2017年7月31日月曜日

受信料より先に議論すべきことがある

 テレビ番組を放送と同時にインターネットで流す際の料金について話し合ってきたNHKの検討委員会が答申をまとめた。スマートフォン(スマホ)などのネット接続機器のみで番組を見る世帯からも、テレビと同じ水準の受信料を徴収する方向性を示した。

 若年層を中心にテレビ離れが進んでおり、「常時同時配信」で新たな視聴者を獲得したいという考え方は理解できる。だが、料金の議論だけが先行する現状に違和感も覚える。

 同時配信の背景にあるのは、放送と通信の間の垣根が低くなっているという事情だ。スマホを通じた動画の視聴が普及し、速度が大幅に向上した次世代の無線通信で拍車がかかるのは確実だ。

 海外に目を向けると、英国や韓国などで公共放送が同時配信を始めている。日本では「同時配信のニーズは乏しい」との見方もあるが、海外の事例をみればそうとは言い切れない。

 優良なコンテンツの制作を続け、激しさを増す海外での販売競争に勝つためにも、時代の変化に合わせて収益を確保する努力は必要だ。

 だが、健全な競争環境を維持するという観点では課題がある。

 NHKの2016年度の受信料収入は6769億円に達し、既に民放の最大手である日本テレビホールディングスの放送関連収入の2倍近い。「ネット受信料」を新設すると年間200億~300億円の増収になるとの見方もあり、地方の民放の売上高を上回る。

 受信料制度に支えられたNHKがネット事業に本格的に参入すると、この分野の既存企業にも脅威となる。多様なコンテンツやサービスを利用者に提供するため、民間企業が投資を続けられる環境を整えることが重要だ。

 ネットは生活に深く入り込み、NHKの報道が力を発揮する災害時も、交流サイトのフェイスブックやツイッターなどが情報を伝える事例が増えている。NHKの上田良一会長は現在の公共放送から、ネットも含めた「公共メディア」を目指す意向を示している。

 まず必要なことは、ネット時代の公共メディアに必要な役割を定義し、適正な業務の範囲について議論を深めることだ。本質的な議論を避けて同時配信を手っ取り早い収入拡大の手段とするようなことがあれば、理解を得るのは難しいだろう。

地銀再編は顧客視点が肝心

 大手地方銀行ふくおかフィナンシャルグループ(FG)と長崎県銀行最大手の十八銀行の経営統合計画が再延期を迫られた。ふくおかFG傘下で同県2位の親和銀行と、十八銀を合わせた同県内の貸し出しシェアは7割に達し、公正取引委員会が「十分な競争が働かなくなる」として待ったをかけた。

 人口減少など地方経済の低迷にマイナス金利政策の影響が加わり、収益悪化を見込む地銀の統合・合併計画が全国で相次いでいる。

 だが市場の寡占を背景に融資金利を引き上げて、業績改善につなげるような地銀再編は認められない。公取委が発したのはこんな警鐘だ。金融庁や地銀経営者は重く受け止めるべきだ。

 今回の再編計画の公表は2016年2月までさかのぼる。当初は今年4月に経営統合し、その1年後に十八と親和両行が合併するシナリオを描いていた。しかし独占禁止法に基づく公取委による審査が難航し、今年1月にも統合時期を半年間先延ばししていた。

 今回の再延期に際して銀行側は統合時期をあえて未定とした。「公取委との交渉に腰を据えて取り組むため」という。シェアを落とすための他行への貸出債権の譲渡や、新銀行が合併をテコに貸出金利を引き上げることのないよう監視する仕組み作りなど、公取委の懸念を払拭する着地点を見つけられるかどうかが、焦点になる。

 全国でなお100行以上存在する地銀の経営環境が急速に悪化しているのは事実だ。金融庁の昨年の推計では25年3月期には本業利益が過半数の地銀で赤字になる。

 厳しい経営環境を乗り切るために再編が有力手段の一つであることに変わりはない。長崎県の場合は地銀の最大の競合相手である信用金庫の存在感が乏しいほか、離島の存在など他県の銀行が参入しにくいという特殊事情がある。

 ただ生き残りをかけた地銀再編も地元企業など顧客に貢献するものでなければ本末転倒だ。地域経済を支えるという、地銀本来の使命を追求する姿勢が欠かせない。

(社説)核のごみ処分 「トイレなき原発」直視を

 原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地について、政府が「科学的特性マップ」を公表した。

 火山や活断層、地下資源の有無など自然条件から全国を「好ましい」と「好ましくない」に大別しつつ4区分した。住まいや故郷がある市区町村が気になって調べた人もいるだろう。

 ひと安心、心配、警戒……。国土全体の6割もが「好ましい」とされただけに、「私の所は関係ない」と、ひとごととして受け流したかもしれない。

 ■ひとごとではなく

 マップが問いかけることを、改めて考えたい。

 日本で商業原発の運転が始まって半世紀がたった。抱える使用済み燃料は2万トン近い。

 その燃料から出る高レベル放射性廃棄物は、放射能が十分安全なレベルに下がるまでに数万年~10万年を要する。だから、地下300メートルより深い地層に運び込み、坑道を埋めてふさぎ、ひたすら自然に委ねる。それが政府の考える最終処分だ。

 人間の想像力を超えた、途方もない未来にまで影響が及ぶ難題だが、避けては通れない。にもかかわらず、処分をあいまいにしたまま原発が生む電気を使い、恩恵だけを享受してきた。原発が「トイレなきマンション」とたとえられるゆえんだ。

 いつまでも先送りはできない。マップは国民一人ひとりにその重い現実を突きつける。

 調査受け入れの公募が始まったのは2002年。07年には高知県東洋町が手をあげたが、住民の反発で撤回した。政府は2年前に閣議決定した新たな基本方針で「国が前面に立って取り組み、調査への協力を自治体に申し入れる」とうたっている。

 しかし、根本的な疑問がある。いまの原子力政策の維持・継続を前提に、最終処分地問題を進めようとしている点だ。

 ■脱原発の道筋を

 使用済み燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出し、燃料に使う。残った廃棄物をガラスで固め、最終処分地に埋める。これが核燃料サイクルの概要である。

 しかし、サイクル事業の破綻(はたん)は明らかだ。1兆円超をつぎ込みながら、失敗続きで廃炉に追い込まれた高速増殖原型炉「もんじゅ」がそれを象徴する。

 最終処分地が決まったフィンランドやスウェーデンは、使用済み燃料をそのまま廃棄物として埋める「直接処分」を採用している。日本も現実的に対応していくべきだ。

 そして、原発を動かせば使用済み燃料も増えていくという事実を直視しなければならない。

 マップができたとはいえ、最終処分は候補地が見つかっても調査だけで20年程度かかるという。使用済み燃料をできるだけ増やさないために、並行して脱原発への道筋を示すことが不可欠である。

 処分すべき廃棄物の量の上限を定め、それ以上は原発を運転させないという考え方は検討に値する。原発を守るために最終処分地を確保するというのでは、国民の理解は得られまい。 経済産業省と原子力発電環境整備機構は今後、「輸送面でも好ましい」とされた海側の地域を中心に対話に取り組み、調査の候補地探しを本格化させる。

 注文がある。最終処分地を巡って想定されるリスクや不確実性を包み隠さず説明する。そして、経済面の恩恵や地域振興と引き換えに受け入れを迫るような手法をとらないことだ。

 ■過去の教訓に学べ

 経産省と機構は、マップ公表に先立つ一般向け説明会などで「(廃棄物を地中に埋める)地層処分は技術的に確立している」と繰り返し、10万年後のシミュレーション結果を示しながら安全性は十分と強調した。

 だが、万全を期してもリスクはゼロにはならない。「安全神話」から決別することが、福島第一原発事故の教訓だ。

 欧米と違って日本列島は火山や地震が多い。最終処分に関して日本学術会議は12年、「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することは、現在の科学的知識と技術的能力では限界がある」と指摘した。

 調査を受け入れる自治体には、最初の文献調査で最大20億円、次の概要調査では最大70億円の交付金が入る。自治体にとって魅力的な金額だろう。

 かつての原発立地では、受け入れと引き換えの交付金が地元にさまざまな功罪をもたらした。廃炉まででも100年以内に一区切りつく原発と比べ、最終処分地の受け入れは数万年先という遠い将来の世代にかかわる重い判断となる。一時的な経済メリットで誘導するのではなく、納得を得る努力を尽くすことがますます大切になる。

 処分地選びは原発政策と切り離せない関係にあり、政策への国民の信頼がなければ進まない。福島の事故で原発への信頼が失われた以上、政策の抜本的な見直しが欠かせない。

「脱時間給」制度 職種を限定した導入は妥当だ

 働き方改革を停滞させぬよう、引き続き政労使の協調関係構築へ向けて努力すべきだ。

 高収入の専門職を労働時間規制の対象外とする「脱時間給」(高度プロフェッショナル)制度の導入を巡り、政府、経団連、連合の政労使合意が見送られた。

 一時は条件付き容認を表明した連合が、態度を転じたためだ。かねて「長時間労働を助長する」と反対してきただけに、組織内の反発が強く、撤回を余儀なくされた。政労使協調を主導した事務局長の会長就任も立ち消えになった。

 組織内外の信頼を大きく損ねた連合執行部の責任は重い。

 政府は、連合が求めていた健康確保策を強化した上で、新制度導入を含む労働基準法改正案を今秋の臨時国会に提出する方針だ。

 労基法は、労働時間を「1日8時間、週40時間」と定め、これを超える残業や深夜・休日労働に対して、割増賃金の支払いを企業に義務づけている。

 新制度には、この規定が適用されない。賃金は働いた時間に関係なく、成果や能力に応じて決まる。既存の裁量労働制も実労働時間にかかわらず、一定時間働いたとみなして賃金が決まるが、割増賃金などが適用される点で異なる。

 企画力や発想力が問われる仕事では、働いた時間と成果は必ずしも一致しない。短時間で成果を出すより、漫然と長く残業する方が賃金が高くなる現行制度になじまないのは、明らかだ。こうした職種は増えている。

 一定の職種について、本人の同意を条件に、賃金と労働時間を切り離すことは、妥当だ。生産性向上の効果も期待できる。

 対象は、為替ディーラーなどの高度専門職で、年収1075万円以上の人が想定される。法案には、平均賃金の3倍超と明記する。雇用者の3%未満とみられる。

 労働側には、残業代の負担という経営側にとっての歯止めがなくなることで、「際限なく働かされる」との懸念が強い。

 工場労働や一般事務職に適用されれば、そうした事態も起こり得よう。対象は、個人の職務範囲が明確で、働く時間や仕事の進め方を自分で決められる職種に限定することが重要である。

 働き過ぎの防止策も欠かせない。新制度では、一定の休日確保などが義務づけられる方向だ。

 野党は「残業代ゼロ」と批判するが、長時間残業ありきの考え方だろう。レッテル貼りではなく、建設的議論が求められる。

関西3空港運営 訪日客急増の風に乗りたい

 訪日客の急増で航空需要が伸びている。近接3空港の有効活用に知恵を絞らねばならない。

 神戸市が所有する神戸空港の運営権が、民間に売却される。オリックスと仏企業が出資する関西エアポートが、来年4月から運営する。

 神戸空港は、総事業費3140億円をかけて2006年に開港した。半径25キロ圏内に関西国際空港と大阪(伊丹)空港がある。当初から経営が不安視されていた。

 利用客数は、16年度に272万人と、想定の6割にとどまる。実質収支は7年間赤字が続く。

 市は42年間の運営権売却で191億円を得るが、38億円もの負債が残る見込みだ。空港事業に対する市の見通しの甘さが窺(うかが)える。民間ならではの知見を、経営の立て直しに生かさねばなるまい。

 関西エアポートは、昨年4月から関空と伊丹の運営を手掛け、一定の成果を上げている。神戸空港の公募入札では、路線競合の回避など、3空港を一体で運営できる利点を強調した。

 3空港を合わせると滑走路は5本に達する。首都圏に匹敵する航空インフラだが、効果的に運用されているとは言い難い。

 海上にある神戸空港は、騒音問題による離着陸の制約が小さい。しかし、現在は午前7時から午後10時まで、国内線のみ1日往復30便との運用規制がある。自治体と経済界、国でつくる「関西3空港懇談会」が、開港前に決めた。

 利用が低迷していた関空への一層の打撃が懸念されたためだ。

 関空の利用者は昨年度、2500万人を突破した。5年で1000万人以上増えた。日本観光ブームを背景に、とりわけ格安航空会社の新規就航が加速している。

 神戸には関空の補完的な役割への期待が大きい。懇談会は、運用規制の早期緩和を図るべきだ。

 1970年代、騒音被害の大きい伊丹の代替空港を、神戸沖に建設する構想があった。神戸市の反対もあり、関空は大阪の中心部から遠い泉州沖に決まった。

 その後、伊丹が地元の要望などで存続し、神戸市も空港建設に方針転換したため、3空港が並立することになった。

 政府は、3年後の訪日客数4000万人を目指す。首都圏と共に、関西圏の受け入れ体制の強化が急務だ。海上空港の関空と神戸、市街地にある伊丹の3空港の役割分担を再度、精査すべきである。

 大型機や中小型機の振り分けなどで、利用者ニーズに柔軟に応える戦略がカギを握ろう。

2017年7月30日日曜日

9年目の米景気拡大の先に政治の不安

 2009年7月に始まった米国の景気拡大局面は今月で9年目に入り、戦後3番目の長さとなった。ただ、年平均の成長率は2%程度にとどまり、過去の回復局面に比べると低い水準にとどまっている。米経済はなお多くの課題を抱えているが、特に心配なのは政治の機能不全に伴う政策の停滞だ。 米商務省が28日に発表した4~6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率換算で2.6%増と、1~3月期の同1.2%から加速し、3四半期ぶりの高い伸びになった。雇用増加で消費が拡大、新興国など海外経済の回復で輸出も増えている。

 とはいえ、先行きには課題は多い。失業率が下がり雇用は増えているものの、好調な企業収益の割には賃金の上昇は鈍い。日本ほどではないが米国でも高齢化などで労働力人口の伸びが鈍っており、生産性向上による潜在成長率引き上げが課題となっている。

 景気拡大期間は長くなったが本調子とは言えない米経済。その先行きに大きな不安をもたらしているのが政治の混迷である。

 トランプ米大統領が昨年の大統領選で主要公約に掲げた医療保険制度改革法(オバマケア)の見直しは身内の共和党内の調整に失敗し、実現のめどが立たない。そのあおりで、もう一つの主要公約の税制改革や、インフラ投資など経済活性化策も遅れている。

 国際通貨基金(IMF)は最近、こうした政策への不透明感から米国の今年と来年の成長率見通しを下方修正した。

 政権内の人事のゴタゴタも続いている。21日にスパイサー大統領報道官が辞任したのに続いて、28日にはホワイトハウスの要のプリーバス首席補佐官が更迭された。さらにトランプ氏はロシア疑惑をめぐりセッションズ司法長官に不満を表明するなど、混乱がおさまる気配はない。

 トランプ氏はツイッターなどで米経済の強さを自慢しているが、足元の経済の堅調さはトランプ政権の政策がもたらしたものではない。トランプ政権には、さらに米国の成長力を高めるための、中長期的な経済構造改革を進めることが求められているのである。

 トランプ氏は来年2月に任期が切れるイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長を続投させるか、交代させるかの重大な決断も近々しなければならない。米国の政治のこれ以上の停滞は許されない。

電話網のIP移行を混乱なく

 1世紀にわたり生活や社会を支えてきた固定電話が、利用者の目に見えないところで大きく変わろうとしている。NTTは2024年に交換機を使った従来型の電話サービスを取りやめ、インターネット技術を駆使したIP電話に全面的に移行する。

 技術の世代交代は必然の流れであり、NTTの方針は妥当だ。ただ、同時に通信基盤の一新に伴う利用者の混乱やコストアップの回避に全力をあげてほしい。

 IP移行の直接のきっかけは従来型の電話サービスに必要な交換機が25年初めに維持の限界を迎えることだ。ネット技術の進化でIP電話の通話品質が向上し、交換機を使ったサービスと区別できないまでに良くなったのも大きい。

 インフラ一新に際し、NTTに求めたいのは社会への周知徹底だ。IP化はNTTの設備だけで完了し、個人宅の工事や電話機の交換は不要。電話番号も変わらず、基本料金も据え置く方針だ。

 さらに距離にコストが連動しないIPの特長を生かして、通話料は全国一律で3分8.5円とするので、長距離通話の場合は今より安くなるケースも出てくる。こうした点を加入者に丁寧に説明し、IP化を口実に、事情の分からない人に電話機の買い替えを迫るような悪徳商法を防いでほしい。

 あらゆるモノがネットにつながるIoT時代を迎え、今後も通信網を流れるデータ量は爆発的に増えるだろう。

 他方で人と人のコミュニケーションにおける固定電話の役割は小さくなり、携帯端末を使ったチャットやメールが今や主役だ。こうしたトレンドを踏まえると、音声通話にかかわるコストはできるだけ圧縮し、安上がりにサービスを提供する方策も必要だろう。

 交換機時代の技術開発の担い手はNECなど「電電ファミリー」と呼ばれた日本メーカーだったが、IP技術は米シスコシステムズなど海外勢が主役だ。残念な現状と言わざるをえず、日本勢の巻き返しは期待できるのだろうか。

(社説)朝鮮学校判決 国は速やかに支給を

 日本で学ぶ全ての生徒に公平に教育の機会を与える、という制度の原点に立った判決だ。

 高校の授業料無償化をめぐり、大阪地裁は28日、大阪朝鮮高級学校を対象外にした国の決定を取り消し、就学支援金を支給するよう命じる判決を出した。国は司法の判断を重く受けとめ、速やかに支給すべきだ。

 経済的事情で勉学を断念することがないよう、国の負担で教育の機会均等を確保する。判決が判断の軸にしたのは、高校無償化法にあるこの目的だ。

 無償化は民主党政権が2010年に始めたが、朝鮮半島情勢を理由に適用を見送った。第2次安倍内閣では下村博文・文科相が拉致問題などを理由に「国民の理解が得られない」とし、13年2月、不支給を決めた。

 大阪地裁はこうした国の対応を「教育の機会均等の確保とは無関係な外交的、政治的判断に基づき、法の趣旨を逸脱し、違法で無効だ」と結論づけた。

 教育制度を政治・外交課題と同一線上で論じ、混同することを、厳しく戒めたといえる。

 国が主張したのは、朝鮮学校が北朝鮮や朝鮮総連とつながりをもち、「『不当な支配』を受け、適正な学校運営がされない懸念がある」という点だった。

 判決は、朝鮮高級学校で北朝鮮を賛美する内容の教育があり、総連の一定の関与があることは認めた。ただ、補助教材を活用するなどし、教育内容が一方的ではなく、さまざまな見方を教えているとも指摘、「教育の自主性を失っているとまでは認められない」と述べた。

 国は「支援金が授業料にあてられない懸念がある」としたが、判決は、裏付けの事実がないとして認めなかった。実態を十分に調べず、こうした主張をする姿勢が、学校への偏見を広めたことを国は反省すべきだ。

 朝鮮学校の無償化問題では、広島地裁が19日、学校と総連との関係が強かったとして「不支給は適法」との判決を出しており、地裁で判断が分かれた。国の言い分の追認に終始した広島の審理に対し、大阪地裁は卒業生や元教員らの証人尋問をし、学校側から提出された保護者へのアンケートまで証拠として検討した。朝鮮学校の実情を把握するため、より丁寧な裁判で導いた結論といえる。

 いま、朝鮮学校に通う生徒は日本で生まれ育った在日コリアン4世が中心だ。民族の言葉や文化を大切にしながら、日本で生きていきたいと学んでいる。

 多様なルーツや教育の自主性を尊重するのか。問われているのは、社会のあり方だ。

(社説)中国とロシア 北朝鮮の抑制に動け

 いまの事態を本当に憂慮しているのなら、北朝鮮の友好国である中国とロシアは具体的な行動をもって、最大限の努力を尽くすべきである。

 北朝鮮はおととい深夜、弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域に落下させた。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験に成功したとしている。

 ICBMの発射は今月4日に続き2回目とされる。今や射程は1万キロ超ともいわれ、脅威はアジアにとどまらない。

 大量破壊兵器の開発に国力を注ぐ金正恩(キムジョンウン)政権の異常さに国際社会は憤りを募らせている。

 ところが国連安保理の動きは鈍い。最初の発射への対応についても意見がまとまっていないのは憂慮すべき事態だ。

 国際社会が声をひとつにして北朝鮮に反対姿勢を示せない責任は、中国とロシアにある。

 貨客船「万景峰(マンギョンボン)号」の定期航路を開くなど、ロシアは最近、北朝鮮との関係を強めている。安保理で米国などがめざしている新たな制裁決議についても、反対の立場を変えていない。

 もしロシアが北朝鮮への影響力を対米外交の駆け引きに利用するならば、常任理事国として無責任というべきだ。

 一方、中国外務省はきのう、ミサイル発射について「安保理決議と国際社会の普遍的な願いに背いた」と非難した。

 確かに中国は北朝鮮への締め付けを強めてはいる。2月には北朝鮮の主要な外貨獲得手段である石炭の輸入を止めた。

 だが、中国の税関によると、今年上半期の北朝鮮への輸出は前年に比べて30%近く増えた。

 中国側は禁輸リスト外の貿易と主張するが、統計上は近年、輸出がないとされる石油を、実際にはどの程度供給しているのかも明らかにすべきだろう。

 北朝鮮はかつて、中国と旧ソ連の間を行き来する「振り子外交」を繰り返した。大国の力を利用して打開策を探りつつ、結局は自主路線を強め、現在のいびつな体制を作り上げた。

 北朝鮮が本当に危機感を抱くのは、日米韓に中ロが加わり、行動をともにする時である。核とICBMは国際社会全体を脅かす以上、中ロも安保理の新たな決議に同調すべきだ。

 日米両政権はいずれも国内問題で支持率が低迷し、韓国は新型迎撃ミサイルシステムの配備をめぐって揺れている。北朝鮮のミサイル発射には、各国の国内の葛藤を突き、足並みを乱す狙いも含まれているはずだ。

 関係各国は自国の利害だけに固執せず、暴挙を止めるための行動で結束すべきである。

北ICBM発射 中露は圧力強化の責任果たせ

 核搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備を目指す北朝鮮の暴走が止まらない。国際社会による圧力強化に向けて中国とロシアは責任を果たさねばならない。

 北朝鮮が28日深夜、中国国境に近い内陸部の舞坪里から、ICBMを発射した。今月4日に続き、2回目だ。発射した時間帯も、場所も異例である。奇襲攻撃能力を誇示する狙いがあるのだろう。

 通常より高く打ち上げる「ロフテッド軌道」で発射され、高度は3500キロを超えた。約45分間で約1000キロ飛行し、北海道・奥尻島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

 高度と飛行時間・距離は、前回を上回った。射程が伸びたのは確実で、米東海岸まで到達可能との分析も出ている。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、「米本土全域が射程圏内にあることが実証された」と言い放った。

 北朝鮮は発射を重ね、性能を向上させている。核弾頭の小型化が進み、ミサイルに搭載可能になれば、極めて深刻な事態だ。安倍首相は「日米双方にとって、北朝鮮の脅威が増した」と語った。

 発射は、稲田防衛相が辞任した日に行われた。防衛相兼務となった岸田外相が、「空白が生じないよう、対応を取っている」と強調したのは当然である。

 日米韓の外相は、国連安全保障理事会の制裁決議採択に向け、協力することで一致した。8月上旬の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議などで、関係国の結束を図る必要がある。

 問題なのは、中露が依然、制裁強化に抵抗していることだ。

 ロシアは、発射されたのは中距離弾道ミサイルで、ICBMではないと強弁する。中国は、北朝鮮の体制の不安定化を懸念し、原油の供給制限などには消極的だ。

 ティラーソン米国務長官は、中露が北朝鮮の核ミサイル開発を経済面で支えているとして、「特別な責任」を果たすよう迫った。

 数々の決議に違反する北朝鮮の弾道ミサイル発射を放置することは、安保理の権威を貶(おとし)める。中露は、実効性のある新たな決議を受け入れるべきだ。

 韓国は、北朝鮮との軍事当局者会談を呼び掛けていたが、ICBM発射で冷水を浴びせられた。

 文在寅大統領は、最新鋭ミサイル防衛システムの在韓米軍への追加配備について、積極的な態度に転じた。今回の発射を契機に、韓国は、「対話」に前のめりな姿勢を改めねばなるまい。

