2017年11月30日木曜日

ミサイル発射の北朝鮮に最大限の圧力を

 北朝鮮が2カ月半ぶりに弾道ミサイルの発射を強行した。しかも米国を標的とする新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)という。国際社会の自制要求を無視し、軍事的な挑発を再開した北朝鮮の暴挙は決して容認できない。

 防衛省によると、ミサイルは29日未明に平壌近郊から発射され、約53分間飛行して青森県西方の日本海に落下した。飛行距離は約1000キロメートル、最高高度は4000キロメートルを大きく超えた。射程は過去最高と推定されるという。

 北朝鮮メディアは、新たに開発したICBM「火星15」の発射実験に成功したと表明した。超大型の核弾頭を搭載して米本土全域を攻撃できるとし、7月に2度発射したICBM級の「火星14」より格段に技術的特性に優れているとした。米本土を射程に入れたICBM開発が実戦配備への最終段階にあると誇示したといえよう。

 北朝鮮による弾道ミサイル発射は9月15日以来となる。米国が北朝鮮をテロ支援国家に再指定した直後で、トランプ政権の敵視政策に反発した面もありそうだ。

 今回の発射により、北朝鮮が核・ミサイル開発を自制する意思が全くないことが改めて明らかになった。軍事攻撃をちらつかせる米政権の我慢の限界を探りつつ、今後も核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す恐れが大きい。国際社会は北朝鮮への封じ込めを一段と強めていく必要がある。

 安倍晋三首相とトランプ米大統領は電話協議で「北朝鮮の政策を変えさせる」ため、圧力をさらに高める必要性で合意した。日米韓が主導してこれまでの国連安全保障理事会の制裁決議や独自制裁の順守を各国に求めるとともに、石油の全面禁輸を含めた追加制裁策を検討していくべきだ。

 北朝鮮への包囲網を強化するには、経済的なつながりが大きい中国の役割がとくに重要だ。中国は先に北朝鮮に特使を派遣したが、説得工作は不調に終わった。中国も今度こそ圧力重視に軸足を移すべきだ。石油供給の削減を盛り込んだ安保理制裁決議を着実に履行するとともに、さらなる制裁強化にも踏み込んでもらいたい。

 北朝鮮の核・ミサイル開発は世界の安全を脅かし、核不拡散体制も大きく揺るがす。北朝鮮に核放棄を促し、無条件で対話の場に引き出すためにも、まずは国際社会が結束して最大限の圧力をかけていくことが肝要だ。

引退での幕引きは許されない

 大相撲の横綱、日馬富士が現役を引退した。平幕、貴ノ岩を暴行し負傷させたことへの責任を取ったものだ。

 日馬富士に対しては、警察による傷害容疑での書類送検に加えて日本相撲協会による厳しい処分が予想されていた。これ以上、横綱として事件の渦中にあることは、最高位の名を汚すばかりでなく、相撲そのものへの信頼も失われかねない。自ら身を引いた決断は妥当であろう。

 しかし、これで事態の幕引きをすることは許されない。

 大相撲では、2007年に親方らが弟子を暴行して死なせたとして有罪判決を受け、10年には横綱、朝青龍が酔って男性を殴るなど事件が続いた。協会は研修会などを開催し、力による手荒い指導を改めるよう親方らを啓発するとともに、力士らの意識も変えようと努めてきたはずだった。

 ただ、今回、他の力士の模範となるべき横綱の起こした不祥事をみれば、再発防止策の効果はなかったと言わざるをえない。

 日馬富士は引退の会見で暴行の動機の一端に触れ、「後輩の礼儀がなっていない時に直し、教えるのは先輩の義務」などと語った。

 正しいと信ずるなら、実力を行使してもかまわないとも受け取れる。日馬富士のみならず、角界にも染みついている体質とするなら、その是正は急務であろう。

 今後は司法や医学の専門家が、暴力や暴言が心身に及ぼす悪影響を親方や力士らに繰り返し教えるなど、協会は踏み込んだ対策を取るべきだ。すでに設けている通報窓口の充実や、けいこ場の視察なども検討すべきではないか。

 今年、大相撲は年6場所、計90日間の開催が、すべて満員となった。1996年以来という。

 ベテラン勢の奮闘や若手の台頭で、連日充実した取組が続き、女性や少年らファンの層も厚くなった。伝統ある競技のすそ野を広げ、発展させるために、相撲協会は最後のチャンスと肝に銘じ、暴力根絶へ立ち向かってほしい。

北朝鮮「核戦力完成」と主張 状況の悪化を食い止めよ

 北朝鮮をめぐる危機が新たな段階に入ったと考えるべきだろう。

 北朝鮮がきのう2カ月半ぶりに弾道ミサイルを発射し、青森県沖約250キロの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させた。

 通常より高い角度に打ち上げるロフテッド軌道だった。山なりに飛ばして飛距離を抑える方法だ。最高高度は初めて4000キロを超えた。飛距離は1000キロに近く、50分以上も飛行した。

 北朝鮮は、米全土に届く新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」だと発表した。

 通常軌道で発射された場合の射程は1万3000キロに達すると推定される。首都ワシントンやニューヨークなども射程に収めたことになる。

 北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は発射に立ち会い、「核戦力完成の歴史的大業が実現された」と語った。正確に何を意味するのか不明ではあるものの、核兵器で米国を攻撃できる能力を保有したという宣言であれば危機のレベルは格段に高まったことになる。

 北朝鮮は、米国に対する抑止力を確保しようと核・ミサイル開発を急いできた。後ろ盾である中国の反対すら無視する裏には、体制生き残りのためには核保有しかないという切迫した思いがあろう。

 北朝鮮は核保有国という対等の立場で米国と交渉することを望んでいる。金委員長の言葉はそうした交渉を仕掛けるための布石に見える。

 米国の一部には、北朝鮮の核保有を容認せざるをえないという主張がある。米本土を狙うICBMの配備を阻止するか、互いにけん制しあい使用させない核抑止の論理で対応すればよいという考えだ。

 だが、そうした状況は日本として受け入れがたい。日本と韓国は核の脅威にさらされ続けることになりかねないからだ。米国が自国への核攻撃を覚悟してまで日韓を守ってくれるだろうかという疑念が生じれば、同盟関係が揺らぐ恐れもある。

 日本にできることは限られているが、手をこまねいているわけにはいかない。米韓と連携して中国、ロシアに働きかけ、北朝鮮に核放棄を迫る包囲網を強めていく必要がある。さらなる状況悪化を食い止める外交努力を尽くさねばならない。

横綱・日馬富士が引退 これで落着にはできない

 大相撲の横綱・日馬富士関が現役引退した。貴ノ岩関への暴行で「横綱の名に傷をつけた」と決断した。

 横綱審議委員会は「厳しい処分が必要」との見解を示しており、日本相撲協会でも解雇が想定される状況になっていた。全力士に範を示すべき横綱の暴行であり、引退は当然の流れだろう。

 ただ、きのうの引退届提出にはそれぞれの思惑が透けて見える。

 協会にとっては、現役横綱の解雇となれば、前代未聞で大相撲史に大きな汚点を残す。番付編成会議に引退届を出せば不祥事を起こした横綱の名を次の初場所の番付表に出さずに済む。横綱にとっても、解雇では支払われない退職金も引退なら受け取れる。

 しかし、引退だけでこの問題を決着させてはならない。

 日馬富士関は引退の記者会見で「礼儀がなっていないことを教えるのは先輩の義務」と弁解した。暴力に至ったのもやむなし、とも受け取れる言葉だ。

 暴力の背景を徹底検証して芽を潰していくには、いまだできていない貴ノ岩関の聴取が不可欠だ。

 協会が暴行を知ったのは発生から1週間後だ。さらに報道されるまで何の措置も取らず、日馬富士関は九州場所の土俵に上がっている。「力士のいざこざは部屋同士で」と考えるなら暴力に対する認識が甘い。

 貴ノ岩関の師匠、貴乃花親方は協会に非協力的だ。警察に捜査は委ねても、公益財団法人たる協会の理事、巡業部長として身を置く組織に協力しない姿勢は理解されない。

 若くして入門した部屋で厳しい上下関係の中で鍛えられ、力士が人としても成長する様こそ相撲道だ。しかし、その狭い社会が暴力の温床となる構図は容易に変えられない。

 横綱・朝青龍が知人に暴行し、現役引退してから7年以上がたつ。協会は研修を行い、暴力の根絶を目指してきた。横綱でも暴力を振るえば相撲界に残れない現実を、今回こそ協会全体で教訓とすべきだ。

 八角理事長は「暴力問題の再発防止について」と題した講話で「何回も何回も繰り返して指導していくことが大事」と語った。しかし、同じことが何度も繰り返されればファンの心は離れていくだけだ。

(社説)対北朝鮮政策 制裁と外交で活路を

 北朝鮮がきのう、弾道ミサイルを発射した。大量破壊兵器の開発をめぐる行動としては、2カ月半の「沈黙」を破った。

 核・ミサイル凍結のかすかな期待を裏切る蛮行である。日米韓が、国連安保理の緊急会合を求めたのは当然だ。

 国際社会は、暴挙を許さない決意を崩してはならない。国連の全加盟国が、いっそう結束を強めて対処すべきである。

 ミサイルは、過去最も高い約4500キロまで上昇したとされる。専門家によると、首都ワシントンを含む米国の東海岸にまで飛ぶ可能性がある。

 もし米全土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)ができたとすれば、軍事レベルは極めて危うい段階に入る。だが、大気圏に再突入する技術を得たかどうかなど、不明な点が多い。

 今回の発射が何より鮮明にしたのは、北朝鮮は当面、米全土を攻撃できる軍事力の追求をやめないという意思である。その意思を変えさせる方策を探しだす難題が続いている。

 この2カ月半の休止が何だったのか、読み方は難しい。

 米国は空母3隻を派遣するなど圧力を強めてきた。北朝鮮は、失敗を避けようと時間をかけて発射の準備を進めてきたという見方はできる。

 一方でこの間は、トランプ米大統領のアジア歴訪に伴う各国の会談に加え、中国特使による平壌訪問もあった。さまざまな動きを注視し、今後のふるまいを練ったのも確かだろう。

 すでに科された国連制裁は、これから本格的な効きめを表し、年末から北朝鮮経済は深刻な打撃を受けるとみられる。

 その厳しさに備えようということか、ここ最近、最高指導者の金正恩(キムジョンウン)氏は国内の経済分野での現地指導や視察を重ねた。

 きのう北朝鮮メディアは「国家核戦力完成」「ミサイル強国の偉業」と宣伝したが、その割にはあえて飛距離を抑える発射方法を選んだ。米国との軍事衝突は避けつつ、国内に実績をアピールしたい金正恩政権の思惑がうかがえる。

 そうした北朝鮮側の事情をにらみながら、あらゆるルートを駆使して外交の工夫を凝らすのが日米韓各政府の務めだ。

 かつて北朝鮮核危機に取り組んだペリー元米国防長官は、現況下で実行可能な軍事オプションはないとし、「対話しなければ、よい結果はそもそも得られない」と本紙に語った。

 国連制裁の履行を着実に進めつつ、中国、ロシアと調整しながら平壌との対話を探る。そのための外交力が問われている。

(社説)製造業の不正 品質管理を立て直せ

 安全上の問題はないか、まずは徹底した確認が必要だ。不正が起きた原因も究明し、抜本的な対策を急がねばならない。

 製品の品質や仕様が契約内容と異なるのに、書類のデータを書き換え、約束通りであるかのように装って出荷する。そんな不正が、神戸製鋼所に続き、三菱マテリアルと東レの子会社でも発覚した。

 三菱の3子会社はゴム、銅、アルミの各製品で寸法を書き換えるなどして、航空機や自動車などの部品として出していた。東レの子会社は08~16年に、タイヤの強度を保つ補強材などの強度データを書き換えていた。驚くことに、品質保証室長が2代続けて関与していたという。

 目につくのは、情報の開示に後ろ向きな姿勢だ。

 三菱電線工業は2月にデータ改ざんを把握したが、不正製品の出荷を止めて親会社の三菱マテリアルに報告したのは10月下旬。発表はさらに1カ月後だった。三菱アルミニウムは「安全性が確認され、解決済み」として、対象品目など詳しいことは明らかにしていない。

 東レは子会社での改ざんを16年7月につかみ、再発防止策を講じたが、未公表だった。今月初めにインターネットで不正に関する書き込みがあったため、公表することにしたという。

 神戸製鋼も含めて共通するのは、直接の取引先であるメーカーしか見ていないことだ。製品の最終的な利用者や消費者に説明し、責任を果たそうという意識がうかがえない。

 東レの不正は、現在は相談役で経団連会長の榊原定征氏が社長や会長の在任中に起きていた。榊原氏はきのう、謝罪して「発覚した時点で公表するのが原則だ」と述べた。東レが率先して改めるべきだろう。

 素材メーカーには、製品の品質や仕様が契約と多少違っても、取引先の了承を得て出荷する「トクサイ(特別採用)」という慣行がある。それが不正の一因になったようだ。

 納期は厳しく、了承を求めていては手間がかかる。誤差程度ならデータを変えても問題はない。そう考えたのかもしれないが、目をつぶり続ければ、いずれ重大な事故を招きかねない。

 契約で決めた品質が十分に高水準だから、という認識が背景にあるともされる。そもそも契約内容が過剰だというなら契約を改めるべきで、データを改ざんしてよい理由にはならない。

 利益を優先し、品質管理の基本がおろそかになっていないか。すべての企業が体制を点検しなければならない。

北ICBM発射 米との緊張高める危険な挑発

 ◆国際圧力強化で対話に引き出せ◆

 国際社会の包囲網にもかかわらず、「核ミサイル」を喧伝(けんでん)し、独裁体制の生き残りを図る。そんな思惑が、一段と明白になったと言えよう。

 北朝鮮の危険かつ身勝手な振る舞いを改めさせるには、関係国が緊密に連携し、圧力を強化しなければならない。

 北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。

 通常より高い角度で打ち上げる「ロフテッド軌道」で高度は4000キロを大幅に超え、過去最高だった。53分間で約1000キロ飛行し、青森県沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

 ◆脅威の冷静な分析を◆

 ICBMの発射は、7月の2回に続いて3回目だ。今回のミサイルを通常の角度で発射した場合の射程は、1万3000キロ以上と推定する専門家もいる。首都ワシントンなど、米本土の主要都市まで届く計算になる。

 安倍首相は「国際社会の平和的解決への意思を踏みにじり、暴挙を行ったことは断じて容認できない」と記者団に述べた。

 政府が直ちに、北朝鮮に厳重抗議したのは当然である。

 北朝鮮は、米本土全域を攻撃でき、大型核弾頭の搭載が可能なICBM「火星15」の試験発射に成功した、と発表した。朝鮮労働党の金正恩委員長は、「ついに核戦力完成の歴史的大業が実現した」と言い放った。

 自国の戦力を誇張するのは、北朝鮮の常套(じょうとう)手段であることに留意せねばなるまい。高度を稼ぐため、弾頭を実戦用よりも軽くした可能性がある。大気圏再突入技術の獲得も確認されていない。能力に関する冷静な分析が必要だ。

 最近2か月半、北朝鮮の軍事的挑発はなかった。米国の出方を見極めていたのではないか。

 トランプ米大統領は今月のアジア歴訪を通じて、経済、軍事両面で、北朝鮮への圧力を高める姿勢をアピールした。核・ミサイル開発の放棄が対話の前提になることを明確にし、テロ支援国家の再指定にも踏み切った。

 北朝鮮は、今回の発射で、米国の圧力には屈しない意思を示したつもりなのだろう。危機を作り出し、米国に譲歩を迫る駆け引きに再び走ったと言える。米朝間の緊張が高まるのは必至だ。

 ◆制裁の効果を高めたい◆

 トランプ氏は、「北朝鮮に対するアプローチに変更はない」として、既定の圧力路線を着実に進める意向を示した。制裁の効果への一定の手応えがあるのだろう。河野外相も、「経済制裁が効いているとの情報がある」と語った。

 北朝鮮漁船が相次いで、日本の沿岸に漂着している。質の悪い燃料と老朽化した船体を使った無理な操業が原因との見方が強い。

 北朝鮮から板門店の南北軍事境界線を越えて亡命した兵士は、肺結核などにかかっていた。劣悪な待遇がうかがえる。

 安倍首相はトランプ氏との電話会談で、対北朝鮮圧力を最大限に強める方針を確認した。国連安全保障理事会は、緊急会合を開き、対応を協議する。制裁決議の厳格な履行で、中国、ロシアの協力を取り付けることが大切だ。

 首相が参院予算委員会で「アプローチの仕方に温度差はあるが、今後も中露の動向をしっかりと分析し、働きかけるべき時には働きかけを行っていきたい」と強調したのはうなずける。

 中国外務省も、発射に重大な懸念を表明した。北朝鮮への石油製品の輸出制限拡大など、追加制裁をためらってはならない。

 ◆迎撃能力強化も必要だ◆

 日本は、不測の事態に備えて、迎撃能力を拡充すべきだ。

 来年度の予算編成では、陸上配備型イージスシステムの関連経費や、新型ミサイルの取得費などの適切な計上が欠かせない。

 気がかりなのは、自衛隊、米軍、韓国軍が揃(そろ)って参加する演習や訓練が行われていないことだ。

 今月中旬に「ロナルド・レーガン」など米空母3隻が日本海に入った際も、演習は日米、米韓での実施にとどまった。

 韓国側に、自衛隊との連携への反発があるためだとされる。中国が日米韓3か国の安保協力の緊密化を警戒し、韓国に慎重な対応を迫っているという事情もある。

 韓国は、ICBM発射直後に、対処能力を示すため、日本海でミサイル訓練を実施した。

 北朝鮮に融和的な文在寅大統領も、事態の深刻化を受けて、軍事面での対抗措置に出ざるを得なかったのだろう。日米韓の安保面での連携強化を躊躇(ちゅうちょ)している場合ではないはずだ。

2017年11月29日水曜日

地方消費税改革に注文する

 自治体の基幹税である地方消費税の配分基準の見直しが2018年度の税制改正の焦点のひとつになっている。政府・与党は税収を都道府県に分ける際に人口の比重を高める方向で検討している。

 消費税は税率8%のうち1.7%分が地方税となっている。今年度の税収は4兆6千億円程度になる見通しだ。小売販売額やサービス業収入額、人口などを基準に都道府県間で清算した後、その半分を各県の市町村に交付している。

 地方消費税は最終消費地に税収が入ることが原則だ。一般的に考えれば、小売店や事業者の所在地を消費地とみなすことになるが、ネット販売のように注文を受けた事業者と実際に商品を消費する場所が大きく異なる場合もある。

 音楽や映像の配信サービスなども同様だ。百貨店の顧客をみてもその県内の消費者だけではない。

 こうした消費動向や経済活動を踏まえて、政府・与党は小売販売額が中心になっている配分基準を変更し、居住地を表す人口の割合を高める方針だ。

 本来、ネット販売なども実際の消費地を把握できることが望ましい。しかし、事業者の事務負担なども考慮すると、とりあえず人口で代替することは理解できる。大型店は主に大都市に立地している。人口の比重を高めれば東京などの税収は減ることになる。

 ただし、人口の割合をどの程度まで高めるかについては合理的な説明が欠かせない。今後、地域ごとの消費動向がわかるように統計を整えることも必要だ。

 気になるのは、都市と地方の税収格差を是正する目的で配分基準の変更を求める声がある点だ。あくまで消費の実態に合わせた基準にするのが筋だろう。

 そもそも、税収格差は東京などに企業が集中している結果なだけに地方の自治体も消費やサービス関連企業の誘致にもっと取り組んでほしい。小手先の改革にとどまらず、地方財政全体からみて格差をどうするのか、自治体のあり方も含めて検討すべきだ。

薬価算定ルールは費用対効果を基本に

 厚生労働省は薬価制度の抜本的な改革案を固めた。従来に比べ大幅な引き下げをめざす。医療財政の悪化を防ぐねらいだが、価格に見合った効果があるかという費用対効果を基本に、わかりやすいルールで価格を決めるべきだ。

 医療サービスの公定価格である診療報酬の改定は、2018年度予算の焦点となっている。薬価を引き下げれば、診療報酬の薬剤費部分を下げられる。

 医師の人件費にあたる診療報酬の本体部分は、減らさずにすむよう財源を捻出する方向で調整が進んでいる。製薬会社などからは、帳尻合わせのために薬価の引き下げを求められているのではないかと疑う声も出ている。

 薬価算定の仕組みは複雑だ。新薬は海外の類似薬なども参考にしつつ比較的高い価格が付くが、2年に1度の見直しのたびに引き下げられる。特許が切れ、成分も効果もほぼ同じ後発薬が出るとさらに大きく引き下げられる。

 今回の改革案では価格の一層の引き下げで、後発薬への置き換えを加速する。製薬会社が新薬開発の費用を回収しやすいよう一定期間、価格を下げずにすむ「新薬創出加算」の対象は絞り込む。

 医療費の約2割を占める薬剤費の抑制は必要だが、これらは薬価を適正に決めるというより、下げること自体が目的化しているようにもみえる。

 薬価をめぐっては、優れた効果を示す抗がん剤「オプジーボ」が高すぎるとして批判を浴びた。今年2月に薬価を急きょ半額に下げたが、根拠は明確でなかった。

 薬価の引き下げを急ぎすぎるとメーカーの開発意欲がそがれる。海外の優れた製品が日本に入ってこなくなる懸念もある。価格が低くなりすぎれば、後発品の価格優位性が薄れ販売を妨げかねない。ていねいな制度設計が必要だ。

 厚労省は18年度、オプジーボを含む13の製品について試験的に費用対効果の分析結果を反映させて薬価を改定する。対象をできるだけ早く広げてほしい。薬価の算定は費用対効果を基本とし、透明性を高める姿勢を明確にすべきだ。

 製薬会社も、研究開発力を高めることなしに薬価引き下げに異を唱えるばかりではいけない。画期的な新薬の多くは海外製なのが実情だ。政府は、製薬企業が最新の技術を使い、効率よく低コストで臨床試験などができるよう制度面の支援をすべきだ。

森友問題の政府側答弁 ほころびが明白になった

 幕引きどころか、さらに疑惑は深まったと言える。学校法人「森友学園」への国有地売却問題だ。

 きのうの衆院予算委員会では、土地売却が値引きされた根拠となった地中のごみについて、近畿財務局と森友学園側が口裏合わせをしていたと疑わせる音声データの存在も指摘された。これらに対する財務省の答弁は著しく説得力を欠いていた。

 森友問題は、会計検査院が「値引きの根拠が不十分」と厳しく指摘したことで新たな局面を迎えている。

 そんな中、政府がやっと認めたのが、売買契約前の昨年5月、近畿財務局が売却価格に関し、「ゼロに近い形まで努力する」などと学園に伝えたとされる音声データの存在だ。

 このデータには価格の下限をめぐるやり取りも記録されている。共産党が指摘した「口裏合わせ」の音声データも財務省は存在を認めた。

 これまで佐川宣寿・前財務省理財局長(現国税庁長官)は「財務局側から価格を提示したことはない」と国会で繰り返してきた。この答弁と矛盾しているのは明らかだ。

 ところが財務省は「金額に関する一切のやり取りがなかったかのように受け取られたのは申し訳ない」と陳謝しながらも、このやり取りは財務省の考え方を伝えただけで価格交渉ではないと否定。「金額は触れたが価格は言っていない」と全く理解できない答弁まで飛び出した。

 一方、安倍晋三首相は「売却手続きも価格も適切だった」とこれまで答弁してきたことに対し、「財務省を信頼している」と述べるだけで、「私が調べたわけではない」とも語った。これも無責任な姿勢だ。政府はまず従来の答弁を撤回し、不適切だったと認めるべきだろう。

 首相らは会計検査院の指摘を真摯(しんし)に受け止め、今後、直すべき点は直すと言う。しかし、「森友」の件ではどこが問題なのかは具体的にしない。これでは解明も改善も進まない。

 財務省は契約価格を非公開にしたり、売却を前提に定期借地権契約を結んだりした例は、過去数年で今回だけだとも認めた。

 問題の本質は、なぜこうした特例が重ねられたのかだ。佐川氏や、問題となった小学校の名誉校長に一時就任していた首相の妻昭恵氏らの国会招致はますます不可欠になった。

経団連会長会社でも不正 企業不信招く深刻な事態

 またも日本のものづくりをめぐる不正が発覚した。

 しかも、経団連の榊原定征(さだゆき)会長の出身企業グループで起きた。東レの子会社で自動車用タイヤの補強材などを手がける東レハイブリッドコードが、製品の品質データを偽って出荷していたのだ。

 改ざんは2008年4月から約8年にわたり、2人の品質保証室長が主導していた。昨夏に内部で問題化した後、体制を改めたが、不正の事実は公表しなかった。

 経団連の榊原会長は、問題発覚に先立つ27日の記者会見で、三菱マテリアルの子会社による製品データの改ざんを受け「極めて残念に思う。日本の製造業に対する信頼に影響をおよぼしかねない深刻な事態だ」と語った。また、各企業が危機意識を持って自社の管理体制を改めて点検し、信頼を確保する努力がいるという考えも示している。

