2017年4月30日日曜日

トランプ政権は現実路線を歩め

 トランプ米大統領が就任100日を迎えた。序盤のつまずきから立ち直ろうと、外交・安保や経済などの分野で現実路線へと軌道修正する兆しが見え始めている。とはいえ、国際社会の不安を解消するには至っていない。まず外は同盟国、内は議会やメディアとの摩擦を和らげ、政権の安定度を高めることが肝要だ。

 米メディアには政権発足100日まではお手並み拝見にとどめ、厳しく批判しないという慣習があった。トランプ氏がメディアを敵視した結果、今回は出だしから非難合戦を展開中だ。

議会との関係の改善を

 ギャラップ世論調査によると、トランプ政権の支持率は40%前後で推移している。在任中の平均支持率が45%台だったトルーマン、カーター両氏を下回り、第2次世界大戦後では最も不人気な大統領になっている。

 政権に勢いがつかないのは、与党をまとめられないからだ。上下両院とも共和党が多数を占めているのに、医療保険制度改革法(オバマケア)の見直し法案の成立に必要な票数を確保できず、廃案に追い込まれた。

 ライアン下院議長ら共和党の主流派は現制度の部分的な手直しなど現実的改革を志向する。他方、フリーダム・コーカスと呼ばれる極端に「小さな政府」を志向する議員グループは「オバマケアは全廃すべきだ」との立場である。トランプ氏はうまく仲立ちできず、結果としてオバマケアが存続することになった。

 この構図が続く限り、政権100日に先立って発表した法人税率の劇的な引き下げを柱とする税制の抜本改革案が実現するかどうかも見通せない。1兆ドル規模とぶち上げたインフラ投資が宙に浮くことも十分あり得る。

 大風呂敷を広げ、過剰に期待感をあおる過去のビジネス手法で政権を運営されては困る。

 ホワイトハウス内では政治経験が乏しい側近たちが激しい権力闘争を展開し、政権の方向性がふらついている。選挙戦で陣営を仕切ったバノン首席戦略官、娘婿のクシュナー氏、共和党主流派が送り込んだプリーバス首席大統領補佐官、軍出身のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)らがぶつかり合う。

 主な省庁の高官ポストがなかなか埋まらないのは、こうしたホワイトハウス内のごたごたが影響しているようだ。閣僚を支える人材が乏しいことで、よいアイデアが出てこず、支持率がますます低下して側近の責任の押し付け合いが激しくなるという悪循環を指摘する向きもある。

 政権の軸足がどこにあるのかがわからない典型例は対シリア政策だ。ロシアが支持するアサド政権を温存し、まずは過激派組織「イスラム国」(IS)を倒すはずだったのが、逆にアサド政権を攻撃し、世界を驚かせた。

 国際紛争への不介入方針を撤回し、「世界の警察官」の座に返り咲いたことで、北朝鮮の暴走を抑止する反射効果が生まれたことは認める。とはいえ、あまりに極端な政策転換は、理由をもっと丁寧に説明しなければ、新たな国際秩序づくりにつながらない。

 政権の不人気に歯止めをかけるために、外交・安保でサプライズを起こし、米国民の視線を外にそらそうとしているのだとすれば、それこそ問題である。

市場への介入は問題だ

 経済政策の揺らぎも何とかしなければならない。公約の柱であった(1)北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱(2)中国を為替操作国に認定――などにすぐ踏み切らなかったのは評価できる。

 しかし、高関税などの脅しをちらつかせながら、2国間で貿易赤字を減らそうとする「アメリカ・ファースト」の姿勢は変わっていない。世界貿易機関(WTO)のような国際機関を軽視し、米国の都合次第で従わないこともあるという態度は容認できない。

 過去のビジネスにおいて、マーケットは操る対象だったのかもしれない。国家を動かす立場になったからには「ドルは高すぎる」「低金利政策が好きだ」と安易に口先介入すべきではない。

 トランプ政権が現実路線を加速することを期待するが、そうなるかはまだ読めない。ワシントン・ポストの世論調査によると、トランプ氏に投票した人の96%がなおトランプ氏支持だった。白人の低・中所得層をにらんだ政策選択は続くと見た方がよい。

 日本としては広くアンテナを張り、さまざまな保険をかけつつ、つきあうしかあるまい。

トランプ政権 戦略欠く強権の危うさ

 米国の政権は就任から100日間の実績が、力量を測る最初の目安の一つとされる。トランプ政権は、29日が節目である。

 目玉とする政策は実現の見通しが立たない。政府機関の基盤固めも難航を極めている。その前途を危惧せざるをえない。

 打ち上げた花火は華々しかった。この100日間に発した大統領令は、第2次大戦後で歴代最多とされる30にのぼる。

 だが、中東など一部の国からの入国禁止は裁判所が待ったをかけた。医療保険改革制度(オバマケア)見直しは議会の反対で頓挫した。メキシコ国境の壁建設は財源のめどが立たない。

 司法や議会がチェック役を果たしたことは、米国の三権分立が機能した証左と評価したい。

 むしろ懸念すべきは、目先の成果を期待して、政策がもたらす影響の検討も関係者への説明も尽くさないトランプ流強権政治の「独走」である。

 財源確保を後回しにしたまま打ち出した15%への法人減税案も、その典型だ。

 保護貿易など支持層が欲する政策か、共和党の伝統政策か、軸が定まらない。一貫するのはオバマ前政権との違いを打ち出したい願望にほぼ尽きる。

 政府機関の中枢を占める政治任用職と呼ばれるポストの8割が、いまだに指名すらされていないのも尋常ではない。

 政策に通じた人材よりも側近や親族を重用したり、議会などとの調整を軽視したりするトランプ氏の稚拙な政治手法が政策の停滞と社会分断を招いているならば、ゆゆしき事態である。

 大統領として米国全体の利益を目指す立場にあることを、トランプ氏はまず自覚すべきだ。

 不透明で不確実な意思決定は対外政策にもつきまとう。

 就任前は「米国は世界の警察官にならない」と主張していたが、シリアへのミサイル攻撃など軍事偏重に一転した。

 悪化したロシアとの関係をどう立て直すのか。中東の混乱をいかに収拾するか。問題は、軍事と両輪をなすべき「外交」の具体像が見えないことだ。

 同じことは、緊張が高まる北朝鮮情勢にも当てはまる。

 事態打開を急ぐあまり軍事行動にはやらないか。安全保障と通商をてんびんにかけて、中国と「取引」するのではないか。そんな疑念がぬぐえない。

 口では「外交圧力を強める」というが、担い手たる国務省の幹部ポストの大半が空席だ。

 内政、外交ともに長期的な戦略を立て、手間を惜しまずに合意を目指す。それも大統領の基本動作と心得てほしい。

商工中金不正 組織の根本が問われる

 商工組合中央金庫(商工中金)で、国の予算を使った「危機対応融資」をめぐる大規模な不正がわかった。政府系金融機関としての存在意義が問われる事態だ。組織の体質や経営体制を根底から見直す必要がある。

 社外の弁護士による第三者委員会の調査報告によれば、判明分だけでも35の支店で不正があり、99人が関わっていた。

 危機対応融資は、景気変動や災害で経営が悪化した企業に、国からの利子補給付きで資金を貸し出す制度だ。売り上げ減や雇用の維持を示す書類を提出してもらうが、それを要件を満たすように改ざんしたり、支店側で自作したりする不正がはびこっていた。融資額が支店ごとに割り当てられ、ノルマ化していたことが背景にあった。

 深刻なのは本部の対応だ。2014年に内部監査で一部の実態を把握したが、是正を担うべき「コンプライアンス統括室」などが、不正をもみ消すような行為をしていた。問題がなかったと装う証言を誘導したり、書類を差し替えたりしていた。悪質と言わざるを得ない。

 商工中金は中小企業のための金融機関で、かつては政府が約8割を出資していた。06年には15年までの完全民営化が決まったが、世界的な経済危機で3年半先送りされ、さらに一昨年の法改正で、当分、政府が必要な株式を保有することになった。

 政府関与を残す根拠の一つが、危機対応での役割だ。直近で、政府の危機対応融資残高の過半は商工中金が担う。逆に、商工中金の融資残高の3分の1が危機対応融資だ。事業枠の確保を政府側に要望していた時期もあったという。

 そうした重要な役割を舞台に起きた今回の不正は、政策を担わせる資格を疑わせる。

 経営が不安定な企業に融資すべきカネを健全な企業に貸したので、焦げ付きには至っていない。だが、本来民間では出来ない融資への公的補助を、自らの業績拡大に流用しており、民業圧迫の色彩が濃い。

 「半官半民」というあいまいな経営体制の帰結ともいえ、政策遂行と営利追求をどう切り分けるべきか、商工中金のあり方を政府も再検討すべきだ。

 今回の不正、特に本部の隠蔽(いんぺい)について、調査報告書は、特定の人物の指示ではなく、組織内の「場の空気」によるものと結論づけた。「特殊・例外的な事案ではなく日本型不祥事の典型」とも指摘している。

 内輪のなれ合いが組織の目的をゆがめていないか。他山の石として学ぶべきことは多い。

安保理閣僚会合 厳格な対「北」制裁を追求せよ

 北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を本格的に迫る。そのためには、国際社会が一致して、厳格かつ実効性ある制裁を科すことが欠かせない。

 国連安全保障理事会が北朝鮮の核問題に関する閣僚級会合を開いた。議長のティラーソン米国務長官は、外交関係の停止・制限、金融面での孤立化など、新たな対北朝鮮制裁を提案した。

 「北朝鮮によるソウルと東京への核攻撃は今や現実の脅威だ」との強い危機感も表明した。

 米国の軍事的な圧力と並行し、多国間外交で北朝鮮包囲網を構築する基本戦略は妥当である。

 北朝鮮は、安保理会合を牽制(けんせい)するように、弾道ミサイルを発射した。発射直後に内陸部に落下したが、国際社会に対する無謀な挑戦であることに変わりはない。

 安倍首相は「断じて容認できない」と北朝鮮を強く非難した。

 ロシアが言及した6か国協議の再開については、「対話のための対話は解決につながらない」と否定した。「むしろ国際社会が、北朝鮮に対する圧力を一致結束して高める必要がある」と語った。

 過去の経緯を踏まえれば、当然だろう。北朝鮮は6か国協議に応じて経済支援を受けつつ、時間稼ぎの陰で核開発を続けた。この苦い教訓を忘れてはならない。

 何度も核実験を強行したのに、核開発の停止などの約束もないまま、対話を始めるのは、北朝鮮へ誤ったメッセージを送ろう。今は北朝鮮制裁を強化する時だ。

 岸田外相は中国の王毅外相と会談し、「さらなる挑発行動がある場合は、断固たる対応が必要だ」と制裁への協力を求めた。王氏は「対話を通じた平和的解決が重要だ」と述べるにとどめた。

 北朝鮮は、原油調達の9割以上を中国に依存している。裏を返せば、中国による原油の供給制限が極めて効果的な制裁となる。

 中国は、新たな北朝鮮の挑発行為があれば、独自制裁を科す方針とされる。中国が強力な制裁も辞さず、北朝鮮の説得に本腰を入れるよう、日米などは中国への働きかけを強めることが大切だ。

 ロシアも、万景峰号の定期航路を開設するなど、北朝鮮への融和姿勢が目立つ。他の安保理理事国と足並みをそろえるべきだ。

 米国は、北朝鮮に対する「テロ支援国家」の再指定を検討している。再指定は、北朝鮮制裁の重要な象徴であり、支持したい。

 北朝鮮の暴走を抑止するため、関係国が連携し、あらゆる手段を追求せねばならない。

藤井四段快進撃 将棋界の隆盛につなげたい

 弱冠14歳の天才棋士の快進撃には、無限の可能性を感じる。

 中学生棋士の藤井聡太四段が、昨年10月のプロ入り以来、公式戦で14連勝を続けている。従来の記録だった10連勝を軽々と突破し、「実力は既にトップ棋士級」との評も聞こえる。

 5歳で祖母から手ほどきを受けたのが将棋との出会いだった。将棋教室に通い、小学4年の時、プロ養成機関の奨励会に入った。

 14歳2か月で四段に昇格し、プロ入りした。「神武以来の天才」と称された加藤一二三九段の最年少記録を62年ぶりに更新した。

 加藤九段、谷川浩司九段、羽生善治三冠、渡辺明竜王――。過去の中学生棋士には、後に超一流となったそうそうたる名が並ぶ。

 将棋界は、スター棋士が登場する度に人気が盛り上がった。将棋人口が近年、約1000万人で横ばいとなっている中、「希望の星」として、藤井四段に大きな期待が集まるのは無理もない。

 詰将棋日本一を決める大会で3連覇中であることが、終盤の強さを物語る。序盤、中盤の指し手にも鋭さが増している。非公式戦では、羽生三冠をも下した。

 攻守にバランスの取れた棋風をさらに磨いてもらいたい。

 若き棋士の苦悩と成長を描く漫画「3月のライオン」や、早世した棋士が主人公のノンフィクション「聖の青春」が最近、相次いで映画化された。全霊を込めて一手一手を指す人間ドラマが、感動を呼んでいるのだろう。

 対局のネット中継も、人気を集める。外国人初の女流プロになったポーランド出身のカロリーナ・ステチェンスカさんは、日本の漫画で将棋を知り、ネット対局で力をつけたという。

 伝統文化が新たな形で広まっているのは、明るい兆しだ。

 将棋ソフトの発達には、目覚ましいものがある。棋力ではプロ棋士を超えつつあるが、悲観的に捉える必要はないだろう。

 ソフトによる新手の発見などで、棋士のレベルが向上すれば、ファンはこれまでにない対局を楽しめるのではないか。

 昨年から今年にかけて、将棋界はソフトを巡る疑惑に揺れた。日本将棋連盟は、対局中に頻繁に席を外したなどとして、棋士を出場停止にしたが、不正の証拠はなかった。谷川前会長は辞任した。

 連盟では5月に全理事が改選され、新体制がスタートする。信頼回復のためにも、連盟には各棋戦の適正な運営が求められる。

2017年4月29日土曜日

日ロ首脳が真の信頼関係を築くには

 安倍晋三首相がロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。

 両首脳の会談は昨年12月の大統領来日以来で、通算17回目だ。個人的な関係づくりという意味では十分なほど会談を重ねてきたが、日ロ間の信頼醸成になかなか結びつかないのはもどかしい。

 北方領土問題では確かに、昨年末の合意に基づいて共同経済活動を進めるべく、日本が官民調査団を現地派遣することになった。元島民らの墓参については航空機利用を含めた簡素化で一致した。

 北方領土の共同経済活動は、双方が事業案を提案済みだ。ただし「両国の法的立場を害さない」との原則にもかかわらず、ロシアは自国の法制度に矛盾しないことを条件にしている。具体化できるかどうかはなお予断を許さない。

 プーチン大統領は領土問題を含めた平和条約締結交渉を進める意思を改めて表明したが、解決策は日ロの「戦略的利益に合致し、両国民に受け入れられる」ものでなければならないと強調した。

 共同経済活動の成否を試金石とみなしているのは明らかだ。調整が長らく難航すれば、日本は北方領土に関心がないとして、条約締結交渉そのものを中止する事態も予想される。互恵的な経済協力の裾野を広げて領土問題解決への環境づくりをめざす方向性は理解できるが、ロシア側の思惑も冷静に分析していく必要があろう。

 首脳会談では、緊迫する北朝鮮やシリアなど国際情勢をめぐる議論も大きな焦点となった。

 軍事的挑発を続ける北朝鮮に対し、国際社会が結束して強い圧力を加えようとするなか、ロシアは貨客船「万景峰号」による定期航路新設を決めるなど国際協調に逆行する動きを強めている。

 シリア問題でも、ロシアはアサド政権による化学兵器使用疑惑に真っ向から反論。同政権に立ち入り調査受け入れなどを求めた国連安全保障理事会の決議案に拒否権を行使し、廃案に追い込んだ。

 国際協調を乱す試みがあれば胸襟を開いてとことん話し合い、過ちがあれば正すのが筋だろう。首相はロシアに「建設的な役割」を求めたというが、果たしてどこまで苦言を呈したのだろうか。

 協力や協調の成果だけを演出していても、真の信頼関係は望めまい。領土交渉を進展させたいがゆえにロシアに甘い態度ばかり示せば、結局は領土問題でも足元をみられてしまう。

「1日インターン」への懸念

 企業が学生を受け入れて職業意識を養ってもらうインターンシップ(就業体験)について、経団連が日数の規定の廃止を決めた。今は5日間以上としているが、2019年春に卒業する大学生からは1日だけの実施が可能になる。

 インターンシップは企業が優秀な学生を見つける場としている例が少なくない。日数規定の廃止により、学生が働きながら自分の適性を見極めるという、本来の趣旨に反する例が増えないか心配だ。

 企業説明会の解禁前にインターンシップを開きやすくなることで、採用活動が早くから過熱する心配もある。企業に節度ある対応を求めたい。

 経団連に加盟していない外資系やIT(情報技術)企業などの間では、現在も1日限りのインターンシップが多い。会員企業からは日数のルールの見直しを要求する声があがっていた。

 経団連は16年春に卒業する大学生から、採用説明会の開始を3年生の12月から3月に繰り下げた。これに伴い、説明会の解禁前にインターンシップの形で事実上の採用活動を始める企業が増えた。

 人材サービス大手のリクルートキャリアによると、来春卒業する大学生の4月1日時点の内定率は14.5%と前年より4.8ポイント高まっている。「1日インターンシップ」が広がれば就職活動の早期化に拍車をかけかねない。

 インターンシップには、大学などでは習得できない実践的な知識や技能を身につけたりする意味がある。経団連も教育的効果の乏しいプログラムは望ましくないとしている。企業に徹底してほしい。

 商社の業界団体である日本貿易会の10年の提言をきっかけに、経団連は、それまで大学3年の秋から始まっていた説明会の開始を遅らせるなど採用活動の見直しを進めた。学生が就職活動に時間をとられ、学業がおろそかになりがちなことへの危機感からだった。

 これから社会を担う若い人材の質が低下すれば悪影響は大きい。企業は常に念頭におくべきだ。

日ロ関係 地域安定に向け協調を

 モスクワを訪問した安倍首相がロシアのプーチン大統領と会談し、北方四島での「共同経済活動」や、北朝鮮情勢などについて意見をかわした。

 両首脳の会談は第1次安倍政権時代も含めると17回目だが、米国でトランプ政権が発足してからは初めてだ。

 そのトランプ政権が今月、ロシアが支援するシリアのアサド政権をミサイル攻撃し、米ロ関係は悪化している。

 「トランプ時代」にロシアとの関係をどう描き直すか。米ロ双方の首脳と良好な関係を築いてきた首相にとって、その戦略が問われる第一歩となった。

 日本にとって重要なのは、北朝鮮情勢をめぐり日米韓と中ロの分断をつくらないことだ。

 米ロ両国は北朝鮮のミサイル開発や核兵器保有は認められないという立場では一致するが、米国が北朝鮮に軍事的な圧力を強めていることは、ロシアには自国や地域への脅威と映る。

 立場に違いはあっても、国連安保理常任理事国であり、北朝鮮に一定の影響力をもつロシアの建設的な関与は不可欠だ。

 日本は日米韓の連携を強めつつ、ロシアが積極的に協調行動をとるよう促す必要がある。そして何よりも、北朝鮮の後ろ盾であり、核問題をめぐる6者協議の議長国でもある中国を巻き込むことが欠かせない。

 プーチン大統領は首脳会談後の共同記者発表で「少しでも早く、6者協議を再開させることだ」と語った。

 北朝鮮に対し、米国が軍事攻撃に踏み切れば日韓両国が反撃を受け、甚大な被害を受けかねない。米国が北東アジアで軍事行動に出る事態は、中ロにとっても好ましくない。

 そうした事態を避けるためにも日米韓に中ロをまじえた枠組みで共同歩調をとり、粘り強く打開をはかるしかない。

 北方領土問題では、両首脳は5月にも官民合同の調査団を日本から派遣するほか、6月に航空機による元島民の特別墓参を実施することで合意した。

 これらは昨年末の首脳会談で合意した「共同経済活動」の実現に向けた入り口だ。共同経済活動は両国でかつて何度も検討されながら、立ち消えとなってきた経緯がある。日ロどちらの法律を適用するかという難題があり、隔たりは大きい。

 北方領土問題の解決をめざすには、北東アジアの平和と安定は欠かせない。日ロが北朝鮮問題でいかに共同歩調をとっていけるか。平和条約締結に向けた第一歩としても、地域安定への協調の道筋を描く必要がある。

地方の大学 強み磨いて活路あり

 大学への進学のしやすさが、生まれ育った場所がどこかで大きく左右される。そんな理不尽な現象が広がっている。

 大学進学率は最も高い東京都が64%なのに対し、最も低い鹿児島県は31%。しかも約10年前の調査から差は開いている。

 東京、大阪、愛知の高校を卒業した人は5~7割が地元の大学に進むのに、東北の一部や山陰では逆に8割の生徒が県外に出るという統計もある。

 生徒に県内への進学を促しても解決策にはならない。志望する学科がなかったり、教育や研究の水準がいまひとつだったりすれば、当然、二の足を踏む。地方の小規模な大学に定員割れが目立つ一因でもある。

 そして、県外に出ることになれば下宿代を含め教育費がかさむ。家計に余裕がない生徒は進学自体をあきらめる――。こうした事情が重なり、深刻な進学格差が生まれているのだろう。

 放置していい問題ではない。奨学金の充実や、単位互換の協定を結ぶ大学同士の「国内留学」の活性化などを急ぎたい。

 何より考えるべきは、現にある地方大学の魅力を見いだし、磨き、輝かせることだ。

 地元の自治体や企業と手を結び、地域の課題を探る。その解決に必要な研究をし、人材を送り出す。そんな取り組みで存在感を増している大学がある。

 長野県の松本大学は周辺の市町村と連携。お年寄りに健康指導をして、医療費の削減に貢献している。同大の教授が開発に携わったという「速歩」による健康法を生かした事業だ。

 学生も、現場実習に出ることで地域の人々に育てられる。専門性を買われて役所や病院に採用される学生も出てきた。

 福岡市の中村学園大学は、「食」に活路を見いだす。この春の新学科開設にあたっては、九州の食品企業や自治体に呼びかけ、一緒にカリキュラムを練った。商品開発やインターンシップでも協力し合う。

 政府の有識者会議では、東京での学部の新増設を抑えるなどの策が検討されている。だが過去に似たような施策を行ったときも効果は思わしくなかった。人為的な規制や調整で実現できることは限られよう。

 地元の大学が魅力に欠けていては、優秀な人材は育たず、地域の将来の担い手たる若者が流出するのも止められない。手をこまぬいていては、活力はそがれるばかりだ。

 県や市町村は危機意識を共有し、大学を地域のシンクタンクとして育て、活用していく連携の輪に加わってほしい。

日露首脳会談 領土交渉の環境整備を幅広く

 昨年12月の首脳会談での幅広い合意を着実に前進させる。それが、困難な北方領土問題を解決する環境整備となろう。

 安倍首相がモスクワでロシアのプーチン大統領と約3時間、会談した。通算17回目の首脳会談では、北方4島での「共同経済活動」の実現を目指し、5月中にも日本の官民合同調査団を現地に派遣することで一致した。

 首相は会談後、「協力を積み重ね、大きく発展させたい」と強調した。魚やウニの養殖、エコツーリズムを具体例に挙げた。プーチン氏も、「相互理解と信頼が深まるのは大変良い」と応じた。

 どんな事業が可能なのか、まずは現地の状況や採算性をきちんと調査することが大切だ。

 共同経済活動が軌道に乗れば、日本企業・関係者とロシア人島民の交流が深まろう。ロシア側の対日観が向上し、領土返還への理解が広がる可能性がある。

 無論、日本の法的立場を害さない「特別な制度」が大前提だ。ロシア側が受け入れ可能な制度設計に知恵を絞らねばなるまい。

 対露経済協力も進んでいる。ハバロフスクへの予防医療センター開設や、ロシア南西部の都市開発などの作業計画が了承された。

 エネルギー分野では、イルクーツクでの原油・天然ガスの共同開発などで合意した。

 経済協力だけが先行する印象を与えないよう、領土問題とのバランスにも留意したい。

 元島民の墓参に関し、国後、択捉両島訪問時の航空機活用と、歯舞群島沖での出入域地点の新設が決まったのは、朗報である。

 高齢化が進む元島民の負担は軽減され、里帰りもしやすくなる。自由往来の拡大に向けて、円滑な実施に努めてもらいたい。

 首相とプーチン氏は、7月のドイツでの再会談を決めた。9月にも、首相はウラジオストクを訪問し、首脳会談を行う予定だ。

 領土問題の次のヤマ場は、プーチン氏が再選を目指す来年春の大統領選後とみられる。

 当面は、首脳会談を重ね、信頼関係を一層深める。同時に、共同経済活動の具体化を図る中で、領土交渉進展の機会をうかがう。そんな首相の戦略は理解できる。

 北朝鮮情勢については、日露が緊密に協力し、挑発行為の自制を働きかけることを確認した。

 ただ、ロシア側は、北朝鮮への圧力強化に消極姿勢が目立つ。首相が、国連安全保障理事会常任理事国として建設的な役割を果たすよう促したのは当然である。

トランプ米政権 外交の軌道修正は道半ばだ

 選挙のスローガン通りには、実際の政治は進まない。厳しい現実に直面し、側近の意見に耳を傾けて、柔軟に軌道修正したことは理解できる。

 トランプ米大統領が就任から100日を迎えた。成果を点検する最初の節目である。

 世界を驚かせたのは、外交・安全保障政策での豹変(ひょうへん)ぶりだ。「米国第一」の孤立主義に陥らず、米軍にシリア軍基地を攻撃させた。化学兵器使用を容認しない原則を行動で示した意義は大きい。