首都高地下化 日本橋の景観を取り戻そう

 日本を代表する名橋が青空の下に優美な姿を見せる。そんな日が再び訪れるかもしれない。

 国土交通省は、東京都などと協力し、日本橋の上を通る首都高速道路の地下化に取り組むと発表した。

 竹橋―江戸橋ジャンクション間(約2・9キロ)の一部の地下移設を検討する。着工は2020年東京五輪の後で、10~20年かかるプロジェクトになるという。

 日本橋は江戸時代に五街道の起点となり、我が国の繁栄の象徴とされてきた。1911年に完成した現在の石造アーチ橋は、国の重要文化財となっている。

 その橋が63年に高架道路に覆われた。首都高の整備を翌年の東京五輪に間に合わせるため、用地取得の手間や費用を省ける河川上のルートが採用されたためだ。

 経済効率を最優先する高度成長期で、やむを得なかった面もあろう。だが、結果的に景観は著しく損なわれた。

 「歴史や文化を無視して、利便性のみを追求してきたインフラ(社会基盤)の悪しきモデル。100年後にも誇れる東京の姿を残したい」。小池百合子都知事がこう語ったのも、うなずける。

 川岸は、憩いの場として整備される予定だ。豊かな都市景観や潤いのある環境を創り出す事業にしてもらいたい。国際観光都市を目指す東京にとって、貴重な観光資源にもなろう。

 一帯の地下化は、小泉政権下の有識者会議が2006年に提言している。地元住民も、高架道路の撤去や移設を求める活動を行ってきたが、5000億円ともされる事業費がネックとなっていた。

 費用の分担については、国と都、首都高速道路会社が調整する。期待がかかるのは、周辺で民間業者が大規模な再開発事業を計画していることだ。

 一部は、国家戦略特区の事業に認定される見通しだ。再開発ビルの容積率を上げる代わりに一定の拠出を民間業者に求め、事業費負担を圧縮する案も考えられる。官民の連携が欠かせまい。

 地下化にこだわらず、一帯の高架道路の撤去を検討する余地もあるのではないか。首都圏では都心を迂回(うかい)する中央環状線、外環道などの整備が進む。今後の交通量を見極めた冷静な判断が必要だ。

 老朽化した高速道路の地下化は、米国のシアトルなどで行われている。韓国のソウルでは、河川上の高速を撤去した例もある。首都の顔にふさわしい景観を取り戻すため、衆知を集めたい。

2017年7月29日土曜日

自衛隊の隠蔽体質ただせぬ政治の無力

 日本の国防に対する信頼を損ないかねない異常な事態である。南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題を巡り、稲田朋美防衛相、黒江哲郎防衛次官、岡部俊哉陸上幕僚長が辞めることになった。統率力を発揮できない稲田氏の交代は遅きに失した。政府は体制を早く立て直す責任がある。

 稲田氏は28日に安倍晋三首相に辞表を提出し、受理された。記者会見では辞任理由について「防衛省・自衛隊の情報公開に対する姿勢に疑念を抱かせた。国内外で日々任務に当たる隊員の士気を低下させかねない」と語った。

 防衛監察本部は同日、日報問題に関する特別防衛監察の結果を公表した。それによると南スーダンで武力衝突が起きた昨年7月の派遣部隊の日報があるにもかかわらず、陸上自衛隊は情報公開請求に対し意図的に開示を見送った。

 防衛省は再調査により統合幕僚監部で見つかった日報を今年2月に公表したが、陸自のもともとの日報の存在は伏せたままにする判断を次官らも追認した。陸自内に残る日報の存在を稲田氏が知っていたかどうかは認定を避けた。

 部隊の派遣先の治安情勢は隊員の安全だけでなく、活動継続の判断にもかかわる。組織で共有する行政文書の意図的な非開示や破棄は、情報公開法に違反する。

 陸自は当初の誤った判断に縛られ、防衛省幹部の事なかれ主義が是正の機会を失わせた。最終的に政治家である防衛相が事実を把握し、適切に指示をする文民統制の仕組みも機能していないという重大な問題をはらんでいる。

 稲田氏は、学校法人「森友学園」の訴訟への弁護士時代の関与を国会で全面否定したあと、すぐに撤回と謝罪に追い込まれた。東京都議選では防衛省・自衛隊が自民党候補を応援しているかのような発言をした。それでも首相は野党の罷免要求を拒み続け、政権への批判を強める結果となった。

 北朝鮮の核・ミサイル開発などにより国際情勢は緊張している。防衛相はいざとなれば自衛隊を統率する立場であり、他の閣僚に増して首相の任命責任は重大だ。

 野党は日報問題の経緯や隠蔽に至る組織の構造的問題を議論するため、国会の閉会中審査を早期に開くよう求めている。政府・与党は稲田氏出席の上でこれに応じるとともに、新たな体制での防衛省・自衛隊の立て直しに全力をあげてもらいたい。

核のごみ処分地をどう絞るか

 原子力発電所の使用済み核燃料から出る核のごみの処分地選びに向けて、政府は「科学的特性マップ」を公表した。地層の安定性などから4つの区分を設け、事実上の適地を示した。政府はこれをもとに複数の候補地を絞り込む。

 原発はこれまで廃棄物処分が先送りされ、「トイレなきマンション」と言われてきた。日本がエネルギーの一定割合を原発に頼る以上、処分をこれ以上先送りすることはできない。電力業界だけに任せずに、国が前に出て処分に動き出したことは前進といえる。

 ただ、海外でも処分地が決まったのは北欧の2カ国だけで、多くの国で地元との調整が難航している。日本でも一筋縄ではいかないだろう。政府は処分がなぜ必要かや、安全性について国民に説明を尽くすべきだ。候補地を透明なプロセスで選ぶことも大事だ。

 核のごみは地層深くに埋めることになっている。放射性物質が外に漏れないよう、地層が安定していることが必須の条件だ。

 公表した地図はこれに加え、輸送時の安全性やテロ対策も考慮して「海岸から20キロ以内」も要件にした。その結果、国土面積の3割、約11万平方キロを「好ましい条件がそろっている」とした。

 政府は今後、調査を受け入れる自治体を募るとともに、国として複数の候補地を絞り、地元に打診するとしている。だが、可能性のある自治体は900にも及び、候補地を絞り込むのは容易ではないだろう。

 人口密集地から離れていることや必要な面積を確保できることなどが要件として考えられるが、政府は基準や手順を示していない。唐突に候補地を示せば、地元から「なぜ、うちなのか」と反発が出るのは避けられないだろう。

 国は自治体や専門家らの意見をよく聞いたうえで、候補地の決め方や手順を詰め、事前に示すべきだ。立地段階になって風評被害が広がらぬよう、処分の安全性やリスクについて国民全体の理解を深めることも欠かせない。

(社説)陸自PKO日報問題 隠蔽は政権全体の責任だ

 稲田防衛相と防衛事務次官、そして陸上幕僚長が辞任する。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊の日報の隠蔽(いんぺい)疑惑は、防衛省・自衛隊のトップ3人の辞任という異例の事態に発展した。

 これは単に防衛省・自衛隊の問題にとどまらない。

 実力組織である自衛隊をいかに統制するかという民主主義の根幹にかかわる問題が、安倍政権でこれほどまでに軽々に扱われている。まさに政権全体の姿勢が問われているのだ。

 ■あいまいな監察結果

 この問題では、防衛相直轄の防衛監察本部が、3月から特別防衛監察を実施していた。

 だが、きのう発表された監察結果は極めて不十分だった。

 「廃棄した」とされた日報データが陸自にあったことが、稲田氏に報告されたか。

 それが最大の焦点だった。なのに、報告書はそこがあいまいにされている。

 報告書は、稲田氏も加わった2月13日と15日の会議で「陸自における日報データの存在について何らかの発言があった可能性は否定できない」と認めた。

 その一方で「日報データの存在を示す書面を用いた報告がなされた事実や、非公表の了承を求める報告がなされた事実はなかった」と結論づけている。

 書面は用いなかったかもしれない。では「口頭での報告」はあったのか。多くの人がそう疑問に思うはずだ。

 だがその点について、報告書は何も記していない。

 「非公開」とする決定に稲田氏が関与したかどうかについても、「何らかの方針の決定や了承がなされた事実もなかった」という。政権にとって都合のよい結論をただ示されても、納得する人はどれほどいよう。

 そもそも防衛相は特別防衛監察の対象外だ。稲田氏は約1時間聴取に協力したというが、防衛相の指示で行われる監察が防衛相自身に機能するだろうか。結果をみれば、制度の限界を露呈したというほかない。

 ■安保法の実績のため

 資質が疑問視されていた稲田氏を防衛相に任命し、批判を浴びる言動を繰り返してもかばい続けた首相の責任は重大だ。

 政権が問われるのは、それだけではない。

 実際は存在していた文書を、組織ぐるみでなかったことにした背景に何があったのか。

 昨年7月の日報には、南スーダンの首都ジュバで起きた激しい「戦闘」が記録されている。しかし、首相や稲田氏はこれを「衝突」と言い換えて国会で説明してきた。

 安倍政権は当時、安全保障関連法による「駆けつけ警護」の新任務の付与を検討していた。そんななか日報が開示され、現地で「戦闘」が起きていることが国会や国民に伝われば、PKO参加5原則に照らして派遣継続自体が困難になりかねない。

 日報隠蔽疑惑の発端にはそんな事情があった。

 結果として、派遣延長や駆けつけ警護の付与という政策決定が、国民にも国会にも重要な判断材料を隠して行われたことになる。政権による安保法の実績作りのために、現地の治安情報をねじ曲げたとも言える。

 主権者と立法府への背信行為にほかならない。実力組織の運用について、政府の決定の正当性そのものが揺らぐ事態だ。

 ■国会の役割が重要だ

 防衛省・自衛隊の隠蔽体質をどのように改善し、適正な情報公開や文書管理を実現するか。自衛隊への民主的統制をいかに機能させるのか。

 真相究明をうやむやに終わらせれば、再発防止策は立てられない。そればかりか、再び同じ過ちを起こしかねない。

 加計、森友問題でも見られるように、情報公開や文書管理を軽視するのは安倍政権の体質である。

 これまでの経過をみれば、防衛省の自助努力に任せることはできない。政府による文民統制を再構築すると同時に、国会による統制の機能を強めなければならない。

 与野党は再来週、閉会中審査に臨むことで合意した。稲田氏が参考人招致に応じるのは言うまでもないことだが、安倍首相も出席すべきだ。

 首相はきのう、こう語った。

 「閣僚の任命責任についてはすべて総理大臣たる私にあります。国民の皆様の閣僚に対する厳しいご批判については私自身、真摯(しんし)に受け止めなければならないと思っております」

 ならば自ら進んで出席するのが当然だ。首相は自衛隊の最高指揮官でもある。

 憲法53条に基づき野党が求める臨時国会をすみやかに開き、徹底した議論の上に再発防止の道筋を描く必要がある。

 こうした議論に後ろ向きなら、隠蔽の上に隠蔽を重ねると言われても仕方ない。

 稲田氏の辞任は遅きに失したが、文民統制の不全を正す契機としなければならない。

稲田防衛相辞任 体制刷新で混乱に終止符打て

 閣僚、次官、陸上自衛隊トップの3人の進退に波及した。極めて深刻な事態である。

 南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に従事した陸上自衛隊部隊の日報問題で、稲田防衛相が辞任した。第2次安倍内閣の発足以降、閣僚の辞任は6人目だ。

 稲田氏は、「ガバナンス(統治)の信頼を損ないかねない印象を与えた。監督者として責任は免れない」と辞任理由を語った。

 黒江哲郎次官と岡部俊哉陸上幕僚長も辞職に追い込まれた。省内の混乱収拾のため、体制を刷新して出直すのはやむを得まい。

 陸自は、廃棄したはずの日報のデータを保管していたのに、公表を見送っていた。防衛監察本部が稲田氏の指示により、特別防衛監察を実施した。

 その報告書は、黒江氏が「行政文書ではなく、隊員個人のデータだ」として、非公表を決めたと認定した。陸自幹部がデータ廃棄を図ったことも指摘している。

 組織ぐるみで情報公開の趣旨に反した、との批判は免れない。

 稲田氏について、報告書は、非公表決定への関与を否定した。

 日報の保管に関する報告を受けたかどうかについては、明確な結論を出せなかった。陸自は「稲田氏に報告を上げた」と主張してきた。「認識はない」とする稲田氏の見解とは食い違ったままだ。両者の亀裂の深さが露呈した。

 看過できないのは、陸自内からとされる情報流出が相次いだことである。造反まがいだ、と受け取られ、内局と陸自の反目が尾を引くようであれば、文民統制に支障を来しかねない。

 日本を取り巻く安全保障環境は険しさを増し、防衛省の責務はさらに重くなっている。防衛の本質から離れた問題を巡って失態を重ね、国民の信頼を損ねたことは、極めて残念である。再発防止の徹底が欠かせない。

 来週に予定される内閣改造までは、岸田外相が防衛相を兼務する。北朝鮮が新たに弾道ミサイルを発射した。日本の安全確保のために万全を期さなければならない。

 稲田氏が、昨年8月に就任して以降、問題視される言動を繰り返したにもかかわらず、かばい続けたのは安倍首相である。

 首相は「任命責任は私にある。厳しい批判は、真摯(しんし)に受け止めねばならない」と述べた。経験を積ませようと、中堅議員を防衛相に登用するのは避け、国際軍事情勢や安保政策に精通した人材を起用すべきだろう。

地層処分マップ 科学的な理解を深める契機に

 原子力発電に伴って生じる高レベル放射性廃棄物を埋設できる場所は、全国広範に存在する。

 それが一目で分かる地図「科学的特性マップ」を政府が公表した。

 政府、電力会社と国民の対話が深まることを期待したい。

 日本は、最終処分法に基づき、高レベル廃棄物を地下300メートルより深い地層に埋設処分する方針を決めている。将来にわたって安全に隔離できるためだ。海外でも同様の方法が採用されている。

 今回のマップでは、地層や地盤などの公的なデータを用いて、列島の各地が埋設場所としての特性を有しているかどうか、を四つの色で塗り分けた。

 活断層や火山の近くは、「好ましくない特性」がある地域だ。炭田などの資源がある地域も、掘削される可能性があるため、「好ましくない」と色分けした。

 これらに該当しなければ、「好ましい特性が確認できる可能性が高い」地域とされた。特に「好ましい」のは、海岸から約20キロの範囲内だ。強い放射線を出す廃棄物を、海路で容易に運べる。

 「好ましい特性」を備える地域は、国土の7割近くに及ぶ。国内に適地はあるのか、と疑問を抱く人は少なくないだけに、マップを公表した意義は大きい。

 政府は、各地で説明会などをこまめに開催して、マップの内容を周知することが大切だ。

 関連情報は、インターネットでも公開されている。経済産業省の出先機関、処分事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)、電力会社が、電話による問い合わせや相談の窓口も設ける。

 信頼醸成のため、国民の不安や疑問に丁寧に対応したい。

 国民に理解が広がっていない段階で、特定地域への立地を念頭に議論するのは難しい。

 世耕経産相は、マップ公表に先立ち、全自治体に「(現段階では)いずれの自治体にも処分場等の受け入れ判断をお願いするものではない」との書簡を送付した。一歩ずつ進めることが重要だ。

 この問題を解決できないと、原発に使用済み核燃料が滞り、稼働できなくなる。高レベル廃棄物の処分場選定は、次世代に先送りできない重要な課題である。

 地層処分により、どう安全性が確保されるのか。立地地域に、どのようなメリットがあるのか。

 自治体の前向きな姿勢を引き出すためには、高レベル廃棄物処分事業の全体像を正確に理解してもらうことが欠かせない。

2017年7月28日金曜日

政労使合意なくても労基法改正を確実に

 労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」をめぐって、連合がいったん転じた制度化の容認方針を撤回した。働き手の健康を確保する対策の強化などを内容とした政府、経団連との法案修正の合意は見送る。傘下の労働組合の強い反発が背景にある。

 脱時間給は社会の変化に応じた制度なだけに、連合の執行部が組織をまとめきれなかったのは残念だ。政労使合意は交わせなかったが、成長戦略の観点からも制度の創設を盛った労働基準法改正案は早期成立が求められる。秋の臨時国会で確実に成立させるべきだ。

 長時間労働を助長するとして改正案に反対してきた連合は、このまま法案が成立する事態を避けようと、一時歩み寄りをみせた。脱時間給の利用者には年104日以上の休日取得を義務づけることなどを条件に、この制度を事実上容認する姿勢を政府に示した。

 執行部も想定できなかった反発は新制度に対する労組の拒否反応の強さを表す。しかし、この制度を設ける意義は大きい。

 経済のソフト化・サービス化が進み、成果が働いた時間に比例しない仕事が増えている現実がある。働く時間が長いほど生産が増える工場労働なら時間に応じて賃金を払うことが合理的だが、企画力や独創性が問われるホワイトカラーにはそぐわない。成果重視を前面に出すことで、脱時間給は働く人の生産性向上を促せる。

 脱時間給は長時間労働を招きかねず、残業を規制する動きと矛盾する、とも指摘される。だが新制度では本人が工夫して効率的に働けば、仕事の時間を短縮できる。その利点に目を向けるべきだ。

 今回の混乱を通じ、制度の課題も浮かび上がった。政府は連合から提案のあった休日取得の義務づけなどを前向きに検討し、法案に反映する構えだ。妥当だろう。

 いまの法案では対象者が高収入の一部の専門職に限られるが、今後広げていくのが望ましい。そのためにも健康確保の対策の充実は必要だ。各企業が休日増など独自の対策を講じる手もある。

 労基法改正案には、仕事の時間配分を自分で決められる裁量労働制を提案型の営業職などに広げることも盛られている。この制度も生産性向上への意識を高める。

 政府は改正案を国会に提出後、2年余り棚ざらしにしてきた。働き方改革への姿勢が問われていることを自覚すべきだろう。

代表が辞めて済む問題か

 トップがリーダーシップに欠け、組織の上を支えるフォロワーシップもない政党は哀(かな)しいものである。野田佳彦幹事長が辞任表明したら、こんどは蓮舫代表まで辞める決断をしたという。

 民進党はこれから一体どうしていくのだろうか。党再建の道筋を切りひらいていくのは、ちょっとやそっとでは、できそうにない。

 先の東京都議選ではわずか5議席しか獲得できなかった。告示前には多くの候補者が党に見切りをつけて都民ファーストの会に流れた。国会議員の離党も続き、党としての求心力がすっかり低下してしまった。

 加計学園の問題などで安倍晋三内閣の支持率が急落した中でも、本社世論調査によると政党支持率は6%と、民進党として発足した昨年3月以降で最低になった。

 政権批判の受け皿になれないどころか、党内から「解党論」まで飛び出す始末で、政党として末期症状を呈している。こうした状況を招いてしまった蓮舫代表と野田幹事長の辞任は当然だ。むしろ表明が遅きに失したぐらいだ。

 問題はこれから政党をどう立て直していくかである。まず民主党政権当時の主要メンバーが後衛の位置にさがることが必要だ。政権担当に失敗した面々がまたぞろ出てきて代表選を戦っても有権者の支持は回復しまい。

 何よりも路線をめぐる議論を戦わせ、党の方向性をひとつにしていく作業が求められる。その根本は次の衆院選での共産党との選挙協力問題だ。共闘すれば選挙戦術上、一定の効果があるのは確かだが、果たしてその路線で政権を取れるかということだ。

 旧社会党のような抵抗政党でいようとするのならそれでいい。ウイングを右に広げ、保守層の一部を含んで中道リベラル勢力を結集し、いま一度、政権をめざそうとするのなら、おのずと異なる結論になるはずだ。

 次の衆院選を前に流れ解散とならないためにも、ここはしっかりした党内議論を望みたい。

(社説)民進党の混迷 受け皿たりうる政党に

 東京都議選の惨敗から3週間余、民進党の混迷を象徴するかのような辞任劇である。

 蓮舫代表が辞意を表明した。その2日前、野田幹事長が退く考えを示した際には自ら党の立て直しにあたる意欲を語っていた。突然の辞意表明は、民進党が野党第1党として崖っぷちに立っていることを印象づける。

 安倍内閣の支持率が急落するなか、民進党は政権批判の受け皿たりえていない。本紙の直近の世論調査では、民進党の政党支持率は5%にとどまる一方、支持政党なしは47%に増えた。国民の間に既成政党への不信、政治への不信が募っている。日本政治の深刻な危機である。

 民進党は、加計、森友問題などで政権を監視・追及する野党の重要な役割は担ってきた。それでも国民の支持がいっこうに広がらないのはなぜなのか。

 最大の理由は、政党にとって最も大事な政策の軸が定まらないことだろう。

 例えば原発政策では、蓮舫氏が打ち出そうとした「2030年原発ゼロ」は、電力会社労組などへの配慮からあいまいな表現となった。既得権益をもつ支持団体への配慮を優先し、自民党との対立軸を明確にできない。それでは国民の選択肢になれないのは当然だ。

 野党が頼りないことで不利益を受けるのは国民だ。

 政府与党に政権担当能力を疑わせる問題があったとしても、代わりに政権を担える野党がなければ、政権交代は起きない。

 結果として政権党は緊張感を失い、おごり、腐敗につながる。日本の民主主義が健全であるためには、しっかりとした野党が欠かせないのだ。

 蓮舫氏はきのう「新たな執行部に率いてもらい、二大政党制の民進党をつくり直すことが国民のためだ」と語った。

 現在の小選挙区制を柱とした衆院選挙制度は、二大政党による政権交代のある政治をめざしている。その一翼を担う存在であり続けられるかどうかの岐路に立っていることを、民進党の議員たちは自覚すべきだ。

 いまの政権に満足しない民意を政治に反映させる受け皿をつくることは、野党第1党に求められる喫緊の課題である。

 民進党は次の代表選びに入るが、憲法に基づき安倍内閣に臨時国会の召集を求めているさなかであり、時間の余裕はない。

 とはいえ看板の掛け替えに終われば、また同じ轍(てつ)を踏む。民進党の存在意義はどこにあるのか。どのような政策の柱を立てるべきなのか。突き詰めた議論が欠かせない。

(社説)連合の迷走 組織の原点に立ち返れ

 「残業代ゼロ法案」と批判されている労働基準法改正案について、連合が、政府や経団連との政労使3者による法案修正の合意を取りやめた。

 一貫して反対してきた連合の神津里季生会長が安倍首相と会い、法案の修正を申し入れてから2週間。過労死で家族を失った人たちや傘下の労組からも「裏切り行為だ」「組合員に説明がつかない」と批判が出ていた。東京の連合本部には「勝手に労働者を代表するな」と、働く人たちが抗議に詰めかける事態にまでなった。

 合意の見送りは当然だ。

 混乱を招いた連合執行部の責任は重大である。最大の問題は、これほど重要な検討課題を傘下の労組や関係者と十分に議論しないまま、執行部の一部が政府側と水面下で交渉し、合意へ進もうとしたことだ。

 労基法改正では、残業時間の上限規制が秋の臨時国会で審議される予定だ。神津会長は「残業時間の上限規制と(「残業代ゼロ」導入が)一本化され、強行されるとの危機感があり、少しでも改善できるならとの思いだった」と、修正協議を進めた理由を説明した。反対を貫けば残業時間規制も頓挫しかねないとの判断もあったようだ。

 だが、働く人たちの健康を守り、処遇を改善するための法改正と、「残業代ゼロ」で長時間労働を助長しかねない労働規制の緩和を一緒に進めるというやり方が、そもそも間違いだ。連合は安易な妥協をするべきではなかった。

 修正要求も形ばかりの内容だったと言わざるを得ない。健康確保措置として年間104日の休日取得義務づけを求めたが、これは祝日を除く週休2日制に過ぎず、働く時間の制限はない。追加された措置も、年1回の定期健康診断以外に臨時の健康診断を行うといった内容だ。これで働く人たちの命と健康を本当に守れるだろうか。

 同一労働同一賃金や残業時間の上限規制といった働く人たちの関心が高いテーマについて、安倍政権は政労使で協議する枠組みを作り、そこに連合も参加してきた。

 実のある改革を目指して意見を言うことは必要だが、政府や経済界のペースにのみ込まれていくのは全く別の話だ。労働組合の中央組織として、すべての働く人を代表しているという自覚に欠けていたと言わざるを得ない。

 働く人たちの権利と暮らしを守る。その原点に立ち返らなければ、信頼を取り戻すことはできない。

蓮舫代表辞任 指導力不足で行き詰まった

 求心力の低下が止まらず、党運営に行き詰まった末に、代表の座を放り出したと言えよう。

 民進党の蓮舫代表が記者会見で、辞任を表明した。「統率する力が不足していた」と理由を語った。

 東京都議選大敗を受け、野田幹事長が辞意を示しても、蓮舫氏に対する反発が収まらなかった。

 昨年9月の代表選で圧勝しながら、1年も経たたずに辞任に追い込まれたのはどうしたことか。

 前身の民主党を通じて初の女性党首である。知名度と発信力が党再生につながると期待された。

 だが、党内をまとめることができず、蓮舫氏を支えるのは事実上、約10人の野田氏のグループだけとなっていた。野田氏の後任選びは難航するとの観測もあった。

 自身の「二重国籍」問題で事実誤認の釈明をし、対応が後手に回って不信感も招いた。

 安倍首相を舌鋒(ぜっぽう)鋭く追及し、目を引いたのは確かだが、高圧的で品位を欠く発言が多かった。「批判から提案へ」と対案路線を標榜(ひょうぼう)しながら、最後まで目立った成果を上げられなかった。