 経営のあり方を問い直せと産業界に説く財界トップの足元で、不正が長く続いていたことは、まさに深刻な事態である。

 しかも、東レの日覚(にっかく)昭広社長は今回の発表がなぜこの時期になったのか問われて、耳を疑いたくなる説明をしている。

 「ネットの掲示板で書き込みがあり、何件か問い合わせがあった。うわさとして流れるより内容を公表すべきだと考えた」と述べたうえで、「(検査データの不正があった)神戸製鋼所の問題がなければ発表は考えていなかった」と話した。

 榊原会長は、三菱マテリアル子会社が不正を把握しながら半年以上も出荷を続けた点について、記者会見でこう語っている。「本来あるべき姿としては発覚した時点で速やかに公表するのが原則で、どんな事情があったのか」と。

 日覚社長の言葉には自ら襟を正す姿勢が見られないうえ、榊原会長の問いかけにも耳を貸していない。

 安全性を揺るがすものではないと考え、相手企業に納得してもらえれば内々に済ませてもいいという思いが読み取れる。その先にいる消費者や経営の透明性を重視する投資家は見えていないのか。

 不正を絶ち、信頼を取り戻すには、日本企業の多くが陥りがちな内向きの発想との決別も不可欠だろう。

(社説)森友・加計 解明は首相にかかる

 衆院の予算委員会はきのう、野党各党が質問に立った。

 改めて浮かび上がったのは、森友学園への国有地売却があまりにも不自然だったことだ。

 立憲民主党の川内博史氏は財務省幹部にただした。

 近年の同種契約のなかで、売却額を非公表にした例は。分割払いや、売却を前提にした定期借地契約を認めた例は……。

 「本件のみでございます」と4回続いた答弁が、異例の扱いぶりを雄弁に物語っている。

 だが結局のところ、募ったのはもどかしさと疑問ばかりだ。

 なぜ、そんな特別扱いをしたのか。学園の籠池泰典前理事長らと交流があった安倍首相の妻昭恵氏への忖度(そんたく)は、あったのか否か。肝心な点の解明が依然として進まなかったからだ。

 理由ははっきりしている。

 問題に直接かかわった当事者が口を閉ざしているからだ。

 森友問題では、昭恵氏や近畿財務局幹部、通常国会で答弁に立ってきた佐川宣寿・前財務省理財局長(現国税庁長官)。

 加計問題では、学園の加計孝太郎理事長や、特区の構想を進め、官邸も訪れたとされる地元愛媛県や今治市の職員らだ。

 野党が何度国会招致を求めても、与党が立ちはだかる。昭恵氏については首相が「私がすべて知る立場だ」とかわした。

 衆院選で大勝した自民党には「この問題をいつまで審議するのか」との声もある。だが問題を長引かせているのはむしろ、真相究明に終始一貫後ろ向きな政府や首相の姿勢である。

 森友問題では、約4カ月前から報じられていた学園側と財務局側の会談の音声データの内容を、一昨日の予算委でようやく認めた。加計問題でも、文部科学省の内部文書を1カ月近くも怪文書扱いした。

 「安倍1強」のもと、首相官邸の不興を買いかねない場面は避けたい。そんな与党や官僚の忖度の結果、ずるずると解明の機会を失うなかで、新たな疑問が膨らんでいく。

 この悪循環を断ち切れるのは首相自身である。

 首相はこの日、「交渉した当事者や責任者から説明するのは当然のことだ」と述べた。

 ならば、首相自身が財務省など関係省庁に改めて徹底調査を指示するべきだ。「国会が決めること」と身をかわさずに、関係者の国会招致を与党に求めることも欠かせない。

 ふたつの問題を引きずれば引きずるほど、首相と行政機構への国民の不信は増す。「一点の曇りもない」という首相なら、何をためらう必要があろう。

(社説)竹下氏の発言 同性愛への差別を憂う

 人権感覚が疑われる残念な発言だ。自民党の竹下亘総務会長である。国賓を招く宮中晩餐(ばんさん)会について、「(国賓の)パートナーが同性だった場合、私は反対だ」と語った。

 婚姻や伴侶を選ぶ性的指向によって賓客への接遇を左右させることは不適切である。性的少数者への差別にもつながる無神経な言動というべきだ。

 これを機に、外務省と宮内庁による賓客への接遇の一端が明らかになった。デンマークの前駐日大使の同性パートナーは、宮中行事などへの参加を認められていなかったという。外交儀礼上も礼を失する対応だ。

 河野外相はきのうの国会で、今後の改善を表明した。天皇誕生日のレセプションなど外務省主催の行事では、どのパートナーも等しく接遇するという。

 ただ、晩餐会など宮中行事については対応を明示していない。すべての行事で対等な処遇を確約すべきである。

 人生でどんなパートナーを選び、どんな家族を築くかは一人ひとりが決めることだ。多様な生き方を認めあうのは人権尊重の原則の一つであり、日本も寛容な社会づくりに努めたい。

 同性婚や同性パートナーの法的な権利を認める国は増え続けている。主要7カ国(G7)で制度がないのは日本だけだ。

 ルクセンブルクでは一昨年、ベッテル首相が同性婚をした。欧州での国際会議で首相の男性パートナーは、配偶者向けの文化行事などに参加した。

 保守的と思われがちなローマ・カトリック教会でも法王が3月、ベッテル氏とパートナーをバチカンに招いた。法王自ら、同性愛の容認をアピールしたと受けとめられている。

 自民党は、先の衆院選公約では「性的指向・性自認に関する広く正しい理解」をめざす議員立法を掲げた。だが、竹下氏の発言を聞く限り、「正しい理解」には疑問符がつく。

 そもそも自民党では、個人の権利よりも、一定の家族観を重んじる考え方が強い。

 12年の自民党改憲草案は「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」としている。こうした自民党的な発想では、同性カップルの権利擁護は相いれないのだろう。

 一方、国内では自治体の取り組みが先行している。東京都渋谷区と世田谷区は一昨年、同性パートナーの公認制度を導入、多くの申請が続いている。

 政府も、医療、住宅、相続など多くの場面で不利益を被っている同性カップルの現状に目を向け、改善に取り組むべきだ。

慰安婦記念日 「反日」迎合を強める韓国政治

 韓国の独善的な動きによって、歴史問題を巡る日本との溝が一段と深まった。これでは、「未来志向」の日韓関係の構築は遠のくばかりだ。

 韓国国会で、8月14日を「日本軍慰安婦被害者をたたえる日」と定める改正法が可決された。賛成205、反対ゼロ、棄権8で、与野党ともに支持した。近く公布され、その半年後に施行される。

 改正法は、記念日制定の目的を「慰安婦問題を国内外に知らせる」ことだと明記した。政府と地方自治体に対し、行事を催し、広報する努力を求めている。

 政府が元慰安婦に関する政策を立案する場合には、本人の意見を聴取する条項も盛り込まれた。

 元慰安婦の金学順さんが、1991年に初めて名乗り出て、取材に応じたのが8月14日だ。記念日の法制化により、毎年この日が来るたびに、慰安婦問題が公に蒸し返されることになる。

 植民地支配から解放された翌15日の「光復節」と合わせ、韓国人の反日感情が引き継がれていくのではないか。日本人の韓国観が厳しさを増すのは避けられまい。

 看過できないのは、文在寅政権が、慰安婦問題に焦点を当てる施策を推進していることだ。

 7月に策定した国政5か年計画で、記念日の制定や「歴史館」の建設を打ち出した。国立墓地に追悼碑を建てる方針も発表した。

 ソウル高裁は、慰安婦に関する学術書の著者、朴裕河教授に対し、名誉毀損で有罪判決を言い渡した。トランプ米大統領の歓迎夕食会には、元慰安婦が招かれた。

 政府・国会・司法が揃って、韓国の市民団体が煽(あお)る反日運動に迎合する。極めて深刻な事態だ。

 日韓両政府は、2015年の合意で、慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認している。双方が歩み寄った貴重な成果であり、再交渉の余地はない。

 合意には、当時の朴槿恵政権が元慰安婦から聞いた要望も反映されている。元慰安婦の7割は、合意に基づき、韓国政府が設立した財団から現金支給を受けた。文政権はこうした事実こそ、国民に広く知らせるべきではないのか。

 菅官房長官が記念日について、「日韓合意の趣旨に反する」と、遺憾の意を表明したのは当然である。首脳会談などの機会に、合意の着実な履行を促すべきだ。

 訪韓中だった公明党の山口代表は、日韓関係全体に悪影響が及ぶことへの懸念を示した。日韓議連を通じた議員交流の強化など、多角的な努力も必要だろう。

三菱マテ系不正 経営陣の品質軽視が目に余る

 「日本製」の信用を揺るがす不正の連鎖は、どこまで続くのか。

 非鉄金属大手の三菱マテリアルの子会社と、繊維大手の東レの子会社による製品データ改ざんが相次いで発覚した。素材関連では神戸製鋼所に続く不祥事だ。

 何よりも製品の安全性確認と原因究明を急がねばならない。

 三菱マテリアルの3子会社は、ゴム、銅、アルミの各製品でそれぞれ不正を行っていた。

 問題の製品は、航空機や自動車、原子力発電所などの部品として幅広く使われている。出荷先は270社を超える可能性がある。

 いずれも現場で、納入先と契約した品質基準を満たさない測定値を書き換えて出荷していた。

 中でも三菱電線工業は、今年2月の社内調査で不正を把握したにもかかわらず、9か月にわたって問題の製品を販売し続けた。

 村田博昭社長は記者会見で「不具合があるかもしれないと認識しながら、出荷し続けた」と説明している。品質保持への責任感の欠如は目を覆うばかりだ。

 3社の不正が組織ぐるみで行われたのかなど、詳細は現時点でほとんど判明していない。

 三菱電線と三菱伸銅は、外部の弁護士らによる調査委員会が原因解明に当たるが、十分か。親会社の三菱マテリアルと三菱アルミニウムは調査委を設置しない。

 品質保証は顧客との信頼関係の基盤である。親会社も含めて調査対象とし、再発防止策を講じる必要があるのではないか。

 東レの子会社は、タイヤなどに使われる製品で2008~16年に改ざんを繰り返していた。子会社社長は「規格値からのデータの外れは僅差であり、安全性に問題はない」と主張している。

 改ざん度合いの大小は本筋ではなかろう。不正を許す企業風土そのものが問われている。

 特に、製品安全に責任を負う品質保証室長が2代連続で関与していた事実は看過できない。

 発覚前の27日に、東レ出身の榊原定征経団連会長は、データ改ざん問題が「日本企業の信頼に影響を及ぼしかねない深刻な事態だ」と批判していた。日本を代表する企業として、信頼回復の取り組みで模範を示すほかはあるまい。

 一連の不正は、品質管理を現場に丸投げしてきた経営陣の無責任体質が生んだと言える。

 日本のモノ作りは高いモラルの「現場力」を強みとしてきた。産業界全体で企業統治のあり方を点検し直すことが重要だ。

2017年11月28日火曜日

国有財産の処分に透明性を

 国民の財産である国有地が約8億円も値引きされて学校法人「森友学園」に売却された。にもかかわらず資料が廃棄され、妥当性を検証すらできない。そんなずさんな実態が会計検査院の報告書で改めて浮き彫りになった。

 安倍晋三首相が国会で「国有地は国民共有の財産であり、売却にあたっては国民の疑念を招くことがあってはならない」と答弁したのは当然だ。真相究明と再発防止に全力を挙げるべきだ。

 報告書は値引きの根拠となった国有地のごみの推計量について「十分な根拠が確認できず、慎重な検討を欠いていた」と指摘した。

 森友学園をめぐっては首相の昭恵夫人が開設予定の小学校の「名誉校長」に一時就任した。値引きに政治家の関与や官僚の忖度(そんたく)があったか否かが問われたが、報告書は触れなかった。

 8億円の積算根拠となる資料を財務省や国土交通省が廃棄していたからだ。保存期間1年未満の行政文書はいつでも廃棄できるとの説明に国民の納得は得られまい。保管ルールの強化は欠かせない。

 検査院によると、国土交通省大阪航空局がごみの量を過大に推計し、大幅な値引きにつながった可能性がある。政府は「法令に基づき適正な手続きで処分した」と説明してきたが、前提は崩れた。

 野党は昭恵夫人や財務省理財局長としてかかわった佐川宣寿国税庁長官らの国会招致を求めている。与党も率先して協力すべきだ。近畿財務局職員らへの背任容疑での告発を受理した大阪地検特捜部は、徹底して真相を解明してもらいたい。

 会計検査の課題もある。衆院選後の公表となったのはなぜか。もっと迅速に対応できなかったか。さらなる検査の改善を求めたい。

 財務省は今後、国有財産の売却の際、地下にごみが埋まっているような特殊な例では、専門家に撤去費用の算定を依頼するという。こんな当たり前のことすらできていなかったのは驚きだ。抜本的な再発防止策を打ち出すべきだ。

利便性を競う卸売市場へ規制改革急げ

 政府の規制改革推進会議と未来投資会議は、民間企業が中央卸売市場を開設できるようにするなど卸売市場改革の提言をまとめた。卸売市場の取引低迷は古い制度や発想に縛られ、食品流通の変化に対応できないからだ。政府は規制緩和を徹底してもらいたい。

 現行の卸売市場法の骨格は大正時代につくられ、食料の公平な分配機能を重視している。政府や自治体による統制色も強く、基幹市場である中央卸売市場は東京都などの自治体しか開設できない。

 しかし、現代の食品流通は変化する消費者や外食産業のニーズを的確につかみ、利便性を提供できるものでなければならない。産地が直接、小売りや消費者に販売する食品流通が増えるなど「卸売市場離れ」が止まらないのは、それができていないからだ。

 公的な施設だからと、市場や市場に参加する卸会社の間には横並び意識が強い。自由化されたにもかかわらず、卸売手数料がほとんど変化していないのがその証拠だ。開設者である自治体は卸売市場を施設としてしか考えず、箱物行政に陥りやすい。

 中央卸売市場にも民間の知恵をいかせるよう規制を緩和し、流通サービスの安さや質で競う環境に変えるべきだ。

 今回の提言が指摘するように、手数料、奨励金など取引条件にかかわる情報は生産者や買い手に詳細を公表してもらいたい。

 現行の卸売市場法が定める取引商品は原則、市場内に運び込まなければならない「商物一致の原則」は、拡大するインターネット通販への対応を遅らせる。

 卸会社は仲卸会社以外に商品を販売できず、仲卸会社は卸会社を通さずに商品を仕入れることができない取引規制も、市場の利便性向上の障害になる。

 政府・与党が昨年11月に決めた農業競争力強化プログラムの方針通り、合理的な理由のない規制はすべて撤廃すべきだ。

 卸売市場法には産地が出荷した商品を卸会社が拒否してはならない「受託拒否の禁止の原則」もある。これも食料不足時代の発想を引きずるものだ。

 消費者や企業に買いたいと思ってもらえる商品を卸会社が選択できる仕組みに改めてほしい。卸売市場改革は流通コストの削減を通じて農漁業者の所得を増やすと同時に、売れる商品とは何かに工夫をこらす意識改革にもつながる。

山本前地方創生相の暴言 国際常識が欠如している

 国際常識を欠いた暴言である。撤回すれば済むという話ではない。

 前地方創生担当相の山本幸三・自民党衆院議員が、アフリカ諸国との交流に取り組む同僚議員の活動について「何であんな黒いのが好きなんだ」と発言した問題である。

 発言は、北九州市で開かれた三原朝彦・自民党衆院議員のセミナーで飛び出した。三原氏は日本・アフリカ連合友好議員連盟の会長代行を務め、現地を訪れてもいる。

 山本氏は発言が報道されると「アフリカは『黒い大陸』と呼ばれていた」「差別的な意図はない」などと苦しい釈明をしたが、とても通用しないだろう。

 過去にも政治家の「黒人差別発言」が問題になったことがある。

 1980年代、当時の中曽根康弘首相や渡辺美智雄・自民党政調会長の発言に米黒人議員連盟が反発し、抗議運動に発展した。

 今は当時と比べグローバル化が進み、人権意識が一層共有されるようになっている。そんな国際常識から隔絶されたように、まるで黒人を見下すような発言には、国会議員としての資質を疑わざるを得ない。

 先週は自民党の竹下亘総務会長が宮中晩さん会への国賓の「同性パートナー」出席に反対し問題化した。これも性的少数者の権利を認める世界の流れに逆行する発言だった。

 山本氏の発言はまた、日本が力を入れている対アフリカ外交の足を引っ張るものでもある。

 日本はアフリカ諸国との協力を進めるため、93年から5年おきに首脳を招いてアフリカ開発会議(TICAD)を開いてきた。初めてアフリカで開催された昨年8月の会議には安倍晋三首相が出席し、アフリカ諸国との連帯を訴えた。安倍首相は2014年、首相としては約8年ぶりにアフリカを歴訪している。

 こうして積み重ねてきた対アフリカ外交の取り組みを、山本氏の発言は踏みにじることになる。

 山本氏は地方創生担当相時代、文化財観光の振興をめぐって「一番がんなのは学芸員」と語るなど、無理解に基づく暴言も問題になった。

 たび重なる失言に、自民党執行部も厳しく対応すべきだ。国際感覚から外れた発言は、日本の国益にとっても大きな損失である。

予算委で与党質問5時間 増やすに足る内容なのか

 首相の出席する予算委員会の論戦はかつて「国会の華」と言われた。与野党の論客が首相と交わす丁々発止のやり取りが注目されたからだ。

 だが、きのうの衆院予算委員会では、冒頭から夕方まで5時間にわたって「華」とは言い難い与党の質問が延々と続いた。従来なら野党第1党の質問が昼前には始まっていた。与野党の配分時間を「1対4」から「5対9」に見直した結果だ。

 自民党からは4氏が3時間半、質問に立った。最初の田村憲久氏は「厳しい質問もいくつかある」と前置きし、先月の衆院選で「逆風が吹いていた」として「森友・加計」問題の説明を安倍晋三首相に求めた。

 2人目の菅原一秀氏も「謙虚さを言葉だけでなく形にすることが大事だ」とただした。森友問題に関する財務省の説明を「虚偽答弁だったのではないか」とも追及した。

 首相は「謙虚に受け止めながら、真摯(しんし)な説明を丁寧に行っていくことによって国民の理解を得たい」と応じた。だが、答弁は大筋で従来と変わらず、質問した両氏も真相解明を強く迫ることはしなかった。

 長年の国会慣行を与党が強引に見直したのが今回の時間配分だ。野党から追及を受ける時間を減らすためだと言われないよう厳しい姿勢を演出したのだろう。半ば演技の出来レースでは解明が進むはずもない。

 安倍首相に近い新藤義孝氏は自ら「ヨイショしているわけじゃない」と言いつつ首相の外交実績を褒めそやす一方、野党の政権批判を念頭に「劇場型」国会をけん制した。

 自民党の最後は当選2回の加藤鮎子氏が農林水産行政について質問したが、実務的な確認事項が多く、首相にただす内容とは言えなかった。

 与党が急に質問時間の配分見直しを言い出した理由に「若手議員の質問機会を増やす」というのがあった。各委員会や党の部会で経験を積ませた方がよいのではないか。

 やはり必要なのは、政府に対する国会の監視機能だ。議院内閣制のもとでは与党と政府が一体となって政権を運営し、政府は政策や法案を決める過程で与党と事前調整する。与党の国会質問は調整結果の確認や今後への注文が多くなる。

 政府説明を確認して問題なしとする与党質問では監視にならない。

(社説)衆院予算委 議論深まらぬ与党質問

 衆院選後初めての予算委員会が衆院で行われた。

 「街頭演説で説明するよりも国会で説明したい」。森友・加計学園の問題について、そう語ってきた安倍首相にとって、初の説明の場である。

 ふたつの問題をめぐっては最近、新たな動きがあった。

 加計学園については文部科学相が獣医学部新設を認可した。森友学園への国有地の売却経緯をめぐっては、会計検査院が調査内容を国会に報告した。

 公平・公正であるべき行政手続きが、ゆがめられたのではないか。多くの国民の疑問に、首相は今度こそ「謙虚」に、「真摯(しんし)」に応える責任がある。

 だが、初日の論戦は十分に深まったとは言いがたい。

 最大の理由は、自民党の要求で野党の質問時間の割合が減ったことだ。従来は「与党2対野党8」だった質問時間は「5対9」に見直され、この日は政府への追及というより、政府と歩調をあわせるような与党の質問が5時間も続いた。

 そんな中で注目されたのは、森友問題での自民党の菅原一秀氏の質問である。

 菅原氏は、学園への国有地売却について、財務省職員が学園側に「ゼロに近い金額まで努力する」などと語る音声データが報じられたことを問うた。

 政府はこれまで「一方的な報道だと思う」としてきたが、この日は財務省幹部が、近畿財務局職員に事実関係を確認したことを初めて認めた。

 菅原氏は「結局、1億3千万円より下回らないと言っちゃってる。これは不適切であり、厳に戒めるべきだ」と指摘しながら、さらに踏み込んだ追及はしなかった。政府がなぜこれまでデータの内容を認めてこなかったのか、学園側となぜこのようなやりとりをしたのか、いくつもの疑問が積み残された。

 通り一遍の答弁は許さず、疑問があれば二の矢、三の矢を放つ。この日の与党質問は立法府のあるべき姿とは程遠い。

 与党の後に質問に立った立憲民主党の長妻昭氏が、質問時間の配分を従来通りに戻すべきだと主張したのは当然だろう。

 だが首相は「国会の運営について指示をする立場にない」とかわした。

 衆院予算委ではきょう、野党各党が質問に立つ。あすから2日間は参院でも予算委がある。

 行政府を監視し、政治に緊張感をもたせる。野党の役割を果たすことができるかどうか。

 菅原氏が問おうとしなかった質問を、きちんとただすべきなのは言うまでもない。

(社説)関電大飯原発 課題はまた置き去りか

 福井県の西川一誠知事が、関西電力大飯(おおい)原発3、4号機の再稼働への同意を表明した。「地元同意」の手続きはこれで終わり、関電は年明け以降、2基を順次稼働させる方針だ。

 自治体の避難計画作りの対象となる原発から30キロ圏には15万9千人が暮らす。その圏内で、大飯原発から西に14キロの関電高浜原発では、3、4号機が今年5~6月から稼働している。

 だが、両原発が同時に事故を起こすことを想定した住民避難計画はできていない。重い課題がまたも置き去りだ。再稼働はとうてい容認できない。

 関電は、運転開始から40年を超えた高浜1、2号機と美浜原発3号機をあと20年使うと決めた。再来年で40年になる大飯1、2号機も存廃は未定だ。福井の若狭湾沿いに多くの原発が集中する状況は当分続く。

 もし原発事故が起きれば、周辺住民の大半がマイカーで避難する想定だ。これまでの避難訓練で、限られた避難ルートで渋滞が起きないか、悪天候時に一部の地域が孤立しないかといった懸念が浮かんでいる。

 近接する原発が同時に事故を起こせば、住民の混乱は必至だ。さまざまな展開を想定して計画を練り、住民に周知することが最低限、必要だろう。それがないまま再稼働を進める関電や国はもちろん、同意した自治体も無責任というしかない。

 30キロ圏に住民がいる滋賀県知事が「容認できる環境にない」と述べるなど、周辺自治体の懸念は根強い。だが関電は、福井県と原発が立地する町以外に「同意権」を認めないままだ。

 関電の原発は使用済み核燃料プールが満杯に近い。岩根茂樹社長は今月、福井県外につくるとしている中間貯蔵施設について「来年中に計画地点を示す」と述べた。ただ、関西の電力消費地では、多くの自治体が受け入れを拒む構えだ。関電の思惑通りに進むか予断を許さない。

 関電は高浜原発で、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を用いるプルサーマル発電をしており、大飯でも実施の可能性を探るという。だが、使用済みMOX燃料を再処理する国の構想は白紙の状態だ。当面、各原発で保管し続けるしかない。

 こうした課題の多くは全国のほかの原発にも共通し、しかも繰り返し指摘されてきた。ところが電力会社と国、多くの立地自治体は、真剣に向き合う姿勢をいっこうに見せない。

 懸念が積み重なるなかで、再稼働だけが既成事実になっていくことを憂える。

森友予算委審議 検査院の指摘に丁寧に応えよ

 森友学園への土地売却の正当性に重大な疑問符が付いた以上、政府は問題点を再整理し、丁寧に対応すべきだ。

 衆院予算委員会の質疑がスタートした。

 会計検査院は先週、評価額より約8億円安い価格での大阪府豊中市の国有地売却について「根拠が不十分だ」とする検査結果を公表した。安倍首相は答弁で、「会計検査院の指摘は、真摯(しんし)に受け止めなければいけない」と語った。

