2017年5月31日水曜日

成長戦略はなぜ成果を出せないのか

 政府が今年の成長戦略(日本再興戦略)の素案をまとめた。人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットを活用し、さまざまな社会課題を解決する「ソサエティー5.0」の実現を掲げた。

 その目標が悪いわけではない。問題は、安倍晋三政権が過去の成長戦略で示しながら、なお実現できずにいる難題と十分に向き合っていない点である。

 日本経済の最大の課題は成長力の強化と、財政健全化の両立である。日銀による異次元の金融緩和と、2度にわたる消費増税延期で時間を買っている間に、経済の実力を高めることができたか。

 残念ながら、日銀の推計では、日本経済の潜在成長率は2014年時点の0.8%台から16年後半に0.6%台まで下がった。この厳しい現実を政府は直視する必要がある。

 安倍政権は法人税の実効税率を20%台まで下げ、農業や医療などの岩盤規制改革に取り組んだ。企業統治も強化した。

 さらに今年の成長戦略が、IT(情報技術)を使った医療・介護の効率化策を示したのは妥当だ。高速道路での自動運転や、金融とITを融合したフィンテックの推進を打ち出したのも理解できる。

 しかし、こうした新政策を次々と繰り出す一方で、過去の政策目標が未達に終わった原因をしっかり分析していない。数値目標を言いっ放しで、軽々しく扱うのは民間企業ではあり得ない対応だ。

 たとえば、20年までに世界銀行のビジネス環境ランキングで「先進国3位以内に入る」という目標を掲げながら、昨年時点の順位は26位まで下がってしまった。

 ほかにも「開業率・廃業率を米英レベル(10%台)に」「外国企業による対内直接投資残高を倍増」といった目標の達成はほぼ絶望的だ。新陳代謝を促す規制改革や、信用保証制度の見直しなどが不十分だからではないか。

 時間に縛られない「脱時間給」という働き方を解禁する労働基準法改正案は国会で棚ざらしにされ、一般の自家用車で利用客を送迎するライドシェア(相乗り)のサービスは進まない。

 100ページ超に及ぶ文書をまとめて「やってる感」を国民にアピールするだけでは困る。決めたことを着実に実行する。結果を厳しく検証し、不断の改革に挑む。そんな政策のサイクルを徹底していない政府に猛省を求めたい。

人手不足への対策が急務だ

 ハローワークで仕事を探す人1人に何件の求人があるかを示す有効求人倍率が、バブル期を超えた。企業の間では人手を確保できず事業に支障が出ることへの懸念が強まっている。対策をいよいよ急ぐ必要がある。

 4月の有効求人倍率は1.48倍に上がり、バブル期で最も高かった1990年7月の1.46倍を上回った。

 求人倍率の上昇は景気の改善を反映した面もあるが、少子化による人口減少という構造的要因が大きい。人口減の加速を考えれば、人手不足は一段と深刻になるおそれがあることを、企業も政府もよく認識すべきだ。

 対策は2つに大別できる。ひとつは企業が生産性を高め、より少ない人員で生産や販売活動が回るようにすることだ。もうひとつは女性や高齢者の就業を促すなど働き手を増やすことである。

 生産性の向上は余地が大きい。企業は無駄な仕事をやめるなど業務の見直しや、IT(情報技術)活用による効率化・省人化などに積極的に取り組むべきだ。

 とりわけサービス業は国際的にみて生産性が低い。豊富な労働力を前提にした事業モデルの改革にも踏み出すときだ。

 働き手を確保し、労働力の減少を抑えるには、政府の実行力が問われる。課題は山積している。

 女性の就労促進では、既婚者が働く時間を抑えるのにつながる配偶者控除の抜本的な見直しが欠かせない。一定の職務能力を持った外国人材を受け入れる新たな仕組みも検討したい。出生率を上げる少子化対策ももちろん怠れない。

 人手が足りない分野に人材が移りやすくする労働市場改革も重要だ。職業紹介など人材サービス会社の活動を活発にする規制改革や、求められる技能を働き手が身につけるための職業訓練の強化など、やるべきことは多い。

 こうした対策を企業も政府も迅速に進める必要がある。今は労働力需給の構造変化の真っ最中だ。変化への対応力が問われている。

(社説)加計学園問題 論点をすり替えるな

 安倍首相の友人が理事長を務める学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画をめぐり、前文部科学事務次官の前川喜平氏が新たな証言をした。

 昨年9~10月、和泉洋人・首相補佐官に首相官邸に複数回呼ばれ、新設を認める規制改革を早く進めるよう求められた。和泉氏はその際、「総理は自分の口から言えないから、私が代わって言う」と述べたという。

 事実なら、すでに明らかになった内閣府からの求めに加え、首相補佐官も「総理」の名を直接あげて、文科省に働きかけていたことになる。

 証言は、国家戦略特区という政権の目玉政策に公私混同があった疑いを抱かせる。国政への信頼がいっそう揺らいでいることを政権は自覚すべきだ。

 信じられないのは、事実関係を調査し、国民に対して説明する姿勢が首相らにまったく見られないことだ。

 菅官房長官は記者会見で政府として調査はしないとし、「前川さんが勝手に言っていることに、いちいち政府として答えることはない」と突き放した。

 首相は国会で「改革を進めていくうえでは常に抵抗勢力がある。抵抗勢力に屈せずにしっかりと改革を前に進めていくことが大切だ」と述べた。

 だが今回、問われているのは特区で獣医学部新設を認めることの是非ではない。トップダウンで規制に風穴を開ける特区である以上、首相が指導力を発揮すること自体は当然あろう。

 問題はその手続きが公平、公正で透明であるかどうかだ。

 行政府として当然の責務を安倍政権は軽んじている。そう思わざるをえない証言や文書がこれだけ明らかになっている。

 特区であれ、通常の政策であれ、行政府として、それを進める手続きが妥当であると国民や国会から納得がえられるようなものでなくてはならない。

 なのに首相は自ら調べようとせず、「私が知り合いだから頼むと言ったことは一度もない。そうではないというなら証明してほしい」と野党に立証責任を転嫁するような発言をした。考え違いもはなはだしい。

 政府が説明責任を果たさないなら、国会が事実究明の役割を担う必要がある。前川氏はじめ関係者の国会招致が不可欠だ。

 自民党の竹下亘国会対策委員長が前川氏の証人喚問について「政治の本質になんの関係もない」と拒んでいることは、まったく同意できない。

 問われているのは、政治が信頼に足るかどうかだ。それは政治の本質にかかわらないのか。

(社説)たばこ規制 自民党よ、都連に続け

 7月投開票の東京都議選にむけて、ほとんどの政党が選挙公約に受動喫煙対策を盛り込む方針を打ち出している。

 2020年の東京五輪・パラリンピックに備え、公共施設や飲食店などを「全面禁煙」「原則禁煙」とする都条例を制定しようというものだ。

 具体案が示されていないため細部の評価は難しいが、政策を競い合い、関心が高まるのは結構なことだ。同時に「五輪対策ならば東京だけがやればいい」という話にならないよう、目を光らせる必要がある。

 飲食店をふくむ屋内での禁煙や分煙を義務づける条例づくりは、2年前に検討されながら先送りになった経緯がある。都が設けた検討会では、条例によって損害を受けたと主張する業者から裁判を起こされる可能性を心配する声も出た。

 訴訟リスクを個々の自治体に押しつけないために、そして何より、国民全体の健康を守るために、やはり条例ではなく法律で規制するのが望ましい。

 ところが国レベルでは、厚生労働省と自民党の対立がいまだ続いていて、目標とされてきた今国会への法案提出は難しい状況になっている。

 厚労省案は、食堂や居酒屋を原則禁煙としつつも、喫煙室を設けることを認め、さらに小規模なバーなどは喫煙可とするものだ。かたや自民党は、業態を問わず、一定の面積以下の飲食店は「喫煙」「分煙」の表示をすれば、たばこを吸えるという案を示している。

 これまでも指摘してきたように、厚労省案も十分とは言い難い。まして自民党案では、従業員をはじめ、望まない煙を吸わされる被害は解消されない。

 自民党の厚生労働部会では、「がんの治療をしながら働く患者は仕事場を選べない」との訴えに対し、「(がん患者は)働かなければいいんだよ」というやじが飛んだ。高額な治療費のため、働かなければならない患者は多数いる。患者の置かれた状況を理解しない発言だ。

 注目すべきは、自民党も都議選の公約に「原則、屋内全面禁煙」の条例制定をかかげたことだ。ひと足先に受動喫煙対策を打ち出した小池百合子知事に対し、争点つぶしに出たとの見方もあるが、まさかそんな都民を欺くようなことはするまい。

 東京でやれて全国でやれない理由はない。都連は党本部に本気で働きかけ、党本部もそれを真摯(しんし)に検討してはどうか。

 きょう31日は世界禁煙デー。禁煙週間が始まった。この機運を逃さず、踏み出すときだ。

成長戦略 新産業創出の実績が見たい

 目新しいメニューを並べるだけでは、日本経済の底力は強まらない。

 政策を着実に実行することが欠かせまい。

 政府は、アベノミクスで5回目の成長戦略「日本再興戦略2017」の案をまとめた。

 生産性を高める第4次産業革命の実現が柱だ。物流などの「移動革命」、医療などの「健康」、「金融」といった戦略5分野に政策資源を集中投入する。

 具体的には、ドライバーが運転する1台のトラックを複数の無人車両が追従する隊列走行を、20年までに高速道路で実現する。ドローンによる無人配送も20年代に都市部で行うことを目指す。

 物流効率化は、運送業界で深刻な人手不足の解消に役立とう。

 健康分野では、人工知能(AI)を活用した遠隔診療の普及促進策などを盛り込んだ。

 医療サービスの充実を通じて健康寿命を延ばし、働き手を増やす効果が期待できる。

 ロボットやAIなど新技術を活用し、新しいビジネスを創ろうという政策の方向性は妥当だ。

 気がかりなのは、過去4回の成長戦略が目に見える成果を上げていないことだ。

 AIなどを活用した生産性向上の取り組みは、個々の大企業では進んできている。だが、他企業とデータを共有するなど、業種を超えた動きには至っていない。特に、小売業など非製造業の生産性は世界的にみて低い。

 政府は、過去の施策の問題点を包括的に洗い直し、戦略を修正、改善する必要がある。

 カギを握るのは、規制緩和策だ。働いた時間ではなく、成果に応じて賃金を決める「脱時間給」制度の実現は遅れたままだ。成長が見込める農業分野でも株式会社の参入が遅れており、経済活性化には力不足が目立つ。

 政府の規制改革推進会議が今年5月にまとめた答申は、混合介護の拡大策を先送りするなど、全体に小粒な印象が拭えない。

 今年の成長戦略では、新産業育成のため、期限を定めて規制を縮小する「レギュラトリー・サンドボックス」制度が創設された。

 一例として、電波法の規制緩和による電力線の通信利用を挙げている。中小企業でもコストをかけずに、効率的な生産管理などが可能になるという。

 有望分野で大胆な規制緩和を行えば、新しい産業を生み出すことにつながろう。政府は、聖域なく規制を見直し、日本の潜在成長率を引き上げるべきだ。

村議会廃止論議 住民総会で代替は可能なのか

 地方の衰退が深刻化する中で、議会が果たすべき役割は大きい。廃止しか選択肢はないのか、慎重に判断したい。

 高知県大川村が村議会を廃止して、有権者が直接、予算案などを審議する「町村総会」の設置を検討している。

 地方自治法は、議会の代わりに町村総会を置くことができると規定する。1950年代に東京・八丈小島の旧宇津木村(現八丈町)で設置された例がある。

 大川村では、東京の世田谷区と杉並区を合わせた面積に約400人が住む。4割が65歳以上だ。村議会は定数6で、2015年の村議選では、50歳代後半から70歳代の6人が無投票で当選した。

 次回は候補者不足に陥る可能性があるという。町村総会の設置は、村議の担い手不足に対処する窮余の策だと言えよう。

 大川村は過去に周辺自治体との合併を検討したが、不調に終わった経緯がある。村議会は13年と14年にも町村総会への移行を議論したが、結論は出なかった。「有権者の半数が集まることも無理だろう」といった理由からだ。

 山間部のため、交通手段が乏しい。村外の病院や施設で過ごす高齢者もいる。こうした状況は、今も変わっていない。

 自治体の首長は予算案の策定や人事などに強い権限を持つ。議会は首長の政策判断が正しいかどうかをチェックする役割を担っている。首長と議会が議論を重ねる中で、政策の精度が高まる。

 議会の廃止は、首長と議会の二元代表制という地方自治の原則が崩れることを意味する。

 高市総務相は「著しく人口が少ない町村では、町村総会も選択肢となり得る」と述べているが、一足飛びに町村総会を設置することには、疑問を拭えない。

 重要案件を大人数でどう議論し、集約させるのか。一定の専門知識を要する議案の審議で、一般の住民が適切に判断できるのか。町村総会には課題が多い。

 まずは、議員定数を削減し、人材確保に知恵を絞るべきではないか。必要なら議員報酬の見直しも検討すべきだろう。夜間や休日の開会など、議会に出席しやすい環境を整えたい。若年層や女性の政治参加を促すことも大切だ。

 議会と住民が勉強会を重ねて政策を提案する取り組みから、新たな候補者が生まれた例もある。

 議員のなり手不足に悩む自治体は多い。地域の将来に資する議会の在り方について、各自治体で議論を深めてもらいたい。

2017年5月30日火曜日

企業は株主に「見えない役員」の説明を

 企業の取締役経験者が相談役や顧問に就任する制度を、見直す機運が出てきた。相談役・顧問は権限や責任が曖昧な場合もあり、影響力が強くなりすぎると経営判断をゆがめかねないからだ。

 投資家のなかには相談役・顧問を「見えない役員」と呼び、制度そのものを不透明な日本的経営の象徴とみる向きもある。企業は相談役などを置く場合の合理的な理由や、彼らの権限と報酬に関する情報を、株主に説明して理解を得る必要がある。

 相談役・顧問の問題が注目され始めたきっかけは、2015年に発覚した東芝の会計不祥事だ。社長経験者が相談役として経営に隠然たる影響力を持ち、同社の企業統治(コーポレートガバナンス)を弱めたと批判された。

 東芝は経営の透明度を高めるため、16年に相談役の制度を廃止した。今年に入っても大手流通業のJ・フロントリテイリングや繊維大手の日清紡ホールディングスなど、ガバナンス改革の一環として相談役・顧問制度をとりやめる例が続いている。

 経済産業省によれば、約6割の上場企業に相談役や顧問が在籍している。少なからぬ報酬が支払われ、個室や車、秘書がつく場合も多いというが、詳しい情報が株主に開示されているとは必ずしもいえない。権限や責任が常にはっきりしているとは限らないため、待遇が妥当なものかどうかも客観的に判断しにくい。

 国内外の機関投資家の間には、相談役などに関する説明を企業に求める動きが出ている。不透明な制度を持つ企業は株主総会の取締役選任議案で反対票が増えるといった事態も、今後は考えられる。相談役・顧問制度を持つ企業は経営説明会などの場で、目的や待遇などをきちんと説明しておくことが欠かせなくなる。

 もちろん、OBの知見が経営の助けになることは少なくないだろう。彼らが現役トップの暴走や居座りをただす事例も過去には散見された。しかし、経営への助言や監視といった機能は独立性の高い社外取締役が担うというのが、世の趨勢というものだ。

 成功した社長が異業種のトップに転じ、大企業の役員はベンチャーに移り経験を伝える。日本経済の活性化には、そんな経営人材の流動化が求められる。企業が取締役経験者を自社に長く留め置く理由はないはずだ。

1000億ドルファンドの光と影

 ソフトバンクグループが軸となる総額1千億ドル(約11兆円)の投資ファンドが発足した。サウジアラビアの政府系ファンドなども出資し、人工知能(AI)をはじめとする世界の次世代IT(情報技術)企業に投資するという。

 日本企業と中東マネーという異例の組み合わせがITの変革を主導できるか、注目したい。

 新ファンドの最大の特長は1千億ドルという規模だ。新興企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)は米国や中国をはじめ世界中にあるが、VCのつくる個々のファンドは大きなものでも100億ドル規模というのが通例で、新ファンドの資金力は桁違いだ。

 投資額がかさむので、これまでは個別のVCではリスクの取り切れなかった半導体など製造業系の企業やプロジェクトにも投資対象が広がる可能性がある。

 出資者の顔ぶれも多彩だ。ITの目利きとして米ヤフーなどへの投資を成功させてきた孫正義社長率いるソフトバンクに、サウジやアラブ首長国連邦系のファンドが合流した。

 石油の富を浪費することなく、先端技術に還流する。こうした資金の流れが太くなれば、起業やイノベーションが盛んになり、世界経済の活性化に寄与するだろう。

 一方で懸念も大きい。一つはファンド内部の意思決定のあり方だ。投資先選定の主導権はソフトバンクにあるとされるが、他方で資本の過半を出資するのは中東勢だ。両者の間で意見の不一致が生じたときはどうなるのか。

 サウジの国策に沿った投資が優先されることになれば、ファンドとしての自由度が狭まり、収益に悪影響を及ぼす恐れがある。

 運用実態の丁寧な開示も欠かせない。ソフトバンクは新ファンドを連結対象に加える方針で、ファンドの成績が同社の業績に直結するからだ。仮にファンドで大きな損が出た場合、それを埋めるために同社の携帯電話の利用者にしわ寄せが生じるような事態があってはならないのは言うまでもない。

(社説)「共謀罪」審議 国内外の懸念に応えよ

 最近明るみに出た警察の活動をあらためてふり返る。

 大阪府警は盗みの疑いをかけた男性の車に、裁判所の令状をとらずにGPS装置を装着し、半年以上監視した。事件とは無関係の知人が使う車にも取りつけた。警視庁が捜査した別のケースでは、GPSを使った事実が外部にわからないよう、捜査資料の記載を細工した。

 大分県警は昨年の参院選のとき、労働組合の事務所などが入る建物の前に無断でカメラを設置した。出入りする多くの市民の姿がそこには映っていた。

 岐阜県警は、風力発電の建設に疑問をもって勉強会を開いた住民の動きを監視し、活動にかかわっていない人も含め、病歴などのさまざまな情報を電力会社側に複数回伝えた――。

 参院で「共謀罪」法案の審議が始まった。277の犯罪について計画の段階から処罰できるようにする法案だ。政府は、捜査当局が法を恣意(しい)的・政治的に運用することはありえず、「一般の方々」が捜査対象になることはないと繰り返している。

 しかし、「一般の方々」のプライバシーに踏み込み、権利を侵害する捜査が、現に各地で行われている。発覚しても、「正当な警察業務」として処理される例がほとんどだ。

 共謀罪が包括的に導入されれば、監視や情報収集を正当化する根拠となり、その範囲がさらに広がるのではないか。

 そう考えるのはごく自然なことだ。ところが衆院の審議では多くの人が納得できる説明はなく、捜査にブレーキをかける具体策も示されなかった。

 法案の修正協議が行われ、共謀罪の疑いで逮捕した後の取り調べの様子の録音・録画が、付則に盛り込まれはした。しかしそれは、制度のあり方について今後「可及的速やかに検討を加える」というものに過ぎず、むろん任意段階の捜査への歯止めにもなり得ない。

 各国のプライバシー保護状況を調査・監視する国連の特別報告者が、法案への懸念を書いた手紙を安倍首相に送った。摘発の要件とされる「組織的犯罪集団」などの定義があいまいで、このままでは市民の自由や権利が侵害されるおそれがあるという、もっともな指摘だ。

 政府はこれを「一方的で不適切」と切り捨てた。批判を受けつけず、議論を拒む政権の姿勢がここにも見てとれる。

 法案をめぐる疑念は解消にほど遠く、未消化の論点もたくさん残る。憲法はなぜ、二院制を採用しているのか。その意義が問われる参院審議となる。

(社説)森友問題 財務省は情報を消すな

 真相が解明されていないのに、データを消してはならない。財務省は文書管理システムの更新を中止するべきだ。

 学校法人・森友学園への国有地売却問題をめぐり、同省は学園との交渉記録などを「廃棄した」と主張している。しかし、バックアップデータから復元は可能という指摘もある。

 このままでは6月から新システムに移行し、旧システム上のデータは2カ月かけて消去される。機器の入れ替えで復元が物理的に不可能になる前に、情報の保全を優先すべきだ。

 「記録は残っていない」という同省の説明を、うのみにはできない。新たな資料が明らかになるたび、後追いで釈明する姿勢に終始してきたからだ。

 今月も新たな疑惑が発覚した。国有地の売却が決まる前の2016年4月。近畿財務局が価格の評価を不動産鑑定士に頼んだ際、ごみ撤去費に加え、高層建築を想定した約5億円の地盤改良費も考えて値引きを求めていたことが明らかになった。

 着工済みの校舎は3階建てなのに、財務局は高層建築が前提の資料を鑑定士に渡し、評価での「考慮」を求めていた。

 国会で佐川宣寿理財局長は「地盤の状況について考慮してくださいというのは普通のこと」と答弁したが、不必要な値引きまで示唆するような条件をなぜ示したのか。今まで黙っていたことも不可解だ。

 森友問題では調べたい記録類が、ほかにもたくさんある。

 安倍首相の妻の昭恵氏付職員が学園側にファクスを送った際、財務省は事前に職員とどんなやりとりをしたのか。

 同省は、売買契約締結までの手続きを学園に「親切に」手順書まで示していたが、これがつくられるにいたった経緯。

 学園の籠池(かごいけ)泰典・前理事長と財務省室長の面会について、同省の面談記録はないのか。

 廃棄したなら、職員から聞き取りをして記録を作成することや手控えのメモの調査など方法はある。NPO法人は、パソコンから削除された情報のバックアップデータなどの証拠保全を東京地裁に申し立てたが、6月を目前に控え、同省が自主的にデータの保存をすべきだ。

 学校法人・加計(かけ)学園の獣医学部新設問題でも、前文部科学事務次官が「ある」と話している文書を、安倍政権は怪文書扱いし、前次官への人格攻撃で問題をすり替えようとしている。

 問われているのは政府の公文書管理に対する姿勢だ。都合の悪い資料をなかったことにするような態度は許されない。

北ミサイル発射 国際包囲網への無謀な挑戦だ

 国際包囲網構築に対する無謀な挑戦である。軍事、外交の両面で、北朝鮮への圧力を着実に高めねばなるまい。

 北朝鮮が、日本海方向に、「スカッド」系列とみられる短距離弾道ミサイルを発射した。約400キロ飛行し、島根県・隠岐諸島から約300キロの日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

 3週連続の発射である。EEZ内には昨年8月に初めて着弾し、今回で4回目だ。

 国連安全保障理事会の決議に違反するだけでなく、漁船や民間航空機に被害が及びかねなかった。北朝鮮が危険な挑発を繰り返すことは、決して容認できない。

 懸念されるのは、北朝鮮のミサイル発射への慣れが生じることだ。安倍首相は「国民の安全を確保するために万全を期す」と強調した。政府は不測の事態に備えて、自治体との協議を緊密化し、避難訓練などの拡充を急ぐべきだ。

 イタリアでの主要国首脳会議(タオルミーナ・サミット)は、核・弾道ミサイル計画を放棄するよう、北朝鮮にかつてない強いメッセージを発した。ミサイル発射は、これへの反発だろう。

 前日には、北朝鮮国営メディアが、「新型」対空迎撃ミサイルの発射実験の成功を喧伝けんでんした。朝鮮労働党の金正恩委員長は米国を念頭に、「敵の制空権の妄想を粉砕すべきだ」と言い放った。

 北朝鮮の不毛な対抗姿勢は、地域の緊張を高めるだけである。

 米軍は近く、朝鮮半島周辺に展開中の原子力空母「カール・ビンソン」に加え、「ロナルド・レーガン」を投入するとされる。

 さらに、「ニミッツ」も派遣する方向で、一時的に空母3隻態勢となる可能性がある。北朝鮮の軍事的脅威への抑止力となろう。

 問題なのは、中国が国連安保理による追加制裁を拒むなど、いまだに北朝鮮を支え続け、増長させていることだ。

 中国外交を統括する楊潔チ国務委員が来日した。岸田外相らと会談する。原油供給の制限など実効性のある制裁に向けて、前向きに対応すべきではないか。

 韓国の文在寅政権は、北朝鮮のミサイル発射が相次ぐ中、韓国の民間団体に対して、人道支援目的で北朝鮮側と接触することを承認した。当局間対話の環境整備の狙いがあるとみられる。

 対話のための対話では、核・ミサイル問題の解決に役立たない。北朝鮮政策で日米と協調を維持することが求められよう。

個人情報保護法 改正への過剰反応を懸念する

 国民の「知る権利」が損なわれてはならない。改正法施行にあたり、社会全体で共有すべき視点だと言えよう。

 情報技術(IT)の進展に対応する改正個人情報保護法が施行された。

 柱の一つが、個人を特定できないように加工した「匿名加工情報」に関する規定の新設だ。厳格に保護すべき個人情報とは区別し、本人の同意がなくても第三者に提供できるようにした。