 核ミサイル開発を進める北朝鮮を牽制(けんせい)する効果を持とう。

 トランプ氏は軍事、外交両面で対北朝鮮圧力を強める。情勢を悪化させたオバマ前政権の「戦略的忍耐」を否定し、「力による平和」を目指す方針は理に適(かな)う。

 軍人出身のマティス国防長官やマクマスター大統領補佐官ら、安保の専門家が政権内で影響力を増したことが背景にあろう。

 日本との同盟の重要性を繰り返し強調するのも評価したい。

 中国には、北朝鮮制裁の徹底を促す。貿易戦争も辞さない勢いだった対中強硬発言を控え、習近平国家主席との良好な関係を演出する。トランプ氏の常套(じょうとう)手段の「取引」は功を奏するだろうか。

 ロシアのプーチン政権との関係改善が、元側近らの対露癒着疑惑により、頓挫したのは誤算と言えよう。「米露関係は史上最低かもしれない」と語り、「時代遅れ」と非難していた北大西洋条約機構(NATO)の重視に転じた。

 予測不能の言動と変わり身の早さは、長期的には米国への信頼を損ないかねない面もある。高官人事を急ぎ、経済外交や通商交渉も含めた包括的な戦略を構築することが求められる。

 内政の目玉公約は、ことごとく行き詰まっている。

 テロ阻止を名目に、イスラム圏の国民の入国を制限する大統領令は、裁判所に差し止められた。メキシコ国境に壁を建設する予算の目途も立っていない。医療保険制度「オバマケア」の代替法案は議会で激しい対立を招いた。

 どの政策も、賛否を巡り、世論が二分する。丁寧な説明を怠り、拙速に進めたことが混乱に拍車をかけた。国民融和の視点を欠く政権運営では、約40%と低い水準にとどまる支持率は上がるまい。

 議会で多数派を占める共和党は政権を支える立場にある。強硬派と穏健派が分裂し、妥協に消極的な現状は問題だ。大統領選で露呈した既存の支配層に対する有権者の不信は、増すばかりだろう。

2017年4月28日金曜日

成長力の引き上げ伴う物価上昇めざせ

 日本銀行は4月の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、2017年度の実質国内総生産(GDP)成長率の見通し(中央値)を前回1月の1.5%から1.6%に引き上げる一方、消費者物価上昇率の見通しは同1.5%から1.4%に下方修正した。

 日銀は物価安定目標の2%をめざして金融緩和を続ける方針を示しているが、その達成時期は「18年度頃」と前回の見通しを据え置いた。リポートでは「2%に向けたモメンタムは維持されているが、なお力強さに欠け、引き続き注意深く点検していく必要がある」と指摘している。

 物価が継続的に下落する状況は脱したものの、企業の物価予想などをみてもまだ慎重な見方が多い。人手不足を反映した宅配便の値上げなどの動きがようやく出始めたが、物価全体を押し上げる状況にはなっていない。

 日本の潜在成長率は、日銀の推計では0%台後半。1%台半ばの成長率でも潜在力を上回る成長になる。日銀は、これが続けば経済の需給ギャップが改善し、物価上昇圧力は高まるとみている。

 日銀が物価を重視して金融政策を行うのは当然だ。だが、中長期的に持続的な成長を実現するには、物価を上げるだけではなく、生産性向上などを通じて、経済の実力である潜在成長力を高める努力が欠かせない。

 2012年12月に始まった現在の景気拡大局面は戦後3番目の長さになったが、そのテンポは緩やかで、金融政策や財政刺激策など政府・日銀の支えに頼っている部分がまだ大きい。成長力を高めるための規制緩和など構造改革は十分とは言えない。

 企業が技術革新など前向きな投資をして、付加価値の高い商品・サービスを生み出すことで、企業の収益も増え、従業員の賃金も上がる。生産性向上による成長力の強化と物価上昇がともに進む好循環をもたらすことが重要だ。

 世界をみると、米連邦準備理事会(FRB)は昨年12月と今年3月に利上げに動いた。市場では年内にあと2回利上げし、年末までにはFRBの持つ資産規模の縮小も始めるとの予想が出ている。

 欧州中央銀行(ECB)も量的緩和の縮小など金融政策の見直しを探り始めている。日本はまだ緩和を縮小する段階ではないが、米欧の政策調整が市場に及ぼす影響にも目配りが必要になる。

米減税案は財源に問題がある

 米国のトランプ政権は法人税率の15%への引き下げを含む大型の減税案を発表した。米法人税率は先進国でも最高水準にあり、引き下げ自体は理解できる。だが、所得減税分も含めて、どう財源を賄うのかをはっきりと示していないのは大きな問題である。

 米国の法人税は35%という高い税率のほか、海外で稼いだ利益を国内に還流させた場合も巨額の税を課されるという問題点を抱えている。米企業が本社を海外に移したり、利益を海外に滞留させたりする原因にもなっていた。

 減税案には海外からの送金に課税しない仕組みの導入が含まれており、この点は評価できる。輸入に課税する「法人税の国境調整措置」の導入見送りも、経済への悪影響を考慮した現実的な判断だ。

 所得税は、税率を7段階から3段階に減らし、基礎控除額を大幅に増やす。税の簡素化につながるほか、富裕層から中低所得層まで減税を享受できる形になる。

 課題は、大規模な減税案をそのまま実現した場合、財政収支の悪化が避けられないことだ。ムニューシン米財務長官は「成長による税収増で賄える」との見方を示すが、成長底上げ効果を考慮しても巨額の赤字が生じると分析する専門家が多い。

 一定の特別控除の廃止・見直しなど増収策も検討しているが、限界があろう。甘めの成長見通しをもとに大型減税を正当化するなら無責任だ。歳出削減も含めた財源確保策を示すべきだ。

 減税案はたたき台にすぎず、実現性には疑問符もつく。議会では野党・民主党が反対を表明しているだけでなく、財政規律重視の共和党保守派も赤字が膨らむ案には同意しない可能性がある。

 米法人税率が15%になれば、日本よりもかなり低くなり、日本企業の米国投資が増える可能性がある。また、輸入課税の見送りは日本の輸出業者にとっては朗報だ。ただ、議論はなお流動的であり、どんな形で日本や日本企業に影響するかを注視する必要がある。

森友と財務省 特別扱いの理由を示せ

 「森友学園」への国有地売却で、財務省がいかに異例の対応をしていたか。その実態を示す資料が次々に出てきた。

 改めて問う。問題の国有地はどのような経緯で破格の安値で売られるに至ったのか。財務省には説明の義務がある。

 学園の籠池泰典氏は16年3月、財務省の担当室長と面会した。朝日新聞が入手したその際の録音によると、籠池氏は当時賃貸契約を結んでいた国有地の地中からごみが見つかったと説明し、安倍首相の妻、昭恵氏の名前にも触れて対処を求めた。

 室長は、売却が原則の国有地について「貸し付けすることが特例だった」とした上で、ごみが見つかったことは「重大な問題と認識している」と応じた。

 この面会の9日後、学園は土地の購入を申し入れ、3カ月後、鑑定価格から約9割引きの安値で売買契約が結ばれた。

 この経過について、籠池氏は今年3月の証人喚問で「神風が吹いた」と表現した。財務省の佐川宣寿理財局長は国会で、16年3月の面会について「(室長は)現場で適切に対応すると応じたが、その他については具体的に記憶していない」と答え、詳しい説明を避けている。

 特別扱いぶりは、国会の質疑で明らかにされた資料にも表れている。近畿財務局が作成し、14年12月中旬に学園に渡されたという「今後の手続きについて」と題した資料だ。

 売買契約を締結するまでの手続きを14項目にわたって説明。15年2月に国有地売却の是非を協議する審議会が予定されていることを示したうえで、それまでに必要な書類を指摘し、「速やかに提出」と記した。

 また15年1月をめどに要望書を提出する必要があるとし、近畿財務局長宛ての要望書のひな型が添付されていた。「校舎建設等に多額の初期投資を必要とする」といった「事情を斟酌(しんしゃく)」し、売り払いが原則の国有地について「10年間の事業用定期借地契約と売買予約契約の締結をお願いいたします」とある。期日と学校法人名を書けば完成するようになっていた。

 そのほか、土地の貸し付けや売買予約のための書類のひな型もあった。

 財務省の佐川局長は国会で、「予断を持って(土地の)処分方針について伝えたことはない」と繰り返すが、その言葉を国民が信じるだろうか。

 学園側との面会で何を話し、なぜ、特別扱いにしか見えない対応を重ねたのか。説明できないようでは、財務省に国有地を管理する資格はない。

退位法案骨子 政府は天皇観の修正を

 天皇退位を実現するための特例法案の骨子がまとまった。

 政府が当初示した案は、各党各会派の意見をもとにした衆参両院の正副議長による「とりまとめ」と、さまざまな点で違いがあった。このため朝日新聞の社説は「国会の軽視が過ぎる」と批判し、撤回を求めた。

 結局、問題の箇所はすべて「とりまとめ」の線に戻されたが、最終盤での駆け引きを通じて改めて浮かびあがったのは、天皇観をめぐる国民と政府の間にある深い溝である。

 退位を認めるにしても、今の陛下限りとする――。それが安倍首相の一貫した立場だった。

 天皇に終身在位を強いる制度は、明治憲法と同時に制定された旧皇室典範で確立した。皇室の歴史を踏まえ、退位を認める有力な案もあったが、天皇を支柱とする国家づくりを進める当時の首相伊藤博文が受け入れなかった。このとき女性天皇の考えもあわせて否定された。

 戦後、現行典範に切りかわる際にも「天皇の人権」の観点などから活発な議論があった。だが昭和天皇の戦争責任問題が決着しておらず、影響が見通せないとの懸念もあって、退位のしくみは採用されなかった。

 こうした旧典範以来の定めに政府はこだわり続けた。政権を支持する一部保守層の動きにも配慮してのことだろう。

 明治期に理想を見いだし、その時代に形づくられた価値観を尊重・追求する。教育勅語に関する最近の閣議決定などにも通じる政権のカラーが、退位問題でも前面に出たと言っていい。

 しかし将来の天皇も退位できるようにすべきだというのが、世論調査を通じてはっきりした圧倒的多数の国民の声だった。それは、昨年夏の陛下のビデオメッセージを機に、高齢社会における象徴天皇のあり方について、多くの人が真剣に考え、理解を深めた結果だ。国会もそう判断したからこそ、与野党の枠をこえて、見解をとりまとめるに至ったのでないか。

 政府が尊重すべきは、この国民の意向である。

 退位問題にひと区切りがついても、皇族の数が減り、活動を維持するのが難しくなっている現状にどう対処するかなど、解決すべき課題はなお多い。

 それらに取り組むとき、政府が今回と同じように、特異な時代の、特異な天皇・皇室観に立ったままでは、人びとの考えと違う方向に話が進みかねない。

 国民の思いから離れたところに皇室は存在し得ない。憲法が定めるこの原則を、政府はいま一度肝に銘じるべきだ。

トランプ減税案 巨額の財源どう確保するのか

 大規模な減税が目を引くが、財源は経済成長任せで頼りない。法制化では議会との調整の難航が必至だ。堅実な制度設計を目指すべきである。

 トランプ米政権が税制改革案を発表した。法人税を35%から一気に15%に引き下げる。実現すれば、レーガン政権時以来、約30年ぶりの法人減税となる。

 所得税は7段階から3段階に簡素化して最高税率を下げる。基礎控除を倍増し、中低所得層に目配りする。富裕層に恩恵の大きい相続税廃止も打ち出した。

 「米国第一」を掲げるトランプ政権は、経済成長と雇用確保を重視する。改革案が、こうした戦略に合致し、企業の国際競争力向上につながると強調している。

 減税策が、景気を上向かせる効果を持つのは事実だろう。

 反面、減税規模や経済効果に関する数字の裏付けはない。減税の財源についても、経済成長による税収増に期待するという。税制改革の具体化はこれからだ。

 米国では、法案提出権は議員だけにある。今回の改革案も、議会の与党・共和党が策定する税制法案の叩き台と位置付けられる。共和党は法人減税に賛成だが、財政悪化に配慮し、トランプ案ほどの引き下げは主張していない。

 議会側と、法案拒否権を持つ大統領側との擦り合わせが6月まで続く見通しだ。税制改革の効果と影響を分析し、安定成長に資する内容に練り上げる必要がある。

 輸出企業の税負担を軽くし、輸入企業の税負担を重くする「国境税」は盛り込まれなかった。

 輸入超過の米国で有力な税収確保策になるとの見方がある一方、海外製品に依存する小売業界などが、消費者の負担を増やすとして猛反発している。

 国境税を導入すれば、貿易を歪(ゆが)めて世界経済に悪影響を与える恐れがある。特に対米貿易の比重が大きい日本企業は深刻だ。見送ったのは妥当な判断である。

 トランプ氏の大統領当選以来、米株高の「トランプ相場」が続いた。減税やインフラ投資といった景気刺激策を先取りしてきた。

 改革案の発表当日、ニューヨーク株式市場は、実現性に疑問があるとして値下がりした。政権の政策遂行能力が疑われたままでは、市場の不信が強まりかねない。

 トランプ氏は29日に就任100日を迎える。今後は期待よりも実績が厳しく問われ、地に足の着いた経済政策が一層重要になる。税制改革で議会と足並みがそろうかどうかが試金石となろう。

商工中金不正 公的金融の役割を再確認せよ

 公的融資の水増しで実績作りをすることが、政府系金融機関としての存在意義だとでも考えたのだろうか。

 商工組合中央金庫(商工中金)が、経営悪化した中小企業などを支援する政府の「危機対応融資」を利用し、対象外の企業に貸し出す不正を行っていた。

 商工中金が設置した第三者委員会の調査によると、不正融資は全国の支店で見つかり、総額は198億円に上っている。

 国からの利子補給金など約2億円の不正受給も判明した。

 調査対象は全体の13%で、「氷山の一角」の恐れもある。

 組織ぐるみではないか。経営トップの関与はなかったのか。疑念は拭えない。徹底した真相究明と再発防止策が求められよう。

 危機対応融資は、大災害や金融危機で業績の悪化した企業に低利で融資する制度だ。民間金融機関では採算が合わないケースでも救済するのが狙いで、公的資金を活用し、商工中金や日本政策投資銀行が貸し付ける。

 融資先の倒産などで融資が焦げ付いても、元本返済の約8割は保証される。経営難の中小企業にも貸しやすくして、企業倒産を防ぐ「安全網」である。

 商工中金の支店では、取引先の売上高などを実際より悪い数字に改ざんし、融資条件を満たすように偽っていた。

 危機対応融資は、企業業績が上向けば減るのが自然な姿だ。だが、商工中金では国の予算で示された事業規模の必達が優先された。

 実際の需要に合わない融資目標が支店に課され、過大なノルマが現場を追い詰めたという。窮地にある企業を助けるという制度の趣旨から著しく逸脱している。

 上司に反論しにくい企業風土も不正を横行させた要因とされる。刷新しなければならない。

 さらに問題なのは、商工中金の本部が現場の不正を知りながら「隠蔽(いんぺい)」していたことだ。本部が営業担当者にヒアリングした際、「内部文書を作るつもりだった」と答えるように誘導質問して、改ざん隠しを図っていた。

 商工中金は社長らの役員報酬を2か月間、最大3割カットする社内処分を実施したが、軽すぎると指摘する声もある。

 所管する経済産業、財務両省が、業務改善命令などの行政処分を検討しているのは当然だ。

 第三者委の調査では、経営陣の関与を確認できなかった。厳格な追加調査による事実関係のさらなる解明が急がれる。

2017年4月27日木曜日

受精卵のゲノム編集は国主導でルールを

 ヒトの遺伝子を手軽に改変できるゲノム編集技術を、病気の治療や研究に利用するための指針や審査のしくみづくりが遅れている。特に技術や倫理面の課題が多い受精卵の遺伝子改変について国が対応に及び腰なのは問題だ。

 ゲノム編集技術は急速に進み、海外ではエイズやがんの治療に応用が始まった。厚生労働省が、遺伝子治療の臨床研究指針にゲノム編集を含める改正作業に着手したのは評価できる。

 ただ、同省が想定するのは血液などの細胞のゲノム編集だ。受精卵などは「時期尚早」として検討の対象にしておらず、不十分だ。

 ゲノム編集によって受精卵の段階で遺伝子の異常を治せれば、病気を未然に防げる可能性がある。すでに中国では遺伝子を改変した例がある。一方で、望み通りに子の運動能力を高めたり顔つきを変えたりする「デザイナーベビー」などにも応用されかねない。

 受精卵の遺伝子改変の影響は子や孫に受け継がれ、後から異常が起きても引き返せない。生命の尊厳という観点からも多くの問題を抱えるだけに、社会的な合意形成を踏まえたルールが必要だ。議論を先送りしてはいけない。

 米科学アカデミーは今年2月に報告書をまとめ、他に治療法がない深刻な病気などの場合に限り、受精卵のゲノム編集を厳しい条件付きで容認するとした。治療がすぐに実現する可能性は低いが、今のうちから実施条件などを示した意義は大きい。

 日本では遺伝子治療の指針とは別に、内閣府の生命倫理専門調査会が昨年、ゲノム編集を使う研究に関する「中間まとめ」を出した。病気の治療ではなく、不妊症のメカニズムの解明など基礎的な研究が目的の場合、受精卵のゲノム編集を認めうるとした。

 ところが、具体的な指針の作成や審査のしくみづくりは進んでいない。内閣府は日本人類遺伝学会や日本遺伝子細胞治療学会などに作業を丸投げしようとし、学会の反発を招いた。

 ゲノム編集に関心を寄せる不妊治療クリニックの中には、学会に属さないところも多い。国主導で指針の整備などを急ぐべきだ。

 受精卵の操作を伴うような新しい医療技術は、今後も次々に登場するだろう。倫理的な課題を含め、何がどこまで許容されうるか幅広く議論し、必要な法制度を検討しておくことが大切だ。

待っているのは懲罰投票だ

 情けなくて、やりきれない思いだ。閣僚の資質以前に、人間性の問題だ。東日本大震災の被害に関する今村雅弘前復興相(衆院比例九州)の「まだ東北でよかった」という発言である。安倍晋三首相がただちに事実上更迭したのは当然だ。

 今村氏はこれより先、東京電力福島第1原子力発電所事故で自主避難している人の帰還について「本人の責任」と述べて批判を浴びた。その名誉ばん回で所属する自民党二階派のパーティーで講演した際に飛び出した発言というから開いた口がふさがらない。

 閣僚の失言・問題発言は第3次安倍再改造内閣で相次いでいる。滞貨一掃で、資質に疑問符がつく政治家を閣僚にした首相の任命責任も厳しく問われる。

 閣僚だけでなく、先日も女性問題で中川俊直氏(衆院広島4区)が経済産業政務官を辞任、自民党を離党した。長靴を持たず職員に背負われて、その後内閣府・復興政務官を事実上更迭された務台俊介氏(衆院長野2区)もいる。

 中川、務台両氏をはじめとする自民党の当選2回の衆院議員には不祥事が目立ち、風頼みで当選した若手議員の資質が改めて問われている。

 背景には安倍1強体制のおごりやゆるみがあるのは間違いない。野党が弱体で自民党内でも対抗勢力がなく、政権へのチェックが働かない。謝罪の言葉はともかくとして本当に党全体で反省しているのだろうか。

 自民党の国会議員はなぜ2009年に政権の座からすべり落ちたかを思いおこすべきだ。長年の自民党政権に嫌気がさした有権者の「懲罰投票」だったとされるからだ(小林良彰著「政権交代」)。

 この国民にしてこの政府あり、と古人はいった。この選挙区の有権者にしてこの国会議員あり、などといわれては当該選挙区の有権者にとって迷惑千万だろう。

 われわれの懲罰の一票が集まれば何がおこるか、自民党は心しておいた方がいい。

今村復興相の辞任 おごる政権、見過ごせぬ

 「まだ東北で、あっちの方だったから良かった」。東日本大震災をめぐり、こう語った今村雅弘復興相が辞任した。

 関連死を含め2万2千人近い犠牲者が出た現実が目に入っているとは思えない暴言である。辞任は当然だ。

 今村氏の暴言は初めてではない。今月初めには原発事故の自主避難者が故郷に戻れないことを「本人の責任」とし、行政の対応に不服なら「裁判でも何でもやればいい」と述べた。

 被災者に寄り添うべき復興担当相として、許されるはずのない発言だった。

 ■首相が「忖度して」

 だが安倍首相は今村氏をこの時は続投させた。「安倍1強」の数の力をたのんだ、首相の明らかな判断ミスである。

 そしてそれは、巨大与党のおごりと慢心が次々に噴き出す現状の一コマにすぎない。

 「ボケ、土人が」と沖縄県で警察官が市民に言った問題で、鶴保庸介沖縄相は「『土人である』と言うことが差別であると断じることは到底できない」と繰り返し、取り消していない。

 山本幸三地方創生相は観光振興をめぐり「一番のがんは文化学芸員。普通の観光マインドがまったくない。この連中を一掃しないと」と、学芸員の仕事を一方的に批判した。

 「記憶に基づいた答弁であって、虚偽の答弁をしたという認識はない」と言ったのは稲田朋美防衛相だ。国会答弁がままならず、官僚に頼り切りの金田勝年法相も忘れてはならない。

 一連の閣僚の発言に通底するのは、国民を上から見下ろすような視線である。

 そして国民と同じ目の高さに立とうとしない閣僚の態度は、沖縄県や多くの県民の反対を押し切り、辺野古埋め立てを強行した政権の強権姿勢と重なる。

 政権を率いる安倍首相の発言も問題が多い。

 森友学園への国有地売却問題で、首相本人や妻昭恵氏に対する官僚の「忖度(そんたく)」がなかったか。そのことが焦点になるなか、首相は先週、「よく私が申し上げたことを忖度して頂きたい」と語り、笑いを取った。

 東京・銀座の商業施設で全国の名産品を読み上げた原稿に、地元・山口県産品がなかったことを指摘しての軽口だ。

 ■「1強」が生む慢心

 国会で野党議員から「(森友問題での)政府の説明に納得できないが8割」との世論調査結果を示されると、「その調査では内閣支持率は53%。自民、民進の支持率はご承知の通り」とはぐらかした。

 閣僚たちの言動は、こうした首相の姿を反映しているように見える。

 確かに内閣支持率は安定している。その理由を朝日新聞の世論調査でみると、「他よりよさそう」が最も多い。

 「安倍1強」のもと、直ちに政権を担えそうな野党が見当たらない政治の現状を、有権者があきらめ交じりの目で眺めている。そんな姿が浮かぶ。

 雇用が拡大して景気がそれなりに順調なことや、東アジアの緊張が高まっていることも、政治に変化を求めたがらない世論を形づくっているようだ。

 1980年代後半からの政治改革で、首相への権力集中が進んだことも背景にある。

 選挙の公認権や政党交付金の配布に加え、官僚の人事権も掌握した政権中枢には逆らえない雰囲気が自民党内に広がる。

 反主流派が消えたいま、閣僚の暴言への批判も、ましてや首相への異議申し立ても小さくなるばかりだ。

 ■反省しない巨大与党

 しかしここへ来て、政権の慢心は度を越している。

 「数におごり、謙虚さを忘れれば、国民の支持は一瞬にして失われる」

 2014年の衆院選に勝った時も、安保関連法をめぐって国会が混迷した時も、首相はそのように語った。だが昨年の参院選後の記者会見では口にしなかった。自民党が衆参両院で27年ぶりに単独過半数を獲得したからだろうか。

 自民党は反省していない。今村氏が辞任したきのうも、そう思わせる発言があった。

 二階俊博幹事長である。

 「政治家の話をマスコミが余すところなく記録をとって、一行悪い所があったら『けしからん、すぐ首を取れ』と。何ちゅうことか。それの方(マスコミ)の首、取った方がいいぐらい」