 憲法改正について、蓮舫氏が「衆参憲法審査会の議論にしっかり参加する」と述べたにもかかわらず、党としては、国会で消極的な姿勢を崩していない。

 支持団体の連合との信頼関係も築けなかった。「原発稼働ゼロ」の目標年次の前倒しを図ったが、批判を受けて頓挫した。

 明確な国家観や政策理念が見えなかった。政策をじっくり勉強してこなかったツケを払わされた、と言わざるを得ない。

 民進党は、来月の代表選で新代表を選出する見通しだ。

 2012年に民主党が野党に転落してから支持率は低迷し、代表は1~2年で交代している。内紛続きで結束を欠いたことに加え、「寄り合い所帯」「選挙互助会」との印象を拭えないためだ。

 外交や安全保障、エネルギーなど基本政策での徹底した論議を先送りしてきたことも一因だろう。立て直しは容易であるまい。

 最大の争点は、次期衆院選に向けた共産党との連携の在り方だ。蓮舫氏は、岡田克也前代表が進めた民共共闘路線の修正に言及しながら、結局は安保政策などで非現実的な選択をしてきた。

 保守系に「共産党票欲しさに妥協を重ねた」との不満は強い。今後も離党の動きは止まらないだろう。民進党は何を目指すのか。現実的な基本理念と政策を示せる代表を選んでもらいたい。

警察白書 事故抑止に自動運転の活用を

 超高齢社会における交通事故対策を官民の連携で推進したい。

 2020年までに事故死を2500人以下にする。この政府目標に対し、今年の警察白書は、従来の対症療法的な対策だけでは「達成は困難」との認識を示した。

 高度成長期に1万5000人を超えていた年間の死者数は、昨年、3904人となり、67年ぶりに4000人を下回った。取り締まりの強化や道路構造の改善など、様々な対策の成果と言えよう。

 問題は、減少傾向が鈍化していることである。5000人を切った09年以降の減少幅は約1000人に過ぎない。

 白書は、高齢者の事故抑止を「喫緊の課題」と位置付ける。75歳以上の運転者による死亡事故が、このところ年450件余りと高止まりの状態にあるためだ。

 昨年10月には横浜市で認知症の男性の車が児童の列に突っ込み、8人が死傷した。死亡事故を起こした高齢ドライバーの半数近くに認知機能低下などがみられた、とのデータもある。認知症の早期発見は被害の減少に直結しよう。

 今年3月に改正道路交通法が施行された。免許更新や違反の際の検査で、認知症の疑いがあると判定された75歳以上のドライバーに医師の診断を受けることを義務づけた。認知症と診断されれば、免許は取り消しか停止になる。

 診断できる医師の不足や偏在を懸念する声がある。新制度が有効に機能するよう、問題点を洗い出し、改善につなげたい。

 加齢に伴う衰えは、認知機能以外にも生じる。白書が「それぞれのリスクに応じたきめ細かな対応」を今後の対策の柱に据えたのは、理に適(かな)っている。

 反射神経や筋力を調べる検査の導入や、リスクの大きい高齢者に対する実車試験の実施などが、具体的な検討課題になろう。

 自動ブレーキなどの自動運転機能に関し、白書は「安全の飛躍的向上に資する可能性がある」と強調した。先端技術が身体機能の衰えを補うのは確かだろう。

 現状では、メーカー間で性能にばらつきがある。自動ブレーキ搭載車の衝突事故も起きている。一層の技術向上を期待したい。

 政府は、官民の協力で、20年度までに過疎地などで無人自動運転を実用化するとの構想を描く。

 運転の完全自動化は、高齢者が自らハンドルを握らなくても暮らせる社会の実現を後押しする。安全を追求しつつ、道交法改正などの体制整備を進めるべきだ。

2017年7月27日木曜日

生産性向上が伴う最低賃金引き上げに

 働いた人には少なくともこれだけは支払わなければならないという最低賃金が、2016年度に続き17年度も大きく上がる見通しになった。厚生労働省の中央最低賃金審議会は、都道府県ごとに定める最低賃金の引き上げ幅の目安を全国平均で時間あたり25円とすることを決めた。昨年度と並んで過去最大の上げ幅になる。

 最低賃金の引き上げは消費を刺激し景気の拡大を後押しする効果がある。半面、中小企業の人件費を増やし経営悪化の要因にもなりうる。企業の負担が和らぐよう、政府は生産性向上を支援する政策に力を入れる必要がある。

 安倍政権は時給1000円をめざして最低賃金を毎年度3%程度引き上げる方針を掲げる。今年度の25円は3%にほぼ相当し、政府方針に沿ったものだ。全国平均の時給は848円になる。

 平均賃金に対する最低賃金の比率がフランスは6割あり、英国も5割を超えているという分析がある。日本は4割にとどまっており、国際的にみて低い水準にある最低賃金を引き上げていく必要があるのは確かだ。非正規社員の待遇改善にもつながる。

 ただ12年末に第2次安倍政権が発足してから、最低賃金の上げ幅は今年度を合わせ計100円近くになる。急激に最低賃金が上がることで中小企業の倒産が増える懸念もあるだろう。

 実際の引き上げ幅を決める各都道府県の地方最低賃金審議会は、地域経済の現状や地元企業への影響を十分に調べたうえで上げ幅を判断すべきだ。

 求められるのは最低賃金の引き上げと企業の生産性の向上が歩調を合わせ進むことだ。そのための環境整備が政府の役割である。

 成長分野への企業の進出を阻んでいる制度を見直すなど、規制改革をもっと強力に進めてもらいたい。IT(情報技術)活用の支援や人の能力を高める職業訓練の充実も欠かせない。

 大企業が中小企業に過度な値下げ要求をするなど、不公正取引の監視もいっそうの強化が求められる。仕入れ代金を不当に安くする「買いたたき」などが残ったままでは、中小企業は賃金の原資を確保しにくくなる。

 もちろん企業自身、低賃金の労働力に頼らずに利益を上げる努力が求められる。人手不足による人件費増を吸収できるだけの経営改革を進めるときだ。

官民連携で首都高を地下へ

 東京の日本橋の上空を走る首都高速道路を地下化する事業が動き出す。国土交通省や東京都などが協力し、2020年の東京五輪の終了後に着手する予定だ。

 江戸五街道の起点だった日本橋は明治に入って日本国道路元標が設置された。ルネサンス様式の石造りの現在の橋は1911年に完成し、99年には国の重要文化財に指定されている。

 その橋を覆うように首都高が建設されたのは前回の東京五輪の前年の63年だ。用地買収の費用や時間を抑えようと河川や緑地の上空をルートに選んだためだが、その結果、都市景観を損なったという批判を受けてきた。

 完成から半世紀以上がたつ首都高は老朽化が著しい。いずれ更新は避けられないから、地下への移設は一案だ。川沿いがレストランやカフェが並ぶ親水空間に変われば、新たな観光名所にもなる。

 ただ、巨額な事業費がかかる。首都高速道路会社が3年前に立てた計画では、日本橋を通る都心環状線・竹橋―江戸橋間の更新費を約1400億円と見込んでいる。これは現在の高架方式のままで造り直した場合で、地下化すればこの数倍に膨らむのは確実だ。

 首都高の地下化構想は小泉政権の06年にも浮上したことがある。その際には建設費を4000億円から5000億円と試算した。

 事業費を圧縮し、税金の投入を抑えるためには民間との連携が欠かせない。日本橋付近では民間による再開発計画が相次ぎ、そのうち3地区は国家戦略特区の事業として認定される見通しだ。

 再開発ビルの下に道路空間を設けたり、再開発事業に合わせて用地の無償提供を求めたりすれば費用を削減できる。ビルの容積率を上げ、その利益の一部を民間事業者に戻してもらう手もある。

 都心環状線に並走して地下を走る八重洲線を活用すれば、工事区間を短くすることも可能だ。

 日本の都市景観を改善する象徴的な事業である。官民が協力して費用を抑え、実現したい。

(社説)やまゆり1年 内なる差別を問い直す

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の事件から、きのうで1年が経った。

 入所者19人が殺害され、職員3人を含む27人が負傷した。その被害の重大さだけではない。園の職員だった植松聖(さとし)被告(27)の「障害者は生きていてもしかたがない」という言葉が、社会に強い衝撃を与えた。

 ある遺族は「あの子は家族のアイドルでした」と朝日新聞などの取材に語った。娘に抱っこをせがまれ、抱きしめてあげるのが喜びだった。被告は「障害者は周りを不幸にする」と供述したという。それがいかに間違った見方であるかを物語る。

 苦労は絶えなかったかもしれない。それでも、一人ひとりが家族や周囲に幸せをもたらす、かけがえのない存在だった。

 被告は「意思疎通ができない人を刺した」とも述べたとされる。意思疎通ができなかったのは被告の方ではなかったか。

 目を向けなくてはならないのは、多くの遺族、被害者、家族が差別と偏見を恐れ、いまも名前を明らかにするのを拒み、発言を控えていることだ。

 被告に共感を示し、障害者をおとしめる言辞をネットなどを使って発信する人々のふるまいが、大きな影を落としている。しかし、そうした一部の心ない人たちだけの問題だろうか。

 先月、空港で車いすの男性が「歩けない人は飛行機に乗せられない」と航空会社から言われ、自らの腕の力でタラップを上ったことが報じられた。会社は謝罪したが、ネット上には事前に連絡しなかった男性を非難する声が数多くある。

 昨春に障害者差別解消法が施行された。知的障害か身体障害かを問わず、日常生活の中の差別をなくし、「人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現をめざす。法の精神には大半の人が賛同するはずだ。だが、いざ障害のある人が、自分たちも健常者と対等な存在であることを主張すると、反発が固まりとなって返ってくる。

 そこまでではなくても、混みあう通勤電車やエレベーターに車いすの人が乗ってきたとき、当たり前のこととしてすんなり受け入れられているだろうか。胸に手を当ててみたい。

 「効率」に重きをおき、「共生」を後回しにする。そんな心理や社会のあり方は、「障害者は周りを不幸にする」という被告の発想と底流でつながっている。そう言えるのではないか。

 亡くなった方々を弔うために一人ひとりができるのは、わが内なる差別を問い、ゆがみを少しでもただしていくことだ。

(社説)最低賃金 底上げを早く広く

 今年度の最低賃金引き上げの目安額(時給)が決まった。全国平均では25円で、時給は今の823円から848円になる。時給で決めるようになった02年以降で、最大の増額だ。

 安倍首相が掲げる「年3%程度ずつ引き上げて、時給1千円を目指す」という方針に沿った決着である。今年の春闘で中小企業の賃上げが好調だったことも追い風になった。

 とはいえ、主要国の中では1千円を超えるフランス、ドイツなどと比べてまだまだ見劣りする。経済が順調で人手不足感が強い今は、引き上げの好機だ。もっとペースを早めたい。

 今回の目安をもとに、これから都道府県ごとに引き上げ額を決める。昨年度は、47都道府県のうち6県で目安を上回った。地域の実情を踏まえつつ、さらに多くの県が「目安プラスアルファ」をめざしてほしい。

 今後の大きな課題は、地域間の格差をどう縮めていくかだ。

 全国平均で最低賃金が848円になるとは言うものの、実際にこれを上回るのは東京や神奈川、大阪など大都市部に限られる。働く人が多く、最低賃金自体も高い大都市部が平均を押し上げており、むしろ地方との格差は広がる傾向にある。

 国は所得水準や消費実態などの指標をもとに都道府県をA~Dの4ランクに分け、ランクごとに引き上げの目安額を決めている。Aランクの中で時給が最高額の東京(現在は932円)とDランクで最低額の宮崎、沖縄(同714円)の差は現在、218円だが、目安通りに増額が実施されるとこの差が222円に広がる。

 時給が700円台前半では、1日8時間、月に20日働いても月給は12万円に満たない。これで生活を支えるのに十分な水準と言えるだろうか。

 地域間の格差を是正しつつ、より広く底上げを図るにはどうすればよいか。下位のランクで引き上げを手厚くする。より上位のランクへの区分変更を柔軟に行う。そうした具体的な方策について、国の審議会で議論をさらに深めてほしい。

 最低賃金のアップを定着させるには、体力に乏しい中小・零細企業への経営支援の強化や、大企業と下請けの取引条件の改善など、環境づくりも欠かせない。「下請けいじめ」で公正取引委員会が指導した件数は、昨年度、過去最多の6302件にのぼった。監視態勢の強化が必要だろう。

 社会全体が底上げを実感できるよう、歩みを加速させなければならない。

野田幹事長辞任 民進党の再建につながるのか

 党勢が低迷し、執行部への不満が強まる中、混乱を収める選択肢が他になかったのだろう。

 民進党の野田幹事長が両院議員懇談会で、先の東京都議選の敗北を受けて辞任を表明した。「党のガバナンスがうまくいかなかったことについては、要である幹事長の責任が重い」とその理由を語った。

 都議選で民進党は、政権批判票の受け皿になれず、5議席しか獲得できなかった。告示前、多くの現職・新人候補らが党を見限り、都民ファーストの会に移った。

 前首相の野田氏は、「後ろ盾」として蓮舫代表を支えてきた。責任論の出た蓮舫氏の身代わりになったとも言える。党内基盤の弱い蓮舫氏には大きな打撃となる。

 蓮舫氏は後任選びに着手した。民主党政権時の要職経験者の起用には異論が根強く、若手の力量は未知数だ。他の役員も刷新する方向で、8月上旬にも決定する。新たな党の路線にもかかわるため、蓮舫氏にとって正念場である。

 蓮舫氏は、都議選総括文書案を懇談会に示し、大筋で了承された。反自民票が都民ファースト、共産党に流れたとして「惨敗」と明記した。「党の目指す方向性が見えず、基本政策が揺らいでいる」などと厳しく自己批判している。

 昨年3月に結党した「寄り合い所帯」だけに、「党としての一体性の確保」も課題に挙げた。

 だが、都議選後も、今後の党運営などについて執行部と非主流派が激しく対立する状況が続く。

 今や、「解党論」が飛び交うほど事態は深刻である。敗因を踏まえ、具体的な改善策を実行できるかどうかが問われている。

 民進党の慢性的不振は、安倍政権攻撃に終始して「抵抗政党」と化していることが一因である。

 総括案では、共産党などとの連携について、民進党が政策や国家像などを明確にし、主導すべきだと強調した。原発政策などを巡って不協和音が目立つ支持団体・連合との関係修復にも言及した。

 次期衆院選で共産党と共闘するなら、基本政策での現実的な政策合意が大前提となる。仙台市長選における民進、共産両党などの支援候補の当選を受け、安易に選挙協力を進めるのは禁物だ。

 都民ファーストとの向き合い方も、今後の課題となろう。

 蓮舫氏は、参院議員から衆院議員へのくら替えを明言した。東京の小選挙区から出馬する。自ら退路を断ち、一候補として選挙戦の先頭に立つことで、求心力を得る狙いだが、その道は険しい。

最低賃金アップ 継続できる環境整備が重要だ

 賃金を底上げし、非正規雇用の待遇改善とデフレ脱却を確実にする。そのために、最低賃金の引き上げを継続できる環境の整備を急ぎたい。

 2017年度の最低賃金(時給)について、厚生労働省の中央最低賃金審議会が改定の目安を決めた。全国平均で25円引き上げ、848円とする。昨年度の24円を上回り、時給表示となった02年度以降、最大の上げ幅だ。

 引き上げ率は3%で、政府が目標とする「毎年3%程度」に2年連続で届いた。

 最低賃金は全ての労働者に適用され、これを下回る賃金は違法となる。目安を参考に、都道府県の審議会が地域の実情を踏まえて、それぞれの引き上げ額を決める。確実な実施が求められる。

 景気の緩やかな回復に伴い、人手不足が深刻化している。非正規雇用の賃金は上昇傾向にある。都市部では、最低賃金を大幅に上回る求人が目立つ。

 2年連続で20円超の引き上げを経営側が受け入れたのは、採用難への危機感の表れだろう。

 賃上げの流れを地方の中小・零細企業も含めて定着させたい。

 政府は「1億総活躍プラン」などで、最低賃金を将来的に全国平均1000円にすることを目指している。継続的な引き上げにより、消費を喚起して「経済の好循環」を実現させるのが狙いだ。

 近年、最低賃金は着実に上積みされてきたものの、依然、標準的な賃金の4割にとどまる。パートの賃金水準は正社員の6割で、欧州の8割程度を大きく下回る。最低賃金の大幅アップは、非正規雇用の処遇改善に直結する。

 労働力人口が減少に転じる中、女性や高齢者らの就労意欲を引き出す上でも、賃金の底上げは重要である。若年層の経済基盤の強化にもつながり、少子化対策としての効果が期待できよう。

 経営体力の弱い中小・零細企業にとって、最低賃金の急上昇は打撃だ。人件費負担が雇用縮小を招く事態は避けねばならない。

 中小・零細企業への影響に目配りし、無理なく対応できるように支援策を強化する必要がある。

 政府は、生産性向上に資する設備投資費用の助成制度を設けているが、利用は低調だ。使途が限定され、使い勝手が悪い、との指摘がある。現場の実情に応じた有効な方策を検討すべきだ。

 大企業による不当な値引き要求といった「下請けいじめ」への監視を強めて、取引慣行の改善を図ることも大切である。

2017年7月26日水曜日

厳格な漁獲管理で新興国の乱獲を防げ

 政府は北太平洋漁業委員会(NPFC)の会合で、サンマの乱獲防止に向けた国・地域別の漁獲枠導入を提案した。しかし、枠の設定には漁獲が急増する中国などが反対し、合意できなかった。水産資源を守るためには厳格な漁獲管理が不可欠だ。政府は粘り強く合意形成に努めてもらいたい。

 NPFCはこれまで枠組みのなかった公海での資源管理を狙い、日本やロシア、中国、台湾などの間で条約に基づく組織として2015年に設立された。

 三陸沖の公海で近年、中国や台湾の大型漁船がサンマやサバの漁獲を急増させ、乱獲に歯止めをかける必要があったからだ。

 今回の会合で、各国の許可漁船の増加を明確に禁止できたことは前進だ。しかし、日本が提案した漁獲枠の設定には中国と韓国が反対し、合意に至らなかった。

 水産業は天然の資源に全面的に依存する産業だ。養殖も大部分は天然の稚魚をとって育てたり、餌になる魚をとったりしている。水産業を持続させるためには厳格な漁獲ルールを作り、それを徹底して天然資源を守ることが必要だ。

 中国の公海でのサンマ漁獲量は昨年、6万3千トン強と12年の31倍に急増している。台湾の漁獲量はすでに日本を上回っている。旺盛な需要を背景にした新興国の乱獲を放置すれば、資源量の減少は避けられない。

 日本に近い公海では中国とみられる未登録船の操業も水産庁の取り締まり船によって確認されている。中国の提出資料による漁獲量の信頼性にも疑問はある。

 漁獲枠を導入したうえで違反をなくし、漁獲報告の信頼性を増す努力が各国に求められる。それをけん引するのは大消費国で資源管理の経験が長い日本の役割だ。参加国の危機感を強め、合意を形成するうえで科学的な資源調査の結果を継続して示すことも有効だ。

 各国に漁獲枠の設定とその順守を求めるためには、まず日本自身が厳格な漁獲管理を実施しなければならない。

 国内沿岸では漁獲枠の定められた子供のクロマグロについて、承認のない漁業者がとったり、とったクロマグロを報告しなかったりする違反が昨年から相次いで見つかっている。日本全体でも規定の漁獲枠を超えてしまった事態は看過できない。こうした違反がクロマグロ以外の資源保護に影響することを忘れてはならない。

パレスチナ和平交渉の再開を

 エルサレム旧市街で起きたイスラム教徒とイスラエル治安部隊の衝突が拡大している。

 騒乱はヨルダン川西岸にも広がり、ユダヤ人入植地やヨルダンの首都アンマンにあるイスラエル大使館が襲われる事件も起きた。イスラエルとパレスチナ双方に多数の死傷者が出ている。

 1967年6月の第3次中東戦争によって、イスラエルがヨルダン川西岸や東エルサレムなどを占領してから50年が過ぎた。イスラエルとパレスチナの和平は遠のくばかりだ。パレスチナ人の苦しみは続き、イスラエルとの衝突が繰り返されている。

 占領を固定してはならない。パレスチナが独立し、イスラエルと共存する和平をどう実現するか。国際社会は占領50年の節目にもう一度、問題と向き合うべきだ。

 今回の衝突はエルサレムのユダヤ教、イスラム教双方の聖地付近でイスラエルの警官2人が銃撃を受けて死亡したことがきっかけだ。事件を受けてイスラエル当局が聖地の入り口に金属探知機を設置したことにイスラム教徒が反発し治安部隊との衝突に発展した。

 イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が93年に締結したオスロ合意はパレスチナの暫定自治に道を開いた。しかし、その後の交渉は進まず、2014年を最後に途絶えたままだ。

 パレスチナ問題はアラブ諸国にとって団結の象徴だった。だが、この半世紀で中東をめぐる国際関係は変化し、アラブ諸国の間にも亀裂が生じた。11年の民主化要求運動「アラブの春」後の混迷の下で、パレスチナ問題への対応は置き去りになった感は否めない。

 イスラエルによる東エルサレムや占領地への入植は続き、ヨルダン川西岸は総延長400キロメートル超の分離壁が取り囲む。同じように壁で囲まれるガザ地区は「天井のない監獄」ともいわれる。

 当事者を動かせるのは国際社会しかない。和平への機運をしぼんだままにしてはならない。まずは和平交渉の再開を急ぐべきだ。

(社説)閉会中審査 裏付けなき政権の弁明

 いくら口調をやわらかくしても、根拠を示して正面から答えなければ「丁寧な説明」をしたことにはならない。

 2日間に及んだ衆参両院の閉会中審査で、加計学園問題をめぐる疑念は晴れなかった。

 原因ははっきりしている。

 安倍首相や官邸、内閣府など政権側の説明に、記録の裏付けがまるでなかったからだ。

 大きな疑問がいくつも積み残されている。例えば昨年9月、「総理は自分の口からは言えないから私が代わって言う」と和泉洋人・首相補佐官から対応を迫られたとする、前川喜平・前文部科学次官の証言である。

 前川氏は面会の日時を再確認し、時刻の記憶違いまで修正して答弁した。ところが和泉氏の方は「記憶はまったくない。従って言っていない」と根拠を示さず否定した。ウソをつけば偽証罪に問われる証人喚問で、両氏の言い分を聞く必要がある。

 面会予約が要る首相官邸を、愛媛県今治市の職員が特区に決まる前になぜ訪問できたのか。この疑問にも、当時の首相秘書官が「私の記憶する限りはお会いしていない」とひたすら繰り返し、まともに答えなかった。ならば今治市関係者に真相を聞きたい。

 そして、今年1月の決定直前まで加計学園が手を挙げているのを知らなかったという首相の答弁だ。過去の国会答弁との矛盾を野党に突かれたが、首相の発言が事実なら、昨秋の時点で首相周辺から「総理のご意向」などの声が出ること自体がおかしいことになる。

 一方、農林水産相と地方創生相は昨年8~9月に、首相の友人で学園理事長の加計孝太郎氏自身から計画を聞いていた。加計氏の証言も聞く必要がある。

 不都合な「記録」はあれこれと理屈をつけて葬ろうとする。自衛隊の日報問題や森友学園の問題とも共通する安倍政権の姿勢は変わっていない。2日間の審査で説明責任を果たしたとは到底言えない。

 疑念をぬぐいたいなら、首相は自らの指導力で関係省庁に記録を探させるべきだ。行政文書の作成・保存・開示のルールを見直すことも欠かせない。

 同時に、野党が憲法53条に基づき求めている臨時国会召集にただちに応じる必要がある。

 首相は予算編成や法案準備を理由に後ろ向きだが、この規定は少数党の権利を保障するためにある。拒否は許されない。

 自民党自身、5年前にまとめた憲法改正草案で「20日以内」の召集をうたったではないか。有言実行を首相に求める。

(社説)白鵬の新記録 たたえるばかりでなく

 輝かしい土俵の記録の数々は、平成の大横綱の名にふさわしい。白鵬(32)が名古屋場所で通算勝利を1050勝として史上1位に、過去最多の優勝回数も39回へと積み上げた。

 ほかにも全勝優勝13回、連続7場所優勝、幕内勝利956など、主な記録の頂点にいる。15歳でモンゴルから来日し、綱を張ること10年。シコやテッポウの基本稽古を飽きることなく積み重ねてきた証しである。