 首相は、「国有財産の売却業務のあり方を見直すことが必要だ」とも述べた。国有財産の管理処分手続きや公文書管理について、法改正を含めて改善するという。

 いずれも当然の措置だ。早急に着手しなければならない。

 財務省は、学園と近畿財務局の交渉を記録した音声データの内容を確認した。財務局側が「できるだけゼロ円に近い額になるように作業している」などと述べている。財務省は、価格交渉ではないため問題ない、との見解を示した。

 財務省は過去の理財局長答弁などで価格の提示を否定しており、整合性が問われる。自民党の菅原一秀氏が「虚偽答弁と疑われる」と強調したのも無理はない。

 この土地は国が買い戻し、損害は生じていないが、値引きの理由が不明確なのは問題だ。財務省も「政治的な配慮はなかった」と主張するなら、交渉記録は廃棄済みだとしても、可能な範囲で調査することが大切だろう。

 立憲民主党の長妻昭代表代行は「官僚に忖度(そんたく)がなかったのか」と追及した。だが、新たな証拠や証言もないまま、同じ質問を繰り返しているだけではないのか。

 国家戦略特区を利用した加計学園の獣医学部新設について、首相は「具体的な指示は一切していない」と改めて関与を否定した。

 問題の発端は、内閣府が「総理のご意向」として開学を促したとされる文部科学省の内部文書の発覚だ。文書は「『諮問会議決定』という形にすれば、議長の総理の指示に見えるのではないか」との内閣府側の発言も記している。

 「これは、首相からの指示がないということではないか」との菅原氏の指摘はうなずける。

 憲法への自衛隊の明記について首相は「9条1、2項の制約は変わらない」と明言した。長妻氏は「追加した条文が優先され、地球の裏側まで武力行使できる解釈の余地が出る」と懸念を示した。

 現在の安全保障環境を踏まえれば、自衛隊の根拠規定の追加は重要課題だ。議論を深めたい。

中間貯蔵施設 除染土の有効活用も図りたい

 福島第一原子力発電所事故に伴う除染で生じた土を中間貯蔵施設に早期に搬入する。有効活用も図る。それが福島の復興の加速につながる。

 第一原発のある大熊、双葉両町に建設中の中間貯蔵施設で、本格的な運用が始まった。

 除染作業ではぎ取った表土から草木などをふるい分ける分別設備や、遮水シートを敷いて水分が外部に漏れないようにした土壌貯蔵場のシステムが稼働した。

 福島第一原発事故では、放射性物質が広範に飛散した。除染土の推計量は、福島県内だけで最大2200万立方メートルに上る。

 中間貯蔵施設には、昨年度までに約23万立方メートルが運び込まれた。今年度は50万立方メートルの予定だ。

 県内では、除染土の詰まった袋が、民家の軒先や農地などに山積みになったままだ。住民の生活の大きな障害になっているだけに、早期の撤去が欠かせない。

 環境省は、学校のグラウンドに残る除染土の撤去を優先的に行い、来年度中に完了する予定だ。着実に実施してもらいたい。除染土がなくなれば、景観が戻り、心理的負担も和らごう。

 除染土を運ぶトラックの往来の急増が予想される。人工衛星からの測位信号を用いて、渋滞対策などできめ細かな運行管理を行うという。安全第一で搬入を進めることが大切だ。

 中間貯蔵施設の面積は、計画では約1600ヘクタールに及ぶ。8割を占める民有地のうち、環境省が取得できたのは半分ほどだ。

 除染土を施設に集約させる必要性を、土地所有者らに理解してもらう努力が一層求められる。

 除染土の総量抑制も重要だ。

 土中に含まれる放射性物質は時間の経過とともに壊れ、放射線量は下がる。この性質を周知し、安全を確認した土は、可能な限り搬入以外の活用法を探るべきだ。

 中間貯蔵施設に搬入する土の量が減れば、それだけ施設の面積を縮小させることができる。運搬車両の通行量も少なくなる。

 南相馬市では、低線量の土を防潮堤や道路に使う実験が始まった。表面から奥深い部分に除染土を固めることで、外部の線量がどの程度低減するかを確認する。

 飯舘村では、除染土を農地に敷き詰め、通常の土で覆う実証事業を進める。将来は、花などの園芸作物の栽培も目指す。

 農地が整備されれば、避難中の住民が帰還する足がかりにもなるだろう。地域の実情に合わせ、除染土の使途を拡大したい。

2017年11月27日月曜日

賃金改革と残業削減を着実に

 仕事が同じなら賃金も同じにする「同一労働同一賃金」や、残業時間への上限規制の導入などをめざす政府の働き方改革は、関連法案の審議が来年に先送りされる。

 だが一連の制度変更が実現すれば、企業の経営への影響は大きい。経営者は法案の成立を待たず、賃金制度や業務の進め方の見直しに積極的に取り組むべきだ。

 同一労働同一賃金は正社員と非正規社員で不合理な待遇の差を設けることを禁じる。パートや契約社員の場合、基本給は経験や能力が同じなら正社員と同額の支給が求められることになる。賞与も貢献度に応じた支給が必要になる。

 「正社員の賞与は月給の3カ月分、パートは3万円」といった格差は認められにくいというのが労働法の専門家の見方だ。企業は求めがあれば、待遇の差の理由について説明が義務づけられる。

 企業は非正規社員の納得を得られるよう、賃金制度の整備を急がなければならない。正規、非正規を問わず職務や責任の範囲を明確にし、仕事の成果をきちんと評価する仕組みづくりが基本になる。正社員の活性化のためにも賃金制度の透明性を高めるべきだ。

 罰則を伴う残業規制の導入をめぐっては、見落とされがちな点がある。労使協定で労働時間を延ばす場合でも、企業は年間で6カ月以上、月間の残業時間を45時間以内にしなくてはならないことだ。

 月45時間は、平日に1日あたり2時間程度の残業をすることに相当する。長時間労働が常態化している企業の場合、年間の半分以上をこの範囲内に収めるのに苦労することも予想される。

 労働時間の削減は一朝一夕にはできない。仕事のやり方の効率化や無駄な業務を省くなど、生産性を高めながら、着実に労働時間の短縮を進める必要がある。

 同一労働同一賃金の制度づくりは非正規社員のやりがいを高め、残業削減は働く人の健康維持につながる。いずれも企業の成長を支える。関連法案の成立に向け、早めに備えるに越したことはない。

減反廃止を機にコメの競争力を高めよ

 政府は2018年につくるコメから生産調整(減反)をやめる。市場競争を避け、生産性の向上を阻害してきた制度は廃止して当然だ。コメ農家の自由な発想で価格競争力を高めたり、付加価値を高めたりする農業改革の基本路線を貫いてもらいたい。

 1970年代に本格実施された減反政策は、政府主導の生産カルテルでコメの供給過剰を防ぎ、価格を下支えすることが狙いだ。だが、「余ったら減反強化」という縮小均衡の考えでは、国際競争力のあるコメをつくり、海外市場を切り開く戦略を描けない。

 意欲的な農家が農地を集約し生産規模を拡大しても、フル生産できなければ価格競争力はそがれてしまうからだ。

 斎藤健農林水産相は今月、日本記者クラブでの会見で「国内需要が縮小し続けることを踏まえれば、生産調整制度はいずれ行き詰まり、市場の混乱を招く」と指摘した。その認識は正しい。

 にもかかわらず、全国農業協同組合中央会は全中などの生産者団体などが新たな全国組織をつくり、そこが主導して生産調整を継続する政策を提言した。政府の関与も求めている。これでは農協の意識改革に疑問符が付く。

 農協が力を入れなければならないのは自己改革を進め、海外の市場にも日本のコメを販売できる組織に変わることだ。政府主導の生産調整が終わる来年以降、公正取引委員会は農協などがコメの生産カルテル行為をコメ農家に強要し、自由な競争を阻害することがないように目を光らせてほしい。

 政府は食べるコメの代替として、家畜用の飼料米を補助金で増産する政策を進め、減反政策後のコメ余剰を防ぐ方針だ。しかし、この政策にも疑問はある。

 農水省は飼料米を100万~110万トン増産するために必要な補助金を1600億円程度と試算する。国民1人1食あたりに換算すれば1円ほどの負担というが、これでは補助金頼みの農業経営からは脱却できない。

 弱い農業は手厚い保護で守るという古い発想を改めなければ、農家はますます弱体化する。環太平洋経済連携協定(TPP)など貿易自由化の対抗策として、協定が発効していないのに予算の増額を求める発想も旧態依然としたものだ。自由貿易をいかし、農業を輸出産業として成長させたオランダのような政策が不可欠だ。

危機の社会保障 「働けど貧しい」 支える側がやせ細っていく

 日本の失業率は、先進国でも最低の2%台だ。欧州には10%を超える国もあり、世界がうらやむ「完全雇用」を実現している。しかし、働く人々はうれしそうではない。

 国税庁によると、民間企業で働く社員やパートらが昨年手にした給与は平均約422万円で前年より1万円以上多かった。とはいえ、世界経済が一気に冷え込んだリーマン・ショックの前年2007年の約437万円には届いていない。

 そして、雇用形態による格差がある。正社員は約487万円で非正規社員は約172万円と、立場の違いが315万円の差を生んでいる。正規・非正規の分類が始まった12年以降、格差は年々広がっている。

 厚生労働省の調査によると、働く人の数はこの間、5161万人から5391万人に増えた。だが、企業はもっぱら低コストの雇用拡大に力を入れ、非正規が1816万人から2023万人に増加している。

一人親世帯の貧困50%

 政府が民間に正規雇用増や春闘での賃上げを働きかけ、圧力をかけても限界がある。4年連続のベースアップは、経団連加盟の大手企業の正社員に限った話なのだ。

 そして、年172万円あれば、将来の生活設計を描けるかという現実問題が立ちはだかる。

 厚労省は「国民生活基礎調査」で日本の貧困状況を明らかにしている。15年の相対的貧困率は3年前の16・1%から15・6%に下がった。だが、一人親世帯に限れば50・8%と経済協力開発機構(OECD)加盟国で最悪の水準にある。

 この調査は生活の状況も聞いており、母子家庭では38%が「貯蓄がない」と答え、「生活が苦しい」は83%にのぼる。OECDによれば、日本の一人親世帯は親が働いていても貧困に陥る率が高く、多くの国でそうした世帯の貧困率が10~25%なのに比べ対照的だという。

 困窮を象徴する悲劇が3年前、千葉県内で起きた。40代の母が中学2年の娘を殺した事件である。

 給食センターのパート収入と児童扶養手当をあわせ手取りは月約12万円。だが、娘に不自由をさせたくない思いで制服や体操着を買うために借金をする一方、県営住宅の家賃1万2800円を滞納した。

 裁判では、勤め先に「掛け持ちのアルバイトは無理と言われていた」と話し、生活保護を相談した市役所では「仕事をしているなどの理由で断られ頼れなかった」と説明した。

 部屋を明け渡す強制執行の日、心中するつもりで犯行に及んだ。

 身勝手な動機や無知を責めることはたやすい。県や市の対応にも問題がある。しかし、なぜ、こうした悲劇が生まれたかを政策面や制度から考える必要はないだろうか。

社会の分断、不安定招く

 10月の衆院選では、ほとんどの政党が公約に貧困問題への取り組みを盛り込んだ。

 「貧困の連鎖を断つため」

 「格差と貧困の是正」

 「子どもの貧困対策を強化」

 政治的な立場を超えて共通認識になったことが、問題の重さを裏付けている。かつてのように「自己責任」と突き放すのではなく、放置すれば社会保障制度自体が危ういという意識が広がりつつある。

 総務省の調査によると、昨年の時点で親と同居する35~44歳の未婚者は全国に288万人いる。うち52万人は経済的にも親に依存し、潜在的な貧困層と言える。

 「働けど貧しい」世帯も、親に生活を頼る層も、日々の暮らしを維持するのに手いっぱいだ。社会保険料を負担するなど、制度を支える側としての役割を期待するのは難しい。

 さらに貧困世帯の多くは、子どもの進学・教育の機会が閉ざされるという不安が強い。「働けど貧しい」が次世代に引き継がれる悪循環が広がれば、支える側はますますやせ細るだろう。

 欧米は1990年代から低所得の労働者「ワーキングプア」の問題について国際会議などで議論を重ねてきた。社会保障の持続性を損ない、社会の分断や国の不安定化を招くと考えたためだ。

 そして、税制や社会保障手当の仕組みなどを使って、問題解消を図ろうとした。だが、成果はおぼつかず、いまだ試行錯誤である。

 世界に先駆けて超高齢化を迎える日本にとって手本はない。長期的な視点に立った方策に、早急に取り組まなくてはならない。

(社説)大学改革 目先の利益傾く危うさ

 大学の授業料の減免や奨学金制度の拡充は、大学改革とセットで――。首相が議長を務める「人生100年時代構想会議」でそんな声が高まっている。

 無償化は格差の固定化を防ぐための政策であり、対象はそれに役立つ大学、つまり「企業が雇うに値する能力」の向上にとり組む大学に限るべきだといった考え方である。内閣官房の担当者は「真理の探究をやるので実務は関係ないという大学に、公費で学生を送るのは説明がつかない」と解説する。

 税金を使う以上、それに見合う質を求めることは誤りではない。だが政府が進めてきた大学政策を重ね合わせると、この割り切りには危うさが漂う。

 今春の経済財政諮問会議で、文部科学省は大学改革の狙いに「イノベーション(技術革新)創出と生産性向上」を掲げた。予算の配分でも、大学や研究者間の競争を重視する傾向が強まっている。いきおい、基礎研究より実用、人文社会より自然科学に有利に働くだろう。

 2年前の文科相通知を思いおこす。後に軌道修正されたものの、文系学部の廃止や転換を進めると読める内容で、大きな社会問題になった。

 大学にも選択と集中が必要だとしても、実利に傾きすぎていないか。目先の利益ばかり求めていては教育も研究も早晩やせ細る。国が学問分野によって有益・無益をあらかじめ判断し、選別するようなことにならないよう、慎重を期すべきだ。

 そもそも大学で学んだ何が、どう役に立つかは、教育を受けた本人が、それをどう消化するかによる。国の都合で学生の進む道を縛るべきではない。

 構想会議のメンバーはまた、大学の再編統合による教育の質の向上を訴える。学生を確保できない大学の撤退を唱える文科省の主張と重なるが、留意すべきは定員割れに苦しむ大学は地方に多いということだ。

 競争による淘汰(とうた)に任せれば、都会と地方の進学格差はさらに広がる。そうさせないよう、財政や運営面で地方を支える手立てを急がなくてはならない。

 気になるのは、こうした議論の底に「大学教育は役に立たない」という経済界の不信が見え隠れすることだ。だが当の企業も学生を採用する際、何を学んだかを重視してこなかったのではないか。それでは実社会を意識した授業改善が進むはずもない。大学での学びを正当に評価する選考方法を探るべきだ。

 多様な人材を世に送り出す。そのためには、学問の多様さと大学の個性が欠かせない。

(社説)JR北海道 国と道が議論主導

 JR北海道が路線全体のほぼ半分、10路線13区間について「単独で維持するのは困難」と表明してから1年がたった。

 路線の存廃や経費の分担をめぐる沿線自治体との協議は、全般的に進んでいない。

 JR北は昨年度も全路線が赤字で、その総額は500億円を超えた。「3年で資金繰りがつかなくなり、全列車が運行できなくなる恐れもある」という。

 事故や不祥事を繰り返した末、廃線の可能性を口にし始めたJR北に対し、沿線地域には強い不信感がある。だが、存続させるには資金が要る。話し合いは避けて通れない。

 対象路線は国土の2割を占める北海道の全域に広がり、一部は農産品を全国へ運ぶ役割も担う。国と北海道が主導し、協議を加速させていくべきだ。

 国の責任はとりわけ大きい。

 JR北は1987年の発足時から、国が拠出した基金の利子で鉄道の赤字を埋めるという支援を受けている。経営危機の最大の要因は、90年代半ばから続く低金利でそれが成り立たなくなり、年間500億円規模の赤字を埋められていないことだ。

 石井啓一国交相は「金利の変動は想定されたこと。経営努力で対処するのが基本だ」と言う。だが、橋やトンネルの老朽化も進み、JR北単独では手に負えないのが現実だ。

 北海道庁の有識者会議は今年2月、「国の抜本的な支援なしではJR北の経営再生はできない」と指摘した。基金の利子減少による経営難はJR四国も同じだ。JR発足から30年の大きな課題として、国は支援のあり方を抜本的に見直すべきだ。

 沿線の自治体も、地域の現実を直視する必要がある。

 道内の高速道路はこの30年で飛躍的に拡充され、無料の区間も多い。自治体や住民は歓迎したが、鉄道離れは進んだ。

 地域住民がもっとも望む「足」は鉄道か。車を運転できない学生や高齢者にとっては、目的地の学校や商業施設、病院に行きやすいバスのほうが喜ばれるかもしれない。

 鉄道の存続を訴えるだけでなく、理想の公共交通を住民と考える好機とする。自治体にはそんな前向きな姿勢を求めたい。北海道は今までの交通政策の失敗を認識し、道全体の交通網再編を率先して進めるべきだ。

 「北の鉄路」の危機は、人口減少が進むどの地方にもひとごとではない。大切なのは鉄道会社任せにしないことだ。地元の交通を守るためにどんな手を打つべきか。手遅れになる前に、地域全体で知恵を絞りたい。

TPP大綱改定 足踏み許されぬ「攻めの農業」

 自由貿易の大きな枠組みが相次いで動き出す。農産品市場の開放をチャンスに変える「攻めの農業」が待ったなしだ。

 これまでの取り組みを検証し、効果の高い対策を着実に進める必要がある。

 政府が「総合的なTPP(環太平洋経済連携協定)等関連政策大綱」を決定した。

 米国を除く11か国が新たなTPPに大筋合意した。日本と欧州連合(EU)は年内の経済連携協定(EPA)最終合意を目指す。こうした動きを踏まえたものだ。

 大綱は「新市場開拓を推進するとともに、強い農林水産業をつくりあげる」と明記した。国内農業の活路を海外市場に見いだし、そのための構造改革を進める。

 方向性はうなずける。掛け声倒れに終わらせてはならない。

 大綱は元々2年前、米国を含むTPP大筋合意を受けて策定された。今回はその改定版だ。

 元の大綱に基づき、政府は2015、16年度に各3000億円の国内対策を実施した。新たな大綱を受け、17年度補正予算でも同規模の対策が見込まれる。

 米国のTPP脱退で、農業への打撃は軽減される面がある。対策規模の維持は安易なバラマキを誘発しかねない。農業の体質強化に資する事業を厳選すべきだ。

 新大綱は日欧EPAを受けて、欧州が強いチーズなど乳製品分野の対策を柱の一つに据えた。

 酪農は、家畜の世話に手間と費用がかさみ経営環境が厳しい。搾乳ロボットの導入や、消費者への直販など生産・流通の革新が欠かせない。産地発の国産ブランドを確立するような意欲的な取り組みも補助金で後押ししたい。

 協定発効よりも対策を先行させるのは、農業の輸出産業化を少しでも前に進めたいからだろう。

 経営感覚に優れた次世代の担い手を育成する。持続可能な収益性の高い操業体制に転換する。こうした大綱の目標を具体化するには、規制を見直し、大胆な政策に取り組まねばならない。

 昨年の農林水産物の輸出額は約7500億円となり、4年連続で最高を更新した。政府は19年の1兆円達成を目指している。

 内実は、ホタテなど一部の産品に依存する構図が根強い。総額の伸びは頭打ちになりつつある。

 国際認証を取得した生産者が少なく、進出先が限られているとも指摘される。政府と農協などが連携し、輸出戦略を深めることが大切だ。海外ニーズを探る市場調査の強化もカギの一つとなろう。

「量子」計算機 日本発の技術を磨き上げたい

 日本発の新技術を、社会の発展に役立てたい。情報技術(IT)分野の国際開発競争を勝ち抜くためにも官民が力を結集することが重要だ。

 NTTや国立情報学研究所などが、量子コンピューターの試作機を開発した。今週から、インターネット経由で研究者らが自由に利用できるようにする。

 量子コンピューターは、分子や原子の物理現象を扱う「量子力学」の原理を用いる。特定分野の問題では、通常のコンピューターよりも1億倍速く計算できるというデータも出ている。有望な「夢の技術」の一つと言える。

 特に、様々な選択肢の中から最も適した組み合わせを導き出すのが得意だ。交通量の多い都市部の渋滞解消や自動運転、物流網の効率化、さらには新薬の開発にも役立つと期待されている。

 NTTは通信事業で培った光ファイバーの技術を駆使した。計算能力に優れ、大幅に消費電力を減らせるという。試作機の運用を十分に生かして、汎用(はんよう)性の高い実用機の開発を加速してほしい。

 量子コンピューターを実現する手法は、西森秀稔東京工業大教授の理論などが知られている。

 国内生まれにもかかわらず、日本勢は開発で海外に後れを取っている。西森氏の理論を応用したカナダ企業が実用化で先行した。米航空宇宙局(NASA)も利用を始めている。中国は、巨額の研究開発投資を続けている。

 NTTは、政府の「革新的研究開発推進プログラム」(略称・インパクト)に参画し、財政支援を得て開発を進めてきた。

 理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「京」は今月、実用性能評価で世界1位となる成果を上げている。

 最先端の研究成果を着実に実用化に結び付けるには、産学官のさらなる協力が欠かせない。

 人工知能(AI)、あらゆるものがネットにつながるIoTなど、IT技術を事業に活用する動きが際立って増えている。

 世界の技術革新力のランキングで、日本は2007年の4位から10年間で14位まで下がった。科学技術大国としての日本の存在感が薄れていることは否めまい。

 日本は、自動車や電機など、高品質で生産性の高いモノ作りで強みを発揮してきた。

 今後は、ITなど多様な技術開発を主導し、新たなビジネスモデルを開拓することが求められる。柔軟な発想で様々な社会問題の解を示してもらいたい。

2017年11月26日日曜日

「アンドロイド」の成功に学ぶ

 米グーグルがスマートフォンの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を開発し、通信機器をつくる企業に無料で提供する計画を発表して10年を迎えた。

 アンドロイドは世界のスマートフォン市場で8割強のシェアをおさえた。この結果、スマートフォンを通じたグーグルの検索サービスの利用が伸び、売上高は10年間で6倍以上に増えている。こうしたアンドロイドの成功には、多くの企業が学ぶべき点がある。

 アンドロイドが広く受け入れられた理由のひとつは、誰でも改良できるようにしたことだ。世界中の技術者の協力を得て開発を加速したといえる。米アップルと同様に、アプリと呼ぶソフトの開発に外部の企業や個人を引き込んだのも大きい。

 日本にはこうした「仲間づくり」が苦手な企業が多い。だが技術が難しくなり、世界的な競争も激しさを増す中、企業が単独でできることは限られている。外部と協力しやすい体制を築くべきだ。

 グーグルが買収したベンチャー企業の技術をもとにアンドロイドを開発した点にも注目したい。

 ネットの利用がパソコンからスマートフォン経由に変わると、グーグルは主力のネット検索でこれまで通りの収益を上げられなくなる恐れがあった。M&A(合併・買収)で人材や技術を手に入れ、検索の利用を伸ばし広告の収益力を高めた手法は参考になる。

 日本でもヤフーが買収先の人材を活用し、スマートフォンを通じて使うサービスをつくる全社的な取り組みを加速したが、買収で入手した人材や技術を経営の中枢に据える動きはまだ少ない。買収後の組織や人材の融合を含め、M&Aの技量を磨く必要がある。

 あらゆるモノがネットにつながるIoTや人工知能(AI)の普及が近づき、製造業から金融、小売りまで、幅広い分野の企業が新たな対応を迫られている。生き残りに向けて多くの企業が外部との協力やM&Aの活用を真剣に考えるときだ。

補助金のバラマキで生産性は上がらぬ

 安倍晋三政権が近く、日本経済の生産性を上げるための「生産性革命」と銘打った政策をまとめる。人口減とグローバル化がすすむ中、日本経済の持続力を高めるには生産性向上が欠かせない。

 大事なのはその手段である。中小企業や農業者への補助金のバラマキで生産性は上がらない。規制の撤廃や労働市場改革を断行し、企業や産業の新陳代謝を後押しする。安倍政権はそんな本物の構造改革を進めるべきだ。

 安倍首相は2020年度までの3年間を「生産性革命・集中投資期間」と位置づけている。懸念されるのは、「生産性革命」の名目で生産性向上につながらない補助政策が繰り返されそうな点だ。

 例えば、中小企業の設備投資を支援する「ものづくり補助金」制度があるが、補助金をもらっても、企業は自己負担した分の費用さえほとんど回収できずにいる。

 中小企業がもっとIT(情報技術)投資をすべきだとしても、政府が費用対効果を考えずに補助金を配るのは問題が大きい。17年度補正予算案で安易に支援額を膨らませるべきではない。