 企業は、個人情報を含む購入履歴などを蓄積している。これらのビッグデータは、商品開発などの際の貴重な情報として期待されるものの、情報の拡散に不安を抱く消費者は少なくない。

 取引のルールを設けることで、トラブルを防ぎ、活用を推進する。この狙いは理解できる。

 問題は、情報を加工する手順が必ずしも明確ではないことだ。氏名や住所を削除するほかに、どのような措置が必要か。加工が不十分であれば、他の情報との照合で個人が特定される恐れもある。

 監督機関である政府の個人情報保護委員会が定めた基準は、細部には及んでいない。情報を加工する企業が、ケースごとに最終判断するしかないのが実情だ。

 混乱も予想されるだけに、委員会は、企業などの相談に丁寧に対応せねばならない。業界団体による自主ルールの整備も大切だ。

 活用推進と安全確保を両立させる取り組みが求められる。

 改正法には、規制強化も盛り込まれた。人種や病歴、犯罪歴などを「要配慮個人情報」と規定し、本人の同意なしに取得することを原則として禁じた。不当な差別や偏見を防ぐことは重要だ。

 規制強化で、懸念されるのは過剰反応である。日本新聞協会は「『匿名社会』の深刻化につながる」との声明を発表した。

 事件・事故や災害で、被害者らの実名を公的機関が明らかにしなければ、真相に迫る取材は困難になる。当事者に対する公権力の不正な行使などをチェックするためにも、実名は不可欠だ。

 匿名社会の問題は、2005年に個人情報保護法が全面施行されたのを機に顕在化した。これ以上、過剰反応を広げてはなるまい。

 そもそも、報道機関が報道目的で情報を取得する場合には、個人情報保護法は適用されず、情報の提供者も規制を受けない。

 報道機関は、当事者のプライバシーに十分に配慮し、実名を報じるかどうかを自らの責任で判断する。それが本来の在り方だ。

2017年5月29日月曜日

今こそG7サミットの意義を問い直そう

 1975年から毎年、1回も欠かさずに開いてきた主要国首脳会議。今年もイタリア・タオルミナに日米欧の主要7カ国(G7)首脳が集まった。トランプ米大統領、マクロン仏大統領、メイ英首相ら新顔が多く加わったが、そもそも何のためにやっているのかを問い直す時がきているようだ。

 東西冷戦下、第1次石油危機後の低迷する世界経済への対応を西側先進国が協議する場として始まった首脳会議。冷戦終結後はロシアを加えてG8となったが、2014年のクリミア編入を機にロシアを排除した。

 ロシアを外してG7に戻ってからは、民主主義や自由市場経済という価値観を同じくする先進国の集まりとしてその意義を再評価する声もあがった。だが、今回の会議では、その価値観の共有さえ果たしてできているのかと疑いたくなる光景が目立った。

 最近の首脳宣言で必ず入っていた「あらゆる形態の保護主義と闘う」という文言。自由貿易を主導する先進国としては自明のフレーズだが、米国第一主義を掲げるトランプ政権は難色を示した。日独などの説得で「保護主義と闘う」という文言は残ったが、G7の迷走ぶりを印象づけた。

 オバマ前米大統領が推進した地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の扱いについても、残留を明言しない米国と日欧の間で溝は深まった。首脳宣言では、米国を除く6カ国による支持という異例の表現になった。

 先進国協調への不安要因は米国だけではない。欧州主要国内でも、欧州連合(EU)離脱を決めた英国と、独仏などの間で摩擦が生じている。

 各国が自国優先、多国間より2国間での取引といった傾向を強めていけば、G7の政策協調はどんどん後退しかねない。

 かつてG7は世界の国内総生産(GDP)の7割を占めていたが、中国やインドなど新興国の台頭で今やその比率は5割を下回る。

 自由貿易や温暖化対策も先進国だけで仕切れる時代は終わった。実効性のある政策協調には、中国、インドも含む20カ国・地域(G20)首脳会議の役割も重要だ。

 それでもG7は、まだ世界経済の半分近くを占める存在で、結束すればその力は小さくない。反グローバル化、大衆迎合主義が広がる今こそ、サミットの原点に戻って協調を立て直すべきだ。

データビジネスを育てよう

 スマートフォンやモノのインターネット(IoT)を通じて日々大量のデータが生みだされる。こうしたビッグデータをうまく使いこなし、生活の利便性向上や価値創出につなげたい。それにはデータの流通を促し、社会全体で共有する仕組みづくりが急務だ。

 これまで企業は社内にデータを集め、製品開発などにつなげる「閉じた利用」が中心だった。今後はデータを他社と共有し、イノベーションの促進や社会的課題の解決に役立てる動きが広がろう。

 「開かれたデータ」の代表例は地震などの際に自動車メーカーが無償で公開する道路情報だ。カーナビゲーションの走行履歴をもとに、道路の最新の通行実績を配信し、避難や救援物資の輸送の円滑化に威力を発揮している。

 最近はデータを有償で提供するビジネスも増えた。日本調剤は傘下の薬局で扱う年間1千万枚超の処方箋のデータを製薬会社や大学の薬学部に提供し、薬の服用実態の把握などに役立てている。

 富士通は自社製の車載機器を通じて全国のトラックの走行状況を秒単位で把握する仕組みをつくった。急ブレーキが多発する地点の情報を陸運会社や自治体に提供し、運転手への注意喚起や信号などの設備の拡充につなげて事故の低減をめざす。

 こうしたデータ事業の活性化のための課題の一つが個人情報の保護だ。今月末の改正個人情報保護法の全面施行により、個人が特定できないように加工した情報は、本人の同意なしで第三者への譲渡が可能になる。「匿名化」をきちんと施せば情報流通の自由が確保される。これを機に有益なデータの共有が進むことを期待したい。

 もう一つはデータそのものの保護だ。データの創出、収集、管理にはコストがかかり、データを提供する企業が適正な対価を得る仕組みを整える必要がある。今の著作権法や不正競争防止法だけではデータの横流しのような行為を排除しきれないという指摘も多い。政府として対応すべきだ。

(社説)G7サミット 価値を守る責務今なお

 世界を覆うあまたの課題に、主要国は歩調をそろえて取り組んでいけるのか。そんな危惧を抱かざるを得ない。

 主要7カ国首脳会議(G7サミット)が、トランプ大統領の「米国第一主義」に振り回されて、閉幕した。

 自由貿易に懐疑的なトランプ氏は、「反保護主義」が首脳宣言に明記されることに難色を示した。最終的に「保護主義と闘う」との文言を盛り込むことで合意したが、過去のサミットと比べて表現は弱まった。

 地球温暖化対策では、国際的な枠組み「パリ協定」に米国がとどまるよう各国首脳がトランプ氏を説得したが、折り合わなかった。立場の不一致が宣言に盛り込まれるのは異例だ。

 難民問題でも、難民の受け入れに消極的な米英への配慮から「国境を管理する権利」が宣言に盛られた。

 先進国全体が「内向き」志向に引きずられ、開かれた世界を実現する意欲が衰えているとすれば、憂慮すべき事態だ。

 サミットの意義を思い起こしたい。世界全体の平和と繁栄の実現が、主要国の利益になる。その大局的な理念を共有する先進国の首脳が集い、国を超えた課題を議論してきた。

 自由貿易についても、世界の交易の結びつきの強化が国際秩序の安定に資する、との共通理解が根底にあったはずだ。

 トランプ氏の胸中には、自国産業の保護や環境規制の緩和、難民・移民対策の強化といった昨年の選挙戦での公約を果たす意図があったのだろう。

 だとしても、主要国が近視眼的な「国益」政策に走れば、世界が共通利益を広げる機運はしぼむ。グローバル化の現代においては、どの国の未来も例外なく世界と共にあるという現実を見失ってはなるまい。

 新興国の台頭でG7の意義が問われて久しい。だが近年は、民主主義、人権、法の支配など普遍的価値の担い手としての役割に期待が寄せられている。

 その価値を軽んじるような主要国の自国優先主義や足並みの乱れが深まれば、世界の羅針盤としてのG7は意味を失う。

 今回の収穫をあえて見いだすならば、トランプ氏を他の首脳たちがひざ詰めの協議で諭し、保護貿易主義への反対などの原則を守って、一定の妥協の枠内におさめたことだ。

 G7の多国間対話には、世界の安定役として今後も果たすべき責任がある。日本を含む参加各国は、自由と民主主義の点検を絶えず怠ることなく、「国際益」を追求してもらいたい。

(社説)日印原発協定 やはり懸念がぬぐえぬ

 核廃絶へ国際社会の先頭に立つ。その使命を負う唯一の戦争被爆国が取るべき行動なのか。

 インドへの原発技術供与に道を開く日印原子力協定の承認案が、与党の賛成で衆院を通過した。審議の場は参院に移るが、内容は疑問が尽きない。改めてこの協定に反対する。

 インドは核不拡散条約(NPT)に加わらないまま、核兵器を持つ国である。NPT体制では、未加盟国に対し原子力の平和利用で協力しないのが原則だ。米仏などは成長市場への思惑もあって、インドを例外扱いとする原子力協定を締結済みだが、日本はなし崩しに追随すべきではない。

 国際的な核不拡散体制をさらに空洞化させる懸念が強い。北朝鮮の核開発阻止が喫緊の課題になっているのに、すでに核を持つインドに寛容な姿勢を見せては、国際社会に「核武装はやったもの勝ち」という発想も広げかねない。被爆国の非核外交への信頼は傷つくだろう。

 衆院の審議で大きな論点になったのは、日本が原発協力と引き換えに、インドの核実験の歯止め役になれるかどうかだ。

 政府は「どんな理由であれ、インドが核実験をしたら協力を停止する。その場合、インドは日本の最先端の原子力技術を失うことになる」という。「NPTに入らないインドを核不拡散体制に実質的に参加させることにつながる」とも強調した。

 だが、野党議員や参考人の専門家からは異論が相次いだ。「核実験したら協力停止」はインド側の意向で協定本文に明記されず、関連文書にその趣旨が記されるのにとどまったからだ。インドが核実験した場合でも他国への対抗措置かどうかについて日本が考慮を払う、と読める条項も協定にあり、毅然(きぜん)と対応できるのか、不安が残る。

 協力停止に踏み切った場合、日本が提供した機器などを稼働中の原発から実際に撤去できるのか、核爆発を伴わない未臨界核実験にどう対応するのかなども、あいまいなままだ。

 政権内には、協定をてこに日本の原子力産業を支援しようという思惑があるが、皮肉なことに民間の機運は急速にしぼみつつある。東芝傘下でインドで原発建設を計画してきた米ウェスチングハウスが最近、経営破綻(はたん)し、東芝も海外の原発事業から手を引こうとしているからだ。

 これまでの論議で、数多くの疑問や懸念が払拭(ふっしょく)されたとは到底言えない。参院の審議では野党だけでなく与党も政府を問いただし、「再考の府」として責任を果たさなければならない。

G7サミット 「米国第一」回避へ結束強めよ

 米国の孤立を回避し、結束を強める。それが先進7か国(G7)の影響力を維持する道だ。

 イタリアで開かれた主要国首脳会議(タオルミーナ・サミット)が首脳宣言を採択し、閉幕した。焦点の自由貿易に関して、「開かれた市場を堅持し、保護主義と闘う」との文言を盛り込んだ。

 トランプ米政権の発足後、米国が加わる主な国際会議では、共同声明から「反保護主義」の表現が消えた。「米国第一」を掲げる米政権の意向を反映したものだ。

 トランプ大統領は米貿易赤字の縮小を最優先課題とし、一方的に輸入を制限する保護主義的手法も排除しない姿勢を示してきた。

 今回、初参加のトランプ氏が各国に歩み寄り、反保護主義の明記を容認したことは歓迎できる。

 ただ、トランプ氏が貿易相手国に高関税を課すような発言を行ったり、メルケル独首相が反発したりする場面もあった。G7が一枚岩になったわけではない。

 地球温暖化防止の「パリ協定」を巡っても、トランプ氏は離脱の可能性を否定せず、他の6か国との対立は解消しなかった。

 G7サミットは、自由や民主主義の価値観を共有する先進国が足並みをそろえ、世界の平和と繁栄を主導する意義を持つ。

 新興国が急速に台頭する中、G7は従来以上に政策面で連携を図ることが求められている。日本や欧州各国は、米国に国際協調の重要性を粘り強く説くべきだ。

 北朝鮮の核・ミサイル問題について、首脳宣言は「新たな段階の脅威」と踏み込んだ表現で解決を訴えた。その意義は大きい。

 北朝鮮は今年、弾道ミサイルを既に8回も発射した。着実な長射程化に加え、奇襲能力や命中精度を向上させ、新型ミサイルの実戦配備も進める。安倍首相の「北東アジアにとどまらない世界全体の脅威」との指摘は妥当である。

 首相は会合で「国際社会が連帯して圧力をかける時だ」と強調した。北朝鮮問題を「最優先事項」と位置づけた首脳宣言を土台に、北朝鮮に強い影響力を持つ中国に圧力強化を働きかけ、国際的な包囲網を構築せねばならない。

 英国での自爆テロを踏まえ、テロ対策の声明も採択された。

 過激派組織「イスラム国」などのインターネットによる扇動やテロリストの勧誘を防ぐには、各国政府とネット事業者などの新たな形の協力が欠かせない。テロ情報の自動検知など、最先端技術の活用も重要課題となろう。

23区の大学規制 一極集中是正の効果は疑問だ

 東京都心の大学に対する規制が、地方の振興につながるのだろうか。甚だ疑問である。

 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の有識者会議が、大学・学部の新増設や定員増を、東京23区では原則として認めないことを柱とする報告書をまとめた。

 若者の東京への一極集中を是正して、地方大学の活性化につなげる狙いがあるという。政府は、6月に閣議決定する予定の骨太の方針に、この提言を盛り込み、新たな法規制も含めて検討する。

 高度成長期、大都市圏での大学の新増設は、工場等制限法により抑制された。2002年に規制が撤廃されたことで、郊外に移転していた私大キャンパスの都心回帰が、急速に進んだ。

 23区内の国公私立大学の学生数は、計約45万6000人に上り、全国の18%を占める。一部の大学が、定員を過度に上回る学生を入学させるような状況は、学習環境の面から改善の余地があろう。

 全国知事会は昨年11月、若者を地元に定着させるために、政府に規制を要望した。定員割れの地方大学が少なくない実情を考えれば、その危機感は理解できる。

 だが、23区の大学に的を絞って規制する手法には問題が多い。

 今回の報告書では、23区内で学部などを新設できるのは、定員を維持したまま既存学部を改廃するケースに限られる。

 これでは、少子化の中、都内の大学は、生き残りをかけた戦略を立てにくい。時代のニーズにあった学部を柔軟に新設し、多くの学生を集めて経営基盤を強化することは、難しくなる。

 結果として、先進的な教育や研究の停滞を招く恐れもあろう。

 東京で学生生活を送るためには、出費がかさむ。都内の大学生のうち、地方出身者が占める割合は、家庭の経済事情などから減ってきているという現状もある。

 地方大学の活性化の観点から、最も重要なのは、大学そのものの魅力を高めることである。自治体や企業と連携し、地元の特色を生かした意欲的な改革に知恵を絞ってもらいたい。

 報告書は、東京の大学が地方にキャンパスを設けることや、地方の大学に学生を「留学」させる仕組みも推奨している。進路の選択肢を広げる上で有効だろう。

 地方大学を卒業した後の就職先の確保も大切だ。企業には、東京での一括採用の見直しなどが求められる。一極集中の是正には総合的な地方振興策が欠かせない。

2017年5月28日日曜日

サミット宣言をテコに北朝鮮に圧力を

 イタリアで開いた主要国首脳会議(タオルミナ・サミット)は、核兵器・弾道ミサイルの開発を続ける北朝鮮への圧力を強めることを柱とする首脳宣言を採択し、閉幕した。金正恩(キム・ジョンウン)委員長は今度こそ世界の声に耳を傾け、無謀な瀬戸際外交に終止符を打つべきだ。

 北朝鮮については、昨年の伊勢志摩サミットでも「強く非難」した。今回は(1)国際的課題の最優先事項(2)国際平和への新段階の脅威――と位置付け、主要7カ国(G7)で問題意識を共有したのが特徴だ。安倍晋三首相は北朝鮮問題を「伝染病のように広がる世界全体の脅威」と強調した。

 4月のサミット外相会合の共同声明は「新たな段階の挑戦」とするにとどまっていた。このままでは日本や韓国のみならず、米本土などにも危機が及ぶとして、表現を「脅威」に格上げした。

 先立つ日米首脳会談では「いまは対話ではなく、圧力をかけていくことが必要」との認識で一致した。安倍首相は記者会見で、新たなミサイル迎撃システムの導入を進める考えも明らかにした。

 軍事力行使ありきでは困るが、「(過去の)対話は時間稼ぎに利用された」(安倍首相)のは事実であり、日米が連携して抑止力向上に動くことを評価したい。

 北朝鮮問題の解決には中国の協力が不可欠だ。欧州のサミット参加国を巻き込んで断固たるメッセージを発したことは、中国にはかなりの風圧となろう。法に基づく国際秩序の重要性などを首脳宣言が再確認したことも意味がある。

 中国の海洋進出と絡めて、日米で中国を封じ込めるべきだという意見もあるが、米トランプ政権も米中の衝突につながるような事態を望んではいまい。北朝鮮の暴走を放置することは中国の利益にならないことをよく説明し、中朝の距離を広げるのが現実的だ。

 北朝鮮への圧力としては軍事以外の選択肢もある。例えば、金融取引の封じ込めだ。

 北朝鮮のミサイル技術は日進月歩で進んでいる。残された時間はそうあるわけではない。今回の首脳宣言をテコに国際社会はあらゆる手段を尽くさねばならない。

 首脳宣言はテロやサイバー攻撃に結束して対抗することも明確にした。サイバーは敵が見えず、ばらばらに対処したのでは成果が出ない分野だ。日本が連携の先頭に立つ気概で臨んでもらいたい。

危うさ残る産油国の減産延長

 サウジアラビアやイランなどで構成する石油輸出国機構(OPEC)と、ロシアなどOPECに加盟しない産油国が、原油の協調減産を2018年3月末まで9カ月間、延長することで合意した。

 供給過剰を解消し、原油価格を立て直す狙いだ。長引く原油安によって産油国経済は打撃を受けている。産油国の変調はエネルギー供給や世界経済に影響を及ぼす。産油国と消費国の双方に適切な価格水準を探ることが必要だ。

 OPECと非OPECは昨年12月、今年1月から6カ月間の協調減産で合意した。さらに9カ月間、減産を続けるのはこれまでの減産の成果が十分でないからだ。石油在庫は高止まりし前回の合意後、一時は上昇に転じた原油価格も1バレル50ドル前後で足踏みを続ける。

 理由は米国で生産量が増えるシェールオイルだ。協調減産に加わっていないシェールオイルは原油価格が上がれば生産量が増え、下がれば減る。しかも技術革新の進展によって採算を確保できる価格水準は年々、下がっている。

 減産を続けてもシェールオイルがその分を埋めてしまうのではないか。今回もそんな危うさが残る。しかし、ここで減産をやめれば価格は急落するだろう。

 OPECは政策的に生産量を増減させることで原油相場に影響力を行使してきた。市場の動向で生産量が決まるシェールオイルの台頭が、OPECの主導権を奪いつつあるのは確かだ。

 原油安は短期的には消費国に恩恵をもたらす。ただし、成長が続くアジアはこれからも石油を必要とする。増大する需要をシェールオイルだけで賄いきれない。中長期的にアジアのOPECへの原油依存度は高まる見通しだ。

 原油安の下で世界の石油開発投資は大きく減る一方、緊迫する北朝鮮情勢や中東の混乱など地政学上のリスクは増大している。突然の供給途絶や将来の供給力への不安は増している。産油国を安定に導き、開発投資を促す努力を、消費国も怠るわけにはいかない。

(社説)憲法70年 学問の自由は誰のために

 憲法23条は、誰のために「学問の自由」を保障しているのだろうか。

 直接には「学問をする人」、つまり学者や研究者を対象にした条文だ。だがその土台には、自由に支えられた学術の進展こそが、広く社会に健全な発展をもたらすという思想がある。

 明治憲法には学問の自由の保障はなかった。戦前、時の政権や軍部は一部の学説を「危険思想」「不敬」と決めつけ、学者が大学から追われるなどの弾圧が相次ぐなかで日本は戦争への坂道を転げ落ちていった。

 ■法人化が影を落とす

 その歴史への反省が、現行憲法が独立の条文で学問の自由をうたうことにつながった。

 具体的な表れが大学の自治である。

 教員人事や研究・教育内容の決定、構内への警察立ち入りの制限などで、大学が公権力を含む学外の勢力から独立し、自主・自律を保つ。学問の自由はそれらの自治を保障している。

 日本は戦後、科学技術をはじめ学術が花開くにつれ、経済発展を果たした。学問の自由に関しては、憲法の理念が実を結んだように見えた時期もあった。

 ところがいま、大学、とりわけ税金に頼る割合の高い国立大学が身もだえしている。

 発端は、2004年に実施された国立大学の法人化だ。

 経営の自由度を高め、時代の変化に対応できる大学への脱皮を促す。文部科学省はそう説明する。

 しかし背景に透けて見えるのは、少子高齢化と財政難のなかで、競争強化によって大学のぬるま湯を抜き、お金をかけずに世界と渡り合える研究水準を維持したい。そんな思惑だ。

 実際には多くの大学で「改革疲れ」が起きた。

 主体的に議論し、自ら描いた将来像に向けて改革を着実に進めるというより、文科省の意向を探り、それに沿って上乗せ予算を確保しようとする動きが広がった。情報収集などの名目で官僚の天下りを受け入れた大学もあった。

 ■日本発の貢献が低下

 国立大学の自治は、資金の面からも揺さぶられている。

 政府は人件費や光熱費、研究費などの「運営費交付金」を毎年1%ずつ減らす一方、応募して審査を通れば使える「競争的研究資金」を増やしてきた。

 だが、世界の主要学術誌への論文で日本発の貢献は質、量とも減り続けている。中国など新興国が伸び、欧米先進国は地位をほぼ維持している状況でだ。

 次々に生まれる新たな学問領域への参入も限られ、貢献分野が狭まりつつある。

 運営費交付金削減の矛先は、比較的削りやすい経常的な研究費や若手研究者のポストに向かった。一方で競争的資金の応募倍率は上がり、成果のチェックも厳しくなった。

 そのあげく、結果が見通せない野心的な研究や、研究費の配分者に理解されにくい新分野への挑戦が減ったとされる。

 他方、政府は政策課題研究への誘導は熱心だ。

 端的な例が、大学での軍事研究に道を開く「安全保障技術研究推進制度」の拡充である。

 防衛省が15年度に始めたこの制度について、日本学術会議は軍事研究に携わるべきではないという観点に加え、「政府による研究への介入が著しい」として学問の自由の面からも各大学に慎重な対応を求めた。

 大学と研究者の鼻先に研究費をぶら下げるような政府の手法は、学問の自由の基盤を掘り崩すものだ。

 研究者の側も「何をしてもいいのが学問の自由」などと考えるとすれば誤りだ。倫理面を含め、その研究が許されるかどうか、常に多角的に吟味することが社会への責任である。

 ■果実は多様性にこそ

 学術会議は05年に「現代社会における学問の自由」という報告をまとめた。

 そのなかで、学問研究の世界について、多数決原理が適用できない世界だと指摘している点に注目したい。

 真理を探究するうえで、従来の学問にない新たな発見や学説は必ず少数意見として登場するという意味だ。だからこそ学問は公権力と緊張関係をもちやすい。憲法が学問の自由を保障する意味の一つはそこにある。

 どんなに民主的な政府であっても、学術の世界に過剰に介入すれば、少数意見の誕生を阻害し、真理の探究、ひいては社会の健全な発展を遅らせかねない落とし穴がある。

 「文系不要論」に象徴される近視眼的な実利志向は論外だ。たとえ善意に基づく政策課題だとしても、過度に資源を集中させれば学問の命である多様性を損ない、より豊かな果実を失うことにつながる。

 学問の自由の重要性を多くの人々が実感できるよう、社会との対話をさらに活発にする。学問の自由を負託された学術界には、そうした努力も求めたい。

南スーダン撤収 陸自PKO経験を次に生かせ

 独立間もない国の安定と発展に向け、厳しい環境下で任務を完遂したことを高く評価したい。

 南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に従事していた陸上自衛隊の部隊の撤収が完了した。

 派遣は、施設部隊として過去最長の5年4か月に及んだ。一時は治安が悪化したが、死傷者を1人も出さず、1発の銃弾も撃たなかった。陸自の日頃の厳しい訓練と、現地情勢などに関する適切な情報収集の賜物(たまもの)と言えよう。

