2017年6月30日金曜日

企業は株主との対話深め経営に磨きを

 3月期決算企業の株主総会がほぼ終わった。株主が企業統治(コーポレートガバナンス)のあり方や成長戦略を厳しく問う場面は例年になく多かった。

 ガバナンス改革の一環として、機関投資家の行動規範を記したスチュワードシップ・コードが2014年に制定されてから、今年で4年目となる。企業に意見を表明する投資家は、アクティビストと呼ばれる一部のもの言う株主だけではなくなった。企業は投資家との幅広い対話を通じて経営を磨く必要がある。

 今年の株主総会の特徴のひとつは、取締役の選任に厳しい目が注がれたことだ。例えば、三菱自動車の総会では、益子修最高経営責任者(CEO)の取締役選任への賛成率が82%にとどまった。

 一般に、経営トップの取締役選任は満票に近い支持を得ることも珍しくない。賛成率が8割台にとどまったのは、昨年発覚した燃費不正問題の責任をとるべきだと考える株主の批判が反映されていると見ることができる。

 今年の総会のもうひとつの特徴は、株主提案が全体で200件超と過去最高に達したことだ。利益還元を求めたり独自の社外取締役を立てたりするなど、内容も多岐にわたるようになった。

 黒田電気は、もの言う株主が提案した社外取締役の選任議案が可決された。一般株主がガバナンス強化の視点で、もの言う株主の提案を冷静に検討する時代になったことを、企業は留意すべきだ。

 企業側の出した議案への反対が多かったり株主提案への賛成が増えたりした背景には、機関投資家の姿勢の変化もある。

 今年から資産運用会社などを対象に、議決権行使の個別開示制度が始まっている。運用会社はどの会社のどの議案に、賛否どちらを投じたか一件ずつ開示するようになった。運用会社は株主価値の向上を第一に考えて議決権を行使するよう求められ、会社側には厳しいと感じられる投票結果となる可能性も高まった。

 企業は経営を理解してもらうために、株主との対話を増やす必要性が増している。特定日に集中する傾向が残る総会をさらに分散すれば、企業はより多くの株主の声に接することができるだろう。

 もちろん、経営者が業績や経営戦略を語る場は総会に限らない。機動的な情報開示と説明が何よりも重要だ。

イロハのイが分かっていない

 お粗末というしかない。行政の政治的中立性を逸脱した稲田朋美防衛相の発言である。東京都議選の応援演説で「自衛隊としてもお願いしたい」と述べ、撤回する事態に追い込まれたものだ。

 野党が罷免を要求、安倍晋三首相の任命責任を問うための臨時国会の召集も求め、拒否する政府・与党との対立が続いている。

 憲法15条は「すべて公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」と定めている。自衛隊法61条は選挙権の行使を除いて自衛隊員の政治的行為を制限している。公職選挙法136条の2は公務員の地位を利用した選挙運動を禁じている。

 防衛相は「地元の皆さんに自衛隊、防衛省に対する感謝の気持ちを伝える一環として、そうした言葉を使った」と釈明しているが、稲田氏は弁護士出身ではなかったか。司法試験に合格して法律を扱う仕事をしてきた人が、いったいどうしたことだろう。

 防衛省・自衛隊のトップとして「イロハのイ」が分かっていないといわざるを得ない。閣僚として失格のそしりを免れない。取り沙汰される今夏の内閣改造・自民党役員人事で、首相がよもや続投させるなどということはあるまい。

 もうひとつお粗末というしかないのは、自民党に離党届を出した豊田真由子衆院議員の秘書への暴言・暴行だ。聞くに堪えない罵声に顔を背けた人も多かろう。

 豊田氏は有数の進学校を経て東大法学部を卒業、旧厚生省に入り米ハーバード大で修士号を得た。自民党の公募で衆院埼玉4区から出馬、当選2回の若手議員だが、はき違えたエリート意識によるものといわざるを得ない。

 人を人とも思わない言動は国会議員として失格のそしりを免れない。よもや次の衆院選に出馬するなどということはあるまい。

 7月2日の東京都議選を前にして問題発言が相次ぎ、安倍自民党が大敗した2007年の参院選をほうふつとさせる政治の風景が繰りひろげられている。

(社説)性犯罪厳罰化 重い課題がなお残る

 性犯罪の厳罰化を図る改正刑法が先の通常国会で成立し、来月13日に施行される。

 相手をモノ扱いし、意思を抑えこみ、尊厳を踏みにじる。それが性犯罪の本質であり、魂の殺人と呼ばれるゆえんだ。

 強姦(ごうかん)罪の名称を強制性交等罪に変え、男性の被害も対象とする。刑の下限を懲役3年から5年に引き上げ、起訴する際に被害者の告訴を必要とする定めをなくす。子どもの保護監督にあたる親らが、影響力に乗じてわいせつ行為などをするのを罰する規定も新設された。

 被害者の声に応える改正で、むしろ遅すぎたと言っていい。

 とはいえ国会内外の議論を通じて、なおただすべき事項や足りない点が浮上している。

 例えば、改正後の強制性交等罪の条文にも「暴行または脅迫を用いて」との文言が残った。恐怖で抵抗できなかった場合など、暴行はなかったとして起訴が見送られたり無罪になったりするケースが現にある。

 国会審議では、改正案づくりに関わった参考人の刑法学者から、大切なのは本人の自由な意思が奪われたか否かで、暴行・脅迫要件を過剰に重くみるべきではないとの発言もあった。捜査や公判ではこれまで以上に、それぞれの具体的事情に応じた適切な運用が求められる。

 「監護者」を処罰する条文についても、学校の教師や部活動の指導者らは対象にならないため、さらなる手当てが必要だとの指摘が出ている。

 改正法には「施行3年後の見直し」が盛りこまれた。暴行・脅迫要件の改廃や監護者規定のあり方は、その際の大きな検討テーマになるだろう。

 性犯罪をめぐっては、被害者からの多様な相談に乗って支援する公的窓口の整備をはじめ、二次被害を生まない事情聴取の方法や裁判手続きの改善、子どもが自らの身を守る性教育、加害者に施す更生プログラムの充実など課題が山積している。

 だが法務委員会での対政府質疑は、衆参両院で各1日、あわせて11時間ほどで、表面をなでただけで終わった。衆院で参考人の陳述はなく、性犯罪の被害女性から話を聴く機会は、参院でようやく実現した。

 政府・与党が「共謀罪」法の成立を優先して刑法改正を後回しにする一方、加計学園問題などでの追及を恐れて国会閉会を急いだためだ。表向きの発言とは裏腹に、性犯罪の深刻さに対する無理解が見てとれる。

 こうした体質の克服こそが問われている。議論をさらに深めて、「3年後」に備えたい。

(社説)韓国の民主化 歩み30年不断の進化を

 朝鮮半島は冷戦構造が今も残り、民族が分断されている。その現実を背負う韓国で、民主化宣言が出て30年を迎えた。

 軍事独裁政権の終わりを告げた宣言までの過程では、日本の支援活動も大きく寄与した。

 以来、韓国は民主化とともに飛躍的な経済成長も遂げた。いま直面する少子高齢化や低成長下の財政難など様々な悩みは、日本も共有する難題だ。

 活発な市民交流を背景に、今後も日韓ともにより成熟した民主主義を目指していきたい。

 韓国ではかつて、権力による弾圧と抵抗する市民の壮絶な闘いが繰り返された。初代大統領の李承晩(イスンマン)氏は独裁を強め、不正選挙に怒りを爆発させた民衆らによって国を追われた。

 その後、クーデターで権力をつかんだ朴正熙(パクチョンヒ)、全斗煥(チョンドゥファン)の二つの軍事政権は、反体制勢力を徹底的に抑圧した。だが、自由への渇望は絶えることなく人々は街頭に繰り出し、1987年6月、大統領直接選挙制をうたう民主化宣言を勝ち取った。

 その後も人々は行動で民意を表してきた。

 朴槿恵(パククネ)前大統領は韓国憲政史上初めて弾劾(だんがい)、罷免(ひめん)された。封建的なふるまいに民主主義の危機を感じた市民が毎週、通りを埋め尽くし、政治を動かした。

 非暴力に徹して目的を遂げたことは、民主化の進展と評価される。一方で、議会や政党などはなぜ権力の暴走を許してしまったのかという、構造的な不備を指摘する声もあがる。

 大統領への権力集中や財界との癒着など、確かに問題はあろう。どの国であれ、民主主義に完成型はなく、容易に後退もするものだ。不断の改善を積み重ねるほかあるまい。

 日本政府はかつて外交青書で韓国を「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する重要な隣国」と表現してきた。だが、2年前からは「基本的価値」を削除し、最近では「戦略的利益を共有する最も重要な隣国」としている。

 産経新聞の記者が大統領の名誉を傷つけたとして起訴されたことなどが理由とされるが、日韓が自由と民主主義を土台とする基本的な価値を共有しているのは明らかだ。

 一方、韓国民主化の過程で芽生えた日韓の市民交流は、世代を超えて広がっている。政治の関係が悪化してもこの絆がしっかりと両国をつないできた。

 NGO、文化、学術、経済など、連帯の裾野をもっと広げていきたい。隣国との交流による学びあいは、日本の民主主義の発展にも役立つだろう。

稲田防衛相発言 政治的中立に疑念持たれるな

 あまりに軽率で、不適切な発言である。自衛隊の指揮官としての自覚を欠いている。

 稲田防衛相が、東京都議選の自民党候補の応援演説で、「防衛省、自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と述べた。

 公務と政務を混同してはいないか。公務員は、公職選挙法で地位を利用した選挙運動を禁じられている。防衛相も例外ではない。

 稲田氏は当初、「駐屯地が近くにあり、地元の皆様に感謝の気持ちを伝える一環だ」などと釈明していた。だが、菅官房長官に促され、「誤解を招きかねない」として発言を撤回した。

 自衛隊法は、選挙権の行使を除き、隊員の政治的行為を制限している。稲田氏は隊員に当たらないが、防衛相の指示によって組織ぐるみで特定候補を応援しているかのように受け取られかねない。

 防衛相経験者からは、「自衛隊が政治的中立であるのはイロハのイ。稲田氏の意識が低すぎる」との批判の声が出ている。

 実力組織として政治から一線を画し、抑制的な振る舞いに徹する自衛隊員にも迷惑な話だろう。

 自衛隊の根拠規定を憲法に明記する議論が活発化してきた時期でもある。防衛相は、自らの言動に慎重を期すことが求められる。

 安倍首相は、「厳しいおしかりをいただいており、おわびを申し上げたい」と陳謝した。「将来の首相候補」も視野に、稲田氏を引き立ててきたのは首相だ。

 民進、共産など4野党は、稲田氏の罷免(ひめん)を要求した。閉会中審査の開催と臨時国会の召集も求め、首相の任命責任を含めて追及する構えだ。こうした事態を招いた稲田氏には、猛省を促したい。

 稲田氏は昨年8月の防衛相就任後、物議を醸す言動が相次ぐ。

 12月には、安倍首相の米ハワイ・真珠湾訪問に同行した直後に靖国神社を参拝した。学校法人「森友学園」が原告の訴訟に原告代理人として出廷していたのに、今年3月の国会答弁で「虚偽」と即答し、謝罪に追い込まれた。

 稲田氏は衆院当選4回ながら、党政調会長、行政改革相などに抜擢(ばってき)され、日の当たる道を歩んできた。慢心はなかったのか。

 北朝鮮は核・ミサイル開発に突き進み、尖閣諸島周辺では中国の挑発行為が続く。7月中旬には、日米外務・防衛閣僚協議(2プラス2)も控えている。

 そうした中で、防衛相への批判が強まるのは、日本の安全保障にとって好ましいことではない。

大崎事件再審 自白頼みの脆い立証の結果だ

 新たな証拠で確定判決に疑義が生じた以上、再審の扉を開くのは、理に適かなった判断である。

 鹿児島県で1979年に発生した「大崎事件」で、鹿児島地裁が再審開始を決定した。殺人と死体遺棄罪で懲役10年の刑が確定し、服役した90歳の女性の第3次請求を認めた。

 決定は、有罪の根拠だった元夫ら共犯3人の自白の信用性を「捜査機関に誘導された疑いがある」などと否定した。元夫についても、遺族の再審請求を認めた。

 裁判官は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則に沿って結論を導いたと言える。

 女性の義弟が絞殺され、自宅横の牛小屋に遺棄された。犯行は女性が主導し、元夫ら親族3人と共謀した、というのが、確定判決が認定した事件の構図だ。

 元夫らは、女性に犯行を持ちかけられた、などと自白した。女性は一貫して否認していた。

 地裁は2002年、女性の第1次再審請求を認めた。自白と遺体の状況が合致しない、との判断だったが、高裁がこの決定を取り消した。再審開始が再び認められた異例の経緯は、自白頼みの立証の脆(もろ)さを物語っている。

 女性以外の関係者が既に死亡する中、今回の決定の決め手となったのが「供述心理鑑定」だ。公判での供述記録などに基づき、話し手の反応の仕方や聞き返し方などから心理状態を分析する。

 3人のうち1人から「殺してきた」と聞いたという義妹の証言がカギだった。鑑定は体験に基づかない話をした可能性を指摘し、決定は鑑定の証拠価値を認めた。

 義妹証言の信用性を突き崩すことで、自白の信用性も崩壊させる。弁護側の戦略が奏功した。

 裁判官には、自白偏重の立証に疑いの目を向ける傾向が強まっている。近年の再審開始決定では、DNA鑑定などの科学的な客観証拠が判断を支えている。

 その点で、供述の鑑定を根拠とする今回の決定は異質である。

 検察側は即時抗告を検討している。高裁の裁判官も、供述の鑑定を有力な証拠と捉えるのかどうか、が最大の焦点となろう。

 審理の過程で、検察は、実況見分などを記録した大量の写真を初めて開示した。「存在しない」と主張していたものもあった。地裁が積極的に証拠開示するよう促したのは、適切な対応だった。

 恣意的な証拠開示は、冤罪(えんざい)につながる。公権力を用いて集めた証拠は公共財である。検察はそのことを再認識せねばならない。

2017年6月29日木曜日

東芝のメモリー事業はどこへ行くのか

 経営危機にある東芝は株主総会を開き、綱川智社長は「度重なるご迷惑、ご心配をおかけし、おわびします」と陳謝した。監査法人との意見の相違から決算報告はできず、総会までに終えたいとしていた半導体メモリー事業の売却契約も間に合わなかった。名門企業再建の足取りは依然心もとない。

 同社が当面の重要課題としているのは、最大の収益源であるメモリー事業の売却だ。虎の子の事業を高値で売ることで来年3月末の債務超過を回避、株主に迷惑をかける上場廃止を免れたい考えだ。

 巨額の投資が必要な半導体事業は、財務力の弱った東芝から切り離し、新たなスポンサーのもとで再出発するほうが事業の発展につながるという判断もある。

 ここまではひとまず理解できるとして、疑問が多いのが実際の売却案だ。東芝取締役会は先週、政府系ファンドの産業革新機構を軸にした「日米韓連合」との売却交渉を優先的に進めると決めた。

 同連合は革新機構のほか日本政策投資銀行と米ベインキャピタルが出資者に名を連ね、韓国半導体大手のSKハイニックスもベインに資金協力する形で参画する。

 疑問の第一は連合の中核である官製ファンドの革新機構に半導体のような世界を相手に戦うグローバル事業を経営できる力があるのかどうかだ。同機構の主導でつくった液晶会社のジャパンディスプレイは経営不振が続いている。

 綱川社長は技術流出を招かないことを買い手の条件にあげるが、そうであるなら、SKが参加するのもよく分からない。「我が社の技術を不正に取得した」として3年前に東芝が損害賠償を求めて訴えた当の相手がSKである。

 東芝のメモリー事業の長年のパートナーである米ウエスタンデジタルとの対立も気になる。同社は米国で売却手続きの一時停止を求めて提訴しており、ここで東芝が負ければ、売却そのものが宙に浮くかもしれない。これ以上の迷走はお互いメリットがなく、溝を埋める努力が双方に必要だろう。

 最後に仮に交渉がまとまったとしても、来年3月末までに世界各国の独禁当局の許可を得て、売却を実施できるのかという不確定要素は残る。経営とは予見できない未来に向けて複数の選択肢を用意しておくことだ。「債務超過回避による上場維持」が果たせない場合を想定したプランBを東芝経営陣は持っているのだろうか。

ITの巨人と対峙する欧州

 欧州連合(EU)の欧州委員会が米IT(情報技術)大手のグーグルに対し、円換算で3000億円にのぼる巨額の制裁金を科すことを決めた。ネット検索における支配的な地位を乱用し、公正な競争を妨げたと判断した。

 アマゾン・ドット・コムやフェイスブックなど米国のIT企業の影響力が増し、日本でも公正取引委員会が監視を強化する方針を示している。対応で先行する欧州の動向に注目したい。

 欧州委員会によると、グーグルは検索サイトで商品情報を調べた利用者に対し、自社の価格比較サービスの内容を優先して表示した。この結果、競合サービスの利用が減り、競争が弱まったという。グーグルは欧州委員会の判断を不服として、EU司法裁判所へ上訴する検討に入った。

 欧州委員会は5月にも、フェイスブックがEU競争法(独占禁止法)に違反したとして140億円相当の制裁金を科している。欧州では寡占への警戒感が強く、厳しい対応が目立つ。

 背景にあるのは、IT分野で「1強多弱」の色彩が濃くなっているという事情だ。ネットのサービスは利用者が増えるほど使い勝手が高まり、こうした傾向が強まりやすい。

 日本では2010年、ヤフーがライバルであるグーグルのネット検索技術を導入する際に公正取引委員会は「問題なし」と判断し、ほぼすべての企業がグーグルの技術を使うようになった。従来、競争当局の対応はこのように鈍かったが、データの独占への監視を強めるなど変化の兆しもある。

 ただ、ネットのサービスは無料なことも多く、価格の不当な引き上げなどを材料とする従来の基準では規制が難しい。技術の移り変わりが速く、競争状況が一変しやすい点も対応を困難にしている。

 日本でも欧州の事例から学ぶとともに、必要に応じて競争当局どうしが協力し、時代の変化に即した形で健全な競争環境を保つ必要がある。

(社説)稲田防衛相 首相は直ちに罷免せよ

 耳を疑う発言が、また稲田防衛相から飛び出した。

 おととい夕方、東京都議選の自民党公認候補の応援演説で、「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と語ったのだ。

 憲法15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と定めている。

 その趣旨も踏まえ、公職選挙法は、公務員がその地位を利用して選挙運動をすることを禁じている。

 また、自衛隊法と同法施行令では、自衛隊員の政治的行為が制限され、地方自治体の議員選挙などで特定候補を支持することが禁じられている。隊員ではないが、自衛隊を指揮監督する防衛相が「防衛省、自衛隊として」投票を呼びかけることが、隊員の目にどう映るのか。

 有権者には、閣僚の地位を利用した選挙運動としか見えない。防衛省・自衛隊が組織ぐるみで特定候補を支援していると受け止められても仕方がない。

 行政機関はその権限を、あくまで国民全体のために使うよう与えられている。まして実力組織である自衛隊は、とりわけ高い中立性が求められる。

 閣僚が選挙応援に立つこと自体はよくある。だがその場合、閣僚の職責の重さをふまえ、言動には気を配るべきものだ。そんな「常識」すら、稲田氏には通用しないのか。

 信じられないのは、稲田氏をかばう安倍政権の姿勢だ。

 菅官房長官はきのうの記者会見で「今後とも誠実に職務を果たして頂きたい」と擁護した。だが稲田氏の問題発言は他にも枚挙にいとまがない。

 南スーダンの国連平和維持活動について、現地部隊の日報にも記されていた「戦闘」を「衝突」と言い換え、「憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではない」と述べた。

 森友学園の問題でも、代理人弁護士を務めた事実を否定したが、翌日に撤回。「自分の記憶に自信があったので確認せず答弁した」と語った。

 憲法や国会を軽視した、閣僚としてあるまじき発言だ。

 稲田氏は今回も「誤解を招きかねない」と撤回したが、語った事実は消えないし、そもそも誤解を生む余地などない。

 一連の言動は政権全体の問題でもある。とりわけ政治思想や歴史認識が近い稲田氏を、一貫して重用してきた安倍首相の責任は重大だ。

 首相は稲田氏を直ちに罷免(ひめん)すべきだ。それが任命権者の責任の取り方である。

(社説)中国の人権 劉暁波氏の即刻救済を

 共産党の一党支配を墨守し、今なお民主化にたがをはめ、十分な人権を保障しない。

 そんな大国・中国の体制に異議を唱える勇気ある人びとのなかで、ノーベル平和賞を受けた劉暁波(リウシアオポー)氏(61)は最もよく知られた人物である。

 長年獄中におかれていたが、その間に肝臓がんが悪化し、仮出所して瀋陽市内の病院に移されたことがわかった。

 そもそも投獄されたことも、そして病状への対応も、きわめて不当な人権侵害である。中国政府は即刻、万全の救済措置をとらねばならない。

 劉氏は鋭い文芸評論で1980年代から活躍した。89年の天安門事件で学生の側に立ち、幾度も投獄の憂き目に遭った。

 2008年に、民主化を真正面から求める「08憲章」を知識人ら300人超の連名で発表した際に中心的役割を担った。

 これにより「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の判決を受けた。10年に受けたノーベル賞の式典には出席できなかった。

 弁護士らによれば、先月下旬に末期がんと診断され、「刑務所内の医療施設では対応できない」として仮出所になった。

 現在は専門医が付いているというが、劉氏はかなり前から体調不良を訴えていた。病状が深刻になるまで放置していたとしか考えられない。

 容体を案じる欧米諸国が中国当局に対し、国外への移送と治療を提案している。習近平(シーチンピン)政権は早急に検討すべきだ。

 劉氏が声を上げた08年当時はまだ、民主化を議論する余地があった。政治改革を声高に主張するのは難しくても、各地域で庶民の権利を守ろうと活動するNGO、弁護士らがいた。

 その後、状況は明らかに悪化している。今ではネット規制や大学への管理強化を通じて、知識人は沈黙を強いられている。人権派弁護士は次々拘束、訴追された。これでは、各地で土地収用や環境汚染などの問題に直面する庶民に寄り添う者がいなくなる。

 劉氏の問題は、中国の人権状況を象徴する問題である。中国は国際人権規約に署名し、04年の憲法改正で「国家は人権を尊重し保障する」と明記したが、現実は逆行している。

 劉氏らが高らかに掲げた「08憲章」は、「人類の平和と人権の進歩に貢献すべきである」と記した。きびしい弾圧の下でも世界の市民とともに理想を追おうとした決意が重く響く。

 日本を含む国際社会はもっと大きく声を上げ、習政権への働きかけを強めねばならない。

対「イスラム国」 モスル奪還を壊滅に繋げたい

 無差別テロの脅威を世界に拡散させる残忍な集団の壊滅に向けて、大きな前進となろう。

 過激派組織「イスラム国」のイラク最大の拠点である北部モスルの陥落が近づいている。

 イラク軍は、米軍の空爆支援を得て、昨年10月から奪還作戦を進めてきた。包囲網は数百メートル四方にまで狭まったという。戦闘地域に取り残され、「人間の盾」にされた住民の安全を確保しつつ、制圧を実現する必要がある。

 モスルはイラク第2の都市で、「イスラム国」が3年前に占拠した。指導者のバグダーディ容疑者が、イラクとシリアにまたがる「国家」の樹立を宣言し、公開処刑や異教徒に対する弾圧などの過酷な統治を始めた場所だ。

 「建国宣言」に使われたイスラム教礼拝所のヌーリ・モスクを「イスラム国」は最近、爆破したとされる。支配を象徴する拠点をそのまま明け渡し、敗北が歴然となることを避けたのだろう。

 イラクで「イスラム国」が掌握する地域は大幅に縮小した。油田強奪による原油密売や住民の上納金などの収入源を断たれ、組織は弱体化している。米国を中心とする有志連合は、掃討作戦を加速させ、壊滅に繋(つな)げてもらいたい。

 イラク政府は、モスル奪還後に過激派やテロ組織が再び入り込むことがないよう、政治の安定と民生の向上に努めるべきだ。住民の円滑な帰還と復興には、国際社会の支援と助言が欠かせない。

 シリアでも、「イスラム国」が「首都」と位置付ける北部の拠点ラッカで、少数民族のクルド人部隊が奪還作戦を進める。米国が武器供与などの後方支援を担う。

 看過できないのは、「イスラム国」が敗走した後、どの勢力が支配するのかを巡り、関係国の主導権争いが激化していることだ。

 米国はクルド人勢力やシリアの反体制派を支援する。ロシアとイランは、アサド政権による支配の回復を狙い、軍事介入を強める。米露が協調する機運が見られないのは、憂慮すべき事態である。

 このままでは、シリアの分断の固定化が進むだけではないか。

 「イスラム国」が衰退しても、インターネットで過激思想に感化された者によるテロの危険が減るわけではない。ロンドンなどで凶行が起きるたびに、「イスラム国」は追認する形で犯行声明を出し、影響力維持を図っている。