 悪いのは今村氏ではなく、メディアだと言いたいのか。

 安倍氏が2度目に首相に就いてから、閣僚の引責辞任は5人目だ。安倍氏はそのつど「任命責任は内閣総理大臣たる私にある」と述べてきた。

 だが首相は、国民へのおわびは口にしても、具体的な行動には出ようとしない。

 どんな政権も長期化すれば、ネジが緩み傲慢(ごうまん)になる。それを正すには、主権者である国民が声を上げてゆくしかない。

韓国大統領選 北の脅威といかに向き合うか

 朝鮮半島を巡る軍事的緊張が高まる中での選挙だ。核・ミサイルの脅威を増大させた北朝鮮に、韓国がいかに向き合うのかが、問われている。

 罷免(ひめん)された朴槿恵前大統領の後任を決める選挙は、5月9日に投開票される。昨年秋以降続く政治の混迷に終止符を打ち、安定を回復せねばならない。

 選挙戦は、左派の文在寅候補が支持率でリードし、中道左派の安哲秀候補が追う2強対決だ。保守系候補は朴氏のスキャンダルが響いて低迷している。左派と保守の戦いが繰り返された従来の構図は様変わりしたと言えよう。

 政治改革や経済の立て直し、雇用対策などが有権者の関心事だ。米国の圧力に北朝鮮が反発を強めているのを受けて、安全保障に関する議論の比重が増した。

 文氏は北朝鮮の核実験やミサイル発射を非難しながら、経済など南北協力の必要性も説く。民族の一体性を尊重する信条からだ。

 一方、安氏は、米韓同盟を重視し、北朝鮮に対する経済制裁の必要性を訴えている。

 在韓米軍は26日、最新ミサイル防衛システムの主要装備を配備予定地に搬入した。当初の計画を前倒ししたものだ。

 文氏は「配備は次期政権で決める」と繰り返していた。中国の強硬な反対への過剰な配慮ではないか。現政権と米国が合意して搬入した以上、撤去は難しかろう。

 文氏は、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結も批判する。安保面での日米韓連携を軽んじる姿勢は危うさを伴う。安氏は「北朝鮮の動きを把握することは重要だ」と理解を示す。

 看過できないのは、主要候補がそろって、慰安婦問題を巡る2015年末の日韓合意を否定し、再交渉を求めていることだ。

 朴氏の罷免は内政問題である。文氏が朴前政権の外交上の成果まで無効だと一方的に強調するのは、国際的な常識に反しよう。

 文氏は、釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置されたことを強く支持した。

 日本の植民地支配に協力した「親日派」が韓国建国後も政財界の要職にとどまったことが、政経癒着など韓国社会の積弊を生んだと主張する。昨年7月には竹島に上陸するなど、反日的な言動が際立っている。

 安氏も、世論に迎合し、元慰安婦の意思を踏まえて日韓合意を修正する意向を示す。

 新たな政権の対日政策は、決して楽観できまい。

今村復興相辞任 「緩み」排して態勢を立て直せ

 被災者に寄り添い、地域再生に全力を尽くす。復興相の職責への自覚を欠いた発言には、唖然(あぜん)とするほかない。

 今村雅弘復興相が辞任した。東日本大震災の発生について、「まだ東北で、あっちの方だから良かった」と語ったことの責任を取ったものだ。

 未曽有の天災と原発事故に苦しむ人々を深く傷つける発言で、単なる失言では済まされない。復興行政の責任者としての資質が疑われる。辞任は当然である。

 今村氏は昨年11月、福島県産品の風評被害の払拭(ふっしょく)について「生産者の努力がまだまだ必要」と語った。今月4日にも、原発事故に伴う自主避難に関して「本人の責任」と述べ、後日、発言を撤回して謝罪したばかりだった。

 なぜ、こうした不用意な発言が繰り返されてきたのか。

 安倍首相は「被災地の信頼を失う重大な発言だ。任命責任は首相たる私にある」と陳謝した。

 今回の発言を放置すれば、安倍内閣の復興に対する姿勢が問われかねなかった。態勢の立て直しに全力を挙げる必要がある。首相自らが指導力を発揮すべきだ。

 後任の復興相には、衆院福島5区選出の吉野正芳氏が起用された。衆院震災復興特別委員長を務めるなど、被災地の実情に通じており、妥当な人選だろう。

 復興相交代の影響で、ほぼすべての国会審議が見送られた。帰還困難区域の復興推進を柱とする福島復興再生特別措置法改正案の採決も延期された。被災地支援や再建を遅滞させてはなるまい。

 見過ごせないのは、最近、閣僚らの問題発言や不祥事が相次いでいることだ。自民党の「1強」状況が続く中、安倍政権の緩みだ、と批判されても仕方あるまい。

 山本地方創生相は16日、文化財の観光振興への活用に関して「一番のがんは学芸員。一掃しないといけない」と発言し、謝罪した。18日には、中川俊直経済産業政務官が女性問題で辞任し、その後、自民党を離党した。

 先月も務台俊介復興政務官が自身の台風被害視察を巡り、「長靴業界はだいぶもうかったのではないか」と語り、辞任している。

 自民党では、2012年に大量に初当選した当選2回の衆院議員の質が低いとされ、様々なトラブルを引き起こしている。

 首相は、政権を引き締め、各議員に緊張感を持って職務に専念させねばならない。首相自身が認めるように、結果を出すことでしか国民の信頼は回復されない。

2017年4月26日水曜日

朝鮮半島情勢 圧力強化は軍事・外交両面で

 北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対処するには、米国など関係国が軍事、外交両面で総合的に圧力を強めねばならない。

 北朝鮮が米国に対抗する言動をエスカレートさせ、情勢を一層緊迫させている。

 「軍創建85年」に当たる25日、長距離砲などによる大規模な火力訓練を実施したとされる。朝鮮労働党機関紙は、米韓が軍事行動を図れば、「最も凄絶(せいぜつ)な懲罰の先制攻撃を加える」と喧伝(けんでん)した。

 今月末まで続く米韓合同軍事演習に反発する北朝鮮が、核実験や弾道ミサイル発射を強行する可能性がある。警戒を怠れまい。

 安倍首相は24日のトランプ米大統領との電話会談で、「全ての選択肢がテーブルの上にあることを示す姿勢を高く評価する」と改めて強調した。電話協議は今月3回目だ。このタイミングで緊密な連携を打ち出した意義は大きい。

 日米両政府は、西太平洋で実施した海上自衛隊と米海軍の共同訓練を、日本海でも行う方針だ。米原子力空母「カール・ビンソン」と海自の護衛艦2隻などが陣形を変えながら航行する。

 空母が参加する共同訓練を日本海で実施するのは異例だ。北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったことを踏まえた対応と言える。

 米海軍は、原子力潜水艦「ミシガン」を韓国・釜山に入港させた。多数の巡航ミサイルの搭載が可能で、特殊部隊の作戦拠点としても利用できる。圧倒的に優勢な軍事力を示し、北朝鮮に挑発を自制するよう警告したのだろう。

 米国は、対北朝鮮包囲網を狭めるための外交も展開している。

 トランプ氏は、国連安全保障理事会メンバー国の大使らと会い、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する「さらに強力な制裁」の準備を要請した。中国の習近平国家主席との電話会談でも、北朝鮮政策での協力を重ねて促した。

 様々な安保理決議に基づく制裁の実効性を高めるには、北朝鮮を支えてきた中国が厳格に履行することが欠かせない。

 北朝鮮の核問題を巡る6か国協議の日米韓首席代表が東京で、中国に大きな役割を果たすよう求めることで一致したのは当然だ。

 万一の事態に備える方策を確認しておくことも大切である。

 ミサイル発射情報が出た場合、屋外なら頑丈な建物や地下街などに、屋内なら窓のない部屋に移動する。政府はインターネットの「国民保護ポータルサイト」に、こうした注意を掲載している。周知徹底を図りたい。

国際収支の不均衡はいま大きな問題か

 米国のトランプ政権は、米国の貿易赤字や国際収支の不均衡を問題視し、黒字国に対応を迫る姿勢を崩していない。

 2国間交渉などで貿易収支を調整するのは誤った考え方だ。無理に変えようとすれば経済に副作用をもたらす。また、世界的にみても、国際収支の不均衡が経済や金融市場をかく乱する要因になっているとはいえない。

 各国はこうした点について米政権に粘り強く説明し、政策が間違った方向に進まないようクギを刺していくことが重要だ。

 ムニューシン米財務長官は先週末、国際通貨基金(IMF)に対して、加盟各国の為替相場や対外収支に対する監視を強め、具体的な不均衡是正策を提起するよう求めた。「過度な貿易不均衡は自由で公正な貿易システムの助けにならない」との認識による。

 これに応じる形で、IMFの助言機関である国際通貨金融委員会(IMFC)は「過度な不均衡に対応するためIMFが各国別に政策アドバイスをすることを歓迎する」との文言を、共同声明に盛り込んだ。

 とはいえ、米国の対外赤字は国全体の投資が貯蓄を上回っていることを映したもので、対米黒字国の「不公正貿易」が原因ではない。どうしても貿易赤字を減らしたいなら、財政赤字削減など経済全体の体質を変える必要がある。

 歴史的に見ると、世界全体の国際収支の不均衡が特に大きいわけではない。

 貿易収支に海外からの利子や配当の受け取りなどの所得収支も加えた経常収支で見ると、米国の赤字は2006年には国内総生産(GDP)比で6%近くあったが16年は2%台にとどまる。

 一方、中国の経常黒字は最大時の9%台から1%台に低下。日本の黒字は3%台と比較的高めだが、所得収支の黒字が大宗を占め、貿易黒字は小さい。

 その中で黒字拡大が目立つのは8%台のドイツだ。財政もゆとりのあるドイツは、内需拡大や賃金引き上げなどでユーロ圏経済の底上げに貢献することができる。

 20カ国・地域(G20)の財務相やIMFがマクロ経済政策の協調のあり方について議論することは引き続き大切だ。だが、いま米国や世界にとって最も重要なのは不均衡是正ではなく、貿易の自由化や生産性を引き上げる構造改革などで成長力を高めることだろう。

廃炉の実績積み今後に生かせ

 原子力規制委員会が原子炉5基の廃炉を認可した。東京電力福島第1原子力発電所の事故後に定めた新規制基準の下では初めて。今後、廃炉は年1、2基ずつ出る見通し。大量の廃炉に備えつつ経験を安全性の向上に生かしたい。

 運転期間を原則40年とする新規制基準では、厳しい安全審査を通れば運転期間を1回に限り20年間延長できる。日本原子力産業協会のまとめでは、運転期間が35年以上におよぶ現役の原子炉は国内に7基あり、うち3基は60年までの延長が認められている。

 老朽炉には機器・設備のかなりの部分を補修・交換したものもある。安全性と経済性の両面から、使い続けるべきかどうか、しっかり見極める必要がある。

 廃炉が認められた5基から出る放射性廃棄物は合計約2万7千トンと推定される。放射性物質による汚染が少ない設備や機器については、除染・解体して再利用する手法や技術が確立している。ただ、作業が一時期に集中すると人手や機材の不足を招く恐れがある。

 1基につき20~30年かかる廃炉をいかに無理なく進めるか。今から業界全体で調整し計画を立てておけば、効率的に作業ができコスト圧縮効果も期待できる。

 高濃度の汚染物質の扱いは難しい。地下70メートルよりも深いところに埋めると規定されているが、具体的な方法や処分地は未定だ。国や自治体、電力事業者は協力して早く決めなければならない。

 廃炉で得られた経験や知見は原子炉の安全性向上に生かせるはずだ。たとえば、長いあいだ放射線を浴び続けた材料はもろくなる。その度合いは計算式で推定しているが、解体時に材料の状態を測定しデータベース化すれば、より正確な判定に使える。

 健全な原子炉と事故炉では条件が異なるが、福島第1原発の廃炉に役立つデータが得られる可能性もある。廃炉の担い手を実地での教育・訓練を通して育成できれば、廃炉ビジネスの国際競争力を支える大きな力にもなろう。

辺野古埋め立て強行 「対話なき強権」の果てに

 米軍普天間飛行場の移設先、名護市辺野古沿岸できのう、政府が護岸工事に着手した。

 沖縄県や多くの県民の反対を押し切っての強行である。

 従来の陸上工事や海上の浮き具設置と異なり、埋め立て予定地を囲む護岸を造るため、海に大量の岩石や土砂を投入する。このまま進めば一帯の原状回復は困難となる。辺野古移設は大きな節目を迎えた。

 この問題が問うているのは、日本の民主主義と地方自治そのものである。

 ■原点は基地負担軽減

 政府は安全保障上、米軍基地は必要だと強調する。これに対し、県は県民の安全・安心のため基地の削減を求める。

 政府のいう公益と、地方の公益がぶつかった時、どう折り合いをつけるか。対話のなかで合意できる領域を探ることこそ政治の使命ではないか。

 ところが安倍政権は、県との話し合いには一貫して後ろ向きだ。国と地方の異なる視点のなかで歩み寄りを探る政治の責任を放棄した。その帰結が今回の埋め立て強行にほかならない。

 移設計画が浮上して21年。改めて原点を思い起こしたい。

 太平洋戦争末期、沖縄は本土防衛の「捨て石」とされ、悲惨な地上戦を経験した。戦後も本土の米軍基地は減ったのに、沖縄では米軍の強権的な支配のなかで基地が広がっていく。

 念願の本土復帰後も、基地があるがゆえの米軍による事故や犯罪は続く。積み重なった怒りのうえに1995年の米兵3人による女児暴行事件が起き、県民の憤りは頂点に達した。

 この事件を契機に、沖縄に偏した基地負担を少しでも軽減しようと日米両政府が合意したのが、普天間返還である。

 紆余(うよ)曲折を重ねるなかで政府と県は「使用期限は15年」「軍民共用」という条件で合意したはずだった。だがこれも県の意向を十分に踏まえぬまま、米国との関係を最優先する政府の手で覆されてしまう。

 ■強まる「軍事の島」

 しかも移設計画には大型船舶用の岸壁や弾薬の積み込み施設など、普天間にない機能が加わっている。だから多くの県民が「負担軽減どころか新基地建設だ」と反発しているのだ。

 最近も北朝鮮情勢の緊迫を受け、米軍は嘉手納基地にF15戦闘機などを並べ、戦闘態勢を誇示した。さらに「新基地」建設で軍事の島の色彩を強めることは、県民の負担増そのものだ。

 他国軍の基地がこんなにも集中する地域が世界のどこにあるだろう。政府はいつまで沖縄に過度の負担を押しつけ、差別的な歴史を強いるのか。

 だが安倍政権の対応は、けんもほろろだ。

 前知事が埋め立てを承認する際の約束だった事前協議を県が求めても「協議は終了した」。県の規則にもとづく「岩礁破砕許可」の更新も必要ないと主張し、3月末に期限が切れており更新が必要だとする県と真っ向から対立する。

 政府が前面に掲げるのは、翁長知事の埋め立て承認取り消し処分は違法だとする「司法の判断」だ。一方、県は名護市長選や県知事選、衆参両院選挙で反対派を相次いで当選させた「民意」を強調する。朝日新聞などの直近の県民意識調査では、65%が辺野古埋め立ては「妥当でない」とし、61%が移設に反対と答えた。

 ■本土の側も問われる

 ことは沖縄だけの問題にとどまらない。

 自らの地域のことは、自らの判断で考える。地域の自己決定権をできる限り尊重する――。その理念に沿って、地方自治法が1999年に大幅改正され、国と地方の関係は「上下・主従」から「対等・協力」へと転換したはずである。

 それなのに、考えの違う自治体を政府が高圧的に扱えるとなれば、次はどの自治体が同様の扱いを受けてもおかしくない。

 沖縄県の異議にかかわらず、政府が強硬姿勢をとり続ける背景に何があるのか。

 本紙などの沖縄県民調査では、基地負担軽減について「安倍内閣は沖縄の意見を聞いている」が27%にとどまったのに対し、全国を対象にした調査では41%と差があらわれた。

 沖縄の厳しい基地負担の歴史と現実に本土の国民の関心が薄いことが、政権への視線の違いに表れているように見える。

 翁長知事は今回の工事の差し止め訴訟などの対抗策を検討している。政府と県の対立は再び法廷に持ち込まれそうだ。

 現場の大浦湾はジュゴンやサンゴが生息し、世界でここでしか確認されていないカニなど新種も続々と報告されている。

 翁長知事は語る。「国防のためだったら十和田湖や松島湾、琵琶湖を埋め立てるのか」

 その問いを政府は真剣に受け止め、姿勢を正す必要がある。

 沖縄の過重な基地負担に依存している本土の側もまた、同じ問いを突きつけられている。

辺野古護岸工事 「普天間」返還へ重要な一歩だ

 長年の課題である米軍普天間飛行場の返還の実現に向けて、重要な節目を迎えたと言えよう。

 政府が、飛行場の移設先の沖縄県名護市辺野古で、埋め立て区域を囲む護岸堤防の建設に着手した。

 普天間飛行場返還の日米合意から21年を経て、代替施設の埋め立て工事がようやく本格化する。

 菅官房長官は、「多くの人々が望んできた全面返還を実現する確かな一歩だ」と強調した。

 工事が順調に進めば、代替施設は5年程度で完成する。政府は、早ければ2022年度の普天間飛行場の返還を目指す。

 辺野古移設は普天間問題の唯一の現実的な解決策だ。多くの地元住民も条件付きで容認している。着実に作業を進めるべきだ。

 政府は、3月末で期限が切れた県の岩礁破砕許可を更新せずに工事を続け、県は「無許可工事」と主張する。だが、破砕許可の前提となる漁業権を地元漁協が放棄した以上、許可の更新は不要だ、との政府の判断はうなずける。

 沖縄県の翁長雄志知事は、護岸工事を「サンゴ礁など環境保全の重要性を無視した暴挙」と批判した。「あらゆる手法を行使し、新基地を造らせない」とも語る。

 辺野古移設は、市街地の中心にある普天間飛行場の危険性や周辺住民の騒音被害を除去する意義を持つ。海兵隊の安定駐留を続ける安全保障面の重要性も大きい。

 政府は、これらの点について丁寧な説明を尽くすとともに、移設先の環境への影響を最小限に抑える努力を続けることが大切だ。

 疑問なのは、翁長氏が、新たな工事差し止め訴訟の提起や、仲井真弘多前知事による埋め立て承認の「撤回」に言及したことだ。

 埋め立てを巡っては、15年10月の翁長氏の一方的な承認「取り消し」が、昨年12月、最高裁で「違法」と認定されている。

 知事が埋め立て承認を撤回した前例はない。確たる法的根拠がないままの撤回は権限の乱用だ。

 政府と県は昨年3月の和解により、「確定判決に従い、互いに協力して誠実に対応する」と確約している。翁長氏の言動はこの条項にも反するのではないか。

 うるま市長選では、保守系の現職が3選した。県内の市長選では昨年1月の宜野湾市長選以降、翁長氏が推し、辺野古移設に反対する候補は4連敗となった。

 翁長氏の求心力低下を象徴するだけでなく、「オール沖縄が辺野古移設に反対している」との持論の破綻を意味しよう。

2017年4月25日火曜日

仏国民は開かれた経済・社会を守れるか

 フランス大統領選挙の第1回投票で独立系中道候補のマクロン元経済産業デジタル相と、極右政党、国民戦線(FN)のルペン党首が1位と2位になり、5月7日の決選投票への進出を決めた。

 反欧州連合(EU)を掲げる候補者同士による決選という展開は回避され、親EUで穏健な政策を説くマクロン氏が当選に向け前進した。ポピュリズム的な政治潮流が欧州で止まる節目となるか、仏国民の選択が問われる。

 マクロン氏は39歳と若く、主要政党に属さない清新なイメージなどで中道層を中心に支持を集めたようだ。ルペン氏はトランプ米大統領のように自国第一主義を前面に出し、ユーロ圏からの離脱や移民制限といった内向きな政策で現状に不満を持つ層を取り込んだ。

 ルペン氏が当選すれば、ドイツとともに欧州統合の中核を担ってきたフランスで反EUの大統領が誕生し、欧州に与える打撃ははかりしれない。保護主義的政策で世界を揺さぶることも予想される。

 ルペン氏の党からは2002年の大統領選でも同氏の父が決選投票に進んだが、右派と左派の主要政党が結束して当選を阻んだ。今回も第1回投票で敗れた共和党と社会党の候補がマクロン氏支持を表明するなど、主流派の政党は反ルペンを訴えていく見通しだ。

 目を引くのは、これら2大政党の候補者がいずれも決選投票に進めなかったことだ。

 フランスの大統領選で極めて異例の事態は、既成の主要政党への批判が根強いことを示す。社会党から票が流れたとみられる急進左派のメランション氏がルペン氏とともに勝ち進み、反EUの候補者同士の対決になることも懸念されていた。

 決選投票では、こうした主要政党への不満票がルペン氏にどれだけ向かうかがカギを握りそうだ。

 マクロン氏が制すれば、欧州統合を推進するとともに、国内の経済改革で競争力強化をめざすことが見込まれる。

 欧州では6月の英総選挙、9月のドイツ総選挙と、重要な選挙が続く。英国のEU離脱交渉もこれから始まる。フランスが次の大統領のもとで過激で内向きな路線にかじを切れば、欧州は深刻な混乱に陥りかねない。

 EUとグローバル化を重視する現実的な道をフランスは堅持してもらいたい。有権者の冷静な判断が期待される。

「常識を越す万博」に肉付けを

 政府は博覧会国際事務局(BIE)に2025年国際博覧会(万博)の大阪招致を申請、すでに立候補しているフランス・パリとの招致レースが本格的に始まる。開催地は18年11月のBIE総会で、加盟国の投票によって決まる。

 政府や大阪府がまとめた計画によると、万博は大阪市の人工島、夢洲を舞台に25年5月から半年間開催する。期間中に最大3000万人の入場者を見込んでいる。

 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。人工知能(AI)や仮想現実(VR)など先端技術の実験場にする計画だ。

 実現すれば、地盤沈下が指摘される関西や大阪の経済活性化に大きく役立つだろう。最近、アジアからの観光客などでにぎわう大阪に新たな魅力が加わり、長年の懸案だった大阪湾岸の開発にも弾みがつくことになる。

 前回、大阪万博が開かれたのは高度経済成長期の1970年だ。当時と今では社会の姿はもとより、国民の未来に対する考え方も大きく変わっている。

 経済産業省の有識者検討会は大阪万博の方向性のひとつとして「常識を越えた万博」を掲げている。招致に向けた国民の機運を高めるためにも、その具体的な姿を早く肉付けすべきだろう。

 地元経済界では万博招致を支持する意見が多い一方で、資金負担を懸念する声も少なくない。魅力的な万博の姿を官民が協力して描く必要がある。

 大阪府や大阪市は夢洲をカジノを含む統合型リゾート(IR)の候補地にもしている。カジノに対してはギャンブル依存症の増加や反社会的勢力の介入など様々な負の側面が指摘されている。万博とカジノは別問題ととらえたい。

 市はIRや万博に向けて夢洲に地下鉄を延伸する予定だ。会場建設費に加えてこうした関連事業の費用もかさむ。

 万博の招致が財政面で府や市の重荷になっては困る。中長期的な財政見通しも改めて明らかにしてほしい。

仏大統領選挙 国際協調の針路を問え

 国際社会と協調して繁栄を目指すのか。それとも自国第一主義を掲げて国を閉じるのか。

 フランス大統領選挙は、グローバル化時代の国の針路を問う選択になりそうだ。

 前者を訴えるのが中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏。後者が右翼・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首である。

 5月7日の決選投票は、正反対の立場をとるこの2人によって競われる。

 いずれの道も利点と欠点があろう。しかし、グローバル化はもはや押しとどめがたい世界の現実だ。多くの先進国が直面する共通の課題だからこそ、この時代をどう生き抜けばいいか、突っ込んだ論戦を望む。

 両者の違いは、国境の壁をなくして人や物の往来を促してきた欧州連合(EU)への態度とも重なり合う。

 親EU派のマクロン氏は、伝統産業が他国に移転したり、移民や難民が急激に流入したりする現実に対する人々の不満と不安の声にこたえてほしい。

 一方、反EUを説くルペン氏は、経済問題や難民危機のように一国では解決できない課題にどう取り組むのか、明確な説明を果たす責任がある。

 長年、交代で政権を担ってきた左右の2大政党の候補が、ともに決選投票への進出を逃したのも異例の事態である。

 「成長重視の右派、分配重視の左派」という古い対立軸から抜け出せず、グローバル化時代への処方箋(せん)を示しきれない大政党の限界が露呈した。

 公金流用疑惑など候補の金銭スキャンダルも浮上。「反エリート」を掲げるルペン氏、「右でも左でもない」が売り物のマクロン氏への追い風になった。

 既得権に安住し、庶民の声に耳を傾ける努力を怠ってきた2大政党は、今回の敗北を真摯(しんし)に反省して出直すべきだ。

 02年に国民戦線が決選投票に進んだ時は、ほぼ全ての政治勢力が「反右翼」の包囲網を敷いて当選を阻んだ。

 だが、今回も同じ手法が通用するかは疑問だ。

 たしかに移民規制などルペン氏の排外的な公約には懸念すべき点が少なくない。

 とはいえ、国民戦線がグローバル化を不安視する層の受け皿になっていることも否定しがたい現実である。

 むしろマクロン氏がなすべきは、EUという国際協調の取り組みが、いかに平和と経済発展をもたらしてきたか、丁寧に説明を尽くすことだろう。それこそポピュリズム(大衆迎合)を封じる唯一の道でもある。