 考えさせられたのは、「白鵬が近い将来、日本国籍を取得する考えを持っている」という関係者の話が、記録達成を機に一斉に報じられたことだ。

 日本相撲協会の規定には「年寄名跡の襲名は、日本国籍を有するものに限る」とある。まだ先の話ではあるが、現役引退後、親方として協会に残り、後進を育てるには、国籍を変更しなければならない。

 長きにわたり相撲人気を支えてきた最大の功労者に、酷な決断を迫る決まりではないか。

 白鵬の父はモンゴル相撲の元横綱で、メキシコ五輪レスリングで銀メダルを獲得した英雄だ。白鵬自身の活躍も故国で広く伝えられている。そうした事情を抜きにしても、自らの仕事も、ルーツも大切にしたいという人として当然の思いは、最大限尊重されてしかるべきだ。

 協会の規定は、ハワイ出身の元関脇高見山が活躍していた1976年にできた。以来、親方になった外国出身の力士は、すべて日本国籍を得ている。

 導入の理由ははっきりしないが、協会には、下積みや裏方の苦労を知らぬまま出世することの多い外国人力士が、親方になることへの抵抗があるという。若手を指導したり、協会幹部となって相撲の伝統や様式美を伝えたりできるかという不安だ。

 だがそれは国籍の問題ではない。親方としての資質や情熱があるか否かだ。指導者、そして組織を運営する者としての適不適をしっかり見きわめる目が、協会には求められる。

 年寄名跡はかつて数億円で取引され、不祥事の温床にもなった。3年前の公益財団法人への移行に伴い、協会の管理下に置かれることになったが、理事長の交代などをうけて改革機運は後退。実態がどこまで変わったか、疑問は残ったままだ。

 白鵬の新記録と国籍取得の動きは、期せずして、昔ながらの世界にとどまる大相撲界に一石を投じる格好になった。

 相撲を愛し、将来の協会を担う人材を、発掘し、育てる。その仕組みづくりを再考する、良い機会にしてはどうだろう。

参院閉会中審査 決め手を欠いた「加計ありき」

 安倍政権への不信感の解消には、行政の透明性向上が欠かせない。

 安倍首相が参院予算委員会の閉会中審査に出席した。加計学園の獣医学部新設計画を知ったのは1月20日の国家戦略特区諮問会議だった、と改めて説明した。

 6月には、愛媛県今治市の特区申請の段階で認識したと答弁していたため、「学部新設の提案者は今治市であり、学園と市で混同があった」と釈明、陳謝した。

 首相が計画を認識した時期は一つのポイントかも知れない。だが、より重要な点は、首相による学園への便宜供与の指示や、行政のねじ曲げの有無である。それらを冷静に検証することが大切だ。

 前川喜平・前文部科学次官は、「『加計ありき』は間違いない」と強調した。「広域的に獣医師養成系大学の存在しない地域」という学部新設の条件などが理由だ。しかし、競合した京都産業大は、こうした見方を否定している。

 野党は、1月の事業者の認定前に学園が開学準備を進めたことを問題視し、政府を追及した。

 山本地方創生相は「それぞれ自らのリスクでやっている」と指摘した。前川氏も「学校法人のリスクで(教員募集を)やるケースはあるかも知れない」と語った。

 野党は、2日間の質疑で「加計ありき」を浮き彫りにしようとしたが、決め手を欠いた。

 政府も、疑惑を払拭(ふっしょく)できたわけではない。引き続き丁寧な説明を尽くすことが求められよう。

 首相は、特区を巡る各省間の調整について「透明性に欠け、国民的な疑念を招いた」と指摘し、改善する意向を示した。後日、必要に応じて情報公開できるよう、行政文書を一定期間保存するなど、適切に管理せねばならない。

 南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に従事した陸上自衛隊の日報問題で、稲田防衛相は「隠蔽いんぺいや非公表を指示することはあり得ない」と重ねて明言した。

 陸自は、廃棄したはずの日報を実際は保管していた。防衛省の防衛監察本部に対しては、「データ保管の事実を稲田氏に報告した」などと説明しており、稲田氏の主張と食い違っている。

 安倍首相は、稲田氏の罷免(ひめん)を否定する一方で、「厳正かつ公正に徹底的な調査を行い、事実関係の全容解明を行う」と表明した。

 特別防衛監察の結果は近く、公表される。稲田氏は、日報問題の真相を国民が納得できるよう説明すべきだ。防衛省の混乱も早期に収拾させねばなるまい。

テレワーク推進 柔軟な働き方ができる社会に

 多様な働き方を実現するため、労使双方が知恵を絞り、テレワークの普及を目指したい。

 自宅など会社以外の場所で働く「テレワーク」の大規模な実験が24日に実施された。2020年東京五輪の開幕日に当たる。政府の呼びかけで900社が参加し、6万人が出社せずに業務を行った。

 通勤ラッシュや道路渋滞の緩和などが期待できるテレワークを、五輪をきっかけに定着させる狙いがある。安倍政権が進める「働き方改革」を後押しする。

 政府は、今年3月に策定した働き方改革の実行計画にテレワーク促進を盛り込んだ。

 テレワークを一部でも活用している企業は欧米より格段に少なく、13%にとどまる。政府は、これを20年までに30%超に増やす目標を掲げている。

 実験に参加した企業や従業員から成果や反省点について幅広く声を集め、今後に役立てたい。

 情報技術(IT)の発達で、場所を選ばずに仕事ができる環境は整いつつある。柔軟な働き方を選択できる意義は大きい。

 日本の正社員の労働時間は年間2000時間程度と高止まりしている。テレワークなら通勤が不要だ。自分の裁量で仕事を進められるため、長時間労働の是正が期待できる。女性の就労促進や男性の家事・育児参加にも資する。

 企業にもメリットがある。テレワークを導入した企業の生産性は、導入していない企業の1・6倍に上るとの調査もある。生産性が高まれば、収益力が向上し、優秀な人材を呼び込める。

 子育てで離職中の女性やリタイアした高齢者ら多様な人材が集まり、深刻化する人手不足の緩和にもつながろう。

 普及は容易でない。テレワークを導入していない企業の7割が「適した仕事がない」と答えた。仕事の一部に導入するといった余地がないか検討してはどうか。

 労務管理も課題である。テレワークを行う従業員の勤務状況を把握し、仕事の実績をきちんと評価する仕組みが要る。社員同士のコミュニケーションに支障が出ないよう、出勤日を設けるなどの制度上の工夫も欠かせまい。

 自宅や出先の通信回線を使って仕事をすることで、パソコンから顧客データや機密情報が流出するリスクが高まる。厳重なセキュリティー対策が必要となろう。

 こうした様々な問題を労使で洗い出し、職場の実態に合わせて導入することが肝要だ。

2017年7月25日火曜日

有権者の政権不信の声に謙虚に向き合え

 国家戦略特区を活用した獣医学部新設を巡り、国会でようやく主な関係者が出席した閉会中審査が実現した。政策判断の経緯や不当な政治介入の有無はなお分からない点が多い。有権者の不信感をぬぐうには謙虚な姿勢で事実を解明していくしかない。

 衆院予算委員会は24日、学校法人「加計学園」問題の集中審議を開いた。安倍晋三首相は加計孝太郎理事長について「学生時代からの友人だが、働きかけや依頼はまったくなかった」と強調した。同学園の特区申請に関しては「知ったのは1月20日の国家戦略特区諮問会議だ」と述べた。

 和泉洋人首相補佐官は特区を推進する政権の立場を当時の前川喜平文部科学次官に伝えたと認める一方で、「総理は自分の口からは言えないから私が代わって言う」と発言して早期開学を促した事実はないと否定した。

 野党は文科省の内部文書に記載された政策調整の経緯を中心にただした。政府関係者は首相からの指示や忖度(そんたく)を否定しつつ、個別の面会や発言内容については「記憶がない」といったあいまいな答弁が目立った。

 野党が入手した情報に基づいて具体的に質問しても、検証できるデータが政府側に残っていなければ政策決定の過程は検証できない。政府内の情報管理を見直すルールづくりが不可欠である。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題も議題となり、稲田朋美防衛相は「私は一貫して公表すべきとの立場だ。隠蔽や非公表を了承することはない」と強調した。野党は防衛省・自衛隊の組織ぐるみの隠蔽を指摘し、稲田氏の罷免を要求した。

 民進党は加計問題で加計理事長、学校法人「森友学園」問題で名誉校長だった安倍昭恵首相夫人、共産党はPKO日報問題で防衛省や自衛隊の幹部の証人喚問や参考人招致を求めた。与党は前向きに検討すべきだ。

 日本経済新聞社とテレビ東京による7月の世論調査で内閣支持率が39%と前月より10ポイント下がった。23日投開票の仙台市長選では与党が支持する候補が、元民進党衆院議員の候補に競り負けた。

 有権者は首相や閣僚の言動に長期政権のおごりや緩みを感じ取っている。急落した支持率の回復は簡単でないとしても、説明責任を果たしながら地道に政策を実現していくしか道はない。

溶融燃料取りだしは焦らずに

 東京電力は福島第1原子力発電所3号機の調査で、原子炉から溶け落ちた核燃料(デブリ)とみられる物体が広範囲に存在するのを初めて確認した。取り出しは危険を伴う。さらに調査を重ね、焦ることなく方法を検討してほしい。

 1~3号機の炉内は放射線量が高く、撮影は難航していた。溶融燃料の様子は、事故時の注水や温度のデータ、計算による解析などから推定するしかなかった。

 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は今夏中に新しい技術戦略プランを決め、デブリ取り出し方法も示す予定だ。しかし、初めて画像が得られたばかりの段階で、すぐに工法を決めるのは無理がある。

 原子炉格納容器の損傷箇所をすべてふさいで水で満たせれば安全に作業しやすいが、現実には難しいとの見方が多い。放射線のリスクを抑えるため、部分的に水に浸す方法などを検討中だ。

 しかし、実際のデブリの形状や広がりはこれまでの推定と大きく異なるかもしれない。現行の政府・東電の工程表に示された2021年の取り出し開始に間に合うようにいま工法を決めても、その通りにいかない可能性は高い。

 今後の調査で内部の様子が明らかになるのに合わせ、その都度最適な工法を考えていくのが現実的だ。遠隔操作や切削、放射線への耐性など共通の基盤技術をしっかり確立するのも課題だろう。

 デブリの取り出しは廃炉作業のなかで、もっとも困難で危険を伴う。作業員の安全を守り、放射性物質の拡散や流出を防ぐために慎重に進める必要がある。

 大切なのは、新たにわかった事実や計画、作業の変更などを政府や東電が迅速にわかりやすく説明することだ。地域はもとより、広く国民の理解と信頼が得られなければ廃炉はなし遂げられない。

 格納容器に広がったデブリの取り出しは世界でも例がないが、英国やフランスは廃炉のノウハウが豊富だ。技術面だけでなく戦略の立案、説明、実施などのプロセスも参考になるだろう。

(社説)「加計」「日報」で閉会中審査 特区の認定白紙に戻せ

 安倍首相の「腹心の友」に便宜を図るために、公正であるべき行政がゆがめられたのか。

 首相が出席したきのうの衆院予算委員会の閉会中審査でも、疑念が晴れることはなかった。

 内閣支持率の急落と相次ぐ選挙での敗北を受け、低姿勢で臨んだ首相だが、肝心な点になると、政府側の答弁はあいまいな内容に終始した。約束した「丁寧な説明」にほど遠い。

 このまま加計学園による獣医学部の新設を進めても、多くの人の納得が得られるはずがない。国家戦略特区の認定手続きをいったん白紙に戻し、プロセスを踏み直すべきだ。

 首相は、加計学園が特区に手を挙げていること自体、知ったのは、学園が事業主体に決まった今年1月だと答弁した。

 にわかに信じがたい。

 首相は特区諮問会議の議長でもある。15年12月の資料には、既に愛媛県今治市に獣医学部を造る計画が明記されていた。県と市は10年前から加計学園による獣医学部新設を訴えており、関係者の間では「今治=加計」は共通認識になっていた。首相だけが知らなかったのか。

 資料が作成され、審査が進んでいる間も、首相は学園の加計孝太郎理事長と会食やゴルフを繰り返していた。首相は親密な間柄を改めて認めた。2人の仲で、特区の件は話題にすらならなかったのだろうか。

 きのうの審議では、首相側の思惑とは逆に、「加計ありき」を疑わせる新たな事実が明らかになった。昨年11月、諮問会議が獣医学部の規制緩和を決める前日に、文部科学省が加計学園に対し、さまざまな助言をした文書が残されていることを、松野文科相が認めたのだ。

 この「優遇」の理由についても説得力ある説明はなかった。

 加計理事長や今治市の関係者に確かめたいことは多い。官邸や内閣府とどんなやり取りをしてきたのか。なぜ事業主体に決まる前から、予定地のボーリング調査を開始できたのか。国会でぜひ説明してもらいたい。

 きのうも政府側からは「記憶にない」「記録がない」が連発された。首相秘書官だった柳瀬唯夫氏は、15年春に今治市職員と官邸で面会したのではないかと野党議員に問われ、「記憶にない」と述べた。入館記録も「ない」と首相が答弁し、官邸のセキュリティーは大丈夫かと議員から皮肉られた。

 都合の悪い「記録」が出てくるたびに、「記憶がない」でそれを否定しようとする。こんな態度をとり続ける限り、国民の信頼は取り戻せない。

(社説)「加計」「日報」で閉会中審査 最高指揮官の重い責任

 稲田防衛相はもちろん、自衛隊の最高指揮官である安倍首相の責任が問われる局面だ。

 南スーダン国連平和維持活動に派遣された陸上自衛隊部隊の日報をめぐって、防衛省・自衛隊の混乱がやまない。

 「廃棄した」とされた日報のデータが陸自に保管されていた事実が、2月中旬の幹部会議で陸自側から稲田氏に報告された可能性が報道で発覚した。

 だが、きのうの閉会中審査で問われた稲田氏は「私が報告を受けて隠蔽(いんぺい)を了承するということはない」と否定した。

 なぜそう言えるのか。稲田氏は「私は報告を受ければ、必ず公表をすべしという考えだ。私の政治姿勢と真逆(まぎゃく)の隠蔽をするということはない」と述べた。この説明に説得力があると感じる国民がどれほどいようか。

 幹部会議の前日、稲田氏は国会で野党から日報データの有無を追及されていた。稲田氏の側から報告を求めることが当たり前ではないか。

 それもしていなかったとすれば論外だし、報告を受けていたなら、3月の国会審議で「報告されなかった」と述べていたことが虚偽答弁になる。

 報告を受けていたのに、その認識がないとすれば、防衛相としての資質が疑われる。

 一方、防衛省・自衛隊が稲田氏に報告もせずに非公表を決めていたとすれば、稲田氏に統率力がないことが明白になる。

 いずれにしても、文民統制が機能しているとは到底言えない異常事態である。

 さらに疑問なのは、首相のどこかひとごとのような態度だ。

 陸自に日報データが保管されていたことを、首相はいつ知ったのか。きのう国会でただされた首相は「まだ報告は受けていない」と繰り返した。

 確かに、防衛相直轄の防衛監察本部が特別防衛監察を行っている。だが日報データが組織的に隠蔽されていたのではという疑惑は、多くの国民の不信を招いている喫緊のテーマだ。

 首相には稲田氏への任命責任のみならず、自衛隊の最高指揮官として、適正な文民統制を取り戻す重大な責任があることを忘れてもらっては困る。

 来月早々に予定される内閣改造を待つことなく稲田氏を更迭し、一刻も早く事態を収拾することを首相に求める。

 監察を命じた稲田氏自身が疑惑の対象となり、監察の信頼性と実効性が揺らぐなか、国会の使命も重い。稲田氏や黒江哲郎事務次官、岡部俊哉陸上幕僚長ら関係者を招致し、徹底した究明に取り組むべきだ。

衆院閉会中審査 政権の信頼回復につながるか

 安倍政権の信頼を回復するには、様々な疑念に対して、首相や閣僚が丁寧な説明を積極的に続けることが欠かせない。

 安倍首相が衆院予算委員会の閉会中審査で、加計学園の獣医学部新設への関与を改めて否定した。友人の学園理事長から「働きかけや依頼はなかった」とし、「個別の案件に指示することは全くない」と語った。

 一方で、「私の友人が関わることだから、国民から疑念の目が向けられるのはもっともだ。今までの答弁はその観点が欠けていた」と反省の弁を述べた。

 内閣支持率の低下に関して「私の答弁の姿勢についての批判もあろう」とも語った。首相は従来、野党の批判に「印象操作だ」などと反論することが目立ったが、この日は終始、低姿勢だった。

 問題の焦点は、国家戦略特区による獣医学部新設を巡って、加計学園への便宜供与があったかどうかだ。複数の参考人が答弁したが、行政の違法性を示す明白な事実は指摘されなかった。

 前川喜平・前文部科学次官は、昨年9月に和泉洋人首相補佐官から早急な対応を求められたと改めて語った。和泉氏が「総理は自分の口から言えないから、私が代わりに言う」と述べたという。

 和泉氏は、この発言自体を否定したうえ、規制改革全般について「スピード感を持って取り組むこと」を求めたと反論した。首相と理事長の友人関係を認識したのは今年3月だったと述べた。首相も、学園による学部新設申請を知ったのは今年1月だと説明した。

 首相らの発言は不自然ではないか、との見方もあるが、事実なら、首相の友人を優遇したという批判は成り立つまい。

 和泉氏ら首相官邸スタッフが各省庁に対し、規制改革を急ぐことを求めるのは理解できる。その際は、一部地域や業者を不当に特別扱いしたと取られぬよう、細心の注意を払う必要がある。

 疑問なのは、政府側に依然として、「記録がない」「記憶がない」との答弁が多いことだ。

 首相秘書官だった柳瀬唯夫経済産業審議官は、学園を誘致した愛媛県今治市の職員との面会について「覚えていない」と繰り返した。官邸入館記録などをさらに精査して説得力ある説明をすべきだ。

 首相は「国民の疑念を晴らすうえで、何ができるか真剣に考えたい」と語った。便宜供与がないことを証明するのは簡単ではない。政権全体で、踏み込んだ説明を尽くすしかあるまい。

辺野古再提訴 最高裁判決の重みはどこに

 最高裁で確定判決が出たのに、再び法廷闘争に入るのは残念である。

 米軍普天間飛行場の辺野古移設を巡って、沖縄県が国を相手取り、移設工事の差し止めを求める訴訟を那覇地裁に起こした。

 政府は、今年3月に県漁業調整規則に基づく県の岩礁破砕許可の期限が切れた後も、辺野古で埋め立て本体工事を継続している。

 県は、訴状の中で、水産資源の保護培養という公益を守る観点から、「許可を得ない岩礁破砕行為を事前に防止する」ことを差し止めの理由としている。

 県は判決までの間の工事中止を求める仮処分も申し立てた。認められた場合、日米両政府が目指す2022年度以降の普天間飛行場返還の遅れは避けられまい。

 判例から、県の提訴が門前払いになる可能性もある。実質審理になった場合の争点は、地元漁協が放棄した漁業権の解釈だ。

 県側は、「漁業権が放棄されても、県の岩礁破砕許可は必要だ」と主張する。一方、水産庁は漁業法上、許可を要するのは漁業権の「変更」時だけで、「放棄」時は許可が不要だとの見解を示す。

 この点について、地裁がどう判断するのかが問われよう。

 国と県は昨年3月、福岡高裁那覇支部での和解で「確定判決に従い、互いに協力して誠実に対応する」と確約している。12月の最高裁判決は、翁長雄志知事による埋め立て承認の取り消しについて、「違法」と認定した。

 翁長氏は、「最高裁判決は、埋め立て承認に関する判決であり、(政府が)以後の手続きを自由にやってよいとはならない」と語った。だが、翁長氏の承認取り消しが最高裁で全面的に否定された事実を軽んじていないか。

 菅官房長官が記者会見で、県は和解の趣旨を踏まえ、最高裁の判断を尊重すべきだ、と反論したのはうなずける。

 辺野古移設は、普天間飛行場の事故の危険性や騒音の問題などを早期に解決できる唯一の現実的な方策だ。政府は重ねて、移設の意義を丁寧に説明すべきだ。

 基地周辺住民の負担軽減を着実に進めることも大切である。

 8月1日には、宜野湾市にある普天間飛行場東側の土地約4ヘクタールの返還式典が開かれる。市道として整備され、交通渋滞の改善につながることが期待される。

 県民は決して「辺野古反対一色」ではない。翁長氏は、自らと異なる意見についても謙虚に耳を傾けるべきではないか。

2017年7月24日月曜日

東京五輪の成功へ課題を克服したい

 33の競技に約1万1千人の選手が参加する東京オリンピックの開幕まで24日で3年になった。新国立競技場の計画の見直し以降、後ろ向きな話題ばかり注目されがちだったが、五輪を成功させることは日本の責務だ。大会の準備をしっかりと前に進めたい。

 2020年の東京大会は約40の会場を舞台にオリンピックで33競技、パラリンピックで22競技を開催する。両方合わせて1000万人を超す観客が訪れる見通しだ。

 大会準備はおおむね順調なようだが、いくつか気がかりな点がある。まず、選手村などをつくる臨海部と都心とを結ぶ幹線道路「環状2号」の建設が遅れている。

 この道路は築地市場の跡地を通る。跡地には五輪に向けて約3000台の車両を収容する仮設の駐車場もつくる予定だ。市場を豊洲に移さないと工事に入れないが、移転の時期が決まっていない。

 小池百合子都知事は市場関係者と誠意をもって協議し、五輪の開催に支障がでないようにすべきだ。環状2号の建設が遅れると、民間資金で整備する選手村の五輪後の利用にも悪影響が出る。

 競技会場の建設もこれから本格化する。大井ホッケー競技場のように工事の入札すら終わっていない施設もある。本番前のテストイベントを考えると、競技会場は19年中に完成するのが望ましい。

 建設業界の人手不足は深刻だ。現場に過度な負担がかからないように、建設会社は作業員の健康管理にも目配りしてほしい。

 ソフト面では、サイバーテロも含めたテロ対策に官民を挙げて万全を期す必要がある。国際オリンピック委員会は「たばこのない五輪」を掲げているだけに、受動喫煙対策も早急にまとめるべきだ。

 暑さ対策も大きな課題だ。マラソンや競歩のコースとなる道路周辺の路面温度の上昇を抑える工夫が要るうえ、競技会場の観客席などでの熱中症対策も欠かせない。東京の暑さに慣れていない外国人に対する情報提供も重要だ。

 五輪は東京だけが舞台ではない。事前合宿などで海外と交流する自治体は全国で約250に上る。大会では9万人を超すボランティアも必要になる。

 これまで競技施設の見直しや費用の分担などを巡って、様々なあつれきが表面化してきた。大会経費を抑える必要はあるが、もめるのはもういい。3年後に向けて機運を高めていきたい。

実感に近い車の燃費表示を

 カタログに記された公定燃費と実際にハンドルを握って車を走らせた時の実燃費の乖離(かいり)の大きさに驚いた人は多いだろう。

 一般のドライバーからのデータをもとに実燃費を調べるネットサイトの「e燃費」によると、メーカーが燃費性能を強調したい軽自動車やハイブリッド車などでは「実燃費はカタログ値より3~4割悪いのが普通」という。

 こんな状態は正常とはいえない。消費者保護の点からも、また本当に燃費のいい車の普及を促す環境政策の点からも、実態に即した燃費表示に向けて、政府と自動車業界は知恵を絞るときだ。

 昨年発覚した三菱自動車の燃費水増しのような意図的な不正は論外として、公定燃費とユーザーの実感がかけ離れるのは日本独自の燃費測定基準である「JC08モード」に原因がある。同モードはエアコンなどを消した状態で燃費を測るので、実際の走行時よりかなりいい数字が出ることが多い。

 そこで国土交通省は来年10月以降に発売される新型車について、欧州と共通の「WLTC」と呼ばれる新基準で測った燃費値も併せて表示することを義務付けると決めた。新基準は試験時の車両重量を増やすなど実際の利用環境に近づけるよう改良した。「市街地」「高速道路」など走行形態別の燃費を表示するのも新たな特徴だ。

 マツダは今月末に発売する新型車からWLTC燃費の表示を先行的に始める。トヨタ自動車など他社もマツダに倣い、新基準の採用を前倒しで進めてほしい。

 ただ、WLTC導入後も公定値と実感の乖離は残るだろう。米環境保護庁はメーカーの計測した数字に、運転手から集めた実測値による補正を加え、燃費表示を実感に近づけている。

 日本政府も測定手法の改良のほか、ユーザーからのデータを加味する手法を検討してはどうか。

 自動車業界も協力すべきだ。「カタログ燃費は信用できない」という不信感の広がりはビジネスにとってもマイナスである。

(社説)難民と日本 人命を守る視点こそ

 この地球に暮らす113人に1人が紛争や迫害で家を追われている。未曽有の人道危機といっても言い過ぎではあるまい。

 国内外に逃れた避難民や難民が昨年末、第2次大戦以降で最多の6560万人になった、と国連が発表した。

 日本に保護を求める人も年々増え、昨年は今の難民認定制度ができた1982年以降で最多の1万901人になった。

 だが難民認定されたのはわずか28人。他の先進国と比べて桁違いの少なさで、認定率も際だって低い。彼らに安全な場所を提供する国際責務を日本が果たしているとは到底いえない。