 各国は引き続き、テロ関連情報の共有や警備体制の点検など対策強化に取り組まねばならない。

ヒアリ初確認 水際の対策強化で拡散防ごう

 国内での繁殖を防ぐためには、港湾や空港など水際での監視の強化と徹底した駆除が大切だ。

 南米原産の毒アリである「ヒアリ」が、国内で初めて兵庫県内で確認された。中国・広東省から神戸港を経て運ばれたコンテナの中に、幼虫や卵を含む数百匹がいた。

 コンテナが留め置かれた神戸港でも約100匹が見つかった。

 刺されるとやけどのような痛みを感じることから、「火蟻」の名が付いた。かゆみや腫れがしばらく続き、アレルギー体質の場合、呼吸困難や意識不明に陥るケースもある。侵入を許した北米では、多数の死者が出ている。

 体長は2・5~6ミリだ。赤茶色で、肉眼では一般のアリと見分けるのが難しい。怪しいと思ったら、素手では決して触らず、自治体や保健所への通報を徹底したい。

 刺された際には、20~30分ほど安静にして様子をみる。症状が重くなったら、直ちに医療機関で治療を受ける必要がある。

 ヒアリの繁殖力は強い。既に中国や台湾、オーストラリアなどにも生息する。人や家畜に害を及ぼすことから、環境省は、国内への持ち込みを禁じる「特定外来生物」に指定している。

 国際自然保護連合(IUCN)は、世界の侵略的外来種ワースト100に挙げている。

 神戸港内で見つかったヒアリは、小さな集団だったとの見方が強いが、油断はできない。港内の別の場所に紛れ込んでいないのか。神戸港以外にも、侵入している可能性は捨てきれまい。

 環境省は近く、主要な貿易港に専門家を派遣して、緊急調査を実施する。念入りにチェックし、繁殖、拡散を防がねばならない。

 人や物の国境を越えた往来が活発になるにつれて、外来生物が入り込む機会は格段に増えた。地球温暖化により、これまで日本では生息できなかった南方の外来種が棲み着くことも考えられる。

 いったん拡散すると、駆除は極めて困難だ。1995年に初めて大阪府で見つかった毒グモ「セアカゴケグモ」は、今では40以上の都道府県で目撃されている。

 侵略的な外来種は、その土地の固有種を駆逐してしまうことが多い。固有種が絶滅し、生態系が崩れると、元には戻らない。

 環境省による定期調査では限界があろう。港湾や空港で、日常的に貨物を扱う業者の役割は重要である。不審な生物を見つけたら、殺虫剤などで駆除し、関係機関に連絡することが求められる。

2017年6月28日水曜日

日欧は政治主導でEPA交渉の決着を

 日本と欧州連合(EU)による経済連携協定(EPA)の締結にむけた交渉が、大詰めの段階を迎えている。

 米国が環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決め自由貿易に大きな逆風が吹いている。今こそ日・EUは政治主導で交渉を決着させ、世界の保護主義の動きに歯止めをかけねばならない。

 日本と、世界最大の単一市場を持つEUをあわせた経済規模は全世界の約3割を占める。日・EUのEPAは世界最大級のメガ自由貿易協定(FTA)といわれ、その意義はきわめて大きい。

 双方は7月上旬に独ハンブルクで開く20カ国・地域(G20)首脳会議までの大枠合意をめざしており、首席交渉官らが連日交渉を続けている。

 交渉は進展しているが、残された最大の焦点はモノの関税撤廃・削減だ。

 日本はEUによる日本製の自動車や電子機器向け関税の撤廃を求めている。これに対し、EUは日本による欧州製チーズやワインなどの関税撤廃・削減を強く要求しているのが基本構図だ。

 気になるのは、日本の農産品の市場開放について「米国を含む12カ国がTPPで合意した水準を上回るべきではない」との意見が日本の関係者から出ていることだ。

 たとえば、日本はTPPでモッツァレラやカマンベールといったチーズの関税を維持した。だから対EU交渉でも同様の対応をせよ、という主張だ。

 だがEUはチーズの対日輸出拡大を重視している。牛肉では日本に輸出する商品は米国と欧州で異なり、単純な比較は不適切だ。

 日本が「譲歩するのはTPP合意の範囲内まで」といった硬直的な態度に終始すれば、EUによる自動車関税の早期撤廃という成果を得られない公算が大きい。交渉には大所高所の観点から柔軟な対応が求められる。

 山本有二農相はいったん欧州訪問を計画したが、自民党内の慎重論を受けてとりやめた。交渉が最終段階に入っているのに、日本政府内の体制が混乱しているのではないか。

 対EUのEPA交渉の担当閣僚は岸田文雄外相である。これまで事務レベルに交渉を委ねてきたが、そろそろ指導力を発揮して交渉を仕上げるときだ。自由貿易を守るという歴史的な責務から逃げてはならない。

給油所の過疎対策を計画的に

 身近にガソリンスタンドがない「給油所過疎地」が増えている。市町村内の給油所が3カ所以下の自治体は2017年3月末時点で全国に302市町村と、4年前に比べて約2割増えた。1つもない自治体も12町村あった。

 ガソリンや灯油は生活に不可欠の物資である。供給が滞れば地域の衰退は加速しかねない。安定供給を維持する方策を、国や自治体、地域の住民が一体となって計画的に考えていく必要がある。

 給油所が3カ所以下の自治体と、最寄りの給油所まで15キロメートル以上離れている居住区域がある自治体とを合わせれば、500市町村をこえる。こうした過疎地にある約1400カ所の給油所を対象に経済産業省が実施した調査では、約3割が「廃業を考えている」「事業の継続は未定」と答えた。

 こういった給油所は経営者の高齢化や事業採算の悪化に直面している。給油所は医療や教育などの機能とともに地域インフラの要だ。給油所がゼロになった時に慌てるのではなく、余裕を持って減少に備えることが重要だ。

 経産省は近く、調査結果を地域ごとに集計したデータを「市町村カルテ」として該当する自治体に提供する。自治体はこれをもとに、地域の住民も交えて具体的な対処計画を早急につくるべきだ。

 和歌山県すさみ町では、道の駅に隣接する閉鎖中の給油所を町が買い取って再開させた。高知県四万十市では経営がたちゆかなくなった給油所を、地域住民らが出資する会社が買い取った。

 ガソリン販売だけでなく、食料品店や郵便局など、様々な地域インフラと融合させる工夫を考えることも大切だ。秋田県仙北市では地域住民の協力を得て灯油配送を特定の日に集約し、給油所の従業員の余力をほかの事業に振り向ける取り組みが始まった。

 給油所の省力化に向けた技術開発や規制緩和にも取り組む必要がある。自宅で充電ができる電気自動車の普及を促すことも、過疎地対策の選択肢になるだろう。

(社説)加計学園問題 ちゃぶ台返す首相発言

 ちゃぶ台をひっくり返すような、信じがたい発言である。

 安倍首相が先週末の講演で、国家戦略特区を使った獣医学部の新設について、「地域に関係なく、2校でも3校でも、意欲のあるところにはどんどん認めていく」と語った。

 親友が経営する加計学園を優遇したのではないか――。

 この深まるばかりの疑惑から国民の目をそらしたい。競合校にも参入を認めれば文句はないだろう。そんな安直な発想と、いらだちが透けて見える。

 特区とは、まず地域限定で規制改革を試し、その効果を検証したうえで全国に広げていくものだ。1校目が開学もしないうちから「すみやかに全国展開をめざしたい」(首相)など、手続き無視、整合性なしの暴論そのものだ。

 政権内にもずれがうかがえる。首相発言をめぐる記者の質問に対し、菅官房長官は、今後の獣医学部新設は「4条件に照らし、整合的かどうか検討することになる」と述べた。

 4条件とは、獣医師全体の動向や、獣医師が対応すべき生命科学など新分野での具体的な需要見込みを指す。新設の検討に入る前提として、安倍内閣の下で2年前に閣議決定された。

 首相発言は、この4条件をみずから否定するのに等しい。官房長官の見解との食い違いをどう説明するのか、はっきりさせてもらいたい。

 前川喜平・前文部科学事務次官は、4条件が満たされているという明確な根拠が、農林水産省からも厚生労働省からも示されないまま、内閣府主導で手続きが進んだとして、「行政がゆがめられた」と訴えた。

 この指摘を受けて、当時の決定過程を検証し、ただすべき点はただす。それが筋であり、国民が強く求めるところだ。

 だが首相や周辺は、「規制改革派」と「抵抗勢力」の対立が生んだ問題として片づけようとしている。それはすり替えでしかない。新設学部には多額の公費が投じられ、成否は学生の将来にも影響を及ぼす。規制緩和は是としても、事前に需要を吟味するのは当然必要だ。

 首相以下、政権の主立った人々は、口では「丁寧な説明」と言いながら、文科省で見つかった一連の文書について説明責任を果たそうとしない。国会を閉じることをひたすら急ぎ、閉会中審査にも、憲法に基づいて野党が要求した臨時国会の召集にも、応じるそぶりを見せない。

 このままでは疑惑が晴れることはなく、民心は離れる一方だと知るべきだ。

(社説)電力株主総会 提案生かし打開の道を

 原発をもつ電力大手8社がきょう、株主総会を開く。今年も株主の市民や自治体が脱原発を求める議案を計60件近く出しているが、8社の経営陣はすべてに反対を表明している。

 23日にあった東京電力の株主総会でも、株主提案はすべて否決された。各社とも「社会の理解を得て原発の再稼働を進める」と繰り返している。

 福島第一原発事故から6年あまり。再稼働に対する世論は依然として厳しい。昨年の電力小売りの全面自由化で、電力会社の経営環境も大きく変わりつつある。原発頼みの経営を続けていいのか。大手各社の経営陣が説得力あるビジョンを示しているとはとうてい言えない。

 株主提案の中には、現状を打開する策として、検討に値するものもある。

 たとえば再稼働への「同意権」についてだ。原発の周辺自治体は事故後、同意権を含む安全協定の締結を電力会社に求めたが、各社は拒否している。

 四国電力や北海道電力の市民株主団体は、事故時に影響が及ぶ恐れがあるすべての自治体と安全協定を結ぶよう提案する。四電の株主の本田耕一さんは「原発を動かすならそれぐらいの覚悟が必要」と話す。

 関西電力の筆頭株主の大阪市は今年も8議案を出した。再生可能エネルギーの積極的な導入で脱原発を急ぐ一方、国主導で検討している使用済み燃料の処分方法が決まるまで原発を再稼働しないよう求めている。

 吉村洋文市長は「事故のリスクやコストを考えれば原発が企業価値を高めるとは思えない。大きな方向性として再エネに転換していくべきでは」と説く。

 九州電力の市民株主団体は、専門家や市民が加わる委員会で、電源別のコストを検証することを提案した。電力大手が、原発にこだわる大きな理由として挙げる「安い」は本当なのかを問い直そうとする試みだ。

 経営陣はもちろん、多くの株を持つ機関投資家も、前向きに検討してほしい。

 株主総会は本来、会社の将来について、株主と経営陣が建設的な対話をするための場だ。株主から出た意見を、経営改革や信頼の向上に生かす道を考えることを、電力大手各社の経営陣に強く求めたい。

 今年3月の朝日新聞の世論調査では、54%が原発の再稼働に反対と答えた。賛成のほぼ2倍という傾向が続いている。再稼働への「社会の理解」が得られていない現状を各社は直視し、異論に耳を傾けない姿勢を改める必要がある。

南シナ海と海保 共同訓練で各国の能力高めよ

 南シナ海で「法の支配」を確立し、安全で開かれた海を実現するには、東南アジア各国の海上警備能力の強化が不可欠だ。ハード、ソフト両面で支援せねばならない。

 海上保安庁が南シナ海で、フィリピン、ベトナムとそれぞれ共同訓練を実施した。日本が供与した巡視船艇を使った初の訓練だ。日本の巡視船も参加した。

 南シナ海では、東シナ海と同様、中国漁船が公船を伴って違法操業をする例が多い。海軍が出動すれば緊張が高まるため、警察権を持つ海上保安機関が対処し、既成事実化を防ぐことが重要だ。

 東南アジア各国の海保は、設立から日が浅い。国際法に基づいて中国漁船などを取り締まる経験や能力が十分ではない。

 日本は近年、各国の要請を受け、巡視船を提供してきた。共同訓練を重ねることで、巡視船の法執行能力は着実に向上しよう。

 ベトナムでの訓練は、違法操業中の外国漁船を発見したとのシナリオで行った。中国漁船の密漁に苦慮するベトナムが提案した。フィリピンでは海賊を想定した。

 違法船をゴムボートで挟み撃ちして乗り込み、容疑者を拘束する。停船命令を再三出し、ビデオ撮影で証拠を残す。適正な法的手続きを確認した意義は小さくない。

 日本がフィリピンに供与した巡視艇には、海上保安大学校の練習船で訓練した経験のあるフィリピン人幹部2人が乗船した。

 海賊に関する国際情報共有センターの職員も訓練に加わった。マラッカ海峡の海賊対策として、日本主導で2006年にシンガポールに設立された組織である。

 今回の共同訓練の実現で、日本が地道に築いてきた各国との協力関係が深化したと言えよう。

 問題の背景には、中国が南シナ海一帯の領有を主張し、各国と衝突してきたことがある。

 中国は、昨年7月の仲裁裁判所判決で南シナ海での主権を明確に否定された後も、人工島などの開発を継続している。南シナ海をシーレーン(海上交通路)として重視する米国や豪州などと連携し、自制を迫ることが欠かせない。

 中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は8月にも、南シナ海の紛争防止に向けた「行動規範」を策定する予定だ。中国のさらなる独善的な行為を抑制する内容とすることが重要である。

 南シナ海の海洋秩序の維持には日米両国などが東南アジア各国の海保を支援し、中国との装備・能力の格差を埋めねばならない。

裁判員辞退増 参加促す環境整備を進めたい

 裁判員の候補に選ばれても、辞退する人の割合が増加傾向にある。

 最高裁によると、昨年の辞退率は65%近くにまで上昇した。裁判員制度が始まった2009年は53%だった。このままでは、国民の多様な考え方を刑事裁判に反映させる制度の趣旨が損なわれかねない。

 多くの人が参加できるよう、環境整備に知恵を絞りたい。

 辞退率を押し上げている原因の一つが、審理の長期化だろう。京都地裁で始まった連続変死事件の裁判員裁判は、象徴的な例だ。

 筧千佐子被告が、夫と交際相手の計4人に対する殺人罪や強盗殺人未遂罪に問われている。

 検察側は、被告が青酸化合物を用いて、財産目的で毒殺した、などと主張する。直接証拠が乏しいため、状況証拠を積み重ねて、被告以外に犯人はあり得ないことを立証する方針だ。

 弁護側は全面無罪を訴える。被告は認知症だとして、責任能力などを争う方針も示す。

 48回の公判が予定され、審理期間は135日にも及ぶ。証人は50人を超える見通しだ。裁判員の心身に、極めて大きな負担がかかることは間違いない。

 地裁は、多数の辞退者が出ることを見越して、過去最多の920人を候補者名簿から抽出した。辞退率は最終的に8割を超えた。

 会社勤めや自営業の人が、仕事を犠牲にして、これだけ長期にわたり重責を全うするのは現実的に難しいだろう。辞退者が続出するのは、無理からぬ面がある。

 裁判所側も、辞退を柔軟に認めている。国民に過度な負担を強いれば、裁判員制度への支持を失うとの懸念がうかがえる。

 結果として、長期の公判で裁判員を引き受けるのは、まとまった時間を確保できる人に限られてしまう。6人の裁判員の構成が特定の層に偏るのは、決して好ましい状況とは言えまい。

 無論、時間をかけた慎重な審理は重要だが、それが裁判員への参加を妨げる要因となっている現状は、可能な限り改善すべきだ。裁判所には、一層の効率的な審理が求められる。連日の開廷を避けるといった工夫も必要だ。

 最高裁は、辞退率上昇の要因として、非正規雇用の増加も挙げる。社内での立場が弱く、休暇を取りにくいためだろう。従業員が裁判員に選ばれたら、参加を認める雰囲気作りは欠かせない。

 何より大切なのは、裁判員制度の趣旨を社会全体で改めて認識することである。

2017年6月27日火曜日

スマホ「敗戦」に何を学ぶか

 米アップルのスマートフォン(スマホ)「iPhone」が29日、発売から10年の節目を迎える。販売台数は累計10億台を超え、各地の人びとが場所を問わずにネットを使う礎を築いたといえる。

 一方、iPhoneをはじめとするスマホの普及は、通信機器をつくる日本企業に深刻な影響を及ぼした。

 NECやパナソニックがスマホから撤退し、販売地域を縮小する動きも相次いだ。日本企業はこの「敗戦」を教訓に、次の事業展開を進める必要がある。

 iPhoneが成功した理由のひとつは、使い勝手の向上に向けてソフトを重視したことだ。高度なものづくりを自負する日本では当初、「iPhoneの機械としての性能は低い」との見方もあった。だが、基本ソフト(OS)の性能を高めて快適に使えるようにし、販売を拡大した。

 日本でもソフトが競争力を左右する傾向が強まっていることを認識し、人材育成や、技術者が働きやすい環境整備を急ぐべきだ。

 アプリと呼ぶソフトを開発する外部企業や個人を取り込み、「経済圏」を築いた功績も大きい。便利なアプリが増え、普及に弾みがついた。

 通信会社に依存せず、独自に戦略を練って世界展開を進めた点にも学びたい。日本では歴史的に、NTTドコモなど通信会社の影響力が大きかった。ネット接続サービス「iモード」は国内で成功したが、国際展開でつまずき、通信機器を納める企業も苦境に陥った。

 今後、世界では第5世代(5G)と呼ぶ高速で多くの機器を接続できる次世代の通信規格の普及が始まる。自動車や産業用ロボットなど多くの製品がネットにつながるIoTの基盤になる。

 この分野で出遅れるようなことがあれば、現在の日本を支える多くの産業の競争力が低下しかねない。技術開発や事業計画の立案にスマホの失敗を通じて得た知見を生かし、二の舞いを避ける必要がある。

民事再生に追い込まれたタカタの教訓

 欠陥エアバッグ問題で経営が悪化したタカタが東京地裁に民事再生法の適用を申請した。シートベルトなどの安全部品で高い世界シェアを持ち、優良企業として知られたタカタだが、ひとたび消費者の信頼を失うと、転落は速く、法的整理に追い込まれた。同社の軌跡は大いなる反面教師である。

 タカタは受注減で業績が悪化している上に、ホンダなどの自動車会社が肩代わりするリコール費用を含めた実質的な負債が膨らみ、負債総額は1兆円を超えたとみられる。銀行の融資姿勢も厳しくなり、早晩資金繰りが破綻しそうなことから、法的整理を選んだ。

 この選択自体は妥当だろう。同社創業家を中心に、当事者同士の話し合いで債務をカットする「私的整理」を模索する向きもあったが、裁判所の監督下で再生を進める法的整理のほうが手続きの透明性が高い。債権放棄を迫られる自動車メーカーなどにとっても、納得感が高まるはずだ。

 残された課題の一つはリコールの加速だ。問題のエアバッグは異常爆発によって米国で11人の死者を出しているが、回収率は米国で4割弱、日本でも7割にとどまり、今でも事故の危険性のある古い車がそのまま走っている。

 加えて今後新たに事故が発生した際にどのように賠償責任を果たすのか。現タカタの経営陣と、再生手続きを経てタカタの事業を買い取る米自動車部品のキー・セイフティー・システムズ、そして自動車メーカーの3者で話し合い、万全の体制を整えてほしい。

 欠陥エアバッグ問題で浮き彫りになったのは、タカタをはじめとする関係者の対応の鈍さだ。異常爆発の原因は今も完全に解明できていないが、事故が起きているのは現実であり、自ら能動的に対策を打つ必要があった。だが実際には世論の高まりに押される形の受け身の対応が目立った。

 米司法省は今年1月に出した声明で「10年以上にわたり安全よりも納期や利益を優先してきた」とタカタの企業体質を批判している。同社経営陣の優柔不断さを指摘する声もある。

 今回の事件は自動車産業全体にも教訓を残した。自動運転など新たな技術がこれから実用化されると、便利さの裏側で、過去にはなかったような新種の安全問題が起きるかもしれない。その時に機敏に対応しなければ、消費者と社会の信頼を失うことになる。

(社説)首相改憲発言 国民の目そらす思惑か

 安倍首相が先週末の講演で、自民党の憲法改正原案について「来たるべき臨時国会が終わる前に、衆参の憲法審査会に提出したい」と語った。

 2020年の改正憲法施行をめざし、これまで年内に原案をまとめる意向を示していた。臨時国会に言及することで、さらにアクセルを踏み込んだ形だ。

 強い疑問が浮かぶ。日本はいま、それほど改憲を急がねばならない状況なのだろうか。

 首相の主張の中心は戦争放棄と戦力不保持をうたう9条の1項と2項を維持しつつ、自衛隊を明記するというものだ。

 だが自衛隊には幅広い国民の支持がある。明記を急ぐ合理的な理由があるとは思えない。

 もう一つ、首相があげているのが高等教育の無償化だ。

 これは憲法に書くか否かではなく、財源の問題だ。財源を用意し、自らの政策判断で進めれば改憲しなくてもできる。

 本紙の主要企業100社アンケートでも、首相のめざす「20年の憲法改正」を「めざすべきだ」と答えたのはわずか2社。39社が「時期にはこだわるべきではない」と答えた。

 そんな状況下でなぜ、首相は改憲のアクセルをふかすのか。

 内閣支持率の急落を招いた、加計学園の問題から国民の目をそらし、局面を変えたい。そんな思惑はないか。

 首相は講演で語った。「(獣医学部の新設を)1校だけに限定して特区を認めたが、中途半端な妥協が結果として国民的な疑念を招く一因となった」「速やかに全国展開をめざしたい」

 明らかな論点のすり替えだ。

 問われているのは、規制改革が「中途半端」だったかどうかではない。首相の友人が理事長を務める加計学園が事業主体に選ばれた過程が、公平・公正であったかどうかだ。

 首相が今回、講演先に選んだのは、産経新聞の主張に賛同する任意団体「神戸『正論』懇話会」だった。5月には読売新聞のインタビューと、日本会議がかかわる改憲集会に寄せたビデオメッセージで「20年改憲」を打ち出した。

 主張の近い報道機関や団体を通じて改憲を説く一方で、国会で問われると、読売新聞を「ぜひ熟読して」と説明を避ける。まさにご都合主義である。

 首相がいまなすべきは、憲法53条に基づく野党の要求に応じて速やかに臨時国会を開き、自らや妻昭恵氏に向けられた疑問に一つひとつ答えることだ。

 憲法無視の首相が、憲法改正のハンドルを握ることは許されない。

(社説)タカタ倒産 遅きに失したけじめ

 自動車部品のタカタが、民事再生法の適用を申し立てた。エアバッグの異常破裂によるリコール費用の負担に耐えられなくなったためだ。負債の総額は1兆円を超えそうで、製造業では戦後最大の倒産になる。

 タカタは、日本での自動車シートベルトの草分けであり、エアバッグでも独自技術で世界的なメーカーに躍り出た。自動車の安全に貢献することを掲げて成長してきた企業が、製品の欠陥によって、自らの基盤と存在意義を掘り崩してしまった。

 1年前の株主総会で、創業家出身の高田重久会長兼社長は問題を謝罪し、再建のめどがついたら辞任する考えを示した。その後、再建策づくりは迷走を重ねた。経営陣が、関係者の話し合いに基づく私的整理を望んだことも一因とみられる。高田氏は製品の安定供給を続けるためと説明したが、結果として判断が遅れたのは否めない。

 しかもその間、高田氏らは経営責任や再建の方向について、公的な場で説明をほとんどしてこなかった。昨日の会見でも関係者らに「心より深くおわびする」と述べたものの、社内体制や経営判断のどこに問題があったのか、具体的な分析や教訓は示さなかった。

 問題の根本も依然、不透明だ。エアバッグ問題では関連事故で米国だけで11人が亡くなっている。米司法省は今年1月、タカタの元幹部3人を詐欺罪などで起訴したと発表。法人としてのタカタに巨額の補償基金や罰金を科した。

 このとき、連邦検察官は「利益ほしさにデータを改ざんした」とまで批判した。だが、この際もタカタは簡単な声明を出しただけで、「米司法省との取り決め」を理由に、発表文以外の説明は拒否したままだ。

 今後は民事再生法の下で再建が進む。裁判所が関与する法的整理の一つであり、透明性の高い手続きを期待したい。高田氏は経営から退く意向を表明し、創業家の保有株式も無価値になると見られる。遅きに失したとはいえ、当然のけじめだろう。