銀行ローン 過剰融資に踏み込むな

 銀行が無担保で個人にお金を貸す「カードローン」が急増している。返しきれないような過剰融資を防ぐため、銀行と金融庁は実態の把握を急ぎ、実効的な対策をとるべきだ。

 個人向けの無担保ローンではかつて、消費者金融による多重債務が社会問題になった。利息の高いお金を借り、それを返すためにまた借金を重ねて、生活が行き詰まる人が続出。自殺の原因にもなっていた。

 対策として消費者金融などに適用される貸金業法が改正された。年20%超の「グレーゾーン」金利が撤廃され、合計で年収の3分の1を超える貸し出しを原則禁止する「総量規制」も導入された。その後、消費者金融の貸付残高は急減している。

 一方、銀行のカードローンはこの4年で2兆円増の5・4兆円にまで増え、消費者金融を上回った。背景には、日銀の低金利政策により、従来の貸し出しや運用では、利ざやをとりにくくなったことがある。

 見逃せないのが、銀行は貸金業法ではなく銀行法が適用されるため、総量規制の対象外であることだ。朝日新聞が全国の銀行120行に書面でアンケートしたところ、回答した101行の大半が年収の3分の1を超える貸し付けをしていた。

 銀行カードローンが自己破産につながった実例もある。消費者金融がカードローンの「保証人」になって、貸し出しに関わっていることも多く、総量規制の抜け穴になっているとの指摘もある。日本弁護士連合会は、銀行も総量規制の対象にするよう金融庁に求めている。

 これを受けて全国銀行協会は3月、カードローンの広告・宣伝で、「総量規制の対象外」と強調しないことや、審査態勢の整備などを打ち出した。

 だが、銀行以外が運営している比較サイトでは、銀行は総量規制対象外との表現が目立つ。銀行自身のサイトも、依然、ウェブだけで申し込めることや、銀行だから「金利も安心」といった「借りやすさ」を前面に出した内容が大半だ。

 個人が一時的に無担保での借り入れを必要とすることはある。年収の3分の1を超えても返済できて、生活が助かる場合もあるかもしれない。

 しかし、朝日新聞のアンケートでは、年収の3分の1超の貸し付けに消費者の利便性があるかとの問いに、明確に答えられない銀行が半数近かった。銀行の利益だけを念頭に置くのなら、消費者金融と別扱いにする理由は薄れる。銀行業界はそのことを自覚するべきだ。

仏大統領選 社会の疲弊と分断を露呈した

 長引く経済低迷に疲弊し、繰り返されるテロの傷痕は深刻だ。そんな厳しいフランス社会の状況が浮き彫りになった。

 仏大統領選の第1回投票が行われ、中道で無所属のマクロン前経済相が首位に立った。極右・国民戦線のルペン党首は僅差で2位につけた。

 上位2人を含む候補者4人がほぼ横一線の激戦となった。どの候補者も過半数を獲得できなかったことから、この上位2人が5月7日の決選投票に臨む。

 今回の選挙は、フランス政治の重要な転換点と言えよう。

 これまで交互に政権を担ってきた中道右派と中道左派の既成政党の候補はそろって、決選に進めなかった。現在の選挙制度が実施された1965年以来初めてだ。

 欧州連合(EU)の要であるフランスで、「反EU」対「EU重視」が争点となった。EU統合推進の是非を巡って国民の分断が進行していることの表れだろう。

 ルペン氏と、急進左派のメランション氏は、EUが低所得層を中心に国民生活を圧迫しているという主張では軌を一にし、離脱の是非を問う国民投票を提唱した。

 半世紀以上、EUの屋台骨を支えてきた既成政党の凋落(ちょうらく)の背景には、近年、フランスが直面する険しい現実がある。

 ギリシャに端を発した欧州財政・金融危機で、EU主導の緊縮財政を強いられ、失業率は10%前後で高止まりしている。

 2015年のパリでの大規模テロ以来、非常事態宣言が出されたままだ。イスラム過激派の暴力は根絶できていない。投票日直前には、首都のシャンゼリゼ通りで警察官射殺事件が発生した。

 テロ犯はフランスなどで育った移民系の若者が多い。15年には、中東から欧州へ大量の難民が流入した。移民や難民が治安を悪化させたという国民の不満が、排外主義の台頭を招いたのは明白だ。

 オランド政権与党である中道左派・社会党は不人気に陥った。

 大統領選は当初、中道右派・共和党のフィヨン氏が本命視されていた。だが、家族を架空雇用したとの公金横領疑惑で失速した。カネ絡みの醜聞が絶えないことも、既成政党不信に拍車をかけた。

 既成政党に所属しないマクロン氏は、39歳という若さと清新なイメージを武器に、選挙戦を優位に戦おうとしている。

 欧州の政治・社会を確実に混乱させるルペン氏の当選を阻めるのか。マクロン氏を軸にしたEU重視勢力の結集が欠かせまい。

原発新検査制度 より重くなる電力会社の責任

 原子力発電所の安全性向上へ、電力会社の自主的な取り組みを後押しする検査制度にしたい。

 今国会で成立した改正原子炉等規制法は、原子力規制委員会に、検査制度の抜本改革を課している。

 高水準とされる米国の検査制度の導入が念頭にある。

 米国の原発は、高い安全性を誇る。トラブルが少ないため、稼働率も90%前後と高い。現場の実情に応じた柔軟な検査制度の導入が奏功した、と言われる。

 日本の制度はかねて、硬直化が指摘されてきた。

 その典型が、原発を停止させて実施する13か月に1回の定期検査と、年4回の保安検査だ。原子力規制庁が予(あらかじ)め、検査リストを電力会社に示す。設備の検査に、規制庁が直接携わることもある。

 この方式では、リストにない項目の安全確保は、疎(おろそ)かになりがちだ。東京電力福島第一原発事故では、重大事故に備えた圧力降下用の弁などの不備を見抜けず、放射能の大量放出につながった。

 今後、各地で原発の再稼働が続くだろう。事故の教訓を新たな検査制度に生かすべきだ。

 新制度では、電力会社が主体となって、日常的な設備検査を実施する。規制庁は、保守点検体制の監視に注力する。必要に応じて、抜き打ち調査も実施する。

 異常を見逃していないか。異常を検知した時の対応は的確か。原発で働く人たちの意識が、総合的に評価されることになる。

 規律の緩みを見逃さないよう、検査する側の力量も問われる。監視項目にはメリハリを付けたい。安全の根幹に関わらない細部に拘泥していては、検査が長期化し、現場の意欲も低下する。

 米国でも、1979年のスリーマイル島原発事故を受けて、当局が検査を硬直化させた。それに伴い、稼働率が低下した。

 改革が進んだ現在では、取り組みが良好と認められた原発は、点検を効率化できる仕組みに改善されている。定期検査の頻度も減らせるようになった。

 検査結果に基づき、各原発の評価内容は公表され、安全性がランク付けされている。

 同様の仕組みの導入に向けて、規制委は、米国の検査現場に職員を派遣している。これを基に、日本に適した制度を練り上げる。検査官も増員して、2020年度には運用を開始する方針だ。

 原発の安全性向上が、有効活用につながる。質の高い検査制度を目指さねばならない。

2017年4月24日月曜日

国際金融規制を包括的に点検する時だ

 2008年のリーマン・ショックの後、世界的に進められた金融機関に対する規制づくりが、一段落しつつある。このあたりで、経済的な側面から規制を点検してみてはどうだろう。

 そんな問題意識に基づき、各国・地域の金融機関を監督する当局で構成する金融安定理事会(FSB)が、金融規制の経済的なメリット・デメリットを測定する手法などについて、世界中から意見を募り始めた。

 過剰規制の見直しは、日本の金融庁や銀行界がかねて主張してきたところだ。金融システムの安定と経済成長を両立させるためのルール構築に向け、日本勢はFSBなど国際交渉の場で積極的に発言していくべきだ。

 金融危機後の規制づくりは、20カ国・地域(G20)の主導で進められてきた。巨大金融グループに手厚い自己資本を積むよう求めたり、銀行に投機的な取引を禁じたりといった様々なルールが提唱され、現在までにその大半が実行に移されている。

 一連の規制強化は金融システムの動揺を鎮め、世界経済の安定におおいに寄与した。しかし一方で、規制が金融市場の流動性を低下させ、成長の妨げになりかねないとの指摘も世界的に広がっている。

 実際に米国ではトランプ大統領が、主に中小企業への資金供給を増やすことを念頭に、ドッド・フランク法(金融規制改革法)などの見直しに着手している。欧州銀行界では、自己資本比率規制のいっそうの強化に慎重な姿勢が目立ちはじめた。

 リーマン後の規制づくりは危機対応の目的が前面に出たため、証券化などを前提にした金融仲介への影響が考慮されていたとは、必ずしも言えない。企業や個人が資金調達の面で不利益を被っていないかどうか、各国・地域の金融機関監督者が調査する必要がある。

 そのうえで不利益が利益を上回ると判断された規制の事例をFSBなどの場に持ち寄り、国際的な協調を保ちながら手直しを進めるべきだ。ただし、特定の国や地域で規制緩和が先行しすぎると、グローバルなお金の流れがゆがみ、経済が混乱しかねない。

 金融危機後の世界経済を支えた中国では、「影の銀行」と呼ばれる規制対象外の金融仲介も拡大した。中国をはじめとする新興国の市場も視野に入れた、包括的な規制の点検が必要だ。

ITで医療・介護費を抑えよ

 高齢化で医療や介護の費用が際限なく膨らめば、現役世代や次世代の負担が急増し、日本の社会保障制度の存続すら危ぶまれる。

 そんな悲観的な未来を変えるためにも、IT(情報技術)を使って医療・介護費を抑えられる余地は大きい。政府は2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定に反映させる必要がある。

 政府の未来投資会議で、有識者がITを使った医療・介護の効率化策を提案したのは理解できる。

 たとえば、かかりつけ医がパソコンやタブレット端末から患者のデータを集めれば、対面でなくても画像をもとに患者の病状を診断できるようになる。

 遠隔地にいる医師が患者に向き合う回数が増えたとしても、早めの診断で重症になるのを防いだり疾病を予防したりして、全体としての医療費を抑えやすくなる。

 これまでは対面の診察が重視されてきたが、ITを使った遠隔診療を広く認めていくのは当然だ。政府は診療報酬改定の際に遠隔診療に関する診療報酬を上げ、普及を後押ししてほしい。

 介護も事態は深刻だ。2025年度に介護費は約20兆円まで増え、約37万人の人材不足が見込まれている。だからこそITによる効率化の流れを加速したい。

 赤外線センサーを使った見守りシステムや介護ロボットは、ヘルパーの負担を大きく減らすことができる。政府は介護報酬や人員配置基準で支援していくべきだ。

 また膨大な要介護者のデータを分析し、効率よく要介護者の自立を支援していけるような介護標準化の努力を始めてほしい。

 一方ですでに診療報酬明細書(レセプト)のデータから、地域で診療回数に大きな差があることが明らかになっている。政府はデータをさらに活用し、過剰な医療行為に切り込んでほしい。

 ITによる効率化を評価しつつ、無駄は徹底的に排除して総額としての費用を大きく抑える。そんなメリハリの利いた診療報酬と介護報酬を政府はめざすべきだ。

大学スポーツ 改革に求められる視点

 大学スポーツの振興を図る取り組みが始まっている。だが打ち出された施策は性急に過ぎ、身の丈にあったものとも思えない。足元の課題を地道に解決していく姿勢が大切だ。

 この話は、安倍政権が掲げる経済政策「20年までにGDP600兆円」から始まった。乗り遅れまいと、スポーツ庁も「稼ぐ」ことを前面に押し出し、先月、報告書をまとめた。

 目玉は、全米大学体育協会(NCAA)の「日本版」の創設だ。しかし、実現可能性には大きな疑問符がつく。

 米国の大学スポーツを統括するNCAAは、アメリカンフットボールとバスケットボールの放映権料などで年間1千億円の収入がある。強豪校の監督ともなれば億単位の年俸を稼ぐ。

 収益構造、規模、歴史……。日本とは違いすぎる。ただマネをしても円滑に事が運ぶとは思えない。大学関係者からも戸惑いの声が上がっている。

 大学スポーツに改革が必要なことはかねて指摘されてきた。

 競技の指導者やクラブの運営は、一部の教職員を除けば、OBや学生らボランティアに頼っているのが現実だ。ハラスメントや会計の不備などの問題が表面化するのは珍しくない。

 大学が設けている特待生や奨学金制度の運営にも、不透明さがつきまとう。そして、少なくない学生が、スポーツ一辺倒の偏った生活を送る。

 こうした状況を改めるには、たしかに資金が必要だ。大学スポーツが産業として成り立つ素地も十分あるだろう。

 だが、まず取り組むべきは「稼ぐ」ことではなく、学業と競技を両立させるための身近な仕組みづくりではないか。

 プロや五輪を狙える選手は、ほんのひと握りだ。大多数の普通の学生抜きに、大学スポーツを語ることはできない。

 特待生制度などをゆきすぎたものにしないための統一基準の策定、選手の就職支援、チームを運営・管理するノウハウの指導などが不可欠だ。大学スポーツ界全体のコンプライアンス意識が低いままでは、企業・団体も投資や契約に二の足を踏む。

 個々の大学やクラブでは、いくつか挑戦が始まっている。例えば、京大のアメフト部は一般社団法人を設立し、スポンサーによる強化費調達を図る。競技指導だけでなく、ハラスメントやドーピング対策の研修、倫理教育などのため、外部から講師を招く費用にあてる考えだ。

 学生・競技者本位に徹し、目的とビジョンを明確にして、制度設計を進めたい。

公文書管理 抜け道許さぬ見直しを

 「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るもの」

 2011年に施行された公文書管理法は、公文書についてこう定義し、行政機関の文書作成や管理ルールの統一化を目指した。情報公開法(01年施行)とあわせ、行政の透明性を高めるための「車の両輪」だ。

 ところが、国の公務員がこの趣旨に反する行為を相次いでしている。民主主義の根幹を揺るがしかねない深刻な事態だ。

 学校法人・森友学園への国有地売却の経緯に関する文書について、財務省は国会で「廃棄した」との説明を繰り返す。

 防衛省は、南スーダンの国連平和維持活動で陸上自衛隊派遣部隊が現地情勢を記録した日報を「廃棄した」としていたが、後日、データが見つかった。

 なぜそんなに簡単に廃棄できるのか。両省が処分したという文書は、いずれも内部で保存期間が「1年未満」と判断された文書だ。

 行政機関の職員の文書の保存期間は、各省庁が公文書管理法のガイドラインに沿って、それぞれ行政文書管理規則を設けて決めている。文書の重要性や性格をもとに「10年」「30年」などと分類するが、その判断は、各省庁に委ねられている。

 保存期間が1年以上の文書であれば、行政文書ファイル管理簿に記載し、廃棄する場合、内閣総理大臣の同意を得るように定めている。しかし、1年未満ならば管理簿にも載せず、廃棄できる。どんな文書がどれだけあったのか、外部からは知りようがない。

 内閣府公文書管理委員会の委員長代理を務める三宅弘弁護士は「法の抜け穴が明らかになった」と指摘する。

 文書廃棄後に問題が発覚した場合、検証が困難になることは、森友学園の例で明らかだ。「1年未満」が適切な判断だったか大いに疑問だ。公にしたくない情報を恣意(しい)的に分類しているのではとの疑念も生じる。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」は、公文書管理法の改正に関する意見書をまとめた。1年未満の保存期間の文書が「ブラックボックス化している」と指摘し、この区分の原則廃止や廃棄文書の一覧の公表などを提案する。

 政府はこうした意見に耳を傾け、「抜け道」を許さない法改正に早急に取り組むべきだ。

 国有地売却の経緯も文書がないならば関係職員から聞き取りをして報告書を作るのが筋だ。情報公開の後退は許されない。

テロ準備罪法案 国民の不安を丁寧に払拭せよ

 法案の必要性を丁寧に説明し、国民の理解を得る。政府は、この姿勢に徹するべきだ。

 テロ等準備罪を創設する組織犯罪処罰法改正案に関する論戦が、衆院法務委員会で本格的に始まった。

 安倍首相は「東京五輪が3年後に控える中、テロ対策は喫緊の課題だ」と強調した。法案を成立させて、国際組織犯罪防止条約を締結する重要性も改めて訴えた。

 国会が条約締結を承認したのは14年も前だ。締約国が既に187の国・地域に上る中、前提条件の国内法の整備すらできないのは、ゆゆしき事態である。

 政府は今度こそ、法案を確実に成立させなければならない。

 論戦の主要テーマの一つは、法案がテロ対策に有効かどうか、という点だ。277の対象犯罪には、森林法の森林窃盗罪などが含まれる。民進党は、保安林でキノコを採る行為を処罰することがテロ対策なのか、と追及した。

 テロ等準備罪は、組織的犯罪集団による犯罪の計画に加え、実行準備行為があって初めて成立するものだ。キノコ狩りという行為のみを強調し、テロと無関係だと決めつけるのは乱暴だろう。

 政府の答弁も物足りない。「組織的犯罪集団が現実的に行う可能性のある犯罪」として対象犯罪を選んだ、と述べるだけだった。

 森林窃盗罪の対象には立木や鉱物なども含まれる。天然資源を盗掘し、資金源としている過激派組織「イスラム国」の例もある。

 組織的犯罪集団には、テロ組織以外に暴力団や麻薬密売組織なども含まれる。相互の連携も考えられよう。あらゆる事態を想定し、備えるのがテロ対策である。

 政府は、こうした点を具体的に説明すべきだ。

 「監視社会」になるとの批判も目立つ。組織的犯罪集団かどうかを判断するのは警察であり、警察業務の一環として、一般の人の日常行為も監視や捜査の対象にされる。そんな主張であろう。

 通常の犯罪と同様、テロ等準備罪も犯罪の嫌疑があって初めて捜査が始まる。一律に監視が強まるかのような批判は当たるまい。

 野党は、法務省刑事局長が政府参考人として出席することに反発している。官僚が衆参両院規則に基づき、委員会で専門的な見地から答弁し、閣僚らを補佐する。それが政府参考人だ。

 金田法相の不安定な答弁を再三、批判してきた経緯からすれば、野党側こそ、積極的に出席を求めるのが筋ではないか。

日豪2プラス2 対北でも「準同盟国」と連携を

 この10年間、日本と豪州は安全保障協力を着実に深めてきた。この重要な関係をアジアの平和構築に活用したい。

 日豪両政府が、東京で外務・防衛閣僚協議(2プラス2)を開いた。

 北朝鮮の核・ミサイル開発を強く非難し、独自制裁の検討を含む圧力の強化で合意した。北朝鮮に自制を促すよう、中国に求めていくことでも一致している。

 ビショップ豪外相は、北朝鮮について「不法、不正で、非常に好戦的な姿勢だ」と批判した。

 重要なのは、北朝鮮への軍事的な圧力を強めつつ、中国に北朝鮮への影響力行使を迫る米国を日豪両国が後押しすることだ。

 中国の習近平政権とのパイプを有するターンブル豪首相には、中国への働きかけや北朝鮮包囲網の構築で役割を果たしてほしい。

 中国に関して日豪共同声明は、南・東シナ海での海洋進出を念頭に、「あらゆる一方的な行動への反対」を明記した。南シナ海の「非軍事化」も要求した。まずは中国の人工島の軍事拠点化に歯止めをかけることが急務だ。

 日豪両国は2007年、第1次安倍内閣時の「安保協力に関する共同宣言」以来、連携を強化してきた。2プラス2も7回目で、今や「準同盟国」レベルにある。

 共同声明は、日米・米豪同盟について、「地域の安定と繁栄の礎」と位置付け、「永続的な重要性」を強調している。

 日豪双方の同盟国である米国を基軸に、価値観を共有する日豪が重層的な協力関係を拡充することは様々な相乗効果を生もう。

 気がかりなのは、ターンブル氏とトランプ米大統領が1月の電話会談で、移民問題を巡って険悪になったとされることだ。

 ペンス米副大統領の22日からの豪州訪問を機に、米豪関係をきちんと修復させねばならない。

 日米豪3か国の協力は将来的に更なる発展の可能性がある。インドや韓国、東南アジア各国を加えた共同訓練や安保対話の実現を積極的に探ることが大切だ。

 日豪は、新たな物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に続き、訪問部隊地位協定の年内署名を目指している。共同訓練や災害救援で自衛隊、豪軍が相手国に派遣された際の活動を円滑化する。

 2プラス2では、航空自衛隊と豪空軍の戦闘機による初の共同訓練を来年、日本で行う方向で調整することも確認した。自衛隊と豪州軍が多様な実動訓練を重ね、信頼関係をより強固にしたい。

2017年4月23日日曜日

G20首脳が保護主義の自制へ先頭に立て

 世界経済は足元で回復基調を強めているものの、下振れリスクは大きい。その最たるものが保護主義である。20カ国・地域(G20)の首脳こそが先頭に立って自由貿易の意義を説き、保護主義を自制しなければならない。

 ワシントンで開いていたG20財務相・中央銀行総裁会議は、通貨安競争を回避するなどの原則を確認して閉幕した。

 国際通貨基金(IMF)の見通しによると、世界経済の成長率は2016年の3.1%から17年に3.5%まで高まる。先進国、新興国ともに全体として着実に回復していると評価できる。

 先行きの懸念は、米国の政策や政治の不確実性が強いことだ。「米国第一」を掲げるトランプ米政権の政策は保護主義の色彩が濃く、米国の主張をうけ前回のG20会議は声明に「保護主義に対抗」との文言を明記できなかった。

 今回は声明をとりまとめなかったが、G20議長国ドイツのワイトマン連邦銀行総裁は「ほぼ全員が開かれた市場や自由な市場アクセスの重要性を強調した」と明らかにした。

 問われているのは、各国・地域の行動だ。たとえば、米政府は日本などの鉄鋼製品に反ダンピング(不当廉売)関税を適用する方針を決めたほか、鉄鋼の輸入規制にのりだそうとしている。

 反ダンピング関税そのものは世界貿易機関(WTO)協定で認められている。ただ貿易相手国が関税上げという報復を繰り返す事態になれば、貿易減少を通じ世界経済の足を引っ張りかねない。

 WTOによると、G20が導入した貿易制限措置はかなり残っている。世界経済の成長を後押しするため、G20は関税上げといった自由貿易をゆがめる政策を厳に控えねばならない。

 通商政策を担っていない財務相・中銀総裁にこれ以上の議論を委ねるのは適切ではない。首脳こそが7月の会議の際に反保護主義で結束し、行動する必要がある。

 自由貿易に背を向けて国や地域が豊かになれるわけではない。一方で急速な技術の変化に追いつけず、経済のグローバル化から取り残された層がいるのも事実だ。

 自由貿易の利点を最大限生かしつつ、失業者にはきめ細かな職業訓練や再教育といった支援をする。そんな地道な取り組みが均衡のとれた成長につながる点をG20首脳は再確認してほしい。

IT企業が変える自動車開発

 中国のネット検索大手、百度(バイドゥ)が、自動運転車を制御するソフトを外部企業に無償で公開することを決めた。開発力が低い自動車メーカーなども百度のソフトを使い、自動運転車を早期に生産できるようになる。

 ソフトを公開して誰でも利用や改良ができるようにする手法は、IT(情報技術)分野で普及している。百度の取り組みは、IT業界の経験を自動車の開発に応用する新たな試みといえる。

 自動運転車の開発は自動車メーカーに加えて、グーグルやアップルといった米国のIT企業が力を入れている。百度も2015年に着手し、公道で実証実験もした。障害物の検知や経路の設定などに使うソフトを今年7月から段階的に公開し、20年までに完全自動運転を可能にするという。

 これまで企業の間では多額の資金や人材を投じて開発した技術を囲い込み、自社だけが使える期間を長くする動きが目立っていた。だが、IT企業の一部はこうした流れと一線を画し、成果をあげている。

 グーグルは基本ソフト(OS)「アンドロイド」を無償で外部に提供し、このソフトで動くスマートフォンは世界販売が年間10億台を超えるまでに成長した。ソフトそのものでは対価を得ず、広告配信などを収益源としている。

 広くソフトを公開すれば普及の速度が増す。世界各地の技術者が改良に取り組むことにより、完成度を高めやすい。百度もこうした効果を狙っている。

 ただ、誰でも詳細を見たり、手を加えたりできるソフトに対しては、一部で安全性を懸念する声が上がっている。

 自動車は人命を左右するため慎重に開発すべきだとの考え方も根強いが、IT化の流れは着実に強まっている。日本の自動車メーカーには安全性や製品の個性を高めるために技術を囲い込む分野と、他社と協力する分野を明確に分け、バランスを保つ経営戦略を求めたい。

北朝鮮とテロ 人権無視を看過できぬ

 北朝鮮による人権無視が続いている。テロ国家呼ばわりされるのも自業自得だろう。

 ティラーソン米国務長官が、北朝鮮について、テロ支援国家の再指定を検討していることを明らかにした。

 米政府は北朝鮮を約30年前から指定してきた。核問題をめぐる6者協議の進展を受けてブッシュ政権が08年に解除したが、それ以降、北朝鮮の行動は改まるどころか悪化した。