 生産性上昇のカギを握るのは規制改革だ。企業や個人に自由を与えて創意工夫を引き出し、新たな商品やサービスを生み出す環境を整えやすくなるからだ。

 その目玉とされるしくみに「サンドボックス」がある。人工知能(AI)や宇宙活用などの分野でいまの規制を一時的に停止し、企業や個人が思い切った実験をしやすくする。その発想は正しい。

 焦点は進め方だ。いまの法律に抵触するか否かの判断が微妙な「グレーゾーン」に対象を限ると、効果は小さくなる。対象を広げるため、現行法の適用除外項目を最大限つみ上げてほしい。

 一般の自動車の相乗り(ライドシェア)にも取り組むときだ。裁判所が解雇無効の判決を出した後で、労働紛争を金銭で解決するルールも早急にまとめるべきだ。

 生産性向上につながるイノベーションの分野では、国際的に引用される論文や大学のランキングで日本の地位は下がる一方だ。人や情報、カネなどの面から取り組みをゼロベースで刷新・強化する必要がある。

 日本経済の実力である潜在成長率は1%未満に低迷している。これを一過性の補助金で押し上げることはできない。大胆な構造改革を息長く続けねばならない。

危機の社会保障 迫る超高齢化 長期展望を欠く政治の罪

 突然のけがや病気。収入が断たれる失業。定年後の長い生活。人生には数多くのリスクが存在する。

 これらをすべて個人で背負うのは難しい。リスクが現実化した場合、社会生活ができない状態に追い込まれるかもしれない。

 年金や医療、介護といった社会保障は、こうした事態に備えるために国家が整備する安全網だ。国民がその国で生きていくためになくてはならない、とりでである。その大事な社会保障が危機にひんしている。

 「2025年問題」。日本の年齢別人口で最も数が多い「団塊の世代」がすべて75歳以上になる年がこう呼ばれている。

 75歳を過ぎると健康リスクが格段に高まる。必然的に医療や介護の費用が急増し、国家財政を圧迫する。その時が間近に迫っている。

高齢者数ピークは42年

 25年時点の介護費用は現在の2倍になり、介護職員は37万人も不足するとされている。人口が集中している大都市部は「介護難民」であふれるとまで言われている。

 しかも、危機は25年がピークではなく、25年から本格的に始まる。

 65歳以上の高齢者数が最も増えて推計3935万人に達するのは、今から25年後の42年と見込まれている。日本の人口はすでに減少しつつあるため、2・8人に1人が高齢者という計算になる。

 65~74歳の人口は20年ごろから減っていくが、75歳以上はピークの42年を過ぎても増え続ける。

 人口構成の高齢化に加え、日本は少子化による急速な人口減少に見舞われている。現在の約1億2700万人が50年ごろに1億人を割り込み、60年代は8000万人台になる。

 こうした人口の変化が、日本の経済や財政に与えるインパクトの大きさは計り知れない。

 より深刻なのは、これほど巨大な変化を前にして政府が長期的な対策を持っていないことだ。

 安倍晋三首相は少子高齢化を「国難」と言って衆院選に臨んだ。ただ、公約に掲げたのは幼児教育の無償化などに過ぎない。現在、政府は高等教育の一部無償化、介護職員の待遇改善なども盛り込んだ「2兆円パッケージ」を策定中だ。

 「全世代型福祉」を進めるのは必要だが、まだ目先の対応から抜け出してはいない。

 長期的な高齢化と人口減少が社会の地盤を崩していくことがわかっていながら、歴代政権は直視してこなかった。必要な社会保障の財源を確保するには、国民に不人気な負担増が避けられないためだ。

 ようやく消費増税による社会保障改革の「3党合意」が成立したのは旧民主党政権の時だった。借金で次世代にツケを回してきた政策の解消がその意味するところだ。消費税10%の後には、さらに長期的視点に立ったビジョンの策定が期待された。

 ところが、安倍政権は2度にわたって消費税を10%に上げるのを延期した。安倍政権が「国難」に正面から向き合ってきたとは言い難い。

時間の浪費は許されぬ

 危機は、高齢者人口が増えるということだけにとどまらない。

 平均寿命が延びることは認知症になる人が増えることでもある。高齢者人口がピークを迎えるころには認知症の人が800万人を超える。認知症対策を中心にした介護の質の転換を急がねばならない。

 終末期医療をどうするかも重要な課題だ。尊厳死を合法化する国は増えているが、日本では政治の場でほとんど議論になっていない。死生観や生命倫理が絡む問題だけに国民的議論を深めることが求められる。

 老後や病気になったときの心配が募ればますます自己防衛策に走るようになり、預貯金ばかりが膨らんでいく。消費は停滞し、社会は縮小していく。個人の預貯金が増え続けて1000兆円規模になった現在の日本がまさにそうだ。

 暮らしの安心や社会保障への信頼があるからこそ、私たちはリスクを背負って挑戦や冒険ができる。そうやって社会や経済は活性化するのではないのか。

 社会の変化に合わせて長期的な社会保障のビジョンを示し、国民の暮らしを支えるのが政治の役割だ。これ以上の時間の浪費は許されない。

       ◇

 人口が急速に変化する中で、日本の社会保障を持続可能にするためにはどうすればよいか。年末の予算編成に向け問題を提起したい。

(社説)核ごみ説明会 議論深める場へ見直せ

 原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)を、どこでどう最終処分するか。この難題について国民全体で議論を深めていくために、国の説明会のあり方を根本から見直す必要がある。

 資源エネルギー庁と原子力発電環境整備機構(NUMO)が10月から都道府県ごとに順次開いている説明会で、学生ら参加者の一部に金品の提供が持ちかけられていた。東京や埼玉など計5会場で39人にのぼる。

 若者向けの広報業務を委託した業者が独断で行い、議論に影響はなかったというが、説明会の公正性や信頼性を損ないかねない。NUMOが過去にさかのぼって調査し、再発防止策を検討し始めたのは当然だろう。

 同時に、開催を通じて浮かび上がってきた他の課題にも、しっかりと向き合うべきだ。

 会は、最終処分地の候補となりうる地域を示した「科学的特性マップ」の説明などが中心の1部と、少人数に分かれて意見交換する2部からなる。各回の定員は100人だが大半の会場で満席にならず、特に2部の参加者は20~30人ほどにとどまっている。主催者の都合で平日午後に開いているため、仕事のある人が参加しにくいようだ。

 半年間で福島県を除く全都道府県をカバーするというが、スケジュールありきで開催自体が目的になっていないか。業者が学生を動員したのも、主催者の意向を忖度(そんたく)し、出席者が少ないうえに年長者ばかりではよくないと考えたからではないか。

 言うまでもなく、説明会の目的は開催の実績作りではない。使用済み燃料に関する課題を国民全体で共有し、議論を深めていくことだ。

 東京の会場では、冒頭に流したビデオ映像について、参加者から「不適切」との指摘が出た。使用済み燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出し、再び利用する核燃料サイクル事業が、あたかも確立しているかのように受け取れる内容だったからだ。

 廃炉が決まった高速増殖炉「もんじゅ」が象徴する通り、核燃料サイクルの破綻(はたん)は明らかだ。海外では最終処分地を決めたフィンランドをはじめ、使用済み燃料を再処理せずに埋める「直接処分」が主流である。

 国とNUMOは、自らに都合の悪い情報も伝え、幅広い意見に耳を傾けるべきだ。いまの原子力政策の継続を前提とする議論しか認めないような姿勢では、国民の不信感を強めるだけで、最終処分地選びへの理解は広がらない。

(社説)被告の高齢化 認知症の増加に備えを

 被告に認知症の疑いがある場合、審理をどう進めるべきか。重い課題を突きつけた刑事裁判だった。

 青酸化合物による連続不審死事件で殺人罪と強盗殺人未遂罪に問われた筧(かけひ)千佐子被告(70)に、京都地裁は今月7日、死刑を言い渡した。精神鑑定で、被告は「軽症のアルツハイマー型認知症」と診断された。

 計38回にわたった公判で、被告は「私が殺(あや)めた」と述べながら、「殺したイメージがわかない」とも発言。裁判員から反省の意思を問われ、「失礼です」と激高する場面もあった。

 弁護側は「訴訟能力も責任能力もない」として、無罪を主張していた。判決は、犯行時に善悪を判断する責任能力があり、訴訟能力も問題ないと結論づけた。弁護側は控訴した。

 審理には6人の裁判員が加わった。求刑は極刑だ。結論を導くのは難しかったに違いない。

 判決後、会見に応じた裁判員は「認知症に関しては、専門の先生がある程度結論を出さないと判断しにくい」と述べた。

 重く受け止めたい。

 罪を犯して刑務所に再び入る率が、他の年齢層に比べて高いのをどう下げていくか、そのために刑務所内外でどんな支援が必要かなど、高齢化で司法が直面する課題は多い。捜査・公判段階では、被告が自らの立場を防御する権利にかかわり、早急に対策を考える必要がある。

 法務省の統計では、交通事故などを除き、昨年起訴された約11万8千人のうち65歳以上は約11%を占めた。10年前は約5%で、被告の高齢化は進む。

 10月、介護していた長男を殺害したとして殺人罪に問われていた80代の女性について、大阪地検が公訴を取り消した。精神鑑定で訴訟能力に疑問がもたれて公判を停止し、これからも回復の見込みがないと判断した。

 今後、裁判員が認知症やその疑いがある被告と向きあい、判断を迫られる事例が増えるだろう。公判中に認知症が悪化することも考えられる。医療関係者がより裁判にかかわる仕組みなど、十分な判断材料を提供する工夫が今以上に求められる。

 刑事事件の精神鑑定に関わる慶応大医学部の村松太郎准教授は「被告の症状がどの程度であれば、訴訟能力があると認めるのか。司法の要請に応えられる態勢を医学界がとれるか。実務者がコミュニケーションを深める必要がある」と話す。

 各地の裁判所や検察、弁護士会が精神科医を交えた議論の場を設けるなどして、まず課題を共有することが急務である。

自民合区解消案 参院の役割も同時に議論せよ

 参院選の合区を解消するためだけの、あまりに安直な案だと言わざるを得ない。参院のあり方を含めた、より根本的な議論が欠かせない。

 自民党が、3年の改選ごとに各都道府県から最低1人の議員を選出する規定などを憲法に追加する案をまとめた。

 これを根拠に公職選挙法を改正し、2016年参院選で導入された「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区を解消するという。

 合区は、地方の人口減少が続く中、1票の格差を現状の3倍前後に抑えるための苦肉の策だ。

 都道府県の行政単位や郷土意識は国民に定着しており、「地方の声が国政に届きにくくなる」という懸念は理解できる。合区の解消へ、参院議員の地域代表の性格を強めることは検討に値しよう。

 だが、自民党案は、選挙に関する憲法47条と、地方自治に関する92条の小手先の改正にすぎない。自民党の選挙基盤の強い地域で定数を増やす身勝手な案である。

 公明党が、衆参両院は「全国民を代表する」議員で組織するとした憲法43条との矛盾を指摘したのは、もっともだ。14条の「法の下の平等」に基づく投票価値の平等の例外を設ける以上、衆参両院の役割分担も論議すべきだろう。

 衆参ねじれ国会では、法案の可決や国会同意人事で衆院と同等の権限を持つ「強すぎる参院」の是正の必要性が強く指摘された。

 都道府県を代表する参院議員の存在を認めるのなら、衆院の法案再可決要件を「3分の2以上」から「過半数」に引き下げる憲法59条の改正も避けてはならない。

 参院選挙制度改革に取り組む参院改革協議会でも、自民党案に賛成する政党はなかった。公明、共産両党や日本維新の会は、地域ブロック制の導入を主張した。

 各党には、ブロック制なら第3党以下でも議席を獲得しやすいという党利党略の発想もあろう。しかし、選挙制度改革は、民主主義の土台作りであり、より多くの政党の合意形成が求められる。

 15年7月に成立した改正公選法は付則で、19年参院選に向けた抜本的な制度改革について「必ず結論を得る」と明記している。周知期間を考えれば、来年夏までの制度改正が必要である。

 参院各会派だけの議論では、参院の権限縮小も含めた抜本的な改革案は望めまい。テーマを絞って有識者会議を設置し、提言を受けるのも一案ではないか。このまま何も手を打たなければ、合区のさらなる拡大は避けられまい。

寺院の拝観料 負担を共有して文化財保護に

 各地の史跡や寺院などで、入場料や拝観料の値上げが目立つ。

 来場者に負担増を強いる以上、貴重な文化財を維持、伝承していくために、有効に使ってもらいたい。

 国宝・姫路城を管理する兵庫県姫路市は2年前、400円の入場料を1000円に値上げした。

 2014年度に終えた平成の大修理の際、市は3億円を負担した。毎年の維持費の不足分も、市が穴埋めしている。入場者の多くが市外からの観光客だ。市民の負担減を重視しての値上げだった。

 滋賀県彦根市は12月に、国宝・彦根城の観覧料を200円アップして800円にする。彦根城の世界文化遺産登録を実現するための活動費などに充てるという。

 日本の史跡や寺院の入場料は、海外に比べて総じて安価だ。訪日外国人客が急増する中、案内表示の充実など、サービス向上へのニーズも高まっている。

 国の財産である文化財を適切に管理して、観光資源としても活用する。そのためには、一定の値上げはやむを得ない面がある。

 木造の国宝や重要文化財を数多く抱える京都や奈良の古刹(こさつ)は、修繕工事や防災設備の更新に追われる。修繕に携わる職人らの人件費の高騰にも直面している。

 奈良の法隆寺は2年前、拝観料を1000円から1500円に引き上げた。東大寺でも来年1月に500円から600円になる。

 法隆寺は「文化財を次世代へと引き継いでいく必要がある」と、値上げに対する理解を求める。

 東大寺は、文化財に指定されていない建物の維持や、文化財に液体がかけられた事件への対応などを値上げの理由に挙げている。

 寺院の財務状況は、外部からは概して分かりにくい。なぜ値上げが必要なのか。具体的にどのように使うのか。寺院側は、パンフレットなどで拝観者に分かりやすく説明すべきだ。

 拝観者も、自らの拝観料が貴重な仏像の修復などに役立つことに、異論はないだろう。

 国宝や重要文化財の修理費のうち、約半分が政府の負担だ。年に300億円超を計上している。文化庁の総予算の3分の1を占めるため、大幅な増額は難しい。

 定期的な修繕には、寺院側の自己資金がどうしても必要になる。文化庁は、寺院の資金調達イベントなどを支援する取り組みを来年度から始める方針だ。

 文化財の保護には、負担を広く共有する必要がある。その意識を浸透させることが大切だ。

2017年11月25日土曜日

山一破綻20年、金融改革の再起動を

 四大証券の一角だった山一証券の破綻から、24日で20年が経過した。当時の日本は山一のほか、三洋証券や北海道拓殖銀行など金融業界の相次ぐ経営破綻によって経済活動は凍りつき、市場が機能不全に陥っていた。

 危機を教訓に様々な改革が実行された。そのかいあって、20年前に比べれば日本の金融システムは確かに安定した。

山積の課題に向き合え

 しかしながら、改革の成果は期待したものには遠く、手つかずの課題も多く残る。今こそ世界の潮流も視野に、金融改革を加速させなければならない。

 過去20年をふり返ると、いくつかの変化がみてとれる。

 まず、再編が進んだ。1997年に都市銀行や長期信用銀行など10行以上がひしめいた大手銀行は、拓銀破綻の後、3メガグループを軸に統合が加速していった。証券会社は業界3位の日興が銀行傘下に入り、独立系は野村と大和の二大勢力となった。

 既存の銀行・証券のほか、インターネットを通じて個人向けに預金の受け入れや株式売買の仲介をするネット金融も、現在ではすっかり市民権を得た。

 また、山一が簿外取引で行きづまったことの反省を踏まえ、情報開示に関する改革が進んだ。単体が主流だった上場企業の決算は連結主義に移行した。資産を市場価格で評価する時価会計が導入され経営の透明度も増した。

 足元の株式市場は息を吹き返しつつあり、日経平均株価は約26年ぶりの高値水準を回復した。底が抜けたかのように株価急落が止まらないといった事態が遠のいたのは、金融システムの安定と市場改革の効果も表れているとみてよいのではないか。

 好業績と株高を背景として企業が投資や採用を拡大し始めるなど、デフレ脱却に向けた経済の好循環の兆しもみえる。

 とはいえ、改革の成果は満足すべき水準には届いていない。

 20年前の橋本龍太郎内閣は山一破綻と相前後して日本版ビッグバン(金融大改革)を本格化した。ビッグバンの目的は資金仲介に市場原理を導入し、リスクマネーの流れを促すことによって経済を活性化することだった。

 残念なことに、現状では資金が滞留している。個人の金融資産は20年間で1200兆円から1800兆円に増えたが、その半分程度を預貯金が占める構造に変わりない。企業が万が一に備え手元に余資をとどめておく傾向は、逆に強まった。企業の総資産に占める現預金の比率は、この20年で9%から12%に上昇している。

 個人と企業のお金の動きが鈍い結果、新興企業などに回る成長資金は不足し、産業の新陳代謝はおくれている。2017年の株式の新規公開件数は約90社と、ここ10年で最高水準が見込まれる。だが、90年代には100社超の企業が公開した年も多かったことを考えれば何とも物足りない。

 日本の外に目を転じると、97年のアジア通貨危機から翌年のロシア危機へと混乱の時代が続いた。世界はその後、米リーマン・ショックや欧州債務危機も経験した。現在は各国中央銀行による金融緩和政策などの効果で、経済は回復基調が鮮明になってきた。最高値圏で推移している米株式市場はその象徴といえる。

古い事業モデル捨てよ

 現在の日本は世界的な景気拡大と株高の恩恵を受けている。好環境に安住せず、金融・市場関係者は目前に積み上がる課題の解決にむけて動くべきだ。

 銀行は事業構造の転換が焦眉の急だ。保証や担保頼みの融資に頼ったビジネスモデルは限界に近い。企業買収の助言や資産運用といった、非金利収入をもたらす事業を拡大する必要がある。

 資本市場の改革では、不透明な持ち合いの解消を徹底するとともに、安倍晋三政権下で緒についた企業統治改革をさらに進めなければならない。官民をあげて金融教育に力を入れ、個人が自己責任に基づく投資に踏み出せる環境を整えることも大切だ。

 仮想通貨の広がりや同通貨を使ったICO(イニシャル・コイン・オファリング)と呼ばれる資金調達の登場など金融取引は変貌を遂げている。監督当局はグローバルな連携を深め、新しい現実に即したルールづくりを急ぐべきだ。

 少子化や長寿が進む日本社会では、経済の活性化や個人の資産形成がことのほか重要になっている。危機から20年の節目を、金融の構造改革を再起動させる出発点とすべきである。

野党の国会質問を大幅削減 慣行を踏みにじる行為だ

 週明けに開かれる衆院予算委員会で野党の質問時間が従来より大幅に削減されることになった。与党側が「数の力」で押し切った。

 野党の質問時間を減らす提案は、特別国会での実質審議に応じない構えをみせていた首相官邸と自民党が交換条件のような形で持ち出した。「与党の若手議員の質問時間を増やすため」という理由だった。

 野党が時間配分に反発して審議を拒否すれば、「森友・加計」問題などで安倍晋三首相を直接追及する機会を逸することになる。従来の比率「野党4対与党1」から「9対5」へと野党は譲歩を強いられた。

 かつて「野党に花を持たせる」ことを説いたのが竹下登元首相だ。1988年の国会答弁では、議院内閣制のもとで与党が政府の政策を事前審査していることに触れ「可能な限り少数意見に耳を傾ける」「野党に時間を差し上げる」と述べている。

 この姿勢は時に「与野党なれ合いの国対政治」と批判もされながら、自民党の伝統として引き継がれてきた。野党の質問時間を手厚くする国会の慣行は、議院内閣制をとる民主主義国家の共通ルールでもある。

 今週の参院本会議で民進党の大塚耕平代表から「国会において守るべき保守政治家の矜持(きょうじ)ではないか」と問われ、首相はこう答弁した。

 「数万を超える票を得て国会議員となった以上、与党・野党にかかわらず、国会の中において責任を果たすべきであり、それが有権者の負託に応えることだとの指摘もある」

 議院内閣制において、行政府と一体になって立法作業に取り組む与党と、国会審議を通じて行政府をチェックする野党の役割はおのずから異なる。与党議員も国会で質問しなければ責任を果たせないかのような首相の主張は、国会の長年の慣行を踏みにじって良い理由にはならない。

 そもそも野党時代の自民党が野党に手厚く質問時間を配分するよう求めていたこととも矛盾する。

 加計学園の獣医学部認可を受けて開かれた先週の衆院文部科学委員会でも与党の質問時間が増えたが、自民党から質問に立った義家弘介元副文科相は政府の擁護と、メディアや野党への批判に終始した。衆院予算委2日間で5時間にもなる与党質問が有意義に使われるのか疑問だ。

三菱マテリアル系も不正 長期の放置で重ねた背信

 偽装に手を染めたことに加え、問題を把握した後も長期間放置した。顧客に対する二重の背信である。

 三菱グループの金属メーカー、三菱マテリアルは子会社3社が製品データを改ざんしていたと発表した。取引先が求めた品質を満たしていないのに書き換えたという。

 出荷先は自動車、航空機、電子機器など200社超と広範に及ぶ。自衛隊の航空機や艦船にも使われている。日本の基幹産業や安全保障にも影響しかねない不祥事である。

 親会社として製品をチェックしてきた三菱マテリアルの責任は重大だ。「安全性の問題は確認されていない」と説明するが、日本製品が海外で評価されてきた要因は、きめ細かな生産工程への信頼である。これを裏切る行為は許されない。

 データの改ざんは神戸製鋼所に続くものだ。三菱マテリアルは財閥の流れをくみ、有力財界人を輩出した名門である。しかも悪質なのは不正が分かってから、半年以上も問題ある製品の出荷を続けたことだ。

 子会社の三菱電線工業は2月に検査部門が改ざんを把握し、3月に経営陣に報告した。だが出荷を止めたのは10月になってからだ。安全軽視の体質にはあきれるしかない。

 三菱電線は「製品が多く、確認に時間を要した」と釈明するが、隠蔽(いんぺい)とみられても仕方がない。

 日本を代表するメーカーでは、日産自動車やSUBARU(スバル)でも無資格社員による検査が横行していたことが発覚した。

 心配なのは、これだけ不正が相次ぐ日本の製造業が構造的な問題を抱えていないか、ということだ。

 三菱マテリアルは原因について「調査中」としか話していない。徹底した究明を急ぐべきだ。

 一連の不正を巡り、日産は原因を検査員不足、神戸製鋼は納期優先の体質と報告した。ただ背景に何があるかまでは踏み込んでいない。

 人口減に伴い企業の生産現場は人手不足に陥っている。グローバル競争の激化による収益至上主義も目立つ。こうした構造的変化が不正の背景となっているのなら、ものづくり立国の土台を揺るがしかねない。

 産業界として問題意識を共有し、生産体制のあり方などを点検する必要がある。

(社説)改元の時期 国民不在で進む議論

 天皇陛下の退位、および新天皇の即位と改元の日程を話し合う皇室会議が、来月1日に開かれることになった。政府内では「2019年4月30日退位、5月1日即位・改元」が有力視されているという。

 年の途中、しかも年度替わりでもない時期に、元号を変えるという案だ。最近になって唐突に出てきたこともあり、首をひねらざるを得ない。

 朝日新聞がこの夏おこなった世論調査では、5月改元は議論の俎上(そじょう)になく、新しい元号のスタートを「1月1日」とするのに賛成が70%、「年度初めの4月1日」が16%だった。

 改元するのであれば年があらたまるタイミングで、というのはごく自然な考えだ。朝日新聞の社説は「優先すべきは市民の生活」との観点から、「あえて世論に反する措置をとる必要はない」と主張してきた。

 だが宮内庁が難色を示した。年末年始は儀式や宮中祭祀(さいし)が立て込み、19年1月7日には昭和天皇が亡くなって30年の式年祭もあるという理由だ。

 さらに、3月から4月にかけては国の予算案審議や統一地方選が予定されているとして、今度は政権の側から5月案が持ちあがったという。

 国民のことよりも、皇室の私的な行事や政治の都合が優先されている感は否めない。

 見方をかえれば、西暦でものを考えることが国民の間に定着して「元号離れ」が進み、改元時期について、それほど神経をとがらせなくてもいいという現実のあらわれということもできる。昭和から平成、そして新元号への移行によって、この流れはさらに強まるだろう。

 こうした実態をふまえ、今回の改元を機に、公的機関の文書に元号と西暦の併記を義務づけるよう、あらためて提案する。換算の手間や間違いをなくすとともに、国際化の進展に対応するための必要な措置だ。

 先の世論調査では、運転免許証の記載などに西暦使用を支持する人が23%、元号と西暦のどちらも使えるようにするのがいいと答えた人が55%に達した。「元号制度を今後も続けていく方がよい」と答えた層(全体の75%)でも、回答に大きな差はない。政府や自治体は国民の利便をまず考えるべきだ。