 再建の過程で、関連事故の被害者への対応に遺漏があってはならない。米国での被害者には補償基金が積まれているが、その他の国ではどうなるのか。

 問題のエアバッグの改修率も日本でも7割強、米国では4割以下で、早急な対応が必要だ。

 自動車は生活を便利にし、経済活動を支える一方で、人を傷つける存在にもなる。自動運転など技術が高度になる中で、関係業界は安全性の向上に努める姿勢を改めて確認してほしい。

首相の政治姿勢 閉会中審査も辞さずに説明を

 反省を口にするだけでは、政権への不信感は払拭(ふっしょく)できない。首相や閣僚らは、疑惑や疑問に、より丁寧かつ踏み込んで対応すべきである。

 安倍首相が先週末の講演で、加計学園問題などで紛糾した通常国会を振り返り、「国民に申し訳なく、深く反省せねばならない」と改めて陳謝した。

 与野党が対立する中、改正組織犯罪処罰法(テロ等準備罪法)の参院委員会採決を「中間報告」で省略し、会期を延長せずに国会を閉会したことも念頭にあろう。

 首相は「印象操作のような議論がされると、強い口調で反論し、政策論争以外の話を盛り上げてしまった」とも語った。「築城3年、落城1日」と自戒し、「真摯(しんし)に説明責任を果たす」と強調した。

 内閣支持率が下落し、東京都議選にも影響しかねない。そうした危機感を踏まえ、低姿勢で政権運営に臨む考えを示したのだろう。言葉通りの行動が求められる。

 首相は、国家戦略特区による獣医学部開設を「日本獣医師会の要望を踏まえ、まず1校に限定して特区を認めた」と説明した。この妥協が疑念を招いたとし、「地域に関係なく、2校でも3校でも新設を認めていく」と表明した。

 獣医学部新設は、昨年11月の特区諮問会議で、「広域的に獣医師系養成大学の存在しない地域」に限定するとの条件付きで認められた。野党は、「加計ありき」の条件だと批判している。

 山本地方創生相は、「広域的に」との条件は自らの判断で加えたという。その後、獣医師会が1校限定を求めたのだが、その受け入れを含め、一連の政策決定過程をもう少し丁寧に説くべきだろう。

 テロ等準備罪法について、首相は「一般の方が捜査対象になることはない」と改めて言明した。一般人が処罰されるとの誤解を解きつつ、テロを未然に防ぐための法律を運用することが大切だ。

 野党は、加計学園問題などで政府を追及するため、臨時国会の召集を要求している。

 政府・与党は、臨時国会の早期召集には消極的だが、公明党の山口代表は「閉会中審査というやり方もある」と指摘する。説明責任を果たすと約束する以上、閉会中の予算委員会の集中審議には前向きに応える必要がある。

 首相は、自民党の憲法改正案を秋の臨時国会に提出する考えを表明した。重要かつ困難な課題で結果を出すには、世論の支持の回復が欠かせない。緊張感を持って国政に取り組まねばなるまい。

タカタ法的整理 リコールの責任を全うせよ

 安全軽視の経営が招いた倒産劇である。経営陣は、過去最悪の規模となったリコール(回収・無償修理)の責任を全うしなければならない。

 欠陥エアバッグのリコール問題で業績が悪化したタカタが、民事再生法による法的整理に追い込まれた。負債総額は1兆円を超える見通しだ。製造業としては戦後最大の経営破綻である。

 中国企業傘下の米自動車部品会社が再建を主導する。タカタは、米社に主要事業を譲渡した上で、リコール対象エアバッグの改良部品を引き続き製造する。

 タカタのエアバッグは、作動時に異常破裂して、金属片が飛び散る事故が相次いだ。米国で11人が死亡したほか大勢がケガをし、国内でも負傷事故が起きた。

 エアバッグの不具合を10年余り前に把握していたのに、安全より利益を優先してリコールや原因究明が遅れた。これが信頼を失墜させ、破綻を余儀なくされた。

 大切なのは新たな被害を出さないことだ。世界で1億個超が回収対象となったが、回収率は米国で4割、日本で7割にとどまる。

 未回収の欠陥エアバッグによる破裂事故が今後も起きる恐れがある。タカタは、自動車メーカーと協力して国内外で回収に全力を挙げねばならない。

 対策費用が巨額に上り、自力再建が困難となった後も、経営陣は抜本的な再建策を先送りし、問題を深刻化させた。

 経営トップが説明責任を果たしてこなかったことも会社の信用を失わせた。高田重久会長兼社長が記者会見したのは、2015年11月以来、約1年半ぶりである。

 高田氏らは、自動車メーカーが肩代わりしている巨額のリコール費用減免などを柱とした自主再建にこだわった。

 株式の約6割を握る創業家として経営の実権を握り続ける思惑があったとの見方は少なくない。

 早期の法的整理で人心を一新し、事故対応に注力すべきでなかったか。企業統治を改革し、内向きの体質を変える必要がある。

 タカタ問題は、特定企業に部品調達を依存するリスクを露呈し、日本の製造業の信頼を損ねた。

 大手と下請けの緊密な系列取引は日本企業の強みだ。製品の不具合に迅速に対応する体制作りが産業界全体の課題となろう。

 タカタの法的整理で、下請け企業が納入代金などを回収できないケースも想定される。政府は、連鎖倒産が広がらないように金融支援に万全を期してもらいたい。

2017年6月26日月曜日

費用対効果を検証し納得できる薬価を

 厚生労働省は健康保険料などで費用を賄っている薬の効果が価格に見合うか広く検証し、2018年度以降、費用対効果が劣る薬の価格を引き下げる。増え続ける薬剤費が医療財政を圧迫するのを避けるためだ。透明で国民が納得できる薬価制度につなげてほしい。

 準備のため厚労省は今夏、薬価に関する国民調査をする。たとえばがんの薬で「命を1年間延ばすのに、この程度の額なら公的医療保険で負担してもよい」という水準を聞く。

 結果を製薬会社のデータなどと合わせ、薬の費用対効果を測る「ものさし」をつくる。調査で国民の「相場観」をつかめれば、ものさしに説得力をもたせやすい。

 国の医療費は40兆円を超え、薬剤費はその約2割を占める。高額な抗がん剤や再生医療が普及すれば増加ペースは上がるとみられ、いずれ公的医療保険で賄いきれなくなるとの懸念は強い。今回の調査は危機感を国民全体で共有するきっかけにもなろう。

 ただ、1年間健康に生きるためにいくらかけるかは、一人ひとりの人生観にもつながるデリケートな問題だ。単純に金額では割りきれない面もある。

 薬の費用対効果の評価が定着している英国では、この金額は2万~3万ポンド(約280万~420万円)とされる。しかし英国の評価機関が高額な新しいがんの免疫薬の使用を推奨しない方針を示すと抗議が起き、見直しを迫られた。

 過度の薬価引き下げは、製薬会社の開発意欲をそぎかねないという問題もある。新薬開発は10年近い歳月と1000億円前後の費用がかかる場合もある。優れた研究成果を国内で製品化できず、海外企業に先を越された例は多い。

 高額の薬でも遺伝子解析などによって投与に適した患者を絞り込めれば、薬剤費が無制限に膨らむのを避けられる。逆に適用範囲が拡大し、価格が低くても量で稼げる薬も出てくるだろう。

 費用対効果は、こうした技術の変化などを受け柔軟に評価する工夫が必要だ。信頼性があり客観的な分析ができる、英国のような独立した評価機関もいる。

 費用対効果が思わしくない極めて高価な薬を、公的医療保険の対象からはずすのも検討課題だ。富める者だけが良質な薬を買えるという不公平感を生まぬよう、医療全体の質を底上げすることが前提なのは言うまでもない。

日印原発協力は厳格ルールで

 日本とインドの両国政府が結んだ原子力協定を国会が承認し、来月にも発効することになった。インドの国内手続きを経れば効力をもつ。協定の発効により日本の原子炉メーカーが炉の本体や部材を輸出する道が開ける。

 一方で、インドが核拡散防止条約(NPT)に未加盟で、核兵器を保有していることも忘れてはならない。締結交渉はこの点が問題になり6年以上を費やし、国会審議でも核不拡散をさらに形骸化させかねないと懸念する声が出た。

 日本政府はインドが核実験を再開した場合、協力を停止すると説明している。加えて、日本から供与した技術の軍事転用を防ぐ厳格な歯止めも欠かせない。核不拡散のルールを守りながら、地に足のついた協力を進めるべきだ。

 インドは経済成長に伴い電力需要が急増し、2050年までに電力の25%を原発で賄う計画を立てている。温暖化防止でも原発を重要な手段と位置づける。日本より先に米国やフランスなどと原子力協定を結び、仏アレバ社から6基を輸入する計画も動き出した。

 同国への輸出をめざしていた東芝の子会社、米ウエスチングハウスが経営破綻し、計画の一部は修正を迫られているが、インド政府は原発増設の方針を変えていない。原子炉本体を欧米企業が輸出する場合でも、部材を提供する日本企業抜きには成り立たない。

 国内メーカーは東京電力福島第1原発事故を踏まえ安全技術を高めつつある。それをインドの原発の安全確保に生かす道もあろう。

 日本は唯一の被爆国として核兵器を持たず、他国の核武装に協力しないことを原則としてきた。今回の協定をテコにして、インドに核実験停止の約束を守り続けるよう求め、NPTへの加盟も粘り強く働きかけることが大事だ。

 インドは太陽光発電など再生可能エネルギーを増やす計画も表明している。日本政府はエネルギー分野の協力を原子力だけにとどめず、再生エネルギー分野などに広げていくことも考えるべきだ。

(社説)東電新体制 事故の責任、心に刻め

 6年前に福島第一原発の事故を起こした東京電力が、経営陣を刷新し新たな体制を発足させた。この先も長く続く事故対応や、必要な資金を稼ぎ出すための経営改革に向けて、足場を固め直すのがねらいだ。

 事故で経営が立ちゆかなくなりながら国の支援で存続を許されたのは、被災地の復興に重い責任を負ったからだ。経営陣と社員らはこの原点を改めて心に刻み、使命をまっとうしなければならない。

 持ち株会社の社長には小早川智明氏(53)を起用した。保守的な社風で知られる電力大手では異例の若さだ。ほかの幹部人事も抜擢(ばってき)が目立つ。

 これまでは、政府が送り込んだ社外取締役と生え抜き幹部の間で足並みの乱れが指摘された。社内をどうまとめるか。日立製作所の経営を立て直したことで知られる新会長の川村隆氏(77)の役割は大きい。

 東電は膨らむ事故処理費用をまかなうため、事業部門ごとに他社との提携・再編を進めて稼ぐ力を高める戦略を描く。国民負担を抑えるためにも身を削る努力は必要だが、再編が進むほどに東電グループとしての意識が薄れる恐れもある。

 廃炉や復興支援などの事故対応は数十年間にわたり、事故や直後の混乱を経験した社員は時とともに減っていく。そうした中で組織の形が変わっても、加害企業としての当事者意識と責任感をしっかり保っていけるかが問われる。

 風化を防ぐには具体的な行動が欠かせない。

 東電は被災地で賠償や廃炉に直接責任を負うほか、除染作業や事業再開の手伝いなどの復興活動に人員を投じてきた。家の片付けや除草といった地域密着の活動には、大半の社員が一度は参加したという。今後は福島第一原発や被災地での業務を社員研修に組み込むなどして、全員が定期的に経験することにしてはどうか。

 経営陣にとっては、社内の縦割り意識を改めることも急務だ。柏崎刈羽原発で最近、重要施設の耐震性不足を原子力規制委員会に報告していなかった問題が発覚した。社内の連携不足が主な原因というが、福島第一の教訓を真剣にくみ取ってきたのかと疑われても仕方がない。

 電力会社を取り巻く環境は、販売の地域独占をなくす全面自由化で大きく変わった。事故の反省を生かし、監督官庁や自治体、政治家にばかり目を向ける古い体質と決別して、広く社会と向き合う。そうした企業への脱皮を東電に求めたい。

(社説)五輪開催地難 改革は待ったなしだ

 五輪の行き詰まりを端的に示す話と言っていい。

 東京の次の24年夏季大会をどこで開くかが、ことし9月に決まる。国際オリンピック委員会(IOC)は先日の理事会で、次々回28年大会の開催都市も一括して選ぶ方針を明らかにした。24年はパリ、28年はロサンゼルスになる見通しだ。

 開催地は大会の7年前に選定するという規定があるなか、異例の判断だ。背景には肥大化した五輪への強烈な逆風がある。住民投票や世論調査で「五輪ノー」の民意を突きつけられ、撤退する都市が近年相次ぐ。

 幸い24年大会にはパリとロスが名乗りを上げている。一方を有力候補のない28年にまわすのは、当面の対応としては良いアイデアかもしれない。

 だが、どちらもすでに2回ずつ開催した実績をもつ。今や限られた巨大都市しか五輪を引き受けられないのが現実だろう。果たしてこの世界最大の祭典を今後も続けていけるのか。

 わずか17日間の大会に、小国なら1年分の国家予算に当たる巨費がつぎ込まれる。それが今の五輪だ。豪華な施設を造ったのはいいが、大会後、廃虚と化している例は珍しくない。

 「五輪は政府、スポーツ界、財界などが結託して公金を浪費する事業だと、市民から懐疑的に見られている」

 バッハIOC会長自身の言葉を、IOCはもちろん、競技を運営する国際競技団体も真摯(しんし)に受けとめ、ともに抜本改革を急がなければならない。

 1970年代にも危機があった。76年モントリオール五輪はオイルショックによる物価高騰で膨大な赤字を計上。返済に市民の税金が使われ、立候補をためらう都市が続いた。

 IOCは84年ロス五輪から大胆な商業主義の導入に踏み切った。高額のテレビ放映権料などが入るようになって難局を切り抜けたが、その後も大会の巨大化は続き、現在に至っている。

 IOCは3年前に、種目数を310、選手数を1万500人に抑える目標を掲げた。しかし東京五輪で早くも棚上げされ、疑問の声が出ている。大会規模の抑制と経費の削減は至上命令だ。施設の新設や改修にあたっても、大会後の利用見通しについて、これまで以上に冷徹な評価が求められる。

 むろん東京も例外ではない。あわせて、会場に大観衆を集めなくても各地で迫真の競技を楽しめるよう、仮想現実(VR)映像を積極活用するなど、将来につながる工夫にとり組んでほしい。改革は待ったなしだ。

民泊法成立 近隣住民への配慮が肝心だ

 自宅の空き部屋などに客を有料で泊める民泊のルールが決まった。新たな宿泊形態の定着へ、事業者の責任は重い。

 住宅宿泊事業法(民泊法)が成立した。来年6月に施行される見通しだ。

 部屋を提供する事業者に、都道府県への届け出や宿泊者名簿の作成、衛生管理を義務づけた。

 空き部屋を利用者に仲介するインターネットのサイトが急速に普及し、既に多くの外国人旅行者などが利用している。

 従来は、民泊も原則、旅館業法に基づく許可が必要だったが、許可の要件は厳しい。国内の仲介サイトに登録された民泊約1万5000件の最低でも30%が無許可で営業しているとされる。

 今後は、民泊に許可を求めない代わりに、届け出制の規制をかけることで、適切な営業を促す狙いは理解できる。

 政府や自治体が新法の意義や規定の周知に努め、届け出の徹底を図ることが重要だ。

 最大の課題は、民泊物件周辺の住環境への配慮である。住居専用地域では旅館やホテルの営業は禁止だが、民泊は可能だからだ。

 多くの自治体に、民泊の客による騒音やゴミの不法投棄などの苦情が相次いでいる。

 新法では民泊の営業を最大で年間180日とした。自治体が「生活環境の悪化を防ぐ必要がある」と判断した場合、条例で減らすことができる。長野県軽井沢町などが具体的に検討している。

 各地で民泊による周辺環境の悪化が深刻化すれば、自治体による制限が相次ぎ、普及にブレーキがかかる恐れがある。

 新法は、事業者に対し、宿泊者への騒音防止などの説明や苦情処理を義務づけている。責任ある対処が求められる。

 民泊制度の創設は本来、違法行為の罰則を強化する旅館業法の改正とセットだ。しかし、改正案は先の国会で継続審議となった。民泊法とは審議する委員会が異なり、足並みがそろわなかった。成立を急がねばならない。

 政府は、東京五輪が開かれる2020年の訪日外国人を4000万人と、16年から6割増やす目標を掲げる。東京と大阪でホテルが計2万室以上不足するとの試算もある。民泊は有力な受け皿として期待されている。

 欧米の主要都市では、民泊は格段に浸透している。政府の成長戦略の柱である観光立国を実現するには、民泊が順調に定着するかどうかが試金石となろう。

放射線審議会 確かな情報を分かりやすく

 福島原発事故からの復興を加速するために、放射線の科学的な防護・安全対策を徹底させる。それが政府の放射線審議会に課せられた責務だ。

 放射線審議会は、原子力規制委員会の所管で、医療機関や大学の専門家で構成される。

 検討対象はこれまで、省庁からの諮問に限られていた。放射線対策の重要性が増したため、4月の法改正で機能が強化され、独自の調査・提言が可能になった。委員は5人増の13人体制になり、関連の研究予算が設けられた。

 法体系を再構築することが、当面の課題である。

 関係省庁は事故後、多数の法令・規則を整備した。住民避難の基準は、政府の対策本部が年間線量20ミリ・シーベルトと定めた。厚生労働省は、食品中のセシウム量の基準を設けた。環境省は、除染廃棄物の指定基準を決めた。

 いずれも関係省庁などが独自に設定したため、一般には、安全性の根拠が分かりにくい。

 避難基準の20ミリ・シーベルトは、当時の民主党政権が国際放射線防護委員会(ICRP)の知見も踏まえて採用した。国際基準に沿う内容だが、不安視する人もいる。

 食品の安全基準値は海外より格段に低い。飲料水中のセシウム量は、米国が1キロ・グラム当たり1200ベクレルに対し、日本は10ベクレルだ。

 一般食品の基準は、日本人が口にするものの半数は汚染されているとの前提で算定されている。食品汚染がほとんど検知されていない現状には、そぐわない。

 これらの基準について、環境省は「統一的な基礎資料」を作成して、冊子やネットで周知している。100ミリ・シーベルト以下の被曝(ひばく)では、がんリスクは有意でない、との情報も紹介しているが、被災地などには「1ミリ・シーベルトの呪縛」が残る。

 放射線審議会は今後、ICRPによる放射線の防護・安全対策に関する最新の勧告を精査して、関連法に反映させる方針だ。

 放射線量が着実に減っていることなど、関係地域の実情に沿った法規制を目指したい。

 韓国の文在寅大統領は、脱原発を唱えた演説で、「福島原発事故で1368人が死亡し、放射能の影響による死亡者やがん患者の発生数は把握すら不可能だ」と述べた。何を根拠にしているのか。

 世界保健機関(WHO)などは「放射線による健康影響が確認される可能性は小さい」との見解を示している。風評を払拭(ふっしょく)するために、放射線審議会は、確かな情報を内外に発信せねばならない。

2017年6月25日日曜日

食の健康志向を脱・安売り競争に生かせ

 米アマゾン・ドット・コムが総額137億ドル(約1兆5000億円)で、自然食品に強い高級スーパーの米ホールフーズ・マーケットを買収する。健康志向の高まりから、付加価値が高い有機食品の購入者が増えていることが背景にある。日本の流通業者もこの分野の開拓に真剣に取り組みたい。

 ホールフーズは1978年に創業し、有機農産物など自然派の野菜や加工食品を扱うことで業績を伸ばしてきた。価格は高くても健康に良い食品を求める人々が主な客層だ。

 しかし近年はウォルマートなど他の流通大手も有機食品市場の可能性に気づき相次ぎ参入、手の届きやすい価格で商品を提供し始めた。その結果、先行したホールフーズの業績は伸び悩んでいた。

 今後は培ったブランド力や商品調達力を生かしつつ、アマゾンのIT(情報技術)も活用し、若い世代を中心に有機野菜などを売り込んでいくとみられる。健康を気にする現代の若者に対し、付加価値の高い商品を手軽に買えるようにするのは理にかなった戦略だ。

 日本でも化粧品分野では、有機素材などを使った自然派商品の愛用者が増えている。価格は高めだが市場の伸び率は年6%程度と、化粧品市場全体の約2倍。けん引役は外資系ブランドだ。

 しかし食品分野では有機商品の普及度はまだ低い。米国では3.2兆円、ドイツでは1兆円、フランスでは5700億円の有機食品市場があり年率6%から8%で拡大しているのに対し、日本の市場規模は1300億円前後だ。

 日本でも健康に配慮した食品に対する消費者の関心は高い。伸び悩む背景として、消費者から価格が高い、身近に店がない、店の雰囲気が入りにくいといった指摘がある。流通業界の工夫次第で、市場が拡大する可能性は高い。

 イオンは有機食品のプライベートブランドを立ち上げたほか、フランスの企業と提携し昨年、専門スーパーを開いた。日本生活協同組合連合会は今年、有機栽培した食品や環境保護に配慮した雑貨などをエシカル(倫理的)商品として売り込んでいく計画だ。

 こうした取り組みが実を結べば、安値競争とは異なる成長の道が開ける。今の新規就農者は有機農法や無農薬栽培への関心が高いという調査結果もある。有機食品市場の拡大は、農業の振興や地方創生にもつながるのではないか。

「限定正社員」を広げる機会だ

 2013年施行の改正労働契約法によって、期間の定めのある有期雇用契約を5年を超えて更新された人は、希望すれば無期雇用に移れるというルールができた。その無期転換の権利を得る人たちが来年4月から出始める。

 新ルールは企業の人材活用に制約を与えるもので、望ましくはない。ただ無期転換権を得る人について短時間勤務などの「限定正社員」への登用を進め、この雇用形態を社内に定着させていけば、子育ての一段落した女性らを採用しやすくなる。企業は成長力を高めるために、無期転換する人の人事制度を整えるべきだ。

 無期雇用という形態は、雇用期間に定めのない点は正社員と同じだ。しかし、昇進・昇給や教育訓練など、正社員に一般的な制度が設けられる保証はない。

 パートなど有期契約で働く約1500万人のうち、勤続が5年を超える人は3割を占める。無期転換権が発生する来年度は、賃金などの労働条件をめぐって企業の現場が混乱する恐れがある。

 このため企業は就業規則や労働組合と結ぶ労働協約で、無期雇用の人の処遇を定めておく必要がある。個人と交わす雇用契約書などで、職務や役割も明確にすることが求められる。無期転換の開始をにらんで十分に準備すべきだ。

 そのなかで企業に考えてほしいのが、非正規で働いていた人の処遇改善も確実に進められる限定正社員の導入だ。

 労働時間を「限定」したり、勤務地を限って転勤せずに済むようにしたりするこの雇用形態は女性の活用に役立つ。仕事と家庭の両立に悩む女性の就労を支援する。

 技能を持った高齢者の受け皿にもなる。企業は限定正社員制度を競争力向上に生かしてはどうか。

 無期雇用への転換を企業に義務づけ、事業活動の自由度を下げる新ルールは、見直すのが筋である。ただし企業にとっては、雇用形態を多様化する機会でもある。ルールができたのを奇貨として、生産性向上につなげたい。

(社説)憲法70年 公務員はだれのために

 公務員はだれのために働いているのか。そう嘆かざるをえないできごとが相次いでいる。

 安倍首相の妻昭恵氏が名誉校長としてかかわった森友学園への国有地売却で、財務省が異例の対応をしていた実態を示す資料が次々と明らかになった。

 首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設計画では、内閣府が「総理のご意向」だとして文部科学省に手続きを促していたとする内部文書が判明した。

 公平、中立であるべき公務員の姿が大きく揺らいでいる。

 ■「全体の奉仕者」に

 明治憲法下における「天皇の官吏」は、新憲法のもとで、主権者である国民のために働く公務員へと大きく転換した。

 憲法15条が「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と定めるのは、その宣言である。

 戦後70年余、多くの官僚の働きが日本を支えてきたことは確かだ。だが、官僚機構が総体として「全体の奉仕者」の使命を果たしてきたかといえば、必ずしもそうとは言えない。

 戦前の官僚主導の行政機構は戦後も温存された。占領当局が日本統治にあたり、国内事情を熟知する官僚に依存したこと、多くの政治家が公職追放を受けたことなどが背景にある。

 官僚が族議員の力を借り、省益や業界益の実現を図る。そんな政官のもちつもたれつの関係が成立した時代もあった。

 しかし政官の癒着やタテ割り行政のひずみが広がり、経済成長の鈍化も加わって、政治主導によるトップダウンの政策決定がめざされるようになった。安倍政権が2014年に内閣人事局を設置したのも、1980年代末からの一連の政治改革の延長線上にある。

 ■内閣人事局の副作用

 内閣人事局の設置で、中央官庁で働く約4万人の国家公務員のうち、事務次官や局長ら約600人の人事に首相や官房長官が直接かかわるようになった。

 それにより首相官邸が官僚機構の人事権を掌握したが、現状は副作用も大きい。

 多くの官僚が、官邸の不興を買うことを恐れ萎縮している。「官邸の意向」を過度に忖度(そんたく)し、「時の権力への奉仕者」と化してしまってはいないか。

 元自治省課長で総務相もつとめた片山善博・早稲田大教授は「今の霞が関は『物言えば唇寒し』の状況。内閣人事局発足以降、この風潮が強まっている」と朝日新聞に語っている。

