)総書記の生誕75年で、国威発揚と金正恩(キム・ジョンウン)政権の権威付けに利用する思惑もあろう。

 国連安全保障理事会はすでに北朝鮮に厳しい経済制裁を科している。最大の貿易相手である中国を含めた国際社会が結束し、制裁圧力を強めるのは当然だ。ただし、「東方の核大国」をめざすとする北朝鮮が核・ミサイル開発を容易に放棄するとは考えにくい。

 むしろ、核実験や弾道ミサイル発射を再び頻繁に繰り返す懸念が大きい。北朝鮮の脅威にどう対処し、不測の事態に備えていくか。

 トランプ氏は日米首脳の共同記者発表で「米国は日本と100%ともにある」と表明した。日米はその具体策として、韓国を含めて北朝鮮をめぐる情報の共有をさらに進めるとともに、ミサイル防衛などの協力を急ぐ必要がある。

 政治混乱が続く韓国では、野党勢力の間で米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備などに否定的な意見も出ているが、北朝鮮の核開発は北東アジアの安定を揺るがす深刻な脅威だ。韓国の与野党とも日米韓連携の重要さを共有すべきだ。

底堅い景気にも楽観は禁物だ

 内閣府が発表した2016年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.24%増、年率換算で1.0%増となった。

 日本経済の実力を示す潜在成長率は0%台半ばから後半といわれる。10~12月期の実質成長率はこれを上回ったが、楽観は禁物だ。政府は規制改革を含む構造改革を加速しなければならない。

 「景気は緩やかな回復基調が続いている」(石原伸晃経済財政・再生相)という政府の認識に違和感はない。

 けん引役は企業部門だ。輸出は米国や中国向けの自動車や電子部品などが堅調に推移した。設備投資も前期比プラスに転じた。

 民間の在庫投資が成長率を押し下げたが、在庫調整が進展した結果ともいえる。先行きの生産も増勢を保つとの予測が多く、企業部門を下支え役とした日本経済には一定の底堅さがある。

 ただ、トランプ米大統領が保護主義的な政策を進めれば、米国向けを中心に輸出は下振れする可能性がある。大統領の口先介入で円高が進めば、企業収益の足を引っ張りかねない危うさもある。

 家計部門にも不安が残る。特に内需の柱である個人消費は前期比でほぼ横ばいで、力強さを欠いている。内閣府によると、飲食サービスは増えたが、野菜や衣服の売れ行きが悪かったという。

 雇用者報酬が前期比で横ばいとなった点は気がかりだ。余力のある日本企業は攻めの投資を進めつつ、賃金や配当の形で家計にしっかりと還元してほしい。企業部門と家計部門の好循環が息の長い景気回復の条件になる。

 政府は企業統治のさらなる強化や、柔軟で多様な働き方がしやすくなる改革、外国人材の受け入れ拡大を積極的に進め、日本経済の潜在力を高める環境づくりを急ぐ必要がある。

 消費低迷は、社会保障への将来不安が一因でもある。持続可能な財政と社会保障制度の再構築という宿題も忘れてはならない。

北朝鮮の挑発 日米韓のゆるみを正せ

 北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。国連安保理決議への明確な違反であり、国際秩序に対する重大な挑戦である。

 北朝鮮はこのところ表だった軍事挑発の動きを控えてきた。米国のトランプ政権の出方や、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の弾劾(だんがい)の行方を見定めていたのだろう。

 ところが安倍首相が訪米し、トランプ大統領と、北朝鮮に核・ミサイル計画の放棄を求める共同声明をまとめた直後、挑発行為を再開した。

 発射されたミサイルは日本全域のみならず、米領グアムをも射程に収める。米国にとっても現実の脅威である。

 ミサイル発射を受け、日米の首脳は並んで記者会見し、北朝鮮を非難した。発射から間を置かず、日米の結束を国際社会に示した意味は大きい。

 一方で残念なのは、両首脳とも日米同盟にしか言及しなかったことだ。とりわけトランプ氏は「米国は偉大な同盟国日本を100%支援する」と、ひとこと語っただけだった。

 北朝鮮の核・ミサイル問題には日米同盟だけでは対処できない。韓国との緊密な連携が不可欠だし、北朝鮮の最大の後ろ盾である中国の関与も必要だ。

 状況は悪化しつつある。韓国軍合同参謀本部は今回のミサイルについて、固体燃料を利用した新型の中距離弾道ミサイルとの判断を示した。発射台つきの車両に搭載されれば、発射の兆候をつかむのは難しい。