 法務省は、就労が目的で難民認定を求める「偽装」が多いと説明する。本来救済すべき人の審査が後回しにされたり、認定まで時間がかかったりしているならば、ゆゆしき問題だ。

 明らかな「偽装」は、手続き段階のなかで早期に防ぐ制度の改善は必要だろう。

 それでもなお「日本は難民認定のハードルが高すぎる」との声が専門家の間で根強い。難民の定義をあまりに狭くとらえているという指摘だ。

 たとえば、出身国の当局から反政府活動家などと目をつけられた個人でなければ、なかなか難民と認めてもらえない。

 紛争地や圧政国では、支配する側と違う政党、宗教、社会集団に属しているだけで一般市民も迫害の標的になりかねない。

 所持品も十分持たずに異国に逃れた人に、「迫害されたことの証明」を過度に求める審査のあり方にも問題がある。

 そうした中、画期的な判決が名古屋高裁で昨年確定した。

 出身国で野党の指導的立場になかったことを理由に難民と認められなかったケースで、それを適法とした一審判決を退け、「指導的立場でないことが、難民であることを否定する根拠にならない」とした。

 また、本人の説明内容に変遷があっても、迫害をめぐる中核的事実に一貫性があれば信用性はあるとの判断を示した。

 優先すべきは、「いかにふるい落とすか」より、「生命や安全が脅かされている人をどう救うか」という視点だろう。

 有識者が不服審査にかかわる参与員制度が05年に導入されたが、審査の透明性と公正性を高めるさらなる工夫も必要だ。

 最近、難民を支援する国際機関や団体に寄付する市民や、難民の受け入れに意欲を示す企業や大学が日本でも増えている。

 困っている人を助けたい。そう心から願う日本人が誇れる難民制度を望む。

(社説)都心大学定員 規制は活力を生まない

 東京23区内は大学の学部の新設・増設を抑制し、原則として定員増を認めない。そんな内容の閣議決定が先月あった。地方創生政策の一環だという。

 地方を元気にするために、若者が東京に出るのを食い止めたいとの思いは、わからないではない。しかし効果は疑わしく、副作用も心配される。

 東京の大学は地方出身者が3割を占めるが、この15年間、比率は下がり続けている。地元志向が近年の若者の流れだ。都内の有名大学が「首都圏進学校の出身者ばかりになってしまい、多様性が損なわれる」と危機感を抱き、地方の人材を呼び込む工夫をしてきたほどである。

 そもそも若者が上京するきっかけは進学よりも就職が主だ。東京都への転入は、20代前半が10代後半の4倍に達する。地方に雇用をつくらないと根本的な解決にはならない。

 都心の大学の意欲と活力を奪いかねない規制を課す一方で、政府はその大学に国際競争力の強化を迫り、留学生や学び直しを望む社会人の受け入れを増やすよう求めている。手足を縛ったうえで遠くまで泳げというようなもので、筋が通らない。

 政府は、閣議決定には「学部を改廃して定員の空き枠を充てるなら、学部の新設を認める」とあり、大学側にも配慮しているというかも知れない。

 しかし教員には専門分野がある。工学部をつくるからといって法学部から人を移すわけにいかない。時代の要請に応じた新増設は、公正・透明な手続きのもとで柔軟に認めるよう、閣議決定を見直す必要がある。

 経済的な理由で進学できない子を生まないために、各地域に大学がある意義は大きい。しかし今、地方大学の多くが資金難や定員割れに苦しんでいる。地域のシンクタンクとして頼りにされ、全国の学生が進学したくなるような特色ある大学づくりを急がねばならない。

 そのためには、国立大学の運営費交付金や私学助成金を、地方に手厚く配分することも検討してよいのではないか。

 人の行き来は社会の多様性を高め、活力をもたらす。都心大学の規制によって、地方から東京への移動を一部抑えられたとしても、逆の動きを生み出すのは難しい。その意味で、今回の閣議決定が、地元に就職した学生の奨学金返済を支援する制度や、企業の地方採用枠の拡大、地域限定正社員制度の導入を盛り込んだことは評価できる。

 若者が地方をめざす。そのための様々な仕掛けを用意することに、知恵を絞りたい。

東京五輪3年 成功へのハードルを越えよう

 2020年東京五輪の開幕まで3年となった。関係機関が連携を密にして、コスト削減に努めつつ、大会準備を加速させねばならない。

 東京では、このところ猛暑が続く。3年後の大会期間中も、暑さ対策は避けられない課題だろう。選手や観客の健康管理には、様々な工夫が求められる。

 競技施設の壁面や屋上を緑で覆う。霧状の水を噴射するミストシャワーを設置する。マラソンや競歩のコースでは、路面温度の上昇を抑える舗装を進める。

 こうした対策に日本の最新技術を導入して、効果を上げたい。

 世界各地でテロ事件が頻発する中、競技施設などのソフトターゲットの安全確保は、最優先で注力すべき問題である。

 政府は4月にセキュリティー基本戦略を決定した。これに基づいて、警察庁がテロやサイバー攻撃などの情報を集約、分析して、関係機関に提供する。

 当初計画に比べて、会場は分散化している。遺漏のない警備体制を構築せねばならない。

 昨年のリオデジャネイロ五輪では、ロシアの国ぐるみのドーピング違反が影を落とした。大会中にメダリストの違反も発覚した。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、クリーンな大会の実現を求めている。五輪でドーピング違反を犯した日本選手はいない。東京は大会招致でもその点をアピールして、高い評価を得た。期待を裏切らない取り組みが必要だ。

 検査をすり抜ける手口は巧妙化している。疑いのある選手を的確にチェックして、不正を未然に防ぐ仕組み作りが大切である。

 ドーピング防止法案が、超党派による議員立法で秋の臨時国会に提出される見通しだ。新法が成立すれば、文部科学相が、入国管理局や税関、警察などに情報提供を求めることが可能になる。

 海外のドーピング監視機関との情報共有も欠かせない。

 大会中には約6500件のドーピング検査が見込まれている。通常、国内で1年間に分析する検体数と同じ規模になる。検査員の養成が急務である。

 大会運営に欠かせないボランティアも、9万人以上が必要だとされる。日本のセールスポイントである「おもてなし」を実践できるように、語学などの研修プログラムを充実させたい。

 五輪の機運を一層盛り上げるために、大会組織委員会と都は啓発イベントなどを通して、多くの市民の参加を呼びかけてほしい。

死刑と再審請求 「後回し」執行から踏み出した

 再審請求中でも、場合によっては死刑を粛々と執行する。その前例になるのだろうか。

 男性死刑囚2人に、刑が執行された。

 このうち、西川正勝死刑囚は、西日本の3府県でスナックの女性経営者4人を殺害し、金品を奪うなどした。1、2審で死刑判決を受け、2005年に最高裁で確定していた。

 西川死刑囚は10回目の再審請求中だった。請求理由は毎回、ほぼ同じだったという。法務省は、もはや執行を猶予する理由はない、と判断したのだろう。

 再審請求中の死刑囚の刑執行は後に回す。この運用から踏み出す異例の措置である。

 言うまでもなく、死刑は命を奪う究極の刑罰だ。どの角度から証拠を検証しても、犯人であることに疑いが生じない場合にのみ、適用されるべきだ。事実認定には、決して誤りが許されない。

 確定判決を覆すような新証拠が見つかった場合に、刑事訴訟法は再審請求を認めている。死刑囚が再審を請求する権利は、最大限に尊重されなければならない。死刑囚が再審で無罪となったケースは戦後、4件ある。

 一方で、120人を超える死刑囚の7割以上が再審を請求している現状に目を向ける必要もある。刑の執行を免れる手段として、再審請求を利用する者がいることは否定できないだろう。

 慎重の上にも慎重を期して請求内容を吟味し、執行に踏み切るかどうかを判断する。法務省には、この姿勢が強く求められる。

 死刑に反対する勢力は、今回の執行を批判している。日本弁護士連合会は、執行に抗議し、「20年までに死刑廃止を目指すべきだ」との会長声明を発表した。

 日弁連は昨年10月の人権擁護大会で、組織として初めて死刑廃止の方針を明確に打ち出した。大会への出席者は全弁護士の2%に過ぎなかったが、賛成多数により「廃止宣言」が採択された。

 死刑制度の存置を求める弁護士は少なくない。犯人が極刑になることを願う犯罪被害者の支援に取り組む弁護士もいる。

 個人の思想・信条にかかわらず、業務に携わる弁護士は、必ず日弁連に登録しなければならない。強制加入団体が、賛否の分かれるテーマについて意見を表明することに、問題はないのか。

 内閣府が15年に公表した世論調査で、死刑容認は8割を占めている。日弁連は、世論と主張の乖離(かいり)にも留意すべきだ。

2017年7月23日日曜日

日本企業は多様な投資家と意思疎通を

 「アクティビスト」と呼ばれるもの言う株主の活動が米国市場で活発になっている。企業への要求は様々だが、共通するのは資本を効率的に使い株主価値を高めるよう求める姿勢だ。

 日本企業にとっても株主価値の向上は重要な課題だ。もの言う株主の活動を米国市場のできごとと片づけるのは、賢明ではないだろう。米国の先例をよく学び、株主との意思疎通のすべを磨くきっかけとすべきだ。

 米国市場の最近の注目すべき事例は、代表的なもの言う株主の一人であるネルソン・ペルツ氏が、日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に対して、自身を取締役に選任するよう求めたことだ。背景には、P&Gの株価推移や業績の伸びが鈍いことへの不満がある。

 もの言う株主は日本にもいるが、投資対象の企業は発行済み株式数が少なく、時価総額も小さい場合が多い。米国のもの言う株主は、世界的なカネ余りを背景に運用資産が膨らんだこともあり、規模の大きな企業に注文をつけることが珍しくない。P&Gは邦貨換算で約25兆円の株式時価総額を持つ大企業だ。

 さらに米国では年金基金や、投資信託などを運用する資産運用会社が、もの言う株主の言い分を支持することが増えた。もの言う株主の要求によって企業が一段と成長すれば、年金や投信の運用改善につながるからだ。

 そうした事情が追い風となり、もの言う株主は影響力を強めている。ゼネラル・エレクトリック(GE)のトップ交代や、高級スーパー、ホールフーズ・マーケットの身売りも、両社の投資家の圧力が影響したとの指摘がある。

 企業統治(コーポレートガバナンス)改革の進展をきっかけに、日本市場への関心を高めている米国の投資家は多い。日本の大企業が米国のもの言う株主から経営改革を求められることも、今後は増えることが予想される。もちろん、要求のすべてが正しいわけではなく、目先の利益還元だけを求めるようなものも少なくない。

 しかし、不特定多数から資本を調達している上場企業は、多様な投資家と向き合わなければならない。もの言う株主に対しても聞くべき点は聞き、反論すべきことは反論する。そんな双方向の建設的な投資家向け広報(IR)活動が必要となる。

問題が多いキッズウイーク

 夏休みなど学校の長期休業の一部を別の時期に移し、親にも一緒に休暇を取るよう促す「キッズウイーク」の導入に向け、政府は官民による推進会議を設けて議論を始めた。まとまった休みを新たにつくることで、消費や観光需要を喚起する狙いがある。

 働く人の休暇や家族がともに過ごす機会を、もっと増やすことには賛成だ。だが、子どもの休みに合わせて親も休暇を取得できるとは限らない。政府が音頭を取って休みを増やそうとするよりも、個人が主体的に休みを取れるようにする環境整備が大事だ。

 キッズウイークは政府が来年度からの実施をめざしている。たとえば夏休みの最後の5日間を削って秋に移し、前後の土日と合わせ9連休にするなどの方法がある。具体的にどうするかは地域ごとに自治体や学校などが検討する。

 日本は年次有給休暇の取得率が50%を割り込んでおり、政府は2020年までに70%に引き上げる目標を掲げる。キッズウイークはその手立てのひとつになる。

 しかし、導入に向けた課題は多い。まず、教育への影響が懸念される。夏休みなどの一部をずらすことになれば、学校は授業や部活動のスケジュールの組み替えを迫られる。8月下旬から授業を再開する場合、暑さで勉強の能率が上がらない心配もあるだろう。

 人手不足が深刻になっているだけに、その地域の親が一斉に休暇を取れるのかという問題もある。子どものいない人にとっては、同僚が休む分、仕事のしわ寄せが来るのではないかという不公平感も出てこよう。

 こうした教育現場や企業、働く人たちの負担を考えると、政府主導で特定の時期にまとまった休みを新設するのは、無理が多いといえる。

 重要なのは働き手が仕事の効率を上げ、生産性を高めて休みをもっと増やせるようにすることだ。個人が休暇を取りたいときにできるだけ取れる環境づくりを、企業自身が進めるべきだ。

(社説)憲法70年 「原発と人権」問い直す

 東京電力福島第一原発の20キロ圏に入る福島県南相馬市小高(おだか)区。大半の地域で避難指示が解除されて12日で1年がたった。

 商店や学校は徐々に再開され、登下校時は高校生たちの声が響く。一方で、シャッターを下ろしたままの店や、庭に草が生い茂った家も目立つ。

 市によると、12日現在の小高の居住者は2046人。11年の原発事故当時の6分の1弱だ。

 憲法が保障していたはずの「ふつうの暮らし」を、原発事故は多くの人から奪い去った。

 ■事故が問うた本質

 漁師の志賀勝明さん(68)は小高への帰還を断念した。海岸近くに建てたばかりの自宅は津波で浸水した。事故後、立ち入りを禁じられた間に荒れ果て、解体を余儀なくされた。

 志賀さんは言う。「自分だけじゃなく、地域のすべての人の人生が変わった。生存権とか、基本的人権とか、憲法の本質的なものを考えさせられたよ」

 南相馬市は昨年5月、全世帯に憲法全文の小冊子を配った。

 小高出身の憲法学者、鈴木安蔵(やすぞう)が終戦直後にまとめた憲法草案要綱は「国民ハ健康ニシテ文化的水準ノ生活ヲ営ム権利ヲ有ス」と生存権を明記し、現憲法25条につながった。多くの市民の生活が暗転したなか、原点を再認識してほしいとの思いが、桜井勝延(かつのぶ)市長にはあった。

 福島県では今も数万人が県内外で避難を続ける。長年のなりわいや家屋を失った人は数え切れず、居住、職業選択の自由(22条)、財産権(29条)の侵害は著しい。多くの子が故郷の学校に通えなくなり、教育を受ける権利(26条)も揺らいだ。

 そして何より、事故は多くの人を「関連死」に追い込んだ。

 「原発事故で、憲法に書いてある生活ができなくされた。これは憲法違反でしょう」。桜井市長は語気を強めて言う。

 ■よりどころは憲法

 「原発は電気の生産という社会的に重要な機能を営むものではあるが、憲法上は人格権の中核部分より劣位」。14年5月、関西電力大飯原発(福井県)の周辺住民らが起こした訴訟で、福井地裁判決はこう述べ、再稼働の差し止めを命じた。

 原発事故の避難者が国と東電に賠償を求めている集団訴訟で、関西原告団代表を務める森松明希子(あきこ)さん(43)は、憲法に立脚した判決に希望を感じた。

 幼い2人の子の被曝(ひばく)を案じ、福島県郡山市から大阪へ避難した。だが地元は避難指示区域ではない。少数派である自主避難者への視線は福島の内でも外でも厳しく、行政の支援や東電からの賠償も乏しい。

 「自分の選択は正しかったのか」。苦悩し、学生時代に学んだ憲法をいま一度ひもといた。

 「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」(前文)、「すべて国民は、個人として尊重される」(13条)。これこそが自分のよりどころだ、と思った。

 避難するのもとどまるのも、個人の自由だ。どの選択をした人に対しても、憲法が保障する生活が実現できるような支援を。森松さんはそう訴える。

 「ふつうの暮らし」を取り戻すため、憲法を盾にたたかっている人たちがいる。憲法施行70年の日本で、忘れてはならない重い現実といえよう。

 ■主権者が選ぶ針路

 福島の事故より前、原発が憲法と関連づけて問題視されたことはなかったといっていい。

 日本の原子力開発は、憲法施行8年後の1955年に制定された原子力基本法に基づいて進められてきた。同法は「人類社会の福祉と国民生活の水準向上」を目的とし、「平和利用」を明記している。

 澤野義一・大阪経済法科大教授(憲法学)は「原発は当然のように合憲視され、学界でもほとんど論議されたことがなかった」と指摘する。

 資源が乏しい日本で、大量の電力を供給できる原発が経済発展に貢献したのは確かだろう。

 ただ、ひとたび事故が起きれば、無数の人権がただちに脅かされる。そのリスクは「安全神話」のもとで隠され、国民も十分に認識してこなかった。

 多くの国民が被災者となった福島第一原発事故の後も、国や電力事業者は原発を推進する方針を変えようとしない。

 全国の原発の周辺には、事故で避難を迫られる可能性がある30キロ圏だけで400万人以上が暮らす。憲法が目指す社会は守りうるのか。そんな観点から、この国の進む道を見直す必要はないだろうか。

 中欧のオーストリアは78年、国民投票で原発の稼働が否決されたのをきっかけに、原発の建設を禁じる法律を制定した。86年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故を経て、「脱原発」を求める世論は強まり、99年に原発禁止が憲法に明記された。

 日本の針路を選ぶ権利は、主権者である国民一人ひとりにある。この6年超の現実を見据え、議論を広げていきたい。

韓国文政権外交 「慰安婦記念日」は未来志向か

 韓国の文在寅政権は、日韓関係の改善を本気で望んでいるのか。そんな疑問が拭えない。

 文政権が国政運営5か年計画を発表した。

 対日関係では、歴史問題と安保・経済協力を切り離し、「未来志向の関係を発展させる」と表明した。2015年の慰安婦問題に関する日韓合意の「再交渉」という大統領選公約に言及しなかった。現実的な内容と言える。

 問題なのは、女性家族省の事業として18年に慰安婦問題の記念日を制定すると明記したことだ。19年に「研究所」、20年には「歴史館」も創設するとしている。

 一連の事業を実際に進めれば、日本国民が反発し、両国関係の悪化は避けられまい。「未来志向」とも矛盾するのは明らかだ。

 国政計画は、慰安婦問題について「被害者と国民が同意できる解決方法」を目指すという。康京和外相は、日韓合意の再交渉が「選択肢の一つ」と述べている。

 だが、合意は「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した。新たな解決方法を探ったり、再交渉したりすることはあり得ない。

 元慰安婦の約7割が、合意に基づき設立された韓国の財団から現金支給を受けている。韓国政府は、こうした事実をより多くの国民に知らせるべきではないか。

 ソウルの日本大使館前と釜山総領事館前に設置された、慰安婦を象徴する少女像の撤去も課題だ。文政権は、像を設置した市民団体と話し合うなど、具体的に「努力」することが求められよう。

 文政権が、北朝鮮との対話に前のめりなのも気がかりだ。

 金正恩政権に対し、軍事当局者会談など南北対話を呼びかけた。議題として、軍事境界線付近での敵対行為の中止を提案した。

 日米韓3か国首脳は今月上旬、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決に向けて「最大限の圧力」を加えることで合意したばかりだ。この時期の対話提案は、北朝鮮への誤ったシグナルになりかねない。

 北朝鮮は提案を黙殺し、「米国に踊らされ、対北圧力の強化を追い求めている」などと韓国を非難した。文政権を揺さぶり、米国との離間を狙っているのだろう。

 今月上旬の北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射について、国連安全保障理事会は、追加制裁を含め、対応を協議中だ。

 韓国は、日米両国との連携を最優先すべきだ。制裁強化に慎重な中国とロシアを説得し、実効性ある決議を採択するため、協調行動をとることが重要である。

南海トラフ地震 予測情報の発信を工夫したい

 曖昧な地震情報を出されても、多くの人は対応に戸惑うだろう。政府は、発信内容をさらに工夫することが重要である。

 南海トラフ巨大地震に関する内閣府の調査部会が、新たな情報発信のあり方の報告書案をまとめた。

 静岡から九州沖まで続く南海トラフ(海底の溝)では、全体がほぼ同時に連動する地震のほか、東海、東南海、南海の震源域が時間差で震動するケースがある。

 1707年の宝永地震は、ほぼ全域が連動した。1854年の安政東海地震では31時間後に、1944年の昭和東南海地震では2年後に、南海部で地震が起きた。

 政府や自治体の対応が遅れているのは、時間差で震動するケースだ。最初の震源域に隣接した地殻の「割れ残り」地域では、住民の不安が拡大しよう。

 地震の発生前でも、地殻の異常な隆起や沈下、滑りなどの前兆現象を検知すれば、政府は、適切に参考情報を出す必要がある。

 報告書案は、連動型以外を4分類し、情報発信の例を示した。

 南海トラフの東側領域で地震が起きた場合は、「西側の発生確率は3日以内に10%程度」などと発信する。全域内でマグニチュード7級の地震があれば、例えば「より大きい地震の発生確率は7日以内に2%程度」と発表する。

 前兆現象の場合は、「地震の可能性が相対的に高まっている」のように漠然とした情報になる。

 問題は、一連の情報があくまで「可能性」に過ぎないことだ。

 そもそも地震の正確な予知は不可能である。報告書案も、「地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はない」と結論づけている。

 地震情報が発信された地域の自治体は、住民を避難させるべきか、対処に悩むだろう。企業が休業すれば、経済活動にも影響する。

 東海地震が予知できることを前提に、政府による厳重な交通規制などを可能にした大規模地震対策特別措置法(大震法)で指摘されてきたのと同じ問題が生じる。

 どの組織が観測データを評価して、発信するのかという重要な課題が残されている。いったん出された地震情報を適切に解除する仕組みも検討が求められる。

 内閣府は、防災専門家らによる作業部会を設けて、被災者の避難や救助・救援体制、大震法のあり方などを議論している。

 甚大な被害を少しでも軽減するため、政府と自治体が協力し、総合的な態勢を構築したい。

2017年7月22日土曜日

外国人観光客を地方に呼び込む工夫を

 2017年上半期の訪日外国人が前年同期比17.4%増の1375万人となり、過去最高を更新した。20年に年間4000万人を受け入れるという政府の掲げた目標も、現実味を帯びてきている。

 一方で4~6月期の訪日客1人あたり消費額は6.7%減った。京都など有名観光地の混雑や大都市でのホテル不足など、観光客急増による問題も起こっている。世界でも有数の観光大国となるには、一段の工夫が求められる。

 今後のカギは地方への誘客だ。日本を再訪する個人客には、欧米からの旅行者を中心に、買い物だけでなく自然や生活文化を体験したいという人も多い。地方は格好の舞台となりうる。外国人が大都市圏以外の地域でも旅をしやすいよう、環境を整えるべきだ。

 まずは交通手段の整備だ。地方空港に到着後、街に入る手段はわかりやすいか。観光地から観光地へと無駄なく移動できるか。自治体などの枠を超え、外国人の視点で改めて点検したい。

 兵庫県では15年、姫路城のある姫路市と城崎温泉のある豊岡市を結ぶバスが運行を始めた。大阪などの大都市を経由せず、効率よく日本文化を体験できるルートとして人気だという。

 バスやタクシーの用意が難しければ、一般人がマイカーで客を運べるライドシェア(相乗り)の導入を考えたい。海外では普及しており、旅慣れた外国人には喜ばれる。公共交通のない地域を訪れる外国人も増えるはずだ。

 個人宅などに旅行者を泊める民泊も、日本人とふれあい、生活文化を体験したい外国人を地方に呼ぶ有力な手段となる。民泊仲介大手の米エアビーアンドビーは一般家庭をはじめ古民家や元校舎など、通常のホテルや旅館とは異なる個性的な宿泊施設を外国人向けに紹介し、利用者を伸ばしている。

 地元の祭り、伝統工芸品の制作現場など、外国語で情報発信し見学や体験の仕組みを設ければ、外国人を呼べそうな地域資源は多い。企画作りにたけた人を外部から招き、地元の人々が協力すれば名所巡りに飽き足りない観光客を引きつけることは十分可能だ。

 民泊法の成立、外国語での有償ガイドの自由化、国家戦略特区でのライドシェア解禁など、観光振興に役立つ規制緩和が進みつつある。自治体などはこうした変化を生かし、訪日客の増加を地域おこしや文化交流につなげたい。

緩和の縮小を探る欧州中銀

 米連邦準備理事会(FRB)に続いて欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の出口を探り始めた。すでにユーロ相場や欧州の長期金利は神経質な動きを続けている。市場の混乱を招かないように、出口に向けた市場との対話には細心の注意を払ってほしい。