 もちろんすべての官僚をひとくくりにはできない。加計問題で、「怪文書」と断じた政権に追従せず、「総理のご意向」文書の存在を証言した文科省職員らを忘れるわけにはいかない。

 とはいえ、衆参で与党が圧倒的多数の議席を占める「安倍1強」のもとで、国会による政権の監視が弱まり、立法府と行政府の均衡と抑制が機能不全に陥っている。そのうえに官僚が中立性を失い、政権と官僚の相互チェックが損なわれていることの弊害は極めて大きい。

 では政と官のあるべき関係とはどういうものか。

 政策決定に当たっては、選挙で国民に選ばれた政治家が方向性を示す。官僚は具体化するための選択肢を示し、政治家が最終判断する。それが望ましい政官関係のあり方だろう。

 同時に、官僚は政治家にただ従えばいいわけではない。政治家の過ちには異議を唱え、説得に努めることも欠かせない。

 「変化」に敏感で、状況に応じて方向を決める政治家。「継続」を重んじ、中立性を旨に行政を安定させる官僚――。両者の役割分担によって適切な緊張関係が生まれれば、惰性を排することにも、過度な振幅を抑えることにもつながる。

 ■「政と官」再構想を

 日本と同じ議院内閣制で、一連の政治改革のモデルとされた英国の事情はどうだろう。

 「英国では政策決定はトップダウンの政治主導だが、人事は必ずしも政治主導ではない」

 内山融・東大教授(政治学)はこう解説する。

 「省庁の次官や局長級人事については、政治の干渉を受けない国家公務員人事委員会が選考委員会をつくって候補者1人を首相に推薦する。首相はその人事を拒否できるが、その場合はもう一度、委員会で選考し直すことになる。そうすることで中立性が保たれる仕組みだ」

 日本の官僚機構に中立性を育むために何が必要か。

 まず政権が人事権を乱用し、官僚に過度の圧力をかけるようなことはあってはならない。

 そして、官僚は「全体の奉仕者」としての仕事ぶりを主権者である国民に十分に開示し、チェックを受ける必要がある。

 そのためにも、政策形成にかかわる公文書をより厳格に管理し、積極的に情報公開することから始めなければならない。

 そのうえで人事制度の見直しを含め、政と官のあるべき関係を構想し直す時ではないか。

がん基本計画 予防と早期発見を徹底したい

 がんで亡くなる人を減らすためには、予防と早期発見が有効である。対策を加速させたい。

 厚生労働省の協議会が今後6年間を対象期間とする新たな「がん対策推進基本計画」の案をまとめた。7月にも閣議決定される。

 現行計画は、2005年からの10年間で75歳未満のがん死亡率を20%減らす目標を掲げる。これに基づき、がん治療拠点病院の整備など医療の充実を進めてきた。

 死亡率の低下や5年生存率の向上など、成果は着実に上がっている。ただ、死亡率は16%程度の減少にとどまり、目標には届かなかった。喫煙率やがん検診の受診率が想定通り改善されなかったことなどが原因とされる。

 その反省に立ち、計画案は発症後を中心とした対策から、予防・早期発見に軸足を移した。

 予防のために重点を置いたのがたばこ対策だ。喫煙率の低下と受動喫煙防止へ向けた取り組みの推進を求めている。

 協議会で合意した飲食店などでの「受動喫煙ゼロ」の目標は、明記されなかった。受動喫煙対策を強化する法案が、自民党内の反対でまとまらなかったことが影響した。がん予防の観点からも、法整備を急ぐ必要がある。

 早期発見には、がん検診の受診率向上が不可欠だ。現状は男性40%台、女性30%台で、目標とする50%には及ばない。

 異常が疑われた場合の精密検査の受診率が65~85%であることも問題だ。計画案は90%に引き上げる目標を新たに掲げた。

 対象者へのきめ細かな受診勧奨や、受診しやすい体制整備など、検診を実施する自治体や職場で、より有効な対策を工夫してもらいたい。初期の段階でがんを確実に発見するためには、検診の精度向上も重要である。

 世代別の患者支援を盛り込んだのも、計画案の特徴だ。

 特に、青少年や若年成人への対策を初めて取り上げた。治療が進学や就職、結婚、出産など、人生の節目に重なる世代だ。学業の中断などが、その後の生活に大きな影響を及ぼす可能性もある。

 療養中の教育や復学の支援をはじめ、ライフステージに応じたサポートが欠かせない。

 働く世代のがん患者が増え、就労支援は現行計画でも重点課題だ。昨年末には、患者の雇用継続への配慮を企業に求める改正がん対策基本法が施行された。政府の働き方改革の一環として、実効性ある取り組みを広げたい。

豊田氏自民離党 国会議員の劣化を放置するな

 常軌を逸したパワハラ行為である。最近の国会議員の劣化には、あきれるほかない。

 自民党の豊田真由子衆院議員が離党届を提出した。乗用車を運転中の秘書に「死ねば。生きている価値ない」などと暴言を浴びせたうえ、顔や背中を殴る暴行をはたらいた問題の責任を取ったものだ。

 豊田氏は、東大法学部卒で、旧厚生省に入省した元官僚だ。2012年衆院選で初当選し、文部科学政務官などを務めた。

 14年春の園遊会では、本来は入場できない母親を強引に入場させて警備とトラブルになるなど、問題行動が表面化していた。豊田氏の事務所では、秘書や職員が次々と辞め、定着しないという。

 自民党執行部が、23日告示の東京都議選への悪影響を懸念して離党を促し、豊田氏も了承した。

 離党以外に選択肢はなかったのだろう。こうした非常識で適格性を欠く国会議員がなぜ、これまで要職を務めてきたのかという、根本的な疑問もわいてくる。

 自民党では、かねて「2012年問題」が指摘されてきた。豊田氏を含め、12年に初当選し、現在、2期目の衆院議員が様々な不祥事を起こしているためだ。

 15年8月には、未公開株を巡る金銭トラブルが発覚した武藤貴也氏が離党した。昨年は、宮崎謙介氏が不倫問題で議員辞職した。

 今年も、被災地視察に関連して「長靴業界はもうかった」などと発言した務台俊介氏や、女性問題を起こした中川俊直氏が政務官を辞任した。大西英男氏は、がん患者は「働かなくていい」と語り、都連副会長を辞任した。

 極めて深刻な事態である。

 12年衆院選当時は野党で、現職議員が少なかった自民党は、大量の新人を擁立した。その多くは、民主党政権の度重なる失政を「追い風」に楽々と当選した。

 14年衆院選でも、安倍内閣の高い支持率に支えられ、再選を果たす幸運に恵まれた。今になって、自民党の「1強」下の驕(おご)りや緩みと相まって、ツケが回ったと言っても過言ではあるまい。

 自民党執行部も、若手議員の質の低下に関する問題意識はあり、国会活動などの研修の強化を求める声が出たが、実現しなかった。人材育成・教育面で党を補完すべき派閥も機能していない。

 党執行部は、現状を放置すべきではない。目に見える形で若手の研修に取り組み、緊張感を持たせる努力をしなければ、不祥事の連鎖は断ち切れまい。

2017年6月24日土曜日

中国は北朝鮮に一段の効果的な圧力を

 米中両国政府は初の外交・安全保障対話で北朝鮮の核・ミサイル問題を協議した。北朝鮮の挑発が続いているにもかかわらず、目立った成果がなかったのは遺憾だ。中国には北朝鮮に最大限の効果的な圧力を加える責任がある。

 中国の習近平国家主席は4月に米国でトランプ米大統領と会い、貿易不均衡是正などに向けた「100日計画」で合意した。一連の計画には、経済・貿易問題ばかりではなく安全保障問題も含まれていた。焦点は北朝鮮問題だ。

 トランプ大統領は北朝鮮に影響力を持つ中国に期待した。北朝鮮の不可逆的な核放棄に向けた説得に100日の猶予を与える代わりに、貿易問題で中国に強硬に圧力を加える措置を控えたのだ。

 米側にとって今回の対話は、100日の期限が7月に来るのを前に北朝鮮問題の進展を確認する意味があった。だが、「中国は経済的、外交的圧力をさらに強める責任がある」というティラーソン米国務長官の発言からは強い不満が見て取れる。

 中国側は代表団を率いた外交トップ、楊潔篪国務委員らが共同記者会見に応じず、共同文書づくりも見送った。国連決議で制裁対象となった北朝鮮企業との取引を控える点で一致したが、中国は北朝鮮との対話に重きを置く。圧力重視の米国との違いは鮮明だ。

 米中対話に先立ち北朝鮮は拘束していた米国人学生を昏睡(こんすい)状態で解放したが、米国で亡くなった。トランプ大統領は北朝鮮問題での習主席の姿勢を一定の範囲で評価しつつも「まだうまくいっていない」と表明した。

 7月にドイツで開く20カ国・地域(G20)首脳会議の場で米中首脳会談がある場合、トランプ大統領は、北朝鮮が動かざるをえない強力で具体的な措置をとるよう習主席に強く迫るべきだ。

 中国は年後半に共産党大会での最高指導部人事を控えている。権力基盤を一段と固めたい習主席は、内政に集中するため、当面、安定した対米関係を必要としている。4月の米中首脳会談以来の“対米融和”もこの流れにある。

 ただ、それらが中国の内政上の思惑による演出にすぎないとすれば、北朝鮮問題は動かない。アジアと世界の安定を揺るがす北朝鮮の核・ミサイル問題では、具体的な成果が必要である。この問題の解決のカギを握るのは間違いなく中国だ。

加計問題でなお説明が必要だ

 学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部の新設問題を巡り、首相官邸の強い関与を示す新たな内部文書が見つかった。政府は野党が求める臨時国会の召集や閉会中審査に応じ、関係者の証言を通じて政策判断の経緯をさらに丁寧に説明していくべきだ。

 松野博一文部科学相は20日、国家戦略特区を活用した獣医学部の新設に関する萩生田光一官房副長官の発言概要とされる文書を公表した。萩生田氏が文科省幹部と面会し「総理は『平成30年(2018年)4月開学』とおしりを切っていた」「加計学園事務局長を担当課長のところにいかせる」と発言した記録がある。

 萩生田氏は「不正確なものが作成され、意図的に外部に流されたことについて非常に理解に苦しむ」と内容を否定した。一方で前川喜平前文科次官は首相官邸側からの働きかけがあったと繰り返し証言し、説明が全く食い違う事態になっている。

 民進、共産、自由、社民の野党4党は22日、憲法の規定に基づき臨時国会の召集を政府に求めた。野党は加計学園の理事長が安倍晋三首相の友人である点を重視し、獣医学部の新設で政治の圧力や官僚の忖度(そんたく)があった可能性があると追及している。

 国家戦略特区は許認可権限を持つ省庁が業界団体と結びついて新規参入を阻む「岩盤規制」に官邸主導で風穴を開ける仕組みだ。ただ政治家の圧力が公正な判断をゆがめたとすれば大きな問題だ。政府・与党は国会審議を通じて事実の解明を求める野党の声に謙虚に耳を傾けるべきだろう。

 前国会では学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地払い下げ問題も焦点となった。様々な証言や内部文書が飛び交う一方で、交渉の経緯を検証するための行政文書の保管や公開基準のあいまいさが課題として浮上している。

 与野党は政治の関与や行政判断の透明性を確保するため、公文書管理のあり方を改めて議論していく必要がある。

(社説)都議選告示 どの視点で投票するか

 東京都議選が告示された。

 有権者は日本の人口の1割にあたる1100万人。「首都」の選挙であると同時に、旧態依然の体質を引きずる巨大な「地方議会」の選挙でもある。

 誰に、どんな思いを託して一票を投じるか。考えるべきポイントは少なくない。

 まずは、注目の小池百合子都知事との向き合い方だろう。

 就任以来のこの11カ月で、知事は東京五輪の経費削減や会場見直しに取り組んだ。市場問題では、延期していた豊洲への移転を選挙直前に表明し、築地との「両立」を打ち出した。

 情報公開を高く掲げ、これまでにない改革を進めているという評価もあれば、「敵」をつくっては都政をかきまわしているだけとの批判もある。きのうの各党の第一声でも、知事への姿勢はさまざまに分かれた。

 確認しておきたいのは、都議会は知事の追認機関であってはならない、という大原則だ。

 地方自治を支える「車の両輪」として、議員は知事と緊張関係を保ちながら、予算や施策を監視する責任がある。

 今年春の都議会では、石原慎太郎知事のころに決まった市場移転の経緯がただされ、その不透明ぶりが浮き彫りになった。

 長年にわたって知事与党だった自民、公明両党が、チェック機能を十分に果たしてきたとは言いがたい。それは同時に、小池知事が代表を務める地域政党「都民ファーストの会」が、知事の方針にただ追従するのではなく、本来の役割を果たせるかとの懸念にも通じる。

 早大マニフェスト研究所の報告書では、47都道府県議会のうち、都議会の「改革度」は36位だ。1人あたり年600万円の政務活動費を受けとる一方で、議員提案による政策条例の実績はゼロ、委員会審議のネット中継もない。議場では品のないヤジが飛びかう。実に恥ずかしく、情けない議会である。

 適切な見識と立案力を持ち、自立した候補者は誰なのかを、冷静に見極めたい。

 かつての社会党や日本新党の躍進、政権交代をもたらした民主党の圧勝、そして自民党の復権と、都議選はその後の国政選挙の行方を幾度も占ってきた。今回は、加計学園や森友学園をめぐる問題などで、政権批判が高まるなか実施される。その観点からも目が離せない。

 選ばれる都議の任期は東京五輪の後も続く。福祉、防災など多くの課題を抱えるこのまちの将来を、知事とは別の立場で担っていく議会をどう作るか。有権者も試されている。

(社説)中国ネット法 言論封じる異常な統制

 ネット空間はだれもが自由に情報をやりとりする場だ。規制は最小限でなくてはならない。

 しかし中国政府は、そう考えていないようだ。今月、「インターネット安全法」が施行された。すでに厳しいネット管理・統制をさらに強める法律だ。

 実質的に言論の自由を否定する内容であり、中国で活動する外国企業にも大きな影響を与えるおそれがある。

 習近平(シーチンピン)政権は「ネット主権」を主張する。ネットにおいても国家の安全・秩序維持を最優先させる考え方だ。

 今回の法律は利用者の実名登録を徹底させ、ネットを通じた「政権転覆」や「国の分裂」の扇動を禁じる規定を掲げる。ネット空間を厳格に監視する体制を築こうとしている。

 各国で政府機関や企業がサイバー攻撃にさらされたり、ネット犯罪が横行したりしており、対策は追いついていない。だがそうした問題への取り組みと、言論の封じ込めを混同するわけにはいかない。

 法律の施行と前後して、著名な改革派の学者がネットで発信できなくなった。外国メディアのサイトが閲覧できない、世界の人々が交流するフェイスブックのようなソーシャルメディアが使えない、などの措置は以前から続いている。

 政権批判につながる文言が流れるのを警戒しているとみられるが、ネット時代に逆行する異常な取り締まりである。

 何かにつけ国家の安全を名目に市民の権利を軽視するのが中国当局のやり方だ。今回の法律も、そうした傾向を強めるものでしかなく、利用者の自由を守る発想は欠けている。

 中国で展開する外国企業にも不安が広がっている。

 ネット関連の製品・サービスは「国家標準に適合しなければならない」とされ、外国企業の事業を制限しかねない。犯罪捜査に際し「技術的支援、協力」を義務づける点については、企業秘密の技術を取られるのではないかと心配されている。データの国外持ち出しに規制をかけているのも穏当ではない。

 日本を含む多くの国の企業団体が主体となり、強い懸念を示す文書を中国政府に提出したが、法は施行されてしまった。

 世界で重きをなし、積極的な外交に打って出る大国が、いっぽうで国を閉ざし、社会を息苦しいものにしている。

 恣意(しい)的な法執行を少しでもなくすよう、中国の外からも引き続き監視しなければならない。それは声を上げられない中国の市民のためでもある。

東京都議選告示 幅広い課題で充実した論争を

 現職知事が地域政党を率いて戦う。首都では異例の選挙が始まった。

 東京都議選が告示された。小池百合子知事が代表の「都民ファーストの会」が、公明党などの支持勢力と合わせて過半数の64議席を確保できるかどうか。それが、最大の焦点である。

 小池氏が、都政に対する評価の受け皿として都民ファーストの議席を位置付けているためだ。知事と議会の二元代表制の意味合いを根底から変えている。

 この4年間で知事が2人続けて辞職に追い込まれるなど、都政の混迷は深刻だ。選挙では、知事の「追認機関」との批判がある都議会の在り方も問われよう。

 小池氏は、街頭演説で「都議会は忖度(そんたく)政治が横行していた」と訴え、議会を主導してきた自民党との対決姿勢を鮮明にした。

 争点の市場問題について、小池氏は、豊洲に移転した上で築地の跡地を再開発し、市場機能を併存させる基本方針を公表した。採算性や再開発の内容は不透明だ。具体的なプランや収支見通しを早期に示すことが求められる。

 都民ファーストの公約は、都議会改革に重点を置く。市場問題に限らず、幅広い政策をより明確に打ち出してもらいたい。

 自民党は、豊洲への早期移転を主張しており、知事の判断の遅れで不要な経費が膨らんだと批判する。国政選挙並みの態勢で臨む方針だが、安倍首相が小池氏と直接対決する状況は回避している。

 都議選は、国政と連動する傾向が強いだけに、強引な国会運営や加計学園問題による内閣支持率の低下が、選挙結果に影響することを警戒しているのだろう。

 公明党が、長年連携してきた自民党と袂(たもと)を分かち、国政とは異なる構図で臨むのも異例だ。公明党は自民党と同様、豊洲市場への移転を主張してきた。都民ファーストと選挙協力する理由について、分かりやすい説明が必要だ。

 立候補予定者の離党が相次いだ民進党は、党勢低迷をどこまで抑えられるのか。共産党は、小池都政に是々非々の姿勢を示す。

 東京五輪や待機児童問題、首都直下地震対策など、課題は山積している。受動喫煙防止条例を各党がこぞって打ち出したように、公約は横並びになりがちだ。

 有権者は、各党が掲げる政策の手法や実現性などをしっかりと見極めることが大切である。都議選への関心は、これまでになく高い。生活に深く関わる都政について考える契機にしたい。

首相沖縄訪問 抑止力と負担軽減の両立図れ

 日本の平和を守るには米軍の抑止力の維持が不可欠だ。同時に、沖縄の過重な基地負担は軽減する必要がある。この両立の努力こそが肝要だ。

 太平洋戦争末期の沖縄戦で組織的戦闘が終結したとされる「慰霊の日」の23日、沖縄全戦没者追悼式が沖縄県糸満市で開かれた。

 安倍首相はあいさつで、20万人の命が失われた沖縄戦を踏まえ、「戦争の惨禍を決して繰り返してはならない」と述べ、平和の維持に全力を尽くすと強調した。

 沖縄の基地負担について「現状は到底是認できない。軽減のため確実に結果を出す」と語った。

 負担軽減の最たるものは、宜野湾市中心部にある米軍普天間飛行場の移設の実現だ。移設先の名護市辺野古では、埋め立てに向けた護岸工事が続けられている。

 市街地における事故の危険性の除去、騒音被害の解消に向け、移設を着実に進めねばならない。

 普天間飛行場は交通の支障にもなっている。2015年の日米合意に基づき、東側の土地約4ヘクタールが7月に返還される。市道に整備される予定で、市民には朗報だ。

 人口が多い県南部における他の米軍施設返還も加速させたい。

 翁長雄志知事は追悼式での平和宣言で、基地負担軽減を改めて強く求めた。さらに、今年も辺野古移設に言及し、「沖縄の民意を顧みずに工事を強行している現状は容認できない」と批判した。

 戦争の犠牲者を悼み、平和を祈念する場で政治色の強い主張を展開するのは、いかがなものか。

 辺野古移設は、日米両政府と地元自治体の長年の調整を経てまとまった唯一の現実的な解決策だ。地元3区が条件付きで容認するなど、民意は反対一色ではない。

 疑問なのは、翁長氏が新たに国を相手取って工事差し止め訴訟を起こす方針を決めたことだ。

 3月に県の岩礁破砕許可の期限が切れた後も、政府が工事を続けていることを問題視するためだ。県議会で関連議案の可決後、来月中旬にも提訴するという。

 だが、岩礁破砕許可は漁業権が設定された漁場が対象だ。地元漁協が漁業権を放棄したため、水産庁は「許可は不要」との見解を示している。翁長氏には、これを覆せる法的根拠があるのか。

 政府と県は昨年3月の和解で、「確定判決に従い、互いに協力して誠実に対応する」と確約した。12月の最高裁判決で県側が敗訴したのに、再び法廷闘争に持ち込むのは、司法を交えた政府との約束を蔑(ないがし)ろにするものと言えよう。

2017年6月23日金曜日

自民党―「一強」の実像 [著]中北浩爾

 いま自民党は、「安倍一強」の党内権威主義の傾向が著しく、党内からの異論は聞こえてこない。なぜそうなったかを理解する上でも本書の周到な分析は有益である。
 1994年の政治改革、とりわけ小選挙区制の導入と政治資金規制の強化は、自民党を大きく変えた。派閥の後退、財界などの影響力の低下、公認権・政党助成金の配分権を握る党幹部の権力強化、官邸主導に傾く政策形成などが、その変化として指摘される。
 安倍晋三首相のもとでも自民党の絶対得票率は低迷しており(小選挙区で25%前後、比例代表で15〜20%)、高い内閣支持率を誇る首相もけっして無党派層を惹(ひ)きつけてはいないという指摘は特に重要である。
 安定した地方組織や公明党との連携など他党にはない資源ゆえに、自民党の優位は当面動きそうもない。しかし、票やカネは確実に減少してきており、「一強」とされるこの党も意外に脆弱(ぜいじゃく)であることがわかる。

金融e時代―中国における金融デジタル化の現在と未来 [著]万建華

 中国におけるフィンテック(金融IT)の拡大は、北欧と並び世界最速ペースで進んでいる。特にモバイル決済によるキャッシュレス化は驚異的な進展を見せており、日本より遙(はる)かに先に行っている。
 本書の執筆は4年前なのだが、著者の慧眼(けいがん)が随所に現れている。アリババなどのインターネット企業が既存の金融業界を根底から揺るがす破壊力を持っていることが力説されている。
 ビル・ゲイツは1990年代に、「21世紀の民間銀行は恐竜と同じく絶滅に向かう」と語った。現実はそこまで行っていないが、本書は「従来型銀行の支店は恐竜のように衰退」するため、「商業銀行はできるだけ早く何らかの手を打たなければならない」と警告する。
 中国人民銀行出身で、数々の金融関連企業のデジタル化を推進してきた著者の柔軟な議論は、金融業界にとって刺激的なだけでなく、中国経済のダイナミズムも強く感じさせてくれる。

小池都政の実績と政治手法が問われる

 東京都議会選挙が23日告示される。各党が総力戦の応援態勢で臨む首都決戦の行方は、都政はもちろん、今後の国政にも大きな影響を及ぼす。

 都議会では国政と同様に、自民党と公明党が長らく連携してきた。しかし、議員報酬の削減を巡って公明は昨年末、自民とたもとを分かち、今年3月、小池知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」と協力関係を結んだ。

 小池知事は都民ファーストや公明、東京・生活者ネットワークなど自らを支持する勢力で過半数の議席獲得を目指している。

 小池知事が新党を立ち上げたことで、都議選は小池都政のあり方をどう評価するのかが、最大の争点になる。知事は情報公開を進め、待機児童の解消にも積極的に取り組んできた。電柱をなくす条例を制定し、東京を国際金融都市に変える構想も打ち出している。

 一方、五輪施設の見直しでは時間がかかった割には成果が小さかった。築地市場は豊洲への移転を決めたものの、あいまいな内容で今後に火種を残している。

 今回が初陣となる都民ファーストは公約の第一に議会改革を挙げ、公用車の廃止など議員特権の見直しを打ち出している。自民は経済対策として個人都民税の1割減税などを提案しているが、その財源ははっきりとしない。

 公明は安全・安心のまちづくり、民進は教育の無償化などを掲げている。共産は築地市場の再整備を求めている。有権者は各党がどういう政策を重視しているのか、しっかりと見極めてほしい。

 地方自治は首長と議員をそれぞれ住民が選ぶ二元代表制だ。首長の行政運営を適切に監視しなければ政党の存在意義はない。この点も判断材料のひとつになる。

 都議選の結果はこれまでも国政選挙の先行指標になってきた。安倍晋三首相は政権復帰を果たした2012年の衆院選から国政選挙で4連勝中だ。

 ただ、前国会では与党による強引な審議運営や国家戦略特区を活用した獣医学部の新設計画を巡る政府の対応に批判が集まった。直近の世論調査では内閣支持率が大きく低下している。