 核開発を進める北朝鮮のミサイル技術の向上は、国際社会全体を不安定にする脅威だ。その強いメッセージを、両首脳がともに発するべきだった。

 トランプ政権は発足から3週間あまり。政策決定の態勢も固まっていない。アジア情勢についての知識が十分でないなら、少なくとも首相が語るべきだったのではないか。

 米国、韓国の政治がそれぞれ不安定ないま、日米韓のゆるみを正し、さらなる連携を促すのは日本の大事な役割だろう。

 そのためにも、慰安婦問題をめぐって、日本政府が1カ月以上も駐韓大使や釜山総領事を一時帰国させている異常事態は早急に解消せねばなるまい。

 日米韓は早速、国連安保理に緊急会合の招集を要請した。

 トランプ氏は国連の機能不全を批判してきたが、北朝鮮の挑発行動に歯止めをかけるには、各国の協調が欠かせない。

 北朝鮮が望むのは、日米韓をはじめ国際社会の足並みの乱れである。日本は、多国間の連携を重視するよう、トランプ氏の米国に働きかけるべきだ。

少年法と年齢 引き下げは弊害が多い

 少年法の適用年齢を「20歳未満」から「18歳未満」に引き下げるかどうか、法制審議会の議論が始まった。18歳から選挙権を持つようになったことなどを受けた措置だ。

 大人と子どもを分ける基準が複数あるのはわかりにくいという意見は耳になじみやすい。だが、少年の健全な育成を目的とする少年法については、くれぐれも慎重な対応が必要だ。

 警察が捜査した少年事件はすべて家裁に送られ、育った環境や人間関係を調べたうえで、保護観察にしたり、少年院で教育を受けさせたりするところに、現行法の最大の特徴がある。

 これが、大人と同じ刑事手続きに変わったらどうなるか。

 多くの比較的軽微な事件は起訴基準に達せず、裁判になっても執行猶予や罰金が言い渡されて落着することが予想される。

 少年の立ち直りに専門性をもつ人や組織がかかわる場面は大幅に減り、サポートを受けられなかった少年が再び道を踏み外せば、新たな被害者が生まれ、社会も傷つき、負担を負う。

 一方、殺人を始めとする重大犯罪に関しては数次に及ぶ法改正で厳罰化が進んでおり、引き下げが量刑などに与える影響・効果は限られたものになる。

 トータルに見て弊害や心配の方がはるかに多く、現時点で適用年齢を見直す必要性があるとは到底思えない。

 大切なのは、個々の少年に最も適した処遇をして、法律に触れるような行いを二度とさせないことだ。それは、少年だけでなく、すべての被告・受刑者にあてはまる目標でもある。

 その意味で、今回、法制審の検討事項に「懲役刑と禁錮刑の一本化」が盛りこまれたことは大いに注目される。

 日本では刑務作業を義務づけられた懲役刑の受刑者がほとんどだ。このため、たとえば学力不足で社会になじめない者に学科教育を受けさせたいと考えても、十分な時間を充てることができないなど、社会復帰を妨げる一因となっている。

 刑罰のあり方が見直され、作業が義務から外れれば、それぞれの特性や事情に応じた柔軟な対応も可能になる。半世紀以上前から提唱されながら実現に至らなかった刑の一本化が、本格的に議論される意義は大きい。

 これを、少年法の適用年齢を引き下げるための条件整備の一環と位置づけるのでは、問題の本質を見失ってしまう。

 大人の受刑者もふくめ、再犯を防ぐためにどんな制度を築くか。その観点から議論を深めるのが法制審の使命である。

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