 改元それ自体が、時代を画する特別な意味を直ちにもつわけではない。日取りがいつになろうが、多くの国民はその日を自然体で迎え、ふだんの生活を続けるだろう。そうした人々のくらしに及ぼす混乱を最小限に抑えるのが、政府の務めである。

(社説)鉄道の老朽化 安全の維持に万全を

 重要な公共インフラである鉄道施設の老朽化が進んでいる。安全性が揺らぐ事態に陥らないよう、鉄道事業者は早め早めに手を打つ必要がある。国による後押しも欠かせない。

 大阪と和歌山を結ぶ南海本線で10月22日、川をまたぐ橋がずれ、線路が陥没した。電車が止まりきれずに通過して一部が脱線し、5人が軽傷を負った。全面復旧まで1カ月を要し、沿線住民が多大な影響を受けた。

 橋は99年前に完成した。レンガ造りの橋脚が立つ川底が徐々にえぐられ、台風による増水に耐えられなかったとみられる。

 南海電鉄は6月、2年おきの定期検査で異常なしと判断していた。危険性をなぜ見抜けなかったのか。国の運輸安全委員会は徹底的に究明してほしい。

 国土交通省によると、全国の鉄道では、1920年以前に造られた橋およそ1万4千、トンネル600ほどが現役だ。明治~昭和初期に路線網の大半が整備されたためで、道路など他のインフラに比べて全般に古い。

 橋やトンネルは、的確に管理すれば100年以上もつといわれる。ただ、工法の進歩には対応できておらず、施設周辺の地形は自然現象や開発の影響で変化する。

 昨夏には北海道で、明治期に造られたJR北海道の橋が台風の豪雨で流失した。局所的な豪雨のリスクは近年高まっているとされるが、古い施設では耐力に余裕がないケースもある。

 鉄道事業者の多くが民間で、老朽化対策は自己責任が原則だ。各事業者は南海の事故を「他山の石」とし、これまでの対応で安全性に問題がないか、改めて検証してほしい。

 人口減少時代に入り、鉄道の経営環境は厳しい。沿線の過疎化が進む地方の中小事業者は特に深刻だ。1カ所で数十億~数百億円かかることもある橋やトンネルの更新は容易ではない。

 国交省は、補強や補修による長寿命化を促している。鉄道事業者は長期的な計画を練り、着実に対策を進める必要がある。

 地方の中小事業者向けには、長寿命化に必要な経費の一部を補助する国の制度があるが、予算額は耐震補強など別の分野も含めて年に数十億円規模にすぎない。業界からは「とても足りない」との声が聞かれる。

 重大事故が起きてからでは遅い。地方のローカル線の場合、老朽化した橋やトンネルが長期間にわたって不通になれば、路線の存廃や事業者の経営問題にも直結する。

 国は対策の現状を点検し、支援策の拡充に努めてほしい。

対「北」着弾訓練 自治体は対応力向上に努めよ

 北朝鮮情勢の緊迫化に伴う万が一の事態に備えるには、現場レベルで国民の安全を確保する取り組みも加速させたい。

 弾道ミサイルの着弾による「武力攻撃事態」を想定した初の国民保護訓練が、長崎県雲仙市などで行われた。政府や自治体、自衛隊、消防、警察などと住民が参加した。

 「他国からミサイル2発が発射され、7分後に港や近くの海に落下した」とのシナリオで、住民約30人は近くの施設に避難した。

 国民保護法に基づく訓練は、公共施設での化学薬品の散布などテロへの対応に限られてきた。ようやく実現した感は否めない。

 弾道ミサイルの飛来を想定した避難訓練自体は、3月の秋田県以来、全国で20回以上を数える。自治体の危機意識が高まっているのは確かだろう。

 訓練では「ミサイルは不発だったが、家屋倒壊で負傷者も出た」として、自衛隊員が、化学兵器の有無の検知やミサイル燃料の除染作業を行った。レスキュー隊員は負傷者救助も実演した。

 弾道ミサイルは、生物・化学兵器を搭載している恐れもある。安倍首相は、4月の国会答弁で、北朝鮮がサリンを弾頭に載せて着弾させる能力を保有した可能性に言及している。

 人的被害や環境汚染など、多様で具体的なケースを訓練に反映させることが欠かせない。

 有事における避難誘導は、自治体の責務である。今回の訓練では、「行政無線の音が聞き取れなかった」などの指摘があった。反省点があれば、次の機会に生かす。その繰り返しで現場の対応力を着実に高めることが大切である。

 危機の現状や被害の想定を住民に認識させる効果もあろう。

 避難誘導マニュアルのある自治体が、全国の半数にとどまっているのは気がかりだ。策定作業を急ぐべきではないか。

 弾道ミサイルの標的になる可能性が高い大都市や、米軍基地、原発などの施設周辺の自治体での訓練も、今後の課題となる。

 重要なのは、政府が全国瞬時警報システム「Jアラート」を通じて迅速かつ正確に情報を伝え、国民も冷静に行動することだ。

 内閣官房ポータルサイトには、「近くの建物か地下に避難」「建物がなければ地面に伏せる」などの情報を詳細に掲載している。

 全国の約9万の避難施設について、コンクリート造りかどうか、地下空間の有無などの項目も追加された。目を通しておきたい。

東海第二原発 再稼働には総合的判断が要る

 原子力発電所の再稼働を実現するためには、課題を着実に乗り越えなければならない。

 来年11月で運転開始から40年となる茨城県東海村の東海第二原子力発電所について、日本原子力発電が原子力規制委員会に運転延長を申請した。

 電気出力110万キロ・ワットの大型原発だ。年間で1000億円程度の化石燃料代に見合う電力を供給できる。20年間の延長を前提に再稼働にこぎ着ければ、東京、東北両電力の安定電源となろう。

 ただし、難題が山積みだ。

 福島第一原発事故を踏まえた新規制基準への適合性審査は、終盤で行き詰まっている。

 津波に備えて、高さ20メートルの防潮壁を設ける。非常用電源を強化する。原子炉を守る格納容器の損傷対策も多重化する。世界で最も厳しいとされる新規制基準に沿った安全対策を日本原電が提示し、規制委は適切だと認めた。

 問題は、これらの対策に要する約1800億円の費用だ。発電専業の日本原電が保有する原発は全て停止している。電力業界の支援でかろうじて経営を続けている。どう工面するのか。規制委が回答を求めたのは当然だ。

 規制委による審査の長期化や安全対策費の膨張などで、経営の足元は揺らいでいる。

 苦境にあっても、再稼働を目指す以上、安全対策費を圧縮することは許されまい。日本原電の存続がかかっていると言えよう。出資している東電などにとっては、難しい判断を迫られる。

 原発再稼働に伴う膨大なコスト負担の在り方について、政府も真剣に検討すべきではないか。

 運転延長の審査では、原子炉の老朽化などがチェックされる。事故を起こした福島第一原発と同じ沸騰水型の延長は初めてだけに、入念な審査が欠かせない。

 原子力災害対策特別措置法に基づき、県と自治体に義務付けられた避難計画の策定も遅れている。原発の30キロ・メートル圏内には約96万人が暮らしている。重大事故が起きた時に対応できるのか、と不安を訴える声は少なくない。

 大がかりな避難を可能にする計画の策定が必要である。

 東海村の山田修村長は、「自治体には実効性ある避難態勢の確立が求められている。総合的な判断はまだ先だ」と語っている。再稼働の是非を見極めるには、時期尚早だとの見解だろう。

 最終的な判断に際しては、原発の必要性やリスクに関する冷静な議論が不可欠である。

2017年11月24日金曜日

地震観測網を減災に生かせ

 世界有数の地震国である日本には陸地の約4400カ所、近海の約200カ所に地震計が設置されている。その多くを通信回線で結び、地震や津波の情報をいち早く伝えるシステムが稼働した。

 国立研究開発法人・防災科学技術研究所が運用する「陸海統合観測網(通称モウラス)」だ。

 地震の発生を震源近くでいち早くとらえ、注意情報を出せば、揺れや津波が伝わる前に備えることができ、被害を減らせる。だがデータの利用体制づくりは遅れている。国は、自治体や企業が使いやすいように公表方法を工夫し、減災に役立ててほしい。

 1995年の阪神大震災後、防災科研は各地で高精度の地震計を設けてきた。モウラスには陸の約2000台のほか、海でも東北地方太平洋沖の約150台、紀伊半島沖・四国沖の約50台の地震計を結んだ。世界最大の観測網だ。

 気象庁が発表している緊急地震速報は、いまは主に陸の地震計のデータから予測している。今後、海底地震計の活用が進めば、予測精度の向上が期待される。

 モウラスの稼働を踏まえ、JR東日本などは地震発生時に新幹線を緊急停止するシステムで海底地震計のデータを使う考えだ。これまでは自社の陸の地震計で初期の微動をとらえて停止信号を出していた。列車停止までの時間を最大20秒ほど短縮できるという。

 企業からはほかにも様々なアイデアが出ている。地震の直後に建物の倒壊率を予測し、救助の優先順位を決めたり、建物を安全に使えるかを判定し事業復旧に役立てたりするシステムなどだ。

 国はデータを誰でも使えるよう標準化したり、アプリ(応用ソフト)の規格を定めたりして、企業の取り組みを後押しすべきだ。

 政府は南海トラフ地震対策について、これまでの予知に頼る防災をやめ、不意打ちされても被害を減らす対策に軸足を移す。地震観測網も当初は予知や予測の精度向上が狙いだったが、今後は減災への活用を真剣に考えるべきだ。

サイバー寡占に競争当局は立ち向かえ

 サイバー空間における寡占や独占にどう対処するのか、世界各国の競争当局の共通した課題に浮上している。

 IT(情報技術)の発展は生活を便利にし経済効率を高める一方で、ネット上ではごく少数の企業が市場を牛耳る「一人勝ち」が起こりがちだ。健全で自由な競争環境を維持するには、政府の役割が重要になる。

 欧州委員会などに比べIT寡占への切り込みが甘いといわれてきた日本の公正取引委員会を含め、各国当局の動向に注目したい。

 世界的な関心を集めているのは欧州委と米グーグルの係争だ。欧州連合(EU)の競争法に違反したとして、欧州委は円換算で3000億円もの巨額の制裁金を科した。これに不服のグーグルはEU司法裁判所に提訴した。

 日本でも公取委が民泊仲介最大手の米エアビーアンドビーの日本法人への立ち入り検査に踏み切った。エアビーと契約した宿泊代行業者に他の仲介サイトを使わないよう強要した疑いという。

 米国では通信大手のAT&Tによるメディア大手のタイムワーナーの買収に司法省が待ったをかけた。複合型寡占企業の登場を危惧したとみられる。

 こうした係争で当局側がしばしば問題にするのは、1つの分野の寡占を武器にして隣接する市場からもライバルを排除し、なし崩しで寡占領域を広げる手法だ。

 たとえば欧州委によると、グーグルは自社の検索サイトで商品情報を調べた利用者に対し、自社の価格比較サービスの内容を優先表示した。検索というネットの入り口における支配力をテコにして、価格比較サービスの公正競争を阻害したという見方である。

 かつてパソコンの基本ソフトを寡占した米マイクロソフトは、その力を乱用してネット閲覧のブラウザー市場で競うネットスケープを排除したとして、米司法省に提訴された。同様の行為があれば競争当局が是正するのは当然だ。

 ネット上のサービスは無料のものも多く、値上げなどを材料にする従来型の競争政策の通用しにくい部分はある。

 それでも、政府が市場の動向に目を光らせ、横暴な振る舞いは許さないというメッセージを発するのは、寡占型プレーヤーの自制を促すうえで効果があろう。ITのさらなる発展のためにも、競争当局の役割は小さくない。

トランプ氏の兵器売り込み 安保で商売は納得できぬ

 トランプ米大統領による露骨な兵器売り込みと言っていいだろう。

 今月、来日したトランプ氏は安倍晋三首相との共同記者会見で「日本が大量の防衛装備を買うことが望ましい」と述べた。

 米政府は声明で北朝鮮への対応として「大統領は日本の防衛力の強化と近代的な防衛装備の提供への関与を強調した」と発表した。

 防衛装備のトップセールスはめずらしくない。だが、トランプ氏の売り込みは地域の軍拡競争を自らあおっているように映る。

 トランプ氏は「米国で雇用が生まれる」とも述べた。国防産業の雇用増につながるという米国民向けのアピールなのか。

 同盟関係にある日本が米国の防衛装備を購入することは相互運用性からも有益ではある。しかし、「米国第一」に追従するような野放図の購入なら、国民の理解は得られまい。

 防衛省は防衛装備を長期的な防衛力の規模を示す防衛計画の大綱と、5年ごとの調達内容を示す中期防衛力整備計画に沿って購入している。

 政府は、中国や北朝鮮など安全保障環境が厳しさを増す中、防衛力の「質的、量的な拡充」の必要性を強調する。防衛費は安倍政権発足後、5年連続の増額だ。

 日本は戦闘機F35や輸送機オスプレイ、ミサイル防衛システムなどの装備を米国と購入契約している。

 ただし、こうした高性能で機密性が高い最新装備は日本政府が米政府と直接契約する有償軍事援助(FMS)を通じて購入される。

 米政府が価格設定を主導し、交渉の余地はほとんどないという。近年は米国製の購入額が急増し、今年度のFMSの予算額は5年前の2・6倍にあたる3596億円にのぼる。

 だが米国優位のFMSは問題も多いという。F35は日本製部品の採用を条件に価格が割高に設定された。しかし、会計検査院は一部の機体で使用されていないとして米国と減額交渉するよう求めている。

 米国製に依存し過ぎれば国内企業による装備開発が進まず、受注減にもつながる。米国製と国産のバランスを取る必要もあろう。

 厳しい財政状況の中、日本は適正価格で効率的に装備を購入できるよう米政府と交渉すべきだ。

山一証券の破綻から20年 激震で先送りされたもの

 かつて4大証券の一角を占めた山一証券が倒産し、20年たった。同じ1997年11月には、準大手証券の三洋証券、都市銀行の北海道拓殖銀行も相次ぎ破綻に追い込まれた。

 翌98年には、日本長期信用銀行と日本債券信用銀行が国有化された。大手金融機関の「不倒神話」が崩れ、日本経済は不安にのみ込まれていった。20年前の11月は、激動期の始まりだったといえる。

 山一破綻の直接的原因は大がかりな損失隠しだった。ただ、不正の重大さ以上に、当時の大蔵省の方針転換が衝撃を持って受け止められた。

 「市場が無理な経営をとがめる形で動いてくれるのは、ビッグバン(金融制度改革)をやりたいと思った人間には好ましいと思う」。同省の証券局長は、市場の意思が働いた結果だと、倒産をむしろ歓迎した。

 しかし、新しい秩序が定まらないままの突然の金融行政の転換は、急激な景気の冷え込みへと発展した。

 実はこの少し前から、日本経済の水面下では、重大な構造変化が始まっていた。経済活動の担い手となる現役世代人口(生産年齢人口)が減少に転じたのだ。

 ところが政府は、目の前の激震への対応に追われ、長期的な課題への取り組みは先送りされた。

 当時の橋本龍太郎首相は財政構造改革を主要課題とし、赤字国債の発行を2003年度にゼロとする法律を成立させていた。しかし、同じ頃、山一が破綻し、混乱を受けて、たちまち財政拡大路線が復活した。

 問題は、財政出動や日銀の金融緩和といった公的サポートが一時的なものに終わらず、民間による自発的な経営改革へとバトンタッチできなかったことだろう。

 この間、米欧では企業や産業の新陳代謝が進んだ。経済産業省の資料によると、主要上場企業のうち、株主資本に対する利益の割合が15%以上という企業の比率が、欧州では37%、米国で45%あるのに対し、日本は5%しかない。

 安倍政権もようやくここへきて生産性向上や人口減少問題に言及するようになった。少なくとも20年前のような金融不安や景気の悪化は今はない。財政再建も含め思い切った改革を実行できる環境にあることを、今こそ認識すべきだ。

(社説)金融危機20年 新たな課題へ対応急げ

 20年前の11月、北海道拓殖銀行と山一証券が続けて破綻(はたん)し、金融危機が本格化した。信用不安が社会を覆い、その後も大型破綻が相次いだ。危機を乗り切るため、巨額の公的資金の投入や大規模な再編が続いた。

 10年前の米国発の金融危機のときは、邦銀は安定を保った。一部では資金の出し手となり、海外業務への進出も続いている。東京・大手町には、経営統合で巨大化した大手銀行の真新しいビルが立ち並ぶ。

 だが、表面の安定とは裏腹に、日本の金融業界は新たな難題に直面しつつある。

 3メガ銀は今年、相次いで大幅な業務見直しや人員削減の計画を打ち出した。背景には、低金利の長期化に加え、情報通信分野の技術革新の波がある。

 伝統的な貸し出し業務の利ざやが減る一方で、これまで銀行が担ってきた決済や送金には、他業態からの参入が見込まれる。コスト削減だけでなく、新しいサービスの開発と提供が不可欠になっている。

 地方銀行は、人口減少や地域経済の低迷の影響もあり、稼ぐ力が確実に奪われつつある。金融庁や日銀が早期の対策を促しているものの、進展ははかばかしくないようだ。

 いずれも、20年前のような危急の事態が迫っているわけではない。だが、前回の危機の発端にも、金融自由化が進む中で、大企業への融資を主体とするビジネスモデルが転換を迫られるという状況があった。

 そのとき、自らの新たな社会的役割を十分に見いだせず、「土地神話」に頼って不動産担保融資にのめりこんだ銀行が、巨額の不良債権を抱え込んだ。問題が生じた後も、ため込んだ「含み益」で対応できると油断し、対策を先送りした揚げ句、破局に至った。その教訓を思い返すべきだろう。

 金融の課題は、銀行の健全性だけではない。

 日本経済全体でみると、金融危機後の20年間、金融機関をのぞく民間企業部門はほぼ毎年、資金を返す側に回っている。家計の貯蓄が企業に回って投資され、経済が拡大するというかつての流れは過去の話になり、逆方向の動きが定着している。

 そうした「金余り」の一方で、新しい事業の創出に向けてリスクをとる資金の出し手が、国内には不足している。そう指摘されて久しい。

 金融システムに求められるのは、おカネを最も有効に使うところに回すという役割だ。その機能がきちんと発揮されているか、不断の問いかけが必要だ。

(社説)東海第二原発 廃炉が避けられない

 再稼働への疑問は大きく、実際のハードルも高い。廃炉が避けられないのではないか。

 原発専業の日本原子力発電(原電)が、東海第二原発(茨城県東海村、停止中)の運転期間の延長を原子力規制委員会に申請する。法律が定める「原則40年」の期限まで残り1年。原電は、例外扱いを認めてもらい、再稼働を進める構えだ。

 今後の安全対策工事には少なくとも1700億円かかると見込まれている。経営基盤が弱い原電に対し、規制委は資金調達にメドをつけるよう異例の注文を出した。地元や周辺自治体の避難計画作りは難航しており、再稼働への慎重論が根強い。

 原電では他の原発の再稼働が見込めず、東海第二の行く末が会社の存亡を左右する。だからといって再稼働ありきは許されない。原電と主要株主の大手電力、経済産業省は、東海第二の運転を前提とせず、原電のあり方を抜本的に練り直すべきだ。

 「40年ルール」は、老朽原発の事故リスクを減らすための大切なルールだ。福島第一原発の事故後に導入された。規制委が認めれば最長20年の延長運転も可能だが、法改正の当時、政府は「極めて限定的なケース」と説明していた。

 ところが、これまでに関西電力が原発3基の延長を申請し、すべて認められた。東海第二が続けば、ルールの形骸化がさらに進む。電力不足への対応など特別な必要性があるとも思えず、原電の経営の都合だけで延長を認めるべきではない。

 東海第二は首都圏の北端に位置し、避難計画の策定が義務づけられた30キロ圏内には、全国の原発で最多の96万人が住む。避難経路や受け入れ先、輸送手段の確保は難しい。対象の14市町村は計画を完成できていない。

 再稼働に必要な地元自治体の同意を得られる見通しも立たない。茨城県知事や東海村長は住民の意向を踏まえて判断する姿勢だが、朝日新聞の最近の有権者調査では再稼働反対が賛成を大きく上回った。周辺の5市も同意手続きに加わろうと、東海村と同等の権限を求めている。

 原電や電力大手は、こうした現実を直視すべきだ。

 原発の停止で原電には売る電気がないのに、買い取り契約を結ぶ大手が毎年計1千億円超の基本料金を払い、支えている。その元手は、国民が広く負担する電気代であることを忘れてはならない。

 原電については、原発の廃炉などで業界再編の受け皿になる構想もある。問題を先送りせず、将来像作りを急ぐべきだ。

与党税調論議 所得税見直しは長期的視点で

 時代に合った税制への見直しは大きな事業だ。公平性に十分配慮し、国民の納得を得られる丁寧な検討が欠かせない。

 自民、公明両党の税制調査会が、2018年度税制改正に向けて、それぞれ本格的な議論を始めた。12月中旬に与党の税制改正大綱として一本化する。

 所得税が最大の焦点となる。「会社員の夫と専業主婦」の世帯を念頭に置いた長年の仕組みを、家族や働き方の多様化を踏まえて見直す必要性は理解できる。

 減税面では、納税の基になる年収から一律38万円を差し引く「基礎控除」を拡大する方向だ。

 インターネットを通じて個人で仕事を請け負うなど、会社に所属しない働き手が増えている。会社員の必要経費に当たる「給与所得控除」の対象にならないため、基礎控除を拡大して補う。

 減税を埋め合わせる増税策として、年収1000万円超の会社員の給与所得控除を縮小する。年金以外の年収が1000万円超の高齢者は「公的年金等控除」を縮小する。こうした案が出ている。

 税の所得再分配機能を強化することによって、収入の格差を是正する狙いが窺(うかが)える。

 全体では増減税なしを目指すという。税収の確保ありきで高所得層に過度な負担を強いるようではバランスを失しよう。「取りやすいところから取る」という安易な発想は避けねばならない。

 世界の潮流は、所得税や法人税の直接税から、消費税などの間接税に軸足を移す方向にある。直接税は負担の偏りや、景気変動による不安定さを伴うためだ。

 所得税の見直しは、体系的に進める必要がある。高所得者の恩恵が大きい所得控除から、所得に左右されない税額控除に転換する。女性の社会進出を阻む配偶者控除に代えて、新たな夫婦の控除を導入する。論点は多岐にわたる。

 長期的な視点に立った税制改革に取り組んでもらいたい。

 法人税については今回、賃上げした企業を優遇する「所得拡大促進税制」の拡充を検討する。

 これに加えて、賃上げや設備投資が不十分な大企業に対して、優遇措置を停止する「アメとムチ」案も取り沙汰される。

 デフレ脱却を実現するには、賃上げによる消費喚起と、設備投資を通じた生産性向上は必須の条件だ。とはいえ、企業ごとに経営事情は大いに異なる。

 税制措置が、企業の行動を縛り過ぎたり、不公平を助長したりしては本末転倒である。

サウジ王室混乱 過激な手法では改革は進まぬ

 世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアの混乱は、中東情勢を一層流動化させ、世界経済に悪影響を及ぼす。ムハンマド皇太子の性急な改革には懸念が拭えない。

 皇太子がトップを務める汚職対策委員会が、有力王子や現職閣僚を一斉摘発した。著名投資家のワリード・ビン・タラール王子やムトイブ国家警備相、ファキーフ経済企画相も拘束されたという。

 国家運営の実権を握る皇太子は石油依存からの脱却を目指す。国外から投資を呼び込み、経済構造を多角化する改革に取り組む。摘発には、抵抗勢力を排除し、権力基盤を強化する狙いがあろう。

 王子らの財産を没収して、政府資金に回す思惑も垣間見える。

 産油国による減産延長への期待に、サウジ情勢の不透明感が重なり、原油価格は一時上昇した。

 改革の方向性は正しいが、批判を力で抑え込む過激な手法は、政情不安を招く可能性が大きい。不安定なビジネス環境では、外国企業の進出も期待できまい。

 外交でも、イスラム教シーア派大国のイランがシリアやイラクなどで影響力を拡大したのに対し、サウジはスンニ派の盟主として、巻き返しに出ている。イランやカタールとの国交を断絶したのは、皇太子が主導したとされる。

 宗派対立は最近、レバノンにも飛び火した。ハリリ首相がサウジに滞在中に辞意を表明した。イランが支援するレバノンの武装勢力ヒズボラの脅威が増していることに、皇太子が業を煮やし、辞任圧力をかけたのだろう。

 レバノンは、スンニ派、シーア派、キリスト教マロン派などの住民が共存するモザイク国家だ。宗派間の均衡が崩れれば、内戦に陥る危険もある。サウジとイランは、内政への介入が地域の緊張を高めることを自覚せねばならない。

 気がかりなのは、トランプ米大統領がイランへの敵意を露(あら)わにして、サウジを全面的に支持していることだ。結果的に、皇太子の強硬策を煽(あお)っているのではないか。中東の安定に向け、米国は建設的な役割を果たす必要がある。