 今年3月の撤収決定後も、陸自部隊は、首都ジュバ近郊の幹線道路の修繕などに取り組み、道路補修は計約260キロにも達した。

 約50万平方メートルの用地を造成し、97の施設も構築した。カンボジアやハイチでのPKOと比べても、今回の実績は格段に大きい。

 稲田防衛相は記者会見で「南スーダンや世界から感謝され、日本らしい活動が出来た」と述べた。陸自の持ち味は、確かな技術力ときめ細かい仕事ぶりだ。隊員らの労をねぎらいたい。

 南スーダンの社会資本整備は依然、道半ばだ。大統領派と前副大統領派の対立も続く。ジュバの情勢は比較的安定しているが、地方では小競り合いが絶えない。

 政府は、国連の現地司令部要員4人の派遣を継続する方針だ。陸自部隊が使用した重機や発電機は国連に無償譲渡した。

 国際社会から「日本は南スーダンから手を引いた」と受け止められてはなるまい。陸自の実績を基礎とし、政府開発援助(ODA)による人道・食糧支援などを効果的に実施することが重要だ。

 安全保障関連法に基づき、昨年11月、駆けつけ警護、宿営地の共同防護という新任務が陸自部隊に付与されたのも意義深い。

 近くの民間人に助けを求められても、断るしかない。そんな法的不備を解消し、国際平和協力活動の参加部隊として最低限の責務を担えるようになった。実際に任務を行う機会はなくても、他国軍との信頼醸成に寄与したはずだ。

 南スーダンでの活動を検証し、訓練などを通じて今後の海外任務に生かさねばならない。

 今回の撤収で、PKOへの部隊派遣はゼロになった。

 今年は、PKO協力法成立から25年の節目に当たる。PKOは近年、治安維持活動など危険な任務が増えており、日本にとってハードルが高くなった面がある。

 「積極的平和主義」の旗の下、どんな活動に関与するのか、大いに知恵を絞らねばなるまい。

NATO会議 米欧の対露認識の溝は残った

 イスラム過激派によるテロの脅威は世界に広がっている。英国では卑劣な自爆テロが起きたばかりだ。米欧の軍事同盟が結束を確認し、対策を強化したのは妥当である。

 北大西洋条約機構(NATO)が首脳会議を開き、対テロ行動計画を採択した。

 過激派組織「イスラム国」の掃討作戦を進める米軍主導の有志連合に、NATOが正式参加する。空中警戒管制機(AWACS)の派遣などの後方支援や、テロ関連情報の収集態勢を拡充させる。

 対テロ戦での役割拡大を求めるトランプ米大統領に、NATOが応じたと言えよう。ストルテンベルグ事務総長は「国際テロに挑んでいくという強いメッセージだ」と述べ、計画の意義を訴えた。

 有志連合の攻勢を受け、「イスラム国」はイラクとシリアの支配地域を相次いで失っている。

 イスラム教徒が日中の飲食を断ち、信仰心を高めるラマダン(断食月)に合わせ、報復攻撃を激化させる恐れがある。昨年のラマダン期間中もテロが続発し、バングラデシュで邦人が殺害された。各国は警戒を強めねばならない。

 首脳会議は、NATO加盟28か国が国防費増額の道筋を示す「工程表」の策定でも合意した。

 国内総生産(GDP)の2%を国防費に充てるという共通目標を達成しているのは、米、英、ポーランドなど5か国に過ぎない。

 首脳会議に初参加したトランプ氏は、関連する式典で演説し、「23か国が本来支払うべき費用を払っていない。米国の納税者にとって不公平だ」と主張した。

 厳しい財政事情の中で、各国が応分の負担に取り組む姿勢は大事だが、発言には「米国第一」の自己中心的な見方も垣間見える。

 看過できないのは、集団的自衛権の行使を定めたNATO条約5条に関して、トランプ氏が支持を明言しなかったことである。

 5条には、加盟国が武力攻撃を受けた場合、全加盟国への攻撃とみなし、反撃することが規定されている。ロシアなどの軍事行動の抑止を担保する重要な条項だ。

 トランプ氏は昨年、米国が5条に基づいて同盟国を防衛するかどうかは、「各国の負担次第だ」という考えを示していた。条約上の義務を取引材料にする発想は変わっていないのではないか。

 欧州が強く批判するロシアのウクライナ軍事介入やクリミア併合についても、トランプ氏は言及を避けた。これでは、政権の対露癒着疑惑を払拭(ふっしょく)できまい。

2017年5月27日土曜日

戦後3位「長きをもって貴しとせず」

 安倍晋三首相の在職日数が27日に1980日となり、戦後歴代3位の小泉純一郎首相に並んだ。4年を超えた政権運営では安全保障政策を大きく見直す一方、成長戦略や財政健全化への取り組みは遅れている。長期政権ゆえのおごりを懸念する声にも謙虚に耳を傾けていく姿勢が必要だろう。

 安倍政権は第1次内閣を含めて佐藤栄作首相(2798日)や吉田茂首相(2616日)に次ぐ在職日数となった。直前まで6年連続した短命政権の悪循環を断ち切り、内政の安定感や日本外交の存在感は着実に増した。

 首相は高い支持率を背景に集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障関連法を成立させ、憲法9条の改正にも意欲をみせている。民進党などは「戦後の平和主義をゆがめる」と批判しており、改憲には幅広い合意形成が課題となる。

 経済政策アベノミクスは「大胆な金融緩和」が円安や株高を通じて企業収益や雇用環境を好転させた。ただ第3の矢である「成長戦略」は効果が思うように出ていない。企業に新たなビジネス機会を与え、技術革新を促す規制改革はなお力不足だ。医療や介護、雇用分野などに既得権益を守る仕組みが温存されている。

 首相は消費税率の10%への引き上げを2度にわたって延期した。政権内には「経済成長こそ財政健全化への近道」との意識が強い。しかし社会保障を中心とする歳出抑制策と税制改革を一体的に実現しなければ、危機的な財政から抜け出す糸口はつかめない。

 菅義偉官房長官は26日の記者会見で「政権はどれだけ長くやっているかではなく、何をやったかがいちばん大事だ。安倍政権は改革意欲に富み、政策を一つ一つ前に進めていく」と言及した。その言葉をぜひ実践してもらいたい。

 最近は長期政権の弊害が指摘される場面が増えた。学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地払い下げでは、政治の関与や官僚の忖度(そんたく)が行政の公平性をゆがめた可能性がある。

 学校法人「加計学園」(岡山市)による国家戦略特区への獣医学部の新設計画では、前川喜平前文部科学次官が「総理のご意向」が働いたとする内部文書の存在を証言した。前川氏らの国会招致を含めて事業認定の経緯を明らかにする必要がある。十分な調査もせずに幕引きをはかるような姿勢では、政治不信を深めるだけだ。

人口減が問う地方議会の姿

 高知県北部に位置する大川村が議会に代わって「町村総会」を設ける検討を始めた。過疎化と高齢化で議員のなり手が不足していることが理由という。

 大川村は人口が約400人の村だ。鉱山の閉山やダム建設に伴う移住などでピーク時に比べて人口は10分の1に減っており、65歳以上の高齢化率は4割を超す。「平成の大合併」時には周辺の自治体との合併を求めたが、実現しないまま現在に至っている。

 村議会の定数は6人。2年後の村議選に向けて候補者を確保できる見通しが立っておらず、代替案の検討が必要になった。

 地方自治法は町村に限って、議会をなくして有権者全体で構成する総会を設置することを認めている。直接民主制への移行ともいえ、戦後の短期間、東京都宇津木村(現在の八丈町の一部)が設置した事例がある。

 町村総会ならば住民の意見を直接、行政に反映しやすくなるだろう。議員がいなくなるのでその分、経費も削減できる。

 一方、総会が成立する要件や総会で決める案件の範囲など、詰めなければならない課題も多い。現在の議会のルールを踏襲すれば「有権者の半数以上の出席」が必要になるが、病院や福祉施設に入っている高齢者が多い大川村で、現実的なのかどうか疑問だ。

 現在、人口が千人に満たない町村は全国に約30ある。合併ができなかった地域も多いだけに、総務省も協力して、町村総会の具体像を検討すべきだ。

 大川村に限らず地方議員のなり手不足は深刻な問題だ。2015年の統一地方選では、候補者が定数を超えなかったため、町村議員の5分の1が無投票で当選した。

 町村議員の報酬は月20万円前後だから、生活費がかさむ子育て世代などは立候補しづらい。議会は通常、平日の昼間に開かれるので、一般の会社員が仕事をしながら議員を兼務することも難しい。

 人口減少時代の地方議会のあり方も改めて問い直す必要がある。

(社説)子どもの安全 見守る目の多いまちを

 千葉県で登校中の小学3年生の女の子が行方不明になり、殺害された事件で、学校の保護者会の元会長が起訴された。調べに対し黙秘しているという。

 日ごろ率先して通学路の見守りに立っていた人物だ。

 12年前に広島県と栃木県で、下校中の小学生が同じく命を落とす事件が続いたのを機に、大人たちの目で子どもを守る活動が広がった。しかし、見守る側が事件を起こすことは、もちろん想定してこなかった。

 起訴内容のとおりなら、どうやって子どもの安全を確保すればいいのか。とまどう保護者の声が地元に限らず聞かれる。

 子どもが一人でいる時間、見ている大人がいない時間をなるべく減らす。そうやって危ない状況を最小化する――。この基本線に変わりはないはずだ。

 万全の対策はない。考えられる方法を組み合わせ、それぞれの地域の実態にあうやり方を見つけてほしい。

 子どもを一人にさせないためには、グループを作ったり、友達どうし誘い合ったりしての登下校が考えられる。地域を循環するバスを通学に活用する手もあるだろう。

 昼間は現役世代が地元を離れがちだ。お年寄りが出歩きたくなる街をつくることも、見守る目を増やす効果につながる。たとえば公園に健康遊具を置く、空き地や空き店舗を憩いの場として活用する、などだ。

 多くの人に広く薄くかかわってもらえれば、見守り活動の中心メンバーの「活動疲れ」をやわらげる効果も期待できる。

 今回の事件をうけて、わが子に人を疑うことを教えないといけないのかと悩む親もいるようだ。だが、子どもの安全に詳しい千葉大学の中村攻(おさむ)名誉教授は「いちばん安全で安心なのは、人と信頼し合い、何かあれば助け合う社会」だと訴える。その芽を摘んでしまうようなことには慎重でありたい。

 危ない人を見きわめようと言っても、とりわけ低学年の子には難しい。「人」より「場所」に着目した対策を、地域全体で考えてはどうだろう。

 子どもがいつ、どこで怖い目に遭っているかは、子どもたち自身が知っている。プライバシーに配慮しつつアンケートなどで聞き取り、現場を訪ねる。生い茂った植え込みが視界をさえぎっていれば刈り込み、暗い高架下には街灯をつける。

 そんなふうに、子どもたちが安心して学び、遊べる環境を、行政とも協議しながら整える。

 地道な取り組みを、一歩ずつ進めていくことが大切だ。

(社説)債権法改正 国民への周知を丁寧に

 契約に関するルールを定めた民法の規定(債権法)の改正案が成立した。社会の変化に対応するとともに、裁判を重ねて確立した考えを明記し、分かりやすくするのがねらいだ。

 実に120年ぶりの大幅見直しで、市民一人ひとりの生活や企業経営に大きな影響が及ぶ。このため法律が施行されるのは「公布から3年以内」と余裕をもって定められた。

 国や自治体はこの期間を有効に使って広報活動にとり組むとともに、消費生活センターなどで市民の支援にあたる職員の研修に努め、混乱を招かないよう万全を期してほしい。

 改正点は多岐にわたる。

 ▽当事者間で利息についての合意がないときに適用する「法定利率」を年5%から3%に引き下げ、さらに市中金利の動向をみて3年ごとに見直す。

 ▽取引形態によって違う借金返済の時効を5年に統一する。

 ▽経営者以外の人が事業用融資の保証人になる際、公証人が面談して意思を確認する。

 ▽しばしば争いの原因となる保険や通販などの定型約款について、利用者の利益を一方的に害する条項は無効とする――。

 全体に評価できる内容で、成立を歓迎したい。だが国会では問題点もいくつか浮上した。

 例えば、人間関係からやむなく保証人になるケースも多い。公証人による意思確認だけで、そうした人たちの保護につながるか疑問で、より踏みこんだ措置が必要だといった指摘だ。

 法案修正の話も持ちあがったが折りあわず、「施行後、必要に応じ対応を検討する」という付帯決議にとどまった。

 同じ法務委員会に付託された「共謀罪」法案が微妙な影を落とした。今国会での成立をめざす与党が、「民法についてもっと議論を」という声を退け、審議の終結に走る。野党側も昨年来の独自の修正案にこだわり続ける。法案をどう良いものにするかよりも、国会戦術や思惑が先に立つ場面が見られた。

 そもそも民法改正案は、2年以上前に国会に提出されながら、安保法制の採決強行による混乱などから、長くたなざらしにされた経緯がある。

 法案審議をめぐる与野党のかけひきはつきものとはいえ、取引社会を支える基本的なインフラである民法が、政治の波に翻弄(ほんろう)され続けたのは残念というほかない。利用者である市民や企業の存在は、議員たちの視野にどこまで入っていたか。

 国会の役割は何か。「熟議」をなり立たせるために何が必要か。あらためて問われている。

日米首脳会談 対「北」圧力に中国を取り込め

 核ミサイル開発に突き進む北朝鮮に方針転換を迫るには、効果的で厳しい圧力が欠かせない。

 安倍首相がイタリアでトランプ米大統領と会談し、北朝鮮政策について「今は対話ではなく、圧力をかけることが必要だ」との考えで一致した。

 北朝鮮の脅威を抑止するため、日米の防衛体制を向上させる具体的行動を取るとともに、日米安全保障協議委員会(2プラス2)を早期に開くことも確認した。

 北朝鮮は、国連安全保障理事会の再三の非難声明や制裁決議を無視し、新型の弾道ミサイルなどの発射を繰り返している。

 米国に到達し、核兵器が搭載可能な長距離ミサイルの開発・保有が、自国の生き残りを図る唯一の道だと妄信しているのだろう。

 北朝鮮に核ミサイル開発を放棄させるには、いずれは対話を行い、外交的な解決を追求する必要がある。だが、仮に現段階で対話を始めても、成果は望めまい。

 外交、軍事両面で厳格な制裁や圧力を加えることで初めて、金正恩政権が方針転換に応じる余地が生まれるのではないか。

 安倍首相とトランプ氏は、北朝鮮に対する圧力について「中国の役割が重要だ」との認識を改めて共有した。日米両国が韓国と連携する重要性でも合意した。

 日米韓3か国などの圧力には限界がある。北朝鮮の貿易の9割を占める中国の関与が不可欠だ。

 米軍の空母派遣などの圧力は、北朝鮮だけでなく、軍事紛争を避けたい中国にも向けられていた。中国は石炭輸入は停止したが、本格的な制裁は避け続けている。

 原油の供給制限など、北朝鮮への影響が大きい措置を中国に真剣に促すことが今後のカギだ。

 米軍は7か月ぶりに、南シナ海の中国の人工島周辺で駆逐艦を航行させたとされる。北朝鮮問題で中国の協力を引き出すための揺さぶりとの見方がある。

 日米両国は、北朝鮮と取引のある中国などの企業や金融機関を対象とする「二次的制裁」も検討している。様々な手段を駆使し、厳しい制裁に慎重な中国の歩み寄りを実現することが求められる。

 今回の会談は、国際会議のたびに必ず会談するという2月の首脳会談の合意に基づくものだ。首相とトランプ氏は、北朝鮮問題などで6回も電話会談しており、2人の信頼は着実に深まっている。

 首脳の良好な関係を土台に、日米の閣僚や官僚が緊密な意見交換を重ね、両国の外交政策を的確に調整することが大切である。

加計学園問題 「特区指定」の説明を丁寧に

 前次官が在職中の政策決定を公然と批判する。異例の事態である。政府には、疑念を払拭(ふっしょく)する努力が求められよう。

 学校法人「加計学園」が愛媛県今治市に大学の獣医学部を新設する計画を巡って、前川喜平・前文部科学次官が記者会見し、早期の学部開設は「総理の意向」と記した文書について「確実に存在していた」と明言した。

 内閣府との協議を踏まえ、文科省の担当課が作成したという。

 疑問なのは、前川氏が国家戦略特区による獣医学部新設を「極めて薄弱な根拠の下で規制緩和が行われた」と批判したことだ。

 獣医師の需給見通しなどが十分に示されないまま内閣府に押し切られたとして、「行政のあり方がゆがめられた」とまで語った。これが事実なら、なぜ現役時代に声を上げなかったのか。

 規制改革を主導する内閣府と、業界保護の立場から規制の例外を認めたくない関係省庁が対立することは、ままある。問題は行政手続きの適正性であり、菅官房長官は「国家戦略特区法に基づく手続きを経た」と強調している。

 与党は、野党による前川氏の証人喚問要求を拒んでいる。政府は文書の存在を否定し、文科省の再調査も必要ないとしているが、その主張はやや強引ではないか。

 野党は、安倍首相が長年の友人の加計学園理事長に利益誘導したのではないか、と追及する。官僚が忖度そんたくした可能性も指摘する。

 首相は、「学園からの依頼は一切ない」と述べ、加計学園の特別扱いはなかったと言明している。内閣府も、「総理の意向」との発言や、首相の指示を否定する。

 政府は、特区を指定した経緯や意義について、より丁寧かつ踏み込んだ説明をすべきだろう。

 今治市は2007年以来、特区指定申請を15回も却下された。民主党政権下の10年に「対応不可」から「実現に向けて検討」に格上げされ、16年に認められた。

 獣医学部は1966年を最後に新設が認められていない。獣医師の過剰を防ぐためだが、専門分野や地域で偏りがあり、開設を求める声も根強い。まず特区に限定した規制緩和は理解できよう。

 規制緩和は安倍政権の重要政策であり、仮に首相が緩和の加速を指示しても問題はあるまい。

 野党は、首相の交友関係に焦点を当て、学校法人「森友学園」問題と関連づけている。しかし、獣医学部誘致は今治市が中心になって長年取り組んできた懸案だ。同列に論じるのは無理があろう。

2017年5月26日金曜日

農協は金融依存を改め本来の姿に戻れ

 政府は全国農業協同組合中央会の権限縮小、全国農協連合会の事業見直しといった農協改革を打ち出した。改革の主眼は、農協を農家の経営改善や農業生産の拡大を支援する本来の姿に戻すことにある。そのためには農家以外の組合員の拡大や、肥大化した金融事業の修正を棚上げしてはならない。

 農林中央金庫は全国に600超ある地域農協に対し、2019年5月までに信用(銀行)事業についての方針を示すよう求めた。

 政府・与党は14年6月にまとめた農業改革で、地域農協が手掛ける信用事業をJAバンク法の規定に基づいて都道府県の上部機関や農中に譲渡し、経営資源を農協本来の経済事業に振り向けることを促している。

 ただ、農中が農協に示した選択肢は事業譲渡だけでなく、事業を残したまま周辺の農協と合併して財務基盤を強化する対応、さらには現状維持も含まれる。

 これまで金融事業を切り離した農協は3つにすぎない。残る農協も多くは現状維持を模索している。信用、共済(保険)という金融事業抜きで経営は成り立たないと考えるからだ。

 農協の組合員は15年度で1037万人と1985年度に比べ3割近く増えた。准組合員と呼ばれる非農家組合員が2.3倍に拡大し、全体の6割弱を占めるようになったからだ。農中に集まる貯金の残高は100兆円に迫り、規模でメガバンクと肩を並べる。

 農協は農家の組合だからこそ生損保、銀行兼業などの特権が認められている。非農業者を顧客に金融事業に注力する姿は農協の設立目的とかけ離れている。少なくとも准組合員や組合員以外の利用が、正組合員(農家)を超えないようにすべきだ。

 規制改革推進会議の農業部会がこれまで提言した、准組合員の利用規制や信用事業を手掛ける農協の削減案はどれも農協の抵抗で実現していない。

 准組合員の拡大に歯止めをかけ、金融事業に依存しすぎる農協の実態を是正することこそ農協改革の本丸といえる。

 農協による農業向けの融資残高は減少傾向にある。一方で、日本政策金融公庫や地銀などは農業向けの融資でシェアを伸ばす。農協は金融事業に固執しながら、農業の資金需要に応える努力を怠っているのではないか。農協の金融事業も農家のためにある。

見通し甘すぎる米予算教書

 トランプ米政権が2018会計年度(2017年10月~18年9月)の予算教書を議会に提出した。選挙公約のインフラ投資や大型減税を盛り込んだが、その財源は甘い成長見通しや実現性に乏しい歳出削減案をベースにしており、問題が多い。

 政権発足後初となる予算教書は議会が決める予算のたたき台になるものだ。選挙公約通り、減税やインフラ投資で経済を活性化させる考えを示したほか、国防費の増額も盛り込んだ。一方、低所得者向け支援や対外援助予算などを削減するとしている。

 減税やインフラ投資の拡大という方向自体は間違っているとはいえないものの、財源についての疑問は解消されていない。

 予算教書の基本的な考え方は、減税などの経済活性化策により年3%の成長を実現することで財政赤字の拡大は防げるというものだ。ただ、政権の成長率見通しは独立機関の米議会予算局(CBO)などに比べて1ポイント以上高く、楽観的すぎるとの見方が多い。

 歳出削減の中身についても問題がある。

 米国も日本と同様、高齢化に伴う社会保障費の膨張を抑えることが求められているが、高齢者医療や年金には原則的に手をつけない方針。その一方で、低所得者向けの医療支援や生活保護には大胆に切り込む姿勢を示している。

 福祉のムダは減らす必要があるが、削減対象としてどこまで優先順位が高いのか、予算教書で示したほど巨額の削減が可能なのか、など疑問点は多い。

 対外支援や国際機関への拠出金が削減対象とされているのも気になる点だ。米国が世界で果たすべき役割に消極的になれば、米国の影響力をそぐことにもなる。

 楽観的な経済見通しや大規模な福祉予算の削減を含む予算教書の内容には、野党・民主党だけでなく与党・共和党の議員からも批判的な声が出ている。その意味では実現性に乏しい予算教書ともいえるだろう。

(社説)前次官の証言 国会の場で解明せよ

 これでもなお否定し続けるのか。政権の姿勢は政治不信を深める以外の何物でもない。

 安倍首相の友人が理事長を務める加計(かけ)学園の獣医学部新設をめぐり、文部科学省の前事務次官・前川喜平氏が朝日新聞の取材に、「総理のご意向」などの記載がある一連の文書は本物だと証言した。きのうの記者会見でも同じ説明をした。

 ところが菅官房長官は怪文書扱いを変えず、さらには、今年発覚した文科省の天下り問題を持ちだし、前川氏に対する激しい人格攻撃を始めた。

 問題をすり替えてはいけない。事務方トップだった人物が「行政をゆがめられた」「圧力を感じなかったと言えばうそになる」と発言している。国家戦略特区という政権の目玉政策に重大な疑義が生じているのだ。

 あの文書は何なのか。「ご意向」「官邸の最高レベルが言っている」とはどういうことか。

 解明するのは、政府の、そして国会の責務である。にもかかわらず、野党が求めた前川氏の国会招致を自民党は拒否した。行政府をチェックするという、立法府に課せられた使命を放棄したふるまいだ。

 文書の信頼性を裏づけるのは前川氏の話だけではない。元自民党衆院議員で日本獣医師会顧問の北村直人氏も、自身の発言として記録されている内容について「事実」と述べている。政府はこれにどう答えるのか。

 菅官房長官は国家戦略特区を「規制の岩盤にドリルで風穴を開ける制度」だという。その意義はたしかにある。だが、獣医学部設置をめぐっては疑問点がいくつか浮上している。

 全国の獣医学系大学の入学定員は40年間、930人に据え置かれてきた。それを160人増やす構想にもかかわらず、獣医師がどの程度不足しているのか、どんな人材が必要なのか、十分なデータも説明も示されないまま認可を求められた。前川氏はそう話している。

 応募できる要件を「広域的に獣医師の養成大学がない地域に限る」としたことについても、内閣府には多くの疑問の声が寄せられていた。結果として、応募を検討していた他の大学は撤退を余儀なくされた。

 そのときそのときの政権や政策への賛否はある。高度の政治判断が求められる場合も、もちろんあるだろう。しかしそれが人びとに受け入れられるのは、公正・公平な行政のルールが貫徹されていてこそだ。

 このままほおかむりを続けることは許されない。国政に対する信頼の根幹がゆらいでいる。

(社説)米の中東政策 不信の解消が出発点だ

 中東でイスラエルが建国を宣言してから来年で70年。パレスチナとの和平問題は今も、解決への希望の兆しが見えない。

 そんな中、トランプ米大統領が最初の外遊先として中東を訪れ、この積年の問題に関与する姿勢を示した。

 「米国第一主義」を掲げるトランプ氏が内向き思考に閉じこもらず、中東和平に力を注ぐ意思を示したのなら歓迎したい。陰りが見えるとはいえ、最大の影響力をもつ米国の前向きな努力がこの地域には必要だ。