 日本人拉致問題などをめぐる協議で、北朝鮮は3年前、包括的な調査を約束しながら、その後、全面的に中止した。最近も北朝鮮の担当大使が、訪朝した記者団に、拉致問題には「誰も関心がない」と切り捨てた。

 2月にマレーシアで起きた、金正恩(キムジョンウン)委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏の殺害事件は、北朝鮮当局が関与した可能性が極めて高い。

 化学兵器が使われたとされるが、現地警察の捜査にまともに応じようともせず、不誠実な対応に終始している。こうした態度を国際社会は見過ごすべきではない。米下院は今月、国務省にテロ支援国家の再指定を求める法案を可決した。

 再指定になれば、北朝鮮には様々な制裁が科され、アジア開銀など国際機関からの融資の道も断たれる。だが、すでに核・ミサイル問題での国連制裁があるため実質的な変化はない。

 むしろ再指定は、北朝鮮が重視する国際的な体面を失わせる象徴的な意味が強い。だとしても、テロや大量破壊兵器の拡散を許さない国際社会の警告を発することにはなる。

 トランプ米政権は、北朝鮮に対し、軍事面を含めた「最大限の圧力」をかける方針という。同時に「我々の目的は非核化であり、北朝鮮の体制転換ではない」(ティラーソン氏)とし、北朝鮮に自制を求めている。

 朝鮮半島問題は武力では解決できないし、軍事紛争になれば日本、韓国など各国が重大な影響を被る。トランプ政権も安倍政権も、圧力の強化はあくまでも平和的解決をはかる手段であることを忘れてはなるまい。

 もしテロ支援国家の再指定となれば、北朝鮮の激しい反発が予想される。だが、そんな状況を招いたのは他の誰でもない。北朝鮮自身である。

 国内向けには「百戦百勝」などと常に体制を礼賛するが、無法なふるまいの結果、国際的な包囲網は確実に狭まっている。

 国際社会の中で、不名誉なレッテルを再び貼られたくないのなら、人権を尊重し、核を放棄するしか道がないことを悟るべきである。

遺留金 地域に生かす仕組みを

 眠らせたままにせず、地域社会のために生かす方策を考えたい。身寄りのない人が他界した時に所持していたが、引き取り手がなく、自治体が保管している現金のことだ。

 こうした遺留金について朝日新聞が政令指定都市と東京23区に尋ねると、大阪市の約7億2200万円を筆頭に、39自治体で計約11億4200万円になることが分かった。1人当たりの額は多くて数十万円に満たないが、北九州市は5年で倍以上の約6350万円になるなど膨らむ傾向にある。

 背景には高齢の単身者の増加がある。一人暮らしの人が亡くなると、自治体は相続人となる遺族を捜すが、連絡に応答がなかったり、「縁を切った」などと受け取りを拒まれたりする場合が少なくないという。

 遺族が「相続放棄」の手続きを取らない限り、自治体は手をつけづらいのが現状だ。

 相続人が見つからなければ、自治体の申し立てで家庭裁判所が弁護士らを「相続財産管理人」に選任し、債務整理などを経て残った分は国庫に入る。ただ、手続きで自治体が新たな公費負担を強いられることになるため、遺留金が少額の場合、そのままにしてあるのだ。

 自治体からは国の対応を求める声が相次いだ。

 累積が4400万円を超し、大阪市、北九州市に次いで多い神戸市の久元喜造市長は、定例会見で「自治体の手元に法令上根拠のないお金が残っているが、現行では制度が追いついていない」と語り、国に制度改正を求める方針を示した。

 高齢化や非婚率の上昇、家族関係の希薄化を背景に、遺留金は今後も増えるおそれがある。国は自治体任せにせず、早急に対策を講じるべきだ。引き取り手が一定期間を過ぎても現れなければ、自治体が活用できるような法整備を求めたい。

 10年以上出し入れがない預金口座については、NPOや自治会の公益活動に活用する「休眠預金活用法」が昨年、成立した。遺留金も同じ考え方で、自治体の「歳入」に組み入れ、NPOが運営する子ども食堂やフリースクールの支援に回すなど、次世代にいかす仕組みを検討できないだろうか。

 高齢者の孤立化を防ぐ努力も尽くしたい。お年寄りが人生で身につけた知恵や技を子どもらに伝授できるような居場所が身近にできれば、わずかな財産でも地域社会に生かしたいという人が増えてくるのではないか。そうすれば、塩漬けの遺留金もおのずと減るはずだ。

日米財務相会談 為替安定へ意思疎通を深めよ

 米国が日本に円安批判を強める事態はひとまず回避された。両国は意思疎通を深め、為替の乱高下を防ぐ必要がある。

 麻生財務相がワシントンで、ムニューシン米財務長官と会談した。焦点の為替政策について、財務当局で議論していく方針を確認した。今月始まった日米経済対話では、為替を議題にしないことを明確にした。

 トランプ米大統領は最近、「ドルが強くなりすぎている」と述べ、米国の輸出に不利なドル高を問題視した。一方、ムニューシン氏は「長期的には強いドルは望ましい」として、米国のドル安誘導観測を打ち消していた。

 麻生氏は会談後、トランプ発言について「問題にならない」と強調した。米国が今後、対日貿易赤字に絡めて円安・ドル高を必要以上に争点としない、という自信を持ったのだろう。

 政策責任者が為替に関して場当たり的な発言を続けると、市場関係者が疑心暗鬼に陥り、相場の混乱を招く。日米当局は密接な情報交換を図り、為替市場の安定を目指すことが求められる。

 会談に続いて開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、経済の安定を脅かすような過度の為替変動を避ける必要性で一致した。

 世界経済の成長維持に向け、金融政策、財政政策、構造改革を総動員することでも合意した。

 日本の金融緩和について、トランプ氏は円安批判の中で言及したが、日本はデフレ脱却のためだと説明していた。そうした主張が各国の理解を得たと言えよう。

 世界経済は回復基調にあるものの、盤石ではない。仏大統領選を始めとする欧州の政治日程、中国の不良債権、保護主義の台頭などの下振れリスクが残っている。

 会議では、「米国第一」を掲げるトランプ氏の言動を受け、自由貿易の重要性を指摘する声が相次いだ。議長のショイブレ独財務相は「自由貿易が、どの国の経済にとっても好ましいということで基本的に一致した」と総括した。

 麻生氏は、G20後の記者会見で「米国の国益を考えても自由貿易は良い話だ」と述べ、ムニューシン氏が保護主義の不合理さを理解しているとの見方を示した。

 日本は、米国を除く11か国で環太平洋経済連携協定(TPP)の発効を目指す。米国を孤立させず、多国間の枠組みへの回帰を促すことが大切だ。自由貿易を推進するため、日米政府間の様々なルートで信頼醸成を図りたい。

M&A損失 買収後の管理が成否を分ける

 将来の成長を見込んだ巨額投資が一転、経営の足かせになりかねない。企業は買収戦略の巧拙を一段と問われよう。

 過去のM&A(合併・買収)に伴う損失を計上する企業が増えている。特に海外案件で思うような成果を上げられず、「負の遺産」となる事例が目立つ。

 日本郵政は、2015年に6200億円で買収した豪物流会社の業績不振で、17年3月期に数千億円の損失を計上する見通しだ。

 東芝の経営危機も、米原発子会社の巨額損失が引き金となった。楽天は米動画配信会社が不振で、キリンホールディングスはブラジル企業の買収が裏目に出た。

 注目されるのは、買収時に企業が計上する「のれん」と呼ばれる無形資産の急増だ。証券界の試算では、東証1部上場企業の総額は20兆円超まで膨らんでいる。

 のれんは、買収相手の純資産と買収価格の差額で、ブランド力や技術力など目に見えない企業価値に当たる。買収価格が高くなるほど、のれんの金額は増大する。

 買収先の業績が悪化すれば、企業は、のれんの評価を引き下げ、その分を損失として計上しなければならない。巨額なのれんは、それだけ潜在的なリスクを抱えているということでもある。

 日本企業が手掛けるM&Aは近年、10兆円規模にのぼり、大半は海外企業が対象という。のれんの増加は、経営戦略としてM&Aが多くの企業に定着した傍証だ。

 人口減や少子化で国内市場が縮小していく。日本企業が海外に活路を求めようとする姿勢は理解できる。グローバル競争を生き残るには、海外M&Aを使いこなす経営能力が欠かせない。

 企業に求められるのは、自らの特徴を生かして成長に資するM&A戦略を構築することである。

 ブームに押され、「M&Aありき」で臨むのは危うい。実現を急ぐあまり、相手の事業や人材を精査せず、適正価格を大幅に上回る「高値づかみ」になりがちだ。

 本業との相乗効果が見込めないようなら、手を出さない判断があっていい。資産内容や収益性などを見極めるノウハウを蓄積し、人材を確保することが大切だ。

 買収企業の経営体制にも、厳しい目を向ける必要がある。現地に任せきりでは、不祥事や損失を見逃し、親会社の業績に直結する傷を広げかねない。軽視されがちな買収後の管理を徹底できるかどうかが、成否を分ける。

 「買収したら終わり」では、せっかくのM&Aも意味がない。

2017年4月22日土曜日

退位の議論では残る課題の解決も急げ

 天皇陛下の退位に向け政府が検討してきた特例法案の、骨子案が固まった。衆参両院の議長らのもとで各党各会派が話し合い、3月にまとめた国会提言の内容をおおむね踏まえたものである。

 一方、政府の有識者会議も最終報告をまとめ、安倍晋三首相に手渡した。退位後の陛下のお立場や、皇位継承順位が1位となられる秋篠宮さまの呼称に言及した。法案に反映されるものとなる。特例法案は5月の連休明けに国会へ提出される見込みである。

 新しいかたちの退位へ向けた制度設計は、世論の後押しもあって着実に進んでいるようにみえる。しかし、残る課題も多い。政府、国会とも、その解決に全力をあげてもらいたい。

 国会の議論では、皇室典範の付則に「特例法は、典範と一体をなす」と明記することで、各党が歩み寄った経緯がある。退位は例外的措置と位置づけ、同時に特例法が将来の退位の先例としても機能し得ることを示した合意だ。

 ところがこの内容に必ずしも沿っていないとして、政府の骨子案の一部に反発の声が出ている。たとえば、国会提言は法案名に「天皇」を使っていたが骨子案は「天皇陛下」としている。退位容認は一代限りとする趣旨が鮮明になったのでは、との指摘がある。

 他の部分も含め、今後、国会提言を軸とした丁寧な擦り合わせが必要となる場面が予想される。くれぐれも政争の具にしないよう、議論を深めてほしい。

 退位の日について骨子案は、法律の公布から3年以内の政令で定める日、とした。皇太子さまの即位で元号が新しくなれば、国民のくらしや、さまざまな業界の活動に大きな影響が及ぶ。スピーディーで、かつ漏れのない周知や対策を進めていく必要がある。

 有識者会議が最終報告で指摘したように、皇室の現状をかえりみる時、皇族の減少について抜本的で速やかな検討が求められるのは明らかだ。国会提言はさらに踏み込んで「女性宮家の創設等」との文言を盛り込んでいる。

 現行の制度のままだと、遠くない将来に、国民が皇室に期待している多様な役割を十分には果たせなくなる可能性も、出てくるのではないだろうか。

 議論をタブー視することなく、専門家の知見も借りながら「国民の総意」で新しい皇室像を模索しなければならない。

サービス残業を根絶する時だ

 賃金を払わずに時間外労働をさせるサービス残業が依然として横行している。ヤマトホールディングス(HD)や関西電力では従業員の多くで残業代の未払いがあることが明らかになった。

 時間外労働に適切な割増賃金を支払わないのは違法であることを、企業の経営者ははっきり認識すべきだ。サービス残業は健康にも悪影響を及ぼし、見過ごせない問題である。業務の効率化も進め、一掃するときだ。

 ヤマトHDは宅配便の運転手を中心に、過去2年間で4万7千人に残業代の未払いが見つかったと発表した。総額は190億円にのぼる。関西電力は2016年末までの2年間で1万2900人に計約17億円の時間外賃金を払っていなかった。

 業務量の増加などの事情があったとしても、企業の責任は重い。関電は02~04年にも残業代の未払いがあった。猛省を求めたい。

 連合のシンクタンク、連合総合生活開発研究所(連合総研)の昨年10月の調査では、時間外労働をした人のうち38%が残業代の不払いがあったと答えている。サービス残業は産業界全体の問題だ。

 まず管理職が意識を改める必要がある。連合総研の調査では、勤務時間を「上司から調整するよう言われた」という人が少なくなかった。「働いた時間どおりに申告しづらい雰囲気がある」との回答もめだっている。

 違法行為を放置すれば企業への信頼が失墜することを経営者は自覚すべきだ。法令順守の徹底が求められる。業務を点検し、不要な仕事をなくすことも欠かせない。

 悪質な企業を排除するには、行政による監督指導を強化する必要もある。労働基準監督署の人員不足を補うため、ハローワークの職業紹介業務の民間開放を進めて、それに従事している公務員を振り向ける手もあるだろう。

 残業時間への上限規制を設けても、サービス残業が広がったままでは働き方改革の実をあげることはできない。悪弊を断つときだ。

退位報告書 政権への忠実が際立つ

 天皇退位の是非やそのあり方などを検討してきた有識者会議が、最終報告をまとめた。

 「国民の総意」づくりに向けた骨太の論議を期待した。だが任命権者である安倍政権の意向をうかがった結果だろうか、踏み込み不足が目立ち、最終報告も退位後の称号などに関する見解を並べるにとどまった。

 この問題に対する政権のスタンスは明らかだった。

 退位を認めず、摂政の設置や皇族による公務の分担で対応する。やむなく退位に道を開く場合でも、今の陛下限りとし、終身在位制を維持する。一部の保守層が反発する皇室典範の改正は行わない――というものだ。

 昨年秋に設置した会議の名を「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」という分かりにくいものにしたことからも、その思いは明らかで、国民の意識とのずれが際立っていた。

 有識者会議はこれを踏まえ、疑問の多い運営を続けた。

 ヒアリングでは、明治憲法下の特異な天皇観に郷愁を抱き、象徴天皇制への理解を欠く論者を多数招いた。年末には早々と「退位は一代限りということで合意した」と説明し、その線に沿ってまとめた「論点整理」を今年1月に公表した。

 こうしたやり方に各方面から批判があがり、会議は求心力を失って議論は国会に引き取られた。各党・会派の意見を受けた衆参両院の正副議長による3月の「とりまとめ」は、今回の退位を例外的措置としつつ、「将来の先例となり得る」と明記するものとなった。いま政府はこれに反する特例法骨子案をまとめ、押し返そうとしている。

 象徴天皇のあるべき姿や、高齢社会における円滑で安定した皇位継承の進め方について、有識者会議が突っ込んだ話をしなかったことが、なお混乱が続く原因のひとつといえよう。

 最終報告は末尾で、皇族の数が減り、活動の維持が難しくなっていることに触れている。

 「先延ばしのできない課題」「対策について速やかに検討を行うことが必要」とする一方、5年前に野田内閣が打ちだし、国会の「とりまとめ」に盛りこまれた「女性宮家」への言及はない。女性・女系天皇の容認につながるとして、女性宮家構想を議論すること自体を忌避してきた政権の影を、こんなところにも見ることができる。

 天皇退位という、扱いを誤ると政権基盤を揺るがしかねない重いテーマを前に、振り付けられたとおりに動くしかない。そんな「有識者」会議になってしまったのは、きわめて残念だ。

「共謀罪」審議 数の力を乱用するな

 「これは重大な問題なので、局長から答弁をさせます」

 40年近く前に、当時の防衛庁長官がそんな答弁をした。同じような光景が衆院法務委員会で展開されている。

 「共謀罪」をめぐる金田勝年法相の姿である。

 質問者が法相を指名しているのに、法務省刑事局長が答える。局長の後、ほぼ同じ説明を法相が繰り返す――。

 見過ごせないのは、そんな金田氏をかばい、数の力で法案成立を図る与党の姿勢だ。

 野党の反対を押し切り、刑事局長を政府参考人として出席させることを委員長の職権で採決し、賛成多数で決めた。参考人の出席は全会一致で決めるのが慣例で、それを踏みにじったのは現行制度で初めてだ。

 外部から有識者らを招く参考人質疑も、早くも来週に行うことを職権で決めた。

 数の力を乱用した、極めて強引な国会運営というほかない。

 「共謀罪」は、安倍政権自身が今国会の最重要法案の一つに位置づけている。人権の制限にもつながる法案であり、国民の関心も高い。

 法相が自分の言葉で説得力のある説明をし、国民の理解を得る。それが法案に責任を持つ立場としての責務だ。それができないなら閣僚の資格はないし、法案は通してはならない。

 与党の姿勢は、政治家同士の討論による政治主導の国会をめざす流れにも逆行する。

 1999年の国会法改正で、官僚の委員会出席は原則として禁じられた。政府参考人制度は「細目的・技術的事項」について、官僚が閣僚を補佐するために設けられた。

 政府参考人の答弁が、審議の充実に資する場合もあるだろう。だが、だからといって、閣僚の答弁能力がおぼつかなくていいはずがない。

 金田氏は2月、「法案が国会に提出された後で、担当局長も加わって、法務委員会で議論すべきだ」とする文書を報道機関に配っていた。だから刑事局長に答弁を任せると言うつもりはないだろう。法案審議が本格化したいま、法相みずから先頭に立って答弁すべきだ。

 数を頼んだ与党の横暴はこれにとどまらない。先週の衆院厚生労働委員会では森友学園への国有地売却問題について民進党議員が安倍首相に質問すると、「法案と関係ない」と反発した与党が採決を強行した。

 閣僚の問題発言がやまないなか、国会では与党の一方的な運営がまかり通る。およそ「言論の府」の名に値しない。

「退位」最終報告 円滑な実施へ残るは特例法だ

 政府が設置した「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」が、最終報告を安倍首相に提出した。政府内では、退位を可能にするための特例法案の検討が進む。

 天皇陛下の退位問題は、詰めの段階に入ったと言えよう。

 有識者会議の最終報告は、退位に伴う制度上の提言が中心だ。

 天皇、皇后両陛下の呼称は、それぞれ「上皇」「上皇后」とする。上皇は、摂政に就いたり、再び即位したりする資格を有しない。象徴としてなされてきた被災地訪問などの公的行為は、基本的に全て新天皇に移る。

 新旧天皇の権威が並び立つ弊害を防止する観点から、いずれも妥当な内容だろう。

 皇位継承順位1位となる秋篠宮さまについては、「皇嗣殿下」などとお呼びする案を示した。皇族費は、現在の3倍程度に増額し、宮内庁には「皇嗣職」を新設することも提案している。

 実質的に皇太子の役割を務められる以上、欠かせない配慮だ。

 政府は、こうした提言を特例法案に盛り込む方針だ。与野党の合意を取り付けた上で、5月後半に国会に提出する。

 法案の骨子案は、衆参両院の正副議長が国会の総意として集約した「議論のとりまとめ」を尊重する一方で、相違点もある。

 正副議長見解は、特例法の名称を「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」としたが、骨子案は、「天皇陛下」と記している。現在の陛下に限って適用する法律である点を強調しているのだろう。

 恒久的な退位制度が、恣意的な退位などを招く恐れがあることを考えれば、これもうなずける。

 退位を示唆した陛下の「お言葉」を盛り込むべきだ、との見解も、反映されていない。

 「お言葉」に触れれば、天皇は「国政に関する権能を有しない」と定めた憲法4条に抵触しかねない。憲法に、より配慮した法案にするのは、適切な対応だ。

 骨子案は「国民は陛下のご心労を理解、共感している」ことを退位の理由の一つに挙げる。今後の国会審議でも、この点に留意して、合意点を探ってもらいたい。

 正副議長見解は、「女性宮家」創設など、皇位の安定的継承の方策を速やかに検討すべきだとも注文した。有識者会議の最終報告は女性宮家に言及していないが、皇族数減少への対策について、議論を深めるよう促している。

 退位問題とは別に、政府には前向きな取り組みが求められる。

露朝新定期航路 対「北」包囲網の抜け穴作るな

 北朝鮮の核・ミサイル開発の阻止に向けた国際包囲網の強化に、水を差す動きだと言えよう。

 ロシア極東のウラジオストクと北朝鮮北東部の羅先を結ぶ新定期航路の開設が決まった。北朝鮮の貨客船「万景峰号」が来月から運航を始め、月に6回往復するという。

 北朝鮮は羅先を経済特区に指定しているが、厳しい制裁下で中国やロシア以外の投資は望めまい。新航路は、極東やシベリアを中心にロシアに送り込んでいる数万人規模の労働者をさらに増やし、外貨を稼ぐのが狙いだろう。

 ロシアは、農業機械の部品や飼料を輸出するという。過去にも、鉄道を連結させ、エネルギー分野での協力に意欲を見せている。利益は二の次で、北朝鮮に対する影響力拡大を外交カードとして利用する思惑があるのではないか。

 トランプ米政権を揺さぶり、シリア問題などで譲歩を引き出そうとしているのなら、筋違いだ。

 万景峰号はかつて、北朝鮮と新潟港を往来し、在日朝鮮人の親族訪問や修学旅行などに使われた。約200人の乗客や約1500トンの貨物を輸送できるという。

 日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイル発射や核実験に対する制裁措置として、2006年から国内への入港を禁止している。

 忘れてはならないのは、ミサイル関連部品の運搬や違法送金、北朝鮮工作員の移動などに、万景峰号が悪用されたことだ。日本の公安当局などの捜査で実態が明らかになっている。北朝鮮の元技師による米議会での証言もある。

 国連安全保障理事会の決議は、核・ミサイル関連物資の北朝鮮への輸出を禁じている。万景峰号が再び不正行為に使用される事態を防ぐには、ロシア当局の徹底した貨物検査が欠かせない。

 米国は、北朝鮮経済の生命線を握る中国に、制裁圧力を強めるよう働きかけている。包囲網に中国を実質的に関与させられるかどうかの重大な局面で、ロシアが結束を乱すのは看過できない。

 岸田外相が「責任ある安保理理事国として行動してもらいたい」と注文を付けたのは当然だ。

 北朝鮮の16日の弾道ミサイル発射を非難する安保理の報道機関向け声明でも、ロシアは米国の草案に難色を示した。米露間の調整に時間がかかり、声明の発表が遅れたのは問題である。

 プーチン露大統領は、北東アジアの非核化と安定が、政権の目標である極東地域の発展にも寄与することを認識せねばならない。

2017年4月21日金曜日

「脱時間給」制度の審議に逃げ腰になるな

 働き方改革への政府・与党の本気度を疑わざるを得ない。労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」の制度化を盛り込んだ労働基準法改正案について、今国会の成立も見送ろうとしているからだ。

 人工知能(AI)の普及などで働き手は一段と創造性を求められており、脱時間給はこうした社会の変化に応じたものだ。早期の制度化が求められる。にもかかわらず労基法改正案は一昨年4月に国会に提出されて以来、たなざらしにされている。政府・与党は認識を改めてもらいたい。

 改正法案の成立を先送りするのは7月の東京都議選を控え、野党の批判が高まるのを避けるためとみられている。かねて野党は法案を「残業代ゼロ法案」と名づけて反発している。

 政府は秋の臨時国会に残業時間への上限規制などを定めた働き方改革関連法案を提出する方針で、労基法改正案はこれと一体で審議することで成立させやすくなるとの読みもあるようだ。

 だが、脱時間給制度の創設は、成果が働いた時間に比例しない仕事が増えてきたことに対応した時代の要請だ。審議に逃げ腰になる必要はまったくない。

 政府の制度設計では対象者を高収入の一部の専門職に限っているが、本来はホワイトカラーにもっと広げるべきものである。

 残業に上限を設ける一方で、長時間労働を助長しかねない脱時間給制度を新設するのは矛盾する、という批判がある。しかし脱時間給制度では、本人が時間の使い方を工夫して生産性を高めれば、労働時間の短縮が可能になる。会社に拘束されずに働けるという長所にもっと目を向けるべきだ。

 導入にあたっては本人の同意を条件とし、企業に(1)年104日以上の休日の確保(2)1カ月または3カ月間の労働時間への上限設定――などのいずれかを義務づけることとしている。健康確保のための対策は企業の労使が議論して充実させる余地も大きい。まずは制度の利用に道を開くことが必要だ。

 労基法改正案は、仕事の時間配分を自分で決められる裁量労働制を提案型の営業職などに広げることも盛り込まれている。

 国際的にみて低い日本のホワイトカラーの生産性向上を促す意義は小さくない。成長戦略として法案の成立を急ぐ必要があることを政府・与党は自覚してほしい。

ユナイテッド事件の教訓は

 米ユナイテッド航空が乗客を強制的に機内から降ろしたことへの批判が高まっている。この問題には中国など海外の関心も高く、同社のブランド価値が世界的に毀損しかねない状態だ。危機管理の観点から日本企業も他山の石とすべき事件である。