 日本の原油輸入量の3割をサウジが占める。安倍首相は、3月に来日したサルマン国王との間で、経済協力を拡大する合意を結んでいる。エネルギー資源の確保や、関係強化において、サウジの改革の「軟着陸」が欠かせない。

 日本は長年、サウジ、イラン双方と良好な関係を持つ。両国に、覇権争いの自重と対立の緩和を促し続けることが求められる。

2017年11月23日木曜日

中東の混迷を拡散させるな

 有力王族や現職閣僚らを一斉に拘束したサウジアラビアの激震にあわせるように、サウジと周辺国の間で緊張が高まっている。

 首都リヤドにイエメンから弾道ミサイルが飛来し、サウジが迎撃ミサイルで撃ち落とした。レバノンのハリリ首相はサウジ滞在中に、自国での暗殺の危険を理由に辞任を表明した。

 サウジは事件の背後にイランがいると主張し、報復も辞さない構えを見せる。帰国したハリリ首相は辞任の凍結を表明した。しかし、不透明感を増すサウジ情勢に加え、サウジとイランの対立があちらこちらで火を噴くと、混乱は手に負えなくなる。中東の混迷を拡散させてはならない。

 サウジ政府は飛来したミサイルが「フーシ派が実効支配するイエメン領内から、ヒズボラが撃ったイラン製だ」と言う。

 フーシ派とはイエメンを、ヒズボラはレバノン南部をそれぞれ地盤とするイスラム教シーア派の武装勢力だ。同じシーア派のイランと強いつながりがあるとされる。

 サウジは自国を囲むように活動を活発化する親イラン勢力にいらだちを強めている。サウジの実力者ムハンマド皇太子は「イエメンからのミサイルはイランによる戦争行為だ」と非難した。

 サウジと親イラン勢力の衝突が新たな戦乱の発火点となりかねないか心配だ。サウジ政府はレバノンに滞在するサウジ人に退避を勧告するなど緊張が増している。

 懸念されるのはイスラエルもイランを安全保障上の脅威と捉えていることだ。危機感を共有するイスラエルとサウジが対イランで手を結ぶ。こんなシナリオも荒唐無稽とは言えなくなっている。

 サウジ国内の拘束者は増え続け、行く末が見えない。中東の混迷は世界の安定に深刻な影響を及ぼす。まずサウジが早急に国内の混乱を鎮め、サウジとイランが冷静さを保つことが必要だ。そのために両国の緊張緩和を促し、対立を周辺国に飛び火させないことが国際社会にとって急務である。

経済改革の全体を見据えた税制議論を

 2018年度の税制改正作業が始まった。与党の税制調査会では、所得税の見直し、賃上げ企業への法人税優遇の拡充などが検討課題にあがっている。社会保障や規制なども含め経済改革の全体像を見据えた議論を期待したい。

 与党税調の議論開始に先立って、政府税制調査会(首相の諮問機関)は、個人の働き方の多様化にあわせた所得税改革などを盛り込んだ中間報告をまとめた。

 報告は、会社に属せずインターネットを経由して仕事を請け負うなど働き方が多様化しているのにあわせて、所得控除のあり方を見直すよう提言した。

 給与所得控除の上限220万円(年収1000万円)を引き下げ、所得の高い会社員の税負担を増やす一方、会社員以外も対象になる基礎控除(38万円)を増やすのが改革の方向で、具体策は今後与党税調で検討するという。

 終身雇用の会社員と専業主婦という世帯がもはや標準とはいえなくなるなかで、働き方にあわせた所得税改革の方向は理解できる。ただ、実施にあたっては負担の適切なバランスや、社会保障など他の制度改革との関係への目配りが必要だ。

 17年度改正でも配偶者控除見直しのために、所得の高い会社員世帯が増税になった。高所得者層への負担増が重くなり過ぎれば、経済の活力を損なう恐れがある。

 高額の所得がある高齢者の公的年金所得控除の縮小も検討課題にあがっている。年金、医療、介護など社会保障の財政が厳しいなかで、余裕のある高齢者には負担を求めることは必要だ。税と社会保障で改革をばらばらに進めるのではなく、整合性をとりつつ進めるべきだ。

 与党税調では賃上げ企業への法人減税の拡充も検討する。賃上げを税制面でも支援することは理解できる。さらに、米議会では連邦法人税率を現行の35%から20%に下げる税制改革案を審議中だ。こうした世界の潮流にも目配りが必要だ。

 安倍晋三政権は「一億総活躍」「働き方改革」「生産性革命」「人づくり革命」など経済改革の看板を次々とかけ替え、そのたびに新たに検討会議をつくっている。

 税制や財政・社会保障改革を総合的に議論するには検討会議を乱立させるのではなく、経済財政諮問会議などを司令塔に、全体をみながら一体的に進めるべきだ。

所得税の控除見直し より時代の変化に対応を

 来年度の税制改正を巡って、自民党税制調査会が本格的な議論に入った。最大の焦点は、所得税の負担を軽くしている控除の見直しだ。

 自民、公明両党は、スーツ代などを会社員の経費とみなして課税しない給与所得控除を減らす方針だ。控除額は所得に応じて増え、年収1000万円超の220万円が上限だが、高所得者を中心に減らす。

 一方、全ての人が対象の基礎控除(一律38万円)は、高所得者以外は引き上げる考えだ。この結果、高所得の会社員は増税、基礎控除だけの人は減税になる見通しだ。

 背景にあるのは働き方の多様化だ。会社に勤めずインターネットで仕事を引き受けるが、会社員と同じように働いている人が増えている。こうした人たちは基礎控除しか適用されず、給与所得控除もある会社員に比べて不公平と指摘されてきた。

 時代に応じて税制を見直す作業は欠かせない。今回もその一環として位置づけられよう。だが、社会の構造的な変化に対応するには、もっと踏み込んだ改革が必要である。

 所得税の大枠は高度成長期までに決まった。サラリーマンと専業主婦の家庭を想定しており時代遅れだ。

 まず経済的格差への対応が求められる。非正規雇用が増え、結婚や出産をためらう若者が多くなった。

 もう一つは高齢化だ。増大する社会保障費の財源として消費税の重要性が増している。ただ低所得者ほど負担が重いという課題がある。

 いずれも税制の所得再分配機能を強めていくことが必要だ。

 現行の控除は高所得者ほど税負担が軽くなる問題を抱える。与党は今回、所得が高くなるにつれ基礎控除を徐々に減らす案も検討している。

 この方式によって、ある程度の再分配効果は見込めるだろう。ただ、所得にかかわらず同じ額の税を減らし、相対的に低所得者に有利となる税額控除方式に切り替えた方がより効果的という指摘もある。

 与党は昨年、専業主婦世帯を優遇する配偶者控除の廃止を検討したが、最終的に見送り、一部の見直しにとどめた。女性の社会進出を後押しするには廃止は不可欠なはずだ。

 今回の見直しは中途半端に終わらせず、抜本改革につなげる一歩とすべきだ。

森友値引きは「根拠不十分」 やはり証人喚問が必要だ

 ごみ撤去費として約8億円値引きしたのはやはり根拠に乏しかった。

 学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、財務省などは、値引きの算定について「基準に基づき適切に処理した」と説明してきた。これに対し、会計検査院は、積算に十分な根拠がなく、ごみの推計量が過大だった可能性を指摘した。

 価格の妥当性に疑義を示したといえる。税金の無駄遣いをチェックする独立機関の指摘は極めて重い。

 財務省から依頼を受けた国土交通省がごみの量を推計した。検査院によれば、ごみの混入率を高めに算定したり、敷地全域で3・8メートルの深さまでごみがあると判断したりしたことについて十分な根拠を確認できなかった。1トン当たりのごみの処分費が妥当かを示す資料もなかった。

 国民共有の貴重な資産の売却が、極めてずさんに行われた。しかも積算に用いた資料や売却に関する交渉の記録文書は、廃棄されるなどしていた。記録があれば、おかしな値段で売却したことが裏付けられたはずだ。検査院が文書管理の改善を求めたのは当然である。

 安倍晋三首相は、国会審議で売却の妥当性を問われると、「検査院の検査に委ねる」と繰り返してきた。

 結果が示された以上、一連の売却が不適切だったことを政府はまず認めるべきだ。

 学園前理事長の籠池泰典被告と妻諄子被告は、大阪府などから補助金を詐取したとして詐欺罪などで起訴された。大阪地検特捜部による捜査の過程では、財務省近畿財務局職員が学園側の希望する金額に近づけるために「努力する」と両被告に答え、具体的に金額を示す音声データの存在が明らかになっている。

 佐川宣寿(のぶひさ)・前財務省理財局長(現国税庁長官)は国会で「価格を提示したことはない」と答弁していたが、明らかに矛盾している。

 安倍首相の妻昭恵氏の国会での説明もまだ行われていない。昭恵氏は一昨年、学園が計画した小学校の名誉校長に就き、今年まで務めていた。国有地の売却は昨年だ。官僚のそんたくが指摘されるゆえんだ。

 会計検査院の検査は国会の要請に基づくものだ。疑惑の解明には、昭恵氏や佐川氏、さらに国交省の幹部らの国会での証人喚問が必要だ。

(社説)「森友」の検査 首相は再調査を命じよ

 根拠のあやふやな大幅値引きが、ずさんな手続きで進められていた。

 森友学園への国有地売却問題を調べていた会計検査院が、8億2千万円の値引きについて「十分な根拠が確認できない」とする検査結果を国会に出した。「法令に基づき適正な価格で処分した」という政府の説明に、大きな疑問符が付いた。

 政府には指摘に答える義務と責任がある。値引きの根拠と経緯を再調査するよう、安倍首相は関係省庁に命じるべきだ。国会も政府をたださねばならない。参院が検査を要請したことを忘れてはならない。

 鑑定価格の9億5600万円から、地中のごみ撤去費として9割近くも値引きされたのはなぜなのか。

 政府の説明では、新たなごみが見つかったと学園から連絡を受け、財務省近畿財務局と国土交通省大阪航空局が現場の状況を確認した。工事業者が撮影した写真や過去の調査結果などをもとに、ごみがある深さや混入率などを計算し、ごみの量を算定。処分単価と掛け合わせて費用を出した。

 しかし検査院は、業者の写真ではごみの深さを確認できず、政府の職員が現地で計測した記録もないとして、ごみの深さの裏付けは確かめられないとした。混入率や処分単価についても根拠に疑問を呈し、ごみの量は最大で7割少なかった可能性があると試算した。

 売却までの手続きもお粗末だ。不動産鑑定士の評価書の内容を判断する「評価調書」は作成されず、売却価格を決めた決裁文書に理由が書かれていないなど、ルール違反や通常とは異なる対応が検査で見つかった。

 ただ、その検査も十分とは言えない。壁になったのは、財務省や国交省が関連文書を破棄していたことだ。検査院は「会計経理の妥当性について検証を十分に行えない状況」と指摘し、文書管理の改善を求めた。両省の責任は重い。

 土地売却の交渉は、学園の籠池泰典前理事長が「神風が吹いた」というほど特例づくしだった。建設予定だった小学校の名誉校長を、安倍首相の妻昭恵氏が務めていたことが、背景にあるのではないか。この疑問にも検査結果は触れていない。文書中心の検査の限界だろう。

 首相は国会で「(内閣から)独立した会計検査院がしっかりと検査すべきだ」と述べてきた。今度は、首相が疑問に答える番だ。検査が不十分な点は国会が解明に努める。それが国民に対する責務である。

(社説)憲法70年 「合区」で改憲の無責任

 参院選挙制度をめぐる各党の協議が、ようやく動き出した。

 「一票の格差」を是正するため、2016年の参院選で、鳥取・島根と徳島・高知の県境をまたぐ合区が導入された。

 そのための改正公選法の付則に、19年の参院選に向けて「抜本的な見直し」を検討し、「必ず結論を得る」と書いた。抜本改革を怠り、小手先の対応に終始したあげく、合区にたどり着いた実情を省みてのことだ。

 その答えを、各党は今度こそ出さねばならない。

 これに関して、自民党は合区解消のための改憲を主張している。衆院選で公約したとはいえ、とうてい賛成できない。

 自民党の案は、国政選挙について「法律で定める」とした憲法47条と、地方自治に関する92条を改め、各都道府県から改選ごとに1人以上選出できる、との趣旨を盛り込むものだ。

 多くの行政が都道府県単位ですすむ現状をふまえてはいる。人口が減っていく時代に、ますます置き去りにされていく。そんな危機感をもつ地方には歓迎されるかもしれない。

 一方で、地方の定数を手厚くする自民党の案は、国民の「法の下の平等」をうたう14条、さらには国会議員は「全国民を代表する」と定める43条と矛盾するのは明らかだ。

 衆院は人口比例を徹底させて「国民代表」とし、参院議員は「地域代表」と位置づける。そんな考え方なら一理はある。

 だがその場合、首相指名など一部に限られる衆院の優越性をより明確にし、参院の権限や役割を見直す必要がある。「国民代表」の決定を「地域代表」が覆せる構図が生まれるのは不合理だからだ。

 参院は衆院とどうすみ分け、どんな仕事を担うのか。憲法の他の条文との整合性をどう保つのか。答えを見いだしにくいこうした論点について、どのように他党と国民の理解を得るつもりなのか。

 抜本改革の期限である19年の参院選まで2年足らず。多くの党がこの件での改憲に賛同しておらず、それまでの改憲はおよそ非現実的というほかない。

 改憲ではなく、公選法改正による参院選挙制度の改革案はこれまでも示されてきた。

 選挙区を廃止し全国を9ブロックの比例代表制にする。全国を10程度のブロックの大選挙区制にする。議員の経費を大幅に削って定数を増やす、などだ。

 自民党がこのまま現実味を欠いた改憲を掲げ、いたずらに時間を費やすなら、無責任のそしりは免れない。

森友検査院報告 不透明な値引きに疑念が募る

 約8億円の値引きに疑問符が付いた。

 大阪府豊中市の国有地が学校法人森友学園に1億3400万円で売却された問題で、会計検査院が報告書をまとめた。

 「見積もりの算定根拠が不十分で、慎重な検討を欠いていた」と政府の姿勢を非難している。

 地中に埋まっていたごみの撤去費用を差し引いた結果、売却額は鑑定評価額の7分の1になった。「法令に基づき、適正な手続きで処分した」という政府の説明を否定した検査院の指摘は重い。

 財務省近畿財務局の依頼を受けた国土交通省大阪航空局が、ごみの量や撤去費用を推計した。専門業者を通さずに直接算定する異例の対応だった。ごみのある範囲や深さ、混入率などの数値を設定し、全体量を見積もった。

 検査院は、数値がいずれも過大だった可能性に言及した。見積もられた量の3割や7割しかない独自の試算結果も示した。

 値引きに至る不透明な実態が、改めて浮き彫りになった。

 算定根拠となる文書が、一部しか残っていないことも看過できない。掘削から処分までの工程にかかる「処分単価」の根拠は確認できず、検査院は、撤去費用の適正価格をはじき出せなかった。

 森友学園側とのやりとりにも、不透明な部分が残る。詐欺罪などで起訴された前理事長の籠池泰典被告は、近畿財務局職員に「ゼロ円に極めて近い形で払い下げを」と要望していたとされる。

 財務省は、昨年6月に売却が完了したのを理由に、学園側との交渉記録を廃棄したという。行政文書管理規則に沿った対応とはいえ、交渉過程を検証する手立てが失われたことも事実だ。

 検査院が甘い文書管理に苦言を呈したのはうなずける。

 刑事告発を受けた大阪地検特捜部は、近畿財務局職員らを背任容疑などで捜査している。

 背任罪の成立には、故意の立証が欠かせない。職員らが自身や学園に利益をもたらし、国に損害を与える目的で値引きをしたかどうかだ。立件のハードルは高いだろうが、検査院の報告書を踏まえて、捜査を尽くしてもらいたい。

 森友学園が問題の土地に建設を進めていた小学校の名誉校長には、安倍首相の昭恵夫人が就任する予定だった。首相は「私や妻は国有地の払い下げに一切関与していない」と強調している。

 値引きに、官僚の何らかの意図が働いたのか。政府には納得のいく説明が求められる。

クロマグロ規制 日本は未成魚の保護に努めよ

 厳しい漁獲規制が漁業資源の回復に資することを証明した。すしネタで人気のクロマグロが、一時激減した大西洋で増加に転じている。良き先例として生かしたい。

 日本や欧州連合(EU)などによる「大西洋まぐろ類保存国際委員会」が、大西洋クロマグロの漁獲枠を、2020年までの3年間で5割増やすことを決めた。日本の割り当て枠は4割拡大する。

 大西洋クロマグロは、2000年代前半までの乱獲で絶滅の危機に瀕ひんした。委員会の下で規制を強化した結果、資源が増加に転じ、13年から漁獲枠も広げ始めた。

 国際協調に基づく漁業資源管理の成功例を示したと言える。

 日本で消費されるクロマグロの4割を大西洋での漁獲が占める。水産庁は、漁獲枠の拡大が値下がりにつながると期待している。

 資源増の決め手は、30キロ未満の未成魚を原則禁漁にしたことだ。未成魚の成長で産卵が増え、総量の回復につながった。

 残る漁場の太平洋では、資源量の低迷はいまだ深刻だ。世界のクロマグロの8割を消費する日本の責任は重大である。

 太平洋クロマグロの漁獲ルールは、未成魚の一定の漁を認めている。日本の沿岸漁業者による捕獲が問題だとの見方がある。

 日本は直近の1年間で、未成魚の漁獲が割り当て枠を超えてしまい、国際的な批判を浴びた。次の期間でも超過する恐れがある。

 水産庁は日本の割り当て枠の一部を、都道府県をまたぐ地域ブロック単位で定めている。個々の漁業者は「早く取った者勝ち」となり、乱獲を招きやすい。

 自治体や漁協、船ごとの配分を検討する必要もあろう。

 日本の漁業者が水揚げを漁協に報告しなかったり、未承認の漁船で操業したりする不正が相次いで発覚している。

 現行の規制さえ十分守られないとの国際的な評価が定着してしまえば、日本は委員会などでの発言力を著しく損なう。

 政府と自治体、漁協が連携して現場への指導を強化し、違反行為を未然に防ぐことが重要だ。

 定置網など漁法によっては未成魚の選別が難しいとの声がある。漁業者には、資源保護の意識を従来以上に高めてもらいたい。

 中国などの経済成長を背景に、世界的に魚の消費が増えている。マグロ以外にも減少が目立つ魚種が少なくない。魚食大国の日本は、ルールに基づく資源保護と利用の先頭に立たねばならない。

2017年11月22日水曜日

北のテロ国家再指定は妥当だ

 米国のトランプ大統領が北朝鮮を「テロ支援国家」に再指定すると表明した。北朝鮮は核兵器やミサイル開発に加えて国際テロ活動も支援し、国際社会を威嚇してきた。再指定は極めて妥当だ。

 北朝鮮は大韓航空機爆破事件後の1988年にテロ支援国家に指定されたが、ブッシュ(子)政権下の2008年に解除された。米側は当時、北朝鮮との核協議の進展を促すためだと説明したが、日本人拉致問題などが未解決なまま指定を解除したブッシュ政権の対応には批判的な見方が多かった。

 北朝鮮はその後、核・ミサイル開発を再び加速した。指定解除の効果は皆無だったうえ、国際テロ活動についても、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏がマレーシアの空港で毒殺された事件を含めて、関与がしばしば取り沙汰されている。約9年ぶりの再指定は遅すぎたともいえる。

 トランプ政権による再指定の公表は、中国が派遣した習近平国家主席の特使が訪朝から帰国したタイミングと重なった。中国はかねて、北朝鮮の核問題を対話によって解決すべきだと唱えており、特使派遣で打開の道筋が見えるかが注目されていた。

 結局、中国特使と金委員長との会談は見送られたとみられ、核問題をめぐる中朝の立場の溝は埋まらなかったようだ。米政権がテロ支援国家の再指定を発表したのは恐らく、中国による説得工作が失敗したと判断したからだろう。

 トランプ大統領は「最大限の圧力をかける取り組みを促す」という。テロ支援国家の再指定は象徴的な意味合いが大きいものの、メンツを重んじる北朝鮮にとって打撃となるはずだ。国際社会はこれを機に北朝鮮に核開発の放棄を促すべく、結束して一段と強い圧力をかけていくべきだ。

 北朝鮮が激しく反発するのは必至だろう。9月中旬以降は控えてきた核・ミサイルによる挑発を再開する恐れは否定できない。不測の事態への備えも怠れない。

与野党は争点を明確に具体案を競い合え

 特別国会の論戦が始まった。衆院選勝利で勢いづく安倍政権に、数の上では大差がついた立憲民主党や希望の党などが対峙する構図だ。しかし政策論争はすべての党が対等である。経済運営や外交・安全保障といった重要課題で争点を明確にし、具体策を競い合うような議論を期待したい。

 立憲民主党の枝野幸男代表は衆院代表質問で、政府との対決姿勢を鮮明にした。集団的自衛権の限定容認を含む安保関連法について「立憲主義の観点から決して許されない」と指摘し、憲法9条の改正論にも慎重姿勢を示した。

 経済政策では社会の格差是正を重視し、保育士や介護職員らの大幅な賃上げを訴えた。幼児教育の無償化に関して「親の年収や施設の種類で限定や差異をつけるべきではない」とも主張した。

 希望の党の玉木雄一郎代表は「与野党を超えて建設的な議論をしよう」と呼びかけ、提案型を意識した質問ぶりだった。米軍と自衛隊の協力のあり方を巡り、日本に近い地域は緊密に、遠い地域は抑制的に対応する考え方を反映した安保関連法改正案の提出をめざす方針も明らかにした。

 民進党の大塚耕平代表は参院代表質問で、経済運営や日銀の金融政策、労働法制、対北朝鮮政策などについて政府の基本的立場をまず確認し、矛盾点を追及しながら政策の違いを訴えた。

 安倍晋三首相は衆参両院ともに答弁書に目を落としながら政府見解を淡々と繰り返す場面が目立った。野党が踏み込んだ提案をしても「対案をよく拝見してから考えたい」などとかわし、議論がかみ合わなかったのは残念だ。

 少子高齢化で膨らむ社会保障費を抑制しながら、持続可能な社会をどう実現するかは国家的な課題である。福祉の水準と税や保険料の負担をセットにした論争を深めていく必要がある。新たな財源に関しては枝野氏が「優先順位の低い公共事業の我慢」に言及した程度で物足りなさが残った。

 野党はアベノミクスの危うさを言い立て、政府は円高是正や株高、雇用回復のデータを並べて反論する――。こうした質疑はもう卒業し、将来に向けた処方箋を具体的に議論していくべきだ。

 どこが野党第1党にふさわしいかという競争はすでに始まっている。政府・与党も政策本位で時には野党の考えを取り入れていく柔軟な姿勢が求められている。

北朝鮮「テロ支援国」再指定 脅威封じる新たな足場に

 北朝鮮危機が続く中、大きな決断と言える。米国はまた北朝鮮を「テロ支援国家」と呼ぶことになった。

 トランプ米大統領が再指定を発表した。2008年に同じ共和党のブッシュ政権が「テロ支援国家」の指定を解いてから9年ぶりである。

 今年2月、北朝鮮の金(キム)正(ジョン)恩(ウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金(キム)正(ジョン)男(ナム)氏がマレーシアで毒物により殺された。

 北朝鮮で昨年拘束された米国人大学生は6月に意識不明の状態で米国に帰り、その後死亡した。

 そんな経緯を思えば再指定は異とするに足りない。米下院は4月、再指定を求める法案を圧倒的多数で可決した。米本土へのミサイル攻撃を口にする北朝鮮への怒りが米国内で高まっていることも再指定の背景に挙げられよう。

 核・ミサイル開発が「テロ支援」に当たるのかという声もある。だが、イスラム過激派などが核に触手を伸ばしているのは事実であり、北朝鮮の不法な核開発などをテロと切り離して考えるのは現実的ではない。

 テロ支援国家に指定された国には、武器関連輸出や経済援助の禁止などが科される。ただ、米国は国連安保理とは別に数々の制裁を発動しており、北朝鮮への「最高レベルの制裁」(トランプ氏)といっても象徴的な措置にとどまりそうだ。

 だが、トランプ氏は関係国に北朝鮮への圧力強化を改めて求めるとともに、北朝鮮にはもうだまされないという強い姿勢を示したのだろう。

 「何年も前に再指定すべきだった」とトランプ氏は言う。確かに、08年の指定解除は核放棄へ導く苦肉の策の性格もあったにせよ、いかにも詰めが甘かった。結果として、北朝鮮をますます手のつけられない存在にしたのである。

 トランプ氏は中国の習近平国家主席の特使の訪朝を「大きな動き」として注目したが、今のところ局面打開への成果は見られない。他方、北朝鮮が再指定に反発して新たな挑発に出れば、小康を保つ北朝鮮情勢はまた緊迫することになろう。