 紛争の当事者の間には、争いの要因が複雑に絡んでいる。その不信をほどく仲介者の必須条件は、誠実で公平な姿勢だ。

 その点で残念ながら中東でのトランプ氏の言動には、不安を抱かせる問題が多々あった。そもそも今回の外遊には、混乱が続く米内政の関心をそらす狙いがあったとの批判もある。

 そうした疑念を残したままでは、トランプ政権の対外政策は信頼を築けまい。まずは今回の訪問を反省し、今後めざす真剣な中東政策を示すべきだ。

 和平の主な焦点は、戦争でイスラエルが占領した土地をどう返還するか▽イスラエルの安全を確保しつつパレスチナ国家を樹立できるか――にある。

 その中でトランプ氏の問題点はまず、イスラエル寄りの姿勢が明白なことだ。

 ユダヤ教の聖地「嘆きの壁」を米大統領として初訪問した。イスラエルが占領し、パレスチナが将来の首都と位置づける東エルサレムにあるため、歴代の米政権が避けてきた行いだ。

 第二の問題は、地域大国イランへの敵視をあおった点だ。

 イスラエルとサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国を近づけるために、「共通の敵」としてイランを位置づけたとされる。

 だがイランの影響力は、パレスチナのイスラム組織ハマスのほか、シリア、イラクの各政権など中東の広範に及ぶ。

 イランの排除を前提に中東問題に取りくめば、イランとアラブ諸国の溝を広げ、地域全体の緊張を高める恐れが強い。

 もとより、トランプ氏の言動には一貫性がない。就任直後、イスラム教徒が多い国からの入国を禁じる大統領令を出したが、今回は一転、「イスラムは偉大な宗教だ」とたたえた。

 トランプ氏が訪ねたパレスチナ自治区では、住民による抗議デモも起きた。アラブ世界の人々はいまも米国の新大統領に、複雑な視線を送っている。

 和平の仲介に乗り出すには、まず当事者たちから信頼を得る努力を重ねるほかあるまい。

憲法9条改正案 まず自民が具体論を主導せよ

 憲法改正を1955年の結党以来の党是とし、衆参両院の第1党である自民党は、改正論議を主導する責任を有する。

 自民党が憲法改正推進本部の体制を強化した。二階幹事長ら党幹部10人を役員に追加し、今年中の自民党案の作成に向けて議論を加速する。

 推進本部は従来、野党との協調を重視するあまり、改正項目の絞り込みが進まなかったとも指摘される。2020年の新憲法施行を目指すなら、年内の改正案作成は決して早すぎない。挙党態勢で改正作業に臨むのは適切だ。

 9条への自衛隊の存在の明記、高等教育無償化、大規模災害時などの緊急事態条項創設の3点が柱で、焦点は9条の改正である。

 自衛隊は、自衛目的の必要最小限の実力組織で、憲法が保持を禁じる「戦力」には該当しない。この現行の政府解釈は極めて分かりづらい。自衛隊の根拠規定を追加し、子供でも理解できる内容にする意義は小さくない。

 日本の安全保障環境が悪化する中、自衛官が自らの職務に誇りを持てるようにすることも重要だ。河野克俊統合幕僚長が安倍首相の提言について「非常にありがたい」と語ったのは、多くの自衛官の切実な心情を代弁している。

 一部の野党は、河野氏の発言を「文民統制の原則を侵す」などと批判する。だが、河野氏は「統幕長として申し上げるのは適当でない」として個人的な感想を述べたに過ぎず、問題はあるまい。

 首相は、公明党の「加憲」の考え方を踏襲し、9条1、2項の維持を主張する。これに対し、石破茂・元幹事長らは「自衛隊は軍隊なのか違うのか、矛盾が続く」などと異論を唱えている。

 国民投票で過半数の賛成を得るには、極力多くの政党の支持を得て改正を発議するのが望ましいのは確かだ。9条2項の戦力不保持との整合性、一般国民の分かりやすさなど、様々な観点から改正内容を議論することが大切だ。

 公明党の山口代表は、当面、自民党の議論を見守る考えを示す。公明党内には、「自民党が改正論議を本格化させる以上、我々が何もしないわけにはいかない」との意見も出ている。

 日本維新の会は、より積極的だ。通常国会の閉会後、9条改正の具体案について議論し、秋にも党見解を策定する方向である。

 公明、維新両党は、首相提言を前向きに受け止め、自民党とも意見交換しながら、建設的な党内論議に取り組んでもらいたい。

がん患者の就労 治療と両立できる環境作りを

 がん患者への理解と配慮を欠く不適切極まりない発言である。

 「働かなくていい」。職場での受動喫煙に苦しむがん患者に関して、自民党の部会で大西英男衆院議員が放った言葉だ。

 後に謝罪し、「喫煙可能の店で無理して働かなくていいとの趣旨だった」と釈明したが、撤回はしなかった。患者団体が「怒りを感じるとともに悲しい」と厳しく非難するのは、当然だろう。

 がんと診断される人は、年間100万人に上る。3分の1が20~64歳の働く世代だ。

 医療の進歩で、診断後5年の生存率は6割超にまで向上した。働く意欲と能力のある患者が増えているものの、がん患者の就労を巡る状況はなお厳しい。

 診断を受けた時点で会社に勤めていた人の3人に1人が、依願退職や解雇で離職している。「職場に迷惑がかかる」「両立に自信がない」といった理由が多い。退職強要や降格を恐れ、職場に伝えられずにいる患者もいる。

 内閣府の世論調査では、がんの治療と仕事の両立は困難だ、と考える人が6割超に上る。離職後の再就職もままならず、職場を選ぶ余地は限られるのが実情だ。

 働く世代の患者にとって、仕事は生きがいや治療の励みになる。高額な治療費負担が続くため、働かざるを得ない事情もある。

 がんになっても、適切な支援があれば働き続けることができる。政府は、正しい知識の普及・啓発に努め、患者が安心して働ける環境作りを急ぐべきだ。

 2012年度からの第2期がん対策推進基本計画は、患者の就労支援を重点施策に掲げる。

 昨年12月施行の改正がん対策基本法は、患者の雇用継続への配慮を企業の努力義務とした。政府の働き方改革実行計画でも「仕事と治療の両立」が柱の一つだ。

 政府は、ハローワークへの専門相談員の配置や、医療機関と連携した就労支援を進めてきた。こうした取り組みを一層広げたい。

 企業には、治療を受けながら働ける柔軟な勤務形態や休暇の導入、主治医らを交えたサポート体制作りなどが求められる。

 職場の受動喫煙防止も重要である。健康被害を招くたばこの煙にさらされて働くことは、がん患者にとって大きな不安だ。

 勤務先の防止策が不十分でも、簡単に転職はできない。仕事の都合で喫煙可の飲食店に行かざるを得ない場合もある。患者の立場を考慮した政策論議が望まれる。

2017年5月25日木曜日

米中東政策の転換に長期戦略はあるか

 トランプ米大統領の就任後初めての外遊先は中東だった。サウジアラビアではイスラム過激派の掃討への結束とイランに対する圧力強化を訴え、イスラエルでは中東和平の実現に意欲を示した。

 サウジとイスラエルはオバマ政権の時代に米国との関係が冷え込んだ。トランプ大統領が最初にこの2国を訪れ、イランとの対決姿勢を明確にしたことは、オバマ政権時代からの中東政策の転換を意味している。

 中東の安定に米国の関与は必要だ。ただし、複雑に絡み合う問題の解決には長期的な戦略が求められる。バランスを欠く性急な介入は、かえって中東の亀裂を広げることになりかねない。

 トランプ大統領は選挙運動の期間中イスラム教を敵視する発言を繰り返した。就任後には、イスラム教徒の多い中東・アフリカ諸国からの入国制限措置を決め、国内外で反発を招いた。

 サウジにはイスラム教の聖地メッカがある。最初の訪問先として選んだのはイスラム世界との和解を訴える狙いがあるのだろう。

 トランプ大統領はサウジで、イスラム諸国の首脳らを前に、イスラム過激派への対処を目的とする新たな安全保障協力の枠組みを提唱した。拡散するイスラム過激派のテロに立ち向かうにはイスラム諸国の関与が不可欠で、視点は評価できる。ただ、問題もある。

 トランプ大統領は「イランを孤立させ、テロ資金を遮断する」と強調した。大統領の演説に招かれたのはイスラム教スンニ派の国々だ。シーア派のイランと対峙するスンニ派連合の結成が安保協力の狙いだとすれば、宗派対立をあおりイスラム世界の分断を加速することになりかねない。

 トランプ大統領はイスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長にそれぞれ会い、中東和平の仲介に意欲を示した。パレスチナ問題は不安定な中東情勢の核心にある。歴代の米政権が仲介に取り組みながら挫折を繰り返してきた。大統領の意気込みに期待したい。

 だが今回の訪問では和平の具体的な構想や手順は示されなかった。トランプ氏はイスラエル寄りとされる。独立したパレスチナ国家がイスラエルと共存するという従来の和平原則にこだわらない考えを示したこともある。大切なのは公正な仲介者としての立場だ。腰を据えた取り組みを求めたい。

テロとの戦い、結束を新たに

 英マンチェスターのイベント会場を狙った自爆テロは死者22人、負傷者59人の大惨事になった。同国で起きたテロとしては、52人が死んだ2005年のロンドン連続爆破事件以来の規模である。メイ首相はテロ警戒水準を5段階中で最高の「重大」に引き上げた。

 会場では米国の人気歌手のコンサートが開かれており、8歳の少女を含む子供が多数、犠牲になった。無辜(むこ)の人を非道な暴力で無差別に殺傷したテロリストを断じて許せない。

 今週末にイタリアで開く主要国首脳会議(G7サミット)は、治安情報の共有など結束を新たにする必要がある。英政府は欧州連合(EU)との離脱交渉を始めるが、テロ対策で両者が連携を緊密にするのは当然だ。

 過激派組織「イスラム国」(IS)がインターネットで犯行声明を出した。英当局は自爆犯のほかに関わったグループがいる可能性があるとみている。第2、第3のテロへの備えが要る。

 英国は大陸欧州と海で隔てられているうえ、旅行者が旅券審査なしで国境を越えられるシェンゲン圏に入っていない。銃器類が容易に持ち込めず、独仏やベルギーなどに比べればテロ封じ込めに成功してきた印象がある。当局は過去4年に13件を未然に防いだ。

 ただ「抑止には限界がある。問題はテロが起きるかではなく、いつ起こるかだ」と警告してもいた。3月にはロンドンの議会議事堂近くでイスラム過激派の男が車を暴走させ、4人が死んだ。

 今回は総選挙の選挙戦の最中だった。テロ犯は厳戒態勢のロンドンを避け、人が集まるのに警備をしにくいソフトターゲットを狙った。周到な準備がうかがえる。空港や駅などに限らず、あらゆる場が標的になり得る。

 テロを防ぐ即効薬はない。各国間で情報を密に交換し、要監視者を見張り、資金の流れを断つ。それでも防ぎきれまいが、暴力と恐怖に屈するわけにはいかない。日本人にとっても人ごとでない。

(社説)英自爆テロ 暴力の根を絶つ結束を

 若者たちの命と将来を奪った蛮行に強い憤りをおぼえる。

 英中部マンチェスターのコンサート会場で、自爆テロがおきた。人気歌手の公演を楽しんでいた観客の多くは10~20代で、母親と来た8歳の女の子も亡くなった。

 無差別に市民を狙ったテロを断じて許すことはできない。

 自爆したのは22歳のリビア系英国人男性とされる。地元で生まれ育った青年がなぜ、テロに走ったのか。何らかの組織が背後にいたのか。英当局は事件の解明に全力を挙げてほしい。

 直視すべきは、取り締まる法令をいくら厳しくし、警備を厳重にしても、テロは完全には防ぎきれないという現実である。

 欧米では近年、大勢が集まる会場での荷物検査など、警備が強化されてきた。だが今回は公演終了後の出口付近という隙を突かれた。公道や広場など、市民が自由に出入りする所を狙うのが最近のテロの特徴だ。

 車やナイフなど身近な物で大勢を殺傷するケースも目立つ。市販の材料とネット情報で爆弾も自作できる時代だ。

 英国では、北アイルランド武装勢力のテロが吹き荒れた1970年代以来、監視カメラが全土に設置された。2001年の米国、05年のロンドンでの同時多発テロ以降は、疑わしい人物の捜索や拘束を容易にする法改正がなされてきた。

 それでもテロはやまない。

 格差や差別など、テロを生む根本的な土壌の改善に取りくむ必要がある。そう指摘されて久しいが、現状はどうか。

 テロの不安に乗じて異なる民族や宗教の排斥を掲げる政治勢力が欧州各地で伸長している。非寛容な風潮が新たなテロを生む悪循環を招いているとすれば、ゆゆしき事態である。

 今週末のイタリアでの主要7カ国(G7)首脳会議でも、テロ対策が議論されるだろう。反テロの結束の表明はもちろん、排外主義や、対テロに名を借りた人権侵害を許さない姿勢も示してもらいたい。

 トランプ米大統領は、イスラム教徒が多い国々からの入国禁止措置をめざしているが、イスラム社会との不信の壁を築くのが逆効果なのは明白だ。

 過激思想による暴力は、今や世界共通の問題である。その撲滅に向けた連携を深めることが重要だ。各国の司法・金融当局間の協力を進める一方、先進国などで移民や難民の社会統合を深める努力も必要だろう。

 テロを生まない社会の実現に向けて、国際社会の知恵を絞りたい。

(社説)河野統幕長 軽率すぎる改憲発言

 自衛隊制服組トップとして、軽率すぎる発言である。

 「一自衛官として申し上げるなら、自衛隊の根拠規定が憲法に明記されるのであれば非常にありがたいと思う」

 河野克俊統合幕僚長が、安倍首相が自衛隊の存在を憲法に明記する改正に言及したことについて問われ、そう語った。

 河野氏は「憲法という非常に高度な政治問題なので、統幕長という立場から言うのは適当でない」とも述べていた。菅官房長官は個人の見解であり、問題ないというが、同意できない。

 自衛隊法は隊員の政治的行為を制限している。同法施行令はその具体例として、政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張したり反対したりすること、などをあげている。

 服務の宣誓では、すべての隊員が、憲法順守や政治的活動に関与しないことなどを誓う。

 首相のめざす改憲が実現すれば、隊員がより誇りをもって任務を果たせるようになる――。河野氏はそう考えたのかもしれない。だが、それを公の場で発言するのは話が別である。

 かりに河野氏が一自衛官だとしても、法令を順守すべきなのは当然だ。一般の公務員でも、休日に政党のビラを郵便受けに配っただけで、国家公務員法違反の罪に問われた例もある。

 まして同氏は20万人を超える自衛官を率いる統幕長である。首相の改憲提案は、与野党にも国民にも複雑な波紋を広げている、極めて政治的なテーマでもある。これに賛意を示すような発言は、政治的な中立性を逸脱すると言われても仕方がない。

 9条をどう改めるのか、集団的自衛権の扱いをどうするのか、議論の行方は分からない。

 自衛隊の将来像が見通せないなかで、隊員の命を預かる統幕長が、首相の政治的主張を後押しすると受け取られる発言をするのは軽はずみのそしりを免れない。

 安倍政権は制服組の積極的な活用を進めてきた。河野氏は頻繁に首相と会い、軍事的な助言をする立場だ。そうしたなかで政治との距離感を見失っているとすれば、文民統制の観点からも見過ごせない。

 河野氏は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報をめぐって事実上、「戦闘」の言葉を使わないよう指導したと語り、批判を浴びたこともある。

 災害救援などを通じて、自衛隊は幅広い支持を得てきた。河野氏の言動は、長い時間をかけて隊員たちが培ってきた国民の信頼を傷つけかねない。

トランプ初外遊 中東安定化の戦略が問われる

 中東情勢の安定と過激派組織の撲滅に向けて、米国が確固とした戦略を構築し、影響力を高めることが重要である。

 トランプ米大統領が初の外遊先に中東を選び、関与の拡大を打ち出した。

 サウジアラビアで、イスラム圏54か国の首脳らを前に演説し、過激派掃討は「善と悪の戦いだ」と強調した。「米国は共通の利益と安全のために、協力する用意がある」とも述べ、共闘を訴えた。

 トランプ氏は、昨年の米大統領選で、イスラム教徒をテロの元凶とみなす過激な言動を繰り返していた。政権発足後も、中東など7か国からの入国を制限する大統領令に署名し、批判を浴びた。

 イスラム圏との「敵対」から「結束」への急旋回は、現実を踏まえた判断だろう。イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の打倒には、サウジなどスンニ派諸国との連携が欠かせない。

 具体策として、米国とサウジの主導により、「テロリスト資金摘発センター」が設立される。湾岸協力会議(GCC)の加盟国が、テロ資金源の遮断を目指し、情報を共有する。各国で監視を強め、成果を上げてもらいたい。

 サウジに次いで、トランプ氏はイスラエルを訪問した。いずれも米国の伝統的な同盟国だ。オバマ前大統領の中東政策の転換を印象づける思惑が透けて見える。

 オバマ氏は、両国と対立するイスラム教シーア派大国のイランとの関係を改善し、サウジなどの対米不信を招いた。冷え込んだ同盟関係を立て直そうとするトランプ氏の意図は理解できる。

 ただ、「イラン包囲網」の行き過ぎた強化は、反米感情と緊張を高めかねない。地域全体に目配りした構想が求められる。

 トランプ氏は、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長と個別に会談し、中東和平への意欲を示した。エルサレムでの演説で、「和平は可能だ。献身する」と語った。

 歴代米政権の仲介努力は失敗に終わっている。和平交渉は2014年以来、開かれていない。

 サウジなど湾岸諸国を交渉に巻き込む新たな手法を試みる意義はあろう。トランプ氏の娘婿で、ユダヤ教徒のクシュナー大統領上級顧問が仲介役を務め、和平案の作成を進めるのではないか。

 トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議と主要国首脳会議(タオルミーナ・サミット)に臨む。各国の指導者との信頼関係を深めねばなるまい。

英自爆テロ 警備の弱点突いた卑劣な犯行

 音楽の余韻に浸る一般市民の命が、無残に絶たれた。断じて許されない卑劣な犯行である。

 英国中部のマンチェスターのコンサート会場出入り口で、米女性歌手の公演終了直後、自爆テロが発生した。10代の若者ら多数が死傷した。

 容疑者は、マンチェスター育ちで、リビア系の22歳の男とされる。過激派組織「イスラム国」がネットで犯行声明を出した。

 英政府は、次の攻撃が差し迫っている恐れがあると判断し、テロ警戒度を最高の「危機的」レベルに引き上げた。メイ首相が、都市の要所を警備するために軍の兵士を動員すると表明したのは、強い危機感の表れだろう。

 テロの連鎖を食い止め、事件の全容を解明することが急務だ。

 今回の犯行場所は、会場と駅を結ぶ「公共スペース」だった。手荷物検査を受けて入る会場と違って立ち入りが自由で、警備の弱点になっていたことは否めない。

 観客が一斉に退場するタイミングで自爆したのは、被害を大きくする狙いがあったとみられる。

 不特定多数の人が集まる「ソフトターゲット」をいかに守るか。今回の事件を詳細に分析して、対策を向上させるほかあるまい。

 2005年のロンドン同時テロ以降、英治安当局は、中東で過激派と接触した人物などへの監視を拡充した。再発阻止に一定の成果を上げてきたのも事実だ。

 しかし、3月にはロンドンの議会議事堂付近で乗用車を使ったテロが起き、今回は地方都市が標的となった。自国育ちの犯人による「ホームグロウン」型テロの根絶が難しいことを示している。

 マクロン仏大統領やメルケル独首相を始めとする欧州連合(EU)加盟国首脳らは、英国に追悼と連帯のメッセージを送った。

 来月上旬の総選挙の後、英国はEUと離脱交渉を開始する。英国もその他の加盟国もテロの脅威に直面している事情は同じだ。治安分野の協力は引き続き緊密化させるべきではないか。

 イタリアで26日に始まる主要国首脳会議は、テロ対策で連携を確認する場となる。安倍首相は「いかなるテロも、我々の結束を挫(くじ)くことはできない」と強調した。

 日本でも、有名アーティストの来演など大規模イベントが、頻繁に開かれている。20年東京五輪の開催も控える。欧州のテロは、対岸の火事ではない。

 テロ防止のために、関係国との協力を深め、国内の警備態勢を着実に強化せねばならない。

2017年5月24日水曜日

なお残る「共謀罪」法案の懸念

 組織犯罪処罰法の改正案が、与党などの賛成多数により衆院本会議で可決された。テロや組織犯罪を実行前の計画段階で罰するため、「共謀罪」の構成要件を改めたテロ等準備罪を新設するというのが大きな目的だ。

 この法案をめぐっては、「処罰の対象が不明確で、恣意的に運用されかねない」「思想や内心の自由を侵す」といった懸念がかねて指摘されている。衆院での審議でもこうした点はなお解消されておらず、国民が法案を理解しているとは言えないのが現状だろう。

 そのような法案が、先立つ衆院法務委員会に続き、本会議でも与党側が押し切る形で採決されたことは残念だ。参院では、政府・与党は法案の成立をいたずらに急ぐのではなく、十分に時間をかけて繰り返し丁寧に説明を尽くす必要がある。

 「共謀罪」は国際組織犯罪防止条約を締結するための前提として、各国に整備が義務付けられている。組織犯罪の封じ込めは国際社会の大きな課題であり、条約を締結する意義や、そのためにテロ等準備罪を導入する必要性自体は理解できる。

 だがこれまでの衆院の審議では、政府側の答弁は一貫性を欠いたり、根拠があいまいなままに強弁したりといった場面が目立った。野党側の追及が理念的だったこともあり、議論がかみ合わないやり取りも多かった。

 それでも議論を積み重ねることで、疑問点や課題は徐々に集約されつつある。仮に法案が成立した際には、国会での審議が運用面での大きな指針や歯止めにつながることも忘れてはならない。

 政府・与党には、「想定時間に達したから採決する」という態度ではなく、改めて反対の立場の意見を真摯に聞き、受け止めていく姿勢が求められる。

 議論のなかで必要があれば、処罰範囲の明確化や対象犯罪のさらなる削減など、条文の見直しをためらうべきではない。国会のあり方が問われている。

小粒で先送りが多い規制改革答申を憂う

 規制改革は企業による新たな商品やサービスの供給を後押しし、技術革新を通じて生産性を高める。成長戦略でもっとも大事な政策のひとつである。

 残念ながら規制改革推進会議がまとめた今年の答申は小粒で、懸案の先送りがめだつ。政府は規制改革の推進体制も立て直す時だ。

 介護の分野では、介護保険サービスと保険外のサービスを組み合わせる「混合介護」というやり方がある。

 現在でも制度上は認められているが、厚生労働省が保険サービスと保険外サービスの明確な区分を求めているため、事業者が柔軟なサービスを提供できずにいる。

 答申は自治体や事業者向けのわかりやすい通知(技術的助言)を出す方針を示した。ただ、その内容は「現行ルールの整理について検討し、結論を得る」と事実上先送りしているうえ、実施時期も「2018年度上期中に速やかに措置」とスピード感を欠く。

 事業者の創意工夫で多様なサービスが生まれれば、収益機会が増えて介護人材の処遇も改善しやすくなる。そんな混合介護の効果の大きさからすると、答申の内容は期待外れというほかない。

 混合介護をめぐっては「高所得者ばかりが恩恵を受ける」という厚労省や与党内の慎重論があったが、その壁を破れないところに事態の深刻さがある。

 民間の有識者が大胆な提言をぶつけ、最後は閣僚も交えた交渉で政治決着を図る。そんな医療や雇用の「岩盤規制」改革でみられた場面は今回なかった。

 答申は、行政手続きコストの2割削減、人手不足が目立つ労働基準監督署の一部業務の民間委託も盛った。地味だが成果である。

 しかし、一般のドライバーが自家用車で利用客を送迎するライドシェア(相乗り)については今後認める範囲を通達で明確にする方針にとどめた。改革の入り口にたっても、そこから大きく突破できずにいるのが現状ではないか。

 全体として、規制官庁と規制改革推進会議の事務局が合意できる範囲で小さな案を重ねた「官僚主導」の印象は否めない。

 地域限定で規制改革をする国家戦略特区でも、ライドシェアや漁業生産組合の特例など、用意したメニューの実績がゼロという例が判明した。規制の本質は細部に宿る。政府には改革の徹底とそのための体制整備を厳しく求めたい。

(社説)東京都議選 なれ合いを脱せるか

 小池百合子・東京都知事が自民党都連を「忖度(そんたく)政治だ」と批判すれば、自民党は小池都政を「決められない政治だ」と糾弾する。そんなつばぜり合いが激しくなってきた。

 注目の都議選の告示まで1カ月をきった。小池知事が率いる地域政党・都民ファーストの会が台風の目となり、関心は今後ますます、「小池都政にイエスかノーか」の一点に集中しそうな雰囲気だ。

 だが、果たしてそれだけでいいのか。いちど立ち止まって、都議が担うべき役割をおさらいしておきたい。

 議員の中から首相が選出される国会と違い、都道府県の首長と議員はどちらも有権者に直接選ばれる。二元代表制といわれるシステムで、両者は地方行政の「車の両輪」の関係にある。