 ECBは20日の理事会では、金融政策の現状維持を決め、今年12月末まで月600億ユーロ(7.8兆円)のペースで国債などの資産を購入する方針を確認した。

 ドラギ総裁は理事会後の記者会見で、量的緩和の縮小に関連して「(声明文の変更などの)議論は秋に行う」と述べた。ECBは次回9月の理事会から来年1月以降の資産購入額の縮小の是非について本格的に議論する見通しだ。

 市場ではすでに、ECBの量的緩和からの出口を意識して、相場の変動が激しくなっている。6月下旬にドラギ総裁が講演で「デフレの力はインフレの力に置き換わった」と発言したのをきっかけに、為替市場でユーロ高が進行、ユーロ圏の長期金利も上昇した。

 ECBは市場の先走りをけん制するためか、理事会後の声明で、経済・物価の見通しに変化があれば緩和の拡大も辞さない姿勢も示した。ただ、ドラギ総裁の記者会見後に、ユーロ高への懸念を明確に示さなかったとしてユーロが上昇するなど市場はECBの発するシグナルに神経質になっている。

 量的緩和の出口に一足先に進んだFRBも、市場との対話には苦労し、市場が大きく揺れ動いたことがあった。出口について早く語りすぎると、意図せざる通貨高や金利上昇を招き、実体経済にも悪影響を及ぼしかねない。

 主要先進国ではFRBに続いて、カナダ中央銀行も12日に7年ぶりの利上げに踏み切った。2%の物価安定目標を達成していない日銀はなお金融緩和を継続する方針だが、海外金利の上昇圧力の国内金利への影響などに目配りする必要がある。また、米欧中銀の市場との対話の教訓を、将来にいかすべきだ。

(社説)日銀と物価 信頼失う安易な見通し

 「期待に働きかける」と言いながら、逆に期待を裏切り続けているのではないか。

 日本銀行が、物価の2%上昇という目標を達成する時期の見通しを、18年度から19年度に先送りした。4年前の「異次元緩和」開始から6回目の修正だ。

 これだけ前言撤回が続くと、今後の見通しにも信頼が置けなくなるのが普通だろう。先送りが続けば、緩和策を終える出口で日銀が被るコストも膨らむ。それだけに、安易な見通しが続くのは見過ごせない。

 今回の先送りの理由は「賃金・物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行が企業や家計に根強く残っている」「労働需給の着実な引き締まりや高水準の企業収益に比べ、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重」といったことだという。

 そうした要因があるのは確かだ。だがそれは、前回の見通しを示した4月時点でも分かっていた。実際、民間のエコノミストは、日銀よりかなり低い水準の物価上昇を予測していた。なぜこうしたことが繰り返されてしまうのか。

 黒田東彦総裁は先月の講演で、「中央銀行が物価安定に向けた強い意志を示すことが、人々の期待に働きかけ、金融政策の効果を高める」というのが今の政策の要点だと説明した。バブル崩壊後の経済低迷の中で人々に根付いた「物価は上がらない」というデフレ心理を、払拭(ふっしょく)するのが狙いだ。

 そうだとしても、これまでのような先送りを繰り返せば、日銀の物価安定目標に対する信認はむしろ低下し、インフレ期待の形成にもマイナスに働くのではないか。

 黒田総裁は、今回の先送り決定後の会見で、賃金や物価が上がらない状況が「ずっと続くということはありえない」と述べた。好況が続き、失業率も低下する中で、いずれは物価上昇が強まるとの見方だ。

 一般論としては正しいかもしれない。だが、人手不足なのに賃金が上がらないという「謎」については、専門家の間でも多くの仮説がある。家計の消費動向も、様々な要因の影響を受ける。現実の経済の中で家計や企業の意思決定に影響を与えたいのであれば、より緻密(ちみつ)で丁寧な分析と説明が必要だ。

 先行き見通しは、政策目標とは切り離して、現実的、客観的に立てる。期待に働きかけるためには、国民に納得のいく言葉で説明を尽くす。そうした姿勢に徹しなければ、政策効果は上がらず、中央銀行への信頼も失われていく。

(社説)部活動の改善 過度な練習と決別を

 過熱しがちな中学・高校の運動部活動を、どうやって適切で均衡のとれたものにするか。スポーツ庁が検討会議を設け、指針づくりにとり組んでいる。

 最近は、指導する教員の負担の重さにも注目が集まり、その是正は社会全体の関心事になっている。多くの生徒、保護者、教員が納得し、実効性のあるものにすることが大切だ。

 スポーツ庁の昨年の調査では、練習を休む日を学校の決まりとして設けていない中学が2割超、土日にまったく休んでいないところが4割超を占めた。

 休養日については、97年に当時の文部省の有識者会議が「中学で週2日以上、高校でも週1日以上の休み」をとるよう提言している。20年が経つのになかなか改善されていない。

 今回の検討会議では「スポーツで良い成績を残すと進学に有利になる現実の反映だ」「強くなりたいという、親や生徒の熱意が強すぎる」などの指摘が出た。指導する側にも「厳しい練習が子どもの成長や生活指導に役立つ」との声は根強い。

 たしかに部活動は生徒の心身を鍛え、社会性を育む場となり得る。そこから優れた選手も見いだされてきた。しかし、だからひたすら打ち込むことが尊いという話にはならない。

 練習時間が一定のレベルを超えると、けがや故障が起きる頻度が高くなる。睡眠時間が短くなるほど練習の意欲は下がる。そんなデータもある。

 大事なのは、部活動とそれ以外の生活とのバランスであり、練習の質だという認識を、すべての当事者がもつ必要がある。

 例えば日本サッカー協会が世界に通じる選手や人材を育てるために設けた「アカデミー」の練習時間は、13~15歳が週560分、16~18歳は730分ほどだ。試合は週末の1度だけで連戦はない。週1回の休養日に加え、夏冬にオフ期間をおく。

 参考になる数字だ。きつい練習が善という意識を、今度こそ変えてゆきたい。

 指針づくりでは、外部指導者の活用も論点になっている。

 外から招くコーチが役割を引き受けてくれれば、教員の負担軽減になる。だが、待遇や責任の分担など詰めるべき点は少なくない。そこで、規模も環境も異なる8府県市町を選び、指導者研修のプログラム開発や地域での人材確保策、プロチームとの連携などをテーマに研究を進める。全国の参考になるモデルを示してもらいたい。

 今回のとり組みは、文化系の部活動のあり方を考える際の手がかりにもなるだろう。

米中経済対話 世界の安定成長へ責任果たせ

 2大経済大国の貿易摩擦は、世界の安定成長を損ないかねない。互いに責任を自覚した行動が求められよう。

 米国と中国が閣僚級の経済対話をワシントンで開いた。米国の対中貿易赤字を削減する方策が議題となったが、何ら成果のないまま、物別れに終わった。

 米国の対中貿易赤字は3470億ドルで、全体の半分近くを占める。2位の対日赤字の5倍超だ。

 米国は今回、中国の鉄鋼過剰生産の是正や、外資規制の緩和を強く求めた。中国は、事実上のゼロ回答だった。会議の開始直後に、終了後の記者会見の中止が決まるほど、両者の溝は深かった。

 トランプ米大統領と習近平・中国国家主席は4月の会談で、両国の貿易不均衡是正に向けた「100日計画」策定に合意した。

 策定期間の100日間は貿易摩擦を表面化させないための先送り策とも言えた。期間満了を受けた今回の対話の決裂で、対立を抑止する道具立てが失われた。

 製造業の雇用回復を急ぐトランプ政権が今後、中国製品の輸入制限といった強硬策に出れば、報復合戦にも発展しかねない。

 現にトランプ氏は鉄鋼製品について、安全保障上の理由で輸入制限を検討中だと公言している。この措置は、世界貿易機関(WTO)ルール違反の恐れがある上、中国のほかに日本なども制限対象とされる事態が排除できない。

 既に欧州連合(EU)は、米国が欧州産鉄鋼に輸入制限を課した場合、米国産品に対抗措置を発動する、と牽制(けんせい)している。

 こうした制裁合戦が広がれば、部品供給などを通じて依存し合う貿易体制が大きく混乱し、世界経済に深刻な悪影響を及ぼそう。

 米国は、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定の見直しを次々に掲げている。しかし、各省庁の幹部人事は滞り、機能不全が指摘されている。

 米国は、政府の足元を固めることが先決だ。保護主義的手法に走らず、自由貿易の健全な発展を自国の成長につなげる本来の産業構造改革にこそ注力すべきだ。

 中国の責任も重大である。

 中国の鉄鋼生産量は、世界全体の半分に上る。実質破綻しているゾンビ企業を温存するなど過剰生産設備の廃棄も道半ばで、世界の鉄鋼相場を歪(ゆが)めている。

 不採算の国有企業を整理する。輸出依存の経済を内需主導に転換する。こうした改革を着実に進めていくことが、世界の自由貿易振興にも資する道である。

朝鮮学校判決 不透明な運営に公費は使えぬ

 不透明な学校運営の実態を踏まえた妥当な判断だと言えよう。

 高校授業料の無償化の対象から除外された朝鮮学校側が、国による処分の取り消しなどを求めた訴訟で、広島地裁が訴えを退けた。

 朝鮮学校の除外を適法と認めた初の司法判断である。

 無償化制度は、公立高を対象に民主党政権下の2010年に導入された。私立高には就学支援金が支給される。外国人学校も、本国などの高校と同等の教育内容であれば、対象になる。

 文部科学省は、自民党政権への交代後の13年、朝鮮学校を支給対象から除外した。朝鮮学校側は、平等に教育を受ける権利が侵害されたとして、各地で提訴した。

 朝鮮学校を巡っては、北朝鮮や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)との密接な関係が繰り返し指摘されてきた。公安調査庁は、朝鮮総連が北朝鮮の意向で非合法活動に関与しているとみて、調査や監視の対象にしてきた。

 別の訴訟で、学校側の資産が朝鮮総連のために流用されたと認定されたことも看過できない。

 こうした経緯を踏まえれば、就学支援金が授業料に適切に充当されない、と文科省が懸念したのは無理もない。訴訟でも、学校運営への「北朝鮮や朝鮮総連の影響力を否定できない」と主張した。

 判決がこれを追認し、文科省の除外決定が「裁量の範囲を逸脱したとはいえない」と結論付けたのは、もっともである。

 資産流用のような事態が今後も起こり得る、と文科省が考えたことについても、「理由がないとは言い難い」と認定した。自然な見方ではないだろうか。

 判決は、朝鮮学校が対象外となったのは、支給要件に該当しないためで、「民族を理由としたものではない」との認識も示した。

 法の下の平等を保障した憲法の規定に反する、との原告の主張を真っ向から否定する判断だ。

 高校無償化の目的は、家庭の事情にかかわらず、生徒の学習機会を確保することにある。政府が公金を投入する以上、不適切な使用を排除しなければ、国民の理解は得られまい。

 日本の高校に該当する朝鮮学校高級部は全国に11校あり、昨年5月時点の在籍生徒数は約1400人だ。朝鮮学校側は「子供たちへの差別をあおる判決だ」と反発し、控訴する方針だ。

 他の地裁でも順次、判決が言い渡される。朝鮮学校の実態に即した冷静な判断を求めたい。

2017年7月21日金曜日

物価2%目標、好循環伴う実現目指せ

 日銀が、消費者物価の上昇率が安定的に2%に達する時期を、従来の予想から1年先送りして「2019年度ごろ」とすることを決めた。収益が好調な企業が賃金を引き上げ、それが個人消費の拡大につながり、物価も上がるという好循環の実現に政府・日銀は粘り強く取り組む必要がある。

 黒田東彦日銀総裁が2013年4月にいわゆる異次元緩和を始めてから物価安定目標の達成時期を先送りするのはこれで6回目になる。

 日銀は20日の金融政策決定会合にあわせてまとめた「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、物価見通しを引き下げる一方、経済成長率の見通しは上方修正した。景気の先行きについては「景気は緩やかな拡大を続けるとみられる」とした。

 日銀は、内外経済が堅調なこともあり、「物価安定目標の達成に向けたモメンタムは維持されている」として、追加の金融緩和は見送った。

 経済が成長し人手不足にもかかわらず、賃金・物価がなかなか上がらない。

 携帯電話機や通信料引き下げという一時的な物価の押し下げ要因に加えて、日銀が指摘しているのは、物価が上がらないことを前提にした企業や家計の考え方や慣行だ。

 企業は人手不足に対応してパート従業員の賃金を上げているが、正社員の賃上げは抑制気味で、その代わりに省力化投資などにお金を振り向けている。賃金・価格の決定権を持つ企業が、依然として引き上げに慎重姿勢だという。

 賃金の上昇に広がりがないと、個人消費も盛り上がらないし、人々の予想物価上昇率もなかなか上がってこない。

 物価安定目標の達成には、日銀の金融政策だけではなく、企業の意識改革や、政府による構造改革を通じた成長戦略の推進も欠かせない。

 企業が日本経済の将来に自信を持ち、正社員も含めた賃上げに動く環境を整えることが必要だ。企業は生産性向上を実現すれば、その分を賃上げに振り向けることができる。

 規制改革を通じた国内投資機会の創出や、生産性向上に役立つ雇用市場の改革など政府の後押しも不可欠だ。経済が拡大基調にある今こそ、既得権益者の抵抗が強い構造改革を進める好機でもある。

危うい銀行の個人ローン拡大

 個人に無担保でお金を貸す銀行のカードローン事業が急拡大している。銀行は契約に際して利用者の返済能力や借入総額の確認を徹底し、多重債務者問題の再発回避に努めるべきだ。

 日銀による一連の金融緩和策で、銀行はこれまで主力だった法人融資や住宅ローンでは利ざやを稼げなくなっている。貸し出し全体の金利水準が1%以下まで低下するなか、小口ながらも2桁の金利で貸せる個人向けカードローンは銀行にとって魅力的に映る。

 大手から地方銀行まで一斉に重点分野と位置づけ、2016年度末の同ローンの残高は5兆6千億円と改正貸金業法が完全施行された10年末の1.7倍に膨らんだ。

 必要な短期資金を調達できる個人ローンの機能や利便性を否定する必要はない。問題があるのは「年収証明書不要」「審査迅速」などと借り入れ意欲を過度に刺激する銀行の宣伝姿勢である。

 06年に国会の全会一致で成立した改正貸金業法は、消費者金融業界に対する事実上の制裁だった。派手なテレビコマーシャルを大々的に流して手軽で安易な借り入れをあおった結果、返済のために別の借金を繰り返す多重債務者問題を引き起こした。改正法では貸金業からの借り入れを年収の3分の1までに制限する総量規制を導入。消費者金融会社の貸し出しは激減し、経営破綻も相次いだ。

 この過程で銀行を総量規制の対象から外したのは、銀行を優遇するのが目的ではなく、消費者金融と比べて顧客の立場に立った審査体制が整っているという信頼感に基づいていたはずだ。銀行が空白となった個人ローン市場に「銀行は総量規制の対象外」などと、ことさらにアピールして攻勢をかけるのは品位も欠き、問題だ。

 雇用の改善にもかかわらず、昨年の個人の自己破産申請件数は13年ぶりに増勢に転じた。銀行は金融庁の指摘を受けてローンの宣伝手法を見直すにとどまらず、啓蒙活動にも力を注ぎ、顧客に配慮した事業展開を徹底すべきだ。

(社説)朝鮮学校訴訟 無償化の原点に戻れ

 教育の機会を公平に保障するという制度の理念に立ち返って判断すべきなのに、あまりに粗雑な論理で導いた判決だ。

 高校の授業料無償化の対象から朝鮮学校を除外した国の処分をめぐる裁判で、広島地裁は19日、「国に裁量の逸脱はなく、適法だ」として、広島朝鮮高級学校側の訴えを退けた。

 判決が焦点をあてたのは、学校と朝鮮総連との関係だ。

 国は、過去の新聞記事や公安調査庁の報告書をもとに、「朝鮮総連の『不当な支配』を受け、無償化のための支援金が授業料に使われない懸念がある」と主張。判決はこれを認めた。

 この先も資金流用がありうると、どんな証拠に基づいて判断できたのか。地裁が取りあげたのは、約10年前の別の民事訴訟の判決だ。「総連の指導で学園の名義や資産を流用した過去がある」と指摘し、「そのような事態は今後も起こりえると考えられた」と結論づけた。総連の支配の継続については「変更や見直しを示す報道が見当たらなかった」ことを理由にした。

 朝鮮学校が総連と関係があるとしても「不当な支配」とまでいえるのか。地裁が実態の把握に力を尽くしたとは言い難い。

 原告側は生徒や教員の証人尋問や学校での現場検証を求めた。だが、地裁は採用せず、代わりに授業内容などのビデオ映像が法廷で上映された。

 少なくとも朝鮮学校や総連の関係者を証人として法廷に呼び、財務資料を提出させるなどし、国の主張が正当かを具体的に確認すべきではなかったか。

 高校無償化は10年に民主党政権で導入されたが、朝鮮学校は、北朝鮮の韓国・大延坪島(テヨンピョンド)砲撃を理由に適用が見送られた。12年の第2次安倍内閣の発足後、下村博文・文科相が拉致問題などで「国民の理解が得られない」とし、対象から外した。

 政治・外交問題に直接関係のない朝鮮学校の生徒に、まるで「制裁」を科すような施策には、国連の人種差別撤廃委員会も懸念を示している。

 中華学校やブラジル人学校など40余りの外国人学校が無償化の対象になっている。申請を国が認めなかったのは朝鮮学校だけ。制度の本来の目的に立ち返り、国は適用を検討すべきだ。

 多くの大学・短大が朝鮮高級学校生の受験資格を認めているのも、日本の高校に準じた教育水準とみなしているからだ。

 問われているのは、子どもの学ぶ権利に関わる教育行政の公平性である。原告側は控訴する方針という。高裁は丁寧な審理を尽くしてほしい。

(社説)山本担当相 強まった「加計ありき」

 安倍首相の友人が理事長を務める加計学園の獣医学部新設は「加計ありき」で進められた。そんな疑いがいっそう強まる文書が明らかになった。

 文書は、学園が国家戦略特区での学部設置を認められる約2カ月前、山本幸三地方創生相が日本獣医師会を訪れた際の獣医師会側の記録だ。山本氏が学園の具体名や、愛媛県や今治市の負担額をあげて学部新設方針を伝えたと記されている。

 山本氏はこれまで、国会答弁で「加計ありき」の手続きを否定してきた。文書に記された発言が事実なら、国会答弁と矛盾する重大な内容である。

 山本氏は「獣医師会側の思い込みと私の発言を混同したものであり、正確ではない」と文書の信用性を否定した。

 だが記録を示した獣医師会の指摘と、裏付けを示さない山本氏の主張と、どちらに信用性があるだろうか。

 思い出すのは、特区担当の内閣府が文部科学省に「総理のご意向」をかざして手続きを促したとする文科省の文書が明らかになった際の対応だ。

 次々に出る文書に対し、山本氏ら内閣府側はこう主張した。「『総理のご意向』などと伝えた認識はない」「職員が時として使用する強い口調が反映されたのではないか」

 では、文科省とどんなやりとりがあったのか。そう問われると、文書はないというばかり。

 獣医師会側との話し合いについて、山本氏は「議事録はないが、秘書官がメモ書きみたいに書いていた」と語ったが、後に「メモはもうないらしいが、内容は覚えている」と発言を修正した。文書の管理・保存に対する感度があまりにも鈍すぎる。

 大事な協議内容は記憶に頼らず、文書に残す。公的機関に限らず、民間でも常識である。

 その当たり前のことが、なぜ安倍内閣では通用しないのか。この問題の政府の説明に国民が納得しない背景には、そうした不信がある。

 来週24、25両日、国会の閉会中審査が開かれる。説得力のある根拠を示さぬまま、首相や山本氏が「一点の曇りもない」などこれまで通り訴えても、言葉が空しく響くだけだ。

 首相にひとつ提案がある。

 中立的な第三者に依頼して、首相官邸や内閣府の関係者の聞き取りや、文書の存否を徹底調査してもらい、結果を包み隠さず公表してはどうか。

 それくらいのことをしなければ、深く傷ついた国民の政治への信頼を少しでも取り戻すことはできまい。

物価目標先送り 焦らずに脱デフレを完遂せよ

 デフレ脱却に近道はない。政府・日銀が粘り強く政策を遂行していくしかあるまい。

 日銀が、経済成長や物価の先行きを示す「展望リポート」で、物価上昇率2%の目標達成時期を、これまでの「2018年度頃」から「19年度頃」に1年先送りした。

 達成時期の先送りは、日銀が13年4月に異次元緩和を始めてから6回目だ。黒田東彦総裁の任期が切れる18年4月までのデフレ脱却を断念したことになる。

 展望リポートは、今後の物価上昇率の見通しも下方修正した。

 17年度は前回4月の1・4%を1・1%に、18年度は1・7%を1・5%に引き下げた。19年度も1・9%を1・8%とした。

 物価回復の遅れによる先送りは残念だ。デフレ退治に魔法の杖(つえ)はないことを改めて銘記したい。

 ただし、先行きを過度に悲観することはなかろう。企業や家計を覆うデフレ心理は根強いが、物価は緩やかながら上向いている。

 昨年はマイナス圏だった消費者物価指数の上昇率は、今年1月にプラス0・1%に転じ、5月は0・4%まで回復した。

 黒田総裁は記者会見で「物価は2%に向けて上昇率を高めていく」との見通しを強調した。今こそ焦らず、腰を据えて金融緩和に取り組むことが大切である。

 日銀は昨年9月、金融政策の軸足を「お金の量」から「金利」に切り替える新たな枠組みを導入した。国債大量購入やマイナス金利政策の副作用を緩和し、長期戦に舵(かじ)を切った手法は、一定の効果を上げつつあるのではないか。

 気がかりなのは、市場金利の上昇圧力が強まってきたことだ。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げに転じるなど欧米当局の政策方針などが影響している。

 日銀の保有国債は、発行残高の約4割に達する。日銀や内外の動きに国債市場が過敏になり、金利は乱高下しやすくなっている。

 日銀は今月7日、指定した利回りで国債を買い入れる「指し値オペ」によって長期金利の上昇を抑え込んだ。今後も機動的な金利操作に努めることが大事である。

 無論、金融政策だけではデフレに勝てない。企業利益が賃金を押し上げる。消費が活性化し、物価が緩やかに上向く。そんな「好循環」を作ることが肝要だ。

 それには、政府が実効性のある成長戦略を進め、民間企業の生産性を向上させる必要がある。日本経済の底力を強めることで、デフレ脱却を成し遂げたい。

防衛省日報問題 混乱収拾へ真相解明が急務だ

 従来の説明の前提が崩れかねない事態だ。防衛省は、事実関係の究明を急ぐ必要がある。

 南スーダンで国連平和維持活動に従事した陸上自衛隊部隊の日報を巡る問題で、新たな展開があった。

 稲田防衛相が2月中旬、日報の電子データが存在していると陸自幹部から報告を受けていた、と報じられた。データは情報開示対象ではないと説明されたという。

 陸自は当初、日報は廃棄されたとしていたが、実際は保管されていた。稲田氏は3月以降の国会答弁などで、保管に関する「報告はなかった」と一貫して述べてきた。仮に報告が事実であれば、虚偽答弁にも当たりかねない。

 稲田氏は、陸自幹部らとの打ち合わせは認めたものの、「日報が見つかったという報告があったとは認識していない」と全面的に否定した。一方で、詳細に関する説明は避けている。

 稲田氏は、現在の事態を深刻に受け止めるべきだ。疑念を払拭(ふっしょく)するには、報道を否定するだけでなく、陸自幹部らとどんなやり取りをしたのか、丁寧かつ踏み込んで説明することが求められよう。

 昨年8月の就任後、稲田氏は問題発言を繰り返し、野党は罷免(ひめん)を要求している。閣僚、自衛隊の指揮官として資質を問われ続けているのは残念なことである。

 陸自の日報を巡っては、防衛次官、陸上幕僚長ら幹部が「個人データなので公表の必要はない」との方針を決めたとされる。きちんと真相を解明せねばならない。

 防衛相直属の防衛監察本部が3月から、日報問題について特別防衛監察を実施している。近く結果を公表する見通しだ。どこまで真実を明らかにすることができるかが問われよう。

 制度上、稲田氏ら政務三役は、監察の対象に入っていない。だが、稲田氏は、自ら調査に積極的に協力することが欠かせない。

 大切なのは、今の防衛省内の混乱が日本の安全に悪影響を与えないようにすることだ。

 北朝鮮は弾道ミサイル発射を強行し、中国軍艦・公船は日本領海への侵入を繰り返す。豪雨災害も続く。厳しい任務に取り組む自衛官の士気を下げてはなるまい。

 混乱の背景には、稲田氏ら幹部に不満を持つ勢力による“造反”が指摘される。日報公表の不手際に関する内局と陸自の責任の押し付け合いもあるという。

 内輪もめをしている場合ではなかろう。稲田氏らは、一刻も早く事態を収拾させるべきだ。

2017年7月20日木曜日

「米国抜き」の世界が本当にやってきた

 米国が超大国になって1世紀になる。「米国第一」はいまに始まったことではない。国益にしがみついて無謀な戦争を始めたり、金融市場を混乱させたり、と世界を振り回してきた。だが、いまほど自国に引きこもり、存在感を失った米国は記憶にない。