 過去の米政権の対北朝鮮政策を失敗と断じるトランプ政権も、いまだ得点を稼いではいない。北朝鮮の脅威にどう対処するか。手詰まり感がある中で、「テロ支援国家」再指定を新たな足場として活用したい。

東京の金融都市構想 都は役目をはき違えるな

 東京都の小池百合子知事が東京の国際金融都市化に熱心だ。「国際金融都市・東京」構想を発表し、アジアの金融センターとされるシンガポールに出向いて東京を売り込んだ。

 金融都市のランキングで、ロンドンやニューヨークばかりか、香港、シンガポールも下回って久しい東京。高齢化や人口減少を考えても、国内資金の有効活用は急務である。

 しかし、処方箋を間違えては、過去に何度も繰り返された失敗を、再び重ねるだけだろう。

 気になるのが都の関わり方だ。

 都は、資産を運用する業者が諸外国より少ないことを問題視し、「育成プログラム」を創設するという。政府系金融機関や民間の銀行、保険会社など機関投資家に、いわば新規運用者の練習台となる資金を出してもらおうという話のようだ。都も経費の一部を負担する。

 だが、新興業者が運用に失敗し、機関投資家が提供した資金が焦げ付いた時、誰が責任を取るのだろう。そもそも官製のプログラムに頼る業者が、金融の世界で成功するのか。

 金融専門の人材を首都大学東京大学院で養成する、という取り組みも奇妙だ。都立の機関だから使い勝手が良いのかもしれないが、人材の確保というなら世界に求めるべきだ。

 国内金融機関がロンドンに置く拠点に都の職員を派遣するという計画もちぐはぐである。税金を使って都職員に学習させるより、必要ならその道のプロと契約すればよい。

 都は、インターネットやスマートフォンを使った金融(フィンテック)の分野で、外国企業の誘致に力を入れる方針だ。誘致目標数まで掲げているが、有望な企業かどうかを都が判定するのは無理がある。

 日本の金融が抱える課題は複合的だ。実質ゼロ金利でも大半の国民が銀行預金を選ぶ背景から手をつけていかねばならない。都がロンドンの金融街と手を組めば改善するほど単純ではない。

 都は規制緩和などで国と協力し、民間の事業者が国籍に関係なく自由に競争できるよう、環境づくりに徹した方がよい。

 活気のある金融都市は市場参加者がつくる。産業を育て、金融の技術革新を主導するのが役目だとはき違えてはいけない。

(社説)米の対北政策 敵視だけでは前進せぬ

 米国の外交は伝統的に、敵と味方をはっきり選別する傾向がある。その象徴的な制度が「テロ支援国家」の指定だ。

 国際テロの背後にいる国々を認定し、制裁を科すもので、北朝鮮が9年ぶりに登録される。トランプ大統領が明言した。

 「ならず者国家」。米国がそんな呼び方もする敵視の対象のリストだ。米国の「敵視政策」こそ問題だとする北朝鮮が、反発を強めるのは必至だろう。

 しかし、これも北朝鮮が自ら招いた事態である。今年、金正恩(キムジョンウン)氏の実兄、正男(ジョンナム)氏がマレーシアで殺された。進展のない日本人拉致問題を含め、人権無視のふるまいは目にあまる。

 トランプ政権の粗雑な外交に世界は揺れているとはいえ、北朝鮮の人権犯罪に対する非難に国際社会の異論はあるまい。

 それを踏まえた上で、同時に考えねばならないのは、核・ミサイル開発の問題である。

 この夏まで挑発を重ねた北朝鮮の動きには変化がみられる。2カ月以上の間、核実験やミサイル発射が止まっている。

 米朝間で核・ミサイル実験の凍結をめぐるやりとりがあったとの米国の報道もある。さらに今月の米中首脳会談や、中国特使による平壌訪問という最近の動きも絡み、何らかの水面下の駆け引きが進められているとの臆測が出ている。

 真相は見えず、薄氷を踏むような状態ではあるが、北朝鮮の行動が表面上、激しさを潜め、少なくとも中朝間の関係改善の対話があった事実は、前向きにとらえることもできる。

 そうした機運が生まれていた中でのテロ支援国家再指定である。その影響がどのような形で表れるかは予断を許さない。

 再指定に伴い、武器の輸出・販売や経済援助の禁止などが科される。だが、大半が国連安保理の制裁などと重複しており、効果は少ないとされる。

 核・ミサイルの開発をやめない北朝鮮への圧力は強化されるべきだが、それはあくまで対話に導くための手段にすぎない。米政府が北朝鮮の思考方式を把握した上で、事態を収めるシナリオを描いているのかどうか。

 中東やアジア歴訪で見せた一貫性のないトランプ氏の対外姿勢が、ここでも不透明感を漂わせている。安倍政権は、核・ミサイル問題での米国の考え方を不断に問いただすべきだろう。

 ブッシュ政権が指定を解いて9年間、米政権の交代のたびに北朝鮮政策は揺れてきた。非核化のための対話を進めるには、息長く継続的な努力を注ぐほかない現実を踏まえるべきだ。

(社説)ドイツ政治 党利超えて連立交渉を

 欧州の要である大国、ドイツの政治が迷走している。

 9月の総選挙後、メルケル首相が続けてきた連立政権づくりの交渉が決裂した。政治空白がおさまる見通しが立たない。

 残念ながら、欧州と米国を覆ってきた「自国第一」の考え方が、ここにも見えてきた。

 ドイツが内向き姿勢を強めれば、欧州の地域統合はますます失速する。シュタインマイヤー大統領はじめ各指導者は、大局観をもって責任を果たす政権づくりを実現してほしい。

 選挙ではどの党も過半数を得られず、首相続投をめざすメルケル氏がどの党と連立を組むかが注目されてきた。

 多くの指導者の念頭にあったのは、反難民・反イスラムを掲げる新興右翼政党に対する危機感である。この選挙で初めて国政に進出し、第3党へ躍進したことで各党が浮足立った。

 そして今回の政局から見えてきたのは、どの党も自らの主張を曲げない「自党ファースト」の現実だった。

 交渉決裂の大きな原因のひとつは、難民政策をめぐる立場の違いである。年間20万人の難民受け入れ上限で合意間近まで行きながら、難民の家族受け入れでは妥協できなかった。

 ドイツでは、政党乱立による政治の不安定化がナチスの台頭を生んだ反省から、安定政権づくりを最優先するのが通例だった。それには党利党略を抑える判断が必要だが、その感覚が薄れてしまったように見える。

 それは欧州に広がる極右ポピュリズムや、欧州連合(EU)への反発のうねりにも通じる。フランスやオランダなどで続いた大衆扇動の防波堤になれるかどうか、ドイツは岐路に立っていることを自覚してほしい。

 今後のシナリオとしては、連立をめざす再交渉▽少数与党での政権▽再選挙――のいずれかが考えられる。

 最も避けるべきは、このまま解散・再選挙へと突入することだ。右翼政党の連邦議会での発言を国民がじっくり見届けないまま再選挙となれば、さらに議席を増やす可能性が高い。

 メルケル氏は決裂した交渉相手と再度話し合うだけでなく、改めて中道左派の党と協力する道も模索すべきだ。戦後初の少数与党となっても、まず政権を成立させるのも一案だろう。

 総選挙の後、マクロン仏大統領は欧州の立て直しに向けた改革案を発表し、「民主的で一体となる欧州」の必要性を強調した。その実現には、フランスとドイツの健全な両輪が不可欠であることを忘れてはならない。

テロ国家再指定 北朝鮮の新たな挑発に備えよ

 北朝鮮の核・ミサイル開発の阻止に向けた圧力が一段と高まった。非核化協議のテーブルに北朝鮮を着かせ、外交カードとして生かしたい。

 米国が北朝鮮をテロ支援国家に再指定した。

 トランプ大統領は、「北朝鮮は国外での暗殺を含む国際テロ行為を繰り返し支援してきた」と述べた。米財務省が大規模な追加制裁を科す方針も明らかにし、「残忍な体制を孤立させるため、最大限の圧力をかける」と強調した。

 金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄の金正男氏は、2月にマレーシアで殺害された。金政権の組織的な関与が濃厚だ。北朝鮮に拘束された米国人学生が昏睡(こんすい)状態で帰国後に、死亡した事件もあった。再指定は妥当だと言える。

 北朝鮮は1988年に、大韓航空機爆破事件などの「国際テロ活動への継続した支援」を理由に、テロ支援国家に指定された。

 ブッシュ政権は2008年に、北朝鮮が申告した核計画を厳密に検証する見返りとして、指定を解除した。北朝鮮は合意を破り、核開発を継続している。トランプ氏の「何年も前に再指定すべきだった」との指摘はうなずける。

 安倍首相は、「圧力を強化するものとして歓迎し、支持する」と語った。日本人拉致も、北朝鮮によるテロである。問題の膠着こうちゃく状況を打開する契機としたい。

 再指定に伴い、金融取引の規制や武器禁輸、経済援助禁止などの措置がとられる。国連安全保障理事会の決議や米独自の制裁により、大半は発動済みだ。

 新たな効果は見込めないが、米国が「最大限の圧力」を主導するという象徴的な意味は大きい。

 中国の習近平国家主席の特使が最近、訪朝した。目に見える成果はなかった。北朝鮮に対する中国の圧力が不十分だという判断も、トランプ氏が再指定に踏み切る一因となったのではないか。

 オバマ前政権は、キューバとの関係を改善した際に、指定を解除している。北朝鮮に関しても、非核化交渉での取引材料などとして活用することが期待できよう。

 懸念されるのは、北朝鮮が反発し、暴挙に出る事態だ。弾道ミサイルの発射や核実験は2か月間、行われていない。小康状態から、局面が転換する可能性がある。

 小野寺防衛相は、「新たな挑発行動に出ることは否定できない。引き続き緊張感を持って、しっかり対応していきたい」と述べた。様々な展開への警戒を怠らず、備えを固めることが求められる。

ヘイトスピーチ 事前規制には慎重に臨みたい

 表現の自由に配慮しつつ、差別を煽(あお)り立てる悪質な言動を排除することが大切である。

 川崎市がヘイトスピーチ(憎悪表現)を規制する指針を策定した。公的施設の利用を制限するのが主な内容だ。来年3月に施行される。

 外国人が多く住む川崎市では、在日韓国・朝鮮人を敵視するデモが繰り返されている。市がヘイトスピーチを許さないという姿勢を明確に示したのは当然だろう。

 ヘイトスピーチを繰り返す男性らが昨年、デモを予告して、公園の使用許可を申請した。市は不許可とした。同様のケースが予想されるため、市は利用制限の際の基準や根拠を検討してきた。

 問題は、指針が「事前規制」に踏み込んだ点だ。

 差別的な言動が行われる恐れが具体的に存在する。ほかの利用者に著しく迷惑を及ぼすことが明白だ。こうした場合に、指針は公的施設の利用の不許可や許可取り消しができると規定している。

 事後に氏名などを公表することで抑止を図る大阪市の条例との違いが際立つ。実際の行為の前に、的確に線引きできるのか。

 利用制限に際しては、第三者機関に意見を求めることを義務付けている。必要な手順だが、自治体が選んだ有識者が、恣意的に判断する可能性も否定できまい。

 憲法は、言論や集会など表現の自由を保障している。地方自治法は、正当な理由がない限り、自治体は公的施設の利用を拒んではならないと規定する。

 正当な言論活動まで萎縮(いしゅく)させないよう、川崎市には慎重な運用が求められる。不許可などに至った判断の過程について、透明性を確保することが重要である。

 昨年6月に施行されたヘイトスピーチ対策法には、罰則規定がない。どのように対策を講じるべきか、自治体の模索が続く。

 中でも、インターネット上の投稿や書き込みへの対応は共通の課題だ。デモは減少傾向にあるものの、ネット上には悪意と偏見に満ちた表現があふれている。

 大阪市では、条例に基づく審査対象の7割がネット上の書き込みや投稿だという。市は、サイト運営業者に情報提供を義務付ける条例改正を目指す。通信の秘密との兼ね合いにも配慮が必要だ。

 ドイツでは、違法な書き込みがあれば、フェイスブックなどに24時間以内に削除させ、違反した場合には罰金を科す制度を試行している。その功罪を見極め、日本でもルール作りを急ぎたい。

2017年11月21日火曜日

日産の不正招いた組織の断層

 日産自動車は無資格の従業員が新車の完成検査をしていた問題で、不正の原因分析や再発防止策を盛り込んだ報告書をまとめた。

 その中で注目すべきは工場などで実際に手を動かして作業する現場の人たちと、いわゆる管理職の間の根深い断絶だ。この体質を是正しない限り、第2、第3の不祥事が起きても不思議ではない。

 日産によると、完成検査の不正は遅くとも1989年には始まった。その後、同社は仏ルノーの傘下に入るなど経営体制は激変したが、検査現場における不正は続いたという。当事者にも法令違反の認識はあり、他人の印鑑を流用するなどの隠蔽工作も確認された。

 こうした一連の不正は消費者の信頼を裏切る行為であり、弁明の余地はない。徹底した再発防止策が求められるゆえんだ。

 加えて今回の不正は日産内部のゆがみも浮き彫りにした。現場で働く一線の従業員と、管理職や経営陣の意思疎通の不全である。

 例えばある工場で増産する時はそれに応じた検査員の増員も必要だが、経営陣や管理職は現場の作業実態を理解せず、何も手を打たなかった。一方で現場側からも「本社に言っても聞いてもらえない」というあきらめからか声が上がらず、結果として検査不正が拡大した例が実際にあったという。

 国土交通省の検査で不正が発覚し、会社として再発防止策を打ち出した後も、一部の工場で不正が続いていた。これも経営の方針が組織全体に浸透しにくい企業体質を表すものだ。組織内部の「見えない壁」を解消し、風通しのいい企業文化をつくることこそ真の再発防止策である。

 これを機に完成検査のあり方についても再検討してもよい。日産が不正に手を染めて以降、2千万台を超える車を国内に出荷しているが、「検査不正に起因する品質問題は1件も確認できていない」という。不正は不正として厳しく断罪する一方で、「検査が実態に即しているのか」といった点も改めて考えるときだ。

パリ協定の実行へ日本は積極的役割を

 温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の運用ルールなどを話し合う第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)が閉幕した。協定開始時期の2020年に先立ち、18年から温暖化ガスの排出削減量の評価や目標の上積みを検討することなどで合意した。

 先送りした課題もあるが、温暖化対策の着実な実施へあらためて結束を確認できた意義は大きい。日本も合意を踏まえ、対策の強化が求められる。

 COP23では、世界第2位の温暖化ガス排出国である米国が、今年6月にパリ協定離脱を発表した影響が懸念された。先進国に対する途上国の不信が高まり議論が難航するおそれがあったからだが、交渉の停滞は回避できた。

 米国内でもパリ協定を支持する声は多い。国際社会は米政府に離脱を思いとどまるよう、粘り強く働きかけ続けねばならない。

 パリ協定は地球の気温上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑えるとしているが、現在の各国の温暖化ガス削減目標を合わせても3度以上の上昇が避けられない見通しだ。不足分をできるだけ早期に明らかにし、目標の引き上げにつなげるのが今回の合意のねらいだ。

 日本は30年度までに、温暖化ガスを13年度に比べ26%削減する目標を条約事務局に提出している。今後の目標設定では上積みを迫られるだろう。

 しかし、新たな目標の検討に必要な温暖化対策の長期戦略は定まっていない。火力、原子力、太陽光などの最適な電源構成(ベストミックス)を将来的にどうするか早期に詰めなければならない。

 COP23では、日本が国内外で石炭火力発電所の建設計画を進めていることに、戸惑いと非難の声があがった。

 日本は原発の再稼働が限られ、電力を石炭火力で補わざるを得ない事情はある。長い目で脱石炭を進めるにはどんな方法があるかも検討すべきだ。

 政府はCOP23で記者会見を一度も開かず、出席した中川雅治環境相も海外メディアと接する機会はほとんどなかった。石炭火力の問題ばかりが注目されるなか、日本の得意な環境技術や対策について、政府が直接説明する場を設けなかったのは残念だ。

 パリ協定のルールづくりをはじめ、温暖化対策で日本が国際的な役割を果たすには、政策をわかりやすく対外発信する工夫も要る。

ボンでのCOP23閉幕 日本の石炭火力に厳しく

 ドイツ・ボンで開かれていた国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)が閉幕した。

 地球温暖化対策の新たな国際枠組み「パリ協定」のルール作りを加速し、世界各国の温室効果ガス排出削減目標の上積みを目指す「促進的対話(タラノア対話)」を2018年に実施することが決まった。

 トランプ米政権がパリ協定からの離脱を表明後初めてのCOPだったが、各国が協調して温暖化対策に臨む姿勢は保たれたと言えよう。

 パリ協定のルール作りでは、途上国は先進国より緩やかなルールの適用を求めている。米国が放棄した途上国への資金支援の穴をどう埋めるかなど難題は多いが、20年からのパリ協定実施に向け、各国は対立を乗り越え、交渉をまとめてほしい。

 残念だったのは、石炭火力発電を重視する日本の姿勢が、環境NGOなどから激しく批判されたことだ。

 石炭火力は効率が高い最新型でも二酸化炭素(CO2)の排出量が多く、温暖化対策に逆行する存在だと見なされている。今回のCOPでも、英国やカナダなど20以上の国や自治体が、石炭火力発電の廃止を目指す連合組織を発足させた。

 ところが日本は、COP23の開幕日である11月6日に開いた日米首脳会談で、米国と協力して東南アジアやアフリカに高効率の石炭火力発電技術を輸出する方針で一致した。

 東日本大震災後の原発停止や電力自由化を背景に、日本国内の石炭火力新設計画も40基以上ある。

 このため、各国のNGOが、日本に対する抗議活動を会場で展開する異例の事態に発展した。

 日本の中川雅治環境相が閣僚級会合で、温暖化対策で途上国への技術支援などを打ち出したことは評価できる。だが、脱石炭に向かう世界の潮流を読み違えれば、国際協調に反すると見なされかねない。途上国支援すら、評価されなくなる事態が生じる恐れもあるのではないか。

 会場では、自治体や企業などの活動が目立った。米国内でパリ協定を支持する自治体の人口と国内総生産は全米の5割を占めるという。

 石炭利用の是非を含め、温暖化対策には多くの利害関係が伴う。国家に限らず多様な主体が知恵を出しあい、取り組まねばならない。

首相演説への代表質問 自民も不満をのぞかせた

 2人の野党新代表以上に注目すべきは、自民党の岸田文雄政調会長の質問だったのではないか。

 安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問がきのう始まり、先の衆院選直前に結党した立憲民主党の枝野幸男、希望の党の玉木雄一郎両代表と、「ポスト安倍」をうかがう岸田氏が登壇した。

 代表デビュー戦となる枝野、玉木両氏の質問は、それぞれの党が何を目指すのかをアピールするのに多くの時間が費やされた。

 久しぶりの衆院本会議での論戦であり、憲法改正、北朝鮮問題、先の日米首脳会談、教育無償化--など多岐にわたる質問項目を網羅せざるを得なかった事情もあるだろう。

 だが、散漫になった印象は拭えない。特に不十分だったのは森友学園や加計学園の問題だ。両氏とも公文書管理や情報公開の必要性には言及したが、行政の手続きがゆがめられたのではないかという核心にはほとんど触れなかったからだ。

 「疑惑追及ばかりをしているのではない」と言いたいのかもしれないが、これでは追及を断念したのではないかと思われても仕方がない。

 逆に首相を諭すように「国民の間に疑問の声がある以上は引き続き誠意を持って丁寧に説明していくことが重要」と指摘したのが岸田氏だ。最近の「安倍1強」体制の中では異例の質問だったと言っていい。

 岸田氏は、衆院選は「政策、公約がないがしろにされた」とも明言。野党の混乱を批判するのが主眼だったとはいえ、突然の衆院解散で準備不足のまま公約作りを迫られたことに不満をのぞかせた。

 加えて「野党や国民に上から目線で臨むようでは、国民の信を失う」などと述べたのは、とかくおごりが目立つ安倍首相への批判と受け取れる発言だった。

 「ポスト安倍」候補の岸田氏には安倍首相との違いを示す狙いもあろう。だが全てが首相官邸主導で進むことに自民党の不満がたまっている表れであるのは間違いなさそうだ。

 対する首相の答弁は野党に対してはもちろん、岸田氏の質問にも素っ気なかった。こうした姿勢が続けば自民党内の批判が強まる可能性もある。首相はまさにそれを謙虚に受け止めるべきだろう。

(社説)地球温暖化 米政権は現実を見よ

 地球温暖化対策をめぐる国際会議、COP23が閉幕した。

 画期的なパリ協定の発効から1年。各国が対策に取り組もうと足並みをそろえたのに対し、米トランプ政権は今年6月に協定離脱を表明し、影響が懸念されるなかでの開催だった。

 全体としては、すでに170カ国が締結済みのパリ協定が推進力を失うことはなかった。会議では、2020年にスタートする協定のルール作りを加速することなどを文書で確認した。

 世界の年間平均気温は昨年まで3年続けて観測史上最高を更新し、海面の上昇も加速している。猛烈な台風やハリケーンの発生など極端な気象現象も相次ぎ、温暖化を意識せずにはいられないからだろう。

 にもかかわらず、トランプ政権は逆行をやめない。

 規定で20年まで正式離脱できない米国は、二酸化炭素の排出が多い石炭火力発電の可能性を会場でアピールした。政権の支持層を意識した動きだろう。

 国際NGOが「最悪の中の最悪」として米国に「特別化石賞」を贈るなど、会議の参加者は反発した。中国に次ぐ世界2位の二酸化炭素排出国である米国の無責任な姿勢は、「先進国が責任を果たしていない」という途上国の不満を噴出させた。今後も火種になりかねない。

 トランプ政権は、米国内からも異議申し立てが広がる現実をただちに直視するべきだ。

 商務省やエネルギー省、国務省など米国の13の公的機関は今月初め、「人間活動、とりわけ温室効果ガスの排出が20世紀後半以降の温暖化の主因である可能性が極めて高い」とする共同報告書をまとめた。

 米国の15の州政府を含む2500以上の自治体や企業などは、パリ協定の目標達成をめざす決意を示した。15州のガス排出量の合計は世界4位に相当するという。

 政権抜きでも前進しようとする動きは心強い。フランスは、米国が止めた温暖化問題の政府間パネルへの資金拠出を肩代わりすると表明した。日本もできることを積極的に検討したい。

 ところが国際社会からは、米政権ほどではないが、ガスの排出削減に消極的な国だとみられている。長期の削減戦略をいまだに示していないうえ、途上国への石炭火力発電の輸出を続けようとしているからだ。

 世界を見渡せば、化石燃料関連への投融資をやめたり、引き揚げたりする動きが相次ぐ。米政権の動きを追うばかりでは孤立しかねない。日本の政府と産業界は自覚してほしい。

(社説)代表質問 説得力競いあう論戦に

 衆院で代表質問が行われ、特別国会の論戦が本格化した。

 「多様性を認め合い、困ったときに寄り添い、お互い様に支え合う社会」

 野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表は、めざす社会像を描くことに時間を割いた。

 巨大与党に「多弱野党」が挑む国会だ。行政府を監視し、政治に緊張感を生む。立法府の使命を果たすために、民意をつかむ主張ができるか、野党各党の説得力が問われる。

 希望の党の玉木雄一郎代表は「寛容な改革保守」を掲げた。

 「私たちは憲法論議を正しくリードしていく」とも語った。安倍政権と厳しく対峙(たいじ)する立憲民主党に比べ、政権との距離の近さを印象づけた。

 一方で、枝野、玉木両氏の主張は、同じ民進党出身だけに共通点も目についた。

 ともに「原発ゼロ」を掲げ、来年の通常国会に関連法案を提出するとした。憲法改正でも立憲主義を重視し、内閣の衆院解散権の制限には前向きな一方、首相がめざす自衛隊の9条明記は批判する。

 性急な野党再編は現実的でないにしても、野党がばらばらなままでは十分な力は発揮できない。立法作業など可能な部分でできるだけ協力すべきだ。

 安倍首相の答弁は、所信表明演説で野党に呼びかけた「建設的な議論」とは程遠かった。

 衆院選でみずから「国難」と強調してきた北朝鮮情勢や少子化問題について、具体的に問われても、紋切り型の政府方針を繰り返すばかり。野党を挑発する物言いは影を潜めたものの、議論を深めようという姿勢は見られなかった。

 日米首脳会談で「日米が百%ともにある」とまで明言したのは、軍事行動も含め行動をともにするのか――。玉木氏にそうただされた首相は直接答えなかった。

 野党の質問時間を減らそうとする自民党の動きを枝野、玉木両氏に批判されても「国会が決めること」とかわした。

 森友・加計学園の問題では自民党の岸田文雄政調会長が「国民に疑問の声がある以上、誠意をもって丁寧な説明を」と促したが、首相は「国会や衆院選の討論会で丁寧に説明した。今後もその考え方に変わりはない」などと語るにとどめた。