 都議は、地域のさまざまな声に耳を傾けたうえで、知事が提案する予算の配分や政策が適切かどうかを、都民の代表としてチェックする。それには、知事と一定の距離を保ち、緊張関係にあることが不可欠だ。

 だが、この20年近く知事与党の自民、公明はどうだったか。

 豊洲への市場移転問題で、両党は今春、都議会に百条委員会を設けることに賛成し、土壌汚染対策をめぐる都と東京ガスの交渉の実態を追及した。改革姿勢を訴えたつもりだろうが、本来こうしたチェックは、市場の移転予算を議会として認める前に果たしておくべきものだ。

 なれ合いの懸念は、都民ファーストにもつきまとう。

 きのう発表の公約で、都民ファーストは市場移転に関する考えを明確にせず、知事の今後の判断を尊重したいと述べた。この先、様々な都政の課題について自分たちのリーダーの方針を健全に批判し、注文をつけられるのか。そこが問われる。

 都議のもう一つの役割は、知事側と政策を競いあい、それを都政に反映させることだ。

 たとえば、2030年には都民の4人に1人が65歳以上となる。だが介護の施設も人手も足りない。巨大都市の超高齢化にどう備えるか。また、東京一極集中による地方の衰退は、都も解決に乗りださねば展望が開けない課題だ。しかし小池都政では光が当てられていない。都議としてどう考えるのか。

 この4年間、都議の提案で生まれた条例のうち生活に直結するものは一つもない。定数127と最大の地方議会にもかかわらず、水準は高いといえない。

 反省を踏まえ、都議選にそれぞれがいかに臨むか。有権者に語るべきことは、少なくない。

(社説)テニス八百長 手を尽くし信頼回復を

 スポーツの尊厳を傷つけ、その価値を地に落とす行為だ。

 男子テニスの三橋淳(みつはしじゅん)元選手(27)が八百長に手を染めたとして、国際的な不正監視団体から永久資格停止と罰金5万ドル(約550万円)の処分を受けた。

 2年前に南アフリカとナイジェリアで行われたプロの下部ツアーに参加した選手らに対し、数百ドルから数千ドルの見返りで、わざと試合に負けるよう持ちかけたとされる。

 さらに、公認のブックメーカー(賭け屋)を通じ、テニスの試合を対象にした賭けも76回繰り返していた。公平・公正を疑われるとして、テニス選手は禁じられている行為だ。選手を信じ、真剣勝負に声援を送るファンを裏切った罪は重い。

 監視団体は08年に設立された。怪しい動きがあるとブックメーカーから通報がある。昨年は292件の情報があり、選手や審判計9人が処分された。下部ツアーは賞金が低く、場合によっては八百長による報酬の方が高くなることも、不正が絶えない背景にあるようだ。

 日本テニス協会も手をこまぬいてきたわけではない。プロ登録の際に法令順守の研修を開き、今年度からは海外を転戦する選手向けにインターネット経由の講座も始めた。とはいえ研修は1度で、参加しなくてもペナルティーはないなど、とても十分とはいえない。

 スポーツ界は、競技を始める時期が低年齢化し、ジュニア世代でも国際大会を転戦するケースは珍しくない。だが、技術力の向上に注がれる力や熱意に比べ、倫理面は立ち遅れている。競技団体ごとに計画を立て、スポーツ庁も問題意識をもって、10代のうちから積極的な取り組みを始めるべきだ。

 問題行為を自分から申告すれば処分を軽減する制度や、通報を受けつける窓口の整備なども検討すべきではないか。

 やましいことのない選手や指導者は、そうした仕組みがあること自体を快く思わないかもしれない。だが、倫理を説くだけで十分か。広く社会に導入されている、こうした工夫も参考にしていい。

 間違いを犯してしまった選手を支えることも欠かせない。

 いったん処分を受けた者が現場に戻り、観客の前で再びプレーするには、社会の理解が欠かせない。本人の反省に任せるだけではなく、競技団体や統括団体の責任の下、復帰プログラム作りを進めてほしい。

 包括的な取り組みが人々の信頼を取り戻し、スポーツの尊厳を守ることにつながる。

テロ準備罪法案 普通の国民は監視の対象外だ

 各国との捜査共助なしに、国際テロ集団の凶行は防げない。

 国内法を今国会で確実に成立させて、国際組織犯罪防止条約を締結し、2020年東京五輪を万全の体制で迎えたい。

 テロ等準備罪の創設を柱とした組織犯罪処罰法改正案が衆院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決され、参院に送付された。

 民進、共産両党などは「強行採決だ」と反発したが、衆院の審議は、重要法案の目安とされる30時間に達している。与党が「論点は出尽くした」として、採決に踏み切ったのはうなずける。

 採決に先立ち、自民、公明両党と維新は、政府案の修正で合意した。テロ等準備罪の取り調べに可視化を義務化するかどうか、検討することを付則に盛り込んだ。

 取り調べを録音・録画すると、容疑者が報復を恐れ、口をつぐむ懸念もあるだろう。可視化の実施には慎重な検討が必要だが、より多くの党の賛同を得られた点については、評価したい。

 衆院の審議で、野党は不安を煽(あお)るような質問を続けた。

 政府が「一般人は100%捜査対象にならない」と説明しているにもかかわらず、民進党などは、捜査しなければ、一般人もテロ等準備罪の疑いがあるかどうかはっきりしない、と繰り返した。

 普通の国民も監視対象になる、と印象づけるのが狙いだろう。

 刑事訴訟法上、捜査は犯罪の嫌疑が存在して、初めて着手される。テロ等準備罪に関わる犯罪の主体は、組織的犯罪集団に限られる。集団と無関係の人に嫌疑は生じず、当然、捜査対象にはなり得ない。批判は当たるまい。

 野党は277の対象犯罪についても「多すぎる」と主張する。

 政府は「組織的犯罪集団が現実的に行う可能性がある犯罪だ」として、適正に対象犯罪を選定していると強調した。

 著作権法違反関連では、「組織的犯罪集団による海賊版CD販売などが考えられる」との見解を明らかにした。「墳墓発掘死体損壊等罪」をテロ等準備罪に含めているのは、海外でテロ集団による墳墓破壊が実際に起きたためだ。

 政府は、参院でも具体例を示して、法案の必要性を丁寧に説明し、国民の理解を深めることに注力してもらいたい。

 テロ対策は焦眉の急である。必要なら、7月2日の東京都議選をまたいだ会期延長もためらわずに、成立を図るべきだ。

東芝経営問題 再建の道筋をどう確保するか

 直面する危機は深刻さを増すばかりである。これ以上、事態を泥沼化させず、再建への道筋を確保する必要があろう。

 東芝は、米国での原子力発電事業の巨額損失で、2017年3月期決算の最終利益が9500億円の赤字に陥った。国内製造業では過去最大規模だ。債務超過は5400億円に達する。

 いずれも監査法人の承認を得ていない見込み額だ。16年4~12月期決算の発表を2度延期したにもかかわらず、通期でも正式発表できなかった。異常事態である。

 原発事業の損失を認識した時期を巡って、東芝と監査法人が鋭く対立しているためだ。

 両者の溝が埋まらず、監査法人のお墨付きを得られなければ、決算は確定しない。有価証券報告書の発表も6月末の提出期限から大幅にずれ込む恐れがある。

 決算は、投資家が市場で株を売買するための重要な指標となる。監査法人による決算の承認は、企業情報の信頼性を担保する上で欠かせない手続きである。

 日本を代表する企業が、ずさんな統治で市場の信頼を損なう現状は看過できない。監査法人との協議に全力を挙げるべきだ。

 15年に発覚した不適切会計を受けて、東芝株は東京証券取引所から特設注意市場銘柄に指定されている。上場を維持すべきかどうか、審査中だ。企業統治に改善がみられないと判断されれば、上場廃止の可能性も出てくる。

 再建のカギを握る半導体子会社の売却計画も揺らいでいる。

 東芝は債務超過の解消に向け、稼ぎ頭である半導体の記憶媒体事業を子会社化し、2兆円程度で売却する方針だ。日米韓などの企業が買収に意欲を示している。

 だが、東芝の協業相手の米ウエスタン・デジタル(WD)が国際仲裁裁判所に売却差し止めを申し立て、計画に暗雲が漂う。

 記憶媒体を東芝と共同生産しているWDは、第三者への売却には双方の合意が必要と主張する。東芝は「売却を止める権利はない」と真っ向から対立している。

 仲裁裁は、提訴後1か月程度で暫定的な決定を出す場合がある。WDの主張が認められれば、買収に名乗りを上げている企業が二の足を踏みかねない。子会社の売却が宙に浮き、再建策は抜本的な見直しを迫られる。

 WDが提訴する前に丁寧に説明して理解を得るべきだったとの指摘もある。東芝は、円滑な売却実現に向けてWDとさらに交渉を尽くさねばならない。

2017年5月23日火曜日

「TPP11」を含め通商協議の同時加速を

 米国を除く環太平洋経済連携協定(TPP)参加11カ国が閣僚会合を開き、協定の早期発効に向けた選択肢の検討を11月までに終える方針で一致した。

 TPPは高水準の貿易・投資ルールであり、米国が離脱しても意義は大きい。日本こそが指導力を発揮し、発効の道筋をできるだけ早く整えなければならない。

 11カ国は「TPPの利益を実現する価値」を再確認した。各国の思惑が微妙に異なる中、ひとまず結束できた点は評価できる。

 離脱を表明した米国が復帰できるように配慮しつつ、TPP参加国の拡大に道を開く方針を示したのも妥当だ。ただ、11カ国によるTPP発効の具体的な手順を示すには至らなかった。

 日本やオーストラリアなどは、米国を含む12カ国で合意した内容は実質的に再交渉せず、発効条件など技術的な手直しだけで早期発効にこぎつけたい考えだ。

 これに対し、ベトナムやマレーシアは、米国が離脱するのであれば市場開放の合意内容の一部を再交渉したい意向とされ、日本との間で溝がある。

 11カ国は7月に日本で首席交渉官の会合を開くという。「TPP11」を漂流させず、11月の次の閣僚会合で合意できるように議論を主導するのが日本の責務だ。

 日本はTPPのほか、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉、日中韓など16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉にあたっている。米国とは経済対話も始まった。

 自由貿易のけん引役として日本はTPPを含む3つの協議すべてを同時に加速すべきだ。日米対話もしっかりと準備してほしい。

 大詰めを迎えている日・EU交渉が妥結すれば、保護主義の広がりに一定の歯止めをかけられる。日本との2国間協議に意欲的な米国をけん制できる効果もある。

 RCEP交渉では、日本は自由化の度合いの高い合意を求めている。質よりも早期合意を優先しがちな東南アジアの国々には、人材育成などの支援を約束しながら理解を求めていく必要がある。

 日米間では、世耕弘成経済産業相がライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と初めて会談した。自由貿易協定(FTA)、農業、自動車といった個別の話は出なかったというが、先行きの楽観は禁物だ。米側のあらゆる出方を想定して対話に備えるべきだ。

中東に欠かせぬイランの役割

 イラン大統領選挙で現職のロウハニ師が再選を決めた。国民は米欧との関係改善を掲げる大統領の対外融和路線を支持した。

 中東の安定には地域大国であるイランの役割が欠かせない。ロウハニ大統領は国民の期待に応え、引き続き国際社会がイランに抱く懸念の払拭に努めてほしい。

 ロウハニ政権は2015年、米欧やロシア、中国との間で、イランが核開発の制限を受け入れる見返りに、米欧がイランに科す経済制裁を解除することで合意した。

 今回の選挙では核合意の評価が争点になった。核開発をめぐる経済制裁は解除されたものの、テロ支援などを理由に米国が個別に続ける制裁のために、外国企業による投資や貿易再開の動きは鈍い。

 これに伴う経済回復の遅れを批判する保守強硬派のライシ師との事実上の一騎打ちになったが、ロウハニ大統領が大差をつけた。

 ロウハニ大統領の圧勝には、長い国際的な孤立から抜け出たいイラン国民の願いが込められていると言えよう。

 国際社会もこの結果を正面から受け止めるべきだ。中東は今、混迷を深めている。シリアやイエメンの内戦収拾やイスラム過激派の掃討にイランの関与は不可欠だ。

 ロウハニ師が再選を果たした直後、トランプ米大統領が就任後初めての外遊先として、サウジアラビアを訪問した。50カ国以上のイスラム諸国首脳を前に、「イランを孤立させなければならない」と演説した。

 イランを再び孤立に追い込むことは得策ではない。中東の問題解決にどう巻き込むかを考えるべきだ。ロウハニ政権が窮地に陥り、米欧に敵対的な勢力が台頭すれば、域内の核開発競争に火がつき、緊張が一気に高まりかねない。

 重要なのは米欧とイランの双方が核合意を順守し、国際社会がロウハニ政権との関係を維持することだ。そのためにはまず、イランが弾道ミサイル開発やテロ組織への支援について、疑念を持たれない行動を取ることが必要である。

(社説)米抜きTPP 旗を掲げ続けるには

 環太平洋経済連携協定(TPP)は、米国の離脱ショックに揺れながらも、漂流することは何とか避けられたようだ。

 米以外のTPP参加11カ国の閣僚会合が開かれ、共同声明にTPP早期発効へ向けた選択肢の検討を始めることが盛り込まれた。作業は11月までに終えるとしている。

 国内総生産(GDP)で見て域内の6割を占めていた米国の離脱が、TPPの意義と経済的な魅力を損なったことは否めない。それでも発効を目指すことで11カ国がまとまったことは評価できる。

 世界貿易機関(WTO)での交渉が停滞するなか、貿易自由化の主役は、二国間や地域内の自由貿易協定(FTA)に代わった。中でも規模が大きい「メガFTA」への期待は大きい。21世紀型の新たな通商ルールを目指して、その先頭を走ってきたのがTPPだ。

 とはいえ、各国の考えには溝も目立つ。ベトナムやマレーシアは、巨大な米国市場が開かれることを前提に、痛みを伴う国有企業改革などを約束した。米国抜きなら協定の見直しが必要という立場だ。

 カナダとメキシコにとっては、米国との北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が喫緊の課題だ。米抜きTPPを進めることがどう影響するか、見極めようとしている。ペルーやチリは、TPPに中国を加えることにも関心を示す。

 こうした個別の事情を乗り越えていく道筋はまだ見えない。議論を深める機運をいかに保ち続けるか。日本の提唱で7月に首席交渉官会合を開くことになったが、11カ国の中で経済規模が最大の日本がリーダーシップを発揮する機会である。

 米国に直言することも日本の役割だ。

 日米経済対話でも、日米間の通商問題に焦点をあてがちな米国に対し、日米によるアジアの通商ルール作りなど多国間の枠組みの意義を、粘り強く説き続けなければならない。日本が先頭に立ち、米国をTPPに呼び戻す可能性を探ることが、11カ国の結束を維持することにもつながる。

 アジア太平洋地域では、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の議論も進む。日本が高いレベルでの自由化を目指しているのに対し、中国は緩めのルールで新興国や途上国を取り込む動きを強めるとみられる。

 この地域で水準の高い自由化を実現していくためにも、先導役としてTPPの旗を掲げ続けることが欠かせない。

(社説)中台関係 現状維持が安定の道だ

 中国との関係を重んじる国民党から、台湾の独立を志向する民進党へ。政権の交代を果たした蔡英文(ツァイインウェン)総統が就任してから、20日で1年になった。

 この間、中台関係に大きな変動はなかったものの、少しずつ緊張が増している。

 蔡政権の姿勢は、対立を避けるために抑制的だったと評価できる。一方の中国・習近平(シーチンピン)政権は、国際的に大きな非難を招かない程度の抑圧や牽制(けんせい)を重ね、台湾への圧迫を強めてきた。

 民進党の元職員、李明哲氏が中国で「国家の安全に危害を与える活動をした」として拘束されたのは、その一例だ。2カ月が過ぎても連絡がとれず、国際人権団体が釈放を求めている。

 きのう始まった世界保健機関(WHO)年次総会には、09年以来続いた台湾代表の出席ができなくなった。中国の働きかけは明らかだろう。

 窓口機関の間で行われた中台対話は中断しており、中国から台湾への観光客は減った。

 圧力をかければかけるほど、台湾社会で中国への反感が強まるのは当たり前だ。

 いまの対立のもとは、中国が主張する「一つの中国」の原則を台湾が認めるのか、という問題をめぐるものだ。

 この原則は、台湾を中国の不可分の領土とする考えを含む。だから蔡氏は正面から答えずに「現状維持」を強調して接点を探った。それでも習政権は「答案はまだ完成していない」と、問いを突きつけている。

 台湾海峡に横たわる問いは、それだけではないはずだ。

 台湾では1991年、当時の李登輝政権のもとで、対中政策の基本方針となる「国家統一綱領」を定めた。その中で、中台統一への必要条件として、中国の民主化をかかげた。

 後に綱領は事実上廃止され、話題にならなくなったが、台湾社会の底流には中国の民主化をめぐる問題意識がある。

 台湾自身が80年代以降、民主化を経て今日に至っているからでもある。自由にものを言えるのか。政治に参加できるか。いつまで一党独裁が続くのか。習氏は答えられるだろうか。

 中国は一方的な要求を改め、自らを見つめ直し、民主化への歩みを探るべきだ。それなしに台湾の民意が中国になびくことはあるまい。

 現在の中台関係は「冷たい平和」と評されている。それでも貿易や人の往来は活発に続いている。この交流を広げつつ、中台とアジア太平洋地域の安定を図ることしか、いまの中台関係の中で選べる道はない。

北ミサイル発射 安保理は早期に追加制裁せよ

 北朝鮮が無謀な軍事挑発を加速させた。国際社会は結束し、追加制裁を科すことが急務だ。

 北朝鮮が、新型の中距離ミサイル「北極星2型」を発射した。約500キロ飛行して日本海に落下した。弾道ミサイルの発射は今年、既に11発目で、前回からわずか1週間後というペースの速さだ。

 固体燃料を使う北極星2型は、発射の兆候を探知しづらい。今回の実験には、奇襲能力の向上を誇示する狙いがあろう。

 朝鮮労働党の金正恩委員長は、北極星2型について「大量生産し、軍に装備させねばならない」と述べ、実戦配備を指示したという。「核戦力の多様化、高度化」で米国に対抗するとも表明した。

 北朝鮮は常に、自らの戦力を誇大に喧伝(けんでん)する癖がある。失敗を重ねた新型ミサイルが実用段階に達したとの主張には、疑問が残る。だが、ミサイル技術の進展は否定できず、警戒を怠れまい。

 米軍は、「カール・ビンソン」と、横須賀を母港とする「ロナルド・レーガン」の空母2隻態勢で北朝鮮を牽制(けんせい)する。金政権は、こうした軍事圧力には屈しない姿勢を強調したいのだろう。

 安倍首相は、ミサイル発射に関して、「国際社会の平和的解決に向けた努力を踏みにじるもので、世界に対する挑戦だ」と厳しく非難した。当然の指摘である。

 国連安全保障理事会は、日米韓3か国の要請で、23日に緊急会合を開く方向だ。新たな制裁決議を早期にまとめ、北朝鮮包囲網を強化しなければならない。

 安保理は再三、北朝鮮を非難する声明を発表している。日米両国などが追加制裁を主張するが、中国、ロシアが慎重で、より強力な制裁は実現せず、北朝鮮の挑発を許す結果を招いている。

 日米両国は、既存の決議よりも実効性が高く、北朝鮮に対する影響力の大きい措置を求めている。北朝鮮と取引のある中国などの銀行や企業を対象とする制裁や、原油の輸出制限である。

 中国は2月、石炭輸入の停止を発表したが、十分ではない。中露両国は、北朝鮮に安保理決議違反の行為を自制させられない以上、制裁強化に応じるべきだ。

 安倍首相は、イタリアで26日から開かれる主要国首脳会議(タオルミーナ・サミット)で、北朝鮮を主要議題とし、強いメッセージを打ち出したい考えを示した。

 日米両国の主導で、国際社会が核・ミサイル開発の放棄を迫る体制を構築することが重要だ。

イラン大統領選 国際協調路線が信任された

 国際的な孤立から脱却し、経済の再建を進める路線が、有権者から信任されたと言えよう。

 イラン大統領選で、対外融和を重視する保守穏健派のロハニ大統領が、再選を果たした。「イランは世界と協調する道を選んだ」と勝利宣言し、政策の継続を訴えた。

 1期目の実績として強調したのは、イランが核開発を制限する見返りに、米欧が原油禁輸などの経済制裁を解除する「核合意」だ。2015年に、米英仏など6か国とイランの間で結ばれた。

 「核合意によって、戦争を防げた」というロハニ師の主張には、説得力がある。合意の効果に懐疑的な保守強硬派のライシ前検事総長が当選すれば、反米路線に逆戻りし、緊張が再び高まるのは避けられなかっただろう。

 ロハニ政権の2期目の課題は、制裁解除の「果実」を国民に幅広く行き渡らせることである。

 世界4位の埋蔵量を持つ原油の生産は増加したが、失業率は12%と高い水準にとどまる。約8000万人の人口の半分を占める若年層では、26%に達するという。

 外国企業の投資が伸び悩み、雇用が増えていないのが原因だ。イランとのビジネスを阻害する国内外の問題が背景にある。

 政教一致のイランでは、宗教的な権威である最高指導者のハメネイ師が全権を握り、保守強硬派が支える。ハメネイ師が直轄する軍事部門の「革命防衛隊」は、シリアの内戦などに介入し、国内経済の利権も抱える。

 ロハニ師が公約した対外関係の改善や外資導入、腐敗撲滅に、保守強硬派が抵抗を続けるのは必至だ。政権が一連の政策を実現し、地域大国として、中東の安定に寄与するには、国内世論と国際社会の後押しが欠かせない。

 日本からは、多くの企業がイランに進出する。4月には投資協定が発効した。関与を強めたい。

 懸念されるのは、トランプ米大統領の敵対的な姿勢だ。核合意を「最悪の取引」と非難し、イランのテロ支援などに対する米国の独自制裁を維持している。

 初外遊では、イランと断交中のサウジアラビアを訪問し、12兆円規模の兵器供与契約を締結した。テロ対策とイランへの圧力を目的に、サウジを中心とする中東諸国と新たな安全保障連合を創設する構想も検討中だという。

 イランを追い詰めれば、保守強硬派の発言力が強まり、地域が不安定化しかねない。トランプ氏には慎重な対応が求められる。

2017年5月22日月曜日

日本のエレクトロニクスは復活するか

 自動車と並んで産業界の2本柱だった電機産業だが、昨年はシャープが台湾の鴻海精密工業の傘下に入り、今は東芝が巨額の赤字に苦しんでいる。日本の電機は復活できるだろうか。

 こうした厳しいニュースが前面に出る中で意外かもしれないが、実は電機全般の業績はまずまずだ。正式の決算発表ができていない東芝を除いたベースで、上場電機メーカーの2017年3月期の合算純利益はその前の期に比べ1千億円以上の増益になった。

 円高が進む逆風のもとでの増益達成であり、コスト削減や事業の絞り込みなど経営努力の成果として一定の評価ができるだろう。

 いま有力メーカーの多くが力を入れるのは部品や製造設備のような中間財・生産財だ。

 キヤノンで最も伸びの目立つ事業は韓国サムスン電子を主力顧客とする有機ELパネルの製造装置だ。パナソニックは車載部品を成長戦略の柱として位置づけ、米テスラなどに供給する電気自動車(EV)搭載用の2次電池で大型投資を展開する。

 海外の戦略的顧客と太いパイプを築き、彼らが必要とする技術を供給する、いわば「裏方」役に徹する事業モデルである。

 逆にかつて日本勢が得意とした自ら最終製品を企画・生産し、世界の消費者に売り込むビジネスはすっかり影が薄くなった。米国で人気の「スマートスピーカー」の主役はアマゾン・ドット・コムやグーグルなどのITの巨人であり、日本企業の名前が見当たらないのはやはりさみしい。

 「裏方」モデルも悪くないが、それと同時に「ウォークマン」やVHS型VTRのような世界的ヒット商品の再来を期待するのは無いものねだりなのだろうか。

 失敗に学ぶことも重要だ。東芝の今の経営トップは医療機器事業の出身であり、規模も時間軸も違う原子力発電事業について十分な知見があるとは見えない。広げすぎた事業範囲を絞り込み、焦点を絞った専業企業として再出発するという選択肢もある。

 「日の丸」への過度のこだわりもよくない。鴻海傘下のシャープが復調の手掛かりをつかんだのに対し、政府系ファンドの主導で発足したジャパンディスプレイは経営の混乱が長引いている。事態が行き詰まったときには、自前主義を捨て、外部の資本や人材を受け入れるのも一つの方策である。

改善が必要な高齢者がん治療

 厚生労働省は高齢がん患者の診療指針づくりに乗り出す。がん患者は高齢化が進み、約4割が75歳以上だ。薬の効果がはっきりしないまま、副作用に悩みながら治療を受け続ける例も多い。医療費が増える一因ともなっており、指針の作成は意義があろう。