 都民ファーストは都議選で勝利すれば、将来の国政進出も視野に入れているとされる。今回の結果は首相の政権運営だけでなく、次期衆院選に向けた各党の選挙戦略も左右することになる。

新皇太子はサウジを変えるか

 サウジアラビアの皇太子に、サルマン国王の息子であるムハンマド副皇太子が昇格した。31歳の若さながら、すでに強大な権限を持つ実力者に、王位が引き継がれる道筋が整った。

 サウジは中東・イスラム世界の盟主であり、世界有数の石油産出国だ。若き指導者がサウジを成長に導く改革を前進させることに期待したい。同時に周辺国との対立を避け、中東の安定実現へ責任ある役割を果たすことが重要だ。

 ムハンマド皇太子は2015年に王位継承順位で2位の副皇太子に就いた。80歳を超す国王の下で、外交・安全保障から経済・石油政策まで幅広く取り仕切る。

 サウジは石油に頼らない国づくりを目指す経済・社会改革を進める。皇太子はその司令塔だ。国丸抱えの教育や福祉からの決別など、慣行にとらわれない大胆な改革は一人に権限を集中させたからこそ踏み出せたと言える。

 国民や王族に痛みを強いる改革は不満を生む。早期に成果を示す必要がある。皇太子昇格で権力基盤がさらに強固になれば、改革の速度は上がるだろう。一方、皇太子が主導する外交・安全保障政策には懸念を抱かざるをえない。

 国防相を兼任する皇太子はイエメンへの軍事介入を決め、イランとの断交を主導した。サウジと同じアラブ湾岸産油国の一員であるカタールとの断交にも、彼の意向が強く働いているとされる。

 イランやカタールとの対立は中東の緊張を高めている。サウジとイランは石油輸出国機構(OPEC)の中核国だ。カタールは液化天然ガス(LNG)の世界最大の生産国である。ペルシャ湾の混乱は世界経済を不安定にする。

 日本にとってサウジは最大の原油調達先だ。皇太子も新婚旅行先に日本を選ぶなど、日本のファンだという。

 日本はイランやカタールとも緊密な関係にある。サウジの脱石油改革に積極的に協力すると同時に、地域の緊張緩和へ橋渡し役を務めることができるはずだ。

(社説)臨時国会要求 安倍内閣は憲法に従え

 憲法に従う。その当たり前のことを、安倍内閣が実行できるかどうかが問われている。

 民進、共産など野党がきのう、憲法53条に基づき臨時国会の召集を要求した。

 53条は、衆参いずれかで総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は召集を決定しなければならない、と定めている。立法府における少数者の発言権を保障するための規定だ。

 野党の要求には理がある。

 先の通常国会は、旗色の悪い議論を、政権が力ずくで打ち切って幕を閉じた。

 「共謀罪」法は数の力で委員会審議を打ち切り、強行成立させた。首相や妻昭恵氏の関与の有無が焦点の森友学園、加計学園の問題でも、首相はまともに答えようとはしなかった。

 報道各社の世論調査で内閣支持率が急落すると、首相は記者会見で「反省」を口にし、「何か指摘があれば、政府としてはその都度真摯(しんし)に説明責任を果たして参ります」と語った。

 だが首相の「反省」にはすでに大きな疑問符がついている。

 会見直後、加計学園問題で、側近の萩生田光一・官房副長官の関与をうかがわせる新たな文書が発覚したのに、首相は国民に約束したはずの「説明」をしようとしない。

 菅官房長官はきのう「野党の要求があれば与党とも相談したい」と語るにとどめた。首相の「反省」が本物だというのなら、ただちに国会を開き、首相自ら数々の疑念に誠実に答えるよう説いてはどうか。

 安倍内閣には以前にも、53条に基づく臨時国会要求に応じなかったことがある。

 安全保障関連法を強行成立させた2015年。民主など野党による要求を首相の外遊などを理由に拒み、衆参の予算委員会を1日ずつ開くことなどでお茶を濁した。国会軽視、憲法無視のあしき前例である。

 次の国会は秋ごろまでなるべく遅らせ、世論の批判が収まるのを待てばいい――。

 政府与党内からは今回も、そんな声があがっている。

 だがそうなれば、憲法の趣旨に明らかに反する。53条の解釈については、内閣法制局長官が03年に「召集時期の決定は内閣に委ねられているが、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならない」と国会で答弁している。

 言うまでもなく、安倍首相は憲法を尊重し、擁護する義務を負っている。憲法に従えないような首相なら、憲法改正を語る資格はない。

(社説)沖縄慰霊の日 遺骨が映す戦争の実相

 沖縄はきょう、先の大戦で亡くなった人たちを悼む「慰霊の日」を迎える。

 米軍を含めて約20万人が命を落とした。うち一般県民9万4千人の犠牲者とその遺族にとって、ささやかな、しかし意義深い政策の見直しがあった。

 厚生労働省が、死者の身元を特定するための遺骨のDNA型鑑定を、今年度から民間人にも広げると発表したのだ。塩崎厚労相は4月の国会で、「できるだけ多くの方にDNA鑑定に参加をいただいて、一柱でも多くご遺族のもとにご遺骨をお返しできるように最大限の努力をしたい」と答弁した。

 遅すぎた感は否めないが、この方針変更を歓迎したい。

 DNA型鑑定は2003年度に導入された。しかし、遺骨の発見場所や埋葬記録などがある程度わかっていることが条件とされたため、対象は組織的に行動していた軍人・軍属らに事実上限られてきた。

 事情はわからないでもない。だが「軍関係者限り」とは沖縄戦の実相からかけ離れた、心ない対応と言わざるを得ない。

 沖縄ではいまも、工事現場や「ガマ」と呼ばれる洞窟などから、多くの遺骨が見つかる。それは県土、とりわけ中部から南部にかけての広い範囲が戦場になったことの証しである。

 72年前の4月1日の米軍の本島上陸以来、凄惨(せいさん)な地上戦が繰り広げられた。兵士と市民が入り乱れ、各地を転々とし、追いつめられ、亡くなった。親族がどこで命を落としたのか分からないと話す県民は多い。

 長年、遺骨収集を続けてきたボランティアたちが「国はすべての遺骨と希望者について鑑定を行うべきだ」という声を上げるのは当然である。

 もっとも、焼かれてしまった骨からDNAを検出するのは難しいとされ、糸満市摩文仁(まぶに)の国立戦没者墓苑に眠る18万5千柱の多くは対象にならない。当面は、13年度以降に見つかった600柱余の未焼骨のうち、10地域の84柱について鑑定を進めるという。希望する遺族からDNAを提供してもらい、骨と比較する手法をとる。

 大臣答弁のとおり、少しでも多くの遺骨を返すため、厚労省をはじめ関係機関は幅広く遺族に呼びかけ、対象地域も順次拡大していってほしい。その営みが、戦争の真の姿を次世代に伝えることにもつながる。

 沖縄はいまも米軍基地の重い負担にあえぐ。沖縄戦を知り、考え、犠牲者に思いを致すことは、将来に向けて状況を変えていくための土台となる。

自民9条改正論 「自衛隊」明記へ土台が整った

 自衛隊違憲論を退け、自衛官が誇りと自信を持って職務に従事できるような環境を整える。その意義は大きい。

 自民党憲法改正推進本部が、憲法9条改正に関する本格的な議論を開始した。1、2項を維持して自衛隊の根拠規定を追加する安倍首相案を支持する意見が多く出された。

 自衛隊は違憲かもしれないが、何かあれば、命を張ってくれというのは、あまりに無責任だ、とする首相の認識への同調だろう。

 自衛隊の存在を憲法に明確に位置づけ、不毛かつ現実離れした一部の憲法学者らの違憲論に終止符を打つ。その必要性が広く共有されたことは、党内の改正論議の重要な土台となり得る。

 自衛隊は長年、国防に加え、国連平和維持活動(PKO)などの国際協力、災害時の被災者救援・支援といった活動に地道に取り組んできた。多くの実績を重ね、国民の信頼を着実に築いた。

 日本の安全保障環境が厳しさを増す中、重大な任務を担う自衛隊が「憲法違反」の誹(そし)りを受けかねない不条理は解消すべきだ。

 憲法改正のハードルは高い。衆参両院の3分の2以上の賛成で発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。首相案は、9条改正で「加憲」を主張する公明党への配慮にほかならない。

 保岡興治本部長は、「9条の様々な問題を明快にしようとすると、3分の2の合意形成には行き着かない」と強調している。

 憲法改正論議では常に、9条が中核の課題だったが、70年間、一度も改正できなかった。この状況を踏まえれば、高い目標を掲げ続けるだけでなく、より多くの賛同を得られる案で一歩ずつ前に進むのは現実的な考え方だろう。

 石破茂・元幹事長は「戦力不保持の規定と、どう矛盾なく説明するのか」と述べ、2項改正の議論の必要性を主張した。衛藤征士郎・元衆院副議長らも、2項の削除または修正を求めた。

 自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力組織」で、「戦力ではない」という政府の憲法解釈は、一般国民に分かりにくい。2項を削除・改正した方がすっきりするのも確かである。

 2項を維持する場合、どんな自衛隊の根拠規定の追加が適切か、その表現を含め、自民党は率先して議論を深めてもらいたい。

 自民党以外の党も、傍観するのでなく、憲法上の自衛隊のあるべき位置づけに関し、党内論議を積み重ねることが欠かせない。

米中安保対話 対北圧力の溝をどう埋めるか

 中国は、米国との協調を目指すなら、北朝鮮への圧力を強化し、北朝鮮の核ミサイル開発に歯止めをかける必要がある。米国は粘り強く、中国に行動を促し続けねばなるまい。

 米中両国の閣僚による「外交・安全保障対話」の初会合が開かれた。今年4月の米中首脳会談で、設置が決まった枠組みだ。

 焦点の北朝鮮問題では、国連安全保障理事会の制裁決議の完全履行を確認し、米中の企業に制裁対象の北朝鮮企業と取引をさせないことで合意するにとどまった。

 国連加盟国の当然の義務にあえて言及したのは、米中の溝の深さを意味している。

 ティラーソン米国務長官は会合後、「我々は中国が北朝鮮により大きな圧力をかける責任があることを強調した」と述べた。

 米国は、北朝鮮と取引する中国企業に対する独自の金融制裁も検討中とされる。北朝鮮への原油供給制限に慎重な中国に重い腰を上げさせる有効な手段となろう。

 トランプ米大統領は、米中の貿易摩擦を棚上げし、北朝鮮問題で中国の協力を引き出そうとしてきた。最近は「うまくいっていない」と不満を隠さない。狙いが外れつつあるのではないか。

 北朝鮮は、弾道ミサイル発射を繰り返す。北朝鮮に拘束され、昏睡(こんすい)状態で解放された米国人学生は帰国後に死亡した。米朝が対話を模索する局面は遠ざかり、対「北」包囲網を強化する必要性が一段と大きくなったと言えよう。

 中国は今回の会合でも、「話し合いによる解決」を主張した。北朝鮮の金正恩体制を経済的に支えつつ、危険な軍事挑発を放置する姿勢は容認できない。

 習近平国家主席は、今秋の共産党大会を前に、対米関係の安定を重視している。北朝鮮問題で成果を出せなければ、米中が協調から対立に転じる可能性もあることを認識しなければならない。

 南シナ海問題に関する議論も、平行線をたどった。米国が人工島の軍事拠点化の中止を求めたのに対し、中国は「領土主権と海洋権益を守る」と強弁した。

 中国は、戦闘機の格納庫や滑走路などを建設している。米政府は、米軍艦艇を人工島周辺で航行させる作戦の頻度を高め、中国の一方的な領有を認めない姿勢を明確に示すべきだ。

 米中首脳は7月の主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせて、再び会談する。協調の演出に腐心するのではなく、具体的な成果を出すことが求められる。

2017年6月22日木曜日

「日の丸再編」は日本の液晶を救ったか

 日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶事業を統合して2012年4月に発足したジャパンディスプレイ(JDI)が苦境に立っている。過去3期連続で純損失を計上し、危機の出口は見えない。有賀修二社長は21日の株主総会で「期待に応えられず、誠に申し訳ない」と陳謝した。

 同社の誕生を主導したのは政府系ファンドの産業革新機構だ。2000億円を投じて日本メーカーの大同団結を実現することで、韓国勢などに押され気味の電機市場で優位を取り戻す「日の丸再編」のモデルにする考えだった。

 だが、設立から5年たち、当初のもくろみは実現のメドが立たない。JDIの軌跡は、官製再編の限界を浮き彫りにするものだ。

 同社の経営のちぐはぐさを象徴するのが昨年末に稼働を始めた石川県白山市の新工場だ。スマートフォンに搭載する高精細の液晶パネルをつくる戦略拠点だが、足元では米アップルを先頭にスマホパネルを液晶から次世代型の有機ELに置き換える動きが急だ。

 「市場の先行きを読み誤り、古い技術に投資してしまった」と批判されるゆえんだ。JDIも有機ELの量産を急ぐが、サムスン電子など韓国勢のリードは大きく、巻き返しは容易ではない。

 企業経営の両輪はヒトとカネだ。世界のスマホ産業に根を張って市場の動向を先取りし、外野の声にまどわされず正しい決断のできる人材がJDIには欠けていたのかもしれない。

 政府系ファンドの資金力はそれなりに大きいが、「カネがあるだけでは競争に勝てず、そもそもの目的である日の丸技術の防衛もおぼつかない」というのが一つの教訓だろう。

 組織運営の視点からは、JDIには母体企業3社の「寄り合い所帯」という難しさがあった。加えて大株主の革新機構からの口出しも多く、組織としての求心力や社員一人ひとりの当事者意識が希薄だったという指摘もある。

 弱体化した電機に比べ、日本の自動車の国際競争力はなお強い。両者の違いの一つは、自動車は日産自動車やマツダのように経営危機の際に外資を受け入れ、外国の人材や知恵を導入することで復活した企業が複数あることだ。

 東芝の再建についても「政府支援で技術を守れ」という声が一部にあるが、「日の丸」に過度に固執しても得るところは少ない。

中国は株式市場の改革進めよ

 国際的な投資資金の流れに強い影響力を持つ米株価指数算出会社MSCIが、中国本土に上場する人民元建てA株式を同社の株価指数に組み入れると発表した。

 世界の機関投資家が中国への投資を増やすきっかけにもなりうる決定だ。中国政府は世界の目を意識し、株式市場の改革を進めなければならない。

 中国は株価指数へのA株組み入れを、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)構成通貨への人民元採用と並び、国際化の象徴と位置づけてきた。このうちSDRへの元組み入れは2015年11月に決まった。

 しかし、資本規制の動向などを見きわめたいとして、MSCIは株価指数へのA株採用を見送ってきた。指数採用の具体的な条件として、機関投資家への投資資金の持ち出し規制の緩和や、恣意的に発動されることが多い株式の売買停止制度の是正などを、中国と協議してきた。

 さらに最近は指数に組み入れる銘柄を流動性の高い一部の大型株に絞るなどの案も示し、市場の反応を探った。今回のA株採用はこの案がベースになっている。

 多くの有力投資家は、中国の資本規制が強いことや株式市場のルールが不透明なことなどを懸念する一方で、A株の指数採用を支持している。米国に次ぐ規模の中国本土の株式市場がグローバルな株価指数に反映されないのは不自然であり、運用成績が指数に連動するファンドの投資機会を損ないかねないとみたからだ。

 それは、規模の大きな国や市場は無視できないという政治色の強い考え方だ。元のSDR組み入れの際も政治判断がはたらいたとされる。その後の中国は資本自由化に積極的に取り組まず、先進国を失望させた。

 中国は株式市場に限っても改革の余地が大きい。情報開示で問題含みの企業は多い。株式の公的買い支えも指摘される。中国と関わりを強める投資家は市場改革を粘り強く求める必要がある。

(社説)天下り調査 これでは実態が見えぬ

 文部科学省の組織ぐるみの天下りあっせん問題を受けて、内閣人事局が全府省庁の実態を調べた結果を先週、公表した。

 現役職員が就職先を紹介するなど、再就職規制違反の疑いのある事例は12省庁で27件あった。情報提供などのOBの関与も複数、確認された。

 しかし、人事課や事務次官らがかかわった、文科省のような組織ぐるみのあっせんの疑いは確認できなかったという。

 まず納得できないのは、違反が疑われる事例の具体的な中身を明らかにしなかったことだ。少なくとも、省庁名や事例の概要を示さなければ、国民は天下りの実態を理解できない。

 さらに納得しがたいのは、報告書の核心部分である、組織的なあっせんが確認できないとした根拠の弱さだ。任意調査の限界とはいえ、説得力に欠ける。

 調査は1月から弁護士3人を含む約40人で行った。現行の天下り規制ルールが導入されて以降、昨年末までの8年間に再就職した6372人に調査票を送り、再就職の経緯を尋ねた。回収率は87%で、その中から問題事例を探し出した。

 各省庁の事務次官や人事担当者ら285人からの聞き取りもした。だが、規制違反を見聞きしたと答えた人はいなかった。

 当然だろう。自ら違反を申し出る人はなかなかいまい。

 だが本当に組織的な関与はなかったのか、疑問が残る。

 たとえば、税関と地方財務局の職員60人が15年7月1日に辞め、9月1日に40人が一斉に再就職したことが、先の国会で指摘された。似た動きは国土交通省や農林水産省でもあった。

 今回の調査で、なぜ再就職日が同じなのかを問われた省庁側の答えは「個別の事情はわからない」がほとんどだった。

 国会審議を避けるように、会期末のどたばたの中で発表したこととあわせ、この問題に本気で取り組む気があったのか、政府の姿勢に首をかしげざるをえない。

 かつては離職後2年間、密接な関係のあった企業への再就職を禁じる規定があった。第1次安倍政権が撤廃し、かわりに官民をつなぐ人材交流センターなどを設けたが、十分に機能していないのが実情だ。

 離職直後でも関係企業に再就職できたり、同一省庁の出身者が特定ポストに就き続けたり。現状のままでは、霞が関と企業や外郭団体との「持ちつ持たれつ」の関係はなくならない。

 癒着を断つせめてもの一歩として、「2年」規定の復活を検討すべきだ。

(社説)豊洲移転表明 説明不足も甚だしい

 全国トップの水産物取引を誇る「東京の台所」の将来像を、小池百合子都知事はいったいどう描いているのか。おとといの記者会見を聞いて、どれほどの人が理解できただろう。

 知事が示した基本方針を一言でいえば、築地市場を予定どおり豊洲に移し、跡地は当初の売却計画を取りやめ、再開発して賃料を得るというものだ。

 だが具体的な姿は見えない。「豊洲と築地を両立させる」という知事の言葉は、都が主体となって築地に再び市場を設けるように聞こえ、事実そう受けとめた業者も少なくない。

 だがこれはいかにも唐突な案で、いくつもの疑問が浮かぶ。

 豊洲と築地は2キロほどしか離れていない。しかも流通の多様化で、市場の取扱高は減っている。「多額の税金をつぎこむことにならないか」と、豊洲の持続可能性に疑義を呈してきたのは、他ならぬ小池知事だ。

 にもかかわらず、会見では豊洲と築地の役割のすみ分けも、採算や財源のおおよその見通しも示さないまま、二つの市場が併存できるような夢を語った。「基本方針」の段階とはいえ、無責任に過ぎないか。

 都議選を前に自民党は「決められない知事」と批判を強めていた。豊洲移転を表明するだけでは「迷走の揚げ句、元に戻った」と、さらに攻め込まれかねない。そこで生煮えのまま「両立」という新たな看板を掲げ、当座をしのぐ。そんなふうにしか見えない会見だった。

 焦点の「安全・安心」問題もはっきりしないままだ。

 豊洲の地下水から環境基準を上回る汚染物質が検出されたことについて、専門家会議は地上は安全だとしたが、知事は「安全と安心は別」と慎重だった。

 その姿勢は変更したのか。であるなら、石原慎太郎元知事の時代から豊洲開場の条件としてきた「無害化」は取りさげると明言し、判断に至った理由を説明して理解を求めるのが、行政の長としてとるべき態度だ。

 昨夏、小池知事が立ち止まって移転を先送りしたことで、都議会のチェック機能の欠如をふくむ、豊洲市場をめぐる数々の問題が浮かび上がった。その功績は大きいが、混乱をどう収束させていくか、知事の手腕が問われるのはこれからだ。

 おとといの会見はその大切な第一歩だったのに、わずか30分で一方的に切り上げ、記者の質問にも正面から答えなかった。

 説明の場を改めて設け、都民の疑問に現時点で答えられることを丁寧に答える。さもなくば旗印の「情報公開」が泣く。

東芝半導体売却 米WD社との対立解消を急げ

 再建策の柱である半導体子会社の売却をどう進めていくか。経営陣の手腕が問われている。

 経営不振の東芝が、主力の記憶媒体(メモリー)子会社の売却について、官民ファンドの産業革新機構などで作る「日米韓連合」と優先的に交渉することを決めた。

 連合には、日本政策投資銀行、米ファンド、韓国半導体企業なども参加し、日本勢が経営の主導権を握る。28日の定時株主総会までに正式に契約を結ぶ方針だ。

 東芝は2兆円以上で売却することを目指す。5000億円を超える債務超過を解消し、財務を中長期的に安定させる。

 メモリーは、スマートフォンの普及などで急成長した。人工知能やロボットなどを活用した第4次産業革命の実現にも欠かせない。東芝はもとより、日本にとって“虎の子”のビジネスである。

 買収には米国や台湾の企業も名乗りを上げていた。日本勢主導による買収は、最先端技術の海外流出を防ぐ意味を持つ。製造業の国際競争力を維持し、経済成長を実現する観点からも国益に適(かな)う。

 日米韓連合による経営が軌道に乗れば、国内の雇用も維持できよう。その意義は小さくない。

 メモリーを巡る国際競争に勝ち残るには、巨額の開発投資など迅速な判断が必要となる。政府の過度な関与は、意思決定を遅らせるとの指摘もある。民間の知恵を引き出す舵かじ取りが求められよう。

 気がかりなのは、メモリー事業で協業する米ウエスタン・デジタル(WD)が売却に反対していることだ。手続きがスムーズに進むかどうかは不透明な面がある。

 WDは、他社への売却差し止めを国際仲裁裁判所に申し立てた。仲裁裁の判断が下るまでの間、売却手続きを一時的に停止するよう求め、米カリフォルニア州の裁判所にも提訴している。

 裁判でWDの主張が認められ、売却が頓挫すれば、東芝の再建策は宙に浮く。2018年3月期決算で債務超過を解消できず、上場廃止となる可能性もある。

 東芝の決定に反発し、WDがさらなる強硬策に出る懸念は拭えない。対立を解消しないまま優先交渉先を決めたことは、危うい「見切り発車」ではなかったか。

 売却交渉のこれ以上の迷走は、協業相手のWDにとってもメリットにはなるまい。

 両社の溝が深まるばかりでは、メモリー子会社の企業価値が損なわれてしまう。歩み寄りに向けた交渉を急がねばならない。

中国パナマ国交 露骨な台湾圧迫は懸念材料だ

 中国が台湾を孤立させる動きを強め、波風を立てている。軍事、経済両面での優位を背景にした圧力は、中台間の緊張を高めるだけだ。

 中米パナマが中国と国交を樹立し、台湾との100年以上の外交関係を断絶した。

 パナマ運河は、太平洋と大西洋を結ぶ海上交通の要衝だ。中国はパナマとの国交で、物流拠点での投資や権益の拡大を見込む。米国の「裏庭」の中南米に、本格的に進出する足がかりにもなろう。

 昨年12月には、アフリカのサントメ・プリンシペが台湾と断交している。これで、台湾が外交関係を持つ相手は20か国に減った。

 中国の習近平政権が、台湾の「友好国」に巨額の経済支援を持ちかけ、切り崩した結果である。欧州で唯一、台湾と外交関係を持つバチカンとも、水面下で交渉を進めているという。

 習政権の圧迫は国際機構にも及ぶ。国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)は中国に配慮し、台湾の総会出席を認めなかった。空の安全や人々の健康に関わる国際的な枠組みからの締め出しは、人道上も問題だ。

 中国の一連の外交攻勢は、台湾を自国の一部とする「一つの中国」原則を、台湾の蔡英文政権に認めさせる狙いだろう。

 蔡総統が主席を務める民進党は、台湾独立を綱領でうたっている。蔡氏は独立論を封印して、中国との対話を模索する一方、中国側の主張は受け入れていない。

 台湾の住民の間では、中国に政治的、経済的にのみ込まれることへの警戒感が強く、「中国離れ」が加速しているためだ。

 蔡氏は、中国の圧力に対して、「譲歩することはあり得ない」と反発した。民進党内では、「蔡氏の対話路線は行き詰まっている」との批判が高まり、対中強硬論の勢いが増している。