 代表質問はあすまで続き、来週は予算委員会が予定されている。一問一答式の予算委はより議論を深めやすい。

 民意に届く説得力ある主張をするのはどの党か、それとも政府か。骨太の論戦に期待する。

衆院代表質問 希望の建設的議論に注目する

 衆院選後、最初の本格的な国会論戦である。議論を実のあるものにするには、政府と野党の双方の努力が欠かせない。

 安倍首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が、衆院本会議で始まった。

 質問では、立憲民主党の枝野代表と、希望の党の玉木代表の立ち位置の違いが明確になった。

 枝野氏は対決姿勢を強調した。集団的自衛権の限定行使を容認した安全保障関連法を「違憲」と断じた。「地球の裏側まで行って戦争ができることになる」として憲法9条の改正にも反対した。

 集団的自衛権は、従来の政府見解とも整合性を取り、極めて厳格な要件の下でしか行使できない。首相が「憲法の範囲内であらゆる事態に切れ目のない対応をしたベストのものだ」と安保関連法を位置づけ、反論したのは妥当だ。

 北朝鮮情勢が緊迫する中、安保関連法は日米同盟の抑止力を大幅に高める役割を果たしている。

 枝野氏は「日米安保条約は、日本と東アジアの平和と安定に不可欠だ」とも述べた。安保関連法を廃止して、いかに「同盟を強化、発展させる」つもりなのか。

 玉木氏が外交・安保政策について現実路線を前面に出したことは前向きに受け止めたい。

 先の日米首脳会談を「積極的に評価」し、「北朝鮮への融和政策には反対だ」と明言した。

 憲法問題でも、知る権利、地方自治などを含め、幅広い論点で議論に応じる姿勢を示した。ただ、首相が「突然提案した」9条改正案には「違和感」があるとし、より本格的な論議を求めた。

 憲法改正に積極的な姿勢を示す以上、まずは党内の意見集約を早期に図り、自民党などとの協議に臨むことが大切だろう。

 玉木氏は、北朝鮮対応に関して「軍事行動を含めて米国と行動を共にするのか」と質問した。首相は「あらゆる手段を使って圧力を最大限にし、北朝鮮から対話を求めてくる状況を作ることが必要だ」と述べるにとどめた。

 他国首脳との詳細な会談内容の公表を控えるのは、外交上、当然だ。それでも、可能な範囲で情報を開示し、外交方針に理解を求めなければ、首相の唱える「建設的な政策論議」は実現しない。

 首相の答弁は、従来の発言の繰り返しが目立った。

 自民党の岸田政調会長が質問で政権運営に関し、「野党や国民に上から目線で臨むようでは、真っ当な政治を行えない」と首相に注文したのは、うなずける。

核廃棄物説明会 謝礼金で動員は信頼を損なう

 原子力事業は、地域住民の理解なしには進まない。廃棄物の処分問題はなおさらだ。意義を伝える努力が大切である。

 高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する意見交換会で、広報活動を委託された広告会社が、謝礼金の支払いを約束して学生を動員していた。

 処分事業を手がける認可法人「原子力発電環境整備機構」(NUMO)が、埼玉県など5会場で10、11月に開いた意見交換会にこの広告会社が関与していた。

 1万円の提供を持ちかけられた、と参加した大学生の一人が明かした。これが公になったため、実際の支払いはなかった。昨年8月のNUMO主催セミナーでは、同じ広告会社が学生4人に約5000円ずつ支払ったという。

 「金で釣るのか」との批判が出ているのも無理はない。他にも不適切な事例はないのか。NUMOには厳格な調査が求められる。

 高レベル放射性廃棄物は、原発の使用済み燃料の再処理後に出る廃液をガラスで固めたものだ。

 政府は、2000年に成立した最終処分法に基づき、固化体を地下300メートルより深い地層に埋設して長期間、隔離する方針だ。NUMOが埋設場所を探している。

 処分地選定には、地盤の安定性などの科学的特性に加えて、地元同意が欠かせない。次代を担う若者の理解を得る努力も重要だ。

 だが、表に出せない手段を用いていては、信頼が損なわれ、事業の足を引っ張ることになる。

 政府は今夏、日本列島に埋設可能な土地が広域に存在する可能性を示す科学的特性マップを作成した。全国を回って、各地で住民との議論を深める段取りだった。

 問題の発覚により、出はなをくじかれた。広報戦略を立て直すことが急務である。

 埋設地を決定済みのフィンランドや、候補地を既に選定したスウェーデンでは、処分事業者が直接、住民と対話する姿勢が理解を深める要因となった。

 事業は何百年にも及ぶ。埋設地域は、共に歩むパートナーだ。政府とNUMOが、主体的に前面に出て取り組まないと、どの地域も積極的に耳を傾けまい。

 世耕経済産業相は「広報活動を委託する考え方が根本的に間違っている」と語ったが、人ごとに聞こえる。担当相としての責任を自覚しているのだろうか。

 NUMOは、政府や電力会社の出向者が多い寄り合い所帯だ。世耕氏は自ら、当事者意識を持って改革を主導せねばならない。

2017年11月20日月曜日

「サケ不漁の謎」解く調査を

 サケ、スルメイカなどの不漁が深刻だ。主因はウナギのような乱獲ではなく、海水温など海洋環境の変化とみられる。海洋環境の調査は地上の観測より歴史が浅い。地球温暖化の影響が広がっていることも踏まえ、科学的な調査に力を入れるべきだ。

 北海道のサケの漁獲量は昨年、24年ぶりの不漁を記録した。今年の秋サケ漁は昨年をさらに4割も下回り、高騰したイクラを狙った盗難事件まで起きている。スルメイカの漁獲も激減し、水産加工業などに依存する地域経済への影響も心配だ。

 海水温は十年単位で寒冷期と温暖期が交互に訪れ、海域によって変化も異なる。イカの減少は日本近海の水温が低下し始めたことが要因とみられる。サケは低い水温を好むが、稚魚が生育するオホーツク海やアラスカ近海の水温が上がったため、日本に回帰する量が減ったのではないかという。

 逆に、1980年代をピークに日本近海の漁獲量が激減したマイワシは水温が下がるとともに増加傾向に転じている。

 海水温の変化と水産資源の変動の関係は長期にわたって海洋調査を積み重ねた結果、徐々に判明してきた。調査を継続すれば魚種ごとの増減をある程度予測し、漁業経営への影響を抑えることが期待できる。

 ただ、こうした予測を難しくする要素もある。地球温暖化の影響だ。温暖化は単に海水温を上げるだけでなく、極地の海氷や氷河が解けた影響で水温が下がる海域も出ている。海流などにも影響は及ぶとされる。

 温暖化が海洋環境や周期的な水産資源の変動にどう影響するかをつかむためには、これまで以上に精度の高い科学調査が必要だ。

 海洋調査には各国の連携が重要だ。国内で海洋調査を担う水産研究・教育機構は今年、米海洋大気局(NOAA)と調査、研究で協力することを決めた。費用対効果を重視しながら、世界の国々と海の異変を解明してもらいたい。

ネット広告への信頼をどう高めるか

 米国でネット広告の規制強化に向けた議論が進んでいる。2016年の大統領選への介入を狙い、ロシア当局がフェイスブックやツイッターといった交流サイト(SNS)の広告を悪用した疑いが強まっていることが背景にある。

 ネットの影響力が強まり、世界の広告市場では17年にネット広告がテレビを上回るとの予測も出ている。言論の自由や画期的なサービスを生む土壌となる自由な環境を保つのは重要だが、より厳しい規制を課すのは妥当だろう。

 ただネット広告への信頼を高めるのに、規制を強化するだけでは十分とはいえない。

 米国で議会に提出された法案は、政治広告の資金の出し手を明確にすることなどを求めている。だが実際は、大統領選では明らかに政治が目的と分かる広告に加え、宗教や人種といったテーマを取り上げた意見広告が目立った。

 日本では13年に改正した公職選挙法でネットを使った選挙運動が解禁され、ネット広告にはテレビなどに準じた基準を適用した。一方、意見広告の掲載の判断はネット企業が担っており、米国のような問題が起きる恐れもある。

 意見広告は政治広告に比べて範囲が広く、掲載や情報開示の基準を定めるのは容易ではない。それでも、日米の規制当局やネット企業は不正防止や透明性の向上に向けて粘り強く議論すべきだ。

 ネットならではの難しさも浮上している。ネットは技術の進化が速く、問題が見つかっても既存の法律を適用できないことがある。判断に時間がかかり、その間に状況が変わることもあった。

 こうした課題のあるネット広告が信頼を保つうえで大切なのは、ネット企業が自らを律することだ。多くのネット企業は収益の大半を広告に依存しており、広告主の倫理観や判断も重要になる。

 米国では今春、動画共有サイトのユーチューブが不適切な内容を流した問題が発覚し、大企業が広告を引き揚げる事態に発展した。ユーチューブは短期間で対策を講じ、広告主の役割が大きいことを示した。

 利用者による監視も欠かせない。多くの人が日常的に使うことがネット企業の競争力の源になっており、その離反は大きな打撃になるからだ。一人ひとりの利用者が情報を読み解く能力を高め、ネット企業に厳しい視線を注ぐこともより重要になっている。

子育て支援と企業の役割 財源の負担も大事だが

 子育て支援は国を挙げて進めなければならない重要課題だ。それに企業がどのような貢献をすべきなのかを考えたい。

 安倍政権が衆院選の公約に挙げた幼児教育無償化をはじめとした子育て支援などには総計2兆円の財源が必要だ。消費税を10%に上げるときに借金の穴埋めに充てる一部を回すことが決まっているが、それでもあと3000億円が足りない。

 それを企業から拠出金として出してもらう案が検討されている。子育ての経費を企業が負担することには異論もある。しかし、従業員の子育て負担を軽減し、女性が出産しても働き続けられるようにすることは企業にとってもメリットがある。

 現在も保育所の整備には厚生年金の事業主負担分に上乗せされた拠出金制度がある。拠出金料率は従業員の標準報酬の0・23%で、総額は約4000億円だ。今年度は企業が従業員の子どもらのために設ける「企業主導型保育所」の整備費に使途を限って拠出されている。

 これを段階的に0・45%まで引き上げ、約3000億円増やし、一般の認可保育所の運営費に使えるようにすることが検討されている。

 安倍政権は待機児童解消のため2020年までに32万人分の保育の受け皿を整備するという。運営費だけで約1500億円かかる。その財源を企業に求めようというのだ。

 少子化対策で人口減に歯止めを掛けるのは、消費の喚起や労働力確保につながる。こうした社会的役割を企業が担うことには意味がある。

 しかし、企業に求められる子育て支援としては、男性も含めて育児休暇を取りやすくし、出産や育児が不利にならない職場づくりが大事だ。男性の育休取得率は著しく低い。

 富士通は小学6年までの子を持つ社員に短時間勤務を認め、託児所を設置し、ベビーシッターの費用補助の制度がある。育休を取得する社員の上司に研修を義務付け、理解を促している。社員が柔軟に休めるように各種の休暇制度を設けてもいる。多くの企業で実践できるはずだ。

 拠出金を出すだけで社会的責任を果たしたと思われては困る。本来企業が行うべき改善策を率先して行い、女性の活躍や少子化対策にもっと尽力すべきである。

自民の合区解消改憲案 「参院論」が単純に過ぎる

 自民党は、参院選選挙区の「合区」を解消するための憲法改正案を検討している。

 同党の憲法改正推進本部は、改正案のたたき台を大筋で了承した。改憲の重点項目としている4分野のうち、9条改正による自衛隊の明記、緊急事態対応、教育無償化に比べて党内の議論が進んだ形となった。

 参院選の選挙区は都道府県を単位としてきた。だが、1票の格差を是正するため「鳥取・島根」「徳島・高知」両選挙区が昨夏の選挙から初めて1人区として統合された。

 自民が了承した案は1票の格差にかかわらず「広域的な地方公共団体」、つまり都道府県単位の選挙区から改選のたびに少なくとも議員1人が選ばれるようにするものだ。

 具体的には「選挙に関する事項は、法律でこれを定める」とした47条を改正して合区を解消する。現在、憲法には広域的な自治体を「都道府県」だと定めた条項はないため、自治に関する92条も改正して都道府県を明記するという。

 人口の大都市集中が進み、このままでは参院はさらなる合区を迫られる可能性がある。このため、1票の格差是正と都道府県単位の選挙区が両立しなくなりつつある。

 自民の検討もそうした事情を踏まえたものだろう。ただし、問題のとらえ方が単純に過ぎる。

 憲法上、衆院の優越が認められるのは首相指名、予算の議決、条約の承認に限られる。参院は衆院とほぼ対等な議決権を持っている。

 なのに、憲法14条に由来する投票価値の平等は衆院にだけ厳しく適用し、参院で緩めるというのでは理屈が通らない。都道府県単位を優先し、平等を犠牲にするのであれば、参院の権能を見直すことが避けられないはずだ。

 具体的には衆院の優越する範囲を広げ、参院は行政監視の府に再構築することなどが考えられる。同時に両院議員を「全国民を代表する」と規定した憲法43条との整合性も必要になる。

 合区解消の議論は本来、統治機構の見直しとワンセットで行われるべきだ。そんな覚悟を欠いたまま、自民党内で進む議論が金城湯池である「1人区」温存目当てだとすれば、ご都合主義と言わざるを得ない。

(社説)五輪と公文書 組織委の「穴」をふさげ

 東京五輪・パラリンピックの開催まで1千日を切った。

 巨大プロジェクトである五輪には、国、東京都、そして組織委員会と、さまざまな機関がかかわる。将来にわたって国民への説明責任を果たすには、それぞれの活動や意思決定の過程をきちんと記録・保存し、公開する仕組みが欠かせない。

 政府の公文書管理委員会は、東京五輪を「国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策」と位置づける考えを打ち出した。省庁が持つ五輪関連の文書はすべて、国立公文書館等に移管されることになる。

 都議会もこの夏、公文書管理条例を制定した。前からあった情報公開条例とあわせ、「車の両輪」がそろった形だ。

 組織委も同様の問題意識をもち、体制を整える必要がある。

 何といっても、五輪運営の中心となるのは組織委だ。競技会場の選定や見直し、輸送計画づくり、コストの削減など、幅広い分野で都や国などと調整し、決定する役割を担っており、公的な性格がきわめて強い。

 にもかかわらず、公益財団法人である組織委には、公文書管理や情報公開に関する国や都のルールは及ばない。事業計画書や収支予算書、理事会の議事概要などは公開されている。だが将来の検証に堪えうる範囲と内容かという観点からみると、十分とは言いがたい。

 苦い教訓がある。

 98年の長野冬季五輪では、招致委が会計帳簿を勝手に処分してしまい、招致にまつわる買収疑惑の解明がはばまれた。

 組織委は都が50%を出資し、職員の3割にあたる約250人は都から派遣されている。本来、都条例にもとづき、情報公開の努力義務が課せられる団体にあたるが、特別に免除されている。国際オリンピック委員会(IOC)との関係が深く、他の団体とは同列に扱えないという事情による。

 だからといって社会への説明責任を果たさなくてもいいという話には、むろんならない。

 大会準備のため、他の機関とどんな協議を交わしたのか。組織委内でいかなる検討をしたのか。自律的に記録の作成・保存を進め、大会を終えて解散する際には、都など適当な機関にすべてを移管することを、今から取り決めておくべきだ。

 IOCの「アジェンダ2020」は五輪運営の透明化をうたう。膨大な経費がかかり、開催に厳しい視線が向けられる今、市民の理解を得る努力は不可欠だ。オープンな姿勢で新時代の五輪を世界に発信してほしい。

(社説)カンボジア 強権的手法に苦言を

 国際社会による平和構築から四半世紀。曲がりなりにも公正な選挙を行ってきたカンボジアの民主主義が危機を迎えた。

 最高裁判所が、最大野党の解党を命じたのである。米国と共謀して国家転覆を謀ろうとしたとする政権の訴えを認めた。

 野党も米国も事実無根だとしてきた。最大野党が消えては、来年予定されている総選挙の正当性が問われよう。

 政権与党は、今年6月の地方選で野党に肉薄された。首相の座について30年を超すフン・セン氏はそれ以降、反対勢力への圧力を強めていた。

 最大野党の党首は逮捕、起訴され、所属議員の多くが国外に逃れた。政権に批判的な英字紙は廃刊に追い込まれ、米政府系の放送局は閉鎖された。選挙監視活動などに取り組むNGOも活動停止を言い渡された。

 カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも経済的に遅れている。1人当たりGDPは1270ドルで、加盟10カ国の中で最下位だ。

 フン・セン氏は、ASEANで先に発展した国が用いた、開発独裁といわれる手法に倣おうとしているようだ。政治的自由より体制の安定を最優先し、トップダウンで政策を実現する。

 これは短期的には経済成長を得られても、汚職や格差の拡大で社会が不安定化するなど副作用も大きかった。フン・セン氏はこの点をよく理解すべきだ。

 日本にとってカンボジアは特別な存在である。

 初めて第三国の紛争解決に関わったのがこの国だ。1993年の国連による選挙実施の際、平和維持活動にも参加した。自衛隊を送り、文民警察や停戦監視員、選挙監視ボランティアなどに多くの日本人が加わった。文民警察官やボランティアに犠牲も出た。

 カンボジアでは70年代、ポル・ポト政権下で知識人の虐殺や強制労働で200万近い国民が死亡した。日本がゼロからの出発を支援した先には、人々の命と権利が守られる国に生まれ変わる姿を想像していたはずだ。

 フン・セン氏は今年8月に21回目の訪日をし、安倍首相と会談した。首相はフン・セン氏の「卓越した指導力」を称賛し、経済援助を約束した。

 インフラや人材育成の支援は必要だ。だが、首相が掲げる対ASEAN外交5原則の第1項は「自由、民主主義、基本的人権などの普遍的価値の定着、拡大に共に努力する」である。

 ならば、独裁色を強めるフン・セン氏に対して、しっかりと苦言も呈すべきである。

GDPプラス デフレ脱却の好機を逸するな

 デフレからの脱却に向けて、日本経済は正念場を迎えている。

 息の長い景気回復を好機ととらえ、長いトンネルから抜け出したい。

 内閣府が発表した今年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、実質で前期比0・3%増、年率換算で1・4%増となった。16年ぶりに7四半期連続のプラス成長である。株式相場はバブル崩壊後の最高値圏にある。

 総合的な物価動向を示す「GDPデフレーター」は前期比0・3%のプラスになり、3四半期ぶりに物価上昇を示した。

 内閣府は、過去最高水準にある企業業績なども踏まえ、「デフレ脱却に向けた局面変化」がみられると分析した。

 この流れを確実なデフレ脱却につなげるよう、官民を挙げた取り組みが求められている。

 日本経済は、物価の下落が続くデフレに1998年から陥ったとされる。政府は2001年3月時点で公式に認めた。デフレは企業の売上高減少や、賃金の伸び悩みを通じて消費者心理を冷え込ませ、景気の長期低迷を招いた。

 安倍首相は来年の春闘に向け、経済界に3%の賃上げを要請した。高い賃金の伸びが、需要と供給の好循環を促すカギだと重視しているからだろう。

 非常に高い目標で、見通しは不透明だ。ただ、多くの企業で賃上げが好業績に見合っていない現実がある。企業は積極的な対応を心掛けてもらいたい。

 気がかりなのは、GDPプラスの牽引(けんいん)役が、堅調な海外経済に支えられた外需だったことだ。

 輸出は前期比1・5%増と、2四半期ぶりに増加に転じた。

 外需頼みの成長は危うさをはらむ。欧米が金融引き締めの方向にあり、新興国への影響が懸念される。中国の過剰設備解消は一時的に失業増の要因となる。北朝鮮を巡る地政学リスクも根深い。

 力強さを欠く内需の改善が急務である。7~9月期の個人消費は0・5%減となり、7四半期ぶりのマイナスとなった。

 政府は、アベノミクス推進の新たな柱として「生産性革命」を掲げる。ロボットや人工知能(AI)の技術革新、ベンチャー企業育成、健康・医療・介護分野の産業創出などを図るという。

 首相は所信表明演説で、年内に新しい経済政策パッケージをまとめる、と表明した。

 掛け声倒れに終わらせぬよう、実現性の高い具体策を練り上げ、着実に実行する必要がある。

出所者更生支援 再犯抑止が治安向上のカギだ

 刑務所から出た人が再び犯罪に走らないよう、更生を手助けする。再犯抑止が治安向上のカギを握ると言えよう。

 法務省が今年の犯罪白書をまとめた。再犯対策として、出所者支援を特集した。主な支援対象には、窃盗、薬物犯罪などの仮釈放者ら保護観察中の人が想定されている。

 刑期を残して仮釈放された人が5年以内に刑務所に戻る割合は29%だ。満期出所者の49%を大きく下回る。刑期終了まで保護観察が付き、保護観察官や保護司の下で更生を図れるためだ。

 社会復帰に向けた適切な支援の重要性を物語っている。

 再犯を防ぐ上で、欠かせないのが働き口と住居の確保である。

 出所者を雇い入れる協力雇用主の登録数は1万8555人だ。この10年間で3倍近くに増えてはいるが、実際に雇用している事業者の割合は4%にとどまる。

 出所後すぐに就労できるよう、白書は、刑務所とハローワークが連携し、受刑中から斡旋(あっせん)を行う東京と大阪の取り組みを例示している。昨年11月のスタートからの約半年間で31件の内定があった。

 当初は不安や抵抗感があっても、出所者の働く姿を見て、「支えよう」との意識が芽生えたという雇用主の声も紹介している。

 住居の確保では、福祉施設や民間住宅との連携が欠かせない。

 出所者の受け皿整備の大切さを周知することが求められる。

 出所した高齢者や障害者への支援も忘れてはならない。特に高齢の受刑者は、再犯者が7割以上を占める深刻な状況だ。

 検察庁は、万引きや無銭飲食といった軽微な犯罪を繰り返す高齢者や知的障害者の支援に力を入れる。民間の更生保護施設などの受け入れ先を確保した上で、起訴猶予にしたり、執行猶予付き判決を求めたりするケースが増えた。

 刑務所で服役させるだけでなく、社会から疎外しないで、立ち直りを促す。この姿勢を今後も続けてもらいたい。

 課題となるのは、満期出所者の対策だ。刑期を終えているため、本人が希望しない限り、行政が強制的に関わる法的根拠がない。

 出所時の「特別調整」が2009年に導入された。高齢などで自立困難な人が介護や医療のサービスを受けられるようにする制度だが、利用者は伸び悩んでいる。

 支援を受けた人は、受けなかった満期出所者に比べて、再犯に及ぶ率が低いとの調査結果がある。制度を有効に機能させたい。

2017年11月19日日曜日

森林環境税を導入する前に

 手入れがされずに放置されている人工林を集約する新たな制度を林野庁がつくる。市町村が仲介役になって意欲のある林業経営者に貸与し、経営規模を拡大する。所有者がわからない森林などは市町村が直接管理するという。

 森林を適切に管理することは地球温暖化対策として重要なうえ、保水力を高めて土砂災害を防ぐ効果もあるが、問題は財源だ。政府・与党は「森林環境税」の創設を打ち出した。他の予算を見直して財源を捻出するのが先だろう。

 日本の国土面積の3分の2は森林で、その4割はスギやヒノキなどの人工林が占める。戦後植林した木々が成長して伐採期を迎えているが、零細な所有者が多いこともあって、多くが利用されていないのが現状だ。

 「森林バンク」と名付けた新制度は所有者が間伐などをできない場合、市町村が管理を受託し、やる気のある事業者に再委託する仕組みだ。一度に伐採や間伐をする森林を集約できれば、作業効率が向上してコストが下がる。

 近くに作業道がないなど条件が悪い森林は市町村がまず手を入れたうえで再委託する。所有者が不明で放置されている森林についても一定の手続きを経たうえで利用権を設定し、市町村が扱う。

 現在、国産材の用途拡大が進み始めている。経営規模の拡大を通じて林業を再生する好機だ。

 財政力が弱い市町村が継続的に事業に取り組むためには安定財源が要ることは理解できる。しかし、森林環境税は個人住民税に上乗せして徴収する方針だ。直接的な恩恵を感じづらい都市住民の理解を得られるだろうか。

 全国の8割の都道府県や横浜市はすでに、似たような税金を徴収している。都道府県と市町村の役割がどうなるのかについても判然としない。人材が乏しい市町村では、都道府県が作業を代行する手もあるだろう。

 森林整備は必要とはいえ、新税の前に検討すべき課題が多いと言わざるを得ない。

時事問題

注目の投稿

人手不足への対応は急務だ

 日銀が発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、大企業、中堅、中小企業をあわせた全規模全産業の業況判断指数(DI)が26年ぶりの高水準になった。景気回復は6年目に入り、中小企業にも裾野が広がってきたが、先行きに懸念材料もある。深刻な人手不足だ。  従業員などの...

このブログを検索

Google News - Top Stories

ブログ アーカイブ