 「米国抜きの世界」が本当にやって来たともいえる。私たちはこの新しい秩序、いや、無秩序にどう向き合えばよいのだろうか。

 トランプ米大統領が就任して半年を迎えた。メディアとしては、ここがよい、ここが不十分だ、とそれなりの通信簿をつけるタイミングである。

 残念ながら、トランプ政権はありきたりの論評にはなじまない。長所や短所を探そうにも、そもそも何がしたいのか、誰が主導しているのかがよくわからない。

 政権の発足の前後、トランプ氏の一挙手一投足は世界中の注目を集めた。ツイッターの発信が多い米国時間の早朝に画面を見守る役職を設けた国もあった。

 最近は読むに値する発信はあまりない。政権半年の節目に「米国製品を買おう」運動を展開したが、その程度のことで米製造業がよみがえるわけがない。

 「北米自由貿易協定(NAFTA)を破棄する」「中国を為替の不正操作国に認定する」「医療保険制度改革法(オバマケア)を廃止する」――。これらの主張はどこに行ったのか。公約で本当に実現したのは、環太平洋経済連携協定(TPP)と温暖化に関するパリ協定からの離脱くらいだ。

 トランプ氏が尊敬しているとされるレーガン大統領は国政の経験がないのをわきまえ、大統領選でライバル陣営にいたジェームズ・ベーカー氏を中枢に置き、政権運営を任せた。トランプ政権は政治の素人が内輪もめを続けている。

 共和党主流派との折り合いが悪く、政策の推進力はほぼない。ロシアゲート疑惑に足を取られ、もはや暴走すらしないかもしれない。大統領任期はあと3年半あるが、何もせずに下降線をたどって終わるのではなかろうか。

 ギャラップ社の世論調査で16日時点の支持率は39%。6月に記録した37%よりましだが、上向く気配はない。もはやトランプ氏の顔色をうかがっても仕方がない。

 日本はどうすればよいのか。欧州やアジアの主要国との連携を深めることだ。国際秩序の漂流を少しでも食い止めるために。

正面から汚染水処理の議論を

 東京電力福島第1原子力発電所の汚染水処理をめぐり、同社の川村隆会長の発言が波紋を広げている。浄化処理した汚染水を海に流す方針を決めたと受け取られたためだ。同社は火消しに走るが、発言を問題視するよりもこの機会に正面から是非を議論すべきだ。

 汚染水は浄化処理しても放射性物質のトリチウム(三重水素)が残るので、タンクにためている。その量は約78万トンに達し敷地内のタンクは900基近い。トリチウム水は増え続けており、このままでは廃炉計画を妨げかねない。

 原子力規制委員会の田中俊一委員長はかねて、トリチウム水を薄めて海に流すことは技術的に問題がない、などと指摘してきた。東電は、川村会長が田中委員長の見解に同意する趣旨の発言をしたが、「最終方針を決めたわけではない」と説明する。

 国の基準ではトリチウム濃度が1リットルあたり6万ベクレル以下なら海に放出できる。環境や生体への影響が完全に解明されているわけではないが、低濃度トリチウムの危険性は極めて低いとされ、正常な原子力発電所などからも出ている。

 トリチウム水の処理をめぐっては昨年、経済産業省の作業部会が複数の選択肢を技術的に検討し、報告書にまとめた。そのなかで海洋放出がもっとも現実的だというのが、田中委員長や多くの専門家の見方だ。

 それでも、福島第1原発の事故以来、風評被害に苦しんできた漁業者らにとって海洋放出への不安は大きい。

 相次ぐ懸念の声を受け、吉野正芳復興相は、トリチウム濃度が基準を下回っても海洋放出には反対だと表明した。しかし、単に海洋放出を否定し、議論を封じたのでは問題は解決しない。

 海洋放出の濃度基準は何を根拠に決まったのか。科学的に未解明な点や、考えうるリスクは何か。風評被害にはどう対処すべきか。政府も東電も、地元関係者だけでなく消費者にも丁寧に説明したうえで、結論を出すべきだ。

(社説)稲田防衛相 首相はまだかばうのか

 防衛省・自衛隊のみならず、安倍政権全体の信頼性が問われる事態である。

 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊の日報が、「廃棄した」とされた後も陸自内で保管されていた問題で、対応を協議した2月の幹部会議に稲田防衛相が出席していたことがわかった。

 稲田氏は「隠蔽(いんぺい)を了承したとか、非公表を了承したとかいう事実は全くありません」と述べたが、複数の政府関係者が稲田氏の出席を認めている。

 この問題で組織的な隠蔽があった疑いはかねて指摘されてきた。稲田氏は3月、報道で陸自に日報が保管されていた事実が判明した後に、報告を受けていたかどうかを国会で民進党議員に問われ、「報告はされなかった」と答弁している。

 その稲田氏が幹部会議に出席し、報告を受けていたとすれば、防衛省トップとして公表を指示せず、さらには国会で虚偽答弁をしていた疑いが極めて濃くなる。

 稲田氏は、直轄の防衛監察本部に特別防衛監察の実施を指示したとして、国会での野党の質問に対して具体的な説明を拒んできた。だが監察結果は今なお公表されていない。

 そもそも特別防衛監察の対象に防衛相ら政務三役は含まれていない。そこに稲田氏自身の関与が疑われる事態となれば、もはや防衛省内での解明には限界があると言わざるをえない。

 やはり国会での真相究明が不可欠である。

 来週、衆参の予算委員会の閉会中審査が予定されているが、加計学園や森友学園の問題など論点は山積みである。野党が憲法53条に基づき要求している臨時国会をすみやかに召集するよう、安倍内閣に強く求める。

 稲田氏はこれまでも東京都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と呼びかけるなど、防衛相として不適格な言動を重ねてきた。なのに今も防衛相を続けているのは、任命権者の安倍首相が政治的主張の近い稲田氏をかばってきたからだ。

 今回の事態を受けても、菅官房長官は「今後とも誠実に職務にあたっていただきたい」と稲田氏を続投させる意向だ。

 だが現状をみれば、実力組織である自衛隊への文民統制が機能しているとは到底言えない。この異常事態はただちに収拾する必要がある。

 来月の内閣改造で稲田氏を交代させればいい。首相がもしそう考えているなら、甘すぎる。

(社説)司法通訳 専門職として制度化を

 捜査機関で適正な取り調べを受け、裁判所で公平な裁判にのぞむ。外国人の容疑者や被告にも保障される権利だ。

 ところが、捜査や公判で外国人が自分の立場を正確に説明できなかったり、通訳によって証言が誤って訳されたりする例が表面化している。

 事件の真相を解明するうえでも一定の技量をもった通訳の確保は欠かせない。裁判や捜査で言葉の壁をなくす「司法通訳」の資格化や、通訳選定の基準を明確にするルールづくりなどに、国は着手すべきだ。

 一昨年、全国の地裁や簡裁で判決を受けた被告のうち22人に1人にあたる約2700人に通訳がついた。使用言語は中国語、ベトナム語、タガログ語の順に多く、39言語に及ぶ。

 大阪地裁で5月、妻を殺した罪で実刑判決を受けた中国人男性被告の裁判では、警察での取り調べの録音・録画から大量の通訳漏れや誤訳が判明した。

 被告が殺意を否定する発言をしたのに訳されていないなど、弁護人の分析で約120カ所の問題点が見つかった。

 東京地裁での昨年の刑事裁判でも、インドネシア人証人の通訳内容を地裁が鑑定し、弁護側の分析で約200カ所の誤訳や訳し漏れが見つかっている。

 録音・録画があれば誤訳かどうか検証できるが、なければそれも困難となる。発覚した例以外で、誤訳の実態が見過ごされている可能性はある。

 通訳ミスは、誤った捜査や冤罪(えんざい)につながりかねない。

 問題は、日本では司法通訳に資格や語学力の基準がなく、裁判所や警察が個々の判断で依頼していることだ。拘束時間の長さの割に報酬は低く、専業で生計を立てるのは困難という。

 韓国・朝鮮語の法廷通訳を約25年務める女性は「精神的な負担が大きく責任も問われる仕事だが、専門職として社会で認識されていない」と指摘する。

 日本弁護士連合会は13年に意見書を出し、法廷通訳を資格制にすることや、報酬を規則で定めて能力の高い通訳には相応の額で身分保障することを提案した。資格制を導入している米国や豪州、報酬基準を明確にしている韓国を参考にしている。

 司法の一角を担う専門職として通訳を位置づけていくために、参考になる提案だ。

 警察官や検察官、裁判官、弁護士にも、通訳しやすい言葉を使うといった配慮が求められる。そのための研修も必要だ。

 万人にとって適正で公平な刑事手続きを整えるのは、法治国家として当然の責務である。

国連開発目標 貧困撲滅へ「日本流」の支援を

 途上国の貧困問題の解消には、生活・教育環境を向上させて、次世代を育成する施策が欠かせない。日本の持ち味を生かした支援を着実に拡大することが肝要である。

 岸田外相が、国連本部で開かれた「持続可能な開発目標」(SDGs)の閣僚会議で演説した。貧困や飢餓の撲滅など17分野の目標の達成に向けて、国際協力を推進する考えを表明した。

 開発目標について「誰一人取り残さない」という日本の基本理念を強調した。子供・若年層らに対する教育、保健、防災、ジェンダー分野を中心に、2018年までに10億ドル(約1100億円)規模の支援を行う方針も公表した。

 シリアなどで、内戦で損壊した校舎の復旧や教員の養成、避難民の教育に取り組む。インフラ整備などハード面だけでなく、人材を育成して自立を促すソフト面を重視した支援を拡大したい。

 就学率を上げるには、学校の建設にとどまらず、地域と保護者らが連携した運営など、教育行政の改革が重要となる。日本は長年、西アフリカなどで、こうした制度面の支援に取り組んできた。そのノウハウの活用が大切である。

 岸田氏は、北九州市の水道技術による途上国支援も紹介した。自治体や企業が持つ高い技術は、生活環境の改善に役立とう。

 SDGsは、貧困の撲滅、健康的な生活、質の高い教育の確保など、30年までに実現すべき目標を盛り込んだ国連の行動計画だ。

 日本は、人間一人一人の生活や尊厳を重視する「人間の安全保障」を国際協力の理念に掲げてきた。SDGsには、こうした主張が反映されている。日本は目標実現に主導的な役割を担うべきだ。

 国連の報告書は、16年時点で、世界の就業人口の約1割が1日1・9ドル未満で暮らしていると指摘する。貧困の蔓延まんえんや開発の遅れは、テロや暴力的過激主義などの土壌となりかねない。国際社会全体で対策を講じる必要がある。

 世界最大の援助国である米国のトランプ政権は、対外援助を所管する国務省の予算を大幅に減らす方針だ。世界的な開発資金需要を賄えない恐れも指摘される。

 日本の今年度の政府開発援助(ODA)予算は5527億円だ。2年連続で増えたが、ピークの1997年度の半分にとどまる。

 今後も、予算の大幅な増額は見込めない。民間企業や非営利組織(NPO)とも連携し、途上国の実情に応じて、より質を重視した支援を目指さねばならない。

蓮舫氏戸籍公表 後手に回った「二重国籍」対応

 国会議員として、法律を順守する認識が甘過ぎたと言うほかない。

 民進党の蓮舫代表が記者会見で、日本国籍と台湾籍の「二重国籍」問題について説明した。

 昨年9月に台湾籍を離脱し、10月に日本国籍の選択を宣言したことを証明する台湾当局の証書や日本の戸籍謄本などを公表した。

 1985年に日本国籍を取得した蓮舫氏が、昨年まで台湾籍を保有し、国籍法違反の状態にあったことが裏付けられた。2004年の参院選公報に「台湾籍から帰化」と虚偽を記載したのは、時効とはいえ、公職選挙法に抵触する。

 問題の発覚後、蓮舫氏の説明が二転三転したことも不信感を広げた。「もっと関心を持って確認すべきだったと深く反省している」と陳謝せざるを得なかった。

 今回の書類公表に10か月も要するなど、対応が後手に回った印象は否めない。党内には、この問題が足かせとなって保守層に支持を広げられず、党勢の低迷につながったという不満も出ている。

 疑問なのは、蓮舫氏が、自身の子供が成年に達するのを待って発表したと釈明したことだ。

 子供などのプライバシー情報は国籍選択と何ら関係がなく、明らかにする必要もない。

 昨秋に米国籍との二重国籍が発覚した自民党の小野田紀美参院議員は、直後に個人情報を伏せて戸籍謄本などを公表した。米国籍を放棄する手続きも行った。

 蓮舫氏も迅速かつ適切に対処していれば、ここまで反発は広がらなかったのではないか。

 蓮舫氏が、戸籍の開示について「私で最後にしてもらいたい」と述べ、不本意さをにじませたことには違和感を禁じ得ない。

 「社会の多様性を損なう」「外国人差別を助長する」といった一部の声を踏まえたのだろうが、筋違いの主張である。

 今回は、一般人が国籍で差別されたり、戸籍などの公表を強要されたりしたわけではない。

 蓮舫氏が説明責任を問われたのは、国会議員として法に背いたとの疑念を持たれたためだ。

 外国籍保有者が国会議員になることは制限されないが、外交官への採用は禁じられている。国会議員は、外交・安全保障、通商政策など国益に関与する公的存在であり、一般人と違って国籍を曖昧にすることは許されない。

 野党第1党党首の蓮舫氏は、首相や外相などを目指す立場だ。より厳しく自らを律することが求められるのは言うまでもない。

2017年7月19日水曜日

税収増に過度に頼った財政再建は問題だ

 内閣府が中長期の経済財政に関する試算をまとめた。名目の経済成長率が中長期で3%以上になっても、2020年度の国と地方をあわせた基礎的財政収支を黒字にする政府目標の達成は、難しいことが改めて鮮明となった。

 先進国で最悪という日本の財政状態を改善する魔法のつえはない。安倍晋三政権は目先の経済成長に伴う税収増に過度に頼ることなく、歳出・歳入の一体改革や潜在成長率を高める構造改革を着実に実施すべきだ。

 内閣府の試算によると、高成長の「経済再生ケース」でも20年度の基礎的財政収支は8.2兆円の赤字である。今年1月時点の前回試算よりわずかに改善するものの、赤字は高止まりしたままだ。

 より現実的な成長率を前提にした「ベースラインケース」では、基礎的財政収支の赤字は10兆円を上回る。

 いずれのケースも、19年10月に消費税率をいまの8%から10%に引き上げる前提の試算である。このままでは20年度に基礎的財政収支を黒字にする目標の達成はほぼ絶望的といわざるを得ない。

 見過ごせないのは、16年度の国の一般会計税収が7年ぶりに前年度を下回ったことだ。年度中に円高がすすみ、企業収益が伸び悩んだのも一因だ。

 政権の経済政策「アベノミクス」は経済成長で税収を増やし、財政再建につなげる道筋を描いていた。だが、もはや目先の税収増だけで財政再建が可能という発想は慎むべきではないか。

 財政再建の手段は、歳出削減、増税、そして経済成長に伴う税収増の3つしかない。安倍政権の対応はいずれも問題だ。

 第一に、社会保障費を中心とする歳出削減・抑制は不十分だ。所得や資産にゆとりのある高齢者向けの給付削減や負担増は待ったなしだ。

 第二に、政権は10%への消費増税を2度も先送りした。景気への配慮は必要だが、真に必要な増税から安易に逃げてはならない。

 第三に、構造改革にも課題を残す。たとえば国家戦略特区を舞台とした規制改革では、いまだに自家用車を使った移動サービスや、インターネットなどを利用した遠隔服薬指導の実績がない。

 「改革したふり」では困る。大事なのは、少子高齢化やグローバル化に対処できる日本経済へと体質改善を加速することだ。

政治要因で滞る中国経済改革

 中国の4~6月期の実質経済成長率は前年同期比6.9%だった。成長率は1~3月から横ばいである。景気はインフラ投資と消費が引っ張る一方、引き締め基調の金融政策の下、不動産関連の動きが鈍い。今後は緩やかな減速の動きに注意を払う必要がある。

 習近平指導部は2017年通年で「6.5%前後」という成長目標を掲げている。年初段階では不安要因があったため、政府は道路、空港などインフラ投資を急拡大した。4~6月期は21.1%という突出した伸びだ。巨額の投資をけん引役に通年目標の達成にはメドをつけつつある。

 とはいえ現状には危うさがある。中国は秋以降、5年に1度の共産党大会で最高指導部人事を控えている。習国家主席としては、この5年の政権運営の成果をアピールする場であり、経済状況が足かせになるのは避けたい。

 それがインフラ投資に頼ってでも成長目標だけは達成する姿勢につながった。半面、習主席自ら主導してきたはずの供給サイドを重視した構造改革は滞りがちだ。企業の債務比率の高さという問題も解決されていない。

 こうした状況の下、先に5年ぶりに全国金融工作会議が開かれた。習主席は深刻化する金融リスク問題を取り上げ、全体的な調整を担う「金融安定発展委員会」の設置を決めた。しかし、業界ごとに縦割りの監督行政は温存してしまった。

 金融監督は今後も中国人民銀行(中央銀行)に加えて、銀行、証券、保険の3つの監督管理委員会という計4組織が担う。これらは相互連携に乏しく、矛盾した指導をすることさえある。危機対応の能力にも大きな疑問が残る。抜本的な組織再編は今後も中長期的な課題だろう。

 一連の政策課題の先送りは、共産党大会を控えているという政治的要因が大きい。世界経済に多大な影響を及ぼす中国の経済・金融改革は極めて重要だ。遅滞は許されない。

(社説)ヒアリ対策 先例に学び定着阻止を

 毒を持つ外来種のヒアリが、各地で見つかっている。海外からのコンテナや貨物にまぎれこんできたとみられている。

 環境省が2005年に外来生物法に基づく「特定外来生物」の第1弾で指定して以来、警戒を続けてきたものだ。

 さまざまな手段を駆使して、ぜひ定着を阻止したい。

 南米原産のヒアリは1930年代に米国に侵入。21世紀に太平洋を越え、オーストラリアや中国、台湾でも繁殖している。

 モノや人の交流が盛んになるほど外来種は入りこみやすくなる。93年に広島県で見つかったアルゼンチンアリや、95年の大阪府のセアカゴケグモは大きな騒ぎになり、駆除も試みられたが、定着してしまった。

 ヒアリはこれらと比べても、想定される被害がけた違いに大きい。人を刺し、家畜を襲う。電化製品や通信設備の中に入り込み、故障の原因になる。米国では経済損失が年間7千億円にのぼるとの試算もある。

 まず行うべきは水際対策の徹底だ。当面の措置はもちろん、将来に備えて持続可能な監視体制を築くことが求められる。

 参考になるのが、同じ島国のニュージーランドの例だ。

 外来種の発見は、国や公的機関以外にも、輸入や運送、通関、荷役にかかわる業者に負うところが大きい。同国では生物がどんな荷物にまぎれこんでいるかのリスクを評価。それに応じて、業者が守るべき貨物の衛生管理に関する基準を作った。ヒアリなら、コンテナ以外にも車や中古機械、建築材などが「リスク高」に分類される。

 国内でどんな基準を設け、いかに実効あるものにするか。関係省庁で協議し、必要に応じて法改正や国際社会での連携強化に取り組んでもらいたい。

 それでも侵入を防げるとは限らない。国内で巣が発見されたときに迅速・確実に対応できるよう、専門家のネットワークづくりを急ぐべきだ。

 ニュージーランドでは06年に巣が見つかると、半径2キロ圏の土壌などの移動を制限し、殺虫エサや捕獲わなを使った監視を3年間続けて定着を阻んだ。

 私たちも正しい知識で、この問題にのぞむ必要がある。

 刺されると激しい痛みがあるが、命にかかわるのは呼吸困難など急性のアレルギー症状が出たときだ。一方、在来種のアリは、農作物や植物を害虫から守ったり、種子を運んだりと、生態系の中で大切な役割を果たしている。殺虫剤でむやみにアリを殺すようなことはせず、落ちついた行動を心がけたい。

(社説)韓国の提案 日米との連携忘れずに

 北朝鮮は日米韓のわずかなズレを突いて連携を乱そうとしてきた。3カ国はそれを常に意識し、結束を強めなければ事態打開はありえない。

 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権が、国際社会の非難を無視して核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に、本格的な対話を独自に提案した。

 対話によって朝鮮半島の当事者である韓国と北朝鮮の風通しが良くなれば、それ自体は地域の安定にとって好ましい。

 ただ、韓国の提案直後の日米両政府の反応を見る限り、事前に十分な合意が図られていた形跡は乏しい。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射など、北朝鮮の脅威の度合いは増している。文政権は関係国、とりわけ日米に事前の説明を尽くしたうえで行動に出るべきだった。

 韓国政府が呼びかけたのは、南北の軍事当局者会談と赤十字会談の開催だ。軍事会談では、北朝鮮指導部が嫌がる軍事境界線付近での宣伝放送の停止も議題にする模様だ。

 一方、赤十字会談で話し合う予定の離散家族の再会事業は、北朝鮮側が外部からの情報流入に神経をとがらせてきた。

 二つの提案は、文大統領が今月6日、東西ドイツの統一を象徴するベルリンで演説した北朝鮮へのメッセージが土台になっている。

 演説で文大統領は、核問題だけでなく、北朝鮮が望む平和協定の締結などすべてを対話のテーブルに載せようと訴えた。

 その姿は17年前、同じ地で平和共存を力説した故・金大中(キムデジュン)大統領と重なる。当時の北朝鮮は難色を示したものの、結果的に初の南北首脳会談が実現した。

 確かに今回の提案内容は、国連安保理決議による制裁などに反しない民族間の固有の問題だ。それでも今回の提案が、日米韓の連携に微妙なさざ波を立てたのは間違いない。

 米ホワイトハウスの報道官は、対話の条件が満たされているとは言えないとして、否定的な反応をみせた。

 日本政府にも韓国の独自行動への反発はあるものの、菅官房長官は「北朝鮮に対する圧力を強化する日米韓の方針との関係で問題になるとは考えていない」と述べるにとどめた。

 大事なことは、圧力を続けることを共通認識としながらも、平和的解決に向けていずれは必要となる対話に踏み出すための具体的な道筋を、3国政府が共有しておくことである。

 今回の韓国の提案もその一環として、日米とのすり合わせをいまからでも急いでほしい。

財政試算見直し 20年度黒字化は現実的目標か

 将来世代へのツケを少しでも軽くするため、歳出・歳入両面で不断の改革が求められる。

 政府は、2020年度の基礎的財政収支が8・2兆円の赤字になるとの試算を公表した。国債などの借金に頼らず、政策経費をどれだけ賄えているかを示す指標だ。

 政府は財政再建の目標として、20年度の黒字化を掲げているが、このままでは巨額の赤字が残ることを示している。

 赤字幅は1月時点の試算より0・1兆円縮小したものの、「焼け石に水」である。歳入の大幅な増加が見込めない以上、抜本的な歳出改革を断行せねばならない。

 国と地方の長期債務残高は1000兆円を超え、財政は危機的状況にある。特に、国の予算の3分の1を占める社会保障費の見直しは急務だ。現行制度のままでは、高齢化の進展などで毎年6000億円規模で膨らむ。

 収入の多い高齢者に対する年金給付の抑制や医療費負担の増加といった改革が避けられない。

 そもそも試算は、アベノミクスの成功を前提にしている。17年度以降の名目経済成長率が2・5%から3%台後半と高めに推移すると見込み、それに伴って税収が増えると想定している。

 だが、日本経済の実力である潜在成長率は0%台に過ぎない。16年度の名目成長率も1・1%にとどまった。こうした経済情勢が続けば、20年度の赤字額は10兆円を大きく上回るとみられる。

 潜在成長率を底上げするため、規制緩和や「働き方改革」、成長産業への大胆な転換といった構造改革を進めることが肝心だ。

 試算は、19年10月に予定される消費税率10%への引き上げも前提にしている。将来的な消費増税は不可避だが、予定通り実施するかどうか、景気情勢などを多角的に検討する必要があろう。

 政府は6月、基礎的財政収支の黒字化と並ぶ財政再建目標として「債務残高の対国内総生産(GDP)比の引き下げ」を掲げた。

 GDP比は、国債の追加発行による景気刺激策でGDPを増やすことでも下げられる。これでは、債務削減という真の財政再建にはつながらない。まずは基礎的財政収支の黒字化を目指すべきだ。