 外交工作で台湾を従わせようとする中国の企(たくら)みは、逆効果になっているのではないか。

 中台関係の緊張は、東アジアの安全保障の懸念材料だ。中国は、地域の安定に責任を持つ大国として、関係改善に積極的に取り組まねばならない。

 中国の露骨な台湾圧迫は、トランプ米政権の対中政策が定まっていないことも一因だろう。

 米国は台湾の防衛力強化を担っており、台湾海峡の平和と安定のカギを握る。マティス米国防長官は、台湾への武器供与の継続を明言した。積極的な関与を維持することが求められる。

2017年6月21日水曜日

アジア投資銀への対応を日米で協議せよ

 中国が主導した国際機関、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が第2回年次総会を韓国で開いた。承認された加盟国・地域数は80に達し、日米が主導するアジア開発銀行(ADB)を上回った。

 AIIBは規律の高い、健全な国際機関としての評価を確立する必要がある。

 その一環として金立群総裁は、筋肉質な組織を指す「リーン(Lean)」、汚職のない「クリーン(Clean)」、地球環境問題に配慮した「グリーン(Green)」を目標にかかげた。

 たとえば、融資が環境・社会面に悪影響を与えないように、世界銀行にならった基準をつくった。非政府組織とも対話している。

 加盟国の理事は本部の北京に常駐していないが、同様のやり方は欧州連合(EU)の政策金融機関、欧州投資銀行(EIB)でも採用している。今のところ大きな問題は起きていない。

 これまでに投融資した計16件の大半は、世銀やADBとの協調融資だ。中国政府による「一帯一路」構想と一線を画している点は評価していい。

 日本政府などが示していた懸念はひとまず払拭されつつある。AIIBは一連の取り組みを続けるとともに、融資能力と人員の増強も遅滞なく進めてほしい。

 AIIBとADBを対立図式でとらえる議論は一面的だ。AIIBとADBは業務協力の覚書を結び、ノウハウを共有し始めた。ADB幹部もAIIBを「兄弟機関」とよび連携に意欲を示す。

 ADBによれば、2016~30年のアジアのインフラ需要は26兆ドルと巨額だ。世銀やADB、AIIBだけでは資金を賄えない。

 大事なのは、アジア各国の協力を得て、AIIBやADBが民間資金を巻き込むための「呼び水」の役割を果たすことだ。そのためにもAIIBは国際機関として確固たる信頼を得る必要がある。

 主要国でAIIBに加盟していないのは日米だけだ。中国の議決権の比率は25%を超え、重要議案で事実上の拒否権を持つ。日本が加盟すれば中国の議決権比率を下げ、内側からAIIBの正しい発展を後押ししやすくなる。

 ソ連崩壊後の旧共産圏を支援する欧州復興開発銀行(EBRD)を設立する際は、日本が米国を説得して一緒に加盟したとされる。日米はそろそろAIIB加盟の是非を真剣に協議してはどうか。

まずは豊洲の不安をぬぐえ

 築地市場の豊洲移転問題を巡って、東京都の小池百合子知事が今後の基本方針を示した。予定通りに豊洲に市場を移したうえで、5年後をめどに築地を食のテーマパークとして再開発するという。

 都が設置した土壌汚染対策に関する「専門家会議」は、豊洲市場について「法的にも科学的にも安全」という見解を表明している。一方、現在の築地で市場を再整備するのは時間も費用もかかる。

 老朽化が著しく、衛生面でも問題がある築地市場の現状も踏まえれば、豊洲にできるだけ早く移転することが望ましい。

 23日に告示される都議会議員選挙でも築地問題は争点のひとつになる。地域政党「都民ファーストの会」の代表でもある小池知事が選挙前に一応の方向性を示したことは評価したい。

 ただし、これで問題がすんなりと収まるとみるのは早計だろう。昨年8月末に知事が移転延期を表明して以降、豊洲市場を巡って様々な問題が発覚した。地下水の調査では依然として環境基準を上回る有害物質が検出されている。

 移転するまでの間に、小池知事は自らの言葉で豊洲の安全性について市場関係者や都民に繰り返し説明すべきだ。盛り土がない地下空間をコンクリートで覆うなどの追加対策を着実に進め、風評を払拭する必要がある。

 豊洲市場の開場後の赤字を抑える対策も要る。築地のブランド力を生かして跡地を有効活用するのはもちろん、都内各地にある卸売市場の再編成も視野に、持続的な市場のあり方を引き続き検討すべきだろう。

 知事が示した方針はおおむね妥当だが、豊洲に移転するめどを明言しなかった点は残念だ。これでは業者は先行きが見通せないままだ。再開発後の築地に戻りたい仲卸業者は支援するとも述べたが、これも具体性に欠けた。

 豊洲と築地の両方に配慮したためか、知事の説明は終始、あいまいだった。今後の予定などについても早く明らかにしてほしい。

(社説)加計、森友問題 首相の約束どうなった

 「今後、何か指摘があればその都度、真摯(しんし)に説明責任を果たしてまいります」

 安倍首相が一昨日の記者会見で語った言葉だ。その国民への約束を果たすべき局面である。

 加計学園の獣医学部新設をめぐり、萩生田光一・内閣官房副長官が昨年10月、文部科学省の局長に発言した内容とされる新たな文書が明らかになった。

 「10/21萩生田副長官ご発言概要」と題した文書には、「官邸は絶対やると言っている」などと記録されている。

 昨年10月といえば、特区での事業者が加計学園に決まる約3カ月前だ。文書はこの時期に加計学園の具体名や立地にふれており、そのころから政府が加計学園ありきで調整を進めていたことがうかがわれる。「総理は『平成30年4月開学』とおしりを切っていた」と首相の意向に言及する記述もある。

 文書について萩生田氏は、文科省から「一担当者が伝聞など不確かな情報を混在させて作った個人メモ。著しく正確性を欠く」という説明と謝罪があったとするコメントを出した。だが、文書は文科省の複数の部署に送信され、共有フォルダーで保管されていたものだ。

 先に明らかになった「総理のご意向」文書をめぐっても、文科省と内閣府の説明は食い違ったままだ。

 首相の最側近であり、学園系列大学の名誉客員教授でもある萩生田氏がこの問題にどうかかわったのか。誰がみても解明が急がれる問題である。

 この問題には首相官邸も含め複数の官庁が関与している。それぞれの役所による身内の調査には限界がある。

 萩生田氏本人はもちろん、文科省や内閣府の関係者を国会に証人喚問し、証言を突き合わせることが欠かせない。

 問われているのは、首相の友人が理事長を務める学園が特区の事業主体に選ばれる過程が、公平公正であったかだ。

 そこに疑問を持たざるを得ない文書や証言が次々と出ているのだ。首相は率先して事実を明らかにする責任がある。

 耳を疑うのは、菅官房長官が、首相が直接国民に説明することについて「考えていない」と否定したことだ。首相自ら国民に誓った「真摯な説明責任」の実行を促すことこそ、官房長官の役割ではないのか。

 本紙の世論調査では加計学園問題の首相の説明に66%が「納得できない」と答えている。

 首相が会見で語った「反省」は本心か。口先だけか。そのふるまいを国民は見つめている。

(社説)加計、森友問題 疑惑の全容を解明せよ

 大阪の学校法人「森友学園」に対し、大阪地検が強制捜査にのり出した。一昨日の午後7時すぎに始まった家宅捜索は、きのうの朝まで異例の時間帯におこなわれた。

 容疑は、運営する幼稚園で、教員数と障害のある園児数に応じて支払われる大阪府の補助金を、虚偽の申請書を提出するなどして詐取したというもの。

 さらに、豊中市で開校を計画していた小学校舎の建設で、金額の異なる3通りの契約書を作り、最も高額の分を国に出して補助金を不正受給した補助金適正化法違反の疑いもある。

 保護者の中には「子どもを利用した裏切りがあったのなら許されない」と憤る人もいる。

 両容疑とも公金の不正だ。検察は籠池泰典前理事長らに加え府や国の関係者からも事情を聴き、解明に努めてほしい。

 一連の問題は、同学園が学校用地として国有地を格安で買い入れたことで発覚した。

 財務省は鑑定価格からごみ撤去費として8億円余りを差し引き、近隣地の約1割の1億3400万円で売却した。なぜここまで値引きされたのか、その経緯は今も定かではない。

 地元の大阪府豊中市議らは「不当な安値で売却し、国に損害を与えた」として財務省近畿財務局職員らを背任の疑いで告発し、地検が受理している。

 背任の立件には「国に損害を与える意思があったかどうか」などの立証が必要となる。

 きのうの朝、会見した籠池氏は、深夜に捜索した検察を批判した上で、安倍首相夫人の昭恵氏を小学校の名誉校長に迎えて国有地の買い取りを進めた経緯に言及し、「忖度(そんたく)する形ですべてが動いたと今も認識している」と述べた。

 問われるのは忖度の中身であり、安倍首相への配慮があったのか、その認識と行動だ。

 地検に求められるのは、国有財産の処分として価格や決定のあり方が適法だったかを明らかにすることだ。「文書は廃棄した」と主張する財務省関係者からも事情を聴き、関連資料を集めて捜査を尽くしてほしい。

 昭恵氏は名誉校長を、問題発覚まで1年半、引き受けていた。国会で野党は、昭恵氏と学園のつながりが値引きの背景にあるのではと追及し、昭恵氏の国会招致を求めた。だが与党は拒み、疑問が残ったままだ。

 籠池氏は国有地取得までの3年半、国との交渉の節目で昭恵氏に「交渉経緯を報告した」と主張している。学園が強制捜査を受けた今、昭恵氏は説明責任を果たすべきだ。

築地市場再開発 豊洲移転との両立は可能か

 「築地は守る、豊洲を活(い)かす」。二兎(にと)を追う知事の戦略は、思惑通り進むのだろうか。

 東京都の築地市場移転問題で、小池百合子知事が基本方針を発表した。市場を豊洲に移した上で築地を再整備・開発し、5年後をめどに一部業者を戻すことを想定する。

 豊洲は中央卸売市場の機能に加え、物流センターとして活用するという。築地の跡地は、2020年東京五輪で駐車場などに活用した後、民間に賃貸し、「食のテーマパーク」などとして再開発する案も示している。

 市場の取扱高が減少する中、築地と豊洲の併存はリスクを伴うだろう。採算は取れるのか。築地に一部業者を円滑に戻せるのか。現時点では、不透明な要素があまりに多いと言わざるを得ない。

 小池氏は、豊洲市場の開業後に累積赤字が生じることを懸念する。都の試算では年間約90億円に上る。大規模な施設に最新の温度管理システムが導入され、維持費がかさむことなどが要因だ。

 築地を売却せずに賃貸するのは、長期的に安定的な収益を確保するのが目的だ。これで豊洲市場の整備費や築地の工事費を捻出できるかどうかは判然としない。

 昨年8月に小池氏が豊洲移転の延期を表明して以降、豊洲市場の建物下に土壌汚染対策の盛り土がない問題が発覚した。意思決定を巡る都政の無責任体質をあぶり出した意義は小さくない。

 一方で、先行きが見通せない状況が長引き、市場関係者の不安は増幅した。移転延期に伴う業者への補償費が膨らんだ。

 23日告示の都議選では、市場移転問題が争点になる。小池氏が率いる都民ファーストの会と選挙協力する公明党は、豊洲への移転を主張してきた。

 市場関係者には、築地残留を希望する声も根強い。築地も豊洲も、という構想には、多くの賛同を得る狙いが透けて見える。

 小池氏は「築地のブランド力を生かしたい」と力説するが、二者択一の決断を下すことによる批判を避けたとの感は拭えない。

 豊洲市場の安全・安心の基準は、なお未達成だ、と強調したことも疑問である。都の専門家会議は、追加の土壌汚染対策を提案した上で、市場の安全性には問題がないとの見解を明確にした。

 豊洲に移転する以上、知事として、消費者の理解を得られるよう努めるべきだ。都内の11市場の再編を含め、有益な市場の在り方を検討することも求められる。

英EU離脱交渉 混乱回避には柔軟さが必要だ

 欧州連合(EU)からの英国の離脱に向けた初の交渉が行われた。実質的な交渉期限を来年秋に控え、双方が優先議題の選定で合意したのは一歩前進と言えよう。

 最初に、離脱の条件について、作業部会を設置して協議する。英国とEUの自由貿易協定(FTA)締結に関する交渉は先送りする。作業部会で十分な進展があれば、FTA交渉に入る「2段階方式」で一致した。

 英国は、並行協議を求めていたが、譲歩を余儀なくされた。

 優先議題には、英国がEU予算への拠出を約束していた分担金の支払い問題が選定された。総額約600億ユーロ(約7兆5000億円)ともされる「手切れ金」の値引き交渉の難航は必至だろう。

 英EU双方の国民の在留資格を離脱後に保障する問題も、優先議題となる。現在、英国にはEU出身者が約300万人、EUには英国人約100万人が住んでいる。円滑な離脱には、居住や労働などの権利の確定が欠かせない。

 問題なのは、メイ英首相が「悪い合意よりは、合意しない方がましだ」と強弁してきたことだ。

 無秩序な離脱は、欧州を混乱させ、世界経済にも打撃を与える。EUのバルニエ首席交渉官が初交渉で「公正な合意は可能であり、合意しないよりも遥(はる)かに良い」とクギを刺したのは当然である。

 メイ氏は、EU単一市場から脱退し、移民の流入を独自に規制する「強硬離脱」を主張するが、経済界からは、様々な悪影響を懸念する声が高まっている。

 最大野党・労働党は、EU単一市場との無関税貿易を継続する「穏健離脱」を掲げる。

 与党・保守党内でも、交渉決裂も辞さない強硬派から穏健離脱派まで、多様な意見がある。

 今月の総選挙で、保守党は議席を減らし、過半数を割り込んだ。政権基盤の弱体化を受け、メイ氏はまず、強硬路線を修正し、離脱方式に関する超党派での合意形成を目指さねばなるまい。

 EU側にも、柔軟な交渉姿勢が求められよう。

 「反EU」の大衆迎合政党は、オランダやフランスの選挙で伸び悩んだ。新たな離脱の動きはない。英国を追い詰めなくても、求心力は維持されよう。歩み寄りを見せる度量が大切ではないか。

 日本企業の多くは、英国を欧州事業の拠点とする。日本政府は、企業活動への影響が最小限に食い止められるよう、英国やEUへの働きかけを強めるべきだ。

2017年6月20日火曜日

仏独は連携を強化し欧州の懸案解決を

 フランスはドイツとの連携を強め、欧州の抱える懸案を解決できるか。世界の目が若き新大統領に注がれる。

 仏国民議会(下院)選挙の決選(第2回)投票で、マクロン大統領の率いる中道系の新党「共和国前進」が勝ち、連携する政党とあわせて約6割の議席を獲得した。

 既存の二大政党はともに大敗し、変革を求める有権者の声の強さを示した。独立系候補の新鮮さを強みに大統領選を勝ち抜いたマクロン氏は、議会でも安定した体制を手にする。

 この強い政治基盤を生かし、新政権はまず停滞する経済を労働市場改革などの活性化策で立て直すことが重要だ。経済が再生してこそ政治と社会が安定し、国際的発言力も高まる。

 そのうえで期待したいのは、欧州の課題への取り組みだ。

 この数年、ギリシャの財政危機、シリア難民の大量流入、英国の欧州連合(EU)離脱決定と欧州を揺るがす問題が相次ぎ、EUの将来を悲観する声も聞かれた。

 第2次大戦後の欧州統合をけん引してきたのは仏独枢軸と呼ばれる両国の強固な関係だった。しかし近年はフランスの影響力が低下し、ドイツの存在感ばかりが目立つ。EUが結束の緩みを締め直すには仏独の連携再強化が大切だ。

 マクロン氏は欧州統合の深化に積極姿勢を示している。ユーロ圏に財務相職を新設するなどの運営強化策や、防衛分野での協力推進などが候補に考えられるが、実現にはドイツの理解が欠かせない。

 英国とEUの離脱交渉も曲折が予想され、仏独のリーダーシップが求められる。英国は総選挙で与党が過半数を割り込み、メイ首相の政治基盤が弱まっている。EU側は英国をいたずらに追い詰めず、現実的な合意を探ることが必要だ。

 選挙で大勝したマクロン氏の与党にも、政治家としての能力が未知数の新人議員が多いなど不安はある。だが、大衆迎合的な政党を退け、改革志向の政権がフランスに誕生したことの意義は大きい。

 欧州にとって、極右などの台頭に揺れた政治の流れに安定を取り戻すチャンスでもある。

 統合の深化で欧州が強くなることは世界経済にとっても望ましい。EUは内向きになったり、域外に有害な壁を築いたりすることなく、前向きな改革と統合を仏独を中心に進めてもらいたい。

原料市況の変動に対応急げ

 製鉄原料の石炭の調達価格が市場連動に変わる。新日鉄住金は海外の資源メジャーとの価格交渉制度をやめ、国際相場に連動した調達手法に切り替える。他の鉄鋼大手も追随する見通しだ。鉄鋼各社は、より変動にさらされる原料市況への対応を急ぐ必要がある。

 日本の鉄鋼大手は資源メジャーから原料を輸入し始めた50年前から長期契約にこだわってきた。しかし、今世紀に入って中国の鉄鋼企業が存在感を強め、日本企業の主張は通りにくくなっている。

 原油や石油製品、非鉄金属などでは市況連動の値決めが定着している。鉄鉱石の調達価格も2010年に市場連動になったことを踏まえれば、原料石炭が「市況商品」に変わることは避けられない流れと言える。

 新日鉄住金が値決めの変更に踏み切った一因には、4~6月の調達価格が交渉の難航で決まらなかったことがある。市場連動に移行することで、こうした値決めの遅れをなくし、交渉に費やす労力を省くこともできる。

 ただ、各社の経営は以前に増して原料価格の変動にさらされる。原料石炭の価格は中国の調達変化や産地オーストラリアの天候に揺さぶられ、昨年から乱高下している。原油や非鉄金属の調達で浸透するデリバティブ(金融派生商品)を利用した調達価格の安定策も検討するときだ。

 さまざまな品質の原料を使えるようにし、調達先を広げて原料コストを下げる工夫も要る。製品である鋼材が過剰設備を抱える中国製品の価格変動に影響されないように、付加価値を高め、国際競争力を維持する努力は経営の安定に欠かせない。

 市況変動から経営を守る対策は素材産業だけの課題ではない。海運業は船舶の燃料に加え、貨物船などの市況の変動にも直面する。近年では海運市場にもヘッジファンドなどの投資資金が流れ込み、変動は激しさを増す。事業の再編を含め企業の対応にも速さが求められる時代だ。

(社説)核禁止条約 政策を転換する契機に

 米ニューヨークの国連本部で、核兵器禁止条約をつくる交渉会議が再開した。交渉には100以上の非核保有国が参加しており、来月7日の会期末までに採択される見通しだ。

 議長が示した原案は、前文で「核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験による被害者の苦難を心に留める」とうたい、「いかなる核兵器の使用も国際法の原則に反する」と明記した。核兵器の悲惨さを訴えてきた被爆者の気持ちを反映した案だといえよう。

 採択されれば、核兵器廃絶への重要な一歩となるのは間違いない。

 交渉にはすべての核保有国と北朝鮮が参加していない。

 米国やロシアは条約に対し、「世界を不安定化するものだ」と非難を繰り返している。邪魔だとはねつけるような姿勢は、残念でならない。

 核兵器は非人道的で、使われれば人類の生存や地球の環境に大きな影響を与える。原案はこうした考えをもとに、核兵器を持つことや使用、爆発をともなう実験などを禁じている。

 核兵器に頼った安全保障は、一時的に安定をもたらしたとしても、人類にとって長く続くものと考えるべきではない。条約をきっかけにし、核兵器は危険で違法であるという認識を核保有国の国民に広げ、政策をかえるよう迫る必要がある。

 米国の「核の傘」に入っている国も、大半が交渉への参加を見送った。日本や韓国、オーストラリア、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するカナダや欧州諸国がそうだ。

 しかし条約の原案には「核兵器の使用をちらつかせる脅し」を禁止する直接的な文言はない。核の傘に入る国が、いずれは条約に加盟できるよう配慮した、という見方もある。

 こうしたなかで被爆国である日本が参加しないのは、被爆者の気持ちにそむく態度と言わざるを得ない。日本政府は、核保有国と非核保有国の間の溝が深まることや、核・ミサイル実験を繰り返す北朝鮮の脅威などを不参加の理由としている。

 日本は国際社会の溝を埋める「橋渡し役」を自任していたのではなかったか。米国や韓国など関係国と連携して北朝鮮への対応をとり、同時に今からでも核兵器禁止条約の議論に加わって、廃絶へつなげるための方策を練る責務があるはずだ。

 条約は国連総会での採択で成立する見通しだ。実効性を高めるには、1国でも多くの加盟が望ましい。日本はその道筋を率先して考えていくべきだ。

(社説)マクロン政権 おごらず丁寧な改革を

 「数」の上にあぐらをかく政治はやがて行き詰まる。手間はかかっても地道に理解を求める努力こそ、改革への正道である。フランスのマクロン大統領は、そう肝に銘じてほしい。

 総選挙の決選投票で、マクロン氏の率いる新党が、連携する政党とあわせて定数の約6割の議席を確保した。

 「右でも左でもない政治」を訴えて政治運動を立ち上げてから1年余。5月に大統領に就いたころは政治家としての経験不足を危ぶむ声もあった。

 それでも左右双方から人材を登用した巧みな組閣人事、外交で米国やロシアの首脳らと堂々と渡り合う安定ぶりが、懸念をやわらげたといえるだろう。

 マクロン氏が向き合うべき課題ははっきりしている。

 10%近い失業率、年1%前後で横ばいの低い成長率、積み上がった政府の借金――。

 マクロン氏は停滞から抜け出す処方箋(せん)として、「規制緩和で経済を活性化して成長につなげつつ、セーフティーネット(安全網)も充実させる」と説く。

 だが、これが決して平坦(へいたん)な道ではないことは明らかだ。

 とりわけ「いったん採用したら解雇できない」と形容される正社員に手厚い現行制度が、成長を妨げ、若者の雇用を阻んでいると指摘されて久しい。

 歴代政権が改革を成し遂げられなかった背景には、「柔軟な雇用」を口実に労働者の正当な権利まで奪うのではないかと疑う国民の根強い不信があった。

 さらに先進国共通の現象として、経済のグローバル化や技術革新の波で、もはや正規雇用すら安泰とはいえない時代だ。

 政治への不信を映すように、今回の総選挙では有権者の半数超が棄権した。新党の勝利は、就任後間もないマクロン氏の個人人気によるところが大きい。

 たとえ議席は多くても、政権基盤は盤石ではない。「痛みを伴う改革」に取り組むには、謙虚にきめ細かな説明努力を尽くす以外にない。「おごり」の政治こそが、マクロン氏の大敵と心得るべきだろう。

 トランプ政権や欧州連合(EU)離脱を決めた英国政治の混迷で、「自国第一主義」を声高に説く欧州のポピュリズムの波はやや一服したかに見える。

 だが、既得権益にまみれた既存政党に有権者が背を向けたいま、マクロン氏が新たな信頼関係を築けなければ、民意は残された選択肢として再びポピュリズムに向かいかねない。

 国際協調の基盤を守るためにも、マクロン氏には改革への丁寧なかじ取りを望みたい。

天下り全省調査 公正で透明な再就職の徹底を

 国家公務員の適切な再就職は認めつつ、不正な天下りは厳しく排除することが重要である。

 内閣人事局が、文部科学省の再就職あっせん問題を受けた全省庁調査の報告書を公表した。

 2008年12月以降の再就職者ら5535人に関して、12省庁で27件の国家公務員法違反の疑いが判明した。禁止されている現職職員の関与が25件、在職中の利害関係先への求職活動が2件だ。

 違法行為が62件に上った文科省のような組織ぐるみの動きは確認できなかったという。

 政府の再就職等監視委員会が今後、27件について違法性の有無を詳細に調査する。早期に全容を明らかにせねばならない。

 今回、「疑いの段階」として省庁名や事例の中身を一切公表しなかったのは疑問である。どんな違反の可能性があるのか、具体的に示さなければ、天下りの実態が国民には分からない。

 約40人のチームが4か月以上かけて調査したのに、800人以上から回答が得られなかった。中途半端な印象が拭えない。

 退職当時、再就職規制の内容を知らなかったOBが1割にも上った。今年1~5月だけで再就職の届け出漏れも82件あった。

 07年の改正国家公務員法は、官から民への人材登用を加速させるため、離職後2年以内の利害関係企業への再就職を可能にした。反面、現職職員による再就職のあっせんや仲介を禁止した。