 同省は今年度から6年間のがん対策の方向を示す「第3期がん対策推進基本計画」に、指針づくりを盛り込む方針だ。

 がんは種類や進み具合の診断結果に応じて最適と考えられる「標準治療」をまず実施するのが一般的だ。しかし、根拠となる臨床研究の多くは若い患者が対象だ。

 高齢患者にとって標準治療はリスクが大きい場合もある。生活の質(QOL)を考えて積極的に治療しない選択肢もありうる。

 経験豊富な医師は患者の表情によって治療内容を変えるというが、限界がある。科学的に根拠のある判断基準を設ければ、診断や治療の質の底上げにもつながる。

 それには国立がん研究センターや学会の協力を得て治療データを集め、副作用や効果を丁寧に調べる必要がある。

 ただ、結果をがん治療の現場にそのまま当てはめられるとは限らない。余命を延ばしたりQOLを高めたりできる可能性が低い治療法を、医療保険でどう扱うかなど慎重な議論がいる。

 がんの症状の表れ方は千差万別だ。治療を続けるか否かには一人ひとりの死生観も絡む。医師は指針をもとに、体の状態に応じた選択肢を十分に説明し、患者や家族の納得を得なければならない。

 がんは通院などの都合から、住まいの近くで治療を受ける場合が多い。中小の病院が、がん治療に重点を置く拠点病院と緊密に連携する仕組みも整える必要がある。

 将来的にがんの性質や薬への反応を判定できる遺伝子解析技術が進めば、年齢と無関係に患者にもっとも適した治療を提案できるようになるだろう。日本の取り組みは、これから高齢がん患者が増える他国のモデルにもなるはずだ。

(社説)安倍政権 知る権利に応えよ

 疑惑がもたれれば、必要な文書を公開し、国民に丁寧に説明する。政府として当然の責務を果たす気があるのだろうか。

 安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画に関する文書について、松野博一・文部科学相は「存在を確認できなかった」との調査結果を発表した。職員への聞き取りや、担当課の共有フォルダーなどを調べた結論だという。

 調査は実質半日で終了した。個人のパソコンは確認せず、「必要もないと考えている」とし、追加調査もしないという。あまりにも不十分で、問題の沈静化を図ったとしか見えない。

 焦点の一つは、学部新設で「総理の意向」があったかどうかだ。意思決定までの過程を文書で残すことが、文科省の行政文書管理規則で定められている。しかし同省は報道等で出た該当文書を探しただけという。これで調査といえるのか。再調査をすると同時に、事実関係の確認も徹底すべきだ。

 今回の政府の対応に、多くの国民が「またか」と感じているのではないか。学校法人・森友学園問題でも、情報公開への後ろ向きな姿勢が際立った。

 NPO法人「情報公開クリアリングハウス」は19日、学園との交渉記録を公開するよう国に求め、東京地裁に提訴した。財務省に残っているはずの電子データの証拠保全も申し立てた。

 三木由希子理事長は「国の姿勢を見過ごせば、これからも国民に必要な情報が次々と廃棄され、情報公開制度は成り立たなくなる。私たちの権利に対する重大な挑戦だ」と指摘する。

 別の市民団体も、財務省が面会記録などを廃棄したのは公用文書等毀棄(きき)罪にあたるとして幹部らを刑事告発した。

 多くの人が怒り、疑問を抱き、もどかしく感じている。

 そもそも森友問題が浮上した発端は、地元の大阪府豊中市議が、国有地の売却価格の公開を求めたのに、国が黒塗りにして隠したことだ。市議が公開を求めた裁判で、国は今も「開示すれば不当に低廉な金額で取得したような印象を与え、学園の信用、名誉を失墜させる」と主張する。国有地は「国民共有の財産」であることを忘れたのか。

 国民主権は、政府が国民に情報を公開し、施策を検証できてこそ実のあるものになる。情報公開に対する国の後ろ向きな態度は、国民主権を支える「知る権利」を脅かすものだ。

 「公正で民主的な行政の推進」を掲げた情報公開法の理念に、政府は立ち戻るべきだ。

(社説)イランの選択 対外融和の流れ加速を

 せっかく改善した国際社会との関係を逆戻りさせたくない。そんな国民の思いがまさったのだろう。イランの大統領選挙で、対外融和を進めてきた現職のロハニ大統領が再選した。

 核開発をめぐる2年前の国際合意により、米欧による制裁は緩められ、イランの孤立的立場はわずかずつ変わりつつある。その流れが加速するよう、国民は期待を寄せたのだ。

 大統領は選挙後のテレビ演説で「イランは世界と協調する道を選んだ」と述べた。その言葉どおり、今後4年間、緊張緩和の努力を重ねてほしい。

 選挙は、保守穏健派の現職大統領に、保守強硬派のライシ前検事総長が挑む構図だった。

 核合意は、国連安保理常任理事国とドイツの6カ国にウラン濃縮などの縮小を約束したが、ライシ師はそうした米欧との妥協を嫌う姿勢を示した。

 そのライシ師が4割近くの票を集めたのは、国民の間に核合意の「果実」が浸透していない現実への不満があるからだ。

 合意後、石油生産は回復し、インフレも収まったが、失業率は依然高い。世論調査では国民の7割が「暮らしは上向いていない」と答えている。

 イランの体制では、最高指導者ハメネイ師が最終決定権をもち、大統領の権限は限られる。国民の不満が高まれば、「外国に譲歩しても利益はない」と説く強硬派が伸長し、ロハニ政権は苦境に陥りかねない。

 中東では、同じイスラム教の中でシーア派のイランとスンニ派の国々の間で緊張が続く。スンニ派の盟主サウジアラビアとイランは昨年国交を断った。

 イランの軍部はミサイル開発を続け、シリアやイエメンの内戦などに深く介入している。

 イランの動向は、中東だけでなく国際情勢の安定にも影響する。強硬派や軍部の独走を抑え、穏健派が政権を着実に運営していくには、国際社会からの支援も必要だ。

 その意味で、事態をこじらせるような無責任さが目立つのが米国である。オバマ前政権が核合意づくりを率先したものの、米議会はイランへの強硬姿勢を崩さず、トランプ大統領もイランへの敵視を隠さない。

 トランプ氏はサウジ訪問で、イラン以外のイスラム諸国との首脳会議を開き、「イラン包囲網」とも映る動きを見せた。

 中東の和平を実現するには、米国とイランの関係改善は必須条件である。イラン国民が示した融和の意思にこたえるためにも、トランプ政権はロハニ政権との歩み寄りを探るべきだ。

TPP閣僚会合 11か国で早期発効へ歩み寄れ

 米国の離脱で暗礁に乗り上げている環太平洋経済連携協定(TPP)が何とか命脈を保ったと言えよう。

 米国を除く参加11か国によるTPP閣僚会合が開かれた。「TPPの戦略的・経済的意義を再確認した」との共同声明を採択し、11か国が結束していくことで一致した。

 米国が抜けて初の閣僚会合で、11か国が協定実現への意欲を共有できたのは一定の成果だ。

 協定は、米国の離脱で発効できなくなっている。声明は「早期発効のための選択肢」を11月の次回会合までに詰めるとした。

 期限を区切り、議論の停滞を防ぐという狙いだろう。今秋までの協議が極めて重い意味を持つ。

 日本が提案した7月の高級事務レベル会合の開催も歓迎された。経済規模が突出する日本のリーダーシップの発揮が欠かせまい。

 米国を中心とする保護主義の台頭に対抗し、世界の自由貿易体制を守る。高い水準の貿易・投資ルールを定め、他の経済連携協定でも質の向上を促す。11か国でのTPPの着実な推進が、日本の通商戦略上も極めて重要である。

 今後の協議は予断を許さない。米国抜きの枠組みを巡っては、各国の思惑が交錯している。

 対日輸出の増加をにらむ豪州やニュージーランドは積極的だ。米市場を重視するベトナムやマレーシアは慎重姿勢を崩さない。

 11か国での発効を目指す協議が本格化すれば、ベトナムなどが現在の協定内容の大幅な変更を求めかねない。その場合、協定が漂流する恐れが大きくなる。

 現実的な対応として、日豪など5か国程度で、既に合意済みの内容を踏襲する形で先行発効させる案も取りざたされている。

 ただし、枠組みが縮小していけば、巨大経済圏を構築するTPPの意義が減じるのも事実だ。

 協定内容の大幅な変更を避けつつ、いかに意見の相違点を克服できるか。そこが問われる。

 日本は今回の声明を踏まえ、各国にTPPの戦略的メリットを粘り強く訴え続けねばなるまい。

 同時に、米国をTPP体制に引き戻す努力も欠かせない。

 声明は「原署名国の参加を促進する方策」を講じると明記した。米国を念頭に、新たな参加希望国よりも加盟手続きを簡略化する方法などを想定している。

 米国が直ちに離脱方針を変える可能性は低いとしても、合流への扉を常に開いておくことが、11か国の結束にも有益だろう。

ゲノム編集技術 適正な活用にルール備えたい

 遺伝子を効率良く改変するゲノム編集技術を、どこまで活用すべきか。政府によるルール作りと環境整備が大切だ。

 ゲノム編集技術で人の受精卵の遺伝子を操作する研究について、内閣府の生命倫理専門調査会が、ルールの在り方に関する検討を始めた。

 日本は、海外に比べて取り組みの遅れが指摘されている。

 技術の進展に即したルールの不備が大きな要因だ。研究者の多くが、人の受精卵を用いた研究を自粛している。政府として早急に対策を講じることが求められる。

 生命の根幹を操作できるゲノム編集技術は、各種の細胞に応用できる。中でも、調査会が検討対象とした受精卵の遺伝子操作は、最も注目される分野である。

 遺伝子変異による疾患は、成長した細胞の遺伝子を改変しても、根治につながりにくい。受精卵の段階で原因となる遺伝子を改変・除去できれば、発症しない。

 不妊治療でも、受精卵の遺伝子を操作して、着床しやすくする手法などが模索されている。実現すれば、不妊に悩むカップルにとって朗報となるだろう。

 世界的には、臨床への応用が現実味を帯びている。

 英国や中国などでは、基礎研究が国の指針などで認められ、受精卵での研究が実施されている。米国の専門家会議は2月に、ゲノム編集技術で受精卵の遺伝子を操作する治療を、条件付きで容認する報告書をまとめた。

 忘れてはならないのが、負の側面だ。遺伝子操作で子供の能力向上を目指す「デザイナーベビー」につながらないか。遺伝子改変が健康に悪影響をもたらし、次世代に拡大するリスクはないか。

 不妊治療施設などが危険な応用を試みる恐れがある、と警鐘を鳴らす生命倫理の専門家もいる。

 適正な研究は認めつつ、懸念に応えるルールとすべきだ。

 受精卵の扱いを巡っては、専門調査会が2004年に「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」をまとめ、慎重な対応を求めた。これに基づき、厚生労働省や文部科学省が関連指針を設けて、個別の研究の是非を審査している。

 生殖技術は、さらに先を行き、この指針は実態にそぐわなくなった。海外では、受精卵や卵子そのものを改変する「核移植」で、子供が誕生したとされる。

 技術の進展に対応できるよう、受精卵だけでなく、卵子・精子など生殖細胞の扱いについても、抜本的に見直す必要がある。

2017年5月21日日曜日

保育拡充で仕事と子育ての両立支えよ

 働きながら、子育てしたい。そう願う人にとって、保育サービスの不足は大きな足かせだ。待機児童の解消はなお見通せず、若い世代の将来への不安はつきない。

 政府は6月に待機児童解消に向けた新しい計画を公表する。仕事と子育ての両立を支える、実効性の高い道筋を示してほしい。

 政府は2013年に、17年度末までの待機児童解消を掲げ、対策を急いできた。民間の力を生かした企業主導型保育事業など新たな仕組みも設け、保育の受け入れ枠を大きく増やしたが、働きたいという人が多く、待機児童の数は高止まりのままだ。もう一段の強い取り組みが要る。

 保育拡充は、女性の就労を後押しするだけでない。安心して両立できると分かれば、出産をためらってきた人の不安は薄れるだろう。経済的な理由で結婚に踏み切れない人にとっても、共働きをしやすくなることは追い風だ。少子化対策としても意義がある。

 見直しで問われるのは、安倍政権の本気度だ。保育拡充を未来への投資と位置づけ、説得力ある財源を示すことが欠かせない。

 日本の社会保障は、高齢者向けに偏りがちだ。効率化で給付の無駄を省くとともに、一定の資力がある高齢者には自己負担を増やしてもらう。こうした工夫で、子どものために財源を振り向ける議論を始めなければならない。これにより将来世代が増えていけば、社会保障制度の安定性を高めることができる。

 気になるのは、こうした議論なしに、従来の延長線上での予算確保に終始してしまうことだ。

 例えば、企業が負担している子ども・子育て拠出金や、児童手当の見直しで財源を確保するという考え方もある。これ自体は一考に値するだろうが、いずれも子ども関連の枠から出ていない。それだけで、十分な対策を打ち出すことができるだろうか。

 少子高齢化が進む日本では、働きながら子どもを産み、育てやすい社会に変えていくことが欠かせない。両立を阻む壁をいかに低くしていくか、財源や制度はどうあるべきか。グランドデザインを示すことができれば、若い世代が未来に明るい展望を持てるようになる。

 そしてこのことが、人口減少の圧力を緩和し、日本経済の持続的な成長につながる。官邸が強く主導して取り組むべきだ。

銀行は収益構造の改革を急げ

 銀行の2017年3月期決算が出そろった。日銀が昨年2月に始めたマイナス金利政策が通期で響く最初の年度決算は、地方銀行の収益環境の厳しさが改めて鮮明になった。メガバンクは比較的堅調だったが、新たな成長の見取り図が描けているとは言いがたい。

 大手銀の前期の合計純利益は3年連続で減ったが、減益率は3%にとどまった。マイナス金利の影響で国内の貸出業務の利ざやが縮小した分を海外での収益で埋め合わせた。

 最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)の純利益は9264億円。4期連続で1兆円前後の利益を計上した。傘下ノンバンクで500億円の損失が生じたが、米投資銀行やタイ子銀行が好調だった。三井住友FGは7千億円、みずほFGは6千億円と、計画並みの純利益は確保した。

 リーマン危機下の08年度に45件あった国内上場企業の経営破綻は、26年ぶりにゼロになった。新規の大型の経営不振企業への対応も事実上、東芝1社に限られた。

 だが現状に安住していては日本経済の活性化に貢献するという銀行の使命は果たせまい。3メガ銀行を合わせた現金・預け金は2割以上増えた。貸し出しを増やせず、顧客に適切な投資商品を提示していない現状を端的に示す。

 メガバンクはこれまで相乗効果が不十分だったグループの銀行・証券・信託の力を結集し、収益の構造改革を加速させるべきだ。ITを活用したフィンテックへの取り組みの強化も欠かせない。

 一方、海外展開が難しい地銀合計の純利益は11%減った。地元経済の地盤沈下で新規の貸出先は乏しい。利回りを稼ぐため外債投資に資金を振り向けたが、米国債の価格下落で損失を被る地銀が続出し、八方ふさがりの感もある。

 スルガ銀行のように戦略を工夫することで連続最高益を計上する地銀も出てきている。業界内では再編や大胆な提携が増えてきた。あらゆる選択肢を視野に、生き残りの方策を模索する時期だ。

(社説)入試英語改革 「話せる」授業どう作る

 センター試験の後を継ぐ「大学入学共通テスト」の大枠が示された。大きく変わるのは英語だ。マークシートでは測れない話す力と書く力も問うために、英検やTOEFLのような民間の検定試験を使うという。

 語学は、使えてこそ意味がある。「読める」「聞ける」だけでなく、「話せる」「書ける」もめざすのは当然だ。

 ただ、2020年度入試、つまり今の中3から実施するという方針には疑問がある。

 計画通りなら、各高校は新入生を迎える来春までに、この四つの技能をきちんと教えられる体制を整えないといけない。

 果たして間に合うのか。そこまで急ぐ必要があるのか。

 準備不足のまま改革に踏み出せば、困るのは生徒たちだ。

 今の学習指導要領も、4技能を総合的に養うことを求めている。だが実態はどうだろう。

 高3を対象にした2年前の抽出調査では、文部科学省が求める「日常の事柄について単純な情報交換ができる」(英検準2級程度)という水準を超えた生徒は、「話す」が1割強、「書く」は2割にとどまった。

 これは読解・文法中心の授業を脱しきれない現実を映す。スピーチや討論に取り組む教員が「圧倒的に少ない」と、文科省自身が調査で指摘している。英語を教える教員自身の英語力も、国の目標に達していない。

 学校の授業で話す力、書く力が十分身につかなければ、生徒たちは塾や英会話教室に頼るだろう。お金があり、都会に住んでいれば、事前に民間試験を何度も「お試し」で受けて場慣れすることもできる。貧富や住む地域による有利・不利の差が、今以上につきかねない。

 なによりも授業改善を急ぐ必要がある。研修を徹底して教員の腕を磨くのがいいのか、外部講師の力を借りるべきなのか。それともネットや動画を使って学ぶ方法が効くのか。これらを組み合わせる道もあるだろう。検討してもらいたい。

 文科省は「民間試験の導入後も、23年度まで現行方式の英語試験も残す」という選択肢も示している。高校や大学に戸惑いがあるのを受けたものだろう。

 22年度には新指導要領が実施され、地理歴史などの科目再編がある。入試改革のタイミングはその時にも来る。今回の方針に無理はないか、現場の声にじっくり耳を傾けてほしい。

 受験は生徒にとって大きな負担ではあるが、将来役に立つ力をつける機会にもできる。だからこそ、できる限り公平な仕組みに仕上げたい。

(社説)米政権の疑惑 外交への波及を憂う

 法治国家としての米国の真価が問われるだけではない。国際秩序の安定という観点からも心配される事態である。

 昨年の大統領選にロシアが関与した疑惑で、米国が揺れている。連邦捜査局(FBI)の捜査をトランプ大統領が妨げようとした疑いも浮上した。

 司法省は高い独立性をもつ特別検察官を任命した。捜査が進む今後、米国の政治はこの疑惑をめぐる紛糾が続きそうだ。

 朝鮮半島の緊張や南シナ海問題、中東の混迷などの懸案の中で、米国は安定を築く役割を果たすべき立場にある。しかし、内政の混乱が続けば米国の対外政策にも影を落とすだろう。

 コミーFBI前長官を突然解任するなど強引な対応を重ねたトランプ氏の責任は重い。捜査に全面協力し、国民への説明も尽くして、政権運営の正常化を急ぐべきだ。

 特別検察官になった元FBI長官のマラー氏には当然、厳正な捜査を進めてもらいたい。

 トランプ氏による捜査妨害の疑いは重大である。コミー氏に捜査の中止を求めていたという報道が事実ならば、弾劾(だんがい)訴追に値する。米国が世界に唱えてきた「法の支配」の原則は今後、説得力を失うだろう。

 大統領選前後のトランプ陣営とロシアの関係も、十分に解明されなくてはならない。

 選挙中のクリントン陣営からのメール流出に、ロシアは関与したのか。トランプ陣営とロシアの間に癒着があったのか。米ロ両国が健全な関係を取り戻すうえでも真相究明が必要だ。

 トランプ氏とロシアの関係をめぐっては、米国の同盟国イスラエルから提供された機密情報を自ら、ロシア外相に伝えていた問題も報じられた。

 違法ではなくても、提供国の同意を得ずに機密情報を他国に渡せば、同盟関係にひびが入る事態になりうる。トランプ政権をどこまで信頼できるのか、日本を含む世界の対米同盟国に重い疑念を広げかねない。

 政権発足から4カ月、トランプ氏の軽率さや身勝手さを示す言動があとを絶たない。国民の支持率も低迷を続けたままだ。

 それでも本人はなおも「自分ほど不公平に扱われた政治家はいない」と開き直っている。

 国の指導者として尊重すべき司法・情報機関やメディアとの不毛な対立はやめて、山積する課題に真摯(しんし)に取りくむ政治姿勢をなぜ示せないのか。

 大統領の権力を監視するのは、司法、議会、メディアの役割である。米国の民主主義の底力が引きつづき試されている。

GDPプラス 持続力を高める工夫が必要だ

 景気は息の長い回復を続けているが、勢いは今ひとつである。力強い成長の実現へ、日本経済の底力を高めたい。

 内閣府が発表した今年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0・5%増、年率換算で2・2%増となった。5四半期連続のプラス成長は、約11年ぶりのことである。

 牽引けんいん役は前期比2・1%増と高い伸びになった輸出だ。北米やアジアなど海外の好景気に支えられた。アジア向けでは、半導体関連機器などが好調だった。

 内需の柱の個人消費も、0・4%増と堅調に推移した。生鮮食品の高騰が一服し、消費者心理が改善したことが大きい。

 内需と外需がバランス良く成長したのは、明るい材料である。

 ただし、外需の先行きは不透明だ。北朝鮮などの地政学リスクやトランプ米政権の保護主義的な通商政策に注意が要る。

 消費が増加基調をどこまで保てるのか、不安な面もある。

 気がかりなのは、賃金の伸びの鈍化だ。給与などの実質雇用者報酬は前年同期比0・5%増と、前期の2・2%増から減速した。

 賃金の伸び悩みが消費を冷やす事態は避けねばならない。

 今年の春闘では、約2%の賃上げが確保された。4~6月期にはこれが反映されよう。企業の好業績が賃金を押し上げ、それが消費を活性化させる「好循環経済」につなげることが求められる。

 それには、賃上げに加えて、職業訓練などで労働者の能力向上を図り、1人当たりの生産性を高めることが大切である。

 企業の収益アップと、従業員の処遇改善につながろう。

 非正規雇用者から正規雇用への移行を容易にし、雇用環境を底上げすることも急がれる。

 年金など社会保障制度に対する将来不安が、消費者の節約志向を強めている面もある。

 消費税率引き上げの2度の延期を受けて、社会保障・税一体改革の実現をどう図っていくのか。持続可能な制度への道筋は、依然として示されていない。

 GDP速報で、設備投資が前期比0・2%増の低い伸びにとどまったのは、やや物足りない。

 人手不足などの克服を目指す省力化投資は、企業にとって喫緊の課題である。ため込んだ多額の内部留保を、もっと積極的に活用してもらいたい。

 政府も、新産業育成を支援する規制改革を聖域なく実施し、企業の背中を押す必要がある。

自民麻生派拡大 人材育成にも力を注いでは

 自民党の派閥の地盤低下が指摘されて久しい。存在意義を示すには、規模拡大だけでなく、政策提言や人材育成にも力を入れる必要があろう。

 自民党の麻生副総理と山東昭子・元参院副議長、佐藤勉衆院議院運営委員長が会談し、新派閥の結成で合意した。

 7月上旬にも、麻生派(44人)、山東派(11人)、佐藤氏のグループ(6人)が合流する。

 新派閥は、額賀派(55人)を抜き、細田派(96人)に次ぐ党内第2派閥になる見通しだ。会長には麻生氏が就き、山東氏は会長代行、佐藤氏は会長代理を務める。

 麻生、山東両派は一貫して安倍首相を支持している。党内の「安倍1強」体制に変わりはない。夏以降の内閣改造や、来年秋の自民党総裁選に向けて、党内での影響力を増したいのだろう。

 麻生氏は「小さな派閥の乱立より、大きな派閥があった方が政権を安定させる」と語る。党内での「疑似政権交代」が可能な2大派閥を形成すべきだとの立場だ。

 将来的には、岸田派(46人)と合流する「大宏池会」構想もにらんでいるとみられるが、ポスト安倍の行方とともに流動的だ。

 自民党の派閥は伝統的に、自らの領袖(りょうしゅう)を総裁選で勝たせるため、激しい権力闘争を展開する主体だった。1990年代の衆院選への小選挙区制導入で、選挙の公認などで党執行部の権限が強まり、派閥の力は相対的に衰退した。

 小泉政権では、閣僚・党三役人事で派閥の意向が無視され、さらに派閥の求心力は弱まった。今も、派閥が直接関与するのは副大臣以下のポスト配分に限られる。

 無派閥議員が80人以上もおり、党全体の約2割を占めていることが、派閥に所属するメリットの小ささを象徴している。

 安倍政権では、首相官邸が政策決定を主導する「政高党低」の構図が続く。内閣が政策を主導するにしても、政治家が志を持って党の政策を立案・提言することまで否定されるべきではあるまい。

 若手の人材育成も重要課題だ。自民党の衆院議員は当選3回以下が過半数である。特に2012年に初当選した100人余には不適切な言動の議員が目立ち、政治家の質の低下が問題視される。

 党執行部は、若手対象の国会活動などの研修を検討したが、実現していない。かつては派閥が人材育成の一翼を担っていたこともある。今の派閥にも、こうした地道な活動に正面から取り組むことが求められるのではないか。

2017年5月20日土曜日

台湾は改革推進で中国の風圧しのげるか

 台湾の蔡英文総統が就任して1年がたった。社会的少数派への目配りや「脱原発」などリベラルな改革を打ち出す一方、外交・安全保障の面では現実主義的な構えで中国との間合いをはかり緊張の高まりを防いできたといえる。