 問題の発端は「降りたくない」と抵抗する男性を空港の治安当局が力ずくで引きずり出す動画がネット経由で世界に流れたことだ。無残に引きずられる男性の姿や周りの女性客の悲鳴も聞こえ、騒然とした様子が伝わってくる。

 これだけでも衝撃は大きいが、世論の怒りの火に油を注いだのがオスカー・ムニョス最高経営責任者(CEO)のまずい対応だ。

 最初のコメントでは、強制退去させられた男性を含めてオーバーブッキング(過剰予約)で飛行機から降りた4人の乗客に「便の振り替えをせざるを得ず、申し訳なかった」と表明しただけで、力ずくの行為についての謝罪はなかった。さらに社内向けのメールでは「(男性は)反抗し、けんか腰になった」と、相手に非があるかのような表現をした。

 航空会社がある程度の過剰予約を受け付け、席が不足した場合は一定の代替措置をとって乗客の搭乗を断ることができるのは日本を含め世界的にほぼ共通のルールだ。だが、嫌がる乗客を暴力的に引きずり降ろすのは誰がみてもやりすぎだろう。

 米航空業界は再編による寡占化が進んだ。客を客とも思わない事件の背景に寡占のおごりがあるなら、米当局は空の競争を活発にする策を講じる必要があろう。

 加えて問題は世論の風向きに鈍感としかいいようのないCEOの対応だ。経営者は社内の指揮だけでなく、「会社の顔」として社会と対話する役目もある。

 情報がネットで瞬時に拡散する時代に対応を誤れば代償は大きい。アンテナを高く張って世論に誠実に向き合い、コミュニケーション能力を発揮する。それが企業トップの欠かせない要件である。

仏大統領選挙 EUの意義尊ぶ選択を

 国境の壁を取り払い、人や物の往来を盛んにすることで平和と繁栄を築く――。2度の大戦を経て欧州が始めた壮大な実験が、試練に直面している。

 23日に投票されるフランス大統領選挙である。結果次第では欧州連合(EU)の将来に一気に暗雲が立ちこめそうだ。

 選挙は混戦模様だ。ただ、EUからの離脱を唱える候補たちが一定の支持を集めている。

 フランスは、EUの前身が創設されて以来60年間、ドイツと共に欧州統合を牽引(けんいん)してきた。そのリーダー国が反EUに転じれば、衝撃は計り知れない。

 自国最優先の内向き志向が広がる流れを断ち切るためにも、賢明な選択を期待したい。

 選挙は、23日に過半数の得票をした候補がいなければ、上位2候補による決選投票が2週間後の5月7日に行われる。

 主な候補4人のうち、反EU派は、右翼政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏と急進左派のジャンリュック・メランション氏。ともにEU離脱を問う国民投票を選択肢に掲げている。

 フランス第一主義を唱えるルペン氏、自由主義経済に否定的なメランション氏と、基本的な立場は異なる。だが、テロが生んだ社会不安、伝統産業の流出による雇用喪失が、「閉じた国境」への共鳴を広げている。

 どちらかが大統領になっても、すぐEU離脱が決まるわけではない。だがEUはすでに英国の離脱決定で揺れている。統合に後ろ向きな政権がフランスに誕生するだけでも、欧州経済は混乱に陥り、国際秩序は不確実性を高めることになろう。

 その英国は6月の総選挙実施を決めた。今後本格化するEU離脱交渉に備え、メイ首相が足場固めを狙ったものだ。交渉が難航し、さらなる混乱や新たな離脱国を招かないために、EU側も結束固めが必要な時だ。

 ルペン氏が移民規制など排外的な主張を掲げているのも懸念される。人権重視や多様性の尊重など、EUが国際社会に同調を呼びかけてきた価値観が損なわれる恐れがある。

 確かに、エリート層による政治支配やグローバル化による格差拡大への庶民の怒りは強まっている。だからといって安易に欧州統合や移民をやり玉に挙げるのは、ポピュリズム(大衆迎合)のそしりを免れまい。

 EUという単一市場が繁栄の土台になってきたことは紛れもない事実だ。

 欧州の国々が価値観を共有し、協調して問題解決に取り組んできた歴史的意義をふまえた判断を望みたい。

ゲノム編集 ルール作り、国主導で

 遺伝子を狙ったとおりに改変する「ゲノム編集技術」をヒトの受精卵に使う研究をめぐり、菅官房長官が記者会見で「国として責任ある関与をすべきと考えている」と述べた。

 事の発端は、関連学会と政府の対立だ。研究の妥当性などの審査について、国があくまでも「協力する立場」とのスタンスをとり、関与に及び腰なことに学会側が反発。信頼関係が崩れたとして、先週末、審査にあたる委員会の解散を決めた。

 ルールのない状態を続けるわけにはいかない。官房長官発言を踏まえ、国はこれまでの姿勢を根本から改める必要がある。

 政府の生命倫理専門調査会は昨年4月、子宮に戻さない基礎研究に限って、受精卵のゲノム編集が認められる場合があるとする報告書をまとめ、その指針づくりが課題になった。

 だが内閣府や文部科学省、厚生労働省は「短期間に固めるのは難しい」との理由からこれを見送り、代わりに関係学会に審査を依頼する方法をとった。

 テーマの重要性をわきまえず、当事者意識を欠いた態度と言わざるを得ない。

 受精卵のゲノム編集は、遺伝性疾患をはじめとする病気の治療を画期的に変えうる可能性があり、国際的な競争が起きている。一方で、安全性や子孫に与える未知の影響が懸念され、だからこそ、専門調査会も臨床応用を認めなかった。

 研究環境をすみやかに整備しなければ、意欲やアイデアを持った日本の研究者は力を発揮できない。逆に、安全性や倫理性が十分に確かめられないまま、抜け駆けのように研究を進める動きが出る恐れもある。

 「学会に所属しない研究者にもルールを守ってもらうことが欠かせない」という学会側の意見はもっともだ。ここは他人任せにせず、国レベルで指針を整備することが望ましい。

 同じく医療の将来を変える可能性を持つiPS細胞では、臨床応用に向けたルールが法律で定められている。臨床研究をおこなう際には、安全性や倫理面の問題について、病院や研究機関が設置した委員会でまず審査し、厚労省が最終的に計画を了承する仕組みだ。

 日本では、遺伝子治療やクローン技術など新しい技術が登場するたびに、個別の指針や法律をつくって対応している現実がある。だが、こうした手法では限界がある。

 生命倫理にかかわる研究を包括的にコントロールできるような法律と体制をどうつくるか。議論を進める必要がある。

衆院選新区割り 格差是正を円滑に実施したい

 人口の変動に応じて、「1票の格差」を定期的に是正する。小選挙区制には区割り見直しが不可欠である以上、様々な混乱を抑制し、極力円滑に定着させたい。

 衆院選挙区画定審議会が、小選挙区の区割り改定案を安倍首相に勧告した。青森など6県の定数を減らす「0増6減」を含め、19都道府県の97選挙区の線引きを変更する。過去最大の見直しだ。

 首相は「速やかに法制上の措置を講じる」と述べた。政府・与党は今国会で公職選挙法改正案を成立させる方針で、今夏以降の衆院選に適用される見通しだ。

 衆院選の1票の格差は、最大2・13倍だった2014年衆院選まで、3回連続で最高裁に「違憲状態」と判断されている。

 今回の見直しにより、20年の推計人口でも最大1・999倍に収まる。画定審議会設置法の定める「2倍未満」は実現しよう。

 今回初めて、外国人を除いた人口を基準とし、国勢調査結果に加え、推計人口も用いた。区割り改定から次の選挙までの人口変動を織り込み、違憲判決を避けようとするのは前向きな対応である。

 同じ自治体で選挙区が分かれる例が増え、過去最多の105市区町にも上った。特に東京では、5区から17市区に増えた。

 自治体の分割は本来、できるだけ避けることが望ましい。有権者の分かりやすさ、自治体の事務負担の軽減に加え、恣意的な区割りを防ぐ意味もある。

 新たな区割りに戸惑う有権者は少なくない。政府や関係自治体は周知を徹底してもらいたい。

 定数が減った6県などでは、政党が候補者調整を迫られる。支持者や関係団体への影響も大きい。現職の多い自民党には困難な作業となるが、民主主義のコストとして乗り越えねばならない。

 20年の国勢調査後には、新たに導入するアダムズ方式で抜本的な定数再配分が行われる。定数4増が見込まれる東京などは、再び大幅な区割り変更となろう。

 2倍未満より踏み込んだ格差是正の主張もある。その場合、自治体の一層の細分化が不可避だ。

 小選挙区で敗れても比例選で復活当選できる現行制度では、1選挙区から3人が当選する例さえある。この不均衡に目をつむったまま、より厳格な格差是正を追求する意義は乏しいのではないか。

 人口減が続く県では、地元議員が減ることへの不満が強い。地方の声をどう国政に反映するか。その課題も忘れてはならない。

米抜きTPP 日本主導で自由貿易体制守れ

 危機に瀕(ひん)した環太平洋経済連携協定(TPP)発効に向け、日本政府が大きく舵かじを切る。

 米国を除く11か国での発効を目指す方針を決めた。5月にベトナムで開かれるTPP閣僚会合で、日本側の考えを表明する見通しだ。

 アジア太平洋の12か国が2016年2月に署名したTPPは、米国の離脱で発効条件を満たせず、暗礁に乗り上げている。

 日本は米国の説得を続けたが、早期復帰は困難と判断し、新たな枠組みを探る方針に転換した。

 日本が主導して自由貿易圏を広げ、保護主義に走るトランプ米政権を多国間の貿易秩序に引き戻すことが重要である。

 米国は多国間協議に代えて、相手国への圧力を強めやすい2国間交渉を優先する姿勢を鮮明にしている。日本が米国抜きのTPPを推進するのは、こうした思惑を牽制けんせいする意味があろう。

 TPPは複雑な利害調整を経て、参加国が最大限の恩恵を得るよう組み立てられた。ニューヨークで講演した麻生副総理が、日本のメリットを「2国間協議ではTPPほどのレベルに行かない」と述べたのはもっともだ。

 米国抜きのTPPは、日本などへの農産品輸出の拡大を見込む豪州やニュージーランドが推す一方で、対米輸出を主眼とするベトナムやマレーシアは慎重だ。

 発効条件の変更で11か国が一致しても、個別テーマの再交渉まで必要かどうか、各国の意見が対立する可能性もある。高いレベルの貿易・投資ルールを極力維持する努力が求められる。

 現協定の批准手続きを終えた日本は、新たな協定に関する国会承認を取り直す必要もある。

 今後のTPPのあり方について政府は、経済界や農林漁業者を含め国民に丁寧に説明すべきだ。

 政府は、米国抜きのTPP、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日米経済対話、欧州との経済連携協定(EPA)を通商政策の4本柱に据える。

 アジア太平洋から米国、欧州までの間で自由貿易を深化させ、保護主義の台頭を抑えようという狙いは理解できる。

 RCEPは中国主導で諸規制が緩くなりがちだ。日欧EPAは欧州の政治環境が流動的なため、目標とする年内の大筋合意は予断を許さない。政府は総合的な通商戦略を構築せねばならない。

 米国には日米経済対話で、新たなTPPへの合流に向けた働きかけを続けることが大切だ。

2017年4月20日木曜日

衆院選の区割り改定だけでは不十分だ

 衆院選挙区画定審議会が19日、小選挙区の「0増6減」などを反映した区割り改定案を安倍晋三首相に勧告した。関連法が成立すれば「1票の格差」は2倍未満に是正される見通しだ。だが今回の見直しも、格差を一時的に縮める効果しか期待できず、各党は衆参の役割分担や選挙制度の抜本改革に向けた議論を急ぐべきだ。

 区割り審は昨年5月に成立した改正公職選挙法に沿って具体的な区割り案を検討してきた。青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県は定数を1減らし、19都道府県の97選挙区で区割りを変更した。2015年の人口に当てはめた格差は1.956倍となる。

 政府は勧告を反映した公選法改正案を提出し、今国会で成立する運びだ。周知期間を経て、夏以降には新たな区割りで衆院選ができるようになる。比例代表も東北、北関東、近畿、九州の4ブロックで定数を1ずつ減らし、衆院定数は465議席と戦後最少になる。

 近年は衆院選や参院選があるたびに全国で1票の格差をめぐる訴訟が起きている。最高裁は14年衆院選の最大格差2.13倍を「違憲状態」とした。16年参院選の3.08倍も「違憲状態」との高裁判決が相次ぎ、最高裁が年内にも最終判断を示す方向だ。

 国政選挙のたびに司法が違憲性に触れた判決を下し、立法府が後追いで選挙制度を小幅改正する展開は望ましくない。衆院選は人口比に近い配分が可能な「アダムズ方式」の導入が決まっているが、次の改正は5年後だ。格差が安定的に2倍未満になるような制度と運用方法の検討が必要だろう。

 参院選は都道府県が選挙区の単位で、格差の是正がさらにむずかしい。昨年は鳥取・島根、徳島・高知を初めて合区した。現行制度のままなら合区がどんどん増える見通しだ。各党では「選挙区を地域ごとのブロック制に改める」「参院を地域代表だと位置づけて格差論争から切り離す」といった案が浮上しているが、憲法改正も絡むため議論は難航しそうだ。

 日本は衆参両院ともに選挙区と比例代表を組み合わせた選挙制度を採っている。法案審議や国会同意人事の権限もほぼ同じだ。二院制の国々の中でも例外的な制度といえ、立法府のあり方について根本から議論する必要がある。1票の格差を是正する対症療法的な発想だけではイタチごっこのような制度改正からぬけだせない。

英総選挙で霧は晴れるか

 英国の欧州連合(EU)離脱に向けた道筋は見えやすくなるだろうか。メイ英首相が下院を解散し6月8日に総選挙を実施する方針を明らかにした。

 離脱の条件を巡る英国とEUの交渉は難航が予想されている。総選挙を経て、国民の信任を得た強いリーダーシップのもとで英国は交渉を着実に進め、EUからの離脱を円滑に実施してもらいたい。

 メイ首相は総選挙に踏み切る理由として、EU離脱への立場で議会が割れている点をあげた。EUの単一市場から完全撤退するなど「強硬離脱」の政府方針に、野党・労働党などには反対も多い。

 キャメロン前首相の辞任を受けて昨年就任したメイ氏は、今回が首相として初めての総選挙となる。首相の与党、保守党の議席数は下院で半分強にとどまるが、最近の世論調査では支持率で野党に大差をつけている。いまなら与党議席を増やして政権基盤を固め、EU離脱交渉を進めやすくできるとメイ首相は読んだようだ。

 勝てば党内での首相の求心力が強まり、極端な強硬離脱派をおさえて、離脱交渉に柔軟に臨む余地も生まれるかもしれない。

 早期の総選挙にはリスクも伴う。首相の思惑に反して保守党が議席を減らせば、政権は不安定になり、離脱交渉も停滞しかねない。過半数を割り込めば、取って代わる有力な野党が不在のまま政局が混乱する可能性もある。

 保守党が大勝した場合でも、仮にメイ首相が勝利を背景に強気一辺倒の姿勢で交渉に臨めばEU側が態度を硬化させる恐れがある。英北部のスコットランドでは強硬離脱路線への反対が根強く、独立を問う住民投票の再実施を求める動きが強まることも考えられる。 英政府に求められるのは現実的で柔軟な姿勢だ。3月末に離脱をEUに通知した英国は、原則2年後の2019年春に離脱する。EUとの交渉時間は限られている。与野党ともにEU離脱が世界に及ぼす影響を十分に踏まえ、建設的に政策論争を深めてほしい。

退位の政府案 国会の軽視が過ぎる

 憲法は国会を「国権の最高機関」と定める。その国会の合意をないがしろにする行いだ。

 天皇陛下の退位を実現するために、政府が検討している特例法の骨子案が明らかになった。衆参両院の正副議長のもと、各党各会派が議論を重ねて練りあげた「とりまとめ」とは、根底において大きな違いがある。

 政府はすみやかに案を撤回して、作り直すべきだ。

 まず法律の名称である。「とりまとめ」は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」としたが、骨子案は「天皇陛下の退位に関する…」となっている。一見大きな違いはないが、「陛下」の2文字を加えることで、退位を今の陛下お一人の問題にしようという意図が明白だ。

 あわせて、典範を改正して付則に盛りこむことになっていた特例法の趣旨が削られた。「この法律(=典範)の特例として天皇の退位について定める」という文言で、今回の退位が次代以降の先例になる根拠と、野党などは位置づけていた。

 改めて経緯を確認したい。

 この問題をめぐっては、終身在位の原則にこだわり、退位をあくまでも例外措置としたい与党と、退位のためのルールを設け、将来の天皇にも適用されるようにすべきだという多くの野党との間で、見解がわかれた。

 与野党対決法案になれば、憲法が「国民の総意に基(もとづ)く」と定める象徴天皇の地位を不安定にしかねない。危機感をもった正副議長の音頭で、政府案が固まる前に国会が協議を始めるという異例の手続きがとられた。

 ぎりぎりの調整を経て、1カ月前に文書化されたのが「とりまとめ」である。朝日新聞の社説も、妥協の産物であることを指摘しつつ、「国民の『総意』が見えてきた」と評価した。

 政府の骨子案はこうした努力と工夫を踏みにじるものだ。野党の声に耳を傾けようとせず、国会を軽視する政権の姿勢が、ここでもあらわになった。

 安倍首相はかねて「退位問題を政争の具にしてはならない」とし、正副議長から「とりまとめ」を手渡された際は「厳粛に受けとめる」と応じた。あれはいったい何だったのだろう。

 自民党の対応にもあきれる。「とりまとめ」について高村正彦副総裁は「党として全く異存はない」、茂木敏充政調会長は「いい形で全体の意見を反映していただいた」と述べていた。立法府の一員として骨子案に異を唱えてしかるべきなのに、このまま押し通すつもりか。

 「国権の最高機関」の名が泣いている。

衆院選区割り 十分な周知が必要だ

 政府の衆院選挙区画定審議会が、小選挙区の区割り見直し案を安倍首相に勧告した。

 青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の6県の小選挙区を一つずつ減らすのをはじめ、全国19都道府県の97選挙区の境界線を変える。

 問題は多いが、これ以上「違憲状態」を放置できない。政府と与野党は勧告に基づき、関連法案を速やかに成立させなければならない。

 区割り改定の勧告は3回目。16年前の20都道府県の計68選挙区、4年前の17都県の計42選挙区より対象が膨らんだ。

 2020年の推計人口でも、「一票の格差」を2倍未満にするため、人口の多い都市部の選挙区も数多く見直したからだ。

 この結果、最高裁が過去3回の衆院選に対して「違憲状態」と指摘してきた一票の格差は少し縮まり、15年の国勢調査時点で最大1・956倍。20年の推計で1・999倍になる。

 格差を是正するために、「市区町村は複数の選挙区に分割しない」という原則が守られない例が続出した。複数の選挙区に分かれる市や区などは、現在の88から105に増えた。

 とりわけ東京23区では新たに港、新宿、台東、品川、目黒、中野、杉並、豊島、板橋区が分割される。

 同じ自治体でも違う選挙区になる場合が増えることで、地域の一体性が薄れることもあるだろう。だが、ここは投票価値の平等を優先するべきだ。

 忘れてならないのは、今回の改定が、都道府県の間の定数配分が抜本改革されないまま行われたことだ。

 現職議員が多い自民党の主導で、人口比に応じて定数を増減させる「アダムズ方式」の導入を20年の国勢調査以降に先送りしたためだ。

 その意味で今回の改定は、いわば「応急措置」に過ぎない。20年の国勢調査後には、アダムズ方式による大規模な見直しが改めて迫られる。

 政党や議員も大変だろうが、元はといえば自民党の党利党略のツケである。

 何よりも心配なのは有権者の混乱だ。影響を最小限に抑えるために、十分な周知期間を設けるべきだ。過去の改定では法成立から施行まで1カ月余りだったが、今回は対象が多い点を考慮した方がいい。施行まで衆院の解散・総選挙をすべきでないのは当然だ。

 有権者は自分の選挙区がどうなるのか、確認してほしい。目の前の道路の向こうは違う選挙区かもしれない。

学術会議声明 「研究の自由」をはき違えるな

 研究者の自由な発想を縛り、日本の科学を一層低迷させかねない。

 学者の代表機関とされる日本学術会議が、軍事利用される恐れがある研究を規制するよう、大学などに求める声明・報告書を決めた。

 学術会議として、「学術と軍事が接近しつつある」との懸念を表明している。その上で、「自由な研究・教育環境を維持する」ために、研究の是非を判断する制度の新設を大学などに要請した。

 大学は、研究資金が軍事機関からかどうかをチェックする。軍事的と見なされる可能性があれば、技術的・倫理的に審査する。

 研究に新たな制約を課すことになる。それがなぜ「自由な研究」につながるのか。かえって、学問の自由を阻害する。

 学術会議の総会で、「社会の声とかけ離れている」「判断の基準がない」などと疑問の声が上がったのも当然だ。

 声明・報告書の決定過程にも問題がある。異論があるのに、既に幹事会で決定済みとして、修正などは検討されなかった。

 多様な意見を踏まえて、丁寧に議論することは、学問の基本である。学者集団として、禍根を残す意思決定と言わざるを得ない。

 学術会議が念頭に置いてきたのは、防衛省が2015年に開始した「安全保障技術研究推進制度」だ。声明は、「政府による研究者の活動への介入が強まる」との認識を示している。

 他省庁の研究資金を受ける場合と同様、年に1回、防衛装備庁の担当者が訪れて、研究の進捗しんちょく状況を確認するだけだ。「介入」には当たるまい。制度自体も、基礎研究が対象で、成果の公表、製品等への応用は制約されない。

 研究現場で、制度の注目度は高い。今年度の公募説明会には、前年の4倍を超える200人以上が参加した。学術会議と現場の認識には、大きなずれがある。

 そもそも、声明・報告書が求める「技術的・倫理的な審査」には無理がある。科学技術は本来、軍事と民生の両面で応用し得る「デュアルユース」である。

 米軍の軍事技術の中核である全地球測位システム(GPS)は、カーナビに加え、地震火山の観測や自動運転にまで広範に用いられている。軍事に関連するとして、排除するのは、非現実的だ。

 日本の研究界の現状は厳しい。論文数が伸び悩み、世界から取り残されている、と指摘される。新たな制約を設けることで、研究現場を萎縮(いしゅく)させてはならない。

英総選挙へ メイ首相は足場固めできるか

 欧州連合(EU)との離脱交渉に向けて、自らの政権基盤の強化を図る賭けに出たのだろう。

 英国のメイ首相が、2020年5月に予定されていた下院の総選挙を6月8日に前倒しする意向を表明した。半数をわずかに上回るに過ぎない与党・保守党の議席を大幅に上積みするのが狙いだ。

 メイ氏は昨年7月の就任以来、下院を解散しない、と強調してきた。前言を翻した理由について、「今、総選挙を実施しなければ、対EU交渉の山場を選挙直前に迎えることになる」と説明した。

 英政府は3月末、EUに離脱を通知した。EU条約で定められた2年間の離脱交渉期間では決着が難しく、移行措置の取り決めが必要との見方が強まっている。

 英国が求める自由貿易協定の交渉は20年以降にずれ込もう。メイ氏は、こうした行程表を念頭に置いて判断したと言える。

 4~5月に仏大統領選が、9月には独連邦議会選が行われる。EUが政治決断を伴う本格交渉に入るのは、その後になる。底堅い経済情勢を反映し、保守党の支持率は高い。メイ氏はこのタイミングを捉えたのではないか。

 懸念されるのは、離脱交渉の不透明な状況が長引き、世界経済に悪影響を及ぼすことである。英国とEUの双方は極力早期に、交渉の道筋をつけねばなるまい。

 総選挙の焦点は、英国が目指すべき将来の対EU関係だ。

 メイ政権は、英独自の移民規制を優先し、EU単一市場から撤退する「強硬離脱」の方針を公表している。保守党が勝利すれば、これを実現する足場が固まろう。

 内紛が相次ぎ、党勢が低迷する最大野党・労働党は、「強硬離脱」に反対している。コービン党首は選挙前倒しに賛成した。前首相の辞任により就任したメイ氏について、選挙で信任を得ていないと批判してきた経緯からだ。

 単一市場から脱退すれば、英国進出企業の負担が増し、教育・研究などの国際協力にも支障が出かねない。労働党などがメイ政権の離脱政策への不満の受け皿となり、善戦した場合、路線修正を迫る圧力が高まる可能性もある。

 総選挙を機に、スコットランドの独立運動が再燃することも気がかりだ。EU離脱に反発する地域政党は、独立の是非を問う住民投票を行うよう要求している。

 メイ氏は、英国の解体を回避するためにも、昨年の国民投票が招いた社会の分断を克服する取り組みを忘れてはならない。

2017年4月19日水曜日

日米双方の構造改革促す経済対話に

 18日に東京で開いた日米経済対話の初回会合は、今後の対話の大枠で合意したものの、具体的な議論は次回以降に持ち越した。

 環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱した米国は日本との2国間の自由貿易協定(FTA)に意欲を示した。短期的な成果だけでなく、お互いの利益になるような中長期的な構造改革を進める視点を、日米双方は求められる。