 こうした現行制度について、政府は、職員やOBへの周知徹底に全力で取り組む必要がある。

 違法な天下りの再発防止策を強化することも急務だ。

 報告書は、再就職を届け出る際に、OBの関与などの経緯を詳しく記載するよう求めた。透明性を高めるとともに、不正を防止するうえで有効だろう。

 組織面では、内閣人事局への常設調査部門の設置や、常勤委員1人、非常勤委員4人の監視委の体制強化などを提言した。検討の余地はあるのではないか。

 専門的知見を持つ公務員の民間活用は否定すべきでない。天下りに関する安易な「公務員たたき」も避けるべきだ。

 公務員が意欲を低下させたり、萎縮(いしゅく)したりすれば、行政サービスが停滞し、ひいては国家にとっての損失につながりかねない。

 肝心なのは、公正で透明な再就職のルール作りと適正な運用に知恵を絞ることだ。早期退職慣行の是正も着実に進めたい。

仏マクロン新党 議会選圧勝で成果出せるか

 5月の仏大統領選で勝利した勢いが、まだ続いているのだろう。今後、政権運営を安定させ、困難な改革を断行できるのか。予断を許さない。

 マクロン大統領が創設した中道新党「共和国前進」が、国民議会選で過半数を制した。選挙協力した政党と合わせ、定数の約6割を占めた。議席を持たなかった新党の異例の躍進だ。

 オランド前政権の与党・社会党などの中道左派は、議席が8割減と惨敗した。共和党など中道右派も大敗した。ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」は伸び悩み、1けたの議席獲得に終わった。

 政権を交互に担ってきた左派と右派の既成政党が凋落(ちょうらく)し、中道の新興勢力が台頭する潮流が、より鮮明になったと言えよう。

 マクロン氏は就任後、首相や外相などの重要閣僚に、既成政党の有力政治家を起用し、超党派で課題に取り組む姿勢を強調した。民間人の積極的な登用によって、政権の清新さも印象付けた。

 首脳外交では、トランプ米大統領やプーチン露大統領らと、ある程度は渡り合った。

 新党を支持する有権者の間には、マクロン氏が国をより良い方向に導いてくれるという期待感の高まりがあるのではないか。

 気がかりなのは、新党から当選した議員の多くが、政治経験に乏しく、能力が未知数なことだ。他党から寄せ集めた議員の結束にも疑問が残る。

 フランスでは、2000年の憲法改正で大統領の任期が短縮され、大統領選と国民議会選が近接した時期に行われるようになった。今回の選挙から、地方自治体の首長と国会議員の兼職が禁止され、首長の出馬が阻まれた。

 こうした制度改正が、マクロン旋風に乗った新人の当選を容易にした面もあろう。

 投票率は過去最低だった。経済の長期停滞がもたらした政治不信の根深さの表れだろう。大統領選で、極右や急進左派の候補に投票した人々の多くは、国民議会選を棄権したとされる。社会の分断は依然として深刻だ。

 マクロン政権は、労働市場の流動性を高める規制緩和や社会保障改革など、痛みを伴う政策に取り組むのだろう。テロ対策も重要課題だ。経済の再活性化や失業率の低下、治安の向上が、社会の長期的な安定には不可欠である。

 歴代政権の構造改革の試みは、労働組合など既得権層の抵抗で、挫折を繰り返してきた。マクロン政権の実行力が問われよう。

2017年6月19日月曜日

東芝の決算巡る迷走は見るに堪えない

 経営再建中の東芝は2017年3月期決算の有価証券報告書の提出を延期する。法定期限の6月末から2カ月~2カ月半の先延ばしを認めてもらえるよう、金融庁と協議するという。

 15年に会計不祥事が発覚して以来、東芝は決算発表の遅延をくり返してきた。このため同社株式は信頼に足る財務情報に基づいた投資の判断ができず、今では投機の対象になってしまった。日本を代表する名門企業の決算を巡る迷走は見るに堪えない。

 まずは東芝が監査を担当するPwCあらた監査法人と十分に話し合い、前期決算の適正意見を早く得られるよう努めなければならない。できることなら期限に間に合ったほうがよい。

 有価証券報告書の提出延期がやむを得ないとしても、厳に今回限りとすべきだ。いたずらに延期がくり返されるようでは、東芝だけでなく日本の株式市場の信頼性にも傷がつきかねない。

 前期決算を巡って東芝とあらたの関係は一時、決裂しかかった。米国原発事業子会社だったウエスチングハウス(WH)の監査について見解が一致しなかったため、あらたは東芝の16年4~12月期決算の適切性について「意見不表明」の方針をとった。

 東芝はこれを不服とし、前期監査を他の監査法人に変更することを検討したが、時間の制約もあり断念した。これだけでも、資産運用会社や個人など一般投資家が、東芝株への信頼を失うのに十分なお粗末さだ。

 東京証券取引所は現在、内部管理の不備などを理由に東芝を特設注意市場銘柄に指定している。事態が改善しなければ東芝株は上場廃止の可能性が強まる。

 東証を傘下に持つ日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者は16日の記者会見で「東芝が監査法人と意思疎通をはかり問題を解決できるか、成り行きを見守りたい」と語った。

 しかし東証は静観を決め込むのではなく、延長期限内に監査が予定通りに進んでいるかどうか目配りを怠るべきではない。監査の結果はどうあれ、さらなる遅延は混乱をまねく。

 東芝問題をきっかけに、東証は大企業の不祥事に対して厳しさを欠くと見る市場関係者が増えているようだ。問われているのは一企業の決算ではなく、日本の株式市場の公正さだ。

受動喫煙防止へ法整備急げ

 他人が吸うたばこの煙を吸い込む「受動喫煙」防止のための対策強化が、先送りされた。政府は健康増進法改正案の国会提出を目指していたが、規制慎重論がある自民党側と一致できなかった。

 たばこが健康を損なうことは科学的に明らかだ。対策の遅れは国際的な潮流とも逆行する。秋の臨時国会での成立に向け、関係者はあらゆる努力を尽くすべきだ。

 世界保健機関(WHO)の調査によると、公衆の集まる場所すべてに屋内全面禁煙義務の法律がある国は49カ国ある。日本は今のところ、健康増進法で受動喫煙防止の努力義務をうたうにとどまる。WHOの判定では日本の対応は「世界最低レベル」だ。

 国際オリンピック委員会とWHOは「たばこのない五輪」を掲げる。最近の開催国はいずれも、罰則を伴う法規制で対策を強化してきた。2020年の東京五輪に先立ち、19年にはラグビーのワールドカップが開かれる。このままでは日本は、健康被害を軽視する国と思われかねない。

 最大の焦点は飲食店の扱いだ。厚労省は「屋内禁煙」を原則としつつ、喫煙専用室を設置できるとの案を示した。専用室がなくてもたばこが吸える例外は、小さなバーやスナックだけだ。

 一方の自民党側は、一定面積以下なら飲食店の業態を問わず、喫煙の表示などを条件に喫煙を認める立場に立った。これだとかなり多くの店で恒久的にたばこが吸えることになる。受動喫煙対策としてはあまりに力不足だ。

 飲食店には規制による売り上げ減少への懸念がある。だが国内外の調査では、悪影響はほとんど生じていない。厚労省は規制を一定期間猶予する案も示している。政府と自民党は冷静に議論を深めてほしい。

 日本では少なくとも年間1万5千人が、受動喫煙がなければ死亡せずに済んだと推計されている。今こそ実効性のある対策をとり、被害をなくしていく道筋を示さなければならない。

(社説)憲法70年 国民投票は単独が筋だ

 安倍首相が提案した憲法改正の2020年施行をめざして、自民党が議論を始めた。

 そのなかで、改憲の是非を問う国民投票と衆院選を同日に実施する案が浮上している。

 これは看過できない。

 自民党は改憲原案を年内にまとめ、他党との協議をへて来夏にも国会として発議したい。それで、来年12月に任期が切れる衆院議員の選挙と一緒に国民投票をやろうというわけだ。

 シナリオ通りに進むかどうかは分からない。だが首相は先月のテレビ番組で「衆院選、参院選と国民投票を別途やることが合理的かどうか」と語った。周辺には「同時にやった方がいい」との考えを示したという。

 確かに憲法上、同日実施は認められている。憲法96条は憲法改正の国民の承認について「特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票」で決めるとしている。

 投票率の向上や経費節減のため「同日実施の方が合理的だ」と指摘する憲法学者もいる。

 こうした点を踏まえても、国民投票と衆院選を切り離して行うのが筋だと考える。

 理由は主に三つある。

 第一に、選挙運動には公職選挙法で厳しい規制があるが、国民投票運動には表現の自由や政治活動の自由への配慮から原則として規制はない。ルールの違う二つの運動が同時に展開されれば、混乱は必至だからだ。

 たとえば国民投票には費用もビラ、ポスターの配布も、宣伝カーの台数も制限がない。戸別訪問も認められ、個人による個人の買収禁止規定もない。

 費用が制限され、戸別訪問も買収も禁止される公選法とは大きく違うのだ。

 第二に、同日実施はしないというのが、かねて与野党の共通認識であることだ。

 06年の国民投票法の衆院審議では、与党案の提出者である自民党議員が「有権者の混乱を引き起こしかねないという観点から、同時実施は想定していない」と明言していた。積み重ねてきた国会審議を軽視すべきではない。

 第三は、首相らが同日実施をめざす背景に、一体化によって憲法改正への賛成機運を押し上げる思惑が透けることだ。

 与野党が競い合い、国民に政権選択を問う衆院選なら「多数決の原理」でいい。

 だが憲法は違う。国の最高法規である。

 改正はできるだけ多くの政党や国民の合意に基づくべきだ。

 必要なのは、熱狂ではなく冷静な議論である。

(社説)稲田防衛相 閣僚の立場をふまえよ

 稲田防衛相が、4月に亡くなった渡部昇一・上智大名誉教授の追悼文を月刊誌に寄せた。

 こんな記述がある。

 「先生のおっしゃる『東京裁判史観の克服』のためにも固定概念にとらわれず、『客観的事実はなにか』を追求する姿勢を持つことが大切だ」

 「東京裁判史観」とは何を指すのか、その「克服」とは何を意味するのか――。

 記者会見でそう問われた稲田氏は「客観的事実が何だったか見極めることが必要だ」と繰り返したが、質問にまともに答えたとは言えない。「(自分を)歴史修正主義者とは思っていない」とも語った。

 渡部氏は著書で、東京裁判史観についてこう説明している。

 「戦前の日本が犯罪国家であり、侵略国家であると決めつけた東京裁判の前提を正しいと考える歴史観」

 東京裁判をどう評価するかは立場によってさまざまだろう。「事後法による勝者の裁き」という側面があるのも確かだ。

 だが、日本は1951年のサンフランシスコ講和条約によって東京裁判を受諾し、主権を回復した。戦争責任をA級戦犯に負わせる形で、国としてのけじめをつけ、国際社会に復帰したのだ。

 これは否定することができない歴史の事実であり、戦後日本の基本的な立脚点である。

 歴史家が史実を探り、それに基づいて東京裁判を評価するのは当然の仕事だ。しかし、閣僚が東京裁判に異議を唱えると受け取られる言動をすれば、国際社会における日本の立場は揺らぎ、外交は成り立たない。

 まして稲田氏は自衛隊を指揮監督する立場の防衛相である。自らの主張はどうあれ、国内外の疑念を招きかねないふるまいは厳に慎むべきだ。

 稲田氏は昨年末、防衛相として靖国神社に参拝した。安倍首相がオバマ米大統領と真珠湾を訪ねた直後のことだった。

 戦争で亡くなった肉親や友を悼むため、遺族や一般の人々が靖国で手を合わせるのは自然な営みだ。だが、先の大戦を指導した側のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国に閣僚が参拝することに、割り切れなさを感じる遺族もいる。

 中国や韓国、欧米など国際社会にも、日本が戦争責任から目を背けようとしているとの疑いを広げかねない。

 安倍首相は歴史認識や政治的主張が自らに近い稲田氏を一貫して重用し、その靖国参拝を容認した。今回の寄稿もまた、不問に付すのか。

通常国会閉幕 疑惑追及だけでは物足りない

 重要な法律の成立では成果があったが、疑惑の追及ばかりが目立ったのは物足りない。

 通常国会が閉幕した。天皇陛下の退位を実現する特例法を巡っては、当初、一代限りの退位を主張する与党と、恒久的な制度化を求める野党の立場の開きが大きかった。

 与野党が歩み寄って、国会の見解をまとめ、特例法を円滑に制定したことは高く評価できよう。

 陛下のお気持ちを真剣に受け止め、政争は避けようという共通認識が醸成されたためだろう。

 対照的に、テロ等準備罪を創設する組織犯罪処罰法改正案の審議では与野党が激しく対立した。

 「共謀罪」を創設する法案は3回、廃案になっている。改正案のハードルはもともと高かった。適用対象を組織的犯罪集団に限定して、準備行為を要件に追加するなど、合理的な修正を行ったことで、国民の不安は軽減された。

 政府・与党が、2020年東京五輪に向けてテロ対策を強化するため、今国会での成立をぶれずに目指したのは適切だった。

 残念なのは、国会の中盤以降、野党が学校法人「森友学園」と「加計学園」の問題の追及に終始したことだ。どちらも、安倍首相や昭恵夫人と親しい学園理事長に便宜を図るような不適切な行政の有無が焦点とされた。

 野党とすれば、「1強」の安倍政権に打撃を与えるには格好の材料と考えたのだろうが、存在感を示すことはできなかった。

 結果的に、経済成長と財政再建の両立、北朝鮮の核・ミサイル問題などの大切な議論が後景に退いてしまった。その責任は、主に野党にあるが、政府・与党も十分に役割を果たしたとは言えない。

 政府が、文部科学省の内部文書の再調査を拒否し続けたのは、頑迷だった。疑惑や疑問については、はぐらかさず、謙虚かつ丁寧に説明する姿勢が求められよう。

 衆参両院憲法審査会が停滞する中、9条に自衛隊の存在を明記するという安倍首相の提言が憲法論議を活性化した意義は大きい。

 参院審査会は、07年の設置以来初めて通常国会で一回も開かれなかった。衆院も、自由討議や参考人質疑を行うだけで、改正項目の絞り込みは進んでいない。

 自民党は9条などの改正案作成を本格化させる。他党も、きちんと対案を示せるよう、党内論議を加速させねばなるまい。

 党首討論は一回も行われなかった。開催方法や時間配分など、あり方を再検討する必要がある。

名古屋議定書 批准を生態系保全の契機に

 地球上の豊かな生態系は、人間社会に様々な恵みをもたらしてくれる。議定書の批准をきっかけに、生物多様性の大切さを再認識したい。

 政府が名古屋議定書を批准した。2010年に名古屋市で開かれた生物多様性条約締約国会議で採択された国際ルールだ。

 遺伝子の働きにより、植物や微生物が作り出す有用成分は、古くから薬品や化粧品、食品などに広く活用されてきた。議定書は、遺伝資源を基にした製品の利益を公平に配分するよう定めている。

 利益配分の典型例は、15年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏の研究だ。国内の土から見つけた菌を元に、共同研究先の米製薬企業が寄生虫の治療薬を開発し、大村氏側には特許料約250億円が支払われた。

 問題なのは、途上国に自生する植物などの遺伝資源を、先進国の企業が利用するケースだ。

 現地で同意を得ないままに、薬草などを採取し、製品化することは少なくない。途上国側には、「利益が全く還元されない」といった不満が根強くある。

 富を生み出す遺伝資源を持続的に活用していくためには、提供国と利用国間の適切なルールが必要だ。公平な利益配分は、双方の対立を避けるために欠かせまい。

 遺伝資源の研究開発を目指す企業や大学などは、提供国側と利益配分の在り方について契約を結び、その経過を自国政府に報告する。それが名古屋議定書の大枠だ。14年に発効し、既に約100か国が批准している。

 対象となる遺伝資源の範囲や、政府に提出する報告書の内容、違反した場合の罰則の有無などは、各国が独自に規定する。日本は15年までの批准を目指したが、国内での指針作りが遅れていた。

 国内の研究者や企業は、手続きが煩雑になるのを嫌い、緩やかな規定を求めた。結果として、強制力のない指針となった。

 自由な研究開発を促進する観点からは、穏当な対応だろう。他国の状況を見極めながら、柔軟に見直していくべきだ。

 筑波大学は3月に、メキシコと議定書に基づく契約を結んだ。中米原産のウリの品種改良法などを共同研究する内容だ。

 現地の生態系の保全を重視し、地元農業に成果を還元することを目指す。利益配分の手法も、研究テーマに盛り込んでいる。

 途上国との共同研究は、国際貢献の有効な手段である。積極的に取り組みたい。

2017年6月18日日曜日

安保を理由に鉄鋼輸入を抑えれば問題だ

 トランプ米政権は自国の安全保障を脅かしているという理由で鉄鋼の輸入制限措置を検討する方針だという。

 薄い根拠をもとに貿易に介入するような措置を取れば、ルールに基づく世界の自由な通商体制に甚大な悪影響を及ぼす。政権が危うい一歩を踏み出さないよう内外から圧力をかける必要がある。

 トランプ大統領は就任以来、貿易赤字削減を大きな目標に掲げ、その一環として鉄鋼など製品輸入の抑制策を検討してきた。

 そこで目をつけたのが50年以上前にできた米通商拡大法の232条だ。米商務省が安全保障に悪影響を及ぼすと判断すれば、大統領が輸入を制限できるという内容だ。これに基づき、大統領は4月に鉄鋼輸入の安保への影響を調査するよう商務省に指示していた。

 商務省は鉄鋼輸入に安全保障上の問題があると判断し、具体的な制限措置を取るよう大統領に提案する見通しだ。

 しかし、こうした判断は納得できない。

 そもそも米国でも鉄鋼輸入が安全保障上の障害になるとの見方は少ない。米国の鉄鋼消費に占める輸入の比率は3割程度にとどまる。主要な調達先もカナダ、韓国、メキシコなど友好国が大宗を占める。国防上必要な鉄鋼が供給できなくなる事態は中期的に見ても想定できない。

 また、米国はこれまでも、安値の対米輸出で国内産業が被害を受けているという理由で鉄鋼の輸入品にひんぱんに反ダンピング(不当廉売)関税をかけてきた。これによって国内鉄鋼産業は保護を受けた形になっており、鉄鋼製品の国内価格は本来の姿に比べて高くなっているとの指摘もある。

 反ダンピング関税に加えて、安保を理由に鉄鋼輸入が制限されるようなことになれば、海外の輸出メーカーが大きな損害をこうむるのはもちろんだが、鉄鋼を使って製品をつくっている米国内の企業や消費者にも悪影響が及ぶ。

 もし正当な理由がないまま、一方的に輸入が制限されれば、明白な保護主義的措置といわざるをえない。報復措置を招き、貿易戦争につながる恐れもある。

 鉄鋼については、中国の過剰設備問題など対処すべき課題があるのは確かだ。これは多国間対話などで解決すべきものだ。高関税の脅しや一方的な措置で成果を得ようとするやり方は間違っている。

金融緩和、出口にはなお時間

 黒田東彦総裁のもとで日銀が大規模な金融緩和を始めてから4年以上がすぎた。この間、景気の緩やかな拡大は続いているが、2%の物価安定目標の実現はまだ遠い。日銀に出口戦略を示せと求める声があるが、ここは先行する米欧の動きもしっかり見ながら、じっくりと考える時だ。

 日銀は16日の金融政策決定会合で、金融緩和策の現状維持を決めた。足元の消費者物価上昇率は0%台にとどまり、日銀は消費者物価の前年比上昇率で2%の目標達成時期は2018年度ごろという見通しを示している。

 4月の有効求人倍率は1.48倍とバブル期を超え43年ぶりの高水準となるなど、雇用は逼迫しており賃金も人手不足の業種を中心に上がり始めている。宅配便などサービスを中心に料金を引き上げる動きもある。政策決定会合後の記者会見で黒田総裁が指摘したように、長期にわたって続いたデフレ心理の転換には時間がかかるが、物価上昇圧力は徐々に強まっているようにみえる。

 米連邦準備理事会(FRB)は今年2回目の利上げに動き、国債などの購入で膨らんだ資産圧縮の道筋を示した。欧州中央銀行(ECB)も今月の理事会で、政策金利の先行き表現を中立にし、緩和縮小へ布石を打った。

 こうした米欧の動きを受けて、市場の一部では、日銀に金融緩和の出口戦略を早期に示すよう求める声もある。16日の記者会見でこの点を問われた黒田総裁は「現時点で具体的なシミュレーションを示すことは混乱を招き、適切ではない」との立場を繰り返した。

 確かに米欧の経済情勢と日本の状況はかなり違う。日銀は異例の金融緩和からの出口に先に向かっている米国や欧州の経験をじっくり学ぶ時間がある。

 米国でも13年5月にバーナンキ前FRB議長が早すぎる段階で量的緩和縮小の道筋を語り、市場が動揺したことがある。市場との対話は、慎重にタイミングをはかりながら進めるべきだ。

(社説)安倍政権 「議論なき政治」の危機

 通常国会がきょう閉幕する。

 150日間の会期を振り返って痛感するのは、民主主義の根幹である国会の議論が空洞化してしまっていることだ。

 その責任は、巨大与党に支えられ、「1強」を謳歌(おうか)する安倍首相の慢心にある。

 象徴的なのは、国会最終盤の「共謀罪」法案の採決強行だ。

 自民、公明の与党は数の力にものを言わせ、委員会審議を打ち切る「中間報告」を繰り出して成立を急いだ。

 首相や妻昭恵氏の関与の有無が問われている加計学園、森友学園をめぐる野党の追及から、身をかわすように。

 ■「1強」のおごり

 与野党の論戦を通じて、多くの国民が法案に抱く疑問や不安を解消する。そんな立法府のあるべき姿を無視した、数の横暴である。

 1月、通常国会冒頭の施政方針演説で、首相は野党を挑発した。「ただ批判に明け暮れ、国会の中でプラカードを掲げても何も生まれない」

 議論相手の野党を攻撃し、あてこする首相の態度は、国会終盤までやまなかった。

 加計学園理事長との親密な関係が、獣医学部新設の事業者決定に影響しなかったのか。多くの国民の疑問を野党議員が問うのは当然だ。なのに首相は「印象操作だ」「質問に責任が取れるのか」と質問者を批判した。

 首相自ら野党の質問者にヤジを飛ばす。それなのに、野党からヤジられると「私が答弁しようとすると、ヤジで妨害するんですよ」などと繰り返し、審議時間を空費する。

 森友問題をめぐる政府の説明に8割が納得できないとしている世論調査結果を、民進党議員に示されると、「その調査では内閣支持率は53%。自民、民進の支持率はご承知の通り」。

 支持率が高ければ説明は不要とでも言いたいのだろうか。

 ■極まる国会軽視

 憲法41条は、国会を「国権の最高機関」と定める。憲法66条は、内閣は、行政権の行使について国会に対して責任を負うと定めている。

 国会は内閣の下請けや追認のためにあるのではない。

 内閣をチェックし、行き過ぎを正すことこそ国会、とりわけ野党の重要な責務である。

 首相をはじめ行政府には、野党の国会質問に誠実に答える義務があるのだ。

 深刻なのは、首相も閣僚も、そして多くの官僚たちも、そのことを理解していないように見えることだ。

 不都合な質問は、国会で何度問われてもまともに答えない。質問と直接関係のない話を延々と続けて追及をかわす。そんな首相の答弁が連日のように繰り返される。野党議員の背後に、多くの国民がいることが目に入らないかのように。

 「あるもの」を「ない」と言いくるめる場面も続いた。

 菅官房長官が「怪文書」と断じた加計学園にからむ「総理のご意向」文書は、後に存在を認めざるを得なくなった。防衛省が廃棄したとした南スーダン国連平和維持活動の日報も、その後存在が判明した。そして、財務省は森友学園との交渉記録を廃棄したと言い続けた。

 公文書管理や情報公開など民主主義を支えるルールも、政権にとって都合が悪ければ無視していいということなのか。

 政権の意に沿わない人物には牙をむき出しにする。

 「総理のご意向」文書の存在を前川喜平・前文部科学次官が証言すると、菅官房長官は前川氏の人格攻撃を始めた。

 圧倒的な権力を握る内閣の要が、反論の場が限られる一個人を、これほどまでにおとしめることが許されるのか。

 ■数の力で改憲か

 海外からの指摘にも聞く耳をもたないようだ。

 共謀罪法案について、国連特別報告者からプライバシーや表現の自由の制約を懸念する公開書簡が届くと猛反発。首相自ら国会で「著しくバランスを欠き、客観的である専門家のふるまいとは言いがたい」と報告者個人を非難した。

 3月の自民党大会で、党総裁任期を連続3期9年に延長する党則改正が承認された。安倍首相は来年9月の総裁選で3選されれば、2021年まで政権を握ることが可能となった。

 衆参両院で改憲勢力が「3分の2」を超えるなか、首相は5月の憲法記念日に読売新聞のインタビューなどで20年の改正憲法施行を提唱した。

 だが国会で野党議員に意図を問われると「読売新聞に書いてある。ぜひ熟読して」。国会軽視、議論軽視はここでも揺るがないということか。

 民主主義の基本ルールをわきまえない政権が、数の力を背景に、戦後70年、日本の平和と民主主義を支えてきた憲法の改正に突き進もうとしている。

 いま日本政治は危機にある。この国会はそのことを鮮烈に国民に告げている。

介護保険改革 自治体の主体性が問われる

 高齢者が安心して暮らせるよう介護サービスの質を高めつつ、費用は抑制する。超高齢社会で制度を維持するために、避けて通れない難題だ。

 介護保険制度改革へ向けた「地域包括ケアシステム強化法」が、自民、公明の与党と日本維新の会などの賛成多数で成立した。

 柱の一つは、経済力に応じた負担を徹底させることだ。

 現役世代並みの所得がある高齢者については、自己負担割合を現行の2割から3割に引き上げる。利用者の3%に当たる約12万人が対象となる見込みだ。2018年8月から実施する。