 ただ、中国の圧力もあって経済は停滞感を払拭できていない。この1年で政権への支持率は大きく下がった。残る3年の任期中に改革をどこまで軌道に乗せ、経済を立て直せるかが問われる。

 内政ではリベラルな路線が鮮明だ。蔡総統は昨年夏、先住民が不公平な待遇を受けてきたとして、歴代の総統のなかで初めて正式に謝罪した。同性婚を法的に認める民法改正案を立法院(国会に相当)に提出し、原子力発電所の運転を2025年までにすべて停止するための法改正を実現した。

 アジアでは異例なほどにリベラルな政策で、強権的な中国とは対照的な存在感を世界に発信する戦略と評価できよう。

 外交・安保では現実主義的な姿勢が目につく。緊張が高まらないよう中国の圧力に過敏に反応することを控える一方で、防衛力の充実をすすめていく方針だ。

 蔡総統に「一つの中国」の考え方を受け入れるよう求めている中国は、経済、外交、軍事といったさまざまな角度から圧力を強めている。対して蔡総統は「一つの中国」を受け入れない考えを繰り返し表明しており、中台関係はかなり冷却化した。

 世界保健機関(WHO)のような国際的な枠組みから台湾を排除しようとする中国の取り組みは、グローバルな課題への対処にマイナスだ。軍事的な圧力は台湾の有権者の中国への反発を強めるだけでなく、東アジアに緊張をもたらしかねない。より柔軟な台湾政策を、習近平国家主席は模索する必要があるのではないか。

 台湾の外交・安保では米国がカギを握る。トランプ米大統領はこのところ、就任前とは打って変わって対中融和姿勢を鮮明にしている。蔡総統は米国から先進的な武器・装備を購入したい意向だが、トランプ政権が中国に過度に肩入れすれば困難の度は増す。

 蔡総統にとって幸いなのは、政権への支持率は下がっているのに最大野党の国民党が党勢を回復できていないことだ。中間選挙にあたる来年の統一地方選までに、改革の実行と経済の立て直しに一定の成果をあげたいところだ。

2%成長に慢心せず改革を

 内閣府が発表した1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質ベースで前期比0.5%増、年率換算で2.2%増となった。

 0%台後半といわれる潜在成長率を大きく上回る成長を達成した。政府はこれに慢心せず、日本経済の実力を高める構造改革を断行していかねばならない。

 1~3月期の日本の実質成長率は、米国やユーロ圏、英国を上回った。約11年ぶりに5四半期連続のプラス成長となり、ひとまず景気の足どりはしっかりしていると評価できる。

 経済成長の中身も比較的よい。0.5%の実質成長率の内訳をみると、0.4%分が内需、残りの0.1%分が外需と、バランスがとれている。

 個人消費は前期比で0.4%増えた。生鮮食品の価格高騰がおさまったほか、スマートフォン(スマホ)や衣服の消費が増えた。

 輸出は相変わらず堅調だ。中国経済をはじめとして世界経済の回復基調が強まっている背景がある。特にアジア向けの半導体製造装置や電子部品、中国向け自動車部品などが増えている。

 気になるのは、賃金総額を示す雇用者報酬が実質ベースで前年同期比0.5%増と、伸びが大きく鈍化した点だ。

 雇用情勢の改善は続いているものの、1人当たりの賃金が伸び悩んでいるからだ。賃金が低迷したままだと、個人消費の持続力に不安を残す。仮にエネルギー価格が上昇し、電気代やガス代などへの転嫁が進めば、家計の実質的な購買力が低下し、個人消費が下振れするリスクにも注意しなければならない。

 企業は成長力を高め、持続的な賃上げや攻めの投資に踏み込んでほしい。政府は構造改革の加速でその環境を整える必要がある。

 最近の消費低迷は、若年層を中心とする将来不安が一因でもある。持続可能な社会保障制度をつくる改革や、骨太な労働市場改革から政府は逃げてはならない。

(社説)「共謀罪」採決 国民置き去りの強行だ

 「法案の内容を知らない」63%、「いまの国会で成立させる必要はない」64%、「政府の説明は十分ではない」78%――。

 「共謀罪」法案をめぐる朝日新聞の最新の世論調査の結果だ。首相がその厚さを自慢する内閣支持層についてみても、回答状況は順に60%、56%、73%と同じような傾向にある。

 法案への理解がまったく進んでいないにもかかわらず、自民、公明両党はきのうの衆院法務委員会で、日本維新の会と共同で提出した修正案の採決を強行した。

 国民の声に耳を傾け、施策の必要性を説明し、不安の解消に努める。政治に求められるこうした責務を投げ出し、数の力で主張を押し通す政権の体質が、ここでもあらわになった。

 委員会で本格審議が始まったのは先月19日。以来、思わずため息の出る光景が続いた。

 金田法相に代わって刑事局長が答弁を引きうける。ようやく法相の出番が来たと思ったら、後ろに控える別の役人が耳打ちする内容を、ただ繰り返す。かみ合わぬやり取りが続き、時間だけが空疎に過ぎる。

 これが、与党が一方的に採決のめどに設定した「審議時間30時間」の実態である。

 犯罪が行われなくても、計画し準備に乗りだした段階で処罰するのが法案の目的だ。捜査当局が法を恣意(しい)的に運用したり、「計画」「準備」を察知するためにゆきすぎた監視や情報収集に走ったりするのではないか。そんな懸念はぬぐえず、なお多くの疑問が残されたままだ。

 277の罪に広く共謀罪を設ける理由も判然としない。かつて同じ趣旨の共謀罪法案が国会に提出された際、自民党議員の立場で修正案づくりに携わった早川忠孝弁護士は、今回、参考人として委員会に呼ばれた。

 「一つ一つ検討すれば、さらなる絞り込みができる」と提言したが、そうした地道な作業はついに行われなかった。

 維新の意向を受けていくつかの手直しはされた。だが、いずれも問題の本質に迫るものではなく、見るべき点はない。

 むしろ維新は、捜査当局の力を高める必要があるとして通信傍受の範囲を広げるよう唱えていた。共謀罪が導入されれば、次は摘発のための手段を与えよということになると心配されたが、それを先取りする話だ。

 政府が現時点での傍受拡大を否定する答弁をしてきた手前、与党は同調を見送ったが、この3党連携は極めて危うい。

 民意を置き去りにした強引な国会運営に、強く抗議する。

(社説)退位特例法案 後世に残す本格審議を

 天皇陛下の退位を実現するための「皇室典範特例法案」が閣議決定された。内容は既に明らかになっていた要綱に沿うものだが、条文の書きぶり、構成など全体像がはっきりした。

 改めて思うのは、典範本体と特例法の「二階建て」になることに伴うわかりにくさだ。

 たとえば、典範本体には皇族の範囲をさだめる条文がある。しかし、陛下の退位に伴って新たに設けられる「上皇」「上皇后」はそこには記載されず、特例法だけの規定となる。

 逆に、皇位継承順第1位(皇嗣)になる秋篠宮さまの敬称は特例法を見ても不明で、典範を開いてはじめて「殿下」だと確認できる。ほかにも、上皇は皇室会議のメンバーになれないなど、両方の法律を突き合わせなければわからない事項があり、不便というほかない。

 皇室は主権者である国民の総意の上になり立つ。その国民の理解をあえて妨げるような立法形式がとられたのは、退位をあくまでも例外扱いし、典範本体には手をつけたくない安倍政権の意向が働いたからだ。

 今回は、いまの陛下の退位をすみやかに実現させるために、合意づくりを急がねばならないという事情があった。本来の姿ではないとしながらも、多くの識者が政権の姿勢を踏まえ、「特例法やむなし」との立場をとったのは、そのためだ。

 しかし皇室をめぐっては、皇族の数と活動をこの先どう維持していくかという難題がある。「女性宮家」創設への理解が広がりつつあるが、それには典範本体の改正が不可欠だ。

 名称は旧憲法当時のものを引き継いでいるものの、典範も国会のコントロール下におかれる点で他の法律と変わらない。これからの時代の皇室像を描き、必要に応じて手直しをする。そう発想を改める必要がある。

 今国会での成立に向けて特例法案の審議が始まる。これまで各党・会派の間で話し合われた論点についても、改めて国会の場で考えを表明し、政府の見解をただし、それを会議録に残していかなければならない。

 昨年来、退位のあり方を検討するにあたって、現行典範、さらには明治典範の制定時の資料が参照され、議論を根底で支えたのを忘れてはならない。

 象徴天皇の役割は何か。陛下が大切にし、多くの国民が支持してきた「公的行為」をどう位置づけるか。高齢社会における代替わりはどうあるべきか。

 現時点での考えを整理し、将来の主権者国民に届ける。審議にかかわる者すべての務めだ。

「退位」特例法案 円満な成立へ詰めの努力急げ

 政府が、天皇陛下の退位を実現する特例法案を国会に提出した。

 ほとんどの党が法案に大筋で同意している。円満かつ速やかに成立させてもらいたい。

 政府は、法案の骨子案を事前に示し、与野党協議を先行させる異例の対応を取った。内容について、各党の見解に大きな隔たりがなくなったのは、このためだ。

 憲法1条は、「天皇の地位は国民の総意に基づく」と定める。これを踏まえ、幅広い合意形成を重視した政府や各党の姿勢は、適切だったと言えるだろう。

 法案名は「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」だ。公布後3年以内に施行される。退位後は上皇と称し、宮内庁に上皇職を設ける。これらが主な内容だ。

 「皇室典範は特例法と一体をなす」との文言を皇室典範の付則に加えることも規定される。「皇位は皇室典範の定めるところにより継承する」という憲法2条に抵触するのを避けるためだ。

 与野党に意見の相違があった部分も、概(おおむ)ね妥当な内容になった。中でも、退位を示唆した陛下の「お言葉」に触れた文言を取り入れなかった意味合いは大きい。

 衆参両院の正副議長が3月に国会の総意としてまとめた見解は、「お言葉」に触れるよう求めていた。だが、「お言葉」を踏まえた法制化は、「天皇は国政に関する権能を有しない」と定める憲法4条に違反する恐れがあった。

 法案は、衆院では議院運営委員会での審議となり、参院には特別委員会が設置される。

 懸念されるのは、政府に安定的な皇位継承策を検討するよう求める特例法案の付帯決議について、未いまだに与野党間の合意が得られていないことである。

 皇族の数を維持し、皇室の安定を図るための現実的な方策の一つが「女性宮家」の創設だろう。民進党は、創設を検討するよう付帯決議に明記して、早期に議論を始めることを求めている。

 古くから続く男系継承を重視する自民党は、女性宮家が女性天皇や女系天皇の容認につながるのを警戒し、付帯決議への明記に、なお難色を示している。

 法案審議は、与野党が付帯決議について合意した後に始まる予定だ。協議が難航すれば、法案成立が遅れる可能性もある。

 秋篠宮ご夫妻の長女、眞子さまが婚約される。ご結婚すれば、皇籍を離脱する。皇族減少への対応策の検討は先送りできない。各党は、それを肝に銘じたい。

トランプ政治 ロシア疑惑を自ら拡散させた

 昨年の米大統領選で、ロシアがトランプ大統領の陣営と結託していた疑惑は、一段と深まった。真相究明に向けて、公正な捜査を行う態勢が整えられたのは当然である。

 米司法省が、モラー元連邦捜査局(FBI)長官を特別検察官に任命した。ホワイトハウスの意向に背いて決定したという。異例の事態だと言える。

 特別検察官は、大統領や高官の関与が疑われる事件について、中立的な立場で捜査を指揮する。幅広い裁量を持ち、必要な場合は刑事訴追もできる。ニクソン大統領の辞任につながったウォーターゲート事件でも、解明に努めた。

 今回の「ロシアゲート」は、ロシアがサイバー攻撃などでクリントン陣営の選挙運動を妨害し、トランプ氏の当選に手を貸した疑惑だ。トランプ陣営も連携していた可能性が指摘されている。

 トランプ氏に近いフリン前大統領補佐官が政権発足前に、対露制裁の緩和を駐米露大使に「密約」した疑いも捜査対象となる。

 深刻な局面に発展したのは、トランプ氏がコミーFBI長官を電撃解任してからだ。「目立ちたがり屋で、FBIを混乱に陥れた」という理由は説得力を欠き、世論の猛反発を招いた。

 トランプ氏がコミー氏に、フリン氏に対する捜査を打ち切るよう求めていたとの報道が追い打ちをかけた。自らが捜査対象でないことをコミー氏から確認を取ったとも主張している。

 FBI長官への直接の働きかけは、司法妨害と受け取られかねない。事実関係が確認されれば、大統領罷免(ひめん)に向けた「弾劾(だんがい)訴追」の対象にもなる。コミー氏はトランプ氏との会話メモを残しているという。徹底した捜査が必要だ。

 トランプ氏がラブロフ露外相との会談で、イスラム過激派のテロ計画に関する機密情報を漏らした疑惑も看過できない。情報はイスラエルから得たとされる。

 同盟国や友好国が提供する情報を無断で第三国に伝えるのは、諜報(ちょうほう)活動の基本ルールに反する。米国に対する信頼を著しく損ねたのは間違いない。情報収集体制への悪影響が懸念される。

 トランプ氏は、自身や陣営に関する疑惑を全面否定した。「すべては魔女狩りだ」と不満を示し、メディア批判を繰り返す。

 政治経験と専門知識の欠如を自覚せず、強権的手法を続けることが、政権運営を危うくさせている現実を認識できないのか。大統領の資質が改めて問われよう。

2017年5月19日金曜日

トランプ大統領はまっとうな政権運営を

 米政権のごたごたが収まる気配をみせない。不安定な政治はマーケットにも動揺を与えており、影響は米国内にとどまらない。トランプ大統領は威圧的な政権運営を改め、政権中枢とロシアとの不明朗な関係などの解明に協力すべきだ。このままでは政権の遠心力が加速するばかりである。

 選挙戦以来、物議を醸し続けるトランプ氏だが、9日に米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官を突然、解任して以来、政権への批判は野党の民主党だけでなく、与党の共和党でも目立ち始めている。

 解任に先立ち、トランプ氏は自身がFBIの捜査対象になっているのかどうかをコミー氏にじかに尋ねたそうだ。解任は、ロシアが昨年の米大統領選に関与したとされる疑惑を封印するための捜査妨害との見方が出ている。

 ギャラップ世論調査によると、トランプ氏の支持率は14日時点で38%と政権発足以来の最低タイを記録した。低支持率が続けば、来年ある議会の中間選挙をにらみ、与党でも「トランプ離れ」の動きが出てこよう。そうなれば、政権はますます弱体化する。

 政権がうまく機能しないせいで、税制改革などの課題の多くは放置されたままだ。いま必要なのは、さまざまな疑惑をきちんと解明し、政策遂行に専念できる体制をつくることだ。

 その意味で、司法省が強力な捜査指揮権を持つ特別検察官の設置を決め、コミー氏の前任の長官だったロバート・モラー氏を任命したのは妥当な判断だ。12年にわたり長官を務めた同氏には与野党とも信頼感を抱いている。

 次にトランプ氏が取り組むべきは、政権内の指揮系統をはっきりさせることだ。側近同士の足の引っ張り合いによって、ものごとへの対応がばらつく場面もあり、政権の方向性がわかりにくい。

 中央省庁の中枢がほとんど空席なのも、政策遂行の停滞を招いている。500以上ある政治任用ポストのうち、8割超が議会の承認待ちどころか、指名もされていない。行政府の体をなしていないといって差し支えあるまい。

 世界のリーダーたるべき米国の政治の機能不全は、アジアの安全保障にも影を落としかねない。トランプ氏はあつれきを生む言動を慎み、政治を前に動かすことを考えてほしい。言い換えれば「まっとうな政権運営」である。

獣医学部新設の経緯を示せ

 学校法人「加計学園」(岡山市)が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画をめぐり、民進党が首相官邸の圧力をうかがわせる文書を入手したとして追及している。政府は否定するが、特区での運営事業者の選定には不透明な部分も多い。政策判断の経緯を明らかにしていく必要がある。

 民進党は17日、文部科学省が作成したとする文書を国会で明らかにした。加計学園の2018年4月の獣医学部の新設をめぐって、国家戦略特区を担当する内閣府側が「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だ」と発言したと記録されている。

 菅義偉官房長官は記者会見で、安倍晋三首相をはじめ官邸側の関与を否定し「首相は一切指示をしていない。こんな意味不明のものについて、いちいち政府が答えることはない」と強調した。

 現時点で文書の真偽は不明だが、文科省や内閣府は折衝の有無や発言内容を早急に確認すべきである。官邸から直接の指示があったのか。内閣府側が首相の意向を忖度(そんたく)したのか。それとも学部新設に消極的な文科省を動かすために「官邸の印籠」を使ったのか。事実が知りたい。

 首相は加計学園の理事長との個人的な関係を問われて「友人だから会食もゴルフもする」と説明しつつ、事業への協力は否定している。野党は獣医学部の52年ぶりの新設が急に実現したのは不自然だと訴える。特区の指定を受けて愛媛県今治市は加計学園への建設用地の無償譲渡を決めた。

 国家戦略特区は、地域限定で規制を緩和して経済活性化を目指す仕組みだ。岩盤規制に風穴を開ける意味は大きいが、運営事業者の選定で不公正な政治的配慮が働いたとしたら問題である。

 今国会では学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地の売却問題も焦点となっている。財務省は交渉経緯の調査に後ろ向きな態度をとり続けている。政府は様々な疑惑を自ら払拭する姿勢で事実を明らかにしてもらいたい。

(社説)関電の原発 再稼働に展望あるか

 福井県の関西電力高浜原発4号機が再稼働した。関電の原発が動くのは16年3月以来で、3号機も来月上旬に続く予定だ。

 2基の運転を禁じた大津地裁の仮処分は大阪高裁が取り消した。大飯原発3、4号機も原子力規制委員会の審査が事実上終わっており、関電は今年秋の再稼働を目指している。

 ただ、事故時の住民の安全確保や使用済み核燃料の処分といった、根本的な問題は何ら解決されていない。なし崩しの再稼働に改めて反対を表明する。

 高浜原発の30キロ圏には約18万人が暮らす。関係自治体と国は事故の発生に備えた広域避難計画をまとめている。

 しかし昨夏の避難訓練では、悪天候時にヘリや船が使えず、一部地域が孤立する恐れが浮かんだ。いざとなれば避難者の車が殺到し、渋滞で逃げ遅れるのではとの懸念も根強い。

 朝日新聞の調べでは、高浜周辺の住民が身を寄せる避難所のうち126カ所が、土砂災害などの警戒・危険区域にあった。

 福井県には廃炉が決まったものも含めて15基の原子炉が集中する。複数の原発で同時に事故が起きたらどうするのか。対策はほとんど手つかずだ。

 使用済み核燃料をめぐる難題も方向性が見えない。

 原発敷地内の貯蔵プールは満杯が迫る。関電は、電力消費地の関西への立地を念頭に、「20年ごろに中間貯蔵施設の場所を決める」と福井県に約束した。しかし関西側の警戒感は強く、いっこうにめどは立たない。

 高浜原発では、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を用いたプルサーマル発電が実施される。使用済みになったMOX燃料は青森県六ケ所村に建設中の再処理工場でも扱えないため、当面はプールに保管し続けるしかない。

 関電は、運転開始から40年を超す3基を含め、現有する9基の原発を使い続ける姿勢を変えないが、重大な課題の解決を先送りにしたままの再稼働は無責任だ。

 福島第一原発事故から6年。節電の定着や電力自由化の影響で電力需給は安定してきた。関電は原発が動けば収支が改善し、電気料金も値下げできるとするが、そうした経営面のメリットを除けば、再稼働を急ぐ理由は乏しくなってきている。

 大株主の大阪市と京都市は今年も「脱原発依存」を求める議案を6月の株主総会に出す。消費地の視線は依然厳しい。

 原発頼みの経営構造でどこまで展望はあるのか。関電は脱却の道筋を真剣に考えるべきだ。

(社説)日韓関係 首脳交流の早期復活を

 意見の違いはあれど、互いに前向きな関係を築いていきたい。その明確な意思は確認できたといえるだろう。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が発足して1週間あまり。文大統領の特使らが来日し、安倍首相や岸田外相らと会談した。

 特使は首相に、日韓首脳が両国を相互訪問するシャトル外交の再開を求める文大統領からの親書を手渡した。首相も再開に前向きな姿勢をみせたという。

 シャトル外交は2004年、小泉純一郎、盧武鉉(ノムヒョン)の両首脳(当時)によって始まった。

 靖国神社参拝を含む歴史問題や竹島問題など両国間には様々な懸案がある。世論が過敏に反応し、政治の選択肢の幅を狭めることもしばしばだ。そんな関係だからこそ、両首脳が気兼ねなく定期的に会おうという賢明な試みだった。

 いまも脆弱(ぜいじゃく)さが残る日韓の絆を強めるうえで、シャトル外交の復活は効果的だろう。韓国で新政権が発足したのを機に、早期の再開を目指すべきだ。

 その際、双方が気をつけなければならないことがある。

 シャトル外交は、諸懸案を乗り越えるための枠組みだったはずが、実際は振り回され、先送りや中断を繰り返した。両国は政治的な問題を経済、文化など他分野と切り離し、たとえ関係がこじれても、対話の窓は閉ざさないと肝に銘じるべきだ。

 シャトル外交は6年前、当時の李明博(イミョンバク)大統領の訪日を最後に止まっている。この時は、慰安婦問題をめぐって決裂した。

 文氏は、大統領選の公約の一つとして慰安婦問題をめぐる日韓合意の再交渉を掲げたが、今回来日した特使はそれを求めなかった。ただ、韓国国内に情緒的に受け入れがたい雰囲気が強いことを説明した。

 日本国内には、元慰安婦を支援する財団に政府予算を拠出したのだから、義務は終えたという意見がある。一方、韓国にもソウルの日本大使館前などにある少女像は民間団体が設置したため政府は関与できない、といった指摘がある。

 いずれも「日韓両政府の協力」がうたわれた合意の精神に反する主張だ。今後も互いの立場をふまえた十分な配慮と行動を重ね、国民的な合意に育てていく以外に道はない。

 安倍首相は特使に「日韓合意を含む二国間関係を適切にマネージしていく」と語った。

 ナショナリズムをあおる動きを抑え、隣国との友好の価値を積極的に国民に説く。日韓のリーダーには、そんな思慮に富む外交姿勢が求められている。

国連拷問委勧告 慰安婦合意見直しは筋違いだ

 慰安婦問題に関する事実関係や日韓両政府の外交努力への理解が欠けている、と言えよう。

 国連の拷問禁止委員会が、慰安婦問題を巡る2015年末の日韓合意の見直しを韓国政府に勧告した。

 勧告は、慰安婦を「第2次大戦中の性奴隷制度の犠牲者」と決めつけた。日韓合意は「被害者に対する名誉回復や補償、再発防止が十分でない」とも批判した。

 勧告に強制力はない。ただ、韓国の朴槿恵政権の結んだ日韓合意の履行に消極的な文在寅大統領が合意の「再交渉」を日本に求める口実とする恐れも否めない。

 日本政府は、慰安婦を「性奴隷」とする勧告の誤りを指摘し、反論する文書を委員会に近く提出する方針だ。当然の対応である。

 日韓合意は、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。当時、韓国出身の潘基文国連事務総長や米政府など、国際社会から高く評価された。

 日韓合意に基づき、日本政府は昨年8月に元慰安婦を支援する韓国の新財団に10億円を拠出した。存命する韓国人元慰安婦の7割がこの現金支給を受け入れた。

 そもそも日韓間の財産・請求権問題は、1965年の国交正常化時の協定で国際法的には解決済みだ。人道的支援として日本政府は「アジア女性基金」を設立し、元慰安婦に「償い金」も渡した。

 委員会は、こうした経緯や戦時中の慰安婦の実態を正確に理解せず、偏った考え方の元慰安婦支援団体や個人の主張に依拠し過ぎているのではないか。

 国連総会で採択された拷問等禁止条約に基づき、委員会は88年に発足した。各締約国が拷問や暴力的な刑罰を行っていないか、などを定期的に審査している。

 政府は昨年2月の国連女子差別撤廃委員会で、慰安婦問題について初めて包括的な説明を行った。強制連行を裏付ける資料は発見されておらず、「性奴隷」の表現は事実に反する、と指摘した。

 しかし、遅きに失した感は否めない。女子差別撤廃委は翌月、「犠牲者の立場に立ったアプローチが取られていない」と日韓合意を批判する報告書をまとめた。

 国連人権委員会には96年、慰安婦を強制連行したとする吉田清治氏の虚偽証言を引用したクマラスワミ報告が提出された。報告は様々な機会に取り上げられ、日本の名誉を傷つけている。