 ただ、現行の黒字化目標は、期限があと3年余りしかない。達成は極めて困難な状況と言える。

 より現実的な目標とするには、どのような工夫が可能なのか。政府・与党内で議論を深める時期に来ている。

エネルギー白書 収益力高める海外戦略を競え

 エネルギーの自由化時代を迎え、新たな成長シナリオをどう描くのか。電力・ガス会社が直面する課題である。

 経済産業省が2016年度エネルギー白書で、電力・ガス大手に積極的な海外展開や新事業開拓を促している。

 電力・ガス会社は従来、岩盤規制に守られ、それぞれ営業地域を独占してきた。燃料費などに一定の利益を上乗せして料金を決める総括原価方式にも支えられた。

 各社の事業の多様化は遅れている。大半の海外売上高は数%台だ。「地域独占」に甘えて、企業努力を怠ってきた面は否めまい。

 だが、昨春に電力小売りが、今春にガス小売りが全面自由化された。新規参入が進み、市場の様相は変わりつつある。人口減で長期的な需要縮小も避けられない。

 「国外市場への展開がエネルギー産業発展にとって重要だ」との白書の指摘は理解できる。

 自由化市場で各社が創意工夫を凝らし、収益力を高めることは、消費者にもメリットが大きい。

 海外の電力・ガス会社の買収といった事業の拡大によって収益基盤が強化されれば、料金の値下げやサービスの充実が期待できる。発電や送電設備への十分な安全投資を行うことは、エネルギーの安定供給にも役立とう。

 白書は、自由化で先行する海外事例を紹介する。独電力大手「エーオン」は、英国企業の買収を手始めに、海外展開を加速した。

 英ガス大手「セントリカ」は国内の電力事業に参入後、米、カナダの企業を買収した。

 国内市場でも、ビッグデータや蓄電池を活用した新しい省エネ事業の提供などが可能という。

 海外各社に比べて、日本企業の技術力は決して劣っていない。

 発電効率の良い液化天然ガス(LNG)・石炭火力発電や、高性能の原子力・太陽光発電は、世界的にも評価されている。これまで培ってきた発電や送電事業の運営のノウハウも豊富だ。

 経済成長を続け、エネルギー需要が増えているアジアの新興国に地理的に近いことも強みだろう。有望市場を取り込む経営戦略を海外企業と競ってもらいたい。

 原発については、政府の役割も重要だ。輸出を後押しするとともに、建設や運営を担う人材育成を強化しなければならない。

 原発事故後、原子力分野に進む学生が減った。再稼働の遅れによって、技術継承も難しくなっている。産学官が協力し、技術者養成に知恵を絞りたい。

2017年7月17日月曜日

医療・介護費を不断の改革で抑えよ

 2014年度の国民医療費は40兆円強、介護給付費は10兆円と合わせて50兆円を突破した。国内総生産(GDP)比は早くも節目の10%水準に達している。医療・介護費は経済成長を上回って膨張しており、制度の持続性が危うい。

 これまで私たちはGDPの10%を大きく超さぬよう不断の改革で膨張を抑えるよう求めてきた。

 戦後ベビーブーム期に生まれた団塊の世代「1期生」が後期高齢者になるまでに5年しかない。安倍政権は制度の持続性を確かにする改革に早急に乗り出すべきだ。

安易な後期医療の財源

 政権は19年10月に消費税率を10%に上げる。医療・介護費の膨張構造を温存したままでの増税は、穴が開いたバケツに水を注ぐに等しい。増税分を社会保障の充実に有効に使うためにも、まず給付抑制に主眼を置かねばならない。

 政府は18年度に医療・介護の公定価格である診療報酬と介護報酬の増減率を同時に改定する。主に医療職の人件費に充てる診療報酬本体の改定率は、日本医師会を巻きこんでの大議論になろう。

 デフレが続き、賃金水準が全般に伸び悩んだこの十数年、報酬本体は上昇基調をたどっている。一段の引き上げの必要性は小さい。

 医療改革の重要な論点は、公の健康保険の給付範囲をどうするかだ。医師が処方する薬のなかには薬局が扱う市販薬と成分や効果・効能が変わらないものがある。このような処方薬は保険の対象から外すのが原則である。

 先進医療の扱いも焦点だ。医療技術の進歩には目を見張るものがある。がんや循環器疾患などの分野では新技術や新薬が次々に開発されている。患者本位の医療を実現させるためにも、有効性・安全性を確認したものは早く治療に使えるようにすべきだ。

 それには、当座は保険対象外であっても、患者がほかの保険診療と同時に受けられる混合診療を広げるのが理にかなっている。

 重複受診や多重検査を減らすには家庭医と専門医の役割分担を促すのが有効だ。医学教育を拡充させ、種々の病気を一通り診られる家庭医を育てる必要がある。

 患者は重篤な病気が疑われる場合を除き、家庭医へ行くのを原則とし、必要に応じて専門医にかかる仕組みにする。双方の連携を密にすれば医療の質は高まる。

 加えて医療費の負担構造の見直しが待ったなしだ。後期高齢者の医療費は税財源を主体にするのが筋である。しかし厚生労働省などは企業の健康保険組合などの拠出金を増やすことで繕った。

 取りやすいところから取る策の典型であろう。社会保障・税一体改革による消費税の増税分を充てる病院補助金などは減らし、後期医療に回してはどうか。

 今や年間の死亡者は130万人を超える。25年には150万人に激増する見通しだ。多死社会が到来するなかで介護保険改革が急務だ。論点は主に3つある。

 第1は、真に介護が必要な人に質の高いサービスが届くよう、軽度の要介護者はその経済状況に応じて自己負担を増やすなどして給付範囲を絞り込む。料理、掃除の手伝いなど生活援助を漫然と続けていては制度はもたない。

 第2は、要介護度の改善や自立の後押しだ。どのサービスがより効果的か、自治体は先進事例の研究やビッグデータ分析を急ぎ、有効な仕組みをつくってほしい。

介護の給付範囲を絞れ

 第3は、要介護者を支える体制を自治体が当事者意識を持って整えることだ。末期がんの痛みを和らげるケアやみとり医療の重要性は一段と高まっている。持病を抱えていても病院より自宅や施設で暮らしたい高齢者の思いに応えるためにも、急性期病床から居住性の高い施設への転換を促したい。

 介護は重労働だ。それに見合う賃金の引き上げが課題だが、財源を介護報酬だけに頼るのは無理がある。解決策の一つは、利用者が自費でサービスを受けやすくすることだ。その前提として保険サービスと組み合わせる混合介護の使い勝手をよくする必要がある。

 逆風のなかで介護人材を増やすのが喫緊の課題だ。法務、厚労両省は外国人の技能実習に介護を加えるが、付け焼き刃と言わざるを得ない。経済連携協定を結んだ東南アジアの国から意欲ある人材が来やすいよう運用を見直すのが本道だ。ロボット介護をどう位置づけるかも、結論を急いでほしい。

 高齢者などからの反発を恐れて医療・介護改革を先送りすれば制度がもたない。為政者は将来世代に責任を持ち、正面から切り込むべきである。

(社説)憲法70年 多様な人々の共生社会を

 観光地で、飲食店で、そして学校や職場でも。海外からやってきた人びとの姿は今や、日常に溶け込む光景になった。

 日本に暮らす外国人は昨年末の時点で238万人と過去最多となった。登録された国籍・地域は196にのぼる。

 欧米の国々と同様、日本も多様な社会への道を確実に歩み始めている。

 では日本国憲法は、外国人の権利を守っているのだろうか。答えはイエスだ。70年前に施行された憲法は、外国人の基本的人権の尊重も求めている。

 ■外国人の人権等しく

 すべて国民は法の下に平等で、人種、信条、性別、社会的身分などで差別されない――。憲法14条はそう定めている。

 「国民」とは誰か。最高裁は1978年の判決で「権利の性質上、日本国民のみが対象と解されるものを除けば、基本的人権の保障は外国人にも等しく及ぶ」との見解を示した。

 むろん「入国の自由」などの権利は原則、外国人には及ばない。また、この判決は人権保障の対象を、日本政府が在留を認めた外国人に限っている。

 そうした留保はあっても、原則として人間の平等をめざす趣旨は忘れてはなるまい。

 外国人の人権を保障しているのは、憲法だけではない。79年の国際人権規約批准、95年の人種差別撤廃条約加入によって、日本も「人種や民族による差別は認めない」との普遍的な規範を国際社会と共有してきた。

 憲法が、条約や国際法規の順守を求めていることも留意しておくべきだろう。

 ただ、実際に外国人は平等な生活を営んでいるだろうか。

 法務省が昨年、日本に長期滞在する18歳以上に尋ねたところ、差別が日常化している実態が浮かんだ。

 外国人であることを理由に入居を断られた――。過去5年間に家を探した人のうち39%がそんな体験をしていた。「『外国人お断り』と書かれた物件を見てあきらめた」人も27%いた。

 就職や職場でも、壁がある。 就職を断られた(25%)▽同じ仕事なのに日本人より賃金が低かった(20%)▽昇進できない不利益を受けた(17%)。

 ■生かされぬ理念

 人種や民族、国籍の違いが理由で、当然の権利が阻まれているとすれば、外国人と共に暮らす社会は成り立たない。

 なぜ憲法や条約の理念が生かされないのか。外国人が置かれてきた状況を振り返る。

 戦後しばらく、外国人は明確に「管理」の対象とされた。

 憲法が施行される前日の47年5月2日、日本国籍を持つ朝鮮や台湾の旧植民地出身者を「外国人」とする勅令が出された。52年に日本が主権を回復すると、この人たちは日本国籍を失い、外国人登録法で登録時の指紋押捺(おうなつ)が義務づけられた。

 あたかも犯罪の容疑者のように指紋押捺を強いる制度は人権侵害とする批判が80年代に高まり、在日コリアンら特別永住者について93年に廃止された。

 その後も日本の入国管理政策は厳しさで知られたが、それでも経済成長により就労や留学で来日する人が増えた。日本人との国際結婚も珍しくなくなった。外国人は今では日本社会の不動の一員といえる。

 だが、その現実に意識や制度が追いついていない。

 確かに、外国人の入居や入店を断る行為を、違法とする司法判断は積み上がっている。

 だが、今回の調査は、裁判に至るのは一握りで、被害者の大半が「泣き寝入り」していると見るべきことを示している。

 人種や民族を標的にした差別的言動については1年前、ヘイトスピーチ対策法が成立した。一歩前進ではあったが、差別をなくすにはさらなる方策を考える必要がある。

 国内法の不備を再三、問題視した国連の人種差別撤廃委員会に対して、日本政府は「立法が必要とされる人種差別行為はない」と苦しい反論をしてきた。

 政府も国会も現実を直視し、事態の改善へ向けた真剣な論議を始めるべきである。

 ■心の垣根なくす試み

 「外国人お断り」などの露骨な排斥や、低賃金・長時間労働といった人権侵害は当然、なくしていかねばならない。

 一方、「マナーが悪い」「言葉が通じないから面倒」といった誤解や偏見から外国人の入居を断る事例も後を絶たない。

 日本の賃貸制度や居住マナーを外国語で説明した冊子を配ったり、外国人と日本人双方の相談に乗る窓口を設けたりして、差別を防ぐこともできる。

 日本人と外国人をつなぐ試みは、日本語の学びの場の開設や防犯活動など、各地に広がっている。自治体や市民団体の努力をもっと支援していきたい。

 心の垣根を取り払い、外国人に「この社会の一員」との自覚をもってもらえる方策こそ、憲法を生かし、日本の繁栄と安定をもたらす道だろう。

2五輪一括決定 魅力ある祭典に変われるのか

 異例の手法には、国際オリンピック委員会(IOC)の強い危機感が反映されている。

 IOCが、2024年と28年の夏季五輪の開催地を一括して決定することを臨時総会で承認した。

 24年五輪に立候補している米ロサンゼルスとパリのいずれかが、28年五輪を開催する。9月の総会で振り分けが決まる見通しだ。

 住民の後押しを受けて、五輪招致に積極的に取り組む都市が減少している。その厳しい現状が、今回の承認の背景にある。

 24年五輪には両市のほかに、独ハンブルク、ローマ、ブダペストが名乗りを上げていたが、次々と撤退した。重い財政負担への懸念が主な原因だ。住民投票で招致反対が過半数を占めて、撤退を余儀なくされた例もある。

 20年東京五輪の開催計画で、費用の高騰が問題化したことも一因となったのではないか。

 ロサンゼルスとパリだけが残ったことは、ごく限られた大都市しか五輪を開催するのは難しくなっている現実を物語る。

 大会の7年前に開催地を決める方式を続け、28年五輪の招致でも各都市からそっぽを向かれれば、五輪の地位は大きく揺らぐ。それを避けるために、IOCは窮余の策に打って出たと言えよう。

 2大会の開催地が同時に決まれば、24年五輪を招致できなくても、再度、招致活動に取り組む必要はなくなる。両市にとってのメリットは小さくない。

 冬季五輪でも、危機的状況は変わらない。22年五輪の北京開催が決まった際にも、撤退する都市が相次いだ。14年ソチ五輪で、ロシアが5兆円とされる巨費をつぎ込んだ。それにより、敬遠ムードが広がったことは間違いない。

 肥大化し、国威発揚の場としても利用されてきた五輪は、変容を迫られている。28年までは夏季五輪の開催地の心配が不要になることで、IOCは、腰を据えて改革に取り組まねばならない。

 改革の基になるのは、IOCが14年に採択した「アジェンダ2020」だ。開催都市の負担軽減のため、既存・仮設施設の活用といった対策が盛り込まれている。

 20年東京五輪は、改革を実践する大舞台である。開幕まで24日であと3年となる。政府や都、大会組織委員会の連携不足などで、準備には遅れが目立つ。

 将来の五輪の姿をどのように描くのか。東京五輪は世界の注目を集めていることを肝に銘じ、準備を加速させてもらいたい。

空き地活用策 地域の新たな「資源」にしたい

 人口減少で増え続ける空き地や空き家を、街づくりの「資源」と捉え、有効に生かしたい。

 国土交通省の有識者検討会などが、空き地と空き家の利用に向けた新たな提言をまとめた。点在する空き地・空き家を、地域を活性化するテコと位置付け、効果的な利用法を探るように促している。

 具体的には、行政と不動産業者、市民団体などが協議会を作り、街づくりの絵を描く。空き地や空き家の情報を集約して、どう活用すべきかを総合的に考える。

 これまでは市町村が物件ごとに利用者を募る「空き家・空き地バンク」があったが、総じて利用は低調だ。街の賑にぎわいが失われつつあるような地方では、不動産需要そのものが限られるためだ。

 提言は、使い道を柔軟に決められる空き地などの有用性を強調した。その狙いは理解できる。

 独創的な発想で、空き地や空き家の購入、賃借を進めている例も出始めている。

 兵庫県篠山市では、地元有志や市が城下町を「一つのホテル」と見立てた。空き家は古民家旅館に改装し、空き地は店舗前の街路などにした。歴史的建物も改修し、旅行客を大幅に増やした。

 佐賀市では、市と市民団体が商店街の一角の空き地にコンテナを並べ、童謡教室や雑貨販売などに使う。年4万人以上が訪れ、商店街にも活気が戻った。

 他地域でも、地元の特徴を最大限に生かすことが求められよう。政府も先進事例などの情報発信に努める必要がある。

 人口増加の時代は、空き地や空き家が出てもすぐ利用され、問題化しにくかった。今も多くの市町村で担当部署が明確でないため、対応が後手に回っている。まずは行政の態勢整備が急がれる。

 宅地の空き地・空き家は、この10年でいずれも約2割増えた。地方や都市郊外で増加が際立つ。

 空き地などは、ゴミの投棄や雑草、害虫問題を引き起こし、周辺の生活環境を悪化させる。地域のイメージ低下をも招く。

 所有者不明の空き地も多い。土地を相続した人が登記せずに死亡した場合などだ。政府は、こうした土地を道路整備などの公共事業に活用できる「利用権」を新設する法整備を検討している。

 利用を始めた後に所有者が名乗り出た際の対応が課題となる。金銭や代替地の提供が想定される。個人の資産にかかわるだけに、混乱を招かぬよう透明性の高い制度設計を進めてほしい。

2017年7月16日日曜日

転勤制度を社員が納得しやすいものに

 親の介護や育児がしづらくなるなどの理由で、転勤をしたくないと考える人はいまや少なくない。転勤のあり方が問われているといえよう。

 転居を伴う人事異動が嫌われて企業の新卒採用や中途採用がしにくくなったり、退職者が増えたりすることも考えられる。本人の望まない転勤はなるべくしなくて済むようにするなど、企業は制度を工夫してはどうか。

 労働政策研究・研修機構の調査によると、正社員で「できれば転勤はしたくない」という人は4割いた。「転勤は家族に与える負担が大きい」とした人は9割近い。進学期の子どもの教育や持ち家の所有が難しくなることも転勤が敬遠される理由だ。

 共働き家庭が全世帯に占める割合は6割に達しており、夫の転勤によって妻のキャリア形成が妨げられやすいという問題も見過ごせなくなっている。

 転勤は社員を新しい環境に移して経験を積ませることで、人材育成の効果があるとされる。しかし必ずしも転居を伴う異動をさせなくても、本社内の新規プロジェクトに参加させるなどで、人の養成は進められるのではないか。

 グローバル化が進み、国内での経験より海外経験が重視される傾向もある。国内の転勤については人材育成の効果が相対的に弱まっているともいえよう。

 こうした変化を踏まえると、転勤の制度は見直しの時期に来ているといえる。人事制度を複線化し、会社の命による転勤があるコースと、そうでないコースに分けるなど、転勤の有無をはっきりさせることが企業に求められる。

 その人以外には適任者がいないというケースを除いて、転勤は本人の同意を前提とするといったルールをつくる方法もあるだろう。海外企業は一般に、社員の転勤は本人同意を条件としている。

 外資系企業などでは国内拠点で欠員が出ると、赴任者を社内公募する例がみられる。キリンビールには育児や介護などの事情がある社員が、最大5年間、転勤をせずに済むよう申請できる制度がある。社員の納得を得やすい仕組みを各企業が考えてほしい。

 日本企業は社員に、長期の雇用を保障する代わりに残業や転勤を求めてきた。残業の削減に加え、転勤の制度の見直しも進み始めれば、正社員の雇用のあり方も変わっていく可能性があろう。

国と沖縄はいつまで戦うのか

 国と沖縄県が再び法廷闘争に突入する。なぜかくもいがみ合わねばならないのか。最後は司法の判断に委ねるにしても、ここまで話がこじれた要因をよく考え、摩擦を少しでも和らげるための努力をしてもらいたい。

 国は米軍普天間基地を同県名護市辺野古へ移設するのに必要な周辺水域の埋め立て工事を進めている。県は18日にも、国に埋め立て工事の差し止めを求める訴訟を起こす。

 県が2013年に出した周辺水域の岩礁破砕許可は今年3月で失効した。国がその後も工事を続けているのは違法である、というのが県の言い分である。

 国は、県の破砕許可はもはやいらなくなったと反論する。許可は水産資源を保護するためのものであり、地元漁協が今年1月に漁業権を放棄したので、保護対象が消滅したという説明である。

 最高裁は昨年12月、県が破砕許可を取り消したのは無効だとする判決を下した。今回も国の主張を100%支持する可能性が高い。日本は法治国家であり、県は判決が出たら従うべきだ。

 問題は、県の主張を法的に退けたとしても、それだけで県内の反基地運動がなくなるわけではないことだ。移設が実現しても、県民の理解と協力がなければ、基地の円滑な運用は望めない。有事の場合はとりわけだ。

 安倍政権は県の提訴で工事が中断した場合、翁長雄志知事に損害賠償を求めることを検討中だ。億円単位になるとの見方もある。来年の知事選をにらみ、翁長知事に打撃を与える狙いのようだ。

 そんなことをすれば、県民の反本土感情を勢いづけるだけだ。意に沿わない相手がいると、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」とむきになる。安倍政権のこうした姿勢が批判された東京都議選の二の舞いになりかねない。

 普天間移設問題は、安倍政権の今後の政治姿勢を問う試金石である。なぜ移設が必要かを県民に丁寧に説く努力を求めたい。

(社説)労基法の改正 懸念と疑問がつきない

 一定年収以上の専門職を労働時間の規制から外し、残業や深夜・休日労働をしても会社が割増賃金を払わない制度の創設が現実味を帯びてきた。

 制度を盛り込んだ政府の労働基準法改正案に反対してきた連合が容認姿勢に転じ、神津里季生会長が安倍首相と会って一部修正を要望した。首相も受け入れる意向で、改正案を修正し、秋の臨時国会で成立を目指す。

 だが、残業代の負担という経営側にとっての歯止めをなくせば、長時間労働を助長しかねない。そう連合自身が指摘してきた問題点は残ったままだ。方針転換は傘下の労働組合にも寝耳に水で、あまりに唐突だった。修正の内容、検討過程の両面で、懸念と疑問がつきない。

 連合の修正案は、今は健康確保措置の選択肢の一つである「年104日以上の休日取得」を義務付ける。さらに、労働時間の上限設定▽終業から始業まで一定の休息を確保する「勤務間インターバル制度」▽2週間連続の休日取得▽年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断、の四つからいずれかの措置を講じるというものだ。

 だが、この内容では不十分だ。過労死で家族を失った人たちや連合内からも批判と失望の声があがっている。

 年104日は祝日を除いた週休2日制に過ぎない。しかも4週で4日休めばよいルールなので、8週で最初と最後に4日ずつ休めば48日連続の勤務も可能だ。働く時間の制限もない。

 また四つの選択肢には、臨時の健康診断のような経営側が選びやすい案がわざわざ盛り込まれた。これで労働時間の上限設定や勤務間インターバル制度の普及が進むだろうか。

 労働団体にとって極めて重要な意思決定であるにもかかわらず、連合は傘下の労働組合や関係者を巻き込んだ議論の積み上げを欠いたまま、幹部が主導して方針を転換した。労働組合の中央組織、労働者の代表として存在が問われかねない。

 この規制緩和は経済界の要望を受けて第1次安倍政権で議論されたが、懸念の声が多く頓挫した。第2次政権になり2年前に法案が国会に提出されたが、これまで一度も審議されず、政府の働き方改革実現会議でもほとんど議論されていない。

 臨時国会では同一労働同一賃金や残業時間の上限規制が柱の「働き方改革」がテーマになるが、これに紛れ込ませて、なし崩しに進めてよい話ではない。

 働く人の権利と暮らしを守る労働基準法の原点に立ち返った検討を求める。

(社説)コウノトリ ともに生きる環境を

 国の特別天然記念物で、絶滅の危険性が極めて高いコウノトリが、人工繁殖を経た放鳥によって少しずつ増えている。自然に定着したつがいからヒナも生まれ、野外で生息するコウノトリは6月、100羽を超えた。

 コウノトリは、多様な生き物がすむ生態系がなければ、定着も繁殖もできない。里山の自然が保たれていることを示す生きた鏡と言える。この取り組みを持続させ、より多くの個体が大空を飛び回る環境にしたい。

 兵庫県豊岡市では、地元の人々と市、県が協力して飼育や繁殖に取り組んできた。野生復帰のための放鳥を始めたのは12年前のことだ。この間、46都道府県で飛来が確認された。

 背中につけた発信器から、福井県で放鳥されて列島各地を舞い、海を越えて韓国へ渡り、北朝鮮まで羽をのばしていたオスもいることがわかった。繁殖地も徳島県や島根県に広がった。

 コウノトリはかつて全国各地で人の身近にいた。だが、明治期から狩猟によって減り、戦時中は営巣するマツが燃料用に伐採され、行き場を失った。

 長いくちばしで水田や湿地にすむカエルやドジョウ、魚、昆虫など大量のえさを食べる。農薬の影響で戦後も生息数が減り続け、71年に野生の個体が消滅した。人間の活動が、絶滅の危機に追い込んだと言える。

 豊岡では半世紀前から人工飼育に取り組んだが、親鳥の体がえさを介して農薬に侵され、卵からヒナがかえらなかった。そこで地元の農家が「コウノトリもすめる町に」と、無農薬・減農薬の農法を始めた。雑草を根絶やしにせず、収量が大幅に落ち込まない程度ならあってもいい、と発想を転換させた。

 冬も田に水をはり、春はオタマジャクシが育つまで水を抜かない。一年中、生き物がいる水田づくりにも努めた。すると、コウノトリのえさのカエルが害虫を食べてくれ、里山の食物連鎖が戻り始めた。コウノトリの野生復帰を支える中で、地域の人々も健やかに暮らせる環境の大切さに気づいたという。

 兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園の山岸哲(さとし)園長は「人間は自分たちの都合で自然を改変し、多くの生き物を絶滅に追いやった。どうやって共生できるかをみんなで考えていきたい」と語る。

 環境省の今年のレッドリストで、絶滅のおそれのある「絶滅危惧種」の動物は1372種で、2年前より35種も増えた。

 在来の多様な生き物を守るため、里山の自然を取り戻し、保つ。それは多くの生き物の生息地を奪ってきた人間の責務だ。

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