 団塊の世代が全て75歳以上になる25年にかけて、介護費は膨張する。高所得層に負担増を求めるのは、やむを得まい。必要なサービスの利用抑制を招かないよう注視していくことが大切だ。

 40~64歳の保険料も、応能負担を強化する。加入者の所得水準が高い健康保険組合の負担を増やす一方、水準の低い健保の負担を減らす。大企業の社員ら1300万人は負担増になる。中小企業などの1700万人の負担は減る。

 現行では、加入者数に応じて健保ごとの負担額が決まるため、所得水準の低い健保の負担が相対的に重い。所得水準に応じて決める方式に改めるのは、公平性確保の観点から必要な措置だろう。

 もう一つの柱が、自立支援・重度化防止の促進である。自治体に対し、高齢者の要介護度を維持・改善するための対策と目標を介護保険事業計画に記載するよう義務づけた。成果を上げた自治体には、財政支援する。

 高齢者の自立度を高めて、給付費を抑える方向性は妥当だ。

 埼玉県和光市では、リハビリ専門職など多職種が連携して個々の状態や生活環境に応じた支援を提供する。自立度を高めることで、要介護認定率を引き下げた。

 介護保険に頼らずに済むよう、保険外の体操教室や交流サロンなども充実させている。

 重度者などには改善が見込めない場合も多い。要介護度の変化だけに着目しては、単に認定を厳しくして、見かけ上の改善を図る自治体も現れかねない。

 政府は、財政支援に当たり、介護予防対策の実施状況なども評価する方針だ。自治体の努力を適正に判断することが求められる。

 自立支援型ケアのノウハウや、担い手となる人材に乏しい自治体は少なくない。政府による支援も必要だが、最も大切なのは、自治体の主体的な取り組みである。

加計学園問題 規制改革の意義を丁寧に語れ

 首相の友人に便宜を図ったという疑念の払拭(ふっしょく)には、規制改革の経緯や意義をより丁寧に説明する必要がある。

 安倍首相が参院予算委員会の集中審議で、国家戦略特区による学校法人「加計学園」の獣医学部新設について自らの関与を改めて否定した。「特区諮問会議の民間議員の意見を踏まえ、政府全体で決定した」と述べた。

 学部新設は「総理の意向」とする文部科学省の内部文書の存在が確認されたことに関しては、「対応に時間がかかったことは率直に反省したい」と陳謝した。

 問題が表面化した後、確認に約1か月を要したのはお粗末だ。菅官房長官が「怪文書みたいな文書」と否定したことで、文書の存在に注目が集まり、かえって混乱を招いたのではないか。

 山本地方創生相は「総理の意向」を明言した内閣府職員はいないとし、文科省の文書を否定する調査結果を発表した。文書には「省庁間の調整が困難な局面で、内閣府職員が時に使用する強い口調が反映された」との見方も示した。

 内閣府は政府全体の総合調整役だが、直接の権限は少ない。首相の影響力を利用しなければ、他省庁を動かせない面もある。

 野党側は予算委で、加計学園理事長が首相と親しいことを踏まえ、「友人のための特区ではないか」などと追及した。首相は、特区指定はあくまで「岩盤規制を突破するためだ」と反論した。

 岩盤規制は、獣医師の過剰を防ぐため、1966年以来、獣医学部の新設を文科省が認めていないことを指す。山本氏は「規制に正当な理由があることの挙証責任は規制省庁にある」と指摘した。

 国家戦略特区諮問会議の民間議員5人は13日、首相からの要請は一切なかったと発表した。文科省は規制の根拠を示せなかったとして、愛媛県今治市の特区指定は「妥当」と強調している。

 獣医学部誘致を進めてきた愛媛県の加戸守行前知事は、「四国は獣医師が不足している。大学はどこでもよく、加計学園ありきの話ではなかった」と語る。

 既得権益を持つ業界の意向を重視しがちな所管省庁と、首相主導で規制改革を進める内閣府の対立は避けがたいところがある。

 政府が、加計学園を優遇したとの疑いを否定するには、規制緩和の一連の経緯や、今治市や四国の地域事情などについて、掘り下げた説明を尽くさねばならない。国会の閉幕が、この問題の幕引きにはならないだろう。

2017年6月17日土曜日

米の緩やかな利上げは長期安定に貢献

 米国が今年2回目となる利上げを実施した。前回同様、金融市場は冷静に受け止め、波乱は起きなかった。米国経済は順調に拡大を続けており、緩やかな利上げの継続は長い目で見た内外経済の安定に貢献するとみていいだろう。

 利上げを決めた米連邦準備理事会(FRB)の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、量的緩和で膨らんだ保有資産の圧縮を年内に始める考えも示した。計画的に圧縮幅を拡大していく方針だが、経済や金融市場の動向に目配りすることも重要になる。

 米国内では物価上昇率がこのところ伸び悩んでいることから、利上げは不要という見方もあった。だが、企業の設備投資や個人消費はおおむね堅調で、労働市場も完全雇用に近づきつつある。

 今回の利上げでも物価上昇分を引いた実質金利はなおマイナスで緩和的な環境が続く。そのことも考えれば、決定は妥当である。

 また、昨年暮れから半年で3回の利上げにもかかわらず、米長期金利はむしろ低下傾向にあり、信用度の低い社債の利回りも低く抑えられている。商業用不動産向けの融資膨張など気になる動きも出ていた。

 緩い金融環境を放置すれば、いずれ金融市場が不安定になる心配もある。政策当局にとってはこうした点にも配慮する必要があったとみられる。

 経済が改善を続ければ、今後も緩やかな利上げを継続し、資産圧縮に動き始めることは理にかなっている。

 ただ、政策のかじ取りは難しさを増す可能性もある。1つは失業率がさらに低下しても賃金が伸び悩み、物価上昇率が目標の2%へ進む道が見えなくなった場合だ。物価が上がりにくい「日本化」の懸念だが、そうなれば政策の見直しを迫られるかもしれない。

 2つ目はトランプ政権の経済政策が迷走するリスクだ。減税やインフラ投資の規模や実施時期はどうなるか、その財源はどう賄うのか。保護主義的な政策に本格的に動くのか。こうした政権の政策動向からも目が離せない。

 米国が適切な金融政策運営の下で息の長い成長を続けることは日本や世界経済にとってプラスだ。米利上げが、中国を含む新興国からの資金流出につながる恐れは消えていないが、市場との対話を密にしながらそうしたリスクを最小限にとどめることが求められる。

「共謀罪」は厳格な運用を

 改正組織犯罪処罰法が成立した。これにより、重大な組織犯罪やテロを、実行される前の計画・準備の段階で摘発できるテロ等準備罪が、新設された。

 テロ等準備罪の原型である共謀罪を導入する法案は、過去3回国会に提出されたが、いずれも廃案になっている。「処罰対象が不明確」「内心の自由が侵される」といった批判が強かったからだ。

 構成要件を厳しくしたとはいえ、その共謀罪に連なるテロ等準備罪に多くの国民が不安や疑問を感じていることは、政府・与党もよく分かっていたはずだ。それなのに参院では委員会での採決を省いて審議を打ち切り、いきなり本会議で採決する異例の形で法律を成立させた。残念でならない。

 与野党間での丁寧な議論を通して、「組織的犯罪集団」や「準備行為」の定義を明確にしたり、処罰の対象となる277の罪種を個別に精査したりするような見直しは結局行われないまま、幕切れとなってしまった。

 法律は成立したが、今後も折に触れて法律の意義や狙いについて説明を尽くし、疑問にこたえていく責任が、政府にはある。

 国民の十分な理解が得られていないなか、警察は懸念が残されたままの法律を捜査の現場で運用していくことになる。国会審議などで示された疑念を十分踏まえ、慎重、厳格に適用していかなければならない。

 検察や裁判所、公安委員会などは、これまで以上に捜査のあり方を厳しくチェックしていく姿勢が求められる。実際の運用を通して問題が明らかになれば再び法改正するといった対応も必要だ。

 今回の法改正は国際組織犯罪防止条約を締結するのが目的だった。改正の対象は組織犯罪処罰法であり、条約も法律も、ともにテロ対策ではなくマフィア型の犯罪を封じる枠組みである。政府・与党はテロ対策を掲げて説明してきたが、期待される効果には限界がある。テロの抑止策は改めて見直し、検討していくべきだ。

(社説)加計学園問題 閉会中審査が不可欠だ

 文部科学省と、特区を担当する内閣府の矛盾があらわになった。加計学園の獣医学部新設をめぐる対応についてである。

 文科省が存在を認めた文書について、山本幸三地方創生相は、内閣府が文科省に対し、「『総理のご意向』『官邸の最高レベルが言っている』などと発言した認識はない」とする内閣府の調査結果を発表した。

 調査結果は「総理のご意向」などの言葉について、「内閣府職員が時として使用する強い口調が反映されたのではないか」としている。

 なんとも苦しい釈明である。

 たとえ内閣府職員が強い口調で主張をしたとしても、それを文科省職員が「総理のご意向」と言い換えるだろうか。

 前川喜平・前文部科学次官はこの言葉について「圧力を感じなかったといえばウソになる」と証言している。実際に使われていないのに職員がメモに残すような言葉ではあるまい。

 文科省が公表したメールに、同学園と競合した他大学を事実上排除する条件が、萩生田光一・内閣官房副長官の指示で書き加えられたようだと記されていたことについて、山本氏は参院予算委員会でこう述べた。

 「(送信した内閣府職員は)文科省から出向してきた方であり、陰で隠れて本省の方にご注進したというようなメールだ」

 メールの信頼性は低いと言いたいのかもしれない。だがメールには「指示は(内閣府の)藤原(豊)審議官曰(いわ)く、官邸の萩生田副長官からあったようです」など具体的な記述がある。

 山本氏は記者会見で「課内でいろいろ飛び交っているような話を聞いて、確認しないままにそういうことを書いた」と説明したが、おかしな話だ。

 この問題の「決定にかかわって指示したことはない」と言う萩生田氏の名前が、なぜ内閣府内で「飛び交って」いたのか。

 驚いたのは、自民党の高村正彦副総裁が野党の追及について「げすの勘ぐり」と批判したことだ。内閣の姿勢をただすことこそ野党の大事な使命である。

 事実究明は緒に就いたばかりだ。国会は閉会中でも審議はできる。証人喚問に応じるという前川氏を国会に呼び、直接話を聞くことは欠かせない。

 首相は証人喚問について「国会で決めること」との答弁に終始した。だが問われているのは首相自身と、首相側近で、学園系列大学の名誉客員教授を務める萩生田氏の関与の有無だ。

 国民が納得できるまで説明を尽くす重い責任があることを、首相は自覚すべきだ。

(社説)加計学園問題 「義家発言」の危うさ

 加計学園の獣医学部新設問題で、「総理のご意向」などと書かれた文書の存在を証言した文部科学省の内部告発者は、守秘義務違反に問われる可能性があるのか。公益のための通報者として保護されるべきではないのか。議論が起きている。

 きっかけは義家弘介文科副大臣の国会答弁だ。

 公益通報者保護法は、保護対象となる通報を生命や財産などにかかわる460の法律違反に絞り、メディアなど外部への通報にも厳しい要件を定める。

 義家氏はこの規定を踏まえ、「告発の内容がどのような法令違反に該当するのか、明らかにすることが必要」と述べた。さらに「一般論」とした上で、「法令違反に該当しない場合、非公知の(公になっていない)行政運営上のプロセスを、許可なく外部に流出させることは、国家公務員法(違反)になる可能性がある」と語った。

 だが04年の国会での法案審議を思い出すべきだ。当時の竹中平蔵担当相は「法案は通報を抑制するのではなく、正義を希求する通報者をエンカレッジ(鼓舞)する内容になっている」と指摘。「法案の定める対象範囲に該当しない通報は、通報の公益性等に応じて通報者の保護が図られる」とし、付帯決議にもその趣旨が盛り込まれた。

 加計学園問題で、政府は情報開示に一貫して後ろ向きだ。関連文書についても文科省はおざなりな調査で「確認できない」と言い続けた。そうした状況のなか、文書はあるという内部告発が職員らから相次いだ。

 立法の経過と趣旨を踏まえれば、今回の告発者は保護されるべきだ。再調査の結果、文書の存在を認めた会見で松野博一文科相が「職員としての立場が法の精神によって保護される」と語ったのは当然である。

 一方、義家氏の国会答弁は、「一般論」と断ったとはいえ、内部告発をためらわせ、公益通報制度を損ないかねない危うさをはらむ。文科省をはじめ政府がなすべきは、告発者の口をふさぐことではなく、異論や批判に耳を傾けることだ。

 公益通報制度にも不十分な点は少なくない。消費者庁の有識者検討会は昨年末、制度の強化に向けた報告書をまとめ、保護の対象に退職者を含めることや外部通報の要件を緩和することを提言した。法改正を急ぐとともに、通報対象の拡大など検討会が積み残した課題について議論を続けるべきだ。

 公益通報者保護法の施行から10年余り。制度をさらに育て、定着させていかねばならない。

FRB利上げ 「出口戦略」は柔軟かつ慎重に

 リーマン・ショック収拾のための非常措置からいかに平時の金融政策に立ち戻るか。

 米当局が、その「出口戦略」を明確にした。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を年1~1・25%に引き上げた。3月に続く利上げで、金融引き締めに転じた一昨年末から数えて4回目となる。0%台を脱するのは8年半ぶりだ。

 発表した今後の利上げ予想によると、当面、年3回程度のペースで着実に継続する。

 景気過熱の芽を早く摘むとともに、将来の不況時に利下げの余地を確保する狙いがあろう。

 米経済は、失業率が16年ぶりの水準に改善している。物価上昇率は目標の年2%に届かないが、イエレンFRB議長は「一時的な要因による」との見方を示し、強気の景気判断を崩さなかった。

 注目されるのは、FRBが「保有資産の縮小」に踏み出す方針を明らかにしたことだ。今秋にも開始するとみられる。

 FRBはリーマン後に導入した量的金融緩和で、米国債などを大量に買い入れた。現在の保有資産は4・5兆ドルと、金融危機前の4倍超に膨れ上がっている。

 この状況で利上げを進めると、保有国債の価格下落によってFRBの資産内容が急速に悪化する恐れがある。資産縮小には、こうした事態を防ぐ狙いが窺(うかが)われる。

 ただし、縮小を急ぎ過ぎると、長期金利が跳ね上がり、米経済に打撃を与えるリスクがある。

 世界の投資マネーが金利の高い米国に流出し、新興国経済が深刻な影響を被る懸念も大きい。

 FRBは今回、市場での債券売却はせず、償還満期を迎えた分の一部を再投資に回さない手法を採用した。何年もかけてゆっくりと資産縮小を進める計画だ。

 年間の縮小規模を公表するなど具体的な道筋を示したのも、市場の動揺を抑える工夫だろう。

 米経済は、自動車販売の減速や賃金の伸び悩みなど先行きの不安材料も指摘される。FRBは、経済情勢に応じて資産縮小のペースなどを柔軟に見直すべきだ。

 量的緩和は、日本で2001年に初導入され、FRBや欧州中央銀行(ECB)に広がった。「出口」局面における資産悪化は、中央銀行にとって共通の問題だ。

 金融正常化に向けたFRBの資産縮小は、世界に例のない取り組みとなる。いまだに大量の国債購入を継続している日銀も、米国の動向を注視し、将来に備えておくことが重要である。

性犯罪厳罰化 被害者の泣き寝入りを防げ

 法改正により、卑劣な性犯罪の被害者が泣き寝入りする悲劇をなくさなければならない。

 改正刑法が参院本会議で、全会一致で可決、成立した。110年前の刑法制定以来、性犯罪に関する規定を初めて大幅に見直して、厳罰化した。

 多くの被害を踏まえて、ようやく実現した。遅すぎた感は否めないものの、大きな前進である。

 改正の柱は「親告罪」規定を撤廃したことだ。強姦(ごうかん)罪や強制わいせつ罪で加害者を起訴する際に、これまでは必須だった被害者の告訴が不要となる。被害の潜在化を防ぐ効果が期待できよう。

 心身に深傷(ふかで)を負った被害者は、告訴手続きで事件を振り返らざるを得ない。心理的負担が、被害が潜在化する一因となっていた。

 自ら告訴することが難しい年少者の被害についても、事件化が進むのではないか。

 「監護者」である親などが、18歳未満の子供に性的虐待を加えた場合の処罰規定も新設された。外部からは見えにくい家庭内の被害の救済につなげたい。

 非親告罪となったことで、留意すべきは、被害者のプライバシーの保護である。周囲の目や報復を恐れて、事件化を積極的に望まない被害者はいるだろう。

 法廷証言などで、被害者がさらに傷つく二次被害を防ぐために、捜査や公判の過程では、より細心の注意を払わねばならない。

 強姦罪は「強制性交等罪」に罪名を変更し、男女を問わず被害対象にした。法定刑の下限は懲役3年から5年に引き上げられた。

 強姦罪の下限が、強盗罪の懲役5年より短いことには、かねて疑問の声が多かった。裁判員裁判でも、性犯罪の量刑は重くなる傾向が顕著だ。社会の実情を踏まえた改正だと言える。

 強姦罪の成立には、被害者の抵抗を著しく困難にする「暴行・脅迫」が必要だ。改正法も、この考え方を原則として維持した。

 被害者の間には、要件緩和や廃止を求める声が根強い。職場の上下関係などによって、明確に抵抗できないケースも考えられる。

 衆院は「施行後3年をめどに、被害実態に合わせて施策の在り方を検討する」と付則を修正した。加害者側の防御権にも留意しつつ、検討を重ねるべきだ。

 政府は「ワンストップ支援センター」を各都道府県に設置する目標を掲げる。被害者の相談を受け付け、医療機関や警察につなぐ窓口だ。被害者が訴えやすい環境整備をさらに進めたい。

2017年6月16日金曜日

あまりに強引で説明不足ではないか

 最後は多数決で決めるのが国会のルールには違いない。しかし与党の都合で法案審議の手続きを一部省略し、早期成立にこだわるような手法はあまりに強引すぎる。学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部の新設問題では、文部科学省が14の内部文書の存在を認めた。政府は政策判断の経緯を改めて詳しく説明する責任がある。

 犯罪を計画段階で処罰する「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法は、与野党の徹夜の攻防の末、15日朝に参院本会議で可決、成立した。

 自民党は14日に参院法務委員会での採決を省略する「中間報告」という手続きによって参院本会議で採決したいと提案。同法の廃案を求める民進、共産両党などは衆院に内閣不信任決議案を提出して抵抗した。

 過去にも委員会採決を経ずに衆参の本会議で採決をした例はある。だがそれは野党が委員長ポストを握っていたり、各党が個々の議員に本会議採決での賛否を委ねたりするケースだった。与党が議事運営の主導権を確保していながら、審議の手続きを省略したのはどう考えてもおかしい。

 文科省は15日、国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設をめぐり、「官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だ」などと書かれた14の文書が省内に存在していたとの再調査結果を発表した。

 国家戦略特区は新規参入を阻む「岩盤規制」に政治主導で風穴をあける仕組みだ。官邸側や内閣府が52年ぶりの獣医学部の新設を実現するため、慎重姿勢を崩さない文科省を押し切ったこと自体に問題があるわけではない。ただ加計学園は安倍晋三首相の友人が理事長を務めており、公正な行政判断がゆがめられた可能性があると野党は厳しく追及している。

 菅義偉官房長官は官邸側の圧力をうかがわせる内部文書の存在が指摘されると「怪文書みたいな文書」と言い切り、松野博一文科相は短期の調査だけで「該当する文書は確認できなかった」と発表した。政府にやましい点がないのなら自ら徹底調査し、事実を公表するという姿勢が欠けていた。

 参院予算委員会は16日に首相も出席して集中審議を開き、国会は18日の会期末を待たずに事実上閉幕する。政府は今後も閉会中審査などに応じ、様々な疑問に丁寧に答えていく必要がある。

成長の壁に挑んだイメルト氏

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)が7月末で退任することが決まった。環境の変化に正面から向きあった同社の軌跡は成長の壁に挑む日本企業にとっても示唆に富んでいる。

 イメルト経営の特徴の一つは大胆な事業売却だ。創業者エジソン以来の祖業である家電事業を中国企業に売り、自身の前任者であるジャック・ウェルチ氏が手塩にかけたプラスチック事業を手放し、三大テレビ放送局の一角であるNBCを切り離した。

 ピークを越えたと見れば、たとえ足元で利益が出ている事業でも売却を辞さない。過去のしがらみにとらわれ、事態がいよいよ悪化するまで動こうとしない日本企業はGE流の判断の速さと思い切りのよさを見習うべきだろう。

 もう一つの成果はグローバル展開だ。イメルト以前のGEは米国事業が売上高の6割を占める「内需企業」だったが、近年は逆に米国外が6割に達した。中国などに積極的に投資したほか、各国で採用した人材の登用も進めた。

 そして3つ目がデジタル技術と製造業の融合だ。リーマン・ショックで金融市場が不安定になり、ウェルチ時代には成長の源泉だった金融ビジネス依存の危うさがあらわになると、イメルト氏は製造業回帰を決断した。

 ただ、単純に過去に戻るのではなく、「インダストリアル・インターネット」を標榜し、IoT(モノのインターネット)や3次元プリンターを駆使した新たな製造業の姿を模索した。米シリコンバレーに拠点をつくり、デジタル人材の採用にも本腰を入れた。

 イメルト氏にとって惜しまれるのは、一連の改革が数字として結実する前に会社を去ることだろう。米同時テロの4日前にCEOに就任し、在任約16年になるイメルト氏の弱点は思うように上がらない株価だった。後継CEOのジョン・フラナリー氏が、株主との対話を含めて、名門復活に向けどんな手を打つのかも注目したい。

(社説)権力の病弊 「共謀罪」市民が監視を

 「共謀罪」法が成立した。

 委員会での審議・採決を飛ばして本会議でいきなり決着させるという、国会の歴史に重大な汚点を残しての制定である。

 捜査や刑事裁判にかかわる法案はしばしば深刻な対立を引きおこす。「治安の維持、安全の確保」という要請と、「市民の自由や権利、プライバシーの擁護」という要請とが、真っ向から衝突するからだ。

 二つの価値をどう両立させ、バランスをどこに求めるか。

 その際大切なのは、見解の異なる人の話も聞き、事実に即して意見を交わし、合意形成をめざす姿勢だ。どの法律もそうだが、とりわけ刑事立法の場合、独善と強権からは多くの理解を得られるものは生まれない。

 その観点からふり返った時、共謀罪法案で見せた政府の姿勢はあまりにも問題が多かった。277もの犯罪について、実行されなくても計画段階から処罰できるようにするという、刑事法の原則の転換につながる法案であるにもかかわらずだ。

 マフィアなどによる金銭目的の国際犯罪の防止をめざす条約に加わるための立法なのに、政府はテロ対策に必要だと訴え、首相は「この法案がなければ五輪は開けない」とまで述べた。まやかしを指摘されても態度を変えることはなかった。

 処罰対象になるのは「組織的犯罪集団」に限られると言っていたのに、最終盤になって「周辺の者」も加わった。条約加盟国の法整備状況について調査を求められても、外務省は詳しい説明を拒み、警察庁は市民活動の監視は「正当な業務」と開き直った。これに金田法相のお粗末な答弁が重なった。

 「独善と強権」を後押ししたのが自民、公明の与党だ。

 政治家同士の議論を活発にしようという国会の合意を踏みにじり、官僚を政府参考人として委員会に出席させることを数の力で決めた。審議の中身を論じずに時間だけを数え、最後に仕掛けたのが本会議での直接採決という禁じ手だった。国民は最後まで置き去りにされた。

 権力の乱用が懸念される共謀罪法案が、むき出しの権力の行使によって成立したことは、この国に大きな傷を残した。

 きょうからただちに息苦しい毎日に転換するわけではない。だが、謙抑を欠き、「何でもあり」の政権が産み落としたこの法律は、市民の自由と権利を蚕食する危険をはらむ。

 日本を監視社会にしない。そのためには、市民の側が法の運用をしっかり監視し、異議を唱え続けなければならない。

時事問題

注目の投稿

もんじゅ廃炉のコスト監視を

 廃炉が決まっている高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)について、運転主体の日本原子力研究開発機構が計画をまとめ、原子力規制委員会に申請した。  2018年度に核燃料の取り出しを始め、47年度まで30年かけて撤去する。費用は3750億円の見込みで、通常の原子力発電所の廃炉に比...

このブログを検索

Google News - Top Stories

ブログ アーカイブ