 一連の誤解や曲解をきちんと正すため、政府は国際的な発信を積極的に続ける必要がある。

高浜原発再稼働 仮処分が招く混乱に終止符を

 原発の再稼働は、電力の安定供給に大きく貢献する。その恩恵を消費者に実感してもらうことが大切である。

 司法判断などで停止を余儀なくされた関西電力高浜原発4号機が再稼働した。近く発電を始め、6月中旬にも営業運転に移行する。3号機は7月からの営業運転を目指している。

 敷地内では1月、大型クレーンが倒れる事故が起きた。原子炉に影響はなかったが、地元の福井県は厳しく批判した。関電は安全確保に万全を期さねばならない。

 2基が営業運転した後、関電は電気料金を値下げする方針だ。火力発電の燃料費などを、月に70億円抑制できるためだという。

 関電は東日本大震災前まで、発電量に占める原発の比率が約50%と高かった。全原発が停止した震災後は、2度にわたって料金を上げざるを得なかった。

 現在、関電の電気料金は東京電力や中部電力より割高だ。値下げが実現すれば、消費者や企業の負担感は軽減される。結果として原発の重要性が再認識され、他の原発の再稼働へ追い風となろう。

 関電では、大飯原発3、4号機も、再稼働の前提となる安全審査などの手続きが大詰めだ。

 西日本では既に、四国電力伊方原発3号機と、九州電力川内原発1、2号機が再稼働した。九電玄海原発3、4号機についても、地元が再稼働を了解している。

 懸念されるのは、司法リスクである。大津地裁は昨年3月、高浜原発の2基に対して、運転差し止めの仮処分を決定した。大阪高裁が今年3月、決定を取り消したため、再稼働にこぎ着けた。

 同様の仮処分申請は各地で出されている。再び停止命令が出る可能性は捨て切れない。高浜原発に対しても、福井地裁敦賀支部に改めて仮処分が申し立てられた。

 仮処分は元々、急迫した危険などを避けるために設けられた司法手続きである。迅速に審理を進めることが重要視される。

 広島地裁は3月、伊方原発3号機の運転差し止めを求めた仮処分申請を退けた。原発に関する司法判断には「慎重な認定作業が必要」で、仮処分手続きは、これに「なじまない」との理由からだ。

 原発は、規制当局による厳しい審査に合格して、初めて稼働できる。広島地裁も指摘するように、差し止め請求は、審査データや専門家の見解などを基に、本訴訟で丹念に審理されるべきだろう。

 拙速な司法判断で、電力供給を混乱させてはならない。

2017年5月18日木曜日

日銀の金融政策「出口」の議論は丁寧に

 日本銀行が大規模な金融緩和を始めて4年以上たった。2%の物価安定目標はまだ達成していないが、異例の金融緩和の出口を探る時はいずれ来る。その日に備え、政策の効果とコストも含め丁寧な議論をしておく必要がある。

 出口の議論でまず必要なのは、きちんとした整理だ。第1は、金融緩和を縮小し、政策金利を上げて日銀の資産を減らす道筋の議論。第2は、出口で生じる恐れのある日銀の損失の議論だ。

 前者については、先行して緩和縮小に動く米国の例などを参考に市場と対話することが肝要だ。現時点では、いつ金利を上げ資産を縮小するか、といった具体的な手順を示すのは難しい。経済・物価情勢を見ながら、適切な時期と手法を日銀は工夫すべきだ。

 後者の日銀の損失問題は複雑で、丁寧な議論が必要だ。日銀は国債の発行残高の4割超を保有している。国債を買うためのお金は、主に日銀券の発行と民間金融機関からの日銀当座預金でまかなっている。この当座預金の金利の一部は現在はマイナスだ。

 将来、日銀が政策金利の短期金利を上げれば、当座預金の金利も上がる。これに対し、日銀が持つ超低金利の国債はすぐに売れないので、逆ざやになって日銀に損失が生じる恐れがある。

 日銀は引当金を積むなどの対応をとってはいる。だが、金利上昇の速度などによっては巨額の赤字が生じ債務超過におちいる恐れがある、といった指摘が民間のエコノミストなどから出ている。

 中央銀行には利息のつかない銀行券を発行する通貨発行益があるので、一時的に赤字になっても長い目でみれば利益が出るので収益は回復する。ただ、日銀の赤字が現実のものとなれば金融市場の不安が高まる恐れもある。一時的な財政支援の仕組みを検討する必要があるかもしれない。

 日銀の財務への影響は出口の際の経済・金利動向次第で、すべてを想定するのは難しい。それでも、異例の金融政策にコストがあることは念頭におくべきだ。

 本質的に重要なのは日本の財政への信認だ。国債の大量購入で日銀の資産が膨張した背景には、財政の健全化の遅れがある。

 日銀が国債を買えば財政問題が解決するということはあり得ない。日本経済の持続的成長と財政健全化の道筋を示し国の信用を維持することこそ、最重要の課題だ。

女性宮家を考える契機に

 秋篠宮家の長女で、天皇・皇后両陛下の初めての孫に当たる眞子さまが、婚約される運びとなった。お相手は大学時代の同級生で、法律事務所に勤務する小室圭さんである。ともに25歳だ。

 国際感覚が豊かで美術にも造詣の深い眞子さまが、よき伴侶を得て新たな人生のステージに立たれる。心からお喜びしたい。

 皇室典範の規定により、眞子さまは結婚にともなって皇族の身分を離れる。現在7人いる未婚の女性皇族は、ちかく6人となるわけだ。今回の慶事を機として、皇族数の減少について真剣に向き合うべきだろう。

 女性の皇族は医療や文化関連の団体で役職を務めたり、イベントに出席したりして、啓発に当たられている。皇族数の減少で活動に支障が出るようなら、国民と皇室の関係に微妙な影を落としかねない。対処は喫緊の課題だ。

 これまで検討がなされてこなかったわけではない。2005年、小泉内閣の有識者会議は皇位の安定的な継承のため、女性・女系天皇や女性宮家を容認するなどの内容を提言した。反響は大きかったが、悠仁さまの誕生で制度改正は見送られた経緯がある。

 12年には当時の民主党の野田内閣が女性宮家の創設の論点整理をまとめた。しかし自民党政権になってから議論は停滞している。

 そして今春、天皇陛下の退位をめぐる特例法に向けた衆参両院議長らによる国会提言は、女性宮家の創設などを速やかに検討するよう政府に求めた。有識者会議の報告書も、皇族の減少について議論を深めるよう促している。

 19日に閣議決定される退位の特例法案は、付帯決議に皇族減少などへの対応をどう盛り込むか、なお調整が続いているという。

 退位をめぐる制度設計の過程では、長年にわたる政治の無策を批判する声があがった。皇族の減少に関しても二の舞いを演じることになれば、将来、深刻な事態を招きかねない。強い危機感を持つ必要があろう。

(社説)加計学園問題 疑問に正面から答えよ

 政府はすべての国民に公正・公平に向き合い、首相との距離によって対応に差が出るようなことがあってはならない。

 民主主義国家の当たり前の原則が掘り崩されているのではないか。そう疑わせる問題が、朝日新聞が入手した文部科学省作成の文書で明らかになった。

 文書には、岡山市の学校法人が国家戦略特区に獣医学部を新設する計画について、特区を担当する内閣府が文科省に対し「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と手続きを進めるよう促した記録がある。

 この学校法人は、安倍首相が「腹心の友」と呼ぶ人物が理事長を務める「加計学園」。

 記載が事実であれば、内閣府が「総理のご意向」をかざして首相の友人に便宜をはかろうと動いたととれる。首相と政府の信頼に関わる重大な事態だ。

 事実関係をすみやかに調べ、国民に説明する責任が首相と関係省庁にはある。

 経緯はいかにも不自然だ。

 文科省関係者によると、文書は昨年9月から10月にかけて作成。松野文科相が、学園の求める18年4月の開学について、教員確保など準備が整わない可能性を指摘し、難しいとする考えを示していた記述もある。

 ところがわずか数カ月後の今年1月、内閣府と文科省は18年4月に開校する1校に限り、特例で獣医学部設置を認めると告示。加計学園が特区事業者に認定された。他の大学からも手があがっていたのに「獣医学部空白地域に限る」との条件があとから追加された。

 獣医学部の新設が認められたのは52年ぶり。加計学園は愛媛県今治市から36億7千万円分の市有地を無償で受けとる。

 一連の経緯や首相のかかわりについては、これまでも野党が国会などでただしてきた。

 野党側は、長く認可されなかった学部新設が同学園に限って認められたことに「首相と理事長の個人的な関係が影響したのではないか」と指摘する。

 これに対し首相は「友人だから会食もゴルフもする。でも、彼から頼まれたことはない」と自らの関与を否定してきた。

 「安倍1強」と言われる強い権力と周辺の人脈、不可解な政府の決定――今回の構図は、首相と妻昭恵氏の関与の有無が問われている森友学園への国有地売却問題とも重なる。

 松野文科相は「現状では文書の存在を確認していない」と述べた。森友学園問題での財務省のような、事実究明に後ろ向きな態度は許されない。

(社説)皇室の将来 議論の先送り許されぬ

 秋篠宮ご夫妻の長女眞子さま(25)が、婚約にむけて準備を進めていることが明らかになった。お相手の小室圭さんは大学時代の同級生だという。心からお祝いを申し上げる。

 一方でこの慶事は、皇室が直面している課題をあらためて浮き上がらせた。

 皇族の数の減少である。皇室典範の定めにより、眞子さまは結婚すると皇籍を離れ、一民間人となる。いまのままでは、30代以下の皇族は7人、うち女性が6人という構成になる。

 結婚した後も女性が皇室に残れるようにする「女性宮家」構想が打ち出されたのは5年前、野田内閣のときだ。

 皇室活動の将来に危機感を抱くとともに、眞子さまと妹の佳子さまが結婚を考える年ごろになる前に手を打たなければ、という配慮が働いたといわれる。三笠宮家、高円宮家の女性皇族にとっても、制度の作り方によっては、その後の人生に大きな影響が及ぶ。

 しかし、女性皇族の結婚相手や生まれた子の身分・地位をどうするかなど、慎重な検討を要する論点が浮上。三つの具体案を示したペーパーを公表し、引き続き議論を深めることを呼びかけたところで、政権交代が起きた。その後、安倍内閣はこの問題に取り組む姿勢を見せず、今日に至っている。

 天皇陛下の退位のあり方などをめぐる衆参両院正副議長による今年3月の「とりまとめ」には、「女性宮家の創設」が検討課題として明記された。

 政権はこれにも拒否反応を示してきた。退位特例法案の国会審議が間もなく始まるが、付帯決議に女性宮家の考えや検討の時期をどう盛りこむかが、与野党折衝の焦点になっている。

 安倍政権がかたくなな態度をとり続けるのは、女性宮家が女性・女系天皇に道を開くことになりかねないと見るからだ。そうやって手をこまぬいているうちに、事態は抜き差しならないところに進みつつある。

 約700年前に天皇家から分かれ、戦後、皇籍を離れた旧宮家の男性を皇族に復帰させる案を唱える人もいる。だが国民が素直に受け入れ、これまで皇族に寄せてきたのと同じような思いを抱くことができるか、大いに疑問がある。国民の支持なしに皇室制度は存立しない。

 政府はどんな対応策を考え、いかなる手順で人びとの合意形成を図るつもりなのか。

 これまでのような先送り・不作為は、もはや許されない。政府をチェックする役割を負う国会もまた、責任を問われる。

眞子さま婚約へ 二人の出会いを祝福したい

 秋篠宮ご夫妻の長女、眞子さまが婚約されることになった。心からお喜びを申し上げたい。

 天皇陛下の孫が結婚するのは初めてとなる。内親王としては、2005年に結婚した長女の黒田清子さん以来の慶事である。

 お相手は大学時代の同級生の小室圭さんだ。出会いは、12年に開かれた留学の意見交換会だった。秋篠宮ご夫妻の了承も得て、交際を深めてこられた。

 女性皇族はこれまで、旧家などに嫁ぐことが多かった。

 小室さんは、法律事務所に勤める一般の青年だ。東京都職員と結婚した清子さんと同様、眞子さまは、国民に身近な皇室を体現されている。気さくな人柄だけに、明るい家庭を築かれるだろう。

 眞子さまは国際基督教大を卒業後、英レスター大大学院で博物館学を学ばれた。現在は東京大総合研究博物館の特任研究員だ。

 公務にも積極的に取り組んでこられた。東日本大震災の被災地を訪問し、子供たちに優しい言葉をかけるなど、皇族としての役割を立派に果たされている。

 現行の皇室典範の規定では、女性皇族は結婚すると、皇籍を離れる。眞子さまが結婚されると、未婚の女性皇族は6人となる。将来、同じように皇籍を離脱すれば、皇族が分担している公務の遂行が困難になる恐れがある。

 皇族数が減少していることへの対応は、重要な課題である。

 国会の各党・会派は、天皇陛下の退位を可能にする特例法案の付帯決議に、「女性宮家」創設を検討するよう明記するかどうか、調整を続けている。

 女性宮家を設ければ、結婚後も女性皇族が皇室にとどまることが可能になる。12年に当時の野田内閣が、創設を検討すべきだとする論点整理を公表したが、この年に第2次安倍内閣が成立して以来、議論は進んでいない。

 皇族数を維持するための現実的な方策として、女性宮家創設の検討を付帯決議に盛り込み、議論を深めるべきだろう。

 戦後に皇籍離脱した旧宮家の男子を皇族に復帰させる、という手法も考えられる。安倍首相も野党当時、月刊誌上で提言した。男系による安定的な皇位継承を図ることが主眼だが、幅広い支持を得られているとは言い難い。

 首相は、1月の国会答弁で「対象者すべてから拒否されることもあり得る」と述べている。

 慶事を機に、将来の皇室の在り方をじっくりと考えたい。

郵政赤字決算 M&Aの失敗から多くを学べ

 収益向上の目玉とされた国際物流強化のM&A(合併・買収)が、わずか2年でつまずいた。

 日本郵政の2017年3月期決算は、最終利益が289億円の赤字だった。07年の民営化後、初の赤字転落だ。

 15年に子会社の日本郵便が買収した豪物流大手トール・ホールディングスの経営不振を受けて、約4000億円に上る巨額損失を計上したことが響いた。

 日本郵政には、「負の遺産」を一括処理して、反転攻勢の環境を整える狙いがあるのだろう。目標とする総合物流会社への脱皮を果たすため、稼ぐ力を高める改革を断行しなければならない。

 国内市場は今後、人口減などで縮小が避けられまい。海外に活路を求めるのは理解できる。

 今回の損失に懲りて、国際進出に後ろ向きになるようでは、未来の展望は開けない。今後もM&A戦略を展開する上で、過去の経験に学ぶ姿勢が何より重要だ。

 日本郵政は、資源安で豪州景気が冷え込み、トールが想定通りの利益を上げられなかったと説明する。そうした事情を勘案しても、6200億円というトール買収額は明らかに「高値づかみ」だったのではないか。

 15年11月に郵政グループ3社が上場する前に買収を実現させたいとの焦りにかられて、資産査定が甘くなった。買収後の経営管理がほぼ現地任せだった。そんな反省の声も聞かれる。

 M&Aの是非を十分検討し、適正に経営判断されたのか、疑問は拭えない。当時の西室泰三社長ら経営トップの責任についても、厳しく問い直す必要があろう。

 大切なのは、トール買収の誤算を踏まえ、郵政グループとして確かな収益基盤を築くことだ。

 日本郵政の利益は、傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険への依存度が大きい。金融2社はいずれ完全民営化してグループを離れる方向である。残る日本郵便は業績が下降線で、どう成長を図るのか、極めて不透明だ。

 新たな収益の柱として、日本郵政は野村不動産ホールディングスの買収を検討している。郵便局用地の再開発などが有望な事業になるか、精査が求められる。

 日本郵政株は、政府保有が3分の1程度になるまで市場で売り、売却益を東日本大震災の復興財源に充てることになっている。

 株価が低迷すれば、復興財源の確保に支障をきたしかねない。市場の厳しい評価に耐え得る成長戦略を示すべきだ。

2017年5月17日水曜日

米中の動きもにらみ日中関係の改善を

 中国が主導する海と陸の現代版シルクロード経済圏「一帯一路」構想を巡る初の国際会議が北京で開かれ、ロシア、イタリア、インドネシア、フィリピンなど29カ国首脳が参加した。経済・政治両面で中国が台頭するなか、日米など主要国が中国との関係をどう調整するのかは重要な課題である。

 現代版シルクロード経済圏構想にはもともと、米国が主導する世界秩序を切り崩す狙いがあった。だが、ここに来て中国は米国との連携演出も狙い始めた。

 4月、米フロリダ州で習近平・中国国家主席とトランプ米大統領が会談した後、中国は貿易不均衡是正への「100日計画」の一環として米牛肉の輸入解禁、金融面での参入障壁軽減などに応じた。

 これを受けてトランプ政権は北京の国際会議に国家安全保障会議(NSC)の幹部らによる代表団を送った。これは北朝鮮の核・ミサイル開発阻止を巡る米中の連携とも関係している。

 トランプ政権の発想と行動は従来の米政権とは大きく異なる。それだけに日本としても同盟国、米国との緊密な連携を基本とし、十分な情報収集のうえ、必要に応じて対外政策を調整すべきだ。

 その意味で安倍晋三首相が今回、自民党の二階俊博幹事長や今井尚哉首相秘書官らによる代表団を北京の国際会議に派遣したのは評価できる。

 二階氏らは16日、北京で習主席と会談し、安倍首相の親書を手渡した。習氏は自身の訪日も含めハイレベルの往来を検討する意向を示した。長く膠着状態だった日中関係には変化の兆しが見える。

 今後は昨年、延期された日本での日中韓首脳会談の早期開催、7月にドイツで開く20カ国・地域(G20)首脳会議の際の日中首脳会談、安倍首相の訪中などの調整を進め、関係改善の流れを固める必要がある。

 中国主導の国際金融機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)への加盟は77カ国・地域となる。その数は日米両国が主導するアジア開発銀行(ADB)を上回る。アジアのインフラ整備への支援はADB、AIIBが共有する目的である。けん制し合うだけではアジアの国々が困惑してしまう。

 日米両国はAIIBに参加表明していない。日本は同じ立場の米国と緊密に意見交換しながら運用ルールの透明化を粘り強く求め、建設的な関与を探るべきだ。

大学新入試は何をめざすのか

 大学入試センター試験に代わって2020年度に実施する「大学入学共通テスト」の原案を文部科学省が公表した。知識に加え、思考力、判断力、表現力の評価を重視する改革という。新テストの目的と期待される効果を丁寧に説明し関係者の不安を払拭すべきだ。

 国語に最大120字の記述式問題を課し、英語では実用英語技能検定(英検)やTOEICなどの民間試験を活用して「書く」「話す」の技能も評価するのが柱。国語の記述問題と英語の民間試験は得点ではなく段階別で評価する。

 だが、他科目は数学を除きおおむねマーク式問題で、1点刻みで受験生をふるいにかける。相対評価という幹に、おおまかな到達度評価という枝を接ぎ木したような構造だ。このため、選抜試験としての精度を疑問視する大学関係者もいる。すでに個別2次試験で受験生の思考力を問う記述式問題を導入している有力国立大学が、新テストの国語の記述問題を利用しないといった事態も想定される。

 新テストの機能はセンター試験とどこが違うのか。肝心の点が曖昧だ。受験生を選抜する従来のセンター試験の性格を重視するのか、高校の教育課程の達成度を測る資格試験的な役割を持たせようとする改革の第一歩なのか。将来の方向性を明示する責任がある。

 そもそも新テストは、高校と大学教育を円滑に接続させるため、(1)1点刻みで合否を判定するセンター試験一発勝負から複数回受験が可能な到達度評価に転換する(2)各大学が記述式問題を含む個別2次試験で丁寧に学力を判定する――という構想から出発した。

 文科省は24年度以降、新テストの複数回実施や、地理歴史・公民や理科にも記述式を導入することを検討する。相対評価の性格を薄め、漸進的に到達度評価への移行を目指す方向とみられる。知りたいのは、それをどのような手段と時間軸で実現するかだ。

 関係者の理解を得るためにも文科省は、新テストが目指す改革の工程表を早急に示すべきだ。

(社説)一帯一路構想 中国の資質が問われる

 かつてシルクロードは、絹、陶磁器から学術、宗教まで様々なものを伝え、東西文化の懸け橋となった。

 その歴史になぞらえ、「一帯一路」は陸と海の交易路を意味するという。そんな名前の経済圏構想を中国が打ち出し、130カ国以上の代表を招いて北京で国際会議を開いた。

 中国から欧州に至る輸送インフラの整備を軸とし、沿線国での投資を活発化させる狙いだ。習近平(シーチンピン)国家主席は巨額の援助や融資枠を表明した。

 欧米の世論が反グローバル化に傾く中、中国が経済交流の旗振り役として期待されている面がある。巨大な経済力を背景に重責を担うのは必然だろう。

 ただ、構想はもっぱら中国資本の進出を促すもので、「新植民地主義」との批判もある。ともすれば自国中心主義に走る従来の姿勢が変わらないのなら、協調的な国際開発の推進役としての資格が疑われる。

 中国は外交で不都合な事態が起きると、国際経済のルール違反に問われかねない手段で相手国に制裁を加えてきた。

 2010年に人権活動家・劉暁波(リウシアオポー)氏のノーベル平和賞授賞が決まると、ノルウェー産サーモンの通関規制で中国の輸入を激減させた。南シナ海問題で対立するフィリピンの果物も、検疫強化と称して輸入を止めた。

 最近は韓国との間でミサイル防衛システムの配備をめぐり対立し、韓国への中国人の団体旅行を制限している。

 経済圏づくりをめざす前に、こうした粗雑な振る舞いとは決別しなくてはならない。

 国内総生産が11兆ドル超の中国に対し、関係国の多くはその数十分の1か、100分の1に満たない。中国は「内政干渉はしない」とするが、投資1件だけでも小国への影響は大きい。その自覚と自制が求められる。

 中国自身が十分に対外開放されているかどうかも問われる。中国に投資する外国企業への制限の多さは、欧州などから改善要求が出ている。また、国内で情報の流れを管理し、世界中の市民が使うソーシャルメディアを遮断しているのは矛盾だ。

 さらには中国の軍拡との関連の問題もある。南アジアでの港湾整備は、海軍力増強と無関係なのか。疑いを拭うには相当の対外的な説明と透明性の担保が欠かせない。

 習氏は会議で「開放型の世界経済を守る」「公正透明な国際経済ルールを構築する」と言明した。千里の道も一歩から。一帯一路構想は、中国の自己点検から始めてもらいたい。

(社説)対北朝鮮政策 複眼思考で制裁強化を

 こんな行動を繰り返す限り、孤立を脱する道は開けないことが今も分からないらしい。

 北朝鮮が日本海に向け、またミサイルを発射した。北朝鮮メディアは、新型の地対地中距離ミサイル「火星12」で、「試射は成功した」と伝えた。

 国際社会は、核・ミサイル開発を自制するよう警告を強めてきた。トランプ米政権は「戦略的忍耐」は終わったとし、軍事的な圧力を増していた。

 その一方で、トランプ大統領は金正恩(キムジョンウン)氏との会談の可能性にも言及した。北朝鮮の行動次第で緊張の事態は変わりうるという硬軟両様のシグナルだった。

 それに対する答えが、米本土に達する大陸間弾道ミサイルの一歩手前ともみられる新型ミサイルの発射だった。

 米国が軍事行動に動く寸前まで迫り、核兵器や多種のミサイルを備えた国として渡り合いたい――。そんないつもながらの稚拙な考えが透けて見える。

 しかし、こんな瀬戸際政策で活路は決して開けない。

 国連安保理は、北朝鮮が核・ミサイル実験を続けるなら「さらなる重大な措置をとる」とする報道声明を出した。

 このままの状態が続けば、北朝鮮の生命線と言われる石油の禁輸措置も現実味を帯びるだろう。引きつづき中国を筆頭に、国際社会は制裁を徹底する努力を強めるべきだ。

 ただ、北朝鮮が今も米国との本格的な対話の再開を望んでいることに変わりはあるまい。

 北朝鮮はこれまで、緊張を高めた後で、何もなかったかのように米国との対話を呼びかける変化を見せてもきた。

 北朝鮮が体制の保証を取り付けたい最大の相手は米国であり、金政権の真剣な対応を引き出せる場は米朝協議しかない。

 圧力で北朝鮮の改心を待つだけなら、核・ミサイル開発の流れは変えられないだろう。

 北朝鮮外務省の高官は先日、元米高官と欧州で話し合いの場をもった。日米韓に中ロを加えた6者協議の参加国は、北朝鮮の微妙な変化に目をこらし、効果的な交渉の席に引き込む努力を惜しんではならない。

 トランプ氏と韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は、圧力と意思疎通の双方の道をにらむ構えだが、安倍首相からは圧力を繰り返す単調な発言しか聞こえない。

 北朝鮮問題をめぐっては、制裁であれ、融和であれ、どちらか一辺倒の硬直化した政策では打開につながらないことを各国が経験済みだ。日本も米韓との調整を強め、複眼的な結束行動で臨むよう努めるべきだ。

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