 2国間の貿易赤字削減を重視するトランプ政権は、日本に農産物や自動車などで市場開放を求める意向を示している。また、トランプ大統領は最近ドル高をけん制する発言をしており、米国は円安など日本の為替問題にも関心をもっているとみられる。

 一方の日本側は、従来の日米協議のように米国の外圧に日本が対処するという形でなく、日米が双方向で建設的な議論をする場にしたいという考えから経済対話を提案し、枠組みづくりを進めた。

 初回会合では、米政府の幹部人事の遅れなどで米国側が準備不足だったこともあり、個別問題で突っ込んだ議論にはならなかった。

 ただ、会合終了後の記者会見でペンス副大統領は、将来的な2国間FTAへの意欲を表明した。世耕弘成経産相と個別に会談したロス商務長官も「(日米協議を)何らかの協定の形に落とし込みたい」と述べた。担当省庁、閣僚間の協議では、米側が様々な要求を出してくるだろう。

 日本は2国間協定の交渉に応じるにしても、TPP交渉での日米合意をベースに議論を進めるべきだ。米離脱後のTPPが空中分解しないよう、米を除く11カ国での発効を探る必要もある。

 日米両国が特に問われるのは、短期的な得点稼ぎでなく真に両国が必要とする構造改革につながる議論をできるか、だろう。

 トランプ政権は雇用創出を掲げ、失われた製造業の復活に力を入れている。ただ、民間企業への圧力や保護貿易措置で一時的に雇用を戻しても、長続きはしない。

 生産性の低い部門から高い部門への労働者の移動を促す職業訓練や教育など、雇用市場に踏み込んだ構造改革が必要だ。

 日本も、金融・財政政策など景気刺激策に頼らない自律的な経済成長を実現するには、雇用、農業、社会保障など国内の抵抗の強い構造改革が欠かせない。せっかく始めたからには、志の高い日米対話にしてほしい。

新技術で音楽市場の拡大を

 音楽ソフト世界首位の米ユニバーサル・ミュージック・グループが、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイとの間で、楽曲を提供する際の条件を見直すことに合意した。著作権を守りながら配信を増やす狙いだ。

 著作権を重視するコンテンツ企業と、使いやすさを重視するネット配信企業は、摩擦を生むことが多かった。ユニバーサルとスポティファイの取り組みは、共存を目指す新たな試みといえる。

 スポティファイは、パソコンなどに情報を保存しないストリーミングという技術を使い、多数の楽曲が聞き放題となるサービスを提供している。広告が入るサービスは無料で、しかも有料版と同じ楽曲を聴けるようにしてきた。

 無料のサービスで利用者の裾野を広げ、有料版の利用へとみちびく。こうした事業モデルはネット企業の間で広がっている。

 ただスポティファイに対しては、一部の歌手が対価が不十分と主張し、配信を取りやめる動きも出ていた。今回の枠組みでは、CDアルバムを発売から2週間は有料版の利用者だけが聴けるようにして、著作権に配慮する。

 米国の音楽ソフト市場では、CDの販売が急速に減る一方、ネット経由で端末に情報を取り込むダウンロード型の違法配信が深刻になったことがある。

 そのため米国の音楽ソフト会社は、ストリーミングなど新技術の活用を積極的に進めてきた。それが奏功して2016年に音楽ソフト市場は11%拡大し、けん引役であるストリーミングの比率は初めて過半を占めた。

 一方、日本では動きが鈍い。音楽のネット配信では一時、携帯電話向けを世界に先行して広げたが、ストリーミングで出遅れた。主力のCDの販売は減少が続き、音楽ソフト市場は縮小している。

 音楽に限らずコンテンツの輸出拡大は日本の成長戦略の柱のひとつだ。それには自国市場の健全な発展が前提になる。日本企業も新技術を積極的に活用すべきだ。

日米経済対話 自由貿易の原則を守れ

 トランプ政権の米国と、日本はどんな経済関係を築いていくのか。その道筋を描く日米経済対話は、貿易についての考え方で、両国の間に深い溝があることを浮き彫りにした。

 麻生副総理が「アジア太平洋において地域の貿易ルールづくりを日米主導でやることが大事だ」と多国間の枠組みを強調したのに対し、ペンス米副大統領は「二国間の交渉が米国にとって国益になる」。会合では麻生氏が環太平洋経済連携協定(TPP)の意義を説明したが、ペンス氏は会見で「米国にとって(離脱した)TPPは過去のもの」と言い切った。

 世界一の経済力と軍事力を背景に、二国間協議で自国の利益を追求するトランプ政権の「米国第一」はゆるがないようだ。

 米国が「結果の平等」を求め、数値目標を掲げて市場開放を迫る、1980年代のような通商交渉を想定しているならば、まずはその非をきちんと指摘しなければならない。貿易収支は通商政策で決まるのではなく、それぞれの国の景気の状況や産業構造などに左右される。「黒字・赤字」はそもそも「勝ち・負け」ではない。

 トランプ政権は、保護主義的なふるまいに拍車がかかっている。貿易赤字削減に向けた大統領令に署名し、自国の利益のためなら国際ルールに縛られる必要はないという考えも示す。国際会議の共同声明からは、これまで定番だった「保護主義に対抗する」という一文が、米国の主張で削られた。

 自由貿易を推進することで各国の消費者の利益は増し、経済のパイを拡大していける。保護主義は得策ではない。その大原則を守るよう、米国にクギを刺すことが最優先の課題だ。

 二国間交渉へと走る超大国の目を、どうやって多国間の枠組みに向けさせるか。経済対話はその難しさを示したが、現実の世界を見れば、米国、カナダ、メキシコでも、北東アジアや東南アジアでも、産業のサプライチェーンはいくつもの国々にまたがっている。二国間主義へのこだわりはそうしたつながりを分断しかねない。

 米国は日米間の自由貿易協定(FTA)交渉も視野に入れており、厳しい局面も予想される。ただ、経済対話は貿易だけでなく、マクロ経済政策やインフラ投資、エネルギーといった分野での協力も話し合う。

 経済全体で互いが利益を得ることができるような日米関係を構想するためにも、冷静に粘り強く、米国と対話を重ねていくしかない。

韓国大統領選 権益政治を断つ論戦を

 韓国は今、政治や経済、人々の暮らし方にいたるまであらゆる面で大きな岐路に立つ。あまたの困難をいかに克服してゆくのか。新たな政治指導者を決める選挙戦が隣国で始まった。

 選挙戦は、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏と、野党第2党「国民の党」の安哲秀(アンチョルス)氏という、非保守系候補による事実上の一騎打ちの様相だ。

 5年前の大統領選では野党統一候補の座を競いあいながら、その後は離合を繰り返してきたいわく付きの2人である。

 主な政策では2人に大きな違いはない。だが、それぞれ支持基盤が異なる上、文氏は若年層の、安氏は50代以上の支持が厚い。互いに「改革を完遂できるのは自分だ」と訴えている。

 「争点なき選挙」などと言われる中で、問われるのはまさに改革を実践に移せるかどうかの政治手腕である。

 17日に収賄罪などで起訴された朴槿恵(パククネ)・前大統領による公私を混同したような疑惑は、世論の厳しい批判を浴びた。保守勢力はそのあおりを食って、支持が伸びない。

 しかし、多くの有権者が新指導者に求めるのは、単に朴政権の過ちの是正にとどまらない。数十年にわたって、積もり続けてきた宿痾(しゅくあ)の一掃である。

 なぜ歴代大統領や周辺には、金銭がらみの事件が絶えないのか。特別な恩恵を受けた財閥だけに経済の牽引(けんいん)役を任せていいか。競争に敗れし者は絶望するしかないのか――。

 列挙してみれば、「韓国的」とされる悪弊ばかりだが、そんな既得権益層を優遇するような仕組みを変えられるのは、政治の力以外にない。

 北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、米朝間に緊張感が漂う中での選挙戦である。

 言うまでもなく、韓国は朝鮮半島問題の一方の当事者だ。

 軍事的衝突の回避を最優先にしつつ、いかに対話と圧力のさじ加減をこらして北朝鮮の暴挙を抑えるのか。両氏には明確な構想を示してほしい。

 北朝鮮問題を含め多くの懸案の解消には日本との連携が必要だ。2人とも日韓の慰安婦合意に難色を示すが、両政府が知恵を絞って交わした約束であり、履行すべきだ。首脳会談もできなかった朴政権前半のような関係を繰り返してはならない。

 選挙では、とかく世論を意識し、内向きな発言が飛び出しがちだが、当選後、自らの言葉にしばられるなら意味がない。

 韓国をとりまく現実を冷静にみすえ、建設的な新しい国造りを競うべきだ。

米副大統領来日 経済対話で互恵を目指したい

 日米経済の新たな枠組み作りには、相互利益の視点が求められる。

 麻生副総理とペンス米副大統領が、東京で初の日米経済対話に臨んだ。貿易・投資ルール、マクロ経済・構造政策、分野別協力を3本柱とすることで合意した。

 麻生氏は記者会見で、「日米関係が摩擦から協力に変わる大事な一ページが開けた」と述べた。

 環太平洋経済連携協定(TPP)からの米国の離脱を踏まえ、日米が主導してアジア太平洋地域に自由で公正な貿易ルールを広げていく考えを示したと言える。

 TPPを上回る市場開放を迫られる2国間交渉に持ち込まれることを避ける狙いもあろう。

 ペンス氏は「TPPは米国にとって過去のものだ」と明言した。「対話は2国間交渉に至るかもしれない」とも指摘した。自由貿易協定(FTA)を念頭に2国間交渉に軸足を移し、米国の利益を追求する構えを鮮明にした。

 重要なのは、両国が思惑の違いを乗り越え、今後本格化する個別分野の協議での建設的な議論につなげていくことである。

 日米貿易は、米国の対日赤字が突出した時代から様変わりした。日本の対米投資は米国で多くの雇用を生んでいる。トランプ米大統領の保護主義的な言動は、実態を踏まえたものとは言い難い。

 貿易不均衡をいたずらに強調せず、日米双方の利益につながる解決策を見いださねばなるまい。

 経済対話に先立ち、安倍首相とペンス氏が会談し、核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮に対する圧力を強化することを確認した。この問題で中国が役割を果たすよう働きかける方針でも一致した。

 ペンス氏は「米国は平和を追求するが、平和は力によってのみ初めて達成される」と語った。

 北朝鮮への圧力は、外交、軍事両面で戦略的に高めるべきだ。

 北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射などの抑止には、厳しい懲罰行動も辞さない姿勢を示すことが欠かせない。同時に、原油供給、貿易、金融取引の制限など、様々な北朝鮮へのムチを持つ中国を最大限活用することが大切だ。

 中国は長年、一貫して朝鮮半島情勢の現状維持を望み、強硬措置を回避してきた。この甘い対応が北朝鮮の核・ミサイル技術の向上を黙認することにつながった。

 中国に政策転換を迫るため、米国が北朝鮮の核問題の解決を本気で目指す方針を明確にする必要がある。日韓両国も足並みをそろえ、これを後押しせねばならない。

トルコ憲法改正 強権政治では安定を築けまい

 大統領への過度の権力集中により、社会の分断が深まり、政情は一段と不安定化するのではないか。民主主義の先行きが危ぶまれる重大な転換点だと言えよう。

 欧州と中東を結ぶ地域大国のトルコで、大統領の権限を大幅に強化する憲法改正の是非を問う国民投票が行われた。賛成が反対を僅差で上回った。現在の議院内閣制から大統領制に移行する。首相職は廃止される。

 改憲を推進したエルドアン大統領は、「歴史的な決定だ」と勝利宣言した。自らの長期政権に対する信任も同時に得られたと考えているのだろう。

 エルドアン氏は、2003年から首相を務め、14年に大統領に転じた。現憲法では、大統領は象徴的な存在とみなされるが、実権を握ってきた。改憲により、名実共に最高権力者となり、29年までとどまる道が開かれた。

 新体制で、大統領は国会の解散権を持つ。国会の承認なしに閣僚を任免し、裁判官や検察官の人事にも介入できる。立法や司法の独立が侵され、三権分立が形骸化するとの批判は避けられまい。

 政権は昨年7月に、軍の一部が試みたクーデターを抑え込んだ後、野党勢力や言論機関の弾圧を続ける。拘束者は約4万人、公職追放者は10万人近くに上るという。事件後に非常事態宣言を発令し、延長を繰り返している。

 国民投票も反対派の運動が封じ込められる中で実施された。賛否が拮抗(きっこう)したのはエルドアン氏の強権政治への反発の表れである。

 「民主主義が後退し、独裁国家になる」という反対派の主張に、政権は耳を傾けねばならない。政教分離の国是を重んじる世俗派の間では、イスラム主義的な政策が拡大するとの懸念も根強い。

 問題なのは、国内外の「敵」を攻撃し、求心力を高めるエルドアン氏の過激な手法が、国民投票後も変わっていないことだ。

 国民投票の公正性を疑問視する欧州安保協力機構の監視団に向けて、「身の程を知れ」と言い放った。欧州連合(EU)が反対する死刑制度の復活に取り組み、EU加盟交渉をトルコが中断する可能性も示唆した。

 シリアと国境を接するトルコは、過激派組織「イスラム国」対策や難民の受け入れに関するEUとの調整で重要な役割を担う。

 相次ぐテロを阻止し、経済を好転させるには、国内融和と対外関係改善が不可欠なことを、エルドアン氏は認識せねばなるまい。

2017年4月18日火曜日

トルコは民主主義守り中東安定に貢献を

 トルコで大統領権限を強化する憲法改正の是非を問う国民投票が実施された。暫定の開票結果で、賛成票が改憲に必要となる過半数を上回った。

 首相職を廃止し、象徴的な存在だった大統領が国家元首と行政の長を兼ねる。大統領は閣僚や司法の人事権や国会の解散権など、強大な権限を持つようになる。

 1923年に誕生したトルコ共和国の転換点である。改憲を目指してきたエルドアン大統領は今回の勝利に、「歴史的な決定だ」と語った。エルドアン氏は最長で2029年まで大統領の座にいることが可能になった。

 ただし、勝利は僅差だった。野党は開票結果に異議を唱えている。投票したほぼ半数の有権者が大統領への権限集中に懸念を表明したことを忘れてはならない。

 トルコは欧州とアジアのつなぎ目に位置する。その安定が地域に不可欠であるのは言うまでもない。シリア内戦の解決や過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討にトルコの関与は欠かせない。

 トルコ国内ではISやクルド人反政府勢力によるテロが頻発している。治安の悪化は高い伸びを続けてきた経済成長にも影を落としている。昨年7月にはクーデター未遂が起き、政府は事件への関与を理由に、軍や公務員、司法など、10万人以上の関係者を拘束・解職した。

 国際社会もトルコの不安定化とエルドアン体制の行方を注視している。なかでも欧州は無関係ではいられない。シリアを逃れた難民の多くは、トルコを通って欧州に向かった。難民問題の解決にはトルコとの連携が欠かせない。

 トルコ政府がクーデター未遂後に出した非常事態宣言は今も続いている。その状況の下で実施された国民投票が、エルドアン大統領による強権支配に道を開くことがあってはならない。

 エルドアン大統領がすべきことは、こうした国内外の懸念を払拭することだ。実権型の大統領制への移行で手に入れる安定した政権基盤を、治安の安定と対外関係の改善にいかすべきだ。

 民主主義とイスラム教が調和するトルコはイスラム世界の発展モデルと期待される。安倍晋三首相とエルドアン大統領が相互訪問するなど、日本とトルコは良好な関係にある。トルコが民主主義を守り、国際社会で果たす役割を後押しするのは日本の役目である。

構造改革が再び滞る中国経済

 中国の1~3月期の実質経済成長率は前年同期比6.9%だった。2期連続の拡大だが、短期的なインフラ投資と不動産に頼っており、中国経済はなお不安を残している。

 中国はここ数年、供給サイド重視の構造改革を断固、進めるとしてきた。習近平国家主席も年初に生産能力の削減など構造改革の推進を改めて宣言した。いわば対外的な公約である。

 実態は異なる。過剰な生産能力が指摘されていた鉄鋼などは逆に生産量が増えている。目先の景気テコ入れを狙って道路、空港などインフラ投資を急拡大し、一時的に需給が締まった結果だ。

 在庫を抱えている不動産市場にも、実需とは必ずしも関係ない様々な投機資金が流れ込んだ。特に都市部での住宅価格の高騰は深刻な社会問題になっている。

 一連の景気テコ入れ策は副作用を伴う。資産バブルである。リスクを認識する中国人民銀行(中央銀行)は、過度の金融緩和を改め始めた。今後、不動産価格が急激に下がれば、金融システムが不安定化しかねない。十分な注意が必要だ。

 中国景気の従来のけん引役は、黒字を積み上げてきた対外貿易、独自の発展を遂げた電子商取引による消費の伸び、第3次産業の成長などだった。

 しかし、稼ぎ手の対米輸出を巡っては、先の米中首脳会談で貿易不均衡の是正を目指す「100日計画」づくりで合意した。個人消費も以前ほどの伸びはない。景気回復を確実にするには、新たな産業の育成と内需の開拓が不可欠だ。その前提となるのが産業の構造改革である。

 中国は今秋、5年に1度、最高指導部を入れ替える共産党大会を控えている。経済低迷の印象を与えれば、現執行部の求心力に響く。経済安定に向けた短期的なテコ入れは政治優先の選択でもある。とはいえ中長期的な成長を確保する構造改革を棚上げすれば、後に大きなツケを回すことになる。

トルコ改憲 強権政治深める危うさ

 欧州とアジアの懸け橋に位置するトルコで、国のあり方が大きく変わろうとしている。

 16日の国民投票でわずかな差で憲法改正が認められ、議院内閣制をやめ大統領制に移ることになった。問題は、今は象徴的な国家元首と定められている大統領に強大な権力が集中し、立法府や司法府との三権分立が骨抜きになりかねないことだ。

 新しい制度では、大統領は国会の承認なしに副大統領や閣僚を任命し、予算案も作成する。非常事態を宣言し、国会を解散できる。裁判官や検察官の人事にも強い影響力を持つ。

 エルドアン大統領は、強い指導者のもとで意思決定が素早くなり、治安や経済が安定するとしている。しかし、野党や、トルコが加盟を求めている欧州連合(EU)は「民主主義が後退し、独裁への道を開く」と警戒する。大統領は、こうした批判に耳を傾けるべきだ。

 国論が二分するなかで強権をふるう手法をとれば、社会の亀裂が深まり、不安定になる。近年増えているテロの危険性はさらに強まるだろう。欧州との関係が悪化すれば、中東の過激派組織「イスラム国」(IS)対策や難民問題への国際的な取り組みにも支障が出かねない。

 エルドアン氏は「歴史上初めて国民の手で改革を実現した」と、正当な手続きで民意が示されたと強調した。だが、国民投票の内実には疑問も残る。

 トルコでは昨年7月のクーデター未遂事件の後、いまも非常事態宣言が出されたままだ。事件に関わったとして公職を追われた人は6万に及ぶという。150以上の新聞社、放送局などの報道機関が閉鎖された。野党の有力議員も拘束されている。

 そんな状況での国民投票である。政権与党が提案した改憲案に対し、国民は本当に自由な意思表示ができたのか。EUは報告書で「国際基準からみて自由で公正とは言い難い」と批判していた。それでも反対が49%にも上ったことを、大統領は重く受け止めなくてはならない。

 トルコには隣国シリアの難民が300万人近くいる。トルコとEUは昨年、難民や移民が欧州に不法に渡るのをトルコが抑える代わりに、EUが財政支援することで合意した。両者は、今後も難民対策で密接に協力する必要がある。

 トルコでは、日本を含む各国の援助団体が難民への人道支援をしている。親日国トルコと日本の外交関係は良好だ。民主的で安定した地域大国トルコこそが中東安定の要であると、日本政府もしっかり伝えるべきだ。

諫早湾干拓 国の罪深さが招く混迷

 この混迷からどうやって抜けだすのか。行政が本気で解決にとり組まなければ、対立と分断で地域は疲弊するばかりだ。

 国の干拓事業によって諫早湾が鋼板で閉め切られて、今月でちょうど20年になる。

 そしてきのう、干拓地で農業を営む人々が起こした裁判で、長崎地裁が潮受け堤防の水門を開くのを禁じる判決を言い渡した。開けば農業に重大な被害が生じる恐れがあるとの判断だ。

 7年前には福岡高裁が、逆に漁業者の主張を認め、水質調査をするため期限をきって開門するよう命じている。相反する司法の結論に疑問が広がる。

 だがこの事態は予測できた。干拓により漁業被害が出ていることを、今回の裁判で国が正面から主張しなかったためだ。

 福岡高裁は両者の因果関係を一部認め、だからこそ開門を命じた。国はこれを受け入れ上告を断念した。にもかかわらず、理解しがたい対応である。

 矛盾を指摘されながら改めようとしない国の態度が、矛盾する判決につながった。高裁の確定判決があるので口では「開門義務を負う」と言いつつ、本音ではそうさせないように、つまり国が進めてきた公共事業が失敗だったことが明らかにならないように立ち振る舞う。

 その結果、有明海では不漁が深刻化し、漁業者の後継者難もより厳しさを増した。一方、開門の約束を果たさないことで、いわば罰金として国が漁業者側に日々支払う間接強制金の総額は、年内に10億円を超える。営農者は営農者で、引き続き中ぶらりんの状態におかれる。

 どの観点から見ても、罪深い行いと言わざるを得ない。

 国が何よりとり組むべきは、漁業者と営農者の双方が折り合える解決策を粘り強く探ることであり、干拓事業者の立場に固執することではない。

 国は開門調査に備え、4年前に243億円を予算計上し、農業被害にも対処できると説明した。だが営農者を説得できないまま、毎年繰り越されている。

 農業対策とは別に、02年からは海底に砂を入れて耕すなどの有明海再生事業も手がける。しかし、昨年度までに約500億円を投じても、漁獲量の減少傾向に歯止めはかかっていない。かつての「豊穣(ほうじょう)の海」を取りもどすには、やはり開門して調べるしかないのではないか。

 営農者を抱える長崎県も、開門に反対するだけでなく、ともに調整にあたる姿勢を見せてほしい。こじれた感情を解きほぐすのは容易ではないが、その営みなくして問題の解決はない。

朝鮮半島情勢 日米韓連携で対北警戒強めよ

 北朝鮮が米国への対決姿勢に固執すれば、朝鮮半島の危機は深まる一方だ。日米韓3か国が緊密に連携し、警戒を強めることが欠かせない。

 ペンス米副大統領と韓国大統領代行を務める黄教安首相はソウルで会談し、北朝鮮が軍事的挑発に踏み切った場合、「強力な懲罰的措置」をとる方針で一致した。

 看過できないのは、北朝鮮がペンス氏訪韓の直前に、弾道ミサイルを発射したことである。空中爆発して失敗したとはいえ、国連安全保障理事会の決議に違反する無謀な行為にほかならない。

 北朝鮮は25日に、軍創建85年の記念日を控える。6回目の核実験や大陸間弾道弾(ICBM)発射を強行する恐れがある。

 ペンス氏は記者会見で、「平和的手段で非核化を達成したいが、全ての選択肢がテーブルにある。戦略的忍耐の時代は終わった」と述べ、金正恩政権に警告した。

 米国は、原子力空母「カールビンソン」やミサイル駆逐艦を朝鮮半島周辺に派遣した。

 対北朝鮮圧力の強化には、中国への働きかけが一段と重要になっている。ミサイル発射が失敗した日、ティラーソン国務長官は楊潔チ国務委員と電話会談した。

 トランプ大統領はツイッターで、中国と「北朝鮮問題で連携している」ことから、為替操作国に認定しなかったと指摘した。

 安倍首相が国会で、「対話のための対話では意味がない。北朝鮮が真剣に対話に応じるよう、圧力をかけていくことが必要だ」と強調したのは当然である。

 軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に基づく情報共有など、日韓の安全保障協力を進める意向を示した。着実に強めたい。

 韓国では、朴槿恵前大統領の罷免(ひめん)に伴う大統領選が始まった。5月9日に投開票される。

 緊迫する北朝鮮情勢への対応が重要な争点として浮上した。支持率でトップに立つ左派の文在寅候補を、中道左派の安哲秀候補が急速に追い上げている。

 保守層では、北朝鮮に融和的な文氏への不信感が根強い。安氏支持が広がっている要因だろう。

 米韓同盟重視を訴える安氏は、最新鋭ミサイル防衛システム「最終段階高高度地域防衛(THAAD)」の韓国配備に賛成する立場を表明している。「次期政権が決めるべきだ」として、配備に消極的な文氏とは対照的だ。

 韓国は、日米との協調が北朝鮮抑止に必須であるという認識に立った外交を忘れてはならない。

諫早湾開門凍結 有明海の再生が打開のカギだ

 裁判所が正反対の結論を下す。司法判断の「ねじれ」は、今回も解消されなかった。

 長崎県の諫早湾干拓事業を巡る訴訟で、長崎地裁は、湾内の堤防排水門の開門差し止めを国に命じた。

 判決は、開門すれば、干拓地で塩害や潮風害、農業用水の水源の一部喪失が生じる恐れがある、と指摘し、「被害は重大」だと結論付けた。開門しても、「漁業環境の改善の効果は高くない」との見方も示している。

 2013年の長崎地裁の仮処分決定と同様、干拓地の営農者らの訴えを認めた判断である。

 別の訴訟で、福岡高裁は10年、漁業被害を認定して、国に5年間の開門調査を命じた。当時の菅首相の判断で、国が上告を断念したため、高裁判決は確定した。

 上告して、下級審に強い影響力を持つ最高裁の判例が示されていれば、長期の混乱を招くことはなかったのではないか。

 菅氏は「私なりの知見を持っている」と強調しながら、効果的な解決方法を示せなかった。

 有明海沿岸の漁業者らが排水門の開門を主張する。干拓地の営農者らは開門に真っ向から反対している。これが、諫早湾干拓事業の裁判の構図だ。計7件が係争中で、両者の溝は今なお深い。

 司法判断が割れているため、開門しても、しなくても、国はどちらか一方に制裁金を支払う義務を負っている。異常な状況だ。

 開門を履行していない現在、漁業者側に1日90万円、総額は8億円に達している。対立の解消が見えないまま、公金を支出し続ける事態には終止符を打つべきだ。

 7件の訴訟の一括解決を目指した長崎地裁での和解協議が、最終的に決裂し、今回の判決に至ったことは、残念である。

 和解協議で、国は、有明海の漁業支援策を盛り込んだ100億円の基金創設を提示した。国策として干拓事業を進めてきた政府が、開門せずに解決を図る意思を改めて明確にしたと言えよう。

 福岡、熊本、長崎、佐賀の漁業団体などのうち、佐賀以外は「開門を棚上げしてでも、有明海再生を優先したい」などと、和解案を受け入れる姿勢を見せた。膠着(こうちゃく)状態が続いたこれまでの経緯を考えれば、大きな前進である。

 堤防の閉め切りから、20年になる。国が開門しない姿勢を貫くのであれば、いかに有明海の再生事業に取り組むかが、解決へのカギとなろう。漁業者側の信頼を得る一層の努力が欠かせない。

2017年4月17日月曜日

対話と圧力を駆使し東アジアの安定を

 朝鮮半島情勢が一段と緊迫してきた。北朝鮮は6カ国協議の再開を拒んでおり、対話の呼びかけだけで核・ミサイル開発に待ったをかけるのは難しい。軍事衝突の回避が最優先ではあるが、北朝鮮に影響力を持つ中国を巻き込み、硬軟あらゆる手段を用いて東アジア安定への道を探るべきだ。

 北朝鮮は故金日成主席の生誕105年の15日、軍事パレードを催し、朝鮮労働党副委員長が「核戦争には核打撃戦で対応する」と訴えた。16日は弾道ミサイルを発射し、結果は失敗だったものの、対決姿勢をあらわにした。25日は朝鮮人民軍の創設85年を迎える。

 一連の行動を通じて核保有国としての存在感を世界に印象付け、米国を交渉の場に引き出す思惑があるとみられる。通算6回目の核実験の実施も取り沙汰される。

 他方、米国は空母カール・ビンソンを半島沖に向かわせ、先制攻撃や特殊部隊による金正恩(キム・ジョンウン)委員長の殺害も辞さない構えだ。在韓米軍への核兵器の再配備も視野に入れる。

 シリアへの巡航ミサイル攻撃やアフガニスタンでの大規模爆風爆弾(MOAB)の使用は、北朝鮮をけん制する狙いもあるようだ。

 緊張が高まると、不測の事態が起きかねない。政府は(1)北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合の国内の避難・誘導の手順(2)韓国在留の邦人を救援する段取り――などを再確認すべきである。

 朝鮮半島から多くの難民が船で漂着することも考えられる。小さな自治体には対応能力が乏しいところもある。政府があらかじめ手を打っておくべきだ。

 トランプ米大統領がオバマ前政権の掲げた「戦略的忍耐」を否定し、対話から圧力に軸足を移したことで、これまで北朝鮮にあまり口出しせずにいた中国の態度にやや変化が見受けられる。習近平国家主席はトランプ氏に「半島の非核化には協力する」と伝えた。こうした変化は評価する。

 もちろん、北朝鮮との対話の窓口は閉ざすべきではない。中国をさらに米中協調の方向に動かすには、日米韓の連携の強さをみせつけることが重要だ。日本の外交努力の見せどころである。歴史問題などでこの時期に日韓の溝が深まる愚は犯したくない。

 東アジアの安定を回復するため、対話と圧力のバランスを上手に取り、現実的な落としどころを見いだしたい。

持続可能なふるさと納税へ

 総務省が全国の自治体に対して、ふるさと納税に伴う過度な返礼品を是正するように要請した。寄付額の3割を超すような返礼品を提供している市町村に見直すように強く求めている。

 ふるさと納税は寄付をすると2000円を超える部分について一定の上限額まで税金が戻ってくる制度だ。自分の出身地や興味がある地域に寄付し、都市と地方の税収格差を縮めようと2008年度に始まった。

 寄付総額は当初、年間で100億円前後にとどまっていたが、13年度以降急増し、15年度は1653億円に増えた。返礼品競争に加えて、手続きを仲介する民間サイトが登場し、利用が増えている。

 お礼として特産品などを提供することが悪いわけではないが、現状はネット通販とほぼ変わらない。寄付額の6、7割相当の商品を用意して宣伝したり、提供した商品券がネット上で転売されたり、様々な問題も生じている。

 総務省が「良識のある対応」を求めるのは一昨年、昨年に続く3度目になる。今回は不適当な返礼品を細かく列挙するなど内容がより具体的だ。今後は国が自ら、市町村に見直しを求めるという。

 今回のこまごました通知にはやや違和感もあるが、ふるさと納税は寄付制度である。過度な返礼品の見直しに消極的だった自治体側が招いた結果といえるのだろう。

 返礼品がなくても熊本地震の被災地などには多額のお金が集まっており、ふるさと納税は日本の寄付文化を育てている面もある。制度を持続させるためには、市町村の節度ある対応が不可欠だ。

 現行制度には他にもおかしな点がある。自分が暮らす地域に寄付しても同じように税金が戻ってくる。早急に見直す必要がある。

 都市と地方の税収格差を縮めるためには、ふるさと納税だけでは力不足な点も指摘したい。地方向けの補助金を減らし、それを財源に地域間の偏在が小さい税源を国から地方に移す改革にも取り組むべきだろう。

たばこ対策 五輪にともる黄信号

 「たばこのない五輪」に黄信号がともっている。受動喫煙対策をめぐる、厚生労働省と自民党たばこ議員連盟の対立だ。

 厚労省は先月、健康増進法改正案の概要をまとめた。焦点の飲食店については、食堂や居酒屋を原則禁煙としつつ、小規模なバーなどは例外とした。世界標準と言っていい「屋内全面禁煙」に踏み込まず、喫煙専用室を設ける妥協をした昨秋のたたき台から、さらに後退した。

 だが議連はこれにも反発。店が禁煙、分煙、喫煙を選び、外部に表示することだけを義務化する対案を唱えている。

 一見、個人の選択を尊重し、ゆだねる案のようにみえる。しかし、喫煙できる店で働く従業員の被害は解消されない。仕事上の付き合いなどから喫煙店での会合を断れないケースも多数想定され、とても「対策」と呼べる代物ではない。

 世界保健機関(WHO)は、20年の東京五輪・パラリンピックを機に、飲食店を含む公共の場での屋内全面禁煙を全国レベルで実施するよう、塩崎恭久厚労相に求めている。

 このほど来日したダグラス・ベッチャー生活習慣病予防部長は記者会見で「換気や喫煙室の設置では効果はない」と強調した。スペインは06年、飲食店に限って喫煙室方式を認める法律を施行した。だがその後の調査で、従業員の受動喫煙を十分に防げないことがわかり、11年に全面禁煙に移行したという。

 社説でくり返し指摘しているように、たばこの煙は好き嫌いの話ではない。生命・健康に直結する問題である。

 学校や病院、飲食店など公共の場所での規制状況を調べたWHOの分類によると、先月の厚労省案が実現しても、日本は4段階の最低レベル(70カ国)から1ランク上がるだけだ(47カ国)。最近、五輪を開いたカナダ、英国、ロシア、ブラジルを始めとする49カ国は、屋内全面禁煙を法制化している。

 安倍首相は施政方針演説で、「五輪・パラリンピックの機をいかし受動喫煙対策の徹底を進める」と述べた。だが先月の参院予算委員会では「私の判断を待たずに(意見が)収斂(しゅうれん)すればいい」と答えるにとどまった。

 国民への周知や準備のための期間を考えると、五輪に確実に間に合わせるには、今国会での法改正が望ましい。

 開催国としての面目を何とか保つのか、それとも人々の健康に目をつむる「たばこ後進国」のまま、世界から選手や観客を迎えるのか。政府・与党の見識が問われている。

大阪の地下鉄 民の力で利便向上を

 1日240万人超が利用している大阪市営地下鉄が来春、民営化される。全国各地にある地下鉄では、特殊法人を04年に民営化した東京メトロに続く。

 人口減少時代に入り、大都市でも公共交通の先行きは厳しい。民営化で経営の自由度を高め、乗り切ろうとするのは一つの方向性として理解できる。

 大阪の地下鉄は84年の歴史を持つ。民営化には根強い反対論があり、市議会で2回否決された。吉村洋文市長は、新会社の全株式を市が当面保有する条件を示し、可決にこぎつけた。

 多くの利用者が「良かった」と実感できてこそ、民営化は初めて「成功」となる。ホームドア整備や南海トラフ地震対策といった安全上の課題も多い。新会社はやみくもな収益増に走らず、利用者目線でのサービス改善を一歩一歩進めてほしい。

 地下鉄は建設費が高い。大阪以外の八つの公営地下鉄は数百億~数千億円の累積赤字を抱え、経営改善に苦しんでいる。

 横浜市では03年に有識者会議が「民営化が望ましい」と提言したが、市は公営維持を選択した。ほかの都市で今のところ、ただちに民営化を目指す動きはないものの、大阪市の試みは、地下鉄経営のあり方をめぐる議論に一石を投じよう。

 大阪市は、新会社の事業多角化に期待を寄せる。公営と違って法的な制約が少なくなるためだ。遊休不動産を活用した賃貸マンション建設や保育所運営などが想定される。東京メトロでは、鉄道以外の事業からの収入の割合が十数%に達している。

 ただ、無理は禁物だ。大阪市は90年代に甘い見通しのもとで土地信託に手を染め、多額の損失を出した。本業以外への進出は、新会社の能力と体力を見極め、慎重に進めるべきだ。

 新会社は利用者数と営業収益で関西の大手私鉄5社をしのぐ存在になる見込みだ。その潜在力は、関西全体の交通の質を高めるために生かしてほしい。

 明治以来、大阪市では「市内の交通は市営が担う」という考え方が強く、他社との協調に消極的だったとされる。郊外と結ぶ他社の電車との相互直通運転は東京圏の地下鉄では10路線あるのに、大阪は3路線だけだ。

 関西は急速に高齢化する。人々に外出を促し、まちの活力を保つには、より使いやすい公共交通が不可欠だ。地下鉄はもちろん、新会社の子会社に事業譲渡されることになった市営バスも高齢者には大切な足だ。

 私鉄やJRとの連携を深め、「どうすれば便利になるか」の追求をリードしてもらいたい。

将来人口推計 少子化克服へ対策を加速せよ

 やや改善傾向が見られるものの、依然として状況は厳しい。急速な人口減と超高齢化に歯止めをかけるために、対策を総動員せねばならない。

 日本の総人口は、2015年の1億2709万人から65年に8808万人まで減少する。国立社会保障・人口問題研究所が、新たな将来推計を公表した。

 1億人を割り込むのは53年で、5年前の前回推計より5年遅くなった。減少ペースが緩やかになったのは、推計の柱となる出生率の仮定値を引き上げたためだ。近年、30~40歳代の女性の出産が増えていることを反映させた。

 無論、楽観できる水準ではない。今回の出生率1・44は、人口維持に必要な2・07にはほど遠く、政府が当面の目標とする1・8との隔たりも大きい。晩婚・晩産化の傾向は続いている。生涯未婚率も上昇していく見込みだ。

 この結果、65年には現役世代の人口が今より4割も減る。高齢化率は38・4%まで上昇する。

 少子高齢化は、社会・経済の活力を殺(そ)ぎ、社会保障制度の維持を危うくする。そうした将来への不安や悲観が、経済を停滞させ、一層の少子化を招くという悪循環に陥っている。

 人口推計は、あくまで予測に過ぎない。未来を変えるのは可能だ。その決意で、少子化克服へ対策を加速させることが大切である。

 まずは、仕事と子育てを両立できる環境の整備だ。女性の活躍促進の観点からも欠かせない。

 政府は、17年度末までの待機児童解消を目指し、保育の受け皿確保を進めてきた。だが、需要増に追いつかず、達成は困難な情勢にある。6月にまとめる新たな待機児童解消プランで、実態を踏まえた拡充策を示してもらいたい。

 長時間労働の是正を中心とした働き方改革も重要だ。男女ともに短時間で効率良く働くことで、仕事以外の生活を充実させられる。女性だけに家事・育児を委ねていては、出生率向上は望めまい。

 若年層の経済基盤の安定は喫緊の課題だ。非正規雇用が働く人の4割を占めるまでになり、経済的事情から結婚や子育てをあきらめる若者が目立っている。非正規雇用の処遇改善と正社員への転換支援を一段と進める必要がある。

 社会保障改革は待ったなしだ。高齢化に伴い、医療・介護の費用は膨張する。いかに効率化しつつ、質の高いサービスを提供していくかが問われる。高齢者を含めて、経済力に応じた負担を徹底させることも求められる。

米温室ガス対策 大排出国としての責任がある

 地球温暖化対策で求められるのは、世界全体の温室効果ガスの排出を減らすという考え方だ。

 実効性のある取り組みを実現するためには、国際協調が欠かせない。

 この観点から懸念されるのは、トランプ米大統領が、地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名したことだ。

 発電所が排出する二酸化炭素(CO2)を減らす「クリーンパワープラン」など、オバマ前政権が掲げた政策の見直しを指示した。石炭産業の復興という大統領選での公約に沿った動きだ。

 温暖化対策の新たな枠組みであるパリ協定が昨年11月に発効した。米国は、2025年までに05年比で26~28%の排出削減を打ち出していた。政策変更により、対策の後退は避けられまい。

 発電方法は、世界的に天然ガスや太陽光、風力など、よりクリーンな方向に向かっている。

 米国でも、CO2の排出が比較的少なく、低価格化が進む天然ガスでの発電の比重が高まっている。その結果、既に目標の半分近くの排出削減を達成している。トランプ政権は、現状認識を欠いていると言わざるを得ない。

 トランプ氏は、地球温暖化に懐疑的だ。「でっち上げだ」と発言したこともある。

 人間活動が温暖化の原因になっているというのが、長年の観測や研究による科学的な結論である。米国は中国に次ぐ排出国で、1人当たりの排出量は世界一だ。排出削減に大きな責任を負っていることを忘れてはならない。

 米中が主導して採択されたパリ協定は、全排出国が参加した画期的な枠組みだ。国際社会は、これを維持しつつ、米国に対しても、排出削減の努力を続けるよう働きかける必要がある。

 大統領令が及ぼす影響には、不透明な面もある。17州が一部撤回などを求めて提訴した。

 各国には、米国の動きに惑わされず、連携して着実に対策を進める姿勢が求められる。

 日本では、経済産業省と環境省が50年の低炭素社会実現に向けた計画案をまとめた。

 経産省は、排出削減と経済成長を両立させるため、省エネ技術の開発と海外への普及などに力点を置く。環境省は、排出されるCO2への課税などを重視する。地球全体の排出量を削減するためには、原発の活用も大切だ。

 先進7か国(G7)の中で、日本の計画策定は遅れている。政府は両省案の一本化を急ぎたい。

2017年4月16日日曜日

科学技術立国の堅持へ大学改革を

 日本は科学技術立国を堅持できるのか。そんな不安を抱かせる指標や分析が発表されている。なかでも新しい産業の芽や社会的価値を生む役割が期待される大学で、活力の低下が指摘されている。

 人口が減る日本では研究者数や研究費を右肩上がりでは増やせない。科学技術立国を標榜し続けるには、研究の多様性を保ちつつ、生産性を高めるという難題を乗り越えねばならない。遅々として進まなかった大学改革に、いまこそ危機感をもって取り組むときだ。

年功崩し若手登用

 「日本の科学研究はこの10年で失速し、この分野のエリートの地位が揺らいでいる」。英科学誌「ネイチャー」は3月、日本の科学研究の弱体化を厳しい表現で指摘した。

 同誌によれば、この10年間に世界で発表された論文数は80%増えたが、日本は14%増にとどまる。日本の世界シェアは2005年の7.4%から、15年には4.7%に低下した。お家芸だった「材料」や「エンジニアリング」などでもシェア低下が目立つ。

 国連の専門機関である世界知的所有権機関によれば、日本は研究開発の産物である特許の登録件数で長く世界首位だったが、15年に中国に抜かれ2位に落ちた。有力研究機関が公表する競争力ランキングでも日本はじりじりと順位を下げている。

 日本では研究開発投資の約8割を企業が担い、科学技術全体が急速に弱っているかどうかは議論の余地があろう。だが大学の活力低下は国際化の遅れなど他の指標からも見て取れる。ネイチャーの警告は重く受け止めるべきだ。

 何が活力を奪っているのか。大学関係者からは、国が支給する運営費交付金の削減をあげる声が多い。交付金は教員数などに応じて配分され、大学運営の基礎となってきた。政府は04年度の国立大学法人化を機に毎年減額し、この10年間で約1割減った。

 しかし、大学予算全体はそれほど減っていない。政府は交付金を減らす代わりに、公募方式で研究者に資金獲得を競わせる「競争的研究費」を増やしてきた。本質にあるのは研究費不足ではなく、もっと構造的な問題とみるべきだ。

 ひとつが研究者の高齢化だ。ノーベル賞級の独創的な成果は若い頭脳から生まれやすい。1980年代、大学では40歳未満の若手教員が4割を占めたが、いまは25%にまで下がった。代わりに50~60代が半数近くを占める。産業界などでは崩れてきた年功序列が、大学ではいまだに残ったままだ。

 政策も失敗が続いた。文部科学省は博士号をもつ若手を任期付きで雇用する「ポスドク」を増やしたが、任期後の就職先がなく、収入や身分が不安定な「高学歴ワーキングプア」と呼ばれる若手研究者が増えてしまった。

 閉塞感を打ち破るには、若手を積極的に登用する政策が欠かせない。政府は科学研究費補助金を若手に重点配分したり、国のプロジェクトで登用したりする制度を始めたが、これだけでは足りない。

 各大学が若手に責任あるポストを用意し、意欲を引き出す改革が不可欠だ。企業の研究との兼業を認める「クロスアポイントメント」という制度も活用すべきだ。

企業の資金生かせ

 研究費を国だけに頼るのではなく、企業などから受け取れるように「稼ぐ力」もつけるべきだ。

 日本は欧米に比べ産学共同研究が大幅に少なく、金額ベースでは米国よりも1桁少ない。連携を仲介する専門人材を増やしたり、企業の設備を借りたりすることで共同研究を増やす余地は大きい。

 研究評価の方法も見直しが要る。公募型の研究が増え「数年先に実用化が見込める研究ばかりが評価される」との声があがる。実用性が不透明な基礎研究はさらに資金を得にくくなる心配がある。

 研究の多様性を保つには、研究費を配分する日本学術振興会などの役割が重くなる。欧州では「経済効果は基準に含めない」「論文の本数だけでは評価しない」などと、10年単位の長い目で研究の価値を評価する例が増えている。日本でも参考にしたらどうか。

 政府の総合科学技術・イノベーション会議は昨年度から5年計画で始めた科学技術基本計画に数値目標を盛った。大学についても「40歳未満の若手教員を3割にする」「企業などからの資金調達を5割増やす」などと掲げた。

 それらの達成に向け、政府が細かく指示を出し、研究活動を縛っては、かえって大学の活力をそぐ。大学の自発的な改革を加速させるときだ。

避難者いじめ 実情学び考える授業を

 東日本大震災と原発事故で、福島県内外に避難した子どもたちへのいじめが、この1年間で129件確認された。

 震災や事故にからむいじめと認定されたのは4件だけだったが、文部科学省は「すべて把握できたわけではない」と説明している。むろん、これは氷山の一角にすぎないだろう。

 「お前らのせいで原発が爆発したんだ」「放射能がうつるから来ないで」と過去に言われた例も報告された。横浜市に避難した子がいじめで不登校になったことが、昨年秋に大きく報じられたのを改めて思いおこす。

 「背景には放射線や、避難を続ける人たちへの理解不足がある」と松野博一文科相は述べた。子どもたちは周りの大人の発言や態度に影響を受ける。はびこるいじめは、大人社会の無理解を映す鏡でもある。

 県民を傷つける言動を閣僚もくり返してきた。自主避難者の苦境を「本人の責任」と言い放った今村雅弘復興相だけではない。石原伸晃氏の「最後は金目でしょ」、丸川珠代氏の「反放射能派、と言うと変だが、どれだけ(線量を)下げても心配だという人はいる」などだ。どちらも環境相時代の発言だ。

 福島に戻る人が増えるほど、復興が進む。あるいは進んでいるように見える。政権のそんな思惑と打算が、避難者に肩身の狭い思いをさせてはいないか。

 いじめの原因が「理解不足」にあるのなら、実情を学び、考える機会を子どもたちに提供する責務が、大人にはある。

 たとえば福島県教育委員会が作った「ふくしま道徳教育資料集」を使ってはどうか。小中高向けの各版がそろい、県教委のホームページからも手に入る。

 避難を強いられた住民の気持ち。「放射能差別」や福島の農産物に対するいわれなき偏見。そうした重いテーマも、実話に基づいて扱っている。

 避難生活や福島の現状を描いたルポ、ドキュメンタリーも、教材にできるだろう。放射線の勉強をまじえて総合学習で学んだり、現代社会などの授業で扱ったりする方法もある。

 避難するか、とどまるか。故郷に戻って再出発するか、避難先で生活をたて直すか――。一つの正解がないからこそ、福島の人々の選択は分かれた。

 「本音で語り、考えが相いれないこともあると認め、互いを尊重しつつ折り合いをつけることを学んでほしい」。福島県教委の担当者の言葉だ。

 教え込むのではなく、自分で考えさせる。そんな授業に取り組む良い機会ととらえたい。

温暖化対策 米国に振り回されまい

 米国のトランプ大統領が、地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令を出した。石炭産業などで雇用を増やそうと、環境規制をゆるめる内容である。

 米国は、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量が、中国に次ぎ世界で2番目に多い。その大排出国が長年の科学的議論を無視し、途上国の対策を支える国際基金への拠出も拒もうとしている。

 昨年11月に発効したばかりの温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に大きな痛手を与えかねない暴挙だ。強く再考を求めたいが、トランプ氏は折り紙付きの規制反対論者を環境保護局長官に据え、局の予算を大幅に削る方針も示した。姿勢の転換は当面、期待できそうにない。

 日本を含む各国政府に求めたいのは、米国に振り回されないことだ。その動向を必要以上にうかがうことなく、自国の対策を着実に進めるべきである。

 パリ協定の特徴は、かつての京都議定書と違い、締約国が自国の削減目標を自主的に決めて提出していることだ。

 日本は、パリ協定で「2030年度の温室効果ガスの排出を13年度比で26%削減する」と国際的に公約した。さらに「2050年には80%削減」との長期目標も閣議決定している。

 達成は簡単ではない。米国の動向を口実に対策をゆるめ、時間を浪費すれば、将来の削減をより急にせざるをえず、実現がますます厳しくなる。

 自ら約束した目標を守れなければ非難を免れず、国際的な信用や外交上の主導権を失う。日本は約束を達成する筋道をきちんとつけることが肝要である。

 トランプ政権による政策見直しが、米国の温暖化対策を実際にどの程度後退させるのか、現時点ではわからないという事情もある。

 米国の科学界や環境団体は、世界の温暖化対策の推進力となってきた。今回の大統領令に対し、温暖化対策に熱心な州は訴訟を検討している。米石油大手エクソンモービルがパリ協定残留をトランプ政権に求めるなど、産業界にも積極的に対応していこうという機運がある。

 トランプ氏は、大統領選で掲げた公約の実現に苦戦している。政権への支持率低迷が続けば、石炭産業復興策なども長続きしない可能性が高い。

 各国・地域がパリ協定のもとで足並みをそろえ、取り組みを進めて、トランプ政権に軌道修正を迫っていくべきだ。

 日本政府の動きは依然鈍い。まずは自らの目標達成に向けて態勢を立て直さねばならない。

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